【ディケイド】門矢士「堕天使と飴の島」【デレマス】 (105)

※注意

・仮面ライダーディケイドとデレマス(アニメ)のクロスSSです。ディケイド寄り
・地の文有り

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【ディケイド】門矢士「いよいよデビューか」【デレマス】 - SSまとめ速報
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書き溜めしてたら前回から1か月以上過ぎてました

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第8話 LEGNE・To commune with you.


夏も近づき、気温の上昇は止まらない。外にいてその暑さを忘れられるのは、通勤中にマシンディケイダーで風を切って進むときくらいだ。

そんなある日に、士とプロデューサーは揃って呼び出しを受けた。

士「俺とお前が揃って呼び出し、てことは、まあそういうことだな」

P「ええ」

向かった先で、2人は「社外秘」と書かれた書類の束を手渡された。

ミーティングのためにプロジェクトルームに戻って来た2人を待っていたのは、耐暑グッズを手にした少女たちだった。

未央「あっおはよっ、プロデューサー、つかさん!あのさ、ちょっと提案があるんだけど」

士「何だ、言ってみろ」

未央「あのね、私物の持ち込みをしたいんだけど…」

P「私物の持ち込み、ですか」

未央「うん!事務所の中、明るくなるかなって!」

P「確かに、そうかもしれませんが」

未央「プロデューサー?」

P「はい」

未央「また丁寧口調♪」

P「あ…。すみませ…、…すまん」

士「……っくく」

あれ以降も口調を改める練習はしているようだが、どうもこの言葉遣いはもう直らないと士は見ていた。

だが、なんとか言葉遣いを改めようとする様が面白いので、そのことを言ってはいない。

未央「ね、つかさんはどう思う?」

士「それくらいは自由にしろ」

未央「イェイ!やった!」

みく「みくは、仕事に関係ない物は、必要ないと思うにゃ」

士「お前のその猫耳はそうじゃないのか?」

みく「こっ、こここれは仕事だし!」

かな子「仕事なんだね…」

未央「うーん…。みんなの個性が見えて面白いかなって、思ったんだけど…」

P「みなさ…、みんなは、どう思う…?」

美波「私は、少しくらいなら、あってもいいかなって思います」

きらり「きらりもさんせー☆みんながどんなもの持ってくるか、知りたいにぃ!」

みりあ「楽しそうだよねー!」

莉嘉「アタシもさんせーい!もっとシールとか、いっぱい貼ったりしたーい!」

士「持ってくる分には構わないが、会社のものにそれはやめろ。自分のものにやれ」

みく「みくは、仕事とプライベートはしっかり分けたい派にゃ」

李衣菜「ま、今の事務所の感じ、クールで嫌いじゃないけど」

みく「珍しく気が合うにゃ」

莉嘉「えー?楽しく仕事できた方がよくなーい?」

みく「仕事にも緊張感は必要だと思うにゃ」

莉嘉「えーっ、なんでなんで?マジメすぎだよーっ」

みく「つまり、メリハリって言うのが大事なのにゃ。わかる?」

このままでは埒が明かないと判断し、士はプロデューサーの腕を小突いた。

P「…ではこうしま…、しよう。私物の持ち込みは、一人一品に限り許可するということで」

「「「一品?」」」

杏「一品だったら何でもいいの?」

士「双葉、お前いつ起きた…?」

あの杏がちゃんと自ら立ち上がり、しかも挙手までしてから発言している。かなりレアな光景だ。やる気の出しどころが違うような気がするが。

士「…で、どうなんだ?」

P「まぁ、ある程度わきまえて。それでどうでしょ…、どうだろう」

少女たちの視線が、反対派のみくと李衣菜に集まる。

みく「まあ…」

李衣菜「まずはそれで様子見…、とか?」

「「「やったー!」」」

未央「プロデューサー!つかさん!ありがとう!」

P「あ、はい。うん」

というわけで、ここにプロジェクトルームへの私物持ち込みが許可された。

何を持ってくるかで盛り上がる少女たち。そこへ、今西とちひろがやって来た。

今西「おやおや。何やら盛り上がっているねぇ」

「「「おはようございます!」」」

士「……さて」

彼らがここに来たということは、先ほどのものについて説明しろと言うことだろう。

ちひろ「プロデューサーさん、門矢さん。そろそろ」

P「はい」


「「「CDデビュー!」」」

李衣菜「第2弾…!」

みく「こ、今度は誰と誰がデビューするにゃ!?」

莉嘉「はいはーい!アタシアタシ!」

みりあ「あっ、私もー!」

きらり「きらりもやりたいです!」

杏「あー、みんなやりたそうだし、今回杏は譲るよ…」

士「その時が来たらお前もデビューだぞ、双葉。他人に譲れると思うな」

杏「うわー、困ったなー…」

李衣菜「はぁ…。いよいよ来ちゃうか…」

士「色々盛り上がるのは勝手だが、残念ながら今回はお前達じゃない」

「「「えーっ?」」」

P「今回は、神崎蘭子さん。あなたのソロCDデビューになります」

きらり「にょわー!蘭子ちゃん!おめおめ☆」

未央「やったね、らんらん!」

P「では…」

みく「Pチャン、士チャン!」

士「あ?」

みく「今回、他には?」

莉嘉「また同時二組デビュー…とか?」

P「次回は、その方向で考えていますが、今回は…。…待っていてください」

みく「…わかったにゃ!みくたち、待つにゃ。蘭子ちゃん、頑張るにゃ!」

みりあ「頑張れー!」

蘭子「…うむ!我が力、今こそ開放せんっ!」

ミーティングが終わり、早速プロデューサーと蘭子が応接室へと入って行った。士も部屋を出て自室へと向かう。

士「…………」

部屋を出た途端、士の顔つきが険しくなった。自室に戻ると、スリープ状態のPCを起動させ、ネットに接続する。

表示されているのは、最近都内で起きた女性の飛び降り自殺について。

しかし、1件だけではない。この1週間に絞っても、3件も起きていた。
もっと遡れば、同じような女性の飛び降り自殺が、1か月も前から連続していることがわかる。

1か月前。それはちょうど、士がこの世界にやって来たころだ。
そして同時に、他の世界からショッカーが現れ侵攻を開始した日でもある。

そして、この事件には関連性が多い。

まず、飛び降りをしたのが皆女性であること。
次に、それが必ず17時から19時の間にだけ起こっている事。
次に、それは二日置きに起きているということ。
そして、ある一か所を中心に、そこから等距離の地点で、かつ時計回りになっている。

これだけ関連性があると、“自殺”とは違うのでは、という発想が湧く。

つまり、何者かによる、法則性に従った“殺人事件”。士が知る限り、そんなことをするのは、あの種族しかいない。

士「グロンギ…。この世界でゲームを始めるとはな」

このまま行けば、次の犯行は明後日になる。さらに、厄介な事情がもう一つあった。

士「次がここの周辺ってのは、何の冗談だ」

何の因果か、法則に従えば次の犯行は346プロの周辺で起きるのが確実だったのだ。

翌日。士はいつも通りに出勤した。

プロジェクトルームには誰もいない。が、『DARK PREDICTION』と書かれた黒いスケッチブックが、テーブルに置かれていた。

士「…神崎か?」

手に取って、ページをめくっていく。

士「………………」


「なぁーーっ!!」


士「あ?…あぁ、神崎。置いてあったから見せてもらってるぞ」

蘭子「な、なな…!」

士の背後には、顔を真っ赤にした蘭子が立っていた。

蘭子「か、仮面の戦士よ!我がグリモワールを手放せ!さもなくば、大いなる災いが汝の身に降り注ぐであろう…!」

士「俺自体が大いなる災いみたいなもんだ。どうってことない」

蘭子「そ、そういうことではなく…!」

それ以降、士がページをめくる手は止まらず、一言も声を発しない。しかし彼は途中でその手を止め、口を開いた。

士「…お前は、こういうのが好きなのか?」

蘭子「…ほぇ?」

士が1ページを開いて蘭子に見せる。そこに描かれた絵を見て、顔を真っ赤にしながらも蘭子は頷いた。

蘭子「う、うむ…」

士「なるほど、だいたいわかった。これは返す」

その反応だけ受け取って、士はすぐにスケッチブックを蘭子に差し出した。若干ひったくるように、蘭子がスケッチブックを取り戻す。

蘭子「か、仮面の戦士よ…」

士「何だ」

蘭子「…汝は、真の〈瞳〉を持つ者なのか…?」

士「お前が何を言ってるのか、全部理解できない時点で、きっと違う」

慣れてきたのか、多少は何を言っているのか理解できるようになってきた。

例えば先の『仮面の戦士』というのが自分のことを指しているのが分かった。
まあプロジェクト内で、士以外にそんな呼び方が一致する人間は他にいないのだが。

他には、よく聞く『闇に飲まれよ』『煩わしい太陽ね』辺りが、単なる挨拶だということが分かったり、といった具合だ。

だがやはり、時折まったく分からない言葉が飛び出てくることもある。

そういう言葉の全てを解せる人物のことを『瞳を持つ者』と呼ぶのだろうが、生憎士には理解できるまで付き合う気はさっぱりなかった。

理由は至極単純、面倒くさかったからだ。

ターキー肉が出てくるなら読む

さらに翌日。ゲームのルールに則って犯行が行われる日だが、士はいつも通りに出勤した。

昼頃、オフィスビルのエントランスで、プロデューサーと蘭子が一緒にいるところに出くわした。

P「あの、神崎さん。企画の話を…」

蘭子「ぷ、プロ、プロ…」

P「何でしょう…?」

蘭子「…っ!プロヴァンスの風!なーっはっはっはっは…!」

高笑いをしながら、プロデューサーから離れていく蘭子。

蘭子の心情を何となく察した士は、面白そうだからと、とりあえず後をつけることにした。


P「プロヴァンスの、風…?」

次は中庭のカフェ。

P「あの、神崎さん」

蘭子「のぎゃるっ!?」

P「先ほどの、プロヴァンスの風と言うのは…」

蘭子「その…、プロ、プロ……、…プロレタリア文学!なーっはっはっはっは…!」



レッスンスタジオの近く。

P「神崎さんっ」

蘭子「プロ、プロ…、序章(プロローグ)!」

士「序章で終わりそうだな」



本館ロビー。

蘭子「プロフェッサー!」

(ハハッ、全部私のせいだ)

士「誰だ今の」

李衣菜「えっ、どうかしたんですか士さん」



渡り廊下。

蘭子「プロトタイプ!」

(名乗る必要はない。これから倒される者どもに)

