さくらと5人の魔法少女 (227)
初投稿です。
色々と至らない部分があるかもしれませんが、ご了承ください。
書き溜めた分を順次投稿します。結構長いかも。
さくらSideは原作(漫画)終了後からしばらく後(中学2年)の設定。
所持カードと人物設定は、アニメ&劇場版準拠。
まどかSideは原作(TVアニメ)準拠。
劇場版やスピンオフのネタも少し入ってますが、
小ネタ程度ですので知らなくても大丈夫です。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402146814
-プロローグ-
空一面を覆う、分厚い灰色の雲。
眼下には灰色の街が広がり、周囲には暴風が吹きぬける音が鳴り続く。
その光景を見下ろすかのように、街の上空に"それ"はいた。
"それ"は、巨大な影。
存在するだけで、周囲に災厄を撒き散らしていくような"それ"の跡に残るのは、無。
阻む物など何も無い上空を、甲高い笑い声を上げながら、"それ"は通過してゆく。
そして、その進路の先に。
巨大な災厄を通すまいと、5つの影が立ち塞がった。
始めに動いたのは、黒い影。
その黒い影が動くと、一瞬で"それ"の周囲が爆風に包まれた。
黒い影に続き仕掛けたのは、黄色い影。
爆風に包まれる"それ"目掛けて、手にした銃のような物で攻撃を加える。
だが、強大な2つの攻撃を続けて受けても、"それ"は生命力を失わなかった。
それどころか一層強い災厄を撒き散らし、何事もないかのように進んでゆく。
刹那、"それ"の前を、赤と青の2つの影が横切った。
2つの影が交差したと同時に、"それ"の動きが僅かに鈍る。
そこへ、最後に残っていた桃色の影が、攻撃を放つ。
他の影たちも呼応して、一斉に"それ"へ攻撃を仕掛ける。
5つの影は、"それ"を倒したかに見えた・・・その時。
"それ"の体が、ゆっくりと回転する。
そして。
"それ"は、残っていたエネルギーを、一気に放出した。
そして、世界は絶望に染まった。
???「・・・ら!起きんかい!さくらぁぁーー!!」
???「・・・ほぇ?」ムニャ
春の朝日が差し込む自室のベッドで、少女――木之本桜は目を覚ました。
ケロ「早よ仕度せんと、学校遅刻してまうで!」
耳元で甲高い声を上げているのは、彼女の友達であり、カードの守護者の1人でもある封印の獣「ケルベロス」。
半開きの目を擦りつつ、枕元にあった目覚まし時計を確認する。
桜「ほ、ほぇぇーーー!!遅刻するーーーー!!!」
その声を聞き取った彼女の兄は、すっかり日常茶飯事となったその事にやれやれと思いつつ、
朝食のコーヒーを啜っていた。
桜「おっはよーー!!!」
「おはよー」
「おはよう、木之本さん」
クラスメイト達と挨拶を交わしつつ、自分の席へ向かう。
その席の隣と後ろに座っていた、2人の学友と目が合う。
知世「おはようございます、さくらちゃん」
小狼「おはよう。HR開始5分前か、今日もギリギリじゃないか」
桜「おはよ、知世ちゃん。そ、その事は言わないでよ、小狼くん」
小狼「お前のためを思って言ってるんだ。朝からそんなに体力使から、授業中眠くなるんだ」
桜「う"っ・・・」
図星を突かれ、言葉に詰まる。
その様子を見ながら、クスクスと笑みを零す知世。
彼女はさくらの一番の親友であり、大企業の令嬢でもある。
趣味は(主にさくらの)衣装作り、そして(主にさくらの)撮影といった、少々特殊な趣味を持つお嬢様である。
桜「だって・・・、春は暖かくって、つい・・・」
小狼「気のせいかな、同じようなセリフを夏、秋、冬にも聞いた記憶があるんだが?」
意地の悪いニヤニヤとした笑みを浮かべながらさくらをからかう少年は、李 小狼。
1年前に香港から来た転校生であり、さくらとは小学校の頃からの恋仲でもある。
奈緒子「2人とも、朝から夫婦喧嘩かな?」
利佳「さくらちゃんはふんわりだからね~。からかいたくなる気持ちは分かるな」
山崎「仲が良くて羨ましいよ。そうそう、夫婦喧嘩っていうのはね、縄文時代に女性と男性が、
どちらの土器が上手く出来るか競ったのが始まりといわれているんだ」
千春(まーた始まった・・・)ハァ
利佳(たまにホントかなぁって思っちゃうからね)アハハ
知世(これは山崎君の芸ですから)フフフ
桜「え、本当に!?」ホェー
小狼「ほ、本当か・・・?」ムムム
山崎「そうそう、それでね、当時は1年に1回、年末の時期に男と女の2組に分かれて・・・」
千春「はいはいストップ。続きはあっちで聞くからね~」
奈緒子「あの2人も仲良いよねぇ」
笑顔でズルズルと引きずられていく山崎と、ポカンと口をあける桜と小狼。
いつもと変わらない、友枝中学校の日常である。
放課後。
桜、小狼、知世の3人は、買い食いしたクレープを頬張りつつ帰路に着いていた。
桜(はぁ、それにしても今朝の夢、何だったのかな?)
夢の内容を思い出し、身震いする。
世界が終わる夢など見たくも無いし、思い出したくも無い。
知世「明日は土曜日ですが、お二人はご予定などございますか?」
桜「お父さんは発掘で、帰りは日曜日の夜だし、お兄ちゃんは合宿だから私は特に・・・小狼くんは?」
小狼「俺も特に用事は無い。何かあるのか?」
知世「えぇ。実は新作の衣装が完成しましたの!是非それをお2人に着ていただきたく・・・!」
目をキラキラと輝かせながら言う知世。
桜と小狼は、またか、と軽いため息を吐く。
桜(2週間前にも新作が出来たって言ってたよね・・・確か)ヒソヒソ
小狼(相変わらず、凄いペースだな。個人で衣料品店が出店出来るんじゃないか?)ヒソヒソ
知世「我が家の特設ステージで、新しい衣装に身を包むさくらちゃんと李君!
対立する2つの家・・・禁断の恋・・・、素晴らしいですわーーー!!!」
桜「あ、あはは・・・」
一方の知世は、既に自分の世界に入り妄想を膨らませている。
その様子を横目で見ながら、桜はクレープの最後の欠片を口に頬張った。
その瞬間。
何番煎じだよ
桜「これは・・・?」
小狼「魔力の気配・・・?あっちだ!」
知世「まぁ!また何かが起こるんですの!?」
表情は真剣だが、ちゃっかり常備のビデオカメラを回している知世。
彼女は戦場カメラマンの素質も持っている気がする。
急に出現した魔力の気配。それを辿って行き着いた先は、友枝町にある月峰神社だった。
桜「あそこ!あの木から気配がする!」
桜が指差した先にあるのは、月峰神社の境内にある、大きな桜の木。
この神社の御神木であり、かつてクロウカードが宿っていた木でもある。
小狼「この木も魔力を持っているが・・・これは木の魔力とは全く別の力だ。
クロウ・リードの気配でも無ければ、カードの気配とも違う・・・」
桜「木には・・・特におかしいところは・・・」
桜の伸ばした手が、木の幹に触れる。
その時。
桜「な、何!?」
小狼「う、うわぁっ!」
かつて、クロウカードに桜が取り込まれたときのように。
桜「ほえ~~~~~~!!!!」
桜の木の幹に黒い空洞が出現し、桜と小狼を、飲み込んでしまった。
知世「桜ちゃん!?李君!ど、どうしましょう・・・
そ、そうですわ、ケロちゃんに相談を!」アセアセ
直ぐに桜の家へと向かう知世だったが、一連の出来事はしっかりとビデオカメラに録画していた。
小狼「・・・ら!さくら!しっかりしろ!」
自分を呼ぶ力強い声。
何度も聞いた、一番大好きな人の声。
桜「小狼、くん・・・?」
小狼「気がついたか・・・」ホッ
安心したように優しい笑みを浮かべる小狼。
あれから気を失ってしまっていたらしい。
桜「ここは・・・?」
小狼「わからない。確かなのは・・・ここは"現実"で、友枝町じゃない」
周囲をぐるりと見渡してみる。
どうやら自分たちがいるのは、薄暗い廃ビルの一室のようだ。
改装中なのか取り壊し予定なのか解らないが、周囲に小狼以外の人の気配は無い。
暴力団に拉致監禁されたという考えも頭をよぎったが、その線も無いようだ。
時折、車の音や子どもの笑い声が聞こえてくるあたり、人里離れた所でもなさそうだ。
小狼「とにかく、周囲を探索してみよう。歩けるか?」
桜「うん、・・・って小狼くん、その服は!?」
小狼「あぁ・・・気がついたらこの服を着ていたんだ。さくらもな」
桜「えぇっ!?・・・ホントだ。友枝中学校の制服じゃない・・・」
2人が着ていたのは、先程まで着ていた友枝中学校の指定制服ではなく、
白:黄色の比率が9:1位の、別の学生服と思われる服だった。
小狼の服――男性用は詰襟で、桜の服――女性用は、胸元に赤いリボンがついている。
桜「ほぇぇ、どこの学校の制服なんだろう・・・」
小狼「わからない。俺もこの制服は見たことが無いから、友枝町の近くでは無いだろう」
とりあえず移動しよう、という小狼の意見に賛成し、部屋の隅のドアを開けた。
桜「・・・あれ?」
小狼「どうした?」
桜「何か・・・変な、嫌な感じがする・・・」
小狼「言われて見れば・・・確かに。だが、魔力とは違うみたいだが・・・」
桜「行ってみよう!・・・こっち!」
小狼「あ、おい、さくら!」
高い魔力を持つ桜には、しっかりと察知できているのだろう。
迷路のような廃ビルの中を、迷わずに走っていく。
???「ギュブァッ!」ブチュリ
小狼(何か踏んだ・・・?まぁいい)
小狼には微細にしか"嫌な感じ"を感じ取れないために、立ち止まってしまうと桜を見失ってしまうかもしれない。
踏んだ物の正体は気になるところではあるが、今は桜を追うのに専念する。
その場所に段々と近づくにつれ、小狼にもその嫌な気配というものがしっかりと感じられてきていた。
桜「ここ、このあたり、なんだけど・・・」
小狼「見た感じ、何も無いな」
息を整えながら、周囲を見渡す2人。
ただの廃ビルの通路の一角であり、特に変わったところは無いように見える。
小狼(ん?)
ふと、前方から接近する何かの気配を察知する。
その直後。
1つの影が、2人の視界を横切った。
黒い制服のような物を着た、黒髪の少女。
見た限りでは自分達と同年代だろうか。だが、一瞬でその姿は消えてしまっていた。
小狼「何だ?今の・・・」
桜「消えた・・・も、ももももしかして、ゆ、ゆゆゆゆ幽れ・・・」ガタガタ
小狼「お、おちつけ!幽霊ならあんなにハッキリ見えたりしない!」
桜「で、でもでも!直ぐに消えちゃったし・・・ほぇぇぇぇぇ!!!!!!」
小狼「こ、今度は何だ・・・って、景色が!?」
突然、2人の周囲の景色が歪みはじめる。
先程までの廃ビルは消え、代わりに現れたのは、薄暗い謎の空間。
小狼「ここは・・・?」
桜「ほぇぇぇぇぇぇ!!!!な、何か変なのがいるーーー!!!!」ピェェェン
いつのまにか、2人の周囲を取り囲むように、何やら小さい物がわらわらと蠢いていた。
形容するならば、蝶の体にダンディひげを生やした白い綿毛。
小狼(何だこいつら・・・魔力、じゃない。もっと黒い、冷たい感じ・・・)
桜「れ、"封印解除"(レリーズ)!!!!」パァァァ
小狼「え」
桜「かの者達を焼き払え!"火"(ファイアリー)!」
小狼「ちょ、おま」
いつの間にか星の杖を展開し、カードを発動させていた桜。
小狼がツッコむ間もなく、周囲がバックドラフトの如く炎に包まれる。
同時に妙な空間も消失したが、爆音は周囲にしっかりと聞こえていたようだ。
「うわぁ!火事だ!」
「爆発だ!」
「ちょ、消防車!」
小狼(ヤバい・・・)
どうやら野次馬が集まって来ている様だ。
炎の範囲はそれほど広くは無く、
小狼「す、"水龍招来"!」
懐から護符を取り出し、呪文を唱える。
途端、護符から大量の水が噴出し、周囲の火を鎮火していく。
幸いにも火種となる物が少なかったので、数秒で炎は消えた。
小狼「バカ!魔力の込め過ぎだ!」
桜「ご、ごめんなさい・・・」シュン
小狼「説教は後だ。ひとまずここを離れよう」
廃ビルの中を走り、出口へと向かう。
誰かが追って来ていないか確かめようと、桜と小狼は一瞬、後ろを振り向いた。
ドンッ!
???「キャッ!」
小狼「うわっ!」
桜「す、すみません!」
どうやら、前から来た人にぶつかってしまったらしい。
直ぐに謝罪し、起き上がるために手を差し出す。
小狼「すみません、前方不注意でした・・・」
桜「あの、お怪我とかありませんか!?」
???「大丈夫よ、気にしないで・・・って、なんだ、同じ学校の人だったのね」
桜(あ、本当だ)
小狼(同じ制服・・・)
目の前に立っていたのは、桜と同じ制服を着た少女。
髪の色は綺麗な金髪を両サイドでロールさせている、お嬢様っぽい髪形をしている。
少女「直ぐそこで爆発があったみたいだけど・・・貴方達は大丈夫だった?」
桜「ギクッ!は、はい!なんとか・・・あははは」
少女「そう、ならよかったわ。じゃあ気をつけて・・・」
小狼「あ、そっちは危ないですよ。さっき爆発が起きたので・・・」
少女「あ、実は、友達を探していてね。この中にいるかもしれないから・・・」ギクリ
小狼「爆発のあった場所からは1本道でしたけど、誰にも会いませんでしたよ?」
少女「あ、そ、そう。ありがとうね」アセアセ
どことなくバツの悪そうな表情をする少女に、小狼が首をかしげていると。
桜(小狼くん、小狼くん)ヒソヒソ
小狼(どうした?)ボソボソ
桜(この人から・・・ほんの少しだけど、魔力の気配がするの)ゴニョゴニョ
小狼(何だと?・・・・・・俺には感じられないな)ブツブツ
桜程の魔力の持ち主がかすかに感じ取れるレベルなら、自分に感じ取れないのは当然か。
だが、目の前の少女から魔力の気配がするという事は、彼女は魔法を使う人間なのだろうか。
小狼(・・・カマをかけてみるか)
小狼「もしかして、黒い服を着た、黒髪の女の子ですか?」
少女「う~ん、残念だけど、違うわね」
小狼「じゃあ・・・」
小狼「この先の、"妙な空間"にいたヤツの事ですか?」
???「!?」ビクッ
小狼(・・・ビンゴ、か)
???「貴方達・・・まさか、そっちの貴女は魔法少女なの?」
桜&小狼「魔法少女?」ナニソレ
少し前だったらリリなのだったんだろうなあ
マミ「どうぞ、上がって」
桜「お邪魔します」
小狼「お、お邪魔・・・します・・・」
マミ「そんなに固くならなくて大丈夫よ。気軽に話してちょうだい」
桜「あはは、小狼くんは照れ屋ですからー」
小狼(だ、誰が照れ屋だ・・・くっ)
廃ビルの出口で出会った金髪の少女は、巴マミと名乗った。
どうやら桜たちが今着ている制服の、学校の3年生らしい。
桜たちは、ひとまず転校生という事にして自己紹介をした。
するとマミが、立ち話も何なので自分の家で話しましょう、と言ってきたので、
こうしてマミの家にお邪魔する事になった。
桜「わぁ~!このクッキー美味しいですね!」ポワポワ
マミ「ありがとう。それ自信作なのよ」ホンワホンワ
桜「お父さんの作るクッキーと同じくらい美味しいです!」ポワポワ
小狼「ん"ん"っ!えっと、巴先輩。そろそろ本題を・・・」
お茶とお菓子で女子トークを広げていた2人を止め、話を進める。
マミ「あ、あらごめんなさい。誰かが家に来るのは久しぶりだったから・・・。
それで、魔法少女、の事だったかしら?」
桜「えっと、その魔法少女って・・・?」
マミ「コレは私が説明するより、あの子に説明してもらった方が速いかもね」
小狼「あの子?」
マミ「キュウべぇ、いるかしら?」
QB「やぁマミ。呼んだかい?」
マミの呼びかけに応えたのは、ヒッコリと窓から姿を現した白い生物。
桜「わー!かわいい!」
小狼「な、なんだこいつ・・・ケルベロス、じゃ、ないな」
ふと、自分も知っている食い意地の張った黄色い守護者を思い出す。
QB「僕の名前はキュウべぇ。それよりそこのキミ、僕と契約して魔法少女にならないかい?」
桜「ほぇ?私?」
QB「うん。キミは中々良い素質を持っている。いい魔法少女になると思うよ」
マミ「キュウべぇ、その魔法少女について説明してくれるかしら?」
QB「あぁ、だから僕を呼んだんだね。魔法少女っていうのはね・・・」
~QB説明中~
桜「絶望のエネルギーを振りまく魔女、かぁ・・・」
QB「代わりに希望を振りまくのが魔法少女と呼ばれる存在さ。だからどうだい?僕と契約して・・・」
桜「わ、私は・・・別にいいかな」アハハ
桜(特に叶えて欲しいお願いも無いし、カードさんたちもいるし・・・)
QB「それは残念だね。でも気が向いたらいつでも連絡しておくれ」
マミ「強制はよくないわ。それに魔法少女になると言うことは、魔女と戦う運命を背負う事でもあるの。
よっぽど叶えて欲しい願いが無い限りは、安易に契約はしない方がいいわ」
小狼(魔女、か。話を聞く限りでは、さっき俺たちが倒したのは使い魔らしいな)ヒソヒソ
桜(うん、あの嫌な感じが、たぶん魔女とか使い魔の気配、なのかな)ヒソヒソ
マミ「あら、どうしたの?」
小狼「いえ、何でもないです」
話を聞く限りでは、魔女や使い魔を倒せるのは魔法少女だけ。
それを自分たちが倒してしまったとなると、面倒な事になる恐れもある。
桜「ま、まだこの街に来たばかりなので・・・」
QB「じゃあ僕はこれで失礼するよ。さっきかなりの魔法少女の素質を持った子がいてね」
マミ「キュウべぇ、無理強いはダメよ」
QB「わかってるよ、じゃあねさくら。気が向いたらいつでも呼んでくれ」
マミ「あ、そうだわキュウべぇ。その素質を持った子、よかったら私にも紹介してくれないかしら?」
QB「別にいいけど、何故だい?」
マミ「どうせなら、協力して戦いたいでしょ?・・・目的は、同じなんだから」
QB「わかったよ。じゃあ僕はこれで」
そう言い残し、キュウべぇは窓から去っていった。
桜「ところで、この街にはマミさんの他に魔法少女はいるんですか?」
マミ「う~ん・・・、私の知る限りでは、今のところはいない筈よ。キュウべぇが契約しているのなら別だけど」
小狼「そういえば、素質のある子がどうのとか言ってたな」
マミ「それに、魔法少女は必ずしも味方同士とは限らないのよ」
桜「魔女を倒したときに手に入る、ええと・・・?」
小狼「グリーフシードな」
桜「そ、それです!それの取り合いとかが起こるからですか?」
マミ「その通りよ。悲しいけれどね」
だから先程、キュウべぇに対してああ言ったのだろう。
もしかしたら、彼女は魔法少女同士で戦った事があるのだろうか。
それから、どこから来たのとか、この街はどういったところなのだとか。
そして話しているうちに、この街は友枝町とは違う世界にある、ということも分かった。
色々と質問したり喋ってるうちに、窓の外はオレンジ色に染まっていた。
マミ「あら・・・もうこんな時間ね。そろそろ帰ったほうがいいわ」
その言葉を聞いて、ハッと我に変える2人。
この世界へ強制的につれて来られたため、当然のことながら、帰る場所など無い。
桜(しゃ、小狼くんどうしよう、何所に帰れば・・・)ヒソヒソ
小狼(持っている金だと・・・格安のホテルでギリギリ2日分、って所か・・・)ヒソヒソ
桜と小狼、2人の財布の中身を合わせても、お金が足りない。
まぁ、2人は一般の中学生なのだから無理も無い。
2人でうんうん唸っていると、事情を察したのか、
マミ「も、もしかして・・・何か訳アリ?」
小狼(仕方ない。俺たちの事情を話してみよう)
桜(ほぇぇ!?でもでも、"別の世界から来た"なんて信じてくれるかなぁ・・・)
小狼("魔法少女"なんてものが存在するんだ。きっと大丈夫さ。きっと・・・)
覚悟を決め、2人でマミに向き直る。
小狼「実は・・・俺たち、別の世界から来たんです」
マミ「・・・・・・・え?」
―小狼説明中―
マミ「な、なるほど・・・。大体の事情は理解したわ」
一連の事情をあらかた説明し終わると、マミは頭を抑えながら息を吐いた。
一応、自分たちが魔法を使えるということは伏せて置いたが。
桜「し、信じてくれるんですかっ?」
マミ「もしかしたら、誰かの願いで連れてこられたのかもしれないわね」
小狼「魔法少女の願い・・・ですか」
マミ「えぇ。その力で、異世界から貴方達を呼び寄せた・・・のかもしれない」
桜「それなら、さっきのキュウべぇさんに聞いてみる?」
マミ「そうね・・・。明日にでも聞いてみましょうか」
その時。
桜の中で、1つの考えが浮かんだ。
桜「あの、マミさん」
マミ「何かしら?木之本さん」
桜「その、魔女退治に着いて行っても・・・いいですか?
マミ&小狼「え!?」
マミだけでなく、小狼もこれには驚いた。
小狼「お、お前何言ってるんだ!?」
桜「もし、私たちがその、魔法少女の願いで呼ばれたのなら、私たちを呼んだ人は魔法少女って事だよね?」
マミ「えぇ、そう・・・なるわね」
桜「だったら、当然その人も魔女や使い魔を退治してるじゃない?」
つまり、魔女や使い魔と戦っていれば、自分達をこの世界に呼んだ者と接触する確率も上がる。
それならば、目的を同じくするマミと組んだ方が、効率が良いのは当然だ。
小狼「まさか、さくらからそんな的確な答えが出るとはな」
桜「えへへ~。・・・って、それどういう意味?」
マミ「でも・・・危険よ?もしかすると、命を落とすことだってあるわ」
桜「大丈夫です!それに、私も魔法少女ってのに興味があるので、どんなものなのかなぁって」
当然、これは嘘だ。
既にカードの力を使える桜にとって、魔法少女になる理由は無い。
そして桜が契約を拒む一番の理由が、契約によって魔力の質が変化するかもしれないという事だ。
そうなった場合、最悪さくらカードを使えなくなったり、
カードの守護者である"月"を維持できなくなる恐れもある。
マミ「そうね、魔法少女がどんなものか、確かめてみると良いわ」
桜「はい!よろしくお願いします!」
小狼「じゃあマミさん、さくらをお願いします」
桜「ほえ?小狼くんは行かないの?」
小狼「俺は魔法少女になれないし、足手まといになるだけだ」
桜「でも・・・」シュン
あからさまに落ち込んだ表情をする桜。
桜は感情がモロに顔に出るタイプだ。これも演技などではなく、本当にしょげているのだろう。
マミ「李くん?木之本さんにとって、頼れる人は貴方だけなのよ?
彼氏なら、傍にいてあげなきゃ」
小狼「う"っ・・・わ、わかり、ました・・・」
桜「わーい!やったぁ!」
小狼「こ、こら!くっつくな!///」
マミ(彼氏、かぁ。いいなぁ・・・)オチャズズズ
結局この後、2人でマミの家に泊めてもらうことにした。
小狼は最後まで「外で寝る!」といって聞かなかったが、
2人の数十分に渡す説得の末、渋々了承したのだった。
早乙女「・・・という訳で、転校生の木之本さんと李君です」
桜&小狼「よろしくお願いします」
2人がこの世界に転移してきたときに着ていた制服は、ここ"見滝原中学校"の物らしい。
編入手続きは、小狼が魔法で操作して事なきを得た。
早乙女「ところで2人は、卵の焼き加減にケチをつけたりしますか?」
桜&小狼「へ?」
早乙女「・・・なんでも無いわ。席についてください」
そして休み時間、当然の如く2人の周囲には人だかりが出来る。
女子A「ねぇねぇ、木之本さんが前いたところってどんなトコ?」ワイワイ
女子B「彼氏とかいるの?李くんとはどんな関係!?」ガヤガヤ
女子M「ねぇねぇ、さくらちゃん、って呼んでいいかな?」ウェヒヒ
桜「もちろん!じゃあわたしも・・・」キャイキャイ
桜はコミュニケーション力も高く、性格も明るくて素直なため、早くも人気者となっていた。
一方の小狼も、中学生になってからは多少コミュ力を身に着けていた為、
質問攻めにも苦も無く対応が出来ていた。
男子A「しっかし2日連続で転校生とはな」
男子B「2度あることは3度あるって言うし、明日も来たりしてな!」ハハハ
小狼「え、昨日も転校生が?」
男子C「おう。あの子だよ、あの長い黒髪の」
男子が指差した先には、1人席に座り、読書している少女の姿があった。
小狼(あれ?あいつ・・・確か)
先日の廃ビルでの騒動。
その最中、一瞬だけ目に映った人物だ。
小狼(アイツもこの学校の生徒だったのか・・・。まさか、アイツも"魔法少女"なのか?)
