「インデックス、わかる?」
「神様に喧嘩を売るのが仕事なの。だから、私は、アンタのすべてを否定する」
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灰色の風景だった。
私の前には今、交差点があこの街に住む学生たちが、何かを考え、歩いている。
彼らの瞳にはそれぞれの景色があって、それぞれの彩度があるはずだ。
くすんでいるのか、鮮やかなのかはわからない。
デカルトが言っていたそれと同じ。
私に見えているのは、現実と名付けられた真実だけ。
そしてその真実とやらは、どうやって目をこらしてみても、灰色にしか見えない。
たとえば後輩が訳の分からない理由で絡んできたら、一発電撃をお見舞いする。
それ自体はある意味ジョークで済む(少なくとも私はそう思っている)。
済むのだけれど、どうしたって心の中のモヤモヤが消えない。まったくスッキリなんかしない。
意識をしなくても眉毛がおかしな方向で、おかしな角度を形成してしまうし、言葉も少しきつくなる。
何が言いたいのかというと、心の余裕がなかった。なぜか。そんなの知らない。わからない。
「おなかがすいたんだよ」
「はい~?」
イライラするを通り越して、処理不能。
「あなた、優しそうだね。それにとても綺麗」
「まてまて」
いろいろと順序をすっ飛ばしている。いちいち説明するのも面倒だ。
「あのね、常識って、わかるかな」
「ジョーシキ。わかるよ。common sense」
「そう。ここはjapanのtownで、私はstudent。そしてあなたは多分だけどsisterよね」
「うん。私の名前はインデックスっていうんだよ。
あれ、あなたって英語ができる人? may i have your name?」
「いやいやそうじゃなくてね」
落ち着こう。今こそこのイライラから開放されて、ジョーシキある大人のstudentとして、
この正体不明の自称シスターとcommunicationを取らなくてはならない。
「まずね」
私は人差し指を立てる。すると自称シスターは物珍しげに私の指を見つめた。
こういうジェスチャーは珍しいのだろうか。
「私はこの街の学生で、今は登校中なわけ。あなたがお腹を空かせているという事実はわかったんだけれど、
残念ながら私にはこれから行かなくちゃいけない場所があるの」
「そうなの? どこに行くの?」
話をちゃんと聞け。
「えーっとね。あなたの国の文化はわからないんだけど、
応私が住んでいる国ではね、学生は学校に行くの。
そしてここは学生の街、学園都市なの。
私はこれから学校に行かなくちゃいけなくて、あなたの空腹を満たしてあげる時間は、
ちょっと厳しいというかどちらかというと面倒だから早くお引取り願いたいと思ってるのね」
「な~る~ほ~どぉ~」
「申し訳ないけど」
インデックスと名乗る自称シスターは、心の底から納得してる様を私に見せてくれた。
異文化コミュニケーションなんて旅行に行ったときか、学校の授業でしかやったことない。
それでもやはり誠意をもってすれば何事も成るようだ。ここらへんは両親の教育に感謝したい。
「私はね、おなかがすいたんだよ」
通じてなかった。
「それより私は名前を名乗ったんだよ。あなたの名前も教えてくれるとうれしいかも。
日本人は礼儀作法を重んじるって、本に書いてあったんだよ」
この娘、交渉術も心得てやがる。
「いいわ、わかった。私の名前は御坂美琴。この街の学生で、中学二年生よ。これでいい」
「だめ」
「結局どうあがいても、あなたは私からご飯をせびる気なわけ」
「そういわれると悲しいんだよ。私も隣人愛を説かないといけなくなるんだよ。下世話な営業トークを展開しなくてはならなくなるんだよ」
「まったく」
どうやら運命ってやつらしい。それもそうだ、薄々感づいてはいた。
灰色の空の下で、純白の修道服を着た、奇妙なシスターと私は出会った。
そして妙に世慣れしているその少女は、現在お腹をすかせていて、
道案内とかそういう短期的な付き合いではどうにも対応できそうにない。
演じてるわけじゃないけど、イイヤツって大変だ。
「いいわよ。学校は諦める。遅刻なんて久しぶり」
「わあ。ありがとう、みこと」
ちょっとかわいい。困ったな。
インデックスと名乗るシスターと私は、その足でファミレスに入った。
遅刻は久しぶりだと言った。でも、意図的にサボるのは多分生まれて始めてだった。
不思議と、サボタージュに対する罪悪感はまったくといっていいほどなかった。
「おいしい?」
「うん」
とにかくよく食べる子だった。
別にこの程度の食事で私の財布が傷むことなどないので、一向に構わない。
銀色の髪の毛が背景に溶けて揺れる様が、星空に漂うオーロラを想起させた。
「はあ。それ食べたら解散でいいの」
「む。みことはまだ隣人愛がわかっていないようだね。悲しいんだよ」
「あんたの言う愛っていうのは、ハンバーグにかぶりつきながら健全な学生からお金をもぎ取る行為なわけ」
「違うもん」
どう違うんだか。
銀髪に修道服。こんな格好で、よりにもよってこの街に来るなんて、どういう神経をしているのだろう。
ここは、科学の街だ。科学というのはつまり、理性の街。
誰かが言っていた。
【科学は疑うことから始まり、宗教は信じることから始まる】
私は自分とは属性の違う人間に対して、それだけの理由で特別な感情は抱いたりはしない。
水と油。月とスッポン。立場が違うだけ。そして私は、彼らの信じているものを疑うというだけ。
「戦争がなくならない理由みたいよね」
「む?」
「なんでもない」
アイスティーが、間を埋めるように氷で相槌を打った。
「それで? この街には何の用? 布教活動ならやめといたほうがいいんじゃない」
「そういうのじゃないの。ううん。ご飯食べさせてもらったし、私のことちゃんと教えるね」
「あのねインデックス。普通はそっちが最初なの」
インデックスは特に動じることなく続ける。ほほお、なかなかの合金メンタル。
「私の名前はインデックスっていうんだよ。見ての通り、教会の者です」
「ああそう。気がつかなかったわ。教会のシスターはご飯をせびるのね」
「いじわるなんだよ」
「ふう」
ファミレスの外には、相変わらず灰色の景色が広がっていた。
私は自分の経験が、知識に追いついていないことをよく知っている。
背伸びをすることの無意味性についてもよく知っている。
知っている、と言い切れることが世の中にそう多くはないことも知っている。
逆説的だが……。
私は頭がいいようだ。
灰色の景色の原因も、私が無意識に通しているフィルターであることはよくわかる。
そこに抽象的な要素がないような気はする。おそらく具体的な体験によって、この色は変わるのだ。
「そういう意味で言ったら、アンタって色があるかもね」
「む?」
「なんでもない。続けて」
インデックスは見た限り、私と年齢がそう違うようには見えなかった。
確かに海外の人間なのだけれど、瞳には私と同じ温度が通っていた。
「この街に来たのは私の意志じゃないんだよ。不可抗力」
「なにそれ」
「追われてるの。魔術結社に」
「すごいですねえ」
「魔術結社。マジックキャバルだよ。英語できるんじゃないの?」
さて、差し手に迷った。
「ここで適当に合わせて、はいさよならってのも出来なくはないんだけど」
そういう都合がいいようには、私の頭は作られていない。
ましてや、そこそこの時間をすでに使っているのだから、多少はこちらのエゴにも付き合ってもらう。
「まず確認するね。マジックっていうのは、あなたが信じているもののこと?」
「信仰とは別なんだよ。魔術は道具。信仰は腕」
「ふーん。魔術ってなに」
「魔術の定義? ううん、ちょっと話が長くなってしまうんだよ」
私は日本の『健全な』教育機関で育った人間として、この少女のことをひどく哀れに思ってしまった。
あまり褒められた感情ではなく、文明が少し遅れた人間を見下すような、まあ嘘偽りなく言ってしまうとそんな感情で彼女を測っていた。
少女は彼女が思うなりの、魔術論を展開してくれた。
科学の街で育った私にとって、それはよくできた妄想の範疇を越えるものではなかった。
生まれたときに、宗教に敬虔な家庭で育ったら、多分私もこうなっていたのかもしれない。
「つまりあなたがいう魔術っていうのは、超能力とはまったく別種の、
未知のエネルギーを利用した理論なわけね」
「未知っていうと語弊があるかも。知っている人は知っているんだよ。この街の、超能力と、一緒」
「一緒じゃないわ」
「一緒」
「違います」
そう、この街は超能力者の街だ。
表向きには学園都市と銘打って、脳開発を推進し、熱心に取り組んでいることになっている。
が、実態はそんなぬるいもんじゃない。
私は知っている。結論からいうと人体実験みたいなものだ。
多分、近い将来、誰かがその弊害の餌食になるときが来るんじゃないか、と個人的には警戒している。
かわいそうだとは思うが、そんなことは経験しなくてはわからないのだろう。人間なんて浅はかだ。
そんな私も超能力者の一人。おっと。これは二つの意味でだ。
「もう。いいんだよ別に。理解を求めてるわけじゃないし。さっきもね、
声をかけてくれた人に同じような話をしたら、顔をひきつらせてどっか行っちゃったんだよ。ぶー」
「そりゃこの街の人間にそんなこと話したらみんな逃げていくわよ」
「みことは何で逃げないの」
「逃げるまでもないことだから」
目の前にいる少女が、解析不能のエネルギー理論を扱えるスーパーエンジニアにはどうがんばっても見えない。
たとえそうだとしても、私の能力でどうにかならない人間は、今のところの人生で推定三人しか知らない。
四人目にこの娘がなるっての? 冗談じゃない。
「みことも超能力が使えるの」
「一応ね」
「へえ。すごい。どんなの。見せて」
「こんなの」
私は指先からアイスティーに電流を流した。
電子操作をして、陰極と陽極の働きを両手の指で作り出す。
あとは電解質以外のものに影響を及ぼさないように、空気中の分子量を瞬時に演算し、
適切な量の電流を流すだけだ。
「! 水がなくなっちゃったんだよ」
「なくなってはいないわ。見えなくなっただけ」
「なんで? どうして?」
少し意地悪をしたくなったのですることにした。
「魔術よ」
「え?」
「実は魔術師なの。今のは雷の呪文」
「ええええええ」
インデックスは目を輝かせている。あれ。
「すごいんだよ。私の脳内の10万3000冊の魔道書のどこにも、
そんな呪文は記録されてなかったんだよ!? 新発見かも。
世紀の魔術師と出会ってしまったんだよーーー」
「なわけないでしょ」
「ひどいんだよ」
インデックスは私が見る限り、普通の、外国人だった。
普通じゃないのは言動と信じているものだけ。そして、そのアブノーマルな要素は私と180度異なっている。
だけど、45度とか90度ではない。180度なのだ。ぴったり。きっかり。
私は無造作にテーブルに置かれていたスプーンを手に取り、眺めた。
へえ。どうやらあながち妄想電波女でもないらしい。
「冗談じゃないわねこんなの。イカれてるわ。どいつもこいつも」
「え」
「で、その追われている魔術結社とやらとあなたはどういう関係なの」
「……地獄まで」
インデックスは突然、感情の仮面を取り外した。
「地獄の底まで、ついてきてくれる」
冗談には聞こえなかった。
私はこう答えた。
「本気なら、地獄かどうかはアンタが決めることじゃない。
行ってから、私のこの頭で判断するわ。
言わせてもらうと、地獄だと言い張るなら天国に変えてあげる。
……ねえ、どんな事情かは知らないし、私とあなたはさっき会っただけ。
でも、私はあなたが普通ではないことを理解してる。
そして多分、あなたから見た私もそうなんでしょ」
「わかんない。難しいんだよ」
「難しくなんかないよ」
いつからこんな思考の仕方をするようになったのかさっぱりわからない。
思い当たる人間はいるが。
「ごめん。やっぱりなんでもないんだよ」
「私だってガキだけど馬鹿じゃない。事情は知らないけど、
アンタがすごく切迫しているのはわかったわ」
「いいの、忘れて」
「それは無理。だって、出会っちゃったもん」
「インデックス。私は魔術ってのは存在しないと思っているし、あんたのことも全然知らない。
でも、何か真剣にならざるを得ない事情があることはわかった。
あんたが助けを求めていることもわかった。
迷惑をかけたくないから、深入りしないように、
でも、どうしようもなくて本心が出ちゃったのもわかった」
「あとはこっちにどう踏み入るかよ。
一度踏み込んできたなら、誠意を持って答える。私はそういう人間」
「ありがとう」
表情を確認することはなかったが、インデックスの声が震えていた。
どうやら本気らしい。この少女は本気で魔術というものを信じていて、魔術結社とやらに追われていて、
そして、本気で私に助けを求めてきたらしい。
どうかしてるのはお互い様だ。差し伸べられた手を跳ね除けることは、どうやらたやすくない。
「しっかたないわね。何とかするわ。そういうわけだから」
呼吸を整えて、慎重に、それでいて熱を込めて言った。
「後ろのあんた。これからインデックスに用があるときは、私を通してもらえる?」
背後で物音がした。映画かっつの。
「よく気付いたな」
「うわあ、何その台詞。ださくてくさくてチープすぎて、話になんないわ。
ちなみにスプーンで確認したのは気付いてたわよね」
「ふん」
立ち上がった男は、インデックスと対照的だった。
黒。黒服の神父。これが一番しっくりくる。髪の毛は燃えるような赤色だった。煙草の残り香がする。
「ステイル=マグヌス」
「聞いてない」
「こちらの礼儀さ。もっとも」
頭の中でスイッチが入る音がした。シナプス間の連携が始まる。
ステイル=マグヌスが服からカードを取り出した瞬間にそれは起こった。
「Fortis931(我が名が最強である理由をここに証明する)。こっちを覚えて、そして死ね」
轟音と共に机が消失した。炎。
こんな街角のファミレスでぶっ放してくるところからして、頭のイカれ具合は上等だと思った。
とっさにインデックスを抱えて、空間に電磁場を形成する。狭い場所であれば、機動力には自信があった。
「まるでネズミだな。ますます駆除したくなった」
「インデックス。もう確認するまでもないけど、アイツがそうなのね」
「うん」
あの男が炎を操っていることに驚きはない。あれが魔術かどうかは、この際どうでもいい。
悪意を持って攻撃してきた。しかもこんな場所で。その事実さえあれば、男の裏側は知れた。
「やってくれるわねー。アンタ馬鹿でしょ。白昼堂々と放火行為? 初対面の私と殺し合いしたいわけ?」
「僕の目的は貴様が抱えているそれだ。障害は駆除する。唯一の意味だ」
冗談とか、かっこつけで会話をするタイプには見えなかった。
プロなんだな、と思った。単純に。
抱えているインデックスが小刻みに震えていた。
私はこのとき決意した。
「にしても場が悪すぎるっての」
すでにファミレスからは人影がなくなっている。
あと数分もすればこの街の警備員が駆けつけ、私たちは聴取を受けることになるだろう。
厄介だ。
ステイル=マグヌスは、さっきの攻撃で推し量るに、
私たちの流儀でいうところの発火能力を備えている。
推定レベルは5段階中の4以上。まともにやり合ったら被害が増えるだけだ。
「インデックス。大丈夫?」
「うん。ごめんね、全部私のせいなんだよ」
「何いってんの」
どう考えても原因はあの男だ。
「ステイル=マグヌスだっけ。いろいろ言いたいことはあるけど、まずは一言だけにしておくわ。
『くたばれクソ野郎』」
魔術師は私を無視して、炎を投げつけてきた(こういう表現が正しいのかは知らない)。
とにもかくにも、私は逃げることを優先していた。
単純に、何かを守りながら戦うのは得意ではないからだ。
これは感覚的な話。
私は空気中の電子を操作することができる。
即席の閃光弾をその場でお見舞いして、外に出た。
思いのほか成功して、私とインデックスはファミレスの裏路地へと飛び出ることができた。
追跡してこない。なんとなくひっかかったが、インデックスの安否を優先する。
「あなたはどうして狙われているの」
インデックスは答えなかった。
「地獄の底までのくだりなら、了承したわよ」
インデックスはうつむいてしまって、返答しない。
イラついたりはしなかった。
むしろ、彼女が抱えている問題は、私が想像するよりもずっと深刻で、
およそ彼女一人では背負いきれないほどに育っているようだった。
「話したくないならいいよ。でも私決めたから」
「さっきの話なら、忘れてとは言わないけど、どうか聞かなかったことにしてほしいんだよ。
自分勝手なのはわかってるけど、その、みことを巻き込むつもりじゃなくて」
「そういうのいいから。くだらない」
理性だけで判断できるのは、あくまで常識の範囲内だ。
異常事態に陥ったときに、こぼれおちた感情を否定するほど現実的になることはできない。
そういう育てられ方もしていない。
「場所を変えよう。ついてきて」
サボりは決定した。いや、それ以上に、いつ戻ってこれるかもわからないところに身を委ねてしまった気がした。
乗り換えを間違えて、急行列車に飛び乗った気分だった。終点まではノンストップだ。
ここから飛び降りようものなら、怪我では済まされない。
私という人間にとって、最も重要な部分を投げ捨てることになりそうだったから。
仕方がない。選択したのは私だ。誰を責めるつもりもない。
結論からいうと、私とインデックスはこの一件で、それぞれにとって大きなものを失うことになる。
そして、それぞれにとって大きなものを手に入れることになる。
人生なんてそんなものだ。中学生なりに悟ってはいるのだ。
ハッピーエンドとかバッドエンドとか、そういう手前勝手な解釈はやめてほしい。
これを読んでいるアンタたちに言いたいのだ。
事実を事実として語る。そこに、疑いがあるなら、この物語を科学すればいい。
私は、科学の力を信じている。
そしてこの文脈における科学とは何なのかと言われたら、これを機会に、私とインデックスの中で、それぞれの等価交換が行われたのだ。
大事なのは、どちらを選んだかということだけ。まったくもってそれだけである。
この2人好きだ
期待
本日はここまで。
どこまでやるの?
