ドラえもん「月島さんのおかげじゃないか」 (114)
BLEACHとドラえもんのクロスSSです
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「のび太ぁ! メッタメタのギッタギタにしてやる!」
「ひえぇ! 助けてぇ!」
今日も草野球でヘマをやらかした僕、野比 のび太はガキ大将である剛田 武――通称ジャイアン――の怒りを買ってしまった。
「今日の試合はお前のせいで負けたんだ! その点数分ぶん殴ってやる!」
「うわああああ!」
ジャイアンが容赦なく、バットで僕の頭を殴る。
「へへへ、のび太のやつがいたから、僕は助かったぜ」
その様子をジャイアンの腰巾着である、骨川 スネ夫が笑いながら見ている。
ちくしょう……何で僕がこんな目に……
頭の上で星が回るほど殴られた僕は、河川敷の草むらに倒れ伏した。
こ、これは.........!
神すれのオカン!!
「いいかのび太! 今度ヘマしたら、この程度じゃすまねえぞ!」
「のび太ぁ、ジャイアンをこれ以上怒らせない方がいいぞ」
そう言って、二人は去って行った。
「うわあああああん!」
僕は滝のような勢いで涙を流しながら、家路につく。
くそう……こうなったら、ドラえもんに道具を借りて、仕返ししてやる……
僕は親友である、蒼く丸いねこ型ロボットの姿を思い出しながら決意した。
「ただいまぁ……」
家に着いた僕は、一目散に自分の部屋に向かう。
「のび太! 帰ってきたら、手を洗いなさい!」
ママの小言を無視して、二階に上り部屋のドアを開ける。
しかし、部屋の中には誰もいなかった。
ID変わりましたが>>1です。
くぅ疲
ありがとうございました。
チャドのタケコプターの電池が…切れた…!?
「なんだい、ドラえもんは留守なのか」
まったく、肝心なときにいないんだから。
仕方がないので昼寝でもしようかと思い、押し入れから座布団を引っ張り出す。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
一階にいるママが玄関に向かったようだ。
まあ、僕には関係ない。改めて畳に寝転んだが……
「のび太、ちょっと降りてきなさい」
なぜか、ママに呼ばれた。
なんだい、折角昼寝をしようと思ったのに。
仕方がなく、階段を下りて玄関に向かう。
>>4
イチゴ……それはねぇよ
謝れよ……
謝って
謝れ
謝れ
謝れ
謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ
「どうしたの、ママ?」
「うふふ、ほら、見て頂戴」
ママが笑顔で僕を見ながら、玄関を指し示す。
そこにいたのは、僕どころかママよりも遥かに背が高い、知らないお兄さんだった。
スーツにサスペンダー(というんだったかなあれは)を着けて、姿勢もしっかりしている。
黒い髪は少し長めだが、その顔はいかにも「物知り」っていった感じで、ママからの印象もよさそうだ。
しかし、左の眉にある傷が、その印象にも少し傷をつけている。
ママは僕をこの人に会わせたかったのだろうか。
しかし、いくら考えてもこの人が誰だかわからない。
「え、えっと……」
どうしていいかわからないでいると、お兄さんがママに声を掛けた。
「お久しぶりです、玉子さん。お元気そうで、何よりです」
「あら、ありがとう。秀九郎さんもお仕事は上手くいってるそうね」
「ええ、おかげさまで」
秀九郎さん?
だめだ、名前を聞いても全然心当たりがない。
誰だ? いったい誰なんだこの人は?
「さあさあ、折角いらっしゃったんだから、どうぞ上がって行って。のび太、台所におせんべいとお茶があるから、持ってきて」
「う、うん、わかった……」
「それでは、お邪魔します」
これはこわいな
わけもわからず、知らない人のためにお茶を持ってくることになった僕は、
仕方なしに、やかんでお湯を沸かす。
お皿にせんべいを盛り付け、三人分のお茶と一緒にお盆に乗せて、和室に向かう。
和室では、ママと秀九郎さんが楽しそうに話していた。
「やだわぁ、秀九郎さん。相変わらずお上手なんだから」
「いえいえ、玉子さんにはお世話になっていると心から思っています」
「それはお互い様よ」
とりあえず、秀九郎さんにお茶を出すことにした。
「ど、どうぞ」
「ああ、ありがとうのび太」
自分の名前を呼ばれたことに驚く。
わからない、それでもこの人が誰だかわからない。
一体どうなっているんだ?
バットで殴るって今思うと相当ヤバい
「のび太、折角秀九郎さんがいらっしゃったんだから、ちゃんとあいさつしなさい」
ママが僕を注意する。
相手が誰かわからない状況であいさつもなにもない。
だから、思い切って聞くことにした。
「あのさ、ママ。この人……誰?」
その瞬間。
ママの目が驚愕に見開かれた。
「の、のび太! あんた何てこと言うの!?」
驚くママに対して、こっちも驚いてしまう。
対して、秀九郎さんは微笑みを浮かべたままだ。
「あんた、秀九郎さんに何度もお世話になっているじゃないの! そんな失礼なことを言うんじゃありません!」
「だ、だって……」
「だってじゃないの! 謝りなさい!」
わけもわからず、謝ることを強制させられる。
だが、どうしても謝る気にはならなかった。僕が間違っているとは思えなかった。
いくら記憶を辿ってみても、この人にはたどり着かないからだ。
「ははは、いいんですよ。玉子さん。突然来てしまいましたからね、のび太も少し怒っているんでしょう」
「ホントにもう、ごめんなさい、出来の悪い息子で……」
ママが平謝りしている。
おかしい、この状況はおかしい。
絶対に、この人が僕たちに関わっていたはずがない。
「ただいまぁ」
その時、玄関から聞きなれたどら声が聞こえた。
「ドラえもん!」
僕は和室を飛び出し、ドラえもんに駆け寄る。
「ど、どうしたの、のび太くん?」
「ドラえもん! ちょっと来て!」
ドラえもんを和室に連れて、秀九郎さんと対面させる。
「ドラえもん! この人に見おぼえある? 無いよね? こんな人知らないよね?」
「のび太! あんたいい加減にしなさい!」
「ママ! 僕はこんな人知らない! 目を覚ましてよ!」
>>5
クッソワロタ
支援
これは非常事態だ。
おそらく、このお兄さんは宇宙人とかどこかの世界からきた怪物か何かだ。
僕たちは、何度かそういった存在と戦ってきたことがある。
でも大丈夫だ、ドラえもんがいればきっと……
「のび太くん、ちょっと来て」
ドラえもんが僕の手を引っ張り、二階へ連れて行く。
後ろから、必死に謝るママの声が聞こえた。
二階の僕の部屋に入り、ドアを閉める。
「ドラえもん、何かママをもとに戻す道具はないの?」
なんとかして、ママの目を覚ましたい。
縋るように質問した僕に対し、
「のび太くん、さっきから何を言ってるんだい?」
ドラえもんは怒ったように、僕に問いかけた。
「え……?」
「折角、月島さんが遊びに来てくれたのに、あんな態度はないよ。いくらなんでも冗談では済まないよ」
月島さん?
