艦core 4 (20)
深海棲艦の出現と行動範囲の拡大により国家が統治能力を徐々に失っていた。
秩序の回復を図るため、鎮守府はより強力かつ高度に機械化され、艦隊に様々な兵器を供給する軍産企業もまた、数社の企業と鎮守府から成る強固な軍産複合体を形成し、その影響力を強めていった。
加速する世界の破綻により、ついには経済システムが存亡の危機に陥るに至り、速やかな深海棲艦の掃討を目的とし、実質的最高権力組織となっていた6つの鎮守府が、深海棲艦に対し全面攻勢を開始した。
後に深海戦争と呼ばれるこの戦争は、鎮守府側が投入した最新鋭兵器、特に、コジマ技術などの最新技術を盛り込んだわずか30機にも満たない新兵器ネクスト艦娘によって、数多くの深海棲艦はなすすべもなく壊滅し、勃発からわずか一ヶ月程度で、鎮守府側の圧倒的勝利で終結。これにより、企業による統治が開始された。
鎮守府による新たな統治が開始されてから5年後、世界は様々な問題を内包しつつも表面上での安定を保っていた。
嘗て国民と呼ばれた人々は、世界各地に設けられたコロニーと呼ばれる居住エリアに押し込められ、日々の糧食を得るためだけの労働に従事していた。
コロニーアナトリアもその一つであった。深海戦争以前はネクストとそれを制御するためのAMSの研究を行っていたアナトリアであったが、第一人者の死と技術の漏洩により深刻な経済危機の最中にあった。
そんな中で、生活の糧としての傭兵は必然的な結論だった・・・・・・
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====Chapter 1====
『独立計画都市グリフォンを占拠する、武装勢力を排除する。グリフォンはかつて、深海棲艦の進行により基幹インフラを失い、廃棄された。敵は――』
通信機越しに聞こえてくる若い男の声を聞きながら、羽黒は自分の装備の最終チェックを行っていた。
右手には12.7cm砲を元にした880マシンガンを、左手には15.5cm砲を元にした突撃ライフル。
方には20.3cm砲を元にしたプラズマキャノンを装備している。
全ての武装の残弾をチェックし、接続を確認していると直通回線での通信が割り込んできた。
『羽黒、本当にいいのですか・・・・・・?まだ、今なら引き返すことも可能です』
羽黒を載せた専用輸送機を操縦している男――彼女が提督と呼んでいる男からの通信であった。
「・・・・・・いいんです。提督はあの時私を救ってくれました。だから、今度は私が提督を助けたいんです」
羽黒は思い出す、あの戦争のことを。深海棲艦との終わりのない戦争。戦いの毎日。死にゆく仲間と、新しい仲間。硝煙と血の匂いでむせ返る戦場と、爆炎で赤く染まった海。
あの地獄から救ってくれたのは、提督だった。手柄に拘らず、慎重に堅実に艦隊を運用し、戦死者はでなくなった。自由な時間も増え、自分はただの兵器ではなく人間だと思えるようになった。
暫くしたら戦争は終わったけれど、提督が来てからの毎日は、日常はかけがえのない大切なものだった。
それを――今度は私が守るのだ。
『・・・・・・わかりました』
そんな羽黒の思いが通じたのか、提督はやや間を置いてから肯定を返した。
『けれども、危ないと、命の危機を感じたら速やかに撤退してくださいね。幾らネクスト装備のあなたとはいえ、今回はPAを展開できない。少しの損傷が致命傷になりえる』
「こんな私でも、心配してくれるんですね・・・・・・」
『っ!!羽黒、私はあなただから心配を――』
その怒ったような返答に、羽黒の口元に少しだけ笑みが浮かんだ。嬉しい、そうこの感情は嬉しさと、それと――
「冗談です。ちゃんと帰ってきますから、安心してください」
『はぁ、いいでしょう。作戦空域に到達しました。敵主力、ノーマルを全て撃破してください。――ご武運を』
「・・・・・・提督、貴方の背中は私が守ります」
小さく呟いたと同時に、輸送機のハッチが開き羽黒の身が空中に投げ出された。
風が勢い良く羽黒の体を撫で回していく。海の風とは少し違う、爽やかで粘つかない風。
その風を肌で感じながら、羽黒は姿勢制御のブースターを吹かした。
少しだけ前傾を保ちながら、時速600km近い速度で作戦エリアへと侵入する。
艦娘とは、突如出現した深海棲艦に効率よく対抗するための戦術装備であった。
適性のある少女とセットで運用することで初めて戦果を生み出す事が可能であったが、通常兵器よりも遥かに高い対抗能力を深海棲艦相手に見せつけた。
それを最新のコジマ技術で強化したものをネクスト艦娘、通称ネクストと呼んだ。
ネクストの性能は今までの艦娘や通常兵器とは一線を画するものであった。
