男「チョコあざっす」(84)

バレンタインもうすぐなんで

男「なあなあ」

女「んー?」

男「新しい黄色チップ取って」

女「今・・・ちょっと待って」

男「ほい」

返事をした後、僕は実験台の上に敷いたアルミホイルに、電卓で計算した数値を書き込んでいく。
正面に座っている彼女を横目に、古くなった電卓の硬いボタンをカタカタとならす。


男「正面なのに横目って変だよね」

女「・・・」

男「そう思わん?」

女「静かにして」男「うっす」

女「はいこれ」

目的の品を彼女に手渡される。

男「あざっす」

女「さっきなんか言ってた?」

男「いや、凄い下らない話」

女「そっか、いやーごめんごめん」

男「ノープロノープロ」

彼女に返しながら、ゴム手袋とマスクを装着する。
なんとなく毎回ゴム手袋にアルコールを噴霧するが、そこまで律儀にする必要はないなあと自分でも感じてしまう。
というか先生に見られたら無駄遣いと言われそうだ。

女「そういえば」

男「ん」

女「チョコ、ロッカーに入れといたから」

男「おおー」

マスクしてて良かったなと思いつつ、気さくさを意識して礼を

返す。

男「あざーす」

女「どういたしまして」

実験書に書き込みながら彼女は答える。

男「もう2月か」

女「春休み最高ですわ」

男「今年の10分の1がもう終わってしまった!」

女「毎年それ言ってない?」

確かに。と思いつつ、試薬を入れたエッペンを氷に突き刺していく。
正直実験は大嫌いだが、こういう時間は悪くない。

午前中から誰かと他愛ない話をしながら、なんとなーく居心地の良さを感じられる。
こういう時が一番生きてるって実感出来る。

昼起きて家に篭ってネトゲ三昧、夜にスーパーの半額弁当買い漁るような退廃的な生き方もいいが、
たまにはこういうスパイスも必要だ。

女「彼氏がさー」

男「うん」

女「最近怪しいんだよね」

男「ほう」

奥歯を噛みしめながら、手元の作業に集中しようと試みる。
居心地の良さとは何なのか。

女「というか自分からゲロしようとしてるというか・・・」

男「ゲロとか言わない」

女「はい」

女「でさ」

続けようとする彼女の言葉を、ちょっと待ってと遮る。
実際集中した方がいい作業なのは確かだが、正直あまり聞きたくない。
なんで大学生ってそこだけバカなんだ。周りからしたら自分が一番バカっぽいのだろうけど。
等と考えながら、実験を進めていく。


