一ノ瀬志希・誕生日の葛藤 (25)
●00
※CuP×志希
※全体の1/3ぐらい ●08-12までR-18
※一ノ瀬志希
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※↓の後日談です
一ノ瀬志希の代償【R-18】
一ノ瀬志希の代償【R-18】 - SSまとめ速報
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●01
歳がひとつ増える度に、考えるコトがある。
来年のあたし、ナニしてるんだろう。
それを考えて不安になるのは、今年が初めて。
●02
――5月29日
「おっ、美嘉ちゃん。どしたの、何かニヤニヤしてるけど」
「ニヤニヤって、もー……ま、いいや。志希って、明日が誕生日だよね★
CuPさんに、何かおねだりしてる?」
「プロデューサーには『キミを一日自由にできる権利が欲しい』って言っておいた♪」
「え、それって……っ! どっ、どーゆー意味なのかな?」
「どーゆー意味でとってもらっても、良かったんだけどね。でも残念、もらえなさそー。
あたしのプロデューサーは、そんな気軽に呼べるヒトじゃないみたいだよー」
「それは……その……も、もう一回交渉してみたりとかっ」
「あたしも今度で19歳、プロデューサーが相手してる子の半分以上は、あたしより年下。
さすがに駄々っ子言えなくてさ、もー、ね」
「美嘉ちゃんは、11月12日だったっけ。お誕生日のご予約はお早めにー。
あたしの轍(てつ)は踏んじゃダメだよ♪ PaPさんもなかなかお忙しい身分だろうしー」
●03
ねぇ、プロデューサー。
あたしの何を代償とすれば、明日のキミをもらえたのかな。
●04
――5月30日
アイドルのお仕事を終えて、あたしは自宅兼ラボに帰ってきた。
夏至の近い太陽も、既に姿を消す時間。
あたし以外誰もいない部屋のなか、電気をつける。
蛍光灯の白い明かりが、なんだか無性に眩しい。
そこであたしは、カバンからキラキラのラッピングをまとった箱を一つ取り出して、
包装を剥ぎとって中身を引き出す――アロマキャンドルの詰め合わせだ。
(美嘉ちゃんったら。このあたしに、ニオイのするものを贈るとは……相当な自信があるのかな?)
美嘉ちゃんがくれた誕生日プレゼントのなかから、キャンドルを一本取り出す。
種類は……イランイランだった。
あたしは実験用マッチを一擦りして、イランイランに火をつける。
それから電気を消して、ふらつく炎を眺める。
事務所でもらったケーキのロウソク19本に比べると、その明かりはか細い。
あたしが『ふーっ』とやらなくても、ひとりでに消えてしまいそう。
やがて、こってりと甘いエステル類が漂ってくる。
効能は陶酔と抑鬱らしい。
この気分も少しはマシになるのかな。
●05
『キミを一日自由にできる権利が欲しい』
そうプロデューサーにねだってみたけど、無理な話だった。
あのヒトは、今をときめくアイドルを、何人も抱えたプロデューサー。
そんなカンタンに休みを取れない。仕事終わりの時間をもらうのが精一杯。
プロデューサーが、本来プライベートである時間をあたしに割いてくれる。
それは嬉しい半面、後ろめたい気分でもあった。
出会ったばかりの頃、失踪とかしてプロデューサーを弄んで楽しんでたあたしが、遠慮とか。
らしくない。守りに入っちゃってる。
(プロデューサーがあーしてくれたから、あたしがこーしてあげよー、とか。
最近はそーゆービジネスライクなやり取りが多かったから、ワガママの言い方を忘れちゃったかなぁ)
あたしとプロデューサーは、もう一線を越えてしまっている。
でも、その一線の越え方に歪(いびつ)なところがあって……。
あたしは、プロデューサーのニオイが格別に好きだ。
好き過ぎてどうしようもなかったから、恥ずかしげもなくスーハースーハーやってたら、
ある時プロデューサーから、ニオイの代償を求められた。
『俺が喋って欲しいことを教えるから、それを志希の声で聞かせて欲しい』んだと。
あたしはその求めに応じた。
最初はアイドル活動のオマケみたいな台詞を喋ってた。
それがいつしか、人前で口に出せないようなイヤらしい言葉を……。
プロデューサーの要求がエスカレートするのは、あたしの望むところだった。
元はといえば、あたしの過剰なニオイフェチが発端だったから、
プロデューサーもこのぐらい過激になってくれたほうが、釣り合いがとれて気が楽になる。
それに、要求がアイドル・一ノ瀬志希のあるべき姿から逸脱すればするほど、
あたしとプロデューサーの間柄が、ビジネスの範囲を逸脱した深みへ進んでいける気がした。
……我ながら現金なもんだね。
けれど、どんなにヘンタイごっこやってたとしても、今のあたしたちは、
『プロデューサーがあーしてくれたから、あたしがこーしてあげよー』
というお約束の上に関係を積み重ねてるだけ。
だから、考えてしまう。
あたしの何を代償とすれば、今日のキミをもらえたのかな。
●06
キャンドルの明かりを見つめながらぼーっとしていると、
不意に聞き慣れたメロディが意識へ割り込んでくる。あたしのケータイへの着信だ。
暗い部屋のなか、浮かび上がった液晶に手を伸ばす。
デジタル時計表示が、誕生日の残り時間を示す。その下に、着信相手の名前が流れていた。
「プロデューサー、おつかれさーん。志希だよ、どしたの?」
タップとともに、通話口からプロデューサーへ声をかける。
「――『まだ起きてたか』って? 起きてたよ。今日もがっつり仕事入ってたけど、
明日あたしはオフだから、まだ起きててもいいでしょ。まだ誕生日が何分かは残ってるし」
アイドルになって多少は変わったけど、あたしは基本的に夜型人間だ。
シンデレラの時間を過ぎて実験に興じることもある。まだ眠くはない。
「それよりプロデューサー、あたしに言うコト無いの?
