さやか「全てを守れるほど強くなりたい」(1000)
それは剣道部に入部する4年前の出会い。
それは剣道道場に通う1か月前の別れ。
「ああ……やってしまった、私はなんてことを……!」
河原の橋の下で黒い土を握り締めていた、綺麗な後ろ姿の女性。
さやか「どうかしたんですかー?」
今でも、その出来事は鮮明に覚えている。
駆け寄った私の、半分の心配。
駆け寄り、彼女の顔を見た時、もうひとつの興味半分は、跡形もなく凍てつき、砕け散ってしまった。
「ぁあああッ……私はッ!!」
人が心の底からの悲哀に歪めた表情。
美しい女性なのに、悲しみはここまで人を歪ませてしまうのか。
その日は大切な出会いでもあり、私の中で、大きな何かが変わった瞬間でもあった。
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「足りない、これじゃあ足りない……」
さやか「あの……」
「間に合いっこない……」
彼女の肩に手を触れそうになった時、さっと振り向いた形相が私を睨み、鋭い目で動きを射とめた。
そして、一瞬だけ口を大きく開いた後、彼女の喉がコクリと鳴って、次の瞬間には、逆に私の両肩が掴まれていた。
さやか「ぁ……」
怖かった。
それが怒りの形相だったから。教科書で見た仁王の顔のようだった。
それがどうして、私に向けられているのか分からなかったから。
また、何よりも。
「美樹さやか……!」
会ったことがないはずなのに、私を知っていた事が、怖かった。
「期待はしない、けど答えて…あなたは今、何年生?」
さやか「よ、四年生……です」
瞬きしない目が私を逃さない。
「…カナメ、っていう子、知らないわね」
さやか「う、うん…知らない」
「やっぱりまだ越してないか……」
そこで初めて、女性は私から目を逸らした。
女性の目は赤く充血し、涙で濡れ、きらきらと光っていて、場違いな感情だとわかっていても、その時確かに私は、“綺麗だな”と感じた。
さやか「あの、なに……なんですか?あなた、誰ですか?」
「……」
女性は伏目で私を胸辺りを見た後に、また目を見た。
さやか(あ、この人――)
「私のお願い、聞いて貰っても良いかしら」
さやか(悲しまないと、怒らないと、こんなに綺麗な顔をしてるんだ――)
はいはい、ブクマブクマ
「聞いてる?」
さやか「はっ、はいっ!」
「このお願い、どうか受け止めて生きてほしいの……私が今更、貴女へ偉そうに言える事ではないのだけど」
バカな私にも伝わるよう、滑らかに言葉を紡ぐ女性の努力と反して、噛み砕かれた意味は私の頭に届いてはいなかった。
さやか「あ、あの」
だからまずは聞いておきたかった。
さやか「あなたの名前は……なんていうんですか?」
「……」
半分空いた口が、何文字かの息を吐いた気がした。
思いついたように長い黒髪を後ろで束ねた、その後に言葉は紡がれた。
「私のことは、“煤子(すすこ)”と呼んで、美樹さやか」
私はあの時の事を、今でも思い出せる。
煤子さんとの大切な出会いを。
彼女の語らぬ想いを。
だからこそ今、私はやっと後悔をし始めていた。
さやか「剣道部、やめなきゃ良かったな……」
まどか「ん?」
さやか「あ、もしかして今の、出てた?」
まどか「てぃひひ、ばっちし出てたよ、さやかちゃん……」
さやか「あっちゃあー」
まどか「上条君も、さやかちゃんには頑張ってほしいはずだよ?」
さやか「……うーん」
恭介が入院してから1ヶ月が経つ。
それは不運な事故だった。この国の年間で見れば、よくある事故。
けれど、彼の左腕に与えた影響はあまりにも大きすぎた。
温和に、綺麗に微笑んでいた彼の表情に、深い影を落とすほどに。
さやか「うーん……」
ベッドの上で天井を仰ぐ。
すん、と鼻を鳴らせば、顔の隣の、乾いて嫌な臭いが薄れた竹刀が感じられる。
さやか「顧問になんて言おっかなぁー!」
今更なんて言えばいいんだろう。
ものすごい適当な良い訳をつけて退部して、先輩にも迷惑をかけたのに。今更どんな顔で戻ればいいのか。
けれど、私が剣道部をやめるきっかけとなった恭介は、気にせず続けてほしいと言うし……。
でもまた入部すると、恭介のお見舞いにいけなくなるし……。
ああ、見舞いにいかないとしても、顧問になんと言えば……。
さやか「……」
私はベッドの脇を竹刀でばしばし当たった少し後で、ぐっすり寝た。
まどか「おっはよ~」
まどかがやってきた。
仁美「おはようございます」
まどか「えへへ、おはよー」
私はその次にやってきた。
さやか「はぁっ、はぁっ!ごめーん!」
まどか「さやかちゃん、おそーい」
駆け足でようやく二人に追いついた。
昨日、毛布の中で悶々とし過ぎていたのだ。起こしてくれたお母さんには感謝をしなくちゃいけない。
さやか「お?なんか可愛いリボンつけてるねぇ、まどかぁ」
まどか「そ、そうかな?派手過ぎない?」
仁美「とても素敵ですわ」
鮮やかな赤色のリボン。
まどかには良く似合っている気がした。
さやか「女の子は、もっと派手だって良いくらいだよ、まどか!」
まどか「え、えー……そうかなぁ……」
まどかのツインテールをぱしぱしはたきながら、私達は学校へ歩き始めた。
うん、とても良い日和。
これは何かとのクロスなのか?なら書いておかないとわからん
まぁ、とりあえず期待
魚が剣道経験有りで強くなってるifじゃないの?
まどか「でね、ラブレターでなく直に告白できるようでなきゃダメだって」
さやか「うんうん、さすがは詢子さん!カッコいいなあ、美人だし」
仁美「そんな風にキッパリ割り切れたらいいんだけど…はぁ」
さやか「仁美は優しすぎるんだよー」
私のように、狭く汚い靴箱に託された手紙をその場で破き捨てるくらいでなくちゃ。
まぁ、封をしてない果たし状みたいな手紙なら、開いてやらなくもないけど!
まどか「いいなぁ、私も一通ぐらいもらってみたいなぁ…ラブレター」
さやか「ほーう?まどかも仁美みたいなモテモテな美少女に変身したいと?そこでまずはリボンからイメチェンですかな?」
まどか「ちがうよぉ、これはママが」
さやか「さては、詢子さんからモテる秘訣を教わったな?けしからぁあん!そんな破廉恥な子は~、こうだぁっ!」
頭を掻いたり、脇を責めたり、胸を揉んでみたり。
それにしても、なんて成長しない胸だ!けしからない!
まどか「や…ちょっと!やめて…やめっ」
さやか「慎ましいやつめ!でも男子にモテようなんて許さんぞー!まどかは私の嫁になるのだー!」
仁美「ごほんっ」
さ。学校はもう、すぐそこだ。
早く入ろう。
和子「今日はみなさんに大事なお話があります、心して聞くように」
さやか「ん?」
半分眠りかけた耳に、聞きなれないもったいぶった言葉が飛び込んだ。
和子「目玉焼きとは、固焼きですか!?それとも半熟ですか!?はい、中沢君!」
「えっ!?」
個人的には半熟の方が吸収が良くて助かるかなぁ、ってぼんやり思った。
「ど、どっちでもいいんじゃないかと」
和子「その通り!どっちでもよろしい!」
そっかぁ……。
和子「たかが卵の焼き加減なんかで、女の魅力が決まると思ったら大間違いです!」
和子「女子のみなさんは、くれぐれも半熟じゃなきゃ食べられないとか抜かす男とは交際しないように!」
なるほど、そういえば先生、付き合ってたっけ……。
機嫌が悪いのはつまりはそういうことか。
さやか「ダメだったか」
まどか「ダメだったんだね…」
何度目かなぁ、これ。
焔の燃え残りで煤か
和子「そして、男子の皆さんは、絶対に卵の焼き加減にケチをつけるような大人にならないこと!」
先生、次は良い男の人に恵まれますように…と、ひっそり願ってみる。
和子「はい、あとそれから、今日はみなさんに転校生を紹介します」
さやか「そっちが後回しかぁい!」
つい声に出てしまった。
和子「じゃ、暁美さん、いらっしゃい」
ガラス戸が開いたそこからは、ガラス越しで見るよりも艶やかな黒髪を湛えた美少女が入ってきた。
さやか「うおっ……」
とんでもない美人がそこにいた、ってやつ?
きりっとした表情。まっすぐな姿勢。長い黒髪は育ちが良さそうというよりも、ミステリアスさを前面に感じた。
和子「はい、それじゃあ自己紹介、いってみよう」
彼女は緊張のかけらも見せず、ただ凛と流すように口を開いた。
ほむら「暁美ほむらです、よろしくお願いします」
そして、その目はじっと睨んでいた。
まどか「えっ……ぇえ…?」
さやか「?」
ほむら「……」
まどかを睨んでいた。
期待
バンブレか?まあ期待
† 8月3日
運命の出会いの日。
煤子さんは涙をぬぐった後、それはもう、その涙など無かったことにしたかのような強い顔立ちになると、地面にこぼれた黒い砂をかき集めはじめた。
土が混ざってもお構いなし。
とにかく一粒残さず集めようと、地面ごとかき集めては、どこかにあった分厚い袋に詰め込んでゆく。
煤子「いい、手伝わなくても」
手を貸そうとした私に、煤子さんは強く言った。
けれどすぐに“あ”というような顔になって。
煤子「ごめんなさい」
控えめに謝った。
自分でやりたいの、と後付けして、砂を集め終わってから、彼女は立ち上がった。
さやか(あ……)
自分よりもずっと大人に見えた煤子さんの背が、そう高いわけでもなかった事に私は驚いた。
けれど、膝のストッキングについた土を払う仕草は無骨ではない。
不思議な人、と見入るばかり。
煤子「私はね、美樹さやか」
さやか「は、はい」
ちょっとだけ高めの目線が私を見下ろす。
煤子「とても悪い病気に罹ってしまっているの」
さやか「え?」
突然の告白だった。真剣な目を見ては、“そうですか”だけを返すことができなかった。
さやか「どんな病気なの?……です、か?」
煤子「良いわ、硬い喋り方でなくても」
さやか「あ、はぁ……」
煤子「……今まで、無茶なことばかりをやってきたから、そのツケがきたのね」
さやか「つけ……?」
煤子「借金をして、お金が返せなくなって…ボン、もう、どうしようもない」
ふふ、とそれはもう、上品に嗤う人だった。
煤子「道理に背いて、横道それようとした結果よ……予定ではあと一年は生きていけるはずだったけど…」
さやか「え!?」
煤子「今の調子だと……もう、もって数ヶ月、といったところかしらね」
さやか「そんな……」
手元の砂がざぁざぁ鳴る。
煤子「だから私のお願いを聞いて、美樹さやか」
さやか「う、うん!煤子さんのために何か、私にできることがあるなら!」
知らない人でも、不思議と嘘をついているようには見えなかった。
そんな目をしていた。
煤子「……時間がないの、だけど私の今まで生きて、培ってきたことを、出来るだけ貴女に伝えたい」
さやか「……ど、どうすれば」
煤子「聞いてほしい、覚えてほしい、口で言うだけなら、それだけよ」
膝を曲げた煤子さんの目線が私と並ぶ。
煤子「これは貴女の人生の、これからのためでもある……そのつもりで、聞いてくれる?」
さやか「……うん!」
煤子「……ありがとう、さやか」
人が安堵し、柔らかく崩れる顔。
私はその笑顔に応えようと、子供ながらに決心したのだった。
† それは8月3日の出来事だった
――さんって、前はどこの――
――京の、ミッション系――
――とかやってた?運動系?文化――
さやか「ん……」
机に突っ伏した顔を上げる。朝からの眠気は、季節の適温と良く混ざったらしい。
ほむら「やって無かったわ」
「すっごいきれいな髪だよね、シャンプーは何使ってるの?」
顔を前へ向ければ、どうやら転校生の子が質問攻めにあっているらしかった。
コミュニティを作るのが好きな女子数人が、グループにでも入れようかと集っているようだ。
仁美「不思議な雰囲気の人ですよね、暁美さん」
さやか「ねえ、まどかぁ、あの子知り合い?」
まどか「え?うーん……」
目を擦りながら聞くと、どうもぱっとしない答えが返ってきた。
さやか「思いっきりガン飛ばされてたじゃん?」
まどか「いや、えっと…そうなのかな…私が見すぎてたのかも…」
さやか「まさかのまどかがメンチ切ってた説?」
睨むまどかなんて想像もできない。
想像してみたら、ちょっと凛々しくなったまどかが居て、可愛かった。
ぶふっと噴き出すと、まどかがこれまた可愛らしく私に怒った。
っ[ネルワネ]-з ポスッ
期待してるよ乙
質問に答えないのかここの>>1は最悪だな
別に安価スレでも無し良いんじゃね
これからどうなるのか期待乙
さやかちゃん!
乙
期待してみたい
ほむら「ごめんなさい……何だか緊張しすぎたみたいで、ちょっと気分が……保健室に行かせて貰えるかしら」
「え?あ、じゃあたしが案内してあげる」
「あたしも……」
ほむら「いえ、おかまいなく……係の人にお願いしますから」
靴音が近づく。
まどか「ん……?」
まどかに影が差した。
ぬう、っと近づいたのは、謎の美少女転校生。
さやか「……」
まどかのすぐ近く。
その距離は殴り合いが起こるか、親友同士の会話が始まるか、恋人同士が愛を囁くか。
いずれにせよ、極端なシチュエーションしか浮かばないような距離だった。
ほむら「鹿目まどかさん、貴女がこのクラスの保健係よね」
さやか「へ?」
まどか「え?えっと…あの…」
ほむら「連れてって貰える?保健室」
まどか「あの、私……」
ほむら「今でないと――」
さやか「保険係は私だけど」
ほむら「……え?」
何故面食らったような顔をするのか、この美少女は……。
ほむら「……そうなの?」
さやか「うん、私が保険係……で、兼、清掃係と、風紀係もやってる!」
ほむら「……」
さやか「まどかは生物係だからねぇ」
まどか「うん」
先生に保険係が誰かを教えてもらったけど、間違えたんだろう、きっと。
さやか「ほいじゃ、ちょちょいとさやかちゃんが保健室まで連れていっちゃいますよー」
ほむら「ちょ、ちょっと」
さやか「行ってくるね」
まどか「うん」
席を立ち、転校生の手を引て教室を出る。
凛々しい美少女の白い手は細く、まどかのそれよりも繊細そうだった。
期待してるって言ってるんだよ!
無闇に馴れ合うより淡々と投下してくれた方が好感が持てるがな、俺は
ただいつ終わったのか分かんないから投下終了宣言くらいはほしいけど
とりあえず期待してる、乙
最初のさわりは通常プロローグや序章って言い表わされるな
物語の全容が見えてくる終盤に再度描写されることが多々ある
なんでもかんでも先走って知ろうとする野暮な質問は控えろってこったい
さやか「さっきの子達、色んなことずかずか聞いてくるけど、嫌な子ってわけじゃないから、誤解しないであげてね」
ただ寂しがりというか、人と一緒にいたい気質というか、そんな面が強いだけなのだ。
鬱陶しく感じられるところもあるかもしれないけど、彼女達の愛情表現の大事なひとつを、誤解してほしくはなかった。
ほむら「あの……」
さやか「ああ!」
ほむら「え……」
そうだ、そういえば名乗るのを忘れていた。
さやか「私の名前は、美樹さやか!よろしくね、転校生!」
ほむら「し、知ってるわよ……」
さやか「え!?なんで!?」
ほむら「……さっき自分のこと“さやか”って言ってたわよ」
さやか「あ!!そっか、言ってたわ」
ほむら「……美樹」
さやか「さやかって呼んでいいよ、転校生」
ほむら「! そう、さやか…」
さやか「んー?」
ほむら「貴女は自分の人生が、貴いと思う?」
さやか「うん」
ほむら「……家族や友達を、大切にしてる?」
さやか「もちろん」
ほむら「即答、するのね」
さやか「当たり前だよ、みんな、何もかも尊いよ」
先行く私は向き直り、歩みを止める。
さやか「逆に、転校生はどう思ってる?」
ガラス張りの渡り廊下。
横から入る陽が、転校生の顔に影を作っている。
ほむら「…私のことも、転校生ではなく“ほむら”って呼んでもらいたいわね」
さやか「ん!了解、ほむら!」
ほむら「……そうね、私はどうかしら…家族や友達は、とても大切よ」
ほむら「けれどそれを守るためなら、天秤にかける自分は遥かに軽い……そんなところかしらね」
さやか「ほぁあ……」
無感情に応えたほむらは、私を追い抜いて先を歩いて行くのだった。
さやか「場所、わかんないでしょっ」
私は黒髪を追った。
不思議だなぁとは思ったけど。
先生「うおぉ……」
ほむら「……」
淀みなくボードを走る電子チョーク。
容姿端麗に頭脳明晰がくるわけか。
不思議女子中学生に拍車がかかるのなんの……。
まどか「すごいね……」
さやか「なんかもう、ずるいね!何教科得意なのよ!」
まどか「何教科だろうね……」
正直、ひしひしと伝ってくる全教科得意の予感に、はやる嫉妬を抑えられない。
それでも、それでもあの体の細さだ…体育だけは、きっと…。
ふわぁ、と細い体は、美麗なフォームで宙を舞うのでござった…。
「け、県内記録じゃないの?これ……」
神童なんて話には聞くけど、現物は初めて見たよ。
というかほむらの体のどこに、高く飛ぶバネが仕込まれているというんだろう。
さやか「…負けてられないね!」
まどか「さ、さやかちゃん?」
さやか「私も県内記録を出す!」
まどか「えー」
まどがの弱気パワーの煽りを貰う前に、さっと一度飛んだバーを正面に据える。
「あら?どうしたの?美樹さん」
さやか「もう一度、飛ぶ!」
「もうやったんじゃ……」
さやか「ほむらのほっそい体で飛べて、私に飛べないはずがない!」
それは私の高らかな宣戦布告である。
周囲で体育座りにかまける軟弱なクラスメイトたちは“また美樹さんだよ”とかなんとか言ってるが、気にしない。
ほむらも少々眼球運動だけが挙動不審だが、本当に驚かせるのはここからだ。
さやか「見てなさい!インターハイに出てやるくらいの記録を出してやるんだからぁああ!」
風を切って駆ける。
学年最速の助走で、一気にバーまで。
ほむら「……インターハイは高校よ、さやか」
バーを蹴っ飛ばしたとき、何かむっとする一言が聞こえたきがした。
ほむら「…今度こそと意気込んでいたのに、何かしら、今回の美樹さやかは」
ほむら「まどかが保健係をやっているはずだったのに、おかしいわね」
ほむら「今まではこんな事は起こらなかったのだけど……」
ほむら「……些細なことに気を取られちゃいけないわ」
ほむら「キュゥべえとの接触を阻止しないと」
ファストフード店内にて。
さやか「わけわからぁん…」
まどか「わけわかんないよね…」
世の中にあんな完璧な人間が実在してるとは思わなかった……いや、むしろ今でも信じたくない…。
頭脳明晰ではなくて、まさか文武両道だったとは。なんとなく嫌な予感はしていたけどさ。
さやか「文武両道で才色兼備……かと思いきや、実はサイコな電波さん」
まどか「本当にそんなこと聞かれたの?」
さやか「ん。まぁ、良い質問だったけどね」
どこか胸の奥にズン、とくる問答だった気がする。
生き方の核心に触れるような、そんな。
さやか「しっかしどこまでキャラ立てすりゃあ気が済むんだ?あの転校生は……萌えか?そこが萌えなのかあ!?」
モテるんだろうなぁほむら。
けど文武両道容姿端麗て、それもはや、狙うとかあざといとかゆーレベルじゃないよな。
仁美「さやかさん、本当に暁美さんとは初対面ですの?」
さやか「あー…そりゃあ」
そりゃあ……ないはず、なんだけど。
さやか「懐かしいような感じはしなくもないなぁ」
仁美「ふふ、なんですか、それ」
グリーンソースフィレオをもりもり齧りながら思い起こしてみる。
会ったっけ、暁美ほむら。いや、ないよな、そりゃあ。
そんな名前の子、知り合ってたら覚えてるもの。
まどか「あのね…?あんまり馬鹿にしないで、聞いて欲しいんだけど……」
さやか「ん?」
仁美「どうされました?」
おずおずと、普段主張のないまどかが控えめな挙手をした。
まどか「昨夜あの子と夢の中で、会った…ような…」
一同爆笑、ってやつですわ。
さやか「時雨蒼燕流は完全無欠最強無敵だよ!」
スマン。なんとなく。このさやかちゃんの魔法少女の武器は日本刀ぽいけどなぁ。
まどかに電波属性があったことを最大の収穫に店を出て、仁美と別れた。
正統派文武両道のお嬢様は大変なのだ。
……ほむらも何かやってるのかな。古武術とか得意そう。
痴漢に襲われても次の一瞬では手首捻られた痴漢が宙に舞ってホームに叩きつけられてるね。
なんてことを考えている間に、CDショップについたわけです。
さやか(クラシックはこっち)
まどかはまどかで、自分の興味のあるカテゴリのほうに足を向けた。
私は、なんだかんだで聞きかじっているクラシックの試聴だ。
恭介のために持っていってやりたいというのが一つ。
もうひとつは、まあ、単純に私自身もクラシックの沼にはまりつつあるということだろうか。
さやか(ふんふんふうーん)
こうして心を落ち着ける音楽は、剣道部にいた頃も好んで聞いていた。
不思議とクラシックの整った曲調は、剣の動きや呼吸にも活かされている気がしてならない。
私の場合、まあ、型はダメダメだったんだけど……。
『助けて……』
さやか(……ん?)
「助けて……まどか……!」
さやか「まどか?」
ヘッドフォンを外しても、まどかに助けを求める幼げな声は続いた。
さやか(……あ)
辺りを見回して声を主を探していると、同じようにふらりと歩き回るまどかの姿が見えた。
さやか(何だろ)
誰がなにを、何故まどかに助けて、なのか。
良くわからないことに、まどかを巻き込ませたくはなかった。
さやか「聞こえた?まどか」
まどか「さやかちゃん、うん……」
まどかに追いつくと、どうやら本人にも聞こえていたみたいだ。
周りにいるお客さんや店員さんは無反応だけど…。
まどか「どこ?どこにいるの?」
さやか「どうしたー、出てこーい」
声がするらしき方角は、不思議と伝わってくる。
それを頼りに階段を登り、人気のない工事中のフロアへと上がる。
すると突然、真上から激しい物音と共に。
まどか「きゃ!」
埃かぶった何かが落下してきた。
QB「助けて……」
まどか「あなたなの…!?」
さやか「え、なにこれ、猫?じゃない……」
薄汚れた床の上に落ちてきたのは、白猫らしき不思議生物だった。
耳からは謎の肢体が伸び、そこに輪がついていたり、ファンシーな見た目だった。
さやか(いや、というか、なんでこれしゃべるの……!?)
驚きはそれだけに留まらなかった。
じゃらり、じゃらりと、天井から鎖が落ち、
天蓋のパネルが壊され、破片が床に散らばるとそこには、もっと不思議な装いの人間がいたのだ。
ほむら「そいつから離れて」
*)ノ゙ 今日はココマデネ
乙
乙
乙
久しぶりだなこの文体
本体がはみ出しはじめたわネ
そういえばファミマで…ッ!
私は>>3の時点で気づいてたけどね・・・ッ!
なんだこいつのスレだったのか
見て損したログ消しとかないと
乙
本体はみだしで草生えた
にくまん?
まどか「だ、だって……この子、怪我してる」
殺気はまどかにも伝わったらしい。
ほむら、らしき人物が一歩踏み出すと、まどかは謎の白い猫を抱きかかえた。
まどか「ダ、ダメだよ、ひどいことしないで!」
さやか「やめなよ」
ほむら「貴女達には関係無い」
さやか「何よそれ、関係あるわよ」
私はまどかへの殺気を遮るように立ちはだかる。
よくよく正面から見てみれば、このほむら。実に奇妙な格好をしている。
なんというか、ひらひらしているスカートとか、服とか、ものすごく派手。
この時はなんともなしにイメージした単語が、魔法少女。それだった。
日曜にやっていた小さな女の子向けのアニメを想起させる。そんな格好だ。
ほむら「あなた達には何の関係も無い、早くその白いのを置いて、帰りなさい」
まどか「だってこの子、私を呼んでた……」
ほむら「気のせいよ、帰りなさい」
さやか「聞き間違えなわけない、私も聞いたよ!まどかを呼んでた!」
ほむら「え?」
コスプレほむらが一瞬驚いてみせた直後、その意外な一面を遮るようにして景色は歪んだ。
さやか「!?」
うねる世界。伸びる有刺鉄線。
まどか「な、なにこれ……」
さやか「……いこう!ここはマズい!」
今の一瞬で何が起こったのかは、私にはわからない。
それでも私はこの場にいけないと思った。
まどかの手を引き、もと来た道へと走り出す。
この景色から逃げるために。ほむらから逃げるために。
改装中フロアは、悪趣味の一言に尽きる空間へと変貌していた。
お化け屋敷デザイナーに劇的ビフォーアフターさせた、その丁度中間のような世界だった。
意図不明のオブジェが立ち並び、遠くの方では奇妙なお髭の綿飴らしき生き物がうろついている。
不思議、それだけでは言い尽くせるものではない、どこか危険な臭いもするメルヘン。
早く抜け出さないと。
さやか「ていうかまどかっ、その生き物!?そいつのせいじゃないの、これ!」
まどか「わ、わかんない、わかんないけど…この子、助けなきゃ…!」
さやか「助けてとは言ってたけど、私達にどーにかレベルじゃないと思うよこれ!」
まどか「けど、」
さやか「まぁなんにもわからないし、見捨てたりはしないけどさ…!」
思わず立ち止まる。
まどか「きゃっ……」
勢いづいたまどかの肩を掴んで、引き寄せる。
すぐ目の前を有刺鉄線の束が通過していった。今のまま走っていたら、これに巻き込まれていたかもしれない。
まどか「あ、ありがと……」
さやか「……ここ、どんどん道が変わっていく」
一歩退く。
さらに二歩退く。
左右を確認する。今目の前を掠めて行った有刺鉄線らしきものが、既に私達の周囲を広く囲んでいた。
さやか(……これって、もしかしてまずいんじゃない)
何かに捕まったという事は、私にも理解できた。
不思議な歌とともに近づいてくる綿毛の生き物。
まどかの抱える猫とは全く別次元の恐ろしげな姿。手元の大きなハサミからは悪意しか感じられない。
まどか「どうしよう……!」
さやか「……落ち着いてまどか、大丈夫、今考えてるから…!」
有刺鉄線の内側に入り、のろのろ近づく奇妙な綿毛達。
どんどん中央へと追い込まれていくけれど、どうしようもない。万事休す。
この状況を乗り切るには、どれか一体を無理やりに蹴散らしてから、根性で有刺鉄線を乗り越えるしか……。
――そうね、私はどうかしら
――家族や友達は、とても大切よ
――けれどそれを守るためなら、天秤にかける自分は遥かに軽い
――そんなところかしらね
あの時のほむらの言葉を、ふと思い出した。
答えを聞いた時はいきなりだったし、「ほああ」とか、「変な子」くらいにしか思わなかったけれど。
心の奥底では彼女と同意見だったことに、ふっと微笑む。
さやか「まどか、落ち着いて聞いて、ここから抜け出す――」
決意を込めた作戦を伝えようとした時、私達の周囲は山吹色の閃光に包まれた。
さやか「あれ?」
まどか「これは……?」
目を半分くらい瞑っていたので全てはわからなかったけれど、一部だけは見ることが出来た。
金色の光が飛び交って、綿毛のお化けを蹴散らし、有刺鉄線を砕いていくその様を。
「危なかったわね。でももう大丈夫」
落ち着いた雰囲気の声の主が階段を降りてやってきた。
それは、ちょっと不可思議な格好はしているが、とても綺麗な女の子だった。
ほむらと同じような……。
「あら、キュゥべえを助けてくれたのね、ありがとう」
九兵衛?
「その子は私の大切な友達なの」
まどか「……」
QB「……」
白い猫を見て彼女は言った。
白い猫はきゅうべえというらしい。
気持ち悪いから俺もログ消す
まどか「私、呼ばれたんです、頭の中に直接この子の声が」
「ふぅん…なるほどね」
さやか「私も見えました」
「あなたもね?まあ当然か」
垂れ目が私達の姿をM字に流し見た。
「その制服、あなたたちも見滝原の生徒みたいね、二年生?」
さやか「あなたは?」
「そうそう、自己紹介しないとね……でも、その前に」
「ちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら」
今日は驚くことの連続だ。
白い銃が宙に舞い、そこで列を成し固定される。
さやか(うわー……)
その光景には終始、口を開きっぱなしだったと思う。
それは、大玉の花火を眼の前で何発撃たれても足りない衝撃だ。
今なら材質不明の砂埃が肺に入っても気づかないだろう。
目の前で繰り広げられた巻き毛少女の射撃ショーは、私の人生で遭遇したことのない、ショッキングできらびやかなものだった。
まどか「す、すごい……」
さやか「……空間が戻っていく」
辺りを光弾が一掃したところで、風景はもとの寂れたフロアに戻っていった。
私は、灯りの無い部屋が端まで見渡せないことを思い出す。
「魔女は逃げたわ、仕留めたいならすぐに追いかけなさい」
巻き毛の人が闇へ話しかけると、言葉に応えるように人影は現れた。
仏頂面の転校生、ほむらだ。
「今回はあなたに譲ってあげる」
ほむら「私が用があるのは……」
「飲み込みが悪いのね、見逃してあげるって言ってるの」
言いかけたほむらの言葉を遮るように、女性は強い口調で畳み掛ける。
荒っぽい表現に、二人の関係を示す剣幕さははっきりと浮かび上がってきた。
「お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」
ほむら「……」
けれどほむらの顔には、何か別の感情があるように思えてならないのだ。
どこか、どうしても引き下がりたくない感情。
もどかしさが見える。
さやか(……)
けれどほむらの姿は闇の中へと翻っていった。
まどか「ふぅ」
まどかは事態の騒乱に収集がついたことへの安堵。
さやか「はあ」
私は正体不明のやりきれない気持ちを吐き出すために、ためいきをついた。
QB「ありがとうマミ、助かったよ」
マミ「お礼はこの子たちに、私は通りかかっただけだから」
今更かもしれない。けど私は顔を硬直させて驚いた。
猫が喋った!と。
QB「どうもありがとう、僕の名前はキュゥべえ!」
まどか「あなたが、私を呼んだの?」
まどかの順応性は、私にはよくわかりません。
QB「そうだよ、鹿目まどか、それと美樹さやか」
さやか「…え…何で、私たちの名前を?」
QB「僕、君たちにお願いがあって来たんだ」
まどか「お…おねがい?」
助けて、とはまた別に?
QB「僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ」
ほむらの姿や、マミと呼ばれた女の子の姿を見て、そんな連想はしていたけれど。
魔法少女なんて単語が飛び出すなんて、さやかちゃんはこの瞬間まで、予想だにしていなかったのであります。
(ノ*>∀<)ノ ソレジャマターネッテ♪
壁|;・∀=(ヾ(・; ) カクレテナ!
乙
乙
このAAはまさか・・・・・
乙。
>>64
どういうことだキバヤシ!…どういうこと?
現実は小説より奇なり、なんて言葉、恭介の時だけで十分だなとは思ったんだけど。
小説よりも広いジャンルで、不可思議な現実は、突如として訪れるのです。
だがしかし、誰が予想できるか、魔法少女。
――僕は、君たちの願いごとをなんでもひとつ叶えてあげる
さやか(なんだろ、それ)
毛布の中で、夕べの会話を思い出す。同じ見滝原中学の上級生、マミさんとの話。
魔法少女という存在。
魔女という存在。
――願いから産まれるのが魔法少女だとすれば、魔女は呪いから産まれた存在なんだ
――理由のはっきりしない自殺や殺人事件は、かなりの確率で魔女の呪いが原因なのよ
――キュゥべえに選ばれたあなたたちには、どんな願いでも叶えられるチャンスがある
竹刀を握った、ベッドからはみ出た右手に力が入る。
昨日の夜からずっとこのままの体勢だ。
つまり、私は寝てません。
一晩ずっと考えていたけれど、いまいち結論は出ない。
何を考えていたかって、それはもちろん魔法少女のことについてなんだけど。
眠気でもあっとした頭では、そんな難しい事は考えられないようであります。
まどか「おはようさやかちゃあ」
さやか「おあよーー」
まどかも同じ感じらしく、少し安心する。
お互いに真面目に考えていた証である。
仁美「おはようございます……あら、二人とも眠そうですね…」
さやか「ははは、今日の英語は寝かせてもらおうかなって……」
仁美「もう……」
あのAA・・・・やはりな
QB「おはよう、さやか」
さやか「おはよおー」
仁美「?」
まどか(あ、さやかちゃん!)
さやか「うええ!?」
突然、まどかに囁かれたような感覚に襲われた。
まどか(頭で考えてるだけで、会話ができるんだって)
さやか(なにっ!)
まどか(だから、キュゥべえに普通に話しかけるのは、怪しまれるよ…)
さやか(あ)
QB「やれやれ……」
仁美が不思議そうな目でこちらを見ている。
助け舟を借りようとまどかの方に目配せすると、「えー」と念話で断られた。
「えー」て。念話で「えー」て。
QB「今は僕が中継役になってるから話せるけど、普通は魔法少女にならなきゃ無理だからね……」
さやか『そうなんだ……ふーん、一緒に何人かで魔法少女になれば、カンニングも楽勝だね』
まどか『そういう使い方は良くないよ……』
そう考えてみると、色々な使い道は思い浮かぶ。
カンニングなら百選練磨、クイズ番組でも一攫千金!
携帯代も浮くし、言い事尽くめ!
……ああ、かけられる相手が個人じゃちょっと不便か。
さやか(おっと、いけない)
またやってしまうところだった。
私の悪い癖が出てきてしまったみたいだ。危ない危ない。
まったく、考えると楽しくなっちゃうんだから、魔法少女って怖いよなぁ。
『だからあなたたちも、慎重に選んだ方がいい』
『キュゥべえに選ばれたあなたたちには、どんな願いでも叶えられるチャンスがある』
『でもそれは、死と隣り合わせなの』
『んー……んぅ~……』
『どうしたの?美樹さん』
『あっ、いやぁ、なんていうか、教訓にしてるだけなんですけど』
『ちょっとでも“美味しい”と思えた事には、最大限警戒するようにしてるんです』
『? そうね、よく悩むことに越したことはないわ』
† 8月4日
蝉がよく鳴く、暑い日だった。
約束の場所まで歩いていく途中はゆるい坂道で、先はふらふらと足取りのように揺れている。
煤子「大丈夫?ちゃんと水を飲んで」
さやか「おはようございまあす……」
坂の上の煤子さんのもとにたどり着いた私には、一本のペットボトルが手渡された。
ほどよく塩の足されたスポーツ飲料を半分飲み干し、息継ぎをする。
煤子「少しずつ飲まないとお腹を壊すわよ」
けど私は煤子さんの言葉を振り切り、残りあと指一本くらいのところまで一気に飲んでしまうのだった。
煤子「もう」
さやか「ぷはぁー!」
煤子さんは麦藁帽子を被っていた。シャツに、スカートに、タイツを履いている。
夏だというのに、とても暑そうな装いだ。
けれど不思議と彼女は、汗ひとつかいていない。
煤子さんの乾いた頬を見ながら、腕で額の汗をぬぐい、思う。
そこに存在しているはずなのに、存在していないような人だな。って。
近くの林道まで歩き、まばらな木陰にかかったベンチに腰掛ける。
座り、長い黒髪を掃い、脚を組んでから、煤子さんは話を始めた。
煤子「さやかには、守りたいものってある?」
さやか「守りたいもの?」
煤子「そう、身を呈して、何かを捧げて、そうすることで守りたいものよ」
さやか「……どういうこと?えっと、大切なものは守りたいけど…」
煤子「んー、大切なもの、それでもいいかもしれないけど、ちゃんとそれぞれを言葉に出したほうが良いわね」
さやか「……」
深く考えてしまう。
煤子さんの表情を伺おうとしてみたが、彼女は正面の林をじっと見つめていた。
さやか「……お父さんとお母さんは守りたいなぁ」
煤子「ええ」
さやか「あと友達、たくさんいるよ、恭介と、みーちゃんと…」
煤子「なるほど」
さやか「煤子さんも!」
煤子「ふふ、そう、ありがとう」
煤子「けれどさやか、そうね、たとえ話をしましょう」
さやか「うん」
煤子「私は重篤な末期の食道がんに侵されていて、余命はあと1ヶ月だとする」
さやか「え」
煤子「もちろん違うけど、例えよ」
さやか「なんだぁ」
煤子「……私を助けるためには、現金で10億円が必要なの」
さやか「げえ、じゅ、じゅうおく……?」
煤子「さやかはそんな私を守れる?」
さやか「……ま、もれるの?いや無理…かなぁ…」
さやか「……難しすぎるよ、そんな、私のおうちそんなお金もちってわけでもないし、私もおこづかい少ないし……」
煤子「じゃあこうしましょう」
さやか「?」
煤子「さやかにはお金がない、けれど、10億円のお金を、銀行から借りることができる」
さやか「……え」
煤子「それを使えば、私を助けることができるわ、どうする?もちろん借金は私ではなく、さやかのものよ」
さやか「……う、ぐ」
煤子「難しいわね?」
さやか「……むず、かしい」
煤子「ふふ」
煤子「じゃあ次のたとえ話をするわね、さやか」
さやか「うん」
煤子「……そうね、その前にまず、さやか、あなたの家の玄関には、靴は何足ある?」
さやか「え?……5つくらい?」
煤子「じゃあ他に、靴以外では何があるかしら」
さやか「えーっと、傘でしょ?バットでしょ?あとはスプレーとブラシ……かな」
煤子「なるほどね、じゃあ本題に入りましょう」
さやか「? うん」
煤子「さやかはお父さんとお母さんを、守りたい、と言った」
さやか「うん」
煤子「じゃあ、ある日さやかが家に帰ると、そこには…さやかのお父さんとお母さんを殺そうとする、強盗がいた」
さやか「え!」
煤子「強盗の身長は160cm、小柄な青年、だけど手元には木刀が握られていて、その上剣道を経験したことがある」
さやか「わわわ」
煤子「普通ならお父さんとお母さんが一緒になればなんとかできなくもないけど、二人は既に手と足に怪我をして、身動きはできないわ」
さやか「……」
煤子「強盗の青年は今まさに、玄関の少し先の廊下で両親に木刀を……」
さやか「いや!そんなのやだ!」
煤子「…さやかが手を伸ばせる玄関にあるものには、7足の靴、1本のバット、ブラシ、あとスプレーがあるわ、さあどうする?」
さやか「……」
煤子「というよりも、どうなると思うかしら」
さやか「……私じゃ、なんもできないよ」
煤子「……わかるみたいね?」
さやか「うん……だって相手は私より大きいんでしょ?しかも、木刀なんて持ってるし」
煤子「そう、さやかでは、バットを握っても難しいでしょうね」
煤子「もちろん、こんな状況、そう起こるものではないわ」
さやか「うん……」
煤子「けれどねさやか、私が今抱いている未練はね、悔しい気持ちはね、そういうことなのよ」
煤子「私にもっと力があれば……」
さやか「……」
煤子「10億円があれば……バットで青年に勝てるほど、強ければ……」
煤子「失ってから、自分には何が足りなかったのかがわかる」
煤子「失ってから、何が間違っていたのかがわかるのよ、さやか」
さやか「……私も剣道習えば、良いんだね」
煤子「……ふふ、まあ、そうすれば、今話したことが起こっても大丈夫ね」
煤子「後で後悔しないように、よく備えておくことよ……いつでも落ち着いて、間違えないよう、慎重に」
煤子「甘い言葉や、美味しいと思うような話には、すぐに流されてはダメよ?…良と思える話には最大限に警戒すること…」
さやか「うんっ」
煤子「……はあ、言いたいことって、沢山出てくるものね」
さやか「へへへ、わかるよ!」
煤子「ふふ……リフレッシュしましょうか、少し、暑いけれど走る?」
さやか「うん!私、走るの好き!」
† それは8月4日の出来事だった
∀)っ 今日はここでオヤスミヨ
乙
やっぱりあなたか。顔文字で確信した
無事完結できるよう応援させてもらいます
例の貴方だとしたら応援していきますよー
取り敢えず乙
乙
期待してる
この>>1が誰なのか知らない俺も期待するぜ
さやかちゃん!
イッタイダレナンダー(棒)
さやか「……ん」
「こおら」
ごつ、と教科書が頭へのしかかる。
「最初から居眠りとは、良い度胸だぞ」
さやか「あえ?」
見回せば、クラスメイト全てが私の方を向いていた。
あのちょっと怪しい雰囲気の転校生、暁美ほむらも。
さやか「あひゃぁー、やっひまいまひた」
「涎を拭きなさいっ」
私の授業態度への減点を糧に、教室はちょっとした笑いに包まれた。
寝たのか?
念話の途中で居眠りしてしまったらしい。
えっと、まどかやマミさんとどこまで話したっけ。
正直、うつらうつらと空返事ばかりをしていた気がする。内容が曖昧だ。
まどか『もう、さやかちゃん』
さやか『たはー、だって寝不足すぎるんだもーん』
随分と先に進んでしまった板書をがりがりと進めていく。
授業が終わる頃にやっとノートも取れそうなくらいだ。
さやか(……そういえば、ほむらの話をしていたんだっけ)
ちらりと、ボードの手前にいるほむらの後ろ姿を見る。
綺麗な黒髪。
前を走る煤子さんの、揺れる黒いポニーテールを思い出した。
さやか(マミさんはほむらに敵対心を持ってるけど)
さやか(そこまで悪い奴なのかな)
キュゥべえの姿を探そうと見回すと、白いのはまどかのかばんの上で居眠りしていた。
私もそうやって、堂々と居眠りがしたいよ…。
「美樹、じゃあここ、答えなさい」
さやか「え?3と4?」
「……ん、正解です」
(布団))) モソモソ
乙
まどか「はい」
箸が摘むは、ぷりぷりした美味しそうな卵焼き。
QB「んあむっ」
それを頬張り、咀嚼もなしに一飲みにしてしまう白猫。
美味しそうな料理なのに味わいもしないなんて、罰当たりな。
さやか「まどか、私にもひとつ!どうかひとつ!」
まどか「えー、私も分だよぉ」
さやか「……じゃあ仕方ない!せめて、よく味わって食べてくれぇ…!」
まどか「な、なんでそんな顔するのー!?」
とまぁ、いつもこのような感じで、まどかの弁当を食べているわけです。
さやか「ありがとう、はい唐揚げ!」
まどか「えへへ……」
私があげるのはいつも唐揚げだ。
当然。だって私の弁当には、唐揚げと白米しか入ってないのだから。
まどか「……ねえ、さやかちゃんは、どんな願い事にしたか、決めた?」
さやか「……」
まどかの顔を見て、箸を休める。
まどか「私、昨日の夜ずっと、色々考えてたんだけど……全然浮かばない、っていうか」
さやか「じゃあ、一緒に満漢全席食べよっか?」
まどか「そ、それじゃつりあわないよお」
さやか「そうだよね、釣り合わないんだよね」
箸を唐揚げに刺して、頬張る。
30回噛んで飲み込むまで、まどかもキュゥべえも黙って私を見ていた。
さやか「満漢全席も、世界一のオールラウンドアスリートも、五千年モノのストラディバリウスも」
さやか「考えたけど、やっぱ命のが大事だったよ」
保温機能の高い弁当箱の中で未だに暖かい白米を、がつがつと口の中に掻き込む。
さやか「ぷふぅー」
まどか「…やっぱり、何事も命がけで打ち込めない大人になるのかな、私」
さやか「……」
まどかの表情は、見滝原に来たばかりの頃のそれに戻っていた。
この憂いと陰りのある顔に、何度悩まされたことか。
さやか「心配ないって、まどか」
まどか「……?」
さやか「大人になってから見つけてもいいんだからさ」
そう。
満漢全席もアスリートも、何だって現実で不可能なわけではない。
人間、諦めなければ何でもできるものだと思う。
夢のために命をかけるだとか、そう焦るにはまだまだ早いと、私は思う。
ぴり、と、空気を伝って張り詰めたものが伝わった気がした。
ほむら「……」
扉の方を向くと、ほむらが立っていた。
けど違う、これは……。
さやか「……」
ほむら「……」
顔を横に向けると、隣の棟にマミさんが立っていた。
ソウルジェムを手にこちらを見守っているようだった。
マミ(あら、わかってた?)
さやか(ええ、なんとなくっていうか……)
マミ(ふふ、ここにいるから、安心して)
まどか(はい)
(*-∀-)zzz Σ(・; )マルミエヨ!
さやか「魔法少女の話?」
一緒にお昼かもしれない。
ほむら「そうよ」
そういうわけではなかったみたい。まぁ当然か。
ほむら「魔法少女の存在に触れないようにしたかったけど、それも手遅れだし」
さやか「魔女の結界だっけ?私たちがあそこにいったから?……あ」
いや、ちょい待ってみよう。
それは少し違うかな?全部間違ってはいないだろうけど。
さやか「キュゥべえと出会ったからってわけね」
ほむら「……そうよ、」
なるほど。あの時私たちを遠ざけようとしたのは、そんな理由があったのか。
マミさんの言ってたとおりってわけね。
ほむら「それで、」
マミさんがモールの近くにいたのは偶然らしいけど、ほむらはどうしてあの場所に居たんだろう。
いや、それはキュゥべえを追っていたからか。私たちを魔法少女にしたくないわけだし。
あれ、なんか違和感あるな。なんだこれおかしいぞ。ん?
ほむら「どうするの?」
ほむらは私たちに魔法少女としての素質があることに気付いていた。それは学校で出会った時からだと思う。
私に意味深な話をしてきたり、まどかに対しても、きっと何かアプローチをしてきただろうから間違いない。
けどやっぱり違和感はある。キュゥべえと契約させないようにするだけなら、脅迫でもなんでもすればいいのに。
そうはせずに、あえてキュゥべえを狙う。随分と私たちにソフトタッチだ。
なぜキュゥべえを?私たちが友達だから?そりゃ考えすぎか。
ほむら「貴女達も魔法少女になるつもり?」
まどか「私は……」
さやか「ねえ、どうしてそこまでして、私達に魔法少女になってほしくないの?」
ほむら「…」
表情は固まったままでわからない。
けれど言葉を受けて、口を閉ざすような奴ではなかったはず。
ほむら「そいつを消して済むのなら……それが楽だから、よ」
さやか「……」
歯切れは悪かったけど、嘘を言っているようには見えない。
けれど答えてもいない。
さやか「私達を魔法少女にしたくない理由は何?」
ほむら「……」
目が泳いだ。私ってばこういうのだけは見逃さない。
……ん、泳いでいたわけじゃなかった。
ほむらは“見た”んだ。隣の棟にいる、マミさんを。
そしてそのジェスチャーがある意味で、気持ちの片鱗を語った。
ほむら「危険だからよ」
きっと嘘じゃない。けどそれだけじゃないことを、私は薄々感じている。
ほむら「ねえ、まど……」
まどか「え?」
ほむら「……いえ」
ほむら「さやか、昨日の話、覚えてる?」
さやか「昨日の……」
――貴女は自分の人生が、貴いと思う?
――家族や友達を、大切にしてる?
そう、こういうことだったわけだ。
だからあえて訊いたのだ。キュゥべえと出会うことを、ある程度想定して。
さやか「それを守るためなら、天秤にかける自分は遥かに軽い、っていう話よね?」
ほむら「……貴女がそうだとしても、今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないで」
クールビューティの静かな睨み。おお、怖い。
ほむら「でないと、全てを失うことになるわ」
振り返り際に苦虫の脚を食ったような顔を半分見せて、ほむらは屋上から去ろうとする。
まどか「ま、待って」
ほむら「……」
まどか「ほむらちゃんは……どんな願い事で魔法少女になったの……?」
ほむら「……貴女もよ、鹿目まどか」
半分開いたドアへ、ほむらは消えていった。
|壁|・∀)今日はコンダケ
乙
乙マm
乙
授業も終わり、待ちに待った放課後。
学校の固い椅子は、さやかちゃんのやわらかヒップには合わないのですわ。
さやか『マミさんの魔女退治見学、いきますか!』
まどか『うん!』
よし、と意気込んで、剣道用具を詰め込んだ鞄を肩にかける。
まどか「……部活?」
さやか「ううん?」
まどか「……」
もってくんだ……と、まどかの顔が優しげに呆れていた。
本当は顧問に謝ろうと思って持ってきたんだけど、勇気が出ないのでやめておいたのである。
仁美「あら、さやかさん、部活へ?また明日」
私の姿を見た仁美は朗らかに手を振って去ってゆく。
一緒に帰れない言い訳をせずに済んでよかったけど、部活復帰しなくてはならなくなったのではないか、これは。
さやか「ま、いっか」
まどか「何が?」
「暁美さん」
「今日こそ帰りに喫茶店寄ってこう」
教室の片隅では、支度を済ませたほむらに再び女子が群がっていた。
やっぱり可愛い子には、何度かのアプローチをかけるようだ。
ほむら「今日もちょっと、急ぐ用事があって……ごめんなさい」
けどもうそろそろ、ほむらを誘うことも諦めそうである。
本人の意思だしとやかく言うことではないんだけど、このままいくと、彼女は孤立してしまいそうだ。
自分からそうなろうとしているんだろうけど……。
さやか(友達想いなんだか、違うんだか)
まどか「さやかちゃん?」
さやか「ごめん、行こっか」
約束の場所は、マミさんと初めて会ったモールのファストフード店だ。
早めに向かって、わかりやすい席で待っていよう。
マミ「あら、来たわね、こっちよ」
ショップに入ると、既にマミさんは座っていました。
ちょっと早くないですか、マミさん。
まどか「遅れてごめんなさい」
マミ「いいわよ、まだ約束の時間でもないしね、私が早く来ただけよ」
さやか「あはは、次からは30分前に来てテーブルを掃除してます」
まどか「体育会系とはちょっと違うんじゃないかな、さやかちゃん……」
小腹満たしに頼まれたバーガーを小突きながら、今日これからの本題へ突入する。
マミ「さて、それじゃ魔法少女体験コース第一弾、張り切っていってみましょうか、準備は良い?」
さやか「おう!」
まどか「は、はいっ」
マミ「ふふ、良すぎるくらいね」
さやか「そうだマミさん、ちゃんとこんなのも持ってきたんですよ、ほら」
鞄からずるりと取り出す、一本の竹刀。
さやか「聖剣ミキブレード」
まどか「本当にセット持ってきたんだね……」
さやか「何も無いよりはマシかなって思って」
マミ「まあ、そういう覚悟でいてくれるのは助かるわ」
けど何故に苦笑いなんです?マミさん。
さやか「まどかもそんなのほほんな顔してるけどー、何か持ってきたの?」
まどか「え、えっと、私は……」
躊躇の表情。
だんまりではなく焦燥。意味はわからないが、何か持ってきたようだ。
まどか「笑わないでね?」
さやか「うむうむ」
マミ「何かしら、ふふ」
マミさん既に笑ってます。
ノハ*・∀・ハ ココマデデスヨ
オツデスヨ
乙ー
おつ
開かれるキャンパスノートならぬ、キャンバスノート。
昨日迷い込んだ魔女の結界とタメを張れるほどファンシーで、パステルな世界が、ここに広がっていた。
そこには魔法少女姿のマミさん、そして……やたらとキュートでプリティな意匠のまどかがいる。
マミ「うふふっ」
さやか「あーっはっはっはっ!」
まどか「えっ、ええっ!」
マミ「ご、ごめんなさい、意気込みとしては十分ね」
まどか「ひ、ひどいですよお」
さやか「あはは、いやぁー、でも良いんじゃないこれ」
まどか「本当に思ってる!?さやかちゃん!」
怒った顔に一切の迫力を感じないところはお父さん譲りなのかもしれない。
さやか「いやぁ、うん、もちろん思ってるって!」
まどか「怪しい!」
さやか「形から入るのは大切だしさ!何だってね!」
まどか「…ぅう」
型を覚えずに剣道をやってきて強くなった私の、心からの本音だった。
形から、っていうのは、意外と大事。
>>109
あ、いけねすみませんこれ誤爆です
ライダースレに貼ろうと思ってたやつです
学業から非日常への転換。
休憩と覚悟は終わり、私たちは町へ出た。
先頭にマミさん、その後ろを私とまどかが着いてゆく。
マミ「これが昨日の魔女が残していった魔力の痕跡」
黄色い光を発するマミさんのソウルジェム。
一定間隔で灯りは幻想的に、ぼんやりと明滅する。
マミ「基本的に、魔女探しは足頼みよ」
さやか「……この光が早く点滅すると」
マミ「そう、魔女が近いってわけ」
さやか「うひゃー、大変ですねえ」
ガイガー片手に探しているようなものだ。
広い見滝原を、こんな途方も無い方法で探すだなんて。
マミ「こうしてソウルジェムが捉える魔女の気配を辿ってゆくわけ」
さやか「地味ですね……気が遠くなりそう……」
マミ「ふふ、そうね……でも近くに魔女がいないっていうのは、とても良いことなのよ」
それもそっか。
さやか「光、全然変わらないっすね」
マミ「取り逃がしてから、一晩経っちゃったからね」
もう随分と歩いて、空も茜の気配を帯びてきた。
さやか「まどか、脚大丈夫?」
まどか「うん」
やっぱりまどかも疲れているようだ。
足取りもどこか重く、歩くたびに踵を擦りかけている。
マミ「魔女の足跡も薄くなってるわ」
さやか「まだ遠いのかぁ……」
まどか「あの時、すぐ追いかけていたら…」
マミ「仕留められたかもしれないけど、あなたたちを放っておいてまで優先することじゃなかったわ」
まどか「ごめんなさい」
マミ「いいのよ」
あの時追いかけていれば。ほむらの事もあるのだろう。
彼女がいてもいなくても、私たちはお荷物だったというわけだ。
言い方が悪いか。
さやか「マミさん、あの時は本当にありがとうございました」
マミ「ふふ、改まらなくても」
さやか「いえ、こういう大事なことは、心から感謝したいです」
マミ「……やだ、ちょっと気恥ずかしいわねっ、ふふ」
先を歩くマミさんの歩調が、少しだけ速くなった。
ミ( *・A・)ココマデー
乙
さやかちゃん
さやか「マミさん」
マミ「何かしら」
さやか「ソウルジェムの灯りだけじゃなくて、他に探す手立てっていうか、目星とか、無いんですか」
マミ「見当をつける、って意味では、探す場所を最初に絞ることができるわ」
マミ「住宅地なんかではあまり見ないけど、人が多い繁華街や、逆に人気の無い廃墟では多いかな」
さやか「繁華街、廃墟……」
マミ「両方とも人の感情に大きく影響される場所だからね」
なるほど。なんとなく、フィーリングでわかったので頷いておく。
マミ「交通事故、傷害事件…人あるところには魔女がいるもの」
マミ「そこがひとまずは最優先になるけど、いなければ人気のない所を探すわ」
まどか「はぁー……」
斜陽が影を伸ばしてゆく。
寂れたビル街には通行人もいない。
工場と小さな廃屋が並ぶ、ちょっと気味の悪い所だ。
見滝原に住んでいても、なかなかこんな場所にまで来ることは無い。
まどか「ここに魔女、いるのかな……」
マミ「反応は強くなってるわ」
まどか「本当だ」
さやか「!」
手の上のソウルジェムを見る。
点滅の強さは劇的な変化だったが、嫌な予感に上を向く。
それは髪と裾を風に揺らす影だった。
人。
屋上に見えた全体像に、見下ろしているわけではないということはすぐにわかった。
さやか「マミさん、上に人が!」
マミ「!」
指で示した先には、若いOLが足元をふらつかせている。
あんな高い場所にいるというのに、目は地平線だけをぼんやり眺めている。
正気の沙汰とは思えない。
まどか「あ、危ない……!」
周りを見る。
コンクリートの地面。オフィスビルは高い。落ちれば即死だ。
持ち物は竹刀、剣道セット、制服、携帯……何も使えない。
。
さやか「マミさん!」
マミ「任せて」
黄金の光がマミさんを包み、輝き収まる前に、魔法の帯はビルへと伸びた。
柔らかなリボンはOLさんの落下を受け止め、緩やかな動きで地上へ降ろした。
まどか「マミさん……」
マミ「大丈夫、気を失っているだけよ」
さやか「……よかったぁ」
眠るような表情。落ちる最中で気絶してしまったんだろう。
さやか「可愛そうに」
髪を撫で、整える。血色の悪い人ではなかった。
さやか「……ん、マミさん、首もとになにか」
マミ「魔女の口付けね、やっぱり」
さやか「魔女の口付け?」
マミ「魔女が人につける、……標的の印、みたいなものよ」
さやか「……」
口付けをさする。
マミ「この人は気を失っているだけ、大丈夫、行きましょう」
さやか「……はい」
この人は、今まさに死にかけた。
私はそのことを噛み締め、廃屋に歩を進めるマミさんの後を追った。
マミ「準備は良い?」
まどか「は、はい」
さやか「……」
まどか「……さやかちゃん?」
マミ「美樹さん、どうかした?」
さやか「あ、いえ、なんでもないっす」
竹刀を握る手に力が入りすぎていた。
いけないいけない、こんな精神じゃ。
常に平静な心を保つんだ。取り乱さず、悲観せず、後悔しない。
そのためによく考え、よく見極め、自己を貫く。
私は大事なことを教わったじゃないか……。
ばちん、と両掌で頬を叩き潰す。
マミ「あう、美樹、さん?」
さやか「さっきのがちょっとショックでした、もう大丈夫……行きましょう」
マミ「……ええ、そうね、早く片付けてしまいましょう」
私はマミさんの後に続き、奇妙な鏡のような空間の裂け目に踏み込んでいった。
まどか(…さやかちゃんはいつも自分に正直で、自分のことをよくわかってる)
まどか(マミさんには、きっとさやかちゃん、不安定なように見えたのかもしれないけど……)
まどか(……きっと、自分に漠然と、鈍感なだけで……私のほうがもっと、不安なんだ)
まどか「ふわぁー……」
赤と黒のマーブル模様が空を流れる。
他にもこの空間を言い表す言葉はいくらでもあるんだけど、中止すればするほど眼がチカチカする……。
さやか「あ」
風景の中に、ひときわ動きの強いものを見つけた。
それは真っ白な体、立派な黒いお髭の……。
さやか「まどか、下がって!」
まどか「えっ!?」
左手でまどかを押しやり、前に出る。
ぐちゃぐちゃの茨の壁の上から、蝶の翅の使い魔が飛んできたのだ。
右手に握った竹刀の先を使い魔の額のやや上に合わせる。
左手を沿え、小指から順に握る。
私の精神はそこで落ち着いた。飛んでくる未確認生物が、ただのボールのようにも思えた。
正面から飛んでくるボールは速球かもしれないし、変化球かもしれない。そのどちらでも構わない覚悟はできた。
精神的には相手をギリギリまでひきつける。反面、体はすり足で前に出た。
相手がいつ軌道を変えるかわからない、ならば早く前へ。
そして叩くならば、より強く。
相手側の五十の速さだけで叩くよりも、こちらが近づく五十の速さを合わせ、百で叩くんだ。
さやか「……!」
私は前へ踏み込んだ。声は出さない。
この激しさはまだ、剣だけに込められる。
踏み込みと同時に竹刀が上へ上がる。
切っ先が、時計回りに正面から来たる相手を避ける。
崩れた右の下段が形作られた時には、髭のボールはカーブ気味に軌道を逸らし、私の左肩を狙っているらしかった。
そこは既に、私の切っ先が届く範囲。
さやか「ハァッ!」
斜め下からの型破りな袈裟斬りが炸裂した。
さやか「……」
手ごたえだけでも、空を斬ったことはわかった。
マミ「無茶をしては駄目よ?」
さやか「あー……」
振り向けば、ジェームズ・ボンドのように自然体でマスケット銃を構えるマミさんが。
さやか「ごめんなさい」
マミ「けど、私が気付いていなかったら……そう考えると、良かったわ、美樹さん」
さやか「……へへ」
竹刀を下ろす。
剣を振って怒られることはいくらでもあったけど、ほめられたのは久しぶりだ。
マミ「けれど、普通の竹刀では2体目で折れても不思議ではないわ……魔女と戦うには、魔法少女の力がないとね」
の黄色いリボンが竹刀をしゅるりと包み込み、輝く。
マミ「気休めにはなるけれど、私のそばを離れないでね?」
さやか「おおっ」
まどか「わぁ」
リボンがほどけた後の私の竹刀は、綺麗な白磁の模造刀へと進化を遂げていた。
さやか「す、すごいすごい!ミキブレードが真の姿にっ!」
金の装飾もゴージャスで綺麗。西洋の偉い騎士が持っている剣よりも、よっぽど強そうに思えた。
マミ「どんどん先へ進むわよ」
さやか「はい!」
まどか「は、はいっ」
強くなった竹刀を意気揚々と強く握り締め、マミさんのあとをついてゆく。
戦うマミさんの姿は、美麗。その一言に尽きた。
長いマスケット銃を取り回し、引き金を引けば、必ず一匹の使い魔を打ち抜いた。
近づきすぎた(それでも3mは外の)敵は、マミさんから伸びるリボンによって切り裂かれる。
昔やったゲームの、ラスボスを倒したときに使えるようになるキャラクターを思い出した。
使えば無敵。そんな光景だった。
マミさんが一体の敵を打ち抜くごとに、私の剣を握る手はどんどん弛緩する。
それは美しい戦いに見惚れているところもあるかもしれない。
けどもう一方で、あまりにも無力すぎる自分に脱力していたのかも、しれなかった。
さやか(……って、バカだよね)
剣を習ってから、この道では一端なりの自信があった。
物理的な強さをある程度舐めたつもりでいたのだ。
事実、いざとなれば、襲い来る悪漢から誰かを守れるくらいにはなっていたのに。
魔法少女、そして魔女。この二つが関わっただけで、私の剣術なんて、とんでもなく無力な存在だった。
どこかで役に立てると、心の片隅で思っていた自分がバカらしくなる。
まどか「さやかちゃん……?」
さやか「ん?どした?」
まどか「ん……なんでもない」
マミ「そろそろ最深部よ、しっかりね」
マミ「見て、あれが魔女よ」
廊下の先には、広い空間が広がっていた。
ここまでの道のりも随分荒れ放題ではあったけど、さすがにここから飛び降りることはできないだろう。
魔女「うじゅじゅじゅ……」
さやか「げっ……」
空間の中央で鎮座していたそいつは、使い魔とは比べようもない巨躯の、どろどろした頭の“何か”だった。
おそよ一言、二言では説明のしようがない、混沌たる姿。
さやか「グロ……」
そんな表現で落ち着いた。
まどか「あんなのと戦うんですか……?」
マミ「大丈夫」
けれど、マミさんの表情は今までとなんら変わらず、何より一層の自信が浮かんでいるように見えた。
マミ「負けるもんですか」
単身、マミさんは空間へと降り立った。
前へ前へ、魔女に近づいていく。マミが歩み寄るにつれ、魔女の体躯の大きさがはっきり見えてきた。
あれは……相当デカい。
私が握る剣でどうにかできるレベルの相手でないことは、本能的にわかる。
まどか「マミさん……」
まどかが私の服を掴む気持ちも良くわかった。
マミ「さあ、始めましょうか?」
靴が小さな使い魔を踏み潰したそれが、戦いの始まりだった。
魔女「うじゅじゅじゅ!」
相手からしてみたら、ちゃぶ台をひっくり返すくらいの労力なのかもしれない。
けど人にとってその“椅子の放り投げ”は、金属コンテナの投擲並みのダイナミックさと、死の気配を感じさせた。
マミ「甘いわね」
私たちの方が心臓を鷲掴みにされた気分だったが、マミさんはこの空間で一番穏やかな心の持ち主だった。
人には不可能な高さで跳び、すばやくリボンを展開してマスケット銃を取り出す。
数は4挺、うちの二本を掴み、手を伸ばすと同時に撃ち放つ。
光弾は緑色のゲル状の頭にクリーンヒットし、その様は高速道路トラックが大きな水溜りを踏みつける場面を想像させた。
さやか(……けど)
マミ「効かないか」
魔女の頭部が再生していく。
ゲル状の頭は、裂傷も刺傷も関係なく修復するだろう
一発目のマスケットを棄てて、二発目を握ったマミさんは、その狙いを近づく使い魔たちに変更。
空中で冷静に狙いを定め、着地と共にすばやく場を変える。
マミ(頭が駄目なら胴体だけど?)
