伊集院惠「7人が行く・狐憑き」 (206)
あらすじ
白い女が言う狐憑きと、高校で起きた殺人事件との関係は如何に
注
前作
松山久美子「7人が行く・吸血令嬢」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403002283
の設定を引き継いでいます。
未読でも問題はありません。
あくまでドラマです。
設定はドラマ内のものです、特に学年は。
グロ注意。本当に注意。
最初に謝っておきます。各々担当Pごめんなさい。
では、投下していきます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406552681
キャスト
SWOWメンバー
1・伊集院惠
2・大和亜季
3・仙崎恵磨
4・松山久美子
5・財前時子
6・太田優(教育実習中のため不在)
7・持田亜里沙(教育実習中のため不在)
青木警部・青木麗
青木警部補・青木聖
青木巡査部長・青木明
青木巡査・青木慶
交番勤務巡査・日野茜
交番勤務巡査・氏家むつみ
大石泉
土屋亜子
村松さくら
綾瀬穂乃香
五十嵐響子
北川真尋
喜多見柚
栗原ネネ
小早川紗枝
佐久間まゆ
佐城雪美
杉坂海
相馬夏美
中野有香
速水奏
松尾千鶴
水本ゆかり
三船美優
桃井あずき
和久井留美
楊菲菲
白坂小梅
依田芳乃
高垣楓
松永涼
塩見周子
序
ねぇ、狐憑きって知ってる?
信じられないほど白い肌をしている女の人は言いました。
知らない?そうだよね、知らないよね。
いい、絶対に狐を呼び寄せちゃダメだからね。
家に帰りたいなら、ね。
そうとだけ言うと、その人は去って行きました。
なんだったんだろうと、友人達は気にも留めてませんでした。
だから、私達は誤りを犯しました。
コックリさん、コックリさん、おいでくださいませ……
序 了
もうひと月経ってたのか
1
S大学構内SWOW部室
SWOW
セブン・ワンダーズ・オブ・ワールドの略称で、世界七不思議を見に行こう!がコンセプトの旅行サークル。実態は、代表の財前時子含めた7人が部室でぐだぐだしてるだけである。
財前時子「暇だわ」
財前時子
S大学4年生。女王様気質のSWOW代表。暇を持て余している。
武器:財力・コネ・指示命令
仙崎恵磨「暇だね!」
仙崎恵磨
S大学4年生。元気溌剌エネルギッシュ系女子。
武器:行動力・ずうずうしさ・先手必勝
時子「そんなに元気に肯定しなくてもいいわ」
恵磨「暇なものは暇じゃん?」
時子「週1のゼミだけだもの、暇に決まってるわ」
松山久美子「確かにそうね」
松山久美子
S大学4年生。気品漂う美人なお姉さん。
武器:美人
待ってた
恵磨「んー、なにしようか」
時子「亜里沙も優もいないものね」
恵磨「二人もいないと広いよね」
持田亜里沙
S大学4年生。教育学部初等科。小学校教員免許取得のため、先輩のいる小学校で実習中。
武器:心理学、教育学の知識・人心掌握・泣き落とし
太田優
S大学4年生。教育学部社会科。卒業後は教師にはならずに、ペット関連の道へ進む模様。
武器:謎人脈・メイク・アッキー
時子「亜季はどうなのかしら?」
大和亜季「私でありますか?」
大和亜季
S大学4年生。工学部。部室で積みプラモデルを順調に消化中。
武器:体力・調査力・武道・サバゲー
時子「あなた、研究室はいかなくていいの?」
亜季「ええ。進学する気なら半年は院試勉強でもしてろ、と言われました」
時子「そう。気楽でいいわね」
亜季「まぁ、私はいいでありますが、別の研究室で同じことを言われた人は不機嫌でして……」
久美子「誰?」
恵磨「誰って、ねぇ」
時子「一人しかいないじゃない」
久美子「惠ちゃん……?」
伊集院惠「……呼んだかしら」
伊集院惠
S大学4年生。工学部。見た目通り、やることはやる真面目な性格
武器:フットワークの軽さ・海外経験・運転
久美子「わー、本当に不機嫌そう」
惠「別に不機嫌なわけじゃないわ」
恵磨「でもさ、ここ最近いつもいるじゃん。そんな顔して」
惠「……そう?」
亜季「そうであります」
時子「原因は亜季が言った通り」
惠「ええ。真面目にやろうとしたから肩すかしをくらっただけよ」
久美子「それで時間を持て余してるのね。いつも以上に部室にいるもの」
恵磨「それで、何の研究するの?」
惠「燃焼工学。エンジンの研究よ」
恵磨「はいはい、やめやめ。聞いてもわかんないし」
時子「拒否が速過ぎるわよ」
亜季「私もランキンだのカルノーとか言われてもわからないであります」
恵磨「らんきん?かるの?」
時子「やめてあげなさい。恵磨が混乱してるわ」
久美子「時子ちゃんはわかってるの?」
時子「わかるわけないじゃない」
久美子「堂々と言えるって凄い」
時子「ともかく」
恵磨「ともかく?」
時子「惠、たまにはドライブにでも行きなさい」
亜季「そうでありますな。一か所に留まりすぎであります」
時子「もっとフラフラしてるのがあなたでしょうに」
惠「フラフラは人聞きがわるいわ」
時子「つべこべ言わないこと。行ってきなさい」
惠「……そうね、行ってこようかな」
時子「よろしい」
亜季「既にキー持って立ちあがってるであります」
惠「それじゃ行ってきます」
恵磨「お土産よろしく!」
久美子「行ってらっしゃーい」
時子「……」
恵磨「……それで、アタシ達は何する?」
亜季「おお、思い出したであります!忙しくなりますな!」
時子「言ってごらんなさい」
亜季「今日はプラモデルが届く日でありました!」
時子「……」
久美子「……まだ増やすの?」
2
S大学構内
惠「あら」
ニャー
惠「黒猫ちゃん、ごめんね、車を出すからどいてくれるかしら?」
ニャー
惠「……本当にどいてくれた」
ニャーニャー
惠「人懐っこい猫ね。でも、私なんかよりもっと構ってくれる人がいるから、行きなさい」
ニャーン……
惠「さて……どこに行こうかしら」
3
SWOW部室
時子「……」モクモク
久美子「……」モクモク
恵磨「……」モクモク
亜季「……」モクモク
時子「亜季」
亜季「なんでありましょうか」
時子「塗装は外でやりなさい」
恵磨「シンナー臭いよ」
亜季「そうでありますか?」
デデッテデデッテデデデデーン……
久美子「ん、誰のケータイ?」
亜季「私でありますな。惠からメールが来たであります」
恵磨「どこに行ったんだろ?」
亜季「写真が添付されてるであります。これであります」
久美子「とっても見晴らしが良い所みたいね」
亜季「ふむ、山の空気でも吸ってるのでありましょう」
時子「今、何時?」
亜季「5時であります」
時子「私達も新鮮な空気を吸いに行きましょう」
久美子「そうね。結構暇つぶしになったけど、気が滅入るわ」
時子「少し早いけど、夕食にしましょう」
恵磨「そうだねー」
亜季「そうでありますな」
久美子「惠ちゃんも気晴らしになってるといいけど」
亜季「かっとばしたらスッキリしたそうであります」
時子「まったく。ほどほどになさい、そう伝えなさい」
亜季「了解であります」
恵磨「どうしようかなー、オムライスとか?」
久美子「いいかもね」
時子「窓を開けなさい。そうしたら出るわよ」
4
某県山道
惠「……人!」
キキー!
惠「衝突してないわね……?」
惠「というか、どこに行ったのかしら」
惠「凄い白かったし、布か何かの見間違いかしら」
塩見周子「お姉さん、こんばんはー」コンコン
塩見周子
とても白い肌をした女性。態度は飄々としている。
惠「!」
周子「びっくりした?」
惠「ええ。何回もびっくりさせないで」
周子「あははーごめんね」
惠「怪我はない?」
周子「しないしない」
惠「なんでこんな所に?」
周子「ぷらぷらしてたら暗くなっちゃってさー」
惠「この時間に歩いてたら、いつか轢かれるわよ。乗っていく?」
周子「ホント?やった。都内に行く?」
惠「ええ」
周子「お姉さんはどこまで行くの?」
惠「M市まで」
周子「ラッキー。近くじゃん、テキトーな所で降ろしてね」
惠「……本当?」
周子「本当だって。お邪魔しまーす」
惠「シートベルトしめてね」
周子「おー、もしかして、レースに使ってる?」
惠「少し前まではね」
周子「クールだねー、お姉さん」
惠「どうも」
周子「よろしくね、あたしは塩見周子」
惠「よろしく、塩見さん」
周子「お姉さんは?」
惠「伊集院惠よ」
周子「よろしくねー、めぐみん」
惠「めぐみん……」
周子「どしたの?」
惠「なんでもないわ。出発するわよ」
今度は、ままゆも仲良しだといいな。
5
某国道
周子「めぐみんは、なんでドライブしてたの?」
惠「少し気晴らしがしたかったからよ」
周子「ふーん」
惠「そっちこそ、一人で何してたの?」
周子「良い空気が吸いたくなって、ぷらぷらと」
惠「ここまではどうやって?」
周子「ふらりふらり、と」
惠「……バスかしら?」
周子「そうそう、バスだよ、バス」
惠「不思議な人ね」
周子「……めぐみんの方が不思議だよ?」
惠「なぜかしら?」
周子「いかした車で一人で夜道を走ってる」
惠「夜中に山道を歩いている人に言われたくないわ」
周子「あははー、そうだね」
惠「塩見さんは学生?」
周子「うーん、そうだね。めぐみんは大学生でしょ?」
惠「ええ、そうよ」
周子「やっぱり、賢そうだもん」
惠「そう見える?」
周子「うん。何学部?」
惠「工学部よ」
周子「へぇー、リケジョってやつ?」
惠「その言い方は嫌いよ。男女の違いが現象を変えないでしょう?」
周子「いいね、その言い方。そんな、めぐみんに聞くけど」
惠「なにかしら」
周子「こっくりさん、って知ってる?」
惠「知ってるわ。こっくりさんを呼び出すやつでしょ」
周子「そうそう。十円玉、鳥居、50音、はい、いいえが書かれた紙でやるあれ」
惠「なんでも質問に答えてくれるってやつね」
周子「やったことある?」
惠「ないわ。同じ小学校の生徒がやったことあるって言ってたけれど」
周子「信じてる?」
惠「何をかしら」
周子「こっくりさんで狐が呼び出せること」
惠「いいえ」
周子「でもさ、秘密に答えてくれるって、友達とか言ってたでしょ?」
惠「ええ。でも、秘密なら答えられるに決まってるじゃない」
周子「どういうこと?」
惠「参加者の誰かの秘密なら、答えられる人物がいる。本人よ」
周子「うん、それで?」
惠「秘密を持った人物は十円玉に触れて、動かせる。無意識にしろ、そうでないにしろ」
周子「あはは、そうだねー、めぐみんらしい」
惠「怪談じゃないわ」
周子「それじゃあ、狐憑きって知ってる?」
惠「こっくりさんの話とそれはセットじゃない」
周子「そうそう。こっくりさんに憑かれちゃう、ってやつ」
惠「そうね。一種の催眠であるから、そういう症状が出てもおかしくない」
周子「ふーん、頭ごなしには否定しないんだ」
惠「現実に起こっている以上、理由はあると思うわ。それだけ」
周子「……良かった」ボソッ
惠「なにか言った?」
周子「なんでもなーい」
惠「そう」
周子「話変わるけど、めぐみん、独り暮らし?」
惠「いいえ。実家は都内だから」
周子「そうなんだ。アタシは京都」
惠「へぇ」
周子「和菓子屋さんなんだよー」
惠「あら」
周子「美味しいから一度来てねー。これ、名刺」
惠「ありがとう」
周子「アタシは行けないからさ。こんななりだし」
惠「……?」
周子「放蕩娘だからさ、顔向け出来ないの」
惠「私もよく言われるわ。放浪癖とか」
周子「あはは、いいね、めぐみん一人旅似合いそうだもん」
惠「そんな娘でも心配してくれるわ。それが親心ってものよ」
周子「……」
惠「だから、帰っていいのよ。実家のお店、好きなんでしょう?」
周子「うん……でもね、帰れないんだ」
惠「……そう」
周子「ありがとう、めぐみん」
6
都内某公園前
惠「こんな所でいいの?」
周子「いいよ、家近くだから」
惠「そう。遅いから気をつけてね」
周子「ありがと。ねぇ、ひとつお願いをしていいかな」
惠「何かしら」
周子「こっくりさんの話したよね?」
惠「ええ」
周子「調べてみて」
惠「何を?」
周子「事件が起きてるはずだから」
惠「……?」
周子「狐憑き、きっとその言葉が関わってくるから」
惠「不思議なこと言うのね」
周子「お礼はするからさ」
惠「お礼って?」
周子「少しだけ守ってあげる」
惠「良く意味がわからないのだけれど」
周子「それじゃあね、めぐみん、元気でね」
惠「え、ええ。さようなら」
周子「お願いだよー」
7
翌日
SWOW部室
亜季「おはようございます!」
惠「おはよう、亜季ちゃん」
亜季「おや、一人でありますか?」
惠「まだ朝早いもの」
亜季「確かに。惠は何をしていたのですか?」
惠「ちょっと、ニュースを調べてたの」
亜季「ほうほう。新聞まで集めて、何かあったでありますか?」
惠「ちょっとね。亜季ちゃんは何をしに?」
亜季「何をしに来たわけでもないであります」
惠「早起きだものね」
亜季「ええ、大切なことでありますからな。惠もランニングを……」
惠「……」
亜季「どうしたでありますか?」
惠「これかしら。ねぇ、亜季ちゃん」
亜季「なんでありますか?」
惠「この事件、知ってる?」
亜季「ふむ、朝のニュースでちょっとだけやってたであります」
惠「高校生、二人が死亡か」
亜季「警察は親しい友人に話を聞いている、でありますか」
惠「事件と殺人両面での調査中」
亜季「痛ましいでありますな」
惠「そうね……」
亜季「何か、気になることでも?」
惠「……ねぇ、私は何でこの事件が気になるんだろう」
亜季「?」
惠「ううん、なんでもない」
亜季「そうでありますか」
惠「とりあえず、被害者と高校名くらいメモしておこうかしら」
8
SWOW部室
惠「……」ウロウロ
亜季「……惠」
惠「呼んだ?」
亜季「さっきから落ち着かないでありますな」
惠「そうかしら」
亜季「そんなに事件が気になってますか?」
惠「そういうわけじゃないけど」
久美子「おはよー」
亜季「おはようございます、久美子殿」
惠「おはよう」
久美子「惠ちゃんは何で難しい表情しながら立ってるの?」
惠「……理由はないけど」
久美子「そうそう、惠ちゃん、今日は車で来た?」
惠「ええ。SWOWの駐車場に置いてあるわ」
久美子「やっぱり惠ちゃんの車だよね」
亜季「何かありましたか?」
久美子「車に寄り掛かって待ってる人がいたのよね」
惠「どんな人?」
久美子「女の人、二十歳ぐらいかな」
惠「私を待ってるのかしら?」
久美子「んー。でも、ドクロのTシャツにイヤリングとかしてたから、知りあいじゃないかも」
惠「心あたりはないわ」
亜季「とりあえず、行ってみればわかるであります」
惠「そうね。ちょっと見てくる」
久美子「いってらっしゃい」
9
駐車場
松永涼「お、やっと来たか」
松永涼
ドクロの小物、革ジャンとロッキンな格好の女性。スポーツカーの隣に佇む姿も様になる。
惠「どちら様ですか」
涼「伊集院惠ってあんただろ?」
惠「……ええ」
涼「そう身構えんなって。アタシは松永涼、よろしく」
惠「何かご用ですか」
涼「頼みたいことがあってな」
惠「私に?」
涼「あんたに」
惠「頼まれるような人間じゃないわ」
涼「いいや、あんたに頼みたい」
惠「何故かしら?」
涼「あんた、狐憑きって知ってるか」
惠「……知ってるけれど」
涼「誰かの顔を思い出したみたいだな。どんなやつだ?」
惠「女の人よ」
涼「ん?女の子じゃないのか、黒髪の」
惠「言っている意味がわからないわ」
涼「こっちか……凄く白い肌の女だろ?」
惠「……ええ」
涼「ビンゴ。それで十分だ」
惠「飲みこめないんだけれど」
涼「そりゃそうだろ。何も話しちゃいないからさ」
惠「はぁ……?」
涼「そうだ、忘れてた、コーヒーやるよ。缶コーヒーだけどさ」
惠「……ありがとう」
涼「それで、本題なんだが」
惠「誰も聞くとは言ってないのだけれど」
涼「コーヒー分だけは聞いてもらうさ。次の質問に、はい、か、いいえ、で答えてくれ」
惠「まぁ、いいわ」
涼「村松さくら、土屋亜子」
惠「え?」
涼「この名前、知ってるだろ?」
惠「え、ええ」
涼「N高校は知ってるか?」
惠「知ってるわ。その二人の高校よ」
涼「そうだな。行った事はあるか?」
惠「ないわ」
涼「オーケー。アタシのお願いは二つだ」
惠「……」
涼「一つ、N高校に行ってくれ。二つ、二人が亡くなった事件を調べてくれ」
惠「……」
涼「どうだ?」
惠「気になってはいるわ。でも、なんだろう……」
涼「タイミングが良すぎる、って?」
惠「そう、その通り」
涼「理由を聞きたいか?」
惠「ええ」
涼「やめておきな。全部、偶然の方がわかりやすいだろ?」
惠「……」
涼「それで、受けてくれるか?」
惠「一つだけ聞かせて」
涼「なんだ?」
惠「あなたが行けばいいじゃない。行かない理由があるの?」
涼「そりゃ、アタシも芳乃も入れなくて、困ってるからに決まってんだろ」
惠「入れない?」
涼「そういうこと。よろしく頼むよ、伊集院惠サン?」ポン
惠「待って」
涼「じゃあな。警察の青木ってやつに話をつけてあるから、使ってくれ」
惠「……なんだったのかしら」
惠「……」
惠「行くしかないわよね」
10
SWOW部室
亜季「解決したでありますか?」
惠「ええ」
久美子「知り合いだった?」
惠「違った」
久美子「そう」
惠「少し出かけてくるわ」
久美子「いってらっしゃーい」
亜季「気をつけるでありますよ」
11
N高校前
惠「来て見たはいいけれど、入れないわよね……」
日野茜「む!むむっ!どちら様でありますか!?」
日野茜
交番勤務巡査。応援要請を受けて、N高校周りの警備を担当している
惠「怪しい者じゃないわ」
茜「いいえ、怪しいです!平日の真昼間に高校の様子を探ってるなんて……、はっ、まさか!」
惠「私は……」
茜「今回の事件解決に協力してくれる人ではありませんか!?」
惠「えっと……」
茜「そうなら早く言ってくれればいいのに!青木さんが待ってますよ!さ、こっちへ!」
惠「え、ええ」
茜「申し遅れました!本官は日野茜巡査であります!ご用はなんなりとお申し付けください!」
惠「よ、よろしく」
茜「西門から入りましょう。こちらです」
惠「なんだろう……、この感覚」
茜「どうかしましたか?」
惠「気のせいよね、行きましょう」
12
N高校校庭
青木「おお、来たか」
惠「えっと、青木さんですか?」
青木「青木警部補だ、よろしく頼む」
惠「伊集院惠です、よろしくお願いします」
青木「さっそくだが、現場の方に行くとしよう」
