比企谷八幡「職場体験」 (10)
「最近の若い者は弛んでいる」というよく年寄りが口にする台詞は太古の文献にも存在している。要するにこの一文は下の世代を貶めるための常套句として人類に使われ続けているのだ。
他にも「若い者は~~しない」などがある。例えば『読書』を挙げてみよう。昭和の評論家は当時の若者に対してこう述べている。「最近の若い者は漢文を読まず、夏目漱石や太宰治ばかり漁っている」恐らくどの時代に遡ったとしても、娯楽を追求する姿に対して似たような苦言を呈する老人はいるだろう。
責任転嫁や己の立場を利用した世代批判の鼬ごっこが負のスパイラルを産み出し、圧力に耐えられない下位の存在と抑圧する上位の存在がこの悪しき伝統を引き継いでいくのだと私は思う。誰かが止めねばならない。何故なら我々は理性を持った霊長の王であり、話し合いでコミュニケーションの伝達が可能であるからだ。
よって私の行為は正当極まりなく、仮に加害者がいるとするならば、このような習性を遺伝子レベルで刻み込んだそれまでの人類の歴史か人をこんなにも不器用で愚かに仕立てた神か同級生にセクハラ同然の所業をした挙げ句、止めさせた私を訴えると脅しをかけた悪徳弁護士こそが諸悪の根源であり、私が無罪放免であるのは妥当である。
○
今年の夏に学んだことはクーラー全開の部屋では風鈴の音に暑さを和らげる効果は無いと言うことだ。むしろチリンチリン五月蝿いまである。中庭では麦わら帽子を被った事務員の服部さんが家庭菜園のトマトやナスを収穫していた。今日は夕飯は夏野菜の辛口カレーだと聞いている。タダメシにありつくためにもまずはこの事態を切り抜けなければ。俺は現在東京都のある場所で、机越しの革製の椅子に身を沈ませた変態・小美門研介がA4サイズの原稿用紙を片手に睨み付けられていた。
「言いたいことはこれだけか」
「うす」
俺は片足に体重をかけ体全体を右に傾けながら生返事で答えた。考え付く限りの不遜な態度で小美門を挑発するが奴は気にもしていない。服部さんの淹れた紅茶を啜りながら優雅な午後を満喫している。俺は帰宅の際、運転の出来ない小美門には宝の持ち腐れである高級車に材木座特製痛車ワッペンを張り付けることを決意した。小美門が原稿を読み進めるに連れて顔面を蒼白にしていた黛さんは小美門から用紙を取り上げ、黙読する。やがて黛さんはぷるぷると両手を震わせ、俺の方へ振り返った。
「ひ、比企谷君。もうちょっと軽い奴はなかったのかなー・・・なんて」
「赤いペンで糞野郎のことをボロクソに書きなぐった方は雪ノ下に却下されてしまったので・・・すみません」
「あっ!!いや、比企谷君は悪くないよ!!悪いのは万事この横分けだから!!」
黛さんに頭を下げると、彼女は慌てた由比ヶ浜のように手を振り回した。黛真知子さんに初めて会った時は彼女の芸能人みたいな顔の作りに緊張したものだが、ここ小美門法律事務所に職場体験に来てから一週間も経つ。流石に小慣れてきた。とは言え最初は大変だった。横分けにやけ面の小美門とどこかガッキーに似ている美人弁護士黛さんの阿吽の呼吸で繰り出される夫婦漫才に圧巻され、神出鬼没のジャニーズ系イケメンの蘭丸、不可能を探す方が難しい紳士服部さんの大活躍に息を呑む。ここまで個性が強いとまるでフィクションの世界だ。
「朝ドラぁ、貴様私の小間使いの分際で私に歯向かうつもりか。この変態の女神が。そんなに変態が好きなら秋葉原の老舗メイド喫茶『メイドラブ』にでも就職し直すと良い。世間と変態の荒波に揉まれて少しはマシになるだろ。あ、すまん揉めるだけの大きさではなかったな」
「私もセクハラで立件しようかな・・・。先生、セクハラは犯罪なんですよ?大事になる前に、由比ヶ浜さんに謝罪して終わりにしませんか?先生の心無い発言で彼女の精神は深ーく傷付いてしまったんですよ?」
可哀想でしょ、と訴えかけるように黛さんは首を傾げる。横に立つ俺は彼女を青いと思った。黛さんは感情論が目立つ。だから毎回小美門に謂れのない罵倒を受けている。恐らく今回も小美門の屁理屈で丸め込まれるだろう。大方の予想通り、小美門は不敵な笑みを浮かべ、得意のマシンガントークで黛さんを捲し立て始めた。
「貴様は何を言っている。彼女は毎日毎日見せ付けるような薄着でこの事務所に来て私の机の前に居座り、『コミモン、あたしマユポンやコミモンみたく法律のことよく知らないから、ハッちゃんとかランランみたいに別のことで役に立つね』と誘惑してただろうが。この場合、私が彼女の提案に乗っただーけーだ。つまりお前らの言うセクハラとは男女交際の延長線に過ぎない!!訴えを起こすなら起こすが良い。だが私は全力で刑罰を逃れ、その後名誉毀損で逆に訴えてやると助言しておこう」
