輝子「今日、私は少し、恋を知る」 (43)
モバマス・星輝子SSです。
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変わらない、ためにも。
大切なこと、だからこそ。
言っておかなくちゃ、いけないことが、ある。
な、なあ親友。
聞いてほしい話が、あるんだ。
法子「♪エブリデイどんな時も ♪ポンデリング持ってたい」
みちる「♪サンドもクロワッサンも ♪ホットに食べたい」
法子「もぐもぐ!」
みちる「フゴフゴ!」
時子「…」
法子「♪おーねがい!」
みちる「♪ドーナツパン!」
法子「じゃーん!! 今週新発売のドーナツー!!」
みちる「いえーい!!」
時子「ちょっと待ちなさい」
法子「? どうしたの時子さん?」
時子「そのめちゃくちゃな歌やめなさいよ。あと様をつけなさい。それからみちるは何でここにいるの」
みちる「? チームフラワーの打ち合わせですよ?」
時子「さっきからパンとドーナツを食べてるだけじゃない」
法子「そういう会だよ?」
みちる「そうですよ!」
時子「…じゃあ私の所にわざわざ来てやるのやめてくれるかしら」
法子「ええー? 一緒に食べようよ時子さん! これドーナツ!」ノソッ
みちる「そうですよ! パンもどうぞ!」ドサッ
時子「………」
比奈「(けっこう怒ってないっスか、アレ)」
杏「(いやいや、時子は懐いてくる後輩には優しいから。豚の皆さんには厳しいけど)」
ワイワイ ガヤガヤ
輝子「…」
輝子「…♪」
輝子「…フン♪ フン♪」
P「輝子ー」
輝子「ん、や、やぁ親友。あれ、もうレッスンの時間か…?」
P「いや、まだだけどな。調子はどうだ?」
輝子「フヒッ…い、いいぞ」
P「そうか。…キノコくんたちはどうだ?」
輝子「…き、今日もシイタケクン筆頭に、みんな元気だよ」
P「そうか、ならよかった」ナデナデ
輝子「フヒッ…く、くすぐったいぞ…でもうれしいな」
P「まだ時間あるけど、レッスンには遅刻しないようにな」
輝子「お、オッケー…なんちゃって」
P「ふふっ」
< 豚! ちょっと来なさい!
P「おっと…それじゃあまた後でな」
輝子「あ、ああ、ありがとう…親友」
輝子「…♪」
フヒ…
どうも。
キノコアイドル、星輝子です。
あ、キノコアイドルっていうのは、プロデューサーが、考えてくれたよ。
肩書き…っていうのかな。
今日も、事務所は平和で。
机の下は少しだけ、ジメジメしていて。
キノコたちも元気そうで。
…うれしい、ね。
プロデューサーも、元気そうで、イイネ。
親友の元気は、私の元気…フフ。
輝子「…♪」
乃々「…」
輝子「…や、やぁ、お隣さん」
乃々「あ、おはようございます…」
輝子「…ど、どうかしたか…? さっきからこっちを気にして…?」
乃々「あ、いえ、輝子さんとPaのプロデューサーさんは…今日も仲がいいなと思って…」
輝子「お、そ、そうか…フヒ…な、なんかテレるな…」
乃々「ふふ…」
輝子「まあ、プロデューサーは親友だからな…」
お隣の机の下の友達、ボノノさん。
ボノノさんは私と一緒で内気で、
たぶん、私よりネガティブだけど、
でも、最近は頑張ってアイドルをやっている…みたいだ。
輝子「お隣さんも…Coのプロデューサーと、仲良しだよね…」
乃々「えっ、あ、まあ、はい…」
輝子「知ってるぞ…Coのプロデューサーのこと、好き、なんだよな」
乃々「…いや、その…」
詳しくはわからないけど、
いわゆるその、デート…的なところに行ったと、
言ってた気がする。
輝子「フヒ…ウワサは聞いたぞ…壁に耳あり、床にはキノコ…だ」
乃々「何ですかそれ…」
私は…恋とか愛とか、そういうキモチは、まだよくわからない。
でもみんな結構、そういうこと、言うよね。
知ってるぞ。うん。
輝子「担当のプロデューサーと仲がいいのは、いいことだよね…」
乃々「えっと…はい、そうですよね…ですよね」
乃々「わ、私の話はさておき…輝子さんは」
輝子「?」
乃々「輝子さんは…よくPaのプロデューサーさんを友達とか、親友と、その、呼んでいますけど…」
輝子「う、うん」
乃々「その…好き、では、ないんですか?」
輝子「フヒッ!?」
ゴッ!
