GACKT「NO MAKE…」 (83)
蛇足自己満ssです
第一話 後日談
「…」
何とか乗り切った。
一人はヤル気満々、一人は微妙、一人は未知数。
それでも目標人数はクリア出来た。
今は、その事実さえあればいい。
これからの事は、明日から考える。
一つずつ、着実に進めていけば、いつかはゴールに辿り着く。
「…」
背もたれに身体を預ける。
ギシッという音に少しびっくりしたけど、これくらいで壊れるような椅子じゃないだろう。
「…」
誰もいない事務所で一人、天井を見上げる。
…知らない天井、なんてな。
あれはあんまり知らないんだ。
「…」
携帯の着信履歴を見る。
そこには卯月と凛の名前が連続して記されている。
あんな子供達とこんな電話するなんて、今までの僕には無かった。
少し新鮮だな。
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「…」
パソコンをいじっていてふと思う。
僕が使っているのはMacだ。
Windowsじゃない。
なのに僕は何故かこれを初めから使いこなしている。
…元は同じだから、出来ない事はないか。
「…」
時計を何気なく見ると、もう夜遅い。
…いっそここで寝落ちしてしまおうか。
…いや、ダメだな。
どうせすぐに起きるんだから。
あれこれ考えていると、ふいに携帯が震え出す。
マナーモードにしていたからか、振動のみ。
それでも静かなこの空間においては一つの音として聴こえる。
一回で終わらないという事は、着信か。
誰かな。
「…お」
『渋谷 凛』
「…もりもり」
『もしもし?…ごめんね。こんな夜遅くに』
なら電話しなくてもいいのにな。
…話したい事があるんだろうな。
「…気にしなくていいよ。で、何?」
『…その、実感無くて』
「そりゃまだ仕事してないもんな」
『…なんていうか、その、…私なんかがスカウトされるなんてって…』
私なんか、か。
「それは全国の女子高生に失礼じゃないかな」
『えっ?』
「お前は可愛いし、アイドルになれる才能を持ってるよ。僕が保証する」
『…そういうのやめてよ。恥ずかしい…』
照れ屋なんだな。
まだ若いからだろうけど。
「美しさ、若さは内面から出るんだ。お前は間違いなくそれだよ」
『…』
「いつでも電話してきなよ。もう他人じゃないんだからさ」
『…それ、真剣に言ってるの?』
「いつだって僕は真剣だよ」
『………………ありがと』
そこは分かった、じゃないのかな。
まあ、いいか。
「…じゃあ、明日楽しみにしてるからな」
『うん。私も…お休み』
「お休み」
…。
…僕は単身赴任してる夫か?
外に出ると、まだまだ寒い。
コートを羽織っても冷たい風が耳に刺激を与える。
眠気なんてもう何処へやら、だ。
「…」
何処かでご飯でも食べようか。
自分へのご褒美としてラーメンでも食べようか。
…まだしばらく先だな。
「…」
後ろを見上げると、346プロの全貌が見える。
かなり大きなビル。
これでもまだ駆け出しとでも言うのか。
…アイドルってのは分からないな。
「…」
しかしもう夜遅いというのに僕のようなサラリーマンはいるんだな。
もう時間を気にする必要が無いのかのんびり歩いている。
早足で歩いてるのもいたけど、そいつは喫煙所を探してるだけだった。
…僕が煙草を吸わなくなってどれくらい経つのかな。
時が経つのは、本当に早いな。
一人でご飯を食べるというのはかなり久しぶりだ。
いつも誰かしらと食べてたから、やっぱり寂しい。
いたたまれない気持ちに苛まれる。
…あまり長い時間はいたくないな。
「…」
誰かに電話をかけてみようか。
しかし子供はもう寝る時間だし、何より…。
「…誰かも分からないんだよなあ…」
千川ちひろ。
そんな奴、話した事もないし見た事もない。
まさか携帯の中までいじられてるとは思いもよらなかった。
見られて困るものは…無いよな。
結局一人飯を終え、家路に着いてしまった。
知らない世界に何の武器も無いまま放り込まれて、孤独に耐えろって事か?
…ちょっとキツいなあ。
「…」
しかし三人か。
前の世界ではもうちょっと仲間は多かった。
彼女らが頼りない訳ではないけど、もう少しくらい多くてもいいんじゃないだろうか。
もう少し賑やかな方が、僕には合ってる。
かと言ってもう女の子をナンパするのもちょっと疲れたし、オーディションは終わった。
あんな広い事務所なんだ。
無駄に使うのは勿体無いよ。
「…」
とは言っても、もう始まってしまった。
今からの僕は、魔法使い、いや、王子様なんだ。
やれるだけの事はやっていくさ。
「…」
時間を無駄にしてしまいそうで、あんまり睡眠はしたくないけど。
…たまにはゆっくり寝てみるのもアリだな。
ベッドじゃないのが心許ないけど。
「…お休み」
誰かは分からないし、聞こえてるのかどうかも分からないけど。
…僕にとっての魔法使いに向かって呟いてみた。
第一話 後日談 終
恥ずかしいなぁ
第二話 後日談
「…」
…。
はっきり言う。
多過ぎだ。
14人を一人でまとめるのはそんな簡単な事じゃない。
その上、どいつもこいつもキャラの濃い奴らばかりだ。
そしてこれから始めようとする時に先輩アイドルのバックダンサーだ。
大仕事ではないけど、新人、まだデビューすらしていない彼女達にとってはかなりの試練な筈だ。
…美嘉は気を使っているのかどうなのか。
僕はあまり誰かに電話をかけたりしない。
寂しがりやのくせにな。
誰かから着信が来ないか待ってる側なんだ。
だってこの携帯、暇つぶしが出来ないんだもん。
「…ん…」
まさかの丁度いいタイミングで電話が鳴る。
誰か何処かで見てるんじゃないのかと思ってしまうくらいだ。
「…誰?」
知らない番号。
名前が表示されてない時点で分かるけど。
シンデレラガールズの皆の番号は登録してある。
ちひろや部長は元から入ってるし。
「…もりもり」
『あ、GACKTさん?』
…この声って…。
「…美嘉?」
『そうだよ?何で?』
「何でって…」
『…まさか連絡先消したとかじゃないよね?』
…消すも何も、元から無いよ。
「…まあ、珍しいなってさ」
『そうかな…。結構連絡してると思うけど』
「もっと話したいから…かなあ」
『ええっ!!?そ、そそそそんな…』
……この子、チョロ過ぎじゃないのか?
