吸血鬼「……」ズズッ
吸血鬼「……まずい」
吸血鬼「やはり紅茶では足りんな……血が欲しい」
吸血鬼「が、しかし……真昼に外に出るわけにもゆかん」
吸血鬼「夜が来るまで待つか……」
吸血鬼「しかし、やはり物寂しいな」
吸血鬼「時の流れ、永遠の命……すべては無常、盛者必衰……」
吸血鬼「中世の栄光は影もなし……」
ギイィ……
吸血鬼「扉が開いたな……また宝狙いの賊か」ズズッ
吸血鬼「私が手を下すまでもない、罠にかかって死ぬがいい」
ガシャァァァアン!!
吸血鬼「……」
吸血鬼「死体が出たか、吸いに行く手間が省けたな」
吸血鬼「さてと……」スタスタ
幼女「あれ?ひとがいる!」
吸血鬼「なっ……!?」
幼女「ねえねえおじちゃん!ここどこ?」
幼女「おじちゃんだあれ?」
吸血鬼「なんてことだ……こんな子供が、この城にやってくるなど……」
吸血鬼「……そうか、背が低すぎて振り子の罠が当たらなかったのだな」
吸血鬼「やむをえん、追い出すか……」
幼女「おいだすの?どうして?」
吸血鬼「……ここは普通の人間が来て良いところではないからだ」
吸血鬼「私は吸血鬼……永遠の命を持ち、永遠に忌み嫌われる異形の悪魔」
吸血鬼「人間と私は共存することなどない……わかったらさっさと帰れ」
幼女「かえれ?」
吸血鬼「そうだ、貴様を大切に思う家族や友人のもとに帰るのだ」
幼女「かぞく?ともだち?」
吸血鬼「ああ、自分の家に」
幼女「いえ?……ないよ?わたしには!」
吸血鬼「……なに?」
幼女「かぞくもともだちも、みーんなしんじゃったの!」
吸血鬼「そんな……こんな幼い子一人を残してか」
吸血鬼「それは……いったいどうして?」
幼女「わたしにもよくわからない!」
幼女「でも、ともだちのおうちはねえ、うーんと、うーんと……」
幼女「なんだっけ」
吸血鬼「そこをなんとか思い出してはくれないか」
幼女「うーん……あっ、そうだ!」
幼女「『まほう』のけんきゅうしてたんだって!」
吸血鬼「なっ……魔法?この現代でか!?」
幼女「そのせいでみんなしんじゃったの!」
吸血鬼「そのせいで?……となると、現代における魔法の復活を危ぶみ、魔女狩りを蘇らせたのか……」
吸血鬼「時の流れ、魔法の衰退とともに滅んだとされる悪しき風習を、人間どもは蘇らせようと……!」
幼女「おじちゃん、こわい……」
吸血鬼「……おっと、すまなかったな……怖がらせてしまったようだ」
吸血鬼「帰るあてもないのでは……困ったな」
幼女「ねえねえおじちゃん!ここすごいね!」
幼女「ひろくてたかくてすっごくおおきい!」
幼女「わたしここにすむね!」
吸血鬼「なっ!?ならぬ、私は人間とともに生きることなど、絶対に……!」
幼女「……」
吸血鬼「うっ……き、貴様、そんな目で見るでない!」
吸血鬼「……まあいいだろう、ただし少しでも私の意志に反するような行動をとったならば、即刻追い出すからな」
幼女「はーい!」
吸血鬼「……しかしこの齢にしてこの理解力、もしや知能は他の人間の童よりも高いのか……?」
幼女「ねえねえおじちゃん!ここほんいっぱい!」
吸血鬼「ああ、我が城の第一書庫だからな、そこには人間の生み出した本が置いてある」
幼女「そうなの!?すごい!」
幼女「ねえおじちゃん、ここは?」
吸血鬼「浴槽だ、風呂に入って体をきれいにする」
幼女「おじちゃん、いっしょにはいろー!」
吸血鬼「いや、断る」
幼女「おじちゃんおじちゃん、ここは?」
吸血鬼「厨房だな」
吸血鬼「もっとも、もう必要とするものはみな、だいぶ前にいなくなってしまった」
吸血鬼「新しく使いたければ、掃除しなくてはならん」
幼女「そっか!じゃあおそうじしよ?ごはんたべられないから!」
