成香「マリア様が、見ています」 (85)
爽(私は、それを静かに。そして永遠に眠らせることにした。)
爽(だからその森は、今でも茨を固く張り巡らせ、外部からの侵入を拒み続けているのだ。)
爽(たぶん。)
爽「私が死ぬ。その時まで」
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成香=栞か
由暉子「試験が終わるとクリスマスですね」
由暉子「終業式の後にパーティをやるって久様が仰ってましたけど…」
並んで歩く爽は、その言葉に歩を止める。
どうかなさいましたか?不自然な様子の爽に由暉子は当然問いかける。
由暉子「お姉様…?」
爽「クリスマスは、好きじゃない」
咲と透華は共に本屋を訪れ、同じ本を購入した。そして共に帰路を歩く。
咲「これが噂の…」
咲は先程購入した本を眺め呟く。
透華「やはり、辞めておいた方が良いのかしら…これを読むのは」
透華「咲は、どう思って?」
思い空気の中、咲はその眼差しに正直に答える。
咲「私なら…読みます、気になるし。とりあえず読むだけ読んで…」
透華「どう読んでも…白薔薇の事が書かれていたとしたら…?」
咲「この本の作者の『小林立』が爽様だとしたら、たぶん尊敬します」
不安そうな透華と対照的に、咲は笑顔で続ける。
咲「この文庫に、サインして貰うかもっ」
透華は思わず目を見開く。
そして笑みを浮かべずにはいられない。
透華「良いですわね。あなたのそういうところ」
その笑顔は咲にとって悪いものではない、が。
咲(お姉様は…。やっぱりこの本を読む事を躊躇ってる?)
咲(『FATALIZER』…。この作者の『小林立』というのが実は…)
咲(白薔薇様。つまり爽様が、隠された自らの過去を赤裸々に綴った告白本を出した…)
淡「そういう噂が広まってるんだよ!」
咲=祐巳なら祥子=透華か
いいね!
だめだ分からん
今からでもマリみて読むべきなのか…
続き来たのか。期待。
牌が曲がってそう
爽成、透咲いいですわゾ~コレ
誠子「あくまで噂だろう?新刊案内の紹介記事を見た生徒がこじつけたのさ」
咲と淡は頃合いを見て、一番話を聞きやすい誠子に相談していた。
咲は誠子から手渡されたチラシに目を通す。
その記事には『学園で過ごしたその数カ月は幻だったのだろうか』という見出しで、
期待の新人作家、衝撃の自伝的デビュー作といった内容の記載がされている。
淡「じゃあ爽様は自分の過去をこの本に書いたってこと?」
自伝ってそういう意味だよね?淡の問いに咲は同意する。
咲「そうだよね。だけど…」
咲(爽様の過去って…?)
誠子は腰を上げ、口を開く。
その表情に、咲と淡は固く身構える。
誠子「一年生の二人は知らないと思うんだけど」
誠子「白薔薇様の過去っていうのは…」
普段は闊達な誠子だが、歯切れが悪い。
誠子「タブーっていうのかな…?触れちゃいけない感じになってるんだ」
誠子「無言の了解っていうか…事情を知っている人達は口を噤んで、守っている感じがあるな」
淡「何があったの?」
咲(二人は幼馴染みとはいえ、躊躇無く踏み込める淡ちゃんは流石だね…)
誠子「さあ…。私は一年生だったし、詳しくは教えてもらえなくてさ」
淡「じゃあ過去っていうのは、去年の話でしょ?」
鋭い淡に誠子は隠さず答える。
誠子「…そうだよ」
乙
お、いばらの森か、このお話好きです期待
黄薔薇革命はやった?
家に帰り例の本を読み終えた咲は、淡と電話越しに語る。
咲「…でねっ、クリスマスの夜に、行き先の無い旅に出たの…」
咲「…二人は死のうと思ったんだけど…、…目覚めたときにはすでに…!」
咲は涙を堪え切れない。
淡『ありがちなラストだったよねー』
咲「淡ちゃんは最後まで読んで泣かなかったの…!?」
淡『あははー…』
咲「…。なんだか自分と透華様に重なる所もあってね…?」
サキが読書好きな理由が解った気がした。
淡「サキ。話したいのは小説の内容じゃなくてだね」
咲「あぁっ…ごめんなさい」
咲は本来の目的を思い出す。
咲「…確かにこれを読んだら白薔薇様が作者だって噂になるのもわかるよ…」
咲「だって舞台がうちの学校としか思えないもん」
淡『だよねー…。でね、セーコも読み終えたみたいなんだけど、そしたら』
淡『この件から手を引く。って』
咲「えぇっ!?」
淡『小説は読まなかったことにする。って』
淡『噂の事についても、一切関わりたくないだってさー』
咲「そういえば…」
咲「華様透も文庫本を買っていながら、読むのを渋ってる感じだったよ」
淡『なにがあったんだろう?セーコは何も教えてくれないし…』
このままじゃ気が済まない。
淡『こーなったら白薔薇様に直接聞くしかっ!』
咲「淡ちゃんっ!?ちょっと待っ…!」
そこで淡との電話は途絶えた。
由暉子「ごめんなさい…私も知らないの」
翌日、咲は由暉子に事情を訪ねていた。
咲「そうなんだ…。やっぱり、白薔薇様に直接聞くしかないかな…?」
咲「じゃあ、由暉子さんも一緒に…」
咲(さすがに由暉子さん抜きで話を進めるのは良くないよね?)
