オリキャラ、オリスト。 (24)

 誰が言い出したのか、地獄と天国という架空の存在が世に浸透し始めて、もう数え切れないほどの時が経った事だろう。

 人間というものは、多かれ少なかれ真実を覚え、虚偽を忘れる。

 数学で例えるとそれが顕著に表れる。誰だって、間違った答えをいつまでも覚えていないものだ。九九だって、誰しも最初は何度か間違えたのではないだろうか。

 にも拘らず、天国と地獄という仮想の存在、魔法や魔術といった超常現象は、誰しも知っていて、誰しも一度知ったらその存在を忘れない。

 だが、誰もそれが在るかどうかは『知らない』のだ。

 初めのうちは、どこかの誰ぞが言う出鱈目や嘘と何ら遜色が無かったはずのそれは、いつしか限りなく『嘘』に近い『真実のようなもの』になった。


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 何故そうなったのか。何故ここまで浸透してきたのか。その理由は至ってシンプルな二つだろう。

 まずは『証明不可』ということ。誰もが心の中で『在るわけ無い』と考えてはいるが、誰も『絶対に有り得ない』とは言えないのだ。

 これは純粋に歴史が証明している。かつての物理学者達はこぞって『宇宙の星々は地球を中心に回っている』と唱え、『地球が回っている』という論を爪弾きにした。正解は後者ということは、今や一般常識の試験にすら出てこないほどの知識だ。

 更には、船に翼を付けたようなものが一日に何本も当たり前のように空を飛んでいて、家の部屋にある箱は真夏であろうと冬のような冷気を吹き出すような現代だ。

 分からないから無い、ではなく、『分からないから在るかもしれない』と、考えている人間は多いだろう。

 話が長い、後もう一つは何だ?

 そうだ、思わずシンプルと言いつつ思わ稚拙な弁論を饒舌に語ってしまった。普段はこう長くは話さないのだが……まぁ、これも単に君達の『魔法』ということで一つ。

 さて、これ以上重ねると誰かに怒られそうだ。もう一つの『忘れない理由』というのは、まぁ、その、伸ばさないとあっさりとし過ぎていたので、ここまで伸ばしたんだ。

 もう一つの理由、それは『絶妙な恐怖』だろう。

 天国というのは『お花畑』や『幸せ』や『天使』等、甘い響きを感じざるを得ないが、地獄と聞くと『針の山』や『血の池』や『鬼』等、恐いものが思い付く。

 魔法にしてもそうだ。何もない所から火を出せたら火力発電なんかに大役立ち。いやむしろ、電力すらも生み出せるかもしれない。非常に便利で有意義な力だ。しかし、摩訶不思議な魔法の剣が夜の帳が落ちる頃に、君達に襲い掛かるかもしれない。

 そう、世の中に現在語り継がれている『天国と地獄』『魔法や魔術』というものは、誰も無いとは言えないのだ。

 この物語は差し詰め、もしもの時の君達の『マニュアル』として、大事に覚えていて欲しいと、切に願う。

 というところで、中途半端な気もするが、私からは以上だ。

 記 第九死界黒天使長 J.

幕間『説明』

 ハジめましてのヒトはハジめまして、おヒサしブりのカタは、イロイロなイミでキトクなカタとイえるかもしれません。
 ワタシとアナタタチはハツのカイコウとなります。
 にもカカわらずこのヨウなイミシンなキリクチをモウけたのはナゼか?
 もしかしたらジュウヨウなファクターではナいのか、サイゴのサイゴでイミがワかるのではと、イロイロおカンガえかもしれません。
 ですがごアンシンください。タンに、アナタガタがワタシというキョコウのソンザイをスコしでもナガくオボえられるようにするタメのキャラヅけというモノです。
 ワタシはアナタタチのソバにいるような、ワタシはココにしかイないような、かとイえばコウエンでユウグをマンキツしていそうな、とてもフアンテイなソンザイです。
 どうかオボえながらも、どうかおキになさらず。
 さて、アイサツもホドホドにホンダイにハイらさせてイタダきます...........




