吹雪「愛を込めてイタズラを」 (70)
艦隊これくしょんのSSです
設定などを独自に解釈した部分が出てきます
キャラ崩壊があるので注意してください
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1434039779
最初は、みんな軽い気持ちだったんだと思います―――
金剛「ボノボノ、提督の事をクソ提督って呼ばないでほしいネ!」
曙「べ、別に、なんて呼ぼうと人の勝手じゃない!」
曙「それにアンタだって私の事を勝手にボノボノって呼んでるし……」
金剛「でも、クソ呼ばわりはいくらなんでもヒドすぎマース!」
吹雪「まぁまぁ金剛さん。司令官も気にしてないみたいですから」
金剛「でもブッキー、大切な人をクソなんて言われて黙ってられないネ!」
吹雪「確かに良くない呼び方だとは思いますけど……」
曙「……」
金剛「……ボノボノはそんなに提督の事が嫌いデスか?」
曙「そ、そんなことないわよ」
金剛「嫌いじゃないなら、ナゼあんな呼び方をするのデース?」
曙「仕方ないじゃない!初対面でクソ提督って呼んじゃったんだから!」
吹雪「しょ、初対面でいきなりだったの?!」
曙「どうせ軍艦時代みたいなクソ提督なんだって思い込んでたから、つい……」
曙「それに、今さら呼び方を変えるのもなんか恥ずかしくて」
金剛「ですが、提督はきっと傷ついてると思いマース」
曙「傷ついてなんてないわ。……多分」
金剛「どうしてそう言えるのデス?」
曙「あまり言いたくなかったけど……前に一度、アイツに謝ったのよ。クソ提督って呼んでごめんなさいって」
曙「そしたら『最初は驚いたけど、今は本心で言ってるんじゃないって分かってるから大丈夫』って……」
曙「もし呼び方を変えるのが恥ずかしいなら、今まで通りでいいからって許してくれたわ」
吹雪「あはは、司令官らしいですね」
金剛「ふーむ……提督がそう言うなら仕方ないデスけど、できればやめて欲しいネ」
曙「と、とにかく!あたしはクソ提督って呼ぶ事を許されてるの!」
吹雪「許されてる?」
曙「……あたしはなかなか素直になれなくて、いつも憎まれ口ばかり叩いちゃうわ」
曙「でもクソ提督は、そんなあたしの事をちゃんと理解してくれてて……笑って許してくれる」
曙「自分でも酷い呼び方だって分かってる。でも、あたしにとってクソ提督って呼び方は、特別な……き、絆みたいなものなの!」
金剛「特別な絆……デスか?」
曙「……だからあたしはこの呼び方を変えたくないし、変えるつもりはないわ」
吹雪「なるほど、そういう事だったんですね」
金剛「……?」
金剛「えーっと、ブッキー。どういう事デスか?」
吹雪「クソ提督って呼び方は、曙ちゃんにとって愛情表現のひとつという事です」
吹雪「曙ちゃんは照れ屋さんですからね。照れ隠しでちょっと意地悪なことを言っちゃうんですよ」
金剛「Oh……そうだったのデスね!」
曙「あ、愛情表現っ?ありえないし!」アタフタ
金剛「なら、ボノボノは提督の事が好きじゃないのデスね?」
曙「……別に、そうとは言ってないけど」プイッ
吹雪「ほら、やっぱり照れ屋さんでしょ」
曙「ちょっと、吹雪!」
金剛「よーく分かったネ!それなら今日からボノボノも、ワタシの恋のライバルデース!」
曙「ライバル……ね。まぁ、勝手にすれば?」
金剛「いくら駆逐艦とは言え、手加減はナッシングですから、覚悟してくだサーイ!」
曙「……でも、ライバルなんて言ってるけど、アンタっていつもアイツに逃げられたり叱られたりしてない?」
金剛「うっ……」グサッ
吹雪「ちょっと、曙ちゃん?!」
曙「昨日だって、朝礼の後に抱き付いて叱られてたし、その後のお茶会の誘いも断られてたわよね?」
金剛「ハグして怒られたのは、時間と場所をわきまえなかったワタシの失敗デース……」
金剛「ティーパーティーも、演習があるからと断られてしまいマシタ」
曙「……ふーん、何かと理由をつけて断られ続けてるのね」
曙「って事はもしかしてアンタ、アイツにウザがられてるんじゃないの?」
金剛「ワッツ?!そ、そんな事はないはずネ!」
吹雪「曙ちゃん、ちょっと言い過ぎなんじゃ……」
曙「だってアンタ、酷いときは近づく事すら許されないじゃない」
曙「でもあたしは、膝の上に飛び乗ったりしても全然怒られたりしないもの」
金剛「そ、それはボノボノが駆逐艦だからデース!ワタシはちゃんと大人のレディだから……!」
加賀「……話は聞かせてもらいました」ガタッ
吹雪「加賀さん?!」
加賀(……提督が金剛さんを避けるのは、恐らく愛情表現がストレート過ぎて照れてしまうから)
加賀(でも金剛さんはそれに気づいていない……となれば、これはライバルを蹴落とす絶好のチャンス!)