惠「一つ、お聞きしても?」
青木「なんだ?」
惠「私が何者かわかってます?」
青木「何を言ってるんだ。身元も知らない人間を現場にいれるわけないだろう」
惠「所属を言ってもらっても良いですか?」
青木「そこまでかしこまらなくていい。さ、こっちだ」
惠「……なんなのかしら」
13
N高校校庭端
惠「これは……」
青木「どこまで説明が必要だ?」
惠「一通りお願いします」
青木「了解だ。見ての通り、ここが事件の現場だ」
惠「遺体は……」
青木「警察へと移送済みだ」
惠「いえ、その、相当損傷が酷かったのでは……」
青木「……ああ、そうだ」
惠「二人とも、ですか?」
青木「いいや。一人だけが全身に傷を負っていた。木の隣を見てくれ」
惠「ここに被害者が?」
青木「被害者の一人、村松さくらが倒れていたのはこの場所だ」
村松さくら
事件の被害者。N高校の学生。天真爛漫な明るい性格だったという。
惠「……死因は」
青木「窒息死、首を絞められて殺害された」
惠「凶器は見つかっているのですか」
青木「いいや。何で首を絞められたのか皆目見当もつかない」
惠「それじゃ、血痕と遺留物は……」
青木「……村松さくらじゃない、もう一人の被害者のものだ」
惠「何が、あったの」
青木「もう一人の被害者は土屋亜子」
土屋亜子
事件の被害者。N高校の学生。遺体の損傷がひどく、メディアにすら公開されていない。
惠「死因は」
青木「失血死だ」
惠「失血死?」
青木「死因となった首の大動脈を筆頭に、全身に切り傷だらけだった」
惠「……」
青木「血液があたりに散乱してることから、派手にやったようだな」
惠「そこに落ちてた細長い遺留物は?」
青木「……被害者の腕が落ちていた場所だ」
惠「……え?」
青木「土屋亜子の遺体は損傷がひどかった。体の一部は切断されていて、散乱していた」
惠「なんのために、そんなことを……」
青木「わからない」
惠「どうして被害者にそこまで差が出ているのかしら」
青木「どちらかが本当の目的で片方は目撃者だった、そんな仮定もあるが、仔細は不明だ」
惠「犯行時刻はいつ?」
青木「一昨日の深夜。早朝に来た用務員が二人の遺体を発見した」
惠「他に目撃者は?」
青木「いない、と言ってもいいのか」
惠「どういうことかしら」
青木「目撃者はいないが、生存者がいる」
惠「詳しく教えてください」
青木「事件現場から少し離れた場所で、倒れているのが発見されている」
惠「誰でしょう?」
青木「大石泉という女生徒だ。二人とは仲が良かったらしい」
惠「取り調べ中ですか」
青木「そうだ。今のところ、彼女の証言に頼るにしか他ない」
惠「彼女は何か言ってるのですか」
青木「……いいや」
惠「黙っている、と」
青木「そういうことだ」
惠「……何か、言ってませんでしたか」
青木「例えば、どんなことかな?」
惠「狐とか」
青木「キツネ?そんなことは言ってなかったはずだが」
惠「大石泉さんに、会えますか」
青木「ああ。取り計らおう」
惠「よろしくお願いします」
14
N高校会議室前
青木「氏家君」
氏家むつみ「お疲れ様です、警部補」
氏家むつみ
交番勤務巡査。協力要請を受けて、日野茜と共に刑事課へ調査協力をしている。
青木「御苦労。様子はどうだ?」
むつみ「相変わらずです」
青木「ふむ、困ったな」
むつみ「そちらの方はどなたでしょうか?」
青木「伊集院惠さんだ。捜査に協力してくれる」
むつみ「そうでしたか、氏家むつみ巡査であります」
惠「伊集院です、よろしくお願いします」
青木「巡査部長の調子はどうだ?」
むつみ「いつも通りだと思いますが、相手がどうにも話したがらないので……」
青木「ふむ。中断して、伊集院さんを中に入れてもらえるか」
むつみ「了解しました」
青木「私は一旦署に戻る。ここは任せたぞ」
むつみ「はい」
青木「伊集院さん、よろしくお願いします」
惠「ええ、努力します」
15
N高校会議室前
惠「出てきた」
むつみ「こちら、伊集院惠さんです、巡査部長」
惠「……あれ?」
青木「お待ちしてました!第一課の青木巡査部長であります」
惠「あぁ、そう……青木さん、なのね」
青木「そうですが、何か?」
惠「いいえ」
青木「さっそくですが、大石泉さんにお会いしますか」
惠「ええ。ここまでに、何かわかったことは?」
青木「いいえ……何も話そうとはしませんので。一昨日の夜に家を出たことだけは認めたのですが」
惠「……そう」
青木「こちらへどうぞ」
16
N高校会議室
大石泉「……」
大石泉
N高校の生徒。村松さくら、土屋亜子とは親しかった。事件以降、塞ぎこんでいる。
惠「こんにちは」
泉「……」プイ
惠「……」
青木「こんな感じなんです……」
惠「そうみたいね」
青木「何か質問していただけますか?」
惠「ええ。名前を教えてくれる?」
泉「……」
惠「お願い」
泉「……大石泉」
惠「ありがとう。一昨日は何があったの?」
泉「……」
惠「……」
泉「……」
惠「話したくはないわよね。親しい友人を失ったんだから」
泉「……」
惠「悲しい?」
泉「……さぁ」
惠「わかったわ。亜里沙ちゃんのマネごとぐらい出来るかと思ったけど、私には合わないわ」
青木「どういうことですか?」
惠「駆け引きとか苦手みたい。だから、直接聞くわ」
泉「……」
惠「狐憑きって、知ってるかしら?」
泉「な、なんで」
惠「……知っているのね」
泉「し、知らない、私、そんなの知らないから」
惠「3人で何かしたのかしら」
泉「何もしてない、私達は……」
惠「こっくりさん、とか」
泉「……!」ギッ
惠「そんなに睨まないで」
泉「そうだよ、私達はこっくりさんをしてた」
青木「こっくりさん、ってあの十円玉でやるあれ?」
惠「そうよ。やったのは、いつ?」
泉「……」
惠「一昨日の夜ね」
泉「……はい」
青木「それなら、事件の直前まで彼女達と一緒にいたの?」
泉「……」コクリ
惠「何があったの?」
泉「……わからない」
惠「何でもいいから思い出せないの?」
泉「……違う」
青木「どうしたの……?」
泉「違う、私は殺してなんて、そんなことできるわけがない!」
惠「落ち着いて」
泉「違う、違う、違う、私じゃない、私じゃない、私は狐憑きなんかじゃない!」
青木「大石さん!しっかりして」
惠「氏家さん!」
むつみ「はい!」
惠「誰か、先生を呼んできて!」
むつみ「了解しました!」タタタ……
泉「さくらぁ、あこぉ、どうして、どうして……」
惠「これ以上はやめましょう」
青木「そうしましょう、この様子では……」
泉「ああ、やめて……」
惠「狐憑き、か」
17
N高校会議室前
青木「大石さんの様子は?」
和久井留美「だいぶ落ち着きました」
和久井留美
N高校教師。大石泉らのクラスで授業も受け持っている。
青木「良かった」
留美「警察さん、彼女もまだ高校生です」
青木「わかってます。今日はこれ以上は聞きません」
留美「そうしてちょうだい。あなたもよ、誰だか知らないけど」
惠「わかりました」
留美「しばらくしたら帰らせます。それでいいですね?」
青木「はい」
留美「深入りはしないように。生徒達の気持ちも考えてください」
惠「ええ」
留美「それでは、失礼します」
惠「……参ったわね」
青木「学校側は誰もあの感じなんです」
惠「非協力的ってこと?」
青木「そうです。騒ぎにしたくない気持ちはわかるのですが」
惠「でも、これじゃ進まない」
青木「そうですね……」
惠「生徒から話を聞いてみますか?」
青木「そうしましょう。下校時刻も近いですから、その後に」
惠「わかりました」
青木「日野さんと氏家さんにも協力してもらいましょう」
惠「ええ。私も一人、応援を呼びます」
18
N高校西門前
惠「亜季ちゃん!」
亜季「お疲れ様であります。どのような感じでありますか?」
惠「正直、わけがわからないというのが感想」
亜季「目撃者が話さないのでは、厳しいですなぁ」
惠「これから、残ってる生徒に話を聞くから、ついて来てくれる?」
亜季「了解であります」
惠「行きましょう」
亜季「ええ」
惠「……つかぬこと聞くけど」
亜季「なんでありますか」
惠「何か、感じない?」
亜季「?」
惠「ごめん、なんでもないわ。忘れて」
亜季「うーむ、ま、いいであります」
19
N高校視聴覚室
速水奏「あの3人について知っていること、ですか?」
速水奏
視聴覚室で資料整理をしていた女生徒。通りすがりの女生徒曰く、視聴覚室のお姫様どす、とのこと。
惠「ええ」
奏「仲が良かったわ。同じ中学校で昔から仲が良かったみたい」
亜季「そうでありましたか」
奏「だから、とっても辛い思いをしてるんじゃないかしら」
惠「そうでしょうね。あなたとも仲が良かった?」
奏「うーん、そうと言えばそうかな」
亜季「ここで何をしているのでありますか?」
奏「映像資料室なんだけど、古い映画とかあって、使わせてもらってる」
惠「3人は来ていたの?」
奏「ええ。部活には入ってないけど、3人で遊んでたみたいだから。何回かここで映画を見たかな」
亜季「最近、気になったことはありませんか?」
奏「ない」
惠「ケンカしていたとか」
奏「ないない。一昨日、その、亡くなる日だって仲良く話してた」
亜季「会話の内容は聞きましたか?」
奏「いいえ、私はここで見かけただけだから」
惠「どこから?」
奏「そこの窓」
亜季「ここでありますな。柵と植木が下に見えるであります」
奏「その向こうは道路だから、そこを仲良く歩いてるのを見かけただけ」
亜季「うむ、ここからなら十分に見えるであります」
惠「いつもと変わった様子はなかった、と?」
奏「そういうこと」
惠「変なこと聞くけれど、こっくりさん、ってやったことある?」
奏「こっくりさん?自分ではないかな、それがどうかした?」
惠「3人がやってたとか」
奏「そうなの?」
惠「わからない。忘れていいわ」
奏「でも……こんなことになるなんて、信じられない」
亜季「そうでありますな……」
惠「犯人を見つけてみせるわ」
奏「よろしくお願いします」
20
N高校体育館
惠「一部は工事中みたいね」
亜季「天井の補修工事をしているようでありますな」
惠「あれ、クレーンかしら」
亜季「資材運搬用みたいですな」
惠「荷重40キロで自動停止、か。人を運ぶためのものではなさそうね」
亜季「それより、部活はやっていないのでしょうか?」
惠「あんなことがあったばかりだから、部活はお休みみたいよ」
亜季「そうなのでありますか」
惠「残ってはいけないとは言われていないようね、そこの二人に話を聞いてみましょう」
亜季「二人とも、ちょっといいでありますか?」
喜多見柚「えっ、なにー?」
喜多見柚
N高校の生徒。バドミントンが趣味。制服の上からパーカー着用。
惠「話を聞いてもいいかしら?」
柚「お姉さん達、警察の人?」
亜季「そんなものであります」
柚「ふーん、いいよっ。ねっ、穂乃香さん!」
綾瀬穂乃香「は、はい。はぁ……」
綾瀬穂乃香
N高校の生徒。バレエをたしなむ。体力に自信はあったが、柚の相手は想像以上に辛かった模様。
惠「大丈夫?」
穂乃香「はい……でも、少しだけ落ち着かせてください」
亜季「バドミントンは体力勝負でありますからなぁ」
柚「そう?楽しいよ」
亜季「慣れればそうでありますな」
惠「本題に入ってもいい?」
柚「うん。何が聞きたいの?」
惠「事件が起こったのは知ってるかしら」
柚「もちろん、テレビとかも来てたよね、穂乃香さん?」
穂乃香「そうですね。あの、詳しい事を知ってますか、教えてくれないので……」
柚「そうなんだよね、先生達に聞いても答えてくれないし」
亜季「それは……」
惠「聞かない方がいいわ。あなた達のためよ」
柚「……どういうこと?」
惠「気分が良くなる話ではないから。たとえ興味本位でも」
穂乃香「……わかりました」
惠「ありがとう。何か、二人の事について知ってるかしら」
柚「良くは知らないかな。泉ちゃんと仲がいいよね」
穂乃香「私も詳しくは知らないので、申し訳ないです」
亜季「いえいえ、謝られるようなことでは」
惠「それじゃ、狐憑きって知ってる?」
柚「キツネツキ……?」
穂乃香「なんでしょうか?」
惠「ごめん、忘れて。それじゃ、こっくりさんはやったことある?」
穂乃香「ないですね。柚さんは?」
柚「……ううん、ないかな」
亜季「そうでありますか。ここ最近、気になったことはあるでしょうか?」
柚「うーん、特にないんだよね」
穂乃香「穏やかそのものでしたから」
惠「そう」
亜季「お邪魔したであります。暗くならないうちに帰るでありますよ」
柚「はーい」
21
N高校2-B教室
佐久間まゆ「オマジナイ、ってお好きですかぁ?」
佐久間まゆ
N高校の生徒。印象的なたれ目はどこか遠くを見つめている。
惠「オマジナイ?」
亜季「その、花瓶を移動してるのもオマジナイでありますか?」
まゆ「こうやって花瓶の下に名前を書いた紙を入れるんですよぉ。お二人も、叶えたいこと、ありますよね?」
惠「ないことはないけど」
まゆ「そうですよねぇ。私も、とっても叶えたいことがあるんです」
亜季「なんでありますか」
まゆ「それは……うふふ、秘密です」
亜季「愛おしそうに花瓶を撫で始めたであります」
惠「恋の話かしら」
まゆ「やだぁ、なんでわかるんですかぁ」
惠「なんとなく」
亜季「わかるであります」
まゆ「うふふ、届くといいなぁ、まゆの気持ち……」
亜季「……直接伝えろ、というべきでありますか」ヒソヒソ
惠「……それは野暮よ」ヒソヒソ
まゆ「よいしょ、っと♪答えてくれるかな……」
惠「オマジナイ、つながりだけど、こっくりさんって知ってるかしら?」
まゆ「知ってますよぉ。こっくりさんが質問に答えてくれるんですよねぇ」
亜季「やったことはありますか?」
まゆ「はい。でも、知りたいことは答えてくれなかった……」
惠「そう」
まゆ「オマジナイならもっとロマンテッィクがいいなぁ……」
亜季「うむうむ、それでこそ女の子であります」
惠「事件のことは知ってる?」
まゆ「さくらちゃんと亜子ちゃんですね」
惠「知ってることがあったら、教えて」
まゆ「そうですねぇ、あまり知らないです。でも……」
亜季「でも?」
まゆ「こっくりさんに興味があったみたいですねぇ」
惠「本当?」
まゆ「私、聞いたんです、狐憑きがどうとか、図書館で話していたのを」
亜季「聞いただけでありますか?」
まゆ「ウイジャ盤の書き方は教えてあげました」
惠「ウイジャ盤?」
まゆ「あの、紙の方のことですよぉ」
亜季「もしかして、彼女達が使ったものは残ってるのではないでありましょうか」
まゆ「ないと思いますよぉ。終わったら燃やすのがルールですから」
惠「証拠はないのね。何故、こっくりさんに興味があったかは知ってる?」
まゆ「いいえ。そういうお年頃だから、かな」
亜季「ご協力、感謝するであります」
惠「気をつけて帰るのよ」
まゆ「はぁい」
22
N高校3-A教室
杉坂海「ん、ウチに話が聞きたいのか?」
杉坂海
N高校の生徒。見かけよりも面倒見の良い性格で、今日もクラスのためにお仕事中。
亜季「そうであります」
海「別に面白い事はないけど」
惠「事件について知ってる?」
海「事件、ああ、あれ……」
亜季「なんでもいいであります」
海「ごめん、はっきり言うと知らないんだ」
惠「そう。それじゃ、狐憑きって知ってる?」
海「なんだ、それ?」
惠「知らないわよね。こっくりさんは?」
海「こっくりさんは知ってる」
惠「この高校で話題になってたりしてた?」
海「ううん、そんなことないな」
亜季「そうでありますか」
海「だって、この高校だよ?」
惠「どういうことかしら?」
海「何て言うか、奥ゆかしいとかいうか古風というか」
亜季「真面目?」
海「うーんと、そうじゃなくて」
惠「保守的?」
海「そんな感じ。そんなさ、こっくりさん、みたいなこと流行らないんだよ」
亜季「なるほど。不埒なことは嫌いな校風なのでありますな」
海「そうそう。奏とか、別に不良でもないのに、この学校だと不真面目扱いだもんね」
亜季「奏、ああ、視聴覚室の」
惠「事件に巻き込まれた3人もそんな扱いだったのかしら」
海「詳しくは知らないけど、そうなのかもしれない。いや、そういうふうにして、終わらせたがってる」
亜季「酷い話であります」
海「あ!もうこんな時間じゃないか」
惠「どうしたの?」
海「弟達が腹すかせちゃう、それじゃ!」
惠「気をつけて」
亜季「お堅い校風でありますか、難儀でありますな」
惠「難しかろうとやらなければ始まらないわ」
亜季「ええ」
23
N高校1-B教室
水本ゆかり「ねぇ、響子さん」
五十嵐響子「なに、ゆかりちゃん」
水本ゆかり
N高校1-Bの生徒。穏やかな口調の女生徒。死んだ二人とはクラスメイト。
五十嵐響子
N高校1-Bの生徒。隠しきれない女子力の持ち主。
ゆかり「お二人が事件のお話を聞きたいそうですよ」
響子「事件って、あのこと?」
ゆかり「村松さんと」
響子「土屋さんのことだね」
惠「そうよ。何でも良いから、教えてくれないかしら」
ゆかり「どうしましょうか?」
響子「どうする?」
亜季「お願いするであります」
ゆかり「お話しましょうか」
響子「そうだね」
ゆかり「とはいえ、お話できることなんてないのですけれど」
響子「ごめんなさい」
惠「それなら、クラスでの様子を教えてくれないかしら」
ゆかり「お二人のですか?」
響子「3人のことだと思うよ」
ゆかり「そうなのですか?」
亜季「ええ」
響子「いつも仲が良かったよ。それこそ、事件の前まで」
惠「あなた達は仲が良かった?」
ゆかり「仲……悪くはなかったと思います」
響子「明るくて面白い人達だったのに」
亜季「……」
惠「こっくりさん、って知ってる?」
ゆかり「知ってはいます。でも」
響子「知らないということにしてくださいね」
ゆかり「危ないことなんて、この高校には不釣り合いですから」
惠「例えば、狐に憑かれるとか」
響子「詳しい事は知らないったら、知らないです」
ゆかり「その通りです、響子さん」
亜季「何か、あるのでありますか」
響子「本当に何もないです」
惠「3人がこっくりさんをやっていたという話は?」
ゆかり「もしそうなら、自業自得かもしれませんね」
亜季「えっ……?」
響子「悲しいけれど、終わっちゃったことだから」
ゆかり「引きずってばかりもいられません」
響子「明日から元通りに」
ゆかり「平穏な学生生活が帰って来ます」
惠「……クラスメイトが死んだのよ。このままでいいの?」
