【ゆるゆり】ある夏の、ゆるいひととき。 (41)

立ったら投下します。

短いですが、読んで頂けたら嬉しいです。

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「ん・・・しょ」


周りで眠っている友達を踏まないように、そっと進む。


テントの外に顔を出すと、まだ明るみを現す気配もない、
真っ暗な夜空に満点の星空が広がっている。

「わぁぁぁ・・・!!」


少し長閑な場所ではあるが、彼女の住む所は夜になれば街灯も灯る。


一等星や二等星のように明るい星であればまだしも、


六等星ともなれば、街灯の灯が邪魔をして見えなくなる事も多い。

しかし、今の彼女の周りにある灯りは、月と星の光だけだった。



「星って、こんなに沢山あるんだねぇ」



吸い込まれそうな夜空を凝視したまま、少し足を進めてみる。


影となって見える木々の葉はゆっくりと過ぎ去っていくが、


その向こうに見える月も星も、じっとそこから動かない。

「わわっ・・・! と、と・・・!」


足元を這う木の根に躓いて転びそうになり、


慌てて体勢を立て直した。


「えへへ・・・あぶない、あぶない」

彼女は今、灯りを何も持ってきていない。


あまり歩きすぎると道が分からなくなってしまう。



少し不安になり振り返る。


暗闇の中、微かにテントの姿が浮かび上がっているのを確認し、


安心して胸をなで下ろす。

少しずつ暗闇に慣れてきた目を頼りに、


手近にあるベンチに腰を下ろし、


再び、夜空を見上げる。



数える気力を奪う程の、星、星、星。



「・・・すごいなぁ」



主語を問われても曖昧な答えしか返せないだろうが、


無意識に生まれ出た言葉なのだから仕方がない。

「あかり? どうしたの?」


「ひやっ・・・!?」



足音もなく、後ろから突然投げかけられた声。


少し慣れたとは言え、辺りが暗いので視認はしにくいが、


昔からよく知っている幼馴染である事は、声で分かる。

「目を覚ましたら、姿が見えなかったからさ」


「トイレに行くだけのつもりだったんだけど、
 星が、綺麗だったから・・・えへへ」


「まったく、寝ぼけてどっか行っちゃうんじゃないかって、心配したよ」



この結衣という幼馴染は、もう一人の幼馴染に対しては当たりが強かったり、


時には悪ノリをしたりはするものの、


あかりに対しては、いつも暖かく、優しく見守っている。

結衣にとって京子が少し特別であるように。


結衣にとってのあかりもまた、少し特別なのだろう。



事実、他の人には向けない素直で優しい目を、


あかりに対しては向ける事も多いのだ。

「まったく、灯りくらいは持って行きなよ。
 転んだら危ないだろ?」


「は~い!」


「じゃ、私は戻るね。おやすみ」


「うん。おやすみなさい!」



きっと、彼女も少し寝ぼけていたのだろう。


普段の彼女ならば、灯りを持ったうえで窘めてくれるだろうから。

結衣がテントに入ったのを見届けると、


あかりは再び、夜空に目をやる。



「どれくらい、あるのかなぁ」



終わらない事であるとは分かっていながら、


星の数を数えようとしてみた。

見てるよー

が、30個程数えたところでくしゃみをしてしまい、


どこまで数えたか分からなくなってしまった。



夏とは言え、高原の頂上付近は肌寒い。


パジャマのフードを被り、手を袖に引っ込めると、


少しではあるが暖かさを感じた。

>>30
ありがとうございます。
壮大な話とかではないので、まったりと見て頂ければ嬉しいです。

>>13でした。すみません。

「あーかり」


「ふわぁぁぁっっ!?」



唐突に後ろから抱き付かれ、少し大きな声を出してしまった。


柔らかく長い髪が頬をさらさらと撫で、


右の耳元から、いつもより優しい声が聞こえた。

「どうしたんだ? 眠れないのか?」


「ん・・・星、数えてたの」


「ふぅん・・・どれくらいまで数えたんだ?」


「ううん。くしゃみしちゃって、分からなくなっちゃった」


「ははっ、そっかぁ」

「こないだ読んだ本にはね、地球からは、6800個の星が見えるって書いてあったの」


「そうなのか? よく数えられたなぁ、調べた人」


「ね。どうやって調べたんだろうねぇ・・・」



ふわふわと会話をした後、しばらく2人で夜空を見上げた。

昔は泣き虫であった事を疑う程、今は賑やかしの京子だが、


こう見えて結構、空気を読める女の子だ。



現に今、京子は何も言わずに空を見上げている。


あかりもまた、そんな京子を茶化さずに、空を見上げている。



無言が苦ではない空間を、互いに楽しむように。

「京子ちゃんも、トイレ?」


「いや~、目がさめちゃったから皆の寝顔写真撮ってたんだけどさ。
 あかりだけ居なかったもんだから」


