【艦これ】鳳翔さんは料理ができない (161)

「小腹がすいたな」

そう呟いたのは真夜中であった。
しんと静まり返ったこの部屋に、相槌を打つ秘書艦などいるはずもない。

騒がしい鎮守府も、夜中となればみな寝静まってしまう。
うるさく騒ぐ者どもは、まとめて遠征へ出してしまった。

「さて、どうしたものか」

こんな時間では外の店も閉まっているだろう。
窓から外を見ると、辺り一面が月の明かりに照らされている。
その中に、赤く光る提灯はどこにも見当たらなかった。

「仕方がないか」

食料の備蓄には余裕があった。
海苔でも咥えていれば腹の虫も収まるだろう。
重い腰を上げ、私は厨房へと向かった。

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料理ができないとかあり得…いや、なんでもない…

こつこつと靴が音を響かせる。
真夜中の廊下というのはこれほどまでに静かだったのだろうか。
眠気に欠伸を誘われながら、ひとつふたつと角を曲がる。

すると、月以外の明かりが部屋から漏れているのが見えた。
私はぴたりと足を止め、壁越しに耳を澄ませてみる。

何かを煮るような音が聞こえてきたではないか。
これはしめた、と口元を緩ませながら、私は戸を叩いた。

「なんだ、誰かいるのか」

「あら、提督……」

内から聞こえてきたのは、あの鳳翔の声であった。
彼女の作る料理は絶品と聞く。
なにやら運が回ってきたのだろうか。

「こんな時間にどうした。つまみ食いにでもしに来たか」

「ええ、お恥ずかしながら」

ふふ、と笑みを湛える彼女はそう答えた。
厨房に誰かがいることは珍しいことではないが、まさか彼女だとは思いもしなかった。
ましてやこの時間である。何か料理の仕込みでもしていたのだろうか。

「どれ、ひとつくらい抓ませてはもらえんか」

「構いませんよ。少し作りすぎてしまったので」

鳳翔はそそくさと食器棚へと歩み、小さな皿を取り出した。
彼女は慣れた手つきで、鍋の中のものを皿へと盛る。
どうやら煮物らしい。

何の煮物だろうか。鍋からは特に匂いがせず、菜箸で抓めるようなものらしいが。
私が近くの椅子を寄せて座っていると、鳳翔が皿を持ってきた。

「どうぞ」

「ありがたい」

そこに乗っていたのは、白い楕円の物体であった。

「ふむ……」

ゆで卵であった。
それは紛れもなく、茹でられた卵の姿である。

特に手の込んだわけでもない料理に、少しだけ拍子抜けしてしまう。
どうやら煮物だと考えたのは早とちりだったらしい。

「いただこう」

私が卵を手にすると、心なしか温く感じられた。
鳳翔が覚ましていたのだろう。
ふと彼女に目をやると、その真剣な眼差しに射竦められそうになった。

何故そのような眼をしているのだ。
問いかけようにも彼女の気迫はただならぬものである。

もしかすると、料理人の誇りというものであろうか。
簡単な調理をしたものでも、不味いものは作れぬという意志の表れか。

なるほどと一人相槌を打ち、その卵に手を伸ばす。
皿に数度ぶつけて卵に罅を入れると、中から輝くような白身が溢れ出した。

……溢れ出した?

どろりと流れ出す皿の液体を見て、鳳翔は頭を抱えていた。
状況を飲み込めない私は、皿を持ったまま鍋の様子を見てみる。

鍋は火にかけられていた。
しかしそのゆらめく弱火は、鍋に対して些か不相応であった。

よく見ると煮えてすらいないではないか。
三度彼女に目をやると、耳の裏まで真っ赤になっていた。

「今回こそはうまくいったと思っていたのに……」

凛としていたはずの鳳翔から聞こえる、生娘のような弱音。
普段の姿からは想像もつかないようなその声に、私はただただ困惑した。

聞いていた話と違いすぎやしないか鳳翔よ。
声をかけようにも、彼女はあわあわと言うばかりで話にならない。

ひとまずこの卵をもう一度煮てしまおう。
私は火を強め、割ってしまった卵を菜箸で押さえながら、鍋が沸騰するのを待った。

私は男と言えど、基本的な料理くらいはできる。
女が戦場に立つ今、男は家事などできなくても良いなどと宣う暇はないのだ。

ちらりと鳳翔に視線を送ると、頬に赤みがさす程度にまで収まっていた。
これなら話もできるだろう。

「まあ座れ」

鳳翔はこくりと頷くと、私が座っていた椅子に腰かけた。

「ところで鳳翔」

「申し訳ありません」

違うのだ。
そのような言葉を聞きたいわけではない。
女を泣かせる趣味もない。

謝罪のために頭を下げる鳳翔は、項垂れているように見えた。

時計の針が目盛りを七つ刻んだ頃、割れた卵から漏れ出す白身が固まりきった。
頃合いだろう。
私は卵を鍋から掬い上げ、ふたつみっつと皿に盛った。

「鳳翔、茹で卵はこのくらいかけて茹でるのだ」

「はい」

こくこくと頷く彼女の姿を見ていると、まるで料理を知らぬ若者のように思えた。
まさか鳳翔の噂話は根も葉もない妄言なのではないだろうか。

いや、そんなはずはなかろう。
この目で確かに、鳳翔が料理を振る舞っているところを見たことがある。
それも数度だ。

「きちんと固まっていますね」

ところがどうだろう。
目の前で白身の硬さを確かめる彼女の姿を見ると、どうにも料理人のようには思えない。
卵を茹でるのが初めてだった、というだけか。

「次は包丁を扱えるようにならないといけませんね」

そうではないらしい。
ふと聞こえた独り言はその噂を消し飛ばすほどの威力を見せた。

「なあ鳳翔よ」

「……あっ、はい。何でしょうか」

嬉しそうに卵を見つめていた鳳翔に、思わず笑みがこぼれそうになる。
その子どものような無邪気な眼差しは、一体どこから生まれたのか。

「提督?」

「ああ」

少し気がそれてしまった。
もう一度、鳳翔に問い直すことにしよう。

「料理の心得はあるか?」

「……いえ、まだまだです」

なるほど。
先程のあれは、滅多にない失敗などではないらしかった。

期待

おつ

これは期待しちゃう

しかしこのまま引き下がるわけにもいかない。
私はこの目で、しかとその瞬間を見たのだ。
彼女が自らの手で、駆逐艦らに昼食を手渡していたのを。

「カレーは作ることができるだろう」

「カレーですか? そのような手の込んだ料理は……」

眉根に皺を寄せながら、彼女はううむと唸る。
はて、ではあれは見間違いか何かだろうか。

「あ。ですが、料理を盛り付けることは得意です」

「盛り付け……というと?」

「はい。元々この厨房では、配給の人が料理を作ってくださるんです」

鳳翔の話に首を縦に振る。
確かに、この鎮守府には飯を用意してくれる人間が居た。
しかしここ最近はその姿を見ていない。

「ですが、作った料理の盛り付けがとても大変だというお話を聞いて、お手伝いすることにしたんです」

手伝い。
そういえば、鳳翔は飯時になるとよく姿を消していた。
私が食事を渡す様子を見たのも、昼時の厨房だったように思える。

「最初はあまりお役に立てなかったのですが、今では素早く配ることができるようになりました」

自慢げに、それでいて淑やかな鳳翔の言葉が耳に届く時、そのからくりに気付いてしまった。
鳳翔は料理を振る舞っていたわけではない。
ただ、調理されたものを盛り付けて、提供していたにすぎないのだ。