 弐〇壱四年、四月壱日。

 僕は今、教室らしき場所に備え付けられた椅子に座っている。
 椅子の数は参〇以上あり、等間隔に規則正しく、机とセットで設置されている。
 窓際の一番後部を陣取った僕は今一度、外を見る。窓硝子を抜けて見える空は晴れ。時々曇りかといった微妙な塩梅。
 机の上には寂しいほどに何も無い。当然だ、僕は今手ぶらなのだから。着ている見覚えの無い赤黒い学生服以外、所持品は皆無だ。赤黒い、と表現すると何やら不気味な印象もあるが、デザインは悪くないと思う。

「どうしたもんかねぇ……」

 意識的に、苦悩を漏らす。現状を適当に表し、説明することすら出来ない。
 僕は今、僕が何をしているか分かっていない。僕が僕であり、服を着て座っている事以外、特に説明が出来ない現状と言える。
 足を組んで、外をぼんやりと見詰める。
 こんなに落ち着いてて良いのかと焦燥を覚えないと言えば嘘になるが、何もやることが無いのだから仕方がない。
 さっき、教室らしき場所とここを定義したが、多分、十中八九教室だ。
 窓の下には、自分の見慣れたものと殆どに一致したグラウンドが広がっている。そしてこの建物の外装も、真っ白で、新築かは分からないものの綺麗な学校そのものだ。
 少し引っ掛かるのは構造が三階建てと他の学校に比べて背が低いことと、広大であることだ。
 広大とは何か。簡単な話だ。

 目下のグラウンドは見渡す限り町の遊園地程度ならすっぽりと入るほど広く、その外周には深い森があり、その先は末広がりの山嶺が広がっている。

 更にもうひとつだけ、少しどころではない引っ掛かる事を挙げるとするなら、グラウンドに『何か』が居るということ。

 その『何か』とは、これまた表現がし難い。そして、『何か』は単一ではない。色々と居る。明らかに肉食のものから、明らかにそれに補食されそうな弱々しいもの、そして明らかに常識的な生物とは思えないもの。色々だ。
 例えるならそう、ゲームとかで出てくるモンスターのようだ。ただし統一性……詰まりは、『このマップは弱いモンスターばかりで、あのマップは強いものばかり』といった、ゲームで有りがちなご都合主義の色がない。
 この建物をゲームお馴染みの主人公達の『はじまりの町』のような場所だとすると、外にはスライム的なものの横にベヒーモス的なものが居る。
 多分『何か』の何匹もしくは近場で見える全てが僕の姿を視認しているとは思うが、攻撃はおろか、グラウンドを越えて建物に入ろうとするものは居ない。
 その辺をウロウロしたり、森に入ったり、逆に森から出てきたりしている。
 観察している訳では無いが、今のところその存在以外は気になることはない。
 先に断っておきたいのだが、僕は別に他人より冷静な訳でもドライな訳でも、増して何度も言うが現状を理解出来てもいない。始めてあれを見た時の僕は、それは人並みに驚き恐慌した。一時間くらいか。
 だけどまぁ、見ての通り何もしてこないから慣れた。自分から近付くつもりは、今のところ無い。
 唐突に話が変わるが、漫画、小説、アニメ、ハードカバーやSF何でも良い。物語には起承転結というものがある。意味は何かが起きて、何をして、どうなって、終わるというような意味だったろうか。
 同じく山落ち、序破急など、何でも良い。言葉の意味的な話をしたい訳ではない。
 今のところ僕はこの学校に居て、座っているだけだ。
 これを客観的に見たとして、そしてこれが物語としたら、どうだろうか?
 起承転結のどこに当たるのだろうか。僕の人生的に見たら転か結辺りかもしれないが、この座っているだけの僕、という辺りを摘まんでみると、いやはや、起どころか物語ですら無いと言えるだろう。
 することが無いということは、それは語るに値しないこと。詰まりは、起承転結で言い表すことすら出来ない。
 だが、最初にもいった通り、僕は知らない学生服を着て、知らない学校にいる。更に外には『何か』居る。その他は一度に説明すると省いているが、取り敢えずのところ、物語として動く基盤はあるように思える。
 だとしたら誰もが思うはずだし、僕も思っていることがある。

