女騎士「勇者?何だそれは?」(129)
勇者「とどめだぁーー!」
ズバッ
魔王「ま…まさか我が人間なんかに殺されると…は……その剣さえ無ければ…その剣さえ無ければぁぁああ!!」
シュゥゥゥ…
僧侶「ま、魔王が消えていく…」
魔法使い「やりましたね勇者様!!」
勇者「ああ、ついに終わったよ……みんな、今まで本当にありがとう。僕一人じゃ無理だった、みんなが居なかったら魔王を倒すことなんて出来なかったよ」
戦士「そんなことは無いぞ。全て勇者のおかげだ」
魔法使い「そうそう。あとその『剣』もね」
勇者「うん…魔王に傷を負わせることが出来る唯一の剣、この『聖なる剣』がなかったら倒せなかったよ」
この物語はその剣に纏わる物語である
遡ること数百年…
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【とある古ぼけた村】
女騎士「勇者?何だそれは?」
この時代にはまだ、『勇者』という存在は居なかった
そんな『勇者』という言葉を私に教えてくれたのは、幼馴染のこいつだった
剣士「勇者ってのは読んで字の如く、『勇気を持つ者』だ。どんな困難もその勇気を持ってして立ち向かう、まさに英雄の中の英雄!…昔の古い文献にはそう書かれてたぞ」
女騎士「ふ~ん…で、その勇者にお前はなりたいと…」
剣士「ああ!勇者になって魔王を倒そうと思ってる!」
女騎士「…私にも勝てないのにか?」
剣士「うっ!」グサッ
魔王になんか萌えた
女騎士「はぁ…久々に故郷に帰ってきてみれば何を腑抜けたことを…」
私は王国騎士団に入団していて、故郷であるこの村を数年ほど離れていた
剣士「う、うるさい!とにかく俺は今日この村を出て、魔王城を目指すつもりなんだ!」
女騎士「…お前は本物の馬鹿か?王国騎士団にすら入れないお前が魔王に敵うわけないだろ」
剣士「俺は騎士団に入れないんじゃなくて入らないんだ。騎士団は『王国』を魔物達から護る為の組織だからな。言うなれば盾だ」
女騎士「…それでお前が矛ってことか?」
剣士「ああ!」
女騎士「はぁ…馬鹿すぎて頭が痛くなってきた」
私達が生まれる前はまだ、魔王を倒そうとする者も多数居たらしい
村の皆もその者達を英雄と称えていた
しかし…魔王を見ることすら出来ずに全員殺されてしまった
そればかりか魔王を倒しに向かう者が現れると、その者の生まれ故郷が魔物達に襲われるという噂まで流れた
それが本当か嘘かわからないがその噂が流れて以降、魔王を倒そうなんて考える者は現れなかった……このどうしようもない馬鹿は除いてだが…
女騎士「…いいのか?その行為がこの村の皆を悲しませることになるかもしれないんだぞ?」
剣士「…みんなにはもう伝えてある。みんなも『もし魔物が攻めて来たら、村を捨てて逃げるから安心しろ』ってさ…」
女騎士「そうか…村の皆も大馬鹿者だな」
剣士「絶対にこの村を壊させたりしない…むしろ俺が魔王を倒しさえすれば、もう森の中で怯えながら暮らすこともなくなるはずだ!」
女騎士「その自信はどこから出てくるんだよ…」
剣士「そういうことだから……こうしてお前とまた会えるようになるのは魔王を倒した後になる」
女騎士「……例えお前が死んでも、私の心の中でずっと生きているからな。安心して死んでいいぞ」
剣士「死ぬ前提で話をするな」
女騎士「冗談だ」
剣士「冗談でも言っていいことと悪いことがあるだろ」
女騎士「…おい、さっきのは冗談だから……冗談を本当にするんじゃないぞ」
剣士「……ああ、わかってる」
女騎士「…じゃあそろそろ私は王国に戻るよ」
剣士「ま、待ってくれ!」
女騎士「ん?」
剣士「旅に出る前に…お前に伝えておきたいことがあるんだ」
女騎士「………」
剣士「女騎士…俺はずっとお前のことが……」
女騎士「………待て」
剣士「えっ?」
女騎士「それは帰ってきてから教えてくれ」
剣士「だ、だけど……」
女騎士「頼む…」
剣士「……わかった」
剣士が何を言おうとしていたのか私にはわかっていた
私も…同じ気持ちだったから…
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剣士「はぁ…」トボトボ
剣士(結局俺の想いを伝えることが出来なかったなぁ…)
女騎士「おいおい、ここはもう魔物が現れる危険区域なんだぞ。ボーッとしてないでもっとシャキッとしろ」
剣士「うるせぇ………へ?」クルッ
女騎士「ん?どうかしたか?」
剣士「な…なななな、何でお前がここに居るんだ!?」
女騎士「何でって…私も一緒に行くからに決まってるだろ」
剣士「はあ!?だ、だってさっき王国に帰ったんじゃ…」
女騎士「荷物をまとめてきたんだ。旅に出るには準備が必要だし、ましてや私は女なんだから必要な物も多い」
剣士「はて?どこに女が居るんだ?」キョロキョロ
女騎士「切り刻まれたいのか?」チャキッ
剣士「すいませんでした。謝りますから喉元にある刃を離してください」
女騎士「まったく…」
剣士「…騎士団には何て言って来たんだ?」
女騎士「深爪したので王国騎士団を辞めて村に帰ります、と」
剣士「理由が酷すぎる」
女騎士「それと軍資金と馬を一頭拝借してきたぞ」
剣士「盗んできたのか!?」
女騎士「いや、拝借だ」
剣士「そ、そうか…(帰ってくる頃には指名手配されてそうだな…)」
女騎士「そもそもお前は魔王城まで徒歩で行くつもりだったのか?」
剣士「そうだけど…」
女騎士「この大馬鹿野郎が。徒歩で行ける距離じゃないだろ」
剣士「そこら辺はほら、野良馬を仲間にすればいいかなって…」
女騎士「はぁ…野良馬なんて居るわけないだろ、まったく…やっぱり私がついてないと駄目みたいだな」
剣士「…本当にいいのか?」
女騎士「ああ…お前だけに任せたら確実に村が滅びるからな」
剣士「へっ、言ってろ…」
女騎士「ほら、馬に乗れ」
剣士「おう」ヨイショ
女騎士「…さっきの別れの時の話だが…あれはやっぱり帰ってから聞くことにする」
剣士「……じゃあ尚更死ねないな」
女騎士「ああ…必ず生きて帰って伝えてくれよ」
こうして私と剣士の旅が始まった
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私達が旅を出てから数週間が経ったある日、魔王城に向かう途中である村に寄っていた
剣士「酷い廃れ様だな…」
女騎士「ここは危険区域なんだから当たり前だ」
我々人間は魔物が現れる地域を危険区域と定めた
その区域内にある全ての村はこの村のように捨て去られる
剣士「ここにも昔は人が住んでたんだよな……」
女騎士「ああ……」
それは珍しいことではなかった
もし仮に私達の村の近くに魔物が現れたら、すぐに危険区域とみなされ村を捨てて新たな隠れ場所を探すしかないのだ
それが人間に残された、生き残る唯一のすべだったのだ…
女騎士「まぁ、昔と言ってもそこまで大昔じゃないがな。この村が危険区域に指定されたのは5年ほど前だ。私も村人達の移動の護衛に当たってたから覚えている」
剣士「へぇ~王国騎士団はそんな仕事もしてるのか」
女騎士「ああ。王様が住む大国『王国』を護るのが本来の仕事だが、最近は王国付近に魔物が現れない為、移動の護衛が増えてきている」
剣士「つまり……魔物達は人間が多く住んでる王国付近には現れず、こういう辺境の地に頻繁に現れるようになったってわけか」
女騎士「そうなるな…」
剣士「でも何で魔物達は王国付近に現れなくなったんだ?」
女騎士「私に聞くな。人間に脅威を抱き始めたんじゃないのか?」
剣士(いや、それはありえない…もしそうだとしたら一気に叩くはずだ。なら何故なんだ…?)
女騎士「とりあえず空き家を物色して使えそうな物を集めるぞ」
剣士「ああ…」
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女騎士「う~ん…さすがに食料は残ってないか」ガサゴソ
剣士「おーい!ちょっとこっちに来て、これを見てくれー」
女騎士「ん?何かあったのか?」スタスタ
剣士「これだ、これを見てくれ…」
女騎士「こ、これは…」
剣士はクローゼットの中を見ていた
そして、そこにあったのは…女物のパンツだった
女騎士「…死ね変態」チャキッ
剣士「ま、待て!何か勘違いしてないか!?」
女騎士「勘違いなどしていない…お前がパンツを盗むという最低の行為をしているだけだろ?」
剣士「だからそれが勘違いだって言ってんだよ!いいから落ち着いて見てみろよ!」
女騎士「見ろって言っても…女物のパンツが畳んで置いてあるだけじゃないか」
剣士「ああ…その通りだ」
女騎士「…やっぱり殺す」チャキッ
剣士「だからやめろー!お前はおかしいと思わないのか!?ここは5年も使ってないのにそのパンツ達は埃を被っていない!」
女騎士「何?」
剣士「この女物のパンツと…それから別の部屋では子供用の服にも埃が被ってなかった」
女騎士「魔物の仕業じゃないのか?」
剣士「たしかに部屋の至る所に魔物が荒らした形跡もあるが…魔物がわざわざ荒らした服を畳むか?」
女騎士「……ありえないな」
剣士「だろ?」
女騎士「じゃあ…つい最近、誰かがこの家を私達と同じように物色していたってことか?」
剣士「おそらくな。そして子供用の服とパンツを盗ってったんだろう…」
女騎士「子供用の服と女物のパンツ…女の子がここ(危険区域)に居たとは考え辛いが…」
剣士「いや…盗まれた子供用の服は男物だ。だからそいつはきっと男の子だ」
女騎士「はあ?じゃあ何で女物のパンツも盗まれてんだよ」
剣士「そりゃ……夜のオカズに―「やっぱり死にたいのか?」
剣士「だ、だってそうとしか考えられないし……ッ!!」
女騎士「ん?どうかしたか?」
ガシッ
女騎士「ちょっ!?」
バタンッ
剣士はいきなり私の腕を引っ張り、そのまま一緒にクローゼットの中に入った
女騎士「お、お前!何をして…むぐっ!」
剣士(シーッ!静かにしろ!聞こえないのか!?魔物が家に入ってきたんだ!)ヒソヒソ
女騎士(何!?)