電話越しでもいいからさ、聞かせてよ。もうすぐ、終わっちゃうし……」
こんな時間に電話をかけてきたってことは、言ってくれるんだよね――おめでとう、って。
口では聞かせてよ、と言いながら、あたしは今その言葉を聞きたくないとも思った。
電話越しでそのやり取りを済ませてしまうと、あたしたちがタダのアイドルとプロデューサーなんだ、
ってコトになっちゃいそうだから。
「えっ……『今から行くって』って、ちょっと。あたしの誕生日、何分も残ってないよ。
いくらキミでも、そんなムチャは――」
あたしの声は、インターホンの響きで遮られた。
「玄関先? なーんだ、もう来てたの。キザな真似しちゃって……。
ん? 『家に電気がついてないから、もう寝ちゃってたと思った』って」
プロデューサーったら、こんなギリギリまで……間に合わなかったらどうするつもりだったんだろ。
まぁ、いいや。とりあえず、もう時計をチラ見しなくてもよくなった。
あたしはイランイランを吹き消して電気をつけた。
いきなり襲ってきた蛍光灯の光は、眩しかったけれど、もう苦痛ではなかった。
「今行くから、あたしがその扉を開けたら、ハッピーバースデーって言って」
あたしが、プロデューサーに言葉をせがんでる。
あはは、いつもと逆になっちゃってる。
でもいいよね。年に一度のお誕生日だし。
●07
――5月31日、未明。
あたしの部屋に入ってきたプロデューサーは、イランイランの残り香に面食らっていた。
「アヤシイ香水じゃないよ。これはプレゼントに貰ったものだもん♪
なかなかパンチの利いたフローラルでしょ。イランイランって名前。
意味は『花の中の花』で――名前負けは、してないよね」
自分で言いながら、あたしは『花の中の花』という響きが妙に気に入った。
プロデューサーのおかげで花開いた子はたくさんいるけど、
そのなかで今プロデューサーを独占してるのは、あたしなんだって実感できた。
「色々言いたいことはあるけど……お誕生日、祝ってくれてありがと♪
にゃははっ、コレを言わないと始まらないよねー」
それにしても、プロデューサーったら。
こんな時間に、アイドルの自宅へ上がり込んでいいのかな。
「あたしを贔屓してるってほかの子に思われたら、やりにくくなるでしょ?」
プロデューサーが、あたし以外の家へわざわざ誕生日を祝いに行くことなんかない。
それぐらいは、体臭とスケジュールを照らし合わせればすぐ分かる。
「だから……来てくれたのが嬉しいんだけどね」
なんだろうね。
プロデューサーといっしょに芸能活動するのは、退屈なんかじゃない。
むしろ楽しくて楽しくてしょうがない。この楽しみを奪われたら、あたしはとてもとても悲しい。
なのに、こうして芸能活動を破綻させかねない逸脱を、あたしはたまらなく求めてる。
あたしは、いつかプロデューサーを巻き込んで、舞踏会の階段から転げ落ちてしまいそう。
そんな自分自身が怖い。
「ドア閉めたら、抱き締めてよ。ぎゅーっとね」
プロデューサーは、こんなあたしをどう思ってるんだろうか。
自分のキャリアを邪魔しかねない爆弾娘だと思われてやしないか。
あたしが上り調子だから、大目に見てもらってるだけかもしれない。
「頭、撫でてよ。髪、ぐしゃぐしゃにしたっていいからっ」
あたしが、プロデューサーから読み取れるのは、
最近一週間ぐらいの行動と、その場の生理的反応まで。
それらを組み合わせれば、プロデューサーの内心も推測できる。
でも、今のあたしは、内心を直に確かめる勇気がない。
あたしだって希望的観測で判断力を鈍らせることがある。
そこから先は、フツーのオンナノコと同じ。
この葛藤と、まともに向き合うのは辛い。あたしには耐え難い。
それを忘れられるのは、プロデューサーを誰よりも近くで感じられるときだけ。
だから、あたしは実に安直な手段に頼る。
「プロデューサー、ここに、そばにいて」
あまりに姑息で笑っちゃうけど、そうしてしまう。
「夜明け前までで、いいから」
ホントは『これからずっと先のキミまで欲しい』って言いたい。
でもあたしは、そう言わない。プロデューサーに、しおらしげなフリをしてる。
●08
あたしは、さっき19歳になった。
華々しきlate teens――いや、日本語だとハイティーンっていうんだっけ。
