彼等は萌えミリ世界で戦った (15)
彼等は萌えミリ世界で戦った。
彼らが死力を尽くしたこと、彼らが奮闘したこと、彼らが友や肉親、愛する人たちの為に戦ったこと、どうか、その事を忘れないでいて欲しい。
国際退役軍人会
ヴァイマル共和国退役軍人会
連邦退役軍人会
ガリア戦友会
サユース退役軍人連絡会議
ドージェ・ベテラーノ連合
イベリア共和国戦友会
合作中華退役軍人会
朝陽皇国全国戦友会
アディスアベバ退役軍人同盟
ベロオリゾンテ欧州遠征軍委員会
他多数
※この回顧録では、投稿者の意思を尊重して出来るだけ原文のまま掲載しています。人種差別的な単語や過激な言い回しがあることを予めご了承ください。
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ヴァイマル共和国国防軍一将校による投稿
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寒い晩だった。
若い将校だった私は、同じく若い同僚たちと一緒に将校用のクラブでかしましい「天使」たちの声に顔をしかめながら静かに酒を飲んでいた。
私たちの表情はレーベンプロイのビールのごとく苦かった。いや、同僚は皆、レーベンプロイのビールは別に苦くないと言っていたのだが、多分私が酒が苦手だったせいだろう。
その酒が苦手な私が同僚たちとどうして酒をあおっていたのか?その理由こそが「天使」だった。
彼女たちの様子を例えて天使と言っているのではない。確かに彼女たちは見目麗しく総じて若かった。
天使と呼ばれるゆえん、知っての通り、それは彼女たちが特別な能力を持っている事である。
今世紀初頭の者たちに「十数年後に人間でない敵が襲ってくる」と言って信じただろうか?恐らく「この国際情勢が危ういときに何を言っているんだ」というような事を言って取り合ってくれないだろう。
だが奴等は来た。そして「天使」たちは奴等に対抗できるそのとき最良の手段だった!
先の世界各国対宇宙人の戦争、彼女たちは戦争の途中某国によって動員され始め、それはすぐに世界各国に広まった。
丁度その時期は世界がようやく外敵に抵抗するために一致団結を始めようとしていた時期と重なり、彼女たちは各国統合のシンボルとしてあちこちで担ぎ出されるようになった。
不思議な力、魔法とすら形容できる彼女たちの戦いぶりは実際すさまじく、普通の兵士が束になって勝てない相手を楽々と粉砕したのである!
ここまでであれば我々が苦い顔をする理由はない。しかし彼女たちの人気や信頼感が上昇するに従って割りを食ったのは我らだった。
いわく、「軍は何をしていたのか(勿論天使たちは軍に属していたのだが)」「乙女たちが戦っている間兵士どもは惰眠を貪っていた」「天使こそ優等人種であり、彼女たちが国家の軍事力を管理すべきである」等である。
男たちは戦場で命を散らしていたため、女たちを工場に引きずり出す必要があった政府は、彼女たちを引き合いに出して盛んに「強い文明化された男顔負けの女性」という宣伝を打ち立てた。
「男の軍隊」というイメージのあった我々旧来の軍隊は、天使たち女性に世界の運命を任せてしまった男たちの気恥ずかしさも合間って、市民の憎悪を一手に受けることになってしまったのだった。
「天使」と我々はもちろん同じ軍に属しているが、指揮系統が異なっていた。「天使」は大天使軍(アークエンジェル・レギオン)、略称ALと呼ばれていた。
天使達の中には当然ムスリムや仏教徒もいたが、列強達は当然のごとくこの呼び名を強い、「搾取される国」達は黙ってこれに従った。
話を戻そう。指揮系統を盾にした彼女たちは我々の命令に従わないことがままあった。
彼女たち天使はAL入隊後から既に士官球の待遇を受けるが、相手が一般将兵であればたとえ相手が佐官級でも命令に従わない事すらあった。
政府上層部が、人民が許容していたのだ。
彼女たちの年齢は十代そこそこから二十代中盤。我々将校にとって年下で階級も下の彼女たちが命令を聞かず、またそれに対する何の処罰もないのは耐え難い屈辱だった。
「ねえ、そこのおじさん」
