「きみは水死体」 (15)
地の文有りの痛々しいSSです
よかったらどうぞ
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川で溺れた人はみんな、正義感があって優しかったんだよ
よかったらどうぞ(書くとは言ってない)
スレタイでおっと思ったのに書いてないのか……
wktkして開いた
建て逃げは厳禁、でしたね。
本気ですいません、文章考えてたら寝落ちしてました
カップラーメン食べたらすぐ書きます
三分以上たったぞ
「今日死のう」
私の名前は女としておこう。
現在27歳、まともな就職先も見つからず、親からも見限られ、毎日コンビニでアルバイトをしながら狭い狭いアパートでインスタント食品を貪り、ただひたすら死なないでいる。
死なないでいる、という表現は少し変だろうか。しかし、こんな単調でつまらない人生を、生きているとは言い難い。
そんな私がある日の朝、突如自殺を決意した。
いやな匂いの染み付いた布団から出て、寝癖のついた髪を手で軽く梳かしながら、財布だけを持ち玄関へと向かった。
なぜ自殺の定番である首吊りや飛び降りにしないのか、というと、私は海が好きだから。と答えるしかない。
ドアを開けるのに躊躇は全く無かった。ただ散歩に行ったりする程度の心構えで、私は家を出た。
──私の住んでいるアパートは、東京湾に少しばかり近かった。バスやタクシーにでも乗れば、さほど時間はかからずに東京湾に行くことができる。
なので、私は東京湾に沈もうと思った。
東京湾で溺死、なんてニュースになるかも。まあ、それはそれで面白い。
大嫌いな両親に面倒な手間をかけさせてやるのも、なかなかに良い小さな仕返しだろう。
などと考えながら、もはや非道くどうでもいい世の中を眺めながら、近場のバス停へ向かった。
「………頭、いた………」
天気は曇り。それも灰色に濁った雲ばかり。──つまり低気圧。
偏頭痛持ちの私は、こんな天気の日はすぐ頭が痛くなる。
午後は雨だろうか。
バス停へ向かう途中、一台のタクシーを見つけた。
こっちの方があまり歩かなくていいし、今となっては金なんて気にしなくてもいい。
すぐさま車道に近付き、右手を上げると、目の前でゆっくりとタクシーは停車した。
後部座席のドアが開く。財布を持っていることを確認してから、私はタクシーに乗った。
「今日はどちらまで?」
運転手が尋ねる。
「───公園、わかります?」
私はふだん人の少ない、東京湾に近いとある公園の名前を言った。
「わかりますよ、そこでよろしいですか?」
「お願いします」
私が返答すると、運転手は再びタクシーを走らせはじめる。
私は、通り過ぎていく風景を、ぼーっと眺めていた。目に映るのは、ビル、サラリーマン、OL、自動車、ビル、サラリーマン、ビル、ビル、───
その全てが、私にとってはどうでもいい。
憎いとも思わないし、美しいとも思わない。
世の中がつまらない。
もう、風景に目のピントを合わせるのも面倒になってきた。
視界が揺れる。歪む。
いっそこのまま、息を止めて死んでしまおうか。
──まぶたを閉じて、私は暗闇の世界へ沈んでいった。
「お客さん」
───────。
───────。
「…お客さん?」
───────。
────………ん?