年長組からは、若いねーと言われる。
年少組からは、お姉さん扱いされる。
そんな中途半端な年頃。
あたしが、例えばレナさんの真似して大人びた雰囲気を出そうとしても、背伸びしてる風にしか見られない。
あたしが、例えばこずえちゃんの真似して甘えようとしたら、シャレにならない。
意外と融通の効かない年頃。
それに、相手が同年代ならともかく、プロデューサーは一回り近く年上だからなー。
まともにやっちゃ、分が悪い。
あたし、飛び級したから分かるよ。
何事も、年上のヒトと対等にやりあうのは、難しいんだ。
だからあたしは、恋愛の禁じ手――若気の至りを叩きつける。
大人にとっては無茶で、子供にとっては未知ゆえにできないことを。
誰よりも執拗に。
「ねぇ、プロデューサー。気持ちいいコト、始めよー♪」
●09
あたしは、ニオイを嗅ぐのもそこそこに、プロデューサーへ抱きついて跨(またが)る。
プロデューサーは面食らってる。
いつもは、しつこいぐらいハスハスしてから致すからねー。
それと比べたら、あまりに性急。ちょっと気分が違うでしょ。
「ニオイとか、声とか、今日はそーゆー理屈、いいでしょ?」
プロデューサーの存在を純粋に取り込んで感じるのに、
取引じみた前提条件は邪魔なんだよ。
いつもは、身体を重ねる言い訳として、そういう理屈が必要だった。
今日は特別な日だから、そんなものはいらないはず。
「言ったはずだよ。『キミが欲しい』って」
もっともっと、プロデューサーと一緒に色々な時間を過ごしたいけど。
「お疲れのところ恐縮だけど、付き合って♪」
夜明けまでに満たせる欲望は、これだけ。
「まずは、あたしから動くよー!」
物言いたげなプロデューサーを丸め込んで、
あたしのとっちらかったラボのソファへ仰向けに寝かす。
「あたしに抱きつかれただけで、キミはこんなに盛り上がってくれちゃったんだー♪
もしかして、キミもあたしに会うの、心待ちにしてくれてたのかな?」
プロデューサーは澄まし顔のくせに、おちんちんは既に十分な硬さを得ている。
対してあたしは、頭のほうが先行して茹だってて、身体は十分に暖まっていない。
自分の身体がもどかしい。
まだ軽く湿った程度のおまんこの粘膜を、跨った姿勢で上からおちんちんに触れさせる。
それだけで、今まで重ねてきたプロデューサーとの記憶がほとばしってくる。
上からプロデューサーの顔と上半身を見下ろす。
ああ、このヒトは、あたしのモノだ。何を逡巡してるんだろう。
潤みが足りなくて、ぎこちない異物感に内蔵を突かれても、もう待てない。
身体なんてあとから引きずり回してやればいい。
「あ――は、ふぁっ、んぐ――気が、急いちゃってる、待ちくたびれて、もうっ――」
あたしの身体は、体重に任せてプロデューサーのおちんちんを飲み込んでいく。
押し広げられる。形を変えられていく。構わずあたしは身体を揺らす。
「あ、ふ、あははっ、入った、入っちゃったぁ……♪」
プロデューサーがあたしの両手を掴まえてくれたので、あたしはぎゅっと握り返す。
ようやく体勢が安定する。ソファはベッドと違って狭いから、下手に動くと床に落ちちゃう。
そんな興ざめはゴメンだ。
「ねぇ、プロデューサー……見て、もっと、見てよ」
あたしは髪を振り乱し、汗だくの肌に張り付け、殊更に乱れた素振りを見せる。
「みんながホメてくれた、アイドル志希にゃんが、キミの前では、こーなっちゃうんだよ?」
あたしは、キミにしか見せられない姿を見せる。
だからキミも、あたししか見られない姿を見せて欲しい。
●10
「あっ、ふぁ――? あっ、ううぅ……」
プロデューサーが、自分の上体を起こしつつ、あたしの両手を掴んだまま自分の方へ引く。
あたしは上半身を前傾させられる。
「……む、ムリなんか、して――してるけど、さ。このぐらい、いいでしょ……。
いつもと違う味わいが、オツだったりしない? しないかぁ……」
潤滑不足で強行的に挿入したのを、プロデューサーに咎められた。
いつもはたっぷりプロデューサーのスメルを舐めて、じっくり遊んでから挿入するのを、
気が急くばかりですっ飛ばしてこれだから、ヘンに思われたらしい。
「あたしのコト、心配してくれちゃってる? こんなにコーフンしてるのに……」
丹念に身体を慣らして、徐々にお互いを高ぶらせていくのは、