円形の戦場を駆け、魔女からの茨攻撃を避けるマミさん。
その間にも彼女のリボンは、場に張り巡らされていた。
蜘蛛の巣。そう見えた。
マミ「そろそろ私に手番を下さる?」
走るマミさんが、張られたリボンの一端を掴み、引っ張った。
するとどうなっていたのか、連動するようにして空間の天井が崩れ、その真下の魔女へコンクリート片を落下させる。
人間なら即死だったかもしれない落石。けれど魔女はまだ生きている。
さやか(あ、そうか)
違う、それだけじゃない。
マミさんは引き抜いたリボンを、次々にマスケット銃へ変えてゆく。
その数6挺。
マミ「行くわよ」
リボンが4挺のマスケットを真上に跳ね上げる。
銃に気を取られた魔女が、頭を上へ持ち上げる。
全ては計算済みだ。
マミ「そこ」
ドウン、ドウン。
二発は容赦なく、魔女の胴体に叩き込まれた。
頭部とは違い、真っ白な衣のような胴体には、固形の弾痕が刻まれた。
魔女「ビギィイイイイ!」
さやか「効いてる!」
まどか「マミさんがんばって!」
マミ「いけるわね」
激昂する魔女の攻撃の手は強まる。
四方から迫る茨を避け、マミさんは攻撃の隙を伺っているようだ。
だが魔女も魔女。隙を見せなかった。
ゲル状の頭部をマミさんの方向から離さないのだ。
頭を盾に、体を守っている。
最初は露骨な動き隠すために自然体でいた魔女だけど、ついに本性を現したのだ。
魔女「ギィイイイイイッ!」
茨の攻撃は休むことを知らない。
鞭のようにしなり、マミさんのいた空間を強く叩き、床を砕く。
防戦一方のようにも思えた。
さやか(……けど)
マミ「忘れたのかしら、まだ四つも撃ってない」
逃げ回るだけのように見えたマミさんが、不意にリボンを伸ばした。
リボンは魔女の茨を一本を断ち切り、かつ、まだ伸びる。
そうして地のスレスレ、床に落ちかけたマスケット銃4つをキャッチする。
リボンは器用に絡まり、銃を固定し、引き金すらも締め付ける。
魔女「……!」
魔女が顔を動かす前に、光弾はマミさんとは全くの別方向から放たれた。
魔女の体がびくりと跳ねた。
4発全てが胴体に命中。その衝撃によるものだった。
マミ「やったか」
さやか「あ、それだめ……」
一瞬は沈黙した魔女が飛び起きる。
マミ「きゃっ」
それだけで、辺りに飛び交っていた“無力”だと思われていた使い魔たちが群れになり、列を成し、それが黒く細い茨となってマミさんの足元を掬い取った。
宙吊り。そんな、絶望的な体勢。
まどか「マミさーん!」
マミ「なーんてね」
円形の戦場に張り巡らせたリボンが、意思を持ったように動き始めた。
互いに空中で蛇行し、亀甲縛りを形成しながら魔女のほうへ狭めていく。
マミ「未来の後輩に、あんまり格好悪いところ見せられないもの」
魔女「ギッ……!」
さやか「すごい……!」
黄色いリボンのフェンスはあっという間に、容易く魔女を床に拘束してみせた。
マミ「惜しかったわね」
いつの間にか足に絡まる茨を切り離したマミさんが宙で返る。
そしてリボンを手にし、本日最大の大技を展開して見せた。
螺旋を、筒を描くリボン。
光り、形を成す。
それはまさに大砲。
そんなものを空中で、どうやって撃つつもりなの?
マミ「ティロ……」
抱えてる……。
マミ「フィナーレッ!!」
言葉と共に勢い良く落ちたハンマーが魔法の火花を散らし、筒は光線を吐き出した。
光の砲弾はまっすぐ魔女の背中か腹部かを貫き、一瞬それが膨らんだかと思いきや、爆発した。
デフォルメされたバラの花びらが空間を舞う。
砕けた茨が散る。
ティーカップとコースターが落ちた、そこには――
マミ「ふう」
余裕の、一息。
マミ「……ふふ」
さやか「!」
そして、どこまでも優美な笑顔だった。
<瓦礫>*×∀)ココマデヨ・・・
乙
マミさんすごい!
まどか「すごい…」
さやか「……」
異空間は掠れて揺らぎ、もとの寂れたオフィスへと変わる。
と共に、宙から小さな石が降りてきた。
まどか「これは……」
マミ「これがグリーフシード、魔女の卵よ」
さやか「卵……」
つまりは魔女の大元だ。
マミ「運が良ければ、時々魔女が持ち歩いてることがあるの」
さやか「運が良ければって……」
QB「大丈夫、その状態では安全だよ。むしろ役に立つ貴重なものだ」
まどか「そうなの?」
マミ「ええ、何に役立つかっていうと……」
マミさんが自分のソウルジェムを小さく掲げて見せた。
マミ「私のソウルジェム、夕べよりちょっと色が濁ってるでしょう?」
さやか「そうですね」
どこか黒い色が混ざっているようにも見える。
光の象徴のように輝く黄色の中に沈む黒は、どこか妖しく、不吉だ。
マミ「でも、グリーフシードを使えば、ほら」
さやか「あ、キレイになった」
マミ「ね?これで消耗した私の魔力も元通り、前に話した魔女退治の見返りっていうのが、これ」
ソウルジェムをグリーフシードで浄化、魔力を回復させる。
魔力が無くなったらどうなるんだろう。魔法が使えない?
ひゅ、と、マミさんの投げたグリーフシードが空を切った。
もしやそれも魔法少女に必要な儀式か何かだろうか?とそちらへ顔を向けて、理解する。
ほむら「……」
グリーフシードを受け取ったほむらが、建物の影から姿を出す。
魔法少女の姿は少なからず、私たちに緊張を与えた。
マミ「あと一度くらいは使えるはずよ、あなたにあげるわ、暁美ほむらさん?」
ほむら「……」
マミ「それとも、人と分け合うのは不服かしら」
ほむらは不機嫌そうに眉を吊り、まどかは私の腕にすがった。
マミさんは明らかにほむらを敵視している。
私はほむらの心境を想った。
少しだけ、切なくなった。
(布団)* )-з キュム
今日は終わりか?
乙
素直なさやかちゃん可愛い
さやか「ちょっと待ってください」
考えるよりも先に体が動いてしまった。
やってしまった、と思った。
マミ「どうしたの?危ないわよ、美樹さん」
ほむらとマミさんの間に割って入った私への、真剣な注意だった。
その本気が冷たく、私は嫌だった。
だって二人の間にいることがいけないということは、危ない何かが行われる……かもしれないから。
わかってる。だからこそ嫌だった。
さやか「だって、そんなのおかしいですよ、確かにほむらはマミさんの友達のその、キュゥべえを虐めたかもしれないけど」
QB「事実だよ」
さやか「だけどそれは私達の身の安全を考えてたからこそなんじゃ、ないですか」
ほむら「……」
マミ「楽観しすぎよ……もしそうなら、魔女が現れる前にキュゥべえを攻撃なんてしないもの」
そもそもこの子を傷つけるなんてやりすぎだけどね、と付け加えた。
鋭い目のマミさんは怖かった。その魔法少女の姿も威圧感があった。けれど、私は引き下がるわけにはいかない。
さやか「攻撃しなきゃいけない理由があったんでしょ?ほむら、」
ほむら「……」
さやか「うん……そうだよ、だって私達を魔法少女にしたくないなら、わざわざキュゥべえでなくても、私達自身をどうにかすれば良いんだもん、でしょ?」
ほむら「!」
ほむらのまぶたがわずかに動いた。
反応があるということは!
さやか「ねえほむら、」
ほむら「話すことは何も無いわ」
カチッ
さやか「え!?」
マミ「!」
まどか「あ、あれ?」
忽然と、ほむらの姿は消えてしまっていた。
まるで、そこにいたのが嘘であったかのように。
「……あれ、私は……?」
目を覚ましたOLさんが額に手を当て、熱を探る。
「や、やだ、私、なんで、そんな、どうして、あんなこと……!?」
マミ「大丈夫、もう大丈夫です」
こうして、今日の魔女退治見学は、ハッピーエンドで落ち着いたのであった。
誰も傷つかなくて、本当に良かった。
さやか(けど……)
心残りはある。
孤立したほむらだ。
部外者の私がこんなことをいうものではないけど、それでもどこか切なくなる。
どうしてだろう。
マミ「ちょっと、悪い夢を見てただけですよ……」
OL「ぅぁあっ……私っ……!」
まどか「……ふふっ、さやかちゃん、帰ろっか」
さやか「そう、だね」
一件落着、なんだろうか。
私の胸の奥につかえた違和感は、結局最後まで取れる事はなかった。
……あ。
竹刀、消えちゃったよ……。
部活、もうだめだなぁ……いや、最初からあんまり乗り気じゃなかったけどさ……。
(((ノ*・∀・)ノ ソレジャマターネッテ テヲフーッテ♪
(;>∀(ヾ(・; )ミモト ワレルデショ!
もう割れてr…げふんげふん
乙
肉饅頭のようなAA……
一体誰なんだ(迫真)
乙
乙
このさやかちゃんはうざくないからよい!他の自己中過ぎるよ・・・・
† 8月7日
煤子「はい」
さやか「ありがとうございます!」
煤子さんの待つベンチを訪れる度に、近くの自販機で買ったらしい冷たいジュースをくれた。
夏の灼けた道を歩いてきた私にとっては、今や安っぽいスポーツドリンクも、それまで流した汗を全て補ってくれる命の水だった。
邪推をしてみれば、それは煤子さんが私を呼ぶための理由のひとつだったのかもしれない。
けれどあの時の私は、今の私もそうだけど、決してジュースのためだけに、毎日あそこへ通っていたわけじゃないんだ。
煤子「今日も暑いわね」
さやか「そーですね……」
ぱたぱたとシャツで仰ぐ煤子さんの姿が、何故かとても大人っぽく見えた。
いつか絶対に真似しよう。真似できるようなかっこいい女の子になろうと思った。
さやか「てやっ」
煤子「ふふ、甘いわよ」
ちゃんばらごっこ。
当時は男の子に混じってよくやっていた遊びではあったけれど、煤子さんと出会うことで、それは遥かに高い段階へと昇華した。
煤子さんが用意してくれた軽くて柔らかめの素材でできた木刀を振るい、打ち込む。
煤子「ほら、足がもたついてる、1・1・2よ、さやか」
さやか「うーあー!脚の動かし方よくわかんないよー」
ばっばっと激しく動いてズバッと決めるのが強いの思っていた私の苦悩だった。
当時は小学生だし、それも仕方ない。
煤子「じゃあさやか、次はさやかが私の打ち込みを受けてみなさい」
さやか「?」
煤子「私は1・1・2の動きで攻めていくわ」
さやか「へへん、煤子さんの教えてくれた動きなんて怖くないよーだ!」
煤子「あら、そうかしら?じゃあ今から打つわよ?」
さやか「いつでも来いだ!」
煤子「良いでしょう」
タイルを強く擦る音が聞こえ、私は身構える。
煤子「やッ!」
私は身構えていたというのに、剣も正面に構えていたのに。
煤子さんのその動きは、目で追いきれるものではなかった。
さやか「痛あっ!?」
今日習ったばかりの動きをお手本通りに取り入れた攻撃は、私の脳天へ綺麗に決まったのだった。
安いカップアイスを食べながら、木陰のベンチで一息。
煤子さんの隣は落ち着く。
煤子「習ったことや経験したことは、よく実践しないとダメよ」
さやか「ふわぁい」
煤子「上辺だけで理解してはいけない、無知は罪、共感できないものでも、よく考えないと、自分のためにならないの」
こうしてほぼ毎日、煤子さんは私に対して言葉を贈ってくれる。
半分わかっていなくてもそれを聞くのが、私の日課だった。
ちゃんばらごっこをして、走って、勉強して、お話して。
当時はそれら全てが私を大きく育ててくれるだなんて思っていなかった。
ただただ、お母さんのように優しく、お父さんのように厳しく、真剣に私と向き合ってくれている煤子さんと一緒にいるのが楽しかったんだ。
自転車を押して、煤子さんの背中で束ねた長い黒髪の揺れを見るのが。
時々俯く煤子さんの麦藁帽の中を覗き見るのが。
その年の、ううん、人生の、私の最高の思い出だったんだ。
† それは8月7日の出来事だった。
/ポテチ袋/・∀)今日はココマデ
さやかうざいか?
どんだけアニメなり二時創作に入り込んで観てんだよ…きm乙!
乙
今日は日曜日だ。
さやか「……」
懐かしい夢を見た。
最近は良く見る、煤子さんとの日々の夢。
どうしてだろう、思い出してしまうのだ。
最近、どうしてかな……。
さやか「お?」
ふと、頭の中で二つのかけ離れたピースが結びついた。
そういえば、煤子さんとほむら、よく似てる気がする。
雰囲気は煤子さんの方が断然柔らかくて、髪も結んでいたけど、似ている。
さやか「……」
煤子さんとは一ヶ月くらい、ほぼ毎日会って、一緒に遊んでもらったり、色々なことを教えてもらっていた。
子供の一ヶ月は長い。その中の出来事全てを覚えているわけではない。
さやか(でもほむらの顔、煤子さんとそっくりだよなぁー…?)
暁美 煤子。
さやか「お姉ちゃんなのかな」
だとしたら?
さやか「……」
煤子さんは病気に罹っていたと聞いた。
別れ、消息を絶ってからは一度も会っていない……。
さやか「……」
もしも煤子さんがほむらのお姉ちゃんなのだとしたら。
煤子さんは……ほむらのお姉ちゃんは……。
毛布を跳ね上げ、パジャマを脱ぐ。
私服に着替えて、……ああそうだ、携帯を開いてなかった。
着信なし。うん、なるほど。
今日の予定は特に無し、ってことだ。
さやか「……煤子さん」
そう。
思えば、煤子さんとほむらは瓜二つ。
接点なんて少しもないかもしれない。
推測なんておこがましい。私のただの想像にすぎない。
さやか「……けど、あの人に少しでも近づきたい」
また会いたい。
会えなくても、彼女の片鱗に触れていたい。
燻っていた心に火が点いた。
さやか「行ってくるっ」
私は走り出した。
( *・∀・|壁| ココマデー
乙
乙!
本人なのか平行世界からループの果てに漂着した別時空の存在なのか
あの場所へ行くには、坂を上らなくてはいけない。
その前にちょっとだけ走る必要もある。
小さな子供の基礎体力を作るには丁度良い距離だし、車も通りにくい絶好のコースだ。
それに今更気付いた。
さやか(あれから……)
煤子さんと別れてからは、この道を走っていない。
あの日々では嫌になるほど走った道なのに。
理由はわかる。走るとあの人を思い出し、切なくなってしまうのだ。
だから私はコースを変えたのだ。
背の高い林。
30分に1台の自転車が通る曲がり角の、5人分のベンチ。
さやか「……」
いるはずがないのに、そこへたどり着いた私は落胆した。
誰もいないベンチの上には、誰かが置いていった缶コーヒーがある。
振れば、中身は無かった。
さやか「そりゃ、そっか」
缶をゴミカゴに放り投げて、ベンチの上に横になる。
さやか「…」
日を透かした広い葉。
薄く延びた雲。
まるで、あの頃に戻ってきたみたい。
さやか「……よし!」
ノスタルジックになる前に決心した。
さやか「ここに来ても手がかりなんて無い、ほむらを探そう」
私の中にある唯一の手がかりはここだけ。
あとはほむらのことなど、一つも知らない。
けれど、休日にじっとしていられるほど私は我慢強くない。
99%無駄なことだとしても、1%の無駄じゃないかもしれない事のために行動することも、時には必要なのだ。
さやか「何故なら今日は、暇だからー!」
私は一人笑いながら坂を駆け下りた。
顔文字でレスすんな死ね
ほむらを思い出す。
自己紹介らしい自己紹介はなかった。
わかるのはその姿と、優秀さと、胡散臭さ。
転校生なんて二日も経てば何かしらわかるはずなのに、好きな食べ物も趣味もわからない。
魔法少女だっていうことくらいしか……。
さやか「あ?」
人気のない道の途中に立ち止まる。
そうだ。ほむらは魔法少女じゃないか。
蛇の道は蛇に聞くべきでしょう。
さやか「……えー、ごほん」
まずは咳払い。
さやか「……きゅーうべー……」
ぼそりと声に出して呼んでみた。
しかし、現れない。
さやか「……願い事決まったよー……」
QB「本当かい?」
さやか「うっひゃあ!?」
さすがに腹の底からびっくりしましたよ。
|壁| ((( *・∀・)カオモジ イエーイwww
|壁|つ;>∀)ノシ
QBwwwwwwww
乙
相変わらずの呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンな感じだなww
流石はQBさんや
ベェさん流石だな
さやか「す、すす、すごいねキュゥべえ、ていうかどっから沸いたの?」
QB「呼ばれたから来たのに、僕は虫か何かかい?」
さやか「ごめんごめん」
キュゥべえのふわふわな体を持ち上げ、肩の上に乗せる。
猫くらいの重さはあるかな、と思ったけれど、意外と軽い。ハムスターでも乗せているような気分だった。
さやか「悪いねキュゥべえ、ちょっと聞きたいことがあってさ、願い事が決まったわけじゃあないんだ」
QB「なんだ、残念だな」
残念そうな声だけど、顔は相変わらずの無表情だ……。
さやか「ねえキュゥべえ、ほむらがどこにいるか知らない?」
QB「ほむらを呼ぶために僕を呼び寄せたのかい?」
さやか「いやーほんとごめん、通信士だと思ってさ!」
QB「テレパシーの中継役も同じようなものだけどさ……残念だけどさやか、それはできないよ」
さやか「え、なんでー」
キュゥべえを両手に持ち、とぼけた顔を正面に見据える。
QB「僕が通信士というのは良い喩えだよさやか、向こうが僕のテレパシーを受け取ろうとしなければ、何の反応も掴めないんだ」
さやか「着信拒否?」
QB「電源を切っているといっても良いかもね」
さやか「音信不通かぁ……」
乙
さやかちゃんまじさやかさん
行く宛てがないので走るわけにもいかない。
仕方が無いので、無用の呼び出しを食らったキュゥべえと並んで、日曜の閑静な道を歩く。
QB「ほむらと会って、どうするつもりだい?」
さやか「んー?どうするって、話すだけだよ」
QB「あんまりお勧めはしないよ……」
さやか「なんでさ?」
QB「彼女はイレギュラーだよ、僕は暁美ほむらと何の契約も交わしていないのに、紛れもなく魔法少女なんだ」
ん?と、私の上に思考の低気圧が生まれる。
さやか「キュゥべえ、ほむらと契約してないの?」
QB「うん、何故彼女のような魔法少女がいるのか、まったくわけがわからないよ」
さやか「……」
QB「だからほむらには注意したほうが良いよ、さやか」
しばらくは雲を見上げながら歩いた。
上の空で考えるために。
マミ「あら?」
QB「やあ、マミ」
さやか「こんにちは、マミさん」
手がかりひとつ掴めなかった私は、寂れたケーキ屋の手前でほむら捜索を諦めた。
月曜日がやってこないわけじゃないのだ。
当たり前の日々のサイクルを、甘いものと一緒に摂取しようと考えたのだ。
陳列されたケーキを見た私はマミさんの部屋のキッチンにバニラエッセンスの瓶があったようなことを思い出し、そうだマミさんちに行こうということで、やってきたのだった。
そりゃあもちろん、ケーキを見てマミさんの部屋で飲んだ紅茶の味を思い出したということもあるんだけど…。
マミ「うふふ、日曜日はさすがにいいかなとも思ったんだけど、どうしたの?」
さすがにいいかな、とは魔女退治のことだ。
普通の休日にまで気を張ることはないというマミさんの配慮から、今日は魔女退治見学は無しになったのである。
マミ「ん、美味しいケーキね」
さやか「あは、ですね!へへへ」
もんすごくうまい紅茶を啜りながら、美味しいケーキ。
日曜日にピッタリの昼下がりだった。
さやか「細い道にある小さなお店のケーキで、周りのお店に押されて値段が2年くらい前から吊り上がり続けてるんですけど、味は最高ですよ」
マミ「へぇー…見滝原のお菓子屋さんには詳しいつもりだったけど、初耳だわ…」
予想通り、マミさんはデザートが好きらしい。
持ってきてよかったー。
さやか「はい、今日は悪いねぇ」
QB「やった」
というわけで今日の苦労人、キュゥべえ君にも一口おすそわけ。
マミさんは微笑ましく見つめていた。
まどかマギカSSと思い開いて>>1だけ見て違うと思い他のレスを軽く見てたらまどかマギカSSだった
(布団)*-∀)-з フゥ
乙
乙
ここの>>1は雷句誠先生みたいに布団に入りながら投稿しているのかな?
マミ「暁美さんの居場所?」
フォークを唇に当てて、マミさんの首は傾いた。
さやか「はい、同じ魔法少女として知らないかなって」
マミ「魔法少女同士といっても、わからないわね……魔女の反応をたどっていけば会えるかもしれないけど」
さやか「あ、やっぱり魔法少女同士でもわからないもんなんですね」
マミ「そうねえ、テレパシーの範囲にも限界はあるし、そもそも魔法少女と付き合ったこともそう多くはないから、わからないの」
検証しようと思ったこともないわ、とマミさんは3つめのショートケーキのイチゴを片付けながら言う。
マミ「でも美樹さん、どうして暁美さんに?おせっかいかもしれないけれど、公ではない場所で彼女と接触するのは危険よ」
QB「うんうん、マミからも言ってよ、どうも興味があるみたいで、危なっかしいんだ」
たしなめるような目を向けてきたので、ついつい背けそうになってしまう。
どうしても癖で、しっかり見返してしまうんだけど。
さやか「…んー、マミさん、本当にほむらの事が危なく見えるんですか?」
マミ「見えるわよっ」
QB「きゅぶ」
目の前に白猫が突きつけられる。
さすがにたじろいだ。
さやか「そりゃあキュゥべえがぼろぼろだったのはほむらがやったかもしんないですけど……」
キュゥべえを受け取り、ほっぺをむにむにする。
うにょうにょと皺を作る顔は、表情を持ったようで面白い。
マミ「美樹さん随分と弁護するけど、あれには意味があるっていうの?」
ありそうじゃないですか。なんて口にしたいんだけど、なかなか言える言葉ではなかった。
仕方ないのでガラステーブルの裏面に、皺を寄せたキュゥべえの顔を押し付けてみる。
QB「ぎゅぶぶ」
さやか「チャウチャウ」
マミ「やめなさいっ」
グラニュー糖のスティックでピシャリと叩かれた。
なんとなく、ほむらがキュゥべえをいじめた理由を掴んだ……かもしれない。
(ステルス迷彩*・∀・)ココマデ
顔文字がかわいい。乙
乙
チャウチャウwwwww
乙
マミ「魔法少女は、みんなの日常を守る存在なの」
胸の中のキュゥべえを優しく撫で、マミさんは語った。
マミ「大きな力はつい、振るってしまいたくなるかもしれないけど……それはいつだって、正しい方向で使わなくてはダメ」
マミ「たとえ10回助けられたって、1回の不信を抱けば……守られる側の人は、怯えてしまうわ」
マミ「信用を築くことだって、魔法少女として大切な能力だし……」
逆を言えば、それしか頼れないのよ。
マミさんはそう言った。
命と力に直結する損得勘定。
私は魔法少女の世界での厳しさを知った。
さやか(確かにマミさんの言うとおりだ)
何かある感じがする。きっとそこまで悪い人じゃない。
……そんな曖昧な理由じゃ、背中を見せることなんて、できないんだ。
さやか(じゃあほむらは、一体?)
それはきっと、明日、明らかになるんだろう。
悩みを抱えたまま明日はやってきた。
何の悩みかって?色々あるのです。
部活とか。
まどか「あ、竹刀持ってきたんだ」
教室の中で、一際目立つ竹刀を掲げてみせる。
さやか「うん、予備の一本!これをなくしたらマズイ!」
一昨日の魔女退治に持ち込んだ聖剣ミキブレードは、マミさんの魔法の力によって本物の聖剣へと生まれ変わり…。
そしてなんだかんだで……その、取り残されて消えた。
まどか「剣道部、入るつもりなんだよね?」
さやか「うっ!?その目はなによ!?」
疑わしいと言いたげな、あからさまな上目遣いだった。
けどそれに見透かされているからこそ、私の心は揺らいでいることも明らかなのだ。
さやか「……どうしよっかね、悩んでるんだよ、まだしばらくね」
まどか「どうして?」
さやか「んー……勢いでやめちゃったところもあるんだけど、これからのこともあるしさ」
まどか「あ……」
そう。魔法少女になれば、きっと部活との両立は叶わないだろう。
部活に入りたいとは思う…けど魔法少女になるかもしれないと揺らいでいる以上は、決断をするべきじゃあない。
ならどうして、剣道用具を持ってきたのかって?
……気分です。
音も無く彼女は入ってきた。
ほむら「……」
まどか「あ……」
さやか「うし」
まどか「あ」
長髪をひらりと翻す優雅な様を見て、私の足は勝手に動き出した。
ほむらが自分の席に座ろうとする前に、私もそこへたどり着いた。
ほむら「何」
さやか「いやいや、そんな転校生に圧力かけてるとか、そういうんじゃないから!楽にして訊いてて!」
ほむら「……」
どの道、自分の席の前だ。彼女は自分の席に座りたい。
私は話が長くなるからと座るように促す。
なんとなく、私の話を聞かなくてはいけないモードの出来上がりだ。
ほむら「……聞きたいことって、何」
さやか「んー、ちょっと、ほむらについてなんだけど」
ほむら「部活には入ってないし、シャンプーは普通の石…」
さやか「ああ、そういう自己紹介でするような事でもなくてさっ」
“せっ”というものに多少追求したい気配が感じられたが、後回しだ。
さやか「あのさ」
出したかった言葉。聞きたかった答え。鼓動が早まる。
さやか「ほむらって、お姉ちゃんいる?」
ほむら「はっ?」
珍しい顔で見返された。
素で驚くほむらの表情だった。一瞬、“脈ありか?”とも思ってしまった。
さやか「い、いるの?」
ほむら「いえ……そんなこと聞かれたのは初めてだったから」
さやか「……えっと、ススコ、っていう人、親戚とかでもいない?」
ほむら「ススコ…?いないけれど……」
さやか「そか」
そっか。いないんだ。
さやか「いやぁ、もしかしたらなーくらい思ってたんだけど、勘違いかぁ、ごめんね!」
ほむら「そう……」
いないのか。
他にも、キュゥべえについて聞きたいことはあった。
魔法少女についても、もちろん、ほむら自身のことについてだって、興味は沢山ある。
けど、全ての興味が、根こそぎに流されてしまったんだろう。
私の心に深く根ざしていた、思い出の残り粕と一緒に。
さやか「……」
その日の授業では、ぼんやりと空を眺めていた。
煤子さんのことを考えようとしたけど、理性がそれをやめた。
私の頭の中にかかる霧は晴れず、私の思考回路を迷わせるのだ。
もう、そこへ行ってはならないよ、と。
大人になってしまった子供が、妖精の森に入れなくなってしまうかのように
さやか(……恭介んとこ、いくかな)
ちょっとぶりに、あいつの顔を見に行こう。
買ったCDも聞かせてやらなくちゃ。
(*-∀-)zzz (-∀-* )ムゥムゥ・・・
乙
乙マm
真相はまだまだ先っぽいな
今日はマミさんの魔女退治見学。
その前に恭介に会うことにした。
少し遅れると、マミさんには伝えてある。
まどか「上条君喜ぶね」
さやか「うん、だといいんだけどね」
音楽の感性なんて私には備わっていない。
そりゃあちょっとは聞いて耳も慣れたが、恭介に敵う程であるわけもない。
私なんかが選ぶ曲で満足してもらえるかどうか、ちょっと不安だ。
さやか「まあせっかく私が行ってやるんだし!お世辞でも喜んでもらうけどねっ!」
まどか「あはは」
さやか「よっす」
恭介「さやか」
部屋に入ると、来るまでに呆けていたであろう恭介の表情が、少しだけ明るくなった。
荷物をやたら沢山並んでいる椅子のひとつにどかっと乗せ、私は恭介のベッドの端に座る。
恭介「来てくれたんだ、ありがとう」
さやか「そろそろ私が恋しくなる頃かなーって思ってね!」
恭介「あはは、まあね」
さやか「む、そういう大らかな受け止め方されると私が恥ずいだけじゃんか」
それでも朗らかに笑う恭介には内心で安堵し、カバンから例のブツを取り出す。
恭介「これは…」
さやか「そろそろ新曲聴きたいかなって、ね?」
恭介「ありがとうさやか、丁度聞きたいと思ってたんだ」
さやか「嘘ばっかし!」
恭介「ほんとだよ?」
ああ、なんだかんだ。
恭介と一緒にいるのは楽しい。
[木箱]・∀)ヨッテルカラ コノヘンニシトクワ
乙
CDウォークマンのイヤホンを分かち合い、互いに音楽を楽しむ。
視聴したときよりも音質が悪いのは、愛嬌だ。
恭介「……」
さやか「……」
横目に見ると、恭介の目は潤んでいた。
無力感に苛まれている彼の、静かな悲しみが見て取れる。
さやか(恭介の手も、願えば治せるんだろうな)
けど、私がそれを治してどうなるというんだろうか。
恭介が喜ぶ?喜ぶだろう。
でもそれでいいはずがない。
恭介の人生を無闇に操るなんて、そんなことはしたくない。
何よりも、私の願い事は、言っちゃあ悪いんだろうけど、恭介のためだけに使うようなものではない。
使う時が来るとするならば、それは……。
さやか「おまたせっ」
まどか「ん」
前にきつく恭介に言い聞かせてやった言葉がある。
入院して、症状を聞いたばかりの恭介は荒れていたけど、私の言葉で沈静化したと言ってもいい。
けれど最近はどうにも、内に溜めたやるせなさや悲しさが、溢れているようでもある。
さやか「CDじゃ励ましにはなんないよね……」
まどか「? 上条君、まだショックなのかな」
さやか「ショックは和らいだかも、けど受け止めたからこそ、辛いみたいなんだ」
まどか「……そうだよね、冷静になればなるほど、そうだよね……」
音楽に対する考え方を変えようとしても、やはり左手が動かないというのは痛手なのだ。
けど片手では演奏者にはなれない。それが彼の取り組んでいた音楽だったから。
(布団)∀))) モソモソ
乙
このスレ検索しても出ないのだが
マミ「ティロ・フィナーレ!!」
大砲が魔女を貫く。黒い煙を血の様に噴き出して、魔女は散り散りに消滅した。
まどか「す、すごい」
さやか「どっしぇー……ほんと魔法少女って、見てて飽きないなぁー…」
マミ「もう、見世物じゃないのよ?」
結界は解けて、マミさんは街灯の上から降りてくる。
なるほど、単純な体の丈夫さも飛躍的に上がっているらしい。
さやか「あれ?グリーフシード、落とさなかったんですかね」
まどか「そういえば……」
薄明かりの中、地面にそれらしき物の姿はない。
黒く小さな宝石を捜していると、唐突に白い獣が現れた。
QB「今のは、」
さやか「うわっ、びっくりしたっ」
QB「……今のは魔女から分裂した使い魔でしかないからね、グリーフシードは持ってないよ」
まどか「魔女じゃなかったんだ」
かくいう私も魔女だと思っていた。
魔女か使い魔か。どっちも同じようなもんじゃないのか。その違いは魔法少女にしかわからないのだろう。
さやか「何か、ここんとこずっとハズレだよね」
マミ「使い魔だって放っておけないのよ。成長すれば、分裂元と同じ魔女になるから」
さやか「そうですね」
心の片隅で、人を食べさせれば……と考えてしまったけれど、すぐにやめた。
マミ「さぁ、行きましょう」
このさやかちゃんは死活問題だと分かれば杏子のやり方に賛同はせずとも理解はしめしそう
マミ「二人とも何か願いごとは見つかった?」
帰り道の質問に、ついぐっと、胸を圧された気がした。
単純な、来るであろう質問なのに。
さやか「んー…まどかは?」
まどか「う~ん…」
我が親友もまだ、願い事を決めかねているらしい。当然だろう。
なかなか決められるものではない。
マミ「まあ、そういうものよね、いざ考えろって言われたら」
まどか「マミさんはどんな願いごとをしたんですか?」
マミ「……」
それは不気味な、きまずい沈黙だった。
空気を重さを悟った私とまどかは、唐突におろおろし始める。
けど何故だろうこの不条理。歩道を歩いてたら癇癪玉を踏んだ気分ってきっとこれだ。
まどか「いや、あの、どうしても聞きたいってわけじゃなくてっ」
マミ「私の場合は……考えている余裕さえなかったってだけ」
遠い目が見る先を幻視する。
マミ「後悔しているわけじゃないのよ?今の生き方も、あそこで死んじゃうよりは、よほど良かったと思ってるし……」
彼女の願い事。私達が決めかね、彼女が叶えようとする違い。
背中を押す“何か”の違いがあったのだろう。
マミ「でもね、ちゃんと選択の余地のある子には、きちんと考えた上で決めてほしいの」
マミ「私にできなかったことだからこそ、ね」
(布団) -з
乙
さやか「ねえ、マミさん」
マミ「え?」
魔法少女の先輩に聞かなくてはならないことがあった。
さやか「魔法少女に一番必要なものって、何だと思いますか?」
マミ「一番必要なもの、かあ」
曇り空を見上げて、うーんと可愛らしく考える。
その様は大人っぽいようで、子供っぽいようで、私の中では“おう、いいな”って思った。
マミ「夢を壊すような答えになっちゃうのかな……根気?」
まどか「こ、根気……」
魔法少女というよりも、熱血スポーツのようなテーマだ。
マミ「うーん、やっぱり、長い戦いになるわ……一生を通して、魔女とは戦っていくんだもの…」
まどか「そうですよね……大変そう」
マミ「けど悪いことばかりでもないの、良い事だってあるわ」
さやか「良い事?」
マミ「うん」
可愛らしい笑顔をこちらに向ける。
マミ「人を助けるって、やっぱりやりがいがあるもの……人を助けたい、助ける、その意志が大切だとも、言えるわね」
さやか「ほへあ」
マミ「気の抜けた返事ねえ」
まどか「あはは……」
人を助ける。
うん、私には合ってそうだ。
さやか「……」
自室で竹刀を見やる。
ささくれ一つない、新品のままの二本目の竹刀だ。
さやか「これで何ができる?」
つい蛍光灯に掲げ、影を仰ぐ。
丸くぼんやりとした、およそ凶器には見えないシルエット。
振ってみればその実、突かない限りは人を傷つけることもない無害な武器だ。
これを振り続けて、そこからどうしようか。
私はそれを考え続けていた。
さやか「家に強盗が押し入ってて、両親が襲われてる、なんて」
数年前に気付いていた事も口から漏れる。
そう。守ろうとするものは限られている。守れるのはいつだって、自分が運よく居合わせた時だけ。
一ヶ月前の痴漢も、二ヶ月前の痴漢も、三ヶ月前のひったくりも。悪事を止めて人を守れるのは、私がそこにいたときだけなのだ。
守りたいものがある。
それは両親であったり、親友であったり、友達であったり、私が知り合った全ての人だ。
私は、私が出会った全てのものを愛おしく思う。だってそれら全てが、今の私を形作り、成長させているんだもの。
でもそれら全てを守ることなんてできやしない。
だってそうしたいと願う私は、ここに一人きりしかいないんだもの。
さやか「魔法の剣を握れば、変わるっていうの?」
答えは見出せない。
魔法少女?なんだそれは?と思う自分がいる。
しかし確固たる力を掴む機会がそこに、確かにある。
竹刀の影は揺れっぱなしだ。
ほむら「貴女は無関係な一般人を危険に巻き込んでいる」
マミ「あら……誰かがいると思ったら、暁美さんだったのね」
ほむら「……」
マミ「相変わらず……いえ、やめておきましょうか?」
ほむら「……」
マミ「彼女たちは一般人、だけどキュゥべえに選ばれたの、もう無関係じゃないわ」
ほむら「貴女は二人を魔法少女に誘導している」
マミ「それが面白くないわけ?」
ほむら「ええ、迷惑よ……特に鹿目まどか」
マミ「ふぅん……美樹さんは?」
ほむら「……何?」
マミ「美樹さんは迷惑じゃないって?」
ほむら「……“特に”鹿目まどか、と言ったの。深い意味は無いわ」
マミ「……そ、酷い人ね」
ほむら「?」
マミ「でも、あなたも気づいてたのね。あの子の素質に」
ほむら「彼女だけは、契約させるわけにはいかない」
マミ「自分より強い相手は邪魔者ってわけ?弱い人なら契約してもいいの?……臆病で卑怯ないじめられっ子の発想ね」
ほむら「…貴女とは戦いたくないのだけれど」
マミ「なら二度と私の目の前に現れないようにして」
ほむら(……何、この感じ)
マミ「話し合いだけで事が済むのは、きっと今夜で最後だろうから」
竹刀を振る手が止まる。
さやか「……本当なの」
恭介の病室で、それは告げられた。
他でもない恭介自身からだ。
恭介「ああ、ほんのさっき、言われたよ」
ベッドの上で窓の外を眺めながら言う彼の声には、生気が込められていない。
声帯に空気を通しただけ。そんな声だ。
さやか「どうしても?」
恭介「ここの医者が言うんだ、間違いはないさ」
竹刀を再び振る。振りながら考える。
恭介「もう、治る見込みは無いって、現代の医学じゃあ、到底不可能だって」
強く振る。兜を叩き割るくらいに強く。
恭介「……諦めろって」
涙ぐむ彼の声で、私の竹刀を握る手が止まった。
恭介「……悔しいよ、さやか……全てが恨めしいんだ、何もかもが、この世の全てが敵のように思えてしまうんだ」
さやか「恭介……」
恭介「僕はなんて弱いんだろうね、さやか……僕は、こんな僕は」
さやか「恭介は弱くなんてない」
竹刀を振る。白い壁を睨む。
さやか「……やりきれないのは仕方が無いんだ」
恭介「……」
しばらくの間、沈黙が続いた。
さやか「……これからどうするの?いや」
さやか「恭介は、どうしたいの?」
酷な質問だったと思う。
恭介「何もしたくない」
けど、打ちのめされきった彼は答えてくれた。
さやか「この世に一つの希望も無いっての?」
恭介「なくなった」
さやか「本当に?」
恭介「ああ」
仕方が無いとはいえ重症だ。
さやか「私の命と左手、どっちが大事?」
恭介「……」
竹刀を振る間にも、ベッドの上の振り向く音は聞こえてきた。
さやか「正直に答えてよ」
恭介「……選べない」
さやか「左手でしょ」
恭介「……さやかには嘘がつけないな。軽蔑してくれよ」
さやか「するわけないじゃん」
まだ、竹刀を振り続ける。
恭介「正直、僕は、恐ろしいんだ……きっと、家族でさえ、僕は……この腕のためなら、もしかしたら……」
さやか「それでいいんだよ、恭介、それだけ大切なものだったんだ」
素振りをやめ、竹刀を椅子の上へ乱暴に放る。
恭介「……酷い人間だ、僕は……ごめん、さやか……」
さやか「親友でしょ、構わないって……それに」
額の汗を拭い、恭介の顔を見る。抜け殻のような、血の気の無い蒼白な顔。
さやか「私の夢と恭介だったら、私だって夢を選ぶしね」
さやか「よう、お待たせ」
まどか「おか……って、なんか汗かいてなあい?」
私の額を見て気付いたようだ。これはうっかり。
さやか「あはは、ちょっと素振りしてた」
まどか「もう、静かにしないと、上条君だけじゃない他の人にも迷惑じゃない?」
さやか「あっはっは、大丈夫、あそこ無駄に広いからねー」
まどか「そういう問題じゃ……」
恭介のことは、まだ伏せておくことにした。
腕が治らない。それを言うべきかどうかは、本人の口から確認をとってからの方が良いだろう。
今日だって、話すまでに間があったのだ。躊躇するに違いない。
恭介は、自分の惨めな姿を、あまり見られたくない奴だから。
さやか「……!」
病院の外壁に、それどころじゃないものが見えた。
まどか「あそこ……」
さやか「グリーフシード!」
QB「本当だ!孵化しかかってる!」
まどか「嘘…何でこんなところに」
白い壁に打ち込まれたように存在するそれは、禍々しい輝きを放ちながら壁を侵食している。
ちょっとずつ。けどナメクジの行進なんかよりは比較にならないほど速く。
QB「マズいよ、早く逃げないと!もうすぐ結界が出来上がる!」
さやか「まどか、マミさんの携帯、聞いてる?」
まどか「え?ううん」
しまった。学校で会えるからって失念してた。迂闊だ。私はバカかっての。
さやか「まどか、先行ってマミさんを呼んで来てくれる?」
まどか「うん!けど、さやかちゃんは……?」
さやか「あたしはこいつを見張ってる」
まどか「そんな!」
QB「無茶だよ!中の魔女が出てくるまでにはまだ時間があるけど……」
さやか「何?」
QB「結界が閉じたら、君は外に出られなくなる……マミの助けが間に合うかどうか」
さやか「結界が出来上がったら、グリーフシードの居所も分からなくなっちゃうんでしょ?」
グリーフシードは魔女の本体だ。
本体が動く前にグリーフシードを捕捉しておかないと。病院が巻き込まれてからでは、犠牲者が出るかもしれない。
さやか「放っておけないよ」
QB「まどか、先に行ってくれ……さやかには僕が付いてる」
まどか「うん」
さやか「ダッシュ!」
まどか「う、うん!すぐに連れてくるから!」
彼女はよろけながらも、彼女なりの駆け足で病院から離れていった。
QB「マミならここまで来れば、テレパシーで僕の位置が分かるだろう」
さやか「うん」
QB「ここでさやかと一緒にグリーフシードを見張っていれば、最短距離で結界を抜けられるよう、マミを誘導できるから」
さやか「ありがとう、キュウべえ」
お菓子だらけの空間。
糖分たっぷりの物で溢れ返っているというのに、甘い匂いは一切ない。きっと、ここにあるお菓子は食べられないのだろう。
時々小さな使い魔らしき生き物が、結界の中を歩いている。
その気配を察して物陰に隠れる。
あんな小さな生き物相手に無力だけど、魔法少女でないのだから仕方がない。
何をしてくるかわからないのだから。
QB「怖いかい?さやか」
さやか「え?」
QB「この結界がさ」
さやか「うーん」
QB「願い事さえ決めてくれれば、今この場で君を魔法少女にしてあげることも出来るんだけど……」
さやか「……」
足を止める。そして、思わず微笑む。
グリーフシードの見張り。それはただの方便でしかなかった。
本当は一人になりたかった。
まどかにマミさんを呼ばせ、誰にも邪魔されないように。
何より、私のせいでまどかの決断を焦らせないように。
私はこの時を待っていたんだ。
QB「さやか?」
さやか「キュゥべえ……良いよ」
QB「!」
さやか「契約しよう」
「待ちなさい!」
さやか「ありゃ」
つい、にやけた顔のまま振り向いた。
さやか「ほむら」
ほむら「……さやか……」
少し息を切らせたような、魔法少女のほむらが追いついていた。
私とは少し距離を保ち、私を見ている。
ほむら「……鹿目まどかと、巴マミは?」
さやか「まどかなら、マミさんを呼びにいったよ、まだもうちょっとかかるんじゃない?」
ほむら「……そう」
さやか「ほむらは何しにきたの?というか、どうしてまだ現れてもいない魔女を……」
うっすら浮かんだ汗を指ではじき、再び凛とした、今度は疲れのない余裕の冷静さで、私を見据えた。
ほむら「契約するのはやめなさい、さやか」
さやか「どうして」
ほむら「……魔法少女になってはいけない」
また、この複雑な表情だ。
私にはほむらの意図が読めない。
さやか「私、人の目を見れば何考えてんのか、だいたいわかるの」
ほむら「何……」
さやか「テレパシーでもなんでもないけどさ、それまでの人の性格とか、流れでわかっちゃうんだ」
ほむら「……」
さやか「けどほむらの目を見ても、何もわからない」
ほむら「……さやか」
さやか「目的は隠すし、行動を見ても、なんも読めない」
さやか「正直に、隠していることを話すなら今だよ、ほむら」
ほむら「……?」
ほむらを睨む。空気が一変して、急速に張り詰めてゆく。
さやか「私に契約させるなって、ほむらは言ったよね」
ほむら「……言ったわ」
さやか「ならここで隠している事、すぐに打ち明けてよ」
ほむら「なっ……」
驚きの表情。なんだ、案外抜けてる所があるんだ。
彼女は何かを隠している。言いにくい事を隠している。
さやか「でないと私、この場でキュゥべえと契約して、魔女を倒しにいくから」
ほむら「さやか!それは……!」
さやか「何よ、私が契約するかどうかは私の勝手、本気で止めたいのなら理由を言ってよ」
キュゥべえを正面へ突き出すと、近寄ろうとしたほむらの脚が止まった。
QB「?」
ほむら「……くっ」
キュゥべえと私を見比べて動くことができない。
おどおどと頼りない姿に、私はまた苛立ってしまう。
ああそうか、この苛立ちは。
うろたえる情けないほむらの姿が、似ても似つかない煤子さんとそっくりだからなんだ。
さやか「……そんな顔で、そんな顔するな」
QB「さやか?」
ほむら「何故……」
さやか「何故?何がよ、はっきりしてよ、私はね、」
ほむら「どうして!?さやからしくない!」
さやか「はぁ?」
ほむら「どうして貴女は、私が知ってる美樹さやかじゃないの!」
さやか「……!」
互いの違和感がちょっとだけ触れ合い、私の頭に静電気が走った。
ほむら「何が貴女をそうさせたの!?」
不満?戸惑い?葛藤?
顕にされているにも関わらず、全く読むことのできないほむらの感情を前に、私の思考は停止した。
ほむら「確かに貴女は冷静よ!それは解る、けど全てを受け止められるというの!?そんなのありえない!」
畳み掛けられる言葉。自問混じりの叫びがお菓子の空間に響く。
ほむら「誰も人を理解しようとはしない、誰も、上辺の興味は抱いても、それを認めるわけじゃない!」
ほむら「もう誰にも頼らないと決めたのに、それなのに、……!」
さやか「っ」
叫びに涙も加わった。
狂気だ。私はそう感じた。
少しして涙を拭い、感情を押し殺した目に戻る。
ほむら「……もういい、全てあなたの好きにしなさい、さやか」
さやか「……」
ほむら「ただし、ここの魔女は私が始末する……あなたの出る幕ではない」
ほむらは私の真横を抜け、結界の奥へと駆けていった。
去り際には流し目も無かった。
ただ冷たい目で、動かぬ表情で、私を抜き去っていったのだ。
/新聞紙/∀) -з ミヒュン
乙!
さやかわいい
乙
さやかが冷静なのは因果律に対する反逆
そらほむほむも錯乱するわ乙
インテリジェンスさやかちゃんかわいい!
>>221
つまり、最終的に早乙女先生も結婚できるっていうわけか・・・・
それこそ因果律そのものに対する反逆というやつだろ
スマン
sageミスしてしまいました
さやか「なんか諦められた」
彼女は私の何かを見限った。何かって?きっと私自身をだ。
失礼な話だ。言いくるめられてもいないのに、勝手にしろだと。
さやか「怒った、もう本当に怒ったかんね、私」
ただでさえほむらと話していると頭の中に霧がかかるっていうのに。
最後にバカでかい濃霧を吐いて去ってしまうなんて。
そんなの許せる?私なら許せないね!
意味深なYes/Noの質問を30回分岐させられて結果が出ないようなものだ!
上から他人を見下して!何も始まってないのに見捨てられた!
まして、煤子さんとそっくりな、あの顔で!