女「男って、すぐ騙されそう」

ふぃーというオノマトペを纏いながら、一仕事終わったぜアピ

ールをする僕に彼女は言う。

男「いや、それはない」

が、言いたい事は分かる。

男「まあでも金銭面については少なくとも」

女「そこはそうだけどさ」

彼女の含みを持たせた言葉に、先ほどの話を蒸し返すか思案する。

ネットでは女は愚痴を聞いてほしいのだとクソみたいな論評があるが、男だってそんなの当てはまる。
ガス抜きは誰でもしたいが、ガスを詰められる方は辛い。

兎にも角にも、恋愛話は苦手なのだ。

男「それで、彼氏は?」

実験書を見つめながら、結論を発表した。

女「まあ単刀直入に浮気かと」

男「めんどくせえええ」

予想通りの言葉に、んがああああと叫びながら、(多分)僕の反応に笑っている彼女に答える。
笑ってるんじゃねえ。

男「もーホントバカなんじゃないの?」

モーモー言いながら言葉を続ける。

男「勿体ないとか思わないんかね、あの人」

女「勿体ない?」

男「うーん、そう。勿体ない」

男「リスクマネジメントっていうかさ、信頼を損なうっていうかさ」

女「はあ」

いつものようにニヤケ面の彼女と目を合わせながら、
いつものように世界的真理を説こうと試みる。

男「今日の夜、暇?」

全く響かない演説の後、「ふぅ」と一息ついた所で聞いてみる。
夜のお誘いというものだ。

女「今日はバイトだなあ」

男「んー、今週空いてる日は?」

その言葉に彼女は手帳を開く。

大学生は手帳を持つ人が多いが、そんなに皆忙しいのだろうかといつも思う。
邪な僕は忙しいアピールかと泡沫の思いも束の間、自分の虚しさに苛まれる。

手帳という存在が憎い。

女「木曜なら」

男「木曜ね。よし、飲むか!」

地ビールの話で一しきり盛り上がった後、彼女は帰って行った。

僕はというと、一人研究室に残されレポートの打ち込みに精を出している。
チョコ片手に。

男「これ美味いな」

勝手な偏見だが、男は逆に甘い物好きが多い気がする。

置いてあれば食べたいという話で、並んでまで食べたいかというと微妙だが。
ただし、ラーメン屋ならちょっと並ぶなら食べたいと思う。
そんな人が大多数と信じている。

イヤホンから流れるポップなミュージックに合わせて、キーボードの表面をカチャカチャとなぞる。
たまに思いつく文章を打ち込んでは消して、打ち込んでは消して推敲を重ねる。

チョコを食べて、ティッシュで手を拭いて、コーヒーを啜って、キーボードを叩く。

カチャカチャ

カチャカチャ

トントン

カチャ・・・

ふと混じったノイズにイヤホンを外して振り返る。

先輩「おっす」

男「あ、っと、すいません。ちわっす」

一つ上の先輩が居た。
慌ててイヤホンを放り投げ、身体を先輩の方向に向ける。


先輩「チョコいいね、一個頂戴」

男「あー、えーっと、あー・・・」

最後の一個と彼女の顔を脳裏に浮かべながら悩む。

男「あー・・・駄目です」

先輩「誰から貰ったの?」

男「女さんからです」

そう答えると先輩が「このこのお」とか言いながらニヤケ面で

割と強く脇をつついてきて、「うふっ」とか「おぅふ」とか言ってしまった。

男「いやまあ、義理ですし…」

先輩「これ美味しいよね」

男「ちょっ」

ひょいっと指先で摘ままれたチョコは、先輩の口の中に吸い込まれようとしていた。
「ちょ、ちょっと先輩」とか言いながら流石にありえんとか思っていると、

先輩「あーん」

男「は?」

先輩「早く」

男「あ、あーん」

「少しタバコ臭いね」と言いながら口に放り込まれる。

先輩「美味しい?」

男「・・・美味しいです」

「良かったあ」とかぶりっ子っぽく言っている先輩を尻目にコーヒーを啜る。
流石に照れ臭い。

先輩「じゃ、10倍返しで」

男「うす」

ミントの粒ガムをポケットから取り出し、食べながら答える。
コーヒーで流しきれなかったチョコと反応し、微妙な感じにアレになっている気がする。
別に口臭が気になった訳ではない。

