如月千早「死神と歌姫」 (47)

「千葉くん!」

今回の調査対象、如月千早が私の名前を呼んだ。

それまで彼女と揉み合っていた二人の若者は、動きを止めた。

「なんだよお前」

「なんなんだよお前」

なんなんだとはなんなんだ。二人の質問の意味がわからないため私はそう言う。

「馬鹿にしてんのかよ!」

降りしきる雨の中、若者が叫ぶ。前に見た映画のワンシーンにこんなのがあったな。

私はこの若者たちと似たような外見をしている人間を何人も見てきたが、彼らが私に対して

発する言葉も似ていた。なんだよ、うるせえよ、馬鹿にしてんのか、ぶっころすぞ、

だいたいこんなところだ。

如月千早は目線をキョロキョロとさせ、この選択肢に人生がかかっているかのような表情をしていた

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このクロスを待ってた

ちょっと早いですが一旦ここまで。

超遅筆になります。

なんのクロス…死神言うから死神様に最期のお願いをかと思った

はじめの一歩で最近出てきた死神かと

死神の精度とか超楽しみ

今日のボイトレも問題なく終えると、私は用意していたミネラルウォーターを口にする。

水分が渇いた喉にしみわたっていく。快感。飲みながら、歌った後にはこれ一本!なんていうキャッチフレーズが

閃く。そういえば水のコマーシャルはほとんどみけないな、と思う。発見。

「良い飲みっぷりだね。千早ちゃん」天海春香が声をかけてきた。

「ええ、この瞬間も楽しみの一つよ」

春香も一気飲みを始め、半分まで飲むと

「ぷはー 効くぅぅー」

「写メールで撮っておくべきだったかしら。アイドルの卵飲酒現場、ってね」

「卵ってとこがちょっと来るなぁ。 せめてアイドル候補!それか未来の売れっ子」

「卵は卵でも金の卵よ」

「割れたらもったいないね」

死神の精度か期待

本日の仕事はこれで終わりだ。今日は音楽関連番組はやってなかったはず。

しかしここにいてもやることはない。 者座になって雑談をしているアイドルたちに帰宅する胸を伝え

部屋を出た。荷物をとるため、いったん事務所へと戻る。

「おお、千早終わったのか」

デスクワークをしていたプロデューサーが立ちあがって言った。

ええ、と私は答える。

「今日は帰りますね」

「外はすごい雨だけど、大丈夫?」事務員の音無さんが言った。

「傘あるので」

「なんなら雨合羽とブーツもつけてくか?」

「いらないですよ。小学生ですか」

 「アイドル界では小学生だろ」

ふふっ、とプロデューサーがほほ笑んだ

その前になんでそんなものが事務所にあるのだろう。たぶんブーツはステージ衣装用のものだろう。

肩をすくめて、ドアへと向かう。途中、スケジュールとして使われている

ホワイトボードが視界に入った。

その名の通り真っ白で、どうして使ってくれないんだ、と憤っているように見える。

ごめんね、と心の内で謝罪する。

ドアを開けると新品同様の青い傘を開いた。

小降りではあるが、今朝からしつこく降り続いている。

雨はしっかりと働いているようだ。

今回の仕事内容を調査部から説明された時、私は小躍りしたい気分になった。

ここから真っすぐ歩いたところにあるCDショップへ行け、と命令された。

そこに行けば今回の調査対象に出会えるらしい。

いつもなら、時間のやりくり、調査対象の行動など様々な障害を乗り越えて行くCDショップであるが

今回は調査部がそこへ行けと言っている。

私は足取り軽く目的地へと向かった。

CDショップへ入り、少し試聴をしてから仕事に取り掛かろうかという魂胆があったのだが

先客がいた。調査対象である如月千早だった。

店内を歩き回ってみたが、試聴機はたった1台だけだった。

仕方がない、と私は観念し、如月に近づき声をかけた。音楽に夢中なのかこちらに気付く様子はない。

肩を叩こうとして、はっと手を止めた。危ないところだった。

私に素手で触られた人間は気絶してしまうのだ。

考えた末、試聴機の画面を軽く叩いた。拳をつくり、コンコンと二回。

如月は驚いた顔でヘッドホンを外す。

「すいません、私ついこんなに長く」

使いますか、と言いながらヘッドホンを差し出してくる。

喜んで受け取りたいところだが今は仕事中だ。

もしかしてフルムーン?
だった超支援!タクト役死んじゃったんだよね……

