「陽、落ちて。色、滲む」【俺ガイルr18】 (54)


 バレンタインデーなので、昔書いた俺ガイルssを投下します。完結してます。

 r18です。エロ描写あるのでお気を付けください。

 地の文ありです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455435387

1、


 連続勤務(徹夜)明けの朝は、楽しくもない過去をつい掘り返してしまう。クラスメイトに無視された事や、振られた翌日に誰かを好きになっていた事、正義の味方を気どってお節介を焼いたら本気で拒絶された事。枕様は幾度となく俺の叫びを受け止めてくれた。


 それでも。


 例え楽しい思い出が一つもなくて、苦虫を噛み潰して青汁と同時に舌で転がすような思い出ばかりだったとしても、何故だか愛おしく、大切だった。
 もはや過去の記憶は今の自分と切り離され、一種の物語と化しているのかもしれない。


「そう考えたら、酷く共感できない主人公だな」


 本当に、反吐が出るほど良い所がない。


 比企谷八幡(自分)には、本当に、何一つ。


 ダースベイダーが登場するシーンのBGMが部屋に鳴り響いた。

 何と彼女に似合う事か。


「……人格的には完全に暗黒面に堕ちてるしな」


 この特別な着信音には出る必要がない。

 というより、“間違えて出る事のないようにするため”なのだから出ては意味がない。

 着信メロディが一周した。

 どうやら、相手は引く気がないらしい。

 そんな時は歴史上の偉人の格言を思い出そう。


 鳴かぬなら 諦めようか 比企谷君


 よし、放置決定。
 
 とりあえず、スマホから逃げるようにトイレへと向かう。大学時代から暮らし続けている安アパートは寝室を抜ければすぐにトイレだ。その向かいには冷蔵庫と台所がある。数歩で水分補給と食事、排泄、さらには風呂に入れるなんて、悪魔がニートになれと囁いているようだった。