乃々「あ」
輝子「〜〜〜」
乃々「だ、大丈夫ですか…頭打ちましたけど」
輝子「…あ、うん、大丈夫だ…ちょっとびっくりして…ぶつけただけだ…」イタイ
好き…?
輝子「わ、私が…ぷ、プロデューサーのことを…?」
乃々「はい…」
輝子「好きって、えっと、その、好き…?」
乃々「え、あ、はい」
輝子「フヒ…そ、そんな私なんて、ボッチだし…キノコ女だし…」モソモソ
困ったぞ。
私はそんな、特別なそれは、ないし。
でも…
輝子「で、でも、そうだな…好きかどうかでいえば、………す、好き、かな。プロデューサーの、こと」
乃々「!」パアア
輝子「あっ、ま、まって、その…ちがうんだ」
思わずボノノさんをさえぎる。
輝子「ぷ、プロデューサーは、親友で、私をアイドルにしてくれて、その、やさしいし、好き…だけど」
どうしよう。
何て言ったらいいのか。
杏と比奈の組み合わせに見覚えが
輝子「…わ、私はその、恋愛…みたいなのって、よくわからなくて」
少しずつ、少しずつ、説明する。
輝子「みんなの、その、好きとかそういう話は、もっと、その、カップルでとか、い、イチャイチャ…したりする、そういうの…だろ? そういうのは…まだ、わからないから…」
乃々「それでも、好きって言えるって、十分ステキなことだと思うんですけど…」ニヘラ
ボノノさんが笑ってる。
なんか、楽しそう…?
輝子「キ、キモチワルく、ないかな、私…?」
乃々「別に大丈夫かと…あ、いえ、私が言えることじゃないですけど…」
この日は、レッスンまでずっと、ボノノさんとボソボソ、こんな話が続いた。
こういうのを、コイバナとか言うのかな…フフ。
イケてるヤツらみたいだな…私たち。
あっ、いや、なんでもないです。
乃々「あの…もし余計気になってしまったならごめんなさい…。でも輝子さんの、Paプロデューサーさんへのキモチって気になりますし…。親友のその先…というか」
輝子「その…先…」
なんだか難しいことになってきたような、気がする。
私は今の毎日が楽しいし、
プロデューサーのことは、けっこう好きだぞ。
フヒッ…あ、改めて言うと、ちょっと恥ずかしいな…。
ムム…。
好きっていうのも、難しいもの、だね。
杏「(杏もプロデューサーのこと結構好きだよ、だからウチ来て料理と洗濯と掃除してくれないかなー)」グデー
比奈「(あー私も、ご飯作るのはお願いしたいっスねー)」
翌日、お昼過ぎ。
みんな出払っていて、事務所には、私ひとり。
でも日差しもあったかいし、キノコたちも元気そうだし、イイネ。
静かだね…。
ガチャッ ガチャガチャッ
輝子「?」
バンッ!
亜季「お疲れさまです! 大和亜季、ただいま戻りました!」
輝子「フヒッ」ビクッ
亜季「おや輝子殿! お疲れ様です! 今日もキノコ栽培作戦展開中でありますか!」
輝子「や、やぁ…レッスンお疲れ様です…。そ、そう、今日もひとりで、キノコ栽培だよ…フヒッ」
亜季「いやいや、変わらず平穏、いいことです!」
Coチームの元気お姉さん、亜季さん。
いつも誰かと戦ってるみたいな感じの、ちょっとおもしろい人。
でも、私にも明るく接してくれる、ステキな人だ。
輝子「亜季さんは…やさしいね」
亜季「いえいえ! そうだ輝子殿! 頂き物のドリンクがあるんですが輝子殿もいかがですか? 午後のティータイム的な感じで!」
輝子「い、いいの…? じゃあ、あの、いただきます…」
最近、事務所のみんなと、少しずつ、仲良くなれている気がする。
ちょっとだけ、うれしい。
フヒ…これからも、迷惑がられない範囲で、頑張ろう…。
亜季「はい! 海外の果実で作ったドリンクらしいですよ! 独特の風味だそうですが、すごく元気になるとか!」ドン
机に置かれた紫色のジュース。
マストレさんがたまに作るドリンクに、似てる感じ…?
< オエエエエッ!!!!! マズスギマス!!!!!
< ヒャッハー!!!!!