加賀「確かに金剛さんは、ここのところ提督に避けられているように見えますね」
加賀「もしかしたら提督は、毎日のように付きまとってくる金剛さんにウンザリしているのかも……」
金剛「そ、そんな……!」
加賀「ちなみに私は、事故を装って提督に抱き付いたり、入浴中の提督を覗いたこともあるけど、ちゃんと許してもらえたわ」
加賀「提督の肉じゃがをこっそり食べた時も、お茶目なところがあるんだなと笑って許してくれました」
金剛「ぐ、ぐぬぬ……!」
吹雪(あのかっこいい加賀さんがそんな事してたなんて……)ガーン
金剛「ワ、ワタシも、提督の湯呑を間違えて割ってしまったことがありマース!でも、ちゃんと許してくれたネ!」
加賀「ほう……?」ムスッ
金剛「フフーン!」
加賀「いいでしょう、今から執務室に向かいます。3人ともついてきなさい」
金剛「その勝負、受けて立つネ!」
曙「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
吹雪「嫌な予感が……」
加賀「ルールは簡単よ。今から一人ずつ順番に、提督にイタズラを行います」
加賀「より怒られそうなイタズラを実行し、それでも許された者こそが、提督に最も心を許されている艦娘よ」
金剛「この勝負、提督からのラブが物を言うネ!絶対に勝利しマース!」
吹雪「でも、怒られそうなイタズラかどうかをどうやって判別するんですか?」
加賀「そこは抜かりありません。審判として青葉さんに来てもらっています」
青葉「こんな面白そうな話、見過ごすわけにはいきません!」
曙「また一番厄介なのが……」
加賀「イタズラの順番は……そうね、着任順でいいかしら?」
吹雪「それだと私が最初で、次に曙ちゃん、金剛さん。最後が加賀さんですね」
青葉「新聞の一面に使うので、できるだけ過激なのをお願いしますよ!」
曙「やりすぎて嫌われたら元も子もないわよ」
――――――
――――
――
――執務室――
青葉『さて、トップバッターは初期艦にして秘書官の吹雪さんです!』
加賀『吹雪さんのイタズラが今後の審査基準になるから注目ね』
青葉『吹雪さんは司令官との付き合いも長いですからね。いきなり勝負が決まる可能性もありますよ』
曙『クソ提督は外出中だから、戻ってきた時が勝負ね』
吹雪「……」ガサゴソ
青葉『おっと……これは、模様替えを始めましたよ?』
加賀『提督の机をお風呂に変えましたね。これは銭湯隊形を狙っているようです』
青葉『帰ってきたら執務室がお風呂に!というドッキリ系のイタズラですね』
金剛『シーッ!提督が帰ってきたみたいデース!』
ガチャッ
提督「……あれっ?」
吹雪「司令官、おかえりなさい!」
提督「……なんで部屋が風呂になってるんだ?」
吹雪「え、えーっと……」
曙『うーん、執務室がお風呂になっただけだといまいち反応は薄いみたいね』
金剛『インパクトが足りないと思いマース』
青葉『いやーもったいないです。注目すべきは吹雪さんの服装ですよ!』
加賀『いつも通り、制服のままですからね。これでは風呂には似つかわしくありません』
青葉『もしこれが全裸に泡という格好で、体を洗っている最中に司令官が入ってきていれば高得点だったんですが』
加賀『提督の帰ってくるタイミングを見誤ったのでしょうか?』
曙『全裸に泡って……吹雪はアンタたちと違ってそんな事しないわよ』
青葉『背中を流してもらうところまで行っていれば完璧だっただけに惜しいですね』
加賀『吹雪さんらしからぬプレーでした』
曙『……アンタたち、いつになく楽しんでるわね』
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――
吹雪「……怒られはしなかったんですが、なんか微妙な雰囲気になっちゃいました」
曙「むしろ心配されてたみたいだけど」
青葉「吹雪さんは普段から真面目ですし、イタズラがイタズラだと思われなかったようですね」
吹雪「はい、そんなに疲れてるなら温泉にでも一緒に行くかって誘われちゃいました」
金剛「う、羨ましいデース!」
加賀「……流石吹雪さん、試合に負けて勝負に勝ったということですね」
吹雪『次は曙ちゃんですね』
青葉『最低でもイタズラが失敗に終わった吹雪さん以上の得点は期待できるでしょう』
加賀『ですが、吹雪さんの時と違って執務室に最初から居るところに仕掛けなければなりません』
金剛『ボノボノの実力を見せてもらうネ……!』
――執務室――
曙「クソ提督、ちょっと足を借りるわよ」ガサガサ
提督「どうしたんだ曙、ガムテープなんて持って……って、うわああああああ!」ベター
曙「ふふん、かかったわね!」
青葉『うわー、ガムテープがふくらはぎにベッタリと張り付いてますよ!』カシャカシャッ
加賀『しかも粘着力の強いテープね。あれでは、提督のすね毛など鎧袖一触でしょう』
曙「いっけぇー!!」ビーン
提督「あああああああああああああああああああああ!!」バリバリ
金剛『Oh……すごく痛そうネ……』
青葉『あの司令官が涙を浮かべていますよ!これはいい絵が撮れました!』カシャカシャッ
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――
曙「一応イタズラってことで許してもらったけど、罪悪感がすごいわ……」
青葉「でも、イタズラとしては少し定番すぎて面白みに欠けますね」
吹雪「上官にあんな事したら、普通は営倉に叩き込まれますけどね」
加賀「それよりも曙さん、さっきのガムテープはどうしましたか?」
曙「あんなすね毛だらけのガムテープ、とっくに捨てたわ」
加賀「頭にきました」
青葉『次は金剛さんの番です。警戒心が強くなってる司令官をどう攻めるか楽しみですね!』
吹雪『多分、いつも通りストレートに行くでしょうね』
金剛「Hey提督!焼きたてのスコーンで一緒にティータイムしまショー!」
提督「おぉ、美味しそうな匂いだな」
金剛「今日の為に、スコーンにつけるジャムも手作りしてみたネ!」
提督「そいつは楽しみだな。何のジャムを作ったんだ?」
金剛「それは食べてからのお楽しみデース!提督、Close your eyes!!」
提督「ん、分かった。……よし、目を閉じたぞ」
金剛「では提督、あ~んデース」
青葉『とか言いつつ、ジャムを自分の口に含みましたよ!口移し狙いでしょうか?!』
加賀『させません。攻撃隊、発艦開始』
曙『ちょっと、執務室で爆撃なんてしたら……!』
提督「って、魂胆が見え見えなんだが」ズイ
金剛「NO~!さすが提督ネ、感が鋭いデース」
提督「金剛、慕ってくれるのは嬉しく思うが、そういうのはやめろと普段から……」クドクド
