【龍門淵高校との練習試合後】
咲「うぅ、また迷子になっちゃったよ」
トイレを探して20分、一向に見つかる気配がない。
咲「この高校、なんでこんなに広いんだろう。よくわからない所まで来ちゃったよ」
咲「あ、りゅーもんさんだ!」
咲「すみませーん!」
声が届かなかったのか、咲の存在に気づかず、透華は奥の部屋に入っていってしまった。
咲「えっと、この部屋に入ったよね?」コンコン
咲「すみません、龍門淵さん。おトイレってどこに――」ガチャ
透華「えっ!?」
咲「ひぃ!」
咲の目に飛び込んできたものは、デカデカと大きく『めざせFカップ』と書かれた垂れ幕と、等身大に引き延ばされた透華の写真。
そして、写真の胸の部分は原村和を彷彿とさせるくらい大きく加工されてあった。
咲「…………」
透華「…………」
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咲「わ、私おトイレを探していて、少し余裕がなくて、ですから、その……すみませんでした」バタン
透華「…………」
咲「うー、トイレ、トイレ」
バン!!(ドアの音)
透華「お待ちなさい! 清澄の――」ダダダ
鬼の形相で追いかけてくる透華。
咲「ひぃぃぃぃ」タタタ
透華「見ましたわね、見ましたでしょう」ダダダ
咲「見てません、私なにも見てませんから」
透華「なにも見ていない人間はそんなリアクションしませんわ!」
咲「本当です、本当になにも――きゃぁ!」ボテッ
透華「捕まえましたわ。戻って一度お話しましょうか」ニッコリ
咲「ひぃぃ、だ、誰にも話しませんから!」ズルズル
透華「そんなの信用できませんわ!」
【透華の秘密の部屋】
透華「なぜここに?」
咲「おトイレを探していて……」
透華「ここは、高校の建物ではなく、龍門淵家の建物内ですわよ」
咲「おトイレを探していたら、迷い込んでいたみたいで……」
透華「探っていたのではなくて?」
咲「はい?」
透華「ですから、合宿で会った時とバストの大きさが変わっていた秘密を探っていたのではなくて?」
咲「いや、合宿の時、胸がどうだったかとか覚えていませんし」
透華「確かに、今はパットをしてますわ」
咲(それ、パットなんだ)
透華「しかし、これは世を忍ぶ仮の姿(?)ですわ」
透華「なにせ、わたくしは成長期! 突然大きく成長して皆様方を驚かせないための配慮、決して見栄でやってるのではありませんわ!」
咲(なに言ってるのか、訳わからないよ、この人。――よし、ここは)
咲「そうなんですか。……じゃあ、私はこれで失礼します」
透華「待ちなさい」ガシッ
透華「――する気でしょう」
咲「えっ?」
透華「あなた、このことを原村和に言ってわたくしのことを笑いものにする気でしょう」
咲「そ、そんなことしませんよ!」
透華「わたくしを蹴落とすには絶好のスキャンダル。あなた方にとっては、原村和のアイドルの地位を盤石のものとするための千載一遇のチャンスですわ」
咲「しませんって。それに和ちゃんもアイドルとかに興味ないと思うんですけど……」
透華「見られたからには、このまま返すわけにはいきませんわ……。あの地下室は牢屋として使えるでしょうか……」ブツブツ
咲(ひぃぃ、すごい独り言呟いてるぅ)
期待
咲「あ、あの! 私が龍門淵さんを笑いものにできるわけがないじゃないですか!」
透華「えっ」
咲「私も胸は小さいですから」(自分で言っていて傷つくなぁ)
透華「そういえば、そうですわ」
咲「そうですよ! 私は決して龍門淵さんの敵ではありません」
透華「あなたの胸も小さ、いや無いですわね」
咲「」グサッ
咲「いや、なくはないですよ?」
透華「あなたも悩んでいらしたのね?」ガシッ
咲「ま、まぁそれなりには」
透華「そうでしょう。隣にあんなものをぶら下げた人間がいるのですもの、気にするなという方が無理ですわよね」
咲「人並みくらいあればいいなぁとは思ってますけど……」
透華「わかりましたわ。あなたは同志ですわ!」
咲(これは……、乗っかっておこう。監禁されたくないし)
咲「そうですね」
透華「あなたを『バストアップの会』副会長に任命いたしますわ」
咲「は?」
は?
透華「ダイエットも複数でやった方が互いに励まし合うことができ、成功率が上がると聞いたことがありますわ。バストアップもきっとそうですわ」
咲「ちょっと待ってください! なんなんですかその会は!?」
透華「たった今、結成したわたくしたちの会ですわ。会長はもちろん、わたくし龍門淵透華がやりますわ。そして副会長はあなた」
咲(いきなり役職持ち! いや、それよりも――)
咲「私、入るなんて一言も言ってませんよ!!」
透華「副会長がそんな弱気でどうしますの!」
咲(話がかってに龍門淵さんの中で進んじゃてるよぉ)
咲(なんとか、そんな変な会の入会だけは避けないと)
咲「あの、龍門淵さん」
透華「透華」
咲「へっ?」
透華「透華でいいですわ」
咲「はぁ……。じゃあ透華さんで」
透華「ええ、わたくしもあなたのこと、咲と呼びますわ」
ドキッ。
咲(いきなり下の名前を呼び捨てにされたから、一瞬ドキッっとしちゃったよ)
透華「なにせ、わたくしたちは同志ですから」
咲「そのことなんですけど、私そういった会に入る気は全然――」
透華「そうですわ!! そうと決まれば準備することが山ほどありますわ!!」
咲「あっ、ちょっと」
透華「それでは、咲。ごきげんよう」ダダダ
咲「行っちゃった。強引すぎるよ、あの人」
咲「あっ、おトイレ!」
咲「強引に変な会には入れられるし、おトイレは見つからないし、今日は散々だよぉ」
咲キャラは無乳か爆乳の両極端だよなあ。
珍しい組み合わせだな。支援
【後日 透華の部屋】
咲「きゃーーーーーーーーーーー!!」
透華「なんですの?大きな声を上げて」
咲「なんですの、じゃないですよ! なんなんですか、この写真は!!」
透華「なにって、これはあなたの写真(Fカップ加工済みver.)ですわ」
咲「なんの嫌がらせですか! 下校しようとしていたら校門に高級車が迎えに来てるし、来てみたらこんな写真があるし」
透華「なにが気に入りませんの? ハッ、まさかGカップの方がよかったとか?」
咲「ハッ、じゃないですよ! やめてくださいよ」
透華「昨日、いの一番に作りましたのに」
咲「それに、私は巨乳になりたいわけじゃなくて、せめて人並みくらいに……」
