俺のラブコメの始まりは歪んでいる(23)

・SSは初めてです。スレ立て自体も初めてです。
・エロはありますが描写は下手です。
・ほとんど自己満足で進めていきます

某掲示板にて

「同じ学校の女子に近づきたい。何かアドバイスくれ」

「特徴は?」

「胸が大きくて髪の色がピンク」

「ビッチかな?」
「画像はよ」

「どうしたら近づけるかアドバイスくれ」

「知らん」
「脅迫するとか?」

「>>脅迫とは?」

「まずは弱みを握れ。それから…」

「視点」比企谷八幡
 
 比企谷は学校の始業開始時刻より30分前に着くことが多い。
その日も時間には余裕があった。早く来ては一人やることがないのでいつももう少し遅く来れば
よかったと思っているがその都度忘れてしまうのだった。
 いつもならこのまま一人で時間をつぶそうとするのだが今日は一人ではなかった。
比企谷の席の横に両腕で少し机に体重を預けながら話し掛けてくる奴がいる。
由比ヶ浜結衣である。普段輪になって話しているグループの中心人物の葉山たちは
部活の大会が近づいてるため朝練の時間が長引いており教室に来るのが遅いようだ。

「それでね」
と一人話し続ける由比ヶ浜に適当に相槌を打つ。
「聞いてるの!」
そう気付く度に頬をふくらませ怒気のない怒りをぶつけてくる。
こんな些細なやり取りも、ほかの男子がどんなに望んでも届かない日常であることを
比企谷は気付かない。
 そんなふうに会話とは言えない会やり取りをしていると一人の男子生徒がやってきた。
由比ヶ浜に封筒を届けに来たらしい。彼は封筒を届けるよう言われてやってきたらしい。
彼と二三のやり取りをした後由比ヶ浜に目を向けると、先ほどまでとは様子が違って
息苦しく動悸していた。おいと声を掛けるとはっとしたように周りを見回した。
どうかしたのか尋ねるとなんでもないよと言ってトイレへと行ってしまった。
 その日の時間割をこなし、帰りのホームルームを終えると各々がそれぞれの活動場所へと動き出す。
比企谷も周りと同じく自分の所属する奉仕部へ向かおうと席を立ったとき、不意に声を掛けられた。
「ごめんヒッキー。今日は部活でられそうにないや。ゆきのんによろしく言っといてくれる?」
「構わんが何か用事か?」
「ちょっとね」
それ以上は話さなかった。
 奉仕部は一人欠けてはいるものの、いつも通りの時間が流れた。
雪ノ下も由比ヶ浜に信頼を置いているのだろう深く心配はしていなかった。
そうして比企谷の一日が終わった。

「視点」由比ヶ浜結衣

 由比ヶ浜のもとに一つの封筒が届いた。
由比ヶ浜は人を惹きつける(とりわけ男子に)人間である。そのためこのように手紙を
貰うことも少なくない。比企谷が男子生徒と話している間に封筒の中身を
確認してしまおうと思い封を切る。おそらく恋文の類だろうと大方の見当をつけ
中身を取り出そうとして気付く。なにやら少し固めの紙が一枚入っている。
なんだろうと思いその一枚を引き抜く。そして息を止めた。
 その一枚は写真だった。そこに写っているのは雪ノ下雪乃であった。
しかし彼女が驚いたのはその写真の中の彼女が裸であったことだ。おそらく場所は更衣室。
いつ撮られたかわからない盗撮されたもの。流れていた時間が止まったようだった。
ぎりぎりと肺が締め付けられるような感覚。うまく呼吸ができない。
周りからの音が消え、聞こえるのは心臓の音だけ。体が冷えていくのがわかる。
 そこに不意に掛けられた声に、ようやく目を覚ます。とにかく誰にも見つからないところへ
行く必要があると考えトイレへと向かうことにした。
 個室の中、写真のほかに入っていた手紙に目を通す。
「この写真について知りたければ放課後にB棟の空き教室へ一人で来い」
印刷で書かれた短い文章。封筒に手紙と写真を戻し、由比ヶ浜は深呼吸をして心を決めた。
 放課後、比企谷に一言断りをいれ、由比ヶ浜は小走りに空き教室へ向かった。
B棟は特別教室以外はほぼ人が来ない。由比ヶ浜が来た教室は机と椅子ばかりが
高く積み上げられていたことから、予備のものを置いておくだけの倉庫のようなところだとわかる。