輝子「亜季さんは…その、最近アイドル活動は、楽しい?」ゲホッ
亜季「そうですね、楽しいですよ! P殿もやりがいのある仕事をどんどん取ってきてくださるので!」ゴホゴホ
ティータイム。
亜季さんが、お口直しの紅茶を入れてくれた。
おいしい。
向かい合ってソファに座っている、亜季さんと、私。
給湯室に目をやると、
机の上に、さっきの謎ドリンクのビンが見える。
ムラサキフウセンタケのような艶やかな色の液体は、まだ残っている。
亜季「…さきほどは本当に申し訳ありませんでした。ここまで酷い味とは知らず…っ!」
輝子「いや、い、いいよ、大丈夫…。でもホント、おいしくなかったね…」
ひどい目にあった。
亜季さんも一口で噴き出したし、
私もあやうく、ライブモードになりそうだった。
今も口にわずかに残る謎ドリンクの匂い。
ちょっとむせる。
亜季「…で、急にお仕事の話とはどうされましたか? 何か悩み事でも?」
輝子「あ、いやお仕事は、私も楽しくて…」
亜季「? すると他に?」
輝子「えっと、その…」
こんなこと聞いていいのかな。
いいよね? せっかくだし…ね?
輝子「…亜季さんは、こ、コイバナとか…そういうの、得意?」
亜季「ブフッ」
フヒッ…亜季さん、今日は噴いてばっかりだな。
亜季「なるほど、そういう話でありましたか」
輝子「フヒッ…は、恥ずかしいなこれ…」
亜季「いやいや、よくぞ話されたものです。立派ですよ!」
ほめてもらえるのはうれしいけど、
こういうのは、ホント慣れないな。
ボッチ生活が長いもので、なんてな。
亜季「好きなんですね、Paチームのプロデューサー殿のこと」
輝子「う、うん。でも親友として好き…というのと、その先って、その、わからないというか」
亜季「うんうん」
亜季さんがニコニコしている。
亜季さんはふだん、サバゲー? のことばっかり言ってるように見えるけど、
実はしっかりしたお姉さんでも、あると思う。
亜季「なるほどぉ…。ただあいにく、私もそのテの話は得意でないもので…」
輝子「そ、そうなのか…」
亜季「しかし、しかしね! 物でも人でもそうですが、好きという気持ちを大切にするのはよいことですよ!」ガタッ
輝子「そ、そう…?」
亜季「そうですとも! それに恋愛であろうとなかろうと、パートナーとの熱き信頼関係というものは、幾多の試練を前にとても大事なものです! 古今東西の英雄譚で示されている事実でありましょう!」
楽しそうだ。亜季さんらしい、ね。
亜季「答えは一つではありませんし、好きの形も自由です! しかしだからこそ、信頼や親愛、感謝の気持ちなどはきちんと伝えるべきであります!」
演説を聞いているみたいだ。カッコイイ。
輝子「あ、ありがとう。参考に…なるよ」
亜季「なんのなんの! このくらいしか私には言えませんが!」
元気だし、スタイルもいいし、イケてる人だな。すごいな。
輝子「カッコイイ…ね」
亜季「お言葉、感謝であります!」ニコー
輝子「…亜季さんは、その、好きな人とか、いるの?」
亜季「えっ?」
一瞬、沈黙が広がる。
亜季「………えっ、私ですか!? 私!?」
二度聞かれた。
ウフ、何だ…その反応。
私が黙ってうなずくと、
むぅ…とつぶやきながら上を向いて、考えるしぐさをする亜季さん。
亜季「ん〜いやぁ、そのですね…」
何か、あるんだな。
それは、ボッチの私でも…わかるぞ。
亜季「私はあの、担当のプロデューサー殿に大いなる親愛の情を抱いておりまして、あっいえ、それは仕事の上での信頼関係といいますか、そういうアレなんですが」
輝子「あ、はい」
亜季「しかし最近その…ですね、ちょっと…」モゴモゴ
輝子「…」
亜季「…」
ポン
輝子「フヒッ…ちゃ、ちゃんと思い切って言っちゃおう…ぜ!」ニヘラ
亜季「えっ、何ですそのテンション」
亜季さんの話は、ちょっと意外なものだった。
亜季「つまり…ですね、私は、仕事のパートナーとして、プロデューサー殿をお慕いしているわけです」
輝子「う、うん」
亜季「…ですが、その、そのことにおいても、最近は、ちょっと欲…的なものが出てきておりまして」
輝子「?」
亜季「Coチームの、たとえば乃々殿や、最近だと飛鳥殿など、プロデューサー殿と仲良い…ような、ですね」
輝子「あ、ああ、そうだね」
亜季「それを見て、こう…私も、…というか、その」
輝子「…うらやましい、ってこと?」
亜季「…」
歯切れが悪い。
亜季さんも、いろいろ悩むんだね。
意外だ。
失礼かもしれないけど、ちょっと、親近感がわく、よ。
小梅「わ、私を一番かまってほしい…みたいな?」
亜季「い、いえ、そこまでは…いや、でも、はい、確かにそういう…感じも…」
亜季「!?」
輝子「!」
小梅「こ、こんにちは…お疲れさまです」ヒョコッ
輝子「や、やあ小梅ちゃん。い、いたのか…」
亜季「小梅殿、いつから…?」
小梅「えへへ…ごめんなさい、わりと最初から…」