「……そういう仕掛けだったか」

厨房で調理に専念していれば、表に出ることはない。
彼女が表立って配給していれば、「鳳翔の手料理だ」と誤解するのも無理はない。

無理な期待を背負わせて済まなかった。
謝罪を口にしようとしたその瞬間、新たな問題点が脳裏に浮かび上がる。

では、配給を受けている者の誤解はどうなる。

「鳳翔。手料理を振る舞っているという誤解を受けているのではないか」

ぎくり。
そんな擬音が聞こえるように、彼女は身を強張らせた。
図星のようだ。

「その通りです……」

か細い声で、そう聞こえた。
彼女は手元の卵を見つめながら、語り始めたのだった。
誰にも言わないでくれと、私に釘を刺して。

かわいい

いいね

「鳳翔さんのような人に憧れる、と。そう言われたのです」

その言葉に、黙って耳を傾ける。
物憂げな表情だった。

「きっとあの子たちが憧れているのは、『料理ができる鳳翔さん』ですから」

納得がいった。
彼女は焦っている。
期待が失望へ変わる時が恐ろしいのだ。

私はそれを聞いて、思わず顔を伏せた。
何も感涙したわけではない。
ただただ、彼女の「大きさ」に笑みがこぼれた。

「ははは」

声が出てしまった。
鳳翔が目を丸くして私に詰め寄った。

「ど、どうして笑うのですか」

本当に困っているんですよ。
そう言いたげに顔を赤くされては、こちらも意地の悪い答えを用意したくなるものだ。

「お前もただの人間なのだな」

引き上がった口角を緩め、なんとか真面目な顔を作る。
このように涙目で抗議されては、からかうわけにもいかないのだ。

「人間……?」

ぽかんと口を開けた間抜けな顔。
それがまた、私の笑いを誘ってくる。
なるほど、鳳翔という人間はこれほどまでに表情豊かだったのか。

「くっ、ふふふ」

「なぜ笑うのですか」

困惑した彼女の顔を見続けているのは、たまらなく嗜虐心がくすぐられる。
見れば見るほど、人間らしい面持であることに今日という日まで気づかなかったのはどうしてか。

「鳳翔は、もっと凛としているものだとばかり思っていた」

私がそう告げると、彼女は悲しげに目を伏せる。
その所作のひとつひとつに、等身大の人間らしさを感じられる。

「私は今日になって初めて、鳳翔という人間と距離を縮められたようだ」

「それは……どういった意味でしょうか?」

小首をかしげるその動きは小動物のようだ。
私は、常に落ち着き払った彼女の姿を見ていた。

それがどうだろう。
今日は鳳翔がとても身近な存在だと感じる。

こんな状況に置かれても、あの鳳翔なら一人で解決してしまう。
だがこの鳳翔は、どうやら手のかかる存在らしい。

「私が料理の心得を教えてやろう」

「……本当ですか!」

そこまでの話をされて、面白い話だったなと切り捨てるわけにもいかない。
そう思うのが人情というものだ。

私がそれほど白状に見えたか、と問うと、彼女は恥じらいながら首を横に振る。
鳳翔が確かに、そう答えてほしかった、と呟いたのを、私は見逃さなかった。

「では鳳翔。包丁の使い方はわかるな」

「猫だと聞きました」

猫。
手の事だろうか。
私がそう聞き返すと、彼女は力強く頷いた。

やけに抽象的である。
誰に聞いたのだ、と問うと、龍驤と隼鷹だと告げる。

私に釘を刺したというのに、他に知っている者がいるのか。
不貞腐れたように表情を崩すと、鳳翔は慌てて取り繕い始めた。
冗談だと笑ってみせると、彼女はむむむと口を噤んだ。

「提督は想像していたより意地の悪い人ですね」

「鳳翔は想像していたより親しみやすい人間だな」

互いに笑い終え、鳳翔に再び問うた。

「ではここにある葱を切ってみろ」

「はい」

どれほどの手並みを持つのか、早速確認してみようではないか。
鳳翔は難なく包丁を手に取ると、まな板を探し始めた。

「あ。ありました」

手際はあまり良いものではないらしい。
そのまま葱を手渡してやると、鳳翔はそっとまな板の上に乗せた。

まな板に対して、まっすぐ縦向きに。

「独創的だな」

思わず口から漏れた言葉はそれだった。
まさか葱を縦に切ろうとは。

どうだと言わんばかりにこちらを見る鳳翔に対し、曖昧な表情で相槌を打つ。
褒めてやらねば人は動かじとは言うが、まずはやった見せるべきだったと後悔をし始めた。

「引いて、切る」

ただひたすら、長い葱を縦に切断していく鳳翔。
それを見つめる私。
傍から見れば、何かの罰を受けているようにも見える。

縦に一刀両断された哀れな葱をまな板に横たわらせ、鳳翔は頷いた。
何に納得がいったのかはさっぱり理解ができなかった。

やはり手本を見せるべきではないか。
私はそこらにある林檎を手にとった。

「たとえばこれを切る……」

「皮むき……も、もしかして提督はできるのですか?」

「ああ、これくらいは可能だが」

何故か鳳翔の態度が急変する。
林檎の皮むきに何か思い入れでもあるのだろうか。

「林檎の皮むきができれば、駆逐艦の子たちに振る舞うことができますよね」

なるほど。
確かに怪しまれないためにも、実用的な調理を教える方がいい。
私は包丁を手に取ると、その手を林檎に添えた。

「ほう……」

まだ構えただけだというのに。
気分が高翌揚したのか、鳳翔は食い入るような視線をぶつけてくる。

その顔を見るとやけに楽しそうであった。
まるで子供ではないか。

「こうして斜めにだな」

「わあ……! 素晴らしいです!」

きゃっきゃと楽し気にはしゃいでいる彼女の様子を見ていると、やはり違いに驚かされる。
くるりくるりと手元を回すたびに、私の頬の肉はだらしなく緩んでしまう。
娘を持った時、私はこのような気分になるのだろうか。

なにこのかわいい鳳翔さん

最後の皮をむくまで、私は一度も失敗をしなかった。
彼女の期待に応えるためか、何故か大人げなく意地を張ってしまったらしい。

もう夜が更けてしまっていた。
続きはまた明日の夜だと告げた時、彼女はそうだ、と声をあげた。

その綺麗な林檎の皮がほしいと言うのだ。
その申し出は断ることにして、早く寝るようにと急かしてやった。

「長い林檎の皮くらい、自分でできるようになれば、いくらでも持っておける」

「それができないから、求めてしまうのでしょう」

名残惜しそうに呟くその姿は、やはり子供のそれに酷似していた。
くすりと笑うと目ざとく注意されてしまう。
耳のいい子供である。

くっそかわいい

かわいすぎか

乙!