吸血鬼「うむ、人間にはここが必要だな」
幼女「おそうじおーわり!」
吸血鬼「想像していたより大分時間がかかってしまった……もうすっかり夜ではないか」
幼女「おなかすいたー……」
吸血鬼「悪いが人間の食える食材……というか、紅茶とトマトジュース以外この城にはない」
幼女「そうなの!?おじちゃんおなかすかないの?」
吸血鬼「ああ、水分さえあれば健康に支障はないし、その水分もなくなったとしても、死ぬことは有り得ない」
幼女「そうなんだ!すごい!」
吸血鬼「食料の調達に行こう、少し遠いが貴様も付き合うか?」
幼女「うん!」
幼女「おじちゃんなあに?そのかっこう」
吸血鬼「変装だよ、貴様より成長して分別ついた人間どもは、俺の異形を目の当たりにすればまず間違いなく騒ぎ立てる」
幼女「ふーん……にんげんじゃないから?」
吸血鬼「そういうことだ」
幼女「すごくあつぎなのは、ひざしがにがてだから?」
吸血鬼「日差しが苦手なんてのは蝙蝠のイメージから連想した人間どもの創作だ、本来の吸血鬼はそんなに窮屈ではない」
吸血鬼「にんにくも十字架も問題ない」
幼女「そうなの!?いがい!」
幼女「でもおかしいね、おじちゃんこんなにやさしいのに、にんげんじゃないからさわぐなんて」
吸血鬼「……誤解するな、今の俺は本来の俺ではない」
吸血鬼「何かの精神疾患にでもかけられているのだろう、人間に情をかけるなど……少し前ならありえない話だ」
幼女「そうかなあ……」
幼女「すこしまえって、いつ?」
吸血鬼「うむ……一世紀ばかり前のことか」
幼女「ぜんぜんすこしまえじゃない!」
吸血鬼「吸血鬼にとっては一瞬だ、10年も100年もな」
幼女「……そんなに長く生きてるの?」
吸血鬼「そうだ、昨日で1000歳の誕生日を迎えたところでな」
幼女「すごい!」
吸血鬼「まあ、人間年齢にするなら10歳ってところなのだが……」
吸血鬼「あ、八百屋よ、これとこれをくれないか」
八百屋「まいどー!」
幼女「おじちゃん!やさいおおすぎ!やだ!」
吸血鬼「好き嫌いなどという愚かなことをしているから人間は寿命が短いのだ」
吸血鬼「たたでさえ短い人生なのに、こんなくだらないことで棒に振る気か?」
幼女「むー、やさいがきらいなくらいでじゅみょうかわったりしないもん!」
吸血鬼「いいや!早いうちから直さなければ、いつまでたっても直らない!」
吸血鬼「さあ帰るぞ、野菜カレーを振る舞ってやる」
幼女「えー!おにくおおめがいいのにー!」
幼女「……おじちゃん、これにんじんはいってるよ」
吸血鬼「そうだな」
幼女「ぴーまんとなすもはいってるよ」
吸血鬼「まあ、野菜カレーだからな」
幼女「やだ!たべたくないー、きらい!」
吸血鬼「つべこべ言うでない!せっかく数百年ぶりに私が腕をふるったというに、不満があるのか!」
幼女「だってー……」
吸血鬼「……むう、ならば仕方ない……」
吸血鬼「貴様の好きな食べものはなんだ?」
幼女「うーんとね、おにく!」
吸血鬼「そうであろうな、そういうと思って肉もいくつか仕込んである」
幼女「ほんと!?」
吸血鬼「ああほんとだとも」
吸血鬼「その大好きな肉とともに食せば、味が緩和されて苦手なものも食べやすくなるであろう?」
吸血鬼「試してみるがいい」
幼女「うーん……こうしてこうして……」
幼女「……」
吸血鬼「勇気を出せ!さあ!」
幼女「……あーむっ!」パクッ
吸血鬼「どうだ?」
幼女「あむあむ……あ、おいしい!」
吸血鬼「ふふふ、やはり私の言った通りだっただろう」
幼女「うん!おじちゃんすごい!」
吸血鬼「ふん、伊達に1000年生きてはおらん」
吸血鬼「子供の扱いなど手慣れたものよ、のうマーマン……」クルッ
吸血鬼「……!」