男「そんなに臭います?」

「どれどれ」とか言いながら顔を近づけようとする先輩から後ずさり、慌てて「ストップストップ」と言いつつ話は続く。

先輩「まあ、たまに服がくさいね」

クンクンと袖を嗅ぎながら「マジっすか」と答える僕。

先輩「ということで、こんなものを用意しました」

鞄から取り出したる禁煙パッチを受け取りながら「マジっすか」と苦笑いで答える。


先輩「あとこれオマケ」

男「お?」

先輩「20倍返しでよろしく」

思いがけないプレゼントに「マジっすか」と答える。
ボキャ貧な自分が憎い。

男「あ、ありがとうございます」

先輩「いえいえ、どういたまして」

先輩「じゃー、そろそろ帰りますか」

男「うす、本当にありがとうございます」

「ははは」と笑う先輩をお辞儀して見送る。何か妙に畏まってしまうのが経験値の差というものだろうか。

男「あ、そういえば木曜の夜暇ですか?」

数少ない非手帳派の先輩に飲み会どうですかと尋ねると、一しきり考えた後「多分おっけー」との事である。

男「じゃあ後で詳細送りますね」

女「はーい、じゃあねー」

「あ、ちなみに」ドアノブを握りながら先輩が言う。


「私は本命なのでよろしく」

ガチャンという音と共に扉が閉じる。
妙に顔が熱い。

男「は、はあ、そうなんすか」

等とドアに話しかけ、心の平静を保とうとする。

コツコツと爪で机をたたきながら「そ、そういうキャラじゃなくね」と呟き、コーヒーを啜る。

何やら嬉しいやら恥ずかしいやら。

問題発生だ。

顔の火照りが一気に熱を失う感覚に囚われる。
いや、別に不味くないのだが、何かこう不味い気がする。

論理的に考えれば特に問題はないのだ。机上の空論とも言うが。

何人か呼んでパーッと憂さを晴らす感じのを想定して飲もうと言ったのだが、
果たして先輩に言われた後だと、何か紛れが生じてしまわないかという。

そもそも、先輩のあの発言は本気なのかという問題もある。
とても失礼な女性苦手症の僕はまずそう考え、件のチョコと思しき包みを手に取る。

丁寧にラッピングを剥がし、折りたたむ。白い厚紙の箱の蓋を開いた。

書き溜め切れたので、また後ほど

おもろい

箱に納められた、見た目ファンシーな紙をおそるおそる取り出し、机の上に静置する。
中に残されたるは、これまたファンシーなビニールにおリボンで包装された何粒かの四角いチョコだった。

腕組みして考える。もちろんニヤケ面だ。
「これ手作りじゃね?」とか、「こんなの中学校以来なんだけど~」とか、先程の失礼な態度はどこ吹く風で舞い上がってしまう。

コートの袖で気持ち悪くなってるであろう顔を覆いながら、---確実に気持ち悪く見えるであろう---クネクネと体が踊ってしまう。

「さて」一しきり悶えた後、独り言を呟き、ファンシー紙にいざとりかかろうと、

ガチャッ

「おつかれーっす」

友「おー、男おつかれ」

突然、190cmにも届かんばかりの大男が部屋に入ってきて、大学生特有の「おつかれー」とか「おつかれっすー」という定型フレーズを言った。

友「実験?」

男「お、ああ、お疲れ、そうそう」

さり気なく手元の箱に紙を納めてから蓋をし、机の脇にさり気なく移動しながら「いやー、マジ実験だるいわー」と続ける。

友は「さみいさみい」と言いながら、戸棚からカップを取りだしパックの紅茶を淹れ、僕の正面に座った。

友「あったまるわー」

男「外そんな寒い?」

友「こっち着いたら風強くなってきてさ、JDのパンチラ見放題」

一昔前まではJKとかJDとかネット用語で絶対口に出来なかったよなあとか懐古に浸りながら、自分もコーヒーを淹れなおそうと席を立つ。

友「でー、これ何?」

ギクシャクとしないように意識し友の方を見やると、件の箱を指さしながらニヤっとしている。
「僕のさり気なさを返せ」「コイツ絶対分かって言ってるだろ」という言葉が脳裏に浮かぶ。

男「コイツ絶対分かって言ってんだろ」

脳裏どころか延髄から飛び出して口に出ていたようだ。


男「かくかくしかじか」

友「なるほど」

うんうんと満足顔で紅茶を啜る彼は続けて言う。

友「つまり、お前が珍しく距離感を置かずに話せる女性である先輩から先ほどチョコを貰って、今まさに開封せんとしていたと」

男「…なんで知ってんの?」

「かくかくしかじかでね」と前置きした彼は、先日先輩から「男や友は甘いもの平気か」「春休み学校に来るか」等々直接的ではない表現で聞いてきたという話を始める。

友「先輩のあのバレないように探ってる感じは、中々いじらしくて良かったよ」

友「というかお前も居た気がするけど」

男「え、記憶にない」

友「なんか男は甘いもの好きな人多いとか力説してたよ」

男「え、あの日の?」

「お前そんなんだから童貞なんだよ」「バレバレだから」と謂れもない中傷を受け、酷く心を傷つけられた後「じ、自分男子校だったんで」と応急処置を施すも、

友の「俺も男子校だし」発言に介錯されてしまった。


男「今までそんなの言わなかったじゃん…」

先程とは違う意味で顔が熱い。

友「だってお前いつも話逸らすか加わらないか聞き手に徹するだけだったから、いい機会だなと」

>>22
あざっす

今日はここまで
なんかちょっとくどい気がするので、くどくなりすぎない様に頑張ります

ほんまくっどい

期待

くそったれ……

男「その事なんだけど」

長々としたお説教という名の罵倒の後、返事はどうするのかという友の質問に返す。

好きと言われたら誰だって嬉しいし、好意には好意で返すべきだろう。
しかし、こと恋愛に限ってはそのままそれを実行するのは難しいものがある。
特に別に好意を寄せる相手が居る場合には。

男「断ると思う」

友「え、マジで」

男「いや、正直分かんない、こんな短時間で結論出せないよ」

「ふーむ」と友が唸りをあげる。

友「ま、悩めよモテ男くん」

そういえばこれがモテ期という奴なのかもしれない。
「ありがとう」と苦笑しながら返事をした。

「ところで」と前置きし、飲み会についての事を友に説明すると、「自意識過剰だ」と怒られた。
そんなものなのだろうか。

友「特別何かする訳でもないし、酒入れば特に気にならないんじゃね」

友「まあ俺も何人か声かけとくわ、何時くらいから?」

「特にまだ決めていない」と言うと、「8時でよろー」と友は答え、さっさと実験室に向かってしまった。

またまた一人残された僕は、レポートもそこそこに切り上げ、帰宅する事にした。

まとまらんので今日はここまで

見切り発車かよ

まあバレンタインまでには仕上げるんで!

