「私と引っ込み事案な彼女」 (24)
・オトカドールのSS
・百合要素あり(セイナ×アシディア)
・他にもいっぱい可愛い子はいますが今回は二人しか出ません
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こんなに誰かが気になったのは初めてかもしれません。
ふわふわの雪のような服装に身を包んで、一人でいつも魔法書を読んでいるあの子。
誰も……寄り付けなくて、触れることさえ叶わなかったあの子。
日課だったお庭の手入れも忘れたり、身に入らず……妖精さんにも怒られてしまうほどに。
私は、どうも彼女の虜になってしまっているみたいです。
無口で引っ込み思案なのに、芯の強いあの子……アシディアに。
ここは所々を氷が覆う城。
彼女の魔法の練習の成果とも言える溶けない氷が、そのまま私への対応を明示しているように感じます。
「……また……来たんですか」ハァ
「はいっ、私はアシディアに会いたくてここまで来ているんですから」ニコリ
「何しても、セイナちゃんとは……」
「万に一つの可能性も信じてみたい……そう思っているから、アシディアは気にしないで」
人を好きになったのは、初めてのこと。
サニーやあい……ローズと居る時とは明らかに違う気持ち。
もっとアシディアに私を見てほしい、そう無意識に感じてしまう、独り占めの感情。
「……それで、アシディアは今日も魔法の勉強?」
「うん……私のアイスはまだまだだし……」モジモジ
私にしか聞こえないようなか細い声で、答えてくれる彼女。
昔は本を読んでいる間はほとんど反応がなかったことを考えれば、十分な進歩なのですけど。
「いつかはお師匠様を越えられるほど……冷たい魔法を使えるようになりたいから…」
「それは、自分のため?」ウフフ
「ちょっとは……そうかも。でも、セイナちゃんに勝ちたい……っていうのも」
「ふふ、私に?」
「だって……ほとんど勝てた試しがないから……。セイナちゃんは回復するから、ずるいです」プクーッ
「ミラクルヒーリングのこと?頑張ればアシディアにも使えるかもしれませんよ」
「むぅ……」
こんなやりとりもどれだけしたでしょう。それほどまでに私はアシディアの虜で。
今以上の関係を望む私と、この関係を維持したい私。
もちろん、全てはアシディアの裁量一つで変わってしまうのだから……私はどうする事も出来ないですが。
ただ、彼女に私のことを好きになってほしい。それだけで。
それだけのために。
私はきっと明日も、アシディアの元を訪れる。
「ねぇ、アシディア……私、ずっと待っていますからね。では、また」ギィ……バタン
そして、扉が閉ざされた奥で─。
「セイナちゃんの思うとおりにはなりませんよ……」
雪の少女の独り言が小さく木霊した。
─私は一人でいたいのに。
本を読んで……もっと魔法が上手にならなきゃいけない。
そのために、心を閉ざして堅牢な氷の檻で包み隠したはずなのに。
彼女は……セイナちゃんは、その壁をいとも容易く溶かして。
今や、あの子の微笑んでくれる顔を思い出すだけで無条件に身体が熱くなってしまう。
体温が上がって……また少し閉ざしていた鍵がカチャリと外れる音。
セイナちゃんの普段の声と、バトルしている時の仕草。
そのギャップにもまたドキッとしちゃって……こんな感情を覚えるのは初めてなんです。
お師匠様に聞いたって「答えは自分で探せ」としか言われない日々。
どうすればいいんでしょうか……セイナちゃんには聞けないし……。
はぁ……。
次の日。
歓迎されないのは分かっていますが、私はこの気持ちを捨てられません。
だから、また彼女の元を訪ねて……相変わらず魔導書を読む彼女の隣に座ります。
「こんにちは、アシディア」トコトコ
「また来たんですか……このお城には何もないのに」
「いいえ、あなたがいるだけで私は十分ですよ……それに、ほら」スッ
懐から取り出した、一冊の本。
水色の─彼女を象徴する氷の魔導書。
「それって……きらきらスノウブック……どうして」
「好きな人と同じ魔法を学びたい。ただそれだけですが、ダメ……でしょうか?」
「……っ、セイナちゃん……そんなのずるいです……」
氷の美少女は、顔を真っ赤にして私を見てくれない。
こうして少しずつ、自分を好きになっていってもらえれば……それでいいんです。
「でも……同じ魔法が使えるようになるのは…嬉しい、です…」ボソリ
「今はまだ……だけど、いつか」
「どうしました、アシディア?」
「う、ううん……何でもない……練習、するんですか?」
「ええ、教えてくれます?」スッ
そのまま彼女の手袋に包まれた右手を握ると、不思議な温かさ。
「……任せてください、セイナちゃんが帰りたくなるほどに……厳しくしますから」
フードの下でキラリと光った目は恐らくホンキの姿勢。
うふふ、今日から楽しい日々が始まりそうですね。
「ほら……セイナちゃん、早く来てください。時間はあまりないんですし……」グイグイ
「はいっ、たくさん教えてくださいね」ニッコリ
そんな私の決心から数ヵ月後。
ほぼ毎日のように彼女の元に通い詰め、アイスの練習をしていました。
最初は手のひら程度のものしか出来なかった私も─要領を掴んだおかげで。
「アイス!!」
目の前に出来上がった巨大な氷塊。
随分と大きく出来上がったソレはアシディアと一緒に特訓してきた、賜物。