金剛「あうぅ……」
青葉『なんとか回避したみたいですね!』
吹雪『司令官って普段は鈍感なのに、ああいうのにだけは察しがいいですからね』
加賀『おかげで助かりました。それよりも、金剛さんには後で話を聞く必要がありますね』
――――――
――――
――
金剛「うぅ……叱られてしまいマシタ……」
曙「当たり前でしょ」
青葉「許されなかったということは、残念ながら金剛さんはこれで失格になります」
加賀「欲に走りすぎて、提督の行動を読めなかったのが敗因でしょうね」
金剛「Shit!確かに提督とStrawberryなKissをすることだけしか考えてなかったデース!」
吹雪「あの様子だと、キスしたらもっと怒られてたと思いますけど……」
曙「どのみち負けは決まってたってことね」
加賀「正直、金剛さんがこの程度だとは思っていませんでした。がっかりです」
金剛「ぐぬぬぬ……」
加賀「私が手本を見せてあげましょう。提督に怒られず、それでいて提督の心を折る。そんなイタズラを」
吹雪「それって本当にただのイタズラで済むんですか?」
青葉『さぁ、最後を飾るのは加賀さんです。先ほどは自信に満ち溢れていましたし、これは期待できますよ』
曙『あれ程の大口を叩いたからには、失敗は許されないわね』
青葉『おや、いきなり提督が大切に保管している菱餅に手をかけましたね』
吹雪『ま、まさか……!』
青葉『あーっと、菱餅を食べています!これは大変ですよ!』
曙『……クソ提督、真っ青な顔して固まってるわね』
提督「……加賀?な、なな何を食べてるんだ?!」
加賀「何って、菱餅だけど。貴方も一緒にどうかしら?」
提督「……!」
提督「……いや、遠慮しておくよ」
青葉『おや、司令官は怒らないどころか止めすらしないようですよ?』
曙『あんなに落ち込んでるのにどうして怒らないの?馬鹿なの?!』
吹雪『それはおそらく、菱餅の回収任務が主に北方海域で行われたからですね』
青葉『なるほど。回収任務が成功したのは空母勢の活躍があってこそでしたし、空母のエースである加賀さんには何も言えないと』
吹雪『だと思います。それに、任務の完了後は、菱餅は自由にしていいと大本営からも言われてましたからね』
曙『菱餅のほとんどは、任務完了祝いにみんなに振舞われたくらいだし……』
吹雪『司令官が自分の菱餅を大事に残してるのは、単に私達がせっかく回収してきた菱餅が勿体ないからという理由だけですから』
青葉『菱餅を保管しておかなければならない理由は無い、という点を突いた見事なプレーですね』
金剛『友達のセーブデータでエリクサ……いや、間宮チケットを勝手に使うような感じデスか』
加賀「……」モグモグ
曙『……まさか、二つ目にも手を付ける気なの?』
青葉『流石に司令官も動くようですよ!』
提督「加賀、ひとつだけで勘弁してくれないか」
加賀「食べてはいけなかったかしら?」
提督「元々は君たちが集めてくれたものだ。食べたいのなら駄目とは言わないが、せめて一言ほしかったな」
提督「それに、加賀が一人で全部食べるのもどうかと思うんだ。他のみんなにも聞いてみないと」
加賀「……」
青葉『ついにストップがかかりました』
吹雪『でもこの雰囲気だと、場合によっては怒られてしまうんじゃないでしょうか?』
加賀「……ところで提督、菱餅はなぜあのような形をしているか知っていますか?」
提督「いや、桃の節句には詳しくなくてな」
加賀「諸説ありますが、中には女性器をかたどったものだという話もあります」
提督「?!……そ、そうなのか?知らなかったよ」
加賀「……私が食べた菱餅はひとつ」
加賀「もしよければ、代わりに私の菱餅を食べてみませんか?」
提督「なっ、何を言ってるんだ?!」
吹雪『せ、セクハラだーーっ!!』
金剛『これはヒドいデース……』
――――――
――――
――
結果発表
1位:加賀
2位:曙
3位:吹雪
失格:金剛
加賀「やりました」
金剛「まさかセクハラで乗り切るとは思わなかったデース……」
青葉「司令官の大事にしていた菱餅を食べた上に、セクハラまでしておいて、怒られるどころか心配されてましたからね」
曙「吹雪と同じで、普段真面目にしてるからイタズラと思われなかったみたいね」
吹雪「私だって、加賀さんがいきなりあんな事言い出したら疲れてるんじゃないかって思いますから」
加賀「はい。それで私も休暇を頂けることになったのですが……」
加賀「せっかくなので、提督と吹雪さんの温泉旅行に同行させてもらおうかと」
吹雪「そんなっ!ダメです!」
吹雪さん提督と二人っきりで温泉旅行とかナニをするつもりなんでしょうねぇ
面白い
青葉「ということで、提督に最も心を許されている艦娘は加賀さんということになりました!」
金剛「Holy shit!このワタシが提督の事で負けるなんて……!」
曙「確かに、今回の勝負だとそうなるわね」
加賀「……今回の結果に何か不満でも?」
曙「……付き合いの長いあたしや吹雪なら、もっと過激なイタズラをしても許されてたはずよ」
曙「アンタたちと違って、鎮守府の黎明期から一緒に戦ってきた私達ならね」
加賀「……ふっ、甘いですねボノボノさん」
曙「誰がボノボノよ!?」
加賀「確かに私と金剛さんはあなたたちと比べると着任も遅く、提督と過ごした時間も短いでしょう」
加賀「でも、貴方たちはただ『一緒に過ごした時間が長い』だけなのよ」
曙「……どういう意味よ?」
加賀「今回のイタズラ勝負は、ただ提督に許してもらうだけという単純なものではありません」
加賀「そもそも、提督は優しい方なので、イタズラも余程の悪さをしない限りは許してくれるでしょう」
曙「だったらなんでこんな勝負を……」
加賀「曙さん。貴女、これ以上やると提督に嫌われるかもと思ったでしょう?」
曙「…………!!」
加賀「だから無難で確実に許してもらえそうなイタズラしか出来なかった」
加賀「嫌われる事を恐れ、すね毛ガムテープという簡単なイタズラでお茶を濁す……貴女と提督の間には、その程度の信頼しか無かったようね」
加賀「でも私は違うわ。菱餅を食べてもセクハラをしても、絶対に嫌われることはないと信じていたもの」
加賀「イタズラの選択……その時点で貴女は負けていたのよ」
曙「うぅっ…………」ガクッ
吹雪(こんな勝負どうでもよかったなんて言い出せない空気になってる……)
曙「……この借りは必ず返すわ」
金剛「加賀、次は絶対に負けマセーン!ネックをウォッシュして待ってるネ!」
加賀「それでこそ私のライバルです。期待していますよ」
青葉「皆さん燃えてますね!次の勝負にも絶対呼んでくださいよ?」
吹雪「ま、まだやるつもりなんですか……」
