娘「聞こえなかった?デートしよーって言ったの」
父「…聞こえたけど、そりゃなんでまた」
娘「なんでって…ほら、今日父の日だし」
父「…そのプレゼントがデート?」
娘「そうに決まってるでしょ?やだもーお父さんったら、鈍感難聴エロクズ人間☆」
父「…いや、ていうかお前…自分にそれだけの価値があると思って言ってるのか?それ」
娘「はあ!?どういう意味よそれ!」
父「いや、だから…お前みたいなちんちくりんあんぽんたん耳年増ビッチとのデート権なんかがプレゼントに値すると…」
父「本気でそう思ってるのかと聞いてんだ」
娘「なにそれひどすぎ!かわいい娘とのデートが嫌っていうわけ!?」
父「嫌っていうか…嫌ではないけどもらって嬉しいもんでもないし」
娘「なによそれ!?本格的にひどすぎない!?」
父「大体高校生のお前とデートって…援○に見られたらどうするよ」
娘「え、なに?お父さんそういうこと考えて言ってるわけ?うっわ変態キチガイエロスケベ糞親父」
父「うるせえよ」
期待
娘「制服ならともかくデートなんだから私服だし、そもそも親子ですって言えばいいだけでしょ」
父「いや、だってなあ」
娘「…なによ?もしかして私の美しさとお父さんの残念な顔立ちじゃやっぱ釣り合わないよなーって?」
父「は?何言ってんだお前…どう考えても逆だろ」
娘「死ねよ変態ナルシスト親父!」
父「お前それ人のこと言えんのか?」
娘「なによもう!デリカシーのかけらもないんだから!」
父「…てかさ、なんでそんなに俺とデートしたいの?」
娘「だから!父の日のプレゼントだってば」
父「去年まではなんもくれなかったくせに」
娘「…そ、それは…ちょっと金欠でさ」
父「…ならそれこそデートの約束でいいじゃん」
娘「そしたら乗ってくれたの?」
父「いや、それはまた別問題だけどさ」
娘「なんだよ」
父「今年は言うほど金欠でもないんだろ?なんでデート?てか、そもそもなんでプレゼント?」
娘「い、いいじゃん別に!そのほうが喜ぶかなーって!」
父「結果は?」
娘「…撃沈」
父「そらみろ」
娘「そらみろじゃねーよ!」
娘「…もう、そんなに嫌?」
父「だから嫌じゃないって」
娘「…でも嬉しくもないんでしょ?」
父「…うん、まあ」
娘「じゃあ…何なら嬉しいの?」
父「んー…なんだろな」
娘「むー…それじゃあげる甲斐ないじゃない!」
父「もしかしたら、何貰っても嬉しくないかもな、なーんて」
娘「うっわ…ほんと引くわ、マジ最低…」
父「…そんなにドン引きしなくても」
娘「するわ!しまくりだわ!」
父「…てかなんかさ、怪しいんだよね」
娘「は?」
父「去年までは何もくれなかったくせに、今年はプレゼントしようっていうのがさ」
娘「はぁ!?」
父「いや、マジでどういう風の吹き回しだよっていうか…何?もしかして小遣いアップ狙い?」
娘「ちげえよ!もう働いて稼げるから!」
父「いや、でもなあ…よりにもよってデートだぜ?デート」
父「父の日のプレゼントに物じゃなくてデートって…なんか母さんに似てきた?」
娘「母さんがビッチだったみたいに言うな!」
父「いや、言ってないよ…まあビッチだったけど」
娘「…はあ、もういいや」
娘「そろそろ寝るね、おやすみ!」
父「おう、おやすみ」
娘「…はあ」
―翌日 学校―
娘「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーー」
友「…教室で奇声あげんなよ、男子がドン引きしてっぞ」
娘「…だってえ…」
友「どうかしたの?」
娘「…お父さんデートに誘ったら断られちゃった…」
友「うわっ…なにそれ?ファザコン?それともそれ以上のナニカ??」
娘「ちーがーうーよー…」
友「…まあでも、あんたのところは大変だからね…そうなっても無理ないか…」
娘「ちがうってばー!」
友「…はいはい、それならなんで誘ったん?」
娘「もうすぐ父の日じゃん?だからデートしよーって」
友「ああそう…自分の体をプレゼントにねぇ…」
友「『私を食べて(はぁと』とかやんの?」