「何したらいいんだよ」

 だ。
 明らかに、確実に、それしかもう思い浮かばない。
 もしこの物語を誰かが作成しているならば、この時間に何の意味があるのだろう。僕のような没個性の単なる学生を写し続けて誰かに得があるのか?
 なんて事を、ずっと堂々巡りで考えているのが現状だ。
 実際に起きている事をこうやって物語だとか何だ考えている。中二病やゲーム脳と言われても仕方ないと、罵声は甘んじて受け入れよう。
 ここに来てから、体内時計的には一時間半ほど過ぎた。
 このまま何もしないでいるのは、面倒臭がり屋である僕でも窮屈であり、何より暇だ。亀速にもほどがある、単調だ、冗長だ。

「取り敢えずこの階でも調べるか」

 こうして、僕は無理矢理『起』を探すために立ち上がり、部屋の扉に手をかけた。



取り敢えず終わりです。
戦闘的な文章以外苦手なのに戦闘がありません。
自業自得ですが、なんもかんも政治が悪い。

物語の展開は亀、更新も亀です。
では。

期待

ふむ



 四月朔日。

 知らない。
 私はこの場所を記憶していない。
 どこだろうか、学校だろうか。
 言い知れぬ恐怖が、この身を襲う。何故、私は此処に居るんだろう。何故、何故。
 今日は火曜日……書道教室と、塾がある。早く行かないとお母さんに怒られる。迅速に、正確に、無駄無く行動する必要がある。叩かれるのは嫌だ。嫌、嫌だ。
 なのに、足は動かない。
 いつ此処に来たのか、どうやって来たのか、来たかったから来たのか、来たくなかったのか。何も覚えてない。
 今居るのは、恐らく下足場。最近は見ない、純木製のそれが立ち並ぶ。だけどそこに、靴は一足も見当たらない。言い知れぬ嫌悪感のようなものに襲われる。恐怖、恐慌。
 私は下足箱を手で触れる事すらも恐れ、壁に寄り掛かる事も出来ずにただ立ち尽くす。何をしたら良いか分からない。

「ん、誰か居るのか?」

 そんなどうしようもない状況下で、どうしようもない相手に、私は出会ったのだった。





 四月一日、晴れ。


 差し出した手が、見事に空を掴んだ。
 雨天での軍事遠征の途中だったからそのままの外套が僅かにずれた。

「別に怪しいモンじゃ無ぇぞ、ほら、魔王軍の紋章だ」

 身分証明にしかならないエンブレムを指差した。雨具代わりの外套だが、紋章が付いてて助かった。
 目の前の少女は、まるで目を焼くような赤い長髪が印象的だ。同時に、切れ長の冷めた瞳が俺を貫く。
 どうしたものか、警戒されてんのか全く反応がない。ただただ睨まれているにも似た視線を投げられるのみだ。

「あー……知らねぇ、のか?」

 何を聞いても答えはない。最初に俺の手を避けてから、一切の動きすらしねぇ。どうしたもんか。
 というか、珍しい着物を着てやがる。

「俺の名前はデュランダル・サクバス。何つーか、その、あー……」

 まさか魔王軍を知らない人間が居るとは思わなかった。見たところ奴隷って身形でも無いが……、辺境の出か何か。

「まぁ、いいや。うだうだちんたらしてても仕方ねぇしな。お前の名前は何ていうんだよ?」

 失語症か? それとも言葉が伝わんねぇとかか? 何を聞いてもピクリとも動かねぇ。
 かといって見過ごすってのも、行動としては微妙だ。ここは多分天界の……。

「神楽坂・リョウ・ピター」

「へぁっ?」

 変な声が出た。勿論俺の声が、だ。返事は勿論欲しかったが、若干諦めてたからな。
 小さいながらも耳に透き通るような、不思議な声だ。綺麗と言えばいいのか。

「カグラザカ、か? どれがファミリーネームになるんだ?」

 さっきからのだんまりが嘘のようで、返答はすぐ、間髪入れずに。

「神楽坂」

「ふーん、何て呼べば良いよ? 神楽坂でいいか? 個人的には名前が良いんだが」

「リョウ」

「おぉ、リョウな。オッケーだリョウ。俺の事はなげえからデュランで良いぜ」

「把握」

 妙にテンポの良い会話に違和感はあるが、会話が出来るのは助かった。
 何となくもう一度、手を差し出すとすぐに握ってくれた。良かった、ここで拒否られたら流石に恥いってもんだ。