「好きです」

ソファに寝っ転がりながら読んでいる紙には、要約するとそのような事が書かれていた。
家であるのをいいことに、研究室の数倍奇怪な動きで嬉しさを表現しつつ、「くぅー」やらよく分からない言葉を口走ってしまう。
漫画などではよく見かける古風な思いの伝え方だが、その威力は絶大だと身をもって知った。

丁寧に二つ折りにしてから箱に戻し、手作りであろうビターチョコに舌鼓を打ち、僕は思案する。

「さてどうするか」自然と口から零れる言葉のように、やはり僕は決めかねていた。
何を隠そう僕は女さんの事が好きなのだ。
一年の時に出会ってから、ある種の一目ぼれをし、同じ学術会や研究室で過ごし、今に至る。
こう考えるとストーカーかよという感じだが、別に追っかけて決めた訳でもない。

単純に、勉学という方面においては好みというか志向が一致しているのである。
そういうのもあって、彼女との会話は自分にとってすこぶる居心地がいいのだ。

彼女は1年の時から付き合っている彼氏と今も続いており、時折今日のように愚痴や相談を受ける。
最近はもう慣れてきたが、一時期は友にヤケ酒を付き合って貰ったりもした。
友は最初の頃、冗談交じりに略奪愛的な考えを語ってきたが、そういうのは気に食わない。
された方の身になってみろという話だ。彼氏の身にも、彼女の身にも。

それはともかくとして、現在の友達というポジションで結構満足しているという体たらくだ。
彼女を別れさせるというのは違う気がするし、自然に別れたからといってアプローチをかけるか?と聞かれると正直微妙である。

臆病者というのもあるが、何か違う気がするのだ。

男「ん…」

よく分からない自問自答をしていると、電話が鳴る。
LINEの電話は僕の携帯だと電波が悪くて正直嫌いだ。

男『もしもし』

女『お、出た出た。げんき~?』

男『ど、どうした』

女『今学校の近くで飲んでるんだけど来ない?っていうか来よう!』

苦笑いで返答しながらコートから財布を取り出し、中を確認する。
財布の中にいくら入っているかいつも覚えてる人は凄いと思う。

諭吉が入っている事を確認し、

男『ちなみに誰が居るの?』

女『女友と飲んでるよ~』

男『おっけー、今から行くわ、後女友さんに代わっておくれ』

「え~、なんで~」とか言う声が遠ざかり、ハスキーボイスの女性が出る。

女友『えっと、男さんですか?』

男『お、こんばんは、どもです』

「大分酔っぱらってるみたいで」と笑いながら言う。

女友『結構前から飲んでて、色々あったみたいでちょっと』

男『なるほど、自分も今から行きますんで、ウコンとか買っていきましょうか』

等と女を肴に少々の笑い話をした後、女友さんの言うお店に向かうことにした。

「おーっす!」

店員に案内され、個室に入るとグラス片手に超元気なお方が一名と、
申し訳なさそうに苦笑いしてる女友が居た。

女友に挨拶し、「お前飲みすぎじゃね」と笑いながら言い席に着く。

女「はいこれ!」

勢いよくショットグラスとカットレモンの入った皿が目の前に差し出される。
「こいつヤバくね?」「マジヤバいっす」
視線で女友と会話をしつつ、女に話しかけると

男「まあ落ち着きたまえよ」

女「ん」

彼女はどこ吹く風か、ズイッとグラスを押し付けてきた。


「テキーラって聞くと、灰皿テキーラ思い出すわ」という話は女性陣には理解されず少し悲しくなったが、もう大分昔の事だし仕方ない。

女「ちょっとお花摘んできますわ」

「オホホ」と言いながらフラフラとした足取りでトイレに向かう女を女友が介助しようとするも、どうやら断られてしまったようだ。

男「さて」

女友「はい」

男「えーっと、何か…ごめん?」

「何ですかそれ」ふふっと笑いながら女友が答える。

男「結局何があったの?」

女友「えーっと、まあ彼氏さんと…」

「あー…なるほど」と相槌を打ちながら、昼のアレかあと思いつく。それにしても今回は相当のようだ。
長い大学生活、彼女のゲロも介助した事もあるが、このテンションは稀に見るものだ。

