モバP「蘭子が中二病になった理由」 (18)

※蘭子の熊本弁が難しくて、若干違和感あると思うので注意です。
※設定がぶっ飛んでいるので気をつけてください。







「煩わしい太陽ね!(おはようございます!)」

「おはよう蘭子」

 いつもと趣向が同じである、フリルたっぷりの白と黒の合わさったゴスロリドレスを着用した蘭子が事務所へとやって来た。
 紛い物の紅い瞳は今日も爛々と輝いている。

 蘭子は事務所のソファに座り、荷物からスケッチブックを取り出した。

「我が友よ、我が禁断のグリモワールを見るがいい!(プロデューサー、私の書いた絵、見てください!)」

「相変わらず上手だな、蘭子は」

 蘭子は本当に絵が上手い。そっちの業界も目指せる可能性があるぐらい。

「蘭子ちゃん、絵描いたの? 私にも見せてー!」

「ふっ、興味は時に身を滅ぼすぞ(いいですよ、どうぞ)」

 加奈が蘭子のスケッチブックに興味を示した。蘭子は少しだけ恥ずかしそうにしながら、スケッチブックを差し出す。
 パラパラと加奈が捲り、感嘆する。

「やっぱり上手いなぁ……」
 

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「これぐらい、造作も無い事(あ、ありがとうございます)」

 蘭子が壁に掛かっている時計に視線を移す。スケッチブックをしまい、いそいそと仕事に行く準備を始めた。
 入り口の扉に手をかけたまま、こちらを振り向く。

「いざ、侵略の時(仕事行ってきます)」 

「あぁ、いってらっしゃい」

 俺は彼女を笑顔で送り出す。普段と変わらないいつもの光景だ。

「そういえば、蘭子ちゃんっていつからあの話し方になったんですか?」

 蘭子が出て行った扉をぼーっと見つめていた加奈が、唐突に俺に問いかける。

「ん? あぁ、蘭子のあの独特の話し方か」

 蘭子と親しければ親しいくなるほど、大体の人間が持つ疑問だ。
 いつからあの喋り方になったのか、何かに影響されたのか。恐らく蘭子に興味を持つ人間は少なくない。

 俺は、何で蘭子があの喋り方になったのか、知っている。

 アニメに影響されたとか、かっこいいからとか、そういうものではない、もっと別の、普通の人間が聞いたら到底信じる事のできない理由だ。

 とてつもなく信じがたい、過去の出来事に原因がある。

 
 ——あの時の事は、今でも時々夢を見る。

  


「なぁ、下僕よ……あれは何だ?」

 紅い瞳を輝かせて彼女が指を差したものは、ソフトクリームだった。

「興味があるのか?」

「ふっ、我にとっては新たな世界だ。興味が尽きぬ」

 俺は当たり障りの無いバニラを頼み、金を払って、二人分受け取った。

「ほら」

「うむ……中々に美味だな」

 美味しそうにソフトクリームを頬張る彼女。そのほのぼのしい雰囲気に、思わず笑みが零れてしまう。

「どうかしたか? 我が下僕よ」

「いや、なんでも……って、口元にクリームついてるぞ」
  


 彼女はソフトクリームを食べた事がないらしく、口元にはべったりとクリームがついていた。蘭子のクールな容姿とは裏腹に、どこか子供みたいで、おかしかった。
 ティッシュを取り出し、蘭子の口元を拭ってあげる。くすぐったそうにしている彼女は、とても愛らしかった。

「ふふっ、流石我が右腕、有能だな」

「どういたしまして」

 今度は、口元を汚さないように気をつけて食べている。
 少女を尻目に、俺もソフトクリームを食べる。

 いつの間にか、彼女の事がとても気になっていた。

 最初の出会いから既に、惹かれていたのかもしれない。

 
 