「良し良し。一応聞いとくが、リョウはここの住人か?」

「否定」

 思わず舌打ちが出る。

「巻き込まれた口か。分かった、それだけで十分だ。取り敢えずここの建物を回るぞ。俺はここに来たばっかなんだ」

「把握」

 よろしくな、と、俺達は歩き始めた。外套を翻すような事態は極力避けたいもんだが……どうなることやら。


設定以外の書き溜めがない
とりあえずここまででご勘弁を。
他のss書き手さん達はすばらっ。

 結論から先に言うのが美徳というならば、僕は甘んじてそれを受け入れよう。
 インクブスが仲間になった。英語ではインキュバスとなるのだが、特に意味は無いそうだ。
 というよりも、僕達が理解しているインキュバスの姿とはどうだろうか。

「なるほど、貴方は春田銘斗という御名前なのですね。こちらの世界の漢字、と言いましたか? 不勉強ながら存じてはおりませんが、きっと良い御名前なのでしょう」

 教室の安っぽい椅子に座っている事に、至極違和感を感じざるを得ない。

「えっと、インクブス……さんは……」

「あぁ、お構い無く、インクブスはファミリーネームです。フランベルジェ・インクブス、正式に呼ぶにはお口が煩わしいと存じます、フランとお呼び頂けると幸いです。勿論、敬称や敬語などは不要ですよ」

「そ、そっか。じゃあ、よろしくな、フラン。僕も呼び捨てでいいよ」

 僕がそう呼ぶと、フランはキラキラという擬音が弾けそうなほどに爽やかな笑みで頷く。
 フランは一言で言うと違和感の固まりである。
 櫛目の通った金髪に深みのある碧眼、僕と同じ赤黒い制服をネクタイまできちりと着こなし、瞳の色と同じ澄んだ蒼い鞘に納まった剣を腰に差している。
 歳は僕より一回り上だとは思うが、詳しくは分からない。

「お気にしないで頂きたいのですが、私は敬語が一番リラックスしてお話し出来るのです。ですので、銘斗さん、と変わらずお呼びします」

 生返事を返す。僕は足を机に投げ出して座ってるのだが、フランは足を組んで座っている。
 キザっぽい嫌味がないスタイリッシュな男である。

「さて、話を少し進めましょう。急ぐほどの自体ではありませんが、無駄を刻むべきでもありません。先ほど私が魔族だと言った際、銘斗さんは驚きはしましたが、言葉の意味が分からない様子ではありませんでしたね?」

「あぁ、魔族、ね。一応ゲームや漫画では定番な存在だから」

 フランはゲーム、漫画という単語を知らない様子だ。

「ゲームと漫画っていうのは、まぁ、絵や文字が書いてる娯楽品だと思って」

「なるほど、補足に恐縮です」

「まぁ、実際には居ないけど有名な存在……ってとこかな。フラン、が目の前に居て言うのもあれだけど、まだ信じきれてはないんだ」

「あはは、問題ありませんよ。長年自分の中に築かれてきた常識を今すぐ捨てろと言うのも酷というものでしょう」

 わかりました、とフランは足を組み直す。

「さて、色々とお話しすることが多いのですが、問題が何個かあります。銘斗さん、窓の外を見て頂けますか?」

 フランが手でグラウンド、窓の方を差す。外にわらわらいる『何か』の話だろうか。確かに驚異的だからと、僕は一応言葉に従って窓際に立った。

「あぁ、知ってるよ。何かモンスターみたいなーー」

 何かを聞いた気がする。
 外を見るや否や僕の体に、背中に何かが叩き付けられた。
 それは音と風が混ざったものだと、数瞬遅れて気付いた。急な事で足の踏ん張りが聞かずによろけたが、窓に手を付く前にいつの間にか立っていたフランが支えてくれた。
 爆音と爆風。爆音はまさしく何かが爆ぜた音で、爆風は熱い。
 廊下側の壁が弾けたのだ。