>>15
一巻の最後までやります。
一巻再構成か、期待
こういう詩的な文章は好き。
懐かしい作者さんが帰ってきてくれたなぁ
やばい嬉しい
ところで作中で出てきた美琴の能力でどうにかならない推定三人って誰のことだろ
上条さん、一方さん、垣根、もしくは軍覇かね
何か以前にもssを書いてた人?
美琴と上条さんの日記の人
確か美琴と白井が上条さん好きになる話も書いてたと思うけど、あれって結末どうなったんだっけ?
唐突な百合展開批判されて投げた記憶が
ああ、あの誰得な気持ち悪い展開だった奴か
乙 面白い 期待
期待
一方禁書・未元禁書・根性禁書に続くレベル5&インデックスのSSが始まったな。期待。
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私とインデックスは公園のベンチに座り込んだ。
さっきの魔術師、ステイル=マグヌスが私たちを見つけない可能性があるかというと、
どちらかというと見つかりやすい場所だ。
私は自動販売機でインデックスに飲み物を買ってあげた。
出会ったときの無邪気な彼女はもういなかった。
「みこと、私」
「うん、ゆっくり話して」
私はインデックスの隣に座り、遠くを見つめる。我ながら男前だ。
こういうのができる男、いないのか。
インデックスはいろんなことを話してくれた。
だけど、ちょっと話がぶっ飛びすぎてて理解ができない部分が多かった。
「ま、要するにあんたの脳みそを狙ってるってことでいいの?」
「うん」
それなら話が早い。私もこの街に住んで、大概、いろんなやつらに出会った。
中には悪意を持って近づいてきたやつもいる。本質的にはそういうヤツらと変わらない輩に、
この儚げな少女は狙われているってこと。
無償のボディガード。
いや、多分食費がかかるんだろうな。
「泊まるとこあるの」
「ううん」
「どうやって逃げ切るとか」
「ないよ」
「じゃあどうする気だったのよ。私みたいなヤツ捕まえられるまで、あの交差点で奇人を演じるの」
「捕まるつもりだったんだよ」
インデックスはため息をついた。降参の合図というよりは、本当にリラックスしているように見えた。
「私ね、魔術の知識はあるけど、ああいうふうな実用はできないの。魔力がないから」
「だから、捕まるつもりだったんだよ。日本にもあるでしょ、そういう文化。ハラキリ」
多分ブシドーのことだと思う。さっきの会話のどこかで、インデックスには完全記憶能力があると話していた。
どこかで間違った本でも記憶したのだろうか。
「だからハラキリするためにあの交差点にいたんだよ。そしたらね、みことがいたの。
私、これでもシスターだから。みことがすごく悲しそうな顔してたのわかった」
「お腹がすいてたんじゃないの」
「それもあるけど」
なんだかなー、と気が抜けてしまう。
どうしたものか。灰色の空はまだ変わらないっていうのに。
「ご飯ありがとう。やっぱり行くね」
「ちょっと」
「さっきの魔術師」
インデックスは灰色の空を背景に、私の画角の中心に立っていた。
そのときようやく気付いた。
純白。
私の世界の中で、唯一、美的に優れているカラーが配色されていたのは、この少女だった。
「あの人が悪いやつじゃないかもしれないんだよ」
意味がわからない。
哲学的な問いかけに答えるのは別に苦手じゃない。
色んな疑問符が沸いて出た。ほとんどは彼女のバックグラウンドに関してだ。
知った気になっていた自分が急に恥ずかしくなった。中学生という身分にもイライラした。
そういうことがわかる程度には知性があるんだろうけど、私が一番嫌いなタイプの大人のメガネをかけていた気分になった。
「さよなら」
止めることはできたかと言われたら、不可能ではないと思う。
しかし、私にはどうしても、それ以上言葉を紡ぐことができなかった。
★
「まずその魔術師ってやつの居所を教えろ。一発ぶん殴る」
これだ。
まあそういう性格の人間だということはわかっていたので、いいんだけど。
「わかってたらアンタに話さないっての」
「じゃあ何で話したんだよ」
「アンタが聞いたんだろが!」
放電する。挨拶のようなものだ。
「あれ。そうだっけ。そっか」
ばかばかしくなる。この男とは、はっきり言って付き合いが浅い。
浅いのに、こんなやり取りが少なくとも画になりつつあることは理解している。
この男との出会いは別に話したくはない。ナンパみたいなものだ。
みたいなものだ、というのは、一般的にいえば違うのだけれど、私の中ではそういう風に処理しているというだけ。
私たちは、見晴らしのいい場所で出会うことが多かった。
偶然にかこつけて、気付けばよく話していた。
「聞いちまった以上は何にもしないなんてできない、とか言わないでね」
「でもなあ」
「ったく。助けてなんていう台詞は、ほんとのほんとのときにしか言わないんだから」
顔をそむけて、横目で表情を伺う。困っている。そのまま困ってしまえ。
「そいつをさ」
「見送った理由なら、さんざん自分を責めたからやめて。だから今探してるの。
アンタと話してる時間なんかないの」
「だから俺も手伝うって言ってんだよ」
「それがイヤなの」
「なんでだよ。気遣ってるわけじゃないだろ。
プライドが許さないってのか。人の命がかかってるかもしれないんだぞ」
「アンタだけはイヤなの。そろそろ気付いてよばか」
情報は与えたから、後は勝手に動くだろう。
私はそれっきり、振り返らずに歩き出した。
★
学園都市という名前は、あまり好きではなかった。
教育機関というより研究機関で、しかも実際に行っているのは人体実験。私たちは脳みそを煮られているのも同然だ。
超常現象を意図的に創出して、サイキッカーを生み出す機関。私はその中でも上位に位置している。
とにかく街の中にいるあいつもこいつも、サイキッカーだ。
この呼び方は一般的ではない。実際には五段階の評価基準によってレベル分けがされている。
それでも、この街で私が受けた専門的な教育たちは、
およそオカルトと呼ばれるものたちを否定するに十分なロジックを構成していた。
歴史から見ても明らかだ。
不思議なものの存在を私が否定しているわけではなく、
不思議だと思うのはわからないからだという論理。
わかるようになれば、つまらない。人間はそういうことを繰り返して進歩してきた。
かつて虹の構造が科学的に分析されたときのように。
アスファルトが小馬鹿にしたような弾力で足にたてついてくる。
インデックスは、多分めちゃくちゃピンチだ。しかも今。
ますます立ち止まった自分を責めたくなる。しかし、
(言葉じゃ止められない顔をしていた)
直感的に、本当にそんな顔をしていたのだ。
年齢的には私と変わらないような子だった。経験値に差があるとしか思えない。
汗が滝のように頬を伝っている。これでセミの声でも入ったらやってられない。
私は立ち止まり、木陰に身を置いた。今頃学校ではちょっとした騒ぎになっているかもしれない。
私が通っている中学校は少々、というかかなり特殊な人種が集まるところで、自慢ではないが目立つ方の人間だ。
騒ぐような人物もアタリがつく。まあ、いまさらどうってわけでもないのだが。
私はとにかく頭をひねらせて、インデックスを探した。
あの子が行きそうな場所(と言っても出会ってからまだ数時間しか経っていない)はだいたい周った。
見つからない。焦ってきた。
ステイル=マグヌスの物腰からして、インデックスを見つけたら間違いなく行動にでるだろう。
昼間のファミレスでパイロキネシスをぶちかますような人間が、オチオチと拷問なんてするとは思えない。
ますますあの場で何も言えなかった自分を責めたくなる。
うわっつらの言葉でもいいから、行かせるべきではなかった。
一緒にいればどうにでもなった。
どうにでもなったのだ。なぜみすみす行かせてしまったのか。
「どうしました」
不意に声をかけられてはっとする。
誰だ、この女。
「どうもしないわよ」
「そうですか」
第六感が働いて、気付く。私と女は、数秒の間お互いを見つめ合った。
こういうときの打ち手は決まって、先手を取るのが私のやり方だ。
「そっちはもう見つけたわけ」
ふっかけでもハッタリでもない。深層心理の類の話でもない。
「ステイルは」
どうやら小賢しい手は使わないヤツみたいだ。
「必死だった、と弁明しておきます」
「あんまり聞きたくないわね。ただの言い訳よ」
「私は困っているんです」
女の身のこなしには一分の隙も存在しなかった。
決して体を硬直させてはいない。あくまで自然体の、脱力。
しかし動作ひとつひとつには、削ぐべき雑味が一切感じられなかった。
「筋を通したいのなら、犠牲にしなくてはならないことがあるのはわかっています。
しかし今回の場合は、通さなくてはならない筋が違っただけであるということも。
それでも、ためらってしまう自分。当然のことですが。
あなたを見ていて少し考えてしまいました」
ため息が出る。思慮に足らないただの馬鹿ならどうとでもなったのに、と。
だいたい、イイヤツとワルイヤツの二元論なんて現実には存在しないってことだ。
「あなたは頭も良いだろうし、思慮にも長けていることでしょう。動作でわかります。
ですから、こういった結果になってしまったことは残念です」
「礼儀を通したつもりなんだろうけど、あんまり響かないわね。一つ教えて。なぜあの子を狙うの」
「彼女を助けるためです」
女は抜刀する。
「神裂火織」
「御坂美琴」
コインを取り出して掴む。おそらく加減をしなくても大丈夫だろう。
「いい名前ですね」
「あんたのは派手な名前」
神裂火織は地を蹴って、飛んだ。
あの長剣が武器なら、接近戦は得策じゃない。
距離を保って根気比べをした方が速く決着が着くと即断する。
コインを早撃ちした経験はないが、手数の多さで黙らせるのが一番の方法に思える。
超電磁砲。誰がつけたのか知らないが、私の通り名。
説明は省く。要するに電気を使ったミサイルみたいなものだ。
一発目は空の彼方に消えていった。二発目は長剣で受け流された。
そして三発目は打てなかった。理由は簡単で、私が攻撃を受けるタイミングだったからだ。
(ワイヤーか……?)
「名前は七閃と言います。原理はあなたならすぐに理解するでしょう」
「そこまでの礼儀は求めてないっつの。ってかそれ、ナメてるだけでしょ」
筋が通っているんだか、なんなのか。とにかくこの女は、強い。とんでもなく強い。
技術的な部分と、パーソナリティが隣接している。互いの要素が有機的に結びついているのがよくわかった。
嫌いじゃない相手と戦うことも、嫌いじゃない。
相容れないのは、互いの主義主張が哀しいくらいにすれ違っているからだ。
「科学という観念そのものが、傲慢だと主張する人間を私は何人か知っています。
私は科学それ自体についてそうは思いません。
虹を見たときに、あなたが七色にそれを解体することもよしとする」
「そういう戦いを所望しているのなら、こっちも武器を変えるわよ。
オカルトなんてどうだっていいのよ、私は。
あの子を助けたいの。立場の違いであなたと戦っているだけ。
私たちは何と戦っているの。あなたもあの子を助けたいんじゃないの」
「その通りです。そして、あなたには助けられないと私は分かっているんです」
厄介だった。二重の意味で厄介だった。
表面的な科学の暴力性を訴えているボンクラとは訳が違う。
宗教上の、アンタッチャブルな領域に固執しているわけでもない。
純粋に、両者の性質を理解した上で、否定する。逆説的だが、極めて科学的な論法だと思った。
そして、この女の主張は、ある前提に基づいて構成されている。
私たち科学の人間の根幹に位置する矛盾。なるほど、そこをつかれたらという急所だ。
「科学について、高尚な知識を身につけてるのね」
「理解したなどというのはおこがましいですが、性質は知っているつもりです。そろそろいいですか。
議論はこの辺で」
「そうね。もうやめましょう」
私は回路を断ち切った。
「インデックスはどこ」
「私を倒しても場所はわかりませんよ」
「そんなの関係ない。あんたがいようといないと関係ないの。助けたいのよ。どうしても助けたいの」
「傲慢さは赦すと言いましたが、同情は赦さない。あの子を侮辱する結果になるからです」
言っていることがよくわからない。私は諦めた。
「武器をしまって。アンタのことはだいたいわかった」
神裂火織は顔色ひとつ変えようとしない。
「何かわけがあるんでしょ。あの子はただのヒロインじゃなくて、アンタたちはただの敵じゃない。
そうでしょう」
「わかったつもりになって話されるのが、一番腹が立つタイプの人間です、私は。
決着をつけましょう」
次の瞬間、私は振り返って背を向け、両手をあげた。
「それなら、どうぞ」
神裂火織の表情が確認できなくなったが、
多分目を丸くしてから、悟ったように笑うだろう。
「その指し手は……卑怯ですね。わかりました。認めましょう。
あなたは私のこともよくわかっているし、この噺の落としどころを探してくれている。いいでしょう」
「ごめんなさい、ただの熱血馬鹿の方がよかった? 頭いいのよ、私」
「ただの熱血馬鹿なら半殺しにしています。貴方のように振る舞うか、もしくは、超がつくほどの熱血馬鹿でないと」
どこかの誰かが頭に浮かんだが、それっきりだった。
「ついてきてください。貴方にはお話します」
さて。どうやら本題はこれからのようだ。
白昼、周囲の人間を巻き込まずにこれだけのことをしておいて、私は当たり前のように神裂についていく。
もはやため息も出なかった。
今日はここまで。
乙
無粋かもしれないけど超電磁砲は美琴自身が命名
>>35
ごめんなさい。恥ずかしい。死にたい;_;
乙 美琴と話す神裂さんは賢く見える
まあこの時点でパラレル的な設定なんだし、色々言った自分の方が無粋なんだけどね
続きも楽しみにしてます
ねーちんが魔法名名乗るかドキドキした
乙
これは、いいものを見つけた
続き期待します。
________________
「偽善者を連れてきたのか」
「私にはそうは見えませんでした。ステイル。あとの判断は任せます」
私が案内されたのは、学園都市御用達の、来賓用ホテルの一室だった。
一般的なビジネスホテルよりは少しランクの高さを感じる。
一体どんなルートをたどったらこんな怪しい連中が招待されるというのか。
「アンタたちオカルト連中は、この街と裏でつながっているわけ?」
「どこから説明しようか、困ってしまいますね」
煙草の匂いが鼻についたが、私は表情を変えなかった。
部屋にベッドは備え付けられておらず、生活感が手品のように綺麗に片付けられていた。
間接照明の灯りで、二人の表情は思ったよりも見えづらい。
駆け引きをするにはあまりいい環境とは言えなかった。
ステイル=マグヌスは窓側で煙草を吹かしている。
一方の神裂火織は、私から見てすぐそばにある腰掛けに座った。
「貴方はあの娘を助けたいと言っていましたね」
「そうよ」
「今でもその気持ちは変わらないと」
「そうよ」
「くだらない。神裂、時間の無駄だ。この女を僕と君で締め上げる。
口封じだ。あれについて、最後に話した情報も吐き出させる」
私はステイル=マグヌスについては一切無視することにした。
どうやら脅してるつもりらしい。くだらない。
おそらくこのやり取りは相手方にとっても時間の無駄だ。
「端的に申し上げましょう。あの子はもうすぐ死にます」
「死ぬ? それは、病気か何かってこと?」
「いいえ。まあ、ある種の体質によるものでしょう。
彼女が完全記憶能力を有していることはご存知ですか」
そういえば言っていた。個人的にはサヴァン症候群のようなものだと思っていた。
私の知り合いにも、一度見た数字を決して忘れない生徒がいる。
いつだったか、クラスで携帯電話の番号すべてを彼女に記憶させたことがあった。
一桁も間違えずに暗記し、しかも数字を見せたのはただの一回だけ。
正直なところ、他に目立った欠陥がないだけ不気味だった。
「あの子の体質です。一度見たもの、感じたこと、匂い、感触。
ありとあらゆることを記憶し、忘れられない。
私たちはあの子の昔なじみなのです。昔から、ずっと一緒だった」
「神裂。もういい。どけ」
「ステイル」
ステイル=マグヌスは吸っていた煙草を投げ捨て、私の方へゆっくりと体を向けた。
逆光でうまく表情が伺えない。
「部外者であり、偽善者の貴様に言っておく。貴様がやっているのは生命に対する侮辱だ」
「説法なら教会でやってもらえる」
ステイル=マグヌスが私の襟首を掴む。
「失せろ」
「嫌よ」
至近距離で見つめた瞳には、決意の炎が輝いていた。
「貴様に何ができるっていうんだ」
「できるかできないかは問題じゃない。何をするかよ。知った口利いて悪いけど。
部外者なんだからそれくらい許して」
多分私の瞳の奥には、稲妻は走ってはいなかったと思う。
「イライラさせる」
膨張した空気が、不意に安定して空間に馴染んだ。
私もステイル=マグヌスをため息をつく。
「完全記憶能力を有した彼女の頭の中には、この世界を複数回滅ぼせるくらいの情報が詰まっている。
『禁書目録』。国家レベルの機密事項のようなものだと思えばいい。頭の容量の85%を占有する国家機密。
一年に一度、彼女の記憶をリセットしなくてはならない。残り15%の記憶を守るために。
メモリーがパンクするからな」
「メモリーが、パンク?」
「そうだ」
「そのすっとぼけた理論はどこの誰が提唱してるの?」
「なんだと?」
冗談じゃない。こんなドがつく素人に人の頭を管理されたらこの世はおしまいだ。
私は急に怒りが吹き出して、気付けばステイル=マグヌスの胸ぐらを掴んで壁に叩き付けていた。
「ふざけんじゃないわよ」
ステイル=マグヌスはさっきまでのニヒルな表情はどこへやら、目を丸くしていた。
私がこんな行動に出た意味が本気でわからないらしい。
「偽善者だとか部外者だとか。
そんな大口叩く前にね、科学<やり方>くらいしっかり勉強してからここに来なっての。
アンタたちみたいな素人が、騙されるだけならまだいいわ。
その浅はかな知識で人の脳みそがどうとか、
科学ナメてんじゃないわよ」
「どういうことです? ステイルが何か……」
「アンタも。さっきは私に対してクソ真面目に説法してたけどね。
同じこと考えてここに来てんなら同罪よ。
許さないからね。こちとらこの街で三番目に優秀な頭でやらせてもらってるんだから。
いい? まず人の記憶は一年かそこらの情報量でパンクなんてしない。絶対にしない。
信じられないというのなら今から私の頭ン中かっさばいて、
10年分くらいの情報をインストールしてみせてあげるわ。
頭の後ろにコードを突き刺して学習する映画あったでしょ。あれと同じよ。試してみる?」
ステイル=マグヌスも、神裂も、圧倒されていた。
そういえば年頃はどれくらいなのだろう。私より年上に見える。
そうだとしても知ったこっちゃないが。
「そしておそらく、アンタたちにそのふざけた情報を流したヤツ。
大物なんでしょうけど、そいつは私が言った事実を熟知している。
あの子のために、一年という期間を設けて、
人体についての科学的な諸々を熟知した上で、あえてアンタたちを泳がせている。
国家機密を管理するとしたら当然よね。
単純なメンテナンス、情報漏洩の回避、情報のアップデート。
一年くらいで更新しなくちゃならないようなことはたくさんあるわ。
人的リソースとして有用な『禁書目録』をそうやって管理している」
「すべて推測だ」
「推論ってのは事実に基づいて展開すんの。これが科学のやり方。
さて、ここからが本題なんだけど」
私は掴んでいた手を離して、腰掛けた。
やれやれ。ようやくこちら側のフィールドに巻き込めたようだ。
「話して。魔術とは何。教会とは何。アンタたちの黒幕は誰」
「それを話してどうなる。当面、『禁書目録』が危機的状況にあることは変わらん」
「わかってないわね」
煙草があるなら吸ってやってもよかった。昔何かの映画で見た事がある。
こういうとき、スカしたキザなヒーローは煙草をふかせてかっこつけるのだ。
まったく、中学生にこんな上等な役を与えてくれたこいつらの神様とやらにはぜひともお礼が言いたい。
「こちら側のやり方でケリをつけてやるわ。
どうせあの子に緊急用の防衛プログラムくらいは仕込んであるんでしょ。
乱暴なやり方で解除してもあの子がもっと危険な立場に陥るだけ。
それなら手っ取り早く、黒幕から潰す。
心配しないで、人なら集められるから」
煙草も吸えない中学生の私は、コインを宙に投げて、掴んだ。
それが精一杯だった。そして、十分だった。
「私と本気でやり合いたいなら軍隊くらい用意してくれないとね」
あまり進まなかった。すいません。今日はここまで。
乙
みこっちゃんには最新鋭の軍隊とか相手にならないよなぁ
乙 これはいい意味で予想外
こりゃ御坂死んだな
続きはまだかな?
