001
鹿目まどかと彼女を取り巻くその友人達に関わる物 語は、本来であれば語るべきではないだろう。 そもそも、僕が勝手に語ることについて彼女達は良い 顔をしないと思うし、僕だって鼻息を荒くしてまで語 りたいわけでもない。 むしろ。僕だって語りたくは無いのだから。
『だったら無理に話さなくても良いじゃないか』と 至極当然な意見が聞こえてきそうだけれど、それは勘 弁していただきたい。 仕方が無いのだ。これは僕に架せられた十字架であり (僕が言うと余り冗談として聞こえない)課せられた 宿題のような物なのだから、 話さなければ、果たさなければならない。まあ、そん な事を言っても僕は二度と彼女達に会うことは無いだ ろうし、それ以前に彼女達も僕のことを憶えてはいな いだろう。 それほどまでに印象の薄い話なのだ。いや、薄いのは いつだって僕の性格なのだけれど。
それでも大げさに、この語るべきではない物語の起 因を誇大主張するのならば、本来なら関わりすら持つ はずの無い彼女達の物語と、 僕の物語は因果を超えて関わってしまった、と言うこ となのだろう。偶然と表すには軽すぎるし、奇跡と言 うのも正しくは無い。 それこそ魔法――そう、魔法だ。魔法のような理解不 能でいい加減な力が関わったからこそ、僕と彼女達は 関わってしまう破目になってしまったのだ。
鬼、猫、蟹、蝸牛、猿、蛇、蜂、鳥。
曲がりなりにも普通の人間とは少しばかり違った経 験を積み重ねている僕ですら、アレを理解することな ど出来まい。 第一、僕が関わってきた怪異という世界そのものであ る理ですら何一つ理解出来ていないというのに、どう して彼女達とのあれこれを理解できると言うのだろう か。
僕は、彼女達の気持ちですら理解出来ていないとい うのに。
例えば鹿目まどか。
例えば美樹さやか。
例えば巴マミ。
例えば佐倉杏子。
そして……暁美ほむら。
彼女達は僕から見れば強すぎたし、美しすぎた。そ して、同時に脆すぎた。 まるでガラス細工のように綺麗だったけれど、少し叩 いてしまえば簡単に割れてしまうほど、弱かった。だ から、僕には理解できなかった。 自分の弱さに気付いても尚、過酷な運命に立ち向かお うとする彼女達が。そして、僕が理解できなかったか らこそ、あんな結末を迎えてしまったのだろうけれ ど。
さて、ようやくではあるが本題に入ろう。そして結 末でさえも語っておこう。 鹿目まどかを中心に廻るこの物語は、数あるバッドエ ンドの内の一つでしかない。
希望と絶望に振り回され続ける、そんなありがち な、ただの魔法少女たちの物語だ。
作物語(つくりものがたり) ま どかウィッチ
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随分前にエタらした奴ですが、仕事も変わって暇が出来たので再開します
002
「お前様、夏休みも佳境だというのに、そうやって魔法少女モノのアニメを息抜きと称して長時間視聴し続けるというのは、いかにも非生産的に思うぞ」
普段は受験勉強をしていて視る機会が無かったお気に入りのアニメを、一挙最終話まで観ようとしていた僕に、忍は唐突に言った。
「なんだよ、たまには息抜きも必要なんだぜ?それに今回の休日は羽川も戦場ヶ原も認めてくれたのだから、お前にとやかく言われる筋合いはないぞ」
「ふむ。そう言われれば確かにその通りなんじゃが…… 繰り返すがその行為が無駄じゃと儂は思うのじゃ」
どこと無く真面目な表情を浮かべながら、忍は顎に手を添えて考え込んでいる。 因みに僕は胡坐の姿勢で、忍はその足の上に座っている。
見た目八歳の幼女を抱え込む様にして魔法少女モ ノのアニメを視聴するという微笑ましい光景だ。
「そりゃあ、お前の言うとおり限られた休日をアニメ観賞に費やすってのは、どう足掻いても生産的とは言えないけれど、そもそも夏休みは非生産的に過ごすのが一般的だぜ? 僕みたいに受験生じゃない限り、皆似たり寄ったりの生活をしているだろうしさ」
まあ、羽川辺りはどの学年でも生産的に生きてはいるだろうけどさ。きっと今だって図書館にでも居るのだろう。
「第一、お前の言う生産的な休日ってなんだよ」
「決まっておるじゃろう。ミスドへ行くことじゃ」
「超消費的じゃねぇかよ」
最初からそれが狙いか。つーか略してんじゃねえよ。どれだけ馴染んでんだ。
「だってそのアニメ見飽きたんだもん!一話から最終話まで十週は視たもん!」
「テメェは見飽きても僕は見飽きてねぇよ!どれだけ僕の影の中で寛いでるんだよ!ていうか「だもん」とか言うな。お前はどんなキャラ設定でいきたいんだよ」
普段の一人称が儂の奴には一生縁の無い口調だ。
戦場ヶ原やん
戯言にしようぜ
「だってほら、儂ってまだ声優未確定じゃし」
「本家では決して言えないことを冒頭でサラっと言いやがった……!」
「実際アニメでは一言も喋っておらんから、原作未読者は一人称が儂』だなんて思いもしておらんじゃろうからな。 だから映画版では『あたち』という舌足らずな一人称で攻めようと思っておる。そうすれば金髪幼女で舌足らずという黄金属性の出来あがりじゃ!」
「っく……不覚にも萌えるじゃねぇか。……でも待てよ 忍。お前って元は二十八歳位の外見だろ?二期は良いとしても映画版では厳しくないか?」
幾らが意見が八歳の幼女になろうと元はダイナマイ トバディ(死語)なんだから、一人称の変化は難しいはずだ。
「ん?問題なかろう」
「なんでだよ」
忍は軽く嘲笑しながら、そんなことも分からぬのかとでも言い出しそうな目で僕を見て、言った。
「映画版での儂は初めから幼女姿で出演することになっておる」
「マジで!?」
「しかも内容はコテコテの日常萌えアニメじゃ!」
「そ、そんな……僕と羽川の絡みや、ヴァンパイアハンター達との熱い死闘はどうなるんだ!?」
「そんなもの、オールカットじゃ。代わりに儂とお前様のゆるふわ日常を延々と流し続ける!タイトルも 『きずもの!』に変更じゃ」
「くそ、少し魅力的なのが悔しいぜ……」
「そうじゃろう、そうじゃろう。じゃったら未来の正ヒロインである儂をミスドに連れて行かぬか」
「調子に乗るな」
忍の巧妙な営業トークに危うく騙されるところだったが、ここまで露骨にミスドを要求されれば目が覚める。 なんて言うか、詰めが甘い。
これはまたエタる
エタったSSの再開SSが再びエタる割合は95割と聞いているが
つーかもうこの掛け合い自体もう遅いんだよ。なん なら声優決定どころか放送終了してしまったし。 どれだけ遅いペースで書き溜めていたのかばれちまう じゃねぇか。
「そうじゃな。そしてそれを書き直さずに書き足すことで本家のメタネタっぽく見せて行数を稼ごうとする浅ましさも露呈してしまっておる」
「余計なこと言うんじゃねぇよ!」
「それに、偽物語どころかセカンドシーズンも終わってしまったしの」
「書き始めた時には原作も出版してなかったのにな。まったく、時間でも巻き戻したい気分だぜ」
「お前様よ、それは傾物語でやるじゃろう」
「いい加減にしろ!」
いいじゃねぇか、サイドストーリーなんだから。
そもそもお前の一存で映画の内容を変えれるわけがないだろう。八九寺じゃあるまいし。
「あー、もうこの話はお終いだ。だいたい、この間のセールで結構食いだめしただろ?」
この間というのは月火ちゃん絡みの問題に着地点を見た後、再び貝木と遭遇したあのミスドに出向いた時だ。 あの詐欺師に財布ごと持っていかれたので小学生から溜めていた貯金を崩す破目になってしまったのだけれど……。 まあ、あの時は忍にも働いてもらったので仕方がない出費だろう。
忍も流石に居心地の悪さを憶えたのか「むー」と頬を膨らましてそれ以上追求することはしなかった。 それは僕の住む町にあるミスドのセールが終わってしまったのを知っていることも起因しているのだろう。
「儂も魔法が使えたらのう……」
「おい、吸血鬼」
とてつもなく夢見がちな発言をする六百歳だった。
僕の脚の上で項垂れる忍。魔法って、お前それに似たようなこと出来るだろ。全盛期程じゃ無いにせよ、僕の影の中でDSやれるんだし。
……まあ、確かに僕も魔法が使えたらと思わないわけでもない。 いつだって人は、そういった楽なチカラの存在を求めるのだ。僕も忍も人間ではないけれど。
「ん、しかし忍。アニメみたいなコテコテの魔法とまでは言わないけど、それに近いもんだったら存在するんじゃないのか?」
怪異という存在があるように、魔法というものも存在するようにも思える。 以前、忍野が例の学習塾跡地に結界を張ったりしたのも、見方を変えれば魔法と言えなくも無い。 影縫さんの式神である斧々木ちゃんも、怪異ではある けれど召還魔法と受け取れなくも無いだろうか。