「くっ、れっすんとやらは中々にやる……それに、灼熱で焦がされるような熱気だ」

 ゼェゼェと肩で息をしながら、彼女が呟く。やはりレッスンをした事はないらしい。表現も中々にオーバーで面白かった。

「ほら、続けるぞ、蘭子」

 トレーナーが無慈悲にも、レッスンの続行を告げた。

「くっ……狂気の舞踏よ」

 毒づきながらも、彼女は必死にレッスンを受ける。元々体力があまり無い上に、慣れていないというのもあって疲れてしまうだろう。だが、ライブまでに覚えてもらわなければならないのだ。がんばってくれ。

 長い時間が経ち、ようやくレッスンが終了する。

 全身汗だくになりながらも、彼女はやり遂げた。

「嗚呼……終焉を迎えたか……あの人間め、闇に飲まれてしまえ」

「物騒な事を言うんじゃない、ほら水だ」

 床に倒れこむ汗だくの彼女に、俺は水の入ったペットボトルを差し出した。

「気が利くではないか、流石我が下僕」

 彼女は、たどたどしくキャップを開けると、中の水を一気に半分くらいまで豪快に飲み干した。

「その……どうだ、できそうか?」

「我にとってこのような事、造作でもない」

 強がりではなく、心の底からそう思っているようだった。未だに荒い息を整えながら、彼女は楽しそうに笑いながら天井を仰ぐ。
  


「……楽しいか?」

「あぁ、楽しい。ただ、お前がいなかったら、つまらなかったかもしれぬな」

 目を瞑って、そんな事を言う。その言葉を聞いて俺は喜んだ。

「そうか……」

「下僕よ……これからも我に付き従ってくれるか?」

 首を傾け、視線を合わせる彼女。その紛い物ではない、本物の紅い瞳を見て、思わず高揚してしまう。

「気の済むまで……な」

 そう答えると、

「——ならば永遠に我に従わなければならぬな」

 彼女は微笑みながら、そう言った。

 心臓の鼓動が跳ね上がった。やはり、俺は彼女に惹かれていたらしい。
   


 未だに熱の冷めないライブ会場。少し離れた所にいるが、それでもファンの声と熱が届いてくる。
 彼女はその驚異的な才能と実力で、短期でダンスとボーカルを習得し、ライブを盛り上げてくれた。

「人間に崇拝されるのも悪く無い」

「それはよかった」

 満更でも無さそうに、彼女は言った。レッスンで習った事を完璧に出来て、満足そうだった。

 不意に、頬を摘まれる。

「記憶を忘却の彼方へ追いやるなよ、我が右腕。お前がいなければこの祝祭は楽しくもなんとも無い」

「そうか……それじゃ、これからも楽しんでもらえるように俺はずっと傍にいるよ」

 そう言うと、彼女は俯いた。

「……このままお前と永久の番いとなれればいいのだがな」

 どこか恥ずかしそうに、彼女は小さく呟いた。
 心臓の鼓動が早くなる……聞き間違いでは、無い筈。

「それって、どういう……」

「くだらない戯言だ、捨て置け」

 彼女は、悲しそうな表情をしていた。 

   