一方の桜は、相変わらずクラスメイト達との質疑応答に応えている。
まぁ放課後にでも伝えればいいか。そう思い、小狼も質疑応答へと切り替えた。
そして放課後。
クラスの面々から遊びの誘いがあったが、
転校初日なのでまだ色々あるから、と理由をつけて断った。
目的は、マミの魔女退治の見学。
予定では、街中のとあるカフェで待ち合わせをする事になっている。
集合時間よりも一足早く到着した桜は、席に座ってマミを待つことにした。
桜「よし、っと。後はマミさんを待つだけだね」
なお、小狼はとある理由で別行動を取っている。
桜(小狼くん、うまくいってるかなぁ・・・)
―桜 回想―
小狼『・・・その事なんだが、さくら。やっぱりお前1人で行ってくれないか?』
マミとの待ち合わせ場所へ向かおうとした矢先、突然、小狼が自分は行かないと言い出した。
桜『えぇっ?どうして?』
小狼『ほら、昨日転校してきたって言う、えっと・・・』
桜『暁美ほむらちゃん?』
小狼『あぁ。昨日の廃ビルで、アイツを見かけたんだ』
桜『あっ・・・、そういえば、そうだったような・・・』
小狼『その時、お前も俺も、魔力の気配を感じただろう。その直後に出てきたのが、暁美だ』
桜『じゃあまさか、ほむらちゃんって魔法少女なの?』
小狼『その可能性は高い。そして、巴先輩は暁美の事を知らなかった。
つまり、暁美が俺たちを呼んだ可能性が高いって事だ』
桜『ほ、ほぇ~、さすが小狼くん、頭良いね・・・』
小狼『だから俺は、暁美に接触してみるつもりだ。
だから巴先輩の所には、さくら1人で行ってくれるか?』
桜『わかった。じゃあマミさんには、転校の手続きで居残りとか伝えとくね』
小狼『ありがとう。この世界でも俺たちの携帯は使えるみたいだし、何かあったら直ぐに連絡してくれ』
―回想終わり―
そういった訳で、小狼は別行動を取っている。
少し、彼がいない事への寂しさと不安を覚えるが、すぐに振り払う。
桜「小狼くんだって頑張ってるんだ!私も頑張らなきゃ!」
マミ「ふふふ、気合はバッチリって感じね?」
桜「ほぇっ!?ま、マミさん!こんにちは!」
突然背後から現れたマミに驚きつつ、マミの後ろに2人の少女がいるのが分かった。
しかもよく見ると。
まどか「あ、あれ!?さくらちゃん?」
さやか「ありゃ、ホントだ。何でアンタがここに?」
桜「あっ、まどかちゃんにさやかちゃん?」
QB「昨日話しただろう?彼女たちが魔法少女候補って訳さ」
突然現れたクラスメイトの出現に驚いていると、これまた突然現れたキュウべぇが顔を出す。
まどか「そうかぁ、さくらちゃんもキュウべぇに声かけられてたんだね」
マミ「ふふっ、それじゃあ魔法少女体験コース第1弾、行って見ましょうか」
マミが飲んでいたカップを置き、笑顔で話す。
マミ「3人とも、準備はいいかしら?」
さやか「はい!さっき体育館倉庫から拝借してきました!」
そう言って、さやかがカバンから金属製のバットを取り出した。
桜「ほ、ほぇぇ・・・」
まどか「わ、私は・・・こんなのを考えてみました!」
赤面しつつまどかが取り出したのは、1冊のノート。
広げられたページに書かれていたのは。
~わたしの考えた魔法少女~
コスチューム、武器、etc・・・
マミ「・・・」クスッ
さやか「・・・」プフッ
桜「・・・」プクク
QB「・・・」
マミ「さ、行きましょうか!」ウフフ
さやか「そうですね!行きましょう!」ブクク
桜「が、頑張ろうね!」
まどか「ひ、ひどいよ~、さくらちゃんとマミさんまでー!」
マミを先頭に、街の中を歩いてゆく。
桜も気配を探ってみるが、先日感じた"魔女の気配"も、今のところは感じられない。
マミ「そもそも魔女っていうのは・・・」
街を歩きながら、マミが魔女の探し方、及び魔女が与える影響について説明してくれた。
魔女の呪いで起こり易いのは、交通事故や自殺など。
病院など、弱った人の多い場所に魔女が取り付いた場合、まずい事になる・・・等。
10分ほど歩いただろうか。それは突然やってきた。
桜(この嫌な魔力の気配・・・魔女!?)
マミ「近いわ、こっちよ!」
桜が魔力を感じ取った一瞬後、マミが走り出す。
まどか、さやか、桜もそれを追いかける。
まどか「ここ・・・廃ビル?」
さやか「あそこ!屋上に人がいる!」
桜「まさか・・・!?」
悪い予感が的中した。
廃ビルの屋上に立っていた女性が、躊躇う様子も無く、ビルから飛び降りる。
桜(いけない!)
咄嗟にカードを使おうとする桜だったが、マミのソウルジェムが光り、一瞬で衣装が変化した。
同時に、マミから強い魔力の気配を感じ取る。
ふわり、と、屋上から落ちてきた女性の体が、減速した。
そのまま紙のように、ゆっくりと地面に落ちた。
さやか「ま、マミさんっ!」
マミ「大丈夫、気を失っているだけよ。
それより魔女はビルの中ね。追い詰めるわよ!」
まどか&さやか&桜「はいっ!」
それから。
廃ビルの内部は、先日と同じように、気味の悪い物体がひしめく空間となっていた。
そしてその奥にいたのが、使い魔より大きな魔力の気配を持つ、魔女。
バラの花のようなものを体に生やした馬のようなそれを、マミはあっという間に倒してしまった。
小狼から、"万が一の時のために、いつでもカードは使える状態にしておけ"と言われていたので、
"星の杖"を封印解除しておいたのだが、それも杞憂に終わったようだ。
廃ビルから飛び降りた女性も意識を取り戻したらしいが、
自分で何故あんな事をしたのか、理解できていないようだった。
マミ曰く、"魔女の口付け"と呼ばれるものが原因らしいが、解けたのであれば大丈夫だろう。
マミ「どうだったかしら?魔法少女体験は」
さやか「すっごくカッコよかったです!マミさん!」
桜「はい!素敵でした!」
QB「どうだい?契約する気になったかい?」
まどか「うーん、まだ、すぐには決められない、かな」
さやか「私も・・・かな」
マミ「何度も言うけど、軽い気持ちで契約はダメよ。
これは命がけなんだから、慎重にね」
桜「は、はい。それは大丈夫です」
マミ「そういえば木之本さんと李君は、学生寮の手続きは終わったの?」
桜「はい、昨日はありがとうございました」
編入手続きと同じく、学生寮への入寮手続きの方も、小狼がパパッと済ませてくれていた。
マミ「ならよかったわ。それじゃあまた明日」
まどか「今日はありがとうございました、マミさん」
さやか「ま、またよろしくお願いします!」
桜「ありがとうございました!また明日!」
桜(小狼くんはうまくいったのかな。もう部屋に帰ってるかな?)
少し時間は遡り、学校からの帰り道。
小狼は桜と別行動を取り、暁美ほむらを追っていた。
小狼(・・・いた!)
HP終了後と同時に直ぐに帰ってしまったほむらであったが、
自分も直ぐに追いかけたため、見失わずに済んだ。
小狼「おーい、暁美!」
ほむら「・・・誰かしら?」
小狼「李小狼だ。今日転校して来た。暁美と同じクラスだが?」
ほむら「あぁ、ごめんなさい、人の名前を覚えるのは苦手なの。それじゃあ」ファッサァ
無表情のまま会釈し、そのまま去っていこうとするほむら。
それを慌てて呼び止める。
小狼「っておい!話があるんだ」
ほむら「ごめんなさい、急いでるから」
まるでこちらの言う事を聞く気が無い。
まさに取り付く島も無い、とは、こういう事を言うのだろう。
小狼「待てよ、話だけでも聞いてくれ」
ほむら「告白?だったらごめんなさい。あんまりしつこいと嫌われるわよ」
小狼「じゃあ単刀直入に言うぞ。暁美、お前は・・・"魔法少女"だろ?」
ピタリ、と、ほむらの足が止まる。
小狼はチャンスとばかりに、早口で質問を続ける。
小狼「お前はいつ頃契約した?そしてそのときの願いは、誰か助けを呼んでくれ、とかそういった類の物だったか?
それか、この辺で最近契約したヤツを知っているか?」
ほむら「・・・最初から詳しく説明してもらえるかしら」
ゆっくりとこちらを向いたほむら顔からは、先程までの無表情は消えていた。
とりあえず、近くの公園のベンチで話す事にした。
―小狼説明―
ほむら「そう。面白い話ね」
小狼「・・・信じてくれるか?」
ほむら「"異世界から助けを呼ぶ"、そんな願いをした魔法少女がいないとは限らないしね」
ホッと、胸をなでおろす。
正直簡単に信じてもらえるとは思ってなかったが、話が通じるヤツで助かった。
小狼「だが巴先輩は、暁美の事を知らないといっていた。お前は最近契約したばかりのか?」
ほむら「・・・契約したのは最近、では、無いわ。巴マミが私を知らないのは当然でしょうね」
小狼「そういえばお前も転校生だったな。」
だがこれで解ったことが1つ。
自分達を呼んだのは、暁美ほむらでは無い。
小狼(だとしたら、一体誰が・・・?)
ほむら「ところで、貴方と一緒に転校して来た人、えぇと・・・」
小狼「木之本桜、だ」
ほむら「木之本さんは、魔法少女なのかしら?」
小狼「・・・いや、違う」
ほむら「なら忠告。キュウべぇの甘言に耳を貸して、
後悔することが無い様にって、伝えておいてくれるかしら」
小狼「・・・お前は後悔してるのか?」
ほむら「・・・・・・」
ほむらの顔に、一瞬だけ、影が過ぎる。
小狼「悪い、野暮な質問だった。
あと、さくらは契約する気は無いみたいだし大丈夫だ。
それに俺は、あのキュウべぇという奴、信用してないからな」
ほむら「・・・理由を、聞いても良いかしら?」
小狼「単なる経験則だけどな。ウマい話には、必ず裏があるって事だ」
ほむら「続けて」
小狼「勘でしかないんだが、やたら契約を迫って来ていたからな。
ああいった勧誘みたいなのは信用できないってのが1つ」
ほむら「・・・そうね」
小狼「そして一番の理由が、キュウべぇ側に見返りが全く無いから。
まさかボランティアで願いを叶えてるなんて無いだろうからな」
ほむら「随分と頭が回るのね」
小狼「こう見えても、小さい頃から英才教育を受けてきたからな」
小狼の実家である李家は、香港ではかなりの力を持つ一族だ。
その力は政界にも及んでいるらしく、小狼も小さい頃から色々な政治家達と接してきていた。
つまり、相手の考える事には人一倍敏感なのだ。・・・相手が大人の時に限り。
だから小学校の時は、同級生の山崎のホラによく騙されていた。
あれは相手が自分と同じ年頃だから、というのもあったので、疑いの心を持たずに接していたからだ。
小狼「ところでお前も魔法少女なら、巴先輩と協力したりはしないのか?
出来なくても、せめて話だけでもしてみないか?」
ほむら「・・・・・・そうね。話、だけなら」
小狼「よかった。俺は巴先輩とは面識があるから、その時には教えてくれ」
ほむらと別れた後、ひとまず桜に連絡を入れようとして、携帯をいじっていた手を止める。
小狼(もしかしたら、魔女と戦っている最中かもしれない。電話はさくらからのを待っておいた方が良いか)
連絡を待つ間はする事も無いので、学生寮へ戻っておく事にした。
ちなみに金銭面での問題は、奨学金が受理されたので心配は無くなった。
その後、学生寮で桜と合流、情報交換を行った。
その時2人が同じ部屋に入っていくのを、偶然同じクラスの女子に見られてしまい、
翌日、その事で色々と質問攻めにあう羽目になった2人であった。
それから数日が経った。
桜、まどか、さやかの3人は、マミと一緒に魔女退治を続けている。
まだ願いが決まっていないのか、決心がついていないのか。
まどかもさやかも、契約はしていないようだ。
最も、最近は使い魔ばかりで魔女が出ないそうだが、
マミ曰く、"使い魔も成長すれば魔女になるので放っておけない"らしい。
さやかも言っていたが、まさに"正義の魔法少女"だろう。
小狼の方は、これといって進展は無いようだ。
結局あれから、"鹿目と美樹がいるなら大丈夫だろう"と言って、
マミとの魔女退治には参加しなかった。
桜としては、あまり一緒にいられないので寂しい気持ちもあったが。
寮でいる時間を増やす、という条件で(部屋は別々の部屋だが)了承したようだ。
そして、そんなある日の事。
さやかの幼なじみが入院していると言う病院で、孵化直前のグリーフシードが
見つかった、という知らせが届いた。
マミ「じゃあ、今は美樹さんとキュウべぇが残っているのね?」
桜「はい!テレパシーで位置がわかるって言ってたので・・・」
まどか「マミさん、ここです!」
病院の裏手で、マミのソウルジェムが光り輝く。
すると、そこに"魔女の結界"の入り口が口を開ける。
マミ、まどか、桜が魔女の結界へ入った瞬間。
小狼「待ってくれ!」
声の聞こえたほうを向くと、小狼ともう1人――暁美ほむらが、そこに立っていた。
マミ「貴女は・・・魔法少女?」
まどか「えっ、ほ、ほむらちゃん!?」
ほむらの件は桜も聞いていたが、その事はマミやまどか達には話していない。
これはほむらから、"私の事は黙っておいて"と言われたからだ。
ほむら「"初めまして"、かしら、巴マミ。今回は、貴女は退いてくれないかしら」
マミ「・・・どういう事?」
ほむら「今日の獲物は私が狩る。もちろん結果内部の、美樹さやか達の安全は保障するわ」
マミ「悪いけど、ここ最近は使い魔ばかりでね。私もストックが少なくなってきてるのよ」
ほむら「手に入ったグリーフシードは後で貴女に渡す。これなら文句は無いでしょう?」
マミ「"協力する"って選択肢は無いのかしら?」
ほむら「今回の魔女は・・・これまでの魔女とは違う」
マミ「なら、尚更協力するべきじゃない?」
ほむら「・・・」
そのまま、お互いに無言でにらみ合う。どう見ても良い雰囲気ではない。
桜とまどかも、声をかけるタイミングが見つからず、オロオロしている。
このままではまずい事になりそうなので、助け舟を出すことにした。
小狼「とにかく美樹が危ない。急ぎましょう。
前衛は暁美が、巴先輩は後衛から暁美の援護、及び鹿目たちの護衛。これでどうですか?」
ほむら「・・・仕方ないわね。でも、あくまで援護に回る事。いいわね」
マミ「そこまで言うなら分かったわ。急がないと美樹さんが危ないからね」
どうにかうまく収めることが出来たようだ。
まどかも桜もホッとした表情をしている。
マミ「・・・急ぎましょう」
先程の論争で時間を食ってしまったのか、グリーフシードが動き始めたらしい。
マミもほむらも変身し、一気に最深部へと向かう。
まどかと桜は、学校から拝借したバットで、小狼は竹刀で戦う。
さすがに倒すとまでは叶わないが、マミの魔法のおかげで十分な牽制にはなる。
やがて最深部に到着すると、そこで待っていたさやかとキュウべぇの姿が見えた。
その横から、何やら小さい人形のような物が形成され始めている。
恐らく、あれが孵化した"魔女"だろう。
さやか「遅いよ!ってあれ、なんで転校生がここに!?」
ほむら「話は後。下がりなさい」
手にした拳銃を使い、魔女を攻撃していくほむら。
なんとか倒したか、誰もがそう思った瞬間。
魔女「」ガパァ
人形の口から、巨大な顔がついた黒い物体――魔女の本体が飛び出した。
それは瞬時にほむらの頭上まで来ると、その巨大な口を開き――
バクン!と口を閉じ、ほむらの体を丸呑みにした。
まどか「ほむらちゃん!?」
桜「ほむらちゃぁぁぁぁん!!」
マミ「そんな・・・」
さやか「嘘・・・でしょ!?」
小狼「クソっ!」
マミがマスケット銃を構え、魔女に打ち込もうとした。
その時。
ほむら「下がれ、と言った筈よ」
爆音が轟き、魔女は体の中から盛大に爆発した。
声の下方向を見ると、マミの後ろで涼しい顔で立っている、ほむらの姿が。
小狼(いつのまにあんな場所に・・・瞬間移動か!?まぁ、無事ならよかった・・・)
まどか「ほむらちゃぁぁぁん!!!」ビェェン
桜「無事でよがっだよぉぉぉぉぉぉ!!!」ウワァァン
ほむら「ちょ、まどか!?木之本さんも・・・は、離れ・・・」
周囲の結界も解除され、普通の景色へと戻る。
それで安心しきったのか、まどかと桜が一斉にほむらへと抱きついた。
さやか「よ、よかったぁ・・・。てっきり魔女に・・・く、食われ・・・」ガタガタ
マミ「ごめんなさい、暁美さん。そして、ありがとう。
私だったら、あれで死んでいた・・・でしょうね」
ほむら「・・・わかってくれればいいのよ。
でも、これで分かったでしょう?魔法少女になるという事が、どんな事なのか」
まどか「・・・うん」
さやか「・・・そうだね、転校生、いや、ほむらの言う通りだ」
ほむら「じゃあ、私はこれで」ファッサァ
まどか「ま、待って!ほむらちゃん!」
そう言って去っていこうとするほむら。
それをまどかが呼び止める。
ほむら「・・・・・・何?」
まどか「えっと、今日は、助けてくれてありがとう!!!」
桜「ありがとう!ほむらちゃん!」
ほむら「・・・・・・ッ、それじゃあ、また明日」
そう言って、ほむらは帰って行った。
桜には、最後・・・一瞬だけ無表情が崩れたような、気がした。
さやか「あいつ、無口で愛想悪いと思ってたけど・・・案外良い奴なんだね」
まどか「最近、私に忠告してたのも・・・私たちの為を思ってくれてたからなんだね」
マミ「そうね。やっぱり、自分の命を捨てても叶えたいことが無い限り、契約はしないほうが良いわ」
その言葉に、さやかもまどかも黙って頷いた。
マミ「よかったら、私の家でお茶していかない?昨日、クッキー作りすぎちゃって」
さやか「ホントですか!?やったぁ!」
まどか「はい、是非!」
桜「やったぁ!マミさんのクッキー!」
さすがは先輩、沈んだ空気を払拭してくれた。
だが小狼には1つ、気になる事が残った。
小狼(暁美は、戦う魔女を知っているかのような態度だった。
ここで出た魔女は孵化した魔女、つまり1度も出現したことが無いはず。それを何故知っていたんだろうか)
もしかしたら、暁美の能力によるものかもしれない。
予知か、念視か。そういった類のものだろうか。
桜「小狼くーん!早く行こう?」
小狼「わ、わかったから!わかったから腕を組むな!くっつくな!///」
桜「えへへ~」
そんな2人をニヤニヤしながら見守る、同級生2人と先輩1人。
コイツには人前でこういった事をしないように、後で教えておくべきだな・・・そう思う小狼であった。
QB「参ったね」
QB「これではまどかとの契約が難しくなってしまった」
QB「何か手を打たないとね・・・」
QB「・・・そうだ。"あの子"を呼んでみよう」
QB「僕は諦めないよ、まどか」
病院での戦いから、一夜空けた翌日。
見滝原中学校は、いつもと変わらない風景が広がっていた。
先日、1人の少女が命を落としていた可能性もあったのに。
世界は、残酷なまでにいつもと変わらなかった。
マミ「それじゃあ2人とも、気をつけて帰ってね。」
まどか「はい、また明日」
桜「お菓子ごちそうさまでした」
放課後、まどか、桜の2人はマミの家でお茶しながら、女子トークに花を咲かせていた。
小狼、さやか、ほむらも誘ったのだが、ほむらは既に下校していて誘えず、
小狼は、"やる事があるから"と言ってそそくさと帰ってしまった。
多分、女子ばかりの空間に入るのを恥ずかしがったのだろう。
一方のさやかは、幼なじみの見舞いという事で辞退した。
聞くところによると、事故で手を怪我してしまい、入院中との事らしい。
まどか「そうだ、ちょっとあそこのお店覗いていかない?」
桜「うん!」
女子の買い物は、基本的に長い。
2人でキャッキャしながら買い物(見るだけ)をしているうちに、周囲は薄暗くなり始めていた。
まどか「うわぁ、早く帰らなきゃママに怒られちゃう・・・」
桜「そうだね、急がないと・・・って、あれ?」
ふと、前のほうに見知った顔を見つけて立ち止まる2人。
若草色の髪をした、まどか達のクラスメイトであり、親友――志筑仁美。
まどか「あれ?仁美ちゃん、今日はお稽古だったって聞いてたけど・・・」
桜「待って、何か様子がおかしい!」
よく見ると、仁美の首筋に何か痣のようなものがある。
それは、まどかと桜に見覚えのある形だった。
まどか「あれって・・・まさか!」
桜「"魔女の口づけ"・・・!」
仁美「あら、まどかさん、さくらさん、ごきげんよう」
桜「仁美ちゃんどうしたの?何所へ行こうとしてたの!?」
仁美「どこって・・・素敵な場所ですわ。そうですわ、お2人も是非ご一緒に」
気がつくと、周囲には仁美と同じ、"口づけ"のある人たちが集まっていた。
皆の目は虚ろで、ただひたすらに歩き続けている。
まどか「と、とにかくマミさんに電話しなきゃ・・・きゃぁっ!」
桜「まどかちゃん!仁美ちゃん、それ返して!」
仁美「駄目ですわ。これから向かう場所に、こんな物は不要ですから」
携帯電話をかけようとした瞬間、仁美に取り上げられてしまった。
公衆電話からかけようにも、マミの番号を覚えている訳ではなかったので、電話することも出来ない。
そして桜の携帯では、この世界のものではない為、電波が繋がらない。
まどか「ど、どうしよう・・・!」
桜「まどかちゃん、私がなんとか隙を見て電話を取り返すから、マミさんに連絡して」
まどか「う、うん!」
それから歩く事2~3分後、集団は、古びた町工場へと入っていった。
集団が工場へ入った瞬間、出入り口のシャッターが下ろされる。
まどか「どうしよう・・・出入り口が」
桜「落ち着いて、チャンスはあるよ!」
工場の中心には、中年の男性がパイプ椅子に座っており、
その前に、何かの液体が入ったポリバケツがおいてある。
男「俺はこんな町工場1つ、満足に切り盛りできなかった・・・
今の時代に俺の居場所なんてないんだ・・・」
男の呟きに応えるように、集団の中にいた女性が、何かを取り出した。
桜「あれは・・・洗剤?」
まどか「・・・まさか!」
以前、まどかは自分の母親に聞いたことがあった。
塩素系と酸性系の洗剤を混ぜると、猛毒の塩素ガスが発生する、と。
まどか「それは駄目ェッ!みんな死んじゃう!」
仁美「邪魔してはいけません!!」
洗剤を持った女性が前に出て、洗剤のふたを開ける。
その瞬間、周囲から拍手と歓声が巻き上がった。
まどか「はなしてっ!!」
集団をかいくぐり、バケツを掴むまどか。
周囲の人間がそれを阻止しようとするが、桜がボディブローをかまして援護する。
まどか「えいっ!」
ガッシャァァァン!!!!
