料理人と薬学士 (240)
オリジナルファンタジーものです
一度に書きためてゆっくり更新します
地の文多いです
国語弱いし完成度も低めで拙いですが、応援よろしくお願いします
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高山地帯の村を東に少し降りた辺り、深い森がある
薬学士はそこで薬の材料になりそうな植物や鉱石を探して歩いていた
薬学士「ん~、この辺り、キノコいっぱい生えてるなぁ~」
薬学士「とは言え、迂闊に食べてお腹を壊しても困るし」
薬学士「薬学士を名乗ってるのに度々寝込むとか、有り得ないよね~」
薬学士は身長も140センチ代の超小柄で、十五歳と言わないとお母さんの手を握ってアメを舐めていても違和感のない風貌である
そんな薬学士が暗くて深い森の中を、ふわふわ、プカプカと歩く様は、まるで闇夜のクラゲさながらである
薬学士「誰かキノコに詳しい人いないかなぁ……」
そんな薬学士を見つけて、食おうとする魔物も居ないわけがない
犬様の魔物「ぐるるる……」
その腹を空かせた魔物も例外なく、美味しそうなクラゲのように揺れる銀の長髪に見とれ、涎を垂らしていた
しかし魔物が駆け寄ろうとしたその時、大きな二つの目が光を引きつつその魔物を睨みつけ、それと同時に、赤いビー玉様の物体が投げられる
魔物「……キャウン!」
ブシッと言う音と共に弾ける赤弾は、魔物の顎を吹き飛ばすほどの威力を見せた
薬学士「あうっ、威力調整間違えたぁ」
薬学士「ごめんね……」
薬学士は、もう暮れかけた森の中で自分を襲った魔物の墓を掘り始めた
薬学士「ふー、ふー」
薬学士「泥だらけになっちゃった……お風呂入りたい……」
薬学士は半分泣きべそをかきながら森の中で家路を急ぐ
ふと、赤々と燃える火の熱を感じた
料理人「……」パチパチ……
薬学士「……!」
薬学士「すみませ~ん! こんにちは~!」ブンブン
もはやこんばんはの時間であるし、暗闇で手を振っても見えるはずもないが、基本的なところでは抜かりなくボケている薬学士である
料理人「人……?」
その人物に出会った時の薬学士の最初の印象は、山賊か熊か、と言ったところであった
だが落ち着いて見てみれば、その人物、料理人は身長こそ170を超えてはいたが、神秘的な黒のショートに黒い目で可愛らしさも携えていた
年もまだ十六を数えたばかりである
料理人「キミみたいな可愛い子が、こんな夜の森で何をしてるの?」
薬学士にしてみればそれこそが相手に質問したかったことである
薬学士「あ、あの、あなたは?」
料理人「……」
料理人「……迷った」グスッ
薬学士「……」
料理人「うう、恥ずかしい……」シクシク
大きな体で弱気な料理人が可愛くて、薬学士はいっぺんに彼女が好きになった
薬学士「そんなことないよ~!」ダキッ
料理人「!?」
料理人(ヤバい、鼻血でそう)
薬学士「あ、ごめん、私泥だらけだった……」
…………
薬学士「ここから村までは三十分くらいだよ?」
薬学士「道は覚えてるから、一緒にいこ?」
料理人「うん、ありがとう……キミ可愛いね」
薬学士「あなたも可愛いよ~!」
料理人「えうっ!?」
料理人「いやいや、こんな体格で可愛いわけないし……」ジワッ
正直、目の前の妖精に可愛いなどと言われると思わなかった料理人は思わず涙ぐんでしまった
その涙で火を消してすぐに彼女の家に押し掛けてしまいたいくらい衝撃的だった
料理人「……ところで、ここって魔物が出ると思うんだけど……」
薬学士「出るね」
薬学士「でも大丈夫、私が守ってあげるからね!」
料理人「えうっ!?」
料理人(どちらかと言えば私が守る側だと思うんですが……)
料理人は焚き火に水と土をかけて消すと、念入りに踏みつける
火が消えれば一層暗くなったが、何故か薬学士の辺りが明るい
薬学士「これ? 今ね、ヒカリキノコの粉末をかけてるんだよ」ポスポス
料理人の疑問を悟ったように解説する薬学士
薬学士「私の灯りを追ってきてね? 足下には気をつけて!」
料理人「あ、あの」
薬学士「どうかした?」
料理人の問い掛けに妖精が振り返る
料理人「キミの名前は?」
薬学士「私? 薬学士だよ?」
料理人「そう……私は料理人、その、」
料理人「よろしく」
薬学士「うん!」
二人は暗闇の中、魔物を倒しながら薬学士の村、高山の麓を目指した
…………
薬学士「着きました~!」
料理人「おお、助かった」
薬学士「私の家はこっちだよ!」
薬学士「汚れちゃったからお風呂入ろ~?」
料理人「有り難いなあ」
薬学士「一緒に入っちゃう?」クププ
口元に小さく握った手を当てて笑う薬学士は、とても可愛い
料理人(いたずら妖精さんや、いたずら妖精さんがおるで!)
村に入ってすぐに、薬学士の家に着いた
薬学士一人が住んでいるとは思えないくらいの、大きな屋敷だ……
薬学士「ちょっと待っててね~!」パタパタ
泥まみれの体でゆったりと腰を掛けるわけにも行かず、料理人はしばらく家の中を走り回る輝く妖精さんを眺めていた
料理人(可愛いよ~お人形さんだよ~)
薬学士「あ、私の服流石に合わないと思うんだけど替えはある?」
料理人「うん、一人旅の途中だしね」
薬学士「そっか、どこか行く宛があるの?」
そもそもここは山奥の田舎の村で、山を越えても山が続くような最果てである
街を目指すならこんなところには居るはずもない
料理人「私は……この辺りでお店でも開こうかと思って」
薬学士「ほえ?」
こんな田舎で、と言い掛けたが、何か事情があるのかも知れなかった
薬学士(これ以上は聞かない方が良いのかな……?)
料理人「……」
…………
料理人「なんか悪いね」チャプッ
薬学士「いいんだよっ、気にしないで!」ゴシゴシ
二人は早速一緒に風呂に入って、お互いの背中を流したりしていた
料理人「うん、今晩の晩御飯は私が作るよ」
薬学士「ほんと? やったあ!」
…………
薬学士「湯船広くてよかったあ~」アハハ
料理人「ごめんね、狭くしちゃって」
薬学士「ううん!」フルフル
笑顔で首を振る薬学士
女同士で過ちなどあるはずがないと断じて思っている料理人も、思わず引き込まれそうな笑顔である
料理人(いいなあ、こんな可愛い生き物に生まれたかった)
薬学士「あ、そうだ、私昼はほとんど山に入るか部屋にこもってるんだ」
薬学士「予定が決まるまでうちでお留守番してくれないかなあ?」
料理人「いいよ!」
特に宿なども決めていない料理人には願ったり叶ったりな申し出である
それにこれはここに定住する足掛かりになる
出来ればこのふわふわの妖精を守ってやりたい気持ちも芽生えていた
そしてこの申し出は、本来お願いしなければならない立場の料理人を気遣って言ってくれたような気もする
迷子から救ってくれた恩返しもしなければならないだろう
…………
現在この世界には、破壊神を封じる五百余柱の魔王と、人間の王がせめぎ合って生活をしている
中には魔王同士の戦争や人間と魔王の同盟などもあるのだが、魔王を倒す度に危険な破壊神が現れるため、人間に敵対的な魔王はとても危険な存在として君臨していた
料理人の街もそんな魔王に目を付けられた人間の王の街であった
料理人「ようするに、私は戦争から逃げ出してきたんだよ」チャッチャッ
料理人「そんな後ろめたいこととか悲しいことがあったわけじゃないんだけど」カン
料理人「あんまり周りの人が亡くなっていくのも嫌で……さ」チャプッ
料理人「はい、できた!」ゴトッ
薬学士「わあ~!」
料理人は語りながらあっと言う間にテーブル一杯の料理を作り上げた
山で取ったばかりの香りきのこのパスタや川魚のマリネ、塩焼き、スープ、きのこサラダ、山菜の天ぷらなどなど……
薬学士にはちょっと作れないレベルの彩りの鮮やかな料理ばかりが一瞬で作られ並べられていく様が余りにインパクトが強くて、あまり話を聞いてなかったのは内緒である
元より若干大食いの気のある薬学士には、その大量の料理が輝く宝石のように見えた
薬学士「ほう……」ポタポタ
料理人「薬学士……涎すごいよ? じゃあ、いただいちゃおうか」ガタッ
薬学士「いたらきまーっ!」パンッ
料理人「いただきます」クスッ
薬学士「うまーっ!!」パクパクモグモグ
料理人「わあ、すごい食欲……なんか嬉しいなあ」
薬学士「だって美味しいよっ」
料理人「足りなかったら作り足すから慌てないでいいよ」フフッ
二人は偶然にもお互い孤児であったことや、謎の師匠に仕えていたこと、旅の果てにこの村に着いたことなど、沢山の共通点を持っていた
初めから一目惚れに近くはあったが、あっと言う間に二人は仲良くなって、その日は一つのベッドで眠りについた
翌日――
薬学士「さて、今日は料理人さんの生活用品を買いにでかけるよ!」
料理人「気を使わないで、自分で揃えるから……」
薬学士「だいじょーぶ! わたしお金持ちだから!」ブイ
料理人「……怪しいお金?」
薬学士「ではないっ」
その朝、料理人が並べるハムエッグやトーストサンドやサラダを嬉しそうに頬張る薬学士
料理人はそれをハムスターを見るような目で見つめながら、朝食を終えた
食後、道具屋や寝具屋を巡る
巡りながら、時折薬学士が石を弄っている
薬学士「ん~、流石にもうこの辺りには落ちてないかあ……」
料理人「何を探してるの?」
薬学士「魔晶石って石なんだけど、知ってる?」
料理人「魔晶石?」
薬学士「見た目は普通の石だけど削るとピンク色に光るんだよ」
薬学士「鑑定眼が無いとなかなか分からないけどね~」
料理人「それは何に使うものなの?」
薬学士「魔法剣から万能薬までなんでも」
料理人「はあ、そんなすごいものがあるの?」
薬学士「今は秘術って言われる程レアになってるから、取り引きも殆どされてないし、知らなくても無理はないかな?」
薬学士「取り扱いも難しいから迂闊に触らない方がいいかも」
料理人「そっか、薬学士はそれでお金持ちなのか……」
薬学士「まあね」テヒヒ
魔晶石、その純度の高い物を、哲学者の石と呼ぶ
哲学者の石は、伝説の七魔女以外、未だに誰も完成させたことがないと言われている不老不死を司るアイテムである
その劣化版である魔晶石は、当然自然に結晶化することは極めて稀であるが、薬学士はこの山奥でわずかにそれを採掘することに成功していた
この事は表沙汰になれば、一部の力を求める魔王に攻められてもおかしくない事柄である
薬学士「だから、内緒ね?」ニシシ
料理人(なんとなくただ者じゃないとは思ってたけど……)
料理人(まさかこの子魔王の眷族……?)
料理人(……いや、だから悪いって事も無いか)
料理人(そうじゃなくて知り合い、と言うなら、私だって……)
…………
薬学士「でね、東の森を北に行くと北湖があって、そこから川が流れてるの」
料理人「私、たぶんそこの川で魚取ったよ」
薬学士「料理人ちゃんが迷ってたのはあの辺りだね~」
料理人「う……思い出した」グスン
薬学士「ごめん」ナデナデ
薬学士「でね、そこを少し南に行った所がキノコの群生地」
薬学士「北は高い山があるだけ、西も山を越えたら海」
薬学士「南に降りれば大きな街もあるよ」
料理人「ああ、そっちから来たんだ」
薬学士「そっちしか開けてないもんね」
料理人「ああ、それもそうか」
料理人「この辺りには魔王はいないの?」
薬学士「四人の魔王と二人の王がいるって聞いたけどそれから勢力図が変わってるかも分からないね~」
料理人「ほとんどの魔王は隠れ住んでるし、分かりづらいのは仕方ないのかな」
薬学士「うっかり正体がバレたら命を狙われることもあり得るしね~」
料理人「……」
料理人「……そうだね」
薬学士(あ、なんか地雷踏んだ?)
薬学士「一度家に帰ってお昼にしようか?」
料理人「うん、お昼も任せて!」
…………
薬学士が椅子で涎を垂れ流しながらスライムのように揺れている
料理人は、大皿一杯の野菜炒めやカプレーゼ、バターライスなど、どんどん作っていく
料理人「色々野菜やスパイスが買えたから料理の幅が広がって助かったよ」
料理人「こんな田舎であんなに商品を揃えてやっていけるのかな?」
薬学士「まあまあ沢山の人が住んでるのに、お店はそんなに無いからね~」
料理人「ここの住民は何の仕事をして生活してるの?」
薬学士「山仕事や鍛冶が多いかなあ? 石を切ったり狩猟したり、あと学者さんなんかもいるよ」
そう噂をしていると、薬学士の家の扉が突然開いた
学者「おおおおお……」
料理人は一瞬メガネのアンデットが入ってきたのかと思って身構えてしまった
学者「……おなか減った……」パタン
薬学士「が、学者ちゃんも一緒に食べよ?」
学者「いただきます」シャキーン
料理人「?!」
学者の風貌自体は薬学士に似ている
身長はかろうじて160あるが、少し絵の具のようなもので汚れた薄い金の長髪がふわふわしている
何やら色々羽のついた大きな丸い帽子も、薬学士が愛用する帽子に似ている
ただ、分厚いメガネにみすぼらしい衣服を更にだらしなく着込んでいる様は、一段も二段も彼女の魅力を落としていた
更には二十歳になったばかりであるのに、もはや老人のようなダレっぷり
料理人「仕方ない、ちょっと追加で作るから、食べてていいよ」
薬学士「ううん、一緒に食べたい!」
料理人「……仕方ないな」ポッ
料理人「ちょっと急ぐね」トントン
学者「死ぬぅ……死ぬぅ……」
料理人は初対面ながら、大人なんだからしっかりしろ、と激しく突っ込みたくなった
料理人「これ飲んでて」
学者「おおおお、スープですかい?」ゾゾゾ
学者「ごちそうサマーあ!」
料理人「はやっ」
料理人「作りがいあるなあ」
料理人は手早く小麦粉と卵をこねてキャベツを細切れにし、軽く混ぜ合わせて海鮮や豚肉をトッピング、焼いていく
料理人「あと何品作ろうかなあ?」
もはやテーブルでは二人の獣が今にもお皿を食べだしそうな雰囲気である
料理人「夜の仕込みもしたいんだけど、まずはこいつらの腹を満たさねば……」
とりあえずキャベツの残りを全部サラダにして、席についた
料理人「食べよっ」
薬学士「ほえっ、食べていいの?」ジュルッ
学者「いただきますう」パンッ
戦争のような食卓、大皿に盛り付けた料理は小皿に取り分けた瞬間に蒸発していく……
料理人(食べられない)アハハ……
学者「むがぐがごもぐう」
料理人「口に入れたまま喋らない」
学者「むちゃくちゃ美味しいですよこれ! 何者ですかあなた!? 私は学者です。」
むちゃくちゃはアンタの喋り方だ、と突っ込みたいのを我慢する
料理人「普通の料理人だよ」
薬学士「学者ちゃんは毎日研究室に一日中籠もってて、いつもお腹を空かせてるんだよ~」
料理人「はあ……不健康だな」
料理人「薬学士がいいなら、毎日食べに来させて」
学者「マジですかっ!? おおおお」
料理人「うるさい」
学者は爛々とした目で薬学士を見つめる
薬学士「いーよ、って言うかいつも食べに来てるし」
料理人「本当に駄目人間なんだな」
学者「面目ない……」
料理人「そもそもなんの研究してるの?」
学者「鉱石の解析や魔晶石の結晶化過程の研究、魔法菌類による土壌の変質などの研究ですねえ、はい、あと……」ペラペラペラペラ
料理人「……意外とまともな学者なんだな……」
学者の喋るそれは料理人には到底理解できないお話だった
料理人「人間見た目では馬鹿にできないなあ」
見た目と言えば薬学士である
見た目はほとんど湖に住んでいる妖精さんなのに、マジックアイテムらしきものを振るいほとんどの魔物を一撃で追い返す
それらを自作する知性も瞬間的な判断力も、料理人にはすごく意外だった
ただほとんど子供の性格が災いしてか、風で揺れる木をモンスターと勘違いして危うく山火事にしそうになったりもしたが
まあそういったドジも可愛らしく感じる
学者「薬学士ちゃん、今度一緒に山に入って~」
薬学士「いーよ!」
薬学士「うーん、このあとはお買い物するから、明日一日準備して、明後日なら」
学者「了解でやすっ」
料理人「じゃあお弁当作らないとね」
学者「マジですかい?!」
薬学士「やったあ~!」
料理人「ふふ、可愛いんだから……」
美味しいごはんで嬉しそうにする子供が大好きな料理人には、とても幸せなことだった
料理人「明日は私は食材を取りに森に入るかな?」
料理人「この辺りの地理に詳しい人が居たら教えて欲しい」
学者「それなら狩人くんですねえふひひ」
学者「暗い森の中、若い男女が二人きり……むふひ」
料理人は思わず出刃包丁を構えたくなった……
その日は料理人の服を買いに出掛け、三人で長身にはワンピースだの、冒険者にはハーフパンツだのと盛り上がった
晩御飯も三人で食べ、三人娘の仲は深まっていった
翌日、薬学士は部屋に籠もる
学者が料理人と狩人を引き合わせた
狩人は地元の少年である
弓やナイフが得意で、薬草にも詳しい
ただその見た目は、くりくりした目、学者とさほど変わらない身長で、可愛いと言っていいほどである
年も薬学士と同い年だった
料理人「よろしく」
狩人「よや、よろしくですっ」
狩人「綺麗な方ですねっ」ポッ
料理人「あ、ありがとう」///
二人は手早く準備をすると、すぐにも森に入ることにした
料理人「お昼はサンドイッチとか用意してあるから、二人で食べて」
学者「はいはい、了解でやすっ、森の中できゃっきゃうふふをお楽しみくださいっ」
料理人は出刃包丁をちらつかせた
学者「ふひいっ! すみませんすみませんちょーしのりゃしたっ」ガクブル
料理人にしてみれば保護者気分にはなるものの、恋愛対象としては見られない
この子なら安全だろうし、道案内には打って付けである
狩人「料理人さんは戦える人ですか?」
料理人「それは大丈夫だよ、でっかいしね」
狩人「でっかいと言うかスラッとしてますよね」
料理人「あはっ、ありがとう」
あまり容姿をほめられるのは得意ではない
なんだかむずがゆくなる
それより魔物のいる森だ、油断はできない
料理人は緩やかに気を引き締めた
料理人「とりあえず川に仕掛けをしておきたいかなあ」
料理人「野鳥や猪なんかも捕獲できるならして欲しいかな?」
狩人「罠はいくつか仕掛けていますので見回ってみます」
料理人「そう、地元だものね」
狩人は薬学士同様に土地勘はしっかりしているようだ
明日学者も連れて山に入るのは若干不安ではあるが……
主に学者がいることが
料理人「ん、この辺りのキノコは食べられる奴ばかりだな」
狩人「詳しいんですね」
料理人「私の料理の師匠が自分で食材を取って初めて一流って主義の人でさ」
料理人「時には毒キノコも食べさせられたよ……」
狩人「は、ハードですね」
料理人「魚やカニも獣肉もだいたい自分で取って食べてたなあ……皆に振る舞いもしたし……」
狩人「……」
狩人(なんだか寂しそう……)
キノコや木の実、山菜を中心に魚や野鳥なども沢山収穫できたので今日は帰ることにした
料理人「これで一週間は持つかなあ」
狩人「じゃあ帰りましょうか」
料理人「晩御飯はごちそうするから、おいでよ」
狩人「ほんとですか! ありがとうございます!」
料理人「お米や小麦粉の買い置きはしてあるから……野鳥とキノコと……」
狩人「……職人さんなんですね」
料理人「いや、ただ好きなだけだよ」ハハッ
狩人「晩御飯楽しみだなあ」
料理人「うん、楽しみにしてて」
その後少し魔物との戦闘があったが、二人は無事に村に帰り着いた
学者「お楽しみは?! はやいっ! もっとくんずほぐれつ! 長時間愛撫しあいきゃっきゃうふふと……」
料理人「頭大丈夫?」
サクッと出刃包丁で頭をかち割りたいところをグッと我慢する
狩人「じ、じゃあ夜にまたお邪魔します」
学者「おうふ、夜這い宣告?」
さくっ
料理人「たくさん料理を用意して待ってるからね」
学者「えおおっ、なんですかこの出血はっ、目の前が暗くっ、回復薬ください薬学士さあんっ!!」
料理人「うるさいな」
薬学士はその日のうちに赤や青の例のビー玉様のマジックアイテムや回復薬を用意していた
薬学士「旅立ち前に回復薬一本消費……」
疲れてるのか、どこか雰囲気がおかしい
料理人「紅茶入れてあげる、待ってて」
薬学士「ありがとう!」
料理人が声をかけると、すぐに元気な妖精さんが蘇った
料理人(やっぱり薬学士の仕事は大変なんだなあ……)
学者「私は砂糖少なめでっ」
料理人(……こいつは何をやっているのか……)
薬学士「出荷用のポーションも作らないとなあ……」
料理人「あまり根を詰めすぎるのも良くないよ」
薬学士「うん、ありがと」テヒヒ
料理人「仕事、大変なんだね」
薬学士「うん、お客さんに『助かった』って言われるとすごく嬉しいんだけど」
薬学士「基本的にお客さんの顔が見えない仕事なんだよねえ~」
料理人「偉いよ、薬学士は」
料理人「……そろそろいいかな」
料理人がティーカップによく蒸らした紅茶を注ぐ
スプーンをセットして砂糖とミルクを揃えて出す
薬学士「喫茶店みたい!」
学者「たまらん香りですなあ」
料理人「さて、仕込みしておくか」
最初に時間を置いた方が美味しい煮込みの準備をして火にかけ、魚、肉類をさばいて、今日食べないものは塩漬けにしておく
野草をよりわけていくつかを干しておく
キノコもオイルに漬けておく
料理人は学者と薬学士がぼんやりティーカップを抱えて見つめている間、手早く動いていく
薬学士「すごぉい……」
学者「森から帰ったばかりで、全くすげータフなお嬢さんですねえ」
料理人「時間はっ……と」
料理人「うん、グリルの下準備しておこう」
料理人「ん? どうしたの二人とも」
薬学士「かっこいいなって」ニヘヘ
学者「ぱわふりゃ~ですなあ」
料理人「ば、ほめても何にも出ないよっ!」
料理人「あ、デザートの用意しておこうか」
デザートと聞いて二人の娘はだらしなく涎を垂らしはじめた
料理人「待っててね、今日のは美味しいよ!」
薬学士「いつも美味しいよ~」
学者「サンドイッチも美味かったでやす」
料理人「そうか、良かった」
料理人にとって一番嬉しいほめ言葉だ
…………
狩人「お、お邪魔します」
学者「ナイスタイミング!」
薬学士「いらっしゃ~い!」
料理人「さっそくテーブルに着いてよ」
スープや野草の酢漬け、魚の煮込み、野鳥のグリル、定番のキノコサラダ、フルーツカクテル、ちょっとしたケーキまでが並んでいく……
テーブルにどんどん並ぶ料理に三人は涎を隠せない
薬学士「美味しそう……」
学者「はやくっ食べましょうっ、逃げるっ」
狩人「逃げません」
狩人「でもこんなごちそう初めてかも……」
料理人「良かったら家族の方にお土産も用意するよ」
狩人「ほ、本当ですか? すみません!」
料理人「じゃあ、冷めても良くないから食べようか」
薬学士&二人「いたらきまーっ!」
料理人「いただきます」クスッ
四人で美味しいごはんを食べながら、明日の山岳探索の話で盛り上がる
さながら遠足前日の宴会のようである
料理人「明日は何を探すの?」
学者「当然一番は魔晶石ですが、まず大きい結晶は見つからないのでえ」
薬学士「小さい晶石はあるから私はいくらか集めるよ」
学者「私は魔法菌類がついてそうな石をいくつか回収しますぅ」
薬学士「山道をたくさん歩くから今日は体をゆっくり休めてね」
料理人「体力は問題ないよ」
狩人「料理人さんがいたらボディガードも楽だなあ」
むしろ一番の問題は
学者「むは?」
料理人はなんとなく、明日はリュックを背負わないですむ装備で行こう、と思った……
…………
4人は朝早く集まり、朝ご飯を薬学士の家ですました
学者「このベーコンサンド最高でさ!」
狩人「こんな美味しい朝ご飯食べれるのすごく嬉しいです」
薬学士「うはー! 山越えして海水で塩を作れるくらいパワーでるう!」
料理人「みんな大げさだよ、お昼はもうちょっと考えないとね……」
薬学士「楽しみ!」
学者「全くでやすなあ」
狩人「今日は僕頑張る!」
料理人「ははっ……有り難う」
…………
北の山――
山を登りはじめてすぐに、薬学士と学者はあちこちで極小のハンマーで小石を叩きはじめる
薬学士「この石惜しいな~、魔法菌類は居るかも」
学者「マジですか、それデカい、いただきやしょう!」
いきなり荷物が増えた
料理人「まさかこの勢いで岩石を拾っていくのか?」