吸血鬼「……」
幼女「?」
吸血鬼「……いや、なんでもない」
DIOや旦那がガキ扱いできる年だな・・・
支援
吸血鬼「さあ、じゃんじゃん食べるがよいさ」
幼女「うん!」
―夜―
吸血鬼「……」
吸血鬼「ジャック・オー・ランタン……フランケン・シュタイン……マーマン、狼男、ゴーレム、ゾンビ、ゴースト……」
吸血鬼「みな……みな良い魔物だった」
吸血鬼「魔族の王たる私を慕い、支えてくれた……」
吸血鬼「しかし長い時の中で……彼らは寿命や昇天によってこの世を去った……」
吸血鬼「生き残ったのは不死身である私のみ……」
吸血鬼「……もう、この空虚な箱のような城に……居着く意味もないのかもしれないな……」
幼女「そういうことだったんだね」
吸血鬼「!……貴様」
幼女「ごめんねおじちゃん、ねむれなくて」
吸血鬼「……」
しえん
幼女「おじちゃん、たいどにはでてなくても、さみしそうなめをしてたよ」
幼女「それはまもののみんなにさきだたれちゃったからなんだね」
吸血鬼「ああ、そうさ……みな、はじめは使い魔として生まれたんだ」
吸血鬼「だから彼らより位の高い魔物として生まれた私は、彼らを使役して城の周辺地域の治安を守っていた」
吸血鬼「しかし、ともに戦う間に……主従関係では済ませられない絆が、私たちの間で生まれていった」
吸血鬼「単なる王とその使い魔、それがいつの間にか……ともに戦う仲間となった」
吸血鬼「寝る時も戦う時も、食べる時も出かける時も……常に彼らと一緒だった」
幼女「そうだったんだ……」
吸血鬼「戦いの中で死んだやつもいた」
吸血鬼「だがそういうやつらはまだいい、自分の目的のために生きて、戦士として名を残して死んだんだからな」
吸血鬼「だけど、寿命で死んだやつらは……みな後悔ばかりしていた」
吸血鬼「一番悔しそうだったのはジャックだ」
吸血鬼「『いやだ!俺はまだ生きたいんだ、お前とともに戦いたいんだ』……とな」
幼女「なんだか、かわいそう……おじちゃんはまだいきられるから、のこしていきたくなかったんだよね」
吸血鬼「おそらくそうだろう……たぶんあいつは、俺を残して先に死ぬのが許せなかったんだ」
吸血鬼「まあ、所詮過去のことだ……振り返っても仕方のないこと」
吸血鬼「今の平和な世の中は、私たちの戦いの上に成り立っている」
吸血鬼「その事実さえ不変なら、やつらもきっと……」
幼女「ううん、ふりかえってあげなきゃ!」
吸血鬼「!」
幼女「ともだちのおとうさんがいってたよ!」
幼女「だれかがおぼえてないと、かこはきえちゃうんだって!」
幼女「まものさんのことなんて、ふつうのひとならしらないんでしょ!」
幼女「おじちゃんしか、しらないことなんでしょ!」
吸血鬼「……まあな、人間たちがやつらのことを知るすべはもう……伝承くらいしか残ってはいない」
幼女「まほうもすたれて、だれもしんじてないゆめものがたり」
幼女「でもそれをばかにしないで、わすれないで、しんじて、おぼえていれば」
幼女「それはぜったいにきえることはないんだって!」
吸血鬼何回か俺って言っちゃってるけど全部私に変えてください
すみません
吸血鬼「……ふっ、年端もいかず、世間も知らない子供だからこそ言える綺麗事だな」
幼女「ともだちのおとうさんがいってたのに?」
吸血鬼「そいつも幼いだけさ、研究者なんてのは奇人変人の集いだ」
吸血鬼「……だがまあ、綺麗事は嫌いじゃない」
吸血鬼「励みになったよ、礼を言おう」
幼女「よかった!」
吸血鬼「さあ、そろそろ眠くなってきた頃合いだろう、戻って眠ることだ」
幼女「はあい!」
―とある王国―
王「魔女狩りは成功したか?」
兵士長「はっ!魔女を駆逐し、魔法技術の破壊に成功しました!」
