流され続けた素麺の話(21)

流し素麺、なんて魅力的な響きだろうか。
流し素麺をやる、と聞いてはしゃがない子供はなかなかいないだろう。

だがしかし、我々は忘れてはいけない。知らない方は覚えなければならない。
流され続けた一人の男の物語を

流しラーメン食べたい

なんだこれはwww

オレがその娘に初めて出会ったのは太陽が照りつける夏の正午のことだった。

オレは水に流されながら斜面を下っていた。何が何だか理解できない内に、
その娘は手に持った箸でオレを水から摘み上げた。水から体が離れていくほど意識が遠くなっていったのを
今でも覚えている。そしてオレの意識は完全に消えた。

と、まあ一回目はこんなかんじだった。たぶん。
その後、同じようなことが五回繰り返してやっと自分がループしていることに気づいた。ただ、毎回微妙な変化はあったが。

ループに気付いてからはこの状況からの脱出に必死だったが、53回目で遂にオレの心は折れた。
53回のループの中で判明した点は
・水から離れると意識がなくなる
・太陽の移動から推測すると一回一回のスパンはかなり短い
・オレが流れていられるのはせいぜい5秒

とにかく絶望したね、当時は。いっそ死にたいと何度も思ったからね。
そんなオレは思わず呟いた

「無限ループって怖くね?」

あの娘の箸が止まった。

オレはあの娘に摘まれることなく斜面を下り切った。
しかし無情にもオレの意識はまた遠のいていった。

55回目。オレは先の出来事から自分声があの娘に届くことを理解した。

56回目。とにかく何か言わないと、と思ったオレは

「板垣死すとも。自由は死せず。」

と叫んだ。その後は先の焼き直し。

57回目。次に何を言おうか考えてた。

おもろい

流し美少女

流されてる時しか意識がないのか…

まぁ茹でられる時に意識がないのは救いだな

58回目。オレは

「どうか驚かないで下さい、オレには自我があります」

と早口で言った。この時、オレは59回目が訪れるか不安だった。
何故かって?喋る素麺を不気味がらない奴の方が珍しいからだ。

59回目。空を見ると太陽が少し移動していた。オレがまた早口で

「オレは流されてるときにしか自我がありません。どうにか対処して頂けないでしょうか。」

と、言うと。あの娘は

「知ってるよ。」

と、答えた。

流し母ちゃん素麺 200円

しばらくオレの思考は停止した。だが意識は停止しなかった。
オレが状況を理解しきるのに要した時間は10秒、頭の中を整理してからオレは

「もうすでに何かしてくれたですか?」

と尋ねた。すると彼女は

「敬語は堅苦しいから止めてよ。レーンを円コースに変えたんだ、これならずっと流れてられるよ」

と答えて更に

「君は誰だい?ただの素麺じゃなさそうだけど」

と尋ねてきた

「あんたこそ何か知らないかい?オレこそサッパリなんだが」

「素麺だけに?」

「こっちは真剣に悩んでるんだが」

「というか、何故オレが流れてないと意識が遠のくことを知っていたんだ?」

「そんなの簡単だよ。あんなに早口で何かを伝えようとしてるのに流れてる間にしか喋らないから、きっと流れてないとダメなんだなーって思っただけ。」

「そうか」

「ねえ何か覚えてることとか無いの?」

「ちょっと待て、今思い出す」

それからオレは自分の頭を隅々まで探してある記憶に辿りついた。

「うん、オレは確かに人間だったそれもすごく無気力な。」

「無気力?」

「ああ、長い物には巻かれるし、風が吹けば靡くような流されやすい性格だった」

「で、流し素麺になってしまったと?」

「神様の与えた試練、とでも認識すればいいのかな。とにかく過去の自分を取り戻す必要があるみたいだ。なんとなくだが。」

「私が手伝う前提だよね、それ。まあこのまま放っておくのも目覚めが悪いし仕様がないな」

「スマン。恩に着る。」

その後、オレは彼女と一緒に自分探しの旅に出たが案外オレの家が近かった為、15分位で旅は終わった。

「なんというか、味気の無い家だね」

「ああ、汁のない素麺みたいだ」

「あっ、鍵開いてる」

「不用心だな」

中に入るとこれまた味気の無い部屋だった。日用品以外の物はほとんど無い部屋だ。オレは人生を楽しめていたのだろうか?

「押し入れでも漁るか」

「ちょ、勝手に」

「うん?何この段ボール?エロ本?」

「うーん思いだせん。開けてみてくれないか?」

「こっ、これは!?大量の素麺!?」

「素麺。そうだ素麺なんだ。」

やっと思い出せた、大切な記憶。

オレは素麺が大好きだった。遠い夏の日の楽しい記憶にはいつも鰹出汁の臭いが刻みこまれてるし。
青春の甘酸っぱい夏の味には涙が出るほど辛い山葵の風味が混ざっているし。
家族の笑顔は流し素麺が冷水と共に運んできてくれた。
素麺は楽しい夏の象徴なのだ。
頭の中で懐かしい祭囃子が流れた、そしてオレの意識も流れた。


と、まあオレが素麺になった時の話はこんなかんじだ。オレは今では新しい素麺好きな家族と共に人生を楽しんでいる。
喧嘩をしてもすぐに水に流せるなかなかいい夫婦だとオレは思う。


最後に


素麺は世界一素敵にな麺です。

end

乙、そして『にゅうめん』の事も忘れないでやってくれ

乙 そして温麺という素麺の亜種がある事を心に刻んでくれ

あったかいのおいしーよね

カップ温そうめんとか売ってるし

素麺の義理の妹 にゅうめん はいずこ

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