きっとこの鳳翔さんは芋っぽさが足りない見た目

朝になり、遠征から帰った駆逐艦、軽巡洋艦らを迎えに行く。
この時期だ。外に出てみると朝日はまだ昇っていない。
このような神秘的な風景には、何度見ても心が揺さぶれるものがある。

「司令官、ただいまー!」

どうやら戦果は上々だったらしく、彼女たちは楽しそうにはしゃいでいた。
きゃあきゃあと姦しいさまは、昨日の彼女を彷彿とさせる。

「ああ、おかえり」

「遠征は大成功よ!」

暁を筆頭に、資材を大量に引っ提げた天龍と川内がlこちらに手を振っている。
元気な暁とは対照的に、川内を背負った天龍はよろよろと歩いている。
いつも通りの光景であった。

背負われた川内、幸せそうな寝顔を浮かべている。
これもいつも通りだった。

「うおお! もうだめだ! 提督、早くこいつを引き取ってくれ!」

「無茶を言うな」

艤装を装備した彼女らの重みは計り知れない。
天龍には悪いが、整備室まで引きずってきてもらおう。

「それでね、私の思う大人のレディーは……」

「その話は後にしてくれえええ!」

天龍が川内を引きずる間も、暁は何やら楽しそうに話し続けている。
それほど好かれているということだろう。

微笑ましい光景に笑みを見せると、手伝えという叱責を天龍から受けた。
せめてもの手伝いと彼女から資材を受け取るが、あまり援助にはならなかったらしい。
ぐぬぬと小さな声を上げながらも、のっしのっしと進んでいった。

「それでね司令官」

「ん? ああ……」

どうやら暁は話を聞いてほしいようだ。
艤装をがしゃがしゃと鳴らす彼女を整備室に誘導しながら、その話を聞くことにした。

「そう、鳳翔さんみたいな人よ」

「鳳翔?」

期せずして彼女の名が耳に届き、何の話だったかと思い返す。
そうであった。彼女の憧れの女性、とかいう話だったことを覚えている。

「おしとやかで、落ち着いていて……それで料理も上手!」

暁は楽しげにそう告げる。
ああ、この笑顔か。この期待か。
鳳翔が本当のことを言い出せない理由が、今はっきり理解できた。

「そうか……そうだな」

「でしょう? 司令官もそう思うでしょ?」

暁は、あの鳳翔のことを言っているのか。
複雑な気持ちが芽生える。

本当の姿は、もっと少女らしいものだというのに。
それを晒すことのできない鳳翔の心中は、一体どうなのだろう。

「みなさん、おかえりなさい」

「あ、鳳翔さん!」

噂をすれば影が差す。
私たちが向かう先に、彼女は立っていた。

「遠征、お疲れ様です。これをどうぞ」

「これ?」

何をするかと思えば、鳳翔は手元から何かを暁へ差し出した。
一体なんだ、これは。

それは林檎だった。
綺麗な紅のさした、皮のむかれた林檎が二切れ。

「わあ、林檎! いただきます!」

嬉しそうに咀嚼する暁を後目に、鳳翔へ視線を送る。
これは、自分で切ったのか、と。

「……やりました」

私もやればできるのです。
彼女のそんな声が聞こえてきた気がした。

「……なるほど、こういうわけか」

「す、すみません」

自室に戻ると、皿に盛られた林檎の山が出迎えてくれる。
みっつよっつ、数えてゆけば合計して十二の林檎の切れ端が乗っているではないか。
どれもぼこぼことしていて不格好で、とても見せられたものではない。

どうやらこの内から綺麗なものだけを抜き取って、暁に渡したらしい。
よく昨晩の実践で物にしたものだ。
そう誉めてやろうかと思った矢先、林檎の数の異様さに気が付いた。

手がボロボロになってそう

「八つに分けた林檎を二つ……これではあと二つ足りないではないか?」

暁の食べたものを合わせても合計が十四。
「七等分に切る」などという技術は身につけていないはずだ。

おそらく八等分にしたのだろう。
しかしそれでは足りないのだ。

「なあ鳳翔よ」

「そ、それは……」

ふと、彼女の唇が日光に輝くのが見えた。
みずみずしいそれは、果実の潤いに酷似している。

「……うう」

林檎のように朱に染まった頬が、太陽の光を浴びる。
茶目っ気のある林檎だなと笑い飛ばすと、鳳翔は身を縮こまらせた。

こんな鳳翔さん卑怯すぎるわ……!

かわいい(かわいい)

鳳翔が林檎の皮むきを軽々とこなせるようになって三日。
鎮守府に恐ろしい知らせが飛び込んできた。
それも、鳳翔の口から。

「調理師が……脚気だと」

「はい、それも全員揃って……」

朝食の配膳の手伝いを始めようと、鳳翔は厨房へ向かった。
しかしどうにも彼らの調子がおかしいことに気付いたという話だ。

よく見れば手がむくんでいた。気怠そうな表情も浮かべていた。
近くの医者に駆けつけてもらったところ、案の定「脚気」の二文字を宣告されたそうだ。

「どのくらいかかりそうだ」

「おそらく二日、長くて四日ほどになるそうです」

栄養を取らせ、安静にさせねばならない。
そうなると長期の休養は避けられぬのだ。

よっついつつ、短くとも六食の配給が止まる。
食事は体力の源である。
細々とした食事では力も出ないというものだ。

しかし今ここに、手の空いている人間はいない。
料理のできる人間は、私一人だ。

私一人では、少ないとは言えないこの鎮守府の食事を賄うことは不可能である。
だからといって、飯を抜くわけにもいかない。

そういえば奴等は白米が好きだといい、ばくばくと食っていたな。
何故野菜を食わんのだと叱っておくべきだったか。
後悔ばかりが募ってゆく中、またも新たな問題が飛来する。