 教室には誰もいないように見えた。とりあえず教室の中央へ向かうと
「動くな」
背後から低い声。おそらく男であろう。振り向こうとすると
「こっちを見るな」
そう言われては何もできない。男はそれぎり何も言わないので由比ヶ浜から話を振った。
「あの写真はどういうこと?」
怒りを含んで聞く。
「取引をしよう」
男は少し芝居っぽく言った。
「取引?」
「もしこの写真をばら撒かれたくなかったら僕の命令を聞くという取引だ」
話が飛躍していて頭がなかなか追いつかない。写真の話をしに来たつもりが
いつの間にか取引の話になっていること。これが混乱の原因であるが、友人の身に
危険が及ぶんではないかという不安から由比ヶ浜は相手のペースに呑まれかけていた。
「命令でもなんでも聞くからばらさないって約束して」
流されないために咄嗟に出した答えは条件をのむことだった。
「なら早速両手を上にあげろ」
言われるがままにおもむろに両手をあげた。
 突然背後から伸びてくる日本の腕。そのままその手は由比ヶ浜の胸を掴んだ。
「なっ」
小さく悲鳴があがる。数瞬遅れて飲み込めた現実に恥ずかしさがこみ上げる。
「ちょっと」
抗議をしようと口を開くと
「騒ぐな。黙ってろ。」
と脅された。立場は相手が上だということを思い出して黙った。

 はあはあと相手の興奮した吐息が首にかかる。胸をまさぐる手からは
むき出しの欲望を感じて少し恐怖した。
 かれこれ10分経って男は服を脱ぐよう言ってきた。スカートは脱げと言われなかった。
由比ヶ浜は上半身裸でまた男に身を捧げるのだった。
 まだ素性の見えない相手に身体お触らせるというのは、性に対して
敏感な年頃としては堪えるものがあった。じんわりと視界に涙が溜まってきたが
友達の為という大義が由比ヶ浜を支え続け、同時に苦しめた。
 冬の寒さに冷えきった静かな教室に男の獣のような息遣いと、
由比ヶ浜の悲しみをこらえ鼻をすんとならす音。
 終わりの見えない凌辱は唐突に終わった。理由はわからなかったが
五分経ったら家に帰れと言って男は教室を出て行った。
 何もかもが急激に変化していく状況に由比ヶ浜は一人泣き出すのだった。
人の来ない空き教室で一人の少女は大きな大きな絶望感に苛まれていた。

 某掲示板にて
「胸触ることができた」

「詳しく」
「胸だけかよ根性なし」

「>>馬鹿にしているのか」

「根性なしなのは間違いないだろう」
「童貞かな?」

「なら明日だ」

「視点」比企谷八幡
 今日は雨が降った。冬の冷たい雨だ。
 身体は凍ったように冷えた。
 なんだかこう寒いと心まで凍ってしまうんじゃないかと思った。
 でもただそれだけだった。

「視点」由比ヶ浜結衣
 今日も空き教室に向かう。今日は先客がいた。いや、先客という表現は
ふさわしくないだろう。男がいた。部屋の中央に突っ立っているが、その目は
濁っていて虚ろだった。
「脱げ」
そう言い放って由比ヶ浜の行動を待つ。上の服をすべて脱ぎ終わると
「下もだ」
昨日は言われなかった命令。
「ちょっと待って」
「言うことをきけ!」
昨日はなかった攻撃性を含んだ語気。わずかにひるんだ。
「写真をばらまくぞ」
わざわざ写真の存在をちらつかせ支配しようとする。
 由比ヶ浜は羞恥と恐怖の板挟みにあい、処理能力の落ちた頭は
命令に従うという指令をだした。
 よたよたと男は由比ヶ浜に近づいてきた。思わず後ろへ逃げようとしたが
恐怖と緊張で足をもつれさせた。