「小町が私立の大学にさえ行かなければなぁ……」

 断っておくが愚痴ではない。

 俺達比企谷家は小町の幸せが最優先事項であり、小町の利益が至上の幸福だから、彼女の希望した進路こそが絶対なのだ。

 その事について異論もなければ不満もない。

 だが、結果として俺は仕送りを断たれる事となった。

 実家への凱旋(寄生)も許可されず、俺は生きるために働かざるを得なかった。

 ……いや、“働くために生きている”と言っても過言じゃない。



 専業主夫を夢に掲げ、ハイスペック主夫になる為に大学も滞りなく卒業した、が――。







――現実は非情、夢叶わず。





 もし過去に一日だけ戻れるとしたら、きっと“あの日”を選択するだろう。

 そして、俺は自分にこう言い聞かせる。

「雪ノ下陽乃だけには関わるなってね」

「はるさん先輩ですか?」

「ああ、あの人にさえ関わらなければ今頃俺は……」



 開け放たれた扉。

 しゃがみ込んでこちらを見据える女性のスカートからは縞模様のパンツが覗いていた。



「先輩、朝からレディーの前で大きくさせちゃ駄目ですよ?」



 一色いろははそう言いながらも、楽しそうに俺の息子を眺めていた。

 付き合っていた時期もある。

 合いカギも渡したままだ。

 ならば多少見られたくらいで動揺する気すら起きない。

 彼女の潤んだ大きな瞳を覗きこみながら、


「そこはあざとく両手で目を隠せよ」

「はぁ? 先輩の租チンを見た程度で慌てる訳ないじゃないですかごめんなさい」


 冷たい目で租チンとか言われると、何だかグッとくるものがある。


「……さらに大きくしてどうするんですか…」

「悪い……」

「はぁ……、そんなつもりじゃなかったのになぁ…」


 一色は、そう言いながら俺の性器に手を伸ばす。

 掌で亀頭を押し込むように包み込み、スッと握った。

 少しだけ残っていた尿が彼女の掌を犯し、気分が高揚する。


「いや待て、俺だって別に」


 そんなつもりはない。

 言葉にしようと肺から息を送り出す。

 すると――、





「じゃあ、はるさん先輩はやらせてくれるんですか?」






 上目遣いで俺を捉える彼女の眼は、少しだけ悪意が見え隠れしていた。

 それは嫉妬か、それとも……。




2、



「先輩って私の処女を奪った訳じゃないですかー」



 布団へと移動する間、一色は俺の性器を離す事はなかった。

 むしろ、悪戯をするかのように歩みに合わせて擦ってくる彼女の性格は相変わらずと言ったところか。


「………」


 一方で、俺は一色の化粧が少し濃くなっている事が気になって仕方なかった。

 香水の種類も変えているようだ。

 経験の乏しい俺でも勘づいてしまう。

 これはまさか……。


「あれ? また膨らんだ……。今どんな気持ち悪い事を想像したんですか?」

 一色の細くしなやかな指が、根元から睾丸へと向かおうとしていた。

 大学生活で暇を持て余していた間に培ったお互いの性癖、性感帯、そして弱点。

 一色は脅している。



 ――“言わなければ、尻穴に指を突っ込むぞ”と。




「……お前に彼氏ができたんじゃないかと考えていた」


 クッ、と一色の人差し指と薬指が俺の太ももを押した。

 まるで、女性の性器を押し広げるかの如く強気な攻めは、俺の精神的な弱点を的確にくすぐる。

 一色は決して尻を犯そうと思っている訳ではない。


 “私がお前を支配している”。


 そう主張しているのだ。



「ふーん、もし私に彼氏がいたらどうなんですか?」



 くちゅくちゅと音が鳴った。

 

 いつの間にか我慢汁が溢れ、一色の手をとろとろに湿らせていた。
 だが、彼女はそれを逆手に取るかのように、わざとらしく音を鳴らして俺の肉棒を擦る。


 くちゅっくちゅっくちゅっ。


 淫靡な音が響く。

 膀胱の付け根辺り、股間が快感に悶える。

 もっと、もっとして欲しい。

「ねぇ先輩? 私に彼氏がいたらどうなんですか?」

 一色が逆の手で俺の乳首を摘まむ。

 上下から広がる快感に、俺は両目を閉じて耐えた。

 まるでチャラ男に責められる気弱な女子みたいで情けない。

「もし私が、例えばそうですねー」

 俺の頬を舐めるように耳元まで顔を近づけ、囁く。






「もし“葉山先輩と付き合っていたら、どうします?”」






 もし、の辺りで一色はピタリと手を止めた。

 どうやらこの質問から逃げる事は出来ないようだ。


「処女を奪った先輩としては、先輩の形しか知らなかった私のあそこが、葉山先輩の大きなモノでグイグイと形を変えられるのって、どんな気持ちなんですかぁ?」


 だんだんと、一色の呼吸が荒くなる。

 葉山隼人の肉棒が、一色の膣内を犯す。

 ぐちゅぐちゅと音を立て、何度も、何度も、子宮口に亀頭をぶつける。

 お互いの境界を失うほどに密着し、お互いの口を犯しあいながら、獣のように快感を貪る。

 喘ぎ声は快楽に満ち、口の端から零れる唾液を葉山はすする。


「……嫌…だ」


 か細い声と共に絶頂を迎えた俺は、どろりと一色の指を白く汚した。


 まるで乙女だ。

 しかも経験がなくてアイドルみたいな先輩に憧れている乙女。

 ああ、情けない。でも……ゾクゾクする。



「あーあ、ほんと先輩って人は」


 一色はわざとらしく大きな声を出しながら、立ち上がる。

 そして、精液をひと舐めして「にがっ」と呟きながら風呂場へと向かった。

 俺はこの後に起きるであろう情事を妄想するよりも先に、



 不透明な嫉妬で心がいっぱいになるのだった。



 


 第一部 一色いろは、襲来 完

 やっぱり掲示板向けに改行したり間を空けたりするのは難しいですね。



 第二部 不透明で綺麗な過去 

3、


 数年前の夏、雪ノ下陽乃は真剣な眼差しで陽気に言った。

 目は座っているのにトーンは高く、某笑顔でブチギレる俳優の逆バージョンだ。



「あのさ、二人付き合っちゃいなよー」



 俺のアパートから歩いて数分の焼き鳥屋。

 全品300円でミックスジュースが美味しいお店だ。

 一色はそんなミックスジュースを盛大に吹いた。


 ――俺に向かって。


「け、けほっけほっ、はは、はるさん先輩!? 急に何言いだすんですかぁ!?」


 おしぼりで口元を押さえながら、一色が抗議する。


 俺からすれば「急に何吹きだすんですかぁ!?」だった。


 だが、このタイミングで会話の腰を折ってしまっては、まるで“付き合う事には賛成”しているように捉えられる可能性があったので黙っておくことにした。

 この後の為に少しでも精神力を強めておこうとハートを食べる。

 ……うん、この弾力と噛めば噛むほど広がる濃厚なタレの味がたまんねぇんだ。

 