さやか「キュゥべえ!聞いて!」
QB「言ってごらん」
白いふわふわを両手で持ち上げる。
さやか「冷静になれ、慎重になれ、そうは言われ続けてきたけど……私はどーしても、がんがん突き進むこの癖が直らない!」
QB「何の話だい?」
さやか「抑えつけられても、どうしても曲げられない背骨が一本あるせいで苦労したことも、ちょっとある!」
QB「……」
さやか「けどやっぱ契約する」
QB「ほう」
赤い瞳に、今にも吸い込まれそうだ。
さやか「私って魔法少女になったら強いかな」
QB「今よりは強くなれるよ」
さやか「不安になる言い方だね、それ。あんま強くならないの?マミさんくらいになる?」
QB「マミは最初こそへっぽこだったけど、修練を積んで強くなっていったんだ」
さやか「契約したばっかりのマミさんと契約したばっかりの私、強さの割合でいえば何対何よ」
QB「魔法少女としての素質かい?様々な要因が関わってくるから正確にはわからないけど正直に言うよ、およそ3対1だ」
さやか「ぐふッ」
い、いかん。今のはさすがにちょっぴり決心が揺らぐ。
QB「けど相性っていうのもある、さやかがどのような願い事で契約するかによって、使える魔法の形も大きく変わってくるはずだ」
さやか「ほほう、詳しく聞きたいところ……だけど、願い事はもう決まってるんですね」
QB「言いのかい?」
さやか「私の本質だもんね」
たとえ私が3人束になってマミさんと同等の力しか持たない魔法少女だとしても、それくらいで私の願いは揺るがない。
恭介の左手ほどもね。
さやか「ちゃんと一言も漏らさず聞いて、私の願いを叶えて、キュゥべえ」
QB「いいだろう、君は何を望んで、その魂を差し出してくれる?」
私の願い。なりたかった私。
まるで夢、御伽噺の勇者。教室で言えば数年来の友達も笑うだろう。
けど私は本気だ。漠然とした指標のひとつが、形として成り立つというのであれば。
魂だろうが尻子玉だろうが、喜んで差し出してやるわ。
何を対価に差し出してでも大きすぎる、私の傲慢な願いこそ――
(監督 *・)ハァイカットー、ココデタイトルネー (・∀・*)ハーイ
つまり恭介の治癒ではないのか
乙
おっつ
まぁ上条くんの治されるべきはクソねじ曲がった性根な訳で
乙
このさやかちゃんなら魔女化を知ってもすぐには絶望しなさそう。
カオルとかと相性良さそうでコンビが見たいくらい
>>232
???「歌はいいねぇ」
そっちじゃねえwwwwww
>>233
そいつは、「カ“ヲ”ル」だ!
そっちも好きな俺に喧嘩売らないでくれよ・・・・・
QB「さあ、受け取るといい、それが君の運命だ」
私の内から大切なものが輝きを放っている。
それは私の願い。私自身。私の魂。
変身の方法は全て頭の中へ入ってくる。
感覚として直接入り込んできた知識に一瞬びっくりしたが、それらの有用性を認めた私はすんなりと受け入れることができた。
私は魔法少女となった。
そして、今の私は人間の私よりも、より多くの事ができるはずだ。
青い宝石がそれを教えてくれた。
形として見えることができたるの信念。これからはもう、見間違える事も、疑うこともないだろう。
ソウルジェム。
これを見やれば、私は私であることを忘れることなどないだろう。
さやか「私の手にあるこれが運命なわけじゃない、運命はこれから作ってくものだよ」
パシ、と右手で受け取る。
ふわりと浮くような衝撃を受けた体を両脚で支え、持ちこたえる。
さやか「――よし」
QB「おめでとう、美樹さやか、これで君も魔法少女……」
さやか「待ってなさいよほむら!」
キュゥべえが何か言っていたが、それどころじゃない。
私には怒るべき相手がいる。倒すべき魔女がいる。まずはそれからだ。
変身はいつでもできる。
けど、変身せずとも体が軽やかだ。これもきっと効果のひとつなのだろう。
そういえば、マミさんが制服姿のまま街灯から飛び降りていたっけ。
やっぱりある程度は問題ないのだろう。
けど今は自分の力を試してみたい。
私の願いがどれほど使えるのか。
魔法少女の私がどこまで戦えるのか。
まどかを後から来るように言っておいて正解だった。
彼女が一緒にいたら、きっと私の決断に流されてしまうから。
私は私の意志で魔法少女となったのに、まどかをそれを巻き込むわけにはいかない。
さやか「変ッ、身!」
宣言しなくても変身はするだろうけれど、それでも叫んだ。
記念すべき第一回目の変身なのだ。盛り上がっていこう。
青い輝きの球体に包まれる。
全身に、私の意志が鎧となって纏わりつく。
体が軽い!こんな気持ち初めて!
さやか「それに、これッ」
何もない脇から一本の刀身が伸びる。
右手で勢いよく抜き放ち、光の球を一閃。
私は卵の殻を破る様に、繭を裂くように、変身空間から脱出した。
右手に握るは、真・ミキブレード。
ハンドガードがついている。日本刀ではなくサーベルだろう。
さやか「へっへ、こういう武器になってくれたかぁ、私の願いっ」
ついつい顔がにやけてしまう。
だって自分の可能性が広がったんだもの。
魔女を倒してソウルジェムを保つ。
日常的に、息をするように人を守ることができるのだ。
胸が高鳴って、何が悪い!?
*)ノシ ココマデ
乙
乙
良い感じに舞い上がっちゃってますね
クッキーの滑り台から使い魔が降りてきた。
一ツ目の小動物ナース。四足歩行目玉親父。
さやか「へえ、何事も最初は基本から、ってことね」
一匹。二匹。
十匹。二十匹。
まだまだ現れる。さっきまでは静かな結界だったのに、急速に慌しくなり始めた。
さやか「……!そうか魔女が……」
魔女が生まれそうなんだ。だから使い魔も一気に増え始めた。
ほむらが奥で暴れているかもしれない。それが使い魔たちを刺激した可能性もある。
けど今、私がやらなくてはならないことは一つ。
さやか「私はほむらより先に、魔女を倒すんだから」
最初だからまずは使い魔から、なんて温いことは言わない。
私の願いは“強さ”だ。
使い魔で試し切りをしなければ不安になる程度の力など願ってはいない。
さやか「道を開けろ!」
地面に叩きつける右足。
轟音に揺れる一帯。飛び散る衝撃波。
使い魔「……!」
床を基点に発生した青白い魔力の爆発が、正面の使い魔を消し飛ばす。
魔女「―――」
◆お菓子の魔女・シャルロッテ◆
人形は着席した。
足長椅子に着席した彼女は、悠然とこちらを見下ろしている。
使い魔を倒し荒らされ、既に目の前に居座る侵入者への怒りを顕にしているのだ。
ほむら「間に合った」
侵入者は指であごの汗を弾く。
ほむら「あなたには、何としても消えてもらわなくてはならない理由がある」
弾いた指にはハンドガンが握られていた。
そのままスムーズな動きで、照星を魔女へと向ける。
何も言わない。ただ銃をわずかに揺らし引き金を引いたままにする、それだけ。だが結果は異なる。
ほむら「さっさと本性を見せなさい」
空中で綺麗に配列された弾丸。13発の弾が円形に並ぶその空洞から魔女を睨む。
ほむら「巴マミが来ないうちにね」
そして時は動き出す。
オートマチックの13発は寸分のズレもなく同時に発射された。
小さな円形に密集するようにして打ち出された弾丸は、斜線上に座っていた魔女を容赦なく貫いた。
魔女「……!」
弾は貫通した。が、衝撃は魔女の体を浮かせた。
O字に切り裂かれた、小さな魔女の体を。
魔女「……!!!」
だがこの魔女はそれだけで終わることはない。突然の敗北などはありえない。彼女には執着がある。
彼女の執念が根負けするまでは、彼女が消滅することなど、万に一つもない。不意打ちでは絶対に“納得しない”。
つまり。
魔女「がぁああああぁあ」
ほむら「出たわね」
全力を出した状態の魔女を倒さなくてはならないのだ。
骸から脱皮するように生まれた、巨大な蛇のような魔女を。
ほむら「けど、あなたがどんなに早かろうとも、どんなに硬かろうとも関係ない」
魔女は体をうねらせながら、悪魔のような大きな口を開いてほむらに襲い掛かる。
そして口は閉じた。
魔女「……!」
ほむら「どうせあなたは負ける」
口を閉じた魔女の頭の上で、アサルトライフルを構えたほむらが躊躇無く引き金を引いた。
魔女「がぉおおおおおぉおお!」
穴だらけの頭を、怒りに任せて振るう。
蛇の体、しかし先端の顔は、明らかな“不機嫌”な表情を見せている。
ほむら「弾丸ごときでは効果は薄いわね」
暴れのた打ち回る魔女を尻目に、ほむらはゆっくりと床を歩いていた。
しばらくはその場で暴れていた魔女だったが、ほむらが全く違う場所に居ることに気付くと、さらに表情をゆがめた。
ほむらの位置は、魔女がいるところと全くの別。
結界の端と端で、片や見当はずれに暴れ、片や冷静に観察していたのである。
魔女「……!」
ほむら「あら、馬鹿にしていることがわかるのね」
魔女「がぁぁあぁぁああ!」
魔女は胴を伸ばして、空間の端にいるほむらにと一気に襲いかかる。
牙を剥き、体をバネに飛び掛る魔女のエネルギーは計り知れない。
ほむら「愚直ね」
ほむらの狙いはそれだった。
爆弾を口の中へと投げ込み、炸裂させる。
だが爆発が最も効果を出すためには、口だけではいけない。
魔女の全身をくまなく同時に爆破しなくては、一撃必殺の決着とはならない。
とぐろを巻く相手では、上手く爆弾を投げ込めない。
だからあえて遠くまで一旦距離を置いて、相手に攻めさせた。
体を一直線に伸ばす、その瞬間のために。
巨大な衝撃だった。
爆発ではない。激突だった。
ほむらは左手の盾を使用することができなかったのだ。
ほむら「なぜ……」
右手に爆弾、左手に盾。そのまま動きを止めてしまっていた。
さやか「何故、だって……!?」
魔女「……!」
巨大な牙に対して、華奢すぎる一本のサーベルが競り合っている。
ギリギリと音を立て、どちらも折れることも砕けることもなく均衡して、その場で動きを止めているのだ。
さやか「決まってんでしょほむら、そんなの当然……!」
刃が青くきらめく。
魔女「!」
鋭い牙に亀裂が走る。
さやか「あんたじゃない、私の出る幕だからだ!」
力の均衡を破って振り下ろされた上段よりの輝く一撃は、魔女の顔面を2つに叩き割った。
(*・∀/ /・*)ココマデ・・・
半分はおいしくいただきますね!
乙
乙
乙
>>200
どうやら検索機能が壊れていた時に立てられたスレは検索できない模様
美樹さやか…君はいったい何を願ったというんだ(棒読み)
ほむら「さやかッ!」
焦りから出た叫びを聞く前に、私は異常を察知していた。
斬りつけて真っ二つにしたはずの顔面。だがその切れ目から、新たな“顔”が見えていたのだ。
魔女「ぎゃぉおおぉんっ」
脱皮するようにして、新たな魔女の顔が襲い掛かる。
均一に並んだ鋭い牙。
さやか「―――」
サーベルの峰を牙に押し付け、勢いを逸らす。
峰は白い牙の表面だけを削って、魔女の突撃を真後ろにやり過ごした。
魔女「……?」
目を瞑って襲い掛かってきた相手からは、いつのまにか自分が通り過ぎたようにしか思うまい。
さやか「どうした、私はこっちよ」
魔女「……!」
わかったことが3つある。
私の武器は丈夫だということ。
私の体は強力だということ。
そして……。
さやか「格下が相手の打ち合いじゃ、一日中やってても負ける気がしないわ」
魔女「がぁああああぁあ!」
白いマントで体を包む。
サーベルは、裾から剣先だけが伸びている。
魔女「ぉおおおおおおぉおっ!」
蛇のような魔女。
動きは速いが、単純で直線的。エネルギーに任せた暴力的な攻撃が癖のようだ。
癖というよりも性質だろうか?知能は高くなさそうだし、このパターンを変えることはないだろう。
さやか「さすがにそんな攻撃、不注意でもしなけりゃ当たらないって」
マントを翻し、斜め前方に跳ぶ。
蛇の頭部は床を抉った。
……ここまでわかりやすいと、ただの人間だった私でも、瞬発力に任せて避けられるかもしれない。
さやか「ちょっとちょっと、初陣なんだ、せめて“魔法少女で来て良かった~”って思わせてちょうだいよ?」
魔女「~!!」
あ。馬鹿にしていることはわかるんだ。
ほむら(美樹さやかが契約した、それはわかる……けど)
ほむらは、魔法少女になりたてのさやかと、お菓子の魔女との戦いの行く末を見ていた。
単調な質量攻撃を繰り返す魔女の動きを目で追う事は簡単だった。
だが、それを軽々とかわしてゆく魔法少女の姿だけは追いきれなかった。
ほむら(なんて速さなの……!)
地に足を付けたまま、フットワークでもするかのように魔女の攻撃を回避する。
一見簡単かもしれないが、彼女は常に地上で避けている。
魔女の体は蛇であり、多角度からの噛み付きは当然、時として尻尾を振るい、なぎ払うこともある。
だがさやかはそれらを全て、“地上”で回避してしまう。
ほむら(そうか、いくら尻尾をなぎ払おうとも、重心付近の動きは緩慢……さやかは常に、魔女の重心に陣取って回避し続けている!)
その動きに派手さはない。
が、かつて見た“美樹さやか”の動きとは一線を画している。
魔女「ぎゃおんっ!」
ほむら「!」
いつの間にか、魔女の体表には無数の傷が刻まれていた。
我を忘れて怒り、無理にのたうち回り、飛び掛る度に、傷口はどんどん開いてゆく。
標的に執着する魔女といえど、全身に受けた傷に動きを鈍らせていた。
裾の奥で、サーベルの切っ先が光る。
さやか「うん、体の動き、悪くない……これからどんなに脱皮されようとも、叩き潰す自信はあるね」
マントの中からゆらりと、青白いサーベルが突き出される。
魔女「……」
もはや魔女の目には、喰う事への執着など無かった。
自分が“喰う側”ではないと、思い知らされてしまったから。
[菓子箱]メ×∀×)ココマデ
さやかちゃん強いな
さやかちゃんマジ無双
力を願ったとかよっぽどの格上か相性負けかでないと負けそうにないな
あんこちゃんと喧嘩になっても初戦で撃破できそうだ
さやかすが強いとか因果律に対s(ry
さやかちゃんかわいい
すすこさんのおかげで因果の量が大変なことになってるから
大丈夫
サゲワスレタ
シッショーさやさや
力を願ったんなら、変身前でも一般人最強レベルなんだろうな
固有魔法はなんだろ
スキヤキさやさや
にしても東京にはロクな奴が居ないんだな
サーベルを両手に2本ずつ握り、重さのままにゆらりと構える。
魔女には抵抗する気配が見られない。
既に戦いを諦めているらしい。
子供っぽく執拗に襲うところも、それができないことを悟って拗ねるように戦いを放棄するところも、どこか子供っぽい。
しかし子供っぽいからといって、私の剣を掲げる手が躊躇することはない。
さやか「覚悟」
頭の上で二本の剣をまとめ持つ。
サーベルは光と共に熔けて交じり合い、長く幅の広い、大きな両刃の剣へ変化を遂げる。
魔法の両手剣。
刀身から噴出す淡い光のオーラ。
体感でわかる、二倍の力とは一線を画したパワー。
直立の体に直立の剣。
振り下ろせばその時点でこの戦いは終わると、私の本能は気の早い福音を鳴らしている。
だからこそ、私は自信たっぷりに技名叫ぶのだ。
さやか「“フェルマータ”!!」
大きな弧を描き、両手剣は軌道上の全てを切り裂いた。
100万パワー+100万パワーで200万パワー!!
いつもの2倍のジャンプがくわわって200万×2の400万パワーっ!!
そしていつもの3倍の回転をくわえれば400万×3の、シャルロッテ、おまえを上回る1200万パワーだーっ!!
順調に厨二をげふんげふん
振り下ろした剣の余波が正面へ疾走する。
エネルギーの奔流は辺りの空気を巻き込み、しばらくの間、私の髪をなびかせる追い風となった。
目の前に残るのは、巨大な傷跡。
向こうの壁にまで続く大きな地割れは深く、底は暗かった。
魔女の姿は跡形もない。大きなダメージによって消滅してしまったのだろう。
結界も、私の剣の跡を起点として崩壊を始めたようだ。
両手剣を肩に担ぎ、ふん、と息を鳴らす。
きらきらとダイヤモンドダストのような明滅と共に消えてゆく結界を眺めて、私は自分の心の靄が消え去ったことを認識する。
さやか(きっと、これこそが私の渇望していたものなんだ)
守る力。
それが本当に、絶対的に力であることは皮肉にも思う。
けれど守るためには時として、力が必要なのだ。
勧善懲悪とかそういう問題ではない。
もっとシンプル、大きな負を生み出すエネルギーを退ける為に。
景色はもう、病院の外へと変化している。
お菓子の毒々しい世界から一変しての、淡白な白と灰色の世界だ。
ほむら「……さやか」
私の後ろで、ほむらが小さく呟いた。
さやか「言われた通り、私の好きにさせてもらったよ」
振り向きもせずに答える。
ゆっくりと一歩ずつ近づいてきていたほむらの足音が止まる。
さやか「別にほむらがどうこう言ったから、ってわけじゃない」
さやか「私自身が望んで契約したの」
両手剣が消滅し、おぼろげな魔力の光の粒となって私の身体へと還る。
ほむら「……そうね」
さやか「そうよ」
向き直り、ほむらの顔を見る。
彼女はやっぱり、諦めたような顔をしている。
私は正反対に、彼女に対して怒りを抱くでもなく、微笑みかける。
さやか「これでもまだ、私に隠し事しちゃう?」
ほむら「……なおさら言いにくくなったわ」
さやか「へえ」
そういうものなのか。
ほむら「……覚えておいてほしい事がある」
さやか「?」
二人が駆ける慌ただしい足音が、かすかに聞こえてきた。
ほむら「……私は決して敵ではないわ、さやか」
マミさんの姿が視界の向こうで角を曲がった瞬間、ほむらの姿はその場から消えていた。
私の姿を見て驚いたまどかとマミさんが止まり、再び、今度は更に急いだ調子でこちらへ走って来る。
いなくなったほむらの姿を茜空に見て、私はこぼす。
さやか「敵じゃないなんて、最初からわかってるてーの」
(GS*=∀=|壁| ココマデ
乙
乙!
聡明さやかちゃんかわわ
駆け寄ってきた二人は、私の姿を見るや否や、怒った。
表情だけのものだ。しかしそれですらもすぐに引っ込めて、哀しげな顔になる。
マミ「……もっと早く来ていれば」
まどか「ご、ごめんなさい……さやかちゃん……」
二人はほむらが来ていたことを知らない。
間に合わず、私が契約して魔女を倒したと勘違いしているらしかった。
私にとっては都合の良い解釈だが、本心は打ち明けておく。
さやか「どうせ契約するつもりだったんだよ…どうしても叶えたい願いがあったんだ」
まどか「願いって……」
マミ「……」
まどか「あ、ごめんね」
人の願い事を簡単に聞くもんじゃない、というマミさんの視線はまどかに刺さった。
私は喋っても構わないのだが、まあ、まどかのためならそれもいいかなと思う。
私は全て納得した上で契約した。ほむらの事もあるけれど、そんな衝動的に契約に漕ぎつけたわけではない。
私自身の考えがあってのことだ。
とはいえ、釘を刺されたり、注意事項を伝えられたり、まどかにやきもきされたり、色々なことをされた夕方だった。
QB「グリーフシードの使い方の確認をしようか?」
さやか「覚えてるからいいよ」
キュゥべえも追い払って、私は一人、自室のベッドで仰向けになる。
さやか「……」
ソウルジェムを噛み、天井を見上げる。
何を考えるでもなかった。
わたしはすとん、と、当然のように眠りに落ちた。
ベッドに入るまでに何かを考えていたわけでもなければ、ソウルジェムを口に入れてどうこうしていたわけでもない。
ただ考える事もなかったので寝た。それだけだった。
それが当然であるかのように。
∀) キリがいいところでココマデヨゥ
乙
乙
† 8月10日
“なんでこんな面倒な動きを”と内心馬鹿にしていた私だったけれど、実際に動きがスムーズに運ぶようになって、改めて煤子さんの凄さを知った。
煤子「飲み込みが早いわね、その調子よ」
さやか「はい!」
元々運動センスの良かった私は、煤子さんも驚くほどの速さで動きを習得していったらしい。
この時にやっていた練習といえば、歩きながら続けざまに面打ち、胴打ちをしてくる煤子さんに対して、右半身を向けながら攻撃を受け止めつつ後退するというものだった。
この練習が何を成すのかはわからない。
煤子さんに訊ねれば「役に立たないものはないわ」と言って、「何に役立つのかを考えてみなさい」と、逆に私に考えさせるのだ。
だから私はこの動きの練習中に、これが何に役立つのかを考えていた。
この横向き後退だけではない。素早い後ろ歩きやしゃがみ歩き、竹刀さえも使った咄嗟の動きなど、沢山の動きを教えてもらった。
それら全てを、私の日常の役立ちに結びつけることは難しかった。
けれど、運動は好きだったし、動きの合理性は理解できた。
だから続けられたのだ。
何より……。
煤子「そう、良いわよ、無駄がなくなってきたわ」
さやか「へへっ…」
煤子さんに褒められるのが、うれしかった。
煤子「これ、好きなのね?」
さやか「んっ……んくっ……」
煤子「ふふっ……どう?」
さやか「……美味しい!」
煤子「こら、口元、こぼしてるわよ」
運動の後のスポーツドリンクは美味しい。
煤子さんと二人きり、誰も居ない閑散とした道。
去年までは友達と遊んでいたこの夏休みも、すっかり煤子さんとの時間に取って変わっていた。
そして、夏休みといえば……。
煤子「さて、運動で汗をかいたところで……宿題を見せてくれるかしらね」
さやか「う」
煤子さんは運動だけでなく、勉強も教えてくれた。
運動は楽しい。けれど、勉強だけはどうも苦手だった。
煤子……これがほむらの末路だとしたら今の時間軸のほむらには避けて欲しいとろこだ・・・・
煤子「目算で40点、相変わらずね、さやか」
さやか「ひいい……」
算数のドリルに目を通した煤子さんの、5秒後の感想がそれだった。
このときは瞬時に採点できる煤子さんを「やっぱりお姉さんは違うなあ」くらいにしか思っていなかったが、今にして思えば怪物的な計算速度だと思う。
煤子「……私もつきっきりで勉強を教えるなんて事はできないし、いつか一人で勉強ができるようになってもらわないとね」
さやか「一人でって……私にできるかなぁ」
煤子「できるように、なるの」
採点だけでドリルは閉じられてしまった。
煤子「……そうね、私が勉強が得意になるまでの話でもしてあげましょうか」
さやか「?」
煤子「私も昔、勉強は苦手だったのよ」
さやか「え?うそお」
煤子「本当よ、今のさやかくらい頭が悪かったかも」
さやか「煤子さんも馬鹿だったんですね!」
さすがにげんこつは飛んできた。
† それは8月10日の出来事だった。
[ドリル]*=∀) ココマデネ
乙
乙
ヽ(*・∀・*)ゝ キセキモー♪マホウモー♪
ア(*・∀=(ヾ(∀・; )タニンノソラニヨ!
マミ「……」
QB「マミ、元気が無いね?大丈夫?」
マミ「……元気が無いわけじゃあ、ないんだけどね」
QB「さやかのことかい?」
マミ「……ええ、そう、なのかしら」
QB「契約は彼女の意思次第だからね、本人に素質がある以上は、僕は断れないよ」
マミ「……そういうものなのね、あまりそのことには、気にしてないんだけどね」
QB「そうなの」
マミ「うん」
マミ「……不安、なのかな、これ」
QB「珍しく、僕にもわからない悩みを抱えているみたいだね」
マミ「美樹さんは、力を願ったと言っていた……」
QB「そうだね、さやか自身が言ったことだ」
マミ「……全てを守れるほどの力、それって、他人のためよね」
QB「使おうと思えば自分のためだけど、そうだろうね」
マミ「……不安だわ」
“甘っちょろいんだよ、あんたは”
“あんた、いつか絶対に「折れ」ちまう”
“「ここ」はくれてやる だが「こっち」には来るなよ”
マミ「……美樹さん、信念が折れなければいいのだけれど」
QB「それは彼女の心次第だね……」
目覚めが快適すぎる。
さやか「……」
ぱっちり覚醒。眠気も何もない、完璧な覚醒だった。
それはとても、前日なかなか寝付けなかった私からは想像もできないほどの快調具合で。
起き抜けの頭で“魔法少女”を再認識するには、十分すぎる異変だった。
さやか「うわー、こんな所でも強くなってんのかな、私」
ベッドから起き上がって、跳ねた髪を指で解かす。
強くなるってことは、朝にも強くってことなのかな。
それとも魔法少女だからなのかな。
マミさんはどうなんだろう、詳しく聞いてみたいものだ。
さやか「魔法少女なら誰にでもできることなのか、私にしかできないことなのか……わからないしね」
契約したとき、私の頭の中にソウルジェムというものの扱い方全てがインプットされた。
それは漠然と、自分の手足を動かすような感覚で扱う術であって、当然の事のように操ることができる。
それゆえに、他の魔法少女とどう違うのかがわからなかった。
さやか「私には、マミさんが使ってたような銃は出せないし……リボンも出せないからなぁー」
装備でいえばサーベル、そしてマントだけだ。
ファッションではちょいと味気ないような気もするけど、ほかにも色々な事できるみたいだし、よしとしておこう。
(エチケット袋)∀)今日はコンダケ
乙
乙でした。
さやか「んでユウカが泣きそうな顔して“もうやめてよー”ってさぁー」
まどか「あはは、相変わらずだね」
仁美「ユウカさんって面白い方ですよねー」
一見変わらない日常だった。
いつものように登校し、いつものように校門前まで駄弁る。
けれどここで、私だけは違う存在だ。
今この場に3頭の熊がそれぞれ私たちに襲いかかってきても、私だけは確実に生き残るだろう。
突然の洪水がこの坂の上から流れてきても、私だけが助かるだろう。
けど私の願いは、私だけが助かるためのものじゃあない。
たとえこの瞬間に何かが飛んでこようとも、私は二人ともを守ってみせるよ!
まどか「てぃひひひ」
仁美「うふふふっ」
まぁ、なんもこないんですけどね!
平和でいいことだ
ほむら「……」
まどか「あ……」
仁美「あら」
前言撤回。なんか来てました。
多分、場合によっちゃ落石や濁流や熊よりも怖いものが、坂の上で待ち構えていた。
眉をの端を少し吊り上げて。
仁王立ちで。
ほむら『さやか、話があるわ』
その立ち振る舞いを見ただけでわかっておりますとも、はい。
さやか『……何の話よ。仁美が対処に困って慌ててるから、私たちがすれ違う前に終わらせてくれない?』
ほむら『難しいわね』
長い話ってことですか。
なんて言ってる間にも、私たちはほむらのすぐ近くまで歩いて来てしまった。
もはや無視して踵を返すことは敵わない距離だ。
仁美「えっと……」
ほむら「一緒に行きましょう」
まどか「えっ」
なるほど、そう来ますか。
まぁ、クラスメイトだしね。
さやか「おう、これからは毎日、一緒に通学だね!」
ほむら「!」
大胆に出たほむらだったけど、私のこの返し方は予想してなかったみたい。
仁美は無愛想な転校生の積極的な一面に気を良くし、何度もほむらに話しかけていた。
そのたびにすんでのところで話を華麗に逸らすほむらを横目に、まどかは淡々と、いつもより少し早めに歩いている。
ギクシャクはしていない。
けれど、まどかはまだ、ほむらに対して懐疑的な様子を見せている。
私もそうなんだけどね。
それでもほむらからは、悪っぽいオーラを感じないというか……。
同年代に使う言葉じゃないけど、保護欲を掻きたてるというか。
時々見せる隙に、私も油断しちゃったり、なんかして。
さやか(まぁでも、これからほむらが話す内容を聞いて、全てが変わっちゃうのかもしれないけどさ)
ほむらは病院での別れの際に、「敵ではない」と宣言した。
けれどますます言えないことが出てきてしまったとも。
私の頭でも、なかなかその答えは出ない。
今日、ほむらが打ち明けてくれるといいんだけど……。
あまり期待はしないでおきますか。
(氷枕)*×∀) ミゥ
乙
乙!お熱ですか?
乙ゥ
お大事にねー
乙
このさやかちゃんメンタル強そうだな
乙
対してほむらのメンタルは本編通り弱そうだな
ほむらにとって煤子という結果程絶望的な事はない
ほむら『素直にそのまま言うわ、私に協力してほしい』
一時間目の授業の準備をしている忙しさに紛れ込ますように、ほむらのテレパシーは落ち着いたトーンで届いた。
ペンを親指の根元で4回転。
さやか『何を?聞くだけは聞くけど、見返りは必要よ?』
ほむら『…これから数週間の間だけでもいい、魔女退治で協力関係を築いて欲しいの』
さやか『そういう協力ね』
思い構えていたより、随分と普通な要求だった。
ほむら『手に入ったグリーフシードの分け前は、三分の二はあなたにあげる』
さやか『多いね』
ほむら『それが見返りよ』
私の魔法少女としての強さを見込んでの頼みだろうか?
ほかに何か、裏でもあるのだろうか?
契約にこぎつけるまでに何度も釘は刺されていたから、魔法少女初心者を狙って、という詐欺紛いなことはないだろうけど。
さやか『……わかった、いいよ』
ほむら『成立ね』
さやか『まぁ、ほむらと話せる機会って欲しかったからね』
ほむら『……?』
さやか『まどかも!』
まどか『へ、へっ?』
さやか『まどかもさ、ちょっとほむらと距離を置いてるみたいだし』
まどか『……』
ほむら『私は……彼女を一緒に連れて行くことには、反対だけれど』
互いに、自分のやりたいことを譲ることはない。
やらせないことを強要することもできない。
そうしていくうちに二人がどうにか打ち解けたらいいなと、私は思う。
さやか『でも、マミさんとも一緒になることもあるってのは忘れないでよ?』
ほむら『……彼女が、私を受け入れるとは考えにくいわ』
さやか『そうなの』
ほむら『魔法少女の姿で会うことも難しいかもしれない……』
マミさんも随分……まぁ、キュゥべえにあんなことがあったんじゃ、仕方ないかもしれないけど。
これは、マミさんの方もちょっとなんとかしないと、話がややこしくなりそうだ。
昼休み辺りになんとかしようか。
さやか『わかった、マミさんに相談してみる』
ほむら『……何故そこまで?秘密裏の協定でも構わないのよ』
さやか『堂々とできないことなんてしたくないもん、とにかく話してみる』
ほむら『……そう、わかったわ』
(健康体*-∀)zzz
おやすみ
まどか「さやかちゃん……」
さやか「ん?」
テレパシーを介さず、わざわざ私の服の袖を摘んで話しかけてきた。
教室の目立たない位置にそれとなく移動する。
さやか「どうしたの?」
まどか「…」
視線はうろちょろ。ほむらを探しているのは、簡単にわかった。
まどか「……ほむらちゃんと、仲良くね……?」
さやか「ぷっ」
やめてほしい、くらいの事を言われるかと思っていたけど、これはちょっと予想外。思わず少し噴き出してしまった。
まどか「え、え、なんで?」
さやか「い、いやぁ、だってちょっと、なんかそれ人のお母さんみたいじゃん」
まどか「えー、そうかなぁ…なんだかその言い方はやだよ……」
さやか「あっはっは、まぁ、大丈夫だから安心してなって」
まどか「喧嘩はしないでね?」
さやか「わかってるって」
小さなまどかの頭をぽんと叩いて、私は教室を後にした。
問題はほむらにもある。
秘密があるのはわかった。それを教えてくれないのもわかった。
けどなんとなく、害意がないこともわかった。
最大の問題は、そんなほむらに疑いの眼差しでメンチをきってかかるマミさんの方にあったりするわけで。
なんとかやんわり許すくらいにまで、みんなの仲を取り持ちたいところだ。
せっかく魔法少女が集まっているんだから、魔女退治も協力しないと……とは、私の素人考えではないと思いたい。
マミ「あら?」
さやか「どうも、マミさんこんにちはっす」
ガラス張りの向こう側にマミさんを確認すると、ほぼ同時に、マミさんもこちらに気付いた。
見覚えのない生徒が教室の近くに居ると、どうしても目線は行ってしまうものなのだ。
マミ「どうしたの?話は……直接じゃなくても良いのに」
さやか「あはは、まだ挨拶してないですから、直接のが良いじゃないですか」
マミ「ふふ、そうね、そういうの、忘れちゃいけないね」
やっぱり温厚で、感じの良い人だ。
包容力でいえば、この学校一かもしれない。胸とかそういうのも含めて。
|壁|∀)ノシ
乙
さやか「まぁ、ものは相談なんですけど」
マミ「うん」
さやか「同じ魔法少女同士、協力はするべきだと思うんです」
マミ「そうね、もちろん最初から……」
さやか「それはほむらも一緒に、っていうことなんですけど」
マミ「それだと話は変わってくるわね」
温厚な顔つきのまま、話がまかり通るはずもなかった。
言うときは言う。マミさんの堅いブロックだ。
マミ「というよりも美樹さん、あまり暁美さんに近づくべきではないわよ」
さやか「? 何でですか?」
マミ「あの人、まだ鹿目さんには魔法少女にならないようにって、強要しているんですもの」
さやか「うーん……でも、願い事がない限りはむしろ良いんじゃないですか?」
マミ「鹿目さんは自分を変えようと……」
さやか「あはは、まどかは流されやすいんですよねぇ……周りとか環境が変わると、自分もなんとかしなきゃって、焦っちゃうんですよ」
顔を傾げて“そうなの?”という顔をしてみせる。
上級生とは思えない可愛らしさだ。あと一押し。
さやか「まどかには、まぁ、ほむらが何を思っているのであれ、慎重にさせるのが一番だと思いますよ」
マミ「……そうかしら」
さやか「あ、そうだ、それに魔法少女が増えすぎると、グリーフシードの確保も大変なんじゃないですか?」
マミ「…………言われてみれば」
よし、いける。なんとかいける気がする!
私今がんばってるよ!
マミ「……そうね、鹿目さんに勧めるのは時期尚早ね……わかったわ、その点ではね」
よし!
マミ「けれど、暁美さんと組むには、彼女の行動は怪しすぎる」
さやか「んー……」
マミ「キュゥべえを襲ったのは不可解よ、いつ、私たちに何をするかもわからない人を……」
そこを聞かれると私も困る。私だってわからないのだ。
なので、適当にでっちあげることにする。
さやか「キュゥべえを襲ったのはまどかに契約させたくなかったからじゃないですか?」
マミ「……そこまでするの」
さやか「ん、ん、まどかが大切な人なんじゃないですかね」
マミ「……」
まどかに対して少々過保護なところがある……その予感は間違いないかもしれない。
さやか「転校の初日にも、まどかに対して明らかに敵意ってわけでもないような視線を向けていたし……」
――どうして!?さやからしくない!
――どうして貴女は、私が知ってる美樹さやかじゃないの!
――何が貴女をそうさせたの!?
――私のことは、“煤子(すすこ)”と呼んで、美樹さやか
さやか「……まどかの事、昔から知ってたのかも」
|巣穴|* ))) ココマデェ
乙、幼少期の良い出会いがいかに大切かよくわかるな
乙
乙
英才教育の成果が見えてきたな
それにしても、煤子さん…いったい何むらなんだ…?
映画で小説版のまどかの転入が否定され、
入学からさやかと恭介と幼馴染ということが判明した訳だが…
あれはワロタ
小説はまどかが少し怖いからなぁ
パラドックスってことか。じゃあここやめとこうか。
ヽ(*・∀・*)ゝ ナーンテウss…
(;・∀=(ヾ(・* )テッシュウ
肉まんがまともに喋った
デュエマスレでホモネタ書かれた時くらいしか見たことなかったのに
マミ「昔から知っていた、かぁ……」
ほむらの行動を思い出しているのか、しばらく宙の埃を目で追う。
そこに何かを見つけたように表情は思考を取り戻し、自信ありげな笑みを私に向けた。
マミ「共闘、いいかもね」
さやか「え!」
思わず驚きの声をあげても仕方ない。
さやか「良いんですか、って聞くと“ダメ”って言われた時が怖いから、ありがとうございます!って言わせてもらいます!」
マミ「ふふ、大丈夫、ちゃんと考えがあってのことだから」
さやか「考え……」
マミ「少なくとも美樹さんと私は仲間同士だし、暁美さんが変な動きをするようならすぐに対処できるわ」
さやか「確かに……」
最悪な想像、あらゆる不意打ちにも対処できるほど隙を見せなければだけど…。
ほむらがどんな魔法少女かもわからないし……。
まぁでも、マミさんにほむらをいつでもなんとかできる自信があるのなら良かった。
私は、ほむらは何をしないと信じている。
マミさんの自信に甘えちゃおう。
かくして、私とマミさんとほむらの3人で、見滝原魔法少女連合が結成されたのです。
あ、連合じゃ暴走族っぽいかな。見滝原魔法少女チーム……かな?
表の世界はつつながく回り、裏の世界はべったり張り付いている。
表裏一体、どちらも同じだ。
どちらかがなければ、なんてことはありえない。
自分にとって、今まで馴染みがなくても、表裏があるこの世界こそ真実なのだ。
私は真実を受け入れて愛する。誰だってそうやって進んでいくものじゃない。
さやか「だからまどか、魔女がいなければー、って考えるのは良くないことなわけですよ」
まどか「うーん、そうなのかなぁ……」
さやか「あるものを無いと言うのは、ナンセンス!受け止めがたいことでも、ちゃんと受けとめる胸がないとねー」
まどか「そ、そんな酷い言い方ないよ、あんまりだよ!」
さやか「あっはっは!」
私とまどかは屋上で弁当を食べていた。
魔法少女の話をするためには仕方が無い。二人だけの秘密だ。
QB「きゅぷ、きゅぷっ」
さやか「はいはい、プチトマトをあげような~」
QB「トマト……」
さやか「遠慮するでなぁい」
QB「ちょそんな強引にぎゅぶぶ」
……失礼。
私とまどか、そしてキュゥべえ3人だけの秘密の場所だ。
と落ち着こうとしたところで、屋上の扉は開く。
ほむら「……」
まどか「あ……ほむらちゃん」
さやか「おっす、ほむら!こっちちょっと狭いけど来なよ!」
3人と1匹だけの特別な場所。
ほむらの目つきは未だに疑るような凄みがあるけど、これを解していくのが私の役割だ。
マミさんとほむらのゆるやかな和解。
それにはまず、自称中継役である私自身が、ほむらとの友好を図らなくてはならない!
)ノ゙ オヤスミィ
乙
おつまむ
ほむら「……私はここに居ても大丈夫なの」
さやか「大丈夫なの、って?」
ほむら「巴マミのことよ」
視線はこちらのまま動かさないほむらの意識が、私とは別の方向に向いていることを私は悟った。
ここではない隣の棟を横目で見る。
マミ「……」
そこにはマミさんがいた。
柵に片手をやり、ソウルジェムを持つわけでもなく、ただこちらを見ているようだった。
その表情には自信も不安もない、無表情そのもの。
ただ冷静に、事態の行く末を見つめる人間の目だ。
さやか「大丈夫……まあ、ちょっとはほむらの事を警戒してたりするんだけど……」
ほむら「駄目じゃない」
さやか「ちゃんと話し合ったから大丈夫!いや、本当に!見られるのはそりゃあ、ちょっと気分悪いかもしれないけど、初回サービスってことでどうかひとつ!」
QB「訳がわからないよ、さやか」
マミさんの疑いの目は仕方が無いものの、ひとまず私たちは、魔法少女の仲間として交流することになった。
さやか「はい、あーん」
ほむら「……何よそれ」
まどか「わー、すごい……けどなにこれ?」
さやか「白身と黄身を反転させたゆで卵!今朝作ったんだ」
ほむら「……」
まどか「大きな黄身みたい……」
さやか「あ!やり方は教えらんないんだなーこれが!結構コツいるしねー」
冷めた目で私を見ることも多いけど、ほむらもここにいることを悪く思ってはいないようだ。
サバサバした物言いだけど、コミュニケーションを取ってくれている辺り、ほむらは心底私を鬱陶しく思っているわけではないらしい。
それに……。
ほむら「……まどか、口元」
まどか「え?」
ほむら「みっともないわね」
まどか「あっ」
まどかの口元についた食べかすを、ほむらが母親のように優しく取り上げる。
そう、まどかだ。ほむらはまどかに対してもドライな口調で当たっているが、私よりもどこか、絶対に柔らかいものがあるのだ。
昔にまどかと知り合いだった説。これはひょっとすればひょっとして、有力なものなのかもしれない。
さやか(……これから付き合っていく中で、ほむらの過去も気兼ねなく聞けるようになるかも)
命を賭けて願いを叶えた、魔法少女の過去。そこへは慎重に踏み込まなくてはならない。
私の癖、軽率な発言には気をつけよう……。
マミ「……」
そしてマミさん、そんな妬むような激しい視線を送るくらいなら、こっちきて一緒に食べたらどうですか。
(ポテチ袋)* ))) オヤスミクゥ
乙
ここのさやかちゃんはカオルと仲良くサッカーとかやれそう
マミさんなんでぼっちなん?
>>333
デブだから
>>333
心に結界を張っているから
>>333
常にドリル携帯してるから
>>333
正義のヒーローとは孤高なる者だから
>>333
マジレスすると事故のせいで友達だった子と距離が出来て、魔法少女の仕事が忙しくって疎外になった
すべてはQBのせい
[ピザ]さんの事マミっていうな
>>338
そこはゲームのシナリオライターによる独自設定だろ。
でも、いかにも! って感じで、よくできてる部分だとは思った。
>>340
あれシナリオ監修虚淵じゃん
>>341
監修っつっても、特におかしい部分以外はお任せしますってスタンスだって言ってたはず。
よく考えてるな、とか、なるほど、なんて感じる部分は多少の矛盾があってもチェックが入ってないと思う。
細かいチェックが入ってたら、あんな矛盾が多い状態での発売はなかっただろう?
>>342
ワルプルまでの一ヶ月間内に矛盾が出るのはゲーム上仕方ないとして、前日譚に矛盾らしい矛盾なんざあったか?
なぁに、公式の小説版と映画版ですら齟齬が出てるんだぜ?
バイオリニストがギタリストだったりとかもあるし、平行世界だから何でもありっちゃあり
白身と黄身の反転してるのって返し玉子だっけ?
すげえ難しいって聞いたんだが…
煤子もほむらだと考えると、返し卵は普通にさやかの独学だな
それなりに伸びてるから期待してみれば……
食事はまどかが緊張気味だったけれど、後から雰囲気もほぐれてきた……気がした。
ほむらの口数は少なかったけれど、時折見せるまどかを気にする風な仕草は母性的だった。
ベンチ下のキュゥべえが近くに来るたびに足蹴にしようと座り方をわざとらしく変えていたけれど、よほど嫌いなんだろうな。
まぁ、今日はマミさんには気付かれていないようで良かった。
けど見守る私の心臓に悪いので、次からはやめてほしい……。
QB「ありがとうさやか、これで暁美ほむらも、大人しくなってくれればいいんだけど」
さやか「いやいや、あれ以上大人しくなられても困るのよー」
まどかとも別れた私は、帰路でキュゥべえと一緒に帰っている。
返ったら荷物を置いてから、すぐに魔女退治へ乗り出すつもりだ。
マミさんとほむらとも連絡は通してあるので、遅れるわけにはいかない。
まどかはマミさんと一緒に来るそうだ。まぁ確かに、マミさんの部屋に荷物を預けてからの方が、楽ではあるかな。
けれど私までマミさんと一緒に行動してしまったら、ほむらを派閥の外に置いているような構図になってしまう。
となると、ほむらばかりではない、内輪にいる私達でさえも、3対1の“壁”を作ってしまうかもしれない。
私もソロ帰宅することは、わりと重要だったりするわけです。
さやか「はーあ、人間関係で悩むなんて、ほんと久しぶりだわ」
夕焼けになりかかった空を見上げる。
精神的にちょっと疲れる。けど、どこか楽しい。
さやか「ふふ、今日もがんばろっと」
鉄塔に重なりかかった太陽をちらりと見て、私は急ぎ足で自宅を目指した。
鉄塔の上で魔法少女が街を見下ろす。
オレンジの太陽を背に、翳りつつある見滝原。
その街には、かつて自分と一緒にチームを組もうとしていた巴マミがいる。
二度とはここへ現れないつもりでいた彼女だが、どうしても気になることがあった。
「昨晩はずっと探していたが、やっぱり魔女でも使い魔でもねぇ……」
リンゴの芯を吹き捨てる。くるくる回る芯は、鉄塔の真下で見えなくなった。
「てなると、有り得るのは魔法少女だけだ」
首元のアンクに口づけ、犬歯を見せ付けるように笑う。
「さあ、どんなつえー奴がいるのか、お手並み拝見といこうかね」
シスターのヴェールをはためかせ、魔法少女は鉄塔を飛び降りた。
()芯(=∀) ココマデ
うお特異点
来たか
ほむら「……」
先頭を歩くのはほむら。
マミ「……」
すぐ後ろにマミさん。
まどか「今日もまた遅くなるって連絡入れないと……」
さやか「あー、早めの方がいいよ」
まどか「だよね」
そのまた後ろには私たちがいる。
マミさん曰く何をしでかすかわからないほむらを前に置き、それをマミさんが見張りつつも、私とまどかは後方で構える。
普通は剣を持ってる私が前にいるべきなんだけどね…。
まぁでも、一応ほむらの腕にある武器は盾のようだし?最初にほむらが防いで、後ろから私たちが……っていう考え方ができなくもないか。
そんなわけかは知らないけど、マミさんが出した布陣の条件を、ほむらはあっさりと飲んだのである。
四人組とはいえ、我々はかよわい中学生の少女達だ。
夜ともなれば、無防備に映ることだろう。
男達からのナンパは面倒臭いし、警察に歩道されたくもない。
この役柄、なるべく人通りの少ない道を選ぶとはいえ、繁華街も立派なパトロール範囲だ。
長く続けていくなら、世間体も気にする必要はありそうだ。
私たちは歩き出してすぐに魔女の微弱な反応を察知し、標的を探すことになった。
まずは街中を歩こうとマミさんや私は提案して、この流れで街中散策とな……るかと思いきや、ほむらはきっぱり、静かに反対した。
ほむら「工場地帯へ行くわよ」
空気が読めないというか、そうきっぱり反対する意図すらも、私たちにはわからず、少しの間ぽかんと口を開いたままだった。
マミ「あのね暁美さん……」
ほむら「あたりをつけるならどこを探しても同じ、私が先頭を行くのだから、舵取りまで任せてほしいわ」
先頭を歩かされるほむらの、全く正しい主張だ。
こう言われてはマミさんも、渋々と了承するしかなかった。
さやか(仲良くして欲しいのに……まぁdも、ほむらも主導権をマミさんに握らせたくはないんだろうな……)
ほむらの仕返しだと考えていた私だったのだが。
そんな半分彼女を疑うような私の考えは、すぐに間違いであると気付くことになる。
マミ「……反応が」
ソウルジェムが目立った明滅を始めたのだ。
まどか「どんどん近くなってるの?」
さやか「みたいね」
ほむらはソウルジェムを左手に持ってはいるが、その光を見ようともしていない。
最初から魔女の居場所がわかっているかのように、彼女は工場地帯へ歩き続ける。
歩き進むごとに、人気は少なくなる。
反対に、ソウルジェムの輝きは強くなる。
顔ホームベースににてるよね
乙
乙
>>388
最近でたハノカゲ漫画でも疎遠になってるっていってたな
そりゃ魔女退治に出歩けば遊ぶ時間も無いわ
>>338だった
人気のない夕時の工場群は、どこかノスタルジックにさせる情景だった。
こんな時間にこんな場所にまで来たことは無かった。
14歳にもなって初めて見る、親しみきれていなかった新鮮な見滝原の顔だった。
マミ「……近いわね」
ほむら「弱そうな魔女だわ」
マミ「そんなことまでわかるの?」
ほむら「大体ね」
マミ「……」
マミさんの背中を見ればわかる。ちょっと悔しそうな顔をしてるに違いない。
さやか「マミさん、ソウルジェムの光で使い魔か魔女かを判別できるんですか?」
こもった空気を換気しようと訊いてみる。
マミ「そうね、感覚的なことだから言葉じゃ良い難いんだけど、出会ってみれば美樹さんにもわかると思うわよ」
さやか「感覚かー」
感覚で覚えることの多い世界だ。
マミさんのような教えてくれる先輩がいなければ、この魔法少女という仕事、随分最初に辛い思いをしそうである……。
……まどかは特に危なっかしい。私も釘は刺しておこう……。
ほむら「この中よ」
マミ「!」
話している間に、寂しげな工場の前に到着した。
辺りに人はいない。
ほむら「さて……まだ、誘い込まれた人はいないようね」
まどか「ちょ、ちょっとほむらちゃん……」
ほむらは先導らしく、堂々ずかずかと暗い工場の中へ踏み込んでゆく。
広い……整備工場だろうか。工具のような、大きな機械のようなものがある。
そこを通り過ぎ倉庫らしき部屋に踏み込むと、埃臭そうな灰色の壁の上に結界は大人しく発光していた。
結界を背に、ほむらは私たちへ向き返る。
ほむら「さあ、倒すなら今のうち、けど時間に余裕はある……ここでも私が行くべきなのかしら」
制服のポケットに両手を突っ込み、片足に体重をかけ、感情の無い目はマミさんを射止める。
ほむら「さやかの言う共闘ならば私としては本望よ……けど、私だってまだ完全にあなたを信用できないわ、特に巴マミ」
マミ「!」
ほむら「正直に告白すると、私は貴女の銃が怖い……後ろに立たれ、絶えず後頭部に視線を受けるのも不本意、張り付かれる感触は好きではないわ……」
そこで初めて、ほむらが結界を背にする理由がわかった。
さやか「……共闘する以上、疑いっこ無しで、か」
ほむら「ええ、いつまでもこんなことを続けていたくはない……それは貴方達だってそうでしょう?」
さやか「まあね」
ほむら「一つどうかしら、私は……魔女を探す能力に長けている、そこを買って、私を平等な仲間として扱って欲しいのだけれど……」
この結界の先から、より一歩踏み込んだ共闘を結ぼうということだ。
ほとんどマミさんだけに向けられたほむらの言葉、当のマミさん自身は、ちらりとキュゥべえを見て少し悩む素振りを見せた。
ほむら「駄目?」
さやか(ぶっ)
毅然とした態度、そしてキメの一言なんだけど、言い方は不覚にもちょっと可愛かった。
[バケツ]・∀)ノシ ココマデ
乙
なぜそこで可愛くなるほむほむ
かわいい
乙
ネウロの「駄目か?」を連想してしまった。
あそこまでの可愛いキャラ作ったわけじゃないんだろうけどww
乙ー
乙
そのバケツには混ぜると危険な液体が…
まぜると危険って、水虫治療薬のバケツか。
あれって製造中止に伴って製造元がなくなったんだよな。
マミ「……確かに、ここに来るまでのあなたの歩みには無駄も迷いもなかったわ……」
可愛げのある言い方も、マミさんには伝わっていないらしい。
神妙な顔つきで、差し出された条件を吟味しているようだ。
結局、ほむらの言い方にツボっていたのは私だけで、そう考えると途端に冷静になれた。
マミ「いいわ、飲んであげる……けどこれは、貴女のことを“魔女退治で使えるから”という理由で引き入れるわけじゃない……」
マミ「自分の能力のひとつの私たちに見せた、その真摯さを汲み取ってのことだから、気を悪くしないで」
大人の微笑を向けると、ほむらも口元をわずかに釣り上げた。
ほむら「気にしないわ……まだ私にも隠し事はある、その上で付き合ってもらえるなら」
マミ「少しは大目に見ましょう」
二人は握手した。
すると、マミさんの微笑みは“ぱあっ”と花のように咲いて、身にまとう緊張感すらも解けた。
マミ「ふふ、いつまでもピリピリするの、私も好きじゃないから」
さやか「へへ」
私が考えているよりも、マミさんはずっとずっと、大人だった。
私は彼女のことを心のどこかで、融通の利かない人だと思い込んでいたんだろう。まずはそれを恥じて、心の中で詫びよう。
やっぱり上級生は違うや。
さやか「さ!それじゃあ早速、結界の中に入ろう!まどかは私の後ろに……」
ほむら「私が守るわ、後ろについていなさい」
まどか「えっ?あ、はいっ」
さやか「……よーし、さやかちゃん先陣切っちゃうぞぉ~」
私たち魔法少女は、ほぼ横一列に結界へ飛び込んでいった。
結界の中は薄い青の空間で、いつも見慣れた雑多なものとは違い、ある程度整えられたものであることを伺わせる。
というよりもそれは錯覚で、整っていると感じたのは単に結界の中が広い一つの空間でしかなかったためであった。
まどか「わ、わ、」
ほむら「大丈夫よ、私に掴まっていなさい」
まどか「……うんっ」
身体はゆっくりと落下するように、結界を降りてゆく。
重力が弱い結界なのだろう。
マミ「二人とも、あまり身を任せすぎるのも得じゃないみたいよ」
が、マミさんは空間を縦横無尽に飛んでいた。
プールの中より滑らかで、空中よりも機敏に。
マミ「この結界の空中は、足に魔力を込めれば簡単に移動ができるみたい」
ふわふわとスカートの裾を踊らせると、満足したように私たちと同じ高さを維持した。
何度もパンツが見えてありがたかった。
さやか「おっ……おおーっ、ほんとだ、動けますねこれ」
私の身体も、空中の見えない壁を蹴るようにして宙を飛び回ることができるようだった。
さやか「……」
まどか「……?」
その感覚がどうも癖になり、ついついアクロバティックな動きをしてしまいたくなる。
だん、だん、だんと宙を蹴る連続三角飛びだ。
さやか「見てまどか!裏蓮華!」
まどか「ぶ、ぶつかるよ!危ないよさやかちゃん!」
しばらく遊んでいたら、マミさんのリボンで強制的にひっぱられるハメになりました。
(∀・*[洗剤]))) ココマデヨ
ぱんつ! じゃなかった乙
乙
乙
ほむらのパンツだけはタイツで見えないか
さやぱん!!!
乙
包帯でくるんで落っことすのが裏蓮華だっけ?
おつ
裏蓮華ってしたら体がぶっ壊れるんじゃ
……って魔法で治せる魔法少女には関係ないっすね
ほむら「……」
まどか「何もない……?」
結界の床に降り立つと、そこは何も無かった。
使い魔の姿もなければ、魔女の姿も無い。
ただ強い魔女反応がソウルジェムに存在するだけ。
マミ「何も無いということは有り得ないわ、魔女はどこかに姿を隠しているはず」
ほむら「巴マミの言う通り……目で見えるものだけが全てじゃない、音も匂いもソウルジェムの反応も、全てを利用して敵の居場所を探るのよ」
さやか「なるほど……」
全てを利用して居場所を探る……煤子さんも似たようなことを教えてくれた。
――“何故”と考えることは大切よ
――“何故”という問いかけが、全ての謎を解くのだから
さやか(何故……魔女も使い魔もいないのか)
普通は結界に入れば、それを察知した魔女が現れて殺しにくるはず。
何故そうしない?どうして何もせずに、ここに隠れている?
魔法少女がここに3人もいて、気付かないわけが……。
さやか「……そうか」
ほむら「?」
そう、魔法少女が3人、一般人が1人。
4人もの人間が結界に侵入して、気付かない魔女なんかいるはずない。
さっきまで騒がしく浮かれていたのだ。空間は見たところ、この大部屋1つのみ。
魔女は隠れている……私達、3人の魔法少女に怯えている!
さやか「魔女は周りの景色に溶け込んで、隠れているはず!みんな辺りを警戒して!」
マミ「!」
姿が見えない魔女だとしたら厄介なことこの上ないが、だとしたら攻撃を仕掛けない理由が無い。
敵は“姿が見えて”しかも“周りに隠れている”魔女!