透華「それでは、目立てませんわ!」
咲「目立ちたいわけじゃないですし、それに目立つの苦手だし……」
透華「あなた一と同じことおっしゃるのね。目立ってなんぼ! 目立ってなんぼですわっっ!」クワッ
咲「そ、それより、どうして、こんな写真を……」
透華「目標というものは、目に見える形にしておくのが一番ですわ!」
咲「だからって、こんな写真……」
透華「なりたい自分を目で確認すること。そのことは、とても大事なことですわ」
透華「わたくしのだってほら、この通りこれ(透華Fカップver.)やこれ(めざせFカップと書いてある垂れ幕)を用意してますわ」
咲「うわぁ……」どん引き
透華「ここまで、大きくなってこそ原村和との真のアイドルを決める戦いができましてよ!」
透華「Fと言わずともせめて、Eカップ。Eカップあればなんとかなりますわ」
巻き込まれる咲www
のどぱいはJカップくらいありそう
霞さんはOカップくらいありそう
咲「そもそも、どうやってこんなもの……」
透華「簡単ですわ。パソコンでこうやって―」カチカチ
咲「へぇ……今はそんなことができるんですかぁ~」
透華「人並みというとCカップくらい?」カチカチ
咲「えっ、ああ、そうですね」
透華「…………」カチカチ
咲「…………」
透華「…………」カチカチ
咲「…………おおっ」
透華「谷間の影が大事なんですわ」カチカチ
咲「…………ああ~」
透華「…………」カチカチ
咲「…………」
透華「できましたわ!」
咲「あのっ、わ、私」
透華「?」
咲「もうちょっと身長が伸びると思うんですよ、5cmくらい。だって成長期ですから」
透華「それもそうですわね」カチカチ
咲(ワクワク)
透華「完成ですわ! さっそくプリントアウトしましょう」
ガガガカ(プリントアウト中)
咲「これが、私……」ポワッ
透華「そうですわ、未来の咲ですわ」
透華「やっと笑いましたわね」
咲「へ?」
透華「咲は笑った方が魅力的ですわ」
咲(透華さん――)
咲(いや、今まで笑えない状況を作っていたのはあなたですよね)
咲コンテンツのおっぱいの大きさがまちまちなのが1番よろしくなくてよ
【清澄高校】
和「咲さん、一緒に帰りましょう」
咲「あっ、このあと、ちょっと予定が……」
和「また、ですか……」
咲「うん、ごめんね」
和「あの、もし差し支えなければ、どんな予定か教えてもらってもいいですか?」
咲「えっと、それは――」
咲「…………」
和「…………」
咲(なんて、答えよう……)
和「誰かと――会うとか?」
咲「そう、そんな感じ」
和「まさか、彼氏――いえ、何でもありません」
咲「和ちゃん? どうしたの、顔色悪いよ? 大丈夫?」
和「平気です、その予定というのは大事な用なんですか?」
咲「たいした予定じゃないけど……」
和「では、私もついて行っていいですか?」
咲「ダメ、ダメ! それはダメだよ!」
和「やっぱり、そうなんですね!」ズイッ
咲(なにが?)
和「知っておきたいんです! 怖いですけど、それでも、やっぱり」ズイズイ
咲(怖いのは、こつちだよぉ)
和「咲さん!」ガシッ
咲(うわっ)
和「私――。あの、私――」ズイズイ
咲(怖い、なんだかすごく怖いよ、和ちゃん!!)
咲「――アップの会」ボソッ
和「はい?」
咲「私が今から行くところは、『バストアップの会』」カアー///
和「ばすと――あっぷ?」チラッ
咲「今、視線を下げて、私の胸を見たよね?」
和「いえ、あのっ、今のままの咲さんでも充分に魅力的ですよ?」(安堵が入り交じった優しい目)
咲「だから、言いたくなかったのにーー」
咲「ばかーーーーー」タッタッタッ
和「あ、咲さん、待って」
透華「さあ、今日もやりますわよ、『バストアップの会』」
透華「あら、咲、どうしましたの?」
咲「いえ、別に……」
具体的に何をしてんだ
咲ちゃんはそのままで十分可愛いよ!
咲「あの、私思うんですけど」
透華「なにかしら?」
咲「他の、龍門淵高校の方とこの会をやればいいんじゃないですか? なにも私じゃなくても……」
透華「目が……」
咲「?」
透華「あの目が……」
《回想》
透華「ともきは、何か特別なことしていまして?」(胸を見ながら)
智紀「特になにも――」
透華「そ、そうですの……」
智紀「透華は――」
透華「?」
智紀「ありのままが、一番いいと思う」(純粋な優しい目)
透華「――――」
透華「あの目が、あの優しい目がわたくしを苛(さいな)めますの」
咲「ハッ、そういえば」
――― 和「今のままの咲さんでも充分に魅力的ですよ?」(安堵が入り交じった優しい目)
咲「わかります。悪意のない、あの優しい目ですね」
透華「わかりますか、咲」
咲「悪意がないだけ、こっちも感情のもって行き場ないんですよね?」
透華「そうですわ、悪意がないだけ、わたくしが小さなことで悩んでいる、器の小さな人間に思えてしまう、あの目ですわ」
《回想》
雑誌を熟読する透華。
透華「なるほど、大胸筋を鍛える、と」
透華「合掌するように、15秒」グググ
一「何やってるの? 透華」
「一、それに純まで!?」
純「なになに、『バストアップトレーニング成功のための3つのポイント』? 透華はそんなこと気にしてんのかー」
透華「これは、なんでもありませんわ」ババッ(雑誌を隠す)
純「まあまああるんだから、別に気にしなくてもいいんじゃね?」
一「そうだよ。それに透華は今のままでも十分だよ」(優しい目)
透華「―――――」
一(今の、マズかったかな?)
一「で、でも、だれもが一度はやるよね? こういうの。ね? 純君?」
純「そうかー? オレは胸大きくなるようにお祈りなんてしたことねーけどな」
一「たぶん、さっきのはお祈りじゃないよ」
透華「――――」
透華「今のままでいいとか、悪いとかそういう問題じゃありませんの」
咲「温度差を感じますよね」
《回想》
優希「私ものどちゃんみたいに、バインバインになりたいじぇ」
和「ちょっと、優希」
久「それなら、イソフラボンがいいらしいわよ」
咲「イソフラボン!?」
まこ「なんじゃ、咲も興味あるのかー」
咲「そういう訳じゃないですけど」ハハハ
久「大豆製品に多く含まれているらしいわ、豆乳とか豆腐とか納豆とか」
咲(豆乳と豆腐と納豆かぁ、覚えとこ)
久「優希もタコスじゃなくて、大豆製品を多く食べたら?」
咲(そうしよう……)
優希「それは嫌だじぇ」
咲(えっ!?)