ギシ…ギシ…
クローゼットの隙間から部屋を覗くとそこには2匹の魔物が居た
女騎士(ゴブリンか…こいつらは一匹一匹は大した実力じゃないが、行動する際には必ず10匹以上からなる小隊を組む。ここはあいつらが行くのを待つしかないか…)
女騎士(それにしても…よくこいつは気づいたな。村の見張りを一人でしていたらしいから聴覚が発達してるのか?…ん?)
私はここであることに気がついた
剣士の腕の中に包まれているということに…
女騎士(なっ!?だ、抱かれてる!?///)
女騎士(緊急事態だったからしょうがないのはわかってるが…さすがにこれは近いすぎるだろ!///す、少しでいいから離れないと…)ゴソゴソ
剣士(バ、馬鹿!動くなよ!気づかれるだろ!)ヒソヒソ
女騎士(そ…そんなこと言われてもだな…///)
剣士(あいつら何か話をしてるぞ…)
剣士の言うとおり、クローゼットの外で2匹のゴブリンは何か話をしていた
「武器を調達して来いって言われても、ここら一帯はもう既に回収しちまってるから無いだろ」
「まあな。だが作らされてる奴らよりはマシだろ?」
「そりゃそうだが…」
剣士(武器の回収?まさかこいつら…王国へ攻め込むつもりか!?)
女騎士(外の会話がまったく入ってこない!そもそも私の心臓の音がうるさすぎて聞こえない!)ドキドキ
「武器が欲しけりゃ人間がいっぱい居る王国に行けばいいんじゃねーのか?」
「たしかに王国を潰せば武器もたくさん手に入るだろうが…今はそれに割く兵力すら勿体無いって側近様が言ってたろ。話を聞いてろよバカヤロウ」
「そだっけ?」
「何の為に魔王様に逆らった人間の生まれ故郷を崩壊させるって噂を流したと思ってんだよ」
「…何の為なんだ?」
「人間に盾を突かせない為だろうが!!今の話の流れでわかるだろう!!」
「いや全然」
「はぁ…お前って本当にバカだな。いいか?人間共もお前と同じくらいバカだから、勝てないとわかっていても魔王様に盾突くんだよ。今はそれを追い払うのに力を使いたくないから嘘の噂を流してるってわけだ。わかったか?」
「……人間がバカってのはわかった」
「お前はもう考えるな。黙って側近様と隊長の指示に従え」
剣士(どういうことだ?あの噂は嘘で、あいつらは俺ら人間をまったく相手にしていないのか…?)
剣士(…女騎士はどう思う?)ヒソヒソ
女騎士(剣士のニオイ…やっぱり落ち着くな///…私のニオイは臭くないかな?)ドキドキ
剣士(まったく聞いてないし…)
剣士(それに何かいつもと様子が違うな。なんというか…顔が赤くて色っぽい………って今思えば俺、こいつを抱き寄せてるじゃん!?///)
女騎士(それにしても…私はこんなに動揺してるのに、こいつはまったく動揺してないのが気に食わないな…)チラ
剣士(とっさの判断だったとはいえ…やり過ぎだろ、俺///…もしかして女騎士は俺と密着してるから緊張してたのか…?)チラ
剣士・女騎士(あっ…)
目と目が合う
私は剣士と目を合わせることがとても恥ずかしかった
だが目を逸らそうとはしない
剣士も逸らさなかった
瞬きする時間すらも惜しく感じた
そんな時、家の外から「そろそろ帰還するぞー」という声が聞こえ、部屋に居た2匹のゴブリンは外に出た
女騎士「……行ったみたいだぞ」
剣士「……そうだな」
ゴブリン達が出てった後も私達はまだクローゼットの中で抱き合っていた
剣士「……出ないのか?」
女騎士「お前が私を離さないんだろ…」
剣士「…そうだったな」
喋る度にお互いの息が掛かる
そして自然と顔が近づいていった
10cm、5cm…まるで吸い込まれるようにお互いの唇は近づいていく
そして…あと1cmで唇が触れ合うとこまで近づいた
しかし……それを邪魔する者が現れた
少年?「………」ジー
剣士・女騎士「……へ?」
私達のキスを邪魔をしたのは小さな少年だった
少年?「…あれ?キスしないの?」
少年のその一言が私達を現実に引きずり戻した
女騎士「す…するわけないだろ!」ドンッ!
剣士「痛っ!こんな狭いとこで押すなよ!頭打っちまっただろ!」ヒリヒリ
女騎士「フンッ!///」プイッ
少年?「まだ大きな音は出さない方がいいよ。ゴブリン達に聞かれたらマズイし」
剣士「そうだな、ありがとう……で、君はどうしてここに居るんだ?」
少年?「僕?ちょっとだけ寄り道してただけだよー」
女騎士「寄り道って…この辺は全て危険区域に指定されている…一体どこに向かっていたんだ?そもそもどうやってこの危険区域に足を踏み入れたんだ?」
少年?「さっきから質問が多いなぁ…じゃあ逆に聞くけどお兄ちゃん達はどうしてここに居るの?」
剣士「俺達も寄り道してるのさ」
少年?「……もしかして魔王城に行くの?」
剣士「ああそうだ。俺達はこれから魔王を倒しに行くんだ」
少年?「…ぷっ……アハハハハハハハハ!!」
少年はいきなり大声で笑い始めた
女騎士「…何だこいつは?」
剣士「さあ…?」
少年?「あははは……ふぅ」
剣士「おっ、終わったk―「ギャハハハハハハハハ!!」
女騎士「いい加減にしろ!!」
少年?「ごめんごめん。あまりにも可笑しなこと言うからさ」ハハハ
剣士「…魔王を倒しに行くことがそんなに可笑しいことなのか?俺はそうは思わない…むしろ逃げ隠れ、怯えながらしか生きること出来ない今の俺達(人間)の現状の方が可笑しいと思うぞ」
少年?「……ふ~ん、まだこんな人間も残ってたんだね」
剣士「どういう意味だ?」
少年?「ううん、気にしないで。それよりさっきは笑ってごめんね。でも別にお兄ちゃん達を馬鹿にして笑ったわけじゃないんだよ。実は…」
剣士「実は…?」
少年?「……………」
剣士「……………」
女騎士「………何か言えよ!剣士もどうして黙っているんだ!?」
剣士「いや…窓の外を見てみろよ…」
女騎士「ん?」クルッ
窓の外に目をやるとそこには……深緑色の気持ち悪い顔がこちらを覗いていた
ゴブリン達「………」ジーー
女騎士「……逃げるぞ!」ダッ
剣士「おう!」ヒョイ
少年「あっ、ちょっと!!」
ゴブリン達「逃がすかー!!」ダッ
私と剣士は少年を連れて急いで二階へと移動した
少年?「ど、どうして二階に上がるの!?逃げるならまずは外に出ないと駄目じゃん!」
剣士「いいんだこのままで!」タタタタタタッ
女騎士「剣士…わかってるな?」タタタタタタッ
剣士「ああ!この子は任せろ!」
女騎士「頼んだぞ…!」クルッ
少年?「えっ?」
私は二人と別れてその場に残った
少年?「あ、あの人を置いてっちゃっていいの!?」
剣士「ああ…廊下なら囲まれる心配も無いし、1対1なら女騎士に勝てるわけないからな」
少年?「まさか…1対1に持ち込む為にワザと二階に?」
剣士「そうだ。あいつらは下から上がってくるしか無くなるし、上から来ようとしても俺がそれを防ぐってわけさ。さすがに十数匹のゴブリンに囲まれたら俺達二人でも君を守りながら戦うのは難しいからな」
少年?「ふ~ん…」
剣士「それより気になることがあるんだけど…この家の服を漁っていたのは君だよな?」
少年?「うん」
剣士「漁った物の中に女物のパンツがあったけど…それも君が盗んだのか?」
少年?「うん。子供用に可愛いのがあったら一番だったんだけどね」
剣士「えっと…何に使うつもりなんだ?」
少年?「えっ?後で採寸合わせて穿くに決まってるじゃん。パンツって穿く以外に使い道あるの?」
剣士「な、無いことも無いけど……てか穿くのか!?」
少年?「駄目なの?」
剣士「駄目とかそういうことじゃなくて、どうして女物のパンツなんて穿くんだ?」
少年?「だって僕、女の子だもん」
剣士「えっ?………ええェェ!?」
______________________________
女騎士「フンッ!」
ズバッ
ゴブリン「ぐああああああ!!」
そんな暢気な二人と打って変わって、私は必死にゴブリン達を蹴散らしていた
女騎士(さっき上から剣士の叫び声が聞こえたんだが…大丈夫なのか?)