響子「……」
ゆかり「……」
響子「そうやって、悲しんでる様子を見せ続けないといけないんですか?」
ゆかり「……そういう態度と絵が欲しいだけですか」
響子「いくらでもしてみせますよ、そのくらい」
ゆかり「泣いてみせましょうか」
響子「それでいいでしょ?」
惠「ごめんなさい、そう言うことを言ったんじゃないわ」
ゆかり「なら、何が知りたいのですか」
惠「本当のこと、それだけよ」
ガララ
小早川紗枝「あらぁ、はよう帰れへんとあきまへんよ?」
小早川紗枝
N高校1-Bの女生徒。今年の春に京都から引っ越してきたはんなり系。
ゆかり「そちらこそ。何をしていたのですか」
紗枝「せんせに呼ばれてたんや。遅くならはったなぁ」
亜季「確か、視聴覚室に行く時に会った……」
紗枝「おや、お二人はんはがんばっとりますなぁ」
惠「あなたのお名前は?」
紗枝「小早川紗枝、と申します」
亜季「大和亜季であります」
惠「伊集院惠よ」
紗枝「よろしゅう。水本はんらは、なんを話しはったんどすか?」
ゆかり「特にはなにも。帰りましょうか、響子さん」
響子「そうだね、帰ろうか。バイバイ、紗枝ちゃん」
紗枝「また明日」
惠「気をつけて」
亜季「小早川殿にもお話を聞いてもよろしいでしょうか」
紗枝「ええよ」
惠「あなたもこのクラスの生徒?」
紗枝「ええ」
惠「3人について、何か変わったことは?」
紗枝「あらしまへんなぁ」
亜季「こっくりさん、狐憑き、そんな話をしておりませんでしたか?」
紗枝「知りまへんなぁ。おかると、っていいはるもの、好きやったとは思えへんし」
惠「あなたはやったことがあるの?」
紗枝「何をどす?」
惠「こっくりさん」
紗枝「こっくりさんなぁ、昔、京にいた頃にやったことがありますなぁ」
惠「どうだった?」
紗枝「何もあらへんよ。十円玉が動きもせえへん」
亜季「そんなものでありますか」
紗枝「ええ、あないなもん嘘っぱちどす」
惠「ま、そんなものでしょうね」
紗枝「それは秘密にしておくれやす」
惠「わかってるわ」
紗枝「つかぬこと聞きはりますけど、お二人、血液型は何型どすか?」
亜季「血液型?」
紗枝「そうどす」
惠「二人ともO型よ。それがどうかしたのかしら?」
紗枝「そうどすか。思った通りどすなぁ」
亜季「何が、でありますか?」
紗枝「うち、O型の人は嫌いなんどす」
惠「は?」
紗枝「残念やわ」
亜季「……」
紗枝「気はあいそないなぁ。帰ります」
亜季「え、ええ」
紗枝「そんなら、失礼いたします」
惠「気を付けて」
亜季「……いきなり血液型だけで嫌いと言われると困るでありますな」
惠「落ち着いてはいたけど、高校生だもの。仕方がないわ」
亜季「うーむ」
惠「さて、後は……」
亜季「職員室でありましょうか」
惠「気は乗らないけど、行くとしましょう」
24
N高校職員室
三船美優「……なんでしょうか」
三船美優
N高校1-B担任。つまり、被害者2人の担任。既に声が震えている。
惠「お話をお聞きしてもよいでしょうか」
美優「事件のこと、ですか……?」
惠「はい」
美優「……」
惠「どうかしましたか?」
美優「私のせいなんでしょうか……」
亜季「そんなことは……」
美優「いいえ、誰もがそう思ってるんです……」
惠「違うわ」
美優「違いません……」
惠「……何かありましたか」
美優「……私は担任なのに、何も知らなかった」
惠「二人のこと?」
美優「何でも、です。こんな私は……」
亜季「やめるであります!」
美優「……教師失格です」
惠「そう自分を卑下しなくても……」
美優「だって、そうでしょう!」
亜季「わっ」
警察関係が一瞬なにかわからんかったw
トレーナーさんが一家で出演するドラマとはいったい……
美優「全ての責任は私に……」
亜季「……どうするでありますか」
惠「それでも聞くわ。クラスで変わった事は?」
美優「ありません……あったとしても気づけません」
惠「二人については?」
美優「ただ仲が良いとしか……」
亜季「こっくりさん、は知っておりますか」
美優「……いいえ」
惠「何か事件につながるようなことは」
美優「警察にも言いました……知りません」
亜季「誰か犯人に心あたりは……」
留美「騒がしいかと思えば」
美優「和久井先生……」
留美「大石さんは先ほど帰らせました」
美優「……ありがとうございます」
留美「それで、あなた達は?」
惠「少し話を聞いていただけです」
留美「これ以上、騒ぎを大きくしないでくれるかしら」
亜季「しかし、何もわかっていないであります」
留美「警察でもないあなた達が事を大きくされても困るのよ。いいですね?」
惠「……ええ」
留美「一刻も早く、元に戻ることが大切です。お引き取りください。いいですね、三船先生?」
美優「……はい」
留美「わかったかしら」
惠「ええ」
留美「……どうして、美優だけが責められるの。おかしいじゃない」
亜季「……」
留美「誰か一人、槍玉に挙げて、それで憂さを晴らしてるように見えるわ。そんなことに、使わせない」
惠「……わかりました。失礼します」
亜季「惠、待つであります」
新作キタコレ
前作とても楽しめたから今作も期待してます
25
N高校空き教室
惠「あなたは帰らないの?」
松尾千鶴「部活じゃないですから」
松尾千鶴
N高校の生徒。空き教室にて、ジャージ姿で書道をしている。
亜季「書道部のように見えますが」
千鶴「同好会です、ただの……去年から部活じゃなくなったので」
惠「そう。どうして?」
千鶴「知ってどうするんですか」
惠「何となく気になっただけよ」
千鶴「聞いたって仕方がない……部員が二人だけになったので」
亜季「そうでありましたか」
千鶴「3年生の部長さんは、受験だからってもう来ないし……私が頑張らないと」
惠「それでこんな時間まで?」
千鶴「……結果を出せば、きっと」
惠「そうね。だから、頑張ってるの?」
千鶴「そういうわけでは……そういうわけじゃ……」
惠「どうしたの?」
千鶴「これで、部活に戻れると思ったのに……ハッ、なんでもありません!」
亜季「ん?部活になる算段があったでありますか?」
千鶴「な、なんでもないんです、本当に……」
惠「……話してみて。石コロとか占い師だと思って」
千鶴「……話した方が楽になるかな」
亜季「そうかもしれません。無理強いはしないであります」
千鶴「人に言わないで、ね?」
惠「約束する」
千鶴「さくらちゃんと亜子ちゃんが亡くなって、私は悲しいです……でも」
亜季「でも?」
千鶴「本当に悲しんでるのか、わからないんです……」
惠「どういうこと?」
千鶴「書道同好会に入ってもらえることになってたのに……なんで」
亜季「本当に悼んでいるのか、部活に出来ないことが悲しいのかわからない、と?」
千鶴「……そう」
惠「どちらでもいいわ。どうにしろ、生きていてほしかったことは変わらない、そうでしょう?」
千鶴「そうですね……ありがとうございます」
亜季「3人ともでありますか?」
千鶴「はい……」
惠「他にも部員候補はいるの?」
千鶴「ええっと、小早川さんが部にする時には名前は貸してくれるって。手習いを書いたくらいで、ほとんど活動してくれないのが……残念です」
亜季「彼女らのクラスメイトでありますな」
千鶴「あと、3年生の速水さんもですね。あんなに綺麗な人が助けてくれるなんて」
亜季「うむ、良い人柄でありましたからな」
千鶴「速水さんは、書道はしてくれないんですけどね……」
惠「何か、事件に関することは知ってる?」
千鶴「特には……」
惠「こっくりさん、って知ってる?」
千鶴「へ……こっくりさん?」
亜季「何か知ってるでありますか」
千鶴「まさか……あの半紙貰って行ったのって」
亜季「半紙でありますか?」
千鶴「まさか、こっくりさんのためじゃ……」
惠「半紙を使うの?」
亜季「何となく和紙を使うイメージがありますな」
千鶴「こっくりさんの呪い……そんなはずは……」
惠「3人は、こっくりさんの話をしてた?」
千鶴「してた……もしかして、夜の学校にいたのも」
惠「そうかもしれないわ」
千鶴「止めれば良かった……こんなことになるなら」
亜季「しかし」
惠「こっくりさんの呪いとかではないわ」
千鶴「本当……?」
惠「わからないことが多すぎるから、そう見えてしまうかもしれないけれど」
千鶴「……何があったんだろう」
亜季「調べてみるであります」
惠「何でも思い出したことがあったら、言ってね」
千鶴「わかりました……よろしくお願いします」
26
N高校駐車場
茜「伊集院さん!」
惠「日野巡査、それに氏家巡査も」
むつみ「お帰りですか?」
惠「ええ、とりあえずは」
亜季「先生方の目が冷たいでありますから」
むつみ「やはり、そうですか……」
茜「帰る前にこちらからお伝えしたいことがあるんです」
惠「なにかしら?」
むつみ「狐憑き、という言葉を知っている人の中で、同一人物が出てきました」
惠「同一人物?」
茜「はっきりしたわけではありませんが、そうだと思われます。何人かの生徒が、同じ女性から狐憑きを知っているか、と尋ねられております」
亜季「どんな人でありますか?」
むつみ「名前はわかりませんが、凄く肌の白い女の人らしいです」
惠「……年齢はどれくらい?」
むつみ「二十歳ぐらいだと言っています」
惠「どこで?」
茜「学校から離れてるところです」
むつみ「狐憑きに気をつけるように言うだけ言って、去っていくようです」
惠「……わざわざありがとう」
亜季「?」
茜「いえいえ、どういたしまして。本日はお疲れ様でした!」
むつみ「お疲れ様でした」
惠「お疲れ様」
亜季「お疲れ様であります」
27
車内
亜季「惠」
惠「なに?」
亜季「何か、隠しておりませんか」
惠「ないけど。どうかした?」
亜季「なんでもないであります」
惠「変な亜季ちゃん」
亜季「そんなことより、夕ご飯はどうしますか?」
惠「そうね、楊さんのお店にでも行きましょうか」
亜季「良い提案であります」
惠「あそこも高校生の娘さんがいるわよね」
亜季「ええ」
惠「気をつけるように言っておきましょう」
亜季「そうでありますな」
28
幕間
こっくりさん、こっくりさん、おいでくださいませ……
はい
た・す・け・て
……
ど・う・す・れ・ば・い・い
し
ね
し・ね・し・ね・し・ね・し・ね・し・ね・し・ね・し・ね
ししししししししし……
幕間 了
続きは明日投下します
それでは、また明日
乙
先が気になるわ
前作読むとするか
これはいいるーみゆ!
1の人選しゅきぃ
29
翌日
SWOW部室
時子「恵磨」
恵磨「なに?」
時子「なんで、私達はオセロをしてるのかしら」
恵磨「なんでって、さっきの通りじゃん?」
時子「わかってるわよ。私達は部室に来た」
恵磨「惠ちゃんと亜季ちゃんがオセロをしてた」
時子「惠のケータイ電話がなった」
恵磨「お湯も沸いた」
時子「そして、二人はお茶道具とオセロを私達に預けて出て行った」
恵磨「なんだったんだろ?」
時子「さぁ?」ズズー
恵磨「帰ってきたら聞けばいいよね」
時子「そうね」
恵磨「おし!ここだぁ!」
時子「むっ……」
恵磨「そんなにオセロを睨まないでよ」
時子「睨んでないわ」
恵磨「眉間にしわ寄せると、ほんと怖いよ、時子ちゃん」
時子「亜季が残して行ったまま続けたのが悪いのよ。仕切り直すわよ」
恵磨「おっけー」
30
S大学付属病院駐車場
S大学付属病院
名の通りS大学の付属病院。法医学科もある。
青木「お待ちしてました!」
惠「えっと……」
青木「青木巡査です!よろしくお願いします」
亜季「……増えたであります」
惠「それで、本当なの?」
青木「本当です。詳しくは中で、お姉ちゃん……じゃなかった、警部が待ってます!」
惠「行きましょう」
青木「こちらです」
31
慶「お姉ちゃん!」
麗「お姉ちゃんではなく、警部と呼べと言ったろう」
慶「おっとっと、そうだった、警部!」
麗「なんだ?」
慶「伊集院さんがおつきになりました」
麗「御苦労。巡査はN高校に向かってくれ」
慶「了解です!」タッタッタ……
32
青木「まったく、世話の焼ける。よろしく、私は……」
惠「青木警部ですか?」
青木「そうだ。刑事課警部の青木だ。よろしく頼む」
亜季「よろしくであります」
惠「それで、どうなったの?」
青木「救急車到着時には既に息絶えていたよ」
亜季「大石泉殿で間違いないでありますか」
青木「間違いない。亡くなったのは、N高校の大石泉」
惠「もっとも真実に近い人物が亡くなった」
青木「そう、彼女は重要参考人だった」
亜季「また、殺人でありますか」
青木「いいや、自殺だ」
惠「自殺……?」
青木「自宅浴場で倒れている所を、早朝母親が発見した」
亜季「調査はどの程度進んでおりますか?」
青木「死因の判定は出来てる。失血死だ」
惠「失血死、浴場……」
青木「手首を包丁で切って、残り湯にその手を浸していた。風呂桶は血だまりだった」
亜季「……なんと」
惠「……だけど、それで失血死するほど、流血するのかしら」
青木「薬物の成分が出てるんだ。Z・O・S・U・M、ゾースムって知っているか?」
亜季「聞いたことがありますな。頭痛薬ではありませんでしたか?」
青木「その通りだ。種類は色々とあるが、その中でゾースムI4H2という薬物が過剰に出てる」
惠「その場合、どうなるのかしら?」
亜季「まさか、自殺のために過剰摂取した……?」
青木「いや、過剰摂取したとしても死なんだろう。強い薬じゃない。問題は副作用だ」
惠「副作用?」
青木「血小板が減る」
亜季「そんな話は聞いたことがありますな。怪我の治りが遅くなるとか、ただのウワサだと思ってましたが」
惠「大石泉は、わかっていて飲んだ」
青木「ラストドクターはそう見ている」
惠「でも、自殺なのかしら」
青木「確かにな。タイミングが良すぎるとも言える。本格的に警察が調査を開始したと同時にこれだ」
亜季「殺人の可能性もあると?」
青木「いや……ないと思う」
惠「いいえ、おかしいわ」
青木「大石泉は出てないんだ、帰宅後一歩も」
惠「人の出入りは」
青木「それもない。警察は一応保護対象として警備してたんだ」
惠「薬の出所は」
青木「彼女が薬局で購入している。数週間前だ。普段から常備していたようだ」
惠「なんのため?」
青木「頭痛とか生理痛のためのようだな。そこまで使用頻度は多くない」
亜季「傷はどうでありましたか」
青木「左手に傷がある。外側から内側に向けた傷だ。わかるな、自分で持って自分で引いてつけた傷だ。それに、だ」
惠「なにかしら」
青木「証拠と遺書が出た」
亜季「本当でありますか!?」
惠「見せていただけるかしら」
プルルル……
青木「まずは、これだ……ちょっと待ってくれ、電話だ」
惠「通話可能場所は廊下の端よ」
青木「ありがとう。待っていたまえ」
惠「……」
亜季「こんなことになるとは……大石泉殿が犯人だったということでありましょうか?」
惠「おかしいわ」
亜季「何が、でありますか?」
惠「信じられない、だって」
亜季「だって?」
惠「だって、違うじゃない、その、うまく言えないけど」
亜季「はぁ……?」
33
S大学病院
青木「すまない。証拠の鑑定結果が出た」
惠「証拠を見せていただけますか」
青木「見せていなかったな、写真で悪いが、これだ」
惠「これは……」
亜季「こっくりさんの、紙の方でありますな」
惠「半紙に書かれてるのね」
亜季「書道同好会から貰ったものでありましょう」
惠「この赤い字は、書道で使う朱書きのものかしら」
亜季「少しくすんでいるようにも見えます」
青木「残念だが、違う」
亜季「では、何でしょうか」
青木「血だ」
惠「……へ?」
青木「血で書かれている。凝固する前に、貯めた血で、だ」
亜季「……な」
青木「B型の血液だったため、被害者土屋亜子のものと仮定して鑑識していたが、どうもそのようだ」
惠「なら、それを書いた人はその場にいたってこと?」
青木「そういうことになるだろう。そして、書いた人物も特定されてる」
亜季「誰でありましょうか」
青木「大石泉だ」
惠「……は?」
青木「手習いで書いた五十音が残っていてな、これだ」
惠「書道同好会が持ってたもの?」
青木「そうだ。丁寧さにはだいぶ変化があるが、文字のクセが一致してる」
亜季「……ということは」
惠「大石さんは、彼女達が殺害された後に気を失っていなかった、と?」
青木「そういうことになる」
惠「……遺書は」
青木「これだ。自宅のPCに残っていた、電子ファイルのコピーだが」
惠「読ませていただけるかしら」
青木「かまわない」
惠「ありがとう」
亜季「どれどれ……」
ごめんなさい、私は罪を犯しました
近づいてはいけないと言われたのに、近づきました
狐憑きに
私が狐憑きでした
亜季「狐憑き、でありますか」
惠「……」
私が、二人を殺しました
大切な二人を
何をしても戻ってきません
こっくりさんにお願いをしても何をしても
だから、私も二人のもとへ行きます
ごめんなさい
さようなら
惠「……警部さん、聞いていいかしら」
青木「なんだ?」
惠「これ、本人が書いたもの?」
青木「おそらく。作成したのは大石泉のPCだ。PCからは彼女以外の指紋は、村松さくらと土屋亜子のものしかない」
惠「狐憑き、ってどういうことかしら」
青木「亡くなってしまった以上、詳しくはわからない。精神的に、壊れてしまったのかもしれん」
惠「……本当に大石泉が犯人なのかしら」
青木「信じてはもらえないだろうが、変なことがわかってな」
亜季「何でありますか」
青木「土屋亜子の遺体だが……」
惠「どうかしましたか」
青木「腕は刃物での切断じゃなかった」
惠「……どういうことかしら」
青木「引きちぎられていた。人間業じゃない」
亜季「……な!」
青木「少なくとも平時の人間じゃ無理だ」
惠「それこそ、狐に憑かれてるような妖怪でもなければ無理と、そう言いたいの?」
青木「……ああ。認めたくはないが」
亜季「信じられないであります……」
青木「犯人は大石泉。被疑者死亡で調査は続行する」
惠「……ええ」
青木「ご協力感謝する。ご苦労様」
34
S大学病院休憩室
惠「犯人は大石泉……」
亜季「彼女が狐憑きであったでありますか?」
惠「今のところ、そうみたいね」
亜季「終わりでありましょうか」
惠「……わからない」
亜季「証拠も十分に出たように思うであります」
惠「出過ぎじゃないかしら」
亜季「どういうことでありますか?」
惠「そうなるように、全てのことが運んでいるような……」
