一夏「なんでお前が?」(1000)
インフィニット・ストラトスの原作再構成SSです。
以下、注意事項
・原作では登場しないISなどが登場します。
・若干キャラが崩れているかもしれません。
・アニメは視聴しましたが原作は見ている途中なのでおかしいところがあるかもしれません。
・スレを立てるのが初めてなのでいたらないところがあるかもしれません。
・SSを書くのは初心者なのでおかしな点があるかもしれません。
以上の点を踏まえてお楽しみいただければと思います。
至らない点も多々あると思いますがよろしくお願いします。
今日は高校の入学式。新しい世界の幕開け、その初日。それ自体はいい。むしろ喜ぶべきところだ。
だがしかし、問題点はとにかくクラスに俺を含め男子が二人という点だ。
(これは、想像以上にキツイ・・・)
入学前は友人どもに自慢しまくってはいたが実際こういう環境に放り込まれるとあまり浮かれて入られない。
なにせクラスメイトの半数以上(一人を除きみんな女子)が好奇の視線を投げかけてくるのだ、動物園の珍獣にでもなった気分である。
俺はクラスの中唯一の味方である中学時代からの友人にアイコンタクトで助けを求めるがどうも彼は自身の出番の後に一悶着あったためかこちらのサインに気づかないようだ。
・・・しょうがない、もう腹を決めよう。たかが自己紹介だ、自然体でいけばどうにかなるはずだ。
自然体、自然体。
すぅ、と一呼吸置き俺はクラスメイトの方を向く。
「五反田弾です。よろしくお願いします」
高校生の、新しい世界の第一歩を踏み出した。
「・・・・・・で?」
そしてその第一歩で躓いてしまったのかもしれない。
教壇には副担任の山田先生(可愛い)と中学時代からの悪友、織斑一夏の姉にして担任。織斑千冬さん(恐ろしい)が立っている。
さきほど言葉を発したのはもちろん千冬さんのほうだ、あの山田先生(可愛い)の可愛い外見からあんな刃物のような鋭さと冷たさを纏った言葉が出てくるものか。
「な、なんでしょうか?千、織斑先生」
「先ほどの織斑の自己紹介の際に私がなにをしたか覚えているな。それを覚えていながら同じようなことを繰り返すというなら、覚悟は出来ているな?」
自然体でいたゆえか、友人と名前以外全く同じ自己紹介をしてしまったようだ。友よ今日ほどお前と気が合うことを憎んだことはないぞ。
千冬さんはいつの間にか俺の前に近寄り軽くこぶしを振り上げている。ゆっくりに見えるのは「死の直前には・・・」云々ではないことを祈る。
友人こと、織斑一夏にアイコンタクトで助けを求めるが一夏はなにを思ったか親指をぐっと、突き上げてサムズアップをしていやがった。
そういえば一夏の時には俺があいつのアイコンタクトを気づかぬふりをして無視していたっけ。
今なら一夏の心が手に取るようにわかる。奴は『ざまあみろ』と思っているのだろう。
俺は最後にアイコンタクトで一夏に伝えた。
『脳細胞って頭叩かれると五千個くらい死ぬらしいぜ』
時は少々過ぎて一時間目の終わり。
この学校、IS学園はコマ限界ギリギリまでIS関連の授業が詰め込まれているため入学式のその日から授業があるのだ。
そして五反田弾は机に突っ伏していた、一時間目のIS基礎理論の授業だが、正直ついていけなかった。他の生徒たちは教師の話を聞き、時折うなづいたり教師に質問したりしていたが・・・
俺、というか俺たち。隣で机に突っ伏してる一夏も同じような状況らしい。
「一夏、生きてるかぁ?」
「脳細胞が一万と五千個死んだが、なんとかな」
「俺は五千しか死んでないぜ、勝ったな」
「・・・お前五十歩百歩って言葉知ってるか?」
「あぁ、それがどうした」
「五十歩百歩って言っても俺が五十歩のほうだからな」
「・・・・・・」
どうやら友人は頭をやられたようだ、物理的に。
俺達がそうやって馬鹿丸出しな会話をしていると一夏の背後に一人の女生徒が近づいてきていた。後ろを取られてる一夏はまだ気づいていないようだ。
「・・・ちょっといいか」
「え?」
教室内が少しざわめく、さきほどからこちらに話しかけようか、話かけまいか。と葛藤し膠着した状況から一人が何の前触れもなしにこちらに話しかけてきたからだろうか。
均衡が崩れてざわつきは少しずつ大きくなっているようにも見えるが。
「弾、ちょっと廊下に出てくる」
俺が回りに気をやっている間に女生徒と一夏の間で話がまとまっていたらしい。どうやらこの女生徒は一夏一人に用事があるらしい。
「おぅ、わかった」
一夏にこういう風に女生徒が話しかけてくることは多い、それはそれは多い。一夏は女生徒に好かれる、まぁモテるからだ。
しかしさっきの女生徒はどうにもそういった手合いとは違ったように思えた、なにかこう・・・
思考を巡らせようとしていると周りの雰囲気が少し妙なことに気づく。捕食者が獲物を狙うような感じの。
弾は気づくべきだった。今まで一夏と弾が二人でいたことによりただ男子に話しかけに行くよりハードルが少し上がっていたことに。
その障害が取り払われた今、均衡が崩れた今。弾はライオンの群れの中においていかれたガゼルも同然。
弾は休み時間終わりまで女生徒からの質問攻めにおわれるはめとなった。
休み時間の終わりに、さきほどの女生徒と一夏が教室に帰ってきた。弾は一人だけ逃げた(弾目線では)一夏に対して恨み言の一つでも言ってやろうかと思ったが。
「二万個に増えたよ」
という言葉と頭のたんこぶ、少し前に教室に入ってきた千冬さん。この三つの要素でなにがあったのかを察すると弾は静かに親指を上げた。
二時間目が終わり休み時間、先ほどよりはまだ慣れたのか俺と一夏は机には突っ伏してはいない。内容を理解できたのかと言えばそうではない、分からないことに慣れたのだ。
「なぁ弾、そういえばコレは最初に聞いておくべきだったんだが」
「なんだよ、聞きたいことって」
正直俺には一夏がなにを聞きたいかは分かっている、と言うより千冬さんが出てきていなければもっと早くにこの話はできていたはずだ、あれには俺もびっくりしたし。
「どうしてお前がここにいるんだ、俺は偶然ISを動かせたからここに来たが・・・お前もまさか?」
「いやぁ女子もみんな同じ事聞いてきたよ、一夏のことは事前に知っていてみたいだが俺のことは誰も知らないからな」
一時間目の女生徒たちからの質問攻めの半数以上がこのことに関して、残りは俺と一夏の関係についてだった。
「・・・・・・」
一夏が無言で先を急かす。
こちらも分かった分かったという表情を作りもったいぶりながら、
「ちょっとよろしくて?」
高貴なオーラを振りまく金髪美少女に、俺の言葉はさえぎられた。
俺たち二人はいきなり現れて結構重要な話の途中に強引に割り込んできた少女に顔を向ける。
第一印象はいいとこのお嬢様、少し観察してみると『いかにも』な感じの今時の少女だと思う。
ISの登場から10年。ISの圧倒的な兵器としての性能、そして女性にしか扱えないという特性は世の中の風潮を女尊男卑が当たり前という風に変えてしまった。
目の前の少女からはなんというか、こう・・・
『私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度があるでしょう?ほら靴をおなめなさい!おーほっほっほ!』
みたいな感じがプンプンする。俺の妹も今時な感じではあるが、あれはいいのだ。可愛いから
「訊いてます?お返事は?」
「あ、ああ。訊いてるけど・・・どういう用件だ?」
一夏が答えると、その女生徒は大げさに声をあげた。
「まぁ!なんですの、そのお返事。私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度があるんではないかしら?」
ブフゥッッーーーー!!!!
俺はイメージとの一致率の高さに思わず吹いてしまった。虹がかかるほどの細かい霧を吹いてしまった。だってあれは反則だよ!!
「なっなんですのこの方は!!話しかけただけでいきなり吹き出して腹を抱え込むなど!失礼極まりませんわ!」
「お、おい弾?どうしたんだよ、いきなり」
一夏と女生徒が話しかけてくるがちょっと今は応対できそうもない。笑いがぶり返さないようにするので必死だ。
「こ、このセシリア・オルコットに対して。イギリスの代表候補生にして入試主席のわたくしに対してこのような・・・謝罪を要求しますわ!」
ダメ!無理!このお嬢(仮)が黙ってくれなきゃ復活できそうにねえ!!なんで説明口調なんだよ畜生!!
そうして俺は二度目の虹をかける。俺がもしISに名前をつけるとしたら「レインボーメーカー」で決定だな。
少し時間を置いてようやく俺の容態は落ち着きお嬢(セシリア)と話せるまでに回復した。
「悪いな、ちょっと昨日見た漫画の内容を思い出してな」
かなり苦しい言い訳だがしないよりはましだろう。
「思い出し笑いでもタイミングが悪すぎますわ、わたくしが笑われたのかと思いましたわ」
マジかよ!信じるの!?ちょろいよこの人!逆に心配になってきたわ。
「で、その・・・代表なんとか生のセシリアが何の用なんだ?」
一夏が休み時間の残りを気にしながらセシリアに話しかける、一夏としては俺がIS学園にいることの理由を早く知りたいのだろう。
早めに話を切り上げたいのだ。
「あ、あなた、本気でおっしゃってますの?」
セシリアは信じられないものを見たような顔で言う。
それもそうだ、俺もこの学園に来る前の必読の資料やらマニュアルやらで詳しいことは知ったがそれ以前からも一応知識の端にはあったことだ。
なんでも国家IS操縦者のその候補生として選出されるエリートのことらしい。つまりこのお嬢はイギリスの一番になれるかもしれないとお国から選ばれた一人ってことだ。
そりゃあ偉いだろうな、凄いだろうな。けれどそれがこんな態度していい理由にはならねえだろうけど。
「代表候補生を知りませんの?」
「そうそう、代表候補生だ。知らないぜ、一体何なんだ?代表候補生って?」
セシリアは一夏の言葉に人差し指をこめかみにあてて頭が痛そうにしながらぶつぶつ言い出した。
「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら・・・・・・」
「いやいや、知らないのこいつだけだから。他の学生の中では常識ですよー」
「これだからこんな辺境の土地はいやだったんですわ、今年に限って男性が二人も入学してきてそれもいやでしたのにその二人のうち一人は代表候補生も知らない無知な猿。
もう一人はわたくしを見ていきなり笑う失礼な猿。もういやですわ、故郷に帰りたい・・・・・・」
聞いてねえし、人には話を聞けといいながら自分は人の話を聞かないらしい。
「そもそもわたくしのような選ばれた人間と同じクラスになれること自体が幸運なことなのに、そのことすら理解できていないなんて。わたくしは入試主席で、代表候補生で、
入試で唯一教官を倒したこのエリート中のエリートのわたくしに対してこのような・・・」
なおも一人でブツブツと呟き続けるセシリアの言葉の中の『入試で唯一教官を倒した』のくだりで一夏が反応した。
「え?入試ってあのIS動かして戦うってやつ?」
「・・・それ以外に入試などありませんわ」
ようやくセシリアがこちら側の言葉に反応した。
「あれ?俺も倒したぞ、教官」
またもセシリアは反応を示さなくなった。というより固まっているのだろう。
「・・・・・・は、はい?」
たっぷり時間をかけながらゆっくりと言葉をつむぐセシリア。かなりマヌケな表情をしてるが先ほどまでの表情よりは可愛げがあるな。
「わたくしだけと聞きましたが?」
「女子だけではって話じゃないのか?」
「つ、つまりわたくしだけではないと?」
「いや、知らないけど」
なんかまた雲行きが怪しくなってきたな。だんだんセシリアの表情が先ほどのような、いやもっと険しいものになっていってる気が。
「あなた!あなたも教官を倒したって言うの!?」
「うん、まぁ。たぶん」
「たぶん!?たぶんってどういう意味かしら!?」
「えーと、落ち着けって。な?」
「こ、これが落ち着いていられ・・・」
キーンコーンカーンコーン
話しに割って入ったのは三時間目の始業のチャイムだった。
今の俺たちには福音にも聞こえる。
「・・・っっっ!!またあと出来ますわ!!逃げないことね!よくって!?」
よくない、と言おうとしたが一夏が先にうなづいてしまったためセシリアは自分の席に戻るため歩いていってしまった。機を逃した。
三時間目は授業の前に、再来週行われるクラス対抗戦に出場する代表者、まぁつまりクラス代表を決めることとなった。
教壇の上で説明していた千冬さんの話を聞く限り大分面倒な立場らしい。まぁ自分がならないように祈っておくか。
「はいっ!織斑君がいいと思います!」
「弾よ、俺以外にもこのクラスに織斑っていたんだな。なんだか運命感じね?」
「お前、実は馬鹿だろ」
駄目だ、もう細胞を二万個も破壊されたせいで一夏はもう駄目だ。しかしこんなのでも友人なのである、俺がこいつを支えてやらねば。
「私は五反田君がいいと思いまーす!」
「一夏、五反田って意外とありふれた苗字だったんだな、ここにもいるとは」
「お前、実は馬鹿だろ」
しまった、俺とこいつは五十歩百歩かもしれない、しかしたとえそうだとしても俺が五十歩のほうな。
冗談はさておき現状はかなりヤバイ。俺と一夏以外のクラスメイトはそろいもそろって俺たちに代表をやらせたいらしい。
推薦なんかありなのか?とも思ったが千冬さんが。
「他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」と言っているのでありなのだろう。神は死んだ。
このままでは俺か一夏が代表になっちまう、誰でもいいから助けてくれえぇぇぇ!
その時甲高い声が教室に響く。しかしこの声は。
「待ってください!納得いきませんわ!」
やっぱりさっきのセシリア・オルなんとかだ。さっきあれだけ声を聞けば分かるようになるもんだ。
「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような
屈辱を一年間も味わえとおっしゃるのですか!?」
あぁ、なんというかセシリアに押し付ければ俺も一夏もクラス代表なんて面倒くさいことから開放される。だがしかし。
「実力から言えばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!私はこのような島国まで
IS技術の修練に来たのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
俺も、たぶん一夏も少しイライラしてきたようだ。
「大体、文化としても後進的なこの国で暮らすこと自体、わたくしにとっては耐えがたい苦痛で・・・」
カチンッ!
「「イギリスだってたいしたお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」」
俺と一夏は同じタイミングで一言一句違わずハモって口を滑らした。もっとも俺は口を滑らせる機会を伺っていたわけだが。
「なっっっ?!あ、あなたわたくしの祖国を侮辱する気ですの!!」
先に侮辱したのはどっちだよ、と言ってやりたいがそこまで言ってしまえばこちらが悪者だ。
「け、決闘ですわっ!!」
顔を真っ赤にして怒りながら、セシリアは強く叩く。
「おう。いいぜ。四の五の言うより分かりやすい」
「後腐れもなくていいな。俺も賛成だ」
一夏のすぐあとに俺も追随して、決闘に応じる意思を表明する。
面白いな。完結まで頑張って。
「言っておきますけど、わざと負けたりなどしたらわたくしの小間使い。いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
「まぁ、なんにせよこのイギリス代表候補生のわたくしセシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
流れとはいえ代表候補生と戦うことになるとはな。まぁ勝てるとは思ってないが。
なにせ相手は代表候補生、エリートである。対してこっちはISが動かせるがISに関してまったくの初心者が一人。
『ISがまったく動かせない』やつが一人である。どう考えたって勝ち目などない。
「ハンデはどのくらいつける?」
そう、ハンデがなければまともに勝負にもならないのだ。一夏もそのくらいは理解しているようである。
ケンカを買って相手にハンデを求めるなんて無様だけど、仕方がない。仕方がないのだ。
「あら、早速お願いかしら」
「いや、俺がどのくらいハンデつけたらいいのかなーと」
・・・は?
こいつはなにを言ってるんだ?相手につけてもらうのではなくて俺らにハンデ?
クラスの連中も一夏が言った言葉に耳を疑っていた。しかしそれも一瞬でクラスからはドッと爆笑が巻き起こった。
「お、織斑君それ本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」
「織斑君は、たしかにISが使えるかも知れないけど。それは言いすぎだよ」
そうだ、みんなの反応が正しい。俺だって当事者じゃなきゃ笑い飛ばしてるところだ。
「・・・じゃあハンデはいい」
ここで、やっぱりハンデつけてください。なんてお願いしたらまたクラスの爆笑を巻き起こしかねないしな。
「えぇ、そうでしょうそうでしょう。むしろわたくしがハンデをつけなくていいのか迷うところですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて日本の男子はジョークセンスがあるのね」
先ほどまで顔を真っ赤にしていたセシリアも今や嘲笑をその顔に浮かべていた。
「ねー、織斑君、五反田君。今からでもセシリアに言って、ハンデつけてもらったら?」
俺の後ろの席の女生徒が気さくに話しかけてきたが、その表情は苦笑いと失笑の混じったもので俺も、たぶん一夏もカチンときた。
「男が一度言い出したことを覆せるか。ハンデはなくていい」
「えー、それは代表候補生をなめすぎだよ。それとも知らないの?」
当たり。一夏は代表候補生がなにか全く知らない。俺も知識で知ってるだけで実物は見たことないけど。
「さて、話はまとまったな。それでは試合は一週間後の月曜。放課後の第三アリーナで行う。三名ともそれぞれ準備をしておくように。それでは授業を始める」
ぱんっと手を打って千冬さんが締める。
不安要素が多すぎるがもはやあとに引けない。代表候補生とハンデなしのガチバトルをしなくちゃならないらしい。
憂鬱な気分を引きずりながら俺は教科書を取り出した。
「い、意味が分からん・・・なんでこんなにややこしいんだ・・・」
現在は放課後、教室で俺の隣にいる一夏は授業の難しさについて嘆いていた。
「まぁ俺も似たようなもんだよ。専門用語のオンパレード、しかも周りのやつはみんな分かってるみたいだから授業はスラスラ進んじまうし」
そして周りの状況も状況である。
周りの女生徒たちはこちらをチラチラ見たりコソコソと話し合ったりしている。自意識過剰かもしれないがおそらく俺たち二人についてだろう。
昼休みに学食に行ったときなんて特にやばかった。
俺と一夏で連れ立って行ったので話しかけてくる女生徒はいなかったものの、ゾロゾロと全員後ろをついてくるのだ。
学食でもモーゼの海割り状態で、俺らは学校に迷い込んだ犬状態だった。
あの近づいていっていいのか、いけないのかわからない微妙な均衡状態。自然に出来るエアースポット。
つーかみんなひそひそ話し合ってるけど、仲いいよね。初日から友達がいっぱいいて羨ましいよ。俺らに対する目線はやっぱり学校に迷い込んだ犬か珍獣あたりだ。
「ああ、織斑君。まだ教室にいたんですね。良かったです」
「はい?」
一夏が呼ばれて顔を上げる。俺もそのほうを見ると副担任の山田先生が書類片手に立っていた。
「えっとですね、寮の部屋が決まりました」
そう言って一夏に部屋の鍵と、部屋番号の書かれた紙を渡す。
ちなみにこの学園は全寮制なのだが俺と一夏は初の男子生徒なので部屋が決まるまで一週間くらいは自宅から通うように言われていたはずなのだが。
「俺の部屋、決まってないんじゃないですか?というか弾のほうは部屋決まってないんですか?」
「そうなんですけど、事情が事情なので一時的に部屋割りを無理矢理変更したらしいです。五反田君には悪いですがもう少しの間自宅から通ってもらうことになります」
山田先生の言う事情とは一夏の特別性のことだ、世界で唯一ISを扱える男。最初はマスコミや日本政府、各国大使。
果ては遺伝子工学研究所の人間がやってきて『ぜひとも生体を調べさせてほしい』と言ってきたりもしたらしい。
そんなわけで学園の監視の届かないところには極力置いておきたくはないのだろう。一夏に何かあっては世界的な損失だからだ。
俺は今自宅の自室に帰ってきていた、山田先生の話が終わった折をみて一夏とは別れ帰宅した。
ベッドの上に寝そべりながら今日のことを思い返す。
女子に囲まれての学園生活は思いのほかやりづらかった、想像してたのとは大違いだ。
特にあのセシリア・オルコット。人の話は聞かないし、自分の話だけ押し通そうとする。
顔はいいんだがなぁ・・・
顔で思い出したがそういえば一時間目の休み時間、一夏に話しかけたあの女生徒はなんだったのだろう。
結局授業が始まったりセシリアが出てきたりでうやむやになってしまっていたが。
一夏に聞けば分かるか、と思い立ち携帯電話を取り出したところでその携帯電話からメロディ音が流れ出した。
うわさをすれば何とやら、丁度一夏からメールが来ていた。
なになに『最近の女子高生は殺人未遂現場をみて"いい感じ"と言うらしいぞ』
「・・・・・・・・・」
俺は寮内で友人が幼馴染に殺されかかっているなど知る由もなく、その文章にただただ首を傾げるだけだった。
結局あの女生徒のことは聞きそびれたまま、一日目が終わった。
一旦ここで一区切り
一日かけた書き溜めがほんの数分で貼り付けれてしまうなんて諸行無常もいいとこだわ。
感想とか改善してほしい点とか上げてもらえれば出来る限りがんばります。
それではまた。
読み応えがあって面白いです。頑張ってください
期待
投稿再開しますです。
二日目の二時間目、その休み時間。俺と一夏は女生徒からの質問攻めにあっていた。
昨日のように二人で固まっていても、全く物怖じせずに突っ込んでくる。畜生、昨日の今日で男子に慣れるの早いなぁおい!
こういう女の子に囲まれるのに憧れてたけどコレはやりすぎだ。だってこの子たち勢いありすぎて怖いんだもん。
ていうか人垣の向こう側に整理券配ってる奴までいるぞ、しかも有料で。人で商売するんじゃねえよ!
そうやって質問をさばいていっていると後ろから、スパァンっ千冬さんが一夏の頭を出席簿で殴ったような音が聞こえてきた。
「休み時間は終わりだ、散れ」
千冬さんの一言で今までざわついていた教室が一気に静かになり女生徒たちも席にすばやく戻っていった。
しかし千冬さんいつの間に一夏の背後に来ていたんだ。気配一切なかったんですけど。
「ところで織斑、お前のISだが準備に時間がかかる」
「へ?」
「予備機がない。だから少し待て、学園で専用機を用意するそうだ」
「???」
一夏はなにがなにやらわからないと言った表情だが俺や周りのクラスメイトにはその意味が分かる。
一年生のそれもIS初心者に専用機が与えられるのは前代未聞のはずだ。ISは全世界に467機しか存在しない。
それはISの発明者、篠ノ之束博士がISの中心たるコアを467個し作り出さず、コアを作れるのは世界で唯一篠ノ之博士だけなのだ。
つまりその限りあるISの中から個人専用に割り当てられるのは極一部の限られた人間だけだと言うこと。
そりゃあもうすごいことなのだ、あのセシリアから話しかけられるよりもずっと光栄なことなのだ。
しかし一夏はそんなこと一切わかっていないので千冬さんに教科書の、さっき俺が説明した部分の音読をさせられていた。
でも篠ノ之って篠ノ之博士以外にも聞いた覚えがあるぞ、それもつい最近。なんだったかな?
「あの、先生。篠ノ之さんってもしかして篠ノ之博士の、その・・・関係者なのでしょうか?」
クラスの視線が一つの方向に向いたので俺もその方向を見ると、昨日一夏に話しかけてきた謎の女生徒の方をみているらしい。
そうだ、思い出した。自己紹介であの子は『篠ノ之箒』と名乗っていた。どうりで聞いた覚えがあるはずだ、昨日のことではないか。
「そうだ、篠ノ之はあいつの妹だ」
千冬さんの肯定の言葉にクラスメイトたちは授業中だというのに篠ノ之の席の周りに押し寄せていく。
「ねぇねぇ!篠ノ之博士ってどんな人!?やっぱり天才なの?」
「篠ノ之さんももしかして天才だったりするの!?今度ISの操縦法教えてよ!」
まるで休み時間中の俺と一夏のようだ、質問攻めにあっている。外から見ていてもあの勢いにはついていけそうにないな。
というか篠ノ之さんって一夏と何か関係あるのか?昨日唯一、一夏とサシで話した人物だし。
「あの人は関係ない!」
突然の大声に俺は思考を中断する。なにかあったのかと篠ノ之さんの席の周りの様子を伺うが周りのクラスメイトたちも何が起こったのかわかっていないようだ。
「・・・大声を出してすまない。だが、私はあの人ではない。教えられることも何もない」
そこまで大きな声で言ったわけではなかっただろうが、教室中静まり返っているこの状況ではとてもよく聞こえた。
篠ノ之さんは拒絶する意思を示すように窓の外を向き黙ってしまった。教室中がなんともいえない空気で満たされていたが、
「さぁ授業を始めるぞ、席に着け。山田先生、号令」
千冬さんの一言で皆、席に戻っていった。
「安心しましたわ。まさか訓練機で勝負しようとは思っていなかったでしょうけど」
休み時間になった瞬間に後ろから声を掛けられた。もちろんセシリアだ
こんなテンプレなお嬢言葉を使うのは彼女くらいのものだろう。しかし彼女はあれか、他に話す人がいないのか?
俺らの事嫌ってるはずなのに結構な頻度で話しかけてきてるんですけど。朝に教室入ったら一回絡まれて、一時間目の休み時間もそう。
さっきは人が周りにいたからだろうか?もしかしたら自分の席で寝たふりをしてたのかもしれない。もしかしてボッチ?今度からはもう少し優しくしてあげよう。
「あなた今ものすごく失礼なことを思い浮かべていませんでしたか?」
「いや、今後の対応について考えてただけだよ。今まで悪かったなぁ、と思ってさ」
「?・・・まぁいいですわ。」
小さく咳払いをしてセシリアは続けた。
「一応勝負は最初から見えていますけど、さすがにフェアではありませんものね、専用機でもなければ。それで?あなたのほうはどうですの」
「あぁ、俺のほうは気にするな。一応専用機ならある。」
ただ『あれ』をISと呼んでいいのなら、だけどな。
セシリアは俺の回答に満足げにしている。自分の勝利を全く疑ってないんだろうな、確かに勝てるきはしない。
けれどここまでコケにされると少し意地を張りたくなってしまうな。
「えーっとなんで専用機がないとフェアじゃないんだ?」
「あら、ご存じないのね。いいですわ、庶民のあなた方に教えて差し上げましょう。このセシリア・オルコットはイギリスの代表候補生、つまり現時点で専用機を持っていますの」
「へー」
「馬鹿にしてますの?」
一夏にそんな気はないと思うがな。というかあなた『方』って、俺まで知らないってことにされてるじゃねえかよ。
「いや、すげーなと思っただけだけど?どうすげーのかは分からないけど」
「それを一般に馬鹿にしてると言うのでしょう!?」
バン!と一夏の机を叩くセシリア。あ、一夏のノートが落ちた。
またセシリアは咳払いをして話を進める。
「さっき授業でも言っていたでしょう?ISは世界で467機しか存在しない。つまり専用機を持つものは全人類六十億超の中でもエリート中のエリートなのですわ」
「そ、そうなのか」
「そうですわ」
「人類って今六十億越えてたのか・・・」
「そこは重要ではないでしょう!!」
バンッッ!!っと先ほどよりも強く一夏の机を叩くセシリア。あ、ノートと教科書落ちた。
「あなた、本当にばかにしていますの!?」
「いやそんなことはない」
嘘だな、明らかに棒読みじゃねえか。
「だったらなぜ棒読みなのかしら・・・・・・?」
ほらちょろいさんにもばれた。
「なんでだろうな、弾」
「俺に振るなよ、俺に」
「なんでだろうな、箒」
そっちに振っちゃ駄目だろう。つーか篠ノ之さんのこと下の名前で呼び捨てですか?どんな関係だよお前ら。ちょろいさんの話より興味深いわ。
「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね」
「妹と言うだけだ」
篠ノ之さんは射殺すような視線をセシリアに向けながら言う。俺の方は向いていないはずなのにこっちまでゾクゾクするような鋭い目だ。
そこらへんのゴロツキよりもよっぽど怖いわ。あのセシリアもさすがに怯んでるし。
「ままま、まぁ。どちらにしてもこのクラスで代表にふさわしいのはわ、わたくし、セシリャ・オルコットであると言うことをお忘れなく」
「大丈夫か?声震えてるぞ、しかも自分の名前噛んでるし」
「お黙りなさいっっっ!!」
セシリアは顔赤くして自分の席に戻っていった。かわいそうというか残念というか、今度からはもう少し優しくしてやろう。
かなり短いですがまた一旦区切ります。
次は篠ノ之さん登場の巻です。
ちなみにこのSSは原作が手元にあるとちょっと読みやすくなると思います。
私も原作本片手に作業してるのでそちらの影響を多分に受けております。
今日最後の更新を始めます。ちなみにこのスレは不定期更新です。
基本的には週1のペースを予定してます。
では参ります。
今日最後の更新を始めます。ちなみにこのスレは不定期更新です。
基本的には週1のペースを予定してます。
では参ります。
本日最後の更新を始めます。ちなみに不定期更新になると思います。
週一回は更新すると思いますが。
それでは行きます
「なぁ弾、昼飯にもう一人誘っていいか?」
「あ?まぁいいけど誰誘うんだ、まさかセシリアとか言わないだろうな」
それだけはやめていただきたい、飯時まで横でうんたらかんたら言われてたらさすがにたまらんぞ。
「そんなわけないだろ、お前にも紹介したかったやつがいるんだ。ほら、話したことあるだろ。俺のファースト幼馴染」
「え、この学園にいるのか?すげえ偶然だな。確か引っ越して、どこに行ったか分かってなかったんだろ?」
「俺も驚いてたんだよ、ちょっと呼んでくるな」
「なぁ弾、昼飯にもう一人誘っていいか?」
「あ?まぁいいけど誰誘うんだ、まさかセシリアとか言わないだろうな」
それだけはやめていただきたい、飯時まで横でうんたらかんたら言われてたらさすがにたまらんぞ。
「そんなわけないだろ、お前にも紹介したかったやつがいるんだ。ほら、話したことあるだろ。俺のファースト幼馴染」
「え、この学園にいるのか?すげえ偶然だな。確か引っ越して、どこに行ったか分かってなかったんだろ?」
「俺も驚いてたんだよ、ちょっと呼んでくるな」
「なぁ弾、昼飯にもう一人誘っていいか?」
「あ?まぁいいけど誰誘うんだ、まさかセシリアとか言わないだろうな」
それだけはやめていただきたい、飯時まで横でうんたらかんたら言われてたらさすがにたまらんぞ。
「そんなわけないだろ、お前にも紹介したかったやつがいるんだ。ほら、話したことあるだろ。俺のファースト幼馴染」
「え、この学園にいるのか?すげえ偶然だな。確か引っ越して、どこに行ったか分かってなかったんだろ?」
「俺も驚いてたんだよ、ちょっと呼んでくるな」
「なぁ弾、昼飯にもう一人誘っていいか?」
「あ?まぁいいけど誰誘うんだ、まさかセシリアとか言わないだろうな」
それだけはやめていただきたい、飯時まで横でうんたらかんたら言われてたらさすがにたまらんぞ。
「そんなわけないだろ、お前にも紹介したかったやつがいるんだ。ほら、話したことあるだろ。俺のファースト幼馴染」
「え、この学園にいるのか?すげえ偶然だな。確か引っ越して、どこに行ったか分かってなかったんだろ?」
「俺も驚いてたんだよ、ちょっと呼んでくるな」
おっと凄い連投をしてしまった。気を取り直して。
そう言って、一夏は席を立つ。そのまま篠ノ之さんの方に歩いていき、篠ノ之さんに話しかけている。
え、まじで?確かに下の名前で呼んでたが、あの篠ノ之束博士の妹さんが例のファースト幼馴染かよ。
そのファースト幼馴染と一夏だが、なにやらもめているみたいだ。昼休みだからか周りが少し騒がしくて聞き取りづらいが、行く行かないでもめてるようだ。
そのうち一夏は篠ノ之さんの手をとって半ば無理矢理引っ張って連れて行こうとしだした。
大丈夫なのか?俺は篠ノ之さんの事あまり知らないが、イメージ的にそんなことしてたら。
と、その時だ。
一夏の体が宙を舞った。よく見えなかったが篠ノ之さんに投げられたのであろう。
周りの生徒たちはいきなり人が投げられた光景にびっくりしてるようだ、皆目を見開いて篠ノ之さんのほうを見ていた。
俺としては友人があんな目にあわせられて、何か言ってやりたい反面、一夏が無理に誘ったことも原因なのではないかと動けなくなっていた。
だが一夏は起き上がって何事もなかったように篠ノ之さんに話しかけている。なんか「腕上げたな」だとか言っているのが聞こえてきた。
幼馴染っていうのはこんなバイオレンスな間柄なのか?いや違うと思う。幼馴染いないけどこれは違う気がする。
そして一夏がもう一度篠ノ之さんの手をとる。クラス中が息を呑む、正直俺を含め皆、一夏が投げられる未来しか見えていなかった。
しかし現実は違った、一夏がなにか言うと篠ノ之さんはばつの悪そうな表情になり一夏に引っ張られるままにこちらに歩いてきた。
「遅くなったな、行こうぜ。弾、箒」
時々この友人がすごい奴に見えてしょうがない。まぁ世界唯一のIS操縦者って時点で凄いんだけどね。
そして俺たちはほぼ無言のまま学食に到着。だって篠ノ之さんは喋らないし、なんか俺も雰囲気的に喋れなかったし。一夏の言葉に俺と篠ノ之さんが反応してたくらいだ。
「箒、何でもいいよな。何でも食うよな、お前」
「ひ、人を犬猫のように言うな。私にも好みがある。」
「ふーん。あ、日替わり二枚買ったからコレでいいよな。鯖の塩焼き定食だってよ」
「話を聞いてるのか、お前は!」
「聞いてねえよ。俺がさっきまでどんだけ穏和に接してやったと思ってるんだ馬鹿。台無しにしやがって。お前、友達できなかったらどうすんだよ。高校生活暗いとつまんないだろ」
「わ、私は別に、頼んだ覚えはない!」
「俺も頼まれた覚えねえよ。あ、おばちゃん、日替わり二つで。弾、お前のは?」
「俺も一緒だよ、おばちゃん日替わりやっぱ三つね。食券ってここでいいの?」
なんというか、篠ノ之さんが一夏と話してるのを聞いていると大分印象が変わってきたな。
ただただとっつきにくい人かと思っていたけど表面のとっつきにくさを越えればコミュニュケーションをとることもできるようだ。
まぁその表面を越えるのがおっかなくて、なかなかできそうにねえけど。
「いいか?頼まれたって俺はこんなこと普通しないぞ。箒だからしてるんだぞ」
「な、なんだそれは・・・」
ん?雲行きが怪しくなって来たぞ。これはまさか・・・
「なんだもなにもあるか。おばさんたちには世話になったし、幼馴染で同門なんだ。これくらいのお節介やかせろ」
「・・・・・・」
篠ノ之さんは一夏の返答にムスッっとした表情で目線を天上のほうに逃がしている。
はい、確定しました。中学時代から幾度も見てきたが、本当に分かりやすいな。
この篠ノ之箒って子は、一夏に一定以上の好意を抱いている。まぁありていに言えば惚れてるってことだ。
周りが気づかないとでも思ってるんだろうか?気づかないのは目の前の朴念仁のみだよ。
ふと中学時代に転校していってしまった友人のことを思い出す。あいつも大概分かりやすかったが、なんで一夏に惚れるやつ惚れるやつ全員分かりやすいんだろう?
「そ・・・その、ありが」
「はいよ、日替わり三つお待ち!」
「ありがとうおばちゃん。おお、うまそうだ」
「うまそう、じゃなくてうまいんだよ!」
そういって恰幅のいいおばちゃんはニカッと笑った。良い人そうなんだけどタイミング悪いよ。
いや、そういえば一夏に惚れてる奴はデレに入る瞬間に何か邪魔されるよな。なんだろ、一夏に惚れると呪いか何かでもかかるのか?
俺たちはなんとか三人で座れる席を確保することに成功、ようやく落ち着いて話すことが出来る環境になった。
一夏が最初に言ったとおり飯を食う前に、篠ノ之さんを紹介してもらうことになった。まぁクラスメイトだから知ってるんだけど細かいことは気にしない。
「知ってると思うけど改めて紹介するよ、こっちは篠ノ之箒。俺の幼馴染なんだ、剣道やってるんだけどそれが強くてさ。去年剣道の全国大会で優勝したぐらいの腕前なんだぜ。
ちょっと堅いところもあるけど仲良くしてやってくれ」
「えっと、篠ノ之さん。俺、五反田弾って言います。一夏とは中学の入学式からの仲で、まぁ友人というより腐れ縁みたいなもんで。とにかくこれから三年間よろしく」
「・・・・・・」
・・・変じゃなかったよな、俺。なんかやらかしちまったか?
「箒」
一夏が諌める(いさめる)ように篠ノ之さんの名前を呼ぶ。
「・・・こちらこそ、よろしく頼む」
どうやら俺には過失がなかったようだ。俺はほっと胸をなでおろした。
自己紹介も滞りなく終わり俺たちは三人で昼食を食べ始めた。なんとか篠ノ之さんにも認めてもらえたらしく、話しかけたら答えてもらえる程度にはなれた。
最初はおっかなかったが一夏が言ったように堅いだけなのかも知れない。少し堅すぎるかもしれないが。
しばらく他愛もない話をしながら箸を進めていると、そういえば、と一夏が切り出した。
「箒、俺にISのこと教えてくれないか?このままじゃ来週何も出来ずに負けそうだ」
「くだらない挑発に乗るからだ、馬鹿め」
一夏に言ってるんだろうけど俺も乗ってしまった人の一人なので胸が痛くなる。
「それをなんとかっ、頼む!」
一夏が箸を持ったまま手を合わせる。お行儀が悪いぞ、友よ。
「・・・・・・」
篠ノ之さんは黙々とほうれん草のおひたしを食べている。出た、篠ノ之さんの必殺『一夏無視』教室から今までにも何度かこんな場面があったし結構な頻度で一夏は篠ノ之さんに無視されている、哀れなやつめ。
「なぁ、箒」
「・・・・・・」
このままでは埒が明かないな。多分篠ノ之さんは一夏に頼ってもらえたことは嬉しいが素直になれないのだろう。と仮定。
助け舟を出してやるか。ついさっきだが『よろしく』と言われたんだ。もうクラスメイトじゃなくて友達だ。
もしくは親友に恋する美少女A。まぁどっちにしろ助けてあげたくなる役柄だしな。
「一夏、なんだったら俺が教えてやろうか?」
「え?弾、お前人に教えられるのか?」
「!!」
食いついたみたいだな、よもや俺がISを教えられるとは考えていなかったようだ。さらに畳み掛けるとしますか。
「ちょっと特殊な事情があってな、動かすことだけは入学式前に一ヶ月くらい教わってるんだよ。座学はさっぱりだがな」
「おお!それは頼もしいな。じゃあ、弾に教えて―――」
「ちょっと待て!!」
案の定、耐え切れなくなって篠ノ之さんが声を上げた。こんな展開は予想外だったのだろう。
「わ、私が一夏に教える!だからお前が教える必要はない!」
「箒!?」
「あぁ、いいぜ。俺より篠ノ之さんのほうが教えるのうまそうだし」
「「はっ!?」」
一夏と篠ノ之さんが見事にハモった。いやぁやっぱり幼馴染だね。息ぴったり。
しかしこの二人誘導しやすいな、一夏は馬鹿だし、篠ノ之さんは一夏をだしにすれば扱いやすそうだし。
「いやさ、俺って人に教えるの苦手っつーかさ。実は篠ノ之さんが名乗り出てくれればなって考えてたんだよ。というわけでさ篠ノ之さん、一夏のこと頼んじゃってもいいかな?」
「・・・まぁ、五反田がそこまで言うなら、その、なんだ、引き受けてやってもいいぞ。一夏のことは私に任せろ、これから一週間みっちり鍛えてやるからな」
自分でこうなるように仕向けてうまくいった手前あれだが、篠ノ之さん大丈夫かな。ちょろいさんと同じような匂いがプンプンする。性格でずいぶん損してる点も似すぎだろ。
「えっと、つまり俺は箒にISのことを教えてもらえるってことでいいのか?」
「そうだ。だがまずは今日の放課後に剣道場に来い。腕がなまってないか見てやる」
「いや、俺はISのことを―――」
「見てやる」
「・・・はい」
少しの不安はあるがこれで一夏のほうは安心だな。問題は俺のほうだ、確かに一ヶ月前くらいから『動き』だけに関しては結構経験を重ねている。
しかし戦いについては全くの素人。剣道をやっていた一夏のほうが心得があるだろう。しかもこの学園で唯一の人脈である一夏と篠ノ之さんを組ませてしまった以上入り込むことが出来ない。
ここで『やっぱ俺もISのこと教えて~エヘッ☆』なんていったら篠ノ之さんから人をも殺せるくらいのあの視線を向けられかねん。いったいどうすれば・・・
待てよ・・・人をも殺せる位の視線・・・!!
いや、まだいたぞ、この学園で頼れる人が。正直篠ノ之さんの百倍はおっかないが、そんなことはいってられない。
さっそく放課後あたりにでも頼みに行ってみるか。
午後の授業も何事もなく終了し、現在は放課後。一夏と篠ノ之さんは剣道場の方へ行ってしまった。
俺もそろそろ行動を開始しなくてはならない、幸い探し人は教室にまだ残っている。
俺はその人物に後ろから声をかけた。
「織斑先生、俺にISを教えてもらえませんか」
今日はここまでです。次回からVSセシリアに入ります。
そして五反田弾が学園にいる理由。ISが使えない弾がどうやって戦うかという疑問も解決すると思います。
気になるから早く読ませろよ!!
今日は投稿しようと思います。ではいきます
そして翌週の月曜日。セシリアとの決戦の日。
俺と一夏、そして篠ノ之さんの三人で第三アリーナのAピットに立っていた。
三人とも無言だ。緊張しているのも理由の一つだが、一夏と篠ノ之さんの間に流れる微妙な空気が一番の原因だ。
「――――なぁ、箒」
「なんだ、一夏」
「気のせいかもしれないんだが」
「そうか、気のせいだろう」
「ISのことを教えてくれる話はどうなった?」
「・・・・・・・・」
「 目 を そ ら す な 」
篠ノ之さんが目をそらす理由はなんとなく分かっている。一夏から聞いた話によると篠ノ之さんはこの一週間、一夏に剣道の稽古ばかりつけていたらしい。
「し、仕方ないだろう。お前のISもなかったのだから」
「なくても基礎的なところとか、知識とか教えられることあっただろう!」
「・・・・・・・・・」
「 目 を そ ら す な っ 」
そう、一夏のISは今もまだ届いていない。なにやらごたごたがあったらしいのだが詳しいことは俺は知らない。
「「「・・・・・・・・・」」」
三人そろって沈黙してしまう。
「お、織斑君、五反田君、篠ノ之さん!」
沈黙を破ったのは我らが副担任の山田先生だった。けっこう走ってきたらしく息は上がり、メガネがすこしずれている。
「山田先生落ち着いて、まずは深呼吸しましょう。はい吸って」
「は、はい。す~~~~~」
「はい、そこで止めて」
一夏がおそらくふざけて言った言葉だったが山田先生は素直に息を止めた。山田先生の顔がみるみる赤くなっていく。
「・・・・・・・・・」
山田先生を観察している一夏。その後ろには拳を振り上げる千冬さん。俺と篠ノ之さんはそれを傍観していた。
「・・・・・・ぶはぁっ!!いつまで止めてればいいんですか!?」
「すみません、やめさせるタイミングを見失ってました」
拳は振り下ろされ一夏の頭から重い音が響く。
「目上の者には敬意を払え、馬鹿者」
いや、千冬さん。もうちょい早く止められましたよね。と突っ込もうと思ったが俺も叩かれそうなのでやめた。
「山田先生、織斑には伝えたのか?」
「あっ!そうでした。織斑君のISなんですが・・・」
「届いたんですか!?」
「いえ、もう少し遅れるそうです」
「えっ!?じゃあ俺はどうすれば―――」
「そこで五反田、お前の試合から始めることになった。準備しろ」
ピットの奥、搬入口の扉が開く。その中に一塊の鋼があった。いや、鋼に見えたがそれには足があり、胴があり、腕がある。
それはISとも見ることが出来た。しかしそれはISではない。それは―――
俺たちの前に現れた『鋼』
ISにしては腕も足も短く太い。背面にはスラスターがなく変わりに大きなバックパックのようなものがついている。
あまりにも飾り気の無い、鉄の塊のようにも見えるその機械は、鈍く重い光沢を放っていた。拳銃や刀が持つような、武器の輝きだ。
「これが、弾のIS・・・」
こぼしたように呟いた一夏の言葉に、千冬さんが反応する。
「なにを言っている織斑。コレはISではないぞ」
そのとおり、これは厳密に言うとISではない。男でISを動かせるのは世界で織斑一夏ただ一人だ。
俺が動かせるコレはISではない。
「で、では五反田が乗るこれは何なんですか?」
「そうか、お前たちには教えていなかったな。これはISに乗れないもののために開発されたISと同様の機能を持つ―――」
千冬さんは少し言葉を区切り、続けた。
「Imitation Infinite Stratos 、だ」
IIS(擬似IS)、それがISを使えない俺が、この学園にいられる理由だ。
「「IIS・・・?」」
「そうだ、聞いたことは無いだろうが十年前から開発は続けられていたんだ。そして今年ようやく実用段階までこぎつけたんだが、その報道も、とある男のせいで表には出なかった」
「ある男って。もしかして俺のことか?俺がISを使えるってことが報道されたから」
「当たりだよ、一夏。設計者や開発者の中にはお前を恨んでる人すらいたくらいだぜ」
まじかよ、と一夏が渋い顔をする。
「しかしなぜIISの操縦者に五反田が選ばれたのですか?そんなすごい物ならば五反田にもなにか特別なものが?」
違うぜ篠ノ之さん、俺に特別なことなんてなにもないさ。つまりは―――
「逆だよ、篠ノ之さん。なにも特別なところが無いから俺が選ばれたのさ」
「? どういうことだ」
「そのことについては私から説明します。五反田君は準備のほうをそろそろお願いします」
おっと、そういえば時間がないんだった。喋っていたら忘れかけていた。
俺はIISの背中側の装甲に座り込むように身を預ける。前面の装甲が閉じ、腕と足も装甲に通すと軽く抑えられる感覚が伝わってくる。
「「IIS・・・?」」
「そうだ、聞いたことは無いだろうが十年前から開発は続けられていたんだ。そして今年ようやく実用段階までこぎつけたんだが、その報道も、とある男のせいで表には出なかった」
「ある男って。もしかして俺のことか?俺がISを使えるってことが報道されたから」
「当たりだよ、一夏。設計者や開発者の中にはお前を恨んでる人すらいたくらいだぜ」
まじかよ、と一夏が渋い顔をする。
「しかしなぜIISの操縦者に五反田が選ばれたのですか?そんなすごい物ならば五反田にもなにか特別なものが?」
違うぜ篠ノ之さん、俺に特別なことなんてなにもないさ。つまりは―――
「逆だよ、篠ノ之さん。なにも特別なところが無いから俺が選ばれたのさ」
「? どういうことだ」
「そのことについては私から説明します。五反田君は準備のほうをそろそろお願いします」
おっと、そういえば時間がないんだった。喋っていたら忘れかけていた。
俺はIISの背中側の装甲に座り込むように身を預ける。前面の装甲が閉じ、腕と足も装甲に通すと軽く抑えられる感覚が伝わってくる。
「IISは元々ISに乗れない男性が乗れるISをコンセプトに開発されました。ですから操縦者は他の要素で選ぶ事になったんです」
「他の要素、ですか?」
「操縦者が学園を辞めてしまえば操縦者が変わり、それによって今まで取ってきたデータに誤差がでてきてしまうリスクがありますから。学園に残ってくれやすい人を選ぶ必要があったわけです。
そして今年は運よく織斑君が入学してきてくれましたから、自然と織斑君の友人の中から選出されたわけです。友人がいたほうが学園生活も過ごしやすいですしね。」
「まぁ他にも、たった二人の男子のために特別な制服をサイズ別に取り揃えるのが面倒だ。との意見により背格好が似たような五反田が選ばれたわけだ」
「はぁ、なるほど」
「つまり俺のための専用機が用意されたわけじゃなくて、IISのために俺が用意されたんだよ」
先生たちと篠ノ之さんの会話に装着の終わった俺が話に割り込む。
「準備は出来たようだな」
「はい、織斑先生。いつでもいけます」
「では私と山田先生は管制室に行く。ゲートが開いたら試合開始だ、いいな」
そう言うと千冬さんは山田先生を連れてピットから出て行った。残されたのは俺と一夏と篠ノ之さんの三人のみだ。
「ところで弾。なんで今までIISとかのこと教えてくれなかったんだ?」
「そのことか・・・」
俺は頬をかきながら苦笑いを浮かべる。正直一夏と篠ノ之さんには何度か教えようとしたのだ。
しかし教えようとするその度に―――
「セシリアが話に割り込んできてさ、教えようとしてもあいつが話の主導権握って離さないもんだから・・・」
「「あぁ、なるほど・・・」」
一夏と篠ノ之さんは表情やらセリフやら見事にハモって納得していた。
なんつーか最初の三日間くらいはがんばって伝えようとしてたんだけど、四日目くらいになるともう諦めちまって・・・
本当あの人他に話す人いないのかよ、他の女生徒なんかは初日からもうグループ的なの出来てたっぽいぞ。
やっぱりボッチなのだろうか?あの性格だし、十分ありえる話である。今度昼飯にでも誘ってあげようか・・・
そんなことを思案してると前方のゲートが少しずつ開き始めた、試合開始時間が迫ってきているようだ。
「なぁ、弾」
「なんだよ一夏」
「勝ってこいよ」
「・・・・・・」
いきなりの励ましの言葉に若干戸惑ってしまう。いつも馬鹿のことを言い合ってる友人からこんな言葉を掛けられるとどう返していいか困る。
「ほら、箒もなんかないのか?」
「わ、わたしにふるのか!?」
いきなり話を振られて篠ノ之さんもかなり慌てている、こういう風に慌てている篠ノ之さんは珍しい。
「そうだな・・・五反田。自分の持てる力を全て出し切れ、それで勝てるとは限らんが勝負に挑むときはそうしないと勝てる試合でも勝てん・・・以上だ」
篠ノ之さんらしいというか、励ましというよりは説教に近い。しかしこの一週間接しているとただ不器用なだけで彼女なりに励ましてくれてるんだろう。
「ありがとう、二人とも。全力でやって、勝ってきてやる」
なんだか照れくさいな、こんなの。なんか、キャラじゃないっつーか・・・
「一夏」
「なんだ?」
「俺さ、お前の気持ちちょっと分かるんだわ」
「?」
「俺も千冬さんに教えてもらったことと言えば、俺がどれだけグラウンド走り続けられるかってことだけだったし。
俺もお前もほとんどぶっつけ本番で代表候補生とガチバトルなんてついてないよな」
二人に言った感謝の言葉がむず痒すぎて茶化して誤魔化した。ちょっと篠ノ之さんには失礼だったかもしれないけど許してくれると信じよう。
これ以上言葉を交わせないようにIISを操る。訓練した通り体を前へ傾けると体が少し浮き上がって滑るよう前へ進む。
ゲートの下をくぐる頃には十分な加速を終えており、弾の体はゲートから打ち出されるように空へと飛び上がった。
入学の一ヶ月前から基本的な操縦訓練を受けていたおかげか動きに淀みが無い。そのまま高度を上げて先に待つ決闘の相手の前まで一直線に向かう。
「あら、逃げずに来ましたのね」
セシリア・オルコットはいつも話しかけるような調子で弾に声を投げかける。しかし彼女の身に纏っている雰囲気は、いつものそれとは明らかに違った。
いや、雰囲気だけではなく実際彼女の身に纏っているものも違っていた。
セシリア・オルコット専用機『ブルー・ティアーズ』
鮮やかな青いカラーリングが施された中距離射撃型のIS。特に目を引くのはセシリアが手に持つ2m超のレーザーライフル。
身の丈よりも大きなその武器は、一撃で試合の結果を決めてしまえるのではないかと疑ってしまうほどの迫力がある。
「最後のチャンスをあげますわ」
「チャンスって?」
「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今日ここで謝るというなら許してあげないこともなくってよ」
「そりゃ、ありがたい話だな。けど断らせてもらおうかな」
「そう、残念ですわ。それなら―――」
弾は言われたのだ、勝ってこいと、全力を出して来いと。今あの二人もこちらを見ているだろう。
見ているのだ、友人が
「あいつらの言葉に少しでも報いなきゃならねえ、時代遅れかも知れねえけどこう言わせてもらう!!」
「お別れですわね!」
「ここでやらなきゃ、男が廃るんだよ!!」
叫ぶと同時にセシリアのライフルから閃光がほとばしる。
五反田弾、セシリア・オルコットの決闘が今、幕を開けた。
今回はここまで。次からは本格的に戦闘シーン。
視点が今まで弾の視点だけだったけれど視点が変わったりし始めます。
それではこれにて
乙
乙
日付かわったけど乙
VSセシリア編
投下開始します。
初撃はセシリアの放ったライフルの一撃、弾は左腕で防ぎ何とか直撃は避けたものの、その衝撃で一気に距離を離される。
(大見得切っておいてなんだが、もう白旗振りたくなってきやがった・・・!!)
弾が弱気になる原因は何も攻撃を受けた事に関してびびっている訳ではない。
(防御したのにシールドエネルギー半分持っていかれるとは、説明受けてたけど装甲薄過ぎるぞ)
実際はセシリアの大口径のレーザーライフルの威力もあるのだが、それを差し引いてもIISの装甲は薄い。
元々IISはISを目指して作られたもの。オリジナルをそう簡単に超えられるわけは無い。
「さぁ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」
第二撃が迫る、その後ろに第三撃、四、五。数え切れない弾丸の雨が降りそそぐ。中距離射撃型のISに今の距離は分が悪すぎる。
かと言ってこの弾丸全てをかいくぐって近づくのは不可能と言えるだろう。
つまり活路は後方。弾は全力で後方に飛び退る、足の底面に設置されたブースターを全開にして一気に加速する。
細かく機体を振り、出来る限り被弾しないように全力で避け、避けられそうも無いものは左腕でガードする。
シールドエネルギーをさらに削られたものの、なんとか距離を置くことに成功する。
しかしISとの戦闘ははじめてである弾が代表候補生であるセシリアの初撃、それに次ぐ弾丸の雨をたとえ被弾しながらも撃墜されなかったのには理由がある。
IISはISと比べスペックが劣るわけではない。元々IISはISを動かす中心であるコアが女性でしか動かせないというデメリットを回避するためコアを使用していない。
コアの機能を別の機材などで補うことでIISは動いている。それゆえにISでは武装や装甲、出力にまわす部分を、コアの機能を補うために割いている。
つまりIISはISに比べ、割り振れるステータスが絶望的に少ないと言うだけで、うまく割り振ればそのデメリットもある程度緩和できる。
話が長くなったが弾の乗るIISはその他のステータスをほぼ機動力に割り振っている。そのため装甲は薄い、出来る限り機体を軽くするために。
そして幸運にもその機動力が、セシリアの弾丸に撃墜されず今も戦闘を続けられている理由なのである。
しかしそれでも状況は絶望的である。弾が初撃から体勢を立て直すまでの間にシールドエネルギーを半分強、失ってしまっている。
このまま逃げ続けても弾に勝機はない。攻勢に転じるしか、道は残されていない。
セシリア・オルコットは自身の攻撃をかろうじて捌いた弾に多少感心しながらも自分の勝利を確信していた。
想定していたよりも弾のISの機動力が高かったのには驚いた、初撃だけではなく、あの弾丸の嵐を撃墜されずに距離を置けたことには驚いた。
だがセシリアの攻撃は確かに弾のシールドエネルギーを削り、弾はセシリアに攻撃をしかけることすら出来ていない。
(それにわたくしはまだ使っていない武器もありますわ。例え彼が突っ込んでこようが、逃げることに専念しようが結果は同じ。このセシリア・オルコットの勝利は揺るぎませんの)
現在二人の距離はおよそ100mほど。弾はアリーナの端、地上付近で停止している。
対してセシリアは初撃を放った中央上空から一歩も動かず、しかし銃口は弾のほうに向け、いつでも攻撃を開始できる構えを取っていた。
攻撃をしかけるどころか、武器すら手にとっていない弾の出方を窺っているのだろう。
お互い動かず、出方を窺いあい、いくらかの時間が流れた。
先に動いたのは弾のほうからだった。ゆっくりと右腕をあげる、武器を呼び出す際に発せられる光が、弾の右腕を包む。
粒子化されていた武器が本来の形を取り戻しだす。
右の手首あたりから直接生えた円錐状のシルエット。光が収まり、アリーナ中の視線がそれに集中する。
弾の右腕に現れたそれは、武器ではなかった。
ここで少し時間はさかのぼり管制室に場面が移す。
「五反田君、大丈夫なんでしょうか?」
「奴もあれで一月ほどIISには触れている。動かす分には支障は無いだろう」
「ですがこれから始まるのは・・・いくら織斑先生に一週間指導を受けたといっても――――」
「指導したといってもグラウンドを延々走らせただけだ、戦闘に関することは一切教えていない」
「え!?そうだったんですか。私はてっきり一週間で代表候補生も相手取れるようになる地獄の秘密訓練かなにかかと・・・」
「漫画の読みすぎだ。一週間で素人にできることといえばそれくらいしかない、付け焼刃の訓練など何の役にもたたん。まぁ、私のやったことも焼け石に水、万に一つも奴に勝ち目は無い」
「・・・・・・・・・」
「しかし、奴の機体が過ごしてきた10年が、その無理を押し開く可能性はあるかもしれない」
10年? と真耶は聞き返さずにはいられなかった。IISはつい先日、実用段階にまでこぎつけた代物だ。
確かに10年前から研究、開発は続けられてきたが、弾が今使っている機体だって一月前ほどに組まれた新品である。
「不可思議そうな顔をしているな、まぁ無理も無い。いささか精神論すぎた発言だった。忘れてくれ」
「い、いえ!・・・できれば、詳しく聞かせてください。その、10年って」
「・・・・・・これは、人から聞いた話なのだが―――」
少し間を置いて千冬は語り始める。
「IISは始め、ISを使えない男性でもISを使うために、コアを使用せずにISと同等の機能を持つ機体を作ろうと、研究・開発が行われていた」
「行われて『いた』?」
真耶の疑問に小さくうなずくだけで答える千冬。
「研究を続けていく中、ISを使えるのが女性だけという事実が世のパワーバランスを変え始めた頃。研究者たちはどうしようもない悔しさや怒りを覚えたそうだ。
女に負けるのは男のプライドが、とかいうやつだ。当時でさえ廃れかけていた言葉が、世の中が変わっていっていたその時代にまた心に入り込んできた。女を虐げたいわけではない、
憎んでいるわけでもない。ただ、何も出来ないまま男が弱いと決め付けられるのがいやだった」
一旦語るのをやめ、画面を見る千冬。つられて真耶も画面に目を移す。今アリーナでは試合が始まっているにもかかわらず、空中でセシリアと弾が何かを話している。
目線は離さずに千冬は続ける。
「研究者たちは研究・開発を続けようやく実用段階までこぎつけた。そして今、機会が訪れた」
「決闘・・・オルコットさんと五反田君の」
「そしてあいつは最後にこう言った。『IISは弱い男が、女に堂々と喧嘩売るために作られたんだ』と、子供がヒーローを語るように、嬉しそうに言っていた」
「その話を織斑先生にしたのって、五反田君ですか?」
「教師が生徒に感化されるなど、私もまだまだ未熟だ」
「そんなこと―――」
真耶が喋ろうとしたその時、銃声が鳴り響いた。試合が動き始めたのだ。
画面上で距離を離された弾が体勢を立て直しきれてない間に弾丸がとどめをさすべく迫り、それをかろうじて避けながら後方へ下がっている。
(機体に込められた10年分の想い、反抗することも出来ずに抑圧された想い。それは・・・)
真耶はどうしてもそれを表現できなかった。あやふやなイメージのままでしか理解できなかった。
(五反田君や織斑君ならわかるのかな?だとしたら少し、うらやましいかもしれません)
場面は再びセシリアと弾の決闘の場に移る。
光が収まり観衆の目に映ったそれは武器ではなかった。それは工作機械だった。
男の浪漫『ドリル』
弾の右手のドリルが、自身の存在を誇示すべく、唸りを上げた。
今日はここまで、ちょっと短かったでしょうか?
もっと書き溜めてから量多めで投下したほうが良いでしょうか?
千冬姉と山田先生キャラ違ってないか少し心配、あと今回説明やら長文が多すぎたような。
ちょっと心配事多い不安定なSSになってきましたがどうか暖かい目で見ていただければ幸いです。
P.S
感想や乙のレス凄く嬉しかったです、励みになります!
それではこれにて
乙
乙
ドリルとか素晴らしいな
乙
右手がドリルは男の浪漫
ドリルにはロマンがつまっているのさ
ちょろいさんに迫るドリル……だと
乙
ドリルは浪漫だな
続き期待
今日の投下開始です。今日はセシリア戦終了まで行きます。
会場中が静まり返っていた。皆、弾の右腕から視線を離せずいた。ISが発表されて10年間、誰もドリルがISの武器として使用されたことなんて見たことがなかった。
それもそうだ、ありえない。ISにドリルなんてありえない。
クスクス、と小さな笑い声が最初だった。少しずつ周りに広がる笑い声。アリーナ中、セシリアでさえ照準をはずし笑っていた。
それもそうだ、ありえない。ISにドリルなんて、格好悪すぎる。
「あなた、もっとマシな武器はありませんでしたの?まさかその武器で、中距離射撃型のブルー・ティアーズに挑もうなんて思っていませんわよね?」
「あいにく、これしか持ってないんだ」
「あら、同情しますわ」
「なら何かしてくれるのか?」
「そうですわね・・・なら―――」
口に手を当て思案するそぶりを見せるセシリア。しかし弾にはその後の言葉が容易に想像できた。
なぜなら弾の視界の隅で警告文がずっと出ている。『敵IS、射撃体勢。エネルギー装填』
「早々に引導を引き渡してあげますわ!!」
初撃の時のように、セシリアのライフルから閃光が放たれる。
せまりくる弾丸を弾は真っ向からドリルで受け止める。
弾丸はドリルにぶつかり軌道を大きくはずされ、次いで来た弾丸を弾は大きく飛び上がり避ける。
(もう何もくらうわけにはいかない、けど逃げ続けるわけにもいかない。なら・・・腹くくるしかない)
弾は意を決し三発目の弾丸を交わすと同時に前へ出る。しかし四発目、五発目、と避ける毎に思うように前へ進めなくなる。
(距離が近いからか?発射から着弾までが短い、避けるだけで手一杯だ。近づけねえ!!)
先ほどまでは距離を十分にとっていたが今の弾とセシリアの距離はセシリアの得意とする距離。そうやすやすとは近づけない。
「さぁ!フィナーレへ向けて、最後の役者を紹介しますわ!」
高らかに宣言すると同時に、セシリアは左手を大きく振り上げる。
そこに一瞬の隙間、弾は迷わず突っ込む。たとえ罠だとしてもここで踏み込まなければこの距離は越えられない、そんな予感が弾の頭をよぎったのだ。
「人が喋っている時に割り込もうとするなんて、無粋な方ですのね!やっておしまいなさい『ブルー・ティアーズ』!!」
(何をやろうとしてるか知らないが、至近距離まで詰められれば射撃武器は腐る。次のチャンスがあるかも分からないんだ、やってみせる!)
二人の距離が詰まる。セシリアの得意な距離から、弾の得意とする距離へ、。ドリルの届く距離へあと少し、弾が腕を伸ばす。
しかしドリルはセシリアに触れる事は無かった。その前に弾の体に衝撃、セシリアの弾丸が行く手を阻む。
(被弾した・・・!?でも衝撃は真横から、どうやって―――)
「チェックメイト。ですわね」
一瞬セシリアから離れた意識、あまりに近い距離、突きつけられる銃口、言葉の、意味。
弾の頭の中に大量の情報が一気に流れ込む。状況についていけていない。
それでも引き金は容赦なく引かれる。幕を下ろすため、弾の頭部に向けて。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(なにが、どうなったんだ?俺は、負けたのかよ・・・目を開かなきゃ、状況を・・・)
銃口を向けられて、その後のことがあやふやだった。頭に強い衝撃を感じたような覚えもあったが、よく思い出せない。
まぶたを開くと太陽の光が目に差し込んでくる。IISが自動的にまぶしさを軽減させる、どうやらまだ、試合は終了していないようだった。
セシリアがこちらにライフルの銃口を向けているから。
銃口が―――
(・・・・・・っっっ!!やっばいじゃねえか!!)
がむしゃらにブースターを動かしその場から慌てて離れる、一瞬後に今まで弾がいた場所にライフルの弾丸が突き刺さる。
(状況確認・・・シールドエネルギーは四分の一と少し、損傷は左腕が・・・コレはガードしたせいだ。攻撃は続いて―――
視界の隅に警告文、急いで進路を変更し回避を試みる。耳の後ろでいやな音が聞こえたが、回避は成功。
―――いるよな、当たり前だ。じゃあさっきまでのことを順を追って思い出せ。謎の衝撃、なんでまだ試合が続いているかを)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は銃口を突きつけられて、無防備な状態で打たれたはずだ。けれどドリルがまるで意思を持ったように動き、俺の目の前をさえぎり弾丸と俺の頭の間に割ってはいった。
しかし衝撃は防げず、自分の腕で頭を強打、そのまま意識を・・・
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(それで今に至る、だけどその前。真横からの被弾、あれの正体は何だ?)
セシリアの放つ弾丸をかろうじて避けながら、弾は思考を巡らす。再度の均衡状態、しかしアドバンテージがあるのはセシリアのほうだ。
ありえない方向からの攻撃、今だ弾は正体を掴めていない。次にあれを出されて足を止められでもしたら、もう攻撃を受け止められる自信はない。
(今は距離とって様子見にまわったほうがいいか、せめてあの攻撃の正体の糸口が掴めてから)
少しずつ弾はセシリアから距離を離す、直線距離でおおよそ50m、その位置でせまりくる弾丸を避け、時に払ってやりすごす。
「しつこい方ですわね、女性に嫌われますわよ」
「あぁそうだな、早速おまえに嫌われてるしな!」
「ですからその顔を見るのも、もうおしまいにさせていただきます!」
そう言って右手を高く振り上げる、セシリア
先ほどと同じ動作に、弾は体を一瞬強張らせるが今度の攻撃はその正体を隠さず、弾に襲い来る。
セシリアのISの後ろにあるフィン状のパーツが機体から離れブースターを噴きながらそれぞれが弾の周りを取り囲むように飛び出す。
「さぁ今度こそ終幕!優美に舞いわたくしに勝利を、ブルー・ティアーズ!!」
(これが真横からの衝撃の正体、自立、もしくは遠隔操作のビット。あの時これが見えなかったのは・・・)
「最初のはあげた右手の反対、左側のビットを見えにくい角度で・・・まさか接近させたのはわざとかよ!」
「その通り、あなたはわたくしに夢中でまんまと気づきませんでしたわね」
「誤解されるような言い方するんじゃねえよ!馬鹿!!」
「よそ見してる間に後ろいただきますわ!」
「なっっっ!?」
とっさに後ろを振り返るが、そこには何もなく。視界の右隅に動くものを認識した時にはもう弾丸は届いていた。
簡単な挑発に乗っだ結果はビットの攻撃一発の被弾。シールドエネルギーは一割を切った。
(しまった!)
「ここまで耐えたのは褒めてあげますわ、けれどあとはブルー・ティアーズに任せていれば、ウフフ」
セシリアはライフルを下ろし、右手を口元に当てて笑っている。もう勝負はついたと思っているのだろう。
いや、勝負はもうついている。弾の動きにも大分疲れが出てきているし、機動力が優れているといっても四方向からの攻撃をたった一割のシールドエネルギーで守りながら近づくことは難しい。
なんの技能もない素人としては弾は善戦したほうだろう、アリーナ中のクラスメイトや観客も、ドリルの件はあったが弾のことをただ珍しい男子としてではなく認め始めている。
ここで負けても誰も責めるものはいないだろう。
しかし弾の勝利を諦められないものもいた。
織斑一夏も、まだ諦めていない。親友は諦めていないと信じている。だから彼も諦めない。
篠ノ之箒も、出来て間もない友人、知らないことのほうが多いその友人が頑張り続けている。だから彼女も諦めない。
そして弾本人も、もちろん諦めていない。諦めきれない。
(まだ俺は何もできてない、このドリルはまだ届いていない。十年間の思いをまだ晴らせていない!一夏と篠ノ之さんの期待にも全然答えれてねえ。
あの二人も今きっと見てる。なんにもできないままはいやなんだ!このドリルを、届かせるんだ!絶対!!)
弾は強く望んだ、この状況を打破する力を。セシリアを倒せる力を、自分に、この機体に。
しかしそんな都合のいいことは起きるはずがない。弾は避け続けるしかない、残り少ない体力を振り絞り、チャンスを待つ。
(千冬さんにしごかれてなかったら、ここまで持たなかったな・・・けど、もう限界かも知れねえ)
だんだん回避が危うくなってきた、終焉は近い。最初から最後までセシリアの手のひらの上で踊っていただけだ。
近づけたのもセシリアの策略、それ以外は逃げ回っていただけ。チャンスは最後まで訪れなかった。
視界の隅では警告文が際限なく現れては消える。
(頼む!何でもいいんだ、偶然でもまぐれでも、何でも!これで終わったらIIS作ってくれた人にも、友達にも顔向けできいないんだ!!頼むっっ!!)
『右後方よ『左『上方から狙』』『単一『後方『左前方『ています』』狙われ』』』
警告文が表示され消える前にまた表示されるので重なりあいもはや何が書いてあるのかが分からない。
情報についていけなくなる直前、警告文の中に違和感のある一文を発見し一番上に持ってくる。
『単一仕様能力:弾(ハジキ)発動準備完了。IIS:玉鋼(タマハガネ)脚部充填エネルギー 右:残8 左:残8 エネルギー充填まで0:00』
始めに弾が抱いた感想は、この機体に名前があったことへの驚き。今までIISと呼んでいたこれの名前。ようやく自分のものになったような不思議な感覚。
(どう使うのか、なぜだか分かる。というより今この状況で発動したんならそういう能力じゃなきゃ困る!!)
弾が警告文に気づき認識している間にも攻撃は続いている。頭の中で情報を処理している間にも弾丸は迫っている。
一瞬の思考、しかしその一瞬で避けるのには致命的な遅れになっていた。
そして、弾のIIS。玉鋼が―――
(消えた・・・一体どこに!?)
セシリアはこの試合で初めて焦っていた。今まで自分の思惑通り進んできていた試合がいきなり自分の思惑から外れた。
確かに自分の弾丸はあのISを捉えていたはず。なのに弾丸は空をきり、五反田弾を見失った。
慌ててセシリアは自身の視野と機械で補助された分の視野も活用し弾の居場所を探す、見逃しやすい後方を探るとなぜかこちらに背中を向けた弾を発見する。
同じタイミングで振り返る二人。セシリアは驚いた表情を、なぜか弾も同じような表情をしていた。
「ど、どうやって避けましたの!?完璧に当たるタイミングでしたわよ!」
「どうやって、って・・・走って?」
「ふさけていますの!?」
「よそ見してると後ろいただくぞ」
「えっ!?」
今度はセシリアにも見えた、弾が何をしたのか、どうやって避けたのか。
確かに弾は走っていた。しかし注意していても目で追うだけで精一杯な速度で。
少し遅れて小さな破裂するような音が聞こえる、弾の体が音速を超えた時の音だ。
セシリアが振り返ると言葉通り後ろに弾の姿を見つけるが弾とセシリアの距離は相当離れている。
(なにがしたいんですの?攻撃もせずに・・・遊ばれている?けれどあの表情は・・・)
不可解に思ったのは弾の表情、自分で動いたはずなのにあきらかに困惑している。
「もしかして、自分でも思い通りに動けませんの?」
「・・・・・・・・・」
(絶対図星ですわ!!表情わかりやすっ!ちょろい、この人ちょろいですわ!)
非常に失礼なことを思われているが弾はそれどころではない。窮地を脱し、逆転の鍵を手に入れたがどうも扱いきれていない。しかも
(この脚部充填エネルギーって何回移動できるかって事か、最初は両足、後ろに回るのに左右一回ずつ。そんでもって一回分につき24秒の充填時間が必要、片足ごとに充填ってのは助かるな。
でも充填を待つ余裕は俺にはない、なら残り両足六回ずつで決めるしかない!)
加減の出来ない超加速、残りわずかなシールドエネルギー、離れた距離。
どうすれば一番いいのか決まっている。そしてそれを実行するための覚悟、それはもう持っている。
ドリルを引き、腰の辺りで力を溜める弾。そのままの体勢でじわりじわりと距離を詰めていく。
迎え撃つセシリア。ブルー・ティアーズを自身の周囲に展開させ、ライフルの銃口は一切ぶれず弾に狙いを定めていた。
いつの間にかアリーナから音が消えていた。
ドリルの唸りとブルー・ティアーズがときおり位置を微調整するときのブースターの音しか聞こえない。
(わたくしのシールドエネルギーはまだ削られていない、けれどあのドリルから、一撃でも喰らえば終わりそうな威圧感を、確かに感じる・・・そして、あの人の。『瞳』)
一度も見たことのないような瞳だった。窮地に立たされながらも、けっして諦めない瞳。
強い思いを込めた、鋭い視線。
(わたくしはこんな瞳をもった男性に、出会ったことがない・・・)
弾が近づくのをやめる、恐らく射程距離。あの加速力があればこその距離、セシリアのもっとも得意とする距離でもあるその領域に弾は立つ。
(勝利なんて二の次、あの人と、五反田弾と全力でぶつかり合いたい。その先に、わたくしの見たことのないものがきっとある!)
「行くぞ、セシリア」
「いつでもどうぞ、あなたを迎え撃つ準備は出来てますの」
(彼に引っ張られるような感覚、わたくしも出し惜しみ無しで。全力で!!)
セシリアと弾、二人の最後の攻防に始まりの合図は存在しなかった。
しかし二人は同時に動き出す。
弾が両足のエネルギーを二度放出、爆発的な加速力を持ってセシリアに迫る。
だが同時にセシリアは真正面に隠し玉のミサイルを置くように放つ。自分と弾の間に割り込ませ弾が突っ込み自爆するように仕向けたのだ。
弾が突っ込んでくることはセシリアも予想していた、制御し切れていないあの加速能力で短い射程のドリルを当てるには突貫しかないと踏んだ。
そして弾はそれを隠すことなく愚直にも宣言して突っ込んできた、いつものセシリアなら笑うところだろうがそうはならなかった。
セシリアはこの短時間で変わったのだ、時間にして数分にも満たない戦闘で。
変えたのは目の前の男だ。
その男、五反田弾はそのままセシリアの目の前を通り過ぎる。ミサイルは被弾せずに。
「お前なら読んで合わせてくると思ったぜ!」
弾は読んでいたのだ、セシリアが自分がまっすぐ突っ込んでくると読んでいると。
対戦相手の腕前を認め、信頼した、その結果が無防備な背中。
両足のエネルギーを停止のために二度、加速のために二度。水泳のターンのように身をひねりながら残りの全てのエネルギーを使う。
正真正銘最後のチャンス。
(絶対外さない、死んでも外さない!!)
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
雄叫びをあげて突っ込む、まっすぐ、今度こそ一直線にセシリアへ!
弾は驚異的な加速の中で玉鋼のサポートを受け周りを視認する。セシリアはこちらに振り向こうとしている最中、しかし間に合うはずがない。
(銃口を向けて、狙いを定めて撃つ。この速度なら狙いを定める前に到達できる!!)
「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
叫び声が響き渡る、しかしそれは弾のものではない。
セシリアが、あのセシリア・オルコットが恥も外聞も関係ないと言わんばかりの叫び声をあげてこちらに銃口を向けようとする。
いや、銃口を向ける。ではない、握り方がめちゃくちゃだ、だとするならば。
(ライフルで直接殴る気か!!?)
自分という殻を破り去り、高貴な雰囲気もかなぐり捨ててまで勝利を目指す。全ては―――
(この人の全力に答えるため、わたくしはわたくしをやめますわ!!)
「らあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「あああああああああああああああああぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!!!!」
絶叫、せまる武器と武器。交錯、打撃音。そして
『試合終了。勝者―――』
試合終了のアナウンス。
今回はここまで、試合は終わりです。
ちょっとやりたい放題やりすぎたでしょうか。ちょっぴり不安
区切りが悪かったので投下しませんでしたが少しだけ書き溜めもありますし三日以内にこれる可能性が高いです。
しかし私は確立論を神様程度にしか信じてないのでもっとかかる可能性も否めません。
すいません、脱線しました。
ドリルが思いのほか好評だったので嬉しかったです。
それではこれにて
乙。面白いし読み応えがある。
単純な能力程強いの法則が弾にも当てはまりそうだな。
しかし最近の原作だとみんな瞬間加速使ってるんだが、大丈夫か?
個人的にはロケットパンチ、自爆装置、ドリルが三大浪漫武器だと思ってる。
なにこれすごい面白い
俺的には斧も捨てがたい
乙
頑張って続けて欲しい
面白いがNTRぽくなるのは勘弁願いたいところ
投稿を始めます。思いのほか区切りのいいところまで書けたので。
しかし書き溜めがたまらない。あったと思ったら次の日には消えているとは。
諸行無常を感じます。でも私は負けない。脱線しましたがいきます。
『勝者、セシリア・オルコット』
「・・・わたくしの、勝利?」
「人の頭を銃身でぶん殴っておいてそれはないぜ」
耳元で弾の声が聞こえる、セシリアの打撃を受けたが速度は殺せずそのままセシリアに叩きつけられたのだ。
しかも頭の横をドリルが通過したため丁度抱き合うような姿勢になっている。恐らく衝撃のほとんどはセシリアの自前のエアバッグで吸収されたのではないだろうか。
「い、いつまでこの体勢でいるつもりですの!離れなさい!!」
「はいはい、分かってるよ」
セシリアが顔を真っ赤にして訴えるとすんなりと従う弾、もしこれが他の女子であればもう少し堪能したであろうが弾はセシリアの残念な中身を知っているので反応が若干薄いのだ。
「・・・ところで、なぜあのようなことを?」
「ありゃ事故だよ、もうエネルギー残量なくて止まれなかったんだ、すまねえ、悪かった、許せ」
「そのことではありません!なぜ・・・なぜあの時ドリルをそらしたのですか!わたくしは全力を尽くしたというのに、それなのにあなたは!」
「あぁ~、やっぱ気づいたか。そりゃそうだよな、お前は代表候補生だし・・・」
バツが悪そうに頭を掻くがそのうち観念したように打ち明けた、試合の最後の瞬間のことを。
「最後に俺が狙ったのはお前の頭だった、これは覚えてるな?」
「えぇ、ですけどそれがなにか関係がありますの?」
「うちの爺ちゃんがよ、『どんなことがあっても女の顔だけは殴っちゃならねえ』って言ってたのつい思い出して・・・それでさ、なんつうか殴れなくなったというか・・・」
「・・・・・・・・・」
セシリアは少し頬を赤く染め、ムスッとした顔で目線を弾からそらした。
ここ数日のセシリアの言動を見てきた弾からすれば、プライドを傷つけられたと感じ怒っていると思っているだろう。
今までのセシリアならそうだ、数十分前のセシリアならば。
しかし今のセシリアは違う。
セシリア・オルコットは変わったのだ、五反田弾のおかげで。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なんなんですか、あの加速。瞬時加速(イグニッション・ブースト)?それにしては速すぎます。織斑先生?」
「五反田のIISの奥の手、単一仕様能力だ。ブースターの前面に特殊な技術で空気を固め足場を作り、そこに高圧縮されたエネルギーを叩きつけて爆発的な加速を得る。
瞬間速度、連発性能ともに瞬時加速を上回る優れものだ」
「ほわぁ、凄いんですね。IISって、単一仕様能力まで再現してるなんて」
真耶は感心した表情でモニターを見ているが千冬は、他人には分からない程度だが、困惑した表情でモニターを見つめていた。
(しかしそれは実現できたらの話だ。まだIISは単一仕様能力を発動できる状態ではないと開発者は言っていたはず。なのに・・・なぜ?)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は玉鋼を操作しAピットに戻ってきていた、一夏と篠ノ之さんも出迎えに来てくれている。
「・・・すまねえ、負けちまった」
「そんな顔すんなよ、お前の試合凄かったぜ。よくやったと思うよ」
「・・・・・・・・・」
「「・・・・・・・・・」」
「そ、そんな顔で見るな!私も、よくやったと思っている。初陣にしては上出来だろう」
俺と一夏の無言の圧力に耐えかねたのか篠ノ之さんも答えてくれる。
その仕草に俺たちはにやけた表情で顔を見合わせた。
「何をにやけているんだ、お前たちは」
そのセリフは篠ノ之さんからではなくピットの入り口から現れた千冬さんの言葉だ。
「織斑、お前のISが届いたぞ。もう搬入口に運び込んである、時間も押していることだ、すぐに準備をしろ。出来次第はじめる」
「ちょっと待ってくれよ、弾から初期化(フォーマット)とか最適化(フィッティング)がどうとか聞いたけどそれはいいのかよ!?」
「そんなもの戦闘中になんとかしてみせろ」
「で、でも・・・そうだ、セシリアだって疲れてるんじゃないか?連戦だしさ、休憩時間とかは?」
「先ほどの戦闘ではセシリアはほとんど動いていない。それに、もとより連戦の予定だったからな、エネルギーの補充も終了しているらしい。
なぜかは知らんが、当のセシリアもやる気十分らしいしな」
「う、うぐぐぐぐ」
一夏が追い込まれている。しかし友よ、俺にはこの状況をどうすることも出来ない、諦めろ。
(まぁ何も出来ないというわけでもないよな・・・)
来たな
ピットの奥が、玉鋼が出てきた時のようにゆっくりと開きだす。しかしその奥の機体は玉鋼とは全く違う印象を俺たちに与えた。
真っ白な、無骨な鋼の色をした玉鋼とは真逆な、美しい白。
「これが・・・」
「はい!織斑君の専用IS『白式』です!」
「あれ?山田先生いたんですか?」
「ず、ずっといました!」
千冬さんの後ろでずっと喋らずいたからか、山田先生がいたことに全然気づかなかった。いやまじで、冗談抜きで。
山田先生に気をとられている間に一夏がもう白式のそばに寄っていた。手を触れたまま白式をじっと見つめている。
(俺もはじめて玉鋼を見た時はこんなだったかな・・・いや、もっとはしゃいでたか)
「織斑、五反田がIISを装着するのを見ていたな。だいたいあれと装着の仕方はかわらん、細かい違いはこちらから指示する。さぁ乗れ」
「・・・わかったよ、千冬姉」
「織斑先生だ、馬鹿者」
一夏は先ほどまでとは打って変わって、落ち着いた表情をしていた。変な言い方だが悟りを開いたような・・・何かに気づいたような表情。
(千冬さんも時間がないからか言葉で咎めるだけで今回は殴らなかったな)
しばらくすると一夏は装着を終えてこちらによってきた。千冬さんと山田先生も再び管制室に戻っていってまた三人だけとなる。
「一夏、俺の敵、とってきてくれよ」
「おぅ、まかせとけ!」
拳を軽く打ち合わせる。俺たちにはこれで十分だ。
「・・・・・・・・・」
後は篠ノ之さん、なのだが。どうしたものか、助け舟を出したほうが―――
「箒」
「な、なんだ?」
「行ってくる」
「・・・・・・あぁ、勝っ『織斑!何をしている、ゲートはもう開いているぞ!すぐに出ろ!』
(―――何やってんのおおおおお千冬さんっっっ!!!)
「ほ、箒、今なんて?」
「なんでもない!早く行け!」
「で、でも『何をぐずぐずしてる!時間が押しているんだ、さっさと行け!』
どうせ試合にどれくらいかかるかわからないんだから数秒くらい待ってくれてもよかったじゃないか。せっかく篠ノ之さんも一夏に何か言えたのに・・・
篠ノ之さんの性格じゃ、もう何があっても励ましの言葉なんて言えないぞ。
「ほら、行けと言われているだろう。さっさと行け!」
一夏は何かまだ言いたそうではあったが、ゆっくりと、こちらを何度か振り返りながら、ゲートから飛び立っていった。
篠ノ之さんは、いつものムスッとしたような表情で見送っていたがその姿はどこか悲しげに見えた。
「篠ノ之さん、よかったのか?」
「何がだ?」
冷たい返事、久しぶりにみた鋭い目。俺はそれ以上なにも言えなかった。それにもう一夏は行ってしまった、言葉はもう届かない。
モニターには先ほどの俺とセシリアのように空中で対峙する一夏の姿が映っている。何を言ってるかまでは分からないが二言、三言、言葉を交わした後に少し下がって攻防を開始した。
まずはセシリアのライフル。この攻撃を一夏はかわすが際どかった、やはりまだ慣れていないのだろうか、それとも初期化と最適化が済んでないせいだろうか。
どちらも、という可能性もある。
(ハンデはなしでやるはずが、まじで一夏がハンデつきでやることになるとはな・・・ついてなさすぎるぞ一夏)
一夏は次々襲って来る弾丸をなんとか凌いでいる格好だ。恐らくシールドエネルギーも少しずつ持っていかれている。
(まだ、セシリアはブルー・ティアーズも出してないんだぞ!それに篠ノ之さんも・・・)
モニターから少し視線をずらして篠ノ之さんのほうを見やるが、表面上ではいつもの表情と変わりない、だが一夏が危うくなるたび手がピクリと反応している。
付き合いの浅い俺でも動揺しているのが丸分かりなほど、動揺しているんだ。
画面上の一夏はそのことには勿論気づかず、武器の呼び出しをおこなっていた。現れたのは大きな刀。
弾は先ほどの戦闘でセシリアと同じ近接武器で挑んだから分かるが相手までの距離が異常に遠く感じられる。
篠ノ之さんもさっきの俺の試合のことを思い出したのか表情にわずかだが苦い表情が浮かんでいる。
(信じて、待つしかないのか・・・信じるしか、待つしか)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(試合が始まって・・・もう30分近く。途中でブルー・ティアーズが出てきてさらに劣勢。おまけに一夏はセシリアに攻撃を当てられていない、状況は最悪)
「・・・・・・・・・」
篠ノ之さんも黙ったままではあるが、いつの間にか手が胸の前に来て祈るような形になっていた。無意識なのだろうか、ぎゅっと握ったその手は力を入れているせいか指先が赤くなっている。
俺には声をかけることも出来ない、かけるにしてもどうかけたらいいか・・・
『五反田、聞こえているか?そこにいるんだろう、五反田、返事をしろ』
その時だ、後ろに置いていた玉鋼から千冬さんの声が聞こえてきた。
「っっ千冬さん!ど、どうして!?」
慌てて玉鋼に駆け寄り声にこたえてみる、正直これで向こうに聞こえているのかはわからないがそこまで頭は回っていない。
『あぁ、やはりそこにいたか。さっき言い忘れていたがIISを待機状態にするか脇に寄せておけ。それだけだ、ではな』
用件だけ伝えると千冬さんの声は聞こえなくなった。なにを言っても反応がない。
「そうか、通信か。そうだよな、IISにもISと同じ通信機器積んでてもおかしい話じゃねえし、管制室からこっちに通信飛ばすことも―――」
(なぜ今まで気づかなかったのか!自分の頭の悪さに嫌気がさす、この手があったじゃないか!!)
「篠ノ之さん!一夏に、一夏と話せるかもしれない!!」
モニターに釘付けだった篠ノ之さんも、俺のこの言葉にポニーテールをなびかせるほど勢いよく振り向いた。
その顔はすこしだけ、見間違いかもしれないけど、笑っていたようにも見えた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一夏はセシリアの攻撃をなんとか凌いでいた。スペック的に弾の玉鋼よりも機動力は優れているはずだが不慣れなこと、初期化と最適化が終わっていないことが響いているのか、
少しずつシールドエネルギーを削られていく。
(見事に弾と同じような状況だ、けどまた弾みたいに隠された力が都合よく発揮されるのを期待するのはいくらなんでも楽観しすぎだろうな)
ゆえに待つのは初期化と最適化の完了。弾が言うにはこの白式はまだ自分の物にはなっていないらしい、それが今の状況を打破できる材料になるかは分からない。
(でも賭けにでるチャンスもそこしかない・・・シールドエネルギー残量は十分とはいえないがやるしかない。あとは待つんだ、チャンスを―――
『一夏ぁ!!聞こえるか一夏!!忙しいと思うけど応答してくれぇ!!』
突然の弾の声に虚を突かれバランスを崩してしまった、危うくブルー・ティアーズの弾丸がクリーンヒットしそうになったが寸でのところで身をひねりかわす。
「おまっっ、馬鹿!!殺す気かこの野郎!!」
『はははっ!避けられたからいいじゃねえか!特に用はねえよ、俺はな!!』
「ならいきなり―――『篠ノ之さんに代わるぞ』―――っっはぁ!?」
『一夏!一夏だな!!一夏ぁ!!聞いているか一夏!!!』
耳元に聞いた事のないようなないような箒の叫び声が聞こえる。
聞こえてるよ、お前は電話を初めて使う日本人か!!
「聞いてる、聞いてます、聞いてますよ!なんだよ箒、いきなり!」
『えっ!?あ・・・なんだ、その・・・』『考えてなかったのかよ!まぁ勢いで繋いだ俺も俺だけどさ!』
なんだ、友人二人は俺の邪魔をするために通信なんかを使ったのか?俺が何をしたって言うんだよ!畜生
『・・・ば・れ・・・』
その時向こうから箒の声が小さく、しかし確実に聞こえた。正直このまま聞こえなかったふりをして戦闘に集中することも出来た。けれど俺はどうしてもその言葉が聞きたかった。
本能的な選択、直感、運命を感じた。色んな言い方があるがこの状況で言い方を迷っている場合ではない。聞かなければと思ったのだ。
「箒!今なんて!?声小さくて聞こえない!!」
『がん・・・れ・・・・』
「いつも俺に怒鳴ってるように言ってくれよ!それくらいじゃなきゃ聞こえない!!」
『がんばれ・・・がんばれぇ!!!!!!一夏ぁああ!!!!!!!!!!!!』
「おう!がんばる!!」
二人のやり取りに呼応するように目の前のに一つウィンドウが展開される。そこに書かれた文字はもちろん。
『初期化と最適化が終了しました。確認ボタンを押してください』
迷いなく確認ボタンを押し込む。同時に世界が、瞬く間に変わる。
白式が光に包まれる。違う、白式が光の粒子になり形を変える。
ISから流れてくる情報が今までとは比較にならないほどクリアに、自身の感覚と変わりないようにも思える。
変化が落ち着き、白式の光が段々と淡く・・・
正真正銘、織斑一夏の専用機『白式』がその姿を現した。
熱いな
投下終了
一夏対セシリア編に突入、ですが次の投下でセシリア編は終了できるかと。
あとこれは今これを書いていて気づいたのですが一夏視点の時にちょっと一人称やらなにやらが変になってしまいました。以降こういうミスには気をつけたいです。
それではこれにて
乙
言われなければ気付かなかったわwwww
これにてと言いながら言い忘れたことを追記
今までのレスに対して色々返答のようなものを
ロケットパンチと自爆装置は自分としても浪漫武器です!斧は考え付きませんでしたがちょっとどこかで組み込めそうかなぁと思っていたりなかったり。
あとこのSSは男分の足りないISに男を足して熱血要素をそそぐことを指針としております。NTRのような要素は入らないかと思いますのでご安心を。
乙ですわ。
流石にわた、セシリアちゃんはちょろカワイかったですわね。
いざいざ投稿開始いたしますます
「ま、まさか・・・・・・一次移行(ファースト・シフト)!?あ、あなた今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言うの!?」
セシリアが唖然とした表情で叫ぶ。
「いつ終わるのかって思っていたけどな。勝利の女神が持ってきてくれたみたいだ、逆転のチャンスを!!」
こちらも叫びあげる。今が反撃の時、そして決着を―――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『いつ終わるのかって思っていたけどな。勝利の女神が持ってきてくれたみたいだ、逆転のチャンスを!!』
あの~一夏さん、まだ通信繋がってるんですけど・・・篠ノ之さん顔真っ赤になっちゃてるよ、湯気噴出しそうだわ。
フリーズしている篠ノ之さんを放っておいて俺はモニターの方に視線を戻す。
最初に見た時よりも洗練されたフォルム。特に目を引くのは手にした武器、太刀のような刀身に刻み込まれた溝から光が漏れ出ている。
資料でしか見たことがないが千冬さんの使っていた『雪片』に若干似たような雰囲気を感じる。
一夏の姉であり、世界最強を誇った千冬さんの武器、その面影を映したようなその武器を一夏が持っている。
(なんていうか、一夏が持っていることが当たり前のような感覚。あれ以上に一夏に似合う武器などないかのような、そんな感覚)
うまく言えない、まとまらない。だがこれだけは確かだ。
(あの武器があれば、今このときに限り一夏は無敵だ!そんな気がどっかからするんだよな!)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(一次移行・・・初期設定だけの機体でここまで凌ぎきった。今まで押していたのはわたくし、でも凌ぎきられチャンスを与えてしまったのもわたくし)
いきなりの事態に驚いたがセシリアは落ち着きを取り戻していた。先ほどの弾との試合で変わった彼女は静かに闘志を燃やす。弾についで新たな好敵手の出現かもしれないのだ。
(彼は十中八九攻めて来る、けれどわたくしの全身全霊で出迎えてあげますわ。それがわたくしなりの礼儀、あの人に変えられた、新しいわたくしの!!)
両者ともに準備はもう出来ていた、セシリアはライフルの照準を一夏にぴったりと合わせているし、一夏も低く、力を溜めて、構える。
しばらくの間、いや長く感じただけで少しの間だったかもしれない。にらみ合いが続いた。
「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」
依然として二人は動かない。セシリアも邪魔をせずただ静かに聞いていた。
「俺も、俺の家族を守る。他にも守りたいものはたくさんあるんだ、けどまずは・・・千冬姉の名前と、友達との約束。ここら辺から守らせてもらう!!」
「あなたが、何を言っているのかわたくしには理解できません。ですが・・・その目は、理解できますわ。来なさい、限界を超えてでもあなたに勝ちますわ!!」
言葉通り、一夏が動く。言葉通りセシリアが勝つのか、今はまだわからない。しかしその答えが出るのは、もうすぐ。
飛び出した一夏に襲い掛かったのは周りに展開していたブルー・ティアーズ。せまり来る弾丸を一夏は難なくかわす、今までのような危うさはなく進路上にあった二機のブルー・ティアーズを叩き斬る。
(やはり初速、反応速度ともに段違いですわ。しかし勝負はこれから)
直線的ではなく弧を描きながら迫る一夏、対するセシリアも過去と現在のデータの誤差を修正しながら軌道を予測しミサイルを放つ。
しかしそれも一夏は難なく切伏せる、が。
背中に衝撃、もろに一発喰らう。シールドエネルギーが減り、速度がガクリと落ちる。
(ミサイルはデコイ、本命は残ったブルー・ティアーズか!!背後からもう一発来る、避けるには時間がない、受けるにしてもエネルギーがない、なら!!)
強引に身をひねり刀身に弾丸を当て、力任せにはじく。しかし体勢を崩された状態で身をひねったからか完璧に動きが止まった。
もう一度仕掛けるために加速を開始しようと動き出すが―――
『一夏ぁ!!』
切り忘れていた通信の向こう側から箒の叫び声が聞こえた。
名前を呼ばれただけだったが、どうしてか身体の向きを変えて刀を振っていた。
目の前で切り裂かれる光の弾丸、間違いなくセシリアの撃ち出した弾丸だ。
(さっきのブルー・ティアーズも本命じゃなかった、止まった俺が動き出す時を狙っていたのか!?)
振りぬいたままの勢いで一直線にセシリアに向かう。ミサイルを撃ちつくし、残る武装はブルー・ティアーズとライフル。
警戒すべきは正面のライフル、ブルー・ティアーズとの距離は大分開いている。
二人の距離はグングン縮まっていく、だがまだセシリアは撃たない、撃ってこない。
(先に仕掛けるか!?仕掛けないか!?どうするんだ、もうぶつかっちまうぞ!)
一夏が迷っている間に届くか届かないかの距離までに近づいていた、もはや迷っている暇すらない。
(振りぬく!!)
しかし一夏が動作に入る前にセシリアが先に動いた。後ろではなく前に、一夏のほうへ身体をぶつけるように前へ出る。
「なっ!?」
振りかぶる前の体勢でセシリアの身体と衝突する。恐らく最初からこれが狙いだったのだろう、絶妙なタイミングで割り込まれた。
(でもここからどうするんだ!?どっちも攻撃できないぞ!)
至近距離でセシリアと顔を見合わせるが彼女の表情は余裕の表情を浮かべ、この後の策があることを物語っている。
「正直、先ほどのライフルの弾を切り裂いたのには驚きましたが・・・次は当てさせていただきますわ」
恐らくもう一分と待たずに勝負を決するであろう状況で、セシリアは静かに、ゆったりと一夏に語りかける。
そしてその言葉を終えると同時にセシリアが一夏を力の限りに突き飛ばし、自身は後ろに飛びながらライフルを構える。
この距離である。外すわけがない、避けられるわけもない。
だがセシリアは知らなかった、織斑一夏がこの一週間何の稽古をやり続けていたのかを。
このつばぜり合いからの攻防をその稽古の間に何度も経験していたことを。
セシリアは勝利への確信を持って引き金を引く。しかし銃口から飛び出した弾丸は一夏に当たることはなかった。
セシリアが信じられない、といったような表情を浮かべて固まっている。
ほぼゼロ距離からの射撃、それを一夏は手にした刀で切り裂いていた。
会場中がセシリアと同じような状況だ、皆何が起こったか見ていたが理解が追いついていない。
動いているのは三人だけだった、一夏、管制室の千冬。
そして―――
「やれっ!!一夏ぁ!!!」
一夏は右手に握る刀、『雪片弐型』を強く握りこみ上段に構える。
一歩、大きく踏み込み。振りぬく!
雪片弐型の刃がセシリアの肩口から腰にかけてを切り裂く。
『試合終了。勝者―――織斑一夏』
決着を告げるアナウンスが会場に響いた。
今日はここまで。週末あたりにはエピローグにいけそうです。
ほう、ワンサマ-が勝ったか
熱いね乙
乙
エピローグ投下を始めます
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ただいま、箒、弾」
「「・・・・・・・・・」」
白式を操りAピットに戻ってきた俺に箒も弾も黙って迎えた、というか反応がない。なんだ、俺何かしたかな?
「な、なぁ弾「やったぜこの野郎!!あの状況からまじで勝ちやがった!!」うおっ!!?」
こ、こいついきなり飛びついてきやがった!?さっきまでの癖で斬りそうになったじゃねえか。危ないやつだ。
「おい!篠ノ之さん、こいつやったんだぜ!なんか言ってやってくれよ!!」
弾がウザイくらいにテンションをあげている、なんでお前がそこまでテンション上がっているんだよ。
「そうだな、私からは・・・何もない、言うことは何もない」
「・・・そっか、けど俺からは言いたいことがあるんだ。試合の最中、箒が励ましてくれたよな。あれがなかったら俺は負けてた。最後のあれだって箒に剣道の稽古つけてもらってなかったら倒されてたのは
俺だったし。本当に俺が勝てたのは箒のおかげだ、ありがとう」
「・・・・・・・・・・・・」
箒は何も言わない、いつものようにムスッとした顔でこちらも見ないがそれでいい。これでいい、そんな気がする。
「あのー、一夏さん?俺のことすっかり忘れてませんか?」
「あぁ、弾いたのか?すっかり忘れてたよ」
「てっめえ!わざとだろ絶対!!」
「そんなわけないじゃないか」
「じゃあなんで棒読みなんだよ!」
なんでだろう?
「なんでだろうな、箒」
「私に聞くな」
そう言った箒の口元が、少し笑っていたのを俺は見逃さなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「織斑、五反田。ISは待機状態にしたな、二人は着替えてそのまま解散とする。部屋に帰ったらよく休むように、疲れを明日に持ち込まれても面倒だからな」
一夏が帰ってきてしばらくすると千冬さんが今度は一人でやってきた、山田先生はセシリアの方にでも行ってるのかも知れない。
そして俺と一夏のIS(俺のはIISだけど)は今アクセサリー程度の大きさになって身につけている。
一夏の白式はガントレット、俺の玉鋼は『腕時計型無線操縦機型』になって・・・・・・・
わかるだろう?あのジャイアントロボとかの操縦機みたいなってこと。っていうか玉鋼自体もどことなくレトロなロボットものみたいな雰囲気プンプンさせてるもんなぁ・・・開発者たちの悪ノリじゃないことを祈る。
「あぁ、それと五反田、お前に一つ聞きたいことがあるんだが」
「えっ?何すか、俺何かしましたっけ?」
突然のことに焦る俺、思わず舎弟口調になってしまった。いや、いつもこんな感じか、特に千冬さんあたりには。
「試合中に織斑に通信を繋いだだろう」
「うげ!?なんでばれてるんですか?」
(なぜだ、あの場にいたのは俺と篠ノ之さんだけのはず、どうやって知ったんだ?)
千冬さんはやれやれといったようすで
「一対一のプライベートチャンネルでなく、一対多のオープンチャンネルで垂れ流しにしていれば聞こえるのも当然だろう」
ピキッ、と空気の凍る音が聞こえたような気がした。つまりなんだ?俺らの会話は管制室の千冬さんとかにも聞かれてたと・・・
「なんで教えてくれないんですか!?」
「返答できるのを織斑だけにしたのはお前だろう、それにアリーナにいた生徒たちはスピーカーはあってもマイクはないからな、返しようがあるまい」
「えっ?千冬さんのとこだけじゃ・・・」
「対象は範囲1kmと設定されていたぞ、まさか操作ミスであのようなことになったのか?」
「・・・・・・・・・」
「五反田は後で職員室に来い、このことについて詳しく聞かせてもらおう。ではまたあとでな」
話を終えると千冬さんはスタスタとピットから出て行ってしまう。後に残されたのは俺と一夏と―――
「五反田、ちょっといいか?」
ゴゴゴという効果音が凄く似合いそうな阿修羅のごとき篠ノ之さんだけになった。
「ちょ、待ってよ篠ノ之さん。とりあえずその、し、竹刀をしまおう、っつーかどっから出したんだよそれぇあだぁっ!!!」
竹刀独特の小気味のいい音がピットのうちにこだました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
セシリア・オルコットはISを片付けシャワールームで汗を流していた、ISでの戦闘も体力を消耗する、試合の中であまり動かなかったセシリアでも汗をかいていた。
(今日の試合―――)
シャワーを頭から浴びながら思慮にふける。
自身に向けられたあの瞳のこと。たった数秒見つめただけで全てを変えられてしまった。
熱くて、鋭くて、泥臭くて、強い瞳。今まであんな瞳見たことがなかった、誰もあんな瞳をしていなかった。
だからだろうか―――
(あの人の瞳の、その向こうを見たくなってしまった、彼の世界に引き込まれてしまった・・・)
頬が紅潮し、鼓動が早くなる。あの瞳を思い出すとどうしようもなく巻き起こる感情の奔流。
熱く、甘く、切なく、嬉しい。この感情も知らない、けれど知りたい、もっと知りたい。
まだまだ知らないことだらけだ、あの人のことも。だから知りたい、もっと知りたい。
「五反田、弾・・・」
呟くと頬がさらに熱くなる。
コックを捻り少しシャワーの温度を下げた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あの試合の翌日の朝。
「では、一年一組の代表は織斑一夏君に決定です。あ、一繋がりでいい感じですね」
すっかり忘れていた、そうだあの試合はクラス代表を決める戦いだったんだ。熱くなってて本来の目的を忘れていたぜ。
俺の隣の一夏も忘れていたようで唖然とした表情をしていた、あんだけ頑張って、勝って、そのご褒美がこれとは割に合わなさ過ぎる。合掌
「先生、質問です」
「はい、織斑君」
「なんで俺がクラス代表なんでしょうか?」
「五反田君に勝ったオルコットさんに勝ったからです」
ですよねー、等式でいくと俺とセシリアより一夏が強い、つまりクラス代表。そりゃそうだよ。
「あのー、辞退ってできますか?」
一夏の辞退宣言に反応したのは山田先生ではなかった。
「辞退ですって!?あなたはわたくしと弾さんを押しのけクラス代表になったのですからそんな情けないことは許しませんわよ!まったく、それでもわたくしの好敵手なのですか?」
よく響く声でセシリアが割り込むのだが、いつの間に一夏がライバルになったんだよ・・・
「あ、もちろん弾さんもわたくしの好敵手ですわよ、ご心配なく」
俺もいつの間にかライバルにされてしまったらしい。あとご心配なくってなんだ、お前はどんだけ自分に自信満々なんだよ。
なんか試合の最中はもう少し落ち着いていたような気がするが、気のせいのようだ。
「それに、一夏さんには勝利の女神もついていますし、これでクラス対抗戦は一組が勝ったも同然ですわ」
「なっ!!?ぱぁ!??」
まさかここであの話題が出るとは夢にも思っていなかったであろう篠ノ之さんが女の子とは思えない声を上げたが無理もないだろう。
しかしセシリアの発言のせいでクラスメイトたちが昨日の件を話し始め教室がざわつき始める。
「昨日すごかったよねー」「本当、あんなこと言われてみたいな~」「やっぱ二人の関係ってさぁ」「見てるこっちも恥ずかしかったよね」
「もうアタシ思い出すだけでご飯三杯はいけるもん」「全米が泣いた」「織斑君の女神発言のCD一枚300円だよ~」
おい、最後のやつ商売するなよ。ていうか買うやついるのか?
「・・・・・・・・・」
ほら篠ノ之さんも赤くなってうつむいて―――
木刀を手に持って・・・
「「ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!!!!!!!」」
一夏も気づいたのか俺と同時に声を張り上げる。
SHRはこんな感じでグダグダに終わり、我がクラスの代表は一夏で決まりになった。
これでセシリア編本格的に終了。
次からは鈴編へ、そのために原作読んできます。一応三巻まで読んでこようかと思います。
なのでちょっと遅くなるかも、ならないかも。
ちなみにヒロインは最初鈴の予定だったけどこっちのほうがしっくりくるのでセシリアになりました。
けっして私がセシリア好きだからではありません。いややっぱセシリア好きなんですけどね。
それではこれにて
乙
三巻まで読もうと思ったけど二巻読み終わったらやる気が出たので投下します。
「では、これよりISの基本的な飛行操縦の実践をしてもらう。織斑、五反田、オルコット。ためしに飛んで見せろ」
四月も下旬、ようやく授業やら学園の生活やらに慣れてきた俺たちは、いつものように千冬さんのスパルタ授業を受けていた。
「早くしろ、熟練したIS操縦者は展開まで1秒とかからないぞ」
急かされた俺たちは待機状態になっている、それぞれの専用機に意識を集中させる。
「来いっ!玉鋼!!」
腕時計型操縦機を模した玉鋼に腹のそこからの大声で呼びかける。瞬時に腕から光の粒子が溢れて身体の周囲を覆い形を成していく。
光が落ち着いてきて、現れたのはもはや見慣れた我が専用機、IIS『玉鋼』
レトロジカルな曲線が今日もにくいぜ。
「そのいちいち叫ばなきゃ展開できないのどうにかならないのか?」
「声紋認証が搭載されてるらしくてな、しかも外してくれと頼んでも外してくれねえし」
「無駄な話をしていないで早く飛べ。時間は限られているのだからな」
もう一夏もセシリアも展開し終えており準備は出来ているようだ。
俺とセシリアが勢いよく空に飛び出すが、一夏が少し遅れている。スペック上だと俺とセシリアよりも一夏の方が速いはずなのだがまだ操縦に慣れていないのだろう。
「一夏さん、所詮イメージはイメージ。自分にあった方法を模索するほうが建設的でしてよ」
隣のセシリアが遅れてくる一夏に通信でアドバイスを出していた、こういうところを見ると代表候補生だなぁ、と感じざるをえない。
いつもは残念なイメージが強すぎて忘れがちだが・・・
「弾さん、今何か失礼なことを考えてなかったですか?」
ぎ、ぎくぅっ!!なぜばれたんだ、そんなに顔に出てたか?畜生、考え読まれて怒られるのは一夏の役目であって俺の役目じゃねえのによ。
「織斑、五反田、オルコット。急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ。」
通信から千冬さんの鬼のような要求、どんだけ精密に動かさなきゃならないんだよ。
「了解です。弾さん、一夏さん、お先に」
さすがは代表候補生、顔色変えずに要求に応じる。まぁ俺も負けてられないよな、男として。
俺はセシリアを追うような形で急降下を開始する。玉鋼の動作試験などで急降下、完全停止は結構な数をこなしているためそれなりに自信があった。
数秒で地表付近まで接近し、セシリアと並ぶように完全停止を試みる。
「オルコットは九センチ、五反田は二十三センチか。五反田は練習不足だ、これくらい難なくこなして見せるようになれ」
「うぐぐ、はい」
自信があった分だけショックは大きい。もう少し練習時間を増やすべきか、と肩を落としながら考えていると隣のセシリアが耳元に近づきなにやら話しかけてくる。
「弾さん、よろしければ放課後にでもわたくしが指導してさしあげてもよろしくてよ。その際はふたりきりで―――」
しかしセシリアの言葉は「で」の発音と同時に大砲が打ち込まれたかのような爆音でさえぎられた。
慌ててセシリアとともに音の方を振り向くが、なんてことはない。
一夏が完全停止に失敗してグラウンドにクレーターを作っていただけだった。
「大丈夫かよ、一夏のやつ」
「・・・もう少しで誘えましたのに。一夏さんはタイミングが悪いですわね・・・」
「ん、何か言ったか?」
「い、いえ!何も」
セシリアが慌てたように胸の前で両手をパタパタ振る。
さっきの言葉は本当になんと言ってたのか聞き取れなかったが、その前に言っていた言葉が気にかかった。
(ふたりきりって・・・なんかそういう方向に期待しちまいそうなワードだが、そっち方面は一夏の役目だ。俺の役目じゃない、はずだ。そういうことにしておこう)
先日のクラス代表決定戦の後あたりからセシリアはずっとこの調子だ。正直に言うと変なのだ。
今まで散々コケにしてた俺と一夏への態度が急に軟化し、篠ノ之さんとも仲がよくなっているそうだ。
いや、篠ノ之さんに限らずクラスメイトとも親しげに会話しているのをよく見るようになった。
(しかしだ、自意識過剰かもしれんが俺に対して気がありそうな態度を示すのが一番の問題なんだ!俺も男だ、そういう風な態度をされて悪い気はしないが相手がセシリアだ。
俺にそんな気を起こす要素が一つもない、美少女でお嬢様で代表候補生。絶対思い違いだ、そうでなければありえん)
「五反田、武装を展開してみろ」
「え!?は、はい!」
考え事をしている最中にいきなり千冬さんの声が割って入ったので、俺は慌ててしまいうまく武装を展開できない。
イメージがまとまらず、右腕の周りを光の粒子が飛び回っているだけだ。
「遅い、遅すぎる。コンマ五秒で展開できるようになれ、何度も繰り返し練習しておくように」
「はい・・・」
本当にセシリアに練習を見てもらうことになりそうだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「というわけでっ!織斑君クラス代表決定おめでとう~!!」
その声に従うようにあちこちから、おめでとうの声が上がる。何人かはクラッカーも鳴らしている。
現在は寮の食堂、一組メンバーで一夏のクラス代表決定おめでとうパーティーを開いていた。
まぁ主賓である一夏の顔はこころなし暗かったが。まだ代表になったことに不満があるのだろう、しかし不満があったところで決定は覆らない、諦めろ一夏。
「いや~、これでクラス対抗戦も盛り上がるねぇ」
「ほんとほんと」
「らっきーだったよね、同じクラスになれて」
「ほんとほんと」
ちなみに相槌打ってるのは記憶が正しければ二組の子のはずだ。というか食堂にいる人物の総数とうちのクラスの総数が明らかに前者が多い。
一夏目当てで来た子たちが大半だろうが正直こういう催しは人数が多いに越したことはない、みんなで騒いだほうが楽しいからな。
しかしそれを良しとしない人物が目の前にいた。
「人気者だな、一夏」
一夏の隣で不機嫌モードMAXの篠ノ之さん。
「・・・そう思うか?」
「ふん」
そしてその機微に気づかない鈍感オブ鈍感feat唐変木、我らが織斑一夏。
隣にいる俺の身にもなってみろ、篠ノ之さんの不機嫌モードって結構、いやかなりおっかねえんだからな!どうしてこれで気づかないんだこの馬鹿は。
「はいは~い、新聞部で~す。話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました~」
突然の来訪者になぜか周りのみんなから歓声が上がる。こいつら騒げればなんでもいいのか!
「あ、私は二年の黛 薫子。よろしくね。新聞部の副部長やってま~す。はいこれ名刺」
渡された名刺を律儀に受け取る一夏。名刺をよく見ているがあの顔はなにかしょうもないことを考えてる顔だな。
画数多くて書くの大変そうだな、とか?
「ではまず織斑君!クラス代表になった感想を、どうぞ!!」
「えーと・・・・・・まぁ、なんというか、がんばります」
「えー、もっといいコメント頂戴よ。俺に触れると火傷するぜ、とか!」
そんな発言するような奴なら俺は一夏との関係を考えなくてはいけなくなるぞ、あまりにダサすぎる。
「自分、不器用ですから」
はい、考えないといけないようです。いくらなんでもその回答はないわー。
「・・・まぁ適当に捏造しておくね~」
うわ、さらっとひどいこと言ったよこの人。こういうところにもメディアのモラル低下の波が・・・いや詳しいこと知らないけどね。
「あぁ、セシリアちゃんもコメント頂戴」
「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが仕方ないですわね」
嘘つけええぇ!!お前こういうのが誰よりも好きじゃねえかよ!!
「コホン、ではまず―――「あぁ、やっぱいいや、長くなりそうだし写真頂戴」―――さ、最後まで聞きなさい!」
「どうせ捏造するからいいじゃ~ん。よし、じゃあ織斑君に惚れたからってことにしておこう」
「な、なななっ!ちがっ、わたくしはだ―――」
(「だ」で止まるな、こっちを見るな、顔を赤くそめるなあ!!勘違いするだろうが!!ありえないから、ありえないからな、俺!!)
