老人「今日も頑張ったなぁ、こんなに苺を摘んで」
姫「えへへー♪」
老人「姫はいつもよく手伝ってくれる、嬉しいものだ」
姫「貴方がいつも困った顔をしてるから、手伝ってあげるの」
老人「ありがとう、姫さんよ」
姫「見てみて! お魚沢山釣れたよ?」
老人「ほう」
姫「貴方の大好きなアユってお魚もいるよ!」
< チャプンッ
老人「粋が良いなぁ、姫が釣ってくる魚は」
姫「えへへ…♪ ねぇねぇ、あのねあのね?」
老人「うむ、分かってるとも……なでなで」
姫「貴方の手は、とっても好きだよ」
老人「前にも聞いたなぁ」
姫「貴方のその、大きくて温かい手が大好きなんだよ!」
老人「こーんなシワまみれの、冷え性な手が好きなのかい」
姫「うん、貴方の温かくて大きな、真っ白な手が好き」
老人「冷え性で弱々しい、浅黒い手さ」
姫「えへへ、あったかい」ギュッ
老人「なでなで」
老人「んん……?」
姫「どうしたの?」
老人「風が綺麗な声で笑ったような気がしてなぁ」
姫「えへへー、風さんはいつも綺麗なんだから当然だよ♪」
老人「俺には見えないのが残念だなぁ」
姫「いつか、姫がおっきくなって貴方のお嫁さんになったら見せてあげるね!」
老人「もう充分大きいさ、姫はずっと大きい」
姫「えへへー♪」
老人「なでなで……」
姫「ねぇねぇ」
老人「んー?」ゴソゴソ
姫「どうして姫はお買い物についてっちゃダメなの?」
老人「前にも話したなぁ」
姫「姫がいると邪魔かな……?」
老人「姫がいたほうが買い物はラクになるし、助かるさ」
姫「じゃあ、なんでー?」
老人「なでなで」
姫「なんでー?!」
< 近所の市場 >
店主「おう爺さん! 野菜買ってくか?」
老人「安いのを」
店主「相変わらずしけた事言いやがんなー、ほれオマケしてやるよ」
老人「すまんなぁ」
老人「……?」
店主「サービスだよ、孫娘のかわいこちゃんが爺さんのとこに来てんだろ?」
老人「どうしてそれを?」
店主「近所のガキが見たんだと、爺さんの家の近くで」
店主「真っ白なドレスを着た、真っ白な髪の女の子だーってよ」
老人「それで何故に俺の孫娘になるのかなぁ」
店主「そんな不思議可愛い娘が、爺さんに撫でて貰ってたとよ」
店主「しかも満面の笑顔でってんだから、そりゃ孫娘に違いないって思ったのさ俺ァ」
老人「まぁ、それで良いか」
店主「ん? 何だよその回りくどい言い方は」
老人「早く貰えないか、老いぼれには長々と立ってるのは辛くてな」
店主「わりいな、ぱっぱとやるから待っててくんな」パパッ
老人「ふむ」
老人(……?)
老人(困った子だな)
姫「……」コソッ
姫「あの人の家から初めて離れてついてきたけど…」
姫「思ったより人がいっぱい……」コソコソ
< 「あら、見かけない子ね」
< 「村外れの『クマじーさん』のお孫さんらしいわよ」
< 「可愛いけど、なんだか真っ白で不気味だねぇ…」
< 「まぁ『クマじーさん』のお孫さんだからね」
姫(……)
姫(何だかジロジロ見られて落ち着かないなぁ)コソコソッ
なんとなくナウシカ思い出した
老人(ついてきてる……なぁ)
< コソッ
老人(まぁこの村の中なら危険はないか)
老人(とりあえず買い物済ませたら、帰るとしようかね)
< ドテッ
老人「?」
< 「アイタタ…」
老人(……大丈夫かなぁ)
とてもいい
期待
老人「良い質の果物だな、これを」
果物屋「はいはいー」
果物屋「やっぱり噂は本当なの?」
老人「噂?」
果物屋「ほらー、クマじーさんったらお孫さんいるんでしょ?」
老人「ずいぶん広まったなぁ…」
果物屋「だーってクマじーさんだものー、で? どうなのよ」
老人「……箱入り娘みたいでな、せがれが預かってくれと言ってきた」
老人(ということにしておくか)
果物屋「へーぇ……教育ってわけ」
老人「まぁ」
果物屋「もしかしてあっちの白い子?」
老人「うむ」クルッ
< 「やーいやーい! クマじーさんの孫なんだってー!?」
< 「きんもちわりーっ!」
老人「……」
果物屋「あーあー、アタシが追っ払っとこっか?」
老人「椅子をくれ」
果物屋「へ?」
期待の嵐
果物屋「なんで椅子なのよ……」ゴトッ
老人「すまないね」
