白菊ほたる「これはゾンビですか?」 モバP「はい、プロデューサーです」 (53)

※これゾンのキャラは出ません
設定は少しだけ流用してますが別物です。ほぼゾンビ要素だけです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1446383280

とある夏の日の朝


P「zzz」

目覚まし時計「ジリジリジリジリ」

P「zzz」

セミ「ジリジリジリジリ」

P「zzz」


朝の日射し「ジリジリジリジリ」

P「………」



P「」カラカラ

P「な、なぜ閉めていたはずのカーテンが全開に……おかげで朝から最悪の気分だ」

P「……お前のしわざか? 俺が遅刻しないようにしてくれたのはありがたいんだけど、もう少し優しい起こし方にしてくれ」

P「干からびるのは嫌なんだ」

??「………」コクリ

P「じゃあ俺、仕事行ってくるから」

ガチャ、バタン


??「……ふわぁ」


P「(俺の名前はP。24歳社会人で、職業はとあるプロダクションの事務員)」

P「(どこにでもあるような普通の家庭に生まれた、どこにでもいるような見た目の男だ)」

P「(ただ、ひとつおおっぴらにできないような秘密を抱えていて――)」

キキーッ!!


P「(タイヤとアスファルトが激しく擦れる音)」

P「(視界に映ったのは、信号無視して横断歩道に侵入しかけているトラックと、その直線上で呆然とたたずむ女の子)」

P「(それを認識した瞬間、俺の身体は素早く動いていた)」


ドンッ


女の子「えっ……?」

女の子「(撥ねられる。そう思った瞬間、私の身体は横に突き飛ばされていました)」

女の子「(直後に私が目にしたのは――私の身代わりになって、男の人がトラックとぶつかる光景)」

女の子「(周囲の人達がざわつく中、私はただただ何もできず、呆然とするだけでした)」

女の子「そ、そんな……私の不幸のせいで、人が……」

女の子「(生まれつき運の悪い私だったけど、まさかこんなことになるなんて……)」

女の子「ぐすっ……ひっく……」


??「大丈夫かい?」

女の子「え?」

女の子「(かけられた声に振り向くと、そこには)」


P「見たところ怪我はなさそうだな。よかったよかった」ブシュー

女の子「」

女の子「(さっき撥ねられた男の人が、頭から血を噴き出しながら立っていました)」

女の子「(私の肩に優しく添えられた右手は、温かい液体で真っ赤に染まっています)」

女の子「あ、あうあう」ガクブル

P「俺、ゾンビだから。このくらいへーきへーき」

女の子「……きゅう」ガクリ

P「……あれ? おーい……気絶している」

P「ん? これは……」

なんてアクティブなゾンビなんだ

女の子「………」

女の子「……ん……こ、ここは」

P「よかった。目が覚めたか」

女の子「ひいっ!? ご、ごめんなさいごめんなさい! 私のせいで成仏できずにお化けになってしまって」

P「いやいや、俺別にお化けじゃないし。君を助ける前からゾンビではあるけど」

女の子「ぞ、ゾンビ……?」

P「ゾンビって銃で撃たれたりしても死なないだろ? だから俺もあのくらい平気なんだ」

女の子「あ、あの。そんなことを常識のように言われても、私はよくわからないんですけど……」

P「あー、あんまりホラー映画とか見ないタイプか。ほたるさんは」

ほたる「え? どうして私の名前を……」


ガチャリ