優希「タコスが食べられなくなるなら、バインバインにならなくてもいいじぇ」
まこ「まぁ、あんたらしいちゃ、らしいか」
一同「ハハハ」
咲(優希ちゃん、そんなに、本気で言っていたわけじゃなかったんだ……)ガッカリ
透華「咲の反応は正しい反応ですわ!」
咲「そうですよね!」
透華「ええ、わかりますわ」
咲「わかってくれますか!」
透華「ええ。要するに、あなたもわたくしと原村和とのアイドル対決に参戦したい、そういうことでしょう?」
咲(だめだ、この人。なにひとつわかってない)
咲さんのストレスがマッハ
透華「そうですわ、咲に渡したい物があるのですわ!」
咲「なんですか?」
透華「どこにやったかしら?」ゴソゴソ
透華「ありましたわ!」
咲「これは……携帯電話……ですか?」
透華「そうですわ、あなた今時、携帯電話持っていないでしょ?」
咲「はい、持ってませんけど……」
透華「差し上げますわ」
咲「え、いただけません、こんな高価なもの」
透華「たいして高価ではなくてよ」
咲「通信費とかもありますし、お返しします」
透華「咲と連絡がとれないと、わたくしが不便なんですわ」
咲「でも、いただけません」
透華「いただけないとかっ! 一度差し上げた物は、わたくし、龍門淵透華は受け取りませんことよ」
咲「でも……」
透華「もう、この話はおしまいですわ。いいから持ってなさい!」
咲「はい……」(相変わらず強引だなぁ……)
咲「あの、」
透華「まだ、むしかえますの」
咲「そうじゃなくて、ボタンのやつじゃないとよくわからないんですけど……」
透華「ボタン?」
咲「この親指スイスイの携帯電話はよくわからなくて……」
透華「親指スイスイ?」
透華「あなたの言っていることの方が、よくわからないですわ。要は使い方がわからないということですの?」
咲「」コクコク
透華「なら、こちらにいらっしゃい。この機種はわたくしと同じですから、教えて差し上げますわ」
咲「は、はい」
透華「電話をする時は、こうやって――」
咲「はい……」
透華「…………」スイスイ
咲「へぇー」
透華「…………」
咲「…………」
透華「…………」
咲「あっ、へんな所押しちゃいました」
透華「大丈夫ですわ」
透華「…………」
咲「…………」
透華「これが使いたい時は――」
咲「はぁ~」
透華「…………」スイスイ
咲「と、透華さん! 透華さんの携帯を見ている間に真っ暗になっちゃいました」
透華「心配いりませんわ」
・
・
・
・
・
咲「できた!!」
咲「送りますね、透華さん」
透華「ええ」
透華(まさか、電話とメールのやり方だけで、こんなにも時間もかかるとは思いませんでしたわ)
咲「届きました?」
透華「届きましたわ」
咲「本当だ、届いてる!!」キャッキャッ
透華(これでは、今日の『バストアップの会』の活動ができませんわ)
咲「すごいですね、今の携帯電話ってこんなにすぐ届くんですね」キャッキャッ
透華(…………。まぁ、いいですわ。咲がこんなに喜んでいるのですもの)
あらいい雰囲気ですわね
そういうSSになるのかしら
【後日 透華の部屋】
咲「あの、透華さん」
透華「なんですの?」
咲「ツッコミどころがたくさんあるんですけど……」
透華「?」
咲「まず、どうして、そんな変なブラしてるんですか?」
透華「これはブラではなく、大胸筋矯正サポーターですわ」
咲「大胸筋――、まぁ、ブラですよね? それもかなり変な」
透華「ですから、ブラではなく、大胸筋、矯正、サポーターですわ」
咲「はぁ、あと後ろの大量の段ボールも気になるのですが……」
透華「ああ、これはこの前咲が言っていたでしょ? イソフラボンがどうこうって」
咲「言いましたけど……」
透華「ですから、買いました。箱で」
咲「ええっ、この量を二人で消費するんですか!?」
透華「ええ、チマチマ買うのは性に合いませんわ」
咲「で、でも消費しきれませんよ。賞味期限とかもありますし……」
透華「賞味……期限?」
咲「賞味期限ですよ、いついつまでに食べなきゃいけないとか」
透華「ああ、賞味期限! そういえばそんなものありましたわね」
咲「そういえばそんなものありましたわね、ってどうするんですか!
――あと、どうして、そんな変なブラしてるんですか?」
透華「これは、ブラではなく、大胸筋、矯正、サポーターですわ!!」
透華「あなたの分もあるから着けなさい」
咲「その変なブラをですか!?」
透華「ブラではなく大胸筋、もういいですわ、すべこべ言わず着けなさい」
咲「きゃーー」
(五分後)
咲「うっ、うっう」(泣)
透華「似合ってますわ! その大胸筋矯正サポーター」
咲「嬉しくありませんよ!!」
咲「私、思うんですけど、和ちゃんにどうやつて大きくなったのかを聞くっていうのはどうですか?」
透華「は、原村和に教えを請うなどわたくしのプライドが許しませんわッ!」
咲「でも」
透華「ダメですわッ!!きゃっかですわ!」
咲「でしたら、こうしませんか? 駅の近くにカフェがありますから、そこの窓際の隅の席に座っててください」
透華「?」
咲「そして、私は和ちゃんと一緒に透華さんの前の席に座ります」
咲「透華さんはたまたまその場にいて、たまたま、私たちの話を聞いてしまった。こういうのは、どうでしょうか?」
透華「わたくしは盗み聞きなど――」
咲「私が、自然な流れで聞き出してきますから」
透華「そういう問題ではなくて」
咲「でも、そうでもしないとこの会迷走しっぱなしですよ。この変なブラも絶対掴まされてますし」
透華「ブラではなく、大胸筋矯正サポーターですわ!」
【駅の近くのカフェ】
「いらっしゃいませー」
咲「それでね、和ちゃん、ここのパフェが、すっごくおいしいらしくて――」
和「そうなんですかぁ」
咲「あそこの席にしよう」
和「別に、こんな席が空いているのですから、わざわざ人が近くに座っている席でなくても――」
咲「あそこの席にしよう、和ちゃん」ニコッ
和「は、はい」
咲「メニュー見た感じだと、かなりおっきいね」
和「そうですね。この大きさだと、私半分食べられるかどうか」
咲「じゃあ、二人で一つにしようか」
和「ええっ、でも、そうしたら、その、あの」
咲「だめ?」
和「いえ、咲さんが平気なら私は、というより、むしろ」
咲「むしろ?」
和「いえ、なんでもありません」
咲「すみませーん、このパフェと――」
和(なんなんでしょう。今日の咲さんはいつも違う気がします)ドキドキ
咲「パフェ大っきそうだねー」
和「は、はい」
咲「大っきい、うん、大っきい」
和「?」
咲「おおきい、……大きい、…………大っきい」ブツブツ
和「??」
咲「大っきいといえばさー」
和「は、はい」
咲「和ちゃんの胸は――大きいねー」カァー///
和「む、胸!?」
透華(ええっ、今のがあなたの言う自然な流れですのー!?)
