成瀬順「坂上君が風邪ひいた」 (11)

ここさけssです。よろしくお願いします。

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夢を見ていた。


いつもの通学路で、田崎と2人、並んで歩く成瀬は幸せそうだった。その頬を朱に染めると、肘を少し上げて手を繋ぎあっている。
それを周りの友人達に囃し立てられ、恥ずかしそうに俯いた時だって、その顔に浮かんだ笑みが消える事は無かった。
拓実はそんな2人を少し離れた所から黙って見ることしか出来なかった。


坂上拓実は夢を見ている。
風が澄んでいて、空一面には青が広がってるというのに、胸には押し迫る様な圧迫感だけがある。
今すぐ走り寄って「友達」として2人に声をかける事だって出来るのに、
身体はいう事を聞かず、決められた動きを続ける様にただ2人の後を付いていくだけだ。
ならば、と逆に歩みを止め距離を取る事も出来ないもんだから、
拓実はしばらくの間、幸せそうな2人を見続ける事になったのだ。

胸の圧迫感が増してくる。目の前では2人が誰もいない音楽室へと入っていく。
手を繋いだまま、互いの顔を見遣って。

成瀬の想いを踏みにじったのは自分だ、と思う。
互いの背負う呪いを、背負い込んだ責任が不要なモノである事を。
拓実は知っている。
成瀬も知っている。
この音楽室でお互いの過去を認め合った。
2人で積み上げて来たあの日々は拓実にとっても特別だったのだ。

電気の消えた音楽室、暗がりの中。
田崎を見つめる彼女の視線が熱っぽい。
どちらともなく見つめ合い、一つ、歩み寄る。

やめてくれ、そんな姿は見たくない。
心が叫ぶ。
それでも2人に言葉は届かず、その光景から目をそらす事も出来はしない。
そして…






















胸にひやり、と冷たい感覚を感じて意識が浮上する。
成瀬が拓実の胸に頬を預けて寝息を立てていた。
浅い寝息にあわせて彼女の身体が上下する。
看病をしに来てくれたのだろうか。
いや、もしかしたら婆ちゃんが無理矢理部屋まであげたのかもしれない。
幾つも疑問は湧くが、彼女の目元に浮かぶ涙を見ると全てが取るに足りない物に思えた。


少し姿勢を崩して成瀬の背に毛布をかける。
その際彼女の背に手があたる。
それでもこんこんと眠る成瀬は、想像通りの華奢な身体をしている。


線の細いその身体がひたすらに愛おしく思える。いつも通り白く、わずかに赤みがかった頬に触れて見たくなった。
包み込む様に抱きしめると緩やかに刻まれる鼓動が感じられる。
そんな彼女の鼓動を失うのが怖くなり、抱きしめる腕にこれでもか、というくらいの力を込める。











あぁ、自分は成瀬の想いに応えられないと言って、そのくせ成瀬を放してもやれないのだ。

終わりです。
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