「確かに魔法、魔術は存在するの。ただ、漫画やアニメのような万能というわけではない」
「はぁん」
魔術と魔法の違いだなんて僕には訳がわからないけれど、やはりそこまで万能なものは存在しないということは理解することが出来た。
「ただ、儂が知らんだけで万能な魔法とやらも存在するかもしれんし、最近になって確立されたかもしれん。詰まるところ魔術や陰陽術も儂らと同じようなもんじゃからな」
忍は意味ありげにそう言って、全体重を僕に預けるようにもたれ掛って来た。僕は少しだけ体制を整えてそれを受け止める。彼女の、小さい肩を。 どうやら外出するのは諦めたらしく、不機嫌そうな表情のままアニメが流れているテレビに視線を送っている。
現在時刻は夕方の六時。かなり早起きをしている忍はどこと無く眠そうだ。そのまま僕らはしばらく無言でアニメを見続けていたが、どうも集中できずに主人公がやたらファンシーな効果音と、 目が痛くなるくらいカラフルな必殺魔法を使って怪獣を倒したところでDVDプレイヤーの電源を落とした。 一瞬で世界の平和を守った魔法少女も、世界の平和を脅かす悪の秘密結社の怪獣も、消えてしまい、代わりに夕方のニュース番組が流れ始めた。
僕はこの瞬間にどこか虚無感に襲われる場合が、極まれにだがある。 我ながら捻くれているとは思うけれど、ああやってテレビの向こうの主人公が頑張って平和を取り戻しても、また次回には敵に平和を脅かされるという、 堂々巡りのような展開を冷めた目線で観てしまう。当然、こういったアニメや漫画は最終回というモノが存在し、どんな形であれ終わるのだけれど、こうやって途中で僕が観るのを辞めてしまっては、物語の登場人物たちは終わりを迎えることは出来ない、なんて考えてしまう。
本当に終わりが無いのは、現実だけだと解っているのだけれど。
「まあ、やっぱりなんでも出来る魔法なんてものはないんだろうけどさ」
「む、どうしたんじゃ。急に」
ぼーっとテレビに写るニュースキャスターを眺めながら、僕は言う。
「だって魔法――この場合は何でもいいけどさ、とにかく便利すぎる力ってのが存在したら世界なんてとっくの昔に滅びてると思うんだよ。22世紀の未来デパートなんて実際にあったら大変だと思うぜ?」
未来にはそれすらも抑制する道具なり法律なりがあるんだろうけど、現代に持ってきたらそれこそ魔法みたいなものだ。 世界を滅ぼすことも、思い通りに改変することも出来る。
「行き過ぎた技術は、もはや魔法じゃしな」
「変な話だけど、江戸時代の人間が今の僕らを見たら魔法使いに見えるだろうし」
「確かにの」
実際に江戸時代を生きた忍の相槌は、説得力が違う。
僕は続ける。
「だからフィクションの世界のような魔法なんて無いんじゃないかなって。仮にあったとしたら、相当しっかりしたシステムが形成されてて、無闇に魔法なんて使えないようになってたりするんだと思う」
それとも、魔法が仕える人間全てが善良であるか、だ。
「しかしお前様の言ったシステム云々は抜きにして、 近い未来に創作じみた魔法は現れると儂は思うぞ」
「うん?どうしてだよ」
「さっきも言ったが、人間視点での不確かな――おおぉぉぉおぉおおおお!」
と、何か言いかけた所で忍は表情を一変させ(例えるなら獲物を刈ろうとするライオンの様な)僕の脚の上から跳躍し、齧り付くようにしてテレビへと襲い掛かった。 僕は何が起きたのか全く理解できなかったが、次に発せられた忍の言葉で覚ることが出来た。
「げ、げげげ限定のフレンチクルーラーじゃと!?更にはポン・デ・リングまで……あ、あ、ああああああああ果ては新店舗オープン記念に二つまでお好きなドーナッツ無料じゃと![ピーーー]気か!こんな魅力的なCMを見せて儂を[ピーーー]気なのかミスドは!ぱないの! う、うひゃぁああああオマケにく、クーポンまで貰えるのぉぉおおおお!?」
つまり、テレビで流れているミスドのCMで全壊でキャラ崩壊を起こしている忍。 ひゃぁぁとか言うな。語尾を伸ばすな。
「う、こ、コホン」
CMが終わったと同時にテレビから落下し(宣伝が終わるまでずっとテレビにくっ付いていたので、文字通り落ちた)ワザとらしい咳払いをして忍は振り向いた。 ……もうコイツが何を言いたいのかが全て分かる。
あー、もう。しょうがないな、明日からはまた勉強漬けで忍の相手も出来なくなるだろうし、今日は幸いにも妹達は外出中だ。
「お前様、解っておるな?」
「わかってるよ。それで、その店の場所は覚えてるだろうな?僕はお前の絶叫とロリボディのせいでCMは全く見れなかったんだから」
「うむ。当然、抜かりは無いぞ。場所は――」
この時、僕は何か予感めいたものを感じていた、筈も無く。
「――見滝原、と言っておったかの」
少しばかり遠出しなくちゃいけないな、としか思っていなかった。
003
二人掛けのテーブルに置かれていたドーナッツの山が無残に崩れ去っていく様を見ながら、ああ里山を削られて開発されていく人の気分はこんな感じなんだと、僕はちょっとだけセンチメンタルな感傷に浸っていた。その山が削られた向こうでは口周りをチョコやら 生クリームやらでトッピングした金髪少女が満足そうにしている。 最早、初期のキャラ設定など皆無だ。凄惨どころか歳相応の無邪気な笑みを浮かべている。
誰もお前が吸血鬼の成れの果てだなんて思わないだ ろうなぁ……。
僕はそんな忍から目線を外し、店内を観察する。 特にこの行動に意味は無いのだけれど、普段住んでいる田舎町から都会である見滝原へやって来たので自然と視線が泳いでしまう。 そんなに遅くは無いが、僕の住んでいる町だったら殆どの人間は自宅で過ごしているであろう時間だ。僕より年下であろう学生達の姿だけでも珍しい。
うーん、やっぱり都会は違うんだな。 見滝原という街自体は知識として知っていたけれど、 ここまで都会っぽいとは思いもしなかった。 髪の毛を茶色に染めるだけで不良というレッテルを貼 られる僕の街では考えられない色をした頭をちらほら見かけるし。
「なんじゃ、お前様。こんな所まで来て新しいロリを探しておるのか?」
「うるせえよ。この店内で誰よりもロリなのはお前だし、そもそも僕はロリコンじゃない」
ロリが好きなわけではない。八九寺が好きなだけだ。
「そう言いつつも、レジに並んでおる女子中学生に釘付けみたいじゃが……」
「別にそんな意味はないよ。ただ髪の色が珍しいだけだ」
それについては、嘘ではない。いや、それについてのこと以外は嘘だと思われるような発言だが、全て真実だ。僕は一度たりとも嘘を吐いた事がない。 現にレジに並んでいるいたいけな五人組の少女達を描写してみよう。それを読んで貰えれば僕が如何わしい目で彼女達を見ていないことが判明するはずだ。
まずレジカウンターに身を乗り出すようにして自分のドーナッツを待ちわびている少女。彼女の髪はまるで海のように、そして空のように青い。 青い髪、と聞けばパンク的なイメージを持つかもしれないが彼女の名誉の為に言っておこう。あれはそんな青色ではない。 ショートカットに中学生ながら発達気味の胸が何ともいえないアンバランス感を醸し出し、子供でありなが ら大人の女性に近づいている風情を出している。 カウンターに身を乗り出していることからも分かるように、恐らく彼女は元気があって活発な子なのだろう。なるほど、それだけを見れば確かに女子中学生らしいとも言えなくは無いが、前述したとおり彼女はそれに そぐわないモノを備え付けている。決して巨大ではないが、同年代に比べれば大き目の胸。 つまり外見と中身が一致しているのに、その胸部だけが不一致だといえる。だが、それは決して不細工ではなく、むしろ型にはまっている。完成系だ。
そして彼女の後ろで溜め息を吐きつつも自分のドーナッツを早くレジに並べたそうにしているのは、赤色の髪をしている少女。 赤髪。前にいる青髪とは対象的なこの色は燃えるような情熱を感じさせるが、腰まで伸ばしたポニーテイルがいい感じに中和されているのだ。 物静か、というイメージではない。寧ろ青髪の少女のように活発な子だろうと連想させる顔立ちが一層大人 びた赤色を輝かしている。 体型としては女子中学生らしく物足りないが、姿勢が恐ろしく良いこの少女に合っている。格好良い、という表現が正しいのかもしれない。 だが、その格好良さと幼い顔立ちの不安定さが美しいのだ。青髪の少女同様、彼女もまた不安定で不釣合いだからこそ完成していると言えよう。 なにより、僕は彼女の歯に注目したい。歯、つまり八重歯だ。吸血鬼もどきの僕も犬歯は長いけれど、彼女の閉じた口からはみ出るそれは別格とも言える。 丁度、忍もあんな感じで八重歯が出ているが、系統が 違う。そこはとても言葉では表せられないが、賛同は得られるであろう。