ゴブリン「くっ…人間のくせに強い!た…隊長、どうします?」
隊長「これ以上無駄に兵を失うわけにはいかない…『オーガ』を連れてこい」
ゴブリン「し、しかしあいつは!?」
隊長「いいから連れてこい!」
ゴブリン「わ、わかりました…」タタタタタタッ
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少年?「ほらお兄ちゃん、二階の窓から入ってこようとしてるよ!」
剣士「させるかー!」
グサッ
ゴブリン「ぐあああー!」ヒュゥゥゥ…
少年?「アハハハ!顔だけじゃなくて落ちる姿も面白かったね!」
剣士「お願いだからもう少し緊張感持ってくれ…」
ズシィン ズシィン
剣士「な、なんだ!?」
少年?「お兄ちゃん!窓の外を見てよ!」
地鳴りのような大きな足音が聞こえてきた
廊下に居た私はその音が何なのか確認することが出来なかったが、剣士は二階の窓からその音の主とご対面をしていた
剣士「な…何なんだあの怪物は!?」
体長は推定5m弱、屈強な肉体、ツギハギだらけの顔、手には大きな棍棒
そこには想像を絶する怪物がいた
少年?「…あれは魔王が創り出したオーガって魔物だよ。力はかなり強いけど知能が低いから敵味方の区別も出来ずに襲っちゃうんだ。気をつけた方がいいよ」
剣士「…何でそんなことを君は知っているんだ?」
少年?「そんなことより来るよ!」
剣士「えっ?」
オーガ「ウガアアア!!」ブンッ
ドオオォォン!
醜きオーガは力一杯棍棒を振り落とした
私達が居た家は激しい音と共に崩れ去った
ドサッ
剣士「イテテテ…吹き飛ばされちまった…一体何が起きたんだ?」
少年?「お兄ちゃん、家が壊れちゃったよ」
剣士「何!?な、中にまだ女騎士が居るんだぞ!お、女騎士!!」ダッ
少年?「あっ、待ってよー!」タタタタタッ
剣士「女騎士ィー!どこだぁー!?」ガラガラ
剣士は瓦礫を掻き分けながら必死に私を探していた
女騎士「剣士…」
辛うじて逃げる事ができ、影でそれを見ていた私はたまらなく嬉しかった
剣士「…ん?この下から女騎士の声が聞こえる!待ってろ女騎士!今助けてやるからな!」
女騎士「…はあ?」
剣士「おっ!手が見えてきたぞ!深緑色したゴツゴツした手…間違いなく女騎士の手だ!」
女騎士「」イラッ
その手はもちろん私のモノじゃない、ゴブリンの手だ
女騎士「…いい加減にしろ」ドカッ
剣士「ぎゃふん!」
女騎士「恥ずかしいところを見られたからってボケで誤魔化すな」
剣士「べ、別にそうわけじゃないし…///」
女騎士「まったく…そういうとこは昔から変わらないな」ハァ
少年?「お兄ちゃん達、夫婦漫才してる場合じゃないよ」
女騎士「夫婦じゃない!」
剣士「おい…あいつ、周りの家を破壊しながらゴブリン達を殺してるぞ」
女騎士「それは嬉しい事だが…手放しでは喜べんな」
少年?「…これからどうするの?ゴブリンが死んじゃったからあいつを止める者が居なくなっちゃったし…」
女騎士「私達が居るだろ?」
少年?「えっ?」
剣士「まぁ、魔王を倒そうとしてる奴があんな魔物も倒せないなんて笑い種だしな」
女騎士「私達があいつを森の中に連れ込むから、お前はその隙に逃げろ」
剣士「本当は安全区域まで送ってやりたかったけど…ごめんな」
少年?「………」
剣士「女騎士、あいつの大きさから見て剣のみで戦うのは不利だ。弓を取ってきてくれ」
女騎士「わかった…それまで時間稼ぎ頼んだぞ」
剣士「おう!俺だけじゃ絶対に勝てないから早くしろよ!」ダッ
女騎士「まったく…頼りになるのか情けないのか、どっちなんだよ」ダッ
タタタタタタ…
少年?「……ここまで馬鹿な人間は初めてだよ」クスッ
______________________________
剣士「やーい!やーい!こっちに来やがれデカブツ!お前の攻撃なんてヘナチョコなんだよ!」
オーガ「ガアアア!!」ズンッ ズンッ
剣士「やべっ!」ダッ
オーガ「ウガア!」ブンッ
剣士「うひょっ!?」ササッ
ズドォォォン
剣士は死に物狂いで攻撃を避け、すぐに森の木々の影に隠れた
剣士(一発の威力がデカ過ぎだろ!女騎士はまだなのか?)
ザッ
女騎士「まったく、見っとも無いな…」
剣士「やっと来たか!」
女騎士「さて、上手く森の中に誘導することは出来たみたいだが…ここからどうやってあいつを倒すか…」
剣士「…俺がメインで行く。フォロー頼むぞ!」ダッ
女騎士「ばっ!?作戦も決めずに行くんじゃない!………はぁ、あいつは本当に馬鹿だな」
剣士「うおおおお!!」タタタタタタッ
剣士はオーガに向かって一直線に走った
オーガ「ウガア!」ブンッ
当然の如く、オーガは棍棒を振りかざす
ヒュン…
グサッ グサッ
オーガ「ギャアアア!!」
女騎士「…よし」
私はオーガの両目を射抜いた
視界を失った為、剣士への攻撃は外れ…
剣士「もらったぁー!」ダンッ
ズバッ
その隙に木々を蹴って高く跳んだ剣士がオーガの喉元を切り裂いた
ズシィィン
首を半分ほど切られたオーガはその場に倒れこんだ
剣士はああ見えても馬鹿じゃない
戦闘で如何にすれば勝てるのか瞬時に判断することが出来る頭脳を持っている
これほど心強い仲間は他には居ないのだが…
スタッ
剣士「ナイスアシスト!」グッ
残念ながら戦闘以外では大馬鹿者なのだ
着地した剣士は私の方に振り返り、満面の笑みでサムズアップをしてきた
私は剣士の馬鹿さ加減と能天気さにイラつき…
ヒュン…
スパッ
剣士「…へ?」
矢を放ってやった
剣士「ほ、頬が切れたぞ!?」
女騎士「チッ…外したか」
剣士「おい!!」
女騎士「ッ!?」グググググ…
私は再び弓を引いた
剣士「ちょっ!?そこまでするか!?」
女騎士「違う!後ろだ!まだ死んでないぞ!」
剣士「何!?」クルッ
オーガ「ガ…ウ…」
目を潰され、喉を切り裂かれて頭が取れかかっている
しかし、オーガはまだ生きていた
女騎士「くっ…!」パシュン!
グサッ
心臓を狙って放った私の矢は偶然か狙ったのか、オーガの振りかざした腕に刺さってしまった
頭が取れかかっても動けるオーガにとって私の攻撃は、蚊に刺されたぐらいの感覚だったろう
オーガ「ウガ……ア!」ブンッ
剣士(駄目だ!この攻撃は避けられない!なら…剣でうまく受け流してやる!)バッ
あの馬鹿はなんと、自分より大きな棍棒を剣で受け止めようとしだした
女騎士「け、剣士ィーー!!」
ズドオオォォン!
まるで大砲を放ったような爆音が鳴り響く
それだけ力を込めた一撃だったのだ
その攻撃を受けたら剣士の体は木っ端微塵に吹き飛ぶはずだ
しかし……剣士はピンピンしていた
何故ならその攻撃は光の壁によって防がれていたからだ
剣士「な…何だこれは…?」
女騎士「け、剣士!大丈夫なのか!?」タタタタタッ
スタッ
少年?「まったく…あれぐらいでオーガが死ぬはずないでしょ。しかも剣で受け止めようとするし…ホントお兄ちゃんって馬鹿だね」クスッ
女騎士「お、お前!どうしてここに居るんだ!?」
少年?「どうしてって言われても……気まぐれかな?本当は助けるつもりはなかったんだけどね…自然と体が動いちゃったんだ」
剣士「助けたって…この壁は君が作り出したのか!?」
少年?「うん」
オーガ「ガ……」
少年?「あっ、忘れてた。君には何の恨みも無いけど…ごめんね」ス…
カッ!