兵士長「近隣の村は焼き払い、今はただの焼野原へと変わりました!」
王「……何?」
王「おい、どこかで何かを聞き間違えたか?私は確かに……」
王「……魔法技術のレシピを奪い、独占しろと伝えたはずだが……?」
兵士長「し、しかし王!お聞きください」
王「……何だ、言い訳があるなら申してみよ」
兵士長「はっ、我々が手に入れようとした魔法技術のレシピ……すなわち魔法書」
兵士長「あれは我々の手に負えるものではございませんでした」
兵士長「術者である研究者の手中にて、魔法は暴発……」
兵士長「あのままいけば、我々の世界そのものを呑み込みかねない威力まで成長するといわれたため……」
兵士長「やむなく魔法書は破壊、その後証拠隠滅のため村を焼き、住民を皆殺しにして帰還してきた次第でございます」
すき
王「ほう……それで?」
兵士長「報告は、以上であります」
王「……なるほどな」
王「魔法書を見つけたはいいが、コントロールするには強すぎたので回収は断念したと……そういうことだな?」
兵士長「はい!」
王「なるほど、もう少しマシな言い訳を持ってくるかと思っていたのだが……」
王「……お前、そんな言い分が通ると思ったか?」
兵士長「な……!?」
王「魔法が強すぎて無理でしただと?」
王「なんでわざわざ国中で一番腕の立つ兵であるお前を私が選んだのか……」
王「その意味を考えはしなかったのか?」
兵士長「お言葉ですが、王よ!剣では、魔法にはとても――!」
王「……もういい、時間の無駄だ……」スッ
兵士長「王、それは……!魔法書……!?」
王「弱い者に、生きる資格などない」
王「雷の精霊よ、私に力を」
王「圧倒的な輝きをもって…この者を焼き払え!」
兵士長「ぐわあああああああっ!!!?」
王「……」パタン
王「使えん兵を持つと、余計な苦労が増えるな……」
王「仕方がない、かの地で伝えられていた火の魔法は諦めることとしよう」
王「代わりに、かの地にもうひとつ伝わる伝承……」
王「生きる永遠の魔法……」
―遠くの村―
吸血鬼「……のう、そういえば貴様はどうしてここへやってきた」
吸血鬼「馬鹿でかいナリをしてはいるが……不気味な黒をしているおかげで」
吸血鬼「せいぜい心霊スポット目当てにやってくる愚かな若者や、宝目当ての賊が稀にやってくる程度だぞ」
幼女「うーん、でも……ここがいちばんちかかったし」
幼女「ほら、むらのはずれにそびえてるからさ」
吸血鬼「……だからといってここを当てにするとは、なかなか肝の据わったやつだ……」
幼女「えっへん!」
吸血鬼「さて肉屋に着いたが…閉まっているな」
幼女「えー!きょうおにくりょうりなんじゃないの!」
幼女「かえなきゃつくれないよー」
吸血鬼「むう、確かにそうだ……参るなこれでは」
吸血鬼「それに……他の店もすべて閉まっている」
吸血鬼「まるで何かを恐れているかのような……」
吸血鬼「……!」
ポワワワワワワァン……
吸血鬼「……微弱だが、人間の声……超音波と化して私の耳に届いたぞ」
幼女「だれ!?」
吸血鬼「わからないが、異常事態のようだ……隠れながら声の正体を探す」
吸血鬼「いいか、絶対に私のそばを離れるなよ?」
幼女「あたりまえ!」
吸血鬼「いい子だ……さあ、いくぞ」
幼女「うん!」
―――
兵士A「王が闊歩するというのに、人っ子ひとりいないなど……忠誠が足りていない証ですね」
兵士B「王よ、ご自慢の魔法で制裁を加えてはいかがですかな?」
王「たわけどもめ、これは畏怖の証だ」
王「やつらは我々との絶対的な差を感じ、逆らうことを諦めて隷属を誓ったというその証だ」
王「絶対的な力による服従……そのための力が魔法」