ちひろ「失礼します。あ、白菊さん、目が覚めたんですね」

P「君が気を失った時、手にうちの事務所までの地図が握られてたから。とりあえずここまで運んできたんだ」

ちひろ「そこで私が顔を見て、今日のオーディションに参加予定の白菊ほたるさんだと気づいたんです」

ほたる「! そ、そうです。私、アイドルになるためにオーディションを受けようと思って」

ちひろ「今からならギリギリ間に合いますけど……出られます? 一応、身体に異常はないみたいですが」

ほたる「は、はい。出ますっ」

P「おー、やる気だな。それじゃ、頑張ってきてください」

ほたる「はい。……あ、あの。さっきは、助けていただきありがとうございました」

P「どういたしまして。俺は見ての通りピンピンしてるから、心配しなくていいよ。血も止まったし」

ちひろ「血だらけで事務所に来た時はびっくりしましたけど、本当に丈夫な身体ですね」

ほたる「は、はあ……(ほんとにゾンビなんだ……)」

オーディション終了後


P「え? 私をほたるさんのプロデューサーに?」

社長「ああ。彼女には光るものがあるから、うちで頑張ってもらうことにしたんだ」

P「それはいいことですが、私は今までプロデューサーの仕事なんて」

社長「実は、わが社のプロデューサーがひとり他社に引き抜かれてしまってね。新人を雇おうかとも思ったんだが……私は君にティンときた」

社長「君ならきっといいプロデューサーになれる。仕事については千川君がサポートしてくれるから、少しずつ覚えていけばいい」

P「は、はあ。ですが」

社長「もちろん、給料は今より弾むよ」

P「やらせていただきます!」

社長「うむ、いい返事だ」

P「(うちには居候がひとりいるからな。金はできるだけ稼いでおかないと)」

社長「白菊くんにはすでに別室で待ってもらっている。あいさつをしてきたまえ」

P「わかりました」

P「というわけで、今日から君のプロデュースを担当することになった」

P「一緒に頑張っていこう」

ほたる「は、はい。よろしくお願いします」

ほたる「………」

ちひろ「なんだか元気がないですね」

P「何かあった? せっかくオーディションに合格できたのに」

ほたる「あ、その……本当に、これでよかったのかなって」

P「え?」

ほたる「私、すごく運が悪いんです。それで、周囲の人まで不幸に巻き込んでしまって……これまでいくつかのプロダクションに所属していたんですけど、全部倒産してしまって」

P「……マジか」

ちひろ「そういえば、少し前に○○プロダクションが解散になっていましたね」

ほたる「そんな私がアイドルを目指すなんて、わがままなのかなって」

P「………」

P「いや、そんなことはない」

ほたる「え?」

P「君の不幸が周囲を巻きこむのだとしたら、アイドルをやっていようがいまいが同じことだ。迷惑をかける対象が、俺達からそれ以外の誰かに変わるだけ」

P「だったら自分のやりたいようにやればいい。人間なんて、誰だって他人に迷惑かけずには生きていけないんだから」

ちひろ「私もプロデューサーさんがたびたび血まみれで出社してくるので迷惑しています。ごまかすのが大変です」

ほたる「あ……Pさんがゾンビだということは、他の人は知らないんですか」

P「同僚にゾンビがいるような職場で働きたい人間はそういないだろうからな。気味悪がられるのも嫌だし、周りには頭からトマトジュース被るのが好きってことで通してるんだ」