老人「まぁ見てるといい、大丈夫だから」
果物屋「……」
果物屋「近所のガキを蹴散らすとか?」
老人「あんな子がいきなりそんなことしたら本当にぽっくり逝きそうだ」
姫「クマじーさんってだぁれ?」
子供「知らねえの? お前のとこの爺さん、皆にそう言われてんの」
姫「おじいちゃんじゃないよ?」
子供「どっから見てもジジイだろ! ばーか!」
子供2「大体なんでそんなヒラヒラしたの着てるの」
姫「えっと、えっと……」
< ガシッ
子供「えっ」
< ガシッ
子供2「?」
姫「二人とも仲良くしなくちゃダメだよ? とくに君は男の子なんだから怒っちゃだめー」
子供「……ぇ、は?」
子供「はなせよ気持ち悪い!」
姫「仲良くしなくちゃだめー! 二人とも夫婦でしょー?」
子供2「……」
子供2「!?」ビクゥッ
姫「ねー?」
子供「な、なんだよ…なにいってんだよ」
子供2「お前…女の子だったの?」
子供「あ?」
姫「でなきゃウェディングドレスなんて着てないもんね、似合ってるよそれ!」
子供「……」
子供「!!!??」
果物屋「……何あれ、すんごくおかしな感じになってるけど」
老人「あの子供たちは結婚するんだろう、多分な」
果物屋「どういう事なのそれー?」
老人「さぁ……よくわからん」
果物屋「つまり、おままごと作戦ってわけ? 引き込むの上手いわねあれ」
果物屋「ほらほら、照れてる照れてる」
老人「ふむ」
老人(さすがに『使いこなせない』か)
老人「どれ……日も暮れてきたし帰るかな」スッ
果物屋「はいはいー」
老人「椅子、ありがとな」
果物屋「いーよ、アタシ別にじーさんの事キライじゃないもん」
老人「良い女だ」
果物屋「お孫さん、連れて帰ってやってねー」
< 「ね、ねぇ! じゃあ俺はどんな風に見えてんの!」
< 「ちょっと髭があるけど……とっても格好いいよ?」
< 「俺とか、今はこんな男の子みたいだけど……大人になったらどんな感じ!?」
< 「巻き髪が似合う素敵な女性……かな」
● ● ● その後・・・・・・・・
老人「駄目だと言ったろう? 外に勝手に出てはいけないと」
姫「あぅ……ごめんなさい」
老人「別に謝らなくてもいい」
老人「ただ、次からはせめて駄々を捏ねてみるといい」
姫「駄々を?」
老人「俺は甘いからなぁ……」
老人「いつも姫が手伝ってくれるのに、素直に聞いてくれてるのに、心から出たがってるのを否定はしない」
姫「……えへへ」
<翌朝>
老人(……朝か)
老人(姫が起きる前に、戻るとしようか)
< ズキッ
老人「っ、ぉお……ッ!」ガクッ
老人(まだ姫を連れてきて一年だというのに……俺の体が限界か)
老人(あちこちが痛む…)
老人(痛覚を遮断していたつもりだったが、魔法が勝手に消えているのにも気づかないとは…)
老人(……俺は)
< ヨロヨロ……
老人「老いたなぁ……まったく、どこまでも老いてしまった…」
爺さんぽくないな…
姫「おはよう、今日は何を採ってきたの?」
老人「山菜だよ、姫の好きなやつもあるなぁ」
< ガサゴソ
姫「やった♪ 野菜洗ってくるね!」
老人「ありがとう、姫……ちょいと夜明け前に出てたから冷えた手で悪いけどなぁ」ナデナデ
姫「~♪」
姫「あったかい……♪」
●●● 同時刻・村長宅 ●●●
村長「……い、一体なんの御用なんです…? こんな辺境村に…」
< 「どこの辺境村にも、我々は今現在立ち寄ってますよ」
村長「なぜ…」
< 「そう縮み上がらないで頂きたい」クスクス
森分隊長「我々、『森の国』兵団は貴殿方国民の味方じゃあ…ありませんかね?」
村長「そ、その…ですからっ」
森分隊長「村への潜入調査」
森分隊長「これが何か不可解ですかね」
村長「人数からしておかしいじゃないですか…50人もの分隊を潜入させるだなんて!」
森分隊長「何も心配しなくてい~いじゃあないですか?」
森分隊長「今日正午より、この村は間違いなく安全だ、怯えなくていい」
村長「怯えるもなにも……何にですか、そこをはっきり教えて頂かないと」
森分隊長「白髪の『幼く見える貴婦人』、これが大変凶悪ですね」
森分隊長「大変、凶悪ですねえ」
村長「…………」
村長(はく……はつ…?)