ガラスの砕ける音と共に、、洗剤の入ったバケツは工場の外へ投げ捨てられた。
桜「た、助かっ・・・」
じろり、と。
周囲の人間が2人を取り囲む。
まどか「・・・って、無い?」
桜「こっち!」
まどかの手を引き、奥のドアへ逃げ込む。
部屋に入ると同時にカギをかけ、一安心・・・と思ったが。
まどか「ここ・・・物置?」
桜「ど、どうしよう・・・」
途方に暮れた瞬間。
2人の周囲に、異様な空間が広がった。
まどか「これって・・・!」
桜「魔女の結界!?」
空間に浮かんでいた、使い魔の中の数体が、こちらに気づく。
羽の生えた操り人形のような使い魔が、ケタケタと笑いながらこちらへ向かってきた。
桜(こうなったら・・・やるしかない!)
ネックレスにしてぶら下げていた、"星の鍵"を掴む。
(BGM:カードキャプターさくら さくらのテーマⅠ)
――星の力を秘めし鍵よ
――真の姿を我の前に示せ
――契約の下、さくらが命じる
桜「"封印解除"(レリーズ)!!!」
魔力を秘めた"星の鍵"の封印が解かれ、姿を変える。
桜の魔力の源、"星の力"を宿す、"星の杖"へと。
桜「風よ、戒めの鎖となれ!"風"(ウィンディ)!!!」
カードから実体化した"風"が、使い魔の動きを封じる。
突然の出来事に驚いたまどかが桜のほうを振り向く、その前に。
桜「ごめん、まどかちゃん。少しだけ眠ってて。"眠"(スリープ)!」
まどか「あれ・・・?さく、ら、ちゃん・・・」Zzz
まどかが床に崩れ落ち、スヤスヤと寝息を立て始める。
これなら周囲の目を気にする事は無い。
桜「よくも私の友達を・・・許さない!"剣"(ソード)!!!」
星の杖に"剣"が宿り、一振りの剣と姿を変える。
桜「えぇーーーい!!!」
"剣"のカードは、使い手を剣の達人にする能力もある。
目にも留まらぬ斬撃で、"風"で縛っていた使い魔達を両断した。
桜「後は・・・!」
使い魔の奥にある、ブラウン管TVのような箱型の物体。
あれから漂ってくる嫌な気配、間違いない。
あれが・・・"魔女"だ。
桜「"跳"(ジャンプ)!」
カードを使って、空中に浮かぶ魔女の下へ一気に跳躍する。
桜「でやぁぁっ!!!」
箱のような形の魔女を、一刀両断の元に切り裂く。
2つに切り裂かれた箱の中から、黒い影のような物が出現した。
あれが魔女の本体だろう。
桜「トドメぇっ!!」
黒い影を剣で一閃、今度こそ、魔女は完全に消滅した。
周囲の空間が解除されて、通常の薄暗い倉庫に戻る。
桜「はぁ・・・、何とかなってよかったよ・・・」
コロリ、と。
桜の足元に、魔女の卵である、グリーフシードが転がり落ちた。
桜「これは・・・マミさんに渡そう」
眠っているまどかを抱えて、倉庫から出る。
魔女に操られていた人たちも、全員工場の床で眠っていた。
桜「仁美ちゃんも無事、だね。携帯は返してもらわなきゃ」
まどかの携帯を回収し、工場の外に出る。
後は警察を呼んで・・・そう思ったときだった。
新たな魔力の気配が、こちらへ近づいてくるのを感じ取る。
桜(新手!?いや、これは魔女じゃない・・・え!?)
魔力の波長を感じ取り、驚愕した。
それは、桜がよく知る人物の気配と、全く同じだったから。
そして、その人物――桜の傍に現れた、青い髪をした少女。
美樹さやかは、目を丸くしていた。
さやか「あれ?魔女の気配がしたと思ったんだけど・・・おかしいな」
目の前の少女から漂う気配、間違いない。
美樹さやかは、契約し・・・魔法少女になったのだ。
QB「やぁ、よく来てくれたね」
???「ここにはマミの奴がいるだろ?なんでアタシを呼んだのさ」
QB「この周辺で魔女の出現率が増えてるのさ。マミの他に、今日もう1人契約したんだけど・・・
それでも戦力不足になりそうだったからね」
???「ハッ、なにそれ。馴れ合いとかちょぉムカつく」
QB「じゃあどうするんだい、帰るのかい?」
???「魔女が増えてんだろ?そんな絶好の狩場、逃す訳ねぇだろう」
QB「ならよかった。じゃあ頑張ってくれよ」
???「ヘヘッ、邪魔する奴は・・・全部ブッ潰してしまえばいいんだしよ」
まどか「あれ?私・・・」
桜「あっ、目が醒めた?」
さやか「怪我はなかった?まどか」
まどか「さやかちゃん?その格好・・・」
さやか「へへっ、どうかな?結構似合ってるかな?」
青を基調としたコスチュームで、白いマントを羽織ったその姿。
一見するとただのコスプレ少女だが、事情を知っている場合は話が別だ。
桜「契約・・・したの?」
さやか「うん・・・まぁね」
まどか「ひょっとして・・・上条くん?」
上条恭介。事故で怪我をして、現在は入院しているさやかの幼なじみ。
将来有望のバイオリニストだったが、事故で手が動かなくなってしまい、
そのケガは現代医学では治療不可能と言われていたそうだ。
さやか「うん。恭介の手を治す代わりに、ね。
でも、後悔はしてないよ。もう一度、あの演奏を聴けるのなら・・・」
彼女は、幼なじみの手を治す代わりに契約したのだ。
他人の為に、自分の運命を犠牲にしてまでも。
さやか「でも大丈夫!マミさんもいるし、転校生・・・暁美ほむらだっているし!」
まどか「うん・・・でも・・・」
まどかが心配するのも無理は無い。
彼女は先日、魔法少女と魔女の戦いの過酷さを、身をもって知ったばかりなのだから。
桜がどう声をかけようか迷っているとき、視界の端に動く物が映った。
桜(あれは・・・!)
動物とは明らかに違うその姿。それから漂う嫌な気配。
先程の魔女ほどでは無いが・・・
さやか「使い魔!待てぇっ!!」
その姿を捉えるが速いか、さやかが駆け出す。
慌ててまどか、桜も後を追った。
さやか「そこだぁっ!」
手にした剣を一振り、使い魔へと斬撃を飛ばす。
だが。
さやか「弾かれた!?」
目に見えない何かに、さやかの攻撃が弾かれる。
同時に新たな魔力の気配。これは魔女とは違う、魔法少女のものだ。
桜(マミさんのとも、ほむらちゃんのとも違う気配・・・誰?)
???「ちょっとちょっと、何やってんの。あれ使い魔だよ?」
まどか「魔法少女・・・?」
物陰から姿を現したのは、マミでもほむらでも無かった。
赤を基調としたコスチュームで、ノースリーブの上着にスカートを履いている。
そして、その手には1本の長槍を担いでいる。
QB「やはり来たね、佐倉杏子」
いつのまにかそこにいたキュウべぇが口を開く。
佐倉杏子。それが彼女の名前らしい。
その場の全員が杏子に気を取られている間、先程の使い魔は再び逃げ出そうとしていた。
さやか「あっ、逃げちゃう!」
杏子「だから止めろっての!」
追いかけようとしたさやかを、杏子が槍で制止する。
さやか「何やってんの?あれを放っておいたら誰かが殺されて・・・」
杏子「だからさぁ、数人喰わせて魔女にすればグリーフシードを孕むんだから」
さやか「あ、アンタ・・・誰かが死んでも良いっていうの!?」
杏子「ハァ?なんか勘違いして無い?食物連鎖だよ。
弱い物は強い物に喰われる。それだけの事じゃねぇか」
さやか「だ、だからって・・・」
杏子「まさか、人助けとか正義とかの為に、契約したわけじゃないよね?」ニヤリ
さやか「・・・っ!!!」
我慢できなくなったのか、さやかが杏子に斬りかかった。
杏子は動揺することも無く、手にした槍で攻撃を防ぐ。
杏子「テメェ、何しやがる!!」
さやか「黙れェッ!!!」
杏子「そーかいそーかい。だったら、死んでも文句言うんじゃネェぞ!」
そのままお互いに、殺陣の応酬を繰り広げる。
実力的にはさやかが圧倒的不利であるが、さやかの祈りは癒しの力によるものらしく、回復力は人一倍高いらしい。
その力のお陰で、杏子ともなんとか戦えてはいるものの、次々に体中に傷が刻まれていく。
まどか「2人とも止めて!どうして魔法少女同士で戦わなきゃならないの!?」
桜「お願いだから止めてよぉっ!!!さやかちゃんが死んじゃうよ!」
2人の叫びも届かず、杏子とさやかは戦い続けている。
すると、事態を静観していたキュウべぇが口を開いた。
QB「戦いを止めたいのなら、契約すると良い。君達にはその素質がある」
桜「契約・・・?」
さやかと杏子の戦いにも、決着がつこうとしていた。
杏子が槍を振りかざし、さやかの胸へと狙いを定める。
まどか「そ、それで2人が戦いを止めるなら、私――」
まどかが口を開いた、その直後。
ほむら「その必要は無いわ」
杏子「!?」
さやか「うっ・・・」
ほむらが出現した瞬間、杏子はさやかから離れた位置に瞬間移動していた。
杏子「何だテメェ・・?何しやがった!」
マミ「そこまでよ。これ以上戦うなら、2人を拘束するわ」
次いで現れたマミが、冷静に告げる。
だが杏子はマミの言葉も聞かず、槍を振りかざし、そのままほむらへと突き出したが。
小狼「止めろ!」
新たに割り込んだ小狼の剣に、槍は防がれる。
杏子「何だテメェは!邪魔すんなぁぁぁ!!!」
さやか「李君!そこをどいて!そいつと決着をつける!」
小狼「2人とも武器を降ろせ!落ち着いて話を聞け!」
マミ「佐倉さん!美樹さん!戦いを止めなさい!」
杏子「マミ・・・!私に指図すんじゃねぇ!!!」
さやか「これは私たちの戦いだ!口出ししないでください!」
駄目だ、杏子もさやかも完全に頭に血が上っている。
仕方ない――小狼は懐から、1枚の護符を取り出した。
小狼「忠告はした――"雷帝招来"!!!」
護符から迸った稲妻が、杏子とさやかに直撃した。
ベテランの杏子も、まさか電撃が飛んでくるとは予想できず、モロに喰らってしまったようだ。
杏子「がァッ・・・!?くそ・・・」ガクッ
さやか「うぁ・・・っ!?」ガクッ
気絶した杏子をマミが、さやかを桜が抱きかかえる。
一方、ほむらはまどかの前に立っていた。
その顔はいつもの仏頂面ではなく、怒りに染まっていた。
まどか「ほむら・・・ちゃん?」
ほむら「言ったわよね、鹿目まどか。貴女は関わりを持つべきではないと!
散々言い聞かせたじゃない!一体何度忠告させるの!?どこまで貴女は愚かなの!?」
いつもの冷静さはどこへやら、声を荒げるほむらにまどかは完全に畏縮しきっている。
あのマミも、どう声をかけるべきか迷っている。
桜「待ってほむらちゃん!今回は偶々巻き込まれただけなの!仁美ちゃんが口付けされてて、
倉庫に魔女がいて、さやかちゃんが魔法少女で、使い魔が逃げて・・・!」
小狼「さくら、落ち着いて深呼吸だ。そしてゆっくり話してくれ」
桜「う、うん」スーハースーハー
マミ「ここは警察が来るわ。場所を変えましょう」
ほむら「そうね・・・ごめんなさい。少し言い過ぎたわ」
まどか「う、ううん・・・こちらこそごめんなさい」
結局、ここから一番近いから、という事で、マミの部屋へ集まることになった。
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QB「やれやれ、失敗か」
QB「これでまどかとさくらのどちらかが契約してくれれば嬉しかったけど、うまくはいかないね」
QB「だけど、まだ手段は残っている」
時刻は夜の20:00。
一行はマミの家に集まり、話を整理することにした。
マミ「ごめんなさい、ティーカップが足りなくて・・・」
桜「大丈夫です、"創"(クリエイト)!」
本に描かれたカップが実体化し、人数分の数が揃う。
ただ、手書きな為にかなりいびつな形であったが。
マミ「ありがとう。そんな便利なカードもあるのね」
桜「中には、使いどころのよく分からないカードさんもいますけどね」アハハ
一方、さやかと杏子も既に目を覚ましているが、硬い表情のまま黙りこくっている。
全員が席に着き、最初に口を開いたのは、マミ。
マミ「じゃあ、情報の整理といきましょう。まずは、木之本さんと李くんについてね」
小狼「悪い、さくら。あそこで俺が魔法を使ってしまったから・・・」
桜「ううん、小狼くんは間違ってないよ。いつかはバレる事だったんだし、
それにあそこで止めてなかったら、さやかちゃん達は大怪我してたよ」
小狼「ありがとう、さくら・・・」
桜「小狼くん・・・」
マミ「はいはーい、2人の世界に入らないの」パンパン
マミの言葉に我に返り、赤面する2人。
心なしか、その場の空気も少し緩んだようだ。
小狼「じゃあ、まずは俺たちの事ですが・・・」
―小狼説明―
一通り説明をし終えた小狼は、軽く息をついた。
さくらカードの事、自分たちの世界で起こった事、など。
ほむら「その力を、私たち魔法少女にも隠していたのは何故?」
小狼「俺たちを呼んだ奴が、悪意をもっているかも知れなかったからだ。
この力を悪用させる訳にはいかなかったし、俺たちが異世界人だと特定されにくくする為だ」
桜「マミさん、まどかちゃん、さやかちゃん。隠していてごめんなさい」
まどか「い、いいよ。大丈夫だよ?さくらちゃんにも事情があったんだから」
マミ「じゃあ次は、佐倉さんね。貴女が見滝原に戻ってきたのは何故?
・・・私と仲直りする、為では無いみたいね」
杏子「何を今更。アタシはただ、キュウべぇの奴にここで魔女の出現率が増えているって聞いたからさ」
ほむら「成程。やっぱりアイツの仕業だった訳ね」ギリッ
マミ「美樹さんは、契約したことについては言う事は無いわ。ただ、後悔だけはしないでね?」
さやか「大丈夫ですよ。これは私が望んだからです。・・・後悔なんて、ある訳無い」
杏子「馬鹿馬鹿しい。他人の為に願うなんてロクな事にならないよ。
魔法は自分のために使うモンだろう?」
さやか「・・・何ですって?」
杏子「惚れた男をモノにするなら、もっと良いやり方があるじゃん。
アンタ無しでは生きられない体にしてやりなよ。そうすりゃぁ・・・」
さやか「お前・・・!」
小狼「そこまでだ。まさか人様の家で戦う訳無いよな?」
杏子「・・・チッ。テメェは誰の味方なんだ?」
小狼「俺は冷静な奴の味方で、バカな争いをする奴の敵だ」
桜「小狼くんの敵なら、私の敵でもあるよ」
杏子「・・・分かったよ。アンタ達は敵に回すと厄介そうだ」
降参だ、といった具合に杏子は両手を上げ、ソファに腰を下ろした。
だが、さやかは。
さやか「表に出ろ、佐倉杏子」
桜「ちょ、ちょっとさやかちゃん!」
さやか「コイツは私と、恭介を侮辱した!絶対に許さない!!」
マミ「暁美さん、気持ちは分かるけど、戦おうとするのなら、貴女を止めるわよ?」
さやか「・・・上等だよ。邪魔する奴はブッた斬る」
先程の杏子の挑発に完全に乗ってしまっている。
こちらの話を聞く気も無いようだ。
まどか「・・・っ、さやかちゃん、ごめん!!」
さやかが取り出したソウルジェムをひったくり、窓から投げ捨てる。
そのままさやかのソウルジェムは、外を走っていたトラックの荷台に落ち、走り去っていった。
ほむら(まずい!!!)
さやか「ちょっと!何するの・・・さ・・・」ガクッ
突然、さやかの体から力が抜けて崩れ落ちる。
同時にほむらが素早く外に出て、トラックを追いかけて行った。
まどか「さ、さやかちゃん!?大丈夫!?」
マミ「美樹さん!?どうしたの!?」
小狼「美樹・・・?って、何だと・・・」
さやかの肩を掴んだ小狼が、驚愕に目を見開く。
そして、震える声で告げた。
小狼「・・・・・・・死んでる」
杏子「何・・・・!?」
まどか「さやかちゃん?ねぇ、さやかちゃん!!!」
マミ「どういう事・・・!?何で・・・?」
QB「やれやれ、よりにもよって友達を投げるなんて。どうかしてるよ、まどか」
いつの間にか、窓のふちに立っていたキュウべぇが、口を開いた。
マミ「キュウべぇ!?これはどういう事なの!?美樹さんはどうなったの!?」
QB「さっき言ったじゃないか。美樹さやかは、まどかが投げ捨てちゃった、って」
小狼「どういう・・・事だ」
キュウべぇは無表情のまま、語りだした。
魔法少女の持つソウルジェムは、契約者の魂の入れ物。
肉体とソウルジェム――"本体"との距離が離れすぎると、肉体をコントロール出来なくなる。
キュウべぇの役目は、契約者の少女の魂を、ソウルジェムに変える事。
一通りキュウべぇが話し終わることには、全員が言葉を失っていた。
杏子「フザけんな!それじゃあアタシ達・・・ゾンビにされたも同然じゃねぇか!!!」
QB「むしろ便利だろう?どれだけ肉体が傷ついても、魔法で元に戻るんだから
ソウルジェムさえ砕かれない限り、キミたちは無敵なんだ。戦いでは断然有利じゃないか」
まどか「そんな・・・そんなのって・・・」
桜「そんなのってないよ!ひどすぎるよ・・・!」
QB「君達はいつもそうだ。事実を伝えると決まって同じ反応をする」
QB「どうして人間は魂の在り処に拘るんだい?わけがわからないよ」
やがて、ほむらがさやかのソウルジェムを回収して戻ってきた。
ソウルジェムがさやかに触れた瞬間――さやかの体がピクリ、と動く。
さやか「・・・あれ、私?・・・どうしたの?」
小狼「・・・何故、この事を言わなかったんだ」
QB「訊かれなかったからさ」
杏子「・・・・ッ!!!」
QB「それに僕は、"魔法少女になってくれ"ってキチンとお願いした筈だよ?
・・・実際の姿がどんなのかについては、説明を省略したけどね」
ほむら「・・・最低ね」
小狼「まさに詐欺師の手口だな。いや、詐欺師なんかよりずっと悪質だ」
QB「やれやれ、僕は君達の為を思ってやってるんだけどね?まぁ、これで失礼するよ」
そう言って、キュウべぇは窓から外へ出て行った。
後に残されたのは、重い空気。
さやか「・・・ねぇ、なにがあったの?」
まどか「さやか・・・ちゃん・・・うぅっ」
その後、もう夜も遅かったので、解散する事にした。
事実を知ったさやかはかなりのショックを受けていた為、今日はマミの家に泊まることにした。
翌日。
中学生はいつも通り、学校がある。
例え先日殺し合いがあったとしても、学校に登校しなければならない。
世間が、それを認識していない限り。
早乙女「はい席について、HR始めまーす」
いつもの通りに点呼を取る担任。
いつも通りの光景であるが、ただ1つ違うのは。
早乙女「ん、美樹は休みか?」
仁美「さやかさん、どうなさったのでしょうか」
まどか(さやかちゃん・・・大丈夫かな)
桜(放課後、お見舞いに行って見よう?)
