拝啓
立春の候、如何お過ごしでしょうか。
さて、私が家を飛び出してから早一月が経とうとしています。父上は私をよくない者と思われているやもしれませんが、私は父上のお身体を心配しています。
つきましては、健康の証として、正月を迎える毎に手紙をお書きしてほしい所存です。返事のほど、よろしくお願いします。
まだまだ寒い日が続きますが、くれぐれもご自愛ください。
敬具
「良し」
少年はその達筆にて手紙を書き上げ、封筒へ入れる。
「……元気にしているだろうか」
不安を抱きつつ、静かに彼の書いたそれを投函する。
中は見えないが、真っ直ぐ下へ落ちた感覚を覚えた
「歩こう」
少年は足を踏み出し、彼方へと向かう。
翡翠に輝く彼の瞳は、真っ直ぐであった。
これは、一人の堅物少年が勉強と調査の為に世界を巡る物語である。
「これは……っ」
少年は一つの街に足を踏み入れる。
街は廃れ、空は暗く、表に人はいない。
「人の気配」
ふと横に目をやると、醜い格好の老婆が座っている。
どうしましたか、と尋ねると、老婆は静かに口を開いた。
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