咲「どういう過程を経てそうなったのかなぁ、なーんて」
和「過程ですか!?」
咲「た、食べ物とか、よく食べたものとか」
和「特にこれといっては」
咲「運動とか」
和「それも、特にはー」
透華「もー!!まどろっこしいですわ!」
和「えっ! り、龍門淵さん!?」
透華「わたくしたちが知りたいのは、そんな話ではなく、母親から授かったバストアップの秘伝の術とか、そういった類いことですわ!!」
和「どうしてここに!?」
透華「そんなこと、今は関係ありませんわ! さあ、教えなさい」
和「母から授かった秘伝の術と言われましても――。まぁ、母も胸は大きい方だと思いますけど……」
咲「…………」
透華「…………」
和「ど、どうしました?」
―――もしかして、―――遺伝!?
透華「わたくし、おトイレに行って参りますわ」
咲「私も」ガタッ
和「えっ、二人とも」
「おまたせしましたー。パフェと紅茶のセットでございます」
和「咲さん、パフェきちゃいましたけど、え? えっ?」
【女子トイレ内】
咲「…………遺伝かぁ」
透華「考えないようにしていた部分ですわ」
咲「夢も希望も……」
今 大胸筋矯正サポーターの画像検索して来たらさ
ブラ着けたおっさんの画像ばっかで悲しかった
とーか咲とな
俺得支援やで
ゴールデンエッグス懐かしいな
透華「待ってましたわ、今日はとっておきの物がありましてよ。今までとは趣向を変えて――」
ボテッ!!
透華「!!」
咲「痛っ~」
咲(痛った~。どうしても私、いつもこんな何でもないところで転ぶんだろう?)
透華「大丈夫ですの!!」
ものすごい勢いで咲の元に駆け寄る透華。
咲「大丈夫です、よくあることですから」
透華「ハギヨシ!」
ハギヨシ「はっ」
透華「救急箱を」
ハギヨシ「こちらに用意できております」
透華「では、わたくしの部屋まで運びなさい」
ハギヨシ「畏まりました」
ハギヨシ「宮永様、失礼します」
咲「きゃっ」
透華「急ぎなさい、ハギヨシ」
ハギヨシに姫抱っこされる咲さんの画像はよ
【透華の部屋】
咲「本当に大丈夫なんですけど」
咲「自分でできます」
真剣な眼差しで絆創膏を貼る透華。
咲(大げさだなぁ)
でも、このくらいのケガで本気で心配してくれる透華に少し好感を抱く。
透華さん、いい人だなぁ。
透華の姿を眺めていると、ふと、なぜか懐かしさを覚えた。
咲(絆創膏を誰かに貼ってもらうのって、いつぶりだろう?)
昔は今よりもよく、膝を擦りむいたっけ。そのたびに、お姉ちゃんに絆創膏を貼ってもらって――
毎回、「大丈夫。これでもう痛くないでしょ? 咲」って言ってもらったら、本当に痛くなくなっていた。
お姉ちゃんに絆創膏を貼ってもらうのが好きだった。そのためだけに、絆創膏をもって、わざわざお姉ちゃんの部屋まで行ったこともあった。
今となってはそれも、昔の話だけれど――
……………………お姉ちゃん――――
ああ、まずい。これはまずい。
涙が汲み上がってくるのを感じる。
耐えないと。
高校生にもなって、膝を擦りむいたぐらいで泣いている、と透華に思われるのは恥ずかしい。
なにより、涙をこぼしたら最後、自分の意思では止められないことを私はよく分かっていた。
懸命に涙を止めようとしていると、透華が咲の隣に腰を下ろした。
透華の髪の匂いが、一瞬鼻をかすめ、消えていく。そして、透華の手が咲の頭に置かれたのを感じた。
穏やかな、なだめるような、どこまでも寛容な声で、
「大丈夫。痛いのをよく耐えました。えらいですわ、咲」
一瞬、息が詰まった。それをきっかけに涙がこぼれた。
「違うんです。痛いんじゃなくて、これは――」そう透華に伝えたかったが、まるで、喉の奥の肉が盛り上がったかのように声帯をつぶして、声が出なかった。
透華は、黙って咲の頭をなでつづける。
部屋は咲の嗚咽の音だけが響いた。
名前を持たない感情が咲の心をじわじわと浸食していく。
だが、それを感じ取る余裕を今の咲は持っていなかった。
※ バストアップの会です
好感度アップの会の間違いだろ?
良いカプだね。支援
Eカップ?(難聴)
このスレは透華お嬢様の幸せを願う執事に監視されています
豊胸手術は邪道か
珍しい組み合わせだが実に面白い
この二人は合うと思ってたんだ支援
なんだかんだ世話焼き透華にとって衣と同類の咲が大事な存在になるのは必然なのでは?つまりなにが言いたいかって?
支援せずにはいられないな
おい>>38でガチに涙ぐんじゃったぞどうしてくれる
喫茶店に置いていかれた可哀想な女の子がいるらしい
俺が慰めて結婚しておいたよ
続きはよ
ピンクは死んだ!もういない!