そんな女子中学生らしい青髪と赤髪の少女の後ろに並ぶのが、金髪の女の子である。いや、彼女を女の 子、つまりは女子と表現するには正しくは無いだろう。 女性、つまり大人として見るのが正解だ。当然、ここから見る彼女達のやり取りから考えるに金髪の彼女は 同じ中学生なのだろう。 だが、残念なことに金髪の彼女から溢れ出る雰囲気は 他の四人とはまるで違う。先輩後輩であろう関係がそれを際立たせるのだろうけれど、それよりも際立っているのが彼女の反則的なまでの胸だ。彼女に至っては巨大という称号を冠しても不思議ではない。僕も女性の胸部に ついては一家言ある人間なのだけれど、彼女の胸には惜しみなく合格点を与えたい。二重丸どころか花丸だ。羽川とのやり取りで誤解されている人が多いとは思うが、ここは良い機会なのではっきりと言っておこう。 僕は巨乳が好きなわけではない。あくまで羽川のおっ ぱいが好きなだけだ。それはつまりその人間に合った胸が好きという事で、大小で区別、差別する矮小な人 間ではない。 つまり、金髪の彼女は実に彼女らしい胸を持っている、ということだ。補足するならば金髪で縦ロールという点も評価したい。 前の二人は不完成故に完成していたが、彼女はまごうことなく、完成している。ジエンドだ。
さて、完成されている彼女の後ろに並ぶピンク髪の少女に移ろう。はっきり言ってしまえば前の三人のように特筆する点は無い。 強いて言えば五人の中で最も奇抜な髪の色をしている、ということだけだろうか。 昔、僕の妹が髪をショッキングピンクに染めたことが あるが、恐らく妹と彼女のピンクとは違ったのだろう (妹のピンク髪は実際に見ていないので推測だが)。 レジに並ぶ彼女の髪の色はなんというか、そう、自然なのだ。桃色、と言えば伝わるだろうか?とにかく派手な色ではあるが派手過ぎないといった感じ。 その小動物のような顔に、良く似合っている。髪の色さえ度外視すればスタンダードな女子中学生だ。 誤解が無いように言っておくが、別に彼女は魅力が無いと言うつもりはない。普通という括りはある意味で最強の属性とも言えるのだ。 内気そうだけど暗くは無く、明るいけれど騒がしくは無い。そんな印象を与える彼女は前の三人よりもある意味では魅力的だ。 また、体型も幼い感じで丁度いい。未成熟な身体に、 少し丸めた背中。そんな全てが未熟な彼女が誰よりも愛おしく見える。
最後は、黒髪ロングの少女なんだけど……あれ?あの子こっち見てる?
「当たり前じゃ。そんな熱烈な視線を浴びせていては誰だって気が付くぞ」
「そんな……僕はただ普通に見ていただけなのに……」
人間観察ですら許されない世の中になってしまったのか。世知辛い。「あれはどう見ても視姦じゃ」という忍の戯言はスルー。人間観察だって、普通の。
「しかしあれだけカラフルじゃと、人目を引くのは仕方がないかもしれんの」
「でも他の客は全く気にしちゃいねぇぜ? 流石都会、と言えなくは無いかもだけどさ」
「ふん。戦隊モノ並みにカラフルな奴等は気にならないのに、儂とお前様は気になるみたいじゃがな!」
「一心腐乱にドーナッツを貪るお前に引いてんだよ……」
昔のアニメの食いしん坊キャラの如くドーナッツの山を崩している忍の姿は、僕でも直視するには耐えがたかったというのに、一般の皆様が耐えられる訳がない。気が付けば僕達の座るテーブルの周りには誰もお客が居なくなっていた。セール中だというのに周りが閑散としているのは辛い。
僕は黒髪の少女に見られているのと、周りのお客の視線にバツが悪くなり、俯きがちにコーヒーを啜る。早めに退散したほうが良いなぁ、これは。
「おっ、ここ空いてるじゃん! ラッキー」
と、さっさとコーヒーを飲み干して退転しようかと思っていた矢先、僕の耳元に激しくトレイをテーブル に置く音と共にそんな声が飛び込んできた。チラリと隣に視線を向けてみれば、なんと青髪の少女が空いていた六人掛けテーブルにトレイを置き腰を下ろしているではないか。マズイ。いや、別に何か悪いことをした訳ではないが、青髪の彼女がこのテーブルに来たということは他の四人も集まってくるだろう。つまり、僕をゴミを見るような目で見ていた黒髪の少女もこちらに来るということで、それはとっても気まずいなって。
しかし、あの黒髪の少女が僕を見る目は当時の戦場ヶ原を思い出す。 僕が彼女(ここでの彼女はそういう意味での彼女だ)にゴミを見るような目で見られていたという点はスルーするとして、なんとなく似ているのだ。
――あの問題を抱えていた頃の戦場ヶ原に。
「やれやれ、やっと座れるよ」
「あら、貴女の場合はやっと食べれるよが正解なんじゃないかしら?」
青髪の少女に続いて疲れたように赤髪の、それをからかうように金髪の少女が続けて席に着く。 当たり前だが、彼女達は僕に対して何か言うでもな く、それどころかこっちすら見ていない。それでも、僕はどこか居心地の悪さを覚えてしまう。
「うーん、やっぱりあのドーナッツにすればよかったかな?」
「迷う必要はないわ。私が買っているもの」
結局、席を立つタイミングを失った僕の隣に青、赤、黄、桃、黒のカラフルな女子中学生が集結してしまった。 小心者の僕は隣に誰かが座ったと同時に立ち上がる勇気はない。だから目の前の忍から目を逸らさずにジッとタイミングを――って忍が居ない?
「ふむ、小娘にしては中々いい選択をしおる。どれ、 そのオールドファッションを一つ儂に献上しても良いぞ」
「え、あ……」
「何してんだよ!!」
隣のテーブルに座って、ピンク髪の少女にドーナッツを眺めていた。
何が『献上しても良いぞ』だ。テメエさっき散々食い散らかしただろうが。それに怪異が気軽に女子中学生と会話するんじゃねえよ。 頼むから空気を読んでくれ。僕とお前はペアリングである程度は繋がってるんじゃなかったのか?
「今は目の前のリングの方が大事じゃ」
「と忍はキメ顔でそう言った!?」
今までの発行された巻数の積み重ねをミスドが上回っちゃった! えー、嘘だろ。これって『化け物を助けた偽善者と彼を愛した吸血鬼の物語』がテーマなんじゃないの?
「えーっと、その……一つ位なら、大丈夫ですよ?」
失意と絶望の底へ叩き落された僕に声を掛けたのは、忍に言い詰められていたピンク髪の少女だった。 どう考えても忍の無茶な注文だというのに、申し訳なさそうな表情でトレイを少しだけこちらに寄せている。
「いや、大丈夫だよ。こいつはさっきまで一生分のドーナッツを食べたから」
「一生分? 馬鹿を言うなお前様。あんなモノは一日分じゃ!」
「お前もう黙れよ!」
物足りない胸を張りながら、忍は言った。 どんだけ俗物なんだよ、お前。大体僕が彼女からの差し入れを断っているのは常識に則っているだけじゃなくて、黒髪の少女からの殺気が理由なんだよ。 ほら、完全に初めて会話した時の戦場ヶ原と同じ目だぞ、あの子。それにさっき聞いた声もどことなく戦 場ヶ原に似てたし。
「でも、その子凄くドーナッツ食べたそうだし……」
その気遣いはとても嬉しいんだけど、それによって色々と僕の首が絞まっていくので止めて欲しい。
「ほら、まどか。そのお兄さんがいいって言ってるんだから無理に勧めない」
おお、青髪ちゃんナイスフォロー。ばっちり空気読んでるあたり、流石現役女子中学生!
「……それに、絶対ヤバイ関係だよ。見た目高校生と金髪ロリ少女って」
「…………」
前言撤回。空気を読み間違えていた。 せめてもう少し小声で話してほしかったぜ。
っていうか最近の女子中学生はロリって言うんだなぁ。自分自身その言葉の対象内だというのに使うのは八九寺くらいだと思ってたけれど。
「駄目よ美樹さん、初対面の方にそんなこと言っちゃあ。鹿目さんも困ってるでしょ?」
「マミの言う通りだな、さやかは少しはデリカシーってモンを……」
「杏子に言われたくないわよ!」
「なんだと!? おい、ほむら。アタシとさやかのどっちがデリカシー無いか決めろ!」
「どんぐりの背比べね」
「なにー!」
「なにー!」
楽しそうに笑いあう女子中学生たち。それでも話題の元は僕がヤバイ奴かどうか判別するところだと思うと少しやるせない。 これ以上、こんな空間に居ることは絶えられない。そもそも大人数と会話するのは苦手だし、こんな幸せそうな友達空間も居辛い。 べ、別に僕は友達が少ないとかそんな某ラノベみたいなタイトルと同じ現状な訳ないけれど、これ以上仲良し五人組の邪魔をするのも野暮ってもんだろう?