魔術とは何なのか。
思ったよりもあっさりと、その答えは紡がれた。
「魔術とは」
ステイル=マグヌスが口を開く。言い方を考えなければ、棒読みだった。
小学生に、当たり前の、一般常識を教えるように説いた。
私は顎に手を当てて、聞き入る。神裂は腕を組み、私から観て上手側、部屋の壁に手を組んでたたずんでいた。
「循環を生み出すことだ。A地点からB地点へと、よどみなく流れている一定の流速を、
術式を用いて派生させる。入り口と出口を生み出し、『流れ』を創出する」
そう言うと、右手の指先で何やら空に文字を描いた。
空中に炎が生まれる。科学の言い方でいうのであれば、パイロキネシス。
これが、魔術。
「自然界に宿る『流れ』は、秩序を保っている。A地点からB地点まで、一定の物量で、一定の速度で。
水道をイメージするといい。変化を与えるのに一番簡単なのは、
出口と入り口を操作することだ。雑な言い方をするなら、操作の仕方は何でもいい。
ある意味ではこうやって蛇口をひねる事でもあるし」
紙に何やら模様が描かれている。曰く、『陣』と呼んでもいいし、
『術式』と呼んでもいいそうだ。ステイルがそれを手を触れると、炎はより強く燃えさかった。
「ある意味では、流れを止めることでもある。
今は水量を多くした。基本はこれだ。すべての魔術はこの原理原則に基づいている。
『今ある現実に対しての変化』。これが魔術のすべてだ。
どんな荒唐無稽な術であっても、この原理原則なしでは語れない」
「『今ある現実に対しての変化』」
反復した。
私達の言葉で、『自分だけの現実』がある。
科学の原理。
「パーソナルリアリティは思い込みの力。量子理論を基にした、
可能性に頼った能力」
「可能性の話ではない。今、ここにある、現実に対して直接干渉する。
それが魔術。それがこの世界の、理(ことわり)」
すぐに懐疑的になるのが私たちの悪いくせだ。
直感的に疑問を感じる。
ステイルが述べる、『魔術』の理論は、ある前提に基づいて構成されている。
すなわち、世界の理(ことわり)が、観測者の絶対性に依存するか、相対性に依存するかだ。
「科学と魔術という文脈で話を進めるのならば」
私は全神経を集中して、頭脳を高速回転させる。
「その理論は相対性に基づいている。つまり、私が『そう』だと思わなくても、
事象が具現化する。言っている意味はわかる?」
「いまいちだな。どうも科学者のいうことは抽象的すぎてやってられん」
「ある意味では、そちらの理論の方が科学的ってことよ。
たとえば」
私は両の指を引き離して、電極を生み出した。
電位に差が生まれる。空気中の粒子が一定の流れを形成する。
「『これ』は。科学だけど、魔術じゃない。
なぜなら、『今ある現実に対しての変化』ではなく、『ここにない現実に対しての変化』だから」
「ふむ」
「私は確かに『流れ』を生み出している。だけど、蛇口をひねったり、水量を変えたりはしていない。
結果的にはそういうことになるのだけど。
根本的なものは、『電極がここにあるとしたら』という仮説。
それに基づいた、過信。思い込みよ。私という観測者がいて初めて成立する、絶対的なロジック」
「なるほど。我々のやり方でも雷を使った魔術は古来から多数存在する。
確かに、結果として同じでも、前提が違うな」
「そういうこと」
「私がその、えーと……『術式』を使って、自然界に干渉することは可能なの」
「できませんね。それを試みた人間はたくさん知っています。結果どうなったかも」
「どうなるの」
「最悪の場合は事切れます」
「なるほど」
俄然、魔術とやらに対して興味がわいてきた。
面白い。これほどまでに好奇心をくすぐるものはそうそうない。
「あなたたちは神……いや、この際なんでもいいわ。そういったものを信じているわけよね」
「信仰、という日本語とは若干ズレますね。なんというか」
「いいの。わかるわ。つまり……ええっと」
私は鞄からノートを取り出した。
図形を描く。
「今のロジックでいうとね。根本的にアンタたちが操っているものの正体は、私たちが操っているものと差がない。
でも、きっとそんな簡単な話じゃないはず。なぜなら私たちには神様がいない。
でも、アンタたちにはいる」
「次の台詞は、『神とは何か』。そういうことか、科学者」
「その通りよ。私だって、魔術なんてサラサラ信じちゃいなかった。
でも、アンタたちがただのオカルトマニアだとは最早思えないわ。
『いる』んでしょ?」
「……やれやれ」
「ステイル」
ステイル=マグヌスは立ち上がり、神裂に何やら合図を送った。
神裂は、何かを言おうとしたようだが、すぐに諦めて窓をしめた。
そして、やはり同じように腕を組み、ただずむ。
「『いる』か『いない』かと言われたら、当然答えは『いる』だ。
見せてやる。ホテルの火災報知機が暴れないといいが」
ステイルは台詞と共に、紙をばらまいた。
これは嘘ではなく、スローモーションに見えた。ゆっくりと舞い落ちる、紙。
間から見える、ステイルの眼光。
目を合わせたその瞬間、背筋が凍り付くのを感じた。
「魔女狩りの王<イノケンティウス>」
轟音と共にほとばしる炎。
ステイル=マグヌスの背後にまとわりつく、灼熱。
「脅しでもあまり見せない」
ホテルの一室が消し飛びそうなインパクトだった。
どうやら彼らがいうところの、『術式』が貼られているらしく、熱量は多分に遮断されているようだ。
「『これ』自体は神でもなんでもない。
だが、水道の蛇口を操作するのとはわけが違う。
応用編だ。貴様ら無知な科学の庭の羊に説明するのは本当に骨が折れる。
つまりは」
ステイルが、舞っていた紙の一枚を右手で握りしめる。
とたんに『魔女狩りの王<イノケンティウス>』と呼ばれたそれは、居場所を失ったようにもだえて、消えた。
「自然界の理(ことわり)に対する直接干渉。
さきほど貴様が言った、『パーソナルリアリティ』とやらに限りなく近いものだ。
だが、断じて絶対的なものではない。相対性を担保した、システマチックな、完成された理論だ。
水量を無理矢理補給する。ここではない次元から。
これを述べるとそれだけでひとつきはかかるんだがな。
高次元の存在にアクセスする。その<存在>に名前をつけるとしたら、何でもいいが。
『魔女狩りの王<イノケンティウス>』は高等魔術だ。なぜなら、水量の増幅方法が全く違うからな。
これも術式。
召還という言い方は、こちらではあまりしない。あくまで応用編だ。
いいか。魔術はちっとも不思議じゃない。
無知な貴様らから見たら、不思議に見えるだけだ」
私は圧巻して、そして感動していた。
魔術。何ということだろう。科学が500年かかってたどりつく領域に、もはや足を踏み入れている。
だが、致命的なことに、彼らには基礎がない。
サヴァン症候群の人間みたいだ。
すなわち、なぜそうなったかはわからないけど、理論的には圧倒的に正しい。
「こんなの、冗談じゃないわよ」
ステイルはベッドに腰掛ける。
私は開いた瞳孔がいまだ押さえきれないでいた。
「僕らの黒幕は、今見せたこれらを極めた人間だ。
もちろん、組織を統括するのだから政治力も飛び抜けている。
だが、そもそもが力量ありきの商売さ。魔術の知識は僕なんか比にならない。
そして、『禁書目録』が抱える知識はそれ以上に膨大だ。
先ほど述べたように、世界を何回壊してもおつりがくる。
そういう力を制御するための方法論や、知識やノウハウや、人的リソースなんざ腐るほど持て余している。
人格も、頭の回転も、貴様なんぞがゴミに見えるほどにな」
私は後半部分については、あえて無視をした。
「そいつの名前は」
「ローラ=スチュアート。イギリス清教の最大主教(アークビショップ)。
トボけた言動で僕もよく説教をする。おい科学者。
ここまで聞いて、後戻りしたいなんて言わないよな」
「何それ、脅し?」
ステイル=マグヌスは笑った。
無垢な笑顔だった。へえ、もしかしたら同い年くらいかもしれない。
「そんなんじゃないさ。これで僕も共犯だ。
裏切りはご免だね」
「冗談言わないでよ」
私は額から落ちる汗に気をとられないように、窓際で同じように笑う神裂を見つめた。
「あの子が地獄って言った意味がようやくわかったわ」
「天国に変えるんじゃないんですか」
神裂が皮肉を言う。心地よかった。
「どうだか」
電極を導いて雷を通しても、ちっともうまく放電しなかった。
ちっとも進まない。今日はここまで。
乙です
よく考えてんなーと思うわ
続きを楽しみに待ってる
「ローラ=スチュアート。そいつが親玉ってわけね。
話をつけにいかないと」
「待て」
ステイル=マグヌスはもう魔術師の仮面をつけなおしていた。
仕事が早い。さすがとしか言いようが無い。
「死ぬぞ。脅しじゃない」
「悪いけどもう覚悟してるの」
「……温室育ち特有の根拠のない自信だな。一つ聞いていいか。なぜそこまでする必要がある。
今までの立ち振る舞いから、貴様が科学を盾にしたくだらん人間ではないことは認めてやってもいい。
だがなぜだ。なぜ『あの子』にそこまでできる。昨日今日の付き合いだろう。
貴様はなぜそこまでするんだ」
迂闊な質問だった。私は当然のように答える。
「なぜ、なぜ、なぜって……。魔術師ってのは思いのほか科学的な人間なのね。
なら私はこう返す。『信仰』しているからよ」
「なんですって」
終いには先ほどから距離を保っていた神裂も身を乗り出す。
「根拠のない自信、って言ったよね。それがすべてよ。
私は天才なんかじゃないもん。ゼロから積み上げてきた人間よ。
私の上に二人いるけど、そいつらは最初から持っていた。
私にはなかったの。だから、信じるしかなかった。そしてここにいる。
同じよ。根拠なんていらないわ。助けたいと思った。
悟った大人になるつもりはない。だからできることをする。シンプルでいいでしょ」
「ふん、貴様の方がよっぽど不合理なペテン師に向いているよ」
「ありがと」
「ローラには会わせてやる」
ステイルが煙草をくゆらせた。
「保証はないぞ。小娘と若造だ、僕も貴様も。言っても無駄だろうが」
「いらないわそんなもん。クソ食らえよ」
「仕方が無いですね。すぐに手配をして……」
『その必要はなかりけりよ』
瞬間、空間が歪み、ホテルの一室は無重力空間と化した。
とっさのことに、全員が対応できないでいた。あえていうなら、ステイルと神裂は理解するまで遅くない。
「通信礼装。盗聴か」
「迂闊でしたね。当たり前の処置。気付かず情に翻弄されていた我々の負けです」
『クレイジーという言葉以外に思いつかなけりね。今は小さき炎。無視できそうになかりし』
私のことを話しているということに気付くまで、10秒を催した。
何らかの通信機器を用いて、空間に直接音波を送っている。エコーがかかったスピーカーが、不意に部屋中で鳴り響いているようだった。
それに加えて無重力空間。うまく体がコントロールできない。
「アンタがローラ」
『御坂美琴。もうしばし泳がせてみようと思いにしても、どうやら危険因子として認定せざるを得ぬと思いにし。
ふふっ。『信仰』、ね。素敵な言葉。覚えておくわ』
「インデックスに何をしたの」
『答える義務も必要もない。ステイルー? この空間を押しつぶして全員を圧縮するまでの時間は、2分もいらずにけりよ』
「相変わらず変な日本語を」
はっきりとわかる。これは最大にして最低のピンチだ。
「重力を操作しているの……? 魔術ってのは……信じられないわね。科学者として大変に興味がある」
『学園都市で第三位の天才……。ふふ。実際は積み重ねができる天才。
一番性質が悪い。無限の可能性。成長をする天才。あな恐ろしい。
一つ『信仰』を提言してあげる。魔術は貴様が考えているよりもずっと、深く、重い』
音を立てて、空間が歪んでいく。正確な描写をするのであれば、動物の胃袋が閉じていくようだった。
揺らぎと共に私たちの視界が狭まっていく。押しつぶされる。
「ステイル」
「最大主教。これはテストですか」
『No』
言葉をうけて、諦めたステイルが笑う。
「すまなかったな、科学者。僕らのミスだ。必要な手続きをふまなかった」
「御坂美琴。名前はあちらに持っていきます」
冗談じゃない。こんなところで死ねるか。
思いつつも、手だてはない。まったく。一つも思いつかない。
『さよなら、科学の庭の羊よ』
そして、ブラックアウトする。
_____________
学園都市の中枢部については、一般的な公開はなされていない。
当然のことだが。
学園長であるアレイスター=クロウリーについての一切の経歴は謎につつまれていた。
しかし、その存在とコンタクトを取れる人間は少なからず、いる。
「なあ」
『男』が放つ言葉には、闇の街道を生きてきた者特有の、渋さがあった。
窓のないビル。一室で、小話は行われていた。
「わかってるか。この街で起きている今を」
「それはジョークか? 当然だ」
アレイスター=クロウリーが対面で話す相手は多くはない。
求められる条件は、資格は、権利は。限定されてはいるが、言葉にして明確にはない。
「ローラか。懐かしい。そして御坂美琴。予想外だった。プロットの修正を急がないとな。
『幻想殺し』は特異点であると同時に脅威だ。同じ理屈が、
この街の序列第一位、第二位……それぞれに当てはまる。だが、これはイレギュラーにしても過ぎる。
カオス理論の典型だな。数値の修正を加味しよう。いいサンプルが取れるだろう」
「あの女は……下手をしたら解析するぞ。魔術とは何なのか。科学とは何なのか。
貴様の素性も」
「土御門」
アレイスター=クロウリーは笑っていた。というより、常にその表情は揺るぎないのだ。
「私個人の、私的な問題でいうのであれば、予想外の事態は、いい知らせではないさ。
だが、世の理(ことわり)に歯向かう存在である以上は受け入れる。甘んじてな。
泳がせてみようじゃないか。面白い。神は完成された存在だと言った人間がいた。
人間はそうではないと。ローラの指摘はある意味では正しい。
すなわち、凡夫の人間こそが神上に至る可能性を持つ」
アレイスター=クロウリーは笑っていた。まごう事無く、本当に笑っていた。
ステイル=マグヌスが放った笑顔と同種の、無垢な笑顔で。
「私と同じだ、あの子は。法の書にたどり着くまでもう少し見ていよう」
学園都市は今日も、蒼い。
今日はここまで。
乙
理想郷にありそうなタイトル。
こんな恥ずかしいスレタイを考えて文字にできる
厨二病って本当に厄介な病だな
乙です
ローラが動くとは
先がなかなか読めないから面白い
原作より面白い
_____________
「お姉さまらしいといえばそれまでですが、まったく」
「ごめんってば」
テレポーターの白井黒子は私のルームメイト。
変態で、かわいくて、私をゆっくり見てくれる。私と黒子の話はそれだけで多分に語れるけど、今はなし。
「案の定でしたの。無粋な輩と無粋な茶番に身を投じて、無鉄砲で」
「もう、うるさいなあ。何回も謝ったじゃない。それに、発信器をつけてたなんて権利侵害だからね。
今回は許してあげる、というか許さざるを得ないけど」
インデックスと最後に別れた公園だった。そういえば、彼女と出会ってからまだ12時間も経っていないのだ。
ドラマチック、なんて言葉古いと思うけど、人生にはこんな日もあるということだ。理解して納得するしかない。
黒子はすねている。テレポーテーション。私を連れてホテルから脱出したあの瞬間、とっさに私があの二人を連れて行こうと、
手を伸ばしたことが不服なのだ。いや、そうは言っていないが、そうに違いない。
それくらいはわかる関係だ。
「……死んじゃったよね」
「そうやって。また抱え込もうとする。悪いクセですの」
「だって」
だって、という言葉が言い訳じみていて大嫌い。どうやら追いつめられているみたいだ。
「話はわかりましたの。それで? まあ、聞かなくてもわかりますけれど」
「黒子、そういうツテない?」
「そういうツテ?」
「私、小犬みたいだった。あったまくる。今はね。でも、なんとなくだけど、すごく大切なことに触れたの」
「科学者として」
「それもあるわよ。ないなんて嘘、アンタに通じないし。でもそれだけじゃない。
インデックスは助けるよ。ただ、その手段がまだみえてない。見過ごす賢い子供にもなれそうにない」
黒子は押し黙って、私に冷たい視線を向けた。そういうことができる子なのだ。
テレポーターの特質にさえ感じる。相手との距離を自由自在に行き来する。
今は、遠い。
「あいつ等の話は、デタラメなんかじゃない。科学と魔術は、水と油みたいなものじゃなかった。
政治家とヤクザみたい。もっと密接に関係している。気がする」
「根拠は」
「ステイル=マグヌスが説明した魔術は、極めて科学的……こういう言い方が合っているのかはわからないけど。
とにかく特定の理論体系に基づいて構成されていた。そいつらは確かに存在する。
だけど矛盾していることがたくさんあるの。あんな短い時間だから当たり前なんだけど。
自然界への干渉はできないと言ったけど、
あいつら、『術式』とやらを用いれば私たちの『自分だけの現実』みたいに、粒子の流れをコントロールしたり、重力を操作したりできると言っていた。
仮説なしの直接的な操作。これは物理現象そのもの。命を落とすといったけど……何か私の理解に齟齬がある。
もっと原理に基づいた理解が必要だと思う」
「その一方で、科学が支配するこの街には特定のパイプを所有しているようだった。
ローラ=スチュアートの口からも学園都市って単語が出たようにね。
つまり」
私はしゃべりながら、自分の気分が高揚していることに気付き、また少し景色がくすむ。
「この街の中枢には魔術に精通した人間がいる。それもかなりの権力を持った人間。
そいつから手がかりを得る。あいつら、重力を操作したのよ。
ホテルの一室くらいの空間をねじ曲げるなんて、どれくらいのお金が必要だと思う?