変な男に引っかからないか心配だなあ。
『…あ、あのさ、GACKTさん』
「…あの三人の事?」
『うん…まあGACKTさんが連れてきたってくらいだから…』
「ちょっと早過ぎるかもしれないけどね」
『…』
「美嘉?」
『そ、そうかな?大丈夫だよ!アタシも出来るだけフォローするからさ!』
「そっか。ありがとな」
『うん…あ、あn『あー!お姉ちゃん誰と電話してるのー?』』
「…」
『ちょっ…!莉嘉!今はダメだから!ご、ごめん!切るね!』ブツ
「…」
…仲がよろしいようで。
…もし僕が、歌手としての道を歩んでなかったら、どうなっていたのか。
バーテンダーにでもなってたか、はたまた教師にでもなってたのか。
…これは、一つの可能性の世界なのだろうか。
アイドルと普通に電話して、育てて。
プロデューサーとしての僕も、いたってことなんだよな。
だけどまだ、スタート地点、いや、まだスタートどころじゃない。
試されているのか、どうなのか。
…いずれにしても、やるしかない。
もう僕には、責任がついて回っているんだ。
彼女達をトップアイドルにする責任が。
責任…。
「…!」
…何だろう。
ちょっと寒気がした。
「風邪ひかないうちに寝よう…」
…。
……。
…その前に少し飲むか。
第二話 後日談 終
第三話 後日談
「お疲れ」
「「「お疲れ様でしたー!」」」
他人のLIVEではあるけれど、デビューは一応果たした三人組。
彼女達は他のシンデレラガールズ達よりも少し遅めに上がった。
でもそれは仕事云々の話じゃない。
ただ彼女達が余韻に浸っていただけだ。
…でもまだ三人は分かってない。
あの歓声は自分達に向けられたものではなく、美嘉達に向けられたものだという事を。
厳しく言ってしまえばお前達が貰えた歓声は、LIVE後の控え室での拍手だけだ。
「…まだ、道のりは長いね」
一人独白していると、何だか恥ずかしくもなる。
呟きたくもなるさ。
こんな時はな。
「…」
LIVE後、突如スーツのポケットが膨らみ、出てきたCD。
君が追いかけた夢。
あまりにも懐かしい歌だ。
きっと僕をこの世界に連れてきた奴が送ったんだろう。
…はっきり言って、作ろうと思えば自力で作れるけどな。
「…」
二つの企画書を見る。
二組のデビューの書類だ。
一組は置いといて、もう一組。
この二人は結構合ってると思う。
性格も似てるし、イメージカラーも何となく似てる。
「…」
しかし、10歳から日本にいるのか。
…5年も住んでるなら、もう少し日本語をちゃんと喋ってほしいな。
あれはあれで、ちょっと良い気もするけど。
「この子達の歌、何にしようかなあ…」
…いや、その前に僕の歌を使ってくれるのかどうかが問題だな。
「まあ…大丈夫だよね」
また独り言だな。
…ああ、寂しい。
しかしこのビルは本当にだだっ広い。
プロダクションの中にいくつものプロジェクトチームが入ってる。
…どんだけ大きい会社なんだよ。
そのせいか、エレベーターが来るのも少々遅い。
階段を使うのもアリだけど、ちょっと今日は疲れた。
毎日疲れてるけど、今日はピカイチだ。
慣れない事をやるのは大変だな。
「…」
ようやくエレベーターが止まり、開く。
「…あ」
「…あ」
「…GACKTさん、今お帰りですか?」
「そうだよ。瑞樹は?」
「私もですよ」
どうしてこの子とはよく会うんだ。
ましてや帰りのタイミングも一緒なんて虫がよすぎる。
「…」
…28歳か。
「…何かありましたか?」
「何でもないよ」
随分きめ細かい肌をしてる。
28歳とは思えないな。
「…瑞樹」
「はい?」
「…瑞樹って、一人?」
「…それ、からかってるんですか?」
「いや、彼氏の一人や二人いてもおかしくない顔してるからさ」
「…」
「もし暇なら、どうかな?」
「…責任」ボソッ
…それやめてよ…。
「んー!美味しいー!」
28歳なんて、僕からしたらまだまだ若い。
これからいくらでも出会いはあるさ。
「でもGACKTさんも随分くだけるようになったんですね」
「元からこうじゃない?」
「…昔は、誘ってもくれなかったのに」
…そうなの?
この世界の僕って、どんだけキツい奴だったんだ?
「…歳を重ねるとさ、寂しがりやになるんだ」
「…お互い、ですもんね…」
お互いって。
「…アイドルって本当に恋愛禁止なの?」
「…暗黙の了解ってやつですよ」
ふーん…。
どの世界でも同じなんだなあ。
恋愛でもしたら、丸刈りになるのかな?
「楽しい時と、悲しい時半々ですね」
「…今は?」
「…察して下さいね?」
瑞樹はそう言うと僕の顔を笑顔で覗き込んだ。
まあ、何となく分かったよ。あはは。
瑞樹と別れ、家に帰る。
そして今日一日の事を思い出す。
先輩アイドルの一言で平静を取り戻し、遂に仕事をやり終えた。
歌も歌ってないというのにあの喜びようだ。
これが自分達のステージとなったらどうなるんだろうな。
心臓でも飛び出すんじゃないか?あはは。
「…」
…。
ちょっと待て。
……好物が生ハムメロンだと?