「忍、出るぞ」
僕は残っていたコーヒーを一気に飲み干すと、まどかと呼ばれた少女のトレイを未だに見つめている忍の首根っこを掴んで猫のように持ち上げた。 そしてそのまま肩に担いで席を立つと、空いていた左手でトレイを持ち返却口へと向かう。 無事にトレイを返却すると肩の上でバタバタしている忍を無視して、女子中学生たちの居るテーブルへ再び向かい「それじゃ、また」と爽やかに挨拶をする。 僕としてはそのまま颯爽と去るつもりだったんだけれ ど、まどかちゃんが僕を呼び止めた。
いや、僕というよりは忍に声をかけた。
「忍ちゃん、でいいんだよね」
「……小娘如きが軽々しく呼ぶ出ないわ」
……なんで無駄に偉そうなんだよ、お前は。まどかちゃん涙目だぞ。
「えへへ、ゴメンね――はい、これあげる!」
でも、まどかちゃんはそれでも笑顔を浮かべ、忍にオールドファッションを差し出した。 彼女の行動に一瞬だけ面食らった忍だったが、目にも留まらぬ速さでオールドファッションを奪い取りそのまま一口で食べた。 モグモグと口を動かしながら「美味いの」とだけ呟いた忍が、これ以上の感謝も感想も言う気配の無いこと を察した僕は、代わりに「ありがとう」とだけお礼を 言って、今度こそ店を出た。
「ふぅ……満足じゃ」
店を出てから、ようやく忍は口を開きそんな感想を言う。
「そりゃあ、あれだけ食えば満足するだろうよ。つうか忍、最後に貰ったドーナッツのお礼ぐらい言っとけ よ。そりゃあ怪異と人間っていう関係性ではあるけどさ」
少し前に地元のミスドで貝木と遭遇した時もそうだけど、忍は自分から人間に対して話しかけることはあまりない。 それこそ貝木や影縫さんのような専門家や、斧之木ちゃんのような怪異そのものなら少しばかり違ってく るだろうが、 この姿になってから忍が普通の人間と話した処を僕は見たことがない。
……春休みの頃は、別にして。
そこには当然、怪異と人間の関係が複雑――無関係だからこそ、難解な関係だからというのがあるだろう。 怪異とは言わば舞台裏。どこにも居なくて、どこにも居る。怪異は世界と繋がっている。
人間と馴れ合うような関係ではない。
「……感想なら、言うたじゃろ?」
「……まあ、次からはお礼も言うようにしろ――よ!?」
そろそろ肩から忍を降ろそうとした瞬間、僕たちを取り巻く景色が暗転した。
――違う、景色が組み変わっている!
異常事態に気が付いた忍は僕の力を借りずに肩から飛び降り、二回ほど回転してから地面に着地し変わりい く景色の奥をジッと睨みつけた。 本来ならば忍の向いている方角には自転車置き場があり、僕のママチャリもそこに駐輪してあるはずだった。
だが、そこにはペンキをぶちまけたような染みが延々と続き、 汚れた筆にトンボの羽のようなものが生えた意味不明 の物体が旋回しながら無数に飛び交っている。
サイケデリックとかそんな次元ではなく、何者かの狂った思考をそのまま景色として見せられているよう な、そんな空間だった。
「お、おいおい……何の冗談だよ」
目の前で起こる変化――というよりは異変に僕の頭 は付いていくことができない。
だが、悲しいことに景色の変換は着々と進行し、僕が何一つ言葉を発する前に完全に摩訶不思議な空間へと挿げ代わってしまった。
明らかに地球上の生物とは思えないグロテスクな物体がそこら中を飛びまわり、テレビで見かけるスプレー缶の落書きよりも色彩に統一性のない地面と空、そして誰も居ない。
と、ここで僕は少しばかり冷静になり(というか諦 めた)現状を把握することに努める。
まずこの空間。
当たり前ではあるが今まで僕が生きてきた人生で見たことも聞いたことのない景色である。そして、その場合この状況が何を意味しているかも分かった。
怪異、なのだろう。
つまり、僕らは行き遭ってしまった――いや、取り込まれたという表現のほうが正しか。
とにかく、いくら科学技術が発達した現代だろうとここまで広範囲の風景を変える事など不可能だからそう考えるのが妥当だ。
そうなると忍に少しばかり血を吸わせておいたほうがいいのかもしれない。荒事になる可能性は少ないと思うが、 決しては零ではないのだから。
「……忍、取り合えずお互いを強化しておこうぜ。
忍野 には乱暴な発想だとか言われそうだけど、保険を掛けておくに越したことはないだろうし」
「……そう、じゃの」
そうやって忍は僕の首に噛み付いたものの、どこか集中していないようで今でも空間の奥を気にしているようだった。
もっと言えば、警戒している。僕としては周りで蠢いている物体のほうが気になるのだけれど。
「なんだよ、忍。ひょっとしてこの空間のこと知ってるのか?」
僕の質問に、若干ではあるが身体が成長した忍が、首筋から口を外し答えた。
「うむ……知っては、おるの」
「いまいち煮え切らないな……とにかく、これは怪異の仕業ってことでいいんだよな?そして詳細も知っている」
歯切れの悪い忍に対して自然と強い口調で問いただしてしまう。
「確かに、これは怪異じゃ。
そして儂もその詳細を知っておる――じゃが、どのような者かまでは知らん」
「それは、忍野から訊いた知識だからか?」
忍野。
フルネームは忍野メメ。
以前、僕がこういった状況に巻き込まれた際に助けてくれた恩人で、小汚 いおっさん。
文化祭の前日に僕の住む町から去ってしまったが、あいつと少しばかり学習塾ビルの廃墟で生活をしていた忍は雑談という名目で怪異に関する話を延々と訊かさ れていたらしい。
そうであれば、あくまで知識でしかないので忍の物言いも納得できるんだけれど。
しかし、忍野の話を一方的に訊かされてきたんだよなぁ、こいつ……あらためて思うが、辛かったんだろうな。
「違う。これはあの小僧から訊いた情報などではない」
しかし、忍の反応は僕の思っていたものと違った。
はっきりとした否定。つまり、この怪異に関しては忍が元々知っていたということになる。
「へぇ、珍しいな。怪異は等しくお前の食料だったんだろ?それなのに詳しく憶えているなんて」
忍は吸血鬼だ。
現在は僕の影に縛られ、名前に縛られ、力を絞られ吸血鬼もどきではあるが、当時は最強のナイトウォーカー。
怪異でありながら、怪異を喰う――通称、怪異殺し。
実際のところ、その通称は忍の持つ刀から来ているのだけれど、彼女が怪異を喰らうことは間違いではない。
つまり食料である怪異に対して忍は関心を持たず、それどころかその他の怪異との区別もしていなかった。
決して忍はグルメではない。
いちいち食料の種類や名前、味などを覚える必要がなかったから。
「ん、この怪異は特殊じゃからな」
そんな数多の怪異を食い荒らしてきた口を少しばかり吊り上げながら、忍は凄惨な笑みを浮かべる。
僕の血を普段より多く吸ったことにより彼女の見た目は十四歳――つまりさっきの女子中学生ほどの体格となっている。
そしてそれと比例するように、僕の身体能力も吸血鬼 のそれに近づいている。
しかし、さっきの話ではないが、忍自身の知識にこの謎の怪異があるということはそれほど特殊なのだろう。
「なるほど。だからかなり血を吸ったんだな?」
つい最近もこうして忍に血を与えて戦ったことがある。
その時は目一杯、つまり十八歳くらいの外見にな るまで忍に血を吸わせた。 あの時の相手にそこまでしても僕は勝てなかったけ れど、忍は圧倒していた。
だけど、普段は外見に変化があるまで血を吸わせたりはしない。
文化祭前の猫に対して忍は八歳の姿のまま、相手を吸い尽くしたのだから。
僕が何を言いたいのかというと、やっぱり今回の怪異に対して荒事になるということと、ここまでしなければ勝てない相手だと分かったということだ。
「それで、この怪異の名前はなんて言うんだ?」
そして、忍は呟く。
目を細め、どこか懐かしむように。
「お前様もよく知っておるじゃろう。異端の象徴、悲劇の象徴――つまり、魔女じゃよ」
とりあえずここまで
コピペミスって読みづらすぎワロタ
エタらないよう頑張りますがまどか劇場版とうつくし姫にはやくもそげぶされたった
乙
そういえば劇場で叛逆の本編の前に真宵ちゃんがQBの役割でまどマギのキャラと関わる話をやったな
絵は化物語の予告みたいな感じで
乙 続き、楽しみにしている
>>8 いったいそれはドコ調べだwww
乙
うつくし姫……ずいぶん昔そんな調教モノのエロゲーがあったっけ
乙
面白いな
あ、あとこのスレタイでググればエタったスレが出てきます。
そっちはもうちょっと先まで書いてありますが、エタらしたスレを載せるのもアレかと思いコピペしてます。
乙
あとsagaるよろし
だからハーレム物のクロスはやめとけと何度言えば
くぅ~疲れましたw
004
「魔女。これについては説明はいらんじゃろ?もはや西洋の国だけじゃなく、日本でも親しまれておる名称じゃろう
「ああ、そんなに驚かなくてもよいし、不安がる必要はないぞ。魔女は怪異じゃ。お前様の思うような格好 をしておるわけでもない、というかそもそも人型ですらない
「……詳しい説明をするには骨が折れるからのう、簡単 に話すぞ?