学者「当然でやしょう」
薬学士「ごめんね、一番ハードなルートなんだ」
狩人「僕はこのルートで鍛えられました……」
料理人は背中に汗をかくのを感じていた
次々と岩石を背負わされている狩人がちょっぴり可哀想である
いや、かなり
薬学士「あ、あの崖上の石叩いてみたい」
学者「のう! ありゃけっこういい結晶の気配がしやすなあ」
料理人「いままで何度も登ってるんじゃないのか?」
薬学士「興味の的は尽きないんだよっ!」
学者「それこそ料理人様の料理に匹敵するでありますっ!」
料理人「あ、……そうなんだ……」
言ってることは良く分からないがとにかくすごい熱気だ
狩人「料理人さん、ガンバって!」
この二人の研究にかける情熱が桁外れにパワフルなのだと言うことだけ、料理人は悟った
料理人は長く一人旅をして、冒険者としての実力も特筆するレベルではある
しかし、研究者の研究にかけるバイタリティをわずかに甘く見ていたかも知れない
もはやこの二人の研究意欲は化け物と言っても過言では無かろう
料理人(私もまだまだ未熟だな……)
最初ははるかに下に見ていた学者ですら尊敬に値すると思えるレベルの熱意である
料理人(料理だって研究だ……負けないぞっ!)グッ
山岳を右に左に上に下に飛び回る薬学士と学者
料理人は早くも帰りのことを考えていた
狩人「いつもはここで引き返します」
どうやら狩人の限界点に達したようである
薬学士と学者は色々なポイントを探っていたが
ふと一点に目をつけた
そこには異常な魔力が集まっている
薬学士は、見つけた、と言う喜びの表情ではなく、なんでこんな存在があるの、と言う表情
料理人「なんだ? 薬学士が何かを見つけた……」
そこに存在していたのは、巨大な魔晶石である
…………
料理人「魔晶石ってこんなにでっかいの?」
料理人の半身に及ぶ巨大な発光する鉱石…………
薬学士「こんなの自然に存在するわけない……」
学者「嘘だ……魔晶石結晶化にしたってこの大きさ、禁断の秘術レベル……」
薬学士「……師匠に聞かないと駄目……、これ放置できない……」
料理人「……??」
かつて、魔晶石とは、人工結晶が主流であった
そこにあった魔晶石は自然生成の五千倍、人工生成の千倍を超えようかと言う規模の大きさがあるらしい
薬学士「もしこれ全部エネルギーに変わったら……この辺りが……滅びる……」
料理人「」
料理人「……えっ!?」
魔王、破壊神、それらの存在はこの世界にいくつも現れ、暴虐を振るった
しかし、地域全体が破滅したケースは非常に少ない
しかし、目の前の魔晶石にはその力があると言うのだ
薬学士「……」
薬学士は真っ青になり、震えている
学者「嘘です……これは幻です……」
学者はその結晶が魔晶石でないと証明できる理由を探しているらしい
刺激を与えないようにさすってみたり虫眼鏡で見たりしている
薬学士「だめ、今すぐにでも師匠のところに行かないと、私じゃ処理できない……!」
薬学士はなにやら分からない薬を何杯も浴びせながら、呟く
しかし、魔晶石には何の変化もないようだ
学者「……なんだこれ……なんだこれええええ!!」
料理人はそれが異常な状況であると悟った
料理人「い、一旦帰ろう……!」
薬学士「かえろうっ、はやくお師匠様に会わなきゃ!」
学者「うおお……」
料理人は狩人と共に、無理矢理二人を引きずるように山を降りた……
料理人は薬学士の家に着くと、素早く紅茶を用意した
料理人「すまん、お前たちが混乱しているのは分かるが、自分の中で整理がつかない」
薬学士「わかんない……私もわかんないよお……」
学者「あんなもんがあるわけないんすよ……なんなんすかあれ……」
狩人「……」
狩人はこの異常な事態に涙目で震えている
料理人「……とりあえず、あれを分析できるのは薬学士の師匠だけなんだな?」
薬学士「……うん」
薬学士「会いに行こう……」
薬学士「秋風峡谷の魔王に……!」
料理人「!」
…………
夕方
料理人にできるのは最善の料理を提供することだけである
貴重な木の実や薬草、野草、キノコから、レアな野鳥の肉まで惜しむことなく使い、彼女らを勇気づけようとする
薬学士「……あったかい……美味しい」
学者「……今はとても有り難いでありんす……美味い……」
どうやら少しは彼女らの力になれているようである
料理人「秋風峡谷はここから更に北、4日はかかる道程を越えないと辿り着けない、か」
料理人「途中でどれくらい食材を賄えるのかな……」
料理人は考えた
食料を得られる経路、長い時間保ち、持ち運びできる食料、往復八日、人四人を支える料理……
薬学士「明日……出られる?」
料理人「……うん、任せておいて!」
料理人の胸には高揚感があった
人を生かす食、今ここにその技が求められている……
料理人「途中に湖もある……楽勝でしょ……たぶん」
料理人が真っ先に考えたのは水と小麦粉、米である
料理人「最大で100キロは持てるかな? ……25キロくらいが戦闘があっても楽に運べる限界かな……?」
料理人「四人が1日一人六百グラムの計算で十日くらい? ……水は絶対で、他に塩や調味料……、行ける? う~ん」
…………
翌日、四人は村長に挨拶してから、北の湖、その更に北、秋風峡谷を目指し旅に出た
薬学士「装備は、これだけあれば足りるはず……」
料理人(食糧は……足りるかなあ……)
四人はまず、川を目指すことにした
薬学士「湖まで1日かかるかな?」
狩人「もう少し早く着くよ」
狩人「でも食材確保のために湖でキャンプをして一日、湖を回って源流の川に辿り着くのに更に一日」
学者「そこから北に上がると谷の入り口」
料理人「そこまで3日か」
薬学士「谷の中を進んで行く道は足下が悪いので1日かかると思う」
四人は深い森を進む
女性三人を守るように狩人が前を歩く
途中、急に弓矢を放ったかと思うと、森の中に駆け入り、山鳩を持って帰ってきた
学者「おほうっ、食料げっと!」
料理人「狩人くんがいると楽勝な気がするなあ」
薬学士「頼もしいね!」
狩人「あう……///」
四人は川に辿り着くと湖を目指し上っていく
料理人「学者さん、大丈夫?」
学者「いやあ、私は荷物少ないし楽勝でっせ!」
薬学士「魔物もあまり遭遇しないし、思ったより早く着くかも……」
そんな話をしていると、魔物が出てくるものである
魔物「ぐるる……」
学者「あれは食えないよ?」
料理人「魔物は毒あるからね」
狩人「……いっぱいいます」
薬学士「囲まれたかも」
料理人「!」
周囲から忍び寄る大型含む十数頭の魔物……
薬学士「えいっ」
薬学士は可愛い掛け声と共に黄色い玉を森に投げ込んだ
響く轟音と閃光――
学者「うひゃあああああああっ」
料理人「うおおっ」
狩人「こっ、これは……」
薬学士「みんな目を瞑って!」
料理人「……さ、先に言ってね?」
その黄色い玉は比較的野生動物に近い魔物を驚かせ、退かせるための閃光衝撃弾であった
四人は大した戦闘をすることなく、この場を切り抜けた
料理人「慣れてるなあ」
学者「ふひひ、私も作り方教わりたいですなあ」
狩人「頼もしいね~」
薬学士「まだいっぱいあるよ~」
薬学士の戦闘能力は、パーティーで最も高いかも知れない
しかし弾数に制限がある以上、頼りきるわけにもいかない
料理人の提案で、敵が少数なら物理的に戦って切り抜けることに決めた
湖に着くまでに、数度の肉弾戦をこなし、数発の魔法弾を使った
料理人「湖が見えてきたぞ」
学者「いやあ、さすがに疲れましたあ」
料理人「昼も食べてないからな、さっきの鳩で料理しよう」
狩人「僕は魚を釣ってきます」
料理人「なんと言う食料確保要員」
薬学士「料理人ちゃんもいるし楽しく旅ができちゃうなあ」
学者「強力な魔物が居なければいいんですがにい」
料理人「怪我人が出れば途中帰還も考えないと駄目か……」
料理人は火をおこすと、台を作り、鍋を乗せる
学者「鍋を常備するあたり、流石料理人」
薬学士「わくわくする!」
料理人「焼き物もできるように厚手の片手鍋を持ってきた」
学者「重かったんじゃないですかあ?」
薬学士「あ、そうだ」
薬学士はその背丈の半分は有りそうなリュックを下ろすと、布を巻いた小さなビンを取り出した
薬学士「料理人ちゃん、これ飲んで?」
料理人「ん?」
薬学士が取り出した薬の匂いを少し嗅いでみる
何かその匂いだけで背中に熱が上がってくるのを感じる
一口、口を付ける
料理人「……これは……」
薬学士「ちょっとした疲労回復薬だよ~」
一気に薬をあおると、料理人はすっかり疲労が回復し、やる気まで湧くのを感じた
料理人「有り難う、薬学士」
薬学士「いっぱい用意したから使わないともったいないからね~!」
料理人「ふふっ」
料理人は鍋をさばきつつ、薬学士の頭を撫でた
薬学士「あうう///」
学者「よいですなあ、らぶらぶですなあ」
料理人「それは違う」
料理人は木を切り出し、板を並べ、そこにお皿を並べる
学者「お皿まで……どんだけ準備しておるんですかそなたは」
料理人「みんなに美味い物を食べさせるのが私の仕事だからね」
学者「しかも包丁で木を斬るとか……初めて見やしたわ」
料理人「私の師匠に言わせると、包丁一本で木の伐採から魔物の討伐まで全てをこなすのが真の料理人らしい」
学者「断じて言おう、そんな料理人はあんたとその師匠だけであると!」
薬学士「でも、すごく助かるよ~」
料理人「ん、任せて」
料理人はそう言うと、包丁を研ぎだした
学者「ありゃ? 欠けちゃいましたか?」
料理人「ん~、まあ仕方ないよね、これは」
薬学士「……欠けない包丁作ろうか?」
料理人「??」
学者「そうか、魔晶石を使った魔法剣ならぬ魔法包丁ですな」
薬学士「うん、とりあえず専門設備が無いと無理だけど、いつか必ず作るよ」
料理人「そっか、有り難う、それはすごく便利そうだね」
そう言うやりとりをしていると、狩人が声を上げた
狩人「フィッシュ!」
どうやらかなりの大物のようである
しかし、しばらく様子を見るに、どうやらそれは魔物であるらしかった
料理人「マズい、行こう!」
薬学士「はいっ」
学者「あう、私はお鍋見ておりやすぜ!」
巨大な魚型の魔物は、何の躊躇もなく陸上に上がってきた
狩人に食らいつくか水に落とそうとしているようである
料理人「包丁一刀流、三枚下ろし!」
料理人の包丁から閃光が迸る
料理人の戦闘術は基本的にこの魔法の刃による斬撃である
狩人は竿を放すと、すかさずナイフで魚の顎を貫く
しかし、魚は痛覚を持たないと言われている
数撃の斬撃を浴びせかけたくらいでは止まらない
狩人は魚の攻撃をかわし、木に衝突してしまった
狩人「うわっ!」
料理人「くそっ!」
料理人「兜斬り!」
料理人は包丁に魔翌力を集中すると鋭く巨大な斬撃で魚の頭を叩き落とす
狩人「ううっ……」
料理人「大丈夫?!」
薬学士はすかさずポーションを取り出し、狩人に与える
狩人「ふうっ……はあ……」
狩人「……有り難うございます、痛みが和らぎました」
料理人「ちょっと大物すぎたね」ハハッ
料理人「じゃあご飯作るから、休んでいてね」
料理人は狩人を抱えて元居た場所に戻る
学者「お姫様だっこですかあ、うひひゃ」
料理人「斬るよ?」
薬学士「いいなあ」
料理人「えっ」
そのまま四人は湖で一泊することにした
薬学士は料理ができるまで植物や鉱石を集めている
学者「ジビエって臭いが強いイメージありますけど、いい香りですなあ」
料理人「旬に内臓を傷つけないように穫って、新鮮なうちにちゃんと処理したら案外いい匂いなんだよ」
料理人「血抜きしてないとか、時期を外すとかすると臭いと言うか食べられないことがあるけど」
学者「ほへぇ、難しいもんでやすなあ」
料理人「私にしてみたら学者さんや薬学士がやってることの方が難しいと思うけど」
学者「そりゃ専門ってものが有りますわな」
料理人「つまりそういうことなんだろうね」
学者「プロフェッショナルですなあ」
料理人「私はそんな大したもんじゃないけど……、この肉も少し熟成させた方が美味いんだ、帰ったら塩漬けにしてある奴食べよう」
学者「楽しみでがす」
薬学士「おなかへったあ……」
皿が少ないので、いくつかの料理を一緒に盛り付ける
日持ちする根菜類が中心ではあるが、メインには肉を使える
料理人(狩人くんのお陰だなあ)
…………
料理人「やっぱり食器も大事だなあ」
学者「まあ荷物増やすのも駄目でやすし」
薬学士「でも美味しそう~」
料理人「ありがと、油を大量に使うフライとかは流石に難しいけど、ソテーとかできるだけ凝ったもの作るよ」
狩人「さっき釣った魚、血抜きして内臓も処理して葦で通しておきました」
料理人「うん、これは明日食べよう、あ、塩はたくさん持ってきたから締めておいて」
狩人「了解!」
学者「魔物じゃないですよね?」
狩人「これは大丈夫です」
薬学士「肩は大丈夫?」
狩人「えーと、……うん、若干痛みはありますがポーションが効いたみたいです」
狩人「有り難うございます、薬学士さん」
薬学士「てひひ~///」
料理人「じゃあ、食べようか」
三人「いたらきまーっ!」
食事を終えると、テントを張って就寝の準備をする
交代で見張りをすることにして、料理に使った火に薪を加えて魔物除けにする
最初に料理人が見張りをすることにした
三人は二組に別れてテントに入る
しかし、少しすると薬学士がテントから出てきた
料理人「眠れないの?」
薬学士「……うん」
薬学士「ちょっと怖くなっちゃって……」
料理人「あれはこの前話してた哲学者の石とは違うのか?」
薬学士「それは間違いなく違うよ」
薬学士「何より哲学者の石はすごく高い純度で、血のような赤い色をしてるから」
料理人「あれはピンク色だったもんなあ」
薬学士「なにが怖いって、哲学者の石と違って魔晶石はすごく不安定なんだ……ひょっとしたら明日にも爆発するかも分からないくらい」
薬学士「自然生成では前例がないし、人工生成でも成功例がない」
薬学士「と言うか危ないから作らないし」
料理人「なるほど」
料理人「眠れないならホットミルク作ろうか?」
薬学士「ミルクまで持ってきたの?」
料理人「うん、腐るからあんまり量はないよ」
料理人「早めに処理したいから飲んじゃいなよ」
薬学士「うん、じゃあもらう~」
料理人「よし」
料理人は鍋を火にかけると、ミルクを注ぎ込む
薬学士「寒いね……」
料理人「まだ四月だしね」
料理人「寒いならこっちにおいで」
薬学士「うん」
料理人は自分がかぶっている毛布を薬学士に半分かけると、優しく抱き寄せる
片手でリュックからコップを取り出すと、少し水を入れて濯ぐ
鍋を持ち上げ、コップにミルクを満たしていく
料理人「はい」
薬学士「有り難う~」
薬学士「星が綺麗」
料理人「明日も晴れそうだな」
料理人「天気が崩れないうちに辿り着けたら良いが……」
薬学士「うん」
料理人は可愛い薬学士の瞳に映る星の光と火の灯りに、うっかり見とれてしまう
料理人(……)ハッ
料理人(……っわわ、……気付いてないかな?)
料理人(今の、私が男だったらヤバかった)
薬学士を見ないように星に目を向ける
すると今度は薬学士が料理人の瞳に見とれてしまう
薬学士は、料理人の真剣な眼差しが好きだ、と思った
料理人「少し寝ておこう」
薬学士「うん」
薬学士はテントに入り、眠りにつく
料理人は少し心地いい胸の鼓動を感じつつ、空を見上げた
空が白みだした頃、狩人が起きてきた
狩人「あれ? まだ交代して無かったんですか?」
料理人「あ、うん、ちょっと寝れなくて」
料理人は狩人に交代してもらい、眠りについた
翌朝――
料理人「さて、朝ご飯作るか」
塩と水だけで練った小麦粉を鍋にバターを落としてから、焼く
たったそれだけだが、美味しそうな香りが立ち上る
すると一晩中寝ていた学者がのろのろと、まるで香りにおびき寄せられたように起きて出てきた
学者「あう、見張りしてない」
頭を抱えてうにうにする様が、実に気持ち悪い
料理人「顔を洗っておいで」
学者「ほえあ~」
返事やら唸ってるやら分からない返事をして、学者は湖に向かった
そして続いて、薬学士が起きてくる
薬学士「おはよ……ふあぁ」
料理人「おはよう」
薬学士「うん? 料理人ちゃん寝てないの?」
小首を傾げる薬学士はさっきのモンスターと違い実に可愛い
そう思ったところで料理人は、ヤバいヤバいと首を振る
薬学士「?」
料理人「私は狩人くんと交代して少し寝たよ」
薬学士「狩人くんは?」
料理人「また釣りをしてる」
薬学士「またモンスターを釣らなきゃいいけど」アハハ
料理人「そうだね」クスッ
そう言った瞬間、狩人の声が上がる
狩人「フィッシュ~!」
料理人「」
薬学士「」
二人は一瞬凍りついたが、どうやら今度は普通の魚のようだ
狩人は大物を釣り上げるとニコニコしてその魚を掲げて見せた
料理人「おお、立派なトラウトだ、料理しがいがあるな」
狩人「やったよ~」
学者「うひひゃ、立派なモンスターですねえ」
料理人「全くね」ハハッ
簡単な朝食を終えると、四人は早急に片付けを済ませて再び旅立つことにした
今日中に峡谷に着きたいところであるが、湖をまわるのに1日かかる計算である
湖の浜辺に足を取られるので、少し大回りで回避する
食料類はほとんど料理人が持っているが、テントを背負っている狩人も歩きづらそうである
ふと、料理人は思った
これから訪れる秋風峡谷の魔王は薬学士の師匠だと言う
実際人間に親身な魔王が多いこの世界では、それ自体が咎められることではない
料理人が気になったのは、こんなに人里から離れている峡谷に何故薬学士が旅立ち、魔王に教えを請い、また村まで帰ったのか、と言うことだ
料理人(しかも今十五ってことは、少なくとも十二~三才でそんな旅をしたってことか……?)
料理人は薬学士を見る
自分にぴったりくっついて歩く薬学士が、可愛い
いやいや、そんなことではなく
この子には一体どんな過去が有るんだろう?
それが気になった
秋風魔王に会ったら、こっそり聞き出せるだろうか?
ふと、薬学士と目が合う
ニッコリ笑う薬学士が愛おしい
料理人「大丈夫?」
薬学士「うん、大丈夫だよ!」
学者「それにしても料理人ちゃんも狩人くんも健脚でやすなあ」
学者「山歩きになれてるんですにー」
料理人(まともに喋れない人なんだな……)
狩人「僕は山歩きが仕事ですからね」
料理人「私も似たようなものだよ」
学者「私らも結構山に入るんですがなあ」
薬学士「やっぱり鍛えてる人は違うんだよ」
そんな会話をしながら、昼を過ぎた頃に湖の対岸に着いた
秋風峡谷はまだ遠い
料理人「やっぱり一日かかるかあ」
学者「仕方ありませんな~」
薬学士「休憩しなかったら行けると思ったんだけどな~」
狩人「でも明日も湖で食料確保できますよ」
料理人「そうだね、ここでキャンプして昨日の魚と今朝の魚をさばこうか」
翌日――
四人は木のまばらな小川を、峡谷に向かい歩く
少し疲れたのか、みんな無口になっている
料理人の荷物は、少し軽くなっていた
歩くのは楽だが、それは食料や水が少なくなっていると言うことを示してもいた
いざとなればこの川の水は使える
川に小魚がいるのが見えたので、峡谷の入り口でそれを釣るのも良い
峡谷の入り口に辿り着いたのは日が暮れる少し前だった
料理人(だいぶみんな参ってるみたいだな)
料理人(干し肉でリゾットを作って、薬草を香草のかわりに使ってみるか……)
薬学士「疲労回復薬飲む?」
料理人「ああ、一つもらうよ」
薬学士「帰りの分はあるから、みんなも飲んでね」
学者「ありがたや」
狩人「いただきます」
全員に回復薬を渡すと、薬学士は自分でも一つ飲んだ
よっぽど皆、疲れているのだろう
しかしその夜は、まず料理人を眠らせてから、三人で見張りすることに決めた
薬学士「料理人ちゃん絶対無理しちゃうからね」
狩人「お二人も寝て良いですよ」
薬学士「私は二番目に起こしてね、最後に学者ちゃんで」
学者「ちゃんと起こしてくだしいよぅ?」
薬学士「……」
学者「やっぱり」
学者「うちは無理する人ばっかりですにゃん」
狩人「明日には目的地に着くんですから、無理は禁物です」
薬学士「うん」
学者「じゃあ、くれぐれもちゃんと起こしてくだせえ! お休みなさいですわ~」
その日は三人できっちり交代したが、翌朝起きた料理人はやはり少し不機嫌だった
料理人「仲間外れ……」
薬学士「じゃないよっ!」
料理人「もう、頑張って料理しちゃうからね!」
学者「楽しみですなあ」
狩人「うん!」
狩人が夜の間に釣り上げた魚を塩焼きとスープにする
更にその魚ほぐし、ご飯と一緒にバターとニンニクで炒め、香草を振る
食後に紅茶を入れる
食材は乏しいながらも、三人は十分に満足できた
少し食休みの後、渓谷を進んでいく
元気を回復した四人は、昼過ぎには目的地、秋風峡谷の魔王の家に辿り着いたのだった
第一章、「料理人と薬学士」 完
次回
旅の果て、現れた秋風峡谷の魔王
秋風の語る薬学士の過去
そして謎の魔晶石の正体とは……
やがて村に忍び寄る不穏な空気……
第二章「料理人と魔晶石」
力……それは争いの火種……
支援おつ。
続編かな?
期待。
更新します
支援ありがとうございます!
>>44
以前書いていたのとは別の時代(千年前とか)か違う世界と言う設定です
誰かレシピ教えてください!
第二章「料理人と魔晶石」
――――
戦争が始まった
いつもエールを飲みながら無敵の筋肉が弾ける程に笑っていた親方
親方に乗りかかるように笑う隻眼の大工さん
それを見て苦笑しながらもその空気を愛していた漁師さん
傍らで微笑む小さな女の子
女将さん……
分かっていた
永遠なんて
永遠なんて無い
…………
薬学士「料理人ちゃん、おはよー!」
可愛い妖精が私の眠気を払いのける
料理人「……おはよ……」
料理人は薬学士の声で目覚めた
強制的に起こされたら例え相手が妖精でも若干は不快感を催すはずだが、そんな感覚が一切ない
寝過ぎた……
つまりそれは、
料理人「あ、見張りしてない……」
…………
料理人は自分だけ仲間外れ、と愚痴ったものの自分も同じことをうにうにしている学者にしていたのを思い出す
因果応報、自業自得、身から出た錆、世の中にはたくさん言葉があるものだ
料理人は薬学士を抱き締めて、すっかり目を覚ます
非常にほわほわ、柔らかい
……薬学士が全く嫌がらないばかりか、リラックスした猫のように腕の中で伸びをするのはどうかと思うが
料理人は出会って一週間のパーティーに酷く依存しているのを感じていた
人から逃れて田舎に来ていたはずが
『人間が好き』
その事実は変えられないようだ
自分はどうあっても自分なのだ
どんなに自分を嫌い、追い詰めようとしても……
…………
今日、彼女たちは峡谷を歩く
秋風峡谷と呼ばれる絶壁の中程に、少し広い盆地がある
そこに建っている小屋
そこが四人の目的地だ
良く寝たことと昨日回復薬を飲んだことが効いているのか、不思議なほど疲れを感じない
皆も驚くほど健脚を取り戻している
薬学士「今日のご飯も美味しかったから元気いっぱいだよ~」
などと可愛いことを言ってくれる妖精もいるが
しかし目的地に近付くに連れ、その晴天の笑顔にぽつぽつ曇が出てくる
料理人はこの旅の途中に考えたことを思い出していた
薬学士は何故、ここまで険しい道を幼くして乗り越え、また帰って行ったのか
秋風峡谷の魔王に会えば、その答えが分かるかも知れない
しかし、薬学士の様子を見ると決して自由に触れて良い類の話でもなさそうだった
そこは魔王の住処とは思えないほど、小さな小屋である
小屋の前には畑があり、そこで作業する女性の姿がある
薬学士「お師匠さまあ~!」
この女性が
秋風峡谷の魔王――
…………
薬学士は悩み始めていた
自分は秋風に……
許してもらえるのだろうか
あの頃のようには、あの事に、もう執着はない
何より過去に捕らわれ、大切な家族を二度も失ってしまったのだ……
薬学士の心には、彼女にもう一度突き放される恐怖と、逆にまた会える喜び、複雑なその二つの感情が渦を巻いていた
隣を歩いてくれる料理人の手を握る
かなり依存している
……不快では無かろうか、気持ち悪いと思われているだろうか?