ふんふむ

「いや違う。 用があるのは君なんだ」

「ナンパですか?」

一拍間をおいて言った。彼女は同年代の女性の中でも魅力的な外見をしている。

こういうことは何度もあるのだろう。

彼女の切れ長の目からは動揺や戸惑いは感じられない。

「いや」

私はどうしたものかと頭をひねる。いままでの仕事ではアンケート調査だとごまかしてきたが

今の私の外見は男子学生であり、その常套句は使えない。

「用がないなら私行きますね」

如月が私の脇を通り過ぎていく。チャンスだ。

彼女は足早に店の外へ出て行った。

距離を置いて彼女の後ろを歩く。

さっき彼女のポケットから携帯電話を抜き取ったのだ。

それを口実に、もう一度彼女と話そうと考えた。

あまりCDショップから離れていないところで渡さなければ不審に思われる。

私は彼女に声をかけるタイミングを計っていた。

このクロスを待っていた

千早~

ほんとはほんの三十分で店をでるつもりだったのだけど、つい音楽に夢中になってしまった。

まったく音楽は魔法のようだ。時刻を確認するためいったん屋根の下で立ち止まり、ポケットをまさぐった。

あれ?、と思わず声が出る。 どこかで落としたのだろうか。いや、携帯は落としたことにも気づかないような

ものではない。

ひょっとしたら音楽を聞いている最中に何かの拍子で落としたのだろうか? それなら気づかないこともありえる。

まだそんなに店から離れていない。戻ろうか、と思った瞬間

「ああ、いた。良かった」

さっきのナンパ男だ(私にネーミングセンスはない)。私はうんざりした。

ここ最近、帰り道でつけられてるような気がしているのに

そこにナンパまで加わってくるのは勘弁してい欲しい。

「なんですか?」

私は相手に敵意がつたわることを重視して、言った。

「忘れものだ」

男はポケットから何かを取り出した。あっ、と声を出す。

交友範囲の狭さを物語るように、新品同様に傷ひとつついていない。

間違いなく私の携帯だ。

「これ君のだろ?」

「はい、どうも」

ぎこちない返事になってしまう。やっぱり愛想って苦手だ。

「じゃあこれで」男はまた雨の中へと歩き出していく。傘もささずに私を追いかけてきたらしい。

向かっていく方角は私の帰り道であることに気づいた。

「待って」

「私、傘だから途中までなら。家はどの辺なんですか?」

彼は手短に家の場所を説明した。幸運なことに私の家の近くだ。

「携帯届けてくれたお礼と言っては足りないかもしれないですが」

「とんでもない。助かるよ」

誰かがとなりにいれば、最近私の頭を悩ましているストーカー(まだ決まったわけじゃないが)も

今回はなくなるかもしれない、という狙いもあったがそれは言わなかった。

千葉~

なんとか如月に近づくことができた。人間というのは不思議なもので

相手の外見によって、対応の方法を変える。

ずっと前に担当した、大学生の女の時、私はぱっとしない外見をしていた。

そして今回と似たような状況になったが、その女は送っていくとは言わなかった。

それどころか帰り道が同じと知った途端、聞かなければよかったと言いたげに顔をしかめた。

「そういえばあなた名前は?」

千葉、と名乗った。そう、と如月は言った。

「如月千早です。高校一年」

「私もだ」

クスッと如月は笑った。

「すまない。何か笑えるところがあったか?」

「おかしいっていうか、変わってるね。一人称がわたし、なんて」

確かに人間の若者は、俺、だったり僕だったりする。

「こっちのほうが使い慣れてるんだ」

「昔からそうなの?」

「何百年も前から私は私だ」

「じゃあ何百年後は?」

「私だ」

しかし気のせいだろうか。さっきから誰かがつけているような気配がある。

「如月、この近くに知り合いでもいるのか?」

「いないわよ。私は一人暮らしだし。どうして?」

「誰かついてきてる気配があるんだ。君に声をかけようとしているのかもしれない」

私は親切心から言ったことなのだが如月は、重大な機密情報を耳にしたかのような表情になった。

如月は黙り込み、しばらく俯くと、意を決したように口を開いた。

「最近そうなのよ。 姿をみたわけじゃないし、あったりなかったりだから警察にも言えないし」

「帰る時間を早めたらいいんじゃないか」

「無理よ。私は……歌手なの…売れてないけど」

歌手、と聞いて私は思わず叫んだ。