「魔女は人間の絶望から生まれる怪異じゃ
「イメージとしては前髪娘の蛇を浮かべてくれればよい。呪いを振りまく怪異、絶望を与える怪異
「ただ蛇切縄と違う点は、『お呪い』などという他人 発での呪いではないというところじゃ
「魔女は自身の意思で人を呪う
「人を呪い、人を[ピーーー]
「……そう険しい顔をするな、お前様。古来より人を[ピーーー]怪異など溢れておるじゃろう。以前の儂がそうであったようにの
「かといって自らが動いて殺したり、一人だけを狙って[ピーーー]ということもない。基本的に無差別じゃ。
原因不明の自殺や、行方不明者などは基本的に魔女の仕業と言ってよい
「理由?理由などないよ。あやつらにとってみれば普通に生きているだけで呪いの対象になるのじゃからな
「基本的な性質としては結界を張り、引きこもっておる。それだけで呪いを振りまくことは出来るのじゃ
「そして個体差がある怪異でもある。元委員長の猫のよ うに意思
――のようなものを持ち、それぞれ違って独立しておる。それぞれが別の怪異と言ってもいいかの
「あくまで成り立ちから総称されるのが、魔女
「例外的に結界に入らない魔女もおるがの
「それで、儂らがおるのが魔女の結界内じゃ。外界とは遮断され連絡は不可能。脱出するには魔女を倒すしかない。じゃからここまで吸血鬼性を高めたのじゃ
「別段、普段のままでも勝てるとは思うがの……ま、お前様の言うように備えておくにこしたことはない
「さっきも言ったが魔女は引きこもり気質での、結界の奥底に居ることが多い
「いくぞ、歩きながら説明する
とりあえずsagaろうか
「ん?周りを飛び回ってるのは魔女じゃないのか、 じゃと?
「ふん。あれは使い魔じゃ。部下というか手先みたいなものじゃよ。ほら、お前様が見てたアニメにも出てきておったじゃろう
「キメ顔の小娘ほど上等なものじゃないぞ。こやつらは意思も持たずにただ人間を襲うだけじゃからな
「……どうして儂らは平気なのか、という顔をしておるの。安心するがよい、これから説明する
「そもそも魔女は人間を襲い、呪い[ピーーー]だけの存在じゃ。何も生命全てを[ピーーー]訳ではない
「……奴等は人間に絶望しただけじゃからな
「これだけで分かったじゃろう
「そう、儂らは人間ではない。怪異じゃ
「すまぬ、失言じゃったな……お前様が気にすることではない。とにかく怪異は生命ではない。この世界そのもで、当然魔女の呪いの対象ではない
「――同属を[ピーーー]ことはない
「いや、独り言じゃ。気にするでない
「怪異を襲う怪異など、儂ぐらいじゃよ。猫も、キメ顔の小娘も本能的に儂を襲ったわけじゃないじゃろ う?
「だったら何で結界内に閉じ込められたのか、という説明もしておこう
「先も言ったように魔女は怪異を襲うことはない。基本的に人間を襲う。これはよいな
「しかし儂は完全に怪異ではないし、お前様も完全に人間ではない。特にお前様の血を吸う前では特に、 じゃ
「もう想像がつくじゃろ。結界が展開されるまで、お前様は人間と判断されていたのじゃ
「怪異など大雑把なのじゃ。ほれ、いつぞやの蟹もそうじゃったろ
>>35
サンクス
期待
「……さて、魔女の退治方法について説明しようかの
「エナジードレイン?っは!そんなもの使うまでもないわ。だいたい魔女に身を寄せるだけで嫌悪感が走るというのに、何が悲しくて喰わなくてはならんのじゃ
「この、心渡で切ればそれで終わりじゃよ。かすり傷 だけで魔女は消滅する
「そう、消滅じゃ。猫のように再び現れることはない。切られた個体は永遠に消える――殺すことが出来る
「なに、仕方がないことなのじゃ。魔女に関しては滅せられるまでがその役割とも言えるからの
「あの軽薄な小僧とて、魔女を解放することなどは簡単ではないと思うぞ。バランス的にも、消してやったほうがいいのじゃ。気にするな
「……本来は、専門家に任せるべきなんじゃろうけどな
「今回ばかりは目を瞑ってもらうとしよう
「――と、話しておるうちに最深部に到着したようじゃの
「一瞬で終わらせるぞ。こんな場所に長居はしたくな いじゃろ?
「それでは、いくぞ。お前様」
005
忍から怪異に関する情報を訊きながら、不可思議な 空間を奥へ奥へと歩を進めていくと目の前に格子状の 扉が現れた。 どうやらここが最深部らしく、忍が言うにはこの奥に今回の原因を生み出した怪異――魔女が居るらしい。
正直なところ、忍の説明は抽象的であまり魔女という怪異について理解を深めることは出来なかった。
なので未だに僕の中での魔女はオーソドックスなイメージがある。
黒衣に尖がり帽子、それに箒を持った女性の姿。 世間一般に知られる魔女のイメージだろう。それこそ漫画のような魔法を使い、冗談のような呪いをかけてくるような、そんなイメージ。
だがしかし、鉄格子を開けた僕はそんな貧弱なイメージを一瞬でぶち壊されることになる。
「…………なんだよ、あれ」
鉄格子の向こう側はまるでドーム型になっていて、 丁度僕たちはスタンドの一番高い位置から競技場を眺めているような場所にいた。
当然ではあるが、僕が見下ろす先にはサッカーグランドや野球場、ラグビーのポールやなにかがある訳がなく、
これまでの結界内と同じように色合いなど完全に無視したサイケデリックな空間が広がっており僕の視覚を刺激する。
使い魔らしきモノもそこらかしこで蠢いていて、とてもじゃないが降りてみようだなんて気にはなれない。
それに、あんなモノが真ん中に居座っていて飛び込もうだなんて思う馬鹿は誰もいないだろう。
蟻、だ。
それも巨大な。
ただし姿形は蟻のそれであっても、周りの景色と同 じで緑やら黄やら目の痛くなるような色であり、何より直視し難いその顔面は人間そのものだった。
そして、その顔面ですら整った色合いではなく、幼稚園児が落書きをしたかのように様々な色で塗られていて、所々陥没してしまっている。
「っ……」
思わず、吐き気を催す。
今までに様々な怪異と遭ってきた僕ではあるが、そんなこれは初めてだ。
別に魔女がグロテスクな姿をしているからではなく。
別に魔女に対して恐怖心を憶えてしまった訳ではなく。
その周りに置かれたモノのせいだった。
だって。
だって、魔女の周りにまるでコレクターが大事にしている物品を整理しているように並んでいるのは――
魔女と同じように顔面を陥没させられた数人の、人 間だった。
「ふん、過去に結界へ誘われた人間共か」
冷たく忍が言い放つ。
そこに感情はなく。
そこに感傷はない。
ただ目の前の事実を淡々と口にしただけだ。
怪異としては驚くほどのことではない。むしろ関心を抱いたことが驚愕だ。
「あ、あれは魔女の仕業なのかよ……」
ただし、僕は人間だ。人間もどきだろうと、半分吸血鬼であろうと、人間だ。
だから、この惨状に目を向けることが出来ない。
「紛れもなく、魔女の仕業じゃろうな。ほれ、お前様。そんなに引くことはない。さっさと片をつけるぞ」
「お、おい。待てよ、忍!」
言うが早いか、気持ちの整理などこれっぽちも出来ていない僕を尻目に、忍は蟻の魔女が居る中心地へ向け心渡を持って降りていってしまった。
反射的に僕も後を追ってサイケデリックな壁を滑る様にして降りていく。
いや、忍は確かに格好良く滑走していったが、僕は落ちていくという表現の方が正しいくらい 間抜けにも転がりながら下へと移動することになった。
ここまで吸血鬼性を上げていれば怪我をすることはないし、仮に怪我をしても痛みを感じる間もなく再生してしまう。
だからといって転げ落ちるのは恥ずかしいし(例え誰も見ていなかったとしてもだ)、恐らく普通に飛び降りればこんなことにはならなかったのではないだろうか。
相変わらず、僕は格好がつかない。
「蟻の魔女、その性質は嫉妬……といったところかのう」
僕が落ちた先で心渡の峰の部分を肩に乗せ、忍は目を細めて言った。
忍の説明は本当に合っていたらしく、魔女はおろか使い魔でさえも派手な乱入者二人に襲い掛かる気配は見せない。
僕はひとまず身の安全が保障されたと信じ、ほっとして忍に訊ねる。
「……魔女を倒したら、この人達が生き返るってことはないよな」
「あるわけなかろう。誰でも助けたがるお前様には辛いことだとは思うが、既にここに並べられた人間共は終わっておる。巨大な妹御の囲い火蜂のようにの」
「そう、だよな……」
そこまでご都合主義がまかり通る訳がない。自分でも驚くほど冷静な思考回路に驚きつつも、心の中で合掌する。