士「やけにいい声だな。ていうか誰だ今の」

かな子「急にどうしたんですか、士さん?」

中庭。

P「神崎さん、あの…」

蘭子「プロ…、プロ……、……プリン」

ついに蘭子の語彙が尽きたらしい。がっくりと肩を落として、とぼとぼとプロデューサーの前から歩き去ってしまった。

士「…もう終わりか」

未央「…どうしたのつかさん?」

凛「何で後をつけてたんですか……」


蘭子「うぅ…、我にこれほどの重圧を与えるとは…!」

未央「らーんらん♪」

蘭子「ひぅっ!」

未央「それ、プロデューサーに見せたいんじゃない?」

プロジェクトルームで、一人スケッチブックを胸に抱き悶々としていた蘭子の前に、未央が座る。その隣には卯月と凛、そして。

蘭子「か、仮面の戦士…!」

士「よう。俺は気にせず続けろ、本田」

未央「うん。で、どうなのらんらん?」

蘭子「そ、それはその…。フッフッフ、グリモワールを開くにはまだ早いようね…」

精一杯強がっているようだが、震えが全然収まっていない。余程触れられたくない話題なのだろうが、それでは埒が明かない。

卯月「それ、何が書いてあるんですか?」

蘭子「ひぃっ!禁忌に触れるなぁ!」

卯月「あぁ……」

未央「見ちゃダメなのか……」

士「内容を知りたいのか?」

凛「え、知ってるの?」

士「ああ、読んだからな」

蘭子「な、ならん!仮面の戦士と言えど、それは断じて許さん!断じて!」

士「まぁ、掻い摘んで説明すればだな」

蘭子「な、なぁっ」

蘭子の言葉を無視して、士が口を開いた。

士「こいつの、神崎の世界があった…。そんなところか」

未央「らんらんの…」

凛「世界…?」

ニュージェネの3人が当惑する。

一方、今の士の言葉に、蘭子は妙な感動を覚えたようだった。

蘭子「か、仮面の戦士よ…」

士「俺はその程度だ。後は全部アイツに任せる」

しかし、士は面倒そうに言って、プロジェクトルームから出て行った。


夕方。噴水広場にプロデューサー、そしてスケッチブックを携えた蘭子が現れた。

二人は噴水の縁に、距離を置いて腰かけた。

P「…きれいな、空ですね」

蘭子「灼熱の業火が、我が身を焦がす…」

P「日差しが少し、強すぎま…」

彼の言葉の途中で、蘭子は立ち上がって距離を詰めた。そして、自ら指していた日傘を差し出す。

プロデューサーもその意図を汲み、手帳を置いて日傘を受け取った。

P「ありがとうございます。素敵な傘ですね。こういった物にも、神崎さんのこだわりが感じられます」

蘭子は、かな子から手渡されたマーブルチョコをいくつか掌に出し、プロデューサーに差し出す。

蘭子「この極彩色の魔法石を、受け取るがいい」

P「ありがとうございます」

プロデューサーも、その中から青いチョコを取って、口に運んだ。

言葉の足りない大男と、上手く言葉を口にできない少女が、少しずつ、不器用ながら心を通わせようと努力する。

しかし、未だに互いの真意に触れるような、そんな会話はあまり出来ていなかった。
微妙な心の距離感を保ったまま、他愛のない質問が続く。

P「休日は、どのように過ごされているのですか?」

蘭子「神の目を欺き、グリモワールに禁忌の術式を刻んでいるわ」

P「よく聞く音楽などは?」

蘭子「闇の鎮魂歌、天界の福音、妖精の戯曲…。等しく祭壇に捧げるわ」

何故、そんなことも知らないのか。
いや、ことプロデューサーに関しては、歩み寄るのにわざわざそんなことを知らなければならないほどに、神崎蘭子と言う少女のことを知らないのだ。

それは、言葉を理解することばかりに気をとられ、神崎蘭子と言う一人の少女を、理解出来ていなかったということ。

だからこそ、これで良い。
例え他愛の無い質問だとしても、そうやって少しずつ相手を知っていく。
答えの意味を考えるのではなく、答えを通して相手の心を少しずつ知ろうとする。