咲の提案に由暉子は不思議そうな顔を浮かべる。
由暉子「どうして?」
意外な反応に咲は戸惑う
咲「どうしてって、妹でしょ?気にならないの?」
由暉子「いいえ…」
咲は言葉を失った。
由暉子「それよりも咲さん。もう行った方が良いんじゃ?」
咲「え?」
由暉子「早くしないと、白薔薇は生徒会室に行ってしまうかも」
由暉子「誠子様や透華様の前では聞けないでしょう?」
そういって笑う由暉子の言うとおりにするしかなかった。
咲は由暉子に促され、早歩きで白薔薇のもとへ向かう。
そのとき、全校放送が流れた。
『三年生、獅子原爽さん』
咲「えっ?」
その声に足を止め、耳をこらす。
『至急、生活指導室に来てください』
『繰り返します。三年…』
咲(まさか…あの小説の事で…!?)
咲は急いで生活指導室へと向かった。
咲は生活指導室前に辿り着く。まだ爽は来ていないようだ。
爽「あれ〜?咲ちゃんも呼び出しくらった〜?」
咲「白薔薇様っ!」
普段と変わらぬ様子の爽に、ふいに抱き寄せられる。
爽「まさか咲ちゃん」
爽「私のこと、抱きつき魔として訴えたりしてないよね〜?」
また、抱き寄せられた。顔が近い。
咲「爽様、ご存じないんですか?」
爽「何を~?」
さらに近づく。しかしペースに乗せられてはいけない。
咲「あの、私も聞こうと思っていたんです」
咲「あの本の作者が爽様なのかどうか」
爽「本…?」
がちゃり。生活指導室の扉が開く音がする。
爽「あ、」
扉から現れた教師に対し、二人は畏まる。
爽「じゃあ咲ちゃん、続きはあとでねっ」
そういって咲の肩を軽く叩くと、爽は教師とともに生活指導室へと消えていった。
咲(あれは…!)
爽が生活指導室へ入り、扉が閉まるまでの瞬間に咲は中の様子を覗き見る。
咲(学園長!…それに中、高等部の校長、3年生の学年主任に爽様の担任の先生まで…!?)
咲(そんなにすごい問題になっているんだ…)
淡「サキっ!」
放送を聞いた淡は、駆け足で、遅れて生活指導室前へとやってくる。
咲「淡ちゃん!」
淡「白薔薇様はっ?」
咲「それが、いつも通り明るかったよ…」
咲「それに…何で呼び出されたかもわかってないみたいだった」
そっかー…。淡はそう呟くと、一息つく。
咲「白薔薇様…、どうなるんだろう…?」
それからしばらく、咲と淡は生活指導室前で待ち続ける。
咲「遅いね…」
淡「うん…」
さすがの淡も、不安な様子だ。
気落ちする二人の前に、一人の生徒が近寄る。
その顔は、笑みを浮かべているように見える。
ふっふっふ。
玄「ごきげんよう!」
ごきげんようっ。咲と淡は思わぬ来訪者に驚きつつ挨拶を返す。
淡「でもっ新聞部に話すような事、私達何もしてないですからねっ!」
淡は敵意を隠さず、すぐさま弁明する。
玄は新聞部に所属する二年生であり、今の爽に近づけるべきではないからだ。
当然玄としては、良く思われていないのは承知の上である。
玄「そう言わずに、協力してよ」
玄「白薔薇様が退学になってもいいの?」
咲「た、退学っ!?」
玄「ウチの学園はアルバイト禁止だし」
玄「小説を書くなんて、明らかに校則違反だよねぇ?」
咲は勢いに押される。
咲「まさか…でも、退学なんて…」
玄「そうなったらさ」
玄の想定通り話がすすむ。
玄「瓦版で署名活動を呼びかけてもいいんだよ?」
玄「白薔薇様を退学処分にしないで下さいってね」
当然対価は必要だろう。玄の顔を見て咲は察する。
咲「でも…、本当に私達、何も知らなくて!」
玄「本当に~?」
玄はじりじり咲に迫る。
咲「ほ、本当にっ!」
追いつめられた咲は、生活指導室の扉に寄りかかる。
瞬間。扉が内側から開いた。
咲「えっ?うわあー!!」
背中から倒れそうになる咲は、ふいに受け止められた。
爽「おおっと!」
咲は全体重を爽に委ねる。
爽「咲、ちゃん…?長くはもたないぞー…!」
咲「白薔薇様っ!?」
爽「それに…」
爽「生活指導室の中へ抱き合ったまま崩れ込むのはさすがにまずいなっ!」
爽「お騒がせしました」