PA(プライマルアーマー)と呼ばれる粒子装甲を始め、AMS(アレゴリー・マニュピレイト・システム)やQB(クイックブースト)などの新機能により、圧倒的な戦闘力を備えている。
これにより、今までは水上でしか運用できなかった艦娘は空中などでも運用することが可能となり、迅速に深海棲艦を駆逐することが出来たのである。
このネクストを操る少女達の事を、ネクストと繋がっているもの、常に首輪に繋げられているもの、そして山猫とをかけて――リンクスと呼んだ。
センサーが多数の敵機を捉えたのを羽黒はAMSの補助により直感的に理解した。それらに攻撃される前に対処すべく、左手に保持した突撃ライフルを構えトン、トン、トン、引き金を引いた。
銃口から吐き出された銃弾とも砲弾とも呼べない弾頭は、狙いを過たずして敵機に直撃爆破して朱色の揺らめきと黒煙を立ち上らせた。
(遅い・・・・・・いや、私が"速い")
嘗ての艦娘であった頃との差を身をもって感じながら、羽黒はそのまま順調に敵を殲滅していく。その姿は、まさに――死神のごとく
輸送機のモニターとレーダーで、提督は羽黒の行っている戦闘を見ていた。
(やはり、羽黒は凄まじい動きをします・・・・・・)
彼が着任した鎮守府で一番の武勲艦であった頃の羽黒と、何一つ変わっていない。大きな鎮守府まで噂が伝わり、それこそ"伝説の艦娘"なんて大げさな呼び名がついたあの頃から。
寧ろ、動きは格段に良くなっている。ネクストを装備しているのだから当たり前といえば当たり前なのだが、それを踏まえても現役時よりも洗練された動きだ。
(それもAMSとコジマ粒子の負荷を除けば、ね)
AMSは高い反応速度をリンクスに与えるが、なんの代償もなく利用できるものではない。
AMSには適正があり、高ければ高いほど効率よく利用できるが、その値が低いほど接続時に脳に多大な負荷をかけてしまう。
羽黒の適正値はお世辞にも高くはない。そして、コジマ粒子の汚染だ。
コジマ粒子はエネルギー効率が抜群に良い粒子で兵器などにも転用できるが、自然や肉体への甚大な汚染が確認されている。
長期間コジマ粒子に晒されて汚染が深刻化すると、それのみで命が失われてしまう程に。
(どうして、私は――俺はあの時羽黒を止められなかったんだ・・・・・・)
深海戦争が終わり、提督は故郷であるアナトリアへと帰った。しかし、鎮守府の敷いた支配体制の元でアナトリアは困窮していた。
故郷を深海棲艦によって失った羽黒を連れて、アナトリアへと帰ったのがそもそも間違いだったのかもしれない。
遡れば遡るほど、全てが良くなかったのかとも思えてしまう。それこそ――羽黒と出会ったことさえ。
それは、違う。そう思いたいが、彼女と出会わなければ、彼女を巻き込むこともなかった。
それでも、彼女を戦いに出したのは――俺だ。あの時も、今も。
『作戦完了・・・・・・ってあの、報告が・・・・・・提督?』
「えぇ、ちゃんと見ていましたよ。作戦大成功ですね。彼も大喜びですよ――」
そしてまた、彼女を戦いから迎えるのも、"私"だ。今も、あの時も。
====Chapter1 Fin====
4レスしかない
小さな存在だな・・・私も・・・君も・・・
そのうち続きます
遅かったじゃないか…(歓喜)
言葉は不要か…
====Chapter2====
『作戦を確認します。マグリブ解放戦線のエレトレイア城塞を襲撃し、彼らの持つ弾道ミサイル兵器を破壊してください。
エレトレイア要塞はマグリブ解放戦線の重要な拠点であり、激しい抵抗が予想されます。
また、作戦エリア付近には激しい砂嵐を確認しており、通常の有視界戦闘はかなり制限されますので、電探による索敵を重視してください
以上、作戦の確認を終了します・・・・・・ご武運を』
上下左右の感覚が薄くなるほどの砂嵐の中を、羽黒は凄まじい速度で飛行していた。
事前のブリーフィングで提督が述べたように、視界はほとんど茶色で埋め尽くされ、敵を視認することは難しい。
が、敵もそれは同じことだ。視界で認識できていない目標にどうやって銃弾を当てるというのだろう。
先程から対空機銃や高角砲などでの牽制行動はあるものの、それ以上の攻撃は加えられていない。恐らく、敵も攻めあぐねているのだろう。
(敵がもたついているうちに弾道ミサイルを破壊して、離脱しますっ――)
それ以外の戦闘行為はするだけ無駄だ・・・・・・無駄なのに、どうして出てくるの。
羽黒は電探が完治した敵の反応を確認する。しかもそれは――ネクスト。次の瞬間に敵ネクストからの銃撃と提督からの通信が同時に飛び込んでくる。
『敵ネクストを確認。テクノクラートのナンバー25、ヴェールヌイ・・・・・・響です』
