二宮飛鳥「大人と子供の狭間で」 (14)
地の文あり、短いです
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ちひろ「プロデューサーさん。これ、頼まれていた資料です」
P「ありがとうございます。すいません、いつも頼ってしまって」
ちひろ「いえいえ、これも私の仕事ですから。では、今日はこれで失礼しますね」
P「はい。お疲れ様です」
ちひろ「お疲れ様です」
ちひろ「飛鳥ちゃんも、また明日ね」
飛鳥「お疲れ様です」
静かに扉が閉じられ、部屋にはボクとPだけが残される。
P「飛鳥はまだ帰らないのか?」
飛鳥「キミの作業が終わるまで待っているよ」
P「待っていてもいいことなんてないぞ? まだ30分くらいかかるし」
カタカタとキーボードを揺らしながら、こちらを見ずに答えるP。
飛鳥「……鈍いね。キミは」
P「え?」
飛鳥「理解(わか)らないなら直球で言うけど、ボクはキミと二人きりの時間を持ちたいのさ」
そう言った瞬間、キーボードが音を鳴らすのをやめる。
スクリーンから視線を外した彼が、まじまじとこちらを見つめていた。
P「……おおう」
飛鳥「なんだい、その微妙な反応は」
P「いや……そうはっきり言われると、なんか照れるなと」
飛鳥「純情少年みたいな物言いだね……ボクより10も年上なのに」
P「子どもの心を失わないピュアな大人なんだよ。俺は」
飛鳥「へえ」
立ち上がり、Pの陣取っているデスクのもとへ歩いていく。
何をする気かとうかがっている彼の隣に立つと、ボクは彼の頬を優しく両手で包み込んだ。
飛鳥「アイドルに手を出すプロデューサーがピュアな心の持ち主とは、日本人もなかなかエキセントリックな人種になったものだね」
P「そう返されると、俺は何も言えないな」
ため息ひとつをついて、彼の瞳がボクの顔へと向けられる。
ボクとPは、互いに合意のもと恋愛関係を形成している。当然、自分達以外の人間にはひとりたりとも話してはいない。
飛鳥「今、いいかい」
P「仕事が終わるのが遅れるんだが」
飛鳥「………」
P「冗談だよ。だからそんなに落ち込むなって」
両手を挙げて降参のポーズをとるP。ボクの反応を楽しむかのように、けらけらと笑っている。
それが少し面白くなかったので、ボクは早速仕返しを敢行することに決めた。
飛鳥「んっ」
P「……ン!?」
前振りも何もないまま、不意打ちで唇を重ねる。
彼の目が驚きに見開くのを確認して、すっきりとした気分になった。
P「ぷはっ……びっくりした」
飛鳥「悪戯心を刺激したのはキミだ。悪く思わないでくれ」
P「いや、まあ俺的にはたまには強引な感じでされるのも悪くないから、むしろ役得ではあるんだが」
飛鳥「……マゾ?」
P「その解釈は飛躍しすぎじゃないか?」
飛鳥「参ったね。キミがそういう性癖の持ち主なら、ボクも時子さんに私事を仰がなければ」
P「だから違うって。俺嫌だぞ、鞭で叩かれたりするの」
唇に人差し指を当てて考えに耽っていると、Pが割と本気の声で否定してくる。どうやら、ボクがサディストになる必要はないらしい。
飛鳥「冗談だよ、冗談。それじゃあ、続きをしようか」
他愛のない話もそこそこにして、再びPと唇を重ねあう。
飛鳥「んっ……ちゅ、む」
初めは、互いに感触を確かめ合うかのようなついばむだけのキス。たったこれだけでも、Pの熱がボクに流れ込んでくるのを感じる。
……でも、もっとほしい。
飛鳥「ちゅ……れろ、んん……んっ」
舌を伸ばして、Pの唇を優しく舐めまわす。
それに合わせて、向こうもゆっくりと舌を突き出してきた。
舌と舌が触れあい、やがてキスが絡み合う物になっていく。互いの唾液が混ざり合い、増していく水音……ボクの身体も、熱を帯びる。
飛鳥「ミントの匂いがする」
P「口臭は対策が必要だからな。特にこういう仕事やってると」
飛鳥「ボクは、休みの日に嗅いだ、あのタバコ臭い匂いも好きだよ。Pの匂いって感じがしたから」
P「俺の匂いね……おっさん臭いだけじゃないか?」
キスの味というのは、実際に何度も経験した今となっても表現しがたいものだ。
おいしいとかまずいとか、もちろんそういう話ではなく……舌を絡ませるだけで、どうしてこうも頭がとろけてしまうのだろう?
飛鳥「ふぁ……ぁ、ちゅる……れろ、んぅ……ちゅむ、れろ」
比較対象がいないから、はっきり断定はできないけれど……Pのキスは、優しい。まだぎこちなさの残るボクのキスに合わせるかのように、臨機応変に動いてくれる。そんな感じだと思う。
それがまた愛しく思えて、ついつい暴力的なキスを望んでしまう。ボクの心をこじ開けるような、内にこもった衝動を解き放ってくれるような、そんな――
飛鳥「……ん?」
ふと視線をずらすと、Pの身体のある部分に目が留まった。
両脚の付け根の部分。その真ん中に存在する、大きな膨らみ。
ズボンの下からでも主張の激しい、男の性の象徴だった。
飛鳥「………」
張っている山を鎮めてあげたいという思いと、純粋な好奇心とが混ざり合い、自然とボクの手はPのソレに向かって伸びていく。
P「おっと」
けれど、それに気づいた彼は、ボクの腕を優しくつかんで元の位置に戻した。
P「約束しただろ。まだ早いって」
飛鳥「……そうだったね」
今は、キスだけ。それが、世間に認められないであろう関係になったボク達が決めた、最低限のルールだった。
P「飛鳥の手は、マイクやお客さんの手を握ったりするためのものだからな。俺のアレやソレで汚すわけにもいかない」
飛鳥「ボクの口は歌う時に必要なんだけど、その口でキミの唾液を飲み干しているのはいいのかい」
P「うっ……そこを突かれると痛いな」
困ったような顔で笑うP。ボクはそんな彼の頬を軽くつつくと、もう一度ついばむようなキスを行う。
飛鳥「でも、これはボクとキミとで決めたことだ。互いが望んで恋をして、互いが望んで今の関係を維持している。だから、アイドルをやり切るまではこのままでいい」
アイドルの仕事は、ボクのセカイに新たな彩りを与えてくれた。そして、それはまだ終わりではないとボクは確信している。
P「それまで、俺もちゃんと待つから」
飛鳥「あぁ。……強欲かな、アイドルも恋愛もどちらも獲ろうとするなんて」
P「子どもは欲張りなくらいがちょうどいいんだ。気にするな。もちろん、普通の子より我慢しなくちゃいけないことはずっと多いけどな」
飛鳥「理解(わか)っているさ」
背徳感はある。けれどそれさえも、キスをしている間は高揚へと姿を変えてしまう。
恋愛とは恐ろしいもので、同時に幸せなものなのだと、そう思う。
P「寮まで送るよ」
飛鳥「え? でも、まだ仕事が」
P「今日中にやる必要があるところは終わったから、残りは明日でいい。あんまり飛鳥の帰る時間を遅くするのもよくないしな」
飛鳥「……ありがとう」
ふとしたことで崩れかねない、綱渡りな恋。
それでもボクは、この想いが成就することを信じたい。
だから今は、彼とともにトップアイドルというヤツに挑戦してみよう。
終わりです。お付き合いいただきありがとうございました。
本番? まあそのうち……
素晴らしかった
乙
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