すとんとしりもちをついた。その機を逃すはずもなく男は上に覆いかぶさり
自らの股間をあてがった。助は呼ばなかった。この状況を誰にも見られたく
なかったからである。無抵抗と判断した男はそのまま聖域を侵した。
激しい痛み。全身が拒絶していた。男もまた滑りの悪い接触からは快感を
得られなかった。それでも女一人を支配しているという雄としての喜びは
性的興奮を昂らせた。男は微妙に得る快感と満たされる征服欲にまかせ
そのまま射精した。由比ヶ浜は下腹部に生まれて初めて異物感を覚えた。
どろりと中で流動している気がした。気味が悪いと思ったが、これで終わったのだという
安心感もあり、なんとも妙な心持ちがした。
 外は雨が降っているから早く帰りたいだとか、シャワーを浴びて汚れを
落としたいだとか、今の出来事がなかったような考えばかりが浮かぶ。
あまりに非日常的すぎて頭が追い付いていないのかもしれない。
ともあれ終わったのだと思い腹に力を入れ立ち上がろうとしたとき、
教室の扉ががらがらと音を立てて開いた。
「遅えよ」
男は言った。
「うわ、マジ?」
「早くヤろうぜ」
教室に入って来たのはおそらく同年代の見知らぬ男たち。驚く由比ヶ浜に
男は
「君を犯したいというやつをネットで集めた。地元じゃ君は有名人だ」
卑しい笑みを浮かべにやにやこぼす。
 逃げようとするもすでに遅かった。外は身を凍らすように寒かった。

「視点」比企谷八幡
 終業のベルが鳴ってから約四時間。比企谷は自室にて本を読んでいた。
部活の間に読もうと思っていた本だが今日は二人の都合がつかず、
仕方ないから帰って部屋で読んでいるのだ。二日顔を見ていないだけで
ずいぶん長く会ってないような気がした。心配こそすれど、杞憂に終わるだろうと
思いページを捲る。次のページの文字に視線を落そうとすると携帯に
一本の着信が入った。ディスプレイには由比ヶ浜からの着信であることが
示されていた。
「どうした」
「………。」
無言。聞こえてくるのは小さなノイズのような音。はっとして外を見た。
日が落ちて真黒な雲が空を覆い、そこからはバケツをひっくり返したかのような
大粒の雨が降っているのが見えた。
 なんだか不安になった。ざわざわと心臓に毛でも生えたような心持ちがする。
由比ヶ浜の元へ行かなければならない気がした。
 着替えもせずにサンダルをつっかけ玄関を開け放った。そして立ち止まった。
びしょ濡れの由比ヶ浜がいた。
「お前…」
「ねえ、ヒッキー…」
細くて弱くて今に消えそうな声で言った。
「あたしを抱いて」
それぎり彼女は一言も発さない。比企谷は何が起きているかさっぱり分からなかったが
彼女が今どういう心境で、どういう状態であるかを少しずつ理解しようとした。

「とりあえずあがれよ」
腕をぐいと引く。比企谷は知っていた。こういう状態の人間は自発的に
動けないことを。だから周りの人間が動かしてやるしかないことを知っていた。
「小町。タオルか何かを用意してくれ」
部屋にいる小町に聞こえるよう大きな声を出す。
「どうしたのお兄ちゃん」
そういいながらタオルを持ってきた小町は言葉を失った。
「とりあえずシャワーを浴びさせよう。頼めるか。俺は着替えを探す」
言って部屋に戻ろうとすると右腕を何かが引っ張る。由比ヶ浜はうつむきながら
白く細い腕を伸ばしていた。彼女が望むことであるなら下手に拒絶はしていけない。
「すまん。やっぱり着替えは小町が探してくれ。俺はこいつを風呂に入れる」
小町はただ事ではない雰囲気に気圧されていたが、小さくうなずいて
小走りに部屋へと急いだ。
 脱衣所で服を脱がしていく。本来ならありえない状況であるのに
由比ヶ浜はなすがままだった。比企谷もまたなんとも思わなかった。
 ブラウスに手をかけようとして手を止めた。脱がせるという行為に躊躇ったわけではない。
おそるおそる一番上のボタンをはずす。そこには大量の雄の体液がついていた。
 なんとなくわかってきた。物事にまとまりが帯びてゆく。服をすべて脱がし
改めて驚いた。想像を超える量の体液。十人と見積もってもまだ少ない。
 由比ヶ浜の顔を覗き込んだ。そこには誰もいなかった。