またこの家族を、失うのは嫌だ
だから離したくない
抱きしめていたい
そこには邪な感情など無いのだ
だけど表情に出さないだけで、ひょっとしたら嫌がられているかも知れない
しかし笑顔で微笑みかければ、必ずにっこり笑顔で返してくれる……
…………
秋風峡谷の魔王を見ると、薬学士は精一杯元気に声をかけた
魔王はゆっくりとこちらを見上げると
薬学士に笑顔をくれた
秋風「お帰り、不肖の弟子」
その顔を見た途端、薬学士は弾けるように走り出す
強く抱きしめあう二人
薬学士「お師匠さま、お師匠さま……」
いつも明るい薬学士の涙
彼女と出会って日の浅い料理人も、長い付き合いの狩人と学者も、そんな風に人目も憚らず号泣する彼女を見たことがなかった
料理人(なんか……何故私はもやっとしているのか……)
…………
秋風「なるほど、そんな物があったらキミも帰ってくるだろうな」
秋風「だが、私はキミを破門したはずだけれど」
その言葉を聞くと、薬学士がビクッと震える
秋風「もう一年以上になるか……頭は冷えたか?」
秋風の名が示すような高く透き通った声
赤い髪と瞳を除けば、私たちとまるで変わらない
料理人は魔王に会ったのが初めてでは無かったが、みんなこんなにか弱い存在なのか、と思うほど
彼女も細身で小さい
料理人(いや、私がデカいだけだけど)グスッ
彼女も一応学者くらいの背丈はある
しかし料理人はこういう可憐な女性に会う度にこうなりたい、と思う
秋風魔王の小屋で、料理人は台所を借りることにした
どこから手に入れたのか、新鮮な野菜や肉が置いてある
しかもそれはひんやり冷えた箱の中に入っていた
料理人(これ、冷蔵庫って奴だ、うわっ、欲しい)
さっそく腕を振るうべく、目を閉じイメージを固める
可愛い薬学士を守る料理だ……何故かそう思った
温かいメニューを選ぼう
まずメインにシチュー
ポークソテー
トラウトの手鞠寿司
ポテトサラダ
この辺りを中心に行こう
決めると流れるように動き出す料理人
あまりの手際の良さに秋風も目を丸くしている
様々な料理があっと言う間にテーブルに並ぶ
秋風「魔王のごとくだな」
いや、魔王はあなたです
全員で心の中でツッコむ
そういえばあの魔王はシチューが好きだったな、料理人は思い返す
自分でも泣き虫なのは知っているので、涙が出る前に記憶の端に押しやった
秋風「こんなちゃんとした飯を食うのはいつぶりだろう」
秋風「ワインを開けよう、そこのメガネのキミは飲めるか?」
学者「はいな!」
とても元気な返事である
だいぶ強いのかも知れない
秋風「良かった、独りで飲むのはつまらないからな」
しかし、これは上手く行きそうだ
料理人は少し気が楽になった
料理人(彼女がお酒を飲むなら、若干濃いめの味の物も用意するか)
…………
秋風は見た目とは裏腹に、意外と大食だった
この師にして、この弟子あり、と言うことか
お腹が落ち着くとリラックスするものだ
薬学士はゆっくりと口を開いた
薬学士「もうあの事に未練はありません」
……皆が少し静かになる
すると
秋風「うぐっ、えぐっえっ……」
秋風の魔王は泣き上戸だったようだ
秋風「ごめんね不肖の弟子ぃ……」
グズグズに泣き崩れながら薬学士を抱き締める
薬学士の大きな目にも一杯の涙が溜まっている
料理人は心の中で小さくガッツポーズしていた
…………
秋風「ん……、その魔晶石、外殻はどうなっていた?」
秋風の言葉に二人が大きく目を見開く
学者「外殻……!」
薬学士「!」
薬学士「そうか、あれだけ大きな魔晶石でも基本的に……」
秋風「そう、魔晶石は外気に触れると無闇に精霊反応を起こさないように外殻を作る」
秋風「物によるが外殻が大部分で、実際使える量は半分から四分の1しかないってこともある」
秋風「逆に言えば外殻を作らなかった魔晶石は精霊になって蒸発してしまう」
秋風「私の推測では」
秋風の目が二人を見ると、ごくりと唾を飲む音が聞こえる
秋風「それは群体ではないかな?」
学者「群体っつーとあのボルボックスとかの奴ですかい?」
秋風「それとは若干違うかな」
薬学士「でもお師匠さま、確かに天然魔晶石は魔法菌が特定の地質に反応して結晶化する事は分かってますが」
薬学士「私は魔法菌が群体を作った話は聞いたことがありません」
秋風「うん、非常にレアなケースだな」
秋風「だが私は百年ほど前にそう言った話を聞いたことがある」
料理人「」
料理人「ひひ、百年?!」
やはり目の前にいるのは魔王なのだ、料理人は初めて理解した
秋風「まあ魔王だしな、こう見えても二百が近いぞ」
秋風「それの処理はだな、まず外殻を溶剤で溶かす」
秋風「この時あまり広い範囲を溶かすと爆発の危険がある」
秋風「ある程度溶かしたら、次に薄めた溶剤、しばらく置いたら続いて安定剤を注ぐ」
秋風「こうして少しずつバラしていく」
料理人には全く掴めない話だが、薬学士と学者はメモを取りつつ大きく頷いている
秋風「それだけ大きいなら外殻がかなり厚いはずだからそこに気をつける」
…………
秋風「あとだな」
秋風は何故か料理人の方をちらりと見た
秋風「そんな多量の魔晶石を置いていたら、どこぞの魔王が攻めてくるぞ」
秋風「出来るだけ上手にさばけ」
最後の話は料理人にも狩人にも理解が出来た
薬学士「お師匠さまもいくらか預かってくれますか?」
秋風「いいよ、もらおう」
秋風「処理には私も立ち会おう」
魔晶石……それがあれば魔法剣を作ったり万能薬を作ったり出来るらしい
料理人はあの魔晶石の大きさを思い出していた
あれだけあれば小規模な軍隊なら全員に魔法剣を持たせるようなこともできるかも知れない
それは実質的に世界を手に入れるにも等しいだろう
料理人はようやく話の重大さに気付いた
秋風「南港の魔王にも話をつけておいてやる」
秋風「まあ不肖の弟子は三つくらい持っておいて、研究にでも使え」
……それは破門した弟子の復帰を許すと言うことに他ならない
薬学士は手を口に当てて、声を抑え泣いた
料理人は彼女を抱きしめた……
秋風「あれ、そう言う関係?」
料理人「違います」
薬学士「///」
料理人(なぜそこで赤くなるのか、可愛いではないか)
料理人は一瞬悪代官な気分になった
秋風「帰りは美味い飯の駄賃に私が送ってやる」
秋風「不肖の弟子も魔法ぐらい使えたら良かったのだがな」
魔法を使える人間は、実に少ない
料理人にしても、僅かに魔法の刃を作る程度である
基本的に魔法使いは精霊と契約した上で、魔法の指輪などを装備しなければ魔法を使えない
料理人のそれは、鍛鉄を介し魔力を放つだけのもので、殆ど魔法とは呼べない代物である
その日は秋風の小屋の中で寝ることになった
しかし、狭い上にベッドも二つしかない
今更ながらこういった家具をどうやって運んだのか気になったので料理人は秋風に聞いてみた
秋風「魔法で」
魔法便利だな
料理人「私も普通に魔法を覚えておけば良かったかな?」
包丁一刀流の門下としては包丁で使えない魔法を使うわけにはいかないが
学者「妙なこだわりでおじゃるな」
妙なのは学者の話し方だ
薬学士「私でも大型の魔晶石を使えば魔法が使えますけど……」
秋風「それは誰でもだからな」
狩人「僕にも使えるんですか?」
秋風「魔法剣を振るようなものだ」
狩人「なるほど……」
料理人「つまりあの魔晶石を解体したらみんな魔法使いか」
秋風「だから恐ろしいんだ」
秋風「魔王が奪い合う種になるのも分かるだろう」
料理人「それも当然か……」
秋風「さて、皆、もう休め」
薬学士「はい」
秋風の魔王は、可愛い不肖の弟子を抱きしめて、頭を撫でた
料理人「で、どこで寝ようか?」
秋風「……」
秋風「うむ、私と弟子が一緒に寝るとして……」
秋風「どうしても一人はソファーで毛布になるな」
狩人「それでも野宿より良いです、僕ソファーで寝ます」
秋風「すまんな、客用にベッドを追加しておくか」
…………
料理人はあまり気は進まないものの、学者と寝ることになった
蹴り落としても悪いので仕方がないから寄り添って寝る
学者がメガネを外すと、見たことの無い美人が現れた
料理人「うおっ」
学者「どうかしやしたか旦那! モンスター?!」
むしろメガネをかけると汚いモンスターに戻る
学者「何気に失礼なことを考えられた気がしますにゃん」
うるさい
学者が再びメガネを取る
なんという萌えキャラ
これはこれで一緒に寝るのが気まずい
良く見えないのだろう、こちらに顔を近付け、真っ直ぐに見つめてくる
料理人(危ない、これは危ない)
学者「こうやって見ると料理人さんは可愛いでやすな、ムラムラしやす」
するな
学者「灯り消しやす」
料理人「あ、うん」
顔が近いし、少し酒臭い
そう言えば学者は結構飲んでいた
ヤバいかも知れない
学者「んふっ」
ヤバいかも知れない
学者「すいやせん、あっちむきやす、食っちまいそうなんで」
料理人は学者を蹴り落とすのをギリギリ我慢した
なんとか襲いも襲われも蹴り落としもせずにその日はやり過ごせた
考えてみれば初めて妖精さんと寝た時も耐えたのである
いや、薬学士とは抱き合って寝たけど
…………
秋風「弟子」
秋風も酒が入っている
秋風「弟子ぃ」
薬学士「はい、お師匠さま」
弟子、弟子と何度も呼んだ挙げ句、抱きしめてきた
薬学士「お師匠さま、寂しくさせてすみません」
薬学士は抱きしめ返す
秋風「うん」
薬学士「お師匠さまは私の大切な家族です」
秋風「うん」グスッ
薬学士「もう、あの事は無理なことは分かっています」
秋風「そうだな」
薬学士「また家族に戻っていいですか?」
秋風「破門はしたけれど、家族をやめた記憶はない」
薬学士「……!」グスッ
秋風「弟子ぃ……」グスン
秋風は薬学士の額にキスをして、強く抱きしめて、泣いた
狩人「……」
狩人「……寂しい」グスン
…………
朝――
秋風「……」
秋風は少し記憶が飛んでいて、目が覚めた時になぜ妖精さんを抱きしめているのか一瞬考えた
そうだ、可愛い可愛い私の弟子だった
秋風はまた薬学士の額にキスをする
小さな薬学士は、頭も小さいな、とか考える
まだ寒いので、この体温を手放したくないな、とも思う
しばらくは抱きしめただけでいたが、思わず薬学士の体をさすってしまう
秋風「やーらかいのう」
自分は母親代わりだと思っていたが、変態オヤジだったようだ
あまりあちこち触ったので薬学士が目を覚ましてしまった
秋風が本格的に目覚める前に起きて良かった
薬学士「ん……ママ……」ギュッ
寝ぼけている
可愛い
何か切れそうだ
いや、切れた
秋風「弟子ぃ」ガバッ
抱きしめる
あちこち撫で回す
薬学士「あ、あ、お、師匠さま……!」
薬学士「ごごご、ごめんなさい!」
慌ててベッドを飛び出す薬学士
秋風は思い切り残念そうな顔をした……
料理人がキッチンに立っていると、顔を真っ赤にした薬学士が飛び出してきた
見たこと無い
こんな可愛い妖精さん見たこと無い
恐らく秋風と何かあったのだろう
ムカつく
料理人「顔洗っておいで」
薬学士「う、うん///」
何故かこちらを見て、一層赤くなる
たぶん哲学者の石はこんな色だろう
料理人「……」
料理人「帰ったら寝室を分けなければ……」
あんな顔を毎日されたら楽々一線を超える自信がある
如何に鋼のごとくそう言った、それ、を否定していても
鋼くらいは楽々ポッキリと曲がりそうである
料理人「うおっ、焦がすとこだった!」
シチューの残りを温め、サイコロに切ったパンにかけ、チーズをかける
ちょっと表面を焦がす
料理人「……うん、これでいいかな」
薬学士「美味しそう」
急に横にぴったり妖精さんがくっつく
必死に頭から追い出したのに……
料理人「ちょ、席に着きなさい///」
薬学士「はあい」
学者「朝からいちゃいちゃしておりやすなあグヒヒ」
料理人がベッドから出て、うっかりちょっと踏んでしまっても起きなかった学者が美しい顔を丸出しで起きてきた
早くモンスターに戻れ、ツッコミを入れ難い
料理人「早く顔を洗ってきなよ」
学者「ういっす」
帰ってきた学者はメガネをちゃんとかけていた
ひょっとしたらモテすぎるとかの理由でわざと似合わないメガネをかけてあんなしゃべり方をしているのかも知れない
…………
秋風はだらしなくお腹をかきながら起きてきた
秋風「水ちょうだい」
秋風が呟くと薬学士がトテトテ走ってくる
料理人「はい」
コップに水を入れて渡す
薬学士「ありがと」ニコッ
うん、可愛い
秋風「弟子ぃ」ダキッ
薬学士「こっ、こぼれます!」
狩人「はあ……」
料理人(狩人くんいたの気付かなかったよ……)
…………
秋風「よし、飯も美味かったし、飛ぶぞ」
薬学士「はい、お師匠さま」
五人は手早く荷物をまとめて、外に出た
秋風の指示で四人は秋風を取り囲み円陣を組む
秋風「帰還魔法……」
秋風が目を閉じ、意識を集中しているのが分かる
力が集まってくるのを感じる
光が全員を包むと、ゆっくり体が浮き上がる
学者「おおお、初体験!」
狩人「すご……」
言い終わる前に、急激にスピードが上がる
四日かけて旅してきた道が眼下に見える
数分後、やがて逆向きの力がかかる
料理人「酔いそうだ……」
対面の学者の顔が青い
秋風に吐きかけないと良いのだが
空から降りてくる五人を見て、村人たちが騒ぎ出す
秋風「ん、夜のうちに飛べば良かったな」
村長「おお、秋風峡谷の魔王様ではありませんか」
秋風「うん、村長くんか、皆を静かにさせてくれるか?」
狩人「お知り合いなんですか?」
村長「秋風様は昔はここに住んでおられたからな」
狩人「そうなんですか」
…………
料理人「……気持ち悪い」ウプッ
薬学士「……」フラフラ
学者「えれえれ……」
狩人「だ、大丈夫ですか、皆さん」
秋風「まああんまり放置出来ないから、さっさと処理しに行くぞ、無駄な荷物は置いておいで」
秋風「ああ、弟子は薬品揃えてきなさい」
薬学士「はあい……」
料理人「……うう……」
学者「わ、私も……手伝うううっ」パタン
狩人「無理はしないでくださいね」
狩人は学者を抱えて薬学士の家に入っていく
料理人「……食材が痛んでないか見てくるか……」
…………
巨大魔晶石の在処に辿り着いた五人
秋風の見ている中、薬学士と学者の作業が始まる
薬学士「まずは外殻を溶かす……」
秋風「外殻だけを溶かすギリギリの量をきっちり見極めろよ」
秋風「爆発するぞ」
薬学士「……」ビクン
学者「……」ビクン
秋風「まあそんな簡単には爆発しないけどな」
薬学士「……」
学者「……」
料理人は危険なシーンの筈なのに何故か笑いが堪えられなくなった
料理人「……ぷっ……くくっ……」
薬学士「……」
学者「……」
狩人「あははっ」
秋風「さあさあ、手を動かせ、ここで時間をかけるのはマズいぞ」
秋風「しかし見事な群体だな、ここまで集まることなど、この先千年であるだろうか?」
料理人「そこまですごいものなんですか」
秋風「ああ、現にこいつら専門家が取り乱す程だからな」
秋風「だがキッチリ処理すれば基本はただの魔晶石だ」
薬学士「しかしこれだけ純度が高くて大きいとかなり危険ですよね?」
秋風「だから不肖の弟子にやらせている」
学者「不肖と言いながらも信用されてるんでしなあ、弟子だけに」
料理人「……」ニッコリ
学者「その笑顔は怖いでやす……」
秋風「話を聞いてないのか、手を動かせ」
薬学士は黙々と作業を続けている
ぷつぷつと額に汗をかいているのを見て、料理人はそれを拭ってやる
緊張感が高まっているのが手に取るように分かる
最悪この辺りの土地と一緒に全員吹き飛ぶことになるのだ……
緊張しない方がおかしいだろう
薬学士「外殻、抜けました」
秋風「よし、溶剤を薄めろ、間違うなよ?」
学者「ういっすおいっす」
料理人「……」
料理人(今、こんなのに命を預けてるわけか……?)グスッ
ちょっと泣きそうになった
その時、背後で音がする……
もれる吐息の音と醜悪な臭い……
秋風「魔物か」
秋風は魔物の存在を認めると、手のひらを向ける
料理人は、その白い指を綺麗だな、と思いながら見つめた
秋風「……爆裂魔法」
ドン、と言う爆発音
薬学士「」
学者「」
秋風「すまん、魔法のチョイスを間違えたな」
大型のトロールだったが、一撃で消え去っていた
二人は自分の手元に爆発物があるので、思い切り驚いたことだろう
心臓が止まってないと良いが
しばらく硬直していたが、再び動き出す二人
秋風「薄めた溶剤に安定剤を少しずつ足していけ、間違うなよ」
秋風が、間違うなよ、と言う度に二人の顔に緊張が走る
だんだん可哀想にも思えてきた
しかし、危険なのは間違いないのだ
やがて外殻を更に上から溶かして行く
ジリジリとした緊張感の中で、なかなか進まない作業
料理人(一旦帰って昼食を作って持ってこよう……)
秋風「……帰るのか?」
料理人「お弁当作ってきます」
秋風「そうか、楽しみだ」
この緊張感の中で食欲が落ちない辺り、魔王なのかも知れない……
秋風「お前の飯は美味いからな……」
料理人「有り難う御座います」
薬学士もこっちを見て涎を垂らしている
何も言わなかったが、その顔を見ると料理人も緊張感が和らいで、自分もお腹が空いてるのが分かった
料理人「……」
料理人(死ぬ時は一緒だ……)
…………
料理人はトーストサンドやフルーツサラダ、魚のフライなどを作り、早々と帰ってきた
狩人「ここまで上り下りするだけでも大変なのに、すごい」
料理人「待ってる人がいると気合いも入るよ」
秋風「うむ、待ってたぞ」
秋風は早速バスケットを開ける
料理人(あ、この人も結構大食だっけ?)
料理人(まあかなりたくさん作ったけど)
二人が手を休めず作業している後ろでパクパクと食べ出す秋風
薬学士「おのれ、まおうめ……」
料理人は可愛い獣を見つけた気がした
秋風「食ったら変わってやろう」
薬学士「さすがお師匠さま!」
料理人(ほんとに食べるの好きなんだな~)
料理人はふと気付いた
料理人(そっか)
料理人(あの子とおんなじなんだな)
料理人(……)
遠い目をしていると、秋風に悟られる
秋風「そう言えばキミはどこの町から来たんだ?」
薬学士「……!」
料理人「……東森地方の大楠の国です」
秋風「……」
秋風「そうか」
恐らく秋風はあの戦争のことを知っているのだろう
しかし眉一つ動かしはしなかったが
薬学士「……?」
秋風「東森には二人ほど知り合いがいるな」
料理人「……!」
料理人「大楠の魔王もですか?!」
秋風「……うむ」
秋風「さて薬学士、変わってやる」
料理人「あ、待って……」
秋風「薬学士も腹を空かせてるからな」
料理人「……くっ……!」
はぐらかされた
その事が全てを示している気がした
料理人「……」グスッ
料理人「ううっ……」ポロポロ
料理人(駄目だ、皆がキツい作業をしている中で動揺しては……)
料理人「ぐっ……」ポロポロ
薬学士「……料理人ちゃん……」
料理人「あ、薬学士ごめん、お腹空いたよね」グスッ
料理人「はい、これ」
バスケットの中身は半分ほど無くなっていた……
料理人「追加で作ってくる」
薬学士「料理人ちゃん……!」
料理人は薬学士が止める声も聞かずに村へと帰っていった
…………
十年前――
料理人は大楠の国の中央に住んでいた
国の名が表す大楠の下、料理人は孤児として暮らしていた
孤児なりに、それなりに幸せに暮らしていたが、やがて酒場の女将さんに引き取られた
女将「私の流派を残すためにな、お前の力を借りたい」
女将が料理人を選んだ理由は魔力が高かったから、それだけであった
その流派、包丁一刀流は子供心にも
料理人「……へん」
で、あった
やがてその便利さに納得するのだが、一つ謎があった
料理人「師匠、なんで柳葉とか出刃とか何本も使うのに、一刀流、なの?」
女将「…………細かい!」
料理人「ええ~!」
色々とダイナミックな人物だった
料理人「……だったなあ」
たくさんのお客さんがいたが、女将の気性からか、集まってくるお客さんもダイナミックな人ばかりだった
大工や行商人、力仕事が得意そうな人ばかり
そんな人たちに囲まれ、すくすくと
料理人「育ちすぎたなあ……」
料理人が大楠から旅立つ時には、もう女将さんと大して変わらない身長になっていた
料理人「あれが二年前か」
料理人の目の前に、その子供が現れた
…………
最初、迷子かな、と思い近付いた
色々聞く
少女「……」
何も言わない……
お腹が空いているのかも知れない
少女「……この町から出ていけ」
料理人は何か聞き間違えたかと思ったが、敢えては聞き返さなかった
料理人「あのさ、とりあえずうちでご飯食べて行かない?」
少女「いらない」
少女「早くしろ」
料理人は一瞬、どっちかな、と考えた
彼女の言ってる事をまともに受け止めるのが怖かった
料理人は少女を抱き上げると、酒場まで駆けた
少女「……変な奴だな」
酒場に着くと、女将さんが目を丸くした
女将「隠し子?!」
何か色々間違えすぎていてツッコミきれない
女将と三人でご飯を食べた
あまり乗り気で無さそうだったその少女も、女将の料理を見たら目の色が変わった
いや、赤い目は赤い目のままであるが
…………
それから、であろうか、女将がやたらと料理人に旅料理を教えだしたのは
料理人はなんとなく気付いていた
私はここから出されるのだ
しかしあくまで気付かないふりをした
旅立ちの、その時まで
少女と料理人はどんどん仲が良くなった
料理人がどこにいてもついてくる
料理人が何を作ってもニコニコとして食べる
美味しいか聞いても、あまり美味しいとは言ってくれなかったが
時々彼女を抱きしめる
やはり何も言わなかった
彼女が大楠の魔王だと知るのも、女将が最初からそれを知っていた事も、旅立ちの日に分かることになるのだ
その日はあまりにも突然に訪れた
少女と出会い、三カ月ほど経った頃
東の城門で戦闘が始まったとの知らせが届く
その直後、突然女将から免許皆伝を受け、後継者探しの旅に出されることになった
嫌だった
もちろん
分かっていた
お客さんも弟子もこの町で探せばいいではないか、と言えば、この町の人間は自分のものだ、と言う
少し外れの国なら良いだろう、と言えば、広く伝えるためにも遠くに行け、と言われる
料理人「私を愛していないの!?」
と
言えば
女将「愛しているから、行ってくれ」
と
言う
もう他の言葉が無かった
旅立ち、街から出ようと言う時、少女は現れた
少女「……私は……魔王狩りに狙われている」
少女「けして、帰ってきてはいかん」
それは
この街が、戦争に呑まれる事を示していた
…………
夜になり、三度料理人は家に帰り、料理を持って現場に戻る
作業は順調に進んでいるようで、魔晶石を溶かしたビンがいくつも並んでいる
これを再結晶化して使うらしい
料理人は秋風を呼ぶと、少し現場から離れる
そして自分の話をした
秋風は、そうか、としか言わなかった
料理人「薬学士の話を聞いてもいいでしょうか?」
秋風「……いいだろう」
その小さな子供は片親だった
初めから孤児だった料理人とは違う
その子は母親の愛情を一身に受けすくすくと……あまり育たなかったが、健康ではあったし、何より明るい子だった
やはり十年ほど前、彼女は母に父のことを聞く
なぜ自分には父親がいないのか
だが、母親は何も言わなかった
それが元で、彼女は泣きながら森に入ってしまった
魔物のいる森だ
母親は必死で探しただろう
秋風「私もたまたまこの村に帰っていた」
秋風「だから森に入り、共に子を探した」
秋風「しかし、入り組んだ森に入った所で、不覚にも母親とはぐれてしまった」
秋風「私がその子を見つけた時には、既に」
秋風「既に冷たくなった母の手に、すがりついて泣いていた」
秋風「私はその子供を見捨てることが出来なかった」
秋風「その頃から可愛かったしな」
秋風「連れて帰って、色々教えた」
秋風「変なこと以外は」
料理人「」
秋風「教えておけば良かったか?」
料理人「そーですね」シャキン
秋風「包丁を抜くな、すまん、聞かなかったことに」
料理人「はい」
秋風「とにかく魔力は殆ど無かったので魔法は早々に諦めた」
秋風「薬や火薬、魔晶石の扱いまで色々と教えた」
秋風「しかしある時、彼女は気付いてしまった」
秋風「哲学者の石を用いなくとも、人を不完全な形ではあるが、不老不死にはできる、と」
料理人「!?」
秋風「更に良くないことに、その力で母親を蘇らせようと考えた」
秋風「しかしそれは無理だ、死の直後ならまだしも、死体も残っていないのでは、な」
料理人「それは私に話して良いこと?」
秋風「……お前は魔王になりたいか?」
……料理人は背筋に冷たい物が走るのを感じた……
料理人「尚更それを話していいの?」
秋風「聞いても困るのはお前だろう?」
料理人「……」
魔王は人工的に創られた存在で
元はただの人間だった……
料理人「……そうか」
料理人「その方法は簡単だ」
秋風「そうだな」
秋風「手法にあれこれは有るが原理は分かり易い」
料理人「しかしその瞬間、死ねなくなる……死ねば破壊神が現れるから……」
料理人「あそこにある魔晶石でも……破壊神は現れるの?」
秋風「そうだな」
秋風「殺されなければ破壊神は現れないとは言っても、人間爆弾になって街中で暮らすのはなかなかにキツいものだ」
料理人「大楠の魔王も……?」
秋風「当然だな」
料理人「人間を魔法剣に加工するようなものだね……」
秋風「まあな」
料理人「だからあなたは指輪も何も持っていないのに魔法を使えるんだ……」
秋風「そう言うことだな」
料理人「人には戻れないの?」
秋風「……死ぬだろうな……そして破壊神もオマケで現れるだろう」
料理人「死なないし死ねない」
秋風「例えば頭を失っても生える」
料理人「……」
秋風「殺す方法も分かるはず」
料理人「魔晶石の破壊……」
秋風「そうだな」
料理人「だけどそうすると破壊神と戦わねばならない」
秋風「概ねその通り」
料理人「破壊神って何?」
秋風「うむ」
秋風「そうだな、簡単に言えば」
秋風「暴走する高密度の精霊、か?」
料理人「どうして魔王狩りなんてのがいるの?」
秋風「さあな、ただの力自慢か」
秋風「何らかの方法で破壊神の力を取り込んでいるか……かもな」
料理人「……それだと魔王狩りの持つ魔晶石はずいぶん凶悪な破壊神になりそうね」
秋風「……倒す気か?」
料理人「まさか、そこまでは強くないよ」
料理人「……祖国を滅ぼされた恨みはあるけれど、ね」
秋風「……」
秋風「やはり話すべきでは無かったか」
料理人「……」
秋風「学者、変わろう」
学者「はいやぁ~」
料理人「夕食食べてないでしょ、昼と似たようなものだけど食べて」
学者「ありがたし!」
薬学士がこっちを見て涎を垂らしている
可愛い
結局作業は夜が明けるまで続いた
小瓶が足りなくなり、何度か取りに帰った
もう多分薬学士の家にも学者の家にもビンは残ってないだろうな、と言う数である
持って帰るのも大変そうだ
半分程は秋風が、更に半分は南港に分ける
秋風の物から薬学士、学者の取り分を渡す
量が思ったより多かったため、換金用も含め10個ずつもらえた
料理人「秋風さんはこれをどうするの?」
秋風「浄化法を探ってみる」
秋風「これだけ大きな物がまた現れないとは限らないからな」
料理人「どこか分からない所で爆発したりしないかな?」
秋風「有り得るから怖い」
薬学士「とりあえず帰って寝ましょう~」
薬学士も学者も、既に限界のようだ
…………
幸いなことにベッドが着いていた
秋風は南港に出掛ける予定があるため、学者の家に泊まった
よし、健全だ!