そして……私の気持ちを伝えるための手段でもあります。
「……すごい、もうこんなに上手くなったんですね」
「うふふ、アシディアの教え方が上手だったお陰です」
「きっと……セイナちゃんの努力がすごかったから……」
お互いに譲り合おうとしない、だからこそ私とアシディアはここまで仲良くなれたのかもしれない。
だけれども……私の気持ちはずっと変わらない。
初めて彼女に会った時から、今まで……『好き』なのですから。
「アシディア、少しお話があります」
「……どうしたんですか」
その心に宿し続けた想いを、今日解き放つ。そう決めたのです。
「見ていてください」
「はい……」
彼女に習って……自分でも沢山練習した、氷の魔法。
バトルの時に使う、闇雲に相手を傷つける形ではなく……見せるための氷。
「アイス……アイス!」キンッ
「セイナちゃん……?」
私に出来ることはこれくらい。
少し、恰好をつけすぎたかもしれませんが……私なりの答えを形にしてアシディアの元へ。
「今でも、私の気持ちは変わりません、アシディア」
「この小さな氷で出来た、指輪が私の『好き』を形にしたものです」スッ
「あなたが受け入れてくれるなら──それを受け取って左手の薬指にはめて下さいますか?」
セイナちゃんに教えられた、この気持ち。
たくさんの時間、同じ魔法を練習してきて─その度に覚えた感情。
お師匠様が言っていた「自分で見つける答え」の意味。
全て、今この瞬間……セイナちゃんに指輪を差し出された瞬間に点が線になった。
そうだったんですか。
私は知らない間にあの子のことが……。
──どうにもならないほどに、好きになってしまっていたんですか。
氷の檻が、全て溶け切った、感覚。
「……アシディア?」
「ずっと……待たせてごめんなさい、セイナちゃん」
「これが、私の答え……です」
私の手から彼女の手へと移っていく指輪。
ふと握られた手は冷たくなんてない、温かいもの。
そうして、私の気持ちの形は─綺麗にあの子の求められた部分へと。
「……いいんですか?」
「私、嫉妬しますし……きっと今まで以上にアシディアを離しませんよ?」グスッ
「今までだって……セイナちゃんはそうだったじゃないですか」
「毎日会いに来ますよ?」グスッ
「それも今まで通りです……」
「時々抱きしめたり、もしかしたらセクシーなこともするかもしれませんよ?」グスッ
「……それは、少し考えてもらうかもしれないですが」
とにかく、と私の言葉を遮って彼女はじっと見つめてくる。
フードにほとんど隠れているけれど、水のように透き通った瞳は限りなく綺麗で。
「セイナちゃん……大好きです。氷のような私を溶かしてくれた……あなたを好きになってしまったんです」ギュッ
「アシディア…!ありがとう……っ」ギュッ
言葉として『好き』を聞いた次の瞬間、堪らず私は彼女を抱きしめていた。
もこもこのコートの上からでも伝わる心臓の鼓動。
私のソレと共振するそれは、紛れもなく恋の音。
「……セイナちゃん、苦しいです……」グググッ…
「ご、ごめんなさいっ……でもそれほどにアシディアが私を受け入れてくれたことが嬉しくて」
「でも……まだ、二人だけの秘密に……してください。恥ずかしいから……」ウツムキ
「そうですね……」
引っ込み思案のあの子らしい要求。
でも、そういうのも─何だか悪くない。
「私も、この関係は秘密の方が好きですし……アシディアと二人だけの秘密にしましょう……♪」ニッコリ
それからというもの。
私とアシディアは、他の子達の前では水系統の魔法を扱うライバル同士として。
だけど、二人になれば一転して恋人─なんていう奇妙な関係になってしまいました。
……でも、今までとは確かに違うことがあります。
「……だから、セイナちゃんは私のファッションを……分かってなさすぎです」ハァ……
「だってもうすぐ夏ですよ?そんなもこもこのコートより、もっと健康的で─」グイッ
「このコートは氷魔法で冷やせるから大丈夫……というか……何でセイナちゃんはそんな……」
「夏といえば水着ですし……アシディアのそんなファッションも見てみたいと思っただけで」ギュゥ
それは、アシディアが随分と饒舌になったこと。
あまり口数が多くなかった彼女が、近頃はかなり言葉を発してくれるようになった。
何だかそれは、私があの子の奥……つまり、本当のアシディアを見ることが出来ている─そんな風に感じて。
「うふふ…」
「突然どうしたんですか……」
「いいえ、アシディアが可愛いな、と思っただけ─です♪」ニッコリ
そんなことを言ってみれば目の前でフードで顔を覆って真っ赤になった顔を隠す彼女。
「……突拍子もなくそんなことを言うセイナちゃん……ホントにずるい、です……///」
「ねぇ、アシディア。そろそろ……フード外しません?」
「真っ赤になったあなたの顔を見てみたいんですけど……」
「セイナちゃんのバカ……スノウブックで叩きますよ」
だけど、そんな日常だって悪くない。
私と、引っ込み思案な彼女の。
魔法のような毎日。
ありがとうございました。
オトカドール、女児向けのカードゲームですがとても女児向けとは思えない難易度もあるので是非。
HTML申請してきます。
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