ほむら「居たわ、こっち!」
張り詰めた声に誘われて私は真後ろを、マミさんは真横へ振り向く。
ほむらが指で示した先には、揺れ動き続ける風景の中にひとつだけ存在する、翼の生えた奇妙なモニターが見えた。
魔女「……!」
一同の視線に気付き、流れるような動きを止めてしまったのが奴の敗因となるだろう。
◆ハコの魔女・キルステン◆
[救急箱] )-з モフッ
乙
ここのさやかちゃんはなかなか優秀で安心できる
ミチルが生きていればプレイアデスのに誘われていただろうし、織莉子達からも警戒されていただろう
乙
さやかちゃんかわいい
まぁ引きこもりの魔女ですし
魔女は翼を広げ、画面をこちらに向けてノイズを響かせた。
モニターが奇妙な映像を見せると共に、結界内の様相も掌を返すように一変した。
ほむら「まどか、気をつけて」
まどか「う、うん!」
風景のメリーゴーランドが加速する。
紛れるモニターの魔女の画面からは無数の何者かが飛び出し、それらは結界の上からゆるやかに降りてくる。
マミ「周りを遊覧しながら使い魔を撒き散らすなんてね……!」
さやか「魔女を狙いましょう!」
マミ「そうね、使い魔ばかりでは埒もあかないわ」
私は剣でマミさんは銃だ。
近づいてくる使い魔をどちらで倒し、魔女を倒すか。
ほむら「まどかは私が守る、二人は使い魔と魔女を」
さやか「!」
どうしたものか悩んでいたところに、戦力の計算に悩んでいたほむらから直々の提案。
守らなくてはならないまどかと一緒にいてくれるのであれば、心強い。
マミ「任せていいのね?」
ほむら「あなた達が使い魔を全て討ち損じて、そいつらがこっちへ押し寄せてきたとしても何ら問題ないわ」
挑戦的な言葉を真顔で言うものだから、マミさんは“やってやるわよ”という勢いで、その重要な役割をほむらに任せた。
つまり。
マミ「いくわよ!美樹さん!」
さやか「はい!」
私とマミさんでの、ペアによる戦いだ。
まどかの表情に明らかな不安が無いことを確認する。後はほむらに任せよう。
さやか(よし……!)
私とマミさんは地面を蹴り、一段上の空を蹴り、そしてどんどん結界を昇ってゆく。
使い魔が近づくにつれて私たちは二手に別れ、結界の側面に潜む魔女を探し始めた。
同時に、群がりやってくる使い魔を迎え撃つ。
使い魔「きひひひ」
さやか「うわ!可愛くない!」
不気味な笑顔を向ける使い魔が目の前に3匹。
横一列をなぞる様に、剣で一閃。
使い魔「きヒィ……」
特に手応えもなく使い魔は消滅する。
マミ「はあっ!」
マミさんの銃弾も狂い無く命中し、私たちから離れた位置にいる使い魔も撃墜されてゆく。
――ドォン
さやか「!」
マミ「!?」
マスケット銃ではない、もっと粗野な轟音が結界に響いた。
音は同時に、私の司会の隅に浮いていた使い魔の胴体をガラスのように砕き千切っている。
さやか「今のって……」
まどか「わ、わぁ……」
ほむら「少し耳を塞いでいた方がいいかもしれないわよ、まどか」
結界の地上では、ほむらがスナイパーライフルをこちらに向けて、銃口から白煙を垂れていた。
随分と物理的というか、現代的な武器に、私の顔はちょっとだけ引きつった。
魔法少女ってホント、なんでもありなのかい……。
さやか(攻撃方法に対するツッコミはともかくとして……)
下からは取りこぼしや見逃しをほむらが撃ってくれる。ということになれば、私たちは大まかに使い魔を蹴散らしながら魔女を探すのみだ。
マミ「ふふ、ずっと逃げてもいられなくしましょうか?」
さやか「何か作戦が?」
マミ「見てて?」
首もとのリボンがするりと抜ける。
リボンは宙で上向きに振られると、ごく自然に、靡くようにして天へと伸びた。
さやか(おおー……)
リボンはどこまでも伸びてゆく。
それはしゅるしゅる上がる花火の光のようでもあった。
そして次の瞬間、それは本当に花火となった。
結界高くまで昇ったリボンの柱は黄色い輝きを放って弾け、枝分かれした無数の黄色の帯が結界内を縦横無尽に駆け巡る。
使い魔「きひ」
使い魔「きひひっ?」
空間を埋めるほどのリボンに、ゆるやかな弧を描きながら飛んでいた使い魔の天使たちは動きを封じられていた。
機動力は格段に落ちたに違いない。
さやか「ナイスですマミさん!これで相手は時間稼ぎもできない!」
マミ「本体を探しましょう!」
(*・∀[モニター] ココマデヨゥ
乙
乙です。
強くて冷静なさやかは本当に安心感がある。
さやかちゃん+冷静さ+適正な判断力=無敵淑女じゃないか惚れる
さやかちゃんはかわいい
スナイパーライフル「ドォン」
空間の壁際を走り、螺旋階段のように駆け上る。
結界の端にいる使い魔をすれ違い際に斬り捨て、じわじわと魔女を追い詰めるためだ。
魔女を倒せば結界は消える。その時に使い魔が残っていたら、使い魔はどうなるか?
ボスを倒して雑魚敵が消えるシステムだったらうれしいけれど、そんな都合の良いシステムである予感は、なんとなくしないのだ。
油断はできない。だから私は使い魔も可能な限り倒すことにした。
さやか「――」
使い魔「き」
人形の微笑がこちらに振り向く頃には、既に私のサーベルのガードは、使い魔の首もとに触れている。
ガードは滑り、剣の根元が人形の細い首に僅かに食い込む。
使い魔「ヒャ」
私は使い魔の真横を駆け抜け、次なる標的のもとへ再び駆け出す。
その勢いだけで、人形の首を“ぱら”と削ぎ落とすには十分だった。
魔女「……!」
さやか「おっ、出たなモニター」
結界の端で、ようやく本体の魔女を見つけ出した。
なるほど天使の使い魔は、奴の画面から飛び出しているらしかった。
敵を構成するものは腕っぽい翼、モニターっぽい箱。
そのくらいだった。他に何かついていることはない。
が、その正面にあるモニターこそ、私には厄介に感じた。
そこからは使い魔が飛び出し、こちらに襲い掛かってくるのだ。
画面から飛び出るのは使い魔だけとは限らない。もっと恐ろしいものを出してくる可能性だってある。
さやか(モニターを最大限に警戒して、まずは両腕を斬り落とす)
私は魔女の画面を正面に見据えないように空中を左右に飛び、魔女に接近する。
幸い魔女は素早くないようで、その背後を取ることは使い魔を相手にするように容易かった。
さやか「はぁ!」
魔女「ぴぎっ!」
袈裟を真っ二つにするような大振りで腕の一本を刎ねると、到底液晶漏れとは思えないほど真っ赤な液体が噴出し、魔女はノイズをあげて呻いた。
さやか(もう一度機会をうかがうまでもない、そのままもう片方もイける!)
これは油断でも慢心でもなかった。
私にはその自信があったし、いざとなればどんな反撃からも身を守ることはできた。
だから私は、半回転してこちらに砂嵐を向ける魔女のもう一本の腕を標的に、もう一度強く柄を握ろうとしたのだ。
魔女「――…!」
そして魔女は反撃に出た。
砂嵐から一本の刃が、とんでもない速さで私を狙い、まっすぐ飛んできたのだ。
気前良く振るうはずのサーベルのガードで、私に飛び込んでくる刃の軌道を逸らす。
金色のハンドガードが魔力の火花を散らしながら、刃を受け流していく。
さやか「甘いっての!」
攻撃を受け流した私のサーベルは、そのまま魔女のモニターの半分を切り裂いた。
(布団)∀)オヤスミィ
おはよう!
乙
戦闘描写が分かりやすくてテンション上がる!
誰やこのかっこいい娘・・・
このさやかちゃんは、砂漠で落とした米粒一粒を見つけられるぐらいの確立でできるレベル
つまり、超アタリ。この期を逃したら二度と見れないレベル
致命傷を2つも与えた。
が、それでも魔女はまだ、動きを見せる。
ずぶりと嫌な音を立てて刃はモニターへと戻り。
再び別の場所から、刃はこちらへ伸びてくるのだ。
さやか「くどい」
同じくハンドガードで逸らし、返しの刃を残った腕にくれてやる。
魔女の両翼だか両腕だかは二本共に切断された。
もはやただの旧型テレビ。叩いて直らない分、それよりも脆いのかもしれない。
が、再び飛び出した刃はモニターの中へと引っ込む。
まだ何かを仕掛けるつもりか?と私は疑ったが、その前にやっと、違和感に気付いた。
刃を突き出したモニターには、穴が開いている。
内側から破壊したような穴が、2つも。
「あらよっとぉ」
さやか「!」
モニターが上下に分裂した。いいや語弊も良いところだ。
“上下に切り裂かれた”のだ。
真っ二つに切られたモニターの中からは、先ほど突き出してきた刃を携える人影が。
「ニュー・チャレンジャーは向こう側から、ってなぁ!」
その詳細な姿を認識する前に、単純なモニター越しの攻撃など“メ”ではない連打が、私に襲い掛かる。
最初の2発の攻撃を剣で逸らして、その相手が紅い装束のシスターであることに気付いた。
「ほー、やるじゃん」
次の6発の攻撃を剣とハンドガードでなんとか受けきった時、そこでようやく、敵の使う武器が“槍”であることに気付いた。
槍と剣の空中戦は一方的だった。
メタメタに斬り崩されたモニターの魔女の落下と並んで、私と紅いシスターの攻防戦は繰り広げられる。
だが重力的な“上”を取るそいつのリーチは長く、こちらは短い。
単純な長さの優劣で、私は地上へと押し込まれつつあった。
さやか(一瞬たりとも気を抜けない……!)
唸るように振るわれ続ける刃つきの槍は、私に宙を蹴らせる暇など与えない。
周囲に張り巡らせたマミさんのリボンすら器用に断ち切り、周囲のものを利用させようともしない。
このまま愚直に逃げようと単調な動きを見せれば、その瞬間に餌食になることは明らかだった。
かといって、近づいて斬りつけることが叶うかといえば、それも有り得ない。
今の間合いは完全に“槍”の間合いだ。
私の剣は近づくことはおろか、完全に捌ききることすらできていなかった。
だから私は、あえて距離を取ることを選んだ。
さやか「ふッ!」
「!」
まっすぐこちらに押し込んできた槍の切っ先を利用する。
相手の動きを読んで、こちらも同時にサーベルの先を突き出すのだ。私は相手のその動きを待っていた。
反撃手段の一切無い相手への攻撃に、自身の心配をする必要は無い。だからこそ油断し、大振りの一撃を繰り出してしまう。
それ自体、危険に直結する悪手などではないだけに、敵も“しまった”と思っただろう。
私だってなかなか、相手がこんなことをしてくるなんて想像できない。
そう、鋭い刃と刃の先端を衝突させるように、カウンター仕掛けてくるなど。
「やりやがる、いいじゃねえかオイ」
刃の先端を衝突させた私の身体は、大きく敵から距離を取る。
剣と槍の最大リーチの分だけ、私は紅いシスターから逃げることに成功したのだ。
もはや槍も届かなくなった間合いを空けての自由落下は体感時間も早く、着地後は素早く後転し、剣を構えなおした。
槍が深々と床に突き刺さり、その柄の上に、紅いシスターは着地した。
口元から覗ける八重歯が白く輝いている。
「落下中でも、剣を投げてりゃ届いたぜ?」
さやか「武器を手放す馬鹿がどこにいるのさ」
「武器って考え方に凝り固まりすぎなんだ……よッ」
シスターは槍の柄を思いっきり蹴り飛ばし、槍は高速で回転しながら私へ襲い掛かってきた。
上から襲い掛かる回転。上段での防御をしてもよかった。
だが相手は“マトモ”じゃない。
さやか「らぁッ!」
「!」
剣での防御はしない。姿勢を低くして“下段から近づく”シスターに、私も同じようにして剣を投擲した。
二人の間で交錯する槍と剣。
2つは交わらず、お互いの持ち主の敵へと襲い掛かる。
さやか「ほっ」
「ふん」
そして二人とも、投げられた武器を叩き落とす。
掴み、利用することなどはしない。
敵の武器は、“武器”ではないと知っているからだ。
さやか(こいつ……)
(この野郎……)
私の直感が囁いている。
こいつは私に“似てる”。
シスターはしばらく私を睨んでいたが、その後ろに面白いものでも見つけたのか、「くは」と笑った。
「……構えてから結局、一発も撃ててねえじゃねえか、なあ、マミ」
紅いシスターの視線の先には、マスケット銃を構えるマミさんがいた。
いつからそうして構えていたのか、私にはわからない。
このシスターが……おそらくは魔法少女が、マミさんとどのような関わりがあるのかということも。
マミ「……どうしてここにいるの、答えて……佐倉さん」
「どうして?そうだなぁ……“強い奴がいるらしいから”じゃダメか?」
マミ「!」
「引き金を引けないアンタは“強くない”……だから甘っちょろいんだ」
黙ったマミさんは歯噛みし、佐倉と呼ばれたシスターから視線を外す。
敵から目を離すことは、戦う意志を放棄するに等しい。
であると同時に、その様子を見て何ら興味を示さないシスターの女にも、マミさんと戦う意志はないらしかった。
つまり、今も奴がぴりぴりと向けている闘志は、ただ一人私へのものだった。
「私の名は“杏子”だ、あんたは」
さやか「“さやか”」
名前だけには名前だけを。
杏子「さやか、ね……面白い……」
シスターはヴェールの裾を左手で払い、その手に一本の槍を握った。
両手で振り回し、こちらに刃を構える。
杏子「来な、構えるまではフェアでいてやる」
さやか「構えたら?卑怯な手でも使うつもり?」
私は警戒も何もせずに、黙って手の中に新たなサーベルを出現させた。
同時にシスター魔法少女、杏子は飛び掛る。
杏子「“一方的な戦いが始まる”ってことだよ!シロートがァ!」
[モニ]*=∀[ター] ココマデ
乙
煤子さんそっちにも出張してたのかしら
乙
あんこちゃんの魔法少女姿ってあんまりシスター連想しないデザインな気が……
煤子さんひょっとして過去に色々暗躍してる?
どうせならマミさんにも英才教育してあげればよかったのにww
乙です。
切っ先をぶつけ合うってすごいな。
あんこちゃんと渡り合えるとは
さやかちゃんかっこいい!
乙
切っ先ぶつけ合うのは本編のさかやでもできるんだよな。
打ち負けたけど
さやか(やばい!)
勢いに任せたチンピラとも戦ったことが私にはある。
がしかし、目の前でさながら弱い悪党の如く飛び掛ってくる魔法少女には、それと同じガラガラの“隙”が無い!
杏子「らァ!」
さやか「くっ」
相手は槍のリーチの力をよくわかっている。そう、確実に相手の刃が先に届くのだ。
こちらは絶対に“受け”に回るしかない。
嵐のような槍の軌道に、私の剣は相手の滞空時間だけで5回弾かれた。
それだけでも私の手は痺れたが、その次に来る攻撃こそ最も恐ろしいものだった。
杏子「―――」
さやか「!」
ヴェールの奥の眼差しが途端に冷めたのを感じた。
地に着いたシスターのブーツに嫌な予感を覚える。
私は咄嗟に剣を自分の正眼へ戻し、“いつもの”体制へと切り替えた。
それは私の自然体。守りに徹するわけではないが、あらゆる状況に応じる準備があるこれを防御の構えとでも呼ぼう。
中学の頃の剣道でさえ一度も咄嗟に作ろうとはしなかったが、本能的に取ったそれは正解だった。
剣の流れは、言葉で考えるのではない。言葉にすれば負けるから。
培ってきた感覚か、数字で表すのだ。
感覚は同じタイプの相手と戦うことでパターンとして無意識に覚えることができ、無意識に対処できる。しかし違うパターンは?
私はそれを記号で覚えた。
位置、高さ、方向、振り方、全てが記号になる。全てを記号とすることで、動きへ繋ぐ言葉の指令を最短のものへと変える。
数学でも算数でも応用できないこの記号の概念は、私にしかない暗号だ。
杏子「!」
空中の時には5発だった槍の攻撃の嵐も、地面に脚をつけたときには一気に手数が倍に膨れ上がっていた。油断をすれば初撃だけでも胴体に風穴が2つは空くほどの加速だった。
けれど早くなったのは同じ。私は正面から降り注ぐ攻撃を、全て剣で受けきっていた。
敵の攻撃の変化と共に、私の動きも変化させたから。
その成果は私の願いのおかげでもあるかもしれない。けど、それだけではない。
“あの時”があったからこそ今の防御が成り立っている。深くそう思うのだ。
そして防御を成功させるたびに増してゆく過去への感謝が……“煤子さんへの感謝”が、柄を握る手へと込められてゆく。
感謝の素振り1万回
1・1・2。
一対一の戦場に、一本の道を作る動きだと、煤子さんは言った。
何故一本の道を作るのか。
戦場がたとえ広い空間だとしても。
この動きを受けきるには、横道逸れる暇などないのだ。
杏子「っ!?」
しかし私は驚いた。
中学の剣道では勢いに耐えかねて迷わず横へと逃げる人が続出したこの足運びの攻撃を、正面から防ごうとしている事に。
彼女の足運びの妙に。
さやか(こいつやっぱり……!)
攻撃の最中でも私は飛びのいて、距離を取った。
相手はそこで、あえて詰めようとしなかった。
私と同じ表情をしていたのだ。
杏子「テメェ……」
忌々しげに私を睨む。そう、顔には出していないだろうが、私もそんな心持ちだった。
何故魔法少女が私たちを攻撃するのか?
何よりも何故、煤子さんと同じような、私と同じような動きをしてみせるのか!?
ほむら「そこまでよ」
どこまでも冷淡な声と、二丁拳銃の銃口が私達二人の動きを完璧に止めた。
杏子「……!」
拳銃を向けられた彼女の、恐怖とは違った感情を孕んだ顔を、私は忘れることは無いだろう。
(保存の壷)∀)ココマデ
乙
マミさんと接触しなかったのはマミさんを変えたら他に影響に大きく変化してしまうと煤子が判断したと思われる
かずみの事もあるしね(煤子が知っているかは疑問だが…)
乙
今一番更新を楽しみにしているssです
次回も楽しみにしてます
乙
>>419
妄想吐き出すのはカコワルイ
乙
脊髄反射もカコワルイ
さやかちゃんはかわいい
あんこちゃんもかわいい
ほむらちゃんが一番かわいい
つまりその3人に何かしら影響を与えているマミさんが一番かわいい
ほむら「私はさやかと巴マミ、貴女たちと同盟を結んだ」
ほむら「だからこそ私はここで、抑止のために銃口を向ける」
銃口の一つは私に向いている。
手は震えてもいない。撃とうと思えばいつでも撃てる。
抑止として成り立つ、ハッタリではない脅威だった。
杏子「……」
だが杏子の表情はどう見ても、舌打ち一つで“ここはひとまず退散してやる”と去ってくれるようなものではなかった。
本来ならば3人の魔法少女を相手にしてはそうなろうもの、けれど彼女はそうしない。
ただ杏子は、ほむらを睨んでいた。
杏子「……おい」
ほむら「何かしら」
杏子「……名前、なんつーんだ」
ほむら「私は“ほむら”よ」
杏子「ほう、ほむら……ねぇ」
杏子は笑い、銃など知るかとでも言いたげに槍を構えた。
だが同時に、甲高い金属音が槍を弾く。
杏子「!」
ほんの一瞬も目を離していなかったはずなのに、杏子が構えた槍は、いつの間にやら発射された銃弾によって吹き飛ばされていた。
ぼんやりと手元を見る杏子に、ほむらはあくまでも冷静に言ってみせる。
ほむら「私は冷静な人の味方で、馬鹿の敵よ」
ほむら「貴女はどっちなの?佐倉杏子」
杏子「っは!」
ほむら「!」
吐き捨てるような笑いに、冷静さの片鱗は無い。杏子へ向けた銃のトリガーに、深く指が掛かるのを見た。
杏子「ほむらだっけアンタ!?いいねえ、面白いじゃんか!」
さやか(――!)
杏子の頭の髪留めが、小さくゆらゆらと燃えている。
何かから燃え移ったとも思えない、一見すると危ないその現象に、私は目で見える範囲での常識を全て捨て去った際に残る“漠然とした嫌な予感”を拾い上げ、身体を動かした。
さやか「ほむら、駄目ェ!」
銃弾が放たれる音はした。
銃口はまっすぐ杏子に向けられてはいたが、銃弾が杏子の足を狙ったことは、撃つ前からなんとなくわかっていた。
ほむらの撃つ弾は、おかしな軌道で放たれるのだ。おかしな軌道で放たれ、必ず目的のそこへと当たるのだ。
杏子「――ハ」
だが、普通なら全く予想もできない……。
“撃つだろうな”とはわかっていても決して避けられない、正確無比で無慈悲なほど速い銃弾の攻撃を、杏子は確かに“かわした”。
床に空いた穴を見るに足の甲。膝下。腿の3箇所を狙ったであろう銃弾その全てを、有り得ないほど早い動きで杏子は、避けてみせたのだ!
それは薬室が炸裂する音と、杏子の動きにより空気が弾けるような音を同時に立てた、一瞬の出来事だった。
ほむら「――」
ほむらはその一瞬の“敗北の結果”に気付いていない。彼女は“かわされるとは思っていない”からだ。
だから私が咄嗟に動いた。
ほむらの肩を押しのけ、剣を前へ。
相手の槍がこちらを貫くよりも、先に、前へ!
空中戦の動きの何倍も速い地上戦。
その地上戦より何倍も速い槍の一突きが、不完全な防御体制の私を容赦なく貫いた。
さやか「がぁッ!」
ほむら「きゃ……!」
槍の柄にロケットブースターでも仕込んでいるのかと疑いたくなるほど重い一撃。
すんでの所で剣を盾にした私と、その後ろのほむらを押しのけ、結界の端まで吹き飛ばした。
槍に押された。そうに違いない。それなのに、宙をふわりと飛ぶ私たちの身体はいつまでも落下することがない。
ついに“どごん”、と嫌な音を立てて、結界の壁は破壊された。
さやか「……!」
ほむら「うぐ……!」
背中に走る強烈な痛みはなるほど、抑えられてはいるのだろうけど、魔法少女にならないと味わうことがないのだろうなと、ぼんやり思った。
杏子「ははは!やっぱりな、いいねぇ今の!良い戦いだった!」
髪飾りを燃やす魔法少女がケタケタと笑いながらこちらへ近づいてくる。
杏子「まさか今の私にもまだ“炎”が見れるなんてね!思ってもいなかったよ!」
さやか「アンタ……」
杏子「怒ったか?来いよ!いくらでも相手してやる!そっちのほむらって奴もな!」
こいつは、グリーフシードだとか、縄張りだとは、そういうもののために今、戦っているわけではない。
わかった。私はこいつの存在の一端を理解した。
こいつは間違いない。私たちと戦うために、ここにいるのだ。
マミ「美樹さん!暁美さん!」
まどか「さやかちゃん!」
耳は正常らしい。目もしっかりと、こちらへ近づく杏子を映している。
背中を打ち付けて、少し呼吸が乱れているだけだ。
ほむらも……意識はある。杏子を睨む元気があるようで、こっちも元気になれそう。
さやか「……知り合い?ごほっ」
ほむら「かと思ったけど、銃弾を見てから避けるような超常生物は知らないわ……」
さやか「魔法少女の時点で……今はいいや、なんとかしよう」
大きくへこんだ壁に背をつけ、私たちは小声でぼそりぼそりと、かつ素早く話した。
ほむら「さっきは油断したけど、今度は大丈夫、私が時間を稼ぐ」
さやか「いや、私がやる、ほむらはまどかを逃がして」
ほむら「良いのね」
さやか「うん」
ほむら「無事でいて」
私は咳をひとつ吐いて、起き上がった。マントを払い、身体に纏う。
そして睨む。数分で私の中の第一印象最悪ランキング堂々たる1位へと上り詰めた目の前の危険人物、魔法戦闘狂シスター・杏子を。
杏子「さあ来な……マミじゃあちと弱いが、あんたなら楽しめそうだ」
さやか「……」
[ター];∀)) ココマデ…
なんだこの杏子
あんこちゃんあんあん!
乙
面白くなって参りました
このさやかと杏子は映画の奴よりパラメーターが高いな(あれはあんまり当てにならないかもしれんが・・・・)
乙
この杏子ちゃんは「ちょいさあ!」とか「ところがギッチョン!」とか言ってもおかしくない気がする
CV:藤原啓治な焼け佐倉 杏子といったところか?
髪留めの炎で完全に燃えきったヴェールの切れ端が、炎を灯しながら灰のようにふわりと流れ落ちてゆく。
何故髪留めが燃えるのか?そういうコスチュームなのか?
わからない。いや、考えても仕方の無いことだ。
魔女や魔法少女相手では不可解な事が多すぎる。
姿に意味を探るのは危険だ。
さやか「なんで、私たちと戦うのさ」
この言葉に意味は無い。相手は戦闘狂だ。
杏子「戦いたいから戦うのさ」
ほれみたことか。
さやか「人殺しが趣味の魔法少女がいるなんてね」
杏子「殺すかどうかは運次第だよ、本気でやるから、死なないように頑張りな」
ああ、だめだこの子は。
この子にとって、人の生き死になんてどうでもいいんだ。重要なのは本気の殺し合いかどうかなんだ。
本物の戦闘狂だ。
杏子「! ……ありゃ、まただ、目ぇ離してねえのに、消えやがる」
彼女の驚きに、私の後ろのほむらが居なくなったことを知る。
といっても、私は後ろを見ない。
別に彼女の能力を知ってるわけじゃない。私に余裕がないだけだ。
正面にふらりと構える杏子から、目を離せないのだ。
私の視界の隅からまどかが消え、マミさんも消え、少しずつ壊れる結界の中には私と、杏子だけが残されていた。
杏子の闘志は衰えず、むしろ邪魔者が居なくなったとばかりに、槍を手の中で回すなどして、上機嫌でもあるようだった。
いくらか手遊びに興じた後、それまでの油断丸出しな動きを裏切るかのように。
杏子「っシ!」
さやか「ぐう!」
槍は素早く突き出された。
私が相手の足捌きを読めずに、剣で軌道を逸らせずにいたならば、間違いなく腹には穴が空いてたはずだ。
十分な間合いを一気に詰めて放たれる槍のリーチには何度でも驚かされるし、これから始まる戦いでも驚かされるち違いない。
なんといっても魔法の槍だ。その有効範囲は倍以上と見積もっても損はあるまい。
さやか(なら、少しでも)
こちらもリーチを稼がなくてはならない。
同時に、相手の繰り出す槍の威力に負けないほどの武器でなくてはならない。
さやか「“アンデルセン”!」
杏子「うぉお!?」
作り方は簡単だ。
二本のサーベルを、掌で包み込むようにして持つだけ。これで一本の諸刃の大剣となる。
柄を両手で握り締めれば、内側から力が沸いてくる。
人が握れば腕が折れてしまいそうな重量感も、不思議なことに微塵も感じられない。
さやか「“フェルマータ”ァ!」
杏子「!」
剣に見惚れた相手に、容赦なく大剣を振り下ろす。モーションは最少に、何よりも素早く、である。
切っ先へと流れ溢れる衝撃波が、剣以上の太さのエネルギーとなって杏子を襲った。
杏子「うっ、ぐぁ……!」
うめき声の割には随分とにやけた口元を見て、やはり恐ろしい相手なのだなと再確認する。
そして私も覚悟を決めた。
さやか「よし……全治三ヶ月くらいにはボコボコにしてやる!」
杏子「ッハ!上等だ!」
紅い髪に再び、より大きな赤い炎が灯る。
/ちり紙/∀)-з ココマデネ
乙です。
杏子は何があったんだ?
乙
杏子「あらよっと」
槍で地面を突けば、そこからすぐに動きを変える。
まるで万能な脚が一本、杏子に備わっているのではないか。そう思わせるほど鮮やかに、槍の一発で杏子は浮いた。
そして次の瞬間に、槍が6つの節に解れ、それらがまるで無造作に杏子の周囲を取り巻いた。
杏子「こいつでリーチを伸ばしてザックリ、って甘ぇ戦術は、あんたにゃ効きそうもないからな!種はさっさとバラしてやるよ!」
さやか「ありがたいね!」
内心では“ああチクショー、面倒な”と思ってるんだけど、そうも言っちゃあいられない。
杏子「ほら!」
さやか「うわ!」
鞭のように振るわれた長い槍が、私の足元を抉り取った。
その長さと遠心力による威力は、通常の槍の2倍はあろう。
さやか(!)
杏子「へっ」
しかも大振りの後にできるはずの“武器の反動”は、槍をすぐに元の形状に戻すことによってキャンセルさせている。
都合よく、鞭のように撓って伸びる槍。厄介だ。
しかし。
さやか「うおおお!」
杏子「ほお、これ見ても来るか!」
距離はある、しかし杏子のもとへと走る。
私の武器が剣であり、伸びない以上は、近づかなくては勝利は無いのだ。
小細工は相手に通用しない。ここは勇気をもって、自分の剣術を信じて切り込むしかない。
杏子「間合いに入れさせっかよ!」
再び槍が分解され、多節棍となり襲い掛かる。
腰辺りを狙った、当てることを重視する横振り。跳躍では脚をやられ、中腰では頭が避けられない、絶妙な高さ。
さやか「その位置を信じてた!」
杏子「!」
私の膝は最大限に折れ曲がり、身体はほぼ寝かせた体制で、つま先だけで床を滑る。
勢いに任せた、強引なリンボーダンス。
横に凪がれた槍は、私の鼻の3センチ先を掠めて、風だけを残していった。
と同時に私の身体は、手も着かず力任せに起き上がる。
さやか(危なかったあああ!身体の柔軟性があと少しでも悪かったら!顔がまるっきり削げ落ちてたし!)
杏子(やべえ、いくら元の槍に戻せるっても、このままじゃギリ間に合わねえ!)
さやか(ガラ空き!さっきの攻撃を見て伸縮の時間も把握した!)
杏子(一発格闘で凌ぐか?いやあのバケモンみてえな大剣相手にか!?冗談言えよ)
さやか(決め手はわからない、相手はいくらでも対応してくる)
杏子(やるっきゃねえ、あらゆる方法で後手から返り咲いてやる!)
さやか(ここからは私が王手をかけ続ける詰め将棋!杏子を防御だけに回らせて、ゴリ押しする!)
杏子(さあ来やがれ!攻め手は急ぐあまりにボロを出す!その小さな穴を抉じ開けるのみさ!)
距離にして槍2本分の間合い。私の大剣は切っ先を地面すれすれに構えられ、杏子の槍は未だ多節棍状態だ。
杏子(へっ)
が、杏子は末端の柄をこちらに向けた。
元の槍へと伸縮する多節棍。私の背後から迫り来る、“元の形状へ戻ろうとする”槍先。
さやか(後ろでしょ、知ってる)
が、やっと持ち上げられた私の大剣の切っ先は、既に後ろに振り被られている。
翻る私の身体、風を受けて膨らむ白いマント。
持ち上げた剣の広い刀身により、迫り来る槍先は弾かれた。
杏子(そう来るんだろ?)
ところが、私の無茶な構え方による僅かなモーションの隙を予想していたか、杏子の蹴りは既に目の前に来ていた。
剣を構えない右サイドから来る蹴りは脇腹か、頭を狙っている。杏子は最初から槍を捨てるつもりだったのだ。
さやか(ま、私もなんだけどね)
杏子(!)
杏子に向けた右肩は、大剣を振りかぶったモーションのため。
私の身体は白いマントで覆い隠され、杏子からは私の腕の動きが完全には把握できないだろう。
だから私は、大剣が戻ってくる槍を弾いた直後には、既に剣から手を離していた。
――ガコ
さやか「うぐっ!」
杏子「ぎっ……!」
マントから“ぼこん”と伸びた私の拳が、杏子の繰り出した脚の脛を迎え撃つ。
私の手は軋むような音を上げ、杏子の脛からは薄い血が出た。
[モニ]* )~♪ ココマデネ
あれ、これ何のSSだっけ
(*・∀[覇闘流(バトる)少女 SAYAKA ~遥かなる旅路へ の章~]
なんかちゃんと戦闘してるSSって久しぶりじゃないか
喧嘩商売みてーだな
さやかわいい! かつさやかっこいい!
魔法少女の力は強い。
脚と拳の衝突だけでも、身体は数メートル吹き飛んだ。
力が強くとも体は軽い。上手く魔法少女の力を発揮するには、足場が必要だ。
これからの課題になるだろう。
杏子「――てンめぇ~……」
さやか「ふーッ……」
ここから生き残れたら、の話だが。
いつの間にやら結界は消滅し、外はすっかり闇に落ちていた。
工場の外。人気はそう多くはないだろうが、少ないとも言いがたい。
ぱっと見た限りではまだ寂れきっている工場でもなかったので、人は居るのだろう。
続けて戦うには、あまりにも目立つ場所だった。
杏子「……さやか、あたしは腹が減った……見逃してやろう」
さやか「へ、そりゃどうも、都合が良い話で」
杏子「“これ”に誓ってやる!次からは不意打ちもしねえ、安心して飯を食わせてやるし、眠らせてやる」
言って、杏子は首に下げたアクセサリーを私に向けて突き出した。
それに誓うことがどれほどの重みを持つのか、私は知らない。私がイジワルならこれほど良い交渉も無い。
さやか「……良」
杏子「ただし2つ!聞かせてもらおーか」
“良いわよ”って言おうとしたのに遮られた。向こうの決定は強制だったようです。
杏子「オマエ、煤子さんを知ってるな!」
さやか「……」
剣は新たに出さない。
ただマントだけは身体を覆わせて、いつでも中で反撃の準備を整えられるように隠した。
さやか「……あんたが聞きたい事はまず1つがそれ……だけどそれはいくつもの意味を持っている……“何故煤子さんを知っている”とかね」
杏子「疑問は尽きないけどな……しかしあの足捌き、煤子さん以外にやられたことはないけど、やられてすぐに思い出した……教わったな?」
さやか「こっちのセリフ……何故煤子さんがあんたなんかを?」
杏子「私“なんか”を?くくく、バカ言うなよなぁ、あたしだからこそ……」
「おーい、うるさいぞ……誰かいるのか……」
さやか「!」
男性の声が響いてきた。
付近の住民か、それとも工場の人か。どちらかが私たちの騒ぎを聞きつけてきたのだ。
杏子「チッ……ひとまずはお預けだ、あんた、新米だろ?次やる時はもっと力をつけてきなよ、そっちの方が都合が良い」
さやか「は?自分勝手な、大体あんなのただの殺し合い……」
杏子「殺し合いくらいでなきゃ“燃えない”のさ」
ふわりと跳躍し、杏子の身体が工場の壁へ張り付く。
杏子「じゃあな!煤子さんの弟子ってんなら問題ねえ、次会う時を楽しみにしてやる……で、もう一つは今度、聞かせてもらうが……」
杏子「……あのロンゲ、ほむら……あいつ、煤子さんの妹か?」
呟くそうに言い残すと、お騒がせシスターは壁を蹴りながら去っていった。
金属ダクトがひしゃげて壊れ、破片が音を立ててコンクリに落ちる。
最後までうるさい、騒がしい奴だった。
さやか(煤子さんを知っている……一体……)
考える前に、私もさっさと工場から逃げ出した。
雷オヤジだったら怖いからね。
(薄力粉)∀)フゥ
ああ肉まんがサクサクになってしまう
乙乙
もっとあんさやのイチャイチャ見たかったよ
乙
これ師匠ポジ軒並み奪われたマミさん涙目じゃね?
師・・・匠・・・?
煤子のおかげでドラマCDと違って杏子はマミの弟子でも後輩じゃないかもな……
最初から対立していた可能性が微レ存
制服姿のマミさんの後ろ姿を見つけると、私は大きく手を振りながら彼女達に近づいた。
マミさんの肩を借りたほむらと、心配そうに同じく身体を支えていたまどか。
ほむらが負ったダメージは思いのほか大きいらしく、魔力での治療も渋っているのか、片足を引きずり気味に歩いていた。
ほむらは淡白だったけれど、二人は工場に残った私を心配してくれたようで、再開の頭に事の顛末について根掘り葉掘り聞かれたものだ。
私は杏子との激しいバトル模様についてはかなり省き、とりあえず、彼女自身がもう不意打ちはしないという宣言を出した旨を伝えた。
煤子さんについては……長くなるので、あえて省いた。
これから、ちょこちょこと話していく他ないんだろうけど……。
マミ「……佐倉さんとはね」
色々あった今日の魔女退治。
ほむらを支えながら歩く静かな帰路の途中、夜道に落ちて溶けそうな声でマミさんが切り出した。
マミ「私は、以前に……魔法少女の仲間として、協力してたことがあったのよ」
さやか「あいつと……」
一体どんな経緯になればマミさんと杏子が手を組むのか、私には全く想像ができない。
佐倉さんと出会ったのは、1年前……。
私も魔法少女として、やっと力を付け始めた頃だったわ。
その時にはもう、滅多なことでは魔女に苦戦しなくなった……今思えばその気の緩みもあったのかもしれないわ。
見滝原には大きな教会がったの。とても大きくて、廃れてしまったのが不思議なくらいの、立派な教会。
私はその日、魔女退治のためのパトロールをしていて、偶然教会の近くを通ったの。
この教会はどうして寂れたんだろうなーって、軽い気持ちで眺めていたら、丁度その教会から使い魔の魔力を感じたの。
もちろん私は教会へ向かって行ったわ……廃教会ってことは知っていたから、躊躇無くステンドグラスの窓を蹴破ってね。
けど中にいたのは、使い魔ではなく魔女。
隙だらけの格好で突入した私は、うねるような魔女の身体に捕まって、何もできないまま身動きが取れなくなったの。
今の私からしてみたら、笑っちゃうようなミスだったわ。いえ、笑えないわね。
とにかくあの頃の私は、手に入れた力に自身を持って、舞い上がっていたのよ。
魔女に捕まった私は、徐々に身体が締め付けられて、頭に血もめぐらなくなって……もうだめかと諦めた……そんな時だった。
佐倉さんが正面の扉を開け放って、現れたのよ。
そして髪留めに赤い炎を灯した彼女は……私に一切の傷をつけることもなく、二十秒もかからず魔女の身体を八つ裂きにして、倒してしまった。
私は本当に嬉しかった。自分と同じ魔法少女がいて、私を助けてくれた。
今までずっと一人で戦ってきた私は、そのときになって初めて……孤独を癒してくれる相手を見つけたの。
私は一人じゃない。誰かが私を助けてくれる。
一緒に戦ってくれる、って。
そう考えただけで私は救われた。魔女から助けてもらうよりも、それ以上に救われたと思っている。
私が協力関係を求めると、佐倉さんは「おう、いいぜ」って、それだけ言って笑っていた。
それ以来、私と佐倉さん、力を合わせて魔女を倒す……関係が始まると、思っていたんだけど……。
(布団) ミィ
乙乙
そういや、前作のタイトルなんだっけ
乙
乙
逆パターンは初めて見た
>ステンドグラスの窓を蹴破って
下手したら杏子ちゃんの逆鱗に触れかねないよ…
っていうか教会の中に使い魔や魔女がいるのはいいけど結界の存在丸忘れしてないか
確かに佐倉さんは協力してくれたわ。
魔女との戦いでは我先にと飛び込んでいくし、私に拘束魔法の有効的な使い方をアドバイスしてくれたりね。
一瞬でリボンの網を展開して、離れた場所にもマスケット銃を生み出す。
この領域に至るまで、いろいろな特訓をしたり、魔女との実戦を重ねてきたわ。
佐倉さんのおかげで、自分の魔法に磨きがかかった。自信がついたの。
ものすごく頼りになる子だなって、ずっと思ってたわ。
けれど私は気付いてしまった。
佐倉さんは、私と一緒に戦いたいわけじゃない。強い相手と戦いたいだけなの。
それに気付いたのは、私がリボンの魔法をほぼ自由自在に操れるようになった頃……。
ある日の魔女退治の帰りに、道の先を歩く佐倉さんがぽつりと呟いたのよ。
“なあマミ、ちょっと全力を出して、私と戦ってみないか”って。
それまでもそういう組み手が好きな子だったから、私はほんの少し気を引き締めるくらいでそれに臨んだの。
佐倉さんと戦うのかあ、緊張するなあ、って。
……けれど。
いえ、宣言通りだった。
佐倉さんは一切の手加減をせず、本当の本当、魔女と戦うように……いいえ、魔女と戦う以上の本気で、私を“倒しに”きたの。
夕時の河川敷は他に人も物もなかった。けれど私は恐ろしかった。
久しぶりの恐怖だった。いつもなら一般人を死なせたくない、周りを巻き込みたくないって戦っていた私が、自分自身の身を案じて、逃げ回るなんてね。
リボンも銃も、何も効かなかった。今まで培ってきたはずの技術は全て佐倉さんの槍に切り裂かれて、消え去ってしまう。
体中にいくつもの深い傷を負ったし、戦っている最中に吐いたり、泣いたり……情けなかった。
そんな私の姿を見て、佐倉さんの興は冷めてしまったのね。
今まで私と一緒にやってきたことなんて全て忘れたように、私からは一切の興味をなくして、見滝原を出て行ってしまったのよ。
それが、私と佐倉さんとの関係……。
マミさんェ……
煤子さんどんな教育したんですか
さやか「……」
まどか「マミさんにそんなことが……」
ほむら「……」
マミ「私、思えば佐倉さんのことを何も知らなかった」
マミ「彼女が普段どうしているのか、何を考えているのか……聞くタイミングを作れなかったといえばそれまでだけど」
マミ「……ごめんなさい、私は佐倉さんとは知り合いだけど……何も知らないんだ」
儚げな顔をこちらに向けて、マミさんは寂しそうに笑った。
ほむら「杏子が異常なだけよ……それを理解できるのは、同じ異常者だけ」
マミ「……」
憮然と歩くほむらが零した言葉は、きっとマミさんへのフォローなのだろう。
さやか「……じゃ、私こっちだから、またね」
まどか「うん、気をつけてね、さやかちゃん」
さやか「へへ、また明日ね、マミさんも、ほむらも」
マミ「そうね、明日学校でね」
ほむら「ええ……」
それぞれが別々の場所に靴先を向けた。
ほむらだけはまどかと一緒で、彼女を家まで送り届けるらしい。
さやか『……あのさ』
ほむら「!」
さやか『ちょっと、やっぱ今日のことで聞きたいことがあるから……ほむらだけ、後でここに来てくれないかな』
ほむら『……ええ、わかったわ』
黒髪を闇の中にはためかせながら、ほむらはまどかと去っていった。
彼女はまどかを送り届けて、その後戻ってくる。
さやか(……ほむらとは、良く話しておかないと、ダメなのかも)
あ、ここまで(ポヨ読んでた)
乙です。
ポヨって丸猫のやつ?
乙
杏子初登場時は「王蛇ポジ、キタ!」とか言われてたが、コイツは正にそうだな
街灯の明かりだけが灯る、見滝原の中では小さめな公園のベンチで座っていた。
腿を擦り、スカートの丈を伸ばす。夜になると、やっぱり寒気がする季節だ。魔法少女になってもそれは変わらないらしい。
そう考えてみると、この時期でもほむらの黒ストは正しい選択のようにも思えた。
……とも思ったけど、やっぱりさすがに暑過ぎるなぁ、あれは。
ほむら「今日のことで話って、一体何?」
さやか「お」
後ろからの声に振り向けば、そこにはほむらがいた。
その姿を認めると同時に、何かが私の顔に向かって投げ込まれる。
さやか「うおわっ!?って熱っ!?」
咄嗟に掴んだそれは、缶のあったか~いミルクティーだった。
さやか「……おおー」
ほむら「何も飲んでないし食べてないでしょう、買ってきてあげたわ」
さやか「……えへへ、ありがとう」
意外なこともするもんだ。
本質的にドライで冷たいタチの方が勝ってる子だと思ってたけど、感情が読めないだけで、結構気も利くらしい。
缶紅茶を腿に挟み、暖かさを堪能する。
さやか「――……」
ほむら「ん?」
私の隣に座ろうとするほむらの姿を見上げ、私は思わず絶句してしまった。
こんなシチュエーション、こんな優しさ、こんな……ほむらの姿が、
あの日々とまるでそっくりだったから。
ほむら「それで、今日の話って?」
さやか「あ、う、うん」
ベンチをずれて、ほむらの分のスペースを空ける。
並んで座ると、本当に昔を思い出すようだ。けど今はそれを振り払って、話すべきことを喉の奥でまとめる。
さやか「……前にさ、私、ほむらに変なことを訊いたことがあったよね」
ほむら「ああ……ススコっていう人の話かしら」
さやか「よく覚えてるね」
ほむら「初めてのことだったから」
そりゃあなかなか、誰かの妹ですか?とか訊かれることなんてないだろうけどさ。
さやか「……本当にほむらは、煤子さんのことを知らないの?」
ほむら「知らないわ。……今日の事と関係があるのかしら、その、ススコという人は」
さやか「うん、かなりね……ある、と思う」
少なくとも私の拳に受けた痛みは、間違いなく煤子さんとのつながりがあるのだ。
さやか「私は昔……もう4、5年近く前になるんだ……煤子さんと出会ってからね」
ほむら「……」
さやか「煤子さんは私に色々なことを教えてくれた、先生のようなお姉さんだったんだ」
彡 *-∀-ミ ココマデ
乙、とうとうほむらと絡んできたな
乙
さやか「煤子さんは私にお願いをしたんだ……あの時、煤子さんは私の事を知っていたけど、私は知らないのに」
さやか「まるで私のことを、自分の子供のように……自分の分身であるかのように、“こう生きて欲しい”って……」
さやか「それは多分、病気を患っていた煤子さんが私に託した、煤子さんが受け継いで欲しかった生き方なんだと思う」
色々なことを教えてくれた煤子さん。
生きる上での大切なことを、その大事な大事な輝く部分だけを丁寧に選んで、それらを綺麗に並べた宝石箱を、私にプレゼントしてくれたのだ。
ほむら「……煤子さん、か……さやかの過去に、そんな人がいたとは思わなかったわ」
ほむらは自分の分のピルクル(!)を飲みながら、どこか合点がいったのか、話の折に触れてはしきりに頷いていた。
さやか「うん、でね?その煤子さんとほむらがさぁ、すごいそっくりなんだよ」
ほむら「……そんなに?」
さやか「うん……多分……」
じっとほむらの靴から顔までを見る。
……んー、こんな感じだったっけ。こんな感じだったような。
もうちょっと煤子さんのが格好良くて、大人っぽかったような……。
手元のピルクルとストローの存在が、私のイマジネーションに巨大な砂嵐を発生させている……。
ほむら「私はもちろん煤子さんではないし、妹もいなければ姉だっていないわよ」
さやか「うん……ていうか、居たとしても東京だしねぇ」
ほむら「両親がここに来てたっていう話も聞いていないわね」
さやか「他人の空似か……」
ほむら「……」
神妙な沈黙が続く。
ほむら「……全く根拠もないし、仮定の話でもないけど……他人の空似では、ないかもしれないわ」
さやか「え」
心当たりが?と聞きそうになったが、心当たりはなさそうだ。
では何故か。
ほむら「さやか、貴女はとても……信頼できる、まだ短い間だけど、それがわかったわ」
さやか「な、何をー?急に……」
真剣な眼差しに思わずたじろぐ。
ほむら「煤子さんとは何者か……それに心当たりがあるといえば、ある……」
さやか「!」
ほむら「早まらないで、それを話すためには……私が持っているいくつかの秘密を話す必要があるの」
さやか「秘密って……」
それは普段からほむらが私に隠し続けていることと関係があることなのだろう。
頭の中で推理しようと考えをめぐらせていたところに……。
QB「秘密か、それは僕にとっても気になるね」
ほむら「!」
さやか「キュゥべえ」
公園の闇の中からキュゥべえが歩いてきた。
不自然なほどに真っ白な身体は、野良ネコと見間違うこともない。
ほむら「……何をしに来たのかしら」
さやか(げー)
QB「僕が魔法少女のもとを訪れちゃあ悪いのかい?いいじゃないか、今の今まで、君を気遣って離れていたんだから」
ほむらの殺気が目に見えるようだ。が、キュゥべえはそんな怒りも知らん振りで、悠然とこちらのベンチの上に座った。
QB「いやぁ、それにしても久しぶりに聞いたね、その煤子という名前」
ほむら「!」
さやか「え!?」
QB「前に杏子がよくその名前を出していたよ、まさかさやかまで会っていたとは思わなかったけどね」
ほむら「……杏子は何故あんなに好戦的なのか、あなたは知っているんじゃないの」
QB「君たちくらいの女の子の感情っていうのは難しいからね、僕では想像の域を離れないよ」
ほむら「……」
私達女子中学生のみんなの杏子のような性格だと思わないで欲しい、と言いたかったが、あえて言いません。
QB「僕としては煤子という人物について、あまり気にはならないんだけど……ほむらの秘密というのには、少し興味があるね」
ほむら「……」
(こたつ)∀)ホクホク・・・
ススコってなんかやらしいよね
おおうもう終わりか
早く続きが読みたい
(こたつ)`;ω;´)フボボモワッ
乙
続きがきになるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
それにしても自分の成れの果てを知るのは結構悲しいよな
しかし煤子さんは杏子にもちょっかい出してたのにマミだけ放置なのは意味があるのかね
単なる信頼度の順か、今から教えても意味ないと思ったのか、もっと他の理由かな
単純に時間が足りなかった可能性…
下手に馴れ合うと依存しちゃって別れが大変だから、とか?
実は、煤子さんは二人いた!
とかってのはどうよ。
というか、そういう風に見えなくも無かった気がする。
つまり、さやかに接触した煤子さんと、杏子に接触した煤子さんが別々に存在したとか。
さやかと杏子が正反対なのも別々だからってか。
追いついたらこんな時間に…
あと二時間しか寝れねないよ、さやかちゃん…
熱血赤と冷静青だしね
冷静…?
ほむら「さやかにもまだ言えない事を、あなたに教えるわけがないでしょう」
憮然と白猫を見下ろし、ほむらはベンチから立ち上がった。
QB「残念だ、ほむらのことはあまりよく知らないから、勉強しようと思ったんだけどな」
ほむら「私との関係を築きたいのであれば、まずは杏子が暴走しないように押さえつけておくことね」
QB「それができたらどれだけ風見野は平穏になるだろうね」
なるほど、キュゥべえも杏子を止めようと努力したことはあるらしい……。
さやか「なんか、ごめんね、よくわからない話で呼び戻しちゃって」
ほむら「構わないわ、私こそ……話せないことが多くて、ごめんなさい」
さやか「ううん、ぜーんぜん気にしてない!まぁ、今日は色々とあったけどさ、明日からも頑張ってこう!」
ほむら「ええ……」
何か言いたげに視線を落とし、口を何音か開閉した。
ほむら「……私があなたに秘密を打ち明けるには、もうちょっと時間が必要だと思ったの」
さやか「時間?」
ほむら「ええ……時間を頂戴、なるべく早く、答えを出すから」
さやか「話すべきか、べきではないか」
彼女は無言で頭を垂れる。
ほむら「じゃあね、さやか」
さやか「うん、じゃあ、また!」
ほむら「……ふふっ」
さやか「!」
ほむら「なんでもない、また」
彼女が最後に残したのは、いつかのように可憐な微笑みだった。
(毛布)・∀)書いてる途中で巨大な矛盾を発見したのでココマデ
乙
乙です。
矛盾?一体なんすか?
(毛布)∀)まどかとマミさんが一緒にカエッテタ
乙
一緒に帰るのが矛盾なら、この後まどかとマミの会話が入る予定だったのかな?
確かにまどかはほむらが送ったからな
† 8月13日
雨が降らない日は続く。
蒼天の下で、煤子さんの後姿を見つけると、私は走り出した。
さやか「煤子さーん!」
煤子「きゃっ」
後ろから抱きつくと、煤子さんはふらりとよろめいた。
煤子「危ないじゃないの」
さやか「へへへ」
煤子「こんなに汗かいて、赤くなるわよ」
さやか「えー?そうなの?」
煤子「後ろ向きなさい、拭いてあげるから」
さやか「はーい」
近くの水飲み場で濡らした白いタオルで、よく身体を拭いてもらったものだ。
煤子「……」
ひんやりしたタオルが気持ちよかった私は、そのときの煤子さんの、少し曇った表情に気付けなかった。
いや、気付いてはいたけれど、もともとミステリアスな部分を多くもった煤子さんだ。大して気にも留めていなかったんだ。
背中に当たるタオルが冷たい。
煤子「ねえ、さやか」
さやか「うーん?」
煤子「一度だけその手が届くなら」
さやか「え?」
煤子「一度だけその手が届くなら、って思うことは、多いわよね」
さやか「えー……っと……?」
煤子さんの喋ることは時々、よくわからない。
遠まわしで、抽象的な事が多いのだ。
煤子「短距離走で、あとほんの0.1秒速ければ……とか」
さやか「ああ、うん!あるよ!この前7秒切れるかなって思ったのに……」
煤子「そう、その気持ちよ……もちろん、今のさやかなら大抵のことは練習でなんとかなると思う」
さやか「うん!そんな気がするんだ」
煤子さんに出会ってから、頑張る楽しみを覚えた。そう自覚したのは、随分早かったのだ。
勉強もやるようになったし……。
煤子「けど、あと一歩届きたいと思う気持ちもある……それも、いつだっていくらでもあるわ」
さやか「うん?……うん、そうだね」
煤子「――全ての力をこの時のために注ぎたい」
さやか「っつ!?」
背中にジャリっとする痛みが走った。
煤子「忘れないで」
さやか「いたたた……な、なんですか今の!」
煤子「ふふ、ごめんなさい、強く擦っちゃったかしら」
† それは8月13日の出来事だった
終わりかな?乙
(゚д゚ )乙 これは乙じゃなくてポニーテールなんたらかんたら
乙
煤子さんさやかに何か仕込んでるのか?
音的に砂かな
乙
ほむら「おはよう、巴さん」
マミ「おはよう、暁美さん」
苗字で呼び合うことを“よそよそしい”と勝手に決め付けないでいただきたい!
これでも進展したんです!私は頑張ったのです!
まどか「マミさん、おはようございます」
さやか「おはようございます!」
マミ「うん、おはよう、二人とも」
通学路で偶然出会った巴さんとの挨拶である。といっても、校門はすぐ目の前。
すぐにお別れとなるだろう。周りの目や耳もあるので、込み入った話はできない。
まぁ、メールで昨日について振り返ってもみたので、急いで話すこともないんだけど。
それでもこうして朝、みんなが同じ場所にいるということに安心感を得ることはできた。
杏子に闇討ちされてたらどうしよう、と昨日の寝る前に思わなかったこともない。1分経たずに熟睡したけどね。
まどか「さやかちゃん、ほむらちゃん、改めて、昨日は本当にありがとう!マミさんもありがとうございました!」
ほむら「私としてはまどかを一切に巻き込みたくは無いけど……まどかを正しく納得させるためには、こうして魔女退治につき合わせるのも、ひとつの手なのかもしれないわ」
マミ「あら、暁美さんはまだ反対なのね?」
ほむら「これだけは、譲れないから……」
柄にも無くみんなを最後尾から見つめて、約束の時間にやってこなかった仁美のことを想う。
今日はどうしたんだろう。
さやか「んー」
教室にも仁美の姿はない。
先生が来るまであと2分。普段なら絶対に有り得ないことなのに、どうしたんだろう。
まどか「あ、仁美ちゃん教室にもいない……」
さやか「休みなのかな?メールくらいくれてもいいのに」
マメな性格の仁美だ。抜けてるような見た目に反して全く隙は無い。携帯を忘れた、充電が切れているなんてことは有り得ない。
風邪を引いたか、季節を大いに外れたインフルエンザにでもかかったか……。
さやか「……」
まさか魔女なんてことはあるまい。
ほむら「あ」
さやか「え?」
前の席に座るほむらが、焦りを前面に出した顔で仁美の席を振り向いた。
さやか「え!?」
なにその反応。
顔がなんか“あ、仁美……!”って言ってそうだったけど、今のは何なのよ、ちょっと。
ほむら『……しまった』
テレパシーで深刻そうな切り出し方をされ、私の身体が硬直する。
まどか『え……どうしたの?』
さやか『仁美がどうかしたの!?』
ほむら『いえ……仁美は大丈夫だと思うけど……なんでもないわ、気にしないで』
さやか『ちょッ……いや無理でしょ今のその反応は!さすがに!仁美に何か心当たりでもあるの!?』
とテレパシーでまくし立てたところで、ガラス戸が開き先生はやってきた。
和子「えー、志筑さんは体調不良により、午前中はお休みだそうです」
さやか「ふはぁ、なんだー、良かった……」
先生から告げられたなんとも無いような報告を受けて、思わずため息が漏れる。
ほむら「はぁ……」
まどか「良かった……」
それはまどかやほむらも同じようだった。
さやか『……ちょっとほむら!何なのさ!さっきの思わせぶりなリアクションは!』
ほむら『杞憂だったからいいじゃない』
まどか『わ、私も……昨日よりドキドキしたかも……』
さやか『もー……』
でもまぁ、仁美が無事で何よりだ。
杏子のこともまだ気を許さないってのに、仁美が大変なことになっただなんて話が飛び込んできたらもう、その瞬間に胃に穴が開いちゃうよ。
さやか(魔女退治の前に、恭介と……仁美のお見舞い、帰りにしてこよう)
[せいろ] ))) ~♪ ココマデ
乙
乙。ほむらとのやり取りが面白い
乙!
