ゆっくり死んでいく世界(22)
死後の世界ってどんなとこだろう。
天国はあるんだろうか?
地獄はあるんだろうか?
それとも、そんな世界なんてやっぱりないのか。
生きている間に、こんな事をまったく考えたり
しなかったわけじゃない。
でも、考えても仕方ないもんだとも思ってた。
だって、死ぬのは当分先だと思っていたから。
けど、どうやら俺は死んでしまったらしい。
物をつかもうとすると、すり抜けてしまうこの身体がいい証拠。
やれやれ困ったものだ。どうしよう。
一人、のほほんと宙に浮く。
あぁ、さすが幽霊、便利なもんだ。
非行少年ならぬ、飛行少年ここにありってね。
ところで。
そろそろ現状を認識し始めている俺のもとには、
天使だか悪魔だか、はたまたあの世からの使者
なんかは来てくれないものなのかね。
いつまでこうしてれば良いんだよ。
出来たら巨乳で美人な天使か悪魔、
もしくは和服が似合う使者だったら
最高なんだけど……。
間違っても男がやってくるのだけは勘弁願いたいもんだ。
……。
おい、いいかげん出てこいよ!
このままじゃ自縛霊になっちまうぞ!
叫んでみたものの、誰かがやってくる気配はとんとない。
いや、さっきから色んな人がこの道にやっては来ているんだが、
そういう意味じゃなくて、 あの世からの使い的な、導いてくれる
人的な、ね……。
あれ?
もしかしてコレ詰んだんじゃね?
自縛霊確定コースじゃね?
スカウト漏れじゃね?
おい、俺は死んでるぞ!
幽霊だぞ!
さっさと俺をあの世に連れてってくれ!
誰の耳にも聞こえない声がむなしくこだまする。
……詰んだ。
まさか死んだ後までこんな展開が用意されてるなんて……。
生きてる間の人生もほとほと詰んでいたけれど、死んだ後も
詰んだ状態になるなんて、俺ってスゲー。
「はぁ…」
でかい溜息を一つ吐く。
こうしてこのままここに居ついてたら、本気で自縛霊に
なっちまいそうだし、出かけようかな……。
俺はどんなに待っても来てくれそうにない、あの世からの
使いを諦めて、一人旅に出る事にした。
なぁに、死んでるんだから食事の必要もないし、電車やバス
だって乗り放題だ。
せっかくだから、生きてた頃は出来なかった旅行でも
して満喫しよう。
その内、旅の途中で俺みたいな幽霊に出会うかもしれないしな!
旅は道ずれ、世は情け。地獄の沙汰も金次第!ってね。
金なんか持ってねーけど、ま、なんとかなるだろ。
そう思い立つや否や、ふわふわと空を飛びながら駅を目指した。
まずは西の方にでも足を伸ばすか……。
んで。
ほどなくして駅に到着。
駅前はさすがに混んでいて、昼間だというのに若者で
あふれかえったいた。
こいつら、学校はどうしたんだよ。
呆れながら駅の構内を見まわしていると、やけに影のうすい
おっさんを発見!
なんか、やたらブルーなんだけど。
おっさんの周りの風景も一緒にぼやけて見えるし。
おっさんの周りの人たちは、そんなおっさんには
目もくれず、歩いていく。
薄情な奴らめ。
まあ、かと言って俺も別に声を掛けようだなんて……ん?
あれ、いまのオバサン、おっさんをすり抜けなかったか.。
……少し場所を変えて目を凝らす。
一人、二人、すり抜ける。
間違いない。
あのおっさん、幽霊だ。
なんだなんだ。
幽霊探す旅に出かけたと思ったら、第一号は冴えない
おっさんか。
幸先悪いなぁ、もう。
美少女くらい黙って用意出来ないのか、こんちくしょう。
一通り悪態をついてからおっさんに近寄った。
なんだかんだ言っても、話が出来る相手は貴重だし。
よう!
「……俺はダメだ。もうダメだ……もう、ダメなんだ……」
けれど、おっさんは俺の挨拶に見向きもしない。
一人でぶつくさ呪いのように、たわ言を繰り返す。
女風呂覗き放題だな
よう!
二回目。
これでダメならおっさんはスル―しよう。
「ん、あぁ君は……わたしに何か用かい?」
たった二回目で反応返すなよな。
やっぱ聞こえてたんじゃん。
おっす、おっさん!
俺も幽霊だ。よろしくな!
「え……幽霊?きみ、なに言ってんの……?」
おっさんは俺のあいさつに驚いたのか、面喰っている。
しかし俺も引き下がるわけにはいかない。
せっかく見つけた幽霊第1号なんだ。
意地でも会話を成立してみせるぜ!
いや~~~、だからさ。俺達死んでんじゃん?
で、他の幽霊でも探そうかなと思って旅に出たワケよ。
そしたら駅でおっさんを見つけて……。
「??????」
俺が懇切丁寧に説明してやってるというのに、
不思議そうな顔をするおっさん。
なんか痛い子見つけちゃいました、的なそんな感じ。
でもね、俺もそこまでバカじゃないですから。
鈍くないですから。
この反応見てピーンと来ましたよ。
ああ、このおっさん、自分が死んだ事に気づいてねーんだな、と。
さて、どうするか。
1。おっさんをスル―。頑張ってねと台詞を残し、そのまま
電車に乗る。
2。おっさんに既に死んでいると告げる。そして旅に同行させる。
さあ、どっち?
……。
迷う必要なんざねェ。
仮に俺がこのおっさんに告げなかったとして、
いずれは気付く。
だったら、おっさんが気付くそのときに誰か傍に
いてやった方が良い。
自分がすでに死んでいるなんざ、死んだことも
分かってない奴にとっては酷な話だ。
よし!
おい、おっさん!
「な、なんだい?」
ちょっと、そこの銅像触ってみてよ!
「???」
いいから触れって!
俺に言われて、おっさんは渋々銅像に手を伸ばす。
けど、手の先は……。
「…………え?」
予想通り、すり抜けた。
「え、うそ?なに、コレ?」
おっさんは面喰って何度も銅像に触れようとする。
しかし、
「うわっとと……」
そのたびに、虚しく空を切る。
触れない。
どうだ、おっさん!
これで分かったろ!
「あわわわわ……」
にしししし。
「わ、私はまさか超能力者なのか?」
あ、そういうボケは良いです。
「ああ、いや、すまん。つい……って、えぇぇぇえええ
えええええぇぇぇぇぇえええええええっぇぇぇぇぇ!?」
……。
「手がっ!?はぁっ!?なんで!?」
銅像を掴もうと躍起になるおっさん。
しかし、相変わらず掴むことはできず、手は虚しく空を切る。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」
おっさん、気はすんだかい?
優しく声をかけるオレ。
「おいぃぃぃ!?これはどういう事だぁぁぁぁぁぁっ!?」
あっ、まだパニクってる。
どうすっかな……。
「誰か!誰かぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「もしも~~~~~~し!!!」
なに叫んでんだよ、ったく。
とりあえず落ち着くの待つか。
時間はたっぷりあるしな。
で、30分後。
気はすんだかい?
「私は……死んだのか」
御名答!
「なんで……なんで私は死んだんだ?教えてくれ!」
いや、そんなの俺に聞かれてもな。
この幽霊やけにポジティブ
こういうの好きです
期待
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