え? ちょっと待って。
「何……言ってるの?」
「それはこっちの台詞だよ。どうしちゃったの?」
「ドラえもん、あの人知っているの?」
「知っているも何も、君のいとこの月島 秀九郎さんだろ? 何度も僕たちとも遊んでくれたじゃないか」
僕のいとこ?
違う、そんなわけはない。僕のいとこにあんな人はいない。
「のび太くん、本当にどうしちゃったの? 月島さんは君の勉強を見てくれたり、ジャイアンとケンカしたときも仲裁してくれたりしたじゃないか」
「は……?」
「それだけじゃない」
そして、ドラえもんから思いもよらない言葉が発せられる。
「僕たちが鉄人兵団に打ち勝ったり、妖霊大帝オドロームを倒したり、数々の冒険を潜り抜けてこれたのも……」
待って、言わないで。
「月島さんが居たからじゃないか」
僕たちの冒険にあの人を入れないで。
僕たちと冒険で出会った仲間たちにあの人を関わらせないで。
土足で入り込んでこないでよ。
「ねえのび太くん。月島さんも今すぐ謝れば、きっと許してくれるよ。
僕も一緒に謝ってあげるから。ね、下に降りよう」
ドラえもんがゴムまりみたいな手で僕の体を押そうとする。
「い、いやだ、いやだぁ!」
「あっ! のび太くん!?」
僕はドラえもんから離れると、机に隠してあったタケコプターを使い、窓から逃げるように飛んで行った。
「のび太くーん!」
僕を呼ぶドラえもんの声は、いつものどら声のはずなのに全く別の声に聞こえた。
続きマダー?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
当てもなく空を彷徨っていると、いつの間にか日も暮れてしまった。
「うう……寒いよう。でも帰ったらあの人が……」
怖かった。家に帰ったら、あの人がまるで当然のようにママやドラえもんと話している光景を見ることになるのが怖かった。
でも、このまま外にいるわけにはいかない。
仕方がなく、帰ることにした。
「……ただいま」
タケコプターで飛んで出かけたため、玄関から入る必要は無かったが、僕は習慣からか玄関から入ってしまった。
「……のび太、帰って来たか。洋間に来なさい」
パパが珍しく静かな声で僕を呼ぶ。
……これは本気で怒っているときのパパだ。
大人しく、僕は洋間に入る。そこには、パパとママがソファーに座っていた。
「そこに座りなさい」
僕はパパの向かいのソファーに座る。
「のび太。ママから聞いたぞ、秀九郎くんに失礼な態度をとったそうだな」
……やっぱり、パパもあの人を知っているんだ。
でもだめだ。僕の中にあの人はいない、いるはずがない。
だって、知らない人だもの。
「どういうつもりなんだ? お前も秀九郎くんには何度も勉強を教えてもらったり、いろいろお世話になっただろう。
彼は怒っていないとは言っていたが、きっと建前だ。内心ではお前の態度を悲しんでいるんだぞ」
違う。
絶対に違う。絶対に僕の過去にあの人はいなかった。
「パパ、僕はあんな人は知らない! パパもママもドラえもんも騙されているんだよ!」
僕が叫ぶと、ママは目を見開き、パパは顔を真っ赤にした。
「ふざけるな!」
そして、パパの平手が僕の左のほっぺたに叩き込まれる。
「あぐっ!」
痛い、たった一発なのに、昼間ジャイアンに殴られた時の数倍は痛い。
これはパパの方がジャイアンより力が強いからじゃない。
「いいかのび太! 今お前はとんでもない無礼を働いているんだぞ! それが、何度も助けてもらった恩人に対する態度か!?
もし、社会に出てからそんな態度を取ってみろ! 誰もお前のことを信頼などしない! 誰もお前を助けようなどと思わないぞ!」
久しぶりに体験する、パパの本気の説教。
普段はママの尻に敷かれているが、パパが本気で怒ると、ママの数倍は怖い。
でも……今回ばかりは退いてはだめな気がする。
「パパ! よく思い出してみてよ! あんな人が親戚にいたの!? あんな人が僕を助けてくれたの!?」
「思い出すまでもない! 秀九郎くんはパパにとっても大切な親戚だ! おかしなことを言っているのはお前だ!」
なんでだ、なんで。
どうして、わかってくれないんだ。
「とにかく! 明日学校が終わったら、すぐに家に帰ってママと一緒に秀九郎くんに謝ってこい!
それが出来ないというのであれば、お前とはもう親子の縁を切る!」
「あ、あなた!?」
この発言には、僕もママも驚いた。
「僕は本気だ。どの道、これだけ言っても態度を改めないというのであれば、のび太を一人前の大人に育てることなど、
誰にも出来はしない。それなら、早いうちに他人になっておいたほうが、僕たちのためだ。
のび太、秀九郎くんには僕から電話しておく。それと、今晩のご飯は抜きだ。部屋で自分の態度を深く反省していろ!」
そう言って、パパは洋間から出て行った。
「……のび太、パパは本気よ。とにかく、明日一緒に秀九郎さんに謝りましょう?
素直に謝れば、秀九郎さんも、パパも許してくれるわ」
いつもは厳しいママも、今回ばかりは僕を諭すような口調だった。
「……はい」
僕は力なく返事をして、部屋に向かうほかなかった。
とりあえず今日はここまで
おつ!
>>26
続きはよ
期待
ブリーチ知らんけど楽しめる
いいな
やっぱり月島さんの能力えげつねえな
支援
ドラえもんもやられてるならどうしようもないな
再開
部屋に入った僕は、電気もつけずにうずくまっていた。
何でだ。なんでこんなことに?
いくら考えても、理由がわからない。
あの月島って人がいつのまにか僕たちの生活に溶け込んでいた理由がわからない。
そうだ、こんなのはドラえもんでもなければ不可能だ。
……ドラえもん?