委細承知のお遊びみたいで、いつものセックスを思い出す。それは勘弁願いたい。
初めて腕を絡めるように、ぎこちなく不器用に衝動をぶつけ合いたい。
そのためなら、処女みたいに引き裂かれるのもいい。
「怒らないで……あたしのワガママ、聞いてよ……」
身体を下から抑えられながら、あたしは哀願していた。
なんなんだろう。あたし、おかしなことやってる。
いくら好きなヒトとのセックスだって、お互い通じ合わせながら気持よくしていくほうが、
心も身体もつながってる実感が持てるはずなのに、あたしはそれを拒む素振り。
プロデューサーに、取り返しのつかないことをシて欲しいのかな。
そういえば、今日はゴム着けてなかったね……。
「大丈夫だよ、ナマでも……ピル飲んでるよ。
あれ、単純に生理調整するにも便利だから、あたし、けっこう使い慣れてるもん」
やっぱり、こんなコトしてても、あたしはプロデューサーとアイドルしてるの大好き。
まだまだアイドルとしての自分が惜しい。だから、避妊はしてる。
いつもはゴムで、今日はピル、ただそれだけ。
でも、ナカに出されちゃったら、と思うと……。
あの、いつもあたしの粘膜をドロドロにしてしまう白濁液を、
本来流し込まれるべき器官で受け入れるという想像が、脳髄からかっと燃え上がる。
あたしの身体をやっと熱く盛り上げてくれる。
「ね、プロデューサー。あたしのこと、ニンシンさせたいと思う?」
あたしは突拍子もない質問を投げた。アイドルとプロデューサーにふさわしくない質問。
ふさわしくなさすぎてゾクゾク来る。でも、この状況に即しているとも言えるよね。
だって、あたしとプロデューサーは今まさにナマセックスしてるんだもん。
「あたしは……どうだろ。望んでるのかな。でも、アイドルとの両立は……」
いつもつけてる0.02mmは、ガツガツと挿入してる時には、あるかないかなんて意識しない薄さ。
だから、触覚の上ではいつもと同じと言ってもいいはず。
でも、気分が違う。五感なんてそんなもの。
あたしだって、化学組成では自分自身と大差ないはずのプロデューサーのニオイに、
こんなにも陶酔させられてる。ホント、おかしなハナシ。
気持ちのいい遊戯に溺れるか、取り返しのつかない暴挙に突き進むか。
キミがうんと頷いたら、あたしはどちらであろうとそのまま転げ落ちていきそう。
●11
「にゃは、ははっ……入れたまま、しばらく動かないで、
焦らされてたら……アツくなって、来ちゃった。キミのせいで、えっちになっちゃった……♪」
プロデューサーに肌と粘膜をぴったり合わせたまま夢想にふけっていたら、
いつの間にか身体のテンションが頭に追いついてた。
じっとしてただけなのに、おまんこがどろどろになってる。
「動いても、いいでしょ……? キミだって、パンパンしたいの、我慢してたよね」
プロデューサーも、いつの間にか額やら鼻の頭やらに汗が浮いてる。
あたしは身を起こす前に、ネコの真似をしてそれを舌で舐めとってしまう。
「ふふっ、ぴりっときちゃうテイスト……ほかのみんなは、知ってるかな?」
ほかのみんなは、きっと知らないだろう。
そう思うと、この塩辛さが、味蕾を一層深くシビレさせてやまない。
独占ほど癖になる刺激は無いね。
背を反らす。上体を起こす。四肢に力を込めて姿勢を安定させる。
粘膜から火がついた抽送の予感が、ねずみ花火のようにパチパチと弾ける。
「あたしの、どーしよーもないトコ、見てて……
一番キラキラ輝いているトコも、身も蓋もなく喘いでるトコも、覚えていて欲しいの」
今、ここはあたしとプロデューサーだけの世界だ。
「だって、キミのコトが大スキだから、ね♪」
そう思った瞬間、あたしの意識の舌先が絶頂を舐めた。
「あ、ふぁっ、あ、んあっ――そ、ソコ、来る、キちゃう、って……!」
あたしは、髪を腕やら肩やらにばっさばっさぶつけながら、腰を前後に揺すっている。
執拗に、規則的に、何かを確かめるように。摩擦が電気信号となって脳を劈(つんざ)く。
膣内で男のモノを咥えこんで、ひたすら舐り尽くす。
抑えきれない快感が声や体液となって溢れる。
このまま、パンパンと肌を打ち付けるリズムに耽っていたら、どうなるんだろう。
また朝が来たら、何事もなかったかのような日々が続くのかな?