黛先輩はセシリアの視線を追ってこちらの方を向き、なにやら思いついたように、にやぁっと悪い笑みを浮かべた。
いやな予感がしてその場を離れようとするが、妖怪じみた速度で近づいてきた先輩に袖をつかまれてしまった。
「そういえばこっちにも話題の新入生いたじゃない、君もおいで、写真撮ってあげるから」
撮ってあげるではなくて、撮らせろじゃないのだろうか?首を縦に振らない限り離してくれそうにないじゃないか。
「はーい、じゃあセシリアちゃんを男の子が挟む感じで並んで。そうそう、そんな感じで」
「あの、撮った写真は当然いただけますわよね」
「そりゃもちろん」
「で、でしたら今すぐ着替えて―――」
「時間かかるからダメダメ、さぁ撮るよ~。35×51÷24は?」
「え?えっと・・・・・・2?」
「ぶー、74.375でした~」
パシャッ、とシャッターの切られる音がした。というか一夏もマジメに答えんでいいだろうに。
「つーか、なんで全員入ってるんだ?」
一組のメンバーがいつ来たのか、俺たちの後ろに勢ぞろいしていた。半分以上は一夏狙い、あとは騒ぎたいだけだろう。
「いいじゃんいいじゃん、思い出づくりだよ!」
「というかセシリアにだけいい思いさせたくないだけだったり」
なんというか女子のこのパワフルさはどこから来るのやら。
この後もパーティーは続き、解散になったのは夜の十時を過ぎた頃だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「織斑君、五反田君、転校生のうわさ聞いた?」
朝、席につくなり近くの席の子が話しかけてきた。セシリアや篠ノ之さんと比べれば喋る機会は少ないが俺たちもそれなりに女子とも自然に会話できるようになっていた。
やはり環境が環境なだけあって、慣れないと学園生活において重大な支障をきたす羽目になるからな。
「転校生?今の時期に?」
「たしかIS学園って転入の条件厳しかったよな、国の推薦もいるし。っつーことは」
「わたくしと同じ代表候補生というわけですわね」
「あ、セシリアちゃんおはよう。そうなんだよ、中国の代表候補生らしいよ」
ほんとこいつは会話に割り込んでくる技術も代表候補生クラスだな。絶妙なタイミングでピンポイントに自分に関係のある話題にいつのまにか割り込んでくるし。
「あら、わたくしの存在を今更ながら危ぶんでの転入かしら」
「このクラスに転入してくるわけではないのだろう?騒ぐほどのことではあるまい」
いつの間にか篠ノ之さんまで会話に混ざりこんでいた。女子ってほんとう会話に混ざるの得意な。
「そう分かっていても騒いでしまうのは人間の、というより学生の性みたいなものじゃありません?」
「そういうものか?」
「そうだよ、ただでさえ閉鎖的な環境なんだから新しいことが起こるってなると浮かれちゃうもんだよ」
ふむ、と篠ノ之さんが感心顔でうなずいているのを満足したような表情で見つめる一夏。
四月の初めの頃は篠ノ之さんが怖かったのか、皆話しかけたりなどしなかったが今では大分クラスになじんでいると思う。
そのことが嬉しいのだろう、正直俺にも喜ばしいことだ。
「でもあんまり転入生に気をとられすぎても駄目だよね、来月にはクラス対抗戦もあることだし」
「それもそうですわね。一夏さん、わたくしと弾さんも訓練に付き合いますからクラス対抗戦、必ず勝ってくださいましね」
「ちょっと待て、さも当然のように人を勝手にメンバーに数えるなよ」
「五反田君、織斑君の練習付き合ってあげないの?薄情だなぁ」
「いや、付き合わないとは言ってないぞ、ただ勝手に決められたのがいやなだけで―――」
「ウフフフ」
「おいセシリア、何笑ってるんだよ。俺変なこと言ったか?」
なんかクラスメイトもセシリアもほほえましいものを見たような顔をしてこちらを見ている。まさか先ほどの発言をツンデレ発言と捉えたのか。
やめてくれ、俺はノンケだ、フラグならもっとまともなフラグを要求する。
「だ、だがセシリア、一夏の稽古なら私がつけているのだぞ。別に助力など必要ないだろう」
篠ノ之さんはそう言うが十中八九、一夏とふたりきりになる口実なのだろう。でも今回はそういってられない事情が女性陣にもあるそうで・・・
「一夏さんと二人きりになりたい気持ちは分からなくもありませんが、クラス対抗戦が終わるまでの辛抱ですわ」
「私たちの学食デザート半年フリーパスのためにもね!」
そうなのだ、クラス対抗戦の優勝クラスにはデザートのフリーパスが出る。なんでもクラス対抗戦は現時点での実力指標を作ることが目的なのだそうだが、クラス単位での交流や団結も目的の一つなのだそうだ。
だからこそのフリーパス、女子は皆甘い物好き。そして共通の目標を持つことでの団結、交流。いいことじゃないか。
ただ物で釣ってそれを成すという発想はどうかと思うが、これでうまくいっているのならそれはそれでいいかとも思う。
「しかし今のところ専用機を持っているのは一組と四組だけという話だ、それならば皆の手をわずらわせずとも―――」
「その情報、古いよ」
篠ノ之さんの声をさえぎったもう一つの声。俺と一夏は顔を見合わせた、知り合いに、あまりにも似た声だったからだ。
「二組もクラス代表が専用機持ちになったの。そう簡単には優勝できないから」
腕を組み、片膝をたてて扉にもたれかかっているのはまぎれもなく―――
「鈴・・・・・・?おまえ、鈴か?」
「そうよ。中国代表候補生、凰 鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」
俺と一夏の中学時代の友達、いや親友といってもいいだろう、凰鈴音こと鈴だった。中学の三年になる前に引っ越して以来あっていないが元気そうでなによりだ。
しかし・・・
「鈴、それ格好つけてるつもりか?すげえ似合ってないぞ」
「うっさいわね!あたしは今一夏に話してるの、大体弾はいつも人の話の腰を・・・・・・な、なんであんたがここにいるのよ!!?」
「まぁ話すと長くなるんだがな、それより鈴」
「なによ?」
「後ろ」
振り向くが速いか振り下ろすが速いか、勿論振り下ろされた出席簿の方が速かった。
忠告してやるのが少し遅かったようだ。鈴の後ろには我らが鬼教官こと千冬さんが立っていた。
「もうSHRの時間だ。教室にもどれ」
「ち、千冬さん・・・・・・」
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして道をふさぐな、邪魔だ」
「す、すみません」
さっきまでの強気な態度はどこへやら、鈴は千冬さんに本気でびびっていた。まぁ俺もあの状況なら同じような感じになっていただろう。
「また後で来るからね!逃げないでよ、一夏!」
「さっさと戻れ」
「はいっ!」
なんか懐かしいのやら情けないのやら微妙な気分にさせられた。授業に影響なければいいんだが。
「ていうかあいつIS操縦者だったのか。初めて知った、弾は知ってたのか?」
「いや、知らなかったよ。お前より付き合い短いのに知るわけないだろ」
久しぶりに見た懐かしい友人の姿と新たな顔の二つに若干困惑しながら俺たちは顔を見合わせるが。
「だ、弾さん!?あの子とはどういう関係で?」
「・・・一夏、今のは誰だ?知り合いか?ずいぶん親しそうだったな?」
そのほかにもクラスメイトからの質問の嵐に晒される。だが千冬さんがもう来ている教室でこんなことをしていては―――
「席に着け、馬鹿ども。先ほどの転校生のようになりたいのか」
ピシャッ、と千冬さんが言い放つと教室が嘘のように静かになり、みな席にすばやく着席していく。
そりゃあ千冬さんの一撃なんてくらいたくないだろう。誰だってそうだ、俺だってそうだ。
今日は鈴ちゃん登場まで。区切りがいいのでここまででしたが書き溜めはあるので次の投下は少し早そうです。
うまくいけば明日、明後日くらいにはいけるかな?
それではこれにて
強敵がどんどん増える一夏に見切りをつけたセシリアは勝ち組だな。
sage忘れ
IFストーリーでちょろいとはいえやはりなびいてる相手変わるのに若干抵抗あるな
IISとか燃える
将来的に起こり得なかったら虚さんとの修羅場が楽しみだな
一夏→箒、鈴、ラウラ
弾→セシリア、シャル
に分かれるのか?俺得だな
投稿開始しますよー
そんなこんなで昼休み、俺と一夏、セシリア、篠ノ之さんのいつもの面子と何人かのクラスメイトで食堂に向かっていた。
食堂にぞろぞろと入り、各々食券を買ってカウンターに持っていこうとするがカウンターの前に誰かがいて邪魔になっている。
この状況だと一人しか候補はいないわけだが、予想通りその人物は鈴だった。
「待ってたわよ!一夏」
あれ、俺は?久しぶりに会った友人にひどくないか。
「まあ、とりあえずそこどいてくれよ。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」
「わ、わかってるわよ!大体あんたを待ってたんでしょうが!なんで早く来ないのよ!」
なんというめちゃくちゃな理論だ、何時集合とかも一切決めてなかったじゃねえか。
俺たちは鈴の話を半分聞き流しながら、食券をおばちゃんに渡してそれぞれ注文した品を受け取り席を探す。
「あちらのテーブルが空いてますわよ。ちょうどみんなで座れそうですわ」
鈴を含めた全員で、セシリアの指したテーブルに移動して各々好きな席に着く。
鈴を中心にして左に俺、セシリア。右に一夏と篠ノ之さん。周りをクラスメイトの皆が囲んでいる。
「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ?おばさん元気か?いつ代表候補生になったんだ?」
「質問ばっかしないでよ。あんたらこそなにIS使ってんのよ。ニュースで見た時はびっくりしたわよ。しかも転入してきたらきたで弾までいるし」
約一年ぶりの再会とあって俺たちは質問を投げかけあっていた、会わずにいた間、相手がどうしていたのか知りたがるのが友人というものだろう。
会話の内容は途切れない、お互い知りたいことが多すぎだ。
「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」
「そうですわ。お知り合いのようですが、ずいぶん仲がよさそうですし」
篠ノ之さんとセシリアが痺れをきらしたように話しに入ってくるのを皮切りに、周りのクラスメイトたちも口々に疑問や質問を口にする。
どうやら鈴との会話に夢中になりすぎていたようだ、俺は一夏の方に目配せし説明を促した。
「名前は知ってるだろうから省くけど、鈴は俺の幼馴染なんだよ。弾とは俺と同じで中学からの付き合いだけど、一緒にいた頃はよく三人で遊んでたんだ」
「幼馴染・・・?」
そう怪訝な声で聞き返したのは篠ノ之さんだった。
「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのは小四の終わりだよな?鈴が転校してきたのが小五の頭なんだよ。で、中二の終わりに国に帰ったから会うのは一年ぶりくらいかな」
それで、と鈴の方へ向き直り
「こっちが箒、ほら前に話したろ?小学校からの幼馴染で、俺の通っていた剣道場の娘」
「ふぅん、そうなんだ」
鈴は篠ノ之さんのほうをじろじろ見ているのだが、その視線に含まれたものを感じる。あぁやっぱりか・・・
「はじめまして、これからよろしくね」
「あぁ、こちらこそ」
俺には見える。二人の間に火花が散っているのを、それも尋常じゃない量が。
どちらも俺の友人であるから二人には仲良くなってもらいたいのだが・・・無理なのか?
「ンンンッッ!わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ、中国代表候補生の凰鈴音さん?」
「・・・・・・・・・誰?」
「なっ!?わ、わたくしはイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!?まさかご存じないの?」
「うん。あたし他の国とか興味ないし」
「な、な、なっっっ・・・!?」
セシリアの顔が真っ赤になる、侮辱されたと思ったのだろうか。しかし鈴はただ正直に思ったことを言っただけなのだろう、こいつはそういうやつなのだ。
自尊心の高いセシリアのことだろうからここで鈴に言い返してひと悶着起きるのだろうと予想したが―――
「・・・・・・・・・」
言葉に詰まったのだと思っていたセシリアが、いつの間にか落ち着いていた。
セシリアを知っている俺たちからすればここでこういう反応をするなんて夢にも思っておらず、皆あっけにとられていた。
「・・・まぁ、わたくしもまだまだ勉強中の身ですし、知らないのも無理はありませんわね。改めまして、セシリア・オルコットと申しますわ。これからよろしく、鈴音さん」
「こっちこそ、よろしく。鈴でいいわよ」
そう言ってセシリアが出した手を握る鈴、握手だということをすぐ理解できないほど驚いてるようだ、俺は。
「ところで皆様は何に驚いてるんですの?ご飯も冷めてしまいますわよ」
「セシリア、お前変わった?」
別に俺はおかしなことは言っていないが、セシリアはクスクスと笑っておかしそうに言う。
「変わってませんわ、変えられたんです」
そのままセシリアは詳しいことは言わずにフォークでスパゲッティを食べ始めた。
俺は首を捻り、まだみんな固まったままだったが、横の鈴はなにか分かったような顔をして
「あんたさ、見ないうちに一夏がうつったんじゃない?」
「なんだそりゃ、もうちょい具体的に言ってくれないとわかんねえよ」
「はぁ、セシリアもこれじゃ苦労するなぁ」
訳が分からん。俺は理解するのを諦めて日替わり定食の鰆の身をほぐし始めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
鈴が転校してきたその日の放課後。いつもの第三アリーナに俺とセシリアはやってきていた。
結局篠ノ之さんもクラス全体の圧力には耐えられず、俺たちも一夏のコーチをすることになったのだ。
「来たか、二人とも。早速だがはじめよう、アリーナの使用時間もあることだしな」
先に来ていた一夏と篠ノ之さん。どちらもISを装着していた。一夏のISはもちろん白式、篠ノ之さんは訓練機である『打鉄』(うちがね)を装着していた。
『打鉄』 純国産第二世代の量産型IS。バランスの取れた機体性能を誇り、実体シールドも採用している防御型のISである。
デザインは武者鎧を連想させるシルエットで、武装に日本刀のようなブレードまである。篠ノ之さんの雰囲気にぴったりのISだ。
(篠ノ之さんって、江戸時代から来ましたって言っても通用しそうだからなぁ)
「それではまず基本動作からその応用までをどこまで出来るかやってみませんか?ウォーミングアップにも丁度いいと思いますの」
「なるほど、確かに一夏はこの前の急降下と完全停止も失敗していたからな。ならば私もその意見には賛成だ」
「んじゃどの動作からやる?」
(俺がコーチといっても、代表候補生と一夏をよく知ってる篠ノ之さんがいれば大丈夫だろ。俺は武器呼び出しの練習でもしときますかね・・・)
その数分後、俺の目論みはあっさり外れることになる。モノローグなんてフラグ建ての道具にしかならないことを思い知らされたよ、主に悪いほうの。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「だから!がーっと行って、グワッッ!!と曲がってだなぁ!!―――」
「そうではありませんわ!!加速は背中を手のひらで押されるイメージで、旋回は弧の内側の足に重りを引っ掛けるイメージで―――」
(だ、だめだこりゃ・・・篠ノ之さんは擬音すぎてミスターになってるし、セシリアは難解すぎる)
一夏が指示された動作をするたびに、篠ノ之さんとセシリアからの激を飛ばされる。正直俺にも二人の指導を理解できない。
(うーん、一夏にそういうアドバイスするよりは・・・)
「すまん、セシリア。一夏に見本みせてやってくれないか?」
「え?まぁ、かまいませんわ」
セシリアが前に出て『無反動旋回』とやらを見せてくれる。
やはり代表候補生というべきか傍目に見ても難しそうな操縦技術をあっさりこなしてしまう。
「一夏、あれ何かに似てると思わないか?」
「え?いや俺もあんな技術は見たことないぞ、今日が初めてだ」
「IS/VS」
「・・・あっ!!」
俺の言いたいことが一夏にも理解できたようだ。ちなみに『IS/VS』(インフィニット・ストラトス/ヴァースト・スカイ)とは発売月だけで100万本のセールスを記録した、超名作ゲーム。
第二回『モンド・グロッソ』のデータをもとにしたISの各国代表を操り、対戦するというゲーム。
余談ではあるがこのゲーム、開発した日本の会社に各国から苦情が届いたことがある。内容は『わが国の代表はこんなに弱くない』とのこと。
困ったソフト会社は苦情が出た国の代表が最強キャラに設定された『お国別バージョン』を発売した。これがまた売れたわけだがまた問題が起こった。
世界大会でどの国のバージョンを使うか、である。結局世界大会は中止になったという逸話だけが残った。
とまあ余談が長くなったが何を言いたいかというと―――
「ネパール代表!↓↓+AorBorC!!」
「「???」」
女性陣には何を言っているか分からないだろうが、ずっとやりこんできたゲームの話題を振られて反応しない男はいない。
「これで・・・!!どうだぁ!!」
先ほどセシリアが描いた軌道を辿るように一夏の白式が空をかける。やっぱりわかりやすい物のほうが動きをイメージしやすいようだ。
「「・・・・・・・・・」」
あれ?女性陣の反応がなぜか芳しくないぞ。普通ここは褒められるところじゃねえ?俺と一夏が。
「なぜ私があんなに教えていたのにできなくて、五反田の一言であっさり・・・」
「わたくしに手本を見せるように言っておいて、やったらやったでスルーですの?」
「えっと~、一夏も無反動旋回が出来たことだし、次の動きの練習でもしようぜ。そうだ、そうしよう!なにやるよ!!」
俺は慌てて話題変換を試みるが方向を間違えた。次に行こうといえば間違いなく次に来る言葉は・・・
「そうだな、準備運動も十分だろうしな。模擬戦でもやろうか、なぁセシリア」
「ええ、そうしましょう。組み合わせはわたくしと箒さん、それでよろしいですね、弾さん、一夏さん?」
「い、いやここはもうすこし話し合ったほうが―――」
「答えは聞いておりませんわ!!」
言葉を言い終えるよりもはやくセシリアは武器を呼び出し、ビームライフル『スターライトMkⅢ』を構え放つ。
完全に不意を突かれ、もろにセシリアの弾丸をくらってしまった。
一夏のほうも篠ノ之さんに切りかかれているのが視界の端の方にうつっている。なんとか防いでるようだがこちらにいるセシリアの銃口が一夏の方へ向けられる。
(あぁ、どこで何を間違えた・・・あれ?どこも俺ら悪くなくね?)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
模擬戦の結果は散々だった。開始十分もしないうちに俺は撃墜され、一夏も健闘むなしく撃墜された。
「お前、セシリアと試合した時はもっと強くなかったか?あの高速移動も使わなかったし」
「使えなかったんだよ、そう簡単に使えるもんじゃねえんだ、あれ以来一回も発動できてねえし。しかも篠ノ之さんは近接戦闘うまいし、セシリアにはもともと勝てねえよ」
単一仕様能力は練習のたびに使おうとしてもなぜかうまくいかない、まぁいつでもどこでも発動できるような代物なら奥の手にはなりえないしな。
少しずつでいいから使えるように練習していこう。
「そろそろアリーナの使用時間が終了してしまうな、今日はこのくらいにして片付けに入るとしよう」
暴れてすっかり機嫌が治まったのか、篠ノ之さんとセシリアもいつもの調子に戻っていた。
一時はどうなることかと思ったが・・・いや、ボコボコにされたんですけどね。
「そうですわね。ですけどわたくしは少し残って弾さんに操縦技術を教えないといけませんの、先に行っていてもらえるかしら?」
「そうか、では先に行かせてもらうとしよう。行くぞ、一夏」
そう言って篠ノ之さんは、近くにいた一夏を半ば引きずるようにしてピッチへ向かっていった。
行動が早いのは感情が高ぶっている証拠か。二人になれるのが嬉しいのだろう。
「・・・お節介、でしたでしょうか?」
「いや。でもセシリアが応援するのは篠ノ之さんの方か」
「そうでもありませんわ、基本は中立でいたいと思っていますの。でも今回はちょっと」
「ちょっと、なんだよ?」
「鈴さんより少しだけひいきしたくなりましたの」
「もしかして・・・昼間の?」
そう聞くとセシリアは少し恥ずかしそうに頬へ手をやって―――
「あんなことで心を乱すなんて、大人気ないですけど。いいですわよね?だってわたくしはまだまだ子供ですもの」
くすくすと笑う。
風が吹きなびく髪と、夕日のせいか紅潮して見える頬、照れたような笑み。
完全な不意打ちだった。
(くそ、やっぱこんなカワイイ子が俺に気なんてあるわけねえよ)
心臓は早鐘をうち、俺の頬も赤くなっているような気がして、恥ずかしくて顔をそらした。
「どうかなさいました?」
「ど、どうもねえよ。俺、先に行くわ。逆のピット使えば問題ないだろう」
「あ、ちょっと。わたくしも行きますわ」
(セシリアは俺のクラスメイトで、友達で、ちょっと残念な子。これでいいんだ!そういう認識でいいんだ!)
もとよりこんな浮ついた話は一夏の担当だ、俺の担当ではない。その、はずだ。
投下終了。次は短めで鈴戦直前のシーンをやろうと予定しています。
余談なのですが、カップリング関係で一巻以降かなりいじくっております。
というのも昼寝中に見た夢の展開が妙に良くてそれをそのまま採用したのです。
あと虚さんの件は絶対組み込もうと思います。おいしいネタですし。
それではこれにて失礼します。
乙
弾は感覚が正常だから見てて気持ちよい。
セシリアには幸せになってもらいたいね。
ところでIISの読み方って上に書かれてた通り擬似ISでいいの?
それともアイアイエスとかトゥーアイエスとか読むの?
酢豚編マダァ?(・∀・)っ/凵⌒☆チンチン
酢豚編が少し遅れているのでちょっと経過報告。
作業はある程度進んでいますが区切りのいいところまで行っていないので投下は週末になります。
ちなみにIISは『アイアイエス』と呼称されています。
場合によりISといったり、擬似ISといったりすることもあります。
ISは戦闘や切迫した場面で使ったり、擬似ISはIISの説明の時に使うかもしれません。
それではこれにて
sage忘れ失礼
agesageは書き手が決めればいいことだし気にするな
弾かっけえ
遅くなりましたが投下開始でございますことよ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
クラス対抗戦当日、俺とセシリアはアリーナの観客席にいた。もう周りの席は埋まっており、通路で立って見ようとしてる人もいるくらいだ。
かなり早くから席を確保していたこともあり、篠ノ之さんの席も確保できたのだが今は席を外している。最後に一夏へアドバイスをしにいくそうだ。
「やっばいよなぁ・・・」
「なにがですの?」
「一夏、この前鈴と喧嘩してから今日まで一切、口きいてもらえないらしくてさ。鈴のやつ、相当頭にきてるぞ」
「鈴さんの気持ちもわからないでもないですわ。というよりも今回は一夏さんがかなり悪いですわね」
「まあな」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あれは先週。俺とセシリア、篠ノ之さんで一夏の練習を見ていた時のことだ。
「まじで?そんなことがあったのかよ」
「ええ、わたくしも友人から聞いた話なのですが。一夏さん、鈴さんにひどいことを言って怒らせたみたいで・・・当事者の箒さんにも聞いたのですが『あれは一夏が悪い』とそれ以上は話してくれませんでしたけど」
「どういう経緯なのかおおまかに予想がつくな」
「同感ですわ、きっと一夏さんはどうしてこうなったか、わかっておりませんわ。きっと」
「大分、一夏のことも分かってきたみたいだな、セシリアも」
「あんなに鈍感な人がこの世に存在するなんて、最初はわざとやってるんだと思ったましたのよ」
違いない。と相槌を打とうとしたがそれは篠ノ之さんの声にさえぎられた。
「セシリア、弾道予測と回避の訓練がしたいんだが。手伝ってくれないか?」
「わかりましたわ!では弾さん、いってまいります」
「ん、いってらっしゃい」
(数週間前にそんなことが起きてたなんて知らなかったぞ。鈴も俺に対してはいつもどおりだったし)
でも確かに鈴といる時に一夏はいなかった、自分に知るタイミングがなかっただけだろう。
しかしまずいことになった。怒っている時の鈴はけっこうおっかない。篠ノ之さんとは違うベクトルではあるが、鈴も相当なもんだ。
(どうにかして仲直りさせねえとなぁ、時期的に見て鈴が一夏と篠ノ之さんが同室だったことに腹立てて・・・いや、それなら喧嘩するのは鈴と篠ノ之さんだし―――)
色々考えた後、一夏と鈴が会ったときに俺がフォローすればいいか、という結論にいたった。
その後の俺たちは時間いっぱいまで練習してAピットの方に全員で移動した。毎回、練習終わりにその日の反省会的なものを開くことにしているからだ。
次の練習を効率よくおこなう為。という建前があるが、もうあの地獄のごとき模擬戦がおきないようにするためである。
「待ってたわよ、一夏!」
Aピットで俺たちを出迎えたのは、なんと鈴だった。なんでこんなところに、俺たちが他のピットに行ってたらどうしたのだろう?
「貴様、どうしてここに?」
「ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ」
「ふふん、それならあたしは一夏関係者よ、これで問題ないでしょ?」
屁理屈じゃないか?それ。まぁこちらの言い分も根拠はないんだけどね。別に使ってるからといって立ち入り禁止にはならないし。
ともあれここでうまく転がれば、一夏と鈴の仲を直してクラス対抗戦も、因縁とか抜きに行ってもらいたいものだ。
「じゃあ本題に入らせてもらうけど、一夏、反省した?」
「へ?なにが?」
「だ、か、ら!あたしを怒らせて申し訳なかったなー、とか仲直りしたいなーとか、あるでしょうが!」
「いや、そう言われても・・・鈴が避けてたんじゃねえか」
「あんたねぇ・・・じゃあなに?女の子が放っておいてって言ったら放っておくわけ?!」
「おう」
だめだこりゃ、こんなんじゃ余計に鈴を怒らせるだけじゃねえか。しょうがない、ここは俺の出番かな・・・
「おい一夏、少し黙ってろ」
「黙るのはあんたよ、これは一夏とあたしの問題なの。い・い・わ・ね」
「はい・・・」
無理無理、だって後ろに龍とか虎とか見えたし。文字にすると分かりにくいけど『いいわね』の部分の迫力ほんと半端ないからな!
あと俺がヘタレなわけじゃないぞ、断じて。
「とりあえず。謝りなさいよ、一夏」
「だから、なんでだよ。ちゃんと約束覚えてただろ」
「あっきれたぁ!まだそんな寝言言ってるの?意味が違うのよ、意味が」
「どう違うんだよ、俺も納得できなきゃ謝れねーよ。説明を要求する」
「・・・っ説明したくないからこうしてきてるんでしょうが!」
あーだこーだ、と言い合う二人を少し離れた位置で観察する俺と篠ノ之さん、そしてセシリア。
皆、なかばあきれ返ったような表情だ。いつものことだが一夏の鈍さには毎度あきれさせられる。
「いつも思うのですが、もしかして一夏さんはいわゆる、『女の敵』というやつなのでしょうか?」
「悪い奴ではないんだが、その悪気のなさも人を怒らせる要因のひとつになっちまうんだよな」
一夏は顔はいいし、性格もいい。さらに家事はできて感情の機微にも敏い。
ただし恋愛方面になると一切、ダメ。わざとやってるんじゃないかって疑いたくなるくらいだ。
「あれさえなけりゃなぁ、世の中少しは平和になるってもんだ」
「同感だな」
「同感ですわ」
二人と雑談しているうちに一夏と鈴の間ではどうも、『クラス対抗戦で勝ったほうの言うことを聞く』とかいう取り決めがなされたようだ。
しかし依然として喧嘩腰の二人にこっちは気が気ではない。
(どうか一夏が下手なこと口にしませんように・・・)
「誰が・・・!!あんたこそ、あたしに謝る練習しときなさいよ!!」
「なんでだよ、馬鹿」
「馬鹿とは何よ馬鹿とは!この朴念仁!マヌケ!アホ!馬鹿はアンタよ!」
「・・・うるさい、貧乳」
(やばっ!!)
そこは鈴の一番気にしているところだ、もっとも言ってはならないポイント。
「おい!一夏言いすぎ―――」
さすがにこれは一夏が悪いと割って入ろうとしたが俺の言葉は鈍い爆発音にさえぎられた。
「い、言ったわね・・・・・・言ってはならないことを、言ったわね!!」
見ると鈴の右腕が肩までISを纏っている。先ほどの衝撃も鈴が壁に何らかの攻撃を加えたせいだろう。
(けど、壁に鈴の腕は届いてねえぞ。何をやったんだ!?)
「い、いや悪い。今のは俺が悪かったよ、すまん」
「今の『は』!?今の『も』よ!いつだってあんたが悪いのよ!」
さすがにそれは言いすぎだとは思うが、一夏には言い返せないだろうな。圧倒的に一夏が悪い、さっきのは。
「ちょっとは手加減してあげようかと思ってたけど、どうやら死にたいらしいわね・・・・・・いいわよ、希望通りにしてあげる―――全力で叩きのめしてあげる」
言うやいなや、鈴はさっさとピットから出て行ってしまった。その時の鈴の表情といったら・・・千冬さんにも負けていなかったと思う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「セシリア、五反田、戻ったぞ。席をとっていてもらってすまない」
「おかえりなさい、一夏さんの様子はどうでした?」
先日のことを思い返しているうちに篠ノ之さんが帰ってきたようだ、その手には飲みものも持っている、三人分。ありがたい限りだ。
「あぁ、試合前だが十分に落ち着いていた。あんなことがあった後だから気後れしていないか心配だったが、そんなことはなかったよ」
「それはよかったけどよ、相手はセシリアと同じ代表候補生。しかもあんな状態の鈴だからな、そっちが心配だ」
俺はアリーナ中央で一夏と向き合っている鈴の方に向き直る。なにか話しているようだが勿論こちらには聞こえていない。
しかし話している姿を見ていると鈴は大分落ち着いているように見える。だが見えるだけだ。
「鈴の奴はいつもは感情をストレートに外へ出すタイプだけど、勝負事となると途端に冷静になる。内側に全部溜め込んで闘志を燃やす、そんな感じなんだ」
「つまり、鈴さんは今のあの状態がフルコンディションだということですか?」
「そういうことだ」
正直、一夏が勝てる確率はかぎりなくゼロに近い。前回セシリアに勝ったのだって奇跡としかいいようがない。
だけどもうここまで来たんだ、試合はもうすぐ始まる。俺たちにあと出来ることといったら―――
「・・・信じることか、祈ることくらい、か」
そのセリフは俺の口からではなく、篠ノ之さんの口からだった。もしかして、さっきのあれ口に出てたのか?
「ん?なんだその顔は、何か変なことでも言ったか?」
俺が怪訝な表情で見ていたのに気づいたのか、篠ノ之さんがこちらに向くが声色から察するに、俺の早とちりだったようだ。
「いや、俺も同じ様なこと思っててさ。他意はないよ」
「あら、お二人も?」
「ってセシリアもかよ・・・」
「実はわたしもだったりして~!」
「えっ?」
いきなり後ろから声を掛けられた。
俺達が振り返るとそこにいたのはよく話すクラスメイトとその友人と思われる数人が座っていた。
どうやら今までの話を聞いていたらしい。
「三人とも織斑君の練習ずっと見てあげてたもんね。それに私たちだって何もしてなかったわけじゃないしさ、他のクラスの情報集めたりとか。でも試合前となるともうさ、私たちはなにもできないもんね」
クラスメイトはニカッと笑い続ける。
「それこそ今出来るといったら信じることくらい!あ、でも応援くらいは出来るか・・・箒ちゃんには負けるけどさ~♪」
「んなっっっ!!!?」
篠ノ之さんの顔が真っ赤に染まる。五月の今になっても『勝利の女神事件』はちょいちょい話題に上ってくる、たぶんまだ当分は収まらないだろうなぁ・・・
「それに、私だけじゃないよ、きっと。クラスの皆もきっと織斑君のこと信じてる。織斑君なら、やってくれそうな気がするもの」
「うん、そうだよな。あいつなら、きっと」
「そろそろ試合が始まるみたいですわよ」
俺達が会話を終えると、すぐに会場にアナウンスが流れる。
『それでは両者、試合を開始してください』
ブザーが鳴り響き、音がやんだその瞬間。
一夏と鈴の、戦いが始まった。
今日はここまで、鈴との戦闘の直前までですが思いのほか作業が難航して焦りました。
次はゴーレム登場まで書きたいですが区切りが良かったらもう少し細かく出すかもです。
ちなみに私は原作よりアニメのゴーレムのデザインが好きだったりします。
それではこれにて
おつー
ワンサマに惚れてないセシリアは本来のハイスペックが活用できてるな。
弾とセシリアが思いのほか自然にコンビやってて笑った
自分もゴーレムのデザインはアニメの方がいいと思う
短いですが区切りのいいところまで投下
あと二回か三回くらいで原作一巻、アニメ四話相当まで終わる予定です。
戦いが始まって数十秒も経たずして、一夏は地面に叩きつけられていた。
致命打ではないが、かなりいいものをもらってしまっている。
その一夏を叩き付けた武器だが、今鈴が手にしている青龍刀の柄と柄を合わせたような武器ではない。
肩についている、トゲ付の非固定浮遊装甲が開き、内部が光ったと思ったら一夏は吹き飛ばされていた。
「なんだあれは・・・?」
「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成。余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾として撃ちだす、ブルー・ティアーズと同じ第三世代兵器ですわ」
篠ノ之さんはセシリアの解説を半分も聞けてなかっただろう、いつもの凛とした雰囲気はどこかに消え、ただ一夏の身を案じうろたえた表情を晒しだしていた。
「・・・・・・一夏」
「大丈夫ですわ、きっと」
「えっ?」
「だってわたくしのブルー・ティアーズが捌ききれて、同じ第三世代兵器の衝撃砲は捌けない道理もありませんわ。というよりむしろ捌ききれなければわたくしのブルー・ティアーズの面目丸つぶれですもの」
「セシリア・・・・・・」
「おまえ後半の方が本音なんじゃないか?」
「あら、失礼なことをおっしゃりますのね」
ふふふ、と笑いながら冗談めかして言うセシリア。篠ノ之さんも少し気がまぎれたのか小さく笑う。
フォローだったのか、俺が言ったようにプライドからの発言だったのかはセシリアにしか分からないが、前者だということにしておいてやろう。
再び一夏と鈴に視線を戻す。
衝撃砲をくらったが、今だ戦いは序盤、なにが起きるかは分からない。
一夏が大番狂わせを起こすことだってありえる。
(勝利への鍵は二つ、俺たちで一夏に教え込んだイグニッション・ブースト。それと雪片弐型の特殊能力)
瞬時加速(イグニッション・ブースト)はスラスターからエネルギーを放出し、そのエネルギーを取り込み、圧縮して再度放出。それによる慣性エネルギーを利用し加速力を得る技術だ。
それを奇襲に利用すれば一太刀浴びせることが出来る、そこでさらに雪片弐型の、白式の能力があればその一撃で終わらせることも可能。
雪片弐型は本来他の武器のために処理をするスペースを全て使うほどの武器である。その攻撃力は全IS中トップといっても過言ではないらしい。
さらに白式の単一使用能力で自身のシールドエネルギーを使う代わりに一切のバリアを切り裂く能力を雪片弐型は有している。
つまり圧倒的な攻撃力で相手の生身に切りかかるのと一緒、ISの基本能力である絶対防御が発動し装着者は無事だろうがシールドエネルギーを激しく消費する。
(雪片弐型の攻撃力からすれば一撃必殺になりうる、教えてくれた千冬さんもモンドグロッソで優勝できたのはこれのおかげと言っていたほどだ。十分な勝機といえる)
一夏と鈴が向かい合う。お互い構えをとり―――
鈴の衝撃砲を一夏がかわしたのを皮切りに再び戦闘が再開される。
衝撃砲はかなり印象的だがもともと鈴の専用IS『甲龍』(シェンロン)は一夏と同じ近接戦闘型の機体。
鈴は衝撃砲で牽制しながら、両刃青龍刀で切りかかる。一夏も負けじと衝撃砲を避けて青龍刀をいなす。
この攻防の中で一夏が求めるものは奇襲を仕掛けるタイミング、いくらダメージを相手に負わせていても一撃必殺を持つ一夏にはあまり意味がない。
ゆえに無理な攻撃はおこなわずに、そして思惑を読まれぬように仕掛けていく。
(いくら無理に攻め込んでないといっても、少しずつは衝撃砲や青龍刀の斬撃をもらっている。さすが代表候補生、逃げに徹することもままならないか)
そんなふうに俺が弱気になりそうになったその時―――
「あっ!!?」
誰かの驚いた声がどこかから聞こえた。
鈴が、一夏に背を向けている。一夏が隙を捉えたのだ。
雪片弐型を構え、急激に加速する。
「いっけえ!!一夏ぁ!!」
俺はこう叫んだはずだがその声は他のものの耳には入っていなかったんじゃないだろうか。
なぜなら、アリーナの中央に謎の物体が落下し、大きな衝撃と爆発音を轟かせたからだ。
周りがざわめきはじめる、もちろん俺たちもだ。
なにしろアリーナの遮断シールドをぶち破り侵入してくるものなどが『いいもの』であるはずがない。
『試合は中止です、みなさんはアリーナから退避してください。繰り返します―――』
スピーカーから山田先生の声。周りの人間もアナウンスに従い観客席から出て行き始める。
しかし俺たちはまだ動けないでいる、まだ一夏も鈴も遮断シールドの内側にいるのだ。
「あいつら何してるんだよ、はやくピットに戻ればいいじゃんか」
「戻れない。という可能性もありますわ」
「戻れない?なんでだよ」
「あの物体がもし敵意をもった何かであるならば、不用意に後ろを見せられませんわ。」
「・・・・・・・・・一夏」
篠ノ之さんが心配そうに呟く。その視線の先の一夏はセシリアの言うとおり、敵を警戒するように隣に浮かぶ鈴と土煙の中心を注視していた。
セシリアの推測が当たっているなら最悪だが、今の俺たちに出来ることは何もない。一夏たちは普通では破ることの出来ない遮断シールドの内側にいるのだから。
「箒さん、弾さん。お気持ちは分かりますがわたくしたちには・・・」
セシリアは何もできないことが悔しいのか、声色が苦々しい。もちろん俺と篠ノ之さんもだ。
俺たちは何度も振り返りながら出口を目指す、一夏と鈴は依然晴れない土煙の中心をにらんでいる。
このまま何もないうちに、教師達が事態を収拾してくれたらとも思った。
だがその思いは土煙を抉るように放たれたレーザーによって砕かれた。
「・・・・なっ!?」
一夏は突如放たれたレーザーを間一髪のところで鈴を抱きかかえ避けることに成功していた。
ちなみにさっきの声は篠ノ之さん。一夏が鈴を抱きかかえたことに声を上げたのではないと信じておこう。
しかし事態はそんなことをいっている場合ではない。
先ほどのレーザーで土煙が吹き飛ばされ、落下してきた物体の正体が露になる。
全体のカラーリングは黒、イメージとしてはダイバーのような感じで全身のあらゆるところにレーザーの発射口が設置されている。
身の丈は二メートルを越していて腕が足の先ほどまであるのが印象的だがそれよりも目を引くのが―――
「全身装甲(フルスキン)のIS?」
全身を覆う装甲である。
ISは見た目の装甲にさほど意味はない。防御はシールドエネルギーで行われるからだ、つまりあのISは全身を装甲で覆う必要のある特別性があるということかもしれない。
「もう我慢なりませんわ!わたくしも出ます、ピットまで行きますわよ!」
「おい!セシリア待て!先走っては・・・五反田、セシリアを追うぞ!」
「あ、あぁ」
セシリアも何も出来ないさっきまでの現状に痺れを切らしていたのだろう。言うやいなやピットのほうに近い出口へ走っていきそのまま消えてしまった。
篠ノ之さんもセシリアを追うように走っていき、俺もそれに続く。しかし最後に俺は一夏と鈴の方を振り返った、振り返ってしまった。
そして思いついてしまった。俺ならここからでも一夏と鈴のところにたどり着ける、と。
「五反田!どうした、はやく行くぞ!」
俺の右腕には何がある。玉鋼の右腕には何がある。
「篠ノ之さん、セシリアを追ってくれ。俺は先に行かせてもらう。」
ドリルとは何のためにあるのだ。
「出ろぉ!!玉鋼ッッッ!!!」
以上です。
鈴ですが今後出番が少なくなるような気がしてなりません。
原作は二巻まで読みましたが・・・
このSSでは重要な立ち回りを任せようと思ってはいるのですが原作に沿っているのでなんともいえません。
ちなみにゴーレムはアニメのほうの形をイメージしております。
それではこれにて
非常にやらかしたので一つ弁解。
アリーナの遮断シールドですが、アニメであると物理的なシャッターが下りていますが原作のほうではシャッターが下りた的な表現がなかったので(思い違いかも)そのまま見えている感じで話を進めました。
違和感があった人は脳内補完でどうにかしていただけるとありがたいです。
それでは
乙
鈴は弾とも面識あるんだし頑張って欲しいなぁ
シャッターの件は超強力な強化ガラスが張られてると思っておく
なんか高ぶったら一日でゴーレム戦終了してしまった。
明日には一巻分は終わる可能性も見えてきました。
では投下開始
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
謎のISが侵入してきたせいで俺と鈴の試合は中断となってしまった。けれど俺たちはならんで謎のISに立ち向かう。
遮断シールドを突き抜けてあのISはここまでやってきた、つまり誰かが食い止めなければ観客席に残っている人たちに危害が及ぶ可能性もある。
誰か、というか俺たちだ。
「おまえ、何者だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
当然と言えば当然だが、相手からの返答はない。
『織斑君!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐ先生達がISで制圧に行きます!』
通信に飛び込んできた山田先生の声もいつもより威厳が感じられる。
「いや、先生達が来るまで俺達が食い止めます」
『しかし―――』
「いいな、鈴」
「誰に言ってるのよ。そ、それより離しなさいってば!動けないじゃない!」
「ああ、悪い」
さっき鈴を抱えてレーザーを避けてそのままだったのをすっかり忘れていた。
俺が腕を離すと鈴は自分の身体を抱くような格好で離れる。うーん、そこまで嫌だったか、そいつは悪かった。
『お、織斑君!凰さん!わたしの話を―――』
山田先生の話は最後まで聞こえなかった。敵ISの突進をかわすことに集中していたからだ。
「ふん、向こうはやる気みたいね」
『みたいだな』
「・・・・・・弾?」
弾の声が通信の向こうから聞こえてくる。そしてその直後、地面から玉鋼がドリルで土をぶち抜きそのままの勢いで上昇、俺たちの横に並ぶ。
「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ、混ぜろよ」
「はぁ、あんたも一夏に負けず劣らず馬鹿よね。わざわざ危険なところに突っ込んでくるなんて」
「おい鈴、そんな言い方だと俺が厄介ごとに喜んで首突っ込む馬鹿みたいじゃないか」
「そう言ったつもりだけどね」
「手厳しいな」
「違いない」
敵を前にしても俺たちは軽口を叩きあい、笑いあう。俺と鈴と弾、まるで中学の頃のようだ。
(なんていうか、すげー頼もしい。負ける気がしない・・・!)
「一夏、撃ってきそうだぞ」
「じゃあレーザーを撃ってきたら散開、その後は衝撃砲で援護するから二人が突っ込む。いいわね?」
そう言った鈴の言葉には返事をするヒマはなかった、その前に敵がレーザーを放ったから。
しかし返事をする必要もなかっただろう、俺たちにはそんなものがなくとも伝わるものがある。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「もしもし!?織斑君、凰さん!聞いてますか!?」
何度呼びかけても一夏と鈴からの反応はなかった。敵との戦闘に集中しているのか、もしくは意図的に答えないのか。
しかもあとから加わった弾に至っては『観客席の床をぶち抜きアリーナに出る』という荒業までして危険な場所に飛び出していった。
たしかに壁や遮断シールドと違い普通の建造物と同程度の強度しかないが、わざわざ壊してまで危険な場所に飛び出すなど誰も考えていなかったのだ。
「本人達がやるといってるのだから、やらせてみてもいいだろう」
「お、お、織斑先生!何を呑気なこと言ってるんですか!」
「落ち着け、コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするんだ」
「・・・あの、先生。それ塩ですけど・・・」
「・・・・・・・・・」
ぴたりとコーヒーに運んでいたスプーンを止め、白い粒子を容器に戻す。
「なぜ塩があるんだ・・・」
「さ、さぁ?でも、あの、大きく『塩』って書いてありますけど」
「・・・・・・・・・」
「あっ!やっぱり弟さんが心配なんですね!?だからそんなミスを―――」
「・・・・・・・・・」
嫌な沈黙が、管制室に流れる。なにか嫌なことが起こる予感がして真耶は話題をそらそうと試みる。
「あ、あのですね―――」
「山田先生、コーヒーをどうぞ」
「へ?あの、それって塩の入ったやつじゃ・・・」
「どうぞ」
ずずいっと強引に押し付けられるコーヒー(微塩)を断れずに受け取る真耶(押しに弱い)
「い、いただきます・・・」
「熱いので一気に飲むといい」
悪魔がいた。
「あの、先生。わたくしはなぜここにつれてこられたのですか?」
「おまえはピットから織斑たちに合流して加勢しようとしていたようだが、それは許可できんな」
「なぜですの!?わたくしのブルー・ティアーズならもう準備はできてますのに!」
「言わなければわからんのか、この馬鹿者が。お前のISは一対多向き、逆のこの状況では足手まといになりかねん」
「ですが・・・」
「では聞くが、連携訓練は行ったのか?その時のお前の役割は?ビットの運用はどのように?味方の構成は?敵はどのレベルを想定している?連続稼動時間を―――」
「そんなことわかっています!けれど友人達が戦っているのに指をくわえて見ているなんて。わたくしは・・・」
「その心意気は認めるが、それだけで突っ走るのは愚かだぞ。わかっていながらとは余計にたちが悪い、今後気をつけろ」
自分でも考えなしの行動だったと思ってはいたが、他人から指摘されるとどれだけ馬鹿なことをしようとしていたか分かってしまう。
弾と出会い、少しは落ち着いてきたが相変わらずプライドの高いセシリアである。少し惨めな気分になり、それを紛らわせようと周りに視線を向ける。
(あら、箒さんは?ピットに向かっていた時は後ろからついてきていたはずですのに・・・)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「く・・・!!」
一夏の斬撃が空を切る。これで四度目、四度のチャンスを逃してしまった。しかしそれは俺も同じ、ドリルは何も貫かず空転を続ける。
「あんたら!なにやってんのよ!ちゃんと狙いなさいよ馬鹿ども!!」
「「狙ってるっつーの!!」」
俺も一夏も敵ISの規格外の性能に手を焼いていた。普通のISならば当たる間合いでもあれは避けてくる。
スラスターの出力が尋常ではないほど高く、しかも鈴が衝撃砲で注意をひきつけても一夏と俺の攻撃には回避を最優先にしてうまく立ち回られている。
「二人とも!離脱、早くッ!!」
「お、おう!」
敵は攻撃の回避をした後いつも反撃に転じてくる。
しかしその方法が異常だ。でたらめに長い腕をコマのように振り回しながら接近してくる。しかもその時レーザーで射撃まで行ってくるのだから手に負えない。
「あぁっ!!もう、めんどくさいわねコイツ!」
鈴が焦れたように衝撃砲を展開、砲撃を行う。
衝撃砲の砲弾は敵の腕に叩き落されるがその隙をついて俺たちは離脱。さきほどからずっとこのパターンだ。
「で、どうすんの?このままやってても埒があかないわよ!?」
「逃げたきゃ逃げてもいいんだぜ?」
「なっ!?あたしはこれでも代表候補生よ!逃げるわけないでしょ!!」
「そうか、じゃあ、お前の背中くらい守ってやるよ」
「え?あ、うん・・・ありがと―――」
「敵の前でいちゃつくなアホが」
「痛っ!!」
目の前で赤くなって被弾しそうになっている鈴(アホ)の頭をどつき、レーザーの射線から外した。
次いでレーザーが雨のように襲い掛かるのを再度散開しかわす。
「なぁ、あいつの動きって何かに似てないか?」
「何かってなんだよ?」
「いや、なにかというより・・・・機械じみてないか?動きが」
「ISは機械よ」
「そうじゃなくてさ、あれって本当に人が乗ってるのか?」
「は?人が乗らなきゃISは動かな―――」
鈴が一度言葉をとめる。
「―――そういえばアイツってあたしたちが話してるときはあんまり攻撃してこないわよね。まるで興味があるみたいに聞いてるような・・・」
たしかに今までの戦闘を思い返してみるとそうだ、俺が合流した時もいつ撃ってきてもおかしくはなかったのに撃ってきたのは大分後だ。
「ううん、でもありえない。ISは人が乗らないと絶対に動かない。そういうものだもの」
確かに鈴の言うことはもっともだ、ISはそういうものだ。女性が乗らなければ動かない、女性にしか動かせない兵器。
しかし目の前にはそのありえないをこなしている男がいる。ならばあれが無人機でもなんらおかしくなく思えてくる。
「なるほどな、で?無人機だったらどうなんだ?」
「だ、弾?何言ってんの、ありえないわよそんなの」
「男がIS動かす時代だぜ、ありえる話だと俺は思うけどな」
「で、一夏。どうなんだよ」
「あぁ、人が乗っていないなら容赦なく全力で攻撃しても大丈夫だ」
自信に満ちた表情で言い放つが正直不安要素が多い。
「なにか策ありって表情だが、当てられんのかよ?」
「次は当てる」
「言い切ったわね。じゃああたしはありえないと思うけど、あれが無人機と仮定して攻めていきましょう」
鈴が不敵にもにやりと笑う。中学時代に良く見ていた表情だ。
詳しく言えば『下手こいたら駅前のクレープを奢れ』という表情だ。
懐かしさを覚えるとともに昔に感じた頼もしさも感じる。
「なに笑ってるのよ弾、こんなときに」
「悪いな、鈴のその顔もひさしぶりでさ。で、俺らはどうすればいい?」
「弾は俺の後に続いて攻撃をしかけてくれ、鈴は俺の合図で衝撃砲をアイツに撃ってくれ。最大威力で」
「?いいけど、当たらないわよ?」
「いいんだ、当たらなくても」
「じゃあ、行きますか―――」
俺と一夏が突撃姿勢に入ろうとした瞬間、ピットのほうから声が聞こえた。センサーが捉えて増幅したその声は―――
「一夏ぁっ!!」
「し、篠ノ之さん!?」
「な、何してるんだ、お前・・・」
「男なら・・・男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!!」
「・・・箒」
ピットの先のほうで一夏に声援を送る篠ノ之さん、だけど生身でここに来るなんていくらなんでも危険すぎる。
「・・・・・・・・・」
現に今、敵は篠ノ之さんの方へゆっくりと振り向いた、生身の相手にどう反応するのかは分からないが、最悪の事態になってからでは遅い。
「一夏っ!」
「分かってる!鈴、やれ!!」
「う、うん!」
衝撃砲を構え狙いを定める鈴、しかしその射線上に一夏が割って入った。
「ちょっと馬鹿!なにやってんのよ!どきなさい!!」
「いいから撃て!」
鈴は戸惑っていた、けれど俺にはわかった。一夏の考えが、一夏の言っていた策が。
玉鋼を操り、白式のスラスターに着地する。
「弾!」
「おうよ!!受け取れ!!」
一夏の狙っているのはイグニッション・ブースト、だが普通のイグニッション・ブーストじゃない。
イグニッション・ブーストは内のエネルギーを外に出し再度取り込み圧縮、そのエネルギーを使い加速する。
それならば―――
『外から得たエネルギー』でも加速に利用することが可能ということだ。
目の前にウィンドウが現れる、今まで練習でいくらやっても出なかったがここぞという時に間に合ってくれた。
『単一仕様能力:弾(ハジキ)発動準備完了。IIS:玉鋼(タマハガネ)脚部充填エネルギー 右:残8 左:残8 エネルギー充填まで0:00』
俺は惜しみもなくありったけのエネルギーを一夏のスラスターに叩き込む。白式のスラスター翼がきしんだような音を立てて光を放つ。
「行けっっ!!一夏ぁ!!!」
爆発的というよりもっと荒々しく、白式が加速する。IISのセンサーでさえ追うのがやっとなほどに。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
一瞬で敵まで到達しそのままの勢いで右腕を切り裂く。しかし敵は右腕を切られたことに反応を見せずに一夏に反撃を仕掛ける。
左の裏拳が決まる。敵の作ったクレーターの壁面に叩きつけられた一夏、さらにそのまま追撃として左のレーザーを撃つ気らしい。
「「「一夏!!」」」
俺と鈴と篠ノ之さんの声が重なる。
俺たちの叫び声に構いもせずにレーザーは放たれた。標的を正確に捉え撃ち抜く。
ただし撃ち抜かれたのは一夏ではなく敵のほうだった。
「今のレーザーは、もしかして―――」
「ギリギリのところでしたわね、一夏さん。皆さんも、わたくしがいないとやっぱりダメですわね」
ピットにいる篠ノ之さんの後方、こちらからは影で見えにくい位置にセシリアはいた。敵に悟られない位置から必殺の一撃を寸分違わず敵の中心に決めてきた。
さすが代表候補生、と言ったところか。
「わたくしがたまたま箒さんを探しにピットまで来ていなければ、どうなっていたことやら。でも本当に箒さんは勝利を呼び寄せる力でもあるんでしょうか?箒さんがここに来なければあぶなかったですわよ、ほんとうに」
「ははは、なんたって篠ノ之さんは『勝利の女神』だからな」
「弾!おまえなぁ、そのことほじくり返すなって言っただろ!」
「・・・・・・・・・」
セシリアの言葉に冗談を加えて返す。篠ノ之さんは顔を赤くしてこちらを睨んでくるし、一夏も言葉の割りに顔は笑っている。
全員無事に戦いを終えられたことに感慨を覚える。
(良かった。本当に、良かった・・・)
「そうですわ、弾さん。先生からの伝言ですけれど―――」
俺たちは全員が安堵し、もう全てが終わったと思っていた。いうなれば油断していたのだ。
気づいたのは鈴だった。
「一夏!まだあいつ動いてるっ!!!」
俺達が慌てて敵ISのほうに振り向くと、左腕だけを動かし強引に一夏を狙っていた。
一夏は零落白夜のせいでもはやシールドエネルギーが尽きていてもおかしくないほど消耗しているはず。
(その状態でくらったら!)
「避けろぉ!一夏ぁ!!」
しかし一夏はためらう素振りもなく、敵に斬りかかる。
閃光が迸り、轟音がアリーナに響く。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試合後の医務室、私は一夏の見舞いに来ていた。
目の前には全身に軽い打撲を負った馬鹿が一人。
「あの~、箒さん?」
「・・・馬鹿者が」
そして私を守るためにこんな傷を負ったものにこんなことを言う私も大概馬鹿だ。
「なぜあの時、奴に斬りかかった!なぜ避けなかった!そもそもお前が戦う必要などなかった!先生方に任せておけばよかったのだ!それなのに、それなのにお前は・・・!!」
それでも言葉が出てしまう。本当は他に言いたいことがいっぱいあるのに、私の口から出るのは叱責の言葉ばかりだ。
「箒・・・もしかして、心配してくれてるのか?」
「・・・・・・!!」
なぜこの馬鹿はいつも鈍いくせに、こんな時にだけ鋭いのだ。私が言いたくても言えなかった言葉をこうも容易く心のおくから引き出せるのだ。
「おい、箒?泣いて―――」
「うるさい!心配して何が悪い!!お前が危険な目にあっていたのだ、心配するに決まっている!!それなのに、それなのにお前は・・・お前は・・・」
そこからは言葉にならなかった、ぼろぼろと両目から涙が溢れ、嗚咽でうまく話せなかった。
私はひどい女だ、守られて、心配されて、それで一言の感謝も述べられない。
「ゴメンな、箒。いつも心配かけて、ほんとゴメン」
頭の上に感触。やさしく暖かく、強い手のひらの感触。
一夏は痛むであろう体を動かして私の頭を撫でる。まるで子供をあやすように。
子ども扱いなど嫌なはずなのに、ひどく心地いい。
(違う、謝るのは私のほうだ・・・違うんだ、一夏)
一夏はその後も私が泣き止むまで頭を撫で続けてくれた。
心が落ち着き、涙も出なくなり、嗚咽が止まる頃にゆっくりと一夏の手が頭を離れる。
「一夏・・・その、ありがとう。私を助けてくれて、頭を撫でてくれて」
いつもと違い、自然と言葉が出てくる。泣いてすっきりしたせいだろうか?
「・・・・・・・・・」
「なんだ、その顔は?どうかしたか?」
「いや、箒が『ありがとう』なんて言うの久しぶりに聞いたからさ。ちょっと驚いて」
「・・・そうだな、私も素直に言えて驚いているよ」
一夏と再開してから、いやその前から私は一夏に感謝の言葉を口にしたことがあまりなかった。
つまらない意地をはったり、プライドや、気恥ずかしさが邪魔をしていた。
「それでは、私は先に部屋に戻らせてもらおうか」
「あぁ、見舞いに来てくれてありがとうな」
私は席を立ち扉に向かうが一つ言い忘れていたことがあったのを思い出した。
「そうだ一夏」
「ん?」
「戦っているお前の姿、格好よかったぞ」
一夏の反応を見ずに扉を開ける。
たまには心のままに言葉を口にするのも悪くないのかもしれないな。
一巻の時点で人物の内面がかなり変化していますね。
まぁIFものなので気にしない、むしろこのSSのテーマに近いかな。
セシリアが箒のことを名前で呼んだり、箒が大分素直だったりしますね。
ちなみに投下開始と投下終わりをageることにしました。
それではこれにて
乙
帰省した実家からの投稿でございますよ。
では始めます。
「やぁ、篠ノ之さん」
「一夏さんの様子はどうでしたか?」
「・・・お前たちは何をしているんだ」
扉を出た瞬間に五反田とセシリアに声を掛けられた。もしかしてこいつらは今までの話を聞いていたのか?
「ちょっと待って篠ノ之さん。どこから出したかわからないその木刀をしまってくださいお願いします」
「お前たちは何をしているんだ?」
「これは答えなければ切られるのではないのですか?」
「マジな目してるぜ、真剣と書いてマジ」
「弾さん、言葉ではそのボケは通用しませんわよ」
こいつらは私に殺されたいのだろうか?上段に構えて木刀を強く握る。
いつでも五反田とセシリアの頭をかち割る準備ができた。
「一夏の見舞いに来ました。セシリアも同じです、本当ですので木刀をしまってください」
「それならそうと早く言え。というより入らないのか?」
「あぁ、そうなんだけどさ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
五反田もセシリアも気まずそうな顔をしている。
思えばさっきまでの態度もなにか誤魔化しているような雰囲気もあった。なによりセシリアが冗談に乗ってくることも珍しい。
「なにか事情があるのか?」
「・・・あの時、俺がもう少し気を張ってたら、一夏も怪我しなかったかもしれない。そう思うと入りづらくてな」
「わたくしも、あそこで仕留めきっていたなら一夏さんは怪我をしませんでしたわ」
(そうか、二人ともあの時のことを―――)
あの時のことは私も気にはしていた。私があそこに行かなければ、一夏が怪我をすることもなかったのではないかと。
だが―――
(こんな時に、私はどうすればいいのかわからない。どう声をかければいいのだ)
こういう時、自分の口下手なところが嫌になる。友人が困っているのに気の利いたことひとつ言えやしない。
私がそうして戸惑っている中、背中側から声を掛けられた。
「ちょっと、扉の前で話さないでくれる。通れないんだけど」
腰に手を当てて、いかにも迷惑ですと言わんばかりの表情でこちらを見てくる。
「鈴・・・」
「どいてくれる?」
「あ、ああ。すまない」
「それと・・・」
鈴はすばやい動きでセシリアと五反田の後ろに回り、襟首を引っつかむ。
「さっさと行くわよ」
「ちょっ!おい鈴!」
「り、鈴さん!?」
「申し訳ないな~とか思ってんなら面と向かって謝ればいいでしょ。弾も昔から気にしなくていいとこ気にする癖治ってないじゃない」
そのままずるずると医務室の中へ二人を引きずりこんでいってしまった。廊下にポツンと私一人だけが残された。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺とセシリアは、抵抗することも出来ず鈴に医務室の中まで引きずり込まれてしまった。
「弾とセシリアも来てくれたのか、ありがとう、うれしいぞ」
「「・・・・・・・・・」」
「ほら、なんか言いたいことあんでしょ!」
いきなり一夏の前に立たされて、後ろからは鈴にはたかれている。
「あ~、その、なんだ。・・・すまなかった。俺らが、もっとしっかりしてりゃそんな怪我しなくてすんだはずだ」
「わたくしも、あの時仕留めきっていればこんなことには・・・」
「う~ん、そんなこと言うなら俺がもっと強ければこんな怪我しなかった、って理屈も通るじゃねえか。謝らなくていいんだよ馬鹿」
ニッ、と笑って言う一夏だったが傷が痛むのかすぐに顔が引きつる。
「お前って奴は・・・まぁこんな感じに返してくるとは思ったが、謝り甲斐のないやつめ」
「なんだよ、褒めるなって」
「褒めてねえよ、断じて褒めてねえよ」
「?」
一夏は何がなんだかわからない、といった表情を浮かべている。
「だから、言ったじゃない。謝ったってこんなとこよ、特にこの馬鹿にはね」
「ば、馬鹿とは何だよ、俺が何したって言うんだよ」
「あんたなんで自分が医務室にいるのか分かってないの?」
「・・・返す言葉もございません」
「というより、鈴がいなければ棺桶の中にいたかもしれんのだぞ。礼は言ったのか?」
「げぇっ、関羽!?」
「誰が三国志の英雄か、この馬鹿者」
いきなり声のした方向に立っていたのは三国志の英雄ではなく、篠ノ之さんだった。そりゃこんなところに関羽がいるわけもないしな。
そして先ほど篠ノ之さんが言ったことについて。
実はここにいる人物の中で一番、一夏の役に立ったのは鈴だ。
「それで鈴がいなければって、どういうことだよ?」
「覚えてないのも無理はない。一瞬の出来事だったからな」
「一夏さんに向いていた敵の攻撃を、鈴さんが衝撃砲でそらしたんですの。直撃を食らっていれば命はなかったと聞いておりますわ」
「ちょ、ちょっと!そのことは言わない約束でしょ!」
「そうなのか?鈴」
「う、うぅ・・・・・・」
不意打ちをもろにくらい、鈴はうつむいて顔を赤くしている。
そんな鈴をほほえましい表情で見ているセシリアの隣から離れて、俺は篠ノ之さんの横に移動し、こっそり話しかける。
「篠ノ之さん、いいの?」
「何がだ?」
「鈴のポイントが上がるのが」
周りから見れば一夏のことを篠ノ之さんと鈴が好きなのは明らかで、つまり二人は恋敵なわけだ。お互いそれを自覚はしてると思う。
なのに篠ノ之さんが鈴をフォローしたことに疑問を感じたわけだ。
「お前が何について言っているのかはわかりかねるが、ようは鈴のしたことを一夏に教えた理由を知りたいわけか」
「・・・まぁそういうことかな」
篠ノ之さんは何を言うか迷うように少し間を開けて口を開いた。
「友人たちを助けてくれたからな。その礼がわり、といったところだ」
「え?」
篠ノ之さんはそれきり、何も言わなかった。一夏やセシリア達のいる方に視線を向けて、もう言うことはすべて言ったと態度で語っていた。
(鈴が一夏を助けたことについて?でもそれなら『たち』はおかしいよな・・・ということは―――)
医務室の前での出来事が頭の中をよぎる。確かに俺とセシリアは鈴のおかげでうだうだした悩みは吹き飛んだ。
助けられた、と言わないでもない。
(じゃあ篠ノ之さんの言っていた『たち』は俺とセシリアも指した言葉だったってことか)
そう思うと途端にうれしくなってくる。
学校生活の中で、篠ノ之さんとは最初のころから一夏を含め三人でいることが多かった。
途中からセシリアも加わって、四人で飯を食ったり、勉強をしたり、ISの訓練をしたり。
一夏はもちろんそうだが、今では篠ノ之さんもセシリアも大切な『友達』なのだ。
(初めて篠ノ之さんの口から、友達だって言ってくれた・・・)
あの謎のISと戦った時のように、言葉にしなくても通じる絆もある。
けれど、言葉にして確認したい時だってある。
俺は少し不安だったのかもしれない。自分だけが友達だと思っているんじゃないかと。
「篠ノ之さん」
「ん、なんだ?」
「鈴は思ったことそのまま口に出しちまうから、篠ノ之さんを怒らせちまうこともあるかもしれない。けど根はいいやつなんだ、本当にいいやつなんだ」
「あぁ」
「だから仲良くしてほしい。二人とも、俺の友達だから」
「言われなくてもそのつもりだ」
こちらに視線は向けず、篠ノ之さんは口角をほんの少し上げて笑った。
おそらく、篠ノ之さんは気づいていないだろう。
俺も篠ノ之さんに、直接『友達』だとは言ったことがなかったことを、さっきのあれが初めてだということを。
「なぁ弾、箒。俺が快復したらみんなで遊びにでも行かないかって話になってるんだけど、二人もくるよな?」
「ん、そうか。なら私も行かせてもらおう」
「行くに決まってるだろ、仲間外れにでもするつもりだったのかよ」
このIS学園に入ってから色々なことがあった。
入学式では千冬さんに一夏ともどもぶったたかれた。
最初は篠ノ之さんのことがすげー怖かった、正直今でも怖いときがあるけど。
セシリアの第一印象は最悪だったな。まさか友達になれるとは思わなかった。
鈴が転校してきたことにはかなり驚いた。しかも代表候補生になってるなんて。
(そんでさっきの謎のIS、よく全員無事でいられたもんだ)
あのISが何者なのかはわからないが、俺たちの誰かが命を落としていた可能性もたしかにあったのだ。
けれど、俺たちは一人も欠けずにこうやって話せている。
(入学した当初はどうなる事かと思ってた学園生活だけど―――)
「・・・最高だ」
「弾、何か言ったか?」
「いや、何も」
以上で投下終了でございます。
ぶっちゃけ本家より好きだ。特に弾×セシが俺得すぐる。
ここからはあとがきのようなものとさせていただきます。
まずは原作一巻分まで終わりとなりました。次からは番外編を挟んで二巻分に入っていく予定であります。
最終回みたいな終わり方ですが最終回ではありません。まだ続きます。
原作を再構成するだけだから楽だろう、と気軽な気持ちで始めた当SSですが、思いのほか変更したい点が多かったり省くシーンの選択が難しかったり、思ったよりもここまでの道のりは長かったです。
しかし今日まで書き続けて自分も楽しめましたし、読んでくれている方もいるようで充実した毎日でした。
これからもこのSSをどうかよろしくお願いいたします。
それではこれにて
乙
ワンサマーのウザさがかなり軽減されてていいね
弾さんがこの世界の男の意地って感じでかっこいい
乙 これで一巻までの話は終わりか…
シャルとラウラの扱いはどうなるのか楽しみだ
番外編の投下を開始しますよ
番外編の投下を開始しますよ
バッチこい
待機
エラーで書きこめてないと思ったらこれだよ。
家の中に入ってきたトンボを逃がしていたらこんな時間に
投下開始します。
番外編『一夏快復記念』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
どうしてこうなった。俺の頭の中で何度もその言葉が反芻される。
(どうしてこうなった!どうしてこうなった!どうしてこうなった!どうしてこうなったぁあああ!!)
「あっ!んっ、だめぇ!!弾さん許して・・・ハァ・・・くださ、い・・・」
ちょっと待ってほしい、今俺の前で嬌声をあげて息も絶え絶えになっているのは紛れもなくセシリアだし、名前を呼ばれたのはこの俺、五反田弾だ。
しかしここで誤解しないでほしいのは、俺がセシリアに指一本触れていないし、いやらしいことなど一切していないということだ。
「ハァ・・・ハァ・・・どうして、こんなことなさるの、ですか?」
「いや・・・どうしてって言われても。セシリアがやりたいって言ったんじゃねえか」
「ですが・・・こんなに、激しいものとは・・・ハァ・・・知りませんでしたもの」
(いやいやいやいや!!!激しくないですからね!なんにも激しいこともやらしいこともしていませんよ!!)
だって俺たちがやっていることは―――
『IS/VS』(インフィニット・ストラトス/ヴァースト・スカイ)
世界中でモンスターヒットを叩き出した、大人気『格闘ゲーム』である。
ISの世界大会、モンドグロッソのデータをもとにした各国の代表ISを操って戦う。
いかがわしい要素や、あんな息が乱れて大変エロイ状態になる要素もないはずのゲームなのだ。
(一度最初から思い返そう、今日一夏の快復記念にみんなで遊ぶことになって―――)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「外はあいにくの雨、今日出かけるのは無理そうですわね」
「でもせっかくみんな集まってるんだし、誰かの部屋で遊ばない?」
昨日、一夏の怪我が完治したので医務室で言っていたとおり皆で遊びに行こうと思っていたのだが外は雨がかなり強く降っている。
「じゃあ一夏の部屋行こうぜ。置いてるものが少ないし」
「では各自遊べるものをもって一夏の部屋に集合だな」
「あっ、飲み物とかも持ってきてくれると助かる。今何もないんだ」
どうやら先日、一夏と篠ノ之さんは同室ではなくなったらしく今一夏は二人部屋を一人で使っている状態にある。
なのでほかの面子よりも部屋を自由に使えるので、遊ぶなら一夏の部屋に集まるのがこの頃の俺達の常になっていた。
ちなみに俺は寮の空いていた物置を改装してほかの部屋と同じくらいの設備にしてもらってそこで暮らしている。
ただ元物置なので一人分のスペースしか確保できなかったので、自動的に一人部屋だ。
「それでは一旦、解散ですわね」
セシリアの一言で俺たちは各々の部屋に帰り、思い思いのものを一夏の部屋に持ち寄った。
俺の部屋は寮の端のほうにあるので案の定、一夏の部屋に着いたのは俺が最後だった。
「おっそーい!弾、あんた罰ゲームね」
「何ぃ!?聞いてないぞそんなルール!」
「だってあんたが来てない間にみんなで決めたんだし、知ってたら怖いわよ」
「俺はお前らのほうが怖いわ!何そのいじめ!みんな俺のことキライなの!?」
ちょっと涙出そうになった。俺の部屋が一番遠いのわかってるだろう、ここにいるメンバー。
「まぁ冗談はさておき、弾は何持ってきたんだ?」
「俺の部屋も食い物とかはなかったからな、ゲームを持ってきた。ソフトはそこまでないけどな。みんなは?」
「わたくしは飲み物などを持ってきましたわ。あいにく遊べるようなものは持っていませんでしたので」
セシリアは飲み物か、少しだけどお菓子も用意しているようだ。けど包装とかが異様に豪華なんだけど・・・
値段は聞かないでおこう。
「私は花札、トランプ、UNO。あとは同室のものが菓子の類と、う”、う”ぁんがーど?というものを貸してもらった」
篠ノ之さんはカードゲーム類か。最後のはたしかにカードゲームだが同室の子はどういった意図でそれを篠ノ之さんに渡したのか・・・
ここにいるやつであれ知ってるやついるのか?
「あたしは麻雀のみ!」
「だけかよ!」
「弾もゲームだけでしょうが!」
「そうでした、すいません」
俺はゲームを机の隅の方へ置き、ベッドの空いているスペースに腰をかけた。
皆も適当にバラけて座っている。
「で、まずは何やるよ?」
「最初はトランプとかでいいんじゃないか?みんなわかる遊び方多いし」
「人数も多いことだし、大富豪あたりが妥当なんじゃない?」
「いいけど。名前的にセシリアが強そうなゲームだよな、大富豪って」
「ふふふ、実力でも大富豪になってみせますわ」
「では、配るぞ」
持主である篠ノ之さんがみんなにカードを配り、スペードの3を持っていたセシリアからゲームが開始された。
俺の手札にはジョーカーや2はないものの、ほかの手札は優秀で大富豪は無理でもうまくやれば富豪になれるかもしれないくらいの手札だった。
そして結果なのだが。
「わ、わたくしが・・・大貧民・・・・・・」
もちろんセシリアが最下位だった。
そりゃゲームの始まる前にでっかい敗北フラグを造作もなく建ててたからな。
しかも勝負に出るときは決まって声高に宣言するもんだから、皆そこを潰しにかかる。
途中から皆でセシリアをいじめているような錯覚に陥ったが、最後まで手は抜かなかった。
俺を含めてひどい連中だと思う。
「篠ノ之さんが一番大富豪率高かったよな、強すぎだろう」
「いつもの固っくるしい表情のままだもんね、読めないわそりゃ」
鈴はなんだかんだ言いながら富豪の位置にちゃっかりつくことが多く、大半は俺と一夏で平民と貧民の位置を争っていた感じだ。
大富豪もそれなりに楽しんだので次に何をやるか、という話題でだべっているとゲームソフトをあさっていた一夏が。
「おっ!『IS/VS』じゃん!弾、ちょっとやってもいいか!?」
「でもそれ二人用だろ?三人が暇になるじゃねえか」
俺はそのことも踏まえて部屋に置いてきたと思っていたのだが、どういうわけか持ってきたソフトの中に紛れ込んでいたようだ。
「別にいいんじゃない?ISのゲームなんだからここにいる面子で興味がないやつなんていないでしょ」
「ISのテレビゲーム?わたくしもそれなら少しばかり興味がありますわね。説明書きではモンドグロッソの出場者を操れるのでしょう?」
「私は別に見るだけでも構わないぞ。人が遊んでいるのを見るのもそれなりに楽しいからな」
鈴はともかく、セシリアと篠ノ之さんも興味を示したことは意外だった。セシリアに至ってはパッケージを開けて説明書を読んでいるほどだ。
「う~ん、それなら・・・やるか?」
みんながいいならば俺も嫌がる理由もないのでさっさと準備に取り掛かる。
一夏と鈴も手伝ってくれたおかげか五分もしないうちに、準備は終わった。
「じゃあ一夏!久しぶりに相手しなさいよ!」
「いいぜ、鈴がいない間も弾と特訓を重ねた、新しい俺を見せてやる」
「負け抜けルールな、勝ったやつは連戦」
「あっ!いきなりイタリア使うとか卑怯よ!」
「はっはっはっ、真剣勝負に何を言うか!ってそんなこと言いながらイタリア殺しのスペイン選ぶなよ!」
「真剣勝負なんでしょ、先に選んだあんたが悪い」
この後の勝負の結果はもちろん言うまでもない。
「ふっふーん。一夏もまだまだね」
「ち、ちくしょう・・・」
「前座は下がってな、真打ち登場だ」
「何が真打ちよ、モブキャラ顔してるくせに!」
「・・・久々にキレちまったよ。ちょっと本気を出させてもらうぜ」
鈴は言ってはならないことを言ってしまったようだな、たとえるなら鈴に『貧乳』と言うようなものだ。
口にしたが最後のアンタッチャブルワード。俺はゲームを入れてきていたカバンから秘密兵器を取り出す。
「なっ!それはアケコン!?」
「俺と一夏はアケコンの方がやりやすいからな、持ってきておいてよかったぜ」
「・・・弾、なぜ最初から出しておいてくれなかったんだ」
「くっ!でも本来の実力を発揮できたところで、あたしとの力量の差が埋まるわけではないわ!」
「おい」
「くっくっく、あの頃の俺とは違うのだよ!!」
「おい」
今、俺と鈴の決戦の火ぶたが切って落とされようとしていた。
「おい」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ううう、まさか弾に負けるなんて・・・」
「俺も日々進化しているのだ、男子三日会わざれば刮目して見よ」
本気で悔しがっている鈴を前にして、気分はいいもののかなりの接戦だった。
かなり特訓したのに実力的にいえば五分五分くらいだろう。鈴も中国で練習を重ねていたのかもしれないな。
「おい」
「次はわたくしの番ですわね!」
「え?」
先程から一言もじゃべらずに黙々と説明書を読んでいたセシリアが、いきなり声を上げた。
ずいぶん熱心に読んでいるな、とは思っていたがまさかやるつもりだとは思っていなかった。
「セシリアって格ゲーの経験あんの?」
「いえ、これが初めてですわ」
「よくそれであたしらとやろうって気になったわね・・・弾、やってやりなさいよ」
「えっと・・・いいのか?」
「現実を見せといた方がいいでしょ。それで折れなかったら『布教』して仲間にしちゃえばいいんだし」
「もちろんわたくしはイギリス代表を選択しますわ!」
セシリアは鈴からコントローラーを受け取ると明らかにゲーム慣れしていないであろう、おぼつかない手つきでキャラくターを選択していた。
しかもセシリアの選択したメイルシュトロームはこのゲームで弱キャラとして有名である。
使いづらく、使いこなしたところで大して強いわけではないという不遇のキャラなのだ。
「んじゃ俺はアメリカでも使うかな・・・」
「俺もそろそろ泣くぞ」
勝負の結果は予想通り、セシリアを俺がフルボッコにして試合終了した。
初心者相手に大人げないとは思うが、この程度のことは乗り越えなければ格ゲーをやってもうまくなれないだろう。
しかしプライドの高いセシリアのことだ、どうせ―――
「も、もう一度ですわ!再戦を申し込みます!このわたくしがなにもできずに負けるなんて・・・くやしいですもの!!」
「まぁセシリアだからこうなるだろうとは思ったんだけどね」
「わかってて俺にやらせたのかよ」
「弾もそれがわかってて手を抜かなかったんでしょ?」
「それもそうだけどよ」
「もう一回!早く早く!わたくしの準備はもう終わってますわよ!」
それにしてもセシリアがこんなに熱くなっているのを見るのは久しぶりなような気がする。
確かにプライドは高いままだがもう少し落ち着いてきていたと思っていたんだが。
「それでは行きますわよ!次こそは勝ちますわ!」
「セシリア、試合前にアドバイスしておくけど最初はAとかBで牽制してガードすることを重視しなさい。それができるようになれば少しはマシに戦えるわよ」
「コンボの方は教えなくてもいいのか?」
「今教えても無駄でしょ、基本操作になれるのが先よ」
「それもそうだな」
それから何度か鈴と交代でセシリアと対戦していたがやはり、というべきか上達速度は目を見張るものがある。
もともと頭もいいので俺と鈴の教えることをすぐに吸収し、応用までしてくる始末だ。
これは追いつかれるのはそんなに先のことではないのかもしれない。
しかしそんなセシリアでも何度教えてもうまくできないこともあった。それは―――
「あぁもう!コントローラーを振り回さない!危ないでしょうがっ!!」
「ちょっと待て!それ以上体を傾けたら倒れるぞ!」
「そんなこと・・・ハァ・・・言われましても。ハァ・・・痛いっ!・・・無意識にやってしまうんですもの」
レースゲームとかで体を傾けたり、ダメージを受けたら反射的に声をあげてしまう人がいるが、セシリアはもろにそれだった。
コントローラーを振り回し、ダメージを受けたら声を上げ、集中しすぎて体が倒れそうになる。
幸いコントローラーはワイヤレスなのでコードが絡まる心配はないが、声を出しながらぶんぶんと腕を振っているからか息が上がってきている。
(そして一番つらいのはセシリアのキャラがジャンプするときとしゃがむ時)
「ええい!!」
画面上でセシリアのキャラが鈴のキャラの下段突進をジャンプでかわし、反撃を試みる。
俺はその先を見ることなく、セシリアの方に首だけを高速で向けた。
(・・・やはり揺れている。確かに揺れている。揺れている・・・)
コントローラーを上に振り上げるのでその際に揺れるのだ、『何が?』なんて聞くなよ。
野暮になる。
その後も俺がセシリアに教えたり、鈴が教えてる間に揺れているのを観察したりしていたが、いよいよセシリアも疲れてきたのでそろそろやめようかと考え始めた時に、それは起こった。
「り、鈴さ、んハァ・・・ひゃうん!!」
明らかに格ゲーをしていて出るような声ではない声がセシリアの口から漏れだした。
「ちょっと!セシリアなんて声出してんのよ!」
「えっ?」
これも自覚なしであんな声を出しているようだ。しかもだんだん『ああいう声』を出す比率が高くなっている。
疲れてくるとこうなるのか?いや、ISの練習中はこんなことなかったし・・・
「あっ!んんっ!!ハァ・・・ハァ・・・また、負けてしまいましたわ」
「セシリア、今日はここまでよ。これ以上やると色々危ないわ」
「わたくし・・・ハァ、ハァ・・・まだできますわよ」
「駄目よ、これ以上はいけないわ」
「ですが・・・」
セシリアは負けたままでは食い下がれないのか、まだやめたくないようだ。
しかしこのままでは色々とやばいので(セシリアの体調的な意味です、他意はありません)もうゲームはやめさせなければならない。
「セシリア」
「なん・・・ですの?」
「偉い人は言いました。『ゲームは一日、一時間』って、だから今日はもうやめておこうぜ、ゲームなんてまたできるしさ」
「そんなハァ・・・ハァ・・・言葉が・・・でしたら、わたくしはその言葉に従いましょう」
「そうか、なら―――」
「そう、ですわね・・・ハァ・・・あと一回、くらいならできる・・・ハァ・・・計算になりますわ」
「・・・・・・・・・」
なんてこった、もう一時間過ぎてると思ったら、そこまではしていなかったようだ。
「・・・しかたないな、一回だけだぞ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして今に至る。
「弾」
「なんだよ、鈴」
セシリアの声に苦戦しながらも(精神的に)なんとか勝利を収めた俺は、ベッドの端のほうで座ってぐったりとしていた。
鈴は同性だからか元気だったが、当のセシリアは疲れたのかベッドに倒れこんでぐったりとしている。
「なんであんた前かがみなわけ?」
「・・・・・・・・・男だからだ」
「くたばれ」
「はい、誠に申し訳ありません」
正直、殴られても文句の言えない状況だが鈴のやつは優しいので辛辣な言葉だけで済ませてくれた。友情って素晴らしい!
「そういえば一夏は何してんの?姿が見えないんだけど」
「一夏なら外でいじけているぞ」
「あっ、箒!もしかしてあんた一夏と二人っきりになるために・・・」
「お前たちが無視してたからだろうが、私はそれを慰めていただけだ」
「それならあたしも外に行こうっと」
言うが早いか、鈴は素早く立ち上がりドアを開けて外に飛び出して行った。
しかし一夏を無視した?そんなことはした覚えがないんだが・・・
「それでは私も一夏のところに戻るとしよう。このジュースはもらっていくぞ」
「うん、それはかまわないけど。俺も行こうか?」
「別に来るのはかまわんが・・・いや、お前はここに残れ、セシリアが一人になるだろう」
「そうだな、セシリアも今は疲れてるみたいだし。誰か残った方がいいよな」
「それでは頼んだぞ、では行ってくる」
篠ノ之さんもジュースの缶を三つもって扉から出て行った。
あとで一夏に何があったか詳しく聞かないとな。俺たちが無視してたなんて何かの間違いに決まっているからな。
「・・・弾さん」
「お、なんだセシリア、だいぶ息が落ち着いてきたじゃないか」
先程まで息も荒く、顔も赤かったセシリアだが今は少し頬に赤みが差しているくらいでいつもとほとんど変わらないくらいに戻っていた。
「ええ、おかげさまで。ところで皆さんは?」
「聞いてなかったっけ、一夏のところ。なんだかいじけてるんだってよ」
「弾さんは行きませんの?」
「セシリアを一人にするわけにはいかないからな、俺は残ったんだ」
というより篠ノ之さんに言われて残ったんだけどね。
「紳士ですのね」
「お褒めにあずかり光栄です、お嬢様」
「ふふふ、全然似合ってませんわよ」
「そりゃそうだ、イケメンじゃねえとこんなキザなセリフにあわねえよ」
「え、あの・・・違いますわ。だ、だ、弾さんはカッコイイですもの!ただ優男のような言動が似合わないと思っただけで・・・」
セシリアはしどろもどろになりながらも俺をフォローしてくれる、冗談のつもりだったんだけどな。
「はいはい、気を遣ってくれてありがとな」
「ううう・・・違いますのに」
「その調子じゃ、本当に大丈夫そうだな。一夏のところにでも行くか?二人も行ってるし」
「え?あ・・・あの、もう少しゆっくりしていきませんか?その、二人きりでお話などしたり」
もう大丈夫だと思っていたけど、まだ本調子ではなかったのかな、と思った。
セシリアの様子がいつも通りならそう思えただろうけど―――
(また、『二人きり』か・・・それに、さっきより顔が赤くなってる)
セシリアが返事を求めるように向けてくる視線も、何か意味があるのではないかと勘ぐってしまう。
(深い意味はない。俺とセシリアはただの友達。なにもやましいことはない、はずだ)
「そうか、セシリアもまだ本調子じゃないんだよな。なら少し休んでいこうか」
「はい。日本では言いだしっぺの法則、というものがあると聞きましたわ。ならわたくしから話題を提供させていただきます」
だから、だからこんなに嬉しそうに話をするのは、友達だからだ。篠ノ之さんや、鈴や、クラスメイトや―――
(一夏にだって・・・・・・・・・)
胸の奥の方、現実にはないはずの痛みが、俺を苛む。だがそんなものは幻想だ、本当にはないものなのだ、この痛みと同じように。
「弾さん?聞いてらっしゃるの?」
「聞いてるにきまってるだろ?転校生の話だよな、可愛い子だといいけど」
「残念でしたわね、その転校生の方は―――」
以上番外編その1でした。少し休憩を入れて八時くらいまでにその2を投下します。
それでは一旦これにて
ひとまず乙ー
乙!
次回は策士が来るんですね
それでは番外編その2を投下します。
こっちは2レス程度の小ネタですが。
番外編2『篠ノ之さんのわけ』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
朝の教室、いつものメンバーで教室に来てるのは俺と篠ノ之さんだけなので二人でだべりながら他のやつらがくるのを待つことに。
「そういえば五反田、前々から気になっていたことがあるんだが」
「なに?俺にこたえられること?」
「むしろお前にしか答えられん。なぜ私だけは名字で呼ぶんだ?他はたいてい名前で呼ぶだろう?」
「・・・・・・・・・」
「どうした?」
「ほら、篠ノ之さんも俺のこと名字で呼んでるじゃん。だから―――」
「弾、ならばこれからはこっちで呼んでやろう。では改めて答えてもらおう」
「・・・・・・・・・」
「どうした?」
い、言えるわけがない。最初にあったころの怖いイメージがどうしても払しょくできずに名前で呼べないなどと、言えるわけがない。
「ご・・・」
「ご?」
「語呂がいいからです」
「・・・・・・・・・」
「そうか、では私も五反田に戻そう。実は弾と呼ぶのは私も違和感があったんだ」
「それがいいよ、うん、無理をするのはよくないよ」
「そうだな、ところで五反田」
「なんだい篠ノ之さん」
「なんで棒読みなんだ?」
「・・・・・・なんでだろうな、一夏」
「一夏はまだ来ていないぞ」
やっぱり篠ノ之さんは少し怖いよ。
以上で投下終了
次からはシャルル・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒの登場からの予定です。
それではこれにて
乙
ラビッ党に期待
乙
シャルがどっちにつくか…
非常に期待
弾にはセシリア以外いらない
弾とセシリアのあまりに自然なカップルぶりにニヤニヤする
もうずっとイチャイチャしてればいいよ
ラウラちゃんが幸せになれるならどっちでもいいよ
俺もシャルが幸せならそれで…
区切りのいいところまでかけたので投下しますよ。
どこで一回区切るか迷って、もう少しで昼飯のシーンまで書くところでした。
「諸君、おはよう」
「お、おはようございます!」
教壇に山田先生を従えた千冬さんが、こちらを見下ろしながら挨拶を投げかけてくるがその威圧感から、挨拶を強要されているようにも感じる。
「今日は、このクラスに転校生が来ている。詳しくは山田先生から聞け。では山田先生、SHRを」
「はい、えーっとですね、それではさっそく紹介しちゃいましょうか。お二人とも、入ってきてくださーい」
「失礼します」
「・・・・・・」
俺はセシリアからの前情報があったからさほど驚きはしなかった。
しかしクラスのほとんどがその光景に唖然としていた。
なぜなら転校生の片方は、ISを操縦できないはずの『男』だったからだ。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いとは思いますが、みなさんよろしくお願いします」
転校生の一人、シャルルはにこやかな顔でそう告げて、一礼する。
「お、男・・・?」
誰かがつぶやく。
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国より転入を―――」
人懐っこそうな顔。礼儀正しい振る舞いと中性的な整った顔立ち。髪は濃い金色、首の後ろで丁寧に束ねている。服で隠れていてもわかるほどほっそりとした体躯。
印象は『貴公子』といった感じで、特に嫌みのない笑顔がまぶしい。
「きゃ・・・・・・」
「はい?」
「きゃああああああああああああああーーーーーーーッ!!」
轟音がクラス中に響き渡る。先程まで固まっていたクラスメイト達がいっせいに歓声をあげたものだから、声が重なってすごい大音量だ。
「三人目の男子!しかもうちのクラス!!」
「美形!しかも守ってあげたくなる系の!」
「イケメン二人目キターーーーー!!五反田帰れっ!!」
「地球に生まれてよかった~~~!!」
「さっき帰れって言ったやつ誰だ!張り倒すぞコラ!!」
なんかどさくさにまぎれて罵詈雑言を吐きかけられたが、それはさておきアイドル並みの人気だなこれは。
俺や一夏の時でさえ休み時間は質問攻めで、もみくちゃにされたのだからデュノアに至ってはそれ以上になるかもしれないな。
がんばれ、デュノア。
「あー、騒ぐな。静かにしろ」
「み、みなさんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~」
そういえば今日来た転校生は二人だった、今までの歓声の爆音やら罵詈雑言で忘れかけてたけど。
視線をデュノアの右にたたずむ転校生に向ける。
「・・・・・・・・・」
デュノアとは対ともとれる、冷たい、無機質な冷たさを全身から発している。
白に近い銀色で、伸ばしたというより『伸びた』と表現したほうが似合う腰まである髪。
左目は黒の眼帯で覆われ、開かれた右目は赤い。しかしその赤からは温度がまったく感じられない。
印象は「軍人」身長は男としては小柄なデュノアと比べても小さいが、あまりにも鋭く硬い雰囲気から一回り大きく錯覚してしまうほどだ。
「・・・挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
(教官?)
命じらて、千冬さんに敬礼しながら返事を返す転校生の姿はまさしく『軍人』のそれだった。
対する千冬さんは少し顔をしかめて迷惑そうな表情だ。
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、おまえもここでは一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
そう答える転校生は両手を伸ばして体の真横に付け、踵はきっちり合わせ背筋を伸ばしている。
とにかく高校生にふさわしくない、軍隊じみたどうさだった。
そしてその転校生から『教官』と呼ばれる千冬さん。
(一体どんな関係なんだ?千冬さんがIS学園で教師をやってたのも驚きだったけど、まだ何かあるのか、千冬さんの過去に)
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「・・・・・・・・・」
え、それだけ?という感じの雰囲気が教室中に蔓延する。皆、次の言葉を待っているようだ。
「い、以上・・・ですか?」
「以上だ」
空気にいたたまれなくなった山田先生が、できるかぎりの笑顔で転校生に訊くが帰ってきたのは無愛想な即答。
うわぁ山田先生泣きそうな顔になってるよ・・・
「・・・貴様が―――」
山田先生の横で表情らしい表情を浮かべていなかったラウラが、眉をゆがめてこちらの方を睨んできた。
いや、目線は俺の少し横を向いている。となりの席の一夏も転校生の視線に気づいたかどうかは分からないが、ラウラの方を向いている。
教壇から降りて、つかつかと迷いなく一夏の前に近づくラウラ。そして―――
「う?」
平手打ち。
一夏の頬を何の前触れもなく、はたいた。
クラス中が何が起こったのか把握できていない、篠ノ之さんでさえポカンとした表情を浮かべていた。
「いきなり何しやがる!」
「フン・・・」
一夏の言葉には耳も貸さずそのまま奥の空いている席に座ってしまうラウラ。
また一夏のいつものあれか?とも思ったがどうも今回は違うようだ、明らかに温度が違う。
あれは本気で嫌悪を表して殴ったのだと、遅れて理解する。
「あー・・・ゴホンゴホン、ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でISの模擬戦闘を行う。解散!」
ぱんぱん、と手を叩いて千冬さんが行動を促すが、俺の中では未だに疑問が渦を巻いていた。
クラスメイトの数人も、腑に落ちない表情を浮かべているものもいる。
「おい、織斑、五反田。デュノアの面倒を見てやれ、同じ男子だろう」
「君が織斑君・・・と五反田君だよね。はじめまして僕は―――」
「ああ、いいから。とにかく移動が先だ、女子が着替え始めるから。弾、なにぼやっとしてるんだよ。行くぞ」
「っ!お、あぁそうだな」
一夏の言葉でようやく我に返る、クラスメイトは俺たち以外が女なので俺たちはアリーナの更衣室を使わなければならないのだ。
「とりあえず男子は空いてるアリーナの更衣室で着替え。これから実習のたび移動だから、早めに慣れてくれ」
「う、うん」
「トイレか?」
「ちっ違うよ!」
「それは何より」
俺たちは階段を下って一階へ。普段であればもう少しゆっくりと行くのだが今はそうはいかない。
なぜなら―――
「ああっ!転校生発見!!」
「織斑君たちと一緒!」
HRも終わった今、俺たちが入学当初受けた洗礼が待っているからだ。
質問攻めにあえば即タイムオーバー確定。なんとしても避けなければならない。
遅刻などしてみろ、千冬さんに何をされるかわかったもんじゃない。俺たちはまだ死にたくはない。
「いたっ!こっちよ!」
「皆のもの!出会えい出会えい!!」
IS学園はいつから武者屋敷になったんだ、向こうの方からホラ貝の音が聞こえるんだけど気のせいだよな。
「織斑君の黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」
「しかも瞳はエメラルド!」
「日本に生まれてよかった~~!!お母さんありがとう!今年の母の日は河原の花以外のものを送るね!」
最後のやつひでえ!!今年以外ももっとマシなものを贈ってやれよ。
「な、なに?みんななんで騒いでいるの?」
「そりゃ男子が俺たちだけだからだろう」
「・・・?」
一夏の説明でもデュノアはピンとこなかったらしい。
「いや、普通に珍しいだろ。世界でISを動かせる男は俺たち二人しかいないんだし」
「あっ!―――ああ、うん、そうだね」
「いやいやいや、それ以外にもお前らが追われる理由はあるんですけどね」
「「?」」
駄目だ、デュノアも一夏と同じく鈍いようだ。この先デュノアに惚れたやつは苦労するんだろうな。
だが今はそんなことを考えている場合じゃないだろう、今も集まってきている群衆を避けて第二アリーナまで行かなければ。
「よっしゃー到着!」
「けっこう時間かかったな、早く着替えようぜ」
急げばなんとか間に合うくらいの時間帯だったので、俺は上着のボタンをはずしベンチに投げる。
そのままシャツも脱ごうと手をかけた時にデュノアに声をかけられた。
「あっ!それってIISだよね。世界で初めてコアを使わずにISの機能を再現したっていう」
「ん、そうだぜ。なんか初めてコイツに対して反応したやつを見たな、詳しいのか?」
「うん、少しね。ちょっとよく見せてもらってもいいかな?」
「いいぜ、と言いたいところだが今は急がないとな。千冬さんの授業に遅れたら何されるかわかったもんじゃねえからな」
言いながらシャツを脱ぎすてるようにベンチに投げる。
「わぁっ!」
「んん!?」
いきなりデュノアが素っ頓狂な声を上げた。
「荷物でも忘れたのか?ってなんで着替えないんだ?早く着替えないと遅れるぞ」
「う、うん。き、着替えるよ?でも、その、あっち向いてて・・・ね?」
一夏が後ろからパンツ一丁で話に入ってくるが、それよりもデュノアの反応だ。
まるで乙女みたいな、というかデュノアは女装したらそのまま女といっても通じるほど中性的な美形なので、こちらも対応に困る。
「・・・向こうむいてようか、一夏」
「ああ、そうしようか・・・」
何とも言えない気まずさに包まれて、俺たちは静かに後ろを向いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そのスーツ、なんか着やすそうだな。どこのやつ?」
着替えも終わり、第二グラウンドに向かう道中を話しながら俺たちは移動していた。
「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー品」
「デュノア?デュノアってどこかで聞いたような・・・」
「聞いたも何も、デュノアの名字だろ」
「そう、僕の家だよ。父がね、社長をしてるんだ。一応フランスで一番大きいIS関連の企業だと思う」
「へえ!じゃあシャルルって社長の息子なのか、通りでなあ」
「うん?通りでって?」
「いや、なんつうか気品っていうか、いいところの育ち!って感じするじゃん。納得したわ」
「いいところ・・・ね」
俺も一夏と同じような印象を抱いていた、いいところのお坊ちゃん、とは言い過ぎだがそれに近い印象だった。
けれどさっきのデュノアの反応は朝のような爽やかで、人懐っこい雰囲気などまるでなくて。
暗く、影のある、何かを悲観するような・・・
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「遅い!」
第二グラウンドに到着したとき、そこには鬼が立っていた。
というか千冬さんなんだけどさ。
「くだらんこと考えている暇があったらとっとと並べ」
いつもの出席簿の鋭い打撃が振り下ろされる、が叩かれたのは一夏だった。
いい音をたてた頭を抱えている一夏を、横目で見ながらほっと安堵する。危ねえ、一夏がアホで助かった。
「何をぼさっとしている、早く行かんか」
もう一発繰り出された打撃は的確に俺の頭をとらえた。
一夏に気を取られて止まっていた事が仇となったか・・・
俺も大概アホかもしれん。
「ずいぶんゆっくりでしたわね」
俺と一夏たちが一組の列に並ぶと、何の因果か隣はセシリアだった。
「スーツを着るだけでどうしてこんなに時間がかかるのかしら?」
「男の子は支度に時間がかかるんだよ」
「嘘おっしゃい。いつも間に合うくせに」
「な、なんだよ妙に引っかかる言い方だな」
今日のセシリアの言葉には端々に棘があるぞ。綺麗なバラには棘があるというのを実践しているらしい。
前にそんなことを言っていた覚えがある。その時は鈴に『うわ、そんなこと言って恥ずかしくない?』って言われて怒っていたような。
それはともかくなんか怒らせるようなことしたっけ?
「何か、気づくことはありませんの?」
「・・・・・・・・・」
やばい、女子がこういう発言をするときは男が気付きそうもないような変化をほめてもらいたいパターンだ。
女子が一夏にアプローチするたびに使っていた手なので俺はすぐさま理解する。
というか、一夏に対して世の男子でも反応しづらい手を使うのはまちがいじゃないでしょうか?当人は気がつかないのかね。
「えっと・・・髪型かえた?」
「・・・・・・・・・」
どうやら違ったみたいだ、おそらく次に間違えば本格的にへそを曲げてしまうだろう。
そうなるとそこはセシリア、他の女子の当社比1.5倍はめんどくさいことになる。
セシリアの変わってるところ、変わってるところ・・・・・・・・!
「もしかして、ISスーツ新調したのか?」
「・・・・・・・・・!!」
セシリアの表情が一変して、花が開いたような喜びの表情に変わる。
正直どこが変わったのかほとんどわからなかった。なんとなくラインの青が濃かったり、首周りのデザインが少し違ったような気がしただけだったんだけど。
「そ、そうなんです!!実習が始まるこの日に合わせて特注で―――」
「あっ!馬鹿、今は―――」
気づいてもらえたのがそこまで嬉しかったのか、セシリアは授業中にも関わらず休み時間に話している時と変わらないトーンで、つまり周りによく響くあの声で自分のスーツの講釈を始めた。
もちろん、そんなことをすればどうなるかなど、ここにいるすべての人が知っているだろう。
「うるさいぞ、馬鹿ども」
そう、我らが鬼教官、千冬さんによる出席簿アタックが待っている。
今日も今日とて青空の下に俺たちの脳細胞が五千個も死滅していく。
以上で投下終了です。
余談ですが250から255の方々の意見はすべて果たせる展開になるとは思いますが、『どういう形』で果たすかはだいぶ予想などから外れる形になるかと思いますがご容赦下さればと思います。
あとここからはシャルル編ですのでラウラは出番が少なくなりますこともご容赦を。
それではこれにて
乙ー
前回はエラーのせいで上がらなかったですね。そういう時はあげたほうがいいですかね?
では投下開始です。
「では、本日から格闘および射撃を含む実践訓練を開始する」
「はい!」
さすがに二クラス合同の授業ということもあって、返事の声もいつもの二倍だ。
「怒られてやんの」
「うっせえ二組、頭に響くんだよ」
ちょうど後ろにいたらしい鈴が千冬さんに叩かれたことを茶化してきた。
鈴も千冬さんの出席簿アタックの威力を知ってるんだからもう少し労わってくれてもいいところだろう。
友達甲斐のないやつである。
「申し訳ありません、わたくしのせいで・・・」
「今は授業中だからな、少し声のトーンは抑えてくれ。・・・それと―――」
この先の言葉は言うか迷った、俺らしくないというか、一夏やデュノアが言うと格好がつくんだけど。
「前のよりも、そっちのほうが似合ってる」
言ってしまった。言ってしまったがこれは恥ずかしい、キザにも程があるだろ。
けれどこういう状況ではこうやって褒めるのが定石だから仕方ない、定石だからだぞ。だから仕方ないのだ。
「・・・・・・・・・ありがとうございます」
先程まで下を向いて申し訳なさそうにしていたセシリアだが、今は恥ずかしそうに下を向いている。
うぐぐ、ちょっと可愛いじゃないか。
「おい、あんたらいちゃついてんじゃないわよ」
「い、いちゃついてなんてねえよ」
決していちゃついてなんてねえよ。
「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力あふれる十代女子もいることだしな。―――鳳!―――オルコット!」
「な、なんであたしもなんですか!」
いや、お前もそれなりにうるさかったし妥当なところじゃないか?まぁ千冬さんに指名されたのが運のつきと思って諦めろ。
「専用機持ちはすぐに始められるからな。いいから前に出ろ」
「専用機持ちなら一夏や弾だって・・・」
鈴はぶつくさ言いながら前に出ていく、セシリアもついて前に出ていくが二人ともやる気をそがれ気味だ。
「お前ら、少しはやる気を出せ―――あいつらにいいところを見せられるぞ?」
ん?千冬さんが二人に小声で何か伝えたみたいだが。こっちまではよく聞こえなくて何を言ったのか・・・
「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!!」
「まぁ実力の違いを見せるいい機会よね、専用機持ちの!」
いきなりやる気ゲージがMAXまで跳ね上がる二人、千冬さん何を言ったんだよ。
「一夏、千冬さんが何言ったか聞こえたか?」
「いや、俺も聞こえなかった。けど勝ったら飯おごってもらえるとか、デザートおごってもらえ―――」
結局わからずじまいか、一夏の後半の意見は十中八九はずれてるので無視することとする。
「それで、対戦相手はどちらに?わたくしとしましては鈴さんとの勝負でも構いませんが」
「ふふん、こっちの台詞。返り討ちよ」
「あわてるな馬鹿ども。対戦相手は―――」
そこまで言うと千冬さんの目線が空に向けられる。
それに伴い、聞き覚えのある風切り音が遠くから近付いてくる。
「あああああああああーっ!ど、どいてください~っ!!」
まさかとは思ったが空の彼方からこちらに高速で近づいてくる物体―――ISか?―――俺は近くのデュノアの手を取りその場を飛び退く。
一夏もその場所にいたが、デュノアより一歩離れた場所にいたため引っ張ってはこれなかった。
俺とデュノアが地面に転がりこんだ瞬間に轟音がグラウンドに響く。
「い、一夏ぁ!!」
轟音が収まり、一夏がいた数十メートル先の方で土煙が上がる中、誰よりも早く篠ノ之さんの声が聞こえた。
俺はデュノアを抱え込むように飛んでいたため、デュノアは土で汚れているものの怪我はないようだ。
「悪いな、デュノア。とっさのことだったから」
「あ、うん・・・ありがとう」
デュノアの上からどいて立ち上がり、玉鋼を起動させる。
鈴もセシリアも一夏が心配なのだろう、ISを起動させていた。
だんだんと土煙がはれていく中に、見覚えのある白い装甲がちらりと見えた。
ISを起動できていたなら怪我の心配はなさそうだ、周りのみんなもそう思い安堵したその時。
「おーい一夏ぁ、無事なら無事で早く出てこ―――」
土煙が完全に晴れて、一夏の状況が明らかになる。
突っ込んできたのはやはりISだった、声の感じから予想できたいたとおり山田先生が乗っている。
そこまではいいのだ、そこまでは・・・
「鈴、セシリア、援護を頼む」
「任せなさい、息の根止めてやるわ」
「これは一夏さんが全面的に悪いですわね。協力しますわ」
一夏は山田先生にぶつかってその際に密着したまま吹き飛ばされたのだろう、そして止まった際に山田先生の上に乗ってしまい・・・
―――山田先生のけしからん乳房を鷲掴みするに至ったのだろう―――
『単一仕様能力:弾(ハジキ)発動準備完了。IIS:玉鋼(タマハガネ)脚部充填エネルギー 右:残8 左:残8 エネルギー充填まで0:00』
いつもの通知メッセージが視界の隅に現れる。
「狙い撃ちますわ!!」
「死ねえええええええ!!!!」
「俺のドリルは一夏を突くドリルだぁああ!!!」
セシリアのライフル『スターライトmk.Ⅲ』から放たれた弾丸を皮切りに、鈴の青龍刀を柄の部分で連結した『双天牙月』の投擲攻撃。
そして俺の単一仕様能力での突貫。
「うおわっ!!」
初めに到達したセシリアの弾丸は上体を大きくのけぞらせて避けることに成功した一夏、しかしその状態からでは俺の突貫は避けれまい!
「はっ!」
短い火薬の炸裂音が三発、間を置かずに膝の装甲に三度の衝撃。
障害物に足を取られたような形になり、バランスを崩して前方に回転しながら吹き飛ばされる。
なんとか空中で体勢を立て直したころには、鈴の『双天牙月』も撃ち落とされ、俺と鈴の攻撃をさばいた張本人がクラウス社製アサルトライフル『レッドバレット』を肩の装甲に預けて、メガネを直していた。
「や、山田先生?」
俺を含め、すべてのクラスメイトが唖然とした表情を浮かべていた。
「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。あのくらいの射撃は造作もない」
「む、昔のことですよ、それに代表候補生止まりでしたし・・・」
それでもあの技術はすごすぎだろう。直線的とはいえ瞬時加速を超える速度を誇る『弾』を発動中、しかも前傾姿勢で殆ど見えていない膝の装甲に的確に三発。
鈴の『双天牙月』も撃ち落としたのは山田先生だろう、一夏とは離れた位置に落ちていたのがいい証拠だ。
「さて馬鹿者ども、いつまで呆けている。さっさと始めるぞ」
「え?あの・・・二対一で?」
「いや、さすがにそれは・・・」
「安心しろ。今のお前たちではすぐ負ける」
確信を秘めた声色で言う千冬さんにプライドを刺激されたのか、二人はその瞳に闘志をたぎらせる。
「では、はじめ!」
千冬さんの号令とともに、セシリア、鈴が上昇。それから一歩遅れて山田先生が後を追うように上昇を開始する。
空に上がった山田先生にセシリアがライフルで先制攻撃を仕掛けるが、難なくかわされる。
鈴もセシリアの援護を受けて切りかかるが近づく前に牽制で足止めを食らっている。
「さて、今の間に・・・そうだな、ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみろ」
「あっ、はい」
空中で戦うセシリアたちを見ながらしっかりした声で説明を始めた。
「山田先生の使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイブ』です。第二世代最後期の機体ですが、そのスペックは初期第三世代型にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性で―――」
デュノアの口から難しい単語がすらすらと出てくる。しかしわかりづらいわけではなく、補足なども交えているためかわかりやすい。
ISに少し詳しいとは言っていたが、ここまで自然に解説できるとなると相当なものだと思う。
「あぁ、一旦そこまででいい。終わるぞ・・・」
デュノアの解説の途中で千冬さんが制止をかける。
解説の方に気を取られがちだったが、空中での戦闘に再度、意識を向ける。
「あっ・・・」
山田先生の射撃をセシリアが必死に避けているがその先には鈴。
上手いこと誘導されたセシリアが鈴と衝突、そのすきにグレネードを投擲。
爆発で巻き起こった煙の中から二つの影が地面に落下した。
「く、ううう・・・まさかこのわたくしが」
「あ、あんたねえ・・・何面白いように回避先読まれてんのよ・・・」
「そ、それを言われると言い返す言葉もないですわ・・・」
かく言う鈴も衝撃砲をばかすか撃っては外してたけどな・・・
だがあの二人があぁも手玉に取られるなんて、やはり山田先生はすごい。認識を改めなければならないかもな。
「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力が理解できただろう。以降は敬意を持って接するように」
ぱんぱんと、手を叩いて千冬さんが皆の意識を切り替える。
「専用機持ちは織斑、オルコット、鳳、五反田、ボーデヴィッヒ、デュノアだな。では十人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること、いいな。では、分かれろ」
予想はしていた、こうなることを。
一夏とデュノアの周りに群がる女子生徒。俺の周りにはクラスメイトが三人いるだけだ。
「織斑君、一緒にがんばろう!」
「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ」
「ね、ね、私もいいよね。グループに入れて~」
今なら血の涙が流せそうだ・・・
「ご、五反田君、私たちは五反田君の味方だよ!」
「人数じゃないって、少数精鋭でがんばろ」
「五反田君の魅力が伝わってないだけだって、大丈夫だよ!」
クラスメイトの必死の慰めが余計に心をむなしくする。
頬を熱い何かが伝ったような気がしたが気のせいだろう。
「馬鹿者どもが・・・出席番号順に一人ずつ各グループには入れ!順番はさっき言った通り。今度もたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百週させるからな!」
千冬さんの鶴の一声で、わらわら群がっていた女子たちが一斉に散る。
再度グループに並びなおすまでに2分とかからなかった。
「やったぁ!織斑君と同じ班っ、名字のおかげね!」
「うー、セシリアかぁ・・・さっきぼろ負けしてたしなぁ」
「鳳さん、よろしくね。後で織斑君の話聞かせてよっ」
「デュノア君、わからないことがあったら何でも聞いてね!ちなみにわたしはフリーだよ!」
「・・・・・・・・・・・・」
最後のはボーデヴィッヒの班だ、まったく会話がない・・・
まぁ朝の一件があった後だし、ボーデヴィッヒ自身も話す気なさそうだし。
そして俺の班は―――
「うおおおおお!なぜ私をこんな名前にしたのですか母よ、末代まで恨みますぞおおお!!」
うん、そうなると自分自身を恨むことになるんだけどね。というかお前はもう少し母を敬え、具体的にいえば母の日はもう少しまともなものを贈れ。
「じゃあ千冬さ、織斑先生の言ったとおりISの装着、起動、歩行の三つの動作をやっていこう、出席番号若い順で」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「よっと」
俺は今日つかった訓練機を専用のカートに乗せて格納庫の方向へ引っ張っていく、午前の授業終了の前に午後の準備として使った訓練機の片づけをやっているわけだ。
重いことは重いのだが日常的に千冬さんに考えてもらった訓練メニューをこなしているからか、そこまで苦にはならない。
セシリアと戦う直前から今までだからざっと二カ月ほど。それなりに体力と筋力が付いてきたのかもしれないな。さすが千冬さん半端ねえっす。
「五反田君・・・重くないの?」
「ん~・・・思ったほどは重くないな」
「うっわ、五反田ってよく見ると筋肉すごくない?」
「えっ、ひゃっ!ほんとだ~、ちょっとこれはやばいよ」
「そこまで引かれるとへこむんですけど・・・」
普通ここは見直すとかそういうプラスのイベントが起こるところじゃないですかね?
なぜ努力してたら引かれなくてはならんのだ・・・
「ちょっと触らせてよ、というか触るよ」
「俺の意思は無視ですか・・・」
「うっひゃあ、これは―――」
「どう?どうなのよ?」
「キモい」
午前だけで俺のハートがぼどぼどになってるんですけど・・・
午後はどうなるんだ、俺こいつらに退学まで追いやられるんじゃないか?