その時、思いついた可能性。
ドラえもんの秘密道具。
そうだ、ドラえもんの秘密道具を使えば、知らない人でもあっという間に友達になれたりする。
そして、ドラえもんの秘密道具は、未来世界の道具。
つまりあの人の正体は……
未来世界から来た、犯罪者か何かだ。
「こうしちゃいられない!」
タイムパトロールに通報して、あの人を捕まえてもらおう。
そう思った僕は、机の引き出しを開けてタイムマシンに乗り込もうとする。
しかし……
「な、ない!?」
机の中にはタイムマシンは無く、時空間が広がっているだけだった。
「まさか、ドラえもんが乗って行っちゃったのか?」
そうだ、僕に愛想をつかしたドラえもんは未来に帰ってしまったんだ。
そうなると当然、
「スペアポケットも、ないか……」
ドラえもんの寝床である押入れに隠してあった、スペアポケットも無かった。
これじゃ、タイムパトロールどころか未来世界に連絡を取ることすら出来ない。
落ち込んだまま、僕は畳に身を投げ出して寝てしまった。
次の日。
お腹が空いていたせいで早く起きた僕は、こっそりパンを一枚食べて、
パパとママが起きる前に学校へ向かった。
誰もいない教室で、一人考える。
どうしたらいい? 僕に味方はいないのか?
僕に味方は……
「おーっす、あれ? おい見ろよスネ夫! こんな時間なのにもうのび太がいるぜ!」
「めずらしいー。今日は雨が降るんじゃないの?」
僕の目に飛び込んできたのは、ジャイアンとスネ夫。
そうだ。僕にはまだ味方がいる。
共に冒険をした仲間がいる。
「ジャイアン! スネ夫!」
僕は大きく叫びながら二人に駆け寄った。
「な、なんだなんだ!?」
二人とも驚いていたが、僕の只ならぬ様子を察してくれたようだ。
「き、聞いてくれ! ドラえもんが……ドラえもんと僕のパパとママがおかしな人に洗脳されているんだ!」
「な、なんだって!?」
いつもは僕をいじめている二人だけど、実はとても友達思いだということを僕は知っている。
この二人なら力になってくれるはずだ。
「どんな奴なんだ!? 俺の心の友に手を出す奴は!」
「う、うん。確か月島 秀九郎って名前だった」
だがその直後、二人の動きがピタリと止まり……
「ぷっ、ぶははははははは!」
「あははははははははは!」
大きく笑い出した。
「な、何がおかしいんだよ!」
「だ、だってお前、そんな嘘で俺たちを騙せると思っているのかよ! ぶはははは!」
「あははは! いや、そう言っちゃだめだよジャイアン。だって相手はのび太だよ」
「それもそうか! ぶはははは!」
嘘? 違う、僕は嘘など言っていない。
「なんで嘘だなんて言うんだ!?」
「お前、月島さんがそんなことをするわけないじゃん!」
「そうだよ、月島さんは僕たちの恩人なんだから!」
そんな、
まさか、まさか、まさか。
「僕たちの……恩人?」
「そりゃそうだろ。月島さんは俺たちに野球を教えてくれたり、母ちゃんに怒られそうになったときになだめてくれたりしてさ」
「そうそう、僕のラジコンも直してくれたし、なにより僕がヤドリに操られたときも真っ先に助けにきてくれたもんね」
……違う。
そんな思い出は僕にはない! あの人は見知らぬ人なんだ!
「何言ってるんだよ! あんな人に僕たちは助けられてない! 目を覚ましてよ!」
だが、その直後ジャイアンに胸ぐらを掴まれた。
「……のび太、今のはいくらなんでも聞き捨てならねえな」
……!
ジャイアンの顔が、いつもの我を忘れた怒りの表情じゃない。
相手を本気で許せないと思っているときの表情だ。
しえん
「僕もジャイアンに同意だね。のび太、言っちゃならないことってあるぞ」
スネ夫も僕を睨んでいる。
「俺たちがどれだけあの人に助けられたか忘れたのか? 俺たちが今こうしてここに立っていられるのも、あの人のおかげなんだぞ」
「……え?」
「おいおい、まさか本物のバカになったのか? お前が鬼五郎にピストルで撃たれそうになった時も、月島さんが命がけで助けてくれただろ?」
……なんでだよ。
なんで、いつもの二人と何も変わらない言葉で。
あの人に感謝の言葉を言うんだよ。
「僕は、僕はあんな人は……!」
「ちょ、ちょっと何やってるの?」
その時、教室に高い声が響き渡る。
「し、しずかちゃん!」
僕が、心の底から好きになった女の子。
源 しずか。
そうだ、まだしずかちゃんがいる。
「たけしさん、のび太さんをまたいじめているの!?」
「ち、違う! のび太がとんでもねえことを言うから!」
「しずかちゃん!」
僕はジャイアンの手を振りほどき、しずかちゃんに駆け寄る。
「ねえ、月島さんって知ってる!? 知らないよね? 僕たちの周りにそんな人いなかったよね!?」
「……」
だが、しずかちゃんは僕の言葉に目を丸くした。
「の、のび太さん、まさか月島さんとケンカでもしたの?」
……そ、んな。
そんな、そんな、そんな!
「そうか、お前月島さんとケンカしたのか。だからって、あの人を知らないなんて言うのはさすがにひどいぞ」
「ねえのび太さん、月島さんは私たちのことを本当に心から大切に思っているのよ。きっと、それでのび太さんにキツイことを言っちゃったのよ」
「ち、ちが……」
「でも、あの人は私たちが危険な目にあったら、本当に命がけで助けてくれたじゃない。
私が奴隷商人に捕まったときも、月島さんがあっという間にやっつけてくれたの、忘れたの?
あの時の月島さん、すごい恰好良かった……」
そう言って、しずかちゃんは少し顔を赤らめる。
それはまるで、まるで……
「う、うわあああああああああ!」
僕は耐え切れず、教室を飛び出してしまった。
僕は廊下を全力で走る。
聞きたくない、もう聞きたくない。
あの人を称賛する声を聞きたくない。
「こら野比! 廊下を走るんじゃない!」
聞き覚えのある怒鳴り声が、僕を呼び止める。
……もう、誰でもいい、誰でもいいから。
「先生いいいいいいいいいい!」
「な、なんだ!? どうした!?」
誰でもいいから助けてほしい。
その思いが爆発したのか、僕は泣きながら先生に縋りついていた。
「野比……とりあえず、応接室に行こうか」
僕は先生に連れられ、応接室の椅子に座る。
「とりあえず、何があったか話してみなさい」
そう言われても、どう話せばいいのかわからない。
仕方がなく、そのまま話すことにした。
「先生……知らない人が、僕の友達と突然仲良くなったことってありますか?」
「……ふむ、ちょっと状況がわからんから、なんとも言えんが」
それはそうだ、僕だって状況がわからない。
「だがな、人との間に生まれる信頼というのは、時間をかけて少しずつ育むものなんだ。
たとえ、君の友達が知らない人と突然仲良くなったように見えても、おそらく君の見えないところで、少しずつ仲良くなったはずなんだ」
……僕の見えないところで?