だっていつもと同じくらい気持ちいいもの。誕生日でも、けっきょくいつもと同じなのかな。
「あっ、ふぅううっ――う、んあぁっ、あっあっ」
きっとそうなったら安心する。でもそうなったら失望する。
これまでと同じようにしてたら、こんな歪な形で、一瞬だけしかキミを独占できない。
「ダメぇ……っ! 気持ち、よ、よすい、てっ……あっ、はあっあっ」
気持ちいいのに、イヤだ。
身体は勝手に動くのに、頭は焦燥で空回り。
「いやぁ、ナカ、動い、ちゃうっ、お、おかしくなって、あたし、あっ」
頭と身体の形勢が逆転してる。
プロデューサーの味をしめた身体が、頭を引きずって絶頂まで突っ走ろうとする。
「あっ、んんっ! うぅ、ふぁあああ………っ」
ダメ、こんなの、このままイッたら――イッちゃったら、いつもと同じ遊びになっちゃう。
誕生日に二人きりなのに、身体だけ弄び合って終わっちゃう気がする。
こんな爛れた遊びの日々が永遠に続くワケないもの。
もしかしたら、来年の今日は――
●12
「あっ――ぷ、プロデューサーっ、あ、んっ、ふぁあっ!?」
あたしは、ぐりぐりと動かしてたハズの腰を抑えられた――プロデューサーの、両手?
「うあっ、あたしっ、倒れ――はあぅうっ!」
いきなりプロデューサーが上体を起こして、あたしは反動で背中側に身体が傾ぐ。
そのまま足を持って引っ繰り返され――挿入されたまま重心が動いて、
あたしは予想だにしないところをおちんちんでえぐられ、悶絶する。
「あたしが……『そんなに、ナカに出されたいのか』って……?」
プロデューサーに見下され、がっちりと腰をホールドされる。
一瞬で主導権を奪われた。
ああ。あたし、ちょっと調子に乗り過ぎちゃった。
誕生日だからって勝手にしてたら……プロデューサーだって、ムリして来てくれたのに。
「子供は、できやしないけど……でも、プロデューサーの精液、出されちゃったら……」
避妊は、してる。そこは、大丈夫。
でも、できなかったとしても、ナカに注がれちゃったら、あたしは……。
「おかしくなっちゃう、かも」
「あ――く、は、っ――」
奥底に、コツン。プロデューサーが、あたしを一突き。
あたしの身体が、勝手に弓なりになってソファでのたうつ。
出して欲しいのか、欲しくないのか――じゃない。
あたしの身体が、精液をここに出されちゃうんだ、ってコトになってる。
プロデューサーは、あたしの腰だかお尻のあたりを、無造作に手で抱え込んで、
ただのモノみたいに、コツンコツン奥を叩いてくる。
「ひっ……う、うぁ、あ、あっあっあっ、は、ぅ……っ」
火花が散る。視界が溶けていく。
大事なトコを揺すられて、あたしは呼吸もおぼつかなくなる。
このまま、ナカにされたら。
明日も、明後日も、プロデューサーのが……。
「あぅっ、ふぅううっ……プロ、デューサー……」
最後の肺の呼気とともに、言葉が漏れる。
「……だして、ナカに、だしてっ」
あたしは、プロデューサーがナカでびくん、と震えるのだけを感じた。
それで、あたしの意識は完全に弾けた。あとのコトは覚えていない。
●13
――5月31日
窓の外が青白い。
夏至が近いからか、太陽は恨めしいほど早く姿を見せている。
こんな時間に目を覚ますなんて、何年ぶりだろう。
「ありがとね……ホント。来てくれて、嬉しかったよ……♪」
目が覚めた時、プロデューサーはあたしの隣で座っていた。
あたしはいつの間にか、ソファからベッドに運ばれてたみたい。
ソファは、そんなにひどいことになってたのかな。
「ねぇ、プロデューサー……」
あたしは、キミにアイドルとしてプロデュースしてもらうのが、楽しくて仕方がない。本当だよ。
今度こそシンデレラ・ガールになりたい。本気だよ。
「……プロデューサー、あたし……」
でもね、キミとあたしの芸能生活を全部ぶち壊しにしても、
キミを独り占めにできたら……と思う。それ、本音なんだ。
あたしの気持ちは、どっちに傾くのかな。
「大スキだよ……ほかの誰よりも、ぜったい」
来年のあたしは、ナニしてるんだろう。
この度し難い本音を、飼い馴らせてるかな。
(おしまい)