失礼します。爽は生活指導室の戸を閉める。
爽「ふぅー」
爽「…たぶん、気になって仕方ないと思うから報告するけど」
爽「残念ながら、アレを書いたのは私じゃないからねー?」
咲と淡はその言葉に胸をなでおろす。
爽「と、いうことで。今回は瓦版にネタを提供できなくてごめんねー?」
玄「っ…」
爽「それじゃっ、行きましょっか!」
爽は咲と淡の肩を抱く。
咲「行くってどこにですか?」
そりゃあ。
爽「生徒会室でしょっ。」
爽「たぶん、皆呼び出しの理由を待ってる」
菫「派手に呼び出されていたな」
菫は笑みを浮かべ紅茶を一口飲む。
久「個人的に呼び出された事無いから、ちょっと羨ましかったりしてね」
爽「それはどーも」
咲(さすが薔薇様達だ)
咲(私のようにオタオタしたりしないんだ)
由暉子「どうぞ」
由暉子は爽に紅茶を淹れる
爽「ありがとっ」
爽「う~ん。上品でいいねー」
爽は一服した後本題を切りだす
爽「ちょっと報告させてっ」
爽「噂になってる小説あるじゃん?」
爽「アレ、私じゃないからっ」
以上っ。爽は極めて簡潔に言い放つ。
菫「それが、呼び出しの理由なのか?」
久「それで?」
爽「別にっ」
爽「私じゃないって言ったら学園長が庇ってくれて」
爽「それでアッサリ解放されたっ」
爽は続ける。
爽「私自身、実物を読んでないし…」
爽「噂自体、さっき知ったばっかだしなー」
菫「本当に、お前が書いたんじゃないんだな?」
爽は軽く、片手を挙げる。
爽「マリア様に誓って。」
爽の表情を見た菫は笑みを浮かべうなずく。
菫「わかった。この件はこれまでだ」
菫「どうだ?久」
久「異議無し、ね」
では、クリスマスパーティの事なんだけど…。
爽の件は、すっかり終了する。
咲(…)
咲(えぇー!?)
咲(みんな、噂に躍らされたりしないんだ…)
咲(私ってミーハーで浅はかだな…落ち込むよ)
咲は自分を戒める。その様子を見て、爽は小さく笑う。
爽「んふふっ」
あっ。爽の笑い声に咲は思わず立ち上がる。
咲「私また百面相してましたっ!?」
久「なに咲?発言でもあるのかしら?」
咲「うぇ…、いいえ…」
冷静になった咲は席に着き、うつむく。
透華「寝ぼけているんじゃないですわ」
咲「うぅ…すみません」
爽「意見のある人は、ちゃあんと手を挙げて下さいねえ?」
いひひひ。爽は咲に白い歯を見せ笑った。
爽は普段通り咲を弄んでいた。
咲(うぅ…こんな人のために悩んでいたなんて)
その後はクリスマスパーティの事について会議すすむ。
会議を終えると、皆席を立ち解散しはじめる。
爽「んふふ~」
終わるやいなや、爽は咲に後ろから抱きつく。
咲「もうっ…やめて下さい爽様っ」
抱きつかれることに慣れ始めた咲は軽くあしらう。
爽「あらら。ご機嫌ナナメ~?」
爽「あっ透華ー。咲ちゃん貸して?」
透華「…それは構いませんけど」
爽「だいじょーぶっ。制服脱がせて遊んだりはしないからさっ」
咲「えぇ…」
その言葉に咲は呆れるしかない。
透華「ふざけた事仰いますと、お断り致しましてよ?」
透華は語気を強め、爽を睨む。
爽「はいはいっ」
爽「あっ誠子?淡ちゃんも借りるねっ」
誠子「えっ?まあ、淡さえ良ければ」
咲「あっさり承諾しちゃって良いんですかっ?」
爽は更に咲を抱き寄せる。
爽「誠子は私が淡ちゃんにオイタしないってわかってるから」
咲「もうっどうして私だけ…」
爽「リアクションが良いからな~。あと、透華の反応も楽しいっ」
その言葉に、透華は席を立つ。
爽「一粒で二度おいしい姉妹だ。ありがとうっ。合掌」
爽は手を合わせ目を瞑る。笑いながら。
咲(私だけ悪い先輩の餌食だよ…)
爽「と、いうことで」
爽「片付けは3人でやるんで。皆さんどうぞお先にっ」
久「そう。じゃあ、あとはよろしく」
他の者たちは生徒会室をあとにする。
去り際に透華は釘を刺す。
透華「咲?白薔薇様を喜ばせないように」
咲「は、はいっ!」
由暉子「お姉様。なにかお手伝いする事はございますか?」
爽「別に~、これといって無いけど?」