ほたる「それも十分気味悪がられるのでは……」

P「それに、不幸というなら俺だって同じだ。なんせ一度死んでゾンビになったくらいだし。その後も何かと生傷が絶えないし」

ちひろ「なので、今さら運の悪い人がひとり加わったところで、あまり変わりはないと思いますよ」

ほたる「そ、そうでしょうか」

P「あんまり弱気になっちゃだめだ。アイドルをやりたいから、君はここに来たんだろう」

ほたる「………」

ほたる「……夢、なんです。トップアイドルになって、みんなに笑顔を届けたい……」

P「そうか。いい夢じゃないか。俺みたいな男には到底目指せない、立派な目標だ」

P「多少の不幸からなら、俺が守るよ。今日みたいに」

ほたる「……ありがとうございます。私、頑張ります」

P「よし!」

ちひろ「よかったですね」

P「ええ。ここで断られたら俺の給料もげふんげふん」

P「改めて、これからよろしくお願いします」

ほたる「よろしくお願いします!」



ほたる「でも、トラックに撥ねられるのは『多少』の不幸ではないと思います」

P「え、そうなの?」

ちひろ「プロデューサーさん以外にとってはそうです」

その日の夕方


P「ただいまー」

??「おかえりぃー……ふわぁ」

P「喜べこずえ、俺は昇進したぞ!」

こずえ「おおー……」

こずえ「しょうしんって、なぁにー?」

P「アイドルのプロデューサーをやることになって……簡単に言うと、もらえるお金の量が増えるんだ。おいしいものもたくさん食べられるようになるぞ」

こずえ「おいしいもの……こずえ、おいしいもの、すきー」

こずえ「まんかんぜんせきー」

P「うっ……満漢全席とは、なかなか要求がきついな。だがそのうち食わせてやろう、そのうち」

こずえ「えへへー……」

P「(遊佐こずえ、自称11歳。いろいろあって、しばらく前から俺の部屋に住んでいる女の子)」

P「(いわゆる不思議ちゃん系女子だ。顔は申し分なくかわいい)」

P「それでだな。担当することになったほたるさんなんだが、これがまたかわいいんだ。さすが他の事務所でアイドルやってただけあるよ」

こずえ「ふぅん……」

P「まだ13歳だし、これからどんどん身体も成長していくと俺もうれしいなあ」

こずえ「P……へんたいー?」

P「へ、へへ変態ちゃうわ! アイドルとしてボンキュッボンなスタイルは武器になるからそうなってほしいと思っているだけだそれ以外の理由はございません」

こずえ「………」

こずえ「ねぇ……ほたるとこずえ……どっちがかわいいー?」

P「えっ」

こずえ「どっちー……?」

P「いや、タイプも違うし比べられるものでは」

こずえ「じー……」

P「………」

P「こ、こずえ、かな……?」

こずえ「………」


こずえ「ろりこん」

P「ひどい! せっかく空気読んで選んだのに!」

こずえ「えへー……」

P「えへーじゃありません! まったく、どこでそんな言葉覚えてくるんだか」

今日はここまでです
続きは多分明日になると思います

地味に期待

翌朝


テレビ『今日も関東地方は高気圧に覆われ、雲ひとつない青空が一日中見られそうです』

P「……最悪の天気だ」

こずえ「………」

テレビ『夏といえば海! 今年も浜辺ではたくさんの人々が元気に水着姿で泳いでいます!』

こずえ「P……海って、楽しいー?」

P「うん? そうだな……夏の空の下でわいわい泳いだりするのは、まあ普通の人なら楽しいんじゃないか?」

P「こずえも海に行きたいのか」

こずえ「ちょっとだけ……いきたいかも……?」

P「少しは興味があるってことだな。今度室内プールになら連れて行ってやろう」

P「それじゃ、俺は仕事に行ってくるよ。昼ご飯はカレーを温めて食べといてくれ」

こずえ「いってらっしゃいー……」フリフリ

ほたる「きょ、今日はお昼から、新しいプロダクションでの初めてのレッスン……」

ほたる「すー、はー……緊張するけど、頑張らないと……」

ほたる「お、おはようございます……!」


P「zzz」

ほたる「Pさん……寝てる、のかな」

ほたる「パソコンの電源が入ってる……朝から、お仕事頑張っていたんですね」

ほたる「私も……」


ほたる「それにしても、今日もいい天気……」

ほたる「(カーテンを開けると、眩しいくらいの日射しが窓越しに突き刺さります)」

ほたる「(でも、その力強い太陽の光は、引っ込み思案な私の背中を押してくれるような気がしました)」

ほたる「(青空を見ると、心が晴れやかになります)」


P「……ん、んん……」

ほたる「あ、Pさん。起こしちゃいました――」


P「み、みず………みずをくれぇ……おぉ」ヨロヨロ

ほたる「ひ、干からびてる!?」

ほたる「すみませんすみません! 私がカーテンを勝手に開けたせいで」

P「気にするなって。事前に言っておかなかった俺が悪いんだ」

ほたる「……でも、その。本当に、陽の光に弱いんですね」

P「まあ、ゾンビだから」

ほたる「た、大変じゃないですか? 外に出る時とか……」

P「夏は日傘必須だな。じゃないとぶっ倒れる危険がある」

ほたる「なるほど……命がけ、なんですね」

P「といっても、夜になったら再起動するけどね。あははっ」

ほたる「(この人、いろいろと心構えがすごい……)」

ほたる「私も、見習った方が」

ちひろ「いやいや、見習っちゃダメだと思いますよ」

レッスン場