第三話 後日談 終
第四話 後日談
CDデビューが決まった二組。
とても嬉しそうに、しかし信じられないといった表情だった。
シンデレラガールズプロジェクト第一弾ユニットとしてもっとハキハキしてもらいたいものだね。
「…さて」
…。
「…」
『こにゃにゃちわー…ガクト、です…』
未央の僕のモノマネ。
…バカにしてんのこれ?
全く、子供に持たせるものじゃないな。
「あら?それって…」
今日未央達に与えた仕事、いや、任務。
それをもう一度見ていた。
さっきはCDデビューの事で頭がいっぱいであんまり見れなかったから。
「未央達が撮ってきたPVだよ。編集してるんだ」
お茶を持ってきたちひろがパソコンを覗き込む。
近いんだけど。
「なんだか微笑ましいですね!あら、みくちゃん…」
「ん?」
『ふわぁ…何やってるの?』
『これ?ふふーん、プロモーションビデオの撮影だよー!』
『…何それ?…えーっと…あ』
『…』
『〜!!おはようにゃ!前川みく!猫系アイドルだにゃ♪』
『…プロフェッショナル…』
「…」
「…」
「…そりゃ、そうだろ」
「まあ、私生活でもあれだと…」
…気まずい。
「あ!これ!きらりちゃんですよね!」
「ああ、うん」
きらりの怪獣のコスプレ。
これは僕も見たな。
あの迫力には気圧されそうだったな。
「あれ?杏ちゃんが逃げて…」
…そういう事だったか…。
こんな事なら縛り付けておくべきだったね。
『あ!かな子ちゃんに智絵里ちゃん!』
『あ、こ、こんにちは…』
『それは何なの?』
『じゃじゃーん!みんなを撮影するビデオカメラなのだよ!』
『え、えええ?そ、そそそそんな…』
『あはは…』
次は智絵里とかな子のコンビか。
…何となく気づいたけど、僕はどうやら未央達の行き先に着いていっていたらしい。
つまりこの後、僕が来てお茶しに来た、という事だ。
「…ん?」
…かな子め、一体いつからお菓子食べてるんだ?
その後、僕とは違うルートを辿った未央達のビデオ。
子供組のシーンと李衣菜やアーニャに美波。
…後蘭子。
「…あのさ、ちひろ」
「はい?」
「…見世物小屋じゃないよな?」
「…はい。…でももう締切明日の朝ですよ?」
…もう少しちゃんとチェックすれば良かった。
第四話 後日談 終
第五話 後日談
…何で僕が頭を下げなきゃいけないんだ。
人に頭を下げるのなんて嫌いだ。
…仕方ないよな。
それが今の僕の食い扶持なんだから。
「GACKTさん!お疲れのようですね!?ナナのウサミンパワーですぐに回復させてあげますよ!」
「アイスコーヒー」
「ウッサミーン!ビビビビ…」
「早くしてくれる?」
「はい…」
歌って踊れる声優アイドル、安部 菜々。
…僕はこんなのに頭下げたのか。
「お待たせしましたー!アイスコーヒーです!」
「…」
何で二つ?
「…一つしか頼んでないよ?」
「いえいえ、ナナも休憩ですから!」
「…ええ…?」
「そんな嫌がらないで下さいよ!」
「…じゃあ、お前もアイドルやってたんだ」
「やってたって…GACKTさん意地悪です…」
「どことなく、子供に見えなくてさ」
「え゛?」
「何でもないよ」
「そそそそうですよね!ナナは現役JKなんですから!」
JK、か。
…今ってJKとかって言われてるのかな?
「あのさ」
「はい?」
「アイドルって、そんなに楽しい?」
「…?」
ふと疑問に思う。
恋愛もダメ、いつも笑顔じゃないとダメ、明るくないとダメ。
まるでキャバ嬢と変わらない。
それの何が楽しいのか。
アイドルって、自分の人生を半分以上犠牲にしてるんじゃないのか?
「…」
「何であんなにアイドルを楽しそうに出来るのかなって思うんだ」
「…うーん…そうですねえ…」
菜々は大袈裟に腕を組み、考えている。
…フリをしてるようにも見える。
「…単純なんですけど、楽しいからだと思います」
「本当に単純だなあ…」
「恋愛よりも、楽しいんだと思います。一緒に笑い、泣き、喜びを分かち合える仲間がいるから」
「…あー…」
…まるで僕の言い方みたいだな。
「お前本当に17歳か?」
「そそそそうですよ!!ピッチピチのJKですよ!!!」
「…僕達男の子♪」
「ゴーゴー!……………」
「………」
「………」
「………ご馳走様」
「はい…」
…さて、帰るかな。
…恋愛より、楽しいから、か。
…そうか。
仲間と共に歩んでいく。
それって何より楽しい事じゃないか。
僕の頭は何時の間にかサラリーマンの考えになってしまっていたようだ。
一度元に戻すとしよう。
「…そうだなあ…」
そう考えると、自然に携帯に手が伸びる。
「…もりもり」
『もしもし?ちひろです!』
「今まだ事務所にいるかな?」
『はい。居ますけど…』
「食事に行こっか」
『は、はい!喜んで!』
…そうそう。
これが僕だ。
とにかく今を楽しむ。
それがどんな生活であれ。
「…さ、出掛けるか」
…。
もう一人、誘うかな。
せっかく連絡先教えてもらったんだし。
「…もりもり」
『もりもりー!ウッサミーンでーす!』
「やっぱいいや」
『あっ!!切らないでください!』
…あはは。
缶を開ける音がしたのは黙っておくか。
第五話 後日談 終
第六話 後日談
…あーあ。
「…あーあ。じゃないと思うにゃ」
「それ以外に何かある?」
「とりあえず、追わないにゃ?」
「追ってどうするの?」
「…」
「僕はお前達を無理矢理アイドルにした覚えは無いよ。嫌なら辞めた方が良い」
衣装のまま走っていった未央を追い、凛も卯月もいなくなった。
まあ控え室で着替えるんだろうけど。
他の奴らは行きづらいだろうなあ…これ。
「…手を抜く事が正しいだなんて思ってないけど、まだ未央ちゃんは分かってないんじゃないかなあ…」
気を使っているのか、おそるおそる僕に聞いてくる美嘉。
引きつった笑顔で言われてもなあ。
「分かるも何も、常識として考えなきゃならないんだよ。高校生にもなったら分かる筈だよ」
「…」
「これは学芸会じゃないんだから。お金も発生する、ちゃんとした仕事。人が集まらないからヤル気が出ないなんて言語道断だからな」
「…でも、この先のみんなの士気とか…」
「もし仮に未央をあのまま許したら、調子に乗るだけだよ」
「…このまま、放っておくってこと?」
「そうだよ」
僕がどうするか。
それはこれからの未央次第だよ。