由暉子「そうですか。それじゃあお先に失礼します」
由暉子「お姉様に付き合わせてごめんなさい」
それではごきげんよう。由暉子は咲と淡に笑みを向け、帰って行った。
淡「…ユキコも一緒だと、駄目なんですか?」
不自然なやりとりに淡は思わずたずねる。
爽「由暉子はたとえ残るなって言っても」
爽「残りたければ自分の意思で残るような子だからね」
爽「んで、咲ちゃん。いま例の本持ってる?」
咲「え?はいっ」
爽「貸してくれるー?」
咲「良いんですけど、何するんですか?」
その言葉に淡は呆れる。
淡「サキ。それはさぁ…」
爽「読むに決まってるでしょー?」
爽「鍋敷きにでもすると思ったのかー?キミはっ」
咲「あぁ…。はいっどうぞ」
爽は咲から本を受け取る。
爽「よろしい。んじゃお返しにっ」
爽は二枚の食券を差し出す。
爽「二人で行っておいで。あ、帰りに缶コーヒーでも買ってきてよ」
爽は小銭入れを咲に渡す。
爽「二人の分も買っていいからねっ」
咲「白薔薇様って計り知れない…」
咲と淡は爽の言葉を受け、食堂で時間を潰していた。
二人は向かい合って座る。
淡「ユキコは凄いねー。あの人の妹をやっててさ」
淡「あっサキ、ハンカチしないと襟が汚れちゃうよー」
爽から貰った食券には、ラーメンと書かれていた。
咲「うん…」
どしたのっ?上の空な咲に淡はたずねる。
咲「白薔薇様は、どうして私達を残したのかな?」
淡「えっ?」
咲「だって本を借りるだけなら、家に持って帰れば良いんだし…あっ!」
咲は閃き、身を乗り出す。
咲「私達が可愛いから、ラーメン奢りたくなったとかっ?」
淡「サキ…。脳みそ溶けてる?」
それからしばらく経った後、咲と淡は生徒会室へ向かう。
淡「絶対ありえなーい!」
咲「そうかなー?」
淡「普通おしるこなんて買わないよっ」
咲「べ、別にいいじゃんっ」
他愛のない会話を続けながら生徒会室の扉を開ける。
爽は既に読み終えた様子だった。
咲「あっ。お待たせしましたっ」
爽「なんだ~?おしるこがどうとかって」
淡「サキが買ったんですっ」
淡は缶入りしるこを爽に見せた。
爽「あははっ!これ買う人居たんだなー!」
二人にからかわれ、頬を膨らませる。
咲「はいっ!白薔薇様にはちゃんとコーヒー買ってきましたっ!」
咲はぞんざいに缶コーヒーを爽に手渡した。
咲「それで…、ちゃんと本は読んだんですか?」
爽は咲から缶コーヒーを受け取る。
爽「読んだよ。良い勘してるかもしれない」
爽「これ書いたのが私だって言いだした人はさ」
淡「えっ」
爽「だって主人公似てるじゃん?私にっ」
普段と変わらない飄々とした態度で続ける。
爽「聞いていいよ。噂になった理由気になるでしょ?」
爽の言葉に二人は顔を伏せる。
咲(私達、そんなに好奇心剥き出しにしてたかな…)
申し訳なさそうな様子を見て、爽は苦笑する。
爽「そんな顔見たくて言ったわけじゃないんだけどなぁ」
爽「話したくない部分は話さないけど…それでよければっ」
咲「どうして…?」
爽「だって。君達だけ知らないのは不公平でしょー?なんとなくっ」
咲「教えてくれるために私達を残したんですか?」
爽「手っ取り早く読んじゃいたかった。ってのもあるけどなー」
ん~。爽は逡巡する。
爽「菫や久がこの件に深く触れないのはさ」
爽「私の事、思いやってくれてるんだと思う」
咲(そんなに辛い出来事だったんだ…)
爽は静かに、口を紡ぐ。
爽「私ね、凄く仲が良い友達がいたんだ…」
それこそ、家族よりも大切で
その人さえ居れば、何も要らないくらい好きだった
将来はシスターになるなんて考えてる純粋な奴でさ
でも、去年のクリスマスに…
爽「いなくなっちゃった」
咲「えっ!」
淡「それじゃあまるっきりあの本の…!」
爽「まるっきり同じでもないよ~」
爽は優しく否定する。
爽「私は…その友達と旅に出てないし、睡眠薬を飲んだりしなかった」
爽「彼女は…転校したんだ」
咲「じゃあっ!生きているんですかっ?!」
淡「ちょっ!サキ!」
淡(サキは本に入れ込みすぎだよ!)