それこそが、今のプロデューサーに必要なことだった。

そして意図せずに、相手の特別な反応を引き出す質問が飛び出すこともある。

P「ハンバーグが、お好きなんですか」

蘭子「うぇえっ!?」

P「そう聞いたので」

蘭子「な、何を…!我が禁忌に触れようというのか…っ!」

好きな食べ物を知られているということが、何となく気恥ずかしくて、蘭子はついプロデューサーと距離を置いてしまう。

しかし、プロデューサーはもう一歩、蘭子に近付いていく。

P「同じですね」

蘭子「え…?」

P「私も、好きです。ハンバーグ」

子供っぽいと笑うでもなく、蘭子の反応を見て続けるのを諦めるでもなく、プロデューサーもまた、蘭子に対して自分のことをさらけ出した。

蘭子「禁断の果実…。真紅の秘薬が、魔力を高めるわ…!」

少しずつ、でも確かに、二人の心の距離は縮まろうとしていた。

だがそこに、思いもよらぬ闖入者が現れる。

未央「どう…?」

みりあ「今、お話ししてる」

莉嘉「なんだか、いー感じだよ?」

「ほお。だいぶ頑張ってるみたいだな」

かな子「あっ、士さん。二人の様子を見に?」

士「…と、もう一つってところだな」

智絵里「えっ?」

そう言って、士は時計を見ると、噴水広場へ向かって歩き出した。

未央「えちょっ、つかさん待って!ここは流石に空気読もうよ!」

莉嘉「そーだよ!せっかく二人ともいい感じなのにー!」

士「違う。俺だって、あんなところに理由も無く行くか」

「「「え…?」」」

士「…お前たちには言っておく。ここから出るな」

それは、忠告。それを残し、士は噴水広場へと出て行った。

一方、そんなことは少しも知らない蘭子とプロデューサー。蘭子は携えたスケッチブック、いやグリモワールを見つめて逡巡していた。

P「神崎さん…」

それを見止め、声をかけようとしたプロデューサーの言葉は、突然蘭子が立ち上がったことで中断した。

蘭子「ぷ、プロ…。プロ…、プロ…、プロ……!」

勇気を出して、彼に歩み寄ろうとする蘭子。



がしかし、蘭子の言葉もまた、中断してしまうこととなる。




「伏せろ神崎!」



「え―――」


「―――――」


仮面の戦士こと、門矢士の声が、噴水広場に響き渡った。


『FORM RIDE KIVA:BASSHAA!』

士「フッ!」

専用武器、魔海銃バッシャーマグナムを空に向けて、引き金を引く。

正確無比な一撃が、風を撃ち抜いた。



「ゴアァッ!?」



空から落下してきたのは、異形の怪物。


P「なっ…」

蘭子「な、何なのだこれは…」

士の声を聞き、咄嗟に蘭子をしゃがませ、庇うような姿勢を取っていたプロデューサー。

その二人を守るように士が立ち、怪物にバッシャーマグナムの銃口を合わせた。

そして同時に、地面に叩きつけられた怪物も、立ち上がる。

「クァァァァッ……!!」

士「やっぱりグロンギか。お前がここに来ることは、あらかじめ分かってた」

P「な……。ど、どういうことでしょうか、門矢さん…?」

銃口と視線は相手から離さないで、士が口を開く。

士「1か月前から都内で起こってた女性の飛び降り事件、それは全部コイツの仕業だ」

蘭子「なぁ……っ」

士「こいつらは厄介な種族でな。人間を殺すことを、ただのゲームとしか思っていない」

P「……っ」

士「そのゲームのルールに則って、コイツは都内で犯行を繰り返した。そのゲームのルールが、いくつかあってな」

一つ、狙うのは、皆女性であること。
一つ、犯行は必ず、17時から19時の間にだけ行うこと。
一つ、犯行は二日置きに行うこと。
そしてもう一つ。

士「ある一か所を中心に、そこから等距離の地点で、かつ時計回りに犯行を行うこと。それが今日で、そしてそのゲームの舞台が…、ここだ」

つまり、目の前の怪物が今ここにいるのは。

P「神崎さんを、狙って……?」

士「そういうことだな」

蘭子「ひっ…!」

怯える蘭子が、プロデューサーの背中に隠れる。

無理もないだろう。要は『自分は殺される寸前だった』と言われたに等しいのだから。

P「神崎さん…」

蘭子「うぅ…」

スーツにしがみつく手が、ぶるぶると震えている。

だが、プロデューサーは拳を握りしめて、蘭子に告げた。

P「大丈夫です、神崎さん。私たちには、門矢さんがいます」

士「ハッ、まあそうだな。ヤツと戦うのが、俺の仕事だ」

蘭子「う、うむっ…。行け、仮面の戦士よ…!」

蘭子の手の震えが、少し治まった。


士「…で、お前は何か言うことないのか、グロンギ。名前くらい言ったらどうだ?」

目の前の敵をじっと観察する。

何より特徴的なのは、その背中に生えた巨大な翼だろう。
それだけで、有翼系…名前の尻に“グ”が付く種類の怪人だということが分かる。

これで飛行し、空中から急接近してターゲットを捕まえ、落下させた。
そんな単純な殺害方法が人間にとって有効なのは、バッタの怪人が証明している。


士の目の前で、その鳥怪人は一度威嚇するように身をよじってから、声を発した。



「ゴセンバパ・“ゴ・イバジ・グ”・ザ!ゴボセ・ジョブロジャラゾ・ディケイド!」

「「……え?」」

士「なるほど、ゴ・イバジ・グ。それがお前の名前か。大分粗末なゲゲルだが、恥ずかしくないのか?」

イバジ「フン。ボンゲバギゼン・ゲゲルバサダ・ゴンデギゾゼ・バラバン」

士「…お前、リントの言葉で喋れないのか」

イバジ「バダスバヂ・ロバギボドダン・リントバゾ!」

士「はぁ…。ギバダバギ・ヅビガデデジャス」

イバジ「ラズザ・ビガラバサザ・ディケイド!」

士「ボギジョ・ジベシヅヅギデ・ジャソグ」

イバジ「ゾザベ!」

イバジが翼を広げ、そこから鋭く硬化した羽根を射出する。

士「チッ」

しかしその攻撃は卑劣にも士の後ろの二人を狙っていた。それに気付き、士は素早い銃捌きと正確な銃撃で、羽根を全て撃ち落す。

士「死にたくなければ離れろ!」

その間に、イバジは素早く空へと飛び上がる。そこから、士目掛けて急降下した。

士「ぐっ!」

P「門矢さんっ!」

士「いいから早く行け!」

高速での体当たりも、自分が避ければ後ろのプロデューサーと蘭子に危険が及ぶ、と士が分かっていることを理解しての攻撃だ。

しかし、イバジの攻撃は止まらない。更に翼の骨組みを鋭く硬化させ、急降下することで士を切り裂く。士は、二人を庇うように攻撃を受け続けた。

士「このっ…!」

蘭子「か、仮面の戦士よ…!我らのせいで、汝が…!」

イバジ「フッフッフ。ゾグギダ・ブヂザベバ?」

士「チョグギビ・ボスバジョ!」

『FORM RIDE KIVA:DOGGA!』

イバジ「チッ」

堅牢な鎧に覆われたドッガフォームへと姿を変えた士に、イバジの攻撃は通用しない。だが同時に飛び道具を失い、攻撃の手段も無くなる。

しかし、士は空に向かって叫んだ。

士「ボンゾパ・ボヂヂンダンザ・ガギチョグ!」

イバジ「ハッ、バビガゼギス!」

士たちの上空を、獲物を狙うかのように、高速で旋回するイバジ。

一方、士は左手のドッガハンマー、右の拳をそれぞれ強く握りしめた。

P「すみません、門矢さん…」

士「次の一撃で確実にヤツを止める。そうしたら、今度こそ逃げろ。…いいな、神崎」

蘭子「……っ」

切羽詰まった表情で蘭子は頷いた。


イバジ「グビザサベザ!!」


そして、そんな士目掛けて、イバジが最高速度で攻撃を仕掛けた。


士「…ザバサ・イダダザソ・ゴラヅザデデバ……っ!!」


イバジ「!?」

こちらが攻撃に出ようとすれば、向こうは調子に乗ったまま攻撃を仕掛けてくる。

そう予測した士は、受け流すこともせずに、ただイバジの攻撃を待ち構えた。

そして、その翼を、身を以って受け止めた。

士「ハァッ!」

右の拳でアッパーを放ち、イバジを宙へ打ち上げる。

イバジ「クァァッ!?」

そして、ドッガハンマーの柄を両手で強く握りしめて、思い切り振り上げた。


士「潰れろっ!」


ドッガハンマーに叩き潰され、地面とのプレスの目に遭ったイバジ。

その背中から、硬いものが砕ける音と、水気を帯びたものが弾ける音が、混じり合って鳴り響いた。


蘭子「あ……」

士「はぁ…。行け、神崎」

蘭子「う、うむ!流石は仮面の戦士!見事な戦いであった!彼の者は如何様に…」

士「スプラッタが嫌いなら、こっちは見るな」

蘭子「ひっ!?」

プロデューサーの背から顔をのぞかせ、イバジの様子を見ようとした蘭子だったが、士の言葉を聞いてその気は瞬時に失せた。

実際、士の目の前のイバジは、翼の付け根の骨が間違いなく全て砕け、その破片が中の筋肉を傷つけ皮膚を破り、真っ赤な血がどくどくと流れ出ている。
耐性が無いものが見れば、まず間違いなく次の食事は出来ないだろう光景が広がっていた。