美樹さやかは、学校を欠席していた。
遅れて登校してくるかもしれない・・・そう期待していた桜達だったが、それも叶わなかった。
桜「よし終礼終わり!急ごう!」
まどか「うん!李くんも行くよね?」
小狼「・・・俺が行くより、仲が良いお前達が行った方がいいんじゃないか?」
桜「そんなの関係ないよ!小狼くんだってさやかちゃんの友達だよね?」
小狼「そ、そのつもりだが・・・」
まどか「じゃあ一緒に行こう!あと・・・」
まどかはほむらの席の前まで行くと、帰り支度を始めていたほむらに話しかけた。
まどか「ほむらちゃんも、一緒に行かない?さやかちゃんの家」
ほむら「私が行っても、何もならないと思うけど」
まどか「でも、ほむらちゃんだって心配でしょ?」
ほむら「・・・別に。美樹さやかが自分で選んだ道だもの」
まどか「・・・どうしても、ダメかな?」
ほむら「・・・まぁ、着いて行くだけなら」
まどか「ありがとう!ほむらちゃん!」
太陽のような笑顔で喜ぶまどかに、気のせいか、ほむらの表情が少し和らいだように見えた。
その後マミと合流し、一行はまどかの案内でさやかの家に行って見たが、
さやかは外出しているらしく、会う事は出来なかった。
まどか「さやかちゃん、どこ行っちゃったんだろう・・・」
小狼「とりあえず、外に出る元気はあるみたいだから安心したよ」
桜「明日、学校来るのかなぁ」
マミ「大丈夫よ、美樹さんを信じましょう」
まどか「そうですね!さやかちゃんなら・・・大丈夫、ですよね」
いつも元気がとりえだったさやかだ。
彼女がいないだけで、普段より空気が暗い感じになっているのは否めない。
ほむら「じゃあ、私はこれで。行きましょう、巴マミ」
マミ「相変わらずドライなのね。少しは心配したらどうなの?」
桜「ほむらちゃん、きっと照れ屋さんなんですよ。誰かさんみたいに!」
小狼「・・・そこで俺を見るのはやめろ」
マミ「ふふ、本当に仲が良いのね、あなた達・・・」
まどか「なんだか、見てると私も嬉しくなってきちゃうんだよね」
確かに、桜はそこにいるだけで、周囲に元気を振りまいているような気がする。
桜自信が社交的であり、雰囲気がふんわりしているというのもあるが、
一番の理由は、桜の人格だからこそだろう。
マミ「それじゃあ、私達はこれで。行きましょうか、暁美さん」
ほむら「えぇ。・・・それじゃあ、また明日」
昨日の一件から、ほむらとマミは共同で魔女退治をするようになった。
これはほむらの能力――昨日教えてもらったのだが――"時間停止"と、
マミの能力の相性が良いというのも理由である。
だが桜達が驚いたのは、あのほむらが他人と協力する姿勢を見せたこと。
小狼(暁美・・・。あいつも、桜のふんわりしたオーラを受けて、柔らかくなってるのかもな)
まどか「じゃあ私達は、どこかお店みて帰らない?」
桜「賛成!ほら小狼くんも!」
小狼「いいけど、なるべく手短に済ませてくれよ・・・?」
まどか&桜「はーい!」
元気よく応えた2人だったが、案の定、買い物は長くなった。
そして、翌日。
さやかは、元気に登校してきた。
さやか「あははっ、ごめんね皆!昨日は折角お見舞いに来てくれたのに」
桜「ううん、さやかちゃんが元気なら安心したよ!」
小狼「だな。元気そうで安心した」
どうやら、昨日は杏子と会っていたらしい。
また戦いにならなかったのか不安ではあったが、そんな事にもならなかったようだ。
そして、杏子から色々と話を聞いたらしい。
杏子が契約した理由や、自分のために戦う理由、など。
桜「そうか・・・。杏子ちゃん、そんな事が・・・」
さやか「でも、私は人の為に祈った事を後悔して無いよ。
この力は使い方次第で、いくらでも素晴らしい力に出来る筈だから」
そう言ったさやかの顔は笑っていたが、少しだけ影が曇っていた。
そして、さやかの幼なじみである上条恭介も退院し、登校して来ていた。
桜「あの人が上条くん、かぁ」
小狼「あぁ。確か天才的なバイオリン技術を持ってるとか、聞いたっけな」
男子A「久しぶりだな上条!腕は治ったのか?」
男子B「よかったじゃないか!またバイオリンが弾けるんだろ?」
女子A「また上条君の演奏が聴けるのね!?やったー!」
どうやら彼はクラスでも中々の人気者らしく、大勢の生徒が上条の席に集まっている。
まどか「さやかちゃんも行ってきたら?まだ挨拶してないんでしょ?」
さやか「あたしは・・・いいよ」
桜「え、でも、さやかちゃんと上条君、幼なじみなんだよね?」
小狼「何を遠慮してるんだ?美樹は毎日のように、上条の見舞いに行ってたじゃないか」
さやか「うん。でも、いいんだ・・・」
仁美「・・・・・・」
結局その日、さやかは上条と一言も話すことは無く、放課後になった。
桜「じゃあみんな、帰ろっか」
まどか「うん、さやかちゃん達も行こう?」
さやか「あ、えーっと・・・」
仁美「すみません、まどかさん。少しばかりさやかさんと、
2人で話したいことがございますので・・・」
桜「ほえ?2人でお話?」
さやか「うん、だから私達はこれで。また明日ね!」
そう言って、さやかと仁美は教室を出て行った。
桜「あの2人、どうしたんだろ」
小狼「志波の雰囲気、何か真剣だったな」
まどか「何か心配だよ・・・」
しばし迷ったものの、結局、さやかと仁美を尾行する事にした。
小狼は"バレたらどう言い訳するんだ"と反対していたが、桜がなんとか説得した。
2人はしばらく歩いた後、とあるファストフード店へと入って行く。
後を追うように、桜達も店へ入る。
まどか「お店の中入っちゃったね・・・」
小狼「離れた席から覗いてみよう。さくら、あそこの席をキープしておいてくれ」
桜「りょうかいっ!」
始めは嫌がっていたが、なんだかんだで小狼も2人が心配のようだ。
3人はさやかたちの席から見えにくい位置に陣取り、様子を伺う事にした。
仁美「――、―――。」
さやか「――、――?」
仁美「――、――?」
さやか「――!」
何を言っているのかまでは聞こえないが、かなりシリアスな話のようだ。
仁美の顔は終始真剣であり、さやかは動揺を隠せないでいた。
やがて仁美が立ち上がり、お辞儀をして店を出て行った。
さやかはしばらく茫然自失としていたが、やがてふらふらと店から出て行った。
桜「・・・」
小狼「・・・」
まどか「な、何話してたんだろう・・・大丈夫かな」
小狼「美樹も、今夜は魔女のパトロールに行くんだろう?その時に、様子を見に行ってみよう」
桜「わ、私も行く!さやかちゃんが心配だし・・・」
まどか「わ、私も・・・いいかな」
小狼「鹿目は、暁美に見つかると何か言われそうだが・・・友人を元気付ける為だ。
魔女との戦いとは関係ないし、大丈夫だろう」
それから、さやかの家の近くで集合すると決め、ひとまず解散する事にした。
一方。
桜達が店から出たのとほぼ同時刻、マミの部屋。
杏子「・・・本当か?」
マミ「暁美さん、どこからその情報を?」
ほむら「それは秘密。でもそいつさえ倒せれば、後はあなた達の好きにすると良いわ」
杏子「成程。確かに1人じゃ手ごわいからな」
マミ「反対する理由も無いし、決まりね。・・・それで、いつだったかしら?」
ほむら「2週間後よ。2週間後に・・・この街に来る」
ほむら「"ワルプルギスの夜"、がね」
夜の21:00。
さやかの家の近くで、まどかと待ち合わせをしていた桜と小狼。
予定時刻は20:30だったのだが、それを大幅に遅れてしまっていた。
こともあろうかこんな時に、"魔女の結界"に巻き込まれてしまったのだ。
小狼「"風華招来"!!」
小狼の護符から発生した風が、まどかを包み込む。
おかげで、すんでのところで落下を免れることが出来た。
まどか「あ、ありがとう、李くん!」
小狼「さくら、お前は飛べるから攻撃を任せた。俺はここで使い魔から鹿目を守る!」
桜「わかった!"翔"(フライ)!!」
桜の背中に白い翼が出現し、空中を舞う。
今回の結界はいつもと違い、青空から机や椅子が降ってくる空間に洗濯ロープのような糸が張り巡らされている。
おかげで足場が不安定な事この上なく、空を飛ぶ事の出来る桜に任せる形となっていた。
小狼「"雷帝招来"!!!」
小狼の放つ電撃が、魔女の使い魔をなぎ倒していく。
小狼とまどかの位置から見て遥か上空にいる魔女には攻撃は届かないが、
使い魔から桜とまどかを守るくらいは出来る。
桜「"盾"(シールド)!」
魔女の放った攻撃を"盾"で防ぎ、飛翔しながら魔女の背後へと回り込む。
桜「我に仇名す者を撃て!"撃"(ショット)!!!」
星の杖の先端から発射されたバレーボール程の大きさの光の弾が、魔女を撃ち抜く。
魔女が消滅すると同時に結界は消失し、足元にグリーフシードが転がり落ちた。
桜「ふ~、なんとかなった・・・」
小狼「大幅に時間をロスしたな・・・急ごう」
まどか「うん、さやかちゃん、もう出ちゃってるかな・・・」
案の定、3人がさやかの家に到着したときには、既にさやかは家にいなかった。
まどか「どうしよう・・・」
小狼「巴先輩に連絡してみるか?もしかしたら一緒にいるかもしれない」
桜「待って。・・・うん、あっちから魔女の気配がする」
桜が指差した方向、巨大な建物を建設中の工事現場。
小狼には全く感じ取れないが、桜が言うのだから間違いは無いだろう。
小狼「よし・・・行ってみよう。雨も降りそうだし、急ぐぞ」
まどか「ホントだ。今にも雨降りそう・・・」
時間も無かったし、天気も悪くなって来ていたので、"駆"のカードで一気に向かう。
現場に到着した時、そこには見知った顔もいた。
マミ「あら、あなた達・・・どうしてここに!?」
ほむら「まどか・・・何で!?」
杏子「よぉ。さやかならあそこで戦ってるぜ」
杏子が指差した先には、魔女の結界の入り口が広がっていた。
その中から時折聞こえてくる剣戟の音。
恐らく、さやかが1人で戦っているのだろう。
まどか「何でさやかちゃんだけ戦ってるの!?助けてあげて!」
マミ「一緒に戦おうとしたのだけど、美樹さんに断られたのよ。"自分1人で戦わせてください"って」
桜「なんで・・・?」
まどか「さやかちゃんっ!」
ほむら「ッ、待ちなさい、鹿目まどか!!」
ほむらの制止も聞かず、結界の中へ飛び込んでいくまどか。
小狼と桜も、慌てて後を追う。
マミ「・・・やっぱり私も行くわ。これ以上は心配だもの」
杏子「ったく、手こずりやがって。しゃーねーな」
次いで、マミと杏子も結界へと入っていった。
影絵のような空間の中で、魔女が戦うさやか。
さやか「くッ・・・そォッ!!!」
奮戦しているが、魔女の攻撃に少しずつ消耗して行っている。
魔女が放つ、影の触手のような攻撃を体中に喰らい、既にズタボロだ。
杏子「・・・ったく、見てらんねーっつーの」
魔女の放った触手を槍で一閃、さやかを守る。
桜、小狼、マミもさやかをかばうように戦闘体制に入る。
杏子「お前は下がってろ。手本見せてやるからさ」
マミ「美樹さんは下がって。後は任せてちょうだい」
さやか「邪魔しないで・・・。1人でやれるわ」
2人の制止も聞かず、魔女へと向かっていくさやか。
小狼「おいやめろ!戻れ!」
さやか「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
魔女へと剣を振り下ろした、瞬間。
魔女が放った無数の触手が、さやかの体を貫いた。
まどか「さやかちゃぁぁぁぁんっ!?」
マミ「美樹さん!もうやめ・・・」
さやか「は、ははは・・・」
ゆらり、と立ち上がるさやか。
その口には、歪んだ笑みを浮かべていた。
さやか「ホントだぁ。その気になれば・・・痛みなんて・・・」
桜「さやかちゃん・・・やめて・・・」
さやか「痛みなんて・・・完全に消しちゃえるんだぁぁぁぁぁぁ!!!!」
魔女の攻撃を物ともせずに、魔女へ突っ込んでいくさやか。
当然、魔女の攻撃は次々とさやかを貫くが、さやかには効いていなかった。
いや、効いていないのではない。さやかが痛みを感じていないだけで、
さやかの体は見る見るうちに傷つけられていく。
桜「さやかちゃん、もう止めてぇッ!!!」
さやか「あははははははは!あははははハはははハはははは!!!」
狂ったように笑いながら、魔女を滅多刺しにするその姿に、一同は言葉を失っていた。
まどか「お願いみんな!さやかちゃんを止めて!!!」
まどかの叫びに全員が我に帰るが、既にさやかが魔女を倒した後だった。
その手にはグリーフシードが1つ、握られている。
さやか「やり方さえわかっちゃえばこっちのもんだね。これなら負ける気がしないわ」
杏子と目が会ったさやかが、グリーフシードを投げる。
さやか「あげるよ。それが目当てだったんでしょ?これで借りはチャラね」
杏子「お、おい!」
マミ「美樹さん・・・どういうつもり?」
さやか「どういうつもりも何も、あれが私の戦い方なんですってば」
小狼「美樹。今日志波と何があった」
さやか「・・・・・」
小狼「悪いが、あの店での一部始終を見させてもらっていた。話は聞いていないが、何があったんだ?」
さやか「は?李くん、アンタ尾行してたって訳?サイッテー」
まどか「待って!私とさくらちゃんもいたの!さやかちゃんが、心配だったから・・・!」
さやか「・・・・・・仁美ね、明日恭介に告白するんだって」
桜「え?」
さやか「1日だけ待つって。本当の気持ちを伝えろって。
でもあたし・・・何もできない・・・。だってもう死んでるんだもん・・・」
マミ「ッ、美樹さん・・・」
さやか「ゾンビ、なんだもん・・・。
こんな体で、抱きしめてなんて、キスしてなんて、言えない・・・」
杏子「・・・・ッ」
まどかに抱きつき、大粒の涙を零すさやか。
先程の無茶な闘いは、先の件で半ば自暴自棄になってしまった為なのだろう。
想い人に想いを伝えようにも、伝えられず。
しかも、親友に想い人をとられてしまうかもしれないという気持ちが、さやかの精神を傷つけたのだ。
桜「・・・そんなの関係ないよ」
さやか「・・・は?」
小狼「さやかちゃんは、親や友達が病気で寝たきりになって話すことが出来なくなっても、嫌いにならないよね?」
小狼「さくら・・・」
桜「どんな姿になっても、どんな形になっても!さやかちゃんはさやかちゃんだよ!!
美樹さやかという、私の友達だよ!!」ポロポロ
まどか「そうだよ!ここにいるのは他の誰でもない、さやかちゃんじゃない!
私はさやかちゃんがどんな姿になっても!嫌いになったりしない!!!」
小狼「どんな想いも、言葉にしなければ伝わらない。
姿が変わった位で嘆く暇があったら、上条に想いを伝えて来い」
さやか「・・・・・・」
小狼「やらずに後悔するより、やって後悔するべきだ。それがお前の為で「・・・るさい」
桜「え?」
さやか「うるさいって言ってんでしょ!私の為って何!?」
さやか「魔女を殺すことしか意味の無い石ころのアタシに!アンタ達綺麗な体をした人に言われても!」
まどか「違うよ!私達はただ・・・」ポロポロ
さやか「だったらアンタが戦えよ!アンタは才能があるんだろう!?」
さやか「アタシの為って言うのなら、まずアタシと同じ立場になれよ!
無理でしょ?当然だよね!ただの同情で人間止めれる訳ないからねぇ!!!」
杏子「お、おい!」
マミ「美樹さん!言いすぎよ!木之本さん達は同情とかじゃなく、純粋に貴女を思って・・・」
さやか「2人は黙ってください!2人はいいですよね、才能も実力もあって!
突撃しか脳の無い私より、断然必要とされてるからねぇ!!」
桜「さやかちゃん!話を聞いて!私達は・・・」ポロポロ
さやか「そういえばアンタも才能あるんだって!?その上契約しなくても力が使えるんだからね!
神様に選ばれた才能って奴!?羨ましいよね、最初から全部持ってる人は!!」
桜「違う!私だって・・・!」ポロポロ
さやか「何が違う!だったらアンタが代わりに戦ってよ!
でも出来ないでしょ!?そうやって泣いてばかりの臆病者には!!」
小狼「黙れ!!!」
ビリッ、と、空気が震えた。
我を忘れていたさやかでさえも黙らせたその声の主は、小狼。
その顔は、誰もが見たことも無い――怒りに満ちていた。
小狼「何も知らないのはお前の方だ。さくらを侮辱する奴は、お前だろうと許さない」
静かに、しかし怒りの込められた言葉。
さやか「・・・・・・ごめんなさい、言い過ぎた」
それだけ言うと、さやかは皆の前から走り去っていった。
まどかがその後を追いかけようとするが。
さやか「着いてこないで!」
拒絶されてしまい、なす術も無く、その場で立ち尽くしていた。
そこへ追い討ちをかけるかのように、大雨が降り始める。
ほむら「今日は一旦帰りましょう。風邪、ひくわ」
杏子「・・・あぁ。さやかは私が探しておく。お前達は帰れ」
さやかの事は杏子に任せ、それぞれが帰ろうとした矢先。
マミ「木之本さん、李君、少しいいかしら」
小狼「巴先輩、何か?」
桜「はい・・・」
マミ「2人は、"ワルプルギスの夜"って、知っているかしら?」
桜「いえ・・・知りません」
マミ「そう。・・・実はその事で、お願いしたいことがあるの。
あなた達は寮生だったわよね?」
小狼「はい」
マミ「よかったらこの後、私と佐倉さんと一緒に、暁美さんの家に来てくれるかしら?」
断る理由も見つからなかったので、マミの申し出を承諾する。
こうしてまどかを家に送り届けた後、桜、小狼、マミ、ほむらの4人は、ほむらの家に集まった。
"ワルプルギスの夜"。
歴史上で語り継がれる、単独の魔法少女では対処することができない超弩級の大型魔女。
それが2週間後、この街に来ると言う。
小狼「話を聞く限り、相当の強敵のようですね」
桜「そんな強い魔女が来るって、なんで分かったの?」
ほむら「それは秘密。でも確かな情報よ」
卓上に地図を広げ、各所に何かを書き込みながらほむらが言う。
時刻は22:00。
全員びしょぬれだったので、ほむらの家でシャワーを借り、
全員がほむらのTシャツを借りていた。(小狼除く)
皆は小狼にも着るよういったのだが、当の本人が顔を真っ赤にして頑なに拒んだので、
桜の"風"と"火"で服を乾かしてもらった。
小狼「お前の能力で知った・・・って事か?」
ほむら「えぇ、そういう事にしておいて」
マミ「そこで、私達見滝原の魔法少女は、協力してこの魔女と戦う事にしたの」
小狼「成程。つまり俺達にも・・・参戦して欲しい、と?」
ほむら「私は関わらせるべきでは無いと言ったのだけどね」
マミ「それは、そうなんだけど・・・」
桜「・・・やります」
ほむら「え?」
桜「私、一緒に戦います!」
マミ「木之本さん・・・」
小狼「さくらが戦うのなら、俺も参戦しますよ」
ほむら「・・・何度も言うようだけど、これは遊びじゃないのよ?」
マミ「そうね。自分から言っておいて何なのだけど・・・」
桜「・・・ずっと考えてたんです。私達が、この世界に呼ばれた理由」
桜「そして、思ったんです。私達が呼ばれたのは、
さやかちゃんみたいな子を、出さないようにする為かもしれないって」
桜「だから、みんなが傷ついたり悲しい思いをしなくて済む様に、戦おうと思ったんです」
ほむら「それなら貴女はどうなの?あなたが傷つくと悲しむ人もいるのよ?」
桜「それは、そうなんですけど・・・でも、ほっとけなくて・・・」
小狼「さくらは、俺が守ります。そして皆をさくらが守ってくれます。それなら、大丈夫でしょう?」
ほむら「どこにも大丈夫な根拠が無いわよ・・・」
小狼の発言に頭を抱えるほむら。
マミはその様子を見て、笑顔になっていた。
桜「なんとかなります!絶対大丈夫です!!!」
マミ「不思議ね。木之本さんがそう言うと、本当に大丈夫な気がするわ」
桜「はい。この言葉は・・・私の無敵の呪文ですから」
クロウカードの封印時。
最後の審判。
カードを作り変えるとき。
桜は今までに窮地に陥ったとき、いつもこの言葉で乗り越えてきた。
もちろん、周囲の助けもあったからこそだが。
桜「だから今度も、絶対に乗り越えられます!」
ほむら「・・・わかったわ。それじゃあ、今のところの情報は・・・」
その後、戻ってきた杏子も交えて作戦会議が開かれた。
杏子によれば、あの後さやかも無事発見でき、家の近くまで見送ったらしい。
それならひとまず心配ないだろう、と、彼女達は思っていた。
翌日、土曜日。
窓から差し込む光で、桜は目を覚ました。
桜(あ・・・、昨日あれから、ほむらちゃんの家に泊まったんだっけ・・・)
寝ぼけ眼を擦りながら時計を見ると、なんと昼の13:00だった。
昨日は、明け方まで作戦会議を開いていたので無理も無い。
周囲には、ほむら、杏子、マミの3人が、床や机に突っ伏して眠っていた。
部屋の外には、玄関で小狼が毛布に包まって寝息を立てていた。
全員の体に毛布がかけてある所をみると、小狼がやってくれたのだろう。
桜「・・・ありがとう、小狼くん」
眠っている小狼の頬に、軽く口づけをする。
彼は何時も早起きなのだが、この世界に来てからハードな日が続いたので、
疲れが溜まっているのか起きる気配は無い。
自分の行った行為に気づいて顔を真っ赤にしつつ、みんなの朝食でも作っておこうと台所へ向かった。
その時だった。
ピリリリリリリリ!と、桜の携帯電話が鳴り響く。
携帯が無いと何かと不便なので、一番安い、電話とメールだけ使える物を購入しておいたのだ。
着信元は、まどか。
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まどか「あっ、さくらちゃん!」
桜「まどかちゃん!さやかちゃんは!?」
まどか「昨日から帰って無いって・・・」
杏子「アイツ、あれから帰ったんじゃなかったのかよ・・・チッ!」
桜「とりあえず探そう。小狼くんとマミさんとほむらちゃんは、向こうを探してくれてる」
杏子「ほむら、か。信用しろとは言わないけど、もう少し手の内見せてくれてもなぁ」
QB「それは僕からも是非お願いしたいね」
唐突に聞こえた声のほうを向く。
そこには相変わらずの無表情で、キュウべぇが立っていた。
杏子「どこから沸いて出やがった、テメェ・・・」
槍を構え、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる杏子。
QB「やれやれ、僕をゴキブリみたいに言うのはやめてくれ。
せっかく重要な情報を教えに来たのに」
桜「情報・・・?」
QB「美樹さやかの消耗が予想以上に早い。このままだと厄介な事になるかもしれないよ」
杏子「厄介な事?なんだそりゃ」
QB「暁美ほむら。彼女なら知っているんじゃないかな?」
小狼は捜索対象の私物があれば所有者を探す事が出来る。
よって今、マミはさやかの家に私物を取りに行っている。
その間、小狼とほむらはさやかの捜索に当たっていた。
小狼「でも意外だな」
ほむら「何が?」
小狼「暁美が俺達に協力してくれるとは思ってなかった」
これまでは"私には関係ない"の一点張りで、他者との関わりを避けてきたほむら。
だからこそ、今回も助力を得るのは難しい、そう思っていたのだが。
ほむら「私の勝手でしょう。それに・・・」
ほむらは俯き、聞こえるか聞こえないかの小声で。
ほむら「・・・もしかしたら、今迄で一番良い状況かもしれないもの」
小狼「"今まで"?」
ほむら「・・・何でも無いわ」
小狼「これだけは言っておくぞ。集団で戦う上で一番大切なのはチームワークだ。
出来るならば、仲間内の信頼関係は強くしておきたい」
つまり、ほむらが自分達の力を必要としているのならば、誠意を見せろ。
隠し事は無しにして、安心して背中を預けれるようにしてくれ――そう言っているのだ。
小狼「さくらは、お前は悪い奴じゃないって言ってるし、俺もそう思う。
どんな事情があるのかはわからないけど、俺達は仲間で、友達だろう?」
ほむら「・・・わかったわ。美樹さやかの件が片付いたら、全部話す」
小狼「その言葉、忘れるなよ」
マミ「遅くなってごめんなさい!これ、美樹さんのヘアピンなんだけど、大丈夫かしら?」
息を切らしながら、マミがさやかの物であろうヘアピンを差し出す。
小狼「問題ありません。では・・・」
さやかのヘアピンを手に取り、呪文を唱える。
小狼「・・・分かりました。こっちです!」
マミ「鹿目さん達にも連絡を入れた方が良いかしら?」
小狼「方向だけなので正確な位置までは分かりませんが・・・」
ほむら「それでも範囲は絞れるわ。連絡はしておいたほうが良い」
3人は、さやかのいると思われる方角へと走っていった。
見滝原町内にある、とある公園。
その一角にある遊歩道で、1組の男女が向かい合っている。
仁美「すみません、いきなりお呼びしてしまって・・・」
片方は、まどか達のクラスメイトであり親友でもある、志波仁美。
恭介「いや、大丈夫だよ。それで、僕に何の用だい?」
もう片方は、さやかの幼なじみであり想い人でもある、上条恭介。
2人はしばらく無言で向かい合っていたが、仁美が腕をもじもじとさせながら口を開く。
仁美「あ、あの、私・・・」
恭介「う、うん・・・」
仁美「私、上条くんの事を・・・」
恭介「・・・・ッ」
仁美「上条くんの事を、お慕「おーーーーい!!!!!」」
突然割り込んできた叫び声に、驚いて距離をとる2人。
見ると、クラスメイトの2人がこちらへ走って来ていた。
恭介「あれ?お前は・・・李?」
仁美「」ポカーン
小狼「はぁっ、はぁっ、せ、説明は後だ。この、近くで、美樹を、見なかったか?」
恭介「見て無いけど・・・さやかがどうしたんだい?」
仁美「はっ!さ、さやかさんですか?私も存じ上げておりませんが・・・」
ほむら「美樹さやかが、昨日から、家に帰っていないらしいの」
マミ「それで、今探しているところ、なんだけど・・・この近くなの?」
小狼「はい、確かにこの周囲にいる筈なんですが・・・」
小狼の捜索魔法は便利であるが、大まかな方向しか分からないのが難点である。
つまり正確な位置が判別できない為、捜索対象との距離が縮まるほど、精度も悪くなるのだ。
仁美「さやかさんが・・・!?そんな・・・!」
恭介「さやかが帰ってないだって!?それで、今は何所に!?」
小狼「この近くにいる筈なんだ。見かけたら連絡を頼む!」
恭介「わかった。僕もこの辺を探してみるよ!」
ほむら「でも無理はしないで。まだ松葉杖じゃない」
恭介「さやかは大切な幼なじみだ。怪我してるからって言ってる場合じゃない!」
小狼「頼む。でも、無理はするなよ」
仁美「私も探してみます。何かありましたら連絡を」
そして、3人は嵐のように過ぎ去って行った。
恭介と仁美も、さやかの名前を呼びながら公園の中を探し始める。
仁美(さやかさん・・・、もしかして、昨日の話が原因なのですか・・・?)
先日、さやかに対して言った事。
自分が恭介に対し抱いてる思い。
そして、同じ気持ちをさやかも抱いている事。
自分は恭介に告白すると言った事。
さやかは大切な親友で、恭介との付き合いも長いので、1日だけ待つと言った事。
仁美(上条君の様子を見る限り、さやかさんは告白しなかったようですが・・・)
仁美(さやかさんはそんなに心は弱くない筈・・・。一体何があったんですの・・・?)
仁美(そして私も告白出来ませんでした。まぁ、今は仕方ありませんわ)
マミ「間違いないわ。これは美樹さんの魔力」
小狼「この中にいるんだな」
ほむら「ええ」
あれから突然さやかの気配が消えてしまい、追跡が不可能となった。
その理由がこれ。"魔女の結界"に侵入した為だろう。
マミ「行くわよ!」
マミとほむらが変身し、結界へと侵入する。
その中には、全身ボロボロになりながらも、使い魔と戦うさやかの姿があった。
マミ「美樹さん!」
小狼「美樹!一旦下がれ!」
こちらの声が届いていないのか、それとも聞く気が無いのか。
さやかはこちらを見もせずに、使い魔と戦い続ける。
さやか「うおああああああああ!!!!」
強引に剣を振り、使い魔を両断する。
同時に結界が消え、さやかの変身も解ける。
使い魔なので、グリーフシードは落とさなかった。
さやか「う・・・ぐっ・・・」
ほむら「使いなさい。ソウルジェムは限界の筈よ」
そう言ってほむらが差し出したのは、1つのグリーフシード。
先日、小狼と桜で倒した魔女が持っていた物だ。
さやか「・・・いらない」
小狼「いい加減にしろ!お前、そんな戦い方を続けていたら本当に死ぬぞ!」
さやか「それでもいいさ。死んだらそれまでだったって事。
魔女に勝てないあたしなんて、この世界にはいらない」
マミ「そんな・・・」
ほむら「私は貴女を助けたいだけなの!・・・何故信じてくれないの?」
さやか「それは」
さやか「あんたが嘘つきだから」
ほむら「・・・・!!」
小狼「嘘つき・・・?」
さやか「アンタ、何もかも諦めた眼をしてる。空っぽの言葉を使ってる。
口ではあたしの為とか言いながら、違う人の事を考えてるでしょ?」
ほむら「・・・鋭いわね。その通りよ」
マミ「暁美さん・・・」
ほむら「以前の私なら、ね」
さやか「・・・・?」
ほむら「確かにこれまでの私なら、全部はまどかの為だった。
でも今は違う。今の私は純粋に、貴女の事を助けたい」
小狼(まどか・・・鹿目か?全ては鹿目の為?あの2人、そんなに仲良かったか・・・?)