爽「なあに?生きててがっかりしたの~?」
咲「っ、すみません…」
咲は自分の思慮の浅さに反省した。
咲とマリみてって親和性高いよな
淡「じゃあもしかして…。誰かが白薔薇様のことを参考にして書いたんでしょうか?」
爽「どうだろうね~違う部分もあるし」
爽「ドキッとするほど重なる部分もある」
淡「頭に来ないんですかっ?過去を勝手に小説なんかにされて!」
淡「おまけに作者に間違われて!」
淡は思わず声を荒げる。
爽は優しく答える。
爽「私はね…大切な人にさえ分かってもらえればいいんだ」
爽「だから二人には聞いて貰いたかったんだ」
爽「誤解や憶測を残したままの関係って、嫌だから」
咲「転校したお友達…、今どうしてるんですか?」
爽「さあ?どうしてるかなー…」
淡「会いたくないんですか?」
爽「会わない方が、いいから…」
咲(こんな顔の爽様、初めて見た…)
爽「その人の名前はね…」
爽「本内成香っていうんだ」
咲と淡は共に下校する。
咲「白薔薇様…。まだ、その人の事好きなんだね」
淡「うん。私もそう思った」
咲「だから由暉子さんは残さなかったのかな…?」
咲(由暉子さんに悪いから…)
淡「…なんだか許せない」
淡はふと立ち止まり呟く。
淡「書くことで傷つく人だっているのに…!」
咲「淡ちゃん?」
淡「まさか。あの小説書いたのって本内成香じゃないよねっ?」
咲「えぇっ?」
淡「よし決めた!私、作者を突き止めてやる!」
咲「えぇーっ?!」
数日後の放課後。咲は淡の勢いに引っ張られ、出版社へ赴いた。
応接室へと案内され、担当者を待つ。
誠子「なんで私まで…」
淡「セーコだって気になるでしょ?作者の正体」
誠子「そりゃそうだけど…」
えり「お待たせしました」
淡「お忙しいところすみません」
淡「あの、『FATALIZER』の担当の方ですね?」
えり「ええ、そうですが。小林立の正体を明かすわけにはいきません」
咲「えっ?」
質問する前に答えが返ってくる。
えり「ここ数日、そちらの生徒の方から問い合わせが引切り無しにあるんです」
えり「小林立の正体は獅子原爽さんではないか?と」
そこへ徐に何者かが割って入る。
トシ「針生さん」
えり「せ、先生っ!」
トシ「あら、懐かしいねえその制服」
トシ「まさかこんな所で後輩に会えるなんて」
えり「先生っ」
咲「じゃあウチの卒業生の方なんですかっ?」
トシ「ええ。もうずうっと昔のね」
少しの間が空き、咲は感付く。
咲「あぁ!」
誠子「それじゃあっ」
淡「あなたが…!」
えりは思わず頭に片手をやる。
トシ「私が小林立こと、熊倉トシです」
淡「それじゃあ舞台がウチの学校だけど」
誠子「ずっと以前の話ってこと…?」
咲(『FATALIZER』は、噂も残らない程前に起こった出来事だった)
咲(白薔薇様の物語とは、まるで別の…)
爽は誰もいない生徒会室で昔を思う。
爽(久しぶりに口にしたな。彼女の名前)
爽(私が初めて成香と出会ったのは、春のある日)
いつもより大分早めに学校に着いてしまった朝だった。
高校二年生の私は、何もかもにうんざりしていた。
天使たちの牧場のような学園に。無邪気に微笑んでいる生徒達に。
この世界はきっと正しいものなのだろう。
ならば私は、それに適合出来ない悪い子羊なのだ。
爽(こんな私を救いたまえ)
アーメン。
アーメン。
アーメン。
何故皆と一緒に笑わなければいけないのか。
何故興味の無い話題を聞かなければならないのか。
だから私は黙りこむ。
何をしたらいいのか。
何をしたいのかさえわからない。
誰も私に触れるな。
私の事など忘れてしまえ。
私の中には何一つ潤いが無い。
乾いた広い荒野で私は一人、途方に暮れているのだ。
爽(彼女は…)
私が持ちえなかった潤いに満ちているように見えた。
菫「本内成香?」
爽「…何だよ」
菫「お前の口から人の名前が飛び出すのなんて、初めて聞いたからな」
爽「別に、今朝そういう一年生と知り合ったっていうだけの話」
放課後。生徒会室へ足を運び菫に訊ねていた。
爽(私の中で、何かが変わり始めていた)
爽「知らないならいいよ」
菫「待て」
立ち去ろうとする爽を引きとめる。
菫「爽。お前白薔薇のつぼみとしての自覚が足りなさすぎるぞ」
爽「…」
ふいに扉が開いた。
良子「おやっ、珍しい」
爽「お姉様…」
良子は透華を連れていた。
良子「透華ちゃんは西洋人形みたいに綺麗だから、つい構いたくなるね」
爽「地味な顔ですいません」
良子「拗ねてる?爽の顔は好きだよ」
良子「なにせ顔で妹に選んだんだから」
爽「…恐れ入ります」
爽(彼女は言った)
この顔を見て居たいから傍にいなさいと。
その一言で、私は妹になる事に決めた。
その単純で明快な理由が好ましかったからだ。
爽(思えばそうだった。)
お姉様は、最初から私の扱いが上手かったのだ。
私は、自分でも驚くほど積極的になった。