「ミュージック!」

ぎょっとした顔で如月は私を見る。

「ああ、好きなんだ。音楽が。あれは最高だ」

「そうなの。どんな音楽を聴くの?」

「音楽ならすべて好きなんだ」

クスッっと如月は笑った。

千早~

朝起きて学校へ行ったと思ったら、もう放課後になっていた。

それだけ私が集中していた、ということなのだろうか。

いつもならさっさと事務所へ向かう私だけれどあいにく今日は日直。

それにしても昨日の男の子はなんだったんだろうか。

チョークの粉を掃除しながらそんなことを考える。

「如月さん、それ終わったら塵取りお願いできる?」

日直のペアを組んでいる男子が言った。ええ、と返事をした。

「ねえ、如月さんの先祖ってどんな人?」

「先祖のことはわからないけど。どうして?」

「如月って苗字さ、なんか侍みたいだなって思ったから」

「ああ、記録更新したわ」

「記録? 何の記録?」

「あなたが今言ったことよ。如月が侍みたいって小学校三年の頃から言われててね、これで8年連続」

「そりゃすごい。僕も師走って苗字なんだけどね。変わってるねとしか言われたことないんだ」

「師走はお坊さんって感じよね」

「如月さん、話変わるけどさ」

そういって師走くんはおもむろにポケットから何かを取り出した。

「似合うかな?」

サングラスをかけた彼がいた。 

「え…まあまあかしら」反応に困る。

彼は背丈も高い方でがたいもそこそこ良いからに似合ってるといえなくもない。

「まあまあ…か。 僕演劇部なんだけどさ。今度チンピラの役やることになって」

「役作りの最中ってとこ?」コクリと彼は頷いた。

それ以降、会話は途切れ、集めたごみを塵取りにぶっこみゴミ箱に捨て

日直の仕事は終了した。教室をでようと扉を開くと、

「如月千早」と呼び止められた。その瞬間、昔見た映画のワンシーンを思い出す。

話を終え、ボスの部屋から出ていこうとする主人公。呼び止められ振り向くと銃で撃ち抜かれるのだ。

私の場合は振り向くと銃口が額の近くに向けられていた。

師走くんはすぐに銃を下に向けた。にこり、と悪戯っぽい笑みを浮かべ言った。

「びっくりした?」

「銃はしばらく向けていないとだめよ」

私は彼に笑みを返し、踵を返すと

「あっ、如月さん…」

こんどは自信なさげな呼びかけ。

「演技指導なら」また今度、と言おうとしたのだが師走くんの言葉にさえぎられる。

「違うんだ。その…いや…やっぱりなんでもない。後で話すよ」

気になったがさっさと帰りたかったのもあって、それ以上のことは聞かなかった。

千葉~

如月千早を担当して三日がたった。

こんなふうに報告がぞんざいなのは、この三日間は外見的には変わったことはなかったからだ。

ただ分かったことがある。

如月に付きまとっている者がいるのは確かであることだ。

私は仕事の一環として如月を尾行しているのだが、その者は

そういった目的は感じられない。現れるのは決まって帰宅時だった。

如月は、「この子が守ってくれるわ」

とけたたましいアラームが鳴る機械を得意げにみせていたが

役に立つのだろうか。

そして今日は6日目、そろそろ報告をするところだ。

いつもなら私は可の報告をするのだが、今回はどうしようか。

そんなことを考えながら、帰宅している如月を尾行していた。

私はさっきから感じていた違和感に気づく。

尾行の人数が減っている。いつもなら私を含めて三人いるのだが

今回は二人である。

ふいにスピードののった車が後ろから走ってきた。

水たまりに入ってもスピードを緩めず、私にひんやりとした水がかかった。

車は如月のそばで止まった。

この近くに知り合いはいない、と言っていたはずだが

どういうことだろうか

千早~

傘をさしているとはいえ、水たまりのせいか、足から膝まではびしょびしょだった。

靴の中に水がしみて気持ちが悪い。これならいっそサンダルを履いた方がよかった。

後ろから車。雨で視界がきかないはずなのに猛スピードで突っ走ってくる。

違法な公道レースでもやってるのかな、と思っていると、車は私のそばで止まった。

二人の男が降りてきて、一人が私をはがいじめにする。この間約二秒。

なんども練習したのかと疑うほど見事な連携だった。

「なんですか!」

「いいからおとなしくしろよ!」

「おい早くのせろ!」運転席の窓から顔がでてきた。もう一人いたようだ。