さやか「・・・ありがとう。でも、これは受け取れない」
マミ「美樹さん、いい加減にして!今、上条君も必死に貴女の事を探しているのよ!?」
さやか「恭介が・・・!?」
マミ「そうよ!上条君だけじゃない、志波さんも貴女の事を探しているわ!
貴女が死ぬと悲しむ人が大勢いるって、どうして分かってくれないの!?」
さやか「私が死ぬと・・・?何言ってるんですか」
マミ「え・・・?」
さやか「私も、マミさんも・・・とっくに死んでるじゃないですか」
そう言って、さやかは走り去って行ってしまった。
ほむらの渡した、グリーフシードも拾わずに。
その後、合流してきた杏子、桜、まどか、恭介、仁美で話し合い、警察に届ける事にした。
話を聞く気が無いのなら、強引にでも連れ戻すしかないと判断した為だ。
日もすっかり沈み、まどかと桜は、夜の公園を歩いていた。
もしかしたらさやかが戻って来ているかもしれない可能性に賭けて。
桜「さやかちゃん、いないね・・・」
まどか「うん・・・」
手がかりも無く、公園のベンチに腰掛ける。
昼からずっと走りっぱなしだったので、2人の足もとうに限界だった。
QB「やぁ2人とも。こんばんは」
まどか「あなたは・・・」
桜「・・・何しに来たの?」
QB「君達も僕の事を恨んでいるのかい?」
まどか「アナタを恨んだら、さやかちゃんは元に戻るの?」
QB「それは無理だ。僕にはね」
桜「僕には?」
QB「前に話しただろう?君達なら、世界で最強クラスの魔法少女にだってなれる。
望めば、万能の神にさえなれるかもしれない」
桜「神・・・」
QB「君達が何故そこまでの素質を持っているのか、僕には解らないけどね」
まどか「私がキュウべぇと契約したら、さやかちゃんの体を元に戻せるの!?」
QB「造作も無いだろうね。それは魂を差し出すに足りるものなのかい?」
桜「まどかちゃん・・・本気なの?」
まどか「うん。さやかちゃんの為なら、いいよ。わたし・・・」
魔法少女になる。まどかがそう言いかけた時。
パァン!と、銃声が響き渡った。
同時に、隣に座っていたキュウべぇの体が四散していた。
桜「ひっ・・・!!!」
前を見ると、そこにいたのは。
ほむら「・・・」
こちらに向かって拳銃を構えている、暁美ほむらだった。
べちゃり。
四散したキュウべぇの肉片が、ベンチの周囲へ飛び散った。
その元凶であるほむらは、冷たい表情で拳銃を降ろす。
まどか「ひ、ひどいよ!なにも殺さなくても「貴女はッ!!!!」
まどかの抗議を遮り、悲痛な叫び声を上げるほむら。
ほむら「もういい加減にしてよ!!!」
桜「ほむら、ちゃん・・・?」
ほむら「勝手に自分を粗末にしないで!貴女を失えば悲しむ人がいるってどうして気づかないの!?
貴女を守ろうとしていた人はどうなるの!?」
目から涙を流し、まどかに掴みかかるほむら。
彼女がこれまで、ここまで感情を表に出したところを、桜は見た事が無かった。
まどか「それって・・・ほむらちゃんの事なの?」
ほむら「え・・・」
まどか「私達って、どこかで会った事、あるの?」
まどか「ここじゃない、どこかで・・・」
ほむら「そ、それは・・・ッ!!!」
両手で目を覆い、膝から崩れ落ちるほむら。
思えば、彼女はいつもまどかに契約させないように接して来ていた。
それは魔女を狩るライバルが増える事への阻止というより、もっと違う感情が原因なのではないか。
まどか「ごめん、さやかちゃんを探しに行かないと・・・」
そう言って、まどかは走り去って行った。
桜はほむらの言葉が気になった為、ほむらの傍にいることにした。
何より、泣いている友達を1人にしておけなかったから。
桜「ほむらちゃん、大丈夫?」
背中をさすり、優しく声をかける。
ポケットからハンカチを取り出し、渡そうとした瞬間。
「無駄なことだと解ってるくせに。キミも懲りないんだね」
桜「え・・・!?」
QB「君に殺されるのは2度目だけど、無意味に殺されるのも困るんだよ。勿体無いし」
そこにいたのは、先程ほむらが殺した筈のキュウべぇ。
何事も無かったかのように、ベンチの上に四散した自分の死体を食べていた。
桜「ひ・・・!!!」ウプッ
QB「おっと、グロテスクだったかい?悪かったね」キュップイ
平然と自分の死体を平らげ、2人の前に降り立つキュウべぇ。
QB「でも、君の攻撃の特性も見えてきたよ。君はこの時間軸の人間じゃないね?」
桜「え!?」
ほむら「お前の企みも、目的も。全て知っているわ」
QB「なるほどねぇ、だからしつこく邪魔する訳だ。そうまでして鹿目まどかの運命を変えたいのかい?」
ほむら「えぇ。絶対にお前の思い通りにはさせないわ。・・・インキュベーター」
QB「そうかい。それじゃあ精々あがいてくれたまえ」
そう言い残し、去っていくキュウべぇ。
ほむら「・・・ハンカチ、ありがとう。みっともない所を見せたわね」
桜「ううん、それより・・・この時間軸の人間じゃない、って・・・?」
ほむら「・・・それについては、後で全部説明するわ。今は、美樹さやかを何とかしないと」
桜「そうだ・・・、さやかちゃん、何所に行っちゃったんだろう?」
ほむら「・・・場所の検討はついているわ。まどかと合流して向かいましょう」
桜「だったら、空から行った方が速いよね?」
ほむら「え?」
言うが速いか、ほむらを抱えて"翔"のカードで飛び上がる桜。
"力"のカードで腕力を強化している為、片手でも楽に支えることが出来る。
ほむら「え、え!?そ、空を、飛んでる・・・!?」
桜「見つけた!!」
ほむら「え、えぇ?えぇぇ!?」
現状に理解が追いついていないほむらを抱え、桜は夜空へと飛翔した。
杏子「いた!さやかだ!」
見滝原市街地からやや離れたところにある、ある駅のホーム。
そこに据えられたベンチに、1人座っているさやか。
小狼「・・・こんな所にいたのか。探したぞ」
杏子「アンタさぁ、いつまで強情はってる気?」
さやか「・・・悪いね、手間かけさせちゃって」
小狼(ッ!?この、魔力の気配は・・・!?)ゾクッ
杏子「な、何だよ。らしくないじゃん」
さやか「うん。だって・・・」
―別にもう、どうでもよくなっちゃったからね―
杏子(!?)ゾクッ
目の前にいるのは、確かにさやかだ。
だが、自分達の知っているさやかとは、全く違う気配を纏っていた。
それは――絶望。
さやか「結局あたしは何が大切で、何を守ろうとしてたのか。
・・・何もかも、訳わかんなくなっちゃった」
ゆっくりと、さやかの膝上で握られていた手が開く。
そこにあったのは・・・真っ黒に濁りきった、さやかのソウルジェム。
いや、それはソウルジェムと言うより、まるで――
さやか「希望と絶望のバランスは差し引き0だって事、今はよくわかるよ。
確かにあたしは何人か救いもしたけど、その分心には恨みや妬みが溜まって」
小狼「美樹・・・!?」
さやか「その上、私を心配してくれた友達や、先輩や、一番大切な親友さえも傷つけて」
さやか「その上、異世界から飛ばされて来て、自分の事で精一杯な筈の友達まで。
私を心配する余裕だって無いはずなのに、それでも心配してくれて。でもそれさえ無碍にして」
杏子「アンタ・・・」
さやか「他の誰かの幸せを願った分、他の誰かを呪わずに入られない。
私達魔法少女って、そういう仕組みだったんだね・・・」
さやか「あはは。何言ってるんだろ。全部自業自得なのに。本当に・・・」
―あたしって、ほんとバカ―
さやかの目から零れた涙が、手の上にあった"物"へと零れ落ちる。
その瞬間。
"それ"から、巨大なエネルギーが迸った。
同時に周囲に広がる、異質な光景。
そして、さやかのソウルジェムだったものを核とし、巨大な影が具現化する。
小狼「佐倉、離れろ!!!」
杏子「さやかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
新たな魔女が、誕生した瞬間だった。
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--
-
QB「この国では成長途中の女性の事を、"少女"と呼ぶそうじゃないか」
QB「だったら、いずれ"魔女"になる君達のことは・・・」
QB「"魔法少女"と、呼ぶべきだよね?」
周囲に広がるのは、水の中のコンサートホールのような空間。
その空間の主である魔女、その姿は、中世の騎士のような鎧を纏った人魚。
杏子「何だテメェ!さやかに何をしやがった!?」
小狼「何が起きた!?美樹はどこへ・・・?」
見ると、床の上に力なく横たわるさやかの姿が。
さやかを回収しようと体へと向かうが、魔女の攻撃がそれを阻む。
小狼「くそっ・・・、"風華招来"!!!」
風を起こし、さやかの体を持ち上げる。
同時に風の膜を張り、魔女の攻撃からさやかを守るようにした。
小狼(一体何が起こった!?美樹のソウルジェムは・・・?)
どこかに転がり落ちているであろうソウルジェムを探す。
その時。
結果以内に、爆音が響き渡った。
ほむら「退がって!ここは一時撤退した方が良いわ!」
ほむらが杏子、そして小狼の手を握る。
その瞬間、周囲の景色が停止した。
ほむら「手を離さないで。そうすれば、貴方達の時間も止まってしまう」
小狼「これは・・・時間が止まっているのか」
左腕でさやかを抱え、右腕でほむらの手を掴みながら考える。
とすれば、あの時マミを助けた時の出来事も納得がいく。
小狼(そうなると後は、"予知"の方だな。2種類の力を使えるのか?)
やがて結界の外に出る。
そこにはまどか、桜、マミの3人が待っていた。
まどか「さ、さやかちゃん!?」
桜「さやかちゃん、どうしたの!?ソウルジェムは!?」
マミ「これは・・・、暁美さん、一体何が・・・?」
杏子「なぁ、アレは一体何なんだ!?」
ほむら「・・・全部話すわ。だから一旦、私の家に集まって」
小狼「・・・今じゃ話せない事なのか?」
ほむら「えぇ。悪いけど・・・」
杏子「そんなの待てるか!今すぐ説明しろ!
あの魔女は何だ!?さやかはどうなっちまったんだ!?」
マミ「暁美さん、もったいぶらないで?お願いだから・・・」
ほむら「すべて聞きたければ私の言う通りにして!!!!」
全員「・・・ッ」ビクッ
ほむらが大声を張り上げる。
その気迫に、全員が黙って頷いた。
~ほむらの家~
ほむらの家に着いた一行は、テーブルを囲んで座った。
さやかの体は寝室のベッドに寝かせておいた。
ほむら「話をする前に、各自、ソウルジェムを渡してくれないかしら」
杏子「はぁ!?何でだよ!」
マミ「それは説明の為に必要な事かしら?」
ほむら「・・・私達の命を守る為よ」
杏子「・・・わかったよ。ホラ」
マミ「それなら・・・」
マミと杏子が、それぞれのソウルジェムを差し出す。
ほむらはそれを掴むと、自分のソウルジェムと一緒に桜に手渡した。
ほむら「木之本さん、コレはあなたが預かっておいて」
桜「ほえ?私が?」
ほむら「えぇ。それじゃあ、まずは美樹さやかの事から説明しましょうか」
全員が、ゴクリ、と唾を飲む。
ほむら「結論から言うと、美樹さやかのソウルジェムは・・・
グリーフシードに変化した後、魔女を産んで消滅したわ」
杏子「・・・は?」
ほむら「貴女も見届けた筈よ、佐倉杏子。
あの魔女は"かつて美樹さやかだったモノ"」
小狼「ソウルジェムが・・・グリーフシードに・・・!?」
桜「嘘・・・だよね?」
ほむら「事実よ。私達のソウルジェムが濁り、黒く染まるとき。
私達はグリーフシードとなり、魔女として生まれ変わるの」
絶句。
ほむらの口から語られた事実は、とても理解しがたいものだった。
つまり、あの時の人魚の魔女は、美樹さやかが魔女となった姿、という事なのか。
まどか「どうして!?さやかちゃん、正義の魔法少女になるって・・・」
ほむら「その祈りに見合うだけの呪いを背負い込んだまでよ。
誰かを救った分だけ、誰かを呪いながらあの子は生きていくの」
まどか「そんなのって・・・さやか、ちゃん・・・」ポロポロ
桜「そんな・・・、そんなのって無いよ!ひどすぎるよぉ・・・」
小狼「さくら・・・」
口を真一文字にして涙をこらえる桜を、そっと抱き寄せ、優しく頭を撫でる。
桜の泣き声は聞こえなかったが、服に何粒か、涙が零れ落ちていた。
マミ「魔法少女は・・・いずれ魔女になる、という事・・・?」
ほむら「・・・」
マミ「そんな・・・そんなの・・・」ガタガタ
杏子「お、おいマミ?」
小狼「落ち着け!!!!」バァン!
全員「」ビクッ
突然、小狼がテーブルを思い切り叩き、大声で言う。
いきなりだったので全員が驚いたが、これはその場の空気を変える為でもあった。
マミは予想外の事実を受け止めきれず、まどかと桜は残酷な真実に嘆いている。
杏子も平静を装ってはいるが、内心ではかなり動揺している筈だ。
小狼「暁美の話だと、ソウルジェムが濁りきった時に魔女化するんだろう?
だったら心配ない。少なくとも当分は」
マミ「だけど・・・それじゃあこれからは、魔法が使えない・・・!!!」
魔法を使うという事は、ソウルジェムの濁りが増えるという事。
確かにこれからの戦いにおいて、魔法を使うとき、この魔女化の恐怖がついて回る事になるだろう。
小狼「巴先輩も、佐倉も、長い間魔法少女やってきて、それでやっていけてただろう?
だったらこれからも普段どおりで大丈夫だと思うけどな」
杏子「まぁ、確かにそうだけどよ・・・」
マミ「でも・・・、でも・・・」ガクガク
小狼「だから落ち着いてください!!!!!!」バァン!
全員「」ビックゥ
小狼「巴先輩!貴女はこの中で一番年上で!一番しっかりしないといけない立場でしょう!
そんな貴女がそんな態度でどうするんです!!!」バン!
マミ「」ビクッ
小狼「俺は魔法少女じゃないし、偉そうに説教できる立場ではありません!
でも少なくとも、ここにいる暁美は!その事を乗り越えているじゃないですか!」バァン!
マミ「は、はい・・・」ビクビク
ほむら「李小狼、その辺で抑えてくれないかしら?テーブルが壊れるわ」
小狼「あ、す、すまん」
ばつが悪そうに、ぺこりと頭を下げる。
その姿を見て、クスリ、と、桜の口から笑みが零れた。
桜「ふ、ふふふっ」
まどか「あ、あはははっ」
杏子「・・・ぷっ」
マミ「・・・ふふっ。そうね、ごめんなさい。
・・・こんな時だからこそ、お姉さんがしっかりしないとね!」
ほむら「・・・」クスッ
まどか「あ、ほむらちゃん、今笑った?」
ほむら「わ、笑って無いわ///」
杏子「ホントかぁ~?顔が真っ赤だぞ~?」ニヤニヤ
マミ「ふふっ。いつもクールな暁美さんでも、笑うと可愛いじゃない」
ほむら「なっ///」カァー
桜(すごいな・・・。あの重かった空気を、すっかり取り払っちゃった)
まどか(さすが男の子だね・・・。あんな立派な人が彼氏なんて、羨ましいな)ウェヒヒ
やがて空気が和んだところで、小狼が真剣な顔に戻る。
小狼「そうだ。暁美、・・・美樹は元に戻せるのか?」
ほむら「・・・残念だけど、元には、戻せないわ」
杏子「何故解る?まるで前にも試したって感じの口調だな」
ほむら「えぇ。前にも魔女化した魔法少女を見てきたわ。・・・何回も」
マミ「それは、この街に来る前、って事?」
ほむら「いいえ。この見滝原で。何度も」
マミ「え?見滝原にいる魔法少女は、以前まで私だけだったはずよ!?」
ほむら「そう。だから、今から私の全てを話すわ。
それを信じるか信じないかは、貴方達に任せる」
ゆっくりと深呼吸をし、ほむらは語りだした。
---
--
-
私は、心臓の病気だった。
だから入院生活が長く、友達も出来なかった。
性格も内気だったし、体操も勉強もニガテ。
私、生きている意味、あるのかな。
見滝原という街の、中学校に通う事になった。
登校初日、クラスのみんなの前で挨拶。
緊張してガチガチだったけど、その後クラスの皆に質問された。
矢継早に質問をされ、返答に困っていると。
???『ちょっとごめんね!みんな!』
突然聞こえた、明るい声。
???『暁美さん、休み時間は保健室でお薬飲まないといけないの』
生徒A『そうだったの?』
生徒B『ごめん、暁美さん』
バラバラとクラスメイト達が離れていく。
そこに立っていたのは、綺麗な桃色の髪に可愛いリボンをつけている女の子だった。
少女『私、保険委員なの。保健室の場所わかる?』
当然わかる筈もなく、保健室に案内してもらう。
廊下で2人きり、話すことが見つからないのでさっきのお礼を言うと。
少女『そんな緊張しなくていいんだよ?クラスメイトなんだから』
そう言ってくれた。けど、やっぱり難しい。
私が返答に困っていると。
まどか『わたし、鹿目まどか。まどか、って呼んで?』
まどか『だから私も、ほむらちゃん、って呼んで良いかな?』
その子は、太陽のような笑顔で、そう言ってくれた。
その帰り道。
まどか・・・鹿目さんはああいってくれたけど。
やっぱり、これからのことを考えると気持ちが沈む。
体育は準備体操だけで貧血。休学してたから勉強もわからない。
人に迷惑かけて、恥かいて・・・わたしはずっとこのまま?
―だったらいっそ、死んだ方がいいよね―
え!?
気がつくと、周囲は普通の街並みじゃなかった。
ここはどこなの!?
気がつくと、オバケのようなものがこっちに向かって来ていた。
何あれ!一体なんなの!?
そう思ったとき。
まどか『もう大丈夫だよ!ほむらちゃん!』
そこにいたのは。
可愛い服を着た鹿目さんと、もう1人知らない人。
そしてその後ろに、白いネコ?みたいな生き物。
QB『彼女達は"魔法少女"。魔女を狩る者達さ』
まどか『いきなり秘密がバレちゃったね。クラスの皆には内緒だよ?』
マミ『さ、いくわよ鹿目さん』
まどか『はいっ!』
マミ&まどか『ティロ・フィナーレ!!!』
銃を使う金髪の人と、弓を使う鹿目さん。
オバケたちを一瞬でやっつけちゃったその姿は、凄くカッコよかった。
それから、色々な事を聞いた。
鹿目さんは魔法少女になったばかり。
そして金髪の人――巴さんは大ベテラン。
魔女と戦うのは怖くないのか聞いたけど、魔女を倒せば大勢の人が助けられるって。
凄いなぁ、鹿目さん。やっぱりすごくかっこいい。
薄暗い空。
そこに浮かぶ、巨大な魔女。
地面に横たわっている、血を流して倒れている巴さん。
まどか『じゃあ、行ってくるね』
どうして!?
巴さん、死んじゃったのに!
まどか『ワルプルギスを止められるのは、私しかいないから』
無理だよ、勝てっこない!一緒に逃げよう!?
誰も鹿目さんを恨んだりしないから!
まどか『ほむらちゃん。あなたと友達になれて嬉しかった。
今でも自慢なの。あの時、貴女を救えたこと。
私、魔法少女になって本当によかったって、そう思えるんだ』
それが、最後に聞いた鹿目さんの言葉。
どうして?
死んじゃうって、わかってたのに。
私なんかを助けるより、貴女に生きて欲しかった。
QB『その言葉は本当かい?』
QB『その祈りの為に魂を賭けられるかい?』
・・・私は。
ほむら『私、鹿目さんとの出会いをやり直したい。
彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい』
目が醒めた。
見慣れた景色・・・病室のベッドの上。
カレンダーを見ると、日付は退院する前――夢?
いや、夢じゃない。
その手の中にあった、輝く石。
やった!
私、魔法少女になったんだよ!
鹿目さん、これから一緒に頑張ろう!!
それからは、鹿目さんと巴さんと、3人で魔女退治。
私の魔法は"時間操作"。時間を止めて、その間に手製の爆弾で攻撃する。
2人のサポートもあって、私の初陣は堂々の白星を飾った。
鹿目さんが苦しんでいる。
魔女は倒したのに・・・
見ると、鹿目さんのソウルジェムが真っ黒になっている。
そのソウルジェムにひびが入り、そこから噴出してきたのは・・・
その姿を見届けると同時に、私は過去へ飛んだ。
知らせないと!
皆、キュウべぇに騙されている!
伝えたけど、信じてくれない。
それに、爆弾を使う戦いも危ないと言われた。
だから、別の武器を探した。
魔法を使い、ヤクザの事務所や軍事基地から武器を盗んだ。
杏子『テメェ、一体何なんだ!』
まどか『さやかちゃん、止めて!私達に気づいて!』
美樹さんが、魔女化してしまった。
皆で必死に呼びかけたけど、ダメ。
だからせめて、美樹さんが人を殺す前に、私の手で。
美樹さん・・・ごめん。
マミ『ソウルジェムが魔女を産むなら、皆死ぬしかないじゃない!!』
事実を受け止めきれず、錯乱した巴さんが、佐倉さんのソウルジェムを撃ち抜いた。
リボンで拘束されて身動きが出来ない。抜け出せない!
巴さんの銃口が、私の方に向けられた――瞬間。
鹿目さんの放った矢が、巴さんのソウルジェムを砕いた。
まどか『大丈夫、だよ。一緒にワルプルギスの夜を、倒そう?』
その後、2人で泣き続けた。
2人では、ワルプルギスの夜には敵わなかった。
もう、グリーフシードも力も残ってない。
このまま怪物になって、何もかも滅茶苦茶にしちゃおうか?と鹿目さんに言われた。
鹿目さんと一緒なら、それも良いと思う・・・
まどか『嘘。ホントは1個、取って置いたんだ』
なんで!?私になんか・・・!
まどか『ほむらちゃん、過去に戻れるって言ってたよね?』
まどか『だからさ、キュウべぇに騙される前のバカな私を、助けてあげて、くれないかな・・・』
鹿目さん・・・!!
約束する。
何度繰り返しても、必ず貴女を救ってみせる。
まどか『ありがとう。後、もう1つだけ、お願い』
グリーフシードに変化しようとしている、鹿目さんのソウルジェム。
涙を流しながら、私はそれに銃口を向ける――
ほむら『まどか・・・!』
まどか『ほむらちゃん、やっと名前で、呼んでくれたね』
私はもう、誰にも頼らない。
全ての魔女は、私が片付ける。
まどかには、絶対に戦わせない。
まどかが死体で見つかった。
小さな街工場で、集団自殺に巻き込まれたらしい。
ごめんなさい。もう少し、来るのが早ければ。
私は再び、過去へ戻る。
ワルプルギスの夜との決戦。
巴さん、佐倉さんと一緒に戦ったけど、敗北。
ワルプルギスを止められなければ、まどかを含め、この街で大勢の人が犠牲になる。
私は再び、過去へ戻る。
見滝原中学校が、美国織莉子という魔法少女に占拠された。
佐倉さんも協力してくれて、なんとか美国を倒したけど。
美国は死ぬ間際、まどかの命を道連れにした。
私は再び、過去へ戻る。
ダメだ。
何度やっても、ワルプルギスに勝てない。
そして、QBから聞いた恐ろしい事実。
まどかの魔法少女としての素質の高さ――その原因は、私にあった。
まどかを救う為に何度も時間を繰り返した結果、
平行世界のまどかの因果が、今の時間軸のまどかに集約されてしまったらしい。
これ以上繰り返すと、まどかの因果は更に強くなる。
でも、何度繰り返しても貴女を救うと決めたんだ。
美樹さんと佐倉さんが死んだ日の夜。
まどかが、私の家にやって来た。
まどか『ワルプルギスの夜、だよね。ずっとここで準備してたの?』
まどか『今戦える魔法少女はほむらちゃんだけ、だったら・・・』
それは駄目。
私1人でも、十分だから。
精一杯の強がり。もちろん出鱈目だ。
まどか『あはは、なんでだろ・・・。全然大丈夫って気持ちになれないよ・・・』
まどか『ほむらちゃんの言ってる事、本当だって思えないよ・・・』
その涙声を聞き、私の中の想いが弾けた。
自分の顔を見られぬよう、まどかを抱きしめる。
私だって、本当の気持ちを伝えたい。
でも、伝わるわけが無い。
私は・・・
貴女とは違う時間を生きているんだから。
私ね。未来から来たの。
何度も何度もまどかと出会って、それと同じだけ、貴女が死ぬところを見てきたの。
どうすれば貴女が救われるか、それだけを探し続けてきた。
まどか『ほむら・・・ちゃん・・・』
ごめんね。
わけ・・・わかんないよね。
気持ち悪いよね。
繰り返せば繰り返すほど、貴女との時間はズレていく。
気持ちもズレて、言葉も、想いも通じなくなっていく。
多分私は、とっくに迷子になってたんだと思う。
でも、最後に残った道しるべ。
それは、まどかを救う事。
それが私の最初の気持ち。
だからお願い。
どうか私に・・・貴女を守らせて。
ワルプルギスの夜と相対する。
通算これで何度目なのだろう。もう数えるのも止めてしまった。
持てる手を全て使い、ワルプルギスを攻撃する。
でも、私1人では無理だった。
体中に深手を負い、路上に転がる私。
その時、視界の端に、桃色の髪が揺れた。
QB『まどか、運命を変えたいかい?