亜季「疑い出したら、キリがないでありますよ」
惠「……それでも、信じるには早いと思う」
亜季「なら、行くでありますか」
惠「行きましょう。N高校へ」
35
N高校校庭
惠「校舎には入るなって?」
茜「はい!先生方は会議中であります」
惠「生徒は?」
茜「教室で待ちぼうけているようです」
亜季「警察はどうしましたか?」
茜「先生方に状況を説明です」
惠「話を聞ける生徒は……、そこの彼女くらい?」
北川真尋「ヤベッ、見つかった」
北川真尋
N高校の生徒。校庭でランニングなどをしていた。
茜「逃げないでください!」
惠「別に叱責しようとは思ってないわ。少し、話を聞かせてちょうだい」
真尋「先生に言わない?」
亜季「言わないであります」
真尋「良かった。そろそろ最後の大会なのにさ、部活出来ないのってないよね」
惠「だから、走ってたの?」
真尋「そうそう。で、お姉さん達は何を聞きたいの?」
惠「学校の様子はどう?」
真尋「変わらない、は言いすぎかな」
亜季「事件についてはどう思われてるのでありますか?」
真尋「あんまり触れたくない感じかな。こんなことになるなんてね」
惠「その、どこまで話は伝わってるの?」
真尋「……自殺しちゃったんだよね。終わってくれて、安心したような、変な感じ」
惠「……」
亜季「3人について何か知ってるでありますか」
真尋「仲よさげにしてるのはよく見かけたよ。だから、信じられないんだけどさ」
惠「あなたは、狐憑きは知ってる?」
真尋「狐憑き、は知らないけど、幽霊屋敷なら」
亜季「幽霊屋敷?」
真尋「ただの空き家なんだけどね。幽霊が出るって噂だよ」
惠「幽霊ねぇ……」
真尋「あれ、信じてない、幽霊?」
惠「ええ」
亜季「え……そうなのでありますか?」
惠「なに?」
亜季「なんでもないであります」
真尋「ランニングコースなんだよね。だから、見たことがあるんだ」
惠「なにを?」
真尋「3人がそこに入って行くのを」
亜季「ふむ」
茜「住所を教えていただけますか?」
真尋「えっと、A町3丁目だったかな」
茜「行ってきます!」
惠「行動が早いわね」
亜季「見習いたいものであります」
惠「それで、何か変な様子はあった?」
真尋「ないよ。中に入った事があるけど、本当にただの空き家だもん」
惠「そう……」
真尋「ん、メールだ。会議が終わったみたい、教室に戻るね」
惠「ありがとう」
真尋「どういたしまして!」
36
N高校職員室前
亜季「ん……?」
惠「えっと、あの子は……」
柚「……」
惠「あら、戻って行った」
亜季「職員室の様子を窺っていたようですな」
惠「バトミントンの子ね」
亜季「まぁ、学校内のトップニュースでありますからな」
惠「気になるのも無理ないわ」
むつみ「あ、伊集院さん」
惠「こんにちは、巡査」
むつみ「先生方に見つかる前に離れましょう」
惠「……結論は出たようね」
むつみ「学校側は、これ以上は何も望んでいないようです」
亜季「……そうでありますか」
惠「予想はしていたけれどね」
むつみ「私達も明日からは入れないようです。外へ行きましょう」
惠「わかったわ」
※
37
N高校駐車場
茜「伊集院さん!」
惠「お帰り、日野巡査」
亜季「何か、わかったでありますか?」
茜「何もありませんでした」
むつみ「何のお話でしょうか?」
茜「証言にあった空家の話であります」
惠「何の証拠にもならなそうね……」
茜「ただ」
亜季「ただ?」
茜「周辺をうろうろしている和服の少女がおりました」
惠「?」
茜「話を聞こうとしたのですが、ここに来ることは頑なに拒否されてしまいました」
惠「……良くわからない話ね」
茜「それで、氏家巡査、どうなりました?」
むつみ「これで引き上げることになりました」
茜「そうですか……」
惠「何か気がかりでも?」
茜「いいえ。すっきりしないだけです。こういう時は走って帰ります!さようなら!」
惠「え、ええ、さようなら」
むつみ「私も失礼します。お疲れ様でした」
亜季「お疲れ様であります」
惠「……あ」
亜季「どうしたでありますか」
惠「和久井先生と目があったわ。撤退しましょう」
亜季「了解です」
惠「校内じゃなければいいのよね」
亜季「どういうことでありますか?」
惠「ちょっと、空き家を見に行ってみましょう」
38
幽霊屋敷前
亜季「惠、感想を」
惠「感想……思った以上にただの一軒家ね」
亜季「同感であります。庭付きの、ただの一軒家であります」
惠「夢のマイホーム、って感じ」
亜季「建売で一千万円くらいでありますか」
惠「もう少し上だと思うけど」
亜季「いずれにせよ、幽霊屋敷と言われるほどではないと思うのですが」
惠「そうね。とりあえず、入ってみる?」
亜季「そうしましょう」
惠「お邪魔しま……す」
亜季「どうしたでありますか?」
惠「亜季ちゃん、変な感じしない?」
亜季「しないでありますよ」
惠「……そう。気のせいね。入ってみましょう」
亜季「ええ」
39
幽霊屋敷1階
亜季「……玄関、開いていたでありますな」
惠「業者が入っているのか、掃除までしてあるのね」
亜季「1階は、リビング、和室、お風呂場のようでありますな」
惠「本当に普通の一般家庭ね」
亜季「なぜ、ここが幽霊屋敷なのでありましょうか?」
惠「ちょっとわからないわね」
亜季「2階に上がってみましょうか」
惠「そうね」
40
幽霊屋敷2階
惠「2階は寝室と子供部屋」
亜季「それと窓のないクローゼットがひとつであります」
惠「変なところは見当たらないわね」
亜季「この壁紙、塗り直しているとか?」
惠「それは売るつもりなら当たり前でしょう」
亜季「うーむ」
惠「探検にきた3人も同じ気分を味わったのかしら」
亜季「そうかもしれないですなぁ」
惠「何も無いみたいだし、降りましょう」
41
幽霊屋敷1階
亜季「惠、和室の押入れは調べたでありますか?」
惠「いいえ。開けるのも気が引けて」
亜季「まぁ、何もないでありましょうが……ほ?」
惠「どうしたの、変な声だして」
亜季「見つけてしまったであります」
惠「何を……って」
亜季「明らかに開くであります」
惠「開けてみて」
亜季「階段が出てきました」
惠「……」
亜季「……」
惠「ワクワクしてきたわ」
亜季「奇遇でありますな、同感であります」
42
幽霊屋敷地下
惠「亜季ちゃん、ライトある?」
亜季「常備しているであります」
惠「さすが。照らしてみて」
亜季「了解。見えるでありますか?」
惠「ありがとう。でも、何も無いわね」
亜季「コンクリート打ちっぱなしの単なる倉庫、のようでありますな」
惠「広さは十分ね」
亜季「無駄に高さも広さもあるであります」
惠「それと、ちょっと涼しい」
亜季「そうですか?」
惠「うーん、何もなさそうね」
亜季「ええ。見つかると面倒ですし、戻るとしましょう」
惠「わかったわ」
43
幽霊屋敷前
惠「……あれって」
亜季「日野巡査が言っていた和服の少女でありましょうか」
依田芳乃「おねえさまがたー」
依田芳乃
和服に身を包んだ謎の少女。なんとなく神々しい。
惠「なんでしょう?」
芳乃「お尋ねしたいことがありましてー」
亜季「なんでありますか?」
芳乃「この家の中に何かありましたでしょうかー?」
亜季「特に何もなかったであります」
惠「ええ」
芳乃「やはりーそういうことなのでー」
亜季「自分で入らないのでありますか?」
芳乃「入るなー入るなーと聞こえるゆえー」
惠「はぁ……?」
芳乃「ここは良からぬモノがいると思いましてーあまり近づかないようにー」
亜季「何か知っているでありますか?」
芳乃「ここには長く住めないのでしてー」
惠「住人がコロコロ変わるってこと?」
芳乃「そうですー良くないものがいるようでー」
亜季「良くないもの?」
芳乃「強い気配を感じますー」
惠「……狐とか?」
芳乃「うふー」
亜季「露骨にはぐらかしたであります」
芳乃「ところで、そちらのおねえさまー」
惠「私?」
芳乃「やめですー悪しき者ではないゆえーお忘れくださいませー」
惠「そう……?」
芳乃「わたくし依田芳乃でしてーよろしくおねがいしますー」
惠「はぁ、よろしく」
芳乃「何か気になったことがあればーまたの機会にお知らせくださいー」
亜季「依田殿は何をしているのでありますか?」
芳乃「秘密ですー」
亜季「そ、そうでありますか」
芳乃「今再び会える日を信じてーさようならー伊集院惠さまー」
亜季「さようならー」
惠「……なんだったのかしら」
亜季「事件にかかわってるのでありましょうか」
惠「そうとは思えないけど」
亜季「うむ、犯罪に関わりそうな態度には見えませんでしたなぁ」
惠「それより」
亜季「それより?」
惠「なんで、名前知ってるのかしら……」
44
SWOW部室前
亜季「帰ってきてしまいましたな」
惠「どうしようもないから、仕方がないわ」
楊菲菲「失礼するネー」
楊菲菲
やおふぇいふぇい。中華料理屋を営む楊さんの娘さん。日本語は片言。
惠「あら、こんな時間に珍しい」
亜季「誰かが出前でも頼んだのでありましょうか」
菲菲「お疲れ様ダヨー」
亜季「ご苦労さまであります」
菲菲「こんごともごひいきに、ばいばいダヨー」
惠「ばいばい」
亜季「さて、中はどうなっているでありますか?」
45
SWOW部室
久美子「あ、お帰り」モグモグ
惠「ただいま」
亜季「この状況はなんでありますか?」
久美子「見ての通りよ」
惠「まだオセロをやってるのね」
亜季「これは、星取り表でありますか?」
久美子「そう。統計的に優位の存在が確認できるまでやってるんだって」
時子「……」
恵磨「……」
時子「負けた……」
恵磨「こんなもんでいいんじゃない?」
時子「そうね……」
亜季「実力に大きな開きはないですが、明らかに優劣がありますな」
惠「時子ちゃん、意外と弱いのね」
時子「……ええ、そうよ。何か問題でも?」
亜季「問題はないであります」
久美子「ご飯来たし、食べよーよ」
恵磨「うん。久美子ちゃん、それ取って」
久美子「はーい」
時子「私も頂くわ。あなた達は?」
惠「お昼はとっくに食べたわ」
亜季「ええ」
時子「そう。なら、適当にくつろいでなさい」
亜季「了解であります」
惠「亜季ちゃん、今回の件、整理してみましょう」
久美子「最近一緒に出かけてるけど、何かあるの?」
亜季「とある事件について調べているであります」
恵磨「そう言えば、見慣れない新聞が置いてあったね」
時子「へぇ。整理ついでに話してごらんなさい」
惠「わかったわ」
46
SWOW部室
久美子「そんなこと調べに行ってたんだ」
恵磨「女子高生二人が亡くなった」
時子「それなりに悲惨な状況で」
恵磨「どんな感じに悲惨だったの?」
惠「食事後に聞きたい?」
恵磨「あ、やめとく」
時子「それで、もう一人が犯人と」
久美子「仲良しグループだったんでしょ?何があったんだろう?」
惠「それはわからないわ」
時子「被疑者は自殺、遺書もあった」
亜季「そうなのであります」
時子「それにしても狐憑きねぇ……」
恵磨「何か思うところでもあんの、時子ちゃん?」
時子「別に。危ないことはしないに限るわ」
久美子「たしかに」
恵磨「触らぬ神にたたりなし、って言うもんね」
時子「それで、惠はどう思ってるのかしら?」
惠「私?」
時子「ええ。これで終わりだと思ってる?」
惠「……私は」
亜子「私は?」
惠「全ては鵜呑みに出来ないと思うわ」
時子「そう、やっぱりね」
久美子「でも、もう調査出来ないんでしょ?」
亜季「そうであります。先生方に何を言われることやら……」
時子「警察を信じなさい、青木さん、って言ってたわね」
惠「ええ。信じて待つわ」
久美子「聞きたいんだけど、なんでそんな事件に関わってるの?」
惠「なんでかしら、偶然かしら」
恵磨「そんなもんだよね」
時子「まぁ、危険じゃないなら好きなだけやりなさい。ところで」
惠「なに?」
時子「あなた達、オセロは強いの?」
惠「それなり。将棋以外だったら、亜季ちゃんとは互角よ」
時子「手合わせ願うわ」
久美子「……オチが見えるんだけど」
恵磨「うん、アタシも」
47
幕間
あ……
相馬夏美「大丈夫!?くっ……」
相馬夏美
全身から出血。特に、左腕から大きな出血。
は、は……
夏美「ひ、酷い傷……」
夏美「待って、この子は関係ないでしょう!」
夏美「……あなただけは守る。だから、静かにして」
い……痛い……
夏美「お願い……」
あ、あ、あ……
幕間 了
48
大石泉の死から3日後
伊集院惠の自室
惠「はっ……!」
惠「夢……?」
惠「なんていう夢見るのかしら……」
惠「助けてくれた女の人、最後に……刺されてた」
惠「やめましょう。思いだしても変えられるわけじゃ……」
惠「窓の外に何か……」
ニャー
惠「!」
ニャー……
惠「びっくりした……黒猫ちゃん、どこかに行っちゃった」
惠「……」
惠「コーヒーでも飲んで忘れましょ」
プルルルル……
惠「……誰かしら」
惠「はい、伊集院です」
惠「青木警部補?はい、伊集院惠です」
惠「休日ですけど、気にしないでください」
惠「へ……本当ですか」
惠「わかりました。すぐに行きます」
惠「……夢と関係ないわよね」
49
N高校校庭
惠「お疲れ様です、警部補」
青木「日曜日なのに済まないな」
惠「私は忙しくないので構いません。それで……」
青木「とりあえず、遺体を見るか?」
惠「……ええ」
青木「上からと下からどちらがいいかな」
惠「上と下?」
青木「まぁ、見ればわかる。上から行こうか」
惠「はい」
青木「視聴覚室まであがるぞ」
50
N高校視聴覚室
青木「この窓の下だ」
惠「……あっ」
青木「目をそむけたくなるのも無理はない」
惠「串刺し……」
青木「被害者は喜多見柚。N高校の生徒だ」
惠「ええ、見たことがあるわ」
青木「ここから転落した時に柵に突き刺さった、と見られている」
惠「……死因は、それ?」
青木「それは調べてみないとわからん。こんな状況だから、遺体を回収するのに時間がかかっている」
惠「すぐに回収してあげて」
青木「わかっている。植木で道路側からは見つかりにくいのが幸いか、不幸か」
惠「いつから、この状態なの?」
青木「深夜からだと思われている。地面には血だまりが出来ていたが、凝固し始めていた」
惠「……そう。下からも見ていいかしら」
青木「上から見る分にはまだましだぞ。下は血だまりで、被害者の顔も見ることになるぞ」
惠「……考えるわ」
青木「それがいいだろう。何か聞きたいことはあるかね?」
惠「最初に一つ」
青木「何でも聞きたまえ」
惠「これは自殺、それとも他殺?」
青木「他殺だ。飛び降りた形跡がない」
惠「……具体的には?」
青木「窓枠に足跡がない。それと、落ち方を見てくれ」
惠「横向きにして、落とされた?」
青木「そう見ている。前の事件と関係があるかは、不明だ」
惠「転落場所は、ここなの?」
青木「実は被害者の遺品が見つかってる」
惠「そこのパーカーとか?」
青木「それに加えてカバンもだ。カバンからは特に犯人につながりそうなものは見つかっていない」
惠「ケータイは?」
青木「直近で連絡を取った人に関しては、日野巡査が調べてくれている」
惠「視聴覚室、って自由に入れたのかしら」
青木「いや、入れない。職員室からカギを持ち出すしかない」
惠「そのカギを持ち出した?」
青木「別のカギでキーケースを開けないといけない。加えて、夜は職員室にもカギがかかる」
惠「それじゃ、密室ってことかしら」
青木「いいや、スペアを持っている人物がいる」
惠「もしかして、速水奏?」
青木「よく知っているな、その通りだ。連絡を取ってみたが、どうやらカギを閉め忘れたのかもしれない、とは言っていた」
惠「……ふむ」
青木「いかんせん、遺体の調べも終わってない以上結論は出ない」
惠「どうして、ここに来たのかしら」
青木「それもわからんな。速水奏曰く、この部屋を訪ねて来たことすらないらしいからな」
惠「前の事件とのかかわり……」
青木「なんだ?」
惠「そう言えば、職員室の様子を窺ってるのを見ました」
青木「被害者が?」
惠「ええ。だから、何が言えるわけでもないのですが」
青木「ありがとう。何でもいいから資料が欲しいところだ、助かる」
惠「あの、下からも見ていいですか」
青木「構わん。こっちだ」
51
N高校校舎裏
青木「この通りだ。被害者は落ちる時に意識があったのかもしれん」
惠「柵は血まみれ……」
青木「血だまりが出来てる。途中の飾りに引っ掛かって、宙釣りだ」
惠「……」
青木「どうした?」
惠「おかしくないかしら」
青木「被害者がここに来た理由か?」
惠「血、少なくないかしら」
青木「は……?」
惠「なんで、外側の方が濃いの?」
青木「……」
惠「何かで受けた、のかしら」
青木「……ああ、そんな意見もある」
惠「どういうことかしら」
青木「犯人は血を浴びた。ここで、だ」
惠「……浴びた?」
青木「何か、服のようなものを伝わり、落ちた形跡がある」
惠「……」
青木「詳しくはわからん。なぜか、わかるか?」
惠「いいえ」
青木「滴った量が異常に少ないんだ」
惠「……服にしみ込んだ」
青木「……それも違うんだよ」
惠「持ち去った……?」
青木「……そうかもしれん」
惠「犯人の目的は……」
青木「わからん、何をしているのか……さっぱりだ」
52
N高校校舎内
惠「日野巡査」
茜「伊集院殿、お疲れ様です!」
惠「お疲れ様。何か、わかった?」
茜「はい。被害者、喜多見柚は殺害される直前に通話をしておりました」
惠「誰と?」
茜「クラスメイトであります」
惠「穂乃香、とかいう名前?」
茜「いいえ。栗原ネネ、という生徒であります」
惠「内容は?」
茜「日曜日に学校集合、というような話です」
惠「それじゃ……」
茜「来ております。会議室に案内してあります」
惠「その、栗原さんって人だけ?」
茜「いいえ。もう二人おります」
惠「誰かしら?」
茜「一人は同じくクラスメイトの桃井あずきという女生徒」
惠「もう一人は?」
茜「佐久間まゆ、という女生徒であります」
惠「オマジナイの子ね……」
茜「他に質問はあるでしょうか?」
惠「何か、目撃情報はあった?」
茜「夜に学校に入って行く、女生徒らしき人影を見た人物がおりました。夜の10時頃でしょうか」
惠「他には?」
茜「ありません。夜間は警備員も警察もいないであります」
惠「結論を出すのが速過ぎた」
茜「そうかもしれません……来ている生徒と話しますか?」
惠「ええ、お願い」
茜「了解です!」
53
N高校会議室
惠「えっ……違うの?」