(後日談)
●14
「文香さん……ちょっと、相談したいことが……志希の様子が、この間少しおかしくて」
「おかしい、とは……? どんな具合だったのですか」
「――あの志希が、誕生日にCuPさんからあんなぞんざいな扱いされて、
なのにあんな物分かりがいいなんて、アタシ、絶対おかしいと思う……」
「…………」
「文香さん?」
「……美嘉さんは、自分の独占欲が空恐ろしいと感じたこと、あります?」
●15
――6月某日
「志希さん、ちょっとよろしいですか」
「お、文香ちゃん。どしたのー?」
あたしが仕事から帰って事務所のドアを通り過ぎると、待ち構えていたのか、
文香ちゃんが歩み寄って声をかけてくれた。
「志希さん、よろしければなんですが……」
「んー? 気になる言い方するー! ハリーハリー! 何のハナシ?」
「……今度、海に行きませんか?」
「海? おーしゃん?」
「そうです……いかがでしょうか」
海、か。
そういえば、去年は――
「いつ行くの?」
「日取りはこれから……ご予定を伺っても?」
あれ。これって……。
ほかの誰かが行くから、あなたもいかがですか? ってお誘いじゃないんだ。
「にゃっはは! 文香ちゃんのご指名とあらば、行くしかないじゃーん♪」
それにしても……海? 何でだろう。
文香ちゃんとお出かけすることはあったけど、海に行こうなんて話は初めてだ。
●16
別の日の午前中。
あたしと、文香ちゃんと、あと美嘉ちゃんの三人は、
梅雨の晴れ間の下、空と同じぐらい青いコンパクトカーに乗っていた。
運転席は文香ちゃん。助手席にあたし。後部座席に美嘉ちゃんが座っている。
「この三人で海に向かってると、去年のビーチバカンスを思い出すよねー★」
「あの時はお仕事だったけどねー。ふふーん。青い車で海までドライブ!
キミの青い車で海へ行こー♪ 置いてきた何かを見に行こー♪」
「もう何も恐れないよ――♪ ……この車は、レンタカーですけれども」
「気にしない気にしない、気分の問題だよっ」
あたしが文香ちゃんと予定を調整してると、美嘉ちゃんも一緒に出かけることになっていた。
ここであたしは、ははーん……と二人の意図にアタリがついた。
(あたしが、誕生日前に美嘉ちゃんへ妙なこと口走ったから、それを美嘉ちゃんが心配して……
それで、文香ちゃんに相談したんだろうね。で、どこかへ出かけよーってコトかぁ)
「それにしても、文香さんって免許持ってるんだね。高校の春休みか、大学入って、すぐに取ったの?」
「ええ。古書店でたくさんの本を引き取るときなどに必要で……それに、故郷でも車がないと不便ですし」
「あー、信州はね」
(あたしが、美嘉ちゃんと文香ちゃんと親しくなったのは、去年の夏、海でのお仕事のこと。
あの頃、あたしは今よりも純粋にアイドルを楽しんでたよね……)
「行きは文香ちゃんが運転だから、帰りはあたしが代わるよー。アメリカではよくドライブしてたしー」
気の早い真夏日の日差しを遮るため、あたしはサンバイザーに手を伸ばす。
「……一応聞いとくけど、志希って日本で運転したことある?」
「キープレフトって、アメリカと逆だからちょっと新鮮だよね」
「本土復帰直後の沖縄とか、たいへんだったらしいですね」
「道路も車も、日本はアメリカよりちょこまかしてるけど、まー大丈夫でしょー」
サンバイザー裏のミラー越しに、ぎょっとした美嘉ちゃんの表情が見えた。
「ふ ふみかさん おねがいだから かえりも うんてん してください」
「冗談ですよ。帰りも私が運転します」
「あっはは、美嘉ちゃんおもしろーい♪」
●17
あたしたち三人は、東京湾沿いの海浜公園に降り立った。
シーズンには少し早いけど、バーベキューなどに興じるお客がそれなりの人数でたむろしてる。
「紺碧の空と海――とは行かないけど、東京湾も捨てたもんじゃないね★」
事務所から首都高湾岸線に乗って、渋滞にさえ引っかからなければ、
一時間と経たずに潮風と砂浜が味わえる。でも、ここで降りたのは初めて。
もしかして、あたしを励ますために、
この二人は往復二時間のドライブに付き合ってくれてるのかな?