剣士「うっ、眩しい…」
少年が手をかざすと溢れんばかりの光がオーガを包み込んだ
オーガ「ウガ……ァ…」シュウゥゥゥ…
そしてオーガは完全に消滅した
少年?「…終わったよ」
剣士「す、凄い…」
女騎士「お前…魔法使いだったのか」
少年?(…そういうことにしておこうかな)
少年?(以下魔女)「…うん!実は僕は魔女なんだ!」
女騎士「………ん?魔女?」
剣士「そうだったのか…助けてくれてありがとな、魔女」
魔女「お安い御用だよー」
女騎士「おい待て。お前今…魔女って言ったのか?」
魔女「そうだけど…何か駄目だった?」
女騎士「………女!?」
剣士「あっ、そういや言ってなかったな。この子は女の子だぞ」
女騎士「し…信じられん…」
魔女「なら確かめてみる?」ヌギヌギ
女騎士「待て!信じるから服を脱ごうとするな!」
剣士「チッ」
女騎士「おい、今の舌打ちは何だ?この変態ロリコンが」ギロッ
魔女「お兄ちゃんはロリコンじゃないよ。ただ年上好きなだけだよー」
剣士「いや、別にロリコンでも年上好きでも無いけど………って年上!?君何歳なの!?」
魔女「歳は100歳を超えたあたりから数えてないから忘れちゃった!」テヘ
次から次へと衝撃的な事実が判明していった
女騎士「…なんか頭が痛くなってきた」
剣士「…俺もだ」
魔女「それよりお兄ちゃん達はホントに魔王を倒しにいくの?」
剣士「ああそうだ」
魔女「オーガにすら勝てなかったのに?ハッキリ言って自殺しに行くようなものだよ」
女騎士「あー…いくら言っても無駄だぞ。この馬鹿は一度決めたら曲げないんだ…馬鹿だからな」
剣士「前から言おうと思ってたが、さすがに馬鹿を連呼しすぎだろ」
女騎士「あんな怪物に後方支援を信じきって突っ込む奴は馬鹿以外何者でも無いだろ」
剣士「あ、あれはお前だから俺も安心してだな…」
女騎士「そう言えば許してもらえると思うな、馬鹿。今度同じようなマネしたら支援してやらないからな、馬鹿」
剣士「ぐぬっ」
魔女「ふふ……アハハハハ!ホントお兄ちゃん達は面白いね!」
女騎士「それよりお前は寄り道をしてたと言っていたが、村に帰るとこだったのか?」
魔女「…ううん。僕はまだ故郷に帰るつもりないんだ…」
剣士「じゃあどうしてこんなとこに居るんだ?」
魔女「実は……自由気ままに旅をしながらある情報を集めてたんだ」
剣士「ある情報?」
魔女「うん…魔王の情報をね」
剣士「えっ!?」
女騎士「なるほど…お前も魔王を倒そうとしているのか」
危険区域に居ること、オーガを倒した強力な魔法…その全てに合点がいった
だが同時に、「実はその逆なのでは?」という考えにも至った
剣士「だからオーガのことも知ってたのか…」
魔女「ねえ、行き先が同じことだしさ…僕もお兄ちゃん達と一緒に行っていい?」
女騎士「…馬鹿を言うな。お前みたいな子供を連れていけるわけn………子供じゃなかったな」
剣士「…ああ、いいぞ」
魔女「やったぁー!」
女騎士「…ちょっと待て、一旦それは保留だ。剣士、少しこっち来い」グイッ
剣士「お、おい何だよ…?」スタスタ
魔女「…早くしてねー」フリフリ
女騎士「そんなに簡単にあいつを信じていいのか?」
剣士「ああ、俺を助けてくれたし大丈夫だろ」
女騎士「だがさっきの魔法といい、危険区域を自由に行き来してることといい、あいつには不審な点が多い」
剣士「性別と年齢が一番不審だけどな」
女騎士「そ、そうだが…」
剣士「大丈夫だって。それともお前にはあいつが魔王の手先に見えるのか?」
女騎士「…見えない」
剣士「ならそれでいいだろ。ほら、もう行くぞ」スタスタ
たしかにその仮定を決定付ける証拠は無い
だが…その仮定を否定する根拠も無かった
魔女「あっ、話し合い終わったの?」
剣士「ああ。満場一致で君を仲間にすることに決まったよ」
魔女「ホント?お姉ちゃんはそんな風には見えないけど…」
女騎士「……そんなことは無い。私も頼もしい仲間が増えて嬉しいさ」
魔女「……あっ、そっか!僕が仲間に入って二人きりじゃなくなっちゃうのが嫌なのか!ごめんね邪魔しちゃって」
女騎士「いや、むしろ邪魔してくれて感謝してる。二人きりだと何をされるかわかったもんじゃないからな」
剣士「お前は俺を何だと思ってんだよ…」
女騎士「獣」
剣士「ひでぇな!」
魔女「アハハハ!たしかにさっきもキスしようとしてたしね!」
剣士・女騎士「あっ」
魔女「…?どうかしたの?」
女騎士「い、いや何でもない…は、早く先を進もう!」アセアセ
剣士「そ、そうだな!」アセアセ
魔女「……もしかして忘れてたの?」
剣士・女騎士「」ギクッ
まさに図星だった
女騎士「な…何のことだ?わ、私達は別に何もしてなかったよな?」
剣士「そ、そうだとも!」
魔女「そもそも付き合ってると思ってたんだけど……ま、二人がそう思いたいのならそれでいいけどさ。ほら、お姉ちゃんの言うとおり早く行こうよ」スタスタ
女騎士「………この件はお互いに忘れよう。いいな?」
剣士「お、おう…」
しかしすぐに忘れられるわけもなく、数日間はお互い変に意識して過ごすこととなった
今日はここまで
もう完結はさせてるので、後は明日全部投下して終わりです
ではまた
乙
乙
マジかw
==============================
少年改め魔女が仲間になってから数週間が経った
魔女の情報網は予想以上のもので、私達は魔物達にほとんど見つからずに進むことが出来た
そしてついに魔王城が見える山まで到達した
剣士「あそこに魔王が…」ブルッ
女騎士「…どうした?怖気づいたのか?」
剣士「いや…武者震いってヤツさ。よぉーし…魔王!絶対にお前を倒してこの世を平和にしてやるからな!そこで待ってろよぉ!!」
女騎士「ば、馬鹿!!そんな大声出したら見張りに気づかれるだろ!!」
魔女「大丈夫だよ。この山には誰も居ないはずだから」
女騎士「どうしてだ?ここは魔王城の鼻の先だ。いくらなんでも見張り無しなんてありえないだろ」
魔女「…見てごらん。この山の木々はほとんど伐採されちゃってるでしょ?これは魔物達の仕業なんだよ」
女騎士「何故魔物達はそんなことをするんだ?」
剣士「……あいつらは武器を製造しているんだろ?」
魔女「その通りだよ。木々だけじゃなくこの山のあらゆる資源はもう取り尽されちゃってるんだ。だから今は見張りも置かずに、別の山の採掘に行ってるんだよ」
女騎士「なるほど……たしか魔王は人間なんかを相手にしてないで、今は黙々と兵力の強化をしているって話だったな」
剣士「ああ、ゴブリン達の話だとそういうことらしい。ここで問題なのは…その戦争の相手だ」
女騎士「魔王は私達人間ではなく、一体誰と戦争をするつもりなんだ?」
剣士「わからない…魔女は何か知らないか?」
魔女「……今からちょっとだけ作り話をするね」
女騎士「突然どうした?」
魔女「いいから聞いててよ……『地上』と言われる人間達が住むこの世界の上にはもう一つ、別の世界があると言われているんだ。その世界の名は『天界』。そこには神々が住んでいるんだよ」
魔女「地上を創ったとされる神々はとても優しい方達ばかりだった。その為天界は争い事とは無縁の素晴らしい場所だったんだ…」
魔女「…でも、全ての事象には『光』と『影』のように相反するものがあるんだ。光しか無いとされていた天界にも一つだけ…いや、一人だけ『影』なる存在が居た…」
剣士「………」
魔女「その『影』は自分達で創った地上が人間に支配されてしまっていることがどうしても許すことが出来なかった。そしてその『影』は他の神々の説得に耳を傾けようとせず、ついには地上へと降り立ち人間を滅ぼそうとした」
女騎士「それって…まさか…」
魔女「神である『影』の力は強大で、人間達を恐怖のどん底へと陥れた。そして『影』は『人間を滅ぼし世界をもう一度一から創り直す』という当初の目的を忘れ、この地上を人間に代わって支配しようとし始めたんだ……」
剣士「その『影』が…魔王ってわけか」
魔女「…何を言ってるの?これは作り話だよ。だから…信じないでね」ニコ
女騎士「………」
剣士「……わかった」
魔女「…じゃあさっそく、すぐそこにある魔王城に突入だぁー!…の前に、実はもう一つとっておきの情報があるんだよ!特にお姉ちゃんは喜ぶかもよ~」
女騎士「私が喜ぶ?…この山に牛が居るとかか?」
剣士「お前牛肉好きだもんな」
魔女「残念ながらお肉じゃないよ。今から教えるから僕について来て!」タタタタタタッ
女騎士「なあ、さっきの話…お前はどう思う?」
剣士「…おそらく真実だ。そして…あいつはそれを俺達に伝えてはいけない立場にある。だから信じないでくれって言ったんだろう…」
女騎士「…なら信じないようにしなくちゃな」
剣士「ああ…俺達の勝手な妄想で終わらせないと…」
魔王の戦争相手は天界に居る神々、そして魔女の正体……
私達はそれらを妄想として心の奥へと仕舞いこんだ
女騎士「…魔女を見失う前に俺達も行こう」
剣士「…そうだな」
前レス訂正
剣士「…魔女を見失う前に俺達も行こう」
女騎士「…そうだな」
剣士と女騎士が逆になってました、すいません
______________________________
魔女「あっ、二人とも遅いよ~!」
剣士「ごめんごめん」
女騎士「それにしても…これは驚いたな。まさかこの山に温泉が湧いてるとは…」
魔女「でしょー?この辺りの山々は全て活火山で、温泉がたくさん湧き出てるんだ。他の山の温泉は熱過ぎて入れないけど、ここだけはまさにベストのお湯加減なんだよ!」
剣士「魔物達は温泉の良さがわからなかったみたいだな」
魔女「じゃあさっそく入っちゃおー!」スポーン!