まゆ「はい。私は二人が来ることを知りませんでした」
惠「二人は?」
栗原ネネ「私達は柚ちゃんに誘われて、学校で集合してからお買い物に行く予定でした」
栗原ネネ
N高校の生徒。柚とはクラスメイト。内陸出身だが、海が似合う少女。
桃井あずき「うん。3人で行く予定だったのに」
桃井あずき
N高校の生徒。柚とはクラスメイト。普段はもっと明るい性格。
惠「ということは、佐久間さんは関係ないの?」
まゆ「ええ。柚さんとはお友達ですけど、お二人とはほぼ初対面です」
惠「二人とも同じかしら」
ネネ「はい」
惠「お二人は買い物の待ち合わせで、いいのね?」
あずき「うん……お買い物大作戦とか、言ってられなくなっちゃった……」
惠「……なら、佐久間さんは?」
まゆ「私ですかぁ?」
茜「メールはほぼ同じ文面で、彼女にも送られておりました」
まゆ「はい。私はお買いものとかじゃなくて、学校で調べ物をするお手伝いをしにきたんです」
惠「調べ物?」
まゆ「学校のお勉強とか課題の事だと、思ってました。詳しくは知らないんです」
惠「なるほど。全員に聞くけど、誘われたのはいつ頃?」
まゆ「私は金曜日の放課後です。放課後、図書館に残ってることが多いのでその時に」
ネネ「私達は、いつでしたか?」
あずき「……」
ネネ「……少なくとも金曜日よりは前だったと思います。あずきちゃんがお買い物プランを立てて、見せてくれたから」
惠「それは、いつ?」
ネネ「第1弾が木曜日で、第2弾が金曜日でした」
惠「場所は、学校?」
ネネ「はい」
惠「金曜日の放課後は喜多見さんとは何か話した?」
ネネ「すぐに帰るように言われていたので、私とあずきちゃんはすぐに帰りました。日曜日の約束を、柚ちゃんとして……」
惠「佐久間さんがお願いされたのは、その後ね」
まゆ「そうみたいです。でも、先約があったのに……」
惠「そこが疑問ね。そうしなければいけない用事があったの?」
まゆ「ない、と思います」
ネネ「だけど、メールも来ましたよ?」
惠「そこも変なところよね」
茜「完全にダブルブッキングです」
あずき「……どうもできない、とか」
ネネ「どうしたの……?」
あずき「もう知ってたんだ!」
茜「お、落ち着いてください!」
あずき「自分が死んじゃうってわかってて、きっと……」
ネネ「……そんな」
惠「それは本当かもしれないわ」
ネネ「どういうこと、ですか……?」
惠「死ぬことがわかっていて、メールをした可能性があるわ」
茜「?」
惠「メールは犯人が被害者のケータイから送った可能性がある、ということよ」
まゆ「……犯人」
惠「詳しくはわからないわ。でも、犯人を見つける」
茜「ええ!警察は卑劣な犯人を許しません!」
あずき「……よろしく、お願いします」
54
N高校図書室
惠「ごめんなさい、移動してもらって」
まゆ「大丈夫ですよぉ」
青木「栗原さんと桃井さんは、氏家巡査に送ってもらいました」
惠「ありがとう、巡査部長」
青木「話をこれ以上聞くのは酷ですので……」
惠「ショックを受けていたものね」
青木「でも、調査を進めないと……」
惠「ええ。比較的安定してる、あなたに聞くわ。もちろん、あなたがショックを受けてないと言いたいわけじゃないのよ」
まゆ「わかってますよぉ。どうぞ」
惠「被害者とは知り合いだったの?」
まゆ「放課後に残っている事が多いので、自然と」
惠「ということは、もしかして、大石泉さんとかとも?」
まゆ「ええ。知りあいだったと思います」
惠「……接点があったのね」
まゆ「でも、どうして、私なんだろう……」
惠「どういうこと?」
まゆ「凄い仲が良いわけでもないのに、日曜に呼ばれたのは、なんでなんだろう、って」
惠「どんな様子だったの?」
まゆ「凄い真剣にお願いされました。だから、断れなくて」
惠「何か思い当たる点はないの?」
まゆ「うーん……」
惠「もしかして」
まゆ「もしかして?」
惠「喜多見さんはオマジマイでもしてたのかしら」
まゆ「オマジナイですか」
惠「……こっくりさんとか」
まゆ「こっくりさん……」
惠「狐に憑かれた、とか言ってた?」
まゆ「……いいえ。慌ててる感じはあったけど、そんな風には」
惠「……そう。ねぇ、青木さん」
青木「なんですか?」
惠「犯人は、同一人物だと思う?」
青木「私には何とも……」
惠「大石泉は本当に自殺だったのかしら」
青木「……もう一度調べ直してみます」
惠「お願い」
まゆ「血……」
惠「どうしたの?」
まゆ「いえ、何でもないです」
惠「何でも言ってくれると助かるわ」
まゆ「本当に何でもないんです」
惠「そう。引き止めてごめんなさい」
まゆ「犯人、見つけてくださいね」
55
N高校駐車場
むつみ「お疲れ様です」
青木「お疲れ様です!」
惠「氏家巡査に、青木巡査……」
むつみ「何か進展はありましたか?」
惠「ないわ」
青木「そうなんですか……」
惠「被害者の行動も不明な点が多いし、犯人の目星もつかない」
むつみ「連続殺人とみていいのでしょうか」
惠「それもわからない」
青木「警備を強めましょう。生活課に協力を依頼します」
惠「それがいいと思うわ」
むつみ「私は聞きこみに戻ります」
青木「お願い」
むつみ「伊集院さんはどうされますか?」
惠「なんだか疲れたから、一度帰るわ。頭痛も軽くするし」
青木「体を壊したら元も子もありませんから、お大事に」
惠「ええ。ご健闘を」
むつみ「了解です」
56
伊集院惠の自室
惠「事件は終わってない……」
惠「狐憑きは、いるのかな……」
惠「いった……」
惠「薬飲んで寝ましょう……」
57
SWOW部室
亜季「お疲れ様であります!」
久美子「こんにちは、亜季ちゃん」
亜季「久美子殿だけでありますか?」
久美子「そうよ。どうしたの?」
亜季「惠はいるでありますか?」
久美子「いないわよ。さっき電話が来たけど」
亜季「なんと言っておりましたか?」
久美子「頭痛がするから、今日は来ないって」
亜季「そうでありますか。でも、珍しいですな」
久美子「何が?」
亜季「黙って海外に行く人間が電話してくるなんて」
久美子「そう言えば、そうね」
亜季「ま、体が弱ると心も弱ると言いますからなぁ。変な事もあったばかりですし、休ませておくであります」
久美子「そうしましょう」
亜季「ところで、時子殿と恵磨殿はいるのでありますか?」
久美子「まだ来てないけど」
ガチャ
恵磨「ただいまー」
久美子「お帰り……って、なにその荷物」
恵磨「これ?」
亜季「大きな箱のようでありますな」
恵磨「ボードゲームを借りてきたんだ」
亜季「なるほど」
久美子「へー」
恵磨「意外と時子ちゃんのお気にめしたみたいだし!」
亜季「あれ、気にいっていたのでありますか?」
久美子「見ようによってはそうなのかもね……」
恵磨「さーて、何から試してみよっか!」
58
幕間
はぁはぁ……
オマジナイ。
あっ……
恋するあなたに届くように。
でも、
もう、
はぁはぁ……
血が、
止まらない……
あ……
やめて……
幕間 了
59
伊集院惠の自室
ニャー……
惠「……」
惠「……行かなきゃ」
60
N高校体育館
青木「そこで何をしている!」
惠「……」
青木「伊集院さん?」
ガラララ
青木「ん、体育館のカギは開いてないはずだが」
惠「……はっ」
青木「どうし……血……」
惠「血が滴って……」
青木「落ちて来てる?」
惠「上を見て……」
青木「な……」
惠「磔……嘘でしょ」
青木「連絡!至急、体育館へ!」
惠「佐久間さん……」
61
数時間後
N高校会議室
青木「その、ここに呼ばれた理由はわかりますか?」
惠「わかってます、巡査部長」
青木「任意の事情聴取です。第一発見者なので」
惠「……ええ」
青木「状況を確認します。よろしいですか?」
惠「どうぞ」
青木「午後11時頃、N高校体育館を伊集院惠さんが訪れました」
惠「……」
青木「事実に間違いなければ、返事をお願いします」
惠「はい」
青木「ありがとうございます。続けて良いですか?」
惠「はい」
青木「そこで血がたまっているのを見つけました。また、血が滴っていることから上を見上げました」
惠「……そして、死体を見つけた」
青木「はい。遺体は、N高校2-B組の生徒、佐久間まゆ。昼間に事情聴取を受けた後に、帰宅しています」
惠「帰宅?」
青木「はい。一度クラスの様子を見た後に、帰宅しましたが、何らかの形で学校へ来たようです。もしくは、運ばれた」
惠「……」
青木「遺体の状況ですが、体育館の天井に磔、でした。わかりますか」
惠「……見たもの」
青木「天井から新しく設置した柱に腹部、が、刺さってました。斜め方向水平に伸ばすための設置器具が取り付けられていました」
惠「つまり?」
青木「それが返しの役割を果たしました。そのため、磔状態となっていました」
惠「……」
青木「犯人は何らかの方法で突き刺し、その場に彼女を放置しました……死因は失血死、です」
惠「……」
青木「遺体、の、他の特徴としては……えっと」
惠「無理に話さなくていいわ」
青木「大丈夫、仕事ですから。続けます」
惠「……お願い」
青木「両手と両足が後ろで縛られていました。ピンクのリボンです」
惠「……」
青木「犯人は、自由の利かない彼女を、突き刺したと思われ、ます」
惠「……なんてこと」
青木「こちらから質問させてください」
惠「どうぞ」
青木「どうして、あの場に?」
惠「どうして、それは……あれ」
青木「どうしました?」
惠「いえ、なんとなく悪い予感がして、来て見たの。すぐに帰ってしまったし」
青木「では、何故真っ先に体育館へ?」
惠「……そう」
青木「答えはありますか?」
惠「……ないわ」
青木「では、N高校から帰宅してからの行動を教えてください」
惠「すぐに自宅に帰ったわ」
青木「証明してくれる方はいますか?」
惠「家族、母が自宅にいたわ。あと、SWOWに電話をかけてる」
青木「SWOW?」
惠「サークルの名前。部室に固定電話があるから、そこに」
青木「わかりました。どなたが出ましたか?」
惠「松山久美子さんよ」
青木「確認します。では、もう一つ」
惠「なにかしら?」
青木「どうやって、犯人は遺体を突き刺したのでしょうか」
惠「どうやって……天井に作業用通路があったでしょう、そこから?」
青木「そこまで運べたとしても、どうやって突き刺すのでしょうか」
惠「クレーンは……」
青木「荷重制限があります。40キロで自動停止、調べたところ、39.5キロで安全のために動作が停止します」
惠「つまり?」
青木「被害者を運ぶことは不可能です。衣服含めれば、40キロは必ず越しますから」
惠「クレーンの設定が変えられているとか」
青木「電子情報を変えた形跡はありませんでした。もちろん、そんな大がかりな工具が搬入された形跡もありません」
惠「それじゃあ、何が言いたいの?」
青木「強い力で運ばれた」
惠「妖怪でもいるような言い方ね」
青木「……」
惠「今のままだと、そうとしか言えないと」
青木「……はい」
惠「そんなことはないわ」
青木「わかってます。だから、調べてるんです」
惠「……」
青木「犯人を見つけます、絶対に」
62
N高校職員室
惠「カギは持ち出されていない?」
むつみ「そのようです」
惠「でも、私が来た時は……」
むつみ「警部補から聞いています。カギは開いていました」
惠「犯人がカギを開けた?」
むつみ「そう推測されます」
惠「でも、職員室からは持ち出されていない」
むつみ「スペアがあります。返却されていない持ち出し記録が残っています」
惠「見せてくれる?」
むつみ「こちらです。その、わかるでしょうか」
惠「喜多見柚……」
むつみ「被害者の一人です。カギは彼女の身の回り及び自室や教室からも見つかっていません」
惠「犯人が持ち去った」
むつみ「そして、今回の犯行に利用したと考えています」
惠「なら、犯人は同一犯」
むつみ「……はい」
63
N高校校庭
茜「警備のものが2人詰めていましたが、被害者と犯人共に目撃しておりません」
惠「……そう」
茜「校内の状況に詳しい者の犯行ではないでしょうか」
惠「その可能性は十分よ」
茜「足跡等もほぼ残っておりません、警察の目をかいくぐった大胆な犯行であります」
惠「犯人と被害者の侵入経路はわかる?」
茜「校門に設置された監視カメラにはそれらしき姿は映っていませんでした。どこからか侵入している可能性が高いであります」
惠「見つかりそう?」
茜「調査中であります」
惠「日野巡査、明日は学校はあるの?」
茜「生徒は午前中だけの出席です。事情だけは説明するようです」
惠「その時に聴取を?」
茜「その予定です」
惠「わかったわ。私が来ても大丈夫?」
茜「もちろんです」
惠「よろしく、日野巡査」
茜「はい」
惠「……聞いていい?」
茜「なんでもどうぞ」
惠「狐憑き、がやったと思うかしら」
茜「……私には難しいことがわかりません」
惠「……」
茜「犯人はいます。狐憑きでもなんでもいいです。見つけるだけです。小さな手掛かりでも!体力だけには自信がありますから!」
惠「ふふ……頑張って、巡査」
茜「はい!」
惠「一度、帰るわ。明日、来ます」
茜「了解です!」
64
S大学構内
周子「おはよう、めぐみん」
惠「誰かと思えば……」
周子「覚えてる?」
惠「塩見周子さんでしょ、覚えているわ」
周子「さすが、めぐみん」
惠「ところで、こんな時間、こんな場所で何を?」
周子「んー、散歩?」
惠「疑問形で聞かれても」
周子「あははー。そうだね」
惠「あんまり、夜遅くに出かけないでね。物騒だし」
周子「たとえば、狐憑きとか?」
惠「聞いていいかしら、何故それを知っているの?」
周子「たまたまー」
惠「本当かしら」
周子「たまたま知ってるから、教えてあげるね」
惠「何を?」
周子「狐憑きは、人を殺すのに躊躇いなんてないよ」
惠「あなたは、何を知ってるの?」
周子「……」
惠「犯人を、知ってるの……?」
周子「ううん、しらなーい」
惠「それじゃ、あなたは何を」
周子「狐憑きの目的はね……」
惠「目的?」
周子「血、だよ」
惠「血……」
周子「被害者は、次も女の子だよ。止めてね、めぐみん」
惠「……そうは言われても」
周子「アタシは何もできないから」
惠「塩見さん、あなたはN高校の生徒に何か言った?」
周子「うん。狐憑きに気をつけるように、って。それぐらいしか、出来ないもん」
惠「あなたは事件に関係ないの?」
周子「そうだよ。出来るわけないし。ねぇ、めぐみん」
惠「なにかしら」
周子「黒猫は大事にしてね」
惠「え?」
周子「お願い。アタシなんかよりも優先して」
惠「……あなたの約束は果たす」
周子「ありがと。またねー」
惠「ええ。気をつけてね」
周子「いらない心配だよ、めぐみん」
惠「……」
周子「ばいばーい」
惠「気をつけて」
惠「……狐憑き、か」
涼「ふぁぁぁ、おや」
惠「変な人に会う日ね……」
涼「変な人とは随分な言い草じゃないか、伊集院サン?」
惠「そうね、変人にしておきましょう」
涼「変わってない。それはどうでもいいんだ、誰かと話してたのか?」
惠「ええ……って見てないの?」
涼「ふーん、なるほど」
惠「ん?」
涼「なんでもないさ」
惠「そちらこそ、何を?」
涼「割とさ、明け方ってのは忙しいんだよ」
惠「何をしてるの?」
涼「お仕事さ。そんなことより、覚えておいてくれ」
惠「なにかしら」
涼「そのうち、届け物をする」
惠「届け物?」
涼「大切なものさ。またな」
惠「人の話を聞かない人たちね……」
涼「おっと、忘れてた。これをやるよ」
惠「コーヒー豆?」
涼「ちゃんと挽いてあるから、ドリップ機でも使って飲んでくれ」
惠「別にいらないけど」
涼「アタシにはあげる理由がある。それだけだ」
惠「前にもコーヒーくれたわよね」
涼「単なる自分ルールさ、気にしないでくれ」
惠「はぁ……?」
涼「それじゃ、ご健闘を」
65
翌朝
SWOW部室
時子「あら、惠」
惠「おはよう、時子ちゃん」
時子「朝から、何をしてるのかしら?」
惠「別に、何もしてないわ」
時子「片手にコーヒー、テーブルにノートを広げて、真剣な目をして、何もしてないとは言わせないわよ」
惠「……考えごとがあって」
時子「コーヒー、まだあるかしら」
惠「たくさん淹れたから、余ってるわ」
時子「これね、随分と淹れたのねぇ」
惠「これから出かけないといけないから」
時子「ぬるいっ。あなた、いつからここにいるのよ」
惠「4時とか5時だったかしら」
時子「ハァ?何でそんな時間に来るのよ」
惠「家に帰っても眠れなさそうだから。悪い夢も見るし」
時子「そうじゃないわよ。どこに行ってたのか、それを聞いてるのよ」
惠「N高校よ」
時子「N高校?何かあったの?」
惠「また、事件が起きたわ」
時子「事件が起きた……殺人かしら?」
惠「そうよ。事件は更に二つ。昼からは、N高校に向かうわ」
時子「へぇ。どうやら、一筋縄ではいかないようね」
惠「……悪い予感も当たってしまった」
時子「あなたが気に病むことじゃないでしょう」
惠「だけど……」
時子「面白くなってきたじゃない、人手が足らないなら手伝うわよ」
惠「……」
時子「なに?人が珍しく下働きでもしようっていうのに」
惠「……ダメ」
時子「ダメ?」
惠「来ちゃ……ダメ……絶対に」
時子「どうしてよ」
惠「ダメなものはダメ……私が、やるわ」
時子「……惠、危険なことに関わってないわよね」
惠「大丈夫。私を、信じて、大丈夫」
時子「……わかったわよ」
惠「ありがとう、時子ちゃん。その、お願いがあるの」
時子「なによ」
惠「……手……繋いで」
時子「なに言ってるの?」
惠「……力を借りるの」
時子「……がんばりなさい、惠。ほら」
惠「ありがとう……」ギュ
時子「やるなら徹底的にやりなさい。犯人でも何でも全て白日にさらしてきなさい。いいわね?」
惠「ええ」
時子「コーヒー、淹れなおすわ。中途半端は嫌いよ。必死にやりなさい」
66
昼過ぎ
N高校視聴覚室前
惠「入れないわよ」
奏「わかってます」
惠「あなたは、全員と面識があるわね」
奏「ええ」
惠「そして、ここは事件の現場でもある」
奏「カギの話でしょ」
惠「聞かせて」
奏「信じてもらえないかもしれないけど……」
惠「話して見て」
奏「カギはかけてない、と思う」
惠「かけてない?」
奏「そうよ」
惠「どういうことかしら」
奏「誰かが使うような気がして、閉めなかった」
惠「はぁ?」
奏「なんでかしら……」
惠「……」
奏「結果、こんなことになってしまって……」