P「…行きましょう、神崎さん。見たくないのであれば、私が誘導します」

士「そうしてやれ」

蘭子「う、うむ…」

蘭子はプロデューサーのスーツの裾を握り、目を瞑ったまま、彼のリードに任せてこの場から離れた。

これでようやく、士とイバジの1vs1の状況が出来上がった。


士「…まったく、しぶとい」

士の目の前で、イバジの背中が回復していく。

グロンギの身体構造は人間とほぼ変わらない。
故に、背骨をへし折ってやれば何も出来なくなるかと考え、ドッガハンマーで背骨を叩き潰そうとしたのだ。

だがどうやら翼が間に入った分、威力はいくらか削がれてしまったようだ。

しかし完全には回復が追い付かず、筋肉を繋ぎ直し、皮膚の傷を塞ぐまでしか出来ないようで、骨を粉砕され役割を失った翼はそのままだ。

イバジ「ビガラ……ッ!!ボソグ……、ボソグッ!!」

立ち上がったイバジは、役に立たなくなった翼を自ら引き千切って捨てた。

イバジ「ビシギザンデジャス!!」

そして、胸元の装飾品を取り外す。それは瞬く間に一振りの剣へと変化した。

士「ベンバ・ギギダソグ」

『FORM RIDE KIVA:GARULU!』

ガルルセイバーの刀身を撫で上げ、士とイバジが対峙する。

士「ハッ!」

イバジ「ギベェッ!」


P「神崎さん、もう目を開けていただいて大丈夫です」

蘭子「う、うむ…」

恐る恐る目を開ける。視界いっぱいに、プロデューサーのスーツの黒が飛び込んできた。

蘭子「あ、ぁ……。ぷ、プロ、プロ……」

P「神崎さん、落ち着いてください。大丈夫です、大丈夫ですから」

蘭子の肩に手を置いて、ゆっくりと語り掛けるプロデューサー。その落ち着き払った低音が、蘭子に落ち着きを取り戻させていく。

蘭子「か、仮面の戦士は…?」

P「……」

プロデューサーの視線を追う。その向こうでは、青い姿に変身した士が、手にした剣を振るって、怪物と切り結んでいた。


士「ジドヅビバゲゾ・バゼゴンゲバギゼ・ゲゲルゾザジレダ?」


イバジ「ゲゲルゾ・ザジレスンビ・ジジュグガギスバ?」


士「ラ・ゴンバドボソザドパ・ババデデダガ」


ガルルセイバーとイバジの剣が交わる。一歩も引かない鍔迫り合いをしながら、士はイバジに言葉をぶつけていく。

士「ギデデスバ?ゴラゲガベサダダ・ジャヅンボドゾ(知ってるか?お前が狙ったヤツの事を)」

士「ギギジャ・ギデデス・バベバギバ(いいや、知ってるわけないか)」

イバジ「ザダダサ・バンザ(だったら何だ)」

士「バザゴロギゾ・ヅダゲスダベゼロ・ジュグビガギス・ジョグバジャズザ(ただ思いを伝えるだけでも、勇気がいるようなやつだ)」

イバジ「キョグリパバギ・ボソグガギデン・ボドバゾ!(殺す相手のことなど興味は無い!)」

士「ギギバ・ゴギズパ・レンゾグバボドダゼ・ザバグ(いいか?そいつは、面倒な言葉で話す)」

士「ボヂヂガ・シバギゼビバギ・ボドダダ(こっちが理解できない言葉だ)」

士「ゴセビパ・ズビガグビロバギ・ザガバ・ガンゴドボパヂガグ(俺には付き合う気もない。だがな、あの男は違う)」

士「ジャヅンボドゾ・バンドバシバギ・ゼビゴグザババ(ヤツの事を何とか理解出来そうだった)」

イバジ「キョグリパバギ・ドギババザソグガ!(興味は無いと言っただろうが!)」

士「ゴラゲガゲ・ボバベセダ・ザバギパ・ゴバデデダンザジョ!(お前さえ来なければ、話は終わってたんだよ!)」

イバジ「ゴアァッ!」

苛立つ士は、イバジを思い切り蹴り飛ばした。

イバジが地面に倒れ伏してもなお、士の言葉は終わらない。

士「…ゴセガ・バゲダボドビ・ガンゴドボパ・ルビガデデス(…俺が投げたことに、あの男は向き合ってる)」

イバジ「ブゾギ!ギヅラゼ・ヅズベスビザ!(くどい!いつまで続ける気だ!)」

士「…なら、これだけは覚えておけ。言葉は通じるが、思いの通じない奴らがここにいる」

士「だがな、あいつらは言葉はとにかく、思いは通じそうなところだ。それを、たかがゲームで邪魔するな」


蘭子の相手は面倒だと早々に見切りをつけた士に、プロデューサーと蘭子の頑張りに口出しする権利は無い。

プロデューサーは、しっかりと蘭子の思いを受け止めよう、言葉ではなく思いそのものを知ろうと努めた。

それに対して蘭子は、しっかりと自分の思いを伝えようとしていた。恥ずかしがり屋の少女が、精一杯の勇気を振り絞っていた。

そこに、士が関わる余地はまったくない。そして、それでよかったのだ。


だがそこに、『悪』が土足でやって来てしまえば、話は別だ。

それを討ち、世界を守り切るのが役割の人間としては、その場に同じく土足で立ち入って行かざるを得ない。

たとえそれが、その場に望まれていない存在・行動であったとしてもだ。

イバジの剣を弾き上げ、空いた胴を横一線に斬り裂く。

続けて、X字になるように胴体を斬り裂いて、最後に腹に一発蹴りを入れた。

成す術なく、イバジが吹っ飛ぶ。

イバジ「ウゥゥゥゥゥ……!!」

士「…さて、そろそろお前の言葉に付き合うのも面倒になって来たな。ここらでお終いだ、害鳥」

イバジ「ゴボセ・ディケイドォ……!!」

士「フッ」

『KUUGA!AGITO!RYUKI!FAIZ!BLADE!HIBIKI!KABUTO!DEN-O!KIVA!』

『FINAL KAMEN RIDE DECADE!』

イバジ「ウゥ…!オオァァァァッ!!」

剣を振り上げ、イチかバチかの突撃に出たイバジ。

士「ハァッ!」

だが士は振り下ろされた渾身の一刀を躱し、再びイバジをアッパーで天高く打ち上げた。

そしていつものように、手を払う。

士「神崎」

蘭子のことを呼びながら、士はバックル部のケータッチを取り外した。

蘭子「!」

士「魔『皇』の力、お前に見せてやる」

蘭子「おおっ!?魔王とな!?」

士の言葉を聞いて、蘭子の表情がぱっと明るくなった。

頑張りに口を出す気はないが、好みのものに口を出すくらいは、別にいいだろう。

『KIVA! KAMEN RIDE EMPEROR!』

士の隣に、キバ・エンペラーフォームが出現した。眩い黄金の鎧は、まさしく『魔族の王』に相応しい威厳を湛えている。

蘭子「おお!あれが、魔を統べし王の姿…!」

『FINAL ATTACK RIDE KI・KI・KI・KIVA!』

士「ハァーーーッ……!」

ライドブッカーがマゼンタに、ザンバットソードが紅に染まる。

士「フィナーレ…ってな!」

士とキバが振るうそれぞれの剣から、マゼンタと紅の衝撃波が放たれた。空中で混じり合い、イバジ目掛けて突き進んでいく。

イバジ「グゥッ、オッォッ……!!」

剣で受け止めたイバジだったが、混じり合う二つの衝撃波の力は絶大。その剣は、いともたやすくへし折れた。

士「花火には…、まだ少し早かったか」

イバジ「グゥォォォァァァァアアアーーーッ!!」


イバジの身体は、東京の空で大爆発を起こした。


士「…さて、仕事は終わりだ」

自分は邪魔者だと思っていたのか。

変身を解除した士は、それ以外に何も言わず、噴水広場を後にした。


蘭子「あのっ、ぷ、プロ、プロ……プロ、デューサー…。これ…」

P「はい」

蘭子が差し出したスケッチブックを受け取り、中を確認していくプロデューサー。

その隣で、日傘を持つ蘭子の瞳は揺れていた。

プロデューサーは、自分の世界を分かってくれるだろうか。

いや、分かろうとしてくれるだろうか、と。そういう不安でいっぱいだった。

プロデューサーは、どう思っているんだろう。ただそれだけが、知りたかった。


P「質問してもいいでしょうか」

蘭子「っ!」

隣に座るプロデューサーが、スケッチブックの1ページを開いて見せる。

P「ここから、この絵のイメージへ至るには、どのような経緯があるのですか?」

やっぱり、プロデューサーには分かってもらえなかった。そんな諦観が広がりかける。

しかし、プロデューサーの言葉はまだ終わっていなかった。


P「とても、大事なことだと、思うのですが…」


蘭子「……良かろう!聞くがいい、我が僕。いや、我が盟友よ!今こそ、魂を共鳴させる時!」


分かり合う、心を通わせるには、大きな壁を超える必要がある。

そして時として、それを超えられる言葉そのものが、壁になってしまうこともある。


蘭子「既に魔力は満ち、闇の眷属たる時は終わりを告げた。かつて無垢なる翼は黒く染まり、封じられし十二の翼は、一度道を誤れば―――」


でも、相手を分かろう、相手に分かってもらおうと思って、歩み寄れるのなら。


蘭子「―――やがて真の魔王への覚醒が!」


ほんの少しの勇気があれば、言葉が通じ合わなくったって、きっと壁は乗り越えて行ける。


士「ROSENBURG ENGEL…、“茨の城の天使”だったか」

P「はい。神崎さんの持つ世界観に合わせ、ユニット名を変更しました」

士「そうか」

翌日。士はプロデューサーの部屋で、変更事項の連絡を受けていた。

士「他にはあるか?」

P「いえ、仕事に関しては。あの、門矢さん…、ありがとうございました」

士「ん?」

P「あの時、門矢さんが見せてくれた黄金の戦士を、門矢さん本人が『魔王』と、そう呼びました。そしてそれが、神崎さんに向けたものであると」

士「ああ」

P「そのおかげで、私は神崎さんの考えを理解出来ました。本当に…」

士「あぁ、あれか。あれは本当に、ただ神崎が好きそうだから選んだに過ぎない。別に礼を言われる筋合いはないぞ」

P「…いえ、ありがとうございました」

士「…真面目なやつだな、お前は。……ところで」

P「はい?」

士「例の丁寧口調を止める練習はどうなった?戻ってるが」

P「…皆さんが、このままが良いと仰られたので」

士「くくく…。そうか、いや予想通りだった」

笑いが収まると、士は「じゃあな」とだけ言って、プロデューサーの部屋を後にした。


この世界にやって来てから、1か月。

士の旅では長い方の滞在期間であり、そして未だその終わりは見えてこない。

それだけの時間で、士は自らが『ここにいるべきではない』と言う考えを強くしていた。

だって、士はこの世界のものではない、いわば“異物”なのだから。どんなものだって、異物が混じっていない方が良いに決まっている。

しかし、まだ空気が読める方の異物の士と違い、もう一つの異物である『悪』は、そんなことを全く気にしない。

結果として、物語には必要のない“書き足し”がされていく。本来ならば、物語にはまったく必要のないもの。

それを、物語が大きく書き換わってしまわないように、同じ異物として消していく。

しかしそれが終わっても、士という異物は残り続ける。

可能な限り物語に沿って、影響を及ぼしすぎないように時を過ごし、異物が混じればそれを消す。

物語が終わるか、『悪』が滅ぶかまで、ずっとその繰り返しだ。

それが、この世界で士に望まれる立ち回り。



士「……面倒だな」


それから、時は進む。

蘭子のソロユニットデビューと並行して第3弾の2ユニット、キャンディアイランドと凸レーションが結成。
キャンディアイランドには早速テレビ出演の仕事が、凸レーションにはファッションブランド「Pika Pika Pop」とのコラボが、それぞれ決定した。

そして無事、蘭子のソロユニットROSENBURG ENGELのCDが発売された。

CD発売から数日、デビュー第1弾のラブライカとニュージェネレーションズが土台を作った影響、
そして蘭子自身の持つ独自の世界観を見事に表現し切ったデビュー曲とPVが反響を呼び、彼女のデビューCDは短期間で目を見張るほどのセールスを記録した。

そして、時間の経過はプロジェクトルームにも変化をもたらしていた。

莉嘉と李衣菜が、未央の持ち込んだブタミントンに興じたり。
杏が持ち込むのも面倒そうなうさぎのクッションで毎日寝ていたり。
きらりが、黒一色でどことなく固い印象を与えるソファーに合うクロスを選んでいたり。
李衣菜のヘッドホンコレクションで、みんなが色々な音楽を聞いていたり。


良くも悪くも、真面目なお仕事の場の印象のあったプロジェクトルームも、今やすっかり。


未央「ん~~!何か私たちのお城って感じする!」


少女たちの“お城”になっていた。

士「クールな俺には似合わない、賑やかな部屋になっちまったがな」

みく「え、士チャンがクール?どの辺がにゃ?」

士「ほう、聞きたいか前川。良いだろう、聞かせてやる」

みくが、余計なことを言った、という顔をする。しかし、士が口を開く前に、プロジェクトルームのドアが開いた。

蘭子「煩わしい太陽ね」

士「…まあいい。また今度にするか」

みくは士に気付かれないよう、そっと安堵の息を吐いた。

卯月「おはようございます、蘭子ちゃん♪」

未央「おっはよーらんらん!」

蘭子「だから、その名は…!」

そうは言うが、その顔はまんざらでもなさそうだった。

未央「聞いたよ?デビューCD好評らしいじゃん!」

莉嘉「今日もこれからステージなんだよね!」

蘭子「フッフッフ…。月は満ちて、太陽は滅ぶ。漆黒の闇夜に解き放たれし翼…」

莉嘉「えぇ~…。何、それ…?」

士が思わず、ここではリントの言葉で話せ、と言いそうになったところで、意外な人物が蘭子の言葉に反応した。



みりあ「うんうん、そっかぁ。今日もお仕事で帰りが遅くなるんだね…」



「「「えっ!?」」」

みく「なっ…、何でわかるにゃあ!?」



みりあ「何でって、みんな分かってなかったの?」



「「「えええええええ~~~っ!?」」」

P「……言ってください……」

士「……まったくだ……」

第9話 Muscle・Unite・Knowledge・Reaction・CLIMAX!


都内某所。そこでは、つい先日デビューCD発売を果たしたキャンディアイランドによる、CDの手渡し会が行われていた。

『頑張ってください』

『応援してます』

かな子「よ、よろしくお願いします…!」

智絵里「お、お願いします…」

まだまだ緊張の見える、かな子と智絵里。

一方、“怠惰の妖精”こと双葉杏の仕事ぶりには、士も少なからず驚かされていた。

杏「キャンディアイランドの応援、よろしくお願いします♪」

士「あいつ……」

能ある鷹はなんとやらか。
プロジェクトルームにいる時は、基本的にいつもだらけているか寝ているかの杏が、何とも見事な営業スマイルを披露している。
しかも、その見た目だけはいかにもな可愛らしさがあるのも、何ともまた小憎らしい。