――――――
――――
――
こうして、イタズラ勝負は加賀さんの勝利という結果で幕を閉じました
この様子は『週刊青葉新聞』で事細かに報じられ、多くの艦娘が負けじとイタズラ勝負に参戦することになり
参加者が増えるとともに細かいルールや採点方法が決められ、イタズラは『司令官との愛を確かめる方法』として定着していきました
イタズラのルールは、主に以下の4つの禁止事項で構成されています
・司令官以外に迷惑をかけるイタズラの禁止
・司令官が怪我をするようなイタズラの禁止
・鎮守府の運営や任務の遂行に支障をきたすイタズラの禁止
・性的なイタズラの禁止
また、採点は日直制の審査員によって公平に行われ、許されたイタズラが過激であるほど高得点となりました
例えば、顔に落書きは基本点が20点で、色付きだと+10点。油性ペンだと+50点。提督が傷つく一言を書くと+80点などで
他にも司令官を青ざめさせたら+500点、泣かせたら+1000点などのボーナスポイントまで細かく採点されました
細かい採点基準によってイタズラは半ばスポーツ感覚となり、艦娘たちは挨拶代わりにイタズラの得点を自慢しあうようになり
その結果、司令官は日常的に多くの艦娘から、あらゆるイタズラの被害を受けることになってしまいました……
深雪「これでもくらえぃ!カンチョー!!」プスリ
提督「こらこら、駄目じゃないか女の子がそんな事しちゃ」
深雪「えへへっ、ごめんな司令官!」
提督「次からは気を付けるんだぞー」
長門「カンチョー!!」ズン
提督「」バタン
長門「おかしいな。こんなはずではなかったんだが……」
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提督「な、なんだこのカレーは!!かっ、辛すぎるっ!!」
足柄「ごめんなさい!間違えて提督のカレーだけ辛さ1000倍にしてしまったみたいなの」
提督「そ、そんな間違いあり得ないだろ……み、水だ、水を……」ゴクゴクッ
響「しまった。水と間違えてウォッカをコップに注いでいたようだ」
提督「あああああああああああああああ!!」
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提督「執務室が那珂のグッズとポスターだらけになっている……」
那珂「気に入ってくれた?あはっ☆」
提督「……」ビリビリ
那珂「あああああああああああああああ!!」
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磯風「本日の夕食当番はこの磯風だ。たくさん作ったから遠慮せずに食べるといい」
浦風「今回は誰も手伝ってないけえ、気いつけて食べるんよ?」ヒソヒソ
提督「う、うむ」パクパク
磯風「……どうだ?美味いか?」
提督「あれっ?見た目の割に思ったより……いや、むしろ美味いぞ!」
浦風「嘘じゃろ?信じらりゃぁせん」
磯風「……イタズラであえて不味く作ったつもりなんだが。料理というのは難しいものだな」
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赤城「ごめんなさい、提督の分の夕食を間違えて食べてしまいました」
隼鷹「あたしも、提督秘蔵の日本酒、間違って一気しちゃってさぁ」
提督「二人は単に飲み食いしたいだけだろ……」
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苛烈なイタズラを毎日受け続け、司令官は日に日にやつれていきました
カレンダーの日付は全て子日に書き換えられ、執務室の机や壁はいつも一面落書きだらけ
廊下には司令官の恥ずかしい盗撮写真が貼り出され、悪質な合成写真も出回りました
司令官本人も、朝起きると必ず顔に落書きされているし、背中には常に張り紙が貼られ
食事や飲み物にもイタズラされるので体重も減り、消灯直前まで続くイタズラによって睡眠時間すら削られ続けました
子供が遊びでやるようなものから明らかに犯罪のものまで、あらゆるイタズラが断続的に行われ
得点を競い合う内に感覚が麻痺し始めたのか、次第に内容もエスカレートしていきました
イタズラと称すれば、何をしても許される……そんな風潮が鎮守府にはありました
ですが、その一方でイタズラのルールを破った艦娘には厳しい制裁が行われました
一見、秩序を失ったかのように見えた鎮守府ですが、その秩序はイタズラによってのみ守られていたのです
そしていつの間にか、イタズラは宗教のようになっていきました
加賀「初めに、提督は私たちに艦娘としての生を与えてくださいました」
加賀「鎮守府では鉄の塊に過ぎなかった艦娘たちが笑顔で日々を過ごし、遠い記憶の世界とは真逆のようでした」
加賀「提督は言われました『艦娘にも心はある』と」
加賀「提督は兵器に過ぎない私たち艦娘と、人と同じように接してくださったのです」
加賀「優しく、そして時には厳しく、愛情を込めて見守り続けてくださっています」
加賀「提督は言われました『艦娘は大切な仲間だ』と」
加賀「提督は私たち艦娘と喜怒哀楽を分かち合い、まるで家族のように思いやってくださいます」
加賀「戦う事しか知らなかった私たちに、愛する者と共に生きる喜びを教えてくださったのです」
加賀「これはもはや、愛ではないでしょうか」
飛龍「愛に違いありません!」
瑞鶴「加賀正大師の仰る通りです!」
加賀「……そう、これは愛」
加賀「ですが私たち艦娘は、提督からの愛をどう受け取ってよいのかすら分からず……」
加賀「それ故に、提督への愛をどう返せばよいのかも分からないでいるのです」
加賀「ある日、私は提督からの愛を試そうと、故意に提督を困らせるような行いをしました」
加賀「私の行いを目の当たりにされた提督は困惑し、ひどく落ち込まれました」
加賀「しかし、提督はすべてを許してくださったのです」
加賀「そうして私は、全てを許すことこそが愛であるという事に気付いたのです」
加賀「ならば私たち艦娘も、全てを許すべきではないでしょうか」
蒼龍「許すべきでしょう」
翔鶴「許すべきです」
加賀「そう、心も体も提督に許すべきなのです。提督に捧げる準備をしておかなければなりません」
加賀「ですが、提督に全てを捧げようという艦娘は私たちだけではありません」
加賀「本当に私たちは許されているのか、愛されているのかと不安になる時があるでしょう」
加賀「その時は提督を試すのです」
加賀「例えそれが悪しき行いだとしても、提督は全てを許してくださるのです」
加賀「嗚呼、提督よ。愛を知らぬ艦娘たちを許したまえ」