ヴェールヌイが放ってくるマシンガンをQBで左右に振りながら回避し、何度目かの回避でそのまま反転。彼女と相対する。
「やぁ、羽黒。悪いけど、見逃してあげられないな」
「・・・・・・お久しぶりです、響さん。私も、手加減はしてあげられませんから――」
羽黒の言葉が終わるか終わらないかの間際に、二人は既に銃口を互いに向けてトリガーを引いていた。
破裂音が連続し、その度に火線が砂嵐の中で交錯する。
ヴェールヌイは羽黒から距離を取りながら背中のロケットを発射。それと同時に前へ出る。
「これが羽黒・・・・・・これが伝説の重巡洋艦か。所詮、旧時代の異物だね」
羽黒は他の鎮守府でもかなり名の知れた艦娘であった。ネクストが出現するまでは最前線で戦い続け、その武勇は多くの者が聞き及んでいる。
しかし、ネクストが出てからは別だ。既にノーマルな艦娘は時代遅れの産物であり、ネクストに敵うべくもない。
さらに、羽黒のAMS適性もあまり高くないとくれば多くのリンクス達が羽黒の実力を下方して見ることは無理もない話であろう。
それ故の発言、挑発、侮蔑、嘲笑、自尊の全てが含まれた言葉だった。
「・・・・・・」
羽黒は何も言い返さない。黙々とトリガーを引き続ける。それと同時にブーストを後ろに吹かしての後退を開始した。
「逃げるとは、小賢しいね・・・・・・」
恐らく羽黒はネクストの相手をすることを放棄し、エレトレイア要塞の弾道ミサイル兵器を破壊する気だ。
そう感じたヴェールヌイは後退していく羽黒を直接追撃することはせず、一度通信回線を開いた。
「提督、羽黒があの位置から要塞に向かうルートを算出してくれないか。先回りをしたいんだ」
『分かった。少し待て』
言葉通り、5秒未満で送られてきたデータを元にヴェールヌイは追撃戦を開始した。
(・・・・・・もう少しで目標ポイント)
ヴェールヌイの読み通りに、羽黒はエアトレイア城塞へと直進していた。後ろから追ってくる機影も確認できず、地上からの砲火も少なかったので、左程の危険も無かった。
(まもなくポイント3、2、1――)
「今だ!!!」
カウント終了と同時に、正面からミサイルとマシンガンの火線が飛来した。先回りをしていたヴェールヌイが馬鹿正直に突っ込んでくる羽黒に向けて発射したものだ。
ミサイルが爆発し、爆炎と砂嵐でヴェールヌイの視界が埋まる。
「хорошо」
小さくつぶやいた彼女の背後にそびえ立っていた弾道ミサイル兵器が火を吹いた。
発射のロケットではなく、破壊の爆発だった。もちろんそれを行ったのは――
「・・・・・・ごめんなさい」
羽黒であった。彼女はヴェールヌイの作戦を更に読んでいたのだ。
城塞で待ち伏せされると読んでいた羽黒は、要塞に到達する直前にOBで急加速。ミサイルは掻い潜りマシンガンはPAで減衰しながら強行突破。
素早く通りぬけ際に左腕に装備したブレードでヴェールヌイを一閃。そのまま弾道ミサイルにマシンガンを浴びせて作戦エリアを離脱したのだ。
その手際の良さと、頭の切れ、そして死を恐れぬ心。まさに――
「化け物、か――」
大破し、その場から動けないヴェールヌイに弾道ミサイル兵器の爆発と残骸が迫り来る。
「私の本当の名は響・・・・・・提督、ダスヴィダーニャ・・・・・・さよなら・・・・・・」
砂嵐の中で、大きな緋色の花が咲き誇った。
「・・・・・・っはぁ、はっ、あっ――」
「羽黒!!」
輸送機に戻った羽黒は着艦と同時にその場に倒れ伏した。機体の制御をオートパイロットに切り替え、提督は急いで格納庫へと向かった。
普段はコジマ粒子を取り除いてからの入室になるのだが、今回はそんな事にかまってられない。
ドアのロックを強制解除し、羽黒の元へと駆け寄る。
「提督・・・・・・私っ――」
「いいんです、今は休んでください・・・・・・」
そういうと、提督は羽黒の武装を強制パージし、両手で抱き上げると、除染室をかね合わせた彼女の居住スペースへと連れて行く。
白いベッドの上に彼女を寝かせると、調整用の機器を彼女に接続。ダメージや疲労、精神負荷の回復を行っていく。
(彼女が私に伝えようとしたことは、任務の成功か、それとも――懺悔の言葉か)
そんな事は今はどうでもいい。今はただ、彼女を休ませてあげることが第一だ。
それから羽黒が目を覚ますまで、彼はずっと羽黒の手を離さなかった。
to be continue
途中から酉忘れてた。
読みやすい行間の行数を教えていただけると嬉しいです。
じゃあまた
これは期待
乙
読みやすいよ
ほ
ほ
ほ
ほ
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