正直なところ、まだ事実を受け止め切れていないだけかもしれない。
自分自身が何度も死んで蘇ってきた経験があるとは言え、他人の死を、それもこんな形の死体を見たことなどは一度もない僕にとっては、
いささか目の前の光景はショッキングすぎる。
気を抜けば、叫びだして、吐いてしまいそうなほど。
「お前様が気にすることではあるまい。いや、気にはするかもしれんが気に掛ける必要はない。この人間共は事故に遭ったようなものなのじゃから」
「……わかってる」
わかっている。理解はしている。
忍が言いたいことは、痛いほどわかる。
もし、この人達がまだ生きていて魔女に襲われそうになっているのなら、僕は全力で手を出すだろう。
この身を削りながらでも、それこそ何度死んだって、魔女に抗うだろう。
でも、死んでしまった人間を生き返らせることなど出来ない。
僕は魔法など、使えないのだから。
「ならば、さっさと終わらすぞ。こんな陰気臭いところは早く出たい」
「気を使わして悪かったな……頼む」
僕の返答に忍は「ふん」とつまらなく鼻を鳴らし、そのまま心渡を振り上げる。
そして、金髪少女には少し刺激的過ぎるその刀身を鈍く光らせながら一気に振り降ろす――。
「その必要はないわ」
――ことは、出来なかった。
006
「たいしたおもてなしは出来ませんが、ゆっくりしていってください」
目の前のガラス製三角テーブルの上に金髪の少女――巴マミがそう言いながら高級そうなティーカップが二つ置かれた。
二つ、というのは当然僕と忍の分であり僕たち以外の少女たちは特に何かを飲むわけでもなくじっとこちらを見つめていた。
さすがに三角テーブルに七人が膝をむき合わせることは不可能で、赤髪の少女と青髪の少女は刷きだし窓の前に腕を組んで立っている。
ちなみに赤髪のポニーテールが佐倉杏子で、青髪でショートカットの彼女が美樹さやかというらしい。どちらも品定めをするように僕と忍へ視線を向けている。
「あ、いや。おかまいなく……」
その射るような視線に居心地が悪くなった僕は、温和な笑みを浮かべながら座る巴にお礼を言い、俯きながら紅茶を啜る。
うん、僕に紅茶の味は分からないけれどどことなく高級な感じは伝わってくる。僕は紅茶なんて午後ティーぐらいしか飲んだことないからな。
対する忍はお礼など当然のごとく言わず、二ヶ月前のような仏教面でじっとティーカップを睨み付けているだけだった。
わけも分からず連れて来られて業腹なのかもしれないが、少しくらい愛想を振りまいてくれてもいいんじゃないか。ものすごく雰囲気が重いんだよ。
……まあ、原因はそんな忍だけじゃなく、対面に座るピンク髪の少女の隣に座した暁美ほむらが自身の傍らに置いてある拳銃もなんだけれど。
「ああ、別に気にしなくてもいいのよ。これはあくまで護身用だから」
「ははは、最近の世の中は物騒だからなぁ――」
どうも最近の中学生は護身用に防犯ブザーではなく本物の拳銃を携帯しているらしい。
これも学校や保護者の絶え間ない危機管理の賜物だろう。
登下校中に道を尋ねられるという不審事件があちこちで発生する昨今、これくらいは普通らしい。
確かに防犯ブザーでけたたましい音を鳴らしても誘拐する奴は誘拐するだろうし、催涙スプレーなんかも複数人には対応しきれまい。
しかし、拳銃であればその存在だけでもけん制するには十分だ。まさに打って付けの防犯グッズ言えよう。
なぜ彼女の持つ拳銃が本物だと知っているのは、ついさっき実際に使用してもらったからである。
いまだに僕の鼓膜には銃声が張り付いている。
「もう、ほむらちゃん……阿良々木さん達が困ってるよ? ほら忍ちゃんだって脅えて声も出せないんだから」
「あら、それは失敬。まどかが言うのならこれは仕舞うわ」
ピンク髪の鹿目まどかに言われた暁美はあっさりと自分の非を認め拳銃を左腕に装備している盾のような物に収納する。
ていうか、忍は脅えてなんかいないだろうし、とても表情からはそう読み取れないだろうに。
「じゃあ、これくらいなら」
四次元ポケットようなその不思議な盾や、そもそも明らかにコスプレだろうという格好に突っ込みたくなってしまったが、
僕は変わりに取り出された物に対し声を荒げる。
「なんで拳銃の代わりに爆弾を取り出してんだよ!」
「適当なことを言わないでくれるかしら? これはスタングレネードよ」
「髪を掻き分けて格好つけて言っても一緒だよ! 危険物には変わりねぇよ!」
法律を遺脱してるんだよ。なんでそんなファンシーな格好してるのに重火器ばっかり持ってるんだ。
「わぁ、ほむらちゃんってやっぱり凄いや」
「それほどでもないわ」
「待て、これ以上ボケを増やすんじゃない」
比較的まともそうな鹿目までそっちへ行ってしまったら僕はどうすればいいのだ。
「うーん、転校生。せめて麻酔銃ぐらいにしておいたら?」
「それとも思い切って機関銃とかな」
「え、なに? これって僕がおかしいの?」
僕の悲痛な叫びを茶化すように窓際の二人が言う。
マジで最近の中学生は重火器を携帯するのが普通なのか?それほどまでに治安が悪いのかここは。
「さて、おふざけもここまでにして……始めましょうか」
ぱん、手を打って僕達の会話を遮ったのは巴だった。やはり一学年上だけはあって彼女はこのグループのまとめ役のようだ。
冷静に考えればぶっちきぎりで僕が最年長(忍はノーカウント)なので、中学三年生の女子に諭されるというのは実に情けない気もするけれど、
いかんせん僕は事情を説明するとだけ言われてここに招かれたので、気にすることはないだろう。
「えっと、魔法少女について……だっけか」
魔法少女。
魔女を狩し者。
僕があの魔女の結界から救出され(別に忍がいたので自力でも脱出できたのだが、助けられた手前そんなことは言えない)あれよあれよという間に
一人暮らしをしている巴マミの自宅へと連行される途中に簡単な説明は受けたのだが、どうもいまいち要領を得ていないのが正直なところだ。
だいたい魔法少女などというアニメや漫画だけの存在が目の前に急に現れたとして、あっさり「はい、わかりました」と言える訳もない。
魔女との戦闘中に彼女達が纏っていた格好、つまりは現在進行形で暁美ほむらが着ているファンシーな衣装はいかにも魔法少女らしいといえばらしいけれど、
その戦闘スタイルはどう考えてもアニメなどでよく見る魔法少女とは明らかに一線を画していた。
あの時、忍が魔女に攻撃を加えようとした心渡を遮った暁美が持っていたのは拳銃ではなくサブマシンガンだったし、佐倉や美樹は槍と剣で、
温和そうな巴ですらマスケット銃を乱用していた。
いや、攻撃の連携という点で見れば美しいとまで思うほど統率の取れた動きだったし、巴の必殺技なんかも魔法少女的といえば頷ける。
あのグロテスクな魔女を相手取るにはやはり魔法のステッキではなく、より殺傷能力に優れた武器のほうが合理的なのだろう。
だろうけど、やはり魔法少女らしくはない。
確実に日曜朝八時半からの放送はできないだろう。
ただ道中の簡単な説明だけでも、魔女に対する専門家とは、彼女達のような魔法少女だということはなんとなく分かったし、
魔女に襲われている人間を救うような善人である事も感じれた。
しかし、それが僕をお茶会に招待する理由にはなるまい。
「魔法少女についてもそうですけど、阿良々木さん達に聞きたいこともあったので」
鹿目が訂正を入れる。
窓際の佐倉と美樹は既に目を伏せて会話に参加しない意思を見せている辺り、基本的に巴と鹿目が僕の相手をしてくれるのだろう。
暁美に居たっては常に殺気を放っている。僕と楽しくお喋りする気は全くないらしい。
因みに、鹿目まどかは魔法少女ではないらしい。
そういうところも、以前の戦場ヶ原に似てるんだよなぁ。
蛇足だが美樹の声質は僕の妹にそっくりだったりする。
「特に質問されるような人間じゃないぜ、僕は。 魔女、だっけ? あれも初めて見たし、そもそもこの街に来たのも初めてだ。
ましてや魔法なんて、使えない」
どこか問い詰めるような口調で話す鹿目に対し、冗談っぽく返す。いや、この尋問みたいな雰囲気が嫌なので少しでも明るくしようとしただけで、
なにか誤魔化そうだなんて気はない。そりゃあ少しばかり人間離れした体質ではあるが、それは別に言うことではないだろう。
これは魔法なんかじゃなく、ただの罪なのだから。
「自分の意思で結界の最深部に向かっていく一般人なんて、そもそも居ないんですよ」
ましてや、魔女に攻撃を加えようとするなんて、と巴が紅茶を持ってきた時と同じ声のトーンで言った。