ほうほう
「もし本当に突然仲良くなったとしたら、その友情はとても表面的で脆いものでしかない。
君が友達を大切に思っていた分だけ、友達も君を大切に思っていたはずなんだ。
だから友達も表面的な友情より、君との友情をとる。最終的にはね」
「……」
「もし、友達が離れていくように感じたとしたら、一度話し合ってみなさい。
信頼とは、皆で助け合っていくためにあるものだ。一人で抱え込んでいては、お互いに信頼を無くしてしまう。
だから、困ったときは頼りなさい」
「……はい」
そうだ、僕はみんなを信じている。
あんな人が突然作った、偽物の関係なんてそう続くわけがないんだ。
「それにだ、君には心強い味方がいるだろう?」
「え?」
「おお、ちょうどいらっしゃったようだ」
先生は応接室の引き戸を見る。
曇りガラスには、背の高い男の人のシルエットが映っていた。
「そうとも、君のいとこであり…」
引き戸がゆっくりと開けられる。
「この学校のスクールカウンセラーも務めていらっしゃる……」
来るな……
来るな、来るな、来るな!
「月島先生がいるじゃないか」
今日はここまで
続きは後日
おつ!
おつおつ
おつおつ!
楽しみにしてるぞ!!
おつー!
このホラー感
まさに月島さん
うわやべぇ、めちゃくちゃ面白ぇ
するすると引き込まれるように読んでしまった
先生の話で少し希望が見えたかと思わせておいてからの絶望も素晴らしい
正直ゾッとした
ブリーチの月島さんのことは噂程度にしか知らないんだけど、かなりヤバい相手だなこれは
続きを期待してるよ、頑張ってくれ
>>57
まとめみたいなコメントはやめろ
>>57-58
わろた
眠れないので、ちょっと続き
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
僕は町中を走っていた。
応接室から逃げ出した僕は、とにかく学校から離れたくて全力疾走した。
とにかく、あの人から逃げ出したかった。
しばらく走ったあと、僕は足をつっかけて転んでしまった。
「うぐっ!」
地面にうつぶせに倒れた僕の目から涙が流れ出す。
その涙の量は、昨日ジャイアンに殴られたときよりもはるかに少ない。
しかし、僕の目から涙と共に大切なものが流れ出しているように感じられた。
「おじいちゃん?」
その時、声を掛けられた。
言うまでもなく、僕は小学生でありとてもお年寄りとはかけ離れた見た目をしている。
それなのに、僕は「おじいちゃん」と呼ばれた。
知っている。僕をそう呼ぶ人間を一人だけ知っている。
顔を上げてみると、そこには見慣れない服を着て、僕にそっくりな顔をした少年。
僕の孫の孫であり、僕のもとにドラえもんを連れてきた張本人。
セワシくんが、立っていた。
「やっぱりおじいちゃんだ、会えてよかった」
セワシくんは僕を見て笑顔を浮かべる。
だが、この時代の人間でない彼がどうしてここに?
「おじいちゃん、単刀直入に聞くよ」
僕が理由を聞く前に、逆に質問された。
「月島さんっていうのは、何者なの?」
……
僕は、今の言葉を反芻した。
知らない。セワシくんはあの人を知らない。
つまり、
「セワシくん! 君は、あの人のことを知らないんだね!?」
喜びのあまり確認する。
そうだ、セワシくんはあの人に洗脳されていない。
つまり、僕を助けに来たんだ。
「とりあえず、人通りの少ない場所に行こう。この時代の人間でない僕が人目につくとまずい」
そして、僕とセワシくんは裏山の林の中に入った。
「昨日、突然ドラえもんが帰ってきてね。おじいちゃんがおかしくなったって騒いだんだ」
ドラえもんはセワシくんのところに帰っていた。だからタイムマシンが無かったんだ。
「話を聞いてみると、おじいちゃんが月島さんって人に失礼なことをしたって言うんだけど……
僕が調べた限り、おじいちゃんにそんな親戚はいないことがわかった。胸騒ぎがしたから、会いに来たんだ」
「セワシくん、良かった……君が来てくれて本当に良かった……」
「あのさ、とりあえず状況を話してくれない?」
「うん、実は……」
僕はこれまでのいきさつを話した。
「つまり、その月島さんのことを皆が大切な友達だと認識しているんだね?」
「そうなんだ、きっとあの人は未来の道具を使っているんだ。タイムパトロールに頼んで捕まえてもらおう!」
タイムパトロール。
タイムトラベルをして悪事を働く犯罪者を捕まえる人たち。
セワシくんがいれば、タイムパトロールに通報できる!
「おじいちゃん……残念だけど、今回の件でタイムパトロールは動けない」
だが、セワシくんの言葉が僕の希望を打ち砕いた。
「な、何で!?」
「順を追って説明するよ。まず前提として、少なくともあの人は22世紀の人間じゃない」
「え……?」
未来の人間じゃない?
そんなはずはない! 未来の道具でもなければ、あんなことは出来ないはずだ!
「僕はドラえもんから月島さんの名前を聞いて、すぐにその人を調べた。ドラえもんからその人の写真も受け取ったから、顔もわかった」
「そ、それでどうだったの?」
「未来では航時法っていう法律があって、タイムトラベルをした人間は自動的にタイムパトロールのデータベースに残る。
でも、タイムパトロールがいくら調べても、その人のデータは無かった」
「じゃあ、こっそりタイムトラベルをした可能性は?」
「タイムパトロールは時空間を常に監視している。その目をかいくぐってタイムトラベルをするのは不可能と言っていい」
「じゃ、じゃあ、もしかしてあの人は変装かなにかをしているんじゃ」
「それも考えた。でも、未来の技術で写真を解析した結果、あの人の顔に変装や整形の形跡は無かった。
つまり、あれはあの人の素顔だ」
「……それなら、あの人はどうやって?」
「考えられるのは、ただ一つ」
そして、セワシくんは全ての前提を覆す発言をする。
「あの人は、この時代の人間だ」
この時代の人間? そんなバカな!