亜季「…」///
つまり、要するに。
亜季さんも、もっとCoのプロデューサーと仲良くなりたいんだね。
だけど、自分より仲良しだったり、好きって言ってる人がいるから…
小梅「…どうしていいか、わからない?」
亜季「小梅殿ぉ…あまりいじめないでほしいであります…」
小梅「あっ、ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃ…」アセアセ
気がつけば、亜季さんの顔は真っ赤だ。
でも、なんだろう、うつむく姿が、色っぽい。
亜季さん美人だなぁ、って今更だけど、思う。
輝子「あ、亜季さんごめん…私が聞いたばっかりに、変な空気になっちゃって…」
亜季「あ、いえそれは別に…ただ、私も未熟者だなぁと思いましたよ」
小梅「…で、でも、つまり亜季さんは、Coプロデューサー、好きってこと、なの?」
今日の小梅ちゃん、なんか、積極的だな。
亜季さんに目をやると、再び上を向いて、考えていた。
沈黙が、流れた。
輝子「フヒ…」
少しして、再びこちらを向いた亜季さん。
いつもの笑顔だ。
亜季「…さて、どうなんでしょうな。まだ私にもわかりません」
顔はまだちょっとだけ、赤い気がする。
だけど、勇ましい、いつもの亜季さんだった。
亜季「わかりませんが、今は夢中になれることもあり、仲間にも恵まれ、プロデューサー殿にもよくして頂いております」
輝子「う、うん」
小梅「うん」
亜季「思うことはいろいろ、私もありますよ。けれどそれは仕事と同じく、今は一つずつ、確実に歩を進めていくだけであります!」ビシッ
輝子「カ、カッコイイね、亜季さん」
小梅「そうだね」
ホントに、カッコイイと思う。
亜季「むーん! こんな話をしていたら、何かムズムズしてきますな! 少し早いですが、レッスン室で身体を動かしてくることにします!」
亜季さんは立ち上がると、大きく伸びをして、
私たちの方に向き直した。
亜季「輝子殿、今日はありがとうございました。きちんと相談に乗れなくて申し訳ありません。ですが、刺激になる時間だったと思います。輝子殿にも、私にも」
輝子「フヒッ…そんな、かしこまらないで…あ、でも、こちらこそ、ありがとうございました」
亜季「小梅殿、またゆっくりお話でも致しましょう。今度は小梅殿の話も聞いてみたいところであります」
小梅「あ、はい、私もお話したいです。ありがとうございました…」
亜季「では今日はこれで! お疲れさまです!」
ガチャ バタン
輝子「…あの、小梅ちゃん」
小梅「ん、うん、何?」
輝子「小梅ちゃんは、担当プロデューサーが、他の人と仲良くしてるのって、嫌?」
小梅「………」ムー
輝子「………」
小梅「私は…今はそういうのは、ないかなぁ。あ、でも、プロデューサーさんに構ってもらえなくなるのは、辛いかな…」
輝子「フヒ…なるほど」
小梅ちゃんは、正直で、強い子だね。
カワイイね。
輝子「…」ナデナデ
小梅「え、えっ? えっと…」
バァーン!
幸子「カワイイボクが戻りましたよ! お疲れさまです!」
飛鳥「…お疲れさま。二人だけかい?」
幸子ちゃんと飛鳥ちゃんが、戻ってきた。
最近、けっこう仲のいい二人。
言ってることは、よくわからない時もあるけど。
小梅「お、おかえりなさい…そうだよ」
輝子「おかえり…」
楽しいね。でも、そうなんだな。
人によっては、この友達が、ライバルになったりも、するんだもんな。
ムム…。
できるなら、私は、みんなと仲良くしてたい、けどな。
難しいこと、なんだな…。
飛鳥「二人で談笑中だったのかな? お邪魔をしたね」
小梅「あ、いや、大丈夫だよ…」
まあ、今は楽しく、していよう。
幸子「喉が渇きましたね! 何か残ってましたっけ?」
輝子「………給湯室の机に、栄養ドリンクがあるから、お二人とも、どうぞ…」
小梅「!?」
輝子「世の中、いろいろ、難しいね…」メソラシー
小梅「え、輝子ちゃん…」
亜季「…プロデューサー殿! 折り入ってお願いがあります! あの、えっと、今度一緒に…」
翌日、夕方。
ガチャ
輝子「お、お疲れ様です…」
P「おうお帰りー」
輝子「や、やあプロデューサー。レッスン終わったよ。異常なし…です」
P「そうか、了解。お疲れ様だな」ナデナデ
輝子「フヒ…あ、ありがとう」
光「やあ輝子ちゃん、おかえり!」
輝子「あ、ただいま…フヒッ」
P「光はそろそろ準備しとけよ。もう少ししたら仕事行くぞー」
光「もちろん大丈夫だ! ホラ、アタシの準備はもうできている!」
P「お、もう行けるか。よしよしえらいえらい」ナデナデ
光「あははっ、くっ、くすぐったいぞプロデューサー!」
P「ははは。もうちょっとだけ待ってなー」
今日も親友は、みんなにやさしい。
昨日の亜季さんの件を、思い出すね。
私は…それは別に、いいかなと。
だって、みんな仲良し、いいよね。
フフ。
バン!
