乙姫『そなたに、この玉手箱を進呈しよう!』
語り手「乙姫は、期待の眼差しを注ぐ民衆に向けて、高らかに、そう宣言しました」
語り手「民衆は大いに沸き、がやがやと宴を始めました」
語り手「最中、乙姫は浦島太郎を軽く抱き寄せ――」
太郎『えっ!?』
乙姫『静かに』
乙姫『絶対に、開けてはいけませんよ――』
書き溜めなしのスロー進行です。
よろしくお願いします。
語り手「昔々、ある所に浦島の太郎という青年が住んでいました」
語り手「彼は元服して間もない齢。島では最年少の男子でした」
太郎『現在、この島に指導者、村長となるべき人は居ない!』
太郎『しかし、お父様の遺言に従うと、私がこの島の長ということに――』
語り手「太郎は代々伝わる島長一族・浦島家の末裔でした」
語り手「しかし、太郎の父は若くして事故で亡くなってしまったのです」
語り手「あまりにも若い太郎が島長を務めることには、いささかの反対がありました」
島民『元服して既に成人であるとはいえ、お前は長にとって若すぎる!』
太郎『はい。ですがこの島が浦島と呼ばれるほど浦島家には伝統と信頼が――』
島民『そんなものは過去の栄光に過ぎない! 優秀だったお前の父親は死んだ!』
太郎『で、でも……!』
語り手「浦島家が島長をすしているから、島の名前は確かに浦島でした」
語り手「ですが、島の名前が浦島だからと、浦島家が島長をするのには反対があったのです」
太郎『お父様が僕に遺してくれた、この遺言だけがタヨリだなんて……僕は僕を誇れないよ』
語り手「そんな太郎が生まれるより、ずっとずっと昔の話」
語り手「この島は、大きな島のある大きな山の一部分でした」
語り手「しかし、海面は上昇し、その島の多くのものが沈みました」
語り手「その後、独自に発展していったのが、浦島なのです」
語り手「しかし、当面の問題は食糧確保でした」
語り手「主だった資源が存在しないこの島で、ある方法が確立されたのです」
語り手「動物と共生し、互いが互いを助け合い、かろうじて食糧を確保する方法でした」
語り手「その方法で、多くの島民と動物が救われました」
語り手「長いながい間続けられてきたその方法によって、浦島家は島長になりました」
語り手「そう、浦島家は先祖代々、動物と心を通わせるスペシャリストだったのです」
太郎『……この島の、動物との共生関係は最近、何かが狂い始めている』
太郎『本来、この方法では、人間と動物は等価であるはずなのに――』
亀『おい、やめろって! 誰か、助けてくれーっ!!』
太郎『人間の食料の為に、動物が殺されるのはおかしい話じゃないか?』
語り手「こうした争いを減らすために、いつしか島には言語が生まれました」
語り手「動物と人間。互いに共通した便利なものです。しかし、弊害もありました」
語り手「誰しもが簡単に、動物と会話を交わせるこの島において――」
語り手「浦島家の地位は、しだいに下がって今に至るという訳です」
村人『仕方ないだろ! 俺ら家族はここ数日、何も食ってねぇんだ!』
亀『確かに、それは辛いことだよ! でも――』
村人『亀も認めるなら仕方あるめぇな。殺しちまえ! 野郎共!!』
すみません……いきなり誤植です。
村人→島民に脳内変換お願いします。
太郎『身勝手かもしれないけど……許せない!!』
太郎『そこまでだよ! そこの人っ!!』
島民『って……お前はお子様島長じゃねーか。なんだ、横取りでもする気か?』
太郎『お前たちは、そもそも何か間違ってる気がする! いざ覚悟!!』
亀『せめて主張をまとめてよ!!』
太郎『動物との共生も考えられない下衆共に、僕の崇高なる理念は理解できないっ!!』
島民『……気に入らねェ。そいつからやっちまいな!』
太郎(よし、とりあえずは気が引けた……これで――)
島民達『オマエハ……セイゾンケンヲ……シンガイシテイル……!!』
太郎『……囲まれたけど、痛くないようにやらなくちゃねッ!!』
太郎『「仙術」――温帯低気圧《ミッド・ラティテュード・サイクロン》ッ!!』ビュオーッ
島民達『う、うわぁああああああっ!!』ドシャアアアッ
語り手「伝説では浦島家は、仙術に長けた一族でもあるようです」
太郎『大丈夫か、亀!?』
亀『え、ええ……私は大丈夫ですが――』
島民達『』ピクピク
太郎『たぶん、砂が眼に入った程度で済むんじゃないかな……まぁいいや』
太郎『僕は浦島太郎。あの浦島家の末裔で、今はこの島の島長やってます』
亀『私は亀と申します、実は私、竜宮城から来まして……』
太郎『竜宮城!? って、あの伝説の……?』
亀『はい。確かに海の中にありますよ』
太郎『へぇ……それで、どんな所なの?』
亀『お連れいたしましょうか?』
太郎『本当に!?……でもなぁ』
亀『?』
太郎『行きたいのはやまやまなんだけど、僕一応ここの島長やってるし――』
太郎『勝手に島を離れちゃっていいのかな?』
亀『……辞めてしまっては、いかがですか?』
太郎『でも、お父様からの遺言で、僕がこの島の島長に――』
亀『亀の私が申しますのもアレですが、あなたはまだ若すぎます』
太郎『でも……』
亀『それに、竜宮城には、あなたを満足させる食糧や技術があります』
太郎『えっと。食糧は分かるけど、技術って?』
亀『例えば――』
亀『あなたを、大人びた姿に変化させる薬。とかですね――――』クククッ…
まずは第一章・完です。ちょっと出かけてきます。
質問・感想・誹謗・駄レス等々はこの隙にどうぞ。
太郎『でも、そんな海の中なんかにどうやって行くの?』
亀『ワープとかで』
太郎『えっ?』
亀『ワープですよ。瞬間移動、ですかね? こっちの方言では』
太郎『……ワープ、できるのか?』
亀『はい。竜宮城ではおおよそ10年前に開発された技術です』
太郎『すげぇ……竜宮城ってすげぇよ! 行ってみたい!!』
太郎(これで、島での生活が改善されれば――)
太郎(動物と人間が、再び共生できるかもしれない!)