惠「何か、気づいたことはあるかしら」
奏「金曜日に、柚ちゃんもまゆちゃんも残ってたよ。遅くに帰るのを見たから」
惠「他には、誰か見た?」
奏「他は1-Bの生徒が何人か、かな」
惠「1-Bね……」
奏「あのね、穂乃香ちゃんがさっき一瞬だけ来た」
惠「喜多見柚と……」
奏「表情は見えなかったけど……いつも持ってる人形、落としていったのに気づいてなかった」
惠「……個性的な人形ね」
奏「視聴覚室なんて、なくても良かったかもしれないと思ってたのに」
惠「……」
奏「無くなるのって、こんなに辛い気持ちだったんだ……」
惠「そうね……」
奏「人形は返しておくから、調査を続けて」
惠「わかったわ」
67
N高校空き教室
惠「松尾さん?」
千鶴「は、はい!呼びましたか!」
惠「ぼーっとしてたけど、書道はしないの?」
千鶴「今日は……書く気分になれなくて」
惠「……仕方がないわ」
千鶴「……大石さん、何で死んじゃったんだろう」
惠「……」
千鶴「犯人は、別にいたのに」
惠「大石さんは自殺とは限らないわ」
千鶴「でも、大石さんが書いた、こっくりさんの紙が見つかったんでしょ」
惠「ええ。大石さんが手習いで書いた五十音は、この教室にあったの?」
千鶴「はい。警察の人が勝手に持って行ってしまいました」
惠「これから、どうするの?」
千鶴「今は、考えさせて。落ち着いたら……書くと思います」
惠「辛いけれど、前を見るのよ」
千鶴「……はい」
惠「聞いていいかしら」
千鶴「どうぞ」
惠「村松さくら、土屋亜子、大石泉、喜多見柚、それと佐久間まゆ。被害者に動機がある人物はいる?」
千鶴「いない、ですよね」
惠「それじゃ、全員と面識のある人はいる?」
千鶴「どういうことですか?」
惠「犯人は、通り魔ではないわ。何らかの方法で被害者を学校に呼び出している。顔見知りの可能性は高いわ」
千鶴「そういうこと……それなら」
惠「それなら?」
千鶴「該当する人が、います」
惠「誰かしら」
千鶴「……私です」
惠「あなた?」
千鶴「最初の3人組とは前に言った通りです。喜多見さんは、よく学校に残ってて、バドミントンに誘ってくれたこともあります」
惠「佐久間まゆさんは?」
千鶴「彼女も放課後に残っていることが多いので、何回か顔を合わせるうちに挨拶しました。ここに来てくれたこともあります」
惠「共通点はやっぱり……」
千鶴「共通点……」
惠「放課後に残っていることが多い生徒のようね」
千鶴「犯人も、私の知っている人なんですか……?」
惠「それはまだ、わからない」
千鶴「そうですか……」
惠「全力を尽くすわ」
千鶴「お願いします。こんなこと悲しくて……いえ、なんでもないです」
惠「辛い気持ちは貯め込まない方がいいわよ」
千鶴「いえ、大丈夫です」
惠「余計なおせっかいかもしれないけど、何でも吐き出せる人、見つけてね」
千鶴「……はい」
68
N高校2-B教室(佐久間まゆのクラス)
惠「……誰もいないわね」
惠「花瓶の位置、また変わってる」
惠「ん……何かしら、これ。花瓶の下にしいてあるけど……」
惠「ちょっと、拝借しましょう」
惠「なにこれ……」
ねがいかなえたり
ひしずむとき
たいいくかんへのぼらん
惠「これ、血じゃない、それに、見覚えが……」
惠「まさか……大石泉の字?」
惠「青木さんを呼びましょう」
69
青木「ふむ、これは」
惠「何か、わかりましたか、警部」
青木「紙は違うが、大石泉が書いたウイジャ盤と似ているな」
惠「血で書かれていますか」
青木「断言はできんが、そんな感じはする」
惠「筆跡は?」
青木「これが大石泉の手習いの写真だ。比べてみたまえ、似ているよ」
惠「信じられない」
青木「この紙は、明らかに犯人が被害者を呼びだしている。犯人が用意したものだろう」
惠「大石泉、狐憑きと自ら名乗った少女が犯行を続けている?」
青木「そんなオカルトは信じられまい。大石泉が死ぬ前に、これが用意されたと思うのが妥当だ」
惠「そうですね。しかし、佐久間まゆはこの紙を信じて、体育館に行くでしょうか?」
青木「誰かこれに関することを言ってなかったか?」
惠「被害者、佐久間まゆがオマジナイだと言っていました」
青木「オメジナイか。花瓶の下に置いた紙に、誰かが答えてくれる、そんなオマジナイか」
惠「いえ、詳しくはわかりませんが」
青木「いや、実在するよ、それは。この高校内で、だ」
惠「え?」
青木「こっくりさん、そんな言葉が出てきたからオカルトや噂話を聞いてみた。この学校の伝統的なものとして、それがあるよ。名前はエンゼルさんだ」
惠「名前からすると、こっくりさんの別名ね。佐久間まゆは誰からかそれを聞いて、オマジナイをしてた?」
青木「文芸部の短編小説の題材になっていたらしい。そこで知ったのかもしれん」
惠「佐久間まゆは図書館に出入りもしてたものね」
青木「とりあえず、この紙は鑑識にすぐに持って行く」
惠「お願いします」
70
N高校1-B教室
ゆかり「ねぇ、響子さん」
響子「なに、ゆかりちゃん」
ゆかり「犯人は誰って、聞いてますよ」
響子「わからないですね」
ゆかり「そうですね」
響子「はい。だから、そういうことです」
惠「まぁ、わからなくて当然でしょう。あなた達は被害者と顔見知りだったの?」
ゆかり「響子さん、そうですか?」
響子「名前と顔は一致するぐらいだよね、ゆかりちゃん」
ゆかり「はい。放課後に残っていることが多かったですから」
響子「うん。そんな感じですよ」
惠「ありがとう。えっと、小早川さんだったわね?」
紗枝「ええ」
惠「あなたはどうなの?」
紗枝「喜多見さんは知りまへん。ただぁ、たしかに佐久間さんとはお友達でしたなぁ」
惠「何か、気づいたことはない?オマジナイの話とか」
紗枝「オマジナイ……さぁ、思い浮かばへんなぁ」
惠「この事件について、どう思う?」
紗枝「どう思うって、怖いに決まってますやろ」
惠「動機とか、検討はつく?」
ゆかり「人に恨まれるような人達ではないですよね?」
響子「そうだね。本当に猟奇殺人犯とか」
紗枝「でも」
惠「でも?」
紗枝「全部の事件、学校で起こってますやろ?」
惠「ええ」
紗枝「学校の警備がしっかりすれば、犯行は出来ひんと思わんどすか?」
惠「その通りね。警察と警備員は今日から増えてるわ」
ゆかり「それなら、安心ですね」
響子「そうだね!」
ゆかり「次の殺人が起こるまでに、犯人をみつけてくださいね。そうでないと」
響子「そうでないと、私達が怒りますよ」
ゆかり「そうなったら、どうなるかわかりますね?」
響子「大変ですよ」
惠「……肝に銘じておくわ」
紗枝「おきばりやす。遅くなり過ぎると、せんせに怒られます。帰りましょうか」
ゆかり「そうですね」
響子「帰ろうか、ゆかりちゃん」
ゆかり「帰りましょう、響子さん」
惠「ええ。気をつけるように」
紗枝「ほなさいなら」
71
N高校駐車場
むつみ「伊集院さん」
惠「こんにちは、巡査」
むつみ「お時間よろしいですか」
惠「ええ、どうぞ」
むつみ「前に青木さんに頼まれて、大石泉の件を調べていました」
惠「何かわかったの?」
むつみ「いいえ、結論は変わりません」
惠「自殺ということ」
むつみ「はい。他人に傷を付けられた形跡もありませんし、薬も自ら飲んだもののようです。のどや口周りに傷はありませんでした」
惠「……」
むつみ「それと、先ほど新しく見つかった紙の簡単な鑑識が済みました」
惠「結果は?」
むつみ「やはり、血でした。B型なので土屋亜子のものだと思われます」
惠「筆跡は?」
むつみ「大石泉の書道とかなり良い一致をしています」
惠「巡査、大石泉が狐憑きとして犯行を続けてるとか言わないわよね?」
むつみ「……正直に受け止め過ぎるとそうなりますよね」
惠「でも、そんなはずはない」
むつみ「はい。何らかの方法で偽装をしている可能性が高いと思います」
惠「ありがとう、巡査。調査を続けて」
むつみ「伊集院さんはどちらへ?」
惠「もう何でも調べてみるわ。幽霊屋敷の方へも行ってみる」
72
幽霊屋敷前
惠「こんにちは、ここで何をしているの?」
中野有香「押忍!ランニングの途中です!」
中野有香
近所の大学生。ランニング途中のため、ジャージ姿。空手有段者。
惠「休憩中?」
有香「はい」
惠「そのつかぬこと聞くけど、この家のこと知ってるかしら」
有香「ああ、幽霊が出るって噂ですね!」
惠「幽霊、どんな話?」
有香「詳しくはわかりませんけど、女の人らしいですよ」
惠「女の人?」
有香「はい。和服で出るとか」
惠「それは、古風な幽霊ね……」
有香「噂です、見たわけじゃないですから」
惠「そう……」
有香「ランニングの途中ですので、失礼します!」
惠「引き止めてしまってごめんなさいね。ありがとう」
有香「どういたしまして!それでは!」
73
幽霊屋敷
惠「……何もないわよね?」
惠「かなり広い地下室があるけど、それだけ」
惠「私と同様に、誰かが入った形跡はあるけど……」
惠「誰のものともわからない」
惠「……」
惠「なにもいないわよね」
惠「……帰りましょう」
74
3日後
SWOW部室
惠「ありがとう。また」
亜季「何の電話ありますか?」
惠「日野巡査からよ。特に進展もないし、事件も起こってない」
亜季「そうでありますか」
惠「亜季ちゃんはどこかへ出かけるの?」
亜季「買い物に出てくるであります。惠も来るでありますか?」
惠「遠慮しておくわ。サバゲー関連でしょう」
亜季「そうであります。では、行ってくるであります」
惠「行ってらっしゃい」
バタン
惠「学校での事件は、止まった。犯人もうかつに動けないでしょう」
惠「それで、終わるかしら……」
ガチャ
惠「亜季ちゃん、何か忘れ物でも……」
涼「よう」
惠「……誰かと思えば」
涼「そう怪訝な顔するなって」
惠「そちらの娘さんは?」
涼「小梅、挨拶しな」
白坂小梅「白坂……小梅です」
白坂小梅
涼が連れてきた女の子。小柄で目の下にクマがあるなど独特な風貌。
惠「それで、なんのようかしら」
小梅「わぁ……お姉さん、すごい」
惠「すごい?」
小梅「ううん……なんでも、ない」
涼「前に言った通り、届け物をしにきた」
小梅「……うん」
惠「届け物?」
小梅「大切なものだから……大事にして」
涼「これだ」
惠「ジュラルミンケース?」
涼「開けてみてくれ」
惠「……」
小梅「大丈夫……危なくないよ」
惠「……わかった」
涼「何か、わかるか?」
惠「銃……?」
涼「そうだ、銃と銃弾だ」
惠「危ないじゃない」
小梅「ううん……違うよ」
涼「銃に関して言えば、火薬も使わないもんだ。そこら辺のガス銃の方がよっぽど危険さ」
小梅「特別なのは……そっち」
惠「銃弾?」
涼「持てばわかると思うが、ずっしりと重い」
惠「純銀?」
涼「おお、よくわかるな、純銀だ。スペルが彫り込んである」
惠「スペルって、漢字も書いてあるわよ」
涼「そこらへんはこだわりがないからな。何にでも、効くぞ」
惠「効くって、何に?」
小梅「目に……見えないものに」
涼「銃弾は一応二つ準備した。予備はキーチェーンも付けといたから、身につけておけ」
惠「なんのためのもの?」
涼「狐憑きから、狐を引きはがしてほしい」
惠「……これで?」
小梅「うん……それで」
涼「狐憑きに向かって、撃って欲しい」
惠「殺せって?」
涼「さっきも言ったじゃないか、よほどあたりが悪くない限り殺せない。むしろ、当たらなくてもいい。狐さえ引きはがせればそれでいい」
惠「狐憑き、が事件の犯人?」
涼「断定はできないな」
小梅「血を……欲しがってる」
涼「狐の狙いは血だ。狐憑きはそれを集めている」
惠「……何のために」
涼「理由は知らんさ。ただ、今は多くの人間に憑けないと見てる」
小梅「でも……強くなる」
涼「そういうこと。狐憑きを見つけて、狐の尻尾をつかめ」
惠「あなた達は……やれないのよね」
涼「ああ。あの場所には、アタシの踏み場がない」
惠「……血を集めている人物が狐憑き」
涼「犯人と同一人物な可能性は高い」
惠「学校に入れないけど、外で狐憑きは特定できないの?」
涼「……ん?」
惠「どうしたの?」
小梅「へぇ……そうなんだ」
涼「……出来ない。学校外に狐は出ていないと思う」
惠「そう」
涼「それじゃ、よろしく頼む」
惠「……ええ。犯人を見つけるわ。狐憑きとは私は思わないけど」
涼「……」
惠「ただの殺人だと、私は思うわ。超常現象ではない」
小梅「わかった……信じる」
涼「そういうことか……まぁ、いい。よろしく頼むよ」
惠「任せて」
小梅「ばいばい」
75
幕間
こんな所で、死ぬわけにはいかないなぁ
家に帰らないと
家族が……
待ってる、のに
ギギギギギギ……
幕間 了
76
翌日
N高校会議室
惠「授業の再開は?」
むつみ「来週の月曜日からです」
惠「何か新しくわかったことは?」
むつみ「ありません……何一つ」
惠「そう」
青木「氏家巡査、いますか!?」
惠「巡査部長、どうしたの?」
青木「伊集院さん、こんにちは。氏家巡査、お聞きしたいことが」
むつみ「何でしょうか」
青木「生徒が一人、連絡が取れないと」
むつみ「連絡が取れない?自宅待機では?」
青木「昨夜、友人宅に泊まると連絡があったのですが、今朝になって連絡が取れないと」
むつみ「お名前を教えてもらっていいですか」
青木「名前は杉坂海です」
むつみ「杉坂海さん……はい、事情を聞いたことがあります」
青木「協力をお願いできますか」
むつみ「日野巡査に連絡します」プルルルル……
惠「昨晩は連絡があったの?」
むつみ「日野巡査、氏家です」
青木「はい。メールにて母親に連絡がありました」
惠「内容は友人宅に泊まるというもの?」
青木「はい。午後9時頃でした」
惠「出かけたのはいつか家族に聞いた?」
青木「夕食後、午後8時頃かと。特に用件は言わなかったようです」
むつみ「杉坂海さん、です。覚えてますか?覚えてる、流石です」
惠「友人の名前は?」
青木「友人の名前は、速水奏、です」
むつみ「お願いします、日野巡査」
惠「速水奏?」
青木「はい」
むつみ「日野巡査に捜索をお願いしました。私も出ます」
青木「お願い」
むつみ「行ってきます」
惠「速水奏には連絡を取った?」
青木「ええ」
惠「なんて言ってたの?」
青木「杉坂海さんとは昨日は会っていない、と。もちろん、家にも来てないと」
惠「……それじゃあ」
青木「警部補にも伝えてきます」
惠「わかったわ。私も調べてくる」
77
N高校駐車場
惠「校内にいるわけないわよね……」
青木「日野、氏家両巡査からの連絡を待とう」
惠「事件に巻き込まれた可能性は……」
青木「この状況だと、あり得るな」
惠「……」
ニャー
青木「どうした?」
惠「黒猫……?」
青木「黒猫?」
惠「行っちゃった……」
青木「どうした、伊集院さん?」
惠「ちょっと、行ってくる」
青木「猫、好きなのか」
惠「気になっただけ」
78
幽霊屋敷前
ニャー
惠「……ここ?」
茜「伊集院さん!!」
惠「わっ、びっくした……黒猫ちゃん、逃げて行っちゃった」
茜「どうしてこちらに?」
惠「ええ、そのなんとなく」
茜「そうでありますか!実はですね、女性がここに入って行ったとの情報がありまして!」
惠「どんな人?もしかして、N高校の生徒?」
茜「それはわかりません。ランニング途中に、何かに気づいたように入って来た、らしいです」
惠「ランニング途中……」
茜「入りましょう!」
惠「ええ、入ってみましょう」
79
幽霊屋敷玄関
茜「なぁっ!!」
惠「うそでしょ……」
茜「玄関から血まみれであります……」
惠「中野さん……?中野さん!」
茜「伊集院さん、青木さんに連絡を!」
惠「わかったわ!青木警部補!伊集院です、すぐにこちらへ!」
茜「大丈夫でありますか!氏家巡査、幽霊屋敷の方へ至急!」
惠「来てくれるわ!息はあるの……?」
茜「ダメであります……」
惠「抵抗したのかしら……」
茜「奥を調べてきます!」
惠「待って!」
茜「なんでありますか!」
惠「室内は血まみれなのよ。犯人がまだいる可能性があるわ」
茜「……そうでありますな」
惠「一緒に行きましょう。その方がいいわ」
茜「了解であります」
惠「……よし」
茜「何かポケットに入れてるでありますか?」
惠「護身用のグッズを」
茜「警戒に越したことはないであります」
80
幽霊屋敷1階
茜「酷い有様です……」
惠「ここで襲われたのかしら」
茜「血が途切れておりますな」
惠「ここで犯人に襲われて、玄関へと逃げようとした」
茜「だけど、息絶えてしまった」
惠「そう言えば、ケータイは?」
茜「もっていませんでした」
惠「……連絡出来れば助かったかも」
茜「2階にも行きましょう」
81
幽霊屋敷2階
茜「異常はなし、であります」
惠「犯行は1階で完結しているようね……」
茜「あとは……」
惠「地下室」
82
幽霊屋敷地下室
茜「ライトをつけたくないであります」
惠「……つけましょう」
茜「了解しました……はい!」
惠「なにこれ」
茜「なんですか、これ」
惠「血がついてる」
茜「鉄の箱ですか?」
惠「……まさかね」
茜「前開きのようであります、行きますよ!」
惠「ま、待って!」
茜「う、わああああああ!」
惠「……くっ」
茜「し、至急応援!」
惠「地下よ、地上にいかないと!」
茜「そうでありました!は、はやく上へ!」
惠「アイアンメイデンなんて、なんで日本にあるのよ……」
83
幽霊屋敷前
ピーポーピーポー
むつみ「身に付けていた学生証から、1階の遺体は中野有香さん、地下の遺体は杉坂海さんのものだと推測されます」
茜「どちらも酷い傷でありました……」
むつみ「日野巡査が見つけた、中野有香の目撃情報以外はこれといった目撃情報はありません」
惠「犯人の目撃情報はここでもなし」
茜「どうやって、警察の目をかいくぐっているのでありましょうか」
むつみ「わかりません……」
惠「でも、今回の事件は明らかに違うわよね」
茜「はい。1階の被害者は、これまでとは違っております。地下の遺体とも」
むつみ「そうですね。異なる点は、2つ」
惠「ひとつはN高校の生徒ではないこと」
むつみ「はい。そして、顔見知りの被害者との面識もないと思います」
茜「犯人が呼び出した、というわけではなく、突発的な犯行。明らかに違う事件であります」
惠「狙ったわけではない、犯行」
むつみ「通り魔的犯行に躊躇いがなくなるのは危険です」
茜「警備範囲を増やすべきでしょうか」
惠「……ええ」
むつみ「2点目は、抵抗した形跡が大きいことです」