鳳翔はどうだ。
調理できるものがいないと言えば、彼女が配給していたと思われていた料理はいったいどうなる。

「鳳翔。頼みがある」

「はい」

突然の申し出にも関わらず、彼女は凜とした表情をしていた。
きっと、わかっているというのだろう。

「今日は林檎以外のものを切れ」

「はい!」

鎮守府が騒ぎ出すまであと一時間。
私は席を立ち、厨房へと向かった。

「朝はカレーライスで凌ぐ。大量に作ってしまえば昼もそれでいいだろう」

確かカレー粉は大量に買い込んである。
それを見越していたところまではよかった。

だが、肝心なものがひとつ、ぽっかりと抜け落ちていたのだ。

「……米がないぞ」

「えっ」

鳳翔とともに、辺りをきょろきょろと見回してみる。
しかし米はどこにも見当たらなかった。
時計の針は先程より三つ、歩みを進めている。

最中、鳳翔が声をあげた。

「パンがありました!」

よくやった、と中身を確かめに行く。
なるほど。これなら十分に足りそうだ。
これを誉めると、鳳翔はこくこくと頷いた。

ひとまず私が必要そうな野菜を見繕っていく。
山のように積まれた人参と玉葱と馬鈴薯に、鳳翔は口をぽかんと開けていた。

「や、野菜を切る手伝いをします」

「まず皮をむけ」

そうだった、と一人慌て始める鳳翔。
これでは最初に戻ったようだと悲観してしまう。
しかし、その様子は今までと違っていた。

するすると馬鈴薯の皮をむいていく鳳翔の姿は、「料理のできる人間」という張りぼてを得ていた。
この一部分だけ切り取れば、確実に全員が納得するだろう。

惚けている私に気が付いたのか、鳳翔は満足げにこちらを見る。
指を切るぞと言ってやると、もう何度も切りましたと返された。

肉と野菜らを煮込み始めて十分が経つ。
今日は遠征に行った者たちの迎えにはいけないなと嘆息する。

鳳翔はいい働きをしてくれた。
あの山のような食材を、皮むきだけは一級品の速度で仕上げてしまったのだ。
積み重ねた努力とは恐ろしい。

ふと彼女を見ると、不慣れな手つきながらも何かを切っているではないか。
何をしているのか、手を動かしながらその背中を覗いてみる。

「……おお、漬け物か」

それを見るまですっかり忘れてしまっていた。
気が利くものだなと呟くも、鳳翔はあまりの真剣さ故、私の言葉を聞き逃した。

「いっちばーん!」

「おっそーい!」

どたどたと遠くで走る声が聞こえる。
次第に近付いてくるその足音は二つ。

「ああ、あの子たちが来ましたね」

切り終えたらしい鳳翔が顔を上げる。
何故それがわかったのか。それを聞くのは野暮というものだ。
彼女は長く、朝食を渡す手伝いをしていたのだから。

「おっ」

「あれ?」

がらがらと騒がしく戸を開け、私の顔を見てきょとんとする二人。
島風と白露は、互いの顔を見合わせていた。

ああそうか。
私が厨房にいることが不自然なのであろう。
こちらはこちらで鳳翔と顔を見合わせて、互いにくすりと笑って見せる。

「おはよう」

「おはようございます」

調理に勤しみながら告げると、困惑の混じった声で「おはようございます」と聞こえてくる。
なるほど、見ていて滑稽だ。
私は手を止めて二人へ呼びかけた。

「まだもう少しかかる。待つなら座っているといい」

ようやく朝食が出来上がったころには、皆が待ち遠しそうに席についていた。
私たちの方をちらちらと見ながら、不思議そうに話し合っている。

カレーを鳳翔に味見させてみると、なかなか良いとの答えが返ってくる。
私も確かめようと、同じ小皿にカレーをよそったその瞬間、鳳翔に遮られた。

何故遮られたかはすぐにわかった。
いくつもの双眸が、まっすぐこちらを見ていたからだ。

同じ皿だと気にしているのか。
察した私は「構わんよ」といい、それを口に含んだ。
色めきたつ外野の声に気付いたとき、鳳翔は膝を抱えて縮こまっていた。
私と皆は構うのです、と。

鳳翔さんかわええ

馬鈴薯の芽の処理が出来てなさそう…

可愛すぎ…こんな鳳翔さんも良いね!

昭和の女学生ってかんじ
かわいい

ただの食堂から夫婦でやってる飯処『鳳翔』になってる……!

鳳翔さんが嫁の俺を殺すスレはここですか?

「はぁ……調理というものはこれほど体力を使うものだったか」

上着をそこらの椅子にかけ、体をぐっと伸ばす。
骨がばきばきと悲鳴をあげた。
だが、肝心の昼は乗り切った。
後は晩の調理、もとい仕込みだけだ。

ふと鳳翔の方へ目をやる。
どうやら彼女も相当の疲労を抱えているらしい。
はらりと垂れた長髪が、汗で額に張り付いていた。

「鳳翔」

「……はひ」

気の抜けた返答だ。
慌てて口元を抑えた彼女に、気にするなと首を振る。

「食料の買い出しに行くか」

「え? まだ買いに行くほどでは……」

察しの悪い奴めと言いたくなるが、それは仕方がないだろう。
私も滅多にそのような言い回しはしないのだから。
公私は分ける質だと自負していたのだが、どうやら彼女の前では気も緩むらしい。

「こう同じ景色ばかりみていては気が滅入る」

「……あっ、そうですね。そうしましょうか」

彼女は手元の調理器具をささっとまとめてしまうと、着ていた割烹着を脱ぎ始めた。
そこまで急ぐことはないだろうと嗜めると、意外な答えが転がってきたではないか。

「ここでは割烹着は暑いのです」

無理に着る必要はないというのに。
律儀な奴だと笑ってやると、そうもそうだと笑い返された。

外に出ると、それは見事な夕焼けが町を包んでいた。
人参よりも少々色が濃いか、などと考えてしまうのは厨房の呪いか何かだろうか。

「この時間帯に外に出るのは初めてです」

夕焼けを眺めていた鳳翔がそう漏らす。
やけにきょろきょろとしているなと思えば、そういう理由があったか。

「私も誰かと外へ出るのは初めてかもしれんな」

鳳翔が目を丸くした。
意外でした。そう言うのだ。
提督は皆と仲が良いのに、と。

仲が良いだけでは時間は合わんのだ。
そう告げると、鳳翔は「なるほど」と言う。

だが不思議だった。
私が誰かと外を歩きたいと思うようなことは、未だかつてあっただろうか。
荷物持ちくらい連れ立って行けばよかったと後悔した日はいくらかあるが。

ああ、そうか。
少しだけ合点がいった。

「私はお前が好きなのだろうな」

鳳翔はまたも目を丸くした。
口をあんぐりと開け、夕陽に負けじと赤く染まり始める。

「どうした。私はおかしなことを言ったか」

からくり人形のように挙動が硬くなる鳳翔。
おかしいのはどちらだというのだ。

これでは、彼女はまともに歩けそうにない。
私は右手と右足を同時に出そうとする鳳翔の手をとった。

噛み付かれでもしたかのように、彼女の体がびくりと跳ねた。
余程疲れを溜めさせてしまったらしい。
帰りはおぶってやろうと言うと、ますます林檎らしい顔色になり始める。
殊勝な奴だ。気にする必要などないというのに。