ベッドを空き部屋に設置すると、すぐに飛び込んだ
料理人は昼頃に目を覚ました
料理人「……」
料理人「なんか普通にこの家で暮らすことになっちゃったな」
料理人「留守番も全然してないし」
料理人「薬学士の迷惑になってないかな……」
料理人「……そして何故君はここで寝ているのか」
薬学士「……」スヤスヤ
料理人「……」
しがみついて離れてくれない
料理人「ま、いっか」
頭を撫でると、なんだか気持ち良さげである
薬学士「んん……」
薬学士「……」
薬学士「あ」
あ、ではない
どうやら少し料理人の布団に入ってみたら、そのまま眠ってしまったらしかった
料理人(愛されてるなあ……)
料理人(まだ一週間しか一緒にいないのに)
薬学士「……」ギュッ
料理人(まだ寝ぼけてるな、これは)
薬学士「……ご飯」
料理人(可愛いなこのペット)
そう思うことにした
夕方、秋風は南港に出掛けた
薬学士は再結晶化をするために部屋に籠もった
料理人は最初の約束通りに留守番しながら、夕食を作る
料理人「何人分作れば良いんだ……?」
とりあえず、五人前大皿料理を作ることにした
料理人(うん、余ったら明日も食べられるし、カレー鍋作ろう)
料理人(あとはハンバーグ焼いて、サラダだな)
料理人(肉ばっかりもアレだし……塩漬け肉は今日は出番無いな~)
その時、来客が有ったようだ
トントン、とノックする音がする
料理人「は~い」
秋風(ただいま~)
料理人「なんだ秋風さん、入ればいいのに」
秋風(ちょっと手が塞がってる)
料理人「? 待ってて、今開けるから」
扉を開くと、また知らない女の子を抱えて秋風が入ってくる
料理人「モテモテ?」
秋風「こんな奴にモテたくないな」
どうやら、彼女が南港の魔王のようである
赤い髪をツインテールにしていて、薬学士くらいの小柄で可愛い
なんだか秋風魔王と似ていて、姉妹に見えてしまう
秋風「心外であると言っておこう」
南港「……」
料理人「ん?」
どうやら目を覚ましたようだ
南港「ちっぱいじゃのう」
料理人「」
南港「腹が減った秋風」
秋風「待て、今こいつが美味いもの作ってくれるから」
南港「ちっぱいカレーか?」クンクン
料理人「魔王ってちょっと刺してもすぐ治るんだよね?」
秋風「勘弁してやってくれ」
南港「なんじゃ、儂は目上じゃぞい」
南港「ロリっぽいが二百近いんじゃ」
南港「敬うが良いぞ」
料理人「……」ペシッ
料理人のデコピンが南港の魔王の小さな額にクリーンヒットする
南港「いだっ!」
南港「凶暴なのじゃ~!」シクシク
料理人「ウゼエ」
秋風「その気持ちを大事にして欲しい、そう思いました」
料理人「まさか歩けないから負ぶってくれと言われたとか」
秋風「千里眼だな」
料理人「いや、普通に分かるけど」
結局秋風は無数のビンを入れたバッグを両手に、南港の魔王を背中に、帰ってきた
料理人「涙を誘う話だね」
南港「魔王狩りが近付いてるらしいから逃げてきたんじゃ」
料理人「ほ、本当に?」
秋風「そう言う噂だ」
秋風「だが噂であれ、用心に越したことはないだろ?」
南港「タダでさえヤバいのに、こやつこんなヤバいクスリ持ってきおってからに」
料理人「表現に少し気を使え」ピシッ
南港「ふきっ!」
南港「もうデコピンは嫌じゃ~!」
……ちょっと可愛いな
魔王も色々、か、と料理人は少し疲れてうなだれた
南港「南港のみんなは儂に良くしてくれたんじゃぞ」
南港「儂は偉そうにふんぞり返っておったらいかやきもたこやきも思うがままじゃったぞ!」
料理人「なんだろう、全く羨ましくない」
秋風「甘やかされてるなあ本当に」
秋風「しゃべり方も気取り過ぎだろう」
南港「お前が色気無いんじゃ! 時代はロリ婆なんじゃぞ!」
料理人(自分で婆って言った)
秋風「お前が婆なら私も婆になってしまうだろ!」
料理人(いや、二百手前だろ)
薬学士「お腹減った……」
料理人(小動物が増えた)
薬学士「……」
南港「……」
薬学士「小さい……」
南港「お主もな」
料理人「そろそろご飯にしよう」
薬学士「やった!」
南港「腹減ったのじゃ」
秋風「……じゃあ学者引っ張ってくるわ」
料理人「頼む」
南港「しかし女ばっかりじゃのう、乳ばっかりじゃのう」
料理人「お前の頭はどうなってるんだ」
そう言えばもう一つ頭痛の種が来るんだった
学者「……おおおおお……」
来た
南港「なんじゃまた乳か」
学者「父でも母でもありゃんせんぜおぜうさん」
学者「お腹と背中がペッタンコ……あ、ペッタンコ」
サクッと
薬学士「はい、ポーション」
南港「何か今ロリが見てはいかんシーン無かったか?」
料理人「気のせい」ペシッ
南港「デコピンは痛いのじゃ~!」シクシク
…………
南港「んでの、最近は魔王狩りよりヤバい人間の暗殺者が魔晶石狩りをやっておるらしい」
南港「魔王狩りは戦争ばっかりじゃから案外逃げようと思えば逃げられるんじゃ」
料理人「……!」
南港「何やら人間の王が魔王を集めて対魔王狩り戦争を考えておるらしいしの」
料理人「ちょっと一つ」
料理人「逃げられるならなぜ魔王は狩られるの?」
南港「……逃げた先逃げた先、国が滅ぼされたらかなわんからの」
南港「じゃから儂は来る前に逃げる!」
南港「誰も居らんのに攻める阿呆も居るまい」
南港「それにの、結局儂らは爆弾持ちじゃから」
南港「いかやきが食べられなくなるとしても街の者を守りたいじゃろ……」グスン
料理人「……」
南港「まあ魔王なんぞ本当なら居らん方がいいじゃろ……」
料理人「魔王を集めている王と言うのは?」
南港「確か聖都北の国の王じゃったかのう?」
南港「ん? 南じゃった?」
秋風「知らん」
南港「隠居なんぞしとるからじゃ!」
学者「良く喋りますにゃあ」
料理人(学者にうんざりされた!)
薬学士「でもそんな危ない人がいるなら魔晶石を売るのちょっと気が引けちゃうね」
料理人「そうだな」
料理人「魔王狩りに対魔王狩り、それに魔晶石狩りか……」
南港「ヤバかろ?」
南港「ハンバーグ美味いのう」
料理人「ああ、カレーをかけても美味いよ」
南港「なんと! 衛生兵、もっとハンバーグを持てい!」
料理人「誰が衛生兵だ」ペシッ
南港「痛いのじゃ~!」
薬学士「美味しい美味しい」モグモグ
料理人「ひたすらに食べてる……」
薬学士「カレーかけて」
料理人「はい」
薬学士「美味しいっ!」ニコニコ
料理人(うん、獣度もウザい度も魔王度も何倍も濃くなったな)
秋風「さて、この先どうするかな……」
料理人「とりあえず薬学士の研究を見てやってくれない?」
秋風「構わんが、魔王がいると不味いことも多い」
秋風「解っているんだろうな?」
料理人「……なんとかなるさ」
南港「料理人の癖に大胆じゃのう」
料理人「私の師匠には負けるけどね」
料理人「とにかく戦力が無いと」
料理人(また大切な人を残して去りたくないし……)
料理人「魔法包丁、作ってくれないか?」
薬学士「りょうかいっ!」
薬学士「ハンバーグついかっ!」
料理人「はいはい、カレーついてるよ」フキフキ
薬学士「んっ」
南港「儂も~」
料理人「子供かっ」フキフキ
秋風「面倒見いいな」
学者「拙者も!」
料理人「それはないな」
学者「ひどすっ」
…………
南港「秋風の~、一緒に寝るのじゃ~!」
秋風「仕方ないな、ベッド無いし」
料理人「うちもベッド増やすかなあ」
秋風「お前の家じゃないがな」
薬学士「お師匠さま、料理人ちゃんはうちの子ですっ」
秋風「そもそもこの家だって元は私のだしな」
薬学士「えうっ」
秋風「まあ弟子にくれてやったわけだが」ナデナデ
料理人「気前いいなあ、あ、冷蔵庫下さい」
秋風「いいぞ……作るか」
料理人「自作なんだ……」
秋風「魔晶石使えばだいたい何でも出来るからな」
料理人「便利」
学者「だから高値で取引されるんでさ、旦那」
料理人「旦那ではないね」
薬学士「作ってみようかな」
秋風「おお、そうしろ」
秋風「魔晶石を結晶化する際に特定の精霊化をさせてだな……あれこれ……」
薬学士「ためになります!」
料理人「全然分かんないな」
南港「しかしお主のハンバーグは絶品じゃ!」
料理人「はいはい、また作りますよ」ナデナデ
南港「んふふ」
料理人「気持ち悪い」
南港「ヒドいのじゃ」グスン
学者「では帰りますよ魔王なお二方~」
秋風「はいはい、薬学士、また明日な」
薬学士「はい!」
料理人「ふう、片付け終わり」
料理人「戦力アップ、か」
料理人「師匠……大楠の魔王……」
料理人「生きていれば……」
料理人「いや、無いな……」
料理人は古い新聞記事を見る
『大楠の国は巨大な破壊神により、中央区を中心に半壊』
『大楠の魔王、死去か』
料理人「……」
薬学士「……」
料理人「うわっ」
薬学士「これ……料理人ちゃんの……?」
料理人「……うん」
薬学士「……今日も一緒に寝よう?」
料理人「……ありがとう、薬学士」
私は家族を捨てた
しかし、旅の果てに新しい家族を得られた
大切な家族が残してくれた技と思いが
明日家族を守る、新しい力をくれる
料理人は、生きていて良かった、と、心からそう思う
第二章、「料理人と魔晶石」 完
次回――
新たに増えた南港魔王
迫る危機もまだ遠い中、魔王を交えたにぎやかで平和な二週間が始まる!
そんな中料理人が示した残酷な決断とは――
新たな魔王が顔を出し、反魔王狩り戦争の濁流が彼女たちを飲み込もうとする
そして現れる突然の平和を乱す来訪者、その名は魔晶石狩り
狙われた料理人の運命は――
第三章、「料理人と魔王」
薬学士に迫る、選択の時……
乙乙。
お久しぶりです
保守って必要ですかね?
来週までには更新します
南港はみなみみなと、か、みなと、か読みやすいように読んで下さい
読み返すとかなり酷い……ので、今書いてるのだけでも少し書き直します
もうちょいSSっぽく読みやすくしていきたいと思います
読んでいただいてありがとうございます!
次のお話をいくつも思いつくのになかなかサーバー復活しなくて困りました(汗
では、次回更新をお楽しみにしていただけたら幸いです(土下座
乙。
保守については少なくとも一ヶ月間はなくても落ちない。
>>88
ありがとうございます
1ヶ月はだいぶ長いですね
時間が開いたせいもあって色々調子を崩したので遅くなっちゃってすみません
次の更新も今までより時間がかかると思いますが、気長にお待ち下さい
では、更新します
第三章「料理人と魔王」
まずはこの大陸の地形を把握しておこう
私たちの居る高山麓の村は、大きな半島の丁度真ん中あたりであり、この半島だけで三つの国がある
一つはここから南、南港の国
もう一つは半島の先端、西浜の国
最後は一番大きく半島の大部分を占める高塔の国
半島を出て、更に東に料理人の故郷、東森地方があり、その南、南港から見て対岸には聖都を中心とした都市群が、北には憎むべき魔王狩りの本拠、北終の国がある
これら魔王のいる地域はその年齢から来る知識や知恵、魔法等の恩恵を受けられるために栄え、そのため魔王は魔王とは名ばかりで、讃えられ、愛されているケースが殆どである
南港「そう言うわけじゃから讃えるが良いぞ」
料理人「なら、まずは知恵を感じさせてくれない?」
南港「ヒドいのじゃ、料理人ご飯!」
ヒドいのは南港の性格だ
料理人「まあ作るけど」
料理人「今朝は野菜スープと炊き込みご飯にしようかな?」
料理人「よし、いよいよ塩漬け肉の出番だね」
南港「美味いのか?」
料理人「まあ食ってみてよ」
薬学士「楽しみっ!」ギュッ
料理人「おはよう」
朝から妖精さんが抱きついてきた
住人達がぞろぞろ起きてくる
学者「タダでさえ人が増えててややこしいのに地図まで出してきたら混乱してやんだばー」
料理人「何語?」
秋風「酒置いて無いのか?」
料理人「一応未成年の家なんだが」
南港「もう老婆ばかりじゃろ」
料理人(自分で老婆って言った)
料理人「しかしそんな子供な見た目で酒を飲むのは倫理的に……」
南港「意味が分からんのじゃ」
ロリ老婆ってなんだか色々反則だな
料理人「まあ有っても朝から出すわけ無いがな」
秋風「つまらんなあ」
料理人「あんた飲むと泣くし」
秋風「忘れろ」
薬学士「でもこんなに居たらご飯が大変だね」
料理人「うん、食材調達に出かけたいな」
薬学士「すっかりフェードアウトしちゃってる狩人くんも呼ばないとね……」
料理人(可愛い顔で毒吐くなあ……)
学者「なんだか私のポジションもわからんちんでやんす」
料理人(ある程度情報を噛み砕いてくれると助かるけど絶対に言わないでおこう)
秋風「お、このスープ美味いな」
料理人「これが塩漬け肉の力だよ」
学者「旨味が良く出てますにゃー」
薬学士「うん、美味しい!」
南港「おかわりなのじゃ!」
料理人「まだ人口増えそうだし、ベッド二つくらい増やさないと駄目かな?」
秋風「まあ部屋は多いんだから必要なだけ増やして行けばいい」
南港「このデカい家も秋風の人望あってこそよ」
南港「魔王を褒め称えよ、主に儂!」
料理人「ごはん付いてるよ」
南港「とって」
料理人「誰が魔王?」
薬学士「私も私も!」
料理人「わざと付けない」
学者「拙者は?」
料理人「なあ、年考えなよ?」
学者「しんらつっ」
南港「まあ成人では一番若いがのう」
料理人「見た目子供がいるから二番目に老けてるけど」
秋風「一番老けて見えるのは誰だ?」ニコッ
料理人「すみませんごめんなさい」
…………
そんな訳で、再び料理人は採集に出かけることになった……
薬学士「私は仕事~」
学者「拙者も」
秋風「私はこいつらを指導する」
料理人「なんだ、手が少ないな」
南港「儂荷物持てん」
料理人「期待はしてないけど付いてきてよ」
南港「他に居らんしのう」
狩人(こんにちはー)
料理人「ん、来たね」
料理人「じゃあお弁当はテーブルに置いておくから」
秋風「ああ、冷蔵庫とオーブン作っておくな」
料理人「うわ、楽しみ!」
薬学士「あとはベッド注文して包丁も作っておかないとね」
料理人「包丁も楽しみだなあ」
薬学士「頑張るね!」ニコッ
料理人「えへへ」ナデナデ
狩人(おーい)
料理人「あ、忘れてた、はーい」
料理人「じゃあ行ってくる!」
南港「行ってくるのじゃ!」
…………
狩人「今日もキノコ取りに行きますか?」
料理人「うーん、まだオイル漬け残ってたな」
狩人「じゃあ罠から見ていきますね」
料理人「うん後、鳥と魚穫って欲しいかな」
狩人「量も多く必要みたいだし頑張りますね」
南港「待つのじゃ~」
料理人「あ、獣」
南港「獣では無いのじゃ!」
南港「お主たちに儂の偉大さを見せてやろうと思うてな」
そう言うとちびっ子は後ろに回していた手を前に突き出した
大きな野鳥が重そうにその手にぶら下がっている
料理人「あれ、どうしたのその鳥」
狩人「血抜きしておきますからいただけますか?」
南港「うむ」
南港「これは魔法で穫ったのじゃ……うわ、あやつ鳥の首をはねおった!」ウルウル
南港「わっ、血がいっぱい……!」グシッ
南港「うわあん……!」
料理人「子供か! ……でもやっぱり君も魔法使えるんだな」
南港「うむ、年を取ると涙もろくなるのじゃ……」グスン
料理人「そう言う涙ではないと思うけど」
南港「んで、儂の魔法はこれじゃ」
南港「重力操作」
南港の魔王が手を広げると周りの木がギシギシと悲鳴を上げはじめる
料理人「うおっ」
南港「5メートル以内の空間にいる任意の対象の質量を魔力が打ち勝っている限り無限に重くできる」
南港「実際は魔力も圧縮してしまうから無限には無理なんじゃが」
南港「これはたぶん儂のオリジナル魔法じゃ」
料理人「ちゃんと魔王なんだな~、すごいすごい」ナデナデ
南港「えへへっ」
料理人「つい二百才手前だと忘れてしまうけど」
南港「いつまでも若くてうらやましかろう!」
南港「……まあ間違っても魔王なんぞになるもんじゃないがな……」
料理人「……」
料理人「実際辛いよな、不老不死って……」
南港「うむ……、いっぱいお別れがあったのじゃ……」
狩人「……」
料理人「すまない、罠を巡るんだったね」
狩人「はい、行きましょう」
南港「うむっ」
やがて細い獣道から、森の深い所へと三人は入っていく
…………
狩人「……この辺りに仕掛けたんですが……」
南港「お、なんか居るの」
南港が枝を分けると獣道の先で、猪がワイヤー罠に捕まってもがいているのが見えた
料理人「うん、かなりデカいね」
狩人「人を呼んできますね」
南港「一旦帰るなら持って帰るのじゃ」
狩人「え、いえ、あれたぶん百キロ超えてますよ?」
南港「いや、軽いじゃろ」
南港が右手をかざすと、猪は空中でもがきはじめる
南港「な?」
料理人「……」
料理人「なぜ秋風におんぶさせたのか」
南港「ずっとは辛いのじゃ!」
料理人「重力調整魔法の応用?」
南港「うむ、帰還魔法も似ておるの」
料理人「帰還魔法使える?」
南港「うむ」
料理人「じゃあ一旦帰って村長にでも処理を頼もう」
南港「よいぞ」
料理人「私は釣りしてます」
狩人「帰還魔法苦手なんですね……」
南港「儂も他人の帰還魔法に乗ると酔うのじゃ……」
…………
一方、研究室……
薬学士「……うーん」
秋風「つまりこれはだな、精霊化させては駄目だから……」
学者「重さのバランスも使い勝手に影響しまっしゅね」
秋風「うん、そこは……」
薬学士「ご飯にしましょう!」
秋風「わっ」
学者「いきなりキレましたーにゃ」
秋風「そっか、もう昼過ぎてたか」
…………
三人は一階に降りると、直ぐにバスケットを開ける
秋風「今日は何かな?」
薬学士「おおお……」
学者「お握り?」
秋風「メモが……」
秋風「『外れ付きです、料理人』だと!?」
学者「……」
薬学士「……」
学者「普通に食べたいですにゃん……」シクシク
秋風「一個づついくぞ……」
秋風は率先してお握りを一つ取り上げ、口に入れる
秋風「……これは、塩漬け魚か、美味い」
薬学士「私も食べます!」
薬学士は秋風に倣いお握りを手に取り、恐る恐る口に運ぶ
薬学士「んー、何か分からないけど美味しい」
学者「おかかでやすね」
秋風「お握りに詳しいのか?」
学者「実家に東果ての料理人さんがいましてねえ」
秋風「金持ちの嬢さんだったか……まあ学者なんてだいたいそうか」
学者「そろそろハズレが出そうでっせ旦那」
学者が続いて一つ取る
学者「うん、タラコですな」
秋風「美味いのか?」
学者「拙者は好きでござる」
秋風「そうか……次は私か」
秋風「……うん、何やら漬け物が入ってる」
学者「高菜ですね、当たりでやす」
薬学士「ううっ、もうハズレが出そうな気がする……あ、塩漬け魚だ、美味しい!」
学者「あっしは……梅干し……」
秋風「美味いのか?」
学者「有る意味ハズレです」
秋風「なに? 当たりでも口に合わない可能性も有るんだな……恐ろしい料理だ……」
秋風「……うむ、これも美味いな」
学者「タラコですねぇ」
薬学士「ハズレ来ないでハズレ来ないで……」
薬学士「……」
薬学士「……苦い」
学者「この青臭い臭いは薬草?! ……なんという凶悪なトラップ……」
薬学士「煮詰めているのか苦さと青臭さが数倍に……」ムグムグ
秋風「……それでも完食する根性は認めよう」
学者「ハズレいくつ有るんでやすかね?」
秋風「そろそろ腹が膨れてきたんだが」
学者「いや、完食するまでがロシアンお握りでやす」
秋風「和食なのに何故ロシアンにした……料理人め……」
その後二巡し、全員平等に一回ずつハズレを引いた
秋風「……なにこれ」ジワッ
学者「ワサビですな……量に殺意を感じますぜ、料理人殿……」
学者「おぐっ……」
薬学士「わ、真っ赤!」
秋風「唐辛子が丸ごと入ってるぞこれ」
学者「み……水……」
秋風「いや、ポーションだ衛生兵~!」
薬学士「ラジャー!」
……こうして料理人のお茶目さを三人で味わい尽くしたのだった……
…………
その頃、料理人達も合流し、お昼の準備をしていた
狩人「今日のお弁当、なんですか?」
料理人「……普通のお握りだよ」
南港「……何故か一瞬寒気がしたのじゃ」
料理人「……たぶん死にはしない」
南港「おい」
斯くして、狩猟グループも同じ試練を味わうことになった
南港「ツーンってくる! 辛いのじゃ~!」
狩人「み……水……」
料理人「にが……こんなに苦くなってると思わなかった……ぐふっ」
…………
料理人「さあ、自虐タイムも終わったところで釣りを再開だ」
狩人「僕ルアー釣りしてきます」
料理人「分かった」
狩人(湖手前までラン&ガンだな……まだ口が痛い……)
南港「いったい何故あんな殺人ゲームをしたのか分からないのじゃ……お、」
お握りの愚痴を言いながらも、南港がさっそく一匹釣り上げる
料理人「速いな」
南港「10センチ……リリースサイズなのじゃ」
料理人「一杯釣って唐揚げも良いんだけど」
南港「儂はもっと大きいの釣れる子なのじゃ」
料理人「そう言えば南港に居たんだから釣りは得意なのか」
南港「五十年ほど前にめちゃくちゃハマったのう、最大では三メートルのマグロを釣ったのじゃ」
料理人「やっぱり魔王なんだな~、マグロ食べたいな」
南港「儂はイカの寿司が好きじゃ……サビ抜きで!」
料理人「……さっきワサビ引いてたね」
南港「辛かった……辛かったのじゃ……」シクシク
…………
走って、釣れそうなポイントを見つけてはルアーを打ち込む、これがラン&ガン
狩人は川岸を走りながらポイントを探す
小さい金属の丸い板状の物に、小さい針が一つついている擬似餌、所謂スプーンと言うルアーを対岸に向けて投げ込むと、その瞬間に水を割って四十センチ程度の魚が食らいついた
狩人「ヒット!」
糸が細いため時間をかけて魚と格闘する
やがて再び水を割り、魚が大きく飛び上がる
綺麗な魚体だ……
大きくはじける水も美しい
しかしこの魚の行動はエラ洗いと言って、下手に捌くと糸を切られたりルアーを外されたりする
そこは熟練の狩人である
柔らかく糸を張り、頭を振る魚に合わせる
更に時間をかけて水際まで魚を近寄らせて網で掬い取る
狩人「よしっ」
狩人「……」
狩人は何故かそのまま魚を川に戻した
狩人「……あんまり美味しくないからな~ブラックバス……マス系を狙いたいな」
狩人はまた川岸を走り出した
五匹ほど大物のマス類を釣り上げると、狩人は料理人たちの所へと帰った
…………
料理人「……」
南港「……おっ」
南港が一匹釣り上げる
南港「ちっさいのう」ポイッ
料理人「……」
南港「……ん、こいつはデカい!」
南港がまた一匹釣り上げる
南港「25センチ……なんとか食えるかの」
南港の釣り上げた魚が網の中で大量に暴れている
料理人「……釣れない」シクシク
南港「餌がついてないんじゃないかのう?」
料理人が竿を上げるとしっかり餌がついている
南港「き、きっとポイントが悪いんじゃな!」
二人が場所を変える
南港「おっ……すまん、釣れてしもうた」
料理人「……腕かなあ」
南港「そ、そんなはずはない、どんなに下手でも釣れるはず……」
料理人「……」ズーン
南港「……すまん」
しばらく休憩します
今回も終わるの遅くなると思いますので、無理せずにお休み下さい
いつもすみません
ゆっくり再開します
狩人「大漁ですね~」
南港「おおすごい、全部40センチは超えとるなあ」
料理人「……」シクシク
南港「あう……」
狩人「?」
狩人「……釣れないんですか……」
料理人「何故だろう」
狩人「うーん、料理人さん魔力強いから変な魔力でも込めてるんじゃ……?」
料理人「う、そうかも……?」
料理人「無心……無心だ……」
その瞬間、ようやく料理人の竿にも当たりがあった
水を割って出てきたのは50センチはある
ナマズだ
料理人「よし、これは食える!」
狩人「大きい! 良かったですね!」
南港(……外道じゃのう……)
狩人(一応食べられるのを狙ってたんで本命ですよ)
料理人「やったあ」ニコニコ
南港(……なんか罪悪感があるのう)
狩人(……一緒に喜びましょう)
料理人「白身魚だからフライがいいかな?」
南港「泥抜きした方が良いかもな」
狩人「その方が美味しいでしょうね」
料理人「水が綺麗だから大丈夫じゃないかな?」
南港「まあお主の腕なら美味く作れるじゃろ」
狩人「楽しみにしてますね!」
その後は三人で同じポイントで釣りを続け、やがて日も傾きはじめた
…………
料理人「さて、ニジマスやイワナも少し釣れたし、帰ろうか!」
南港(ちょっとホッとしたわい)
狩人(釣れなかったら晩御飯はお茶目なお握りハズレだけになったかも……)
南港(恐ろしいことを言うでない)ビクビク
料理人「疲れたの?」
南港「そうじゃのう、おんぶ」
料理人「仕方ないな……」
南港(機嫌良いの)
狩人(良かったですね)
料理人「あ、狩人くんこれ持って」ナマズ
狩人「あ、はい」
狩人(三人分の魚……生臭い……)
南港「帰還魔法するか?」
料理人「近いからやめて!」
狩人(生臭い……)
…………
薬学士「できた!」
秋風「なんとか一つだけだがな」
学者「まあ一番欲しがってた奴だし、ようがす」
秋風「うむ……
秋風「さて、今日はもう茶でも飲んでゆっくりしよう」
…………
料理人(ただいま~)コンコン
秋風「ああ、また南港の奴負ぶってもらったな?」
扉を開くと予想通り
料理人「……ただいま」
秋風「おかえり……生臭い」
料理人「すぐお風呂に入るよ……」
料理人にしがみついて眠る南港の手は鱗まみれだ
秋風「……なんかすまん」
料理人「お風呂頼みます……」シクシク
薬学士「お風呂入る~」
料理人「久しぶりに一緒に入るの?」
薬学士「うん!」
南港「儂も入るのじゃ~」
料理人「もちろん……ウロコ落とさないと」
狩人「じゃあ僕は帰りますね、あ、これ猪肉です」
料理人「……今晩はうちで食べるでしょ?」
狩人「はい、いただきます!」
学者「拙者も一度帰って風呂につかりますかなあふひひ」
狩人(……まともに喋れない人なんだな……)
…………
料理人「生臭くない?」
薬学士「大丈夫、早くながそ?」
料理人「うん、ほら南港」
南港「うむ、早く流して浸かるのじゃ!」
薬学士「……南港ちゃん明日は一緒に遊ぶ?」
南港「ほんとか?」キラキラ
料理人(小動物ハーレム……いや、何でもない)
料理人「私は野菜とか買ってきてのんびりするかなあ」
南港「今日は薬学士と寝るのじゃ!」
薬学士「いいよ!」
料理人(挟まれたい……いや、何でもない)
南港「明日は料理人でその次は秋風とその次は学者じゃ!」
料理人「子供か! うっかり子供だと思ってたわ!」
南港「性癖はノーマルじゃから心配するでない!」
料理人「生々しいわ!」ピシッ
南港「デコピンは痛いのじゃ~!」
…………
秋風「……」
秋風「この魚どうしよう……」ナマズ
秋風「うん、臭い」
秋風「塩で臭いを抜いておくか、料理人に任せるか……」
秋風「聞くか」
生臭い魚を置いて、生臭い脱衣所を抜け水音がしている風呂場に入る秋風
料理人「動くな」ピシッ
南港「うぐっ、うええ」
秋風「……一瞬幼女虐待かと思った」
南港「老婆虐待じゃ~!」
料理人「お前のような老婆がいるか!」
南港「若く見えるのかのう?」ポッ