どっかで見たと思ったけど渋かな



「比企谷君~、困った事があると別の事をして誤魔化そうとする癖、嫌いだって言ったよね?」


 頬づえをついて、にこやかな笑顔で睨めつける陽乃さん。


 その視線に“容赦”の二文字はない。


「き、奇遇ですね。俺もこの癖、嫌いです」

「あ、私も嫌いなんですよー。わざとらしいっていうか、あざといですよね先輩っ」


 一色の天然ボケには触れず、俺と陽乃さんはしばし見つめ(睨み)合う。

 まるでスポーツ漫画のバッテリーやライバルが視線だけで会話するような感覚。

 アニメだとさらに間抜けに見える。一秒間にどんだけ喋るんだよこいつら、と。


『俺を振ったアンタが言える台詞かよ』

『んー?お姉さんいつ振ったのかなー』

『この前付き合えないって言っただろうが』

『言ったよー。付き合えないってね』


 この間わずか0.5秒、出会って即合体するより早い会話だった。

 もしかして俺、スポーツ漫画の主人公になれるんじゃね。



『だったら!』



 陽乃さんの瞼が落ちた。閉店ガラガラ。

 代わりに口が開く。


「比企谷君――」


 





「付き合う気がないって、いつ、言ったのかな? 比企谷君」






 陽乃さんの最後の言葉は確かに声に出ていた。

 しかし、小さく呟かれた告白は、居酒屋の雑音の波にのまれ、一色の耳に届く事はなかった。


 正直ホッとした。



「今の顔、誰に向けて安堵したのかな?」


 ……本当に悪魔のような人だ。

 小悪魔なんて生易しいものではない。

 人の心を丸のみする事に命をかけているような、そんな迫力さえ感じてしまう。


「……自分に、ですよ」


 きょとんとしている一色は置いておくとして、陽乃さんも俺も失笑することすらなかった。

 ただ、お互いを視界“だけ”で捉え合い、どこか“大雑把な認識”で終えようとする行為。

 かつて、雪ノ下陽乃が酔っぱらった勢いで述べた自論。


『どんな小さな出来事もね、比企谷君。“大きな愛”の前には無意味なんだよ』


 ――もしかしたら、彼女の述べた大きな愛とは……。




「いや、いやいや! 私と先輩の話じゃなかったんですか?」


 突如、一色が視界を遮った。


「あ……」


 勢いよく飛び出した彼女は、グラスを片っ端からガシャガシャとなぎ倒す。

 だが、どのグラスも中身がなくなっていた。

 それはつまり――、


「お前、酒を飲んだのか?」


 机に突っ伏そうとする一色を腕で支えながら、尋ねる。


「ふぇー? やだなぁ先輩、酔っぱらってる訳ないじゃないですかぁ。ていうか腕を掴むとか、もう彼氏気どりですかごめんなさい気持ち悪いです」


 いつぞやの海浜高校生徒会長よろしくのジェスチャーを繰り出しながら、一色は俺の肩に寄りそった。

 視線は上下左右ハチャメチャに泳ぎ、顔は赤い。

 肩や腕に触れる一色の背中は温かく、心臓の音さえ分かる。


「お前、あざとさにアルコールを混ぜたらそれはもはや軽い女だぞ」

「やだなぁせんぱぁい。分身の術とか使ってまで言う事ですかぁ?」

「使ってねぇし、もし使ってたら分身の術破ってるじゃねぇか。俺の鼻つまみやがって」

「せんぱいの鼻ってあれですよねぇ、あれに似てます」

「どれだよ……」


 ガシャリとグラスの音が響いた。

 決して大きくはないが、確実に俺の耳に届く音。



「あれあれー? 二人ってそんなに仲良かったんだー?」
 


 陽乃さんがここぞとばかりに挑発する。

 言葉尻こそ軽かったが、表情に笑みはない。


4、



『私はあなたと付き合えない』



 過去に流れた静かな音。

 何の嘘も偽りも飾りもない雪ノ下陽乃の本心。


 雪ノ下家の長女が、俺みたいな人間と付き合う訳にはいかない。


 駆け落ちを覚悟で付き合ったり、親に秘密で付き合ったりする事は出来る。

 だが、それをした時点で、彼女の抱く“大きな愛”は“小さな出来事”に負ける。



 つまり、“愛の前に二人は触れあえず”、“触れあえば二人が抱いた感情は、大きな愛ではない”と言う事の証明となる。



 ――これじゃあ現代の悲劇だ。



 