「雑貨屋にでも行ってみるか」

返事はなかった。
まさかとは思うが寝ているのではあるまいな。
確かめようと一歩近づくと、鳳翔はか細い悲鳴をあげた。

鳳翔さんクッソ可愛いwwwwww

飯屋と飯屋の間にある雑貨屋へとたどり着く。
ここは外装さえ小汚いが、取り扱うものはよく揃っている。

潮が花を育てているのに使う鉢植えや、隼鷹が使う猪口もここで買った。
箸なども、思えばここで買っていたな。
気が付けば足蹴く通っているではないか。

藍色の暖簾をくぐると、少しだけ景色が変わった。
よく来たね、と初老の男性がにこりと笑う。
ああそうだ。彼とも随分と前から顔なじみであった。

私が手を上げて会釈すると、店主の視線は鳳翔へ移る。
彼は顎を摩りながら、「これは珍しい」と呟いた。

「それほど珍しいことでもないだろう」

「いやはや、今日で顔を合わせて三月ほど経つが、誰かとともに出歩いているのは初めて見たよ」

珍しいことであった。

「悪いが、今日は何も買うつもりはないぞ」

「冷やかしなら帰っておくれ」

けたけたと歯を鳴らして笑う老人は、私にそんな冗談を投げかけた。
彼は知っているのだ。
こんな風に私が強がっていても、必ず何かを買って帰ることを。

さて、今日は何を買うか。
辺りを見回すと、見慣れない商品がいくつか並んでいた。

「あの、ここは」

「ああ、行きつけの雑貨屋だ」

どうやら意識を取り戻したらしい。
鳳翔は店主を見つけると、軽く頭を下げていた。

「あ、私は外で待っていましょうか」

この店はお世辞にも広いとは言えない。
それを察した鳳翔は、私に道を開けるように半歩下がった。

「そこのお嬢さんに何か買いに来たんじゃないのかい」

老人が口を挟む。
私はそれに乗じて何かを言おうとした。

「……いや。すぐに終わる。外で待っていてくれ」

だが、見つけてしまった。
鳳翔の肩越しにある、それを。
共に何かを探そうかと考えていたが、これしかないと私は確信した。

「わかりました」

鳳翔が暖簾をくぐってゆくのを見届ける。
そうして姿が見えなくなったところで、私は商品を手に取った。

「これをくれ」

「ほう。お目が高い」

鑑定士気取りの店主が唸り始める。
小芝居にはまた次の機会に付き合ってやると言うと、つれない奴だと返された。

「待たせたな」

「わっ」

私が暖簾をくぐると、鳳翔が飛び上がった。
背後から声をかけたのが不味かったか。
しかしこちらから出てくることは承知の上だろう。

「手など見つめていたが、何かあったか」

「えっ、いやっ、その」

しどろもどろになりながら二の句を探している鳳翔。
なんだ。今日の彼女は様子が違っているな。
その原因はよくわからぬまま、私は鳳翔の手をとった。

何故か彼女は嬉しそうに笑みを浮かべたが、頬の赤みだけはそのままだった。

今日という一日は、それは壮絶な一日だった。
私が遠征の許可を出せなかったせいで、夜間に外出している面子も鎮守府内に残っていた。
それもあり、私と鳳翔は過酷な調理を強いられたのだ。

もう肩も上がらん。
そんな風に弱音を吐いたのは、いつ以来だったか。
鳳翔は私の言葉を聞いて、それに同調するようにこう返した。

「提督が居なければ、私もここまで持ちませんでした」

「それはそうだろう。人手が足りんのだからな」

鳳翔は頬を膨らませた。
わかっているとも。そのくらい察せずしてどうするというのだ。

悪かったと言うと、鳳翔は冗談ですよと微笑んだ。
言うようになったではないか。
食器を洗い終え、私たちは二人で笑い合った。

そうだ、忘れていたことがあったな。
私はそこらの棚に置いていた「それ」を手に取る。

「その紙袋は……?」

鳳翔が不思議そうに首を傾げる。
雑貨屋で買ったものだと告げると、ああなるほどと頷いた。
私がずっと持っていたというのに、気が付かなかったのか。

余程何か他の事で頭がいっぱいだったらしい。
それが何なのかまではわかりようもないが。

「ふぅ……」

その声に顔を上げると、鳳翔は窓の外を眺めていた。
私との会話が終わったと思っているらしい。
彼女の名を再び呼ぶ。

「今日という日を乗り切った褒美だ。これをやろう」

「え……? ええっ!?」

今日は驚いてばかりだな、鳳翔よ。
あわあわと狼狽える姿はいつ見ても滑稽だった。

「い、いいのですか?」

「いいと言っている」

「本当に、本当にですか?」

「やっぱりやらん」

そんなぁと嘆く鳳翔。
やると言ったらやるのだ。男に二言はない。
おずおずと差し出してた紙袋を突き返すと、鳳翔はまたも嬉しそうに口角を上げた。

彼女は、がさがさと紙袋の中身を確かめる。
それを見た時、どんな反応をするだろうか。

「これは……」

そこから表れたのは、深紅の髪留め紐であった。
窓から差し込む夕陽に負けじと輝くその紅は、私の好む色だった。

喜ぶに違いない。その目論見は正しかった。
ただ、それを手に取った瞬間の鳳翔の笑顔を見た途端、気恥ずかしさが芽生えた。

「欲しがっていただろう。林檎の皮だ」

「えっ、林檎の皮なのですか?」

鳳翔は慌てて、その髪留めの香りを嗅ぎ始める。
何も匂いがしないのだろう。時折首を捻りながら、入念に調べていた。
流石の私もその姿を見てしまえば、腹の底から笑わずにはいられなかった。

「はぁ、はぁ……よく笑わせてもらった」

私の笑い声に、鳳翔は立腹していた。
まるで子供のそれと同じように顔を背けていたのだ。
よく見れば頬も膨らんでいる。

「返せと言われても返しませんよ」

「ああ、元よりそのつもりだ。似合うだろうと思って買ってきたのだからな」

それを聞くと、彼女はけろりと機嫌を治した。
何が効果的だったのかは理解しかねたが、あまり詮索してもわからんだろう。

「その長髪は料理の邪魔になるかもしれんだろう」

そのために束ねておけばいい、と告げる。
鳳翔は自分の髪を手に取り、ふむと納得したように呟いた。

「使ってもよろしいでしょうか」

「ならん、と言ったらどうだ」

それは困ると告げる鳳翔。
聞かなければ良いものを。
身に着けて見せろと急かしてみると、鳳翔は慣れない手つきで髪を結い始めた。

「……どうでしょう」

髪を上げた鳳翔の姿は、しっくりときた。
前のように髪を垂らしているよりもずっと、料理のできる人間のように見えてくる。

「悪くない」

そうとだけ伝えてやった。
鳳翔がほっと胸を撫で下ろしているのが見える。
自分でも見てみるといいだろう、とそこらにあった手鏡を差し出してやる。

私も少しだけ安心する。
色が似合うだろうと言っても、肝心の鳳翔が乗り気でなければ意味がない。
だが、髪型の変わった自分を楽しそうに見ている彼女を見ると、渡してよかったと感じられた。

翌朝、眩しい朝日に揺り起こされる。
昨日の疲労がまだ残っているのか、肩をぐるりと回すたびにばきばきと悲鳴が聞こえてきた。

「今日も厨房へ向かうのか……」

医者の話によれば、彼らの復帰は明日になるらしい。
あと二日。それだけ乗り切れば、いつも通りの業務に戻ることができる。
奴等が帰ってきたら嫌と言うほど野菜を食わせてやる。