可哀想じゃないから咲透貫くんだ
はよ
なかなかのなかなかだな
透華「先程も言いましたが、今日はとっておきの物がありましてよ」
咲「とっておき?」
治療後、ティータイムを挟んだおかげか、二人の間に流れる空気はいつもと同じに戻っていた。
透華「これが、最新の寄せて上げるブラですわッ!」
咲「寄せて……上げる……」
咲(とうとう、小手先に走り始めたー)
透華「脇や背中から脂肪という脂肪を胸に集めるだけで、あら不思議。あっという間に2カップアップですわ」
咲「それは、アップって言えるんですか」
透華「これで、原村和と並べますわ!! 長かったわたくしと原村のアイドル対決に雌雄を決する時がきましたわ!」
(10分後)
咲「透華さん、私に谷間があります!」
咲「すごいですね、これ」
透華「これなら、パットのように偽ではありませんわ」
咲「本物でもない気がしますけどね」
透華「咲、ちょっと手伝ってくださいまして。目一杯、めえぃいいいっぱい、脂肪をを胸に、ですわ」
咲「いきますよ~」グイッ
透華「ひゃっ」
咲「痛かったですか? すみません」
透華「いえ、すこし、すくぐったかっただけで」
咲「そ、そうですか、じゃあ、もう一度いきますね」グイッ
透華「あひゃっ」
咲「すみません」
透華「い、いえ」
透華(どうも、わたくし脇腹が弱いみたいですわ)
咲「な、なんだか、下着姿でこんなことしてると、変な感じですね」
透華「こんな姿、人には見せられませんわ」
咲「そうですね、こんなの端から見たら――」
ガチャリ!
咲「え?」
透華「えっ?」
衣「トーカァ~、咲がきてるんだって~?」ガチャ
一「衣、たとえ透華の部屋でもノックはしなきゃダメ…………だ……よ」
純「どうしたんだ、国広君? って、うわっ!」
智紀「透華は…………受け?」
透華「これは、誤解ですわッッ!!!!!」
純「いやー、透華がソッチだったとはなー」
智紀「意外」
一「…………」
透華「ソッチもアッチもないですわ! これはただ、咲にブラの装着の手伝いをしてもらっていただけですわ」
純「ブラジャーなんて、一人でできんじゃん」
透華「これは、特殊なんてすわ」
純「ウソクセー。そうは思わん? 国広君?」
一「…………」
純「国広君?」
一「…………」
純「大変だ! 国広君が立ったまま気を失っている!!」
「えええええええええ」
咲さんの様子が最近少し変だ。
うまく、表現できないけれど、まるで、クリスマスプレゼントを心待ちにしている子供のように、ソワソワしている。
部活おわり、シンプルな着信音が部室内に響いた。
私のではないし、優希のとも違う。須賀君のかな?
そんなことを考えていると、意外な人物が鞄から携帯電話を取り出した。
「もしもし」
咲さんだ。
確か、携帯電話は持っていないはずなのに、どうして。
聞き耳を立てるつもりはなかったのだけれど、自然と意識は咲さんの話し声へと向かってしまう。
喜色のこもった声で、「透華さん」という言葉を聞くたびに背筋に冷たいものが生じ、流れていく。
透華――龍門淵透華。夏の県予選の決勝で同卓だった人。
確か合宿にもいたように思う。その時に、咲さんと親しく話していたという記憶はない。
いつの間に仲良くなったのだろう?
続きキタ!待ってた
先程より、咲さんの瞳がいきいきと輝いているような気がする。
気のせいかもしれない。私の中のどうしようもない粘ついた感情が見せている幻影である可能性もある。
「さ、咲さん」
咲さんの電話がおわった後、できるだけいつも通りを心がけて、声をかけた。
「携帯電話お持ちになっていたんですね」
「えっ、ああ、うん。最近」
「そうなんですか、言ってくれればよかったのに」
「ごめんね、言うの忘れてた」
忘れてた!? そんな大事なことを!?
腹の底を嫌な感覚が這い回った。
咲さんにとって、私は忘れるような存在なんですか?
鼓動が激しい。拳に汗が滲み、口の中が乾いていくのを感じた。
「今度、和ちゃんのアドレスと番号教えてね。今はちょっと急いでいるから」
そう言って、振り返り扉に向かおうとした咲さんの手を無意識に掴んでいた。
「えっ?」
咲さんは少し驚いたような表情をして、こちらに振り向いた。
「あの、あの」
頭の中に言葉はなかった。だけど、なにか言わないと。
「和ちゃん? 大丈夫? 体調か悪いの?」
私の異常に気がついたのか、心配そうに咲さんは顔を近づけてきた。
「大丈夫? 保健室行こうか?」
「そこまででは……」
「本当に?」
「はい、……いえ、やっぱり少し……」
嘘だった。
けれど、そうすればもう少し長くいることができるのではないか、そういう計算が一瞬のうちに働いた。
咲さんにカバンを持ってもらい、私たちは保健室へ行った。
保健の先生に事情を話し、今、私は保健室のベッドにいる。
「もしもし、透華さん? あの、申し訳ないんですけど――」
廊下から咲さんの話し声が微かに聞こえてきた。
透華さんとやらに断りの電話を入れているのだろうか?
今は咲さんを独り占めにしている。そんな卑近な喜びを、私は噛みしめる。
ただ、胸に刺さった小さな棘は、私の中にずっと残っていた。
和がヤンデレに…
【龍門淵家】
一「最近、二人でコソコソ何してるの?」
透華「な、なんですの、突然」
一「清澄の宮永さんと仲いい……よね? 何してるのかなーって」
透華「と、特になにもしてませんわ」
一「なにもしてないのに、よく会ってるの?」
透華「なにもしてないくもなくて、そのー、相談とかですわ」
一「どんな?」
透華「それはいろいろですわ」
一(いろいろ、てボクには話せないことなわけ!?)
透華(こんなこと恥ずかしくて言えませんわ)
姉妹か同志という関係がふさわしい
【後日 透華の部屋】
透華「さて、今日の『バストアップの会』の活動は、なんと、NASAも開発に関わったと言われているこの吸引器を購入致しまして――って、
あら? 咲? 話を聞いていまして?」
咲「すみません、ぼーっとしちゃって」
透華「なんだか、顔が赤いですわ」
咲「大丈夫です……」
透華「大丈夫に見えな――熱っ」
咲「へっ?」
透華「まったく、体調が悪いなら悪いと早く言いなさい。ハギヨシ!」
ハギヨシ「ご用でしょうか、透華お嬢様」
透華「この前、衣が風邪をひいた時に使ったもの一式持ってきて頂戴」
ハギヨシ「すぐにご用意致します」
いいぞ おもろい
透華「まったく、しんどい時や、つらい時は、はっきりと言わなきゃダメですわ」
咲「ごめんなさい」
透華「来る前から体調が悪かったのでしょう? でしたら、連絡をして家で休んでいればよかったでしょうに」
咲「ごめんなさい、透華さんに会いたかったから……」
透華「な、な、にを言ってますの」
咲「昨日もこっちの事情で休んじゃったし、今日も会えないなんて、嫌だったから……」
透華「ま、まま、ま」///
咲「それに、NASAがどうこうっていう機械も見てみたかったし」
透華「そ、その心意気やよしですわ!!