王「弱者は気に入らないが無闇にふりかざすものでもない、脅しにさえ使えればそれでよいのだ」
王「……無論、弱者の群れの中でひとりでも目立つような強者がいれば……敬意をもって叩き潰すがな」
吸血鬼「……やつはなんだ、王国の新しい長か?」コソコソ
幼女「いまのおうさま!このくにのしはいしゃ!」コソコソ
吸血鬼「やはりか……長らく城の外には出ていなかったものだから、政治には疎くてな」
吸血鬼「最後に見たのは100年前の王だったか、彼は国民にも慕われるよき王だったのだがな……」
幼女「いまのおうさまはわるいおうさまで、みんなを『ちから』でねじふせてるんだって!おとうさんがいってた!」
吸血鬼「……その『ちから』とやらの正体が……古の魔法だったというわけか」
吸血鬼「しかしこの目で見てみないことには何も進まん、もう少し尾けてみよう」
幼女「そうね!」
―城―
吸血鬼「……どういうことだ!?ここは我が城ではないか……!」
幼女「おじちゃんにあいにきたのかな?」
吸血鬼「……とりあえず、ここから様子を見てみよう」
王「生きる永遠の魔法……すなわち不死身の体を持った吸血鬼」
王「私は貴様に会いにきた!そして貴様の血肉を我が糧とし、永遠に己の思うがまま生き続ける!」
王「私の野望は完成ほぼ間近なのだ!」
王「水、雷、風、土……火の魔法だけは手にできなかったが、雷の魔法があれば代用はきく!」
王「これが最後の魔女狩りだ!ここで私は圧倒的な力によって!伝説の魔女を滅ぼして世界を治める王となる!!」
吸血鬼「……自分から野望をぺらぺら話すとは、愚かな男よ……」
幼女「ぽっとでなのにらすぼすになろうとしてるよ、どうするの?」
吸血鬼「……我が魔族の力をただの人間相手に振るうのは、それこそ戦争でも起こらない限りは遠慮願いたい」
吸血鬼「やはり魔法を使うというのがはったりかそうでないかを確かめるのが先だ」
吸血鬼「……幼女よ、貴様はここにいろ」
幼女「えっ!?で、でも!」
吸血鬼「安心しろ、私は死なない」
吸血鬼「それに……数世紀か振りに、守るべき友ができたからな……なおさらだ」
幼女「おじちゃん……!」
吸血鬼「……おい、野蛮な人間の王よ」
王「!」
吸血鬼「貴様の目当てはこの私か?」
王「き、貴様……貴様が吸血鬼か!?」
吸血鬼「ああそうさ、吸血鬼族最後の生き残りにしてかつてこの地域の守護神だったもの」
吸血鬼「いまやそれも形無しだがな」
王「ほほう、なるほど……お目にかかれて光栄だよ」
王「ならば問うが……貴様が永遠の命を持つというのは本当か?」
吸血鬼「ああ本当だとも」
王「ほほうほほう!羨ましい限りだね、人間の……いや生き物の寿命は短くてね」
王「私は今幸せの絶頂にいる!強さを手に入れ弱者を支配し、燃えるように今を生きている」
王「部下や民衆を足で使い、女子供まで我が支配の渦の中……」
吸血鬼「……」
王「何不自由なく!私は今を生きている!!」
王「……が、しかし……魔法は負担が大きい」
王「強すぎる力の代償ということなのだろう、寿命を削って魔法を放っているのが手に取るように私にはわかる」
王「盛者必衰、どんなに強い者でも寿命には……時の流れには逆らえない、そうだろう!」
吸血鬼「ああ、そのとおりだ」
王「……ふん、わかった口を利くな」
王「永遠の命を持ち、死を恐れたことなどない魔物風情の分際で!」
吸血鬼「……」
王「私は貴様のように死を恐れない生き方をしたい!」
王「強い力、支配される弱者……お膳立てはとっくに整っている!」
王「だがしかし時の流れに勝つための力だけが我が手元にない!」
王「……肉体ばかりは生まれつき……だから諦めるしかないと、強者ぶった弱者はいうであろう」
王「だが私は諦められない!諦めきれない!」
