龍崎薫「ラブレター」 (55)

―――事務所


薫「ラブレターを書きたい!」

舞「ラブレター?」

千枝「好きな人がいるんですか?」

薫「そうなの!今日学校でね!友達が『好きな人にはラブレターをあげるんだよ』って言ってて!」

薫「それでね!薫も書こうと思ったんだ!」

舞「えっと……誰に?」

薫「あいお姉ちゃんだよ!!」

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千枝「それで、私達にラブレターの書き方を相談しようとしたんですか?」

薫「かおる、そういうの書いたことないから、みんなに聞いたら分かるかなって……」

舞「でも私もそういうの分からないかなあ……」

千枝「ありすちゃんとかなら相談に乗ってくれるかもしれません!」

舞「たしかに!」

薫「行ってみよー!!」

・・・・


ありす「どうしたんですか?みんなでぞろぞろと」

晴「サッカーか?サッカーするか?」

薫「サッカーはしないよ!」

晴「何でだよサッカーしようぜサッカー」

ありす「話進まないんでサッカーは置いといてください」

舞「薫ちゃんが、ラブレターの書き方を教えて欲しいそうです」

ありす「ラ、ラブレター!?」

薫「ありすちゃん達なら分かるかなって!年上だし!」

ありす「えぇ……」

ありす(正直私だって上手な書き方を聞きたいくらいだけど……)

薫「……!」

ありす(こうも頼りにされると断りにくい……)