「そして、あの人がタイムトラベルをしていない以上、タイムパトロールは干渉できない」
「そ、そうなの?」
「これも航時法で決められていることだけど、タイムトラベルをして過去の時代に大きく干渉しようとすれば、厳しく罰せられる。
ドラえもんがおじいちゃんと暮らしているのは、実は特例中の特例なんだ」
「そうなんだ……」
「そして、過去の時代に干渉できないのは、取り締まるタイムパトロールも同じだ。
彼らには、過去の時代の人間がその時代でどんなひどい犯罪を犯したとしても干渉してはならないという法律が定められている。
それをすれば、歴史が変わってしまうからね」
「つ、つまり?」
「つまり、月島さんがこの時代でどんな行いをしても……タイムパトロールはそれに干渉できない」
「そ、そんな……」
なんてことだ。
タイムパトロールを動かせれば、みんなを助けられると思った。あの人を追い出せると思った。
でも、その希望は無くなってしまった。
「それなら、この時代の警察に通報するとか」
「それもダメだ。おじいちゃんがいくら訴えても、当の家族やドラえもんが月島さんを大切な人だと認めている。
この時代の法律じゃ、あの人を裁けない」
「じゃあ、まさか……」
「そう」
考えたくはない。でも、目を背けるわけにはいかない。
「ドラえもんたちを助けられるのは、僕たちだけだ」
僕たちだけ……でも、どうやって?
みんながあの人の味方だ。しかも、あの人は未来の人間でもわからない、不思議な力を持っている。
どうやって、勝てと言うんだ。
「おじいちゃん、僕もこの時代に22世紀の道具の持ち込みを制限されている。だけどね」
だが、途方に暮れる僕に対し、
「一つだけ、22世紀の道具を持ってこれたんだ」
セワシくんは一つの希望を持ってきてくれた。
「本当に!? 一体どんな!?」
「ここにあるよ。おじいちゃんはたしかこれを……」
セワシくんがポケットから、手のひらに収まる四角いケースを僕に手渡した直後。
「こんなところにいたのか、のび太」
僕らの上から、今最も聞きたくない声が聞こえてきた。
木の枝に座り、幹に寄りかかりながら本を読んでいたその男の人は、僕を見下ろしながら軽い身のこなしで木から降りる。
木から降りても尚、その視線は僕よりずっと高い。
最初に感じた物知りな印象も、今では不気味としか思えない。
僕は、僕はこの人に、
月島 秀九郎に紛れもない恐怖を感じている。
セワシくんが僕を庇いながら、月島と距離を取る。
対して月島は、持っている本から視線を話さずに、僕に語りかけてきた。
「いけないね、今は授業中だ。早く学校に戻らないと、君の先生も心配してしまうよ?」
まるで本物のスクールカウンセラーのような口ぶりだ。
「……いい加減にしてください。あなたは一体何者なんですか!?」
僕と違って、勇気があるセワシくんは臆することなく月島に喰ってかかる。
「ひどいな、セワシ。僕は君のご先祖のいとこだよ? ドラえもんが僕を君に紹介してくれたのに、忘れてしまったのかい?」
「僕の名前を!? いや、それはどうでもいい! ドラえもんたちを元に戻せ!」
「……困ったな。セワシは反抗期になったようだね」
あからさまな敵意をまるで意に介していないように、月島はセワシくんに優しく接する。
……どうする? ここで月島をどうにかできれば、ドラえもんたちを元に戻せるかもしれない。
「セワシ、君は僕がのび太の面倒を見ていたことをとても喜んでくれたじゃないか」
「僕にそんな覚えはない! いや、そんなことは事実じゃないんだ!」
「いいや、事実になるよ……これからね」
どこか不自然な言葉と同時に、月島は持っていた本を閉じる。
そしてそれを左の腰あたりで持ち、右手で本に挟まっていた栞をつまんだ。
そして、まるで時代劇の侍が刀を抜くような動作で、栞を本から引き抜いた。
そう、あくまで刀を抜くような動作というのは比喩だ。
実際には月島が持っていたのは栞だ。
その筈だったんだ。
だが、いつの間にか月島が右手に持っていたものは刀に変わっていた。
「……なっ!?」
月島が持つ刀。
それは時代劇でみるような日本刀に形は近かったが、それより長いように見えた。
なにより、柄や刀身が異常なまでに白く、柄と刀身の間にある鍔は、それが栞だったことを示すように、
栞についていたものと同じ紐がついている。
甘かった。二対一なら何とかなると思った。
でも、相手が武器を持っていたら話は別だ。
「セ、セワシくん! やっぱりあの人は未来の道具を!」
「違う、あんなものは未来にも無い! あれは全く別の力だ!」
別の力。
セワシくんの言うとおり、あの人は未来の人間ではなかった。現代の人間でありながら、不思議な力を持っている。
いや、それどころじゃない。相手は刀を持っている。
足が震える。相手が持つ、あからさまな危険に足が震える。
まさかこのまま……
「おじいちゃん、逃げ……」
セワシくんが僕に振り向いた直後、
月島の刀が、セワシくんの左肩から右の腰辺りまでを切り裂いていた。
「……がっ」
信じられないような表情で、自分の体に入ってきた刀を見るセワシくん。
一瞬だった。月島と僕らの間には5メートルくらいの距離があったはずなのに。
あの人は一瞬でセワシくんに近づき、その体を切り裂いていた。
体から刀が引き抜かれると同時に、セワシくんはその場に倒れる。
「セワシくん!」
僕は逃げることも忘れ、自分の子孫に駆け寄った。
大丈夫なのか。いや、刀で切られて大丈夫なわけがない。ましてや、あんなに深々と切られたら生きていられるはずがない。
なんてことだ、僕のせいだ。セワシくんは僕を助けに来てしまったから、死んでしまうんだ。
そんな、いやだ。僕は子孫を不幸にさせないために、ドラえもんと力を合わせようと決心したんだ。
それが、こんなわけのわからないことで。
しかし、僕はセワシくんから血が全く出ていないことに気が付いた。
「……え?」
それだけじゃない。深々と切り裂かれたはずの体には全く傷がなく、服も破れていなかった。
顔に手をかざすと、しっかりと息もしている。
そしてさらに、彼は何事もなかったかのように起き上ってきた。
「う……ん」
「セワシくん、大丈夫なの!?」
わからない、でもとにかくセワシくんは無事なようだ。
良かった、本当に良かった。
君が生きていてくれて本当に良かった。
「お、おじいちゃん? 僕は一体……」
セワシくんは斬られたことを覚えていないようだ。
だが、その時。
「セワシ、君は裏山でのび太を探している最中に転んだんだよ」
月島がまるで当然のように、彼に声を掛ける。
ふざけるな、お前がセワシくんを……!
「そうだったんですか、すみません月島さん」
……
何を言っているんだ?
セワシくん、こいつは君を。
「おじいちゃん、月島さんをあまり困らせちゃだめだよ。折角探しに来てくれたんだから、学校に戻ろう?」
え? え? え?