ベテトレ「よし! 今の動きをもう一度通してやるぞ!」

ほたる「は、はいっ」



P「さすが、別のプロダクションにいただけあってダンスは上手いですね」

ちひろ「これなら、即戦力として頑張ってくれそうです」

P「てことは、俺も早いところ仕事を取ってこなきゃいけないってことですよね。プロデューサーの仕事にも慣れないとなあ」

ちひろ「私ができるだけサポートしますから、わからないことがあれば頼ってください」

P「はい。ま、最悪徹夜してでもなんとか頑張ります。ほたるさんの熱意に応えないといけないし」

ちひろ「いい心がけです♪」

ちひろ「ところで前々から思っていたんですけど……プロデューサーさんは、睡眠必要なんですか?」

P「え? 当たり前じゃないですか。眠らずにすむ人間なんていないですよ」

ちひろ「(ゾンビでも眠らなきゃいけないんですね)」

P「初レッスンを頑張ったご褒美に、今日の晩御飯は俺が奢るよ」

ほたる「えっ!? そ、そんな、悪いですよ……レッスンだって、可もなく不可もなくでしたし」

P「でもトレーナーさんは褒めてたぞ? 基礎はしっかりできてるって」

P「親睦を深める意味もこめて、ここは遠慮せずに付き合ってもらえるとうれしい」

ほたる「……わかりました。ありがとうございます」

P「決まりだな。ひとり居候も一緒に連れて行こうと思ってるんだけど、いいかな」

ほたる「……居候?」

その後 ファミレスにて


P「というわけで、うちに住んでる遊佐こずえです」

こずえ「よろしくー……ふわぁ」

ほたる「………」スッ

P「ちょっと待って。無言で携帯取り出して何するつもりだ」

ほたる「ひゃ、119番を」

P「警察は110番だ。あと通報するのもやめてくれ」

P「あらぬことを疑いたくなる気持ちもわかるが、こずえは……そう、親戚の子、というわけでもないんだが。とにかくわけあって一時的に預かっているだけで、君の心配するようなことは何もない」

ほたる「……そうなんですか?」

P「そうなの。だから問題ないの。オーケー?」

ほたる「……わかりました。信じます……」

P「ほっ」

こずえ「?」

P「ファミレスで言うのもあれだけど、好きなもの選んでいいからな」

こずえ「まんかんぜんせきー」

P「ないです」

こずえ「うそつきー……」プクー

P「メニューにある中から好きなものを選んでくれ」

ほたる「えっと、私はオムライスで」

こずえ「こずえはねぇー……はんばーぐがいい……」

P「オムライスにハンバーグか。となると俺はカレーだな」

ほたる「どうしてですか?」

P「全国の小学生男子が好む最強定番メニューがその3つだからだ。多分」

ほたる「多分なんですか……」

P「8割くらいは俺の想像だ」

ほたる「2割がなんなのか気になります」

こずえ「はんばーぐ、さいきょー……」

店員「お待たせしました。オムライスにハンバーグ、カレーライスになります」

3人「いただきます」



P「うん。やっぱりいくつになってもカレーはうまいもんだ」モグモグ

ほたる「オムライス……おいしいです」ハムッ

こずえ「………」ジーー

ほたる「……こずえちゃん?」

こずえ「おむらいす……おいしいー?」

ほたる「あ……えっと、一口食べます?」

こずえ「たべるぅー」

P「こずえ。人から物をもらう時は?」

こずえ「ありがとー、ほたる……」ニコー

ほたる「どういたしまして」

ほたる「(か、かわいい)」

ほたる「こずえちゃんは、何年生なんですか?」

こずえ「……? こずえ、がっこーにはいってないのー」

ほたる「え?」

P「あー、その……それもいろいろと事情があってな」

ほたる「……わかりました。誰にでも、言えないことってありますよね……」

P「ごめんな。こんな怪しい奴がプロデューサーで」

ほたる「い、いえ。そういうつもりで言ったんじゃないんです。Pさんは、私を助けてくれましたから……だから、悪い人じゃないって、信じています」

P「ほたるさん……ありがとう」

こずえ「Pとほたる……なかよしー。えへー」

ほたる「(でも、気になるものは気になっちゃいます)」

ほたる「(Pさんはゾンビで、そのPさんと一緒に住んでいるこずえちゃんも、もしかすると……)」

P「(紆余曲折ありはしたものの、俺はプロデューサーとしての仕事をなんとかこなし、ほたるさんも日々アイドルとしての自分を磨いていった)」

P「(そして本日、ついに初めてのミニライブを迎えることになった……のだが)」

P「まさか移動用の車のタイヤがパンクするとは」

ほたる「すみません……きっと私が乗っていたからこんなことに」

P「君の責任じゃないよ。こういうことは普通にありえる話だ」

ほたる「でも、こんな大事な日に……私、やっとやり直しの一歩目を踏み出せると思ったのに……ぐすっ」

P「泣くな。まだライブに遅れるって決まったわけじゃない」

ほたる「でも、車が」

P「こういう時のために、後部座席にこいつを用意していたんだ」

P「じゃーん」


ほたる「……自転車?」

P「君を後ろに乗せて俺が漕ぐ」

ほたる「無理ですよ。ここから会場まで何キロあると思ってるんですか……」

P「いいからいいから。ほら乗って」

ほたる「あと30分で着かなくちゃいけないのに……」

P「飛ばすからしっかり捕まっててなー」

ほたる「ぐすっ……えっ」


どびゅーーん!!