ありす「わ、分かりました、任せてください」

薫「ほんとぉ!?ありすちゃんありがとー!!」

ありす「ともかく、ラブレターという事で、より相手の興味を惹ける文章である事が好ましいです」

薫「うんうん!」

ありす「著名な小説家が好きな人に送ったとされるラブレターを参考にすると良いかもしれません」

晴「またゴーグルに頼るのかよ」

ありす「グーグルです」

ありす「探せば色々ある物です、太宰治やサン=テグジュペリ……」

晴「サンテグジュペリってサッカーチームみたいだな」

ありす「知りませんよ」

晴「ていうか見つけるのはえーな、何回も見たのかよ」

ありす「い、いいじゃないですかそんな事はどうだって……」

薫「とにかくこれと同じ事を書いてみればいいんだね!!」

千枝「丸写しはさすがに……」

薫「かおる、がんばりまーっ!」

舞「行っちゃった……」

・・・・


千夏「あい、薫ちゃんからあなたに手紙を預かっているわよ」

あい「ほう、薫から。何て言っていたんだい?」

千夏「ラブレターだそうよ、お熱いわね」

あい「ふっ、からかわないでくれ……どれ、可愛い便箋だ」

あい「ふむ……」

『まこと愛するあいお姉ちゃんへ』

あい「えっ」

『ああ、ぜんせで君はかおるの妹か妻であった」

あい「お姉ちゃんじゃないのか」

『君こそはかおるの半身であることを、いつまでもそうであることを、いまにしていよいよはっきり感じる』

『かおるは一人の、自立した存在ではない。かおるの弱点はことごとく君によせかけてしまった』

あい「…………」

あい「返事を書かなくてはな」

・・・・


唯「薫ちゃーん、あいさんからお手紙だよー☆」

薫「わっ!おへんじ来たんだ!」

唯「なになに~~?何のお手紙~~?」

薫「あのね、あいお姉ちゃんにラブレターを書いたんだ!」

唯「えーっ!薫ちゃん超大胆!唯もラブレター書いてみよっかな☆」

薫「えへへ……!何て書いてあるのかな!」

『薫へ、漢字の間違いが多かったので添削させてもらうよ』

薫「えっ」

『飛び出す部分、飛び出さない部分、とめ、はね、はらい、これらをしっかり意識するのが大切だ』

『だが薫の学年では習っていない漢字を使おうとしたのは立派だ。これからも頑張るんだよ』

『東郷あいより』

薫「…………」

薫「あいお姉ちゃんひどいよ!!!」

・・・・


舞「ラブレターが添削されて返ってきた?」

薫「そうなの……漢字をたくさん間違えたんだって……」

ありす「ええ……?」

???「アンタそれ全然相手にされてないって事じゃないの!!」

薫「だぁれ!?」

梨沙「フンッ」

晴「お、梨沙じゃん」

梨沙「話は離れて聴かせて貰ってたわ!」

千枝「聞き耳立ててたんですか?」

晴「友達いねーのかよ」

ありす「素直に混ぜてと言えばいいのに」

梨沙「うっさい!なんで来た途端にdisられまくんなきゃならないのよ!」

晴「そもそも何しに来たんだ?」

梨沙「薫にラブレターの書き方を教えてあげに来たの!」

薫「わっ!梨沙ちゃんありがとう!」

梨沙「礼には及ばないわ!こんなガキンチョばっかじゃどうせロクな案も出てないんでしょ?」

晴「同い年だろ」

ありす「同い年じゃないですか」

梨沙「とにかく!アタシがパパに週に8回くらい書いてるラブレターを見せてあげるわ!これを参考にすれば楽勝よ!」

舞「週8って……」

ありす「さすがに引きますね」

梨沙「だまらっしゃい!!」

梨沙「ハイこれ!気持ちを伝えるなら勢いが大事よ!頑張りなさい!」

薫「うん!かおる頑張る!!じゃああっちで書いてくるね!!」

舞「また走って行っちゃった……」

千枝「漢字を間違えなければいいんですけど」

晴「……しかしなー梨沙がなー」

梨沙「何よ」

晴「意外と優しいんだなーお前」

梨沙「バ、バカ!!急に何言い出すのよ!!」

ありす「…………」

・・・・


千夏「あい、またお手紙よ」

あい「フッ、さっきは混乱して添削をしてしまったからな、今回はしっかり返事をしよう」

千夏「本当に妬けるわね」

あい「君達ほどではないと思うがね、では手紙を読ませて貰おう」

『大好きなパパへ』

あい「パパ!?」

・・・・


唯「薫ちゃ~~ん、お返事だよ~~~☆」

薫「やったぁ!!」

唯「今度はちゃんと気持ちに応えてくれたらいいよねー」

薫「うん!!読んでみるね!!」ビリッ

『薫へ、父の日はもう少し先の話だな』

薫「」

『お父さんへの手紙が間違って届いていたみたいだが、薫はとてもお父さん想いのようだ』

『家族を大切に想う気持ちは決して失ってはいけないよ、もちろんそんな心配はしていないけれどね』

『お父さんへのプレゼントを選びたいのであれば私も手伝うからね。薫の心を誇りに思うよ』

薫「まちがえた!!!!!!」

唯「間違えた!?」

薫「なまえ!!!!!!!!!」

・・・・


梨沙「宛名をパパにしたぁ!?」

薫「そうなの……」

舞「それはあいさんもビックリするね」

千枝「どうしますか?」

晴「梨沙ー、別のラブレター見せてやれよ」

梨沙「無理よ……」

晴「なんでだよ?」

梨沙「だって手紙はほとんど同じ事しか書いてないし……」

晴「同じ内容の手紙毎日送ってんのかよ」

ありす「ほんとにドン引きしてますからね」

梨沙「一言多いのよアンタらは!!!!!」

薫「ごめんね……かおる、失敗しちゃった……」

梨沙「あ、いや、別にアンタが謝る事じゃ……」