裕子「エスパーユッコただいま参上! お疲れ様でーす!!」
P「おうお疲れ様。あれ、柚と茜は一緒じゃなかったのか?」
裕子「柚ちゃんはぴにゃこら太のぬいぐるみでふざけすぎて、今そこで穂乃香ちゃんに絞られてます。茜ちゃんはまた走ってきますって…」
P「何やってんだよ…」
裕子「あっ、でもレッスンはちゃんとやってましたからね! 全員ちゃんと!」
別レッスンをやっていたユッコさんも戻ってきた。
賑やかって、いいよね。楽しいね。
裕子「そんなことよりプロデューサー! これ見てください!」ゴソゴソ
P「そんなことって」
裕子「サイン、やっとまとまりましたよ! これでどうですか!」
ユッコさんが、ノートを取り出す。
そこにはユッコさんが練習中と言っていた、サインが書かれていた。
ひらがなで「ほりゆうこ」。
「ほり」のうしろに、「☆」と、顔文字が入っていたり、
「こ」の端っこが、くるんってなっていたり。
…イイネ。かわいい。
…私の意見は、聞いてないか。フフフ。
裕子「はいここ! ここね! わかりますか、ここスプーンですよ! 私といえばスプーン、スプーンといえばエスパー、エスパーといえばエスパーユッコですよ!」
P「この『ほ』の上は?」
裕子「これはリボンですよ!」
P「あーなるほど! リボン入れたのか!」
裕子「プロデューサーが言ってくれたんじゃないですか! ユッコは頭のリボンもその、あの、………かわいいなって! だから! だから!」
P「何自分で説明して照れてんの…」
裕子「〜〜〜もう!! もう!!!」バシバシ
P「痛い痛い」アハハ
………。
裕子「で、どうですか! 似合ってますよね!」
P「うん、いいんじゃないかな、かわいいぞ」
裕子「ホントですか! やった♪ やった♪」
P「この☆マークもかわいくまとまってるな」
裕子「でしょう! まさにスター、なんちゃって! みんなのスターこと、サイキックアイドル堀裕子ですよ!」
………スター。
P「ユッコはいつでも楽しそうだな。いいことだ」ナデナデ
裕子「えへへ! もっとほめてくれてもいいですよ!」フンスフンス
………。
P「さて、そろそろ光を連れていかないとな。お疲れ様、ユッコ」
裕子「はーい」
時子「フンッ」ゲシッ
P「痛っ!」
裕子「あ、お疲れ様です」
P「………時子か、急にどうs」
時子「様をつけなさい」
P「…トキコサマ」
時子「………貴方この後の予定は?」
P「え、いやだから今から光を仕事に」
時子「その後は?」
P「…事務所に戻って軽く作業があるくらいだけど。何かあったのか? 時間取る?」
時子「アァン? 私じゃないわよ。ぶっ飛ばすわよ」
P「…?」
時子「チッ…耳貸しなさい」グイッ
P「お、おい…」
裕子「?」
時子「 」ボソボソ
P「………え」
バッ
P「………」
時子「後でいいわよ。そのかわり、きちんとしなさいよ」
P「…わかった、ありがとう、時子様」
時子「フン」
P「…よし光、お待たせ。いけるか?」
光「もちろんだ!」
バタバタ バタン
裕子「…何かあったんですか?」
時子「ないわよ。それより貴女今日これで予定終わりよね? 夜はご飯行くから一緒に来なさい」
裕子「えっ! 時子様と!?」
時子「嫌なの?」
裕子「ええっ、め、滅相もない! 行きます! えっ、でもなんで急に…?」
法子「私もいるよー!」バッ!
みちる「あたしもいます!」モグモグ!
時子「…」
裕子「(あっ、これすっごい食べる流れだ)」
時子「行くわよ」ギロリ
裕子「は、はい…」
………。
机の下は、今日も平和。
キノコクンたちも、みんなおだやか。
ん…?