「えぇ? こんな先輩と仲良い訳がないじゃないですかぁ」

「とか言いながら顔を近づけて、チューしちゃうの?」


 大きな愛の前に小さな出来事など無意味。


「やだなぁはるさん先輩! ……でも」


 例え、俺の初キスの相手が一色いろはだったとしても、


「んっ……せん…ふぁい…」


 例え、初めてのキスがお互いの口内を確かめあうようなディープキスであったとしても、


「………」


 雪ノ下陽乃の愛の前では――、


「………………ぱぁい、……たく……ちゃった」









 ―――無意味。





 一色いろはの胸は思ったよりも大きく、張りがあった。


 グラビアの胸なんて大体修正されていて、ブラを外せば母親と同じ弛んだ何かが存在しているんだと思っていた俺にとっては驚きの光景だ。

「……先輩っておっぱい好きだったんですか?」

「い、いや……好きだったのか…な」

「そう言えば結衣先輩のおっぱいガン見してましたもんね。変態です」


 思い返せば、罵声を浴びせられて当然なくらい由比ヶ浜の胸を見ていた気がする。

 反論の機会があれば、彼女の胸がブラックホールのような、ただ一つの掃除機のような視線吸引力を有している所為なのだが、余計に引かれそうなのでやめておく。


「まぁでも、先輩みたいな人は一生彼女できないでしょうし、奉仕部にはお世話になりましたし、ボランティアだと思って付き合ってあげます」


 そう述べた一色は俺の腕を掴むと、グイと胸へ引きこむ。


 
 ふに。



 掌に乳首の硬さを感じつつも、指先から全体にかけて柔らかさに驚く。


「んっ……」


 水風船とは明確に違う、ふんわりとした弾力。


 これが女子の胸か。





「ちょ、……と、痛い…ですぅ…ぁんっ」


 一色がビクンとのけ反った。

 相手が敏感に反応すると、何だか支配出来たみたいで気持ちよい。

 続けて、乳首をコリコリと人差し指で転がすと、

「んっ……ら、らめっ…」

 俺の腕を両手でぎゅっと掴む。

 ……引きはがそうとはしなかった。


「なぁ一色」


 慣れない手つきで、布団へ転ぶように誘う。

 一色は「あなたの思い通りにならない」と言わんばかりにどさりと倒れこんだ。 


 そして、俺の枕で顔を隠し、


「くんくん、ぷはーっ」


 と息を吸った。

 その表情はとても嬉しそうで、


「……何だか、嫌いじゃない…かも」


 ちょっと、嬉しかった。


「で、なんでしたっけ先輩?」


 よほど枕が気にいったのか、胸に当ててギュッと抱きしめたり、足に挟んだりしながら、一色は問いかける。

 ……股に挟んだ部分覚えておこう。私は股に挟まれた枕になりたい。


「いや、お前本当にいいのかよ?」

「条件の事ですか? それとも“先輩に処女を奪われる”事ですか?」


 先輩に処女を奪われるの部分だけ強調する辺り、俺にもっと自分を見て欲しいと思っているのだろう。

 事実、俺にはまだ迷っている部分があった。

 一色いろはとの付き合いは長い。

 顔は可愛いし、意外と馬が合う。

 毒舌もあざとさも、ないと寂しいとさえ思うだろう。

 恐らく、俺は彼女の事が好きなんだと思う。

 人として、女性として。


 だが、それは“避けようのない事実”に目をつぶった場合にのみ成立する世界の話だ。



「そりゃ、“はるさん先輩に見られる”のは恥ずかしいですけど、逆に興奮するみたいな!?」



 一色の声が部屋に響いた。


 雪ノ下陽乃が出した条件――、



 “二人の初エッチをテレビ電話で陽乃さんに見せる”。




「でも、お前の大切な……」


 言いかけて、一色に口で遮られる。


「んっ……い、いっし…」

「いろは」


 一色は俺の首筋を甘噛みしながら、呟いた。


「いろはって呼んでください。先輩」



 その表情は扇情的で、あざとさの欠片もない、――女の顔だった。

意外と大変な作業だったので少し休憩します。こっからエロ描写入るので苦手な方は目をつぶる用意をしてください。

後、この話を知っている方でも楽しめるように何か後日談か別ルートを考えておきます。30分後くらいに再開します。

5、


『やっほー、いい感じにエロい角度だねー』


 枕元。

 壁に寄りかけたスマホが怪しく光る。

 画面には雪ノ下陽乃がいて、楽しそうに笑っている。


「でもでもー、本当にいいんですか、はるさん先輩?」


 裸になった一色が、布団で下半身を隠しながら問う。

 画面の陽乃さんは、にやりと笑いながら、

『お姉さんに悔しい! ビクンビクン! ってさせるようなエッチを期待してるわ』


 と言った。

 一色は少し呆れたように息を吐くと、「それじゃあ」と仰向けになっている俺の性器に手をかけた。


「ちょ、い、いろは?」


 いきなりペニスを掴まれ、うろたえる俺を無視して、一色はカメラに映るように意識しながら亀頭をチロチロと舐めた。

 続けて、舌で包み込むように性器を口の中へと含む。