「あ、いや違う違う!いい意味で!いい意味でキモいんだって!」
「それフォローになってないからな!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「では午前の授業はここまで。午後は今日つかった訓練機の整備を行うので各人格納庫へ班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機、両方を見るように。では解散」
千冬さんは連絡事項だけ伝えると、山田先生を引き連れてさっさと引き揚げてしまった。
「あー・・・あんなに重いとは」
「はっはっは、軟弱軟弱」
「いつからお前は筋肉キャラになってたんだよ」
「鍛えてますから」
ちなみに一夏の班はなぜか時間ぎりぎりまでかかったせいか、ISを格納庫に戻して帰ってくるまで全力疾走だった。
「シャルルなんて皆に運んでもらってたしな、俺たち非モテ男子とは格が違った」
「一夏、殴っていいか?」
「な、なんでだよ」
こいつは本当にいいやつだが、時に殺意がわくことが多々ある。
いつか俺が犯罪を犯すことがあるとしたらこいつを殺す時だな。
「まぁいいや、シャルル、着替えに行こうぜ。俺達またアリーナの更衣室まで行かないといけないしよ」
「え、ええと・・・僕は機体の微調整とかあるから先に行ってて、時間かかるかもしれないから待ってなくていいからね」
「ん?別に待ってても平気だぞ?待つのには慣れて―――」
「い、いいからいいから!僕が平気じゃないから!ね?先に教室に戻っててね?」
「お、おうわかった」
なんか妙な気迫に押されて一夏はついついうなづいてしまった。
まぁ本人がこう言っているので俺たちも更衣室に向かうことにした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・どういうことだ」
「ん?なにが?」
昼休みの屋上、いつものメンバーにデュノアを足して弁当を囲んでいた。
ちなみにIS学園の屋上は整備されていて、花壇や丸テーブルにベンチがあったりして昼休みには人でにぎわう人気スポットなのだ。
まぁ今はデュノア目当てで食堂に皆向かっているからか俺たちだけである。誰も俺達が誘ったとは思っていなかったんだろう。
「天気がいいから屋上で食べるって話だっただろ?」
「そうではなくてだな」
あとさっきから喋っているのは一夏と篠ノ之さん。
おそらく篠ノ之さんが一夏をお昼に誘ったのだがその意味を一夏が『みんなで』お昼を食べると解釈したのだろう。
もちろん篠ノ之さんの意図は『二人きり』だと思う。
「せっかくの昼飯だし、大勢で食べたほうがうまいだろ。それにシャルルは転校してきたばっかりで右も左もわからないだろうし」
「そ、それはそうだが」
ほらね。
「はい、一夏あんたの分」
鈴がタッパーを一夏に投げて渡す。
「おお、酢豚だ!」
「そ、今朝作ったのよ。あんた前に食べたいって言ってたでしょ?」
「あれ?俺には?」
「あんたにはセシリアのがあるじゃない」
「そうでした、っと今日は何作ってきたんだ、セシリア」
もう、皆で食べるときの常識になってきたのだが、セシリアにとある事情で弁当をときどき作ってもらっているのだ。
ただ一夏のようにうらやましいイベントでは決してない。
一夏が弁当を作ってもらうのは例えるとフラグにつながるイベントだとすると、俺のはギャグイベントだ。
主人公の親友キャラがひどい目にあうとかいうパターンの。
「し、師匠、今日はサンドイッチを作ってきました。どうぞ・・・」
「師匠?」
デュノアが不思議そうに首をかしげる。
「いろいろ事情があるんだよ、どこから語るべきか。そうだな、まずは最初にセシリアの料理を俺たちが食った時のこと―――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「今日はわたくしサンドイッチを作ってきましたの、皆さんもお一つどうですか?」
あの日も確かサンドイッチだった。
バスケットの中に綺麗に並べられたサンドイッチ。
見た目は完璧の一言だった。
「おお、うまそうじゃないか。本当にもらっていいのか?」
「ええ、そのつもりで多めに作ってまいりましたから。もらってもらわないと食べきれませんわ」
小さく笑いながらバスケットを差し出してくるセシリア、その顔から自信があるのだと読み取れた。
「じゃあ俺ももらっていいか?」
「ええ、もちろん」
「私もいただこう」
「じゃああたしも!」
みんなバスケットの中から一つずつサンドイッチを取っていく。確か俺がとったのはタマゴサンドだった。
「いただきまーす」
誰が言ったのかは覚えていない、ただそれを合図にセシリアを除く四人が一斉にセシリアのサンドイッチを口に入れた。
その構図はあれだ、漫画で見開き前の『あぁ、次のページでオチがくるなぁ』と予感させる。まさにあれだった。
「「「「・・・・・・・!!!」」」」
全員が苦悶の表情を浮かべていただろう。
だろう、というのは他を気にする余裕が一切俺に残されていなかったからだ。
とにかく辛かった、タマゴサンドであるはずなのにマスタードやねりからしのような辛さが口いっぱいに広がり、タマゴの黄身特有のもっちゃり感が具をなかなか飲み込ませてくれない。
「・・・・・・ッッッ!!」
必死で手を伸ばし、茶を飲もうとするが上手くつかめない。
涙で視界がかすんでいたのだ。
「弾さん、これを!」
その時セシリアが気を利かして自分のお茶を俺に手渡してくれた。
他のやつも地獄絵図なこの状況で、よく冷静に対処してくれたものだ。
「・・・・・・ぷはぁっ!」
ちなみにタマゴサンドほどではなかったが茶もかなりまずかった。
なにか底の方にどろっとしたものがあってそれの放つ酸味が、茶の苦みと合わさってひどい味わいだったのを覚えている。
「セ、セシリア・・・このタマゴサンドは、どうやって・・・」
息も絶え絶えになりながら問うた俺に、セシリアは事もなげにこう言ったっけ・・・
「えっと、普通ですわよ。卵、マヨネーズ・・・それと黄色が薄かったのでマスタードと隠し味にねりからしを加えて和風に仕上げましたわ」
それは、普通とは言わないよ・・・
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「というわけで、五反田食堂の長男である俺がまともに食えるものを作れるように指導をしているのだ」
「な、なるほど・・・だから五反田君が師匠って呼ばれてたんだね」
「そ、そんなにひどく言わなくても・・・」
「あの時自分で食べてどうだった?」
「医務室に運ばれましたわ・・・」
あの時は本当にひどかった、セシリアと篠ノ之さんは医務室に運ばれ、俺と一夏と鈴は一日ずっと体調がすこぶる悪かった。
「まぁ今では原因を排除したおかげでまともな料理ができるようになったんだがな」
「原因?原因なんてあったの?」
「本の通りに作ってたこと」
「?」
「言葉が足りませんわ。本の写真と同じ外見に仕上げるために調味料を選ばず投入したことがすべての原因でしたの。今考えると恥ずかしいミスですわ」
その原因が取り除かれてからもセシリアは俺に料理を教わっている。
なんでも料理に目覚めたらしく、色々な料理ができるようになりたいと言って、鈴にも時々中華料理を習っているそうだ。
「そういえば僕が同席して本当によかったのかな?」
「デュノアって結構遠慮しいだよな。俺たちのほうから誘ったんだから、逆に余計なことだったか心配なぐらいだって」
「そうそう、数少ない男子として仲良くしようぜ。色々不便があるだろうが、まあ協力してやっていこう。わからないことがあったら何でも聞いてくれ。―――IS以外で」
「あはは、ありがとう。織斑君も五反田君も優しいね」
ふわっとした無防備な笑みを、デュノアは浮かべる。同じ男でもドキリとしてしまうほど綺麗な笑みだった。
これは女生徒がちやほやしてしまうのもわかる、男性的、女性的な面を兼ねそろえた美しさだ。
「それにしてもシャルルさ、苗字で呼ぶのって堅苦しくないか?」
「え?」
「俺のことなんか一夏でいいぞ、みんなだって名前で呼べばいいのに」
「で、でもいいのかな?僕は今日転校してきたばかりだし・・・」
む、一夏がそんなこと言うとデュノアって呼んでる俺も堅苦しいってことじゃないか。
そんなことを思っていると横から肘で小突かれた、隣のセシリアの方へ向くが何も言わず視線だけを送ってくる。
少しの間見つめあうと顔を赤くして目をそらされた、何がしたいんだ?
「ちょっと、弾!」
セシリアの隣の鈴が小声で、しかしイラついたような声色で何かを伝えようとしている。
「何だよ、何が言いたいんだ?」
「名前、な・ま・え!」
こちらも小声で返すとようやく分かりやすい答えをもらえた。
けど俺も同じようなことしようとしてたんだがな・・・余計な手間だったかもしれん。
「シャルル」
「は、はい」
「シャルルって遠慮しいだよな。転校したばっかりなんて関係ねえよ。少なくともここにいる全員はお前と仲良くなりたいと思ってるんだぜ」
「ご、五反田君・・・」
「弾でいいよ、シャルル」
さっきのような綺麗な笑顔ではなかった。
少し涙を目のふちに溜めて、くしゃくしゃっと子供のような笑みを顔いっぱいにシャルルは浮かべていた。
「一夏。弾。鈴。箒。セシリア」
えへへ、と少しはにかんでからシャルルは続けた。
「今日だけで友達が五人もできちゃった」
「そんくらいのことでな~に泣いてんだか、男の癖に情けないわよ」
「ふふふ、そうだね。鈴」
本当に嬉しそうにシャルルは笑う。
さっきみたいな整った笑顔もいいけど、こっちの笑顔のほうが俺は好きだな。
友人の笑顔を見ながら、バスケットからサンドイッチを一つ摘む。
「うん、うまくできたじゃねえか」
「そうですわね、うまくいきましたわね」
「それってサンドイッチについて?それともこの状況について?」
「さぁ、どっちでしょう。どちらも、かもしれませんわね」
本日はこれまで。
なんか長かった気がする。もう少し細かくいったほうがいいのだろうか?
ちょっと場面変化を使いすぎたかも、あとシャルルのキャラがうまくつかめてない?
まぁベストを尽くすことだけを考えます。
それではこれにて
乙
セシリアに隙がない!
乙
これは、シャルは五反田派、なのか…?
乙
シャル可愛いよシャル
最近、五反田の容姿がTOAのルーク・フォン・ファブレに見えてしょうがない…
アビスと言えば親善大使乙
料理ができるセシリアとか無敵すぎるだろ
ラウラは一夏でシャルは五反田派で頼む
その逆がいいかも
まぁ>>1にまかせます
一夏が好きなわけではないが何人も好意向けてる相手が変わるのには抵抗あるな
ところでいつになったら俺の蘭は出るのだろうか
なんか二巻編に入ってから10kbくらいずつ投下してる気が・・・
区切りいいとこまでが長いでござる。
でははじめますよ~
そういえば先ほどから一人喋っていない人が一人いるよな・・・
ちらっとその人のほうを覗いてみるが弁当の包みすら開けていない。
「篠ノ之さーん?」
「・・・・・・・・・」
反応がない、ただの篠ノ之のようだ。
「そうだよ、箒。いい加減俺の分の弁当をくれるとありがたいんだが・・・」
「・・・・・・・・・」
ぎぎぎ、という音が聞こえそうなほど固い動作で弁当箱を手渡す篠ノ之さん。
屍というよりキラーマシンだな。
「じゃあ、さっそく・・・おお!」
ふたを開けた一夏から歓声が上がる。それほどいい出来なのだろうか。
覗き込んでみるとおかずは鮭の塩焼き、鶏肉のから揚げ、こんにゃくとごぼうの唐辛子炒め、ほうれん草のゴマ和え、とバランスの取れた献立の数々がそこにあった。
「これはすごいな!どれも手が込んでそうだ」
「つ、ついでだついで。あくまで私が食べるために時間をかけたまでだ」
「そうだとしても嬉しいぜ。箒、ありがとう」
「ふ、ふん・・・・・・」
なんでもないように装おうとしているが、嬉しいと思っているのが隠しきれていない。
そんな篠ノ之さんも一夏に渡した分とは別に自分用の弁当箱を開いている。
「あれ?箒、あんたのほうだけから揚げがないわね」
「!こ、これは、だな。ええと・・・」
鈴が言う通り篠ノ之さんのおかずが一夏より一品少ない。
そこを突っ込まれた篠ノ之さんは目に見えて慌てていた。ダイエットかな?
「・・・うまくできたのがそれだけだから仕方ないだろう・・・」
「え?」
え?今なんて言ったんだ。一夏と同じく俺にも篠ノ之さんの言葉は聞こえなかった。
ただ女性陣は納得したような顔をしているので、彼女らには聞こえていたんだろう。
ちなみにシャルルは首をかしげているので聞こえていたのか、意味が分からなかったのかは定かではない。
「わ、私はダイエット中なのだ!だから、一品減らしたのだ。文句あるか?」
「文句はないが・・・別に太ってないだろう」
「そうだよな、ぜんぜ―――」
「あー、男ってなんでダイエット=太ってるの構図なのかしらね」
「まったくですわ。デリカシーに欠けますわね」
あっぶねえー。一言早く言ってれば攻められてたのは俺だった。
今度からこの話題には気をつけるようにしよう。
「いやでも実際ダイエットなんか必要ないように見え―――」
「ど、どこを見ている、どこを!」
「どこって・・・体だろ」
セクハラ発言にしか聞こえないぞ。
まぁ一夏のことだからそういう意味はまったくないんだろうけど・・・もう少し言葉選びを気をつけてほしいところだ。
「なに堂々と女子の胸を見てんのよ。あ・ん・た・は!」
「ぐおおあっっ!」
なにをされたのかは分からないが、鈴に何か攻撃されたのは分かった。
女って怖いな。
「一夏さんには紳士として不足しているものが多いようですわね」
そして女って怖いなパートツー。
「「「一夏!」」」
「な、なんだよ!三人そろって!」
「お前またくだらないこと考えてたろ。『仏のセシリアは三度も待ってはくれない、英国出身なのに仏とはこれいかに』とか」
「な、なぜそれを!?」
顔に書いてあるんだよ、顔に。分かりやすいやつめ。
俺でさえ分かるんだから、鈴と篠ノ之さんなら手に取るように分かるんだろうな。
「あはは、本当に仲がいいんだね」
「わたくしも時々妬けてしまうことがあるほどですもの」
「じゃあ仲間はずれにするのもあれだし、みんな仲良く飯でも食うか。話すだけで箸が全然進んでないし、昼休みは有限だ」
そういいながらサンドイッチを一つ口に運ぶ。
うん、少しマヨネーズが多いけどおいしいな、このタマゴサンド。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ぬああああ、終わったあああああああ」
午後の授業も滞りなく終わり、俺は大きく伸びをする。
恐らく専用機持ちで一番疲れたのは俺だろうな。なにしろIISはISとほぼ同じ機能で操縦法も変わらないが、構造はコアを使ってない部分をはじめ違う部分が多い。
そのため訓練機の整備を指導するのに大分手間取った。ちょっとした理由で入学一ヶ月前からこの手の機械に対してカンのようなものが出来てきていたので何とかなったが―――
「お疲れ様、弾」
「大分大変そうだったなぁ」
更衣室への道すがら、一夏とシャルルに話しかけられた。
「二人こそずいぶん大変そうだったじゃねえか」
二人とも女子に、知っててもおかしくないところまで詳しく聞かれていたからな。
「そうだなぁ、自分の不勉強さが身に染みたぜ」
「そっちじゃねえよ」
「え?」
そうじゃないよ馬鹿。勉強してない意味でも、鈍感的な意味でも。
「そうだ、弾。今日の夕食またみんなでとらない?」
「今日か?・・・あー、俺用事あるから帰るの遅くなるんだ。それからでいいなら」
「用事?」
「あれ、それって今日だったか?」
「一夏は何か知ってるの?」
一夏は俺の『用事』について思い至ったのか納得した様子だったが、シャルルは首を傾げている。
仲間内にはその『用事』のことを話しているんだがシャルルはいかんせん今日転校してきたばかりだ、知らなくても無理はない。
「あぁ、弾の乗ってる玉鋼がIISっていうのは知ってるだろ?」
「うん、それはもちろん知ってるけど・・・」
「IISは確かに実用段階にまではこぎつけたけれど、まだ十分じゃないんだ。そんでデータ取りやら雑用やらで弾が時々呼ばれるんだ」
「というわけで8時くらいにはなるかな。どうせなら俺抜きでもいいんだぜ」
さっき言っていた、『ちょっとした理由』がこれだ。ISの素人であるからこそIISの操縦者に選ばれたわけだが、IISの整備は日常的に行わなければならない。
ゆえに整備できるだけの技術と知識は入学前に習得する必要があった。
そして入学後もIISの機能向上等等のテストや、IIS特有の機構も学ぶ必要があり今も開発者のところに通っているのだ。
(でもこの頃は体のいい雑用として呼ばれているような・・・まぁISとかの勉強になってはいるんだけどさ)
「えっと・・・弾って遠慮しいだよね?」
「え?」
「待つよ、僕たち待ってるから。だって友達でしょ?」
「あ、お・・・うん」
シャルルの横の一夏がいじわるそうにクスクス笑う。
「これはシャルルの勝ちだな。弾、はやく帰ってこいよ」
「ああもう!さっさと終わらせて帰ってくるからちゃんと待ってろよ!」
ちくしょう、俺はいい友達を持ったみたいだな。まったく、やりにくいったらありゃしないぜ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
僕はひどい人間です。
本当は友達なんて持ってはいけない人間なんです。
僕は皆を騙しています。
皆とお昼を食べたり、夕食を共にする約束をしたり、普通の学生のするようなことをする資格なんてないんです。
弾と一夏が友達になれるきっかけを作ってくれて嬉しかったよ。
弾も、一夏も、鈴も、箒も、セシリアも友達になってくれて嬉しかったよ。
けれど本当の僕を知ったらみんな友達じゃいられなくなるよ。
きっと僕のことが嫌いになる。
きっと僕のことを軽蔑する。
こんな僕だけど、みんなに本当のことが知れるまでは、友達でいてもいいよね。
こんな僕だけど、その時までは夢を見てもいいよね。
その時がきたらどんなに嫌ってくれてもいいから、軽蔑してくれてもいいから。
だから、その時までは、その時まではこの夢のような時間を―――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ええとね、一夏がセシリアや鈴に勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」
「そ、そうなのか?一応分かってるつもりだったんだが・・・」
今日はシャルルが転校してきて五日目、土曜日の午後。
IS学園では土曜日の午前まで授業があるが、午後からはアリーナが全開放となるので、アリーナではいつもより練習している人が多い。
「「・・・・・・・・・」」
「なんだか腑に落ちませんわ」
そして俺の横にいるムスッっとした鈴と篠ノ之さんとセシリア。
全員一夏のコーチをしていた面々なのだが・・・
「・・・なるほど」
向こうの方で一夏がシャルルに講義を受けながら、何度もうなづいている。
正直一夏の気持ちもわかる。遠くから聞いている分でもシャルルの教え方はうまい。
対照的にここの三人は―――
『こう、ずばーっとやってから、がきんっ!どかっ!という感じだ』
『なんとなくわかるでしょ?感覚よ感覚。・・・はぁ?なんでわからないのよ馬鹿』
『防御の時は右半身を斜め上方五度に傾けて、回避のときは後方二十度反転ですわ』
こんな感じでとにかく分かりにくい。かく言う俺も―――
『フランス代表の波動拳コマンド弱パンチの技みたいな感じ』である。
「お~い弾!お前も射撃武器使ってみるか~!」
向こう側でシャルルに射撃武器を使わせてもらっていた一夏がこちらに手を振りながら呼びかけてきていた。
近接ブレードの『雪片弐型』しか使ったことがなかったからちょっとテンションが上がっているみたいだ。
「悪いな一夏!俺には使えないんだ!」
「いや、武器の拡張領域がなくても使えるんだってさ!」
一夏の言い分も分かる。一度セシリアにも同じことを言われたことがあるのだ。『スターライトmk.Ⅲ』を使ってみるか?と。
ISの武器は拡張領域がなくても他のISの武器を持ち主に認証してもらえば使うことが可能なのだ。
けれどその時判明した玉鋼の欠点があるのだ。
「そりゃ知ってるけど!この手を見たらわかるだろ!?持てないんだ!」
「?」
「あっ!」
一夏はまだ分からないみたいだがシャルルには伝わったみたいだ。
そう、玉鋼の手は大きいのだ。指が大きくグリップは握れないわ、引き金はひけないわ。普通のISの武器は扱えないのだ。
「まぁそういうことだから!一夏はシャルルに射撃武器を教えてもらえ!」
「お、おう!わかった!」
再度手を振って一夏はシャルルの方に向き直って射撃の訓練に戻っていった。
今思うと大声で叫びあわなくても通信を使えばよかったんじゃないか?
「弾さん、一夏さんはシャルルさんが見ているようですし。その、わ、わたくしと二人で訓練しませんか?」
「ん、そうするか?確かにこのままいてもヒマだしな」
「「・・・・・・」」
横ではムスッとしたままの篠ノ之さんと鈴だけを残す形になるが、今声をかけるのもおっかないのでこのままにしておこう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺とセシリアがウォーミングアップ程度に加速、停止、応用のターンなどこなした頃。
アリーナの雰囲気が若干騒がしくなっていることに気づいた。
みんな何かに注目しているようだ。
「なんだ?」
「!あれですわ、転校生のドイツ代表候補生。第三世代型の専用機持ち、ラウラ・ボーデヴィッヒ」
セシリアが指差した方向に視線を向ける。
IISのハイパーセンサーによって、離れた位置にいるボーデヴィッヒの顔の細部まで確認できる。
注目すべきは目線。ボーデヴィッヒの投げかける視線の先を追う。
「やっぱりか・・・」
「え?・・・一夏さん!?」
視線の先にいた人物は予想していた通り、一夏だった。
セシリアも俺の呟きから同じように視線を追ったようだ、同じように一夏に注目している。
「おい」
IISの開放回線(オープン・チャネル)で突然ボーデヴィッヒの声が聞こえてきた。
俺たちに対しての言葉ではない、一夏に対して向けられた言葉だろう。
「・・・なんだよ」
「貴様も専用気持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」
「いやだ、理由がねえよ」
「貴様になくとも私にはある」
戦う理由、ね。
一夏がボーデヴィッヒに殴られたあの日、大方の事情は一夏から聞いた。
なんでも千冬さんは第二回のモンドグロッソ決勝戦の後にドイツで軍のIS部隊の教官をしていたらしいのだ。
その時の教え子がラウラ・ボーデヴィッヒ、転校生というわけだ。
「貴様がいなければ教官が大会ニ連覇の偉業を成しえただろう事は容易に想像できる。だから、私は貴様を―――貴様の存在を認めない」
そしてそのドイツに渡る前のモンドグロッソ決勝戦、千冬さんは棄権で不戦敗という形で優勝を逃した。
一夏はその理由について詳しくは話してくれなかったが、自分のせいだ、と語っていた。
「また今度な」
「ふん。ならば―――戦わざるを得ない状況にしてやる!」
ボーデヴィッヒが言葉を放つと同時にISの左肩に装備された大型実弾砲が火を噴く。
「!」
突然の射撃に一夏の反応が鈍い。
そのままであれば直撃を食らっていただろう、しかしその弾丸は一夏には届かなかった。
「・・・こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」
「貴様・・・!」
ボーデヴィッヒの視線の先には、射線上に割り込んで左腕に展開した物理シールドで実弾をはじき、それと同時にアサルトライフルを構えているシャルルの姿があった。
「フランスの第二世代型(アンティーク)ごときで私の前に立ちふさがるとはな」
「今だに量産化の目処のたたないドイツの第三世代型(ルーキー)よりは動けるだろうけどね」
二人の視線がかち合い、そのままにらみ合いを続ける。
「すごいですわね、シャルルさん。あの一瞬で二つの武器を展開、照準までを行うなんて・・・」
確かにすごい。本来一、二秒はかかる武器の量子構成をあの短時間に二つ。それも片方は照準をあわせながら、というのは鈴やセシリアのような代表候補生でも出来る奴はほとんどいないんじゃないだろうか。
「でも今はそれどころじゃないだろ。俺らも助太刀に―――」
『そこの生徒!なにをやっている!学年とクラス、出席番号を言え!』
行こうとしたらスピーカーからの声に出鼻をくじかれた。
騒ぎを聞きつけた担当の教師だろうか。
「・・・ふん、今日は引こう」
横槍を二度も入れられて興がそがれたのか、ボーデヴィッヒはあっさりと戦闘態勢を解除しアリーナゲートへ去っていく。
なんとか大事にならないですんだわけだから、これでよかったのだろう。
「弾さん、もう四時過ぎですし練習もこれで終わりですわね。皆さんのところに合流いたしましょうか?」
「あぁ、アリーナの開放時間って四時までだったっけ?そうだな、行くか」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまで。
近々このSS最大の原作からの変更点がありますので今日辺りから警告だけしておきますね。
まぁこのSS自体IF物なので変更した点で反感をかったりする可能性は最初から覚悟していますがね。
あと>>294さんの発言でようやく思い出しました。
最初の方でセシリアを見た弾の想像の中でしか出てきてなかった・・・
本当はちょくちょく回想で出すつもりだったのに・・・
二巻編の終わりの番外編は蘭を出させていただこうと思います。
乙
なるほど
学年別トーナメントで何か起こるんですね、わかります
次も期待
乙
「英国出身なのに仏とは~」の件見て思い出したが
原作小説の一夏の語りは何かイラッと来て俺は苦手だったな…
乙
「英国出身なのに仏とは~」の件見て思い出したが
原作小説の一夏の語りは何かイラッと来て俺は苦手だったな…
乙
「英国出身なのに仏とは~」の件見て思い出したが
原作小説の一夏の語りは何かイラッと来て俺は苦手だったな…
乙
>>308-309
落ち着けwwww
何で連投されてんだよ…
「おまいが書き込んだ時間は~」とか出たから書き込み直したのに投稿されてんじゃねーか
つーかPC壊れて無かったらわざわざもしもしとか使わんわ
原作未読アニメ中盤切りの俺からしたらIFなんてあってもないようなもの
原作は箒が不遇すぎて読む気しなくなった
読んだけどね?
シャルがガチ男という妄想をしてみた
しえん
原作より読みやすくてキャラへの印象も良いとかどういう事だよ
面白いから話が変わってもいいよ
今区切りのいいところまで書き終わったのですが今日は遅いのでまた明日に。
恐らく18時ごろにこられるかと。
あと20kbほどあるのでご注意を
それでは明日
待ってるぞい!
ちょっと18時すぎましたがはじめますよ。
「あれ?シャルルはまたいないのか?」
「ああ、また機体の整備してから着替えるって言ってたぞ」
俺と一夏は更衣室に向かう際に会ったのだがその時にはシャルルの姿はもうなかった。
転校してきてからシャルルと俺たちは着替えの時に同席したことが少ない。
着替えのたびに用事があるのか、それとも用事を作っているのかいつもいない。
「シャルルも恥ずかしいくらいならそう言えばいいのにな」
「あいつは遠慮しいだからな」
そういう俺たちはいつもどおり駄弁りながら二人で着替えていた。
「はー、風呂入りてえ・・・」
ぼそりと一夏が愚痴のように呟くが、その言葉はしっかり俺の耳に届いていた。
正直言うと俺もそのことについては思うことがあったのだ。
「せめて週一でもいいから男子の使用時間を作ってほしいよな。もう三人もいるんだぜ」
「やっぱりお前もそう思うか・・・肩までしっかり浸かって」
「のぼせる寸前までぐったりのんびりして」
「風呂上がって、腰にはタオルだけ巻く」
「右手にはビン牛乳、左手は腰に。そして―――」
「「右斜め四十五度に傾けて一気飲み!!」」
さすが親友、わかってやがる。
俺たちは熱くほとばしるパッションを右手に込めてハイタッチ。
更衣室の中に乾いた音が響く。
「よし、着替え終わり」
「今度休みに温泉でも行くか?」
「金がないから銭湯でもいいか?」
「そういえば俺も金なかったわ」
ただ広い風呂に入りたいだけだったし別に銭湯でも構わないのだ。
「あのー、織斑君たちまだいますかー?」
「はい?俺と弾、五反田がいますよー」
更衣室のドアの外側から山田先生の声が聞こえる。
「入っても大丈夫ですかー?まだ着替え中だったりしますー?」
「ああいえ、大丈夫ですよ。着替えは済んでます」
「そうですかー、それじゃあ失礼しますねー!」
ドアの圧縮空気が抜ける音と共に山田先生が更衣室に入室してくる。
「デュノア君はいないんですね、今日は一緒に訓練を行っていると聞いていましたが」
「シャルルならまだアリーナにいますよ。今ならピットまで戻ってきてるかもしれないですけど。呼んできましょうか?」
「ああ、いえそこまで大事な話ではないんですよ。お二人から伝えておいてください。ええとですね、今月下旬から大浴場が使えるようになります。時間帯別ではなくて、日別、ということになりまして、週に二日ほど設けることになりました」
「本当ですか!?」
「はい、それと今日はボイラーの点検があったので本来生徒は使えない日なのですがもう点検自体は終わっているんです。ですから今日は特別に男子生徒のために解放してくれるそうですよ」
それは大事なことだ、そりゃあもう大事なことですけど今はもっと大事なことがある。
さっきの山田先生の言葉で感激したのか、テンションの上がった一夏が山田先生の手を握っているのだ。
「嬉しいです。助かります。ありがとうございます、山田先生!」
「い、いえ、仕事ですから・・・」
「いやいやいや、山田先生のおかげですよ。本当にありがとうございます!」
「そ、そうですか?そういわれると照れちゃいますね。あははは・・・」
畜生この野郎・・・・俺なんて女の子の手を握ったのなんて母さんと蘭くらい―――
いや、セシリアの料理教えてた時に何度か手が触れたことは・・・ノーカウントかな、ノーカウントですよね、握ってはいないし。
やっぱり一夏がにくい、畜生、畜生、畜生。
「・・・・・・一夏、何してるの?」
「おわっ!シャルル!?」
音もなく現れるなよ、びっくりするじゃないか。
俺が音に気づかなかっただけかもしれないけど。
「まだ更衣室にいたんだ。それで、先生の手を握って何をしてるの?」
「あ、いや、なんでもない」
なんでもないことはないだろうがよ。
一夏は山田先生の手を慌てたように離し、山田先生は恥ずかしげに背中を向けた。
「喜べシャルル、今月下旬から大浴場が使える上に、今日は俺達が使っていいらしい」
「そう」
なんだかシャルルの反応はいまいち薄いな。
やっぱり文化圏が違うからかな?風呂に浸かるのはあんまり好きじゃないのかもしれない。
「ああ、それと織斑君には別件で職員室に来てもらってもいいですか?白式に関するもので書いてほしい書類があるんです。ちょっと枚数が多いですけど」
「わかりました―――二人とも、風呂行くんなら先に行っておいていいぞ。今日だけなら逃すのも惜しいだろ?」
「うん。わかった」
「先に行っとくけどお前も逃すなよ。牛乳は冷やしておくからな」
「頼んだぜ。じゃあ山田先生、行きましょうか」
山田先生が一夏に促され更衣室から出て行き、それについて一夏もドアをくぐっていった。
残されたのは着替えていないシャルルと俺の二人のみとなった。
「俺らはどうする?一緒に大浴場に行くか?」
「ううん、弾は先に行ってきなよ。僕も着替え終わったら行くからさ」
「そっか?じゃあ一番風呂はいただかせてもらおうかな」
正直シャルルがこう返してくるのは予想済みだった、そして一夏がいない今、俺が大浴場一番風呂の権利を我が手に。
大きい浴場+一番風呂+牛乳=最高の方程式が完成してしまう。
「それじゃお先に~」
はやる気持ちを抑えきれず早足で出口に向かう。
まぁシャルルも着替えとか見られるのいやらしいから丁度いいや。
いつもなら考えないような友達甲斐のない思考をしているのも全て最高の方程式の魔力のせいに違いない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おおおおお、広ええええ」
大浴場で一人呟いた言葉も、他に音を発するものがなければかなり響く。
俺の声がエコーで帰ってくる。
「やっぱり一番風呂っていいわぁ」
しみじみと独り言を呟きながら、まずは身体を洗おうと洗面器を取って蛇口の方へ近づいたのだがなにか違和感がある。
何か足りないような・・・
「あっ」
シャンプーやら石鹸やらを脱衣所に忘れてきたようだ。
やっぱり久しぶりにこういうところに来ると忘れやすいんだろう。
ひたひたと脱衣所まで歩いていき、さっと扉を開ける。そこで脱衣所に誰かの気配があることにようやく気づいた。
「あぁ、シャルル早かった―――」
「!・・・だ、弾」
そこにいたのはシャルルだった、別に変なところはどこにもない。
終わったらすぐに来るといっていたし、どこにもおかしいところはない。
その手に握られたモバイルPCとPCに接続されたコード以外は。
「弾、こ、これはね・・・あの―――」
シャルルの手の中のコードは俺の待機状態のIISに繋ごうとしているようだった。
しかしそのコードは今そのIISには繋げないんだ。なぜなら―――
「シャルル、俺の玉鋼は待機状態じゃデータ収集用のコードを繋ぐ端子がないんだ。展開状態じゃないとデータ取りできない、だから俺がよく呼ばれるんだ」
「・・・・・・・ッッッ!!!」
シャルルの顔が真っ青を通り越して真っ白になる。
今シャルルの持っているコードはIISの開発者の人達もよく使っていた、そのコード自体にISの情報をデコードしてPCに出力する機能があり、使い勝手がいい。
よくISの企業なんかでも使われているらしい、という話もそのコードの説明を受けた時に聞いていた。
「俺がIISの研究・開発の雑用もやってるって、シャルルも知ってるだろ?だからそのコードが何なのかも知ってるんだ・・・シャルル、どうして―――」
シャルルは俺の言葉を聞き終える前に駆け出した、持っていたPCも投げ出して、外へ。
「シャルル!!待てよ・・・待ってくれ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シャルルは俺の玉鋼の情報を隠れて抜き出そうとしていた、これがどれほどの事態なのかは誰だってわかる。
IISは男でも使えるISと同じ機能を持った兵器、という極めて異質ながら最先端の技術が詰め込まれている。
盗んでどこかへ持ち込めばかなりの金になる可能性がある。
(でもそれをシャルルが?あいつにかぎってそんなことをやるなんてありえないだろ?)
出会って数日しか経っていない、けれどそれでもあいつは俺の、俺たちの友達なのだ。
それなりに分かっているつもりだ。
分かっているつもり、それが気のせいだったら?悪い考えが頭をよぎる。
(でも今はそんなこと考えてる場合じゃない!)
考えている間に待機状態の玉鋼を腕につけ終わり、すぐさま叫ぶ。
「出ろぉ!!玉鋼っ!!」
光が身体を包み、玉鋼が構成されるまで二秒もかからない。
そしてそのまま玉鋼から降りる。
さきほどまでタオル一枚だけだったが今はISスーツを着た姿に変わっている。
(IISにもISと同じ、展開時にISスーツを展開できる機能がついてて良かった。さすがに着替えてたら見失っちまう)
ISスーツに着替え裸足のままで駆け出す、なりふり構ってる余裕はこれ以上ない。
扉を出てすぐに右に曲がり全力で走る。
前方に小さくシャルルが見えるが思ったよりも速い。
(けど俺も伊達に千冬さんに鍛えられてないっつーの!これなら追いつける!!)
「シャルル!待ってくれ、話聞いてくれ!!」
長く直線の続く廊下をシャルルを追いかけて走るがもうすぐシャルルは曲がり角に差し掛かる。
今見失うのはやばい、そんな気がする。もう二度と今までのようには戻れなくなるような予感。
俺は一層、脚に力を込めて地面を蹴る。
「シャルル!待てよ!なんで待ってくれないんだよ!!」
「・・・・・・・・・」
何度も呼びかけるが何も答えずにシャルルはひたすら走る。
そして角を曲がってしまった、この先で見失えば・・・
「シャルル!!」
「うひゃっ!?」
角を曲がった瞬間誰かにぶつかった、直撃ではなかったが結構な速度でぶつかってしまった。
「す、すまん、大丈夫か!?」
「あんたねぇ、ちゃんと前見て走りなさいよ。シャルルともさっきぶつかりそうになったし」
「り、鈴!?」
ぶつかってしまった女子生徒はなんと鈴だった。
さすが代表候補生というべきかうまく勢いを殺してくれたみたいでこけてさえいなかった。
「あんた何かシャルルを怒らせるような―――」
「鈴!シャルルはどっち行った!?」
「え、そこの角を左に曲がったわよ・・・」
「サンキュ!!」
悪いが今は鈴にかまっている時間はない。
シャルルを追わなければ。
「弾!シャルルになにしたの!?」
「俺は何もしてねえよ!けどシャルルがとにかく大変なんだ!!」
鈴はまだ言葉を続けようとしていたようだが俺が角を曲がったせいでそこで会話は途切れた。
「シャルル!!待ってくれって、言ってるじゃねえかよおお!!!」
段々と距離は近づいてきているものの、もうすぐ曲がり角の多いエリアに入ってしまう。
見失う前になんとしても追いつかなければと、最後のスパートをかける。
シャルルが角を右に曲がる。その先の直線で追いついてみせる。
「うわぁっ!!」
しかし俺が角を曲がる前に角の向こうからシャルルの短い悲鳴が聞こえた。
その直後に何かがぶつかった音がしたため誰かとぶつかったのかもしれない。
これは好機だ、こっちは最高速度で向こうは止まっている。
確実に追いつく。
「シャルル!!」
角を曲がり見えた人影に向かって叫ぶ。
しかしその人影は一人ではなく二人が重なっていて、どちらも見覚えのある人物だった。
「よう弾。なんかシャルルが凄い形相で走ってきたんだけど何か知ってるのか?」
「い、一夏ぁ?」
「・・・・・・・・・」
シャルルは一夏にぶつかった体勢のまま何も言わず、沈痛な面持ちで視線を下に向けていた。
もう逃げるのは諦めてくれたようだ。
「ようやく話が出来るな、シャルル」
「弾、何があったんだよ?お前もシャルルもいつもどおりじゃないし・・・」
「俺も何がおきたのか全部は知らない。一つ確かなのはシャルルが玉鋼からデータを引き出そうとしていたこと。それだけだ」
「!!」
さすがの一夏もことの重大さは理解したようだ。
今まで困惑気味だった表情がマジメな表情に切り替わる。
それと同時にシャルルの表情も先ほどより悲痛なものに変わる。
「シャルル、俺もなんでお前があんなことしようとしてたのか分からない。混乱してるんだ、どうしてお前があんなことを・・・」
「・・・・・・・・・」
「頼むよ、シャルル。本当のことを言ってくれ、でないと俺らもお前を信用できねえよ」
「・・・どうせ一緒だよ・・・」
「え?今なんて言った?」
とても小さな声だったのでなんと言ったのか全く聞き取れなかった。
一夏もなんと言ったのか分からなかったようで俺と目が合っても肩をすくめるだけだった。
「デュノア社の・・・父の命令だよ。白式か、IISのデータを奪って来いって・・・」
「は?父親に、ってなんで親が子供にんなこと・・・それに命令ってなんだよそれ」
「僕はね、弾、一夏。愛人の子なんだよ」
俺も一夏も言葉を失ってしまった。俺たちも子供とはいえ『愛人の子』というのがどういう意味かわからないほど子供ではない。
「引き取られたのが二年前、母さんが亡くなった時にね。引き取られることになって色々検査していく過程で偶然僕がISを動かせることが判明したんだ」
シャルルはいつの間にかいつものような柔らかな笑みを浮かべ顔を上げながら喋っていた。
こともなげに自分の暗い部分を語っていくシャルルに俺は戦慄や疑念ではなく心配が頭をよぎった。
「最初は良かったよ、父も僕を広告塔に迎えて大々的に宣伝に起用しようと考えていたみたいだし。待遇もそれなりに良かった、経歴を隠して本当の息子にしようともしてたらしい。けれどそのあと僕の身体に欠陥が見つかったんだ」
「欠陥・・・?」
思わず口からこぼれたその言葉は俺から出たのか、一夏から出たのかも分からないほど小さな音だったがシャルルには聞こえていたようだ。
小さくうなずき、話を続けていく。いつもの柔らかな笑みで。
「僕はね、『遺伝子だけ女』らしいんだって。恐らくISを動かせるのもここが関係してるらしいけど詳しいことは知らない、関係もないし省くよ。父はそんな欠陥をもった人間を自分の息子だとは知られたくなかったらしくて、家に半分監禁されてISのテストパイロットをやらされていたんだ」
ぎりり、と歯を食いしばる音が聞こえた。隣の一夏だ、怒りをその身の表に現し隠そうともしていないようだった。
かく言う俺も拳から血が出んばかりの勢いで握りこんでいた。隠そうとしても隠し切れないほどの怒りが身に宿っていた。二人ともだ。
「そのテストパイロットをする日だけは外に出られたんだ、唯一の楽しみはその時一杯だけ振舞われるココアだったな。おいしいんだよ、そのココア」
俺たち二人のことはお構い無しに、なにがおかしいのか分からないがシャルルはクスクスと笑う。
「それでね、そのうち会社が経営危機に陥ったんだ」
「なんでだよ、デュノア社は世界第三位のシェアを誇ってるんだろ?」
「それでも会社の主力商品のラファール=リヴァイヴは結局、第二世代型なんだよ。ISの開発にはそれはもうたくさんのお金が必要なんだ、普通は国の援助がなくちゃやっていけない」
長い話になるのか、シャルルは一旦区切り一息ついて続ける。
「そしてその国からの援助が打ち切られそうになっているんだ。理由は第三世代型の開発が遅れているから、次のトライアルで選ばれなかったら援助全面カット、そしてIS開発許可の剥奪っていうことになったんだ」
「だからIISや白式のデータを盗ってこいって言われたわけか・・・」
「うん。だけどもうばれちゃったから、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社はまぁ、つぶれるか他の会社の参加に入るか・・・まぁ今までのようにはいかないだろうけどね。僕には関係ないけど」
「それでいいのかよ・・・」
「いいも何も、未遂とはいえIISのデータを盗み出そうとしてたんだよ?IS学園だって、フランス政府だって僕をフランスへ帰そうとするはずだよ」
諦めたようにシャルルは笑う、力のないからっぽの笑みで。
「聞き方を変えるぞシャルル・・・お前は、それでもいいのかよ」
「え?」
「お前はどう思ってるんだ?フランスに帰りたいのかよ?どうなんだ、シャルル」
一夏の言葉で今まで笑顔のままだったシャルルの表情が困惑した表情に変わる。
「何言ってるの一夏・・・僕は君たちを騙してたんだよ?情報を盗むために近づいて―――」
「嘘つけ、お前がそんな悪い奴なわけないだろ」
「・・・ッッッ!?」
当たり前のことのように一夏はさらりと言ってのける。
「い、一夏に僕の何が分かるんだよ!!会って数日しか経ってないのに、僕がそんな奴じゃない!?なんだよそれ!」
初めてシャルルが怒鳴る声を聞いた、こんな表情も初めてだった。
確かに俺らはシャルルのことをまだ知らないことの方が多い、けれど―――
「お前はそんな奴じゃねえよ、初めて会った日の昼休み・・・あの時笑った顔が演技じゃねえって、一夏でも分かるくらいだ」
「・・・・・・・・・」
あの時、いつも見せる綺麗な笑顔じゃなくて、顔をくしゃくしゃに歪めて無邪気な輝きに包まれていた笑顔。
あれを見た時に俺たちは友達になれたって感じたんだ。一夏だって、皆だってそうだと思う。
「・・・二人はさ、なんて言ってほしいの?ここに残りたい、フランスなんかには帰りたくない。そういってほしいの?けど無理だよ、僕はIISのデータを盗もうとしたんだ。この事実は消えない」
「そっか、じゃあその事実が消えればいいんだな」
「はは、そんなことが出来ればいいのにね・・・・・・弾?」
俺の言葉を本気にしていなかったのかシャルルは軽く笑っていたが、拳を固めて近づく俺になにか不穏なものを感じたらしい。
いつもの端正な顔がややゆがんでいる。
「お、おい弾!何を―――」
結局シャルルがやったことは未遂だ、こんな時は昔から詫びいれればなかったことになっちまうのさ。
そして古今東西、男の侘びの入れ方と言えば。
「シャルル、歯ぁ食いしばれぇえあ!!!」
「へっ?」
俺の拳がシャルルの顔面に綺麗に突き刺さる。
不意を打たれたシャルルは後ろに吹っ飛び、もんどりうって倒れた。
「ば、馬鹿野郎!!おまえなにシャルル殴ってるんだよ!!」
「いや~シャルルにもイライラしてたんだよな。不幸だったのは分かったけど幸せになれる道があるのになんでそっちに進もうとしないのかね?」
「お前単純に殴りたかっただけじゃないよな?」
「そんな馬鹿な」
そんな馬鹿なことがあるものか、俺はネガティブになっていた友人を一喝する意味も込めてフルスイングしただけだ。
俺たちが言い合っている間にシャルルがもぞもぞと起き上がろうとしていた。
手をかして起き上がらせる、顔に思いっきり入ったが鼻血なども出てないし怪我もしていないようだ。頑丈なやつめ。
「やっぱり、怒ってるんだよね。まぁこうなるとは―――」
「何言ってるんだよ、さっきの全部チャラだよ。もう全然怒ってないぜ」
シャルルは先ほどのフルスイングを別の意味で捉えていたようだったので、サムズアップと笑顔で誤解を解こうと試みる。
「・・・・・・え?」
「いやだからもう怒ってないって。盗もうとしたこととかも全部チャラだって」
「いや、だって―――」
「わかんない奴だなもう!この件はもう終わり!そんでお前はどうしたいんだって話だよ!!」
俺の言ってることって分かりにくいかな?確かに理屈とかそんなもの投げ捨てた説得方法だったけどさ。
シャルルは最初困惑した表情のまま固まっていたが、だんだんと顔が緩んできて。
「・・・ふふ、ははは、あっははははは!何それ全然意味が分からない、バッカじゃないの!」
「シャ、シャルル?」
しまった、ころんだ時に頭の打ち所が悪かったのか?
「むしろお前の頭が心配だけどな・・・」
「あ?なんだよ一夏、それどういう―――」
失敬な奴だ、俺は真剣にシャルルを説得しようとだな・・・
「はぁ・・・もう真面目に悩んでた僕が馬鹿みたいじゃないか。というか今考えてみると一番馬鹿なのは僕なんだけどさ」
ひとしきり笑って落ち着いたシャルルが、どこか吹っ切れたようなすがすがしい顔で喋りだした。
「弾、一夏、ちょっと僕の話きいてもらってもいいかな?」
「ああ、いいぞ」
「うん」
「それじゃあ・・・僕はね、最初みんなに友達だって言われて、弾のいっていた通り心のそこから嬉しいと思っていたんだ。父からの命令なんて忘れてこのまま学園生活が送れれば、なんて考えてた」
その時のことを思い出してか小さい笑みが口の端にこぼれ出ている。
シャルルはそのまま続けた。
「けれど今日の大浴場の件でチャンスが来てしまった。一夏は職員室、弾は浴場の中、IISは脱衣かごの中・・・僕は父の命令に従った。なぜだか分かる?」
「いや、わからん」
「僕には居場所がないと思っていたんだ、父のところ以外に。今思えば馬鹿だよね、きっと監禁生活が長すぎて感覚がおかしくなってたのかも」
口元には笑みを残したまま言葉をつむぐ。
だけど目には今まで見たことないほど真剣な思いを宿しているように俺には見えた。
「僕の居場所はここだ。みんなのいるところが僕の居場所なんだ。僕はフランスになんか帰りたくない、みんなとずっと一緒にいたいよ」
「・・・やっとその言葉を言ってくれたか」
「ごめん、僕が馬鹿だったよ。だから力を貸してほしい、そこにいる鈴や箒やセシリアにも」
え?
「あら、いつからばれてたの?」
「鈴さんが近づきすぎたのでは?」
「いや、セシリアも相当前に出ていたぞ」
ぞろぞろと角から出てくるいつもの面々。
おい、いつからそこにいやがった。
「ついさっき、弾に殴られてから周りが見え出したからかな。角から鈴のツインテールが見えたんだ。でもいつからいたの?」
「最初から、ていうか弾のこと追ってきてる間にみんな呼んでおいたのよ。シャルルが大変だって弾が言ってたし」
「あ、そんなこと言ってたな確かに」
なんというか、さっきまでかなり暗い雰囲気があったはずなのだがいつもの面子がそろっただけで空気が一変した。
休み時間に普通に話しているような、なんでもない時間を過ごしているような。
「でもシャルルがここにいたいって言ってても国から呼ばれたらどうするのよ、そもそもIISの開発者とかにも何か言わなきゃいけないんじゃないの?」
「いや、IISの件は俺から話せば何とかなると思う、いい人たちだから分かってくれるはずだ」
「では問題はフランス、と言うわけか・・・私たちだけでは力不足ではないか?千冬さんたちなら事情を話せば」
話題は真剣なものだが先ほどまでの悲痛なものは誰の中にもない、どうにかしてシャルルをこの学園にいさせるために皆で意見を出し合う。
「さすがに廊下で結論の出る話でもないですし、誰かの部屋に場所を移しますか?」
「そうだな、事情によってはマジで千冬さんに助けを求めることも・・・」
「な、なぁ」
「ん?どうした一夏」
「みんなが意見を出し合ってるなか水を差すようだが・・・あるぞ、シャルルを国に帰さない方法」
「「「「「・・・・・・・・・はぁ!?」」」」」
シャルルを含め全員が思わず叫んでしまった。
「えっとな、特記事項第二十一、本学園における生徒はその在学中ありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。だそうだ」
え、なんだこのご都合展開、あっという間に見つかってしまったぞシャルルが帰らなくてもいい方法。
「つまり三年間は時間があることだし、その間になんとかする方法を見つければ・・・いいんじゃないかな?」
「というより一夏よく覚えていられたね、特記事項って五十五個もあるのに」
「・・・勤勉なんだよ、俺は。それにさ、言っただろシャルル」
「え?」
「IS以外のことなら何でも聞いてくれって、な?」
シャルルは最初、一夏の言葉に困惑した表情を浮かべていた。
だが始めて会ったあの日、あの昼休みに聞いた言葉だと気づくとやがて笑顔に変わり。
「そうだったね、ふふ」
あの昼休みと同じような、無邪気に輝くあの笑みを浮かべた。
今日はここまで
シャルルは男の子でした。まさか>>315さんに当てられるとは・・・
夢でこのSSの先を見た時にシャルルが男だったんですよ、それが妙にしっくり来て。
これからはこのSSでは男の子のシャルルをよろしくお願いします。
それではこれにて
男かよおおおおおおおおおおおおおおおおお
くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
だがこれはセシリアの出番が増えるということでよろしいか?
なん……だと……?
つまり『シャルロット』は存在しないで、本当に『シャルル』なのか…
シャル好きの俺としては複雑だが、面白けりゃそれでいいか
今後に期待してる
原作でラウラと一番仲が良いのはシャル
つまり・・・・・・
投下乙!
つまり、x染色体がないからシャルルと妻の子供は娘しか生まれないと……デュノア家的に大変かな?と思ったけど、女尊男卑な世界なら好都合なような。(家長制度も父じゃなくて母が基準になってたりしそう)
それともそれ以前に子種が作れないのかな?
ていうか…この流れ、シャルル×ラウラのいちゃいちゃはどうなるんだ…いっそこのカップルになってほしいな(笑)
いや待て
遺伝子上は女ってことは抱く感情は女ってことか?
それとも普通に正真正銘の男なのか…?
まぁ、なんにせよこれだけは言いたい…
シャルロットォオオオオオオオオオオオオ!!
ガチ男シャルか…
弾一夏シャルの男トリオの友情も楽しみだ
ゲッターチームとかみたいな感じで
>>339
逆だろ、無いのはX染色体じゃなくてY染色体だろ?
XX型男性だから女性としての二次性徴が起こるかもしれん。
性ホルモン投与しないと次第に女性化していくしもしかしたら…おっp
えー、シャルルのことで色々疑問がありそうなのでそこの解消にやってまいりました。
シャルルの言う『障害』は自分が調べたところによると、男性のみに表れるもので、ほとんどの人が自覚しないまま一生を過ごすほどの軽微な障害らしく、このSSのシャルルも普通の男性と変わりないと認識していただければと思います。
お騒がせしました、それではこれにて
乙!当てちゃいました315ですww
とりあえずセシリアのライバルは増えなさそうで何より。
>>342
そうだった…凡ミス;;
半陰陽(はんいんよう、Intersexuality,hermaphroditism)は第一次性徴における性別の判別が難しい状態である。
インターセックス (intersex)ともいう。
また、この性質を持つ人を半陰陽者、インターセクシュアル(intersexual 、ISと略すことも)と呼称する場合もある。
http://ja.m.wikipedia.org/wiki/半陰陽
リンク張れなかった
iPhoneよくわからん
男の娘乙
男の娘乙
連投すまん
なんか重いね
しえん
そういやISってドラマやってるもんなwwwwww
しえん
次はいつだろう…
唐突に投下を開始しますよ~
ISという漫画の存在は知っていましたがドラマ化しているとは
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「どりゃあああああああ」
「なんつー声出してんだ、なんつー声を」
「うひゃあああああああ」
「ほら!シャルルが真似しちまったじゃねえか」
シャルルの一件が終わった後、俺たちは揃って大浴場にやってきていた。
今まで一緒に着替えるのを嫌がっていたシャルルもなんでもなかったように一緒に入ってきた。
その理由を聞いてみたんだが曰く―――
『コンプレックスだよ。二人と僕の体が違ったりしたら、あの時の僕だと立ち直れなかったからね』
だとか。
今はもういいのか?と聞こうとしたが聞かなくてもわかることだったのでやめた。
「いやぁ、こんな広いお風呂に入るのなんて僕初めてだよ。気持ちいいものだね」
「ふふふ、甘いぞシャルル。まだこの後にはメインディッシュが残っているのだからな」
「きっちり冷やしておいたか?」
「ぬかりはない」
勿論牛乳は三本とも脱衣所の冷蔵庫に入れてある。
なんで脱衣所に冷蔵庫があるのか、と最初思ったんだがどうやら千冬さんが常用しているらしい。
さすが千冬さん、わかってらっしゃる。
「じゃあそろそろ百数えて上がるとするか」
「おおお日本式」
「ちゃんと肩まで浸かれよ、少しでも肩が出たら数えなおしだからな」
「い、意外と厳しいんだね、日本って」
「弾の言うことは信じないでいいぞ~」
一夏は俺の言ったことを冗談と捉えたようだが爺ちゃんからはそう教わったんだがな。
五反田家流はマイナールールだったようだ。
「五十五~、五十六~、五十七~」
「シャルル、今何時?」
「え?時計ここにあったかな・・・あった!もうすぐ九時だね」
「じゃあカウント再開」
「え!?あれ、今いくつだったっけ?」
イッツ古典落語。古きよき引っ掛け、時そば。
「今六十九だ、七十、七十一」
「七十二~、七十三~」
「ちっ、やっぱり一夏は数えてたか」
「昔同じ手で誤魔化されて二人してのぼせたことあっただろ。俺は忘れてないぞ」
あの時はひどかった、銭湯に行って時そばに引っかかった一夏を笑っていた俺だったが最後には俺ものぼせてしまって。
爺ちゃんにサルベージされなきゃ大変なことになってたぞあれは。
「九十九~、ひゃく!よし上がろう!!」
「よっしゃ、じゃあ腰にタオルを巻いて~」
三人でいっせいに湯船から上がり頭に載せてたタオルを腰に巻く。
洗面具を途中で回収し脱衣所まで足並みをそろえて踏み入れる。
「ほれシャルル、一夏、牛乳だ」
「ぼ、僕にうまくできるかな・・・」
「肩の力を抜け、強張ってたら出来るもんも出来なくなるぜ」
一夏、決めているところ悪いが、タオル一丁で牛乳飲むだけなのにそれはダサいぞ。
「じゃあ右手に牛乳、左手は腰に~」
「う、うん!」
「右斜め上四十五度に傾けて!!」
ぐいっと一気飲み。
さすが一夏だ、ごくごくと喉を鳴らす様が板についてやがる。
シャルルは慣れないビンの牛乳を必死に煽っている。
だが光るものを感じる、なかなかいい風呂リストになるかもしれないな。
風呂リストってなんだよ。
「ぷっはぁああ!やっぱこれだよなぁ」
「完ッッ璧だ・・・最高だ・・・」
「んぐ・・・んぐ・・・ぷはっ!」
軽く拭いた髪の毛の先から水滴が垂れる、滴る水滴さえも絵になる男だ。
ビン牛乳のCMがあったらシャルルが起用されるに違いない。
いやそんなCMないけどさ。
「なんだろう、普通に飲む牛乳よりおいしいような気がする・・・」
「だろ?やっぱり牛乳は風呂上りが一番うまいんだよな」
「でも油断するな、あんまり余韻に浸ってると湯冷めして風邪ひいちまうからな」
おっとっと、それもそうだ。
俺たちはそそくさと服に着替えた。
「さって、あとは鍵を山田先生に、だっけ?」
「そうだよ、職員室で待ってるって」
「それじゃさくっと行ってきますか」
俺たちは三人で連れ立って大浴場を後にする。窓が少し開いているのか夜風が入ってきて体を撫でるのが心地いい。
「今度はさ、あそこにあったマッサージ機も使ってみたいね」
「つーか、あれ千冬姉しか使ってないんじゃないか?冷蔵庫といい、マッサージ機といい、千冬姉の影が見え隠れしているような・・・」
「いやいや、もしかしたら他の先生とかも使ってるかもしれないじゃん。気のせいだって」
「そうだぞ、私以外にも脱衣所のあの設備を使用するものも少なくはない。信用がないのだな、私は」
「げえっ、関羽!?」
いや千冬さんだから、そう心の中で突っ込みを入れた。口には出せないよ、だって今一夏が頭叩かれてる最中だし。
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
千冬さんなら時代と場所を間違えなければなれたと思うけどな。
「む、デュノアも一緒か。ちょうどいい、お前とは話さなければと思っていたからな」
「はい、僕も話をしなければと思っていました」
「そうか・・・私も先ほど山田先生から事情を聞いたばかりだ、しかしその表情から察するに全て真実ということか」
シャルルの顔を見て納得したように小さくうなずく。
山田先生がなぜ知っているのか、ということについてはシャルルとぶつかった時に一夏がいた場所が関係している。
一夏はあの時、職員室から書類を書き終えて出てきたところだったのだ。つまりあの時俺たちは職員室のかなり近くで騒ぎを起こしていたわけで。
その時職員室にいた山田先生と他何人かの先生方には、あの時の事の顛末は知られていたのだ。
「デュノア」
「はい」
「特記事項にもあるとおり在学中はフランスも手出しは出来ん。しかしその後のこともある、独力で解決できないのであれば教員を頼れ。いいな」
「え?・・・は、はい」
千冬さんの言葉にシャルルがそれまでの真剣な表情から一変して、驚きの表情を浮かべた。
いや、一夏と俺も同様だ。千冬さんがこんなことを言うなんて想像の斜め上を行っている。
「なにを呆けた顔をしている。けじめはつけたのだろう?ならば後は担任として生徒に助言するのは普通のことだろう」
確かにそれは普通ですけど、なんか千冬さんが優しいセリフを言うと違和感が―――
「なんだ五反田、叩かれたそうな顔をしているな。ならば叩いてやろう」
頭のてっぺんに尋常じゃない衝撃。音なんて聞こえないほど痛い。
あんまり失礼なこと考えるものじゃないな。千冬さんといい、鈴や篠ノ之さんといい、俺と一夏の周りの女は察しが良すぎる。
「話は以上だ。山田先生が待っているのだろう、早く行くといい」
言うだけ言うと千冬さんはきびすを返し、廊下の角に消えてしまった。
「行っちまったよ・・・」
「もしかして織斑先生、あれだけ言うためにここで待ってたのかな?」
「いやさすがにそれは・・・でも通りすがったわけじゃなさそうだったしな。そうなのか?」
なんだかんだいってあの人も一夏の姉だもんな、お人好しでおせっかいなところもたしかにあるけどさ。
「ま、一件落着ということでいいじゃないか。世の中はいい人だらけ、万事ハッピーエンドだ」
一夏の言うことももっともだ。終わりよければそれでよし。
シャルルの周りはいい奴ばっかで、悲劇なんて一つもない。
なんでもないことに疑問を持てるような平和な毎日が続く。
それでいいのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
月曜の朝、俺とセシリアと篠ノ之さんは一組に遊びに来た鈴と雑談をして時間を潰していた。
潰していたのだが・・・
「噂なんだけどね、月末の学年別トーナメントに優勝したら織斑君と『交際』できるんだってー!」
「そ、それ本当!?嘘じゃないでしょうね!!」
「あらあらまぁまぁ」
「なんじゃそりゃ・・・」
クラスメイトたちの妙な噂話に鈴が食いつき、それに引っ張られるように俺とセシリアがその話の輪に入り。
「・・・・・・・・・」
なぜか篠ノ之さんが硬直している。
「・・・・・・篠ノ之さん」
「・・・・・・なんだ五反田」
「俺も一夏とそれなりの付き合いだ。こういうパターンの出来事に何度も出くわしてきた」
「・・・・・・・・・」
「ドンマイ」
篠ノ之さんは無言で窓のほうを向いた。きっと篠ノ之さんは勇気を出して一夏にアタックを仕掛けただけなのだろう。
しかしなぜ一夏に惚れてる女子はやることなすことうまくいかないんだろう。呪いでもかかるのか?一夏に惚れると。
「「「きゃあああああああ!!?」」」
なんだ?
いきなり女子の方から悲鳴が。
「何の話してたんだ?俺の名前が出てたみたいだけど」
「う、うんそうだっけ?」
「やはははは織斑君の気のせいだよ!お、お、折り井村君!折り井村君の話してたんだよ。近所に住んでた井村君を折ったもので・・・・・・」
一夏がいつの間にかシャルルと教室にやってきていた。
というか折り井村君ってなんだよ、ごまかし下手にもほどがあるだろう。
「そうか、俺の勘違いか。けど井村君にはもう少し優しくしたほうがいいんじゃないか?」
「じゃああたし自分のクラスに帰るから!」
「わわわわたしも自分の席に帰るね!」
「?」
我が友人ながらあの言い訳で誤魔化されるとは、いささか心配になってきた。
「本当に一夏ってすごいよね。なんで女の子のことに限ってあんなに鈍くなれるんだろう」
「わたくしも時々わざとやっているんじゃないかと疑ってしまうこともありますわ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はー、この距離だけはどうにもならないな」
一夏のぼやきを聞きながら、俺とシャルル、一夏は三人で教室まで向かっていた。
校内で男子の使えるトイレは三箇所しかないので、休み時間に利用するとなったら走らなければ間に合わない。
しかし無情かな。先日『廊下を走るな』と一夏と一緒にいた時に叱られた。どうしろっちゅーねん。
「なぜこんなところで教師など!」
「やれやれ・・・・・・」
突然の大声に無意識に足を止めてしまう。
あの声は千冬さんと・・・ボーデヴィッヒか?
「何度も言わせるな。私には私の使命がある。それだけだ」
「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」
声が聞こえたのは俺たちの先にある角の向こうからだ。
二人と顔を見合わせて無言で視線を交わす。シャルルも一夏も同じことを考えていたようでそのまま静かに角の付近まで近づく。
「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力を半分も生かされません」
「ほう」
角からこっそりと覗き見ると声の主はやはり千冬さんとボーデヴィッヒだった。
しかしあのボーデヴィッヒが声を荒げているとは。冷えた鉄でできたような人間だと思っていたのだが、一夏と千冬さんに関することは別のようだ。
まぁ熱くなるベクトルが正反対だが。
「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません」
「なぜだ?」
「意識が甘く、危機感に欠け、ISをファッションか何かと勘違いしている。そのような程度の低い者たちに教官が時間を割かれるなど―――」
「そこまでにしておけよ、小娘」
「ッッ・・・・・・!」
自分に向けられたわけでもないのに、千冬さんの鋭く威圧感のある声に体がびくりと震える。
「少し見ない間に偉くなったな。十五歳程度でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」
「わ、私は―――」
ボーデヴィッヒの声が震えている。
そりゃあの声を直に向けられたのだ、怖くて震えるだろうな。
けれど本当にそれだけか?いや、ちがうだろうな。
(ボーデヴィッヒは明らかに千冬さんに執着してる、いや依存か?とにかく一夏に対する攻撃性もそこから来ているんだろう)
前にアリーナでいきなり一夏を攻撃した時も、会話の最中そんな空気を漂わせていた。
(そんな千冬さんにあんな風に言われたら、あのボーデヴィッヒでもああなるわな)
今のボーデヴィッヒは親に叱られて呆然とする子供のようにも見えた。
むしろそんな子供のような気質がボーデヴィッヒの本質なのかもしれないな。
「さて、授業が始まる。さっさと教室にもどれよ」
「・・・・・・・・・」
ぱっと声色を戻した千冬さんに促されてボーデヴィッヒは黙したまま早足で去っていった。
「そこの男子、盗み聞きか?異常性癖は感心しないぞ」
「な、なんでそうなるんだよ!千冬ね―――」
「わっ!馬鹿ッ!!」
俺のほうが前にいるのにお前が押してきたら―――
そこまで思考したら意識が飛ぶんじゃないかというくらいの衝撃が俺の頭を襲った。
「学校では織斑先生と・・・なんだ五反田だったか、間違えた。では改めて」
改めて出席簿で一夏の頭をぶん殴る千冬さん。
ちょっとひどくない?確かに盗み聞きしたけど意識飛びかけたよ。
「は、はい。織斑先生・・・・・・」
「そら走れ劣等性ども。このままでは月末のトーナメントで初戦敗退だぞ。勤勉さを忘れるな」
「わかってるって・・・」
「そうか。ならいい」
そういって口元にちいさく笑みを作る千冬さん。
どうやら今は友達の姉の千冬さんのようだった。
「じゃあ僕たちは教室に戻ります」
「おう、急げよ。―――ああ、それとお前たち」
「はい?」
「廊下は走るな。・・・・・・とは言わん。ばれないように走れ」
「了解」
くるりと俺たちに背を向ける千冬さん。どうやら見逃してくれるらしい。
俺たちはそのまま教室までの道のりをばれないようにダッシュした。
以上で今回の投下は終了です。
一番遅くても一週間に一回は来れるようにしますので
それではこれにて
乙
楽しみに待ってるよ
乙
たまたまチェックしてよかった
なんか一日で投下分溜まってしまった。
では投下しますよ~
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「「あ」」
時は放課後、場所は場所は第三アリーナ、声を上げた人物は鈴とセシリア。
「奇遇ね。あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」
「奇遇ですわね。わたくしも全く同じですわ」
二人の間に火花が散る。
普段は友人として比較的仲のいい二人ではあるが今回は事情が違った。
以前、真耶にあっさりあしらわれたあの件である。
「あの時はどっちが上かどうか結局決めらんなかったからね、丁度いい機会だしこの際はっきりさせない?」
「そうですわね、どちらが強いか。この場ではっきりさせましょうか」
両者ともにメインウェポンを呼び出し構える。
「では―――」
―――と。いきなり声を遮って超音速の弾丸が飛来する。
「「!?」」
鈴とセシリアは緊急回避を行い、弾丸を避けると飛んできた方向に視線を向ける。
そこにあったのはいつか見た漆黒のIS。
『シュバルツェア・レーゲン』搭乗者は―――
「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・」
「どういうつもり?いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」
そういいながら鈴は『双天牙月』を肩に預け衝撃砲をいつでも撃てる状態に移す。
「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。・・・・・・ふん、データで見た時のほうがまだ強そうではあったな」
いきなりの挑発的な物言いに、鈴とセシリアの両方の口元を引きつらせる。
「何?やるの?わざわざドイツくんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってるの?」
「見ただけで正確に強さを測れるなんていい目をお持ちですのね。それとも両目を開いていないからよく見えていないだけなのかしら?」
ラウラの全てを見下すような目つきに並々ならぬ不快感を抱いた二人は、それでもどうにか怒りの捌け口を言葉に見出そうとする。
が、それはおおよそ無駄な労力であった。
「はつ・・・・・・。ふたりがかりで量産機に負ける程度の力量しかもたぬものが専用機持ちとはな。よっぽど人材不足と見える。数くらいしか能のない国と、古いだけがとりえの国はな」
鈴とセシリアは武装の最終安全装置をはずす。
鈴はもとより気の長いほうではないし、セシリアは国のことを悪く言われるのが沸点の低いポイントのひとつだ。
怒らないわけがなかった。
「ああ、ああ、ああ、もうわかったわよ!スクラップがお望みなわけね。セシリアどっちが先にやるかじゃんけんね」
「ええ、そうですわね。わたくしとしてはどちらでもいいのですが―――」
「はっ!二人がかりできたらどうだ?一足す一は所詮二にしかならん。下らん種馬どもにうつつを抜かすメスに、この私が負けるものか」
明らかな挑発、しかし頭に血が上っている二人にはそれで十分だった。
「今なんて言った?あたしには『どうぞ好きなだけ殴ってください』って聞こえたけど」
「場にいない人間まで侮辱するとは、同じ欧州連合の候補生として恥ずかしい限りですわ。そのような軽口、二度と叩けぬようにここで叩いておきましょう」
得物を握り締める力を一層強くする二人。対してラウラはそれを冷ややかな視線で流すと、両手をわずかに広げて自分側に向けて振る。
「さっさと来い」
「「上等!!」」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ずいぶん時間くっちまった。もうみんなアリーナで練習してる頃かな」
俺は授業が終わってから開発者の人達に呼び出されて、整備室まで行ってきていた。
とはいってもあまり長くはかからない用事だったので帰るその足でアリーナで月末トーナメントに向けて練習でもしようかと向かっているのだ。
恐らくいつもの面子も同じような理由で集まっているに違いない。
「ん?」
小走りでアリーナのピットを目指していた俺だったが、近づくにつれて廊下が騒がしくなっていくのに気づいた。
聞こえてくる声の端々から俺の向かっている第三アリーナでなにか起こっているようだ。
(どうしよう、ピットに行く前に観客席で状況だけ見ていくか?緊急事態でも玉鋼ならまた穴あけてアリーナの内側に出れるし)
思い立ったが早いか手近の観客席へのゲートに駆け込む。
アリーナの内側、特殊なエネルギーシールドで囲われている側でちょうど爆煙が上がったところだった。
「模擬戦・・・?いやそれなら騒ぎにならないか」
あたりの状況を確認するために周りを見渡すと、煙の上がっているのは地上だけでなく空中でも煙が上がっていた。
(実弾兵器の打ち合いか・・・いや、地面の方は違う。誰かが倒れてる?・・・鈴とセシリア!?)
先に地上の土煙が晴れ、中から見知った顔が現れた。
二人ともかなりダメージを負っている、ということはあの二人をここまでにできる人物が対戦相手なのか。
やがて空中に漂っていた煙も晴れ始める。その中から現れたのも見知った顔だった。
(ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・!!しかも損傷は少ない。あの二人相手にかよ!?)
空中で腕を組み、余裕を表現していたボーデヴィッヒが突然消える。
いや、ISの補助を受けていない状態で瞬時加速を使われたからだ。すぐに地上で衝撃。
鈴とセシリアが吹き飛ばされ、そこにボーデヴィッヒのISから放たれたワイヤーのようなものが追撃を仕掛ける。
「セシリア!!」
無意識に叫び声が上がる。
ワイヤーは鈴とセシリアを正確に絡めとりボーデヴィッヒのもとへ二人を引きずる。
「鈴!セシリア!!」
足元へ来た鈴を蹴り上げ、セシリアを引っ張り上げて拳を振るう。
逃げられない二人にボーデヴィッヒは容赦なく足を、拳を叩き込む。
ISアーマーが砕け、もはやシールドエネルギーなど言っていられる領域を軽く超える。
「やめろ・・・やめろよこの野郎!!」
アリーナの内側にはシールドがあり声が届かないと分かっていながらも声を張り上げる。
向こう側ではセシリアを持ち上げたボーデヴィッヒの顔を見る。否、睨む。
ISの補助がない今細かい表情など見えるはずもなかった、しかし俺には見えた。
奴が愉悦に顔をゆがめるの瞬間が―――
「出ろ!玉鋼えぇぇっ!!!」
頭の中の何かが吹き飛ぶ。頭どころか体中に血が上る。
溢れる怒りに呼応するようにドリルがうなりを上げ、単一仕様能力が瞬時に発動し、俺は地面に潜り込む。
地中でエネルギーを開放し無理矢理掘り進め、瞬時に内側に飛び出す。
そして今度こそ声の届く範囲、通信なんて使わず腹のそこから叫びをあげた。
「その手を離せこのクソ野郎がぁ!!」
左手の拳を固く握り、エネルギーを開放。瞬時加速を上回るその速度でボーデヴィッヒに肉薄する。
しかしその拳が届くことはなかった。
「なっ!?」
「ふん、誰かと思えばガラクタ使いか。そんなものでは一生やっても届かんぞ」
玉鋼の拳はボーデヴィッヒの目の前で完全に停止していた。
手や武装を使ったわけではなく、空中のなにもないところで止まっていた。
しかしこの現象は知っている。これは―――
「AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)!?」
「ほう、知っているのか。しかし知っていたところでお前はここで終わりだ」
セシリアを持っていない側の腕装甲からブレードが展開される。
確かに、このまま動けないままではなぶり殺しだ。なにか、なにか抗う術はないのか。
「おおおおお!!」
目の前のボーデヴィッヒが突然、後方へ飛び退る。
次の瞬間、ボーデヴィッヒのいた空間に高速で白式が突っ込んできた。
先ほどの叫び声も一夏だ、いいタイミングでカットに来てくれた。
ボーデヴィッヒが掴んでいたセシリアも、一夏が突っ込んできた時に離されて、なんとか落ちる前にキャッチすることに成功した。
「セシリア!セシリア!」
「・・・弾さん・・・わた、くし・・・」
俺の呼びかけにセシリアが腕の中で反応を示す。
そのことが嬉しくて抱きかかえている腕に力がこもる。
「よかった・・・無事で・・・」
「あ、あの・・・弾さん。恥ずかしい、ですわ・・・」
「なぁにいちゃついてんのよ、この状況を考えなさいよ」
「弾、今回は俺も鈴に賛成だ。まず俺に言うことあるだろ?」
「まずは鈴、いちゃついてなんかないだろう?一夏、もう少し早く来てくれ。あやうく死ぬトコだったじゃないか」
鈴も一夏もおおげさに首を振る。なんだそりゃ、まるで俺が変なこと言ったみたいじゃないか。
変なことじゃなくて冗談のつもりだったんだけどな。
ともかくセシリアも鈴も命は無事だった、本当によかった。しかしこれで終わりじゃない。
「貴様・・・・・・ッッ!!」
憎悪を隠そうともせずに一夏に視線を向けるボーデヴィッヒ。
こいつをどうにかしなければならないのだ。セシリアと鈴を圧倒したあのボーデヴィッヒを。
「おい一夏、あいつ怒ってるぜ。どうするよ?」
「だ、弾?どうするって―――」
「こっちもまだ怒ってるんだぜ。あいつ自分だけが怒ってると思ってやがる、笑っちまうよな?」
そして俺の中のこの感情もまだ終わらせようとは思っていない。
どんな事情があるにせよ、あいつはやりすぎた。
「セシリア、ちょっと降ろすぞ」
「え、あ・・・はい」
細心の注意を払い、そっと地面にセシリアを降ろす。
「一夏、俺にやらせろ。いいな」
「おい、弾、お前は少し落ち着け。らしくないぞ」
「言ってるヒマはないから却下だ」
ボーデヴィッヒが身をかがめこちらに突進するような構えをとっている。
いや、もう数瞬で突っ込んでくるだろう。
こちらもエネルギーの状況を確認し、進路を確保する。
「ぶっ潰す」
俺の一言が合図になったわけではないが、ボーデヴィッヒが一気に加速する。
俺も一歩遅れて加速を開始しようとしたその瞬間。
玉鋼のセンサーは俺とボーデヴィッヒの間に割り込むものを認識した。
「なっ!?」
金属同士の激しくぶつかり合う音が聞こえる。
もちろん俺とボーデヴィッヒではない。
「・・・・・・やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」
「千冬姉!!?」
一夏の驚く声が聞こえるが、俺も、おそらくこの場にいる全員が驚いていただろう。
千冬さんがいつもと変わらぬスーツ姿で、ISの補助無しにIS用の近接ブレードを軽々と扱い、ボーデヴィッヒの突進をとめていたのだ。
本当にあの人は人間なのかと時々疑ってしまうことがあるが、あながち間違ってないかもしれない。
「模擬戦をやるのはかまわん。―――が、アリーナまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」
「教官がそうおっしゃるなら」
素直にうなづいてボーデヴィッヒはISの装着状態を解除する。ISが光の粒子へと変換されはじけて消える。
その態度の変化にイラつきはするが、相手がISの装備を解除している以上手出しはできない。
「織斑、五反田、お前たちもそれでいいな?」
「あ、ああ」
「教師には『はい』と答えろ。馬鹿者」
「は、はい!」
「・・・・・・・・・」
「どうした五反田。なにか不満があるなら言ってみろ」
「・・・いえ、ありません」
不満ならある。なんでセシリアたちをこんなにしたのにボーデヴィッヒはお咎め無しなんだよ、と言いたい。
だが千冬さんだって考えなしにそんなことを言う人ではないはずだ、ここは引くしかない。
「では、学年別トーナメントまでの一切の私闘を禁止する。解散!」
千冬さんの声がアリーナの中に響く。
ここは引くしかない。だからこそこの続きは、トーナメントで。
今日は以上で終了ですよ。
この頃めっきり絵を描いてないので明日くらいは描いてもいいかな?
二巻編もお盆の時期には終わりそうな予感です。
一ヶ月に一巻分くらいのペースだな・・・遅いですかね、やっぱり。
それではこれにて
今日は以上で終了ですよ。
この頃めっきり絵を描いてないので明日くらいは描いてもいいかな?
二巻編もお盆の時期には終わりそうな予感です。
一ヶ月に一巻分くらいのペースだな・・・遅いですかね、やっぱり。
それではこれにて
相変わらず上手いよ。乙!
乙
むしろ一ヶ月で一巻分書ければ早い方だと思う
なぜかハイペース投稿
ちょっと短めですけどキリのいいところまで。
次も短めの予定ですけど
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ボーデヴィッヒさん!」
「・・・・・・・・・」
僕の呼びかけに、前方を歩くボーデヴィッヒさんはなんの反応も示さずに歩みを進める。
小走りで近づいていたからすぐに横に並ぶけど、ボーデヴィッヒさんはこちらを見ようともしない。
「ボーデヴィッヒさん、話を聞いてくれるまでついていくよ。なんだったら部屋までついていってもいい」
「・・・・・・・・・」
「まぁその前に、織斑先生が飛んできて止められちゃうかもしれないけどさ」
ピクリ、とボーデヴィッヒさんの頬の筋肉がほんの少しだけど動いたのを僕は見逃さなかった。
やはり織斑先生関連には反応するんだ。
「さっきのことで織斑先生には何か言われたの?ボーデヴィッヒさん」
「本当に貴様はこそこそ動き回るのが好きなようだな、盗人風情が」
「痛いところ突いてくるね、けどようやく喋ってくれた」
「・・・・・・・・・・」
おっと、喋りすぎてしまったかな。また黙ってしまったみたいだ。
「僕の言葉が聞こえてないっていう可能性はなくなったみたいだから一方的に話させてもらうよ」
「・・・・・・・・・」
本当に聞こえてるよね?これ。
「二人に謝ってほしいんだ、セシリアと鈴に」
「ふん」
鼻を鳴らされた。反応はそれだけ。
「あのままやっていれば二人は―――」
「死んでいたか?それが―――」
「違うよ!」
話を聞かないかと思ったら次は口を挟んでくるなんて。
話しづらい相手だとは思っていたけど予想以上かもしれないな。
「違う?なにがだ。あの状態で奴らが私に勝っていたとでも?」
「そうじゃないよ。けどどうせ一夏や弾か、織斑先生が割り込んでたと思う。それに僕が言いたいのはそこじゃないんだ」
「・・・・・・?」
何を言ってるのかわかっていない表情だ。
正直僕も、友達を傷つけられてなんでこんなことが言えるのかって思う。
けれど今の僕は少しずつ変わってきているみたいだ。だからこそ次の言葉に繋ぐ。
「君の居場所がどこにもなくなっちゃうっていう話。僕は君の言うとおり盗人だよ、だからこの学園に入るときに下調べはちゃんとしたんだよ。勿論君の経歴も少しなら知っている」
僕が父に引き取られてから、いくつものことを頭の中に叩き込まれた。
礼儀作法、言葉遣い、一般的な知識、ISの専門的な知識も。そしてIS学園で情報を奪うべきISとその持ち主の経歴。
あの時は気にも留めなかった。ボーデヴィッヒさんのことよりも自分のことで手一杯だったから。
「君は一度全てを失った。そしてその時に織斑先生と出会って・・・詳しくは分からないけど、そこで君は織斑先生を慕う理由が出来た。そうだろう?」
「・・・・・・・・・」
「けど今の君を見ていると、織斑先生に執着してるように見えるんだ。慕う、の限度を超えてる。それじゃ駄目だよ、駄目なんだ」
「何が駄目なのだ・・・私は教官だけでいい、教官しか要らない」
怒気をはらんだ視線を、ボーデヴィッヒさんがこちらに差し向けてくる。
凄い迫力だけど、ここで引くわけにもいかない。
「駄目だよ。君は大好きな織斑先生を、自分を縛る鎖にするつもりなの?」
「ッッッ!!・・・私は、私は」
「居場所っていうのは、自分が自由でいられるところなんだ。居場所に囚われてる時点で、そこは居場所じゃあないよ!」
「貴様がわかったような口を利くな!!」
乾いた音が廊下に響いた。
ボーデヴィッヒさんの平手が僕の頬を叩いたのだ。
さすが軍人だ、とっても痛いよ。
「君と僕は似ている。居場所を求めて、そこにある何かに縋ろうとする。でもそこから出なきゃ!その場所が君を駄目にしちゃうよ!」
かつての僕がそうであったように。
IISの情報を奪い取ろうとしたあの一件だって、一歩間違えば取り返しのつかないことになっていた。
あの時、弾と一夏がいなかったら。考えるだけでもぞっとする。
今回の一件もあの時と似ている。
放っておいたら、取り返しのつかないことになってしまう。
「僕も協力するから!だからっ、だからっ!」
「黙れ!その口を閉じろぉ!!」
僕の言葉は最後まで言わせてもらえなかった。
しっかり握った拳が僕の鼻の頭に突き刺さり、僕の意識を刈り取ったからだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この一幕はどうしても必要かな、と思って追加
なんというか弾と視線を合わせたり、殴られたりしたやつは性格が変わるんだろうか?
それではこれにて
乙
なんか冷めてきた
のほほんさんが殆ど出てこないのは寂しいな。
まあ虚さんとの絡みがある以上、5巻以降はちょくちょく出てきてくれると思うけど。
箒が空気…
しえん
明日あたりに推敲して投稿する予定です。今日は遅いのでこれにて
未来で待ってる
さぁ投稿を開始しますよ。
「「・・・・・・・・・」」
場所は医務室。時間は第三アリーナの事件から一時間ほど経っている。ベッドの上では打撲の治療を受けて包帯の巻かれた鈴とセシリアがむっすーとした顔で視線をあらぬ方向に向けていた。
「別に助けてくれなくて良かったのに」
「・・・あのまま続けていれば勝っていましたわ」
なんとも負けず嫌いな言葉である。というか弾や俺が乱入しなけりゃ今頃どうなっていたことやら。
それでもそこまでひどい怪我にならなくてよかった。そうでなきゃこうやって強がることも出来なかったわけだし。
「・・・・・・・・・」
そんでなぜか黙ったままの弾。
もう顔には出ていないがまだ怒り覚めやらぬ、といった心情なんだろう。
そっとしておくが吉、か。
「ま、まぁ怪我もたいしたことなくて安心したぜ」
「こ、こんなの怪我のうちに入らな―――いたたたたっ!」
「そもそもこうやって横になっていること自体無意味―――つううっ!」
・・・・・・。バカなんだろうか。
「バカって何よバカって!バカ!」
「その言い草はないんじゃないですか!」
ひどい反撃を受けた。しかも俺は口にしたわけではないのに、なんで分かったんだろうか。
セシリアに至っては何も言っていないのに言い草とは、これいかに。
「また何かしょうもないことを考えている顔ですわね」
げげ、なんでばれたんだ。どうして俺はこう心を読まれてしまうのか。
「一夏の場合、顔に出やすいからね。付き合いの短い僕でも少しは分かっちゃうからね」
扉の開く音と共に医務室に入ってきたのは案の定シャルルだった。
ようやく俺の味方の登場か、弾は今役に立たないからな。助か―――
「シャ、シャルル!お前それいったい」
「え?ああ、ジュースのこと?全部種類違うの買って来たから、欲しいのかぶったらじゃんけんね」
「ち、違うわアホ!」
何を言っているのだシャルルは。
ジュースより大事なことがあるだろう!
「え、シャルルが何―――ってアンタ!鼻!鼻!」
「なぜそんな状態で平然としてらっしゃいますの!」
「ん?シャルルが来たのかぁあ!?お前鼻血出てるじゃねえか、どうしたんだよ!」
先ほどまで無言でいた弾もこの事態には慌てて、寄りかかっていた壁から離れて医務室の棚をあさり始めた。
いつもは整っているシャルルの顔に鼻血がべったりついていて、それを本人がなにも気づかず平然といつもの紳士な態度をとっているのが非常にシュールである。
「どうした、って言われても。ちょっと女の子に失礼なことを言ってしまってそれで殴られちゃったんだ。まさか鼻血が出てるなんて。あ、ティッシュもらえる?」
「シャ、シャルルがひっぱたかれるようなことを言った?想像がつかんぞ」
「まぁあんまり触れないでくれるとありがたいかな。・・・んっと。これでよし」
「あー、シャルルが鼻にティッシュ詰めてるのってかなりまぬけな絵よねぇ」
「?」
さすがのシャルルも鼻ティッシュは絵にならないか。
ただ鼻ティッシュが絵になる人間って、なりたくはないけどさ。
「ま、先生も落ち着いたら帰っていいって言ってたし、しばらく休んだら―――ん?」
なにやら遠くから地響きのような音が聞こえたような。いや、聞こえてくる、だんだんと大きくなってきているぞ。
「な、なんだ?何の音だ?」
廊下のほうから、だんだんとこちらに近づくようにおおきくなる音はもはや轟音。
音の発信源の気配がもうすぐそこまで来ている、いったい何が―――
そこまで思考して、次の瞬間には全て驚きに呑まれた。
なにせ医務室のドアが吹っ飛ぶような事態を予想していなかったからだ。
たとえ話とかじゃなくてドアが吹き飛んだんだ。
映画でしか見たことないような光景が目の前に広がっていたんだよ。
「織斑君!」
「デュノア君!」
「五反田!」
入ってきた―――なんて生易しいものではない。文字通り雪崩れ込んできたのは数十名の女子生徒だった。
結構広いはずの医務室の中があっというまに人で埋まる。しかも俺たち男子三人を見つけるやいなや一斉に手を伸ばしてくる。
さっき映画でしか見たことないような、といったけどこれはホラー映画だ!俺たちこのまま食われちまうんだ!
やってられるか、俺はこっちの出口から逃げるぜ!
とまあ死亡フラグはさておき。
「なんなんだよ、いったい!」
「ど、どうしたの?みんな・・・ちょっと落ち着いて」
隣のシャルルは持ったままのジュースを落としそうになりながら、それでも必死に周りをなだめようとする。
だが誰か状況を教えてくれ、いったい何がどうしたんだよ。
俺の心の声に反応したのかは分からないが女子一同の中から、学園の緊急告知が書かれた申込書が目の前に突きつけられた。
「「「これ!!!」」」
「なになに、『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、二人組みでの参加を必須とする。」
「なお、ペアが出来なかったものは抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』―――」
「はぁい、そこまでで大丈夫だよ!重要なのは・・・」
群集の一人がそう言葉を区切ると、またいっせいにこちら手を差し出してくる。
「私と組もう、織斑君!!」
「私と組んでください、デュノア君!」
周りの全員も同じようなことを口にしているし、恐らく人垣の向こうでも弾が同じことを言われているのだろう。
しかしどうしたものか、どうせ組むなら気心の知れたもののほうが有利だとは思うけど実践的ならいきなり見ず知らずの奴と組むのが趣旨とは合ってるし。
ううむ、悩むなぁ。
そうやって悩んでいる間にもざわつきはどんどんおおきくなる。シャルルも困惑しているようだし、弾なんて人ごみの向こうでどうなっているのやら。
ここは医務室なんだからもう少し静かにしないと、とは思うがいかんせん周りの勢いが凄すぎる。
どうすれば、と思っていたその時だ。
人ごみの向こうから壁を叩くような大きな音が聞こえたのは。
「「「・・・・・・・・・」」」
水を打ったように周りが静まり返る。明らかに怒気を含んだその音にひるんでいた。
その音の主は、おそらく弾だ。ここから姿は見えないけどそうに違いない。なぜか確信していた。
「みんな、ここにはけが人もいるんだ。静かにしてもらえるか?」
弾の声はひどく落ち着いていて、穏やかだった。逆に怒りを押さえ込んでるかのように。
「あと、俺も一夏たちも組む相手はもう決まってるんだ。悪いけど他をあたってもらえるか?」
場を治めるためなのか、弾がそう言うと女子生徒たちも多少納得いかないような表情を浮かべながらも医務室から出て行ってくれた。
ぞろぞろと今まで医務室の中にいた人の大半が消えて、またもとの面子に戻った。
先ほどまでの騒がしさが嘘のように静かである。
「一夏」
その静かさを破ったの弾だった。
「タッグトーナメント、俺と組んでくれないか?」
いつものような軽い調子ではなくて、深く重く。沈み込んだように穏やかな声で提案をしてくる友人に俺は違和感を覚えざるを得ない。
中学からの三年間、長いようで短い時間だが俺はこいつのことを親友だと思えるほどに接してきたし、そう思えるほど理解していたつもりだった。
「いや、今のお前とは組めない」
だからこそ、今の弾は危険だと思う。誰が、と言うと弾自身がだ。
今までこんなに弾を見たことはなかった。
ただ怒ってるわけじゃない。もはや憎しみ、そういう黒い感情。
「今のお前は、怒りに振り回されてる。そんなお前とは組めねえよ」
「ッ!?―――じゃあ何か!?お前は鈴や、セシリアがあんなにされて黙ってられんのかよ!」
「それなら今からラウラのところに殴りこみに行くか?違うだろ。今は、落ち着けって話だよ」
「だああああ!!もういい!他にも当てはあるんだ、そっちを当たらせてもらう!」
長い髪の毛をぐしゃぐしゃとかき乱し、怒りをあらわにしたまま弾は外れたままの扉を飛び出して行ってしまった。
「あっ!おい弾!まだ話は―――」
「行っちゃったね・・・」
弾が出て行った扉を見ながらシャルルが呟いた。
見ていたからといって弾が戻ってくるわけではないが、みんな自然と目がそちらを向く。
無言の時間がまた訪れた。俺も何か話す話題を探すがこれといったものがない。
「あ、シャルルさん。ジュース抱えたままですわよ」
そういわれてシャルルの腕の中に、今だペットボトル飲料が抱えられていることに気づく。
鼻血や女子生徒の襲来、弾の一件ですっかり渡すタイミングを失っていたみたいだ。
「あたし烏龍茶ね。それよりあんた、鼻血はもう止まった?」
「ん、もう止まったかな。セシリアは紅茶でいい?」
「ええ、かまいませんわ」
セシリアの指摘から鈴が繋げてまた会話が蘇る。
ナイスフォロー鈴。
(弾の奴も今はそっとしておいた方がいいのかもな。冷静になれば話も聞いてくれるだろう)
多少楽観的かもしれないが、今なにを言っても弾に通じないだろうし、あいつが聞く気になってくれるのを待つしかない。
今はまだ待つことしか、ラウラのことも、弾のことも。待つことしかできない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
俺の提案に対しての一瞬の沈黙。
俺は医務室から離れてその足である人物に会いに来ていた。
俺とタッグを組んでくれてそうで、実力のある人物。
セシリアと鈴は体の怪我よりも、ISの損傷が激しくてしばらくISでの戦闘ができないと医務室で山田先生に告げられているのは聞いていたので二人は無理だ。
一夏とシャルルには断られて、四組の専用機持ちは会ったことがない。
「そっちにも悪い話じゃないだろう?優勝を目指すなら見知った相手の方がタッグは組みやすいし、俺は一応専用機持ちだ」
「ああ、確かにお前の言い分は分かる。私が考えていることはそのことではないんだ」
でも専用機持ちじゃなくてもISの稼働時間が長くて、それでいて俺と見知った仲の人物が一人いる。
「じゃあなんのことを?」
「いや、関係のないことだ。ともかく、お前の提案は受けよう。よろしく頼むぞ、五反田」
「こちらこそ、篠ノ之さん」
篠ノ之さんの返答に、こっちも安堵の笑みを浮かべる。
一夏のコーチとして、いつも皆とISを動かしてきた篠ノ之さんなら他の生徒以上に稼働時間を積んできたはずだ。
事実、専用機持ち相手に訓練機ながら模擬戦で何度か白星を挙げてきたことを見てきた。
戦力としては十分すぎる。
「ところで五反田」
「何、篠ノ之さん」
「お前が私と組む目的はラウラ・ボーデヴィッヒに勝つことだったな?」
「そういう篠ノ之さんは一夏と付き合う権利が目標だろ?」
「茶化すな、今はそれよりさっきの質問に答えろ」
なんだ?それに答えたからといって何が・・・
「まぁそうだけどさ。それが何?」
「トーナメントなんだぞ。月末に行われるのは」
「だから何だって言うんだよ、トーナメントだからって―――あっ!!」
ト、トーナメント・・・ということは。
「気づいていなかったか。トーナメントということは、先に一夏達がぶつかる可能性もあるということだ。そして勝つ可能性もな」
「あ、あー・・・マジで気づかなかった」
失念。
もう俺に出来ることは神頼みくらいだ。あと練習もか。
とにかく、出来る限り早くボーデヴィッヒと戦えますように。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまで
箒さんの出番はここからですのでご心配なく。
のほほんさんは三巻編か、それより前に出てくるかも。
それではこれにて
乙
乙しえん
箒の出番増えて嬉しいです
age
しえん
この弾になら掘られてもいい
アナウンスです。明日より東京のほうに出かけますのでしばらく更新は無しです。
次回更新は17日深夜、もしくは18日の昼ごろにでもします。
それではこれにて
無駄に弾△www
しえん
17日期待してるからな
予告なら今晩復帰だね
楽しみ
では宣言通り更新開始ですよー
六月も最終週にはいり、ついに始まる学年別月末トーナメント。
世界各国から三年生をスカウトをするためや、二年生であればその国の関係者が一年間の成果の確認のために来賓が多くやってくる。
朝から俺たちを含む全校生徒で会場の整理や来賓の誘導に追われて慌しかったものの、今はそれから開放されてISスーツに着替えてピットにあるモニターの前にやってきていた。
「ようやくか。待ちわびたぜ」
「すまない、向こうの更衣室が混んでいたんだ」
「あ、いや篠ノ之さんに言ったわけじゃないからね。対戦表のこと」
本来なら昨日のうちに出来上がっているはずの対戦表が、いきなりのタッグへの仕様変更に伴って今までの抽選のシステムがうまくいかず開始寸前まで伸びてしまっていた。
さっき出来たばかりのトーナメント表を隣にいる篠ノ之さんと並んでモニターに写った名前を一つ一つ追っていく。
ちなみに俺と篠ノ之さんは唯一の男女混合コンビなので男子の使ってる更衣室も女子更衣室も入りづらいということでピットで集合することにしておいたのだ。
「あったぞ、Aブロック第一回戦一組目だ。しかしこれは・・・」
先にトーナメント表から俺たちの名前を発見した篠ノ之さんだが妙に言葉尻がはっきりしない。
組み合わせに難ありか?
「んー?なんだよ、同じクラスのあの子たちじゃねえか。別になんとも―――っ!まじかよオイ・・・」
俺たちの対戦相手には問題なかった。問題なのはその隣、第二回戦の対戦カードだ。
「一夏とシャルルに。ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・・・・・」
神頼み失敗。最悪の結果だ。
「五反田・・・」
篠ノ之さんがこちらに話しかけてきているようだが何を言っているのかわからない。
心の裏側のほうがブツリと泡立つのを感じる、真っ黒な気泡が間断なくあふれ出る。
目の前の景色がぐにゃっと曲がるような、そんな錯覚を覚えた。
よりにもよって、一夏とシャルルの負けを祈る日が来るなんて。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
隣の五反田はあのラウラが問題を起こした日から、どこか苛立ちを残したまま今日の今までを過ごしてきた。
同じクラスのものでも気づいているのは一握り。察しがいいものか、仲のいい友人くらいだ。
(しかし今はこのままでいい。口で何を言っても、五反田の苛立ちは納まらないだろう)
だからこそ、一夏たちには五反田にあの件のことは言わないように頼んでおいた。
今回のことは私に任せておいてほしいと。そのために五反田とのタッグを了承したのだから。
「五反田・・・」
もう試合の準備をしたほうがいい。そう思い声をかけた、しかし返事はない。
五反田がモニターをじっと見つめ、眉間にしわを作っている。
その顔には見覚えがあった。
「五反田、試合が始まるぞ。そろそろ準備をしなければ」
いや、見覚えがあるわけじゃない。見ようにも見れなかったのだから。
私は五反田に声をかけながらも、昔のことを思い出していた。
一夏がいなくなり、それでも剣道を続け、がむしゃらに竹刀を振り続けていたころのこと。
あの頃の私は、姉であるあの人がISを作ったことで重要人物保護プログラムという名目で一夏と離れ離れになり、それでも剣道を続けていた。
それが一夏との唯一の繋がりだと思っていたからだった。
だが去年の剣道の全国大会での優勝で、その思いが揺らいだ。
理由は単純だ。私が憂さ晴らしのために剣を振るっていると、気づいてしまったから。
太刀筋は己を映す鏡。そう言ったのは誰だったのだろう。
的を射た言葉だ、その時の太刀筋は自分の醜いもの全てが写っていた。
表彰式で、隣にいた決勝戦の相手は涙を流していた。
何に対しての涙だったのかは正確にはわからない。優勝を逃したことが悔しかったのか、それとも―――
(どこにやればいいか分からない怒りを、発散するためだけの剣に負けてしまったことに対してだろうか)
私もまだまだ未熟者であるがゆえに、剣というものを今だ一割も理解できていないだろう。
しかしこれだけは分かる。
怒りを剣に乗せてはならない、重すぎて怒りに振り回されてしまうから。
「五反田!」
一向に返事を返さない五反田に対して自然と声量が大きくなる。
「えっ、何?篠ノ之さん」
「試合の準備をするぞ。私達が一番槍なのだからな」
自分の考えに没頭していたからか、面をくらったように慌てて言葉に従って準備を始めた。
とは言っても五反田は専用機だから準備は私よりも早く終わるだろうが。
(とにかく私のようにはなってほしくないものだ、この戦いの中で気づいてくれれば僥倖だ)
「篠ノ之さん、こっち準備できた」
「ならこちらを手伝ってくれないか?」
もうすぐ試合が始まる。
五反田は自分の内側に勝てるだろうか。
私も、いつか勝てるのだろうか・・・・・・
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目の前に浮かぶ二つの機体、篠ノ之さんも使用している実体シールドを搭載した純国産IS『打鉄』
もう片方は第二世代最後期で、シャルルの機体の元ともなった万能機。フランス産ISの『ラファール・リヴァイブ』
そして搭乗者は見知ったクラスメイト。
「五反田君、手加減はしないよ。この勝負も、次の勝負も勝たなきゃならないからね」
「私も成功報酬のために勝たせてもらうから。どんな汚い手を使ってでも」
やる気は十分のようだ。
しかしそれはこちらも同じだ。負ける気はさらさらない、どんな手を使ってでも勝つ。
篠ノ之さんはどうかわからないけどさ。
「まっ、こっちも似たようなもんさ。俺も負ける気はないからよ」
「あれぇ?優勝を狙ってるってことは織斑君狙い?わお、禁断の恋!?」
「わけわからんことを口走ってるんじゃねえよ。それに気になる相手なら他にいるからな」
「えっ!?誰誰、教えてよぅ」
試合の始まるほんの少し前の他愛もない会話。
軽口を叩き合ってるがお互い臨戦態勢に入っている。
相手はアサルトライフルに、日本刀を模した近接ブレードをお互いが装備している。
「次の試合の対戦カードにいるんだよ、ここまでしか言えないな」
「結局織斑君なんじゃない。あっ、もしかしてデュノア君だったりして?」
対してこちらは篠ノ之さんが同じ近接ブレードを装備しているものの、俺はドリルを展開すらしていない。
相手からは侮られているとしか思われていないだろう。だからこそ挑発するような言葉が出てくる。
だが違う、ドリルは今回いらない。試してみたいことがあるんだ。
「もうすぐ試合が始まるな。俺に勝ったら教えてやるよ」
「あれ、お預け?じゃあ余計に燃えてくるね。後悔しないでよ」
近接ブレードを大きく一振りし、言葉を区切る。
会話はここまで、という合図と捉えて俺は口を閉ざした。
『五反田、作戦の内容を確認するぞ。お前の要望どおり、防御型の打鉄でラファール・リヴァイブを足止め。お前が打鉄を撃破した後に協力しラファール・リヴァイブを落とす。それでいいな?』
口を開かずにコアを介し、通信の出来るプライベート・チャネルで篠ノ之さんが事前に打ち合わせておいた作戦内容を確認してきた。
『少し訂正いいかな?打鉄を撃破した後にすこしだけ時間を稼いでほしい。試したいことがある』
『了解した。しかし想定外のこともあるやもしれん、その時はお互い臨機応変に。いいな』
『こっちも了解。それじゃあ―――』
そこで試合開始のブザーが鳴り響く。そして俺たちはアナウンスの声を聞き終える前に動き出す。
先手を打ったのは向こうのほう。ラファール・リヴァイブがアサルトライフルで早速俺の方を狙う。
しかしそこは打ち合わせどおりに射線上に篠ノ之さんが割り込み、実体シールドで弾丸をはじく。
「ナイス篠ノ之さん!」
「人のこと気にしてる場合か、よっ!!」
篠ノ之さんを飛び越えて打鉄が上段に近接ブレードを打ち込んでくる。
弾幕に気をとらせておいてからの突貫。基本どおりのいい奇襲だ、けれど。
「ぬぅっ!!」
腕で強引に近接ブレードを受けて、なんとか鍔迫り合いの形に持っていく。
「さっさと武器を出したらどう!?専用機持ちだからって武器なしで勝てるわけないんだからさ!」
「武器・・・か。ならもう出してるぜ」
「は?」
今のこの密着状態、この状況に持ち込みたかった。
そうなれば中遠距離武器を装備したラファール・リヴァイブより、近接ブレードを持っていた打鉄のほうが機会は巡ってきやすい。
そう考えてからの役割分担なのだから。
「試させてもらうぜ」
『単一仕様能力:弾(ハジキ)発動準備完了。IIS:玉鋼(タマハガネ)脚部充填エネルギー 右:残8 左:残8 エネルギー充填まで0:00』
練習中や、模擬戦では発動しないのにこういうときにはどういうわけか意のままに発動できる切り札。
役割は超高速移動。
(だがこれにはまだ可能性がある。ヒントは加速中に山田先生が俺の膝に弾丸で衝撃を与えた時にもらった)
あの時、俺は体勢を崩し回転しながら吹っ飛んでいった。
ならば故意に体勢を崩し、その回転に相手を巻き込めば。
もっと単純に、その回転の末端部分の脚を相手に叩き込めばどうなる?
(答えは―――)
右足のエネルギーを一気に四発分開放。本来ならば体ごと音速を超えるスピードを得るのだが今回は違う。
体の中心を軸として、斬りつけられたほうと逆の、下からかち上げるようにして脚を振り上げる。
そして起こる衝撃、金属がつぶれるような音。
先ほどまで目の前にいたクラスメイトは視界から消え去ってしまった。
(玉鋼の手足は他のISに比べても太い。そんなものを音速を超えてぶつけられちゃあ)
蹴り上げられ、空を舞っていた打鉄が力を感じさせずに地面に向かい落ちていく。
IISのセンサーからは敵性は感じられないし、地面に落ちてもISが解除されていないなら大丈夫だろう。
充填エネルギーは残り右は4、左に8。
同時に開放したことにより同時にエネルギーの補充が開始され、24秒後には充填完了ということになる。
『篠ノ之さん、打鉄は落とした。次はラファール・リヴァイブを落とす。合図をしたら引いてくれ、巻き込まれないように』
『ま、待て五反田!今のはいったいなんなんだ!!次もさっきのをやるつもりなのか!?』
『ああ、次は残り全部使って派手に行く』
「ちょっと待て五反―――っくうぅ!!」
通信ではなく篠ノ之さんが声を張り上げるがそれはラファール・リヴァイブのライフルの弾幕で途中で途切れる。
バランスを崩し、立て直そうとする篠ノ之さんにラファール・リヴァイブが武器を近接用のショートサーベルに切り替え、襲い掛かる。
篠ノ之さんにとってはピンチだがこちらにとってはまたとないチャンス。
適度に篠ノ之さんとラファール・リヴァイブとの距離があり、相手の意識は篠ノ之さんに集中している。
『篠ノ之さん、これで決めるぜ』
両足から四発分ずつ開放。計八発分のエネルギーを開放し、瞬時加速の速度を遥かに超えてラファール・リヴァイブに急速接近。
玉鋼のハイパーセンサーが速度に対応しようとするためか周りの風景が歪むような錯覚を覚える。
だが相手からは目を離さない。
そして衝突する直前に残った左四発分のエネルギーを開放、打鉄と同じくサマーソルトのように下から叩き上げる。
そして案の定訪れる衝撃、音。
ISの装甲が砕けるような感触、確かな手ごたえ。
「ぐああぁ!!」
聞き覚えのある、苦悶の声。
しかしその声は対戦相手であるクラスメイトの声ではない。
空中に上がった機影を体勢を立て直し探す。
目に映ったのは先ほどと同じ打鉄。
「な・・・なんで」
実体シールドは砕け、腕部の装甲に至ってはほとんど素手同然まで破壊された打鉄が・・・篠ノ之さんが地面にむけて落下していく。
「篠ノ之さん!!」
何が起こったのかわからないようなラファール・リヴァイブを無視して篠ノ之さんを追いかける。
さっきクラスメイトを吹き飛ばした時には何もしなかったくせに何をしているんだ、とも思った。
だが追いかける、それでも追いかける。
「篠ノ之―――さんっ!!」
必死に伸ばした腕がなんとか地面につく前に篠ノ之さんを捉える。
何の因果か、すぐそばにクラスメイトが打鉄を纏ったクラスメイトが倒れていた。
「お、俺は―――」
「ご、五反田・・・」
「し、篠ノ之さん!?」
ぐったりとしていた篠ノ之さんが反応を示す。
「五反田・・・棄権する、ぞ。いいな」
「あ・・・俺、俺は―――」
「いいな!?」
篠ノ之さんはボロボロで、なのに力強い語気で俺に言う。
有無を言わさないその雰囲気に、静かに首を縦に振った。
「よし」
俺がうなづくのを見ると篠ノ之さんは通信を使い、棄権の旨を伝えた。
そうして俺と篠ノ之さんの月末トーナメントは初戦棄権という形で幕を閉じた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「篠ノ之さん・・・ごめん、俺が、その・・・あんな風に戦わなきゃ、怪我することもなかったのに」
篠ノ之さんに肩を貸してピットへ上がってきてすぐに俺は頭を下げた。
篠ノ之さんは実体シールドと腕の装甲が大破していたものの怪我の度合いは思ったよりも軽いようだ。
「・・・・・・五反田、今どんな気分だ?私が横槍を入れなければ二人ともお前が倒せていたが、どう思う?」
頭を下げたままでもこちらに視線を向けているのがはっきりとわかる。
ただその視線は俺を責めているようなものではなくて、諭すような、語りかけてくるような視線だった。
そんな気がする。
「ボーデヴィッヒと一緒だ、って思った。もし篠ノ之さんが割って入ってくれなかったら気づけなかったけど」
俺がこの試合でしたことはあの時、ボーデヴィッヒがセシリアと鈴にしていたことと同じだ。
怒りにまかせて力をふるい、周りの人間を傷つけた。
クラスメイトと篠ノ之さんを差別するわけではないけど、篠ノ之さんのように近しい人を傷つけなければそのことに気付かなかった。
「俺さ、セシリアと鈴があんな風にされて許せなかった。ボーデヴィッヒもおんなじ目にあわせてやりたいと思った・・・そんで他のものが、見えなくなっちまった」
「そうだな、いつものお前ならあんな風に他人をないがしろにするような行動をとったりはしない。短い付き合いだがそれくらいは分かる」
「いつの間にか俺自身が許せないと思ったような人間になっていたなんてな・・・」
頭をあげて、ようやく篠ノ之さんの顔が見える。
その顔に浮かぶ表情は優しかった。まるで悪いことをした子供を叱り終えた母親のような、優しい表情だった。
いつもしかめ面の友人の珍しい一面におもわず見とれてしまう。
いつもこんな柔らかい表情だったら一夏だってその気になるかもしれないのにな、と少し失礼なことを考えてしまったのは秘密だ。
「だがもうそんな風になることはない。違うか?」
「ああ、もう怒りに振り回されたりはしない。約束するよ」
「ふむ、これでお前も一つ、刀に近づいたな」
「刀?何の話」
いきなり出てきた単語の一つに思わず聞き返す。
なにかの比喩だろうか?
「人も焼かれ、打たれ、つまり苦しいことを乗り越えて強くなる。お前のIISの名前と掛けた比喩だったのだが・・・やはり慣れないことは言うものではないな。忘れてくれ」
「俺のIISの名前と掛けたって、玉鋼にどんな意味があるか知ってるの?」
「いや、本当に私の思っているものと同じなのかは定かではないが、玉鋼とは刀の原材料である鉄を指す言葉だ。私はそこから名付けられたと思っているんだが」
決めたつもりが思いきり外してしまい、ばつの悪い表情だった篠ノ之さんが俺の疑問に答えることでごまかそうとやや早口で答える。
「玉鋼に、そんな意味が・・・」
刀の原材料の鉄を指す言葉。それをこの機体の名前にしたのはどういう思いがあったのだろうか?
未だ試験域を突破できない状況を皮肉って?いや、玉鋼を作ったあの人たちがそんな後ろ向きな名前を付けるわけがない。
ならばこうだ。
『これから何にでもなれるまっさらな可能性を秘めた、原石のような機体』
俺の勝手な推測だ、だけど本当にそんな思いを込めて名付けられたような気がした。
腕に巻かれた待機状態の玉鋼を軽くなでる。
(お前を使ってる俺が、駄目駄目なままで止まってちゃいけないよな。前に進まなきゃあ嘘だよな)
「篠ノ之さん」
「ん?」
「あの二人に、謝ってきたいんだ。今から行ってきてもいいかな?」
「私を心配して聞いてきたのであれば余計な御世話だ。装甲は犠牲になったが怪我ひとつない、だからさっさと行ってこい」
怪我の心配をしたら逆に気を使われてしまった。
大したことはなかったとは言っても、すこしは打ち身とかもしてるのに。
どこまでも身を呈して自分を心配してくれるこの友人に感謝しつつ俺はピットを出た。
一応予告通り17日深夜に投下できました。
しかし今回は書いてて一番難産だったような気がします。どこか不自然な点などがあったら指摘してくだされば幸いです。
次はラウラ戦に入りますよ―、その予定ですがなにか挟むかもしれませんよ。
それではこれにて
一回戦で一夏と弾が当たると予想してたけど、いい意味で予想が外れてよかった
復帰乙!
乙
箒が目立ってよかったね!
このモップちゃんなら紅椿を得ても失敗しなさそうだ(笑)
しえん
次はいつか教えてくれると嬉しい
次の予告は明確には出来ませんがおおまかには今週の金曜か日曜当たりを予定しています。
詳しい予定がたったらまたお知らせいたしますので。
それではこれにて
>>422
ほうほう、ありがとう
次回予告いたします。
今区切りのいいところまで書いたのですが出来る限り続けて金曜日に投下しにこようと思います。
恐らく夕方から夜にかけてのいつかに投下しに来ます。有力なのは夜のほうですね。
それではこれにて
よっしゃああああ期待
それではこれより投下開始です。
ちょっと長いかもですよ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「AIC?」
「そうAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)。慣性停止能力って言ってISのPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)の応用技術って考えてくれればいい」
あの後二人のクラスメイトに謝りに行ったところ、『試合だからこれくらい覚悟してるよ』とあっさり許しをもらった。
こちらはかなり身構えていたばかりに、肩透かしというかなんというか。
本当に俺は周りに恵まれていると思う、友達はいい奴ばかりだし、クラスメイトもいい奴だったしな。
「それが先日ラウラ・ボーデヴィッヒが五反田のドリルを止めた技の正体なのか」
そして今は生徒が観覧できるように設置された大型モニターの前で、篠ノ之さんとセシリア、鈴の四人で固まって見ていた。
アリーナの観客席は来賓で埋まっているうえに、わずかに解放された生徒用のスペースもすでにいっぱいだ。
一回戦に出場していた俺と篠ノ之さんが入れるわけもなく、外に設置されたこの場所に皆で集まったわけである。
「ええ、PICはわたくしたちのISの浮遊、加速、停止を司っていますが、AICは自身以外の物質でも停止させることのできる第三世代兵器。でも弾さんが知っていたなんて意外ですわ」
「玉鋼の単一仕様能力にも同じ技術が使われてるからな。まぁ技術のレベルは段違いで向こうに軍配が上がってるけど」
「ん?・・・どこに使われてるのよ。止める技術があの高速移動に」
「足場の形成。空気を固めてるんだよ、機械的に処理されてるからボーデヴィッヒのようには使えねえけどな」
細かいメカニズムまでは分からないけど、玉鋼の単一仕様能力は普通の瞬時加速よりも高い圧縮率でエネルギーを圧縮し、そのエネルギーをストックして加速力、連射性を高めているらしい。
そして解放されたエネルギーを少しでも逃がさないために、AICで足場を形成するのだそうだ。
以上、開発者から説明されたことをうろ覚えで説明してみました。
「へぇ~、あんたのIISって案外すごい技術積んでるのね。単一仕様能力以外量産機に毛が生えたくらいのスペックなのに」
「むしろすごい技術使いまくらないとまともに動かないんだよな。だからあれ作るのにIS十何機分もコストかかってるんだってよ」
「なっ!?では模擬戦式の練習でよく装甲が壊れているがいいのか?そんなにコストがかかるならあまりやるべきでは・・・」
「いや、開発者のおやっさんたちも『IISの境遇上、国の援助はがっつり受けられるから金の心配はせずにどんどん壊してデータ取ってこい』って言ってたしな。いいんじゃないか?」
「そのお金って元をたどれば税金とかでしょ、その発言はちょっとやばいんじゃない?」
「あ・・・・・・」
そういえばそうだよな。今更になって気付いたわ。
「この顔はまったく気づいてなかった顔ですわね」
「面目ない・・・」
今回の俺の暴走のことだったり、さっきの発言だったり俺は少し考えなしに突っ走る傾向でもあるのかな?