王「今この瞬間を永遠に続かせられないならば……私はどんな手を使ってでも!今この瞬間を永遠に続かせられるようにしてみせる!」
王「……これこそが私の野望だ」
王「ちんけなボロ城でくさってる貴様なんかよりも……その不死身の肉体、私にこそふさわしいと思わんかね?」
吸血鬼「……かもしれんな、くれてやれるものならくれてやりたいさ」
王「魔法があれば不可能などないさ!貴様がそう思うのならその肉体、私に譲り渡せ!」
吸血鬼「できたらとっくにやっている、戦友とともに死んでいる」
王「なに!?」
吸血鬼「言っておくが魔法は万能の力なんかではないぞ」
吸血鬼「自分にとって邪魔なものを破壊し、自分にとって脅威なものを屈服させる」
吸血鬼「破壊のためだけの力だ」
王「そんなことはない、疑うなら唱えてやろう」
王「雷の精霊よ、私に力を!」
王「圧倒的な輝きをもって、この者の魔法を我が手に!」
カッ!
ズドォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!
吸血鬼「……そんな詠唱は存在しない」
王「なっ…!?な、なぜ攻撃が……!?」
王「というか、なぜ無傷なんだ!」
吸血鬼「長寿からくる精神の強さは魔力を生み出し、それはまた多種を圧倒する再生力を実現させる……」
吸血鬼「我が肉体すら魔法の一種と考え、永遠の命が実現可能なら魔法は攻撃以外の用途にも使えるだろうとふんだのだろうが……」
吸血鬼「……古の魔法は決まった詠唱での決まった効果しか発動できん」
吸血鬼「もっとも、その詠唱というのも……魔法書を持ってそれぞれの精霊に呼びかけ、対象を頭の中で定めればそれだけで終わりだ」
吸血鬼「精神状態が安定していない場合のみ暴発の危険性があるが……基本的には狙ったひとつのものを攻撃するだけ」
吸血鬼「要するに、魔法など科学兵器の延長線上の扱いしかできないということだ、心得たか?」
王「ば、ばかな…魔法の通じない相手がこの世にいるなんて……」
吸血鬼「……王よ、今なら愚かな行為は見過ごそう」
吸血鬼「人間に手をかけることは好まぬ」
兵士A「お、王!彼の情けに従いましょう!」
兵士A「ほとんどの兵は、今のやりとりで戦意喪失、腰が抜けて立てない者や、失神している者もいます!」
王「え、ええいうるさい!!私の思い通りにならないことがあるなど、許せるか!」
王「く、くそっ、死ぬのが怖くないからって調子に乗りやがって!」
王「人間は死の恐怖を知っているが、お前にはそんなものないだろ!」
王「お前には失うものなんてない!ずるい、ずるいじゃないかそんな格差!」
王「生まれつきの……生まれつきの、逆転できない格差があるなんて、おかしいじゃないかよ!!」
王「人を見下してもてあそんで、たのしんで……生きてて楽しいのか、お前は!!!」
吸血鬼「……貴様……!」
王「ひっ!」
兵士A「王!」
幼女「まって!」
吸血鬼「幼女!?」
王「な、なんだ貴様は!どうしてガキがこんなところに!」
幼女「おじちゃん、こんなひとにきれちゃだめだよ!」
幼女「ていうかもうがまんのげんかい!」
幼女「おじちゃんはね、ずっとずっとしねなくてくるしんでるんだよ!」
幼女「それなのにまわりのみんなだけさきにしんじゃう!」
幼女「うまれつきえいえんのいのちがあるからって、いいことなんてなにもないのよ!」
幼女「それでもおじちゃんはよわいひとにやさしくしてくれる!みんなをまもってくれる!」
幼女「このくにのだれもそれをしらなくても、わたしは……わたしだけは、それをしってる!」
幼女「そしてぜったいにわすれないもん!わすれなければ……」
幼女「忘れなければ、過去は消えない!!」
ボウッ!!