そんなやつらに真っ向から立ち向かっても消されるわよ。セオリー通りなら、魔術の理論を理解して、
横から強引に『魔術側』に押し入って、ローラからインデックスを解放する」
「どれもこれも……お姉様の推測にしかすぎませんの」
「仮説なしに科学を語るのは、素人」
「それにしたって乱暴な直感ですの」
ため息が出る。でもそれは、黒子に対してのため息ではない。
この案件が内包している、複雑で、およそ私たちの手に負えるようなことではないという事実だ。
どうしたってマンパワーが足りない。
「でかすぎるわ」
「おっしゃる通りですの」
「………………レベル5のメンバーなら」
ひらめいてしまう。
「お姉様、正気ですの?」
「イカれちゃってるかも。でも、一番現実的な気がする」
「学園都市に存在する7人の天才……なんて。いいキャッチコピーよね。実際は性格破綻者の集まり」
「破綻の定義によると思いますの」
「破綻してなかったらこんな話しない」
自虐しても、黒子はフォローしなかった。呆れているのもわかるし、仕方が無いというのもわかる顔。
やっぱり盟友ってこういうことだと思う。
「とにかくアタリはついた。後は方法論。黒子、どうするの」
「その質問は卑怯ですのよ」
黒子が行儀悪く、ベンチに座り込む。
さっきまで遠くにいたのに、もう隣にいる。さすがテレポーター。
だから好き。
「わたくしにできることは多くはないですの。でも、少なくもない」
「ありがと」
缶ジュースを投げた。ゴミ箱からは外れて、落ちる。
黒子はあきれ顔で、どこかへ消えてしまった。
私は一度、自室に戻ることにした。
この時間帯に学園都市を歩いていると、思考は進む。
ステイルと神裂の消息も気になったが、今は諦めて今後の事態について思考を巡らせるほかない。
ステイル=マグヌスの口ぶりからして、インデックスが記憶に押しつぶされる(実際は緊急管理のための処置だと思うが)までの時間は、
そう長くはない。これについては推測で動くにはあまりに危険すぎる。
かといって、私の身近に魔術に精通しているような人間なんて、思い当たらない。
ローラ=スチュアートはこの上なく利口で狡猾だった。私の思考のスピードを軽く凌駕している。
私の読みはそう外れてはいないことの裏付けにもなった。あの知能を有する人間がトップなら、いくらでも最悪の事態は想定できる。
うかつだった。魔術についてあまりにも侮っていた。啖呵を切った結果の今に、拳を突き出したくなる。
事実に対して、客観的情報量があまりにも少ない。直感で導くには遠すぎる。
おそらくあの後数十分もあれば件の話題に行き着いていたことだろう。
すなわち、タイムリミットはあとどれくらいなのか。魔術とは何なのか。
「未知数に対するアプローチ。どうやって解くのがスマートか。基本ね」
ニュートンが虹を解体したときもこんな気分だったのかもしれない。
優雅で崇高な自然現象を、七色に分解し、解析し、法則に当てはめ、裸体をあらわにする。
UNWEAVING THE RAINBOW(虹の解体)。
崇高で不可思議な事象を、科学の名の下に暴くのは人間のエゴだと言った詩人がいた。
虹を打ち壊したことで、神秘性が失われたと。それなら、私はエゴイストでいい。
科学者であるということは、すなわち、理性の刃で闘うということだ。
「きっかけを与えてくれたのはアンタよ、インデックス」
私はニュートンほど優れた頭脳は有していないかもしれない。
だけど、私には100年の歴史を解読し、積み重ねることができる能力がある。
知恵がある。
度胸なら負けない。
レベル5のメンバー全員に面識があるわけではない。知らないツラもある。
これから立ち向かうべき難題に、適性な人材を確保する必要があった。
(バックグラウンドが共有できていないと、途中で破綻する。利害関係の一致と、そいつの人柄を確認しないと)
どんなに多く見積もったとしても、インデックスの命が手遅れになるまで三日以内だ。
さらにそこから、魔術という理論体系が、科学と同じような経緯で発展してきたのだとすると、数千年の歴史を理解しなくてはならないことになる。
三日で数千年の理論を解き明かし、さらに必要な人材に対して、必要な情報を開示する。
その上で、その数千年の歴史に対して風穴を空ける。
「なんつー無謀な話。論文でこんなタイトル、やばすぎて学者にそっぽむかれちゃう」
まったく雲をつかむような話だった。
いや、雲をつかむよりたちが悪い。雲なんて、人間はとっくに掴んでしまったから。
それでも、黒子はもう動いてくれている。だとしたら、私に必要なことは解法を設計すること。
自室に戻って『書庫』を徹底的に洗う。この上なくスマートな方法で。
これから先は、一挙一動がすべて結果に影響する。
目的という名の仮説に向かって、一心不乱に突き進む意志が必要だ。
いや、仮説とか意志とか。そんな生温い言葉じゃない。これは、信仰だ。
科学に対する妄信的で圧倒的な信仰が必要だ。どこまでもオカルトに。神様の幻想を生み出すくらいに。
「ナメんじゃねーっての」
自分の名前をもう一度思い出す。御坂美琴。
「刻んでやる。ふざけた理屈で、泣かせるもんか」
インデックスの笑顔が、ずっと私を縛っていた。
今日はここまで。
おっつー
再解釈が丁寧
やばい、めっちゃ面白い。期待
まだか
『書庫』とは、データベース。
学園都市のデータベース。格納されるデータの信頼性は、ある程度までは高い。
ある程度というのはつまり、公式に発表される体のネタは担保されているということだ。
学生寮に到着して、閑静な廊下を歩く途中、私はすでに遠隔操作でアクセスを試みていた。
『書庫』のデータは基本的に階層分けがされていて、普段私がアクセスする項目群を便宜的に定義すると、
5段階中の3層目くらいだ。
より深い層にある情報は、出入りがシビアになると考えられているので、基本的にノータッチだった。
得られる情報に対して、こちらのリスクが大きい。
さらにいうと、私の能力でハッキングをかけるにはあまりに多くの脳内リソースを裂く必要があるので、
今回のような件でしか無茶な鍵の開け方はしない。
(泥棒屋って自覚があるだけましよね)
ひたすらに潜った。電子の海には罠が仕掛けられている。
FBIが図書館の記録を秘密裏に管理しているがごとく、当然のように学園都市も独自の方法で我々を管理しているに違いない。
(レベル5のプロフィールは……あった)
気付けばずいぶんヤバいところまで来ていた。どれくらいヤバいかっていうと、多分バレたら明日にでも学園都市が敵になるくらい。
泥沼で泳いでいる気分だった。信じられるのは直感だけ。不意に宗教と科学の話が脳裏をよぎった。
次に浮かぶのは、創造と批判。いつだって本当に正しいことは、行動の後にやってくる。
それでも正しいのは、舟を前に進める意志だ。私は科学を信じている。科学とは、つまり、信仰だ。
学園都市において、レベル5という存在がどういうものか。
ここにはそのすべてが記載されていた。個人のプロフィールについては、一人一人について何重ものプロテクトが施されていた。
(説得する時間と、内容的に考えて、できても一人か)
総当たりするには数が多すぎた。当てずっぽうの第六感には自信があるほうだが、スマートなやり方ではないことはわかっていた。
黒子に連絡を取ってみようか。私は携帯で黒子の番号に発信した。
「もしもしですの」
「進展はどう」
「いいニュースと悪いニュースがありますの」
「ありがちね。いいニュースはいらない。悪い方を教えて」
「学園都市一帯に戒厳令がしかれますの。発令させるまでの期間は、どんなに少なくとも半日以内」
とんでもない言葉が飛び出してきた。
「戒厳令? 何それ。学園都市は単なる一都市でしょ」
「詳しくは……かわりますの。初春」
黒子の声が受話器から離れると、すぐにかわいい声が聞こえた。
「み、御坂美琴さん、こんにちわ、はじめまして、私は初春飾利といいますあの」
「こんにちは」
黒子はなんて優秀なんだろう。この声の主がいいニュースの方だということはすぐにわかった。
「あの、私はずっと御坂さんというか、常盤台に憧れていて、それで今回こういったお話をいただいてとても光栄で」
「落ち着いて。黒子がつないでくれたなら、私たちはもう仲間よ。うい、はるさん? よろしくね。
いきなりだけど、戒厳令ってどういうことなの」
「あ、それは」
私が切り出すと、初春飾利の声色が変わった。
「学園都市の上層部に何らかの圧力がかかったようです。私も現在進行形で調べているんですが、
非常事態宣言が発令されるまで半日くらいだと思います」
「ちょ、ちょっと待って」
今度は私の声色が変わっていた。非常事態宣言? 映画でしか聞いたことのない単語だ。
今回の件と無関係? いや、直接的には無関係だとしても、これからの私たちの行動にダイレクトに影響してくることは間違いない。
「話がまだ見えてこないんだけど、どうしてそうなったの。というか、戒厳令って。軍隊なんて持ってないでしょうちは」
「どういった方法で実行されるかはまだわかりません。また、実行されたあとの話も、現在進行形で議論している最中だと思われます。
私たち一般に情報が折りてくるのは、まだ時間がかかるかと」
「ごめんなさい、あなたを信頼していないわけじゃないんだけど」
どうやってその情報にリーチしたのか。信頼性はどの程度なのか。
「学園都市のデータベースの最下層から、正体不明のネットワークを発見したんです。
地下鉄みたいに複雑な構造をしていましたが、そこから一定頻度で学園都市の中枢サーバに送られている秘密回線を発見しました。
さらにそこから信号を解析して、盗聴しました」
私は意識が飛びそうになった。完全にイカれている。初春飾利はもう、少しも乱れた声を発していなかった。
「何者なのよ……」
「ジャッジメントですの」
電話の声は黒子に変わっていた。
どうやら昨日今日の関係ではなく、わりと古い仲であるようだ。
「信頼性はわたくしが担保致しますの。ともかく」
電話の向こう側で、黒子が目を瞑って、人差し指を掲げるジェスチャーを想像する。
黒子は私の後輩だけど、どこか説教じみたところがあるのだ。
「戒厳令は今夜下されます。
伴って、いくつか行動が制限される可能性がありますの」
「別に核兵器を装備した軍隊が出歩くわけじゃないでしょ」
「そうとも限りませんの」
「なんですって」
「これは推測になりますが……おそらくデータベースも隔離されて、
わたくしたちの手の届かないところに置かれるかと。
初春のサーチにも引っかからないような、遠く離れた場所に」
比喩的だが、要するにネットワークを閉じるということだろう。
「それから武装部隊についても整備されると思われますの。これについてはいくつか信頼できる情報も得ている」
戦争でもしようというのか。いや、判断を下すには情報がまだ少ない。
「それと、お姉さまも多分、レベル5の誰かにアタリをつけてアプローチをかけようとしていることかと。
参考までに、初春とわたくしで、暗号化された個人のデータを解析して、今回の案件に適性のある人間をピックアップしましたの」
「ずいぶん乱暴なやり方ね」
「プロファイリングを基にした方法で、信頼性はそれなりに。ですが、どのみち交渉することには変わりはありませんから、
お姉さま次第ですが」
「いいわ。ちょうど迷ってたとこだし。で、どいつが引っかかったの」
「第二位」
第二位? 私より一つランクが高い人間。面識はなかった。
「行動原理と、プロファイリングから導き出される人格は、
基本的には非常に冷徹、利己的ですが、人間の感情に対しては寛容。
実利に適った内容であれば、受け入れる器量、まあ、ある意味では合理性も見受けられるとのこと」
「あんまり好きなタイプじゃないな」
蛇の道はなんとやらだ。
「初春が擬似的に学園都市のデータをひっくり返して(アホみたいに犯罪ですが)
この男の居場所を突き止めようとしたんですが、過去4年程さかのぼってみても、
動いている映像データもなければ、表舞台に下りた記録がない」
「ちょっと待ってよ。そんなことってありえるの?」
「意図的にデリートされてます」
次には初春飾利が割り込む。
「何かいろいろとおかしいんです。情報が断片的というか……人為的なものを感じます」
「やっぱ終わってるわねこの街」
まともな学生だとは思えなかった。まあ、かくいう私も。
「私のほうで、プロフィールを簡単にまとめた有益そうなデータを送ります。
戒厳令については、白井さんと二人でもう少し追ってみようかと」
「初春さん、一つ聞かせて」
「白井さんに頼まれたからですよ」
瞬時に私の質問を受け止めていた。私はため息をついて、まいったの意思表示をする。
脳内に優秀なOSをインストールした子だった。
「ありがとう。ごめんね」
「多分正しいことをしているんですよね。ゆっくり話せなくて残念です。
片付いたら、ぜひ」
「ヴァイオリンでもビオラでも、教えてあげる」
初春さんが笑って、声色はもう元に戻っていた。
私は重ねて礼を言って、電話を切った。
初春さんからデータが送られてくると、最後のほうに、「ちゃんと寝ること」と打たれていた。
黒子はやっぱりおせっかいなところがある。でも、頼ったらちゃんと答えてくれる。
私はベッドに寝転ぶと、要約されたデータを眺めながら、今後のことについて考えることにした。
おぼろげな解法は見えてきたけど、まだ解像度が低い。戒厳令については間違いなく、私の行動にダイレクトに影響するだろう。
しかし、発令によって見えてくる道も必ずあるはずだ。
非常事態に陥ることで、学園都市と魔術の関係もあぶりだせるかもしれない。
第二位。垣根帝督。超能力者としての経歴は不明。
研究機関からの融資額は、第一位をさしおいて、学園都市で一位。
取引先一覧……
「素粒子工学研究所……?」
なじみの無い施設だった。量子論は学園都市に住むものなら誰もがパスする領域だが、
専門性に特化した超能力者が資金提供を受けているのは意外だった。
第一位の能力については有名だが、第二位の能力に関係するのだろうか。
とにかく、どうにかしてコンタクトを取る必要がある。しかし、どうやって?