惠「そうね。明らかに被害者が抵抗していた。逃げようともしていたようだし」
むつみ「被害者の中野有香はどうやら空手の有段者であったようです」
惠「押忍、とか挨拶してたわ」
茜「しかし、それでも……」
惠「犯人は、殺人を成立させた」
むつみ「犯人は、想像以上に犯行に慣れているのかもしれません」
惠「……そうね。だけど、それだけ」
茜「どういうことですか?」
惠「人間の殺人犯よ。引きちぎられたなんてことは起きてない」
むつみ「……確かに」
惠「聞いていいかしら」
むつみ「どうぞ」
惠「血液は、どうなってるの?」
むつみ「血液、ですか」
惠「抜き取られてたりしないかしら。その、地下にあるのは、その為の道具だし」
むつみ「……そんな話をしていました」
惠「……狐か」
茜「現場に行きます。伊集院さんも行きますか?」
惠「ええ」
84
幽霊屋敷地下
茜「巡査部長と巡査は?」
青木「明と慶なら、見周りに行かせた。このままだと、学校関係者が危ないだろう」
惠「はい。それと」
青木「残念だが、犯人がいるとしたらその中の一人だ」
惠「遺体の状態は……」
青木「全身から出血、だが、中に入れられてしばらく息があったと推測される」
茜「……酷い」
青木「死因は失血死、時間をかけて、だ」
惠「非道な」
青木「ああ。だが、自分の意志でここまで来たのは間違いない」
惠「犯人に呼び出された」
青木「そう見ている」
茜「しかし、どうやって呼び出したでありますか?」
青木「アナログなものか、もしくは口頭。いずれにせよ、犯人はその証拠は残していない」
惠「血はどうなってた?」
青木「明らかに少ない。何らかの方法で持ち去っている」
茜「……何のために?」
青木「それは、わからん」
惠「これから、どうしましょう」
青木「まずは鑑識か。特に1階、凶器はあるはずだ」
惠「ええ」
茜「聞きこみへ戻ります!」
青木「了解」
惠「私は調べ物をしてきます」
青木「どちらへ?」
惠「N高校へ」
青木「ああ。現場は任せてくれ」
85
N高校体育館
惠「……そういうこと」
穂乃香「……」
惠「綾瀬穂乃香……さん?」
穂乃香「……!」
惠「大丈夫よ、責めたりしないわ」
穂乃香「……えっと、たしか」
惠「伊集院よ。何を見ていたの?」
穂乃香「……現場を見に来ました」
惠「……佐久間さんとは知り合いだった?」
穂乃香「はい。放課後、たまに遊んだり……」
惠「……悲しいわね」
穂乃香「このブルーシートの下、どうなってるんですか……?」
惠「聞かない方がいいわ」
穂乃香「……」
惠「どうしたの?」
穂乃香「どうして見せてくれないんですか!」
惠「ど、どうしたの」
穂乃香「大切な人の、本当のことを教えてくれない!柚さんのことも、何も!なんで、なんで……」
惠「……見るのはきついわよ」
穂乃香「それでも!」
惠「やめなさい」
穂乃香「……こんなことをするなんて、許せない」
惠「……」
穂乃香「でも、何にも出来ない……出来ない……」
惠「落ち着いて」
穂乃香「うう……グスン」
惠「……誰かに見つかる前に、帰りなさい」
穂乃香「……」
惠「……ひとつだけ、聞くわ」
穂乃香「……何でしょうか」
惠「本当に、狐憑きを知らないの?」
穂乃香「知りません……そんな危ないもの」
惠「危ないことは、知っているのね」
穂乃香「……それがなにですか」
惠「柚さんは、こっくりさんをやっていたの?」
穂乃香「……」
惠「答えて」
穂乃香「知りません」
惠「答えなさい」
穂乃香「……言わない」
惠「柚さんは、こっくりさんに関わっているのね」
穂乃香「……私は、知りません」
惠「あなたは関わっていないのね」
穂乃香「……はい」
惠「ありがとう」
穂乃香「……」
惠「犯人は狐憑きとは言わないわ。でも、こっくりさんに関係がある。だから」
穂乃香「……だから?」
惠「犯人をこっくりさんに聞こうなんて思わないことよ」
穂乃香「……!」
惠「紙が見えてるわ。渡しなさい」
穂乃香「……はい」
惠「ふむ。なるほどね」
穂乃香「なにですか」
惠「あなたは、違うわ」
穂乃香「え?」
惠「この紙、誰かに教わった?」
穂乃香「いえ、誰にも」
惠「そうでしょうね。平仮名の配置、鳥居の形が異なる」
穂乃香「……」
惠「だから、違うわ。それと、あなたの行動がヒントになった」
穂乃香「ヒント、ですか」
惠「犯人は、こっくりさんを使ってるわ」
穂乃香「……どういうことですか」
惠「あなたがそう思うように、犯人はそれを利用していた」
穂乃香「そんな……」
惠「恐怖心に付け込み、脅迫に使った。その可能性はある」
穂乃香「柚さんは……」
惠「課程はわからないわ。でも、何らかの形で犯人に接触していたのかもしれない」
穂乃香「犯人は、見つかりますか」
惠「見つけるわ。信じて」
86
N高校会議室
惠「凶器がわかったのですか、警部補?」
青木「ああ。中野有香を殺害した凶器だ」
惠「何だったの?」
青木「脇差、つまり日本刀だ」
惠「脇差……」
青木「刃渡り約40cm。そこら辺で売ってるもんじゃない」
惠「犯人はどこから、それを」
青木「わからない。しかし、素人が振りまわせるものではないんだが」
惠「やはり、慣れたものの犯行と?」
青木「そう思う。似た犯行がないか、その方面でも調べる」
惠「それがいいでしょうね」
青木「……しかし、それだけだ」
惠「……」
青木「伊集院さん、疲れていないか」
惠「いいえ」
青木「いや、昨晩から出ずっぱりだろう。帰って、寝たまえ」
惠「でも……」
青木「警察からの命令だ。犯人がこっくりさんを利用したことも含めて、調べる」
惠「……わかりました」
青木「任せてくれ」
惠「夜にもう一度、来ます」
青木「ああ」
87
幕間
小梅「……おはよう」
涼「おや、起きて来たか」
高垣楓「おはようございます。涼ちゃん、小梅ちゃん」
高垣楓
伊集院惠らとも面識のある謎の美女。ある目的が果たされたため、眠っていた。
小梅「お腹……空いた?」
楓「はい」
涼「どっちだ?」
楓「どちらもです」
小梅「……限界?」
楓「すぐにご飯とお味噌汁が欲しいです」
涼「そっちはすぐ準備するよ。もう片方だ」
楓「まだ、余裕があります」
涼「そりゃ良かった。起きるにしてもタイミングはいい」
楓「なぜ、ですか?」
涼「時期に、腹一杯になれるはずさ」
幕間 了
88
午後10時前
A町3丁目付近
惠「……あら」キー
惠「こんな時間に出歩くと、危ないわよ」
菲菲「こんばんはダヨー」
惠「出前の帰り?」
菲菲「そうダヨー」
惠「殺人事件も起きてるし、危ないわ。不審者に会うかもしれないし」
菲菲「フシンシャ?」
惠「怪しいとか、見慣れない格好をしている人よ」
菲菲「コスプレ?」
惠「いや、そういう意味じゃなくて……」
菲菲「それなら、見たヨー。カタナを持ってた」
惠「へ?」
菲菲「和服でカタナ」
惠「何か、された?」
菲菲「ウウン、何にも」
惠「襲われてない……」
菲菲「?」
惠「無事で良かった。すぐに帰りなさい」
菲菲「ウン。ばいばい」
惠「ばいばい」
89
車内
惠「青木警部補出て……」プルルルル……
惠「出ない、なんで……?」
惠「折り返しが来た。青木警部補!」
むつみ『すみません、代理で氏家です』
惠「氏家巡査、犯人が目撃されてます」
むつみ『……そう、ですか』
惠「氏家巡査?」
むつみ『警部補は電話に出られる状況では、ありません。幽霊屋敷まで、来てもらえますか』
惠「何かあったの……?」
むつみ『警察官が殺されました……』
惠「……すぐに行くわ」
90
幽霊屋敷
惠「氏家巡査!」
むつみ「伊集院さん……」
聖「明……慶……なんで……」
惠「……警部補」
むつみ「……被害者は、巡査部長と巡査です。その……」
惠「警部補の妹……」
むつみ「……はい」
惠「酷い有様ね。今回も、凶器は……」
むつみ「……脇差だと思われます」
惠「見周りに来た、二人を殺害した」
むつみ「……おそらく」
麗「くそっ」
惠「……警部」
むつみ「ここは私が……」
麗「気づかいはいい。聖が私の分まで泣いてくれている」
むつみ「ですが……」
麗「終わったら、存分に泣いてやる。今は、犯人を捕らえる」
惠「……なにか手がかりが」
麗「見周りを任せた二人には定期連絡をさせていた。ルートも知っている。犯人は、おのずと絞られる」
惠「見周りのルートを見せてもらえますか」
麗「これだ」
惠「……まさか」
麗「どうした?」
惠「警部、私達は見逃していたのかもしれません……」
麗「言ってみろ」
惠「大石泉の、手習いを見せてもらえませんか」
麗「なんでそんなものを?」
惠「氏家巡査、松尾千鶴という生徒に確認してもらっていい?」
むつみ「何をですか?」
惠「本当に、大石泉の字なのか、確認して」
むつみ「わかりました!」
麗「犯人の移動経路もわかっている」
惠「どこですか」
麗「あるものじゃなくて、ない部分が重要だった。地下だ」
惠「地下?」
麗「そこから、入れる。覗いてみてくれ」
惠「なにかしら……鳥居が描かれてる」
麗「広い地下室に気を取られた。いつの時代の物かは知らないが、空洞がある。防空壕かもしれん」
惠「これは、どこまで?」
麗「おそらく、学校まで。犯人が潜んでいる可能性があるから、追ってはいない」
惠「……なるほど」
麗「他になにかあるか?」
惠「血は、どうですか」
麗「……抜き取られている。妹をこんな目に合わせるとは……許せん」
惠「……」
麗「あんなに軽い、とは……」
惠「……軽い?」
麗「ああ……血は重いぞ」
惠「そうね……派手だから気を取られたわ」
麗「なにか、わかったか」
惠「彼女は運べたのね」
麗「彼女?」
惠「佐久間まゆ、の遺体です」
むつみ「警部!」
麗「どうした!?」
むつみ「松尾千鶴さんが、この字は、大石泉のものではないと!」
麗「ちっ!犯人が用意しておいたものか!」
惠「……犯人が書いたのね」
むつみ「松尾千鶴さんによると、この字は……」
茜「みなさん!!!!」
むつみ「日野巡査!」
茜「日野茜、見つけました!目撃情報です!」
麗「でかした!言ってみろ」
茜「あの日、学校に入って行ったのは3人ではありませんでした!」
惠「3人じゃない?ということは、最初の事件?」
茜「はい!4人目がいたんです!小柄で髪の長い生徒だったようです!」
惠「そんな、単純なこと、だったのね」
むつみ「その4人目が、犯人……」
麗「もう、疑いの余地もないだろう。彼女が、犯人だ」
惠「彼女なら、自殺前の大石泉にも接触できる……」
むつみ「手習いもすり替えられます」
麗「被害者と面識もあるはずだ」
惠「彼女なら、こっくりさんも利用できなくはない……」
むつみ「自宅にはいないそうです、でも、早く見つけないと」
茜「しかし……どうやって見つけますか」
惠「方法はあるわ」
麗「なんだ?」
惠「お願い、協力して」
90
幕間
涼「芳乃、楓」
芳乃「はいー」
涼「準備はいいか」
芳乃「大丈夫ですー」
楓「私も大丈夫です」
涼「オーケー」
芳乃「時を待つですー」
涼「一気に行くぜ。構えてな」
楓「はい」
幕間 了
91
N高校校庭
惠「止まりなさい」
惠「小早川紗枝」
紗枝「警察も警備の人も見えへんと思うたら、罠やったんどすなぁ」
惠「事実を認めるわね?」
紗枝「さぁ、なんのことやら」
惠「とぼけないで」
紗枝「まぁ、怖いお姉さんやなぁ。銃なんて向けられると怖くて怖くて、しゃべられへんわぁ」
惠「あなたの脇差ほどではないわ」
紗枝「うちが、こないな重いもん振れると?」
惠「振れるわ。事実、振れなければいけない」
紗枝「まったく、強情な人やなぁ。これだから、O型の人は嫌いなんどす」
惠「あなたは、青木巡査部長と巡査を殺害したわ。見周りに来た二人に先回りし、幽霊屋敷で殺人に及んだ」
紗枝「証拠でもあるんどすか?」
惠「ええ。全ての事件はあなたが起こしたものよ」
紗枝「あないなこと、うちの細腕には出来まへん」
惠「出来るわ」
紗枝「狐に憑かれてるから、とか言います?」
惠「いいえ。狐につかれてなくても出来るわ」
紗枝「信じられへんなぁ」
惠「単純よ。この学校には、建設器具が置いてあるのよ。それを使っただけ」
紗枝「……」
惠「土屋亜子の死体、摩擦で焼けている所が見つかったわ。ワイヤーで引っ張ったと推測されてる。単純な話ね」
紗枝「へぇ、それで?」
惠「佐久間まゆさんの遺体はクレーンの重量制限に引っ掛からない、なぜか」
紗枝「……」
惠「血を抜いた場所が天井ではないからよ。彼女は地上で血を抜かれ、クレーンで天井へと磔られた」
紗枝「ふふふ、おもろいこといいますなぁ」
惠「あなたは、巧妙に動いた。電話などで被害者を呼び出したりはしなかった」
紗枝「なら、どないしてはるんどすか?」
惠「こっくりさん、よ」
紗枝「また、おかしなこと言いはりますなぁ」
惠「利用したのは、恐怖心よ」
紗枝「恐怖、どすか」
惠「こっくりさんをしているという特殊な環境、思いこみやすい思春期の少女、そして、自分さえ参加していれば、何とでも答えが変えられる」
紗枝「それで、皆を操った、妄言もほどほどにしたほうがいいどす」
惠「実際の手法はわからない。だけれど、彼女らにこっくりさんをやらせる方便はある。そう、犯人は誰かということ、よ」
紗枝「……へぇ」
惠「犯人が狐憑きという噂を利用して、こっくりさんに聞くという大義名分をつけた。そして、参加した人間に、狐の呪いを印象付けさせる」
紗枝「ふふ……」
惠「喜多見柚さんは、そのことで佐久間まゆさんに相談していた」
紗枝「空想にしても程度があるんとちゃいます?」
惠「佐久間さんも同様に呼び出した。こっくりさんではなく、花瓶のオマジナイだけれど」
紗枝「そんなん、知りまへんよ」
惠「なんとでも言えるわ。学校をわざわざ犯行の場にしていたのも、所詮は印象付け」
紗枝「……」
惠「杉坂さんに対しても、事件に対する不安を利用した。家族思いだったのよね、彼女」
紗枝「なんのことやら」
惠「……あの家に何があるの」
紗枝「何もあらへんよ」
惠「どの家かはわかるのね」
紗枝「……意地の悪い人どす」
惠「でも、これからは違うわ。あなたは、犯行を目撃された。そして、一人の被害者が増えた」
紗枝「……」
惠「中野有香さんは目撃してしまった。そして、殺された」
紗枝「誰どすか?」
惠「名前も知らないのね……あなたが殺した、ランニング中の女性よ」
紗枝「……」
惠「思い当たる節があるようね」
紗枝「しかし、うちがやった証拠はあらへん」
惠「腰の脇差」
紗枝「……渡しまへんよ」
惠「なら、続けるわ」
紗枝「次はなんどすか」
惠「最初の事件の犯人もあなたよ。土屋亜子と村松さくらを殺害した」
紗枝「それはちゃいます。犯人は、大石泉はんや」
惠「違うわ。あなたが犯人よ」
紗枝「遺書も見つかったんどすやろ?」
惠「ええ。大石泉は自殺よ」
紗枝「うちを疑うのは筋違いどす」
惠「いいえ。自殺に追い込んだのは、あなたよ」
紗枝「……」
惠「大石さんの中では特に矛盾がないわ。こっくりさんにもそう言われた」
紗枝「何の話か、わからへん」
惠「大石泉さんは最初の犯行の時に、催眠、というのが正しいか分からないけど、眠らされた。何も知らない」
紗枝「……」
惠「狐に取り憑かれた自分がやった、そんな考えも出るわ。そして、それを確定付けさせたのもあなたよ」
紗枝「……」
惠「自殺の前に、会議室をあなたは訪れているわね。教室に帰って来て、私に会ったのはその後よ」
紗枝「……」
惠「そして、犯行当日に彼女達と行動している証言もあるわ」
紗枝「見られてたんか……」
惠「あなたは、こっくりさんを利用した催眠を使った。彼女達に、狐という超常現象の存在を植え付け、不安を増幅させた」
紗枝「……」
惠「土屋亜子、村松さくらをあの夜に殺害し、大石泉さんに自分が狐憑きになったと誤解させた」
紗枝「ふふ……」
惠「彼女は自殺に追い込まれた。本当に自殺なのだから、あなたにつながるはずもない。だけれど、あなたはやりすぎた」
紗枝「気づいてるんどすなぁ……」
惠「あの血で書かれたウイジャ盤は、あなたが書いたもの。だけれど、手習いを大石泉と名前を書き、本物とすり替えておいた」
紗枝「……誰が気づいたんや?」
惠「松尾千鶴さんよ。あなたの字だとわかったわ」
紗枝「ああ見えて、よう見とるんやなぁ……」
惠「あなたはそれを利用し、死んだはずの大石泉、つまり狐憑きが犯行を続けているように見せかけた。佐久間まゆを呼び出した紙もあなたの字だった」
紗枝「……」
惠「あなたは……夏美……相馬夏美を知ってるわね?」
紗枝「ほんまにわかりまへん」
惠「いいえ……知らないなんて……言わせない」
紗枝「……?」
惠「あなたが……殺した」
紗枝「ああ、あの人……そないなこと、なんで知っとるんどす?」
惠「最後に確認するわ」
紗枝「……何を?」
惠「村松さくら、土屋亜子、喜多見柚、佐久間まゆ、杉坂海、中野有香、青木明、青木慶、彼女達を殺害し、そして、大石泉を自殺に追い込んだ、狐憑きはあなたよ。小早川紗枝」
92
紗枝「……ふふ」
惠「何かしら」
紗枝「O型の人、やっぱ嫌いどす。村松はんもそうやったなぁ」
惠「……」
紗枝「大石さんみたいに、ころっと眠ってくれはればいいのに。やめて、亜子ちゃんを傷つけないで、殺すなら自分を、とか騒がしゅうてなぁ」
惠「あなたは……」
紗枝「ついなぁ、やってしもうたわ。O型の血で汚れるのもいやさかい、首をこう、な」
惠「そんな理由だったの」
紗枝「そんな理由しかありません」
惠「目的は、血?」
紗枝「……今の私には力が足りません。私好みの血を集めなくてはいけません。そうして、ここから離れられる。私は本当に復活する」
惠「え……」
紗枝「でもなぁ、みな気づいてとるなら、殺さへんとあかんなぁ」スッ
惠「……血が」
紗枝「この刀に穢れた血をつけたくはありまへんが、特別どす」
惠「と、止まりなさい!」
紗枝「そない震えていて、当たると思います?それに、その銃、ハリボテやろ?」
惠「撃つわよ」
紗枝「撃てへん」
惠「くっ……」
紗枝「それが限界どす。普通の人間の……」
惠「止まった……?」
紗枝「……ここにきて」
惠「あ……」
紗枝「ここにきて、邪魔をするのか。大人しく死んでいればいいものを!」
惠「……聞こえる。わかったわ」
紗枝「怨んでるのね。でもね、私はあなたの血で復活した。その命を無駄にしてるわけではない!」
惠「……周子さん」
紗枝「力はないようやなぁ。覚悟は……な」
惠「ありがとう。撃つわ」
パーン!