運転手の声が聞こえた。
重いまぶたを開け、体を起こす。
「あ、起きました?」
「……ああ、すいません。──あ、着きました?」
窓の外を見て、東京湾が見えたので、一応確認する。
「はい。料金、こちらにお願いします」
運転手が、こちらにキャッシュトレイを差し出す。前の料金カウンターを見て、財布からその分を出す。
「………はい、ちょうどね。どうもー」
運転手がそう言うと、後部座席のドアが開いた。
私は無言でタクシーを降りた。
タクシーは再び走り出し、すぐに角を曲がって見えなくなった。
公園を少し歩き、海がすぐそこに見える場所に来た。
海風が、私を追い返すかのように吹いてくる。しかし、そんな優しい風はいない。
海を軽く眺めてから、周りに人がいないか確認する。……が、見た感じは一人もいない。
死ぬなら今だろう。
少々早歩きで、あまり広くはない海岸を歩く。
そして波打ち際を越え、一歩、二歩、三歩と進んでいく。
「……冷た」
どんどん足を包んでいく海水は、少しばかり冷たい。しかし、そんなことは気にしない。四歩、五歩、六歩。
歩いているうちに、水位は腰くらいのところまできた。歩くのはやめない。……もう何歩だったかは忘れた。
水位は腰からへそ、あばら、ひじ、二の腕───そして首の下あたりまでにきたところで、あることを思いつく。
「どうせ死ぬなら、ちょっと潜ろうかな」
そう言うと、私は適当に息を吸って、全身を海に沈めた。下を向き、ゆっくりと、海底目指し進んでいく。
やはりというべきか、あまり綺麗ではなかった。
──どんどん息が苦しくなっていく。
心臓が早く打つのも感じる。
頭が痛い。
上を見ようにも、空が暗くて、もはやどこが上かわからない。
口から、肺に残った空気が溢れ出る。ぼこぼこぼこ、と。
「───!! あ゛ が ───」
胸が苦しい。反射的に、鼻が空気を取り入れようと、海水を思い切り吸い込む。
げほっ、と、水を吐き出そうとしても、もう口も鼻も海水で満たされてしまっている。
苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。
頭がいろいろなことを考える。けれどそれもすぐに止まる。
もう何も考えられない。苦しい。苦しい。苦しい。
腕にも足にも力が入らなくなってきた。浮上もできない。
体が重い。水の中なのに、ひたすら重い。
ああ、死ぬ。
苦しい。苦しい。──死ぬ。
これが死。
死ぬ。
死。
────いやだ
目に映ったのはどす黒い世界。
もはやそれが、海の底なのか、私のまぶたの中なのか、考える時間はなかった。
意識が沈んでいく。
ゆっくりと。
続きが気になる
「おーい」
──────…………。
聞いたことのない声がする。
なんだろう。
私は……そうだ、東京湾に沈んで──あれ。
じゃあどうして今更人の声なんて聞こえるのだろう。
ああ、だめだ、頭が濁っているような感じで、何かハッキリしない。
意識がぼーっとする。
……ひょっとすると、死にきれてなかった?
──自殺に失敗した。そのことに驚き、はっとまぶたを開く。
「あ、起きた」
どうやら地面に寝転がっていた……というか、倒れていたらしい私の目の前に、20代くらいの男性がいた。
しかし見たことはない。知らない人だ。
「………誰?」
見知らぬ男性に問いかける。
「ん。その前に起きようか。そのままじゃ、雨が目に入るんじゃないかな」
──雨?
なんだか意識がハッキリしてきた。
ざあざあと、激しい雨の音が聞こえる。空は真っ黒に濁っていて、午前中の天気からも安易に予想できた天気だった。
……じゃない。とりあえず起きよう。
気だるい体を上半身だけ起こし、下の方を見る。
「………ああ、くらくらする」
おそらくかなり不機嫌な声でつぶやくと、彼は横の方を向き、それに返答する。
「それは仕方がない。じゃあ、起きたところで、早速だけど自己紹介といこうか」
起きたばかりの人間に何を紹介しようというのか。
俯きつつもちらっと彼の方を見ながら、その続きを待つ。
「俺は東京湾の亡霊」
………。
意味がわからなくて眉間にしわを寄せると、さらに彼は続けた。
「要するに」
そう言ってこちらを見たと同時に、たん、と軽く地面を蹴って飛び───そのまま空中に浮いた。
「ユーレイ」
口と目が自然と開き、思考が一瞬停止した。
ユーレイ、ユウレイ、幽霊……。
幽霊ならば浮くことくらいできるだろう、しかし。
目の前で起きてる非現実的な現象を、頭で処理しきれない。
「ゆ、ゆうれい」
バカみたいな言い方で、彼の言ったことをリピートする。
「そう、俺は幽霊。この東京湾で溺死した、さまよう霊」
──夢なのか?それにしては、雨の当たる感触がやけにリアルだ。
混乱する私の頭を気にせず、彼は次々と続ける。
「しかしながら、今時自殺に水死を選ぶとは、なかなかに古いね。今のご時世、首吊り、飛び降り、それから……練炭、睡眠薬あたりが主流じゃないかな?」
考える量が多すぎてまともな返答もしにくいが、一応返す。
「いや、あの」
「ひょっとしてただダイビングを楽しもうとしていただけ?」
「いえ、海が好きだから、海で死にたいな、と」
率直な理由を述べた。
「へえ」
あごを触りながら、彼が反応する。
「まあいいや。少し話そうか。……あいにくの天気だけれども」
そう提案すると、彼はゆっくりと空中から降りてきて、私の隣に座った。
幽霊と会話なんて、私が始めてなんじゃないだろうか。
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