戸を開けると、よろりとよろめく龍驤の姿が見える。
起きるにはまだ早い時間だろうと声をかけると、ゆったりとした動作でこちらへ歩いてきた。

「キミぃ……鳳翔にリボンあげたんやろ?」

首を縦に振る。
龍驤はそれを見て、私に何度も相槌を打った。

読んでてほっこりする

「嬉しそうにしてる……すっごく、それはもうなぁ」

話の意図が見えない。
私はもう少し、彼女の要領を得ない話に耳を傾けることにした。

「それでなぁ……」

「ああ」

「……朝まで惚気られた」

「……惚気るようなことをした覚えはないが」

何故か龍驤は飽きれたように首を振る。
一体鳳翔は何を話しているというのか。

「まあいいか……でも司令官。鳳翔の事どう思ってるん?」

「好意的に見ている」

「もうちょいブレたりしてくれても……」

さて、何の事だかわからんな。
そういう態度に出ていると、龍驤は「わかった」と言葉を発した。

「ウチにいい考えがあるんだけど……聞きたい?」

「聞かせてもらおう」

何が何だかよくわからないままだが、龍驤には何か考えがあるらしい。
私はその内容を耳に入れた。

彼女からある程度の説明を受けると、私はそれを快く承諾した。
どうやら龍驤は、働き者の鳳翔を労いたいと言う。
ここ最近働き尽くめの彼女に感謝をしたいらしいのだ。

「それには司令官の協力が必須でなぁ」

「引き受けよう」

「おお、太っ腹!」

まだ何も伝えていないのに、と龍驤は言う。
だが鳳翔の努力を最も間近で見ているのは私だ。
それについて、いろいろと話もできることだろう。

「まあ詳しいことはその作戦の前に連絡するね。じゃあ明日の夜に~」

「ああ」

去ってゆく龍驤を見送りながら、厨房へ向かう。
厨房へ入ると、手鏡を持って楽しそうに髪留めを眺めている鳳翔の姿が見えた。

外見は変わっても中身は変わらんな。
背後から声をかけてやると、鳳翔は驚いたように飛び跳ねた。

包容力のありそうな鳳翔さんだからこそ初々しさが物凄く際立つなあ
すばらしい
前まで髪結ってなかったんか

料理しないからそんな考え思い付かなかったんだろ
あぁ可愛い

そうか、ずっと「お艦」のイメージがあったが、考えてみたら艦娘の外見年齢って艦の排水量の要素が大きいんだよな。
そう考えると、鳳翔さんって実はミドルティーン……?

止めて!それだと大和が熟女になっちゃう!

>>91
???「ほう、よく言ったな、提督よ」

>>92
熟女な大和に何か問題でもあるのか?

榛名(45)「榛名は大丈夫です!」

Lv45なら中学生くらいのイメージだな、悪くない

時が過ぎるのは恐ろしく早い。
龍驤の言っていたその日は、あっという間に来てしまった。

これでもう、鳳翔と厨房に立つ機会はなくなった。
翌日からは彼らが復帰し、またいつものように調理を始める。
理解していたことだが、一抹の寂しさが心に引っかかるようだった。

「やーあ提督ぅ」

「隼鷹か。どうしたんだ?」

「龍驤に頼まれてね。ほい、コレ」

龍驤の代理で来たのだろうか。
そんな想像をかき消すかのように、ずしりと重い酒瓶が手渡された。

「なんだ」

「やだなぁ呑んでないよ? 素面だって」

隼鷹は取り繕うように高笑いした。
その行動そのものが既に怪しいというもの。

「選ぶの苦労したんだって。龍驤も潰れるくらい呑んで比べ……」

自らの失言に気付く隼鷹。
飲んだのは水だと言い張るが、だんだんと呂律が回らなくなり始めている。
要するに、私へ渡すこの酒を選んだのだろう。
飲む必要があったのかと問えば、それは別になるが。

潰れちゃってる龍驤ちゃんかわいい

隼鷹に酒を押し付けられ、すぐさま廊下へと放り出される。
そして告げられたのは、「厨房へ向かえ」の一言。
これでは作戦も何もあったものではない。

「……行くとするか」

おそらく厨房では彼女が待っているはずだ。
気付けば早足でそこへ向かう私がいた。

数週間前までは、こんなことになるとは思いもしなかった。
不思議な縁もあるものだな。

廊下の窓から見えた景色は何時ぞやの風景を思い出す。
あれはいつだったか。
もうずっと前の事だったように感じる。
厨房の手前の角から見えた光に、思わず口元が緩んだ。

「待たせて悪いな」

「わ」

戸を開けて最初に見えたのは、何かを口にしている鳳翔の姿であった。
想定外の事態に対応できなくなる。
彼女はいったい何を食っているというのか。

見覚えのあるそれは、依然見たものよりも白く輝いているように見える。

「ああ、茹で卵か」

ここの鳳翔さんほんとに可愛い
鳳翔さんの追加ボイスも来るし、時代は鳳翔さんに向けて動き始めているのではないだろうか

まさか鳳翔改二の実装の可能性が…?

ゆーや天城みたいにはっちゃけるのかな

髪下ろした姿も良さそう

晒し姿を見せて祥鳳と波状攻撃をかけて来るかも

「慣れたものだな」

わざとらしく笑ってやると、鳳翔は二度咀嚼して頷いた。

提督のおかげです。
そう言ってにこやかに卵を差し出す姿には、どこか気品がある。

「これをもらってきた」

隼鷹から受け取った酒瓶を持ち上げて見せると、鳳翔は目を丸くした。

「私もこれをもらったのですが……もしかして隼鷹さんからでしょうか?」

違う銘柄の酒瓶が一つ、彼女の手元から現れた。
どうやら鳳翔にも同じことをしたらしい。
構わないとはいえ、これでどちらが労ってやるのかが有耶無耶になった。

「提督はお酒に強いのですか?」

「多少は、な」

普段は呑んでいる暇もないが、今日だけは話が別であった。

明日は久々の休暇である。
任務に出る者もおらず、忙しい日々の中、つかの間の休息を味わうことができる。
次の休みは当分先であるが、朝まで呑んで昼に起きるくらいの贅沢をしてやろうではないか。

「お前はどうなんだ」

「ああ、お酒ですか? ……実はその、あまり飲んだことがなくて」

確かに自ら進んで酒を呷るようには見えん。
ただ、今回のように勧められて呑むこともあるのだろう。

「肴くらいは私が用意しよう」

「いえいえ、ここは私が」

私が食材を手に取ろうとすると、鳳翔が横から飛んでくる。
以前よりもぐいぐいと押してくるようになった。

ここ数日の飯作りを思い出してみる。
彼女の料理の腕はそこそこ成長したと言ってもいいが、まだまだ未熟なものが残る。
任せてやるのが普段の私だろうが、今日は労いに来たのである。

「でしたら、二人で作ってみるというのはどうでしょう」

譲りたくないらしい。
その提案、乗ってもいいだろう。

提案を受け、別々に料理をし始めて七分。
最初は二人で一緒に作りたかったらしい鳳翔は、「別々に作る」という発想に異を唱えていた。
だが、これが出来たら免許皆伝だと適当なことを抜かすと、きりりと表情を整えたのだった。

「できました!」

意気揚々と何かを皿に盛り始める鳳翔。
これほど短い時間で、よく包丁を扱えるようになったものだ。
私は茹で卵の残りをつまみながら、そのてきぱきとした様子を見つめる。

もちろん私の方が手早く調理を済ませている。
皿に乗せられた私の料理は、鳳翔の到着を待ち遠しそうに眺めていた。

「おくらと長芋の和え物です」

「ほう」

まだ形が不揃いなのは仕方がないとしても、なかなかに言い出来栄えだ。
褒めてやろうかと顔を見ると、私の料理に目を奪われている。

「それは何ですか?」

「厚揚げだ」

きょとんとした顔をする鳳翔。

「厚揚げ?」

「ああ、厚揚げを焼いて、葱と七味を乗せた」

鳳翔が声を震わせながら「包丁は」と問う。
洗うのが面倒なのだと答えると、そんな手があったのかと頭を押さえ始める。

「てっきり冷奴を出すのかと思っていた」

先日、豆腐を買ってきたのは鳳翔だった。
しかし彼女はむむむと唸る。

「免許皆伝とまで言われてしまえば、そんな単純なものを出すわけには……」

「手を抜くのも技術だ」

鳳翔はがっくりとその場で項垂れた。
免許皆伝にはまだ遠いようだ。
褒美に厚揚げを食わせてやると、興奮したように喜び始めた。

可愛いなぁ

今日!鳳翔さんの!バレンタインボイス!実装だよ!!!!!!!!!!!!