副会長なるもの新しいものに興味を持つこと、その探究心が大事ですわ。そうですわ、リンゴを擦ってあげますわ。衣が風邪を ひいたら毎回、擦ってあげますの」
咲「あの、ずっと私の近くにいたら風邪、移っちゃいますよ?」
透華「風邪なんて、ここ数年ひいたことありませんわ。なので、問題なしですわ」
咲「でも……」
透華「それよりも、咲はなにかしてもらいたいことはなくて?」
咲「それでしたら、じゃあ――」
透華「なんでもOKですわ」
咲「手を握ってもいいですか?」
透華「手を!? ま、まったく構いませんわ」
透華(ま、まあ、病気の時は心細くなったりするものですわ)
ギュッ
咲「えへへ」
透華「なんですの、その笑いは」
咲「風邪ひいてよかったなーって思って」
透華「――っ」///
透華(さっきから、この子は恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言いますわね)
すでに両想いっぽいね。すばら!
透華「咲? ――眠ったのかしら?」
透華「まったく、衣もそうですけど、麻雀をやっている時とは別人ですわね」
咲「お姉ちゃん……」
透華「なにかしら、――寝言?」
透華「?? 泣いてる?」ヒョイ
透華(あまり詳しい事情は存じ上げませんが、いろいろあるのね、この子も)
咲「お姉ちゃん?」
透華「ん?」
咲「うわっ、すみません、寝ぼけちゃってました!!」
透華「構わないわ」
咲「すみません」
透華「そうではなくて、『お姉ちゃん』でも構わないという意味で言ったのですわ」
咲「え、あ、そんな………………………………いいんですか……?」
透華「構わない、と言ったでしょ。わたくしも咲を妹のように思っていますから、呼び方は咲の好きなように呼ぶといいですわ」
咲「はい、お姉ちゃん!!」
透華「よろしい」
咲「お姉ちゃん」
透華「はい」
咲「お姉ちゃん」
透華「はい」
咲「お姉ちゃん」
透華「はい」
透華(何回繰り返すつもりかしら)
お姉ちゃん!
【後日 透華の部屋】
透華「もう、体調はいいの?」
咲「もう、全然平気です。お姉ちゃん」
透華「なら、よろしい」
咲「はい」
透華「今日の議題なのですが、一人で寄せて上げるブラを使いこなすのはなかなか難しいですわ」
咲「あの、でしたら――」
透華「ん」
咲「下着屋の店員さんに教わるというのはどうでしょうか?」
透華「そういうことができまして?」
咲「はい、聞けば答えてくれると思います」
透華「なるほど……。グッドアイデアですわ、咲」
咲「では、日曜日に駅前で待ち合わせにしませんか?」
透華「? 待ち合わせなどせずとも、車で咲の家まで迎えに行きますわ」
咲「いえ、待ち合わせがいいんです」
透華(この子なりのこだわりでもあるのかしら?)
透華「まあ、いいですわ。そうしましょう」
咲「はい! ありがとうございます!」
咲(これって、デートだよね? うん、デートだ)
咲「じゃあ、日曜日に、お姉ちゃん」
透華「分かっているわ。ハギヨシ、安全運転でお願いね」
ハギヨシ「畏まりました」
一「……………………」
【日曜日 駅前】
日曜はあいにくの天気だった。
初デートが雨かぁ。ついてない。
でも、ショッピングだから関係ないといえば、ないか。
それにしても、興奮して早く着き過ぎてしまった。
約束の時間まであと40分もある。
でも駅前なんておおざっぱな場所を指定してしまったから、私も時間ぎりぎりに来てしまったら、お姉ちゃんとなかなか会えなかったかもしれない。
だから、早く来てよかった。そう思おう。
ピリリリ、ピリリリリ。
お姉ちゃんから電話だ。
「もしもし」
「ああ、咲。家の用があって30分ほど遅れますの」
「そうですか……」
「もう家を出てしまっていて?」
「いえ、今から出るとこでした」
「そう、ごめんなさいね」
「いえ、平気です」
ピッ。
40+30=70。一時間以上も時間が空いちゃったなぁ。
本屋さんにでも行って時間を潰そう、そう考えていると
「宮永さん」
突然、後ろから声を掛けられた。
「国広さん!?」
「透華、家の用事で少し遅れるって」
「はぁ、今さっき電話で――」
まさか、それを伝えにここまで?