娘「うわぁ…」
友「ちょっ!そんなに引かなくても!」
娘「ちょっとノリノリなのがよけいに引かせてくれるわぁ…」
友「うるせえな!!」
友「…いやでもさ、あんたついこないだまで…ってか、最近だって」
友「『あのおっさん加齢臭きついんだよねー』とか、『デリカシーなさすぎ、マジキモイ』とか言ってたじゃん」
友「どういう風の吹き回しよ?」
娘「…なんか友、お父さんと同じことばっかり言ってる…発想が親父臭ーい」
友「うぜえなこいつ…訝しむほうが普通でしょうが」
娘「理由なんて別にどうでもよくない?私はデートがしたいんだよ!」クルクル
友「…指」
娘「へ?」
娘「…あっ」パッ
友「あんた嘘吐くときとか後ろめたいことあるときってほんとわかりやすいよね」
娘「むぅ…指で髪の毛をクルクルする癖がまたしても…」
友「お父さんとはいえデート誘うほうがよっぽど恥ずかしいだろ普通」
娘「うぎっ…」
友「私は別に興味ないけど、あんたが誘いたいならちゃんと粘らなきゃ」
娘「興味ないってなにそれー…」
友「…何?じゃあ理由聞いてほしいわけ?」
娘「…もう、気を遣うならもう少し素直に言ってよね」
友「それは生憎無理な相談ね」
娘「…だろうね、じゃなきゃ私なんかと友達してないよ」
友「大正解」
友「ほんとはれっきとした理由があるんでしょー?」
娘「う…うぅ…言わなきゃだめ?」
友「だめっていうか…そのほうが説得力は増すかもね」
娘「でもさあ…恥ずかしいんだよね…」
友「お父さんとはいえデート誘うほうがよっぽど恥ずかしいだろ普通」
娘「うぎっ…」
友「私は別に興味ないけど、あんたが誘いたいならちゃんと粘らなきゃ」
娘「興味ないってなにそれー…」
友「…何?じゃあ理由聞いてほしいわけ?」
娘「…もう、気を遣うならもう少し素直に言ってよね」
友「それは生憎無理な相談ね」
娘「…だろうね、じゃなきゃ私なんかと友達してないよ」
友「大正解」
―――
娘「おとーさんっ」
父「その甘ったるい声やめい」
娘「お?ちょっと反応した?」
父「反応って何が」
娘「何がってナニが」
父「アホか、エロ雑誌の見過ぎだ」
娘「見たことないよそんなの」
父「嘘吐け」
娘「見たことあるのはお父さんのくせに」
父「一家の大黒柱はそんなはしたないことしません」
娘「お父さんの部屋の箪笥の裏」
父「…っ!き、貴様…なぜその場所を…!」
娘「んー…女のカン、ってやつ?」
父「お、おのれ…要求はなんだ…!」
娘「エロ雑誌を人質にとられあっさりと屈服する一家の大黒柱…くくく、情けのないやつよのお」
父「うるさい!卑怯な手を使いおって!いっそ殺せ!」
娘「…意外とノリノリだね」
父「この年になるとな、たまにはっちゃけたくなるんだ」
娘「…別にエロ雑誌を人質にするなんてつもりは全然なかったんだけどね」
娘「まあいいか」
父「…墓穴掘っちゃった感じ?」
娘「そうね」
父「……」
娘「まあ、こっちとしては棚からぼた餅だし、別にいいんだけど…」
娘「要求っていうなら、そうだなぁ…」
父「…あんまり無理難題は勘弁な」
娘「…私とデート」
父「…またそれ?」
娘「うん」
父「…懲りないな、お前も」
娘「だって…」
父「…そんなにデートしたいの?」
娘「……」コクッ
父「どうしてそこまで…」
娘「…私、お父さんなんて…嫌いだよ」
父「えっ…?」
娘「足は臭いし加齢臭するし、デリカシーないし無愛想だし…」
父「ちょっ、なんでいきなりそんなに貶されなくっちゃ…」
娘「…約束忘れるし」
父「…約束?」
娘「……」
娘「…ほんとに覚えてないの?10年前の…父の日のこと」
父「……」
―――
娘『パパー』
父『んー?』
娘『なんでうちにはママがいないのー?』
父『…それは…』
父『それは…お前はまだ、知る必要のないことだよ』
娘『…パパは…さみしくないの?』
父『どうして?』
娘『ママのこと、好きだったんでしょ?』
父『…そりゃあ、な』
娘『じゃあ…さみしいんじゃないの?』
父『…さみしくなんかないよ』