女友「別れたみたいで」

男「…ん?」

三点リーダー増えてきてますね
ちょっと書き溜めしてきます

死にたくなってきた

くっそ、何だこれは……

舞ってる

おい……

まだ間に合うぞ

バレンタインまでに終わらせる(笑)

続き

男「マジっすか」

女友「マジっぽいです…」

男「あー…えーっと…うーん」

唐突な話に考えがまとまらない。やはり昼に浮気がなんだとか言っていたが、それが原因なんだろうか。
それにしたって今日はバレンタインだし、というかあんな尽くしてくれる人に何してんの。

男「原因とかって」

女友「それなんですけど、一方的にーーー」

女「戻りました!」




「なるほどね」

どうも最近返しに困った時の口癖になっているらしい。

女「ほんでさ、ほんでさ」

「あー、なるほどね」

正直あんまりヘビーな憎愛劇は男にはキツすぎると思う。昼ドラとかヤバいよ。

飲み会はお開きになった訳なのだが、結局研究室で彼女の話に付き合う事になった。

女「お前より相手の事好きになったみたいに言われてさ」

この話の展開は不味いなあと思いつつ「えーマジで?酷くない?」なんて言葉を返す。
友人に泣かれるとつられて泣いてしまうものだ。

女「それでさあ・・・」


つられ泣きしながら、若干の下心を持ちつつ頭ポンポンとやらを試みる。

男「まー、そのなんだ、かける言葉が分からないんだが…お疲れっす」

机に突っ伏しながらグズグズしている女に、鼻水をすすりながらよく分からない慰めをかける。

何回か手を払われ、続けるのもどうかと思い、紅茶のおかわりとティッシュを取りに行く事にした。


ティーバッグって実際に発音すると、ティーバックみたいでバカにされるからティーパックって言っちゃうよな。何て考えながら紅茶を入れる。

時計で12時を回っていることを確認し、部屋に戻る。


男「ほれ、紅茶」

女「・・・ティッシュ頂戴」

男「はい、これ」

ずびずびと鼻をかむ音をBGMに紅茶を飲む。

女「ありがと」

一しきり落ち着きどうするかと悩んでいると、ガサガサという音と共に「あったあった」という声が聞こえる。
振り返ってみると、赤黒い液体の入った瓶を抱えた彼女が居た。

ドンという音を立て、ワインを机に置く彼女の顔は何故か満足気だ。

男「いやいやいや」

という僕の反応にあからさまに不満気な顔へと移り変わる。

女「何、私と酒は飲みたくないの」

「うわあめんどくせえコイツ」と口に出しながら頭をかきむしる。
そんな様を見ながら彼女は笑い、机にうっ伏した。



女「男ってさ」

顔を上げて、こう続けた。

女「私の事好き?」

これが素の条件ならばもっとドキドキするんだろうなと。

相談モードに入っていた自分は、その質問に無償に胸が切なくなった。

終わったなーと何となく感じてしまったのだ。



「ヤケになるの早すぎ」上を向いて呟く。
目頭がなんか熱い。なんだこのいきなりのシリアスモードは。

男「好きだよ。友達だし」

そう言いながら彼女を見る。

女「…そっか、ありがと」

何か言いかけた気がしたが、彼女は笑顔でそう返してきた。

男「んよっし、じゃ片づけすっかー」

伸びをしながら努めて元気にそう言う。

女「はーい」


洗い物を彼女に渡し、アルコールスプレーと雑巾で机を綺麗にしながら問いかける。

男「世の中的にはこれって据え膳食わねばだったの?」

女「それ聞いちゃう?」

ハッと鼻で笑いながら彼女が答える。


女「まー勿体ないっていうか、身持ちが硬いというか、純真というか、インポというか…」

男「メタクソですね」

女「世の中は汚いぞ、ワトソン君」

男「友にもよく言われるわ」

僕も鼻で笑ってしまうのだった。

男「まあ今度の飲みは延期ということで」