ほたる「」

P「ゾンビは多少筋肉に無茶言わせても平気だからな! 時速100キロくらいは余裕で出せる!」

ほたる「ちょ、ちょっと、速すぎ……」

P「しかし、女の子を後ろに乗せて自転車走らせるなんて、まるで青春の1ページだな! はははっ」

ほたる「あ、あうあう」

ほたる「(お、お母さんお父さん。私、もうダメかもしれません……)」

ライブ会場


P「ふー、思ったより早く着いたな。というか余裕だったな」

ほたる「」

P「……大丈夫?」

ほたる「……天にも昇る思いでした」

ほたる「(というか、時速50キロの車に乗って間に合う計算だったんですから、100キロも出す必要なかったんじゃ……)」

P「観客の前で歌うのは緊張すると思うけど、いつも通りでいいからな」

ほたる「はい……さっきまでのことに比べれば、たいていのことは普通にこなせちゃう気がします」

P「おー、それは頼もしいな!」

ほたる「(その後のミニライブ。私は恐ろしいほどいつも通りに練習の成果を出すことができました)」

ほたる「(もうなにも怖くない、怖くはない――恐怖は人を強くするんです)」

ほたる「(でも、お客さんからの拍手と歓声を耳にした瞬間は……ほんの少しだけ、泣いちゃいました)」

ほたる「(時速100キロ越えで道路を突き抜けるよりも、ファンの皆さんの声のほうが心を激しく揺らすのだと、私は知りました)」



ほたる「ありがとうございました、Pさん」

P「どういたしまして。じゃあ帰りも自転車で」

ほたる「電車に乗って帰りましょう」

テンポいい

翌日


P「というわけで、ほたるさんの初ライブ成功記念を祝して!」

P「かんぱーい!」←右手にコーラ


ほたる「かんぱーい」←左手にオレンジジュース

こずえ「かんぱーい……」←右手にメロンソーダ

ちひろ「乾杯です」←右手にトマトジュース


ちひろ「ところで、私も打ち上げに参加しちゃってよかったんですか?」

P「何言ってるんですか。アシスタントのちひろさんの力あっての成功ですよ」

ほたる「とっても、助かりました」

ちひろ「そう言ってもらえるとうれしいです」

こずえ「からあげ……おいしいー」モグモグ

P「俺もなんとか、プロデューサーとしてやっていけそうですよ」

ちひろ「頑張ってると思いますよ。そのうち私の助けもいらなくなるのかも」

P「それは困るなあ。ちひろさん美人だから、近くにいてくれると俺もうれしいのに」

ちひろ「うふふ、セクハラですよ? それ」

P「ですかね。ははっ」



ほたる「こずえちゃん……こっちのフライドポテトも食べますか?」

こずえ「たべるぅー……」

こずえ「ほたる、ありがとー」モキュモキュ

ほたる「(かわいい)」

ほたる「そういえば……ちひろさんはいつからPさんがゾンビだと?」

ちひろ「もう結構前になりますねー。ちょっといろいろあって」

ほたる「いろいろ?」

ちひろ「ええ。実はプロデューサーさんをゾンビにしたのは私なんです」

ほたる「……ええっ!? そうなんですか!」

ちひろ「冗談です♪」

ほたる「がくっ……び、びっくりしました」

ちひろ「うふふ、ちょっとからかっちゃいました」


こずえ「P、あーん……」

P「ちょ、一切れが大きすぎて口に入らなうごごご」


ほたる「(……そういえば、Pさんはどうしてゾンビになったんでしょう?)」

ほたる「(前に『一度死んでゾンビになった』と言っていたから、もともと人間だったのは間違いないと思うんですけど……)」

ほたる「(でも、死んでしまった時のことを聞くのは、なんだか失礼かも……辛い話をさせてしまったら、申し訳ないし)」

P「ん? ほたるさん、俺の顔に何かついてる?」

ほたる「……いえ、なんでもありません」

ほたる「(ファミレスでの打ち上げ中にする話じゃない、ですよね)」

その後、月日は流れて


P「(俺がプロデューサーになってから、2ヶ月が経過した)」

P「(ほたるさんの仕事はだんだんと軌道に乗り始めている……気がする。俺も少しずつ自信がついてきた)」

P「(それもこれも、彼女に初めからアイドルとしての経験があったおかげだろう。社長はそれを見越して、新人プロデューサーの俺に彼女を担当させたのかもしれない)」