剣士「脱ぐのはやっ!」
ザバァン!
魔女「あ~極楽極楽ぅ~♪」プカプカ
剣士「よし、俺も入るかな!」ヌギヌギ
女騎士「待て。魔女が入ったってことは今この温泉は女湯ってことだ…意味はわかるよな?」
剣士「で…でも魔女は男の娘だし、体は子供だからギリギリセーフじゃ…」
女騎士「アウトだ」
剣士「…荷物番してます」シュン
チャプ
女騎士「ふぅ……これは最高だな」
魔女「でしょ?」プカプカ
女騎士「……なぁ、魔女」
魔女「なぁに?」バシャバシャ
女騎士「泳ぐのやめて私の話を聞いてくれ」
魔女「うん」
女騎士「お前に言いたいことがある…すまなかった」
魔女「えっ?ここはありがとうじゃないの?」
女騎士「温泉を教えてくれたことにじゃない。私は出会った当初、お前のことを…魔王の手先だと疑っていた」
魔女「………」
女騎士「もちろん今はそんなこと思ってないが…疑っていたことをずっと謝りたいと思ってたんだ。本当にすまなかった…」
魔女「…自分で言うのもあれだけど、あの状況で僕みたいな不審な奴が現れたら疑うのが普通だよ。疑ってなかったお兄ちゃんの方がおかしいって」
女騎士「それは私も同感だ」
魔女「それにわざわざ謝ることじゃないのに……やっぱお姉ちゃんもお兄ちゃんに劣らず馬鹿だね」クスッ
女騎士「あの馬鹿と一緒にするな」
魔女「……二人とも薄々わかってるんでしょ?僕が普通じゃないってことを…」
女騎士「…ああ。でも私達はお前の仲間だ。例えお前が人間じゃなくてもそれは変わらない」
魔女「……僕、お姉ちゃん達に会えて本当に良かった。ありがとね」ニコ
女騎士「私もお前に会えて良かったよ」
魔女「ふふふ……あー僕何だかのぼせちゃったみたい。そろそろ出るね」ザバァ
女騎士「もうか?じゃあちょっと早い気もするが私も出るとするか」
魔女「お姉ちゃんはもう少し入ってなよ。この温泉はお肌に良いんだから」
女騎士「ほ、本当か!?」
魔女「お姉ちゃんの肌って結構ガサガサだもんね」
女騎士「鍛錬してるとどうしてもこうなってしまうんだ…」ズーン
魔女「フッフッフ…僕は頻繁にこの温泉に入りに来てたからお肌がツルツルなんだよ!」ドヤッ
女騎士「なっ!?う、羨ましい…!」
魔女「だからもう少し入ってなよ」
女騎士「…そうするかな」
魔女「…これでお兄ちゃんのハートも鷲掴みだね!」ニヤニヤ
女騎士「う、うるさい!///」
魔女(ま、とっくに鷲掴みされてるけど…お互いにね)フフフ
女騎士「ふぅ…そろそろ私も出るかな……いや、もう少しだけ浸かってるか」チャプ
女騎士(…私も一応女だ。少しでも綺麗でいたいと思うことはおかしいことではない)
女騎士「………私が綺麗になれば、剣士も少しは喜んでくれるだろうか?」
タタタタタタッ
女騎士「ん?」
「いやっほぉーー!」
私がそんなことを思いながら浸かっていると、後方から聞きなれた奇声が聞こえてきた
女騎士「…嫌な予感」
ピョン
ザバァン!
その予感は的中した
剣士「はぁあ~!マジで最高だなぁ~!…ん?」チラッ
女騎士「………」
剣士「…あ、あれ?な、何で女騎士がここに!?もう出たんじゃないのか!?」
女騎士「はぁ…魔女の仕業か」
剣士「こ、これは決して覗きじゃないぞ!」アタフタ
女騎士「わかってるからまずは下を隠せ」
剣士「わ、悪い!///」バッ
剣士「そ、その…本当にごめん」
女騎士「だから謝るな。お前に非が無いのはわかってる」
剣士「じゃ、じゃあ…!」
女騎士「だが…私の裸を見たのは事実だ。安心しろ…記憶は消してやるから」ポキポキ
剣士「そ、そんなぁ!?」
______________________________
魔女「…あれ?もう出てきたの?気を利かせて二人きりにしたあげたのに…」
女騎士「余計なことをするな!」ポカッ
魔女「イテっ!」
女騎士「まったく…もうこんなことするんじゃないぞ」
剣士「…俺の身が持たないからな」ボロボロ
女騎士(それにしても…剣士は私の体を見てどう思ったんだ?///)チラッ
剣士(それにしても…女騎士の体は綺麗だったなぁ///)チラッ
女騎士・剣士「!?///」ドキッ
女騎士「い、いやらしい目で見やがって…どうやら記憶は消えてなかったみたいだな…(ちょっとだけ嬉しいけど///)」ポキポキ
剣士「いや待て!今のはその…そう!意外と着痩せするタイプなんだなぁ~って思ってただけで、いやらしい目では決して見てないぞ!」アセアセ
女騎士「」プツンッ
魔女「お兄ちゃん…それ、地雷だよ」
剣士「えっ?」
女騎士「死ね!」
剣士「ぎゃあああああ!!」
バキッ ボゴッ
いつも通りの微笑ましいやり取り
…このやり取りもこれが最後だった
剣士「じゃ、じゃあ疲れが取れたみたいだし(俺だけ取れてないけど)…そろそろ出発するぞ」ボロボロ
剣士「……魔王城にな」
====================
【魔王城】
魔女「二人とも、こっちだよ」
私達は魔女がいざという時に用意していたという隠し通路を使って、魔王城に難なく潜入した
女騎士「こうもすんなり入れるとは…」
魔女「油断しちゃ駄目だよ。僕が知ってるのは魔王城に侵入する為のルートだけ。ここから先は僕も知らないんだ…魔王が居る部屋もね」
剣士「おい!誰かこっちに来るぞ!隠れろ!」
私達はすぐに物陰に隠れた
スタスタスタ
「………」
1体の魔物が私達の横を通り過ぎていく
その魔物を一目見ただけで、あきらかにゴブリン達と比べて階級が上だとわかった
それほどの威圧を感じた
女騎士(あいつは危険すぎる…出来るなら魔王と戦うまで体力を温存しておきたいから、あいつとは戦わない方がいいな)
タタタタタッ
「そ、側近様!」
側近「…なんだ?」
剣士(あいつが魔王の側近か…)
「製鉄所で働く者達が不満を言い始めているんですが…」
側近「…そんなことを私に一々報告しに来るな。魔王様に盾突く者が居るのなら速やかに消せばいいだけだろ」
「は、はい!失礼しました!」タタタタタッ
側近「まったく…無能な部下の管理は疲れる。魔王様に頼んで今度はもっと優秀な部下を創ってくださるようお願いするか…」スタスタ
魔女「………」
剣士「どうかしたか?」
魔女「う、ううん。何でもない…それよりこれからどうする?あの側近の後をつける?」
剣士「…あいつの後をつけるのは得策じゃないな。きっとバレるはずだ」
女騎士「じゃあ別の奴を探すのか?」
剣士「ああ」
女騎士「だが普通の魔物達はおそらくあの側近から全て指示を得ているはずだ。別の奴の後をつけても魔王の居場所がわかるとは思えないが…」
剣士「…俺にいい考えがある」
______________________________
給仕係「おい!魔王様にお出しする料理なんだぞ!ドラゴンのエサじゃねぇんだからもっと丁寧に盛り付けろ!」
「は、はい!」
女騎士「…なるほど、給仕係の魔物についていけば魔王に辿り着けるな。もしかしたら隙もつけるかもしれないし」
魔女「お兄ちゃんやるじゃん」
剣士「ま、たまたますぐに給仕係の魔物と遭遇できたのはラッキーだけどな」
給仕係「…よし、それなら出せるな。じゃあ持ってくぞ」
女騎士(…出てくるみたいだな。こっからはバレないように極力会話は控えるぞ)ヒソヒソ
剣士(おう!)