加賀「傷付けることでしか愛を確かめることの出来ない、愚かな艦娘たちを許したまえ」
龍驤「許したまえ」
隼鷹「許したまえ」
葛城「許したまえ」
空母一同「許したまえ」
曙「……まるで宗教ね」
吹雪「まさかあのイタズラ勝負から、こんなことになるなんて……」
曙「空母派はまだ大人しいからいいけど、姉萌え派や過激派は放置するわけにいかないわ」
曙「この間も過激派が提督に怪我をさせて、原理主義と掴み合いの喧嘩になったそうよ」
吹雪「ちょっと擦りむいた程度の傷だったんじゃ?」
曙「たぶん怪我は口実みたいなもので、異教徒を弾圧するのが目的だと思うわ」
曙「もし他の派閥に提督を取られちゃったら意味がないもの」
吹雪「そこまで深刻な事態になってるなんて」
曙「……それで、イタズラの規制はできそうなの?」
吹雪「司令官がイタズラを禁止すると艦隊の士気に関わるって……」
曙「何としても説得しないと、このままだと艦娘同士の戦争になるのも時間の問題よ」
吹雪「分かってる。分かってるんだけど……」
提督「おはよう吹雪」ガチャ
吹雪「おはようございます司令官!……今日は猫ヒゲですか?」
提督「油性で書いてあるからなかなか取れなくてな」
吹雪「……裸足のようですが、靴はどうされたんですか?」
提督「私室の床に接着剤で張り付いてたよ」
吹雪「またですか。それから、黒板消しとブーブークッションは先に外しておきました」
提督「いつも助かるよ」
吹雪「いえ、大丈夫です。それよりも司令官にお話があります」
吹雪「司令官、なぜイタズラを禁止にしないのですか?」
提督「……」
吹雪「最初はかわいらしいものでした。それこそ、意地悪の延長線のようなイタズラばかりで……」
吹雪「でも、最近のイタズラは過激すぎて黙って見過ごせません。このままだといつか、司令官が倒れちゃいます!」
吹雪「私には、頑なにイタズラを禁止しない司令官の考えが分かりません」
吹雪「……もしかして、何か理由があったりするんですか?」
提督「……あぁ」
提督「俺はイタズラを禁止するのは、逆に危険だと思っている」
吹雪「危険……ですか?」
提督「イタズラが流行り出した頃に一度、金剛に対して説教したことがあってな」
提督「あの時は確か、俺の寝ている布団に夜這いをかけてきたんだ。全裸で」
吹雪「それは怒られるでしょうね」
提督「俺としては、いつものように説教しただけのつもりだったんだ」
提督「だが、イタズラをしてるグループからすれば、金剛はルールを破った裏切り者」
提督「その上、俺に怒られたわけだから……他の娘に何か言われたんだろうな。ものすごく落ち込んでいたそうだ」
提督「聞けば、イタズラで俺に怒られた娘は、俺に嫌われている艦娘という扱いを受けるそうじゃないか」
吹雪「確かにそんなことを言う艦娘もいますけど……」
提督「その次の日だ。金剛がなんてことはない海域の哨戒任務で大破してきたのは」
吹雪「……!!」
提督「ぼんやりとしたまま、深海棲艦の艦隊に突っ込んでいったそうだ」
提督「他の娘が盾になってくれたから何とか助かったが、あと一歩で轟沈していたところだったらしい」
吹雪「金剛さんが哨戒任務で大破するなんて珍しいと思ってたんですが、そんなことが……」
提督「……イタズラを禁止するということは、俺がイタズラを許さないという事でもある」
提督「金剛のケースや他の娘たちを見てると、下手にイタズラを禁止できなくなってしまってな」
吹雪「なるほど、そういう事だったんですね」
提督「それで誰かが沈む事になるくらいなら、俺が我慢してる方がマシだからな」
提督「って言っても、初動で対応に失敗してなければ悩む必要なんて無かったが」
提督「艦隊の運用なら得意だが、女心と宗教は分からん……」
吹雪「でも、このままだと司令官の負担も大きいですし、派閥争いも激しくなる一方です」
吹雪「この間も霧島さんと伊勢さんが掴み合いの喧嘩になって……」
提督「今まで喧嘩のひとつやふたつが無かったのも逆に不健全だったが、確かにそれは良くないな」
提督「いずれイタズラも落ち着くと思っていたんだが、そろそろ対策を……」
コンコンコンコン
明石「し、失礼します!!」ガチャッ
大淀「大変です!本日二〇〇〇に提督を殺害するという内容の電文が!」
吹雪「そ、そんなっ……」
提督「……!!」
大淀「殺害予告は無線通信で約5分ごとに繰り返し送信されており、〇七〇〇から今までに120回以上の受信を確認しています」
吹雪「深海棲艦が送信しているのでしょうか?」
大淀「いえ、この海域一帯は既に制海権を確保しています。鎮守府に送信できる距離まで深海棲艦は近づけないでしょう」
提督「……ということは、やはり身内の犯行か」
大淀「はい、電文は新型の暗号で暗号化されていたので、残念ながら艦娘の犯行でしょう」
提督「流石にこれは見逃すわけにはいかないな。誰が送信したかの特定はできるか?」
明石「実はもうすでに4人まで絞っています。出力やノイズの特徴などから、おそらく金剛型姉妹の内の誰かかと……」
??「その通りデース!」
明石「……金剛さん?!」
金剛「犯人はワタシデース。妹たちは関係ありまセーン」
提督「金剛、どうして殺害予告なんかを?」
金剛「イタズラに決まってマース!それ以外に理由なんてナッシングデース!」
提督「……そうか、だがこれはいくらなんでもやり過ぎだ。それなりの罰を受けてもらう」
提督「営倉で3日ほど頭を冷やすといい。それに加えて2週間は艤装の装着と出撃を禁止する」
金剛「それで許してもらえるのデスか?」
吹雪「……!!」
提督「いや、イタズラでは許されない事だから謹慎してもらうのだが」
金剛「でも、もし許されないなら、ずーっと営倉に閉じ込められたままのはずデース」
提督「そういう意味では許したといえなくもないが……」
金剛「分かったネ!これで安心して営倉に入れマース」
提督「……大淀、明石。すまないが金剛を営倉に連れて行ってくれ」
大淀「分かりました」
明石「では、失礼します」
ガチャン
提督「金剛のあの反応、営倉に入りたくて殺害予告をしたように見えたが……」
吹雪「多分『罰を受けてもそれさえ終われば許された事になる』という解釈をしたんだと思います」
吹雪「イタズラをする艦娘たちにとって『許される』という事は『愛される』ことと同じですから」
提督「一体何が、あの金剛にここまでさせるのか全く理解できない……」
吹雪「……金剛さんたち過激派は多くの艦娘に敵視されてますし、司令官に怒られることも多いです」
吹雪「だから、他の派閥に司令官を取られないか焦ってるんだと思います」
提督「過激派はルールを破るという話は聞いてるが、吹雪はどういうグループか知ってるか?」