あたしよりも長く売れっ子アイドルやってて、忙しいのに……。
「東京は海っぺりだけど、その割には海のニオイを嗅ぐ機会少ないもんねー」
「私は、ビーチボールと波に翻弄された記憶が……」
「あっはは、今年もたぶん仕事あるから、今から練習しとく?」
海からこちらへ吹き付ける海陸風が、あたしたちの髪をしゃらしゃらと弄ぶ。
ヘアバンドを着けてないあたしが、一番ひどく乱れてるかな。
ただ文香ちゃんもロングだから、なかなかひどい有様。一番マシなのが美嘉ちゃん。
「……志希さん」
「どしたの、文香ちゃん」
「……先日の誕生日のとき、CuPさんと何かありました?」
「おぉう……ズバっと聞くね、文香ちゃんったら。美嘉ちゃんから聞いたの?」
「え、あ、アタシ? なっ何のことかなー?」
文香ちゃんのストレートな問いかけに、あたしより美嘉ちゃんのが驚いてた。
もともと文香ちゃんは、柔らかい物言いをする子だ。
なのに今は、こんな有無を言わせない話し方をしてる。
「潮風で無邪気だった頃を思い出せば、話しにくいこともスルスルと話せるかな、ってコト?」
あるいは、わざわざ車出してここまで連れてきたんだから、
ただでは帰さないよってプレッシャーをかけてるのか。
文香ちゃん、見た目よりしたたかなところがあるよね。
●18
「アタシからも言わせてもらうけど……志希は、CuPさんのコト、好きでしょ?」
「……うん、そだね。スキだね」
隠してるつもりも無かったけど、アイドルの子から改めて聞かれたのは、
今日ここで美嘉ちゃんからが初めてだった。
「ま、あたしの敏腕プロデューサーには、担当アイドルから好かれるとか、よくあるコトなんじゃない?
なーんか、あしらい方に慣れが見えるもん」
あたしは白々しい言葉を吐く。
プロデューサーと肉体関係まで持っておきながら、
こんなタダの片思いみたいな言い方をするなんて、もう嘘つきも同然。
「あたし、飛び級したから分かるよ。何事も、年上のヒトと対等にやりあうのは、難しいんだ」
二人は思うところがあったのか、何か言おうとしてた口を噤(つぐ)んだ。
二人は、あたしのコトをどこまで察してるんだろう。
プロデューサーへ、ビジネス上の好意を超えた感情を持っているコトまで?
一緒にヘンタイごっこしてるコトまで?
それとも、あたしのアイドル生命すら危うくする、度し難い本音まで?
「物憂げで神妙な面持ちも、志希さんは意外と似合ってますが……」
「……『意外と』ってどーゆー意味かなー文香ちゃーん?」
文香ちゃんは前髪をかきあげながら、あたしの目をまっすぐ見つめてきた。
「今は、潮風を肺いっぱいに吸い込んで、いつものかしましい表情を取り戻しましょう」
「そ、そーだよー? 志希ってば、最近元気なかったからさー。
アタシたちに相談できるコトならして欲しいけど、できないコトでも、せめて気分が晴れれば……」
次は『かしましい』と来たか、文香ちゃん。
美嘉ちゃんと比べると、語彙がいちいちチクチクしてるね。
「……まぁ、三日もしたら今の恋患いぶった顔つきに逆戻りでしょうね」
「ちょ、文香さんっ」
「あっはは! 文香ちゃんったら、容赦がないね♪」
三打目――こうまでばっさり言われると、目前の爽やかな海浜と相まって、
いっそ清々しい気分になれる。まさか、これも文香ちゃんの狙いかな?