秋風「若いと言うか幼児体型だろ」
南港「きゃーっ! 痴漢なのじゃ~!」
秋風「そんな趣味はない!」
南港「焦らすプレイじゃな」
秋風「わざと言ってんのか?」ビシッ
南港「」グオオ……
料理人「ところでどうしたの? 一緒に入る?」
秋風「流石に狭いだろ、魚の処理どうする?」
料理人「ああ、流したらすぐに出る」
薬学士「お師匠さま一緒にはいろっ」
南港「セクハラされるのじゃ」
秋風「良いだろう……沈めてやろう……」ゴゴゴ
…………
料理人「さて、さっさと処理しないと……」
料理人「……塩漬けにして薫製にするかな~?」
料理人「問題はお前だな」ナマズ
料理人「とりあえず皮を剥いで切り身にしたけど……」
料理人「一枚ムニエルにして味見してみようかな……」
料理人「……」
フライパンにバターを引き、焦がさないように熱し、小麦粉をまぶした切り身を落とす
料理人「……流石に良い香りする」
料理人「香草……胡椒……臭い消しは十分のはず」
料理人「……ん、肉厚、魚自体は淡白な味」
料理人「思ったより美味い」
料理人「これはフライで、メインは猪のソテーにしよう」
料理人「猪肉は基本、豚肉と同じ……残りはベーコンにでもしようかな……?」
料理人「ウインナーとか喜びそうだなぁ」
料理人「いくらか村長とか狩人くんに分けたけど10キロくらいあるかも……」
料理人「しばらくは楽しめる」
風呂場が少し賑やかだ
どうやら二人、ちびっ子達が風呂から出たらしい
秋風は料理人と入れ替わりで入ったのでもう少し入っているのだろう
薬学士たちがトテトテ歩いてくる音が聞こえる
一人が二階に上がったようだ
南港「美味そうな匂いがするのじゃ、腹減ったのじゃ~」
南港が抱きついてくる
料理人「はいはい、少し待ってて」
料理人「キノコも使ってしまおう」
料理人「肉に添えるかな」
次の瞬間、ごりっと言う重い音がした
薬学士(南港ちゃ~ん)
南港「ん? ……おうっそこで待っているのじゃ!」
料理人は後ろが激しく気になったが、火を使う作業をしているのであまり振り向けない
しばらくすると薬学士に肩を叩かれた
料理人「ん?」
料理人「何そのはこ……」
薬学士は自分の背丈ほどの箱の隣に立っていた
薬学士「冷蔵庫出来たよ~!」
料理人「……!」
料理人「やったあ!」ダキッ
薬学士「えへへ~」
南港「儂も今重力操作したのじゃ!」
料理人「はいはい、偉いね」ナデナデ
南港「えへへ~」
料理人「老婆でなければ可愛いな」
南港「老婆でなければは余計じゃ!」
料理人「……これで食材を更に長く保存できるなあ」
南港「毎日美味いもの食えるのか?」
料理人「頑張るよ、っと肉焦げるとこだった」
薬学士「テーブルで待ってよ?」
南港「うむ、座るか、しかし良い香りじゃ」
料理人(そう言えば南港も大食だったな)
料理人(狩人くんが釣ったデカい魚は何にでも使えるな)
料理人(ん、野菜とマスで煮込みスープだな)
料理人(味付けに塩漬けも使おう)
料理人「肉料理ばっかりだが、今日は猪が穫れたからね」
料理人「まあハンバーグやカレーが大好きな幼児が二人いるからいいか」
南港「幼児ではないのじゃ!」
薬学士「老婆?」
秋風「弟子……!」
薬学士「すみませんごめんなさいすみません」
…………
料理人「じゃあ、いただきます!」
全員「いただきま~す!」
狩人「肉も魚も美味しいです」
学者「ふむふむ、ワイン用意して良かったでやす」
南港「用意が良いのじゃ!」
料理人「やっぱり飲むのか?」
秋風「いただこう」
料理人「魔王たちは飲まない方が良くないか?」
薬学士「…おかわり!」モグモグ
料理人「速いな!」
秋風「ううっ……ぐすっ」
料理人「速いな!」
南港「きゃはははは!」
料理人「こっちは笑い上戸か」
狩人「食べないと無くなりますよ!」
料理人「うん……」
学者「ツッコミ二人が食べてる間にぼけ倒しかましますぞ!」
薬学士「おかわり!」
そんなにぎやかな生活を始めて、あっという間に一週間が過ぎた
…………
料理人「……」ニヘラ
料理人「……」ウフッ
南港「包丁を見てニヤニヤしてるのは怖いし気持ち悪いのじゃ」
料理人「やっと包丁が出来たんだよ~」
南港「一週間前にレプリカで作ってた奴じゃのう」
料理人「あの時はまさか四本も包丁作ったのかと思ったよ」
料理人は南港の魔王に止められてもニヤニヤが止まらない
切れ味最高でどれだけ使っても切れ味が変わらず、仮に折れても元に戻る
料理人「えへへ///」
南港「ツッコミきれんのじゃ」
秋風「変態だな」
南港「いきなり後ろに立つでない!」
秋風「ドキドキしてるな」サワサワ
料理人「誰が変態だって?」
秋風「まあそれはそれ」
料理人「話をそらしたよこのセクハラ魔王」
秋風「そいつの試し斬りしてみないか?」
料理人「?」
薬学士「それは一応魔法剣として作ってるから、出力を確認しておきたいの」
学者「それは一見の価値がありやすな」
料理人「ん~、まあ包丁一刀流を極めてくるか」
秋風「よし、山に行こう」
…………
料理人「このあたりでいいか」
秋風「ん、絶対街に向けて放つなよ」
料理人「?」
一瞬何を言ってるのかわからなかった
所詮包丁ではないのか、と
思っていた
料理人「とりあえずあの小石でも狙ってみるか……」
薬学士「あ、料理人ちゃん」
料理人「ん?」
薬学士「山もやめた方が良いと思う」
料理人「へ?」
更に意味が分からない
今狙ったのは小石である
軽く魔力を込めて振ってみるだけじゃないのか
山も街もそんなに近くないし……
だが嫌な予感がし始めた、誰もいないはずの小さい丘に向かって、一応試し斬りなので最大限の魔力を込めて振ってみる
……
丘に向けて振ったつもりが、海に向かっていた
一瞬何が起こったのか分からなかった
秋風「……」オー
薬学士「……」プルプル
学者「……」ガクガク
狩人「」
南港「……」ウンウン
料理人「アホか」
料理人「威力有りすぎだろ!! 山も街も確かにヤバいわ!」
秋風「名付けて、破壊神キラー!」キラーン
料理人「そんな物騒な名前つけるなマイ包丁に!」
小さいとは言え丘を削るとは、いくら破壊神でも過剰防衛になるのではないか
薬学士「魔力の込め方で威力調整できるよ」
秋風「お前の元々のポテンシャルは予想より高かったな」
薬学士「試しにお師匠さまの魔晶石で高純度化の実験をしたんだ」
調整するために、何度か振ってみる
だんだん地面が削れていくのが少し楽しくなってくる
秋風「文字通り、荒削りだな」
薬学士「やっぱり大型魔晶石数個分は規格外れですね~」
南港「ま、これでも魔王狩りには足りんじゃろうな」
料理人「……そんなに強いの?!」
南港「うん」
南港は頷くと料理人の包丁を受け取り、振った
べこん、と言う音と共に目の前の一生懸命削っていた丘が、一撃で崖に変わっていた
薬学士「……」プルプル
学者「……」アガガ
狩人「」
料理人「あ、狩人息してない!」
秋風「まあ魔王だしな」
料理人「そんなに強いとは聞いてない!」
秋風「そうか?」
秋風「大楠はこんな丘程に小さかったのか?」
料理人「……」ゾクッ
南港「お前は今まで魔力制御をしきれて居なかったんじゃから、魔晶石を使ってコントロールの練習をするのじゃ」
秋風「魔王に並ぶくらいにはなるだろうな」
料理人「……でもそれじゃ魔王狩りなんて……」
南港「聖都北の国に任せておけ」
南港「あそこは元々聖都を護る騎士団であったはず」
南港「料理人が太刀打ちできるはずが無いのじゃ」
秋風「そう言うことだ」
南港「しかし今ので少し分かった」
南港「魔王狩りも魔法剣を持っとるかもな」
秋風「ふむ……」
料理人「それにしても南港がこんな力を隠してるなんて」
南港「嫌われるのは嫌じゃし」
料理人「おんぶしなくて良かったんじゃないの?」
南港「甘えたいお年頃なんじゃ!」
薬学士「老婆なのに?」
南港「婆孝行、させたい時には孫はなしじゃ」
料理人「……え、子供いたの?」
南港「言ってみただけじゃ!」
秋風「まあ魔王として生きることが分かってて子作りなんてできんだろ」
秋風「察しろ」
料理人「……辛いな、魔王」
南港「別に」
秋風「……そうだな、可愛い弟子にも良い料理人にもこうやって出会えたんだ」
秋風「辛いばかりではない……」
料理人は、じゃああんたはなんで泣き上戸なんだよ、と聞きたくなった
だがそれは酷いこと
たぶん今までに、何回も、
もしかしたら大楠の魔王が死んだ時だって独り泣いていたんだろう……
例えば彼女らや薬学士達が死んだら、料理人の心はどれほど傷付くか……
自分ならそんな苦しみに耐えられるだろうか……?
ただそう考えて、料理人は言葉を飲み込んだ
横を見ると、薬学士と目が合う
同じ事を考えていたのかも知れない
……また、この家族を、失ったら……
そんな苦しみをまた彼女達に与えることになったら……
嫌だ……
そんなのは嫌だ
護りたい
皆を護りたい
人間も、魔王も、関係なく……
ただ一緒に居たい
……この時、料理人の心に小さな火が灯った
…………
深夜――
薬学士の部屋の前に、料理人は立っていた
料理人(……)トントン
薬学士(はぁい)
料理人「私」
薬学士(……)カチャッ
薬学士「入って~」ニッコリ
薬学士の笑顔を見て、料理人は思わず彼女を抱きしめる
料理人「……あのさ」
薬学士は料理人の雰囲気で何事か悟ったが、ただ彼女を抱きしめ返す
料理人「……黙って聞いてくれ」
薬学士「……うん」
料理人「……私を」
料理人「私を彼女達と同じにして欲しい」
…………
翌朝――
料理人「……」
薬学士「……」
料理人「……」ジリジリ
南港「……焦げてるぞ」
料理人「ぐわあっ!」
料理人「長年共にした鍋が……」ガクッ
料理人の言葉に、薬学士が一瞬だけビクッと反応する
南港「珍しいのう」
南港「……お主大楠の出らしいの?」
料理人「ん? ……うん」
南港「敵を討ちたかったのか?」
料理人「それはね……でも今は生きていたいから」
南港「そうじゃな」
南港「身内の身を守るための修業なら見てやるぞ」
料理人「なんか屈辱的だからいい」ビシッ
南港「デコピンの威力が上がったのじゃ~!」シクシク
料理人「……鍋変えなきゃ……」
料理人「今日はとりあえず冒険用の鍋でいいや」
南港「冒険用の鍋って……骨の髄まで料理人じゃのう」
料理人「……そう育てられたからね」
南港「儂と大楠の奴も年が近いのは分かるか?」
料理人「ああ、なんとなく」
料理人「何が言いたいの?」
南港「……儂と奴とは同期だった、それだけじゃ」
料理人「……そう」
南港「儂の方が辛かったわい」
料理人「……分かるよそれくらい」
南港「分かっとらん!」
料理人「分かってる!」ビシッ
南港「分かっとらん! デコピンばっかりしおって!」シクシク
南港「儂の飯が焦げる!」
料理人「あっ……くそっ」
南港「……友を亡くすのは、辛い……儂だって同じじゃ」
南港「儂が言いたいのはそれだけじゃ」
料理人「……分かってるよっ!」
料理人「もう……」
料理人「ちょっとお皿並べて」
料理人「友達でしょ?」
南港「……儂の飯のためじゃ」ガチャガチャ
南港「お前みたいな小娘友達なんかじゃないわあ」グスッ
薬学士「……」
秋風「……阿呆め……」
学者「……とりあえずご飯を食うでやんす」
学者「ご飯を食えば元気になるじゃないでやんすか」
学者「元気になれば前向きになれるじゃないでやんすか」
学者「前向きになれば猟ができるんでやす」
学者「猟ができればご飯が食べられるじゃないでやんすか」
学者「……私は何が言いたかったんでしょ?」
秋風「知らん」
料理人「……ぷっ」
薬学士「あはっ、あはは!」
南港「ぎゃははははは!」
……その後秋風も学者も笑い出して、もう誰も辛い話はしなくなった
――昼
薬学士の家にコンコン、とノックする音が響く
それは運命の訪問者――
南港「はいはい、待つのじゃ~!」
南港が扉を開けると、そこにいたのは赤髪の少女である
容姿はメガネを取った学者と言えば良いだろうか
身長は学者より少し低いが、美しい顔立ちをしている
南港「……西浜の……」
西浜「……」
西浜と呼ばれた少女は、喋らない
南港「相変わらず元気いっぱいじゃのう!」ニカッ
西浜「……」フ……
料理人「……めちゃくちゃ暗いけど」
南港「おう、料理人、こいつは西浜の魔王じゃ、儂と仲良しなんじゃ!」
西浜「…………」
料理人には無視しているようにしか見えない
しかし、魔王なのだ
圧倒的な長時間の寿命のうちでの濃厚な接触
そう言う存在なのだから、常人では計り知れない特殊なコミュニケーションを形成してるのかも知れない
料理人「とりあえずご飯の時間だから、座って座って!」
西浜「……」スッ
反応が全くない
何かマネキンが歩いている感じがする
料理人「これをこじ開けるのが料理人の腕じゃ無いだろうか……」
料理人はあの手この手を考えて、彼女の好みを探る
しかし反応がない
秋風「なんだ、久しぶり西浜、ずいぶん張り切ってるな」
わかんねーよ
南港「楽しみなんじゃな! 儂がイカ焼きを奢った時と同じ顔じゃ!」
どうせイカ焼きレベルの料理ですよ
西浜「……」フ
秋風「やめろ、それ以上笑うと死ぬぞ!」
料理人「いや、笑ったのかもわかんねーよ!」
料理人「あ」
西浜「……」ズーン
南港「あ、いつもに戻ったのう」
秋風「酷いことを言う奴だな」
料理人「あ、はい、すみません」
スプーンをガツンと投げ出したくなった
料理を一口食べた西浜の反応
西浜「……」フ
南港「おお、お気に入りか、絶品じゃろう? のう!」
学者「全く表情が分かりませんなあ」
薬学士「お師匠さまもお知り合いなんですか?」
秋風「こいつは気のいい奴でな、西浜の民もコイツに惚れ込んで仕えている奴ばかりだ」
西浜「……」シーン
南港「そう言えば国はどうしたんじゃ?」
西浜「……」グスッ
秋風「話したく無いなら構わんぞ、ほら、飯を食え」
料理人「好みとか分かる?」
南港「いかやき?」
料理人「分からないんだな、分かった」
西浜「……」フ
料理人「あ、なんかバカにされた気が」
秋風「今のは肯定の笑いだろ」
料理人「わかんねー!」ガシィ
匙を投げた
料理人「く……」フーフー
薬学士「と、とりあえずこのスープ、塩漬け魚と野菜のスープ美味しいよ?」
西浜「……」コクッ
南港「お、飲んだ」
西浜「……」
何やら目を瞑っている
秋風「おお、ずいぶん気に入ったようだな!」
南港「いかやきを食べた時の顔じゃ!」
イカ焼き推しはもういい
料理人「……気に入ったなら良かった……お代わりあるよ」
西浜「……」スッ
皿を差し出してきた
あれ、なんか可愛いぞ
秋風「素直で気のいい奴なんだよ」
南港「十年に一度くらいしか喋らんがの」
西浜「……」ポッ
料理人「あ、ちょっと顔赤くなったかも」
西浜「……」
料理人「あ、ごめん」
学者「つ、通じてるにゃ……ん?」
薬学士「すごいね、料理人ちゃん」
料理人「しかし……」
魔王と言うのはみんな大食なのであろうか
あっと言う間にスープを平らげた後もガーリックライスも魚のソテーも猪肉の煮込みも山菜の炒め物も、出したら出しただけペロリと食べて目を瞑る
しかし、料理人にはコミュニケーションはこれで十分だった
自分の料理を美味しそうに食べてくれる
それだけで家族になってしまう
それが料理人の生来のスキルなのかも知れない
西浜「……」
ゆっくり手を合わせた
南港「満足したようじゃな」
秋風「そうだ、お前彫金得意だったな、後で手伝ってくれ」
西浜「……」フ
秋風「よし」
薬学士「お師匠さま、私は良いんですか?」
秋風「ああ、弟子は遊んでろ」
薬学士は料理人と話した夜のことを思い出していた
あんな事、黙ってやるわけにはいかない
そもそも知識がない
それに、そんな事を悩んでると言うだけでも、もう弟子と呼んでくれなくなるかも知れない……
選ぶことなんてできない……
……でも……
そして、何も言えないまま
そして西浜の魔王も何も言わないまま
また一週間が過ぎた
…………
料理人「はい、西浜ちゃん」
西浜「……」ン
一週間付き合って微妙な表情の変化が分かるようになった気がする
今のは、かしこまりました、と言っているようだ
秋風「なんか気合い入ってるな」
なんとなく分かるのが悔しい
最近の料理の内容は少し変わってきたような気がする
山では珍しい海鮮料理も出せるようになった
雑貨店の仕入れの幅が変わっているのだ
戦争は停滞している
北終の魔王は高塔の攻めに苦戦し、迂闊に南下できず、その中で聖都北の国が力を付けて行っている
このまま行けば戦争は終わるかも知れない
しかしそれでは気が済まない魔王もいるかも知れない
料理人は彼女たちを絶対に戦争に行かせたくなかった
何が爆弾
何が破壊神
何が二百年連れ添った仲間の仇
今生きている私たちの絆が一番強いのだ
そう、自惚れていたのかも知れない
魔王にすら勝てないほど弱いのに、何も分かっていなかったのに
西浜と秋風が居なくなったのは、それから間もなくだった
…………
薬学士が一番焦っている
前日に秋風と薬学士は同じベッドで寝ていたらしい
それなのに、何も言わずに居なくなった
いや、きっと何かしら会話が有ったはずである
今はそれを聞き出せる雰囲気ではない
そして取り残された南港も呆然となっていた
二人は恐らく反魔王狩りの部隊に合流したのではないか、と推測は立つが、魔王が集まると言うことは即ち、一人の魔王が倒れることで全滅も有り得ると言うことだ
置いていかれたと言うのなら料理人もそうだろう
皆を護るために、せっかく戦うための力を鍛えてきたのに
学者「拙者、伝手を当たってみやす」
料理人「頼むよ」
料理人「薬学士……」
薬学士「……」
薬学士の顔は、依然真っ青だ
昼御飯は魚をムニエルにし、スープ、サラダ、そしてハンバーグを作ってみた
南港「悔しいのじゃ……こんな時でも腹が減るのじゃ……」
料理人は人の体温が無性に恋しくて、彼女を抱きしめた
薬学士の肩も抱きしめ、席に着かせる
学者「美味しいですなあ」
料理人「ありがとう」
薬学士「おかわり」
料理人「はい」
良かった、食べてくれた
料理人(……これからどうするか……)
料理人「そう言えば魔晶石はどうしたの?」
薬学士「……分からないけど私に内緒でずっと二人で作業してたよ」
学者「私らが持っていたのは高塔と聖都の商人に加工後捌きました」
南港「奴ら、儂に寄越した分まで持って行きおって……」
料理人「じゃあもう手元には……」
薬学士「後、六個分あるけど……」
料理人「加工できる?」
薬学士「ノウハウは教わってるよ」
料理人「私は包丁があるからいいけど、南港や学者さんや狩人くん、薬学士の武器にして欲しい」
南港「儂はいらないのじゃ」
料理人「しかし」
南港「自分のがあるのじゃ」
南港「儂は本当に大事にされとったんじゃぞ」
料理人「そうか」
南港「……儂は一人で行ったりせんぞ……」
料理人「ああ」
学者「拙者も心当たりがあるのでようござんす」
学者「有効活用しちゃってくださりぃ」
料理人(お腹落ち着いたからかなんかペース戻ってるな)
薬学士「私も武器はあるから魔道具にするね」
薬学士「もう誰も居なくならないでね……」
料理人「あと狩人くんか……巻き込んだら悪いかな?」
薬学士「そんなこと言ったら怒られるよ?」
南港「仲間外れは良くないのう」
夜――
料理人はなにか時間が無駄に過ぎている気がして、焦れた
少なくとも料理の仕込みはしておかないといけない
今何をしなければいけないか、考えた
百年以上生きている魔王や魔王狩りを上回る考えや力をどうしたら得られるだろう
まず最初に考えた
哲学者の石を手に入れられないだろうか……
しかし薬学士はおろか魔王ですら実在は知っていても作れないのだ
ひょっとしたら魔王狩りの目的もそれなのではないか
哲学者の石は人を神にするごときアイテムだ
容易に人が触れられる物の筈がない
では次に何があるか
もう予定通り、自分も魔王になってしまうか?
いや、そのノウハウを秋風が薬学士に伝えているとも思えない
次に何があるか
そこで思い当たる
魔晶石狩り……
なんとか接触できないだろうか……
時間の猶予は無いかも知れないが、出来ることをやるしかない
翌日――
学者「面白いアイデアかも分かりませんがなあ」
学者「しかし、危なすぎやす」
学者「ちょいとお待ち下せえ、拙者も色々手を尽くしてやすんで」
料理人「どれくらいかかるだろう」
学者「ひと月はかけないつもりで動きやす」
料理人「お願いします」
学者「ふひゃ?! 畏まられるとくすぐったいですだ!」
学者「我らは家族でやんす、お気になさらず……」
料理人「学者……ありがとう」
学者「それより美味い飯を頼みます」
料理人「分かったよ」
料理人「全力を振るってやる」
南港「楽しみなのじゃ」
料理人「よし、ちょっと買い物行ってくるね」
薬学士「私も行くよ」
料理人「うん、今晩は何にしようか?」
薬学士「う~ん、シチューがいいかな~」
料理人「了解」
南港「みんなで買い物行くのじゃ」
料理人「いいよ、行こうか」
学者「拙者も?」
料理人「家族でしょ?」
学者「ふひひ……えひゃっ」
料理人「……その笑い怖いから」
学者「しゅみましぇん……うれしいでやんす」
また夜――
狩人「こんばんは」
料理人「いらっしゃい」
薬学士「狩人くん、武器ならナイフと弓どっちがいい?」
狩人「弓ですね」
薬学士「じゃあ弓作るよ」
狩人「ほんとですか?」
学者「そのかわり戦ってもらいやすよん」
狩人「……」
薬学士「……えと、無理は……」
狩人「違います、嬉しくて……」
狩人「役に立たないけど、頑張ります!」
料理人「馬鹿」
狩人「はうっ!?」
馬鹿と言いつつも、料理人は狩人を抱きしめる
料理人「私は何時だって狩人くんに助けられてるよ」
狩人「……!」
学者「ひゅーひゅー」
料理人「このハグにそう言う要素はない」
狩人「……」シクシク
南港「まずはご飯じゃご飯じゃ~!」
料理人「了解!」
薬学士「シチュー、シチュー!」
料理人「はいはい」クスッ
…………
薬学士「おかわり!」
南港「おかわりじゃ!」
料理人「……いつにも増して食べてるね……」
学者「当面の目的ができて気合いが入ってきやしたなあ」
学者「まあゆっくりやりやしょう」
料理人「そうだね」
翌日――
ひょっとしたら初めてかも分からないが、薬学士を連れて採取のために森に入る
薬学士「ちょっとマジックアイテムと弓に使う植物が欲しくて~」
料理人「私も魚とキノコを穫りたい」
狩人「じゃあ色々まわってみましょうか」
南港「お昼は何かの~!」
料理人「……おにぎり」
南港「なぜ精神を削ってくるのじゃ……」
…………
意外と薬学士は簡単に目当ての植物を探り当てて行ったので、料理人もその道でキノコや木の実、薬草や香草を採取する
狩人と南港がその間に釣りをすませたので、お昼には大体の作業を終えていた
料理人「さあ、食べよ?」ニコ
南港「殺戮者じゃ……殺戮者の笑顔じゃ……」
薬学士「学者ちゃんも連れてきたら当たる確率下がったのに……」
狩人「しかしお腹空きました……」
なんと、ハーレム状態でも誰にも手をつけられない狩人が最初に手をつけた
狩人「……」ツーン
狩人「辛い……」
南港「なんとツイてない……」
薬学士「ポーションポーション!」
料理人「ワサビだな」
…………
その剣士は村に着くと、すぐに宿を取った
旅慣れたいでたちの男は、一旦ベッドに腰を下ろす
剣士「……さて」
剣士「……どこから探すか……」
…………
学者「では、よろしくお願いします」
騎士「承りました」
騎士「しかしお嬢様、身を隠すためとは言えもう少しマシな装いが無いものでしょうか……」
学者「こういうのも結構楽しんでやってるんですよ」
騎士「しかし……仮にも王家の方が……」
学者「ここでの生活は気に入ってます」
学者「口出しは無用でお願いします」
騎士「分かっております……」
学者「それで例の探し人二人なんですが……」
騎士「お嬢様のご推測の通りです」
学者「拙者の推測ではないでごじゃるが」
騎士「は?」
学者「何でもない」
学者「高塔の魔王様はどうされていますか?」
騎士「王にご指導下されております、お陰で北終の魔王も簡単には高塔を攻められない状態です」
学者「聖都北の国との共闘は上手く行ってるのですね?」
騎士「はい、このまま行けば侵略者の軍は壊滅です」
学者「大楠での一戦が大きかったですね……」
騎士「御意」
学者「魔晶石狩りの動向は」
騎士「御身にお気をつけください」
学者「……来ているのですね」
騎士「御意」
…………
薬学士「うう……ここでキミが来るの……?」
薬学士が薬草に悶える姿はなんとも奇妙である
南港「……またなのじゃ」
南港はワサビの呪いにかかっている
料理人「のどがっ……」
料理人は火を吹いた
狩人「うん、これは……」
料理人「イナゴです」
狩人「……!?」
南港「精神はすり減るが慣れると楽しいのう」
料理人「……はいどうぞ」
南港「……ワサビ何個作ってきた……?」シクシク
料理人の久々のお茶目をたっぷり味わったところで、帰還することにした
…………
剣士は森から村に入った冒険者たちを認めると、後をつける
恐らくはまだ誰にも狙われていないのだろう
和気藹々と歓談しながら、村で一番大きな屋敷に入っていく
その中の一人が持っていた短刀?
明らかに魔晶石が使われている
剣士「間違いなかろう……」
剣士は彼らの少し後をついて行く
その更に後ろからいくつかの気配がついてくる
剣士「……」
料理人たちが家に着くと、生臭い狩人は家に帰り、生臭い南港は薬学士と風呂に入る
一人になった料理人は黙々と魚を捌いていく
終わったら風呂に入らないと
大体の魚を捌き終わり、次にキノコや木の実、香草の処理にかかった時、来訪者があった
料理人「?」
料理人「誰だろう」
ひょっとしたら二人が帰ってきたのでは
そんな期待を僅かに抱いていなかったとは言えない
料理人「どちらさま?」ガチャ
そこにいたのは、痩身の剣士であった
この剣……たしか……東果ての……刀だ
料理人の師匠、女将は東果ての刀鍛冶の造る包丁に惚れ込んでいた
切れ味では右に出るものがないと言っていた
しかしそれは危険性も兼ね備えていると言える
剣士はゆっくりと口を開いた
剣士「失礼、そなたは魔法剣を所有されているとお見受け致す」
料理人「!」
その次の瞬間、剣士の背後から数人の人影が飛び出した
第三章「料理人と魔王」 完
次回――
攻め来る魔晶石狩り、閃く謎の剣士の剣
その時、料理人の運命は……
その頃、薬学士らの知らぬ場で高塔の王と魔王達が、北終の魔王狩りと激突する
果たして、魔晶石狩りとは何者なのか
そして、薬学士は大切な家族と再開できるのか……
第四章「料理人と戦争」
魔王たちの戦争が……始まる……
ちょっと短いですがここまでです
次は長いので何回か分けることになると思います
日本語がどんどん難しく感じてきます
ちょっとずつペースを取り戻したいと思います
では、また後日
ありがとうございました
乙乙。
期待age
期待age
応援有り難う御座います!