透華「どうかなさったのですか?爽様」
わざわざ彼女と同じ学年である透華の教室まで足を運んだ。
爽「本内成香さんって、今日休み?」
透華「いえ、たぶん…御御堂だと思います」
その言葉を聞きすぐさま向かう。
当然のように成香はそこに居た。
この世界に愛された、白く輝く存在として。
成香「ごきげんよう。白薔薇のつぼみ様」
爽「あなたに、会いに来たんだ」
爽「あなたに会いたかった…」
爽「この気持ち…迷惑?」
私は自分を曝け出して、縋っていた。
退路は、既に無い。
成香「私もお会いしたいと思っていました」
そう微笑む成香の顔を見て、自然と涙が溢れてくる。
爽(この学園で成香と出会えた事に、私は心から神に感謝したくなった)
私達は出来るだけの時間を二人で過ごした。
私はますます生徒会から遠ざかり、成香にのめり込んでいった。
菫「もう少し、距離を置いた方が良いんじゃないか?」
そんな様子を見かねた菫は、爽に忠告する。
爽「…何の事?」
煩わしい。
菫「お前が彼女を妹にしたいなら構わない」
菫「正式にロザリオを渡して、皆にちゃんと紹介したらどうだ?」
爽「考えておく。もう行っていい?」
菫「…ああ。きっとだぞ」
菫の言葉を待たずに爽はその場を後にした。
私は成香を妹にするつもりなど無かった。
姉妹の儀式は、象徴がなければ安心出来ない人達がするものだと。
私は心の中でせせら笑っていた。
たぶん。私達はもって生まれた二つの手を、両方とも同じ相手と結んでいるのだ。
その結果、他を完全に排除してしまう。
成香を前にすると、爽は逸る気持ちを抑えきれず、成香を抱きしめる。
成香「何か…言われましたか?」
ただ一緒に居たい。それだけなのに。
爽「終わった?水泳の補修」
成香「ええ」
爽「じゃあ帰るかっ」
両親を事故で失った成香は、学生寮で暮らしていた。
その夏、成香は北海道の叔父の元へは帰らず、修道院に留まっていた。
校舎を出てすぐ、通り雨が二人を襲う。
爽「しばらくここで雨やどりだな」
やむなく駆けこんだ温室には、夏休みという事もあり、他の生徒の姿は無い。
成香「わあ。暖かい」
二人は並んで座る。成香はタオルを取りだし、濡れた爽の髪を優しく拭く。
爽「…私はいいから、自分の髪を拭きなよ」
成香は頷くと、その長い髪を拭き始める。
雨はまだ止みそうにない。
疲れていたのか成香は爽の肩に身を預け、目を閉じた。
爽(成香…。)
何故私達は、別々の個体に産まれてしまったのだろう。
爽は成香の髪を弄ぶ。
成香「何…してるんですか?」
眠たそうな声で成香は問いかける。
爽「なんでもない。もう少し寝てて良いよ」
爽「雨が止んだら起こしてあげる」
爽は成香の手に自分の手を絡ませる。
成香「ふふっ。くすぐったいです」
言葉とは裏腹に成香は笑みを浮かべ、更に深く身を預けた。
雨よ、止むな。
このまま時が止まれば良い。
成香と溶け合って消えてしまいたい。
この気持ちは何なのだろう。
自分以外の誰かを求める。
その行き着く先は何処なのだろう。
その答えが見つかる事は、恐らく無いだろう。
爽(でも、それでいい)
確かなものは、成香の鼓動と、体温と、吐息だけ。
そしてそれが、私の望むこの世のすべてなのだから。
秋のある日、爽は珍しく生徒会に顔を出していた。
しかし特に誰かと関わるわけでもない。ただそこに居るだけ。
退屈な会議が終わり、皆が生徒会室を退出していく。
それを見て爽も席を立つ。すると、良子に呼び止められた。
良子「待って爽。たまにはあなたとお茶を飲みたいな」
その言葉を受け、爽は再び席に着く。
一連のやりとりを見ていた菫は、爽に言伝を残し生徒会室を後にした。
二人きりになると、爽は口を開く。
爽「お姉様。私と姉妹の縁を切って、新たに妹を迎えてはどうですか?」
良子「ダメよ」
爽「でも私はっ…!」
良子「約束を違えないで。私が卒業するまでは、ちゃんと私の傍にいなさい」
そう言って、良子は爽の頭を撫でる。
良子「妹を持たなくても、それはどうにでもなる事」
良子「自分が後悔しない道を歩きなさい」
良子はいつも通り余裕のある笑みを浮かべていた。
爽「何の用?」
生徒会室を後にした爽は、菫に呼び出されていた。
爽「私、人を待たせてんだけど」
菫「そんな顔をするな。私が疫病神みたいじゃないか」
爽「…またお説教?」
菫「少し冷静になれ」
爽「私達の事なにも知らないくせに…」
菫「じゃあお前は、成香さんの何を知っているんだ?」
爽「なにって…」
菫の言葉の意図がわからない。
菫「…あまり、深入りしない方が良い」
爽は苛立ちを隠せない。
爽「何で、わざわざそんな事言うんだよ?」
菫「お前が傷付くところを見たくないんだ」
爽「私が傷付く?」
意味が解らない。
爽(こいつは何言ってんだ?)
菫「…彼女が居なくなったらどうするつもりだ」
は?
