【オリジナル】タイトル未定 (11)

近未来SF的な何か
二次創作ではない
板違いだったら即消えます

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どうでもいいけど消えるなら依頼は出してね

世界は絶望に満ちていた。
突如現れた謎の生命体。その圧倒的巨大生命体に世界は蹂躙されていく。
どこに逃げても存在するのは絶望だけ。もう何人の人間がその命を落としたのか、それすらもわからない。
そんな地獄絵図と化した世界。少年はしきりに周囲を見回していた。
この非常事態、頼れるのは自分の親だけだというのにはぐれてしまったのだ。

「お母さん……お父さん……」

悲鳴が少年の鼓膜に容赦なく襲いかかるが、それを堪えて何度も顔を右へ左へ動かして母親と父親を探す。

「キミ」

ふと、自分のことを呼ぶ声がした。視線を前に向けると、そこにはいつの間に立っていたのか見知らぬ男がいた。
男は右手を隠すように背中に回しながら、ジッと少年を見る。

「こんなところで何をしている?」

「えっと……」

この異常事態に見知らぬ大人と話をしている暇はない。だが少年は募りに募った心細さからか、気付けば涙を流していた。

「お、お母さんと……お父さんを、探してて……」

ボロボロと涙を流し、必死にそうとだけ言葉を紡ぐ少年に男は微笑を浮かべ、左手を少年の頭に優しく乗せた。右手はまだ背中の方に回されていて、少年からは見ることが出来ない。

「そうか。大変だったんだな」

「う、ううう……!!」

親とはぐれて孤独になっていた少年の心を軽くするにはそれだけで良かった。少年の瞳からは涙が溢れる。もう堪えようとする気さえ起きないほどに。

「だが安心してほしい。キミの親御さんなら先ほど見かけたよ」

「え……?」

その予想にもしなかった言葉に少年は思わず男を見上げていた。
本当に見かけたのかという疑念とやっと会えるかもしれないという期待が複雑に渦を巻く少年の視線を受けて男はにっこりと笑い、言う。

「実はもう持ってきてるんだ」

こんな異常事態に頭が混乱していても、その妙な言い回しに少年は気付いた。 

何故、持ってきたなんて言い回しをする?
瞬間、離れた場所に落雷でもあったのか雷鳴が響き渡ると共に一瞬少年の視界がカッと明るくなった。

「ひっ……!?」

ほんの一瞬だけ明るくなっただけなのに――いや、だからこそだろうか。その異質な光景は少年の脳内に強く残った。
まず、今も少年の頭に置かれている男の左手。そこから続く左腕が紅に染まっていたのだ。
さらに男の服にも返り血と思われるものが付着しているのが見えた。

「何を驚いているんだ? せっかくキミの親を見つけてあげたと言うのに、どうして逃げようとする?」

「い、たい……!」

その光景に驚き、無意識のうちに逃げようとしていた少年だったが頭に乗せられた男の手がそれを許さない。気づけば頭蓋に物凄い痛みが走っていた。

「ほら、見てごらん。これがキミの両親だよ」

痛みに顔を歪める少年を気にする様子もなく、男はそうしてようやく隠していた右手を前へ出す。

「あっ……! ああ……!?」
その右手に乱雑に持たれてるそれを見て少年は絶句した。
トレードマークの眼鏡の奥にあるあの優しい瞳が生気など微塵も感じられないようになっているそれも。
普段は無愛想で話しにくかったけど、それでも厳しいながらもきちんと息子である自分を可愛がってくれていた憧れの存在であったそれも。
どちらも、今まで毎日見てきた顔であった。

「ほうら、もっとよく見てみるといい。これがキミのお母さんとお父さんだ」

ドサリ、と生首が二つ地面に落とされる。雨でぬかるんだ地面に落され、多量の水を含んだ泥が少年の足元にかかった。

「あ……ああ……!?」

あの優しかった瞳が、今は生気が感じられない瞳となって少年を見つめる。
あのいつも厳しかった瞳が、今では無機質な瞳となって少年を見つめる。

「ふふ……」

もう、何も考えることが出来なかった。
なんてことはない。この絶望に満ちた世界の中に新たに少年の絶望が追加されただけのことであった。


それから十年。人類は絶滅寸前になりながらも未知生命体を撃退した。
人類は勝った。多くの犠牲と絶望を残して。

見てるぞ

朝。森咲開人はいつにも増して不愉快な夢と共に目を覚ました。
もう引きずっているつもりはなかったというのに、今になってまたあんな夢を見るなんてと開人は朝から陰鬱な気持ちになる。
ベッドに寝転がっていた上半身を起こして壁に掛けられた時計を見る。いつもより多少遅い時間だった。

『開人君?』

すると控えめなノックがし、扉の向こうから祖母の声がした。いつもの時間になっても部屋から出てこない開人を心配しているのだろう。

「あー、ごめん。今起きたから」

扉の向こうにいる祖母にそう言って開人は陰鬱な気持ちを振り払うようにしてベッドから出る。窓から差し込む朝日が、自室を照らしていた。


「おかわり」

「はいはい。ちょっと待っててね」

開人が差し出した茶碗を受け取り、祖母が炊飯器から白米を盛り付ける。
テレビでは最近頻発している事件の概要をアナウンサーが説明していた。朝から嫌なニュースを見てしまったなと開人はせっかく吹き飛ばした陰鬱な気持ちが再び湧き上がってくるのを感じる。