仕事も終わり、事務所でコーヒーを飲んでいるときらりが入ってきた。
いつものような明るく元気な感じではなく、一歩歩く度にキョロキョロして落ち着いていない様子だ。
「あ、あの…未央ちゃん、許してあげてほしいにぃ…」
「…理由は?」
「えっと…か、可哀想、だから…」
「…それで許して、未央はどうなると思う?」
「えっ…と…」
「「ああ、自分はこれだけやっても許されるんだ」ってなりかねないよ」
「…」
お腹の前で手を組み、子犬が反省するような感じで暗くなる彼女。
「ましてや未央はああいうサバサバした性格だよな」
「う、うん…」
「今回の事は、もし解決したとしてもぜったいに忘れちゃいけない。未央がやった事は本来ならスタッフから苦情が来て干されてもおかしくない事なんだよ」
「…」
「それを自覚しなきゃならないんだ。お前達も、他のアイドルも」
「…このまま、終わっちゃうの?」
「…一人欠けるだけだよ」
「…ガクちゃんは、それでいいの?」
「…気持ち良くはないね」
「…きらり、信じてるからね?」
上目遣い、なんだろうけど。
彼女がやると睨み付けてるみたいにしか見えないな。
…軽い脅しにも聞こえるよ。
どうなるかなんて、今は分からないのに。
外に出ると、小雨。
傘を持ってきてなかったから、少し急ぎ足で車に乗る。
…まるで今の僕らの心境を物語っているようだ。
「…はあ」
ため息も出るよ。
こんな調子じゃあ、さ。
…そういえば。
『色々辛い事もあるかもしれませんが…』
…だったっけ?
あの吉澤って記者。
…よく見てるなあ。
しかしあれは僕に言ったのか、それとも彼女達の事を案じたのか…。
…両方、だな。
…。
「…今日は早めに寝るかな」
…飲む気にはなれないや。
第六話 後日談 終
第七話 後日談
「…ガクちん」
「何?」
「そ、その…」
「…」
「…な、何でもない…」
…。
何を言いたいかは、分かる。
何故言えないかも、分かる。
時間が解決してくれるさ。
僕からは何も言わない。
ばつが悪くても、彼女は戻ってきた。
再び自分を奮い立たせて。
それ以上は求める事はない。
「…」
けど、何度も何度もチラチラ見られるのは気になるよ…。
「…きらり、ちょっと僕の隣に立ってくれる?」
「え?…ど、どうしてぇ?」
「…視線がね」
「…未央ちゃんはぁ、きっと仲直りしたいんだにぃ」
「落ち着いてからで良いよ」
「きらりに言われても困っちゃうにぃ」
事件が解決してからというものの、この子は悪戯っぽい笑みが多くなった。
…この子も、苦手だ。
凛は戻ってきた翌日くらいに、顔を真っ赤にしながら謝ってきた。
謝るってのは、いつの時も嫌なものだからね。
それでも、それをやった凛、やろうとする未央。
…素直になったもんだ。
今回の事件は、彼女達を一回り成長させたようだな。
それが分かったぶん、前向きに捉えてもいいのかもしれない。
あのまま行っていたら、最悪な展開になってたかもしれないからね。
…しかし、僕も丸くなったもんだなあ。
こんな簡単に許すなんて。
…自覚出来るくらい歳を重ねたって事かな。
いつまでも子供じゃいられないってことだよな。
夢見る少女じゃいられない。
…少女はあっちだよ。あはは。
「が、ガクちん!」
「…」
「……うう…」
…あんまりいじめちゃダメだな。
時間が経ってしまって、今更言うのが恥ずかしいだけなんだろうけど。
「…良いよ。言いたい事は分かってるから」
「…」
「…一生懸命レッスンに励んでる姿を見たから、理解してるよ」
「……でも…」
「行動で示すってのは言葉より難しいんだよ。でもお前はそれが出来た」
「ガクちん…」
「だから、もういいんだ」
「……ごめんね」
「…あはは」
「…じゃ、じゃあレッスン行ってくる!!」
…今日はレッスンは無いよ。
…なんだろうな。
自然と笑みが零れてくる。
…こんなにほっこりするのも久しぶりだ。
「…」
外を見ると、雲一つ無い快晴。
…雨降って、地固まるか。
いいことわざだ。
…これも決定事項なのだろうか。
いや、そうじゃない。
運命ってのは、いつだって自分の行動が決めるんだ。
この快晴は、きっと頑張った僕へのご褒美なんだろう。
「…」
…しかし暑そうだな。
これだけ暑いと、かえって外に出たくないや。
この天気は、僕にとってはご褒美じゃないな。
僕にとってのご褒美…。
「…加湿器…欲しいなあ…」
第七話 後日談 終
第八話 後日談
「GACKT君?…まあその、なんだ。少し、重いんだがねぇ…」
僕だって重いんだ。
仕方ないよ。
「しかし、加湿器5つはやり過ぎだったねえ。ちひろ君にどやされてしまったよ…」
「こういう時は男が怒られるんだよ」
「…GACKT君だけじゃないのかね…?」
未央達に怒られ、この重いやつを4つも持ち帰る事になってしまった。
一人じゃ2つ持つのが限界だ。
それ以上は手が空いてない。
「…しかしよく5つも持ってきたねえ…このランボルギーニに乗るのかい?」
「乗るんじゃないの?最初は乗ったんだから…よいしょ」
あ、よいしょって言っちゃった。
おじさんくさいから気をつけよう。
「そういえば、今日は神崎君と色々あったらしいじゃないか」
「別に一悶着あったわけじゃないよ」
「いやいや、そういうわけではないんだがねぇ。君はどうにもあの子を苦手としていたみたいだから」
…僕って、本当分かりやすい人間なんだなあ。
「だけど本来の蘭子を見て気づいたんだ。この子はかなり良い子なんだって」
「おやおや。それは今更だよ」
「…改めて、だよ」
「はは。そうだね」
…僕より長く生きてる分、口も上手いんだよな、この人は。
「それにGACKT君も彼女の衣装案を受け入れたそうだね?」
「衣装は本人が着たい物が一番だよ。着たくない衣装を着て嫌がってボロを出されても困るじゃない」
正直、曲も衣装も決まった所で頼まれたから割と大変だったけどね。
どうしてあんな遅いタイミングだったんだろう…。
…僕のせいか。
「…まるで父親のようだ。立派なプロデューサーになったねえ、GACKT君」
「…あはは」
…この人には、勝てそうもないな。
「じゃあGACKT君、気をつけて帰るんだよ」
「ありがとう。それじゃ」
部長はまだ仕事が残っていたようで、ビルへと戻っていった。
…悪いことしたかな?
