勇者「ご飯が食べたい…」(33)

王様に言われて旅に出たのは良いものの
道中、迷いの森で盗賊に地図を盗まれて現在地が判らなくなってしまった

かれこれ1ヶ月…
まともなご飯をくちにしてない

勇者「あぁ…ご飯が食べたい」

~夜~

今日も森を抜けられなかった
くそっ!ゴールドならともかく、地図を盗まれるなんて…

勇者「はぁ…今夜も虫の丸焼きか」

~翌日、早朝~

朝陽が森に射し込むこの時間が脱出のチャンスだ

朝陽に向かって進んで行けば出られる…筈だ

勇者「…」ザッザッザッ



~夜~

勇者「…」

今日も脱出できなかった
途中、ドラキーの大群が空を覆わなければ…!

はぁ…今夜は虫の刺身だ

あれから、更に一月が経った

敵の攻撃で衣服は破け、髪や髭は伸びっぱなし
水辺が無いから体も洗えず、異臭を放っている

勇者というより盗賊のようだ

父の形見の剣は不思議と刄こぼれしない

自身がみすぼらしくなっても剣だけは光輝いているのは少し不気味だ

僕を襲った盗賊も恐らく今の僕と同じように、森に迷った旅人か何かだろう

この森には多数の雑魚が闊歩しているが、倒せない訳ではない

最大の難敵は、方向感覚を狂わせる木々の配置と光が差し込み難い葉の傘にあると思う

面白い支援

この森が迷いの森と呼ばれているのは、昔に脱出に成功した人がいたからだ

しかし、脱出に必要なコンパスは盗賊(旅人)に奪われてしまったから僕は新たな旅人(犠牲者)が現れるまで、脱出できないでいる

勇者「キメラの翼、買っておけば良かったな…」

レベル上げのつもりで近場の森に入ったが最期、そこが迷いの森だと誰が理解できただろうか

人は道に迷っている時、時間だ経つのが早く感じると聞いた事があるが…朝から夜まで、体感時間は1時間くらいだと思う

勇者「もう、このまま死ぬまで出られないのだろうか」

運命を呪いたくなる

…ん?運命?

僕は勇者に選ばれるまで…いや、選ばれてからも不信心でいる

しかし、僕は勇者だ。困った時の神棚みという訳だが、神に祈ったら奇跡が起きるんじゃないか?

勇者「かみさま…」

~夜~

何も起きなかった…orz

不信心だからいけなかったのか?それとも、神の加護すら届かない呪いの森だとでも言うのか?

勇者「こんやわ、むしのおどりぐいだぞぉ、やったぁ(棒読み)」

更に二月経った

~昼~

寝過ごした。orz

あぁ…独り言は辛い。辛すぎて頭が可笑しくなりそうだ

誰でもいいから会話させてくれ

?「だ、誰?」ガサッ

ひ、ひひひひひひひひ人だ!

草むらから子供が飛び出した!

男?女?どちらか判らない。しかし、人だ!もう孤独じゃない!

勇者「」ハッ

今の僕は盗賊か住所不定者にしか見えない、ここは怯えさせないようにしないと

枯れ葉で作った服を着て、木の皮で作った仮面を身に付け、花の冠を被り、枯れ枝の杖をついて

僕は森の仙人になりきった

子供「ん?人がいたと思ったのに」ショボン

勇者「誰ぞ、おるか」

子供「」ビクッ

仙人らしく喋ってみる。仙人てこんなでいいのかな?