 由比ヶ浜をふろに入れ、今は比企谷の部屋に二人いた。小町が
気を利かせてココアを淹れてくれた。由比ヶ浜はうつむいてベッドに腰かけている。
こうも反応がなくてはしてやれることもない。仕方がないからココアを飲もうと
カップに手を伸ばそうと腰を上げると
「ヒッキー…」
小さくてもはっきりと聞こえる声で
「エッチして」
そうして腕を伸ばしてすがるように見つめてくる。空っぽの心を満たすには
望みを叶えてやることだが、この願いに即時に了承するのは難しかった。
「そうは言っても」
「お願い」
そして沈黙。
 動いたのは由比ヶ浜だった。ベッドからおもむろに立ち上がり電気を消した。
部屋は外から入るかすかな明かりで夜目は効くがそれでもよく見えない。
 布の擦れる音。由比ヶ浜が服を脱いでいるのがわかる。一度裸を見ているとはいえ
やはり抵抗はある。
「おい」
「いいよ、勝手にやるから」
そういって借りている比企谷のジャージを脱いで椅子に座っている
比企谷の前に膝立ちになった。そしてズボンを脱がせに掛かる。
ここで拒めば行為は止まるだろうが、あんな姿を目の当たりにして
拒絶をするというのは見放すのと同義な気がしてやめた。
 ズボンを脱がされ寒さで少し身震いした。優しく冷たい手がひやりと触れる。
由比ヶ浜は包むように握って、それからちょっとだけ舐めた。優しく咥えた。
一人で淡々と慣れた調子でことを進める彼女の姿は少し嫌だった。
自分の知らないところで、一人大人になって置いて行かれたような気がした。
だから少しでも動揺しているのを気付かれないよう努めることにした。

 ひとっきり触ったり咥えたりをした後、由比ヶ浜は少し身体を持ち上げて
「胸でしてあげる」
言って膝立ちのままよちよちと身体を近づけてくる。年頃の女の子にしては
少々マニアックな知識に思えた。だから比企谷はすこし悔しくて強がりを言った。
「そこは胸っていうよりおっぱいって言ったほうがポイント高いぞ」
「ふふ…ヒッキーも男の子なんだね」
鼻っ面をつままれたような悔しさがあった。
 由比ヶ浜の胸は恐ろしく柔らかかった。正直手や口でされるよりずっと良かった。
少し疲れる動きなのか時々力んだ声を出す。その声はとても甘くて
脳みそをくわんくわんと揺らして溶かしているようだった。
「由比ヶ浜…っ…」
理性の崩壊。
「ん…いいよ」
そう言うと由比ヶ浜は先っぽをちゅーと吸う。長く吸ってぱあっと口を離したとき
比企谷は果てた。胸いっぱいがべとっと汚された。
 由比ヶ浜は少し笑った。汚すことで上書きを望んでいたからである。

 一度果てたというのに依然固いままだった。由比ヶ浜はベッドに仰向けになった。
「お願い、ヒッキー」
由比ヶ浜が望むもう一つの上塗り。比企谷もまた自身の制限が効かない
ことを知っている。一度果てれば頭も冷えると思ったが、むしろ熱は強くなる一方だ。
「わかった」
短く返してゆっくりと目的の位置にあてがう。そして入れる。拒むどころか
すんなりと受け入れる。
 一番奥までさしこんで悦に入っていると、不規則なうねりを感じる。
彼女の体はひくひくと震えていた。少し不安になって「どうした」と尋ねると
「わかんない…なんだか急に意識が飛んじゃって…」
おそらく彼女も果てたのだ。
「お前、イったんじゃねーのか?」
「今のが?でもあの時はこんなことなかったよ」
石のように硬かった表情に少し変化が見られた。いつもの彼女に戻る
チャンスかもしれないと思った。
「ちょっと…待って…あっ……ちょ…」
由比ヶ浜の息が荒くなる。呂律も少し回らないようで、全身も強すぎる
刺激に耐えようと強張っていた。

 何回か出し入れををしてから、急に彼女の体が重力の制約を振り切って
びくびくと腰を浮かせた。そのまま今度はすとんとベッドに落ちた。
「はあ…はあ…こんなんじゃなかったのに」
彼女は右腕で自分の顔を覆い隠した。少し恥ずかしかったのか。
比企谷としては未だに繋がったままで抜くタイミングを逃したことが恥ずかしかった。
「なんでこんなイっちゃうんだろう。」
答えに困ったから質問で返した。
「その…前と何が違うんだ?」
この前のとはおそらくついさっきのことだろう。傷口に塩を塗るような
ことかもしれないが、さもなんともない調子で聞けばあまり気にはならないだろう。
「何かって?」
何も知らない幼子のように聞いてくる。
「例えば形とか大きさとか…」
言ってて恥ずかしくなる。
「うーん…おんなじくらいかなあ」
「じゃあなんだよ」
「ヒッキーだからとか」
「どういうことだよ…」
当人もよく分からず言っているのが憎らしい。雲をつかむような話に
比企谷は匙を投げようとした。

