夏海「兄ちゃん!」卓「......」 (65)
ひんやりとした分厚そうな車窓は、ここ数十分間壊れたテレビのように、田舎の風景とトンネルの暗闇を繰り返していた。
暗闇に写し出される自分の顔には、退屈と疲労の色がありありと浮かんでいた。
夏海「なーんで、こまちゃんはこんなときに限って熱だすかなぁ...」
思わず姉への文句を一人呟いてしまう。
夏海「まあ、一人ででも行くって言ったのはウチなんだけど...」
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夏休みの序盤、姉と二人新幹線に乗って、上京している兄を訪ねる予定だったのだ。
からかいがいのある姉がいないと、ここまで暇になってしまうのか。
夏海「はぁ、なんか眠くなってきたし...少し寝よう、かな...」
代わり映えのしない風景に別れを告げ、体を包む睡魔に身を任せる...
夏海「ここが東京駅か...人が多すぎて気持ち悪いなぁ」
旅行用にと持たされたカバンの肩掛けが、左肩にずっしりと食い込む。早いところ兄との待ち合わせ場所に向かい、荷物の重さから解放されたい。
夏海「改札って、どこだよ...?」
荷物を引きずり引きずり歩くこと数分、やっと探していた改札口へと到着した。
卓「.........」
夏海「うわっ、兄ちゃんいつの間に後ろに回り込んだんだよ!?」
数か月ぶりの兄は、相変わらず影が薄いのか、存在感を消しているのかは定かではないが、気づいたら背後に立っていた。
夏海「兄ちゃん元気にしてた?ウチがいなくて寂しくない?」
卓「......」
夏海「ちょ、冗談で言ったのに、そう言う反応されると恥ずかしいじゃん!」
夏海「あ、兄ちゃん荷物持ってくれるの?ありがと、重かったんだよね~」
卓「...。」
夏海「強がらなくて良いって、重いんでしょ?」
卓「......」
兄が歩き出す。
どうやら、ここからさらに乗り換えて家まで向かうらしい。
夏海「に、兄ちゃん!この電車ずっと地下走ってるんだけど!もしかして、噂に聞く地下鉄ってやつ?」
卓「......」
夏海「そっかー、これが地下鉄なのか~...なんかつまんないなぁ」
と言いつつも、暗闇に写し出される自分の顔は、何故かとても楽しそうだった。
夏海「ここが兄ちゃんの家?」
卓「......」
夏海「結構年季が入ってるのな...」
どうやらこの薄汚れたアパートは、父の親戚が所有しているものらしい。そのため、兄は格安で入居させてもらっているのだ。
夏海「お、お邪魔しま~す」
兄とは言え、男が一人暮らししている部屋だ、何となく身構えてしまう。
夏海「へえ、思ったよりも広いじゃん!」
何となく、似たような部屋を何かで見た覚えがある。
多分、前に兄と一緒に観たアニメで、主人公の男とヒロインが同棲するアパートの部屋だ。確か、最後の方で娘が死ぬんだっけ...泣いたなぁ。
そのアパートと、年季の入り方と言い、部屋の広さと言い、そっくりに見える。
夏海「それにしても、随分綺麗にしてるんだね」
流石、兄と言うべきか、部屋は掃除が行き届き、整頓されていた。
卓「......」
夏海「あ、お茶いれてくれるんだ、ここに座っておけば良いのね」
昔ながらのちゃぶ台が、何となく気持ちを落ち着かせる。
夏海「兄ちゃ~ん、テレビつけるよ」
無言は了承と受けとる。
夏海「すっげー、こんなにチャンネルあるんだ!うちの倍はあるのかな...」
卓「......」
夏海「あ、コーラだ!兄ちゃんありがと!」
兄と自然に向かい合う形になる。
夏海「兄ちゃん、少し大人っぽくなった?」
卓「......?」
夏海「やっぱり一人暮らしすると、大人になるんかな」
オレンジに染められた部屋には、ニュースキャスターの平淡な声と、蝉の音が響いていた。
夜ご飯は、兄の手作り料理だった。どうやら張り切って作ってくれたらしく、おかずの品数が多い。
夏海「これ、全部兄ちゃんが作ったの?」
卓「......」
夏海「相変わらず家事は完璧なんだね、このハンバーグめっちゃ美味しいよ」
