アスレチックおねえさん (15)

はぁ、とため息を吐いて等間隔に並ぶコーティング済みの切り株に座り込む。

「何やってるんだろうなぁ、俺」

俺は今、自宅から電車で数駅行った所にある山の公園に来ていた。

目の前に広がる誰も居ないアスレチック遊具を軽く眺めてから、濃紺の袖から覗く腕時計を見る。

そろそろ予約していた企業の面接が始まる時間だった。

サボり、バックレ、無断放棄、ドタキャン。なんにせよ俺は面接をすっぽかしたんだ。

どうせあいつらは何千何万の就活生の時間を無駄にするんだ、たまにはこうやって時間を無駄にされればいいんだ。

と、何か釈明めいた言葉を呟いて、またため息を吐いた。


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「辛気くさいなぁ、まだお昼前だよ?」

俺の右側、上の方から明るい声がした。

見上げると、スポーツウェアに身を包んだ少し年下くらいの女の人が隣の切り株に立って俺を見下ろしていた。

「ああここ通るの? ごめん」と謝ってから切り株から腰を下ろす。

「ん、ありがとっ」

光沢のあるポニーテールを跳ねさせて俺の座っていた切り株に飛び乗り、片脚と両腕を広げてバランスを取る。

「よ、っと、っと、っよいしょっ」

彼女はそのままぴょんぴょんと飛び跳ねて向きを変え、俺の方に向き直った。

「……って、そうじゃないよ!」

そう言いながら勢いよく俺を指差し、その勢いで彼女はバランスを崩しそうになった。

「うわっ、わわっ、あわわわっ」

バランスを取り直したのを確認してから声をかけてみる。

「大丈夫?」

「あっ、うん。もう大丈夫だよ」

楽しそうな笑顔。

「……って、そうじゃないよ!」

もう台詞が被ってしまった。語彙が少ないんだろうか。

「あれ、わたしさっき同じこと言ったよね?」

「うん、言ってた」

「そんなっ!」

元気だなぁ。おかしくて思わず笑ってしまう。

「そうそう、それだよ」

「うん?」

「表情。人間楽しそうなのが一番だよ」

楽しそう、ねぇ。そういえば最後に楽しいと思ったのっていつだっけ。

起きて、学校か就活行って、帰って寝る。

毎日毎日その繰り返しで、最近は休むことなんてなかったからなぁ。

「また辛気くさい顔してる! ほら、行くよ!」

切り株を飛び下りた彼女は俺の手を引いて走り出す。

「おい、ちょっと、待てっ!」

俺も転ばないようにそれについて行く。

丸太でできた階段を一段飛ばしで駆け上がる。踏板部分の幅が広かったのとスーツを着ているのとで何度もこけそうになった。

橋の代わりに張られた網の上を飛び抜ける。運動不足が祟って息が切れてきた。

「ちょ、ちょっと…… タイム……」

滑り台をを飛び下りて、両足にジンジンとした痛みを感じながらうずくまる。

内臓が飛び出そうな勢いの咳がゲホゲホと止まらない。俺、こんなに体力なかったか?

少し息が整ってきたところで顔を上げる。でも彼女の姿は見つからない。

「あれ、どこ行ったっひ!?」

運動後の火照った首筋に強烈な冷たさを感じて思わず飛び跳ねた。咄嗟のことに体勢を整えられず、汗まみれのスーツが土をまとう。

「ダメだなぁ、君は」

ここまで汚れたらもう関係ないか、と崩れた四つん這いの状態から仰向けになる。

「あぁ、ダメダメだよ。今日の就活だってサボったし……」

「そうやって自分を悪く言わないの! はい、水分補給」

手渡されたペットボトルのスポーツドリンクを半分ほど飲み干して礼を言う。

「それにしても就活って。懐かしいなぁ」

「へ?」

「へ? って、就活でしょ? 就職活動」

「……就活? 君が? 俺より年上なの?」

「わたしは去年就活だったからね。おねえさんと呼びなさい」

年下じゃなかったのか……。

「まあまあ、そんなことより。……息、整って来たね。もう一ラウンドする?」

おねえさんは首をかしげてニッと笑う。シチュエーションのせいか、その笑顔は今まで見てきた笑顔の中でも一番キラキラしていた。

ピョンと飛び起きてスーツを脱ぎ、近くの木の枝にかける。

「ああ、ラウンドツーだ!」

「うんうん、そう来なくっちゃね!」

スポーツドリンクをもう一口飲み、駆け出した。

時間にして約三十分後。

全力で走って、跳んで、おねえさんを追いかけた俺は起き上がる体力すらなく、汗だくのまま大の字になって木漏れ日の射し込む緑の屋根を見上げていた。

「あー……」

「ふふ、お疲れ様」

俺の隣に座ったおねえさんが言う。俺の体力がなさ過ぎるのかおねえさんがタフ過ぎるのか、あまり疲れているようには見えない。

「やっぱ仕事してるとそれくらいの体力は必要なの?」

「無職だよ?」

「え、じゃあなに。おねえさんどうやって生活してんの?」

「お父さんの名前で安いアパート借りて、バイトして家賃払ってるよ」

「それってよく聞くけど、生活できんの?」

「贅沢はできないよ。でも食べて寝て、ここで遊ぶくらいならできるかな」

そんなもんなのか。携帯の月額とか遊んだりするのを含めると難しいんだろうなぁ。

俺には多分無理だ。

「ほらまたそんな顔してる!」

おねえさんがむくれっ面になる。また考え込んでたな、俺。

「たまにはこうやって何にも考えずに遊ぶのも、必要だよ」

優しい顔でそう言って、おねえさんは立ち上がる。

「お腹空いたねっ」

「今は食欲もバテてるよ」

そう言って残っていたスポーツドリンクを飲み干す。

「だからそろそろ、わたしは帰ります。じゃあねっ」

呼び止める間もなくおねえさんは走り去っていった。

「……俺も定食屋で飯食って帰るか」

帰る途中にスポーツウェアでも探してみようかな。ふと、そう思った。

これにて終了です。久しぶりに思いっ切り身体動かして遊びたいなぁ

乙!

終わりかよ!

期待!


あれ?

プラスチック姉さん的なものかと思って開いたら終わってた

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