P「給料も上がったことだし、こずえに新しい服でも買ってあげるかな」

P「あ、ほたるさん。そっちに1匹いったぞ」カチャカチャ

ほたる「は、はいっ……えいっ。倒しました」ガチャガチャ

P「ナイス! だいぶこのゾンビ討伐ゲームに慣れてきたみたいだな」

ほたる「だんだん、うまくなってきていると自分でも思います」

P「コツをつかむとゾンビを素早く倒せるようになるからな。撃ちぬく爽快感がたまらない」

ほたる「……でもこれ、共食いなんじゃ」ボソッ

P「ん?」

ほたる「な、なんでもないです」ブンブン

ほたる「と、ところでPさん。このあたりに、教会があることは知っていますか?」

P「教会? あんまり宗教には興味ないからなあ」

ほたる「そこでお祈りを捧げると、運気が上昇するっていう噂があるそうです」

P「へえ。最近流行りのパワースポットみたいなものか」

ほたる「教会なので、パワースポットとは少し違うような気もしますけど」

P「ひょっとして、行ってみたいの?」

ほたる「あ……はい。少しでも不幸体質の改善につながるなら。……Pさんも、どうですか?」

P「そうだなあ。ほたるさんが行くって言うなら、せっかくだしついて行こうか。俺も運は悪い方だし」

ほたる「よかった……Pさんが一緒なら、なんだか安心できます」ニコ

P「………」

ほたる「? どうかしましたか」

P「いや。最近ほたるさん、よく笑うようになったなと思って」

ほたる「え……そう、ですか?」

P「ああ、間違いない。やっぱり仕事もファンも徐々に増えてるからかな」

ほたる「……かもしれません。ふふっ」



ほたる「(のんきに笑う私は、いつの間にかPさんがゾンビだという事実を違和感なく受け入れることができていることに気づきました)」

ほたる「(姿かたちは普通の人と変わらないし、たまに力持ちなところを見せたり、トラブルが起きてお仕事に間に合わない時に自転車と猛スピードで飛ばすくらいしか、常識はずれなことをしないからでしょうか)」

ほたる「(近くにゾンビなプロデューサーがいる毎日が、当たり前になっていました)」

ほたる「(たまに萎びている姿を見る時だけは、ホラー映画みたいでいまだに少し慣れませんけど)」

ほたる「(けれど、同時に私はあることを知らなかったのです)」

ほたる「(非日常が日常になったころに、また新たな非日常がやってくるということを)」

夕方 教会にて


P「こんにちはー」

ほたる「あの……私達、お祈りをしに来たんですけど……」


??「ようこそおいでくださいました」

ほたる「(わあ、きれいな金髪……外国の人かな)」

??「私は、この教会のシスター、クラリスと申します」

クラリス「貴方がたの主への祈りを、歓迎いたします」

P「……教会に来るのは初めてだけど、本格的だなあ」

ほたる「自然と背筋が伸びてしまいます。ちゃ、ちゃんとお祈りしないと」

クラリス「固くならずとも大丈夫ですよ。大切なのは気持ちですから」ニッコリ

ほたる「は、はいっ」

P「優しそうな人でよかったな」

ほたる「そうですね……」

クラリス「では、祈りの手順を説明します……が、その前に」


クラリス「迷える魂を、あるべき場所へ導かなければなりません」スッ

ほたる「……え?」

ほたる「(クラリスさんがおもむろに胸につけていたブローチに手を伸ばした、その瞬間でした)」



P「あばばばばば!!」ガクガク

ほたる「Pさん!? どうしたんですか、そんなに震えて!」

P「か、からだがあつっつつつつ」

ほたる「い、いったいなにが……クラリスさん?」


クラリス「言葉に想いをこめることで、それらは浄化の力を得ることができます」

ほたる「(歌が、聞こえてきます)」

ほたる「(透き通った声。けれど、同時に力強い歌声。歌っているのは、クラリスさんでした)」

クラリス「私の聖歌には、ゾンビの彷徨う魂を清める作用があるのです」

ほたる「き、清めるって……もしかして、死なせちゃうってことですか!?」

P「あびびびび!!」

クラリス「私は、あるべきものをあるべき形に戻すだけです。尊き人間の魂を、汚さないためにも」

ほたる「た、確かにゾンビって、あんまりよくないイメージがありますけど……で、でもこの人は、Pさんは――」


ドゴォッ!