「…ま、いっか」
車に乗り、キーをさしてエンジンをかける。
…その時。
「…?」
ジャケットのポケットで震える携帯。
また着信か。
…もう随分連絡先も増えてきた。
前は凛とか卯月とかだけだったけど。
今はもう誰からなんて想像もつかない。
「…あ」
『蘭子』
「…もりもり?」
『も、もしもし…』
「…珍しいね」
『…お礼、言いたくて…』
「お礼?」
『私、わがまま言っちゃった、から…』
「あはは。姫のわがまま聞くのが王子様の役目、だろ?」
『…GACKTさん、私の事、嫌いじゃ、ない、ですか…?』
携帯から震えた声が聞こえる。
ちょっと掠れてるな。
…もしかして泣いてる?
「…何でそう思うの?」
『苦手って、言われて…』
「苦手は苦手だね」
『…ふぇ』
「でも、嫌いじゃないかな」
『…』
「お前は今日、僕に勇気を出してあれを渡してくれたよな?」
『…は、はい…』
「その時にさ、この子はなんて良い子なんだろうなあって思ったんだ」
『…本当ですか?』
「本当かどうか、これから分かるよ」
『?』
「曲は絶対に売れる。そしたら二人で抱き合おうよ」
『ふえっ!?』
「冗談だよ。でも、その時理解してほしい。僕はお前に期待してるって事」
『…あ、ありがとうございます!』
…お礼を言うのは、僕の方かもしれない。
人との付き合い方、接し方をまた一つ学べたんだからな。
「…また、明日からもよろしくな」
『はい!』
…蘭子。
…ありがとう。
「…」
…部長も。
第八話 後日談 終
第九話 後日談
たった一回きり出ただけの番組。
何十人と出たゲストの中の一組。
それでも彼女達は人生で一番の幸せのような顔をしていた。
…一人を除いて。
「あー…疲れた。もう仕事なんてしたくないよ」
「これからもめちゃくちゃ押し付けてやるからな」
「鬼だあ、鬼がいる…」
鬼か。
そういえばあのゲーム…なんだったかな?
めちゃくちゃ怖かった記憶がある。
…どうでもいいや。
「印税生活したいなら、まずスタッフ一同がひれ伏すくらいの芸能人にならなきゃ」
はっきり言って、今の杏一人のギャラなんて本当少ないし、曲だってまだまだ売れ始めだ。
つまり、印税生活なんて夢のまた夢。
厳しいようだけど、それが芸能界ってやつだ。
「死ぬかと思いました…」
「流石に命の危険がある事やらせまへんよ」
向こうでぐったりしている幸子とそれを介抱する紗枝。
しかしなんだろうな。
あの幸子って奴。
…いじめたくなるような感じ。
「な、何ですか!そんなジロジロ見て!」
僕の視線に気がついたのか、しかしまだおぼつかない足取りでよたよたと近づいてくる。
「いやあ、見事な落ちっぷりでさ」
「何ですかそれ!やりたくなかったんですよ!」
「見てる側からは、面白かったよ」
「ムキー!!」
「GACKTさん!あんまいじめちゃダメだよー?」
後ろから僕をポン、と叩いてくる。
姫川友紀、という野球好きアイドル。
…キャッツっていったら木更津くらいしか思い浮かばないんだけどさ。
この世界においては、野球界もある程度いじられてるらしい。
…本当、マニュアル本の一つでも置いてほしかった。
「でもまさかGACKTさんとまた仕事出来るなんてなー!」
「…あはは」
このなりで20歳か。
…羨ましいような、そうでもないような。
…またって何だろ。
「…前一緒だったっけ?」
「えっ…」
友紀の話によると僕は彼女が20歳になった時、誕生日を開いていたらしい。
一緒に酒を飲んでたとも言っていた。
それを忘れられたと号泣してしまったけど、覚えているどころかこの子の名前すら知らなかったんだよなあ。
…不便だなあ。
「もー!今日は絶対に飲みに連れてってもらうんだからね!!」
「お前のプロデューサーと行けよ…」
「やだー!!」
ああ、これは絶対キツい夜になるなと思った。
…出来れば静かに飲んでくれる奴がいいなあ。
「…」
さっきお菓子禁止令を出されたばかりのかな子を見る。
…目が死んでる。
「…」
バンジージャンプの時も無言で落ちて、無言で上がってきた。
お菓子というのは彼女にとっては死活問題なのだろうか。
…ダイエットなんてもってのほかなんだろうな。
「…あのさ、かな子」
「…い…クト…ん」
…ダメだこりゃ。
「…一日一つなら、許すから」
「…一つ?」
一つ。
僕にとっての一つというのは、一個、一枚なんだけど。
…その辺はもうこいつの裁量に委ねるか。
「お菓子、食べていいんですか?」
「…ああ、しっかり食え」
「はい!!」
……。
次の瞬間、カバンをガサガサと漁る。
その動作は今までで一番の瞬発力を誇っただろう。
「お菓子、お菓子…」
……。
…どうやら彼女にとっての一つは、一箱のようだ。
…ダメだこりゃ。
しかし、こうして見ると。
…ふと、思う。
「GACKTさん!今日は付き合ってもらうんだからね!」
「飴ー…」
「ちょっと!何でボクだけもう一回やらなきゃいけないんですか!!」
「垂れ幕持たなかったからどすえ」
「が、頑張ってー…」
……こいつらが印税生活出来る日は果たしてやってくるのか?