私は内心神に祈った。天使のひとりが誰かに声を掛けたのだ。緊張が走る。
天使たちは酷く気紛れで、酷く力が強く、態度も大きい。
「無視すんなよじじい」
天使たちが耳障りな笑い声を上げる。大分酔っぱらっているようだ。クラブにいる一般将校たちは巻き込まれたくないからか、知らんぷりをしている。
「……何だね」
じじいと呼ばれた初老の少佐(呼びつけた天使は少尉である!)初老の少佐は屈辱と怒りで顔を真っ赤にしながら、努めて押し殺した声で彼女たちの方を向いた。
「あんたの部隊、全滅したんだってね」
「そうだ、貴様のお仲間が邪魔したせいでな」
あとから聞いたが、初老の少佐の部隊にはALの天使が要員としてひとり配備されており、彼女には部隊の行動に口出しする権利が与えられていた。そして彼女は素人だった。
「は?私たちのせいってわけ?」
「翼もないくせに」
「大体あんたの部下が臆病者揃いで、あんた自身も無能だから全滅したんじゃない?」
「突撃って言ってるのにぃ、あいつらぜーんぜん進まないんだもん!芋虫みたいに地面這っちゃってさー」
「わかる!戦術がどうの教練がどうのうるさいしさ、どうせ私たちがいれば勝てるんだからねー」
また耳障りな笑い声。手を叩いて嘲り笑う天使。
初老の少佐は怒りで手をわなわなと震わせていた。
一般将兵が天使に手を上げることは禁止されている。罵詈雑言も禁止だが、逆の場合形式的な軍法会議で無罪になるか、お咎めなしである。
数年前極東の皇帝を目の前にした御前会議で天使が一般将校の顔を殴り付けるという事件があったが、大して問題にもならなかった。
初老の少佐は怒りに震える手で軍帽をひっつかみ、荒々しい足取りでクラブの出口に向かう。背後から更に罵詈雑言が浴びせられる。
「逃げるの?臆病者!」
「まるであんたの部下みたい!」
「宇宙人を倒す前にあんたの部下を撃っちゃったよ!」
彼女たちは残酷に、無邪気に笑い転げる。初老の少佐は爆発寸前だ。ピストルポーチに手を伸ばしかけている。
一触即発!これで彼が何らかの行動を起こしたとして、立場が悪くなるのは彼の方である。そして天使には拳銃弾程度では傷すら付けられないだろう。私は彼の方へ行こうとした。
「よう、みんなここにいたのか」
クラブの入り口の扉が開く。
「遅いよー司令官」
その瞬間、天使たちは下品な笑い顔を止め、天使のような笑みを顔に浮かべた。
「私待ちくたびれちゃったー」
「今度デートしてくれなきゃ許さないんだから!」
「あー!ずるーい!司令官、私もー!」
「はいはい、皆さん静かにしないと司令官が困ってしまいますわ」
初老の少佐は一瞬呆気に取られたあと、ゆっくりとクラブから出ていった。
すれ違い様に「司令官」に軽い会釈をした。
「司令官」は会釈も返さず冷たく一瞥すると天使たちに向き直り、笑顔で続ける。
「さ、みんな基地に帰るぞ」
「はーい!」
天使たち―ALの腕章、カフタイトル、襟章を着けた悪魔ども―の一団は出口付近にいた一般将校たちを押し退けてどやどやと出ていった。
緊張の糸が切れ、ビールを一杯あおったあと同僚のひとりがぽつりとつぶやいた。
「なんだ、あいつは」
それを聞いて別の同僚が返す。
「アウトランダー、つまりよそ者って呼ばれてる奴等らしい」
「最近の作戦が無茶苦茶なのも奴等が口を出しているからだ!」
別のグループの将校が叫んだ。
「何故奴等が口を出せるんだ?階級章もなく将校ですらないだろう!」
「見ただろ!あいつらだけが天使に言うことを聞かせられるんだよ!」
「畜生!」
床でジョッキが割れた。
アウトランダー、彼らもまた天使の出現と同時期に世界中に現れた。彼らに共通するのは口を揃えたように「別の世界から来た」と言うこと、そして非常に天使たちに好かれるという事だろうか。
原因ははっきりしない。だがALを実質的に動かすのが彼等であることだけは明らかだった。
しえん
次第に重くなってゆくクラブの空気に耐え切れなくなり、私は帰途につく事にした。
「それじゃ、おやすみ・・・」
同僚からの返事はない。みな渋い顔をして下を向くだけだ。
当番兵に連絡しようかと思ったが、たまには歩いて帰ろうと思い、コートを羽織って外に出た。