ガラガラ
私達は気づかれないように料理を運ぶ魔物の後をつけた
階段をのぼり、しばらく移動すると給仕係はある部屋で足を止めた
コンコン
給仕係「魔王様、お食事をお持ちしました」
「……入れ」
低く重い声
その声を聞いただけで私達の緊張は一気に高まった
給仕係「失礼します」
給仕係が部屋の中へと入っていく
私達が隠れてる場所からは部屋の中の様子は見えなかった
しばらく待っていると給仕係が料理を並べ終え、部屋から出ていった
剣士「…いよいよだな」
女騎士「ああ…」
魔女「………」
剣士「じゃあ…入るぞ」
私達の作戦は至ってシンプルだった
部屋の中の様子を伺い、食事中であろう魔王の隙をついて首を切り落とす
しかし、その作戦は部屋に入る前に失敗に終わった
「…貴様らも入れ」
剣士・女騎士・魔女「!?」
ヤツは既に私達の存在に気づいていたのだ
女騎士「ど、どうする…?」
剣士「…入るしかないだろ」
剣士は静かにその扉を開いた
「ようこそ我が魔王城へ。この部屋まで辿り着いた者は貴様らが初めてだ。歓迎するぞ」
大きなテーブルの奥に座っている、威厳のある顔立ちの老人
片手にワインらしき物を持ちながら不敵な笑みを浮かべている
その者こそが魔物達を統べる絶対悪、魔王であった
魔王「どうだ?一緒に食事でもせんか?この肉は絶品だぞ」
魔女「………」
剣士「…断る」チャキッ
女騎士「右同じだ…」チャキッ
私達は覚悟を決め、剣を握った
魔王「フッ、無礼な者達だ…側近よ」
スタッ
側近「お呼びでしょうか、魔王様」
魔王「我は食事にする。少し遊んでやれ」
側近「はっ!」
女騎士「くっ…あいつも居たのか」
剣士「……二人とも、俺があいつの隙を作る」
女騎士「…出来るのか?」
剣士「ああ……行くぞ!」ダッ
側近「…人間ごときがよくも魔王様の食事を邪魔したな。万死に値する」
剣士「ていっ!」ブンッ
側近「そんな物投げても目隠しにもならんぞ」パシッ
ジュゥゥゥ…
剣士が投げた剣の鞘を側近が掴んだ瞬間、鞘が一瞬で溶けてしまった
剣士(あれがあいつの能力か…掴まれたら一貫の終わりだな)
側近「…それで距離をとってるつもりか?」シュン
剣士「なっ!?」
女騎士「剣士!後ろだぁー!」
側近は一瞬で剣士の後ろに周り、剣士を溶かそうとした
側近「終わりだ」スッ
剣士「くっ!」シュル
ジュゥゥゥ…
側近「さて…あと二人か」
剣士「ハアァ!」ブンッ
側近「何!?」
グサッ
剣士は剣を振りぬいたが、剣は側近の腕に刺さって止まった
側近「くっ…咄嗟に鎧の一部を脱いでいたか」ポタポタ…
剣士「腕を切り落とすつもりだったんだが……思った以上に硬いな」
側近「まさか私が人間程度に血を流すとは……許さん!」
ガシャンッ!
側近「ん?」
女騎士「………」タタタタタタッ
側近「しまった!?」
私は二人が戦ってる隙に魔王に切り掛かった
女騎士「くらえ!」チャキッ
魔王「テーブルの上を走るとは…マナーがなっておらんぞ」モグモグ
シュン
側近「させるかァ!」バキッ
女騎士「ぐっ!」ズザァァァ
私はすぐに蹴り飛ばされてしまった
魔王「…随分と手古摺っているようだな」ゴクゴク
側近「も、申し訳ありません魔王様!!すぐに消し去って…―」
ザッ
魔女「………消えるのは君だよ」スッ
しかし、私も側近の隙を作るおとりだったのだ
カッ!
魔王「!?」
側近「な…何なんだこの光は!?何故私の体が消えていくんだ!?」シュウゥゥゥ
魔女の光が側近を消し去っていく
側近「ま……魔王様ぁぁあああ!!」
シュウゥゥゥ…
魔女「………」
剣士「…いつ見ても魔女の魔法は凄いな」
女騎士「手傷を負わすぐらいのつもりだったのだが……まさかあれほどの魔物でさえ一瞬で消し去ってしまうとは…恐ろしい魔法だな」
魔王「…これは魔法などでは無い。聖なる力だ」
剣士「…何?」
魔王「まさか貴様も地上に降り立っておったとは…人間に化けて我の偵察でもしてたのか?なぁ…天使よ」
女騎士「魔女が天使…」
剣士「やっぱり天界の住人だったのか…」
魔女「………」
魔王「争いを知らない神々が偵察部隊を出すとは…ま、信じがたいことだが大した問題ではない。それで…貴様は何をしにここに来たのだ?」
魔女「…お前を倒しに来たんだ!」スッ
カッ!
魔女の放った聖なる光が魔王を包み込む
しかし…
魔王「この程度の攻撃で我を消せると思っていたとは…滑稽だな」プスプス…
残念ながら魔王には効かなかった
魔女「なっ!?」
魔王「さっきの攻撃を見ればわかる。貴様はもう100年以上はこっちに潜んでいたのだろ?地上に降り立ったばかりの貴様なら未だしも、今の貴様では話にならん」スッ
ズボッ!
魔女「がッ!?」
魔王の腕が天使の腹を貫いた
女騎士「ま、魔女ォー!!」ダッ
剣士「くそっ!!」ダッ
魔王「ガハッハッハ!無駄だ」
女騎士「魔女を離せ!!」チャキッ
剣士「うおおおお!!」チャキッ
ズバッ! ズバッ!
私達の刃は確かに魔王を捉えていた
しかし、魔王の体には傷一つついていなかった
女騎士「なっ!?」
魔王「人間が我の体に傷をつけることなど不可能なのだ。これは鍛錬でどうこう出来る問題ではない。我の体はそういう風に出来ているのだ」
剣士「な、何だと!?」
魔王「唯一効くのが天界の聖なる力…だからこいつと行動を共にしていたと思ったのだが…貴様らはこいつから何も聞かされてなかったみたいだな」ポイッ
魔女「くっ…」
女騎士「魔女!!」ガシッ
魔女「ご…ごめん…魔王を倒せなくて…」ガハッ!
女騎士「喋るな!腹を貫かれたんだぞ!」
魔王「おかしなことだ…何故貴様は自分の魂を減らしてまで人間なんかに手を貸しているんだ?」
剣士「…どういうことだ?」
魔王「いいだろう…余興がてらに全てを教えてやる。この世界を創る際に神々はあるルールを決めたんだ。『創造主である神々はこの地上に干渉してはならない』というルールをな」
魔王「そして、もし神々がこの地上に降り立った場合、神々の体を構成してる魂そのものを維持できないようにしたんだ」
女騎士「な、ならどうして魔女は地上に降り立つことが出来たんだ?」
魔王「そいつは正確に言うと神では無い、神に創られし者だが条件は同じだ。おそらく魂の消滅を防ぐ為に神が創った人間の体を着ているのだろう。それでもさっきみたいに力を使ったり、長年地上に居れば魂がどんどん磨り減っていくがな」
女騎士「…お前は今まで自分の命をすり減らしてまで私達を助けてくれていたのか?」
魔女「…うん。でも僕は…まったく後悔してないよ。お姉ちゃん達のことが大好きだから…」ニコ
女騎士「魔女…」
剣士「…魔王、お前も魂が磨り減っているんじゃないのか?」
魔王「ほう…我が元神であることは知ってるらしいな。もちろん我の体も例外ではなかった。地上に降り立った当初は消滅の危機に瀕していた。さらに我の力が強すぎてこいつみたい我を受け入れられる器を創ることも出来なかった」
魔女「だ…だけどお前は人間の攻撃が効かないばかりか、魔物すらも創造しているじゃないか!つまりお前は地上に居ながら魂の力を頻繁に使っている…そんなこと出来るわけない!」
魔王「普通ならな…だが我は、魂の消滅を完全に食い止める方法を見つけ出したのだ!」
魔女「そ、そんな方法が…!?」
魔王「フッフッフ…貴様らでは気づいたとしても実行できない方法だ。それは……」
パクッ
モグモグ
魔王はいきなりテーブルにあった肉を食い始めた
魔王「こうやって頻繁に肉を喰らうことだ…人間の肉を、な」ゴクン
剣士「な、何!?」
魔王「ガハッハッハ!貴様ら人間は我にとって生きていくのに欠かせないエサなのだ!だから安心しろ!絶滅などさせないで、この城の地下に居る人間共のように家畜として生かし続けてやるぞ!喜べ!」
女騎士「悪魔め…!」ギリッ
魔王「さて、お喋りもここまでだ。そろそろ捻り潰してやるぞ」
剣士「くっ…!」
魔女「……このままじゃ二人とも殺されちゃう。ここは僕に任せて二人は逃げて」
剣士「!?」
女騎士「な、何を馬鹿なこと言っているんだ!?」
魔女「お姉ちゃん、これを持ってって。必ずあの方がお姉ちゃん達の力になってくれるはずだから!」
魔女は私にコンパスを手渡した
魔王「ハッハッハー!まだ人間を庇うのか!?天使ともあろう者が何故こんなクズ共を助けようとするんだ?」
魔女「それは……二人が僕にとって大切な…仲間、だからだよ」
魔王「…フン、くだらん」
魔女「二人とも!早く逃げて!」
女騎士「お前を置いて逃げられるわけないだろ!!私達にとってもお前は大切な仲間なんだぞ!!」
魔女「…わかってるよ、お姉ちゃん。でも…」
剣士「…魔女の言うとおり、逃げるべきだ…女騎士、お前一人でな」
女騎士「な、何を言っているんだ!?」
剣士「深手を負った魔女一人であいつを食い止めることは不可能に近い。だから…俺も残る」
女騎士「な、なら私も!」
剣士「じゃあ誰がこの真実をみんなに伝えるんだ!?俺達のように魔王を倒そうとする者が現れても無駄死にさせてしまうだろ!!」
魔女「お姉ちゃん…お願い」
私にもわかっていた