ほたる「(私が言葉を言い終える前に、教会の真ん中に突然風が巻き起こりました)」

クラリス「これは……まさか」

P「いててて……あ、身体が元に戻った」

ほたる「(風がやんで、私は閉じていた目をゆっくりと開きます)」

ほたる「(そこで目にしたのは)」




こずえ「だめー……Pは、じょうかさせない」

ほたる「こ、こずえちゃん? どうしてこずえちゃんがここに」

クラリス「現れましたか、ネクロマンサー。彼をゾンビにしたのは貴方ですね?」

こずえ「そうだよー……」

ほたる「え? え?」

ほたる「あの、何がどうなって……ネクロマンサーっていったい」

P「……ネクロマンサーっていうのは、死霊使いのことだ。俺は死にかけてたところをこずえに助けられて、ゾンビになったんだ」

P「でもそれって聖職者的にはよくないことみたいだな。だからあのシスターさんは俺の魂をあの世に導こうとしているらしい」

ほたる「………」


ほたる「すみません、展開についていけません……!」

クラリス「死者を無理やり生きながらえさせるのは、主の理に対する冒涜です。そうは思いませんか、ネクロマンサー」

こずえ「ふわぁ……Pがいないと、こずえこまるぅー。ほたるもこまるぅー」

ほたる「え、私……?」

クラリス「ほたるさん、と言いましたか……見たところ、貴方は私と同じく普通の人間のようですね」

ほたる「は、はい……(歌でゾンビ退治をするシスターさんって、普通の人間なんでしょうか)」

クラリス「貴方は、そこの彼がゾンビであるとご存知だったのですか?」

ほたる「えっと、その。はい、知っていました。初めて会った時から、ずっと」

クラリス「初めて会った時からですか……なるほど。ですがほたるさん。ゾンビやアンデッドといった存在は、本来いつまでも現世に留まるべき存在ではないのですわ」

ほたる「……そうなんですか?」

クラリス「死は、誰にでもいずれ訪れるものです。死者の魂は、清らかなまま新たな世界へと旅立つ……それが、人々の作り上げてきた、あるべき形です」

クラリス「私も、心苦しいのは事実です。ですが、例外を作ってしまうのは、よくないことだと考えます」

ほたる「………」

ほたる「(クラリスさんのお話は、半分くらい理解できて、そして半分くらい納得できるものでした)」

ほたる「(もし、死んだ人が生き返る方法があって、それが世界中に知れ渡ったとしたら……多分だけど、よくないことになってしまいます)」

こずえ「………」

P「………」


ほたる「(でも……ここで私が頷いてしまったら、全部が終わってしまう気がします)」

ほたる「(Pさんもこずえちゃんもクラリスさんも、私をじっと見つめていて……この場で一番弱いはずの私に、大事なものが全部かかってしまっているような、そんな錯覚を覚えてしまいます)」