すこし気を付けておこう。
「それにしても、弾のアホ面が元に戻ってよかったわぁ。絡みづらいったらなかったもん」
「んなっ!」
「そうですわね、話しかけてもまったく面白みがないんですもの」
「うぐぐぐぐ」
何も言い返すことができない。
ボーデヴィッヒの事件があってから一夏やみんなにあっても、避けるかいつも通りに振舞おうとするかで思い返すとひどいものだった。
「す、すまんかった」
「はいはい、一夏とシャルルにも言っとくのよ」
「わかりました」
当分みんなには頭が上がりそうにないな、こりゃ。
「おい、もうすぐ試合が始まるみたいだぞ」
「やっとですの?ずいぶん時間がかかったみたいですけど」
「急なタッグ形式のトーナメントのせいでシステムがスムーズに機能しないらしいな」
「大丈夫なのかよ」
「大丈夫だから始められるんでしょ」
まぁそれもそうか。
画面上ではちょうど一夏とシャルルがピットから出てきたところだった。
対戦相手であるボーデヴィッヒとラファール・リヴァイブを纏った見知らぬ女生徒はもう準備を終えて空に上がっている。
試合開始までもう一分を切っている。
ついに始まる、因縁の相手と友人たちとの戦いが。
「大丈夫なのかよ」
悔しいがボーデヴィッヒの実力はAICを含めて一年最強。
なにせセシリアと鈴の二人を同時に相手して圧倒したのは紛れもない事実。
あいつらを信じていないわけではないが、心配する気持ちが口をついて出てくる。
「大丈夫ですわよ。ですから信じて待ちましょう」
「というかもうそれくらいしかできないでしょうが」
「そうなんだけどさ―――」
そこまで言ったところで画面に変化があった。
試合が始まったのか、一夏とボーデヴィッヒがお互いに向かい突進。速度から見てどちらも瞬時加速を使用したようだ。
だが二人がぶつかる瞬間に一夏が不自然に停止する。やはり使ってきたか―――
「AIC!さっそく使ってきたわね。で、弾は何言おうとしてたわけ?」
「いや、なんでもない。試合は始まっちまったしあとはもう信じるしかないよな」
この期に及んでぐちぐちと考えていたことは、試合が始まったというの理由にして無理やり押しつぶした。
もう俺らしくないのはこれっきり。これからはいつもの俺になる。
あいつらの勝利を信じて、声を張り上げる。
「一夏ぁ!シャルルー!ボーデヴィッヒなんかに負けんじゃねえぞぉ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
開始直後の先制攻撃はあっさり読まれ、AICの網に全身をからめ捕られてしまった。
目の前のラウラは笑う。
「開始直後の先制攻撃か。わかりやすいな」
「・・・そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」
「ならば私が次にどうするかもわかるだろう?」
ああ、分かりたくないが、想像はつく。
重い金属を動かす音がラウラの後ろから響く。
案の定右肩のリボルバー式のレールカノンの実弾装填音だ。白式のハイパーセンサーからも警告が発せられている。
『敵ISの大型レールカノンの安全装置解除を確認。初弾装填―――警告!ロックオンを確認―――警告!』
慌てるなよ。何も一対一ってわけじゃないんだ。―――な?
「させないよ」
シャルルが俺の頭上を乗り越えて現れる。同時に六十一口径のアサルトライフル『ガルム』の爆破(バースト)弾の射撃を浴びせた。
「ちっ・・・!」
レールカノンの砲身にシャルルの放った弾丸を喰らい、俺へ向けて放たれた砲弾は空を切る。
さらに畳み掛けるシャルルの追撃にラウラは急後退をして間合いをとる。
「逃がさない!」
シャルルは即座に銃身を正面に突き出し、突撃体勢に移行。空いた左手にアサルトライフルを呼び出す。
光の粒子が手の中に集まり、一秒とかからずに銃を形成する。
これこそがシャルルの得意とする技能『高速切替』(ラピッドスイッチ)事前呼び出しを必要としない、戦闘と平行して行えるリアルタイムの武装呼び出し。
それはシャルルの器用さと瞬時の判断力があってこそ光る。
「あたしだって、いるんだから!」
ラウラへの追撃を遮るようにラファール・リヴァイブが割り込みをかけてくる。
トーナメント表の名前を見る限りでは三組の女子らしい。
その女子生徒は体を張り、弾幕を受けながらシャルルに迫る。
「俺だっているんだぜ!」
ラウラから距離が離れてAICから開放された俺はシャルルの背中に向かって瞬時加速。ぶつかる寸前にシャルルが宙返りをして俺と場所を入れ替わる。
このコンビネーションはこれまでの特訓の成果だ。タッグマッチが決まってから、毎日アリーナの使用制限時間ぎりぎりまで練習した甲斐がある。
俺の放った斬撃はラファール・リヴァイブのシールドに受けられ、雪片弐型との間に火花が散る。
「うぐっ!うぐぐぐぐ」
そのまま押しあいに発展するがそこは腕力の差がある。
スラスターの推進力を一気に増やして駄目押しをかける。
「よいしょお!!」
力任せに相手のシールドを薙いでガードをこじ開け―――
「シャルル!!」
「うん!」
刹那のタイミングに俺の背中に控えていたシャルルが両脇から手を伸ばす。
その手には面制圧力に特化した六十二口径ショットガン『レイン・オブ・サタディ』が握られている。
この至近距離でガードのないこの状況、致命的なこの状況。相手の顔がさぁ、と青ざめるがもう遅い。
「!?」
ショットガンの発砲音が響いた時には目の前のラファール・リヴァイブが消えていた。
当然弾丸は空を切る。なんだ!?なにが起きたんだ―――
「邪魔だ」
入れ替わりにラウラが急接近をかけてくる。そのラウラの装備しているワイヤーブレードの先端がラファール・リヴァイブの足を絡めとっていてそのままアリーナの端まで投げ飛ばす。
どうやらさっきの緊急回避はこのワイヤーの牽引によるものらしい。
「痛ああっ!」
しかし味方を助けたとは程遠いラウラの行動は本当に邪魔だったからどかしたというだけだったようだ。
床に叩きつけられた女生徒も悲痛な声を上げる。
しかし当の本人はそんなもの聞こえないとばかりにすでに俺たちへの攻撃に移っている。
プラズマブレードを両手に展開し左右から連続で切りかかってくる。
突き、撫で、払い。様々な斬り方を織り交ぜ、正確無比に繰り出される攻撃に俺は押され始める。
「数の差で私が有利だな」
「たかが二倍じゃねえか!」
そうは言ってみたものの、このラウラ・ボーデヴィッヒの実力は確かに化け物じみてる。今現在こうして俺と接近戦をこなしながらワイヤーブレードを駆使しシャルルを牽制、距離を取らせている。
『シャルル、大丈夫か?』
『僕の心配より自分の心配してよね!すぐにサポートに入るよ!』
『いや、このままでいい。例の作戦で行こう』
『・・・。うん、わかった。気をつけてね』
プライベート・チャネルで短く会話を交わし、俺たちはあらかじめきめていた作戦へと移る。
それは『ラウラ以外から先に倒そう作戦』だ、この作戦を立てた理由は単純。
ラウラは一対多の戦闘に特化している。つまりは『自分側が複数の状態での戦闘を想定していない』ということだ。
ラウラの性格、そして戦闘適正からしてタッグパートナーを助けないだろう。
そこでまずはパートナーを撃破。その後二人でラウラに対応する。
しかし先述したとおりラウラは一対多で戦えるだけの能力を持っている、しかしそこが罠だ。
ラウラのISが搭載している装備も把握できている。ならばそこから展開される戦術もある程度予測がたつ。
そうすると、相手が得意な状況である場合でもそれを逆手にとる戦法が出現する。
将棋でも強すぎる戦法が生まれるたびに、その戦法を駆逐するための戦法が出現するかのように。
「まずは先に君を落とさせてもらうよ!」
「そう簡単にはっ!」
ラウラの射程距離圏内から離れたシャルルはすぐさまラファール・リヴァイブへと間合いを詰める。
真っ直ぐではなく、急激な弧を描くような軌道にラファール・リヴァイブを纏った女生徒は慌てて銃を呼び出そうとする。
光の粒子が手の中に集まろうとしたその瞬間、シャルルは急停止から方向転換、相手に向かって最短距離で向かうような軌道に切り替える。
「えっ!?」
呼び出しが終わった時にはもう間合いは近接戦闘のそれに入っていた。
そしていつの間にかシャルルの片手には近接戦闘用ブレードの『ブレッドスライサー』が握られている。
「せいやっ!」
不意を突いた一太刀。クリーンヒット、とはいかず呼び出しが終わったアサルトライフルを盾代わりに相手は何とかやり過ごす。
銃が役に立たない距離を相手は後退という手段で解決しようと、後ろに跳び退る。
だが相手は忘れている、先ほどまでシャルルが両手で持っていた武器を、片手はブレードに持ち替えたがもう片方の手にはまだそれが残っていることを。
空気が炸裂するような音が響く。それはシャルルの持つ『レイン・オン・サタディ』の炸薬が破裂し、小さな鉄鋼弾が相手に向かい放たれた音だ。
さらにブレードを瞬時に引っ込め片手でアサルトライフルを扱い、追撃を仕掛ける。
「このっ!こっちだって」
相手の女生徒も負けじとアサルトライフルで応戦しようと照準を合わせようとするが、またもやシャルルはうまいタイミングで接近戦の間合いに詰めている。
勿論その手には近接ブレード、しかも今回は二刀持ちだ。
「な、なんでよ!なんでそっちばっかり―――」
女生徒の悲痛な声はシャルルの斬撃にかき消された。
なぜ?それの答えはシャルルの術中にはまっているからだろう。
シャルルの最大の特徴、それは『器用さ』だ。射撃、格闘、操縦技能のどれも突出しているわけではない。しかしそのどの分野でも人並み以上でこなせる平均的な能力の高さ。
そこに加えてあの『高速切替』、斬りあいの最中の銃撃。銃撃に移る瞬間を狙っての突撃と斬撃。
間合いを離しても、詰めても相手のやりにくい状況に持っていき戦いのリズムをコントロールする。
この戦法をシャルルは『砂漠の逃げ水(デザート・ミラージュ)』と呼ぶらしい。
曰く『求める程に遠く、諦めるには近く、その青色に呼ばれた足は疲労を忘れ、緩やかなる褐色の死へと進む』・・・俺が説明するとキザっぽいけどシャルルが説明してた時は様になってたんだよな。
「先に片方だけを潰す作戦か。無意味だな」
ラウラははなからチームメイトを数に入れてないんだろう。けれど俺たちにとっては意味がある。
とにかく、俺の役目はシャルルがラファール・リヴァイブを撃破するまでの間、ラウラの猛攻を耐え凌ぐことだ。
両手のレーザーブレードとワイヤーブレードの波状攻撃。これらを捌ききるのは容易いことではない。けれど、少しでも油断すればつい距離をとってしまいそうになるのを必死にこらえ、俺は接近戦を維持し続けた。
「貴様の武器はブレードのみ。近接戦でなければダメージを与えられないからな」
それもある。だがそれ以上に、離れれば大型レールカノンの絶好の的だ。しかもワイヤーブレードもある、一度距離をとられるとそれを取り戻すのにまた時間とエネルギーを奪われる。
(とにかく、意地でも喰らいつく!)
俺は『雪片弐型』を右手に任せて、左手でレーザーブレードを払う。両足は姿勢制御とワイヤーブレードを蹴るのにフル稼働だ。
複雑な軌道で襲い来るその刃の側面のみを叩いて落とす。もし刃の部分に蹴りをいれてしまおうものなら俺のつま先部分の装甲がザックリ持っていかれる。
意識を集中しなければ一瞬で終わる、そういう状況なのだ。
「うおおおおおおおっ!!」
装甲と装甲のぶつかり合う音、刃と装甲のぶつかり合う音。それが一瞬の間に連続して鳴り響く。
ゼロ距離での高速戦闘。いつかは途切れてしまうであろう集中力を、シャルルを信じて繋ぎとめる
「・・・・・・そろそろ終わらせるか」
ラウラがレーザーブレードを解除する。―――まずい!
そう思った瞬間には遅かった。体が凍りついたように動かなくなる。
ラウラは両手を交差して突き出し、その手のひらを俺に向けている。
(くそっ!AICか!)
「では、消えろ」
六つのワイヤーブレードがいっせいに俺へ向けて射出される。
「ぐおおおおおおお!!」
なすすべもなく俺はワイヤーブレードに全身を切り刻まれる。ISの装甲を三分の一持っていかれ、シールドエネルギーも一気に半分近く失われた。
さらにラウラの攻撃はそれだけでは終わらず、俺の右手をワイヤーブレード二本がかりで拘束し、ねじ切るように回転を加えながら、床へと俺を叩きつけた。
「がはっ!」
相殺し切れなかった衝撃が背中を突きぬけ、呼吸が一瞬詰まる。
―――すぐに体勢を立て直さなければ!
そう思った俺が目にしたのは、ラウラのレールカノンが照準を合わせ終えたところだった。
「とどめだ」
発射された砲弾がやけにゆっくり見える。砲口から瞬間的にあふれ出た炎を纏い、そしてそれを突き破りながら進んでくる砲弾。
しかもそれは対ISアーマー用特殊鉄鋼弾だ。当たり所が悪ければ一発で勝負がつく代物。それが今まさに俺目指して突き進んでくる。
(回避は間に合わない!それなら・・・斬る!)
やれるかどうかではないのだ、やらなければ負ける。俺は右腕を振り上げ―――
「!?」
がくん、と右腕が何かに引っ張られるように動きが止まる。
(さっきのワイヤーがまだ残っていたのか!)
一本だけだったが、それが白式の篭手に絡み付いていてすぐにとれそうもない。―――ああ、ちくしょう!
「お待たせ!」
重苦しい金属のかち合う音を響かせ、シャルルの盾が鉄鋼弾をはじく。そしてすぐさまワイヤーを切断、俺の腕を引いてその場を離脱する。
「シャルル・・・助かったぜ。ありがとよ」
「どういたしまして」
「で、首尾はどうだ?」
「上々だよ」
そういって視線をすっと外すシャルルに従って俺も視線を追ってみると、アリーナの隅でラファール・リヴァイブを纏った女子生徒がシールドエネルギーが尽きて膝をついている。
「さすがだな」
「その言葉は試合で勝ってから、ね?」
両手に持っていたアサルトライフルを捨てて、シャルルは新たに武器を呼び出す。次の瞬間には両手にショットガンとマシンガンが握られていた。
「さ、ここからが本番だよ」
「ああ、見せてやるとしようぜ、俺たちのコンビネーションを」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふあー凄いですねぇ。二週間ちょっとの訓練であそこまで連携が取れるなんて」
教師だけが入ることの許される観察室で、モニターに映し出される戦闘映像を眺めながら真耶は感心したようにつぶやく。
「やっぱり織斑君は凄いですね。才能ありますよ」
「ふん。あれはデュノアが合わせているから成り立つんだ。あいつ自身はたいして連携の役に立っていない」
相変わらず身内には辛口評価しかしない千冬に、真耶はやや苦笑い気味に言う。
「そうだとしても、他人がそこまで合わせてくれる織斑君自身が凄いじゃないですか。魅力のない人間には、誰も力を貸してくれないものですよ」
「まぁ・・・・・・そうかもしれんな」
ぶすっとした感じで告げる千冬だったが、最近真耶はそれが照れ隠しなのだと分かってきたので別段気にしない。
むしろ『やっぱり弟さん想いだなぁ』としみじみ思う。
「それにしても学年別トーナメントの急な仕様変更は、やっぱり先月の事件のせいですか?」
真耶の頭の中に黒いダイバースーツのようなISの姿が一瞬よぎる。
クラス対抗戦に突如として乱入してきたあの謎のISの姿が。
あの時、一夏の一撃で完全に沈黙したあのISは学園側で回収され、解析を受けた。だがそのことで驚くべきことが分かった。
ISは女性が乗らないと動かない。これはISの大前提であるのだがあのISには『誰も乗っていなかった』のだ。
さらにその無人のISに搭載されていたコア、これは世界で全て登録されているはずのコア全てと一致しなかった。
現在の技術では出来るはずのない『無人IS』、そして『あるはずのないコア』。
この二つが今回の学年別トーナメントを仕様変更した理由であると真耶は考えていた。
「詳しくは聞いていないが、おそらくはそうだろう。より実戦的な戦闘経験をつませる目的でツーマンセルになったんだろうな」
「でも一年生は入学してまだ三ヶ月ですよ?戦争が起こるわけでもないのに、今の状況で実戦的な戦闘訓練は必要ない気がしますが・・・」
真耶の言うことはもっともだ。けれどその疑問を投げかけてくるのが分かっていたで、千冬の表情は変らない。
「そこで先月の事件が出てくるのさ。特に今年の新入生には第三世代型兵器のテストモデルが多い。そこで謎の敵対者が現れたら何を心配すべきだ?」
「―――あっ!つまり自衛のため、ですね」
「そうだ、操縦者は勿論、第三世代型兵器を搭載したISも守らなければならない。しかし教師の数が有限である以上、それらは原則自分で守るしかない。そのための実戦的な戦闘経験なのさ」
「ははぁ、なるほどなるほど」
真耶は疑問が氷解したとばかりにうなずく。
「しかし織斑君もすごいですがデュノア君もすごいですね。相手は専用機でないとはいえノーダメージで撃破するなんて」
「確かにデュノアも強いかもしれないがあれは相手の機体が悪かった。奴の専用機はラファール・リヴァイブのフルカスタム機、元になった機体のスペックからなにからは頭に入っているだろうから対策を立てるのは簡単だっただろうしな」
「それでも十分すごいですよ!」
「まあな、知識があったからとはいえあそこまで活用して相手を翻弄し続けた駆け引きの技能は認めるところではある」
以前から相手の機微に敏く、人を思いやったり、戦闘ではその逆に相手の心理を読み利用することには長けていたが、ここまでではなかった。
一番変化があったのはやはり弾のIISを巡る一件があったあの時期だろうか。
その境遇ゆえに周りをよく観察することで身についた技能、それが弾をはじめ一夏、箒、セシリア、鈴を中心にして信頼できる人間関係を得て自己が安定し、その技能を意識して使うようになってきた。
友人たちを大切に思い、その心の機微を逃さないためだったのだろうが、それはシャルルの技能を成長させた。
今のシャルルは強い、一夏や弾にも負けないほど心が強く。
「でもその二人を相手に・・・ボーデヴィッヒさんもやっぱり強いですね」
「ふん・・・」
しみじみという真耶の目にはモニターの中で、二対一の状況で互角に渡り合うラウラの姿が映っていた。
それに対して千冬は心底つまらなそうに声を漏らす。
「変わらない。強さを攻撃力と同一だと思っている。だがそれでは―――」
一夏には勝てないだろう。
しかしその言葉は決して口にしない。言ったが最後、真耶にどんな顔をされるか分かったものではない。
「あ!織斑君零落白夜を出しましたね!一気に勝負をかけるつもりでしょうか」
「さて、そう上手くいくかな」
「またまた、そんな気にしていないような態度をしなくても―――」
「山田先生、久しぶりに武術組み手でもしようか。せっかくだ、十本ほど」
「いっ、いえいえっ!私はそのっ、ええとっ、生徒たちの訓練機を見ないといけませんから!」
慌てて首を振り、手を振りと大忙しの真耶に千冬は低い声で畳み掛ける。
「私は身内ネタでいじられるのが嫌いだ。そろそろ覚えるように」
「は、はい・・・。すいません・・・・・・」
真耶はみていて可哀想なほどにしぼんでしまう。それがあまりにも可哀想だったのか、千冬はぽん、と頭を撫でた。
「さて、試合の続きだ。どう転ぶか見ものだぞ」
「は、はいっ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「これで決めるっ!」
零落白夜を発動させた俺は、ラウラへと一直線に向かう。
「触れれば一撃でシールドエネルギーを消し去ると聞いているが・・・・・・それなら当たらなければいい」
ラウラのAICの拘束攻撃が連続で襲い掛かる。右手、左手、そして視線。そこから放たれる目に見えない攻撃を急停止、転身、急加速で何とかかわす。
「ちょろちょろと目障りな・・・!」
立て続けの攻撃にワイヤーブレードも加わり、その攻勢は熾烈を極める。しかしこっちは何も一人で戦っているわけではないのだ。
「一夏!前方二時の方向に突破!」
「わかった!」
射撃武器でラウラを牽制しながら、俺への防御も抜かりがない。つくづくシャルルと組んでいて良かったと思う。もし敵だったら十分持つかどうか怪しい。
ワイヤーブレードを潜り抜け、俺はラウラを射程圏内に収める。
「無駄だ。貴様の攻撃は読めている」
「普通に切りかかれば、な。―――それなら!」
俺は足元に向けていた切っ先を起こし体の前にひきつける。
「!?」
斬撃が読まれるなら、突撃で攻める。読みやすさは変わらないにしても単純に腕の軌道は捉えにくいはずだ。
線より点のほうが、捕まえるには圧倒的に難しい。
「無駄なことを!」
ガチリと全身の動きが凍りつく。AICの網が俺の体を完全に固定した。
「腕にこだわる必要はない。ようはお前の動きを止められれば―――」
「・・・ああ、なんだ忘れてるのか?それとも知らないのか?俺たちは―――二人組みなんだぜ」
「!?」
慌ててラウラが視線を動かすが、もう遅い。ゼロ距離まで接近したシャルルがすばやく両手に持ったショットガンの六連射を叩き込む。
次の瞬間、ラウラの大口径レールカノンは轟音ともに爆散した。
「くっ!」
やはり、予想通りだ。ラウラのAICには致命的な弱点がある。それは『停止させる対象物に意識を集中させていないと効果を維持できない』ことだ。現に俺への拘束は解除されていた。
「一夏!」
「おう!」
再度『雪片弐型』を構え直す。―――今度こそ避けさせない!
「・・・・・・・!!」
絶対必殺を確信した一撃だった。だった、のだが―――
「なっ!?」
雪片弐型から迸っていた零落白夜のエネルギー刃が突然小さくしぼみ、消えてしまった。これは、まさか―――
「ここにきてエネルギー切れかよ!」
「残念だったな」
ラウラの声が近い。視線を雪片弐型からラウラに戻すと、懐に飛び込んでくるのが見えた。その両手にはレーザーブレードが展開されている。
「限界までシールドエネルギーを消費してはもう戦えまい!あと一撃でもはいれば私の勝ちだ!」
ラウラの言う通りだ。おそらくもう一撃でも入ればシールドエネルギーも尽きてしまうだろう。俺は必死で左右から襲い来る凶刃を弾き続ける。
「やらせない!」
「邪魔だ!」
ラウラは俺への攻撃の手を休めずに、援護に入ろうとしたシャルルをワイヤーブレードを射出し迎撃する。
そのどちらもが精度の高さとスピードを伴った攻撃で、改めて相手の技量の高さを思い知らされることになった。
「うあっ!」
「シャルル!くっ―――」
「次は貴様だ!堕ちろ!」
被弾したシャルルに気をとられた一瞬の隙。それを逃さず、ラウラの攻撃は俺の機体を正確に捉える。
「ぐあっ・・・!」
熱い熱源のような感触、電撃が走ったかのような痺れ。それらはなによりも、ダメージを受けたことを雄弁に語っていた。
俺の体から―――白式から力が抜け、地に落ちる。
「は、はは・・・私の勝ちだ!」
高らかに勝利宣言をするラウラに高速接近する影が突撃する。それは―――
「まだ僕がいるよ!」
一瞬で超高速状態へと移ったシャルルだった。
「い、瞬時加速だと・・・!?」
初めてラウラの表情が狼狽を見せる。事前の情報ではシャルルが瞬時加速を使えるとは書いてなかったのだろう。
驚きもする。―――俺だって知らなかったのだから。
「まさか、この戦いで覚えたというのか!?」
シャルルの器用さ、というのはもはや特徴の域を大きく外れている。これはまるっきり一つの技能だ。
「だが私の停止結界の前では、無力だ!!」
そういってラウラがこの試合の中、幾度も見せたAICの発動体勢をとる。
その瞬間、動きが止まったのは―――ラウラのほうだった。
「!?」
いきなりあらぬ方向からの発砲音と衝撃。ラウラは視線を巡らせ俺と目が合った。
真下から、シャルルの捨てたアサルトライフルを構える俺と。
俺の構えているアサルトライフル。これは訓練の時に俺に撃たせるためにシャルルが使用許可をおろしたあの銃だ。
それが残弾ありの状態で捨てられた時に、そして銃が捨てられたこの場所に来たラウラに向けて突撃を促した時に、俺はシャルルの二段構えの作戦に気づいたのだ。
後は信じただけだ。自分と、シャルルを。
―――とはいえ運が良かったとも言える。ラウラの一撃をギリギリでこらえられたのはひとえに白式のがんばりだ。
当分、この相棒には頭が上がらない。
「これならAICは使えないだろ!」
「こ、のっ・・・死に損ないがぁ!!」
そう吼えるラウラだったが冷静さは失っていない。命中精度の低い俺より急速接近するシャルルに狙いを定めたようだ。
もう一度AICの発動体勢に移る。
「もう遅いよ!」
「それがどうした!第二世代型の攻撃力では、このシュヴァルツェア・レーゲンを堕とすことなど―――」
そこまで言ってハッ、と気づく。
単純な攻撃力ならば第二世代型兵器最強と謳われた装備があることに。
そしてそれはシャルルの専用機に装備されている。今まで幾度となくラウラの弾丸を弾いた盾の中に『隠されている』。
「この距離なら、外さない」
盾の装備がはじけ飛び中から杭とリボルバーを融合させたような武器が露出する。
六十九口径パイルバンカー『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』通称・・・
「盾殺し(シールド・ピアース)・・・!!」
ラウラの顔面から一気に汗が吹き出す。今までの冷静な表情などかなぐり捨てた必死の表情に変わる。
「「おおおおおおおっ!!」」
二人の声が重なる。シャルルは『灰色の鱗殻』を装備した左側の拳をきつく握り締め、叩く込むように突き出す。
それは俺の行ったような点の突撃。
さらに今は瞬時加速によって接近しているため全身停止はこの間合いでは間に合わない。
ピンポイントでパイルバンカーをとめなければ、直撃だ。
「!!!」
ラウラがハイパーセンサーで引き伸ばされ、それでも一瞬しか感じられないほど短い間に狙いを定め集中する―――
だがはずれた。
「・・・!」
一瞬、ほんの一瞬だけシャルルが顔をしかめる。勝ちを確信したこの状況ではあまりにも似合わない表情にひっかかりを覚えるがそれは一瞬のうちに起きたこと。時間に流され消える。
そして響く死を告げるかのような重苦しく、はじけるような甲高い音。パイルバンカーがラウラに直撃した音だ。
「ぐううっ・・・・・・!」
ISのシールドエネルギーを集中して絶対防御が発動する。それほどの威力の一撃、それにふさわしいほどシールドエネルギーが失われる。
しかも相殺し切れなかった衝撃が背中を突きぬけ、ラウラの顔が苦悶の表情に歪む。
さらにこれで終わりではないのだ。『灰色の燐鋼』はリボルバー機構ですぐさま次弾の炸薬を装填できる。
つまり、連射が可能なのだ。
炸薬が破裂する音が続けざまに三度響き渡る。
ラウラの体が大きく傾く。その機体にも紫電が走り、ISも強制解除の兆候を見せ始める。
―――だが次の瞬間、異変が始まった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今回はここまで。
途中まで一番上までこのスレが上がらない時はかなり焦りました。
ところで以前より投下する日時を聞かれることがありますが、決まった場合には書き込むようにしたほうがいいでしょうか?
さて次はVS VTシステムですよ。今週か来週か再来週には二巻編終了ですよ。
そして番外編には蘭ちゃんが登場するんですよ。
語尾の『ですよ』が気に入ったんですよ。
それではこれにて
ウォッホッホーゥ!!(゚∀゚)
>>1乙!
乙
来週でも再来週でも待ってるぜ!
乙
待ちますよ、スレある限り
予定教えてくれた方がその時に来れるからありがたい
箒が邪魔しなけりゃ弾も勝ち残れたのにな
>>447
確かにそうだろうけど、弾が今後も腹の中に黒いもん抱えて過ごすよりはいいだろ
まぁそれはそれで、レイプとかその他もろもろとかエロい方向にもってけどうだけどな!
あと>>1乙、正直弾の感情の機敏に気づかなかったわ
正直箒の説教が上条さんっぽくて共感できなかった
予告しておきますね。
日曜の夜ごろに投下しようと思います。
しえん
頼むぜぃ自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
今回も面白かったなあ乙自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
ではこれより投下開始しますよ。
VSラウラ、VTシステム編終了まででございます。
それではいきます
(こんな・・・こんなところで負けるのか、私は・・・・・・・)
確かに相手の力量を見誤った。それは間違えようのないミスだ。しかし、それでも―――。
(私は負けない!負けるわけにはいかない・・・・・・!)
ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私の名前、識別上の記号。
一番最初につけられた記号は―――遺伝子強化試験体C-0037
人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた。
(暗い暗い闇の中に私はいた―――)
ただ戦いのためだけに作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。
格闘を覚え、銃を習い、各種兵器の操縦方法を体得した。
私は優秀だった、性能面において、最高レベルを記録し続けた。
それがある時、世界最強の兵器『IS』が現れたことで世界が一変した。
その適正向上のための処置『ヴォーダン・オージュ』によって異変が生まれたのだ。
『ヴォーダン・オージュ』―――擬似ハイパーセンサーとも呼ぶべきそれは、脳への視覚信号伝達速度の爆発的な向上と、超高速戦闘下における動体反射の強化を目的とした、肉眼へのナノマシン移植処理のことを指す。
そしてその処置を施した目のことも『越界の瞳(ヴォーダン・オージュ)』と呼ぶ。
危険性はまったくない。理論の上では不適合も起きない―――はず、だった。
しかしこの処置によって私の左目は金色へと変質し、常に稼動状態のままカットできない制御不能へと陥った。
この『事故』により私は部隊の中でもIS訓練において遅れをとることになる。
そしていつしか部隊トップの座から転落した私を待っていたのは、部隊員からの嘲笑と侮蔑、そして『出来損ない』の烙印だった。
世界は一変した。―――私は闇から深い闇へと、止まることなく転げ落ちていった。
そんな私が始めて目にした光。それが教官との・・・織斑千冬との出会いだった。
「ここ最近の成績は振るわないようだが、なに心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。なにせ、私が教えるのだからな」
その言葉に偽りはなかった。特別私だけに訓練を課したわけではなかったが、あの人の教えを実行するだけで、私はIS専門へと変わった部隊の中で再び最強の座に君臨した。
しかし、安堵はなかった。自分を疎んでいた部隊員ももう気にならなくなっていた。
それよりもずっと、強烈に、深く、あの人に―――憧れた。
ああ、あの人のようになりたい。凛々しく、自分を信じ堂々としたあのような人に。
そう思ってからの私は、教官が帰国するまで半年間に時間を見つけては話しにいった。
いや、話など出来なくても良かった。ただそばにいるだけで、その姿を見つめるだけで、私は体の深い場所からふつふつと力がわいてくるのが感じられた。
それは『勇気』という感情に近いらしい。
そんな力があったからだろうか。私はある日訊いてみた。
「どうしてそこまで強いのですか?どうすれば強くなれますか?」
その時―――ああ、その時だ。鬼のような厳しさを持つ教官が、わずかに優しい笑みを浮かべた。
私は、その表情になぜだか心がちくりとしたのを覚えている。
「私には弟がいる」
「弟・・・ですか」
「アイツを見ていると、わかるときがある。強さというのがどういうものなのか、その先に何があるのかをな」
「・・・・・・よくわかりません」
「今はそれでいいさ。そうだな。いつか日本に来ることがあるなら会ってみるといい。・・・ああだが一つ忠告しておくぞ。あいつに―――」
優しい笑み、どこか気恥ずかしそうな表情、それは―――
(それは、違う。私が憧れるあなたはではない。あなたは強く、凛々しく、堂々としているのがあなたなのに)
そんな風に教官を変えてしまう弟、それを認められない。認めるわけにはいかない。
だから―――
(敗北させると決めたのだ。あれを、あの男を、私の力で完膚なきまでに叩き伏せると!)
ならば―――こんなところで負けるわけにはいかない。あれは、あの男はまだ動いているのだ。動かなくなるまで、徹底的に壊さなければならない。そうだ、そのためには―――
(力が、欲しい)
ドクン・・・と、私の奥底でなにかで何かがうごめく。
そしてそいつは言った。
『―――願うか・・・?汝、自らの変革を願うか・・・?より強い力を望むか・・・?』
言うまでもない、力があるなら、それを得られるなら、私など―――空っぽの私など、何から何までくれてやる!
だから、力を・・・・・・比類なき最強を、唯一無二の絶対を―――私によこせ!
Damage Level …D.
Mind Condition …Uplift.
Certification …Clear.
<<Valkyrie Trace System>> …boot.
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ああああああああっっ!!」
突然、ラウラが身を裂かんばかりの絶叫を発する。と同時にシュヴァルツェア・レーゲンから電流が迸り、近くにいたシャルルの体が吹き飛ばされた。
「ぐっ!一体何が・・・―――!?」
「なっ!?」
俺もシャルルも目を疑った。その視線の先ではラウラが・・・ラウラのISが変形していた。
いや、変形などという生易しいものではない。装甲を司っていた線はことごとく溶け落ち、どろどろになってラウラの全身を包んでいった。
元の機体の色だった黒よりも不細工で濁った黒色が、闇のような黒色がラウラを飲み込んでいった。
「なんだよ、あれは・・・」
ISが形状を変化させるのは、『初期操縦者適応(スタートアップ・フィッティング)』と『形態移行(フォーム・シフト)』の二つだけだ。
初期操縦者適応は俺の白式がセシリアとの初戦で起きた形態の変化のこと。形態移行は・・・勉強不足のためあんまりわからない。
だが目の前のそれは絶対にその二つとは違うと断言できる。
目の前で形を変え続けるシュヴァルツェア・レーゲンだったものは、粘土のように形を変え、表面を流動させながら生物の心臓のように脈打っている。
地面からほんの少し浮いたまま、形を変え続けていた『それ』は段々と下へ降りてきた。そして地面に接地した瞬間から、おぼろげに人の形をかたどっていた『それ』は急速に輪郭を明確にしていく。
全身の形成を終了した『それ』は、俺のよく知る物をその手に握っていた。
『それ』は少女の形を模していた、ISを纏った少女の形だ。
大きさは俺たちより一回り大きく、肌と装甲の部分は同じようなのっぺりとした質感で明確な境目はない。
装甲のような部分は腕、胸部、脚部にそれぞれありどちらかといえば旧世代のISに近い印象を受ける。
武器と呼べるものはたった一つ。右手に握られた近接ブレード、その形に見覚えがあった。
一瞬『雪片弐型』かとも思った、だがそうではない。もう少し前だ、もっと昔に見たものだ。
(そうだ、あれは・・・・・・『雪片』、千冬姉の使っていた刀)
それが本物の『雪片』でないのは分かっていた、けれどあまりに似ていたのだ。いや、似ているなどというレベルではない。まるで複写(トレース)だ。
俺は自分が何を考えて、何を感じているのかもわからないうちに手の中にある『雪片弐型』を握り締め、中段に構えていた。
「―――っ!」
その刹那、漆黒のISが目と鼻の先まで飛び込んできた。居合いに見立てた刀を中腰に引いて構え、必中の間合いから放たれる必殺の一閃。
それは紛れもなく千冬姉の太刀筋だった。
「ぐうっっ!!」
構えた雪片弐型が弾かれる。そして敵はそのまま上段の構えへと移る。これは―――
(まずい!!!)
縦一直線、落とすように振り下ろされる鋭い斬撃が襲いかかる。刀で受けることは出来ない。
緩やかに見えるのは必死の状況だからだろう。今のシールドエネルギーではこの斬撃を受ければどうなるのかわかったものじゃない。
白式に緊急回避の命令を送る。だがここから間に合うかはわからない、ほとんど神頼みのような操縦。
「ぬおあっ!!」
俺の体に大きな衝撃が襲い掛かる。
しかしその衝撃は敵の斬撃が引き起こしたものではなかった。
「一夏!大丈夫!?」
後ろから左腕を腰に回し俺を斬撃から引き離すように引っ張るシャルルだった。
その右手には弾き飛ばされた『雪片弐型』もしっかり回収している。
「ありがとなシャルル・・・」
「一夏は下がってて、白式はエネルギーも底を尽きかけなんでしょ?・・・あとは僕がやる。ううん、僕にやらせ―――」
「いや、あいつは俺がやる。シャルルの方こそ下がってろ、手出しはしなくていい」
「え?」
あの剣技は俺が千冬姉に習った最初の『真剣』の技だった。初めて見た時のことを今でも正確に覚えている。
『いいか、一夏。刀は振るうものだ。振られるようでは、剣術とは言わない』
ずしりとした鋼鉄のそれは、初めて手にした俺を試すかのように容赦のない重さを持っていた。
手にしているだけでも汗がにじみ、構えようにもその重量ゆえに刃が持ち上がらない。
『重いだろう。それが人の命を絶つ武器の、その重さだ』
冷たく、鈍色に煌く、その刀。
人を切るために生まれ、作られ、鍛えられた、その存在。
『この重さを振るうこと。それがどういう意味を持つのか、考えろ。それが強さということだ』
そう言った千冬姉の表情は厳しく、けれどもどこか優しげな眼差しをしていた。
何か眩しげなものを見るように、いつもと違う表情だった。
だから俺は、少しでもそんな千冬姉の力になりたくて、そのための強さを追い求めた。
そう、ずっと、あの日から、俺は―――
「離してくれよシャルル、俺はあいつを倒さなきゃならないんだ。雪片を拾ってくれてありがとな」
「ちょ、ちょっと!待ってよ一夏、どうしちゃったの!?少し落ち着いて」
「俺は落ち着いてるよ!早く雪片を渡してくれ、シャルル!」
「全然落ち着いてないじゃないか!一回僕の話を聞いてよ!」
「あいつは俺が倒さなくちゃならないんだ!あいつだけは許せないんだよ!邪魔をするんならシャルルを倒してでも―――」
「ああもう!!落ち着けっていってるだ、ろっ!!」
怒気をはらんだシャルルらしくない一言と共に放たれたのは、頭突きだった。
頭に響く重苦しい痛みと、あまりにもシャルルのイメージから離れた言動に、限界まで達していた怒りの頂点が折られた。
「どう、落ち着いた?」
「お、おう・・・痛ってえええ」
「こうでもしないと話し聞いてくれないと思ったからね。雪片で叩かれるよりはましでしょ?で、どうしちゃったの一夏、らしくないよ?」
「あいつ・・・あれは千冬姉のデータだ。それは千冬姉のものだ。千冬姉だけのものなんだよ。それを・・・・・・くそっ!」
黒いISはアリーナの中央から微動だにしない。どうやら敵性を感じるか攻撃をしかけなければ反応しない自動プログラムのようなものなのだろう。
俺たちが口論していても攻撃してくる気配がない。
「一夏って実は織斑先生のこと結構好きだよね。あんなに叩かれてるのに・・・もしかしてシスコン?」
「茶化すなよ。それに、あんなわけわかんねえ力に振り回されてるラウラも気にいらねえ。ISとラウラ、どっちも一発ぶっ叩いてやらなきゃ気がすまねえ」
力は、強さは、攻撃力じゃない。そんなもの強さとはいわない。ただの暴力だ。
「とにかく俺はあいつをぶん殴る。そのためにはアイツを正気に戻してからだ」
「うん、理由はわかったよ。けど今の一夏に何が出来るの?シールドエネルギーもほぼ空に近いこの状況で」
「ぐっ・・・・・・・」
たしかにシャルルの言うとおりだ。あの黒いISだってそうエネルギーが残っているわけではないだろうが一撃を入れられなければどうしようもない。
『非常事態発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す!―――』
「ほら、一夏がやらなくてもいずれこの状況も収拾がつくと思うよ。それでもやるの?」
「・・・ああ、やるぜ。俺が『やらなきゃいけない』わけじゃない。けど俺が『やりたいこと』なんだよ。大体、ここで引いたらそれはもう俺じゃねえ。織斑一夏じゃない」
「そんなこといってもエネルギーないくせに」
「うぐっ」
痛いところ突いてくるぜ、シャルルのやつ。確かに今の状況じゃ一発でも貰えばIS強制解除だってありえるほどのエネルギー残量だ、今こうして起動していることさえ奇跡のようなものなんだ。
「でも、ないなら持ってくればいい、違う?」
「え?」
「普通のISなら無理だけど、僕のISならコア・バイパスを使ってエネルギーを移せると思うんだ」
「本当か!?だったら頼む!早速やってくれ!」
「だが断る」
「はぁっ!!?」
希望を持たせておいて最後の最後にぶち折りやがった。このシャルルのにっこり笑顔からとんでもない言葉が飛び出してくるなんて夢にも思わなかったぜ。
シャルルに対するイメージが試合中の短時間でコロコロと変わっていく、何を考えてるんだよシャルル。
「一夏の心も、理由も、全部聞いたよ。いつもの僕なら止めない、むしろ協力を惜しまないよ」
「だったらなんで・・・」
「僕もあの黒いISを倒さなきゃ、ううん『倒したいんだ』。ボーデヴィッヒさんは今泣いてると思うんだ。迷子になって、周りには頼るものもなくて、ひとりぼっちで・・・」
その時のシャルルの表情は悲しく、それでいて懐かしむような淡い表情をその顔に浮かべていた。
俺はふと『あの時』のシャルルを思い出す、会って間もない頃の苦しんでいたシャルルを。
たぶんそれはシャルル自身が『あの時』の自分を今のラウラに重ね合わせていたからじゃないかと思う。俺の勝手な推測だけど。
「シャルル・・・・・・」
「僕は助けたいんだ、ラウラを。だからそのために一夏に協力できない、だってこれは僕が一人で『やりたいこと』だから」
そう言ったシャルルの顔にさっきまでの表情は残っていない、強い眼差しが俺に向けられている。
決意を秘めた、覚悟を決めたものの目だ。俺の気持ちを知っても、それでも自分の気持ちを突き通す覚悟を持った目だ。
「・・・あの時から大分変わったな」
「えっ、一夏いまなんて?」
「そこまで言って、負けたら男じゃねえぞ」
「い、一夏・・・それじゃあ」
「だから負けたら女子の制服で残りの学園生活を送ってもらおうか」
「うえっ!?・・・いいよ、負けないもん!」
少しからかってやると先ほどの顔からまた一転し、頬を膨らませて拗ねたように言う。
しかしその言葉にはしっかりとした意思が込められていた。
「それじゃ、行ってくるよ一夏」
「おいシャルル、『雪片弐型』はどうするんだ?まさか持っていくわけじゃないだろう」
「その・・・できれば借りていきたいんだ。駄目かな?」
「え、でもな・・・・・・なにか狙いでもあるのか?」
シャルルが無駄に使い慣れてない武器をここで使うとも思えない。
そう思って聞いたのだがシャルルは首を横に振るう。
「違うんだ。一夏の剣で戦いたいだけ、少しでも一夏の気持ちを持っていけたらって・・・」
「シャルル・・・」
何か言葉にしようとするが漠然とした感情だけが頭の中にあってうまくまとまらない。
漏れ出したように名前を呼んだが後が続かない。
「行ってこい」
だから一言、友達の背中を押す言葉だけをつけた。
「うん」
シャルルも短く答えると俺に背を向け黒いISに向かい『雪片弐型』を構える。
それに反応するように、今まで棒立ちだった黒いISも剣を構える。
おそらく決着がつくのは一瞬。そしてその一瞬が訪れるのは―――
「ふっ!」
シャルルが息を短く吐く音が聞こえた、そしてそれが合図になったかのように黒いISが踏み込んでくる。
それに数コンマ秒遅れてシャルルが飛ぶ。
射程距離は相手の方が若干長い、体格のぶんだけ一回り。しかしその差がここにきて大きい。
ただでさえ相手は千冬姉のデータを使っている。そいつに向かって近接ブレードの『雪片弐型』で勝負を挑むなんてもとより分が悪いのに。
シャルルは自分のペースに巻き込んで相手を翻弄する戦術を得意としている。だが逆に相手のペースに足を踏み入れるのは悪手、全てにおいて人並み以上にこなすが突出したものがひとつもないシャルルの弱点。
(この不利をどう覆す、シャルル!!)
お互いが距離を詰めあい、シャルルが黒いISの間合いに入る。
しっかりとした踏み込みから、黒いISの鋭く、残酷な斬撃がシャルルに襲い掛かる。
ガードか、避けるか。だがこの距離でお互い踏み込みあっているこの状況ではガードしか選択肢がない。
だが―――
(シャルルのやつ、上段に構えて・・・あれじゃあ間にあわねえ!)
次の瞬間、シャルルの胴に黒いISの刃が―――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目の前に、ラウラを包む黒いISの剣が迫ってきている。
だけど僕は上段の構えを解かない、この状況じゃ避けられないし、たとえ受けても斬りあいで勝てる見込みはない。
ならば奇策をもってくるしか一太刀浴びせることすら不可能。
(たぶん、痛いんだろうな・・・)
胴に敵の凶刃が触れるか触れないか、その刹那。
『瞬時加速』発動!
体を強引に押し込み、インパクトをずらす。やはりラウラの戦闘経験は反映されていない、瞬時加速を見切れなかったのがその証拠だ。
けどインパクトをずらしたといっても衝撃はそうはいかない。瞬時加速を使ったことで衝撃は増加し、胸部のと胴部の装甲は軒並みひしゃげ、僕のあばら骨と共に嫌な音を立てる。
この試合で一度もまともにシールドエネルギーを削られていなかったからこそできた、無謀、無策の無理矢理な特攻。
(痛い・・・・・・・・・痛い!痛い!!痛いっ!痛いっ!!!痛いっっ!!!)
しかしシールドエネルギーを一気に消費して絶対防御を発動させ、装甲を犠牲にしてもこの痛み。たぶんあばら骨何本かは折れているだろう。
それでも相手は中途半端なところで刃を止められ正面を晒している。さらに言えばこちらのほうがリーチが体一回り分だけ短い。
だが、だからこそこの至近距離でも振り切れる。
(痛いっ!!けど助けるんだ!ラウラを、あの頃の僕に手を差し伸べてくれた皆みたいに、次は僕がぁ!!!!!)
両手で振り上げた『雪片弐型』、その柄を強く握る。そして―――
「セイッヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」
僕が今まであげたことのないほどの叫びと共に、振り切る。
「ぎ、ぎ・・・・ガ・・・・・・・・・」
黒いISに紫電が走り、真っ二つに割れる。そしてその中からはラウラが姿を見せた。
しかしラウラは意識がはっきりしないのか、ふらりとこちら側に倒れこむ。慌ててラウラを受け止めようと抱きとめるように体を寄せたその時、ラウラと一瞬だけど目が合った。
眼帯がはずれ、あらわになった金色の瞳と。
その目は今にも泣きそうな、いつものラウラからは想像もつかないほど弱った目だった。僕が心のどこかで感じていたラウラの弱い部分がそのまんま現れたような、そんな目だった。
「もう、大丈夫。僕がいるよ、皆だっているんだから、大丈夫だよ」
倒れ掛かるラウラを抱きとめながら僕はそう呟いた。果たしてそれはラウラに届いていたのかは分からない、けど届いていなくてもいい。
何度だって言うから、ラウラに届くまで、何度だって。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「一つ忠告しておくぞ。あいつに会うことがあれば、心を強く持て。あれは未熟者の癖にどうしてか妙に女を刺激するのだ。油断していると、惚れてしまうぞ?」
そんな風に言う教官はひどく嬉しそうで、どこか気恥ずかしそうで、なんだか見ているこっちがモヤモヤとした。
だが、今なら分かる。あれはちょっとしたヤキモチだったのだ。それでつい、あんなことを訊いてしまったのだ。
「教官も惚れているのですか?」
「姉が弟に惚れるか、馬鹿め」
ニヤリとした顔で言われ、私はますます落ち着かなくなる。教官にこんな顔をさせるその男が―――羨ましい。
そして、出会って、戦って・・・今だに分からない。
あの男はなんなのだ、たいして戦闘が強いわけではない、なのに私を『あの男』と共に敗北に追いやったり。
聞けば模擬戦では『中国』と『イギリス』に負けたり勝ったりを繰り返しているとも聞く。
強いのか・・・弱いのか・・・わからん、教官にあそこまで言わせた男だが本当にそれほどの男なのか?
『それって単純に戦うのが、ってことでしょ?違う場所から眺めてみると、あそこまで強い人ってそういないと思うけどなぁ』
どういう・・・意味だ?
『僕もさ、まだあんまり分かってないんだ。だから分かる範囲しか答えられないけど、『 』は心が強いんだよ、それも複雑なんだけど。なんというか自分が『どうしたい』かをちゃんとわかってる、そんな強さかな』
それが強さ。教官の言う強さなのか?
『うーん、そうとは言い切れないかな。強さの一つの形だとは思うんだけど、けど自分のいく道も知らない人じゃ強さ以前に試合会場にたどり着けないじゃない?つまりそういうこと』
・・・最後のほうの説明は分かりにくいな。どういうことだ?
『ごめんね、偉そうに言ってるけど僕もまだ自分が『どうしたい』かがあいまいな人だから。そうだなぁ・・・』
その男は頭を捻り、何かを考えてるようだった。
『ごめん、やっぱりうまく説明できないみたいだ』
そうか・・・・・・・
『でもさ、だからこそ探してみようよ。僕らわからないもの同士でさ』
え?
『君がわからないものも、君がほしいものも、一緒に探してあげるよ。まぁほんとうは僕が一緒に『探したい』だけなんだけどさ』
わたしの、ほしいもの、わからないもの・・・
『ラウラ』
優しい声でその男はささやく。
『君はどうしたい?君はなんだってしていいんだ、なんだってできるんだ。僕の手をとらない選択肢だってある、また一夏に試合を挑んだっていい』
そこで一度言葉を区切る。そして再び優しげな声で続ける。
『けど僕にも『やりたい』がある。たとえラウラがどんな選択肢を選んでもラウラの力になりたい、って決めたから。それだけは覚えておいてほしい』
なぜお前はそこまで私に構うのだ・・・私は、私は―――
『僕がそうしたいからに決まってるよ。さぁ、君は何がしたいの?ラウラ』
今までこんな男がいただろうか、私にこんな優しい声をかけるものがいただろうか。
いつも周りを拒絶していた私に、そんなものはいなかった。
「私は・・・私はお前が知りたい。あの男のことも、教官のことだって・・・知らないものばかりのこの世界を知りたい。だから、一緒に探してくれるか?シャルル・デュノア」
『ふふ、いいよ。ラウラがそういうなら、いっぱい色んなことを知ろう。きっと楽しいことや、うれしいことばっかりだからさ』
私の言葉にシャルルは笑みを浮かべた。やわらかく、暖かい木漏れ日のような笑顔。
ああ、私はこんな笑顔も知らなかった。確かに、知らないことを知るというのは、嬉しいものなのだな。
早鐘をうつ私の心臓が言っている。今私を包んでいるこの感情は、まだ私の知らなかったこの感情は―――
今日はここまで
来週には波乱の三巻編に突入ですよ。
そのまえに今週の日曜までには番外編まで終わらせたいものです。
それではこれにて
>>1乙
安定して投下してくれるからありがたいよ
なんか友人とアイドルマスターの話でたぎっていたら二巻編終了まで出来たので今日の夕方六時から投下しますよ。
それでは二巻編終了まで、行きます。
「う、ぁ・・・・・・・・」
ぼやっとした光が天井から降りているのを感じて、ラウラは目を覚ました。
「気がついたか」
その声に聞き覚えがある、聞き覚えがある―――どころではない。どこで聞こうと一番に判断できる、自らが敬愛してやまない教官、こと織斑千冬だ。
「私・・・は・・・?」
「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲がある。しばらくは動けないだろう、無理するな」
千冬はそれとなくはぐらかしたつもりだったが、そこはさすがにかつての教え子。簡単に誘導されてはくれなかった。
「何が・・・起きたのですか?」
無理をして上半身を起こしたラウラは、全身に走る痛みに顔を歪ませる。けれどその瞳だけはまっすぐ千冬に向けられていた。治療のために眼帯が外されている左目は、右目と全く違う金色をしている。そのオッドアイが、ただ真っ直ぐ問いかける。
「ふぅ・・・・・・一応、重要案件であるうえに機密事項なのだがな」
しかしそう言って引き下がる相手ではないことも分かっている。千冬はここだけの話であることを沈黙で伝えると、ゆっくり言葉をつむいだ。
「VTシステムは知ってるな?」
「はい・・・正式名称はヴァルキリー・トレース・システム・・・・・・。過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、確かあれは・・・・・・」
「そう、IS条約でどの国家、企業、組織においても研究・開発・使用が禁じられている。それがお前のISにつまれていた」
「・・・・・・・・・・・・・」
「巧妙に隠されてはいたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意思・・・いや、願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在学園はドイツ軍へ問い合わせている。近く、強制捜査が入るだろう」
千冬の言葉を聴きながら、、ラウラはシーツをぎゅっ、と握り締めた。その視線はいつの間にかうつむき、眼科の虚空をさまよっていた。
「私が・・・・・・望んだからですね」
あなたに、なることを。
その言葉を、口にはしなかったが千冬には伝わった。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
「は、はいっ!」
いきなり名前を呼ばれ、ラウラは驚きもあわせて顔を上げる。
「お前は誰だ?」
「わ、私は・・・私・・・は・・・」
その言葉の続きが出てこない。自分がラウラであると、どうしても今の状態では言えなかった。
「誰でもないのなら丁度いい。お前はこれからラウラ・ボーデヴィッヒになるがいい。なに、時間は山のようにあるぞ。何せお前はこの三年間はこの学園に在籍しなければいけないからな。まぁ死ぬまで時間はある。たっぷり悩めよ、小娘」
「あ・・・・・・」
千冬の言葉が以外だった。まさか、自分を励ましてくれるとは思ってもみなかったラウラは、何を言うべきか分からない。わからないまま、ただ口をぽかんと開けていた。
そんなラウラに、千冬は席を立ってベッドから離れる。もう言うべきことは言ったのだろう。教師の仕事に戻るようだった。
「ああ、それから」
そしてドアに手をかけたところで、振り向くことなく再度再度言葉を投げかけた。
「お前は私にはなれないぞ。アイツの姉はこう見えて心労が絶えないのさ」
きっと、にやりと笑っていったのだろう。それがどうしてかラウラには分かった。
そして千冬が部屋を去ってから数分経って、、急に可笑しくなった。
「ふふ・・・はははっ」
ああ、なんてずるい人なのだろう。言いたいことだけ言ってほったらかしだ。
結局わたしは目指すものにはなれぬと言われ、道しるべを失ってこれからどこへ向かえばいいのかわからなくなってしまった。
(だが、今はそれでいいと思う。自分で考え、自分で行動する・・・私は自由だ、これから何をしよう。動けるようになったらまず―――)
笑いが漏れるたびに全身が引きつるように痛かったが、それさえも嬉しく感じていた。
空っぽだと・・・目の前には何もないと思っていた。けれど今は何もないことが嬉しく思う。
ラウラの行く先には広大な世界が広がっている、どれだけ走っても尽きることのない無限の可能性が。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あー、なんかすっげー久しぶりに喋った気がするわ。一週間半ぶりくらいに声を発した気がするわ」
「・・・何を言ってますの、弾さん」
「レス数的に言えば30レスくらい?」
「弾さん、メタ発言はこのSS自体に似合っていませんわよ」
ボーデヴィッヒとのごたごたがあってしばらくいつものメンバーと飯を食ったりするのを避けていたりしたが、今日は久しぶりにセシリアと朝食を一緒にとっていた。
「まぁ冗談はさておいて」
「あやうくこのSSのスタンスが崩れるところでしたわ」
「セシリアが和食って珍しいよな、いつも洋食なのに」
「郷に入っては郷に従え、と日本のことわざでも言いますし、お箸の使い方の練習も兼ねて味にも慣れ親しんでおこうと思いましたの」
「ふぅん、そりゃいい心がけだ。なら俺はイギリスの料理でも・・・やっぱやめとこ」
「弾さん、今失礼なことを考えませんでした?」
なんだと、モノローグでも語らなかったイギリス料理に対するネガティブなイメージを読み取った、だと・・・
「弾さんも、一夏さんほどではないですけど顔にでやすい体質だと自覚したほうがいいですわよ」
「そうかぁ・・・・・・」
俺の顔が(´・ω・`)←こんな感じになる。結構ショック。
「ほら、早く食べないと置いていきますわよ」
「うひぃ、まじかよ。とかいっていつも待ってくれる心優しいセシリアなのでした、と」
「えっ!そ、それは・・・・・・その、あのですね」
ちょっとショックなこと言われた仕返しに軽口で応戦すると、顔を真っ赤にするほど反応を示した。
う、畜生・・・かわいいじゃねえか。不意を撃たれた俺のハートがきゅんきゅん胸きゅんだぜ」
「おい鈴、勝手に人のモノローグを捏造するな」
「あっはははは、案外当たってたりしない?」
「あ、当たってねえよ!!」
「鈴さん、今からだとご飯をゆっくり食べる時間はないんじゃありません?」
「そうよ、私弾で遊んでる場合じゃなかったんだ。何時間とらせてくれてんのよアンタ!」
「俺のせいっ!?」
ひどい責任転嫁を見た。というか俺もこんなことやっている場合じゃねえんだよ。
今日に限って遅く起きてしまって・・・いや、本当にたまたまなんだよ。いつも朝は軽くトレーニングして飯食って教室に行くからそれなりに余裕をもって起きてるし。
「ていうか別に大丈夫じゃない?確かにギリギリだけど少しくらい遅れても―――」
「鈴さん、わたくし達のクラスの担任が誰だか忘れましたの?」
「・・・ゴメン、なんかあたしのクラスのものさしでもの言っちゃって」
先ほどまでの勢いはどこへやら、鈴は少し憐れみを込めた目線を俺たちに向ける。
そう、我らが鬼教官こと千冬さんのクラスでは遅刻することは死を意味する!
「まぁあたしは二組だからさ、二人はあたしを気にせず先に行きな。死なれると夢見も悪いし」
「ええ、そうさせてもらいますわ」
「よっし、ごちそうさまでした。んじゃお先に」
二人が話している間にささっと掻きこみ、きちんと手を合わせ、食器をまとめて席を立つ。
最後に鈴のほうへ振り返ると、ひらひらとこちらのほうへ手を振っていたのでこっちも一応振りかえしておいた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
教室につくとやはり他の生徒はみんな席についていた。本当に俺とセシリアが最後のようだった。
いや、ひとつだけ空白があった、あれは・・・ボーデヴィッヒの席か。
たしかボーデヴィッヒはトーナメントの日に怪我をしたとか聞いたような、あとシャルルは肋骨を骨折したとか、ひびが入ってるとかも人から聞いた。
一応シャルルは普段と変わらないように見えるが、あとで事の真偽を確かめなければいけないな。
「五反田君、オルコットさん、早く席についてください。ホームルームはじめますよ」
背後から山田先生の声、少し立ち止まっている間にもうそんな時間か。
けどここで千冬さんだったら確実に死んでたな、よかった山田先生で。
「ありがとうございます山田先生」
「え?は、はぁ、これはご丁寧に?」
なにがなにやら分からない、といった表情で山田先生はそのまま教壇へと向かっていった。
その間に俺とセシリアもお互いの席に着く。
「それではホームルームをはじめますがその前に、転校生を紹介しようと思います。あ、でも転校生というかすでに紹介は済んでるんですが再度紹介といいますか、ええと―――とにかく入ってきてください」
あ、説明するのが苦しくなったから強引にいった。
「失礼します」
ん、この声は―――
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
ボーデヴィッヒが転校してきた時の焼きまわしを見ているようだった。無表情で冷たい声、そこからなにもつながれない言葉。
一体なんのためにこんなことを、山田先生の考えか千冬さんの考えかは分からないが無意味じゃ―――
「私は、私はここにいる生徒全員に戦闘で勝てる自信がある、いやこれは確信だ。徒手格闘においても、他全ての戦闘技術で負ける気がしない」
(はぁ?いきなり何を言い出すんだこいつは。前より悪くなってないか?)
口を開かないかと思えば突然クラスメイト全員を敵に回すような発言、正直頭がついていかない。
だがボーデヴィッヒの言葉はまだ続きがあることを、さまようような視線と開いたり閉じたりを繰り返す口が物語っている。
一応最後まで聞くことにしようと思った。気のせいかもしれないがボーデヴィッヒの言葉から前のような悪意が感じられなかったから。
「私は軍にずっといた、そこであらゆる戦闘の知識を学んだ。・・・・・・だがそれだけだ、それだけしか学ばなかった。他のことは全く知らない、そしてそれでいいと私は思っていた」
そこでボーデヴィッヒは言葉を切り、視線をまた泳がせた。いや、今度はその視線の先の何かをしっかりと捉えるように動かした。
言葉の次はまだでない、静寂がクラス中にひろがる。誰も言葉を発しない、あのボーデヴィッヒが何かを伝えようとしている。
この状況の異様さがそうさせていた。
「だが私は、ある男に変えられたのだ。それでいいと思えなくなってしまった。今は知りたい、様々なことを、もちろんお前たちのこともだ」
クラスの中の空気が段々と暖かいものへと変わっていくのが肌で感じられた。
「そしてそのためにも、私は謝罪せねばならん相手がいる。この場を借りて謝罪したい。イギリス代表候補生のセシ、セシ・・・・・・セシ」
そしていきなりほのぼのとした方向へ。
セシリアの名前を言いたいのだがどうしても出てこないのだろう。珍しく焦った表情で必死に「セシ・・・セシ・・・」と言い続けている。
「セシリア・オルコット」
ぼそり、と最前列の俺がこっそりと呟く。
ボーデヴィッヒもそれに気づいたのか目線だけこちらにやり、ほんの少しだけ頭を下げた。感謝の意をしめしたのだろう。
あんなに憎んでいたボーデヴィッヒなのになぜ俺は助け舟など出したのだろう・・・
「セシリア・オルコット。先日の模擬戦では少しやりすぎた、すまない」
そう言って深く頭を下げたボーデヴィッヒを見て、俺は気づく。
そうだ、あの日のボーデヴィッヒではないからだ。あのボーデヴィッヒじゃないからこそ、俺は助ける気になったんだろう。
そして謝罪をうけた当のセシリアの表情は、俺の場所からは窺えない。ラウラが頭を下げたまま、時間がすぎる。
「ラウラさん」
ボーデヴィッヒが頭を下げて、少し間をおいてセシリアは声を上げた。
「頭を上げてください。確かにわたくしはあなたに模擬戦で必要以上に攻撃を受けて、ISがひどい状態になったのは事実です。ですがあなたは謝ってくれました、それなのにあなたを許さないのはわたくしのプライドに反しますわ」
言葉をつむぐセシリアの声は優しい、その表情を見ずに想像がつくほどに優しかった。
「だから私はあなたを許します」
「・・・ありがとう。セシリア・オルコット」
礼を言うのに慣れていないのか、ゆっくりかみ締めるように言葉を吐き出す。
そのラウラの口元には笑みが浮かんでいる、安堵の笑みだ。
「それじゃあボーデヴィッヒさん、自己紹介のほうはこれで?」
「いや、あと少し。自己紹介では好きなものや嫌いなものの話題は必須と聞いている、せめて最後にそれだけでも言わせてもらう」
「あっ、そうですか。すいません、先走ってしまって」
話に一区切りが着いたところで山田先生が締めに入ろうとしたが、ボーデヴィッヒはまだ言い足りないようでもう少しボーデヴィッヒの話は続くようだ。
しかしクラスメイトたちはボーデヴィッヒを受け入れようというムードが広がっているため、誰も反対するものはいない。
あれだけのことをされたセシリアが許したのだ。自分達が許さない、というのはないだろう。そんな空気なのだ。
「嫌いなもの、というのはまだない。もしかしたらあるかもしれないが今は心当たりがない。好きなものは、教官・・・もとい織斑先生、それと―――」
千冬さんに憧れているものはこのクラスを含め多数いるため、何人かは共感を表すように声が上がる。
少しずつクラス中に活気が戻ってくる、人の話し声で教室がざわつく。その話し声の内容は全てボーデヴィッヒについてだ。
そしてそのボーデヴィッヒはというと、なぜか教壇から降りて教室の後ろ側に向けて歩き出していた。
気をそらした間に、何があったんだ。というかどこに向かってるんだ?
「シャルル・デュノア」
「?な、なにかな、ボーデヴィッヒさん」
シャルルの席までたどり着くと、席に座っているシャルルを若干見下ろしながらその名を呼ぶ。
当のシャルルは何がなんだかわからないといった様子で、ボーデヴィッヒと顔を見合わせていた。
「私の好きなものは―――」
言うと同時にボーデヴィッヒはシャルルの襟元を掴みあげ、強引に手元へ引き寄せた。
当然シャルルの顔はボーデヴィッヒの顔に近づきそのまま・・・
「っっっっっ!!」
「・・・・・・・・・んぅ、はぁっ」
唇と唇が密着する。それはいわゆるキスというやつで。
「「「「「キャアアアアアアアアアアア――――――――!!!」」」」」
女子絶叫、驚いている奴やら、興奮してる奴やら、悲しんでいる奴やらとにかくクラスメイトの半分以上が叫んでいた。
ちなみに半分以下の連中は俺を含めてあっけにとられて、口をあけたまま言葉が出ない。
「わ、私はお前が好きだ、シャルル・デュノア。だからお前を私の嫁にする!異論は認めん!決定事項だ!」
「えっ!?お嫁さん??僕って女の子だったの???」
いや、おまえは男で合ってるよ。まごうことなく男だ、だから―――
「爆破しなければならないようだな。そうだよな、弾」
ゆらりと隣の席で盟友が立ち上がる。その手には『雪片弐型』が握られ手甲部分の装甲が部分展開されている。
そういう俺の右手にもドリルが展開されており、いつでも掘る準備が整っている。
「もてない男に幸福を、リア充には死を。抜け駆けはゆるさん・・・!!」
正直隣の一夏はもてないわけでは全くない。だが今この瞬間だけはあいつもこっち側の人間であるということを本能が告げていた。
「い、一夏!弾!どうなってるのこれ!?って、どうして二人は殺意むき出しで武装を展開してるのぉ!!!?」
「あはははははは、シャルルゥ、今幸せかい?」
「ちょっ!弾、ドリルが冗談じゃないくらいの回転数で廻ってるんだけど!一夏のほうも零落白夜を発動させてどうする気なの!?」
「せめて苦しまないように、一撃で葬り去ってやるからな。楽しかったぜ、お前と過ごした日々・・・」
一夏が顔に笑みを貼り付けて、優しい声色で語りかけるがその目は殺人鬼とかのそれだ。もうイッちゃってる。
ちなみに俺もそんな感じだと思う。
「ボーデヴィッヒさん!さっきのには深いわけがあるんだよね!そうしないといけなかった訳とかが!!できれば二人にそれを説明してほしいんだけどぉっ!!」
「ボーデヴィッヒさんなどと他人行儀に呼ぶな。夫婦なのだから名前で呼べ」
「ボーデヴィッヒさんんんんんんんっっっ!!!!!!???」
俺のドリルがうなりをあげてシャルルの席を粉砕し、一夏の刀が床を叩き割る。
シャルルは悲鳴を上げながらもボーデヴィッヒを抱いて、ISを起動し窓を突き破り逃走を図っている。
横で一夏が「器用なやつめ」と悪態をつく。その顔は悪鬼羅刹の如くだった。
ちなみに俺も同じ顔をしていると思う。
その悪鬼羅刹二匹はISを起動し、空に逃げたかつての友を追い立てる。
その後、上空を飛んでいた俺たち二人に千冬さんの出席簿投げが直撃し、俺たちの意識を刈り取るまで、シャルルと俺たちの鬼ごっこは続いたのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ああ、ひどい目にあった・・・」
「いえ、私が見ていた限りですとひどい目にあったのはシャルルさんであって、弾さんと一夏さんは自業自得だった気がするのですが」
「・・・・・・・・・我を忘れてました」
現在は放課後、晩飯を食おうと食堂まで来るとたまたまセシリアと会ったので朝食同様二人で食べることになったのだ。
「でも、ラウラさん良かったですわね。鈴さんも快く許してくれましたし」
「まぁ鈴も謝られてまで意地張って許さない、って言えるほどねちっこい性格してないしな。逆に潔すぎるし」
あのあとボーデヴィッヒは、昼休みにシャルルと共に鈴のところに行って謝ってきたんだそうだ。
結果は言わずもがな、ということで。
「何はともあれ一件落着だな。シャルルとボーデヴィッヒが転校してきてからのゴタゴタも」
「お疲れ様でした。とでも言っておきますわね」
「俺はたいしたことやってねえよ。今回は一夏や皆、それにシャルルの功績だ。俺なんて勝手にキレて、とちってただけだもんな」
「そのことについては箒さんにちゃんと謝って済んだことなのでしょう?なにも蒸し返さなくても」
そうは言っても、俺はあの出来事を意識してしまう訳があるんだよ。と言いたくなるがそれはセシリアにだけは言えない。
なので俺はセシリアの言葉を目の前の白飯ごと飲み込んだ。
「そういえばもう少しすれば臨海学校がありますわね。海、楽しみですわ」
「ん、そんな季節なんだな。ついこの間までは春だったのにもう夏かよ」
「あら、なんだか嫌そうな顔ですわね。嫌いなんですの?海」
「いや、そういう訳じゃねえよ。夏のジメッとした暑さは苦手だけどさ、海は好きだぜ。それにみんな水着だろ?セシリアの水着にも期待してる」
「ま、まぁ・・・それは、ちょっとハレンチすぎますわよ。発言が・・・」
少しからかい気味に言ってみると、朝のようにセシリアはまた顔を真っ赤に染めた。
顔を赤く染めて、うつむき気味に視線をそらすセシリアはかわいいと思う。
いつものセシリアも美少女の部類に、それもトップクラスに入るだろう。けどこうしてからかわれたりして恥ずかしがっている表情が一番だと俺は思う。
自分でこんなことを考えていて、また鈴が勝手にモノローグを書き換えているのではないかと疑ってしまうがそんなことは現実ではありえない。
これは紛れもなく俺の思考だ。俺が自分でセシリアのことがかわいいと、魅力的だと感じている。
「弾さん?わたくしの顔になにかついてますか?」
「いや、ちょっとセシリアの顔が赤くなってるのがおもしろくてよ」
「も、もう。からかわれるのはまだ慣れませんわね」
セシリアはそういうとそっぽを向いたまま、自分の夕食を口に運んでいく。今度は拗ねてしまったようだ。
そんな風に拗ねてしまっても、どんな風にしていてもセシリアのことが可愛く思えてしまうのは大分重症かもしれない。
この症状の名前は勿論分かっている。この感情の名前も勿論分かっている。
「ごめんって、機嫌直してくれよ。俺のおかずもわけてやるからさ」
「そんなことでわたくしは釣れるほど安くはありませんわよ。と、言いたいですがそのハンバーグをいただきましょうか。それで許してあげますわ」
「ひぃ、ずいぶんな代償だ」
「そうとわかれば、不用意にわたくしをからかわないことですわね」
セシリアが悪戯っぽい表情で笑う。それだけで鼓動が高鳴り、それが気づかれないように必死で平静を装う。
思えばボーデヴィッヒがセシリアと鈴を痛めつけていたとき、どちらも大切な人には変わりないはずなのに俺はセシリアを優先していた。
セシリアを真っ先に心配し、セシリアが無事だと分かった時には泣きそうになるほど安心した。
ボーデヴィッヒを憎み、我を忘れたことも、セシリアがあんなに傷つけられたことが原因だ。
もちろん、鈴は大切な親友だ。そのことに変わりはない。だからこそ不可解なこの心情、考えてみれば出る答えは一つだけだった。
『わ、私はお前が好きだ、シャルル・デュノア。だからお前を私の嫁にする!異論は認めん!決定事項だ!』
ボーデヴィッヒがシャルルに向かって言った言葉が一言一句違わず頭の中をリフレインする。
『私はお前が好きだ、シャルル・デュノア』
そうだ、そうなのだ。俺は、五反田弾は―――
「セシリア」
「なんですか、弾さん?」
「・・・いや、やっぱなんでもない」
「ちょっ、なんですの、人を呼んでおいてそれはないんじゃありません?」
セシリア・オルコットのことが好きなんだ。
今日はここまで。
次からは番外編ですよ。三つほどあります。
そして弾はセシリアのことを意識しだしたり、ラウラはシャルルにべったりだったり。
そんな感じに果たしてなるのでしょうか!?
次は木曜深夜くらいを予定しています。
それではこれにて
男勢全員リア充かよ[ピーーー]よ乙
フラグが立ったよ!
なんでラウラが気に入らなかったのか、これ読んでわかった。ごめんなさいは大切だよね
弾とセシリア
シャルルとラウラ
夏と鈴
で、モッピーは俺がもらっていきますね
乙乙!!
上げてしまった。すみません
>>1乙
ISの女の子みんなかわいいんだよな
鈴以外
>>1乙
ISの女の子みんなかわいいんだよな
鈴以外
>>>486
そんなに重要かww
番外編を十時より投下開始します。
後じぶんは鈴のことがセシリアの次に好きです。
番外編3『ラウラと一夏』
「なあラウラ」
「どうした、織斑一夏」
「そのメモ帳と鉛筆はなんだ?」
朝、教室に来るとひどく妙な状況にめぐり合ってしまった。
一夏の机の前に、篠ノ之さんがいるのはまあいつも通りだ。
そしてその二人を観察するようにボーデヴィッヒが篠ノ之さんの隣に立っている。
「おいーっす。どういう状況だよこれ」
「む、おはよう。ごた・・・ごだ・・・・・・ダダンダ・ダン」
「なんだその間違え方!わざとか!?」
「すまない、噛んだだけだ」
「いいや、わざとだね」
「すまない、かみまみた」
「こいつっ!わざとじゃない!?」
あ、このネタ通じるんだ。
「なにをやっているんだ五反田」
「おう弾、おはよう。で、ラウラさっきの話の続きなんだけど」
「これのことだな・・・織斑一夏、私が貴様のことを憎んでいたことは知っているな」
「う、まぁあんなことされればそりゃあ」
あんなこと、とはいきなりビンタされたり、謂れのないことで喧嘩を売られたりetc
一夏はそのことを思い出したのか苦い顔をしている。
「だがな、私は何も知らずに憎んでいた。それではいけないと私は気づいたのだ」
「ラウラ・・・」
ボーデヴィッヒは空いているほうの手をぎゅっと握り締め、語気を強めてその決意を表す。
一夏もそんなボーデヴィッヒを見て感銘を受けたのかその顔から苦い表情が消えていく。
そんな二人を見ていると俺も微笑ましくなって、口元が緩む。いい光景だ、あのボーデヴィッヒがこんなことを言うようになるなんてな。
しかし篠ノ之さんだけはこの状況でまだ釈然としないように眉を寄せている。何か腑に落ちないことでもあるのか?
「それでラウラ、お前がメモ帳とペンを持っている理由は結局なんなのだ?」
あ、そういえばその理由については全然分かってないじゃないか。
ラウラもはぐらかしていたわけではないようで、すっかり忘れていた、と言わんばかりに拳をメモ帳の上にポン、と置く。
「つまり私は織斑一夏を調べ、最終的に憎むべき相手か、そうではないかを判断しようと思ったのだ」
「あ、俺許されたわけじゃないんですね」
意図したわけではないだろうが一夏は上げて、落とされたような形になり、すこしショックを受けた模様。なんか可哀想だな。
「当たり前だろう、貴様は私の敬愛する教官にあんな顔をさせる唯一の存在だ。もしシャルルにも手を出していたら私は貴様を殺していただろう」
「俺はそんな特殊な性癖は持ち合わせておりませんがぁ!!」
「ん、あんな顔?千冬さんが一夏に対してか?」
「そうだ、確か私の知る語彙であの顔を表すなら・・・・・・女の顔?たしかこの国の言葉で表すならばこれで合っているはずだが―――篠ノ之箒、どうしたんだ真剣など構えて?」
俺の横で鬼が一人生まれてしまった。そういえば女の人が憎しみで鬼になってしまう話も結構あるのでこれはこれで正しいのか、鬼のなり方については。
つーかどっから出したんだよ、その真剣。
「一夏ぁ、お前という奴はさんざん世の女性に手を出しておきながらそれに飽き足らず、ついには実の姉に手を出すとは・・・・・・貴様はここで成敗するっ!」
「ちょ、待て!箒、誤解だっ!誤解というか絶対そんなことあるわけないの分かってるだろう!!待って、振り上げるなっ!!そこから振り下ろすなよ、絶対振り下ろすなよっ!!ぎゃあああああああああ!!!!!」
確実に一夏の頭をかち割るために放たれた一刀を、一夏は火事場のバカ力か見事その両の手のひらで受け止めて見せた。
いわゆる真剣白羽取りである。
「その程度で防いだつもりか!?せいっ!!」
「ふぐっ!」
一夏が両手を上に掲げノーガードなのを利用し、篠ノ之さんの前蹴りが一夏の腹に突き刺さる。
クリーンヒットしたその強烈な一撃に、一夏は斜め後ろの机に激突。しかしそれで距離が取れたことを利用し逃走を開始。
先ほどのダメージを感じさせないほどの走りを見せる。まさに必死である、止まれば必ず死ぬ状況だ。
「ひいいいいいいいいいいっっ!!!」
「待てぇ!おとなしく斬られろ!」
高校一年生が繰り広げる会話じゃねえ。
そして数秒としないうちに二人は教室から消える。後に残されたのは俺とボーデヴィッヒ、それと篠ノ之さんのけっこう本気の殺気に当てられて怯えるクラスメイト達だけだった。
「むう、織斑一夏が行ってしまったな。それにしても篠ノ之箒はなにをあんなに怒っていたのだ?」
「お前はあれを見てよく平静を、いやお前ならあんなの日常茶飯事だったのか」
「?」
「まぁいいや、一夏のことが知りたいのなら俺も知ってることは教えてやるよ。どうせホームルームまでヒマだし」
「それは本当か。助かるぞ、ダダンダ・ダン」
「やっぱりわざとじゃねえかよ!!」
番外編4『男の子/女の子』
時間は放課後、場所は学生寮の織斑一夏とシャルル・デュノアの部屋の前。
その扉の前には一人分の人影が、なにやらうずくまるように身を寄せていた。
彼女の名前はセシリア・オルコット。一夏とシャルルのクラスメイトで彼と親しい友人である彼女が部屋の前にいることはなにも不自然ではない。
だがその部屋の前で動かずに、じっとしているのは不自然だ。
そしてそこに彼女も、部屋の主の一夏とシャルルもよく知る人物が近づいてきた。
「あれ?セシリアじゃない、なにやってんの?こんなところで、一夏かシャルルに用なの?」
「しっ、しぃ~~~!静かにしてくださいまし!!」
「いや、あんたのほうがうるさいし」
織斑一夏のセカンド幼馴染こと、凰鈴音である。
彼女は一夏たちを、あわよくば一夏と二人きりで夕食をとろうと、下心を秘めながら食事に誘うため部屋の前までやってきた次第である。
その鈴からセシリアを見るとまるっきり不審である。もしかしたら彼女が思いを寄せる五反田弾から、織斑一夏に乗り換えたのか?という思いが一瞬頭をよぎるが。
(まぁその可能性はないわね。ちょろそうに見えてこの子結構芯はしっかりしてるし)
しかしその可能性が違うとなるとなぜ一夏とシャルルの部屋の前に?しかも扉に身を寄せて・・・
「まさか、盗み聞き?」
「・・・・・・・・・」
「沈黙は肯定とみなす」
「うぐう」
セシリアはがくっと肩を落とし、悲痛なうめき声を上げる。
プライドの高い彼女のことだ、そんな自分が盗み聞きなどをしていたと他の奴に知られたくなかったのだろう。
「別に責めてるわけじゃないのよ、おもしろそうだから混ぜなさい」
そして鈴の性格はそんなことを責めるような性格じゃない。むしろ責められるような性格ではない、むしろ彼女が積極的にそういうことに首を突っ込む性分だからである。
『で?シャルルはどんな女の子が好みなんだよ?早く吐いて楽になっちまえよ』
『俺たちこの学園で三人だけの男子なんだからこんな話題も俺たちだけしかできないしさ、ここは素直になろうぜシャルル』
中から聞こえるのは弾と一夏の声だった。どうやら男子特有の下世話な雑談を繰り広げようと、シャルルを巻き込んで一夏の部屋に集まったのだろう。
「セシリア、今の状況は?」
「シャルルさんがまだ抵抗を続けているようですわ。お二人はシャルルさんが喋るなら自分たちも喋るから、と言っていましたわ」
「なるほど、まだ核心には触れてないわけね。ならまずはこっちの録音班を呼ぶしかないわね」
「録音班?」
言うが早いか鈴は器用にISの機能だけ呼び出し、バーチャルコンソールを操りはじめた。
「鈴さん、一体なにを―――」
「シャルルの女の好みが聞けると聞いて」
「ひひゃあ!」
そしてコンソールを操り始めて数秒と経たずに、音もなくセシリアの隣にラウラ・ボーデヴィッヒが姿を現した。
しかもその小脇にはものものしい機械が抱えられている。
「ちょっと、セシリア声でかい。ラウラ、準備は出来てる?」
「愚問だ、その気になれば嫁やあの二人の衣擦れの音まで解析できるぞ」
「上等。さっそくとりかかってちょうだい」
「任務了解」
ラウラは小脇に抱えていた機械からコードを伸ばしたり、他の機材につなげたりをめまぐるしい速度でこなしてゆく。
「あの、鈴さんこれはいったい・・・」
「盗聴」
「そんな堂々と犯罪行為だと言い切らないでください」
「でもあんただって弾の好み聞きたくない?」
「・・・・・・・・・・・」
「沈黙は肯定とみなす」
「鈴音、準備が整ったぞ。これより録音を開始する」
「OK」
「もう死なばもろともですわ」
もうセシリアもなかばやけである。ここまで来れば立派な共犯、今この現場が教員に目撃されれば言い訳することはかなわず自分も共犯者として扱われるだろう。
ただ思いを寄せるものの好みがこっそり聞きたかった乙女心がどこをどう間違ってこんなことになってしまったのか。
『でもさ、僕も恥ずかしいし二人のほうから先に言ってよ。僕だけ言って二人が言わないとも限らないし』
『だがその逆もありえる、俺達が言ってシャルルが言わないとかさ』
『うっ、確かにそうだけど・・・だったら恨みっこなしでジャンケンで順番決めない?これなら僕も納得・・・できるかなあ」
『よっしゃジャンケンな!言質とったかんな!なぁ一夏!』
『おう!しっかり聞いたぜシャルルの言葉!』
中では男子高校生特有の馬鹿のようなやり取りが続いている。若干一夏もシャルルもテンションが高くなっているようだ。弾は・・・いつもどおり。
『いっくぞお・・・・・・ジャンケンホイッ!!だああああああ負けたああ!!!』
『ははははははバッカだな弾!さぁシャルル、最終決戦だ!』
『ううう、負けても勝っても結局は言うことに。僕に得がないよう・・・』
『ジャ~ンケン、ほいっ!アイコでショッ!ショッ!』
『ショッ!ッッッ!!ああああああ負けだあぁ』
どうやら中では熱戦の末に弾→シャルル→一夏の順番に決まったらしい。それにしてもたかがジャンケンで勝ち負けに一喜一憂するさまはかなりこっけいだ。
外にいる三人も若干あきれ返っている。
「なんといいますか、殿方というのは往々にして愚かですわね」
「まぁ許してやんなさいよ。男子高校生なんてどの世界にいってもこんな感じよ。あのシャルルでさえ負けたことにガチで悔しがってたでしょ、これが現実よ」
「嫁の負けたときの声は意外と低いのだな。メモしておこう」
「あんたは歪みないわよね、まったく」
「もういやこの学園、ですわ」
『じゃあジャンケンで負けたし、俺の番からか―――』
「っっ!!!!」
中の人物にも、外の人物にもあきれ返っていたセシリアだが弾の声が聞こえるや否や扉に張り付いた。
その速さといったら瞬時加速を使ったISにも引け劣らなかった。
「いや、やっぱりあんたも大概だと思うけどね」
「あ、いえこれは・・・」
思わず顔を真っ赤に染めるセシリア、恋は盲目とはよく言ったものである。
『あれだな、スタイル良いに越したことはねえよな』
『ほう、つまり胸は大きいほうが良いと』
『いや、胸がどうって訳じゃねえけどさ、バランス取れてるとそんなに個々の大きさって気にならなくね?』
「あんた結構スタイルいいわよね。よかったじゃんセシリア」
「り、鈴さん!?」
「ほう、セシリアはダダンダ・ダンのことが・・・メモを取っておこう」
「ああもうなにから突っ込めば良いやら、わけがわかりませんわ」
扉の中の会話も十分セシリアを揺さぶる内容だが、隣にいる二人も違う意味でセシリアを揺さぶる。
もうなにもかも放棄して中の会話だけに耳をすませていたいと思うセシリアであった。
『ところでシャルル、ISスーツについてどう思う?』
『え、どう思うって。便利だよね、汗かいてもべたつかないし動きやすいし。あ、でも着替えるのに時間が―――』
『バッカヤローーーー!!!』
『い、一夏!?どうしたのいきなり叫んで?』
『お前、弾がどういう意味で聞いたのか全然わかってねえよ。この場でそんな良い子ちゃんの答えを期待してる奴がいると思ってんのか?本気でそんなこと思ってるなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!』
(なんだか一夏さんのキャラがいきなり崩壊いたしましたわ。でもISスーツの話題で他に何が?)
もう声に出すのは面倒なので一人頭の中で思考を巡らすセシリア、そして部屋の中では男子高校生空間のせいで人格が崩れ始める一夏。カオスである。
『いいか、シャルル。ISスーツなんてほとんど水着と変わらないほどの露出度なんだぞ、そこに何かないのか?』
『・・・・・・・・ないことはないよ』
『おおおおおおお!!シャルルさんマジっすか!?おっしゃああ!あのシャルルさんも俺たちと同じ男子高校生だったぜ!見たかこの野郎!』
『で!?で!?どう思うんだよ!!』
「あいつらどんだけテンション上がってるのよ。これ隣の部屋にも聞こえてるんじゃない?」
「録音の必要はなかったかもしれんな」
「殿方ってほんとバカ」
外と中、男と女のテンションの差がもう決定的なまでに広がっている。しかし中の男子たちもよもや自分たちの会話が盗み聞きどころか録音までされているとは夢にも思っていないだろう。
その可能性が頭にあればここまでバカ騒ぎはしていなかったはずだ。そしてそのバカ騒ぎっぷりはさらにエスカレートする。
『ISスーツってさ、体の凹凸とかはっきりでるよね?だからさ・・・その・・・おへそとか・・・・・・結構ぐっと来るんだよね』
『『・・・・・・・・・・・・』』
『・・・どうして二人とも涙流してるの?』
『いや、ついにシャルルとも親友になれたと思うと嬉しくてな。やっぱり男の友情はこんな話でもしなきゃ完璧には深まらねえよ』
『ああ、一夏の言うとおりだ。シャルル、これから俺たちは心の友だ。改めてよろしくな』
『ふ、二人とも・・・・・・』
扉の中ではバカ騒ぎを通り越してカオスも通り越して、変な空間が展開している。
中の面子は良い話をしているつもりだろうが後で録音された内容を聞けば目を覚ますだろう。そしてそののち悶絶するだろう、黒歴史ものの暴走である。
そして外の面子はといえば。
「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」
ドン引きしていた。
「そうか、男の友情というのは猥談の一つでもこなさなければ本当の友情とはいえないのだな。メモを取って―――」
「それはとらんでいい」
一人を除きドン引きしていた。
もちろん外の状況を知らない三人の会話はまだ続いている。正直もうやめてほしい気はするが。
「なんかこれ以上聞いてたら何かが駄目になる気がするわ。あたし一抜けっと」
「わたくしもここまでのようですわ。それにわたくしは当初の目的は果たせましたし」
「で、ラウラはどうすんの?」
「私は最後まで粘るつもりだ、最後まで何が起こるかわからんからな」
「それじゃあね。どうするセシリア、一緒にご飯食べに行く?」
「ええ、そういたしましょう。それではラウラさんおやすみなさい」
男子の悪乗り、しかも思い人のそれを聞いていると自分の中が何かが崩れそうになるのか、鈴とセシリアはもう十分といった様子で立ち上がる。
ラウラはといえば扉に張り付いたまま離れていく二人に無言で手を振っていた。
番外編5『五反田、実家に帰る』
事の始まりは、俺が休みの日を利用して実家に帰ることを一夏に話したことが発端になる。
「だったら俺も弾の家に行ってもいいか?ひさしぶりに厳さんの作った料理も食ってみたいし」
ちなみに厳さんは俺のじいちゃん、八十を過ぎてなおうちがやってる五反田食堂の現役大将だ。
そしてこの会話を聞いていたセシリアがこちらに寄ってきて。
「わたくしもご一緒してもよろしいかしら。弾さんには料理を教えてもらったりお世話になってますし」
さらにここでシャルルがこの話に乗ってきた。
「おもしろそうだし僕も一緒に行っていいかな?」
シャルルが来たということはラウラも。
「嫁が行くというなら私も行くぞ」
んで隣のクラスからわざわざ鈴まで。
「あたしも弾の家には帰国してから一回も行ってないし、ちょっと行ってみたいんだけど」
最後には篠ノ之さんも。
「私だけ仲間はずれ、ということはないだろうな?」
合計7人の大所帯に、というか俺の部屋にはいるかな?などと思案していたのが懐かしい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「どうしてこうなった」
現在俺の家の前。面子は俺とセシリアのふたりだけ。
「どうしてこうなった、と言われましても。鈴さんは急用ができキャンセル、一夏さんは白式に関しての書類がいくつか発生していつ来れるかわからず、箒さんは一夏さんに付き添い、シャルルさんはトーナメントの時壊れた胸部装甲スペアの受領立会い、ラウラさんはその付き添い、でしたわね」
「そうだよなぁ・・・ま、いないのは理由があるから仕方がないよな。行くか?」
「ええ、そうしましょう」
古風な開けるとがらがらと鳴る戸を横に押しやり、俺たちは五反田食堂の入り口をくぐる。
「いらっしゃーい!ってお兄か・・・おかえり」
今日は店をやってる日なので、普通に客として最初出迎えられてしまう。
「ただいま、けど今日は俺ひとりじゃねえぞ。セシリア、こいつは蘭、俺の妹だ」
「お邪魔します、わたくし弾さんと同じクラスでお世話になっております。セシリア・オルコットと申しますわ」
「・・・・・・・・・」
なんとなく予想はしていたが妹の蘭はセシリアの放つお嬢様オーラに当てられて、口をあけたまま立ち尽くしていた。
自分の家ながら確かにセシリアの存在が不釣合いだとは思うよ、この場所は。さらにいえば俺の隣にいるのも結構つりあいの取れていない感が半端ない。
「お、お兄に金髪お嬢様系美人の彼女が・・・そんな馬鹿な、これは夢に違いない。そうよ五反田蘭、一夏さんならまだしもお兄に―――」
あまりにもありえない状況に脳がオーバーヒートしたのか、訳の分からないことを口走っている。
だが自分でも分かっているとはいえやっぱり俺とセシリアがそういう関係であることがありえないことだと言われるとなんかショックだよな。
もう少しがんばろうかな、顔はともかく勉強とかISの操縦とかは練習とかでどうにかなるしな。
「わわわわたくしが弾さんの彼女・・・・・・はふぅっ」
「だあああ!大丈夫かセシリア!おい蘭、お前が変なこと言うからセシリアが倒れたじゃねえか!!」
こっちもこっちでなんかオーバーヒートしてるし、しかもどさくさに抱きとめちまったよ!
ああああ柔らけええええ!!!俺もオーバーヒートしちまうじゃねえかよっ!!
「こぉら弾!!てめえいくら別嬪さんだからって、やっていいことと悪いことがあるんだぞテメエ!!」
「いや誘拐とかじゃないから!クラスメイト!友達!セシリア・オルコットだよ爺ちゃん!!」
しかも俺達が騒いでるのを聞きつけたのか奥のほうから爺ちゃん、こと五反田食堂の主、五反田厳が奥から顔を出してとんでもないこと言いやがった。
すこしは孫のことを信用してもらいたいぜ全く。
「はっ!私は今まで何を・・・ああ!お兄なにオルコットさんを無理矢理抱きしめてるのよ!この変態!さっさと放しなさい!!」
「うわあ、全面的に俺のせいかよ。しかも無理矢理抱きしめたことにされてるし」
「問答無用!」
蘭は俺の腕の中からするりとセシリアを奪い取ると、その肩を軽くゆすって呼びかける。
「オルコットさん、大丈夫ですか?オルコットさん」
「はっ!わたくしは今まで一体何を」
「すみません。私がついていながらお兄がオルコットさんにハレンチなことを」
「えっ!?わたくし弾さんに何かされたんですか!?」
「蘭お前、言葉のチョイス悪いわぁ!!しかも全面的に濡れ衣!俺ただセシリアのこと抱きとめただけだからね!!」
「抱きとめ・・・抱きとめ・・・抱きしめ・・・」
しまったああ!!俺のほうこそ言葉のチョイスミスッ!!余計なこと言っちまったああ!!
セシリアの奴また顔真っ赤にしてオーバーヒート寸前だし、やばいってこれ!
「あらあら、これは一体どういう状況かしら。とりあえず弾、おかえりなさい」
ここで満を持して救世主登場、五反田食堂の看板娘(自称)、五反田蓮。
実年齢は 歳、ただ本人曰く『二十八歳から年をとってないの~』という言葉のとおり息子の俺から見ても若々しい。
「それで、そっちのお嬢さんはどちらさまかしら?弾のお友達?」
「そうそれ!やっと普通の反応してくれた!ほら、セシリア、ぼーっとしてないで。こっちは俺の母さん」
「あ、わたくしセシリア・オルコットと申します。弾さんには・・・・・・お母様?弾さん、お母様はいったいおいくつなのですか?」
うん、うちの母さんとはじめて会った人は大概その反応するんだよな。まあわからんでもない。
「うちの母さんは 歳だ」
「え?よく聞き取れなかったのですが」
「 歳だ」
「え?」
「諦めろ」
「はい」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はたまたまいない親父以外の面子と挨拶を済ませたセシリアを当初の予定通り、俺の部屋に通すことになったのだがそこで一つの問題が発生した。
それは今日、本来はいたはずの人物がことごとくいなくなったことに起因する。
(俺の部屋に二人っきりってまずくないか?)
他のみんなもいたのなら俺の部屋にセシリアを通すなんて、至って普通のことだ。友達を部屋に入れるくらいなら。
だが二人っきり、曲がりなりにも想いを寄せる女の子と二人っきり。かなりまずい、なにがまずいって俺の心臓が潰れることは必須。
心拍数上がりすぎて寿命が縮む。
「弾さん、どうかしましたか?先ほどから扉の前で立ち止まって」
セシリアは何事もないかのような顔で、こちらを不思議そうに見ている。
(うぐぐぐぐ、俺だけが意識しすぎなのか・・・)
「あれ、お兄まだ部屋入ってなかったの?お茶とお菓子持ってきたんだけど」
俺が一人悶々と考えていると後ろから声を掛けられた。案の定、蘭だったわけだがその時俺の頭の中に秘策がひらめく。
「お、おう、今入るところだから。蘭もそれ持って入ってきてくれ」
蘭の手の上にあるお盆をとって部屋に入れば蘭はここでお役御免、食堂の手伝いに戻るか、自分の部屋に行くかの二択だ。
ならば多少わざとらしくとも蘭には部屋にいてもらわねばならん。
部屋に入るとセシリアに座布団を手渡して空いているところに座るように促す。今使われてはいないものの、そこまでホコリっぽくもないし寮に入る前に掃除もしたので汚くもない。
セシリアの方は問題なし、ここで問題は蘭なのだがその蘭はお盆をセシリアの前においてそそくさと部屋を出ようとしている。
ここはちょっと待ってもらわなければならん。俺の心臓のためにも。
「ちょ、ちょっと待て蘭」
「どうしたのお兄?」
「ちょっとセシリアと話していかないか?貴重なIS学園の話とか」
「いや、お兄からも聞けるし」
「じゃあ・・・そうだ、セシリアは一夏の友達でもあるし一夏の話も―――」
「っ!・・・ってそれもお兄から聞けるじゃん」
最後に残されていた俺の切り札もあっさりかわされてしまった。そりゃそうだ、一夏は俺たちの共通の友達だし、俺と一夏はセシリアより一緒に過ごしてるし。
そして万策尽きた俺は―――
「まぁいいからこの部屋に居ろ!いいな!じゃあ俺は自分の分のお茶とってくるから!」
いつもならこんな語気強く蘭に言い出せないんだけど今は緊急事態だ、後で何をされても今さえ切り抜ければどうということはない。
俺は反論されるよりも早く部屋を飛び出し、台所のある一階に繋がる階段を駆け下りた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・・・・っふう」
セシリアは弾が部屋から出て行くのと同時に息を吐き出す。安堵の息だ。
弾と蘭の会話はセシリアには聞こえていなかったのでなぜ弾が出て行ったのかはわかってはいなかったが、これはセシリアには助かる出来事だった。
好きな人の家にいきなりお邪魔することになり、しかも結果的に二人きり。
さらに追い討ちをかけるように様々なことがあり、ついには弾の部屋へ通されることになった。
ただでさえキャパシティーを超えるほど気恥ずかしい思いに満たされていたのに、これ以上弾と一緒にいたらどうなっていたのか分かったものではない。
さっきも部屋の前ではセシリアは自分を落ち着けるのに必死で、どんな顔になっていたか想像したくもないと思っている。
(学園でも二人になることはよくありましたが、想い人の家というシュチュエーションだけでこうも変わるものなのですね)
しかし弾は出て行ったものの、蘭は部屋に残りベッドに腰掛けてセシリアのほうを見つめている。
セシリアとしてはその視線の意味が理解できないし、どう話しかけたらいいものか迷っていた。
同年代の女の子とはいえ、初対面であまり蘭についての情報も持ち合わせていない。ならば共通の話題、つまり弾のことなら話せるのではないか?とセシリアがこれからの方針を固めかけたその時―――
「オルコットさんってお兄のどこが良くて付き合ってるんですか?」
「はいぃっ!!?」
いきなりの衝撃発言に声が裏返る。
「あ、やっぱり。いやぁおかしいと思ったんですよ、お兄がいきなり女の人を家に連れてくるなんて。で、いつ頃から?告白はどっちから?」
「あの・・・ちが・・・」
どうやら蘭はセシリアの反応が図星だったと勘違いしたようだ、まぁあながち間違いではないのだが二人はそこまで至っているわけではない。
「ち、違いますわ!わたくしと弾さんはクラスメイトで友人ではありますが、こ、こ、こいびとではありませんわ」
「あれ?本当に違うんですか?」
「そうです」
セシリアが必死に弁解したところ、やけにあっさりと納得したように引き下がる蘭。
あっさりしすぎにも感じたがそれでも誤解が解けたことに胸を撫で下ろすセシリア。
目の前に用意された自分用のお茶にもようやく口をつける。元々熱く淹れられていたのか、少し時間がたった今は温度も人肌程度で丁度良かった。
「じゃあどこら辺が好きなんですか?お兄のこと好きなんですよね?」
「ぶふっ!!」
思わず口の中のお茶を噴出してしまう。霧のように細かく噴出されたお茶の中に虹が見えた気がした。
「な、なんのことでしょうか?わたくしは別にそんな―――」
「私も女ですからわかりますよ、というかそういうこと抜きでオルコットさんがお兄のこと好きなの丸わかりですよ」
「・・・・・・・・・マジですの?」
「マジです。というかあれで気づかないの一夏さんくらいじゃないですかね」
「ということは弾さんにも・・・あわあわわわわわ」
セシリアは顔を真っ赤にして頬を両手で押さえながら、身をくねらせていた。
その仕草は少々子供っぽいが、セシリアがやると愛らしく見えるから不思議だ。
蘭も同性ながらそのセシリアの仕草に少し見とれてしまうが、今は話の続きである。兄の弾がいつ戻ってくるとも分からない。
「落ち着いてください。お兄なら大丈夫ですよ、ばれてても大丈夫なんです」
「どういうことですの?」
「いいですか、お兄は一夏さんと中学三年間過ごしたんです。隣にあんな人がずっといたんですよ」
「あんな、とは?」
「えっとですね・・・つまり・・・すごく女性に、もてる人ってことです・・・・・・」
あんまり言葉に出して言いたくない言葉だが説明するにはしょうがない。
密かに想いを寄せる相手にはライバルが多いことを改めて自覚してしまった蘭だが必死に説明を続ける。
「だからか分からないですけど、お兄は自分に対しての好意を信じられないみたいなんです。自分を好きになるくらいなら一夏さんのほうを好きになるだろう、って具合に」
「それは難儀ですわね」
「なのでセシリアさんがお兄のこと好きだってばれても、お兄は思い過ごしだって思い込むわけです。だから大丈夫なんです」
「でも・・・そうなるといくら弾さんにアプローチしても無駄ということかしら、そうなるとわたくしどうすれば」
「・・・・・・・・・やっぱりオルコットさん、お兄のこと好きなんじゃないですか」
「はっ!ゆ、誘導尋問ですわね!?」
「いや、最初は普通に話してたらオルコットさんが勝手に」
むしろ動揺をしていた時点でアウトだったというのは黙っておこうと思う蘭であった。
「じゃあ最初の質問に答えてくださいよ、お兄のどこがいいと思ったのか」
「ううう・・・もう、隠しても無駄のようですわね。分かりました、お話します」
セシリアは肩を落とし観念したように話し出す。それを蘭は興味津々といった様子で体を乗り出し気味に聞く。
やはり女性の共通の話題というのは恋バナが一番なのだろうか。
弾が階段を昇ってくる音が聞こえるまでこの話は続いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
五反田食堂の入り口で弾とセシリアを見送っていた蘭が、入り口をくぐり食堂の中に戻ってくるとそこで待っていたのは母の蓮だった。
どうせなら二人を見送ってあげたらよかったのに、とも思ったがあのお兄なのでいいかなと考えるのはやめた。
「ずいぶん仲良くなったのね、あのセシリアって子と」
「え、そうかな?」
「だって弾とのこと、ずいぶんとアドバイスしていたじゃない?」
「き、聞いてたの!?」
「聞こえただけです」
そう言って口に手を当てて軽やかに笑う蓮。その仕草は年齢から想像もつかないほど可愛らしかったが、その言葉には年齢を重ねたからこそ出る深みがあった。
つまり母にとっては娘のことなどお見通しということなのだ。そしてその言葉に含まれる意味を蘭は娘としてきっちり汲み取り、汲み取ったがゆえに諦めたように口を開く。
「・・・・・・だってさ、せっかくお兄のこと好きになってくれた人が出来たんだもの」
「あらあら、なんだかんだ言っていても弾のことが好きなのね蘭は」
「うう、そこだけはノーコメントで」
「家族だものね」
コメントしなかった部分を読んで返してくる母に、やっぱりこの人には敵わない、と頬を一掻き。
ニコニコと笑いながら見透かすような視線を送る母を振り切り調理場の中に入っていく。
別に逃げたわけではなく、店の手伝いの途中に見送りをしていたのでまだやることは残っているのだ。
「お爺ちゃんゴメン、すぐお皿とか洗っちゃうから」
「別に急ぐこたぁねえよ。客が来てるわけでもないんだ」
「それでもやっちゃうよ。・・・そういえばお兄がお茶取りに下りたんだけど妙に遅かったの、何か知ってる?」
「・・・いや、知らん」
「そっかぁ」
会話はそれきりにして蘭は洗面台に浸かった皿を一枚手に取った。
仕事をしてる最中にむやみに喋るとおたまが飛んでくるからだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なぁセシリア、蘭とすごい仲よさそうだったけど俺のいない間に何があったんだ?」
今は帰り道、二人で並んで歩いている。今日一日一緒にいたおかげか二人きりで歩いていても以前と同じように応対できている。凄い進歩だな俺。
「ふふふ、それは秘密ですわ。それにいない間といえば弾さんもずいぶんと帰ってくるのが遅かったですわよね。お茶を取ってきていただけだったんでしょう?」
「うーん、そうなんだけどさ・・・それは秘密っていうことで」
「あら、それは聞けませんわね」
隣で可笑しそうに微笑むセシリア、その笑顔を見て今日はセシリアと一緒に家に行けて良かったと思う。
何があったかは分からないが蘭と仲良くなれたみたいだし、鈴とはあんまり仲良くないからな、蘭の奴。まぁ理由はお互い一夏が好きなもの同士だからか。
単純ながら複雑な問題だぜ。
「なあセシリア、今日楽しかったか?みんな来れなかったしさ、ちょっと不安だったんだ」
「わたくしの顔を見て分かりませんか?」
「ごめん、聞くまでもなかったな」
「まぁ確かに来れなかったみなさんともまた一緒に来たいですけど―――」
そう言いながらセシリアは駆け足で俺の前を何歩か先に行く。跳ねるように、軽やかに、その長い金色の髪を揺らしながら。
そして振り返り、笑う。笑って、言う。
「今度も同じように、それと今日とは別の場所も見てみたいですわ。弾さんの育った場所を」
その眩しいような笑顔とともに放たれた言葉は、直接言ったわけではないが、『二人で』という意味にも取れる。
ちょっと深読みがすぎるか?
「セシリア」
「はい?」
俺は少し早足でセシリアの隣に並びなおす。
「あんま先行かないでくれ」
セシリアの言葉の答えをはぐらかして、歩き出す。
少し遅れて歩き出したセシリアの表情は見えないが何も言ってこない。
誤魔化せたのか?とも思うが、はぐらかされて不機嫌になったともとれる。
やはりさきほどの話を誤魔化さずに返事をするか、このまま無言を貫くか頭の中で悩んでいると、今日爺ちゃんに言われた言葉がふと頭をよぎる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あれは部屋を飛び出て下に下りた時のこと、母さんが爺ちゃんが呼んでいるとのことで食堂のほうの調理場まで行ってきたのだ。
セシリアにも蘭にも話してないが部屋に戻るのが遅れたのはこれが原因。
「爺ちゃん、何か用?」
「来たか・・・」
爺ちゃんはぼそり、と呟くようにそれだけ言うとお客さんに出す料理を作る手を動かし始めた。
仕事の邪魔をするのもあれなので黙って調理場の隅で立っていると三分としないうちに完成して、母さんの手で運ばれていった。
「弾、お前あの子に惚れてるだろ?」
「っ!?・・・・・・ああ、そうだよ」
調理を終えて手ぬぐいで額の汗をぬぐいながら、さらりととんでもないことを言う爺ちゃん。
思わず言葉に詰まるが、爺ちゃんには嘘なんて通用しないだろうし、俺はあっさりと認めた。でもそんなにわかりやすかったか?
「なかなか大した嬢ちゃんだ、芯の強そうな目をしてやがる。逃すなよ」
「ああ、他の奴に渡す気はない」
爺ちゃんの目を真っ直ぐに見て宣言する。正直自分でもこんな程まで思っていたのか、と驚いてはいたが流れで言ったわけじゃない。
れっきとした俺の意思から出た言葉だ。喉が振るえ、空気に伝わり、鼓膜に届く。意味を自分で再確認することで思いが強固になるのを感じる。
「はっ・・・見ない間にお前もいい目をするようになったじゃねえか」
「え、そうかな?」
爺ちゃんに褒められるなんていつ以来だろう。予想外の出来事に少し頬が緩む。
「泣かしたらぶっ殺すからな」
「それって向こう側の人が言う台詞じゃないの?」
「アホ、好いた女泣かすような奴は死んで当然だろうが」
「あ、はい」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今、セシリアは泣いていない。爺ちゃんの言ってたことは破ってない。
でもそれでいいのかよ、好きな女の子不機嫌にさせてもいいのかよ。しかも理由が情けない。
自分の勘違いだったら恥ずかしいから、んなの俺の都合だ。
勘違いだったら勘違いだったで、滑稽な俺を笑ってもらえばいいんだ。
「セシリア」
「は、はい!」
突然声をかけたからかセシリアは心なしか慌てたような声色だった。
俺はそれには構わず続ける。
「もう臨海学校も近いからさ、その準備とかもあるしすぐには無理だ」
「・・・はい」
「でも終わってからだったらさ、時間もあるし夏休みを使って行くのもありかもな」
「!!・・・はい」
俺も多少ぼやかして言った、それでもセシリアの顔には明るい色が浮かんでいる。
勿論セシリアがどういう意味で取ったかはわからない。
でも、ようはセシリアの望む形に俺があわせればセシリアの顔は曇らないってこと。
たとえ俺の方に気持ちが向いていないとしても、そんなことは気にしない。
それは俺の都合だから。俺はセシリアが笑っていればそれでいい。それでいいと、思った。
というわけで番外編でした。蘭ちゃんもう少し出したほうが良かっただろうか・・・
まぁ出番を本編に増やせばいいだけですよね。
ラウラと一夏の番外編ではこのSSでのラウラの変化をちょこっと書いてます。
知識欲が多い子になってメモをよくとる子になっています。
あとうちのSSでは箒ちゃんのバイオレンス性が少なかったのでそこも足しておきました。やっぱりバイオレンスじゃなきゃ箒ちゃんじゃないですよね。
あとついにスレの半分をすぎました。ここまで来れたのも反応や感想をくれる皆様のおかげです。
自分の性格上、反応がないとすぐに飽きていたでしょう。これからも暖かい目で見ていただけると幸いです。
もっと言いたいことはあるのですが長くなるのでここで筆を置きます。
それではこれにて
臨海学校で福音と戦闘して短編を処理して、やっと文化祭編か・・・
虚さん登場まで長いな
乙
本気で原作よりこっちの方が楽しみになってる俺
乙
>>512
え、こっちが原作じゃなかったっけ?
原作とか1巻の3分の1のトコで読むの諦めたわ
>>1乙
俺は鈴嫌いって訳じゃないからな
二重投稿失礼しました
最初から読み直した
面白いわ
ちょっと見ない間に結構でてた…
乙です、福音相手にダダンダがどう戦うのか楽しみにしてます
乙
なんとか戦隊ダダンダーンってゲーム思いだした
>>511 確かに道のりはかなり長いかと、四巻編なんて再構成する部分がかなり多くなりそうですし。
ただ文章量はそこまで多くならないかも
>>512 >>513 >>514 >>516 そういっていただけると作者冥利につきます。ありがとうございます。
>>515 お気になさらずに、そして私が鈴を好きな理由は某カードショップで『ISの鈴ってカードスリーブの絵柄だけはかわいいよな』と聞いたことが起因しています。
>>517 三巻編も再構成する部分が多いので弾だけでなく他の面子の動きも変わるかもです。
あくまで予定ですが。
>>518 『究極戦隊ダダンダーン』ですね。あなたのせいで三巻編の後の番外編が戦隊モノのネタになりそうだ。ありがとう
ちょっと今週は更新できそうにないのでレスに対しての返答とちょっとした報告だけとさせていただきます。
ちなみに単行本一冊分ごとにはさむ番外編はいりますかね?あの部分だけは完全オリジナルなのでかなり拙い文章でお送りしているので心配になりまして。
それでは次の金、土、日のどこかで投下します。木曜までには細かい予告をさせていただきます。
それではこれにて
無理しないで
オリジナル短編楽しみだよ
各カップリングもっと沢山見たい
予告編まだー
ちょっと予告するのが遅れましたが、今日の夜7時くらいから投下しようと思っています。
それではこれにて
では予告どおり今から投下いたします
「んん・・・うぅ・・・今何時だ」
学年別トーナメントが終わり、六月もあと少し残すだけとなったある日俺は目を覚ました。
窓の外はカーテンがかかっていることを含めてもまだ薄暗い、日が昇って間もないのかもしれない。
今だ重い頭を必死に動かしながら周囲の状況を把握しようとあがく。たしか枕元に携帯電話がおいてあったはずだからそれで時間を確認しよう。
「ん・・・・・・・なんだよまだこんな時間か、もう一回寝ようかな」
かなり早く起きてしまったらしい、あと一、二時間は眠っても問題ないくらいの時間だ。
さぁはやく枕に顔をうずめて夢の世界へ、と携帯電話をとる為に起こした身をまたベッドに任せようとしたその時ふと隣のベッドに視線が行った。
いつも俺より早く起きているシャルルも今の時間はまだ起きていない、ベッドに出来たふくらみの胸の部分が規則的に上下している。
だがなにか違和感がある、寝ぼけている頭を少しずつ回転数を上げて慣らし始める。状況の整理を始めよう。
ベッドには人一人分のふくらみ、シャルルが眠っている。
じゃあそのベッドに入ろうとしている奴は誰だ?