第九話 後日談 終
第十話 後日談
携帯の画像フォルダを見る。
親友や仲間達、LIVE会場の下見や自分の写真。
…それらは全て消されている。
だけど代わりに、中々面白い写真。
レッスン後の疲れ顔の凛や、満面の笑みの卯月。
…要は彼女達の写真だ。
今日、そのフォルダの中はかなり増えた。
きらりや莉嘉、みりあ。
僕を含めた4人一緒に写った写真もある。
何枚かはホームページにアップする為に撮ったものだけど。
…取っておいても損はないな。
今日、僕が苦手とするものをほぼ全て持っていた三人組と一日中一緒にいた。
うるさくて、きゃぴきゃぴしてて、ベタベタして。
…正直うんざりだった。
元の世界だったら、間違いなく断ってた仕事だ。
なのに、何でだろうか。
今思うと、嫌じゃない。
最後には、楽しくなっていた。
それは家で一人過ごす寂しさを紛らわすということもあったんだと思う。
でもきっと、それだけじゃない。
それは、分かる。
「…」
楽しそうに笑う三人。
…思えば、きらりの本当の姿を垣間見てからなのかな。
弱々しくて、とてもじゃないが普段の彼女からは想像できない姿だった。
思わず手を差し伸べたくなるような、庇護欲を感じさせる、そんな感じだった。
「…」
いまだに彼女の話し方には慣れない。
というか、慣れたくない。
「…軽かったな」
僕より高い身長なのに、抱っこした時のあの軽さには驚いた。
というか、あれやられたら普通の女の子なら恥ずかしがってもおかしくない気がする。
僕だって女の子にあんな事したのは初めてなんだ。
…だけど彼女は、それを受け止めてみせた。
それもはにかんだ笑顔で。
…オチたのは、僕だと?
それは無い。
…無い無い。
「…あ」
フォルダの一番最後。
万が一きらり達が遅れた時の為の秘策。
代打、凛、美波、蘭子。
このカッコは本当に面白かった。
『撮らないで!ちょっ…消してよ!もう!』
恐らくこれまでもこれからも着る気はないだろう衣装姿。
これは本当にレア物だよな。
消す訳ない、だろ?
どうせならこれをアップしてもいいと思うんだけど。
…どうせなら、僕だけの物にしておきたい。あはは。
「…ん」
着信か。
…僕からかける事って、あんまり無いよな。
特に話す予定も無いし、時間の無駄になりそうだからあまりかけないだけなんだけど。
それもジェネレーションギャップってやつか。
…こいつの場合は、どうなのか…。
『きらり』
「…もりもり」
『もりもーり!きらりだよぉ☆』
「知ってるよ」
『あのねぇ…今日、すっごくうっきゃーってなっちゃったから!』
「うっきゃー?」
…猿か何か?
『ガクちゃんにぃ、お姫様抱っこされて、あの時は泣いちゃってたけど、本当はすっごいドキドキしてたんだよぉ?』
「…僕だからね」
『っきゃー!!やっぱりガクちゃんだにぃ☆』
「え?」
『だってだって!とってもとぉっても!優しくって!カッコよくて!』
「…あはは」
何だかなあ。
さっきまでいいなあって思ってたのに。
「きらり」
『…なあに?』
「お前やっぱり面白いよ」
『む~?』
…あれだな。
「愛でる可愛さ」ってやつだな。
よく分かった。
…まあ、ありがとな。
「…ん?」
きらりとの電話の最中、通知が来た。
『どうしたの?』
「通知来てるみたいだね。ちょっとごめんよ」
…さて、誰からか…な…。
『渋谷 凛』
『画像、消した?』
「…」
…。
……。
嫌、と。
第十話 後日談 終
第十一話 後日談
「んー!美味しー!!」
未央は卯月と違って遠慮をしない。
どの店が良いか聞いたら、中々入りづらそうな店を指差した。
そして一番高い料理を注文。
普段こういった機会が無いからか、その反動らしい。
…そういうの、僕は嫌いじゃないよ。
むしろ、良いかなって思う。
「ねえねえガクちん」
「何?」
「…んーと」
「…?」
「…私、ちゃんとアイドルやれてるかな?」
…アイドル、ね。
それは正直、分からない。
僕に聞くより、美嘉にでも聞いた方が良いと思う。
未央には分からないんだろうけど。
じゃあ、プロデューサーとしての僕が言える事ってなんだろう。
上手くやれてる?
どうなのかな?
…無責任な事は、言えないよな。
「…」
「…が、ガクちん?」
…いや、何考えてるんだ?
アイドルとしてちゃんとやれてるかだって?