「あ」じゃねーよww
いつもと大いに違う展開ですっかり頭から抜けてたのか?ww
仁美ちゃん…
俺も完璧に忘れてたわ…
(・ω・`)乙 これは乙じゃなくてポニーテールなんだからね!
お昼には4人でお弁当を食べた。
偏り気味なほむらの弁当の中にアスパラガスやブロッコリーを突っ込んでやったり。
マミさんの卵焼きを分けてもらったり。
ちょっと前のピリピリしすぎた空気が嘘のようだ。
まどか「それでその時、ユウカちゃんたら“返してよー”って」
マミ「あらあら、ふふ」
さやか「仁美なんて“パース”ってノリノリだったんですよぉー」
ほむら「……ふふ」
魔法少女3人とその候補が1人。
けど女子中学生が集まって、普通の話をしないなんて、そんなことは有り得ない。
むしろ魔法少女関連の話が一切出てこないくらい、このお昼は和やかなものだった。
QB「きゅ……」
ほむら「お父さんの手料理をこんな奴になんて……そんな必要はないわ」
まどか「ひ、一口だけだから……」
まぁ、極々一部では、軋轢もあるようだけど。
さすがにお義父さん表記ではないか
ささいな事など気にせず、のほほんと気持ちを落ち着けてから、放課後を迎えたわけです。
今まで遅刻欠席なんて一度もしなかった仁美が、私たちに連絡もなしに休んだ。
先生はなんでもないような風に言ってはいたけど、何かあるに違いない。何かあるなら、見舞いにいかねば。
そして恭介だ。病院での恭介は、もう信じられないくらいに落ち込んでいた。
私が行ってどうにかなるものではないだろうけど、慰めてやりたい。
この私が顔を出せば、生きる希望が溢れるように沸いてくるに違いない。そう信じよう。
さあ、いざ二人のもとへ。
「美樹さん」
さやか「お?」
「清掃係でしょ!今日のゴミ捨て忘れないでね!」
さやか「おおおッ」
そうだった、すっかり忘れていた、今日はゴミ出しの日だ。
うっかりすっぽかして帰るところだったぜ。
「あと保健係の人は話があるからって、保健室に集まるようにって、さっき言ってたよ」
さやか「なんだって、うわー、忙しいなぁ」
「ふふ、帰ろうと思ってたのに、キツいよねー」
さやか「……ま!好きでやってるから全然いいんだけどねー!」
ほむら(……上条 恭介か)
(炬燵)・∀)ココマデ
乙
乙です
(・ω・`)乙 これは乙じゃなくてポニーテールなんだからね!
お菓子の魔女が出現した病院の中。
彼女は再び、ここへとやってきた。
ほむら「魔女との戦い以降、ここに寄るなんてね」
清潔な広い廊下を歩く。
見慣れない制服姿にも、この階によく訪れる女子中学生の姿を思い出してか、看護師は何も聞かずに挨拶した。
毅然とした会釈で返し、目的の名前の前で立ち止まる。
ほむら「上条……」
それは“ここでは”まだ一度も顔を合わせていないクラスメイト。
そして、もはや奇跡も魔法も望めないであろう、悲劇のままの天才バイオリニスト。
さやかは何故、彼の腕を治さなかったのか?
彼女の願いが、治療から強さに変わった理由とは?
上条恭介、彼の存在に、さやかの希望と絶望が垣間見えるかもしれない。
ほむらは扉を軽くノックした。
「どうぞ」
乙
このさやかちゃんは心配ないけど、他の女と上条が接触するさやかちゃんがヒステリーを起こすからなぁ……
恭ほむ好きの俺には辛い事だけど…… ボソ
乙
>>528
それは別のところの話だろ
どうせあのスレで感化されたんだろうが恭ほむとかもここでいう話じゃない
恭ほむとかほむタツとかはカプ名見ただけでアレルギー反応起こす奴居るからあんま話題に出してはいけない(戒め)
公式では関わり皆無なんだし他スレの設定はあんま持ち出して欲しくはないな
開くと、意外だったか、ベッドの上の上条恭介は閉口した。
ほむらは静かに戸を閉めると、ベッドから1つ分離れた椅子に腰を落として足を組んだ。
恭介「君は、えっと」
ほむら「はじめまして、上条君」
恭介「ああ、やっぱり会ったことはないよね、でも同じ学年かな」
ほむら「ええ、つい先週に転校してきた……」
恭介「暁美ほむらさん?」
ほむら「え、ええ」
言い当てられたことには、多少なれ動揺した。
恭介「やっぱりそうか、さやかから話には聞いていたんだ、はじめまして」
ほむら「そう、やっぱり聞いてたのね」
恭介「もちろん、美人で、煤子さんに似た人が転校してきたって……あ、ごめんね、煤子さんっていうのは忘れて」
ほむら「!」
図らずも聞き出せた重要な情報、食いつかないわけにはいかない。
が、今はまだタイミングが悪いだろうと踏んで、じっと堪える。
ほむら「具合は、」
月並みな言葉を弾みで出してから後悔した。
具合など解りきっているというのに。
恭介「……」
ほむら「ごめんなさい、辛いはずなのに」
恭介「ううん、良いんだ、入院生活ももう、慣れたからね」
わかりきった嘘だった。
ほむらは知っているのだ。彼がどれほど、自分の動かない左腕を呪ってきたのか。
そして入院中の寂しさもよくわかる。
魔法少女と出会う前の入院中のあの日々は、遥か昔のような記憶となって埋もれてしまっているが、孤独は辛い。
恭介「さやかから、場所を聞いたのかい?」
ほむら「ええ……勝手に来てしまったのだけど」
恭介「気にしてないよ、いつも暇だからね……来てくれてうれしいよ、ありがとう」
微笑む彼の顔を見て、少し胸が高鳴った気がした。
美男子。さやかも仁美も惚れるわけだ。とはいえ、恋愛に横道逸れる予定は彼女にはない。
後ろ髪を一本も引かれず、ついに切り出すことにした。
ほむら「……ところでさっき、“煤子さん”と言ってたけど……」
恭介「ああ、煤子さんね、僕もよくわからないんだ」
ほむら「どういうこと?」
恭介「僕は会ったことがないからね、さやかが昔出合った、先生のような上級生の話なんだけど……」
それから彼の口から出る言葉は、昨日さやかが話した事とほぼ同じだった。
(ゴミ袋))) ガサガサ
乙
夜のうちにゴミ出すと近所のババアに絡まれるよ
乙
ゴミ袋から生命の神秘が・・・!
乙
乙。
周辺人物には面識なく、あくまでさやかのみに接触してた事実。ほむらの心当たりが確信へ一歩前進?
ほむら「……なるほど、今のさやかは、煤子さんの影響があってのものなのね」
それは、今までの煤子と出会っていないさやかを見てきた彼女だからこそわかる真実。
恭介「さやかは変わったよ……良い意味でね、まぁ、小学生のあの時期だし、変わるものだろうけどさ」
ほむら「……さやかは、昔はどんな子だったの?」
恭介「うん、昔か……やんちゃだったなぁ、すごく」
と右頬を掻きながら思い出す素振りを見せていたが、その動きは止まった。
恭介「はは、ごめん、今もやんちゃだね」
ほむら「ふふ」
恭介「……昔は男子にも負けないガキ大将って感じだったけど、煤子さんと出会ってからはガラリと変わったっていうか」
ほむら「……」
恭介「そうだね……賢い、っていうか」
ほむら「ふふ、賢い、ね」
恭介「うん、さやかは賢いよ」
普通に返された言葉にほむらは相槌を打つ。が、心の中では驚いていた。
そう、この世界でのさやかは、賢いのだ。抜けていて、ちょっとバカな美樹さやかではない。
賢く、どこか抜け目無い美樹さやか。それが当たり前なのだと。
恭介「僕は煤子さんという人に会ったことはない……何度か“会ってみたいな”と言ったんだけどね」
ほむら「そうなの?」
恭介「うん、何せ、夏休みが終わってそれ以降、さやかから学ぶことが多くなったからね……興味も沸くじゃない」
彼は左腕の憂鬱など忘れたかのように語り始める。
恭介「けれどさやかはもう会えない、と拒むばかりでね、本当らしいから仕方ないんだけどさ……ちょっと残念だった」
ほむら「……何故煤子さんとは、もう会えなくなったのかしら」
ほむらも、さやか自身の口から煤子の話は聞いていたが、別れの話についてはかなりぼかされていた。
ただ「居なくなった」としか聞いていなかったのだ。
恭介「さあ……“居なくなった”、それしか聞いていないよ」
ほむら「……居なくなった」
恭介「高学年になって、中学生になって……どんどん聞き難くなるよ、彼女、その話をすると暗い顔をするからね」
ほむら「……」
消えた煤子。さやかは、どうして居なくなったのかを知っている?
その別れとは、普通の別れではなかったのだろうか。
ほむらはその後、不自然さを繕うように上条恭介と会話などしながら、彼の気を損ねないように退室した。
彼は腕について落ち込んではいたものの、さやかの話には気を良くして応えてくれた。
ほむらはそこが不思議でならなかったが、特に気にすることはなかった。
(゚д゚ )乙 これは乙じゃなくてポニーテールなんたらかんたら
さやか「幻覚……」
仁美「ええ、気がついたら知らない所で倒れていて……」
もたついた放課後、すぐに仁美の家に向かった私は大目玉をくらった。
風邪でもインフルでもなく、夢遊病のような幻覚。
気がつけば知らない路上で倒れていたのだという。
その時に手を軽く捻った以外は怪我もなく、体調も問題はないらしいのだが……。
さやか(魔女に操られていたのかな)
魔女の口づけが頭に浮かぶ。
奴らは人を操り、自殺なり結界に引き込むなりさせる。
仁美は昨日倒した魔女に操られていたのかもしれない。
さやか「でも、何ともなくて良かったよ~」
仁美「御心配を……学校の方にそのまま“幻覚にかかった”なんて伝えてしまうと、ややこしくなりそうだったので」
さやか「あっはっは、確かにねー」
今日の授業のノートを仁美に渡して、今日のポイントや明日までの課題を口頭で伝える。
まぁそんなことしなくても仁美は多分大丈夫だろうけど、中にはいじわるな課題を出す先生もいるので、一通りは話した。
仁美「ありがとうございます、さやかさん」
さやか「良いって良いって!」
仁美「次のテストも頑張りましょうね」
さやか「うん、……まぁ人と比べるわけじゃないけど、次からはほむら参戦だからね……テスト、どうなることやら……」
仁美「ああ、ほむらさん……もう、クラスのレベルがどんどん高くなってしまいますわ」
さやか「望むところだけどね!」
不毛な点取り合戦はさておき。
さやか「じゃあとりあえず、そろそろ私は帰るよ」
仁美「ええ、ありがとうございました」
さやか「大丈夫だとは思うけど、まぁ気をつけて、ゆっくり寝てなよー?」
仁美「ふふ、わかりました……また」
さやか「うん、また!」
こうして私は仁美の家を出た。
さやか(……)
そして恭介の事を考えてしまう。
仕方がない。どうしようもない事なんだけど。
仁美の影のある表情が辛かった。
乙
さやか(恭介を励ます言葉は、もうないんだよね)
嫌な意味で言ってるわけではない。
単純に、彼に言うべき言葉は全て出し尽くしてしまったのだ。
あまり同じ事を言い過ぎるのもくどいし、恭介のプライドを傷つけてしまうかもしれない。
今のあいつは脆い。普段は横暴なほど率直に物を言う私としても、触れ難いタイミングなのだ。
しかし顔を出して安心させてやらなきゃならない。
幼馴染として、親友としてのつとめだ。
杏子「よう」
さやか「ゲッ!」
ぼーっと歩いていると、修道服の裾という現実離れした要素が目に入ったので、びっくりして正面を向いたらもっとびっくりした。
杏子「不意打ちはナシとは言ったけど、エンカウントしちまったらレディ・ファイトってやつでしょ?」
進行方向で仁王立ちしていたのは、なんと見たくも会いたくもないバトルシスター きょうこ ……で、あった。
さやか「ちょ、ちょっとちょっと、出来の悪い格ゲーじゃあないんだからさ、もうちょっと個人の都合も考えて……」
杏子「なんだよ、今じゃあ都合悪いのか?」
あ、都合聞いてくれるんだ。ぬるいな。
私はこれから上条恭介という幼馴染の病院へお見舞いに行く旨を話した。
杏子「くだらねー都合だ!断る!」
全然温くなかった。普通に断られた。
杏子「そんなにダチの見舞いをしたきゃあ、アタシがその市立病院送りにしてやるよ。案外そっちの方が近道かもしんないよ?」
さやか「なってたまるか!」
今、私は人気のない路地裏にやってきている。
そう、杏子に無理やり連れて来られたのだ。
無理やりといっても、片腕を引っ張ってとかそういう原始的な無理やりではない。
杏子が「ここで決闘だ!いくぜ!」とか白昼堂々と人ごみのなかで変身しようとしたので、私がそれを止めるために仕方なく来るほかなかったのだ。
なるほど、不意打ちはなくても準備を整えさせてはくれないということだ。
さやか『おーい、ほむらー……マミさーん……』
二人に助けを請うも、運悪くテレパシーの圏外らしい。
今の私は絶体絶命だった。
杏子「おいおい、何ぼさっとしてるのさ、観念して闘いな!」
さやか「あー……もう……」
変身してしまった戦闘狂シスター杏子。そうなっては私も自己防衛のために変身しなくてはならない。
で、魔法少女になってしまえばそれは既に準備完了の合図だ。
杏子「で?そのお友達の病状はどんなもんなのよ」
さやか「はぁ?……片腕と脚が動かなくなるくらいの重症だけど……」
杏子「ひゃはっ!じゃあ同じフロアに搬送されるように、頑張ってみるかぁ!」
さやか「!」
とんでもない不謹慎かつ舐めたセリフを吐きながら、杏子は地面を蹴って襲い掛かってきた。
恭介を軽く見られ、バカにされて、それでもまだ感情が揺らがないほど、私はクールではない。
乙
どうなるかねこれは
クールではないと言ってるが通常さやかなら見舞いをくだらない呼ばわりされたあたりで切れてるよね
この杏子ならソウルジェムの秘密を知っても動揺するどころろか喜びそうだな。
QB「心臓を貫かれようと、全身の血を抜かれようと、ソウルジェムが有る限り君たちは無敵だ」
杏子「つまり不死身の肉体ってワケか。願ってもねーな!」
とか言って。
乙
ん?杏子の普段着が修道服?
煤子さんの影響で願いさえ変わってるのか?
気になってしかたないな
さやか「ッしぃ!」
杏子「!」
お手本のような二段突き。
しかし杏子は身を横に翻して、易々とかわしてみせる。
杏子「やっと乗り気になったか!?いいねぇその感じ!もっと本気を出しなよ!」
頭に被った紅のヴェールが髪留めの小さな炎に燃やされ、灰になって消えてゆく。
さやか(なんだ、あの炎は)
私は一歩退き、剣を二刀流に構えた。
二つを重ねるようにして両手で包み込めば、大剣アンデルセンに変化する。
ただ、今この状況でそれは躊躇われた。
杏子「お?あのでっかいのは出さないの?」
さやか「これでいいの」
アンデルセンを振り下ろして発動する“フェルマータ”は、いわばマミさんが使う一撃必殺の技、“ティロフィナーレ”と同じような攻撃だ。
一撃は大きいが、重く機敏とは言いがたい。素早く動き回れるであろう杏子に通用するかといえば疑問だ。
それに、この場所は路地裏。
大して狭いわけではないにせよ、建造物にブチ当たる可能性は高い。
となれば威力も弱まるし、隙も出来るだろう。
二刀流から手数でこちらの勝負に持ち込むことが先決だ。
杏子「ま、そっちがそう来るってんなら構わないけど……ね!」
槍を多節棍に切り替え、切っ先が私に襲い掛かる。
さやか(いける!)
二刀流は得意ではない。
剣道をやっていた事とは関係はない。単に私が一刀流に向いていたのだ。
しかし今の状況下――多節棍の節や槍先が周囲から迫る攻撃――においては、圧倒的に二刀流での立ち振る舞いが有利だった。
邪魔な棒を弾く、いなす、槍は二本で受け止め流す、それらの防御の間に足をとめることはない。
先日は猛攻とも感じられた杏子の多節槍も、今はかなり楽だ。
杏子「くっ……!?」
さやか「狭い環境で、思いっきり武器を回せないっていうのも響いたかもね!」
左手のサーベルを杏子の腹に突きたてるが、咄嗟に防御として差し出された持ち手の節に防がれてしまった。
とはいえ、収穫はあった。
杏子「……にゃろう」
槍の柄はぱらりと砕けて、そこから連鎖するように槍全体が崩れ消え去った。
どうやら、槍の部位によって強度も違うらしい。
そして、その強度の差を突けば……一撃で槍を破壊することも可能だ。
さやか「へん、どうしたの杏子、昨日みたいな手ごわさを見せてみなよ」
杏子「ぁあ!?」
恭介をバカにされたこともある。この場で容赦なく襲い掛かり後頭部へ一撃を加えることも可能だったが、あえて私は挑発する。
負けられない。けどそれ以上に、あっさりとは勝ってやれない。
嫉妬から私の道着を埃まみれにした剣道部の先輩のように、私がじっくり稽古をつけてやらなくてはなるまい。
私が剣道部を退部せざるを得なくなった理由、サディスティックさやかちゃん稽古のハードさを思い知らせてやる!
このさやかはいいさやかだが
あんこちゃんあんあん!
サディスティックさやかちゃん!!!!!!
このさやかちゃんは宝くじが連続40回当たるくらい稀なレベル
あとシスター姿のあんこちゃんの参考画像をはよ
バンッ!!
バトルシスターきょうこってどこのオラクルシンクタンクだww
乙
杏子と煤子は破面習得してるけどさやかの破面化はまだかー
怒りに呼応するように、髪留めの火力が一段と強くなった。
杏子「超……ウゼェ!」
新たな槍を出現させた杏子が突進してくる。その素早さは、先ほどまでのものとは一味も二味も違うように感じた。
気迫は凄まじいが、私は慌てずに二本のサーベルを構える。
さやか(わかったぞ……杏子の髪留めの炎、あれは無意味な飾りじゃない)
今やシスターのヴェールを全て燃やし尽くしてしまい、ただの魔法少女の姿となっている。
ヴェールは普通の物質で、だからこそ髪留めの炎で容易く燃えた。あれには宗教的な意味しかないだろう。
では髪留めが発する炎は?あれも飾りか?といえば違う。
あの炎はコスチュームの一部とするには浮いているし、一定の大きさで燃えているわけでもない。
そしてあの炎が燃え盛るとき、それはおそらく……。
杏子「はぁッ!」
さやか「おっと!?」
私の二刀流のリーチに踏み込む直前に横へ飛び、壁を蹴って上から襲い掛かってきた。
とはいえ私の剣は二本。サイドから垂らされる槍の一撃でも、容易く受け止めることはできる。
反応もできるし受けも取れるのだが……。
さやか「ぐっ!?」
杏子「ハハン!片手で相手とは良い度胸だなオイ!」
空中からの槍の奇襲攻撃。
相手の体勢も無茶で、接地してる私ならば受けきれるはずなのに、一撃が重い。体が大きくよろめく。
杏子「昨日の勢いだあ!?おう、見せてやるとも!昨日のアタシよりも強くなってやるけどな!」
空中の槍、片手の防御。
私の体は浮いた。
さやか(嘘ぉん……!?)
怒りに身を任せて放った一撃。
火事場のなんたらでは説明できない法外な威力に、私の体は向かい側の壁に勢い良く叩きつけられた。
さやか「……ったたた…」
杏子「休ませも小細工もさせないよ!」
さやか「ちっ!」
ダウンした私が起き上がるのを待たずに、杏子の槍は追撃をしかけてくる。
半分砕けた壁に背を預けていた私は咄嗟に地を蹴り、人生で一度もやったことのない壁バックステップで回避する。
杏子の槍はそのまま壁をぶち壊し、刃全てをその中に埋め込んだ。
槍が動かない今こそ、私は空中ではあるが、チャンスだ。
さやか「隙有り!」
杏子「ねーよ!」
杏子の真上から二刀流で襲い掛かる。
だが杏子は、壁に埋まった槍をあっけなく引き抜き、そのまま防御に使ってしまう。
奇襲のつもりが、まんまと不利な体勢での戦いにもつれこんでしまったのだ。
さやか「くっ!」
杏子「ハハハ!串刺しになるまで浮かせてやるよ!」
私は上から、杏子は下から突きや斬りを繰り出す。
地面に降りて懐に潜りたいところだが、杏子の素早い槍はそれを許さない。
長いリーチの的確な攻撃から身を守るために、空中で動けない私は“槍を支えに”戦っているようなものだった。
できれば地面から攻撃したい。けれどその前に、杏子の攻撃は防がなければならない。防ぐためにはそれなりの防御を取らなくてはならない……。
人間として生きていれば普通は有り得ない現象だが、今の私は剣と槍のぶつかり合いだけで空中に留まっていた。
追い付いたぜ、肉まんじゅう
乙
魔法少女の格好にシスターのヴェール被ってる感じなのか
んで、変身前は修道服と
承太郎が戦っているときみたいな安心感があるなあ…サヤカッコイイ
杏子「いつもより多く回っております」
さやか「これでギャラは同じ」
上手い奴と格ゲーやるとマジで滞空時間が終わらないからな
さやかちゃん頑張れ!
さやか(なんとか、なんとか降りるんだ……!)
煤子さんの特訓を受けたであろう杏子に上から攻撃を仕掛けたのは大失敗だった。
何度も言われていたのに私はほんとバカか!
跳ぶということは、真っ直ぐ動きますと言うこと。
跳んでいる間は動きませんと言うこと。
あんなに「派手な動きはダメ」といわれていたのに私は……!
さやか(魔法少女の能力として、一応空中を蹴る能力はあるみたいだけど)
それではあまりにも遅いし、隙も大きい。
展開している間に、それこそ串刺しにされてしまうだろう。
さやか(なら、杏子の槍を側面から叩いて、真下でなくても離れた位置に落下するようにすれば!)
私は剣の一本を大きく構えた。
杏子「おおっと!?ダメダメ!許さないよ!」
さやか「ぐ!?」
しかし私の動きを読んだ杏子は、すかさず離れた位置に鋭い突きを繰り出す。
私はその防御のために、大振りを断念し、防御に回った。
私の体は、またしても浮く。
杏子「オイさやかァ!昨日聞きそびれたことを今聞かせてもらうよ!」
さやか「はぁ!?」
今はそれどころじゃないってーの!
杏子「ほむらって名乗った女!あのほむらって奴は、煤子さんの妹なのかい!?」
さやか「違うッ……!」
話しかけている隙を突き、昨日と同様に切っ先の衝突による間合い取りを試みる。
が、今度は相手も油断なんぞしてくれないらしく、あっさりかわされ、断念せざるを得なくなった。
さやか「……と思うッ!」
杏子「なんだそりゃ!」
さやか「本人はッ、煤子さんのこと、ちっとも知らないッ、風だったけど!私には、わからない!」
あと少し……少しでも高く浮くことができれば…!
ほんの少しでも攻防に合間を作れれば……!
杏子「にしたって似すぎってやつだろうが!アタシはあの人の姿を覚えてるぞ!」
さやか「へえ!あんたも、慕ってるんだ!?」
杏子「当ったり前だ!煤子さんはたった一人……!」
さやか(今だッ!)
杏子の槍の動きに力が込められた。
それはほんの少しの加減の揺らぎ。
動きは正確でも、力が大きければ結果もかなり変わってくる。
私の剣は、そんな杏子の“違う一発”にあわせ、それ相応に強い剣戟を加える。
私の体は通常の攻防のときよりも高く宙に浮かんだ。
さやか「“アンデルセン”ッ!」
杏子「しまっ――」
二本の剣を重ね、巨大な一本の大剣を成す。
空中で稼いだ僅かな隙は、剣を生み出す時間となった。
さやか「はぁっ!」
杏子「うぐおっ……!」
槍と同等のリーチに変化した武器を振るい、その力任せを受けようとした杏子は路地に沿って吹き飛ばされていった。
がこん、と鉄管がへこみ、朱色のタイルがぱらりと落ちる。
地面に降りてから、ようやく自分の体の無茶に気付いた。
さやか「ぐぅ……!」
空中での全身を使った気の抜けない攻防は、魔法少女とはいえ私の全身に多大な疲労を溜め込んでいたようだ。
追撃に出ようと踏み出す体が鉛のように重い。
このままでは杏子の下へたどり着く前に事切れてしまいそうだ。
杏子「て~……めぇ~……!」
そうこうしている間に、髪飾りをより強く燃やした杏子が起き上がってしまった。
槍の柄を支えにもせず、腕一本で立ち上がるそのスタミナには敬意を表したいところだ。
……私の体力を回復させるために、時間を稼がなくてはならない。
さやか「杏子……あんたの魔法の能力、見破ったよ」
杏子「!」
しばらく口車に乗ってくれれば、私のふくらはぎは大いに助かるのだが……。
杏子「ほぉ……で?」
さやか「あんたの魔法は……願いとかは知らない……ただ能力だけはわかる」
震えを隠し、素早く無駄のない動きで右腕を上げ、杏子を指差す。
さやか「その燃える髪留め……それが効果を発揮するのか、効果がそこに現れているのかは知らない、けどそれを見て答えは出た!」
杏子「……だから?」
さやか「魔法少女のあんたは、状況に合わせて髪留めの炎が強まって、動きの速さ、力が強化さ……」
杏子「だぁぁああからァ!それが理解ったからって何なんだってぇーーーーの!」
さやか「!」
私のまるっとお見通し推理を最後まで聞かずに、全快した杏子が襲い掛かってきた。
髪留めの炎は迸り、火の粉を振りまいてこちらへ接近する。
さやか「ああ、もうッ……!」
体は万全ではないけど、大剣アンデルセンのリーチを信じるしかない。
すっげー今更だが煤子さんが集めてた砂って盾の砂時計の砂か、もしかして
相手に勢いがあるからといって、すぐに防御に徹するわけがない。
こちらも負けじとアンデルセンを突き出し、突撃する。
杏子「おらおらァ!アタシが強いのがわかりましたーってハイだからどーしたってぇ!?」
さやか「うわっ!」
力任せの一直線な槍の一突きかと思いきや、私の剣に当たる前にグンと後ろへ引き戻され、再び素早く、別の位置から突いてきた。
剣の先端から中心までを鮮やかにかわした槍の先が向くのは、きっと私の心臓だ。
さやか「うおおぉおッ!」
こちらも大剣を引いて、根本でなんとか槍を受け止める。
が、槍は簡単に受け流すことはできなかった。
その逆、平たい大剣の面に深く刺さり、尚もこちらに向かって突き進んでくるのだ。
杏子「おらおらおらおら!貫いてやるよっ!」
さやか(無茶な……!)
槍の先端が大剣を貫き、私の腹に狙いを定めている。
そして恐ろしいことに、杏子は槍を引き抜こうとはせず、地面をがりがりと削るように走り、槍を押し込んでくる。
さやか(ほ、本気だ……この子は本気で、大剣ごと私を貫こうとしてる……!)
杏子の尋常でないパワーに圧され、踏ん張る靴もむなしく地面を擦り、後退してゆく。
さやか(まずい!壁際まで追い詰められたら本当に……“貫かれる”…!)
杏子「らぁああああぁあッ!」
絶望的な予想の恐怖から、杏子の髪留めの猛火が暴走列車の機関部にも見えてきた。
さやか(抜け出さないと!)
不要なイメージを振り払い、頭を冷やす。
アンデルセンでは戦えない。
リーチも威力もある、いざという時には“フェルマータ”も放てる必殺武器だが……今の燃える杏子を相手にしては、単純にスピードやパワーで劣ってしまう。
さやか(リーチと打ち合いの力強さを犠牲にしても……速さに賭けるしかない!)
突撃を続ける杏子の片足が浮いたタイミングを見計らって、大剣アンデルセンを分解する。
杏子「!」
さやか(もっかい、二刀流だ!)
アンデルセンは槍を中心に二つに分かれ、元の二本のサーベルへと変化した。
素早く二本の柄を握りこみ、今だ突進体勢のままの杏子に肉薄する。
杏子「おっとテメ…」
さやか「っらァ!」
杏子「ぐほぉ!?」
相手は私のサーベルでの切り返しが間に合わないであろうことを笑おうとしたのだろうが、それは大きな読み間違いだ。
確かに、アンデルセンを解除してサーベルに戻しても、相手の意表をついているとはいえ、髪留めの炎で能力を強化した杏子に切りかかる隙があるかといえば……ない。
サーベルを構えてからでは、斬るにも突くにも僅かなロスが生じるからだ。
だから……ハンドガードで、殴る!
さやか「もう一発!」
杏子「ぐぁ!」
一発は顔面、二発目は怯んだ隙を狙ったが、逸れて肩を強打できた。相当痛いに違いない。
魔法少女の強烈はパンチは、杏子を大きく吹っ飛ばした。
武士沢ブレード!
面白いのでage
あ
面白いな
一気に読んでしまった
煤子さんの影響かこのさやかは恭介にそこまで恋愛感情を持ってないのかな?
一方恭介の方は本編と比較してさやかへの好感度が高い様子。そしてさやかは仁美が恭介に恋愛感情を持っていることに気づいているっぽい
ここまで人間関係に変化をもたらすとは……これが煤子マジック!
むしろ恭介がさやかに惚れてる(憧れてる)印象
>>1無事か?
(瓦礫) ……
>>1のTwitterが見れなくなってたのだが…
最近来てないもんだから不安だわ
更新が・・・止まった。
>>584
kwsk
>>585
Twitterでフォローしてて最近ツイート見ないなーと思って、プロフィールページに行ったらアクセス権が消えてた
俺がブロックされただけなら別にいいんだが…可能性の一つでアカウントが消えてる可能性がある
俺達はループに取り残されたのか……
Twitter消えてたね
でも中の人は健在だと思うから、気長に待とう
ページが見つかりません、だから垢削除したんだろう
だが15日にはもうなかったような
携帯を変える前にブクマを確認してて気付いたので確かだと思う
その後も投下されてるから戻ってくると思いたい
生存報告だけでもしてほしいなぁ
このssかなり楽しみにしてるんだ
(瓦礫) ……
(瓦礫)∀) ガラッ・・・
(瓦礫)∀)φ スチャッ
来たか…ガタッ
生きてたのか、良かった良かった
生存報告してほしいって言ってからわずか3分かよw
ご無事なようで何よりです
さやか「ハンドガード……使える」
遠距離はアンデルセン。
近距離はサーベル二刀流。
最接近はハンドガード。
この三種類を上手く扱うことが出来れば、杏子相手でも互角に戦えそうだ。
杏子「なかなか強いじゃんか……今のは効いたぜぇ、さやか」
壁にめり込みかけた杏子がタイルを零しながら復帰する。
さやか「ダウンしてる振りして不意打ち打とうなんて考える前に、もっかい正面から来なよ」
杏子「!」
手を煽って挑発する。
いわゆる指の“チョイチョイ”だ。
……剣道じゃこんな真似できないから、一度やってみたかった。
杏子「……いいぜさやか!乗ってやるよ……私の次の攻撃を凌ぎ切れたら、アンタの勝ちにしてやる!」
さやか「おっ、気前がいいじゃん!そっちにも同じ勝利条件をあげようか!?」
杏子「いらねーよ、んなもん」
さやか「……!」
杏子は槍を右手に預けると、
もう左手にも、同じ槍を出現させた。
嫌な予感がした。
杏子「“これ”を使って生きてた魔女はいねーんだ……悪いがさやか、“良くて病院送り”だからな」
燃え盛る髪留め。
両手の中で自在に取り回される二本の槍。
さやか「槍の、二刀流……!?」
杏子「んな器用なマネはしねえ、小細工なしのパワーゲームさ」
鮮やかに舞っていた二本の槍が、杏子の手の中で重なり合う。
すると槍は赤いオーラを零しながら溶け、輝く靄は一本の得物に変化した。
それは、武器だ。けど一般的ではない。
私はその武器をあらわす正式な名前を知らなかった。
たとえるならばそれは、カヌーなどで使われるような、カヤックパドルに近い。
2つのオールを組み合わせたような、そんな槍。
両剣。両槍。
アンデルセンを2つ繋げたような無骨で巨大なその武器を、杏子は頭の上で3回転させ、力強くガシリと構えた。
向けられる赤黒い不吉な刃に、不覚ながら、私の脚は一歩退いた。
杏子「さあ!ガツンと行くよ!」
見たことも聞いたこともない、つまり対処法なんてこれっぽっちもわからない武器を振りかぶって、杏子が突進してくる。
さやか(来る!いや、落ち着け!)
相手にしたことの無い、全く未知な形状の武器だ。
何も知らない武器を持った相手と戦うことが恐ろしいと言っているわけではない。事はそう単純ではない。
扱う相手が杏子だから不味いのだ。
素人相手ならいざ知らず、同じ煤子さんの特訓を受けた彼女が扱う武器ならば、それを扱う技術は達人級であることは疑いようがない。
だから私は、その対応が、同じ達人級でなくてはならない。でないと防ぎきれないのだ。
達人相手に素人では太刀打ちできない。
だから私はすぐに、この武器を扱う杏子と対等に渡り合う技術を習得しなければならない……!
さやか(リーチは槍よりも短い!柄は両端の刃に挟まれている!)
さやか(両手武器!巨大で重く片手では扱えないが威力は高い!)
さやか(そして手数はおそらく私の二刀流以上!)
まず、あの武器の範囲内に近づかないこと。リーチに入ればおしまいだ。
そして不用意に打ち合わないこと。私のサーベルが破壊されても可笑しくないような……そんな力強さを感じるのだ。
杏子「おらおらっ!」
さやか「うわっ!」
予想通り二本の刃はパドルのように振るわれ、コンクリの地面を水面のように削り斬った。
杏子「逃げるなよ、そっちだって二刀流だろ?」
さやか「……」
杏子「おいおいしらけるだろーが!どんどんいくぞ!?」
武器は重いらしく両手でしか扱えないようだが、それとは関係無しに攻め難い。
たとえ一本の刃を防いだとしても、隙を突くための反対側に、もう一つの刃があるのだ。
杏子「ほら脚なくなんぞ!」
さやか「うわっ!」
相手が攻勢のときはもっとタチが悪い。
二本の刃で水面を漕ぐように、しかし不規則に暴れまわって私を追い詰めようとする。
左右から二刀流のように飛び出してくる刃を相手に、情けないが私は、どうしようもなかった。
かつん、と呆気ない音に、私のサーベルの一本は遥か彼方へ飛ばされていった。
杏子が大振りしたカヤックパドルが、ほんの少しだけサーベルの刃を掠めたのだ。
それだけでサーベルは弾かれ、見えないところまで吹き飛んでしまった。
そして私の手が痺れている。
杏子の扱う武器の威力を悟ると共に、“良くて病院送り”が嫌な真実味を帯びてきた。
さやか「くぅうう……!」
杏子「へい、リーチだぞ!」
一本になったサーベルを両手で握り締め、私は路地を駆けた。
さやか(なんてやつ……!あれじゃ隙なんて無いよ!)
隙はあるかもしれないが、未だにそれを見出せていない。
まさか遠く離れてからフェルマータで狙い撃ちなんて、そんな生ぬるい方法が通じる相手とも思えないし。
だから今は逃げるしかなかった。逃げて、逃げて、対処法を考えるしかないのだ。
と、思っていたけれど。
さやか「……!」
目の前に立ちはだかる“KEEP OUT”の落書き。
高い壁、三方向全部壁、つまり行き止まり。
杏子「おっ?おおっ?お~良いねぇ神様、祈ってる甲斐があるってもんだよ」
さやか「嘘っ……」
杏子「上手く都合良く戦えるような場所まで出ようと思っていたみたいだが……へへ、こいつは、どうも……」
そして唯一引き返すことができる路地の先には、両剣を構える杏子の姿が。
杏子「悪いね、大当たりだ」
さやか「……へへ、ほんとだよ……」
覚悟を決め、サーベルを構える。
(瓦礫) ))) ガラッ ガラガラ・・・
乙!
鳥の方はどうするんだ
乙
杏子マジで強いな
さやかは果たしてこの状況をどうするのか……
乙
テックランサーみたいな感じか
パンプキン・シザーズのあれみたいな?
なんだっけ、メーヴェ?
さやか「ホント、大当たり」
杏子「!」
相手がこちらへ踏み出したのを見て、背中に手を伸ばす。
マントの裏側に隠したもう一本のサーベルを掴み、二本を合わせて頭上へ掲げる。
杏子(こいつ、最初から――!)
路地裏の行き止まりへ走り出した杏子、その勢いは簡単に止まるものではない。
そりゃあもちろん左右にだったら軌道修正も容易かもしれないけど、その左右が封じられているとなれば、あと退避できるのは真後ろだけ。
でも勢いをつけた前傾姿勢から切り替えるのは至難の業だ。
さやか「“アンデルセン”――」
つまりどういうことかって?
簡単だ。
十分な距離と、左右に逃げない相手がいれば、この技はきっと最強だということなのだ。
それだけだ。
さやか「“フェル・”――」
杏子「“ロッソ・”――」
マミ「そこまで!」
二人の間をリボンの結界が遮った。
さやか「……」
私の大剣アンデルセンは、振り下ろす前にその柄を固定され、
杏子「おい離せ!マミ!」
マミ「離さない」
杏子の両剣も、蜘蛛の巣に絡め取られた蛾のように、空中に縛り付けられていた。
マミ「二人とも何をしているのよ……特に佐倉さん、あなたはどうしていつもいつも、そうやって戦おうとするの!」
杏子「はっ、強くなることが私の願いだ、強くなるために戦って何が悪い」
マミ「わ、私たちはもっと手を取り合って、魔女と戦うべきなのよっ」
杏子「魔女なんかお手て繋いでやりあう程のもんでもねーだろうが」
マミ「それは、あなたにとっては――」
まどか「さやかちゃん!」
慣れ親しんだ声が路地の向こうから響いてきた。
さやか「まどか!ってことは、えっと、マミさんと一緒に魔女退治見学を……」
まどか「さやかちゃん、無事!?」
さやか「う、うん、まぁね、なんとか」
本当はフェルマータを叩き込もうとした寸前だったのだけれど、マミさんやまどかから見たら、私が追い詰められているように見えたらしい。
杏子「……チッ、弱いくせに割り込みやがって、つまんねーの」
固く拘束された両剣を引き抜くことはできず、杏子は魔法少女状態を解除し、元のシスターの姿へと戻った。
不機嫌そうな杏子の目つきに戦闘終了を悟った私も変身を解く。
乙
願いは違うっぽいのにまさかのロッソとな?
ファンタズマなのか別技なのか
小細工じゃなくて大砲とかそんなんなんじゃね
乙
この杏子もマミに命名してもらったのか
乙
杏子「勝負はお預けだ、また今度、邪魔の無い時に仕切り直しだ」
どこからか取り出したスペアのヴェールを頭に被り、その姿に似合わない荒っぽい語気で私に宣言する。
さやか「命と周りが無事で済むなら、やぶさかじゃないんだけどね」
杏子「温室育ちが、試合ごっこでやってるわけじゃねーんだよ、こっちはな」
まどか「だ、だめだよ……」
杏子「ぁあ?」
まどか「ひっ」
シスターにあるまじきドスの聞いた脅し声に、耐性ゼロのまどかは一瞬で小動物のように縮こまった。
完全に怯えきっているぞ、この戦闘狂め。
杏子「……そうだな……アタシも醒めた、また次に会う時に、色々と聞かせてもらうぞ」
さやか「……」
色々と。それは一体、何を聞かれるのか。
杏子「お互い相手をダウンさせる毎に情報がもらえる、ま、質問ごっこの予定があるよっつー話だ」
さやか「質問ごっこ、ね」
洋画じゃないんだから。
杏子「アタシに呼ばれたら予定を空けておけよ、じゃあな」
シスター少女はそのままの格好で手を振り、私達の一団から抜け出していった。
さやか(……佐倉、杏子。私以外で煤子さんを知ってる、唯一の子)
私も杏子も同じ魔法少女だ。それは果たして、偶然なのだろうか。
煤子さんに良く似た暁美ほむらという美少女転校生にしたってそうだ。どうにも最近、煤子さんと魔法少女、この二つがやけに絡み合う。
偶然なのだろうか。私はそうは思えない。
まどか「ふわぁーん!」
マミ「怖かったー!」
さやか「ええ!?」
路地裏から杏子が去ってゆくのを見届けると、途端に二人はへたり込んでしまった。
まどかはともかく、普段は気丈に冷静に振舞っているマミさんまで。
まどか「杏子ちゃん怖いよぉ……なんであんなことするのぉ……」
マミ「もう佐倉さんを正面から見るのは嫌……絶対に嫌……うん、絶対にしない……もう二度と……」
さやか「……」
どうやら私への助太刀は、かなり無理を押してのものだったようだ。
あのマミさんですらこの調子だ……。
マミ「うう、ごめんなさいね、美樹さん……私、どうしても佐倉さんだけは苦手なのよ……」
さやか「いやー得意な奴はいませんよ、あれは……普通って人がいても私、そいつの正気を疑いますもん」
マミさんとまどかに手を貸して、二人を起こす。
……ともかく、病院送りにされなくて良かった。今日の戦いを振り返り、深くそう思うのだった。
まどか「本当に怪我ない?大丈夫?」
さやか「いや、まぁなんとかね……怪我しそうになったけど」
マミ「次からは絶対に相手にしちゃだめよ、本当に危ないんだから」
時間はすっかり夕時だ。
まどかとマミさんと一緒に並び、帰路を歩いている。
二人は魔女退治に興じていたらしいのだが、途中で使い魔の反応を追っている最中で私を見つけたのだという。
使い魔を追いかけていたら、魔女よりも危険な魔法少女にバッタリ出くわした、というわけだ。
まどか「魔法少女って、大変なんだね……」
マミ「うん、魔法少女同士の付き合っていうのも、すごく大変なの……まぁ、佐倉さんの場合はかなり特殊な気もするんだけどね」
さやか「やっぱり、領地争いとか?」
マミ「ええ、私も何度か経験したことがあるわ……穏便に済ませたいとは思っているんだけどね」
相手がそうしてくれない、か。
まどか「ほむらちゃんが契約するなって言ってくれる理由、ちょっとだけわかった……かも」
さやか「確かに、ね」
もちろんそれもあるだろう。
けどそれ以上に、彼女が魔法少女にさせたくないという言葉に包み隠した部分には、より大きな負の理由が隠されていそうだ。
ほむらの口から早めに聞けると、こっちも情報が多くて助かるんだけど……。
そういや煤子さんまどかに会ってないんだなと思ったら小説版設定なのか
この杏子はソウルジェムの秘密聞いたら喜びそうな
技名の由来ってあるの?
アンデルセンとか小さい剣っていうか銃剣を大量に飛ばす技かと思ったwwwwwwwwww
>>616
ゲームじゃね?
アンデルセンはさやかより、杏子が使いそうなイメージあるよなwwwwww
杏子が教会のかっこしてアンデルセンか
我らは神の代理人、神罰の地上代行者とか言いかねないな
アンデルセンって人魚姫つながりか?
音楽用語かと思ってた
† 8月12日
煤子「……」
宛ても無く歩いていた最中、目に留まったものは教会だった。
大きな、しかし寂れた教会。
人の姿はなく、建物の前に車らしきものもない。
煤子「……」
彼女は歩みを曲げて、教会の扉を開いた。
聖堂の造りは立派。高い位置のステンドグラスから零れてくる宵の月明かりが幻想的だ。
しかし、その空間に配置されている像や、象徴などは、既知のそれらとは違うように見えた。
十字架でもない、棗でもない。
見知らぬ聖者に見知らぬ聖母。
少しでも聞きかじった程度の予備知識があれば、この施設が新興宗教のものであるとわかるだろう。
煤子「……」
彼女は聖堂の中央に跪き、かつて見た儚き聖女のように手を結び、祈った。
煤子「……」
何に祈るのか。
いいや、祈りではない。
それはとても言葉にできない懺悔だった。
木のきしむ音がして、脇の扉から小さな少女が入ってくる。
「誰……?」
煤子「……」
幼いながらも、目元にははっきりとした面影を見ることが出来る少女。
それは教会の娘、佐倉杏子だった。
小学校の高学年であるはずなのに、背は低い。
日ごろの栄養不足のせいだろう。
顔色も良くは見えない。
まともな食事にありつけていないのだ。
杏子「……どうか、なされたんですか?」
煤子「……こうして、いたくて」
結んだ手は解かず、じゅうたんの上でそのまま拝み続ける。
杏子「! あ、あの、告白ですか?」
煤子「告白……」
杏子「は、はい、悩み事があれば何でも!」
爛々とした目でこちらに迫る杏子に、煤子は貧しい教会の事情を思い浮かべ、複雑な気持ちになった。
そしてもう一つ思うことは、彼女に深く関わるべきか、否か。
杏子「お力に、なりますよ!」
煤子「……」
意は決した。
狭い小部屋の中で、黒いヴェールを隔てて二人が座る。
煤子の面持ちは変わらず、杏子の方は緊張で強張っている。
一見どちらの告解か解り難いが、ここでは煤子の告白が行われる。
杏子「さあ、どうぞ、あなたの罪の告白を……」
煤子「……罪」
杏子「はい、あなたが心の靄を払うことを望むなら、あなた自身が自覚する靄を告白しなければならないのです」
煤子「……」
靄。それを負い目と解釈した彼女は俯き、考える。
そして答えは出た。
杏子「神はあなたが自覚し、告白した罪の全てを赦すでしょう……」
煤子「……ごめんなさい、私、告白することができないわ」
杏子「えっ……」
懺悔室の分厚い扉を開け、外に出る。
するとほぼ同時に、向こう側の扉から杏子も出てきた。
杏子「あ、あの、思いつめているなら、ぜひ……」
煤子「……私は罪を自覚し続け、それを上塗りすることで余生を生きると決めたの……そんな私を、何者も私を赦せないわ」
杏子「……そんな」
今にも泣き出しそうな杏子の頬を撫ぜる。
煤子「……ごめんなさい、でも、そんな私を赦せるとしたら……神ではなく」
杏子「……?」
煤子「貴女という、一人の人間なのかも、しれないわ……」
† それは8月12日の出来事だった
ついに杏子の過去編が始まったか
祈りの内容はおそらくさやかと近いとは思うんだが具体的には分からないし、どうしてあんな性格になったのかも気になるところ
期待して楽しみにしてます
杏子きた、ちっちゃい杏子きた、ひねくれてない杏子きた
この子が何故ああなった……
[せいろ] ミフミフ・・・
ゲームセンターの中を一周している間に絡んできた男達を適当にあしらい、クレーンのコーナーへ戻ってきた。
汚い店内の空気から逃れるように自動ドアを素早く潜り、自販機の前でため息をついた。
ほむら(……いない)
ほむら(わかっていた、彼女の性格も、行動も全て違っていたから……性格だけでも違えば、行動が変化し些細な未来でも変わってしまう)
自販機の明かりを使ってプルトップを開ける。
仄かな香りを一呼吸分だけ味わって、すぐに口を付ける。
ほむら(けど、今の彼女なら、きっと乗ってくれるはず……)
休日前の夜。帰路を歩く人々の疲れきった顔を注視しながら、ほむらは魔女の気配を探っていた。
ほむら「!」
肌を舐める強い魔力の波動に目線をずらす。
そこには一人のシスターが立っていた。
ほむら(……変わらないこともあるのね、何故かしら)
にやけそうな口元に缶を押し付け、ほむらは足を止めたシスターに向かい合う。
杏子「甘い飲み物は好きか?」
ほむら「ええ」
杏子「そうか」
シスターがブーツの底を鳴らしながら、ほむらに歩み寄ってくる。
杏子「私はそれなりだな」
ほむらの目の前までやってくると、ポケットの中の小銭を自販機に突っ込んだ。
ボタンを強めに叩き、落ちてきたペットボトルを掲げて見せる。
スポーツドリンクだった。
杏子「甘いもん食うなら、こんくらいの甘さが丁度良いんだ」
ほむら「……ふふ、そう」
杏子「食うかい」
ほむら「ありがとう、いただくわ」
プレッツェルを一本齧り、ココアを飲む。
ほむら(……襲い掛かってくるものと思っていたけれど、随分と友好的ね)
ほむら(好都合だわ)
ほむら「ねえ、杏子」
杏子「ほむらって言ったな」
ほむら「……ええ」
杏子「煤子さんって知ってるか」
ほむら「……」
ココアの缶を持つ手に力が篭ったが、スチール缶がへこむ前に頭は醒めた。
ほむら「さやかからも同じ事を聞かれたわ、知っているか、って」
杏子「……じゃあ」
ほむら「姉がいるか、と聞かれもしたわね」
杏子「……いねーのか」
さやかといい杏子といい、柄ではないはずなのに。
同じ“いない”、“知らない”と返せば、落胆の表情を隠そうともしない。
杏子「まぁいいや、気にするな」
ほむら「……そうするわ」
杏子「で、こんな時間に一人でゲーセン入って、何してたのさ?」
ほむら「……」
はぐらかそうとすれば、追い詰められるに違いない。
さやかの妙な勘の鋭さもある。彼女に対しても嘘はつけないだろう。
ほむら「貴女を探していたの」
杏子「ほー、アタシをねえ……行きつけを知ってる事については聞かないでおくけど、何の用だ」
ほむら「……」
ほむら「二週間後に、ワルプルギスの夜がやってくる」
杏子「知ってる」
ほむら「……」
杏子「……」
ほむら「……そう」
杏子「あの白いアホ面から聞いてるんでな」
ほむら「そうだったの」
とりあえずココアを飲み干して仕切り直しだ。
このあんこちゃんバトルジャンキーだから頼まなくても戦ってくれそうだな
連携とってくれそうにはないが
ほむら「知っているなら、話は早いわ」
杏子「ほー」
ほむら「ワルプルギス討伐のために、私と協力して欲しい」
杏子「逆だろ?」
ほむら「え?」
口の中のプレッツェルをドリンクで流し込み、ヴェールの裾を払ってほむらを睨む。
杏子「共闘したいなら、アンタが私に頼むのが筋ってもんだろう?」
ほむら「……」
いつにも増して傲慢さが増している気がしないでもないが、発言の意図の一つは理解できた。
杏子自身が自分の意志で戦おうとしているという事だ。
ほむら「杏子は、ワルプルギスの夜と戦うつもりなのね」
杏子「当然!最強の魔女なんだろ?戦わないでどうすんのさ」
袋に残ったプレッツェルの破片を口の中に流し込み、音を立てて咀嚼する。
ちらりと見える八重歯がいつにも増して恐ろしい。
ほむら「……協力――」
杏子「やだね」
わざわざ遠回しにされた上に即答の拒否。
これには可能な限りの譲歩を見せようと考えていたほむらも、眉間に皺を寄せた。
杏子「何故かって?邪魔だからさ。せっかく最強の魔女と戦おうってのに、雑魚にウロチョロされちゃあ興が削がれるだろ?」
ほむら「……」
手の中のスチール缶が「ぺこ」と音を立てた。
杏子「巴マミも、ちったぁ腕は立つようだが、さやかも同じさ……せっかくの晴れ舞台なんだ、下手な黒子は他所に引っ込んでいてほしいってこと」
ほむら「……あなたは、何故」
杏子「?」
ほむら「そんなに、強い相手を求めるの?」
いくつもの時間を遡り、いくつもの彼女に出会ったほむらの大きな疑問だった。
ただ、この杏子は口元をゆがませて、それが当然であるかのように答える。
杏子「私は、何にも負けないほど強くなりたいのさ」
ほむら「何にも負けない程……?」
杏子「ああ、アタシと同じ魔法少女にも、最強の魔女にも!どんな奴にも負けないほど強くなりたいんだ」
修道服の井出達で、杏子は胸の前で力強い握りこぶしを作って見せる。
杏子「アタシは強い奴と戦えば戦うほど強くなれる……ワルプルギスの夜と全力で戦うことになれば、アタシはワルプルギスの夜を越えられる!」
ほむら「……!」
打倒ワルプルギスの夜ではなく、ワルプルギスの夜以上の力を求めている。
彼女は倒すことが目的なのではなく、倒す力を手に入れることが目的なのだ。
ほむら「す、酔狂ね……気を悪くしたならごめんなさい」
杏子「へっ、そんな些細なことは今更気にもしないさ……一般常識で見りゃあちょっとばかし力に溺れてるのは、アタシだってわかる」
ほむら「自覚があるのね」
杏子「それでもアタシは力が欲しいんだ……っと」
向かい側のコンビニのゴミ箱にペットボトルを投げ込むと、それは荒っぽい音を立てながらも、綺麗に入っていった。
杏子「ふー、ゲームでもしようかと思ったけど、やめだ、150円も使っちまったしな」
ほむら「……そう、話につき合わせて悪かったわ」
杏子「なに、アタシも一度話したかったから、いいさ」
シスターは手を振りながら去ってゆく。
杏子「あ」
去り際に一度だけ立ち止まり、淡白な無表情を半分振り向かせた。
杏子「……つーわけだから、風見野はアタシのテリトリーだ、近づくなよ」
それだけ言って、杏子は再び闇に向かって歩いてゆく。
後姿を見送るほむらは首を傾げた。
ほむら「……風見野」
† 8月14日
「やーいオカルトー!」
そこは公園だった。
夏休みともなれば、毎日必ず誰かしらが遊んでいる、どこにでもある普通の公園。
小学生であれば誰でもそこへ足を運んでも不思議ではないし、それは間違ったことではない。
「神様なんていねーよ!バカじゃねーの!」
「サギだ!サギ!」
だが歳相応の遊びを求めた彼女が訪れると、彼女を見知った同学年の男子数人は、彼女を排斥するよう囃し立てるのだ。
それは子供の頭が生み出す、ありきたりな文句だった。
彼女が敬虔な信者でなければ、互いに思い出にも残らないような口喧嘩で終わるはずだった。
杏子「……詐欺なんかじゃないもん」
彼女は涙を二つ、三つと落とす。
“神なんていない”。そんな言葉はありきたりで、月並みなクレームだ。
しかし杏子は、それに対する上手い返し方を、まだ知らなかった。
だから自分の信仰を否定し続ける彼らに対して何も言えず、ただ縮こまるばかりだった。
彼女は今日、ただブランコを漕ぎにきただけである。
「こんなのっ!」
杏子「あっ」
縋るように両手で握り続けていたアンクを、体格の良い男子小学生が奪った。
男子生徒はにやにやと笑いながら、手元の拙いつくりのアンクを眺めている。
男子生徒はひとしきりそれを眺めた後、といっても、それがハンドメイドの手作りであることも気付かぬうちに、両手で強く握り締めた。
「こんなもんっ!」
杏子「あっ!?やめて!返してよ!」
力を込めた体勢に顔を青くするも、取り巻きの二人の男子小学生が行く手を阻む。
「へへ」
「無理ー、進入禁止ー」
杏子「やめて……!」
「いぇへへ、バチなんて怖くねーぞ!」
手にほんのちょっとだけ力を込めただけで、アンクは真っ二つにへし折れた。
杏子「ああっ……」
「あれ?なんだこれ」
「中身、ただの木じゃん」
「木だ!安物だ!色塗ってあるだけじゃん!」
「サギだサギだー!」
杏子「……う、うう……」
けたけたと笑うクラスメイトの男子。
見せびらかすように目の前に突きつけられる二つに折れたアンク。
杏子は成す術もなく、ただ顔を赤く染めて、涙を砂の上に落とすばかりだった。
煤子「……」
夕陽の陰りに表情を潜めた一人の少女が、そこへ歩み寄る。
杏子「あ……」
杏子の背後から、背の低い女子中学生が姿を現す。
黒く長い髪を後ろで結った、大人びた風格の女子だった。
杏子は彼女を知っていた。
彼女は夕時になると教会を訪れ、何かを打ち明けるわけでもなく、ただ祈り続けている。
彼女の名前を聞いたことがある。名前だけは教えてくれたのだ。“煤子”と。
煤子「……寄越しなさい」
「あ、なにすん……」
同じ背ほどもある男子小学生から、二つに折れたアンクを強引に奪い取る。
それを手の中に握り締めて、目を逸らさずに言う。
煤子「あなた達に、他人の祈りを踏みにじる権利があるとでも?」
「……!」
煤子「だとしたら随分と傲慢なことね」
男子小学生にとって、中学生は雲の上の存在だ。
けれど彼らは感じた。目の前にいる彼女は、ただの中学生ではない。
自分の父親や祖父が本気で自分を叱る時のような、反発も反抗もできない凄みを湛えていたのだ。
「……!いこうぜ!」
「あ、ああ」
男子たちは煤子に気圧されて、足早に公園を去っていった。
杏子「あ……あの……ごめんなさい……」
男子達が去っていっても、杏子は顔を上げようとしない。
泣き通した顔を見られたくなかったというのもあるし、自分の信仰を守ることができなかったという負い目もあったのだ。
煤子「……謝ることなんて何もないわ、あなたは正しいと思ったことを貫いているのでしょう」
杏子「でも、私……何もできなくて……」
煤子「それを自ら折る必要なんて、ないわ」
杏子「……でも、私、弱いし……」
煤子「いいえ、あなたは強いわ」
白いハンカチを取り出し、杏子の頬を拭う。
上質な綿の優しい肌触りが心地よかった。
煤子「……あなたは強く、なれるわ」
杏子「なれないよ……」
それでも目は伏せたまま、眩しい煤子の顔を見上げることができない。
煤子「強くなりたいのでしょう?」
杏子「強く……なりたいよ……」
煤子「……信じれば、必ず叶うわ」
顔を伏せた杏子の目の前に左手をもっていく。
掌を開くと、そこには先ほど折られたアンクがあった。
杏子「……え?」
アンクは形を取り戻していた。
そればかりか、材質もまるで別の、赤い金属のような光沢を放つ、どこか高級感ある物へと変質していた。
煤子「自分の意志を貫くためには、とにかく、強くなくてはならないわ」
杏子「……」
もう目が離せない。
アンクから、煤子の瞳から逃げられなかった。
煤子「何が起こっても、何が否定しても……たった一人、最後の一人が自分だけになっても、信じていれば……願いはきっと、叶うのよ」
† それは8月14日の出来事だった
(HOYA)* ))) ガサガサ・・・
叶わなかった人チィーッス!