爽「成香が、居なくなる…?」
前作スレタイ教えてくれろ
マリみてと咲って相性がいいのね…
>>61
透華「タイが曲がっていてよ」
菫「何も聞かされてないのかっ?」
爽の反応に驚く菫。
爽「どういう事…?」
菫「成香さんは卒業したら修道院に入るそうだぞ。彼女は…」
シスターになるそうだ。
爽はその言葉を理解する前に声を発する。
爽「嘘だ」
菫は憐れむ様子で顔を伏せる。
爽(嘘だ)
嘘。
爽は駆けだしていた。成香の待つ聖堂に。
成香「本当です」
爽の問いに、成香は毅然と答えた。
成香は続ける。
成香「この学校に入る前から、決めていました」
爽「何で今まで黙ってたんだっ?」
成香「言う機会が無かっただけです。言ってどうにかなるものでも無いから…」
爽「…っ」
理解は出来るが納得はいかない。
爽「私は成香の事が好きだった!お前は違っていたのかっ!?」
成香「そんな事っ…!」
爽は捲し立てる。
爽「私が卒業するまでの付き合いだって…!気楽に考えてたのかっ!?」
成香「…爽さんの事、好きです。私がこんなに誰かを好きになった事…初めてです…」
爽「だったらどうしてシスターなんかにっ!」
爽は声を荒げずにはいられない。なりふり構ってなどいられない。
爽「私より神様を選ぶわけっ!?私には成香しかいないのにっ!!」
私を、見捨てるのか。
成香「…そんな風に責めないでください。シスターになるのは私の希望なんです」
爽は成香に詰め寄る。
爽「じゃあ何故私の目を見ないっ!?迷ってるからじゃないのかっ!?」
成香「ちがっ…!」
爽「成香好きだっ…!」
爽は無理やり成香の唇を奪う。
成香「いやっ…!」
しかし、すぐさま拒絶される。
成香「マリア様が、見ています…」
いばらの森は切ない
前作の透咲も今回の爽成も素晴らしい
1に感化されたので今年中に透咲を書こうと思う
爽「…それが、成香の答え?」
成香「…」
爽「…わかった」
何も言わなくてもわかる。
爽は黙って聖堂を立ち去った。
爽(私は…)
マリア様に負けたんだ。
それから。私は分かりやすく荒れた。
元々決して真面目ではない私の授業態度は更に悪化し、
遂に終業式の日に、生活指導室へと呼び出しを受けた。
爽「成香のせいじゃありません」
爽「私と彼女は、もう何の関係も無いんですから」
獅子原さん。
足早に去ろうとする爽は呼び止められる。
学園長「本内成香もそう言いましたよ。自分が悪いと」
爽「…成香も呼ばれたんですか?此処に…」
彼女は続ける。
学園長「一つの事にのめり込んで、周りの事が見えなくなるのは…」
学園長「寂しい事ではないかしら?」
気付けば私は彼女を探していた。
二日前から外泊届を出し、寮にも、修道院にも成香は居ない。
爽(成香…)
どうすれば会える…?
当てもなくなり学内を彷徨っていると、ふいに正面から声をかけられた。
菫「クリスマス」
爽「え?」
菫「生徒会室でパーティがあるんだ。誠子ちゃんが美味しいクッキーを焼いてくるそうだ」
爽「…気が向いたら」
待ってるからな。
爽は菫の誘いを軽くあしらい、彷徨い続けた。
成香。
会いたい。
無意識に駆け足になり、身体は引き寄せられる様にある場所を目指していた。
爽(会いたいよ…!)
あの日からずっと避けてきた場所。
聖堂の前に、彼女は立っていた。誰かを待つように。
息を整える前に涙が溢れてくる。
成香は爽を視認すると、すぐさま駆け寄り、抱きついた。
爽「成香…!」
二人は口づけをかわした。
成香「会えない間、ずっと貴女の事だけ思っていました…!」
それだけじゃないっ!
成香「お祈りをしていても貴女の顔が頭から離れない…っ!」
ここまで必死な成香を初めて見た。何故か不思議と頭が冴えていく。
成香「学園長は私達の事とても心配なさってる…!もう会わないって約束もしました!でもっ!!」
成香「駄目だった…!」
泣きながら、吐き出す様に言葉を紡ぐ成香を見て。私は決心した。
爽「成香。一緒に逃げよう」
成香「えっ…?」
爽「知らない土地に行って、誰にも邪魔されずに生きていこう」
成香「二人で?」
爽「…嫌?」
成香「嫌な訳ないっ。貴女と一緒なら何処へだって行けます!でも…っ」
爽「できるよ」
成香「爽さんっ…」
爽「今夜荷物をまとめて来て。駅で待ってる」
成香「…わかりました」
爽「じゃあ…待ってるから」
成香「はいっ…また後で」
成香は微笑んで私を見送ってくれた。
私はその微笑みを忘れない。
絶対に忘れない。
約束の時間を3時間過ぎていた。
私は駅のホームで立ちつくしていた。
爽(さすがに冷えるな)
吐息で手を温める。
もう、成香は来ない。
けれど、ホームを立ち去る事が出来ずにいたのは、
もしかしたら今、成香がそのホームに続く階段を降りて来るかもしれない。
そんなわずかな望みを、捨てきれずにいたから。
爽はベンチに腰掛け、両手で顔を覆う。
こんな時に、こんな場所で、眠れるわけなどない。
爽(それでも…)
夢でもいい。成香に会いたかった。
爽「っ!」
ふいに爽は肩を叩かれる。
爽「お姉様っ!?どうしてっ…」