卓「......!」
ここのところ、暑さでバテ気味だったのだが、そんなことが嘘のように食が進む。
夏海「これは、このみちゃんが嫁に欲しいって言うのもわかるよな~」
卓「......」
夏海「え?嫁に入るつもりはないって?うん、流石に本気では言ってないでしょ、兄ちゃん男だし」
食べ終わると、無言で兄が食器を洗い始める。手持ち無沙汰で何となく気まずい。
夏海「ねえ兄ちゃん、洗うの手伝おうか?」
卓「......」
すっと、布巾を差し出される。
夏海「これで水を拭き取れば良いのね、夏海ちゃんに任せなさい!」
流石に、ここで皿を割るようなベタなことはしない。
夏海「ここって、お風呂あるの?」
一日移動してたためか、何となく汗臭い気がする。長風呂派の自分にとっては、風呂の有無は死活問題になりうる。
卓「......」
夏海「わかった、湯船にお湯張ってくれば良いのね!」
家のお風呂と比べると半分ほどの大きさしかないが、湯船はちゃんとあった。やはりそれなりに綺麗にしているようで、一安心。
夏海「この大きさだと、結構すぐに一杯になりそうかな」
蛇口で調節しながら、適温のお湯にする。暑いこの季節は、ぬるめのお湯で長風呂するのが気持ち良い。あと少しの辛抱だ。
部屋に戻ると、兄が梨を剥いていた。
夏海「うおー梨じゃん!てか兄ちゃん剥くの速っ!!」
卓「...。」
夏海「じゃあいただきまーす」
口に一かけら放り込むと、シャクシャクとした果実から、清涼感のある甘さが溢れ出す。粒々とした感触を残しながら、梨が口の中から消えて行く。
夏海「それにしても、ちょっと時期早くない?そうでもないかな...」
卓「......」
夏海「あ~、細かいことは気にするなって?わかったよ」
夏海「そう言えば、ウチの分の布団はあるの?」
卓「......」
夏海「え、兄ちゃん畳でそのまま寝るの?」
卓「......」
夏海「うーん、流石に悪い気がするな~。てか、姉ちゃん来てたらどうするつもりだったの?」
卓「......」
夏海「ああ、ウチと姉ちゃんは同じ敷き布団で寝かせるつもりだったのね」
卓「......」
夏海「じゃあ、兄ちゃんとウチで敷き布団使えば良いだけじゃん」
卓「......」
少し考えるような仕草をすると、兄は静かに頷いた。まさかこの年になってまで、兄と布団を共有することになるとは思わなかったが...
夏海「ウチお風呂入ってくるね!」
卓「......」
夏海「はふぅ...」
ちゃぷん...と湯船に浸かると、自然にため息が漏れた。狭いために脚は伸ばせないが、許容範囲だ。
夏海「はぁぁ~出汁がでるぅ...」
夏海「でもこの窮屈さだと、あんまり長くは浸かれないかな...」
夏海「兄ちゃん上がった~、ドライヤー借りるよ」
お風呂は好きだけど、髪を乾かすのは苦手...と言うよりは、ただ単に面倒くさい。
夏海「あ、そうだ!ねぇ兄ちゃ~ん、ウチの髪の毛乾かして~」
卓「......」
やれやれと言った感じの仕草をしながらも、引き受けてくれる辺りに、昔からの兄を感じる。英語は教えてくれなかったが...
夏海「昔はよくこうやって、髪の毛乾かして貰ってたよね~。いっつも姉ちゃんと、兄ちゃんの取り合いになったっけ」
卓「......」
期待
この雰囲気ほんと好き
やっぱり越谷家好きだわ
いや、今こまちゃん居らんけども
あからさまでなくともにじみ出るブラコン力
キモ豚ってあの程度の描写でブラコンブラコン喚き散らすからキモ豚なんだよね
>>19
くっさ
夏海「布団敷くから、寝てて良いって?うん、じゃあそうしよっかな~」
まだ時計の針は9時前さしている。普段ならあと1時間は起きていられるが、移動疲れだろうか。
卓「......」
夏海「うん、歯磨きしてくるね...」
油断をするとまぶたがくっついてしまいそうだが、どうにか歯を磨き終える。
洗面所から戻ると、兄が布団を敷き終えたところだった。
夏海「おやすみ、兄ちゃん...」
......