なんで、なんで、そんなことを言うんだ。
「さてセワシ、のび太は僕が学校に連れ戻すから、君はドラえもんと合流して未来に帰りなさい」
「はい、わかりました。じゃあまたね、おじいちゃん」
あ、ああああああ。
「うわああああああああああ!」
僕は瞬時に立ち上がって、一目散に走った。
そして、一気に裏山を下りて、住宅街に入る。
今日、全力疾走するのは何度目だろうか。
走りっぱなしの日なのに、僕は全く体に疲れを感じなかった。
走りながら、さっきの光景を思い出す。
あれだ。あの人はあの刀で斬った人を、洗脳することが出来るんだ。
みんな、ああされたんだ。ああやって洗脳したんだ。
気が付くと、僕はいつも野球をやっている河川敷に来ていた。
周りに誰もいないことを確認した後、その場に座り込む。
なんてことだ、唯一の味方であるセワシくんでさえ、あの人にやられてしまった。
なんでだ、なんでこんなことをするんだ。
僕たちはただ平和に暮らしていただけじゃないか。なんでこんなことになったんだ。
なんであの人はみんなを洗脳なんてするんだ。
そこまで考えて、僕はあることに気が付いた。
みんなを洗脳した?
あの人が他人を洗脳するには、あの刀で斬る必要があるようだ。
つまり、
あの人は、皆をあの刀で切り裂いたんだ。
恐ろしい能力だな…
乱暴者だけど、実は友達のために体を張れるいじめっ子も。
イヤミで臆病だけど、いざとなれば僕のために力を貸してくれる金持ちの息子も。
心優しくて、人の痛みを見過ごせない、僕が好きになった女の子も。
0点を取ってばかりの僕に、諦めずに説教してくれる学校の先生も。
厳しいけど、僕がいなくなったときは本気で心配してくれる母親も。
尻に敷かれているように見えて、実は家族のために一生懸命な父親も。
そして、僕の一番大切な……大切な……
未来から僕を助けに来てくれた親友も。
皆を、あの刀で容赦なく切り裂いたんだ。
そして、あの人は刀が体を引き裂いたように。
皆の中に、強引に割って入ったんだ。
……僕は、さっきまであの人に対して大きな恐怖を感じていた。
だが今は違う。あの人がした行いを確信した今は違う。
どうしようもない、怒りを感じる。
そこにどんな理由があろうとも許せない。僕の大切な人たちに手を出したことが許せない。
そして、決意する。
僕が、みんなを助け出す。あの人の手から助け出す。
絶対に、あの人に屈してなるものか。
決意はした。あとは方法だ。
実際、どうすればいい? 僕にはなにも打つ手がない。
ドラえもんがいないこの状況じゃ……
その時、ズボンのポケットにある固いものに気が付いた。
そうだ、セワシくんから受け取った未来の道具。
これが、何か突破口になってくれれば!
そして僕は、ケースを開けてその中にあったものを見る。
……
それ自体に、見覚えは無かった。
しかし、説明書に書いてあった、その名前に見覚えはあった。
これは……確かにこれなら皆を助け出せるかもしれない。
だって、この道具は……
いいぞのび太
ポケットにはいるサイズの道具って何だろうな
いいぞいいぞ、面白いぞ~
展開が上手くて飽きが来ないのが凄いな
どんどん続きが読みたくなる
取りあえず、唯一の未来の道具はよ!
そこまで考えて、僕は状況を整理する。
まずはこの道具は一回しか使えない。そして、今の状況ではこの道具が有効になるかわからない。
足りないのだ、あるものが。
その足りないものを補うには、もう一度月島と対峙する必要がある。
だが、大丈夫だろうか。あんな恐ろしい存在に、僕一人で立ち向かえるだろうか。
いや、やるしかない。僕は皆を助けると決めたんだ。
「のび太くん」
その時、僕の耳に届いた声。
いつも僕の隣から聞こえてくる声。僕を助けてくれるどら声。
そして今は、果てしなく遠い位置から発せられる声。
僕を心から心配する表情を浮かべた、ドラえもんが立っていた。
「……ドラえもん」
「のび太くん、ここにいたんだね」
なぜ、ドラえもんが僕を探しに来たのかはわからない。
いつもであれば、ドラえもんに泣き付いて助けを求めるだろう。
だが、今はそれが出来ない。僕がドラえもんを助けなければならない。
「ドラえ……」
「のび太くん、よく聞いてくれ」
僕が話しかけようとすると、ドラえもんに遮られた。
「君は、『護廷十三隊』っていう悪い人たちに記憶を操作されているんだ」
……は?
「ご、ごていじゅうさんたい?」
「僕も月島さんから聞いたばかりだから、詳しくは知らないんだけどね。
その人たちは月島さんの大切な人をひどい目に合わせたらしいんだ。
そして、月島さんの仲間である君の記憶を操作して、僕らを混乱させているんだって」
な、何を言っているんだ?
……ドラえもんたちからすれば、おかしな態度を取っているのは僕の方だ。
そうなれば、月島が僕が記憶を操作されているとドラえもんたちに吹き込めば、皆はそれを信じる。
でも、なんのために?
「だから、のび太くん。本当はこんなことしたくない。でも、少し眠っていてもらうよ」
ドラえもんは本当に申し訳なさそうに、ポケットから道具を出す。
黒くて、げんこつほどの直径がある筒のような道具。
――空気砲。
「ま、まって!」
「ドカン!」
ドラえもんの叫びと共に、僕を空気の塊が襲う。
まともに食らった僕は、すごい勢いで何メートルも吹き飛んだ。
「うぐっ!」
しこたま体を打ち付けた僕は、橋の下くらいでうつぶせに倒れる。
遥か遠くにいるドラえもんは、それを見て顔を逸らしてしまった。
なんてことだ、まさか月島は僕に本気で危害を加えに来たのだろうか。
しかし、僕は考える。いつもは使わない頭をフルに使って考える。
なぜ月島はドラえもんにあんなことを吹き込んだのか。
ドラえもんたちは、おかしくなったのは僕のほうだと考えている。
そして、僕をおかしくしたのは、『護廷十三隊』という人たちだと思っている。
……もし、この状態で僕が死んでしまったとしたら?
ドラえもんは悲しむ。そして、誰が原因なのか考える。
そして、たどり着く。僕をおかしくさせた『護廷十三隊』という人たちに。
そうなったら、ドラえもんは、みんなはどういう行動に出る?
決まっている。『護廷十三隊』に戦いを挑む。
まさか……まさかまさか!