な、なんだってー?!(ふーん)

こんなところにいられるか!!ログインすっぞオラァ!!(鳳翔さんかわいい)かわいい


この鳳翔さんはもうちっとこのままでいてほしい

「ああ、いけない。肝心のものを忘れていましたね」

ほくほくと厚揚げを食べていた鳳翔がすっと立ち上がる。
向こうの机に置いた酒瓶を取りに行こうというのだろう。
しかし、それは手で制止させてもらう。

座っていろと促す私に、彼女は困り顔をする。
もっと楽にすればいいものを。

「なんだ、緊張でもしているのか」

「いえ、そのようなことは……」

近寄って目を見つめると、彼女は照れたように頬をかいた。

「さてどちらからにするか」

「え? 両方ではないのですか」

その発言には驚かされた。
一人一升呑めというのか。
発想が酒豪のそれである。

私自身、酒の強さに関しては人並みだとしか言えない。
この一升瓶を二人で分けるくらいでなければ、きっと明日の寝覚めは劣悪なものになる。

いや、彼女の場合はそういうことに疎いだけであろう。
私は鳳翔に好きな酒を選ばせると、洒落た杯を手に取った。

「提督」

「どうした」

微量の酒を鳳翔に呑ませて数秒後。
彼女は私を呼んだ。

「……私を、面倒だと思っていませんか」

何をだと口にするよりも早く、鳳翔の語勢に押し切られる。

「あれもこれも手のかかる女だと、思ってはいませんか」

彼女は矢継ぎ早に続ける。

「迷惑だと思われては、いませんか」

その声は尻すぼみになる。
顔を見ると、頬が真っ赤に染まっていた。

酩酊しているのか。
この量で。

では先程の言葉は、酔って本音が漏れたとでもいうのだろうか。
そう考えると、なかなか可愛らしいところがあるというものだ。

「思わんよ」

「よかった」

私の言葉に、にへらと頬を緩ませる鳳翔。
それでいいのかと問いかけたくなるものだが、幸せそうな彼女に水を差すのは野暮である。

「私は提督のことをお慕いしています」

「……急にどうしたというのだ」

何の脈絡もない告白に、私は少々たじろいでしまった。
彼女の据わった目に射竦められたらしい。

「だから」

鳳翔は視線を下へと下ろして告げた。

「嫌われたくないのです」

なるほど。
私は酒をぐいと呷った。

「嫌うことなどあるか。私はお前が好きだと言ったろう」

彼女の方に手を置き、落ち着くように促した。
しかしそれは、彼女の鬱憤をより加速させてしまう。

「それは貴方の優しさです。お世辞などいくらでも言えるではないですか」

一瞬、彼女は自身の手元に視線を送った。

「嘘ではないという証拠を、今ここで見せてください!」

「嘘だとは言っていないが」

「あっ」

束の間の茶番劇は幕を閉じた。

「誰の入れ知恵だ」

「そ、それは言えません。内緒にしておけと足柄さんに口止めされているので」

「足柄か」

「あっ、いえ、違うのです」

あたふたと手を動かし始めた彼女の手元から、紙切れがするりと落ちた。
拾い上げて見てみれば、先程の台詞の羅列が書き並べてある。

「なかなか楽しめたぞ」

「うぅ……」

「ここで一拍ほど待つ」

「や、やめてください」

身を縮こまらせる彼女に、紙切れに書かれた文字を読み上げてやる。

なにこれなにこれ!ちょーかわいいんですけどー!

「それよりも、これを食べてみてください」

鳳翔は和え物を差し出してくる。
ふと気づけば茶番のおかげで食い損ねていた。

「いただこうか」

味は薄いが、さらさらとしていて食べやすい。
十分、料理として成り立っている代物である。
だが、ただ褒めるだけでは面白みがないだろう。

「及第点と言ったところか」

私の言葉に、鳳翔は不服そうに項垂れる。
余程自信があったに違いない。

「冗談だ。良い出来になっている」

「本当ですか!」

ぱあっと明るい笑顔を見せる鳳翔。
その晴れやかな顔には一点の曇りも見えなかった。

「提督には、案外お茶目なところもあるのですね」

「鳳翔には及ばんよ」

彼女は慌てて、その件に関しては忘れてほしいと言い始めた。
あまりの慌てように、思わず笑い声が漏れてしまった。
それを見た鳳翔は、不貞腐れたように頬を膨らませる。

私は、その変わりない光景に安堵した。
実のところ、鳳翔の芝居には肝を冷やされたのだ。
私の言う「好き」という感情は、鳳翔にとって余程大きなものだったのではないか、と焦ってしまった。

くそう、かわいい

だが今は心配せずとも、私の思っているような心配はありはしない。
自分の料理に舌鼓を打つ鳳翔の姿を見ていると、このままでもいいではないかと感じる。
まだ先の話であると、高を括っていた。