「こいつは、自分の使い方と、効率のいい使い時を理解している」。士は、杏がそんな人間だと判断していた。

夏も到来したある日のプロジェクトルーム。かな子と智絵里は、何やらクイズの本とにらめっこしていた。

そこに、ちょうど話を聞きつけてやって来た、未央・みく・李衣菜の3人。そして、仕事の休憩時間がちょうど被っていた士も連れ出されていた。

未央「初テレビ、決まったんだって?」

かな子「はい…」

みく「いいなぁ~。何て番組?」

かな子「『頭脳でドン!Brain Castle!!』です」

未央「おぉ~!瑞樹さんと愛梨さんがMCやってるクイズ番組じゃん!」

みく「アイドルがアピールタイムをかけて勝負するやつにゃ!」

李衣菜「何だか対バンみたいでカッコいい…!」


士も、プロデューサーに言われて、一度だけ、オンエアされた同番組を見たことがある。

感想としては、『いたって普通のアイドルバラエティ番組だった』。とにかくそれだけ。

杏はともかくバラエティに不向きそうなかな子と智絵里もいるのに、何故バラエティをチョイスしたのかが疑問だった。

しかし、それは先の感想を抱いた時点で霧消した。

普通のバラエティ番組に出させて、テレビ出演の経験を積ませていこう、ということなのだろう。であれば、身内だらけのこの番組はうってつけと言える。


未央「収録はいつ?」

士「明日だ。ちゃんと客も入ってる」

智絵里「うぅ……」

かな子「テレビに出るの初めてだし、不安で…」

杏「ホント、杏も不安だよ。曲も出して、しばらくは働かなくても良いかと思ったのに」

士「安心しろ双葉。これから仕事はもっと増える」

杏「えー…、士って意外と真面目なんだね…。はぁ、もう杏、限界だよ…」

未央「なんでやねん!」

「「「えっ?」」」

杏の言葉に、未央がツッコんだ。流石に意味が分からずに、士もしばし呆然とする。

士「…何やってんだ、本田」

未央「バラエティの基本は、ボケとツッコミとリアクション!」

みく「うん!」

未央「これを習得すれば、不安なんて一切無用!」

「「わぁ……!」」

未央「よぅし、特訓だぁ!」

どうやら、未央なりに2人の力になろうとしているらしい。

どこからか取り出したハリセンを、手首のスナップを利かせて振るう未央。

スパーン!という小気味いい音が、プロジェクトルームに響き渡った。


「「なんでやねん!なんでやねん!」」

未央「もっとキレよく!」

「「なんでやねん!」」

みく「スナップを利かせるにゃ!」

「「なんでやねん!なんでやねん!」」

みく「まだまだにゃ!」

士「おい前川。言いだしっぺの本田はともかく、何でお前までそんなに熱が入ってるんだ」

みく「血が…、血が笑いを求めて騒ぐんだにゃ…!」

その言葉と、爛々と輝く目とで、士はみくが大阪出身だということを思い出した。
この反応はどうやら生まれからくるものらしい。血が騒ぐとはそういうことか。

デビューした暁には、こいつもバラエティに出演させてやろうか。などと士はプロデュースのプランニングを行っていく。

未央「杏ちゃんも一緒に!」

杏「えー。杏はボケってことで…」

「「なんでやねん!」」

みく「じゃあこれでモノボケするにゃ」

そう言って、みくは莉嘉の私物であるカブトムシのクッションを差し出した。

杏「えー……?」

未央「バラエティは瞬発力!早くやるぅ!」

杏「……カブトムシとツチノコ」

みく「わぁ…!寝返っただけにゃ!」

「「「おお……!」」」

李衣菜「ナイスツッコミ!」

未央「さっすがみくにゃん!」

みく「朝飯前にゃ!」

士は決めた。前川には、絶対にバラエティの仕事をねじ込んでやろう、と。

そんなことを考え、一人輪から外れていた士に、突然未央が球を投げてきた。

未央「あっ、そうだつかさん!つかさんの持ってる仮面ライダーの力に、こういうのにちょうどいいのって、一人くらいいたりしない?」

士「お前、俺と仮面ライダーを何だと……。いや、待て…」

いる。確かにいる。そういうのにうってつけのライダーが。

みく「えっ、いるの?」

士「…………」

未央「ね、つかさん?ほら、みむっちとちえりんのためだと思って、ね!」

「「お、お願いします、士さん!」」

士「………………仕方ない」


『ATTACK RIDE ORE SANJOU!』

士「俺…、参上!」

「「なんでやねん!」」

士「…………」

「「「…………」」」



『ATTACK RIDE BOKUNI TSURARETE MIRU?』

士「僕に、釣られてみる?」

「「なんでやねん!」」

士「…………」

「「「…………」」」



『ATTACK RIDE ORENO TSUYOSANI OMAEGA NAITA!』

士「俺の強さに、お前が泣いた!」

「「なんでやねん!」」

士「…………」

「「「…………」」」



『ATTACK RIDE KOTAEWA KIITE NAI!』

士「答えは聞いてない!」

「「なんでやねん!」」

士「…………」

「「「…………」」」


士「何なんだこれはッ!」

未央「………いい?ぬるいボケも、ツッコミ次第で何とかなるのがバラエティ!」

みく「明日はその気合で、お客さんにアピールするにゃ!」

士「おい待て本田!俺がぬるいボケをかましたみたいに言うな!」

智絵里「うぅ…。お客さんのこと忘れてました…」

李衣菜「まずはそこからだね…」

未央「う~む…。…おっ」

何かを思いついた様子の未央が、プロデューサーの部屋の戸をノックする。

休憩時間はまだあるが、これ以上振り回されるわけにはいかないと判断し、士は自室へ退却していった。

迎えた翌日。収録を行う局に移動した士を、ニュージェネレーションズの3人が待っていた。

卯月「あっ、士さん!こんにちは♪」

士「ああ、収録を見に来たのか」

凛「うん。プロデューサーから、番組の収録を観客席の方から見ておくのも、いい経験になるって言われたから」

未央「うんうん!プロデューサーも分かってるよね!うんうん!」

士「……はしゃぐな。行くぞ」

社会見学ではしゃぐ小学生のような状態の未央は放っておいて、士はさっさと収録スタジオに向けて歩き出した。

卯月「士さん、クイズは得意なんですか?」

士「当然だ。俺の頭脳と知識を駆使すれば、解けない問題は一つもない」

自信満々に言い切った士に、

凛「それ、本当なの…?」

凛が、懐疑的な目を。

卯月「わぁ…!じゃあ、わからない問題があったら教えてください、士さん!」

卯月が、キラキラした目を。そして、

未央「ちょっ、つかさ~ん、しまむ~、し~ぶり~ん…。待ってよ~…」

未央が、涙目を。それぞれが異なる目を向けた。


スタジオ前に到着したところで、士の携帯が震えた。相手はプロデューサーだ。

士「何だ、どうかしたか?」

P『…門矢さん。今日これから収録が行われる、番組についてなのですが…』

士「キャンディアイランドのヤツらが出るんだろ。何か不備でもあったか?」

P『…番組内容が、変更になったそうです』

士「………は?」



スタジオに入る4人。その中央に据え付けられたセット、そこに書かれている番組タイトルが一部、変更されているのが確認できた。

『筋肉でドン!Muscle Castle!!』

未央「タイトル変わってるし…!」

卯月「ええ…?ど、どういうことでしょうか…」

士「……何でも、今回からアクションバラエティ番組に変更するんだと」

凛「あ、アクション…?かな子たち、出来るの…?」

士「…………」


そんな心配をよそに、ついに収録の開始時刻がやってきた。

愛梨「みなさーん、退屈してますかーぁ?」

『『『退屈ーっ!』』』

川島「わかるわ。そんな退屈は、対決で解決!瑞樹と愛梨のキュンキュンパワーで、ハートを刺激しちゃうわよ♪」


士「う…………ん?」


『『『フゥーーーーッ!』』』

客席の一部が妙に盛り上がる。その反応に、逆に先の台詞が恥ずかしくなったのか、川島は一度咳払いで仕切り直し、言葉を続けた。

川島「それでは、今夜も始まります!」

「「筋肉でドン!マッスルキャッスル~~!」」


士「…………」

未央「ちょっ、ほらつかさん拍手拍手!」

士「…………」

未央に促され、無言無表情で拍手をする士。始まったばかりだというのに、もう士は収録への興味を失い始めていた。

川島「はいはーい♪『頭脳』が『筋肉』になって、装いも新たにスタートしたわけなんですが、愛梨ちゃん、どうしてだか聞いてます?」

愛梨「えっとぉ、アイドルがあまりにクイズが苦手すぎて、番組が成り立たないから…」


士「…おい、言っていいことなのか、それ」

流石にまずかったようだ。隣の川島が途中で遮って、MCを続行する。


川島「…さぁ!早速アピールタイムをかけて対決する、アイドルの登場でーす…!」

陽気なBGMが流れ始めるのと共に、士たちの右手側のカーテンが開き、変なポーズの3人が姿を現した。

愛梨「まずは、最多出場の、代わり映えしない面々です♪いらっしゃ~い」

川島「では、チーム名をどうぞ」

幸子「『カワイイボクと』!」

友紀「『野球』!」

紗枝「『どすえ』チーム、どすえ~」


凛「…あ、頭文字を取って、『KBYD』なんだ」


登場時のポーズやその後のカメラ映り、パフォーマンスなどは、収録内容が変わっても変わっていない。

さすがにバラエティ慣れしているのを感じられる。

川島「はいはーい♪『頭脳』が『筋肉』になって、装いも新たにスタートしたわけなんですが、愛梨ちゃん、どうしてだか聞いてます?」

愛梨「えっとぉ、アイドルがあまりにクイズが苦手すぎて、番組が成り立たないから…」


士「…おい、言っていいことなのか、それ」

流石にまずかったようだ。隣の川島が途中で遮って、MCを続行する。


川島「…さぁ!早速アピールタイムをかけて対決する、アイドルの登場でーす…!」

陽気なBGMが流れ始めるのと共に、士たちの右手側のカーテンが開き、変なポーズの3人が姿を現した。

愛梨「まずは、最多出場の、代わり映えしない面々です♪いらっしゃ~い」

川島「では、チーム名をどうぞ」

幸子「『カワイイボクと』!」

友紀「『野球』!」

紗枝「『どすえ』チーム、どすえ~」


凛「…あ、頭文字を取って、『KBYD』なんだ」


登場時のポーズやその後のカメラ映り、パフォーマンスなどは、収録内容が変わっても変わっていない。

さすがにバラエティ慣れしているのを感じられる。

そしていよいよ、キャンディアイランドのデビュー曲である『Happy×2 Days』と共に、左手側のカーテンが開いて、彼女たちが登場した。


卯月「あっ、かな子ちゃんたちの番ですよ!」


川島「続いては!」

愛梨「シンデレラプロジェクトが送り込んだ刺客!今日が初テレビと言う、リフレッシュ3人さんです!」

杏とかな子は、途中のカメラをしっかり意識して目線を送っていた。合格点と言える。

しかし、緊張の様子がはっきりと見える智絵里は、気付かずに走り抜けてしまった。

愛梨「いらっしゃ~い♪」

川島「では、チーム名をどうぞ」

かな子「はいっ。せーの」

杏「キャンディアイランドです♪」

かな子「きゃ、キャンディアイランドですっ」

智絵里「………ですっ」


士「…………」

静かに、頭を抱えた。

未央「ちょ、つかさん早いって!まだ始まったばっかだよ!?」

愛梨「うふふ♪初々しいですね~」

川島「初々しさでは完全に負けている、カワイイボクと野球どすえチームさん。今日は勝てそうですか~?」

幸子「大丈夫ですよ!何て言ったって、このカワイイボクがついていますから!」

愛梨「待ってください!そういう意気込みは、マイクパフォーマンスでどうぞ!」

そこで愛梨から幸子へ、そしてキャンディアイランド側には智絵里にマイクが渡った。

幸子「あなたたち、キャンディアイランド…でしたっけ?お菓子みたいに甘い覚悟だと、この番組とカワイイボクには勝てませんよ!」

智絵里「すっ、すみませんでした!」

愛梨「おぉっと、まさかの『すみません!』」

川島「10ポイントー!」


士「お?」

どうやら今のは良い反応だったようだ。

が、たかが10ポイント。今後の展開如何では、すぐに意味もなくなるだろう。


愛梨「トークバトルは、キャンディチームの勝利でしたー!」

観客が拍手し、OKが飛ぶ。収録は順調そうだ。

未央「はぁ…。子供を見守る親の気分だよ…」

士「…1か月前の俺は、まさしくそんな気分だったぞ。なぁ本田?」

未央「うっ…。つ、つかさん、今そこを突くのはやめよ?ね?」

凛「ウケてたけど、智絵里、テンパってただけだよね?」

卯月「でもポイントは入ったし、幸先はいいんじゃ?」

未央「甘いっ!いいかいしまむーしぶりん、今のはMCが番組を面白くするためにやったファインプレー。ここからが本番だよ…」

川島「最初の対決は~?」

「「風船早割り対決~!」」

川島「ルールは簡単!相手の頭上の風船を早く割った方が勝ち!」

愛梨「真の筋肉アイドル目指して、よ~い…!」

ホイッスルが鳴り、ゲームが始まった。


6人のアイドルが一生懸命に手押しポンプで風船に空気を送る様は、生で見るとかなり微妙だ。自分は何をしにここに来たのだろうとすら思えてくる。

士が気だるげに見つめるセットでは、両チームの風船が徐々に大きくなっている。
若干相手の方が早いが、それはきっと一心不乱に空気を送り続ける姫川友紀の活躍によるところが大きいだろう。