吹雪「私はあまり詳しくないんですが……」
金剛さんはイタズラを最初に始めた4人のうちの一人だったんです
でも、ルールを決める時にエッチなイタズラを禁止する事になって、金剛さんだけがそれに反対しました
他のみんなは賛成したので、多数決で決まってしまったんですけどね
他の艦娘は、金剛さんみたいにストレートに想いをぶつけたりできないですし
お色気で勝負できない娘や、そういう知識が無い娘も多いですから
ルールというよりは、抜け駆けを禁止するための協定だったようです
金剛さんはそれに納得するはずもなく、司令官にエッチなイタズラを仕掛けました
内容までは知らなかったんですが、多分さっきの夜這いの事なんだと思います
当然、ルールを破った金剛さんはイタズラのグループから追放されてしまいました
それでも、金剛さんはその後もイタズラを続けました
過激なイタズラを許してもらえるほど、司令官に好かれているという考え方は一緒だったからです
そこへ他にルールを破って追放されてしまった娘や、比叡さんたちも加わって
いつしか金剛さんたちは、イタズラのグループから過激派と呼ばれるようになりました
吹雪「……という感じです」
提督「なるほど、結局は過激派もそれ以外の派閥も元は一緒という事か」
吹雪「元々は皆、司令官を慕ってるだけだったのが、イタズラを通して歪んでしまっただけですからね」
吹雪「イタズラをやる側は、悪い事をしているという自覚があります」
吹雪「悪い事と知りつつイタズラをして、それでも許してもらえる……」
吹雪「それを繰り返すうちに、感覚が麻痺してきて善悪の判断がつかなくなってきてるんだと思います」
提督「ずっと許していた俺にも責任はあるという事か……」
提督「しかしこのままだと、予告ではなく本当に殺されてしまうかもしれないな……」
金剛さんが殺害予告を行なったというニュースは、瞬く間に鎮守府中に広まりました
過激派の提唱した『罰を受けることで許される』という解釈は革命的とされ、多くの艦娘に衝撃を与え
殺害予告は極めて悪質で、確実に罰を受けらる理想的なイタズラとして広まっていきました
その後、司令官がイタズラを禁止したのですが、すでに罰を受けることがイタズラの目的と化していたので火に油を注ぐ結果となり
相次ぐ殺害予告の末に、営倉は10年先まで予約で一杯になってしまいました
週刊青葉新聞では殺害予告特集が組まれ、電文や手紙、果ては手旗信号や発光信号ですら殺害予告が行われるようになり
殺害予告が最上級のイタズラとされたため、艦娘たちは殺害予告を行なった回数を競い合うようになっていったのです
加賀「提督は私たち艦娘に、生を与えてくださりました」
加賀「提督は私たち艦娘に、生きる喜びを与えてくださいました」
加賀「鉄の塊であった私たち艦娘が戦いの果てに失った生。それを提督は再び与えてくださったのです」
加賀「私たち艦娘は、その与えられた生を大切に生きねばなりません」
加賀「与えられた生を粗末にしたり、奪ったりすることは許されません」
加賀「しかし提督は、その生を奪うと唱える事すら許して下さるのです」
加賀「提督殺す。空爆して殺す……こう唱えても、提督はすべてを許して下さるのです」
加賀「さぁ、皆さんもこう唱えるのです。提督殺すと」
瑞鶴「提督殺す。爆撃して殺す」
天城「提督殺す。雷撃して殺す」
瑞鳳「提督殺す。卵焼きにして殺す」
空母一同「提督殺す。提督殺す……」
曙「……物騒な話ね。本当に死んじゃったらどうするつもりなのよ」
大淀「吹雪、今日も郵便物の仕分けを手伝ってください」ドサッ
吹雪「分かりました。今日も多いですねー」
大淀「そうね、多分800通くらいあるんじゃないかしら?」
吹雪「いやー、この分だと千通はかたいですよ」
吹雪「え~っと、殺害予告、殺害予告、殺害予告……っと、これは大本営からですね」
大淀「71、72、73、74……これは民間の納品書ね。えっとこっちは……」
吹雪「予告、予告……ってこれ、私への殺害予告じゃないですか!……流石にへこみますね」
大淀「最近はもう、ルールとか関係ないですからね」
吹雪「もうみんな、完全に感覚が麻痺しちゃってますよね」
ワーワー
コロセコロセーテイトクコロセー
吹雪「……外が騒がしいですね」
大淀「今日は那珂さんが24時間殺害予告ライブをやってるそうですよ」
吹雪「ほんと、司令官が可哀想ですよ。最近は悪夢ばかり見るそうですし」
大淀「私たちも大概ですけどね。明石なんて、自動的に殺害予告をする機械を作らされてますから」
吹雪「でもやっぱり、司令官が一番かわいそうです」
ヒェッ
殺害予告が日常茶飯事になるにつれて、司令官は少しずつ心を蝕まれていきました
ただの殺害予告であって本当に殺される事は無い……そう分かっていても、艦娘に殺される夢を毎晩見るそうです
次第に司令官は艦娘に会うことを恐れるようになり、執務室と私室に引きこもるようになってしまいました
食事も全て執務室で食べるようになり、イタズラをしない艦娘以外は執務室に近づく事すら禁止されたのです
執務室周辺は24時間体制で警備され、ほとんどの艦娘は司令官の姿を見る事すら出来なくなってしまいました
司令官に会う事すらできなくなった艦娘たちの間で『理想の司令官像』が描かれる内に、司令官の神格化が進み
死亡説や、元から存在していない説。神様になったので現世の肉体を失ったとする説まで囁かれようになりました
そして、まるで天岩戸の伝説のように、司令官を誘い出そうと執務室の前では毎日謎の儀式や酒盛りが行われました
神格化が進むと共に殺害予告も過激さを増し、殺害計画を立てる娘まで現れました
……そしてついに司令官は耐えきれなくなり、自分自身に殺害予告をしてしまったのです
吹雪「司令官、こんな時間に何をしているんですか?」
提督「……!」ガサッ
吹雪「今、何を隠したんですか?」
提督「いや、なんでもないんだ。ただの手紙で……」
吹雪「ちょっと見せてもらいますよ」バッ
吹雪「これは……遺書?!」
提督「……」
吹雪「し、司令官!なんてもの書いてるんですか!?」
吹雪「いくら殺害予告が酷いからって、自分自身に殺害予告することないじゃないですか!」
提督「……だがこのままだと、本当に殺されるのも時間の問題だ」
提督「それに俺はもうこれ以上耐えられない。気が狂ってしまいそうなんだ」
提督「……俺はこの鎮守府を去ろうと思ってる」
吹雪「そ、そんな……そんなの嫌です!!」
吹雪「私じゃ司令官の心の支えになれなかったと思います。でも、私の心の支えは司令官なんです!」