「馬鹿な事を言うんじゃないよ」
「えっ…」
「まだ何もしてないだろ?初LIVEもダメだったしさ」
「…」
「それでちゃんとやれてるかなんて、聞かなくても自分で分かるだろ?」
「…」
「お前はまだ、評価されるような状態ですらないよ」
「…」
下を向き、無言になる彼女。
何を考えているのか察する事は出来ないけど。
今言った事が彼女のプライドを傷つけたのかどうか、そんな事は気にしてない。
しかし、未央の返答は意外なものだった。
「…ありがと、ガクちん!」
「は?」
「ガクちんなら、そう言ってくれるって思ってた」
「…どういう事?」
「私達の事、まっすぐ見つめてくれるから」
「…まあ、そうだね」
そうやって生きてきたからな。
相手によっては、鬱陶しがられる事もあるんだけど。
「気、遣ってほしくなんかないから」
「遣うわけないだろ」
少し涙目で笑う彼女。
それが何を物語っているのか。
今度は少し察する事が出来た、気がする。
今日、新たに誕生したユニット、アスタリスク。
一人はカッコよく、一人は可愛くが路線。
方向性が違う事から、両者の間では小さな小さな争い事が絶えない。
これに関しては周囲の者達も諦めている。
アーニャに至っては「ほっとけ」のスタンスだ。
…だけど二人の初LIVEを見て思った。
『にゃーっ!!』
『にゃーっ!!』
『『にゃーっ!!』』
二人とも馬鹿みたいににゃーにゃー言って。
二人とも馬鹿みたいに腕を振って。
あれのどこがバラバラなんだ、と。
バラバラどころか、シンクロしてるじゃないか。
最早お前達のそれは相棒の域なんじゃないかってな。
言ってやりたいけど、二人とも大きいリアクションで否定するんだろうな。
お互いに手を大げさに振る姿が想像出来るな。あはは。
二人には方向性の違いは多少はあるかもしれない。
けどそれは、単なる趣味の違いであって、そんな大仰なものじゃあない。
僕みたいに音楽性の違いからなんて事はない。
「じゃあねガクちん!お疲れ!」
「お疲れ。また明日な」
彼女達はアイドルだ。
カッコよくなきゃいけないとか、可愛くなきゃいけないとか、そんな決まりはない。
やりたいようにやればいい。
それがユニットの中であれ、同じなんだから。
14人いれば14通りの考えがある。
恐らく僕も彼女達とは考え方は違う。
だけど、根っこでは同じ。
なら、それでいいじゃないか。
第十一話 後日談 終
第十二話 後日談
『え?』
『お前にまとめ役任せるからさ、よろしくな』
『…わ、私が、ですか…?』
『一番年上っていう事もあるし、何より美波は落ち着いてて、安心出来るからね』
『…』
『言う事聞かない奴はラケットで脅してやればいいからさ』
『そ、そんな事しませんよお…』
…。
……。
『美波さ、結局何やったの?』
『な、何がですか?』
『いやだってさ、皆お前に一目起き始めたんだぜ?』
『そ、そうですかね…えへへ…』
『…秘密?』
『えっと…とりあえず、GACKTさんが思ってる事じゃ、ないですからね…?』
『脅したんじゃないの?』
『そんな事しませんってばあ!』
…。
大勢をまとめるのはそうそう容易に出来る事じゃない。
ましてや、年齢も少し上なだけで大した違いは無い。
だけど美波はやってのけた。
まあ、きっとまとまりを作る為に何かやったんだろう。
僕が修gack旅行をやるのと同じだ。
恐らくそういう事なんだろう。
だけど、まだ若く、幼い美波がそれをやってのけたんだ。
…褒めるべきところだよな。
…幼いは言い過ぎだな。
今日は色々あった。
…いや、あり過ぎた。
色んな事を知って、多少ショックも受けた。
でも、新たに決意も生まれた。
改めて、僕は「GACKT」である事も自覚出来た。
…自分らしさを、取り戻す事が出来た。
「…」
前は、負荷がかかり過ぎてノートパソコンが止まっちゃうくらいせわしなかったものも、今はゆっくり見る事が出来る。
何万人が何十人にまで減ったんだもんな。
それもそうか。
…というか、この世界ではTwitterはやってない。
「…」
『ガックン!合同LIVE楽しみだね!』
『ガクちん!次のLIVEは良いとこ見せるからね!』
…LINEで良かった。
一般人に見られてたらすぐにバレるような発言ばかりだ。
『あなたのおかげで、毎日、楽しいです』
…アーニャはいつになったら日本語が流暢になるんだろうな。あはは。
「…ん」
これは、随分と珍しいな。
『楽斗さん、お疲れ様です!』
……。
『誰だっけ?』
『幸子ですよ!!!知ってるでしょ!?』
『小林だろ?』
『輿水幸子!!からかわないで下さい!』
『あはは。で、何?』
『佐久間さんから聞きましたよ!悩みがあるようですね!』
『悩みならボクが聞いてあげますよ!』
…悩み、か。
まゆには、そう伝わってたのかな。
『自分の心配したら?』
『何でそんなつっけんどんなんですか!?』
『そんな事ないよ』
『ボクの事嫌いなんですか!?』
『大好きだよ』
『何だかテキトーな感じがします…』
『あはは』
『ありがとな』
『何だか分かりませんが、解決できたみたいですね!流石ボクです!』
『早く寝ろ』
『アディ押忍!!』
『アディ押忍!!!』
中学生に心配されるようなら、僕もまだまだ未熟だな。
…いや、完璧なんてものはこの世には無いんだ。
未熟で良いんだよ。
未熟だからこそ、伸び代があるんだ。
幸子も、僕も、彼女達も。
「…寝るかな」
…改めて思うけど、睡眠に使う時間が大きく変わってしまったな。
いつもだったら細々としてたのに。
今は、一度にまとめて払う事になってしまった。
元の世界に帰ったら、ちゃんと戻せるのだろうか。
…戻す必要、あるのかな?
…まあ、いっか。
今大事なのは、あの子達だ。
なんせようやくスタート地点に立てたんだからな。
…これから楽しみだよ。あはは。
…。
それ蛇。
アディ押忍、僕。
第十二話 後日談 終
第十三話 後日談
「…」
舞台も片付いて、残ったのは骨組みだけ。
ついさっきまで大きなLIVEが行われていたなんて到底思えない程だ。
「…」
何となく空を見上げてみる。
…これが誰かによって作られた世界?