 AVのフェラの音は演技だと言うが、だったらこのジュポジュポと部屋に響く音は一色の演技だというのか。



「んっ……じゅぷっ…はっ…んっ」



 一心不乱に上下する一色。

 初めて他人に触れられる俺の性器は、快感の波に負け、ドクンドクンと脈動する。

 一色の歯が、カリを撫でる。舌が竿を舐める。


 ジュプッジュプッ。

 
 このままでは後輩の、しかも処女に良いようにされる情けない男になってしまう。




「一色……触るぞ」
「んぷっ…ふぇ? ……ぁ、んっ!?」


 クリトリスをなぞった瞬間、一色はペニスから口を離して跳び上がった。


「い、痛かったか?」


 起き上がろうと、頭を上げる。

 その瞬間、

「んっ!」

 かぶさるように飛びついてきた一色に負けて、俺は再び天井を仰ぐ。

 そして、口内に絡みつく彼女の舌を、ただゆっくりと押し返す作業に没頭する。
 
 ちゅぷっ、じゅぷ、れろ。

「んっ……好き……先輩…ん…」

 一色の唾液が、口内にとろとろと侵入してくる。

 味がある訳ではない。

 それなのに、何故だか心臓が高鳴り、身体が熱くなる。

 俺は、お返しとばかりに彼女の口内へと舌を侵入させる。

「んっっ……せんっ…ぱぁい…」

 一色の舌が、俺の舌先を受け入れる。

 俺は、唾液を一色の口内に流し込む。

 自分の中身を相手の身体の中に入れるのは、射精じゃなくても気持ちが良いようだ。

 そのまま、お互いを貪るように、何度も、何度も口内で犯しあう。



 俺達はただ、快楽の虜だった。






 ちゅぷっ、れろっ。


 未知のセックスよりも、キスの方が楽で気持ち良かった。

 しかし、一方向から漂ってくる気配で、俺は気づく。


 ――逃げるために、一色と付き合うのか。


 違う。

 俺は一色を幸せにするために付き合うんだ。

 その上で、愛した人を少しでも解放してやれるのなら、言う事はない。



『 なら、何故雪ノ下陽乃を見ない? 』


 (――えっ?)


『 彼女を解放してやるんだろ? だったら良い事じゃねぇか。見てやれよ 』


 闇は語る。

 (――違う、俺は……)


 雪ノ下陽乃を見ないのは……、


「んっ…せんぱぁ…い、……入れ……て?」


 一色が、俺の性器を撫でながら、言った。

 その時が、やってきた。


『 本当に見なくていいのか? 』

 (――うるさい)

『 俺はお前の味方だぜ? 』

 (――うるさい)

『 ……そうだよな。誰だって、





 本心は怖いよな 』




「………っ!!」



 ハッとした。

 だが、時は既に遅く、


「んっ……」


 ちゅぷり、亀頭が一色の性器に触れる。

 処女膜の所為か、何故だかこれ以上進めない気がした。

 しかし、脳が進む事に疑問を抱いても、性欲はそれに勝る。


 じゅ…ぷ。


「あっ……くっ…」


 ギュッと、一色の腕が俺の背中を掴んだ。

 痛みに耐えているのが分かる。


 ギチギチとさえ聞こえて来そうな感覚だった。


 それでも、性欲は何も気にせず腰を前へと押しやる。


 じゅぷ……ずぷんっ。



「……んんっ!!」



「あっ!?」


 一色が声を上げた。

 同時に俺は快感で目をぎゅっとつぶる。

 我慢しなくては一気に射精してしまいそうだったからだ。

 首に力を入れ、腰に力を込めた。

 快感が一時的に下半身から離れ、目を開く。



 それが、間違いだった。



( ………え? )


 横に向けた首。

 視界は、テレビ通話中のスマホ画面を捉えている。







 ――雪ノ下陽乃は、泣いていた。


 






「ぐっ……」

 ずぷっ。

 腰が勝手に動く。


「んっ……せんっ…ぱぁいっ!」


 一色が声を荒げる。

 処女の痛みに耐えられているのか、演技なのか、気持ち良さそうなな声を出していた。

 その声を聞いて、性欲は勢いを強める。


 ずぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ。


 腰の動きが止まらない。

 膣の構造を確かめるように、ひだの枚数を数えるように、溝の深さを探るように。


 じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ。


 何度も、何度も腰を振る。

(……あ、あぁ…、あぁ…)

 俺はその間、ずっと、ずっと彼女を見ていた。


≪ 大きな愛の前に小さな出来事など無意味 ≫



 唇から血が滴るほど噛みしめながら、溢れる涙を拭く事もせず、


 ただじっと、こちらを見据える雪ノ下陽乃を見ながら、


 俺は、一色の中に性を解放したのだった。


「……ちょっとせんぱぁい、泣くほどうれしかったんですかぁ?」


 震える声。震える手。震える心。


 三人のピエロは歪んだ仮面で舞い踊る。

 観客もいない。利益もない。何もない。

 
 傷だけが、残った。


 