語り手「浦島太郎は、島の復興を願って、亀とともに竜宮城へと向かったのでした」
語り手「ワープ先である竜宮城のエントランスは、どこもかしこも絢爛豪華」
語り手「宝石とも星空ともつかぬ寂光が、二人を包み込みます」
太郎『いきなり、凄く……綺麗だね。なんていう石を――』
亀『いいえ、あれは魔力のこもった、もとはただの石です』
太郎『魔力って……魔法使えるの!?』
亀『使えないんですか太郎さん!!』
語り手『魔法は遥か昔から竜宮上に浸透していたので、亀が驚くのも無理ありません』
語り手『そして、しんとしたエントランスでは、二人の声はよく響き渡りました』
太郎『中は空気があるんだね、ここ――』
??『そこにいるのは、亀ですか!?』
亀『はい! そうです……「乙姫」様っ!!』
太郎『乙姫様、って……やっぱりあの伝説の?』
亀『左様でございます。代々続いている、竜宮城第二の権力者・乙姫様にございます』
太郎『第二、って……てっことは、第一は?』
亀『そりゃあ勿論、竜宮様にございます。今は、ちょいといらっしゃらないのですが――』
乙姫『あなた、今までどこをほっつき泳いでたの!?』
亀『近衛隊長からの命令で、乱水流を調査していましたが――』カクカクシカジカ
太郎(竜宮様? 近衛隊長? 乱水流? ……どれも知らない言葉だ)
乙姫『――とりあえず、事情は分かったわ。報告ありがとう』
亀『了解であります』
乙姫『……ところで、そこの貴方』
語り手「浦島太郎は、不思議そうに虚空を見上げ、声には気づきませんでした」
乙姫『そこの、魔法石にみとれてる、あなたよ!』
太郎『えっ……僕?』
乙姫『そうよ……貴方、もしかしなくても浦島の人間でしょ?』
太郎『そうです……けど、何故――』
乙姫『教科書で見たことあるわ。浦島人の服って……あまり見かけないもの』
乙姫『それに、竜宮の人間なら、魔法やなんかに見ほれたりはしないわ』
太郎『なるほど……僕、太郎って言います。浦島太郎です』
乙姫『あなた、浦島家の人間なのね。ってことはそこの島長ってわけ?』
太郎『はい……まだ、仮決定なんですけどね』
乙姫『こんな子供が島長だなんて……やっぱり、浦島人の発想は理解しがたいわ』
太郎『いいえ、違います! 彼らはいざっていうときはとても――』
乙姫『言い訳は結構です。私、浦島の人間は嫌いですから』
太郎『そ、そんな……』
乙姫『だって、彼らは動物達を利用するだけで、気持ちを考えないじゃない』
太郎『えっ……それって』
乙姫『あんな民族、野蛮よ野蛮!』
太郎『僕は、動物と人間が共生するために、竜宮城に来たんです!!』
乙姫『嘘おっしゃい。まともな島民なんて、居やしないよ』
乙姫『亀! その太郎ってのを、海へ放り出してしまいなさい!!』
亀『いいえ、乙姫様。彼の言葉は真実です』
太郎『亀――っ』
亀『確かに、浦島の人間は動物の事なんて微塵も考えていませんでした』
亀『ですが、私は現に、彼に救われて生きているっ!!』
亀『それでも、彼を赦せませんか、乙姫様?』
乙姫『……信用なりません。しかし――』
乙姫『亀よ。浦島太郎を留置所へ連れてゆくのだ』
亀『……了解しました、乙姫様』
太郎『……まぁ、一命を取り留めてもらっただけラッキーかな――』
語り手「その後、浦島太郎は竜宮場内しばし留置されていましたが」
語り手「間、彼の扱いについて会議は火花を散らしました」
語り手「そして、彼はついに釈放され、お詫びにと宴に招待されるのでした――」
第二章・完です。ようやく宴ですね。我ながら長かった――。
ここまで見てくれた人(透明で見えづらいけども)今日はありがとう!
私は寝るよ!
明日は透明化を解いてもいいんだぜ? ってことでおやすみ
そろそろ再開しますね
このSSまとめへのコメント
なぜこち亀タグなのか
乙姫菜々だと判断したんじゃね
しらんけど