士「負けるな……」

対するキャンディアイランドは、プロジェクト内でも激しい動きを得意としないかな子と智絵里。
それに加えて、小柄でそもそも今回役に立たなさそうな杏の3人だ。勝てるとは思えない。

そして士の予想通り、キャンディアイランドの後ろにある風船が破裂した。

川島「続いての対決は?」

「「マシュマロキャッチ対決~!」」

愛梨「このマシュマロガンを使って発射されたマシュマロを、口でキャッチしてもらいます♪」

川島「それじゃあまずは、キャッチする人を決めましょうか。マシュマロキャッチ、したい人ー?」

かな子「はいっ」

友紀「はーいっ」

川島「おお、張り切ってますね~」

友紀「キャッチなら任せて!」

自信満々に挙手し、キャッチへの自信をアピールする友紀。一方、

かな子「マシュマロ食べたいですっ!」

流石の反応を見せるかな子だった。お菓子にかける情熱はまったくブレていない。

川島「ふふっ、正直ね」

愛梨「次に、マシュマロガンを打ちたい人~?」

幸子「はいっ!」

勢いよく手を挙げた幸子。対照的に、こちらで手を挙げたのは智絵里だった。というか、よく見ると杏に手を挙げさせられている。

智絵里「えっ…?」

杏「ここは任せたよ~」

智絵里「ええっ!?」

愛梨「はい、決定!」

士「上手く逃げたか…」

凛「杏、そういうところは妙に鋭いよね。鼻が利く…って言うのかな」

鼻が利くと言えばモモタロスか。彼も、イマジンを臭いで判別出来る、という犬が苦手なくせに犬じみた能力を持っていた。

士「…だから何だ」

卯月「どうしたんですか、士さん」



川島「それじゃあ、紗枝ちゃんと杏ちゃんには次の対決に出てもらうから、準備してね♪」

杏「えっ」

だがしかし、今は番組の収録中。逃げたとしても、別の役割が回ってくるだけだということに、杏にしては珍しく気が付いていなかったようだ。

杏「う~…、ダメだったか…。ま、いっか。映ってない時間は休んでられるし」

智絵里「あ、杏ちゃぁん…」

杏「智絵里ちゃん、かな子ちゃん、ファイトー」

かな子「あっちょっ、杏ちゃん!」

ひらひらと手を振りながら、杏はさっさと舞台裏に引っ込んでしまった。

かな子「…よし!頑張ろうね、智絵里ちゃん!」

智絵里「う、うんっ」

智絵里にもう少し余裕があれば、かな子の顔に書かれた「マシュマロ食べたい」という字に気付けていただろう。それくらい、かな子のやる気は漲っていた。

川島「準備はいいかしら?それでは、どすえチームから!」

「「マシュマロ発射!」」

両チーム10回のマシュマロキャッチチャレンジ。
初っ端から幸子が友紀の顔面にマシュマロを直撃させたように、序盤は両チームともにキャッチャーの口の中にマシュマロを撃ち込もうとして失敗を重ねた。

だが丁度折り返しの5回目までには、両チームともに高くマシュマロを撃ち出し、
滞空時間を稼いでキャッチしやすくする方法を思いつき、友紀が先に一つマシュマロキャッチに成功する。

しかしそれ以降は続かず、どすえチームのキャッチ成功回数は1で終わりを迎えた。

一方、こちら側は一度の成功もないまま、ついに最終チャレンジまで来てしまった。

川島「さぁ、最後の一個です。キャッチできれば引き分け!かな子ちゃん、頑張って!」

かな子「はい…!智絵里ちゃん、いいよ!」

智絵里「はい…………、っ!」

天井に向けたマシュマロガンから、最後のマシュマロが発射された。

放物線を描いて飛ぶマシュマロをキャッチしようと、上を見たまま後ろに下がるかな子。

だが、身体が後ろに傾きバランスを保てなくなった彼女は倒れ込んでしまった。

勝負あったかと思われた瞬間、奇跡は起きた。

かな子「……ほぇ?」

何と、倒れたかな子の口の中にマシュマロが落下してきたのだ。

かな子「やりました~!」

智絵里「よかったぁ…!」

川島「おおっと!凄いミラクルね♪かな子ちゃん、今の感想は?」

彼女に感想を聞かれたかな子は、しばし逡巡…というか、口の中のマシュマロを食べ終わってから、カメラに向かって「美味しいです!」と言い放った。


士「今の答え、少し違わないか」

卯月「かな子ちゃん、やりました!」

未央「まるでお菓子の神様が味方したような奇跡だったね…。良い風吹いてるよ!」

川島「オシャレ…。それは、女の子がいつでも磨き上げ、鍛えなければならない筋肉……。ということで、次の対決は私服ファッションショー!」

スポットライトが、杏の姿を照らし出した。


未央「なぁぁっ…!」

凛「あぁ……」

卯月「うわぁっ……!」

士「……………」

またしても、士は頭を抱えることになった。

愛梨「まず最初は、北海道からやって来た妖精、双葉杏ちゃん!」

引く客席の4人に対し、杏は実に堂々としていた。というか、服装による自分の見え方を一切気にしていないと見るべきだろうか。

愛梨「シャツにスパッツというラフな格好。そして、小脇にはいつも一緒のうさぎさん」

愛梨「Tシャツの文字は、彼女のポリシーか?今、新しいアイドル時代の幕が開く!…って、新しすぎませんか?」

杏はカメラの前まで堂々とウォーキングして、最後にしっかりとポーズまでとって見せた。


未央「おお~!」

凛「ウケてる…」

士「……………」


愛梨「続いてはこちら」

『『『おおおーー!』』』

愛梨「京都の地に舞い降りた天女、小早川紗枝ちゃん!今日はいつもの和服を脱ぎ捨てて、学生服でイメージチェンジ♪」

紗枝「……今日は学校から直接やったから……!」


その時の全体の反応から、士はまたしても敗北を悟った。

CIチーム20pt vs KBYDチーム120pt。いよいよ6倍ものポイント差が付き、迎えるは最終対決。

川島「いよいよラストの対決よ。勝てば大量得点、逆転のチャンス!勝者には、栄光のアピールタイム♪」

愛梨「だけど負けちゃうと、こちらの豪華罰ゲームが待ってま~す♪」

川島「美しい渓谷でのバンジージャンプよ!」

幸子「えぇ…っ!」

かな子「む、無理です…!」


卯月「かな子ちゃんたち、大丈夫でしょうか……」

凛「智絵里も、大丈夫かな…」

未央「うーん、これは厳しそうだね…」

士「バンジー程度がそんなに怖いか?」

未央「いや、確かにつかさん怖いモノナシって感じだけどさ、やっぱり私たち普通の女の子にはこう…、ね?」

バンジーに驚くアイドルたちの表情を収め、撮影は一旦ストップ。セットの準備にかかる時間で、休憩に入る。
これが明けると、いよいよ最後の対決だ。恐怖のバンジージャンプを行うことになるのは、果たしてどちらのチームなのか?