私は寝返りをうった。
(戒厳令の話が事実なら、学園都市の情報網がそのうちに封鎖されるわね。となるとウェブで近づくのは不可能。
かといって私が無闇に動き回っても時間をロスするだけ)
こうしてる間にもインデックスの身に何が起きているかわからない。
いや、もしかしたらもう手遅れ? ダメだ、悪い方向に考えが進む。
解法のペンを置くには早すぎる。
(……あ)
ピンチのときほど、普段考えてもいないアイデアにたどり着いたりする。
多分、人間の頭脳はもともと最短距離でシンプルに考える機能が備わっているのだ。
ダイエットと同じ。飢餓状態にある人間は、体内のリソースを有効に活用しようとする。
(でも、嫌なんだよなあ)
感情で動いている場合ではないのはよくわかっているのだが、私も人間だ。
さっきの議論で、真っ先に候補から外れていた人間。
(人海戦術ねえ。また喧嘩になったらどうしよ。いや、なるな。100%なる)
いいつつも、私の右手は勝手に動いていた。交渉の仕方を少しだけ考えたが、無駄だ。
これこそ出たとこ勝負。
これが例えばインデックスの脳内を直接ほじくるとかだったら、まず除外する。
だけど、間接的にでも、できることはやるしかない。
私らしくないといえば、その通りだが……。
「もしもし。……食蜂?」
今日はここまで。
何か悲しいくらい美琴のキャラが原型留めてないな
乙
毎度楽しみ
乙
>>82
特典SSの能力実演旅行とかゲームの完結編SSとか
黒かまちーが描く手段選ばずな美琴ハードモードは結構ヤバイぞ
手段どうこうって言うより、根本的なキャラが違って見える
この人の書く御坂は日記の時から完全に別物
同じ能力持ったオリ主って見ておいた方がいい
文句は具体的にどうぞ
具体的にと言われても、御坂に見えないとしか言いようがない
なら見なきゃいいのにとしか
まあ人の感性はそれぞれやしね
もう文句は言ったんだから、次からは控えてね
これは楽しみ
別に俺はキャラに違和感そこまで感じなかったけどな。
>>1は気にせず書いてくれ
同じくキャラ描写に特に文句は無いな
普通にかっこいい美琴やんけ
とりあえず言えることは、面白いからどうかエタらずに書ききってくれ
エタるのだけはアカン
何ていうか淡々とし過ぎてるのかな?
御坂は良くも悪くも感情の起伏が激しいキャラだから
黙々と作業してるロボットに見える
みことにっきの人じゃなくて帝春の人じゃないの?
帝春の方が確かに有名だが、にっきの人でもある
_______________
「どのツラ下げて、とか言うつもりはないけどぉ」
私の眼前には、巧妙に細工が施されたティーカップが並んでいた。
職人が手作りで作ったと言わんばかりの、精巧で、しかしどこかいびつさを残した一品だ。
曰く、いびつさに人は人間味を感じるらしい。
しかし、私がこいつに感じるいびつさは、もっと得体の知れない、悪寒だった。
「意外よねぇ。ほんと意外。御坂さんはプライドを優先する生き物だと思ってたわぁ」
「アンタが私のプライドを傷つけたことないてないわよ。ただの一度も」
食蜂操祈は学園都市のランク付けにおいて、私と同じく最高位に位置づけされている。
印象はいつも最悪だった。
私は基本的に群れて行動するやつらが好きじゃない。
なんでかと聞かれると、それもまた自己分析をしなくてはならないのでかなり長くなる。
が、あえていうなら、その小利口さが気に入らない。
加えてこいつの能力には、本人の悪意を反映した節があった。
「本題なんだけど」
「この紅茶おいしいでしょお?」
挑発も手馴れていた。いつもなら相手をしてやるのだが、今回はとりあってられない。
「学園都市に戒厳令がしかれるってのは知ってた?」
「知らなぁい」
「そう。アンタの能力ならいくらでも手が届きそうな話だけど」
「興味があることしか彫らないわよぉ」
「その割に私のコンタクトに対しては敏感だったわね。手際がよすぎない?」
「御坂さぁん」
食蜂は持っていたティーカップを大切そうにテーブルに置きなおした。
間をたっぷりとって、私をなめるように見る。
「交渉、なんでしょぉ? お作法がなってないんじゃなぁい?
カードをさらしてくれないと、私からは何も出てこないわよぉ」
「交渉の余地があるかどうか、先に見ておかないとね。
ポーカーは好き?」
「ルールくらいなら知ってるけどぉ」
「テーブルについたらディーラーがまずすること、何だか知ってる?
そいつの着ている服、チップの切り方で査定するの。
そもそもそいつがマトモな人間かどうかね。技術はその次よ」
「御坂さんがディーラーだと思ってるなら、大きな間違いよぉ。
査定するのは私。貴方は、たまたま同じ場所にいただけ」
言葉にほんの少しだけ、暴力性をのせてきた。直感的に、こういうときは話を進められると確信する。
あんまりこういうやり方は好きじゃないけど。下品な雑誌のインタビュアーみたいだからだ。私は食蜂の言葉を無視して査定を続けた。
「私の見立てによると、アンタはそもそもマトモな人間なんかじゃない。
頭のほうは申し分のないくらいイカれてるし、
地軸が背骨と同じY軸上にあると思い込んでいるタイプの人間でしょ」
「へぇ、そんな風に思ってたんだぁ」
笑顔が不快で、私は気付かないうちにティーカップに手を伸ばしていた。
「本題を言うと、ものすごく困ってるの。
女の子を助けたいんだけど、情報にリーチする手段が私にはない。
しらばっくれてるの前提で話すけど、
戒厳令が学園都市に敷かれるっていう情報、私は8割方ウソだと思ってる。
実際に規制されるのは市民権ではなく、学園都市が抱えている膨大な量の情報。
圧力とやらから遠ざける建前ね。
武装勢力が介入する可能性はあるかもしれないけど。
私の能力はアンタと根本的な性質は似通っているけど、精神感応系の応用力はない。
アンタの能力で、人為的に、学園都市の情報網から独立した特殊ネットワークを形成したいの」
「やけに焦ってるわねぇ」
「時間がないから」
食峰の目つきが変わっていた。
「色々と聞きたいことはあるけどぉ。その女の子を助けたいのはどうして? 女子力?」
「あれ。もっと別のところをついてくるかと思ってた」
「やるとは言ってないわよぉ。せっかくのティータイムだから、間を持たせたいのぉ。
あとそういう事実の裏付けはあんまり興味がないのよねぇ。
御坂さぁんがどういう思考パターンでここに来たのかのほうがよっぽど興味あるわぁ」
この大嘘つきが。事実なんて裏を取っているに決まっている。
でなければこの人間不信女が私との交渉に応じるはずがない。遊びに興じるにも何かとリスクを求める性質なのはもうわかっている。
「……残念だけど、あんまり期待に沿う返答は返せないわね。
一つ目は建前。科学者として、その女の子が絡んでいる案件に興味があるの。
二つ目は本音。私の性格から論理的に導きだされる帰結よ。
理不尽だと思ったから」
「……、」
食峰はここで間をとった。目つきがまた変容する。考え事、かと思ったがどうやら違う。
打算と好奇心の振り子の間で、シナプスを行き来させているのだ。
「一応聞いておくけどぉ、見返りはなぁに?」
「私の頭の中をいじらせてあげるわ。丸一日。好き放題していいよ」
私は即答した。
「あっは、大きく出たわねぇ」
「別に。アンタが好きそうな話でしょ。これで第三位の序列はあげてもいいかな」
しかし、思いのほか食峰操祈は冷静だった。冷静というか、視線の先に私が映っていないようだった。
もしかしたら、と私は思った。……すでに私よりこの案件に対して数手先にいる?
戒厳の原因や、魔術師の存在、または、魔術のロジックに対しても。
個人的な利益を度外視して参戦するようなお人好しではないから、利害関係の一致が計れない限り結託はありえないと思っていた。
でも、今は何だ? 天秤に何を置いている?
まさか。私は思わず自分の考えに鳥肌がたった。
「頭の中が覗けないあなたのことは信頼してないんだけどぉ。今回はやってもいいかな」
「気まぐれな女王様ね」
「お互い様でしょぉ?」
今回は何も言えなかった。
「具体的なプランはいつ教えてもらえるのぉ?」
「何をつかんでるの、アンタ」
気付けば外に、雨が降りはじめていた。そうだ、ここは喫茶店。
食峰が指定した、彼女『お気に入り』の店だそうだ。
「それを聴くのって、そんなに大事なことぉ?」
「私の推測が正しければ、とっても大事なこと」
「今は言えないわねぇ。ただ、御坂さんが進む方向に、ほんの少しだけ私も興味があるだけ」
「悪巧み?」
「さぁねぇ」
十中八九そうだろう。私はすでに引き返しのきかない局面に来ている。
計画についてこの女に吐露すれば、よからぬ方向に舵を切られる可能性もあるわけだ。
食峰操祈の能力は、『心理掌握』。
精神感応系と呼ばれる体系の中で、頂点に位置する、かなり非人道的な能力。
私の計算では初期段階で協力者から外す予定だったが、読みが外れていなければ、
長い付き合いになってしまう。
私はもう一度考えた。
だが、食峰の方が一手早かった。
「第二位の居場所、知ってるぅ?」
さすがに虚をつかれて絶句する。
「どうやって」
「あは、さすがにびっくりしたぁ? 色々やり方はあるのよぉ。やり方次第よねぇ。
御坂さんに私の能力は効かないけど……ふふ」
「やっぱりこの件に関して何かつかんでるみたいね」
「さぁ?」
私はひと呼吸おいて、指に握っていたコインを眺めた。
「利害関係が一致しているなら別にいい。今回はね。
でも、あくまで短期的な付き合いがお互いのためでしょ。
アンタが何企んでるんだか知らないけど」
「それを言うなら御坂さぁん、私も言わせてもらうけどぉ。
かなり非人道的なこと考えていたんじゃない?
違う?
私の能力を使って人為的な精神ネットワークを形成しようとしてたんじゃないのぉ?
学園都市の生徒を使って。
人体実験と何が違うのかしらぁ?」
「違う。あくまで……借りるだけ」
「何があなたをそうさせるのかは知らないけどぉ。ちょっと考えられない指し手よねぇ。
裏があるのはあなたなんじゃないのぉ?」
私は無視した。
「アンタは場所を教えてくれたら同行する必要はないわ」
私は何事もなかったように呼吸を取り戻そうと努力した。
「話つけるのは私。いいでしょ」
「えー。でもイケメンらしいしぃ。ちょっと顔は拝みたいかなぁ」
「いいから案内して」
どうやら食峰はすでにかなり先の段階まで駒を進めているらしい。
時間を言い訳にはできないが、妥協するしかなかった。
同盟関係と呼ぶにはあまりにも脆い。
黒子と初春さんが手に入れてくれた情報を信頼した結果だし、これは仕方がない。
私はディーラーとして、この女がテーブルにつくことを許可した。
しかし、カードはまだ配らない。
「かなり乱暴なやり方だけど、私は信じてる」
「何を信じてるの?」
「私をよ」
言い切る前に、窓が割れて、破片があたりに飛び散っていた。
私は瞬間的に食峰を抱いて、店の奥に伏せた。
銃弾だった。
銃撃戦。突然始まった。街中で。
瞬間的に戒厳令の文字が頭に浮かぶが、次には別の言葉に移り変わっていた。
(これはどっちの銃弾)
学園都市に圧力をかける相手が、いかなる勢力なのか。
「ど、どうなってるのよぉ、御坂さぁん、こんなの聞いてない」
「うっさい運動音痴。伏せてて」
私は店内の静電気を調整して破片を飛ばした。
外では相変わらず撃ち合いが続いている。
「ここにいて」
「や、やぁだ、こわい」
「どうしたの。アンタの能力で操ってやればいいじゃない」
「リモコンが……」
「いいから伏せてて」
私は外へと駆け出した。
飛び出した先の雨は、もはや豪雨と化していた。四方八方から銃弾の音が響く。
私は瞬時に自分の半径200メートルに、電子のセンサーを張り巡らせた。
そして携帯を取り出す。
(雨の日の外でしか使えないってのが難点ね。
電解質が足りないっての。
……サーモグラフィで表示したほうがよさそうね)
半径200メートル以内の温度変化を色分けする。1,2,3……7人。
さらに私は、自分の半径3メートルに磁力場を生み出した。金属に反応して絡めとる。これで銃弾は効かない。
注意して携帯を見てみると、サーモグラフィの表示がおかしなことになっていた。
(火事? ……いや)
「貴様も魔術師か」
背後から怒鳴り声がして、振り返る。
武装した人間が銃弾をこちらに向けて立っていた。
声からして男性。
「魔術師?」
「学生か。証明できるものを出せ」
「いや、これ制服だし」
「出せ」
携帯を確認すると、男の体温はかなり上昇していた。
呼吸の荒さが目で確認できるほどで、相当気が張っている。
私は考えた。
おそらくここでマトモな対応をしたところで、煙にまかれて終わってしまう。
ならばこの男がいう『魔術師』を装って、もう少し現状に近づく努力をしたほうがいいのではないか。
「早く出せッ!!」
「魔術を出せばいいの?」
私は男と私の間に落雷を落としてやった。
轟音と衝撃で大地が揺れる。男は容赦なく私に向けて銃弾を放ってきた。
もちろん私には効かない。
「化け物がッ」
「私の仲間はどこにいるの」
「知るか」
かなり訓練されているようだった。
学園都市にはアンチスキルと呼ばれる、警備相当組織が存在するが、どうも雰囲気がおかしかった。
「アンタたちはどこの誰」
「応援要請。新手の魔術師が」
まずい。私は距離をつめて腹部に蹴りを入れた。
男は気絶したが、どうやら並大抵の鍛え方はしていないようだった。
軍隊相手でも負ける気はしないが、この段階でおおっぴらに動きがバレるのは不都合だ。
携帯を慌てて確認すると、すでに区画には相当数の『武装勢力』が集まってきていた。
何かがおかしい。ローラ=スチュアートが次の行動に出たのだろうか。
(っと。今はそれどころじゃない。食峰を連れてここを離れないと)
「御坂さぁん」
食峰の馬鹿が、生身で外へ出てきていた。
あわてて磁気フィールドを拡大する。
「アンタ死にたいわけ」
「だ、だってリモコンが」
「とりあえずここを離れるわよ」
電流を足から流して、空中浮遊した。
狭い空間ならある程度は飛ぶことができる。出力係数は二人分。
学区を離れようとしたその瞬間、再び声をかけられる。
「忙しそうだな、科学者」
「やっぱり。火事なわけないもんね」
サーモグラフィの表示は、最初からおかしかった。
あんな短期間に銃撃戦で火災が発生するわけがない。
あんなことができるのは、パイロキネシスを使った上位の能力者か、あるいは。
「今はそんなに話せないな。行けよ。そいつが精霊だろう」
ステイル=マグヌスと神裂火織が、蜃気楼の中、ゆっくりとこちらに歩いていた。
今日はここまで。
うぃっす
ぬおお
いいところで
やっぱ別キャラだな
別キャラっぽく感じるのは一言一言が短くて淡々としてるからかな?
自分はこのSSの雰囲気好きだからいいけど
妹達編で妹達を救うために一人奔走してた時の美琴が近いかな?
闇条さんとかハードボイルド条さんに近いから
闇琴さんとかハードボイルド琴さんと呼ぼう
ミサカ・ハードボイルド・ミィコトォ
乙
能力実演旅行とか、「身内」のいないとこで目的のために手段選びませんモードな美琴は
さん付け呼びしないとおっかないぐらいハードボイルド面あると思うわ
手段選ばないのはいいんだけど、やっぱり淡々としすぎてるな
たしかにやや淡々としすぎてる感はあるかもだけど、マジモードの美琴さん考えると別キャラってほどでもないかな
とりあえず乙
続きが気になる
おいおいそんなこと言ったらディスりあいになっちまうぞ
「とっくに死んだと思ってた」
「そういう会話に浸ってる場合じゃないな」
口を開いたのはステイルだったが、隣にいた神裂火織が抜刀して空を薙ぎ払った。衝撃波で一瞬、周囲の雨粒が吹っ飛ぶ。
背後から放たれた銃弾を撃ち落としたと気付いたのはさらにその数秒後だった。
「そういう映画あったよね。電脳空間でインストールした情報を元に、仮想世界で銃弾を避ける話」
「時間と余裕がないから簡単にいうぞ。
僕たちはローラを怒らせたようだ。少々乱暴なやり方でこの街を攻めている。
僕も神裂も、今は魔術師側としてこの街にいる」
「私の敵ってこと?」
「貴様が言う敵とは何だ」
武装勢力はすでに後方50メートルまで迫っていた。聴きだしたいことは腐る程あるのに、時間がない。
いや、いつだって時間なんてないのだ。あるのは前を向く意志だ。
あとはいくつかの決断。そして、諦めという名の覚悟。
「敵なのか味方なのかは、貴方が決めればいいことです。私たちもそうする。
それは多分立場によって決まることじゃないでしょう。行ってください」
私は振り返らず、食蜂を抱えて飛んだ。
ステイル=マグヌスが最後の瞬間、不意に何かを叫んでいたが、雨音にかき消されて聞こえない。
でも、何を言おうとしていたかはわかった。
さっき私が考えたようなことだ。すなわち、前に進むこと。
私は私で、一番大切なことを聞き忘れていた。インデックスはどこにいるのか。無事なのか。
「あの人たち、味方なんでしょう? 連れて行かなくていいのぉ?」
「一緒に行動したらリスクが増えるだけよ。あとは体裁もあるでしょ。
あいつらの親玉、ホテル一室の空間を一人でねじ曲げるくらいの能力もってるのよ。
殺すだけならいつでもできる。フリがバレても、今は離れて行動したほうがいい。
土壇場で利害が一致する瞬間までね」
「私の能力で何を考えているのか測ってあげてもいいんだけどぉ」
「食蜂、アンタの能力の重大な欠陥を教えてあげる。
インターネットで調べればわかるっていうのはね、調べなきゃわからないってことよ」
「……ふぅん」
「これはインデックスをどっちが先に見つけるかのゲームなの。
武装勢力の建前がどういう政治的意味合いを持っているかはわからないけど、
学園都市と魔術師側の外交に何らかの支障があったんだと思う」
情報が足りないんだから、ヒントから推察するしかない。
インデックスは相手側にとって、国家機密レベルの重要なカード。
本来だったらあの二人が『回収』して終わりだったのに、私が介入したことで画が崩れてしまった。
でも、この事実はあることを裏付けている。頭のどこかでくすぶっていた考えが、さきほどのやり取りで定着した。
「この街のトップは、魔術の存在を知っている」
始めから不思議だった。
オカルトとはほど遠いこの街で、インデックスのような人間について真剣に考える輩がどこにいるだろう?