このまま3人残って戦っても魔王には勝てないと…
それでも私は、魔女や剣士と一緒に死ねるのならそれでいいと思っていた…つまり諦めていたのだ
しかし…魔女と剣士は諦めていなかった
まだ魔王を倒そうとしていたのだ
それが例え……自分達でないとしても…
そして…私は決心した
女騎士「……わかった。お前達の思いは私が必ず…未来(つぎ)へと繋ぐ」
剣士「ありがとな、女騎士。それと…ごめん。約束……守れなくて」
女騎士「………馬鹿、お前の想いなんてとっくの昔から気づいてたよ」
剣士「マジか!?」
魔女「お互いにバレバレだったよ」クスッ
剣士「えっ?てことはお前も…?」
女騎士「…気づくのが遅いんだよ、馬鹿」
剣士「そうだったのか……よかった。それなら悔いなく逝ける…」
女騎士「…そこは嘘でも先に帰って待ってろって言えよ」
剣士「そうだな……じゃあ待っててくれ。すぐに帰るからよ…」
女騎士「ああ…ずっと待ってるぞ」
ダッ
私は大切な仲間と愛する男を残して、その場から駆け出した
剣士「…女騎士、頼んだぞ」
魔王「フッフッフ…人間というモノは実に無駄なことをする生き物だな」
剣士「…無駄なんかじゃない。無駄になんかさせるものか!!」
魔女「…お兄ちゃん、僕は戦えるとしても一瞬だけ。だから…僕の力をお兄ちゃんに渡すね。そうすればもう少しだけ時間を稼げるはず…僕の手を握って」
剣士「…わかった」
ギュッ
魔女「一応お姉ちゃんにもコンパスを渡すときに力を渡しておいたよ。だからきっと無事に脱出できるはずだよ…」キラキラ…
剣士「お前…体が光に…」
魔王「そいつにとって聖なる力とは命そのもの。力を渡せば光となって消えるのは当然だ…そこまでする意味がわからんがな」
魔女「お前にはわからないさ…一生ね」
剣士「……本当にありがとな、魔女。お前と旅が出来て楽しかったよ」
魔女「へへへ…僕も……だよ」ニコ
キラキラ…キラ……
剣士「…魔女」グッ…
魔王「消えたか……それで、その力で我に勝てると本気で思っとるのか?」
剣士「勝てるさ…でもお前に勝つのは俺じゃない」
魔王「はあ?」
剣士「俺が…俺達がここで戦うことで希望が繋がり、きっといつか必ずお前を倒す者が現れるはずだ!」
魔王「ほぅ…ではあの女を殺してその希望すらも消してやるとするか」シュン
剣士「させるか!」バッ
カッ!
魔王「ぐっ!これは聖なる光…!」
剣士「絶対に女騎士のところへは行かせない!!うおおおおおおお!!」
魔王「くっ…調子に乗るなァ!」
グチャ
______________________________
タタタタタタタッ
「ま、魔王様!」
魔王「何だ?」モグモグ
「お、お食事中に失礼しました!」
魔王「いや構わん。それにしても生肉はやはり美味くない。人肉は炭火焼きに限るな」ペッ
「お、お怪我なされてるみたいですが…大丈夫ですか?」
魔王「少しだけ手古摺ったが大丈夫だ。心配いらん」
魔王(だがやはり我を殺せる聖なる力は危険だ。神でも無い天使から魂を受け取った人間が、あれほどの力を引き出せるとは……あと少し兵力を増強させたら一気に天界を潰すか)
魔王「…それで何か報告しに来たんではないのか?」
「は、はい!実は先ほど侵入者を見つけたのですが…に、逃がしてしまいました!申し訳ありません!すぐに追跡部隊を送ります!」
魔王「…まぁよい、放っておけ。どうせ国に戻ったとしても何も出来ん。あとはアイツに任せておけ」
「ア…アイツ?」
魔王「そうか…このことは側近しか知らんかったな。クックック…あいつらは疑問に思わなかったのか?『我の命を狙った者の故郷を潰す』という噂をどうやって人間共に流したのかを…」
______________________________
私は無事に魔王城を抜け出すことが出来た
途中で捕まりそうになったがいきなり私の体から光が放たれ、近くに居た魔物達が消滅していった
おそらく魔女が力を貸してくれたのだろう…
そんな最後まで守ってくれた仲間と…ずっと好きだった男を……私は見捨てたのだ
ポタッ…
女騎士「…くっ……涙を流してる場合では無い。一刻も早くこのことを皆に伝えなければ…」ゴシゴシ
私は道中に隠していた馬に乗り、全速力で王国へと向かった
______________________________
【王国 王城】
女騎士「――以上のことが魔王の知られざる真実です」
大臣「そうか…報告ご苦労だった」
私は王様の右腕である大臣に故郷が破壊されるという噂が嘘であること、魔王には人間の武器が一切効かないこと、魔王が神々との戦いに備えてる為今現在護りが手薄になっていることを伝えた
女騎士「では私はもう行きます」
大臣「どこへ行くんだ?」
女騎士「私の大切な仲間が託してくれた希望(モノ)に導かれてみようと思います。もしかしたら魔王を倒す方法がわかるかもしれません…いえ、必ずわかるはずです」
大臣「そうか……なら、邪魔しないとな」ニヤリ
女騎士「えっ?」
スパッ
女騎士「がッ!?」ポタポタ…
私の喉元を刃が切り裂いた
大臣「チッ、今のを瞬時に避けるとは…さすが魔王様に盾を突いただけはあるな」
女騎士『なっ!?き、貴様ァ!!魔王の手先だったのか!?』
大臣「ん?喉を切り裂いてやったから何を言ってるのかわからないぞ」
女騎士『くっ…!』
大臣「さて…今から貴様を『魔王に王国の情報を渡していた裏切り者』として処刑する。心配するな…魔王様に殺されたあいつも同じように裏切り者として後世に伝えてやるからよ」
女騎士『き、貴様ァァ!!』チャキッ
大臣「馬鹿め…」ニヤリ
ガチャ
「大臣!大丈夫ですか!?」
大勢の王国騎士団の兵士達が部屋に入ってきた
そして私を見るや否や、一斉に槍を突きつけてきた
大臣「ああ、大丈夫だ。それより私が睨んだ通りだった…こいつは我々を魔王城まで誘き出し、一気に王国を潰そうとしていたんだ!」
「な、何だって!?」
「この裏切り者め…!」
兵士達は大臣の嘘を当たり前のように信じた
大臣は実質この国を動かしている男だから信じるのは当たり前だ…
王国は最初から…魔王の物だったのだ
大臣「捕らえて独房に入れておけ。後で民衆の前で晒し首にしろ」
「はっ!」
女騎士(剣士、魔女……私は絶対に諦めない。お前達のようにな)
女騎士『うおおおお!!』
私は元同僚達の攻撃を避けながら何とか王城を脱出した
大臣「逃げられた!?何をしてるんだお前達は!!」
「も、申し訳ありません…」
大臣「…まあいい。次の一手はもう打ってある。あいつを信じる者はもう誰も居ない…」ニヤリ
______________________________
女騎士『はぁ…はぁ…』
王国を抜け出した私は一旦故郷の村へと向かった
せめて村の皆には真実を……そう思っていたのだが…
ボオオォォォォ!
女騎士『な…何だこれは!?』
私の故郷は燃えていた
一体何があったのかまるでわからない私は、燃える村を近くで眺めていた村人に声を…声は出ないが何があったのか尋ねようとした
「…お前のせいだ」
女騎士『えっ?』
「お前達のせいだ!!」
尋ねる前に私に気づいた村人はそう私に叫んだ
私はすぐに「魔王が噂を信じ込ませる為に魔物達に襲わせたのか?」と考えた
しかし、現実はそれ以上に卑劣なものだった
「お前達が俺達人間を裏切ったせいで、王国騎士団が反乱分子をこれ以上出さない為にこの村を焼き払ったんだ!!」
あの大臣はすでに手を打っていたのだ
女騎士『ち、違うんだ!剣士も私も皆を裏切ってない!全て大臣…いや、魔王が仕組んだ罠なんだ!!』
私は叫んだ
心で叫んだ
「俺達は魔王を倒しに行くと言っていたお前達を誇りに思ってたのに…例え魔物に襲われてもお前達を決して恨んだりしなかったのに!!この裏切り者がぁぁ!!」
女騎士『…この際私のことは裏切り者だと思ってもいい。でも…お願いだから剣士のことはそう思わないでくれ。あいつは…皆の為に……世界の平和の為に死んだのに…!』ポロポロ
「泣いたって許すものか…俺達の村を返せぇぇええ!!」
しかし、私の叫びは……皆に届かなかった
投下仕切れなかった…すいません
用事があるので続きは夜に投下します
ではまた
魔王が老バーン様で脳内再生される
続き期待
>>108
まさに容姿はそれをイメージして書いてました
ちなみに別ssではダメダメなバーン様を書いてますけどね
では一気に終わらせます
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王国にも故郷にも追われ居場所を無くした私は唯一の希望、魔女が託してくれたコンパスが刺す場所へと足を進めた
砂漠を進み、山を超え、ひたすら歩んだ
そしてコンパスに導かれ歩み始めてから約一年、私はようやくその場所へと辿り着いた
その場所は人間が決して立ち入ることの無い山の奥深く
幅が5mほどの小さな湖、その湖を花達が丸く囲み、木々の間を通り抜けてきた光がカーテンのようにその場所だけ照らしている
そこはまるで別世界のようだった
女騎士『……魔女、私はここに辿り着いたぞ』
ピカッ!