「だったら、少し時間あるよね? 話があるんだ」
「はあ……」
なんだろう……。
正直、国広さんとはそんなにしゃべったことがないので、少し気まずい。
でも、断る理由もないし……。
【カフェ】
「ボクはアイスコーヒーにしようかな。宮永さんはどうする?」
「えっと、じゃあ、紅茶で」
「すみませーん」
・
・
・
・
・
飲み物がきてからも無言の時間がつづいた。
国広さんはさっきから何かを言おうとしている様子はあるけれど、話しかけてはこない。
「あの」
仕方がないので、こちらから話しかけてみる。
「な、なに」
「お話があるってお聞きしたんですけど」
「そ、そうだったね。ボクから誘ったんだった」
国広さんは少しためらってから、言いにくそうに言った。
「あんまり、うちに――透華に会わない方がいいんじゃないかなって」
何を言っているのだろう、この人。大きなお世話もいいところだ。
「だって、ほら、うちと清澄ってライバル校同士じゃない? 宮永さんは清澄の中心選手だし、あんまり頻繁に会うとさ――」
「関係ないと思います」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
「雑誌には今年の長野はうちと清澄の一騎打ちみたいに書かれているし、頻繁に会うと変な邪推を生んでしまわないかなって。宮永さんも痛くもない腹を探られるのは嫌でしょ?」
「それも、関係ないと思います」
今度は怒声にも聞こえる、抑制の効いていない声で答える。
空気がふいに重くなり、息苦しさに襲われた。
さすがに、気を悪くしたのか、国広さんは眉をしかめて、少しうつむき加減になった。
目頭に涙が溜まっていくのがわかる。
少し嫌なことを言われると、すぐ泣きそうになる自分がすごく嫌だ。
泣いちゃダメだ。
下唇が白くなるほど噛んで、泣くのを我慢する。
今日は、楽しいデートのはずなのに、どうしてこんな気持ちにならなくちゃいけないんだろう。
「お話はこれだけですか? 私、これからお姉ちゃんと待ち合わせなんで、失礼します」
涙声にならなくて、少し安心する。
立ち上がって出口へと体を向ける。
あ、そうだ紅茶の代金は置いていかなきゃ。
「――じゃないか」
国広さんが何かを言ったが、上手く聞き取れなかった。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんって透華は透華なんだ。君のお姉さんの代用品じゃないんだ」
それを聞いて頭から血が引いていくような感覚に襲われる。
胃が締め付けられ捻られる。
異常な速さで脈を打ち、鼓動が耳の奥で響く。
「み、宮永さん!? ――」
声は聞こえているが、脳が言葉として認識することを拒否している。
指先の末端から感覚が消えてゆく。
視界がぼやけ、焦点を失って視点が定まらなくなった。
「み、宮永さん!? どこいくの? というより、大丈夫なの?」
突然、宮永さんがフラフラと出口の方へ歩み出していった。
足取りは不確かで、どこを見ているのかよくわからない目をしている。
と、とにかく、追いかけなきゃ。
「お客様!」
ボクに向かって叫ばれた気がするので振り向く。さっきアイスコーヒーと紅茶を運んでくれた店長らしき人が立っていた。
「お会計がまだ、お済みになっていません」
「あ、すみません。えっと、いくらですか?」
会計を済ませた後、店を出ると宮永さんの姿は見当たらない。
せめて、店を出て、右へ行ったか、左へ行ったかくらい確認しておくべきだった。
「どうしよう……」
少しの間、思案して携帯電話を取り出した。
その中に入っている透華の番号を探す。
「もしもし、透華? あの――」
雨が本降りになってきた。
傘はカフェに置いてきてしまった。
だけど、取りに行こうとは思わなかった。
服と靴下がびしょびしょになってしまったが、今はもう気にならない。
ただ、透華からもらった携帯電話だけは濡らしたくなかったので、上着で携帯電話くるんで持つことにした。
頭の中で何度も何度もさっきの言葉がこだまする。
「違う、私は――」その後の言葉が続かない。
それはきっと図星だからだろう。
照と透華を重ね合わしていたのは事実だった。
「きゃっ」
ドテっ。また、何もないところで転んでしまった。
これで、びしょびしょに加えて、ドロドロになってしまった。
私はなにひとつ進歩がない。
依存して、失って、依存するの繰り返しだ。
そしてまた、今回も……。
手に持っていた上着と携帯電話がないことに気がついた。
辺りをきょろきょろと探すと、不幸なことに深めの水たまりにどっぷり浸かっていた。
「ケータイ!」
叫ぶより早く体が動く。
体の痛みなどこの時にはもう、意識の外へ飛んで行ってしまっていた。
不幸なことは重なるもので、携帯電話は上着からすっぽり飛び出し、水没していた。
慌てて取り出して、ボタンを何度も強く押す。
――反応がない。
「動いてよ、動いて」
これでもかというくらい、電源ボタンを強く押してみる。
携帯電話は真っ暗な画面のまま、なんの反応も示さない。
お姉ちゃんとの間にあった絆が無くなったような気がして無性に悲しくなった。
泥水で汚れた携帯電話が自分と重なり、惨めだな、とまるで人ごとのように思った。
目の前を見たことのある車が横切り、その後急ブレーキの音がした。
見たことのある人が手に持っている真っ白な傘を差さずに、こちらへ駆け寄ってくる。
――透華さんだ。
会いたくない、と咄嗟に思ったがそれも一瞬のことで、しかも本気ではなかった。
泣いた
透華「咲!!」
顔面を真っ青にして透華は咲の元に駆け寄っていった。
透華「そんな泥だらけで、いったい……ま、まさか、強姦!?」
咲「ち、違います。これは、転んだだけで……」
透華の顔に安堵の色がさす。
透華「まったく、妹は姉に心配をかけるのが仕事とはいえ、こういった心配事はもうなしにして頂戴」
咲「…………」
透華「こんなに濡れて、あなた病み上がりでしょ?」
咲「け、携帯が……」
透華「携帯? ああ、この雨で壊れてしまったの? でも、携帯電話は替えがききますわ。でも、咲は咲しかいないでしょ。大切さが違いますわ」
咲「……ごめんなさい、透華さん」
透華「透華さん? あなたが『お姉ちゃん』と呼びたいとおっしゃったんだから、そう呼びなさい」
咲「でも……」
透華「でも、とか! 咲はでもが多すぎますわ」
咲「でも、……でも私は本当の妹じゃないし、たから――」
透華「わたくしが妹だと言ったら妹なんです。理屈など不要ですわ」
咲「――――」
透華「なにか、不満があって?」
咲「いえ、あり、がと、ございます。お姉ちゃん」
喉が痙攣を起こして上手く言葉が発せない。
透華「あなた、本当に泣き虫ね」
透華「ハギヨシ、咲の服とお風呂の準備を」
ハギヨシ「透華お嬢様、この近くに銭湯がございます」
透華「銭湯! 銭湯ですわ! そこに行きましょう!」ピョンピョン
ハギヨシ「では、私はその間に宮永様の代わりの服を買って参ります」
透華「銭湯! 大きいお風呂屋さんのことでしょう?」
咲「お姉ちゃん家のお風呂より狭いよ、きっと」
透華「なんでもいいですわ! 初めてですわ、銭湯!」
透華「一、あなたも行きますわよ」
一「」ビクッ