夏海「うーん...ふぁぁぁ」
夏海「あれ、ここどこだっけ...あ、そうか、兄ちゃんの家に泊まってるんだった」
横を見ると、既に兄の姿はなかった。その代わりに、台所からコツコツと包丁の音が聞こえてくる。
夏海「兄ちゃーん、おはよう」
卓「......」
夏海「うん、わかった。布団畳んで、机出せば良いのね~」
兄が作った朝御飯は、実にバランスの良いものだった。白ご飯に焼き鮭、お味噌汁におひたし。
夏海「兄ちゃん、毎日ちゃんと朝御飯作ってるの?」
卓「......」
夏海「あ~、やっぱりウチが来てるから特別なんだ」
卓「......」
夏海「兄ちゃんありがと」
もちろんお味噌汁にはプチトマトが入っている。なんとも言えない酸味が口に広がる。焼き鮭は、もちろん皮まで食べる。こんなパリパリしていて、美味しい皮を残すのは、姉くらいなものだろう。
夏海「今日、ウチはひか姉と遊びにいくけど、兄ちゃんは部活だっけ?」
卓「......」
兄は高校で軽音部に入っているらしい。確かに実家でも、エレキギターを弾いていることはあったが、本格的にバンドを組んでいるとは、兄の性格を考えると意外だ。
夏海「兄ちゃん、ライブとかやるの?」
卓「......」
夏海「まだわからないか~、まあそうだよね」
卓「......」
夏海「え?文化祭で演奏するかもしれないの?」
卓「......」
夏海「めっちゃ見てみたいんだけど...兄ちゃんが人前で...へ、へ、ヘッドロックしてるところ」
卓「...?」
夏海「ヘッドロックではないよな...うん。プロレスではないもんね」
......
ひかげ「よう夏海!久々じゃん」
夏海「おーひか姉...えーと、そちらのお姉さんは?」
ひかげ「ああ、こいつは私の友達の春風だ」
春風「はじめまして、ひかげちゃんとルームシェアしてます、春風です」
夏海「はじめまして、夏海です!」
春風「よろしくね~」
夏海「よろしくお願いしまーす!」
ひかげ「じゃ、行こうか」
夏海「今日はどこに連れていってくれるの?」
ひかげ「そうだな、とりあえず服でも見に行くか?東京の服屋はすごいぞ~」
夏海「服か~、母ちゃんからお小遣い貰ってるから多少はかえるかな...?」
春風「よーし、私が夏海ちゃんの洋服選んじゃおうかな!」
ひかげ「ふっふっふっ、それじゃあ...渋谷に行っちゃおうかな」
夏海「渋谷...?どこそれ」
電車に揺られること十数分。大勢の乗客と共に吐き出された駅は、やはり忙しなく様々な人が動き続けていた。
夏海「うわ~、やっぱりすごい人だな...」
ひかげ「だろ~、でも、スクランブル交差点はもっとヤバイぞ?」
夏海「卵料理でも食べるの?」
ひかげ「そうそう、あの半熟具合がたまらないよな~...って乗っちまったじゃねーか!交差点だよ!」
春風「ふふっ、仲良しなんだね」
ひかげ「もう!行くぞ!」
少し照れたようにそっぽを向きながら、ひかげが歩き出す。置いて行かれてはたまらない、こちらもすぐに追いかける。
夏海「待ってよ、はぐれたら大変だし、ひか姉手貸して!」
ひか姉「え~、暑いから嫌なんだけど...」
渋々と言った感じで、ひかげが手を差し出す。
夏海「にひひ~、手あせ攻撃~!」
ひかげ「ってやめろよ!」
夏海「冗談、冗談!そんなにべたべたじゃないっしょ?」
ひかげ「む、確かに...」
春風「じゃあ私はこっちの手を握っちゃおうかな~」
ひかげ「両手を塞がれただと!?」
ひかげに半ば引っ張られながら、最初の目的地らしきお店に到着する。
夏海「う、うぇごーぉ?」
ひかげ「WEGOな」
春風「まあ、安めだしここで良いかなって」
夏海「うん、ウチは何でも大丈夫だよ」
ひかげ「じゃ、適当に見ようぜ~」
春風「夏海ちゃん、こっちこっち~」
夏海「はーい」
今まで、洋服を自分で選んだことはほとんどない。色々な人からのお下がりだったり、母親が適当に選んだものを着てのだ。
春風「うーん、やっぱり夏海ちゃんはショーパンとかの方が好きなのかな?」
夏海「いやー、動きやすれば何でも大丈夫っすよ」
正直な話、自分の好みもよくわからない。完全に人任せだ。
ただ、前に着させられたような、フリフリな感じは勘弁して欲しい。
春風「夏海ちゃん!こんな感じどう?試着してみて~」
夏海「らじゃーっす」
言われるがままに試着室に入る。試着室に入ったのも初めかもしれない。