今回五十レス分ギリギリでなんとか第四章を書ききったのですが、すごく長いので修正に手間取っています
今しばらくお待ち下さい
乙
いつもお待たせしてすみません
ゆっくり更新します
第四章「料理人と戦争」
北終の国では敗戦のムードが濃くなっていた
そこに来て高塔の国では更なる侵攻の準備が整えられているとの情報が入る
北終の国は魔王が複数人居た序盤戦には東方面で魔王狩りを進め、大きく領土を広げていたが
勢いに乗り大楠の国を攻めた中盤戦、思わず躓くことになった
北終軍の中心戦力であり強力な防御魔法を誇る、正に『魔王狩り』と呼ばれた魔王と、その遥か背後で指揮を取る北終の魔王を除き、魔王が全滅したのである
これにより北終軍の侵攻は大きく鈍化
高塔軍の反攻を受けては、辛うじて戦線を維持しているのがやっとである
そこに更に大きな問題が発生した
大楠の魔王を慕っていた他の魔王たちに聖都北の国王が召集をかけた、との報が届いたのである
北終の魔王は焦り、いらだち始めていた
作戦は千々に乱れ、時には魔王狩りに命の危機が訪れるような局面さえあった
魔王狩り「ちっ、あの豚もそろそろ狩るべきかもな……」
しかし、北終の魔王を倒すことにはある大きなリスクが存在している
魔王狩りであっても、無事に狩ることは難しいと思われた
一方、聖都北の国では……
既に三人の魔王が集まっていた聖都北に、更に二人の魔王が加わっていた
秋風「皆、久し振り」
秋風の語りかけに最初に応じたのは大剣を背負う聖都北に元々住み着いていた魔王である
大剣「おう、来たか秋風、それに西浜も」
西浜「……」フフッ
大剣「おおっ? なんだそのハイテンション!」
秋風「最近美味い飯を食ってたから元気なんだ」
秋風「こいつが何も言わないから、ここに来るまで私も招集されていたと分からなかった、すまない」
大剣「使者送ったんだがなあ?」
それに対し答えたのは少年のような容姿の魔王
彼は南港と同じ国の東磯小地区に住む魔王だ
東磯「……南港と秋風、二人の使者は俺が止めた……」
大剣「はあ、マジか」
大剣「お前ほんと女には甘いな」
秋風「西浜は?」
東磯「……西浜は来ないと思っていた……使者が行ったのもうちより前だったし……」
秋風「こいつは国があるし、喋らないくせに黙って出てこられる性格じゃないからな」
大剣「出てこられたのは地元の民が西浜の意を汲んだからか?」
西浜「……」ウ……
東磯「……泣かせた」
大剣「わわっ、悪かったから銛構えるな!」
秋風「民に追い出されたからうちに泣きついてきたのか?」
西浜「……」フルフル
秋風「まさか誘いに来たとか?」
西浜「……」フルフル
大剣「大方、聖都北がどこか分からなかったんじゃねーか?」
西浜「……」ウ……
大剣「すまん泣くな東磯も銛構えるな!」
そこに無骨な雰囲気の魔王が語りかけてきた
聖都北の東の山脈に住み着く鉄斧の魔王である
鉄斧「相変わらず騒がしいのお」
秋風「久し振りだな」
鉄斧「まだ生きてたか婆」
秋風「死ぬか?」ギラッ
鉄斧「すまぬ、すみません」
秋風「昔の戦の時のように私が部隊長として指揮を取るか、大剣がそのまま指揮を取って私が補佐するか、どうする?」
大剣「補佐だな」
秋風「うむ、じゃあ任せよう」
鉄斧「秋風の指示があれば安心だのう」
大剣「どうせ俺はこういうのは苦手だからな」
秋風「ここの統治者は人間だったな……」
大剣「騎士団領と言うべき土地で流石に魔王がトップとか有り得んだろ」
秋風「そうだな」
東磯「……西浜、俺たち訓練しよ?」
西浜「……」ン
秋風「まて東磯」
秋風「良い物をやろう」
秋風はもちろん計画していた
魔王狩りを倒す方策を
そんな折に思いがけず大量の魔晶石を得たのだ
東磯「……魔晶石の銛……しかもこれは哲学者の石のような高純度……」
西浜「……」ン
秋風「それは大袈裟だが、かなり巨大な魔晶石を得た結果これを作れたんだ」
秋風「能力にすれば4~6倍、しかも多数の結晶を併用するのとは違って一つになってる分出力が出しやすい」
秋風「細かい説明は抜きにするが、くれぐれも広範囲で使うな」
秋風「お前たちが全力でこれを使ったらちょっと国を滅ぼさないとは言い難い威力があるからな」
西浜「……」ム
秋風「ごめんなさい」
東磯「……西浜が怒ったの五十年ぶりくらいに見たかも……俺が南港を危ない釣りに誘った時以来……」
大剣「危ない研究しやがって! ……って所か」
秋風「……研究中も何度も怒られたからな……」
東磯「……こいつは怒鳴ったりしない……秋風……西浜が喋らないことに甘えていたな……?」
秋風「うむ……すまん」
西浜「……」ムム
秋風「……悪かったよ……」
秋風には怒りに震える西浜の気持ちが手に取るように分かる
魔王たちは百年を超える時を共に過ごしたのだ
それだけお互いの間に、深い思いが、繋がりがある
秋風はそっと西浜を抱きしめる
西浜「……」ン
東磯「……秋風……変態……」
秋風「誰が変態だ!」
鉄斧「儂も抱きしめたいのう」
大剣「流石に逮捕するわ」
鉄斧「連れないのう……」
秋風「まあ長いことそんなむさ苦しい姿で生きてたら人の体温も恋しいだろうな」
秋風は鉄斧をゆっくりと抱きしめる
辛い人生を送り続ける同士を思いやる暖かなハグだ
東磯「……俺もぎゅってして欲しい」
大剣「この場合エロ爺? エロガキ?」
秋風「まあいいけど、可愛いし」ギュッ
東磯「///」
西浜「……」フッ
大剣「おい、西浜に笑われてるぞ」
鉄斧「西浜が嘲笑うのはワシ初めて見たかものう……」
秋風「変態呼ばわりされた気がする」ピシッ
西浜「……」グスッ
東磯「秋風……いつそんな凶悪な技を覚えた……」
秋風「最近な」
大剣「ただのデコピンだろ」
大剣「しかし、武器が増えるのは有り難いな」
鉄斧「これならば魔王狩りの破壊神でも倒せよう」
秋風「そうか、お前たちならいくらか魔王狩りの情報を得ているか」
秋風「奴が何者なのか知りたい」
鉄斧「うむ」
大剣「簡単に言えば力自慢だな」
大剣「奴が狂いだしたのはある剣を手に入れてからだ」
大剣「魔晶石四連つなぎの剣、通称勇者の剣」
秋風「はは、笑えるな」
鉄斧「全くじゃ、このお前さんがくれた斧を見たら良く分かる」
大剣「高純度魔晶石……これこそ研究成果と呼ぶべき代物だな」
秋風「意外と簡単な製法だったがな」
鉄斧「お前の簡単があてになった試しがないわ」
大剣「全くだな」
鉄斧「ワシらはこれで平和を乱す北終の魔王を倒す」
鉄斧「その時にはこの斧が勇者の斧と呼ばれよう」
秋風「……」
大剣「どうした秋風?」
秋風「……いや」
秋風「……」
秋風「死なないでくれよ……」
鉄斧「!」
大剣「……」
大剣「死にゃしねえよ、大楠の馬鹿野郎と一緒にするな!」
鉄斧「全くだ!」
秋風「……ふふっ」
その後、魔王たちが近況など、たわいもない会話をしている時、バタバタと足音が響いた
兵「報告!」
兵「高塔の魔王様が東の森に侵攻した模様、王が皆さんをお呼びです!」
秋風「!」
大剣「きたか」
鉄斧「我等も準備せねばな、王の所にはお主と秋風で行ってこい!」
大剣「了解、チビと根暗にも伝えといてくれ」
鉄斧「おう!」
…………
暗殺者達は息を潜め、そのタイミングを待っていた
魔晶石を使った武器を持つ存在を見つけたことで、その剣士を倒す必然はより一層増したと言える
問題になるのはタイミングである
相手には既に気取られていると考えねばなるまい
ならば剣士が魔剣を持つものと接触するタイミング
そこが決戦の最善のタイミングと言えよう
剣士がその家の前を訪れる
しかし直ぐには剣士は動かなかった
じっくりと腰を据え、こちらに殺気を飛ばしてくる
何かを待っているのかも知れない
時間が経てば危ないかも知れない
そうしている間に、魚を捌いているのか血生臭い臭いが漂いだした
待ち人が来ないからだろうか、剣士はゆっくり腰を上げると扉を叩いた
…………
料理人は焦っていた
友の顔を期待して開いた扉の前に居たのは、危険な香りの刀を携えた剣士
その剣士が聞いてきたのは魔法剣のこと
魔晶石狩り……!?
その次の瞬間、剣士の後ろから飛び出した数人の影と、剣士が戦闘を開始した
料理人「!?」
暗殺者A「逃げろ女!」
暗殺者B「そやつは魔晶石狩りだ! お前の魔剣を狙ってる!」
剣士「ははっ、そう来たか!」
剣士「こいつらが魔晶石狩りだ!」
一斉に飛びかかってくる4人の前に爆発が上がる
1対4の戦いであるが、剣士は全く怯む様子がない
完全なコンビネーションで攻めてくる暗殺者達のタイミングをずらさせるように、どういったスキルでかは分からないが細かい爆発を放っていく
料理人が思わず見入ってしまう見事な立ち回り
この事態で料理人が思うことは、自分は人間同士の戦いは無理だ、と言うことだった
しかしぼんやりしていると、後ろで騒ぎを聞きつけた二人がバスタオル一つという無防備な姿で出てくる
料理人「逃げろ!」
薬学士「うわわっ」
南港「うぬっ、薬学士、早く上に!」
爆破攻撃をかわして出てくる一人をすかさず斬り伏せる
暗殺者達が多人数で押しているにも関わらず主導権を握っているのは剣士の方である
対人戦闘では素人と思われる三人の娘達は一刻も早く引くべきだが、料理人は後ろの二人を気にして引けない
しかし南港の方は参戦する気があってか引かない
そのために二人が硬直していたのはほんの数瞬である
暗殺者が放ったナイフが、料理人の肩に直撃した
料理人「うわっ」
ナイフを投げた暗殺者を剣士が斬り伏せる
剣士「くそっ!」ズバッ
薬学士「料理人ちゃん!」
南港「うおおおっ!」
料理人が倒れ前方が明らかになる
南港は前方に手をかざす
そこで戦闘は終わった
南港「そのまま塵になりたくなければ武器から手を離せ!」
剣士「うおおっ」
暗殺者B「ぐあああっ」
南港の重力操作により三人は地に縫い付けられる
三人が武器を離すと南港は薬学士に倒れている者の物も含め、武器を回収させる
南港「薬学士、念の為料理人に毒消しを飲ませるのじゃ!」
薬学士「わかった!」
薬学士が二階に上がると南港が術を解く
南港「こう見えても大戦経験者じゃ、儂を舐めるでないぞ?」
南港「動いたら細胞レベルですり潰す」
剣士「ま、まだ魔王が居たのか……」
暗殺者A「魔王がいるなんて聞いてねえ……」
南港「…………さて、それぞれ身の潔白を証明してもらおうかのう」
暗殺者B「俺は雇われただけだ!」
暗殺者A「な、何を言い出す貴様!」
剣士「ここで何か言ってもなんの証拠にもならん、少し待ってもらおう」
南港「ふむ、援軍でも来るのか?」
剣士「……そうだな」
南港「正直じゃのう」
南港「まあ一人二人増えても無駄じゃ」
剣士「くくっ、流石に魔法剣も無しに魔王に挑もうなどと思わん」
南港は剣士の物言いから、なんとなくこちらは安全なのではないかと判断した
魔王がいた、と知っていたことも、倒せない相手なのが分かっていて援軍を待つ、と言うのも何か弁明の手段を持つことを匂わせている
南港「仲間が魔法剣を持ってくるかもわからんのう?」
剣士「ならば俺を人質にすればいい」
南港「お主にその価値があるとは思えんのう」
剣士「そうか、それもそうだな」
剣士「だがそっちの娘を刺したナイフは俺の物じゃないぞ?」
南港「そんなもんお主を狙ったのかも分からんじゃろ?」
剣士「……見た目はガキの癖に頭は働くんだな」
試しのネタも尽きて剣士が黙ると次に暗殺者が喋り出す
暗殺者A「そいつは悪党なんだ、信じてくれ!」
真っ向から南港とやり合う剣士に比べ、信じてくれ、とは
情けないセリフである
南港の心の中の天秤がもう少し剣士の側に傾いた
暗殺者B「俺は悪くねえっ」
もう一人の暗殺者が逃げ出す
しかし足を縫い付ける重力
南港「バカか、逃がすわけ無かろう」
料理人「くっ、いつつ……」
南港「おお、料理人、大丈夫か?」
料理人「戦えたのか……いや、力があるのは知ってたけど」
南港「昔の話じゃ、今夜にでも話してやるわい」
南港「料理人、動けるなら薬学士に薬とロープをもらってくるのじゃ」
料理人「分かった」
料理人は肩に刺さったナイフを抜き、流れる血を押さえつつ呟く
料理人「……ちょうど良いからアレを試そうかな」
南港「ん?」
二階に登った料理人は既に準備していた薬学士からポーションと毒消しを受け取る
薬学士の薬に即効性があるのは魔晶石の力を使って回復魔法を発動させるためだ
ポーションを飲むと料理人の怪我もたちまち光の粒子に包まれる
出血は止まり、筋肉や皮膚の構造も怪我を負う前の状態に回復していく
料理人「よし、ロープちょうだい?」
薬学士「無理はしないでね?」
料理人「うん」
料理人は南港の所に戻ると、油断無く三人を縛り上げる
そして南港に小さい声で語りかけた
料理人「三人にスープをご馳走していい?」
南港「はあ?」
南港「儂も飲んでいい?」
料理人「やめておいた方がいいかな?」
料理人は冷蔵庫を開けると、厳重に紙で包まれた物を取り出す
更にその中にある小さなビンを取り出す
如何にも物々しいビンの中に入っているのは何やらキノコのようである
料理人は前回うっかり焼け焦がした鍋を取り出すと、焜炉にかけ、水を沸かせる
この世界で使われている焜炉は炭を使う物が多いが、料理人は調理専用の火の精霊の石を使った焜炉を使っている
魔力量を調整し、石が強い熱を放ったのを確認するとその場を離れ、着替え終わった南港に話しかける
料理人「南港、疲れてない?」
南港「ぐったりじゃ」
料理人「よし、なんかおやつ作ろう」
南港「ホットケーキがいいのじゃ!」
料理人「了解」
料理人はさっきまで戦っていた南港がやっぱり子供らしい主張をしたのにホッとした
それと同時に少し考えることがある
南港のこの性格は果たして本当に演技をしているようなものだろうか?
血を見て泣くだろうか?
ひょっとしたら感情までこの姿のまま固定されているのだとしたら
秋風峡谷で魔王と会ってから
いや、もっと前から
料理人は『寂しい』という気持ちに常に心を支配されている
だから魔王たちの寂しさを、本当に強く感じてしまう
そうだ、寂しかったのだ
愛しているなら一緒にいて欲しかった
だから薬学士を始め、新しい家族と出会ってから
もう離れたくない
そんな気持ちがどんどん膨らんでいく
だからだろう、あの時薬学士にあんな提案をしたのも
魔王たちの寂しさを少しでも埋めてあげたい
いつか魔王が居なくなる、その日まで
…………
南港「ふむ、こっちの二人……一撃で死んどるな」
南港「見事な太刀筋じゃのう」
南港「……」グスッ
南港「街の者で丁重に弔ってやってくれ」
薬学士「うん……」
…………
料理人はなりふり構っていられなかった
実際に襲われ
自分の無力を味わった
自分には戦闘は出来ないのだ
なら、違う戦い方をするしかない
料理で戦う、それは必然の選択だった
料理人「さて、気持ちが落ち着いたら話す気にもなるでしょ」
料理人「三人はそのスープを食べてね」
料理人「薬学士と南港にはホットケーキを用意してるからね」
料理人「メープルシロップかけ放題!」
薬学士「!」
南港「!」
何故か二人から殺気が迸った
剣士「いいのか? ロープ解いて」
料理人「ああ、だって」
料理人「魔王を素手で倒せる人がいる?」
料理人「その上で、もし剣士さんが魔晶石狩りならこちらの戦力は三人、逆でも2対2」
料理人「仮に両方が魔晶石狩りでも、誰かが襲われた時点で、この包丁の魔晶石を砕くこともできる」
料理人「少なくとも君らは魔王じゃない」
料理人「私よりは強いだろうが、弱い人間だからね」
料理人「この場で魔王や破壊神と素手で立ち回りなんかやりたくないでしょ?」
剣士「……食えないお嬢ちゃんだな」
料理人「そのスープは食えるよ」
暗殺者B「怪しいもんだ」
暗殺者A「まあいい、毒を盛ってるとしても殺す意味はないだろ」
暗殺者B「そんな覚悟があるふうにも見えんしな」
剣士「なにより美味そうだ、香りがいい」
料理人「いろいろ出汁に拘ってるからね」
剣士「出汁か、東果ての料理が好きなのか?」
料理人「師匠が東果てオタクだったんでね、でも基本は酒場料理だけど、ね」
まず剣士が口をつけた
それを見て暗殺者たちも口をつける
剣士「うん、美味い……」
暗殺者A「ああ、なかなかいける」
暗殺者B「キノコだけでこんなに美味くなるのか」
料理人「だからそれが出汁だよ、具はないがいろんなエキスが入ってる」
三人がスープを飲み干したのを確認して、料理人は話し始める
料理人「で、当然それは毒が入ってるわけだけど」
剣士「だろうな」
暗殺者A「やっぱりか」
暗殺者B「うえっ?」
料理人「師匠にはすぐに死ぬことはないと聞いているけど」
料理人「ドクササコって言う東果てのキノコなんだけど」
剣士「ぶっ!」
剣士はどうやら知っていたらしい
その狼狽ぶりに残る二人にも動揺が広がる
暗殺者A「え、なに?」
暗殺者B「そんなにひどい毒なのか?」
料理人「まあこれくらいは許してよ」
料理人「あんた達のせいで私はナイフで刺される痛みを知ってしまったんだからね」
料理人が睨み付けると流石に三者は黙った
なにより毒の内容が分からないのが不気味だ
料理人「さて、洗いざらい話してもらいたいな」
料理人「抵抗しようなんて考えないで、今私が毒消しを飲んだから薬学士が次の毒消しを作るまで一週間かかる」
料理人「君たちが飲んだ毒は特異で、発症までにちょうどそれくらい時間がかかる」
料理人「運が悪いと明日発症するけど」
暗殺者A「はっ、発症するとどうなる?」
剣士「……体の末端、つまり手足の指先や鼻に」
剣士「焼いた鉄串を突き刺すような痛みが起こり」
剣士「それが1ヶ月ほど続く」
剣士「男の場合……アレもおんなじくらい痛むそうだ」
暗殺者A「……」
暗殺者B「……」
剣士「……とんでもない糞ガキだった」
聞いていただけの薬学士と南港もホットケーキを食べる手を止めて青ざめる
暗殺者A「俺らは無実だああああ!!」
暗殺者B「うわあああああっ!!」
二人が悶えだした時、学者が屋敷を訪れた
学者「騒がしいですにぃ」
料理人「いらっしゃい、晩御飯まだだよ」
学者「いえいえ、ちょっと騒がしかったから気になって寄ってみただけどすえ」
そういうと、学者はちらりと部屋の中を覗く
学者「騎士さん、ちょいとこちらへ」
騎士「妙な喋り方だけでも止めていただけないでしょうか」
料理人「こっちの人は?」
学者「旅の騎士様だそうでござる」
騎士「!」
騎士「旅の騎士です」
学者が料理人たちに身分を告げていないことを察し、騎士は学者に発言を合わせた
学者「騎士さん、あの方たちに心当たりありやーせんか?」
学者に促されて、騎士は部屋を覗く
騎士「……知り合いがいますね」
学者「この騎士さんは魔晶石狩りを追いかけて友達と旅をしていたらしいでやす」
学者「どちらの方か分かりゃせんがそのお友達のようでござるなあ」
騎士「……」
騎士は学者が言葉を発する度、顔をそらしプルプル震えている
南港「なんか怪しいのう」
学者「怪しいことなどありゃしませんぜ旦那!」
南港「お前の話し方から怪しさ満点なのじゃ!」
学者「へへぇ~!」
何故か土下座する学者
料理人「じゃあ入って」
料理人「三人ともおとなしくて困ってたんだ」
剣士「……」
暗殺者A「……」
暗殺者B「……」
料理人「とりあえずまた暴れたら困るし、縄をかけなおさせてもらうよ?」
南港「任せよ!」
南港はするすると器用に三人を縛っていく
そして騎士の裁定を待った
騎士「こちらの剣士殿は我が同胞です」
料理人「なるほど、では、そっち二人は?」
暗殺者B「ただの傭兵だよ……」
暗殺者B「……魔晶石狩りのな」
南港「儂の読み通りなのじゃ!」
薬学士「じゃあ毒消し持ってくるね!」
剣士「は?」
暗殺者A「毒消しあったのか」
暗殺者B「……」
料理人「ああ、毒消しいらないよ、さっきの毒キノコじゃないから」
剣士「!」
剣士「そこからハッタリか……」
暗殺者A「くそっ、くそっ!」
暗殺者B「はあぁ……」
料理人「で、どうする?」
暗殺者A「……」
暗殺者B「いいよ、全部話してやるよ」
暗殺者A「おい」
暗殺者B「元から野郎に金以上の義理はねえ」
暗殺者B「暗殺者の仕事としては最低だが、シビレるスープの駄賃だ」
料理人「シビレないけどね」
暗殺者A「それよりそっちの二人は信用できるのかよ?」
暗殺者A「そっちの剣士にうちの仲間はだいぶ斬られてるんだぜ?」
剣士「悪党を斬るのに理由などいらん」
騎士「お嬢様、もう話してしまわれたら如何でしょう?」
学者「ふみぃ……仕方ありゃーせん」
学者「……この方達は高塔の王に仕える騎士と剣士でやす」
料理人「!」
薬学士「ええっ!?」
南港「ほほう」
剣士「証拠になるものは持ってないがな……」
学者「……もー、正体バレたらつまんないでやす……なんかパパさんの書簡でも持ってたら良かったのに……」
学者は渋々と帽子を取り、そこからメダルのような物を取り出す
学者「ほれ、これだってたぶん誰も見たことないだろうけど、高塔王国第三王女の証しですだ」
料理人「マジか」
薬学士「すごぉい……」
南港「どれ、儂が鑑定してやろうかの」
南港「高塔の鷲と塔のエンブレムに見事な彫刻……小さな魔晶石が幾つか……、それに裏側に国王のサインがあるのう」
南港「金属自体がレアで加工が難しいオリハルコン……サインの真贋は抜きにしても二つとはない品じゃろうな」
南港「ほれ、お前等も見てみるが良いぞ」
暗殺者A「むう……」
暗殺者B「虹色の金属なんて初めて見た……」
南港「身分証じゃから当然じゃが、簡単には偽造出来んように出来ておる」
南港「殆ど疑う余地が無いと思うが?」
暗殺者A「珍しいもんが見れたわ」
暗殺者B「降参だ」
料理人「……疑ってすまない、剣士さん」
剣士「いや、身を守るためには必要な判断だったと思う……気にするな」
料理人の謝罪を受けると、改めて剣士は学者に向き直る
剣士「……調査結果は出ています、この者達は連行してしまいましょう」
剣士「報告は後程」
学者「あと、拙者まだまだ研究を続けたい故、皆さん内密に頼みますぞえ」
料理人「あ、ああ、もちろん」
薬学士「ほわわっ、はいっ」
学者「普通に学者ちゃんとして接してくだせえ」
薬学士「ええっ……でも……」
学者「普通に接してくんなきゃオラやんだなぁ……」
料理人(普通に喋ってくれ)
薬学士「わ、分かったよ、学者ちゃん!」
薬学士「家族だもんね!」
学者「ふひひ」
学者の話し方に疲れたのか剣士と騎士は眉間を押さえている
剣士「……やれやれ」
すみません、体調が悪いので少し休憩します
再開します
騎士達は4人で高塔へ帰ることになった
南港が移送出来れば早かったが、残念ながら長い時間が経つと帰還魔法が使えなくなるようで、結局彼らは歩いて帰って行った
料理人はいろいろと考えることがあった
いろいろな情報が飛び込んでくる中で、考えはまとまらない
こういう時は料理だ
まず晩御飯は変わった物を作りたい
秋風が残してくれた火精のオーブンがある
メインはグラタンにしよう
作り慣れないメニューを作ると色々頭が働く気がする
他にはマスのカルパッチョとか
うん、新鮮なマスを狩人君に頼んでこよう
猪肉や魚を燻製してみよう
木のチップも狩人君に頼めば良いかな
まず、今後のことだ
兎に角、秋風には言いたい文句が山ほどある
秋風と再会するには、第一に秋風がどう動いているか知る必要がある
学者が王女なら彼女の情報網は現状一番信用が置ける
まずは高塔に行くべきだろう
それからどうするか
秋風に美味い料理を食べさせたい
何かソースを工夫しようか
どちらにしろ何かを思い出させるような料理がいい
いくつか料理のアイデアをまとめたら、後は行動あるのみ
それが酒場料理、包丁一刀流の女将さん直伝の、無骨だが美味い料理を作る方法
それを目指すのが料理人だ
料理人「やるぞ!」
…………
薬学士は一人でうにうにダンシングしながら悩んでいたが、南港に相談を持ちかける事にした
魔王化については経験者に話を聞くのが一番いい
料理人が刺された事は、料理人自身より薬学士に強いショックを与えた
死なれたくない
傷付いて欲しくない
でも決断できない
止めるべきかも知れない
でも……
薬学士はなんだかお腹が空いてきた
とりあえずポーションや毒消しを作り足して時間を潰した
やがて、良い香りが屋敷を包んでいく
ふわふわした物体が涎を垂らしてゆらゆらゆれ始める
料理人の料理は旨味と香りが強いのがポイントだ
このままずっと彼女と過ごしていたら確実に……太る……!