「……先程の言葉は真実ですか?」

唐突に場の空気が変わった。
鳳翔の口から放たれた言葉が、あの茶番劇の空気を取り戻させてゆく。

「わたしのこと、しゅきですか」

「なんだ、本当に酔っているのか」

酔ってなどいないと頭を振るその姿は子供のようだ。
なあなあな返事をしてやると、彼女はそれでも嬉しそうに目を細めた。

「なあ、鳳翔よ」

「……んぅ」

彼女はすっかり寝静まってしまった。
私の肩側に体を預け、ぐっすりと眠っている。

そんな中、私は彼女の目の前に本音を転がした。

「今の私はな、全てを擲って、この身をお前に捧げることはできないのだ」

ぽつりと漏れた独り言が、空気に滲んで消えてゆく。
最初から誰も話していなかったかのように、その場はしんと静まり返っていた。

「では、全てが終わった後ならば、私を幸せにしてくれますか」

耳元に直接囁き掛ける声が届いた。
慌ててそちらを見ると、鳳翔は瞼を閉じていた。

「提督が提督でなくなった頃を、私は待てばいいのでしょうか」

口だけを動かして、私に問いかける。
今日だけで二度も、お前に騙されてしまった。

すっかり冷めてしまった厚揚げを頬張る。
覚悟とともにそれを飲み込み、私はその問いに答えることにした。

「その時は……そうだな。二人で何か食事処でも始めるか」

その言葉に秘められた意味をくみ取ったのだろうか。

今の私にとってはそれはわからない。

ただ寝惚けていて返事をしただけなのかもしれない。



しかし彼女はあの時、確かに

「お待ちしております」

と言ったのだった。

「小腹がすいたな」

そう呟いたのは真夜中であった。
しんと静まり返ったこの部屋に、相槌を打つ秘書艦などいるはずもない。

騒がしい鎮守府も、夜中となればみな寝静まってしまう。
うるさく騒ぐ者どもは、まとめて遠征へ出してしまった。

「さて、どうしたものか」

こんな時間でも、最近は店を開けているところが増えた。
窓から外を見ると、辺り一面が月の明かりに照らされている。
その中で、赤い提灯がいくつか光を帯びていた。

「行くとするか」

重い腰を上げ、私は厨房へと向かった。
他のどこでもない、彼女の元へと。

こつこつと靴が音を響かせる。
真夜中の廊下は、いつものようにしんみりと静まっている。
眠気に欠伸を誘われていても、いつもの場所への道のりは体が覚えていた。

月以外の明かりが部屋から漏れているのが見える。
私は足を止めず、ぱっと中へ入ってしまう。

何かを煮るような音が聞こえてきたではないか。
いい香りも漂ってくる。
明日の仕込みか、つまみでも作っているのか。

「鳳翔、入るぞ」

「提督。お待ちしておりました」

「今日は何を作ったのだ」

「良い筍を仕入れたので、筑前煮を」

私が言うまでもなく、彼女は皿にそれを盛り始める。
楽しそうに鼻歌なんぞ歌いながら、鳳翔は私の元へとそれを届けに来た。

「どうでしょう」

「まだ口に入れてすらおらんぞ」

「そうでした」

料理の腕は上達したものの、そそっかしいところは変わりない。

「今日は昼に何かあったのか」

昼時、この厨房が騒がしかったのを覚えている。
私がそれを問うと、鳳翔はにこやかに告げる。

「料理教室を開いていました」

料理教室。
聞き覚えのないその言葉に、私は首を傾げる。

「私が料理を教えていたのです」

「ほう」

人に教わっていた彼女が、人を教えるようになるとは。
感慨深いものだなと呟くと、鳳翔は懐かしむようにこう返した。

「あの時は至らない姿を何度も見せてしまい……」

「今は至っているとでも言いたげだな」

「他の皆さんの前では、しっかりとしています」

確かにそうではあるが。
鎮守府内では、凛々しく淑やかな鳳翔の姿は周知のものだった。
鳳翔と聞けば、誰もが「気品」や「母性」などと抜かすのだ。

初めてそれを聞いたとき、ひどく眩暈を覚えたのはいい思い出である。

「お前のどこに気品があるというのだ」

「ふふ」

何が可笑しいのやら、彼女は笑みを浮かべる。
最近は以前のような初々しさも抜けきってしまい、揶揄い甲斐も薄れてきている。
これも「しっかりとした」部類に入るのだろうか。

「筑前煮、旨いな」

そう言うと、私の言葉を待っていた、と言わんばかりに頬を赤らめる鳳翔。
やはりこういった喜び方云々に変化はなさそうである。

「提督に褒めてもらうと、やはり嬉しいです」

「そうか。これからは客に褒めてもらえるよう、精進することだ」

私が告げた言葉に、鳳翔は眉を下げる。
どうやら、かける言葉を間違えたらしい。

「これからも私が褒められるよう、精進することだ」

「はい!」

良い返事だと言いたいが、その理念でいいのか。
問うだけ無駄なことだと知っていた私は、大人しく口を結んだ。

「それで、その料理教室とやらは今後も続けるのか」

「いえ、そのつもりはありません」

思わぬ返答に耳を疑った。
鳳翔の性格ならば続けるだろうと踏んでいたのだ。

「何故だ」

「提督から鳳翔さんを取り上げてしまうのは忍びない、と言われてしまって」

酔ってもいないのに、私は失笑してしまう。
今までに様々な断り文句を聞いてきたが、これほどまでに笑える台詞はあっただろうか。

「いらん、いらん。くれてやる」

鳳翔は目を伏せ、よよよと泣く真似をし始める。
悪かったと言えば、慰めてほしいと言うではないか。

「では今度の休日にどこかへ出かけるとしよう」

「どこへ行きましょうか」

このやり取りももう何度目であったか。
滅多にない私の休日は、すべて鳳翔との予定がどこかに必ず入っている。

しかし、こうやって鳳翔が強請ってくるとは誰も想像できないのだろう。
他からは完璧だと見られている彼女である。
こんな風に甘える仕草をするとは、皆からすれば考える余地もない。

休日に鳳翔と二人でどこかへ行くという行為自体が、傍から見れば「習慣である」と思われているのだ。

「ああ、それと……これもありますよ」

鳳翔の手には、何時だったか、ともに呑んだ日本酒の瓶が握られていた。
相変わらずそれが好きなのだな、と呆れる。
すると、思い出の品であるからだと言うのだ。

「明日も予定が入っている。今日はやめておこう」

「あら、そうでしたね」

どうやら彼女は、「いつでもこの酒は用意している」と示したかったらしい。
用意周到なことだと褒めてやれば、鳳翔はまた微笑んだ。

「もう寝るとするか」

「そうですね」

そう言った彼女は、皿と箸を洗い始める。
慣れた手つきだなと見惚れていると、もう洗い終わってしまったらしい。

「さて、行きましょうか」

いつだったか、あの時と同じように彼女の手を取ると、その手はひやりとしていた。
いつからか、毎晩、厨房から自室へ向かうまでの短い距離が、私と鳳翔の小さな逢引の通路となっていた。

「もう、遠く昔のように感じるな」

「はい。よく考えてみれば、まだ半年も経っていないのですよね」

ただ短く言葉を交わすだけで、その逢引は終わってしまう。
だからこそ、止まらぬように、振り返らぬように、ゆっくりと歩みを進める。

「……では、ここまでですね」

私の部屋へとたどり着き、鳳翔が名残惜しそうに呟いた。
いつものことである。

が、その日は少しだけ違った。

「次の休日には、お弁当を作ります」

「ああ、頼む」

「だから……その……」

「どうした」


「……明日の朝食をつまみ食いしてしまったのを、皆さんに内緒にしておいてください」


いつになく真剣な顔つきの鳳翔は、何とも気の抜けたことを言った。
このやり取りは、果たして何度目であろうか。

「ああ。凛々しく真面目な鳳翔の、他ならぬ頼みであれば無碍にはできん」

物語の終わりに相応しくないこのような締こそが、気の抜けた鳳翔と私には相応しいのかもしれない。



          了


新鮮だった

素晴らしい

乙です

乙でした

乙、かわいい鳳翔さんだった

最高だった…
乙!

うむ、最高だった……

乾杯、じゃなくて乙

素晴らしい
過去作とか無いんですかね?

かわいい


最高に可愛い鳳翔さんと提督だった
粋だねぇ

乙!


鳳翔さんのまま初々しさを見せる作者のわざまえな

ブラボー
おお、ブラボー

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