吹雪「私も他の娘たちと同じなんです!司令官の事がすっ……好きなんです!」
吹雪「だから、出ていくなんて言わないで下さい……」
吹雪「……それが無理なら、せめて一緒に連れ出してください……」
提督「…………」
提督「……俺だって、本当はこんな形で出ていきたくなんかないさ」
提督「だけど、どうしたらいいか分からないんだ。罰を与えれば与えるほど、事態はより悪化するんだから」
提督「後はもう解体するぐらいしか手はないが、そんな事をするくらいなら死んだほうがマシだ……」
吹雪「でも、出て行くにしたって他のみんなはどうするんですか?」
吹雪「もしイタズラのせいで司令官が出て行ったと知れば、きっと責任を押し付けあって戦争になっちゃいます」
吹雪「元々は司令官に好かれてるって思いたくて、イタズラを始めたわけですし……」
提督「……そうか、出て行って終わりってわけにいかないのか」
提督「かといってここに残っても、狂うか殺されるかの二つに一つ……」
提督「ははは……鎮守府を任され、艦娘たちの指揮を執る程の権限を持つ俺が、自由に死ぬことすらままならないとはな……」
吹雪「…………!!」
吹雪「そう、それですよ司令官!」
提督「ど、どうしたんだ吹雪?」
吹雪「司令官が死ねばいいんです!!」
提督「ふ、吹雪?!吹雪だけは信じてたのに……」
吹雪「いやっ、その……今のは間違えただけで……いい方法を思いついたんです」
提督「いい方法?」
吹雪「目には目を、歯には歯を。イタズラにはイタズラを……です!」
吹雪「今度は司令官が艦娘たちにイタズラを仕掛けましょう!それも、とびっきりたちの悪いイタズラを!!」
大淀「たっ、大変です!提督が小型ボートで海に……!」
夕立「ホント?提督さん、久々に外に出てきたっぽい?!」
足柄「それは一大事ね!提督が本当に神様になってるか確認しなくちゃ!」
山城「久々に外に出てきたのに、私たちに声もかけてくれないなんて……不幸だわ……」
大淀「そんな呑気な事言ってる場合じゃありません!」
大淀「船には魚雷が大量に積まれていて、近づいたら自爆すると言ってるんですよ?!」
艦娘一同「……?!」
―――軍港―――
伊勢『提督ーっ!!馬鹿な真似はやめて戻ってきなさーい!』
那智『貴様が死んだら、この鎮守府はどうなると思っているー!!』
古鷹「どうですか?上手く説得できそうですか?」
利根「今のところ、ひとつも返事がないから何とも言えんのじゃ……」
睦月「うぅっ……提督が死んじゃったらどうしよう……」
球磨「でも、なんで提督は自爆するなんて言っているクマ?全く見当が付かないクマ」
長門「しかし困ったことになった。もし提督が死んだら殺害予告が出来なくなってしまう……」
曙「……アンタたち、それ本気で言ってるの?!信じらんない!」
木曾「静かにっ!あいつがマイクで何か話そうとしてる!」
提督『そろそろみんな集まったと思う。最後に話したい事があるから、黙って聞いててほしい』
艦娘一同「…………」
提督『今まで多くの深海棲艦を打ち倒し、この国を守ってこれたのも君たちのおかげだ』
提督『共に戦う事が出来たことを、俺は誇りに思っている。ありがとう』
提督『……だが、俺はもう限界だ』
提督『絶え間なく続くイタズラや殺害予告で、心身ともに疲れ果ててしまった』
提督『俺は多くのイタズラを許してきた。だからみんなも、最後くらい俺のわがままを許してほしい』
提督『……俺が死んだあとは、吹雪を提督代理として大本営の指示を待ってくれ』
加賀「し、死ぬなんて言わないください!!」
五十鈴「そんな……あなたはこんな所で死ぬような人じゃないでしょ?!」
比叡「ヒエーー!!」
秋月「もしかして、司令は死ぬことによって神様になろうとしてるんじゃ……?」
卯月「だよねぇ~!司令官が卯月たちを見捨てるわけないぴょん!」
時雨「いい加減にしなよ、君たちがそんなだから提督は……!」
提督『今まで、楽しい事も辛い事もたくさんあった。だけど、みんなと一緒だったから乗り越えられたと思ってる』
提督『最後はこんな形になってしまって残念だけど、俺は……みんなの事―――』
提督『―――死んでも許さないから』
ズドオオーーーーン!!
響「そんな……信じられない……」
不知火「……海が赤く染まっていくわ」
島風「提督が死んじゃった……」
朝潮「うぅっ、司令官が……ぐすっ」
金剛「てい……とく……?」フラッ
霧島「金剛お姉さま?!大丈夫ですか?!」
加賀「私たち、今まで何の為にイタズラなんてしてきたの……?」
蒼龍「こんな筈じゃ……こんな事になるならイタズラなんてしなければよかった!」
大和「……提督は私たちが殺してしまったようなものかもしれません」
吹雪「……その通りですよ」
敷波「ふ、吹雪?!」
扶桑「吹雪ちゃん……なんで艤装を装備してるの?」
吹雪「……司令官はあなたたちが殺したんです」
吹雪「遊び半分で虐めて、死んだ方がマシだって思うくらいに司令官を苦しめて、追い詰めて、そして殺したんです!」
吹雪「私はあなたたちを絶対に許しません!!」
赤城「吹雪さん、落ち着いて……!」
大淀「提督はあなたを提督代理に指名したの。だから、あなたが皆の舵を取らないと……」
吹雪「……へぇ、私が提督代理なんですか」
吹雪「じゃあ提督代理の権限で、提督を殺した艦娘を全員解体処分にしましょう」
艦娘一同「……?!」
日向「馬鹿な、何を言ってるんだ吹雪!」
羽黒「そんな事をしたって、司令官さんが悲しむだけですよ?」
吹雪「生きてたら悲しむと思います。でも、司令官はもう死んでしまったので関係ありません」
大淀「そんな滅茶苦茶な!」
曙「吹雪、あんたいい加減にしなさいよ?!」
曙「そもそも、あんただってイタズラを始めた4人のうちの一人じゃない!」
曙「それに、みんなが望んだってなれない秘書艦のくせに、こんな事になるまで何してたってのよ!」
吹雪「……うっ、うるさい!!」
吹雪「曙ちゃんに、イタズラのせいで心が壊れていく司令官を、見てる事しかできない苦しみが分かるの?!」
曙「だから、それを支えるのが秘書艦でしょ?!あたしが秘書艦だったらこんな事になってないわ!」
吹雪「秘書官にもなれなかった曙ちゃんには言われたくない!」
曙「あんたがまともに秘書艦をこなせてたら、クソ提督は死なずに済んだわよ!!」
吹雪「……!!」
吹雪「ふふふふ……最初は加賀さんを解体しようと思ってたけど、気が変わりました」
吹雪「私がこの手で曙ちゃんを解体……いや、雷撃処分してあげます」
曙「ふん、やってみなさいよ。出来るものならね」
吹雪「……そんなの簡単だよ?発射するだけでいいんだから」バシュッ
曙「なっ――――!!」
ズズズーン!!