薬学士の抱える問題がまた一つ増えた
…………
料理人「まず薬学士と南港、お二人に謝らなくてはならないことがあります」
薬学士「……ごくり」
南港「妙に引っ張るのう……」
料理人「グラタンは時間がかかるのでおかわりはありませ~ん!」
薬学士「ええええっ」
南港「マジかあああっ」
料理人「代わりにと言っては何ですが食べたければ厚切りベーコンを焼けます」
南港「やっほう!」
薬学士「食べたい!」
料理人「チーズを一杯食べたかったのでチーズハンバーグを量産致しました!」
薬学士「わああああ!」
南港「やほおおお!」
料理人「皆様にご満足頂けたら幸いです」
学者「……早く食べたいですのん……」
料理人「では、いただきます!」
薬学士「いたらきまーっ!」
南港「ひゃはーっ!」
狩人「……いたらきまーっす!」
学者「うむ、いたらきまっでござる」
料理人「……食卓の戦場なら平気なんだけどなあ……」
料理人「そうだ、南港に大戦の話を聞いておきたかったんだよね」
南港「そうじゃな……自分達で残さなかったのもあるが、ある問題があって記録があまり残っておらんからのう」
しかし、その前に重大な案件を抱えてしまったことに、薬学士は気付いた
薬学士「お肉ばっかりだから確実に太る!」
料理人「その点は赤身中心に使うとか配慮しますのでご了承ください……」
南港「美味ければよし!」
魔王になるとウェイトのコントロールも可能なのかも知れない
薬学士「うらやましい……」
料理人「ダイエットには付き合うよ?」
栄養学も料理の一分野であろう
料理人自身もダイエットは必要だと薄々感じていたし……
……お話を戻そう
まず今は南港に話を聞こう
南港「つーてもどこから話せばいいのかのう?」
南港「百余年前、西大陸と聖都からずっと南の大国、ツツジ国が戦争を始めたのが始まりじゃったかのう?」
南港「チーズ美味い」モグモグ
南港「その前に小競り合いはあったんじゃが、ずいぶんたくさんの魔王が駆り出されての」
南港「その中に身内がいたもんで儂等も……ああ、身内については後で話そうかの」
南港「戦争じゃから仕方ないが、殺し合いじゃったわ」
南港「その時儂はずっと泣いてばかりだったから実は前線には余り立たせてもらってないんじゃけどな」
南港「秋風や他の仲間も儂がウザかったかもな」グスッ
料理人「……」
たぶんそうじゃない
秋風達は料理人と同じ結論に辿り着いたのでは無いだろうか
南港「寂しい話じゃ」
南港「でも儂のうざったい性格は治らんのじゃ」
それは子供が魔王になるとずっと子供の性格のまま、と言うこと
そしてそれは大楠の魔王も同じだったのではないか
秋風達が大楠の魔王を失ったショックが分かる気がした
子供を持てない魔王達にとって、彼女達は一層大切な身内
南港を置いていったのは料理人達のボディガードの意味も有ったろうが、そう言った意味合いもあったのではないか
大切な身内を死なせたく無かったのではないか
南港「大戦は大混乱じゃった」
南港「なんせ魔王が二百人から参加したからの」
料理人「それは凄まじいだろうね……」
南港「大戦は意外な形で終わった」
南港「まず、魔王が半分ほど倒れた辺りから、世界中に破壊神がランダムに現れるようになったのじゃ」
料理人「ええっ?」
薬学士「うわあ……」
学者「そりゃ生きた心地がしなかったでしょうなあ」
学者「しかしうちの国でも殆ど大戦の記録が残ってないのは謎でごじゃる」
南港「まあそれも大戦が終わった理由に原因がある」
南港「もう一つ言えば生き残った数十人ほどの魔王が悉くバラけた理由にもなった」
学者「ふうむ……魔王同士や破壊神との戦争に疲れたんですかにゃ?」
南港「いや、もっと根元的な理由じゃ」
南港「戦争を止める存在が現れたのじゃ」
料理人「魔王の戦争を止める……存在……?」
南港「うむ、知っておるか?」
南港「魔王と呼ばれる者達を作った存在……」
南港「七魔女」
薬学士「名前だけは聞いたことある」
薬学士「哲学者の石を作り出し永遠にして完全な存在になった原初の魔女」
学者「七魔女と言えば高塔では女神と讃えられる存在ですにゃ」
学者「いったい何の目的でそんな伝説が現れたでやすか?」
南港「元々その時現れた魔女が七魔女になったのが破壊神を消し去る目的だったかららしいのじゃ」
南港「当然そんな伝説上の存在が現れれば皆混乱する」
南港「因みに七魔女とは原始の七魔法を一人で極めた存在じゃから七魔女と呼ばれるのであって七人居る訳じゃない」
南港「それぞれ目的の違う者が数人は居るらしいがの」
南港「そして大昔からの慣例で彼女の存在は隠された」
学者「特別な力のある存在は驚異になりやすいですからなあ」
南港「少し喋り疲れたの」
料理人「冷めても不味いから食べて」
南港「うむ」
南港「グラタンあつあつで美味いのじゃ!」
料理人「ありがと」フフッ
…………
南港「魔女が現れてやったこと、それは戦争の原因を作った魔王の」
南港「完全なる殲滅」
南港「立ち向かった者は全く歯が立たなかったらしい」
南港「もうそれは化け物じゃ、魔王が全力を尽くそうが破壊神を大量発生させようが一方的、攻撃は効かんし、……一薙ぎで全滅だったそうな」
南港「それから多くの魔王は表立った接触や戦争を避けるようになった」
料理人「では今の魔王狩りと言うのは……」
南港「戦争後に再び破壊神封印のために作られた新世代か、可能性は低いが自身で魔王になる方法を見いだした者かの?」
南港「狂っとるだけかも分からんが」
学者「狂っとるのが正解かも分かりやせんなあ」
学者「なんせ北終は大国でやす、後から来た魔王が支配できるとは考えにくいでやす」
南港「うーむ、そうすると儂も知っとる奴かも分からん」
南港「まあ心当たりが無いし、大戦に参加してなかった臆病者の線もあるかの?」
南港「……ふう……」
料理人「今日はこれくらいにしておく?」
南港「うむ……お腹いっぱいで眠くなってきたのじゃ」
料理人「よし、今日は一緒に寝よう」
南港「うん、嬉しいのじゃ」
南港「まあ七魔女の歴史や詳しい大戦の内容は機会が有れば別のお話で」
学者「誰に言ってるでやすか?」
南港「後、儂等が戦争に参加する理由になった魔王とは、儂等を魔王にした存在、儂等はママと呼んでおった」
南港「ママは大混戦の中で亡くなったが、ママの直接の弟子であった秋風はその技をいくつか受け継いでおる」
南港「じゃから秋風を死なせたくない」
料理人「うん」
薬学士「私も死なせたくない」
学者「まだ色々教わりたいですしにゃあ」
南港「じゃあ儂はもう寝るのじゃ、料理人だっこ」
料理人「はいはい」
学者「では拙者も失礼しやすにゃん」
料理人「あ、学者さん」
料理人「近いうちに高塔に行きたいんだけど、考えておいてくれない?」
学者「……うみゅ、了解でさあ」
学者「里帰りは非常に緊張いたしますが……」
料理人「まともに喋った!?」
そして料理人達は、四日後に騎士が帰ってくるのを待ってそれから高塔に旅立つことになった
…………
前線では人間の兵が戦える状態では無かった
強化された聖都北の魔王軍はもはや人間で止められる物ではない
そのため必然的に敵魔王も前線に出てくる
大剣「砦に強力な結界が張られた」
秋風「奴が出てきたな」
鉄斧「なかなか硬いわ、大したもんだわい」
東磯「俺の銛……刺さらない……」
西浜「……」ゥ
鉄斧「悔しそうだのう」
東磯「もう一発……撃ってみる……」
西浜「……」コクン
西浜のエールを受け、東磯は銛の魔晶石にその強力な魔力を込めていく
東磯「……薙払え……」
東磯が全身の筋肉を繋ぎ合わせるような動きで、力を銛の進行方向一点に込め、放つ
土を巻き込み轟音と雷撃をまとった銛が砦までの大地を抉りとる
結界と激突した銛が派手な爆発をするが、結界はその攻撃を凌ぎきる
東磯「……」
東磯「……戻ってこい」
敵陣に落ちた銛が高速で手元に返る
東磯の魔王のオリジナル魔法、手に触れた物を記憶がある限り自在に操る能力だ
秋風「東磯は強いな」
大剣「……本当は戦わせたくないんだがな」
大剣「しかしあの性格だろ?」
秋風「止めたら銛で刺されるな」
秋風「もう少し上手に誤魔化せばいいのに」
大剣「そう言うのは任せるわ」
秋風「本当に魔王らしくない奴だな、お前は」
大剣「人のこと言えるのか? お前もそこらのお嬢さんに紛れても分からんぜ?」
秋風「ほめ言葉と受け取っておくよ」
大剣「実際は婆だがな」
秋風「死にたいのか?」ニッコリ
大剣「こえーよ……」
鉄斧「埒が明かんわ、ワシも一緒にやろう」
鉄斧「ほれ東磯、ワシの斧にもお主の魔法をかけろ」
東磯「……分かった……ダブルでぶっ飛ばすぞ……」
秋風「よし、私の魔力も足してやる、西浜もやれ」
西浜「……」コクン
大剣「おいおい、大楠が無くなっちまうぞ……」
秋風「耐えるだろ、一発なら」
…………
魔王狩り「くそっ、何だってんだアイツら!」
魔王狩り「こんなペースで攻撃されたら流石に持たん、おい、魔晶石持って来い!」
敵兵「はっ、どうなさるのですか?」
魔王狩り「援軍を呼ぶんだよ!!」
魔王狩りは手に掴めるだけ魔晶石を持つと、魔力を込め、超音速で敵陣に投げつけた
…………
秋風「待て、敵からの攻撃!」
秋風「私の結界に魔力を注げ!」
西浜「……」ン
東磯「分かった……!」
鉄斧「石か!?」
大剣「破壊神が出るぞ!」
一瞬の後、結界に当たり、砕け散る魔晶石
激しいエネルギーの暴走……それがやがてまとまり、何匹もの光り輝く蛇のような姿を成して暴れ始める
秋風「くそっ、厄介だ!」
鉄斧「ワシが倒す!」
大剣「俺も仕事しないとな!」
大剣「秋風、西浜、結界は任せる!」
西浜「……」ン
秋風「任された!」
東磯「俺……遊撃!」
大剣「頼むぞ!」
東磯の魔王は本当に頼もしい
思わず大剣はニヤリと笑ってしまう
…………
魔王狩り「……よし、少し休む」
魔王狩り「こっちの援軍はまだか?」
敵兵「北終の魔王が何人か自国領内の魔王に話を持ちかけているようですが、難航しております」
魔王狩り「まあこっちは魔王狩ってる訳だからな」
魔王狩り「魔晶石売りはどうだ、追加を持ってきたか?」
敵兵「そちらは問題なく、ただ傭兵雇用の為の費用をかなりの額請求してきたのですが……」
魔王狩り「足元見やがる……仕方なかろう、払え」
魔王狩り「いいか、一般兵でシューターを使って魔晶石を30分毎に撃て!」
魔王狩り「対策を練る! 豚に北砦まで出てこさせろ!」
魔王狩り「それから敵に警告を出せ、豚が死んだら女神が出るぞ、とな!」
敵兵「ははっ!」
その時、魔王狩りの砦は追撃を受ける
派手な爆発は東磯の攻撃だろう
魔王狩り「うおおおおっ!?」
魔王狩り「くっ、相手方の魔王が多すぎるか!」
…………
大剣「あいつらどんだけ魔晶石持ってるんだ?」
秋風「最近魔晶石狩りが出ただろ、それがあいつらに流れてるんだ」
秋風「他に出所は考えられんからな」
大剣「さっさと押さえておけば良かったか」
秋風「恐らくは商人たちが動いているんだろう、あいつらは戦局が硬直した方が儲かるからな」
秋風「単純に一人二人押さえても無駄だ、流通を断たないと」
大剣「秋風が国で指揮してくれたらそういう動きも出来るんだろうが、今は眼前の敵を押さえきらないとな!」
秋風「そうだ、魔晶石なんぞ無限には無いし、市販品は魔王の魔晶石より遥かに劣る」
秋風「耐えきれば絶対に相手は引く、ここは我慢だ」
鉄斧「もう一発来るぞぉ!」
大剣「おおおっ!」
戦局は硬直するかに見えたが、北終の魔王は動かず、高塔の魔王により大楠西砦が落とされたことで魔王狩りが後退
数日後には大楠北砦まで撤退した魔王狩りを他の魔王が取り囲む形に落ち着いた
…………
そして、その戦争の影で料理人達は動き出す
少しでも早く合流せねば秋風達の危険はどんどん増していくのだ
四日を待っていられずに、料理人達は高塔を目指し旅立つことになった
薬学士「お師匠さま……」
薬学士「早まらないでください……」
道中南港がいたために、秋風峡谷を目指した旅よりも圧倒的に楽だった
旅を始めて二日目の朝には騎士と合流し、夜までには高塔の国西端に辿り着く
ここから高塔中心まで馬車で二時間かかるため、まずは一泊することになった
…………
夜、料理人と薬学士は南港に質問を浴びせ続けていた
薬学士「どうして南港ちゃんは魔王になったの?」
南港「儂が魔王になったのは10歳の時じゃったかのう」
南港「その当時も破壊神は暴走していたと思うんじゃが……」
南港「申し訳ないが10歳の子供の頃じゃ、覚えている事はそんなにないのじゃ」
料理人「うん」
南港「もちろん、両親が破壊神に殺されたのは覚えておる」
南港「敵を討ちたかったのは間違いない」
薬学士「永遠に生きることは苦しいと思わなかった?」
南港「確かに、当時はそんな考えは無かったのう」
南港「ママのためにって気持ちもあったかな」
南港「覚悟はあったが多くの人は止めた」
南港「まあガキじゃからな、ムキになっとったのも間違いないわ」
料理人「後悔しているか……?」
南港「後悔することもそりゃあるわ」
南港「じゃがの、幸せな時もある」
南港「後悔なんてものは一過性の感情にすぎん、捕らわれるのは馬鹿じゃ」
料理人「私が魔王になりたいと言ったら止めるか?」
南港「なりたいのか?」
南港「……それは個人の問題、としか言えんが、チャンスが有るかも分からんぞ」
南港「魔王狩りなんてやらかしてる奴がいるんじゃからの」
学者「また女神様が現れる可能性があるんでやすな?」
南港「うむ」
南港「しかし今更ながら謎じゃ、何故北終の奴等は急に魔王狩りなんぞやらかし始めたのか……?」
学者「女神様に会って文句を言いたいとか」
南港「アホじゃな、まず何も聞かずに殺されるわ」
南港「大戦の時じゃって有無を言わさなかったのじゃ」
薬学士「すごくワガママな子供みたいだね」
料理人「時々きついな薬学士は」
南港「まあ誰だって女神様なんて者がいたら会って願いを聞いてもらいたいじゃろ?」
南港「聞く耳を初めから持たないと分かっていたら無闇に会いたがる者は居なくなる」
南港「そういう腹積もりなんじゃないかのう?」
南港「儂が南港にいた時も散々無理難題な願い事してくる奴がおってな、逆恨みされたことも一回や二回じゃないのじゃ」
料理人「酷いなそれは」
南港「大抵は儂のまわりの者や南港の人間の王が止めてくれたがの」
南港「じゃから幸せじゃった」
南港「もし大楠のように魔王狩りの進軍経路に国があったら、儂も逃げずに戦ったがの」
南港「儂の場合逃げるのが一番じゃ」
南港「西浜や東磯は居るが、高塔を残して西浜まで進軍しようものなら補給線が持たんしの」
南港「儂一人でも南港の戦力が少なければ危険を犯してまで南港に攻め込むメリットも無くなるしの」
南港「ただ魔王を狩りたいなら聖都から南に行けばわんさとおるし」
学者「高塔にも隠れ住んでいる魔王様が10人くらいいるとか」
南港「隠れ住んでいる者は知らんのう」
南港「なんかの、この真っ赤な見た目を隠す魔法も有るらしいのじゃ」
南港「それでも不死だからばれるし、知り合いが出来る前に引っ越ししまくってるんじゃろうな」
学者「なんだか哀れでござんす」
南港「たぶん儂みたいに人間と深く関わりたがる寂しがりじゃあ、ないんじゃな」
料理人「見た目が変わらないのもメリットは有りそうだな」
南港「まあ儂は敵を威嚇出来るし真っ赤でいいがのう」
薬学士「その真っ赤な見た目はやっぱり魔晶石の作用なの?」
南港「と、言うか魔王化すると肉体が標準的な物質から魔力構成物に置き換わって行くのじゃ」
南港「まあ極端な事を言えば儂等は精霊や魔法そのもの、破壊神や魔物などに近い存在なのじゃ」
学者「そのために魔王様の魔晶石が桁違いな力を持つんですかな」
南港「うむ、よく分からんが魔晶石と言うのは記憶媒体とか呼ばれる能力を持っておってな」
薬学士「それならわかる、半精霊化して魔導具にする時は、魔法を記憶させるって言うし」
南港「そうじゃのう、しかし人間を丸ごと記憶出来るとかすごくないか?」
南港「改めてママはすごい魔王だったんじゃな」
南港「凄い作り物と言えば、魔力からして人間の作り物だったらしいのう」
南港「まあ昔の失われた技術、禁術となった多くの技は、それはすごかったんじゃろうなあ」
南港「科学とか錬金学と言うらしいが、もう殆ど内容が分からん」
学者「女神様……七魔女様がそういった禁術を管理し封印されているらしいですしなあ」
南港「詳しいことは全く分からんのじゃ」
料理人「それでさ、魔晶石で封印できる破壊神と魔王で封印できる破壊神はやっぱり規模が違うの?」
南港「うむ、儂等の全身の大部分が魔力物質化しておるわけじゃからな」
南港「それは魔物の肉が毒になるのとおんなじじゃが」
南港「それに魔王の魔晶石の場合は人間丸ごと記録して再現するんじゃからそりゃデッカいか、濃い石使っとるんじゃないかのう?」
薬学士「人工精製の魔晶石でそんな規模の物を作れるのかなあ?」
南港「お前秋風の弟子なのに何にも知らんのじゃなあ、儂も知らんけど」
薬学士「魔王化技術については教えてくれないからね、それで一回破門されたしね……」
料理人「そういえばさ、秋風が出て行く前の日にどんな話したの?」
薬学士「料理人ちゃんが魔王になりたいと言い出したら止めますか?って聞いたら」
薬学士「いや、できるもんなら勝手にすれば?って言った」
料理人「お互いにストレートに言ったなあ……」
南港「儂も全く分からんもんな、秋風は魔王化手術を手伝ってたから知っとると思うんじゃけど」
薬学士「どうしても身内を魔王にはしたくないんだろうね……」
南港「彼奴は儂より寂しがりの癖に僻地にこもってた訳で、そりゃ寂しかったろうなあ」
南港「そんな思いを他人にさせたく無かったんじゃろ」
南港「その気の使い方が他人行儀で寂しいのが分からんのかのう?」
南港「なんつーか頭良い癖に頭悪いのじゃ」
薬学士「そういえば、どんな賢者でも自分の知らないことは知らない、それを知ってるのが賢者だ、とか威張ってた」
南港「無知の知か、昔から伝わる賢者の哲学じゃな」
薬学士「オリジナルですらなかったんだねえ」
料理人「薬学士ってたぶん無意識に毒吐いてるんだよね」
薬学士「えっ、えっ、ごめんなさい」
学者「そこは秋風さんに謝るべきですなあ」
薬学士「よく分かんないけどお師匠さまごめんなさい!」
料理人(可愛い)
料理人「秋風に言ってやる文句は決まった」
南港「そうじゃな」
薬学士「早く文句言いに行かないとね!」
南港「戦争しとる中に行くのじゃ、十分に気をつけて行かんと」
料理人「そうか、そうだよな」
南港「人間と戦うことは少ないじゃろうけどな」
南港「魔王同士が大魔法撃ち合ってる中入っていったら死ぬしのう」
薬学士「戦争中なんだねえ……」
料理人「こっちには全く情報入ってこないよなあ」
南港「儂も聞くのは事後報告ばっかりじゃ、まあ戦争なんじゃから情報統制は当たり前なんじゃが」
学者「……拙者も聞くのはいつも数日遅れですし発言権も無きゃ軍事には全く関わらせてもらってないですだ」
南港「第三王女なんて一般人と変わらんからのう」
学者「学者だけにがっくし、や~」
料理人「サクッと行っとく?」
学者「そのうち死んでしまいまっせ拙者」
そして舞台は高塔中央区に移る
料理人たちが中央区に辿り着いた後、まず学者が王女に化けた
いや、王女として普通の格好をしただけだが、見たこともない綺麗なお姫様が現れた
学者「さあ、まずは城に参りましょう」
料理人「あんた誰?」
南港「こんな知り合い居たかのう?」
薬学士「化けたねえ」
狩人「綺麗な人だあ」
学者「……拙者も今までバレないように変装していたつもりでやすが酷いでやんす」
料理人「あ、ちゃんと学者だ」
学者「素顔見たことあるでやんしょう」
料理人「まあ冗談だけどね」
薬学士「凄く綺麗だから緊張するよね~」
南港「儂らは旅装束の汚らしい格好しとるから余計にな」
狩人「うわあ……今更だけどすごく場違いな気がする……」
学者「気にしないでくだせえ、王様って言ってもパパさんは庶民派でやすから」
南港「高塔に来たのはいつ以来かのう?」
南港「三十年ぶりだったかの?」
学者「どっかに残ってるはずですから記録を見てみやしょう」
学者「あと、当然でやすが拙者もパパさんの前でこんな喋り方はしやせんので」
学者「笑ったりしないでくださいね?」
料理人「……」
薬学士「……」
南港「ぎゃはっ」
狩人「くっくくっ、南港さん、笑わない、で……、くっ」
学者「……無理っぽいですね」
南港「久しぶりに腹を抱えて笑いたいからさっさと行くのじゃ」
学者「酷うござる……じゃなかった酷いでしっ……噛んだ」
南港「ぎゃははっ」
料理人「ぷっ、まあ、笑わないように気をつけようよ」
学者「では行きますよ、皆様」
南港「いざ、笑いの殿堂に!」
学者「そんな所には行きませんよ……」シクシク
…………
城につくと、先に報告を行っていた騎士が出迎える
知った顔があると落ち着くもので、料理人達は初めて入る城ではあったがあまり緊張はしなくて済んだ
高塔の王は、現在六十代であるが健勝で、雄々しい人物であった
まず学者一人が接見する
学者「ご無沙汰致しております、お父様」
高塔王「うむ、久しぶりだな、息災であったか?」
学者「はい、気を使って下さる方々が居られますので」
学者「お父様のご支援にも、本当に感謝致しております」
高塔王「うむ、まあお前の兄や姉達にも、お前たち下の兄弟達は自由にさせて欲しい、と頼まれておる」
高塔王「お前の研究成果で得た魔晶石数十個、戦で使われるのはお前も不本意であろうが、助かっておるぞ」
学者「お父様やお兄様のお役に立てて幸いでございます」
学者「ところでお父様、今私の研究を大きく支えて下さっています、薬学士様、料理人様、狩人様、そして南港の魔王様がおいでになっております」
高塔王「……」
高塔王「なに、南港ちゃん来てんの?! 早く言ってよ!!」
学者「ファッ!?」
高塔王「南港ちゃ~ん!」
高塔王は南港の名を聞くと席を蹴って走り出した
付近にいた側近たちも目を丸くしている
学者「そうか……魔王ほど長生きだとこういう関係があるんでやすなあ」
学者「パパさんが子供返りするとは相当仲良しだったんでござるかな?」
学者「これは見物でやす、拙者も参ろうか!」グヒッ
側近「……」
唖然として石化する側近たちを置いたまま、学者も走って出て行く
高塔王は階段を駆け下り、フロアを見渡した
南港「ん、なにやら偉そうな爺さんが降りてきたのじゃ」
料理人「え、あれって……」
南港「なんか見たことあるのう」
料理人「……王様じゃないのか?」
南港「あ、悪ガキ王子じゃ、思い出したわ!」
高塔王「南港ちゃ~ん!」ダキッ
騎士「」
料理人「……あれ、すっごいフレンドリーな王様だね?」
騎士「あんな王様見たことありません……」
騎士「あんな……あんな……」ククッ
薬学士「はっちゃけてるんだね」
狩人「なんだか一気に緊張が解けて疲れちゃった」
南港「お主前会った時もう結婚しとったじゃろ、奥方に言いつけるぞ?」
高塔王「勘弁してよ~、いやあ、しかし三十年ぶり?」
南港「儂もそれくらいじゃと思ったが……しかし爺になったのう」
高塔王「南港ちゃんの方が年上じゃん」
南港「はあ、なんか来るんじゃ無かったかのう」
南港「しかし10歳くらいのお主と駆け回ってた頃が懐かしいのじゃ」
高塔王「あの頃はよく釣りに連れて行ってくれたよね」
南港「東磯がお主を気に入っておったからな」
高塔王「東磯くんは今も昔も僕らのガキ大将だからね」
南港「ガキ大将のう……」
南港「当時既に百三十くらいだったはずじゃが……」
高塔王「……う~ん、ジジ大将と言うべきか?」
南港「聞いたことないのじゃ」
学者「パパさん……お父様、皆様にお礼をお願いしやす……します」
高塔王「うぬ、お前も普通に喋っていいぞ!」
学者「そいつぁありがてえ、堅苦しいのはやっぱりしんどいでござる」
料理人「まわりが完全に置き去りになってるんだが」
狩人「突っ込み入れがたいですしね……」
薬学士「ちょっと気を使って欲しいかもね」
料理人「同意するよ」
高塔王「いやあ、いつも娘がお世話になっております」
高塔王「有り難う皆さん、今日はゆっくりとしていって下され」
南港「そう言えばもう王子じゃないんじゃな、今日は酒でも飲んで昔の話でもするのじゃ」
高塔王「うん、それもいいんだけど魔王様と息子たち戦争中だからね、ちょっとのんびり出来ないかも」
南港「迷惑じゃのう」
高塔王「全くだよ、南港ちゃんみたいな魔王ばっかりなら楽なのに、北終は本当にうざったいよ」
高塔王「まあ戦局は硬直、睨み合いになってるからすぐに出るようなことは無いと思うんだけどねえ」
南港「儂等も秋風に会うために来たのじゃ、戦局が動く前に会いたいんじゃがのう」
高塔王「うん、それなら配下に案内させよう」
南港「とりあえず今日は一泊するのじゃ」
南港「料理人、ここの城の者と昼飯を作ってくれ」
料理人「ええっ、それは良いのか?」
学者「そんな堅苦しい物作らないでようがす、拙者もお願いしやすぜ」
高塔王「お前も酷い喋り方だな」
学者「今日はパパさんが10歳くらいの時の話を聞きまくりますぜ」
高塔王「うわ、それは恥ずかしいわ」
南港「おねしょが十二まで治らなかったとか?」
高塔王「勘弁してよ南港ちゃん……もう六十だよ……」
料理人「ここの料理長さんはどんなジャンルの料理作るんだろ?」
南港「まあいらぬお世話かも分からんが勉強になるじゃろ?」
料理人「いや、助かるよ、私のは酒場の大雑把な料理だから細やかな料理の技や良さを知っておきたいしね」
薬学士「いつも美味しいけどなあ」
料理人「有り難う」
狩人「僕らはどうしていたら良いんでしょうか?」
騎士「控えの間を用意しています、すぐにご案内致します」
南港「儂は少し王と話しておるからの、また後での」
狩人「南港さんと料理人さんが居ないと寂しいですね」
学者「拙者が接しやす、拙者だけに」
料理人「城だから突っ込まないと思って好きにダジャレ言うんじゃないよ?」
学者「後が怖いので控えやす」
高塔王「じゃあ皆で控えの間で紅茶でも飲もう」
高塔王「爺や」
何時の間に居たのか黒ずくめの、爺と呼ばれた執事らしき高齢の男性が、全員を部屋へと案内する
執事「こちらに御座います」
執事の案内で、ひとまず全員で控えの間に移動する
学者「では、料理人さんの案内をお願いします」
執事「承りました」
執事「ではこちらにどうぞ」
南港「……そういや爺っていくつなのじゃ? なんか昔から爺だった気がするんじゃが」
執事「おお、南港様が仰っているのは父で御座います」
執事「私はまだ七十ですぞ」
南港「お、そうか、いつもちょろちょろ走り回る悪ガキ王子に振り回されとった使用人がおったわ!」
執事「左様でございます、いやあ懐かしいですなあ」
執事「では料理人様のご案内が有りますので、後程お話致しましょう」
南港「うむ、なんか楽しくなりそうじゃな」
執事「料理長、こちら南港様付きの料理人様です」
執事「何品か作って頂きたいとの事ですのでご協力をお願いします」
その料理長と呼ばれた男には見覚えがあった
剣士「……ああ、あんたか」
料理人「……あら」
剣士「あのスープは旨かったよ」ニヤ
料理人「いや、なんかすみません」
料理人「学者の奴……わざと黙ってたな……」
料理人「しかしあれだけ見事に立ち回ってたから傭兵だと思ったんだが」
剣士「俺は本来忍だからな」
料理人「しのび……忍者?」
料理人「本当にいるんだ」
剣士「初めはそれで食えなかったから料理人をやってたら、あの執事さんに雇われてな、まああのオッサンは人使いが滅茶苦茶荒いんだよ」
剣士「戦えるとバレてからは料理は副料理長に任せっきりで忍として走り回ってた訳だ」
剣士「そして帰ってきたらまた料理長だろ?」
料理人「本当に人使い荒いなあ」
剣士「まあ忙しいのは嫌いじゃ無いし、気楽な国だしいいがね」
剣士「だが戦だ、俺も戦わんとな」
料理人「剣術も教わりたいなあ」
剣士「そりゃ止めとけ、包丁じゃ戦闘スタイルが違うだろ」
剣士「まず包丁で人を斬るなんて有り得ん」
料理人「包丁そのものは媒体でしかないよ」
料理人「食材以外はこう、魔力の刃を作ってさ」
料理人「でも魔力の刃じゃ剣を受け止められないから難しいんだよね」
剣士「それは刀も同じだ、受け止めたら折れるからな」
料理人「そう言えば4人と立ち回る時も刀を合わせて無かったね」
料理人「やっぱり教えてよ」
剣士「まあ良いけど、その前に昼飯だ」
料理人「なんと言うか剣士さんにはことごとく負けてるなあ、魔法も使ってたよね」
剣士「いや、料理はあんたの料理の方が好きだが」
剣士「とりあえず前菜から作るぞ、あんたはいつも通り大皿料理なら大皿料理で良いからな?」
料理人「いいの?」
剣士「来賓が多ければそう言うスタイルでやることもあるからな」
剣士「さあ、やるぞ」
副料理長「分かりました、皆持ち場についてくれ」
料理人「よろしくお願いします」
料理人が大皿にいつも通りのサラダや野菜炒めなどを盛り付けると、すぐにメイドたちに運ばれていく
剣士「手際が見事だな、包丁使いも上手いじゃないか」
料理人「いやいや、それはお世辞でしょ」
剣士「いや、本心だ」
料理人「あはは」
剣士はそう言いながらも動いている
常にまわりに気を配っていて、人を動かすのも上手いようだ
料理人「おお、やっぱりすごいなあ」
剣士「ああ、俺はこうやって人を使うからあんたみたいに動けないよ」
料理人「うちは小さい酒場だったからね、女将さんは一人でだいたいこなしてたし」
剣士「大楠中央区の酒場なら何件か行ったことがあるが、なんと言うか豪快な女将さんがいた所があったな」
剣士「まああそこがあんたの実家の酒場かは分からんが」
料理人「私が大楠出身なの知ってるの?」
剣士「忍ってのはスパイだからな、情報が命だ」
剣士「まあお嬢様から聞いて、調べさせたんだがな」
料理人「ああ、学者さんがいたなあ」
剣士「さて、あんたはもう上がってくれ、お客様だからな」
料理人「いいのか?」
執事「ではご案内致します」
料理人「うわっ!」
剣士「この爺さんの方が俺よりよっぽど忍っぽいよなぁ」
第四章「料理人と戦争」 完
次回――
魔王達の対決の時が迫る中、南港の爆弾トークが始まる
楽しい一時の後、高塔の魔王の案内により、いよいよ料理人達は戦場に立つ
魔王狩りの許されぬ罪を魔王達はどう裁くのか
魔王狩りが語る開戦の真実とは?
