伊集院惠「一人旅の軌跡」 (14)

P「……ではこちら、現在判明している来月のスケジュールですが、何か気になるところはありますか?」

伊集院惠「お仕事については何も。ただ……」

P「…………また、ですか」

惠「ええ。ここから……ここまで、旅行に行こうかと思うの」

P「えーと、5日間ですね。今度はどちらへ?」

惠「まだ決めてないけど、おそらく北の方になると思うわ」

P「北海道とか東北あたり?」

惠「いえ、もっと北……んー、そうね、決めた。ロシアにするわ」

P「はぁ~……何度か言ったと思いますが、国内の、もっと短期間の旅行に出来ませんか?」

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惠「理由は?」

P「はっきり言って、もったいないです」

P「旅行する時間をレッスンに費やせば、もっとアイドルとしてランクアップ出来るんですよ」

惠「それ、以前も聞いたわ。でも私の答えも以前と同じよ」

惠「私にとっての旅は、裕子ちゃんのサイキックや菜々さんのウサミン星と同じ」

惠「旅を捨ててまでアイドルを続けたくないわ」

P「全くするなと言うんじゃなくて、減らして欲しいだけなんですが……」

惠「望んだ旅行が出来ないという点では同じでしょう?」

P「でもですねぇ、せめて近くにいてくれれば突発の仕事を回せる可能性もあるんですよ」

P「たとえば……」



『明日鹿児島に行ける人、誰かいませんか!?』

『惠さんが今宮崎にいるので連絡しましょう!』



P「みたいな」

惠「それなら……」



『明日モスクワに行ける人、誰かいませんか!?』

『惠さんが今サンクトペテルブルクにいるので連絡しましょう!』



惠「って」

P「ないない。ゼロとは言いませんが限りなくゼロに近いです、国内ならともかく」

P「というか、モスクワとサンクト……?」

惠「サンクトペテルブルク」

P「サンクトペテルブルクは近いんですか?」

惠「東京-広島くらいじゃないかしら。飛行機なら余裕で移動できると思うわ」

P「へぇ~……」

惠「じゃそういうことで。休みにしておいてね」

P「いや、まだ認めてませんよ」

惠「もう……どうせ最終的には許してくれるんでしょう?」

P「旅程次第では却下……と言いたいところですが、特に決めてないんですよね?」

P「ロシアに行くというのもたった今決めましたからね?」

惠「そうね、いつも通り」

P「そんなんだから一緒に旅行してくれる人が減るんですよ」

惠「目的を決めずフラフラするのって、意外な発見があって楽しいのだけど……」

惠「あっ、そうだわ。アーニャちゃんにロシア語習っておいたほうがいいかしら?」

P「全く喋れないんですか?」

惠「ええ」

P「それでよく行く気になりますね」

惠「片言の英語とボディランゲージでなんとかなるのよ、意外と」

P「女の一人旅で、危ない目にあったことはないんですか?」

惠「ちゃんとわきまえているから大丈夫」

惠「何も問題ないでしょう? 許可してくれるわよね?」

P「うーん、止める理由が思いつかない……」

惠「心配ならついてくる?」

P「担当が惠さんだけなら、それもできるんですけどね」

P「なにかあったら、惠さんの家族だけじゃなくてファンも悲しむんですからね?」

P「十分気をつけてくださいよ?」

惠「はい、分かってます」

P「滞在国はロシアだけですか?」

惠「さあ? 気が向いたら近くの国も行くかもしれないわ」

P「中東方面だけは行かないでくださいね……今すごく危険なので」

惠「さすがにそれは知ってるから大丈夫よ」



P(どこで何を見る、とか決めずに行くっていうんだから)

P(あれで結構フリーダムな人だよなぁ……)

P(その分アドリブ力が高い=手際が良い、ということなのだろうか)

P(サンクトペテルブルクってどこだろ)カタカタ

P(ふむふむ……東京-広島と同じくらいの距離って言ってたっけ?)

P(……スゲェ。大体合ってるよ)  ※どちらも約650km

~後日 成田空港~

惠「ふぅ、帰ってきた……あら?」

惠「あずささん、これから出発なの?」

三浦あずさ「あっ、惠さん。久しぶりね~。出発って?」

惠「……ここがどこか分かる?」

あずさ「西武ドーム?」

惠「…………成田空港」

あずさ「あらあら、おかしいわね~」

惠「やっぱりいつもの迷子ね……」

惠「765プロに送っていけばいいかしら?」

あずさ「ちょっと待って、プロデューサーさんに聞いてみるわ」

惠「ケータイ持ってるならなんで連絡しないの」

あずさ「だってどこにいるんですかって訊かれても、たいてい間違ってるんだもの」

惠(たった今間違えてたしね……)

Prrrrr

あずさ「もしもし、あずさです~。はい……ええ……心配かけてごめんなさい」

あずさ「知り合いに会ったので送ってもらおうと思うんですけど……はい。……分かりました~」ピッ

あずさ「特に事務所に戻る必要はないから自宅に直帰でも良いですって」

惠「あずささん、自宅の住所分かる?」

あずさ「もう、バカにして~」クスッ

惠「私が旅行に行くと、4割くらいの確率で迷子のあずささんに会うのよね……」

あずさ「私が迷子じゃないのって、6割? そんなにあったかしら」

惠「いえ、会わない確率が6割で、迷子じゃない確率は今のところ0よ」

あずさ「あらあら~」

あずさ「惠さんには度々お世話になって、頭が上がらないわね~」

あずさ「私も一度で良いから、惠さんみたいに自由に旅行してみたいのだけれど……」

あずさ「方向音痴を治さない限り無理よねぇ」

惠「それなら今度……あ、いえ……」

あずさ「なぁに?」

惠「なんでもないわ」

あずさ「気になるから言って」

惠「今度旅行するときは誘いましょうか、って言おうと思ったのだけど……」

惠「私より売れっ子のあずささんは、私ほどたくさん休みを取れないでしょう?」

あずさ「それは、えっと……」

惠「いいのよ、事実だから」

あずさ「でも都合さえあえば、ぜひ誘ってほしいわ」

あずさ「旅慣れてる人と一緒って、それだけで心強いですもの」

あずさ「……あ、そうだわ。ちょっと電話してもいいかしら」

惠「ええ」

Prrrrr

あずさ「もしもしプロデューサーさん、今良いでしょうか。お仕事で相談があるんですけど……」

~その後~

P(惠さんが三浦あずささんと面識あるとは知らなかったなー)

P(旅先でよく会うそうだけど……)

P(なんだかんだで、旅行を続けていたおかげで惠さんのレギュラー出演番組が出来た)

P(方向音痴のあずささんが適当に惠さんをどこかに連れて行き)

P(惠さんが即興で近くの観光スポットを探して二人で取材する……といういきあたりばったりな旅番組である)



惠「えっ、群馬……!? 国際線ターミナルから出発したはずなのに……」

あずさ「あらあら~」



P(頑張れ、惠さん。予想の斜め上を行くあずささんの方向音痴に負けるな!)

終わり

趣味が一人旅なのはこういうことではないか、と妄想をふくらませてみました
惠さんのほろ酔い笑顔が最高に素敵です


http://i.imgur.com/BkbFONj.jpg

乙です

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