この世を覆すほどの力が、キミにはあるんだ』
まどか『うん・・・』
ほむら『まどか・・・?待って・・・!』
QB『もちろんだよ。だから・・・』
ほむら『そいつの言葉に耳を貸しちゃダメ!まどかぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
QB『僕と契約して、魔法少女になってよ!』
契約し、魔法少女になったまどかは、最強の魔法少女となった。
その力は、あのワルプルギスを1撃で倒すほど。
でもその後、まどかは最強の魔女へと変貌してしまった。
QB『さて、僕らのエネルギーのノルマは概ね達成できた。あとは人類の問題だ』
QB『戦わないのかい?』
・・・・・・
私の戦場は、ここじゃない
私は、諦めない。
何度でも、繰り返す。
たった1人の、私の友達。
貴女の為なら、私は永遠の迷路に閉じ込められても構わない。
私は、再び過去へと戻った。
その時間軸で、新しい出会いがあった。
過去、いずれの時間軸にもいなかった、奇妙な2人の転校生。
ほむら「こんな所かしらね」ファサァ
紅茶を飲んで一息つき、長い黒髪をかき上げるほむら。
予想の斜め上を行くほむらの話に、再び全員が絶句した。
杏子「マジかよ・・・」
マミ「本当なの・・・?」
ほむら「信じるか信じないかは自由よ。最初に言ったでしょう?」
小狼「退院からワルプルギス襲来までの1ヶ月を、何度も繰り返してた、か」
この話が本当だとするなら、今までの疑問全てに納得が行く。
病院での巴マミとの件。
ワルプルギスの夜が襲来する日時を知っていた件。
これらは全て、彼女が以前に体験した事だったのだ。
まどか「ほむらちゃん・・・」
ほむら「この話を信じる必要は無いわ。でも、これだけは覚えておいて」
まどかの右手を両手で包み、今までとは違う、優しく語り掛けるように。
ほむら「この先どんな事があっても、契約しようなんて思わないで。
覚えておいて。貴女を大切に思っている人がいるって事を」
まどか「・・・」
ほむら「・・・信じられないのも無理は無いわね。それでも「信じるよ」
力強く、ハッキリと。
まどかはほむらの目を見て、言う。
まどか「信じるよ。その話も、ほむらちゃんの事も」
ほむら「まどか・・・」
まどか「だってほむらちゃん、ずっと私を見守って、助けてくれたじゃない」
ほむら「・・・」
桜「私も信じるよ、ほむらちゃんの事。だってほむらちゃん、優しいもん」
ほむら「わ、私は・・・」
マミ「暁美さん、その話の真偽はともかく、1つだけ確かな事があるわ。
それは、私達は仲間で、友達だって事」
杏子「アンタが嘘を言う理由も無いし、信じてやるよ。
友達かどうかは置いといてぐぇっ!・・・何しやがるマミ!」
マミが笑顔で、杏子に肘うちを喰らわせるのが見えた。
マミ「佐倉さん、貴女もいい加減素直になりなさい」
杏子「・・・チッ///」
小狼「暁美。巴先輩の言った通り・・・その話が本当かどうかは関係ない。
俺達は仲間で、友達だ。・・・後、俺は信じる」
ほむら「みんな・・・」
桜「今まで、ずっと1人で戦ってきたんだよね。でももう大丈夫!これからは私達が一緒だよ!」
まどか「ほむらちゃん、さっき私のこと、"まどか"って呼んでくれたでしょ?
これからもそう呼んでくれると、とっても嬉しいなって」
ほむら「まど・・・か・・・」ポロポロ
その後、ほむらはまどかの胸に顔を埋め、静かに泣いた。
ずっと1人で戦い、ずっと抑えていた感情が、一気にあふれ出ていくようだった。
小狼「さて、問題は美樹をどうするか、だ」
ほむらが落ち着いたところで、話題を変える。
魔女化してしまった美樹さやか。ほむらの話だと、元に戻す方法は無いとの事だが。
桜「私は諦めないよ。絶対にさやかちゃんを助けてみせる」
まどか「私も。このまま魔女になっちゃうなんて、さやかちゃんが可哀想すぎるよ!」
マミ「美樹さんは大切な後輩ですもの。助けない理由は無いわ」
杏子「ヘヘッ。実はアタシもそういうのに憧れてたんだ。
さやかはそれを、思い出させてくれたからな・・・」
ほむら「そうね。なんだか今回は、上手く行きそうな気がするわ。理由はわからないけど、そんな予感がするの」
確認するまでもなく、全員の意見は同じようだ。
"美樹さやかを救う"。そう決意した彼女達の瞳に、灯が灯る。
小狼「明日は日曜日か。学校も無いし今日はゆっくり寝て、明日の昼に作戦を立てよう」
杏子「さやかの体の鮮度も保っとかなきゃな。そうしないと腐っちまう」
マミ「じゃあ皆、明日お昼に私の部屋でいいかしら?」
ほむら「よろしくお願いするわ、巴マミ」
マミ「・・・私のことは"マミさん"って呼んでくれないの?」
ほむら「あ・・・う・・・、マ・・・巴さん///」ゴニョゴニョ
マミ「ふふっ、おやすみなさい」ニコッ
杏子「私はここに泊めて貰うけど、大丈夫か?」
ほむら「問題ないわ。佐倉・・・さん///」ゴニョ
杏子「お、おう・・・///」
まどか「じゃあ、また明日ね。ほむらちゃん!」
桜「おやすみ!ほむらちゃん!」
ほむら「おやすみなさい、・・・まどか。木之本さん」
桜「・・・私も"さくら"でいいんだけどなぁ」
小狼「そうするとややこしいだろ。"さくら"が2人いる事になるぞ」
杏子「ハハッ、確かにな!!」アハハハ
ほむら「ッ///、あ、明日は大変なんだから、早く帰りなさい!///」
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街外れにある工事現場。
時刻は夕方の18:00。
杏子「間違いない。さやかの魔力だ」
変身した杏子が槍を一振り、魔女の結界への入り口をこじ開ける。
次いでマミ、ほむら、まどか、桜、小狼。
まどか「この奥に、さやかちゃんが・・・」
桜「まるで水族館みたい・・・」
ほむら「美樹さやかにとって、ここは思い出深い場所のようね」
マミ「使い魔は・・・いないみたいね」
ほむら「使い魔は奥の部屋にいるわ。昼に言った通りみたい」
ここへ来る少し前、マミの部屋で今回の作戦を考えていた。
その際、過去の時間軸において、さやかがどんな魔女になったか、どんな攻撃をするのか、
どんな使い魔がいるのかといった情報を共有していたのだ。
小狼「・・・ここだな」
通路を進んでいった最奥、巨大な扉が行く手を阻む。
その奥から感じられる気配――魔女のものだ。
ほむら「打ち合わせどおりに行くわよ。覚悟は良い?」
全員が黙って頷く。
硬く閉ざされた扉が、勢いよく開かれた。
巨大なコンサートホールのような部屋。
部屋の奥では使い魔と思われる影が演奏を行っており、
部屋の中央でそれを聴いている、人魚の魔女。
それはこちらの姿を見つけたが速いか、巨大な歯車を飛ばして攻撃してきた。
桜「"盾"(シールド)!」
全員の体を囲むように、薄桃色の膜が張られる。
歯車攻撃はその膜に弾き飛ばされ、背後へと転がってゆく。
杏子「うっはぁ!これスゲェな!」
マミ「本当、これがあれば何も恐く無いわ!」
ほむら「巴さん、油断大敵よ。貴女はそれで何回か死んでるんだから」
桜「えっと、"盾"にも限度はあるので・・・」
小狼「ぼさっとするな!来るぞ!」
歯車と同時に、その両手に持った巨大な剣で攻撃を仕掛けてくる魔女。
小狼、マミ、ほむら、杏子は魔女の攻撃の合間を縫い、魔女へ近づく。
まどか「さやかちゃん!私だよ、まどかだよ!!!」
桜「さやかちゃん!私達に気づいて!」
魔法少女達が作った隙を狙い、桜とまどかが魔女へ近づき、呼びかける。
杏子「聞き分けが無いにも程があるぜ、さやかぁ!」
マミ「美樹さん!皆を守るって言ってたじゃない!その貴女が魔女になってどうするの!?」
ほむら「美樹さん!目を覚まして!もう、貴女が死ぬのは見たくない!!!」
小狼「皆が待ってるぞ、美樹!とっとと帰って来い!!」
桜とまどかだけでなく、全員がさやかへ向かって呼びかける。
だが声が届かないのか、魔女は一行に攻撃を止めない。
杏子「へっ、いつぞやのお返しかい?そういえば最初は殺しあう仲だったっけな!」
ほむら「違う世界の貴女は、私のことを目の敵にしてたわね・・・」
マミ「絶対に助けるから、貴女も頑張って、美樹さん!」
人魚の魔女の攻撃は激しく、その上一発一発の攻撃がかなり重い。
桜の"盾"でも、次第に防ぎきれなくなってきていた。
小狼「クソッ、このままじゃジリ貧だぞ・・・」
桜「何か・・・何か良い方法は・・・!!」
まどか「さやかちゃん!お願い、目を覚まして!!!」
桜(目を・・・覚ます・・・、そうだ!)
桜「まどかちゃん、ちょっといいかな」
まどか「何?・・・・え?」
桜は自分の考えをまどかに伝える。
それを聞いたまどかは、力強く頷いた。
桜「皆、集まって!!!」
桜の叫びを聞いた4人が、周囲に集まる。
当然魔女の攻撃はそちらへ向けられるが、全員が集まってくれたおかげで、"盾"の力を1ヶ所に集約できる。
これならしばらくは安全のはずだ。
小狼「どうした?」
桜「お願いがあるんだけど・・・私とまどかちゃんの体を、守ってくれない?」
ほむら「どういう事?」
桜「さやかちゃんの精神世界、夢の中へ入ろうと思うの」
小狼「"夢"のカードか!」
まどか「うん、こうなったら内側から呼びかけてみようかなって」
精神だけの状態となれば、体は当然無防備になる。
その状態で魔女の攻撃を受ければ致命傷になりかねない為、危険な提案でもあった。
マミ「他に方法も無いしね、判ったわ」
杏子「絶対にアイツを覚まさせろよな!」
小狼「2人の体は任せろ。だからお前達は、美樹を助ける事だけに集中するんだ」
桜「うん、よろしくね!!」
左手でまどかの手を握り、右手で星の杖を掲げる。
同時に"盾"の防御が消滅するが。
小狼「"風華招来"!!」
マミ「させないわ!」
小狼とマミのリボンの魔法が、魔女の攻撃から2人を守る。
そしてほむらと杏子で魔女に接近し、かく乱を行う。
桜「我等をかの者の夢へと誘え、"夢"(ドリーム)!!」
カードが光り輝き、桜とまどかを包み込んだ。
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桜「ここが・・・さやかちゃんの夢の中?」
まどか「ここって、学校・・・?」
2人が立っているのは、見慣れた教室。
見滝原中学校の、自分達のクラスだ。
教室のドアは硬く閉ざされており、教室の中には誰もいない。
窓の外には何も無い、白い空間が広がっている。
そして教室の中、並べられた机の中の1つに、黒い影のようなものが座っていた。
その場所は・・・美樹さやかの机。
まどか「さやかちゃん!私だよ!まどかだよ!!」
まどかがさやかの影の肩を掴み、声を張り上げる。
すると、影がぴくり、と動いた。
影『・・・・・・ま、ど、か?』
ノイズが混じったような掠れ声だったが、間違いなくさやかの声。
まどか「そうだよ!さやかちゃんを助けに来たの!!!」
影『私を、助けに?』
桜「小狼くんも、マミさんも、ほむらちゃんも、杏子ちゃんも、皆さやかちゃんを助ける為に頑張ってるの!
だから・・・」
影『・・・悪いけど、もう、放っておいてよ』
だが、さやかの口から出たのは、静かな拒絶だった。
まどか「なんで・・・!?さやかちゃんが今どんな状態になってるのか知ってる!?」
影『知ってるよ・・・。自分の事だもん』
桜「じゃあ、どうして・・・!?」
影『なんかさ。もう、疲れちゃったんだ・・・。
もう何もかも、生きてる事も疲れたよ・・・』
桜「そんな・・・なんで!?」
影『こんな体にされて、好きな人も親友にとられて。
私が1人いなくなったところで、誰が困るって言うの?』
桜「さやかちゃん・・・」
まどか「さやかちゃん、本気で言ってるの?」
影『言ったでしょ。もちろん本気だよ。だから・・・「ふざけないで!!!」
バン!と机を両手で叩き、声を張り上げるまどか。
まどか「どうしてそんな事言うの!?なんで自分がいなくなってもいいなんて事言うの!?」
影『だって、その通りじゃん・・・』
桜「じゃあ、さやかちゃんのお父さんとお母さんはどうするの!?
さやかちゃんが死んじゃったら、絶対に悲しいはずだよ!!」
影『いいじゃん、もう、私は死んでるような物だしさ・・・』
まどか「違うよ!死んじゃってたらこうしてお話だって出来ない筈だよ!?
今、私達とさやかちゃんはお話してるじゃない!」
桜「そうだよ!それはさやかちゃんが生きてるっていう、証じゃない!」
影『でも、もう私には、生きる理由が無いもん・・・』
まどか「生きる理由って・・・?」
影『魔女はマミさんたちがいれば大丈夫だし、好きな人もとられちゃったし・・・』
桜「さやかちゃん・・・ごめん」
パシィン!と。
誰もいない教室に、澄んだ音が響き渡る。
桜「バカ!さやかちゃんの大バカ!!」
さやかの影に平手打ちをした桜の右掌は赤くなっていたが、それに構う様子も無く、桜は声を張り上げた。
桜「たった一度振られたくらいで何!?そんな理由で生きるのを辞めるつもり!?バカみたい!」
影『バカって何よ・・・!恋人のいるアンタに私の気持ちなんて!』
桜「わかるよ!・・・だって私も、好きな人に振られた事があるから」
影『え・・・』
まどか「さやかちゃんさ、上条君に想いは伝えたの・・・?」
影『それは・・・』
桜「伝えて無いでしょ?そんなんで上条君に気持ちが伝わる訳無いじゃない!」
まどか「そうだよ・・・。悪いのは上条君に想いを伝えられなかった、さやかちゃんじゃない!」
桜「それなのに"とられた"って何よ!仁美ちゃんはちゃんと、
上条君に告白する事を教えてくれたんでしょう!?」
影『でも、でも!どんな顔して恭介に会えば良かったのよ!
私、もう人間じゃなくなってたのに!!』
桜「ねぇ、前に私が言った事、覚えてる?」
影『・・・』
桜「どんな姿になっても、どんな形になっても!さやかちゃんはさやかちゃんだって。
それは私だけじゃなく、上条君だってそう思ってる筈だよ」
影『なんでそんな事がわかるのよ、聞いてもいないくせに・・・!』
まどか「さやかちゃんだって聞いてもいないくせに、何で上条君はそう思って無いって言えるの?」
影『それは・・・』
桜「恐いのは解るよ。自分の気持ちを伝えて、
相手の"いちばん"が自分じゃなかった時の気持ちはよくわかる。」
影『・・・』
桜「でもね。どんな想いも、気持ちも。言葉にしなければ伝わらないんだよ?」
影『それ、李君も言ってたね・・・』
桜「うん。この言葉はね。私のいちばんの親友が言ってた事なの」
まどか「その人、とっても素敵な人なんだね」
桜「うん。すごく素敵な人だよ!」
カードを集めていたとき、カードを作り変えていたとき。
いつも自分の傍にいてくれて、自分を励ましてくれていた親友。
悲しい思いをしたときは慰めてくれ、嬉しい思いをしたときは自分の事の様に喜んでくれた。
桜(知世ちゃんは今、ここにはいない・・・。でも!)
桜「上条君、さやかちゃんの事すごく心配してたよ。さやかちゃんが家に帰ってないって聞いた時」
まどか「足がまだ良く無いのに、必死で探してたんだよ?さやかちゃんの事。
そんな人がさやかちゃんの事、嫌いになる訳ないじゃない」
影『恭介・・・』
桜「だから、ここから一緒に・・・皆のところへ帰ろう?」
影『みんな・・・』
まどか「みんな、さやかちゃんを待ってるよ」
さやかの影の前に、まどかが右手を差し出す。
一瞬迷ったような素振りを見せたが、さやかの影も、その手を握った。
ピシ、という音から始まり、さやかの影がひび割れていく。
その中から本物の・・・"美樹さやか"が姿を現した。
桜「帰ろう。一緒に!」
さやか「・・・うん!」
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ほむら「魔女が・・・」
マミ「光ってる・・・?」
杏子「やった、のか・・・?」
桜とまどかの体を守りつつ、魔女と戦っていた4人。
その最中、突然魔女の体が輝きだした。
小狼(さくらの体も・・・いや、さくらカードが光ってるのか?)
魔女の光に呼応するかのように、桜の体・・・
正確には、そこにしまってあるカードの1つが、眩い輝きを放っていた。
その光は大きな球となり、人魚の魔女へと向かっていく。
カードの光と魔女が衝突した瞬間、"人魚の魔女"は跡形も無く、消滅した。
まどか「う・・・ん・・・」
桜「うまく・・・いった?」
小狼「魔女は・・・消えた。でも・・・」
魔女は消滅したが、グリーフシードもソウルジェムも見当たらない。
一同の間に、不安が過ぎる。
ほむら「ひとまず、私の家に行きましょう。美樹さやかの体がどうなっているか」
魔女の結界も消滅し、ここでする事はもう何も無い。
6人は、急いでほむらの家へと向かった。
ほむらの家へ帰ってきた一行。
玄関の扉を開けた途端、全員の目に飛び込んできた光景は。
さやか「どうも!魔法少女さやかちゃん、おかげさまで完全復活!」
腰に手を当てて笑顔でピースサインをかます、さやかの姿だった。
まどか「・・・」
マミ「・・・」
ほむら「・・・」
杏子「・・・」
桜「・・・」
小狼「・・・」
さやか「・・・」
そのまま数秒、全員が固まった。
さやか「あ、あの・・・」
そのまま一気に足を曲げ、頭を床につけ、手を差し出す体勢になる。
完璧な土下座の格好である。
さやか「その、本当にごめんなさい!ご迷惑おかけしました!!!!」
さやか「色々とひどい事言っちゃってごめんなさい!言う事を聞かなくてごめんなさい・・・」
まどか「さやかちゃん・・・」
さやか「その、まどか・・・。ホントに・・・」
まどか「よかった・・・よかったぁぁ!!!」ポロポロ
桜「さやかちゃん!!!」ウワァァァン
杏子「さやかぁぁぁぁぁぁ!!!!」ビェェェン
さやか「あの、3人とも、そう抱きしめられると、苦し」
マミ「ふふっ・・・、本当に、よかったわ」
小狼「はい。・・・そうだろう、暁美?」
ほむら「えぇ。本当に・・・」グスッ
それから数十分後、落ち着いたところで、ほむら家のリビングに集まった。
まどか、桜、杏子の3人は相当泣いたのか、目が真っ赤に腫れている。
マミ「ところで美樹さん、ソウルジェムはどこに?」
さやか「あ・・・それが、無いんですよね・・・」
小狼「ソウルジェムが、無い?」
さやか「うん。私の寝てたベッドとか、その近くを探してみたんだけど・・・どこにも」
杏子「まさか・・・あの結界に忘れてきちまったのか!?」
ほむら「それは無いわ。あの空間にはソウルジェムも、グリーフシードも落ちていなかった」
まどか「じゃ、じゃあさやかちゃんのソウルジェムはどこに!?」
桜「あ、あの、その事なんだけど・・・」
小狼「どうした?」
桜「多分だけど、さやかちゃんのソウルジェム・・・いや、魂かな?体に戻ったんじゃないのかな」
マミ「え・・・ホントに!?」
杏子「マジか!?」
ほむら「ありえなくは無いわ。現にこうして、ソウルジェムが傍に無いのに美樹さんは生きている」
まどか「そ、そうなの!?さやかちゃん!」
さやか「うん・・・その事なんだけどさ。明日でもいいかな?
その、家にも帰らないと、マズいだろうし・・・」
桜「そうだ!さやかちゃん行方不明扱いになってるんだ!」
杏子「何ぃ!?それならこんな所でゆっくりしてる場合じゃねー!」
マミ「明日は月曜日ね・・・。じゃあ放課後に私の部屋でいいかしら?」
桜「賛成です!マミさんのお菓子!」
まどか「賛成です!マミさんのお茶!」
小狼「お前ら食い意地張りすぎだろう・・・」
まるでどこぞのカードの守護者みたいだな、と呆れつつも。
悪い気分はしない小狼だった。
月曜日、教室。
仁美「さやかさん!貴女・・・!」
恭介「さやか!一体昨日一昨日何してたんだい!?」
さやか「アハハ、心配かけてごめんね、仁美、恭介。
それで、告白はうまくいった?」
仁美「それは・・・でも!私のせいで・・・」
さやか「仁美のせいじゃないよ!・・・全部、私の自業自得」
恭介「さやか・・・」
さやか「で?2人は付き合ってるの!?」
恭介「そ、それは・・・」
その光景を、離れた位置から見守る4人。
まどか「さやかちゃん、すっかり元通りだね」
桜「昨日はこっぴどく叱られたみたいだけどね・・・」
自分の中でケジメがついたのか、さやかに元気と笑顔が戻った。
作り笑いではない、本物の笑顔が。
まどか「これで残る問題は・・・、"ワルプルギスの夜"だね」
ほむら「現時点での戦力は、私、巴さん、佐倉さん、木之本さん、李君の5人・・・」
まどか「ワルプルギスの夜って、どれぐらい強いのかな・・・」
小狼「それも不安だが、まだ時間はあるんだ。今は日常を謳歌しよう」
全ての問題が解決した訳ではない。
だが、今この時だけでも、平穏な日常を満喫する権利はある筈だ。
まどか「そうだほむらちゃん!この近くに新しいクレープ屋さんが出来たんだって!
今日マミさんの家に行く前に寄って行かない?」
桜「いいねー!行こう行こう!」
ほむら「えっ!?で、でも・・・」
まどか「ウェヒヒヒヒ、もしかして体重気にしてるのかな?」
ほむら「なっ、そ、そんな訳・・・無い・・・」プニ
桜「赤面しながらお腹を確かめるほむらちゃん、かわいーい!」
さやか「どれどれ~?アタシが直接触って確かめてみよう!」ワキワキ
ほむら「美樹さんいつの間に!?って、や、止め・・・あはははは!!」
仁美「さやかさん達、いつの間に暁美さんとあんなに仲良く・・・」ハッ!