「覚悟しやがれよ、フランベルジェ!」

 僕は見た。爆発の勢いが収まりきってない黒煙の中から何かが飛び出して来たのを。

「おやおや、相変わらず血気盛んなお方だ」

 フランベルジェがいつの間にか抜いていた剣。
 まるで煌めき揺れる炎のような刀身をした剣。
 火花を散らす瞬間を。

「なんだなんだ! どうなってんだ!? なんだってんだよ!」

 僕は庇われるようにフランの背中へ。訳もわからず叫んだ。

「爆発付与、重力付与ダブル!!」

 低めで少し掠れた声がそう言ったのを、僕の耳は冷静に捉えた。脳がパニックでも、耳は正常に機能するんだな、と僕は場違いな事を。

「おやおや」

 余裕の様子で、微笑みを崩さないフラン。
 彼の背に押されるように。

「えっ」

 僕は彼と窓を突き破って宙に舞ったのだ。

ストーリー導入終わるまで書き貯めて一気にするか、ちょびちょびするかどちらが良いのだろう。
因みに導入で200レスほど行きそうという。
わかんねー、まじわかんねー

ほう




 フランの背中に押されているのか、自由落下しているのか。
 僕は空を仰いだ状態で落ちていく。ヤバイ、落ちる、どうにかしてくれ、そんな単語の羅列を必死に叫ぶ。正確には単語にすらなってないかもしれない。

「問題ありませんよ、銘斗さん」

 僕の焦りをまるで小馬鹿にするように、意地悪な笑みを浮かべたフラン。
 死の瞬間は時間が引き延ばされたように感じるというが、あれはどうやら本当のようで。
 数秒に満たない時間の中で、僕はまさしく四肢で無駄な足掻きをした。


 次の瞬間には、僕は色鮮やかなチューリップを見ていた。


 言葉を失ったというよりは、記憶が消えたのかとさえ思った。方法、原理は一切分からないが、僕は生きている。
 少し背中に痛みがあるのは恐らく窓を突き破ったから。気のせいか、少し頭が痛い。

「チッ……あの糞アマめ……ぶっ殺してやろうか」

 僕は花壇を縁取る煉瓦に唾を吐き、腰に差した鞘から剣を引き抜いた。
 魔剣フランベルジェ、燃える炎を象った剣。斬っても突いても優れものという逸品だ。
 僕は舌打ちを1つ、魔剣を頭の上に掲げるように構えた。

 ーーガギィンッ!

 鼓膜を逆撫でするような煩わしい金属音と、かなりの負荷が両腕に掛かる。
 踏ん張った足裏はコンクリートを穿ち、耳元にはあまりの負荷に筋肉の悲鳴が聞こえた。

「チッ、仕留め損なったか」

 仕留め損なった。おいおいあんまりじゃないか。この程度の攻撃でお陀仏するほど、僕は甘くないぞ。
 いい加減重いので、無理矢理に払う形で魔剣を薙いだ。たたたと、水滴が溢れ落ちた程度の着地の音。

「フランベルジェ・インクブス……こんな場所でお前に会うとは驚いたぞ」

 驚いた割にはすぐ攻撃してきたなと、僕は含み笑いをしながら返す。
 櫛目の通った長い赤毛。それを首裏辺りで二つ括りに分けた髪型……なるほど、ツインテールというものか。
 年は僕と変わらないか、少し下という印象の容姿、背は低めでかなり余った外套に身を包んでいる。あ、脱いだ。僕が着てる制服と同じ色のセーラー服姿になった。
 ちびっこの体には似合わない、大人一人分の丈はある長剣を両手で握りしめているのがどこか滑稽に見える。

「随分と可愛い召喚主だな、デュランダル・サクバス様よぉ」

「ほざけクズ野郎が。その軽口と刃零れだらけのナマクラ、今すぐ叩っ切ってやんよ!」

 コンクリートの地面が爆ぜた。勘。上段に防御姿勢。ヒット。
 今のがもし薙ぎだったら、僕は体を真っ二つにされていただろう。僅かに見れる予備動作、コンクリートの爆ぜ方、悪寒。それだけを見極め、防御する。殆どを勘に頼らなければ即死であり、迅速であり、凶悪なそれを防ぐ術はない。
 魔王軍第一部隊隊長補佐の名は伊達ではないということだ。

