罰ゲームと嘘つき達 (17)

オリジナル注意
若干の人名注意
地の文注意
短め、書き溜め

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手のひらがじっとりする。
敵の視線は僕の手元と表情を伺うようにギョロリと動いている。
落ち着け。冷静になれ。

暑い。外ではミンミンゼミが夏を祝福するかのように合唱を繰り返す。
まだ来ないのか。相手は僕より全然冷静だった。
顔には余裕の笑みを浮かべながら、僕の目線を追おうとする。
フェイントに引っかかるほど、僕は甘くないぞと自分を鼓舞するが、
既に限界が近かった。

痺れを切らした観衆が、早くしろよと口々に呟く。
額に滲む汗を拭うため、タンマという合図を示してから間を外す。
観衆は呆れ顔だ。

「ふう」
左袖で汗を拭い、緊張をほぐす。
いける。相手もミスは出来ないはずだ。
そう確信して、敵とまた相対する。

相手が動いた。
一瞬にして抜き取られたカードはーーー

「よっしゃあ」
敵の歓声と共に、観衆が沸き立つ。
笑いの渦の中に僕は失意と共に飲まれていった。

「おかしい、ノーカンだ」
声を荒げ机にジョーカーを叩きつける。
その言葉に、佐々木は満面の笑みを浮かべた。

「見苦しいぞ、負け犬」
ふんぞり返る彼は閻魔かと言わんばかりの笑顔を崩さず言った。
ここが地獄の一丁目か。

「ババ抜きで不正なんてないからな」
観衆の一人が、後ろから肩を抱いてくる。暑苦しい。
ニヤケ面で佐々木と見つめあっている。

「水野、お前」

「証拠もないのに疑っちゃいけないよな」
佐々木の表情を見て確信する。
僕は戦場に立つ前から負けていた。

「ホント暑いな」
校舎の影に入っても、息をするのが億劫な程だ。

結局あの後ゴネにゴネたが、観衆は僕の敵であり、
世論の恐ろしさを齢15にして垣間見る結果となった。

「おまたせ」
校舎によりかかり、汗まみれのYシャツで体を扇ぐ僕に声がかけられる。
この暑さで汗ひとつかいていないこの女は後藤。
いわゆる幼馴染という奴だ。

彼女の声を聞きながら、僕は思案していた。

「じゃあ罰ゲームはどうする」
佐々木がそう言うと、皆が口々に提案を挙げていく。
全裸で校庭一周とか、女装して郷田にデートを申し込むとか言っている奴もいる。

確かに面白いが、死ぬ気か。社会的に。
ちなみに郷田というのは、通称ジャイアン。
あの有名お茶の間アニメのキャラの生まれ変わり、という栄誉を授かった隣のクラスの奴だ。


「ふむふむ」
佐々木が満足げに唸る。
視線をチラりと水野に向け。ニヤけながら口を開いた。
こういう時のこいつは絶対いやらしい事を考えている。

「じゃあ負けたやつは女子にキスを申し込むって事で」

かくして僕はババ抜きをもってして裁かれ、罪人に身を落とした。
いや、落とされた。

日本は司法社会ではあるが、口約束を守るべしという法律は存在しない。
逃げ回って反故にするという抜け道もあったが、
その茨の道を進む勇気は僕にはなかった。


「今日も暑いね」
社交辞令というものだ。
人は緊張すると、取りあえず社交辞令から始めてしまう生き物なのだ。
そうして会話のテンポを作り、緊張をほぐしてから本題へと臨む。
そう、テンポが重要なのだ。

「最近どうだい」
平日12時半によく聞かれるその言葉に倣って、僕はリズムに乗る。
太陽は白く大地を照らしている。
こんな日には彼のサングラスが欲しくなる。


「キスしたいんだっけ」
ひとしきり逡巡し、髪を梳きながら彼女はそう言い放った。
僕の心のベースの弦は、高い音を奏ではち切れた


「何言ってんだよ」
どもっているし、アクセントがめちゃくちゃだ。
心臓はクイーンの曲の出だしみたいになっている。


「来る時に佐々木くんから、そう聞いたけど」
校舎裏の花壇に目を向けながら後藤は佐々木の謀略を暴露した。
佐々木への恨みも重要だが、今の状況を切り抜けることで頭は一杯だった。