吸血鬼「幼女……赤く、光っている!?」
王「なっ……そ、それは!?」
王「失われし、火の魔法のエネルギー……!?」
吸血鬼「お、おい幼女、腹を少しばかり見せろ」
幼女「こう?」ピラッ
吸血鬼「これは……火の魔法のルーン……」
吸血鬼「書庫で見たものしか知らなかったが……記述と一致している……」
吸血鬼「そうか……火の魔法は本当は失われていなかった」
吸血鬼「幼女……貴様の中に封印されていたんだな」
幼女「そうなんだ……わたし、火が使えるのね!?」
幼女「じゃあこれでちゃちゃっとおうさまを……!」
吸血鬼「いや、貴様の魔力はまだ未熟だ」
吸血鬼「それに、人を殺すのはやはり……」
幼女「でもわたし、おうさま嫌い!ゆるせないもん」
王「許せないだと……!?ガキの分際で生意気な!」
王「火の魔法が失われていなかったとあらば……私がこの手に収めてやる!」
王「土の精霊よ、私に力をっ!!!」
吸血鬼「くっ……幼女!貴様の魔法、借りるぞっ!!」
幼女「えっ!?おじちゃっ……!!」
ガブッ!!
兵士A「あ、あれって……まさか、吸血!?」
幼女「あっ……んっ、はうっ……ぁっ……!」
吸血鬼「ごきゅっ、ごきゅっ……ごきゅっ、ごきゅっ……」
幼女「んっ、んんっあ……っ、だめ、すっちゃ、ぃや……っあ……!」
吸血鬼「ごきゅっ、ごきゅっ……ぷはあ、吸血なんぞしたのはいつ以来だろうか……」
吸血鬼「なかなか美味い血だった」
王「ふん、そんなことしてなんになる!くらえぃっ!!」
幼女「あっ、瓦礫がこっちに!」
吸血鬼「はぁーっ……」
吸血鬼「ふんっ!!」
ボォォォォォッ!!!!!!!!!!
幼女「わわっ、火を吹いた!?」
王「瓦礫がすべて落とされただと!?貴様……いったいなにを!」
吸血鬼「……幼女の血液に流れる魔法エネルギーを吸収し、我が魔力によってより強力な火炎魔法へと昇華させた」
吸血鬼「さっきも言った通り、魔法を『借りた』のだ」
王「なっ、ななな……!」
吸血鬼「今の私は地獄の業火を操る本物の鬼だ……」
吸血鬼「これ以上我が城を荒らそうというなら、ただではすまさんぞ……?」
王「ひっ、ひぃぃぃっ!あ、荒らしませんから、どうかご勘弁を……!」
吸血鬼「……ふむ、そうか、ならよい」
吸血鬼「私としてはこれ以上の要求はないのだが……」チラッ
吸血鬼「彼女の様相は不服げだな」
王「えっ……!?」
幼女「おうさま!これ以上魔法でみんなをこわがらせるのはやめて!」
幼女「魔法は支配のためなんかにつかうものじゃない、もっと正しい使い道があるはずだよ!」
幼女「それから、おじちゃんを馬鹿にしたことも、ちゃんとあやまってよ!」
王「なっ……なぜガキに説教されなくては――」
吸血鬼「今度こそ消し炭にされたいか?」
王「い、いえ!わ、わかりました、今後一切魔法は私用しないと誓いますから!」
幼女「それだけー?」
王「き、吸血鬼殿!数々のご無礼、お許しください!どうか、どうかこのとおりー!」
幼女「おっけー、かえってよし!」
―――
吸血鬼「しかし驚いたな、年の割には聡明だと、はじめて会った時から思っていたが……」
吸血鬼「まさか貴様自身に魔法が封じられていたとはな、その影響で頭脳も発達していたようだ」
幼女「えっへん、すごいでしょ!」
吸血鬼「喋り方もさっきから大人っぽくなったように見える、短期間に成長したか?」