何か元気が、ないんじゃないかって?
大丈夫だよ…別になんともないよ…フフ。
沙理奈「あら、こんにちは」
輝子「!」ビクッ
沙理奈「あ、ごめんね、おどかしちゃったかしら」
輝子「い、いや…大丈夫、だよ」
沙理奈「ウフ、今日もそこにいるのね」
輝子「ま、まあね…」
沙理奈「…元気ないじゃない。何かあったの?」
沙理奈さんが、プロデューサーのイスに腰を下ろした。
脚、キレイだな…。
松本沙理奈さん。
前に、イベントで一緒になったのをきっかけに、挨拶するようになれた。
見た目は、こう、イケイケな感じの人で、
グラビアモデル顔負けの、すごいスタイルのお姉さん。
私なんかとは、住む世界が違うね…と思っていだんだけど、
最近は、喋れるようになった。
というか、いつも沙理奈さんから声をかけてくれる。
やさしい人、だね。
沙理奈「悩み事?」
輝子「い、いや全然そんな…ユッコちゃんがどうとか…ないよ」
沙理奈「えっ?」
輝子「あっ、違って、あ、いや」
沙理奈「フフッ。なぁに一体。詳しく教えて♪」
沙理奈「ふーん、ユッコちゃんがね」
輝子「う、うん…」
沙理奈「遠慮してるの?」
輝子「べ、別にそんなつもりは…ただ、楽しそうだから、邪魔しちゃ悪いかなと、その…」
沙理奈「それを遠慮っていうのよ」
輝子「フヒ…そ、そうか」
話しながら、ちょっとわかってきた。
実は、ユッコちゃんがうらやましかったのかも。
輝子「ユッコちゃんって、あの、えっと、プロデューサーのこと、好き…なのかな」
沙理奈「…どうかしらね。でも、輝子ちゃんがそれを言うなんてね」
輝子「えっ」
沙理奈「輝子ちゃんも好きなんでしょ? Paのプロデューサーさんのこと」
輝子「あ、いや、私はその…親友で…」
沙理奈さんに改めて、説明する。
私は親友として、プロデューサーが好きで。
輝子「…あ」
輝子「…わかった、かも」
沙理奈「ん?」
輝子「沙理奈さん、私まだ、恋愛ってその…わからなくて、ね」
沙理奈「うん」
輝子「プ、プロデューサーは、私みたいなボッチを、アイドルにしてくれて、やさしくて、信頼できて、………親友として、すごく好きで」
沙理奈「うんうん」
輝子「このまま、ずっと続けばいいな…って思ってたんだ」
輝子「でも、ユッコちゃんを見てて思ったんだ。恋愛の好きって、たぶん親友を、もっと…向こうに連れていくんだなって」
沙理奈「…」
輝子「それで、ずっと一緒ってないのかな、って思って、ちょっと寂しくなってた…の、かな」
沙理奈「…そっか」
なんだこのアイドル達
子供からお姉さんまで皆かわいいじゃねぇか
沙理奈「…ねえ、隣いい?」
輝子「えっ、いいけど…狭いよ?」
沙理奈「大丈夫よ♪」
ギュムッ
輝子「お、おおおう…!」
沙理奈さんが、アンダーザデスクに入ってきた。
そこには、狭い机の下に入るために、
体育座りする沙理奈さんと、
その仕草によって、
ぎゅっと、
ぎゅぎゅっと、
盛り上がった沙理奈さんの…胸があった。
輝子「フフ…い、いい胸、してんじゃねえか…なんちゃって」
沙理奈「ウフッ、なぁに? そのキャラ」
沙理奈さんは、身体を寄せて、私の頭を撫でてくれた。
沙理奈「輝子ちゃんも、いろいろ悩んでいるのね」ナデナデ
輝子「フヒ…カッコ悪いね」
沙理奈「そんなことないわよ。みんな恋や愛には悩むものだし、輝子ちゃんの場合それが友達とか親友なんだなってだけよ」
輝子「…ん、そ、そうか」
沙理奈「フフッ。じゃあお姉さんが、いいこと教えてあげる」
輝子「フヒ」
沙理奈「恋愛なんて形は自由よ。好きに決まりなんてないし、お互いが大好きなら、どんな形だってありなのよ」
輝子「う、うん」
亜季さんも、似たようなことを言っていた気がする。
沙理奈「でもね、じゃあなんで、世間のみんなは恋とか愛とか言ってるんだと思う?」
輝子「…?」
沙理奈「一つは、いつかは形が変わっちゃうから。親友関係は続けられると言ったって、男女間じゃそうもいかない。PaPさんだって、輝子ちゃん以外の女の子と恋仲になるかもしれない。そうなったら、あまり仲良くしてもらえる時間はなくなるわよね? 特定の誰かと密接になるということは、いろいろなものが失われたりするのよ」