夏海「へえ、大きい鏡だな~」
春風「夏海ちゃん、前で待ってるから着れたら教えてね!」
夏海「はーい」
夏海「うん、こんなもんか~」
春風「着れた~?」
夏海「着れました!」
春風「うん、合ってる合ってる。良い感じじゃない?」
夏海「そうっすか?」
ひかげ「おおー、東京っぽいじゃん」
夏海「これって東京っぽいのか...?」
春風「どうする?買う?」
夏海「買えない値段ではないし、買っちゃおうかな~」
春風「気に入ってもらえて良かったよ~」
会計を済ましてお店を出ると、既にお昼過ぎの時間になっていた。
ひかげ「昼ご飯どうする?」
春風「夏海ちゃんなに食べたい~?」
夏海「うーん...何があるんすか?」
春風「何でもあるよ?」
ひかげ「適当に歩きながら決めるか~」
春風「そうだね、良さそうなところに入ろっか」
そうして、人混みの町を歩き始める。
夏海「ねえ、ひか姉...」
ひかげ「ん、なんだ?」
夏海「東京ってめちゃくちゃ暑くない?」
ひかげ「あー、そうだなぁ...地元よりは全然暑いかも」
春風「アスファルトで熱が反射してるんだよね~」
夏海「うへぇ...」
ひかげ「お、このお店良さそうじゃん、入らない?」
夏海「夏海ちゃんは、涼めれば何でもいいで~す...」
春風「パスタのお店だね、美味しそう」
店員「3名様ですね、こちらへどうぞ」
ひかげ「どーもどーも」
ランチの時間はとうに過ぎているが、店内は比較的混んでいた。
夏海「ふぃ~、なに食べよっかな」
ひかげ「私は明太子スパゲッティだな!一目見てこれに決めたんだ!」
春風「私はこの冷製パスタって言うのにしようかな」
夏海「ウチもそれで!」
ひかげ「ピンポーンっと」
春風「ふふふっ相変わらず口に出すのが癖なのね」
パスタを食べ終わって、食後のコーヒーを飲んでいると、春風が口を開いた。
春風「ねえ夏海ちゃん、地元でのひかげちゃんのお話とか聞かせて?」
ひかげ「そんなに喋ることないだろ~」
夏海「そうっすね~...」
夏海「そうだ、ひか姉と一緒に亀の甲羅干しの物真似したことありますよ!」
ひかげ「ちょっおま...」
春風「甲羅干し?」
夏海「いや~訳があってですね...」
ひかげの話から始まったトークは、しばらくの間続いた。
気がつくとあっという間に2時間ほどがたっていた。
夏海「そろそろ帰らないとかな~」
ひかげ「お、そうか、じゃあ途中まで送っていくな~」
夏海「うん、ありがと」
先程よりも少しだけ過ごしやすくなったような道を、3人で戻る。
夏海「人の多さは変わらないんだねぇ」
ひかげ「まあ深夜にでもならないとな」
春風「夏海ちゃん、また今度遊ぼうね」
夏海「はい、遊びたいっす」
ひかげ「春風も今度うちに泊まりに来ればいいんじゃない?何もないけど」
夏海「それいいね!今度是非来てくださいよ」
春風「うん、行きたいな!」
ひかげ「じゃあ、私らはここら辺で、また明日な」
夏海「うん、東京駅の○○改札で良いんだよね」
ひかげ「そうだな」
春風「ばいばーい!」
二人に手を降りながら改札を通る。さて、帰り道は覚えているだろうか。
夏海「ふぃー、どうにか帰ってこれた...」
何回か電車を間違えそうになりながらも、どうにか最寄り駅までたどり着き、兄のアパートまで戻ってくることができた。
夏海「兄ちゃん、ただいま~...ん?」
部屋に入ると、兄のではない小さめの革靴が視界に入った。
女「卓の妹さんよね?初めまして!」
夏海「あ、どうも」
卓「......」
兄の知り合いだろうか、兄の通っている高校のエンブレムが制服に見える辺り、恐らく同級生...または先輩なのだろう。
女「ごめんね、お邪魔しちゃってて。えーと、夏海ちゃんだっけ?卓の妹さんだけあって、可愛いじゃない!ふふふ」
卓「......」
夏海「えと、兄ちゃんがお世話になってます」
女「あはは!ご丁寧にど~も。あ、自己紹介がまだだったわね...」
女「私は...ふふっ、卓の彼女をやってます、若瀬いずみって言います、いずみって呼んでね」
卓「......!?!?」
夏海「ふぇ!?」
気づいたら回れ右をして、外に出てしまっていた。心拍数が上がり、頭が暑くなるのを感じる。
夏海「に、兄ちゃんに...かの、じょ...?」
なんで自分はここまで動揺しているのだろう。考えてみれば、兄は格好良い方だ。彼女の一人や二人当然ではないか...