女「え?あーアレねー…まあ延期だね!」

小走りでそんな会話をしながら駅に着く。

男「んじゃまあ、気を付けて」

女「はいはーい」

少しの間が空き、何とも言えない空気が流れる。

男「ヤケは勿体ないな、うん、勿体ないのは良くない」

そんな言葉が取りあえずと言わんばかりに口から出た。

女「あー、はいはい分かった分かった」

ヤレヤレというジェスチャーで彼女が答える。

女「今日はありがと、ごめんね」

男「うーっす、っかれーっす」

ライブの後の寂しさって、大作エロゲクリアした後の寂しさに似てるなあとか考えながらプカプカと紫煙をくゆらす。

「はあ…」

「なんというか、寂しいなあ」

誰も居ない学校の喫煙所でスマホをいじりながら独り言ちる。

「あぢいっ」

いつの間にかフィルターを侵食していた火種に驚いてタバコを放り投げる。

何やら悲しくて涙が出てきてしまいそうだ。

「一人ってつらい…」

口に出して更に辛くなった。


駐輪場でかじかむ手で鍵相手に必死に悪戦苦闘していると

「こらっ」

と声をかけられる。

驚いて顔を上げた。


「また吸ってたでしょ」

と人差し指と中指でタバコを吸うポーズを取りながら先輩は続ける。

男「あ、え?ああ先輩…お疲れ様っす」

男「見てたんすか?」

先輩「指大丈夫?」

結構前から見てたっぽい。

先輩「こんな時間まで実験?お疲れっす!」

先輩は若干酔っているのかいつもよりテンションが高い気がする。敬礼とかしてるし。

男「ああ、いやちょっと同期と飲んでました」

先輩「おー、私も私も―」

とか言いながら先輩は腕に抱き付いてきた。これ完全に酔ってる奴だ。

ちょっと書き溜め

戻ってくるとはな

男「大学生って酒好きですね」

ついそんな言葉が口に出る。

先輩「皆騒ぎたいからね」

家への帰り道そんな話をしながら歩を進める。

先輩「よしじゃあ」

勿体ぶりながら先輩が続ける。

先輩「3次会を我が家でやろうじゃないか!」

男「嫌です」

僕の即答に対して「んん~?」とか言いながら顔を伺いこんでくる。

男「先輩大分酔ってますし・・・」

先輩「酔ってないよ?」

定番のセリフを吐く呑兵衛がそこに居た。お前はそんな茶目っ気たっぷりのキャラでは無かったはずだ。

男「取りあえず家送りますんで」

男「えっ、近い」

ガイドに従い進むと僕のアパートの近くのデカいマンションだった。

先輩「男君の家から徒歩1分!」

男「あれ?呼んだ事ありましたっけ」

先輩「研究室の名簿ですぐ近くだーって思ってねー」

なるほど。名簿を打ちこみをした当の本人はすっかり忘れていた。

エレベーターの中で目を合わせる状況というのは中々どうしてイケない感じがする。

僕は必死に壁や天井の染みに目を泳がせるのだった。

ポーンという音と共に6階に到着する。

男「何号室ですか」

先輩「一番奥」

角部屋角部屋とよく言うが、実際一人暮らしをしてからその良さが身に染みるものなのだ。

部屋の前に着き「じゃ、お疲れ様です」の「じゃ、」と口に手を挙げようとした瞬間、腕を掴まれる。

あまりの素早さにギョッとしてしまう。

どうも行動を予想されていたらしい。

「まあまあ」「いやいや」という押し問答が続くが、エレベーターから同じ階の住人が下りてくるのを見て、観念し中に入った。

世の大学生的には女性が男性をホイホイ部屋に入れるのが普通なのか、普通じゃないのかよく分からなくなる。

大学が狭く、穴兄弟が毎年生産される我が大学に居るとなおさらだ。

1DKのDでクッションに正座しつつ、手を添えたマグカップ注がれる缶ビールを眺める。
20歳の当時はこの注ぐヤツは嫌いだったが、慣れると最初だけならまあ悪くないんじゃないかなと思う。