93
紗枝「はずれましたなぁ」
惠「ええ」
紗枝「驚かせへんでおくれや……え?」
パキン!
パキンパキンパキン……
惠「な、なにこれ、狐の……幽霊?」
紗枝「何をして……」
惠「なんて数……」
コーンコーン……
惠「こんなものに囲まれていたの……」
紗枝「みな、落ち着いておくれやす!これだと、気づかれ……」
涼「誰に気づかれるって?」スタン
惠「え、空から降りて来た?」
紗枝「入って来やはった……」
惠「松永さん?なに、その大きな鎌と……棺桶?」
涼「話は後だ。随分と派手に暴れたようだが、ここが年貢の納め時じゃないか、狐」
紗枝「……キィ」
涼「ははははは!いいじゃないか、アタシに逆らおうって?そのイカレた魂ごと、あの世に送ってやんぜ!」
紗枝「出来はるのどすか」
涼「今は出来ないな。芳乃!」
芳乃「はいですー」
涼「完全に引きはがしな!」
芳乃「臨」
紗枝「させへん!」
涼「待った。アンタの相手はアタシだ」
芳乃「兵」
紗枝「こないなもんおるなんて、聞いてへん……」
涼「どこにだっているのさ」
芳乃「闘」
紗枝「仲間はおるんどす……」
ゴリゴリゴリゴリ!バリバリバリバリ!
惠「なに、この音」ゴックン
涼「うるさいぞ、楓。もう少し静かに食べろ」ムシャムシャムシャ
芳乃「者」ガブガブガブ
楓「あら、そうですか?」フゴフゴフゴ
惠「大きな口が浮いて……る」
紗枝「な、何もの……」
楓「お腹がすいているだけの、存在ですよ」
芳乃「皆」
涼「どうした?こないのか」
紗枝「きっ……」
芳乃「陣」
楓「逃げてる狐達もいるようですね。行ってきます」
涼「おう」
芳乃「裂」
紗枝「ぎ、ぎぎぎ」
涼「なぁ、佐城雪美」
惠「……なに」
涼「その人はお前がいなくても大丈夫だよ。犯人は、その人達に任せて、もう帰りな」
惠「……わかった」
涼「後で行くから」
惠「待ってる……」
芳乃「在」
涼「伊集院サン?」
惠「何かしら」
涼「狐はどうにかする。小早川紗枝はどうする気だ?」
惠「法の定める通りに」
涼「それでいい」
芳乃「前。狐よ、離れよ」
紗枝「くっは……」
キイイイイイイ!
涼「逃がすか!行くぞ、芳乃!」ダンッ!
芳乃「はいですー」トテトテトテ……
涼「後は任せる」
惠「ええ」プルルル……
惠「伊集院です。犯人、確保しました」
94
N高校校庭
むつみ「終わりました」
茜「終わりですね」
惠「……ええ」
茜「犯人は署に移送中であります」
惠「青木さんは?」
茜「警部補殿は署へ向かいました。真剣な表情でしたよ」
むつみ「警部ならそこに」
惠「……終わったら泣くって、嘘じゃなかったのね」
むつみ「慟哭、という感じでしょうか」
茜「声をあげて泣いております……」
むつみ「もう少し、早く解決できれば……」
惠「……そうね」
茜「今は前に進むしかありません。事件の全てを見つけましょう、氏家巡査!」
むつみ「はい!」
惠「がんばって」
むつみ「あの、伊集院さん」
惠「何かしら」
むつみ「過去の事件で関わりあるものを調べてみました。この二つの事件です。コピーを差し上げます」
惠「ありがとう。京都県警の資料?」
むつみ「犯行手法と凶器が似ています。残虐性も」
惠「被害者は……そう……」
むつみ「この事件の関連はあると思いますか」
惠「あるわ。絶対に」
茜「そんなに断言できるでありますか」
惠「ええ。助けてもらったから」
茜「?」
惠「何でもないわ。私はこれで、後はお願いね」
茜「はい!お任せください!」
むつみ「ご協力ありがとうございました」
95
N高校駐車場
涼「お疲れさん」
芳乃「お疲れさまですー」
楓「zzz……は、お疲れ様です」
惠「無事に終わったの?」
涼「おかげ様でな」
惠「……あなた達は何者?」
涼「ま、何でもいいだろ。そんなことより、協力してくれたお礼をしよう」
芳乃「はいですー」
惠「何をしているの?」
芳乃「あなたに加護をー健やかな魂を守る加護でしてー」
惠「ありがとう」
芳乃「どういたしましてー」
涼「アタシからも何かやろう、何でも言ってくれ」
惠「いいえ。何もないわ」
涼「そうか?本当に、なんでも叶えられるぞ」
惠「やめておくわ。この件に関しては、十分よ」
涼「賢明だな。それじゃ、これを受け取ってくれ」
惠「なにこれ?」
涼「出してみろ」
惠「新幹線のチケットね……」
涼「使うだろ?」
惠「使うわ」
涼「交渉は終わりだ。縁があったら、また会おう」
惠「ええ」
芳乃「おねえさまのお力をご大切にー」
涼「帰るぞ、芳乃、楓」
楓「zzz……」
涼「楓」
楓「はっ。帰りましょう」
惠「また、どこかで」
96
N高校駐車場
惠「黒猫ちゃん……」
ニャー
惠「おいで」
ニャー
惠「……ありがとう」
ニャー……
惠「……さようなら」
97
翌日
SWOW部室
惠「おはよう」
亜季「おはようございます!」
惠「おはよう、亜季ちゃん」
亜季「惠、ニュースを見たでありますよ」
惠「何を?」
亜季「N高校の事件、解決したのでありますな」
惠「ええ。協力してくれて、ありがとう」
亜季「いえいえ。もっと頼ってもらってもよかったであります。私と惠の仲でありますから」
惠「そうね」
亜季「……その、犯人は誰だったでありますか」
惠「未成年だから、名前は言わないわ」
亜季「そうでありますか。わかりました、聞かないであります」
惠「ありがとう」
亜季「酷い事件でありましたな」
惠「ええ。でも、解決したわ」
亜季「それが一番であります」
惠「そうだ。亜季ちゃん、これあげるわね」
亜季「お、銃弾をかたどったネックレスでありますか」
惠「一応撃てる銃もあるわよ。これもあげるわ」
亜季「いいでありますか?」
惠「ええ。私にはもっと良いお守りを貰ったから」
亜季「良い銀であります。いやー、申し訳ないでありますな」
惠「いいのよ。ありがと、亜季ちゃん」
亜季「大した事はしてないでありますよ」
惠「そう言えば、今日は他のメンバーは来るの?」
亜季「来ると思うであります。人生ゲームをするとかなんとか」
惠「最終的に運任せのゲームに落ち付いたのね……」
亜季「事件のこと、話すでありますか」
惠「やめておくわ。大切なものが色々と失われた、悲しい事件だから」
亜季「……そうでありますな」
惠「亜季ちゃん、ちょっと出かけてくるわね」
亜季「どこにでありますか?」
惠「京都よ」
亜季「京都?」
惠「明日には帰ってくるわ」
亜季「また急ですなぁ。気をつけるでありますよ」
惠「ええ。行ってきます」
98
幕間
ピッピッピッ……
涼「目を覚ましたな」
佐城雪美「……涼」
佐城雪美
京都で小早川紗枝が起こした事件の被害者。相馬夏美により一命は取り留めたものの、意識もまばらな状態で入院中。
涼「犯人は捕まえたよ」
雪美「……うん……知ってる」
涼「がんばったな」
雪美「……ありがとう……待っててくれて」
涼「ああ。でもな、もう終わりなんだ」
雪美「うん……わかってる」
涼「そう……か」
雪美「ねぇ……涼」
涼「なんだ?」
雪美「……私を……覚えてて」
涼「ああ。雪美を好きだった人は、雪美のこと、ずっと覚えてるよ」
雪美「皆と……離れない……ちゃんと……刻まれてる」
涼「ああ。向こうで見守ってやってくれ」
雪美「……夏美……向こうに……いる?」
涼「いるよ。会えるかはわからないが」
雪美「会える……私……夏美……魂……つながってる……離れても……ずっと」
涼「そうか。会えたら、お礼をするんだよ」
雪美「……うん」
涼「……時間だな。何か、言いたいことはあるか」
雪美「……お願い……聞いて」
涼「なんだ?」
雪美「もう……痛いの……嫌……」
涼「……わかったよ。お休み、雪美」
雪美「お休みなさい……」
涼「……ごめんな」
ピー……
涼「……お前は強かったよ、雪美」ナデナデ
幕間 了
99
新幹線車中
惠(小早川紗枝が起こした事件は京都で二つ)
惠(最初の事件の被害者は佐城雪美と相馬夏美。相馬夏美は佐城雪美を抱きかかえるように死んでいて、佐城雪美は一命を取り留めた)
惠(しかし、佐城雪美はずっと意識が不明瞭なまま入院中)
惠(小早川紗枝はこの件についても認め、この時の凶器が今回の事件の凶器と同一だと判断された)
惠(二つ目の事件の被害者が、塩見周子さん)
惠(遺体は一部しか見つかっておらず、特に頭部が見つかっていない)
惠(見つかっただけでも、遺体の状況は見るも無残なものだったそうだし、血も抜かれていた……)
惠「でも、見つかった」
惠(小早川紗枝はこの件に関しても認め、残りの遺体も発見された……)
惠「……幽霊なんて信じてないけど」
惠「たまには……信じてみるわ」
100
京都某所和菓子屋
惠「ご遺体、見つかってよかったですね」
惠「やっと、家に帰れたんですね……」
惠「これ、周子さんが好きだったんですか」
惠「そう、それでずっとメニューに……いえ、素晴らしいことだと思います」
惠「一つ、貰っていいですか」
惠「……美味しい、美味しいです」
惠「いえ、大丈夫です、ちょっと、気が高ぶって……」ポロポロ
惠「あの、言いたいことが」
惠「アタシ、この家が大好きだよ。ただいま」
惠「何を言って……」
惠「先に死んで、ごめんね。親不孝者な娘で、ごめん」
惠「ここにずっと居たかった、好きだって……周子さん、言ってます……」
惠「なんで、なんで、私、こんなに泣いてるんだろう」ポロポロ
惠「随分と振りまわされたけど……」
惠「良かったね……周子さん」
エンディングテーマ
Missing I
歌 伊集院惠
終
製作 ブーブーエス
オマケ
PaP「柚ちゃんがぴにゃこら太の呪いとか言ってたけど、何か知ってる?」
CoP「なんですか、その話?」
PaP「知らないか。にしても、紗枝ちゃん良くやるね」
CuP「ええ。紗枝ちゃんに標準語で話しかけられた時は心臓が止まるかと思いました。練習でしたけど」
CoP「松永さんと白坂さんは楽しげでしたよ」
PaP「あとさぁ、自分で紹介しておいてなんだけどさ、芳乃ちゃん、ホントにやりかねないよな」
CoP「……」
CuP「……」
PaP「真剣に悩まれると、不安になるんだが……」
CuP「そんなことより、トレさん達出していいんですか?」
PaP「僕が許可してる以上、社員だし逆らえないよね。下の妹はともかく、麗ちゃん、昔は役者希望だったとか噂もあるしさ」
CoP「麗さん、良い泣きっぷりでした」
CuP「そういうことですか。わかりました。それなら麗さんはCuで預かります」
CoP「何を言ってるんですか、麗さんはCoでしょう」
PaP「いや、麗ちゃんは渡さねぇからな」
マストレ「待て、前提がおかしいぞ!」
おしまい
あとがき
色々とごめんなさい
ここで言うことじゃないけど、ジャンルはサスペンスじゃなくてスプラッタホラーです。
今回もプロフィールネタです。
血液型と出身地が主です。犯人が好きな血液型は……
補注
>>84
※印の時点で、
無理にでも調査続行、千鶴ちゃんにイズミンの手習いを見てもらえば、
犯人にたどり着くんだよね。推理小説ならここで終わり。
でも、犯人はともかく狐にたどり着かないから、ホラーだしバッドエンド。
なお、
第1話「コックリさん」を中心に流行り神のオマージュがちらほら。
Phantomをデレマスアイドルの誰に歌ってもらえばいいか考え中。
新作の、真・流行り神(R-18)は8月7日発売ですよ
それでは、また
おつおつ
京都勢とB型……
ゆかりと響子がなぜか怖かった
乙
時子止めたのは雪美だったのか
時子様もBだしな
奏も危ないと思ったけどOだからスルーされてたのか
>>95で亜子が出て来た時はゾクっとしたww 亜季の打ち間違いだったんだなww
それから京都県警じゃない、京都府警だ。紗枝はんキレるぞww
楓さん涼小梅芳乃がゴーストスイーパーチームみたいになっててカッコよかったです乙
>>198
うわ、間違えた……
京都府警とかサスペンスドラマ好きとしては致命傷だわ……
それと、
次回予告だけ投下しておきます
次回予告
SWOW部室
時子「あら、亜里沙、お久しぶり。教育実習はどうだったかしら」
亜里沙「実習……」
時子「亜里沙、どうしたの?」
亜里沙「時子ちゃん、うわぁぁん!」
時子「わ、何よ、どうしたっていうのよ。あー、もう、泣きつくならもっといい人がいるでしょうに!」
恵磨「あー!時子ちゃんが亜里沙ちゃん泣かせてる!」
時子「違うわよ!亜里沙、何があったか、話してみなさい」
亜里沙「グスン……うう……」
時子「わかったわ。泣きたいだけ泣きなさい、そうしたら話してもらうわよ」
次回
持田亜里沙「7人が行く・真鍋先生の罪」
近日公開
おつおつー
皆いいキャラしてるなぁ...次回作も期待してまー
次回は時子様見れそうで何より
しゅーこ雪美いずみんと俺得スレやな…
しゅーこちゃんはなぜわざわざバラバラに…
なお死んでもただでは済まさん模様
死んだ子達が切なかったなあ。
周子、夏美さん、雪美、海、その他大勢辛かったろうに・・・
最後の雪美の「痛いのはいや」で泣きそうになった。
次回も楽しみにしてるよ。
響子ちゃんとゆかりちゃんから漂うあやしいかほり
嫌いじゃないし好きだよ
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