高坂海美「まっすぐなココロで」 (23)
クリスマスが間近に迫ったある日、海美は家までの道を全速力で駆けていました。
「たっだいまー! ねぇ、今からパソコン使ってもいい?」
海美はバタンと大きな音を立てて部屋に入ると、すぐさまリビングにあるパソコンの前へと進みました。
「いいけど、もう少し落ち着きなさい。あんなにバタバタと入ってきて女子力アップをしたいなんて聞いて呆れるわ」
「あはは……。ごめんね、お母さん。嬉しいことがあったから、つい……」
海美は苦笑いを浮かべると、手に持っていた荷物を降ろしに部屋へ行きました。
去年の続きのイメージです
北沢志保「ありのままで」
北沢志保「ありのままで」 - SSまとめ速報
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「お菓子、置いておくからね。今日は、そんなに良いことがあったの?」
「ありがとう! それがね、『病院でのクリスマス会に参加してみないか』ってプロデューサーが言ってくれたんだ! 去年は子どもたちとツリーの飾り付けとかしたんだって!」
海美は、座っている回転式のイスから立ち上がると言いました。
「そう、良かったじゃない。そういうの興味あったんでしょう?」
「うん……!」
海美はそう言うと、少し前のことを思い出していました。
「私、昔からよく『海美を見てると元気が出てくる』と言ってもらえるんです。だから、元気がない人とか、病人の人とかが私を見た瞬間に元気になれるような、そんなアイドルになります。いえ、絶対なってみせます!!」
プロデューサーとの初対面となった面談で抱負を聞かれた海美は、このように答えました。
「でも、私こういうの行ったことないから、大体どんなことしてるのか調べてみたくって」
海美はパソコンに向き直ると続きを始めました。
ネット上には、スポーツ選手やボランティア団体などたくさんの慰問のレポートがありました。
「あ、この人サンタの衣装着てる!」
海美の目に一枚の写真が留まりました。
「これだ! 早速プロデューサーに連絡だ~っ!!」
すぐさま当日衣装を使えるかどうかの確認を取り、了承を得ました。
海美のわくわくは高まるばかりでした。
海美は翌日、同じ時間帯にダンスレッスンを受けていた志保と話してみることにしました。
志保は、去年クリスマス会に参加したメンバーのうちの一人でした。
「し~ほりん、お疲れさま」
「あ、お疲れさまです」
「この後って時間ある? クリスマス会のこと教えてほしいんだ」
「あ、今年は海美さんも一緒なんですよね。大丈夫です。今日はこれで終わりなので」
「本当!? よかった~」
二人は片付けもテキパキと済ませると、お茶を用意してソファに腰を下ろしました。
「疲れた時は甘いものを食べれば大丈夫♪」
海美はそう言うと、志保にチョコを渡しました。
志保はお礼を言うとサッと口の中に入れました。
「こうやって二人でチョコ食べてるとバレンタインの時を思い出すね」
「ふふっ、そうですね。あの時はどっちを向いてもチョコばかりで……」
「あはは! でも、みんなの笑顔もたくさん見れて楽しかったよね」
「……はい」
ふんわりと笑顔になった志保を見て、海美も笑顔になります。
「クリスマスも、みんなを笑顔にしたいな……!」
海美はそっと呟くように言いました。
志保はバッグから一冊のノートを取り出し、去年の様子を記したページを開くと海美に見せました。
「去年は、こんな感じでした」
「これが噂のツリーか~!」
「それから、私は絵本の朗読を……」
「しほりんも聞いてるみんなも楽しそう! 今年も絵本用意してるの?」
「え、あ、はい。今年はこれを読もうと思ってます」
「これ私も読んだことあるよ! 確か、クリスマスケーキに乗せる苺を探しに森に行くんだよね」
「そうなんです♪ 苺を探す女の子も森にいるウサギもかわいくって……あっ!……あの、今のは……」
海美は笑い声が出そうになるのを抑えながら、うつむいてしまった志保を見ていました。
志保が落ち着くのを待つ間、海美は聞き忘れたことがないか整理していました。
「そうですね……。あっ!」
「え、なになに?」
「あ、これは大丈夫です」
「どういうこと!?」
「ふふっ、そういうことです」
「しほりん! 私の方がお姉さんなんだよ! もーっ!」
志保は、去年風花に言われた笑顔の話を思い出していました。
しかし、海美には必要のない話でした。
さあ、その日がいよいよやって来ました。
風花、志保、海美は揃って小児科病棟のプレイルームへと行くことになっていました。
三人ともサンタ服を着て、プレゼントの入った袋を抱えて子どもたちと対面しました。
プレイルームには、子どもたち以外にも親や看護師が集い、お祭りのようになっていました。
まず、三人は子どもたちと記念撮影をしました。
「ほーら、みんな並んでー。君は~、よし! 私の隣においでよ!」
海美は笑顔で子どもたちに呼びかけています。
風花と志保も子どもたちの間に入って思い出の一枚ができました。
続いて、志保による読み聞かせの時間です。
子どもたちは、志保を囲むように座りました。
海美と風花は、それぞれ膝に子どもを座らせて聞き入りました。
「よーし! プレゼントだよ! ほしい子はうみみのところに集合だーっ☆」
海美は日ごろよりもボリュームを落としながらも、明るく言いました。