透華「雨の中傘も差さず、咲を探していたからあなたもびしょびしょでしょ?」
一「…………」
透華「あなたたち二人、本当に似たもの同士ですわ!」
透華「言いたいことははっきり言わないと伝わりませんわ!」
一「ボクは遠慮しておくよ……」
透華「遠慮とか! わたくしと一と咲、家族に遠慮は無用でわ」
咲「か、家族!?」
透華「姉妹なんだから、家族に決まってますわ」
咲「ぁ……ぅ」
透華「一度会ったら、わたくしに優先権があって、毎日会ったらわたくしの物ですわ。だから、一も咲も、どちらも既にわたくしの物で、家族ですわ」
《エピローグ 少し未来の話》
咲「あーー!! 一ちゃん、それ私の服」
一「あ、そうなの? サイズがぴったりだったから着ちゃった」
咲「もーー」
一「まあまあ、代わりにボクの服着てもいいよ」
咲「嫌だよ! あんな服!」
一「あんな服ってどこがだめ訳!?」
咲「服としての役割を果たしてないじゃない!」
一「果たしてるよ。隠すとこは隠してるし、通気性とか抜群なんだから!」
咲「その通気性が嫌なの!」
ギャーギャー
純(ウルセー)
一「ふと、思ったんだけど。透華は私たちお母さんだから、咲は――叔母さん?」
咲「叔母さんって、この中で一番年下だもん」
一「だって、そうなるよね、透華の妹なんでしょ? 咲叔母さん」
咲「叔母さんじゃないもん」
智紀「咲はみんなの妹……」
一「なんか、ともきー最近やけに咲の肩持つね」
智紀「そんなことない……」
衣「さきー!」
咲「衣ちゃん」
衣「咲、今日も麻雀打とう!!」
咲「うん」
衣「咲が来てくれてから、毎日、咲と麻雀が打てて、衣は嬉しいぞ」
咲「私もそんなこと言ってもらえて、嬉しいよ」
キャッキャッ
純(ウルセー)
一「純君って、仲良しになるの下手っぴだよね」
純「はあ?」
一「だっていつもこっちを羨ましそうに見てるじゃない?」
純「べ、別に見てねーよ。ウルセーっと思って睨んでるだけだって」
一(言い訳も下手っぴだ)
透華「まったく、こういうことは、もっと事前に――」オッパイ、ブルンブルン
純「ちょっと待て! なんなんだ、その胸は!?」
一「透華、さすがにそれは……」
透華「な、なにがですの?」ブルンブルン
純「なにがですの、じゃねぇよ。なんだよ、胸は!」
透華「き、昨日早く寝たから胸が発育したのですわ」ブルンブルン
純「そんな現象あるわけないだろ!!」
透華「目立ってなんぼ! 目立ってなんぼですわっっ!」
純「目立つことと恥を晒すことは似て非なるものだろーが」
透華「ああ、最新の3カップアップに見える奇跡のヌーブラでしたのに……」
純「ヌーブラってこういうもんじゃないだろ、確か」
一(また、変なもの掴まされてる……)
透華「咲も喜んでましたのに……」
一「えっ、今なんて」
咲「あ、お姉ちゃん、衣ちゃんが――」オッパイ、ブルンブルン
純「お前もかーーー!!」
カン。
乙!素晴らしかった
乙!
のどっち……なんでもねぇ
やっぱり透華さんは素敵だぁ!!
乙乙
もう龍門渕に転校しちゃえば良いよ
いい話だな―
和には気の毒だがこういう組み合わせも新鮮でいいですね
最初はギャグだと思っていたらいつの間にかシリアス目な話に
乙です
おつー
おっぱいで始まった話だし、おっぱいでおわらないとなーって思ってこのオチにしました。
誰も不幸になっていない(和は微妙だけど)し。物語の着地点で、これがきれいなのでは? と思ったので採用。
没) 咲→透華←一
一「透華を取らないでよ!! ボクには透華しか……」
ってな感じでガンガン盛り上げていこうと思ったんですが、これだと一が完全な悪役になっちゃってどうかなって。
盛り上げるために、一を悪役にすることが正しくないように思えたので没。
没) 和→咲→透華
挟まれた咲が、ただただ可哀想にしかならなそうなので。
和ちゃん病んでるし、透華も捨てれないし。
和の一人称の部分に名残が。
没)咲*透華 エロ
エロに結びつける展開が思いつかなかった。
大雨、ずぶ濡れ→一緒にお風呂→そのままH の後オチが思いつかなかった。
あと、一がかわいそう。
乙
安易に恋愛やエロに走らないでいたのでよかった
おつおつ もんぶちには疑似家族が良く似合う
エロも見てみたかった
咲透エロだと?(ガタッ
3Pでもええんやで(ゲス顔)
3pとかいらんからボツである咲透エロはよ!
こんなオカルトありえません。
イチ乙
姉妹や同士が~
安易に恋愛や~
↑可哀想に…和咲や透一が好きすぎて他を認められないんだね
恋愛に発展する過程は書いてるんだから安易でもなんでもない、イチは自信持って続き書いてもええんやで?
これはオカルトじゃないからあり得るんじゃなかろうか(逆説)
それより透華は何を思っていたのか
透華目線も見て見たいんですがねぇ
透華は割と何も考えてない
照「…」
言い回しや雰囲気での推測だけど>>1とは別の人が続き書いたのかな?
しかし良いカプでした
エロへの発展なら、誰かに胸を触ってもらうと大きくなるって噂を信じて試すとか。
おつおつ
えがった
>>104
透華「あら貴女、妹はいないと仰っていたのでは?」
和かわいそす
おっぱいの揉み合いはいつですか?
誰かとくっつくと和カワイソスって言われて自由がない咲さんカワイソス
日本人女性の8%がAカップだそうです
さっきネプリーグでやってた
ずっといいもん食ってる透華がペチャバイなのは明らかにおかしい
透華の能天気なところってすごい美点でもあったんだね
始めて見る組み合わせだけど面白かった乙
>>113
175cmある人でも、その人がプロバスケットボーラーになりたいと考えていたら、その身長でも劣等感を
覚えるかもしれない。そういう感じで、透華も和と比べてコンプレックスを感じていた、という解釈でお願いします。
半分くらい書いた後、キャラクターのしゃべり方を音で確認しようと思って、1期の25話の合同合宿の話を見返していたら「マジかよ」って思ったのですけど、透華って意外に胸あるのですね。でも、マンガだとたいして……。
テコ入れで純に「まあまああるのだから、別に気にしなくてもいいんじゃね?」とか、
透華に「ここまで、大きくなってこそ原村和との真のアイドルを決める戦いができましてよ!」言わしてみたのですけど、分かりにくかったですよね。
龍門淵ではなく龍門"渕"ですね。
あと、一の「透華は私たちお母さんだから、咲は――叔母さん?」の箇所は、私たちではなくボクたちですね。
すみません。
自分が読む側の時、人称ミスとか固有名詞の誤字とかを見つけると「ああ、この人この作品あんまり好きじゃないのかな?」とか思ったりするのですけど、まさか自分がする側になるとは……。
上手く脳内補完してください。ごめんなさい。
読んでいただいて、更に感想まで下さってありがとうございました。嬉しかったです。
ああいや>>113は原作に対してね
アニメとかだと大胸筋がクッソ鍛えられたりしてて笑える
可愛いのん
俺も透咲もらえて嬉しいから、いつか何らかの形で恋愛まで書いてはくれないか?
このSSまとめへのコメント
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