仁美「ま、まさか、あの集団はそういった関係で!?」アワアワ
仁美「私が上条君をとってしまったばかりに・・・これが禁断の愛!?」キラキラキラ
恭介「それは無いと思うよ、うん」トオイメ
小狼「大道寺そっくりだな・・・違う意味で」トオイメ
女同士で体中をまさぐり合う者、それを見て妄想を膨らませる者。
そしてその光景を眺め、遠い目をする者。
いつもどおりの"日常"が、そこにあった。
マミ「それで、お話って何かしら、美樹さん?」
放課後、マミの家に集まった桜たち。
理由は言うまでもなく、昨夜のさやかの発言である。
さやか「は、はい。えっと、私のソウルジェムがどこにいったのか、って事ですが・・・」
杏子「やっぱり無くなっちまったのか?」
さやか「うん。なんかさ、上手く説明できないんだけど・・・
こう、契約する前に戻った、って実感があるんだよね」
まどか「さやかちゃん・・・。よかった・・・」
その言葉を聞き、安堵する全員。
仮にソウルジェムが戻っていなかったとしたら、厄介な事になりかねなかったからだ。
小狼「もしかしてそれを言う為だけじゃないよな?」
ほむら「その事だけなら昨日でもいい筈だものね」
さやか「うん。・・・まぁ、実際に見てもらった方が早いかな」
そう言って立ち上がり、みんなと距離を取るさやか。
部屋の隅のほう、周囲に大きなものが無いところまで行くと立ち止まり、こちらを振り返る。
さやか「えっと・・・、来い、オクタヴィア!」
さやかがそう叫んだ瞬間。
"それ"を見た全員が、悲鳴を上げた。
マミ「み、美樹さん、それは・・・!?」
杏子「ま、魔女!?」
桜「ほ、ほえ~~~~~!!!」
さやかが叫んだ瞬間、美樹さやかの体から"何か"が出現した。
それはこの場にいる全員が見たことがある物で、しかもつい先日見たばかりの物だった。
ほむら「それは・・・美樹さんの魔女化した姿!?」
さやかの体から出現したのは、美樹さやかが魔女化した姿である、人魚の魔女。
外見は全く同じだが敵意は感じられず、さやかに寄り添うその姿は守護霊のよう。
さやか「何か解らないんだけどね、コイツ自由に操れるんだよね」
両手に持った大剣を軽く振ったり、歯車を取り出して剣先で回転させたりして見せる。
ちゃんと実体もあるようで、ノートから千切ったページを剣で紙吹雪に刻んだり出来ていた。
さやか「私の所から離す事は出来ないけど、剣と歯車で近距離も遠距離も対応できるよ」
マミ「まさか・・・ワルプルギスの夜と戦うつもり!?」
桜「でも、ワルプルギスって凄く強いみたいだよ?」
小狼「それに、折角魔法少女から解放されたんだから、戦わなくても・・・」
魔法少女ではなくなった以上、さやかが魔女と戦う必要は無い。
それどころか、生身で魔法も使えない為、むしろ命の危険が増すだけなのだが。
さやか「ダメだよ。そんなんじゃ私の気持ちが治まらない」
杏子「いや、でも・・・」
さやか「あれだけ皆に迷惑かけて、心配させて、その上私だけ魔法少女から戻っちゃって。
そこまでされて後は皆にお任せ、なんて私には出来ない!」
さやかの瞳は真っ直ぐで、1点の曇りも、迷いも無い。
先程の言葉も、半端な気持ちや覚悟で言ったものではないだろう。
自分がかけた迷惑や、自分が行った事への贖罪という理由もある。
だがそれ以上に大きい一番の理由は、紛れも無く。
さやか「魔法少女じゃ無くなったけど、魔女と戦う力は残ってる。
それなら私も一緒に戦いたい。自分の為じゃなく、大切な友達の為に!」
ほむら「美樹さん・・・」
さやか「ほむら。今更だけど・・・あの時のこと、ゴメン。それと・・・」
そう言ってさやかが差し出したのは、自分の右手。
仲直りと、友情の印である、握手のカタチ。
桜「友達のため・・・そうだよね。友達が大変な時は、助け合わなきゃ!」
小狼「そうだな。これまで色々とあったが・・・」
マミ「今は、目的を同じくする仲間であり、友達ね」
杏子「友達・・・か。へへっ、何だろうな。すげぇ嬉しい」
まどか「そうだよね、ほむらちゃん?」
その場にいる全員の視線が、ほむらに集まる。
誰にも頼らない事を決め、1人、孤独な戦いを続けてきた少女。
そんな彼女の元に、再び、信頼できる仲間と、大切な友達が出来た。
ほむら「もちろんよ。・・・ただし、足を引っ張らないでね」
笑顔交じりの冗談を込め、さやかの手を握り返す。
さやか「あっちゃぁ、それを言われると痛いな~」
桜「心配ないよ!私達なら!」
桜「友達のため・・・そうだよね。友達が大変な時は、助け合わなきゃ!」
小狼「あぁ。絶対、大丈夫だ」
重なったほむらとさやかの手の上に、残りの皆も手を重ねていく。
マミ、杏子、まどか、桜、小狼。
ようやく重なった、7つの手。
桜「折角だし、チーム名決めない?」
杏子「おっ、それいいな!何がいいかな?」
まどか「"見滝原魔法少女ズ"とか!」
さやか「何かダサい。却下!」
まどか「ひどいっ」
マミ「そうね、"7人の魔法少女達の狂想曲"(セブンス・マジックガールズ・ラプソディ)とかはどう?」
小狼「・・・」
さやか「・・・」
まどか「・・・」
杏子「・・・」
桜「・・・」
ほむら「・・・他に案は無い?」
マミ「え、ちょっと、何今の無言!ねぇ!」
小狼「後、俺は男だからな。ガールズは止めてくれ」
さやか「うーん、じゃあ李君には女装して貰おう!」
小狼「な、何ぃ!?」
杏子「アハハハ、それいいな!おいマミ、服借りるぜ?」
マミ「"聖・見滝原守護騎士団"(セント・ミタキハラガーディアンズ)とかいいかも!後は・・・」ブツブツ
杏子「・・・ダメだありゃ。完全に自分の世界に入ってやがる」
まどか「この服とか似合いそうだよね!あとはカツラも用意して・・・」
小狼「だから待て!女装なんて似合うわけが・・・」
桜「でも小狼くん、小学校の時にお姫様の格好してたじゃない!すっごく似合ってたよ?」
小狼「似合ってないし嬉しくないわ!あれは黒歴史だ!」
さやか「えっ、何その話!詳しく聞かせて!」
ほむら「・・・私も興味あるわね」
杏子「よ~し、全員で抑えるぜ・・・」ニヒヒ
まどか「李く~ん?大人しくしててね?」ウェヒヒ
桜「大丈夫、恐くないから」ニッコリ
小狼「その笑顔が恐い!そ、そうだ、話合お・・・うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
マミ「やっぱり"聖"は入れたいわね。"聖刻の戦乙女"とかもいいかも!」ブツブツ
その後、猛烈に抵抗する小狼を5人がかりで抑え込み、やっと服を脱がせようとした時、
正気に戻ったマミに止められ、男としての尊厳は守り通した小狼であった。
数日後。
ワルプルギスの夜の見滝原襲来予想まで、あと1週間。
桜たち"見滝原防衛隊"(命名:さやか)は、決戦に備えて準備を始めていた。
見滝原はもちろん、隣町の風見野まで足を運び、
積極的に魔女を狩り、グリーフシードを集める。
討伐隊は、ソウルジェムを必要としない桜、小狼、さやかを中心とし、
ソウルジェムの穢れをなるべく抑えつつ、グリーフシードのストックを貯めていった。
小狼「この街だけ見ると、未来に来たみたいだな」
夕暮れの公園で、バニラ味のアイスクリームを食べながら呟く。
口の中にバニラの香りがふわりと広がり、冷たい物が喉を通る感覚が心地よい。
桜「どしたの小狼くん、いきなり」
小狼の隣で、同じくアイスを頬張っていた桜が答える。
ちなみに彼女が食べているのは抹茶味。
小狼「いや、俺達がこの世界に来て、そろそろ1ヶ月だなって思ってな」
桜「そういえば・・・そうだね、もう1ヶ月かぁ」
あの日、月峰神社からこの世界に飛ばされて、既に3週間が過ぎた。
幸いにも、偶然、授業の進み具合や教科書が友枝中と似ていた為、
授業についていけないという事は無かったが。
小狼「今頃、友枝町は大騒ぎかな・・・」
桜「うーん、多分大丈夫じゃないかな」
不安げに心境を語る小狼とは逆に、ポジティブ思考の桜。
桜「だって向こうには知世ちゃんもいるし、ケロちゃんや月さん、エリオル君や観月先生もいる。
きっと今頃、魔法とかで誤魔化しながら、私たちのことを探してくれてるんじゃないかな」
桜がここまで前向きなのは、決して気楽とかそういった理由ではない。
純粋に、仲間や友達を信頼しているから。
桜「それに・・・、小狼くんがいてくれたから、こうやって元気でいられるんだよ?
もしこの世界に来たのが私1人だったら、きっと何も出来なかっただろうから」
小狼「それは大げさじゃないか?」
桜「そんな事ないよ。小狼くんがいてくれたから、あの時、マミさんと知り合えた」
桜「それから中学校にも通えたし、友達も沢山できたし、
その友達を、助ける事も出来たんだよ?」
小狼「俺だけの力じゃないさ。さくらも頑張ったからこそだろう」
これまでだって、桜は自分の力で切り抜けてきたのだ。
その中には小狼が手伝ったからこそ成功したものもあるが、
最終的な要因は、やはり桜自信の力による物が大きい。
桜「えへへ、そう言われると照れちゃうな」
はにかんだ笑顔を浮かべる桜を見て、思わず見惚れてしまう。
自分の顔の温度が上昇するのを感じ、慌てて顔を逸らして誤魔化す。
小狼「ま、まぁでも、やっぱ俺の力も大きいな。転校手続きから奨学金の手続きとか、
寮の手続きとかは全部俺がやったからな」
照れを誤魔化す為に言葉を繕う。
ちらりと横目で桜を見ると、彼女は満面の笑みを浮かべて言った。
桜「うん・・・、だから、本当にありがとう!それと、絶対にこの街を守ろうね!」
笑顔でアイスを頬張る桜の横顔を見て、小狼も「そうだな」と答える。
本当にさくらは強くなった。クロウカードを集めていたときの頃に比べれば断然。
小狼(そういや、小学校の頃はしょっちゅう泣きそうになってたな。泣く事は少なかったけど)
何かあるごとに泣きそうになっていたかつての姿を思い出し、小狼は笑みを零す。
桜「ほえ?どうしたの?」
小狼「いや、あの泣き虫さくらも成長したなぁって思っただけだ」
桜「ちょ、何よ泣き虫って!」
小狼「事実だろう。特に幽霊関係になるとすぐ涙が出てきてたよな」
実際にはそれほど泣いてはいないのだが、それは幽霊関係以外での話。
同級生の柳沢の怪談話などで、よく涙目になっていたのを思い出す。
桜「だ、だってそれは・・・、う"-!小狼のいじわる!」
頬を膨らませ、左手でぽかぽかこちらを叩いてくる桜。
それを軽く受け止めながら、自分のアイスに舌を伸ばす。
桜「・・・小狼くんだって、最初の頃は強引だったくせに。
カツアゲみたく、私からカード奪おうとしてたよね?」
予想外の反撃に、冷や汗を浮かべる小狼。
一方の桜は、目を細めてニヤニヤと笑みを浮かべている。
あれは相手の反応を面白がっている表情だ。
桜「ん~?どうしたのかな~?」
首を曲げてこちらを覗き込んでは、からかうような声を出す桜。
ここは下手に反応しても逆効果なので、ひたすら桜から顔を背ける。
桜「あははっ、小狼くんはすぐ表情に出るんだから」
やがて満足したのか、再びアイスを頬張り始める桜。
アイスは既に半分溶けてしまっていたが、満足そうな表情だ。
そして、桜が再びアイスに舌をつけた、瞬間。
小狼の顔が急接近したかと思うと、桜のアイスに小狼の舌が伸び、ひとくち分を舐めとった。
桜「・・・・・・・・・え?」
一瞬の硬直の後、ボン!と、桜の顔が茹でタコよりも真っ赤になった。
あの額の上に水入りのヤカンをおいたら、一瞬で沸騰しそうな位に。
桜「な、なななななななななななな何するの!?///」
小狼「さくらこそ、すぐ表情に出るじゃないか」
そう言った小狼も、耳まで真っ赤に染まっていた。
間違いなく、夕焼けのせいだけでは無い。
必死に冷静さを保ちつつ、小狼も自分の半分とけたアイスに舌を伸ばす。
桜「む~~~~~、・・・・はむっ」
お返しとばかりに、今度は桜が舌を伸ばし、小狼のアイスを絡めとる。
その時、ほんの僅かではあったが、お互いの舌がアイスの中で触れ合った。
小狼「な、お、おまおまおまお前、なななな何すんだ!///」
真っ赤になりながら、慌てて周囲を確認する。
幸いにも、先の行為を他人に見られていたなんて事は無いようだ。
桜「あはは、小狼くん顔真っ赤!!あははは!!」
小狼「くっそ・・・、待てコラ!」
桜「こっこまーでおーいでー♪」
夕暮れの公園で追いかけっこを始めた2人を、公園の入り口から覗く者がいた。
まどか「・・・」
さやか「・・・」
仁美「あ、あの、お2人とも?」オロオロ
つい先刻買い物を追えた後、公園の近くにあったアイスの屋台を発見し、
公園でアイスでも食べようかと相談していた矢先、先の場面に出くわしたのだ。
まどか「仁美ちゃん・・・」
さやか「仁美ィ・・・」
ゆらり、とこちらを振り返った2人に、若干恐怖を覚える仁美。
ここにいたらマズい。彼女の本能がそう告げた。
仁美「あ、すみませんが用事を思い出しましたわ!ではこれにて・・・!」
その場からの即時離脱を謀る仁美だったが、背後から両肩をガッシリと掴まれる。
さやか「まぁいいじゃん。ちょっとあそこでお話しよっかー」
まどか「仁美ちゃんがお話を聞いてくれたら、それはとっても嬉しいかなって」
仁美「あの、お二人とも?目から光が消えてますが・・・」
さやか「いやね?まさかとは思うけど、仁美は恭介とどこまでいったのかな~とね?」
まどか「私達は中学生だからね?健全なお付き合いをしてるのか、確かめないとだもんね」
仁美「え、ちょっと、どこに連れて行かれるんですの!?だ、誰か、助けーー」
負のオーラを体中から発する2人に成す術なく引きずられていく仁美。
そんなクラスメイトの危機に気づかず、公園では2人の追いかけっこが続いていた。
アナウンス『本日午前7時、突発的異常気象に伴う避難指示が発令されました』
アナウンス『付近にお住まいの皆様は、速やかに最寄の避難場所への・・・』
空を埋め尽くす、一面の分厚い灰色の雲。
避難が完了している為、周囲には人っ子1人存在せず、
賑やかだった見滝原の街は、死んだように静まり返っている。
聞こえてくるのは暴風の吹きぬける音、そして。
ほむら「間もなく、"ワルプルギスの夜"が姿を現すわ。準備はいい?」
これから襲い来る災厄を迎え撃たんとする、6人の声。
マミ「バッチリよ。グリーフシードのストックも沢山あるからね」
さやか「うひゃぁ・・・、なんか世界の終わりって感じだなぁ・・・」
杏子「なんださやか、ビビってんのか?」
さやか「ふふん、これは武者震いという奴だよ」
桜「結局、私達を呼んだのは誰だったんだろうね」
小狼「ま、今となってはどうでもいいけどな。今は目の前の問題に集中しよう」
とあるビルの屋上に集結した、"見滝原防衛隊"。
まどかは戦闘力を持たないので、他の人たちと避難している。
QB「やぁ、準備は万全のようだね」
杏子「随分と懐かしい顔じゃねぇか。一生見たくなかったけどな」
そういえば、ここの所キュウべぇを全く見かけていなかった。
最後に見たのはいつだったか、確かさやかが魔女化した時だった。
ほむら「わざわざ出てきて何の用?」
QB「忠告さ。今から来るワルプルギスの夜だが、それは暁美ほむら、
これまでキミが戦ってきたいずれのワルプルギスよりも強いだろう」
ほむら「・・・!?」
マミ「あら、それが何だって言うの?」
キュウべぇとほむらの会話に割って入ったマミが、笑顔で言う。
その態度からは、微塵の恐怖も感じない。
杏子「だな。こっちだってこれだけの面子が揃ってるんだ」
さやか「いくら魔女が強くたって、こっちだって負ける訳にはいかないからね」
QB「・・・おやおや。まぁ、君達がどこまでやれるのか、見物させてもらうとしようか」
そう言い残し、キュウべぇは姿を消してしまった。
あの様子では、まどかとの契約を諦めた用ではないらしい。
桜「ほむらちゃん、今は、1人じゃないよ」
先程のキュウべぇの言葉がかなり効いたのか、
肩を震わせているほむらに、桜が優しく声をかける。
桜「ほむらちゃんは何度もワルプルギスと戦って、この中で一番ワルプルギスの恐さを知っているもんね。
だから恐いのはすごくわかる。でも、絶対大丈夫だよ!」
杏子「その通りだ、これ終ったら皆でうまいモンでも食べようぜ」
小狼「賛成だ。そうと決まれば、とっとと片付けるぞ」
マミ「暁美さん、大丈夫よ。私達が付いてるから」
さやか「だから、絶対に勝とう!」
それぞれがぞれぞれの言葉で、ほむらを鼓舞し、元気付ける。
やがて、ほむらの肩の震えも止まり、その顔に笑顔が浮かぶ。
ほむら「えぇ。もちろんよ!」
ゆらり、と。
雲の向こうに、巨大な影が映る。
ほむら「来るわよ。皆、作戦通りに」
ほむらは、大量の重火器を準備し、
杏子は、無言で前方に槍を向け、
さやかは、かつての姿であり新たな力である守護霊を顕現させ、
マミは、大量のマスケット銃を両手に携える。
小狼は、護符と剣を構えて精神統一し、
桜は、"封印解除"した星の杖を、硬く握り締めた。
ほむら「作戦開始!」
分厚い雲の隙間から、遂に、"ワルプルギスの夜"が姿を現した。
杏子「で、デケェ・・・」
小狼「あれが・・・"ワルプルギスの夜"!」
桜(あれ・・・?何か、どこかで見たような・・・?)
虹色の魔方陣を背に、さかさまの状態で宙に浮かぶ魔女。
青いドレスを着た女性のような姿をしており、スカートの中には巨大な歯車が蠢いている。
今迄で戦ってきた魔女の中で、一番魔女らしい姿をしている。
桜「"駆"(ダッシュ!)」
桜のカードの力が発動し、全員にその力が行き渡る。
全員の機動力が数倍に上がり、各々が持ち場へと走り出した。
ほむら「第1陣、攻撃開始!」
ほむらの号令を合図に、マミ、小狼、さやかがワルプルギスへ攻撃を飛ばす。
マミは大量のマスケット銃を、小狼は雷撃を、さやかは歯車を飛ばして攻撃する。
ほむら(時間停止)カチッ
ほむらの魔法が発動し、彼女以外の全ての時間が停止する。
その間に、あらかじめ用意しておいた、少なくとも100以上はあるであろう無反動砲を、
ワルプルギスへ次々と撃ち込んでいく。
やがてワルプルギスの周囲が、あっという間に弾で埋め尽くされた。
ほむら(停止解除)カチッ
銃撃、雷撃、歯車、そして100発近い砲弾が命中し、ワルプルギスが一瞬で爆炎に包まれる。
さやか「うおおおっ、何!?」
ほむら「第2陣、攻撃!」
再びほむらの合図と共に、桜、杏子がタンクローリーを運んできた。
その2台を、ワルプルギスのちょうど真下を通る、高架道路へと停止させる。
桜「"火"(ファイアリー)!!」
星の杖から発生した業火が、タンクローリーごとワルプルギスを包み込む。
そして。
巨大な爆音と共に、巨大な火柱が立ち昇った。
さやか「や、やった!?」
マミ「いえ、まだよ!」
火柱の中に、今だその姿を維持している巨影が浮かび上がる。
相当な量の攻撃をしたというのに、全く効果が無いようだ。
杏子「チッ、だったら!」
小狼「佐倉、美樹、接近して攻撃だ!!!」
地面に墜落したワルプルギス目掛け、小狼とさやか、杏子が走っていく。
遠距離でダメなら近距離で、と思ったのだが。
桜「な、何あれ!」
ワルプルギスの体から伸びた無数の触手が、全員へと襲い掛かる。
触手の先端はそれぞれカタチが違い、ある物はヒトの姿、またある物は他の動物の姿をしていた。
杏子「くそっ、これじゃ近寄れねぇ!」
マミ「援護するわ、ティロ・フィナーレ!!!」
桜「我に仇名す者を束縛し、排除せよ!"風"(ウィンディ)、"雷"(サンダー)、"撃"(ショット)!!」
マミと桜の攻撃が、ワルプルギスの触手を次々となぎ払う。
その隙を縫い、小狼、杏子、さやかがワルプルギスへ接近する。
小狼「せぇぇぇっ!!」
さやか「うりゃぁぁぁぁぁ!!」
杏子「喰らえぇぇぇぇっ!!」
3人の影が1つとなり、一斉にワルプルギスへと斬りかかる。
今度は効いたのか、ぐらり、と、ワルプルギスの動きが鈍った。
桜「行ける!効いてるよ!」
ほむら「立て直す隙を与えないで!このまま押し切るわ!」
もちろん、ワルプルギスも黙ってやられてくれる筈もなく、再び無数の触手で襲い掛かってくる。
だがそれ以上に、彼女達の総合力が遥かに勝っていた。
この日の為に綿密に練った計画。
この日の為に大量に集めたグリーフシード。
更に異界からの助っ人も相成って、戦局はかなり有利に進んでいった。
ほむら「いける・・・、これなら!!!」
---
--
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QB「彼女達は負けるだろうね」
見滝原の人々が避難している総合体育館。
そこに避難していた鹿目まどかの前に現れたキュウべぇが、そう告げる。
まどか「・・・そうせ、私に契約させる為のハッタリでしょ?」
QB「いいや。本当の事さ。"今までの"ワルプルギスならば、倒せていただろうけどね」
まどか「"今までの"・・・って?」
QB「今まで僕が吸収してきたグリーフシードの穢れ。・・・言い換えれば、それは絶望のエネルギー」
魔法少女が自分のソウルジェムの穢れを吸い取る際に使用するグリーフシードは、吸える穢れにも限界がある。
限界まで穢れを吸ったグリーフシードは、やがて孵化して魔女となるのだ。
しかもそうやって生まれた魔女は、元よりも遥かに強力になるとの事。
それを防ぐ為に、限界まで穢れを吸ったグリーフシードは、彼らインキュベーターが処理しているのだ。
QB「そのエネルギーを、ワルプルギスに与えてやったのさ」
まどか「そうすれば・・・どうなるの!?」
QB「かなりの量のエネルギーだったからね。ワルプルギスでさえもそのエネルギーを制御するのは難しいようだ。
でもワルプルギスが弱り、エネルギーの制御力が落ちたとき」
QB「絶望のエネルギーは一気に解放され、この街一帯を吹き飛ばすだろう」
まどか「そんな、嘘・・・!!」
QB「言っておくけど、僕は嘘はつかないよ」
まどか「・・・」
QB「さぁ、後はキミが決めてくれ。ここで大人しく吹き飛ばされて死ぬか、それとも・・・」
まどか「・・・私は」
その瞳に、決意という名の灯が灯る。
その足で、まどかは暴風吹き荒れる市街地へと向かっていった。
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半壊した市街地。
各所には戦いの跡とみられる残骸や、残り火が燃えている。
その中で、彼らはまだ、戦い続けてる。
ほむら「木之本さん、巴さん、3時の方向、触手が来るわ!」
マミ「オーケー、こっちは任せて!」
杏子「さやか!もっかい接近して攻撃だ!」
さやか「わかった!李君、援護よろしく!」
小狼「わかった、"風華招来"!」
かれこれ1時間以上は戦い続けているだろうか、全員の顔に疲労の色が浮き出ている。
だが、誰もがまだ諦めてはいなかった。
全員の目からは、希望の炎はまだ消えてはいなかった。
マミ、ほむら、桜の遠距離攻撃と、小狼、杏子、さやかの近距離攻撃が、ワルプルギスへ直撃する。
小狼「やったか!?」
甲高い悲鳴のような声を上げながら、遂に、ワルプルギスは地に伏した。
ドォォン!と衝撃音が鳴り、地面が揺れる。
そして・・・。
マミ「や、やった・・・の?」
さやか「勝った・・・!」
杏子「勝った・・・!?」
小狼「あぁ、俺達の・・・勝利だ!!!」
小狼の言葉をキッカケに、ドッと歓声が上がる。
2人で抱き合って喜ぶ杏子とさやか。
憑き物が落ちた様な顔で空を見つめるほむらと、その手を優しく握るマミ。
そして。
桜「・・・」
小狼「さくら?」
この喜びの中で、ただ1人、険しい顔をしている桜。
見覚えがある。
いつだったかは覚えていない。
灰色の空、半壊した街。
巨大な災厄に挑む、複数の影。
配役と人数に違いはあるが、桜はこの光景を知っている。
そして、次に何が起こるかも。
桜「!」
地面に墜落したワルプルギスが、ゆっくりとではあるが。
少しづつ、回転していた。
逆さまの体勢から、人間で言うところの正常の体勢へ。
桜「ダメ・・・!」
マミ「木之本さん?」
桜「皆、ワルプルギスを止めて!アレが起き上がったら・・・!」
杏子「あん?ワルプルギスがどうした?」
さやか「あれ、なんか逆さまからなおっていってない?」
桜「アレが戻っちゃうと・・・、皆死んじゃう!!!」
小狼「!?どういう事だ!」
桜「説明してる暇は無いの!早くアレを!」
ほむら「皆!最後の力で一斉攻撃!!!」
ほむらの合図で、各々が一気に攻撃をかける。
だが、遅かった。
ワルプルギスの姿勢が、"元"に戻る。
その、瞬間。
膨大なエネルギー塊が、ワルプルギスの頭上に出現した。
その色は、黒よりも黒い、漆黒。
さやか「な、何?あれ・・・」
小狼「あれは・・・魔女のエネルギーか!?」
QB「そうだよ」
それを聞いて、全員がキュウべぇの方を向く。
いつもの事だが、なぜコイツはいつも突然現れるのだろうか。
桜「・・・どういう事?」
QB「簡単な話さ。僕が吸ってきた穢れのエネルギーを、ワルプルギスに与えてやった」
ほむら「なんで・・・すって・・・ッ!!!」
マミ「なんでそんな事を、キュウべぇ!?」
QB「鹿目まどかを契約させる為さ。言っただろう?まどかを契約させる為なら、手段は選ばないと」
さやか「その為に・・・、その為だけに?」
鹿目まどかの契約。それさえ果たせれば、彼らインキュベーターはこの惑星のノルマを達成できる。
その為であれば、この惑星の住人の生命など知った事ではないと言う事。
小狼「貴様・・・!」
ほむら「インキュベーダァァァァァッ!!」
ほむらが手にしたサブマシンガンを発射、キュウべぇを文字通り"蜂の巣"状態にする。
だが無駄だ。彼らの固体1つを殺したところで、次の固体がやって来るだろう。
マミ「あんな巨大なエネルギー、どうやって・・・」
ワルプルギスの頭上に膨れ上がっている、漆黒の球体。
遠目では解りづらいが、直径10メートルくらいには膨れ上がっている。
マミやさやかが攻撃をかけてみるが、全てあの球体に届く前に消滅してしまった。
さやか「そんな、ここまできて・・・」
杏子「このまま黙ってやられるのを待てってのかよ・・・クソ!」
桜「・・・」
小狼「クソ・・・!」
ほむら「今回も・・・ダメ、なの?」
まどか「大丈夫、だよ」
優しい声がした。
さやか「・・・」
それは、いつも一緒にいた、親友の声。
マミ「・・・」
それは、自分のことを慕ってくれた、後輩の声。
杏子「・・・」
それは、親友の為に平気で無茶をするが、何だかんだで放っておけない奴の声。
桜&小狼「・・・」
それは、この世界に来て出来た、友達の声。
そして。
ほむら「まどか・・・」
必ず守ると誓った、一番大切な親友――鹿目まどかの声だった。
まどか「諦めないで、皆」
瓦礫の上をよたつきながらも、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
髪はくしゃくしゃで、靴もソックスもずぶ濡れだ。ここまで全速力で走ってきたのだろう。
さやか「まどか!何でここに!?」
杏子「ここは危ない!・・・いや、もうどこにいても同じか」
マミ「・・・ごめんね、鹿目さん」
全員の目からは、希望の光は消えていた。
代わりに広がるのは、絶望の闇。
・・・2人を除いては。
桜「・・・そうだね。まだ、諦めるには早い」
小狼「さくら・・・」
桜「だってこの時のために、皆頑張ってきたんだもん」
まどか「うん、絶対、大丈夫だよ!!」
その瞬間。
桜の持っていたカードの1つが、明るく光り輝き始めた。
小狼(あのカードは・・・!)