…なるほど。
沙理奈「それにアタシたちもいつまでもアイドルではいられない。いつかは違う道に進む時が来る。そうなったらプロデューサーさんは? …ね? わからないものよ、この先なんて」
輝子「ムム…」
沙理奈「だから、恋とか愛とか、つまり輝子ちゃんの言う親友のその先、その先の形を作っていくの。変わっていく中で、変わらないでほしいものを、大切にするため」
なんとなくわかったような、そうでないような。
それにしても、沙理奈さん、髪サラサラだな…。
フヒ…色っぽいぜ…。いい香りするし…。
沙理奈「それともう一つ。みんな恋とか愛とか言うのはね、恋愛がそれだけ、素敵だからよ♪」
輝子「素敵…」
沙理奈「そう。一途な片思いでも、試練を乗り越える大恋愛でも、平凡な仲良しカップルでも、きっとなんでも物語があるのよ」
輝子「そ、そうなの…?」
沙理奈「まあ、いいことばかりじゃないでしょうね。でもきっと、たくさん素敵なところがあるのよ。だからみんな、前に進むの」
私は、どうだろう。
私は今、一生懸命、頑張って生きているかな…。
輝子「な、なんか、好きってのも、難しいね…」
沙理奈「フフッ、考えすぎても仕方ないわよ。困ったら話してみることね。アタシでも、乃々ちゃんや小梅ちゃんでも、プロデューサーさんでも」
輝子「フヒッ! プ、プロデューサーはさすがに…」
思わず声が裏返ってしまった。
でもそんな私を、笑顔で見つめる沙理奈さん。
沙理奈「あら、それも大事なことよ? そもそもプロデューサーさんは、どう思っているのかしら」
輝子「えっ」
沙理奈「輝子ちゃんは、親友として、でも大切に、プロデューサーと楽しくこれからも過ごしていたい。でもプロデューサーは?」
…そうか。そうだった。
そのこと、すっかり忘れてた。
沙理奈「輝子ちゃんと同じ思いかもしれない。あるいはもっと親しく、もっと恋人みたいになっていきたいと思っているかもしれない」
輝子「プロデューサーが、私と…!?」ガタッ
沙理奈「あん、狭いんだから急に動かないで」ギュム
輝子「あ、ごめん、えっと…」
どうしよう。
ああ、ダメだ、顔が熱くなってきた。
どうしよう、私キモイな。
えっと…えっと…。
沙理奈「あらあら、わかりやすい」ナデナデ
輝子「や、でも逆に、き、嫌われてるってことは…ないかな?」
沙理奈「ないない。断言してもいいわよ。それなら普段の関係はありえないって」
輝子「そ、そうか、え、えへ」
沙理奈「でも、もっと前に進んでいきたいのかどうかは…ね? 本人のみの知るところよ」
プロデューサーと、かぁ。
ううむ。
沙理奈「たぶん今は『お仕事をするパートナーとして好きだ』って言うと思うわよ。それは輝子ちゃんも、ユッコちゃんも、Paのアイドルはみんな」
輝子「な、なるほど。今すぐ恋人とかは…ないって感じか」
沙理奈「なりたい?」
輝子「あっいえ、その、えっとでも…」
沙理奈「フフッ、いいじゃない。でもそうよ。今すぐ恋人とはいかないかもね。でも、だからこそ今から恋するって、素敵じゃない?」
ううむ。
沙理奈「難しく考えないの。もっと仲良くなったら、きっと楽しいこともあるんじゃないか。ユッコちゃんや柚ちゃんも仲良しだけど、私ももっと仲良く! 今はそれくらいでいいのよ。そこからスタート」
そこから、か。
輝子「あ、ありがとう。なんか、頑張ろうって気になったよ」
沙理奈「そう? ならよかったわ♪」
輝子「さ、沙理奈さんは、…いろいろ、恋の経験が豊富な感じだね」
沙理奈「えっ? あはは、そんなことないわよ。一生懸命に生きて、時々見栄を張ってるだけ。普通の女で、普通のアイドルよ♪」
輝子「…? 今は誰かに、恋してる?」
沙理奈「ん? んー、興味ある?」
輝子「…ちょっとだけ」
沙理奈「…フフッ。話してもあげてもいいかなと思ったけど、そこで盗み聞きしてる子がいるから、やっぱりダーメ」
輝子「…えっ!?」バッ
乃々「………ど、どうも、偶然ですね…」
輝子「ボノノさん…いたのか」
乃々「す、すみません。最初から…でも言い出せなくって…」
輝子「そ、そっか…」
ボノノさん、今の話、聞いてたのか…。