夏海「はぁーふぅー」
深呼吸をして、笑顔でまた部屋に入る。
夏海「えっと、兄ちゃんの妹の夏海です!これからも兄ちゃんをよろしくお願いします!」
うん、これで良い。それにしても、随分と美人な彼女をつくったものだ。蛍に匹敵するほどの輝きがあるように感じる。
卓「......」
いずみ「うん、まかせて!あと、今日は晩御飯もごちそうになるから、夏海ちゃんよろしくね」
夏海「はい!」
いずみ「と言っても、今日は私が作るんだけどね~」
夏海「何か手伝いますか?」
いずみ「ううん、もうほとんど出来上がってるから大丈夫よ」
炊飯器「ピローン」
卓「......」
いずみ「じゃあよそっしちゃいましょ」
いずみが作ったものは、カレーだった。色々な種類の夏野菜がゴロゴロと入っていて、見ているだけで食欲をそそる。
いずみ「召し上がれ~」
夏海「いただきます」
卓「......」
先ずはルーだけ口へ運ぶ。口に広がるのは、トマトの酸味。その後で、舌を辛さの刺激が駆け抜ける。ただ酸っぱくて辛いだけではない、色々な野菜のエキスと、スパイス、豚肉の旨味がうまく絡み合い、カレーとは思えないほどの深い味を出している。
夏海「美味しい...」
いずみ「それは良かった♪辛さは大丈夫?」
夏海「はい、ちょうどいいです!」
料理もできるなんて、完敗だ...別に勝負をしているわけではないが。
特に言葉もなく、黙々と皆食べ続ける。普段はそこまで食べない卓も、今日は3回ほどおかわりをしていた。
夏海「ごちそうさまでした」
卓「......」
いずみ「うん、いっぱい食べてくれて嬉しいわ」
卓「......」
いずみ「そうね、そろそろ帰ろうかしら」
夏海「あ、えーと...」
いずみ「あ、そうだ夏海ちゃん」
夏海「なんですか?」
いずみ「冗談だからね?」
夏海「何がですか?」
いずみ「私が、卓の彼女だって言うこと・」
夏海「......へ?」
思わず兄の方を振り返ると、兄は無言でうんうんと頷いていた。
夏海「なんで嘘つくんですかぁ~...」
何故かはわからないが、安心で体の力が抜ける。
いずみ「なんか面白いじゃない?」
夏海「面白くないっすよ...」
本当に面白くない。そもそも兄も口裏を合わせていたのだろうか。そうだとしたら、眼鏡を取り上げなければならないだろう。
いずみ「じゃ、卓と夏海ちゃん、ばいばーい!」
いずみは元気よく玄関を飛び出していってしまった。なんと言うか、色々と勢いのある人物だ。
夏海「ねえ兄ちゃん...」
卓「...?」
夏海「ウチがなんで怒ってるかわかるよね?」
卓「......」
夏海「なーんで嘘ついたのかなぁ?」
卓「......!」
スッと眼鏡を取り上げて、自分の頭の上にのせる。ちなみに兄は、相当視力が悪いらしい。
これで身動きが取れないであろう。
夏海「許して欲しかったら、今日一日歩いて疲れた、ウチの脚をマッサージするんだね!」
そう言って、畳の上にうつ伏せで寝る。
夏海「はーやーくー」
卓「......」
兄は諦めたように跪くと、脚のマッサージを始めた。兄にマッサージされたのは初めてだが、母親がしてもらっているのを見たことがある。
夏海「んっくぅ...兄ちゃん上手いねぇ...」
本当に万能な兄だ、自分の脚が解れていくのを感じる。
夏海「いいよぉ、そこ気持ち良い...んふぅ...」
数分に渡って、マッサージは続いた。終わる頃には、脚に心地良い余韻が残っていた。
夏海「あ、約束だし眼鏡返すね、ほい」
卓「......」
夏海「ってなんで頭撫でるの!?」
卓「......」
夏海「嘘ついてごめんって...うん、もう良いよ」
らきすたのキャラなのね
卓「......」
夏海「うーん、いや別に背中までは流して貰わなくていいかな」
卓「......」
夏海「いや、別に兄ちゃんが嫌なんじゃなくて、ここのお風呂狭いからさ?兄ちゃんが家に帰ってきたとき、ウチの背中よろしくね!」
卓「......」
あれ、何故か恥ずかしい約束をしてしまった気はするが、キリっとした顔で親指を立てる兄を見たら、馬鹿馬鹿しくなってどうでもよくなった。
シャワーを浴び、今日は自分で髪を乾かす。ブラッシングは適当。
夏海「兄ちゃん、明日は東京駅まで送ってくれるんだよね」
卓「......」
夏海「ひか姉とは東京駅で待ち合わせだから」
卓「......」
夏海「そうだね、明日は朝早いしもう寝よっか」
卓「......」
夏海「兄ちゃんおやすみ...」
兄の肩に寄り添うようにして目を瞑る。今日くらいは甘えてもバチは当たるまい...