良子「迎えにきたの。成香さんの代わりに」
爽「成香はっ!?」
良子「成香さんは、貴女とは行かないって」
爽「嘘だっ!」
良子は落ち着いた様子で、爽に手紙を渡す。
良子「成香さんは一度、この駅に来たらしい」
良子「ホームに居る貴女を遠くから見つめて…」
良子「それで、やっぱり行けない。って、思ったんだって」
爽「来たのなら、何故直接…」
良子「会ったら、決心が鈍るからだろうね」
爽「鈍る…?」
良子「しっかりした子とはいえ、まだ高校一年生なんだよ?」
良子「揺れるに決まってる」
良子は手を差し伸べる。
良子「帰りましょう」
このまま元通りとはいかないだろう。前の様に成香と過ごせるはずは無い。
覚悟はして来たつもりだった。
爽は手を取り、弱々しく立ち上がる。
爽「成香は…何処かへ行くの…?」
良子「うん…、遠いところへ転校するそうよ…」
爽「…私のせいで」
良子「彼女が納得した結果よ」
爽「でも…でもっ!!」
爽「私に会いさえしなければ…!」
爽は泣きながら、良子の胸に縋りつく。
良子は包み込むように抱きしめた。
良子「会って、良かったんだよ」
良子「会って良かったと思える未来にすれば、それで…」
爽「そんな未来なんて!…」
きっと来ない。
良子「傷はいつか癒えるものよ」
良子「それに貴女には私が居るでしょう?」
良子の言葉に驚き、思わず顔をあげ良子の目を見つめた。
良子「おや。まさか本気で、私が貴女の顔だけを愛していると思ってないよね?」
爽「…違うんですか?」
目を丸くしてこちらを見る爽に良子は苦笑する。
良子「失礼ね。あれは負担にならない為の方便」
良子「私は貴女の扱い方が上手いんだよ?」
爽「…でもっ」
爽「でもっ!お姉様は卒業してしまうじゃない…!」
良子「貴女を心配してるのは、私だけじゃないよ」
良子「ほらっ」
良子が目をやった先に、こちらへ近づいてくる姿が見えた。
自然と言葉を発していた。
爽「…心配かけてごめんなさい」
菫「まったくだっ」
菫「ほら、何も食べてないんだろ」
菫は誠子が焼いたクッキーを爽に食べさせた。
爽「…暖かい」
気が緩んだのか、爽は微笑みながら涙を流した。
良子「それじゃあ、行こっか」
良子は爽と菫の肩を抱く。
爽「何処へ…?」
良子「私の家っ。爽のお母さんには、さっき連絡しといたから」
爽「えっ」
良子「つべこべ言わない。明日から楽しい冬休みなんだから」
良子「今日は夜更かしして、静かに盛り上がろうっ」
駅から良子の家路につく。
良子は腕時計を確認した。
良子「おっ、日付が変わったね」
爽「…?」
ハッピーバースデー。
爽(イヴが終わり、私は自分が17になった事を知った)
さようなら。
成香。
咲「白薔薇様っ」
学園内をふらついていた爽は声をかけられる。
咲はパーティで使うであろう道具を両手に抱えていた。
爽「おお、咲ちゃん」
爽「準備は出来た?」
咲「白薔薇様も手伝ってください!…あっ」
咲が視線を移した先に、見慣れぬ女性の姿があった。
爽「ん、誰?」
咲「熊倉トシさん。あの、小林立さんです」
咲「出版社へ行った時、お会いしたんです」
彼女もこちらに気づいたようで、声をかけてくる。
トシ「あらぁ」
咲「この間は、どうも失礼しました」
トシ「いいえ」
爽「色々と、ウチの生徒がご迷惑おかけしました」
トシ「あなたは?」
爽「初めまして。獅子原爽です」
トシ「そう。あなたが」
咲「あの、今日は…?」
トシ「学園長に会いに来たの」
咲「あっ。じゃあご案内しますっ」
トシ「大丈夫わかるわ。昔とちっとも変わってないんですもの」
じゃあ、ごきげんよう。トシはその場を後にした。
爽「あの人…」
咲「ウチの卒業生だったんです」
咲「それに、本に出てきた相手の方が生きらっしゃる事が分かったそうなんです」
咲「クリスマスイヴは、その方に会いに行くって仰ってたんですけど…」
爽「じゃあ、ここにその人が居るってこと?」
咲「あっ…そうかも?でも学園長に会うって…」
咲は勝手に納得する。
咲「そっか…そうだったんだっ」
咲「学園長が、そうだったんだ!」
咲「良かったっ。それじゃあ二人は何十年ぶりに再開できるんですねっ!」
当然それが正しいかは分からない。
それでも、目を輝かせる咲を見ていたら…。
咲「…白薔薇様っ?」
爽「ほらっ。行こー!パーティが始まるっ」
いつもの様子で咲の肩に手をまわし、
生徒会室へと並んで歩く。
咲「白薔薇様っ」
爽「なあに?」
咲「メリークリスマスっ」
爽「う~ん。もう一声っ」
咲「えっ?」
爽「明日は私の誕生日なんだっ」
爽は今日も笑顔に満ち溢れていた。
爽「マイ、ハッピーバースデー!」
おしまいです。
言い忘れてましたが>>62の通り、
透華「タイが曲がっていてよ」の続きです。
とにかく白薔薇爽の活躍が書きたかったので色々飛ばしちゃいました。
また機会があれば、間の話とか書きたいと思います。
読んで下さった方々ありがとうございました。
乙
乙です
乙
次も期待
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