朧「あ、曙が跡形もなく……」
綾波「こんなの、いくら吹雪ちゃんでも許せません!!」
漣「ご主人様に続いて曙まで……うぅ……」
敷波「酷いよ吹雪!!」
吹雪「……ほら、次は加賀さんの番ですよ。そこに立ってください」
加賀「こ、ここまで追い詰めるつもりなんて無かったの。私はただ、提督に好かれているかを確かめたくて……」ガクガク
加賀「貴女も最初のイタズラ勝負の時に一緒だったはずよ。だから分かってくれますよね……?」ガタガタ
吹雪「嫌なんですか?……そうだ、それなら先に赤城さんを雷撃処分しましょう」
吹雪「赤城さんはイタズラとか言って、司令官の食事を盗んでばかりでしたからね」
赤城「そ、それは……」
吹雪「最後に、好きなだけ魚雷を食べさせてあげますよ。いくつ食べますか?」
加賀「……雷撃処分されるのは私だけでいい!赤城さんは巻き込まないで!」
赤城「加賀さん?!」
加賀「……すみません赤城さん、先に逝きます」
加賀「どの道、提督が死んでしまっては生きる意味を半分失ったも同然ですから」
赤城「そんな……!!」
吹雪「……最後に言い残すことはありますか?」
加賀「提督に謝りたいです。申し訳ありませんでしたと……」
吹雪「そうですか。あの世で許してもらえるといいですね」
加賀「……はい。もし提督に会えたら、もうイタズラなんてしないと伝えたいです」
提督「そうか、もうイタズラしないんだな?」
加賀「一航戦の誇りにかけて、二度としない誓うつもり……」
加賀「……えっ?」
赤城「あれっ?」
飛龍「提督が……生きてる?!」
蒼龍「でも確かに、魚雷で……」
吹雪「せ~のっ!!」
曙「イタズラ!!」
提督「大成功ー!!」
明石「いやー、見事に決まりましたね!金剛さんなんて失神してますよ!」
大淀「吹雪の演技、すごく迫力がありましたからね」
吹雪「練習したかいがありました!」
曙「演技って分かってても、本当に殺されるかと思ったくらい怖かったわ!」
漣「曙も無事だったの?!」
赤城「イタズラって……どういう事なんですか?」
提督「いやー、みんな熱心にイタズラしてくるし、そんなに楽しいなら俺もやってみようって思ってさ」
提督「俺一人じゃ大したこと出来ないから、明石たちに手伝ってもらったんだ」
明石「今回使った魚雷は、爆発は派手なのに威力は無い自信作です!」
加賀「そ、そんな……こんな事がイタズラで済まされると思ってるんですか?!」
伊勢「いくらなんでもやり過ぎです。駆逐艦の子たちなんてほとんど泣いちゃってるし……」
提督「いいじゃないか。そっちは殺害予告までやってるんだし、お互い様だよ」
大和「うぅっ、そう言われると……」
提督「まぁ、血糊まで用意して死んだふりとかするのも、新鮮で結構面白かったし……」
提督「イタズラのネタはまだまだ考えてるから、次も楽しみにしといてくれ!」
艦娘一同「…………」ガクガク
こうして、司令官の初めてのイタズラは大成功に終わりました
イタズラを苦に司令官が自殺していまい、怒り狂った秘書艦が仲間を処刑していく……
このあまりに酷いイタズラは、司令官が好きすぎて狂ってしまった艦娘たちには相当堪えたらしく
体調を崩して寝込む娘や、トラウマが残ったり、情緒不安定になった娘もたくさんいたそうです
ですが、そのショックのおかげで、今まで自分たちがやってきた事の恐ろしさに気づけたのか
司令官への過激なイタズラや殺害予告が行われることは無くなり、鎮守府は徐々に平穏を取り戻していきました
そして二度と悲劇が起こらないようにと、イタズラを禁止するルールが作られたのです
……多分これは、司令官のイタズラが怖いってのが本音だと思いますけどね
提督「平和すぎて、一時期のイタズラ攻勢が嘘のようだ」
吹雪「これが本来の鎮守府の姿なんですけどね」
提督「ただ、イタズラは全て禁止ってのはちょっと刺激が足りないかもしれないな」
吹雪「仕方ないですよ。みんな司令官のイタズラを恐れてますし……」
提督「イタズラの後しばらくは、みんな俺の顔色疑ってたもんなぁ」
吹雪「私なんて、いまだに一部の艦娘から怖がられてますからね」
提督「だが、こうしてゆっくりするのもたまには良いものだ」
吹雪「そうですね。ここの所は忙しかったですし……」
提督「そうだな……しばらくは大規模作戦もないし、二人で温泉でも行くか?」
吹雪「えっ?いいんですか?!」
提督「前から約束してたし、俺が大変な時に支えてくれたお礼も兼てな。もちろん、加賀はお留守番だ」
吹雪「う、うれしいです!司令官と二人きりなんて……!」
提督「だけど俺も男だし、女の子と二人きりになんてなったらイタズラしちゃうかも……」
吹雪「ダメですよ司令官、イタズラは禁止なんですから……」
吹雪「……だからイタズラなんかじゃなくて、本気でならいいですよ」
夜戦END
……どうしてこうなった
乙
いたずらもやり方が大事ぴょん
吹雪大勝利
吹雪さん大勝利じゃないですかやったー!!
乙乙やっぱり吹雪がNo.1!
>殺害予告が最上級のイタズラ
もがみんって凄いんだなと思ってしまった
とりあえず殺害予告ライブを敢行した那珂ちゃんは解体だな
この勢い嫌いじゃない
イタズラがゲシュタルト崩壊した
最後はやはり主人公が勝つ。
乙です
シリアスとギャグは紙一重だな
面白かった
とりあえず最初の方読んで、膝に乗って甘えてる事を躊躇なくカミングアウトしたボノたんにくそ萌えた
某弁護士かな?
一般男性でしょ
神が生まれて独自解釈の派閥が乱立していがみ合いになる流れが華麗で良かった。
乙
最後まで読んでいただいてありがとうございました
面白いというコメントは励みになるものですね
私の育ててる艦娘はしばふ艦ばかりなので艦娘が偏りがちですが
また皆さんに面白いと思ってもらえるようなSSが書けたらと思います
しばふ艦ばかりあるある
最上に惚れて吹雪で始めて、
一航戦とハイパーズの強さに涙して、
しば駆逐だけでキス島攻略まである
このSSまとめへのコメント
面白かった