やはりミュージックに反応する千葉さんはかわいいな

「つーかまじ可愛くねえ?」

「そりゃこいつ一応アイドルだしな、事務所から出てくるの何度も見たし。まぁうれてねぇけど」

アイドルじゃない。歌手だ。

私が必死で暴れているのに、男たちは余裕で談笑している。

防犯ベルはバッグに入っているのだが、暴れた拍子に落としてしまった。

「くっ…」

おそらくここ最近の尾行はこいつらだろう。たぶん何日もつけて帰り道を把握し

今日実行に及んだのだ。

視界の先で見覚えのある人間が見えた。

千葉~

「千葉くん!」

人間が何をしようと私には興味がないので、踵を返そうと考えていたところ、

如月が私の名前を呼んだ。

それまで彼女と揉み合っていた二人の若者は、動きを止めた。

「なんだおまえ」

「なんなんだよお前」

「なんだとはなんなんだ」

私がそういうと、二人は顔をきょとんとし、一人が

「馬鹿にしてんのかよ!」と憤った。

「おい、そいつほっとけ! 早くしろ!」

運転席の男が叫ぶ。その声にはっとしたように二人の若者は再び動く。

なるほど。と私は納得した。

人間の男の間では、集団で女を車に乗せ、連れまわすのが流行っているらしい。

昔の調査でも似たような場面をみたことがある。

「千葉くん、助けて」

ああ、嫌なのか。私は彼らに向かって近づいた。

するとどこから来たのか、

「てめぇら!何してんだ! あぁん!」

と声が聞こえ、人間が飛び出してきた。

千早~

飛び出してきた男(多分)はピストルを持っていることを強調するように振り回している。

私を掴んでいた二人はまたきょとんとした顔をしている。

ピストル男はそのうちの一人に近づきピストルを額へと向け、発射した。

パァン!と音がなり、銃口からは煙。男はふらり、と倒れる。一瞬銃でうたれたかと思ったが

気絶しただけだった。

間違いない。顔はよく見えないがあれは師走くんだ。それにしてもなぜここにいるんだろう。

「てめえもかぁ?」

そういってもう一人にも銃を向けた。

「おい!早く乗れ! そいつやばい!」

男二人は私を突き飛ばし、車にとびこんだ。ドアをしめないまま走り出す。

あの二人は運転手のいうことは聞くらしい。

「如月さん」

「師走くん、どうしてここに?」

「びっくりした?」

「ええ。百年分くらい。」

「あの、如月さん。えっと…ごめん!」

師走くんはピストルを落とし、帽子を脱ぎ捨てると私に頭を下げた。

謝られる理由も知らないので反応のしようがない。

「えっと、謝られるようなこと、されたっけ?」

「僕、如月さんをつけてたんだよ。ここ数日。僕はろくでなしのストーカークズ野郎なんだよ!」

あの二人だけじゃなかったのか。師走くんまで。しかし助けられたという事実は変わりないため

怒りは湧いてこない。

「つけていた目的は? あの人達と同じじゃなさそうだけど」

「うっ…」

彼はそう漏らした。私は彼の言葉を待つ。 

「ずっと言いたくて…タイミングつかめなくって…つい付け回すことに…」

「日直の時にいえばよかったのに」

「言えないよ。そんな重大なこと」

「何を言おうとしたの?」母親に今日の晩御飯を聞くようなそんな軽い気持ちで聞いた。

「如月、千早さん。好きです…」

えっ、と思わず声が出た。今日は波乱万丈すぎる。

今まで何度か異性からの告白はあったが、こんな状況は始めてだ。

一度授業中に手紙が回ってきて告白されたことがあるが、あれをしのぐ。

足元にわく水たまりを見て、意を決し顔を上げた。

「ごめんなさい。付き合えないわ」

彼はバツが悪そうに下を向く。

「あなただから嫌ってわけじゃないの。今はだれとも付き合う気はないの」

歌が彼氏だから、とはさすがに言わなかった。

千葉~

不意打ちで登場した男のせいで、如月は私の存在を忘れているようだ。

隙をみて身を隠した。さて、そろそろ報告をしなければならない。

調査当初は可の報告をすることを決めていたが、如月は歌手の卵であり

いつの日か、私の心躍るミュージックを歌うかもしれない。

仕事用の電話をとりかける。相手がでる。今回はどうするか相手が訪ねてきた。

すこし間が開き、私は答えた



「見送りだ」

お わ り

あれ、もう終わっちゃうんか

乙おつ

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