幼女「かもしれないね、おじちゃんのおかげ!」
吸血鬼「よせ、私はなにも……」
幼女「ううん、おじちゃんのおかげだよ!」
吸血鬼「……のう、幼女よ……貴様の故郷は王の兵団が滅ぼしたわけであろう」
幼女「うん」
吸血鬼「王にそのこと、謝罪させなくてよかったのか?」
幼女「だいじょうぶ!」
幼女「元々魔法の研究だって、ほとんど村ぐるみだったから……何度も滅びかけてたんだ!」
吸血鬼「な、なんと……もとより命がけの生活だったのか……」
幼女「だからこそわたし、ちゃんと故郷のみんなのことは覚えてるから!絶対に忘れたりしない」
幼女「覚えていれば、死んだ人でも消えないからね!」
吸血鬼「……ああ、そうだな」
幼女「ところでおじちゃんはさ、どうしてわたしのこと、拾ってくれたの?」
幼女「おじちゃんは優しいけど、それだけが理由じゃないような気がする……」
吸血鬼「ああ、そうだな……思い返せば不可解だよ、共存不可能と思っていた人間を、ガキとはいえこんなに気に入るなんてな」
吸血鬼「……多分、寂しかったのかもな」
吸血鬼「長い時の中で、一人でいたからな……ずっとずっと」
幼女「……」
吸血鬼「そもそも他者と話すことそのものが、何十年何百年ぶりだったからな」
吸血鬼「久々に話し相手ができて……その話し相手が貴様で」
吸血鬼「本当によかった」
幼女「おじちゃん……!」
吸血鬼「王に向かって私の代わりに啖呵を切ってくれた時は、実は内心嬉しかった」
吸血鬼「ありがとうよ、幼女……」
幼女「どういたしまして!」
幼女「ねえそれよりさ、わたしお腹すいた!」
吸血鬼「はは、そうだな……食材を買いに行こうか」
幼女「うんっ!!」
―数年後―
女「おじちゃん!東のほうでまた魔女狩りがあったんだって!」
吸血鬼「……王はすっかり丸くなっただろう、なぜまだあの悪しき風習が……」
女「んー、地元民同士の争いだってさ」
女「やっぱりいつになっても、人間には争いはつきものなのかなあ……」
吸血鬼「……いや、人間はかつて起こした戦争の過ちを忘れてはいない」
吸血鬼「いくら過ちを繰り返そうとも、犯すたびに記憶していれば、いつか平和な時代は来る」
吸血鬼「人間の歴史を見てきた私が言うんだ、間違いはないさ」
女「そっか、そうだね!」
吸血鬼「女、貴様に教わったことだ……感謝しているよ」
女「いやいや、それほどでも」テレテレ
女「ところで、おじちゃん……」
吸血鬼「?」
女「……今夜、どう?」チラッ
吸血鬼「!!」ブーッ
吸血鬼「き、貴様……!どこでそんな知識を……!!」
女「いやあ、友達が処女卒業した―って自慢してくるからさー」
女「私、おじちゃんにならあ・げ・る・よ?♪」
吸血鬼「……わ、私は、私は……」
吸血鬼「私は貴様を、そんな娘に育てた覚えはなーーいっ!!!」
女「む、娘ーっ!?」
―おしまい―
最後の一行が見えない
最後の一行が見えない
最後の一行が見えない
最後の一行が見えない
最後の一行が見えない
最後の一行が見えない
最後の一行しか見えない
おまいらの愛で最後の一行が見えない
最後の一行が見えない
処女でなくなったら血がマズくなるじゃん
最後の一行が見えない
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