代理的な戦闘行為が行われている。さきほどの武装勢力と魔術師。科学と魔術の闘いだ。
この小さな戦争の火種になるような、決定的な亀裂が生じるということは、
ある出来事が両者にとって同じ価値を持っていなければ成立しない。
すなわち、トップの人間は正真正銘の間抜けか、正真正銘の魔術師でしかありえない。
インデックスの重要性を理解しているからこその対応。秘密裏に回収して、こちら側に引き入れる。
外交カードを増やす。
政治の授業は飛び抜けて得意だったわけじゃない。
もっと高度な情報戦が繰り広げられているのかもしれないが、私は確信していた。
「それならすぐに学園長に会いにいけばいいじゃなぁい?」
「時間は確かにないけど、現状私たちには人的リソースが足りていない。
ここをおろそかにしたらもみ消されて終わり。
急がば回れよ。私が描いている画を完成させるには、
私の脳みそだけじゃどうしたって限界がある。
後輩が与えてくれたデータは最大限利用する。天才ってやつが必要なの」
「天分は信じてなさそうだけどぉ」
気付くと、戦闘行為が行われている学区はとうに通り過ぎていた。
私は地上に着陸して、身を伏せた。雨はまだ止まない。
学園都市の常設アナウンスが何かを叫んでいた。戒厳令が本格的に発令されたようだ。
あちこちで聞こえるサイレンの音。
「それは私的な話。天才っていうのはああいう二人のことを言うんだと思う。
ギフテッドっていうでしょ。受動系なのが肝心ね。
私は始め、それを持っていなかったから努力した。でも上の二人は違う」
天分なのか、悪魔のしっぽなのかは問題ではない。
「第二位の居場所を教えて」
「その必要はないみたいだけどぉ」
食蜂が指差した方向に、確かに立っていた。和傘をさした、制服の男。
「すげぇ能力だな。代理演算するのにも街の中枢にあるコンピュータ何台が必要なんだ?」
「偶然じゃないわよね。何の用?」
傘で表情が一部しか読み取れないが、男はすでに嘲笑的な仮面を纏っていた。
「そりゃねえだろ。あんたが呼んだんだ。俺と、この街の今を。
まさか第三位がテロリストだとはな。話が早えよ。握手して合併と行こうじゃねえか、なあ?」
「そんなことは聞いていない」
名前は言わなくてもわかっていた。
「上層部の裏をかくために都合よく戒厳令が起きて、
必要であると願った第二位が都合よく私を探していて、
さらに都合よくアンタと利害が一致する?
ずいぶんお粗末なプロットじゃない」
「素人が戦略的発想をするとよく陥るピットフォールだ。
絵面はいいが、解像度が足りない。だから現実を受け入れられない。
まぐれや奇跡を前提としていて、かつ誰よりも渇望しているのに、
いざ向かい合ってそれを信じる器量が足りない。
御坂美琴、仕事っつうのはもっと腰を入れてやらなきゃだめだぜ」
食蜂の表情は見えなかったが、ろくな顔はしていないだろう。
会話からにじみ出る余裕が、私たちとの絶対的な差を物語っていた。
「俺が垣根帝督だ。ついてこいよ。断言するが、お互い目的は共通さ。
馬鹿みてえに圧倒的に一致している。
こうなった理由なら、テメェの脳みそでいくらでも後付けできるだろう。
しかし大事なことは子供の好きな論理パズルじゃない。大事なのは今この瞬間。この事実だ。
裏をかくとか、小手先の小細工が通用する次元の話じゃねえ。
テメェはもう選べないのさ。だが」
はっとした。一瞬すぎて気付かなかったが、雨が止んでいる。『都合よく』。
何だ? こいつの能力?
「そういう思考パターンに陥るあんたは、まあ常識的なんだろう。
極限状態の交渉において、最も重要なことは心理的な負荷を抑制することだ。
判断の瞬発力が土壇場でモノを言う。
無限にある可能性という名の粒子を、いかに見逃さず手におさめるか。
そのためのハードルは低く設定する必要がある。
テメェに足りないものは矛盾を受け入れてなおかつ直進できる推進力だ」
「やっぱり、アンタとは仲良くなれそうにないわ」
「そりゃ残念だ。だが、そんな話こそどうだっていいな。繰り返す。
テメェはもう選べない。そんな権利はとっくに放棄しているんだ。
それでも、俺がこれから開示する情報を受け取る権利は、まああるだろう。
言っておくが俺は女には優しいんだぜ。嫌いなのは保守派のクソジジイどもと常識という名の偏見だけだ」
第二位は振り返って、歩き出した。
「一つこちらの世界の先輩からアドバイスだ。
こちら側では、奇跡やまぐれはただの一つも起きない。
それでも似たようなことを目の当たりにした瞬間は俺にもある。
では奇跡が起きるのはどんな時か」
雨が降り出す。プレゼンテーションには十分だった。
「誰かが描いた画の中で踊っているときだけだ」
_________________________
垣根帝督がアジトにしているのは、学区内の雑居ビルだった。
見かけはどう見てもボロボロの建物だったが、内装は整備されている。
私と食蜂(全く帰る気配がない)の二人は、
さらのその中の一室、巨大なスクリーンがある部屋に通された。
セミナーや記者会見の会場として使われていたようで、かなり広い。私たちは一番前に着席した。
丁寧に飲み物まで添えてある。
「一時間ほどで終わる」
垣根帝督がリモコンを操作すると、スクリーンが上昇する。まるで学会の発表をするみたいだった。
食蜂はよほど楽しいのか、さきほどからずっとニヤニヤしている。
「これは」
垣根が手持ちのレーザーポインタでスクリーンにポイントをあてた。
画面には3D空間が表示されていた。
全部で4つのタイプの座標空間が存在していて、それぞれ色分けがなされている。四つの空間では、何かの立体がうにょうにょと動いていた。
「学園都市のレベル5の思考パターンを可視化したものだ。
X座標は論理性、Y座標には発想力、そしてZ座標にはパーソナル・リアリティの強固さを加えてある。
空間に対して動的なのは、外部の状況によってそれぞれの値は大きく変動するからだ。
それぞれが持っているこの立体の体積が、まあ俺たちの能力値ということになる」
私はいつぞや、黒子に連れられて11次元空間の特殊講義を受けたことがあった。
似たような話は聞いた覚えがある。
「大切なのはこれらの体積はシークエンスとしてとらえる必要があるということだ。
つまり連続したこの動きそのものが、それぞれの思考パターンとして定義できる」
「やぁだぁ、むずかしくてわかんなぁい」
食蜂はすっかり猫かぶりモードだった。
「ならもっと簡単に言う。
ここに黒い丸がある。これは何だ」
「何って、黒い丸でしょ」
「そうだ。しかしここに連続性を加える」
垣根帝督は黒丸の横に、全く同じ黒丸をいくつかコピー&ペーストした。
「これは何だ?」
「だから黒い丸でしょ。横一列に並んだ黒い丸」
「そうだ。ではこれだとどうだ」
今度は黒い丸の上に、簡略された人間を描いた。ピクトグラム。
そして同じように横一列にコピー&ペーストする。
左から右にいくに連れて、だんだんと人間と黒い丸との距離が近づくように配置していき、そして、一番右の黒丸の上には何も配置しなかった。
「……黒い丸じゃなくて、落とし穴? ブラックホールとか」
「その通り。これが連続性だ。しかし今の思考プロセスは正しい。
単体での情報では定義しきれないものは世の中にたくさんある。
空間的、あるいは視覚的な連続性を加えることで初めて意味を持ってくるもののほうが多いんだ。マスコミが叩かれる要因もこれさ。文脈、流れ、他にも言い方はあるだろうが。
さきほどの立体だが、それ単体では単なる能力値としての意味しかもたない。
連続性、すなわち動きを加えることではじめて思考回路を暴くことができる」
「色々突っ込みたいけど、質問は受け付けるの?」
「理解ができているのなら最後にしてくれ。重要じゃない部分で時間を取りたくはねえだろ」
垣根帝督はプレゼンを続けた。
今日はここまで。ちなみにみこっちゃんのキャラクターは最後までこれなので、あしからず。
御坂美琴という名のオリキャラか
臭いな
おつ待ってたよ
乙
乙
面白い
乙
乙。
続きに期待します。
「外的要因というのは、生きていく中で変化する。端的な例で言うなら、学校の成績や人間関係、
あるいは精神的なストレス……ま、ここらへんは説明する必要はねえか」
垣根帝督の語り口調はどこか演説じみていた。私がこの男を初めて見たときに感じた、嫌な雰囲気。
まるですべての事柄が、予定調和的に収束していくのを楽しんでいくようだった。
小さい頃に見た演劇。良い奴が、悪い奴をやっつける話。私は起死回生のシーンでいつもため息をついていた。
いつからか、多分そうなるんだろうと思ったことがそうなるようになった。私の趣味はとても子供じみているらしい。
信頼する後輩が断言するくらいだからよっぽどだ。
私は自分の中の大切な子供らしさを、外側に求めるようになった。
「レベル5の中で最も安定したパフォーマンスを誇る……すなわち、外的要因によって極端な変動が生じないのが、御坂美琴。
テメェだ」
「あんまりしっくり来ないわね。第一位やアンタのほうがよっぽど強靭なメンタルを有していそうだけど」
「俺と一方通行の思考パターンは、3つのパラメータのうち、発想力や論理性に特化している。
走り幅跳びをしたら、ロケットエンジンで助走を取り、地球の裏側までジャンプして、着地するって具合だ。
逆にテメェら三位以下が持っているエンジンは比べてかなり貧弱で、常識的なジャンプしかできない。
だが、大きな力は大きなエネルギーを有するがゆえのリスクもある。
これをどう表現するかはかなり文才が必要だな。ま、簡単にいうと挫折を知らねえやつは挫折に弱いのさ」
「それって自虐?」
垣根帝督の表情は凍り付いたように動いていなかった。
「俺は自分自身を過大評価はしねえ。これから話す俺の計画には、大きく分けて二つのやり方があった。
過去形なのは、前者のやり方はすでに切り捨てたからだ。その理由もこれから説明する。
だが、第三位。少なくともテメェが持つ最も優れた能力は、天分を持ち得ないが故の安定性と評してやる」
私は鼻で笑ってやった。天才と呼ばれたことはもちろんある。
でも、多くは努力を放棄した人間からの、意図的ではないにしろ皮肉めいた助言だった。
教師でさえも。
「三つのパラメータのうち、論理性とパーソナルリアリティの強固さは訓練によってある程度鍛えることができる。
鍛えるためにはトレーニングが必要だ。ロジカルトレーニング、そして演算処理演習。
しかし、最後の要素を鍛えるためには、信仰が必要だ」
私は耳を反応させた。また信仰。ステイル=マグヌスが語っていた魔術の上澄み。
そして同時に、科学の上澄みでもある。
「それってなんか、しっくりこないのよねぇ。御坂さんが言ってたマジュツってのも、
正直私には全然うなづけないしぃ」
「学園都市は今、あの魔術師たちを何て定義しているの」
「戒厳令が下ってから、生徒たちは外に出ることを許可されていない。
アナウンスはこうさ、『一部の学生による反乱』。
今この街で起きていることは内部闘争ということでカタがついている」
「真相は」
「真相? 真相か。それは俺たちがこれから突き止めりゃいいことだ。
語るも自由、捏造するも自由。
俺たちはでっかい闘争の中心点に向かおうとしている。
その資格は十分にあるさ。天下のレベル5ならな」
「情報ソースはもう遮断されているはず。どうやって現状を把握するの」
「それは建前だ。『書庫』にアクセスして俺の情報を得たようだが、
あんな見え見えのブラフにひっかかってるようじゃ話にならねえな。
学園都市の情報管理を甘く見るな。もっとえげつない方法でアレイスターのクソ野郎はこの街を監視している。
国を統治するネットワークが一つや二つだと思うか? なあ、食蜂操祈」
「ここは国じゃないわよぉ。今は、ね」
食蜂はそう言って口角を少しつりあげただけで、それ以上の反応は見せなかった。
私は再度確信した。こいつも、味方ではない。
「話を戻すぞ」
垣根帝督が再びスライドを進める。私はまだ自分が聞きたいことの5分の1も引き出せていない。
「俺の目的は、アレイスターと対等に交渉し、野郎の持つ資源……そのすべてを手に入れること」
「いいわねそれ。小学生の作文で出したら賞を貰えるかも」
「テメェらが起こしたいざこざは、俺がこの街に散布した『未元物質』によって観察できた。
よく降る雨だっただろ」
まさか。私は思わず体に付着した雨水を見返す。
「やり方について、詳しい説明が聞きたかったら教えてやるよ。だが、こんなふうにネットワーク形成なんてのは、誰だってできる。
大切なのはピンポイントでビッグデータから必要な情報を選択するセンスだ。
俺はテメェら二人の会話からだった。アタリをつけた理由か。悪いがそれはさっきのパラメータでいう、『発想力』だよ。
十中八九、イレギュラーな要素は能力者、しかもトップ層の人間から生じると確信していた。
テメェの目的を知った。
決め手になったのはやはりさきほど見せた立体思考パターン。そうして設計図ができあがった」
『未元物質』の能力がわかってきた。おそらく量子力学の根幹を支える理論。
粒子レベルでの物体を生成して、物理法則に影響する。あれは雨なんかじゃない。雨によく似た、未知の物質だ。
「アレイスターはこの街を『滞空回線(アンダーライン)』と呼ばれるナノマシーンで常時観察し、記録をつけている。
中にあるデータは『書庫』とは比べ物にならないくらいの機密情報だ。窓のないビルと都市をつなぐ唯一の道。
解析するためには特殊な装置が必要だ。超微粒物体干渉吸着式マニピュレーター、通称『ピンセット』。
混乱に乗じてこいつをぶんどる。手に入れた後は簡単だ。
交渉のために有利な情報を根こそぎ手に入れて、魔術師側が優勢になったタイミングで交渉開始。
魔術と科学のすべてを盗む」
「そのネタを交渉材料にするの」
「もちろんこれだけでは不十分だ。だから最初はダメ押しに、第一位の野郎をぶっ殺して、権利を手に入れようと思っていた。
だが、テメェのおかげで状況が変わった。もっとノーリスクで有利に交渉を進めることができる方法が出現した。
それが」
魔術。魔術の解析。そして運用。
「アレイスターは間違いなく魔術の存在を知っている。
そして、意図的に俺たちに隠しているんだ。
今回の声明からも明らかだしな。
その理由はいくらでも考えられるが、軍事的要素としても有用な俺たちレベル5が
魔術に接触して、かつ原理を理解したとしたら? さらには、相手方に取り入って魔術師側に加担してしまったら?