後ろでドアの閉まる音を聞きながらポケットからタバコを取り出して口にくわえる。
クラブの入り口では何人かの将校がたむろしていて、小声で何かを話し合っていた。
彼らは私の存在に気付き陰気な目をむけた。私が軽く会釈を返すと彼らは再び話に戻った。
タバコに火をつけて吸いながら私はいろいろな事を考えた。
将校たち、一般部隊の将校たちは明らかにやる気をなくし、自信をなくしている。
我々各国の将校たちに共通するするの少しばかり猫背で陰気な表情をしていることだ。
「・・・・・・東部前線の状況は悪化しつつあるらしい」
背後で話す将校たちの会話が聞こえる。
「ポールスカでは奴等に普通の兵器じゃ歯が立たんそうだ」
「じゃあ大天使旅団が?」
「天使だけじゃ数が足りない、このままじゃワルシャワが落ちるぞ」
「サユースの連中は何をやってるんだ」
「我が国だってポールスカに派兵するときは非難轟々だったろうが」
"奴ら"―Ungeheuer(訳注:化け物の意)、サユース兵はЧёртなどと呼んでいたが―は数ヶ月前にこの地に現れた。
彼らはポールスカ、我が国の隣国に目を付け電撃的に侵攻を開始した。
ポールスカは1920年代のサユースとの戦争に辛くも勝利し近代化を進めていた。
しかし農業国であったこともあり、工業化は遅遅として進まず、彼らのワルシャワでの"戦車型"に対する奮闘はあったものの、急速に押し込まれつつあった。
我が国の極右においてはこの機会に回廊地帯を奪取すべしという者があり、
「ポルスカの兵は馬で戦車型に突撃した」「彼らに戦はできないから我等に統帥権を委ねるべき」などとのたまう者すらいる。
悲しいことだが、この非常事態に団結できているのは大天使旅団の中だけ、という有様だった。
「・・・・・・ポルスカに生き延びてもらわなければ、我が国はサユースと国境を接する事になるぞ」
「またKPW(Kommunistische Partei Weimarer、ワイマール共産党)が勢いづくな」
「流石にこんな時期に革命を起こそうとは考えないだろ」
「それ以前に我々は勝てるのか、奴等に」
聞き耳を立てるのはそこまでにして、私は吸いさしを床に落としてブーツで踏み潰した。
徐々に喧騒を取り戻していく将校クラブを尻目に歩き出す。
将校クラブから私のアパートに帰る道はいくつかある。
私はまず人通りのある明るい大通りから帰ろうかと思ったが、すこし夜風に当たりたくなったのでいつもより遠回りすることにした。
それにしても冷える。
手袋越しの手はかじかみ、ポケットに突っ込んだものの寒さはまぎれない。
襟を立てて寒さを防ごうとするも風は容赦なく私の顔に纏わりついた。
下を向き、あれこれ思案する。
非番を楽しもうとかゆっくり休もうとかいう気分にはなれない。何しろ奴等に我々はまったく歯が立たないのだから。
この町は西部に位置しているのでまだ落ち着いているが、東部の町はひどい騒ぎだろう。
まばらではあるが、時々他国の兵士ともすれ違う。この町にも国際戦争の影は忍び寄りつつある。
彼らの言葉はあまりよく分からないが、やはり一様に暗い顔をしていた。
下を向いてあれこれ思案しながら歩いていると、ふと周りの空気が変わったような気がした。
「将校さん、遊んでかない?」
娼婦!私はいつの間にか娼館街に入っていたようだ。
「慰めてあげる」
寒いのに妙に生暖かい地区である。私はちょっと後悔したが、いっそのことどこかに入ろうかとも思った。
しかし、昼間拾った独立系の新聞の投書を思い出して止めた。政府の統制もゆるくなってきた今、軍を批判しても逮捕されることはない。
そしてその新聞投書には軍への不満や恨みが綴られていたのだ。
「軍人さん!いい娘揃ってますよぉ」
もみ手をするこの客引きも内心我々を憎々しく思っているかもしれない。そう考えると立ち寄る気にはなれなかった。
市民のほかに幾人か軍人がこそこそと入っていくのを見たが、彼らの背中には予想通り形容しがたい視線が突き刺さっていた。
このSSまとめへのコメント
なんか見てると、ストパンとか艦これなんかの男性達ってこんな扱い受けてることもありえたのかな?って思う。