「我が下僕よ。お前がいなかったら、野垂れ死にしていたかもしれない……お前に、救われた……感謝している」

 蘭子がいきなりいなくなったから、探しただけだ。 

「この奇怪な世界を楽しいと思えたのは、下僕、お前のお陰だ」

 楽しかったのはお互い様だ。

「低俗な人間なんかに、高貴なる存在である我は興味なぞ持たない。だが、お前だけには、未だに興味が尽きぬ」

 興味が尽きないのはこっちもだよ……本当、似たもの同士だな。
 そう言うと、彼女は額に汗を浮かべながら、小さく笑みを浮かべた。

「我が下僕よ、よく聞け……我はお前に情愛の念を抱いている」

「……なぁ、様子がおかしいぞ……大丈夫か?」

 苦しそうに、彼女は息を吐き出した。
 
「お前と、婚姻を結び……やがては契りを交わし、子を生み育て、永遠に……命果てるまで共に暮らしたかった」

「な、何を言ってるんだ? 俺も君の事が好きだぞ? ……俺達は好き合ってるんだ。そんな事、出来るに決まってるだろ」

 彼女がとうとう膝をついた。思わず駆け寄るが、手で制される。
  


「真、だな……? その言葉に偽りは無く、真に我の事を愛しているな?」

 彼女の必死の問いに対し、深く頷く。苦痛に苛まれる中で、彼女は安心したような表情を浮かべた。
 次の瞬間、彼女は、とうとう胸を押さえて蹲った。

「お、おい、大丈夫か? 救急車……!」

 携帯を取り出そうとした手を、這い寄って近づいてきた彼女に掴まれる。
 彼女はそのまま、俺の胸にその身を預けた。

「我を……待ち焦がれろ……」

 喉の奥底から振り絞ったような、呻き声のような、必死な声。

 次の瞬間、彼女はどこからとも無くシャープペンシルを取り出し、自らの腕に深々と突き刺した。

「い、痛っ……」

「いきなり何を……」

「……プロデューサー」

 涙を零す少女を見て、直感的に感じ取った。もう彼女はいないのだと。

 今目の前の少女は、さっきまでいた彼女ではない……

 俺がプロデュースしていた、神崎 蘭子だ。

「プロデューサー、やっと、やっと戻れました……」

 どこか、濁った瞳で俺を見つめる蘭子。

「ずっと胸が痛かったです、プロデューサー……プロデューサーと話しているのは私なのに私じゃなくて、とっても苦しくて、とっても悲しくて……ずっと嫉妬してました……でも、ようやく戻って来れた」

 何で……。彼女は……、どこに……

「プロデューサー? どうして……どうしてそんな顔するの? ……あ、プロデューサーはあの喋り方が好きなんですね!」 

 違う……喋り方が好きなんじゃない。『彼女』が好きなんだ。

「闇に飲まれよ!」

 蘭子が記憶の中にある彼女の真似をする。とても似ていたが、そんな事どうでもよかった。

「ちょっと、難しいですね……でも、プロデューサーの為に練習してきますね! 期待して待っていてください!」

 何も言えなかった。ただ、ショックに自失していた。

「ねぇ、プロデューサー……あの女よりも、私の方がプロデューサーの事、愛してますから!」

 ごめん、蘭子……。

 俺は——
   


「闇に飲まれよ!(お疲れ様です)」

 事務所に蘭子が帰ってきた。六時間ぐらいは働いてきた筈だが、全然疲れて無さそうだ。

「我が友よ、これで渇きを癒すがいい(コーヒーどうぞ)」

 蘭子から缶コーヒーを貰った。蘭子の言う通り喉が渇いていたので、一気に飲み干す。

「ありがとな、蘭子……」

「ふっ、部下の配慮を怠らないのも魔王の務め」

 蘭子は、彼女の真似をしている。独特の喋り方もそうだし、偽りの紅い瞳もそうだ。だが、彼女になりきる事はできていない。

 というより、彼女の発言は普通に理解できるが、蘭子の言動は翻訳が必要なくらい滅茶苦茶な時がある。それはとても微笑ましいけど。
 

 俺は、蘭子の事は好きだ。アイドルとして、友人として。

 だけど、異性として愛したのは彼女なのだ。
 
 蘭子の気持ちには、答えられない。
  


「……? 来客」

 ぼそりと、蘭子が呟く。入り口の扉を注視すると、コンコンと、事務所のドアをノックする音が聞こえた。

 急いで来客用テーブルの上を片付け、扉を開ける。

 そこには——

 ——背中まで伸びる、艶やかな銀色の髪。切れ長の黒い瞳に、整った顔立ち、病的に白い肌。
 黒いノースリーブの服に身を包んだ長身の女性が、扉の前に立っていた。


「——久しぶりだな、我が下僕よ」


 俺に向けて、満面の笑みを浮かべる目の前の女性を、俺は知っている。















 
「闇に飲まれよ」














 

短いですけど、これで終わりです。
描写不足が目立ってます。ごめんなさい。

乙です

>>1
この蘭子は二(多)重人格?それとも悪魔(霊魂)が憑依していた系?

>>14
憑依的な感じです。

乙です

蘭子がかわいそうとおもった

最初からこのプロデューサーは蘭子のこと見てないんだし、しかたないね。

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