子どもたちへのプレゼントは、ひざかけです。
これで、冷え込む朝晩もいくらかはしのぎやすくなることでしょう。
最後に、プレイルームにいるみんなでクリスマスソングを歌いました。
クリスマス会は、四十分ほどで終わりました。
三人は、会が終わると病室から出られない子どもたちの病室を訪ね、プレゼントを渡して回りました。
「あの子、楽しんでくれてたかな?」
「あの俯いていた子ですか?」
「そう、あの子。結局、最後までちゃんと顔を見れなかったんだよね」
海美は病院が用意した部屋の中をうろうろと歩きながら言いました。
三人はたくさんの笑顔と触れあいました。
子どもたちの楽しそうな笑顔、優しい笑顔、見守る母親たちの嬉しそうな笑顔、……。
プレイルームは笑顔に染まっていました。
「だから、もっとしっかり見てあげられたら良かった……」
「海美ちゃん、それは大丈夫だと思うわよ」
風花が優しく話しかけました。
「あの子、写真に入ってくれたしプレゼントだって取りにきてくれてたじゃない。楽しんでくれていたと思う♪」
「……そっか、うん、ありがとう……!」
海美はゆっくりと椅子に座ると納得するように軽くうなずきました。
「そうだ……、もう少し休憩時間があるから下にある売店に行ってみるのはどうかしら?」
「え!? いいの?」
「ええ、ずっとここにいるだけじゃ退屈でしょう? 志保ちゃんはどうする?」
「……えっと、じゃぁ、行きます」
「私は婦長さんに会ってくるから、十五分後くらいにまたここに集まるようにしましょっか」
「何か買う物があったら連絡してね!」
海美は志保と二人でエレベーターに乗り、売店のある階まで降りました。
エレベーターのドアが開くと、そこには海美が気にかけていた子どもとその母親の姿がありました。
「こんにちは!」
海美は明るく手を振りながら声を掛けました。
子どもは驚き、母親の後ろに隠れました。
「あらら……」
海美は残念そうに言いました。
売店に入ると、志保と一緒にお菓子のコーナーに行きました。
親子も後から入ってきたようでした。
「しほりん知ってる? これ、チョコの中にオモチャが入ってるんだよ!」
「……そ、そうなんですね」
「一つ買ってみようかなー」
それぞれで気になるお菓子を探し、手を伸ばしました。
するとどうでしょう。
三人の手が一つのお菓子の前で重なったではありませんか。
「……あっ!」
海美は瞬時に顔を上げて隣を見ました。
「ごめんね。はい、どうぞ」
志保はそっと小さな手にお菓子を握らせました。
「……」
「ほら、ちゃんとお礼言って」
「……ありがとう」
子どもは自然な笑顔を見せました。
「え!? 私たちのこと、知ってくれてたの!?」
四人は一緒にエレベータ―に乗ると、がらんとしたプレイルームで話をしました。
「この子、765プロさんのファンなんです。ねっ?」
母親が子どもに聞くと小さくうなずきました。
「でも、良かったね。さっきは緊張してたみたいで残念がっていたんです」
子どもはポカポカとお母さんを叩きました。
「……良かったですね。海美さん」
「うん……!」
四人で窓際まで移動すると、子どもが二人を見上げました。
「あの、ね……」
「なあに?」
二人は子どもの目線まで腰を下ろしました。
「劇場ってどこら辺にあるの? あのビルの近く?」
「うーんとね、あそこに高いマンションがあるでしょ? あのマンションの奥にあるんだよ!」
「そうなんだ。遠いんだね……でも、行ってみたいな」
「よーし! じゃぁ、待ってるね!!」
海美はにっこりと答えました。
親子と別れると、志保はちらちらと海美の方を見ました。
「あはは……、やっぱり、まずかったかな……」
「分かりません。でも、驚きました」
「えーっと、私、応援したいと思ったんだ。私はあの子の病気のことも普段のことも何も知らないけど、あの子が自分から行きたいって言ってくれたならきっと大丈夫だ! って」
「目標を見つけたら……」
「ただ前だけを見つめてってね☆」
志保はそれっきり何も言いませんでした。
お正月公演もひと段落し、一月中旬になりました。
「海美ちゃん、お疲れさま」
「あっ! 風花ちゃん。お疲れ! どうしたの?」
「この前、クリスマス会に行ったでしょう? その病院から手紙が届いたの」
海美は嬉しい驚きでいっぱいになり、走って志保にも声をかけにいきました。
その手紙はあの子の母親からのものでした。
「あ、年末体調崩しちゃってたんだ……。あの頃本当に寒かったもんなー」
「でも、最近は以前にも増して精力的にリハビリに取り組むようになりましたって」
「ふふっ、良かった……」
三人、とりわけ海美と志保は手紙の内容に安堵しました。
「よし! 私ももっと前に進もう! 早速今からランニング行ってきまーす!!」
海美はプロデューサーに確認を取ると、外へと飛び出しました。
深呼吸をして、顔をパンと張ると勢いよく走り始めました。
おしまい
ありがとうございました
乙乙
乙でした
>>1
高坂海美(16)Da
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>>5
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おつおつ
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