…あまりにもリアル過ぎるよな。
正直、まだ実感が湧いていない。
打ち上げの予行のような事をしている彼女達を遠目に見ていると、そんな気がする。
先輩後輩関係無く喜びを分かち合って、そこにはただただ楽しい空間が広がっているだけだった。
『…!』
その中の一人と目が合う。
彼女はシンデレラガールズプロジェクトの皆の為に先輩として色々と手助けしに来てくれていた。
皆がここまで成長したのは、あの子のおかげでもあるのかもしれない。
『〜!』
こちらに手招きしているようだけど、今はまだ、この舞台を、星空を見つめていたい。
オトコはこうやって余韻に浸るもんだよ。
「GACKTさんも来てよ。折角の機会なんだから」
「そのうち行くよ」
痺れを切らしたのか自ら僕の方へと歩んできた美嘉。
手にはお茶の入った紙コップ。
…僕の分も持ってきたようで。
「GACKTさんは食べないの?」
「売れ残ったやつだろ?あれ」
「まあ、捨てるよりはね?」
「…」
「…」
「…やっぱり、誇らしい?」
「何が?」
紙コップを僕に渡すと僕の隣に座り、変な質問をしてきた。
「…あの子達が」
「…誇らしい…のはまだ先になりそうだけどな」
「じゃあ誇らしいって事じゃん。…素直じゃないなあ」
「僕より素直なオトコはそうそういないよ」
「…」
…その質問には何の意味があったのか。
話がしたいだけとも取れるけど、美嘉からはある種の意図が感じられた。
「…何か言いたそうな顔だな」
「………あのさ」
「…何?」
「ニュージェネレーションズの初LIVE…というか、バックダンサー。何で指名したのかな、私…」
…。
「お前が指名したのに何で僕に聞くの?」
「…」
・
確かに、言われてみればそう思う。
つい昨日まで一般人みたいなもんだった女子高生に、いきなり自分の背中を任せたんだからな。
チャンスをくれたにしては、あまりにも急過ぎる。
「バックダンサーの代えなら、いくらでもいたんだよ」
「…」
「…GACKTさん。今から私、GACKTさんに嫌われるかもしれない」
「…とりあえず、話してみなよ」
…。
「…」
「…」
「…私、シンデレラガールズのみんなに嫉妬してたと思う」
「…嫉妬?」
「うん。嫉妬」
嫉妬、ね。
「…僕が前にお前達のプロデューサーやってたから?」
「…多分、そう」
「…好意じゃなかったの?」
「…半々、かも」
「…」
つまりこういう事だ。
新人につきっきりになった僕を、いじめてみたくなった。
「…三人を指名した後、アタシ何してるんだろうなって、思った」
「…」
彼女達のレッスンに付き合ったり、やけに僕らの手伝いをしたのは、その後ろめたさからくるものだったのかな。
「…まあ、良いんじゃないかな」
「…良くないよ。アタシ、最悪な事したんだよ」
「だけど、助けに来ただろ?」
「…」
体育座りでうずくまってしまった。
…莉嘉が来たらどうするんだよ。
「…とりあえず、顔起こしなよ」
「やだ。多分酷い顔してる」
「…じゃあ、そのままでいいからさ、僕の話、聞いてくれるか?」
「…うん」
…鼻声だなあ。
「アイドルってさ、見てる奴らを笑顔にするのが仕事なんだよな」
「…」
「それってさ、簡単なようで難しいんだよ」
「…」
「っていうか、今のお前じゃ絶対出来ないと思う」
「…?」
「自分が幸せになれないのに他人を幸せにするのは無理なんだよ。 自分が笑えないのに、他人は笑わせられる訳がない」
「…」
「そんな泣き崩れた顔で、妹が笑ってくれるか?」
「…ううん」
「…じゃあ、笑いなよ。後悔してたって何も解決しないんだから」
「…」
ようやく顔を上げる。
…ああ。
こいつのすっぴんってこんな感じなんだな。
…普通に可愛いじゃないか。
「…やっぱメイク崩れてる?」
「良い顔してるよ」
「からかわないでよ…直してくるから」
「いや、どうせなら取っちゃいなよ。時間かかるだろ?」
「やだよ。…これ、アタシとGACKTさんだけの秘密にしといてよ?」
秘密か。
…悪くないな。
「じゃあ、撮っていい?」
「ダメ!」
「ケチ」
「…GACKTさんのすっぴん撮らせてくれるなら」
「やだ」
「ケチ」
…。
「あはは」
「えへへ…」
崩れたメイクが気になるけど、はにかんだ彼女の笑顔はそれをどうでもよくするくらい良かった。
…まるで付き合いたてのカップルだな、僕ら。
それ言ったらまたあたふたするだろうから、言わないでおくけどさ。
…こんな日常も、悪くないのかもしれない。
「あー!!お姉ちゃん泣いてる!!!」
「あっ」
「あ」
…あ。
「ガックンお姉ちゃん泣かしたの!!?何したの!!?」
「いや、莉嘉?これは違うから!」
「ガックン!お姉ちゃんに何したの!?」
「…何もしてないよ」
「じゃあ何でお姉ちゃん泣いてるの!?」
…あーあ。
面倒な事になったなあ。
どう弁解すべきだろうか。
…もう、いいや。
今はもう流れに身を任せる事にしよう。
考えるのは、後でいい。
「何で二人とも笑ってるのー!?」
それに腹も減ってきた。
後々打ち上げ本番らしいけど、もうペコペコだ。
もうこの際売れ残ったやつでもいいか。
「莉嘉、後何が残ってる?」
「?んーとね、焼きそばと…焼きそばだけ!」
焼きそばだけじゃないか。
…早く行けば良かった。
「…」
…いや、むしろ良いかな。
今日は無礼講としよう。
自分へのご褒美として、今日は炭水化物解禁日だ。
…。
……。
…もうすぐ、42歳か。
第十三話 後日談 終
終わります
乙
乙です
おつかれ、後編期待してるよ
乙ー
後編楽しみだ
おつー
おつー
後編に期待
乙乙
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