はずかしいな…。
でも…まあ、いいか。
乃々「ごめんなさい…」
輝子「フヒッ…ボノノさん、一つ教えてあげよう…。沙理奈さんは、とてもやわらかくて、気持ちいいぞ…!」
沙理奈「あはは、何言ってんの。ハマっちゃった?」
少し、ゆるい空気が流れる。
いつもの空気っぽい。
そうだ、楽しまないと、ね。
沙理奈「あ、そろそろPaプロデューサーが帰ってくる頃ね。じゃあアタシはおいとまするわね」
輝子「あ、帰るのか…」
沙理奈「そうよ、乃々ちゃんもね」
乃々「あ、はい」
沙理奈「輝子ちゃん、意味はわかるかしら?」
輝子「…え、あ」
沙理奈「フフッ。たまにはゆっくりプロデューサーと話してみたら? 気持ちをぶつけるチャンスよ」
あう。
それは、うれしいけど。
何を言ったら、いいんだっけ。
沙理奈「そんな緊張した顔しないの。もう一回言うけど、告白するんじゃないんだから。親友なんでしょ。もっと仲良くなるために、いろいろ思うことを相談したり、少し甘えてみたりするの」
輝子「甘える…」
沙理奈「こう、ハグとかしてもいいのよ?」ギュッ
輝子「む、胸がたりないぜ…」
乃々「私も…」
沙理奈「あなたたちハグを何か勘違いしてない?」
沙理奈「たまには違う自分を見せたり、相手の違う一面を知ったり。それでまた、思うことは出てくるわよ。恋愛なんて、その先その先」
輝子「わ、わかった。頑張る…」
改めて、ってなると緊張するね。
ようし、それなら。
乃々「輝子さん、ライブモードはダメですよ」
輝子「フヒッ!? バレてた…!」
沙理奈「…まったくもう」
ガチャ
P「お疲れ様でーす。おお輝子、残っていてくれたのか」
輝子「や、やあ…いるよ」
P「今日はもう帰っちゃったかと思ったけど…いてくれてよかったよ」
輝子「あ、えっと、親友…少し、話をしないか…?」
P「もちろん、今日はそのつもりでいるよ」
輝子「フヒッ!? そ、そうだったのか…うれしいな」
時間、取ってくれるのか。
うれしいな。気持ちが通じたのかな。
こういうの、何ていうんだっけ。サイキック、かな。違うか。
P「ゆっくり話そうか。輝子もこっちの椅子においで」
向かい合わせに座るプロデューサー。
どうしよう。はずかしい、な。
輝子「じゃ、じゃあとりあえず、このエリンギクンの小噺を…」
P「ふふっ、輝子らしいな」
輝子「フヒッ…そ、そうかな」
P「いいよ、どんどんどうぞ」
アイドルの仲間は、みんな好きだ。
でもやっぱり、プロデューサーは、また違う、特別だな。
輝子「それと…ね」
親友。
この言葉の意味は、私なりのものかもしれない。
正しい意味なんて、私にはなんとも、わからない。
でも大事なのは、そういうことじゃなくて。
プロデューサーが、親友で。
親友と、大切にしていたいことがあって。
そしてそれは、思うだけじゃなく、
他人なんだから、きちんと伝えなくちゃいけなくて。
輝子「き、聞いてほしい話があるんだ…」
この日、私は少し、恋を知る。
おまけ
時子「………」
みちる「フゴフゴ! これおいしいですね!」
法子「でしょー! あたしも時子さんに教えてもらって知ったお店なんだよ! さっすが時子さん!」
裕子「ムムーン! これもおいしいです! さいきっく美味! 美食! 美少女! あっ美少女は私!」
みちる「あはは! 何言ってんですか!」
法子「ユッコちゃん相変わらずおもしろい!」
ワイワイ ガヤガヤ
時子「(食べてばっかりのうるさい二人の相手にと、別のアレを呼んだけど…)」
時子「(うるさいのが一人増えただけ…!!!)」ギリッ
以上です。
過去作に
みちる「もぐもぐの向こうの恋心」
裕子「Pから始まる夢物語」
飛鳥「青春と乖離せし己が心の果てに」
晶葉「世界はそれを、愛と呼ぶんだ」
トレーナー「もっともっと、好きにまっすぐ」
があります。
続き物というわけではないですが、
登場人物の関係はだいたい同じです。
よろしければどうぞ。
うーん、残念
乙乙
良かった
とっこさん、いい姉貴分してるじゃないですか
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