乙ホヤ
乙です。
杏子はこれはこれで、ひねくれて育った感じも。
乙
ああ、別方向に解釈しちまったかー
乙
さやか「……」
朝起きて、枕の横に置いたはずの携帯を枕の下から発見すると、メールが2通届いていた。
一通目、マミさんから。受信は昨日の夜中。
:明日は夕方から魔女退治に出かけようと思うんだけど、どうかな?
二通目、ほむらから。受信はついさっきの十分前。
:今日の夕方、巴マミと一緒に魔女退治(パンチ絵文字)必ず来て(猫絵文字)
さやか「……」
私はほむらから受信したメール画面を見ながら洗面台へ向かった。
顔を洗った後もメール画面を見つめ続け、朝食の席でお母さんに叱られるまで、ずっとそれだけを眺めていた。
さやか(二人が言ってるし、魔女退治、行くっきゃないよね)
恭介への見舞いは夜にしようかなとも思っていたけど、そういう事情なら仕方ない。
予定を変更して、昼間に病院へ行こう。
もちろん魔女退治が嫌なわけがない。私の本望だ。
もっと沢山、魔女との闘いを経験したいと思っている。
ほむらのメール可愛いなおい
昨日の杏子との闘いは、個人として言いたい文句や不満も色々あるけれど、それ以上に沢山の収穫があったことが悔しくてならない。
収穫ってのは何かって、そりゃあもちろん、戦闘経験です。
お菓子だらけの結界の中に迷い込んだときに戦った魔女も、モニターみたいな変な魔女も、それぞれ一般常識の通用しない空間での戦いだったので、そういう場面に慣れる意味では大切な闘いではあったけど。
実際に面と向いて戦う場面になった場合、異世界だろうが実世界だろうが、基本となる肉体の動きが重要だ。
魔法少女という力の上乗せがあってもそれは変わらない。
杏子との戦いではそれを思い知った。
キュゥべえが以前に言っていた、私の素質がマミさんの三分の一という話は本当なのだろうけど、それでも勝負の命運を分けるのは、別のものなんじゃないかなって思う。
剣道だって、背の高い低い、筋肉量の多い少ないは、あまり関係ないのだし。
さやか(……いけない、なんでまた杏子と戦いたいとか考えちゃってるんだ、私)
さっさと恭介の病院に向かおう。
今度は同じ道を通らないように、遠回りをして。
ほむはぐう可愛
絵文字で変な声出た
恭介「さやか」
さやか「おいすー」
だだっ広い病室には、いつも通り恭介がいた。
表情に憂鬱さは消えていないが、多少は和らいだか、気が紛れたか。
机の上の検診表と端が重なるようにして置かれている本がそうさせたのかもしれない。
さやか「どした恭介ー、最近さやかちゃん分が足りなくて参ってるのかー」
恭介「さやか分は昔に摂り過ぎてるからいらないよ」
さやか「なにぃ?毎日基準値まで取りなさいよ」
恭介「昨日は暁美さん分を補給したから、いらないよ」
さやか「え?」
あけみさん、と言ったか。今。
さやか「ほむらが来たの?」
恭介「うん、一人でね。さやかなら別に不思議なことでもないんだけど、転校して間もないのに、随分と早く仲良くなれたね」
さやか「ははは、ま、彼女もまたさやかちゃんの友達思いな所に惹かれたのでしょう」
ほむらに恭介の話はしていない。
入院している私の友達がいるとも話していない。
ほむらが自発的に、クラスメイトの欠員の見舞いに行ったとは考え難い。
さやか「で、本当に美人だったでしょ」
恭介「ああ、美人だね、歳相応ではないというか……あ、恥ずかしいから本人には言わないでくれよ?」
さやか「むふふー」
恭介「おい、そういうの友達なくすぞ」
さやか「どうしよっかなー」
冗談めかしつつ話す中で、恭介とほむらが何を話していたのかも、自然と浮き上がってきた。
恭介「ごめんね、当人がいないところで、あんまり込み入ったことを話すものじゃなかったよ」
さやか「ううん、やましいことないし、全然へーきよ」
煤子さんについての話が上がるのも当然の事だろう。
ほかならぬ私が、恭介に「ほむらは煤子さんに似てる!めっちゃ似てる!」って言ったわけだし。
さやか「あ、恭介にこれをプレゼント」
恭介「え?……おー、新しいCD?」
さやか「管楽器中心のね、恭介にもそこまで馴染みあるってジャンルではないと思うよ」
恭介「……うん、そうだね、これはあまり、未開拓ってやつかな」
さやか「入門っぽいやつを買ってきたから、それでしっかり耳を鍛えるがいい」
恭介「ふふ、ありがとう」
さやか「良いって良いって」
そんなこんな、恭介と駄弁ったのであった。
[虎屋]∀)~♪
[虎穴]∀-* )))
ヽ(・∀・)ノ[虎子]
なにそれいやらしい
乙
乙です。
この恭介はどれだけのさやか分を取ったのやら。
乙っす
まどか「あ、さやかちゃん!」
さやか「おーっす、まどかぁー」
待ち合わせの高架下には、まどかの姿があった。
約束の時間の二十分前、まだほむらやマミさんの姿は見えない。
さやか「一緒に誘われてるだろうなぁとは思ってたけど、早いねえ」
まどか「えへへ……遅れちゃいけないかなあって」
魔法少女に対してはまだ悩むこともあるんだろう。
杏子の一件もあって乗り気は随分と殺がれている様子ではあるが、まだまだ選択肢から外れてはいないようだ。
さやか「あ、まどか」
まどか「うん?」
さやか「メール、誰から来た?」
まどか「え、っと、マミさんとほむらちゃ……あっ」
さやか「あ、やっぱり思った!?」
まどか「う、うんうん!すごい意外だなって!」
さやか「だよねー!」
その後、約束の時間になるまでの話には事欠かなかった。
マミ「あら」
QB「おや」
ほむら「!」
二人は約束の場所へと続く道で偶然出会った。
マミ「一緒に行きましょうか」
ほむら「……ええ」
ぎこちなくなりそうだと内心地雷を踏んだつもりでいたほむらだったが、マミの意外な積極性に追従することにした。
肩に乗った白い宇宙人が目障りだが、それ以上に今は、先を歩く巴マミの姿を懐かしく思う。
そして思い出すのは、彼女は先輩であり、先輩であろうとする人物だということだった。
マミ「暁美さんも銃を使うのね?」
ほむら「え?ええ、まあ」
QB「そういえば使ってたね」
ほむら(あなたにね)
マミ「でも見た感じでは、暁美さんの使っているものは実銃なのかしら?」
ほむら「ええ……」
あまり根掘り葉掘り聞かれると、肩の上の邪魔者にいらぬ情報を渡すことになってしまう。
曖昧に受け答えしたいものだ。
マミ「変な意味じゃないけど、実銃の弾と私の魔法で出した銃の弾って、どっちの方が強力なのかしら」
ほむら「……どっちかしら、弾の性質が違うから、精度や貫通力、色々なところで得手不得手はありそうね」
変な方向へと飛んでいったが、自分の魔法の話からは路線が逸れたようなので一安心である。
これから目的地へ到着するまでの数分間、しばらく魔法と実銃についての高度な談話が繰り広げられるのであった。
(毛布) ))) フニフニ
乙!
乙
マミさんとほむらは一緒にやってきた。
先頭をマミさんが歩いていたところを見るに、二人きりでもほむらに背中を見せる余裕はあるらしい。
もう二人に距離について気にすることはないかもしれない。
マミ「早速これから、魔女退治に行こうと思うんだけど……」
まどか「何かあるんですか?」
ほむら「ええ」
魔女退治の他にやる事?
マミ「これからちょっと、魔法の弾と実際の弾を比較する実験をやろうかと思うのよ」
さやか「はあ、実験ですか」
ほむら「来る途中で、魔法の弾の実弾の違いについて話していたの、その流れよ」
さやか「ふーん、でもなんか、面白そう」
まどか「ほむらちゃんが使っているのは、本物の鉄砲なんだね?」
ほむら「……ええ」
モニターの魔女の結界の中でほむらが使っていたものは、魔法による生成物ではないのか。
ふむ、なるほど。
ほむら「けど、変わったところに興味を持つのね」
マミ「これからの魔女との戦いで役に立つかもしれないでしょ?」
ほむら「……確かにそうね」
誰も渋らなかったし、何より面白いなと思ったので、実験はすぐ始まることになった。
さやか「おー」
マミ「これが私の使っているマスケット銃」
まどか「綺麗……」
魔法少女に変身したマミさんが四十センチ程度のリボンを出現させると、それはすぐにマスケット銃に変化した。
白い本体には金色のレリーフが施され、あとはえっと、魔法だからよくわからない。
撃鉄部分はエメラルドのような宝石がついていて、それらが叩き合わされることによって、一発が発射される仕組みらしい。
マミ「一発しか出ないけれど、威力はあるわ……狙いも付けやすいし、使い魔なら一撃よ」
QB「銃をモチーフにした魔法で戦う魔法少女は結構いるんだけど、その中でもマミは特に高い技術を持っているよ」
マミ「ふふ、下調べとかしたからね」
さやか「下調べとかして、魔法を作るんですか」
マミ「イメージが大事だからね。私は専門家じゃないから銃に詳しくはないけど、銃を使ってみたかったから、ちょっとだけ調べてみたの」
さやか「へぇー……」
私もイメージすれば、新しい武器とか手に入れられるんだろうか。
まどか「えっと、ほむらちゃんの鉄砲は……」
ほむら「これよ」
魔法少女に変身したほむらは何の音沙汰もなく、一メートル以上の大きなライフルを抱えていた。
QB「どうやって出したんだい?」
ほむら「魔法よ」
QB「それは解るのだが……」
まともに受け答えするはずがないの、無駄だってわかってるくせに。
まどか「音とか、大丈夫なんですか」
マミ「ある程度の音は結界の応用で抑えてあるから、気兼ねなくできるよ」
丁度良くあったドラム缶を横倒しにして、その上に二つの銃が固定される。
リボンでしっかり固定された銃の引き金にもリボンがかけられ、銃口の先にはおしるこ缶と、ココア缶が据えられている。
更にその後ろにはコンクリートブロックが何枚か立てられ、威力も測ることができるようになっている。
じゃあ缶いらないじゃんって思うかもしれないけど、それは雰囲気作りだ。特に誰も反対はしなかったから問題なし。
ちなみに缶は二つともほむらが用意したものです。
さやか「なんだかわくわくしますね、どうなるんだろ」
QB「僕としてもマミの銃と現代の銃の違いを観るのは興味深いよ」
さやか「速さとか威力とかに違いが出るのかな」
QB「観てのお楽しみだね」
キュゥべえを頭の上に乗せつつ、開始を待つ。
マミ「それじゃあ同時にトリガーを引くわよ」
ほむら「ええ」
まどか「わー……」
固唾を呑む静寂の中、くい、とリボンが引っ張られた。
乙
マスケットの抜けるように静かな音と、ライフルの弾けるような爆音が同時に響き、橋にぶつかって木霊した。
コンクリートブロックが灰色の煙を引き、結果が表れる。
マミ「……缶は、二つとも木っ端微塵ね」
実弾は缶に大穴を開けて本体を潰し、魔弾はどういう原理か、缶を粉々にしてみせた。
QB「なるほど、どちらも威力はあるね」
ほむら「性質はやはり、違うわね」
マミさんのマスケット銃は缶の後ろのコンクリートブロックに円形の破壊痕を残した。
ほむらの実弾はそれよりももうちょっと荒っぽく、コンクリートの上半分を根こそぎ砕いていった感じだ。
さやか「マミさんの弾は綺麗にコンクリートを壊しましたね」
マミ「そうね、普通ならこうはならないんでしょうけど……」
QB「実弾とは、衝突の際のエネルギーの加わり方に違いがあるみたいだ」
まどか「でも、どっちもちゃんと後ろのブロックを壊したんだね」
コンクリートに近づき、両方を間近で観察してみる。
さやか「お?」
すると、マミさんの弾による痕跡は面白いものだった
さやか「ブロック、丸く抉れてる所がちゃんと螺旋状になってる」
まどか「あ、本当だ」
マミ「ちゃんと魔力の弾が回転してる証ね」
さやか「……」
螺旋を描く痕跡を指でなぞる。熱くはない。
この傷跡を見るに、回転しながら射出された魔法の弾が、コンクリートに直撃してもまだ、その回転を維持していることがわかる。
コンクリートに衝突して魔弾が潰れ、マッシュルームのように先端を押しつぶされ、径が広がり、ブロックを両断するほど大きな穴になった。
が、弾が潰れて薄く広がっても、威力は減衰しなかった。
魔弾は回転力を衰えさせることなく、破壊のエネルギーを収束させたままにコンクリートを捻り、抉り抜いた。
破壊のエネルギーは拡散しなかった。コンクリートに無駄な破壊の帯を残すことなく、美しい傷跡だけを残したのだ。
これは実弾では再現しようのない、神秘の力だろう。
さやか(魔法の力は、周りの環境には左右され難いってことなのかな)
それだけ強いエネルギーであるとも言い換えられる。
だから私のサーベルの切れ味も、ただの刃物と思ってはいけないんだろう。
現存する史上最高の名刀なんかよりも、遥かに切れ味があるに違いない……。
マミ「なるほど、やっぱり実際の銃とは違うんだ……うん……」
口元に手を当てながら、マミさんは何事かを考えているようだ。
結果から何か、得るものでもあったのかもしれない。
ほむら「何か気になることでもあったの?」
ほむらはマミさんの様子を見て、素直に訊ねた。
マミ「え?あ、ああ、そうね……ええ」
マミさんは上の空で考えていたようだが、訊ねられたほむらの言葉の残響に反応した。
マミ「私の魔丸って、回転の力が想像していたよりも強いみたい……ちょっと参考になったわ」
ほむら「? そう」
ドッズライフルか
パワーアップフラグきたか?
自分のイメージよりも強く回転してる。
これはマミさんのイメージが、実際の自分の魔法に追いついてないって事かな?
黄金の回転?
待たせちゃってごめんなさい、早速行きましょう、という事で、私達の足はようやく魔女の結界を目指す運びとなった。
先頭をマミさんとほむら、後ろには私とまどかがついている。
ほむらがソウルジェムの光を見ながら先導し、他が追従する形だ。
マミさん以上に魔女の捜索が得意なのだから当然なんだけど、マミさんは前を歩いている割に手持ち無沙汰であることに落ち着きがない様子である。
魔女の気配を探しながら歩く横のほむらに何度も話しかけるわけにもいかなくなったか、マミさんは私達に話を振るようになった。
マミ「魔女の手下が使い魔なんだけど、使い魔が完全に魔女の支配下にあるわけではないのよ」
さやか「へえ、そうなんですか!」
まどか「今まで見てきたのはみんな、かなり、えっと……その……チームワークが良かったように、見えたんですけど」
しかしその話が結構役に立りそうだ。
マミ「そう、チームワークは抜群にいいの……けど、それぞれがオートマチックに動く人形かといえば、そういうわけじゃないの」
ほむら「使い魔もそれぞれ、意思を持っているわ」
前を向いたままのほむらが引き継いだ。
ほむら「状況に応じて攻撃したり、防御したりもするから……完全に魔女の手足の一部、とは思わないほうが良い」
マミ「ええ、逆にそれを利用して、使い魔と魔女で同士討ち、なんてこともできるわよ」
さやか「マジっすか」
やっぱり魔法少女の先輩達は良く知っている。
QB「そう、だからこそ使い魔は、大元の魔女無しにでも行動し、人を襲うんだ」
まどか「……使い魔も、魔女になるんだっけ」
QB「うん、なるよ。元と同じ魔女か、別のものになる場合もあるけどね」
さやか「……」
食物連鎖だ。人を食って、使い魔は魔女になる。魔女が落とすグリーフシードを魔法少女が食う。
じゃあ魔法少女は何者が食うのだろうか?
まさか一巡してバクテリアじゃあるまい。
>>670
そんなハズはないが、凄く懐かしい響きだ。
魔法少女が平均してどのくらいの時間をかけて魔女を探すのかは知らないけど、それでも早く見つかったほうだと思う。
ほむらはちょっと遠回りはしたけれど、かなりスムーズに目的地にたどり着いた。
寂れて半分以上のシャッターが下りた商店街の路地裏、その最奥部のゴミ溜めである。
まどか「こんなところにもあるんだ……」
不法投棄された旧式の冷蔵庫のうちの一つに浮かんだ結界の文様から、まどかは一歩引いた。
マミ「暁美さん、魔女を見つけるのが上手いわね」
ほむら「慣れてるから」
QB「どのくらい魔法少女として活動しているんだい?」
ほむら「早く行きましょう、周囲の人々を巻き込まないうちに」
キュゥべえの言葉を遮るようにして、ほむらは先に結界へと飛び込んでいった。
マミ「それもそうね、早く片付けてしまいましょうか?」
さやか「はい。……まどか、入るよ?」
まどか「うん」
さやか「ちゃんと捕まってないと落ちちゃうぞー」
まどか「ほ、本当に怖いんだよ?さやかちゃん」
さやか「へへ、ごめんごめん」
私は彼女の柔らかな手を握って、一緒に結界へと飛び込んでいった。
乙
家電売り場のように煌々と明るい場所へ出た。
さやか「下がってて」
まどか「う、うん」
まどかを私のマントよりも後ろへ隠し、サーベルを握って周囲を見る。
あるもの。冷蔵庫、テレビ、扇風機、エアコン、プリンター、照明器具。
魔女や使い魔らしき姿は見えない。
目の前にほむらがいるだけ。
ほむら「警戒しなくても、近くにはいないわ」
さやか「自分で確認したかったからさ」
まどかにオーケーサインを出すと、可愛らしく胸を撫で下ろした。
マミ「待たせてごめんなさい、行きましょ」
ほむら「ええ、私が先を歩くから、ついてきて」
マミ「あら、私も一緒に並んでも良いかしら?」
ほむら「……良いけど、前衛は危険じゃないかしら」
さやか「そうですよー、私が前出ますよ?」
マミ「んー、いつもより奥まった戦い方だけど、確かにそうね、後ろにいるわ」
『ぶぅううぅううん』
マミ「!」
コミカルな羽音が進行方向から聞こえてきた。
直後に姿も顕となり、私達の間に緊張が走る。
さやか「使い魔だね」
羽根はトンボ、本体はやけにモッサモサした蛾のような異形の生物。総評、気持ち悪い。
マミ「気をつけて、後ろからも沢山来るわよ」
さやか「ええ、わかっています」
カトンボならぬガトンボは群れで登場し、狭い通路いっぱいに広がって突撃を行ってくる。
このままではあと数秒のうちに私達に衝突して、鱗粉まみれにされてしまうだろう。それだけは避けなくてはならない。
片手に持ったサーベルと、更にもう一本を生み出して、二本を両手の中でまとめ上げる。
少々重いけど威力は抜群、大剣アンデルセンの完成だ。
さやか「結構控えめの……“フェルマータ”!」
通路に溢れる青い流れが使い魔を洗いざらい葬っていくのを見て、私は思う。
やっぱり昨日の杏子との戦い、そのまま続けていれば私が勝ってた!
マミさんが来てくれたから、ちょっと向こう寄りな判定のドローな感じになってたけど……狭い通路を満たして流れるフェルマータを、避けられるはずがないのだ。
向こうもそれには気付いていたはずだ。
さやか(でも、私が最後にフェルマータを撃とうとしたあの時……杏子も、何か……)
マミ「暁美さん?行くわよ?」
まどか「さやかちゃん?」
さやか「んあ?」
いつの間にか、剣を振り下ろした私の前を三人が歩いていた。
ほむらは残念なものを見るような眼で私を流し目で見て、さっさと先を歩いてしまう。
ちょっと考え事をしている間に、通路の使い魔の掃除が終わっていたようだ。
さやか「ちょ、ちょっと待ってよー」
……また杏子との戦いを考えてしまった。
別の事を考えよう、別の事を。
私はこれから、見滝原を……さらにはもうちょっと広い範囲を守っていくんだから。
*)っ[まどかベストショット画像]
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3776341.png.html
ハゲ
結界を進んでいくに連れて広間が目立つようになり、遣い魔たちの動きも三次元的になってきた。
フェルマータや適当な射撃では対処できない……かと思いきや、マミさんとほむらの二人は当然のように使い魔達を打ち落としてゆく。
私はといえば、素早く接近して斬るのみ。力を入れてやってるつもりだけど、飛び道具には敵わない。私が3匹倒す間に、二人は5匹を退治してしまう。
射線に出ると迷惑もかかりそうなので激しくは動けないし、前衛ってのは想像以上に、なかなか怖い役柄だ。
さやか(それにしても凄いなぁ……)
自分の周りに使い魔がいなくなったのを見計らって、ちらりとマミさんの戦況を伺う。
マミ「“レガーレ”……」
『ぶぅううん!?』
『ブゥウン!ぶぅぅうぅうん!』
黄色いリボンが使い魔の死角から伸び、一気に4匹のガトンボを拘束してしまった。
良心の呵責さえなければ、動けない的ほど当てやすいものもないだろう。
マミ「“……”……えい!」
マスケット中が光弾を撃ち放つ。一発だけでも威力は高いし、容易く4体の使い魔をまとめて始末するだろう。
さやか(ん?)
けれど、そこから先に起こった現象は、マミさんの戦い方を何度か見ている私には目新しいものだった。
弾を撃ったマスケット銃が、突如にリボンの姿へと戻り、ひゅるりろマミさんの手の中から零れ落ちたのだ。
さやか(何でだろう、いつもは撃ったら撃ちっぱなしだったのに)
そうこうしている間に、この広間も制圧完了。
過保護にまどかの周りをガードするほむらが最後に周囲を確認し、私達は再び歩を進めた。
乙
>>ひゅるりろマミさん
ヨロレイヒーとかいいそうかわいい
>>681
にくまん…なのか?
ごまどかっぽい
乙
マミさんは新技の仕込みか、面白いことになりそうだ
使い魔との戦いにも一区切りがついたところで、まどかはおずおずと話しかけた。
まどか「ほむらちゃんって、鉄砲を使ってるけど……それって魔法で作ったものじゃないんでしょ?」
ほむら「そうよ」
まどか「じゃあほむらちゃんの魔法って、何なのかなって…」
ほむら「……あ、ごめんね、変な事聞いちゃった」
気になる気持ちはよくわかる。私だって気になるもの。
ただ、まだ誰にも……私にもマミさんにも教えていない辺り、とても重要な事に違いない。
私への隠し事の本質というべきか……。
マミ「あ、」
使えるようになる魔法は自分の願い事に関係するものだから……。
マミ「この先で、」
ほむらがうやむやにして隠す自身の魔法も当然、願い事に関わっている。
マミ「魔女の気配がするわ」
キュゥべえはほむらを知らない、私もほむらを知らない、まどかもほむらを知らない、恭介もほむらを知らない、杏子もほむらを知らない、マミさんもほむらを知らない。
ほむらは私を知っていた、恭介を知っていた、まどかを知っていた、キュゥべえを知っていた、杏子を知っている風だった。
ほむらは……知っている。
けれど。ほむらは。
煤子さんだけは知らない。
マミ「美樹さん、大丈夫?」
さやか「え?あ、はい」
魔女が近いらしい。気を引き締めていかないと。
>ほむら「……あ、ごめんね、変な事聞いちゃった」
・・・まどかだよな?
通りすがりのめがほむかも知れない・・・
乙
???「なるほど、大体分かった」
「人類は滅亡する!」
な、なんだってーΩΩΩ
人がギリギリ這っても通り抜けられないくらいの間隔で組まれた鉄格子に囲まれている。
広い空間は入り口以外は全てが鉄格子で封鎖されていて……。
――ガシャンッ
まどか「わ!」
……全て封鎖されている。
まるで牢獄のような部屋だけど、人間にとっては広すぎて、監禁というよりは軟禁に近いかもしれない。
マミ「……あまりこういうことって考えないんだけど、気持ち悪い魔女だわ」
まどか「私もダメ……」
ほむら「……」
さやか「ほむらは?」
ほむら「あなたはどうなのよ」
さやか「結構平気、よく集めてたし」
ほむら「……この中で一番苦手な自信はあるわ」
私以外の三人が全て顔を顰めるその先には、巨大なヤゴらしき生き物がいた。
大きすぎて虫というよりもドラゴンみたいだ。
といっても、三人にはただの気持ち悪い虫にしか見えないのだろう。
魔女「ビィイイイイィイイ!」
魔女が鼓膜によく響く声で鳴き、未発達な翼を広げた。
◆羽化の魔女・ジョゼフィーヌ◆
マミ「鹿目さん、ここから動かないでね」
まどか「みんな、気をつけて!」
さやか「任せなさーい!」
マミさんの展開する虹色バリアーがまどかを覆ったのを見届けて、ひとまずは安心。
そして以前にマミさんに見せてもらった、蝶の翅をもった魔女との戦いを思い出す。
魔女は当然のように飛ぶ。
どう考えてもそれじゃあ飛べないだろ!っていう翼やなんかでも、簡単にふわりと浮いてみせる。
だからこの魔女も、見た目はヤゴだが飛ぶかもしれない。
ヤゴだし中からトンボが出てくるかもしれない。
飛ぶ可能性は高い。
さやか「みんな、あの魔女飛ぶかもしれないよ」
マミ「うわ……」
ほむら「私の中では四番目に最悪の魔女だわ」
さやか「いや……なんていうかそういうリアクションじゃないなぁ、私が求めてたのって」
やはり戦い以上にビジュアル面が気になる様子だ。
ほむら「飛んで近づいてくる前に、さっさと全部撃ち落してしまいましょう」
マミ「賛成ね、飛び道具で良かったわ」
さやか「……じゃあ前いってきまーす……張り切りすぎて私を撃たないでほしいな」
マミ「ふふ、頑張るわ」
いつも以上の高火力射撃の予感を背中に受け、私は巨大ヤゴへ走り出した。
戦いの始まりだ。
ワルプル、クリームとしてもう一つはオクタかな?最悪の魔女
シャルロッテかも
いや、ここはエリーを推す
例の凱旋門かも
よいお年を?
魔女「ビィイイィッ!」
さやか「!」
接近を試みようとした前のめりになったとき、ヤゴの小さな翼が広がった。
その裏側から無数の黒い影が舞い上がり、こちらに向かってくる。
人目でわかる。道中で何匹も潰した、ガトンボの小さい奴だ。
使い魔「ビィイッ!」
さやか「ふんっ」
真っ先に正面から飛び掛ってきた蛾をハンドガードで押し退け、魔女への突撃を敢行する。
立ち止まったら負けだ。使い魔の群れに怯んだら劣勢になる。
大量に出現させられて、量で押される前に、なんとか一撃を当てるんだ。
そう、出来れば翼に当てなくちゃいけない。
マミ「美樹さん、行って!」
ほむら「正面に集中して」
背後から私を追い抜く弾丸たちが、わき見の範囲に広がる使い魔を的確に撃ち落としてゆく。
あけおめー
切っ先を一匹目に刺し込み、捻って刃の腹で二匹目を斬り、ハンドガードで三匹目を叩き潰す。
数は多い。けれど横からを気にしないのであれば、全然いける。
二刀流のサーベルで、使い魔の濁流の中を強引に突き進む。
そしてついに、というかすぐに、魔女の目の前までたどり着いた。
さやか「おおおおおッ!」
魔女「ビィィイイッ!」
最後の突撃だ。二本のサーベルを魔女に向かって投擲する。
二枚の翅らしき背中へ向けて投げられたサーベルを、使い魔達は私以上に優先してブロックした。
翅は私を襲う以上に大事なことらしい。
ならばこっちの目的も明確になったようなものだ。
まどか「! さやかちゃん前!」
さやか「大丈夫!」
無手、そして目の前に複数の使い魔。
一瞬だけ守りに重きを置いたが、私への攻撃の手を全くやめたわけではなかった。
さやか「ほうら!」
使い魔「!」
空中で体を翻し、相手にマントを向ける。
使い魔達は白いマントへ突撃し、白いベールを容易く食い破り、貫いてしまった。
使い魔「……!」
そこに私はいない。
私は浮き上がったマントの下に、今度こそ本当に、何も隔てずに魔女の目の前にいる。
さやか「翅、もらった!」
魔女「!」
相手が反応するより早く前足を駆け上り、魔女の小さな翅のひとつに渾身の蹴りをお見舞いする。
足の甲に痛みが走った。
さやか(……った!)
魔女の巨体が、ほんの少しだけ浮き上がる。
逆に私の体は、反動で押し戻された。
魔女「ビッ……ビィィイイイ!」
さやか「まじっすか!」
マミ「効いてない……!美樹さん離れて!」
一撃に賭けた私のキックも、魔女の翅を折るには至らなかったようだ。
なぎ払われる刺々しい前足を避けて、マミさんとほむらの列に並ぶ。
さやか「いけると思ったのになぁ!」
ほむら「まったく、逆に安心するけれど……魔女に肉弾戦なんて、無謀もいいところよ」
アサルトライフルでガトンボの群れを蹴散らすほむらが私を戒める。
二人とも、迫り来る使い魔の掃除に手間を食っているのか、魔女に攻撃を加える暇がない。
さやか「しょうがない……近づくのがダメってんなら、私も遠くからで!魔女を狙いますか!」
みく吉wwwww
さやか「“アンデルセン”!」
遠距離かつ手数で使い魔を潰す二人のおかげで、私は心置きなく大剣を作ることができた。
そしてお見舞いする一撃は、サーベルが主力である私の最大火力。遠距離からの攻撃“フェルマータ”だ。
まどか「あれが当たれば!」
QB「さやかの願いが生み出したと言っても良いほどの威力がある、直撃すれば、あの魔女はあっという間に消滅するだろう、けど……」
まどか「え?」
QB「さやかの使う武器とは真逆をいく性質の技だ、何発も撃てるものではないし、外したときの隙は……」
さやか「“フェル”……」
生成した大剣を素早く真上に掲げ、重さのままに、ゆっくり後ろへ下げる。
その動作だけで、体中の“魔力”と呼ぶらしいシロモノが吹き上がる感覚を得た。
さやか「“マータ”!」
自身の体を基点にして半円の弧を描く大振りが、巨大な青白い力の流れを作って、目の前に放射される。
私の髪を前方へ靡かせる力の波濤が魔女へ襲い掛かる。
が。
魔女「! ビィッ!」
ほむら「!」
マミ「ああっ!?」
魔女は今更になって、飛んだ。
というよりも、跳んだ。真横へ跳んで、私の“フェルマータ”を避けた。
さやか「……!」
考え無しに放った大技への後悔と披露感が、大剣を握る両腕を更に重くする。
マミ「美樹さん!?」
さやか(今になって気付いたけど……!)
大剣が手から離れ、床に落ちる。
さやか(“フェルマータ”を使った後の疲労感が……結構ヤバい!)
大技は大技だった。代償無しにこんな技を何発も放てるはずがないのだ。
私の力では、一日に三発程度が限界か。道中の使い魔を相手に使うものではなかったのだ。
昨日の杏子との戦いでの肉体の消耗もあるだろうが、自分の力量を見誤ってしまったのは紛れもない事実。
反省……そして、ショックだ。
自分の魔法は、こんなものかと。
ほむら「さやかっ!」
さやか「!」
頭を冷やす。
二人は未だ、使い魔の処理に追われている。
私がなんとかしなくては。
さやか「仕方ない……!もう一度近づいて、今度はアンデルセンで、そのまま……!」
床の大剣を拾おうと手をかけるが、ひどく重い。
ほむら「……!無茶はしないで」
さやか「……」
アンデルセンの重さと自分の体力を比べてみれば、すぐに解った。
これを抱え、正面の使い魔を切り伏せながら魔女を叩く?そんな芸当は無理である。
私はそんなに身軽ではない。
さやか「……」
まどか「さやかちゃん!?」
親友の声が背中を擦る。
いつもの底抜けた“大丈夫!”が出てこない。
代わりに浮かんでくる言葉は、契約する直前にキュゥべえから言われた、素質の話。
マミさんと比べれば、私は三分の一しか力がない。
さやか(……違う、今はそんなことを考えるときじゃない)
素質どうこうを考えてどうなるというのか。
私は私にできることをするだけだ。それが私の願いだ。
私は、自分の手の届く範囲を広げるために力を願ったのではないか。
何も全世界の人々を私の願いひとつで救えるとは思っちゃいない。
この手の及ぶ限りに、守る力を欲したのだ。
だから考えるんだ、美樹さやか。
自分で作った大剣も握れない私が、あの魔女を叩き落すための手段を。
さやか(……――)
サーベル、刃とハンドガード。マント。
走る、斬る、跳ぶ、斬る。撃ち落とされる。
走る、斬る、斬る。未知数。
走る、斬る、走り抜ける。未知数。
魔女の翅のガードは堅い。私の蹴りは通用しない。
使い魔の出現は連続的で収まらない。魔女に一撃を与えるのが限界だ。
……今の私がサーベルを持ったところで、あの魔女に傷をつけることができるのか?
さやか「……私じゃ、あの魔女には……」
敵わないのではないか。
ほむら(……やっぱり、私が時間を止めてやるしかないわね)
さやか「……」
銃声を聞くだけで、私は何もできなかった。
足が動かない。打つ手無し。声を上げることもできない。
無力感と挫折が同時に私の心を襲う。
マミ「美樹さん」
さやか「!」
優しい声で呼ばれた私の名前に、正気が戻ってきた。
マミ「駄目そう?」
さやか「……すみません、私には、あの魔女を倒す力がありません」
マミ「うん、無茶はいけないわ」
私の本音を、マミさんは微笑みで受け止めてくれた。
……マミさんは本当に、優しい人だ。
さやか「ごめんなさい、近づいてきた使い魔を倒すくらいしか、私はできません」
ほむら「気にすることはないわ、相性が悪いだけよ」
自分の無力さを吐露すると、何故か楽になった気がした。
……私は万能ではない。力を願ったからといっても、最強になったわけじゃあないんだ。
深く、胸に刻むことにした。
(鏡餅*・∀・)+
鏡開きの日に叩き割るのが鏡餅
カビるまで放置されることもある鏡餅
乾燥してだんだんひび割れてくる鏡餅
最近だとパックの奴にお株を取られている鏡餅
(腐メ* ∀/ / ) ヨッテタカッテ・・・
でも飾ってよし、食べて良しの鏡餅
腐るって腐女子的なあれだったんですね
さやか「私は、近寄ってきた使い魔を斬る!」
できることを宣言し、私はその言葉通りに心を切り替えた。
自分にできることをやろう。
ほむらの言う通り、私との相性が悪いのは間違いない。
魔女が生み出す沢山のガトンボを相手にするのは、サーベルでは無理だ。
ほむら「私が……」
マミ「私が魔女の相手をするわ」
ほむら「……あなたの技では準備時間が長すぎる、私ならすぐに使い魔ごと魔女を倒せるわ」
なんですと。
マミ「ええ、あなたの魔法は底知れないものを感じる……使い魔ごと、すぐに魔女を倒せるかもね」
ほむら「なら」
マミ「けど、ここは私に任せて」
休みなくマスケットを打ち続けるマミさんが微笑んでみせた。
マミ「」
ほむら「?」
さやか「?」
マミ「試してみたい技があるの。成功するかわからないから、今まで使わなかったけど」
ほむら「……」
マミ「お願い」
ほむら「……わかったわ」
マミ「ありがとう」
マミさんが手を休めた。
大砲でもなんでもない、普通のマスケット銃を一挺だけ魔女へ構えている。
彼女の手が休まったことで何が起こるのかといえば、当然魔女の撃ち漏らしだ。
無尽蔵に襲い掛かる使い魔は、ほむら一人だけでなんとかなるものではない。
ほむら「さやか!時間稼ぎを!」
さやか「おっけー!任せて!」
一本のサーベルを両手で握り、間合いに入った使い魔を斬る。
幸いにして脚はよく動く。腕は披露しているが、これなら広い範囲にも隙なく対応ができる。
マミ「時間はかけさせないわ……少し集中するだけ」
さやか「はい!」
マスケット銃で何をするのか、それは私にも興味がある。
そのために、私はマミさんを守らなくては。
マミ(……私の魔法には力が備わっている、必要なのはそれに技術を乗せること)
マミ(私にはちゃんと力がある、技術もある……佐倉さんだけじゃない、美樹さんだけじゃない)
マミ(力を込めて撃つだけが、私の魔法の終着点ではないはず)
マミ(……私と佐倉さんの今の距離感が、私の限界ではないわ)
さやか(!)
私は激しく立ち回る中、マミさんの眼が鋭くなったのを見た。
そこにはいつもの柔らかな余裕はない。
凶暴な熊に照準を合わせた、一発に集中する狩人のような眼だ。
マミ(……自分が放つ弾をイメージする)
マミ(私の生み出す魔力の、最も乱暴な形、弾けて回るエネルギーの魔力)
マミ(私の銃をイメージする)
マミ(弾を包んで押さえ込み、フリントの衝突で開放する、システムの具現)
マミ(けれど忘れてはいけない、私が生み出す銃も、弾も私の魔法……暁美さんの使う実物ではない)
マミ(ただのマスケット銃ではないし、鉛の弾丸でもない)
マミ(私の魔力から生まれた同じもの……それなら!)
マミ(撃った後に役目をなくす銃自体を、魔力の弾の回転に乗せる事も――可能!)
マミ「“ティロ・スピラーレ”!」
さやか「――」
間合いに入った使い魔をひとまずは片付けたとき、丁度マミさんが発砲する瞬間を見ることができた。
光る銃口、あふれ出す光弾。
マミ(解けて!)
さやか「!」
光の弾が放たれると共に、それを包んでいたマスケット銃自体が元のリボンへと戻る。
それだけじゃない。リボンに還元されたマスケット銃は、その端を光の弾丸に繋げており、弾の進行と同時にくるくると螺旋状にほどけていく。
弾に引っ張られるリボンの銃はまるで、解けてゆく毛糸のようだ。
銃を構成していたリボンを全てを解いた弾丸は、真っ直ぐ魔女へと飛び込んでゆき――
マミ(広がれ!)
魔女「!?」
ほむら「!」
魔女に当たる直前に、弾丸は無数のリボンを放射した。
使い魔を貫きながら、動きを止めながら伸びるリボン。それはまるで、蛾を捕らえる蜘蛛の巣のようだった。
(毛糸)∀)-з
トッカ・スピラーレとの関連性は
技名もバッチリ考えてあるとは流石です。
魔女「ビィッ……!」
マミ「あら、ちょっと痛かったかしら?」
リボンの炸裂弾。咄嗟に浮かんだ言葉はそれだった。
モニターの魔女の結界で見た、“リボンの花火”とは違う。
光の弾から展開される無数のリボンは、弾に収束した魔力と回転力を開放し、銃を構成していたリボンを分割して撃ち出したものだ。
マミ(やっぱり、普通に操るリボンよりも威力が段違い……!)
放射状に伸びるリボンに貫かれた使い魔は消滅し、魔女の堅い外殻にヒビを入れていた。
そして魔女に触れるリボンは巻きつき、そのまま巨体を拘束する枷となっている。
ほむら「なにこれ……!」
QB「なんてことだ……すごいよマミ!まだまだ強くなれるなんて!」
マミ「ふふ、上手くいったわ」
大味な大砲で魔女を消し去るわけでもなく、一発で魔女の弱点をスナイプするものでもなかったが、目に見えてボリュームを失った群れる使い魔の塊に、紛れもない“必殺技”であると、誰もが思ったはずだ。
マミ「でもまだよ、この技のいいところは、コツさえ掴めば何発でも撃てるってことなんだから」
スカートを広げ、中からマスケット銃が四挺落ちた。
さやか「……まさか」
マミ「ふふ、まさかよ」
銃口は無慈悲にも、拘束され動けない魔女に向けられる。
南無。
ショットガンって対人戦とか柔いものにしか通用しない
散弾は弾速が遅い(たぶん)し、弾丸が小粒で貫通力がないからな。
回転してるわけでもないし。
こ、これは本物じゃなくてマミさんのイメージだし魔法の不思議パワーでどうとでもなるんだよ!
ショットガンというよりフレシェット弾に近い感じがする
鎧の魔女なんてのも中にはいるけど、魔女が装甲目標とも思えないし十分じゃね
だいたい貫通力低かったらコンクリの壁にドリルで掘ったみたいな穴は開かん
SS中のどこにショットガンが描かれてるんだろうと思いながら728のレスをつけたが、
読み返してもショットガンらしい描写は見つからなかったし、問題はないと思う。
DMCとかバイオとかだと近距離でエライ威力発揮するイメージだな
戦車の砲弾で言うAPHE(徹甲榴弾)と同じだと思うんだが
おっと、これ以上の議論はやめておこう
マミ「一発一発に、ただ集中さえすれば、」
マスケット銃の弾丸が新たに打ち出され、動きの鈍った魔女へと突き進む。
が、翅の裏側から生み出された使い魔は弾丸を防ぐためにその身を投げ出した。
マミ「発動を失敗することもなさそうね」
使い魔の壁に命中する寸前で、弾丸は再び炸裂した。
弾から無数のリボンが魔女の方向へ伸び、帯は使い魔を貫き、引き裂いてゆく。
使い魔の献身的な防御をもってしても防ぎきれなかったリボンは魔女の外殻に突き刺さり、更にダメージを与えた。
と、そこまで私が観察していると、目を休める暇もなく、三発目の弾が魔女へ向かっていた。
バン、と輝き弾け、幾条もの帯を突き出す弾丸。
放射状に展開したリボンは結界の壁や床に突き刺さり、ひとつの堅い檻としても機能していた。
それは一発打ち込まれるごとに、窮屈さを増してゆく。
四発目のティロ・スピラーレが炸裂する頃には、使い魔が盾を買って出る飛行スペースはなく、リボンの放射線は全て魔女に突き刺さった。
ほむら「こんな技を使えるなんて……」
マミ「ふふ、美樹さんや佐倉さんにのまれちゃった所があったけど、どう?私のことも戦力として見直してくれた?」
ほむら「……いいえ、やっぱりさすがよ、巴さんは……」
さやか「こ、これでも普通の一発と同じ魔力っていうのが信じられないっすねぇ……」
クラスター弾だな
ショットガンというと昔バカ殿でやってたな
QB「弾の回転エネルギーを利用したリボンの展開。マミが得意とするリボンの操作ではなく、勢いを乗せた爆発と言ったほうが良いね」
まどか「リボンの爆発……」
QB「イメージではクラッカーに近いかもしれないね」
まどか「……なんか、おしゃれだね」
QB「いやいや、危ない技だと思うよ……威力は火薬なんてメじゃないだろうね」
魔女「ビィ……ビィィ……」
黄色い蜘蛛の巣に囚われた魔女は、全身を貫かれて相当弱っている。
翅にもリボンが貫通し、飛ぶことも使い魔を出すこともままならない様子だ。
マミ「それじゃ、終わりにしましょうか?」
ほむら「ええ」
さやか「……へへ、やっちゃってください!」
余裕ありげにニコリと笑って、マミさんは大きな大砲を出現させた。
相手が動かないためか、機嫌がいいためか、いつになく優雅で、美麗なポージングだった。
そして最後の一発が轟くだろう。
マミ「“ティロ・フィナーレ”!」
マミ「はい、おわり」
ティーカップ片手に、マミさんはこちらに微笑んだ。
背中で崩れてゆく結界の演出が、相変わらず格好良くて惚れ惚れする。
さやか「うー、経験不足だあ……」
それと比べて私といったら、もう。
今回はダメダメだ。魔女との戦いではほとんどほむらとマミさんだけのものだった。
まどか「さやかちゃん、上達と進歩を焦っちゃだめだよ?」
さやか「……うん、うん、そうだよなあ、うん」
まどか「ね?」
さやか「はは、参った参った」
まどか「てぃひひ」
いつかまどかに言った言葉をそのままに返されてしまうとは。
魔法少女になってから舞い上がりすぎているのかもしれない。
こりゃあまた、竹刀で素振りをする毎日に戻ってみる必要もありそうだ。
ほむら「お疲れ様」
マミ「ええ、暁美さんもお疲れ様……はい、グリーフシードよ」
ほむら「私の取り分はいいわ、まだしばらくは……」
マミ「堅いこと言わないで、ほら、受け取って?」
ほむら「……私はもともと、取り分を少なくして協力している立場だから……」
マミ「もう、今更そんなことは関係ないわよ、私は暁美さんを信用してるもの」
ほむらの手にグリーフシードが、半ば強引に握らされた。
厚意を手渡されたほむらはマミさんとキュゥべえを忙しく見比べながらあたふたしている。
そんな表情も、なんか、良かった。
ほむらがやわらかくなってるのがかわいいんだけど
魔女を倒し終えたその後は、マミさんの家でちょっとしたおやつタイムだ。
色々な形の手作りクッキーと、やっぱりいつ飲んでも美味しい紅茶が振舞われた。
まどか「んー!」
マミ「ふふ、美味しい?」
まどか「カリッとサクサクで美味しいです~……」
マミ「ありがとう、私、クッキーだけは沢山作ってるから、得意なのよ」
さやか「ほへぇー」
と、関心しつつ色の違う3枚を同時食い。
プチシリーズも真っ青なさやかちゃんの食欲を前にしては、クッキーなんぞ晩飯前よ。
さやか「ほい、キュゥべえにも」
QB「わーい」
ほむら「……ちょっと」
マミ「ダメよ美樹さん」
さやか「え?」
マミ「キュゥべえは沢山食べるから、一日に3枚までって決まってるの、太っちゃうでしょ?」
キュゥべえの食事、マミさんが管理してるんだ……。
QB「ひどいよマミ、僕はいくら食べても太りはしないのに」
マミ「だーめ」
ほむら「巴さんの言う通りにしなさい、往生際が悪いわよ」
QB「君はここぞとばかりに辛辣だね」
さやか「どれどれ」
QB「きゅ」
キュゥべえの体をひょい、と持ち上げてみる。
膝の上に乗せ、耳から伸びているよくわからない腕のようなものを触る。
QB「あまり引っ張らないでくれよ」
さやか「うん、耳も気になるけどね、私はどっちかと言えばこっちの方が」
QB「痛っ」
キュゥべえの背中に描かれた赤い模様に爪を立ててみる。
さやか「あれ?開かない」
QB「あ、開かないって!」
マミ「ちょっと美樹さん!いじめないの!」
まどか「あはは……」
さやか「いっつもグリーフシード食べてるから、中はどうなってるのかなーって!ちょっと見せてよ!」
QB「千切れる千切れる!割れる!」
さやか「え、割れるとどうなるの!?」
マミ「誰か彼女を止めて!?」
まどか「あのさやかちゃんは私じゃ止められないです……」
もうちょっとで開くかなと思ったところで、マミさんに後頭部をチョップされて断念となった。
ほむらはずっと紅茶を飲みながら騒動を見ていたが、どことなく楽しそうな様子だった。
( *・)ミル?
乙
見る!
(*・|●|・*)ずももも・・・
クッキー☆
ンギモッヂイィィ!!!!
お前ら気持ち悪い
( *[マスク]* ) オタフクゥー・・・
やったね!種無しさ!
( *[??])??@д??
† 8月15日
夕陽を背にした煤子の影が、真っ直ぐ杏子へ伸びる。
影の中の杏子は竹刀よりも遥かに長い棒を握り、煤子に立ち向かっているように見えた。
煤子の手の中に納まっているものは、ほんの三十センチ程度の枝切れ。
杏子「はぁ……はぁ……!」
煤子「火と活力の象徴……棒はどこにでもある一般的な生活の道具、けれどそれは武器にもなるわ……棒の武器って何だと思う?」
杏子「棒の、武器……?」
煤子「棒が武器になる理由よ……棒の強み、それが棒の武器」
杏子「……長い」
煤子「そう、長さよ」
右手に持った小枝を掲げる。
掲げられた小枝の影はグンと伸びて、地面の上に一本の木を作った。
煤子「長い……それだけがシンプルな一本の物体に、武器としての力を与えたの」
杏子「……けど!」
煤子「けど?」
杏子「……まだ、全然……一回も、あなたに当てることができていないです」
少女の言うとおりだった。
まだ始まって十分の“実践”の開始だったが、杏子の1mの棒は未だ、煤子の小枝に払われてばかりなのだ。
煤子「棒はどこにでもある道具、そして貴女はそれを持って強くなる」
煤子「もちろん何も持たずに強くあるべきとは思うけれどね」
煤子「目を凝らせばどこにでもある棒、長い物……それには刃物はついてないし、鉄製でもない」
煤子「けれど使いこなすことが出来れば、長い刃物や鉄製の警棒よりも、遥かに頼れる道具になるわ」
そう言って、煤子は手に持った小枝を足元に放り捨てて、傍らに控えさせておいた木の棒へと取り替える。
杏子が持つそれと同じ太さではあるが、2m程の長い棒だった。
煤子「まず棒というものは、長い」
杏子「っ!」
棒の端を握り、それを自然体で掲げ、振り下ろしただけだった。
が、それだけの動作で既に、煤子の棒先は、杏子が構えていた棒の先をコツンと叩いた。
煤子「相手よりも先に届く、それだけで長さは利点になるわ」
杏子「……」
煤子「そして相手より長ければ、相手の攻撃は届かない」
杏子「!」
棒をこちらに向けた煤子が、ゆっくりを歩み寄ってくる。
ぼんやりしている間にも、相手の先端は杏子の腹を優しく小突いた。
杏子の持つ短めの棒は、どう足掻いても煤子には届かず、空を切るばかりである。
しかし振り回しているうちに、偶然ではあるが煤子の棒を叩いて、地面へと叩き落した。
杏子「あ……」
煤子「これが弱点、長いから振りは遅いし横は当てられやすい、かわされやすい」
杏子「……だから私のは、何度も」
煤子「相手が避けられないような棒の使い方を教えてあげるわね」
杏子「……!はい」
† それは8月15日の出来事だった
乙
:じゃあそろそろ出るから、いつもの所でね
:うん!また後で!
というようなメールをいくつか交わして、携帯を仕舞い込む。
昨日の魔女との戦いのこともあって、そんな私を気遣ってか、まどかは朝から体調を気遣ってくれたのだ。
「あら、鹿目ちゃん?」
さやか「うん、あ、やっぱり塩取って」
「はい」
朝ごはんの蒸かし芋に一つまみの塩をかけて、半分齧る。
朝の忙しい時間にバターを付ける動作がもどかしくなったのだ。
本当はバターの方がいいんだけどね。滑るからね。
「最近部活の道具持っていかないじゃない、どうするの?」
さやか「部活は……やらないことにしたの、どうにも合わないわ」
「確かに揉めたりしたけど、勉強の方だって大丈夫なんだからまた戻っても……」
さやか「女子中学生は忙しいのー」
最後の一口を塩味無しで詰め込んで、鞄を肩に掛ける。
さやか「ほいじゃ、いってきまーす!」
「うん、いってらっしゃーい、車に気をつけてね~」
マミさんは自分の魔法を、あそこまで応用し尽くしてみせた。
リボンを変形させて銃にして、変形解除してリボンに戻す。
砲身自体を第二の弾にしてしまう無駄のない攻撃だった。
黄色い蜘蛛の巣が弾けて広がる毎に、相手の行動範囲を奪いダメージを与えてゆく。
マミさんの魔力に対する計り知れない理解と経験が、あそこまでの圧倒的な攻撃技を生み出したんだ。
けれど私の魔法といえば、なんだ?