「ぶるっちまったかぁ?」

 趣味の悪い舌ずりと、下品な笑み。魔力の籠っていない一撃であろうと、魔剣デュランダルの質量と切れ味の攻撃は当たれば致死。
 剣を弾き、蹴りを見舞う。避けられた。僕が横払いの構えを取ると即座に距離を空け、範囲外へと逃げられる。踏み込んでも届かない。全く、デュランダルの特性は狂ってるとしか言いようがない。
 だが。

「爆発、爆発、爆発、爆発、圧縮、圧縮、収束魔法」

 脳筋というものは良い。距離を取ってほしいと思えば、すぐに応じてくれるからな。
 デュランダルの目の前に、小さな光珠を現出させる。

「根暗野郎がよおおおおおお!」

 デュランダルは舌打ちと同時にそれを斬ろうとするが、もう遅い。

「解放魔法」

 大爆発が起きた。いや、僕が起こした。問題があるとすると、僕にも余波が届いて、かなり熱い。二、三〇メートル離れてはいるが、とりあえず熱い。
 地面のコンクリート片や、巻き込んだ校舎の一部が四方八方に飛び散るため、向かってきたもののみ斬り落とす。

「死んだかぁ? デュランダル様ぁ」

 まだ黒煙が登るそこへ、生死確認を取る。これぐらいで死んでくれたらありがたいのだが。

「……間一髪だな。死んでないかな」

 視界を遮る黒煙が晴れる頃に、懐かしい声が耳に届く。

「おやおや懐かしい。ついでに殺されに来ましたか?」

 校舎の二階まで届きそうな巨体に、銀と翡翠の艶の良い毛質。
 その気になれば二足歩行が出来ると聞いたことがある発達した四肢に獰猛な爪。そして犬歯。

「冗談はやめろよな。普通に死んじゃうからな」

 口に加えた二人の女をぽとりと優しく地面に落とす。
 赤髪ツインテールの女子と、外套に身を包んだ青髪ショートヘアの女。どちらも気を失ってはいるが、怪我は見当たらない。

「全くな。喧嘩位で魔神化すんじゃないよな。ほら、お前らも解け」

「流石に魔神相手に一人だと厳しいからなぁ。ま、良いか。ちゃんと運んでくれよ? 信頼してるんだからな、ワンコちゃん」

「仕方無いな。気が変わる前に早くしろ」

 大狼がふぅと溜め息を吐く。聞き方によっては唸り声にも取れるそれは、中々に緊張するものだ。
 そして僕は、いや、僕達はここで意識を手放した。




 何事も順序良く行かないものだ。綺麗な道筋があり、綺麗な語り口調で、綺麗な導入の下に始まる。
 そんな作り物染みたものほど胡散臭いモノはない。現実というのはもっと汚く、説明などは無く、不条理に奪われていくものだ。
 これが僕のたった十八年間という歳月で培った持論だ。
 もし誰かの身に、小説や漫画の中でしか見ないような出来事が起きたとしよう。大体においてそれは、開始五行足らずで閉幕すると言って良い。
 目の前にモンスターが現れたとする。そして君には異世界で伝説の勇者の血が流れていたとしよう。まさしく出血大サービスというやつだ。
 はい、ここで終わりだ。そう都合良く、殺される前に助け船が入る訳もなく、死ぬ。死んで終わりだ。
 その点、僕の物語にはまだ救いがある方だと思う。少なくとも、開始数行で死んでは居ない訳なのだから。

「いやぁ、いきなり襲われて驚きましたね。一応お聞きしますが、お怪我はありませんか?」

 フランが相も変わらずな胡散臭い爽やかな笑顔で問い掛けてきた。良く見たら中性的な顔立ちで睫毛も長く、やせ形。女性として紹介されたら信じるかもしれない。
 とりあえず適当に問題ない事を伝えると「それは良かった」と、まぁ予想通りの返答に予定通り返した様な。