「・・・・・・・・・おはよう、織斑一夏」
「おはようラウラ」
ラウラだよな、うん。まぁいっつもシャルルにべったりくっついてるラウラならこんな時間にシャルルのベッドに入り込もうとしていても不思議じゃないよな。
「ラウラ、俺今から寝なおすから静かに頼むわ」
「ああ、私もこれから眠るところだからな、安心しろ」
そうか、そりゃそうだよ、ベッドに入ろうとしてるんだから眠ろうとしてるに決まっているだろ、バカだな俺は。
それじゃあおやすみなさい。
俺は一切の思考を投げ捨て枕にダイブ。なんかこの状況は異常だとか、薄暗くてよく見えなかったがラウラが衣類を身につけていなかったように見えたとか、頭の中でぐるぐる疑問が廻っているなんてのは気のせいなのさ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「で、それが朝っぱらから鈴や篠ノ之さんに殺されかけてた訳か」
「うん」
ホームルーム前の教室で隣に座る一夏は体中に傷を負っており、かなり痛々しい。
さっき一夏から聞いた話と朝食の時セシリアに聞いた話を統合して要約すると、一夏の話の時系列的に後に結局シャルルが起きた時に騒ぎになりそこに鈴や篠ノ之さんが突入。
そこには全裸のラウラとシャルル、一夏がいるわけであの二人は何をどう思ったのかこの騒動の原因が一夏にあると断定、制裁を加えたとのこと。
「まぁお前が起きた時にやめさせなかったのが悪い」
「じゃあどうすりゃ良かったんだよ。ラウラに裸でベッドの中にもぐりこむのはやめろ、って言えばよかったのか?言えるわけないだろ」
「いやいやいや、普通に自分の部屋に戻れって言えばよかったんだよ」
「!、寝ぼけてて気づかなかった」
「アホくさ」
俺が馬鹿な親友にあきれ返っているともうホームルームの始まる時間がすぎていた。
いつもであれば山田先生が始まる五分くらい前には来ているはずなんだが。
周りのクラスメイトも違和感を覚えているのか廊下に顔をだして確認している生徒もいるくらいだ。
そしてその生徒がなにか発見したのか教室のほうへ体を戻すと、教室中に聞こえるような大声で。
「みんなー、山田ちゃんじゃなくて織斑先生が来たよー!」
と叫んだ。
これにはクラスメイトも山田先生に何かあったのかを疑う奴も出てきた、体調でも崩れたんじゃないかとか。
千冬さんが一人でホームルームやるのって凄い稀だしな。いつも山田先生の横にいて、重要なことがない限り口出してこないし。
クラスメイトたちも千冬さんがホームルームをやるとあってさっさと自分の席に着いて待っている。
誰も千冬さんには怒られたくないのだろう。
「さぁ、ホームルームをはじめるぞ。尚、山田先生は来週の臨海学校の視察のため先に現地に赴いているためいないのでそのつもりでいろ」
「えええ、山ちゃんずるいー!」
「いいな!いいな!一人で泳ぎに行ってるんだぁ!」
山田先生がいない理由には説明がついたが、今度はその理由を巡ってクラス中が騒ぎ出す。
「あー、いちいち騒ぐな、鬱陶しい。山田先生も仕事で行っているのだ、遊びで行っているわけではない」
騒ぎ始めたクラスメイトたちをいさめるように出席簿で机をニ、三度叩く千冬姉、その声色は本当に鬱陶しそうで、時々この人がなんで教職についているのか不思議でたまらなくなる。
そのあとは聞きたくもない期末テストの話や、お堅い話が続き山田先生のいないホームルームは進んでいった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本日快晴、場所は駅前のショッピングモールの前。
バス停が目印となっていて、待ち合わせ場所にはぴったりのこの場所。
しかし同じ場所から出発した二人には待ち合わせをする必要はなく、バスから降りて真っ直ぐにショッピングモールの入り口へ向かう。
「でも俺でいいのかよ、女の子の水着選びに付き合うなら同性のほうがいいんじゃないか?」
「むしろ同性で水着を選びに行っても、大概は中身のない褒めあいになるのが関の山ですわ」
「そういうもんなのかね?」
「そういうものですわ」
二人で話しながら、並んで歩くのはセシリアと弾だ。
仲良さげに談笑しながら入り口をくぐる姿を見ていると、仲良さげなカップルに見えなくもない。
確かによく二人でいるところをよく見るし、案外お似合いかもしれない。
中学時代からの親友に春が訪れるのか、と思いをはせると―――
「殺したくなるよな、リア充爆発しろ」
「いきなり何口走ってんのよ」
ばしん、と後ろからなじみのあるツッコミを受ける。さすがは鈴、いいツッコミだ、角度、威力、音、全て適当。
「ほら、さっさと追うわよ一夏。ISのセンサー使ってるけど完璧に見失うと見つけるのは結構めんどくさいのよ」
「わかってるよ。けど何が楽しくて休みの日に友達のデート?を尾行しなけりゃならないんだろうな・・・」
「そんなのあいつらになんかあった時にいじるために決まってるでしょ?」
なんてくだらない理由なんだ・・・まぁこの後臨海学校に必要なものを買い揃えるっていう目的もあるんだけどさ。
「ま、それも一夏といるための口実なんだけどね」
「ん?何か言ったか鈴?」
「ううん、何も」
よく聞き取れなかったが鈴はなにか言っていたと思うんだが。
でも聞いてほしくないことなんてのは誰にでもあるだろうし、気にしないでおいてやろう。
「あっ!一夏がくだらないこと言ってる間にも二人がどんどん進んでいくじゃない!追うわよ!」
「はいはい」
「はいは一回でいいわよ!」
俺と鈴は入り口に消えていった二人を追うべく、小走りで入り口をくぐる。
標的の二人は歩いているからか、そこまで離れていない場所に発見することが出来た、尾行再開だ。
「む?これは鈴と・・・一夏ではないか。いやぁ奇遇だな、こんなところで会うとは、奇遇奇遇」
っといきなり出鼻をくじかれる形で見覚えのある人物に、進行を阻まれた。
「なっ!?・・・箒、あんたなんでこんなところにいるのよ」
「奇遇だと言ったではないか、偶然だ。臨海学校で必要なものをそろえる為にここに来ただけだぞ」
「・・・・・・・」
「なんだ鈴、そんな顔をして。私の顔に何かついているか?」
「なんで棒読みなの?」
「・・・・・・なんでだろうな、一夏」
俺に分かるはずがないだろう。
そう言おうと思ったのだがそれよりも優先すべきことがあった。俺と鈴が何をしにこの場所にいたのか、それは弾とセシリアの尾行をするため。
そしてその弾とセシリアは―――
「いない・・・おい鈴、二人を見失ったぞ」
「えっ?・・・・・・本当だ、どこにもいない」
「?、どうしたんだ、何を探している」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「水着売り場に着いたものの・・・広いなぁ」
俺は感嘆の意のこもったため息をつきながら、しみじみと呟く。
「そうでしょうか、わたくし水着売り場に来たのは初めてですので分からないのですが」
「え?じゃあ今まで水着買ったことなかったのか?」
「いえ、今までは全てオーダーメイドでしたので」
「あ、なるほどね」
隣のセシリアは当たり前のようにさらっと口にする。以前のように自慢げに言うようなことはなくなったが普通のことのように言われるのもきついものがあるな。
俺とセシリアの間にある差を意識せざるをえなくなってしまうから。
「・・・・・・・・・」
「弾さん、どうかなさいましたか?もしかして気分でも―――」
いきなり黙ってしまった俺の顔を覗き込むようにセシリアが心配そうに声をかけてくる。
その声で俺の意識は自分の中から、セシリアに向き直る。何をやっているんだ、俺は。
今は俺のことなんてどうでもいい、セシリアが顔を曇らせないようにすることを考えなくては。
「い、いや、なんでもないんだ。それよりセシリア、こんなに水着売り場も広いんだからまずはセシリアのほうで絞り込んで見てくれよ。俺はその間に自分の分を買ってくるからさ」
「ええ、それは構いませんが。本当に気分のほうは大丈夫なのですか?」
「大丈夫大丈夫、ちょっと考え事してただけだって。それじゃあ男物の水着は向こうのほうだから、行ってくる」
俺は軽く笑うと、端のほうに置かれている男性用水着のコーナーに向かった。
まだセシリアは納得してないような顔をしていたがそれを振り切るように少し小走りになりながら。
「っと、ここらへんからか。やっぱりそんなに種類多くないのな」
広い水着売り場の本当に端の方、申し訳程度に置かれた男性用水着コーナーについた俺は一度周りを見回す。
客は休みの日にも関わらず、俺を含めてニ、三人しかおらず女性用のコーナーと比べると雲泥の差だった。
ちなみに女性用のコーナーは広い売り場であるのにこちらより人口密度が高いほどである。
「まぁ水着にこだわりとかあるタイプじゃないからいいんだけどさ。これでいいか、サイズも大体あってるし」
当たり障りのないデザインのトランクスタイプの水着を手に取った俺は真っ直ぐレジに向かう、店員はレジ売っている男性店員のみ。
客への対応とか大変そうだなぁ、と無責任な同情をしてみる。今の世間の風潮からすればこんなことはざらにある。
女尊男卑、女が強い世界。それもこれも女性にしか扱えない最強の兵器、ISがあるからこそなんだけど―――
(ISは女にしか使えない、その常識はだんだんと崩されつつある。一夏にシャルル、今はまだ二人だけど探せば世界にまだいるかもしれない。そして俺のIIS、少しずつ世界が変わっていっている)
ただその先にある世界がどんな形をしているのかは分からない、ISが作られる前のようになるのか、それともまた別の形なのか。
(ま、別に女の上に立ちたいって思ってるわけじゃないし。平等あたりで落ち着いてくれれば一番だな)
「一点のお買い上げで、1980円になります。・・・・・・20円のお釣りになります。ありがとうございました!」
「はいどうも・・・さて、セシリアの所に戻るか、って集合場所決めてなかったな。さっき別れた場所に来てもらうようにメールでもしておくか」
片手でカチカチ携帯電話を操作しながら水着売り場をあとにしようとしたその時、商品の影で見えていなかった客とぶつかってしった。
携帯電話に意識が向いていたのも悪かった、今度からは止まって安全な場所で操作するようにしよう。
「すいません、ちょっと余所見していたもので」
「いえ、こちらも気をつけていなかった―――弾?弾だよね、こんなところで会うなんて奇遇だね」
「え?あっ!シャルル、おまえもここに来てたのかよ!」
なんとぶつかった相手はシャルルだった、シャルルも水着を買いに来ていたんだろうか、こんなところで友達に会うなんて、本当に奇遇だ。
「うん、水着を買いにね。そっちは・・・もう買った後なんだね」
「まぁな、この後はセシリアの買い物に付き合うことになってるんだけど、お前も一緒に行くか?」
「セシリアだけ?」
「お?そうだけど」
何気なくシャルルを誘ってみたがシャルルは妙なところに食いついてきた。
シャルルが苦手とする相手なんてそうそういないし、シャルルが学園で誰かと不仲だと聞いたこともないから面子に対して聞いてくることに違和感を感じたのだ。
何かを考えるようにアゴに手を当てていたシャルルは、考えがまとまったのかこちらに向き直り。
「いや、遠慮しておくよ、馬に蹴られて死にたくはないしね。それに僕のほうもエスコートの最中だしね」
「馬に蹴られて、って大げさだな、別に俺とセシリアはそういう関係じゃねえよ。つーかシャルルも誰かと来てたのか、誰と―――ボーデヴィッヒか?」
言葉の途中でボーデヴィッヒも臨海学校の準備に買出しに来るなら、シャルルのことを誘うのではないかという考えが頭を掠めたのでもしかして、と思い言ってみるとシャルルの反応は肯定だった。
「よくわかったね、一緒に来てほしいって言われて。断る理由もないし、ラウラがそうしたいって言うなら僕もそうしてあげたいし」
「惚気かよ、死ねばいいのに。むしろ俺が殺す」
「ちょっと!ドリルはしまおうよ!皆見てるって!!」
「ちっ」
「ちょっと、本気で悔しそうに舌打ちしないでよ。泣きそうになったよ、僕」
イケメンでクラスメイトに人気があってボーデヴィッヒのような美少女に好意を明確に寄せられているやつなど死んでしまえばいいんだ。
「じゃあ俺はもう行くけどさ、最後にひとつ聞いていいか?」
「なにかな?」
ドリルもしまって、改めてセシリアのいる女性用水着売り場に向かう前に、気になっていたことを冗談半分で、本気も半分に聞いてみる。
「お前らって付き合ってんの?」
ど真ん中直球でぶん投げられる疑問の言葉、軽い調子で言ったのでからかわれてると思われるかもしれないけどそれならそれでかまわない。
けどラウラからはあんなに好意を向けられておいて、今は二人で買い物にも来ている。それにさっきの発言からもシャルルはまんざらでもないと俺は感じた。
あくまでも俺の主観で見て、だけどさ。
「たぶん付き合ってないよ」
「たぶん?たぶんってなんだよ、自分のことなのに」
そんな答えがまさか返ってくるとは思わず、聞き返す。ここで時間を使いすぎてもセシリアを待たせてしまう。
だが今回はシャルルの発言がかなりひっかかる、今聞かなければまた聞く機会が訪れるかもわからない。
心の中でセシリアに謝りながら、シャルルに意識を向ける。
「まだ分からないんだ。僕自身ラウラのために何かしてあげたいとは思ってるけど、その思いの源がラウラへの好意なのか、別の感情なのか。・・・・・・ラウラの気持ちも、そうさ。僕にはまだわからない」
「・・・そんなもんかよ?」
「弾にとっては悩むような問題じゃなくても、視点を変えれば難問のように見えてくることもあるんだよ。それよりもいいの?セシリアを待たせてて」
シャルルの言葉の最後のそれは、この話題を終わらせるために放たれたような気がした。
ただ俺もこれ以上は踏み入って何かを聞こうとは思っていなかった。
所詮興味本位で聞こうとしたことだったし、なによりここからはシャルルが自分で考えて悩まなきゃいけない問題だ。
「それもそうだな。んじゃ俺行くわ、ボーデヴィッヒによろしく」
というか、そもそも色恋沙汰は得意じゃねえし。
俺は俺でセシリアのことで精一杯なんだよな・・・
今日はここまで
少し間をおいたわりには進んでない+出来が芳しくないですがご容赦を
次も少し間をおく可能性がありますが今は次の週末と予告しておきます。
三巻編の最初はシャルルが女でなくては成立しない話だったので、ショッピングモールに行く以外はオリジナルに。
まぁそのおかげでこの先も色々出来ることが増えました。
お買い物編はもう少し続きます。あと一、二回かな?
それではこれにて
モッピー知ってるよ最後に選ばれるのは私だって
乙乙
待つの長かったよー
追いついた、早く弾の三角関係もみたいものだ…
乙
>>1乙
箒の出番期待してるよ
爺さんや、次の更新はいつかいのう
次の週末あと23時間しかないよ
ちょっと今週末は無理そうなので月曜深夜、もしくは火曜深夜に更新いたします。
きっちり推敲とかしたいので火曜の深夜にしようかと思っています。早ければ月曜深夜に。
それではこれにて
いつも通りのクオリティを期待してますよ
桶
報告ありがとう
わぁい、楽しみだなあ
本当に申し訳ないですがかなり少量投下になります。
推敲してたら大分文章が減ってしまいました。
それでは投下します
シャルルと別れて、最初にセシリアと別れた場所まで戻ってきた。
のだが肝心のセシリアがいない。もしかして遅すぎて怒らせちまったか?と考えたあたりで手元の携帯電話の異変に気づく。
「げっ、送信ボタン押せてなかった」
なんたる初歩ミス、俺はさっさと送信ボタンを押しセシリアにこの場所に来てくれる旨をメールで伝える。
返信か、セシリアがこっちに来るのかは分からないがどちらにしろ手持ち無沙汰になってしまった。
俺は買い物も終わってるし、ここは女性用の水着売り場だ。しげしげと商品を見ていると不審者として捕まえられてもおかしくはない。
どうしたものか、と首を捻っていると近くにいた女性がいきなりこちらへ―――
「ちょっとそこのあなた、その水着片付けておいて」
「はぁ?」
確かに今の女尊男卑の世の中で男の立場が弱いっていうのは分かるが、この態度はさすがにひどすぎる。
そういう思いがついつい口をついて出て、一昔前の不良のような声が出てしまった。
「あら、なにその態度?あなた自分の立場を分かってないみたいね」
いやいやあなたの方が態度悪いですから。とは口が裂けてもいえない。ここで女性が警備員でも呼んで『この人が私に乱暴を働こうとした』なんていわれれば即アウトだ。
たとえ相手が悪かろうと、男の方が悪いとなってしまう。ひどい世の中だよな。
「立場を分かっていないのは貴様の方ではないのか?」
俺がそんな絶体絶命の状況で割り込んで入ってきた声は、冷たく固い、鉄のような声色をしていた。
その声の主は俺の横を通り抜け、女性の前に立ち、腕を組んで仁王立ちの体勢でむかいあった。
勇ましい態度とは裏腹に、小さく人形のような容姿をした少女。俺のクラスメイトで一度は敵対したこともあるあのラウラ・ボーデヴィッヒだった。
シャルルと来ていたのは知っていたがこんな形で会うとは思いもしなかった。
「な、なによあなた。そこの男の知り合い?」
「そんなことはどうでもいい。それよりもつくづく疑問に思っていたのだがどうして貴様のような女は得てして男に強気な態度をとるのだ?教えてくれないか」
「そんなの決まってるでしょ、男は女よりも弱いからよ。男と女で戦争をしたら確実に女が勝つでしょうし―――」
本当にひどいなこの人、心で思ってても誰も『男が女よりも弱い』と明言はしないぞ。世の風潮がそうだとしてもそんなことを言えばどっかから反感を買うだけだ。
そんなことを思い俺が顔をゆがめているが、ボーデヴィッヒはいつもの鉄面皮で女の言うことを聞き、うなづいている。
だが女の言うことを最後までは言わせずに途中で割り込む。
「たしかに男でISを使えるのは世界で二人。たしかに男側が不利だな、戦争になれば敗北することは確実だ。だが"貴様が勝つわけではないだろう"」
「・・・・っぐ!」
「偉そうにするのは構わないが、するのならば自分の力で偉そうにするのだな」
女がついには黙ってしまう、ボーデヴィッヒの言うことはもっともだ。ただそれを男の俺ではなく、同性のボーデヴィッヒに言われたことで無理に言い返すことも出来なくなっている。
「反論はあるか?」
「・・・・・・・・・」
ボーデヴィッヒが容赦なく詰めると女は水着を掴むと、その場を足早に立ち去っていってしまった。
「ふぅ、助かったよボーデヴィッヒ。あれで警備員呼ばれてたら俺が完全に悪者だったぜ」
「気にするな、友人を助けるのは当たり前のことなのだろう?ならば礼を言われる覚えはない」
「・・・友人?」
あまりにも自然に言ってのけたボーデヴィッヒだがその言葉自体がボーデヴィッヒには不自然だった。
かなり失礼な考えだが、あのボーデヴィッヒがこんな丸い考え方をするなんて思わないからしょうがないだろう。
俺がぽかんと、口をあけたまま固まっているのでボーデヴィッヒは少し渋い表情を作った。
「日本では『昨日の敵は今日の友』という言葉があると聞いたのだがな。違っていたか、すまない、忘れろ」
渋い表情を作った理由がこちらを訝しんだ訳ではなくて、自分の言葉におかしな点があったと勘違いしていたことにあるらしく、ボーデヴィッヒはばつの悪そうな表情で視線をそらす。
なんというか少し前の篠ノ之さんを髣髴(ほうふつ)とさせる不器用さだ。
「いやいや、そういう意味じゃないんだよ。なんつうかボーデヴィッヒは変わったなぁって思ってさ、勿論いい方向にだぜ」
「そうか、自分では変わったとは思わないが・・・そういってもらえると嬉しいな」
俺の言葉にわずかに口角を上げて、ボーデヴィッヒは笑みを作った。
ほんの少し前までこんな風に笑えるなんて俺は思ってもみなかったけど、今はこうして俺の前で笑っていて、ボーデヴィッヒを変えたであろう友人の顔が頭をよぎる。
「なんつうかシャルルもお前も、ずいぶん変わったよな。来た当初はどうなることかと思ってたけど、今はお前らが来て良かったと思うぜ」
「シャルルも・・・・・・なぁ五反田、シャルルは、シャルルが―――」
だが俺がシャルルの名前を出すとボーデヴィッヒの顔がいつもの無表情に戻る。
何かまずいことを言ったわけでもないし、明らかにシャルルの名前に反応していた。
目の前で何かを言いよどむボーデヴィッヒの表情は暗く映り、俺はどうしたのかと問おうとしたのだが―――
「弾さん、お待たせして申し訳ありません。あら、ラウラさんもいらっしゃったのですか?奇遇ですわね、お買い物ですか?」
タイミングわっるいなオイ!いや俺が呼んだんですけどね。
なにもこんなタイミングで来なくてもという時に現れたのはもちろんセシリア、ボーデヴィッヒが言おうとした言葉は彼女の登場によりかき消された。
「ああ、シャ・・・嫁と一緒に来ている。お前は五反田とデートか?」
「んなぁっ!?そそそ、そんなではありませんわ!わたくしと弾さんは臨海学校で必要なものを買いに―――」
「ならば私は外そう、邪魔をしてはいけないからな」
「あっ、おいボーデヴィッヒ!さっき何を言いかけてたんだよ!」
さらにボーデヴィッヒはさっきまでの話を蒸し返されたくないようで、言葉少なくその場を後にしてしまった。
俺は後ろから呼びかけたがボーデヴィッヒは振り返らず、どうやったらそんなに速く歩けるのかというほどのスピードで広い水着売り場の中に消えていった。
たぶん追いかけたら追いつけたと思うが、こちらには俺がいきなり大きな声をだして驚いたのか、目を丸くしているセシリアが隣にいる。
彼女を置いてまでボーデヴィッヒを追うのには、少し理由が足りなかった。
ボーデヴィッヒのかすかな違和感。俺の心の中に、小さなひっかかりが生まれていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
気づけば私は女性水着の並んでいるエリアの端の方まで歩いてきてしまっていた。
五反田は不審に思っただろうか、いきなりあの場を逃げるように去ってしまったから。
どうして私はあの時逃げてしまったのだろう?
あのまま二人に私の心の中にある悩みを打ち明けてしまえばよかったのではないか?
いや、そもそもこれは悩みといえるのか?もっと曖昧で、捉えどころのない―――
「分からないな、どうしてこんな気持ちになってしまうのだ・・・どうしてシャルルはあんな・・・・・・・」
盗み聞くつもりはなかった、けれど偶然聞こえてしまった。
五反田とシャルルの話を、シャルルの言葉を。
『まだ分からないんだ。僕自身ラウラのために何かしてあげたいとは思ってるけど、その思いの源がラウラへの好意なのか、別の感情なのか。・・・・・・ラウラの気持ちも、そうさ。僕にはまだわからない』
「なぜだ、なんであんなことを・・・私はお前のことが、シャルルのことが・・・」
好きなんだ、大好きなんだ、愛してるんだ。
そんな言葉は私の口からは出てこなかった、どうしても口に出来なかった。
なんで?どうして?そんなことばかりが頭の中を回る。
私は本当に、どうしてしまったのだ。
今日はここまで
さすがに今回は少なすぎたのでまた少量ですが週末までに投下したいです。
その次は来週の月曜あたりを予定しています。
それではこれにて
乙
┌─────┐
│い ち お つ.│
└∩───∩┘
ヽ(`・ω・´)ノ
世辞抜きで原作よりいいな。
乙
無理しないで頑張ってくれ
乙
しえん
明日には続きくるかな
またお気に入りの放置スレフォルダが増えそうだ
アナウンスです
リアルの都合で大分作業が滞っております。
ちょっと今のところ目処が立たないのですが放置する気はありません。
時間がかかろうとも絶対に完結させます。
キャラたちを一人もいちゃいちゃさせてないのに終わらせるわけにはいかないのです。
それではこれにて
読ませてもらう方としては生存報告さえあれば、りある優先でいいさ
ファイトです
しえん
久しぶりのアナウンス兼生存報告
少し病気療養してまして、その間に色々練ってきました。
これからは不定期にリハビリしながら(文章的な意味で)投下していきます。
なので予告はあまり出来なくなりますが近いうちに再開をすることにしましたのでアナウンスを。
病気療養といってもあまりたいしたことはないので心配は無用ですのことよ。
それではこれにて
お大事にね
楽しみに待ってます
乙
しっかり直してください
期待して待ってるから
それでは久しぶりの投下をはじめたいと思います。
今日はショッピングモール編の終了まで、次からは臨海学校に入りますよ。
それではいきます
「なぁ鈴、林間学校に私服はいらないだろう・・・」
「なに言ってるのよ、あんたバカでしょ。そんなんだからあんたは一夏なのよ」
「意味が分からん・・・」
弾とセシリアを追っていたはずの俺と鈴は、面子に箒を加えてなぜか女性用の服が並ぶエリアに訪れていた。
最初の目的からも、その後に控えていた臨海学校の準備という目的からも完璧に外れている。
「なぁ一夏、お前たちは何のためにここに来ていたんだ?私はてっきり臨海学校の準備かなにかかと・・・・・・もしくはデ、デートでもしているのかと・・・」
「え?最後のほう聞き取れなかったんだけど。ま、前者の方であってるけどな。臨海学校で必要なものの買出し・・・のはずだったんだけど」
「ねぇねぇ一夏!この服とかどう、似合ってる?似合ってる?」
「まぁこのざまだよ」
俺と箒の会話をまったく意に介しないように(というか聞いてない)、鈴は服を体にあててこちらに向かって問いかける。
どうしてこうなったかほんの少し前の自分たちの行動を思い返す。
たしか弾とセシリアを見失った俺と鈴が箒と偶然出会った。
そして鈴は箒に説明することもないまま、『あっちに行ったんじゃないかしら』などと言って俺たちをひっぱりいつの間にか今いるあたりに。
正直このまま引っ張りまわされ、最後には高価なものを奢らされてしまうんじゃないかと疑ってしまうほど強引な手口だった。
隣の箒なんてめったに浮かべない苦笑いを顔に浮かべている。かと言ってここで鈴に逆らうとまた厄介なことになりそうだと俺の経験が告げているから厄介極まりない。
誰か助けてくれないだろうか。
「ちょっと一夏聞いてるの?おーい、一夏?」
「ああ、悪い悪い。でも服のことなんて俺全然分からないぞ、どうせだったら同性の箒のほうが―――」
「ふん!」
「せいっ!」
「いってええっ!!なんで二人して脛を蹴るんだよ!俺が何したって言うんだよ!」
どちらかといえばファインプレーだったと思うぞ、俺よりも箒のほうがいい感想を出してくれるだろうという俺の気配りだったのに。
「お前は本当に乙女心というものに疎いやつだな」
「ほんとほんと、箒の言うとおりだわ」
「ええーー・・・」
乙女心って難しい。
「あれ、鈴さん・・・それに一夏さんまで。こんなところで会うなんて奇遇ですね」
と、俺が乙女心の難解さと脛の痛みに悩まされているところに知った声が後ろから掛けられた。
その声は女性のものであるのに、妙に自分の親友であるあの男を連想させる声色で、つまりはまぁ―――
「蘭、蘭こそこんなところで会うなんて奇遇だな」
五反田弾の妹、五反田蘭だった。
心なしか『奇遇』という響きが箒の時よりも自然に聞こえたのは俺の気のせいだろう。
「お久しぶりですね、鈴さんなんていつ以来でしたっけ?」
「鈴が向こうに行ったのが中学三年のころだから一年位か?確か向こうに行く直前に弾の家で遊んでたときに蘭もいただろ?」
「あ、あぁそうね。たぶんそれくらいじゃないかしら・・・・・・で、蘭はどうしてこんなところにいるのかしら?ちなみに私たちはIS学園の臨海学校の準備で買い物に来てるんだけどね」
なんというか鈴の言葉は歯切れが悪い。
まぁそれも仕方のないことなのかもしれない、なにせ鈴と蘭はどうも馬が合わないらしく中学の頃から顔をあわせるたびにギクシャクとした空気をかもし出していたものだ。
一体どうして二人がこうも仲がよくできないか、理由がさっぱり皆目検討がつかない。
同じ年代の、しかも同性の蘭よりも、俺や弾とのほうが仲が良かったくらいだ。俺からしたら二人にも仲良くしてほしいものなんだが・・・困ったもんだよ。
「一夏、あんた今すんごい失礼なこと考えてない?」
「あ、私もそれ感じました。一夏さんの顔がそんな風に見えたんですけど」
「む、失敬な。今は結構真面目に人のことを考えてただけだぞ」
そのくせ二人して俺を糾弾するときはかなり息が合っていたんだよな。今の二人の視線で思い出した。
「あっ、そういえばセシリアさんは一緒じゃないんですか?あとお兄も」
蘭、そこは兄貴のほうを先に言ってやれよ。・・・あれ?
「蘭ってセシリアの事知ってるのか?」
「ええ、この前お兄と一緒に家にこられた時に親しくなって」
「そうだったのか。でも残念だな、二人ともこのショッピングモールにいると思うんだけど、どこにいるかまではわからないんだ」
「そうですか・・・・・・」
セシリアがここにはいないとわかって、気を落としたように表情のかげる蘭。
けれど一度会っただけで案外仲良くなったんだなあ、と蘭の気の落ちようから蘭がセシリアに対してどれだけ親しみを持っているか窺える。
「あ、でもそれじゃ一夏さんたちとご一緒してもいいですか?久しぶりにお会いした―――」
「ちょっと待った」
蘭の言葉を突然、鈴が遮る。
「なんですか鈴さん?」
「あのね蘭、あたし達『IS学園の』臨海学校の準備のために買い物に来てるのよ」
やけに『IS学園の』を強調した鈴の言葉。やけにひっかかる言い方だが、何を言いたいんだ鈴は。
「それがなんです?」
蘭もまったく同じ意見のようだ。
「ほら!蘭はIS学園の生徒じゃないんだからさ、準備とかに付き合っててもつまらないと思うし!」
いや、さっきからどう考えても臨海学校とは関係ないものを見ていた気がするんだけど。
「いや、さっきから鈴さん普通の服見てたじゃないですか。それって臨海学校の準備なんですか?」
「っぐぅ!!」
蘭も全く同じ意見のようだ。
「鈴、何がいやなのか分からないけどさ、蘭も一緒でいいじゃねえか。どうせなら人数多いほうが買い物とかも楽しいだろうし」
「ほら、一夏さんもこう言ってますし。あっ、それに一緒にいる友人の方、ですよね?あなたもいいですよね?」
「私か?私は一向に構わんが―――」
「ちょっとターイムッ!!蘭こっち来なさい!話があるわ!」
「えっ!ちょっとっ!鈴さん、放し―――」
「あんたら二人はそこで待ってなさいよ!すぐに戻ってくるからね!!」
「ちょっとおおぉぉぉぉぉぉ!!」ハナシテエェェ
蘭の叫びがドップラー効果を起こすほどの速さで鈴が蘭を連れて消えてしまった。
そうなると残された俺と箒はどうすればいいのか、鈴はここにいるようにと言っていたが。
「どうしよう、鈴が戻ってくるまでどれくらいかかるかわからないし。何もしないで手持ち無沙汰になるのも嫌だよな、箒」
「そうだが。さっきのは誰だ?二人の知り合い、いや四人の知り合いか?」
「そうだよ、セシリアと知り合いなのは知らなかったけど。弾の妹の蘭だよ、そういえば箒を紹介するの忘れてたな、懐かしすぎてついつい話がはずんじまった」
「まぁいいじゃないか。鈴が戻ってきた時に改めて紹介してくれればいいだろう」
「じゃあ当面の問題はこれから何するかってことだな」
「? 別にここで待っていればいいだろう。鈴もすぐに戻ると言っていたではないか」
「あのなぁ・・・周りを見てみろよ」
「変なことを言う奴だな・・・・・・・別にただの服飾売り場だが」
ほ、本気で言っているのか、箒のやつ。今俺達の周りでは遠巻きではあるが視線に囲まれてる。
さっき鈴がとっぴな行動をしたせいか俺たちまで注目を集めているのだ。
(それに気づかないとは・・・意外と箒って鈍感?)
「一夏、今お前に一番言われたくないことを言われたような感覚に陥ったのだが気のせいか?」
「・・・ははは、何を言っているんだ。そんなの気のせいに決まってるだろう」
「そうか」
(あっぶねえええええ。今ので変なこと言ってたら確実に竹刀が飛んでたな。なんとか回避できたみたいだ)
というか何で俺が箒のこと鈍感かな?って思ったらひどい目にあわなくちゃいけないんだ。
俺が鈍感って言いたいのか?いやいやいや、むしろ箒たちが鋭すぎるだけだ、そうにちがいない。
「で、ここで待つだけなのが不満ならばそうだな・・・・・・服でも見るか?」
「そうだな、むしろそれ以外に選択肢がないか。あんまり離れなかったら鈴もすぐに見つけられるだろうし、このへんで見てみるか?」
「ああ、じゃあ最初はどこの店にする?」
「最初はって俺に聞かれても困るぞ」
「なぜだ?」
やっぱり少し鈍感なのかもしれないな、箒は。
「あのな箒、ここらへんは女物の服しか置いてないんだから、俺に聞かれても困るって。俺に出来るのはせいぜい荷物持ちか異性代表の意見役くらいだ」
「うっ・・・そうだな、すまないうっかりしていた。しかし私もそういう服関係の話題には疎いほうだ、こんなところだと、どこに入ればいいのか。一夏、お前の意見を聞きたい」
「いや、だから俺に聞かれても―――」
「異性代表の意見役ならできるんだろう?さぁ、さっそくその役目を頼もうじゃないか」
しまった、さっきの発言は迂闊だったようだ。見事に揚げ足を取られ、絡めとられてしまった。
けれど幼馴染とはいえ、こういうことで異性に頼られるのは初めてのことだし(たぶん)、やってやろうじゃないか。
それに男が言ったことに二言はない。
「じゃあそうだな・・・・・・あの服を置いてる店なんてどうだ?」
「ん、どこだ・・・あ、あああ、あんな服私に似合うはずないだろう!!ああいうのはもっとセシリアや布仏のような者達が着てこそ似合う服だ!私のようなガタイでは似合うはずがないだろう!」
いきなり顔を真っ赤にして興奮したような口調で声を荒げる箒。
バカ!鈴とかのことがあって目を引いてるっていうのにこれ以上注目を集めるなよ、下手したら誤解されて俺が箒に何かしてる不審者だとか思われたりするかもしれない。
とにかく箒を落ち着かせなければ!
「ちょっと落ち着け!箒、お前ならあの服似合うって、スタイルいいし、身長も見た印象よりもけっこう低いし、なにより可愛いしさ!あの服だって意外と着てみれば―――」
あれ、俺今なに言ってるんだ・・・・・・・・・箒のこと可愛いって、べた褒めしてた。
「のわあああああぁぁっ!!!箒っ!今のなし、今のは聞かなかったことにしてくれぇ!!」
今度は俺が箒に変わって顔を真っ赤にして周りなどには目もくれず声を張り上げていた。
正直今は周りのことよりも目の前にいる箒のことが重要だ、優先順位が上だ。
「えっ?私が・・・一夏が私のことを・・・かわ、いい?」
先ほどよりもさらに顔を赤くした箒が目の前にいた。俺の言った言葉に唖然とした様子で、その内容の一部を反芻していた。
なぜだかその姿を見て俺の胸は鼓動を早めるが理由は定かではない。恐らくこの後にひどいことをされないか心配しているのだろう。
いや、違うだろう、なんかいつもと違うぞこれは。
心の奥で誰かがそういった気がしたが、それはスルーしておいた。
「え、えっと・・・箒が、いやなら違う店にでもするか。あっちの方のはどうだ?あっちなら―――」
「いや、あの店に行こう」
「え?」
「い、一夏の意見を尊重しよう。あの店の服が似合うと一夏が思ったのなら、あの店でいい」
「あ・・・うん」
箒はこちらに向けていた体を俺が最初に指差した店の方に向けて歩き出した。
それに追いつくために俺も後を追うがその時にふと箒の首元に視線がいった。箒の首元は見間違いかもしれないけどほのかに赤く染まっていた。
その姿に一瞬足が止まりそうになったが、俺は首をぶんぶんと振って視線を外し箒を追った。
さっきから俺はどうかしてるぞ。
「い、い、一夏どうだ、この服は似合うだろうか?」
いつの間にか箒が一着のワンピースを手に取り、体に当ててこちらを向いていた。
淡いグリーンのシンプルなデザインで、胸元にわずかにフリルがあしらわれたそのワンピースは箒にとても似合ってるように見えた。
「似合ってるんじゃないか、な。うん、似合ってるよ」
なぜか言葉が途中でつっかかってしまったので言い直した。
「そうか・・・そうか・・・・・・」
「うん・・・・・・」
「「・・・・・・・・・」」
そしてどうしてかはわからないが黙りこんでしまう俺と箒。
気まずい沈黙ではない、と思う。
箒が俺の言葉に、いつものように憤慨して怒ってくる前のあの静けさとは違う、なにかこう、気恥ずかしくなるような類の静けさだ。
「今日はどういったものをお探しですか?」
その沈黙を破ったのは俺でも箒でもなく、店の店員さんだった。
渡りに船、といった具合に丁度いいタイミングで話に入ってきてくれた。
「ああ、特にこれをってものはないんですけど。彼女に似合うものを探してる感じですかね」
「ふむ、彼女に似合いそうなものですか。・・・彼氏さんはどういった系統のが好みなんですか?かわいいとか綺麗めとか」
「そういう意味の彼女ではないですって。箒とはただの幼馴染で―――」
「またまたぁ、どうせそんなこと言ってても実は付き合ってるんでしょ?でしょ?お姉さんにはわかっちゃいますよ、お客さんリア充くさいですもん」
この店員話を聞かない上に若干腹が立つ。
ほのかな怒りは隠したまま俺は弁解を続ける。
「いや、ほんとに違うんですよ。ほら、箒も何か言ってやってくれ」
「わわわ私と一夏がつつっつちゅき合ってるるるる」
駄目だ、使い物にならなくなってる。箒はこういう話題は苦手なのかもしれないな、こんなに取り乱すなんて。
「もう、そんな否定しなくていいじゃないですか。もう私チョイスで選んじゃいますからね、ちょっと彼女さんお借りしますね。あ、あと彼氏さんはその間になにかプレゼントの一つでも買っておくこと、いいですね」
強引で人の話聞かなくて最後のほうは俺にしか聞こえないくらいの小声で商品の購入を強要したひどい店員は、放心状態の箒を連れて試着室のあるほうに先ほどの鈴と同じくらいのスピードで去っていった。
そして残された俺なのだが。
「女物の服屋で野郎一人って・・・なんか気まずい」
しかしさっきあの店員が言っていた言葉に、一つ心当たりがあった。
(確か箒の誕生日ってもうすぐだったよな)
箒の誕生日は七月七日、臨海学校の最中のはずだ。
「何かプレゼントを一つ、ね」
ほんの少しの気まぐれ、店員に言われた一言でその場に留まり、あたりを見回した。
そしてふと視界に入った『それ』に目がとまった。
あまり高価ではなくて、それでいて日常で使えて、何より箒によく似合いそうだと思った『それ』を俺は迷うことなく手に取った。
「リボンか。これ、いいかもしれないな」
何気なく選んだ店でひどい店員にあたったものだが、そのおかげで箒にいいものをプレゼントできそうだ。
俺はリボンを手に取ったままレジのほうに進んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「お客様~、お待たせしました彼女さんのドレスアップ、完了いたしましたよ~」
「いやだから・・・もういいや、反論するだけ無駄な気がする」
もうこの店員には何も期待などするまい。
それにしても―――
「肝心の箒が見当たらないんだけど」
「え?彼女さんならここに・・・あっ、駄目ですよそんなところに隠れてちゃ。せっかく可愛い彼女さんがさらに可愛くなられたんですから、彼氏さんに見せないと損ですってば、絶対」
どうやら箒はすぐそばのマネキンの並ぶ場所に隠れているようだ。店員が声をかけた方にあるマネキンの影から箒のポニーテールの先が見え隠れしている。
「やっぱり私にはこれは似合わないっ!頼む後生だ、勘弁してくれ!一夏に見せるのだけはやめてくれっ!」
「何言ってるんですか!絶対かわいいですって!恥ずかしがる理由なんてこれっぽっちもないですよ!!」
店員と箒の間でなにやら口論が繰り広げられている、というか店員のほうは箒の腕を掴んでこちらに引っ張り出そうとさえしている。
さすがに箒も店員を投げ飛ばすわけにもいかないので、単純なひっぱり合いの勝負に持ち込まれている。
そしてその勝負の結果は、箒の根負けといった形で終わった。あの強引な店員の執拗な説得に箒も折れたらしい。
「わ、わかった!私も覚悟を決める、だからもう引っ張るのはやめてくれ!」
「もう、最初からそうやって素直に従ってくれればよかったのに」
しかしこの店員、接客業として大丈夫なのだろうか?
しぶしぶ、といった形でマネキン達の影から現れた箒。顔を真っ赤に染めて下を向いて視線をそらしている。
だが一番注目すべきなのはそこではない。箒の今の服装だ。
店の雰囲気的に可愛い系の服装で来ると思っていた。この店に置いてある物は最初に箒がいっていた通り、可愛い系のものが主体でおいてある店だったからだ。
だが最初の印象は箒自身の持つ鋭いイメージだった。それはやはり真っ白なシャツに短めの黒いネクタイ、その上に羽織ったジーンズ素材のベストがその雰囲気を演出しているのだろう。
しかし箒の下半身を覆う黒い柔らかな質感のスカートと真っ白のニーソックスがその鋭さの角を削っていた。
スカートとニーソックスにはあまり目立ち過ぎない程度に、かと言って目に入らないわけではない絶妙な存在感でフリルがあしらわれていて生地とあわせて柔らかな印象をこちらに与えていた。
正直に言えば可愛い、その一言に尽きた。なぜ箒があんなにも出渋っていたのか意味が分からない。
「どうですか?やっぱり可愛いですよね?ね?」
俺が今まで見たこともないほどのドヤ顔で、店員がこちらを覗き込むように問うてくる。
はっきり言って強引だし、接客業としてどうかと思うし、ドヤ顔はウザイけど―――
「すごい可愛いですよ、何より箒にすごい似合ってるし」
「にしししし、そうでしょ?でしょ?」
にーっと口を横に広げて笑みを作る店員。
悔しいけど本当に箒に似合ってて、なおかつ可愛く仕上がってる。この店員の手腕は認めざるを得ない。
「ほら、彼氏さんも可愛いって言ってくれたじゃないですか。見せて間違いじゃなかったでしょ?でしょ?」
「うう・・・あぁ、そ、そうだな」
「それに彼氏さん、あの反応は素でしたよ完璧に。もう本音で彼女さんのこと可愛いって褒めてたんですよ」
「っっ!!!あ、あぅう」
店員が箒の耳元でなにやら囁くと箒はその顔をさらに赤く染め、頬に手を当てて肩を縮めた。まるで恥ずかしさを体全体で表現するみたいに。
「ちょっとあんた今箒に何いったんだよ!なんか変なことでも―――」
「いや違うんだ一夏。違うから、大丈夫だから、気にするな。ところでだが・・・ほ、本当に似合っているか?この服装はかわ、か、可愛いか?」
あの箒がこんな風になるなんて何を言われたのかと、心配になって声を荒げたがその声は箒本人に遮られた。
しかもその箒が心配ない、と言っているんだから心配することはないんだろう。
「そ、そうか?まぁ箒がそう言うなら・・・で服のことだよな、あぁ似合ってるぞ。なんていうかすっげー可愛い」
「ふふ、そうか・・・そうか・・・」
箒はかみ締めるように何度も『そうか』と呟いていた。箒のやつ、そんなに、そんなに
「そんなにいい服が見つかったのが嬉しいんだな。なんだよ、服のこととか疎いとか言いながら実は興味しんし―――」
「「え?」」
俺の言葉になぜか箒と店員の二人が驚いたように声を上げた。
なんだ?俺なにか変なこと言ったか?
「あっはははは、やだなぁ彼氏さんったらジョークがうまいんだから」
「え?俺別にジョークなんて言ってませんよ」
「・・・・・・・・・ねぇ彼女さん、この人マジで言ってるの?」
「はい、恐らく本気でそう思っているみたいです」
? 何を二人で話し合っているんだ?なぜかさきほどまで笑顔だった店員は神妙な顔つきになり、箒も顔の赤みがとれていつもの顔に戻っている。というか二人とも神妙な顔つきになってる。
こそこそと俺の方までは聞こえないくらいのボリュームでしばらく話し合っていたと思ったらほどなく二人の話し合いは終わったららしく、店員さんが今度は俺の方にやってきて箒のほうには聞かれない様にかボリュームを絞った声で話しかけてきた。
「君さ、ないわぁ~」
「へ?」
「あの子ってマジで彼女とかじゃないの?」
「え・・・はい、ただの幼馴染です」
質問の意図が読めない。いや、箒のことで少し誤りがあるな、箒は幼馴染で今は同級生だった。
そのことを訂正しようとして口を開きかけると向こうの方がわずかに早く口を開いた。
「君って女の子にもてないでしょ?でしょ?」
「えっと・・・そうですね、そういう話には本当に縁がないですね」
自分のこれまでを振り返り質問に答えを出す。これまでの人生の中で、そんな浮いた話は一つとしてなかったはずだ。
むしろ弾と一緒に抜け駆けした友人達を制裁してた立場だ。時々冤罪で俺も制裁されてたけど。
俺が出した返事が不服なのか店員さんはさっきまでの雰囲気とはかけ離れて難しい表情だ。
やがてそんな店員さんが再び口を開いた。一切ふざけた感じのしない、真剣な声で言葉をつむぎだす。
「目の前にある幸せに気づかず不幸だって嘆いてる奴ほどいらつくものはないね」
「え?」
「君はあの女の子のこと、大切に思ってる?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。いきなりなにを―――」
「いいから答えなさい」
俺の言葉を割って出されたその声には、どこか千冬姉の出すような有無を言わさない迫力を含んでいるような錯覚に陥った。
店員さんの目も、鋭く、的確に俺の目を射抜いていた。
「大切、ですよ。もちろん。幼馴染だし、友達だし」
「あの子、間違いなく君のこと好きだよ」
「はぁっ!?」
「別に信じなくてもいいよ、ていうか君は信じないでしょうね。ただ、このままはっきりしないままだといつかあの子はどこか遠くに行っちゃうよ」
「なんですかそれ・・・いきなり訳わかんないですよ」
突然、異世界に迷い込んでしまったような感覚を覚える。
ここは服屋で、目の前にいるのはここの店員さん。年なんて十も離れていないはずなのに、なのにまるで何十、何百と年を重ねた人間離れした何かのように見える。
千冬姉や束さんと話しているときにも、同じような感覚に陥った時が何度かあったがその時と一緒だ。
懐かしさと違和感が俺の身に襲い掛かる、そしてそれに伴う戸惑いなどお構いなしに目の前の人物は喋る。
「君は男の子でしょ、だったら決めなきゃいけない時が来る。男の子の役目なんて決断が八割、あとはおまけみたいなものよ」
「決めるって・・・そんなのいつ、っていうか箒が俺のこと好きだなんて―――」
「はぁ~い!このお話終了!!彼女さん、悪いね彼氏さん借りちゃって、ただ少し彼にお話したいことがあってね、けど別に誘惑したわけじゃないからね!」
「ちょ、ちょっと話はまだ―――」
「んじゃ私はお役ゴメンでおさらば!レジはあっちだから彼氏さん会計よろしく!」
目の前の人はいきなりただの店員に戻ると話をその接客と同じように強引に畳んで店の奥のほうにさっそうと消えた。
天災のように現れて、天才のようなコーディネートを見せて、また天災に戻って去っていってしまった。
箒の服がいつもの制服だったなら、ちょっと濃い目の白昼夢だと思い込めたかもしれないが、隣で俺と同じように唖然としている箒の服装はあの店員の選んだ服のままだ。
「一夏、さっきは何を話していたんだ?」
「・・・それが俺にも何がなんだか」
「?」
「とりあえずその服の会計を済ませようぜ」
「あっ、わかった、そうしよう」
箒もいきなり色々なこと(主にあの店員関連)が起こって少し混乱していたのか、自分が未清算の服を着ていることに思い至っていなかったようで、慌てたように試着室の方へ向かっていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
箒の服の会計を済ませて、俺達二人は鈴と蘭と別れた場所まで戻ってきていた。
店を出てふと時間を確認すると、思ったよりも時間が経過していたことに気づいて慌てて戻ってきたのだ。
しかし当の鈴も蘭も見当たらない。まだ二人でいるのかとも思ったがさすがに遅すぎるので心配になって今箒が携帯に連絡をいれているところである。
「ん、わかった。それではそう一夏に伝えておく。あぁ、心配するな、何もなかった。・・・はははそうだな、一夏だからな・・・うん、ではな」
「鈴、なんだって?」
「あぁ、もうすぐそちらに向かうから、と言っていた。しかし妙に歯切れが悪く詳しい状況はこちらに来てから説明すると言っていたぞ」
「そうか・・・・・・で、電話の最後のほうで俺のだからなんだとか言ってなかったか?」
「それは気にしないほうがしあわ―――おぉ噂をすれば、だな。鈴達がやってきたぞ」
「おい、箒、誤魔化すなよ。なんで笑った後に『一夏だからな』なんだよ!すっげー気になるんだけど!」
「む、なにやら鈴たちの後ろに見知った顔が見える気がするんだが」
「ちょっと話聞いてくれよ!」
結局俺の疑問は解消されず、鈴たちと合流するはめになった。どういう話題で俺の名前が使われてたんだ・・・気になる。
「よぅ、一夏。篠ノ之さんも」
「お二人とも会うなんて奇遇ですわね。鈴さんだけでなく蘭さんと会えただけでも驚いていましたのに」
そしてその鈴の後ろにいる見知った顔というのはセシリアと弾のことだったようだ。
「本当ですよねぇ。まさかセシリアさんが通りがかるなんて」
「ねぇ蘭さん、俺は?俺にはなんにもコメント無しですか?」
当たり前のようにスルーされる弾。
いつもなら何も思わないけど今だけは同情するぞ弾、俺もスルーされる痛みが分かるからな。今だけは。
「というわけで、弾とセシリアもあたしたちと一緒に周ることになったわ、蘭もこの際だからもう一緒に連れて行くことになったわ」
「よろしくお願いしますね、一夏さん」
「ああ、と言ってもただショッピングモールの中をうろつくぐらいだけど」
「そういえば蘭さんに箒さんのことは紹介したんですの?いきさつを聞くとそんな間もなく蘭さんは鈴さんに拉致監禁されたと聞きましたが」
「人聞き悪いこと言わないでよね、監禁なんてしてないっての」
拉致をした自覚はあるんですね。
「じゃあどうせだし、どっかで休憩しながらでいいんじゃね?そろそろ昼飯の時間だろ?」
「あ、お兄いたんだ」
「ずっといた!」
なんかすんごい不憫になってきたんだが・・・蘭も少しは兄貴を認めてあげてくれ、存在的な意味で。
「でも悪くない提案かもしれないですね。幸いここショッピングモールですからレストランからファーストフードのお店まで幅広くありますし」
「ら、蘭~」
「べ、別にお兄がしょげてるから賛成したわけじゃないんだから。ただ純粋に意見として見たら、良いと思っただけで」
「ぷくく、ツンデレ乙」
「うふふ、微笑ましいですわね」
「五反田もいい妹を持ったものだな」
「なっ!?なんですかみなさん!その生暖かい目は!私ほんとうにお兄なんてどうでもよくて!」
なんだ、蘭のやつも別に弾のに厳しく当たってると思っていたけど、そんなこともなかったんだな。
久しぶりに会ってから、弾の扱いがひどいままだったから兄妹仲悪くなってたのかと心配していたけど全然そんなことはなかったんだな。
「本当、弾と蘭って仲がいいよな。羨ましいくらいに」
「ちょっと、一夏さんまでそんなこと言って~」
蘭は少し頬に赤みが差していて、否定の言葉が恥ずかしがってる気持ちからくる照れ隠しなのだと推測がつく。
なんというか微笑ましい限りである。
「おおおお、蘭、今俺は猛烈に感動してるぞ。年に一度あればいいほうの蘭のデレが見れるなんて・・・さぁお兄ちゃんの胸に飛び込んできなさい!」
「お兄・・・お兄!」
感極まったのか、久しぶりに優しくされて調子に乗ったのかは定かではないが弾は大仰なセリフとともに両手を大きく広げた。
ここで蘭にまた手厳しい突っ込みでも入れられて、いつもの調子に戻るんだろうと予想していた俺の考えと現実は大きく違って、何を思ったか蘭は三流ホームドラマのように弾の元に駆け寄ったのだ。
しかし俺の予想が外れたのはそこまでで―――
「調子にのんな!!」
「ぐっへぁ!!」
駆け寄った勢いを利用した蘭の見事なドロップキックが弾に決まった。
蘭の奴、見ない間にノリツッコミを覚えていたようだ。
本日の投下終了
およそ一ヶ月ぶりということもあって量はそれなりに確保できました、なんというか多いですね。
そして妙にキャラの濃いモブキャラが出てきたり、意味深なこと言ったりしてますが、
それはまぁ伏線だということで一つ穏便に。なんの伏線かは明言しませんが。
それにしても一夏君のキャラ崩れ甚だしいですね、原作の彼なら赤面など一切しないような場面でも赤面してます。
そこはスレの初めでキャラ崩壊注意と言っていたのでそこに含まれるということに。
最後に一ヶ月も間が空いてしまったのに待っていてくれると言ってくれた皆さんに多大な感謝を。
そういってもらえるおかげで私も筆を進めることが出来ます。ありがとうございます。
それではこれにて
乙です
本当に待ってたかいがありました
無料はしないでくださいね
思春期してる一夏がイイね
この店員……できる!
乙
それにしても店員…ハードボイルドだぜぇ
乙
久しぶりに更新あってよかった
店員が束ちゃんかと疑うレベル。
急かすつもりじゃないが・・・続きはいつだろう
まだかねー
生存報告。
現在作業達成率50%くらいですので次の土日位に頑張って、月曜日か火曜日あたりに投下しようと思います。
以上生存報告でした。
それではこれにて
報告ありがとう
無理せずね
頑張れ!舞ってるよ!
急かしてすまん…楽しみに待ってるわ
生存報告兼投下予告
現在もう少しで投下分の文章がそろいますので明日の深夜くらいに投下を予定しています。
ちょっと遅れるかもしれないので水曜あたりに確認するのがベターかもです。
それとレスのいくつかに反応を。
店員がハードボイルドとかかれましたが、その通りです。
投下終了のところに書いておこうと思ったのですが仮面ライダーWのおやっさんの台詞から引用しました。書くの忘れてましたwwww
それと急かしてすまん、と言ってくださった方。むしろ急かしてくださったほうがやる気もでますのでむしろ励みになりました、ありがとうございます。
舞ってくれてる皆様のためにも頑張っていいものを届けたいと思います。
それではこれにて
わざわざ乙。 期待してるから頑張れー
_/⌒⌒ヽ_
/ヘ>―<ヘヽ
((/ ̄ ̄ ̄\))
/ ) \
/ | | //ヽ ヘ
| ハ | /イ | |
レ |/ レ| N\|||
/| |≧ ヽ|≦ |||
/ ヽ|゙ ゙|/ /
\_(ヽ  ̄ /⌒)ヽ
/ | T ̄ ̄| ヽ |
/ /ヽノ \_ノ|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
舞ってるよ!
♪ /.i /.i /.i
♪ ∠__ノ ∠__ノ ∠__ノ エーライヤッチャ
〈,(・∀・;)ノ・∀・;)ノ・∀・;)ノ エーライヤッチャ
└i===|┘i===|┘.i===|┘ ヨイヨイヨイヨイ
〈__〈 〈__〈 〈__〈
isはシールドしてるのに一夏は山田先生のちち揉んだって事は
is装備しながらセックルできるのかと5話を見て思ったやつは俺だけじゃないはず
スイマセン投下予告していながら投下できませんでした。
これからすぐ遠方に出かけなければならなくなってしまって、投下は帰ってからということになりました。
恐らく来週の月曜日くらいにはなりそうです。大変申し訳ありませんでした。
それではいってきます。
気をつけて行ってら
待ってるからさ
桶
待ってる
そして来週の月曜日
もう無理かね……
お久しぶりです。
ちょっと予定がずれましたが、投下開始です。
「海ッ!海見えたぁ!」
トンネルを抜けたバスの中でクラスの女子の声が上がる。
臨海学校初日、天候にも恵まれて無事快晴。陽光を反射する海面は穏やかで、心地よさそうな潮風にゆっくりと揺らいでいた。
「おおー、やっと見えてきやがったな。やっぱりテンション上がるよな、海海海!」
「お前はテンション上がりすぎなんだよ。少しは抑えろ抑えろ」
隣では一夏が落ち着いたような台詞を口にしているが―――
「そう言うおりむーも、顔がにやけてるよ~」
前の席からこちらをのぞき込んできた布仏さんに鋭い指摘を受けてしまった。
一日目は終日自由時間、つまり目の前の海で遊び放題なのだ。そんなことをわかっていてテンションが上がらない奴がいるわけがない。
いつものほほんとしている布仏さん(クラスではそんな彼女の名前と雰囲気からのほほんさんと呼んでいる)もいつもと違いそわそわと落ち着かないような素振りを見せている。
「海、そうかこれが海なのか。こんな間近で見るのは初めてだ」
俺達の席から通路を挟んで向こう側のラウラも、海に興味津々のようだ。
けれど海を見たことがないって珍しいな。
「ラウラって海見るの初めてなのか?」
「今まで軍の訓練や任務が全てだったからな、海を見るのはこれが初めてだ」
・・・・・・意外と重い答えが返ってきた。
「ラウラさん、このクッキー食べますか?わたくしの家で使っている紅茶の葉を混ぜ込んである特別製なのですけど」
「ボーデヴィッヒさん!私のポッキーもあげる!」
「ラウラん、わたしのキャンディもあげるよ~」
お、俺のチューイングガムもやろうかな。
なんでもかんでも興味を示して、調べようとちょろちょろ動き回るボーデヴィヒは、その容姿も相まってクラスのマスコットになりつつあるが(のほほんさんに次ぐ)、軍隊生まれの軍隊育ちという複雑な出自を持ってるんだよな。
「なんだお前達はいきなり。それに私は間食はしない主義だ、カロリーの管理が乱れてしまうではないか」
みんなの寄付の声をボーデヴィッヒはそっけなく撥ね退けてしまった。
そしてそんなボーデヴィッヒは自分のかばんの中をなにやらあさり始めている。
「それにな、私は菓子を食べるより優先すべき任務があるのだ」
「任務?」
あれ?IS学園って外からの干渉は受けないから軍隊からの指示とかはできないんじゃなかったか?
などど思っていると、ボーデヴィッヒはかばんの中からお目当てのものを探し当てたようで、それを取り出してレンズカバーを外し、多少ぎこちなさの残るフォームでそれを構えた。
『それ』というのが何かと言うと―――
「なにそれ~。かっこいいカメラ~」
「うむ、新聞部の備品だ。しかし私以外の者は使わないから私のもの、とも言えるかもしれないな」
「え、ボーデヴィッヒって新聞部入ったのか?全然知らなかったぜ」
新聞部といえば、前に一夏のクラス代表決定を祝うパーティーで取材にきていたあの黛先輩の所属している部活じゃないか。
案外あの先輩もこの学園では有名人らしいことはあの後知った。
「知らないのも無理はない、私も入部してそれほど経っていないのだからな。それでもこの臨海学校の取材を任せてもらったからには、半端なことはしないつもりだ」
そう言うとボーデヴィッヒは窓の外の海に向けて、シャッターを切り始めた。
デジタルではないらしく、昔ながらのカシャッ、というシャッター音が何度も聞こえてくる。
「ラウラんかっこい~、本物の記者さんみた~い」
「む、そうか・・・しかし私などまだまだ未熟だ。先輩達なんかはもっとうまいんだぞ」
そういえばあのパーティーの時の黛先輩も、発言の方が目立っていたがカメラを扱う仕草がたしかに自然だったような気が・・・駄目だ、あの人のキャラが強すぎて思い出せない。
「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に着け」
千冬さんの言葉で全員それに従う。ボーデヴィッヒも撮影をやめて、カメラをカバンに収め席に座る。
言葉通りほどなくしてバスは目的地の旅館の前に到着。計四台のバスからIS学園一年生がぞろぞろと出てきて、組ごとに整列していく。
「それではここが今日から三日間お世話になる『花月荘』だ。全員従業員の仕事を増やさないようにな」
「「「「よろしくおねがいしまーす」」」」
千冬さんの言葉の後に全員で挨拶する。この旅館には毎年お世話になっているらしく、着物姿の女将さんが丁寧にお辞儀をした。
「はい、今年の一年生も去年の一年生に負けず劣らず元気があってよろしいですね」
歳は三十代くらいだろうか、うちの母さんと違ってしっかりした大人のような雰囲気を醸し出している。
俺がそんなことを考えていると、不意に女将さんと目が合った。
と思ったがあちらはこっちの方を見ているだけで俺だけを見ているという感じではなかった。
俺の隣の一夏とシャルルの方にも視線をやっている。そしてなにやら納得したような顔になって。
「なるほど、この子達が噂の。やっぱり男の子達がいると違いますね」
どうやら女将さんはISを動かせる一夏とシャルル、それとたぶん俺のことを見ていたんだろう。
確かに女にしか動かせないISの操縦者を育成するIS学園にいるたった三人の男子生徒なのだから知っていたっておかしくないし、興味深そうな目で見られてもおかしくないだろう。
「ええ、まあ違うと言ってもいらない違いばかり持ってくる問題児ですがね。今年はこの三人のせいで浴場分けが難しくなってしまって、申し訳ありません」
「いえいえ、そんな。それに、いい子達そうじゃないですか、男の子って感じがして」
「そう見えるだけですよ。気のせいです」
ひ、ひどい言われようだ・・・言い返せないけど。
「それじゃあみなさん、お部屋のほうにどうぞ。海に行かれる方は別館のほうで着替えられるようになっていますから。そちらをご利用になってくださいな。場所が分からなければ従業員に訊いてくださいまし」
女将さんの一言の後、千冬さんから注意事項をいくつか伝えられて俺達は旅館の割り当てられた部屋へと荷物を持って向かっていった。
今日が一日全部自由時間なのは前から知っていたことだったが、食事のほうは旅館の食堂のほうで各自とるように言われた。
「んじゃ俺達も部屋のほうに行くか。女子の部屋よりも大分離れたところにあるし、さっさと行って、さっさと海行こうぜ」
「ねぇねぇだっだ~ん」
一夏とシャルルに声をかけて、さあ行こうというときに後ろから誰かに呼ばれた。
誰か、と言ってもこんな特徴的な呼び方をするのは一人しかいないけど。
「のほほんさん、あだ名で呼ぶのはいいけどそのあだ名はどうにかならねえの?」
「あっはっは~、それは無理かなぁ。でねでね、だっだん達はどこの部屋に泊まるの?しおりに書いてなかったし~、遊びに行きたいから教えて~」
のほほ~んとあっさりばっさり却下されてしまった。のほほんとしてるのに意外と意見ははっきり言うのね。本音だけに―――
「うまいこと言ったつもりか!!」
「ふぐっ!」
二組なので一組よりも遅れてやってきていた鈴に心の声を読まれたように、ドロップキックを決められて突っ込まれた。
ドロップキックもツッコミも突っ込まれた。
「あんたは一発では懲りないよう、ねっ!」
「いってええ!!」
ドロップキックの衝撃で倒れそうになったところにローキックを打ち込まれ、俺はなすすべなくふくらはぎに地味で鈍い痛みを受けてしまった。
「なんでお前はそうやって人の心を毎度毎度読んでツッコミ入れてくるんだよ!俺がそんなこと考えてなかったらどうする!」
「そのときは犬にかまれたと思って」
「ええええ!!俺が泣き寝入りの方向!?おかしくねえ!?」
「やっぱりりんりんは元気いっぱいだね~」
そこへのほほんさんがいつものマイペースさで、会話に入ってくる。
目の前で級友がドロップキックと腰の入ったいいローを食らったというのに、そのマイペースさは全く崩れない。
少しは心配してほしいものだ。
「ちょっとあんた、そのパンダみたいなあだ名やめてよね」
「え~、似合ってると思うんだけどな~。じゃあ新しく考えて・・・・・・ふぁんふぁん」
「あたしが嫌っていったとこ改善しなさいよ!」
「お~い、弾にしろのほほんさんにしろ、最初に自分達の言っていたことを思い出せよ。話が全く進んでないぞ」
一夏が呆れたような顔でこちらによってきた。後ろにはシャルルもついてきてる、ちなみにシャルルは苦笑いを顔に浮かべていた。
「あ、ああそうだよ、俺のほほんさんに部屋の場所聞かれてたんだった。俺らの部屋はしおりの地図で言うと・・・・・・っとこのへん、結構女子のいるエリアからは離れてるだろ」
「そっか~、あとで遊びに行こうかな~。じゃあ私は先に行くね、ばいば~い」
「おお、じゃあな」
荷物の中から取り出した臨海学校のしおりでのほほんさんに部屋の場所を教えてあげると、のほほんさんは嬉しそうに俺達に手を振って旅館のほうへと駆けていった。
「それで、鈴はなんでここに?布仏さんと同じ用件かな」
シャルルが二組なので遅れてきた鈴にたずねる。
「ん、まぁそれもあるんだけど・・・一夏さ、このあとどうすんの?」
「え?部屋に行くけど」
「それはわかってるわよ、その後よ!そ・の・あ・と!」
鈴は一夏のとんちんかんな答えに顔を真っ赤にして返す。
だがその顔の赤さは怒りとかそういう感情からではなく、もっと好意的な感情からだろう。
「んー、海に行こうと思ってるぞ。こんないい天気で目の前に海があって遊ばないのももったいないしな」
「そ、そう・・・じゃあ、じゃあせっかくだからさ、あたしと・・・あたしとさ―――」
鈴が一夏を誘おうと、必死に言葉をつむぎだそうとするがうまくいかない。
いつもの元気いっぱいの鈴とは思えないほど、声は小さくなっていき、最後のほうはほとんど聞き取れないほどだ。
俺は鈴に助け舟を出したかったが、実行する暇はなかった、それよりも一夏が何かを言うほうが早かったから。
「そうだ、鈴。せっかくだし一緒に泳ごうぜ、それともビーチバレーとかのほうが面白いかな?」
「えっ・・・そうね、じゃあどっちもすればいいじゃない!じ、時間はいっぱいあるんだから!」
一瞬ぽかんとした表情を浮かべた鈴だったが、一夏の言葉を理解して表情が一気に明るくなった。
顔を真っ赤に染めた、けれどいつもの鈴に戻っていた。
「弾、一夏のあれって意識して言ってるのかな?鈴が言いたいことを先回りして言うなんて、鈍感な一夏には考えられないけど」
一夏と鈴には聞こえないくらいの声量でシャルルが後ろから話しかけてきた。
確かにシャルルの言うとおりなんだが―――
「意識してねえよ。けれどなにか察してはいるんじゃねえかな、あいつは鈍い奴だけど時々妙に鋭くなる。それが重要なことなら特に、シャルルも心当たりあるんじゃねえか?」
「む・・・確かに」
「まったく、どうして恋愛以外になるとああも鋭くなれるのか・・・羨ましいよな。俺も少しはああいうとこ分けてほしいもんだ、なあシャルル」
俺も、もっとあんな風になれたらなと何度思ったかは分からない。一夏のように、どっかの漫画の主人公よろしく女の子を華麗に助けて、人から好かれて、みんなの中心になってしまえるような、そんな。
しかし嫉妬と呼べるほど、醜くはないし、憧れと呼べるほど高尚なものではない。単に羨ましいというだけだ。
一夏の近くにいるようになってから、色々考えて行き着いた先はそこだ。一夏のことはいい奴だと思うし、あいつみたいになれたらとも思う。
けど俺は俺なりにやっていこうって思った、一夏みたいな奴もいるけれど俺は俺なんだって。
(ま、これも一夏に影響を受けて辿りついた結論なんだけどな・・・)
「うん、そうだね・・・羨ましい。僕も一夏みたいになれたら、そうなれたらこの気持ちも―――」
「ん、なんだって?最後のほうなんて言ってたんだ?」
何を聞き逃したんだろう、けれど別にシャルルの表情は昔のような暗さはないし―――
「そろそろ俺達も部屋に行こうぜ。弾、シャルル」
「うん、そうだね。そうしようか」
俺が聞き返そうとしたときには、もうそのタイミングは失われた後だったようだ。
「じゃああたし急いで準備するから、あんたも急ぎなさいよ。じゃあね!」
鈴も一夏との話が終わったのか、足早に旅館の中にはいっていく。
それに一夏も、シャルルも続くように旅館の入り口に向けて歩き出していた。
別に今シャルルにさっきの言葉の続きを聞き返しても良かったのだが、そう焦るようなことでもないと判断して、頭に浮かんだ疑問を端っこのほうに追いやる。
「おい、弾早く行こうぜ。もう旅館入ってないの俺達だけだぜ」
「悪い悪い、今行くよ」
そう言って俺は一夏とシャルル、二人の横に並んで旅館へと足を向けた。
予定していた日付よりもちょっと長くなってしまい、いらぬ心配をかけました。
今は確かに更新の頻度が落ちてますが、それでも私は一人でも見ていてくださる方がいる限り、この物語を完結させるつもりですので。
それと今回、篠ノ之さんの出番がのほほんさんに吸収されてしまったがごとく出てきませんでしたね。
あとセシリアも全然出てきませんでした、このSSのメインヒロインなのに・・・
次こそは出します!頑張ります!
それではこれにて
乙
のほほんさん可愛い
乙です。
このスレで弾セシに目覚めた俺としては頑張ってもらいたいね。
乙、夜更かしして良かった
しかし、これだけ言わせてくれ
いちゃいちゃが物足りねーんだよ!!
次も楽しみにしてるからな!!
乙
箒ドンマイ
のほほん
しえん
次はいつぞや
生存報告と投下予告ですよ。
今週の日曜に投下しようと思います。分量はそこそこあるかな程度で。
いちゃいちゃ期待している方には申し訳ないが少しお預けということになりそうです。
それではこれにて
舞ってる
踊ってる
舞ってるよ!
♪ /.i /.i /.i
♪ ∠__ノ ∠__ノ ∠__ノ エーライヤッチャ
〈,(・∀・;)ノ・∀・;)ノ・∀・;)ノ エーライヤッチャ
└i===|┘i===|┘.i===|┘ ヨイヨイヨイヨイ
〈__〈 〈__〈 〈__〈
今日は楽しい日曜日
それでは投下をはじめたいと思います。
なんかすごい皆さん踊ってらっしゃいますね。
私もそんな皆さんを見て小躍りしたいような気分になります。
それではいきます
「へぇ、けっこういい部屋じゃねえか」
部屋の床に荷物を降ろすと、俺は周りを見回しそう呟く。
外側の窓からは海が一望できるし、床は一面畳で、真ん中に置かれた机の上に湯のみや茶筒とも備え付けられているも嬉しい。
「本当はゆっくりしたいところだけど、一夏は鈴と待ち合わせてるしさっさと海行く準備して行くか」
「あ、そのことだけどさ」
「ん?どうしたシャルル?」
「一夏ならもう行っちゃったよ、何でも水着は下に着てきたから大丈夫だって」
「あいつは小学生か!どんだけ楽しみにしてたんだよ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺とシャルルが準備を整えて別館へと足を運ぶ途中、セシリアと合流した。
どうもセシリアは準備に色々手間取っていたようだ、まぁそりゃあ―――
「そんなでっかいパラソルやらマットやら持っていこうとすりゃ、遅くなるのもうなずけるわ」
「これもそれも必要なものなんですもの、女性は強力な紫外線から肌を守らなくてはいけないのですわよ!なのにその言い草はひどいですわ!」
「はいはい」
そう言いながら俺は手を―――と、今は動かせないんだった。
「言い草はひどいけどそんなセシリアの荷物ほとんど持ってあげてるんだから弾は優しいよね」
「うっせ、ニヤニヤしてるんじゃねえよ。お前だってそのほとんどの残りの分持ってやってるくせに」
「あはは、だって僕はフランス出身の紳士ですから」
そうやって笑うシャルルは紳士と言うよりは王子さまと言った感じだった。
畜生、冗談を言う様もイケメンとかずるすぎだろ。その顔面のイケメン成分少し分けやがれ。
「あら、あそこにいるのは一夏さんに箒さんではありませんか?」
「え?」
俺は横のシャルルに向けていた顔を前へと向ける。
別館に繋がる通路の途中で、一夏と篠ノ之さんが何か話している。
こちらとは少し距離が空いてるからか何を話しているかまではわからない。
「おお、ほんとだ。二人してあんなとこで何してるんだか。おーい一夏ー!」
「気づいてないみたいだね。しかも箒は先にいっちゃった」
「とりあえず一夏さんに何をしていたか聞いてみましょうか」
「そうだな」
どのみち一夏のいる場所を通るわけだし、無視できないよな。
俺達はぞろぞろと連れ立って一夏のいるあたりまで向かった。
結構近くまでよってきたのだが一夏のやつは何かに気を取られたようにこちらには気づいてないようだ。
とうとう一夏の後ろまでやってきてしまったわけだが、一夏は渡り廊下のようになっているあたりから庭のほうに降りて何かしている。
一夏の姿勢は、どこか昔見たような懐かしい感じで・・・そう、芋を引っこ抜こうとするそれに似ていた。
しかしここからでは一夏の体が邪魔で何を引き抜こうとしてるのかは分からない。
とりあえず声でも掛けてみるか。
「おーい、一夏ー」
「ぬわぁっ!!?」
そして丁度声をかけた瞬間に、一夏が素っ頓狂な声を上げて後ろに倒れこんできた。
俺がいきなり後ろから話しかけて驚いたのか、引き抜こうとしたものが思いのほか軽かったからなのかは定かではないがとにかく一夏の目はまん丸に見開かれている。
「大丈夫ですの?一夏さん」
「お、セシリアか?いや今このウサミミを―――あ」
倒れていた一夏の目が何かを捉えたように動いた後、急にそれから逸らすように顔ごとよそを向いた。
さっき一夏が向いていた方向を辿っていくと、たどり着いたのが―――セシリアのスカート(中)
「!? い、一夏さんっ!?」
セシリアも一夏の視線の動きに気づいたのか、スカートを慌てて抑える。
「おい一夏」
俺は内側からあふれ出る感情を押さえ込み、極めて平静を装った声色で一夏に話しかける。
「はい、なんでしょうか?」
「今セシリアのスカートの中見た?」
「ちょっと弾さん!?」
横でセシリアが顔を真っ赤に染めて抗議の声を上げるが今は構う余裕がない。
「み、見てないぞ!俺は断じて見ていない!」
「じゃあ聞き方を変えるぞ―――何色だった?」
「レースの付いた白でした」
「よし殺そう」
もはやこの感情をとどめておく必要はない。
俺は般若か阿修羅あたりと間違われそうな人相で拳を固く握った。
「ちょっと待ってよ弾!そんな顔するのはやめて!拳も下ろして!」
「どけシャルル!!そいつ殺せない!!」
「このアホはレース付きであるかないかくらいが分かるまでじっくりとセシリアのパンツを見たんだぞ!生かしておけん!!」
「言葉に出さないでください!改めて言われると余計恥ずかしいですわ!!」
「ちょっと弾!いくらセシリアのパンツ見られたからってそんな取り乱さないでよ!!」
「シャルルさんまで!?」
「お、落ち着けよ弾!!パンツのぞかれたセシリアが怒るなら分かるけどなんでお前が怒るんだよ!!」
「なんですの!これは新手のいじめなのかしら!?」
もう俺達はパンツ!パンツ!と連呼しながら不毛な争いを続けていたのだがその言い争いにも終わりが来る。
俺が一夏をぶん殴るとかそういう終わり方ではなく、もっとグダグダな終わり方である。
俗に言う水を差される。第三者の介入でこの言い争いは幕を落とすことになった。
「だいたいこのバカは昔っから―――」
そう俺が声にだそうとしたその時、ISの模擬戦などで聞き覚えのある大質量の物体が地面に着弾した音で他全ての音がかき消された。
「に―――にんじん?」
誰がそういったのかはわからなかったが確かにそれはにんじんの形をしていた。
しかしリアルな造詣ではなく、小さい女の子が絵に描いたようなデフォルメされたような形をまんま三次元に持ち込んだようになっている。
その場にいる全員が予想外の展開に固まっている中、そのにんじんの真ん中あたりから亀裂が入り、やがてきれいに真っ二つになったその中から笑い声とともに、奇妙奇天烈な服装に身を包んだ人物が現れた。
「あっはっはっ!!ひっかかったね!いっくん!!」
中から現れた女性は目の下にでっかい隈を作っていて、青と白の童話に出てきそうなワンピースを身に纏い、童話に出てきそうもないほどデカイ胸を揺らしながら一夏に話しかけていた。
「やー、前はほら、ミサイルで飛んでたら危うくどこかの偵察機に撃墜されそうになったからね。私は学習する生き物なんだよ。ぶいぶい」
そして一夏がなぜか手に持っていたウサミミをひったくりそのまま頭に装着。変人度がさらに増した。
「お、お久しぶりです。束さん」
「うんうん。おひさだね。本当に久しいねー。ところでいっくん。箒ちゃんはどこかな?さっきまで一緒だったよね?トイレ?」
「えーと・・・・・・」
ウサミミ被った変人さんはマシンガントークで一夏に詰めよる。
一夏も一夏でなにやら返答に困っているようで、何かを言おうか言わないでおくか悩んでいるように見える。
「まぁ、この私が開発した箒ちゃん探知機ですぐに見つかるよ。じゃあねいっくん。また後でね!」
そうして変人さんはその容姿から想像も出来ないほどの速さで別館の方へと走っていってしまった。
ちなみにその手には頭につけていたウサミミが握られていて、変人さんの行く先を示しているっぽかった。
もしかするとあれが『箒ちゃん探知機』なのかもしれない。また変人度が上がった。
「なぁ一夏、あの人っていったいなんなんだ?一夏のこと知ってるみたいだったし、箒ちゃんって篠ノ之さんのことだろ?」
「束さん、箒の姉さんだよ」
「え、ええええ!?あの方があの篠ノ之博士ですか!?現在行方不明で各国が探し続けているっていうあの!?」
「そう、その篠ノ之束さん」
「うわぁ、僕今凄い人の目の前にいたんだ・・・」
シャルルが感嘆の声をあげるが俺はそれよりも、そんな著名な人があんなふざけた格好でおかしなテンションだったことのほうがよっぽど気になるよ。
「さ、束さんもどっか行っちまったし、俺たちも海に行くとするか」
「そだな」
「弾さん、弾さん」
「ん、どうしたセシリア?」
「あの、ですね、海に着いたらその―――」
改めて別館のほうへと歩き出そうとした俺達だったが、セシリアに袖をつままれて呼び止められたので少し足を止めた。
セシリアは何か言いたそうにしているが、その先の言葉が出ないようで俺は先を促すようなことはせずに待つことにした。
「・・・・・・サンオイルを、わたくしにサンオイルを塗ってくださいませんか?」
「は?すまん、ちょっと耳の調子がおかしいみたいだ。もう一回言ってくれないか?」
どうもセシリアがサンオイルを俺に塗ってほしいみたいなことを言ったような気がしたんだが・・・バスでの長旅は意外と疲れが溜まるものなのかな?
「わたくしにサンオイルを塗ってほしいんですの。弾さんに」
「駄目です」
耳の調子じゃなくておかしいのはセシリアだったらしい。ひょっとしてさっきの篠ノ之博士の変人が少し伝染したとか。
「な、なんでですの!別にいいではありませんか。弾さんのけちんぼ!」
「そんなこといっても駄目なもんは駄目に決まってんだろ!大体そういうのは俺じゃなくてもっと他のやつに言えばいいだろう!?」
「! ・・・・・・弾さんは本当にそれで言いとおっしゃるんですね?」
「あぁ、俺じゃなけりゃ誰でもいいよ。というかそんなこと俺に頼むなよ」
何を当たり前のことを言ってるんだか、そんなことは他の女子連中に頼めよ。
男子高校生に向かって女子の背中にサンオイルを塗れ、だなんて誘ってると思われてもおかしかないぞ、ったく。
「一夏さん、後でわたくしにサンオイルを塗ってくれませんか?」
「おいセシリア!」
「ん、それくらいのことなら別にいいぞ」
「一夏!ちょっとお前は黙ってろ!」
「え?」
「一夏、少しは空気読もうよ」
「えぇ~?」
「いいかセシリア!俺は確かに他のやつって言ったが女子の誰かっていう意味だよ!なんでよりにもよって一夏に頼むんだよ!」
「別にかまわないじゃないですか!弾さんには関係ないでしょう!」
「んなっ!?」
確かに俺はセシリアにとってただの友達だ。そんな俺がセシリアの行動に指図する権利はないだろう。
けれど片思い中の女の子がいきなりサンオイルを塗ってくれだなんて言われて『はい塗ります』とか言う奴はすごいナンパな奴か、一夏みたいな唐変木だ。
だからといってセシリアが俺以外の男に体を触らせるなんて考えるだけでも恐ろしい、それだけは絶対に嫌だ。
前にセシリアと実家に行った、その日の帰りの時のことを思い出す。
あの時俺は、セシリアさえよければそれでいいと思った、セシリアが笑顔でいれるなら俺なんてどうでもいいとか思った、けれどやっぱりいやなもんはいやだ!
特に一夏は嫌だ、絶対に嫌だ!あんな女たらしの唐変木にセシリアを任せるなんて出来るわけがあるか!
「では一夏さん、準備をして海に行った後、頼みますわ」
「お、おう。でも弾のほうはいいのか?なんか俺に塗らせるの嫌みたいだけど」
「別にかまいませんわ。さぁ行きましょ―――」
「ちょっと待てよ!!」
「・・・・・・まだ何か?」
セシリアの反応はやや棘がある。こんなセシリアは久しぶりだ。
まるで初めて会ったときのようだ。いや、あの時よりも冷たいかな。
「やっぱり一夏にそんなことさせるなんて許せねえ。もちろんシャルルにもだ」
「弾さんに口出しされるいわれはありませんわ。誰に頼もうと私の勝手では?」
「それもそうだな」
「では―――」
「それでも嫌なモンは嫌なんだよ!!」
「っ!!?」
セシリアの顔に驚愕の色が広がる。
しかしそれでも俺は止まらない。
「俺はお前が他の男に触られるとかそういうのがどうしようもなく嫌なんだ。だからやめてほしい。自分勝手な言い分だけどさ」
「弾、さん・・・・・・」
告白同然の台詞だった。だけどそれくらい嫌だったんだ、セシリアに誰か他の男が触れるのが。
沈黙が場を支配する。俺やセシリア、それに当てられてか一夏やシャルルも黙りこくっている。
しかしその沈黙もそう長くは続かなかった。セシリアが何度か視線を泳がせた後に、ポツリと呟きのように言葉を発したからである。
「そこまで言うのであれば・・・・・・他の誰かに頼んでみますわ。男性陣以外の方に―――では、わたくしは先に別館のほうに行かせていただきますわ」
最後のほうは早口になっていたが、セシリアはどうも俺の頼みを聞き届けてくれたようだ。
そのままセシリアは言葉通り別館のほうへ足早に向かっていき、あっという間に見えなくなってしまった。
しかし残された俺は安堵よりも別の感情のほうが勝っていた。
「うあああぁぁぁ、さっきの言い方はまずかったぁぁぁ」
「あれじゃ告白してるようなものだもんね。ほんとよく弾はあんなこと躊躇なくいえたものだね」
セシリアが見えなくなった瞬間に頭を抱えその場にうずくまる俺に、頭上からシャルルが無情な言葉を投げかける。
ちなみにセシリアの荷物はちゃんと横に置いてからうずくまった。
「うっせーんだよ、しょうがねえだろ。この女たらしの唐変木からセシリアを守るためにはなりふりかまってられなかったんだよ」
「弾もそれなりに唐変木だとは思うんだけどねぇ」
「どういう意味だよ」
「あんなこと『友達』に言われて素直に言うこと聞くのって、どうしてだと思う?」
「・・・・・・さぁな、俺はセシリアじゃねえからわかんねえよ」
「ふぅん。意外だな、弾って案外素直じゃないところもあるんだ。もっと直線的な人なのかと思ってたけど」
「どういう意味だよシャル―――」
「なあ、俺はいつまで黙っておけばいいんだ?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
空気が固まった。
「よし、海行くか。海」
「そうだね、早く行かなくちゃ時間がもったいないもんね」
「え、ちょっとおい!無視とかはやめろよ!」
「うっせえバーカ!もうちょい空気読みやがれ!真面目な空気全部ぶち壊しにしやがって!」
「ええええ!?」
一夏が非難がましい声を上げるが無視して先に進む。
しかし今回の一夏には少し感謝しないといけないかもしれないな。
あのまま放っておかれたら話がどんどん変な方向に向かっていっていただろうし。
けれど、シャルルの言っていた言葉の意味。ただの『友達』にあんな言葉をかけられたセシリアの反応。
(この二つが示す意味はセシリアが俺を・・・・・・でもそんなことあるのか?よりにもよって俺なんかに、あのセシリアが)
いくら考えても答えはでない。しかし考えずにはいられない。
俺は悶々と頭の中で問答を繰り返しながら、別館へと足を進めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
別館の更衣室の中。人よりも遅くたどり着いてしまった私は誰もいない更衣室でもたもたと水着に着替えている。
青を基調としたビキニタイプのものに腰周りをパレオで覆うようになっている。今はそのパレオの端を結んでいるところだ。
きつくもなく、それでいてゆるくもない丁度いい程度に締めた結び目を確認して、私は一人ため息をつく。
(先ほどは本当に驚きましたわ、弾さんがあんなことを言ってくるだなんて)
私に対して、『他の男に触れさせたくない』だなんて。
最初はいつもそっけない態度をとる弾さんに対してのアプローチのつもりだった。
弾さんの妹の蘭さんに今までのことを相談したら、もう少し押しの強いアプローチをしてみたらどうか、といった言葉をいただいたので実践してみたのだけど。
(それにしても弾さん以外と言われて、わたくしも勘違いして『他の殿方』にやってもらうように言われたと思い込んでしまうなんて。でもそのおかげで・・・)
これは弾さんもわたくしに対して好意を抱いてると思ってよいのかしら?
もし明確な好意とまで行かなくても、わたくしのことを意識はしているのは確かですわね。
それは凄く嬉しいことですわ、とても嬉しいことです。けれど―――
「これから弾さんにどんな顔で話しかければいいのかわかりませんわ~~!!」
顔を挟み込むようにしてぶんぶんと頭を振る。髪を振り乱れていたりするがそんなものはお構いなしだ。
自分でも顔を真っ赤にしているのがはっきりと分かる。けれども止められない、気恥ずかしかったり嬉しかったり色んな感情が織り交ざって溢れ出してどうしようもない。
ひとしきり悶えた後、冷静になった私が別の要因で悶えたのはもう少し後のこと―――
今日はここまでです。
今回はセシリアいっぱい出ましたね、というか彼女しか出てない。
箒さんは勿論出ていません、ちょっと視界に入っただけ。
次は出てくるんでしょうか?アニメを見た人ならお分かりでしょう、はい。
次も未定ですが一週間前後でこようとは思います。
それではこれにて
乙!
乙です
海ってイイね
そろそろ戦闘パートだけど、頑張って
最近更新ペースが早くていいね
乙です
乙
セシリアが可愛くて大満足だ
それでは投下します
という書き込みを早く見たい
>>631
絶対に許さない
絶対にだ!!
しえん
続き待ってる
生存報告です。
現在非常に作業が滞り、筆が予想以上に進んで下りませんのでまだ投下できそうにありません。
出来れば今週中に投下したいのですがどうなるか分かりません。
ですが出来うる限り早く投下したいと思います。
それではこれにて
焦らなくていいよ
支援するぞ
生存報告です。
現在進捗具合は50%ほどなのですがこれより数日間、家を空けてしまうので更新が物理的にできません。
なのでもう少し更新が遅れそうです、申し訳ありません。
お正月に実家などで書き溜め出来ればとか思っておりますがいつになることか・・・
三が日が過ぎた頃あたりにはこれるとは思うのですが
それではこれにて
舞ってる
三が日以降でもなんでも期待してるぜ
舞ってるよ!
♪ /.i /.i /.i
♪ ∠__ノ ∠__ノ ∠__ノ エーライヤッチャ
〈,(・∀・;)ノ・∀・;)ノ・∀・;)ノ エーライヤッチャ
└i===|┘i===|┘.i===|┘ ヨイヨイヨイヨイ
〈__〈 〈__〈 〈__〈
踊ってるよ!
∩_∩ 噛むんとフニャン∩_∩ フニャン
./) ・ω・)') ('(・ω・ (ヽ
(( / / )) (( ヽ ) ))
し――J し――J
∩_∩ フニャン ∩_∩ニャニャン
('((ヽ・ω・) (・ω・ /)')
(( ) ヽ )) (( / ( ))
し――J し――J
∩_∩ 噛む~と ∩_∩ やわらか
o(・ω・ )o o( ・ω・)o
(( / ( )) (( ) ヽ ))
し――J し――J
∩_∩ ロッテの ∩_∩ フィッツ
( ・ω・) (・ω・ )
(( / u uヽ )) (( /u u ヽ ))
し――J し――J
∩∩ フィッツ! ∩∩ フィッツ!
(ω- )っ (ω- )っ
) ( ) (
<,――J <,――J
三が日か、長いな
まぁ正月やら何やらは色んな事で拘束されるし、皆想定済みだろ
大人しく待っとくぜ
あけおめ
今年も期待してるから完結するまで頑張ってくれ
箒ちゃんもっと頑張れ
追いついた支援
支援
今追いつきました支援
もう諦めるか・・・
最後にもう一つだけ
しえん
生存報告、重要な報告のためあえて上げさせていただきます。
まず三が日ごろ、と予告していたにもかかわらずこの日まで投稿分を書き上げられなかったことをここに謝罪いたします。
申し訳ありませんでした。
しかし正月から今日に至るまでに様々な人と会い、話す機会がありその中で自分の創作に対する新たな見解も発見出来ました。
そのことも踏まえ、このSSにももう一味加えたいと思い、設定、話の筋道を考えなおすことをしたいと思います。
また皆様を待たせることになってしまいますが、必ず今より良い物を作れるための時間にしたいと思っておりますのでご容赦していただければ幸いです。
いつまで、と聞かれれば一週間で終わるかもしれませんし、一ヶ月かかるかもしれません。
また待たせてしまうことになるかもしれませんが、一人でも待っていてくれる限り帰ってくることを約束します。
P・S
まぁこのSSの完結を待っているのはこの私も含まれるわけですから、帰ってこないことはありえないですがね。
それではこれにて
いくらでも待つ。
>>1の納得のいくものを読みたいからな。
舞ってる
今より良いものになるとか超絶素敵
何年でも待つ
待つのにゃなれてんだよ
じっくり考えてさっさと帰って来いよ
最近見つけたばっかだけどな
こちとらレス数一桁から追いかけてるんだ
待たない読まないということは無いね
二カ月ルールだけは頭にいれといて。生存報告はセーフだが、あまり長いとグレーになるかも
原作打ち切りだってな
一夏「IS?打ち…切り…!?」SSスレはよ
作者の人間性がひどかったらしいからなぁ
書き込み読むに、>>1に彼女でもできたのかな
ええと投下報告です。
とは言っても本編ではなく、ちょっとした番外編です。
明日の午後に投下しようと思います。
待っていてくれる人がいるというのはとてもいいものですね。
私も出来うる限り全力を尽くそうと思います。
あとちなみに私に彼女は出来てませんし、その予定も当分ありません。
周りからはホモ疑惑を掛けられたりしてますが私は無実です。ただ枯れているだけです、はい。
それではこれにて
>>658
待ってますぞ
そろそろか……
よくよく思い返してみれば午後というのは意外と範囲が広いものですね。
それでは投下します。
おまけ①
ことの起こりはクラスメートののほほんさんがHRの最後に千冬さんにこんなことを提案したことから始まった。
「織斑先生~、今日これから豆まきしてもいいですか?」
「ん、豆まき?そうか今日は節分だな。だがそんなものは自分達の部屋ですればいいだろう、わざわざ教室で行う意味が分からん」
「えっと、教室だと物が多くないから後片付けがしやすいから。ちゃんとまいた豆は掃除しますから」
「そうだな・・・・・・まぁそこまで非常識な申し出でもないしな。いいだろう、しかし後片付けはキッチリしておくように!」
「やった~、ありがとうございます!」
千冬さんはいつもの出席簿を手に取ると教室を後にした。
部活などに参加している生徒も教室から出て行ったが、その後に残った何人かの生徒はのほほんさんの周りに集まってきている。
恐らくのほほんさんと一緒に豆まきをやるメンバーだろう、しかし節分に豆まきなんて律儀な子達だなぁ。
「おい五反田」
「ん?」
不意に後ろから声を掛けられた。
振り向いてみるとボーデヴィッヒがこちらを見上げてきている。
「何か用か?ボーデヴィッヒ」
「マメマキとセツブンについて教えてくれないか?嫁に聞いても分からなくてな」
「そうか、知らないのか。日本のローカルな風習だしまぁ知らなくても無理はないか・・・」
俺は一人で納得しつつ、ボーデヴィッヒに説明をしてみる。
「いいか、節分っていうのは健康を祈って豆をまく日なんだよ」
「ほお、なぜ健康を祈って豆をまくのだ?」
「え?いや、それは・・・・・・・・・」
そういえば俺もよくわかってないな。
実家でも節分の日は豆まいて、豆食って、恵方巻き食ってたけどなんでかはよく知らないし。
「う~~~ん」
「よくわからずに人に説明しようとするな、分からないならば分からないと言えばいいだろう」
「あっ、篠ノ之さん!」
地獄に仏とはこのことだ。
あの篠ノ之さんならば答えてくれそうだ。
「とは言え私も詳しくは知らないのだがな」
なんだそりゃ。
「うむ、これでは打つ手がないな。誰か知ってそうな者は、織斑一夏ならば知っているのではないか?」
「いや、あいつも俺も似たような頭の構造だしそりゃあねえな。千冬さんとか山田先生あたりなら知ってるかも」
「とはいえ、織斑先生も山田先生も今は教室には居られないしな」
三人ともお手上げ状態で万事休すかと思われたとき、さらなる乱入者が現れた。
「あら、三人で何を頭を悩ませてらっしゃいますの?」
「あ、セシリア」
「今、セツブンとマメマキについて考えているのだ」
「セシリアもそういうことに詳しい人物を知らないか?どうもこのままでは魚の小骨が喉元に引っかかったような感じで収まりがつかん」
俺達三人ともセシリアがまさか詳しく知っているとは思っていないので、最初っから当てにせずにセシリアに聞いてみたのだが―――
「あら、節分ですか?節分は元々季節の変わり目には邪気、つまり鬼などのよくないものが生まれると信じられていたため、それらを祓う悪霊祓いの行事として行われていたそうですよ」
すらすらと解説するセシリアに目を丸くする俺達。
例外的にボーデヴィッヒは勤勉にメモを取っているが。
「ちなみに豆をまくのは、豆は魔を滅する、つまり『魔滅(まめ)』に通じるとされて鬼にぶつけて邪気をはらい、一年の無病息災を願ったそうです。どうですか、参考になりましたでしょうか?」
長い説明を終えたセシリアはふぅ、と息をつきこちらを見る。
正直日本人二人よりすらすらと説明できるなんて驚きだ。
「い、一体どこでそんな知識を・・・・・・」
「あぁ~、実はわたくしも最近まで知らなかったのですが蘭さんとお電話でお話してる最中にこの話題が出まして、二人とも分からなかったので後で調べたんです」
「あ、そういうオチね。てか蘭と仲いいのな、知らない間に電話とかしてたんだ。兄の俺には一本も電話よこさねえのに・・・・・・」
「ででででも蘭さんも会話の中で弾さんの話題をいくつも出されてましたよ!」
「例えばどんな?」
「・・・・・・・・・・・・」
考え無しのフォローは余計に人を傷つけるんだぜセシリア。
「ねぇねぇだっだん達もいっしょに豆まきやらない~。楽しいよ~」
「オルコットさんたちもやろうよ、豆も結構数あるから人数増えても大丈夫だよ」
俺達のやり取りを遠くで見ていたのかのほほんさん達からお誘いがあった。
「む、いいのか?」
「いいよ~、ラウラんは豆まき初めてでしょ~。やろうやろう~」
「そうだな、どうせだし俺達も混ぜてもらうか」
「よーしじゃあ鬼役を決めようか~!」
参加人数は十人にも満たないがこれくらいの規模が丁度いいだろう。
鬼役はあみだくじで決めることとなり、のほほんさんがいらない紙に線を引き始めた。
「ところで篠ノ之、鬼役とはどういったことをするのだ?」
「豆まきは先ほどセシリアが言ったとおり、邪気、つまり鬼を祓う儀式からきている。だから鬼役のものに豆を投げつけ邪気を払うんだ」
「ふむ、つまりターゲットということか」
「あ、あとね、投げつける時は『鬼は外、福は内』って言いながらなげるんだよ~」
「了解した」
「はい、あみだ完成~。皆ひいちゃって~」
皆あみだの上の部分に名前を書いていく、十人ほどだとあっという間に書きおわる。
全員が書き終わったあとにのほほんさんが結果の部分の隠すために折り曲げていた箇所を開いて、『鬼』とかわいらしい文字で書かれた場所から上へと辿っていく。
「てけてん♪てけてん♪てけてけてん♪ちゃん、てんてけてんてん♪てんてんてん♪―――」
間の抜けた、それでいておなじみのメロディーを口ずさみながらのほほんさんがたどり着いた先には。
「じゃ~ん、鬼はだっだんでした~」
「げっ!俺かよ!?」
「あはははは、五反田くんも男の子なら観念しなさいよね♪」
ま、まぁ女の子に豆投げつけるのも気が引けるしいいのかな、これで。
「よ~し、それじゃあいくよう」
「「「鬼は~外~」」」
みんなの声とともに豆がぱらぱらと俺の体にぶつかる。
俺はそのまま教室から出るように動き、そのまま廊下まで追いやるという段取りだった。
俺が動く間に皆楽しそうに豆を投げつけてくる。
しかし―――
(あれ?ボーデヴィッヒのやつなんで投げてこねえんだ?)
ボーデヴィッヒは手の中の豆をしきりに気にするように、手をにぎにぎと動かしていた。
やがてなにか納得したような様子になり、ようやく投擲する構えをとった。
(やっと投げてくるのか、でもなんで、なんで―――そんな振りかぶってるんですかね?)
「鬼は・・・外っ!!」
例えるならば散弾のような、非常に速い速度で飛んできた豆を俺はもちろん避けることなど出来なかった。
「痛っづうぅあっっっ!!!」
下手なエアガンよりも威力のあるそれを喰らった俺は第二撃を避けるため、痛みに悶えながら教室から転がり出る。
そういえば某グラップラー漫画に環境利用闘法なんてのに似たような技術あったなぁ、と頭の中で関係ないことを考え痛みから現実逃避。
「ちょ、ちょっとラウラさん!いったい何を!?」
「? 何を、とは豆まきをしただけだが」
「いくらなんでも強すぎるぞ!五反田が聞いたこともないような悲鳴を上げていたではないか!」
「む、鬼を払うと言っていたので強いほうがいいと思ったのだが思い違いだったのか?」
廊下からは見えないが、教室内の会話でボーデヴィッヒが故意にあんな投法を用いたことはなかったというのは分かった。
しかしそれならば皆の投げ方を見て先に気付いてほしかったと、俺は思いながら意識を手放した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あの後、床に散らばった豆を一つ残らず掃除して皆で集まり、豆まきの締めをすることになった。
「やっぱり最後は豆食べないと、終わりって気分にならないもんね~」
「確か自分の年齢の数だけ食べるんでしたよね?」
「だいたいはそうだけど、うちの地方だと年齢に一個足した数食べてたなぁ」
「そういう地方もあるな、まぁこういった風習は得てして些細な違いが土地毎で生まれてしまうものだしな」
「さっきはすまなかったな五反田。怪我はないか?」
「あ~、確かに痛かったけど怪我はしてねえよ。大丈夫大丈夫」
皆してぽりぽりと豆を食んで、今年の無病息災を願いながら他愛もない話をする。
そんなことをしていると季節の移ろいを感じるなぁ。
「もう二月なんですわねぇ」
隣のセシリアが俺の考えの続きを代弁したようなことを不意に呟く。
「そうだな、もう二月ですぐに三月が来て、また春が来るんだろうなぁ」
「春はもうすぐそこまで来てるんですわね。そんなことをこんな些細な行事で感じることになるなんて・・・」
「ま、それが日本ってもんだ。季節の移ろいに合わせて色んな行事がある。んでもってそれをやるともうこんな季節か、ってしみじみ思っちまうんだよな」
「そういうのもいいものですわね」
やんわりと笑うセシリアの顔に横目で見とれつつ、気のない相槌を俺は打った。
おまけ②
豆まきを終えた日の夜。俺とシャルルは一夏に呼び出されて調理室まで来ていた。
「いったい何のようなの一夏?夕ご飯食べずに来てくれなんて」
「ふっふっふ、それはだなシャルル。この日本の伝統料理をお前に堪能してもらいたくてな」
「伝統料理?」
「かんぴょう、きゅうり、しいたけ、出し巻き、ウナギ、でんぶ。用意されてる具材から察するにもしかして・・・・・・」
「そう、恵方巻きだ!」
「エホーマキ?」
どや顔を晒す一夏に対してシャルルは疑問を浮かべた表情をする。
「シャルルは知らないのか。日本の節分の時に食べる太巻きのことさ。ちなみに節分はわかるか?」
「うん、ラウラがさっき教えてくれたよ。豆をまく行事のことでしょ」
「ま、大まかに言ってしまえばそういう行事だ」
「ちなみに俺も剣道場で剣道部の人たちに混ぜてもらって豆も撒いたし、年の数だけ食べたぞ」
「それで、そのエホー巻きを食べるのも節分の行事の一つなの?」
「いや、それだけじゃないぞ。その年の恵方、つまり縁起のいい方角を向いて食べることでその年の健康を祈るんだ」
「ほえー」
「くだらんギャグはいらんぞ」
「えへへ」
シャルルが申し訳なさそうに笑って頭を掻く。
「後さっき弾が言ったことのほかにも目を瞑って、食べきるまで一切喋っちゃ駄目ってルールがあるんだぞ」
「なるほど。けど日本の人ってこんなに健康を祈る行事をいっぱい作って、それほど健康を大切にしてるんだね」
「いや、外国でも探せばいっぱいあると思うけどなぁ」
「そっかな?」
「まぁ恵方巻きについては説明したし、食べていきたい所なんだけど」
「どうしたの?」
「いや、いつものメンバーにメールとかで連絡しておいたんだけど一向に来ないからさ。弾は何か聞いてるか?」
「何も聞いてないぜ」
「う~ん、どうしようか。もう先に食べ始めておくか?」
「別に今日食べればいいんなら先にはじめててもいいんじゃないかな?そのうち来ると思うし」
「そうだな、全員で一斉にしなきゃいけないわけでもないし」
というわけで結局男三人で太巻きを作って食べることになったわけで。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「よし、できたぁ」
「シャルルは太巻き作るの初めてだろ?うまく出来たな」
「うん。綺麗に巻けたよ!」
「よし、じゃあ今年の恵方は・・・・・・・北北西やや右。だそうだ」
「やや右ってなんなんだよ。つまりは北北西に向いておけばいいってことか?」
「まぁそうなるな」
三人で一夏の持ってきた方位磁針で方角を確かめつつ体の角度を決めていく。
端から見れば男三人で太巻き片手になにやらフォーメーションをとっているシュールな絵に映っただろうな。
「よし、この角度だな。じゃあいくぞ」
「むぐ・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
三人で恵方巻きにかぶりつき、無言で咀嚼していく。
あまり苦しくならないようにそれなりの長さにしておいたものの太巻きは太巻きであるし、一気に食べきるとなるとそれなりに時間がかかる。
(意外とボリュームがあるな。しかしこの具材とか一夏が用意したのか?うなぎとか結構味がしっかりしてていいの使ってそうだな・・・)
(あっ、出し巻きがいい感じだな。うまくいってて安心したなぁ。うなぎも結構いいの使って正解だったなこれは)
(太くて長くて柔らかくて、なんだかおいしいなぁ・・・・・・)
各々いろんなことを思いながら食べていたのだが不意に調理室の扉が開かれる。
「あのぅ、一夏さん。すいません、ちょっと用があって遅れてしまいましたわ。ところでなんの用で―――」
(セ、セシリアか。しまった、目を瞑って何も喋れないから反応が出来ない・・・!)
「弾さんもシャルルさんも一緒でしたのね。一体何を食べてらっしゃるのですか?」
(セシリアは恵方巻きを知らねえのか。だとするとこの状況を説明できねえじゃねえか)
「「「・・・・・・・・・・」」」
「なぜ三人とも黙ってらっしゃいますの?」
俺からは見えないけど恐らく首をかしげているであろうセシリア。
ここは早く完食して事情を説明しないと。
(急げ急g―――ッッッ!!)
「げっほ!!ごほ!!ごほ!!」
(やっべえ、急ぎすぎてむせた!!)
「だ、大丈夫ですか弾さん!み、水を・・・」
慌てたセシリアはぱたぱたと足音を立てて離れていってしまった。
言葉から察するに水を汲むためにコップか何かを探しているのだろう。
今がチャンスだ、今のうちに食いきって説明を―――
「ごほ!げっほげほ!!」
(あぁ、だめだうまく食えなくなってやがる・・・畜生、もういっそルール破っちまうか?)
とは言っても一度はじめたことをやめるのはなぜか抵抗がある。
別にこんな行事元担ぎくらいの効力しかないだろうに。
「弾さん、水ですわ。さ、飲んでください」
(セシリアも戻ってきちまうし。どうする俺、どうするよ?)
「弾さん?どうしてこちらを見てくださらないのですか?弾さん、弾さん!」
(俺だってそっち向きたいよ。見ないでも俺のこと心配そうな顔してくれてるのがわかっちまうよ!)
「・・・・・・・・」
(あれ?セシリアも黙っちまったな・・・・・・どうしたんだ?)
咀嚼はやめずに耳をすまして状況を探ってみる。
「・・・・・・・わたくし、何か・・・・・・ましたか?」
(何か言ってる?うまく聞き取れねえ、何て言ったんだ?)
「わ、わたくし弾さんに何かいたしましたか?そんななにも答えてくださらないなんて、無視しないで、く、くださいよぅ」
か細く、途絶え気味の言葉が今度こそ耳に届いた。
恐らく彼女はすぐ近くで涙目になりながらこちらを見上げているのだろう。
確かに身を案じた行動を全部無言で、太巻きむしゃむしゃ食うなんて、そんな行事あるなんて知らないのなら分かるはずもない。
しかし今だに恵方巻きはそれなりに長さがある、説明しているヒマはない。
「あの・・・何か、何かおっしゃってください。わたくし、わたくし・・・・・・・」
ほら、セシリアが泣いちまうぞ!どうにかしろ、俺!!
(もう、かくなる上は・・・・・・っっっ!!)
がばり、とセシリアがいるであろう方向に腕をまわし引き寄せる。
腕の中に確かな感触、そして胸のあたりが急に冷たくなる。
うまくセシリアを抱き寄せることに成功したようだ、冷たくなったのは持っていた水がこぼれたせいだろう。
「あっ!弾さん、何をっ!?」
「・・・・・・・・・」
俺は無言のままセシリアの背中をさすったり、頭を撫でてやったりする。
昔、蘭が小さい頃にぐずったりしたらこうやってあやしていたのを思い出した。
だけどこのシュチュエーションでこういうのはやっておいてなんだが大丈夫なのか?と心配になる。
俺も切羽詰っていたわけだが、さすがにこれはないんじゃないのか?って思うわけだが―――
「うっ、あうぅ・・・・・・」
ぽすり、とセシリアの頭がこちらにもたれかかってくる。
どうやらこの行動は及第点だったらしい。
(焦った頭で考えた行動だったけど、何とかなってよかったぁ・・・・・・)
ほっと一息つきながら、今度は落ち着いて恵方巻きを咀嚼しなおす俺。
しかしこの後、遅れてやってきた篠ノ之さんたちにこの状況を見られて慌てるのだが、それはまた別のお話。
ということで節分と恵方巻きをネタに二本の番外編をお送りしました。
まだ本編再開は目処が立ちませんが再開に向けての活動はキチンと進んでおりますのでご安心を。
それと今回は去年の描き収めにセシリアを描きましたのでそれもおまけとして置いていきます。
日付が今年の大晦日になっていますが去年の大晦日に描いたものです。
http://wktk.vip2ch.com/vipper32348.jpg
それではこれにて
乙んこ
オルコット様かわええのう(*´∀`*)
フルメタの番外編読んでる感覚
時系列無視って事でいいんだよね?
いやあ相変わらず>>1の書くセシリアはかわいいなあ!!
今更だけど最初から読んでてダダンダ・ダンに毎度笑ってたのは俺だけでいい
文章が本当に上手い
もう完全に俺の中でシャルは男の子
恵方巻き食ってる野郎三人をこっそり撮影する腐った女子たちの話かと思った僕は心が濁ってる
待ってる
原作打ち切られたらしいから、ここが俺の憩いの場です。いつまでも待ってますから頑張って下さい。
短いですけど一区切りつきましたので投下しようと思います。
それではいきます
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
男子更衣室で着替えを済ました俺達は、早速海までやってきていた。
足の裏を太陽の光を浴びて焼けた砂がちりちりと刺激してくるのが逆に心地いい。
日の光を受けた海面が眩しいほどに反射光を放っているのも相まって、夏の海に来たんだという思いが胸のうちにこみ上げる。
「あつつっ!砂がこんなに熱くなってるなんて、サンダルでも持って来ればよかったよ」
「ははは、それもそうかもな。でもこれも夏の定番と言うか、海に来たものの通過儀礼ってやつだ」
横ではシャルルが砂に焼かれてぴょんぴょんと跳ね回っている。
それにしてもそうやって跳ねるシャルルだが顔つきは妙に楽しそうだ。海に来るのは久しぶりだと前にシャルルは語っていたし案外この状況を含めて海を満喫してるのかもしれない。
「おーいシャルル、こっちのセシリアのパラソル設置したあたりだと少しはマシなんじゃないか?」
「ほら、そんなに熱いなら行ってくればいいんじゃないか?」
「うん、そうさせてもらおうかな」
向こうでセシリアの持ってきていたパラソルを設置していた弾はその下に荷物を置いてこちらに手を振ってきている。
俺が促すとシャルルは駆け足気味になりながらパラソルの下に向かっていった。
さて、俺は俺で鈴を探さないとな。約束してるわけだし。
「あー、織斑君だ!」
「えっ嘘!私の水着おかしくないよね!?」
「結構体がっちりしてる~。やっぱり男の子だ~」
「織斑く~ん、あとでビーチバレーしようよ~」
「おう、けど先に鈴探さなくちゃならないから」
鈴を探してビーチを歩くと当たり前ではあるがまわりは皆女の子だらけだ。
さっそく泳いでる子もいれば、のんびり肌を焼いている子もいるし、さっきの子達のようにビーチバレーに興じている子達もいる。
「とはいえ、なかなか見つからないな」
ビーチに訪れているのはIS学園の一年生だけだがこのビーチもそこまで広いわけではない。
しかも今なんて恐らく一番混む時間帯、その中から一人見つけるなんて至難の業だ。
まぁそういうときに一番利口なやり方といえば―――
「なぁ、鈴見なかったか?二組の凰鈴音」
人に聞けばいいのさ。なにしろここにいるのは皆IS学園の生徒なんだから、絶対見つかる。
「凰さん、あの代表候補生の?見てないなぁ。それよりも織斑君、私達と遊ばない?」
「悪い、先に鈴を探さなきゃいけないから」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「鈴ちゃんならさっき織斑君探してたの見たけど」
「ほんとか?どっちに行ったか覚えてないか?」
「さっき織斑君が来た方角だよ」
「そっか、ありがとう助かった」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「鈴か?いや、私は見ていないな。ところで織斑一夏、お前の写真を撮ってもいいか?先輩から男子三人の写真を撮ってくるよう頼まれたのだ」
「え?まぁ写真くらいなら別にかまわないけど」
「そうか、協力感謝する」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「鈴ですか?ついさっき向こうの方に歩いて行くのを見ましたけど」
「ついさっきか、ありがとう!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「鈴? 鈴ならそこで一夏の所在を聞きまわっているではないか」
「あ、本当だ」
「待ち合わせするのなら落ち合う場所も決めておけ馬鹿者」
「ご、ごもっともで」
返す言葉もないです、本当に。
呆れたような表情をする箒の前を横切って鈴のところに向かおうとする。
しかしその前に箒に声を掛けられた。
「・・・・・・で、お前達はこれから何をする気なのだ?」
「いやさ、鈴が一緒に泳いだりビーチバレーしないかって誘ってきててさ。それで約束してたんだ」
「そうなのか・・・・・・それならば、その、私も―――」
いつの間にか箒に片腕をとられていた。そっとさわるように掴まれている。
そして箒はというと先ほどまでのあきれ果てた表情はどこかに消え去り、うつむいて赤くした顔で上目遣いにこちらを見つめてきていた。
「一緒、に、行っても・・・いいか?」
「えっと・・・・・・すまん箒―――」
「! そ、そんな、何がいけないんだ!?私がいてはお前に都合が悪いことがあるのか!?」
「えっ?ちょっと箒さん?」
「そんなに鈴と二人きりがいいのか!?それともなにか!お前は鈴のことがす―――」
「ちょちょちょちょっと待てって!!何を慌ててるのか知らないけどお前なにか勘違いしてないか?」
「き・・・って、なんだと?」
「箒の声が小さくて最後のほう聞き取れなかったんだよ。別に箒がいて悪いことなんてないし、二人だけより人が多いほうがいいよ」
一体俺の言葉でどう勘違いしたんだか、いきなり声を張り上げたりして。
周りの皆も驚いてるし、鈴もこっちに気づいたかもな。まぁそんなことより―――
「だから、そんな泣きそうな顔するなよ。箒」
「えっ? あ・・・・・・」
「誰も仲間はずれになんてしないからさ、な」
箒の頭の上に手を置いて、くしゃくしゃと撫でる。
嫌がられるかも、と危惧していたのだがそんなことはなく、箒はされるがままになっていてくれた。
本当に今にも泣きそうな顔をしていた、そんなに仲間はずれがいやだったんだろうか?
「一夏、もう大丈夫だ。あ、ありがとう」
「いいって、気にするなよ。それよりどうする、俺達と一緒に来るか?」
「いや、私は少し一人で泳いでくる。後で合流させてくれ」
「あ。おい箒、準備運動はちゃんとしたのか?」
「問題ない。大丈夫だ」
箒はそう言うとくるりと俺に背を向けて腰が浸かるくらいの深さのところまで行くと、そのまま綺麗なフォームで沖のほうに向けて泳ぎだした。
「一夏、箒と何話してたのよ」
「あぁ鈴か。別にたいしたことじゃねえよ」
いつの間にか、というよりさっきの声を聞いてこっちに気づいたであろう鈴が俺のすぐそばまで来ていた。
「ふぅん・・・・・・一応こっちのほうまで箒の声は聞こえてきてたんですけど」
「なんか勘違いしてたみたいだな。何をどう勘違いしたのか分からないけど、俺達が箒のこと仲間はずれなんかにするわけないのにな」
「まあそれはそうだけど・・・・・・一夏あんた本当に変なこと言ってないでしょうね」
「言ってねえよ、そんな暇さえなかったっつーの」
「本当かしら・・・・・・」
俺もずいぶん信用無いんだな、そんなに俺は毎度毎度何かやらかす人間に見えるのだろうか?
「ま、今回は信用しといてあげる。私達は私達で遊ぶわよ、一夏!」
「おい鈴、準備運動したのか?溺れてもしらないぞ」
「ええ~、そんなの面倒くさいわよ。いいから遊ぶわよ!まずはそうね―――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
なぜ、一夏はあんなに優しいのだろう。
普段は皆からの好意に毛ほども気付きもしない唐変木な男なのに。
ここぞという時には人の機微に敏い、悲しんでいるものを見逃さない。
(頭を撫でて撫でられてしまった・・・・・・一夏の手は大きくて、暖かくて、そして固かった)
手のひらの固さから、一夏がどれほど鍛えてきたのかが伝わってきた。
セシリアと戦うためだと言って、一夏を鍛えようと剣を交えたのは随分と前のことのように感じる。
(あれから、私達が見ていない間にどれほど一夏は努力していたんだろう)
いつも、私は一夏のことを軟弱者だと罵ったりしているが、内心一夏がどれほど強くなろうとしているか、強くなっているか感づいてはいた。
やはりまわりにいる同性のおかげだろうか?とも考える。
自身との比較対象として、あの二人の男がいるからこそ、競争心が生まれたりするからだろうか?
それとも、千冬さんのためだろうか?