女騎士『うっ!?な…何だ!?』
突然湖の中心が光り出し、私は目を瞑った
そして光がおさまり目を開くと、その湖の中心に綺麗な女性が立っていた
私はすぐに彼女が人間ではなく、魔女の仲間…天界の住人であるとわかった
女騎士『あ、あの…』
私は緊張のあまり、喉が潰れて喋れないことを忘れて声を出そうとしてしまった
「…大丈夫ですよ。ちゃんと私に聞こえてます」ニコ
彼女は優しい笑顔でそう言ってくれた
「本来ここは人間が立ち入ることの出来ない聖域。私達神々が唯一地上に降りれる隠しスポットなのです」
女騎士『そ、そんなとこに人間である私が来てしまってすいません!』
「いいんです…貴女はあの子のお友達なのでしょ?」
彼女の言う「あの子」が誰を指しているのか、私にはすぐにわかった
女騎士『はい…一緒に居た時間はとても短いですが、魔女は私の大切な仲間でした…』
「そうですか……貴女みたいなお友達が出来てあの子も幸せだったはずです…」
女神「私はあの子の創造主、女神です。あの子に魔王の様子を探らさせていた張本人でもあります」
女騎士『魔王を探らさせていたってことは、神様達も魔王を倒そうとしているんですか?』
女神「いえ…私みたいに地上を毎日観察していた者以外は…誰も戦おうとはしていません。神々には『争う』という概念が無いのです」
女騎士『じゃ、じゃあ何故あなたは魔女をこの世界に送ったんですか!?』
女神「それは……あの子を守る為です」
女騎士『えっ?』
女神「天界で魔王を戦おうと思ってる者は片手で数えられるぐらいしか居ません。おそらく近い将来、魔王は天界に攻めてくるでしょう。そして天界は…崩壊します。だからせめて…あの子だけは助けたかったのです」
女騎士『………そうですか』
女神「…私はあの子にどんなことがあっても魔王に手を出さないよう伝えていました。ですがあの子は貴女達と共に魔王に立ち向かった…自分自身の命を犠牲にしてまで貴女達を守ろうとした」
女騎士『………』
女神「だからこそ、私はあの子が守りぬいた貴女の力になってあげたいのです」
女騎士『ほ、本当ですか!?』
女神「はい。貴女に魔王を倒すことが出来るこの『聖なる剣』を託したいと思います」
ザアァァ
湖の水が割れ、中から光り輝く剣が現れた
女神「この剣は私の魂の力…つまり聖なる力を注ぎ込んだ剣です。これならば人間でもあの魔王を倒すことが出来ます」
女騎士『あ…ありがとうございます!これで…これでやっと…剣士と魔女の思いを繋ぐことが出来る!』ポロポロ
女神「…ですが問題が二つあります」
女騎士『…問題、ですか?』
女神「はい。一つ目はこの剣を扱える人間がこの世界に居ないということです」
女騎士『なっ!?それでは意味が無いではないか!!』
女神「落ち着いてください。まだ話の途中ですよ」
女騎士『す、すいません…』
女神「この剣は謂わば魂の塊。普通の人間が魔王を傷つけることが出来ないように、この剣も普通の人間が持てないようになっています」
女騎士『な、ならどうすれば…』
女神「…貴女は魔王から『神々は地上に干渉してはならない』と聞かされましたよね?」
女騎士『はい』
女神「では何故このような神々が降り立てる隠しスポットがあるのだと思いますか?この場所は……過去に地上に降りた一人の神が作った聖域なのです」
女騎士『えっ?…その神というのは魔王のことですか?』
女神「いえ、違います。魔王が地上に降りるよりももっと前に一人の神が地上に降り立ったのです。魔王とはまったく別の理由で…」
女神「その神は私と同じように長年地上を観察してました。そしていつしか人間を心の底から愛するようになってしまい、魂の消滅を覚悟して地上に降り立ったのです」
女神「その神は地上に降り立ってまもなく、一人の女性と恋に落ちました。そして魂が消滅する前に二人の間に子供が生まれました…」
女騎士『ま、まさか…』
女神「はい。その神の魂を受け継ぐ子孫のみがこの剣を扱うことが出来ます」
女騎士『い、今その子孫はどこに居るんですか!?』
女神「教えてもいいですが…無理なのです。今現在生きているその子孫はこの剣を扱えるほど魂の力が強くありません。ほとんど普通の人間と同じなのです」
女騎士『じゃあ…結局この剣は無駄になってしまうんですか!?』
女神「いえ、今は扱えなくてもその彼の子供、そのまた子供…何世代目かは私でもわかりませんが、隔世遺伝によってこの剣を扱えるほどの魂を持った子がいつの日か現れるでしょう」
女騎士『そうですか…ならよかったです。では私はその子孫にこの剣を預け、先祖代々守っていくよう伝えます』
女神「…先ほども言いましたがそれは無理なのです。二つ目の問題…それはこの剣をここで守り続けなくてはならないのです」
女騎士『………』
女神「この剣がもし魔王の手に渡ったらもう魔王を倒す手段はありません。なのでこの剣を聖域であるここで守り続ける必要があります。本当なら私が守りたいのですが…私は天界の住人。天界と運命を共にします」
女騎士『その役目が……私ってことですか?』
女神「……はい。とても勝手なのですが…私の力で貴女を魂そのものにし、ここを守れる力を授けます」
女神「しかし…魂となった貴女は生きてるとも死んでるとも言えない状態になり、この剣を扱える者が現れるまでここを離れられなくなります。もちろん貴女がそれを望めばですが…」
女騎士『…わかりました。じゃあさっそくお願いします』
女神「…本当にいいのですか?この剣を扱える者が現れるのは数百年先かもしれません。もしその子が生まれてきたとしてもここに導かれないかもしれません。もし現れたとしてもその子が貴女達みたいに勇敢な心を持ってないかもしれないのですよ?」
女騎士『…それでも私は待ち続けます。私は剣士と魔女の思いを未来(つぎ)へと繋ぐって約束しましたから…』
女神「…わかりました。私も貴女達の…あの子の思いが実ることを祈っています」
パアァァ…
彼女は私を魂そのものにした後、天界へと帰っていった
それから私は一人そこで、この聖なる剣を扱える者が現れるのを待ち続けた
数年が経った頃、風の便りで魔王が神々を殺したとか、大臣の裏切りが発覚し王国が滅んだとか、色々なことを耳にした
しかし私は変わることなくここで待ち続ける
木が枯れ、雪が降り、また花が咲く
その光景を何度も、何十回も、何百回も見てきた
そしてついに…その時が訪れた
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ザッ
「ここか…この場所が僕をずっと呼んでいたのか?」
容姿はまったくと言っていいほど似ていない…この小さな少年の方が全然イケメンだ
だけど少年は剣士と同じ目をしている
その目の奥にある『勇気』を私は感じた
この声はきっと届かないだろう…それに君にとってはまったく関係のないことだ
でも…言わせてくれ
どんな困難もその勇気を持ってして立ち向かう『勇気を持つ者』よ…来てくれて本当にありがとう
そして…
『…おかえりなさい』
「ん?…誰?誰か居るの?」
魔法使い「勇者様!ちょっと待ってくださいよ!」タタタタタッ
勇者「ご、ごめん…でもここで誰かに呼ばれてた気がするんだ。今も『おかえりなさい』って声が聞こえたし…」
戦士「…勇者、あの湖の中で何か光ってるぞ」
勇者「あの剣……」
僧侶「剣?あれは剣なんですか?」
勇者「うん…僕にはわかるんだ…」
ザアァァ
戦士「湖が割れて剣が出てきたぞ!?」
勇者「………」パシッ
僧侶「す、凄い…光ってますよ」
勇者「…重い」
戦士「大丈夫か?何なら俺が持ってやろうか?」
勇者「ううん。その重さじゃないよ…この剣には色んな思いが詰まってるんだ」
魔法使い「…きっと誰かが勇者様に思いを託したんじゃないかな?」
勇者「そうかも…ううん、きっとそうだ!この人達の分も僕が頑張らなくちゃ!」
戦士「よし、じゃあそろそろ出発するか」
勇者「うん、行こう!魔王を倒しに!」
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こうして彼女達の誰にも語られることの無い物語は終わりを告げた
彼女達が繋いだ思いがのちに勇者達の道標となって世界を救うこととなる
彼女達の名は残っていたとしても、おそらくそれは謂れ無き汚名のみ
しかしその平和が続く限り、彼女達の生きた証は永遠に残るだろう
Fin
少し早足ですがこれで完結です
見てくださった方々ありがとうございました
ではまた何処かで
面白かった!雰囲気が良い!
乙
乙
ドラゴンクエスト アイテム物語を思い出しました。お話が良かったです
おつおつ
ダメダメなバーン様っつ、まさか側近が勇者の…
いやまさかな…
面白かった
おつです
おつおつ
乙
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