 第二部 不透明で綺麗な過去 完

 ここから再び現実に戻ります。

 第三部 色は剥がれ、月は昇る

6、



「そう言えば、はるさん先輩って誰かと付き合ったりしてるんですか?」


 シャワールームから出てきた一色は、あの初めての夜から何一つ変わらない……いや、“むしろ魅力を増していた”。

 スタイル自体も良くなった気がするし、立ち振舞いから、仕草から、全てが色っぽくなっている。


「……さぁ、聞いたことねぇな」


 実際、そんな話は聞いた事がない。

 あの日、俺が果てた後に画面を見ると、すでに通話は終わっていた。

 終わった後に電話をかけると、いつもの調子に戻っていて、



“まるであの時の涙が幻覚であった”のかと思ってしまうほど、あっけらかんとしていた。



 そして、一色が帰った後に、陽乃さんは電話越しに言った。


『ありがとう。私のワガママを受け入れてくれて』


 後にも先にも“自分の事でお礼を言ったのはこの時だけ”だった。


「ふーん、まぁ良いですけど」


 一色はぴょこんと俺の膝に飛び乗ると、ペニスを自身の性器でなぞりながら挑発してきた。


「私の彼氏、分かりましたぁ?」

「いや、葉山じゃ……」

「そんな訳ないじゃないですか。高校の恋を引きずるとか子供じゃあるまいし」


 いや、君、大学二回生の春まで引きずってたよね?

 葉山先輩追いかけて大学受け直すんですぅ、とか言ってたよね?



「嘘ですよ」



「え?」


 一色は、少し寂しそうな、どことなく悔しそうな顔で言った。


「先輩に対して、嘘ついたんです。べーっだ」


 その目からは涙が零れていた。


(……ああ、そう言うことか)


 俺は悟る。

 あの時、“本心は本当に俺の事を想ってくれていたんだ”。

 雪ノ下陽乃を傷つけるだけじゃない。

 道化は三人いた。三人いたのだ。


「何で……何で先輩はそんなに……」


 “一色いろはを歪めてしまう”事に対しても、警告してくれていたんだ。


「何でそんなにはるさん先輩が好きなんですかぁばかぁ」


 ポロポロと泣きじゃくる一色の頭を撫でながら、俺はただ、


「すまん」


 と、一言だけ謝った。




「愛してます先輩」

「すまん」

「一生好きでいます」

「すまん」

「責任とってください」

「ああ」

「じゃあ、私の事だけを愛してください」

「……すまん」



 一色は、泣きながら俺に問いかけた。

 何度も、何度も。

 俺は全てに答えた。




 ――心だけは、応えられそうになかった。






 一色が帰った後の部屋は、まるで弦の切れたギターのように虚しさだけが残っていた。

 
 一人の女の子から愛を独占した。

 身体を独占した。

 一生を独占した。

 心を独占した。


 それなのに、ここには何も残っていない。


 空っぽの瓶のように停滞した空気が淀んでいる。

 精液の零れた布団、涎が染み込んだ枕、一色の下着。


 世界が存在した証拠はあるのに。


「……うっ、……うぅ」


 涙は零れない。声だけが漏れる。


 アスファルトに咲いた花は健気で愛おしいかもしれない。

 奇跡のような確率で生まれる事の出来た命。

 限りある大地で勝ちとった居場所。


 その花は自身を誇っているだろうか。




 ――少なくとも俺は、何一つ。




 

7、


 海岸通り、海面に映る満月はゆらゆらと揺らめいていた。

 高台を危なげに歩く彼女は、危ないから降りてくれと何度頼んでも歩みを止める事はなかった。

 むしろスリルを楽しんでいるかのように、足元を見る事無くまっすぐ前を見据えている。

 俺はいつ彼女が足を滑らせても受け止められるように準備をする。


 ――これじゃあ、まるで俺達の人生そのものじゃないかっ!


「比企谷君。君はいつだってそうだよね」


 前を向いたまま、雪ノ下陽乃は言った。

 その声は澄んでいて、責める言い方ではないと分かる。
 

「当たり前じゃないすか。誰だって知り合いが怪我するのは嫌でしょう」


 違うんだよなぁ。陽乃さんは苦笑いを浮かべつつ、こちらに視線を落とした。

 高台は俺の肩くらいの高さで、ほぼ真下に見下ろすような形だ。


「君は、“遠慮のない関係”……ううん、“気の置けない仲”が欲しかったんじゃないのかな?」


 言葉に合わせるようにピタリと立ち止まる。

 俺は少しだけ前のめりになって、堤防が終わっている事に気がついた。

 ……彼女が止まらなければ海に落ちていただろう。





「……過去の事です。俺だっていつまでも子供じゃない」


 我ながら、情けない言い訳だと思う。

 わざわざ数時間かけて訪れた都会から隔絶された海岸で、たった二人きりの状況だというのに“自分自身に嘘をついている”。

 自分の上辺だけの言葉が、高校時代の奉仕部での出来事を全否定しているようにさえ思えた。


「子供じゃない……か。君は子供だった事……あるのかな?」



 陽乃さんは高台に腰を下ろす。

 彼女の膝が頬に当たって、短いスカートから暗い色のパンツが視界に入った。

 今更陽乃さんの下着チラなんかに動揺したりは……ダメだ、月明かりよオラに力を!