< ダンッ!!
村長「ひっ!?」
森分隊長「ご存知ですよね…今の目は」
村長「いや、その、何分この村は老体が多いで、ですゆえ…あはは」
森分隊長「今の目は違いますよね」
森分隊長「違い、ますよね」
< 「うわぁあああああ!!?」
村長妻「!?」
村長妻「あなた! どうされたの!」ガチャッ
村長「うあああああああああああ!!!!」
森分隊長「瞼を引き千切って差し上げました、これでよく見える」
村長妻「なんてこと…なんてことするのですか!」
森分隊長「彼は嘘をつきました、我々に、森の国の王が命を受けし勇者に嘘をつきました」
森分隊長「本来ならばその目、私が直々に歯で抉っているのを」
森分隊長「瞼で許しを与える事にしたのです」
森分隊長「瞼で、許しを与える事にしたのです」クスクス
村長「ああああああああああああああ!!!」
村長「逃げてくれぇえ! 逃げるんだぁ!」
村長妻「でも!」
森分隊長「逃げる必要はありません」
森分隊長「もう貴殿の罪は許された」
森分隊長「なので、もう一度問いかけますね」
村長「クマじーさんの孫だ! あの老いぼれの家に、家にぃい!!」
森分隊長「……返事が早くて宜しい」
森分隊長「ご協力感謝します、村長夫妻どの…」
森分隊長「では、私は職務に戻りましょう」
森分隊長「あとでヒール効果のある薬草を部下に持たせましょう、それでどうかご勘弁を…」クスクス
姫「……?」
老人(む……)
老人「どうかしたのか、姫」
姫「えと…何て言えばいいのかな」
老人「ゆっくり考えていいから、座って」ナデナデ
姫「えへへ…♪」
姫「あのね、急にあっちの壁が燃えてるからびっくりしてたの」
老人「……ただの壁だよ、心配しなくていい」
老人(気づかなかったなぁ…)
老人(結界内部に何人か……四人か、殆どこの家を目指している)
老人(ここまで侵入されても気づかぬとは、どこまで老いたのか恐ろしい)
< スッ
老人(その気になれば姫に悟られずに撃退は出来るが……)
姫「ね、今日はどんな遊びする?」
老人「かくれんぼでもしようか……ただし、音を出してはいけない」
姫「うん!」
森分隊長(……)ザッ
軽装兵「分隊長殿、斥候からの報告がありました!」
森分隊長「どうでしたか」
軽装兵「目標が潜伏している家屋を中心に、半径1200mに渡って結界が張られています」
森分隊長「結界……?」
森分隊長「しかしそれだけの調査が出来るだけ侵入出来たなら、一体何の結界ですか」
軽装兵「不明であります! 何の反応もない所を見ると索敵結界ではないものと思われます!」
森分隊長(……逃げられた事を考慮すべきですかね、有り得るとして)
森分隊長(もしくは)
森分隊長「斥候はそのまま家屋へ潜入させ、何名か続かせて下さい」
軽装兵「いいのですか?」
森分隊長「相手は目の下にクマを作るような老いぼれ、それ以外は戦い向きではない」
森分隊長「我々はプロです、任務を完遂させて当たり前なのですから」
軽装兵「はっ、その通りであります!」
森分隊長「魔術兵を二名、後方支援役として向かわせ、それ以外は人数ともに貴方が指定して進行するように」
森分隊長(……さて、こうなると村を改めて調査した方が良さそうですね)
森分隊長(半径1200、決して短い距離ではない)
森分隊長(たまたま結界を張っているのも、何らかの形で我々の存在に気づいたのも有り得ない)
森分隊長(しかし、なればこそ村にも結界が張られている可能性を見るべきでしょうね)
森分隊長(場合によっては……私の存在すら知られているかもしれませんし)
老人(村の内部、村から外れた位置、この家を中心にした結界内部)
老人(合わせて51人……隊長格は他よりも並ならぬ魔力を有している…)
老人(契約者、それも戦闘向きなタイプか)
< ザリッ…
老人(姫は俺の足音に誘導されて地下室で隠れているだろう、そう魔術式を組んだ)
老人(なら……あとは)
斥候兵「……」ザリッザリッ
老人(杖で進む足先を使って地面を擦っているのは、索敵魔術の一種か)
老人(子童だなぁ、魔術師)
< スゥゥ・・・
老人(その索敵魔術を警戒して気配殺しの魔術を使っている、とは…思わんのだろう)スッ
< ガシッ