>>45
名前だけ借りてます...
バレるとは思わなかったのん
まあググれば出てくるわな
容姿はあんな感じだと思っていただいても大丈夫ですが、性格は全く別人にしてます。
わたしまけましたわ
>>44と46なんか抜けてない?
夏海「う~ん...今何時...?」
枕元の電子時計を見る
[4:53]
夏海「確か5時に起きるはずだったから、ちょうど良い時間だなぁ...ふぁぁぁ」
大きく伸びをして、隣を見る。
すぅすぅと小さい寝息をたて、ぐっすりと兄が眠っていた。
夏海「兄ちゃん睫毛長いなぁ...コンタクトにでもすれば良いのに」
しばらく寝ている兄を眺めていると、不意に兄の目が開いた。
卓「......」
夏海「おはよ!兄ちゃん」
朝御飯は、昨日買っておいたパンで簡単に済ませる。
特に会話もなく、どこからともなく聞こえる、蝉の音だけが響く。
靴を履き、本当に短い間だけ過ごした部屋に別れを告げる。
太陽は既にアスファルトの海を焦がし始めていた。
夏海「ねえ兄ちゃん、お盆には帰ってくるんだよね?」
卓「......」
夏海「兄ちゃんのギター、聴きたいな」
卓「......」
夏海「みんなも呼んじゃおうかな~」
卓「......」
夏海「お、結構な自信ですねぇ。楽しみにしてるからね!」
ひかげ「あ、おーい!こっちこっち~!」
夏海「ひか姉おはよ~、もしかして待った?」
ひかげ「いや、そうでもないかな。てか、お前久しぶりだなぁ、東京にいるのに全く会わなかったね」
卓「......」
夏海「じゃあそろそろ行こっか」
卓「......」
夏海「ここまでで良いよ兄ちゃん、どうせすぐ会えるんだから」
卓「......」
夏海「うん、気を付けて帰るから大丈夫!荷物ありがとね」
卓「...」
夏海「兄ちゃんばいばーい!」
手を降りながら改札を抜ける。
改札の向こうで立ちすくむ兄は、心なしか...
夏海「兄ちゃん!」
卓「......」
夏海「背中、忘れてないからね!」
卓「......!」
グッと親指を立てた兄にとびきりの笑顔を向け、キョトンとするひかげの腕を引っ張る。
夏海「早くしないと、新幹線来ちゃうよー!」
終わり
おまけ
ひかげ「ねえ夏海」
夏海「なに~」
ひかげ「さっきさぁ、背中がなんとかとか言ってたじゃん?あれなんのことなの?」
夏海「う~ん、そうだねぇ」
ひかげ「なんだよ」
夏海「ひ・み・つ」
ひかげ「はぁぁ!?教えろよ~」
夏海「あはは、絶対教えな~い。ウチと兄ちゃんだけのひみつだも~ん!」
ひかげ「んにゃろ~」
今回はここまで!
少し短いかもしれませんが、読んでくださった方々、ありがとうございました。
のんのんびよりのSSが増えてほしいと願うばかりです。
多分明日、HTML化依頼をしようと思います。
おつ
ブラコン力高いな。
乙
仲の良い兄妹って具合に好感持てる
乙、なっつん可愛い
今度はこまちゃんverも見てみたいな
乙乙~
なっちゃんホント好き
良かった!
続編まってます!
乙でした
乙
tes
このSSまとめへのコメント
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