「俺はいつだって子供で……、手に入らないモノばかりねだってましたよ」


 そういう意味では今だって同じかもしれない。

 雪ノ下家の長女で、将来を約束された令嬢。

 未来は輝かしく、純白で高潔であらねばならない。



 ――余地など小指ほどもなかった。





「手に入らないもの、ね」


 潮風に合わせて陽乃さんの溜息が舞う。

 それは呆れか、諦めか。


「ところで、いろはちゃんとの関係はどう?」


 相変わらず唐突な人だ。

 俺は目線をパンツに固定したまま(今更ばれた所でどうという事はない)、答える。


「別に、普通ですよ。……普通の付き合いです」


 紛れもなく普通の付き合いだ。

 毎日連絡を取り合い、定期的にデートし、自宅でセックスする。

 健全な社会人生活だ。

 ……なんて、強がっている自分が嫌になる。


「ふぅん、相変わらず、類稀(たぐいまれ)なる状況にありながら、つまんない選択するんだね」


 俺はその言葉を否定するため、視線を上げた。


「……っ」


 ハッとした。


 “月夜に照らされた雪ノ下陽乃が、この世界から旅立ってしまいそうな儚さ”を見せていたからだ。

 この世に未練はなく、次の世界を夢見ているような……。


「ねぇ比企谷君」

「……へ?」


 不意に、雪ノ下陽乃がスカートの中へ両手を入れた。

 もぞもぞと腕と腰を動かし、そして――、


「なっ!?」


 先ほどまで俺が凝視していたモノを取っ払い、彼女の秘部を露わにしたのだった。






「お姉さんと、良い事しようよ」





8、



「んっ……」



 陽乃さんがいくら美人で、完璧な存在と言っても、性器は普通だろうと思っていた。

 だが、顔を近づけて気づく。

 匂いではなく、いわゆるフェロモンのような何かが、俺の性欲を強く刺激する。

 吸い込まれるように秘部へと鼻先を当てると、陽乃さんが少し身じろいだ。

 その拍子に、口先が陽乃さんの陰部に触れた。


(濡れてる……)


