男「都市伝説体質」 (6)
俺は今鏡の中の世界にいる
よくあることだった。何もかもが真逆な世界、文字も配置も左右反対、人が俺に触れずに俺の体をすり抜けていく
耳の奥にキーンという耳鳴りが小さく低くずっと鳴っている。普段はそれだけで人の声はおろか音など何も聞こえるはずが無い、しかし
「人に混ざりたい?」
女性の声が響いた。雑踏が聞こえるはずの静寂の中に唯一聞こえた声だ
男「いや、もうごめんだ」
「だめよ。あなたはまだまだ終われない」
急に雑踏が復活し、左右が反転する
通常世界に戻った。しかしおれはそれが恐ろしくてたまらなかった
男「起きないでくれ…」
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激しい悪臭が鼻をつく。慣れてしまうほどに嗅いだ死骸の腐乱臭、しかし永劫に慣れたくはない臭い
それは町を行く生きているはずの人々から漂っていた。見る見るうちに肉が腐っていく
叫ぶ者、唖然とする者、気にしない者、一体何割の人が感じ、一体何割の人が見えているのだろう
全身の表面を食い破った蛆が無数に顔を出し、グチュグチュと気色の悪い音をたてて人体を食べ進める
その場には男を一人残し、通行人だった肉塊のみが腐臭と悪夢を巻き散らかして何十何百と転がっている
「クスクスクス、今日も大量ね。美しいオブジェクトとしてこの場に残せないものかしら」
楽しそうに笑う少女と違い、男はどうしようもない悲しみをたたえた表情で佇んでいる
男「悪夢の蛆は全てを食い尽くす。そして蛾となり次の犠牲者に卵を植え付けに行く」
「いい話じゃない、オリジナル?」
男の言葉通り服も髪も残らなくなった死骸跡から狂気染みた紋様の蛾が四方へと飛び去ってゆく
男「寄生虫からの発想だ」
苦々しげに呟く
都市伝説
人伝えに語り継がれる恐怖体験、不思議なだけの話、実際にあった話、作り話
沢山混在し、生み出され続け、尚も姿を変えながら存在するモノ
ネットの生まれる前から、そしてネットが生まれてからさらに規模と多様性とを増殖し拡大してゆく"それ"
そんななかで最近最も口に上るもの
神無月 蒼「都市伝説の男、その存在は都市伝説であり、都市伝説こそがその男を形作る」
蒼「その男があるくところ都市伝説が生まれ、怪異と恐怖が満々る」
蒼「人々の想像力と神の悪夢とが交わり産まれた存在、それが"都市伝説の男"という都市伝説だ」
唐沢 恭哉「で?」
蒼「『で』って?」
恭哉「それだけか?ってことだよ。まさかそれで終わりとか無いだろ?」
蒼「無いよ。これだけなんだ。目撃譚も何も無いし何しろその男の見た目も情報が無いんだしそれが全てなんだよ」
恭哉「なんだよ、設定だけかよ!」
蒼「設定言うなよ。あるのはそれだけ。だから気になるんだなあ」
教室内はいつも通りに明るく騒がしかった
今日来るという転校生の話題がちらほらとあがる
恭哉「転校生程度で盛り上がるとか小学生かってんだ」
蒼「高校で転校生ってのが珍しいんだよ。そう思わないか?」
恭哉「思わないね。特に」
女子「先生から超イケメンだって聞いたんだよー」
女子2「もう超美形だって!きっとモデルよ!」
女子『キャー!』
恭哉「あんな話題が聞こえたならな」
蒼「ただの嫉妬か」
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