それは、美樹さやかを救った時にも光っていたカード。
小学6年生の時、エリオルの屋敷跡に建てられた遊園地で封印した、最後のクロウカードでもあった。
桜「だから私達は!」
まどか「諦めない!」
桜とまどかが、2人で"星の杖"を握る。
(BGM:カードキャプターさくら カードを継ぐ者)
"星の杖"が巨大化し、身の丈の2倍以上の長さとなる。
あれはいつだったか、神社でエリオルの魔法を打ち破ったときにも見た姿だ。
・・・いや、あの時よりも大きく、そして美しかった。
桜&まどか「"希望"(ホープ)!!!」
カードから発せられた光が、周囲一帯に広がっていく。
ワルプルギスの頭上にあった漆黒の塊は、その光を受けて萎縮し始めた。
だが。
桜(ダメ・・・魔力が・・・足りない・・・)
先の激戦で、かなりの魔力を消費してしまっていた桜。
"星の杖"から発せられる光が、次第に点滅していく。
しかし、その時。
小狼「俺も、手伝おう」
杏子「アンタらにだけ、良い格好させてたまるか!」
まどか「みんな・・・」
小狼、杏子、さやか、マミ、そしてほむら。
その場にいた全員が、"星の杖"に手をかける。
小狼「魔女が絶望の力なら」
マミ「私達は、希望の力」
杏子「どんな辛い事があったとしても」
さやか「明日を笑顔でいられれば」
ほむら「たとえ困難が立ち塞がっても」
まどか「私達は、1人じゃない!」
桜「だから、私達は諦めない。この希望で、絶望を打ち破る!」
見滝原総合体育館――
タツヤ「わぁ!おそときれー!」
知久「本当だ、何の光だろうね」
詢子「何だろうな、この光を見てると・・・あったかい気持ちになってくる」
早乙女「流れ星・・・?いえ、何かしら」
仁美「上条君・・・お祈りですか?」
恭介「うん。理由はわからないけど・・・誰かを応援したくなったんだ」
仁美「そうですか・・・。では、私も」
某所――
???「この光は・・・」
???「どうしたんだ織莉子?急がないと、明日までに見滝原に行けないぞ」
???「予知が、変わった・・・」
???「えっ、あの"最悪の魔女"が出る予知が!?じゃあどうすんの?」
???「・・・計画は中止よ。もう、大丈夫だから」
???「ふーん。織莉子がそう言うなら、大丈夫なんだろうね!」
見滝原市街地――
QB「な、何だこの光は・・・」
QB「鹿目まどかの因果と、木之本桜の魔力が融合している!?」
QB「それだけじゃない、彼ら全員の力が、それを更に増幅しているのか!」
QB「そしてこの感覚・・・、僕の、いや"僕達"の中で何かが生まれようとしている・・・!」
QB「暖かい・・・。そして、これは・・・」
QB「涙・・・?僕は、泣いているのか・・・?」
QB「あぁ、そうか・・・」
QB「これが、"感情"というモノなんだね・・・」
その光は、そのまま地球全土を覆いつくした。
木之本桜の魔力と、鹿目まどかの因果。
そして、その仲間達の力。
それらが合わさった、大きな"希望の光"は。
この地球上から、全ての"魔女"と呼ばれる存在を、消滅させた。
やがて光が収まり、"星の杖"が鍵へと戻る。
空を覆っていた雲がゆっくりと晴れていき、太陽の光が地上を照らし始める。
ワルプルギスの姿も、漆黒の塊も、跡形もなく消滅していた。
ほむら「終わった・・・?」
さやか「やった・・・!」
杏子「今度こそ!」
マミ「終わった!」
桜「やったーーーーーーー!!!」
まどか「わーーーーーーーい!!」
小狼「やったな!」
今、この瞬間。
見滝原を守る為の7人の戦いと。
1人の友達を守り続けた1人の戦いが、終結した。
そして。
まどか「あれ、何?」
ふと、まどかが何かに気づいたのか、ある方向を指差した。
マミ「あら、まさかとは思うけど、風で飛ばされてきたのかしら?」
その方向のさきにあったのは、半壊した建物の瓦礫の上。
そこの上に、本来そこにある筈の無い、とある人工物が建っていた。
そしてこの中で2人だけ、その人工物と、その間から見える景色に見覚えがあった。
桜「あれって・・・!」
小狼「月峰神社の鳥居・・・!その向こうにあるのは、友枝町だ!」
桜「じゃああの鳥居をくぐれば、友枝町に帰れるの?」
小狼「あぁ、間違いないだろう」
ワルプルギスの夜との戦いの後、突如出現した月峰神社の鳥居。
その鳥居の間からは、友枝町の風景が顔を覗かせていた。
マミ「何故、突然あんな所に出てきたのかしら?」
QB「それは恐らく、先程の魔法の余波によるものだろう」
そう言って、再び姿を現したキュウべぇ。
気のせいだろうか、いつもの無表情の中に、少しだけ感情が感じられる。
杏子「ノコノコ出て来るとは良い度胸じゃねぇか」
さやか「私達の前に出てきたって事は、覚悟できてるって事?」
QB「その通りだ。・・・今まで君達には、本当に申し訳ないことをした」
予想外のキュウべぇの謝罪に、一同が文字通り"ポカーン"となった。
ほむら「あなた、一体どうしたの・・・?」
QB「さっきの魔法の影響なのかわからないけど、僕達の中に感情が生まれたのさ。
ゆえに、これまで僕たちがして来た事に対する、君達の気持ちが理解できた」
彼らインキュベーターは感情を持たぬが故に、この惑星の少女達の気持ちが理解できなかった。
そして今、こうして感情を得た事により、始めて彼女達の想いを知ったと言う事か。
QB「償いにもならないけど、別のエネルギーの採取方法に切り替える事にしたよ。
君達人間の気持ちも考えた上での採取方法にね」
マミ「そんな方法があるの?」
QB「あぁ。魔女が消えた今、新しく呪いを生み出す存在・・・"魔獣"とでも呼ぶべき存在の出現が確認されている」
さやか「ま、魔獣ぅ!?」
QB「魔女は消えたけど、人々の負の感情が消滅したわけでは無いからね。
それが"魔女"に代わって出てきたって事さ」
桜「じゃあ、魔法少女は魔女じゃなくて魔獣になっちゃうの!?」
QB「・・・それも無いだろう。先程の魔法で、"魔法少女が魔女になる"という理そのものが変わったんだ。
だからソウルジェムが濁りきったとしても、精々魔法が使えなくなるか、精度が落ちるかの程度だろうね」
つまり、この世界では魔女はもう存在せず、これから生まれる事も無いと言う。
概念を書き換えてしまった"希望"のカードには驚いたが、それ以上にまどかの因果の力が大きかったようだ。
杏子「敵は居なくなった訳じゃ無い、か。やれやれ」
マミ「まぁいいじゃない。以前よりずっと気分が軽いわ」
QB「その魔獣を倒した際にも、少量だがエネルギーが採取できるんだ。
これからはそれを集めるという手段を取る事にしたよ」
ほむら「そう。じゃあまだしばらくは、貴方との付き合いも続くわけね」
小狼「まぁいいじゃないか。それにコイツも感情が生まれたからか、前より親しみを感じるぞ」
そう言って、肩に乗ったキュウべぇの頭を撫でる。
キュウべぇはくすぐったそうに、そして嬉しそうに目を瞑り、尻尾を振っていた。
小狼「それよりキュウべぇ、あの鳥居は友枝町と繋がっていると言う事で間違いないんだな?」
QB「あぁ。あれをくぐれば、その友枝町とやらに帰れるはずさ。・・・今だけは」
マミ「今だけは・・・?」
呟くように言った最後の言葉を、まどかが復唱する。
キュウべぇの声のトーンが低かったところを見ると、良い話では無さそうだ。
QB「要するに、2つの世界が繋がっているのは今だけって事さ。
現にあの鳥居も、次第に消え始めている。もってあと数分だろう」
鳥居を見ると、映画に出てくる立体映像のように、時折輪郭がブレはじめている。
つまり、2人が友枝町に帰れるチャンスは今しか無いと言う事だ。
さやか「ちょっと、どうにかして延ばせないの!?」
QB「先程の魔法のせいか、鹿目まどかの因果が通常に戻ってしまっている。
あの扉を永続的に固定するとなると、先程の5倍近い魔力が必要となる」
ほむら「つまりこの時を逃すと、木之本さん達は帰れなくなる、と言う事ね」
まどか「そんな・・・そんなのって・・・!突然すぎるよ!」
QB「木之本桜の最大魔力なら、一時的な"扉"であれば開くことは出来る。でも、君は次元移動魔法を使えないだろう?」
桜「そんなの使ったこと無いよ・・・、小狼君は!?」
小狼「俺も無理だ。そもそも俺の魔力じゃ、次元移動魔法を覚えてても使えないだろう」
QB「なんとかしてあげたいのだけれど、こればかりは僕にもどうしようも出来ない。
鹿目まどかの因果が消滅した今となっては、まどかが契約してもその願いは叶えられないだろう」
重い空気に、全員が黙って俯く。
しかし時間が待ってくれるはずも無く、鳥居のブレも大きくなっていく。
その時。
桜「皆、この1ヶ月、本当にありがとう!」
明るい笑顔で、皆に挨拶する桜。
小狼も彼女の意図を読んだのか、続けて言う。
小狼「クラスメイトに別れを言えないのは残念だがな・・・」
まどか「さくらちゃん、李くん・・・」ポロポロ
桜「もう、こういう時は笑って見送ってよ!」ポロポロ
杏子「そういうお前だって、泣いてんじゃねぇか・・・」グスッ
桜たちのいる友枝町と、まどか達のいる見滝原は、別の世界にある。
異世界を移動する手段でも無い限りは、彼らが再会する可能性はゼロだ。
つまり、これが今生の別れになると言う事でもあった。
さやか「結局、私を助けてくれた恩、返せなかったね・・・」
マミ「私も、あなた達がいなかったら、私はここにいなかったかもしれないわ」
小狼「じゃあ、1つだけ頼んで良いか?俺達の寮の後片付け、よろしく頼む」
最後の願いがそんな事?と涙声で突っ込まれたが、さやかもマミも了承してくれた。
まどかも、杏子も、皆が涙を浮かべつつも、笑顔で握手を交わす。
そして、最後に。
ほむら「・・・」
ほむら「・・・本当に何なのよ、貴方達は」
ほむら「突然現れて、散々引っ掻き回してくれて」
ほむら「終いには、突然帰るとか言い出して・・・!」
桜「うん、ゴメンね・・・」
ほむら「何で謝るの・・・?謝るのは・・・私よ・・・」グスッ
ほむら「私・・・、あなた達に何一つ、お礼も恩も返せて無いのに・・・!」ポロポロ
頬を伝った雫が、ひとつ、またひとつと、ほむらの足元に落ちてゆく。
整った顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらも、ほむらは2人から顔を背けなかった。
桜「・・・」ポロポロ
まどか「ほむらち"ゃぁん・・・」エグエグ
ほむら「あなた達が居てくれたおかげで、私がどれほど救われたか・・・!」
ほむら「私がとっくに捨てていた"諦めない"という気持ちを、あなた達は思い出させてくれた・・・」
ほむら「そして、私を永遠のループから救ってくれた!」
ほむら「それなのに私は、あなた達に何一つ、恩返しできて無い!」
ほむら「だから、これで永遠にお別れとか、言わないでよぉ・・・!」ポロポロ
桜「うん・・・!あたりまえだよ・・・!」
桜「必ずまた、会いに来るから!」
(BGM:カードキャプターさくら 希望の予感)
マミ「名残惜しいけど、もう時間も無いわ。鳥居が消えかかってる」
奥に見える鳥居は、そのブレの激しさを増している。
あの様子では、もう1分も持たないだろう。
桜「大丈夫!絶対にまた会えるから!」
まどか「本当だよね!?絶対だよ!」
桜「うん!絶対に次元移動の魔法を覚えて、また会いに来るから!約束!」
小狼「だからまた来たときは、お茶に呼んでくださいね。・・・マミさん」
マミ「・・・ふふ。そういえば李君に名前で呼ばれるのは、初めてかしら?」
さやか「おぉ!?浮気か李君、いけないなぁ~!」
小狼「な、違うぞ!?これは共に戦った戦友として・・・」
杏子「あーわかったから!もう消えかかってるぞ、早く行って来い!」
まどか「さくらちゃん、李くん!またねーーー!!!」
ほむら「絶対に・・・また会いましょう!」
鳥居に向かって走ってゆく2人を手を振りながら見送る、見滝原の5人の少女たち。
消えかかっている鳥居をくぐる瞬間、桜と小狼はもう一度、彼女達のほうを振り向き。
桜「じゃあみんな、またね!」
小狼「また会おう!」
笑顔でそう言い残し、鳥居と共に姿を消した。
さやか「そういえばさ、結局あの2人をこの世界に呼んだのは、誰だったのかな」
しばらく2人が消えた場所を眺めていた5人だったが、ポツリとさやかが呟いた。
QB「間違いなく、契約によるものだろう。それもかつてのまどかに匹敵する因果を持った者の」
杏子「そんな奴いるのか?いたとしてもどこにいるんだ?」
ほむら「まさか・・・」ハッ
まどか「ほむらちゃん?」
ほむら「・・・いえ、なんでも無いわ」
やがて、向こうからぼちぼちと人の姿が見え始めた。
嵐も収まった為、避難先から帰り始めている人たちだろう。
さやか「さて!私達も戻らないと!」
マミ「えぇ。じゃあ、また明日」
まどかとさやかは家族の下へ、他の3人はそれぞれの家へと帰っていく。
まどか「・・・また、逢えるよね」
きっと、近いうちにまた逢うだろう。
桜たちが消えた場所を眺めながら、まどかはそう感じていた。
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――1つ前の時間軸
QB『彼女だけでは荷が重すぎたんだ』
ワルプルギスの夜と戦うほむらちゃん。
でも、その姿はボロボロで、見るのも辛い。
まどか『こんなのってないよ。あんまりだよ・・・!』
この前、私に言ってくれた。
この1ヶ月をずっと繰り返して、私を救おうとしていてくれた事を。
でも、このままじゃほむらちゃんが死んじゃう・・・
QB『運命を変えたいかい?まどか。全てを覆せるだけの力が、君にはある』
まどか『本当に・・・?』
でも、私が契約したら、ほむらちゃんはきっと過去に戻るんだろう。
そして、また独りぼっちで戦い続けるんだろう。
まどか(ごめんね、ほむらちゃん・・・。もう一回だけ、私の我侭、聞いてくれるかな)
まどか『私の願いは・・・』
ほむらちゃんが、私に何か叫んでいる。
風の音で聞き取れないけど、きっと、契約しないで、って言ってるんだろうな。
ごめんね。でも、このままじゃほむらちゃん、ずっと未来に進めないだろうから。
まどか『私の願いは、ほむらちゃんが"次に戻った"時』
まどか『ほむらちゃんが独りぼっちで闘うことが無いように、ほむらちゃんを助けてくれる人を呼んでください』
QB『戻る・・・?よくわからないけど、それが願いなんだね?』
私は、力強く頷いた。
この願いで呼ばれた人へ。
私の自分勝手な我侭で、貴方を困らせることになってしまって、ごめんなさい。
でも、出来ることなら。
私の大切な友達を・・・助けてあげてください。
それが私の、たった1つの願い事。
―完―
駄文失礼しました!これにて終了です。
思った以上に長くなってしまい、すみませんでした・・・。
ツッコミどころ、似通った文章や、どこかで見たような表現等があるかもしれませんが、ご了承ください。
ここまで読んでくれた方いましたら、ありがとうございます!
動画のリンク?がよく解らなかったので、BGMは興味があれば検索してみてください。
キャラ崩壊してる部分もあるかもしれませんが、暖かい目でお願いします。
乙したー
無敵の呪文は最強ですな。
このSSまとめへのコメント
とんでもなくうまく出来てる!まさかあのhopeを使うとは…!
本当にいい意味でのハッピーエンドだった
すごく上手くまとめてあるのにPV数がどん底に少ないな…
面白いのに全然伸びねーな…
まどマギは作品自体は有名だけど、ssの中ではあまり知られてねえんだな…
PV数が…こりゃひどい…
very good!
良いSSだった
ファンタスティック!!
初投稿でこの出来の良さ、ホントすごく感動しました!
マミに仲間を、杏子に友達を、さやかに守る強さを、ほむらにまどかを…
みんなが望むendがあってもいいですよね。いいSSでした。感動しました。
前の時間軸のまどかの願いに鳥肌が立った!
こりゃもっと伸びるべきだよ!
めっさ面白かった。
CCとまどか好きな俺得すぎる。
内容も酷いからコメも自演にしか見えん
素直に面白いと言えない人がいるなんて残念だよ…
数あるまどマギssで文句なしの面白さなのに…
ssもコメントも気持ち悪い
※14
すいません、アンタのほうがキモいです
自演気持ち悪
糞SSらしいや
何この作者の自演祭り
こんな駄作に縋るなら面白い物書けよ
※17
アンタまた来たの…
嫌いなら来んなよ
伸びてると思ったからきたがつまらん
何だこの駄文…
これ連投で高評価しまくってる奴はQB「うわぁあああああああああああ」で低評価しまくってる奴と同じだな
こいつ他のSSでもやってるが情報垂れ流しで何やってんだ
この作品の評価を下げる奴って妬みなのかな?
ここまで連投して評価を上げるとか重大なマナー違反
作者、他の作品が高評価されていたからって妬むなよ
他を下げてこれを上げても現実は変わらないぞ
※22
こんなやつが来るから困る…
作者じゃないだろ
絶賛してるのは全部別人だよ…
こんな名作を素直に面白いと言えない、まどマギを愚弄してるようなやつは来るな!
※21の方が言われてるように妬んでるんだろうけど
※23
同意
作者だなんて絶対にありえないし、妬みだろうね…
悔しかったら、これだけの方に評価されるほどの名作を書いてみろ
なんだこのBLタグx36は??
このssにBL要素は皆無だぞ!
適当にタグ付けるなよ!!
ここID出るようになったのかワロタ
まさに評価されるべきなのに全然評価されてないSSの代表例だな
適切な評価がなされている代表だな
う~ん、まどマギのssって他に比べあんまりPV数伸びないな…
相変わらずこのssに低評価入れてる奴いるんだな
相当目の敵にしてるんだな
まぁ、低評価してる奴は大体検討つくが
つまらないから納得だわな
まどマギの世界にhopeのカードがあったら絶望なんて霞んでしまうわな…
虚淵さんが脚本したまどマギでも、1つ前の時間軸でまどかが叶えた願いを何らかの形で絡ませてくれば一段と面白くなったかもね
もっとも、あの人はハッピーエンドにする気は全くなさそうだがww
ホープ万能説か、堪能させていただきました
あと、未だにせっせと評価をひたすら下げるバカがいるんだね
どんなに評価を下げても評価数が半端無いから逆に注目されやすくなって見に来る人も増えると思うんだけどね…
まぁ、評価の高さ=作品の良さじゃないしな
間違えた、未だにせっせと評価をひたすら上げているバカだった
これでも高すぎだけどね…
↑こいつだな、アホみたいに評価下げてるバカは
逆だ
アホみたいに評価上げてるバカだろ
ほらほらまた上げてみろよ
大勢からまた適切な評価が下されるだけだけどな
大勢って、低評価してるのはアンタ1人だけだろ?
知ってるよ、アンタがまどマギの糞ssの作者だってことは
いくら自分の作品が評価されないからといって八つ当たりは良くないぞ
まずはもう少しまともな作品を書くとこから出直しな
まともに評価されない糞ssの作者ご苦労さん
現実見なよ
お前が書いたのはこの程度しか評価さらないんだよー
いつまでもこんな駄作に縋ってないで先に進めばぁ?
こんな駄作しか書けないヤツには永遠にまともな物は書けないだろうが
あ、他の人と同じように俺もこの糞駄作大嫌いだから
うむ!なかなか良いハッピーエンドだった!
こんな時間軸もあったら良かったのにね…
過程もオチもクソ以下!
作品を侮辱しているだけ
こんなのが存在していること自体が間違いだ
☝くそワロタww
間違えた
ここから三個☝くそワロタww
*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*
どうしてこうならなかった…
まどマギもCCさくらも両方好きな自分にとって最高なSS
馬鹿の妄想にしても酷すぎる
まどマギもCCさくらも両方好きな自分にとって最低なSS
※45←こいつだろ、馬鹿みたいに評価下げたやつは
この作品をこき下ろしてるのまず間違いなく同一人物だな