剣を握って、根性と見切りで掻い潜って一撃を浴びせる。
そのシンプルな戦術はどこまでも極められるだろう。けどそれは、あくまでも現実的な動きとしての技量でしかない。
魔法少女としての私の力は、まだまだ眠っているはず。
まさかアンデルセンを生み出して、そっからビームをドバーだけじゃないでしょう。
……ないでしょう?多分。きっと。
さやか(ビームだけだったらどうしよう)
あのエネルギーの放出技は、あくまでも大剣で扱える基本的なものであってほしい……。
もっと応用が利く、魔女に対抗できる技を手に入れたい。
魔女を一人で倒せないだなんて、そんなんじゃ未熟すぎる。
そんなんじゃ……杏子と戦っても負けちゃう。
さやか(……だから、杏子のこと考えてもどうしようもないって)
いつもの待ち合わせ場所が見えてきた。
[保温器]∀)ナオッタワー
乙
回復おめ
乙
>>759
コンマすげぇ
>>760
うわマジだwwwwww
仁美「おはようございます、さやかさん」
まどか「おはよー」
さやか「おっはよう」
手をひらひらと振って挨拶する。
もう既に三人とも、待ち合わせ場所に到着済みのようだった。
三人ってのは要するに。
ほむら「おはよう、さやか」
さやか「おいす~、おはよーほむら!」
ほむらも一緒だ。
仁美やまどかとは立ち位置に距離もあるが、数日のうちに私達の空気感にも馴染めているように見える。
まどかも仁美も話しやすい性格だ。きっと残りの僅かな距離感も埋めていけるに違いない。
さやか「んじゃあ、行きましょっか」
ほむら「そうね、急ぐほどではないけど」
仁美「ふふ、ゆっくり歩いて行きましょうね」
まどかの袖を見るに、今朝はサラダトースト……いや、ハムサンドトーストを食べたようだ。
トマトは家庭栽培だろうか?まどかパパはホントすごいなぁ。
仁美の朝食はちょっと解らないけど、問題なく済ませたことを疑う余地はない。
右手の指を見た感じだと和食だろうけど。
ほむらは……あ。
こいつ結構不健康な朝食とってるなぁ。綺麗な髪なのに勿体無い。
さやか(と、ここまで色々思ったことはあるけど、一つでも喋ったら大変なことになるんだよね)
まどかの“なんでわかるの?”欲しさに私生活にずかずか足を突き出すのもマナー違反だろう。解っていても言うのはナシだ。
本当は詮索するように見るのもいけないことなんだけど、見えちゃってわかっちゃっちゃうものは仕方ない。
ほむら「さやか」
さやか「ん?」
前でまどかと仁美が話す姿を眺めながら、ほむらが静かにたずねる。
ほむら「魔女退治は、辛いかしら」
さやか「ん、んー、心配してくれてるの?」
ほむら「……あなた個人だけの問題じゃない、だから皆のために心配しているのよ」
さやか「あっはは、なるほどなぁ」
素直に私が心配って言ってくれたっていいじゃないのよさ。
本心なんだか、恥ずかしがってるんだか。
さやか「魔女退治は……そうだね、壁に当たっちゃったかなとは思ってるよ」
剣という武器の弱点。近づけなければ意味が無い。
相手が魔女でも槍でも同じこと。リスキーな武器で、私は戦っている。
さやか「けどまだまだ出だしだもんね、挫折するのはまだ早いと思うよ」
ほむら「……私達は遠距離からカバーできる、一人でやろうなんて、あまり思いつめるのは」
さやか「頼らざるを得ないときにはもちろん頼んじゃうよ、迷惑はかけられないしね」
けれど、私は強くならなくてはいけない。
どんな魔女を相手にしても、一人で戦えるくらい強くなくては、街の平和を守るなんて不可能だ。
そのためには今のままじゃ不十分。
剣術だけに頼ったスタイルではない、もっと魔法の力を利用した、融合させたスタイルが必要なんだ。
マミさんだってあそこまでの制御をやってみせたんだ。
私もできないことはないはず。
さやか「……ねえ、ほむら」
ほむら「?」
さやか「もしよかったら今日の放課後、一緒に魔女退治というか……練習に付き合ってくれない?」
ほむら「練習?」
さやか「うん、マミさんも一緒に……色々なアドバイスがほしいんだ」
ほむら「……」
首をかしげ、ほむらは少し悩んだようだった。
ほむら「……やらなくてはいけないことも、あるんだけど……」
さやか「忙しい?」
ほむら「夜までなら、付き合えるわ」
さやか「ありがとう!」
ほむら「ちょ、ちょっと」
手を掴んでシェイクする。
なんだ、ほむら。やっぱり良い奴だよ。
授業中に考えることは、摩擦力を無視して平面を転がる球の速さではない。
私の魔法そのものについてだ。
私の魔法少女としての姿は、軽装だ。
背中に白いマントを羽織っている以外には特に装備もない。
装備として生み出せるのはサーベルだ。
これはマミさんでいうところの銃や、杏子でいうところの槍にあたる魔法武器。
……マミさんの場合は基本がリボンで、銃はそこからの二次生成になるんだろうか?まぁいいや、きっと似たようなものだ。
サーベルは何本も生み出せる。自分の周囲ならどこにでも、パッと生み出すことが出来るのが強みだ。
杏子を目の前に戦闘している最中でも、ほんの少し手に力を込めれば瞬時にサーベルを生み出し握りこむこともできる。
サーベルは2本を手の中で重ねて握りこむことによって、巨大な大剣に変化する。
この大剣がアンデルセンだ。
サーベルよりも頑丈で、リーチは長いしその分の威力もある。
ただ重いから、さすがにサーベルほどの取り回しやすさはないし、個人的に慣れた刀剣とは形も違うから、四六時中振り回していたいものではないな……。
アンデルセンの強みがあるとしたら、それはやっぱり幅の広さを生かした面での防御や……。
魔力を込めてビームとして放出する大技、“フェルマータ”だろう。
一度放てばエネルギーの波が駆け抜け、目の前の相手を一掃してくれる便利な技だ。
……けどこの技の燃費は非常に悪い。
威力も見た目に反して、杏子に直撃しても一撃必殺とはいかない中途半端さだ。
魔女へのトドメや、大勢の使い魔を掃除する際くらいにしか使えないだろう。
私の手持ちのカードは、これらだ。
……手持ちのカードでやりくりするしかない、って言葉はよく言われるけど。
私の手持ちっていうのは、本当にこれだけなんだろうか。
実際のところ、もっと他に使える魔法があるんじゃなかろうか。
そしてあるとしたら、どんな魔法なら私の戦い方に適にているのか……。
考えなくてはいけない。
[植木鉢]∀)っ(トマト) ココマデ
乙でアリマース。
さやかの新必殺技どないなるだろか。
結構楽しみ。
特訓にほむらを誘おうと決めたさやかの意図も見えるかも知れないし次回更新に期待。
乙
まどか「それでユウカちゃんたら、またやっちゃって」
マミ「あらあら、ふふっ」
さやか「上からバケツでなんてねー、もうあの時は大爆笑っすっよ~」
昼休みの屋上は私達のプライベートエリアとなったようだ。
魔法少女の秘密を共有する人たちが一斉に集い、お昼の弁当を食べながら日常会話を交わす。
放課後に特訓する旨をマミさんにも伝えなくてはいけないけれど、なかなか切り出すタイミングが掴めない。
私は別に、海苔弁の合間合間に魔女を挟んで食べちゃうこともできるけれど、マミさんの場合もそうとは限らない。
数少ないとわかりきっている他人の日常の一コマを切り取るには、少し躊躇があった。
悩む間に扉は開いた。ほむらが入ってきたのだ。
ほむら「こんにちは、巴さん」
マミ「こんにちは、暁美さんもこっちきて一緒に食べましょ?」
ほむら「ええ、ところで」
おや?
ほむら「放課後にさやかが、魔法の練習をしたいという話があるのだけど」
さやか「……」
ほむらは弁当の包みも開けずに、着席前の手土産とその話題を出した。
……まぁ、確かに普通は開口一番にでも言うべきことなんだけどね。
先に言われちゃったね。
マミ「あら、そうだったの?」
さやか「え、ええ……私の魔法、マミさんやほむらに見て欲しいかなーって……」
マミ「あら、そういうことなら遠慮なく言って?いくらでも手伝うわよ」
さやか「本当ですか!?ありがとうございます!」
マミ「大切な後輩からの頼みだもの、ふふ」
さやか「あはは……」
QB「魔法の練習か、確かに必要になってくるかもしれないね」
白猫がまどかの膝から降りて、私の肩へと飛び移った。
身軽なものだ。
QB「昨日のマミの成長ぶりには驚いたけれど、さやかの場合はまだ充分に伸び代があると思うよ」
さやか「やっぱりそうなの?」
マミ「私はいっぱいいっぱいみたいな言い方ね、キュゥべえ」
QB「気を悪くしないでおくれよマミ、事実君の魔法はもう極めるところまで極めたと言えるじゃないか」
マミ「ふふっ、冗談よ、褒め言葉として受け取っているわ」
まどか「さやかちゃんは、まだまだ魔法少女として強くなれるの?キュゥべえ」
QB「そうだね、可能性は大いに……いいや、成長への道筋は確実に存在すると言ってもいいだろう」
さやか「そこまで断言しちゃうんだ」
QB「根拠はあるよ」
QB「君達魔法少女はそれぞれ、形を成した特有の魔法を持っている」
QB「マミならリボン、さやかならサーベル、杏子ならば槍、といった具合だね」
さやか「武器ってことね」
QB「“固有武器”とでも言っておこうか、ほむらの場合“固有武器”は……」
ほむら「……」
ほむらめっちゃ睨んでる。ものすごいキュゥべえ睨んでる。
QB「……まあいいや、とにかく君達はそれぞれが、最低限魔女と戦うための武器をもっているんだ、それが固有武器」
まどか「マミさんの鉄砲は違うの?」
マミ「あれはリボンから作り出しているだから、基本的には私の魔法はリボンなのよ」
まどか「ほぇえー……」
QB「固有武器の特徴は簡単に生成可能な点にある……マミも最初は魔法の扱いが苦手だったけど、リボンだけは上手く操れたね」
マミ「ええ、そうね、リボンだけは……何もかも懐かしいわ……」
懐かしみむ遠い目というよりは、過ぎ去った日々を静かに見送るような、そんな目である。
マミさんの魔法少女としての過去の活躍については、あまり聞くべきではないのだろう……。
QB「固有武器を更に強化した形態が“強化武器”だ、これはマミのリボンが生み出すマスケット銃や、さやかがサーベルを重ねて作り出す大剣などだね」
さやか「アンデルセンかぁ」
まどか「マミさんのティロ・フィナーレも?」
QB「あれもまとめて“強化武器”になるだろうね、威力は違えど、固有武器から作り出す二次生成物には違いない」
とすると、マミさんは魔女との戦いでかなりの強化武器を使っているということか……。
QB「強化武器を生み出すのは簡単だよ、そう難しいことではないんだ……現にマミは、強化武器を主体に戦っているからね」
マミ「ふふ、何でも作れちゃうわよ」
まどか「魔法って感じがして、ステキですね」
マミ「ありがとう」
さやか「……杏子の、あの両剣も強化武器なんだね」
マミ「……ああ、ブンタツね……」
ほむら「杏子の?あれって?」
さやか「……杏子とやりあった時に、色々とお見舞いされたのさ……」
コンクリの地面すら漕いでしまうように切り裂く双頭の槍。
私がサーベル二本から生み出すアンデルセンよりも、遥かに強い武器のように感じた。
QB「生み出される強化武器の威力や魔力の消費、強さから使いやすさはまちまちだね、これは比較のしようがないから優劣を感じる必要はないよ」
さやか「剣二本VS槍二本で悩まなくて良いってことね」
QB「うん、固有武器やそれから成る強化武器については、ひとまず置いておく形でいいと思うよ」
さやか「ひとまず置いておくって……そしたら私、マントしか無いんスけど……」
QB「重要なのは形のある魔法ではなく、もうひとつの形の無い魔法だ」
ほむら「……?形の無い魔法?」
QB「魔法少女としてのさやかが強くなるには、そこを伸ばすしかないと思っているよ」
さやか「形の無い、魔法……」
それは一体……?
大いなる謎は予鈴のチャイムと共に闇へ解け、放課後へと続いてゆくのであった……。
待ち遠しい放課後ほど長く果てしない時間はないけれど、自分の魔法について考えているだけでも時間は矢のように過ぎていった。
あっという間に放課後になったので、私はいつもより二割増しの付き合いの悪さで教室を出て、待ち合わせの場所へと急いだ。
とにかく、今の私は強くなりたかった。
キュゥべえの話を聞いて、マミさんからアドバイスをもらって、奥ゆかしく見守ってくれるほむらからさりげない助言なんぞもいただいたりして、とにかく自分を高めたかったのだ。
QB「放課後のチャイムと同時に飛び出すものだから、何事かと思ったよ」
風力発電の大きな羽の影がちょっとだけ恐ろしい、待ち合わせの土手へとやってきた。
首根っこを掴んで連れてきたのはキュゥべえだ。
さやか「ごめんね、魔女退治とは関係ないんだけど、今日はたっぷり勉強したい気分なんだ」
QB「勉強熱心なのはいいけど、お手柔らかに頼むよ、それだけが心配なんだ」
さやか「へへ、ごめんごめん」
白い毛並みを撫でながら少し待っていると、小走りの音が近づいてきた。
まどかだろうか、と思って振り向いてみると、意外にもその人物はほむらだった。
ほむら「はぁ、走って帰るなんて、よほど続きが気になっていたのね」
さやか「へへ、いやぁ、自分の可能性が広がる話ってのは、聞いてて楽しいもんね」
ほむら「……確かに、そうかもしれないけど」
ほむらはキュゥべえを挟まないように私の隣に座った。
さやか「ほむらの固有武器って、何なの?」
ほむら「……さあ、何かしらね」
さやか「む、そのくらい教えてくれても良いんじゃない」
ほむら「……」
ちょっとだけ困ったような顔をしたが、すぐにいつもの仏頂面に戻った。
ほむら「左手につけている盾、あれが固有武器かしらね」
さやか「ああ、あれが……なるほど」
QB「珍しい形の武器だね、興味は尽きないよ」
さやか「……なるほど、キュゥべえがいると喋りたくないんだね」
ほむら「察してくれてありがとう」
QB「それは酷いな、僕はみんなに教えているというのに」
さやか「あはは、確かにそうかも」
剣幕なんだかそうじゃないんだか。
マミさんがやってくるまで、しばらくはそんな不思議な空気が続いたのでした。
(((*=∀(布団)∀) ココマデ
乙
乙
険悪の間違い?
さやかちゃん可愛い!!!
今更だが、赤い双頭の槍使いでエビルを思い出すなぁ
人目を気にしない高架下で、三人が集まった。
マミさん、ほむら、そして私だ。まどかは私用もあってか、来れないとのこと。
まどかも魔法少女関係者とはいえ、常に私達と行動を共にする必要はないのだ。
一緒にいる分だけ魔女や使い魔の流れ弾を受けるリスクが増す。
もちろんお荷物の一言で切り捨てていいはずはない。一緒に居ることは、魔法少女に憧れるまどかにとっても、私達魔法少女にとっても意味がある。
けれど、それを解っていてもなお、まどか本人には一般人としての負い目があるらしい。
こういうことで焦らなければ良いんだけど……あの子の性格上、チクチクと自分を責めてそうだ。
QB「集まったね、それじゃあ話の続きをしようか」
さやか「!」
おっと、いけない。
今はキュゥべえ先生の講義に集中しなくては。
さやか「えっと、“固有武器”や“強化武器”とは違った魔法があって、私はそれを鍛錬できるって話だよね?」
QB「鍛錬というとひどく地道な印象だけど、そうだね」
QB「その魔法を仮に“特性魔法”とでもしておこうか」
さやか「特性魔法?」
QB「特性魔法に明確な形は無い、これは言うなれば君達魔法少女それぞれが持っている、魔法の性質だ」
ほむら「初耳ね」
QB「魔法少女個人のものだからね、言ってどうなるものではないんだ。言って伝わるかも怪しいしね」
さやか「特性魔法って、例えばどんなの?」
マミ「私にもあるのかしら」
QB「マミを例にあげるとしよう、マミの特性魔法、その性質は“収束”と言えるだろう」
マミ「……収束?」
随分と漠然とした単語が出てきたなぁ。
QB「マミの魔法は全般的に、エネルギーをひとつの形に形成することを得意としている」
ほむら「……それはリボンが銃を作ることにも関わるのかしら」
QB「大いに関わってくるね、魔法による新たな物体の創造、銃としてのエネルギーの圧縮、回転の圧縮……今のマミは、収束という性質を体現した魔法少女であると言えるよ」
とおそらく褒められているであろうマミさん御当人は、照れればいいんだか話の小難しさに首を傾げればいいんだか、悩んでいる様子。
QB「様々な魔法少女を見てきた僕の経験上、特性魔法には色々パターンがある……収束、解放、修復、破壊、それぞれ得意とするものは違ってくるし、戦い方も当然変わる」
ほむら「……」
さやか「物騒な響きだけど、破壊っていう特性魔法は魔女との戦いが楽になりそうだね」
QB「うん、かなり影響してくると思うよ」
さやか「私の特性魔法って何なのかな?これっていわゆる、ゲームでよくある属性とか、タイプとか、そういうヤツだよね。キュゥべえにはわかるでしょ?」
QB「わからないよ?」
さやか「えっ」
QB「特性魔法、これは魔法少女の魔力の性質、その傾向だ」
QB「実はこの特性魔法というものは、君達が魔法少女となる契約を交わしたときの願い事が反映されたものだよ」
QB「特性魔法は、僕が選択し、振り分けるようにして君達に与えているものではなく……あくまで君達の選択によって得られた、奇跡の片鱗なんだ」
願い事が自分の魔法に反映される。ふむ。
マミ「え、っと、じゃあ私の“収束”っていう特性魔法も」
QB「マミの願い事が影響した結果、身についたものだね」
さやか「じゃあ私の特性魔法は?私の願い事、強くなることなんだけど」
私の魔力の性質と言われても、パッと頭の中には浮かんでこない。
力が強い?剣を出せる……?うーん、違う、魔力の性質とか、そういうことを考えるとそんなことではなさそうだ。
QB「それはまだ僕にもわからない……さやかの特性魔法については、まだまだ見出せてない部分が多い」
ほむら「観察不足といったところかしら」
さやか「……か、観察かぁ……まぁでも、確かに」
まだまだ私は経験の浅いヒヨっ子だ。
力の出し方、自分の得意なこと。何もかも知らない魔法少女ド素人なのだ。
己を知れば百戦危うからず。つよくなるためにはまず、自分の力を見極めなければなるまい……。
さやか「……なるほどね、まだビジョンがハッキリとはしてないけど、私にも得意な魔法があるってことか」
ちょっと希望が湧いてきたかも。
|コップ*=∀(葉) ヾ(∀・* ) ココマデ
破壊魔法は前回の汚職議員みたいな外伝魔法少女の示唆か
おっつおつ
破壊はかずみ(破戒)じゃね
川のせせらぎだけが聞こえる。
橋の下は暗く、肌寒い。
閉じた目には何も映らない。
ただ脳裏には、魔法少女となった自分の姿を思い描く。
“全てを守れるほど強くなりたい”。
全てを守る、私の姿……。
マミ「つまりはイメージ修行よ」
ほむら「砂利の上で胡坐かいて実践しちゃってるけど、効果は出るのかしら」
マミ「キュゥべえの話を聞くに、必ず効果があるはずよ」
ほむら「……巴さん、根拠無しに言ってるでしょう」
マミ「こういうのは思い込みを含めて、本人のイメージが大切なのよ!」
ほむら「実際はどうなの、やらせておいて良いの」
QB「本人がやる気十分に望んだんだ、僕に止める権利はないよ」
ほむら「……不安だわ」
また、チャージ期間に入ったのかな?
おいついた>>1,がんばって
本編より連載期間ながいね
あげんなよ
冬眠したのか?
(((彡 *・∀・ミ 冬オワッタノ?
もう春だよ
この手の届く範囲の限り、全てのものを守りたい。
暴力も理不尽も、なんでも跳ね返せる力こそ、私は欲しかった。
私の身の回り、私の目の届く限りでもいい。
自分にできる限りの全力をもって、正義の味方というものになりたい。
摩天楼の上でマントをはためかせる、マーベルなヒーロー。
屈強な鎧に身を包んだ、陰から見守る謎のナイト。
小さな村のために命をかける、負け戦続きのサムライ。
私が憧れた全てのヒーロー達に、私はなりたい。
漠然としすぎているかもしれない。
だとしても、それこそ私が望んだ強い者の姿なのだ。
QB「さやか」
さやか「はっ!?」
キュゥべえの声に目を開く。
目の前に、夕陽に照らされた川の水面が、きらきらとルビーのように輝いていた。
さやか「あれ?私……」
ほむら「瞑想してるんじゃなかったの?」
マミ「やけに長いなって思っていたら、寝てるなんてね」
目を閉じて考えている間に眠ってしまったらしい。
いやぁ、うららかな日和だから仕方ない。
ほむら「真面目にやりなさい」
さやか「ごめんなさい」
マミ「それで、どうだった?自分の魔法のイメージは掴めたかしら」
さやか「……すいません、あんまし有意義なものは思い浮かばなかったかもしれないっす」
マミ「あら……」
さやか「やっぱり、形の無いものを考えるのって難しいなぁ……」
QB「焦らずに魔女との戦いの中で探していくのが良いと思うよ」
まどかに言われた言葉と似たようなことを、キュゥべえにも言われてしまうとは。
……やはりどうも、焦って突っ走りすぎたのかもしれない。
……それをわかっていて尚、焦燥には駆られてしまう。
自分の形を捉えきれていないだなんて、そりゃあ焦るよ。
結局この日は、暗くなるまで魔女散策をして、その後に解散となった。
魔法について何も掴めなかったし、魔女は見つからなかったし、放課後はダレ気味だった。
キュゥべえから魔法少女についての興味深い話を聞けたのはいいけど、私の都合でマミさんやほむらを振り回しすぎた。
明日学校に行ったら、また改めて頭を下げておこう。
そしてこれからは魔女退治に同伴しながら、自分の魔法少女としての形を掴むよう、努めなくてはいけない。
キュゥべえの言うとおり、焦らず戦いの中から見出すのが吉であろう。
ガトンボヤゴの魔女の時みたいに、足手まといになるパターンがあってはいけない。
さやか「早く成長しないと……」
毛布の中でまどろむ。
力不足の歯がゆい思いに懐かしく枕を掴みながら、意識が沈んでゆく。
強くならなきゃ……。
……杏子……。
冬が終わった、つまり肉まんの季節は終わったのだよ...
花粉症だ
おかえり
乙
乙乙
†8月17日
夕陽に照らされながらの棒術訓練は、日が落ちて、体が冷える頃になるまで続けられた。
教会よりも少しだけ離れた空き地だ。人気はないため存分に動き、棒を振り回せる。
棒が打ち鳴らされ、廃屋の壁から乾いた音が跳ね返る。
その音だけを聞くたびに、杏子は世界に自身と煤子だけしか存在しないような、不思議な錯覚に包まれた。
煤子「覚えが良いわね」
杏子「ありがとうございます」
扱う棒は150cm以上もある、杏子の身の丈を越える代物だ。
最初の頃こそ閊え振り回されていたが、杏子の言葉を一つ二つと動きの中へ取り込んでいくうちに、見違えるほど上達した。
煤子「そう、槍は距離を作る武器、退避も攻めもおろそかにはしないで……」
杏子「えいっ!……槍?」
煤子「……槍のようなものよ」
杏子「そうですかぁ……」
乙
杏子「煤子さん、今日は本当にありがとうございました」
煤子「ええ、良く頑張ったわ」
夜の闇が、火照った体を冷やす。
短い帰り道を二人は歩いていた。人通りの少ない道だが、そろそろこの区画へ帰宅のためにやってくる人影も見えはじめるだろう。
杏子「なんだか、体を動かすことは前からなんですけど……こういうのも、楽しいですね」
煤子「こういうの、って?」
杏子「あの、武道っていうか……棒術っていうか……私は戦うことって、野蛮だなって思っていたんですけど」
煤子「新鮮かしら」
杏子「はい!」
煤子「……ふふ、そう。意外だわ、そう思ってもらえるなんて」
話は長くは続かない。
二人はすぐに教会の前へ着いた。
“それじゃあね”と、煤子が口を開こうとした時である。
杏子「煤子さん」
煤子「ええ」
杏子「良かったら……一緒に晩御飯、食べていきませんか?」
煤子「……え?」
杏子「だめ、でしょうか……あの、あまり、大したものは出せないかもしれないですけど……」
煤子「……」
控えめな口調で誘う杏子に対して、それ以上に口ごもる。
煤子「いえ、私は……嬉しいけれど、御免なさい。すぐに、帰らなければいけないの」
杏子「そうですか、すみません」
煤子「気にしないで、杏子」
括った後ろ髪を強く翻し、煤子は教会の前を離れていった。
† それは8月17日の出来事だった
乙
……美樹さやかがイメージトレーニングを始めて、もう三日が経つ。
……“この”さやかは何かが違う。
彼女が今以上に強くなったら、きっと、すごい魔法少女になる……そう期待していた。
……期待を秘めつつ、その三日を過ごしていたけれど。
その間、魔女との戦いでは苦戦を強いられているようだった。
戦いを経る度に強くなることも、蕾が開きかけることもなく、さやかはさやかのままだった。
迫る魔女との肉弾戦では己の未来を探る時間は無かったし、私達も見て見ぬ振りをして手出しをしないということは、できなかった。
……さやかは決して弱くはない。
けれど、元々の素質の差は、あまりにも大きすぎたのかもしれない。
私やマミと比べても、魔女との戦いにおいてはやや見劣りする姿が、この三日でのさやかの印象だった……。
……こんな時、一体どうして、彼女に声をかければいいのだろう。
……ちっともわからない。
追いついた
>>1乙
このさやかこそ上条を治すことを願うべきだったかもな。
特性魔法として高い治癒スキルがあれば接近戦をする上で有利だ。
†8月18日
煤子「……」
天の最も上にまで届きそうな、白い入道雲を見つめていると、彼女の心はひどくざわめいた。
蒼海をゆっくりと航行する雲から目を離し、膝の上の腕時計に目くれる。
針は約束の一時間前を指している。が、それは時計が寝ぼけているわけでもなければ、煤子の気が早いわけでもなかった。
煤子はその時間を退屈には思っていなかった。ただそれだけのことである。
煤子「……」
つい最近とも言って良い、慌しく走り回っていた日々を想えば、ベンチの上で呆けることのなんと間の抜けたことだろう。
複数人の動きを監視し、それらの内面すら伺い、カレンダーを見ては下準備に追われ、時計を見ては仮眠を取り、耳に悪いほど大きく設定したアラーム音に飛び起きるような、張り詰めた日々だったのだが。
そんな日々をどれくらい続けただろう。煤子自身にさえ、自分の過ごした時間は、もはや正確には覚えられてはいない。
ただ、自分を背丈より遥かに博識にさせ、それらを裏付ける経験を備えていることは、重く積もってゆく、目に見えて唯一正確な量りだった。
煤子「……」
そんな煤子自身でも驚くべきことだったのだが、今こうしてベンチの上で1時間を待つという行為などを、大きな罪だと自責することはなかった。
逆に「暢気なものね」と、うっすらと自分に微笑みたくなるような、穏やかさすらあった。
「煤子さーん!」
煤子「あ……」
予定よりも何十分か早く、坂道から元気な少女の姿が見え始めた。
手を振って、無邪気に汗を振りまきながらこちらへとやってくる。
煤子は、落ち着いた声色が届く距離にまで少女が近寄ってくるのを、麦藁帽子に微笑みを隠しつつ、暫し待った。
† それは8月18日の出来事だった
あぁぁぁ可愛いよぉぉおおおおおおお
さやか「はぁ」
ここ最近での魔女との戦いは、順調とは言えなかった。
結界の中での動きや戦いには体と頭が慣れてきたと思う。
マミさんやほむらとの連携も上手くいってる、とは思う。
だけどそれはあくまで三人でのチームプレイが順調に動き出した、っていうことで。
それだけで、私が強くなったわけではなかった。
自分の魔法だなんて、そんなよくわからないものをイメージしながら戦うってのは結構な苦痛で、思うように動けず立ち止まったり、攻撃の手が狂ったりすることは、度々あった。
特訓が実践でのリズムを狂わせているのだ。あんまり良い傾向とはいえない。
さやか「……」
:私、力になれないかもしれないけど、悩み事があったら、いつでも言ってね?
まどかから送信されたメール画面を閉じ、再び毛布の上にごろりと転がる。
メールの文面を何分か眺め続けて悩んでいたが、返事を出す気にはなれなかった。
まどかが頼りないわけじゃないけど、人に聞いても見いだせそうも無い悩みだし。
さやか「はぁ~……」
かれこれ三日。こんな風に、柄にも無くうじうじと悩み続けているのであった。
乙
そして、悩んだ私は、再びあの坂の上にやってきた。
見滝原を一望できる、ちょっと高めの静かな場所だ。
ベンチを独占している缶コーヒーの隣に座り、鬱憤を混ぜた息を一口吐き出す。
さやか「……ふう」
涼しい風が吹いている。春の心地よい風だ。
何ヶ月かすれば、再び茹だるような暑さの季節がやってくるだろう。
そうすれば、このベンチの上から望める景色だって、あの時と同じように変わるはずだ。
そこに煤子さんは、居ないけれど……。
「なっさけねぇ面してんなぁ、オイ」
隣に置かれたスチール缶が、ブーツの厚底に潰され、メダルのように薄くなってしまった。
ベンチに仁王立ちした少女は、傲岸な表情で私を見下ろしている。
さやか「……杏子」
杏子「よう」
杏子「今まで何人かの魔法少女を見てきて、知り合いにもなってきたけどさ」
さやか「?」
杏子「大概、あんたみたいな顔をし始めた奴は、二週間かそこらで音信不通になっちまうね」
さやか「……まじっすか」
そいつはまずいことを聞いてしまった。
両手で頬を洗うように擦り、叩く。
さやか「……っし、これでどうかな」
杏子「知らないよ、そんなこと」
さやか「はは、そりゃそうだね」
呆れたようなシスターの表情を、それよりはちょっとあざけるように真似てみた。
さやか「顔だけ直しても仕方ないしねぇ~……」
ベンチから立ち上がり、ガードレール際から街を眺望する。
さやか「……私に会いに来たってことは、戦おうってこと?」
杏子「当たり前でしょ。わざわざ探したんだから」
この広い町で、このちっぽけな、人気の無い場所を探すとは……本当に、杏子の戦いにかける執念っていうのはすごいな。
……いいや、凄いなぁとか、感心しているばかりではいけない。
今の私は、彼女のように貪欲に、強さを求めるべきなのだ。
強い相手を求める。困難や、敵や、障害や……そういった壁と成りえるものを自分から探し、ぶつかってゆく。
もっともっと、杏子のようになるべきなのかもしれない。
……そう、今まではちょっと避けていた考えだけれど。
私は心の奥のほうでは、杏子に会いたかったのかもしれない。
杏子に会って、杏子と戦いたかった。
ある意味、彼女の戦闘狂のような性格を認めることになるけれど……いいや、もう構わない。
戦闘狂でもなんでもいい。私はなんでもいいから、強くなりたい。
さやか「……杏子」
杏子「あン?」
さやか「闘おう」
杏子「……へっ、やる気、あるみたいじゃん?」
さやか「うん」
拳を握る。
前回は、どんどん速く強くなっていく杏子に、その武器に圧されてしまった。
その状況を打破できたのは、地形の有利さだ……地形が広い場所だったら、善戦もできなかっただろう。
けれど今回は違う。もっと広い、開放的な場所だ。
前よりも苦戦を強いられると思う。だけど……闘いたい。
杏子と戦えば、私の中に秘められた力がわかるかもしれない。
杏子「手加減はしねーからな!」
さやか「望むところ!」
青と赤の輝きが、互いの服を包んでゆく。
魔法少女時特有の身の軽さで、頭の中で燻っていた悩みが凍てついてゆく。
不明瞭な悩みも、見えてこない展望も、ひとまず氷の中に閉じ込める。
全ての感情の切り替わりのように、右手に握ったサーベルが真横に閃く。
逆側から振られた杏子の槍と衝突し、魔法の火花が派手に咲いた。
杏子「最初から油断はしない、良~ィ反応だ……いや、というよりは同じで先手を打ちに来たか……」
さやか「変身したら戦闘開始だしね」
お互いに飛び退き、距離を置く。
私は坂の上に、杏子はガードレールの上に着地した。
黒いヴェールの中の悪魔の笑みが、唇をぺろりと湿らせる。
杏子「……賭けをしない?さやか」
さやか「シスターがそんなことしていいわけ?」
杏子「神は寛容だ、問題ないさ」
さやか「……賭けって?」
杏子「簡単さ、互いに問いを出して、一回ダウンするごとにそれに答える」
さやか「ああ……“質問ごっこ”ね」
サーベルを両手で握り直す。
つまり、やられればやられるほど、赤裸々な告白をしていかなきゃいけないわけだ。
別に杏子の赤裸々な秘密なんて、知りたくも無いけれど……。
乙
けれど、本気でぶつかってやる。
さやか「――」
七巻きの示。
0、0、省略の1の右足がコンクリートを擦り、最上段の刃が杏子の額に閃く。
杏子「っと!」
さやか「っ」
とはいえ流石は戦闘狂だ。
私の予兆の無いとまで言われた剣を避けてみせるとは。
杏子「へへっ、いいね……そういう“ダウンだけじゃ済まさねえ”って一撃」
黒いヴェールを裾を払って直し、今度は杏子の方がこちらへと急接近。
構えは、槍の中心を持つような、一見すると長さを活かせない矛盾した形。
まさかこっちのサーベルのリーチで相手を?そんなはずはない。
杏子「だがなァッ!」
さやか「ぐっ」
小細工でも決めてくるかと思いきや、予想外、そのまま短い槍を振り払い、力任せな攻撃を仕掛けてきた。
しっかりと握られた槍の大振りは私のサーベルを押しのけ、体勢をも崩す。
杏子「まだまだそんなもんじゃ、アタシの闘志は燃えないぜ!?」
懐にまで入られ、槍のラッシュが続く。
杏子のヴェールは未だ、ほんの端っこすら燃えていない。
後ろ1。四跳ねの二閃。
後ろ1、1。六甲の閂。
攻めの杏子に対して、どういうわけか、私の体は思うように動かず、圧されるがままだった。
さやか(強く……なってる……!?)
槍がバラバラになって、変幻自在に襲い掛かってくるわけでもない。
苦戦を強いられた双頭剣で猛攻をかけてくるわけでもない。
ただ一本の槍の攻撃と言うだけ、地形の何某すら関係なく私は圧倒されていた。
悔しいことに何もできない。
逆に追い詰められる壁でもあれば策でも閃くのだろうけど、あるのは広いアスファルトの地面のみ。
新たなサーベルも出せなければ、ハンドガードで殴るなんて器用な真似をする暇もなかった。
杏子「――スカッと行くよ」
さやか「――」
手元の槍が、それこそ魔法のように手の中で滑り、一気にリーチを長くする。
槍本来の凶暴な攻撃範囲を取り戻したその間合いには、無様にも至近戦に感覚が麻痺した私の胴が、バックステップに全てをゆだね、晒されていた――。
槍が私の体内を含め、扇状の軌跡を描き、振られた。
乙
面白いです。
>>1頑張れ!
しまった///
さや/か
さやか「――ぁ」
槍が体内を通過し、血の尾を引いて去っていった。
肺から空気が漏れる。
胃と小腸を同時に全摘出する程の手術でなければ、こうも大きな切り口は刻まれないだろう。
私のへその丁度数センチ上に、真横に深い傷が走っていた。
杏子「おう、クリティカルだ、決まったな」
視界に赤色が消え失せうr。
緑と青の二重にbれる輪郭線が、迫り来る杏子の姿を映していた。
さやか「あ、……ちくしょ」
杏子「ほれダウンだ、寝とけ」
よろめく私の膝を、ブーツの裏面が狙って居tる――
……ここえd倒れる訳には行かない――
ダウンだけは――
さやか「っ……」
杏子「おっ?まだサーベルを振り回す余裕があったか」
剣をどう動かしたか。私自身にも……わkからない。
ひとまず、杏子らしい影は距離を置いてくれた。
そして一時的に血の気を失った頭が、意識を取り戻してゆく。
さやか(危ない、危うく落ちるところだった)
おそるおそる、鈍い感覚の残る自分の腹を見る。
布を纏わない自分の胴には、半分近く切れ込みが入っていた。
血は流れていないし、痛みもない。
腹の上に金属の紐を当てたような感覚があるのみだ。
そして、槍が振り抜かれた際に飛沫いたものが、出血の全てだろう。それでも短時間、私の脳の活動を狭めたのだから、恐ろしい。
杏子「目に生気が戻ったな……まあ、胴体は相変わらずの瀕死ってとこだけど」
さやか「……」
サーベルは構えるが、身体へのダメージは大きい。
果たしてこのまま激しく動いていいのか、否か……。
……魔法には、癒しの能力もあったはずだ。
それを使えばなんとか、この傷も治せるか……?
杏子「ほら、さっさとダウンした方がいいんじゃない!?」
さやか「!」
休憩なんてさせるわけもない。
杏子は弱った私に対して容赦なく飛び掛った。
乙
ただのミスタイプかと思ってしまった
乙
槍対剣の結果というものは、古来より決まりきっている。
一対一では五分だろうという意見も散見されるが、それでも達人級が相手であれば、槍使いは勝るのだ。
さやか「っがァ!?」
槍先が肩の骨をわずかに砕き、突き刺さる。
体は宙に浮き、林の中に放り出される。
さやか「……くっ……」
肩から僅かに出血している。
腹は……もう出血は無い。けど完璧に治ったわけでも無いから不安はある。
それよりも問題なのは、私の体が一度ダウンしてしまったということだ。
杏子「さーて、お楽しみの質問タイムだ」
さやか「……」
倒れてしまった以上は仕方ない。答えてやら無いわけにもいかないだろう。
隠すことも大してないけれど……ちょっと不安だ。
杏子「質問だ」
杏子「“お前は何を願った”」
……いきなり、人間の核心を突いてくるなぁ。
容赦が無いというか……いいや、そのくらい裏表が無いほうが、私には良い。
答えてやろう。私は胸を張って答えられるものを望んだのだから。
さやか「私は、……“全てを守れるほど強くなりたい”……そう願った」
杏子「……ほお」
肩に手を当て、よろめきながら立ち上がる。
わずかに滲ませた癒しの魔力は、肩の傷口に染み渡り、ダメージを修復してゆく。
さやか「あんたにも、同じことを聞いてやる、杏子」
杏子「ほお……そりゃ楽しみだ」
肩の傷は完全な不覚だ。けれどそれも治った。腹も問題は無い。
リベンジといこう。
乙
乙
乙
さやか「はぁ!」
杏子「っと!」
サーベルをもう一本増やし、二刀流で攻め込む。
相手はしっかりと槍を握っているため、猛攻をかけても大した押しにはならないだろう。
それでも手数だけでも勝ち、杏子優勢の流れを押し返さなくては。
……が。
杏子「どうしたどうした、随分遅いじゃーねえの!?」
さやか「きゃ」
鎖骨に槍が食い込み、上半身が強く圧迫される。
そのまま宙へと投げ出され、心地の良いような、悪いような浮遊感を一瞬味わったかと思えば、背骨から幹へと叩きつけられた。
……尻餅だけは着くまいと、思っていたのに。
杏子「“いつ、煤子さんと出会った”」
さやか「……四年前、夏休み」
杏子「……ほお」
鎖骨が切れてる。けど喉を裂かれなかったのは幸いだ。
魔力で治すことができれば、まだ……。
さやか(……!?)
無意識のうちに見た自分の体の中に違和感を覚える。
私の腹にあるソウルジェムの、既に三分の一ほどが黒く濁っていたのだ。
さやか(ソウルジェムは魔法少女の要……濁り切ったらどうなるか、考えたことがある)
さやか(最も楽観的に、“魔力が切れて変身が解ける・魔法が使えなくなる”)
さやか(次点で“魔力が切れて、そういう魔法少女は死ぬ”)
さやか(最も恐ろしい可能性は……“……”)
さやか(関係ない、どうせ死ぬのと同じだ)
さやか(戦闘不能というより、再起不能になるわけだ……こりゃ、参ったね)
治癒や戦闘のために魔力を使ったのが少々響いているのかもしれない。
さやか(……杏子、強すぎる……うーん、どうしたもんかな)
体を起こし、右のサーベルを杖に、左のサーベルを杏子へと向ける。
杏子は体をゆらゆらと揺らしながら、ヴェールの中に薄笑いを浮かべて、そこに立っていた。
杏子「聞かれて無いけど答えてやるよ。アタシもあんたと同じ時期に煤子さんと出会ったんだ」
さやか「……夏か」
杏子「私はあの夕焼けの日々を、今でも鮮やかに思い出せる」
さやか「私だって……あの高い夏空の毎日を、忘れたことはない」
右のサーベルも杏子へと向ける。
さやか「……へへ、だから、なんだろうね」
杏子「?」
さやか「こういう戦いが……強くなった自分の実践が、とてつもなく楽しいんだ」
自分の命がかかった勝負だけど、それでもどこか楽しい。
打開策はどこにあるのか。どうすれば杏子に肩膝つかせてやれるのか。
今の私には、強くならなければならないという、魔法少女としての使命以上の楽しみがある。
さやか「はぁあぁああッ!」
杏子「無駄だっての!」
二刀流を正面に構え、雄たけびと共に突進を仕掛ける。
愚直な特攻だと杏子はあざ笑うだろうか?だとしたら少々失望ものだ。
私は正気を失わない。いつだって頭だけは休ませていない。
杏子、あんたはどうなのさ。まだその余裕に頭を痺れさせてはいないか。
さやか「――“アンデルセン”」
杏子「――!」
突き出す二刀流が混ざり合わさり、大剣を成す。
大剣となったアンデルセンは槍よりもわずかに長い。
少なくとも、サーベルよりは長いと高を括り、柄の端を握らなかった杏子には届くのだ。
さやか「“ハープーン”!」
杏子「うげぇッ」
要するにただの突きだけど、刃は見事に杏子の肋骨に食い込んだ。
だが普通の突きでは、魔法少女の丈夫な肉体を貫通することは叶わないらしい。
深く刺さる前に、杏子の身体は吹き飛んでしまった。
それでも転がっていった紅衣のシスターの飛距離には、幾分爽快な気分を味わえたものだ。
乙
乙
お前ら乙以外にも何かあるだろw
冬眠が終わって次は春眠とかになったら笑えねーぞ
乙
さやか「“あんたは人を殺したことがある”?」
杏子「……くは、残念だが……まだ無いんだね、コレが」
腹から漏れる血を左手で乱暴にこそぎ取り、自身の左瞼に血化粧を飾る。
赤に縁取られた鋭い目は、今さっきの言葉が信じられないほどの殺意に満ちているように見えた。
杏子「どうも弱っちい奴相手だと、途中で興ざめしちまうんだよな……けど」
杏子「アンタと本気でやりあえるなら、なんとか殺すところまでいけそうだ!」
さやか「来い!」
杏子の握る槍が二本に分かたれる。
左右の手に一本ずつ、柄のギリギリ端を握る、リーチを意識した構えだ。
その分だけこちらは得物を弾きやすいという利点もある。気負いせずに攻めていこう。
相手の槍と同じくらいの長さの大剣を持っているのだ。力任せに槍をぶっとばしてやる。
槍が大剣の先を小突く。
突いては火花、そして後退。回り込んでは突き。その繰り返しだ。
相手からしてみればヒットアンドアウェイの撹乱作戦だが、私からしてみれば一撃必殺のスズメバチが好機を狙いながらが周囲を旋回しているようなものだ。
杏子「――」
無言で回り込みや突撃を仕掛ける杏子の無言には威圧感ある。
それでも負けてはいられない。
さやか「ぜいやぁ!」
杏子「っ!」
敵の動きを捕捉し、踏み込んでアンデルセンを突き上げる。
さすがに片手の槍ではアンデルセンをどうこうすることはできないようだ。
杏子「……ッツツ」
私の刃は腕に掠ったらしい。杏子の回避もあと一歩のところで間に合わなかったか。
杏子「へえ、動きが良くなったな。その目だよ」
さやか「は」
杏子「その目をしている時が、さやか、アンタは一番強い」
さやか「……」
アンデルセンの滑らかな刀身をちらりと覗く。
銀の鏡面に映し出された、おぼろげな私の表情は……。
杏子「“ブン”――」
さやか「しまっ――!?」
本当に一瞬の油断だったはずだ。正面に捉えていたはずの杏子が視界から消えている。
いや……大剣の後ろ、アンデルセンが生み出す死角に回り込まれている!
杏子「“タツ”!」
アンデルセンの気高い銀が割れ、赤い飛沫と一緒にあらぬ方向へと弾け飛んだ。
杏子「良いね、ようやくちょっと燃えてきたとこだ」
さやか「……!」
二本の槍は融合し、強化武器としての姿を見せていた。
黒い双頭のオール剣。名前は、ブンタツというのか。それは初めて知った。
杏子「来いよさやか、こいつを使ってダウンで済むかは知らねーけどな」
さて……どうしよう。
左手はどっかに飛んで行った。
アンデルセンの先30cmは斜めに綺麗に断ち切られ、刺せなくは無いが鈍い剣先になってしまった。
自慢のリーチが大幅に削られたのはかなり痛い。
……いや、左手首から先が無くなった事の方が重大か。
畜生、相手の姿が見えないからって、迂闊に手を離すんじゃなかったわ。失態だ。そこの遊びを狙われたんだ。
さやか「いいよ、やってやる……こっちも左手の借りがあるんだ、逃げ帰るわけにはいかない」
杏子「その意気だ」
熱いな乙
さやかちゃんの左手ゲットした
お前は吉良か
乙
乙
ブンタツって三国志だか水滸伝だかに出てきたような
乙
左手吹っ飛ぶとかほむらなら即死レベル
いったいどこへ向かってるんだろう?
ブンタツ。その動きは予測困難で、切断力については試すことすら尻込みするほど鋭い。
これで戦うのは二度目だけど、前もさっきも、容易く武器を吹っ飛ばされてしまった。
ほぼ無抵抗とはいえ、アンデルセンを斬られてしまっては、打ち合いを始める気にはなれない。
杏子「そらそらッ!」
さやか「うっ」
手も右手だけ。片手で握るアンデルセンは、ちょっと重い。
振る暇はないし、振ったとして杏子へと届くだろうか……。
さやか(なら……)
虚無さえ掴めない、拳すら握れない左手を振りかぶる。
その意図に気付きようもない杏子は、ちょっとだけ驚いたような顔を見せていた。
さやか「やっ!」
杏子「ぐぅ!?」
振った左手首から血液が迸る。
赤い飛沫が杏子の顔を叩き、瞳は耐え切れずに閉じた。
悪役のような攻撃だ。けどこれが私の持てる、今の武器だ。
さやか「っ」
杏子「!」
隙を見せた杏子の肩口へ向けて振られたアンデルセンの鈍い切っ先が、杏子のブンタツにより遮られる。
攻撃のタイミングを悟られないよう、声を出さずに振ったつもりだったけど……。
杏子「あぶね……」
さやか「くっ、防がれたか」
と心底悔しそうな声を出しながらも。
杏子「うぶッ」
私の左足は勢いよく杏子の腹を蹴り上げる。
さやか(きた! このまま畳み掛ける!)
くの字に折れ曲がった杏子の姿に正気を見た。
あの杏子が。あの、全く隙を見せなかった杏子が、明らかな不意を見せている。
これ以上の好機は訪れないだろう。
さやか「ふんっ」
杏子「ぐ」
今だ復活の兆しを見せない杏子の手を蹴り飛ばす。
ブンタツはその手から離れて、私のアンデルセンを引っ掛けて路傍へと転がっていった。
これでお互いに武器は無し。
拳と拳の戦いか、または私からの一方的なリンチがあるのみだ。
ブンタツを手放した杏子に負けるつもりはない!
杏子「チクショウ! テメェやりやがったな!」
さやか「不意打ちされて悔しい!? ざまーみろ!」
槍無し杏子、恐るるに足らず。
勇敢にも格闘戦を挑んできた杏子の胸辺りに蹴りをお見舞いする。
杏子「ッ……!」
肺の空気を絞り出した声が漏れ、それと同時に私は更に懐へ潜り込む。
距離を置いてはいけない。ひたすらにインファイトを続けて、槍を使わせる前にボコボコにしてやるのだ。
一方的な拳のラッシュが、杏子の体に浴びせられている。
さすがは魔法少女の肉体、普通なら全身打撲で真っ青になっていてもおかしくないほどは殴ったのに、それでも杏子に目立った外傷は無い。
杏子「……!」
反撃しようと何度か腕を突き出したり、脚を振り回したり、杏子も頑張ってはいるが、どうも徒手格闘は苦手分野らしい。
その一発一発を私は難なく弾き飛ばし、着実に杏子の体へとダメージを与え続けていた。
杏子の体が弱り、動きが鈍った時こそが頃合だ。脚を蹴っ飛ばしてダウンさせてやろう。
後は相手のダメージを見下して、自分の有利なように運び続けるだけ。
多少痛めつけるだけで斬りかえしてくるだろうと考えていただけに、良いボーナスタイムをもらえた。
杏子「あんまし調子に乗るんじゃねえぞ……!」
さやか「おっと」
生傷だらけの杏子も、ここまできてついにその黒いヴェールを髪留めの炎に燃やし始めた。
ようやく本気を出してくるつもりになったか。
さやか(けど無駄だよ)
今の最接近した状態からなら、相手に槍を出現させる暇を与えることはない。
少しでもそんな素振りを見せれば、逆に私のつま先が杏子の腹に食い込むだけだ。
となれば簡単に、アバラの一本や二本は折れるだろう。
杏子「“ロッソ・カルーパ”!」
さやか「は、だから無――」
頭の中のイメージをなぞるため、足を杏子の腹部に叩き込む……その前に、私の視界を爆炎が覆い尽くした。
さやか(何……)
勢いづいてどうしようもない体とは裏腹に、頭は至って冷静に働いた。
まず、私は今、炎に噛み付かれている。
比喩ではない。真っ赤な炎の、龍らしきものを象るそれに、脚ごと胴を噛みつかれた。
炎ならば体が突き抜けるかと思いきや、炎には質量らしきものがあるようで、灼熱の牙が身体の中にわずかに食い込んでいるのがわかる。
『ボォオオオッ』
さやか「や、このっ……!?」
炎の龍なんて、そんなシャレにならないものがどこから沸いて出てきたのか。
龍の尻尾を辿っていけば、答えは明瞭だった。
炎の龍は、杏子の髪飾りから伸びていたのだ。
そして喰らい付いた龍は、軽々と私の体を持ち上げて……。
さやか「っぐぁッ!」
鋭い弧を描きながらコンクリの地面へと飛び込み、私を叩きつけて爆散した。
杏子「……チッ、せっかく燃えてきた炎が消えちまったよ……だがこいつを使わせるとはね、アンタ、やっぱりすげーよ」
さやか「……」
焦げついた身体が動かない。
あんこちゃん、なんか変なの飼ってるー!?
意外それは「焔」!
このさやかちゃんはなんか戦闘狂だな
本気出すときはその龍を食べて超ぱわーを発揮するんですか?
乙
燃えて焦げてやがて煤に
杏子「さて、聞かせてもらおうか……“まだやるか”?」
さやか「……」
髪留めの炎が消えている。
先ほど現れた炎の龍は、髪留めの炎が膨れ上がり、変形したものだった。
意志を持つかのように動き、私をぶっ飛ばしてみせた。
腕も脚も必要としない、魔法少女ならではの強力な技だ。
発動に必要なのは、髪留めの炎だろう。
今まで使い渋っていたところをみると、一度発動させてしまえば炎が消えてしまうというリスクがあったようだ。
となれば、今の杏子の戦闘能力はかなり下がっているはず……。
杏子「“まだやるか”って聞いてるんだよ」
さやか「ぐっ」
腹を蹴られて地面に転がる。
……杏子以上に戦う能力を削がれたのは、私の方らしい。
杏子「さやか、あんたの全力は解った……これ以上やっても無駄だってね」
さやか「……」
何だと。
杏子「これも、聞かれてないけど答えてやるよ……私の願いは“何にも負けないほど強くなりたい”だった」
さやか「……正反対か」
杏子「どうだかね、ただ、私の願いの方が上だったってのは確かだ。魔法少女としての素質とやらもね」
さやか「……私の願いが、下だと」
杏子「ああ、そうとも」
冷えて動かなかった身体に血液が巡り始める。
杏子「私は、本当に強い奴と戦いたいんだ……その勝負のボルテージを、雑魚の冷やかしで下げたくは無い」
雑魚だと。
杏子「つまり、“ワルプルギスの夜”と戦うのは私一人で十分 ――その間、雑魚のアンタらには引っ込んでてもらおうって話さ」
さやか「……」
口の中で奥歯が欠けた。もう限界だ。
乙!
えらい煽ってくるな
さやか「その“ワルプルギスの夜”ってのが何なのかは知らない」
杏子「?」
さやか「それがどんなやつで、どれだけ強いのか、弱いのかも」
杏子「なんだ、知らなかったのかよ」
さやか「だけどそれにしたって、随分と私を見下してくれるじゃないの」
右手一本で体を支え、上体を起こす。
左腕からの流血はゆっくりと続いているが、頭に上る血流を弱めることは出来ていない。
杏子「ああ、見下してるとも、勝負は決まったようなもんだ」
さやか「……」
杏子「強さを願ってもその程度じゃ、これから場数を踏んだところでたかが知れてるさ」
さやか「何……」
杏子「あんたは弱い、まだマミや、ほむらの方が強い部類に入るだろうね」
今……左拳が無いことが残念だ。
もしも左拳があれば……右と、左とで揃っていたならば。
地を這ったまま両の拳を下へ叩きつけることも、両手で頭を掻き毟ることもできただろう。膝を抱えて泣くこともできた。
だけど今は左拳がない。残念だ。もう私の手は、右しかない。
杏子「もし相手もその気なら、次はほむらと戦いたいもんだけど……?」
片腕だけじゃあ、この爆発しそうな気持ちを、全力で発散できそうにない。
さやか「ふざけるなよ、杏子」
杏子「…………なんだ……?」
左腕が焼けるように熱い。
血と魔力が交じり合い、傷口からは煙が噴き出す。
杏子「!? 炎が、また燃え始めやがった……!?」
さやか「まだ決着はついてない」
左手に火傷のような痛みが走り、そこに“手がある”という感覚が戻ってくる。
けど私の手が戻っているわけではない。手首から先は存在していない。
幻肢の感覚があるそこには、青い煙が立ち上るのみ。
けれど、幻ではない。なんとなくだけど、私にはわかる。
杏子「……何が起きてやがる、なんだ、どうしてまだ、アンクが燃えるんだ……!?」
さやか「……まだ終わりじゃない。まだ、立ち塞がった私を、潜り抜けさせはしない」
傷口の煙が手を形取り、拳を作る。
“やれる”。予知に近い確信を握り締めた。
さやか「全てを守るなら、まだまだ強くならなきゃいけない」
これこそが、私が持つ特性魔法!
さやか「こんなところで……力の限界を感じちゃ、いられないのよッ!」
杏子「!?」
銀色の左拳が杏子の右顎に食い込む。
鈍く、それでいて弾けるような音と共に、彼女の身体はぶっ飛んだ。
(この戦闘狂カップル二人でワルさん倒せちゃうんじゃね)
さやか「……」
杏子を殴り飛ばした左腕を眺める。
魔法少女の格好は形容しがたいものが多いと思っていたけど、これは言葉に表しやすい方だろう。
銀で出来た篭手。そのまま、それだ。
さやか「……へへ」
まるで騎士のようだ。
騎士。人々を守る正義の騎士。
うん、それこそまさに、私にピッタリって感じだ。
杏子「……なるほどね、大した隠し玉だよ」
支柱のポールを二本もへし折るほどにひしゃげたガードレールから、杏子がゆらりと起き上がる。
彼女の髪留めは、今まで見たこともないほど大きく燃え上がっていた。
私でもまだ把握しきれていない強さ、それがあの炎というわけだ。
杏子「それが全力っていうんなら……!」
さやか「待ってよ、杏子」
杏子「ぁあ?」
さやか「“まだやるか”?」
杏子「……上ッ等!」
ガードレールを蹴り飛ばし、紅い姿が飛び掛った。
ここからが私の、本当の勝負。
全てを守るための力、その全力だ。
妬けるな
多分二人ともすげえ良い笑顔だよな
広江礼威風のさやかとあんこが脳内に…
槍一本。ただし髪留めは燃えている。
あの状態の杏子は、槍ひとつだとしても油断ならない。
法外な力から発揮される攻撃は、時としてこちらの合理的な防御を突き崩すことがあるのだ。
けどそれはもう、杏子だけのものではない。
法外な力なら、たった今私も手に入れたのだから。
さやか「“セルバンテス”!」
杏子「!」
流星の速さで突き出された槍を、同じように突き出した銀の篭手が受け止める。
と、いう表現は正確ではない。
受け止めているのは銀の掌ではなく、その一寸ほど先にある、薄水色の半透明なバリアーだ。
槍の先端は薄氷のバリアーに受け止められ、赤っぽい火花を間欠泉のように吐き出しながらも、全く先へは進まない。
髪を燃やした杏子でさえも突き崩せない防御壁を展開する能力。
これこそが銀の篭手“セルバンテス”。
私の願いが生み出した、最も純粋な形の魔法だ。
杏子「手が痺れるなんざ久々だぜ、オイ!」
突きの勢いを完全相殺された杏子は、隙の無い動きで三歩退く。
間合いを開け終わった頃には既に、槍は両方の手に握られていた。
杏子「随分硬いみえーだが、それなら一丁、力比べをしてみるしかないね」
さやか「……ブンタツ!」
今日二度目の登場となる、双頭剣ブンタツ。
経験上全ての物質を斬り裂いてきて武器に、私は思わず息を呑んだ。
杏子「シンプル、イズ、マーベラス。そっちが最強の盾を出したってんなら、いいぜ! 最強の矛でどついてやるうじゃねえか!」
杏子の武器と私の盾、どっちが強いのか。
互いに譲ずることのない力が今、衝突するのだ。
*) ギャァ!!