だけれど、さっきのように優しいだなんて思えなかった。
「いつぞやの美樹さやかぐらいじゃないかしら?」
「うるさいぞ、転校生」
ぼそりと暁美が言った言葉に素早く美樹が突っ込みを入れる。
少し棘々しいやり取りにも聞こえたが別に仲が悪いわけではなく、普段からこの距離感での付き合いをしているのだろう。
二人とも怒っている訳ではなさそうだし。
「いや、責めているつもりはないんですよ。鹿目さんも伝え方が悪かったわね。正しくは阿良々木さんではなく、忍ちゃんに聞きたかったのよ」
そんな美樹と暁美のやり取りを横目に、巴は忍へと目線を向ける。その視線に気が付いているのだろうが忍は目を伏せたまま黙っている。
「単刀直入に訊くわ。貴女、魔法少女なの?」
「…………」
正直、この質問を想定できなかったわけではない。むしろこんな幼い幼女が魔女に対して日本刀を振りかざしていれば間違いなく同業者だと思うだろう。
彼女達は魔女という怪異を知っていても、怪異という存在は知らないのだから。
忍が元吸血鬼など、分かるはずもない。
だからこの質問に対して正直に答えることも出来ない。ましてや質問の対象が忍なのだから、僕が口を挟むことも出来ない。
しかし、怪異である忍は基本的に人間との交流はしないので、質問に返答する可能性はかなり低い。
だから、僕が適当な言葉で誤魔化そうと口を開いた瞬間に、忍が言葉を発したことは驚愕に値する出来事だった。
「うむ。確かに儂は魔法少女じゃ」
「忍!?」
僕は驚きのあまり、名前を叫んでしまう。
ミスドに関係しないところで人間に返答したことに対しても驚いたし、魔法少女だと肯定したことも衝撃だ。
「静かにせんか、お前様。ここは同調しておいてさっさと解放されるのが吉じゃろうて」
僕だけに聞こえる小声で忍は言う。
「幸いにも――不幸にも魔法少女に関する知識も少なからず持っておる。魔女を知るということは魔法少女も知るということじゃしの。
とにかく、お前様は何時ものようにリアクションだけ取っておればよい」
「……分かったよ。確かに吸血鬼ですなんて言えないしな」
「ふん。帰り際にミスドを献上せい」
「心得た」
抜け目なく報酬を強請ってきた忍だったが、今回は要求を呑むとしよう。これ以上関わるのもよくないだろうし。
僕にとっても、彼女達にとっても。
「この街の住人ではないがの。たまたま同居人とドーナッツを買いに来て巻き込まれただけじゃ。縄張りを奪おうなどと考えてはおらんから安心せい。
ことが終わり次第、早々に立ち去る。それと、我があるじ様は魔女に関する情報は伏せておったから全くの無関係じゃ」
「我があるじ様って……やっぱりヤバイ関係なんじゃ」
……窓際から僕の名誉に関わる発言が聞こえてきたが、気のせいだろう。
「だったら、グリーフシードを横取りしちゃったみたいね」
「グリーフシード?」
巴の言う訊きなれない単語を思わず反芻する。
その言葉に反応したのは鹿目だった。
「グリーフシードというのは魔女を倒した報酬みたいなものです」
「お前様が気にすることではない」
一体、そのグリーフシードなるものがなんなのかを説明されるまえに忍が打ち切った。
暗に黙っていろということなのだろう。僕はそれ以上質問はしなかった。
「そして、貴様達も気にすることはない。グリーフシードのストックは十分に足りておるしの。自分達の縄張りに見知らぬ魔法少女が居れば警戒するのも、
グリーフシードを確保しようとするのも当然じゃしな」
「そう言ってもらえると助かるわ、忍ちゃん」
「気安く名前を呼ぶ出ないわ。敵対するつもりもないし、敵でもないが……味方でもないんじゃぞ」
単純に馴れ合うのを嫌う忍の気に触れたのだろう。とても幼女の出す声ではない。
魔法少女達は忍の言葉に警戒心を強めたのか、鹿目を除く四人がピクリと身体を震わす。
その反応に忍は少しだけ眉間に皺を寄せる。
「ゴメンね……近々とっても強い魔女が現れるから、皆気を張ってるんだ」
怪訝な反応を見せた忍に対して、バツの悪そうな笑みを浮かべながら鹿目が言った。
「強い魔女?」
黙っていようと思っていたが、どうも僕は律儀に反応してしまう人間らしい。
周りに気取られないように忍の肘が僕の脇腹を打ち抜いた。
こいつ……ミスド買ってやんねえぞ。
「ええ、超弩級の魔女よ」
そんな僕の言葉に反応したのは、以外にも暁美だった。
怒りを噛み殺すようにして、悔しさを握り締めるようにして、暁美は続ける。
「最強の魔女、通称――ワルプルギスの夜」
007
舞台装置の魔女。
その性質は『無力』。
全てを戯曲に変える結界不要の魔女。
通称――ワルプルギスの夜。
暁美は一般人には必要のない知識だと言ってここまでしか説明してくれなかったが、
あの後――つまりは巴の住むマンションの一室から退出した後のことだ。
僕が押す自転車の前カゴにすっぽりとその身体を入れ、僕に向き合うような格好のまま、その実態を詳しく説明してくれた。
頼んでも居ないのに、説明をした。
「ワルプルギスの夜というのは通称での、実際は名前も分からぬ魔女じゃ。数百年前から世界中のどこかに現れては街を一つほど破壊して去っていく」
「つまり、その魔女が起こした現象を指してるわけか」
「そうじゃ。しかし、何も知らぬ一般人にとってはただの自然災害と捉えられるだけじゃが」
「ふぅん、そりゃあいかにも怪異っぽいな」
いかにもというか、魔女は総じて怪異そのものなんだろうけど。
怪異が起こした現象はそうやって辻褄が合ってくのだから。
僕の『この体質』が、突き詰めればただの血液の異常だというように、その魔女が起こした結果は『自然災害』となるだけなのだろう。
この間の蜂のように原因不明の流行病を、正体不明の怪異として見立てたように
――まあ、アレは偽史という偽物の怪異らしいのだけれど。
怪異に偽物も本物もあるまい。怪異は世界と繋がっていて、何処にでもいて、何処にもいない。
「怪異とはいい加減なものじゃからの。語り継がれれば語り継がれるほど、目撃されれば目撃されるほど性質は変わっていく
――そういう意味じゃワルプルギスの夜は魔女の中で唯一変化のある魔女ということになる」
「普通の魔女は結界内に居るから目撃されないし、仮に目撃されても『目撃者』は外には出られないってことか?」
「それもあるが、基本的に魔女は短命じゃよ。いや、怪異に命もなにもないが、とにかく世界中に『専門家』がうじゃうじゃと居るわけじゃからな」
「専門家、ねぇ……」
それは吸血鬼にとってのヴァンパイアハンターだったり、同属殺しだったり、教会の特殊部隊だったりするのだろう。
怪異に取っての忍野メメのように、偽物を扱う貝木泥舟のように、不死身を殺す影縫余弦だったりするのだろう。
魔女の専門家は、魔法少女。
「魔法少女……とあの小娘等は言っておったが、恐らくはこの国だけの名称じゃろう。他の国では天使と呼ばれておったりする」
因みにその国での魔女は悪魔と呼ばれておった、と短く付け加える。
「ワルプルギスの夜というのは、そう言った点でも複雑での。怪異としてのキャラ設定が定まってない可能性が高い」
「魔女だったり悪魔だったり、最近のライトノベルでもそんな濃いキャラいねぇよな」
「人間は大きすぎる力には神や悪魔など上等な名称を畏怖の念を込めて付けおるから、濃いどころじゃ済まんよ」
「そんな魔女がこの街にやって来るのか……」
正直なところ、心配ではある。いや、こんなことを言えばまたぞろ忍に変な目で見られてしまうだろうが仕方がないだろう。
こんな話を訊いた直後では、尚更だ。
その強力という言葉では生温いほど凶悪な魔女を相手取るのが、あの少女達というのは不安を覚えてしかるべしだ。
僕が今まで出会ってきた専門家であろうと、そのワルプルギスの夜に対抗するのは難しいだろうし。
あんな普通の女子中学生に任せるのは、酷だろう。
「いや、少なくともあの軽薄な小僧であれば多少なりとも対抗できると思うぞ」
「ああ、全盛期のお前から心臓を気付かれずに奪う位だもんな――じゃあひょっとしたらこの街に忍野は来てるんじゃないのか?」
忍野メメ。怪異のオーソナリティにてアロハシャツの軽薄なおっさん。
春休みには最強の怪異とまで呼ばれていた全盛期の忍から、気付かれずに心臓を抜き取り(それでも生きているのが吸血鬼だ)ハンター達と彼女の力を
拮抗させたという、見た目からはとても想像できない離れ業をやってのけた男がその魔女の存在を知らない筈がないだろうし。