「どうやら、察したようだね」
倒れている僕を見下ろしているのは、月島 秀九郎だった。
やべぇ...面白い
「……あなたは! なんてことを!」
そうだ、この人は……
『護廷十三隊』との戦争に、ドラえもんを利用するつもりなんだ。
だから、僕だけは洗脳しなかった。
みんなの憎しみを、『護廷十三隊』に向けさせるために。
「僕には、いや僕たちには戦力がいる。やつらに復讐するための戦力がね。
未来から来た、不思議な道具を持つねこ型ロボット。大きな戦力になるとは思わないかい?」
「……そんなの、僕たちには関係ない!」
関係ないんだ。そんな僕たちには全く関係ない争いに、
心優しいドラえもんを巻き込むな。
「関係ないかな? 僕はドラえもんの恩人だ。そして恩人が困っているから、助けたいと思う。
これは、ごく自然な感情だろう?」
「違う! あなたはドラえもんの恩人なんかじゃない!」
「いいや、恩人だ。この『ブック・オブ・ジ・エンド』があれば、そうなる」
そう言って、月島は再び栞を刀に変化させる。
やべぇ……月島△
「『ブック・オブ・ジ・エンド』……それが、その刀の名前……」
「その通りだよ。これがあれば、僕は彼の恩人にも、憎い敵にもなれる」
「やっぱり、それでみんなを洗脳したのか……!」
「勘違いしているようだね、これは洗脳じゃない」
洗脳じゃない?
……ここは慎重に行く必要がある。まだだ、まだ使うときじゃない。
「タイムパトロールは、過去に遡って未来を分岐させようとする者を取り締まっている。
だが、彼らが取り締まれるのは、未来を分岐させる者だけだ。
過去を分岐させる者は取り締まれない」
「過去を、分岐させる?」
「僕の『ブック・オブ・ジ・エンド』は斬った相手の過去に僕の存在を挟み込むことが出来る。
だから、彼らは洗脳されているんじゃない。彼らは自分の意志で、僕に協力しているんだ。
決して、無理強いをしているわけじゃない」
そんな、そんなの屁理屈だ。
この人がみんなを自分の思い通りに動かそうとしているのには変わらない。
しかも、皆の感情を利用して。
それを聞いた僕は、奥歯を噛みしめた後に言った。
「『ブック・オブ・ジ・エンド』は斬った人間の過去に月島 秀九郎の存在を挟み込むことが出来る……」
「そういうことだ、理解できたようだね」
……ははは。
勝てるわけがないじゃないか、こんなの。
僕は、しずかちゃんの気を引くために、さまざまなことを試した。
ときには、ドラえもんの道具を借りたりもした。でも、何回も失敗した。
でも、『ブック・オブ・ジ・エンド』があれば、たやすくしずかちゃんの想いを操れる。
僕がどれだけ試しても出来なかったことを、この人はたやすく出来るんだ。
勝てるわけがない、そんな夢のような能力に勝てるわけがない。
「おや、ドラえもんか。どうものび太は、まだ記憶が元に戻らないらしいよ」
気が付くと、月島の後ろにドラえもんが立っていた。
その手にはまだ、空気砲が装備されている。
「可哀そうだがね、もう一度空気砲を撃ってくれないか? なに、のび太は僕がきっと元に戻してみせるよ」
きっと、もう一度空気砲を撃たれたら、僕は気絶する。
そして、月島はうまいことドラえもんが見ていないところで僕を殺すつもりだろう。
そうなったら終わりだ。ドラえもんが戦いに巻き込まれるのは避けられない。
そうなんだ。勝てるわけがなかったんだ。
もし本当に、月島が相手の過去に自分の存在を挟み込むことが出来ればの話だが。
だから、本当はそんな能力が実在しないとすれば、
僕の目の前の光景は、特に不自然なものではない。
ドラえもんが月島に空気砲を向けているのは、不自然なことではないのだ。
「……なに!?」
「ドカン!!」
避ける暇もなく、ドラえもんのこれ以上ない叫びとともに、月島は空気砲の直撃を受けて吹き飛ぶ。
吹き飛んだだけで倒れこそしなかったものの、月島は驚愕の表情を浮かべていた。
「のび太くん!」
ドラえもんが僕に駆け寄る。
これは、これは、成功したんだ。
ドラえもんを助けられたんだ。
「大丈夫かい、のび太くん!?」
「……ドラえもん、元に、戻ったんだね」
「ああ、君は僕の大切な友達だ。そして……」
そして、ドラえもんは、
「あの人は、その大切な友達を苦しめた……僕の敵だ!」
月島に対して、明らかな敵意を向けた。
「……おかしいな。ドラえもん、僕が誰かわからないのかい?」
「あなたは僕たちを操って、のび太くんを苦しめた悪者だ! 決して、僕の恩人なんかじゃない!」
「……」
怪訝そうに、月島は手に持った『ブック・オブ・ジ・エンド』を見る。
「特に異常はない。そもそも、『ブック・オブ・ジ・エンド』の効果は永続的なはずだ。何が起こっている?」
「あなたが、他人の過去に割り込んで強引に事実を作り出すのであれば、僕は逆に強引に事実を消した。それだけのことだよ」
僕は答えてやる。月島に突き付けてやる。
もう、あなたの味方などいないことに。
「事実を消しただと? 君にそんなことが出来ると?」
「出来るんだよ。これがあれば」
そして、僕はポケットから紙切れを取り出す。
それは、ケースに入っていた説明書だった。ドラえもんがそれを受け取り、その道具の名前を見る。
「こ、これは! 『簡易版・ウソ800(エイトオーオー)』!」
ウソ800。
未来の道具のひとつである、飲み薬。
本来はフラスコに入っていて、それを飲んだ人間の発言をウソにする。
良く晴れた日に、「いい天気だ」と言えば、大雨になる。
怒られるはずの無い人間に対し、「君は褒められる」と言えば、しこたま怒られる。
そして、「あの友達は決して帰ってこない」と言えば、帰ってくるのだ。
この道具のおかげで、ドラえもんが僕の元に帰ってきてくれたことがある。
だから確信できた。この道具なら、ドラえもんを僕の元に帰ってこさせることが出来ると。
しかし、セワシくんが持ってきたものは簡易版だった。
普通のウソ800は効果がしばらく続くために一度飲んでしまうと、うかつに発言が出来なくなる。
それが未来の世界で問題になったらしく、簡易版が作られたと説明書に書いてあった。
それが、飲んだ直後の最初の発言だけをウソにする、『簡易版・ウソ800』。
少量のウソ800をカプセルで閉じ込め、すきなタイミングで飲み込んでから発言するというふうに使うらしい。
説明書を見た僕は、カプセルを口の中に入れて月島の能力をウソに出来るタイミングを待った。
月島の詳細な能力がわからない以上、うかつには使えなかったのだ。