???「あらあら、年下を泣かせるのは感心しませんわ」

梨沙「その声は……」

桃華「ごきげんよう♪」

舞「桃華ちゃん!」

桃華「どうやら恋文の書き方に困っている様子、わたくしが手伝ってあげてもよろしくてよ?」

梨沙「聞き耳立ててるなんてアンタも暇ね」

ありす「あなた人の事言えないでしょう」

晴「どいつも暇だな、オレも暇だよ」

薫「桃華ちゃんもてつだってくれるの!?」

桃華「ええ、こんなお子様ばかりでは大した案も出ないでしょうし」

晴「同い年だろ」

ありす「同い年じゃないですか」

梨沙「同い年でしょうが」

桃華「気品が違いますの」

梨沙「自分で言うワケ?」

千枝「桃華ちゃんは、どんなラブレターがいいと思いますか?」

桃華「うふふ……よくぞ聞いてくれました……」

桃華「高貴なる者に相応しい恋文……それは和歌ですわ!!」

晴「和歌ァ……?」

桃華「ええ!昔の方は31文字の和歌に想いを乗せて愛する人に届けていたそうです」

桃華「なんとロマンチックな……そんな事をされて気持ちが揺らがない人などいませんわ!!」

桃華「そんな訳で薫さん、わたくしの和歌選を貸してあげますから、これで恋文をお書きなさい」

薫「あ……ありがとう……」

ありす「(これ薫さん和歌の事分かってないパターンじゃないですか)」

晴「(つーかそもそも和歌ってギャグとかじゃねーのか!?本気か!?)」

梨沙「(完全に本気っぽいわね……どうすんのこれ……)」

薫「和歌……?」

千枝「俳句のちょっと長いヤツです……」

薫「まつしまや……」

桃華「わたくしの案に度肝を抜かれたようですが、頑張るんですのよ、薫さんならきっと大丈夫です」

薫「う、うん……頑張る……」

・・・・


千夏「あい、お手紙の時間よ」

あい「フッ……次はお父さん宛てではないといいのだが……」

千夏「分かっているくせに、あなたも意地悪ね」

あい「私だって不安なんだ、そう苛めないでくれ。それでは読ませて貰おうか」

『橋姫の 心をくみて 高瀬さす

   棹のしづくに 袖ぞ濡れける』

あい「和歌!?」

・・・・

唯「薫ちゃ~~んお返事~~~」

薫「ぜったい漢字がまちがってるって書かれてる……」

唯「めっちゃネガティブじゃん!!しっかり!!」

薫「いいもん……かおる頭よくないし……」

唯「お返事読も!?ね!?」

薫「うん……」

『さしかへる 宇治の河をさ 朝夕の

   しづくや袖を 朽たし果つらむ』

薫「…………どういう意味?」

唯「ゆいも分かんない」


・・・・


梨沙「返事の意味が分からなかったぁ?」

薫「うん……」

梨沙「ありす、あんたが調べてやりなさいよ」

ありす「すいません、グラブルやりすぎてタブレットの電池が切れました」

梨沙「なんで肝心な時に使えないのよ!!」

ありす「しょうがないじゃないですか!!AP溢れる前に使っておきたいんです!!」

晴「桃華は分かるか?」

桃華「…………分かりませんわ!!」

梨沙「あんたもかい!!」

晴「どうするんだこれ……」

薫「……」

舞「……」

千枝「……」

ありす「……」

桃華「……」

梨沙「アンタ、ラブレターとか貰わないの?」

晴「は?」

梨沙「アンタは、ほら、割とイケメンじゃない、女子からもラブレター貰うんじゃないの?」

晴「えっ……まあ貰う事はあるけどよぉ、今日は6枚くらいだったかな」

梨沙「めっちゃ貰ってるじゃない!!何枚か見せなさい!参考にさせるわ!!」

晴「いやでもあんまそういうの人に見せるのよくねーだろ……」

梨沙「背に腹は代えられないわ!!薫が告白できなくてもいいワケ!?」

晴「そう言われると弱ぇんだけど……」

梨沙「じゃあ決まりね、勿論内容を言い触らしたりしない、それは約束するわ」

晴「分かったよ……」

梨沙「取り敢えずこれでいいわね」

晴「オレもまだ読んでねーからな?」

梨沙「開けるわよ」

『結城晴さんへ』

『愛しい人よ、あなたに出会う前、私はひとりで、どうやって生きていられたのでしょう』

ありす「っ!?」

千枝「どうしたんですか?」

ありす「い、いえ……」

『あなたなしでは、私の人生は人生ではありません』

『今、あなた以外の人はすべて、目に見えない壁の向こうにいるようでよそよそしく感じます』

桃華「ロマンチックですわ」

晴「ちょっと言ってる事が難しいな」

『あなたといる1時間は1分間のように感じられます、少しでも長く晴さんと一緒にいたい』

『お返事、待っています。いつまでも待てます」

『親愛なる晴さんへ、たちb「わああああああああ!!!!!!!!!」

晴「うわあああビックリした!!」

梨沙「どうしたのよありす!?」

ありす「やはり他人のラブレターを見るのはよくないです!!!!やめましょう!!!!」

梨沙「でも薫のラブレターを……」

ありす「何かを参考にしようと言うのが間違いだったんです!!」

ありす「好きの気持ちを伝えたいのなら!!!」

ありす「薫さん自身の言葉じゃなきゃ駄目だったんです!!!!」

梨沙「っ!!」

薫「ありすちゃん……」

桃華「……わたくし、橘さんの言葉に感激いたしましたわ」

桃華「気持ちとは言葉、それを借り物で繕っても、相手には響きません」

桃華「目が醒めた思いです!!感謝致します!!!」

晴「いい事いうなお前!!」

梨沙「アンタの言う通りね」

千枝「ありすちゃんかっこいいです!」