「えへへ。心配かけてごめんね」


「まったくだ」

「でも、京子ちゃんの寝顔写真はどうするの?」


「・・・おっと、なんだか急に眠気が!
 おやすみあかり~。風邪引かないようにな~」



分かりやすい逃げの捨て台詞を残し、


京子もテントに戻っていった。



数回、テントの中で光が瞬いたのは、そういう事なんだろう。

「ふわぁ・・・
 あかりも、なんだか眠くなってきちゃったなぁ」



それでも、すぐにテントに戻るのが何か勿体無く感じ、


ベンチにごろんと横になって空を見上げる。


この夜空を独り占めしているような、


不思議な優越感があった。

時折吹く風が頬を撫でる感覚と、


さらさらと木の葉が擦れ合う音。



「なんか、現実じゃない、みたいだなぁ」



「贅沢、だなぁ・・・」

「あ、居た。あかりちゃん」



近付いても起きる気配がない。



「まったく、あんな所で寝て・・・
 テントの中、狭かったのかな」


「まぁ、京子先輩のあの寝相じゃ、仕方ないか」

京子は寝入ると大の字で寝るが、


横にあるものを抱き枕にする事も多い。


ちなつも例外なくその標的にされ、


目が覚めてしまったのだった。


(本当は起きていて、わざとやっていた可能性も否定出来ないが)

どこか嬉しそうに、気持ち良さそうに、すうすうと寝息をたてている。


しかし風邪でも引いたら大変なので、起こす事にした。



「あかりちゃーん・・・ 起きて~・・・」



耳元で囁いてみたが、やはり起きる気配がない。

「もぉ、あかりちゃんってば~・・・」



少し揺すってみようか、と肩に手を伸ばした時、


あかりがこちらに寝返りをうった。



「っ・・・//」

それが、例えばもっと力強かったなら。


それが、例えばもっと冗談めいていたなら。


防衛本能が働いて、咄嗟に引き剥がそうと出来たのだろうか。



しかし、あかりの力は弱く、腕の重みを感じるだけ。


柔らかく、暖かく、ちなつの肩を引き寄せていた。

「ん~・・・」



あかりはうっとりとした声を漏らして少し丸くなり、


潜り込むようにこちらを向く。



「う・・・//」

鼻先が触れ合いそうなくらいの距離で、


ほんのりといい匂いがする。



ここから、少しでも顔を前に出そうものなら、


出そう、もの、なら──

(いやいやいや! 何考えてるのよ私!
 私がそうなりたいのは結衣先輩であって・・・)



自分の頭に浮かんだ光景を否定しようと首を横に振り、



しまった、と思った時には、既に小さな罪悪感に苛まれていた。



「いやいや! 今のはそういうんじゃないから!
 ノーカンよ! ノーカン!」

「練習」と称してあかりの唇を奪ったことがあるが、


あかりとの「アレ」はあくまでも「練習」なのだ。



しかし今、自分の胸を揺らす鼓動は、あの時のように結衣を意識してのものではない。


練習相手に抱くようなものではなく、


あかりを意識したものになってしまっている。

「んん・・・ちなつ、ちゃん・・・?」



軽くパニックになり慌てふためいている所に、呑気な声が聞こえた。


互いの顔が至近距離にある事に対し、焦っている自分と、呑気なあかり。


その違いを、何故か、悔しいと思ってしまった。

「あ・・・よかった、起きた」


「あれ・・・ここ・・・?」


「いつの間にかこんな所で寝ちゃって。
 風邪引いちゃうといけないから、テントに戻ろうね」


「えへへ・・・うん」



今手を繋いでいるのは、あかりちゃんが、寝ぼけて転ぶといけないから。


(他の気持ちなんて、ないんだから)

「ふわぁ・・・まだ4時かぁ。
 私はもう一眠りするね。おやすみぃ・・・」


「うん、おやすみ、ちなつちゃん」



このまま寝て、起きて、家に帰ってしまえば。


またしばらくは、この夜空は見られないんだなぁ。



そう思うと名残惜しい気持ちになったが、


皆に心配をかけるのもよくないと思い、


テントの空いているスペースに横になり、目を閉じた。

「ん・・・」


「ふ・・・ふふふ・・・」


「すぅ・・・すぅ・・・」




あかりが横になって少しして、


3人が周りから、あかりの方に寝返りを打った。



「ん・・・暖かい・・・」


「えへへ。
 あかり、みんなと一緒に居られて、幸せだよぉ・・・」



「ふわぁぁ・・・ おやすみなさい・・・」

おしまいです。
書き直しながら投稿してましたが、大したオチじゃなくてすみません。

イメージとしては、「なちゅやちゅみ」で4人が寝てしまった後、
こんな展開があっても面白いかもなぁ、というものでした。


まだ日付は変わってませんが、7/24はあかりちゃんの誕生日です。
あかりちゃん、誕生日おめでとう!!

乙です

おつー
ゆるい雰囲気が良かった

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