あいつはこう考える。
『計画に致命的なリスクが生じるかもしれない』。あるいは、『今のうちに処分しなくてはいけない』」
「そこが狙い目ってこと」
「そうだ。勝てるかどうかは問題じゃねえ。同じテーブルで、ポーカーが出来る状態には持っていける。
さて、この途方もないテロに勝算はあるかと言われたら、あると俺は答える」
次に何を言うかは阿呆みたいにわかりきっていたが、私はあえて聞いた。
「根拠は」
「俺は俺を誰よりも信じているからだ。テメェらと同じだよ」
「だからアンタとは仲良くできそうにないのよね。傲慢な人間が進む道に光なんてない」
「そんなもん、とっくに見失った。
それに、そっちも一皮むいたらそうさ。現に御坂、あんたは俺も隣にいる食蜂のことも信頼していねえだろ」
垣根帝督は言い切ると、スクリーンを片付けて私たちに再度向き直った。豹みたいな男だった。
狡猾で、残忍で、しかし容貌や立ち振る舞いは堂々としている。孤独に耐え、機知に富む。
「第三位のテメェを選んだ『理由』、そして計画に参加する『利害』は話した。
ここからは『方法論』の話だ。上出来なプレゼンだろう。スタートアップ企業なら満点だ」
「その前に私からもいくつか質問があるんだけど、いい」
もちろん質問という名の探りだった。
「ふうん。俺のイメージではもっと竹を割ったような単細胞だと思っていたんだがな。
あるいは、まだ希望とか未来とかを信じているような類かと。
どうやら思考パターン自体は安定していても、今回のような特殊なケースによってはテメェも」
「アンタの計画は理解した。確かに私個人の目標としても、学園長との交渉は必須事項になってる。
でも、私が聞きたいのはもっと別のこと。駆け引きはなしね。
今この場でそういうことを考えるメリットはない。なぜなら、私たちが協定を結ぶ理由は、
見せかけの利害一致だけであって、いつでも裏切ることができるから。
カードはさらしてこそ意味があるの、わかるでしょ」
「政治的なオープンソースの話か。いいだろう、聞いてやる」
「アンタは魔術について何をどこまで知っているの」
沈黙が訪れた。だが、さっきの口ぶりからして私以上に何かを掴んでいると感じていた。
「かなりコアな質問だな。現時点でそれに答えることはもちろんできる。
知っているのか、と聞かれたらもちろんイエスだ。
だが完全な形ではないし、俺はその理論体系を魔術とは呼んでいないし、定義もしていない。
答えはすべてアレイスターの手の中だ」
「どうやって知ったの? 学園都市の現存するデータからそれにたどり着くことはおそらく不可能。
私みたいに特別な体験がない限りは。アンタが魔術に触れたことが?」
「ガキの妄想みたいな話さ」
垣根帝督は椅子に座って、私たちに背を向けた。年がいくつなのかはわからないが、向かい合ったときより幼い後ろ姿だった。
「俺の能力は『未元物質』。この世に存在しない物質を生み出す能力だ。猫箱理論はわかるよな」
「シュレティンガーの猫」
「脳の認識によって現実を収束させる。そもそも科学の定義とは何だ?
再現性、無矛盾性。色々な言い方はできる。
仮に起きてしまった事実に対して納得のいく後付けができるシステムそのものが科学だとする。
システムはいつだって秩序をもたらす。
確かに観測した結果、そこにないはずのものがあったとき、
俺たちは色んな理屈をはてはめ、秩序を得ることができるだろう。
俺はそこに疑いを持った。……根拠は俺の能力だ。こいつは、思い込みの力ってのを超越している。
なぜかというと、矛盾しているんだ、奴らが言うところの『超能力』の定義と。
俺の能力によって物理法則が、科学が歪んでしまうのなら、科学の完全性も否定されることになる。
……ゲーデルの不完全性定理は?」
「理屈は知ってる」
公理体系の中で、無矛盾であることと完全であることは両立できない。必ず、真偽が証明できない命題が発生してしまう。
「俺はこれこそがまさに不完全性定理の命題だと確信した。
つまり量子理論を応用した『超能力』の証明不能な命題。物理法則をゆがめてしまえるのなら、
これはもう科学とは呼べねえ。だが、だったら『これ』は何だ?
テメェは別の方法で、『これ』にたどり着いた。呼びたいのならそれを魔術と呼んでもいいだろう。
俺は解き明かす。俺の能力が一体全体、この世の摂理のどの部分を司っているのかをな」
「それは言葉遊びじゃないの。アンタの能力を科学的に説明することだってできる。
パーソナルリアリティで打ち立てた仮説を、信じることで実現させることに変わりはないはず」
「なら『魔術的に』説明することもできるんじゃねえのか?
それこそ言葉遊びだ。テメェが言っていることは致命的にズレているよ。
電解質の分解を、物質の消滅と観測するくらいズレている」
私は返せなかった。
「問題なのはテメェの言う通り言葉じゃねえ。システムだ。
俺たちは科学が完全だとどこかで哀れに信じている。宗教と同じだ。
同時に科学が完全を求めたが故に生じる矛盾もあった。不完全性定理は悲劇だったが、
こいつを無視して科学を妄信すること。これはオカルトだな。
この世は、もっと大きな理論体系によって支配されているはずなんだ。
俺はそいつを手に入れる。そのためなら何だってしてやる」
私はいよいよ科学こそが信仰によって支えられているという、
認めたくないが、ある意味で体感してしまった事実に押しつぶされそうだった。
ステイル=マグヌスとの会話を思い出す。
科学が信仰によって成り立っていて、魔術が理論によって成り立っているという、矛盾。
垣根帝督の推論はその両者を結びつけるものだった。
「理解したようならそろそろ作戦を練らねえとな。おっとその前に名前をつけるか」
「名前?」
「俺たちのチーム名だ。
そうだな、『スクール』がいい」
「見かけによらずごっこが好きなの?」
「こう見えて験を担ぐ方なんだ。俺たちは科学の歴史に新しい理論を植え付けようとしている。
学派と言ってもいい。ぴったりだろ。くく、構成員はどいつもこいつも裏切る気満々だけどな」
私たちはお互いの顔を見合わせた。そうなのだ。
私たちは見せかけの連帯感でここにいる。いつだって誰かを犠牲にできる理由がある。
多分、食蜂も。
「いいじゃねえか。それくらい啀み合っていたほうが目的のために徹することができる。
エッジの効いた組織だよ。
始めようぜ。テロリストに必要なのは勇気と信念さ」
まるで似合わない単語で皮肉った。
私はやはり、この男の言った通り、選べない。何も選べなかった。
単独行動で自分が学園長にたどり着く、ありもしない未来を想像したが、どうしても途中で仮説は途切れてしまう。
目的のために手段を選んでいる余裕がない。それでも守り通したい信念がまだ残っているだけ、私は恵まれていた。
いざとなったときに自分が取る行動はある程度予想できる。
問題は実力的に出し抜けるかどうかだった。利害関係があまりにも複雑に絡んできている。
問題を解決しようとして、展開した式の途中で計算が煩雑になったみたいだった。
泥沼から脱出する方法は一つしかない。
インデックスを助けること。最早生きているかもわからない彼女を。
夜にもう少し投下します。
おつつ
やはり別キャラ
糞ss
オリキャラとしてハーメルンでやればいいんじゃね?
同じ端末だってわかんだよなぁ
いかにも僕の考えた最高の御坂美琴ちゃんって感じだな
帝春とか書いちゃう末期の垣根厨みたいだし、このまま御坂も持ってちゃうのかなw
何だ、荒らしてるのカス条厨かよw
カス条厨のヒロインへの執着度は異常
フツーに面白いが、なんで荒れてるのかわからん
まあ荒らしてるというか難癖をつけているのが一人いるだけだが
>>1はよくここまで論理を組み立てられるな、関心するわ
完全に別キャラ、酷いオリ設定
そりゃ荒らされてもしゃーないわ
ID末尾が同じ
あと文体がほかのss荒らしてるやつとも似てる
1人で色んなss荒らしてんのなご苦労様
そうやってすぐに同一人物って特定する
残念ながら別キャラなのは否定できないだろ
別キャラだって決め付けてるのお前だけじゃんとしか... 毎度毎度嫌なら見るなよ
決めつけてるって言うが、じゃあ客観的に見てどこに御坂らしさがあるの?
口調も行動も別キャラにしか見えないが
>>144
俺の京太郎スレ荒らしてんのお前か?
[ピーーー][ピーーー][ピーーー][ピーーー][ピーーー][ピーーー][ピーーー][ピーーー][ピーーー][ピーーー][ピーーー][ピーーー][ピーーー]
良い悪いは抜きにして、笑えるくらいにセリフから感情が読めないんだよね
ただインデックスを救う作業をしてるように見えて、洗脳でもされてるのかと疑ってしまうw
原作キャラの性格を変えたssなんざ腐るほどあるが何故このssだけ否定するんだ?
つーか二次創作のキャラの性格が変わってなんの問題がある?
これは間違いなく最高ランクのssだぜ?
最高ランクとか臭すぎるだろw
正論を突かれて関係ない話題を持ち出したか…
とにかく荒らしはやめてください
もう構うな
しかし最高ランクとか言う奴は確かに臭い
おかしな人が増えてきましたね
私たちは垣根帝督が用意した学園都市の簡易マップを広げて話した。
「現在の交戦地域。学区ごとにエリア分けしてある。
学園都市の中でこれだけ派手にやり合ってんのは、史上初だろうな」
交戦地域はかなり広範囲に及んでいた。
図からでは読み取れなかったが、おそらく現状ではローラたちが優勢であると私は踏んでいた。
「学園都市の最大の兵力は私たち7人のレベル5なはず。その中の三人がこうして呑気に会議してるってことは……」
「でも変よねぇ。通達くらい来てもいいはずなのにぃ」
垣根帝督は黙っていた。何か掴んでいるな。疑心暗鬼と言ってしまえばそれまでだが、
この状況で私が当然持つ疑いを、この男が持たないはずはない。
それとも私たちの行動が、トップには筒抜けなのか? 第二位と第五位のうち、どちらかがスパイ?
行動を監視していて、かく乱するために私と?
垣根帝督は言っていた。奇跡やまぐれが起きるのは誰かの手の中で踊っているときだけだと。
それならまさに今がその瞬間なのではないか。私が、踊らされているだけなのではないか。
私は考えることをやめた。そういうリスクは常に付きまとう。
昔なじみではなく、ついさっき知り合った人間や、そもそも裏切ることを前提とした人間と仮初めの協定を結んだのだ。
疑うのは当然だとしても、掘り下げても泥沼にはまるだけ。
冷静に、だが妄信的に、信じなくてはいけない。まるで矛盾だらけだった。
「乱戦状態だ。これなら『ピンセット』の回収は俺か第三位なら容易だな。
戦闘能力を加味しても、分散して行動したほうが成功する確率は高いだろう。
第五位は前線向きの能力じゃねえ。学園都市側の兵力を削ったほうがよさそうだな」
最終的にはアレイスターと、インデックスの身柄の引き渡しについて交渉を進めることになる。
その際に、少しでもこちらに有利な状態にしておきたい。現在戦闘を行っている学園都市側の組織を能力で操る。
「決まりだな。第五位のサポートは俺の能力でしてやる。まずは『ピンセット』回収だ。
素粒子工学研究所で待ち合わせする。散布したナノマシーンの情報を開示した段階でもう一度打ち合せ。
そこで最終的な交渉材料や、潜入の方法についても話す。ま、後者についてアタリはついてるけどな」
私は無言で頷いた。
「モチベーションのために言っておくが、テメェがいう、修道服の女は生きてるはずだ」
私たちは建物の入り口に向かって歩いていた。入ってきたときよりも空間が広く感じた。
食蜂も垣根帝督も、どこかで作戦を楽しんでいる節がある。
私はというと、垣根帝督が言うような強靭なメンタルなんてどこにもないような気がしていた。
誰よりも動揺していたし、何より不安の念をどうやって払拭しようとしてもできなかった。
疑っては信じて、信じては疑っての繰り返しだった。
彼らが持つ悪意に引っ張られているのかと思ったが、そうじゃない。
私は自分がやろうとしていることが、本当に正しいのかわからなかった。
「そうじゃなけりゃこの対立自体成立しない。カードに同じ価値を置いていて、さらにそいつが現在進行形で有益だから成り立つ。
当たり前だろ。すなわち女は生きている。そしてカードを手にしているのは十中八九学園都市側だ。
アレイスターを取っ捕まえれば解決する」
「だから安心しろなんて無理」
「もちろんどういう状態をもって生きているっていうのかはわからねえけどな。
脳みそさばかれてホルマリン漬けに、電気信号だけでやり取りしてるような状態だったらそりゃ悲劇だが」
「アンタとはこれが終わったら別のところで決着つけないとね」
「いいね」
垣根帝督が外に出ると、また雨が降り出した。実際には雨によく似た未元物質。
しかし、数分能力を発露した後、雨は止んだ。
「ダメだな。誰かがノイズを発生させている。こいつを解析しながらの行動は、演算が狂っちまう。
どちら側かはわからねえが、大気演算、あるいは天候に関する魔術を持った奴が邪魔してやがる」
「他のやり方はないの」
「ないこともねえけど。嫌な予感がする。CPUは他の事態のために残しておくか。
食蜂のサポートもしなくちゃいけねえしな」
私たちはそれだけ話すと、向かい合って。お互いの表情を見た。
「死んだ奴はそこで除名だ。じゃあな」
言って、走り出す。素粒子工学研究所までのルートを、何もなしに開拓できるとは思っていない。
路上には夕焼けを媒介にした虹が満ちていた。
解体された光は、私の瞳にずっと映った灰色の街を、皮肉に彩っていた。
今日はここまで。
お疲れ
乙
こういうのもありだなぁ、どうなっていくのか楽しみ
美琴に関してだけど
灰色の日常に差し込んだ別の色、それが不条理な理由で雁字搦めの命狙われてたりを知って自分なりの正義感というか曲げたくないことに触れたからインデックス救おうとしてるのでは?
灰色の日常に達観してんだか投げやりになってるんだかわからないけど原作より渋いキャラになってるのはよくわからないけどそういう変化のあった美琴、と思えばいいし
原作でキャンキャンやかましいだけの娘さんにも外から見て判らない内心はこんなでもいいんじゃないかと思ったり
新約だのゲームだの他もろもろよくわからないけど
原作より頭よさそうなのは、その……かまちーに本当の頭脳系キャラは書けないと思うし
バカが1人騒いでるだけだからスルーしていいんやで
過剰な擁護してんのは携帯でID変えてるやつだけか
文章がかっこいい
キャンキャン騒いでるのは確かに一人だけだと思うが、別キャラに見えると言われれば否定はできない
それに加えて原作におけるキャラ批判が出始めた時点でお察し
最近荒れてるssを見ると、大抵荒らしと一緒に臭い奴がいるんだよな
多少キャラが変わってようが話がおもしろかったら別にいいよ
面白いのは面白いんだけど、確かに何か違和感あるね
状況的にそうなってるだけとかじゃなくて、ごく最初のあたりから既に何か違うというか
しっかり書かれてるから余計にそれを感じてしまうんだろうなぁ
面白いけど原作(というより超電磁砲アニメとか)を見た後に見るのには向かないって感じかな
書き手がこのキャラでいくって言ってんのにいつまでも違和感がー、キャラがー、とかグダグダ粘着して言い続けてる時点でお察し
アドバイスとかならまだしもキャラ付けに文句言うなら読むなとしか
あのキャラがこうだったら(闇条みたいな)とかの前提や掘り下げがあるSSってわけじゃなく
あくまで禁書と美琴での1巻再構成って感じなわりに初期からキャラの違いがあるからな
人によってはその点が気になってしまうのは仕方ないし
この手の掲示板形式の場所でそういう直情的な書き込みが出てくるのも仕方ないわな
キャラクター造形云々はもういいだろ。。
これでいくって言ってるし、気に入らないなら雑談スレでも行ってれば?
あえて変えてるのは見てたらわかるし、真面目に書き込みしてる人の読解力を疑うよ
余計なレスを避けたいならスルーすりゃいいのに何でこういう自治厨っぽいのって無駄に煽り入れることが多いんだろうな
実は逆に荒れて欲しいとかじゃなければ判断力や思考力を疑うところだ
名前同じなんだから科学側は全員オリキャラでやれって言われてもしょうがない
マンガレールガンの新章が発表されたな
上条さんがイタリア行ってる間の話らしい
上げんなよぅ
更新きたかと思ったじゃないか
ていとくん仲間にしちゃったのか
レベル5は敵に残してもいい気がしたけど
仲間というよりいつ裏切るか判らん同行者に過ぎんだろ
垣根帝督のアジトで二人と別れて、路地に飛び出した。銃を向けられたが、ノールックで打ち払う。
衝撃で複数の軍服を着た男が倒れた。何かを叫んで銃を乱射する兵隊。倒れていたほうがきっと幸せだ。
警報と銃声、何かが爆発する音が入り乱れて、リズムを形成していた。素粒子工学研究所までは、能力を駆使したとしても30分くらいかかる。
何もなければの話だが、何もないはずがないと私の第六感が語っていた。
携帯を取り出すと、すでに電波は停止されていた。私はあらゆる電子関係の粒子を目視することができるのだが、
あちこちで飛び交う粒子の流れで、どれがどのようなラインを担当しているのかまるでわからなかった。
(黒子と初春さんたちに連絡を取るのはもう無理か。ジャッジメントは学生の誘導に使われてそうね)
私は走りながら、魔術師側の圧倒的な優位性に気付いていた。街に倒れているのは見た目からして学園都市側の人間ばかり。
おかしい。どうしてアレイスターはこの程度の戦力しかここに送り込んでいないのか。
さっきの話の続きだ。私たちレベル5に、何のコンタクトもないのはどういうことなのか。
他のレベル5にはすでに情報が流れていて、たまたま私たちだけが外されている可能性がないわけではない。
(ジリ貧になってからでも、インデックスさえ手中に収めれば逆転できるってこと?
あの子の価値はそんなに高いっての?)