●19
「……志希さん。今日ここで、思い出して行ってください。貴女の眩しく輝いていた顔つきを。
それだって、先日からぶら下げている鬱屈した顔つきと同じ――CuPさんから貰った表情でしょう」
探り探りの美嘉ちゃんと対照的に、文香ちゃんは既にある確信を持っているみたい。
「志希さん、貴女はCuPさんについて、二つの感情の間で揺れ動いていますね。
それを二つの表情として、CuPさんに見せつけてあげましょう」
「見せつける……って?」
だから、文香ちゃんの言葉は、まっすぐあたしにぶつかってくる。
「太陽のように眩しく笑った後は、朧月のように儚く俯きましょう。
あなたのせいで、私はこんなにも気持ちが揺れているんだ――と、教えてあげなければなりません」
文香ちゃんは、あたしの気持ちを表情に託して伝えろ、と言ってくる。
顔だけでモノを言え、なんてアイドル同士でなければあり得ないアドバイスだね。
「そうしたら、CuPさんも、あなたに合わせて気持ちが揺れてきますよ。
自分の心底が揺れ動く様を見せれば、相手を心底から揺り動かすことができます」
「あたしが、『あなたのせいでこんなにグラグラしてる』ってプロデューサーに知らせてあげたら、
プロデューサーもグラグラっと揺らいでくれるかな?」
「そういう話です」
「文香ちゃんの言葉……信じてもいいかな?」
「信じたほうがいいですよ――嘘か真かは別として」
「――そこでそんなコト言うの文香さーん!?」
あたしよりも、美嘉ちゃんのツッコミのほうが早かった。
「揺らぐか揺らがないかは、やってみなければ分かりません。
ですが、揺らぐと信じれば、CuPさんに気持ちを伝えることができるでしょう。そうしなければなりません。
気持ちを伝えず仕舞いこんだままにしてると、心が澱んでアイドルができなくなりますよ」
ああ。
文香ちゃんは、知ってか知らずか、あたしに酷なコトを言う。
『あたしはキミのプロデュースでシンデレラ・ガールになりたい』
『あたしはキミとあたしの芸能生活を全部ぶち壊しにしても、キミを独り占めにしたい』
その気持ちをプロデューサーに伝えろ、と。
「アタシは、文香さんほど志希の気持ちを察せないけど……言葉で伝えちゃダメなの?」
「ひとたび言葉にして聞かせたら、もう後戻りはできませんもの。それは、私でも怖いです」
文香ちゃん――ナニその言い方。口に出したらマズイ気持ちだと知ってるつもりか。
あたしがプロデューサーについて思ってること、全部見透かしてるの?
「ねぇ、文香ちゃん。ちょっといい?」
「……何か?」
あたしは、すいすいっと文香ちゃんとの距離を詰めて、
あたしと同じくらいの肩に手を置いた。そして――
「スーハースーハー……うーん。文香ちゃんに間違いないなー」
「ひゃっ……★ 志希と、文香さんが……っ!」
あまりに普段と態度がかけ離れてるものだから、
もしかして目の前にいるのは文香ちゃんの皮をかぶった別人かと思った。
でも、ニオイはやっぱり文香ちゃんだった。
●20
「……もう、よろしいですか?」
「あ、いきなり近くでごめんね」
「お構いなく。貴女のそういうところ、慣れてきましたので」
話の腰を折って、あたしがいきなりニオイを嗅ぎに迫ったのに、
文香ちゃんは大きな動揺も見せなかった。
ある意味で、あたしのプロデューサー以上かも。
「よし、念のため美嘉ちゃんもちぇーっく♪」
「ひゃっ! ちょ、そっそんなに近くで……あっ」
「らしくないこと言ってるな……そうお思いでしたか、志希さん?」
あたしが美嘉ちゃんチェックを終えると――結果はやはり本物の美嘉ちゃんだった――
すぐに文香ちゃんが言葉を投げかけてきた。
「主旨のほうは気にならなかったけど、言葉の選び方がいつもと違うかなと思ったよ」
けっきょく文香ちゃんの言わんとする所は、乱暴に要約すれば、
『うじうじしてないで自分の気持ちを伝えなさい。
言葉にするのが怖いなら顔でモノを言えばよろしい。あなたはアイドルなんですから』
ってところかな――突飛ではない。
違和感を醸してるのは、妙にチクチクとトゲのある言い回し。
文香ちゃんが『他人』に対して行っている配慮が、表現から抜け落ちてる。
「もしかして……あれは、あたしだけに向けた言葉ではなかったりする?」
「……どういう意味ですか?」
「例えば、ここにあたしと似たような状況のヒトが居て、文香ちゃんの言葉は、
実はそのヒトに向けられてたとか……? だから、言い回しが普段と違っちゃったの」
「そのヒトって……ここには、私と、美嘉さんと、志希さんしか居ませんよ」
つまり、文香ちゃんも――
「――志希ー! いっ、いきなりアタシのニオイ嗅ぎ出すとか、どーゆーつもりなのっ!?」
「お、我に返っちゃったか……にゃはは、ごーめん♪ 美嘉ちゃんの皮をかぶった偽物かと思って」
「漫画とか小説じゃないんだからー。もー、びっくりしたよー……」
「……そのうち、美嘉さんも慣れますよ」
「いや、これに慣れちゃ逆にまずいでしょ……」
美嘉ちゃんの声が聞こえて、あたしと文香ちゃんは美嘉ちゃんのほうを向いた。
絡み合わせていた目線が離れ離れになった。
海陸風は相変わらず、あたしたちの髪をバサバサと宙へ吹流していた。
(おしまい)
遅くなったが志希誕生日おめでとう
おつ
しきにゃん最高やん
乙
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