「それはあたしがヒッキーを好きだからってことで……あれ?」
がばっと跳ね起きる由比ヶ浜。比企谷は突然の告白と、急に迫った美しく
整った綺麗な顔立ちにたじろいた。彼女もまた思わぬ事故に遭い目を丸くしている。
隣の部屋では聞き耳を立てていた小町がにやにやしていた。
「もう!ばかばか!」
子供のように胸をたたいてくる。少し涙目で。
「いや、今のは俺のせいじゃないだろ…」
「うっさいばか」
やむ気配がない。痛くはないが鬱陶しい。腰を振って応戦してみた。

「あぐ…」
比企谷はここにきて自身の有利性に気付いた。由比ヶ浜は流れが逆転
したことに気付いた。同時に自分の暗い心も晴れたのにも気づいた。
なんだか互いにバカらしくなって噴き出した。
 窓から入る淡い光に照らされる顔はどこまでも魅力にあふれていた。
「続きしよっか」
「おう」
ゆっくりと動き出す。互いの気持ちがわかると相手のすべてが分かったような気持ちになった。
この瞬間々々に生まれる快楽は空を突き抜け月まで届いてしまいそうなほどだった。
名前を呼んで思い切り抱きしめる。強く彼女を感じたかった。一点だけでなく
全身で感じたかった。
 互いに高まりその終わりを感じ取り、動きはより激しくなる。声もまた
大きくなってゆく。そして思い切り強く抱きしめる。そして互いに果てた。
二回目の射精は長く続いた。由比ヶ浜もさっきより長く余韻に苛まれていた。
 静かな部屋を二人の息遣いが支配する。
「ねえ、チューしよう」
耳元に熱い吐息と甘美な言葉。由比ヶ浜に倒れこんでいた身体を少し起こして
顔をじっくり見た。淡い光を受けた彼女の顔は神秘的に見えて、
深い慈愛に満ちた女神のようだった。

唇を交わす。
「もう一回」
何度もキスをした。何回したかわからなくなったころ、互いに顔を見合わせた。

「ヒッキー…」
「…」
「好きだよ…」
「ああ」
「ばか」
「うるせー」
「ふふ…」
「ふっ」
「チューしちゃったね」
「ああ」
「もう」
「うん」
「ヒッキー」
「なんだよ」
「好き」
「ああ」
俺も好きだ。

言って抱き寄せる。少し寒い部屋の中で感じるぬくもりは大いに安らぎを与えた。
今までの時間を帳消しにしてしまうような時間だった。
 しかし幸せな時間というのは短く感じるものであり、突然終わるものと
相場は決まっているのである。
「お兄ちゃんいるー?」
狙いすましたかのようなタイミングに二人はベッドの上で跳ね起きた。
「いるぞ、どうした」
咄嗟に返事ができたのは上出来だと思う。
「なんか声が聞こえたけど大丈夫?」
悟りを開いた坊さんでも末法を描くだろう破壊力ある言葉。
血の気が引いて言葉が出ない。由比ヶ浜も同じようで声のするドアのほうを
殺人現場でも見たかのような顔で見ている。それでも対処が早かったのは
由比ヶ浜だった。
「と、トレーニングだよ。最近ちょっと太っちゃって」
さすがに無理があると思う。現にドアの向こうからはへえとかほおとか
達観した老人が出すような声が聞こえる。
「暑くない?ドア開けよっか?」
おそらくドアの向こうは地獄に繋がっているに違いない。こんな悪魔が
すぐそこにいるのだ。

「いや、大丈夫だから!」
どこから聞かれていたのだろうと比企谷は一種の現実逃避からそんなことを考える。
「じゃあちょっとコンビニ行ってくるから。よろしくね」
満足したのだろう悪魔の攻撃はやんだ。
 階下に遠ざかる足音を聞き二人脱力した。寒いはずなのにべたつく嫌な汗をかいた。
「はあ…」
同時にため息をついて見やった。なんだか照れくさくて笑った。
 暗がりに月の白い光を浴びている彼女は儚げで美しかった。
 じっと見つめると彼女はふっと微笑んだ。
「もう一回シャワー浴びよっか」
 そう言う彼女の笑顔は天使のようにも悪魔のようにも見えた。

 了

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