ほたる「(そう思うと、もう何が何だかわからなくなってきて。しっちゃかめっちゃかな気分になってきて)」

ほたる「(……もう、滅茶苦茶やるしかないと、腹をくくりました)」


ほたる「あのっ! 私、アイドルなんです!」

クラリス「アイドル……?」

ほたる「歌って、踊って、皆さんに笑顔を届ける素敵なお仕事です!」

ほたる「不幸体質な私を引っ張ってくれて、アイドルとして輝けるようにしてくれたのは、Pさんなんです」

クラリス「輝ける……」

ほたる「それを今から証明するために……私、歌います……!」


ほたる「(正直、やけでした)」

ほたる「(ただただ、Pさんにいなくなってほしくない。その一心で、私は教会の中で声を張り上げました)」

ほたる「(マイクもない。衣装もない。ステージだってありません)」

ほたる「(でも、お客さんはいます。だから私は、一生懸命歌います)」

ほたる「(元気よく、笑顔で歌います。伝えたいことが、あるからです)」


クラリス「………」

こずえ「ほたる……きれいー」

P「……これは、不幸体質なんて吹き飛ばすくらいだな」



ほたる「(1曲歌い終えて、私は深呼吸してからクラリスさんに向き直ります)」

ほたる「……多少の不幸は、Pさんが無理やり跳ね飛ばしてくれます」

ほたる「ゾンビになってまでこんなに頑張る人がいるんです。私だって、運の悪さに負けてたまるかって思えます」

ほたる「私の夢は、たくさんの人を笑顔にして、幸せを届けられるようなアイドルになること……まだまだ遠い夢物語ですけど、Pさんとなら頑張れるんです」

ほたる「私は、ゾンビなプロデューサーがとても大切なんです……!」


ほたる「(言いたいことを言い終えたら、顔が真っ赤になっていることに気づきました)」

ほたる「(勢いに任せて、恥ずかしいことを言ってしまったような気もします)」

クラリス「………」

クラリス「……ゾンビという存在は、世界に悪影響を及ぼす可能性があります」

P「………」

クラリス「ですが……そのマイナス面を補えるほどのプラスを、貴方はほたるさんに与えているのかもしれません」

ほたる「!」コクコク

クラリス「シスターは、多くの人々に救いを与えるべく働いています」

クラリス「ですが……多くの人々の中には、目の前のたったひとりの人間も含まれていますわ」

クラリス「……今回は、貴方の魂はそのままにしておきます」

P「……あ、ありがとう、ございます?」

こずえ「うれしいー……こずえ、Pといっしょにおててつなぐぅー」

ほたる「よ、よかったです……!」


クラリス「ただし、ひとつだけ条件があります」

P「……条件?」

クラリス「ええ。それは――」

1週間後


クラリス「というわけで、アイドルを目指すことになりました。皆さん、よろしくお願いしますね」

ちひろ「はい、よろしくお願いします♪」


P「まさか退魔シスターさんをプロデュースすることになるとは……」

P「確かに俺の様子を監視するとなれば、アイドルになるのがいろいろ都合がいいけど」

クラリス「教会の資金繰りの助けにもなりますし、一石二鳥ですわ。歌には自信がありますので、任せてください」

P「まあ、こうなってしまったものは仕方ない。全力でプロデュースします」

P「てことで、クラリスさんのほうはいいんだけど……なんでお前までここにいるんだ?」

こずえ「こずえもあいどるやるぅー」

P「どうして」

こずえ「……たのしそうだからー?」

P「なぜそこで首をかしげるんだ」

こずえ「えへー」

P「だから笑えばすべて許されると思うなよ」

クラリス「きっと心配なのでしょう。私がまた、P様に痛い思いをさせたりしないかと」

クラリス「今のところ、そのつもりはないのですけれど」

P「それは安心できますね……って、P『様』?」

クラリス「今日から貴方様は私のプロデューサーですので、敬意をもってそうお呼びしますわ」ニッコリ

P「なるほど。はは、なんだかむずがゆいなあ」テレテレ

こずえ「………」クイクイ

P「ん、どうしたこずえ」

こずえ「へんたいー」ムスー

P「なんで!?」

ほたる「………」

ほたる「お母さん、お父さん。私のいる事務所は、とてもとてもとても個性派ぞろいです」

ほたる「プロデューサーさんはゾンビで、アイドル仲間の人達はネクロマンサーさんと退魔シスターさんです」

ほたる「頭がおかしくなったわけじゃないです。全部本当です」

ほたる「でも、私は元気です。皆さんいい人で、私に勇気を与えてくれますから」

ほたる「これだけめちゃくちゃな人達に囲まれていたら、不幸なんてきっと些細な問題になっちゃいます」

ほたる「だから私は……笑顔で頑張れます」

ちひろ「私もアシスタントとして頑張らないとですねー」チューチュー

ほたる「ちひろさん、トマトジュース好きなんですね。いつも飲んでいますし」

ちひろ「ええ。吸血鬼なので」

ほたる「なるほど、吸血鬼だからだったんですね……」

ほたる「………」


ほたる「え?」


おしまい

終わりです。お付き合いいただきありがとうございました
最近テレビでアニメを見ているとハルナちゃんがめっちゃCMで宣伝していて懐かしくなったのでしゃーなしで書きました
ゾンビなのに小梅が出ていない件については仕様です

乙カレーション

ほたるP人外多いな……多くない?

おつ

乙です

小梅「ぞ…ゾンビ…いいなぁ…」

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