「とりあえずな、何はともあれ如何なる理由があろうともな、急に仕掛けたデュランが悪いな。フランと銘斗君かな? 二人に謝れな」

 校舎の、多分三階。一つの教室に僕達六人は居た。
 机を適当に四つくっつけたものを、それぞれパートナーというか、始めに会った物同士隣り合う形で囲んでいる。
 僕の左手側にはフラン、右手側には……一言で言うと犬耳を生やした銀髪の男が座っている。正直なところ、流石に学生服というのは辛いものがある年齢に見える。

「し……しかしククリ……その……」

 なるほど、犬耳の男はククリさんというのか。
 ククリさんに謝るように言われた青髪、ボーイッシュな印象を持たせる精悍な顔付きの女は狼狽したように、歯切れの悪い言葉を並べる。デュラン、と呼ばれている。年齢は僕より少し上くらいだろう。

「ククリ……さんですか?
その、別に大丈夫ですよ、僕達はほら、この通り生きてますし……大怪我しかけたのは結果的にあちらですしね」

 多分プライドが高い人なのだろう。無理にデュランさんに謝ってもらう必要は無い旨をククリさんに伝える。

「おやおや、流石は銘斗さん。そうですね。『結果的』にはこちらは無傷ですし、懐の深い男が腹立てる事柄では無いでしょうとも」

「キッ、貴様フランベルジェ! 俺を愚弄したな!? いや確実に馬鹿にしたな! 表に出ーー」

「いい加減にな。無意味なやり取りはやめないかな」

 「ーーッ」と、喉のそこまで出かけていた言葉を無理矢理に飲み込み、デュランさんは一言「すまないククリ」と座る。「銘斗、だったか、お前にも申し訳ないことをしと」とも付け足された。根は悪い人じゃないんだろう。

 ククリさんが「やれやれ」と首を振り、とりあえずと前置きを入れる。とりあえず、何て使い勝手の良い言葉なんだろうか。

「自己紹介からだな。まずはそれをしないと話もままならないな」

「賛成です。第二部隊隊長ククリさん」

 ククリの言葉に、フランが相槌もそこそこに立ち上がった。

「フランベルジェ・インクブスと申します。魔王様より魔剣の名を授かり、フリーの傭兵をしております。好きな食べ物は特になく、嫌いな食べ物も特にありません。以後お見知り置きを」

 魔剣、魔王、傭兵? 短い自己紹介の中に現実感の無い言葉が三つ出てきた。だけどそれ以上に、その自己紹介、特に魔王様より~を聞いた時のデュランさんの顔が気になった。苛立たしそうな、だけど少し悲しそうというか、虚しそうというか、何とも複雑な表情だった。
 フランが一礼後、行儀良く安物の椅子に座った。とりあえず質問は後に、僕もフランに続いた。
 春田銘斗という名前、在学している高校の名前、三年生ということ。趣味は音楽鑑賞にサッカーと、当たり障りの無いことを言って、座る。フランが音楽鑑賞に少し興味を示した以外は特に周囲の反応はない。

「静寂朱音」

 椅子を引く音は聞こえなかった。僕が座るのと同時に立ち上がったのだろうか。
 長身でスレンダーな体つき。切れ長の瞳からはまるで冷気が発せられているんじゃないかというほど、冷たい印象を植え付けられる。髪形は少し特徴的で、ロングヘアーなのだが、右肩から左腰までまるで坂のように斜めに切り揃えられている。近寄りがたい、高嶺の花という言葉が似合う女の子だ。

「セイジャクと書いてシジマ。朱色の音でアカネ。高校三年生で、森で目覚めたらすぐにこいつと出会ったわ。趣味は特に無いし、好きな食べ物は教えないわ。宜しくお願いね」

 同い年か。どうでもいいんだろうけど好きな食べ物が超気になる。
 隣のフランが僕に「後で漢字というものを教えてください」と耳打ちをしてきた。そんなに自信は無いけど、まぁ良いだろう。

「俺はククリ・フェンリルな。フェンリル狼族の出で、魔王軍第二部隊隊長な。好きなものは美少女で、趣味は美少女鑑賞、最近気になる事は朱音ちゃんのおパンツの色な。あと、ククリさんとかじゃなくてククリで良いからな。」