あいつは存外姉のことを気にかける性質だから、それもありえるだろう。
あとは・・・・・・・
私、のため?―――
いや、そんなことあるはずがない。
あの唐変木に限って、そんなこと。
私は頭の中で頭(かぶり)を振るが、火照った頭はなかなかその愚かな考えを手放してはくれない。
(い、一夏のことは一度忘れろ。泳ぐことに集中してしまおう。もう少し沖の方まで泳いで、折り返したら―――)
浜に戻って一夏たちと。
(あぁ~~~、もう駄目だ。海に浮かれて、熱にやられて私も馬鹿になってしまってるんだ。そうでなければこんなに一夏のことを・・・・・・いや、いつも考えているな)
そうだとも、もういっそ思考の海の中だからこそ素直になってしまおう。私はいつだって一夏を視界のどこかで探している。
一夏のことを考えない日だってない。
好き、なんだろう。いつからだとか、どうしてだとか、そういうことは数えればキリはない。
あいつに救われたことなんて、子供の時だって、IS学園に入学してからだって何度もあった。
その度に私は心にもない言葉を一夏にぶつけてきた。
でも、クラス対抗戦の件が終わった時には少し素直になれていたような気はする。
いや、あの時から私は妙に素直になってきているのかもしれないな。現在進行形で。
(だんだんと、私も変わってきている。ならばいつか、いつか――― 一夏に告白する日も来るのだろうか?)
思考の隙間、一瞬の油断。
私は考えることに手一杯で、目の前の高波を見過ごしていた。
(!? うぐっ、しまっ・・・・・・た・・・・・・・・!!・・・・・・・)
波に飲まれ、上下の感覚が狂う。
焦り、体を無様に動かし、酸素を消費する。
ついには海水を飲み込んでしまう。
(・・・・・・・い・・・ち、か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
もがき、伸ばした手は海水の感触しかつかめない。
やがて体と意識が底の方へと沈んでいく。
その時だった、伸ばしたままの右手をなにかが掴む。
その感触は、この感触は―――
(あぁ、やはり・・・・・・やはり私を助けるのは、お前なのだな・・・・・・)
私の意識はそこで途切れた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上で投下終了です。
短めですがまぁこれから慣らして長くしていきますのでご勘弁を。
IS原作の打ち切りの報せは自分としてもかなりショックでしたね、完結せずに終わりを迎えるなんてひどいです。
このSSに関しましては、自分なりのスピードでも完結させるつもりです。原作打ち切りを聞いてさらに心に刻み付けました。
それとこのSS、当初は原作再構成と銘打っていましたが三巻以降、最終回に向けて調整しながらオリジナル要素を含ませながらやっていくことに踏ん切りがつきました。
当初はここまで長くやる予定はなかったんですよねwwwwww
中盤だと五巻あたりで終わりかなぁ、と考えていたのがさらに伸びそうです。
もうしばらく、このSSにお付き合い願えればと思います。
それでは長くなりましたが、今日はこれにて。
乙
乙
一夏の相手を二人に絞ったら思いの外すっきりした印象受けるな
まあ箒と鈴以外のキャラとくっつく可能性もまだ残ってるけど
(・ω・`)乙これは乙じゃなくてポニーテールなんだ
もう弓弦には期待してないので頑張ってくだされ
乙
久々に見たらまだやってた良かった
おとさん
あげ
スレチかもしれないんだが最近あちこちでIS原作の打ちきりについてよく聞くんだがとうとう公式発表あったの?
二週間ほどぶりですね。
ちょっと遅くなってしまいましたが投下分書きあがりましたので投下していきますね。
それではいきます。
「えっ!?箒が溺れたっ!?」
報せを聞いた時、本当に心臓が止まるかと思った。
それは隣にいた弾も同じだったようで―――
「それどこだよ!?」
「いや、あの・・・・・・」
「いいから早く教えろ!!」
「む、向こうのほうです」
「よっしゃ向こうのほうだな!!」
あっという間に走り出していってしまった。
もう大分遠くまで行ってしまっている。
「あの、それで織斑君と凰さんが助けて医務室に運んで行ったって言おうと思ったんだけど・・・・・・」
「あはは、まぁそれだけ箒のことが心配だったってことじゃないかな?それで箒は無事なの?」
「あ、うん。意識ははっきりしてるって」
「そっか、よかった」
相槌を返しながら僕は一息ついた。
横の弾が慌てていたから逆に冷静でいられたけど僕も内心すごく焦っていたのだ。
報せに来てくれた女生徒はこれからまた友達の所に戻るそうで、一言お礼を言って別れた。
僕らと箒が仲がいいのを知っていただけなのに報せに来てくれるなんて律儀な人だな。
「それにしても・・・・・・」
弾がどこかに行ってしまったせいでセシリアの持ち物の番をする人がいなくなってしまった。
なし崩し的に僕がやることになるだろう。
「まぁセシリアが来るまでの我慢というところか」
それにしてもセシリアは遅いな。
もしかして、もうこの海岸には来ていてこの場所がわからないだけとか?
だとすれば探しに行きたいけど僕が離れると荷物の番をしてくれる人がいなくなるし、かといって待つだけというのも・・・・・・
(ここはやっぱり待つしかないのかな。誰か知ってる人が通りかかったらそれとなく頼んでみるのもいいかもしれないし)
一人で考え事をしながらぼんやりと目の前の海を眺める。
IS学園の一年生だけということもあり女の子ばかりだ。
皆、色もデザインも多種多様な水着で泳いだり、ビーチバレーをしたり、波打ち際で波と戯れたりしている。
そんな女子生徒たちを眺めていても、頭の隅っこのほうで探している影があった。
おそらく、泳いではいない。たぶんビーチバレーや、波と戯れたりもしていない。砂でお城を作ったりなんかもしていないはずのその影を。
(ショッピングモールで僕が言った言葉、そしてさっきの廊下で言った言葉。まったく、どの口が言うんだよ・・・・・・・)
『あんなこと『友達』に言われて素直に言うこと聞くのって、どうしてだと思う?』
僕は廊下で弾にそう言った。でもショッピングモールで僕は弾になんて言ったんだ?
『まだ分からないんだ。僕自身ラウラのために何かしてあげたいとは思ってるけど、その思いの源がラウラへの好意なのか、別の感情なのか。・・・・・・ラウラの気持ちも、そうさ。僕にはまだわからない』
明らかな矛盾。
僕はラウラに対して今までどうやって接してきたんだ?ラウラは僕に対してどう接してきた?
答えは出ているのにどうしても前に進めなかった。言葉はのど元から先には出てこなかった。
(いつからなのかは全然わからない。どうしてなのかも全然わからない。けれど僕は彼女が、ラウラのことが・・・・・・・)
僕は彼女の影を探してしまう。
今もどこかでカメラを片手にちょこちょことかわいらしい小動物のように人の間を歩き回っているだろう彼女を。
(けれど、わかっていたとしても、僕は彼女になにかしてあげられるんだろうか?本当に彼女の前で、この気持ちをさらけ出せるのだろうか?)
それはわからない。
その時だ、思考の渦に巻き込まれていた僕に誰かの声が呼んだ。
「お~い、シャルルん」
この声はのほほんさ、布仏さん。
そう思って振りかえると―――
「き、きつね!?」
「あっはっは~、シャルルんやっぱり驚いたぁ。どう、この水着?」
「こ、個性的だと思うよ」
僕は苦笑い気味に答える。
きつねの水着(というか着ぐるみ?)の横にいるのは同じクラスの櫛灘(くしなだ)さんだ。
その櫛灘さんと目が合うと彼女も僕と同じように苦笑いを浮かべた。
やはりビーチでキツネと一緒というのはなんだかシュールな光景だしね。
「ねぇねぇシャルルんは遊ばないの?せっかくの自由時間なのに~」
「あぁ、ちょっとセシリアの荷物の番をすることになっちゃってさ。ここから離れることができないんだ」
「えぇ~、せっかく一緒に遊ぼうと思ったのに~」
しゅん、と肩を落とすのほほんさ、のほほんさん。
ちょっと悪いことをした気分になってしまうな、こんなに落ち込まれると。
「ごめんね。それでセシリアを見なかった?」
「えっと、セッシー?見てないな~。二人は見た?」
のほほんさんは二人に問いかけてみるがどちらも首を横に振った。
まだ海岸に来てないんだろうか?でも僕らと一緒くらいのタイミングで更衣室に入ったのだからいくらなんでも来ていないというのは考えにくい。
でもここにいる人は知らないのだから考えても仕方ないか、それよりも今は―――
「ところでのほほんさ、布仏さん。そのキツネの水着?の子は誰なの?」
僕がそう言った瞬間キツネの着ぐるみがビクン、と肩を大きく震わした。
最初に見たときから気になっていたけどこの人物は誰なんだろう?僕の知ってる人なのかな?
「え~、シャルルんわからないの~?これラウr「布仏ッ!」 んぐっ!?」
のほほんさんが何かをしゃべろうとしたその時、隣の着ぐるみの人物がその口を無理やりふさいだ。
あの着ぐるみ姿よくもあそこまで素早く動けるものだ。
だけど着目すべき点はほかのところにあった。
「その声・・・・・・・ラウラ?」
「・・・・・・・・・・・違う」
「やっぱりラウラじゃないか。どうしたの、そんな着ぐるみ姿で」
「着ぐるみじゃないよ~、水着だよ~」
「あっごめん。で、ラウラどうしてそんな恰好を?」
のほほんさんの非難の声をかわし、僕はラウラ?に詰め寄る。
「・・・・・・・しいのだ」
「え?何、聞こえない」
「・・・・・・・・・・」
また黙り込んでしまった。
仕方なく僕はラウラ?の両隣の二人に事情を聴くことにした。
「櫛灘さん、どうしてラウラはこんな恰好を?」
「あぁ、えっとそれはねボーデヴィッヒさんデュノア君の前に出るのが恥ずかし「こ、こらぁ!」むぎゅっ!」
あ、ラウラの裏返った声なんて初めて聴いたなぁ。
「あの、のほほんさん。ラウラはどうしてこんな恰好を?」
「なんか水着姿をシャルルんに見られるのいやなん「布仏ぇ!」んむぐっ!」
「水着が似合ってなかったらデュノア君にどう思われるか不安だったんだよね。せっかくかわいい水着着てるのにもったいないよ」
「く、櫛灘ぁ!!貴様、それは言わないと―――」
さすがのラウラも二人同時には抑えられなかったみたいで、ついには櫛灘さんの口からラウラの真意が暴露された。
でもラウラ、そんなに恥ずかしがらなくても・・・・・・
「ラウラ、僕は別にどんな水着でも笑ったりしないからさ。その着ぐるみから出てきたらどう?」
「だから着ぐるみじゃなくて「はいはい本音は少し黙っておこうね」
「・・・・・・・・・」
ラウラはまだ黙り込んだままだ。
かといってこのキツネ姿のまま放っておくわけにもいかないし、できれば出てきてもらってほしいんだけど。
「ラウラ」
フードを深くかぶっているラウラに、今一度呼びかけてみる。
だがやはり答えは返ってこない。
困り果てた僕はラウラの両隣にたたずむ二人に視線で助けを求めた。
「う~ん、デュノア君のこと、見つけて本音とここに来る途中にボーデヴィッヒさんに会ってさ。そんで誘ったら一緒に来るって言ったんだけど」
「途中でいきなりわたしから水着を取っちゃったの~。恥ずかしいからって」
あぁ、このキツネの着ぐるみはのほほんさんのものだったのか。確かにラウラの私物、というのは考えがたかったけどさ。
「なんかラウラんってこの水着頑張って自分で選んだんだって、今まで水着なんて選んだことなかったけど必死に選んだらしいんだよ」
「けどどうしてもデュノア君には見せたくないらしいね。あの大胆なボーデヴィッヒさんにもこんな一面があるなんて意外だわ」
あの大胆な、という言葉で先日の教室でのことを思い出して顔を赤らめるが櫛灘さんは僕の気も知らずに話を先に進めていく。
「でもさボーデヴィッヒさんもここで恥ずかしがってちゃほかの女の子にデュノア君を取られちゃうかもしれないよ~。たとえばわ・た・し・とか?」
「なぁっ!?櫛灘、貴様っ!」
明らかに冗談めかして言った言葉だが、ラウラは敏感に反応して焦ったように櫛灘さんにくってかかる。
「だってデュノア君かっこいいもんねぇ。ほかのクラスの子たちも結構噂してるんだよ、知らなかったの、ボーデヴィッヒさん?」
「あう、あう」
「確かにシャルルんっておりむ~とかだっだんとかと違ったタイプでイケてるメンズさんだもんね~。お姉ちゃんのクラスでもシャルルんは大人気って聞くよ~」
「えっ、うぁあ」
二人の言動にあからさまに動揺しだすラウラ。
キツネの頭がふらふらと左右に揺れ始めた。
「ボーデヴィッヒさんの水着で今のうちにしっかり彼のハートを掴んでないと、意外な人に奪われちゃったりして」
最後に意地の悪い表情で櫛灘さんがラウラに耳打ちをする。(僕にもしっかりと聞こえるくらいの声で)
それが最後の一押しとなったのだろう、ラウラは一息にフードの部分を脱ぎ去る。
「あぁもうわかった!脱げばいいんだろうこのキツネを!だが決して笑うなよ、いいな!!」
「似合ってるから心配しなくてもいいのに」
ラウラはキツネの着ぐるみの背中のファスナーを器用におろすと、遂に着ぐるみをすべて脱ぎ去った。
そしてすべてあらわになったラウラの姿は―――
「ど、どうだ?嫁よ、私の水着姿は変じゃないか?」
「・・・・・・・・・」
可愛い。
そんな凡庸な言葉しか頭の中に浮かばない。
ラウラの水着は黒のビキニタイプで、レースがふんだんにあしらわれていて一見するとセクシーな印象を受けるのだが、身長が低く幼めに見える彼女の外見のせいかギャップにより余計に可愛く見える。
髪型もいつもの伸びたままおろしているそれではなく、左右で縛ってアップテールにしてあっていつもと違う感じもまたいい。
けれど一番彼女が可愛いと思えたのは別の部分だ。
(いつもあんなに堂々としているラウラがこんな表情をするなんて・・・・・・・)
いつも口を若干への字にまげて、無表情気味の彼女が顔を赤らめて恥ずかしがっている。
水着を着るのは初めてだと言っていたし、こういう場で人から見られることに慣れていないのもあるだろう。
胸の前で手を組んだりほどいたりを繰り返したり、落ち着きなくそわそわしている。
そんな日常との差異に僕はどうしようもなく、彼女に見惚れていた。
「やはり・・・変か?」
「えっ!? あ、いや違うんだこれは―――」
ラウラの声で現実に引き戻された僕は、先ほどまで考えていたことが口をついて出そうになったがそれをとっさで抑え込むことには成功した。
しかし逆に問われたことには何も言い返せなくなってしまった、言葉にならない音しか口からは出てこず時間だけが過ぎる。
「・・・・・・・・・・・」
「えっと、だから・・・・・・・」
ラウラの顔がだんだんと曇り始める。
紅潮していた頬から色がだんだん失せていき、目じりは濡れはじめ、胸の前にあった手は所在なさげに下されていく。
だめだ、何か言わないと。けれど何を?正直に今感じたことを言うの?
『ただの『友達』にさっき考えてたみたいなことを言うの?でもそれって本当に友達同士で交わされるべき会話なのかな?』
頭の中で僕の声で誰かがささやく。
そうだよ、こんなことを思ってしまう僕はラウラとはどういう関係なんだ?
どういう関係になりたい?どういうことをしてあげたい?
『今頭の中にあるその考えって結果的に、君が彼女に対してどういう想いを向けているってことになるんだろうね?クラスメイト?友達?それとも―――』
また、声がささやく。
うるさい、今は目の前のラウラの顔を曇らせないことが大切なんだ。
『でもそうやって思うことも、彼女に特別な感情を抱いてるってことにならないかな?』
そうかもしれない。けれどほかの誰かが同じ状況になっていても僕は同じように思っていたはずだ。
『弾にはあんなことを言っておいて、自分も人のこと言えないじゃないか。君は―――』
「シャルル・・・・・・似合わないなら、似合わないと言ってくれ」
「ッ!?ラウラ、違うんだ。そうじゃなくて―――」
「私は、まだ皆の写真を撮っていない。だからもう、行く・・・・・・」
僕の釈然としない態度にしびれを切らしたのかラウラはさっ、と後ろを振り返りそのまま走り去ってしまった。
僕の弁解の言葉は途中で途切れた。けれど、結局その先の言葉を僕は言えたのだろうか。
ラウラの後ろ姿を見て、僕はどうしても動き出すことができなかった。
「ラウラ・・・・・・」
口からこぼれたつぶやきは、意味もなく夏の日差しに焼かれて消えた。
「シャルルん」
そんなことはなかった。
「デュノア君!何してるの、追いかけないとっ!」
僕のつぶやきをしっかり聞いていたのほほんさんと櫛灘さん。
二人は若干むすっとした顔で、僕を叱るように言葉を投げかけてくる。
「ラウラん、あれじゃきっと悲しくなってるよ。はやく行ってあげなきゃ」
「まさかこんなことになるとは思わなかったけどさ、きっとここはデュノア君がいってあげなきゃダメなんだよ。ここで放っておいたら、あとでひどいことになるって!」
「で、でも・・・・・・僕ラウラになんて言ったら」
自分の中で渦巻く、ラウラへの思いと、その感情への戸惑いや恐れ。
今勝っているのは明らかに後者だ。
こんな状態で行っても、もっとひどい状況になるだけじゃ・・・・・・
「シャルルん」
「布仏、さん」
「まずは謝るのが大事だよ~、ラウラんさっきすっごく悲しそうな顔してたもん。それもシャルルんのせいで~」
「う、まぁそうだけど」
「だからまずは謝って、ラウラんが聞いてきたことに答えてあげて」
「でも、だけどさ―――」
「でももだけどもありません。それに大丈夫、好きな子からの正直な言葉はどんな言葉だって嬉しいよ~」
「のほほんさん・・・・・・・」
そう言うとのほほんさんは僕の眉間あたりを人差し指でいきなり突いてきた。
「あいてっ」
いきなりのことに反応できず僕はのほほんさんに小突かれてしまう。
「眉間にしわ寄せすぎだよ~。もっと肩の力を抜いて考えてみようよ、そうしたほうが絶対うまくいくから~」
のほほんさんはいつものように気の抜けた笑顔で僕を見つめてくる。
櫛灘さんもその隣でうんうん、と何度かうなづくように首を上下に振っている。
二人のその仕草に、今まで肩に乗っていた何かがぽとりと地面に落ちた気がした。
「肩の力を抜いて、か・・・・・・・うん」
僕は二人から視線を外して、ラウラの走って行った方向を向いた。
もうラウラは見えなくなっていたけど、それでもラウラが向かっていったであろう方向を。
「ありがとう、二人とも。行ってくるよ、僕」
「うん、ラウラんによろしく~」
「よかったらまたあとで遊ぼうね、ボーデヴィッヒさんも一緒に」
「わかった、絶対連れてくるよ!」
僕は砂を蹴って走り出す。
今まで心の中にあった不安や恐れ、そういったものは消えてはいないけどそれでも以前よりはもっと小さくなっていた。
今なら、少しは素直になれるかもしれない。
だから待ってて、ラウラ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「いやぁ、ボーデヴィッヒさんとデュノア君をいちゃつかせてからかおうと思ったらひどい藪蛇に会っちゃったね」
「人の恋路を邪魔する奴は~っていうのだね~」
「えぇ~、どっちかというと応援したかっただけなのにぃ」
「あはははは」
セシリアの荷物を残して去られた本音と櫛灘は、しょうがなく二人でセシリアの荷物の番をすることにした。
二人も最初から砂浜で遊んだりして少し疲れていたので休むついでにちょうど良かったということもあるが。
「本当、二人とも完璧に両思いなのに一向にくっつかないもんね。なんでかと思ったら意外にもデュノア君が奥手だったとは」
「あれって奥手っていうのかな~」
「じゃあなんだろう?ヘタレ?」
「ひどい言われようだねぇ、シャルルんも」
二人はお互いの顔を見合わせて笑いあった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日のところは以上です。
二週間あったのである程度の量はたまったと思います。
もしかしたらシャルル、ラウラ編はすぐに出来上がる可能性もありますので、次来るのは早くなるかも。
ちなみに私もIS打ち切りのニュースは人から聞いたことなので公式発表があったかは知りません。
けれどいろいろなところから聞きますし、かなり濃厚かと。
一夏に対して鈴と箒の2ヒロイン制にしたのは自分がハーレム物が苦手なのが要因の中の一つなのですが、いい受け取られ方をしたようでよかったです。
それではこれにて
おつおつ!
乙
乙
ここのラウラは本当にかわえぇな
乙
みんな可愛い
男子もただ鈍感なんじゃなくて人間味があっていいよね
今週金曜日に投下します。
と生存報告がてらに投下予告を。
おそらく夜の七時ごろに投下しにきますです。
それではこれにて
乙。続きを待っている。
了解!
まってるよ!
えぇ~、予定通り投下していこうかと思います。
ただそんなに量がないためあしからず。
それでは投下していきます。
僕の探し求める人は、人気のない岸壁の上に一人立っていた。
一目見てわかるほど落ち込んでいるその後ろ姿に胸が痛むが、その後ろ姿に声をかける。
「ラウラ」
「・・・・・・嫁か」
海の方向を向いて、こちらには顔を見せずにラウラが答える。
「みんなの写真を撮るんじゃないの?ここには人はいないよ」
「・・・・・・そうだな」
素っ気のない返事。
けれど僕は話しかけることをやめない。
「探すのに少し手間がかかっちゃったよ。まさかこんなところまで来てるとは思わなかったし」
「じゃあどうやってここがわかったのだ?」
「ISをちょっと使っちゃった」
実際、どこにも見当たらなかったからISで補強された視力を使ってようやく見つけられたのだ。
ばれないように注意して使ったものの、織斑先生あたりだとばれてもおかしくはないから内心はちょっと後が怖い。
「それで、何の用なのだ?まさか、わざわざ私の醜態を笑いに来たのか?」
「違うよ」
「じゃあなんだ?別に私に言うことなどなにもないのだろう?」
「そんなことないよ」
ラウラにそう返しながら若干の違和感を覚える。
なんだかラウラにしてはずいぶん棘のある言い方だ。
いつものラウラならもっとストレートに、『似合わないのなら、そう言えばいいではないか』とか言ってきそうなものなのに。
あてつけのような言葉回しだ。もしかしてラウラ―――
「ひょっとしてラウラ、すねてるの?」
「そ、そんなことあるわけないだろうっ!!」
思い切りよくこちらを振り返りながら、ラウラは叫ぶ。
やっと見ることのできたラウラの顔はわずかに目じりを赤くした、泣いた後のようになっていた。
胸の奥がチクリと痛みを訴える。
「ラウラ、ごめん。僕―――」
言葉とともにラウラに近づく。
だけどラウラは僕のほうににらむような目線を向けて。
「ち、近づくんじゃない!今更なんなのだ、貴様は!」
「え・・・・・・・」
拒絶の言葉よりも僕には『貴様』と呼ばれたことのほうが心に刺さった。
今まで『嫁』だとか『シャルル』と呼ばれていたから、最初に会った時のように敵意を向けられているんじゃないかと思ってしまう。
僕はそのせいで足を止めてしまう。
言葉も失い、次に来るであろうラウラの言葉に耳を澄ませながらもその言葉を恐れる。
「あの水着を選ぶのに、私がどれだけ頑張ったと思っているのだ!!」
しかし飛んできた言葉は拍子抜けするほど、平和な言葉だった。
「はい?」
「私はドイツにある本隊にまで協力を仰いで、そのうえで厳選に厳選を重ね、さらには教官の手まで借りて選んだのだぞ!!あんなに肌を露出させた格好を恥を忍んでまで見せたのだぞ!!」
ぽかん、と間抜け面を浮かべた僕を気にしない様子でラウラは怒涛の勢いで言葉を吐き出していく。
「貴様に褒めてもらうためだけに!惚れてもらうためだけにあんな恰好をしたのだぞ!クラスメイトに髪も結ってもらうように頼んだりもしたのだぞ!頑張ったんだぞ!」
どかどかと乱暴な調子で飛んでくる言葉はすべて僕のためだと言っている。
僕に認めてもらうために、でも、でも―――
「なんで僕ために?」
「貴様に惚れているからに決まっているだろう!!」
口をついて出た疑問に、力強くラウラは返してくれる。
純粋で、まっすぐなその言葉に僕の頬は熱を帯びる。
「貴様に惚れているから!貴様に振り向いてほしいのだ!」
ラウラの言葉はまだ続く、そして彼女から一言、一言届くたびにどんどん熱くなっていく。
「ショッピングモールで聞いたぞ、お前の言葉を!あの時、お前は私への気持ちは『わからない』と言っていたな!だが私は好きなんだ、はっきりとわかっている!」
『まだ分からないんだ。僕自身ラウラのために何かしてあげたいとは思ってるけど、その思いの源がラウラへの好意なのか、別の感情なのか。・・・・・・ラウラの気持ちも、そうさ。僕にはまだわからない』
あの時の弾との会話―――
「聞いてたんだ、ラウラもあの時あそこにいたんだね」
「そうだ、聞いていた!だからこそ私はお前を振り向かせるために頑張ろうと思ったのだ!私にはほかにどうすればいいかなどわからなかったから!!」
どんどん、とラウラの声が僕の心臓を叩いて鼓動を高める。
あぁ、僕はなんで悩んでいたんだろう。
『もっと肩の力抜いて考えてみようよ』
のほほんさんの言葉がふいに脳裏によぎる。
確かにそうだったのかもしれない。
最初から気負わずに、まっすぐに物事を考えていれば簡単だったのかもしれないな。
止まっていた足を僕は再び前に運ぶ。
「ねぇ、ラウラ。僕の話、聞いてくれる?」
「・・・・・・なんだ?」
機関銃のように言葉を吐き出していたせいか、ラウラは肩で息をしている。
そんなラウラに僕は真正面から向かい合い、言葉を紡ぐ。
「ラウラ、すっごく可愛いよ」
「ひぅっ!?」
ラウラの顔が真っ赤に染まりあがる。
たぶん僕の顔も同じように真っ赤になっているんだろうな。
けれど僕はやめない。
「さっきは言いそびれてたけど、その水着も大人っぽくてラウラの印象と対照的で魅力的だし、髪型もいつもと違うのがすごくいいと思うよ」
「あぅ・・・・・・」
ラウラは僕の顔を見れなくなったのか、視線を足元に向けてうつむいてしまう。
だけど僕はラウラの顔から目線を離さない。
「ラウラ、僕のほうを見て。僕の目を見てほしい」
「ちょ、ちょっと待て。そんなことを言われてまともに見れるわけがないだろう」
先ほどまでの勢いは全くなく、おろおろとうろたえるラウラ。
さらに僕は言葉を投げかける。
「僕もそうだったんだよ。ラウラに好きだって言われて、あんなにまっすぐな言葉をもらって、まともにラウラのことが見えなかった」
そうだよ、僕はラウラのことも、ラウラの気持ちにもまともに向き合えてなかった。
純粋で、一途なラウラの心を受け止めることができていなかった。
でも今なら大丈夫だ。覚悟は決まった。
「だけど今ならラウラのことまっすぐに見られるよ。だから、こっちを向いてラウラ」
「・・・・・・うん」
ゆっくりと顔を上げたラウラの頬は、見たこともないほど赤く染まっていた。
僕の頬も、感じたこともないほど熱を発している。
「僕は君のことが好きだ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。君を僕の嫁にする、異論はあるかな?」
ラウラの頬に手をあてて、少しだけ顔を上に向けるよう導く。
「そんなもの、あるものか・・・・・・・」
「うん、知ってる」
そう言って僕はラウラの小さな唇に自分の唇を重ねた。
あの時と感触は同じはずなのに、ただ僕らの気持ちがほんの少し変わっただけなのに。
最初のキスとは全く違うキスに思えた。
以上で今回の投下終了です。
今回の分は書いてて赤面しっぱなしでした。ある意味今までで一番辛かったかもです。
次回の投下はできれば一週間以内には投下しようと思っています。一日、二日前には予告すると思います。
それとレスで人間味がある、とかラウラが可愛いとか言ってもらえて嬉しいです。
出来る限り、可愛く、かっこよく、彼らの色々な顔を見せられるようにこれからも精進していきます。
それではこれにて
ちょっとこのラウラさんとはどこで会えるのかな?
教えてくれないか
あまーい!
ラウラちゃんかわいいです!
乙
乙
シャルさんかっこいいな
このシャルさんなら掘られてもいい
えんだああああああああああああああああああああ
いやああああああああああああああああああ
I WILL ALWAYS LOVE YOU.
どうも少し遅くなりましたが投下予告に参りました。
今週の木曜日のお昼ごろに投下しようと思います、もしかするとお昼というか夕方になるかもしれませんが・・・・・・
それではこれにて
待ってたぞー乙
よし全裸待機
今回はちょっと短いですが投下しようと思います。
次はきっかり来週、投下量もいっぱいを目標としたいところです。
それではいきます。
現在の時刻は午後七時半、大広間を三つもつなげた大宴会場で俺たちは夕食をとっていた。
箒が溺れたりして一時はどうなることかと思ったが、すぐさま救出できたおかげで大事には至らず、今は俺の横で何事もなかったように夕食を口に運んでいる。
「箒、大丈夫か? 調子がおかしかったらすぐに言えよな」
「くどいぞ一夏。そのセリフはそれで何度目になる?」
しかしそれでも心配になるのが人の心ってやつで、箒の言うとおり昼間から今まで何度もこのやり取りを繰り返している。
弾なんかは過保護すぎるって言うけどこれくらい当たり前じゃないか?
「あんたねぇ、そんなこと言ってる間に自分がご飯食べてないじゃないのよ。さすがに心配のし過ぎよ」
ほら、隣の鈴からも言われた。
「これくらい当たり前だって。こういうのは過保護すぎるってくらいのほうがちょうどいいんだよ」
「なんかあんた孫を溺愛するおじいちゃんみたいになってるわよ」
「あながちその表現は間違ってないかもしれないな、あまりにも心配されるからそんな気分になってきた」
当の本人からもこの言われようだ。
それでもやっぱり心配なものは心配なんだよな。
かといってこれ以上何か言っても疎まれるか、鈴にあれこれ言われるから口に出すのはやめておくか。
それとなく気に掛けておこう。とりあえず今は別の話題でも振っておくか。
「ところで弾やシャルルはどこにいるんだろうな?昼も姿見えなかったし」
「あぁ、そういえばそうよね。でも弾は、ほら向こうの方で食べてるじゃない」
「昼食の時もこの近くの席が取れなかったのだろう。昼の時も私達から離れた場所で食事をとっていたしな」
確かに言われてみれば弾は昼食の時も俺達とは離れた位置で食べていたような気がする。
今も向かい合っている列の右の奥側でクラスメイトたちと談笑しながら箸を動かしている。
「あれ?でもなんで俺達の近くの席が取れなかったんだ?別に食事の席は自由に座っていっていいって千冬姉も言ってたよな」
いつもは食堂で顔をあわせれば一緒に飯を食っていたし、今日に限ってなんで離れた席で食っているんだろう?
そんな疑問を隣り合う二人にぶつけてみた。
「え?いや、それはさ・・・・・・なんて言えばいいんだろう?」
「そうだな。いいか一夏、今この場所では座布団が均等な間隔で敷かれている。学園のようにテーブルで何人かのグループを形成することは不可能だ」
「うん、そうなるな」
箒が何かを説明するような口調になり、今現在の大宴会場の状況と学園の食堂での座席の構成を述べていく。
唐突にそんなことを言われたから少々焦ったが、普段どおりに応対する。
「逆に今の状況では間隔を空けずに座っていくことが暗黙の了解としてある。そうなると、普段は近づけない人間の隣に座り、交友関係を良好なものにせんと話しかけたりすることが可能な状況に持ち込みやすくなる」
「そ、そうなのか?」
「そうなのだ。つまり私達の近くの席が取れない、ということがどういうことからそうなるのか分かるか一夏?」
「・・・・・・俺達の周りにそういう人たちがたまたま座って席が埋まっちゃった、とか?」
「はぁ・・・・・・」
なぜか盛大にため息をつく箒。
なんだ、俺なんか変なこと言ったか?
「これで正解にたどり着けるのなら自意識過剰気味だとうことになってしまうが、ここまで自覚症状がないのもどうかと思うな」
「むしろ、少しは自意識過剰気味になったほうがまともになるんじゃないかしら」
「 ? 」
な、何の話だ?よくわからないな。
「あ、でもさ弾の隣りにセシリアがいないっていうのも珍しいわね」
俺が小首をかしげている間に話題は違う方向に転がっていた。
鈴が弾のほうを顎で指しながら言う。
「うむ、それもそうだな。いつもならセシリアと五反田は隣り合って食事を取るのが普通だしな。確かにおかしいといえばおかしいな」
「でしょ。つーかセシリアはどこにいるのよ」
「ここにいないってことは隣の部屋じゃないか?セシリアの国は正座の文化なんてないだろうし」
先ほど弾を探した時にあらかたこの大宴会場の中を見渡したがセシリアの姿はなかったし、テーブルの設置されている隣の部屋にでもいるんじゃないだろうか?
シャルルとラウラもたぶん同じように隣のテーブル席の部屋にいると思う。二人の姿もこの部屋にはなかったし。
「でも一緒にいなかったら珍しいって言うくらいあの二人いっつも一緒にいるわよね。休みの日もISや料理の練習だって言って二人で行動してるし」
「そうだな、私達といる時間以外だと二人で過ごしていることが確かに多いといえるな。それを言うならシャルルたちもそうだが」
「セシリアもラウラも羨ましいわよね。いつもいつもイチャコラしちゃって」
「否定はしないな。私もそういう願望がないといえば嘘になる」
「あら、箒がそんな風に言うの珍しいわね。なんかあったの?」
「ふふ、強いて言えば溺れたくらいか」
「あ、ちょっとなに誤魔化してんのよ! なんか怪しいわね、さっさと白状しちゃいなさいよ、フェアじゃないわよ!」
なんか途中から話が横道に逸れて、女子二人でなんだか盛り上がっている。
なんの話をしているのかは判然とはしないが、つまるところ―――
「惚れた腫れたの話、か」
「「!?」」
ん、なんだ二人して俺の顔を見て。
どうしてそんな表情してるんだ?ツチノコでも発見したような顔をしてるぞ。
「い、一夏が色恋の話だと気付いた・・・・・・だと・・・・・・」
「明日は嵐かしら」
「おいっ! なんだよ二人とも人が鈍感みたいに言いやがって!俺だってそれくらい分かるよ!」
「「どの口が言うかっ!!」」
うぉっ! 二人とも凄い剣幕で怒鳴りつけてきた。
そこまで言うことないだろう・・・・・・・それに両側からそう怒鳴らないでくれ、結構怖いんだから。
「おい、お前達何を騒いでいる。静かに食事をとることも出来んのか?」
「げっ!? 千冬さんっ!」
うわ、この二人よりも怖い人だ。
「げっ、とはなんだ。それと織斑先生と呼べ馬鹿者」
「う、すみません」
鈴はいきなり現れた千冬姉にすっかり萎縮して、先ほどまでの勢いはどこへやら。
箒もすっかり緊張した面持ちになってしまっている。
「とにかくこの部屋は貸切になっているが、それでも騒いでいいという理由にはならない。話すなとはさすがに言わん、だが限度というものがある」
「は、はい」
「まったく、デュノア達といいお前達といいもう少し落ち着けないものか」
はぁ、とため息をつく千冬姉。
だけど千冬姉、なにか気になること言わなかったか。
デュノアってことはシャルルに何かあったのか?
「デュノアって、シャルル達が何かしたんですか? あいつが何か騒ぎを起こすなんて想像つかないんですが」
思わず俺は千冬姉にそう問いただしていた。
シャルルといえば紳士で王子様で、そんなことからは無縁のような奴のはずなのに。
「いや、あいつらが直接何かをしたわけではないんだがな。周りが騒いだというか、騒がれたというか。あの二人、いつの間にあんな風になっていたんだ・・・・・・」
千冬姉は疲れた表情で、愚痴のように言葉を漏らすが何があったのか把握するには情報量が足りなかった。
けれど直接シャルルが何かしたわけではないようだ。だとしたら・・・・・・ラウラ?
友人に対して少し失礼な思考が頭の中でめぐらされていたが、どうせこの後は自室に戻ることだしシャルルに直接聞けばいいかとそこで打ち切る。
「まぁとにかくあまり騒がないように。私がゆっくり夕食を食べられるよう静かにしておくように」
「はぁ、すいませんでした」
「わかればいい。あぁ、それと織斑」
「はい、なんでしょうか織斑先生」
ぶん、と何かが空を切る音が聞こえたと思ったら頭頂部に激痛が走った。
「最初に声をかけた時、何か失礼なことを考えただろう。教師にはもう少し敬意を払え」
「は、はい」
思い切り振りかざされた出席簿(どこから出したんだよ)で殴られたのだと一瞬遅れて気付く。
頭のてっぺんには尾を引く激痛、なんか耳の奥のほうがじんじんする。
いくらなんでもそんなことだけで頭を叩かれるなんて理不尽だ。
そう思っていても姉に言い返すことも出来ない俺は気を逸らすように目の前の夕食に箸を伸ばすのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまで。最初に言ったようにもっと投下量を多く、かつ早く投下したいものですね。
また来週にでも(戒めの意味も込めて)
それではこれにて
おつです!
乙
次は福音戦かな?続き期待してます
てかなんで弾はISを扱えるの?
ISは扱えてませんな
>>740
お前はここまで何を読んできたんだよwww
>>742
すみませんwwwwww
IISでしたね。
理由もしっかり読みましたwwww。
午前3時ごろに寒さに震えながら
耐えられなくて、我慢できずに
弾がIISを扱える理由が書いてある
所の直前でコメントしてしまいました。
糞スレすみません(´・ω・`)
>>743
それは良かったけど、メ欄の釣り針デカすぎるだろwwwwwwww
…本当に初心者なら悪いこと言わんからメ欄はsageって入れるだけにしときな?
>>744
どうもご忠告ありがとうございます。
誰かにメル凸される恐れはありますか?
される可能性は0ではないとだけ
好き好んでやる奴はいないが、業者とかはその限りではない
追いついた。正直原作よりも面白い…というかもうこれが原作で良い気もする…。
人間味のある心理描写や、五反田&シャル男の無理のない変更・追加設定のお陰で
原作みたいなイライラ(主にワンサマ関連で)も無く、スッキリと読めた。如何にも青春って感じがまた良い。
設定自体は良いのモノなのに、原作者がそれをどれだけ台無しにしていたのかが良くわかったよ。
まぁ、度が過ぎるハーレム&鈍感をやってた原作の方が色々と無理があったんだろうけど…。
生存報告です。来週にはと言っていたのに遅くなってきたので。
しかし今回は読み返してたらこここうしたほうがいいんじゃないか、と思って直してたらこんなことに。
まぁ遅くなったことは事実なのでこんな言い訳しても意味がないんですが……
一応ニ、三日中には投下しようと思っていますが余裕を持って水曜、木曜あたりに来ると更新してると思います。
>>739次は福音戦に至るまでを書き切りたいです。少なくても一、二週間以内に福音戦です。
>>743このSSは部屋を暖かくして画面から適度な距離で見てください。風邪を引いてしまいます。
>>747そういってもらえると作者冥利に尽きます。
自分でISの設定を読み解きながら書いてますが本当に設定がよくできてるんですよね。書きやすいったらないですよ。
報告乙
のんびりまったり書いてくださいな
エイプリルフールじゃないよね?
嘘を吐いていいのは午前だけだから問題ないやろ
きょーうはたのしいフライデー
こ、今週がもう残り少ない……ッ!
しえん
早く続きが見たいよー
早漏大杉
気長に待とうや
原作が詰んでる有り様だしこっちもエタったか…
なんだかエタったと思われた瞬間に現れる妖怪と化していますね。
お久しぶりです、少し寝込んでいまして投下遅れましたが明日の夜くらいに投下に来ます。
今回のはもう書き終っているので変更はありません。
それではこれにて
>>1報告乙
体調管理に気をつけて下さいな。
この程度の期間でエタったとか言うもんじゃないぞ。
数ヶ月や一年単位での再開だってあるんだし。
体調不良か、季節の変わり目だからな
舞ってるよ!
予告どおり、投下いたします。
遅れて申し訳ありませんでした。
それではいきます
夕食を終えて部屋へ帰った私は、風呂に入ろうと支度を急いでいた。
というのも私と同様に、同室の者もこの時間IS学園が大浴場を貸しきっているため今のうちに入ろうとしていたため結局皆で連れ立って行くことにした。
そして私は部屋の者のよりも若干遅れて部屋に戻ったため、支度を急いでいる次第だ。
「私を置いて行ってもいいのだぞ、すぐに後から行く」
「そんな薄情なことできないよ、それにお風呂行く準備なんてそうかからないでしょ」
「そうですよ。篠ノ之さん話す機会もあまりなかったですし、これを機会に交流も深めたいもの」
「す、すまんな」
部屋の割り振りを見たときは普段あまり話さないクラスメイトと一緒だったから少し不安だったが、接してみると案外優しい者達で安心した。
こういう人付き合いは不得手な私だから、あちらから誘ってくれたのも嬉しい。
(おっと、考えてばかりではなく手を動かさなければな)
それから数分も経たない頃だろうか、荷物をまとめて支度が整った頃だ。
私達の部屋に来訪者が現れた。
「邪魔をするぞ」
最近聞きなれてきたその声は、障子を開けると同時に発された。
その声の主は銀色の髪を昼間とは違い、いつものように真っ直ぐに下ろしている。
浴衣に身を包み込んだ少女は、声から想像したとおりラウラ・ボーデヴィッヒだった。
「箒、ちょっといいか?」
ラウラの目的は私だったらしく、私を見つけるとすぐに手をこまねく動作と共に呼び出してきた。
「すまない、用があるならば後でいいか?これから部屋の者と風呂に行くことになっているんだ。それとも急ぎの用か?」
「あ、いや。少しお前や鈴たちに話したいことがあってな。他の二人も風呂に行くと言っていたし、後でもかまわない」
「話したいこと?」
少々ラウラの顔が強張ったような気がするが、気のせいだろうか?
ラウラの顔を見直してみるが今はそんなことは全くない。
「まぁ後でいいというならお言葉に甘えさせてもらおう。ではいつにするんだ?」
「うむ、九時半ごろに私の部屋に来てもらうよう二人には言ってあるからそれくらいの時間に来てもらいたい。構わないか?」
「あぁ、わかった。では九時半にお前の部屋に行くことにしよう」
「時間をとらせて悪かったな。ではまた」
ラウラは用件を終えると素早く、なおかつあまり音を立てずに障子を閉めて出て行った。
やはり部屋を出て行くラウラはいつものラウラと変わったところがあるようには見えなかったな。
先ほどのあれは私の見間違いだったのだろう。
「時間をとらせて悪かったな。それでは行くとしようか」
「ボーデヴィッヒさんもお風呂に誘わなくてよかったの? たしか仲良かったでしょう」
「いつも食事やら風呂やらはよく時間があって一緒になることは多いんだ。だから別に今日一緒じゃなくてもいいだろう」
「そうなんだ。でも本当仲いいよね、織斑君達や二組の凰さんとかと」
「なんというか、入学してから奴らとは色々あったからな。否応無しに関わりが増えただけだ」
しかし一夏を始め、五反田やセシリア、鈴にシャルル、ラウラとは色々あったから、だけではすまないほど一緒にいる気がする。
元々一夏のそばには五反田がいるし、その隣にはセシリア。鈴も一夏のそばにいつの間にかいるし。シャルルと一緒にラウラも一夏の近くに来ていることが多い。
そして私も、目が勝手に一夏を探し隣にいようとしている。
こうして考えると一夏が中心になっているのだな、私達は。
奴がいなければ五反田がIISのテストパイロットに選ばれることはなかった。
あの二人がいないとなるとセシリアとも親しくはなれなかったし、一夏がいなければ鈴は学園に来る事もなかったやもしれん。
シャルルやラウラも同様だ。
(こうやって、幸せな学園生活を送れるのも一夏がいてくれたからなのかな? ふふ、こんなふうに考えるなんて私も存外あいつらのことが好きなのかもしれないな)
「うふふふ、篠ノ之さんにやけてる。織斑君のこと考えてるんでしょ?」
「んなっ!?」
「あ、真っ赤になった。図星なのかな」
「そそそそそんなわけあるか!」
「思い出すなぁ、織斑君の『勝利の女神』発言」
「忘れてしまえそんなもの!!早く行くぞ、大浴場を貸しきっている時間にも制限はあるんだからな」
「はぁ~い」
しぶしぶ、といった様子で皆部屋から出始める。
まったくあの時のことはいつまで言われ続けるんだ……
「いやぁ~意外と篠ノ之さんも可愛いところあるもんだね」
「そうだね、話せてよかったね」
後ろでひそひそと喋っているようだがこちらにもしっかりと聞こえている。
なんだかんだで私に好意をもっての言動なのでさすがにこれ以上怒るわけにもいかないし。
私はため息を一つだけ静かにつくと、聞こえなかったかのように何食わぬ顔で障子を開けた。
(しかしラウラがわざわざ人を呼んでまでする話とは何だ?)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
女性の風呂は長いとよく言われるが、私や周りの人間は女性としては比較的短いほうらしい。
今日同室の者から指摘を受けてようやく気がついた。
私の周りで長々と風呂に入っているのはセシリアくらいだ。
余談だがセシリアは私が大浴場についた時にはもういたし、私達が出る時もまだ湯に浸かっていた。ふやけるぞ。
まぁそんなセシリアの話はさておき、私は髪を乾かしながら約束の時間になるまで過ごした後、部屋の者に断って部屋を出た。
ラウラの部屋の前に訪れた時には大体言われたとおり九時半頃になっていたと思う。
「ラウラ、私だ。入っても構わないか?」
「箒か、入ってくれ」
目の前の障子の向こうに対してノックの代わりに声をかける。
ラウラの声が返ってきたので私は障子を開けて部屋に入る。
まず目に入ってきたのは鈴の姿だった。こちらに背を向けるように座っているが首だけをこっち側に捻っていたので目が合った。
鈴以外にラウラしかおらず、ラウラの同室の者も、セシリアも見当たらなかった。
「同室の者はいないのか? それとも出払ってもらったのか?」
「後者だ。今から話す話は隠すつもりはないが無闇に大勢に話すつもりもないからな」
「そうか」
机を囲んで置かれている四つの座布団のうちの空いている一つに腰を落とす。
部屋に訪れたラウラの様子から大体予想はついていたがやはりそういった類の話か。
だがラウラが話そうとしている話の内容は今だに予想がつかない。
あのラウラがこうして人を集めてまで話そうとすることだ、相当なことなのだろう。
悪い内容でなければいいが。
「で、後はセシリアが集まったら全員ね。でも大丈夫かしら、あの子お風呂長いし」
苦い顔で鈴がそうもらす。
それに対してセシリアには悪いが私も同感だった。
同室の者に言ったとおり私達は時折一緒に風呂に行ったりすることも少なくはないのだが、セシリアに付き合って湯船に浸かっていると確実にのぼせてしまうだろう。
それにセシリアは風呂から上がってからも長い、私や鈴、それにラウラも髪が長いから乾かしたりなんだりとやっていると長くなるのだがセシリアはさらに長い。
私や鈴たちが無頓着なのだろうか、とも思ったが私達は私達なりに気を遣っているし周りの者に聞いてみてもセシリアが長いという言葉が帰ってくる。
別にそれが悪いというわけではないので、どうこうと本人に対して言うのはお門違いだと思うし言ったことは一度もないのだが(鈴はよくセシリアによく言っているが)
「ま、セシリアもいくらそういうことに時間がかかるって言っても、約束の時間に遅れてくるなんてことはないわよね」
「うむ」
鈴のこの言葉に対しても同感だ。
そうやって時間をかけたりする奴ではあるが、何が重要か分かっている奴だしな。
セシリアはしっかりした人間だ。
普段からプライドの高い一面を見せるが、彼女は自分自身もそう振舞うに足る人物であるように努力できる人物だ。
(だがまぁ、本当のセシリアの性格と彼女の理想は少し違う方向性にあると思うがな。しかし、そこに生まれる差異が時々女の私ですらずるいと思えるほどの魅力にもなるが……)
「ところでラウラ、ちょっと喉渇いちゃったんだけど、何か飲み物はない?」
「茶をいれる道具ならばあるが……私はどうすればこれで茶ができるかわからないのだ。すまない」
「ふぅん。じゃあ勝手にいれさせてもらおうかしら。あ、それともあんたがいれてみる? 教えてあげるから」
「いいのか? それならば是非とも教えてもらいたい」
「おっけ、じゃあこっちの急須に――」
頭の中であれこれ考えていると、いつの間にか隣では鈴がラウラにお茶の淹れかたを一から教えていた。
意外と世話を焼くのが好きな鈴と、好奇心旺盛でなんでも知りたがるラウラは思いのほか相性がいいようだ。
私が横で何も言わず考え事に没頭していてもコロコロと話題を転がしている。
手持ち無沙汰になってしまった、どうしよう。
横であれこれとやっているし、なにか話題を振るにしても私の思考回路はこういうときに気の利いた話題などを搾り出すのに向いていないのか一つも働かない。
しょうがない、と諦めて机の上のお茶請けの入った容器に手を伸ばす。
いくらか種類があるようだがあまり大きいのは今の気分ではない。
おかきをニ、三手にとってそのうち一つは口の中に放り込む。
(む、予想以上にいける……案外いいものを置いているようだ)
ぽりぽり、と軽い音を立てて口の中のおかきを咀嚼する。
少し小さめのサイズだったからかあっという間に飲み込むまでにいたってしまった。
「箒ってせんべいとかは好きじゃないの?」
丁度二つ目を口に放り込もうとした所で鈴から唐突に声を掛けられ動きが止まった。
口を開いた間抜けな面だったと思う。
私は何事もなかったかのように、かつ速やかにいつもの表情に戻り鈴に相対す。
「別に嫌いなわけではない。ただの気分だ」
「一回せんべいに手を伸ばしてから引っ込めたから嫌いなのかなぁ、って思ったけど違うんだ。それとお茶、入ったからあんたの分」
「あ、すまない」
鈴の手の中にあった湯のみを受け取り、一口含む。
程よい苦味が口の中に広がり、今まであったお茶請けの塩気を喉の奥に流し込む。
うん、うまい。渋みも少なく、きちんと淹れてある。
「箒、どうだ?」
私が茶を飲むのを横でじっと見ていた、ラウラは私が飲み込むのを見て即座に聞いてきた。
顔だけ見るといつもと変わらないようにも見えるが、すぐに聞いてきたところを見ると若干不安に思っているのだろう。
「うまいよ、初めて淹れたとは思えないぞ」
「そうか」
そうか、そうか、と何度も反芻するかのように呟くラウラ。
やはりいつものように無表情だったがいくらか嬉しそうに見える。
付き合いもそれほど長いとは言えないが、それなりに分かるようになってきたな。
「ちょっと、私にはないの? 教えたの私なんだけど」
「ああ、はいはい。お前は教えるのがうまいな」
「なんで私に対しては投げやりなのよ」
不満そうに言う鈴に対しては笑って返す。
笑って誤魔化すな、と反論してくるのは無視しておこう。
「ラウラさん、いますかしら。セシリアですわ」
おっと待ち人がようやく来たようだ。
時間を見てみると九時半を少しまわった程度だ、案外私が早く来ていたのかもしれないな。
「あぁ、入ってきてくれてかまわない」
ラウラが声を返すと障子が開き、見慣れた姿が入ってくる。
セシリアの金色の髪は湯上りだからか、いつもよりしっとりとしている。
私や鈴とは違ったツヤがある、あれでは時間がかかるのもうなづける気がしないでもない。
「あら、もう皆さん揃ってますのね。私が最後とは」
セシリアはそういって最後に残っていた座布団の上に腰を下ろした。
「うむ、では話を始めようと思う。が、その前に――」
ラウラが遂に話を始めるかと思われたが何かがあるようだ。
セシリアが来たことだしてっきりこのまま本題に入るのかと思っていたのだが、一体何が?
「このお茶を飲んでみてくれ」
す、とセシリアの目の前に先ほどラウラの淹れたあのお茶が差し出される。
「え、これを飲めばいいんですの?」
「あぁ」
セシリアも私達と同じように思っていたのか多少戸惑っているようだったがどうみてもただのお茶だ。
いぶかしげな表情をしたものの湯飲みを手に持って一口こくり、と飲み込む。
その間中ラウラはセシリアの顔を覗き込むように見ている。
「どうだ」
「え、どうだ、とは?」
あぁ、今のラウラのこの表情、いつものような無表情に見えるけれどコレは違う。
これはあれだ、俗っぽい言葉は得意ではないからすぐに思い出せないが、よく一夏が下らんことを考えてる時にする表情で……
(あ、そうだ。『ドヤ顔』というやつだ)
「味だ、このお茶の味はどうだと聞いているんだ」
「え、味ですか? そうですわね……」
ラウラはドヤ顔でセシリアに迫っている。
察するに先ほどの私からの評価を受けて浮かれているのだろう。
ラウラにしては珍しい。何か良いことでもあったのか?
「うむ、どうなのだ」
当のラウラは鼻を鳴らしながら――本当に鳴らしていたわけではない、鳴らしていたら相当驚く――セシリアにさらに迫っていた。
ここまで高揚したラウラは見たことがないな、少しあれな言い方だが……調子に乗っているといってもいいかもしれない。
だがセシリアの顔、あの顔はどう見ても――
「えと、なんと言いますか私は日本のお茶と言うのはどうも馴染みが薄いもので。勉強はしているのですが……」
「……」
あ、あの顔は分かるぞ。悲しいというか、落胆した顔だ。
「そうか、では本題に入ろう。皆も揃ったことだしな」
「あの、それでも私的にはおいしかったなぁ~、と思ってるのですが……」
「フォローなどいらない。いらないぞ」
誤魔化すように本題に入ろうとするラウラにフォローを入れるセシリアだったがラウラはそれも拒んで強引に進める。
褒められたのがそこまで嬉しかったのか?
「んんっ、お前達に集まってもらったのは他でもない、お前達に聞いて欲しい事があったからだ」
区切りをつけるように咳払いを一つして、ラウラは口火を切った。
先ほどまでのような雰囲気からやや緊張感のある空気に変わる。
ラウラの表情から今度は何も窺えない。
というよりも今は見たとおりの無表情のまま語っているのだろう。
「私はあまり回りくどい言い方は得意ではないし、この話にはそういったものも必要ないと思うから単刀直入に言う」
一呼吸、一拍だけ間をおく。
そしてラウラはいつもの通り、淡々とした口調で次の言葉を紡いだ。
「シャルルと正式に付き合うことになった」
一瞬、ラウラが何を言っているのかわからなかった。
ラウラがシャルルに対して好意を持っていることは公言していたし、身近にいる私達としてもその言葉が嘘偽りのないものだと分かっていた。
だからこそラウラが言った言葉に対して、今更何を言っているのだ、と思った。
しかしきちんとラウラの言葉を理解すると、私が勘違いしていただけだと気付く。
シャルルに対する好意を示した言葉ではなく、シャルルとラウラ、相互の好意を認め合ったという意味の言葉だということに。
「えぇっ!?」
あまりにも衝撃的な言葉に思わず私は素っ頓狂な声をあげてしまう。
「ど、どっちから!? どっちから告白したの!」
「教室であんなことまでされておいてうやむやのままにしていたシャルルさんを相手に、どんな魔法を使ったんですの!?」
「おいセシリア、ちょっと失礼じゃないか?」
セシリアと鈴はぐいぐいとラウラに問い詰めている。
気持ちは分かるが少し抑えたほうがいいんじゃないか?
「告白、か。シャルルからとも言えるし、私からとも言えるな」
「結局どっちなのよ、分かりにくいわね」
「今日だけで言えばシャルルからだが、セシリアの言ったとおり私は以前教室で思いの丈をシャルルに打ち明けている。それならば私から、という言い方も間違いではないだろう」
「つまり、あの時の返事を今日もらったって感じかしら。案外シャルルも甲斐性あったのね」
「あの日からずっと返事をしないままでしたものね。私もそこは意外でしたわ」
シャルルは、思いのほかそういう方面で信用がなかったのだな。
まぁ鈴やセシリアの言うとおり、私もシャルルがそこまで積極性を持っていたとは思っていなかった口だが。
「でさ、ラウラ。この話知ってるのって私らだけ?」
「ん、いや。同じクラスの布仏と櫛灘も知っている。あの二人は少し関係があってな、伝えておいた」
「それを除くとあたしらだけ?」
「まぁ、そうだな。あとはシャルルが織斑一夏と五反田に伝えると言っていた」
「ふぅん、まぁそれなら大丈夫か」
鈴が一人何かに納得するように頷く仕草をとる。
「何が大丈夫なんだ?」
思わず聞いてみる。
「ん、まぁシャルルとラウラなら反感買ったりすることはないと思うけど、あたしが知らないだけでそういう馬鹿が出ないとも限らないしさ。一応の確認よ」
「そういう馬鹿? そういう馬鹿とはどういうことだ鈴。祝福こそすれ反感を買うような話でもないだろう」
「あ~、一組にはそういう子は確かにいないでしょうね。よく行ったりするけどみんないい子そうな顔してるわ。でもね、この世にはそんな子ばっかじゃないのよ。それくらいわかるでしょ?」
「っ!!」
鈴の言葉に返す言葉を失う。
私だって聖人君子じゃない。そういう輩がこの世にいない、なんてことがないことを知ってるし、私だって嫉妬に身を焦がされた経験がないわけではない。
だがラウラがシャルルのことを好きでいる気持ちを近くで見てきた身としては、そんなことがあるのが許容できないし、単純に祝福したいという感情が心の中を占めている。
「箒、私もあんたみたいに率直に祝福したいわよ。それでも一夏たちがいない、そういう場所ではあの三人に対して皆がどういう風にあいつらや特に仲良くやってる私達への評価や感情が見えやすいわ」
現実問題、この学校のたった三人の男子。注目をされないほうがおかしい。
その三人を見方によっては独占している私達、中には良く思っていないものもいるだろう。
知らないわけはないし、理解してないわけではなかったが、いつの間にか見えなくなっていた。
周りにはいい者たちだけだった。時にはからかってきたりもするがそれも心地よかった。
運が良かっただけだ。そういう者たちに囲まれていて、そういう者たちがいなくなってしまったように思っていたんだ。
「いい、ラウラ。あんまりシャルルとの仲を周りに見せ付けるような行為は控えなさい。少しずつシャルルはあんたと一緒なのが自然っていう風に持っていくの、まぁ今もそんな感じだけどさ。用心にこしたことはないわ、周りとわざわざ衝突するような真似することはないの」
鈴の言っていることは理解できる。
実際鈴の言うとおりにするのが正しいのだろう。
(だが――)
「私は、やはり納得いかない」
言葉が口から零れた。
理性で制御できない部分が心の端から溢れる。
「納得いかない、って。そりゃあ私達は応援する立場だったもんね。でもあんただってあいつが……あんたの好きな奴が他の子にとられちゃったら平気でいられる?」
「それは……私は……」
鈴からの手痛い返し。
恐らく私は、平気でいられないと思う。
言葉に聞いただけで、想像してしまっただけで、身を引き裂かれそうになる。
「私だって無理、絶対頭にくるわ。普通じゃいられなくなるわ。きっと」
それでも。
「綺麗なものだけでこの世界はできていないもの。甘かったり、辛かったり、すっぱかったり、色々ある中にちょっぴり毒が混じってる。それくらいのバランスで――」
それでもだ。
「それでも私は、納得したい」
「はぁ?」
「いつか、もしも一夏が私ではない誰かを選んだとしても、私はそれを祝福したい」
鈴の言葉を真っ向から受けて尚、私は言葉を前に突き進める。
「勿論今ラウラを祝福するような純粋な気持ちではないだろう。けれど私は祝福したい。そしてそうできるように、後悔のないよう日々を歩みたい。いや、歩んでみせる」
感情的な言葉だ。
一つも論理的ではない。
未熟者め。
自分の中の理性的な部分が私を嘲笑う。
けれど私はまだまだ子供で、理知よりも感情から生まれた何かを優先してしまう。
「なによそれ。青臭いってーの通り越して意味不明だわ」
鈴から帰ってきた言葉、やはり鈴もそう思うのだろう。
私だって自分でもそう思――
「けどまぁあんたらしいわ。頑固で不器用で、理想論者でしかもそれを実行しようと突っ走っちゃう」
はぁ、とため息をついて呆れたように鈴が言う。
くすくすと言う笑い声、向かいのセシリアからだ。
「箒さん、熱くなりすぎて論点がずれてますわよ。それに鈴さんも悪役が似合ってないですわ」
「はいはい、そんなこと重々承知してますよ~だ」
え? どういうことだ?
鈴が悪役、とは……
「ああもう、箒もラウラも分かってない顔ね。あんたらってば私がこういうこと言わないと現実的な問題を無視しちゃうでしょ、だからわざわざこんな場所でああいう話題を出したのよ」
「鈴さんったら話の入り方が雑すぎて不自然でしたわよ。憎まれ役を買って出るのならもう少しうまくやってくれませんと」
「じゃああんたがやんなさいよ。あたしだってラウラがシャルルと付き合いだしたの素直にお祝いしたかったんだから」
「私のキャラじゃありませんもの~。そんな役は優雅じゃありませんわ」
先ほどからの緊迫したような、重苦しい空気はどこかに吹き飛んでいってしまって、いつの間にか普段のような和気藹々とした雰囲気になってしまっている。
つまりあれか? さっきまでのあの問答は結局鈴の思惑通りに進んでいて、私はそれに勝手に熱くなって、それで……
あぁ、頬が熱くなってきた。なんと私は愚かしいのだ、なんと私は滑稽なまねを。
「とまあ湿ったドロドロな話はこれにて終了。ラウラもそういう輩もいるってことを覚えておいてくれればそれでいいから」
「ああ、了解した。とは言え私も妬み嫉みを受けてこなかったわけでもないからな、初めからわかっているさ」
「それなら安心。あ、でもねシャルルはどっからどう見ても奥手な手合いだから、チャンスがあったらガンガン攻めていくのよ。いつまで経っても進展なし、みたいなことになるからね」
「そうですわよ、シャルルさんは所謂草食系男子という奴ですからね。こちらから歩み寄ってあげなければ」
やはりシャルルは信用がないのだな。
心の中で苦笑いが漏れる。
だが、なんというかこれでこの件は一件落着、ということか。
最初は何の話かと思っていたが、喜ばしい話題だったし、途中暗い方向へ逸れるかと思ったがそれは……私の勘違いでした、と。
まぁなんやかんやとあったが、一つ忘れていることがあったな。
「ラウラ」
「なんだ箒」
「おめでとう、心の底から祝福するよ」
いざ、口にすると少々照れるな。
人へ、特にこんな色恋沙汰で友人を祝福するような機会はこれまでなかったからな。
もっとなにか気の利いた言い回しでもあったらいいと思ったのだが、私にはコレが精一杯だ。
ラウラは、いつもの無表情が崩れて、口元をむず痒そうにしきりに動かしている。
頬はほのかに紅潮して、嬉しそうにしているのが百人が見て百人がわかるほど顔に出ている。
今日のラウラは今まで見せなかった面を良く見せてくれる。それもシャルルのおかげなのだろうか。
そういえばお茶の件で妙に高揚していたのもそのことがきっかけなのかもしれないな。
「そういえば肝心なことを忘れてたわね。ラウラ、私からもおめでとう。せっかくくっついたんだから離さない様にしなさいよね」
「私からも、ラウラさんおめでとうございます。これからお二人に幸多からんことをお祈りしていますわ」
ラウラの顔も、二人の言葉に遂に表面上でもいつもの表情を保てなくなり、はにかむような笑顔が花開いた。
部屋中に空気を伝播して嬉しさが伝わるように、皆、意識せずに笑顔になってしまう。
「あ~、でもまさかこんな早くにくっついちゃうなんてね。予想はできたにはできたけど、案外長引くかもなぁって思い始めてたからなぁ」
「そうだな。いつかは付き合うだろうとは思っていたが、まさかそれが今とはな」
「でさでさ、結構気になってるんだけど聞いていいかな? なんでそんなことになったのか! 言い出したのはシャルルなんでしょ、あいつがまさかね~」
「別に経緯を話すのは構わないぞ、そうだな、どこから話すべきか……」
「あっ、そういえば今日の夕食の時のことを聞くのを忘れてましたわ! 一体どういうわけであのようなことに?」
「ん、それはあれのことか? 私が箸の扱いに慣れてないからシャルルに頼んで――」
「ちょっと待った! 今はあたしの聞いてる用件が先よ! 順番順番」
「ふふふ、全く、騒がしくしていたら千冬さんが来るぞ」
ああ、本当に嬉しそうにするのだな。
ラウラも、私達も。
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ひどい目にあった夕食もあの後は何事もなく進み、朝ぶりに自室へと帰ってきていた。
弾とシャルルは先に戻ってきていたのか机を挟んで座りながら駄弁っていたようだ。
俺が部屋のふすまを開けると二人は揃ってこちらに視線を向けた。
「一夏おかえり」
「よう、お茶いるか?さっき淹れたばっかりだからぬるくはねえぞ」
「あぁ貰うよ、せっかくだし」
部屋に備え付けてあった座椅子の空いている一つに腰を下ろし、弾が注いでくれたお茶に手をつける。
ん、さすがいい旅館なだけあってお茶もいいものを置いているようだ。
いつも自分が部屋で飲んでいるお茶も悪いものではないはずなんだけど、比べてみるとやはりこちらのほうが数段上のお茶を使っているんだろう。
「茶を飲んで何そんな難しい顔をしてるんだお前は」
弾にそう指摘されて自分が渋い顔をしていたことにきづいた。お茶だけに。
「それ、面白くないよ」
そして的確に心を読んでくるシャルル、そんなに俺の考えって読まれやすいのか?
「なんつーか、俺は一人で何か考えることもできないのかよ。こんなに読まれやすいなんてさ」
「普通にしてれば別にわからないんだけど、こう、今一夏はくだらないこと考えてるなっていう時はとっても分かりやすいんだよね」
「それもそうだな。むしろいつもの一夏は何考えてるのかわからないほうだしな。直進的だと思ったらいきなり突拍子もないことしたりすることもあるし」
「そうかな?別に俺は普通だと思うんだけど」
自分からしたら分からないことも、人から見るとそう見えることもあるんだな。
俺はまた手に持っていた湯のみに入っているお茶を一口すすった。
しかし本当にいいお茶だな、お茶請けが欲しくなる。
机の上のお茶請けを容れておく容器に手を出し、その中をあさる。
「お、せんべいかと思ったらおかきか。まぁこっちの方が一口で食べれてお茶請けとしては好きだけど」
「せんべいもあるぜ、あと歌舞伎揚げもある」
「へぇ、案外色々入ってるんだな」
そう言いながら容れ物の中を覗き込むと確かにせんべいや歌舞伎揚げ、先ほど手に取ったおかきなんかも入っている。
種類は多いがそれほど数が少ないということもない、かといって容器が大きいわけでもなくお茶請け自体が普通よりも小さめになっている。
たぶん一口で食べられたほうがこういう干菓子なんかではカスがこぼれにくくなるからだろう、こういうちょっとしたことにも力を入れているとは、やはりこの旅館はできる。
そんなことを考えつつ俺は手元のおかきを口の中に放り込んだ。
「なぁ、風呂の順番はどうする? 大浴場までとはいかなくても備え付けの風呂もなかなかの設備だし。あ、牛乳あるか? 瓶のやつ」
「瓶の牛乳ならもちろん冷やしてあるぜ、夕食の帰りに売店よって買ってきた。……でもなちょっとその前にシャルルから話があるみたいなんだ」
「シャルルから?」
俺はシャルルに視線を向ける。
シャルルは俺の視線に気付くと、照れくさそうな笑みを浮かべて首を縦に振る。
「俺が部屋帰ってきたらシャルルが俺と一夏に話があるって、んで三人揃ってから話したいことがあるってよ」
「そうなんだ、結構大事な話。あ、でも別に暗い話ではないよ! 暗い話ではないけど、その、茶化さないで聞いて欲しいんだ。二人には」
恥ずかしげにな表情を浮かべてはいるけれど、シャルルは真剣にその話とやらを聞いて欲しいようだ。
どんな話なのかは全然わからないけれど、シャルルにそう言われたらそうしてあげようと思う。
大事な友人が大事な話だと言ってきたのだ、聞いてやろうじゃないか。
「じゃあいいかな、二人とも」
「おう、いいぜ」
シャルルの問いに、弾は言葉で返し、俺は無言でうなづくことで返答した。
俺達の了承を待って、シャルルは話し始めた。
「えっと、まずどこから話すかちょっと迷っちゃうんだけど、そうだなぁ……二人はラウラが僕に対して、その、あぁ、好意を抱いてることは知ってるよね」
「そりゃあ、あんだけのこと朝っぱらからやられちゃあ分からないほうがおかしいっての」
「茶化さないでって言ったよね」
「あ、悪い悪い」
じと、っとした目で睨みつけられ弾もそうそうに謝る。
弾が再び口を閉ざしたのを見て、シャルルは続ける。
「そして、今日のお昼前。ラウラに、ラウラに僕のほうから告白して交際することになりました」
続けたと思ったらすぐさま結論に至っていた。
それにしてもラウラと付き合うことになったのか。
(へぇ~。)
………………え?
「「ええぇぇえぇぇぇぇええぇぇぇっっ!!??」」
大絶叫。
喉がどこかに行ってしまいそうなくらい声を張り上げる。
それほど驚いた。
昔の漫画だったら目玉と歯が前に飛び出したりしてたけど、今の俺達もそんな風になってそうなくらい驚いた。
「お、驚きすぎだよ」
「いやっ! 驚くよ、いきなりすぎるだろう」
「そうかなぁ?」
「だってお前、衆人環視の教室であんな風にラウラに言い寄られてまで付き合わなかった奴が!」
「いきなりあっさり付き合いますって!」
「二人とも息ぴったり」
苦笑いを浮かべるシャルル。
でも俺も弾も本当にシャルルとラウラがこんなに早く付き合いだすなんて予想していなかったんだよ。
おそらく箒たちも同じ意見だとおもう。たぶん。
「でも二人に打ち明けて、また前みたいに追いかけられるのかと思ったけどそれは杞憂だったみたいだね」
「つーかそんなことよりも驚きが勝っちまって、それどころじゃなかったわ」
「俺もだよ。こんなに叫んで千冬姉が来たらどうしようか」
「うわっ、それは考えてなかったな。まじ怖ええ」
言いながら大げさな動作で自分の体を抱くような仕草をとる弾。
そんな風にふざけてるとマジで千冬姉が来そうで怖い。
けれどさっき千冬姉と言ったことで少し思い出したことがある。
「そういえばさシャルル、夕飯の時に千冬姉がシャルルがどうの、って言ってたけどシャルル何かしたのか?」
「え、織斑先生が?」
ふと思い出したことを口に出しただけだったのだが妙にシャルルの反応が気になった。
千冬姉の話をした途端バツの悪そうな表情に変わった。
さっきまでは気恥ずかしいような、はにかんだような表情だったのに。
「本当に何かあったのか?」
「いや~、えっと、そのぉ」
追求してみるとシャルルの表情はどんどん曇りだす。
これは絶対何かしたのだな。
俺はシャルルの隣にすすっと移動すると肩にてを回し逃げられないようにする。
「ほらほら、観念して早く吐いたほうがいいんじゃないか? シャルルたちがいた場所で飯食ってた生徒に聞けば一発で何やってたかばれるんだからさぁ」
「う、うぐぐ……」
俺はできる限り悪い表情を作ってシャルルに迫る。
シャルルも乗ってきているのか素なのかは分からないが、迷っている顔だ。
「おいおい、何やったんだよシャルル。ほれ、言ってみ言ってみ」
「だ、弾まで~」
やはりここは中学時代からの親友は分かってらっしゃる。
俺が抑えている逆側からプレッシャーを掛け始めた。
「ほれほれ~」
「吐いちまえよ~」
俺達の息の合ったプレスに耐え切れなくなったのか。
それとも単にむさい男二人に両側から密着されるのが嫌だったのか。(後者が濃厚)
シャルルはとうとう夕食の時に何があったかを語り始めた。
「ラウラがお箸使ってるの、二人とも見たことある?」
「は?」
「いや、俺はないな。大体スプーンフォークを使ってるし、それが?」
「今日の夕食、全員分同じメニューだったよね。全部和食で統一されてた」
テーブル席のほうは実際に見ていないけど、そうだったんだろう。
でもそれがどういうことに繋がるんだ?
「僕はお箸が使えたけど、ラウラはお箸が使えなかった。それでラウラが僕に頼ってきたんだよ『食べさせてくれないか?』って」
「あぁ~、なるほど。分かったわどういうことなのか」
え? 弾は分かったのか?
「その時僕がお箸の使い方を教えるだけだったら良かったんだけど……ぼ、僕も少し浮かれててね。うっかり了承してしまって」
恥ずかしげに頬をそめるシャルル。
「それで、その光景を見た何人かが『自分にも食べさせて!』って言ってきてちょっと騒々しくしちゃって」
「千冬姉に見つかったと……」
「あはは、まだ少し痛みが残ってるかな」
そう言いながら頭をさするシャルル。
でもあれだな、なんというかそういうエピソードって――
「さっすがシャルル、やっぱりモテル男は違いますな~」
「一夏が言うのもあれだけど、俺なんかが同じ状況に陥っても誰も寄ってこねえぞ~」
もてない男の苦しみを喰らえ!
両側からぐりぐりとシャルルの頭に拳を押し付ける。
「あぁ~、絶対一夏には言われたくない。一夏には言われたくない~」
「訳の分からないことを言うな、この彼女持ちめ! 非人類め!」
シャルルがよくわからないことを言っているので頭から頬に拳を動かしてぐりぐりする。
シャルルの整った顔がおもしろいように変形していく。
「こんなことになるから言いたくなかったのに~」
「どうせばれるっつーの。でもなんていうかさ、こんなふざけてことばっか言ってるけどよ」
ちらりと弾が俺に視線を向けた。
なんとなく、その意味は理解している。
俺達が言っていないこと、言わなければならないこと、それを言うタイミングなのだと目で語っている。
だから――
「「シャルル、おめでとう!」」
大事な友人の、祝福すべき喜ばしい出来事。
少々茶化しすぎたかとも思うけど、ちゃんと言えてよかったと思う。
「やっぱりお前とラウラはお似合いだと思うぜ、しっかり手を掴んでやって離すんじゃねーぞ」
「いきなりで驚いたけど、やっぱり良かったと思う。改めておめでとう、シャルル」
今の今まで茶化したりなんだりしていて、いきなり手のひらを返したように真面目になった俺達に面食らったようにしていたシャルル。
だけど、そんな顔はすぐになりを潜めて――
「ありがとう! 一夏、弾!」
満面の笑みを、俺達に向けてくれた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はい、今日はここまでです。
この次の投下が終われば福音戦に入ります。
ですが少し長くなるかもという懸念事項が一つありますので、一週間か二週間かかりそうです。
でもこれからは一週間ごとに生存報告くらいは残していこうかと思います。
何もなしに待たすのも悪いと思いますし。
今回の投下分ではけっこう自分の未熟な部分とかが前面に出ていると思います、書いていてかなり実感しました。
まだ人の心情や、それに対して人がどう思うかとかの想像力が足りないようです。
うまく表せてないような気がします。
まぁそういう部分もこれからがんばって表せるようにしたいと思いますけど。
他にもこういう部分が変だったとか、不自然だったとか意見があったりすると嬉しいです。
それでは長くなりましたがこれにて。
乙でした!
男組のやりとりいいねww
実際は3者ともモゲロなわけだけどwwww
乙
いつも楽しんでます。
これくらいのワンサマは好感が持てる(鈍感度的な意味で)wwww
乙
一ヶ月何も書き込み無いと落ちるんだっけ?
まってるよ!
続き待ってます
禿同
ちょっと遅くなりすぎてるので生存報告。
まだ死んでませんよ!僕は帰ってきますから!
できれば今週中には投下したいんですけどね……ははは……
とまぁ生存報告がてらに少し聞きたいことがあるのですが、また投下の前や後でもいいので答えていただければ幸いかと。
さすがに投下までの時間は作業の進行状況に左右されますからなんとも言えませんが。
それ以外の点でこうして欲しい、ああして欲しいなどの要望があれば応えていこうと思います。
内容については変えるのは難しいかもしれませんが、生存報告はマメにあったほうがいいとか、番外編いらねー、とか。
そういったシステム面では応えられる面があると思いますので、何かあれば言ってください。
それでは作業のほうに戻りたいと思います。
出来うる限り早く、また皆様にあえるよう努力したいと思います。
それではこれにて
生存報告は豆に欲しいかも
毎回早く読ませろ読ませろとムチ打ってあげます
個人的にはこのSSの設定活かした番外編をもっと読みたい
それだけ、あなたの書くSSを気に入ってるので
もちろん捻り出した番外編はいらないよ、自然とあなたが書きたいものを読みたいな、と
鞭打つかどうかは別として不安になるんで2週に1回ぐらいは生存報告してくれると
明日からのデスマーチも乗り切れる気がするんだww
内容は番外編だろうがなんだろうが自由でいいと思う
生存報告は>>789の通り2週に1回くらいが本当にちょうどだな
二週間に一回の定期報告。もとい生存報告です。
現在作業は95%終わっていますので近日中にあげられると思います。
番外編はまだアイデアもないのでまた本編3巻分が終わった頃のお届けになると思います。
一応今すぐにでも上げられる量がありますし、遅くなりそうなら週末に一度本編の更新に来ます。
恐らく間に合ってもそれくらいですかね。
それでは今日はこれにて
まってるよ
乙乙、応援してます
乙
そういや原作っぽい方は結局打ち切りか?
お待たせしました。本当ギリギリ週末です。
今回から特にIF要素が強まります、そこに対する反応にはドキドキですが、この話的にはこの方向がベストだと信じているのでこう進みます。
では福音戦前まで、投下していきます。
臨海学校二日目、天気は昨日に引き続き快晴。
海は日差しを受けて輝き、俺達の瞳をちくちくと刺激する。
これで今日も自由行動なら言うことはないのだが生憎今日はISの各種武装の試験運用データ取りに全てあてられる。
特に専用機持ちの俺達はやることが多い。
「ようやく全員集まったか――おい、遅刻者」
「はいっ!」
「は、はい」
遅刻者というのはラウラとシャルルのことだ。
この二人が遅刻なんて普段だったらありえないと思うところだけど、昨日のこともあるしな。
何があってもおかしくはないだろう。
「そうだな、ISのコア・ネットワークについて、説明してもらおうか。まずはボーデヴィッヒ、お前からだ」
「は、はい。ISのコアは相互情報交換のための通信ネットワークを持っています。これは元々広大な宇宙空間の中での相互位置情報交換のために設けられたもので、現在はオープン・チャネル、プライベート・チャネルによる操縦者会話など、通信に使われています。
それ以外にも『非限定情報共有(シェアリング)』をコア同士が各自に行うことで、様々な情報を自己進化の糧として吸収していることが近年の研究で明らかになりました。これは製作者の篠ノ之博士が自己発達の一環として、
無制限展開を許可しているため現在も進化の途中であり、全容はつかめていないとのことです」
「よろしい、ではシャルル」
「はいっ!」
ラウラから視線を外した千冬さんは次の獲物に狙いを定めた。
その鋭い視線にシャルルは怯えた様子でありながらも出来る限り大きな声で答えている。
「返事だけはいいな。ではコアの無いIISはISとどうやって通信に互換性を持たせている?」
「え? それは……わかりません」
「正直だな。だがそれで正解だ、私も知らん」
だったらなんで問題として出したんですか。
シャルルも怯えた表情から困惑顔に早変わり。
「さて、今日は各班ごとに割り振られたISの装備試験を行ってもらうのだが、その前に今回、この装備試験に参加する外部の人間が一人いるので紹介しておこうと思う」
外部の人間? IS学園の行事って基本外部の人間が関わってくることなんてないはずなのに。
「立花博士、どうぞこちらへ」
千冬さんが声をかけると、俺達生徒が並んでいる列の後ろ側から白衣を羽織った男がゆっくりと前へ歩いてきた。
年齢は三十代後半、髪をオールバックにまとめたその男は、博士と呼ばれていたがどちらかと言えば街でバイク屋などを営んでそうないかつい顔つきだった。
千冬さんの隣に立ったその男は力強い視線で俺達の顔をざっと見回し、満足げににやりと笑った。
「立花藤吉(たちばな とうきち)だ。IISの主な設計、開発を担当してる。今回はIISの装備試験のために招かれた、まぁ、よろしく頼む」
簡単な自己紹介を終えた男は、一歩後ろに下がってポケットの中からタバコを取り出し火をつけようとしたが山田先生が横からたしなめた為、しぶしぶといった様子でタバコをしまった。
そこで男と俺の目が合った、男は先ほどと同じようににやりと笑ったが、今度は幾分か意地の悪そうな色が見える。
そして男は俺に目を合わせたまま、声を出さず口だけを動かした。
『ひ・さ・し・ぶ・り・だ・な』と。
聞いてないぜ、立花さん。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺と立花さんが初めて出会ったのは俺がIS学園に入学する一月前のことだった。
政府から玉鋼の、この頃は名前を知らなかったが、テストパイロットに選出されたという旨の封筒が届き、俺は立花さんの研究施設まで足を運んだ。
正直このときの俺の心境は、もしかしたらなにか騙されているんじゃないか? 一夏がISを動かせると世界中で話題になっていたし、それにかこつけた詐欺とかじゃないか? そんなことが頭を巡っていた。
もちろん両親と一緒に国に問い合わせて、真偽は確かめてあるのだがどうしても疑ってしまうのは俺が小心者だからか、もしくは……
まぁそれはともかく、俺の目の前にはテレビドラマなんかでよくあるような研究所らしい研究所が明確な存在感をもって建っていた。
「い、行くか」
自身を鼓舞するために出した一言だったが、その声は明らかに気後れしているのが自分でもはっきりわかってしまうほど弱弱しい響きだった。
研究所に足を踏み入れる前から出鼻をくじかれた形になってしまったが、入らないわけにもいかないので無理矢理に足を動かす俺。
思い返してみるとこの頃の俺って情けないやつだなぁ。
「ようこそ。五反田弾君ですね、早速だけど担当者がここにはいないんだ。案内するからついてきてくれるかい?」
「あ、は、はい」
最初に研究所を訪れて会ったのは立花さんの部下の男の人だった。
眼鏡かけてていかにも学者っぽい格好してたし、神経質そうな顔立ちで、気が引けていた俺の心はさらに縮こまってしまっていた。
戦々恐々といった調子で前の男の人の背中を追いかけていくだけで、周りに気をつかう余裕もなかった。
そのまま何度か角を曲がり、エレベーターで地下に降りて、目的の部屋につくまで俺達の間には全く会話がなかった。
ちなみに、この人に後から聞いた話だがこの時の俺は予想以上に萎縮していたものだから笑いをこらえるので必死だったらしい。
そこまで滑稽だったんだな、俺。
「主任、件のテストパイロットの五反田君がおいでですよ。入りますね」
部下の男の人がノックの代わりに声をかけてドアノブを捻って中に入った。
それに続いて俺も中に入る。
中に入った俺の目に飛び込んできたのは無骨な鋼の塊。
後に俺が搭乗することになるIIS、玉鋼の姿だった。
全体的なフォルムは流線型であるのにどこか無骨な印象を与えるデザイン。
蛍光灯の明かりを反射し、鈍く光る装甲。
ところどころむき出しになった駆動部分からは油の臭いがした。
見とれていた、初めて間近で見たISだからだろうか? いや違う。
このIISだったからだ、この玉鋼だったからだ。
玉鋼のバックボーンや、製作に携わった人間の思いを知った今だから分かる。この時の俺が見とれたのは目に見える部分もそうだが、そういった目に見えない部分を知らず知らずのうちに感じ取っていたからじゃないだろうか?
俺がそうやって見とれていたからだろう、部屋の中のもう一人の人物に気付かなかったのは。
「おい、そこのガキ」
荒い呼び方、粗暴そうな声色、たった一言の言葉だけだったがこの場所に似つかわしくない人物からの言葉だという予測が俺の中で瞬時にたった。
声がしたほうに振り向くと案の定、柄の悪そうな顔つきの男が椅子にふんぞり返るようにして座っていた。
白衣を羽織っているもののその白衣は油やら何やらで随分汚れていたし、何より下に着込んでいるものがつなぎだった。
自動車の修理工が白衣を羽織って雰囲気だしているだけ、みたいなのがこの人の、立花さんに対する俺の第一印象だった。
「おい、聞いてんのか? お前が政府の選んだテストパイロットか。軟派そうな顔つきだな」
「なっ、なんなんだよアンタは! いきなり人に向かってそれはないだろ!」
俺はまさかIISを開発した人がこんな街の工場のおっさんみたいな人とは思っていなかったし、学者然としたさっきの人よりも普段から接しているタイプの人間だったからか少しだけいつもの調子を取り戻していた。
「はっ、口だけは一丁前にききやがるじゃねえか。だが一応俺はココで一番偉い人間なんだぜ? 口の聞き方には気をつけるんだな、女子どもとの学校生活がしたいんならな」
「ぐぅ……」
ここでようやく俺はこの人がIISの開発責任者で、本当にこの研究所で一番えらい人なんだと気付いた。
案内してくれた人は『主任』、と声をかけてこの部屋に入ってきたし、この部屋には俺を含めても三人しか人間はいなかった。
しかもこの時の俺の下心を的確についてくる発言で、図星をつかれたことも相まって俺は言葉につかえて何も言えないでいた。
「じゃあ今日は軽く、コイツをテストルームで動かしてみるか。おい、そいつにISスーツに着替えさせてきてくれ」
「わかりました。では弾くん、更衣室に案内するからついてきてくれ」
「あ、はい」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
研究所のロッカーで、用意されていたISスーツに身を包んだ俺は、また案内されるままにテストルームまでやってきていた。
少しばかり場の空気に慣れてきていたから、最初のように萎縮した感じではなくなっていたと思う。
「おう、来たか。じゃあ早速はじめるとするか」
先に来ていた立花さんと玉鋼。
俺が着替える短時間にココまで運んでいたのにこの時は驚いてたけど、さっきまでいた整備室とテストルームは繋がっていてISとかをスムーズに運ぶことができるんだそうだ。
そしてそのテストルームは地下にあるにしては広く、天井も高かった。学校の体育館よりも少し大きい感じで、バスケットコートが二つ入るくらいだろうか。
「おいガキ、こいつの装着の仕方教えてやるからさっさとこっち来い」
「わかりました」
「んだよ、いきなり随分良い子になっちまったなぁ」
「一応、目上の人間にああいう態度はいけないっていうのは分かってるつもりなんで。これ、どうやって登ればいいんすか? 普通に足の出っ張ってるところに足かけて登れば?」
「あぁそうだ。んでその背もたれみたいになってるところに寄っかかって……そう、あとは足と手を入れろ。そこからはこっちでやる」
立花さんの言うことを聞きながら、一つ一つ手順をこなしていく。
ISの授業で、クラスメイトに教えながらやっていてもすぐに終わった作業だったけど、この時の俺は本当に何もかも初めてでとにかく遅かった。
立花さんはそんな俺に対して何も文句も言わず、ただ俺に合わせて指示をくれた。
この時は気付かなかったけど、立花さんはいつもこうだ。
効率とかよりも、足並みとか、そういう数字に出ない場所を重要視する。研究職らしくないけど、立花さんらしいところだ。
「んじゃ本格的に装着して、動かすところまで行くぞ。動くなよ」
そう言うと玉鋼にケーブルを指して、手に持った携帯端末のようなもので何か操作を送ると手足の装甲部分が固定されるような感覚と、胸部前面の装甲が展開される。
しばらくその携帯端末のような機械でなにやら操作をしていたが、そのうちケーブルを抜いて携帯端末をポケットにしまうと俺に向き直った。
「よし、これでお前の思うようにそいつは動くはずだ。まずは直立してみろ」
「う、うっす」
俺が立ち上がろうとすると、玉鋼は音もなく立ち上がる。
こんなでかいものが本当に自分の体を動かすように動くものだから、正直に驚いた。驚くと同時にワクワクした。
次を求めて立花さんに視線を向けると、やれやれといった様子で立花さんはまた携帯端末で操作をした。
「次は歩いたり、まぁできるなら走ってみろ。今他のテストのために準備が進んでるところだから、それまでに慣れればいい」
「はい!」
おそるおそる、右足を前に出す。
やはり玉鋼は自分の足を動かすのと同じように動く。
足の底で地面を踏みしめ、一歩分だけ前に進む。
いつもの俺よりも、幅の広い一歩。
ただ、それだけでも俺の心は浮き足立つ。
普段の生活でも当たり前の歩く、走る。
それが出来ているだけなのに、俺は夢中になってテストルームの中を走り回っていた。
「おい、ガキ」
「……なんですか?」
玉鋼に夢中になってしばらく経ってから、立花さんが不意に話しかけてきた。
ぶっきらぼうな口調はそのまんまなのに、妙にしんみりした声色だったのを覚えている。
歩きながら、それでも立花さんの声を聞き逃さないように耳にしっかり意識を向ける。
「……お前、なんでこいつに乗ろうと思った?」
俺が言葉を返してから、また少し間をおいて立花さんが切り出した。
歩くスピードが少し落ちる。
「えっと、まぁ色々っすよ。国の推薦みたいなもんだから学園に通えれば学費とかも国負担らしいですし、家族もそれ抜きでも又とない機会だからって背中押されるっつーか押し込まれて」
「ふぅーん」
「聞いてきた割に随分な返事ですね!」
なんか真剣な話でも始まるのかと思っていたのに、と肩透かしを食らった気分になり、また歩くスピードが早くなる。
「本当にそれだけなのかよ?」
がくん、と機体が大きく揺れて止まる。
声は静かに、それでいて染み入るように俺の耳に入ってきた。
確かな重さを感じた。
「それだけって、まぁ細かい理由は他にも色々ありますよ。IISに乗れば面白そうだとも思ったし……」
「……」
「それに……それに、あんたも言ってたじゃないか。学園に通えれば、周り全員女子っていう夢見たいな毎日なんだぜ! だから、俺はここに――」
「お前さんは、何を隠してんだよ」
「っ!?」
図星を、突かれた。
嘘というのは、嘘以外の言葉は全て真実であるのが理想だそうだ。
だからこそ、ここで俺はあること、思いつくことを喋った、早くこの会話を終わらせようとした。
本当の目的、俺がここに来ようと思い至った最大の理由。
「お、俺は……その」
言えないようなことではない。
けれど言いたくない。
恥ずかしくて言えない、こんな――前時代的なこと。
「仲のいい、友達がいるんだ。親友って、言ってもいいと思う」
けれど、俺の口は動いていた。
誰かに、言いたかったのかもしれない。
爺ちゃんはおろか、家族にも、友人にも言えないような話。
「そいつとは入学式に知り合って、すげー馬が合ってさ。馬鹿ばっかりやってた、いつも一緒にいて、あ、でもそこにもう一人いたんだけどさ。三人でつるんで、遊んで、だべって」
口が勝手に動くのを止められなかった。
自分勝手な独白だ、だけど立花さんは黙って聞いていた。
「けど、一緒にいて少しするとさ、そいつと俺は馬が合って、スゲー仲が良かったけど全然違うんだよ」
あいつの背中が、あの頃俺が何度も夢の中で見たあいつの背中がその時の俺の目には映っていた。
「あいつは、例えるなら漫画の中の主人公でさ。平然と正しいほうに進むんだ、悩むような素振りも見せず。かっこいいんだよ、あいつ。そりゃあ惚れる奴が大勢いるのも分かる、慕う奴が大勢いるのも分かる」
夢の中で、俺はいつも背中を追っていた。
現実では横に並んでるくせに、いつも俺はあいつを追っていた。
「けどよ……けどさぁ……」
声が震えて、水滴が玉鋼の鏡のような装甲に弾けて落ちる。
「俺を横に並ばせろよ! 俺はお前の何なんだよ! 親友じゃねえのかよ! 一人で先へ先へ行って、一人で傷背負って、一人で解決しやがって!!」
己の不甲斐なさに、よく打ちのめされていたあの頃。
あいつの隣に並ぼうと必死だった。
「なのに、まただっ! ISを操れる唯一の男、あいつはまた先に行っちまった!! 俺を置いて……」
そんな時だ。
俺の所に、この話が舞い込んできたのは。
これだ、と思った。
「今度こそ、あいつの隣に並んでやる! あいつにおいてけぼりくらって、のうのうと親友気取ってるような日常にはうんざりなんだよ!!」
一人で勝手に泣いて、吼えて、無様な醜態をさらした。
立花さんは、こんな俺を見て笑っていた。
何がそんなにおかしいのか、何がそんなに面白いのか、何がそんなに嬉しいのか。
大層『満足』そうに笑っていた。
「おいガキ、随分と古臭い考え方だな。そりゃあ昔々に廃れた考え方だぜ。今の時代に、そんなものの考え方の男なんて捜してもそういない。みぃんな女の言いなりだ」
「だからどうしたんだよ。悪いけど、俺はあんたの作ったコレを、そういうダサい理由で使いたいって思ってるんだぜ。降ろすかよ?」
子供の自己満足のために、あなたが十年かけて作り上げた研究品を俺にください。そう言っているようなものだったから、当然俺は降ろされると思っていた。
けれど予想を裏切り、立花さんは話を続ける。
随分と気分が高揚しているのか大きく手を振り広げ、演説でも始めるのではないかという雰囲気さえある。
「今の時代、そういう男の意地やらダチのために、なぁんて言う奴は絶滅危惧種だし、思ってる奴の数だってぐんぐん減ってる。だが俺はそういう奴を探してたのさ」
俺の足元まで大またで歩み寄ると、意地の悪そうな笑みでこう言った。
「合格だよ、五反田弾。これからお前は正式にIISのテストパイロットだ」
「ん? ……ええっ!?」
「はっはっは、いい反応だ。最高のアホ面だぜ。さぁ、早速次の段階に行こうじゃねえか」
ポケットから携帯端末をコードごと取り出すと素早く玉鋼に接続し、なにやら操作を始めた。
その操作もわずか数瞬で終了してまたポケットにその端末をしまいこむ。
「よし、準備できたぞぉ!! 隔壁開けぇっ!!」
俺が呆気にとられている間に立花さんは全く待ってくれず、てきぱきと指示を飛ばし(いつの間にか部下の人が部屋の中にいたし)あっという間に周りが騒がしくなる。
「よし、これから空を飛ぶ練習だ。一回死ぬ気で飛んでこい、やばかったら俺達がカバーしてやる!」
「え? ……ええっ!!?」
途端に現実に戻され、さらに混沌に落とされた。
最初っから今と変わらず人使いが雑なんだよこの人。
優しいんだか、厳しいんだか。
「いいか、メインの推進器は足についてる。現段階だとIISで非固定浮遊部位(アンチロックユニット)まで再現するのは非効率だからな、PICはちゃんとついてるし、姿勢制御系のスラスターも万全のはずだから安心しろ」
地下から外に繋がっていたのか部屋の端の方の天井がうなりをあげて開いていく。
外の晴れ渡った空から陽光がガンガン降り注いできている。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! いきなり飛ぶって操作方法も分からないのに――」
「バーカかお前は、さっきまで足動かしてたら動いたろ? ようはそれと一緒さ。高くジャンプするつもりでいけ、空を飛び跳ねる要領だ。ほら、外では計測のために機材やら出してるし、万が一のために交通規制もだしてるんだから早く行きやがれ!」
「いや! 俺の心配は!? 他の人心配するのもいいけど俺の心配もしてくれませんかねぇ!!」
「本当にうるせえなお前は。こうなったら最終手段だ」
「は?」
そう言って立花さんがポケットから取り出したのは古い漫画で出てきそうなデザインのスイッチだった。
箱に赤い押し込む部分、そしてアンテナをつけたようなおざなりなデザインのあれだ。
それを、躊躇なく立花さんは押し込んだ! いや、押し込みやがった!
そしてその瞬間。
「へ――――――――――っ?」
ズオン、かもしくはズドンという音が後ろの方から聞こえたと思ったら景色が急速に歪んだ。
横の壁が後ろの方に吹っ飛ぶ、というか俺が、俺が吹っ飛んでいた。
「うおわああああああああああっあああああぁぁぁ!!!!!」
ハイパーセンサーのおかげで壁に正面衝突する前に状況を把握。
泣きたい思いを押し込めて絶叫で我慢。
さっき言われたことを頭の中で反復。
『空を飛び跳ねる――』
右足に力を込める。
溜めて――蹴る!!
まだ開ききっていない隔壁を抜け空へと飛び出す。
風を切る音が耳元を撫でて、地下のこもった空気を纏っていた体が、春の空気にぶち当たる。
加減の分からない加速で、とにかく落ちないように意識して足を踏み出す。右! 左!
「っぐぅ!」
肺から変な音が漏れる。
息を大きく吸い込む、IISもISと同じで宇宙空間でも活動できるように作られている。
前面から思いっきり風が当たってても呼吸するのに支障は無い。
(もっと、高く、高く!)
本能が空を求め、ぐんぐん高度を上げる。
雲に何度もぶち当たっても、加速をやめずに上を目指す。
何の障害物にも当たらないところまで行くと、ようやく加速を緩める。
天上を黒が染めて、藍が滲みだし、空の端を青が広がる。
雲が大分したのほうに浮かんでいるのが見える。
「すっげえなぁ。こんなところまであっという間だ」
ポツリと独り言を呟く。
こんな景色を見ておいて言うことがこんなものとは我ながら薄っぺらい人間だと思うよ。
「なぁ一夏、俺はこんなところまで来たぜ。お前も来た事が無いような、遥か空高くに」
こんなに空高くにきても風は流れる。
髪の毛が少し目にかかってムズ痒い。
学校に入る前に一度切ったほうがいいかもしれないな。
一夏は、どんな顔をするだろうなぁ。
「へっ、今から楽しみだなぁ。あいつめちゃくちゃ驚くだろうなぁ」
どんな風にこのテストパイロットの件を明かすかな。
いきなり電話で伝えるか? いや、もっといい方法がありそうだ。
入学式の日にこっそりついていくとか? いや、途中でばれるのが関の山だ。
じゃあ――
「あいつに知られないように入学して、学校で何気なく、いつもどおりに声をかける」
口元に浮かんだ笑みは、俺の人生の中でもっとも悪趣味な笑いだっただろう。
けれどこのときの俺の気分はもっとも晴れ渡っていただろう。
「へへっ、まずは一歩。お前に近づいてやったぜ、一夏」
誰もいない、空高くで、誇らしげに笑ってやった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その後、一ヶ月立花さんのところでみっちりIISの勉強と練習して、その中で立花さんの話とか聞いたり研究所の人とも仲良くなっていったんだよな。
なんというか懐かしいこと思い出したな。あのころの俺は切羽詰っていたというかなんというか、まぁあんな奴が近くにいれば誰でもこうなるよな。
「弾さん、弾さん」
「お、なんだよセシリア。無駄口叩いてると怒られるぜ?」
「話を聞いていなくても怒られますわよ。さっきから心ここにあらずというような感じでしたから」
「わりい、サンキューな」
「いいえ」
ちょっと昔を思い出してボケてたみたいだけどそんなに長いことは経ってないみたいだ。
立花さんはタバコ吸えなくてソワソワしてるし、山田先生はまたタバコを取り出さないか目を光らせている。
変わったことといえば千冬さんの前に篠ノ之さんが行ってることくらいか?
何を呼び出されたんだろ? そういえばシャルルとボーデヴィッヒは列に戻されたんだろうか、前にはいないみたいだけど。
「ちーちゃ~~~~~~~~~~~~~~~ん!!」
なんか、すげえ向こうから砂埃巻き上げてこっちに向かってくる人影があるんですけど!?
つーかあれ人!? ギャグ漫画の中じゃないとあんなに砂埃巻き起こらないぜ!!
ぼんやりとした思考の中から無理矢理に俺を引っ張り出したその人は、全く減速する素振りを見せずに千冬さんに突っ込んでいく。
「……束」
ぼそり、と千冬さんが何かを呟いたように見えた。
なんと言ったかまではここからでは聞こえなかったけど。
千冬さんのことを『ちーちゃん』と馴れ馴れしく呼ぶその人物は、関係者以外立ち入り禁止であるはずのこの装備試験の場に堂々と割り込んできた。
「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さぁ、ハグハグしよう! 愛を確かめ―― へぶぅっ!」
千冬さんは流石と言うかなんと言うか、走りこみ、そのままの勢いで飛び掛ってきた謎の女性を片手で頭を鷲づかみにして捕らえた。
あれ、なんていうかメシメシと人体から聞こえてはいけない音が聞こえてきてるような、つーか指が顔面にめり込んでますよ!
「うるさいぞ、束」
束、とそう言った。
確かに千冬さんは掴んだ女の人に向かって束、って……
周りも千冬さんの口から出た名前に反応して、ざわめきが広がる。
「ぐぬぬぬぬ…… 相変わらず容赦ないアイアンクローだね」
しかもその人物は千冬さんの、ああまでがっちり捕らえていたはずのアイアンクローをぐりゅりと抜け出し、軽やかに地面に着地をとる。
現実離れした服装と、只者ではないその雰囲気。
そしてその名前は――
「篠ノ之、束博士……?」
誰かがそう呟いた。
渦中の人物は千冬さんの前にいた篠ノ之さんに目をつけた。
「やぁ!」
「……どうも」
「えへへ、こうやって会うのは何年ぶりかな? 大きくなったねぇ箒ちゃん。特におっぱいが」
鈍い音が鳴る。
「殴りますよ」
「な、殴ってから言ったぁ……。しかも日本刀の鞘で叩いた! ひどい! 箒ちゃんひどい!」
篠ノ之さんとコミカルなやり取りを交わす篠ノ之博士だが、周りの皆の視線は困惑であったり、畏怖であったりと本人たちの雰囲気とは魔逆の様相を呈していた。
しかしこんなひどくボケたやり取りを交わす人が、あのたった一人でISを完成させた稀代の天才、篠ノ之束博士なのか。
会話内容だけを聞いていれば、軽いノリではあるが人のよさそうな人物に見える。
なのになんだろう、薄ら寒い。あの人を見ていても積極的に関わりたくない。
明らかに負のイメージしか沸いてこない、なんでだ?
「え、えっと、この合宿では関係者以外は――」
「んん? 珍妙奇天烈なこと言うね? ISの関係者というなら、一番はこの私をおいて他にはいないよ」
「えっ、あっ、はい。そう、ですね……」
山田先生が突然現れた篠ノ之博士に注意を促そうとしたが、篠ノ之博士の有無を言わせない態度と語調に何も言えずに後ろに下がる。
さっきまで篠ノ之さんと喋っていた人物とは同一人物とは思えないような、態度の変容。
やっぱり、普通じゃないってことか……
「おい、束。自己紹介位しろ、うちの生徒が困ってる」
「え~、めんどくさいなぁ。はーい、私が天才の束さんだよ~! はい、終わり。これでいい?」
事態を飲み込めてなかった生徒も、分かっていても信じられなかった生徒も、皆篠ノ之博士の言葉で全てを理解し、場が騒然となる。
ざわつく場を制するために、千冬さんが声を上げる。
「というわけだ、自己紹介もすんだしさっさと準備を進めろ。時間は限られているからな、こいつなんぞにかまっている暇はないぞ」
「こいつとはひどいなぁ~。ラブリィ束さんと呼んでいいよ」
「うるさい、黙れ」
なんだか親しげに会話を交わす千冬さんと篠ノ之博士、そこにおずおずと割って入ったのは山田先生だった。
「えっと、あのこういった場合どうすれば……」
「さっきも言ったようにこいつには構わなくていい。山田先生は各班のサポートをお願いします」
「わ、わかりました」
「むむ、ちーちゃんが優しい……。束さんははげしくじぇらしい。このおっぱい魔神め、たぶらかしたな!」
言うや否や篠ノ之博士は山田先生に飛び掛る。ひどい言いがかりだ。
しかし暴力的な行為に及ぶことはなく、篠ノ之博士の手は山田先生の二つの豊満なふくらみを鷲づかみにしている。
「ひゃああっ!? な、なん、何なんですかぁっ!?」
「ええい、よいではないかよいではないか!」
よく分からないノリで山田先生の豊満なそれが揉みしだかれている。
いつも思っていたけど、山田先生のあれって大きいよなぁ。篠ノ之博士も言ってるわりにはでかいほうだ。
というか、あのあたりのでかさのレベルが妙に高いぞ。山田先生、千冬さんに篠ノ之博士と篠ノ之さん。
なんと言うか、ちょっと眼福かも。
「弾さん」
隣のセシリアから鋭い視線を貰う。
殺気めいた黒い雰囲気を纏った、ヤバ気な視線を。
「やめろ馬鹿。大体胸ならお前も十分にあるだろう」
「えへへ、ちーちゃんのえっち」
「死ね」
セシリアからの視線を逃れるように、気を取り直して篠ノ之博士のほうを見やると丁度千冬さんにいい蹴りを貰って砂浜に頭から突っ込んでいくところだった。
なんつーか、本当に読めない人だな。侮りがたいと思っていたらこうもすっとぼけて……一体どういう人間なんだ。
倒れている篠ノ之博士に、篠ノ之さんが歩み寄る。
助け起こすのかと思いきや、何かを囁いている。
うまく聞き取れなかったが、それを聞いて篠ノ之博士が飛び起きて、高々と空を指差す。
「うっふっふっふ、それについてはもう準備オッケー! さぁ大空をご覧あれ!」
その言葉に釣られ、篠ノ之さんも俺達も、空を見上げる。
だが、俺達は空を見上げるのが遅すぎた。
何かが視界に入ったと思ったときにはそれは砂浜に、轟音を立てて突き刺さっていた。
随分と荒々しい登場の仕方をしたその物体は、金属質で太陽の光を反射している。
「なんだありゃあ?」
「篠ノ之博士が呼んだんですの? ……あ、あれ!」
セシリアの声で謎の物体に目を向けると、こちら側の壁が倒れて中が露出する形になる。
そしてその中にあったものは――
「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃんの専用機、その名も『紅椿(あかつばき)』! 全スペックが現行ISを上回る束さんの自信作だよー!」
真紅の装甲、それがコンテナ内部のアームにより外へ出され、太陽の光に晒されて輝きを放つ。
どことなく、白式を思わせるようなフォルム。だがこちらのほうが凛として、すらりと伸びている印象がある。
篠ノ之さんの専用機、なるほど篠ノ之さんに似合いそうなISだ。
「さあ! 箒ちゃん、フィッティングとパーソナライズをはじめようか! 私が補佐するからすぐ終わるよん♪」
「……それでは、頼みます」
「堅いよ~、実の姉妹なんだからもっとキャッチーな呼び方で――」
「はやくはじめましょう」
「う~ん、まぁそうだね。はじめようか」
どこから取り出したのか、リモコンのボタンを押す篠ノ之博士。
すると赤椿の装甲が開き、膝を落として篠ノ之さんが乗りやすいように姿勢をとる。
「箒ちゃんのデータは先行してある程度入れてあるから、それを最新のデータに更新するだけだよ。それピ☆ポ☆パ☆」
気の抜けるような掛け声と共にバーチャルコンソールを操る篠ノ之博士。
だがその操作速度はふざけた掛け声とは一切同期しておらず、尋常ではない速度で腕が動いている。
やはりあの天才、篠ノ之束だ。世界に並ぶものがいないと言われるだけはある。
「近接戦闘を基礎に、万能型に調整してあるから、すぐに馴染むと思うよ。あと自動支援装備もつけておいたからね! お姉ちゃんが!」
「……それは、どうも」
それにしてもなんだか篠ノ之さんの態度がちょっとつっけどんだな。
実の姉妹のはずなのにどうしても距離を感じる。仲が悪いのか?
「箒ちゃんまた剣道の腕上がった? 筋肉のつき方でなんとなくわかっちゃうよ~。お姉ちゃん鼻が高いな」
「……」
「えへへ、無視されちゃった。―― はい、フィッティング終了~。超速いね、さすが私」
たった数分、篠ノ之さんとニ、三言の会話のうちに終わらせてしまった。
最初からデータをある程度入れておいたからなのか、機体のデザインが大きく変わったようには見えない。
分かる所としてはサイズが今の篠ノ之さんに合わせて若干変化したくらいだろう。
近接戦闘基盤の万能機、と言っていたが今現れている装備は近接用ブレードが腰の左右に一本ずつ。
シャルルの機体のように拡張領域が多めに割り振られて、そこから状況によって武装の切り替えを?
だが篠ノ之博士がそんな一般的な思想で機体を製作するか?
自動支援装備もあると言っていた、ならばブルーティアーズのように装甲部分が武装に変化するようになっているのだろうか?
(とか色々考えたって推測の域を出ないよな。でも一つ気になる点があるとするなら……最初に見た印象で白式に似ているとなにげなく思ったけど――)
まるで最初から、二つを並べることを前提としたかのような対称性。
気のせい、と言われればそうとも思える。
だけど俺にはどうしてもそう見えてしまう。
どうして、何故なんだろう?
「あの機体、篠ノ之さんの専用機になるの? ……身内ってだけで」
「そうだよねぇ、なんかずるいよね」
ふと、作業をしている女子のグループのほうからそんな声が聞こえた。
ここまで、というより考え事をしていた俺にさえ聞こえたのだからそれなりの声の大きさだったんだろう。
確かにそれだけで専用機もらえるっていうのは、友人としての贔屓目がなければ自分もそう感じていたかもしれないな。
だけどわざわざ口に出して言うことあるかよ。俺は少し顔をしかめる。
「あっはっは、歴史の勉強が足りないねぇ。有史以来、人類が平等であったことなんて一度もないよ」
そして言った女子達にこう返した篠ノ之博士に、さらに顔が歪む。
なんて性格の悪い返し方だ、やっぱりこの人の本性はこっちだろ、絶対。
言われた女子たちはさすがに何も言い返せず、ばつの悪い顔をしながら作業に戻った。
そりゃああんな毒々しくて、返しに困るような暴論のような正論をぶつけられて反論しようなんて普通は思わないよな。
「うっわぁ~、今時の娘はえげつないねぇ。おじさんの憧れてた大和撫子なんていうのはもうこの世には存在しないのかよ」
普通は思わないだろうけど、このおっさんは堂々と、反論……というかいちゃもんをつけていく。
まっすぐ篠ノ之博士を見つめながら、ずんずんと歩みを進めていく。
途中タバコを取り出しかけて、はっとして戻す。格好つかないな、この人。
立花さんは篠ノ之博士の目の前に立つと、幾分か背の低い彼女を見下ろすように見やる。
睨むわけでもなく、かといって友好的でもなく、ただ、見やる。
それに対して、篠ノ之博士は紅椿のパーソナライズを続けながら立花さんを一瞥する。
敵意を含んでいるように見えたが、山田先生やさっきの生徒にもそういう視線を向けてたし親しい相手以外にはこうなんだろうか?
「天才ちゃんはえらいもんを作るな。やっぱりISの生みの親は違うってことか? 俺も一つご教授願いたいもんだ」
「君じゃ無理だ」
「うはっ、ばっさり斬られちまったよ。でも俺も男だからな、諦めるわけにはいかない……嬢ちゃんなら分かるんじゃねえか?」
「…………」
残念ながら、篠ノ之博士相手に会話のキャッチボールは一往復が限度だったらしい。
いや、キャッチボールもできていなかったな。お互い自分の言いたいことを言っただけのようだ。
まるでドッジボール。
その後は篠ノ之博士は作業をしながら篠ノ之さんとかと会話に戻ったし、立花さんも肩をすくめてこちらに戻ってきた。
「何やってんですか」
「IS研究者同士の意見交換」
「できてねえじゃないすか。会話にすらなってないし」
得られた言葉なんて『君じゃ無理だ』の一言じゃないか。
しかし立花さんはなぜか満足げな表情で。
「いや、十分すぎる情報を得られたさ。お前はもう少し空白を読めるようにならないとモテないぜ」
空白? さっきの二人の会話……ドッヂボールの中の空白?
それってどういう意味になるんだ? さっぱりわからん。
「駄目だ、やっぱりわからないですよ」
「そんな簡単にわかるもんかよ。今はそういうことだってことだけ知っておけ」
「……二人は知り合いだったとか?」
「残念はずれ、初対面同士だよ」
ますます訳が分からない。
初めて会った人間が、あれほど少ない言葉で何かを理解できるのものか?
俺の頭の中に混乱が降ってくる。
そしてその混乱は解けぬまま、事態は次の場面へ移ってゆく。
「立花藤吉博士、少々お聞きしたいことがあるのですが、お時間はよろしいですか?」
聞きなれたセシリアの声が後ろから投げかけられる。
「セシリア?」
「なんだ、弾の知り合いか? それにしてはえらい別嬪さんだな」
「それにしては、ってどういう意味っすか」
「そのままの意味さ。で、そのセシリアちゃんは何を聞きたいんだ? 幸い玉鋼は装備試験じゃやることなんて一つもないからな、時間はたくさんある」
しかも何にも無いのかよ……まぁ玉鋼は今もギリギリで動いてるんだから、装備増やせないのも仕方ないけどさ。
「それでは、単刀直入に申しますが――なぜ玉鋼は第二次移行(セカンドシフト)をしなくても単一仕様能力が使えますの?」
「そりゃあそういう機体だからだろ? 一夏の白式だって、元々第一形態から使えるように作られたって言ってたし」
他のISでは第二次移行後でしか使えないはずの単一仕様能力。
それは経験を積んだり、ISとの相性を合わせていくことでISが進化を起こし、その副産物として単一仕様能力が生まれるというのが通説。
けれど誰もが第二次移行できるわけでもないし、できても単一仕様能力を使えるわけじゃない。
だからこそ、ラウラ、セシリア、鈴のように第三世代の機体には最初から使える特殊な装備を搭載されている。
誰にでも使えない最強兵器より、誰にでも使える優秀な兵器を、ということだ。
「そういうこと。白式や玉鋼とかの日本が作りたがってた機体はそういうやつなんだよ」
「では、なぜ私たちのような第三世代装備が開発されたのでしょう? そういう機体が作れるのなら作ればいいのに」
あ、そう言われれば確かに。
ラウラやセシリアの第三世代装備なんかはかなりの熟練や適正なんかが必要なんだし、別に単一仕様能力を第一形態からつけたほうが。
「こいつや織斑弟の機体一つにかかるコスト、知ってるか? 要するに、これから量産するのにコスト度外視の機体を作るのはどうかねぇって話だ」
なるほど、コストの問題なのか。
「玉鋼は試験機ではないのですか? それとも、これから量産することがないとでも?」
「そりゃ揚げ足取りだ。ISと違ってIISは出来たて、コストは自然とかかっちまうもんさ。つーかよ、セシリアちゃんはそんな言いがかりつけるために来たわけじゃないだろ? もっと言いたいこと素直に言っていいんだぜ」
え? 何、結局どういうことなんだ?