「御坂」
私の前に、血だらけのアイツが立っていた。
「な」
色んな単語が頭の中を飛び回ったが、私がかろうじて発せたのは一言だった。
「ばっかじゃないの」
そでを引っ張って、裏路地に引き込む。こいつが無能力者なのは知っている。特殊な、きわめて特殊な体質の人間であることも。
性格だって特殊だ。はた迷惑だし、最も苦手とするタイプの人間だ。
「アンタなにやってんの。おかしいんじゃないの。戒厳令、聞えなかったの」
「歩いてたら、銃を向けられてる子を見つけたんだ。だから助けた。
そんなことどうだっていい。何が起きてるんだ。教えてくれ」
「質問してるのは私よ。どういうことなの、なんで血まみれなの」
「俺は目の前にいた人を助けただけだ」
こんなやつ冗談じゃない。こんなタイミングで心をかき乱されたらやってられない。
「とにかく病院に運ぶから」
「俺なら平気だ。別に銃で撃たれたわけじゃないし、ちょっと説得するのに時間がかかったんだ」
「いいから!」
「よくない。御坂、何か知っているんだろ。何なんだあいつら。一般人に向けて発砲しようとしてたぞ。
一体この街はどうなっちまったんだ。お前はなんでここにいるんだ」
「アンタの家はどこなの。病院に行ったら、おとなしくしていてよ」
アイツは私の腕を振り払う。瞳はまっすぐに、彼方を眺めていた。
「お前は何かのために走ってるんだろ。だったら俺も走る」
こいつは一体どうして走れるんだろう。今までに何を積み上げてきたんだろう。何を信じているんだろう。
科学も魔術も、不完全性定理も波動関数も知らないくせに。
「お願いだから無茶苦茶やるのはやめて。アンタの行動で、色んなことが台無しになるかもしれないの。
私は、救いたい人がいるの。アンタがいると計算が狂うの」
至極自分勝手で、支離滅裂な言い分だと我ながら思った。
「わかんねえよ、何言ってるか」
「わかんなくていい。いいから、もういいの」
私は嗚咽をもらして声をひねり出していた。そういえば朝から何も口にしていないことに気付いた。
私が飲んだのは理不尽なゲームへの参加と、食蜂と会話をしたときの紅茶だけだ。
急に不安になって、終いに私は大泣きした。声を殺しても殺しても、涙だけがあふれて止まらなかった。
悔しいのは、そんなときでも私のどこかに住んでいる科学者は、そんな私を遠くから客観視していた。
原因追及のために慎重に私を眺めて、首をかしげていた。うんざりだった。
「何で泣くんだよ」
「わかんないわよそんなの。アンタが悪いの、全部」
「どうしたいんだ。俺が必要なら何でも」
「いいから」
涙をぬぐって、私はアイツの瞳をまっすぐに見た。
「次に会えるかわかんないけど、アンタはアンタの方向に走って。
今、私といるべきじゃないの。そう決まってるの」
自分で言って哀しくなるくらいの強がりだったが、アイツは目を離さなかった。
「御坂」
「何にも知らないくせに」
「だってお前が教えてくれないんだろ」
「教えないわよ」
街にはまだ雨の通り道が残っていた。私はもう振り返らずに、学園都市を駆け抜けた。
路地を進むと、学園都市の変容がさらに明らかになった。
街には死体が溢れていた。戦争映画で見るような、グロテスクな光景が広がっていた。
私は笑ってしまうくらい、何も感じなかった。心に波打っていた黒い海が、凪を迎えたような気分だった。
落ち着いて、冷静に己の推論を整理する。手筈は整っているはずだ。
まず、すべてを仮定して考えよう。
学園都市と魔術師勢力の間には、何らかの外交上の摩擦が生じた。
魔術師側の(少なくともステイル達の)トップを率いるのはローラと名乗る女性。
こいつがインデックスを管理している。人間の記憶容量を偽り、首輪をつけて管理する。
危機管理の面から言えば妥当な判断だ。人道的かどうかは置いても、当然の処置。
状況は好転しているとも言える。インデックスが学園都市側に匿われていてくれれば、
科学的な方法で彼女を解放することだってできるかもしれない。
どんな緊急措置を取っていても、解除するための手段は備え付けておくのが定石だ。
だから私にとって、今のこの戦場は必ずしも悪いこととは言えない。まるで政治家みたいな言い分に嫌気がさすけど。
チームに食蜂を呼んだ理由は実は二つある。一つは、あいつの能力で人間ネットワークを形成して、私が把握できる情報を広げること。
こういったゲリラ戦では情報の差は死活問題で、陣取り合戦のように囲まれたらおしまいだからだ。
もう一つは、野蛮な考えかもしれないが、魔術サイドの人間と交渉をする際、脳みそをのぞいて情報を直接回覧する予定だった。
だが、さきほどの垣根帝督の言葉からもわかるように、おそらく相手方にも同じような能力を持った人間は所属しているだろう。
騙し騙されの情報戦がすぐそこに待ち構えている。いや、もう始まっているに違いない。
私は走りながら、誰が自分にとっての味方か敵かを慎重に吟味する必要があると感じた。
都合のいいやつと、そうじゃないやつ。
そういう意味でいうなら、垣根帝督が私に突きつけたゲーム理論は、圧倒的な論理性を保持していた。
反論の余地もなくゲームに参加して、お互いの利害関係を完全に読み切った上での一手。
私が置かれている状況や、心理状態までほぼ完璧に把握していなければあんなやり方はできない。
そういう意味では垣根帝督はフェアな男だった。
どういった種類のフェアさかというと、手の内は確かにさらさないが、自分がゲームに参加する意義と有用性は開示したこと。
もちろん二重三重の保険をかけた上でのやり方だろう。
私は考えた。ゲームが終わり、清算するフェーズに達したときに、もしも決定的にお互いの利害関係が対立してしまったら?
(アイツは支配欲だと言っていたけど、インデックスの命と世界の理だったら、間違いなく後者を取る人間。
食蜂をうまく出し抜けたとしても、この局面を脱してからはもう一手足りない)
ステイル=マグヌスと神裂が、現在ローラとどのような協定を結んでいるかわからないが、ギリギリの段階で彼らとの通信手段が絶たれると、こちらはもう交渉材料がなくなってしまう。
(なんとか同時進行で連絡取れないかな。たとえば電子を放出してホットラインを形成するとか)
無理だ。私の能力でネットワークを形成するほどのメモリは残されていない。
時間がなかったとはいえマーキングしておかなかった私のミスを嘆くしかない。
だめだ、一番ダメなパターンに陥っている。
設計と、実行。このバランス感覚が大事なんだ。私は科学者のセオリーを再確認して、目的地まで急いだ。
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今日はここまで。
乙
乙
乙
上条さんが上条さんで何か乙
目的地である素粒子工学研究所まで後数メートルにさしかかったとき。私は背後から何者かに話しかけられた。
言葉はこうだった。
「見つけた見つけた。うまくいくもんだな」
私は振り返らず、頭を少しだけ傾けて、空気を読んだ。
「普通に到着できると思ってたのに」
「早とちりすんなって。足止めが目的なら背後から一撃でおしまいだろ。
俺から話しかけたんだ」
「相当腕っ節に自信があるみたいね」
「ま、ここでドンパチやってもいいけど、今回はそういう目的で来たわけじゃない」
振り返ると、外人が立っていた。金髪の髪。魔術師?
「御坂美琴だな。俺はトール。イギリス清教とはまた別なんだが、まあ、向こう側の人間だ」
「何で私に話しかけたの?」
「単純に興味があってね。お察しの通り、科学と魔術の戦火が広がってる。これだけ公にやり合うのは歴史上でも初めてかな。
偵察がてら、野次馬がてら来てみたら……どうやらアンタが火種みたいだしな」
トールと名乗る魔術師の第一印象は、垣根帝督が持つニヒルな雰囲気とどこか似ていて、そしてどこかで決定的に違っていた。
俗っぽさもあった。しかしその振る舞いから気品が漏れていた。
「私が火種って? そんなに大それたことはやってないわよ」
「ん、そこはまだ情報を掴んでないのか。俺が説明してもいいけど、そうだな。
助言するよ、今のうちに手を引いておけ」
「理由は?」
「アンタがやろうとしてることが実際に成されてしまうと、色々と都合が悪いってのが本音だよ。
魔術師ってのも一枚岩じゃない。例えば俺たち組織の利害と、
ローラ=スチュアートとの利害は対立している部分も多々ある。
表面的にはわかんねえだろうけど、複雑に絡み合った相関図の中ではやっかいな存在なんだよ、アンタ」
また厄介な話になってきた。どれだけの勢力が存在していて、そのうちの何割がこの争いに参加しているのか。
「それともう一つ。……こっちは俺にはあんまり関係ないことだ。
計画はある地点までは思うように行くだろう。だが、最後の最後で、
辿り着いた誰かが選択を迫られることになる。
どっちも選んでも不幸になるのはその誰かと、禁書目録、それから学園都市だ。
つまりやる事なすこと、何のメリットもないのさ。それならもっと大きな流れに身を任せたほうがいい。
バッドエンドは嫌だろ?」
「魔術師ってのは予言までできるのね。だったらそれを言っても無駄ってこと、わかるでしょ」
「めんどくせえなあ。ここでぶっ倒して止めてやるっていうボランティアもいいけど、
趣味じゃない」
トールは迷っているようだった。この時相手の反応があと数手遅かったら、私から仕掛けていただろう。
物腰は確かに柔らかだったが、背後に気概を感じた。
「アレイスターはアンタらが思っているよりずっと先を観ている。
マトモにやり合っても勝ち目はねえ」
「別に勝つことが目的じゃない。なんとなくだけど、科学と魔術の戦力差ならわかったわ。
この状況、放っておいたら間違いなく魔術側が勝つ。インデックスは回収されて、訳の分からない外交カードとして、
理不尽な要求に一生振り回される。そんなのは嫌」
「ガチンコの勝負の話をしてるんじゃない。今のこの状況、中心はアンタだと言ったが、
画を描いてるのはアレイスター=クロウリーただ一人だ。ローラですらも気付いていない。
もっと大きな意志の流れに。俺は外から観ているからよくわかるんだ。
渦に飲み込まれていく未来も安易に想像できる。この街も、アンタもな」
「意志の流れ……?」
「科学と魔術は、同じものを目指しているんだよ。歴史が浅いのが前者ってだけさ。
世の中の三大宗教、あれが同じ神様を信仰しているのと一緒だ。
たいていそういう流れに身を任せていると、戦争が起きる。
表面上はいくらうまくやっていてもな。俺の二つ名は戦争代理人。
そういう局面ならいくらでも見てきた」
気付けばまた、雨が降り出していた。
「俺が本気を出せばこの程度の争いなら半日もかからずに収拾つけることくらいわけはねえ。
代わりにたくさんの人間が犠牲になる。そういうのは嫌だろ? だから、取引だ。
もしもこのまま突き進むつもりなら、禁書目録を回収した後は俺たちの組織に回してくれ。身の安全は保証する。
悪くないだろ?」
「どこが? アンタのことだって全く信用していないし、私はアンタがいう『不幸な結末』とやらも全くイメージできていない。
断ったらどうするの? 私を拘束する?」
「そのときは、『不幸な結末』ってやつを見届けるよ。ま、アンタは必ず俺らを選ぶと思うぜ」
「ついでに言うと、そのときは俺がテメェら二人ともぶっ殺してハッピーエンドだ」
出し抜けに、死角に潜んでいた垣根帝督が、芝居がかった台詞を吐いた。
「ん、こっちが出てきたか。ちょうどいいや。どっちかっていうとお前の方が話したかったんだよな」
「なんだこのガキは? 御坂美琴。テメェのケツ持ちか?」
「関係ない。会話、聞いてたでしょ」
「俺はどうしたらいい? ここで二人とも殺っちまっても構わねえ。裏切るならもうちょっとうまくやれよ、クソ野郎。
このカマ野郎には俺の『未元物質』が通用しねえ。かろうじてテメェと何かの交渉をしているのはわかったが、それだけだ。
この街の粒子を操ってるな」
「大気演算……ってんだろ、そっちの言い方だと。俺は何もしてねえよ。
どっちにしろ、情報戦だとおたくらにあんまり勝ち目ねえぞ。とっちらかすのはゲリラ戦で馴れてるんでね」
「黙ってろ」
第二位の背後に、羽が出現する。思わず私も身構えるが、反応したのはトールだった。
「おお。さすがに経験値持ってそうだ」
「先行ってろ。テメェとの関係の前に、こいつのスカしたツラが気に入らねえ。ぶっ飛ばして吐かせてやる」
「食蜂は?」
「さあな。来なかったならそれまでの関係だ」
すでに二人とも臨戦態勢に入っていた。
「よし、こうしよう。俺にまいったって言わせたら、余計な手出しはしねえよ。
その代わり、俺がお前をぶっ飛ばしたときは、俺のやり方でこの戦を終わらせる。
いいよな、みこっちゃん?」
「軽い口きかないでよ」
「そういう交渉はもっと血の気のねえ輩にするんだな。こっちはムカついたらもう手が出ちまうからよ。
御坂、早く行っておけよ。次はテメェの番だからな」
好都合だった。とても人道的な判断じゃない。だが、垣根帝督より先に、『ピンセット』に辿り着ければ、
情報に差が生まれる。先手が打てる。
食蜂がいないことは気がかりではあった。確実に知恵を働かせている。あるいは垣根帝督とすでに共謀しているかも。
「俺は雷神トール。学園都市の能力者とやるのは始めてだ。お手柔らかにしてくれよな」
「心配しなくてもすぐ終わる」
それ以上は見ないようにした。どちらが勝つかは、私にとって全く問題じゃない。
誰が敵か味方か、目の前に立たれたときに対処していくしかない。
未来を想像しても、用意していた芝居なんか、何の役にも立たないのと同じだ。
「御坂」
去り際に、印象的な台詞が響く。
「『ピンセット』なら、持ち逃げできると思うなよ。俺をナメるな」
私は何も言わずに、目的地へと走った。
_____________________
素粒子工学については、あまりに専門的すぎて、私が知っている部分と、
おそらく第二位が知っているであろう部分の知識とでは、差がありすぎた。
私がフォローしている領域はその一部。根幹を支えているのは第二位や第一位のような、理論分野の人間だ。
だから私が『ピンセット』を仮に手に入れたとしても、彼らよりはその有用性を使い切れないだろう。
研究所の人間は戒厳令に合わせて退避したようだった。
別にいようがいまいが関係なかったが、私は入り口に設営された端末から、内部の情報にハッキングをかける。
電源は生きていた。
(すでに誰か……)
暗号化された情報を読み解く際に、ほんの少しの人為的介入を感じる。根拠のない直感だった。
一瞬迷う。垣根帝督がトールと名乗った男とケリをつけてから行ったほうがいいか?
ダメだ。リスクを取ってでも先んじる必要がある。私の立場では、情報の差をもって制するしかない。
非常に狡猾な人間が、一度こちら側に向けた疑いを晴らすのは容易ではないと判断した。
すぐに内部に潜入する。情報のガードは思ったよりずっと甘かった。
職員はかなり厳重なチェックの元に配備されているらしい。
中身はザル同然の設備。物理的に破壊して侵入されることをそもそも想定されていない。
目当ての『ピンセット』の情報も簡単に入手できてしまった。
時刻はすでに夕暮れ時を過ぎていた。疲れた。頭の冴えが鈍っている。
廊下を走りながら、私はふと考える。
まただ。何もかもが、都合が良すぎる。
だけど、踊らされるしかない。意思を持った人形みたいだ、と思った。
トールの言葉を思い出す。画を描いているのはアレイスターで、私は駒の中心。本当だろうか。
インデックスと出会ったことで、私が物語の中心に組み込まれた。それは何となく理解できる。
あの娘が持つ力の特異性を考えれば(根本的な理解はしていないといえど)、危険因子として認識されても仕方がない。
(問題はなぜ、危険因子の私にとって、都合のいいルートを確保しているのか。
何が目的なの。ある程度まで泳がせて始末するため?)
そもそもの話、これだけ複雑に利害関係が入り乱れた中で、
人意を超越した誘導なんて、どんな天才だろうができるはずがない。
インデックスと私が出会ったのは今朝のことだ。偶然性も必然性も否定したくなる。
と。前方から足音が聞こえた。
とっさに身を隠すことを考えるが、やめた。この歩き方は、私の存在を認知している。
もったいつけた歩き方だった。足音は二つ。心拍がほんの少しだけ跳ねて、安定した。
まだ私は冷静だった。
そいつの顔を見るまでは。
「どういうこと? 私をハメたの?」
ステイル=マグヌスは何も言わなかった。
続いて隣に立っていた金髪が口を開く。また、金髪。
どいつもこいつも。今日は金髪に縁がある。
「お疲れさん。とりあえずはここまでだ。独りで踊ってもらうのはもう結構だぜい」
特徴的なしゃべりをする男だった。
金髪、サングラス、アロハシャツ。カモフラージュだ、とすぐに察知する。
現象と本質が微妙にズレている。そして、あえてそう演出している。
「うんざりなんだけど。今日だけでこのたらい回し、何回経験してると思ってるの」
サングラスごしに瞳は伺えなかった。だけど、だいたいそれからの話は予測できた。
「アンタがこの物語を紡いだわけ」
「それは違う。お前の足かせを取っ払っただけだ。オレの立場を説明しておくと、こいつと同じであり、お前とも一緒。
外での足止めは助かっただろ?」
疲れで頭の回転が大分鈍っている。
何重にも重ねられた相関図の整理で精一杯だ。
「さっきの金髪を差し向けて、第二位の大気演算を狂わせた?」
「間接的だが。どうしてもコンタクトが取りたかったからな」
お手上げだ。完全に行動を読み切られている。
「混乱するさ、普通は。お前の力不足じゃない。
そろそろ説明してやるよ。今この街で何が起きているのか。お前がやろうとしていることは、
どういう意味を持っているのか。答え合わせだ」
「それですべてが解決する?」
金髪の男はそれっきり押し黙り、ステイルを観た。
「少なくとも、迷いは消えるはずだ。あとは貴様次第だ、科学者」
今日はここまで。
乙
乙
ここでトールが来るとか
どうやってグレムリンが編成されたか知らんがナイスです、燃えます
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