先輩のカップにも注ぎいれ、乾杯をする事にした。

先輩「やっぱり女さんの事好きなの?」

ド直球で先輩が聞いてきた。

今日は何の飲み会だったのかというお話になり、素直に答えたのがキッカケだ。
僕も大分酔っているのだろう、色々考えるのが面倒になっている。

青春気分に浸りたい僕の中では終わった恋だ、と先程の出来事について話すと

「君って逃げ腰だよね」

先輩はそう答える。
真面目な顔で言われると中々心に響くものがある。

男「今日はグイグイ来ますね」

先輩「イライラする?」

男「・・・まあ多少は」

多少どころではなかった。若干強張っている指先で鼻ピンをぶちかましてやりたい。

先輩「多分このままだと断られると思って」

男「・・・」

実際その通りだろう。なんだかんだ言い訳をつけて逃げ出してしまうかもしれない。

先輩「踏み込まなきゃいけないと思ったんです」

そう言いながら先輩は僕の横に立った。


先輩「こっち向いて」

頭の上にはてなマークが浮くが、取りあえず向き直り、先輩を見上げる形となる

と、両頬をサンドイッチされて固定される。

男「な、なんスか」

先輩「目、合わせて」

男「勘弁して下さい」

若干涙声になりながら答える。

先輩「まずはその癖から矯正します」

「い、いや、その」
目を合わせて話すのはかなり苦手だ。意識しないと見れないし、誰が相手でも無性に恥ずかしくなってしまう。

先輩「見ないと顔近づけますよ」

男「な、なんでさっきから敬語なんですか」

先輩「私も恥ずかしいからだよ、はい、見て」

観念して目を合わせる。顔が一気に熱くなっていくのを感じる。

先輩「耳、真っ赤」

その言葉に先輩の手を払って顔を覆い隠す。

男「いやー、ホントもう、勘弁して下さい」

途切れ途切れにそんな言葉を呟く。

先輩「まあ、つまりこういう事です」

しばらくの間を置き、缶ビールを頬に当てながら正面に座りなおした先輩を見る。

先輩「この距離ならもう目合わせられるでしょ?」

男「はあ、まあ、それは」

先程の恥ずかしさに比べれば、もう怖いものはそうそうない。

男「先輩も耳赤いっスね」

先輩「・・・当たり前だ、バカ」

天井を見上げ深呼吸をするとなんだか笑えてきた。

男「なんていうか、その、ありがとうございます」

今日はここまで
多分次の書き溜めで終わりのはず。

先輩「強引に行けと言われまして」

やけに慇懃な様相で先輩が言う。今日の飲み会という名の女子会で相談していたらしい。

先輩「やっちゃえばとかいう意見もあったけど、まあその、流石に」

男「なるほど」

先輩「やっぱり一緒に寝る?」

ベッドに座りながら先輩が言う。

男「・・・今日は、やめておきます」

据え膳食わぬはとはよく言うが、急がば回れともよく言うものだ。
先輩のニヤケ面を変えてやろうかとも思ったが、そこまで流される訳にもいくまい。

男「後日ということで」

あえて付け加えて、クッションに頭を沈める。
少しの無音の後、電気が消され先輩が豪快に布団を被る音が聞こえた気がした。

「寝相悪いッスね」
素直な感想を独り言ちながら、先輩に布団をかけなおす。
流石良いマンションなだけあって、うちの安アパートと朝の体感気温が5度は違う。

洗面所で顔を洗い、トイレットペーパーで顔を拭いてトイレに流す。

女性に朝ごはんを作るというささやかな夢を叶えるため、冷蔵庫を開ける許可を貰いに先輩を起こしに行く。

男「先輩、朝ですよ」

先輩「・・・んー・・・」

男「起きないと襲いますよ」

先輩「・・・どうぞ・・・」

精一杯のギャグをダルそうにあしらわれてしまった。
大分飲んでいたししょうがない。

男「朝、作っていきますけど、冷蔵庫開けてもいいですか」

先輩「・・・んー・・・いーよ」

許可も降りたので、メニューでも決めるとしよう。

冷蔵庫の中を見て少し笑ってしまった。
心の底から嬉しいっていうのはこういう事だろう。

先輩「あー!ちょっと待って!」

ドタドタという足音と共に先輩の叫び声が近づいてくる。

僕は先輩の目を見て言った。

男「チョコ、あざっす」

終わり!

女ルートはセックス描写書けないし、
話自体もドロドロのズブズブだわ、バレンタイン全く関係無くなるわでカットです

途中逃走していましたが、読んでくれた方ありがとうございました!

えっ


おつ

突っ込み所等ありましたら、参考にしたいのでお願いします_(._.)_

先輩かわいい

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