「はいどうぞ」

「ん。ありがとう」

祖母が用意してくれた朝食を口に運びつつ、テレビに視線を運ぶ。いくら陰鬱なニュースが流れているとはいえ、開人はその立場上どうしても見ておく必要があったのだ。

「最近また物騒な世の中になってるみたいだねぇ……」

祖母も同じように視線をテレビに移してそんなことを呟く。そして開人に話しかけた。

「開人君も、これじゃあ忙しくなるんじゃないの?」

「そうなるかもしれないけど、知っての通りウチは弱小会社だから。きっとあんまり変わらないんじゃないかな」

「そう……お婆ちゃんとしては嬉しいけどねぇ。開人君が危ないことに巻き込まれないってことなんだし」

朗らかに笑う祖母に開人は苦笑いだけする。
そろそろ家を出ないと学校に間に合わない。開人は急いで残りの朝食を食べると席を立った。

「じゃあそろそろ行くから。帰ってくるのもいつもと同じくらいの時間になると思う」

「わかった。じゃあ気をつけてね」

「行ってきます」

にこにこと笑う祖母に開人はそう言って、居間を出た。


謎の未知生命体が世界を破滅寸前まで追い込んだあの日から十年。世界は昔のような繁栄を目指すべくゆっくりと、しかし着実に復興を遂げていた。
開人はその日に両親を亡くし、奇跡的に生き残っていた祖母に引き取られたのだ。
両親を一度に亡くして塞ぎこんでいた日々。祖母にはずいぶんを迷惑をかけたものだった。今はもう両親のことで祖母に迷惑をかけるようなことはない。
祖母だって。いや、あの日を経験した人間は全員が心に深い傷を負った。何も自分だけじゃないのだ。自分だけが被害者面をして良い道理はない。
もっとも、そのことに気付いたのは祖母に引き取られてさらに数年が経過してからなのだが。

「おはよう開人君」

自らが通っている柳里高校への道をのんびりと歩いている開人の背後から少女の声がした。振り向くとそこにはクラスは違うながらも何度も見てきた顔の女生徒が。

「おはよう鈴川。こんな時間に登校だなんて珍しいな、普段はもっと早いんじゃなかったか?」

鈴川彩音。ロングヘアーが似合う清楚系女子と評判の、開人と同じ柳里高校に通う女生徒である。もっとも開人とはクラスが違うので学内ではあまり顔を合わせることは無いのだが、二人にはそれ以外の縁があった。

「私だって人間だから。少しくらい普段より時間が遅くなるときだってあるよ」

「はは、そうか」

「開人君だって、普段はもう少し早い時間に登校してなかった?」

彩音にそう問われて開人は思わず押し黙る。
正直に言っていらぬ心配をかけるのは避けたいところだ。鈴川彩音という人間は良くも悪くも真っすぐな人間で、どんな些細なことでも心配をしてくる。決して短くない付き合いの開人にはそれが分かっていた。

「? どうかした、開人君?」

「……実は最近出た漫画で面白いのがあって、それを寝る前に読んでたらついつい夜更かしをしたんだ。おかげで今朝は寝坊だよ」

「へぇ……面白い漫画かぁ。私はそういうのに疎いから、よくわかんないや」

そうして笑顔を浮かべる彩音に開人は内心で謝罪をしながら、話を切り替える。

「ところで、鈴川は今朝のニュース見たか?」

「うん。最近多いよね……異常者事件」

事の発端は数ヶ月前に起きた女子中学生をターゲットにして起きた連続殺人事件だった。様々な学校の女子中学生を殺害するという残忍極まりない事件で、被害者の数は四人。現在その犯人は捕まっており、異常者収容所という施設に送られている。
その犯人の体から特徴的な赤い斑点と、薬物反応が出たことからとある研究チームがその犯人の体を調べたのが事件解決から数週間。結果としてその犯人の体内から十年前に世界を壊滅寸前まで追い詰めた未知生命体ラミュシレンの細胞が検出された。
その結果を参考に政府はこう結論付けた。この犯人は体内にラミュシレンの細胞を注射のようなもので注入され、凶行に走ってしまったのだと。
この事件をきっかけに組織されたのが『異常者対策会社』であり、開人や彩音もその会社に所属している。
異常者対策会社の役割は、体内にラミュシレンの細胞を注入され精神が崩壊し凶行に走る人間を捕縛して異常者収容所と呼ばれる施設に送ること。その他通常の事件は警察が担当している。

ふむ

「まだ裏に潜んでる犯人は特定出来てないんだっけ?」

「そうみたい。今、政府が何とかして特定しようとしてるみたいだけど……」

この異常者事件の裏には当然、別の人間が潜んでいる。ラミュシレンの細胞を注入された人物が犯人なら、その細胞を注入した人物――真の犯人がいるということになる。
そこまでは判明しているのに、その先の重要な事柄が今になって何一つ判明していなかった。
その人物とは何者なのか?
撃退されたはずのラミュシレンの細胞を何故真の犯人は取り扱うことが出来るのか?

「まあ、そっち方向で俺達が出来ることなんてあるわけないか……」

異常者対策会社の仕事はあくまで異常者を捕縛して異常者収容所へ送ること。その根元の解決に関しては専門外であるのだ。

「とりあえず、今日は学校が終わったらすぐ会社に集まるようにお願い。あと、詩乃ちゃんにも言っておいてね」

「……わかった」


柳里高校二年C組の教室に開人は足を踏み入れる。談笑に興じているクラスメイト達軽く挨拶をして開人は自分の席に向かい、隣に座る女生徒――影里詩乃に話しかける。

終わり

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