父『そりゃあ…今もここにいてくれたら、って思うけど』
父『…あいつは…俺がさみしがりでもしてたら、俺を怒りに来るだろうからさ』
娘『…どうして?』
父『昔言われたことがあるんだ…いつまでもウジウジ後ろを向いて、前を見ようとしない男は大っ嫌いだってな』
父『…それに…お前がちゃんといるじゃないか』
娘『パパ…』
父『だから…全然さみしくなんかないよ』
―――
父「…過去は見ない主義なんだ、そんなもの忘れたよ」
娘「嘘吐き」
父「……」
娘「私が言いたいのは…その後だよ」
娘「今は亡きお母さんの、受け売りの言葉の…その後だよ」
―――
娘『…うそつき』
父『…!』
娘『お父さん、ほんとはさみしいんだよ』
娘『だって背中がさみしそう』
娘『だって…目がさみしそう』
娘『ほんとは誰よりも会いたいんだよ』
父『……』
娘『…私だって会いたいもん』
娘『ね、二人で探しにいこ?』
父『…お母さんは遠いところに行ってるんだ、だからしばらくは会えない』
娘『…そっか』
娘『じゃあ、いつか帰って来るよね?』
父『…たぶん、ね』
娘『じゃあお母さんが帰って来るまで、私が代わりになってあげる!』
父『もう十分なってるさ』
娘『ちがうちがう!家事も洗濯もお仕事も、少しずつできるようになって!』
娘『本物のお母さんの代わりになってあげたいの!』
父『はは、そいつぁいいや…じゃ、俺とデートなんかもしてくれんのかね?』
娘『もちろん!』
父『あ、あはは…マジかよ』
―――
父「…お前、そんなんが約束だなんて大層なもんだと思ってるのか?」
娘「…少なくとも、私の中ではそうだったよ」
父「…でかくなるにつれて生意気になっていったくせして、今頃になって子供返りか」
娘「子供はいつになっても、親にとっては子供でしょ?」
父「屁理屈こねんじゃねえ、第一そんなの自慢できたことか」
娘「…お母さんの代わりになりたいのって、そんなにだめなこと?」
父「ああ、だめだね」
娘「…私、周りのみんなが言うから…お父さんのこと嫌いなのが普通なんだって思ってた」
娘「昨日は金欠がどうとか言ったけど…本当はそれが理由で…」
父「……」
娘「…まあ実際、足は臭いし加齢臭するし、デリカシーないし無愛想だし…」
父「おいそれ二回目だぞ、てか地味に傷つくからやめろ」
娘「でも、心から嫌いになったことなんてなかったよ」
娘「死んじゃったお母さんの分まで頑張るお父さんのこと…」
娘「本気で軽蔑したことなんて、一度もなかった」
父「……」
娘「ねえ、覚えてる?はじめての父の日のプレゼントのこと」
娘「あれも10年前だったよね」
父「…忘れたな」
娘「嘘ばっかり」
娘「昔っから…ほんとに変わらないんだから…すぐに嘘吐くところ…」
―――
娘『お父さん!これあげる!』
父『…なんだこりゃ?腕時計…?』
娘『うん!お年玉で買ったんだ!』
父『父の日のプレゼントってやつか…ありがとよ』
娘『うん!』
―――
娘「…いつの間にかつけなくなったよね、私の前じゃ」
父「…お前が生意気になってくもんだから…ほんの意趣返しのつもりでな」
娘「ふふ、全然気にしてないよ…だって」
娘「お父さんのカバンからはみ出してたよ?あの時計…」
父「なっ…!」
娘「もうぼろぼろになって…職場じゃちゃんとつけててくれてるんだね…」
父「…勝手に見てんじゃねえよ、クソガキ」
娘「もうっ、ほんとに素直じゃないんだから…」
娘「でも…ありがとね」
父「……」
父「…おい」
娘「ん?」
父「もう母さんの代わりになりたいってのはやめろ」
父「二度と口にするな」
娘「なんで…」
父「…まだわかんないか?あいつはあいつで…お前はお前だって言ってるんだよ」
父「…誰も…代わりになんかなれないんだから」
娘「……」
娘「ふふっ、そっか…じゃあ…」
父「……」
娘「お父さん、デートしよ?」
娘「…私がしたいから」
父「…最初からそう言え、バカ」
―終―
乙まんこ
いい話だ~
続き欲しくなるよ
うむ
乙
このSSまとめへのコメント
ふつうに感動した