だから、月島と対峙した時に能力を聞き出せるチャンスを待った。そしてその時は来た。
能力を聞き出した僕は、口の中のカプセルを奥歯で砕いた後、薬を飲みこみ、
「『ブック・オブ・ジ・エンド』は斬った人間の過去に月島 秀九郎の存在を挟み込むことが出来る……」
こう発言することで、月島の能力をウソにした。
正直、賭けだった。月島が本当の能力を言ったかどうかは賭けだった。
だが、僕は賭けに勝った。
ドラえもんを助け出すことに成功したのだ
「やってくれたね……」
月島は僕を苦々しそうに睨む。
ざまあみろ、僕たちをもてあそんだ罰だ。
「のび太くん、君は休んでいてくれ」
ドラえもんが、僕を守るように前に立つ。
「気を付けてくれ。あの人は、信じられないような動きを……」
「遅いよ」
僕は月島から、目を離してはいなかった。
なのに、次の瞬間には、刀がドラえもんに振り下ろされていた。
「ドラえもん!」
だが、
「……っ!?」
月島の刀は、見えない何かに弾き返された。
「ドカン!」
その隙を見逃さず、すかさずドラえもんが空気砲を放つ。
今度は避けられてしまったが、月島を牽制するには十分だった。
「確かに、僕は遅い。でも、
『バリヤーポイント』がある限り、あなたの攻撃は通用しない!」
バリヤーポイント。
未来の警察官が、犯人の攻撃を防ぐための道具。
これを発動させている限り、例え爆弾でも傷はつかない。
ドラえもんは、すでに発動させていたんだ。
「なるほど、道具の使い方は君のほうが一枚上手か」
「……違う、僕だけじゃない」
気が付くと、僕の後ろから三人の人物がやってきた。
「しずかちゃん! ジャイアン! スネ夫!」
僕が気づくと同時に、ドラえもんが人数分のバリヤーポイントを投げて渡す。
皆が、受け取るとすぐにバリヤーポイントを発動した。
「おっさん、のび太が随分と世話になったなぁ」
「その分、お礼をしなくちゃね」
「あなたの好きにはさせません!」
皆、元に戻ったんだ。
僕は皆を助け出せたんだ。
そして、僕のために皆が……
「僕たちがいる限り、のび太くんに手を出させはしない!」
僕の前に四人が立つ。
月島の手から、僕を守るために立つ。
それが、それがたまらなく嬉しい。
僕との友情を失わないでくれたのがたまらなく嬉しい。
「まいったなぁ……」
だが月島は、この状況でも特に焦っていないようだった。
「まあいいや、君たちからは手を引いてあげるよ」
「え?」
「お、おっさん、逃げるのかよ!」
「逃げる? そうとってもらっても構わないよ。でもね……」
その直後、月島の刀がドラえもんの鼻先に突き付けられていた。
「……なっ!?」
「ドラえもん! そんな、バリヤーポイントがあるはずなのに!?」
さっきは間違いなく、バリヤーポイントが発動していた。
一体どういうことなんだ!?
「見ての通り、僕は君たちを倒すことは出来る。ただね、小学生を殺して警察に追われるのはゴメンだよ。
だから、君たちからは手を引いてあげる」
そう言って、月島はまた瞬時に遠くに移動する。
「安心しなよ。もう僕が君たちの目の前に現れることはない。君たちはまた日常を過ごせばいいさ」
「あなたは! あんなことをして、なんの罪悪感もないんですか!?」
めったに聞かない、しずかちゃんの怒りの声。
だが月島はそれに対して言った。
「無いよ」
そして、月島は僕たちの前から姿を消した。
……彼の言うとおり、本当にもう現れることはない気がした。
しばらくした後、皆は緊張が解けてその場にへたり込む。
「あー怖かった……」
スネ夫は強がりを言っていたようだ。
「のび太くん……本当に、本当にごめんね」
ドラえもんが、丸い頭を地面にこすりつけながら謝ってくる。
「そんな、ドラえもん。君のせいじゃないよ」
「それでも、僕は君を傷つけてしまった。それだけじゃない」
ドラえもんだけでなく、皆も僕に申し訳なさそうな顔を向ける。
「のび太が一人だけ苦しい思いをしていたのに、俺たちは……」
ジャイアンが珍しく涙を流す。その涙が僕のためであることは明らかだった。
「でも、のび太を見直したよ。たった一人であの人に立ち向かったんだから」
「のび太さんがいなかったら、私たちはどうなってたか……」
でも、結果的にはそうならなかった。それで、それでいいんだ。
そして僕は、先生が言った言葉を思い出す。
「もし本当に突然仲良くなったとしたら、その友情はとても表面的で脆いものでしかない。
君が友達を大切に思っていた分だけ、友達も君を大切に思っていたはずなんだ。
だから友達も表面的な友情より、君との友情をとる。最終的にはね」
――良かった。
皆が友達で、良かった。
その時、思い出した。
「の、のび太くん、お腹鳴っているけど……」
そうだ、僕はろくにご飯を食べていなかった。
「全く、のび太らしいや」
スネ夫が笑ったのにつられて、皆が笑う。
……帰ったら、ママの手料理を食べよう。
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「全く、あんなガキどもに一杯喰わされてんじゃねえよ」
「まあそういうなよ、銀城。まさかあの子があそこまで機転が利くとはね」
「それで、『ブック・オブ・ジ・エンド』はどうなんだ?」
「無機物に対しては変わらず有効だった。人間に対しても、昨日試したら大丈夫だったよ。
ただ、今までに挟んだ相手からは完全に僕の存在は消えているようだ。ドラえもんたちからもね」
「まあ、あいつらはもういいさ。それより、リルカが茶渡 泰虎への接触に成功したらしい」
「へえ、じゃあいよいよかい?」
「ああ、俺も空座町に行って、黒崎 一護に接触する。その後は手筈通りだ」
「うん、僕は新たな能力者を探して君は……」
「黒崎に完現術を習得させて、俺のものにする」
――死神と完現術者の間で全面戦争が繰り広げられるのは、これより少し後のことである。
完
終わり!
二次創作難しい
乙
おもろかった
おつ!
面白かったわwww
乙! 最後まで面白かったぜ!
ただ1つだけ思ったのは、最後の先生の言葉の反芻は、二重鍵括弧にすると分かりやすかったんじゃないかってこと
その他は特に気になるところもなく、月島さんがドラえもんの世界に溶け込んでいた気がするな
しっかりと二次創作出来ていたと思うから、もっと自信持っていいと思うわ
>>112
ありがとう
あげ
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