斥候兵「っ!?」
老人「遅い」ゴキッッ
軽装兵2「分隊長様」ザッ
森分隊長「殺られましたか」
軽装兵2「はい、分隊員に持たせていた『番い札』が一枚……斥候兵の物です」
軽装兵2「札は直前まで何の異常も無かったとの事です、恐らく即死です」
森分隊長「一人だけだったのは幸運です、後続の軽装兵を支援すべく一個小隊を前に出して下さい」
森分隊長「そして、斥候兵を下がらせて下さい」
森分隊長(これで次に小隊が全滅させられれば私を筆頭に重装備の兵が)
森分隊長(私がこの身を捨てれば如何な強者でも仕留められるでしょう)
< キィィィン
老人(耳鳴りが酷いな……くそ)
老人(人間一人、首を折っただけで腰がやられそうだ)
老人(他の三人が下がり、後から3…2、五人…)
老人(それだけではないなぁ……更に12人、多少の魔力を持ったのが来てる)
老人(気づかれた)
老人(……)
斥候兵「」
老人(死を探知できる契約者、もしくは魔術がこの兵に施されていたのか)
支援 今更だけどココsaga機能無いと思う
軽装兵「前衛、足元と木陰に注意し、定期的にサイドの味方とコンタクトを取るように!」
軽装兵「また、敵は索敵魔術をすり抜ける術を行使している可能性がある!」バッ
軽装兵「周囲を索敵する場合は視覚によるモノで行うこと! 進めッ!!」
< ザザザザザ・・・!!
槍兵(異常無し)パッパッ
鎚兵(こちらもだ)パッパッ
軽装兵(……そろそろ斥候が殺られた地点のはず)ダッ
老人(……出来た)
老人(この家に使われていた木を千年樹と仮定して組み上げた術式)
老人(これならば、防音効果が生まれる筈だ…姫まで音は聴こえない)
老人「!」
< キィィィン
老人(『網』にかかったなぁ…これは)
老人「【第一四結界】、【起爆】」キィィィンッ
━━━━━ ゴッッ!!!
軽装兵「なっ……!!?」メコォッ!
槍兵「ぐぁああああ!! な、なんだ……体が重く……ぅ!!」ズンッ!!
魔術兵「こ、これ…は……」ググググ
魔術兵2「い……嫌だぁ!! 死にたくない! ひィぅぅわあああああああああああ!!!!」
魔術兵(結界内部に……複数の効果を持った結界…)
魔術兵(このような芸当が出来るのは、先代の国お…)
━━━━━ カッ!! ━━━━━
< ドゴォォォンッ!!
森分隊長「!!」
軽装兵2「い、今のは…?」
森分隊長「分かりません、『番い札』はどうなって…」
森分隊長「……」クンクン
森分隊長「!?!?」バッ!!
軽装兵2「え?」
━━━━━ ゴッッ!!!
老人「【第七結界】【第二三結界】、【起爆】」キィィィンッ
老人「【第一九結界】にて重装兵を【拘束】」
老人「【起爆】」キィィィンッ
< ドゴォォォ…!!
< ドゴォォォ…!!
老人(……これで、姫の好きな山菜が採れなくなったな)
老人(老いていなければ、もう少しスマートに出来たものだなぁ…)
老人(……あとは、村に近い位置で慌てている兵どもを蹴散らすだけか)
・・・ガチャッ・・・
姫(……出れた)
姫(地下のお部屋…まるで迷路みたいになってたけど、時々聴こえる足音を辿ったら出れた)
姫(あの足音……あの人かな)
姫「ねぇ、ちょっとおトイレ入るね?」
< ガチャッ
姫「あ、ねぇねぇ♪」クルッ
森分隊長「ゼェ…ゼェ……」ガチャッ
森分隊長「こんばんは……女神殿」
弓兵「ぐぁああああ!!!」メキメキメキィッ
弓兵「だっ誰かぁ!! ひぎぃぃぃぃ!!」メキメキ……
弓兵「だれか……たぁす…げって……!!」メキメキメキィッ
< ドゴォォォ…ンッ
弓兵(ひぃっ……)
老人「……」スタスタ
老人「すまなかったなぁ…結界の一部が機能しなくてな」
老人「俺も老いたのだ、許してくれ」
弓兵「ぁ……が…」メキメキメキ……
━━━━━ ザシュッ
老人(……これで)
< キィィィンッ
老人「なに!?」
老人(馬鹿な……姫の所に一人、それもさっきの隊長格か)
老人「くっ…」チャキッ
老人(加減が出来なければ姫は死ぬ、結界による起爆は使えない)
老人「この手で……」
その手は姫を撫でるためのものだ
支援
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