舞「素敵ですね!!」

ありす「えっあっ、まあ、それほどでも……」

薫「かおる、がんばる!!自分だけでラブレター書いてみるね!!」

梨沙「薫ならできるわ、頑張りなさい」

桃華「応援していますわ」

薫「ありがとう!がんばりばーっ!!」

晴「行っちまったな」

千枝「今の薫ちゃんなら、きっと……」

舞「大丈夫だねっ!」

・・・・


千夏「はい、お手紙」

あい「毎度毎度済まないね、君にも唯にも」

千夏「構わないわ、それより……」

あい「?」

千夏「薫ちゃんの顔、さっきとは少し違ったわ」

あい「……ふふ」

あい「そうか、それは読むのが楽しみになってきたよ」

・・・・


薫「お返事まだかな……」

ガチャ

薫「あっ唯ちゃ――」

あい「薫」

薫「あ、あいお姉ちゃん!?」

あい「手紙、読ませて貰ったよ」

薫「あ、う……また漢字まちがってた……?」

あい「そうだね、いくつかは」

薫「しっぱいしちゃった……」

あい「でも」

薫「……?」

あい「薫の言葉が、薫の気持ちが、きちんと伝わったよ」

あい「だから、そのお礼を言いにきたんだ」

薫「お礼……」

あい「薫に会って、今まで沢山のお仕事を一緒にやってきたね」

あい「元気な薫の姿には何度も勇気づけられた」

あい「薫がいるから、手本になれるように頑張れるんだ」

あい「私も薫を世界一大切に思っているよ」

あい「手紙、本当にありがとう。私もその気持ちに応えたいと思う」

薫「……?」

あい「……」

薫「……!」

舞「……おでこにチューした……」

千枝「すごいです……」

桃華「盗み見なんて良くないですわ」

梨沙「アンタもガン見じゃない」

ありす「本当にみんな暇ですね」

晴「でもすげーな……」

薫可愛いな

・・・・


千夏「あら、満足そうな顔じゃない」

あい「そう見えるかい?」

千夏「手紙を読んだら何も言わずに行ってしまうんだもの」

あい「そうしなければいけないと思ったからね」

千夏「どんなお手紙だったの?」

あい「そうだね……漢字の間違いが沢山あって――」

薫可愛いな

あい「――ふふ、何て書いてあったかは、内緒にさせて貰うよ」

千夏「そう、それなら別にいいわ」

あい「気になるんじゃないのかい?」

千夏「あなたの顔を見れば大体分かるからよ」

千夏「とても、素敵なお手紙だったんでしょう?」

あい「……その通りさ」

『あいお姉ちゃんへ』

『ラブレターの書き方がわからなくて、いろんな人に手伝ってもらって、まねをしました』

『でも、ありすちゃんがかおるの言葉じゃないとだめと言ったので、そうします』

『あいお姉ちゃんはいつもかっこよくて、かおるがこまった時は助けてくれます』

『大人になったらあいお姉ちゃんのような人になりたいです』

『かおるはまだ子供だし、あいお姉ちゃんみたいにかっこよくないけど』

『かおるはあいお姉ちゃんが大好きです、世界一大すきです』

『かおるより』



おわり

おまけ1


唯「ちなったん、ちなったん」

千夏「どうしたの?」

唯「ラブレター、素敵だよね」

千夏「そうね」

唯「……」

千夏「……」

小さい子のラブレターは心にくるね

唯「ラブレター、貰ったらどんな気持ちなのかなー」

千夏「あなた学校とかで沢山貰うんじゃないの?」

唯「ウグッ……そうだけどさ……」

千夏「……フフッ」

唯「え、なに?」

千夏「からかって悪かったわ、はい、お手紙」

唯「ちなったん……!」

ちょっとウルっと来た…

千夏「あの2人を見てたら私も書きたくなったのよ」

唯「ちなったん大好き!!はいお返事のお手紙!!!」

千夏「えっ、もうお返事?」

唯「書いてくれるって信じてたから!お返事書いてたんだよね☆」

千夏「しょうがないわね……でも、ありがとう」

唯「ゆいこそありがとう!!大好きだよ!!」

おまけ2


『本日、あなたのお山をお迎えにあがります。愛海より』

清良「これラブレターじゃなくて予告状じゃない、怪盗の」

愛海「ごめんなさいごめんなさい!!嘘だから!嘘だから!!!」

清良「愛海ちゃんの首筋ってとっても綺麗ね……頂いちゃおうかしら」

愛海「注射はやめてえええええええええ!!!!!」

おまけ3


ありす「好きの気持ちを伝えたいのなら自分の言葉じゃなきゃ駄目……」

ありす「自分に気付かされる事もあるんですね」

ありす「しかし、何とか自分のラブレターは回収できてよかったです」

ありす「……」

ありす「自分の言葉、か……」

ありす「尻込みしてちゃ、駄目ですよね」

『結城晴さんへ』



おわり

いい話だ…素敵な話だ…

語彙が少ない悔しい乙でした

終わりです!!!ありがとね!!!!久々で緊張した!!!!


過去作は

西園寺琴歌「激論!朝までそれ可愛い」

姫川友紀「冬の朝にキャッチボールを」

城ヶ崎美嘉「これ入れ替わってるー!?」

北条加蓮「正妻選手権だって」

多田李衣菜「事務所で一番可愛い子って」

木村夏樹「だりー、ライブどうだった?」

白菊ほたる「スキヤキソング」

棟方愛海「ノーブラオブリゲーション」

です!!

和歌の意味は忘れたから聞かないで!!

みんなが可愛すぎてニヤニヤが止まらんぞ!

和歌の下りは薫つながりで面白かったよ

下げ忘れたすまん

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