などと思っていると、客席で収録再開を待つ士のポケットの中で携帯が震えた。

画面を確認すると、士は静かに立ち上がった。

凛「あれ、どうしたの士さん?もうすぐ収録再開でしょ?」

士「なんだが、少し延長だ」

卯月「えっ?」

士「緒方が倒れたと、アイツから連絡があった。だから、収録の再開をもう少し遅らせてくれ、だと」

未央「あぁ…、ちえりん倒れちゃったのか…」

緊張している様子は、収録開始当初から見て取れた。その心労が、先ほどのバンジージャンプの発表で噴出してしまった、というところか。

士はスタッフの方達へと歩を進めつつ、プロデューサーへと一文だけのメールを送った。


『そっちはお前に任せた』


スタッフに要件を伝え、客席に戻る士の携帯が、再び震える。


『ありがとうございました。こちらはもう大丈夫です。最後のチャレンジも、笑顔で出来そうです』


士「……なら、期待してやるか」

川島「それでは行っちゃいましょう。最後の対決は~?」

愛梨「筋肉と頭脳の融合!」

「「すべり台クイズ~!」」

ゆるい傾斜の滑り台に、6人が待機している。そしてその手前には、定番の粉プールが待ち構えていた。

愛梨「最後まで、1人でも残っていた方の勝ちです。負けたチームにはポイントが入りません!」

クイズのジャンルはそれぞれ芸能・歴史・科学・スポーツ・アニメ・スペシャルの6種×10pt・20pt・30ptの3段階で、合計18問。

愛梨「クイズはこちらのパネルから選びます。答えは早い者勝ち、ポイントが入ると相手チームの角度を上昇させられます」

逆転のためにはクイズで110ptを獲得し、なおかつ誰か1人でも最後まで残っている必要がある。難しいが、逆転の可能性はまだまだ十分だ。


未央「さてつかさん、さっきの言葉は忘れてないよね?」

士「当たり前だ。俺に解けない問題は無い」

卯月「私、分からない問題があったら士さんに聞きますね♪」

士「フッ、任せろ」


川島「それでは1問目。芸能の10からスタート!」

『先週の放送で天然回答を炸裂させ、番組を終了させたこのチームの名前は?』

幸子「B.Bチーム!」
かな子「B.Bチーム!」

川島「幸子ちゃん正解!」

愛梨「かな子ちゃん、ちょっと遅かった」

キャンディアイランドの方の滑り台が少し持ち上がり、少し角度が急になる。

愛梨「まだ落ちないでね?」

川島「それではどすえチーム、次の問題は?」

幸子「芸能の20!」

『今年の4月から全国ツアーを開催中の、この男性3人グループは?』

紗枝「……ジュピター!」

紗枝の正解によって、また少し角度が急になった。


その後クイズは3問続き、3問ともどすえチームが正解。

いよいよ滑り台の傾きがきつくなり始めたところで、

杏「む、無理……!」

小柄な杏が、支えきれずに滑り落ちそうになった。

かな子「ダメ!」

しかし、すんでのところで智絵里が杏の左腕を掴む。

智絵里「…っ!一緒に頑張ろう!」

杏「う、うん…!」

自身も細腕一つでしがみつきながら、何とか杏の片腕を掴み続ける智絵里。

杏も、滑り台の壁に足を伸ばして思い切り踏ん張り、何とか滑落に耐える姿勢を見せた。ここが勝負どころだ。

幸子「次で決めますよ?歴史の10!」

『徳川将軍、3代目は誰ですか?』

幸子「え?え、えっと……」

自分で選択しながら、解答に窮する幸子。そこで、かな子が声を挙げた。

かな子「家光!」

『『『おおおぉ~~っ!』』』

川島「かな子ちゃん正解!」

智絵里「やったぁ!」

杏「かな子ちゃん偉い!」


未央「おっ、いいぞみむっちー!どんどん行っちゃえー!」

凛「ていうか士さん、ホントにすごい…。ここまで、全問正解って…」

士「フッ、だから言っただろ渋谷。俺に解けない問題は無い」

卯月「芸能関係の問題も難なく…。勉強したんですか?」

士「この仕事をしていれば、芸能関係に関する知識なんてすぐ身につく。それだけのことだ」

未央「いやいや、これまでの問題って知識問題じゃん?流石につかさんでも解けない問題はあるでしょ?」


川島「さぁ、キャンディチームは起死回生のチャンスよ!」

杏「科学の30!」

杏の即決は、かなりの衝撃を与えた。沸き立つ観客席、呆気に取られるどすえチーム。

川島「おおっと、キャンディチーム勝負に出ましたね!」

かな子「あ、杏ちゃん……」

そして、不安げに杏を見つめるかな子と智絵里。

しかし、杏の決意は固かった。

杏「負けないためには、これしかないよ」

そして、問題がスクリーンに表示される。



『原子・イオン・分子間に働く引力または反発力の中で、
・双極子どうし
・双極子と誘起双極子
・誘起双極子どうし
の三つの相互作用を、総称して何と言うでしょうか?』


卯月「え……っ」

凛「な、何この問題……?」

未央「ど、ど、ドユコト……?」

士「……………なるほど、だいたいわかった」


かな子「あ、杏ちゃん……」

智絵里「お願い、杏ちゃん……」



杏「…ファンデルワールス力?」



士「ファンデルワールス力」

川島「せ、正解…!」

スタジオ中にあふれる、驚愕の声。

大多数にとって意味も分からない単語のオンパレードだった問題を、この小柄な少女はどういう訳か正解してしまったのだ。驚愕するしかない。

未央「え、今杏ちゃん正解して、えっでもつかさんも正解、した…よね?」

士「だから言っただろ」

凛「凄い…杏も、士さんも…」

卯月「そ、そうきょくし、有機装飾品…?あ、あれ…?」

目をぐるぐる回転させて困惑する卯月。慣れない単語の連続に頭がショートを起こし、士に答えを聞くことすらも忘れてしまったようだった。

幸子「し、知ってたの…?」

紗枝「すごうすなぁ……」

などと驚嘆していたどすえチーム。しかし、キャンディチームの正解により、気を抜いていた彼女たちの滑り台が上昇してしまった。
当然角度は急になって、支えるのが困難になってしまう。

幸子「あっ!うわっ!」

最初の脱落者かと思われた幸子は、変な格好で何とか壁にしがみつき、粉まみれ一歩手前で何とか持ちこたえた。

川島「それでは次の問題を!」

杏「歴史の30!」

川島「おおっと!今度も30ポイント!」

『首都を変遷し父王の政策を覆すなどの活躍をしたものの、若くして没した古代エジプトのファラオの名前は?』

杏「ツタンカーメン!」

川島「せ、正解です…!」

再び30pt問題に正解し、現在の獲得ポイントは70pt。あと40pt以上取り、誰か一人が最後まで残っていれば逆転できる。

そしてキャンディチームの怒涛の追い上げにより、さらに滑り台の傾きがきつくなるどすえチーム。
幸子に続き、バランスを保てなくなった紗枝が滑落してしまい、きちんと顔から粉プールにダイブ。ついに最初の脱落者が出た。

紗枝「堪忍しとくれやす…」

幸子「早く次の問題ーっ!」

その後ろで、より一層厳しい状況に立たされた幸子の、マジな叫びが響き渡った。

杏「スペシャルの30!」

川島「来ました、怒涛の30ポイント!」

愛梨「容赦ないです~♪」


卯月「頑張って!」

未央「これで決めるつもりだね!」

士「いよいよクライマックス、か」


そして、運命の問題がスクリーンに表示された。

『江戸時代のオランダ貿易で、ガラス製品の緩衝材として持ち込まれた外来種です。花言葉に、“幸運”“約束”などがある花は?』


会場中の意識が、杏に集中する。

その杏は中々口を開かなかったが、緊張感が最高潮に達したところで、いつも通りの表情で口を開いた。



杏「ごめん、わかんない」



『『『ええぇぇ~~~っ!?』』』


士「……は?」

杏がどれだけ難問題に正解するかで盛り上がっていた観客たち。故に、その杏が問題を解けないことは大きな衝撃をもたらした。

未央「杏ちゃんも分からないって…、つかさんは分かる?」

士「ああ、ただの知識問題だからな。渋谷、お前なら多分分かるぞ。だが、双葉は本当に分からないのか…?」

答えが分かっていながら、あえてチームのメンバーに見せ場を作ったか。それとも本当に、答えが分かっていないだけか。

杏の表情は変わっていない。その胸中を推察することは、士でも出来なかった。

川島「え~…、誰も分からなければ、選択権が移ります」

ここを逃すと一気に辛くなる場面、選択権の移動はなんとしても回避したいところだ。

しかし、ブレインの杏は、この問題に関しては答えられない。

万事休すか、と思われたその時。

智絵里「はいっ!」

これまで目立った活躍の無かった智絵里の声が、スタジオに響き渡った。

川島「あら、智絵里ちゃん、分かるの?」

静かに頷き、杏の腕を強く握りしめた智絵里は、意を決して答えを口にした。


智絵里「答えは…、シロツメクサです!」


川島「あ…、正解です!」


『『『おおおぉ~~っ!』』』

かな子「すごいよ智絵里ちゃん!」

杏「やったね!」

智絵里「…うんっ!」


卯月「シロツメクサって…」

凛「うん、四つ葉のクローバー!」

未央「やっぱ幸運の証なんだね!」

士「……ま、どっちでもいいか」

かな子がチャンスを掴み、杏が差を縮め、最後に智絵里が決める。見事な連携プレー。

その結果の前では、杏の思惑を推察するなど無粋な行為だろう。


そしてもちろん、キャンディチームが正解したということは。

愛梨「それじゃあ、どすえチーム上昇~!」

いよいよきつい傾斜に耐えきれなくなり、最後までスタート地点に残っていた友紀が滑り落ち、こちらもきちんと顔面から粉プールにダイブした。

幸子「あっ、あぁっ!お、落ちる落ち…、わぁっ!」

そして最後の一人だった幸子も耐えきれなくなって、粉プールに落下。これでどすえチームは全員が脱落し、ここに勝負が決した。

愛梨「幸子ちゃん、カワイイ落ち方でしたよ♪」

川島「はい、というわけで、キャンディチームの勝ち~!」

智絵里「わぁ…!」

かな子「勝った…?」

杏「…うん」

そう、勝った。見事な連携によって、キャンディアイランドはどすえチームに勝利したのだ。

かな子「わぁ…!杏ちゃん!私たち勝ったんだよ~!」

喜びのあまり、隣にいた杏に抱き付いたかな子。
しかし、今の杏は智絵里に支えられているわけで、そうなると当然智絵里に一気に2人分の重量が加算されてしまう。

結局智絵里も手を放してしまい、勝ったにも関わらず、キャンディアイランドも全員が滑り落ちてしまうこととなった。



『はぁーい!オッケーーッ!』


杏「はぁ…、本気出すのって疲れるよ…」

かな子「…ふふっ」

智絵里「……あっ、未央ちゃんがいる。凛ちゃんと卯月ちゃん、士さんも…」

立ち上がって大きく腕を振る未央に、智絵里が小さく手を振り返す。

杏「今頃気付いたの?」

かな子「ずっといたよ」

智絵里「ごめんなさい、さっきまでカエルさんだったから…」

そんな智絵里に、2人は優しく微笑んだ。

杏「それじゃあしょうがない!」


卯月「杏ちゃんたち、やりましたね!」

未央「うーむ、見事な連携プレイでしたな!