「あ、あれは罰ゲームだからさ」
別にお前まで付き合ってやる程の事じゃないというニュアンスで答える。


「でも、出来ないと困るんでしょ」
それは困るかもしれないが、何もお前がそこまでする必要はないと、
言い訳がましく説明する。


「じゃあなんで私の事を呼んだの」
なんで。
幼馴染だからとか、他に思い当たらないとか、古い付き合いだとか、
色々考えが巡るも、どう返すべきなのか返答に窮してしまった。

「幼馴染だから」
僕は最初に思い浮かんだ言葉を選択した。
逸らしていた目線を後藤に向け、
彼女の表情を伺うように疑問符をつけ加えてそう答えた。

「別に私はいいけど」
長い沈黙のあと、表情を変えずに彼女は言った。
僕はギョッとした。

「な、なにが」
つい答えの分かりきった質問を返してしまう。

「だから、キスしてもいいよ」
髪を梳きながら彼女が答える。

「お前は俺でいいのかよ」
何とか流れを変えようと必死でもがきながら、
よく分からない事を質問する。

「別に」
昔テレビで話題になったような返答を彼女はしてきた。

「別にって、初めてだろ、お前」
幼馴染にそう聞き返す。小さい頃からの付き合いだ。
好きな食べ物からほくろの数まで大体知っている。
子供ながらにヤンチャで、泣かせも泣かされもしたが、今ではいい思い出だと
僕は勝手に思っている。


「初めてじゃないよ」

その言葉に何故だか知らないが、僕は怒りを感じた。
別に後藤は僕の彼女な訳でもなく、ただの幼馴染だ。
言い訳染みた呪文を心の中で唱えながらそんなことを考える。
理不尽な怒りを見知らぬ誰かに覚えるとともに、自分の知らない彼女の存在に胸が少し、少しだけど痛くなった。

「怖いんでしょ」
意地悪そうに言う彼女の言葉が僕のささくれを抉る。
別に怖いわけじゃない。
怖くはないが、何事にも安全な道を探してしまうのは悪い事ではないだろう、と謎の弁明を自分にしてから、
痛みと共に若干の苛立ちを覚えた僕は、語気を強めてやってやると迷いを振り払った。

「ちょ、ちょっと」
慌てる彼女の手首を掴み、強引に引き寄せ、目をつむれと言って
左手を彼女の頭に回し、顔を近づけた。

触れ合った瞬間汗がしたたり落ち、乾いた唇が潤う。

何故か冷静になってしまい、しょぱいなという感想を抱きながら
若干の抵抗をみせる彼女に苛立ちを感じた。

苛立ちに身を任せ、半開きになった口から舌を覗かせ、
彼女の唇の隙間に無理やり押し込む。

征服欲を満たすというのは、こういうものなのだろうか。
彼女の抵抗が激しくなるに従い、僕も腕に力をこめようとした。

「だ、誰がそこまでやっていいと」
痛む側頭部を押さえつつ、彼女に目をやると、
顔を紅潮させた彼女が、息を切らしてそう言った。

「お前も汗かくんだな、さや」
笑いながらそう答える。
久々に下の名前で呼んだ気がする。

先ほどまでの苛立ちは、側頭部に叩き込まれた拳骨のお陰か、
熱さのせいかは分からないがいつの間にか立ち消えていた。

モゴモゴと何か言っている彼女を尻目に、緊張でガチガチになった体を伸ばしながら空を見上げる。
昼も幾分か過ぎ、校舎の影も身をひそめ、
太陽が体全体で夏を主張していた。

以上
一応あと一文ありますが、必要ありそうだったらで

つまらない、うんこ等々感想頂ければ幸いです。

書きためているのなら全部出せ、反応感想はその後に求めたらどうか。

「二回目」
呑気に空を見上げる僕はさやの言葉に振り向く。

「これで二回目だから」
目にうっすらと涙を浮かべ、耳まで赤く染まる彼女の様子が、
記憶の奥底の光景をまざまざと彷彿させ、僕は大きく笑った。

>>14
という感じです。
ありがとうございます。

一つ言える事は、圧縮しすぎだな
完結乙

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