乙
ハトムギ茶を飲んで待ってる
さやか「……来い!」
私の右手は、サーベルを握っている。
剣を自分の後ろに構えさせ、左の篭手を杏子へ向ける。
そして、銀白の掌が向く先から、ついに両剣を握る杏子が動き出した。
髪留めの炎は暴走する蒸気汽車のように迸り、炎のポニーテールとなっている。
両腕で握る大重量の武器が軽々と振られ、剣の一端が私を捉えた。もう回避は間に合わない。
今まで全ての物体を切り裂いてきた杏子のブンタツ。
対するは、まだ一度しか使っていない、銀の篭手セルバンテス。
でも不思議だ。未知の勝負。
それも大一番であるというのに。
これなら、負ける気がしないわ。なんて、思ってしまうのだ。
ブンタツの刃が肉薄し、同時に青白い半透明の壁が現れる。
赤黒い刃と薄水色の盾が、紫の火花を散らし始めた。
硬度の高い金属に、錆びた鈍いドリルを全力で押し込むような音が響いている。
何から生まれたのかわからない紫色の火花が杏子の方面にだけ降り注ぎ続けている。
青白いバリア越しに見える、煌々と明るい火花の濁流の中で、杏子の殺気立った目が、私を睨んでいた。
杏子「ぉおおおおッ!」
さやか「ぁああぁああッ!」
バリアは空中に固定されるべきものだ。数多のSFチックな漫画を読んできた私はそう考える。
だが私の目の前に展開されている薄氷のようなそれは、ガタガタと激しく振動しているように見えた。
その姿の心細さといったらないが、弱気になっては魔法に影響するかもしれない。
私は自分の力が絶対的な壁であることを信じて、左腕をかざし続ける。
そして信じてみればどうだ。杏子が握っている両剣だって、ガタガタと振動しているではないか。
こっちの盾が消耗しているとするなら、相手の矛だって同じことなのだ。
これは根競べだ。
さやか「越えさせてたまるかぁ~……!」
杏子「貫けぇ……!」
削れゆく足下のアスファルト。
確実に消耗し、一瞬の光として散ってゆく魔力のかけら達。
お互いの武器や、バリアは、その能力が限界であることを表しているのか、段々と亀裂が入り始めている。
そして運命の、決壊の時がやってきた。
杏子「!」
さやか「ぐっ……!?」
ブンタツが、私の展開するバリアを貫いた。
ガラスが割れるよりも随分と派手さのない音で砕けた障壁の向こうは、青の加算のない鮮やかな赤い炎を引き連れて、勢いそのままに私へと突撃する。
――バリアが砕けた。
ブンタツを構えた杏子が迫る。
さやか(――まだ、負けてないッ!)
まだだ。まだ私のバリアが壊れただけにすぎないのだ。
まだ勝負が決まったわけじゃない。
両腕がある。両脚がある。ダウンもしていない。
私は渾身の力で、右手のサーベルを突き出した。
そして、呆気なく砕ける音がした。
杏子「……」
さやか「……」
私のサーベルは、刀身の半分ほどまでがブンタツの刃によって切り裂かれ、すぐに消滅した。
そして私に迫っていた杏子の体が、“トン”と、軽い音を立てて私の体と重なり合う。
思っていたよりも随分と華奢な杏子と抱き合うような形で、私はしばらく目を開いたまま動けずにいた。
キマシタワー?
杏子「へっ、こんな終わり方をするなんてな」
さやか「……呆気ない」
杏子「ありきたりすぎるだろ、こんなのはよ」
さやか「……ホント」
杏子が私から離れる。
私の腹部に向けて突き出していた手も、握ったを重力のまま、下へ離した。
ブンタツがアスファルトに落ちる。
ブンタツの……私のサーベルとの打ち合いによって全力を使い果たしたブンタツの、柄だけが。
杏子「矛盾ってやつの答えのひとつだ。最強の矛と盾、ぶつけたらどうなるか……」
さやか「両方とも砕けて壊れる、ってこと?」
杏子「そういうことだ」
戦闘狂シスターは、それでも満足げにニカリと微笑んだ。
私のバリアーは砕け散り、杏子のブンタツも砕け散った。
引き分け。そういうことか。
さやか「ははははっ!」
杏子「あっはっはっは!」
私たちは清々しく、そこで笑いあった。
時間を忘れた風に。全てを出し切った風に。
お互いにそんな風を装っていたのだ。
エンディングを飾るに相応しい友情めいた笑い声は、たった4秒間だけのものだった。
さやか「“セルバンテス”ッ!!」
杏子「“ロッソ・カルーパ”ァ!!」
私は残っていた左の篭手で、杏子は僅かに髪留めで燻っていた炎から龍を出して、お互いにぶつけ合った。
拳は杏子の顎を綺麗にぶん殴った。
炎の龍は私の胸へと勢いよく衝突した。
拳にぶっ飛ばされる戦闘狂シスター。
爆風にぶっ飛ばされる私。
仲良くアスファルトの上で気絶していたのだろう。事の結末は、そんな感じだった。
お互いが、最後まで残っていた力を振り絞り、殴りあったのだ。
茜に染まりつつある青空を仰ぎ、先ほど笑いあうよりも遥かに清々しい気分を堪能した私は、悔いなく意識を手放した。
| *・∀・| サンドバックチャーン♪
ハトムギ乙
失血死しそうだなこのままだと
すごい展開だ
超火力のランスに炎、高い防御力のシールドに起動力、バリエーション豊富な技に必殺の砲撃
ほむほむェ・・・
まあそれを加味しても時間停止ってのは魅力的な能力だけど
もうマミさんとほむほむ要らないなこれ
† 8月19日
煤子(あれは……)
にぎやかな通りを避けて歩いていた、夕時の頃であった。
煤子の目は、表通りの家族連れへと向けられる。
マミ「今度こそ失敗しないもん! クッキー!」
「ははは、またべちゃべちゃにしないだろうなぁ」
マミ「大丈夫だもん!」
「楽しみにしてるぞ、はっは」
成長著しい時期にあるとはいえ、彼女であることはすぐにわかった。
纏う雰囲気や、癖のある髪。あどけなさはあるが、瓜二つ。間違いない。
煤子「……」
一瞬、表通りへ出ようかとも思った。
だが彼女の両隣には、父と母がいる。
幸せな、完成されたひとつの家族がそこにある。
煤子「……」
彼女は麦藁帽子を深く被り直すことにした。
そして、あと、時間もそろそろ近づいてきた。
なので、教会へ行くことにした。
煤子「水滸伝?」
杏子「はい、参考になるかなって……」
聖堂では、杏子がいくつかの本を広げて読んでいた。
特にその中でも煤子の目に付いたのは、何巻にも続く水滸伝の山である。
煤子「ふふ、勉強熱心は良い事ね」
どこかずれているけれど。とは言わなかった。
煤子「読書、好きなの?」
杏子「はい!昔から好きなんです」
煤子「そう」
昔から。その言葉に後を口ごもる。
杏子「煤子さん?」
煤子「ん?」
杏子「今、とても、暗いかおをしてましたよ?」
煤子「うん、そうね……知ったつもりで、いたのでしょうね」
杏子「?」
煤子「……杏子、学校の勉強もおろそかにしてはいけないわよ」
杏子「……はい……」
杏子は、煤子の優しげに微笑んだ瞳の奥に、確かな悲しみを感じ取った。
† それは8月19日の出来事だった
さやか「……」
苦しさに呻き、薄目を開けた。
見慣れない白い天井。
私の部屋でないことは確かだった。
「さやか」
さやか「……?」
声に顔を向ける。そこには、煤子さんがいた。
椅子に座り、私を心配そうに見つめている。
「丸二日も寝ていたのよ?」
さやか「……二日……?」
「杏子は一日だったけど」
さやか「!」
杏子。
そうだ、私は14歳。四年前のあの日々じゃない。
さやか「杏子!」
ほむら「杏子はもう居ないわ、さやか」
さやか「……ほむら」
彼女は煤子さんではない。ほむらだ。
さやか「……」
見回す。白い部屋だ。
壁らしき場所には、いくつもの絵の額縁が飾られている。
さやか「ほむらの部屋?」
ほむら「ええ、二人ともひどい怪我だったから、連れてきて寝かせたの」
二人とも。私と杏子だ。
ほむら「凄まじい魔力の反応があったから、辺鄙な場所まで来てみたら……もう、柄にもなく血の気が引いたわよ」
さやか「あ、あはは、ほむらが助けてくれたんだ……」
ほむら「大変だったのよ、ソウルジェムもギリギリで……あ」
さやか「ん」
左手を握り締める。
その感覚を覚え、毛布の中をそれを取り出してみれば、銀の篭手ではない生身の腕があった。
さやか「くっついてる……これも治してくれたの?」
ほむら「……ええ、治癒するのにいくつかグリーフシードを使ってね」
さやか「はは、面目ない……世話になりっぱなしだね、私」
杏子との白熱した戦いが、未だに頭の中に残っている。
命を賭けた戦いの中で私の力は覚醒し、新たな魔法“セルバンテス”を手に入れることができた。
半透明のバリアーを出す白銀の篭手。
守りの願いのために生まれた、私だけが持つ特性魔法。
さやか「……良い戦いだったよ」
ほむら「……」
思わず震える左手を握り締めて振り返る。
ほむらはそんな私を冷めた目で見ていた。
さやか「杏子もここで寝てたんだよね?」
ほむら「ええ、彼女も重症だったから……あなたほどではないけど」
さやか「何か言ってた?」
ほむら「……さあ、目覚めたときは、ちょっと子供っぽかったけど」
さやか「?」
ほむら「礼も言わず、すたこらと出ていったわよ」
奥のほうからお湯を注ぐ音が聞こえる。
何か淹れてくれてるのかな。
ほむら「MILO、飲む?」
さやか「あ、ありがとう、嬉しいな」
湯気がほわほわと立つカップを手渡された。
何年か嗅いでいなかった香りが鼻腔をくすぐる。
さやか「……ほぅ……和みますなぁ」
ほむら「……」
壁に浮かぶ額縁を見上げる。
最新のインテリア・イメージフレームとやらだろう。
さすがにうちで買うつもりはないけど、こうして見てみると、欲しくなってくる。
お小遣いで足りるだろうか、なんて。
さやか「……」
ほむら「気付いた?」
さやか「浮かんでるあの絵って」
ほむら「ええ、その通り」
ほむら「あれは魔女のイメージ画像よ」
乙
つハトムギ茶
俺のことも占ってくれ
ミロって懐かしいなまたww
小学生の時よく飲んだわ
歯車で出来た、スチームパンクな独楽のようにも見える。
ほむららしいイメージフレームだなぁと薄ぼんやり思って眺めていたが、歯車の反対側にぶら下がる女性の姿を見て、暢気は吹き飛んだ。
さやか「……これ、大きい?」
ほむら「良くわかるわね、全長二百メートルよ」
さやか「……二百メートルだと」
二百メートルの魔女がいる、魔女の結界。
そして見た感じではこの魔女……。
さやか「浮いてる?」
ほむら「ええ、百メートル以上は浮いてるわね」
さやか「……」
口を覆いたくなる気持ち、わかってほしい。
どんな規模の場所で戦えというのだろうか。
それこそ見滝原で戦ったほうが開放的に……。
さやか「……」
ほむら「……顔色、悪いわね」
さやか「ほむら、この魔女もういない?」
ほむら「今はまだ、いないわね」
さやか「……どこに」
ほむら「見滝原に」
さやか「……」
――私は、本当に強い奴と戦いたいんだ
――“ワルプルギスの夜”と戦うのは私一人で十分
さやか「ワルプルギスの夜」
ほむら「! 知ってたの」
さやか「強い奴だ、一人で戦いたい、杏子がそう言ってたんだ」
ほむら「……やっぱり、そう」
さやか「教えてほむら、こいつ、何なのさ」
ほむら「……」
自分のマグカップを飲み干したほむらは、口元のココアを拭って話を始める。
ほむら「見滝原に、この魔女がやってきて……街を壊滅させるわ」
さやか「いつ来るの?」
ほむら「丁度一週間後よ」
さやか「……」
ベッドに寝転がり、天井を仰ぐ。
真っ白な天井に、頭の中の日めくりカレンダーが7枚、横並びに配置される。
一枚一枚の上に浮かび上がる様々な予定のイメージ映像を消去。
かわりに最後の一枚に、魔女の肖像を配置。
……よし。あと一週間か。
ほむら「どうしようか考えているのね」
さやか「うん」
ほむら「……ねえ、さやか」
さやか「ん」
ほむら「一緒に考えましょう」
さやか「うん、そうだね、それがいい」
ほむら「……これが、ワルプルギスの夜対策の全てよ」
さやか「……」
数多の図を用いて聞かされたのは、綿密な戦略だった。
予想出現位置、初撃、その後の動き、追撃。
弾道計算から爆風……何がどうなれば、中学生にこんな知識が刷りこまれるのだろう。
さやか「この、ロケットランチャーってのは……」
ほむら「もう用意してあるわ」
さやか「鉄塔の爆破……」
ほむら「根元付近のカラスの巣に設置済みよ」
さやか「トマホーク……」
ほむら「川への設置は完了したわ」
こわい。
さやか「こ、このレンズ効果爆弾群ってのは……」
ほむら「……それについてはちょっと、時間がなかったわ。今からでも、間に合いそうにはないかもしれない」
さやか「そうなんだ、良かった」
ほむら「良くはないわよ」
このほむらデレデレである
さやか「杏子もそうだけど、ほむらもどうしてこの魔女のことを知ってるの?」
ほむら「……結構、有名だもの。魔法少女の間では伝説として語られているわ」
さやか「伝説の魔女ねぇ……ワルプルギスの夜、かぁ」
魔女が集まるヴァルプルギスということは、ブロッケンでの祭りのことだろう。
16世紀の魔女迫害の時代。異端審問のため、女達を誘導尋問し魔女を自白させた記録は多く残っている。
魔女が集まる妖しい集会……。
魔法少女としては、聞いただけでも恐ろしい名前だ。
ほむら「杏子はキュゥべえから聞いたと言っていたわね」
さやか「どうしてやってくる時期までわかるの?」
ほむら「……そうね」
ほむら「そろそろ話してもいいのかしら、この事」
さやか「……」
この事。重い口調から発せられたそれは、きっと“あれ”だ。
今日まで私や、マミさんに対して続けていた隠し事。
ほむら「ねえさやか、全てを話したいと思うんだけど……気をしっかり持って、聞いてくれる?」
さやか「うん、聞くよ。話してくれてありがとう」
ほむら「……ううん、いいえ、違うわ」
ほむら「聞いてくれてありがとう、さやか」
銀の手は消えない!
† 8月20日
煤子「ねえ、さやか」
さやか「ん?なあに?」
青空の下で、乾いた木が打ち合わされている。
飲み込みが早いさやかの動きは、一端の剣術として十分に見ることのできるものとなっていた。
正面に対する煤子の動きも、さやかに追いつかれまいと速くなる。
時折麦藁帽子を抑える仕草には、さやかの確かな成長が見て取れるのだった。
煤子「さやかは何故、毎日ここへ来るの?」
さやか「へ? なんで?」
煤子「友達と遊ぶことだって……家族と一緒に過ごすことだって、出来るでしょうに」
さやか「えー、なにそれ」
煤子「自分の好きなこと、何でもできるのよ」
さやか「ここに来る理由なんて、そんなの決まってるよぉ」
頬の汗を吹き飛ばし、さやかは笑った。
さやか「煤子さんと一緒にいるのが、楽しいからだよっ!」
煤子の軽い木刀が、アスファルトの坂を転がっていった。
煤子「……なんで?」
さやかは不思議そうに見上げている。
煤子「楽しいって、私と一緒にいるのに?」
さやか「? なんで?」
何故。
再び、そう言いたげな顔で聞き返される。
煤子「……」
今までは子供だからと何気なく接してきたが、それが逆に、生来より途切れることのなかった緊張をほぐした。
自分が気兼ねせず、相手もそれを感じ取り、お互いが自然体になれている。
気遣いも気苦しさもない、打ち解けているという心境。
さやかからしてみれば、自分との関係は既にそこまで進んでいるのだ。疑問なんて持ち得ない。つまり。
――もう、友達なのだ
煤子「……ああ、そういうことなのね」
涙が頬を滑り、静かに途切れて落ちた。
さやか「煤子さん……?」
煤子「……ごめんなさい、ちょっと、ね」
煤子の涙は止まらなかった。
さやか「大丈夫……?」
煤子「ええ、ごめんなさい……ほんと、私っていつでもそうなの、鈍臭くてね」
薄ピンクのハンカチで両目を覆う。
小さなさやかは、麦藁帽子の下から心配そうに覗き込んでいた。
泣く姿を隠すように、煤子は背中を向ける。
煤子「……あなたと、仲良くできる……できたのなら」
さやか「煤子さん……」
煤子「もっと早く、気付けていたら良かったのにね?」
さやか「……」
その後、煤子は涙の訳を深くは語らなかった。
† それは8月20日の出来事だった
乙
そろそろ終盤か…
乙
(布団)-з ミフゥ
乙
まどかが契約しないで済むのだろうか
どうだかな、煤子さんがさやかと杏子の契約を誘導した様なもんだしマミの事故も防がなかったし
そこ変えちゃうとタイムパラドックス的にマズイので
影響出ないギリギリで干渉してるんじゃないの
これでワルプル越えたら今度は煤子さん自身の存在がパラドックス化しそうだが
私に差し伸べられた、少女の手。
優しく、力強く、私に勇気をくれた。
こんな私も大丈夫だと。
かっこ良くなれるからと、励ましてくれた。
掛け替えのない、友達の手……。
だから私は、彼女を助け出したい。
何度同じ時間を繰り返しても良い。
何を犠牲にしても構わない。
彼女を救い、また、共に歩いてゆける未来が見つかるなら。
全てはまどかのために。
私の最高の友達のために。
さやか「……」
ほむら「ワルプルギスの夜を倒す。それが私の目的」
さやか「そして、まどかに契約をさせない」
ほむら「……ええ、絶対に」
話を聞き終えた。
内容は簡単だ。
ほむらはまどかを救うために、未来からやってきた。
彼女は何度も過去へ戻り、何度もワルプルギスの夜と戦ってきた。同じ数だけ負けてきた。
そしてその中でほむらは、ソウルジェムの重大な秘密に気付いたんだ。
ソウルジェムの穢れが限界を超えたとき、私達魔法少女は、魔女になる。
ほむら「……ショックよね」
さやか「……」
ほむら「そうよね、そう……みんな受け入れられなかったもの。あの巴さんでさえ……」
さやか「よく、頑張ったね」
ほむら「え?」
よくよく見れば。
ほむらの体の細さも、顔つきも、実際のところは、彼女の性格に合っていない。
彼女は一ヶ月前までは、弱気で病弱な少女だった。
けれど、累計で何年にも及ぶ戦いを繰り返すうちに、その精神は身体を置き去りにしてしまったのだ。
鋭い目、固く結ばれた口元。
緊張を緩めない表情は、ミステリアスやクールの演出だけではない。
まどかを救うために刻まれ続けた、戦士の傷なのだ。
さやか「まどかのために……大変だったよね」
ほむら「……」
さやか「辛かったよね」
ほむら「……やめて」
私が彼女の頭を撫でていると、それは震え声によって拒まれた。
潤みかけた鋭い目が、私を睨んでいる。
ほむら「私はまだ、戦いをやめたくないの」
さやか「……」
ほむら「ここで甘えたくない……甘えたら私、ダメになる」
シリアスとはわかってるけど震え声って見るとなんか噴きそうになる
おつ?
甘えていちゃラブしてまえ!
さやか「私も一緒に戦うよ、ほむら」
ほむら「本当」
さやか「もちろん、最初からそのつもりだったしね」
自分のソウルジェムを掌の中で転がし、遊ぶ。
一点の曇りもない群青は、深い海を思わせるように、静かに揺らめいていた。
さやか「なるほどね、ソウルジェムが限界まで濁ったら魔女になる……予想はしてたけど、やっぱその通りかぁ」
ほむら「ショックじゃないの」
さやか「ううん。最初は“死ぬのかな”くらいに思ってたけど、あんま変わらないしね」
ソウルジェム。魂。その穢れなのだから、無事で済むはずはない。
けど、ぽっくり死ぬのも、魔女になるのも、私から見ればあんまり変わらない、些細な違いだ。
杏子も気付いてるかもしれない。
マミさんは……どうだろう。下手に言わないほうが良いかもしれない。
さやか「とにかく! ワルプルギスの夜を倒す! まどかを魔女にしない!……この二つをクリアしちゃえば良いってことね?」
ほむら「言うのは簡単だけど……」
さやか「大丈夫! 今までほむらが出会ってきた私はどうだか知らないけど、このさやかちゃんには、必殺の武器があるのだ!」
そう。ほむらから聞かされた、同じ時間を繰り返す話。
かいつまむ程度の内容でしかないけれど、その中での私はいずれも、この私とは違うらしいのだ。
過去での私は迷走したり、魔女になったり、情けない死に方したりと、色々やらかしたらしい。
けど、この私自身や杏子は、それまでの私とは大きく違うという。
願い事も違うし、戦闘能力も大幅に“改善された”(原文ママ)とのことだ。
時間の流れが束になり、平行世界になっているとするならば、今回のほむらはきっと、随分な遠い並行世界へと来てしまったのだろう。
そうでないとすれば……。
私の中にある仮説。いや、きっとほむらも考えているであろう仮説。
……四年前に私と杏子の前に現れた、煤子さん。
彼女こそ、この時間の流れの大きな鍵を握っていたに違いない。
私達は人通りの少ない、廃屋連なる路地裏へとやってきた。
解体されず終いの家が乱立する、その一角。
私とほむらは、風化寸前の室外機の隣に貼られた魔女の結界に向き合っていた。
さやか「ドンピシャだね」
ほむら「今までのも、場所は全部わかっていたから」
さやか「なるほど……未来に生きてんなぁーほむら」
ほむら「バカなこと言ってないで、行きましょう」
ほむらはさっさと結界の中へ飛び込んでしまった。
全く、つれないやつだよ。
……今回、快気祝い前に魔女の結界へと突入したのには訳がある。
まず、私が新たに習得した魔法を確認するため。
これは、対ワルプルギス作戦の中に組み込めるかどうかをほむらが判断するためのものだ。
私も銀の篭手、セルバンテスを使ったバリアーがどういう性質なのか、完全には把握していないし、私自身の勉強も兼ねる。
あと……。
……私のために使い込まれて品薄状態のグリーフシードを、集めるためでもあるのです。ええ。
結界の中は、マーブル模様で埋め尽くされていた。
色は構造物によって様々で、床は黒や赤の暗いマーブル。
障害物となる半球状のものや柱などは、青や紫、オレンジといった、もうちょっと薄い色が多い。
色分けされているとはいえその景色は最悪で、遠くを見ようとしても遠近感は得られず、吐き気がこみ上げてくる。
さやか「でやぁ!」
使い魔「ぷぎゅ」
そして厄介なのが、この使い魔たちだ。
目も眩むマーブルの影から現れては、極彩色の身体でタックルを試みてくる。
規則もへったくれもない使い魔の襲撃に、道中の会話もできず、私はちょっぴり苛立っていた。
ほむら「邪魔よ」
と、そんな私の心を代弁するかのように、腰だめのアサルトライフルがフルオートで唸る。
惜しみなく吐き出される金属の弾は構造物ごと使い魔を蜂の巣にし、後ろにかくされた隠し通路すらこじ開けてしまった。
さやか「……ひぃ~、すごいや」
ほむら「私の盾の中には大量の武器が詰まってるわ。もちろん、対ワルプルギス用の物もね」
さやか「ちなみにどこから」
ほむら「それは聞かない約束ね」
さやか「……そうしときますかね」
出し惜しみせずに使い棄てる、同じデザインの純正品チックな武器達……。
まとまった量をどこから仕入れたのか……いや、聞くまい、言うまい……。
乙
ミクゥッ!
>>1を乙するなんて乙なんだ…
乙だから乙なんだ乙乙…
ほむら「そろそろ魔女のいる大広間よ」
さやか「おお、ついに」
ほむら「その前にもうちょっとだけ使い魔が現れるから、それを相手に……」
さやか「新しい魔法ね?」
私はまだ新魔法セルバンテスを発動させていない。
右手のサーベル一本だけで、苦もなく結界内を進めているためだ。
ほむらの言うとおり、今のうちに披露しておかなくては、ぶっつけで魔女ということになってしまうだろう。
それはちょっと、私自身も不安なテストだ。
使い魔「ぴき」
使い魔「ぴきー」
噂をすれば、汚いマーブル模様の小人が湧いて出た。
背丈は中肉中背ちょっぴり猫背。能面だけど色は過激な二体だ。
さやか「じゃ、見ててよほむら」
ほむら「銃は構えておくわね」
さやか「もっと楽にしてていいのに」
左肩をぐるぐる回し、前へ出る。
さやか「……セルバンテス!」
左手が輝き、銀の篭手に包まれる。
一回り大きくなった腕は、まるでロボットのようだ。
ほむら「……それがさやかの特性魔法ね」
さやか「うん、私の願いが生み出したのがこれ……」
使い魔「ぴー!」
話の流れなど理解できない使い魔が、私へと走り寄ってくる。
ほんと無粋な連中だ。けど、話が早く進んでありがたいかもしれないね。
ほむら「さやか!」
さやか「へーきだって、ば!」
左手を前へ突き出す。
使い魔は次の瞬間にも、その汚らしい体での突撃に成功するであろう。
しかし身を丸めた使い魔の身体は、私の寸前で大きく弾かれた。
電線がショートしたような大きい音と共に“見えざる壁”は僅かな青で発光し、火花も散らしてみせた。
使い魔「……!?」
ほむら「これは……」
使い魔は何が起こったのかと硬直していたが、再び考えなしに走り始める。
今度は二体同時だった。
バチン、バチン。
結果は同じだ。バリアーにも負担らしい負担はない。
使い魔の体は突進と同時に大きく弾かれ、むしろバリアの反動によって、使い魔へわずかなダメージも入っているようだった。
ほむら「これだけなら、普通の防御という感じはするけど……」
さやか「これ、魔力の消費が少ないし、すごく丈夫っぽいんだ」
ほむら「……なるほどね」
思案を始めたほむら。私も、ちょっと考え事をしてみよう。これは私のためのテストでもあるのだ。
さやか(……バリアは攻撃を受けると同時に、跳ねるように振動する)
さやか(その振動が反動として、相手をふっとばしているんだ)
これは杏子との戦いでも見ることの出来た効果だ。
杏子のブンタツによる突撃では、終始バリアーはガクガクと震えていたけれど、本来はこの振動によって相手方が弾かれるべきなのだろう。
さやか(このままだと、単なるバリアに過ぎないけど……)
突き出した左手。
やることもなく休んでいる、サーベルを握った右手。
さやか(……もしかして)
おそるおそる、自分のシールドの裏面にサーベルの刃を近づける。
そんな都合の良い事があるのだろうか。
相手方には強いバリアー。
自分にとってはなんともない、ただの空間。
左手で守り、右手で攻撃の手は休まらないなど、そんな……。
ほむら「……まさか」
さやか「……まさかね」
サーベルの先端が、バリアに触れた。
バチン。
ほむら「……」
さやか「……あっれー」
おかしいな。
普通ここは期待通りにサーベルが私のバリアをすり抜けて、攻防一体の無敵っぷりをアピールするところじゃなかったのか。
ほむら「普通の防御壁として活用するのが良いみたいね」
さやか「ぐぅぬぬぬ……いや、他にももっと、役立つはず!」
ほむら「耐久試験でもしてみる?」
さやか「ちょ、ちょっとさすがに後ろからそれ構えるのはやめて」
バリアは一向に消える気配がない。
これなら何時間でも展開していられそうだ。
さやか「……左腕で殴ってみたらどうだろう」
ほむら「やってみれば?」
さやか「そうする……っせい!」
左腕を一旦引き、拳として使い魔の顔を突く。
使い魔「ぷぎっ!?」
さやか「お!?」
そこで新発見。
どうやらこの左腕で殴る瞬間にも、殴った場所に小さなバリアが生まれるらしい。
普通のパンチとは比べ物にならないほどの勢いで使い魔は吹き飛び、結界の障害物に激突した。
さやか「……こっちだけで攻防一体になるんだね」
ほむら「へえ」
バリアの反動が力になるためか、私の拳や体への負担はない。
使い魔相手なら、この使い方のが効率は良さそうだ。
さやか「せっ」
姿勢を低く、左拳のアッパーを仕掛ける。
使い魔の体は高く浮き上がり、無防備な姿を晒した。
さやか「大! 天! 空!」
使い魔「ぷぎぎぎぎ」
浮き上がった使い魔の背後へと飛び、右手のサーベルを縦横無心に走らせる。
アニメやゲームでよくあるような、八つ裂きだ。
さやか「はぁっ!」
着地する頃には使い魔は跡形もなくなっていた。
ほむら「何遊んでるの」
さやか「えへへ、やってみたかったんだー、これ」
ほむら「……気持ちはわからないでもないけど」
ほむらにも共感できるところがあるらしい。
なるほど、昔に何かをやらかしたようだ。
さやか(……篭手で下から殴れば、簡単に相手を浮かせることができる。これはなかなか良い発見かな)
バリアの反動がエネルギーになるため、これも当然私の腕力を必要とはしない。
思った方向へと敵を弾くことができるのは、なかなか便利な能力だなと思った。
楽しそうだな乙
余裕ぶっこくのはまどマギではフラグ…(例:黄色い人)
乙
ほむら「杏子との戦いで、随分と成長したみたいね」
さやか「へへ、まあね」
分厚い鉄の扉を開き、下水道のような通路を進む。
弱いオレンジ色の防爆灯が等間隔に、しかし寂しげに道を示している。
魔女の部屋までもう少しだ。
ほむら「今回戦う魔女は、以前に戦った虫の魔女と同じような相手よ」
さやか「つまり、私の苦手分野かぁ」
ほむら「今ではどうかしら」
さやか「自身はあるよ」
以前は大量の使い魔を相手に攻めきれなかったけど、今なら心強いバリアーがある。
たとえ物量で圧して来ようとも、私の守りを壊すことはできないだろう。
さやかちゃんぶっ飛びパンチもある。
ほむら「何それ」
さやか「左手(これ)で殴る」
ほむら「好きに戦うといいわ、見させてもらおうから」
もうちょっと乗ってくれてもいいのに。
さやか「じゃあ、入るよ?」
ほむら「その前に、さやか」
さやか「ん?」
ほむら「ヒントは要る?」
さやか「謎解き要素有り! こりゃ楽しみになってきたね!」
垣間見えた親切心を振り切り、錆びた扉を開け放つ。
さやか「よっ」
扉を開け、広い暗闇の空間へと飛び出す。
数メートルの湿っぽい空気の浮遊感。そして金網へと着地した。
さやか「……」
ここが魔女の結界の最深部。
その広さは、暗さも相まって計り知れない。高さもある。
とにかく、足元に広がっている金網の足場以外には、内装らしいものが一切ない。
さやか「……――」
指笛を鳴らし、音を辺りへ振りまいてみた。
音が広い室内に反響する。
天井はある。高さは数十メートルはあるだろう。
足元の金網、その下は不明だ。奈落の底かもしれない。
横の広さは不明だ。ひょっとしたら、どこまでも広がっているかもしれない。
けどとりあえず、天井があることはわかって良かった。
さやか「さあ、掛かってこい!」
魔女「……ブシュゥゥウ」
均一な結界内で唯一、はっきりと濁った音を響かせた天井へとサーベルを向ける。
注視して初めて姿を認めることができた魔女は、天井に張り付く大きなカニの姿だった。
◆奉仕の魔女・アグニェシュカ◆
魔女「ブシュッ、ブシュッ……」
天井に鉤脚を突き立てて歩く音が聞こえてくる。
魔女が私の頭上へ移動しているのだ。
さやか「!」
空を切る音に、咄嗟に飛び退く。
私が立っていた場所から、粘っこい水がは弾ける音がした。
さやか「……なるほど、そういう攻撃か」
魔女「ブシュ、ブシュ」
びたん。びたん。
魔女は天井を移動しながら、私がいる場所へとヘドロらしきものを落としているのだ。
空間内が薄暗いために、水の正体はわからないが……直撃だけは避けなくてはならないものだろう。
ただのドロ水ではないことだけは確かだ。
追いかけながら、遥か上から攻撃してくる魔女。
本気の跳躍でなら、この空間の天井まで跳べないこともない。
しかし跳ぶという行為はそのものが、隙を伴うリスクだ。
相手が何をしてくるかもわからないし、勢い余って、あの泥だらけの体に激突したら……。タダで済むかはわからない。
さやか「でも、今の私には盾がある!」
魔女「ブシュッ……」
真上からのヘドロ爆撃に、左腕をかざす。
ボン、と弾ける音と共に、汚泥の玉は青い障壁に阻まれ、弾けて消えた。
魔女「……?」
攻撃は直撃したはずだ。カニはそう困惑しているのだろう。
魔女「ブシュシュシュ……」
私がまだ無傷であることに気付くと、再び口の中から泥を絞り始める。
もろもろと溢れてくるヘドロが、真下の私目掛け、滝のように降り注ぐが……。
さやか「へっ」
接触する度に弾けて振動するバリアーは、粘着質の液体であろうとも構わず外へ散らしてしまう。
ヘドロは私に掠ることもなく、遠く離れた金網の下へ落とされていった。
さやか「……ん」
今も尚、開きっ放しの蛇口のように泥を落とし続けるカニの魔女。
けどおかしい。吐き出す量が、あまりに尋常じゃない。
この量の泥、まるで……自分の身体まで、全て吐ききってしまうような……。
魔女「――ブシャッ!」
さやか「!」
足元の金網が、巨大なハサミに引き裂かれる。
足元の金網から姿を見せたのは、カニだ。
天井に居た魔女と同じ、カニの魔女。
魔女が複数いる。そんなはずはない。
さやか(自分を泥状に落として、足元の金網で再生したのか!)
ハサミの二裁ち目で足場を無くされる前に、飛びつくようにその場から離れる。
金網の上を転がりながらも、なんとか奈落への落下を防ぐことはできた。
魔女「ブシュ……」
網に空いた大穴から、ヘドロ色の巨大蟹が姿を現した。
濁った色も溶けかけた姿も汚らしいが、口元でぶくぶくと音を立てる気泡が一番不快だ。
さやか「顔を潰す」
篭手の左腕とサーベルの右腕を両方前に出し、魔女へゆっくり歩み寄る。
私には最強の盾がある。いくら相手に近付いても、その鋭利なハサミでやられることは有り得ない。
隙を見せた瞬間に、サーベルで一突き。それでゲームセットだ。
魔女「ブクブクゥ……」
さやか「――」
――なんてことは相手も解っている
――じゃあ何故こいつはその場から動かないのか
ほむら「さやか!」
ほむらの声に反応するより先に、私はバリアーを展開した。
魔女の攻撃がコマ送りのようにスローになる。
死ぬ直前の冴える頭でないことを祈りたいが、目の前の光景はちょっと切羽詰っていた。
魔女「――ブワッ」
魔女の口に溜まっていた泡が大きく弾け、広い範囲に飛び散ろうとしているのだ。
目の前から来る泥飛沫だけならまだなんとかなるだろう。
が、飛び散り、上から降りかかってくる泥までは防ぎきれない。
後ろへ下がるだとか、上からのをマントで防ぐだとか、目の前の飛沫をバリアして急いで上からのもバリアだとか、そんなことは出来っこない。
それはコンマ秒ほどの出来事でしかないのだから。
この、ちょいと体を動かすだけしかできないような時間の中で、私が足掻けることは何か。
さやか(――あ)
あった。
考えている暇はない。出来ると信じよう。
私は右足で、正面に展開したバリアを蹴り付けた。
相手の泡爆弾が炸裂したのと、バリアに蹴りが入ったのは、全くの同時だ。
ああ、こんな無茶苦茶な蹴り方、小学一年の男子に混じってやったサッカー以来かもしれない。
ただ力強く脚を前方に振り払うだけのキック。
つま先だか足の甲だかがバリアに衝突すると共に、私の体を強烈な衝撃が襲った。それがバリアの“反動”であることは、すぐにわかった。
さやか「っぐぁ!」
金網の上を二、三回バウンドし、ようやく止まる。
目算八メートル。私がバリアと接触することで弾かれた距離だ。
魔女「ブシュシュ……」
だけどそのおかげで、魔女の泡攻撃を避けることには成功した。
その場でバリアを広げているだけでは、魔女の泥を少なからず浴びていたことだろう。
さやか「……」
魔女の攻撃は多彩だ。
泥を垂らすことも、塊にして投げることも、弾けさせて散らすこともできる。
魔女の全身が泥なのだから、接近武器を持つ私にとっては確かに、苦手な相手と言えるだろう。
けどもう大丈夫。
今ので私は、私が思いつく限りでは最高の戦術を閃いた。
魔女「ブシュゥウウッ!」
さやか「よぉーし! そろそろ本気でいっちゃうぞっ!」
魔女が口元で泡を溜め込み始める。
同時に、私は姿勢を低く、その場でジャンプした。
銀の左手を足元へと向けて。
自分で展開したバリアーを自分で踏みつける。
さやか(――うわっ)
高層ビルを一気に昇るエレベーターのような強い重力が全身にかかる。
さやか(うわっ!?)
そんな感覚に意識を手放していたわけではない。
ほんの少しだけ驚いて、注意がそれていただけなのだ。
それでも私の体は確かに、結界の天井近くにまで打ち上げられていた。
私は理解した。私自身が生み出した願いの形を。
全てを守れるほど強くなりたい。
守るためのこの手を、より遠くまで伸ばしたい。
そのワガママな願いは、より克明に魔法の中へ取り込まれているようだ。
さやか「――勝てる!」
虚空に左手をかざし、バリアーを蹴り付ける。
バリアーの反動が推進力を生み、体は目にも留まらぬ速さで空中を駆けてゆく。
さやか(すごい)
縦横無尽に魔女の周囲を飛び回る。
さやか(翼でも生えたみたい)
しばらくの間めまぐるしく跳び回り、ついに無防備な魔女の背後へやってきた。
カニはもう私の姿を見失っている。
さやか「……さやかちゃん――」
さやか「ぶっ飛びパンチ!」
至近距離からのバリアパンチ。
バリアが持つ反動の衝撃は強く、泥で塗り固められた魔女の体積のほとんどを爆発させてしまった。
泥飛沫は全てバリアに阻まれ、こちら側へは跳んでこない。
魔女「――ブシュゥ……」
そして魔女の体の中心部分に、小さな紅いビー玉のような本体を発見した。
さやか「六甲の閂」
静かなサーベルの横一線がビー玉を断つ。
ヘドロの魔女はその場で崩れ、金網の下にすり抜けて見えなくなった。
ほむら「……お見事。本当に、お見事よ」
さやか「……へっへ」
入り口からの控えめな拍手に祝福されながら、結界は形を失ってゆく。
素晴らしい成長ぶりに泣ける
できるさやかちゃんですね
落ちてきたグリーフシードを掴み取り、ほむらへと投げ渡す。
突然の送球に二、三度お手玉しながらも、彼女はしっかりとキャッチした。
ほむら「……バリアー、それを利用した空中での高速移動。ワルプルギスの夜と戦うには十分な魔法ね」
さやか「相性良いってこと?」
ほむら「剣が届く、それだけで心強いわ」
確かに、上空何百メートルの相手に攻撃を当てるには、この能力はうってつけだ。
フェルマータを連続発射するわけにもいくまい。
ほむら「……できれば、杏子とも協力関係を結びたいんだけど」
さやか「んー」
ほむら「……それよりも、巴さんとも対ワルプルギスの話をしなければならないわね」
さやか「マミさんなら絶対に協力してくれると思うよ。信じてくれるとも思う」
ほむら「……さあ、そう上手くいくかしら」
さやか「大丈夫だって、私もいるしさ」
苦い表情の詳しい訳は知らないけど、マミさんならワルプルギスの夜とも共闘関係を継続してくれるはずだ。
無断で何日も戻らなかったことなどについて、両親からの激しいお咎めを受けました。
仕方ないです。ごめんなさい。
けどさやかちゃんは今日から一週間、悪い子になります。
対ワルプルギスの夜作戦会議、その準備、きっと色々あるだろうから。
ひょっとしたら、私の人生の中で一番忙しい一週間になるかもしれない。
力及ばずで、後悔はしたくないもんね。
さやか「……」
ベッドの上でソウルジェムを眺める。
澄んだ青の輝きに、改めて自分のあり方を夢想するのだ。
小さい頃から願い続けてきた強い自分。
全てを守ることができる自分。
大海の青の深みの中に、私の願いは込められている。
この海を、迫り来る敵にぶちまける時が近付いている。
心躍るといったら、ほむらに対しての配慮がないかもしれない。
けどやっぱり、心躍ってしまうんだ。
だって、なかなかいないと思うよ?
この世界には、大切な何かを守りたくても守れない、そんな人はいくらでもいるのだから。
守る力を手に出来た幸運に感謝をしながら、私は目を閉じた。
明日はまどかやマミさんと話ができたら、いいなぁ。
杏子「……」
QB「攻撃しないでくれ」
杏子「……ああ、今はそんな気分じゃない」
QB「良かった、珍しいこともあるものだね。普段ならこう言って出てきてもすぐに潰してくるのに」
杏子「何の用? こんな場所にさ」
QB「祈りに来たわけじゃないよ、杏子」
杏子「黒グリーフシードは無いよ」
QB「いいや、もうちょっとちゃんとした用があるんだ」
杏子「回りくどいな、ぶった切るぞ」
QB「それは困る」
杏子「言え」
QB「ワルプルギスの夜のより正確な出現位置が予測できたよ」
杏子「へえ」
QB「最初の予測にほとんど間違いはないと思う」
杏子「ほとんど、ってどんくらいだ」
QB「何とも言い難いところだね……」
杏子「ふん、まぁ、別にいいけどね」
杏子「もう良いよ、さっさと失せな」
QB「そうさせてもらうよ」
QB「……」
杏子「うう」
QB「これはおせっかいかもしれないが」
QB「祈るなら、教会内に何か、ひとつでもシンボルを設置するべきなんじゃないかな」
杏子「最後だ、失せろ妖怪」
QB「ああ、今度こそね」
杏子「……」
杏子「……――煤子さん」
正直この布陣でマミがいても不安要素にしかならない気が
>>938
お荷物だよな
そんなことないだろ
このスレでは唯一の回復魔法得意な人だぞ
さやかちゃんは原作の超回復力が無いんだし
でも杏子にあうとメンタルが
>>940
でもその分マミの火力とリボンがまったく価値なくなってるからな
回復「しかできない」メンバーを入れるような余裕ないと思うんだが
勝手に自分が怪我して勝手に消耗してるだけとかなりかねん
他が活躍してるのを見て無茶してやられそう
対人戦とハトムギ描写のお陰で二人共凄いように見えてるが相手はゴジラさんだぞ?
正直、杏子やさやかはどうやって闘うんだよって気がしないでもない
マミを叩きたいだけなのか知らないけど遠距離高火力に回復で十分でしょ
今までのループにない攻撃の威力上げる描写だってされてるし
タイムパラドックスでなにが起きるかわからないとしてもマミさんを放置はいけなかったな……
† ――月――日
ほむら「……」
QB「暁美ほむら。君が時間遡行者であることはわかっている」
ほむら「……“無駄な足掻きはやめたらどうかな”……百回以上は聞いたわ」
QB「……やはりね」
ほむら「さっさと出て行って頂戴、インキュベーター。あなたの言葉にはもう、煩わしさしかないの」
QB「そういうわけにはいかない」
QB「僕は交渉に来たんだよ、ほむら」
ほむら「……」
QB「この交渉を成功させなければ、僕の個は本幹領域に同期できなくなってしまった」
ほむら「……どういうことかしら」
QB「聞いてくれるのかい? ありがとう」
QB「これから話すことは、君にとってデメリットを減らすものとなるだろう」
QB「よく聞いてほしい」
ほむら「……」
QB「君の願い、時間遡行の魔法が、鹿目まどかという一人の少女の因果を高めていることには、気付いている?」
ほむら「随分と前に聞いたわ」
QB「それを聞いてもなお、幾度となく遡行を続けているわけだ。まぁ、それはいいよ」
QB「率直に問題を言おう、これ以上の時間遡行はやめてもらいたい」
ほむら「断るわ」
QB「これは知性集合体(スペース)からの要請でもある、僕というインキュベーター個人よりも高度な場所からの頼みだ」
ほむら「穏やかでは、ないみたいね」
QB「経緯を説明しよう」
QB「君の宇宙結束によって、平行世界の特定値は上昇し続けていた」
QB「これは何十回程度の結束であれば問題ないレベルの偶然として片付けることができるのだが、さすがに数千を越えるのはやりすぎだね」
QB「鹿目まどかの因果量、そして魔力係数は臨界を迎えつつある」
QB「スペースはついに、鹿目まどかという個体に対して第二種の警戒令を発動した」
QB「だが僕たちが鹿目まどかの因果異常を観測し認識できるのは、16日のその日からだ」
QB「こんな辺境の星に、しかも一ヶ月以内に対応者を派遣することはできない」
QB「対処できるのは、駐在しているインキュベーターの僕だけだ。しかも、現地生物への要請という遠まわしな形限定でね」
ほむら「要請とは」
QB「これ以上の時間遡行をやめてもらいたいのと」
QB「暁美ほむら、君に宇宙結束の解除をしてもらいたい」
ほむら「……やめたくはないし、解除の仕方なんていうのも知らない」
QB「理由を説明しなくてはならないね」
QB「まず、これ以上の時間遡行はNGだ。契約上強制はできないのだが、やめてもらわなくては全宇宙の生命が死滅する」
ほむら「……」
QB「鹿目まどかの因果量・魔力量は、もう容量限界に達しつつある。臨界を迎えようとしているんだ」
QB「臨界によって、鹿目まどかはその姿を保てなくなり、宇宙ごと歪ませてその存在を消滅させるだろう」
ほむら「……嘘ね」
QB「こんな嘘を今更つくと思うかい?」
QB「暁美ほむら、君の時間遡行は無限ではないことを知っておいてほしい。これから先の遡行は、0.01%以上の確率で宇宙の死が待っていると思ってくれ」
ほむら「……」
QB「けど本題、要請の本懐はこっちにある」
QB「暁美ほむら、君による宇宙結束の解除作業をやってもらいたい」
ほむら「……それは何なの」
QB「簡単に言えば宇宙の治療行為だ」
QB「君が鹿目まどかを軸に束ねた、一ヶ月間の宇宙たちを平行状に解き、元の状態に修復してほしい」
ほむら「……そうすれば、まどかの因果が消える?」
QB「完全消滅はしない。君が初めて出会った頃のまどかに戻るはずだ。魔法少女としての才能が消えることはないよ」
ほむら「……」
QB「宇宙結束の解除が行われれば、一点に集中した因果も拡散する。宇宙は救われるわけだ」
QB「君にとってもデメリットはないはずだよ。その状態に戻せば、君は再び時間遡行を行うことができるのだからね」
ほむら「甘言ね。どうせ何か裏があるのでしょう」
QB「僕たちにとっては、宇宙が無事であることは最優先事項だ」
QB「まどかの感情エネルギーなどはあくまでも二の次、生産品に過ぎないからね」
ほむら「また時間を巻き戻し続けて、同じことになるかもしれないわよ」
QB「その間に君が事故死してくれることを願うばかりだよ、暁美ほむら」
ほむら「ふ、ついに包み隠さずに言ってくれたわね」
QB「こんな面倒事は何度も起こってほしくないからね」
QB「要請を受け入れてくれるならば、君の遡行魔法に因果の修繕能力を付与する」
ほむら「そんなこともできるのね」
QB「魔力による発動形式は君独自の言語で構成されているために直接の干渉はできないが、君が僕らの協力を受け入れるならば話は別だ」
ほむら「遡行魔法と同時に、まどかの因果が修復されるのね」
QB「そういうことになる。一ヶ月間を未来から過去へと、解していくようにね」
ほむら「その際のリスクはないのかしら」
QB「ある」
ほむら「……」
QB「力を付与するのは僕らだけど、修復するのは君の魔法だ。誤作動が起こらない保障は、残念だが全くできない」
QB「全ては君の気の持ちようというわけだ」
ほむら「途中で私が死ぬことも、ありえるということかしら」
QB「時間遡行の失敗。何が起こるかは、僕にもわからないよ」
QB「けれどそれまでの遡行距離に応じた因果の結束が解消されることは間違いない」
QB「少しでも良い。君がまどかに集中した因果を解してくれるならば、宇宙の破滅は回避できる」
QB「そして君は死ぬ。これ以上ないイレギュラーが消滅してくれることは、正直言ってありがたいよ」
ほむら「……」
QB「このままではまどかを中心にした破滅が待っている、それは間違いない」
QB「だがこの要請に応じれば、デメリットは軽減されるだろう」
QB「君の取り分が多くなるかどうかは、君が自身の魔法を御すことが出来るかどうかにかかっている」
ほむら「……」
QB「河原。ここで良いんだね?」
ほむら「ええ、広くて人が少ない。見滝原の中では、時間の流れとは無縁な場所でもあるわ」
QB「なるほど、不測の事態に備えてのここでもあるわけだ」
ほむら「……それにここは、かつて私がまどかと一緒に研鑽を重ねた場所でもある」
ほむら「ここで魔法を使うのが、一番リラックスできる。そんな気がしたの」
QB「なるほどね」
QB「さて、暁美ほむら。これは新たな契約だ」
QB「これより君には、宇宙結束の解除を行なってもらう」
QB「それに際し、一度の時間遡行に限定した、結束宇宙を修繕する能力を付与する」
ほむら「ええ」
QB「……どういった形で君に魔法が発言するかは、僕にもわからない事だ」
QB「それでも受け入れるかい?」
ほむら「今のままでは必ずまどかが死ぬのであれば、是非もない」
QB「良いだろう」
QB「――受け取るが良い。スペースが君へ貸与する、救世の運命だ」
……
ほむら「……」
QB「これで能力付与は完了した。どうかな、様子は」
ほむら「……新たな能力の使い方を、理解した」
QB「それは良かった。作業に入れるかい?」
ほむら「ええ、問題なくいける。これなら、この能力があれば」
QB「よし」
ほむら「……」
QB「……」
QB「これで君ともお別れになるわけだ」
ほむら「ええ、そうね、しばらくだけど」
QB「それはわからない。修復中に君が次元の狭間にでも消えてくれれば、僕にとっては一番ありがたい結果だ」
ほむら「意地でも、また邂逅してみせるわ」
QB「やれやれ。まあ、後のことは良いさ。好きにすることだね」
ほむら「……でも、言わせてもらうわ」
QB「何かな」
ほむら「さようなら、インキュベーター」
QB「ああ、さようなら、暁美ほむら」
……――……―……
QB「さて、世界の修正が始まる」
QB「どうせなら僕のこの意識も一緒に、遡行してもらいたかったな」
QB「この考え方を“寂しい”とでもいうのだろうか」
QB「まあ、どうでも良い事だ」
ほむら(……数多の世界線が、トンネルのように輪を成している)
ほむら(これがいくつもの世界。私が渡ってきた世界の因果)
ほむら(これが全て、まどかの因果になっていただなんて)
――ギュイイイイイン
ほむら(……左手の時計が、過ぎ去った景色を糸状に解して、内部へと巻き込んでいる)
ほむら(これがきっと“解す”ということ)
ほむら(時計の中に、今までまどかが溜め込んでいた因果が収束されているのがわかる……)
ほむら(これがまどかの抱えていた魔力……)
ほむら(……出口を目指そう)
ほむら(一ヶ月前のあの日へ戻る。そして、また一から、今度こそ本当に、まどかを守ってみせる)
ほむら(強大な素質を持たないまどかであれば、インキュベーターの動きも激しくはならないはず)
ほむら(これはチャンスよ。ワルプルギスの夜を倒すための、またとないチャンス)
ほむら(待っていてまどか。今、もう一度会いに行くからね)
――ギュイイイイイン
ほむら「……」
ほむら(今、時計が集めている因果……この魔力さえあれば)
ほむら(この特殊な時間遡行の魔法さえあれば)
ほむら(より綿密に、ワルプルギスの夜と戦うための準備ができる……そんな時間にまで、戻れるんじゃ)
――ギュィイィイン
――ゴウッ
ほむら(!? 時計が!?)
ほむら(嘘、どんどん周囲の時間を飲み込んでいく!?)
ほむら「ぼ、暴走している……!」
――ギュィィィィィ
ほむら(だめよ、一ヶ月前! それ以上は戻らない!)
ほむら(止まって! お願い、私はそんなこと祈っていないの!)
ほむら(これ以上、戻ったら――)
ばきん。
時計が内側から破裂した音を聞いて、私は恐慌状態に陥った。
一ヶ月前以上の、明らかにオーバーしすぎた時間遡行に、時計に付与された因果回収能力が限界を迎えたのだ。
巻き込んでいた因果、その魔力は爆発し、私の最大の武器を破壊してしまった。
――終わった。私は直感した。
今さっきまで通っていた、散歩道のような時間の狭間が、急に恐ろしげな空間に変貌したような気持ちさえした。
時計のない私に、時間を歩く資格はない。狭間でさまよう資格すらも持ってはいない。
結果として、時計の破壊と同時に、私の体はすぐ近くにあった時空壁へと吸い寄せられてしまった。
どこかもわからない世界へと投げ出されたことを自覚すると共に、激しい眩暈を覚える。
そして理解した。失敗したと。
過去へときてしまった。
そして、時計が壊れた。
絶望的な未来が待ち構えている世界へやってきてしまったのだ。
ほむら「……ぐぁっ!」
現実感のある砂利の上に叩きつけられるが、些細なことだった。
自分の魔法を完璧に失ってしまったことに比べれば、本当に些細だ。
ほむら「ああ……やってしまった、私はなんてことを……!」
破壊した時計からこぼれた因果の砂は、砂利の上に散っている。
目に付くそれらの力を利用しても、未来へと遡行することは叶わないだろう。時空の中で失った力は、あまりにも大きかったのだ。
……インキュベーターも思惑通りに事が進んでしまったというわけだ。
因果は解消され、私はどこかもわからない、しかも過去の世界線へと飛ばされる。
魔法は使えず、あとは魔女に殺されるのみだろう。
私は。
……私は!
† それはいつの出来事でもない
† 誰も知らない出来事だった
( ;・∀)[スレ] 一体何者ナンダ・・・
乙
過去の丁寧な説明があると最終盤って気がしてさみしくなってくる
乙
一気に物語の核心に触れたな
乙
ループ後ほむらかと思ってたがループ中ほむらの成れの果てか
乙
これで>>1に繋がるってことか……?
乙
煤子さんは遡航直後よりもうちょっと年食ってる印象だったが
勝手にループ後のなれの果てと思い込んでたからかのう
下手すると無限ループしそう
結局ほむ子さんの正体はわからなかったな
乙
本編ほむらはループ千回以内確定してるがこのほむらは数千回、何百年か
そりゃ煤にもなっちゃうね
QB「この考え方を“寂しい”とでもいうのだろうか」
なにこれかわいい
QBが急に淫獣から愛玩動物になった・・・だと・・・
( *( 仮 面) キリがいいしこのスレはここまでにしておこうカシラネ
( 仮 面)≡.∵・(*^q^(○≡(^o^ )
>>962
ただ単に必要以上に時間遡航してしまったから杏子やさやかに出会った時は年増だったというわけか・・・
(*・∀・) ヾ(・∀・* )残りのスレは一発芸で埋めてやるデナ
(*・∀・) (・∀・* )ミテナー
(*・∀・) ヽ(・∀・*ヽ) ミッ
(*・∀・) ヽ(・∀・*ヽ) ポヨン
一応次スレ告知はお願い
さやか「全てを守れるほど強くなりたい」2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1365335464/)
次スレ
(;* ) ヽ(∀・; )ママ オモシロカッタヨ
次スレ立ってって事は
まだ終盤じゃないのか
(*( 仮 面) 秒読みってほどでもないワネ
いいから紅茶に塩でも入れてのんでろ!
(仮面)#・∀・)テメエ!
(仮面)∀)ヾ(∀・; )))
話は面白いけど芸風がすごいうざい
有名な人なの?
かわいいじゃん
本人の人格がクズだろうとカスだろうと
読んで面白ければそれでいい、読む時にそんなもの関係ない
おもしろいからきにすんな
(仮面)・∀・)イエーイ バーカバーカ!
いまでもVIPで書いたりするのかしら?
Twitterとかどうしたの
(仮面)∀)何の話カシラ
( 仮 面)≡.∵・(*^p^(○≡(^o^ )オラァ
今何スレ同時進行だっけ?
スレの残り埋めて欲しいってかァ!?埋めてやるよォ!!
(*・∀・)*・∀・)*・∀・)サセルカァアアア
末尾0だけど専ブラ使わないの?
(◕‿‿◕)それが君の願いかい?
この潰れ饅頭がっ
( *( 仮 面) 普通のブラウザでテキストボックスに打ち込んで書くのが私流ヨ
なぜ未完の作品を書かないんですか!
なぜいちいち仮面を被るですか!
(仮面)#・∀・)あんまんと一緒にすんじゃネーヨ!
(仮面)#・∀・)#・∀・)ソウヨ!
ピザまんはないんですか!?
ハト
肉まんよりあんまんの方が好き
火傷するけど
>>1000ならさやかちゃん覚醒
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