士「俺がプロデュースするアイドルなら、この程度勝って当然だがな」

凛「う、うん……」

こうは言うが、しかし勝てなかったところで特別厳しいことを言うわけでもないのは、3人とも既に理解している。

要は、士もこの勝利に大なり小なり喜び、得意になっているだけだった。


愛梨「結果発表~!」

点数は、キャンディアイランド120pt vs KBYDチーム 120pt。

愛梨「あら~、同点?みんな仲いいですね♪」

川島「じゃあ、アピールタイムは仲良く半分こ。罰ゲーム“も”、仲良く一緒に、ってことで♪」

「「「ええっ!?」」」

幸子「聞いてないですよ!?」

愛梨「言わないようにって、言われてたから」

友紀「そんな~」

川島「はい!というわけで来週は、キャンディさんとどすえチームの、バンジー特番です!」


未央「おおっ!これは逆においしいよ!」

士「…なるほど、中々面白かった」

最初はつまらないと思っていたが、存外面白くなったものだ。

士にそう思わせたのは、団結からくる見事な連携と頑張りで初テレビの仕事をやりきった、真っ白な粉まみれの3人だった。



智絵里「お仕事、またできるんだ…!」

杏「そんなぁ…。そんなつもりじゃなかったのにー!」


かな子「番組をご覧のみなさーん!せーの…」

「「「キャンディアイランドです!」」」

かな子「今流れている曲は、先日発売された私たちのデビューシングル『Happy×2 Days』です♪」

智絵里「えっと、何でハッピーが2回かと言うと、ハッピーは多い方が良いからです。みんなにハッピー、届くと嬉しいな♪」

杏「良い曲なので聞いてください!」

「「聞いてください!」」

杏「そして私たち、引退します!」

「「えっ!?……なんでやねん!」」




『はーいオッケーーッ!お疲れ様でしたー!』


収録が終わり楽屋に向かった士たちを、プロデューサーが出迎える。

P「どうぞ、中へ」

楽屋の中では、かな子の持ち込んだお菓子を3人一緒に食べているところだった。

かな子「あっ、みんな~!」

卯月「お疲れさまでした!かな子ちゃん、智絵里ちゃん、杏ちゃん!」

智絵里「お、お疲れさまでした…!」

未央「いやー、みんな見事な団結!素晴らしい連携でしたな!」

杏「杏はもう頑張りたくないよー…。飴、飴を要求する」

凛「ふふ、杏、すごい活躍だったね」

士「まったくだな、双葉」

杏「げっ、士…」

士「こんな活躍したんだ、これからはもっと仕事が増えるだろうなぁ」

P「はい」

プロデューサーが微笑みながら肯定する。対照的に、杏が面倒そうな表情をしたのを、士は見逃さなかった。

智絵里「お仕事、これからもっと出来るんですよね?」

士「ああ、確実にな」

かな子「智絵里ちゃん、杏ちゃん。これからも一緒に、お仕事頑張ろうね!」

智絵里「うんっ!頑張ろう!」

杏「…ま、これも将来のためかぁ。やる時だけ頑張ろうっと…」

そう言う杏の表情は、今度はまんざら嫌そうでもなかった。


テレビ局の正面玄関から、士を先頭にして8人が歩き出てくる。

士の後ろでは、かな子が今からスイーツバイキングに行こうと、皆に提案しているところだった。

かな子「ここからそう遠くない所にね、新しくできたスイーツバイキングのお店があるんだって!みんな、行ってみない?」

未央「おー!いいですなぁ、スイーツ♪」

凛「でも、それ……」

智絵里「あ……、ぷ、プロデューサーさん……」

P「…………」

収録終わりの彼女たちは普通の少女たちなのだから、スイーツバイキングに行くのは自由だろう。
だがしかし、ついさっきまでそうだったように、彼女たちはまたアイドルでもある。そうである以上、体重の管理と言うのは非常に大きな課題なのだ。

故に、その決定権は彼女たちを管理するプロデューサーと士に委ねられる。

未央「ねーねー、つかさぁん。今日くらい良いでしょ?ほら、みむっちたちの頑張りに免じてさ!」

士「何でお前がそう乗り気なんだ、まったく…。まぁ、そうだな。それくらいなら、俺は認めないでもない」

かな子「あ、あの、プロデューサーさん…?」

P「………………………………」

長考の後、プロデューサーはゆっくりと口を開いた。

P「明日、ダンスのレッスンを増やしておくようトレーナーの方に頼むことになりますが、よろしいでしょうか」

かな子「…はいっ!それくらいなら、全然大丈夫ですっ」

未央「…あれ、ちょっと待ってプロデューサー。それってひょっとして…」

士「行くって言うなら、行った奴ら全員に、だろうな。もちろん本田、お前も」

卯月「ですよねぇ…」

杏「…はー。杏は行くよー」

かな子「あ、杏ちゃん…」

杏「せっかく仕事も終わったんだもん、それくらい楽しみたいじゃん」

智絵里「うん。私も行きます!明日のことは…、明日、考えます」

なんだかんだと話は進み、結局全員がスイーツバイキングに行き、明日のレッスンも仲良く受けることを決定した。


未央「よーし、そうと決まれば早くいこっ♪」

かな子「うん!こっちだよ、着いてきて!」

士を追い越し皆を先導するかな子と、その後をついて行く未央。

智絵里「あっ、待ってかな子ちゃん、未央ちゃん!」

その後を追って、智絵里が速足でついて行く。

かな子「そこのお店ね、ケーキの品ぞろえが豊富で…」

楽しそうに話をするかな子。しかし、話に夢中だったかな子は、反対側から歩いてくる男性に気付かずにぶつかってしまった。

かな子「きゃっ!す、すいません…!」

「あ、いえ、こちらこそ…。…ん?」

その男性は、かな子の顔を見つめると、突然そわそわとした態度を取り始めた。

P「…………」

自然と男を警戒するプロデューサー。
一方、士は男の様子から、彼は無害だということを瞬時に判断していた。そして、警戒するプロデューサーの肩を軽く叩く。

士「そう力むな。あの男は何かしてやろうってクチじゃない」

「あ、あの。キャンディアイランドの、三村かな子ちゃん…ですよね?」

かな子「は、はい!?」

「うわ~、本物だ!あのっ、俺、この前のCD発売イベント、行きました!」

士「…ほらな」

かな子「ひょ、ひょっとして、ファンの方、ですか…?」

「はいっ!あのっ、えっと…。応援してます!」

突然とは言え、ファンとの交流に自然と顔が綻ぶかな子。
彼女とは離れたところにいる智絵里と杏も、そしてプロデューサーも同様に微笑んでいた。

「これからも、頑張っ―――」



しかし、そんな時間は突然断絶してしまう。


ファンの男性の身体から白い砂が零れ落ち、そして。


士「離れろ三村っ!」



彼の身体が、2つに裂けた。


「ハーッハッハッハ!さぁ、この時間の未来を、我らショッカーの都合の良いものに…」

「おい」

「何だ……ふべあっ!?」

男性から出現したイマジン。
士がそれに後ろから呼びかけ、振り返ったところでその鼻っ柱に拳を叩き込んだ。

思わぬ攻撃に不意を突かれたイマジンは、よたよたと下がって尻餅をつく。

「なっ、何をする貴様……、ゲーッ、ディケイドぉ!?貴様何故ここに!?」

士「それはこっちの台詞だ、カエル」

智絵里「あ、カ、カエルさん…」

ただし、だいぶ醜い顔のカエルだったが。

手を払う士の後ろで、プロデューサーに安全な場所まで運ばれた男性に、かな子が呼びかけていた。

かな子「だ、大丈夫ですか!?」

「あ、あの、あれは一体…」

士「簡単に言えば、未来のお前が呼んだ怪物だ。ま、何も出来ずにここで倒れるがな」

士はディケイドライバー、そしてケータッチも同時に取り出した。

イマジン「何をぉぅ!?」

士「言っておくが、もうクライマックスだ。変身!」

『FINAL KAMEN RIDE DECADE!』

イマジン「ぐ、ぐぬう…!ここでやられるわけには……!」

そう言うと、フロッグイマジンは口を大きく開けて舌を伸ばした。狙うは士。

がしかし。

士「フンッ」

フロッグ「アーーッ!?ほ、ほえおひらあーーっ!?」

ライドブッカーの刃が、いとも容易くその舌を斬り落とした。

士「言っただろ、クライマックスって」

『DEN-O! KAMEN RIDE LINER!』

士の隣に、電王・ライナーフォームが出現した。

『FINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE・DEN-O!』

フロッグの前に、七色に輝く線路が出現する。

それに電王、続いて士が飛び乗り、後ろから走ってきたデンライナーのオーラと共に突撃。

デンカメンソードとライドブッカーが、フロッグを切り裂く。


フロッグ「ほっ、ほえのれはん、おえあえーーーーっ!?」


あまりにも悲しい断末魔を残し、フロッグが爆発した。


智絵里「あ、あのっ、これからも応援、よろしくお願いしますっ」

杏「CD、色んな人に、勧めてくださいね♪」

「はっ、はい!頑張ってくださいねっ!ありがとうございました!」

手をブンブン振りながら歩き去って行く男性。

イマジンは、士によって出オチに近いレベルで瞬殺され、誰にも被害は無かった。

士「毎回あれぐらい簡単だと、苦労が無くていいんだが」

登場から倒されるまでがあんまりにも短いものだから、イマジンが少女たちに与えた衝撃は殆どなかった。

かな子「…よしっ、気を取り直してスイーツバイキングに行こう!」

智絵里「あっ、待ってかな子ちゃん!」

杏「あー、杏もあんまり物事を気にしないけど、かな子ちゃんも、意外と図太いんだね」

士「……ビビりすぎるよりはマシか」

今回はここでおしまいです。

途中で出てきたグロンギとの会話部分ですが、何言ってんのか分からないと思うので、おまけで翻訳を載せます。
そちらを見ながら読み返していただければ幸いです。

また機会があったらよろしくお願いします。

おまけ:グロンギ語訳

「ゴセンバパ・“ゴ・イバジ・グ”・ザ!ゴボセ・ジョブロジャラゾ・ギデブセダバ・ディケイド!
(俺の名は“ゴ・イバジ・グ”だ!おのれディケイド、よくも邪魔をしてくれたな!)」


イバジ「フン。ボンゲバギゼン・ゲゲルバサダ・ゴンデギゾゼ・バラバン
(フン。この世界でのゲームなら、この程度で構わん)」


イバジ「バダスバヂ・ロバギボドダン・リントバゾ!(リントの言葉など語る価値もない!)」

士「はぁ…。ギバダバギ・ヅビガデデジャス(仕方ない、付き合ってやる)」

イバジ「ラズザ・ビガラバサザ・ディケイド!(まずはディケイド、貴様からだ!)」

士「ボギジョ・ジベシヅヅギデ・ジャソグ(来いよ。捻り潰してやろう)」

イバジ「ゾザベ!(ほざけ!)」


イバジ「フッフッフ。ゾグギダ・ブヂザベバ?(どうした、口だけか?)」

士「チョグギビ・ボスバジョ!(調子に乗るなよ!)」


士「ボンゾパ・ボヂヂンダンザ・ガギチョグ!(今度はこっちの番だっ、害鳥!)」

イバジ「ハッ、バビガゼギス!(ハッ、何ができる!)」


イバジ「グビザサベザ!!(隙だらけだ!!)」


士「…ザバサ・イダダザソ・ゴラヅザデデバ……っ!!(だから言っただろ、粗末だってな……っ!!)」


イバジ「ビガラ……ッ!!ボソグ……、ボソグッ!!(貴様…ッ!!殺す……殺すッ!!)」


イバジ「ビシギザンデジャス!!(切り刻んでやる!!)」

士「ベンバ・ギギダソグ(剣か。良いだろう)」

イバジ「ギベェッ!(死ねぇっ!)」


士「ジドヅビバゲゾ・バゼゴンゲバギゼ・ゲゲルゾザジレダ?(一つ聞かせろ。なぜこの世界でゲームを始めた?)」

イバジ「ゲゲルゾザジレスンビ・ジジュグガギスバ?(ゲームを始めるのに、理由がいるか?)」

士「ラ・ゴンバドボソザドパ・ババデデダガ(まあ、そんなところだとは分かってたが)」

よく考えられててすごい、期待しています


次も期待してる

最近ライダー系のスレ多いな、おつ

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