「……お見通し、というわけですわね。分かりました、私の中の疑問。それをそのまま語らせていただきます」
「え? ちょっと待ってくれよ。さっきまでの会話は?」
「やっぱり気付いてなかったのかよ。お前はやっぱりアホだなぁ、セシリアちゃんは俺を試したってわけさ。俺が疑問に答えられるかどうかにな」
「先ほどまでの会話はほとんどが口からでまかせ。立花博士が私の知りたいことを知っているかどうかを探るために、適当に言葉を選んだだけですわ」
「まじかよ、俺普通に納得したりしちまったよ」
なんか俺の頭が良くないことを証明したみたいで恥ずかしい。
しかもセシリアの前で……
「うふふ、弾さんにはそういう面では期待していませんから」
うぐっ、やっぱり俺ってセシリアから比べたらそんなもんだよなぁ。
なんか落ち込むわ……
「……他に魅力的なところがいっぱいありますし」
「え、なんか言ったかセシリア?」
「な、何もっ!」
あぁ~俺に言えないほどのことなのか。
もっと勉強とかもがんばらないと、セシリアに釣りあうような男になれないのかなぁ……
「ふんっ!!」
「痛ってえ!!」
い、いきなりケツに鈍い痛みが。
立花さんにローキックを喰らったようだ。
「何するんだよ!!」
「うっせバーカ!!このリア充め!!死ね!!……んで、セシリアちゃんは本当は何が聞きたかったんだ?」
「流そうとするな!!」
「はい、これは一夏さんや弾さんに会った当初からだんだん――」
「セシリアも無視するなよ!!」
俺の叫びは無いものとされ、セシリアの言葉は続く。
畜生、泣きっ面に蜂とはこのことだよ。
「そうです、だんだんおかしいというか、違和感が募ってきていました。さっきの会話のように理由はつけられるのですが、単一仕様能力についてどうしてもおかしいと思ってしまうんですの」
「おかしい、つーと?」
「発動条件です、単一仕様能力の発動条件は①第二次移行②機体と操縦者の最高相性、とありますが本当にそうなのか? ということですわ」
「……そこになんかおかしい所あるか?」
「形態移行(フォームシフト)は通常、機体の経験値や稼働時間の蓄積で大きく機体の外観、性能が変化する現象ですわね。そして今まで単一仕様能力を発動できた機体は全て第二次移行後の機体でしたわ」
「当たり前だろ? そりゃ単一仕様能力の使用条件が第二次移行を終えていることだから――」
いや、セシリアはそこに疑問を持っているんだ。
だったらさっきの言葉の中にセシリアの考えていることが隠されている?
どこに……
『玉鋼、白式』『第三世代機体』『単一使用能力』『条件』
これだけじゃない、考えろ。
セシリアは、条件のうち第二次移行後ということに注目してるはずだ。
なら――
「俺の機体や一夏の機体は、『第一形態から単一仕様能力が使えるようになっている』っていうのがポイントか?」
「お、分かったのか? このセシリアちゃんが言いたいことがよ」
「いや、ここがポイントなのは分かるんだけど後はどこがどうなってるのか。もう少しで言いたいことがわかりそうなんだけどさ。ごめん、セシリア。先に進めてくれ」
「わかりました。では再開しますが、本当に弾さんは近いところまで来ていましたよ。私が言いたいのは、第二次移行というのは単一仕様能力を使えるように進化することじゃないのか? ということですの」
「!!」
セシリアの言葉で、詰まっているところが一気に解けた。
なるほど、そういうことか。
「つまり俺らの機体は、単一使用能力を最初から使えるように作られてたってことか!」
「お前、さっき言ったのとほとんど変わんねーじゃねえか」
「でもしっかりわかってらっしゃいますわね」
ま、まぁさっきのことがあって必死で考えながら聞いてたからな。
少し照れるぜ。
でもそれが分かっても次にこの疑問が出てくる。
「じゃあさっき言ってたコスト云々は関係なくて、それならなんで他の機体は玉鋼みたいにできないかって問題が出てくるよな。それについてはセシリアは分かってるのか?」
「いえ、私が聞きたかったのはそこですわ。推論として組んだ、単一仕様能力を使えるように最初から機体を組んだということ、第二次移行が単一仕様能力を使えるようにする準備なのだということ、この二つが真実だとしても他の機体にはできない理由が分かりませんの」
「でも立花さんにはわかるよな、立花さんが玉鋼を作ったんだから」
そうだ、だからセシリアが立花さんに聞きに来たんだ。
このことを聞くために。
俺とセシリアの視線が立花さんに集まる。
当の立花さんは、ポケットに手を突っ込んだままこちらを見やってにやりと笑った。
いつものような挑発的な笑み、そしてどこか寂しそうな――
(初めて会ったときに見せたみたいな、自嘲的な笑い方だ……)
「分からねえよ」
「は?」
セシリアが何を言っているのか分からない、といった表情で固まっている。
俺も、一歩遅れて衝撃をその身に受けた。
玉鋼は立花さんが作ったはずなのに、『わからない』
分かっているから作れたんじゃないのかよ。
「……あ、なるほど。機密だから喋れない、そういうことですのね。それならば仕方ありません――」
「俺は分からない、って言ったんだぜ。答えれないとは言っていない」
「……!?」
「俺から言えるのはそれくらいか……あぁ、そういえばお前らの推論について一つ補足しておいてやるよ。現在世界中で単一仕様能力を発動前に観測できた例は玉鋼のみだ」
「……」
俺もセシリアも何も言えない。
言葉が出ない。
今まで、信じてきた。
立花さんがこの機体を作ったんだと、研究所のあの人たちと一緒に、十年間もかけて……
(でも信じられない。立花さんや研究所の人たちが俺に嘘をついているなんて。何かがおかしいんだ、立花さんはまだ何かを隠してる。嘘じゃない、隠してる!)
「立花さん……」
「なんだ?」
「コイツは、玉鋼は立花さんたちが作った、十年間かけて。そうだろ?」
またも立花さんは笑う。しかし今度は自嘲的なところもなく、いつもの立花さんの笑みだった。
「そうだよ。そいつを作ったのは俺たちさ。そりゃあ間違いない」
自信満々にそう語る。
その目は信じるに足る、今まで見てきた立花さんの目だった。
しかし立花さんの言葉には分からないところがあるのは事実だ、
(立花さんが作ったはずなのに、玉鋼には立花さんの分からないところがある。それでいて玉鋼を作ったのは立花さんである。この二つを信じるとなると、どういうことになるか……)
これから、そのことについても調べなければならないのかもしれない。
でも立花さんにはこれ以上聞いても教えてはくれなさそうだ。
そのことは立花さんの顔がそう語っている。
「セシリア」
横に立つ彼女に呼びかけると、はっ、とした様子でこちらに顔を向けた。
俺と同じく、考えていたようだ。
「他に聞きたいことは?」
「あ、えっと……いいえ、もうありませんわ」
聞くと俺の顔と、立花さんの顔を何度か往復して見ると察したのか諦めたようにそう言った。
このことはどこまで言っていいことやら。セシリアに言ったということはここまでは誰にでも言っていいのか?
それなら一夏たちにも一緒に考えてもらおうか。
「んん、おい。紅椿の起動試験をするみたいだぞ。もう空に飛び出してる」
「えっ!?」
ぱっと空を見上げると確かに、あの赤い機体が小さくだが見える。
隣のセシリアはすぐさまISのハイパーセンサーを呼び出して観測に入った。
俺もそれに習って玉鋼を起こし(叫んだ)、ハイパーセンサーで篠ノ之さんを視界に捉えた。
「すげえ速さ。えげつねえ性能だ。さすがに現行IS全てを上回ると銘打っただけあるなぁ」
横で呟く立花さんの言うとおり、篠ノ之さんの駆る紅椿は二百メートル程上空で見ているだけで分かるほどの速度で加速、旋回を繰り返している。
篠ノ之さんも新しい機体に気分が乗っているのだろうか?
「おい、オープンチャネル開け。下の天才ちゃんが指示飛ばしてる。俺にも聞かせろ」
「え、いいんですの? というよりプライベートチャネルで指示を出していたらどうしようも――」
「頭はいいのに察しが悪いなセシリアちゃんは。何言ってるかは分からんが、遠くからでも口を開いてるのは分からあ。つまり、オープンチャネルだ」
「繋いだぜ。立花さんの言うとおりオープンチャネル、音声も出しますよ」
「あんまり大きな音出すなよ。周りに聞こえてたら俺達が聞いてるのがどっからバレるか分かったもんじゃねえ」
「はいはい」
「ちょっと……あぁ、もういいですわ。勝手になさって」
俺と立花さんの会話にセシリアは呆れた調子だ。
しかしちゃっかりと聞こえる範囲には入っている。
『――ちゃんが思った以上に動くでしょ』
聞こえてきた。これは篠ノ之博士か?
『え、ええ、まぁ』
こっちは篠ノ之さんの声だ。
『じゃあ刀使ってみてよー。右のが『雨月(あまづき)』左が『空裂(からわれ)』ね。武器特性データも送るよ~』
「ちっ、こっちには武器特性のデータは見れないな。双眼鏡程度じゃ詳しく見れねえし。玉鋼に録画機能つけときゃよかった」
これは立花さん。
しっかりこっちからの音声は切っておいて良かったよ。
『親切丁寧な束おね~ちゃんの解説付き~♪ 雨月は対単一仕様の武装で、打突に合わせて刃の部分からエネルギー刃を放出、連続した射出で敵を蜂の巣にする装備だよ~。射程はアサルトライフル程度、スナイパーライフルの射程では届かないけど紅椿の機動性なら大丈夫』
篠ノ之博士の言葉に、すぐさま空中で雨月を構える篠ノ之さん。
初めて握った刀だろうに、その姿はやはり様になっている。
さすが剣道部。それに真剣とかも普段から扱っているから自然と画になるんだろうな。
見とれて一瞬、動いて刹那。
鋭く突きを打ち放つ。
と同時に雨月の周辺に赤いエネルギー光が複数浮かび上がり、突きの軌道延長線上に向かい連続して射出され漂う雲に無数の穴を穿った。
『次は空裂だよ~。こっちは逆に対集団仕様の武器で、斬撃に合わせて帯状に攻性エネルギーをぶつけるんだよー。振った範囲に自動で展開するから超便利! じゃあこれを落としてみてね~。そいやっ!』
言葉が終わるや否や、篠ノ之博士の周囲に光の粒子が発生、集合し形を成す。
多弾装のミサイルポッド、ハイパセンサーの確認で十六連装と確認。
その全ての弾がいっせいに篠ノ之さんを狙い発射される。
つかIS以外で粒子化の技術なんて始めて見たぞ!?
『箒!』
一夏の声、オープンチャネルに参加していたのか。
篠ノ之さんは一夏のその心配そうな叫びに答えたのか、それとも自分を鼓舞するために言ったかは定かではないが力強く呟く。
『――やれる! この紅椿なら!』
その言葉通り、一回転するかのように振るわれた空裂の斬撃に合わせて放たれたエネルギー刃で、ミサイル十六発をすべて撃墜する。
ミサイルの起こした爆炎が収まり、真紅のその機体が再び陽光を浴び輝く。
『「すげえ……」』
スピーカーの向こう側、一夏の声と見事にハモってしまう。
いや、この場にいる大多数の生徒たちは皆篠ノ之さんに見とれていた。
誰もが俺達と同じような気持ちだっただろう。
「……弾さん」
「どうした? セシリア」
「私たちの疑問、あの篠ノ之束博士なら答えられるのでは?」
「あっ……」
そうだ、確かにISの生みの親。コアを生みだした張本人であるならばわからない理由がない。
「駄目で元々ではありますが、聞きにいってみませんか?」
「だな、こんな近くに篠ノ之博士がいる機会なんて次にいつあるか分かったもんじゃねえもんな」
普段は行方不明で、どこにいるのかも分からない。コンタクトをとる方法も分からない人だ。
ここで聞かなければもうずっと聞けない可能性も無きにしも非ずだ。
「なんだ、天才ちゃんの所に行くのか?」
「そうですけど。なんすか、何か聞きたいことでも?」
「いや、急がないと時間がないみたいだぜ。厄介ごとが近づいてるみたいだ」
「は?」
立花さんが意味深なことを言うが、よく意味はわからない。
けれどすぐに理解できた。
篠ノ之博士の周り、いや、千冬さんの前に山田先生が慌てた様子で走りこんできた。
何かを伝えてるようだが、すぐさま千冬さんが顔を曇らせる。
そして――
「全員、注目!」
手を打ち鳴らして、千冬さんが大声で呼びかける。
「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼動は中止。各班ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各班自室待機すること。以上だ!」
「え……?」
「中止?……特殊任務行動って――」
「ちょっと待ってください、何が起こってるんですか!?」
不測の事態に生徒の大多数は困惑していて動き出せていない。
ざわめき、たじろぎ、それが蔓延するこの場を千冬さんが一喝する。
「とっとと戻れ! 以後許可なく室外に出たものは我々で身柄を拘束する! いいな!!」
「「「は、はいっ!」」」
いつも厳しい千冬さんの、聞いたこともないような怒号に生徒達は慌てて撤収作業に取り掛かる。
「それと、専用機持ちは全員私について来い! 織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰! ――それと篠ノ之、お前も来い!」
「はい!」
続けて千冬さんは俺達を呼びつける。
空から降りてきた篠ノ之さんのみ、威勢良く返事を返した。
他の皆がどういう心境かは分からないが、俺とセシリアにおいてはせっかくのチャンスをみすみす逃してしまったという落胆が色濃く心の領域内を占めていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上で今回の投下終了です、過去最高量の投下でした。およそ42KB、難産でした。
IISの製作者立花の登場と長いこと昔に張った伏線の回収。そして伏線の張りなおし。
案外この三巻で起こる出来事が後々に響いてくることを書きながら改めて実感しましたね。
あと立花はちょっと出すことに不安を覚えたキャラでもあります。
シャルルは男だし、弾まで加えて、さらに完全なオリキャラを出すのは二次創作としてやりすぎなのではないか?と。
しかし原作がこれ以上出ないとなると、これまで原作で出た伏線などの回収にもオリキャラは必要になりますし、
もういっそこのSSでしかできないことをやろうと思い至ったわけです。
これからも、拙いながらも精一杯自分に出来ることを模索し、出来うる限りおもしろいものを届けていきたいと思います。
投下が近頃ありませんでしたので思いの丈も溜まってしまっていたようです。
長文失礼しました。それではこれにて。
乙
立花のおやっさんいいキャラだ
乙
やはりこっちが原作だなww
立花さんはいいと思う
おもしろければ何やってもオッケーなのです
好きなように書いてくださいついて行く
立花さんの顔はフルメタアナザーの溝呂木からロックを抜いたイメージで補完
乙!
仮面ライダー好きとしては嬉しい感じwwww
あと無粋だがラスト千冬さんが五反田氏を呼んでないのに違和感。
ホンマや
その下で俺達って言ってるから呼ばれたもんだと思ってた
追い付いた
>>1乙
原作っぽい方続刊おめ
二週間になりましたので生存報告です。
今日は生存報告だけです、申し訳ない。
ですが筆の進みも遅くはないのでニ、三日もしないうちにこられると思います。
また前のように毎週更新なんてしてみたいと思っていますが、区切りのつく量が多くなっているのでしばらくは無理かと。
ところで立花の元ネタはやはり気付かれた方は多かったですね、もちろん仮面ライダーのおやっさんから名前は取りました。
これからも、こういうオマージュなんかはあったりするとは思います。
仮面ライダーやらガンダムやらが好きなので、SFの設定なんかもそこから着想を得たものも出るかもしれません。
原作のISもネットの噂では復活するとか聞きましたが、まだ定かではないようですね。
私も人づてで聞いただけなのでなんとも言えませんが、アニメの二期だったり、原作の完結なんかは見たいと思いますね。
やはり、あの作品が好きでこういうのを書いているわけですし。
長くなってきたのでここで筆を置こうと思います。
それではこれにて
のんびり待ってるよー
ここで待ってるのも>>1って奴のせいなんだ・・・。
俺には文才がない。だが、>>1支援する事は出来る!
乙
支援
急いでいるので予告も何もなしに投下しちゃいます。
それではいきます
「では、現状を説明する」
旅館の一室を貸しきって、俺達いつもの面子が集められ、円状に広がって座らされた。
部屋の中央には立体投影型のディスプレイが鎮座していて、映像を写すために部屋の中は薄暗い。
千冬さんが立ったまま説明を始める。
「およそ二時間前、ハワイ沖で試験稼動中だったアメリカ、イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れ暴走。管理空域より離脱したとの連絡があった」
は? 軍用ISの暴走に管理空域からの離脱?
悪い話だと予想していたが思っていた以上にハードな話らしい。
その話と、今俺達が集められた状況。他の生徒は自室待機であることも含めると……
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから五十キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして約四十分後。学園上層部からの通達により、この事態は我々が対処することになった」
俺の悪い予感を裏切らず、千冬さんは次の言葉を続けた。
「教員は学園の訓練機を使い、空域及び現場海域の封鎖を行う。よって本作戦の要は、専用機持ちに担当してもらう」
ハードどころではない、難易度で言えばベリーハード、いやルナティックか?
軍用ISの相手をするなんて、正直冗談じゃないと思ってしまう。
学生にできるのかよ、そんなこと。
(でも……)
周りを見回せば全員真剣な面持ちだ、やるしかないんだろうな。
腹括るしかなさそうだ。
あ、でも一夏だけ焦ってるように見えるな。
「それでは作戦会議を始める。意見のあるものは挙手するように」
「はい」
早速セシリアが手を挙げる。
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
「わかった、ただしこれは二カ国の最重要軍事機密だ。けして口外するな。もし情報が漏洩した場合諸君らには査問委員会による裁判を受けてもらうと共に、最低二年間の監視下に置かれる」
「了解しました」
部屋の中央のディスプレイに福音の詳細なデータが表示されていく。
研究所の手伝いなんかでこういうのを読み取るのは慣れていたおかげで、情報はわりとすんなり入ってくる。
ただ隣の一夏はどうにもまだ事態が飲み込めてないみたいだ、目がディスプレイを追えていない。
「おい、一夏しっかりしろ。今しっかりしておかねえと後でやばくなっても知らないぞ」
「お、おう」
ようやくしっかりした一夏も加え、千冬さんや山田先生教師陣、俺達専用機持ちで意見を出し合う。
「広域の殲滅を目的とした特殊射撃型。私のISと同じくオールレンジ攻撃を行えるようですわね」
「攻撃と機動の両方に特化した機体ね。攻撃と機動に関してはこっち側の機体のスペックをほぼ凌駕してるのが厄介ね」
「この特殊武装は厄介そうだね。ちょうど本国からリヴァイブ用防御パッケージが送られてきてるんだけど、それでも連続しての防御は難しそうだよ」
「しかもこのデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルも分からん。偵察は行えないのですか?」
「ちょっと待ってくれ、外観データから察するに全身装甲(フルスキン)タイプだって分かるけど、これってPICによるパワーアシストのほかに外骨格によるパワーアシストもあるって考えられないか?」
「根拠は何だ? このスペックデータからはそこまで読み取れないとは思うが」
「あぁ、根拠としては薄いんだけどこの――」
「ちょちょっと待ってくれよ弾!」
と一夏に途中で言葉を遮られた。
「どうしたよ、一夏。話してる最中だぜ」
「さっき言ってたパワーアシストの種類のこと少し詳しく。話についていけない」
「織斑、正直なのはここではいいことだが、もっと勉強をしておけ」
「はい……」
確かにここでは分かっていないことよりも、分かっていないまま進めることがまずい。
一夏だって俺らだってまだ学生だし、分からないこともある。
ちなみにパワーアシストの話題は実技で少し触れた程度だから分からなくても無理はない。
俺は学園に来る前にこういう部分は勉強してるし、代表候補生は言わずもがな。篠ノ之さんは勤勉だからかな。
「じゃあ軽く分かるように説明するけど、PICのパワーアシストについての原理はわかるな?」
「おう、PICの重力制御でかかる重さや遠心力とかを相殺してるんだろ?」
「よし、ならさっき言った外骨格のパワーアシストは要するに装甲とかに筋肉と同じような作用をさせるって寸法さ」
「なるほど、PICは自分に不利な力を相殺したりするけど、外骨格は単純に力を足すわけか」
「その通り。でも一夏って以外と感覚的だよな」
「そういうお前は意外と論理的だよな。中学の頃なんか俺と一緒に馬鹿してたくせに」
そう言われればそうだけど……
まぁ立花さんに会ってからそういう話を聞く機会が増えたし、活用する機会も増えたしな。
「五反田、それでさっき言いそびれたことは何だ?」
「おう悪い。俺が思うに、敵に近づかれた時に使える武装が極端に少ないってことだ。近づかれた時にとれる行動があまりにも少ないと俺は感じた、だから近距離でも打開できる手段としてあるんじゃないかって」
「でもこれの機動性と機体制御能力なら近づかれないように立ち回ることが可能なんじゃない?」
「もしもを想定していないとは考えられない。もしも近づかれたら何も出来ない、って機体は作らないんじゃねえかな」
「あ~、そう言われればそう思えなくも……でもやっぱり根拠として薄いわよ。全身装甲と武装に近距離装備がないだけでは確定とは言えないわ」
「待って、でも弾の言ってることもあながち間違いじゃないかも。たしかに近距離でできることが武装だけ見ると逃げだけしかない。だったら何か近距離で使える装備か機能が存在すると考えるのはおかしくない」
「確かに嫁の言うとおりだな。お世辞にも装甲が堅いと言えない、砲撃ならともかく近距離型ISの近距離装備を叩き込まれれば致命傷といかなくとも重傷だ。一番起こってほしくない事態に対して、何の対策も打っていない兵器などないはずだ」
「となると、このデータの中にその対策とやらがあってもおかしくはない。そういうことだなラウラ」
篠ノ之さんの言葉でこの議題は締められた。
そしてすぐさま次の議題へ。
「先ほど偵察は行えるか? と聞いたな。しかし偵察は無理だ、この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高時速は二千四百五十キロを超えるという、接触は一度が限界だろうな」
「一回きりのチャンス……ならば一撃必殺の攻撃力を持つ近接機を当てるのが一番ですわね。長期戦は期待できませんし、となると――」
千冬さんの解説を受けてのセシリアの言葉に、皆が一斉に一夏のほうを向く。
「え……?」
一夏の素っ頓狂な声。
「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」
「そうだね、それが最善策だと思うよ」
「そうですわね、となると問題となるのは――」
「待ってくれ! なんで俺で確定なんだよ! 弾や鈴だっているだろ!?」
まぁ確かにその通りなんだけど、これも理由があるわけで。
「あたしの武装は一撃必殺って訳じゃないし。さっきもラウラが言ってたでしょ、近接機の攻撃を受ければ重傷って。逆に捉えれば普通の一撃じゃ落とせないってことよ」
「じゃ、じゃあ弾は!?」
「俺の武器のドリルは一瞬ではダメージを持っていけないからな。ぶつけ続けてダメージを稼ぐような武器だ。その点お前の白式は一発で落とせるだろ?」
「うぐぅ……」
一夏自身の意思を無視して進む話に、当事者である一夏はごねる。
まぁ俺も進んで行きたいとは思わないけどな。
しかし、一夏以外に適任と言える奴はいない。
「織斑、これは訓練でなく実戦だ。もし覚悟がないのであれば、無理強いはしない」
トドメとばかりに千冬さんから追い込みを掛けられる。
一夏の弱点である千冬さんに実質『逃げてもいいぞ』と言われた一夏は、今度こそぐぅの音もでなくなる。
けれどそれで踏ん切りがついたのか、一度だけ大きく息を吸い込み、吐く。
顔つきが変わる、覚悟を決めた顔に。
「……やります。俺が、やってみせます」
千冬さんが軽くを顎を下げ頷く。
気のせいかもだけど少し満足そうだ。
「それでは作戦の具体的内容に入る。攻撃役の織斑を福音に接触するまでは温存しておきたい。そのために接触地点まで織斑を運ぶ運搬役が必要になる、この中で一番速いのは誰だ?」
「やっぱり弾の玉鋼でしょうね。次点でセシリアのBT(ブルー・ティアーズ)あたりじゃないかと」
「いや、五反田の機体は安定した速度が望めないだろう。それにポイント到達後に最低限援護に回れるほうが好ましい」
シャルルの言うとおり、俺の玉鋼は速度だけならどの専用機にも負けない性能を誇っている。
ただそれは単一仕様能力の発動下でさらに、直線の場合だ。
旋回性能は皆無だし、単一仕様能力を使っていない時は訓練機に毛が生えた程度の速度しかない。
さらに武器はドリルしかないし、こういう近接機と組む作戦には向いていない機体ではある。
「あの、織斑先生。私のBTがちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきていまして、それを適用すれば弾さんには及ばないまでも十分な速度が得られるかと」
パッケージ、ISの換装装備のことか。
確か単純な武装とかじゃなく、追加アーマー、増設スラスターといった機体の性能に直結するような装備が一セットになっていて、それを量子変換(インストール)しISに組み込む。
そうすることでIS起動時に追加された装備を装着した状態で出撃できるというわけだ。
さらに専用機には『オートクチュール』と呼ばれる、機能特化専用パッケージが存在していて、通常のパッケージより大幅に性能が変化するらしい。
専用機は一騎当千のエースみたいなものだから、その専用武装ともなればやはり効果が高いってことか。よく知らないけど。
だって俺の玉鋼にはオートクチュールどころかパッケージすら存在しないし。
「なるほど、オルコットならば援護、支援にもなれているだろうし適役か……オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」
「二十時間です」
「よし、ならば――」
千冬さんの言葉はそれ以上続かなかった。
遮るものがあったからだ。
「待った待ったー! その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」
闖入者は天井から現れた。
このふざけた口調、つい先ほど海岸線に現れた篠ノ之博士その人であった。
篠ノ之博士はディスプレイが投影されている部屋の中央、その直上の天井の板を外してそこから顔を出していた。
「山田先生、室外への強制退去を」
「あ、はいっ。あの篠ノ之博士、とりあえず降りてきてくださいー」
「とぅっ!!」
頭だけ出してるその体勢からそのまま落ちるように抜け出ると、空中で身を捻らせて地面に足から着地する。
猫みたいな身のこなしだ、あの服やら胸やらでよく引っかからず見事に着地するもんだ。
しかも立体ディスプレイのおかげで翻るスカートの中身もよく見えなかった。これも予想してたのかも――
「ふんっ!!」
「ぐっっっん!!?」
なぜか横のセシリアからわき腹に鋭い貫き手をもらった。
な、なぜだ!!?
セシリアを見やっても再度「ふん」というのみである。
何で怒ってるんだよ、そう問い詰めようと思っても、今声を荒げれば千冬さんあたりに制裁されるから出来ないし……
俺はしかたなく泣き寝入りを決め込む、ち、畜生。
「ちーちゃんちーちゃん! もっといい作戦が私の頭の中にプリンティングなう!!」
「……出て行け」
千冬さんも眉根をゆがめて厄介そうに呟く。
山田先生は千冬さんに言われたとおり篠ノ之博士を外に連れ出そうと努力してるようだが、ひらりひらりとかわされている。
一応山田先生も代表候補生だったこともあるのに、その山田先生をああも簡単にかわすのってすごいんだよなぁ。
(なんか実感薄いけど……山田先生って普段の行動を見てると本当ただのドジだもん)
「聞いて聞いて! ここは断・然・紅椿の出番なんだよ!!」
「なに?」
「紅椿のスペックデータを見てよ! パッケージが無くても超高速機動が行えるんだよ!」
篠ノ之博士の言葉の後に、千冬さんの周りに数枚のディスプレイが現れる。
「紅椿の展開装甲を調整して、ちょちょいのちょいっと。ほら、これでスピードはばっちり!」
展開装甲? 聞きなれない単語が篠ノ之博士の口から聞き取れた。
紅椿の新機能か? 武装の類ではなさそうだけど。
思案するが自分の知識の中には該当するものも、そこから連想することも不可能だった。
気付くと部屋の真ん中のディスプレイも福音のデータではなく、紅椿のデータを表示している。
いつの間にか篠ノ之博士がハッキングしていたらしい。
「説明しましょうそうしましょ~。展開装甲って言うのはねこの天才の束さんが作った第四世代型ISの装備なんだよー」
まったく調子を変えずにふざけたように言ってみせるが、その言葉の中にはこの場を凍りつかせるに十分な爆弾が積まれていた。
(第四世代……だと……!?)
「はいはいここで心優しい束さんの解説だよ~、分かってなさそうないっくんのためにね。どう、嬉しい?」
本人は相も変わらずどんどんと話を進めていく。
俺達は本当に眼中に入っていないように。
「まず、第一世代というのが『ISの完成』を目標とした機体だね。次に『後付武装による多様化』、これが第二世代。それで第三世代が『イメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実装』、空間圧作用兵器、BT兵器、AICとまぁ色々あるよね」
自身の友人達の持つISに搭載された兵装が頭の中に浮かんでは消える。
それぞれの国の最先端の技術をつぎ込まれたあの機体たちが。
「そして第四世代、『パッケージの換装を必要としない万能機』。世界の凡人さんたちが思い描く理想の形、机上の空論。はい、いっくんは理解できた? 先生は優秀な子が大好きです」
「は、はぁ……え、いや、え!?」
一夏も困惑気味だがやはり気付いてるようだ。
「ふざけていますわ……」
隣のセシリアが消え入るような声で呟く。
俺も全く同じ気分だよ。
世界中で競い合うように開発の進むISの、それも最新鋭機が今現在ようやく第三世代機の作製に入ったばかりだ。
なのにその世界中の科学者、研究者をあざ笑うかのように第四世代機を一つ仕上げちまうなんて。
なんの冗談かって思っちまうけど――
(この天才博士ならやっちまいそうな気もするよ。たった一人でISの基礎理論から設計、作製。実動機第一号まで仕立てちまうこの篠ノ之束なら)
「ちなみに展開装甲は『雪片弐型』にも使われてるよ~、私が試しに突っ込んでみた~」
「「「えっ!?」」」
ごめん、さすがにここまでは予想外。
俺どころかここにいたほとんどの奴は声に出して驚いていた。
まさかまさかだよ、今まで戦ってきた武装が実は最先端技術でしたって。
けど白式の零落白夜が発動した時に起こる、雪片弐型のあの刀が開くモーションが展開装甲? どういう効果があるんだ?
「それでうまくいったみたいだから、紅椿の装甲は展開装甲にしてありまーす。さらにシステム最大稼動時のスペックデータは脅威の倍プッシュ、どーだまいったかぁ」
目の前に投影されたディスプレイに表示されている数値が増え、平均稼動時と最大稼動時のスペックを比べることが出来るようになる。
本当にこの目の前の人は冗談めかしてとんでもないことをさらっと言い放つ。
単純な倍とかではないが、感覚的に見てもこれほどのスペックがあれば、倍とのたまっても許されそうだ。
「ちなみに紅椿の展開装甲はより発展したタイプだから、攻撃・防御・機動と用途に応じて切替が可能。これぞ第四世代の目標である即時万能対応機。世界中に先駆けて私が作っちゃったー。ぶいぶい」
何度目かは分からないが、周りの空気が固まる。
この人の話を聞いてたら驚きすぎて、驚くことに飽きてしまいそうだ。
実際この人を始めて見てから今まで、何度驚いたことか。もう驚くことに食傷気味だ。
「はにゃ? あれ? どしたの皆、お通夜みたいな顔して。誰か死んだ? 変なの」
「今全世界の科学者全員の面子が死にましたね、確実に」
俺が精一杯の皮肉で返すが、何も聞こえてないかのように流される。
まぁ、今まで見てきたあの人の反応を見てたら予想は出来たけど。
「束、言ったはずだぞ。やり過ぎるな、と」
「そうだっけ? ついやりすぎちゃったよ。えへへへへ」
童子のように可笑しそうに笑うが、ぶっちゃけイメージは魔王だ。
しかしそんな人になれつつある自分が恐ろしい。
これも日々キャラの強い面々に囲まれているおかげだろう。
人種とキャラのるつぼである学園に感謝。
「まー、これも紅椿の性能を全部引き出せたらの話だけどね。けれど、これくらいの作戦をこなすくらい夕飯前さ」
夕飯前とはまぁ微妙な表現だ。
軽いのか、それとも難儀なのか。
「それにしてもあれだね~。海で暴走だなんて十年前の『白騎士事件』を思い出すよねー、ちーちゃ~ん」
言われた千冬さんは一瞬身を堅くした。しかし本当に一瞬で、すぐに篠ノ之博士を睨むように視線を向ける。
そんな視線もどこ吹く風で、篠ノ之博士は笑っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『白騎士事件』
この事件、日本人のみならず、恐らく全世界の人類が知っている出来事だろう。
なにせ、ISが世界に認められた要因となった事件で、その内容もかなりぶっ飛んでいる。
事件の起こる少し前、学会にISが発表されたらしいが、『現行の兵器をすべて凌駕する』と豪語する篠ノ之博士の言葉はまったくもって信じられていなかったらしい。
しかしその世界中が博士の言葉を信じざるを得ない状況に陥った。
それが白騎士事件。
全世界の物理的に発射可能なミサイル、計二千三百四十一発。それがすべて日本にむけて発射されたのだ。
別に篠ノ之博士の言葉を世界が信じて、早めに潰しておこうとか考えたわけじゃない。
別にどっかの秘密結社が世界侵略を始めたというわけでもない。
ただ単に、ミサイルが発射できる施設がすべてハッキングされ乗っ取られたというだけだった。
高度なセキュリティだとか、スタンドアローンだとかも関係なく、日本を狙えるミサイルはほぼ全て乗っ取られた。
その時は国中がパニックになったものだ。家でも、爺ちゃんは腰をすえてたが親父や蘭、さらにはいつも落ち着いてるお袋まで慌てふためいてたのは、子供心に大層怯えたもんだ。
とまぁ、日本中がそんな調子で、もう駄目だ、日本は終わりだ、と思ったその時『白騎士(そいつ)』は現れた。
白くカラーリングされた金属質のボディー、ところどころ肌の見える部分から女性だと判断できたが、その顔は旧式の頭全体を覆うタイプのハイパーセンサーにより窺えなかった。
どこの漫画から出てきたんだ、と思うほどその存在は現実離れしていた。
テレビ屋なんかは日本の危機に陥っても存外逞しく、その白騎士の中継が行われていたのだが、まず第一に空中で難なく静止していることにまず衝撃を覚えた。
飛行機みたいに推進剤を使っているようには見えないし、それはそれは不可思議なものに見えた。
不可思議といえば、あのテレビの撮影班はどうやって白騎士のいる場所が分かったのだろう、それも不思議ではある。
余談だったな、ともかくその彼女は迫り来るミサイルに対して逃げるでもなく、防ぐでもなく、攻撃を開始した。
衝撃的だった、あんなにも人間が早く飛べるなんて、あんな大きなものを虚空から召喚するなんて。
彼女は一振りの剣でミサイルを切り落とし、当時試作段階であった荷電粒子砲を呼び出しては飛来するミサイルに打ち込んだ。
ほぼ半数のミサイルを撃墜した時、世界は彼女にキバを剥いた。
それはそうだ、今まで鼻で笑っていた新兵器は開発者の言うとおりの性能があった。
そしてその性能が確かであれば、世界のパワーバランスは大きく崩れる。
焦っていたのだろう、恐怖したのだろう、冷静な判断など出来なかったのだろう。
大きな力を持った国がいくつも、当時持ちうる戦力を可能な限り彼女のいる戦場に差し向けた。
一対多、この言葉で説明するのが適切ではあるのだが同時に不足である。
それほど多くの戦闘機、巡洋艦、果ては試作段階である最新鋭兵器までが駆りだされた。
しかし彼女は負けなかった。それどころか彼らを圧倒してしまった。
だがそれも当たり前といえば当たり前だ。
人間一人分の小さな機体が、音速下で戦闘機以上の旋回性能、加速性能を有し、最高速は同等か頭一つ分抜かされているか程度の差しかなく、破壊力は圧倒的に現行兵器を上回っていた。
極めつけはエネルギーフィールド、当たっても傷一つ負わせられない。その白銀の機体はすべての兵器を沈黙させるまで、その輝きを失うことはなかった。
死傷者、重傷者、双方共になし。
圧倒的に勝ったものは勿論、圧倒され負けた者にも傷ついたものが無かったというのはつまり、『敵う者なし、すなわち無敵』ということのなによりの証拠だ。
篠ノ之博士の言葉を証明した彼女は、夕日を背に受けながら、俺達の目の前から姿を消した。
TVの画面、その場で見ていた野次馬、TVクルー、敵、そして彼らのレーダーなどなどすべてから。
目視でも、レーダー、センサーの類でも捉えられなかったそうだ、一体どうやって消えたのか? 今ではISの単一仕様能力ではないか、というのが通説であるが、真偽の程は定かではない。
果たして、ISに完敗を喫した世界は篠ノ之博士を認めざるを得ず、そしてISも世界は認めざるを得なかった。
世界の対応は早かった。条約の締結、法律などの整備、何もかにもが急ピッチで行われた。
そして、今の世界が出来上がった。男から女にパワーバランスの傾いたこの世界が、僅かな期間で。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「しかし、それにしても白騎士って誰だったんだろうねー。ねぇち~ちゃん」
「知らん」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる篠ノ之博士。
それはまさしく黒幕にふさわしい笑い方だ。
世界中がうすうす感づいている、この騒ぎの原因を作ったのは他でもない篠ノ之博士ではないか、と。
だってそうだろう、全世界の軍事施設から兵器まで片端からハッキングするなんて、世界中で篠ノ之博士くらいしか出来る人間が思い当たらない。
そして白騎士の方も恐らく――
「私の予想はね~、バスト八十八センチの――」
ズバン、と鋭くも重量感のある音を響かせるこの人物、織斑千冬その人ではないか? と疑われている。
心底痛そうに頭を抱えている天才博士が千冬さんと親しいと言うのは噂されていたし、あんな動きのできる人物ならモンドグロッソで優勝することなど容易いだろう、という推測がなされている。
もちろん篠ノ之博士にそれを聞けた人はいないし、千冬さんにも、だ。
そしてそれを追求できていない理由は、単純にかなわないからだろう。
誰も世界一の頭脳と世界一のIS操縦者に対して藪をつつこうなんていう気にはならないんだろう。
蛇どころか、悪魔が出てきてもまだ安堵の息が出るほどのハードモード加減だからな。
「話を戻すぞ。束、紅椿の調整にはどれくらい時間がかかる?」
「七分あれば余裕かな。そりゃあもう完璧に仕上げられるよ」
軽く答える篠ノ之博士。
「そうか、では織斑を運ぶ役目は篠ノ之、お前に託そう」
「はい!」
先ほどのスペックデータが決め手になったんだろう、指名された篠ノ之さんは僅かに緊張の色が混じった声色で返事をした。
「教官、セシリアの高機動パッケージがあるのであればそれは作戦には加えないのですか?」
「そう焦るな、忘れているわけではない。それでオルコット、そのパッケージは量子変換(インストール)できているのか?」
「あ……まだ、できていませんわ」
ラウラの言葉で思い出したがそうだ、セシリアの高機動パッケージの話が最初に持ち上がっていたんだった。
しかし千冬さんの言葉に、セシリアは申し訳なさそうに返す。
「そうか、作戦開始はおおよそ三十分後を予定しているが……間に合いそうか?」
「えぇ~、そんな金髪いらないよ。いっくんとほうきちゃんの二人でいいじゃ~ん」
「うるさい黙れ」
「すみません、急いでも五、いえ四十分はかかるかと」
篠ノ之博士の茶々を無視して話を進めるが、どうもセシリアの作戦参加は無理そうだ。
あ、でも――
「俺達で量子変換手伝えませんかね? 作戦不参加組で手伝えば作戦開始に間に合うんじゃ?」
「お前は量子変換をなんだと思っているんだ? 機械的な作業であれば手伝うことも可能かもしれんが、電子的な作業が大半になる。手伝うといってもできることなど高が知れているし、時間の短縮も狙えんだろう」
「う、はい……」
「あはは、弾って本当に知ってることと知らないことの差が激しいよね」
シャルルが笑いながらそう言う。
そりゃIISで関係することなんかは実体験と立花さんやらから教わった知識で詳しいといえば詳しいけど、それ以外は本当に授業くらいでやったことしか知らないからな。
「では決定だな。作戦実行班は織斑、篠ノ之。目標の追跡、及び撃墜を目的とする。作戦開始は今から三十分後、各員――」
千冬さんが作戦の統括をしようとしかけたその時、またもやその言葉は遮られた。
「待った待った、ちょっとその話待っ――」
先ほどは天井から、しかし今度は真下から聞こえた。
俺が座り込んでいる畳を見やると、なにかおかしい。
畳ではなくて、俺自身が、なんか傾いて――
「たぁあ!!」
「どぅおわぁ!!」
俺の乗っている畳が持ち上がり、転がり落ちるように倒れこむ。
幸い、畳が柔らかくてあんまり痛くは無かったけど。
「た、立花博士!?」
「……なぜこうも乱入して来るんだ、お前達は」
「そうだよねぇ、本当常識がなってないよね~」
千冬さんの呆れたような言葉に、『お前達』の片割れは他人事のように呑気な発言をしていた。
「あ、あの弾さん……」
ん、セシリアの声? でもどこからだ、妙に近くから聞こえたんだが。
「その、どいてもらえると助かるのですが」
どく? どこから? そういえば畳にしては妙に柔らかかったというか、天地がひっくり返って自分の場所をうまく把握できていなかったがよくよく考えてみればここはさっきまでセシリアが座っていた場所ではないか?
床に面した背中というか、首から頭に面しての接地している部分が柔らかすぎるというか。
冷静になった頭で判断すると、セシリアのいた場所と俺の今の場所の関係、明らかに俺の背中側から聞こえるセシリアの声。
最後の駄目押しというか、頭の後ろから俺のものでない鼓動が聞こえるのだけど――
「す、すんませんっしたぁ!!」
勢い良く起き上がり、その反動ですぐさま土下座に移行。
起き上がったときに若干頭がセシリアのふくよかな部分に沈み込んだのが、思いのほか心地よかったという感動は墓場まで持っていこう。
「いえ、そんなに謝らなくてもいいですわ。事故ですし、事故ですもの」
「すまん、本当にすまん。マジごめんなさい!」
「ちくしょう、おっぱい枕とか死ねよ。マジ死ねよ、ていうか死んでください」
「弾の奴、俺のことラッキースケベとか言ってるけど、弾も大概だよな……」
あぁ、確かにそうですよ。いつも一夏にラッキースケベとか羨ま死ねとか散々言ってるけど、この頃確かにこんなの増えてきてる気がする。
とは言っても周りにあんまりよくない印象を与えてしまうし、そういう側面ではうれしくなかったりする。
「あー、あまり無駄な時間を使うな。作戦開始まで三十分しかないんだからな。立花博士もふざけていないで用件があるなら手短にお願いします、もちろん用件そのものがふざけていれば容赦しませんのでそのつもりで」
千冬さんのイライラを帯びた声に俺達は黙り、立花さんは肩をすくめ話を始める。
「俺なら三十分程度で量子変換が可能だぜ。作戦にセシリアちゃんも使えれば、成功の確率はあがるんじゃないかい?」
「ふむ、できるのであれば使わない手はないか……では立花博士はオルコットについてもらって、量子変換を作戦開始に間に合うようにお願いします」
「あいよ、合点承知」
手早く話をまとめる大人二人、その横で面白くなさそうな顔をする子供のような大人。
なぜそんな顔をするのかは分からないが、大方自分の気に入っている人間以外が抜擢されたからというしょうもない理由に違いない。
もしそれ以外の理由だったら俺には見当もつかないしな。この人に関しては理解しようと思うのはあんまり得策ではないんだろう。
「それでは作戦に参加するメンバーは準備にかかってくれ。織斑、五反田、エネルギーをしっかり満タンにしておけよ」
俺はお呼びがかかってなかったと思ったんだが。
「俺もってことは……セシリアの運搬役っすか?」
「あぁ、そうだ。デュノア、ボーデヴィッヒでは足回りに不安が残るし、凰では前衛の数が多くなりすぎる。消去法でお前が適役だ」
「まぁあいつらが帰ってくるのをただ待ってるよりましだから行きますけど――」
「ちょっと待ってよちーちゃん!」
本当によく人の会話に割り込んでくる人だ。
出会った当初の誰かさんを思い出してしまいそうだ。
「なんだ束、もう準備を始めてもらわんと困るんだが」
「そのガラクタ使いに何をやらそうって言うのさ、量産機に毛が生えた程度のそれに運搬役? 出来るわけないじゃない」
「?」
「ウェイウェイ、なんで意味が分からないって顔をするのさ。ちーちゃんはそいつが何も出来ないってこと見てきたんじゃないの?」
何を言ってるんだ、この人は。
確かに俺の単一仕様能力は発動するしないにムラがあるけどさ、それなりに頼りにしている節がある。
それをここまで言われては反論しないわけには行かなかった。
「おい、いくらなんでもそれは言いすぎじゃねえのか? 確かに単一仕様能力の発動がなけりゃあんたの言うとおりの性能だけど、発動できれば最高速度三千キロくらいにはなるんだぜ。運ぶくらいならできるさ」
「は? 単一仕様能力の発動? 何言ってるのさ、動作するようになったとはいえ、実験試作段階と大差ないその機体ができるわけがないじゃないか、ねぇちーちゃん」
「……お前こそ何を言っているんだ束。五反田の専用機は単一仕様能力を幾度も発動してきている。お前は、それを知らなかったのか……?」
「え? は? はぁ?」
ちょっと待て、何かおかしいぞ。
篠ノ之博士が今までとは明らかに違う反応を見せた。
今までどこか余裕があった、なにが起きようともどこか余裕を見せていた、あの千冬さんに殴られようが怒られようが、次の瞬間にはケロリとしていたあの篠ノ之博士が、フリーズしてる。
「……立花藤吉!」
「あ? なんだよ天才ちゃん。俺急いでるんだけど」
少しの間、思案するように動きを止めていた篠ノ之博士だが、急に何かに気付いたかのように、部屋から出て行こうとしていた立花さんを呼び止める。
その声色は明らかに敵意を孕んでいた。鋭く、突き刺さるようなその声と視線を立花さんは飄々と受け流していた。
「君はまさか……彼の……っ!!」
出てきた言葉は途切れ途切れで、何を意味しているかはこの場にいる人間にはわからなかった。
言葉を投げかけられた、ただ一人を除いて。
「……君じゃ無理だ、だろ? それが答えだよ天才ちゃん」
穏やかな口調で呟かれた言葉は、さっきの砂浜で立花さんに篠ノ之博士が言った言葉、そっくりそのまんまだった。
俺にはやはり、その言葉の意味も、空白に隠された何かも読み取れなかった。
あまりにも情報が少なすぎるから。
「そんじゃあ俺は行くとするわ、時間も押してるし。行くぞ、セシリアちゃん」
「あ、はい」
話を切り上げセシリアを連れて部屋から出ようとする。
篠ノ之博士は視線を外さないが、何も言おうとはしない。
この二人にとっては、さっきの二言だけですべてが分かったとでも言うのだろうか。
おそらく、そうなんだろう。
「おい、お前も来るんだよ弾。機材運びやらなんやらは手伝え、暇なら作戦不参加組も来い」
「うっす」
「じゃ、じゃあ僕らも」
「嫁が行くのであれば私も行こう」
呼びかけに応えて、ぞろぞろと立花さんについて部屋を出て行く。
最後まで振り返ることはしなかったけど、背中に視線を感じてはいた。
俺にではない、立花さんに。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
作戦開始時刻まであと五分を切った。
波打ち寄せる砂浜の上に乱雑に機材を並べて、立花さんが風貌からは想像できないほどのスピードで作業を進める。
しかし若干焦りが見えている、作戦開始に間に合いそうにないようだ。
「立花さん、大丈夫なんすか?」
「うっせえ気が散る。つってもこりゃ駄目だ、少なくても三分は遅れるな。あの天才ちゃんも手伝ってくれてもいいのに消えちまうんだもんな、ひどいぜまったく」
いたとしても手伝ってくれないでしょあの様子じゃ。
「それよりもお前の方は準備できてるんだろうな?」
「こっちは大丈夫、エネルギーは満タン。いつでも出撃できます」
俺、一夏、篠ノ之さんは準備を終えている。
少し前に紅椿の調整を終えた篠ノ之さんが一夏と一緒に、この砂浜に来てセシリアのパッケージの量子変換を横で見ている。
「セシリアちゃん、今新しく出たウィンドウの数値調整頼む。そこは君の個人データを反映させるところだから俺は分からん」
「分かりましたわ。超高感度ハイパーセンサー、接続確認。数値調整……完了しましたわ」
「よっし、ここからは俺の作業だけだ。ラストスパートかけるぜ」
セシリアも自身のデータが必要な場面では手伝っていたがさっきので最後だったようだ。
一息つくように吐息を吐き出す。
「セシリア、おつかれ」
「ええ、量子変換だけなのに少し緊張してしまいましたわ」
「確かに、傍から見ていても鬼気迫る雰囲気で作業をしていたからな」
といっている間にも、立花さんはさっきよりも作業のスピードを上げている。
こんなに本気な立花さんは見たことがない。
「それにしても早いですわね、イギリスのBT専門の研究機関でも、こんなスピードで量子変換をこなす人なんておりませんでしたわ」
「そうだよな。束さんと同じとは言えなくても、すげー早い。立花博士って一体何者……っと今話しかけるのはまずいか」
「いーや、言葉を交わすくらいならできるさ。あの天才ちゃんにもできたんだからな」
手は一切休めずに言葉を返す立花さん。
「何者かって聞いたけど、別段特別なところはねえよ。普通に生まれて、普通に努力して、今はこういう職に就いているだけだ。それに手が早いのなんて科学者にとってはそんなに褒められることでもないさ」
「そういう、ものなんですか?」
「科学者にとって一番重要なこと、わかるか?」
「え? そうだな……」
立花さんにそう問われ、考える一夏。
篠ノ之さんとセシリアも考えを巡らせているようだ。
「成果を残すこと、ではないでしょうか?」
一番初めに答えたのはセシリアだった。
それに対して立花さんもうなづいて返す。
「そ、正解。俺は成果を残せてなかったのさ。このIISプロジェクトが始まるまで、てんで名の知れない新人の若造だった」
「え、じゃあどうして玉鋼の開発を取り仕切るようなポジションに?」
「単純に、こういう構想があるからやってみませんか? って俺が国に提案したからだよ。直接は無理だったから色々なツテを頼ったし、ある程度具体的な案として資料もそれなりにつけてな。そうしたら向こうのほうから誘ってきやがったわけさ」
「それだけで、すんなりプロジェクトのリーダーとかになれるものなんですか?」
一夏が懐疑的に返すが、立花さんは苦笑いで答える。
「あんまりこういうことは言いたくねえが、俺以外できなかったのさ。資料を見て理解できる奴は結構いたが、それを自分で発想できるかって言えば別問題だろ?」
「つまり、それだけその提出したものが凄かった、と? それを読んだ人間が、立花博士にしかできないと言わしめるようなものだったという風に聞こえるのですが」
「だから言いたくなかったんだよ。こんなこと言うと、暗に『俺って天才だろ? すごいだろ?』って言ってるみてえじゃねえか」
照れくさそうに頭をぼりぼり掻く立花さん。
しかしすぐに手を作業のほうに戻した。
褒められるのには慣れていない立花さんらしい。
「んんっ。とまぁ俺についてはそんなもんだ。んで、弟君と妹ちゃんは準備いいのか? もう一分切ったぜ」
咳払いをしてごまかす立花さん。
しかしその言葉も正論で、もう作戦開始までは時間がない。
立花さんも間に合いそうではないようだ。
「そうですね。じゃあ立花博士はセシリアをお願いします。弾も、千冬姉が言った通りに頼む」
「任せとけ、すぐに追いつくさ」
セシリアの量子変換の途中、間に合いそうにないと感じたのか、立花さんは俺たちに支持を仰がせた。
それを受けた千冬さんの答えは、一夏、篠ノ之さんは時間通り出撃。俺とセシリアは準備が整い次第出撃、とのことだった。
けれど、立花さんが言った三分はでかい。
高速戦闘なら、決着がついてもおかしくはない。
気持ちがはやる、そわそわと落ち着かない。
できれば、俺も一夏や篠ノ之さんと一緒に出撃したいけど。
「弾さん……」
セシリアが、俺の顔を見ながら心配そうな声を出す。
そんなに情けない顔をしていたんだろうか。
「大丈夫、俺は大丈夫だよ」
だからこそ、強くそう返す。
俺は大丈夫。
セシリアだって、二人と一緒に行きたいはずだ。
今ここにいないあいつらも同じように思ってるはずだ。
だから大丈夫だ、待てる。
「もう時間だな」
立花さんが一言つぶやく。
否応なしに高まる緊張感。
皆、真剣な面持ちになっていく。
「最後に、お前らに言っておくことがある」
立花さんが、今までより一層力がこもっているように聞こえる。
「絶対に無茶だけはするなよ」
刹那の空白。
四人の間で視線が交差する。
「はい!」
一夏の威勢のいい返事に口元がにやける。
ほかの二人も、程よい緊張とリラックス。
いいコンディションで作戦に臨めそうだ。
『作戦開始時間だ、織斑、篠ノ之準備はできているか?』
立花さんの傍らに置いてあった通信機から、千冬さんの声が伝わってくる。
いつもより厳しく聞こえるのは気のせいだろうか。
「はい」
「こちらも、いつでも行けます」
『立花博士、オルコットは』
「あと三分ほどだ、予想よりは早く終わるかもな」
『では織斑、篠ノ之両名でまず先行、オルコット、五反田は準備ができ次第追撃。いいな?』
千冬さんの言葉に、各々返事を返す。
そして、ついに――
『では、はじめ!』
千冬さんの号令で――
「白式!」
「こい、紅椿」
俺たちの初めての実戦が始まる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今回はここまでです。
福音戦、ついにはじまりました。
しかしこうなると長かった三巻編も佳境に入ったと実感できます。
それでは次の分を書く作業に戻ります。
できる限り早く書き上げるように頑張ります。
それではこれにて
おつ
遅ればせながら乙
おつ
ボリュームあって続きが楽しみ
戦闘パート大変でしょうが、ゆっくりまってます
乙
束が出し抜かれて爽快
乙
燃える展開だがおっぱいこのやろう
乙
いよいよだな
追いついた
さぁ二週間ほどたちましたので生存報告。
というのは冗談で、書きあがったので投下していきたいと思います。
それではいきます。
箒が俺を乗せ、一気に雲に触れられるほどの高度まで急上昇する。
今までいた浜辺の全容が見え、それもすぐに小さくなる。
弾たちの人影も、ハイパーセンサーで意識しなければよく見えなくなってしまった。
「暫時衛星リンク確立……情報連結完了。目標現在位置確認―― 一夏、一気に行くぞ」
「お、おう!」
俺がそう返すと箒は返事をせず、紅椿の展開装甲を開く音がその代わりとなった。
紅い装甲から覗く部分はまばゆく光を放ち、この後の加速を想像させる。
ぐにゃり、と世界がゆがむような感覚。
高速で動く自分と周りの風景を脳で処理するためにハイパーセンサーが処理するために起こる現象らしい。
紅椿のスペック上の最高速は約マッハ二.五、標的との接触地点まではおよそ一分。
交差するような軌道から、わずかに後を追うようにずれて攻撃。そういう手筈になっている。
「見えたぞ! 一夏!!」
箒の声に、俺は目をこらし軌道上の先を見据える。
ハイパーセンサーにより鋭敏化した視覚が、銀の機影をとらえた。
頭部後方の特徴的なシルエットの武装、スラスターと新型射撃武器を融合させた新型システムだそうだ。
しかしその姿はさながら天使の羽、銀の福音の名を冠すに相応しいシルエットだ。
「加速する! 目標に接触するのは十秒後だ。気を引き締めろ!」
「ああ!」
雪片弐型を呼び出し、その柄をしっかり握りこむ。
さらにスラスターをふかし、加速する機体。
(八、七、六、五、四――)
三で箒の背中から飛び出す。
二で雪片弐型を握る手にさらに力がこもる。
一で福音が振り向いた、だが俺はもう振り下ろし始めてる。
「うおおおおっ!!」
零落白夜の効果で形成されたエネルギー刃が、銀の福音をとらえた。
そう確信していた。
だが――
『La……♪』
ISのオープンチャネルを通して聞こえた無機質な機械音声。
俺の雪片二型が福音を切り裂く音はない。
「避けられたっ!?」
両者共にマッハ二以上の速度で飛行していた。
そんなに速度の中で福音は間近に迫った刃を、わずか数ミリ単位で躱した。
(機動性に特化している、とは聞いていたけど速度の問題だけじゃない。高速下での機体制御も含めた機動性だっていうのか!?)
「一夏っ!」
箒の声。
紅椿の二刀流からの援護射撃。
雨月、空裂を交互に突きと斬撃を繰り返す。
腕部の展開装甲が開き、そこからもエネルギー弾が射出される。
『La――……♪』
しかしそれもすべて弾の隙間を縫うように避けられる。
背部のスラスターは福音の全長よりも長く、横に幅もある。
それでも避けられる。
「くそっ! どうやって当てたら……!?」
零落白夜の継続時間にも限界がある。
だからこそかむしゃらに、しゃにむに突っ込むがやはり当たらない。
箒の射撃、俺の斬撃、どちらも全く当たる気配がない。
(あの大型スラスターが厄介だな…… 反応の速さ、速度の速さ、停止する速さ、なんでもそろってる。俺の白式のスピードと、機体制御技術じゃ追い切れない)
それでもやるしかない。
ここで俺が止めないと!
「おおっ!!」
箒の弾幕に乗じ、回避行動に移っている福音に斬りかかる。
エネルギーの消費の激しい瞬時加速を併用し、肉薄する。
何発か、箒の弾もかすめて零落白夜に必要なシールドエネルギーがさらに少なくなる。
けれどもこれで決める、決めてみせる。
「一夏っ!」
箒からの声が一瞬聞こえた。
けれどそれは悲鳴にも近い声色で。
傍から見ていた箒には、俺が迂闊に見えたんだろう。
だってこいつは、俺の突撃を待ってましたと言わんばかりに――
『La――La――♪』
奴も箒のエネルギー弾を受けながら、こちらに振り向く。
そして銀の翼が、その至る所が不気味な光を放つ穴をあける。
(しまった……! これは、砲口!?)
翼から、爆ぜるように放たれた無数の弾丸は白式の装甲に容赦なく突き刺さる。
「ぐっ!!」
突き刺さったエネルギー弾は着弾と同時に爆発を起こし、俺は強引に後ろへ押し戻される。
それにしても――
(なんて連射速度だ……今まで経験したことがないほどの弾幕。セシリアのBT兵器とかの比じゃねえぞ)
幸い精度は悪く、ばらまいて当てるような武装なんだろう。
離れると隙間をくぐるのも苦ではなくなる。
しかし逆に近づくとなると、俺一人の力では無理だ。
「箒、援護頼む! なんとか動きを止めてくれ!」
「わかった!」
箒の援護を中距離から近距離に切り替えての仕切り直し。
箒が先行し、両刀で牽制を放ちながら一気に近づいていく。
機体制御面では向こうが有利にあるが、紅椿の最高速の方が福音よりも速い。
福音もうまく躱し、まこうとするがそれでも箒がじりじりと近づく。
(機体制御だけなら向こうが上、それでも追い付くなんて紅椿の性能は本当に桁違いだな)
今まで完璧に攻撃をかわし続けていた福音だったが、ついに刃が追いつき装甲をかすめる。
福音もさすがに回避のみではいられず、防御を使い始めた。
そろそろ、だな。
(だいぶ意識が箒の方にいってる、ここで俺が一気に近づけば崩れるはずだ。もし外れても、箒の攻撃までは同時に防げないだろう!)
福音の上を取り、一気に加速する。
重力の力を借り、どんどん機体速度を上げる。
シールドエネルギーは残りわずか、おそらくこれがラストチャンス。
『仕掛けるぞ! 遅れるなよ一夏!!』
プライベートチャネルを通して聞こえる声。
瞬時加速を使い、肉薄する箒。
両の刀を交差させ振りぬく。
「はああぁっ!!」
しかしその一撃も福音は躱すことはできずとも両手でしっかり受け止めた。
箒の動きが止まる。
だがそれは福音も同じ。
今だ!!
『La♪』
短い機械音、福音の両の羽から大量にあふれ出る光弾。
全方位にばらまかれたそれは脅威だが、あと数撃程度なら問題なく零落白夜の刃は届く。
箒も光弾をくらいながらも耐えてくれている、まだ福音は動けないはず。
(これならいけ……何っ!?)
慌てて瞬時加速を使う。
福音に接近し、そのまま通り過ぎる。
何発か光弾をもらい、瞬時加速まで使ったために零落白夜の刃は消えかけている。
「一夏何を――ぐあっ!?」
箒の悲鳴が聞こえたが今は振り向けない。
前方に飛んでいた光弾を、消えかけの刃で何とか打ち消した。
しかし打ち消したと同時に刃は消えて、展開していた刀身がもとに戻ってしまった。
『一夏! いったいなぜ攻撃をしなかったのだ!!』
『船がいたんだ! 先生たちが海域を封鎖していたはずだから、たぶん密漁船か何かだけど……それでもほっとけないだろ!』
『何!? くっ、なんて間の悪い……』
ちょうどさっきの弾丸の先、件の船は周りに落ちた残りの流れ弾によってようやくここがどういう状況でどういう場所なのか気づいたようだ、船を旋回させ逃げ出そうとしている。
正直遅すぎる判断だが、今はそんなことを考えている暇はない。
目の前に迫る光弾。
福音がさらに追い打ちをかけるように仕掛けてくる。
「一夏っ!!」
箒が割って入り、光弾を打ち落とす。
見る限り機体の損傷もなく、怪我もしていないようだ。
そのことに心から安堵する。
「サンキュー、箒」
「全く、犯罪者なんぞを助けおって。お前はまったく甘ちゃんだな」
「でも箒だって俺と同じ状況なら助けただろ?」
「……罪は償わねばならん。ならば、生きていてもらわなければ償わせることができなくなる。それだけだ」
「ふ~ん」
「なっ、何だその態度は!! その悟ったような言いぐさはやめろ!!」
「次、来たぞ!」
「ちっ」
一気にのんきに変わった雰囲気のまま、飛来する光弾を二人で捌く。
シールドエネルギーの少ない俺は少しだけ後ろの位置で箒に若干守られるように立ち回る。
「しかし一夏、奴は幸い船に興味はなさそうだが私たちは撤退できるのか? お前はシールドエネルギーも尽き、正直私もあの弾数と機動性から逃げるのには骨が折れるぞ」
「いや、今はここを守りきるだけでいい」
「だからそれでは…… そうか、そういうことか! 確かにもうすぐ――」
箒の言葉を遮るように、さらに弾の雨が降り注ぐ。
しかも弾数が若干増えている。
俺たちが動けないことをいいことに畳み掛けてきたのか。
けれど船はだいぶ遠くに逃げた、二人ならばこの量でもなんとかしのぎ切れる。
そして――
『La♪――……???』
福音が首をかしげるように虚空を見つめたかと思うと、その機体に真横からビームの弾丸が突き刺さる。
『La――?!?――?!?』
福音の機械音声も、ノイズが混じりで困惑しているようにも聞こえる。
攻撃を受けた衝撃で傾いた体勢を整えた福音が、今度はしっかりと遠方よりやってくる青い機体を捉える。
『お二人とも、お待たせしましたわね。この私が来たからにはもう安心ですわよ』
セシリアの尊大な言い回しも、こんな時には頼もしい。
『さぁ、福音を追い詰めますわよ! 箒さん、一夏さんを一緒に援護してください!』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一夏たちが上空に消えておよそ三分後。
「よっしゃ終わり!」
立花さんが声を上げ、セシリアの周りに浮かんでいたウィンドウがすべて消える。
「お疲れ、立花さん」
「んなこと言ってる暇あったらさっさと飛べ。ただでさえ時間押してるんだからな」
「わかってるよ。セシリア、行くぞ」
「はい―― 来なさい、ブルー・ティアーズ!!」
呼び出しに応じて、光の粒子がセシリアを包み形を成していく。
いつものシルエットに似てはいるが、背中周りのあたりが幾分か大きい。
発光が収まり、姿を現したBTの高機動型パッケージ『ストライクガンナー』
やはり、背中にあったBT兵器のマウントされたスラスターの部分が増設されていて全体的に重苦しい印象を受ける。
しかし、それよりも目を引かれたのはセシリアの頭頂部のハイパーセンサーだ。
いつもはヘアバンドのように髪にぴたりとくっついているのだけど、そこに幾本もの突起が髪に沿うように立っていて、まるで――
「ティアラを被った王女様みたいだ……」
「ひゃうっ!? 弾さん、唐突に何を!?」
「あれ、俺声に出てたか?」
「い、今から実戦ですのよ。そんなことを言って集中を乱さないでくださいな!」
「すまねえ、悪い」
そこまで動揺することか? 確かに褒め言葉にしては美辞麗句すぎたかもだけどさ。
まあでも、セシリアのいうことももっともだ。
今はそのことを考えるよりも先にやらなきゃならないことがある。
「とりあえず、立花さんを加速の衝撃波に巻き込むわけにはいかないからな。少し上昇して加速する、掴まってくれ」
「うぅ……わかりましたわ」
顔を赤らめながらも俺の背中にぴたりとくっつくセシリア。
そんな顔されると俺も赤くなっちまうっつーの。
でも玉鋼の背中部分が装甲になってて良かった、そうじゃなかったら多分作戦どころじゃない。
「弾さん、いつでも行けます。飛んでください」
「あ、おう、よっし行くぜ!」
PICによる緩やかな浮上から、脚部スラスターによる上昇に切り替えて高度百m程まで到達する。
ここからは単一使用能力による加速で一気に一夏たちとの合流を目指す。
だからこそ、まずは発動させなければ話にならないのだが――
『単一仕様能力:弾(ハジキ)発動準備完了。IIS:玉鋼(タマハガネ)脚部充填エネルギー 右:残8 左:残8 エネルギー充分』
お馴染みの報告ウィンドウが立ち上がる。
本当に、模擬戦なんかをやっているときはうんともすんとも言わないくせに、こういう時はあっさり立ち上がる。
目立ちたがりめ。
「セシリア、弾を起動する。一気にマッハ二くらいまで加速するから、衝撃には備えておけよ」
「誰にものを言っていますの」
「はっ、そんなら大丈夫そうだな。それじゃ―― 加速、開始」
両足のスラスターから高濃度に圧縮されたエネルギーが解放され、一気に音速の壁を超える。
ハイパーセンサーの、高速機動へ移行する時の景色の歪みにもだいぶ慣れた。
(三秒経過―― 再加速、両足のエネルギー同時解放)
急激な加速に、体が後ろにひかれるような感覚。
IISの機能で体にかかるGが緩和されるといってもこの急激な加速だと、体が感知できる程度にはかかってしまうんだよな。
『玉鋼のスペックデータで速いとは分かってましたが、ここまで速いなんて……』
『一回目の加速の時点で大体のISの最高速は抜いちまうからな―― 次で玉鋼の最高速に達するぞ』
さらに加速。
エネルギーは残り両足に五つずつ、解放した後から順次充填と圧縮が行われている。
同時進行で空からフルまで二十四秒、三秒ごとに両足の加速で安定した高速航行が可能というわけだ。
『最高速で音速の約二.五倍。紅椿と直線の飛行速度ならタメはれるくらいだな』
『第四世代相手によくもそこまで……』
『そうでもないさ、こっちは専売特許のスピードで御株奪われちまった。機体制御なら向こうに軍配が上がるし、装備も多い。やっぱりあの博士はすげえよ』
圧縮されたエネルギーがさらに減る。
目標までの到達時間はおよそ四十七秒。
『セシリア、ここからは戦場の状況見えるか?』
『もう少し距離が近ければ。ここからでは交戦状況中としか』
それならこっちでもわかる。相手も派手な武装を使っているらしい。
雨のような光弾が目標との接触地点で広がっているのが見えるからな。
『おそらくスペックデータの特殊武装があれなのではないでしょうか? 単体で展開できる弾幕としては規格外の量ですわ』
『だろうな。広域殲滅を目的としてるってあったし、あれならその部分と合致する』
『ですがアウトレンジのISに対してあれでは牽制にしかなりませんわよ。いくら弾幕が濃くても離れれば弾の隙間をくぐれるのでは?』
『一対一が基本の俺らとは考え方が違うんだろう。…… たぶんだけど、戦線に投入するときにはあれを複数投入するか、弾幕を避けてる相手を狩るような機体と組ませるんじゃないか?』
『なるほど…… なんだか冴えてますわね』
『褒められてるのにそんな怪訝そうに言われるとなんか引っかかるんだけど』
『うふふ、気のせいですわ』
セシリアのからかうような言葉はひとまず置いておいて、状況の確認。
目標との接触地点への到達まで三十秒を切った。
エネルギーは充填ゼロ、圧縮充填完了と同時に順次使っていっている。
『セシリア、目標との接触九秒前に加速を切って慣性飛行に入る。俺のやることなんてないだろうし、帰りまで力をためておくよ』
『了解ですわ。確かに近接戦闘のみが一夏さんと弾さんの二人ですものね、お願いしますわ。もし力を使い切ってしまったら、今度は抱えて帰ってくださるかしら』
『喜んで、お嬢様』
『やっぱりそういう口調は似あいませんわね』
『うるせえよ』
軽口も叩き終え、残り距離は二十キロを切った。
接触まで一五秒。
『おい、なんかおかしくねえか?』
『福音も一夏さんたちも動いていない? 一方的に福音に撃たれてますわ、でもなぜ…… はっ! 弾さん、一夏さんたちの下後方に船影が!』
『マジか!? 何でこんなところに船なんかいやがるんだよ!! セシリア、ちょっと早いが別れるぞ! 俺が船を押し出してみる、そっちは――』
『福音、ですわね?』
「頼んだ!!」
「お任せあれ!!」
最後にお互いに激を入れあい、背中からセシリアが離れる。
俺は単一仕様能力での加速をやめ、慣性飛行に入る。
海面のギリギリをPICで落とさないように飛ぶ。
『一夏、篠ノ之さん、船は俺が運ぶ! 二人は福音の相手に戻れ!』
『五反田か! すまない、頼む!』
急速に船の後方に近づく。
小さな漁船だ、それなりに年季がいっているようだが手入れはされているように見える。
これなら多少の無茶をしても沈まないだろう。
船尾に到着するが、船の上の乗組員達はおびえた様子で俺の方を見てる。
「俺は味方だ! これからこの船を遠くに押してくから、どっかに掴まっとけ! 落ちても知らねえぞ!!」
大声で叫ぶものの、乗組員たちの反応が芳しくない。
どうした?
「おい、聞こえなかったのか!? さっさとしろ!!」
「―――――――!!」
「は?」
乗組員の一人が俺に向かって何か言ってきたが、全然聞き取れなかった。
けど何かなつかしい感じが――
「あっ!!」
そうだ、確か鈴とこのおじさんとおばさんが喧嘩してるの一回見たことがあったんだ、その時に聞いた感じの言葉だ。
つ、つまり。
「中国人かよあんたら!! ちっくしょう、こんなことなら鈴に中国語でも教えてもらっときゃよかった!!」
しかし今相手に言葉が通じず、さらに攻撃はいつこっちに飛んでくるかもわからない。
一応船は福音たちから離れるように進路はとっているけど……
「ああもう、考えたって答えなんか出るか!! とにかく押す、落ちたら拾い上げる! これでいく!!」
考えてる時間がもったいない。
船尾のへりをつかみ、スラスターをふかす。
一気に加速すると確実に乗組員に被害が出るだろうから、だんだんと出力を上げていく。
「頼むぞ、落ちてくれるなよ。俺だって早く戻らなきゃならないんだからな」
祈るように速度を上げる。
船の速度としてはもう高速船の船速を超えている。
波をかき分け、強引に進む。
揺れがひどいが、人がはねているような様子はない。
(あと少しだけ向こうに、そっからはこいつらだけで逃げていけるだろう)
遥か後方ではセシリア、篠ノ之さんの二人が積極的に攻め、一夏は後方で回避に専念している。
さっき一夏に最接近した時にも気づいていたが、一夏の雪片弐型のエネルギー刃がもう出現していなかった。
そうなると攻め手を失ったことになる。
(撤退も、ありうるのか……)
今はセシリアが頑張っているが、最初の一撃以外はうまく当てられてないみたいだ。
凄まじい機動性で、BT兵器の多方向からの射撃とセシリアの主砲をひらりひらりと躱している。
篠ノ之さんも、弾をばらまき、弾幕を形成しているが薄い。
(最初のお披露目の時より動きが悪い? 調子でも悪いのか?)
明らかに悪い流れになっている。
だがそれなら――
(俺が頑張る!!)
「よし、ここまでくれば大丈夫だろう! お前らさっさと逃げろよ! 俺ももう助けられないからな!!」
へりから手を離し、通じないとわかっているが声をかけて一気に船の近くから離脱。
一度一夏の近くまで加速する。
『皆、今の機体の状況は?』
『シールドエネルギーがもうどん底だ。スラスターにまわすほうも大分カツカツだな』
『私も少しつらいのが現状だ。だましだましで何とかしているが、武器のエネルギーも足回りも燃費が悪すぎる。そろそろ武装も出せなくなるぞ』
『健在なのは私と弾さんのみ、ですか…… 厳しい状況ですわね』
そうだ、実際厳しい。
けれど少しは希望が残ってる。
『でもあいつだってセシリアの主砲をクリーンヒットでもらってる。俺と篠ノ之さん、セシリアの三人でなら削りきれるかも』
『しかし奴のあの機動性は見ただろう、どうやって当てるんだ?』
『最後の単一仕様能力の使用から二十四秒はたった。正直、あんな高機動機体に張り合うと五秒くらいで全部使いきっちまうだろうけど、逆言えば五秒間だけならあいつを追い抜ける』
『たったの五秒の電撃戦、か。大胆なこと考えるなお前』
お前が俺だったら同じこと言ってるような気はするけどな。
正直得策ではないが、撤退に対して追われればこっちが圧倒的に不利だ。
拠点をたたかれることも考えられる。
それだけは絶対に避けなきゃいけない。
ここで決める。
『で、具体的な作戦内容は決まっているのですか?』
『あ、いや、それはちょっとなぁ…… ゴリ押しでなんとかならない?』
『少しは考えろ馬鹿者。私とセシリアで弾幕を張る、それに乗じろ。私も残りをすべてその五秒にかける』
『オッケー、じゃあ一夏は――』
『俺は奴の上をとる』
『お、おい!? お前もうシールドエネルギーもないんだろ!?』
『それでも、みんな頑張ってるのに俺だけしっぽまいて逃げろなんて、そんなのごめんだ』
『おまえなぁ……』
一夏はこうなったら聞かないぞ。
こいつがこういう性格なのは昔から知ってるけど、何もこんな時に。
『弾さん、全方位への射撃来ます!』
本当に何でこんな時に。
一夏のそばを離れ、散開する。
作戦を決めるのに手間取って、それでまた相手の攻撃を再開させてしまった。
もうここは決断するしかない。
『一夏、考えがあってのことだな?』
『おう、上からなら重力のおかげで推進剤の使用が少しは抑えられる。上昇に関してはPICフル活用すればあと一回は攻撃に参加できる』
『オッケー。篠ノ之さん、セシリア、一夏が上に上がったら作戦開始だ。号令は一夏、お前がやれ』
『わかった、すまねえな』
『そう思ってるなら決めろよ。それじゃ少しの間牽制のみで、一夏の号令を待ってくれ!』
『了解した!』
『わかりましたわ!』
セシリアたちからの通信が届いたのを確認したと同時に、さらなら光弾が福音から放たれる。
一夏は避けながら上昇、それを追わせないようにセシリアのBTが気を引く。
俺はセシリアの射線に入らないように、福音との距離を詰める。
ハイパーセンサーで一夏と篠ノ之さんの位置を確認。
篠ノ之さんは海面付近から回り込むように上昇、距離を詰めながらセシリアの援護に回っている。
一夏もだいぶ高度をとれたようだ、機体の白が雲に紛れて動向を探らせないように立ち回っている。
(そろそろだな……)
『こっちは準備できた。みんなも大丈夫か!?』
『こちらも、いつでもいける』
『私もいけますわ!』
『一夏、俺が駄目だったときはお前が頼りだ。頼むぞ!!』
全員が急ごしらえの作戦ながら、これにすべてを賭ける。
模擬戦では全くない、本物の緊張感。
背筋がゾクゾクし、心臓が早鐘を打つ。
『作戦開始!』
一夏の号令で、一斉にこちらから攻勢に転じる。
セシリアは福音とつかず離れずの距離から、主砲とBT兵器による連続攻撃を、篠ノ之さんはエネルギー弾を凄まじい勢いでばらまきながら回り込むように追い込む。
敵を遠くに逃げる選択肢を与えないように二人が動いてくれる、本当にありがたい。
俺も負けじと、玉鋼の爆発的な加速力で急速に近づく。
片足で位置の調整を行い、一回目のアプローチに入る。
(うまくいって三回、下手すりゃ二回が限度。この五秒で決める!)
「らあああっっ!!!」
大きく突き出されたドリルはギリギリのところで福音の装甲をかすめる。
避けられた、しかし!
「まだぁっ!!」
突き出した右手を強引に横になぐ軌道に変え、機体の方向転換を瞬時に行う。
回避行動をとった福音に強引にドリルを押し当て、シールドエネルギーをえぐり、ついでに体勢を崩す。
俺のアプローチはこれであと一回が限度、だがそれで十分。
『La♪――……』
驚異的な機体制御能力で、すぐさま機体の姿勢を戻すとともに光弾をばらまく予備動作まで行う。
やはり、化け物のような機体だ。
だが――
『やらせませんわ!!』
僅かに生まれた隙を見逃すほど、彼女は甘くない。
遠く離れた位置から、見事に砲口の片方を撃ちぬく。全損はなかったが、放たれるはずだった光が霧散する。
「隙ありっっ!!!」
紅椿の強烈な一閃。
アサルトライフルの射程距離にいたはずの篠ノ之さんが、瞬時加速により一息に近接の間合いまで踏み込んできていたのだ。
切り裂かれたもう片方の砲口は、内部機械が露出し火花を上げている。
砲撃機能を奪えたようで、こちらも沈黙した。
「終わりにするぜ!!」
最後に残った充填エネルギーを右足一つ分だけ残し、一気に解放。
刹那の間隙も与えずに、至近距離に接近。
そして、最後の一つを解放。
PICによる姿勢、重心制御で、今の速度をすべて回転する力に変換する。
「おおおおおおぉぉぉっっ!!!!」
玉鋼の足先が見事に福音を捉え、空高くにたたき上げる。
学年別トーナメントより使うのをためらっていたサマーソルトキック。
けど今回はあの時とは違う。
自分の意志で、惑うことなく、躊躇なく使う。
そしてあいつに――
「一夏ぁ!!」
一夏に――
「任せろっっ!!」
繋ぐ。
『L……a――』
「ぜあああああぁぁぁっっ!!!!」
全てを込めた一夏の一撃に、福音がついに落ちる。
胸部装甲を斜めに大きく破損させ、翼と本体から火花と煙を上げながら、海面へと落下していく。
(俺とセシリアがあの砂浜をたってたったの二、三分。それにしてはずいぶん長かったように思えるな。それほど凝縮された時間だった)
大きく息を吸い込み、安堵の息を盛大に漏らす。
「けど、これで終わった」
「やりましたわね! 箒さんも弾さんも一夏さんも、お疲れ様でした」
「あぁ、セシリアも最後までよく福音の回避先を潰してくれていたよな。助かったぜ」
セシリアがこちらに近づいてきて、笑顔を浮かべて言う。
篠ノ之さんも集まってきて全員で無事を喜ぶ。
「後は海面に落ちた福音の回収だけか。搭乗者も、機能停止したISに乗ったままじゃ溺れちまうかもしれないもんな」
「だな。さっさと拾って凱旋と行きますか」
そう言って海面に向かう俺達。
ISは一応機能停止状態でも最低限の搭乗者のサポートはあるから、さっきの戦闘でそこが壊れていなければ沈んでいることや搭乗者が溺れていることもないはずだ。
けれど万が一さっきの戦闘でコアが傷ついていたりすると、そういうサポートも切れている可能性もなきにしもあらずなので現場にいる俺たちが向かうという手筈になっていたのだ。
まぁ戦闘でコアが傷つくなんて、地球に落ちてきた隕石に当たって死んでしまうくらいの運のなさでないとありえないんだけどな。
『はい、そうです。福音を撃破しました、これより回収したのちに帰投します。はい……はい、では』
「千冬姉はなんだって?」
「手筈通り、問題はないそうだ。それと『よくやった』とお褒めの言葉をいただいているぞ。あの人にしては珍しい」
千冬さんには篠ノ之さんから連絡を入れてもらった。
しかし、篠ノ之さんが軽口を言うなんて珍しい。
戦闘を終えて、緊張感から解放されたからだろうか。
「福音の方も問題なさそうですわね。搭乗者のサポートはありますが敵性反応はなし、完全に沈黙していますわ」
「よっし、んじゃ誰が運ぶかだな。俺と一夏は正直もうエネルギーもカツカツだし、できればパスしたいかな」
「それなら私が運びましょう。こちらに来てからも、激しく動くことはありませんでしたし」
「そうだな、私も少し消耗しているのは確かだ。頼めるならば頼もう」
こうして話しているうちに海面にたどり着いた。
海面には壮絶な損傷を負った銀の機体が、海にぷかぷかと浮いている。
なんというか少し不思議な光景だな。
ISの質量なんか考えるとあっという間に沈みそうなのに。
「では、失礼して」
福音の上半身、わきの下あたりに腕を差し込んで持ち上げる。
海水が滴り、機体が海水面を離れた。
「では帰投するとしよう」
「あぁ~、もうクタクタだ。帰ったらまた温泉にでもつかりたいなぁ~」
「何を腑抜けたことを言っている。どうせ帰ったら千冬さんへの報告やら軍事機密に関連する書類やらがあるに決まっている、すぐには休めんぞ」
「え~、でも千冬姉もさすがにそこまで鬼じゃないだろ」
なんだか俺たちの前を飛ぶ二人はだいぶゆるい空気を醸し出している。
けれど福音も倒してあとは帰るだけなんだし、あんまり厳しく言わなくてもいいよな。
「それにしても、福音の搭乗者の人は完璧に意識失ってんのな。機能停止してからも一向に動かないし」
「でもきちんと呼吸もしているようですし、命にかかわるような怪我を負うような攻撃はなかったはずですからこのままのペースで大丈夫でしょう」
「ん、そりゃ重畳重畳。けどこれから臨海学校のスケジュールはどうなるのかね? 装備試験は明日にずれ込むとして、他何があったっけ?」
「そうですわね、明日以降は予定をたたむしかないのでは? 最終日の午後は確か自由行動だったはずですけれど、これはしかたがないですわ」
かくいう俺たちも明日からのことだとか、自由行動の時間が無くなるとか、そういう教室でするような話題をかわしながら飛行する。
軍事ISとの戦闘なんていう非日常から解放されて、もう俺たちは日常に帰り始めていた。
「あら?」
そんな時、セシリアが最初の異変に気付いた。
「どした?」
「いえ、なんだか抱きかかえてる手の部分に何かぬるぬるしたものが触れたようなので」
「装甲をある程度切り込んでるし、そこからオイルとかそういうものが漏れたんじゃないか?」
「うう、私のBTがオイルで汚れてしまうなんて……」
「ははは、模擬戦とかじゃもっといろいろ汚れもつくだろう。あ、それとも装甲新しいのに換えたのか?」
(俺も、玉鋼の装甲がよくダメになるから張り替えたり、腕パーツ丸ごと交換したりするけど最初の傷がつくまで神経質になっちゃうんだよな)
「なんなら俺が持つの変わろうか? この調子なら砂浜までなら問題なく運べそうだし」
「本当ですの? それならお願いしてしまいましょうか」
「オッケー、まかせと――」
『「Qu――」』
「!?」
唐突にクジラの鳴き声のような声が耳に響いた。
慌ててセシリアの手の中の福音を見るが、変わらずくたりと脱力したまま運ばれている。
さっきの音、耳とプライベートチャネル、両方から聞こえた気がするけど。
「どうかいたしましたか?」
「あ、いや、なんか聞こえなかったか? クジラの鳴き声みたいな…… 本当に福音は機能停止してるんだよな」
「ええ…… 敵性反応もありませんし、稼働している様子はありませんわ」
「俺の気のせいだったのかな……」
(確かに何か聞こえたんだけどなぁ……)
動いてないのはわかっていても、ついつい福音の方を見てしまう。
目があった。
ゾクリ、と背筋に液体窒素でも入れられたかのように寒いというより痛いほど神経が過剰に反応する。
「セシリア! 福音から手を離せっ!!」
「え? え?」
要領を得ないセシリアに業を煮やす暇もなく、俺の体は動く。
勢いよくセシリアを突き飛ばして強引に福音から距離を取らせる。
「だ、弾さん!? 何をっ!?」
『「Qon――♪」』
今度こそ、この声の主が福音だと断定できる。
奴の頭がこちらを向いて、明らかにこちらを捉えている。
そしてその福音の顔面は、先ほどまで対峙していた福音とは明らかに変わっていた。
ぐじゅぐじゅとした黒い汚泥が顔の前面を仮面のように纏わりつき、どんどんと美しい銀を今もなお侵食していっている。
その動く黒も、胸の傷口、スラスターの破損した部分からどんどんとあふれ出しているようだ。
「一夏、篠ノ之さん! 福音が再起動しやがった!!」
先頭を飛んでいた二人にも呼びかける。
二人もこちらの異常を感づいていたのか、俺が声をかける前に振り向いていた。
ドリルをすぐさま呼び出し、福音に向き直る。
だが――
『「Qo ――」』
二人に声をかけた一瞬、その隙を突かれた。
福音は俺の右足をひっつかみ、強引に引き寄せる。
抗うことすら不可能なほどの力強さに、なぜ、という疑問が頭に浮かぶ。
『「Vi――ッ!!」』
けたたましいブザーのような雄たけびとともに、文字通りゼロ距離で左右両砲口から凄まじいエネルギーの奔流に襲われる。
「ぐがあぁぁっっ!!!」
「そんな馬鹿な! 機能停止を起こすほどの損傷でここまで動くなどと!?」
篠ノ之さんが悲鳴のように叫ぶ。
「現に動いてるんだ、ここで二の足踏んでられるかよ!」
「一夏さん、駄目です! あなたの機体はシールドエネルギーも底をついて――」
「弾を離しやがれこの野郎っっ!!」
真横から割り込んだ一夏の一撃は、福音の右スラスターを見事にとらえ破壊した。
俺はそれに乗じて福音を振り払うことに成功、だがシールドエネルギーを七割持って行かれた、なんつー火力だ。
「助かったぜ、一夏」
「しかし一体なんなんだ。機能停止したかと思えばいきなり攻撃なんて」
「VTシステム……? いや違う、あれはもっと変化が早かったはずだ」
篠ノ之さんの言った言葉に、以前見た光景が頭の中を通り抜ける。
学年別トーナメントで、ボーデヴィッヒを巻き込み変質したISのことが。
もしも、ボーデヴィッヒの時のような一度シールドエネルギーが尽きた後にもう一度戦闘を行えるようになるシステムでも積んでいたとすれば。
だとしたら、俺たちにそれを試させるためにわざと暴走したとかデマを流して…… いや、今はそういうことを考えている状況じゃあない。
今この最悪な状況でどう乗り切るかだ。
「弾さん! お怪我は!?」
「シールドエネルギーを七割減らされた、けど怪我はない! そっちも気をつけろ、何してくるかわかったもんじゃねえ!」
現在俺と一夏、福音を挟んで向こう側にセシリア、俺から砂浜方向、大体九時の方向に篠ノ之さん、という状況だ。
福音の攻撃手段はまだ失われていないことはわかったが、同時に防御機能は失われていることが分かった。
だがこれは悪い情報だ。
(向こうは気兼ねなく攻撃できるかもしれないが、こっちは向こうの搭乗者を人質にとられてるようなもんだ。迂闊に攻撃できねえぞ、さらに言えば――)
俺はまだ動けるといっても次に掴まれば命はないだろうし、一夏に至ってはかすっても致命傷だ。
篠ノ之さんもシールドエネルギーをほとんど残しているといっても、一夏と一緒に最初から福音戦に参加していた。消耗はあるだろう。
完全な状態で戦えるのはセシリアだけ、そんな状況でこのイレギュラーな事態を起こした機体と戦えるのか?
『…… 皆、ここは引くぞ』
通信回線から、篠ノ之さんの言葉が伝わってくる。
『先ほど、千冬さんに連絡をとった。逃げながら教員方と協力し撤退しろとの命令だ』
『けどよ箒、このままこいつを放っておいていいのか?』
『お前が奴の右スラスターを完全に破壊したからな、機動力はほぼ無いに等しいと見ていい。ならば、一度戻って補給したのちに戻ってくることも可能だろう?』
『それもそうだけど…… なんかこいつからは、嫌な感じがするんだよ』
『何?』
『一夏さん、箒さん! また撃ってきますわよ!』
会話を遮るように、福音が残った左の砲口からさっきのようなエネルギー弾をばらまく。
しかし量は二分の一、しかし俺と一夏はもうもらうわけにもいかないためこの量でも十分脅威だ。
後ろに飛び退り、弾の隙間を躱す。
一夏もほかの二人も被弾はなさそうだ。
『とにかく俺は撤退に賛成だ。こんな状況でまともに戦えるかよ、一夏もそれでいいだろ?』
『……』
『おい、一夏? どうしたんだよ』
『いや、大丈夫だ。一旦引こう』
ほんの少し間があった気はするが、一夏も賛同してくれた。
『よし、では離脱は十カウント後。奴が仕掛けてくるなら、そのタイミングで引くぞ』
『了解』
『承知しましたわ』
カウントの開始、あちらさんは目立った動きは見せない。
スラスターの破壊で、PICでの飛行は可能だが推進剤を用いての加速ができない以上気を配るのは遠距離攻撃のみ。
そのはずなのだが、それだけではなくもう一つ気になることがあった。
(今もなお広がる、あの黒い物質…… 一体なんなんだ? 何の意味がある?)
さっき白式に切り裂かれた右のスラスターからも、あの黒い泥にも似た物質はあふれ出だしていた。
もう福音の本体前面は黒く塗りつぶされているし、左スラスターなんかもすぐにでも覆われそうだ。
『敵の左砲口エネルギー反応増大、来ますわ!!』
『散開しつつ撤退だ!』
考察は打ち切らざるを得ないようだ。
刹那の後にエネルギー弾が周囲にばらまかれ、回避行動をとりながら全員が砂浜を目指す軌道をとる。
『追ってくるそぶりは見せてますが、速度は出ていませんわ。このまま逃げ切れそうですわね』
弾の雨をくぐりながら、ハイパーセンサーで後方を確認する。
確かにこちらにゆっくりと加速してきているようだけど、メインスラスターの生きているこっちとあっちでは速度に絶対的な差が生まれている。
『対象エネルギー反応増大、もう一発でしょうか? あきらめの悪い方ですわね』
一応ISが暴走してるだけだからあの方の本意じゃないんだろうけどな。
そんな間の抜けたことを考えてしまった、その時だった――
『「Qu ――♪」』
遠くから、あのクジラの鳴くような声がまた聞こえた。
妙に綺麗で、こんな戦いの場では不釣り合いなあの声が。
『え!? 対象のエネルギー反応、増大を続けています!! こ、こんなことって!?』
セシリアの困惑した声。
俺の目の前にもセシリアの言葉通りのウィンドウが現れる。
砲撃にしては、あまりにも大きすぎるエネルギー量。
何をやってくるか、皆目見当はつかないが。
「なんか、嫌な予感がするな……」
『「Qon――――♪」』
『福音が急激に加速! 到達までおよそ三秒! そんな、スラスターは破壊されていますのに!?』
言葉を発するよりも早く、一夏の前に躍り出る。
身構え、福音を補足しようと試みる。
かなり近くまで近づいてきている、その機影はもう銀の部分が見当たらない。
「!!?」
そしてその機影が狙ったのは、俺たちではなかった。
「箒っ!!」
後ろの一夏が叫ぶ。
それに続いて、機体の加速する音。
「馬鹿っ! お前が行っても――」
機体を急速反転させ、福音を追う。
視線の先では篠ノ之さんに組み付く福音、それに切りかかる一夏。
『セシリア! 撃てるか!?』
『ダメです、撃てば福音の本体に……!!』
答えに返事は返さず、一夏の後を追う。
篠ノ之さんは福音に力負けしていて振り払えていない、しかもまた両砲口が光を発し始めている。
一夏があれに巻き込まれりゃ――
(最悪だ、どうやってあの野郎復活しやがった!?)
「箒を…… 離せええええぇぇぇぇぇっっ!!!」
一夏は篠ノ之さんに組み付いた福音に体ごとぶつかり、そのまま背面から蹴りを入れる。
シールドエネルギーの尽きた今、搭乗者もただでは済まない一撃だ。
だが――
「何っ!?」
一夏が驚愕の声を上げる。
福音は篠ノ之さんから離れない、びくともしていない。
「こいつっ、シールドエネルギーが……!!」
次いで出た一夏の言葉に、すぐさま合点がいく。
真っ黒な福音は、どういうわけだか知らないが機能を完全に回復している。
『セシリア!』
『わかってますわ!!』
俺と同様に状況を把握したセシリアが銃口を福音に向ける、があちらはもう発射体勢に入っている。
間に合うか!?
「一夏、私はいいから逃げろっ!!」
「ふざけるなっ! お前を守れなきゃ意味がねえんだよ!!」
(この馬鹿ップルが……世話焼かせる!!)
単一仕様能力を発動し、一気に渦中に突っ込む。
二人には悪いが、最悪の事態は避けさせてもらう。
「間に合えよ……っ!!」
福音の両砲口の光が一瞬膨れ上がる。
光弾が発射されるまでもう刹那の時間もない。
だがそれでも、もう止まれない。
一夏の体を抱え、加速を殺さないようにそのまま離脱。
真後ろではじけた弾丸の嵐が背中に突き刺さる。
「がぁっ!」
シールドエネルギーが底を尽き、弾丸の衝撃が殺し切れず背骨が軋みを上げる。
だが一夏は何とか無事のようだ、ギリギリのところで間に合った。
「箒さんを、離しなさいっ!!」
俺と一夏が離脱した瞬間に、セシリアの主砲が福音に着弾した。
それでようやく怯るみ、篠ノ之さんも何とか福音から離れて距離を取る。
篠ノ之さんのシールドエネルギーには余裕もあったし、ここはこれが一番の策だったと思いたいが、セシリアの攻撃で福音がひるまなかったら次は篠ノ之さんがやばかったんだよな。
即興の作戦だから、やっぱり穴だらけだ。
(しかしここからどうするか…… 満身創痍が二人から三人になっちまった。しかも向こうはなぜか全回復しちまってるし。まぁ原因は――)
福音の機体は黒く塗りつぶされ、潰したはずの右のスラスターは断面から不気味な赤い光を見せている。
時折胸の傷や、そのほかの断面から泥のような物質があふれ出ては機体を伝い海に落ちていた。
あのあふれ出る何か、それが今の福音の機能回復に何か関連しているんだろう。
けれどそれがわかったところで、何も解決策は浮かんでこない。
「弾、お前……」
おっと、一夏のことを忘れていた。
白式の機体から手を放し、体勢を立て直す。
「冷静になれよ一夏。篠ノ之さんを守りたいって言っても、あの状況じゃどうにもなんないだろ?」
「…… すまん、頭に血が上ってた」
『お二人とも、ご無事なのはよろしいですが、まだ来ますわよ』
『あぁ、エネルギー反応が急激に増大している。さっきの急加速か?』
セシリアと篠ノ之さんの言葉に、気持ちを引き締めなおす。
説教なら後でできる、今は目の前の敵をどうするかだ。
『いや、この近距離なら通常軌道でも十分だろう? だとすれば別の――』
『み、みなさん! あれを!!』
セシリアの声に皆が福音に注目する。
福音の砲口が赤い光を放っているが、その外枠の部分に亀裂が走り始めた。
自壊、ではない。
割れる、というよりは開くという表現がしっくりくる。
元からそこが開く機構だったかのように、大きく口を空けた。
『よくはわからねえけど、来るぞ!』
一夏のその言葉が終わると同時に、赤い閃光がはじける。
今までの光弾とは違い、ランダムなばらまく軌道ではなく、一定の統制のとれた軌道を見せる。
だが、それは俺たちのいる方向に向いておらず見当違いの方向に飛んでいく。
『な、何だ? いったいどこに……っっ!!?』
あっけにとられたのは一瞬、ようやくその攻撃の意味が分かった。
『湾曲軌道!? そんな、BT以外でビーム兵器を湾曲させるなんて!?』
『来るぞっ!避けろ!!』
緩やかに曲がり、俺たちを囲い込むように赤い弾丸が襲い掛かる。
当たるか当たらないかのところを紙一重に躱していく。
紙一重に躱さざるを得ない。
「なんつー攻撃だよ……っ!」
『第二射、来ます!!』
「はぁ!!?」
ここにきて連射性能まで上がってやがるのかよ。
反則じゃねえか。
嘆いても、福音は止まらない。
第二射は上空に撃ちあげ、そこからこちらに向かい落ちてくる軌道を描く。
「ぐああっっ!!」
被弾した。
俺じゃない、篠ノ之さんだ。
「箒っ!!」
「一夏っ! まだ来てるんだぞ!」
一夏の動きがぶれる。
篠ノ之さんに気を取られてる、まずい!
『そんな……第三射、撃ってきますわ』
「おいおい、ウソだろ……」
もう福音は第三射の予備動作に入っている。
翼を広げ、まがまがしい赤い光をまき散らし、今にも撃ってきそうだ。
(どうする……どうする、考えろ。ここを乗り切る方法を……)
『「Qo――♪」』
勝利を確信したかのような鳴き声を上げ、福音からの第三射が放たれた。
量、スピード、威力ともに最初のばらまく弾とは変わらないが、やはりこの湾曲軌道が厄介だ。
この数だと、どれが自分にあたる弾なのか判断が鈍る。
「くっ!!」
紙一重、とはいかず右腕装甲でやむを得ず防御する。
シールドエネルギーのない装甲は、もろく崩れ内部の構造が露出した。
『弾』
『なんだ、一夏!?』
こんな時になんで通信なんか、そう思うが様子がおかしい。
何だってそんな落ち着いた声で――
「おいてめえまさか!?」
視界を一夏のほうに集中させる。
そこで見えたのは弾の雨、一夏の背中、被弾する篠ノ之さん。
世界がスローモーションに見えた、ゆっくりゆっくりと流れる時間。
俺の体は動かさせてはくれない。
『悪りい、やっぱ俺冷静になんてなれなかったよ』
「一夏ぁっっ!!!」
篠ノ之さんをかばい、光弾の雨にさらされる一夏。
その背中の装甲はやすやすと砕けて、鮮血が舞う。
光弾とは違った、生々しい紅。
それは空を舞い、篠ノ之さんにも降りかかる。
『「Qon――♪」』
福音が一声鳴き、悲鳴が二つ俺の耳に届いた。
篠ノ之さんと、セシリアの悲痛な叫び声。
だが、俺の中には深く入り込んでは来てくれなかった。
「何、笑ってやがるんだ……」
さっきの福音の声が、俺の耳には笑っているように聞こえた。
機械音声のはずだ、なのにあいつが一夏のことを嘲笑ったように聞こえたんだ。
だからあいつは笑いやがったんだ!
『セシリア、篠ノ之さんと一夏を連れて逃げろ』
『一夏さんが……でも、でも一夏さんが……』
『だからこそだ。俺はこいつとケリをつける、その間に逃げろ』
『そんな、弾さんもシールドエネルギーは尽きているじゃありませんか。弾さんもあんなことになったら私、私……』
再度、福音のエネルギー反応が膨れ上がる。
こっちにとどめを刺すつもりらしい。時間がないな。
『四人で逃げれば、何とか先生方も間に合いますわ。だから、だから――』
『最後くらい言うこと聞いてくれよ』
『……っっっ!!』
返答はもう帰ってこなかった。
すこしずるい言い方だったかな。
でもこうでも言わないと、聞いてくれそうにないからな。悪い。
「行くぜ、くそ野郎……!」
口の中でぼそりとつぶやいた言葉を合図にして、単一仕様能力を解き放つ。
向こうの発射より、こちらの方が早い。
撃つ前に潰す、撃つ前に皆に届かない位置まで運ぶ。
それが俺の意地だ。
『「Quon――?……」』
さっきの右腕の損傷でドリルはもう出ない。
単身で懐に入り込んだ。
「俺の最後の意地だっ!! 受け取りやがれええぇぇぇぇっっっ!!!!!!!!」
喉を突き破らんばかりに叫び、ありったけの力を込めて押し込む。
少しでも速く、少しでも遠くに。
一夏が守った篠ノ之さんを、俺が守りたいセシリアを――
(守るんだっ!!!)
速度は一気に音速の二倍近くにまでおよび、後方の三人が一気に豆粒サイズまで小さくなる。
一夏に熱くなるな、と言っておきながらこのざまだ。
あいつは笑うかな。
「ぐっ!!」
背部に強い痛み。
福音が殴ってきやがった。
けれどこの手は離さない、加速もやめない。
(最後の最後まで、結局セシリアに気持ちは伝えられなかったなぁ……)
腹部に重い衝撃。
福音の膝がきれいに入り、口から血があふれ出る。
肋骨も少し折れたな、こりゃ。
(でも、こんなことになるなら伝えなくてよかった。実っても実らなくても、あいつの重荷になることはねえ)
玉鋼をさらに加速させる。
拳を、膝を、肘を、ごつごつとぶつけられそこかしこが熱くなる。
口の中いっぱいに血の味が広がった。
(セシリア、セシリア、セシリア、セシリア…… 俺はもう、だめかもしれねえ)
「セシリ……げほっ、ア…… 俺は、お前……が……」
ブツリ、と俺の意識はそこで途切れた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今回はここまでです。
スピード感のある戦闘描写というのはやはり苦手です。
どうしても余計な言葉を入れてしまうし、言葉が足りないところもあると感じます。
ただそれがどうも感覚的にしかわからないのが悔しいですね、なので気づいた点があればどしどし言ってもらえるとうれしいです。
何はともあれ福音戦は折り返し。
四人で撃破にあたったため辛くも勝てましたが、黒い福音の登場で一夏は原作通り怪我を負い、弾もこんな様子です。
この後の展開なんかも原作と違う感じに弄っていきたいもんですね、より面白くなるように。
まぁそれも書いている間は私の主観的な面白さ、という意味での面白さの追求なんですけどね。
そして私の主観的な面白さが、これを読んでいる人に少しでも伝わるように努力するのも私の仕事のように感じます。
いつものようにあとがきが長くなりましたがここで筆をおこうと思います。
次はおそらく二週間後、予定では福音との決着前の一幕まで行きたいと思っています。
この三巻編も夏中、あと四週間かそこいらで終わるんじゃないかな?
それではこれにて
乙
まさにクライマックスだ
なんという生殺しな切り方
乙でした!
おつ
面白さはしっかり伝わってます
福音戦終わってからの番外編を期待してもよいですか?
乙
乙デース
守る、という言葉にちゃんと重みがあって良かった
二週間に一回の生存報告です。
一応作業はほとんど終了してるので、あと推敲やらをして投下なので二、三日中には来る予定です。
あと番外編はネタはあるにはあるんですけど、何かネタでも投下していただければ採用するかも。
あくまでかも、ですけど。
ちなみに番外編の扱いに一度レスで触れてくださった方がいましたね。
あれについて補足。
一応ほとんどの事柄は時系列を考えていますので本編と本編の間に起きたこと、という扱いです。
ですが、節分などの時系列があからさまにおかしいものなんかもありますので絶対というわけではないと言っておきます。
これからも時系列関係ないものについてはアナウンスをしてから投下しようと思います。
それでは、また作業に戻らせてもらいます。
それではこれにて
報告乙です
夏だ!海だ!BBQだ!花火だ!
続き、期待してます
遅くなりましたが投下開始したいと思います。
それではいきます
旅館の一室、夕日も差し込む時間帯。
カーテンを閉め切った部屋の中は薄暗く、私の心のうちを反映しているかのようだった。
部屋の真ん中には布団の上に一夏が横たえられていて、その体には痛々しいほど包帯が巻かれており、いくつもの医療機器へとチューブやコードがいくつも伸びている。
「一夏……」
私とセシリアがあの空域から離脱し、砂浜についたときにはもう千冬さんたちが集まってきていた。
一夏の怪我のひどさに、五反田がいないことに、あの場にいたものの顔色は皆一様にひどいものだった。
ただし千冬さんを除いては。
『作戦は失敗だ。以降状況に変化があれば召集する。それまで現状待機だ』
いつもと変わらない声の調子だった。
一夏が、あの人にとって唯一の肉親である一夏があのようなことになっても取り乱さず、私たちを責めることをせずにその場を去った。
内心は推し量れない、あの人はただでさえ考えが読めないし、私もそんなこと気にする余裕がなかったから。
でも今思えば、それはあの人が大人だからに他ならないのかもしれない。
弟が、自分の受け持つ生徒があんなことになって何も感じない人はいないと思う。
それでもあの人はそれを表に出すことができないのかもしれない、あの人が動揺をあらわにすれば、あの場にいたものすべてが正気ではいられなかっただろうから。
(私は、そうはなれない。無様に取り乱すことしかできなかった)
声を上げこそしなかったものの、はらはらと意志を持ったように涙が双眸から零れ落ちるのを止めることなく、ただただ呆然と一夏の傍らに立っていた。
一夏が助かったのは奇跡だと、医師は言っていた。
僅かに残ったシールドエネルギーが威力を軽減させ、福音のエネルギー弾の性質が接触した時に爆発するような性質だったおかげで皮膚が焼けたり、骨に異常がみられるが内臓は何とか無事だったと。
その言葉も、半ば死んだように聞いていた。それでもこうやって思い出せるというのはおかしなものだ。
砂浜についてから、ここに運び込まれるまでずっと一夏についていた。
そして今の今までずっと泣いていた。
目元はふやけ、少し赤くなっている。何度も拭ったためだ。
でも、今は拭う必要もない。
(私は弱い。大切な人一人、大事な友人一人守ることができなかった。何一つできなかった)
なんと無様な、なんと不甲斐ない。
守られる自分でなく、守る自分になるために力を欲したのではなかったのか。
その力を、手に入れたのではなかったのか。
だが実際は、また守られてしまった。
己に与えられた力を扱いきれずにこのざまだ。
(だがこのままでいられるはずがない。そうだとも、これでいいはずがないのだ)
答えはもう自分のうちにある。
幾度もの自問自答を繰り返し、自らの弱さを知り、泣き、受け止め。
ようやく出た答えだ。
(お前が起きていたらなんというだろうな? 俺なら大丈夫だから無茶すんなよ、とかそんなところか。でもな一夏――)
「それでも私は奴を討つよ。それが私の意志で選んだ、一つの答えだから」
私は福音を倒す、一夏をこんな目に合わせた奴を倒す。
一夏のためではなく、私自身のために。
私自身の意志で。
「一夏、また来る」
腰を上げ、部屋を後にしようとふすまに向かう。
一度だけ振り返って一夏の顔を見てしまいそうになった、しかし見はしなかった。
再び顔を合わせるのは奴を倒してからだ、そういうふうに私は決めた。
ふすまに手をかけ、音を立てぬように開ける。
敷居をまたぎ、後ろ手にふすまを元のように閉めた。
出た廊下の向こう側には庭が広がっている、夕日に照らされ橙色に染まった庭には一本の影法師が伸びていた。
私ではない、その主は小さな背をこちらに向けていたが私の視線に気づきこちらにふりむく。
「よっ、箒」
「鈴、だったのか」
小さく手を挙げたその人影が、鈴であったと気づく。
「一夏に会いに来たのか? それなら――」
「違う違う、私が会いに来たのはあんたよ、箒」
私?