「あの小僧はあくまでバランサーじゃからのう……通常時ならまだしも、今回のような状況じゃ恐らく現れんじゃろう。
むしろ、儂とお前様がこの街に訪れることを予見していたのかもしれん」
目を細めながら、忍は言う。そして前カゴに身体を入れたまま両腕を暗く染まった空へ向けて伸ばす。
僕はその仕草に釣られて夜空を見上げた。
時刻は既に日付を跨ごうかという時間帯で、思いのほか巴の家に居た時間が長かったんだなぁと改めて実感する。
……そういえばまだ彼女達は巴の家に居たけれど、門限とかは大丈夫なのだろうか? 僕の住む町に比べて都会だし、ミスドの店内で誰も彼女達を
物珍しい目線で見ていなかったとは言え深夜徘徊で補導されてしまう時間帯だろうに。
まあ、巴の家でパジャマパーティーとかそういうのを催すだけだろう。
「ん、その言い方だと別段その魔女の被害が出ないみたいだな」
ふと忍の言葉を脳内で反復し、そこまで重要視していない言い回しが気になった。
それに僕らが居るから忍野が来ないという理由もよく分からない。
「……仮に現れたとしても儂とお前様で十分に対応できるという話じゃよ。現れたとしても、の」
「? やけに積極的じゃないか」
今度は目を伏せながらそんな事を言う忍に違和感を覚える。何時もの流れなら僕が何か言う前に『余計な首を突っ込むな』と釘を刺してくるだろうに、
今回は寧ろ怪異に対してどうにかしてやろうという雰囲気を感じさせる物言いだ。
基本的に忍は自ら問題を解決するために動くタイプではない。僕が、僕の勝手で何かしらの問題に関わってしまった時に渋々付き合うのが忍の
スタンスだというのに現状はどうだ? 断定した言い方こそしないが、どこか協力的である。そしてそれが違和感の最大の理由だろう。
「ふん。あの小娘がワルプルギスの夜などという名前を出した瞬間から――否。この街に誘われてしまった時点で役割が決まってしまったんじゃよ」
「……誘われたってミスドの広告にだろ?」
初めて見たよ。ミスドのセールに『誘われた』とか言う奴。無駄にスケールを大きくするんじゃねぇよ。
僕の突っ込みにコホンと咳払いをして、忍はキメ顔で続ける。
「お前様。もう既に儂らは『関わって』しまってるんじゃ」
関わってしまった。つまり、怪異に。
舞台裏を覗いてしまった。
それならば、覚悟を決めなければならないだろう。
どちらにせよ、このまま帰るつもりはなかった。
少女達だけに、そんな危ない橋を渡らせることなど僕には出来ない。
「分かったよ、忍。 どうせ帰ってもアニメの続きを見るだけだろうしな。 訊かせてくれよ、魔女と魔法少女に関する話を。
これだけもったいぶった話をしてるんだ。当然、何も知らないわけじゃないんだろ?」
僕の問いかけに自転車の前カゴから飛び降りた忍が(三回転捻りで着地)その薄い胸を張りながら、無感情に言い放つ。
「……と、言うわけじゃ人間。 うぬから我があるじ様に説明してやるがよい」
「……動かないで」
僕にではなく虚空に放たれた忍の言葉に呼応するように僕の目の前に現れたのは、一人の魔法少女だった。
その少女は先程まで着ていたファンシーな魔法少女服に身を包み、左腕には縦を装備し、険しい表情を浮かべている。
まるで何かに失敗したかのような表情を浮かべながら、暁美ほむらは僕達の前に現れた。
「暁美……?」
僕は動けない。暁美の気迫に圧倒されたから――ではなく、もっと単純な理由からだ。
彼女の右手には巴の部屋で傍らに置いてあった拳銃がしっかりと握られていて、その銃口が忍を狙っているのだから。
「いらん心配をするでないぞ、お前様よ。 お前様は黙ってこやつの話を訊いておればよい」
「喋るのも、行動を取ったものとみなすわ」
いつかの戦場ヶ原と同じ台詞を吐きながら、改めて忍の頭部に照準を合わせる暁美に対し、忍は我関せずと言った表情で続ける。
「かっか。そんな玉っころで儂を殺せると思っておるのが実に滑稽じゃの」
「黙りなさい。これ以上余計なことを喋れば本当に撃つわよ」
銃口を向けられようと、刺す様な殺気を浴びながらでも、忍は薄く笑いながら続ける。
「いやいや、滑稽なのはうぬら――いや、うぬ一人だけじゃな。魔法少女になど成ってしまった時点で喜劇の舞台上じゃからの」
銃声。サイレンサーでもの装着していたのだろうか、魔女の結界で訊いた銃声とは比べ物にならないほど僅かな音だった。
だが、間違いなく忍の綺麗な金髪が生えているその頭部目掛けて、暁美は引き金を引いたのだ。
普通であれば規制が掛かるほどの描写を数レスに渉って記述するのが語り部である僕の仕事なのだろうが、残念ながらそれが適うことはない。
なぜならば僕はそんな残酷なシーンを冷静に描写できるほど人でなしではないし、そもそも目を背けてしまうのがオチだろう。
しかし、描写できない理由はそんなことではない。
だって、そもそも銃弾は忍に当たってさえいないのだから。
「!?」
「やれやれ、何をそんなに焦っておるのか分からん」
そして忍は凄惨な笑みを暁美に向けて、言い放つ。
「うぬら魔法少女の成れの果てが魔女だと、知らんわけでもなかろう?」
とりあえずここまでが前回までの更新分です。
これからまた書き貯めて投下していく形。
しかし、すでに周知の事実をキメ顔で語る忍もなかなか滑稽な気ががががががが
支援
とりあえず脳内でアイヲウタエを流しておこう。
まあクロス物だとクロス先の人間が説教するのがテンプレだし気にしなくてもいいんじゃない?
それが何様のつもりだってんだよ
まどマギの魔法少女達を下に見てるって事じゃん
みーつけた
>>62
自分は物語シリーズの方が好きだけど。
主人公の精神面・覚悟・決意等のレベルは拮抗。
能力のチート具合ではまどマギの方が上だと思います。
008
魔法少女の成れの果てが、魔女。
忍はそんな荒唐無稽な事を言う。
「ちょ、ちょっと待てよ忍。それってどういう事なんだよ」
目の前に無表情のまま拳銃を構える暁美や、他の三人が、蟻の魔女の様な異形の怪異になる?
そんな馬鹿な、脈絡のない話が信じられるか。
「何も不思議ではあるまい、我があるじ様よ。ほら、少女から成長すれば女になるじゃろうが」
「だからといってだな……」
魔法少女が魔女になるだなんてレトリックにすらなり得ない理屈だ。
そもそも、そんな事が事実なら暁美たちは……。
魔法少女という専門家はーー
「…………」
暁美は何も語らない。
巴の家で爆弾とスタングレネードの違いを僕に講釈したように、忍の言葉を訂正しようとはしない。
沈黙、故の肯定。
「そんな事って……」
余りにも残酷過ぎるだろう。
こんな、僕よりも幼い少女達が。
かつての同胞を討っているなんて。
おまえも十分ガキだけどな
あららぎってまだ高校生でしょ?
>>66
小説、SSに対してあーだこーだ文句いう方がガキっぽい
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し (⊂ト、) LUイ⌒)) LUイ⌒)) ⊂ニニニニニニニニ イ ∠~'ニニニニニニニニ⊃ .| n } )|
 ̄ ∪〃 ∪ 〃 ∪L二ノ
クソスレ
書き終える自信がなかったら落としてくれた方がありがたい。信じてはみるけれど。
楽しみにしています
ス
クロス先のを低く見るとか、クロススレにおいては絶対ある流れだろ。信者は[ピーーー]
乙
これは面白いな
流れも文章も好きだわ
ぜひ完結させて欲しい
同感さすがだなお前
クソスレageんなカス
眠れないのかじゃ遊ぼうぜ
つまんね
追いついた支援
スローペースでもいいから、続き待ってます。
いらん
文句言うのは勝手だがまずはsageろ
sageは基本だな
ほむらが男とくっつけば評価する
それ以外だとゴミ
>>84
あれあれ?ほむらは惨めに死ぬべきって言うのやめたんですか???
お前じゃあるまいしないない
ここまで>>1の自演
いや違う
まだか?
見て分からないのかキチガイ投下してないんだからまだに決まってんだろ
春休みになった途端これだよなぁ
友達作って遊びに行けば?
友達いないんだろw
はよ
まだかよ
まだか
■ HTML化依頼スレッド Part17
■ HTML化依頼スレッド Part17 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396957268/)
依頼出しとけよ
まだか
かなり面白い
はよ
このSSまとめへのコメント
続きはよ