 静寂がナチュラルにこいつ呼ばわりしてた理由が一瞬で分かったと共に、何だろう、常識人というレッテルが完全撤回された。
 犬耳を生やした長身の男というのも、今の発言の後ではただの痛い人にしか見えなくなった。それが割とピチピチのブレザーを着ているのである、犯罪の臭いしかしない。これはもうククリでいい。さんなんて無かった。
 第二部隊とやらは大丈夫なのだろうか。例えあんなに大きな狼になれるとしても、人格的に問題なのは疑いようがない。
 ククリの言葉に静寂は明らかな嫌悪感を顔に示している。

「さぁ、デュランダルさん。後は貴女達ですよ」

「分かってる。急かすな、裏切り者」

 フランはニコニコと笑って過ごした。裏切り者とはなんだろうか。気になるけど、あまり深入りし過ぎは駄目だろう。もし長い付き合いになるなら、そのうちに知ることだろう。
 そうこうしていると、デュランさんが立ち上がる。

「えー……俺はデュランダル・サクバスだ。第一部隊隊長補佐の任を拝命している。趣味は剣の鍛練だ」

 僕達の前で初めて外套を脱いだ彼女の体は、クールでボーイッシュな印象を持たせる面持ちとは裏腹だ。裏腹、いやむしろ裏切りと言って良い。もう何でも良い、こたつを囲みながらぼんやりとおミカンを食べたい。そのくらい、ぼんっきゅっきゅっである。
 窓際に立て掛けられた大剣よりも凶器なのではないだろうか。勿論彼女も制服を着ている。だけど何故か男性モノだ。しかし男性モノだからこそ際立つものがある。この感動を何と言おう。そう、まるで背徳感だ。見ているだけで罪を犯しているような感覚だ。

「フランベルジェ以外は呼びやすい様にデュランと読んでくれて構わない」

「分かりました、デュラン」

 ニコニコといきなり注釈を無視したフランに、デュランは戦いの時に見せたような形相で「ぶち殺すぞナマクラ」と呟いた。
 恐らくだが、僕が抱いた感想を伝えても同じ反応をされるのだろう。

「次は……赤髪の彼女だな。彼女も静寂と同じぐらい美少女だな。ちょっと匂い嗅いでいいかな」

「ククリ、戯れは止せ。それと、彼女はどうやら話す事が難しいようだ」

 変態から庇うようにデュランが手で制して言った。
 長い赤髪をツインテールにしている、変態の言う通りの美少女だが……。何だろう、ここに来てから今まで、誰が何を言おうと眉一つ動かしていない。眉目秀麗、鼻は高く、肌は白い。西洋人形の様だと思わされる。静寂が突き放される近付き難さとするならば、彼女は来ても去っても無関心。何にも興味が無いようにさえ思う。

「この子は神楽坂・リョウ・ピターと私に名乗った。魔神化に対しても反対されずに、なされるがままと言った印象だ」

「ふむ。良くそれで感情のリンクを保てましたね。私の場合は銘斗さんの恐怖心に漬け込んだ形でしたし」

「分からん。魔神化の主導権もすべてが俺だった」

「まぁ、本当に自我が無いなら可能だろうがな。そんな人間居ないわな」

「ククリ、あなたもその魔神化というものは出来るのかしら?」

「俺が出来るのは魔獣化だけだからな。無理だな」

 僕を置いて会話が進んでいく。どうにか理解しようとしているが、いまいち難しい。
 多分、そんな態度が出ていたのだろう。僕が首を捻っているとフランが「私がご説明しますよ」と言ってくれた。ありがたくお願いする。

「魔神化というものは、一言で言うと合体です。私達魔族と、貴方達人間との一体化です。魔神化すると意識の共有、五感機能の増加、魔力の増加が見込めます」

「魔獣化というものはな、言葉の通り俺ら魔族が獣の形を取ることだな。その魔族の保有魔力量と血統によって、魔獣化後の容姿が変わる」

 なるほど、だからあの時、いきなり魔神化した時、僕は冷静だったのか。起きた事が全部理解出来ていたから。

「どうでしょう? 私達魔族と、貴方達人間は別の世界から来たみたいですし、情報交換とでもいきませんか?」



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