ということは鈴は私を待っていたのか。
てっきり一夏のところにやってきたのかと思っていた。
「てっきり落ち込んでしみったれた顔してるのかと思ってたけど、どうしてなかなかいい顔してるじゃない」
「そ、そうか? 私はいつもと同じだと思うのだが……」
「いつもと同じだからいいって言ってんのよ。そんなアンタならささっと本題に移った方がよさそうね」
鈴の雰囲気から世間話などの類ではないのだろうことは、容易に想像がつく。
この状況でそういう類ではない話、というなら少しは想像がついた。
「あたしたちと一緒に命令違反しない?」
「やはりそうか」
「やはりって、あんたも同じこと考えてた口?」
「あぁ、ただし私はお前たちを巻き込むまいとしようとしていたがな。こうして話していると、いらん気遣いだったとわかったよ」
「そんなことしようもんなら、福音ともどもあんたを吹っ飛ばしてたわね」
お互い目を見合わせ不敵に笑う。
「シャルルとラウラはもう誘ってるから、あとはセシリアだけよ」
「そうか、あの二人も…… しかしセシリアか。大丈夫なのか、あいつは?」
「正直一番骨が折れそうだわ、まぁ何とかするしかないでしょう。あの子がいないと戦力不足なのよね、オールレンジのビーム兵器に一人で弾幕も張れるし視野も広い。だけど今の状況は……」
気まずそうに口を噤む。
(セシリア……)
あの時、福音を足止めするためにシールドエネルギーも切れた機体で特攻を仕掛けた五反田。
玉鋼の機体のシグナルがロストした地点に福音は確認されたが、五反田の姿はなかったという。
福音を発見した教師陣も、あの圧倒的火力と機動性の前に敗北を喫し、福音は姿を消し、レーダーなどでも捕捉できていないという。
問題なのは五反田が行方不明ということ、そして奴の生死が不明でさらに生存の可能性のほうが低いこと。
(私の勘違いでなければセシリアは五反田に想いを寄せていた。私は一夏が生きていたから自分をなんとか保てた、しかし五反田が生死不明となれば……)
セシリアは、砂浜についてから一言の言葉も発せず、ただ命令の通りに自室で待機しているらしい。
らしいというのは、私も彼女にかまっていられる余裕がなかったからだ。不甲斐ないことこの上ないが。
「とりあえずあの子に会いにいかないとどうしようもないんだし、会いに行きますか」
「ああ、そうだな」
確かにこの場でたむろしていても何も起こらない。
最悪千冬さんに感知されて計画がおじゃんだ。
私たちは一路、セシリアの部屋を目指した。
とはいっても、生徒たちの部屋は大体が固めて配置されているため、そこまで時間は要さなかった。
一角、二角曲がればもうセシリアの部屋の前だ。
「セシリアー、いるかしらー」
襖の前から鈴が中に呼びかける。
しかししばらく待っても中から返事は返ってこない。
「いない、のか?」
「そんなことはないと思うけど…… セシリア、入るわよ」
やはり中からの返事はなかったが鈴は勝手に襖を開いて中に入る。
中は薄暗く、灯りは奥のほうからこぼれるディスプレイのものらしき光のみだ。
そのディスプレイ、テレビの前にセシリアは座り込んでいた。
「セシリア…… おーい、セシリア~」
鈴の呼びかけにも答えず、一心不乱に画面のほうから目を離さない。
何の映像か、その疑問はすぐに解けた。
『最後くらい言うこと聞いてくれよ』
五反田の声だった、あの時セシリアに向けて放たれたあの言葉。
ずくり、と胸の内をえぐられるような感覚に陥る。
が、頭を左右に振りその暗い思いを頭の外に吹き飛ばした。
「これって、あの時の?」
鈴が隣から耳打ちをしてくる。
うなずきだけで私は返す。
それを受けて鈴は、大きなため息一つついてセシリアにずかずかと近寄る。
な、何を――
「セシリアッ!! 返事くらいしなさい!!」
「ひぃっ!?」
耳を引っ張られ、至近距離で鈴の大音量の怒声をくらったセシリアは肩を大きく揺らしながら、ようやくこちらに反応を示した。
「り、鈴さん…… 箒さんも……」
こちらに振り向いたセシリアは、いつもの彼女と変わらないように見えて、逆にそれが違和感を生み出す。
あまりにもいつも通り過ぎる上っ面、さっきの態度から見ても普段と違うのはわかるのに。
「お二人でいらして、何の用ですの? 待機命令も出ていますし自室にいたほうが――」
「あんたこそ、こんな暗い部屋で何してたのよ」
「…… 戦闘記録を振り返って見ていましたの」
ISのハイパーセンサーを通して見た、というより感じた映像はリアルタイムで千冬さんたちのところに送られていた。
それと同時にIS自体にも情報として蓄積されていて、ディスプレイに投影したり、テレビなどにも出力することが可能だ。
テレビの画面の中では、リピート再生が設定されているのか、最初に福音を落としたあのときの場面が画面に出力され始める。
「いつから……?」
「先ほどから」
嘘だ、と確信を持って言える。
だがそれを言及するには論理的な証拠は一切ない。
強いて挙げれば、鈴の問いに即答したセシリアは、一切鈴の目を見ていなかった。
いつものセシリアであればあり得ない。外の皮だけ慣れ親しんだ彼女で、中身は一切知らない偽物が入っているみたいだ。
「私も答えたのですから、こちらの質問にも答えてくださいますか。お二人は何の目的があってこちらに?」
「ちょっとした悪巧み、命令違反、そういうの企てててあんたも乗っからないか聞きに来たのよ」
「命令、違反…… 福音を落とすつもりですの?」
セシリアの目の奥に陽炎が揺らめいた。
その青い炎は、鋭い敵意と粘つく憎悪を隠すつもりもなく、違和感は完全に彼女の変調の確信に変わる。
「そそ、やっぱりあんたも察しがいいわね。箒とシャルルとラウラも協力するって言ってるわ」
「なるほど。ではこの映像を見返していたのも無駄にはなりませんわね。丁度あの機体に対しての突破口も見つけ――」
「けどやっぱなしで。あんたは連れていけないや」
「…… は?」
鈴の放った一言で、ぴたりと動かなくなるセシリア。
「な、なぜですの!? 納得いきません、純粋な遠距離支援が行えるのは私のBTをおいて他にありませんわ!! なのに――」
「すぐ近くで呼びかけられても答えられないようなやつが戦場にいると迷惑なのよ」
「…… っ!!」
「あ、図星なんだ」
意地の悪そうな笑みを浮かべる鈴、それに対してばつの悪そうな様子で視線を落とすセシリア。
「あんたさ、な~んでそんな無理してるのよ」
「…… 無理、なんてしていませんの」
嘘だ。
「嘘だ」
自分の思考と鈴の言葉が不意に重なる。
「じゃあなんであんた一つも悲しそうな顔しないのよ。 好きな男がいなくなっちゃったのに」
鈴はさらにセシリアを追い込むように言葉で畳み掛ける。
しゃがみこんで、セシリアの耳元でささやくように語りかける。
「もしかしてさ――」
テレビから流れる音声に紛れながらも、はっきりと聞こえる鈴の声。
そしてそれは――
「泣いたらあいつが死んだってこと、受け入れるみたいだから?」
静かで、鋭く、精密で、暴力的な言葉。
「違う…… 違いますわ…… 違う、違う」
「何が違うの? 私の推測? それともあいつが死んだっていう事実?」
「違うぅ…… もう、もうやめてください」
「お、おい鈴」
いくらなんでもやりすぎだ。
そう思いとめようとするが。
「……」
何も言わず、私の目を見つめる鈴。
ただ、それだけだが、私は次の言葉は継げなかった。
なにか考えがあるのだろう、そう思わせる視線だったから。
「あたしはさ、一夏があんなことになって、弾が帰ってこなくて、それでもね… 泣けなかった」
両の手で頭を抱え込み、子供のように小さくなっているセシリアに鈴はさっきとは打って変わって優しい声色で話しかける。
「泣けなかったっていうより、泣かなかったのかな。なんでだかわかる? …… って答えられないよね、いじめすぎちゃった?」
あはは、とおどけたように笑う。
しかしすぐに真面目な表情に戻って、セシリアの両手を優しくとると自分のほうへと引き寄せた。
こちらに向いたセシリアの顔は、ぼろぼろで、今にも泣いてしまいそうで、だけどさっきまでの違和感はなくて。
ようやくいつものセシリアと相対している気持ちになった。
「答えは、信じてたから。一夏は絶対立ち上がってくる。弾だって絶対に生きてる。そう信じてるから、私は泣かなかった」
「鈴、さぁん……」
「でもね、だから泣くなって言ってるわけじゃないのよ。信じてたって泣いちゃうときもあるもん、箒みたいにさ。見てよあの顔、目元が真っ赤っか」
「んなっ!」
いきなり私に振るな馬鹿者。
気恥ずかしいだろう。
「泣かないのも、泣くのもどっちも正解だと思う。だったら何が駄目なのか。今度は答えられる? セシリア」
「……」
「わかんない、かな。それとも答える気がないのか…… まぁどっちでもいいわ、駄目なのは『無理して泣かないこと』」
「あ、……」
「心が痛くて、泣きたくなって、そんなときに無理して泣くことを我慢したら、余計に心が痛くなってまた泣きたくなって…… どんどん悲しみが大きくなっちゃうの、それはいけないことだわ」
鈴の言葉は、セシリアに語りかけているようで、どこか鈴自身に言い聞かせているようでもあった。
ふと脳裏に鈴の泣き顔が浮かぶ、それは今の鈴ではなくて、今より少し幼い顔つきで。
IS学園で初めて知り合ったはずの友人の、会う前の昔の顔が浮かぶなんて非科学的なのだが、このとき確かにその映像が私の脳の中をよぎったのだ。
「でも、鈴さんも泣いていませんわ。…… どこが違いますの?」
「私はさ、悲しい気持ちに勝ったから。負けてたら泣いてたかもね」
「よく……わかりませんわ」
「少しわかってくれればそれで十分よ。…… それとセシリア」
「え? ―― あ、……」
セシリアの顔の両側を包んでいた両手を離して、その体を柔らかく抱きしめる。
抱きしめられたセシリアは少し驚いた顔をしていたものの、すぐになすがまま、その抱擁を受け止めた。
「ごめんね、すぐに来てあげられなくて。あんたがここまでひどいことになってるなんて気づいてあげられなくて」
「あ…… あぁ、……」
「痛かったよね、悲しかったよね…… もう我慢しなくていいから、いっぱい泣きな。私が支えててあげるから、精一杯全力で泣きな」
「り、りん…さん……」
セシリアの顔がみるみるうちにくしゃくしゃになり、瞳は潤み、目じりから一滴涙が落ちる。
その一滴で彼女の涙を止めていたダムは決壊した。
「う、ううぅ…… うあああああああぁぁぁ!! ひっ、ああああああぁぁ!!」
子供のように、言葉にならない声をあげ、しばらくの間セシリアは泣き続けた。
あのセシリアの顔が、涙と鼻水とよだれでべしょべしょになっても、泣きやむことはなかった。
そして鈴も、決してセシリアを離すことはなく抱きしめ続けていた。
涙で、鼻水で、よだれで、肩口やその長い髪の毛が汚れようともお構いなしに、優しく、母のように抱きしめ続けた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「落ち着いたか、セシリア」
「っく、はい。申し訳ありません、大変お見苦しいところをお見せして。それに鈴さんも衣服を汚してしまって……」
セシリアが泣き止んだころに、鈴はそっと抱きしめていた手を離して立ち上がる。
私の横に並んだ彼女の顔を見やると、いつもの鈴だった。
「そんなの構わないわよ。服だって着替えればいいんだし、気にしない気にしない」
「…… はい!」
やはり、いつもの鈴だ。
セシリアも泣いて目が少し腫れてはいるもののいつも通りと言えるだろう。
青い目の奥にも、優しい光が宿っている。
「それじゃあ一旦私の部屋に移動しましょうか。着替えもしたいし、シャルルとラウラとも合流したいし」
「ん、そういえば。なぜあの二人はこっちには来なかったんだ?」
「あぁ、あの二人にはちょっと頼みごとがあってね。他のところをあたってもらってたのよ」
「ほかのところ?」
鈴は口元をゆがめてにやりと笑った。
さっきまで優しい母親のような彼女とは思えない、悪童という言葉がしっくりくるような悪い笑みだ。
「シャルルには私らのパッケージの量子変換用の機材を調達に行ってもらってて、ラウラは軍事衛星で福音の補足」
「なっ!? そ、そんなことをして大丈夫なのか!?」
「ばーか。これから命令違反で福音討伐に行くっていうのに、倫理やらルールに縛られてられないでしょうが」
「そ、それはそうなのだが……」
なんとも釈然としない感情に襲われた私だったが、鈴のポケットから流れ出したメロディに気が逸れる。
鈴はすぐさまポケットの中から携帯端末を取り出して操作する、そして――
「福音の現在地、現在状態の捕捉完了、シャルルの方も準備完了だってさ。もうやっちゃったんだし、しょうがないわよね」
「ぬぐぐ、腹をくくれというわけか」
「はっ、もうくくり終わってるくせに何を今さら」
余裕たっぷりに笑い飛ばす鈴に、セシリアは何がおかしいのか口に手をあてて上品に笑っている。
私は私で、至極もっともなことを言われ、何も言い返せそうにない。
まったく、彼女にはかないそうにない。
「さ、やってやろうじゃない!―― あのまっくろくろすけに目にもの見せてやる!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
なんだか、変な感じだ。
妙に体がふわふわする。
死んだからか? でもそれにしてはしっかりと周りを感じ取っている。
(波の、音――?)
遠くの方から波が防波堤に打ち寄せては返すような音が、途切れることなく聞こえてくる。
鼻からは磯臭いというか、魚の匂いもかすかにする。
目を、開こうとすると妙に明るい。
日差しのような明るさじゃなくて、暗い部屋でいきなり点いた蛍光灯を目で見てしまったような、頭の痛くなるような明るさだ。
(白い壁が見える―― なんで屋内? 病室か?)
目が強烈な明るさになれると、部屋の全容があらわになった。
映画とかで見る、地中海の民家の一室みたいな、いや実際民家がこうなってるのかわからないけど、とにかく真っ白な部屋だった。
窓際にはチェストが置かれてて、空の花瓶。窓の外には青い空と、青い海が広がっている。
窓と反対側を眺めると、俺のいるベッドを除いては家具はあまり見当たらず、木製の扉が、閉じたまま佇んでいるだけだ。
「どこだ…… ここ?」
思わず口に出していた。
もちろん、この部屋には自分一人だけなのだから答えは返ってくるはずないんだけど。
「それは、うまく説明できないんだ。こういうところだと割り切ってもらえるとありがたいな」
返ってきた。
ぎょっとしてすぐに声のした方に向き直ると、さっきまで何もなかったはずの室内に椅子が現れ、答えたであろう人物が腰を下ろしていた。
「あ、あんただれだよ?」
「んー、俺が何者かっていうのも説明はできないんだ。ちょっとした情報制限がかかっちゃっててさ、悪いね」
物腰の柔らかくそう言うと、突然現れたその男は口角を少し上げて笑った。
今回はここまで。
言っていた時期より少し遅れてしまいました、申し訳ない。
少し書いてた部分が気に入らなかったため修正してたらこんなことに。
ですが一応これで次で福音戦第二幕終了までは行けると思いますが、番外編含めて四巻編へ行けるのは九月になると思われます。
面目ない。
それと次は夏コミなどもあるため、八月中盤あたりになると思われます。
それではこれにて
乙でした
鈴ちゃんはこんなに素敵なのになんで人気が(ry
乙です
乙。俺はりんちゃんが一番好きだぜ
思いのほか、というより事故に近い形で書きあがってしまったので投下します。
とはいっても区切りのいい部分までですけど量が多かったもので。
福音戦第二幕、中盤までを今夜七時から投下したいと思います。
それではこれにて
予定通り、というかむしろ予定外の投下を開始しますよ。
それではいきます。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夜の闇があたりの音も飲み込み、辺りはしんと静まり返る。
風も穏やかに流れるそんな空域に、福音はひっそりと、ぼんやりと佇んでいた。
闇の中に浮かぶそのボディは宵闇よりもさらに黒く、逆にその姿は浮き彫りとなっている。
「『Qu―― ?』」
ふと月夜でも見上げるように福音が首をもたげる。
するとその瞬間、福音の顔面付近で強烈な閃光がはじける。
『初弾命中。次弾発射、三弾、四弾装填開始。発射まで五カウント』
ラウラの事務的な口調から発せられたその言葉に内心で拳をぐっと握る。
福音はこちらに気づいたのか、自身に砲弾を撃ち込んだラウラにその顔をぐりんと向けた。
真っ黒な顔面には目に相当する部分はないが、それでもこちらを見たと思わせられるほどの威圧感をこちらに与える。
『敵機の敵性反応確認、戦闘態勢に移行した模様。突っ込んでくる』
翼を思わせるスラスター、その噴射口が火を入れたかのように赤く発光する。
動き出した手足にもところどころ発光する部位があるようだ、昼間に交戦した時と若干フォルムの変化が見られる。
『次弾は躱された。敵機との距離、五千…… 四千…… 三千…… 三、四射目発射準備完了。狙い撃つ』
『各機散開!! シャルルはラウラの援護!』
初期位置、福音から八キロ地点の岩礁から、ラウラの専用機であるシュバルツェア・レーゲンの砲戦パッケージ『パンツァー・カノーニア』による遠距離砲撃から開戦の火蓋は切って落とされた。
ラウラの砲戦パッケージでは、通常一門のみの肩部八十口径リニアカノン『ブリッツ』を左右に一門ずつ配置しており、相手からの狙撃、砲撃への対策として左右、前面に物理シールドが四枚増設されている。
初撃は不意打ちの形をとって当てることができたが、あの圧倒的機動力を誇る福音にそうそう当てられるものではない。
「『Qu――♪』」
歌うような鳴き声を上げ、音速の約二倍の最高速度で近接戦闘を挑みかかってきた。
『三射、四射…… 外れた!!』
五百メートルを切った時点で発射されたはずの三、四射目の弾丸も福音は躱す。
圧倒的な相対速度があったはずだが、それでも躱される。
しかし、福音のほんの少しだけ速度は落ちた。
その僅かな失速によりできたコンマ数秒もない小さな間隙に、橙色の疾風がラウラの前に躍り出る。
『任せて!!』
シャルルの駆るラファール・リヴァイブカスタムⅡの防御力強化パッケージ、『ガーデン・カーテン』は左腕部に通常装備されている物理シールドに加えて、追加エネルギーシールド、物理シールドを二枚増設されている。
非固定浮遊部位のようにシャルルの周囲に浮かぶ二枚のシールドを、目の前でかち合わせて福音から正面でぶつかり合う。
福音の攻撃はシャルルに触れることさえ叶わず、受け止められる。
当初の作戦通り、砲戦パッケージに換装し機動力、速度がともに落ちたラウラを、器用で防御面に優れるシャルルにカバーさせる作戦は成功している。
『さ、こっちも始めようかしら!』
『そうですわね!』
セシリアのブルー・ティアーズSG(ストライク・ガンナー) の鋭い砲撃とも見紛うような銃撃、BT兵器での弾幕の形成。
そこに加え――
『ほら!ほら!ほら!ほらぁ!!』
鈴の機能増設パッケージ、『崩山』。
単純にスラスターの増設などが行われているが、それによるエネルギーの消費はもとから燃費を考慮して考えられたコンセプトの機体であるため稼働時間もあまり気にせず戦える。
しかしこのパッケージの肝はそこではなく、両肩の後ろに存在する非固定浮遊部位の衝撃砲の砲口が二門から四門に増設されており、さらには威力も強化されていると聞く。
唯一の欠点は威力強化により、見えない砲弾というメリットが消え、空気の弾丸は熱を持ち、赤く燃えるように見えることだけなのだが――
『この私の弾幕に沈みなさいっ!!』
鈴はそれさえもお構いなしに、四門の衝撃砲を高速で連射し続ける。
『ちょ、ちょっと鈴! 僕にも少し当たってるよぅ!!』
『そんなこと言って、下がりながらさりげなくショットガンぶっ放してんじゃないわよ!』
シャルルの盾にぶつかって止まったその一瞬で一気に畳み掛ける。
これだけで落ちるとは思っていないが、それでもここで終わらす気概で打ち込む。
それにしてもあの刹那でシャルルもよく判断して射撃に移れるものだ。
「本当にお前らは、敵に回したくない奴らばかりだ」
思わず、呟く。
「私も、負けてられん!!」
急加速をかけ、福音に肉薄する。
両の刀に意識を集中させ、腕を交差させる。
鈴とセシリアが意識的に薄くしてくれた弾雨の部分を疾走する。
「斬り裂くっ!!」
気迫を乗せた言葉と共に振るわれた斬撃。
しかし手ごたえは悪い。
「『Qwon――♪』」
「くっ!?」
渾身の一撃は片腕で止められていた。
敵ながら見事と言うしかない、あの刹那で、弾雨にさらされながらそれをものともせず、刃の交差したその一点をつかみ取ったのだ。
「は、離せっ!!」
しかも、異常な力強さ。
一度目の交戦でも組み付かれたが、その時からおかしいと思っていた。
普通のパワーアシストではここまでの差が出るとは思いきれない、軍用ということを差し引いても。
思考を巡らせる間も、事態は動く。
福音の腕が上がり、自分の体が引き寄せられるのを感じる。
(来る! 刀を棄てるか!? しかし――)
一瞬迷った、支援射撃も間に合わないだろう、やられる?
『やらせないよ!』
目の前に唐突に壁が現れる。
重い打撃音の後、壁と共に福音が消える。
『シャルルか!?』
上昇するシャルルと、羽交い絞めにされた福音を捕捉する。
おそらく、あの一瞬に真後ろから近づき、ガーデン・カーテンの実体シールドを私の目の前に出して防ぐという離れ業をやってのけたのだろう。
自身の前に展開するシールドの裏面を使うなど、設計者も予想だにしない使い方だ、もはやシャルルのあれは器用という域を超えている。
『皆聞いてくれ! 福音はおそらくPICと外骨格パワーアシストを併用していると思われる! 接近戦ではそこを気を付けてくれ!』
『了解、だよ!!』
上空でシャルルは手を放すと同時にショットガンとアサルトライフルを構え、撃ち放した。
しかし、そこも福音は最小限の被弾で距離を一気に空ける。
(福音は確かに強い。今も間近で確認して、完全にシールドエネルギーによるバリアが回復しているのが見て取れた)
ラウラの初弾、鈴とセシリアの弾幕、そしてシャルルのショットガンと立て続けにこちらの攻撃を浴びせ続けたものの、そのボディには傷一つ見受けられなかった。
(しかし、それでも私たちは負けない。負けてなるものか……!!)
気合を入れ直し、再度加速して福音を追う。
(一夏…… 私に力を貸してくれ!!)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
波の音がする。
寄せては引く波の音。
足元は冷たくて、見てみるといつのまにか裸足になっていた。
制服の裾を丸め上げていて、靴下と靴は右手に持っている。
「風……」
風が吹いている、緩やかに穏やかに。
夏だったはずなのに、空は白んでいて、冬の空のような青さで。
「気持ちいいところだな――」
足裏の感触を確かめるように歩き出す。
海の砂のような、というよりもそれそのものの感触が帰ってくる。
「――♪ ~~♪ ……――♪」
少しすると、かすかに誰かの歌う声が聞こえた。
小さな女の子のような歌声が、聞いたことのない歌を歌う声が。
「ラ・ラ~ララ~♪」
歌声のするほうに歩くと、すぐにその歌声の主を見つけた。
思った通りの小さな女の子だった。白い髪を持つ、髪と同じ色のワンピースを着た女の子。
その子は歌うように踊り、踊るように歌った。
俺はどうしても邪魔をするような気分にはならず、黙って近くに転がっていた流木に腰掛ける。
その流木は流れ着いてしばらく経っているようで、表面が剥げたりしているがしっかりしていて壊れそうには見えない。
ゆっくり座り込み、転げないように安定させて、ようやく俺は少女に視線を戻した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『全員ふんばりなさいよ! とにかく作戦通り、機会を待つのよ!!』
鈴の怒号が飛ぶ、福音はやはりその圧倒的旋回性能と急加速を使い、こちらを翻弄する。
足の止まらない、全方位へばらまくあの射撃が非常に厄介だった。
(だが、鈴の言うとおり、作戦をまず第一に動く。隙があれば斬るが、最初に止められたのも事実)
援護を受けているからといって、単調に突っ込むのは駄目だ。初撃の二の舞になってしまう。
だが、シャルルが後方から至近距離まで近づけたのも事実。
付け入る隙もある。
(一番の問題は――)
『だぁー!!何でこの弾幕でまだピンピンしてんのよ!!』
鈴が叫ぶ。
そしてそこが一番のネックなのだ。
福音と交戦を開始しておよそ五分が過ぎた。
しかしおおよそ手ごたえといったものが得られていないのだ。
全ての攻撃がかわされているわけではない、弾幕をしっかり張り、削りながら要所要所で私を筆頭に近接戦闘も挑んではいるが、決定打も与えられず、足を止められず、ラウラの砲撃も腐らせてしまっている。
セシリアも、BT兵器のみで攻撃に参加している。スターダスト・シューターも撃ってはいるが当たっていないのが現状。
(このままではジリ貧だ。それに私の紅椿も、予想以上に燃費が悪い。高性能の代償という事か……)
もちろん、紅椿の燃費の悪さについては事前に皆に告げてある。
だからこそ、私は弾幕を張る役目でなく近接戦闘で奴の足を止める役目でいるのだ。
(だが、その役目すら果たせていない。このままでは作戦の肝である、奴の『あれ』を引き出せない――)
仕掛けるか?
僅かな逡巡。
仲間の消耗をこのまま待つか?
(否!!)
多少の危険は承知の上。
強引にでも――
『仕掛ける!! 支援援護を頼むぞ!!』
『ば、馬鹿! 突っ込みすぎよ!!』
『大丈夫だ、私は墜ちん!!』
直線的な軌道。
わざと自身の存在を見せつけながら距離を詰める。
『ああもう! 手間のかかる奴め!!』
『信じますわよ、箒さん!! あなたの言葉』
最高速でこちらに分がある。
さらに鈴とセシリアの弾幕による誘導で、進路を変えるため福音が最高速よりわずかに失速する。
いよいよ近くなる敵との距離。
禍々しい黒の鎧に身を包んだ福音の顔面が目と鼻の先に迫る。
奴はこちらを向いている、迎撃に移った。
(好機!)
『シャルル、お前の業を少し借りるぞ!』
両側から挟み込むような斬撃を仕掛ける。
それに対し、こちらの攻撃をいち早く察知した福音は進行方向を完璧にこちらに向けており、加速も始めている。
こちらは刀、向こうは素手。
間合いはこちらが広く、しかし潜り込めば間合いの近いあちらが有利。
潜り込む自信があるのだろう、事実見事にこちらのタイミングに合わせてきた。
(だが、その能力の高さが命取りだぞ!)
私の手の中にあった二振りの刀が光を帯びて消え去る。
呼び出しの逆、拡張領域内に量子化させて戻したのだ。
「『Qi!!?』」
コンマ秒にも満たないその瞬間、貫手を放っていた福音の素っ頓狂としか表現しようのない電子音を確かに聞いた。
それとほぼ同時に顔の横を紙一重で腕が通り過ぎる。
抱きしめるような形で、福音を強引に場に縫い付けた。
『「今だ!!頼む!!」』
自分の口から出たのは叫びというより悲鳴だった。
こんな方法で止めれば力で圧倒的に分がある福音に引きはがされ、そのまま顔の形が変わるまで殴られるか、両砲口からの圧倒的密度のエネルギー弾で消し炭にされてしまうから当然だったと思う。
『あんたが抱きしめてるせいで下手に撃てないわよ、馬鹿!!』
『早くっ!!』
はがそうともがく福音の手がわずかに引っかかるような感触に、背筋を冷たいものが通り過ぎる。
しかし幸い、福音の手に引っかかったのはリボンの端だった。
「全くもう、無茶をするね。せめてこうするって一言いってくれればいいのに」
この場で呑気ともとられかねない語調で、シャルルの声が聞こえた。
その直後には、私の頭の真後ろから腕が伸びて福音の頭に照準を定めたように止まる。
「盾殺し(シールドピアース」
瞬間、左手の盾が圧縮空気を抜くような音と共にはじけ飛び大口径のパイルバンカーが姿を見せた。
見せたとともに射出する。
福音の頭を激しく揺らした。
確かな手ごたえ。
そしてシャルルはそれでも止まらない。
「もう一つ!!」
金属と金属の触れる甲高い音が鼓膜を揺らす。
リボルバー式である盾殺しは連射ができる、しかし次弾装填の音がやむ気配がない。
「最後ぉ!!」
シャルルの言葉を聞いて、急いで福音から体を離す。
三発目のそれを受けて、福音はよろめきながら後ろにはじかれる。
さすが第二世代兵器最高威力、と思ったのもつかのま――
「では、私も――」
弾かれた福音の頭に真上から、ゴリ、と銃口を押し付けたのはセシリア。
「ごめんあそばせ」
言葉とほぼ同時に放たれる閃光。
「『Vi――!??……』」
異音を上げながら海面へと落下していく福音。
『ちょっとセシリア、前に出過ぎ! 遊撃はシャルルに任せて!』
『すみません、ちょっと昂ってしまったもので』
にこり、と笑うセシリアを見て、あまり彼女を怒らせたくはないなと、この場に似合わないようなことを考えてしまった。
『福音、体勢を立て直した! エネルギー反応増大、撃ってくるぞ!』
ラウラの張りつめた声に、全員が瞬時に緊張を取り戻す。
私も一瞬前の思考を放り投げて福音に意識を集める。
『ん、これは…… 違う、撃ってこない! エネルギー反応増大が止まらない。『あれ』が来るぞ!!』
福音が宵闇を反射して漆黒に染まる海を背に、その黒い翼を大きく広げる。
赤い光が翼の表面に幾筋もの線を描き、その線を境に羽が展開する。
煌煌と光るその赤は、連想させる血の色よりも鮮やかで、私の機体の紅よりも紅かった。
『隊列組めぇ!! チャンスは一回! さっきので大分削ったはずだから押し切れるわよ!!』
一夏が撃たれた、あの場面が脳裏をよぎる。
五反田のあの声が、耳を打ったような気がした。
『箒!!』
作戦通り、ラウラの前方を守るように配置したシャルルから声が上がる。
(わかっているさ――)
すぐさまシャルルの後方、ラウラとの間に身を滑り込ませる。
耳をラウラのリニアカノンの砲撃音が揺らす。
(もう、恐れも怯えも後悔もない――)
福音は完全に停止している、そこにラウラの砲撃が、セシリアの狙撃が突き刺さる。
だが、手ごたえが一切ない。
(すべてあの部屋に置いてきた。あの時、覚悟を決めたあの時に……!!)
福音の翼が、一際紅く輝いた。
『来る!!』
誰かがそう叫んだ。
それが合図。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
鈴の部屋の一室で行われた作戦会議。
セシリアは熱弁をふるっていた。
「つまり、あのIS最大の攻撃であるあの湾曲軌道のビーム兵器。そして私たちに追いついて見せたあの急加速。その予備動作が最大の弱点でもありますの!」
長い時間、あの戦闘を見ていただけあって福音の解析はだいぶできていたようだ。
さらにセシリアは続ける。
「二つの行動の予備動作は全く同じでしたの。まずエネルギーがIS内で増大をはじめ、そこから移動行動を停止。爆発的にエネルギーの増大が始まり、羽の展開。そこから射撃、高速移動の二択ですわ」
映像がテレビの画面に映し出される。
セシリア視点の映像だ。
そこには赤く光る福音の羽が映し出され、そこから急速にこちらに向かってくる場面だった。
思い出して若干身震いする。
「この移動行動の停止は三秒程度とそれなりに長いですわ。そしてその三秒間だけ、福音の最大の長所の機動力が失われます。ここを叩くのが最善かと」
「ふむ、まぁ理に適ってるわね。策もなしにぶんぶん追いかけっこするんじゃ、さすがに無謀すぎだしね」
鈴がうなづきながら賛同を示すが、一方でシャルルは何か言いたげだ。
「シャルル、何か気づいたことでもあるのか?」
「あ、いや、気づいたというより疑問と推測と言うか……」
私が声をかけてみても少し気おくれが見える。
「嫁よ、こういう時は推測でもなんでもはっきり言うものだ。何のための作戦会議なのだ」
しかしラウラの言葉に観念した様子で、「あくまで推測だよ」と前置きを一つ入れて話し始めた。
「この映像を見てる限り、確かにセシリアの言った通りだと思う。だけどどうしても腑に落ちないんだ、なんで停止するのか、それと羽の展開も」
「確かに……」
言われてみればそうだ、高速移動もあの偏向射撃も別段止まる必要もなく、射撃は砲口の展開と納得できるが移動の際に羽を開く意味が納得いかない。
「ここからは僕の完全な推測。たぶん福音はあの機能複合スラスターの発熱を無理矢理開いて抑えてるんじゃないかな? 観測されたデータから見ても、あまりにもエネルギーが大きすぎる」
「つまり、放熱のために動くのをやめる? しかしそれでは――」
「結局隙であることに変わりはない。それを踏まえてもう一つの推測。余剰エネルギーである熱と一緒にある種の力場を放射して自身を守ってるんじゃないかな?」
私の言葉を遮ってシャルルが言葉を次ぐ、少し熱が入っているようにも見える。
だが、私も納得がいかない部分がある。
「どこから力場が出てきたんだ? 今までの話の中でそんな要素はどこにもないように思うんだが」
「私も箒さんと同意見ですわ。突拍子もなさすぎますもの、放熱のために羽が開くまでは信じられますが」
私たちの反論にシャルルは想定内だ、とでも言うように自信ありげに答えた。
「僕が思ったのは偏向射撃だよ。どういうメカニズムでビームを曲げているのかはわからないけど、必ずビームを曲げる何かがあそこにあるはずなんだ。だとすれば発射前にそれを防御に転用してる可能性もある」
「……なるほど」
ラウラがシャルルの隣で、静かにうなづく。
「おそらく偏向射撃を支えてる力は動きながらの展開はできないんだ。だからこそあの射撃で足が止まる。そして高速移動は近距離機の接近への心理的牽制の意味だと思う」
「それなら、一応の説明はつくわね。でもシャルル、いくらなんでもこれは勘がいいじゃすまないわよ。どっかで見たことでもあんの?」
説明を終えたシャルルは鈴の突っ込みに対して、多少はにかみながら返す。
「鋭いね、鈴は。これと同じじゃないんだけど、設計思想の似たISの兵器をデュノア社のデータベースで見たことがあってね。技術的な難しさと変態的すぎるピーキーさ、あとはコストの問題で没になったやつ」
「つまり、停止した時間を埋めるための準備はあると考えた方がいい、というわけですわね。ならばあの牙城をどう崩せば……」
シャルルの説明で敵機体の解析は大きく進んだが、違う問題に当たってしまった。
セシリアが唸る。
だが、ここで思いがけずラウラが前に出る。
「そういうことならば、私に策がある」
「ほ、本当ラウラ!?」
「あぁ、しかし策と言っていいのかだけが問題なのだがな」
「え?」
策があるのだか、ないのだか、はっきりと言い切った割にはっきりしないラウラの発言に困惑する私たち。
しかしそんな私たちを尻目に、いつもと同じようなペースで話を進めるラウラ。
「先人たちの知恵とも言える。箒よ、確か日本ではこういう言葉があるのだろう?」
こちらにちらと視線を向けたラウラはこう続ける。
「肉を切らせて、骨を断つ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
感覚が鋭敏化するのを感じる。
神経の一本一本すらも感じ取れるような錯覚にさえ陥るほど、研ぎ澄ましていく。
大きく展開した福音の羽の先から、紅い閃光が迸る。
(偏向射撃、狙い通りだ!)
そもそもあちらのとれる行動は、偏向射撃一つのみだった。
というのも、現在私たちはラウラを中心にして一塊になっている。
故に福音は高速機動をとるメリットはなくなり、偏向射撃によって取り囲むような軌道で打ち込んでくるしかなくなったのだ。
とはいえ、相手の行動を誘った結果、こちらは袋の鼠だ。
周りを紅い光の帯が予想通り囲みこむようにこちらに向かってくる。
「シャルル、ラウラ、頼むわよ!」
「了解!」
「オッケー!」
鈴の号令により、ラウラが後方の守りにつき、シャルルは前方を固める。
そしてさらにシャルルは左右に新たな武装を呼び出す。
大きな扉のようなシルエット、追加防御武装『キャッスル・ゲート』、用途は単純に守ること。
しかしただの盾ではなく、自立機動により味方を自動的に守ったり、空間に置くようにも使うこともでき応用の範囲は広い。
ラウラの前、左右の四枚。シャルルのガーデン・カーテン、キャッスル・ゲートの四枚。
計八枚の物理シールド。
「第一波、来ましたわ!」
生半可な攻撃では貫けないはずのその分厚い盾を、一気に消耗させるほどの弾の雨。
盾の壁を叩く音は一向にやむ気配はない。
あまりの密度に、盾の隙間から何発も機体に光弾が突き刺さる。
シールドエネルギーが少しずつ減っていく。
焦りが高まり始めるのを感じる。
「ちょっと、まだやまないの!? 映像よりも長くない!?」
鈴が愚痴なのか悲鳴なのか判別のつかない叫びをあげる。
私も叫びだしてしまいたいという感情を押し殺し、じっと待つ。
私たちの待つ、その瞬間を。
「エネルギーの異常な増大を確認!! 福音、第二射の準備に入りました!!」
セシリアの叫び声が耳に届く。
「シャルル、箒!!」
鈴の何度目かの怒号。
声はかすれ始めている。
「カウント三から! 三・二・一 ――」
観測手のセシリアからのカウント。
軽くシャルルの背中を叩く。
頼んだぞ、と。
「GO!!」
目の前のシャルルが一塊の中から飛び出す。
前面をガーデン・カーテンで守りながら、瞬時加速で最高速を叩きだし福音へ疾走する。
私はその後ろをピタリと張り付いた形で追従する。
止まない弾雨に、盾を二枚失った後ろの三人は被弾の割合が増えた。
そして弾雨に真っ向から向かうシャルルも、先ほどとは比にならぬほど物理シールドを消耗している。
だが、私は完全に被弾から免れた。
(福音との距離、二千―― 一千 ――)
目の前のシャルルの盾が砕ける。
距離は十分縮んだ。
『後は頼んだよ、箒』
福音の下を抜けるシャルルを見送る暇もなく、完全に停止した福音に相まみえる。
(弾の雨は止んだ。第二射か? それともここから高速移動か?)
正直前回の交戦だけでは、どの段階で偏向射撃と高速移動の切り替えを行っているのかはわからなかった。
だが、わかった点は多かった。
(どのみち、お前にもはや選択肢はない!!)
それは奴の行動開始タイミング。
エネルギーの増大から、どこでそれを解放し行動に移すか。
セシリアが完璧に読み切ってくれた。そこに合わせて攻撃を叩きこめば正面からであろうと避けることも、受けることも叶わない必殺のタイミング。
「ぜいやぁああっっ!!」
二刀を一刀のように上段から袈裟に切り裂く。
それだけでなく、返す刀でもう一刀。
「『Qw――』」
「ま・だ・だぁぁああああああっっ!!」
福音の鳴き声を押しつぶすように腹から声を絞り出し、何度も何度も刀を振り回す。
叫びに呼応するかのように展開装甲が開き、体が軽くなる。
さらに脛部分に展開したブレードも使い、四方向からの斬撃を繰り出す。
福音の羽の穂先から光の筋が迸るが、すべて見当違いの方向へと飛んでいく。
地に足をついていないこの舞台で、幼いころより習ってきた全てを活かして剣戟を続ける。
教えにない足刀も、飛行中の斬撃も、私の中にある剣道が支え、形に成してくれる。
思考はもはや追いつかず、我武者羅に、ただただ体の動く限り敵を叩く、斬る。
「ひゅっ、ひゅっ…… っく、っはあぁぁ!!」
息が切れ、限界が見えてきた。
しかし、それは向こうも同じ。
シールドエネルギーで受けきれなくなりはじめ、装甲にも亀裂が出始める。
黒い装甲の下の銀が見え隠れする。
しかし、まだ。
(ここで堕とすしか、もうチャンスはここ以外にない。ここで骨を断たねば、こちらの肉がそぎ落とされかねないんだ……!!)
あと少し、あと少し持ってくれ。
限界をほんの少しだけでも超えてくれればいい。
終わったらゆっくり休ませてやるから。
「……っっ!!!」
もはや呼吸すらできない。
息を吸えば、そこで糸が切れてしまう。
強迫観念じみた事実が自分の体を包む。
あぁ、ここで止めたい。
休みたい。
弱い心がしみだしてくる。
(………………………… 一夏っ)
ただ想い人の顔を思い出す。
そうすることでしかもう耐えることができない。
ただただ目の前の敵を討つための理由を思い出し、そして体を動かす。
恐らく現実の時間は三秒と経っていないだろう、それほど圧縮された時間の中を、ひたすら自分と目の前の敵を相手に戦っている。
(一夏……!!)
終わりが、見えた。
「あっ」
どこからその声を出す空気が残っていたのか、不思議に思えた。
だが私の喉から確かに聞こえ、それは勝利からもたらされたものではなく、失望からもたらされたものだった。
「『Vo ――っ!!』」
その音は怒りを表しているのだろうか。
福音からけたたましい汽笛のような音が鳴る。
私の刀は、相手を斬るでなく、叩くでなく、力を無くしただ相手にもたれかかるように止まっていた。
奴よりも、私の限界が早かったのだ。
「あぁ……」
失望は、絶望に変わっていく。
皆に託された唯一のチャンスを、私は果たせなかったのだ。
研ぎ澄まされていた感覚は、途端に錆付き、鈍く輝きが失せていった。
目の前では銀に光る狂爪が私に迫っている。
だがもう動くことはかなわない。
今からでは持ち直すまでに奴にやられる。
(すまない、一夏……)
耳に響く轟音。
砕け散る装甲の欠片が頬に触れた。
―― だが、衝撃はない。
「今回は不意打ちばかりで、あまり気分がよくありませんわね」
不意にセシリアの声が鼓膜を揺らす。
福音の上体は大きく横にそれ、今までのダメージも含めてか、復帰が遅い。
「この機体も一応強襲用と銘打ったパッケージを量子変換していますのよ、なめてもらっては困ります」
言いながらこちらに顔を向けた福音の顔面に真正面から二発目を撃ち放つ。
「一度離れましょう、箒さんも消耗が激しいでしょう。息を整えてから仕切り直しですわ」
腕を取られ、急速にその場を離れるセシリア。
その瞬間に、福音の周りを銃弾が囲みこむ。
『正直もうこのまま数の利を活かして戦えば勝てそうなのよね!』
『少し休んでてよ箒!』
『まるで戦神のような戦いぶりだったぞ、箒』
三人からの通信に、胸が温かくなる。
体の芯から抜けていた力が、徐々に戻ってくる。
(やれる……)
『福音が弾幕から抜けたよ! 上だ!!』
『好き勝手やらすんじゃないわよ!! もう最後なんだから押せ押せ!!』
もはやこの機体に残っているエネルギーも僅か、だけどみんなが戦っている。
「私も――」
戦うぞ。
『私も、戦うぞ!! 休んでいる暇などあるものか、私は戦う!!』
自らを、そして仲間を鼓舞するように宣言する。
「では、私も戦線に戻ります。ご武運を」
「お前もな」
全開で動けるとは自分でも思っていない。
だが、戦力の外ではない。
福音を目で追うと、遥か上空を弾幕を避けながら上昇している。
(距離を空けている、か……)
ならば詰める。
幸い、向こうも満身創痍。
これなら追いつける。
ぐん、と加速をつけて福音を追う。
両手の刀を握り直し。
(勝てる……)
そう確信した瞬間。
やけに冷たい感触が背中を襲った。
(……っっ!?)
ほんの一瞬だ。
だが、その原因はすぐに思い当たる。
(うまく、行き過ぎていないか?)
この感覚は覚えがある。
最初の交戦の時も、そうだった。
まるで、泳がされているようにこちらの作戦が紙一重で成功する。
考えすぎ? そうではなかった。
『エネルギー反応増大! おそらくまたあれが来ますわ!』
『次は散開! もうシャルルの盾もないんだからあんな作戦は無理よ!!』
『こちらでエネルギー量の観測を行います、解放するタイミングはカウントで知らせますわ!』
違う、と直感で気づいた。
奴はまだ隠し玉がある。
耳元で誰かが私に未来を教えているかのように、この後に何が起こるかわかる。
『カウント三から、三・二・一・――』
『「ダメージレベル許容量オーバー。プログラムに基づき、証拠の隠滅を開始します」』
鳴き声のような音しか流さなかった福音のスピーカーから、唐突に流暢な人の言葉が流れ出す。
そしてセシリアのカウント通り、福音の翼は広がり。
『「Vi―― do ―― 」』
コンピューターゲームの終わりを連想させるような電子音が響く。
つまりそれが示す未来は――
『ゲームオーバー?』
シャルルのつぶやきがかすかに聞こえた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「君は、この世界についてどう感じている?」
唐突に波打ち際を、海水をかき分けながら歩く男にそう聞かれた。
「世界をどう思うって…… ずいぶんアバウトな質問っすね」
俺があの部屋で気づいた後、男に誘われ砂浜まで出てきていた。
家や路地、そしてこの砂浜や海を見て、ここが日本ではないことは明らかになった。
ただ俺とこの男以外に人の気配はなく、それをひどく不思議に思った。
不気味、とも表現できる状況だが、あえて不思議と表現するのはそこに負の印象を抱かなかったからだ。
なぜかは、分からない。
「それはあえてそういう風に質問したからさ。君が感じる世界について、理論的な言葉じゃなくて感情的な言葉が聞きたかったからね」
その言葉自体が感情的ではないよなぁ、と一人心の中で思いながら男を見やる。
眼鏡をかけた鋭い目つき。なのに纏う雰囲気や言葉遣いなんかはひどく柔らかい。
白いシャツとブルージーンズで身を包み、整った赤茶色の短髪を含めて清潔感が漂う。
(インテリ、って感じだよな。大学の助教授です、ってイメージ。助教授なんて会ったことないけど)
「俺の顔に何か?」
「あ、いやいや、なんでもないっす」
聞かれたこととは全く関係ないこと考えてた。
つってもそんなアバウトで今まで考えたことのないような事聞かれてもすぐには答えられねえよ。
「まぁ、どう感じてるかはともかく結構好きだけどな」
「ほう」
思わず口から突いて出た独り言に、男は興味深いといった様子で感嘆の息をつく。
俺自身口から出ていたことに男の反応で気づいたので、少々慌てる。
「いや、これは別に独り言っつーか、言葉にしようとはしてなかったっつーか――」
「それでいいんだ。いや、むしろそうであるからこそ、その言葉は君の真意により近く、君の捉える世界の形を表してくれる」
「は、はぁ……」
そんなポエムみたいなこと言われたってよくわかんねーけど、この人にとってはそれで十分だったらしく何度もうなづき満足感をあらわにする。
しかしすぐにそんな表情は立ち消え、緊張感をたたえた、真剣な眼差しを向けてきた。
俺もはっとし、身構える。
「君の周りを取り囲む世界。それは君の言葉だけを切り取り、見つめるととても素晴らしいものに見える。だが、君がここに来る前に遭遇した『奴』はどう見る?」
『奴』、と表現されたものが何か、俺の脳裏にはすぐにあの黒く忌々しい機体が浮かび上がる。
「福音……っ!」
「そう、あれもそうだが最近になって君の周りにはどうも悪意のようなものが見え隠れするようになった。そしてそれを払ってきた君も、今回はそうはいかなかったようだ」
今回の福音もそうだが、言われて思い返せばボーデヴィッヒのVTシステムも結局誰が仕込んだのかはわからず、鈴と一夏達で倒したあの黒いISの事件も真相は明らかにされていない。
確かに、気づいていなかっただけでおかしいことはこの学園に入ってから続いていたような気がする。
「そして、君の頭の中に浮かぶ事柄はすべて君がその事件の渦中にいた。そうじゃないか?」
「…… 確かにそうっすよ。けど、中心にいたのは俺じゃない、一夏だ。全部あいつが関わっていて、それに俺が首突っ込んでただけだよ」
最初の事件もあれは鈴と一夏の試合の最中に乱入騒ぎが起こって、それに俺は加勢に入っただけに過ぎない。
福音戦も元は一夏を中心とした作戦だし、VTシステムに至っては空回りしてただけだ。
最後に解決させたのはまぎれもなく一夏とシャルルの二人。
「俺がやってきたのは、極端に言えばいらぬお世話。物語にしてみれば主人公の友人Aってところだ」
卑下しているわけじゃないが、冷静に客観的目線に立てばそういうことになる。
実感としても、まだまだ一夏には追いつけていないという感覚もある。
そうそう簡単に追いつけるものだとは思ってないけどさ。
「あんたが一体何をこれから話そうとしているのかわからないけど、俺じゃなくて一夏を呼ぶんだったな」
そう言って捨てては見たものの、見知らぬ人からすれば勝手にふてくされたようなものだ。
さすがに失礼だと思い返し、口を開こうとしたが、先手を打たれる。
「だからこそ君を呼んだんだよ。五反田弾君」
男の足元を波がさらい、合いの手をうつかのように音をたてる。
「元、物語の脇役。現、この世界における最大のイレギュラーの君を」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
予想以上に早く書きあがっている上に、福音戦二幕目が長すぎたため分割で投下しました。
しかしこれで予定通り九月には四巻編に突入できそうです。
次は前から言っていた通り、二週間後くらいになる予定です。予定外のことが起きなければ。
それではこれにて。
乙
白シャツブルージーンズの男…一体何者なんだ…
これは熱い、熱々だな
次回楽しみにしてます!
予想外に投稿きてた!
乙です
そして2週間
予定外の事が起きたのか
アナウンスです。
二週間たっていたのに気づかず申し訳ない。
ちょっと予想外に長くなったので二つに割って投下しようと思います。
一応三巻分は書き終えたいので来週月曜から金曜の間に一回。週末に一回で分けたいと思います。
平日の投下は明日くらいに目途を立てて再度アナウンスでお知らせします。
今回は事務的なアナウンスのみですが、それではこれにて
よっしゃ━━━━━!!!
首を長くして待ってる
きたー
待ってるのよ!
アナウンスです。
今週の投下一回目は水曜日を予定。
次は週末に投下して三巻編は終了。
番外編を挟み四巻編へ移行します。
アナウンスなのでしゃべること少ないし事務的ですが以上。
それではこれにて
OK!
夏の終わりに最後の全裸待機
水曜日キターー(・∀・)ーー!!
ちょっと急用が入ったため、投下ができません。
といっても投下ができないだけなので、繰り越して明日の夜あたりに投下しに来ます。
たぶん週末の投下の日も明日報告しようかと思いますので、あしからず。
それではこれにて
おいす、じゃあ全裸継続で待機
半裸待機
この季節でも全裸は寒い
申し訳ない、一日遅れてしまいました。
これから投下させていただきます。
福音。
もはやその機体はその名を冠するには不可能なほど禍々しく、悍ましい姿へと変貌を遂げていた。
私の斬撃による傷からはマグマのような赤黒い光が迸り、その体表には陽炎が揺らめきあの光が熱を帯びていることがわかる。
大きく展開したスラスターは深紅の閃光が噴出し、まるで悪魔が翼を広げているようにも見えた。
『エネルギーの増大…… 止まりません…… そんな、こんなことって……』
セシリアの通信も動揺を隠し切れておらず、声が震えている。
自身の目に捉えた観測データでも、今も膨れ上がるばかりだった。
どこからあんな莫大なエネルギーを生み出しているんだ。
疑問は残るものの、今皆にかけるべき言葉はそんなことではないのは明白だった。
『全員動けぇ!! 足を止めるなぁっ!!』
あっけにとられていた皆が、私の言葉で再び動き出す。
しかし、動き出したのは向こうも同じだった。
『「Giazivxgrfp――!!」』
もはや声でも、鳴き声でもなく耳障りなノイズを吐き出すその機体は、圧倒的なエネルギーを推進剤として一瞬で距離を詰める。
『なっ、早っ――』
言葉が途切れ、鈴の姿が消えて遠くの方で水柱が上がる。
『速い、でもっ!!』
鈴の位置に一番近かったシャルルが射撃から接近戦に持ち込もうと、距離を詰めながらアサルトライフルによる射撃を敢行する。
急加速から鈴を殴りつけたあの機体は、本来なら通常の機動、もしくはあの急加速にはチャージが必要だった。
そこで本来ならシャルルの選択は正解だ。
だが――
『迂闊だぞシャルルッッ!!』
あれの翼は今だ輝きを失わず、マグマのような体表の陽炎はうねりを増している。
『「Aaaahhhhh!!!!!!」』
普段のシャルルなら違和感に気付いただろう、しかしあの異質な『変身』で完全にこちらは気圧されていた。
『くっ!』
『シャルルゥ!!』
ラウラの悲痛な叫び。
二本目の水柱が上がった。
『っこの!!』
ラウラのリニアカノンが唸りを上げる。
しかしその砲撃は見当違いの方角へと飛んでいく。
いや、見当違いではない。
確かにその一瞬前にはあれはそこにいたのだ。
(は、速すぎる ―― 常時チャージなしであの超加速が使えるというのか!?)
『「Vogxdkuzyukktref!!!!!」』
もう私たちの遥か上空で、あの機体は攻撃行動に移っていた。
紅い、雨。
偏向射撃かと一瞬思ったが、違う。
放射状に広がるその弾幕は、密度とスピードは激しいが曲がってはこない。
ただし曲がらないだけでこの完成度の高い弾幕を潜り抜けるのは難しい。
『きゃあっ!!』
『セシリア!!』
『まだ……行けます!』
セシリアが被弾。
曲げてこないだけか、曲げられないのか、それは定かではないがどのみち厄介な射撃攻撃なのは間違いない。
常時こちらの機動性能を上回る挙動で動き回られ、さらに福音の射撃武器よりも密度の高い弾幕をまく。
あんなものに――
「どう立ち向かえばいいのだ……!?」
冷静に、冷静になるほど無理に思えてくる。
鈴とシャルルが落とされ、さっきの作戦でラウラとセシリアは私が突入している間に被弾している。
ほぼ無傷の私も移動に回せるエネルギーはごく僅か。
策を弄する時間さえも与えてもらえそうにはない。
『「Qubgjkaeldpabrnyu!!」』
来た!
こちらに!
待ちの構え、迎撃を――
「っつぅ……!!」
視界が激しく揺れる。
水の感触が肌をなでる。
顔を覆う水に思わず息を止めてしまう。
斬撃ごと力のみで押し出された。
(シールドエネルギー、六割を切った。ほぼ五割、だと、化け物か…… ともかく今は脱出を、上へ……)
混乱しようとする頭を事実だけを切り取り並べて力づくで落ち着かせる。
私のできること、やれること、やりたいこと。
できないことなど、考えていれば今度はやられる。
(落ち着け、落ち着け、落ち着け……!!)
『箒さん!!』
『まだいける!!』
セシリアの声に、一言だけ返し、今度はこちらからアプローチをかける。
だが――
『「Bikpjuarbellajxa!!」』
(追い、つけない――!)
それどころか、移動する片手間に射撃を放ち、私は足止めを食っている始末。
これでは万全の状態でさえ、追いつけているかも怪しい。
『次は私の番か』
ラウラが、この場面でいつもの落ち着いた声色のまま、ただ事実を告げる。
私はただただ、目の前の機体が友を打ちのめす姿を見つめることしかできなかった。
「やめろ!! やめてくれぇぇぇぇぇっ!!!」
悲痛な叫びは機械仕掛けの悪魔には届かず、最高速度のまま旋回してセシリアを狙う軌道に入る。
『そんな、嘘ですわ…… 音速の三倍近くの速度であんな旋回をすれば、搭乗者の方が持たな――』
悪魔はセシリアの頭を鷲掴みにして、岩礁にそのままの速度で叩きつける。
セシリアの声は、そこで途絶えて、目に見える彼女の体もぐったりと力なく横たわったままだ。
「あ…… あ、あああぁぁ」
心の、折れる音が聞こえた。
(できること、やれること、やりたいこと。そのすべてが掻き消えた)
今までの動きが嘘のように、ゆったりとあの悪魔が振り返る。
そのまま翼をはためかすように一度動かすと、海面を滑るように移動してくる。
(あぁ、もう戻れそうにない。あの部屋にはもう二度と)
悪魔の片腕が喉元に伸びる。
至近距離にいるからはっきりわかる。
ISの機能がなければ、熱気で死んでいると。
(最後に、最後に一度だけ会いたかった。己の誓いを破ってでも、最後に――)
髪が広がるような感覚と共に、何かが焼ける匂いが鼻をくすぐる。
遅れてリボンが焼けてしまったのだと気づく。
(一夏――)
ただ、会いたいとそう願った。
叶うこともないと分かっている願いを。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
波の音は絶え間なく、少女の歌声もまた絶え間なく続いていた。
あまりにも心地がいいから眠ってしまいそうにもなる。
実際にいくらかはうとうとしていただろう。
だから初めは少女の歌声が聞こえなくなったことに気付かなかった。
「……? どうしたんだ?」
少女に尋ねる。
すると少女は顎を上げ、虚空を見つめて――
「呼んでる…… 行かなきゃ」
「え?」
女の子が目の前から消えた。
最初からいなかったかのように、こつ然と。
頬をつねってみたい衝動にも駆られたけど、それよりも先に後ろから声がかかった。
「力を欲しますか?」
「は?」
戸惑いながら後ろを振り返ると、少し離れた場所に白い甲冑に身を包んだ女性が立っていた。
いや、よく見ると甲冑じゃない。あれはISだ。
西洋の鎧のような意匠を施された、シンプルな機体。
顔の上半分を覆うメット型のハイパーセンサー。
大きな両刃剣を地面に突き立てて、その柄の上に両手を預けている。
その女性が俺に聞いてくる。
「力を欲しますか? …… 何のために?」
「ん? んー、難しいこと聞くなぁ……」
頭の後ろを軽く掻いて、少し考える。
「そうだな、友達…… いや仲間を守るため、かな」
「仲間を……」
「仲間をな。なんていうか世の中って結構いろいろと戦わなくちゃならないだろ? 単純な腕力とかだけじゃなくさ、いろんなことで」
俺はいまいち自分でもまとまっていないのに、妙に饒舌にしゃべっていく。
話しながら、「あぁ、俺ってこう思っていたのか」と自分に驚きつつ言葉を続けていった。
「そういう時に、ほら、不条理なことってあるだろ。道理のない暴力って結構多いぜ。そういうのからできるだけ仲間を助けたいと思う。この世界で一緒に戦う――仲間を」
「そう……」
女性は静かにうなづく。
「だったら行かなきゃね」
「え?」
再び背後から声。
振り向くとさっきの少女が立っていた。
人懐っこい笑みを浮かべて、俺の服の裾を引いて。
「ほら、ね?」
じっと瞳を見入られて、なんだか照れくさい気分になってしまう。
それでも俺は、その照れを抑えて胸を張って答える。
「ああ」
言葉を放った途端に、変化は起こった。
「―― な、なんだ?」
空が、世界がまばゆい光に包まれ始め、その輪郭を徐々に手放していく。
消えていく色や形を見て、ふと夢の終わりという言葉を連想する。
(そういえば――)
あのISの女性、誰かに似てるような。
白い―― 騎士の女性。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目の前を染める閃光が、徐々に光量を上げていく。
死をもたらすその赤い光に、恐怖がこみ上げる。
私の首を締め上げる腕は、引きはがすことが不可能なほど力強く、抵抗は無意味だった。
『「M ――」』
(これまで……か――)
『「Maledicam?」』
来る。
最後の瞬間の到来を感じ、目をぎゅっとつぶる。
思い浮かべたのは、やはり自身の想い人――
「箒――」
え?
『「hgいhさkヵjllwhfkj!!!!????」』
激しい衝撃音と何か稲妻の走るような音が鼓膜を強かに打ち付ける。
まぶたを開いたとき、そこに黒の悪魔はいなかった。
そこに立っていたのは――
「悪い、遅くなったな」
まぎれもなく、私の大好きな幼馴染だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
変な夢を見ていたと思って目を覚ましたら妙な機材が体に繋がれてて、慌てて起きたら周りが騒がしくて何事かと思ったら箒たちが単独で福音を倒しに言ったって聞こえて、慌てて機体識別コードを当てにして探し当てたら変なのに襲われててそれを助けたら――
「一夏! 一夏一夏!! 一夏ぁ!!」
熱烈なハグで歓迎を受けた。お前は欧米人か、いや日本人って知ってるけどね。
「ちょっとお前は落ち着けよ。ちゃんと俺だから、な」
俺からも抱きしめかえしてやる。
こういう手合いは引いたら駄目だから押すにかぎる。
だけどそうやって見ると箒の違和感に気付く。
「あ、箒お前リボンが――」
「え? あぁ、戦闘中に偶然な」
いつも箒は頭の後ろでポニーテールにしているのに、今はそのままストレートに落としている。
これはこれでいいけど、やっぱり箒っぽくない。
「丁度良かった、これやるよ」
「は?」
白式の手の中は空。
目を丸くする箒だが――
「あ」
光が収束し、手のひらの中にリボンが出現する。
あの日デパートで買ったリボンを、束さんにこっそり頼んでISの拡張領域にしまえるように頼んでおいたのだ。
拡張領域を雪片二型に全部使ってる白式でもリボンくらいなら無理にねじ込めた、だけどかなりの無茶をさせてしまった。
もちろん、紅椿も所有者登録してあるから箒が使うにしても不便じゃない。
「ちなみにこれ、ISを展開してなくても使えるようにしておいたからさ。心配はいらないぜ」
「そ、そんなことは別に心配していない、そもそも――」
「誕生日おめでとう、箒」
今日、七月七日は箒の誕生日。
結構大がかりな仕掛けも用意しただけに、寝過ごさなくて本当に良かった。
驚きながらも、喜んでくれてるような箒の顔を見て満足だ。
あと、これは個人的なことで一つ――
「それと、今度は守れてよかった。本当に」
満足に幼馴染も守れずに、何が仲間を守るだ。
今度はこうはいかないぜ、福音。
(…… あれ? 仲間を守る、どっかでそんなこと言ったっけ? 覚えがないけど、言ったような気も――)
「ま、いいか。さあ、リターンマッチといこうぜ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一夏は名乗りを上げるとすぐさま戦場へと身を投げ込む。
それを私は、一夏にもらったリボンを抱きしめながら眺めていた。
(あぁ…… 私は奴に言葉を投げかけられるだけで、贈り物をもらうだけで、抱きしめてもらうだけでこんなにも胸が高鳴る)
私は奴を守りたいと思った、守られるだけではなく、守れる対等な存在になりたいと。
だがそれは結局ただ一つの感情から起因する思いだったんだと今気づいた。
(好きだ、大好きなんだ。あの鈍感で人からの好意に無自覚な幼馴染を。いつだってヒーローのようにピンチに駆けつけてくれる一夏を)
守られるだけじゃない、守るだけでもない。
お互いを守りあえる、真に対等な存在に。
(紅椿、あと少しだけ私に力を貸してくれ。白に並び立つには、紅(お前)が必要なんだ!)
私の思いに応えるように、紅椿の展開装甲は開き薄赤色に発光しだす。
しかしそれまでと違い、その発光の中に金色の粒子が混じっていることに気付く。
その異変の元凶を調べるため、ハイパーセンサーで機体状況を呼び出し確認すると、確かな変化があった。
(シールドエネルギーが回復している…… それにこれは、単一仕様能力?)
『絢爛舞踏 ―― 展開装甲とのエネルギーバイパス構築 ―― 完了』
「まだ、私はやれるのか…… この紅椿と、絢爛舞踏があれば……!」
手にしたリボンで、己の髪をしばる。
準備はできた、私も行くとしよう。
(一夏の待つ、この宵の空へ――)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「クソ、じれったいな! せっかく第二形態に移行したのにあっちの方が速いって、カッコつかないぜ全く!!」
白式の第二形態『雪羅』、背中のスラスターが肥大化していて機動力も大幅に強化されていた。
二つの非固定浮遊部位には二基ずつのスラスターが配置されていて、最高速度は音速の二.五倍近くまで到達する。
しかし、それでも福音は速い。追いつけていない。
『「Diobkahegrytrxj,al!!」』
さらに福音からは高速機動をしながらもこちらに攻撃を仕掛けてくる。
ばらまく弾を収束させたような、極太のビームを何度もしつこく撃ってくる。
しかしそれに対しては雪羅になってから追加された新武装で無力化する。
「雪羅、シールドモード!!」
左手の籠手型武装、第二形態の名を冠するその武装は薄いビームの膜を発する。
零落白夜のシールド、つまり実弾系以外の攻撃を無効にする対エネルギー兵器最高の盾。
そしてこの雪羅はそれだけでなく、最初に箒を救う時に放った荷電粒子砲を撃つ砲撃モード。
さらに雪片弐型と同じような零落白夜の刃を爪状に展開するクローモードがある。
「だけど、近づかなきゃクローは当たらないし、俺の射撃技術じゃあんな複雑な軌道で飛んでる福音に当てらんねーよ!!」
完全に宝の持ち腐れだ、帰ったら皆に操縦技術とか射撃とか習わなきゃな。
だからその前に、福音を倒す。
『一夏!!』
唐突に通信が入る。
この声は――
『シャルル、無事だったのか!』
『僕のことはどうでもいい!! 早く福音を倒さないと大変なことになるよ!!』
『大変なこと? そりゃ倒さなきゃいけない相手だけど早くって――』
シャルルは妙に焦った様子で、俺は困惑した。
倒さなくてはならない相手だけど、シャルルの言葉には他の意図が見えたから。
『今まで気絶してて見れていなかったんだけど、福音の熱量がもうISの限界を超えてるんだ! このままじゃ自壊しちゃう、搭乗者が危ないんだよ!!』
『何!?』
『あの高速機動とビーム兵器はもともと莫大なエネルギーとそれに伴う熱量の問題で連発はできない、なのに今福音はその二つをずっと使い続けてるんだ!! 早く冷やさないと!!』
暴走、その単語が頭をよぎった。
しかもこのまま放っておけば搭乗者が死ぬ?
冗談じゃない、と必死に頭に考えを巡らせる。
『冷やす…… そうか、海を使えば!!』
『それでいけるはず!! 今鈴も起こしたから、僕も戦線に復帰する!!』
『了解!』
とりあえずの方針は決まった。
シャルル、鈴が戦線に復帰してくれればある程度の福音の誘導ができるはず。
なら、一瞬でも距離を詰められる策がある。
『シャルル、鈴、聞こえてるか!?』
『何、一夏?』
『聞こえてるわよ』
『少しだけでいい、福音の足を止めさせられるか!? いや、この際ちょっとでも失速させればいい!』
『できるかわかんないけど、やってみせるよ! もうそんなに時間がないはずだし!』
『わかったわ、やってあげる。遅れてきた分、働きなさいよ!』
福音を囲みこむように広がるシャルルと鈴。
弾幕を広げるが、向こうの速度は一向に落ちない。化け物のような機動性だ。
俺はそれに必死で追いすがる、一瞬を見逃さないように集中を高める。
『弾で止まらないならぁ!!』
シャルルの咆哮と共に放たれた弾は、他の弾に比べ速度が遅い。
しかし福音の進行方向上に置くように放たれたそれは、福音が躱し、抜き去る瞬間にはじけた。
激しい閃光、音波、ハイパーセンサーにノイズが走る。
『スタングレネード!?』
『IS用の特製品さ!!』
目視で見える福音の軌道が、わずかに揺らいだ。
シールドモードからクローモードに変更。
盾で消耗した分、シールドエネルギーもほとんどない。
恐らく、この一回が勝負。
背中のスラスター二基に火を入れ、瞬時加速をかける。
続けて間髪入れずもう二基でも、瞬時加速を行う。
雪羅になったことで可能になった、『二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)』、その速度はあの福音の最高速度を僅かに上回る。
「ここでっ!!」
終わらせる!!
『「Giiiiiiiiiii!!!!??」』
一秒の十分の一をさらに細かく分割する。
神経を極限まで尖らせて、福音を見る。
追いついた、ここまではいい。
だが福音もこのわずかな時間で復帰している、もう加速する予備動作に入っているように見えた。
クローが光の羽に触れて、その穂先を削る。
手を、伸ばした。その本体に届くように。
雪片よりも、繊細で挙動を反映しやすいクローを選んだのはこの刹那に対応するためだ。
まだ、指先の神経に電気信号を流す。一ミリ未満の修正。
肩口を削った。
福音が離れる。
(もう、一つ!!)
クローを引き戻し、雪片を突き出す。
脇腹の位置の装甲を削りだした。だが、それで最後だった。
「っくぅ!!」
感覚が通常に戻り、福音はまた距離を離す。
まだ動ける。俺はまだ動けるけど――
「一夏ぁ!!」
「箒?」
「手を、伸ばせぇ!!」
高速でこちらに向かってくる機影、箒の紅椿が金色の光を纏って手を伸ばす。
俺は、何がなんだかさっぱり理解していなかったが、箒の言うとおりに左手を伸ばした。
その手を箒の手が包み込む。
「お前はまだ戦える、私がお前を支えるから!」
「シールドエネルギーが、回復していく?」
「説明は後だ、行こう。時間がないのだろう?」
箒に手を引かれ、ゆっくりと前に出る。
「ああ!!」
箒との手をほどいて、二人で並び一気に加速する。
『鈴、シャルル! 次は私も出る、もう一度だ!!』
『了解!』
『シャルル、あのスタングレネードは!?』
『ダメだ、元々試験用に一つ量子変換してたものを使っただけだからもうないよ!』
できれば効果のあったあれに頼りたかったけど、そうもうまくはいかないか。
福音はやはりでたらめな速さでこちらをかく乱し、ビームをばらまいている。
思うようには近づけない。
『とにかく動いて! できるだけ海面に近づけさせるんだ!!』
『お、おう!!』
シャルルの言うとおりだ。
とにかく、今は早く倒すか、海で冷やすか、どちらかを成し遂げなきゃならない。
上をとるように動いては見るが、それだけで落ちるわけではない。
海面の方には誘導できるけど、まだ何か射撃武器を当てないと。
(荷電粒子砲、エネルギーに余裕のある今なら!)
雪羅を砲撃モードに変更。
左手で福音に狙いを定める。
(当たってくれよ…… ここだ!)
放たれた弾は福音にはかすりもせずに海面に突き刺さる。
大きな水柱が上がるが、福音の足は一切落ちない。
(もう一発――)
構えたその時。
『一夏ナイス!』
シャルルが歓喜の声を上げる。
だけど、何が!?
その時、通信に突然の声。
『私に当たるかとひやひやしたが、いい隠れ蓑になったぞ。この水柱は』
がくり、と福音の足が止まる。
『ワイヤーが焼き切れそうだな。さすがにこれだけで止められんか、ならば――』
この声は――
『AIC、発動』
ラウラだ!
海中から不意打ちをしかけたラウラが、見事に福音を宙に縫いとめた。
『僕がラウラを忘れるわけないのに、皆気づかないんだもんな。まぁおかげでうまく福音をはめられたけどね』
『さぁ一夏、最後はお前に任せる。やれ!!』
『おう!!』
完全なチャンス。
仕留めきれない、わけがない。
奴の背後に回り、雪片を振りかぶる。
「これで、終わりだっ!!」
横一文字に雪片は振りぬかれ、零落白夜の刃が福音の翼を真っ二つに分断する。
スラスターとしても機能する、その機関を破壊したことでガクリと福音の体が揺れた。
『やったぞ、一夏!!』
『あぁ、やっ――』
箒の声に返事を返そうとしたところで、福音の腕が不自然に振り回されるのに気付く。
油断で反応が遅れた、左手で防御、間に合うか!?
突き出された左腕の黒い外皮が、雪羅の上を滑りながら剥がれる。
内の銀が視界に映った。
(やばい、やっぱりシールドエネルギーが尽きてる。これじゃ周りからの攻撃は――)
思考できたのはそこまでだった。
胸に受ける衝撃。
だがそれは明らかに福音の攻撃ではなかった。
エネルギー弾の銃撃、下から。
衝撃で福音との距離が離れる。
『まさかとは思いますけど――』
声が聞こえる。
福音の腕が空振り、その体が崩れ始める。
それと同時にPICの制御ができなくなったのか、今度こそ福音が落ちてゆく。
胸に衝撃はあったが、シールドエネルギーを箒が回復してくれていたおかげでなんともない。
結果的に福音から強引に話されただけだった。
『私を忘れていたわけではありませんわよね? ラウラさんは覚えていたのに、わ・た・く・し・を、忘れていたなんて』
下の岩礁に青い人影。
もちろん、それは我らが優秀な狙撃手の機影で。
少し怒ってるように見えるのは気のせいだろうか。
『一夏さん、先ほどは緊急事態でしたので狙い撃たせてもらいました。お怪我はなさそうですわね、結構』
あ、少し怒ってる。
声とか視線とかがなんか不機嫌っぽい。
『セ、セシリア!? あー、いやそれは、そんなわけないよ! これも作戦のつもりというか、何というか……』
珍しくシャルルがうろたえている。
つか怯えてる。
珍しいと言えばセシリアがこうやって怒るのも珍しいもんな。
『弁明は後ですわ。それよりも――』
『搭乗者の回収。下は海だけど、落ちたら痛いし意識なかったら溺れちゃうでしょうが。ちょっとは考えなさいよ、男子』
視界の中に鈴が飛んできて、福音の中から零れ落ちた搭乗者を空中で受け止めた。
福音の装甲はもうほとんどが光の粒子に姿を変えている。
『わ、悪い。ちょっと気が抜けてたかもしれない』
『ちょっと頼むわよ、これからが本題なのに。箒、その単一仕様能力ってどっからどこまでのエネルギーを増やせるの?』
『今解析中だ、直感的には把握しているが論理的に説明できない。自分でも何を言っているのか――』
鈴は搭乗者を抱えたまま箒の方に話を向けている。
俺はというと近くにいたシャルルの方に近づいて、肉声でこっそりと話しかける。
「なぁ、シャルル。本題ってなんだ? 俺何も聞いてないんだけど、というか実際福音と皆が戦ってたから助太刀に入っただけで何が何やら」
「あ、そういえばそうだよね。なんだかずいぶん自然だったから忘れてた」
「おいおい頼むぜ」
「たぶん鈴も皆もそんな感じだよ、一夏がいるのが普通だから。でも分からない? 今ここにかけているのが何か考えればわかると思うんだけど」
シャルルはセシリア、鈴、箒、ラウラ、と順番に視線を向けていく。
俺もそれに習って眺めていって。
(あ、)
「合点がいった?」
「ああ」
俺はそう言いながら、ハイパーセンサーの数値をいじったり、白式の残り運用稼働時間を算出する作業に入る。
これから始めるのは捜索作業、しかも夜間だからハイパーセンサーの値もある程度調整が必要だ。
しかも対象は今どこにいるかもしれない、たった一人の人物。
(弾の奴を見つけてやらないとな、早いところさ)
そういえば皆正式な作戦で来てるわけじゃないから補給に戻るわけにもいかないよな。
(すこし考えなしだったかな、っと…… ん?)
白式のレーダーを精度若干下げ、走査範囲上げで調整を終えたところで拡大した走査範囲に船影を認識した。
ここのあたりの海域は依然封鎖されたままのはず、なのにいるということは密漁船ということになるんだけど――
(密漁船、最初に福音と接触した時にいた奴か? いや、いくらなんでもあの時から時間が経ちすぎてるか。違う船か?)
「なぁ、シャルル。ちょっと離れたとこに船がいる。南向いて二時の方角」
「え? …… あ、本当だ。ハイパーセンサーの目視で確認したよ。こっちに向かってきてるみたいだけど」
「そうだな、一応警告でも…… ちょっと待てシャルル、あの船の上に何かいるぞ。船の明かりで薄ら見える、ISか?」
一瞬弾の可能性を考えてみる。
実際にハイパーセンサーで捕捉、機体識別コードで照らし合わせてみるが――
「やっぱりIS、でも弾の機体じゃなさそうだ。一応警戒を、それと皆にも知らせよう。シャルルは皆に連絡、俺は予定通り警告してみる。変なことにならなきゃいいが」
「わかった、距離はあるけど気をつけてね」
シャルルはそう言うと素早くみんなの方に飛んでいく。
俺はオープンチャネルで未確認のIS、それと船舶に向けて通信を開く。
『あー、現在航行中の船舶と、ISに告げる。この空域、海域は現在IS学園の管理下にあって封鎖されてる。許可のない、えー、あー…… なんて言えばいいんだろ、警告って』
『ばーか、そんな時は。許可のない侵入は許されていない、即刻退去せよ。さもなくば―― とか言っとけばいいんだよ。漫画でもそんな場面あんだろ?』
『おう、なるほど。じゃあ――』
ってちょっと待て。
『おい! その声もしかして!』
『よ、お出迎えご苦労さん。早く帰ろうぜ、結構あちこちガタ来てるんだ。ふかふかの布団で眠りてえよ』
『弾!?』
あまりにも驚いたものだから、声が裏返ってしまう。
だって、機体は玉鋼のものじゃないはずなのに、通信から聞こえてくるのは紛れもなく弾の声で――
『なんでお前が?』
俺は思わずそう問いかけていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今回はここまで。
だいぶ予告より日が経ってしまい申し訳ありませんでした。
少し自分の予定の調整が甘かったようです。
それはさておき、ついにこのスレも950と終盤に差し掛かってまいりました。
このまま三巻編をこのスレで終えて、四巻編から新スレといきたい――ところなのですが……
若干オーバーしそうな感じが書いていてひしひしと感じています。
その時は苦笑いと共に生暖かい目で許してもらえたら幸いです。
では、三巻編最後の投稿は日曜、ということにします。
それではまた日曜日に。
乙
ここでスレタイの回収来るか
乙
やはりこっちが原作だと痛感
乙
紛れもない原作ですね、間違いない
乙
三巻四巻の間に短編まってるんだけど(迫真)
月曜日になった
火曜日にもなった。
そして水曜どうでしょう
木曜洋画劇場「コマンドー」
やっぱこっちが原作だわ
そして金曜日
もしかして一週間挟んでの日曜という意味だったのだろうか
土曜日ですね
あぁ、すいません。私は見立てを立てるのが致命的に苦手なようです。
今だ三巻編を終えることができていません。
山は越えたのですがまだ見立てすら立っていないのが現状という所です、と正直に告白します。
報告が遅くなったことは、皆様に対して不誠実であったと反省しています。
書き上がってから、次の投下の予告はしようと思います。
これからも、生存報告以外はそういう形にしようと思います。
それではこれにて
>>966
あれ投下か!?投下じゃね!?
……あ、鹿だ。鹿でした。
>>967
投下は日曜と言ったな。
あれは嘘だ
エターでなければ全て良しって、昔、偉い人の隣にいたおっさんが言ってた
>>971
面白いやつだな、気に入った。[ピーーー]のは最後にしてやる
それで、何時投下するのですか?
生存報告です。
実は前回の書き込みの後PCがお陀仏になってしまいまして修理に出していました。
データも消えた部分があるのですが、細かくバックアップを取っていたので致命傷にはなりませんでした。
しかし思いのほか修理まで時間を食ってしまい、皆様をお待たせすることになったことには深く反省し謝罪します。
申し訳ありませんでした。
ちなみにPCが大破して一番困ったことは、帰ってきたときに今まで辞書登録させて一発変換で出た人名が出なくなったことですね。
では、執筆に戻ろうと思います。
それではこれにて
バックアップは大事だな
自分もきをつけよう
まだかいの
まだですか?
三巻編の執筆が完全に終わりました。
なので投下予告です。
ずいぶんと待たせてしまって申し訳ありませんでした。
しかし、これでようやく当初の予定であったアニメでやったところまでは終了できました。
次は弾編の終了まで、がんばっていくつもりです。
多分この投下が終わったら次スレに行くと思います、もしくは途中に。
そうなると、次の短編おまけ、そのあと小休止の後四巻編にかかります。
とまぁ余談が長くなってしまいましたが、予告というかこれから仮眠とって起きたら投下していきます。
なので早ければ二、三時間後。遅くても明日あたりになるでしょうね。
それでは一旦、これにて
>>1キター!
コネー…
キタ━(゚∀゚)━!!
今日中には来るんだし、まったりと待とうぜ。
数十時間程度、数ヶ月待ったのと比べれば苦にはならん
「は?」
俺は男の口から放たれた言葉の意味を飲み込めずにいた。
いきなり、そこら辺にいそうな男子高校生に向かって『この世界最大のイレギュラー』なんて言われたって現実味が一切ない。
冗談にしては下手すぎるし、男の表情からそういうふざけた感じは全く感じない。
「君は自分では普通の高校生か何かと思っているようだけど、周りから見ると到底そうは思えないだろう。国家プロジェクトである『IISプロジェクト』の最初のテストパイロットにして、世界で一人だけのISを動かせる男の友人。あ、今は二人かな」
「そんなの偶然でしょう。一夏はもとから千冬さんの弟で、あいつ自身すげーやつだし。親しくなったのだって偶然ですよ。玉鋼のパイロットの件だって、偶然一夏の友人だったから立花さんに会えて、たまたま立花さんに気に入られたから――」
混乱する頭と反対に口は思っているよりも自然と言葉をはじき出す。
そう、単なる偶然の積み重ね、それで俺は一夏の隣にいた。
多少の努力はあったものの、まだそういう偶然や運とかがないと一夏に並べないのも事実だ。
俺の誇れるものと言ったら、今のところ玉鋼ただ一つなんだから。
ただ、男は俺のその言葉をさえぎってこう言った。
「偶然が続いていいのは三つまでだよ。それ以上は必然だ」
びくり、と体が震えた。
眼差しはまっすぐで、俺をとらえて離さない。
「偶然君は一夏くんと仲良くなり、彼は偶然ISを動かせる稀有な人間だった。偶然IISのテストパイロットが一夏くんの周りから選ばれ、偶然君は藤吉に気に入られた。これだけで四つだ」
指を折りながら、諭すようにゆっくりとした口調で男は続ける。
「さらに言えば、君が藤吉の作った玉鋼に単一仕様能力を発動できるレベルまで適応できる人材であったのも一つの偶然でもある。追及していけばキリがないんだけど――」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 今あんた単一仕様能力の使用できるレベルって、単一仕様能力の発現条件のこと知ってるのか!? それに立花さんのこと藤吉って、立花さんのことも!?」
思わず口を挟んでしまった。
口ぶりから、明らかに単一仕様能力がどうすれば発現するか知っているような口ぶりだ。
しかも立花さんの下の名前を知っているのも気になる。
「あぁ、二つの事柄ともよく知ってるよ」
あっさりと男は肯定して見せた。
ごく自然に。
その姿は嘘をついているようには全く見えない。
知っている、という確信がなぜだか持てた。
「藤吉とは一応親友と名乗ってもいいほど仲がいいよ。それと単一仕様能力の発現条件も、教科書に載ってるような嘘じゃなくて本当のところを知ってるよ」
「本当の、こと……」
それが、セシリアの知りたがっていた答え。
第二次移行の前に単一仕様能力を使えない訳、俺たちの機体の特別な理由。
俺は息をのんで次の言葉を待った。
「単一仕様能力は、操縦者の精神面に大きく影響を受けて形成されるんだ。それをコアは読み取り、進化し、特異な能力を開花させる。しかしそれを逆手に取り、操縦者の精神、コアの進化の予測を立てることで第二次移行後の特殊機構を設計し機体を制作する。そうすることで第一形態から単一仕様能力を使用可能だ。簡単な話だろ?」
ずらずらと並べられる無機質な言葉。
それを少し時間をかけて噛み砕いていく。
そうしてその言葉の意味を、大まかだが理解した時に、あることに気付く。
簡単な話だろ?
男はそう言った。確かに話自体は簡単だ。
だけど、実際にそれを行える人間がこの世界に何人いるんだろうか?
(『コアの進化を予測』なんて、コアを作り上げた篠ノ之博士か、それレベルで頭のいい奴くらいじゃねえのか? んで、そんな人間この世に存在するのか?)
自問自答の答えはNO、だ。
あそこまで到達できる人間がそうそういるはずがない。
そもそも、目の前の男が真実を語っている保証はないのだ、どこにも。
「まぁ、信じても、信じなくてもどちらでもいいんだ。これは本筋には関係のない余談みたいなものだから」
俺の顔に猜疑心が現れていたのか、男はそういってその話を打ち切った。
軽く微笑むその顔は、何を考えているのかは読み取れないが、やはり嘘を言っていたようには見えず、俺の頭はほのかに混乱で揺れる。
そうと知ってか知らずか男は話を変えてきた。
「君の話に戻そう。この世界で君は偶然をいくつも重ね、IISで織斑一夏の隣にいる。そしてそれは、十年前に想定されていた今の形とは大きく乖離しているということ」
「十年前に想定されていた形? ノストラダムスみたいなああいう予言でもあったわけ?」
感覚的に物を言ってみるが、それが違うということくらいはわかっている。
合いの手のようなものだ。
頭の中を冷静に戻す時間を作りたかっただけの。
「もちろん違うよ。もっと作為的な『想定』さ。マッチポンプ、出来レース、自作自演。とある天才が仕掛けた世界の大々的な操作、その操作の過程における想定」
「とある天才って…… 篠ノ之束博士っすか?」
「そうそう、彼女のことさ。彼女は何を考えてかは知らないが、世界の流れを自分の思い通りに操作しようとした。誰が傷つこうがおかまいなしな方法でね。そしてそれは見事成功した、ように見えた」
話の流れを読む。
篠ノ之束が、何か目的を持って世界を操作しようとした。
文面だけで見ればどこの陰謀論者だと笑ってしまうが、その首謀者があの篠ノ之束だとすれば現実味が増すのはおかしな話だ。
そしてこの話の行きつく先は、今まで出た話のキーワードを整理すると――
「俺が、関係してるんすね?」
「そういうことだ。本当は君は関係なかったはずなんだけど、偶然が偶然を呼んで最終的なバトンが君に巡ってきたようなものかな」
「バトン、ねぇ……」
さしずめ、俺のところに巡ってきたバトンは最初は立花さんのところにあったものなんだろう。
俺と一夏があったことで起こった偶然は三つ、立花さんが加わってようやく四つ。
つまり一夏にであったところまでは偶然で片づけられる、と。
これは目の前の男の理論なんだけどさ。
「今、篠ノ之束の想定していた世界は目に見えるほど歪んで、傾いている。もしも、それを正せるとしたらその歪みの中心にいる君なんだよ、五反田弾君」
「歪みの中心、世界最大のイレギュラー、つまりはそういうことか…… 篠ノ之束の想定外が、今の俺の状況や、あの福音どもを作ることになったってわけね」
「そういうことだ。彼女が諸悪の根源、というわけではないが彼女に非が全くないわけでもないな。それにしても――」
男はいきなり、俺の体をじろじろと見まわすと先ほどまでの真剣な表情から一転。
妙ににやけた、うれしくてしょうがないといった顔をし始めた。
「な、なんすか? 気色悪い……」
「いやぁ、藤吉のやつよくもまぁこんな面白い機体にしあげたなぁと思ってね。設計図の段階じゃあこうなるなんて予想もしてなかったよ」
「は? 玉鋼のことっすか?」
でも今は身に着けていないんだけどなぁ、と体を見回すと――
「げっ!? なんで俺いつのまに玉鋼を装着してるんだ!?」
なぜ気が付かなかったんだろう。
さっきまで制服姿だったはずなのに、今はISスーツにいつものごつい手足、鋼色に鈍く輝くおなじみのボディが視界に入ってくる。
そういえば、ここって現実に近いから忘れてたけど、明らかに現実の場所じゃないっぽいの忘れてた。
こんなことが起こってもおかしくはないよな。
「本当に、あいつは俺の意図をよく汲んでくれたみたいだな…… そして弾君も、よくぞそんな人間であってくれた。ありがとう、それとこれは勝手なお願いだけど――」
男の声がだんだんと遠くなり始め、周りの光景が光に包まれ始める。
意識と無意識の境目があいまいになってくる。
「妹を、よろしく頼む。あの子を助けてやってくれ―― 君に託したバトンに、そのための力はあるはずだから」
ちょっと待ってくれ、まだ俺はあんたに聞きたいことが。
俺の声はどこにも届くことなく、意識は一瞬の暗転を見せた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『玉鋼の第二次移行が完了しました』
短いその一文がハイパーセンサーを通した俺の目の前に浮かび上がっていた。
悪い夢のクライマックスに、震え上がって飛び起きたときのように呆然としていた。
下ではさっきと同じように、昼間助けた漁船が俺の制止を聞かずに俺についてきてるし、俺の体はPICの影響を受けてゆっくりと前方に進み始めている。
(あ、あ? さっきのは何だ、夢か?)
夢にしてはリアリティがありすぎた。
まるで俺のこの体以外のすべてがあの場所に飛んでいって、あのよくわからない人物と話をして戻ってきたみたいに。
周りの状況から俺の感じた時間よりも、白昼夢のようなあの場所にいた時間は短かったようだ。むしろ時間が経っていたかさえも曖昧だ。
ゆっくりと俺の頭が正常に回り始める、状況の把握をしなきゃ。
記憶の糸をこちらに手繰り寄せ始めた。
(最初は福音にこっぴどくやられて、そんで死んだと思ったらこの世でまた目が覚ませた。地面が揺れるような感覚と、目の前にかざされた光、そんで体中が痛みを訴えてた)
昼間に助けた船に乗せられていることに気づいたのは少し経ってからだ。
懐中電灯の光に目が慣れて、船員の顔に見覚えがあった。
体感時間にしてわずか数分前に見た顔だったし、目がきき始めたらすぐにわかった。
こっちにはわからない言葉だったけど、しきりに船の進行方向を指差してるもんだから痛む体を起こしてそっちを見てみたけど暗くて数メートル先も見えない。
玉鋼のハイパーセンサーだけを起動させ見直す。
すると、視界に小さく見覚えのある白い機影を確認した。月明かりによく映えてて見つけやすかった。
白式の他のみんなの姿もすぐに確認できた。
(そこからだ。玉鋼の装甲、スラスター部分を呼び出してPICで浮かび上がってみんなの元に向かおうとした)
なぜか漁船の人たちもついてこようとするもんだから、制止するべきなのかどうか悩んだ。
なにせなんでついてくるのか、どうするつもりなのかも聞けないわけだから。
そこで光に包まれた。
目の前には『第二次移行を開始します』と短いメッセージが出ていた。
(その瞬間からあのよくわからない場所に飛ばされた。んであのよくわからない人と話して今に至る。うん、よくわからん)
とにもかくにも俺の目の前にある事実は三つ。
俺の行く先には一夏たちが待ってること。(おそらく)中国の漁船が俺の下をついてくること。俺の玉鋼がなぜか第二次移行したこと。
いや、やっぱり四つ。
よくわからない場所で、よくわからない人に、妹を助けてくれと言われたこと。
(まぁ、このことはみんなにも話してみるか。俺一人で悩んでも解決は望めそうも無いし)
ふと思い浮かんだ考えだったけど、その考えから一ついいことを思いついた。
鈴に通信をつないで翻訳してもらえばいいじゃん、と。
通信を開き、声をかけようとする。
だが先に口を開いたのは向こうの方だった、さらに言えば鈴でもなかった。
『あー、現在航行中の船舶と、ISに告げる。この空域、海域は現在IS学園の管理下にあって封鎖されてる。許可のない、えー、あー…… なんて言えばいいんだろ、警告って』
そんな間の抜けた親友の声に、俺の口は思わず動いていた。
『ばーか、そんな時は。許可のない侵入は許されていない、即刻退去せよ。さもなくば―― とか言っとけばいいんだよ。漫画でもそんな場面あんだろ?』
『おう、なるほど。じゃあ――』
あまりにも自然に返したからか、一夏のほうも普通に返してくる。
腹の底のほうから緩やかな笑いがこみ上げてきて、そのせいか肋骨あたりがじくりと痛んだ。
PICの影響下のおかげで体への負担は減っているが、やはり福音から受けた負傷は軽くは無いようだ。
『おい! その声もしかして!』
『よ、お出迎えご苦労さん。早く帰ろうぜ、結構あちこちガタ来てるんだ。ふかふかの布団で眠りてえよ』
『弾!?』
半分本音の軽口をたたきながら一夏に応答する。
しかしまったくなんでそこまで驚いてるんだまったく。
『なんでお前が?』
『なんでお前が? たって、俺は俺だからしょうがないだろうが。お前こそ、何でそんなに不審がってるんだよ?』
『いやいや、だってお前の機体識別コード変わってるし、遠目に見ても機体変わってるし』
そこまで言われてようやく気づく。
さっき表示された第二次移行完了のメッセージ、第二次移行後なら機体外見は変わってるだろう。識別コードの方は知らんけど。
『あ、悪りいちょっと色々あったんだよ。正直説明したいことやら何やらがいっぱいあるんだが…… まぁとにかくいっぺん帰ろう。あぁそれと鈴を呼べるか? ちょっと手伝ってもらいたいことがあるんだ』
さっき見た白昼夢の中で聞いた話、それに不可解な福音の暴走。俺を不安な気持ちに陥れる要素が盛りだくさん。
けれど今はとても落ち着いている、安心しきっている。
『弾さん!! 弾さんですわよね!! 無事なんですの!? 私、ずっと心配で…… 心配で……』
唐突に耳いっぱいに広がる女の子の声。
きっと、ずっと聞きたかった女の子の声。
セシリアは顔を見なくてもわかるほど、泣きそうになっていた。
『あぁ、セシリア。無事とはいえないけどなんとかな。すまないけど一回鈴と話させてくれないか? ちょっとあいつの助けが必要でさ』
『あ、はい…… すみません、私少し取り乱してしまって――』
俺はセシリアをなだめるように冷静に言葉を吐き出していく。
興奮は収まったようだけど、悲しそうなその声は変わらず、俺の心を締め付ける。
だから、そんな声が続かないように、さらに俺は言葉を紡ぐ。
『その代わり、あとでいっぱい話そう。俺、セシリアに話したいことがいっぱいあるんだ』
『ぁ…… はい!』
返ってくる声に、さっきまでの悲しい音はなかった。
いつも聞いているセシリアの声で、俺の聞きたいセシリアの声だった。
『はぁい、あたしに話ってなによ色男』
『俺の下にいる船が見えるよな? この人たちたぶん中国人で――』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「作戦完了―― と言いたいところだが、お前たちは独自行動により、重大な違反を犯した。帰り次第、反省文の提出、懲罰用の特別トレーニングを用意しているからな。覚悟しておけ」
「あ、あの…… 俺怪我人なんですけど……」
「そんな怪我で無理に出撃したのが余計に問題だ。お前には問題集もプラスで出してやる、感謝しろ」
「はい……」
(実質怪我してからは戦闘も何も参加してないんだけどな…… けどこれ以上言うとなにやらされるかわかったもんじゃないから言わないけど)
俺たちが帰ってきて早々、やはり福音との戦闘が起きれば感知されないわけもなく、千冬さんに待ちかまえられて旅館の玄関前で絞られていた。
一応怪我人として配慮されたのか、地面に正座ではあるが座らせてもらっている。
他のみんなも同じように正座だ。
「あ、あの…… 織斑先生、怪我人もいることですし、その辺で……」
山田先生が横から千冬さんを宥めるように横から現れた。
その手には救急箱や、水分であったり、俺たちに必要なものが揃えられていた。
あぁ、山田先生が天使に見える。
「五反田、何か失礼なことを考えていないか? それならばお前に課題をプラスしてやってもいいんだぞ」
「いえ! 何も考えていません!! ―― 痛てて……」
悪魔のささやきに対抗するために声を張り上げると、また肋骨や全身の骨が軋んだ。
ちょっと頑張りすぎたかなぁ、と考えていると――
「まぁ、よく戻ってきたな。今はしっかり休むといい」
顔は決してこちらに向けないように、千冬さんはそう言った。
山田先生が、少し嬉しそうにしながら近寄ってくる。
「とにかく、山田先生から水分をもらったら五反田以外は診察を行う。五反田は至急治療を行うため、指定の部屋に迎え。介抱する者はこちらで用意している」
千冬さんは最後にそれだけ言うと、旅館の中へと入って行った。
その影はすぐに消えて、何も言う暇は与えてくれなかったけど、あの人はあの人で俺らのこと心配してくれてたんだなぁって思ったりなんかして。
心の中で、ありがとうと言っておいた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夜明け前の海は静かで、うっすら水平線の向こうは明るくなり始めていた。
波が岩場を叩き、しぶきをあげて音を鳴らす。
そんな中俺は波間から体を引き上げた。
「ふぅ……」
部屋に戻るなり倒れるように眠ってしまったシャルルと対照的に、俺は目が冴えてしまっていてこっそり海に抜け出してきていた。
冷たい海水は熱い外気に晒されて温まった体を、程よく冷やした。
薄くなり始めた月の輪郭をなぞるように、空を見上げる。
「月が、綺麗だな……」
何も考えずにそうやってつぶやいた。
気にもとめていなかったけど、本当に今日の月は綺麗だ。
「え……? 一夏、それは……」
真後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
そう思って振り返ったら、白い水着に身を包んだ幼馴染の姿があった。
その顔には驚愕が張り付けられていて、俺はその表情に疑問を抱く。
「どうした箒? 妙な顔して」
ストレートにそうやって聞いてみると、箒はすぐに眉を八の字にして不機嫌な顔になって。
「いや、私の勘違いだ。気にするな」
「そうか。それならいいけど」
「そうだ、こいつがそんなこと言うわけが――」
なんだか後でぶつぶつと言っていたようだけど、よくは意味が分からなかった。
箒はそのまま少し間を空けて俺の隣に腰を下ろした。
長い髪の毛がわずかに俺の腕をなでる。
「それにしても、泳いでいて大丈夫なのか? あんな怪我を負っていたのに」
「あぁ、そのことか。全然問題ないってさ、なんか起きたら治ってた」
「起きたらって……」
箒がいつもしかめている眉根をさらにしかめて俺の背中を覗き込む。
確かに俺も気づいたときにはびっくりしたけどさ。
「ISの搭乗者保護機能とかのおかげじゃないか?」
「そんなはずがあるか! あれはブラックアウトや高いGから内臓などを守るものなんだぞ、負った傷が治るなんて聞いたこともない」
そう強い語調で言い切った箒は、俺の肩を掴んで背中を自分の方に無理やりに向けた。
直接見えないが、おそらくまじまじと見ているであろう箒は少しして満足したのか、肩から手をどけて俺は自由になる。
「本当に治っている…… 確かにここに傷を負っていたはずなのに……」
さも信じられない、といった感じで箒が呟く。
「そんなにありえないみたいに言うなよ。それとも箒は俺が怪我してたほうがよかったか?」
だからそんな風に意地の悪い言い方で返してしまった。
「へっ!? いや、そんな、そんな意味で言ったんじゃないぞ!!」
俺の狙いは見事に刺さり、箒は表情を一変させて目の前であたふたと全身でその慌てぶり表している。
しかし俺はそんな箒に対して何も言わずに黙ったまま、ただただ見つめるだけだ。
「私は別にお前が――」
「ふ…… ふふ、あはは」
しかしあまりもたなかった。
喉の奥から笑いがこみ上げて出る。
「い、一夏?」
「冗談、冗談だよ箒。お前がそんなこと思ってないってことくらいわかってるよ」
「冗談……?」
箒は先ほどまでころころ変わっていた表情がすべて消え去ったような、ぽかんとした顔つきになっていた。
そのまま俺の方を向いた状態で動きを止めた。フリーズしたパソコンみたいに。
俺は箒がまた呆れるか、それとも怒り出すかを想像していたから現実と予想の差異に少し戸惑った。
「どうした箒?」
俺の言った冗談が不謹慎すぎただろうか?
真剣に心配してくれてたであろう幼馴染にこんな言い方はあんまりだっただろうか。
「箒、もしかして俺無神経なこと言ったかな? 箒たちは俺のこと心配してくれてただろうに、あんな言い草はなかったよな。ごめん」
「―― あ、いやそうではない。そうではないんだ…… 別にお前の言葉が私の癇にさわったわけじゃあない。そのな、つまり……」
箒は言葉に詰まったかと思うと、すぐに居住まいを正してこっちの目をまるで射抜くようにまっすぐ見つめてくる。
「…… 一夏、私はこれからおかしなことを言うかもしれない。それでも私の話を、最後まできちんと、笑わずに聞いてくれるか?」
「お、おう」
箒の発する雰囲気に、俺まで居住まいを正してしまう。
こんな空気では笑いようがないだろうとは思うけど、わずかに顔の周りも緊張する。
俺の様子を見た箒は、準備ができたと見たのか小さい咳払いを一つすると話を始めた。
「さっきお前は『自分が怪我をしたままのほうがよかったのか』と聞いてきたな。もちろん、その答えは否だ。お前もそれはもちろんわかってくれていると思う、けれど私はそれを言葉にしようとするときに思わず別の部分までそれに引っ張られて…… あぁ、やはりうまく言葉にできんな。つまり――」
箒はぴしっとした感じからわずかに態度を崩しながら、言葉をつないでいく。
「あの時私が妙に呆けてしまって、その言葉の間がお前に勘違いをさせてしまったようだな。その間という奴はなんてことのない、その思わず引っ張られて出てきた自分ですら気づかなかったような『想い』が表層に現れたものだから、ついつい驚いてしまっていただけなんだ」
唇を真一文字にしようと力を入れているようだが、頬には赤みがさし、どこか照れくさそうに語っっている。
「想い……?」
口からぽろりと呟きが落ちた。
それに対して箒はわずかにうなずく。
「ずっと、ずうっとあった想いだ。自分でもぼんやりとしか自覚していなかった想いが、お前の言葉ではっきりとした形を持てた。それがなんだかわかるか?」
「いや」
「だろうな」
俺の答えがわかっていたかのような即答。
しかし俺は嫌な気分が全然といっていいほど沸かなかった。
箒は俺の答えにうれしそうに笑っていたから。
「私はただお前と離れたくなかっただけなんだ。小学五年生のころにお前と離れてから、私はそればっかりだった。剣道を続けたのも結局お前とのつながりを絶ちたくなかっただけ、ただそれだけだったんだ」
自嘲的だけど、どこか誇らしげに箒は言う。
わずかに顎をあげ、消え行く星々を見つめるかのように。
「IS学園で再会したお前は、昔より、私の想像したよりもかっこよくて…… それに世界で唯一人のISを扱える男だ、思っていたよりの距離を感じてしまって、だからこそ私はそんなお前に追いつこうと必死だった。お前に守られるのが嫌だったわけでもないのに、お前を守れる力を欲したのは、隣に並びたかったからに違いない。今ではなんの気負いもなくそう言える」
そんな箒を見ていると、どうしようもなく…… どうしようもない気分になってくる。
形容もしようのない、俺の中でもまとまりのない『想い』が持ち上がってくる。
「何というか、変な話をしてすまなかったな。私は旅館に戻るとしよう…… それではな、一夏」
腰掛けていた岩から、立ち上がろうとする箒。
そのままにしていれば言葉どおり、旅館まですぐに戻っていってしまうだろう。
俺と箒に、物理的な距離が生まれてしまう。
無意識で、俺の手は箒の手を掴んでいた。
「わっ、一夏っ!?」
自分ですら気づかなかった手の動きに、箒も気がつかなかったようで、箒は急に体のバランスを崩されて転びそうになる。
「あっ!」
もちろん俺はそれを阻止するべく、座ったままの姿勢のまま、箒が怪我をしないように――
「きゃっ!!」
しっかりと箒をこの両手で抱きとめた。
「い、一夏?」
「一人でしゃべって、満足したら俺の番はなしで終わりなんて…… そりゃなしだろ、箒」
俺の中に広がる無意識の海は、俺の意識を否がおうにも自意識の浅瀬へと追いやっていた。
そのせいか、箒がそうであったように、俺が自分でさえ気づいていなかった部分まで滲み出してくる。
堤防を越え、陸地へとあふれ出す。
「本当はどうか知らない。箒がどう思っているのか気づきもしなかった。けどな、けどな箒…… 俺は一度だって、お前から離れたなんて思っちゃいないぞ!! 」
「一夏、お、落ち着け…… まずは少し離してくれ。わ、私はもう大丈夫だから」
「まだ離してやるもんか。お前が俺の話を聞き終わるまでな。俺はな箒、お前とずっとこの距離で話してると思ってた。お前がそんなこと思ってるなんて気づきもせずに。鈍感だとか、唐変木なんて言われるのも当たり前だ!」
体が燃えるように熱い。
逆に触れている箒の体は冷たくて、永遠に触れていたいと思うほど心地よかった。
俺の左の胸から伝わる鼓動と、箒の左の胸から伝わる鼓動が重なってリズムを奏でている。
「俺は、俺の限界まで近寄ったぜ。これ以上はもう近寄れない、あとは箒次第だ。箒…… その手を伸ばしてくれないか?」
「一夏…… 私は、私は…… 」
俺の背中に、細い指が這う。
ゆっくりと、慎重に、恐る恐ると。
俺の肩口と、わきの下あたりにやってきた両の手は、だんだんと力を込めていく。
箒の表情は窺い知れない。
彼女は俺の胸に顔を埋めているから。
「箒、顔あげてくれ」
俺と箒の鼓動がさらに早さを増した。
触れている肌と肌の間に、汗が一粒流れ落ちる。
箒の肌も、わずかに熱を帯び始めている。
「箒?」
二人の間の沈黙に、波の打ち寄せる音が割り込む。
月明かりはさらに薄まり、海の向こう側から新しい光が差し込んでくる。
「箒?」
もう一度愛しい人の名を呼ぶ。
今度は彼女も反応を示した。
ゆっくりと彼女の顔がこちらを向く。
「…… 一夏」
わずかに濡れた瞳、朱の刺した頬。
紅をさしてもいないはずなのに、その唇はつややかで。
本能的に、俺は喉を鳴らした。
「箒」
彼女の呼ぶ声に応える。
差し出した唇に、彼女の唇が重なる。
熱く、やわらかく、甘く。
心の奥底に本当に感じたのかさえ定かではない、小さな淡い痛みが走った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
瑣末な寝苦しさに、俺が目を覚ますとすぐさまその原因が目に入った。
俺の胸の上にセシリアが上半身を投げ出すような形で眠っていた。
想い人がこういったことをしてくれるのは嬉しいんだけど、できれば怪我していない時にしてほしかったと切に思う。
(肋骨と背骨が微妙に痛い。やばいとこは固定してるし、痛み止めも打ってもらってるから寝苦しさ程度で済んだのかな?)
それにしてもどうしよう、この幸せな状況を自ら打ち砕いてしまうのか?
あぁ、それはあまりにも無情な選択。
到底俺には選べなかった。
というわけで自分の体に鞭打ってセシリアの重さを堪能するのであった。
「可愛いなぁ、本当」
本人が聞こえていないであろう状況だからこそ、いつもは面と向かっていえないことを呟く。
千冬さんのとこで分かれてから、治療を受けている最中からセシリアは俺のところに来てくれていた。
治療を終え、二人になってから約束どおり話をした。ただし途中で俺は眠ってしまったようだ。
『いっぱい』という部分は約束を破ってしまったことになる。
(今の時間からすると、寝てたのは三十分くらいか)
となると話していたのは十分間にも及ばないくらいということになる。
やはり、何か埋め合わせは必要だな。
(それにしても、話をするんなら立花さんにも話さないといけないことがあるよな)
腕に装着されているであろう玉鋼、今やその名前を『玉鋼-改』と改めた俺の機体が待機状態になっているだろう。
セシリアとはISに関わる話はしていなかったから、自分の玉鋼がどうなっているのかはまだわかってない状態だ。
だけど一夏やシャルルの談によると――
『そんな機体見たことない。正直、玉鋼と今のそれを比べて元が同じなんて誰も想像つかないと思うぜ』
『玉鋼もそうだったけど、特徴的を通り越してもはや変態的だよ、そのフォルムは』
と言っていた。
俺にわかってる事実は、『全身装甲型』であることと、『背中に四本、特徴的な推進器が伸びていること』、くらいである。
明日の、いや今日の朝にでも立花さんを捕まえないと。
「んっ、……あぅ」
「セシリア?」
胸の上の彼女が起きたように感じたが、どうやら勘違いだったようだ。
ただの寝言か。
(はぁ、俺にとっちゃこの眠ってるお嬢様のことで手一杯なのに、次から次へと厄介ごとが転がってきて進展らしい進展がないんだよなぁ)
いや、実際何事もない平穏な日が続いても俺が告白できずにしり込みしてる様がありありと浮かぶ。
「なっさけないなぁ、俺」
手持ち無沙汰な右手をセシリアの頭に乗せて、そのまま撫でる。
妹の髪よりも幾分かさらさらしていてさわり心地がいい。
「蘭も大概、手入れに気をつかってるみたいだけど、セシリアにはさすがにかなわねえか」
蘭だって、兄の贔屓目を抜きにしても学業優秀、眉目秀麗と言えるだろう。
けれどセシリアは、俺の好きな女の子は、こんなにも可愛くて、頭も良くて、ISのイギリス代表候補生で、俺のこと心配したり気遣ってくれたりして、この頃なんか料理の腕まで上がってきている。
「俺っていつの間にこんなセシリアにぞっこんになってたんだろ? 最初に会ったときなんてひどいもんだったくせにさ」
いつの間にか俺の心の隅々までこの女の子の存在は広がっていて、いつだって何をしてるときだってこの女の子の存在を感じてる。
あぁ、畜生。相手が目の前で眠っているからって、口が軽くなっちまってる。
普段言えないことでもすんなり言えてしまう。
「セシリア――」
さらさらしてて、ふわふわしてて、少し暖かい。
そんな彼女の髪の感触を楽しみながら、なんでもないように言ってしまう。
「好きだ…… 大好きだ」
本当に、彼女が起きている間に言えたらどんなにいいだろう。
ふられたらなんて考えがよぎって、とてもじゃないけど言えないよな。
(本当に、我ながらなさけないよ全く)
今の時間を確認する。
おそらくもうすぐ夜明けだ、だけど少しくらいなら眠れるだろう。
もう一度だけセシリアの頭を撫でる。
心地いい感覚に別れをつげるのを拒むように、自分の手の動きが僅かに鈍ったように感じた。
けれどただ手を動かすだけの動作に、鈍っていたとしても数秒もかからない。
瞼を閉じて、ゆっくりと息を吸い込んだ。
自分のものでない香りが鼻腔をくすぐり、眠ろうとした神経が少しだけざわめいた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「赤椿の稼働率は絢爛舞踏も含めて四十三パーセントか…… まぁ今の状況から考えると上出来っていうべきなのかなぁ」
夜の明ける境目、空の色が淡く光るような青を映し出している中、その美しい情景には目もくれず、目の前に浮かび上がる空中投影型のディスプレイに写る数字に夢中な少女のような女性が一人。
「束」
こちらもまた、他一切は知ったことかといった様子で目の前の女性、篠ノ之束を見つめる女性が一人。
「あ、ちーちゃん。ちょうどいいとこに来たね。さっきまでいっくんと白式のデータを見てたんだけどすごいんだよ! まっさか搭乗者の生体再生まで可能だなんてさ!これじゃまるで――」
「お前が心血を注いで作り上げた、白騎士のようだな。最古のコアを使用したあの機体のようだ、と。そう言いたいのであれば白々しいという一言を送らせてもらおうか」
「あ、今のって白でかけたジョーク? やめなよ、ちーちゃんにユーモアのセンスは――」
どこからともなく出席簿を取り出した織斑千冬女史は、稀代の天才の脳髄に向かって容赦なくそれを振り下ろした。
「っづぁ!!」
女の出す悲鳴ではない。
むしろつぶされたカエルのような悲鳴が、二人の立っている展望台に響く。
「私はそんな話をしに来たのではない」
「わーかってる。わかってるからそれしまってよ~」
束がふざけたような声を出しながら、ぶたれたところをしきりに気にしていた。
しかしそんなコミカルな仕草も、この場に流れる緊迫したような空気を拭うには至らない。
二人の間に流れる沈黙。
切り立った崖のようなところに位置しているからか、少し遠くから波の音は聞こえる。
申し訳程度に植えられた木々は、風が吹いてこないせいか二人と同じように沈黙を守っていた。
「今回の一件、あれはどういうことか説明してもらおうか」
波の音の次に沈黙を破ったのは千冬だった。
「一体なんのこと?」
「…… みなまで言わせる気か?」
何のことだと言わんばかりの束に、千冬は怒気をはらませながら言葉をつむぐ。
束はその殺気にも近い気迫もどこ吹く風で、無言ながら千冬の言葉を催促していた。
「お前は妹に最新最高性能のISを与え、それに飽き足らず、最高の『発表会』を企画した。それがあの福音事件の真意だろう? お前が自分勝手なのは昔から知っている、しかし今回のは度が過ぎているぞ! 五反田は危うく死にいたるところだったんだぞ!!」
「…… あぁ、やっぱりそのことか」
「束っ!!」
感情をあまり表に出さない彼女が、肩を震わせて怒りを露にしていた。
「ちーちゃん、カオス理論って知ってる?」
しかしやはりこの天才博士はいつもどおり、感情を露にせずマイペースに言葉を投げかけた。
「はぁ?」
「細かいところは長くなるから省くけど、要するに、初期値のごくごく小さい誤差が結果に甚大な誤差をもたらすっていう奴。ほら、よく言うじゃん『北京で蝶が羽ばたけば、ニューヨークでは嵐が起きる』ってやつ。日本では風吹けば桶屋が儲かるみたいな」
「それが、どうした……」
すっかり肩透かしを食らった千冬は、思わず怒りの矛先を失って束の話を聞いていた。
彼女が見たこともないほど、静かに落ち着いた話し方をしていた。
静謐な湖のような、冬の日の朝のような。
「私は初期値に小さい誤差も起きないように細心の注意を払っていたつもりだった。けれど実際は、誤差は起きていた。それは今ようやく形になって見えるほどに大きくなった、そして私たちに襲い掛かってきたんだよ…… ちーちゃん――」
眉根を寄せて、悲しみをたたえる表情を束が見せた。
この世の誰しもが、初めて見た彼女の悲しみ。
「『私』の計画は失敗してしまいました。こっからは全編アドリブ、何が起こるのかわかんないや」
そう言って彼女は笑った。
悲しみをその手いっぱいに持ったまま、笑っていた。
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彼女が疲れたように自分の椅子に腰掛ける。
多分彼女は今までの生涯で一番疲れていたんじゃないだろうか?
まったくの俺の想像なのだが。
「不法侵入で訴えるよ」
「こりゃ失敬、すぐに出てくんで勘弁してくれ」
「どこから見てた?」
「あんたが嘘笑いしながら岬の展望台でデータ眺めてるとこから」
正直、盗み見、盗み聞きなんて趣味じゃないんだが今回のことばかりはどうしてもこの天才娘に話しておきたいことがあったからな。
不法侵入のほうも、俺の趣味じゃないし特技ってわけでもない。しかし俺とか他の技術者もこんなアングラな技術の一つや二つ持ってるはずさ。
目の前の天才ちゃんなんて軍事コンピューターへのハッキングなんてのもお手の物らしいし。
「用がないなら今すぐ出て行け、用があっても今すぐ出て行け」
「こりゃ手厳しい。じゃあ取引って言ったらどうだ?」
「取引?」
ようやくこちらに目を向けた。
できうる限り手早く、それでいて丁寧に言葉を選ぶ。
完全にへそ曲げさせたら、本当に追い出されかねない。
「そ、こっちからあんたの欲しいもんをやる。その代わり、あんたも俺の欲しいもんをくれ。それだけ、簡単だろ?」
「君が私の欲しいものを持っているとは思えないんだけど」
怪訝そうに目を細める、しかしここは想定内。
「玉鋼のデータ、今までの分とこれからの分。そっちが望むだけくれてやる」
「っ!?」
「あんた、玉鋼が動いているのを妙に不思議がっていた。確かに、玉鋼がニュースになったのは織斑弟のニュースのあった時期に一回あっただけ、その後は続報なし。知らなくてもおかしくはない。もちろん、それが『普通』の人間ならな」
頭の中を必死こいて回す。
使える情報をかき集め、自分の都合のいい形に練り上げる。
「そこまでこちらに投げ出して、君は一体何を望む? ISについてのデータでも欲しいのかい? でもそれじゃあいくらなんでも釣り合わないことは君が一番知ってるはずだよ、完成品と未完成品のデータ。どちらが優れているかなんて――」
「正直何もいらん」
「…… 君は自分で言ったことを忘れたのか? なのに自分は何もいらない? ふざけたことを言うね」
こっちに切れるカードは正直一枚のみ、あとはハッタリと人生経験でごまかす。
会話は常に釣り糸を垂らすように、相手の興味を引くような内容を織り交ぜる。
「じゃあ一つだけ俺の問いに答えちゃくれないか?」
「…………」
無言、だけどこの目は先を求めてる。
なんとか繋いだ。
「束ちゃん、何で君みたいな優しい女の子が、あんな悲しい顔をしなくちゃなんなかったんだ?」
俺の言いたかった言葉をぶつけた瞬間、目の前の女の子から感情が消えた。
いや、塗りつぶされたと言うのが正しいか。
怒りや悲しみ、侮蔑や軽蔑、その他様々な感情が一瞬のうちに沸き立ち、真っ黒に塗りつぶされたかのごとく、平坦な表情をしていた。
俺はそんな束ちゃんの顔を見て、古い友のことを想った。
IISの本当の設計者、彼に彼女は少し似ているな、と。
(『正宗』、俺は――)
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緩む頬を押さえて、私は自室への道を時折立ち止まりながら辿っていました。
それもこれも――
(弾さんが私のことを『好きだ』と、『大好きだ』と…… 夢ではありませんわよね。確かにこの耳で、間近で聞きましたもの、夢であるはずありませんわ)
思いのほか弾さんが疲れており、話をしている最中に眠ってしまったのがことの発端。
最初は寝顔を眺めたり、少し頭を撫でてみたりとしていたのですが、私も疲れていましたし眠ってしまおうと思いました。
しかしそこでほんの少し、悪戯心が私の中にのそりと起き上がったのです。
通常の人より(通常の例が一夏さんとシャルルさんしかいませんが)弾さんの胸板は厚く、男性的な魅力を常日頃から感じ取ってはいましたが、その上に寝そべるなんて普段は考え付きません。
私と弾さんは親しい間柄だとは思っておりますが、恋人同士というにはまだお互いに想いのうちを知りませんし、そういうスキンシップはさすがに早いと思っていたのです。
(ですけどつい出来心でやってしまいました。怪我をしていると知っていたので体重をかけぬように細心の注意を払って。すると弾さんが――)
弾さんが起きてしまって、私は自分のしてることに後ろめたさがありましたから寝ているフリをしました。
弾さんも気づいては居なかったようです。
そのおかげか、普段はしてくれないようなナデナデや、あんな至近距離での『可愛い』の言葉も貰えましたし。
(その後には…… あぁ~~っ!! これはもう両想い確定! 恋人一歩手前! でもでも私からというのもはしたないですわ!! 待ちます、弾さんから告白してもらえるのを!! でも――)
「そうしてもらうために努力するのは…… 構いませんわよね……」
(な~んて! な~んて! 私ったらもう―― あら?)
一人で明け方の旅館、悶絶している私の視界の片隅に見覚えのある人影を見たような気がしました。
駆けるように横切っていったあのツインテール姿は――
(鈴さん、こんな時間に散歩でしょうか? いえ、活動的な鈴さんのことですし朝の運動?)
どうでもいい推測。
別に鈴さんがこの時間に外に出ていたからなんだと言うのでしょう。
(あまり気にすることでもありませんわね)
そう自分を納得させて再び歩き出しました。
けれど、さきほど鈴さんが通ったと思しき場所に差し掛かった時。
「あら?」
ぱたぱたと水滴が床に落ちていました。
ここは外に面した廊下ですし、雨でも降ったのかしら? と外の空を見上げてみても、雨が降ったような跡もないし、これから雨が降るような気配も、どこにも感じなかったのです。
はい、ここまで。
三巻編終了です。
今回はあとがきなしで、次のスレへの誘導を行うので次のレスはあけといてください。
それではこれにて
こいつ自信まんまんだな
このSSまとめへのコメント
熱血じゃないし弾戦わないし釣りssだろこれ