子供「ぼぼぼ、僕は道に迷って、あの、その」ガクブル

得体の知れないモノが蠢いているんだから驚くのも無理はない

勇者「坊か?迷子か?」

子供「は、はい」ガタブル

不審者とは思われてない?のかな

勇者「迷子か…されど、此は迷いの森。只では帰れぬ魔性の森」

韻を踏んでみた

子供「ど、どうすれば、帰れ、ますか?」

面白い支援

勇者「それは…」

グウゥゥゥ~~…

僕の腹が鳴いた

子供「え!?何!?今の音!」ガクブル

そう言えば、朝食がまだだった…いや、昼食か

勇者「騒ぐ事はない、今のは腹の虫が鳴いたのだ」テレ///

子供「お腹の?」

勇者「童よ、ワシはこれから食の時間ぢゃが、共に喰らうか?」

腹が鳴るのを聞かれるのはとても恥ずかしい。言い回しが自分でも判らなくなってきた

子供「食事?」グゥ~

この子もお腹を空かせているようだ

勇者「付いて来なされ」

寝床に案内する

迷いの森はふたつの山に挟まれる形で横に延びている。山と言っても小高い丘で寧ろ山を越える人が圧倒的に多い。安全だし

僕は森に面した丘の一方に穴を空け洞窟にした。そこを寝床にしている

寝床には食べられる野草や茸、虫などを蓄えてある

子供「こんな所に洞窟が」キョロキョロ

やはり人の生活感を垣間見ると警戒心より好奇心が勝るのか、子供はすっかり警戒を解いていた

勇者「坊が食せるかは知らぬが、どうぢゃ?」

野草を皿代わりに焼いた茸や虫の身を差し出す

子供「」ゴクリ

お腹は減っているだろうけど、「これは食べ物なのか?」と「食べたい!」の間で揺らいでいるのが判る

子供を前に僕は自分の茸を食べて見せる

むーしゃむーしゃ

勇者「旨味成分が」モグモグ

子供は僕の食べている姿を見てから茸を頬張る

子供「お、美味しい!」モグモグ

子供はとてもお腹を空かせていたようで虫の刺身もくちに運び、皿に使った野草すら平らげた

むーしゃむーしゃ

お腹は落ち着いたようで「…ふぅ」と一息つくと、僕はある事を訊ねてみた

勇者「時に坊よ、この森から出る方法を知りたいか?」

子供「え!出られるの!?」

勇者「うぬ、しかし…出るには」

僕が言い欠けると子供は身を乗り出し胸ポケットから細長い石が落ちた

落ちた石を拾ってみる

子供「それは、この森の入り口で拾ったんだ。剣みたいで格好いいでしょ」

子供の言うように石は剣に見えなくもないが、僕が目を付けたのはそれではない

勇者「もしや」

僕は洞窟の奥から金属片を持ってくる。洞窟を掘る時に使った鋼の剣の破片だ

恐る恐る破片に石を近付ける…

ピタッ

見事に石は破片にくっ付いた

子供「これは、磁石?」

迷いの森から脱出するのに必要な物は『方位磁石』

勇者「これで…帰れる」ウルウル

ボロボロになった服から糸を紡ぎ出し、磁石に括り付ける

磁石は一点を指して止まった

勇者「この方向に真っ直ぐ進めば帰れるぞ」

仙人設定を忘れ、素で喜んだ

~翌日、早朝~

迷いの森から生還した。生きてるって素晴らしい!

僕は子供に無事に家まで送り届けると約束して森を離れた

道中、子供には僕が浮浪者でも盗賊でも仙人でもなく、青年だと判って貰えた

子供が言うには「格好いい物を集めて廻っていたら知らない森にいた」らしい。でもお陰で僕は助かった子供様々だ

不思議と雑魚は現れず村に着いた

~ムラ村~

村人a「どうだ?そっちは見付かったか」

村人b「いや、まだだ」

村人c「どうしましょう、もう一週間も経つわ」

村長「みんな、落ち着くんだ!あの子はきっと無事だから」

村人c「お告げですか?」

村人b「しかし、村長!誘拐って事も…」

村の中が騒がしい

村人c「…!村長!坊っちゃんが!」

おばさんが僕を指差している

子供「パパ!」

村長とおぼしき壮年男性が振り向く

村長「おぉ…レンよ」

村人a「あいつだ!きっとあいつが誘拐犯ですぜ村長!」

村人d「誘拐犯め!のこのこやって来やがって!」

パシリ風の男性がクワを持って襲ってきた!

子供「あっ」

…という間にパシリはボコボコにされた

僕に

さすがに出会い頭にボコるのは不味かったよね?

ほら、村長が怖い顔してこっちに来るよ!

怒られる!怒られる!怒られ…

ガシッ!

『ありがとう』

勇者「…ぇ?」

村長は僕の右手を両手で握手している

村長「貴方は精霊の使いに違いない!夢枕に立った精霊の使いに違いない!!」

精霊の使い?
あの、僕、勇者なんですけど…とも言えず、精霊の使いとして歓迎された

歓迎の席にて、村長に精霊の話を聞いた

村長「私の祖先は精霊王の御子でした。精霊王の言霊を人々に伝える為の通訳係です」

ふむふむ

村長「近頃、夢枕に精霊王の使いと名乗る者が現れ
『奇怪な身なりをした若者が精霊の使いとして現れるだろう』
と言い残し姿を消すのです」

ふむふむ

村長「そして、それは私が見る悪夢の中にだけ現れるのです」

料理が次々と食べられていく…僕はまだ箸にすら手をつけてないのに

村長「ここから、遥か南にある小島に魔王が住まうとされる黒き城があります」

ふむふむ

村人「…でよ、畑からオバケカボチャが採れたからハロウィーンに」

ふむふ…え?

村長「…なので、見てきては頂けませんか?」

…え?肝心な部分を聞けなかった

勇者「はい?」

村長「おぉ!行って下さるか!さすが精霊の使い!今宵はわがムラ村でゆっくり休んで下さい」

どうしよう

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