 その量は、とても普通ではない。

 既に何十分も前戯をした後のような、とろとろに溢れたそこは、“いつでも俺を受け入れるつもりだ”と言いたげだった。


「……君の事を考えてたら。お姉さんこんなになっちゃったんだよ?」


 少しばかり照れが含まれているような気がした。





「俺……初めて陽乃さんの事を可愛いと思ったかもしれません」



 伝え終わったタイミングで、舌でクリトリスをひと舐めする。


「ひゃっ!? そ、そんなのずるいっ!」


 月夜でも分かるほど顔を赤くした陽乃さんが、俺の頭を抑え込む。

 だが、少し遅い。


 ちゅっ、れろっ。はむっ。


 クリトリスと彼女の綺麗でぷっくりとした陰唇を舐めたり甘噛みしたりする。

 その度に、陽乃さんは足で、手で、身体で、声で、快感を表現した。


 誰もいない海岸で、卑猥な音だけが波の音と混ざる。


「んっ! い……くっ…」


 陽乃さんの太ももが、ぎゅっと俺の顔を挟んだ。


 ぷしゅっ。


 膣へと続く入口辺りを舐めたタイミングで、大量に潮が吹きだす。

 固定された俺の顔は、彼女がイキ終わるまで液を受け続けた。




「あっ……あぁ…や……だぁ…」


 その一挙手一動、喘ぎ声の一つ一つが、“男を悦ばせる最上のモノ”だった。

 いつの間にか、俺はズボンをずらして性器を出していた。

 ギンギンにそそり立つそれは、自分のだと信じられないほど勢いがある。


 ……それほどまでに、雪ノ下陽乃が欲しかったのだ。


「ね、ねぇ、比企谷君……」


 ぐったりと俺の胸元へ倒れこむ陽乃さんが、震える声で言った。







「……赤ちゃんできたら、私……“解放される”かなぁ?」








「……っ!?」

 初めてだった。


 今まで雪ノ下雪乃を否定する言葉は何度となく聞いた。

 雪ノ下家を批判する言葉も、葉山隼人を非難する言葉も。

 だが、“自分自身を否定する言葉”を吐いたのは、これが初めてだった。


「陽乃さん!?」


 俺は思わず叫んでいた。両手は彼女の肩を掴んでいた。


「俺は陽乃さんを――」


 否定したりはしない。

 そう言葉にしようとして、失敗する。


「んっ……あっ…」


 陽乃さんの口が、俺の口を塞いだからだった。


 ぴちゃ、じゅぷっ、ごくっ。


 陽乃さんとのキス。

 彼女の歯並びがいかに綺麗か、舌の柔らかさ、硬さ、息遣い、唾液の量。

 全てが、自分の為にあるんじゃないかと思ってしまうほどのキス。


「……好きっ、比企谷君……んっ…もう…どうしようもないほどっ……好きだよっ」


 口の中から直接響く彼女の告白。


「付き合いたい。デートしたい。将来の約束がしたい。結婚したい。子供が欲しい。家族で遊びに行きたい。大好き。愛してる」


 溢れだす愛の言葉。

 いつも“こうだったらいいな”と妄想してきた、雪ノ下陽乃の想い。

 まさか本当に、ここまで想ってくれていたとは……。




 ぬ……ぷっ…。



「っ!?」


 陰茎が、温かさと締めつけに快楽の声を上げた。

 腰がさらなる悦びを求めて勝手に動き出した。


「んっ!」


 ぬぷっ! ぬぷっ!

 処女だとは思えない滑らかさが、性欲を加速させていく。


 じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ!


 彼女の蜜壺が、俺のペニスを絞り上げるように動いているのが分かった。

 何度も、何度も、何度も突いた。


 このまま世界が終わっても、悔いが残りそうもないほど、強く、強く。


「ぁっ! そこっ! すごっ……いっ!」


 もはや、外である事は忘れていた。

 いわゆる駅弁の形で突き上げると、子宮口だろうか、少し硬い何かにコツコツと当たる。

 その度に、陽乃さんは俺の腕でびくりと跳ね、とろりと表情をほころばせた。


「陽乃さん、俺もう……いきそう…」


 告げると、陽乃さんは俺の腰を両足でがっちりとホールドした。


「中で……おねっ…んっ!」


 もちろん、そのつもりだった。

 陽乃さんの為に子供を作ってやろうという想いはない。

 ただ、俺がしたいのだ。

 今までずっと遠くに追いやり、遠くから憧れ、舞台から離してきた雪ノ下陽乃を壇上へ上げる。


 比企谷八幡の欲望を、快楽を、愛を、目の前の女にぶちまけるのだ。


 「くっ……いくっ!」

 「ぁ、んっ!!」




 ドクドクと、膣内を精液が満たしていく。


 いつまでも出続けるんじゃないかとさえ思うほどの、射精感に腰が砕けそうだった。


 ゆっくりと、陽乃さんを高台へ下ろす。

 そのまま二人で、その場へ倒れこんだ。




 満月は、頂点へと達していた。




「陽、落ちて。色、消える……か」

「どういう意味ですか?」

「ううん、特に意味はないよ。太陽が沈んで真っ暗になるってだけ」


 満月を見上げながら、陽乃さんは落ちついた口調で言った。

 色を使ったのは一色を意識しているのだろうか。

 様々な感情が陽乃さんから一色を消し去りたいのだろうか。


「陽、落ちて。色、滲む」

「ん?」

「色が消える事はありませんよ。だって――」


 俺は満月に手を伸ばす。



「陽の光は、夜だって届くんですから」



 

9、


「……なっ…え……ま、まさか…」


 翌朝、俺と陽乃さんは二人で一色の下へ向かった。

 両手には大量のお菓子。ブランド物の財布や鞄。

 寝起きだったのか、一色はパジャマ姿で俺達を迎え入れた。

 どうやら俺一人で来たと勘違いしてたらしい。


「謝罪としては、土下座が良い? それともお金かな?」

「い、いや……何言ってるんですかお二人ともバカなんですか?」


 もちろん、そんなもので許されるとは思っていない。

 彼女が責任を取れというのなら、結婚するつもりだ。

 ――ただし、


「その時は、お姉さんを愛人として、迎え入れてもらうからね、いろはちゃん♪」


 厳かに陽は沈み、そしてまた昇る。



 その存在は――絶対だ。



終わりです。よくよく考えたらバレンタインにこの話はないですね。ありがとうございました。



はるのんかわええな

後日談か別ルートを待ってる

個人的には最高だった 乙

はるのんが弱いところ見せるとたまらなくかわいい、乙
後日談もいいけど馴れ初めも見たい

中々によかった

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