「気持ち悪い声真似しないで下さい。それに先生の論理は破綻しています。彼女の一連の行動は比企谷君に・・・えっと」
小美門との論争の最中に黛さんは言い淀んだ。ちょっと待って欲しい、その論調と露骨な視線は含みが有りすぎて俺は不安になる。え?俺関係あんの?由比ヶ浜の私服が乳や腰のラインがモロバレのビッチ系コーディネートなのは毎度のことじゃん。そう言えば良い。八幡悪くないよ。
「ヒーキーターニィ?黛、まさか貴様はあんなキャピキャピしてるのに純情可憐で男を知らない無垢な結衣ちゃんが、金無し地位無し単位無しのなんちゃって大学生であるこいつに惚れてるとでも言うのかね?はぁーとんだ展開だ。その妄想全開のライトノベルは一体どこの書店で買えるんですかね?」
人を指で差すな。失礼だろ。
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期待
コミモンならゆきのんに舌戦で勝てそうだな
リーガルハイかよwwwwwwwwww
ひねくれた二人を合わせるとは、この>>1はやるな
面白い
やり方は間逆だけどな
相手をひたすら陥れるか自分を陥れるか
「恋愛は当事者の問題です!!先生の個人的且つ歪んだ価値観で」
「ならば何故付き合っていない?」
「え?」
「大学二年生といえば遊びの幅が広がり、国の決めつけた法律に大手を振って煙草だの飲酒だの競馬だのパチンコを満喫出来る素晴らしい時期だ。さらに性に関して奔放になる時期でもある。そんな多感な時期に乙女チックな少女漫画の心情をトレースするような鈍臭い間抜けがどこにいる?結末としてはどっかの馬の骨に掠め取られるのがオチだろう」
小美門の暴論に困惑した黛さんは目を瞬きさせた後、「付き合って・・・ない?」と小さく呟き俺に目配せした。いやそんな風に見られても、比企谷八幡が無垢で汚れを知らない好青年であることに変わりないわけで。ていうか疑問点そこかよ。
「貴様どうやって結衣ちゃんが陰湿が擬人化したような根暗のヒキタニに惚れているという現実味の無いガセネタを掴んだ?」
「え?あっ、ええと・・・お、女の勘ですよ。圭子さんも仰っていましたよ。『この世で最も信憑性のあるもの』だと」
「そんな詭弁を真に受けるな馬鹿者。だからお前はヘッポコなのだ。そしてその名を私の前で口に出すな。いいかよく聞け、私は菅 野 美 穂のような女性が良いんだ。あんなポッと出の自己中女のことを私が囲っていたのは人生の汚点なんだ!!黛、上司として君に一度限りの慈悲を与えてやる。今すぐあの女との交信は断絶しろ。出来なければクビだ!!」
左手で激しく机を叩きながら、喧しく騒ぐ小美門に対して、黛さんは悪戯に成功した小町のようにはにかんだ。可愛いと思った矢先、黛さんは慎ましい懐から棒状の物体を取り出した。その形状には見覚えがある。大学で一番前の席を陣取り、講師の下らない与太話すら取り入れている意識が高い(笑)学生御用達のボイスレコーダーだ。
「先生・・・迂闊でしたね」
「ま、黛・・・さん。そそそそれはどういうつもりなのかなぁん?」
小美門が動揺している・・・?黛さんは優勢に立てたことが嬉しいのか、感極まったという表情でボイスレコーダーを天井に向けて掲げていた。
「今の会話は録音していました。そしていつも言っていますように、不当解雇とは断固戦いますのでよろしく」
勝者としての自信なのか、黛さんは誇らしげに胸を張る。やはり雪ノ下と同じくらい起伏が乏しい。小美門は机に項垂れながら絞りこむように呻いた。
「・・・貴様はその隠し持っていたテープを使って審議を有利にするつもりなんだな?」
「人聞きの悪いこと言わないで下さい。これはただの保険です」
「保険だと?恐喝じゃないか!!」
劇的な喋り方、劇的な振る舞い、劇的な表情で、小美門は黛さんを問い詰めた。何か狙いがあるのだろう。俺が黛さんを抑えようとした
時には全てが遅かった。
「先生だっていつもやってるじゃないですか!!」
あ、やべ。
???「やられたらやり返す。倍返しだ!」
リーガルハイって知らないけど続きはよ
ググったら古美門って出たけど誤字?
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