そしてついに戦争は終局へ……
果たして、世界に平和は訪れるのか?
最終章「料理人と平和」
料理人達の戦いが始まる……
なんとか今回分書ききりました
あと1、2回で終わります
複雑なお話は疲れますね
キャラの心情がすごく難しい
次はお気楽な話を書きたいな、と思います
また時間がかかるかも知れませんが、よろしくお願いします
乙。
今回でこのお話は一旦終わります
寝落ちたらすみません
では、更新します
最終章「料理人と平和」
高塔の王国軍は東森地区に入ると、あっと言う間に大楠まで攻め入り、西の砦までも奪い取った
これは魔王狩りが敵陣にいることを考えれば、恐ろしい程のスピードと言えるだろう
戦を進めたのは高塔王と魔王の協力で、ではあるが、やはり高塔の魔王の役割は大きかった
鷹の目と豹の足を持つと言われる魔王はボーイッシュな見た目と服装に小さな冠とマント、身長は料理人と同じくらいの少女である
味方には敬愛、敵からは畏怖の念を込めて、小冠の魔王と呼ばれている
小冠「魔王狩りくん、動かないみたいだなぁ」
小冠「ボクは一度高塔に帰るから、王子様によろしくね」
高塔兵「はい!」
高塔兵「魔王様もお気をつけて!」
小冠「大丈夫、ボク足は速いからさ」アハハ
小冠の魔王は帰還魔法と見紛うほどのスピードで走り、一時間もかけずに高塔中央まで帰還する
小冠「気持ちいい~!」
大楠の魔王が亡くなったと聞いた時は半年泣き崩れた小冠の魔王だが、既に二年経つ
元々復讐などするような性格ではないし、勝勢となった今では、無理に攻める意義も感じなくなっていた
そして何より自分にとっては大楠の魔王と同じくらい大好きなお客さんが高塔に来るのだと言う
これは急いで帰らなくてはなるまい
小冠の魔王は子供好きが多い魔王の中でも特に子供好きだ
小冠「待ってて南港!」
小冠「すぐ着くよぉ!」
小冠の魔王は南港達が高塔の城に着いたその日に帰還した
衛兵「ま、魔王様、お帰りなさいませ!」
小冠「たっだいま~!」
執事「お帰りなさいませ」
小冠「うわあっ!」
衛兵に明るく声をかけた直後、背後から聞き慣れた声がかかる
鷹の目の小冠の魔王に奇襲をかけられるのはこの執事くらいかも知れない
いったいどうやって存在を消しているのか全くの謎である
執事「父譲りの執事流縮地法でございます」
本気で言ってるのか冗談かは判別がつかない
小冠「すごいよね~、いつかボクにも教えてね?」
執事「いやあ、この技は主足り得る気の持ち主を捉えて飛ぶ技、しかも執事と言う立場の者にしか使えませんので」
小冠「凄い技なのに理不尽なくらい不便だねえ」
執事「皆様ご歓談の最中でございます、きっと魔王様のご帰還を知れば喜ばれましょうぞ」
小冠「もう来てるんだ?!」
執事「昼前にお着きになりました」
小冠の魔王にとっては自分の家である
しかも豹の足である
瞬きの後に控えの間に辿り着く
執事「お帰りなさいませ」
小冠「……なんかすっごい悔しい……」
何時の間に、どうやって追い抜いたのか
頭を捻ってると可愛い声が飛んできた
南港「おお、小冠の~!」
小冠「南港ぉ~!」ダキッ
小冠「三十年ぶりかこら~!」
南港を見つけると小冠の魔王は即座に飛びかかり
南港をくすぐりにくすぐる
南港「ぎゃははははっ、やめ、止めるのじゃ~!!」
小冠「もっとボクと遊べよ~!」
料理人「……なんか太陽が一個増えた?」
薬学士「すごい明るいねえ」
狩人「また綺麗な人だあ」
学者「うちの自慢の魔王様でござる」
小冠「おお、お嬢ちゃんもずいぶん久しぶり!」
小冠「うらあ~、美人だなこの娘はあ~!」ダキッ
薬学士「凄いね、全然疲れないんだね」
料理人「見てるだけで疲れちゃったよ」
狩人「燃え尽きそうですね」
料理人「魔王は色々、とは知っているものの、このキャラは初めてかも知れない」
薬学士「普通の女の子みたいだねえ」
料理人「秋風も付き合ってみると普通の人と変わらないしね」
薬学士「南港ちゃんと西浜ちゃんは……魔王っぽくはないね」
料理人「今の所魔王っぽい魔王いないね、北終の魔王なんか会ったことないけど聞いただけで魔王っぽいのに」
小冠「うん、お客さんも可愛い子ばっかりだね~!」ギュッ
薬学士「うわわっ」
周りが引いている中、小冠の魔王は一人で騒いでいる
高塔王「魔王様、とりあえず落ち着いて下さい」
小冠「うん?」
小冠「この間までこんなちっちゃい子だったのに髭面になっちゃってこの子は」
高塔王「既に南港ちゃんにボコボコにされてるんで勘弁してください」
南港「東森の沢で釣りしてた時にな、こいつ服のまま飛び込みおってな」
小冠「あ~、あったあった」
高塔王「若かったから仕方ないでしょう」
執事「それで溺れかかった王を助けるために私も水浸しです……」
南港「ほっといたら溺れる前には儂が助けたんじゃがのう」
小冠「執事くんもあの頃は落ち着き無かったのにねえ」
執事「ご勘弁を……」
南港「小冠のじゃっていつも落ち着きなく走り回っとるから見失うと完全に迷子じゃったのう」
小冠「あれ、藪蛇だなあ、南港ちゃんが五十年くらい前に東磯くんと嵐の海で釣りしてて溺れて……」
南港「あれは東磯が嵐じゃないと釣れんとか言うからじゃな……」
南港「魔王じゃから死なんけど沖に流されての、西浜とか捜索に来て大変じゃったなあ」
高塔王「私も魔王様達が大慌てで出て行ったから心配していた記憶がありますな」
南港「……あの時水の上走り回って探しに来たのう」
小冠「そうそう、南港ちゃんはちゃっかり空を飛んで帰って来てさ」
南港「水流に飲まれて水の中で魚を見ていたら一日くらい経ってての、寒かったが」
料理人「魔王って食べたり飲んだり呼吸しないでも死なないの?」
小冠「苦しいのは苦しいんだけどねえ」
南港「食べた方が明らかに元気になるぞ」
料理人「だからみんな際限なく食べるのか」
南港「料理人の料理は美味いのじゃ」
小冠「それは食べてみたいなあ」
料理人「ここの料理と比べられたらヘコむ」
薬学士「料理人ちゃんの料理も美味しいよ!」
狩人「ここの高級な食材も良いですけど料理人さんのジビエ料理は充分食べる価値ありますよ」
料理人「それなら嬉しいけど」
小冠「ジビエかあ、ウサギでも捕まえてこようかな?」
南港「小冠は素手でウサギ捕まえてこられるのじゃ」
薬学士「すごいね~」
学者「魔王の中でも随一の足の速さだとか」
小冠「まあ魔法半分だけどね~」
南港「魔法使ったら儂もまあまあ速いのじゃ!」
小冠「……キミは怠け過ぎなだけだと思うなあ」
南港「みんな儂がウザいから邪険にするのじゃ」
小冠「ええ~っ、ないない」
料理人「普通に子供として接してるだけだと思うな」
小冠「そうそう、分かってるねキミ~」
南港「それはそれで屈辱なのじゃ!」
学者「そういう所が難しいんでやんすなあ」
高塔王「せっかくの楽しい席ですが魔王様、戦況はどのような状態ですか?」
小冠「戦況? 楽勝ムードが漂いだして逆に士気が下がってきちゃったよ」
高塔王「それは不味いですな」
小冠「でも秋風ちゃんとか大剣くんとか、大戦で活躍したメンバーが前線に出てきちゃったから、流石の魔王狩りくんも押されまくってるよ~」
執事「戦局を決定付けたのは魔王様が大楠西砦を奪還したことでしょう」
南港「……儂も戦えるのにのう」
小冠「ん~、でも実際そんなに魔王が集まるのも不味いって」
小冠「女神様が出てきたらボクも多分逃げられないし」
南港「じゃが前回は魔王百人死んだ結果出てきたんじゃし、平気じゃないかのう?」
小冠「それがそうでもないんだよ、魔王狩りでいっぱい死んだのもあるけど」
小冠「前回大戦後に補填された魔王がそんなにいないっぽいんだよね~」
薬学士「つまりその補填された人数を上回ったらその時点で……」
小冠「そう、魔王狩りはだから危ないの、ダメ、絶対」
学者「人間じゃ誰も出来ませんって」
小冠「それにしても女神様の話意外と広まってる?」
南港「儂はこいつらにしか話しておらん」
小冠「まあいいけどさ、結局女神様の戦い見えたのボクだけだったし」
南港「その後女神様……七魔女に説教くらった魔王も何人か居たはずじゃろ?」
小冠「その時は口止めされたのと魔王第一世代からのルールの確認があったみたいだね、こっちはあんまり聞いてないけど」
南港「秋風とか聞いてないかのう?」
小冠「聞いてないよ、あの時秋風ちゃんボクと居たもん」
小冠「だいたいあの戦争ってボクら巻き込まれただけだし」
小冠「叱られたのはメインで戦ってた西の人とツツジ国の人だけだと思う」
南港「まあどっちにしても口外できん情報ばっかりじゃろうがなあ」
学者「歴史も興味あるんですがなあ」
薬学士「哲学者の石の記述も断片的だしねえ」
料理人「でもあんまり表に出たらダメな情報なのは分かるな、魔王だって驚異だもの」
小冠「ボクは怖くないよ~?」ギュッ
料理人「わわっ」
小冠「キミボクと同じくらい身長あるね」
料理人「周りが小さい子ばっかりだからなんか嬉しいな」
小冠「友達になろうよ!」
料理人「うん、もちろん」
南港「……料理人は魔王の友達を作る宿命でもあるのかのう?」
学者「仲良きことは美しきかな、ですなあ」
高塔王「なんだか既に私より魔王様たちと親しいな」
南港「悪ガキ王子は大人じゃからのう」
高塔王「だから南港ちゃんの方が年上だって」
南港「聞きたくないのじゃ~」
小冠「ボクも実年齢はお婆ちゃんだもんね」
学者「いや、二百年生きてたらみんな骸骨でやす」
南港「新ジャンル骸骨ロリ?」
料理人「ないない絶対ない」
小冠「うん、そっかあ、ボクらが魔王になって百七十年以上経ってるんだね」
小冠「当時16で今……鉄斧さんとかはもう二百超えてて……秋風ちゃんがギリギリ二百手前かな?」
料理人「秋風が魔王になったのはいくつの時だったの?」
小冠「二十前後だよね、それしか分からないや」
南港「あいつ当時から年を気にしておったからのう」
小冠「ボクなんかママの所じゃ新参だったし、秋風ちゃんが幾つでも関係ないと言うか気にしないけど」
南港「つーか魔王になってからのが圧倒的に時間長いんじゃ、儂等の年の差なんかミジンコじゃろうに」
薬学士「多分老けて見られるのが嫌なんだね」
料理人「それにしても歴史を聞いただけですごいスケールだよなあ」
高塔王「魔王になった頃と今ではだいぶ違うんでしょうなあ?」
小冠「いや、あんまり変わらないよ」
南港「古代からのルールが幾つかあっての、機械的発展は宇宙で行われているから儂等は自然と共に生きる、とか」
南港「あれ、これ魔王だけ聞いてるんかのう?」
学者「古代技術が禁術である事しか知りませんなあ」
薬学士「望遠鏡で星を眺めてたらたまに人工の星が見えるって聞いたことはあるかな、お師匠さまに」
小冠「魔王だったママさんから幾つか情報を引き継いだけど、なにしろ170年?」
料理人「……それは覚えてないかもねえ」
小冠「ただボクらより圧倒的に長く生きてる女神様がいるんだから、ボクらが全部知っている必要無いのかも」
学者「でもうっかり禁術再生とかありそうでやす」
小冠「それはなんか無理っぽいよ?」
南港「魔法技術の方がすごい技術らしいしのう、古代技術は必要にならないのじゃ」
料理人「でも宇宙とかロマンあるけどなあ」
小冠「多分宇宙に出ようとしたら別の七魔女の女神様が出てきて、どかーん」
南港「有り得る有り得る」
料理人「それは怖いなあ」
小冠「でも緩やかな進化の後、自然になら、許される日も来るのかもなあ」
高塔王「私達はそれまで生きてないですね」
小冠「もう少し若ければ魔王になるの勧めたけど」
薬学士「!」
学者「魔王になる方法は分かるんでやすか?」
小冠「ん?」
小冠「キミたち魔王になりたいの?」
料理人「うん」
小冠「へえ~、あらあら、まあ個人責任かなあ」
南港「儂も料理人と一緒に居たいかものう」
薬学士「私もダイエット不要になりたい!」
料理人「そこ!?」
小冠「魔王になる方法ねえ、知らなくはないけど」
小冠「失敗したらみんなどっかーん、破壊神がどーん!」
料理人「うわあ……」
薬学士「やっぱり難しいんだあ……」
小冠「簡単なら不老不死になりたがる人みんな魔王でしょ」
小冠「実際お金や権力が有っても不老不死なんかお勧めしないけどねえ」
南港「生きる苦しみから逃れられる訳じゃ無いしのう」
料理人「秋風なんか今も苦しんでるよな……」
南港「うーん、でもわりと達観しとるんじゃ無いかの?」
薬学士「でも自分から戦争に出掛けるなんて……」
小冠「よく分からないけどさ、秋風ちゃんの事信じてあげたら?」
小冠「ボクだって死ぬために戦争してる訳じゃないし」
高塔王「死なれては困ります」
小冠「頼られすぎても困るんだって、さっき前線の士気が落ちてるって言ったじゃん」
南港「儂等がガチで人間救おうとしたら絶対人間駄目になるに決まっとる」
南港「儂に無理難題持ってきて逆恨みする奴らも同じじゃ」
高塔王「耳が痛いよ」
小冠「まあだからね、ボクらはライオンの雄で良いんだと思うんだ」
南港「魔王はぶっ倒すけど後は餌を食うだけじゃな」
料理人「良くできた社会構造って自然の形態に近付くのかなあ?」
学者「急に料理人ちゃんが難しい話を……」
薬学士「色々考える事が多すぎるんだよね」
狩人「難しい話はいつもついていけません」
学者「脇で見てる一般人もわりと大事なポジションでやすぜ」
料理人「まあいいけどさ、私だって難しい話はするよ、たまには」
小冠「魔王になるにはたぶん障壁となってる技術が五段階くらいあるんだ」
小冠「まず大規模な魔晶石合成炉を作れない」
小冠「よって巨大魔晶石が出来ない」
小冠「生命活動を維持しつつ魔晶石を体内に結合、維持出来ない」
小冠「魔晶石そのものを安定させられない」
小冠「そして細かい魔王化手順が分からない」
薬学士「う~ん……うわあ」
料理人「難しいの?」
薬学士「今の私には無理かなあ」
小冠「ボクも秋風ちゃんと一緒にやらないと無理かな」
小冠「それに秋風ちゃんも魔晶石炉を作れないと思うんだよねえ」
小冠「かなり危ない研究が必要かな」
薬学士「……そりゃ破門になるよ、私」
小冠「ママさんに色々教わってる人はボクみたいに何人かいるけど」
小冠「やっぱり一番は秋風ちゃんだよ」
料理人「なんとか秋風が死なないように守らないとね」
小冠「まあ守る方法は戦闘力振るうだけじゃないよね、みんななら守れるんじゃないかな?」
小冠「ところで走ったからお腹減っちゃった」
料理人「あ、じゃあ何か作ってこないとね」
執事「では準備致しましょう」
高塔王「うむ、昼もなかなかの料理だったから期待する」
料理人「いい材料を集めないと私の料理は普通だと思いますが……」
薬学士「料理人ちゃんももっと自信持って良いと思うよ」
料理人「ありがと」
学者「まあ拙者ずっと食べてましたが、うちの料理より家庭的で好きでやすよ」
執事「料理長殿も気に入られたようでしたな、では参りましょう」
小冠「楽しみだなあ~」
…………
剣士「じゃあ今回は俺がメニュー考えるから、それに沿って何品か作ってもらおうか」
料理人「ああ、その方が気楽だ」
剣士「材料の指定や下準備から全部やってくれ、魔王様が食べたがってるらしいからな」
料理人「う……プレッシャーを……」
剣士「いい緊張感だろ」ニヤリ
料理人「これはあれか、仕返しだな?」
剣士「まあな」
…………
料理人「春野菜を使ったポタージュをパイ包み?」
料理人「肉料理はロティにしてムースを添える?」
料理人「魚はテリーヌに?」
剣士「普通だろ?」
料理人「あんまり作ったことない」
剣士「ええ~、まさか~」
料理人「作り方は知ってるからな? 酒場料理じゃないだけだからな?」
剣士「悪い悪い、ちゃんと指示するよ」
剣士「面倒なのはこっちで作るからな」
料理人「うわ~、師匠にレストランに修行に出された時思い出す」
剣士「いい修行になるだろ?」
料理人「そうだね、それは間違いない」
…………
薬学士「どきどきするう」
学者「そんなに緊張しなくてようがすよ」
高塔王「昼に食べたような料理の方がいいな……」
南港「儂も」
狩人「料理人さんの料理って気楽にたくさん食べられるのがいいですよね」
小冠「ボクもそっち食べたかったな」
南港「ああ、小冠は絶対気に入るわ」
執事「……」
執事(料理長の評価が低くて笑えますな)ククッ
…………
料理人「……どうだった?」
剣士「いや、即興にしては上出来だよ」
剣士「まあ俺が食うなら昼の料理の方が良いかな」
料理人「でも傾向が違うもんな、基本は変わらないけど」
剣士「酒場料理だと見た目はあんまり楽しめないからな」
料理人「技術的な物の奥深さは身に染みた」
料理人「もう作らないと思うけど」
剣士「あんたはそれで良いんじゃないか?」
剣士「凝った作り方しても結局食材のチョイスと見た目、火加減、匙加減だろ?」
料理人「そうかもなあ、でもお陰でメニューの幅は広がった気がする」
執事「そこで料理人様に何か一品作っていただきたいそうです」
料理人「うわあっ!」
剣士「俺より上手く気配消すなよ……」
料理人「でも何作るの?」
執事「オーダーはエールに合う料理人様らしいシンプルな料理でございます」
料理人「唐揚げでも作ろうかな」
剣士「あ、食いたい」
料理人「じゃあそれで」
執事「フレンチからだいぶ遠ざかりましたなあ」
料理人「……ソースを別に作ってお好みで、とか」
剣士「いやいや、そんな面倒なことしなくて良いって」
剣士「今俺普通に食いたいって思ったし」
執事「まあオーダーが料理人様らしい料理ですからよろしいかと」
料理人「じゃあ作るよ」
剣士「鶏肉と、うさぎ肉もあるぞ」
料理人「シンプルに鶏肉で」
剣士「お前らしいなあ」
料理人「スパイスと香草、ガーリック……この分量は私のオリジナルで」
剣士「うん、美味そうだ」
執事「ではお待ちしていますぞ」
…………
料理人「さて、私もやっと食べられるよ」
薬学士「やっぱりみんなで食べるのが美味しいよね!」
南港「料理の味は調味料だけじゃ決まらんのじゃのう」
料理人「そういうこともあるよね」
高塔王「唐揚げ熱々で美味い」
小冠「ボクこれ好きーっ!」
南港「直にレモンをかけるな、戦争になるぞ!」
学者「あちきはレモンかける派でござる!」
料理人「はい、小皿」
薬学士「どっちも美味しいよ!」
執事「料理長殿、どうですかな?」
剣士「いやあ、俺も学ぶ物があったな」
剣士「次はシンプルでパワーのある味付けの勉強をしたいな」
料理人「私はお手軽フレンチを作ってみようかな」
執事「その向上心が素晴らしいですな」
小冠「明日はみんなを戦場に立たせる事になる……リラックスできたよ」
南港「うむ、まあみんなは儂が守るがの!」
小冠「南港ちゃんたちは前の大戦で前線に出してもらえなかった」
小冠「ボクらが彼女たちを死なせたくなかったから」
小冠「でも違うんだな、結局東磯くんや南港ちゃんたちはボクらが心配するほど弱くなかった」
南港「そうなのじゃ、ウザいだけなのじゃ」
小冠「大丈夫、ウザくないよ!」ギュッ
南港「でもたぶんまた泣くのじゃ」
小冠「泣いて良いんだよ」
小冠「ボクらは臆病だったし、きっと今も臆病なんだ」
小冠「だからこそ、一緒に居て欲しいな」
料理人「……そうだよね」
料理人「絶対秋風も西浜ちゃんも一緒に居たいんだよね」
小冠「そうだよ、きっと間違いない」
料理人「魔王だから、長生きだから、だから冷血なのかな、と思っていたんだと思う」
料理人「でも違う」
料理人「みんな心は魔王になった頃から変わってないんだね」
小冠「うん、ボクもそう思う」
薬学士「寂しがりなお師匠さまを、早く慰めてあげなきゃ」
料理人「うん」
料理人「行こう、大切な家族の居る場所に」
…………
戦場は依然硬直している
双方疲弊し、打開策も欠いている
実際には圧倒的に押し込んでいる高塔、聖都北の連合軍が北終に降伏勧告をしても良い頃合いだろう
しかし、困難な事がある
魔王狩りの目的が、魔王が死ぬこと、だと言うことだ
つまり魔王たちが降伏勧告に行けば自爆も有り得るのだ
ここに来て魔王が集まっていることのデメリットが露わになって来ていた
小冠の魔王の推測が当たっていれば、それだけでもう、破壊神より厄介な怪物を呼び覚ますことになってしまうのだ
全滅を望む魔王狩り
しかし、連合軍の魔王たちは
誰一人、死にたいとは思っていなかった
…………
秋風「高塔の魔王はどうしてる?」
大剣「なんか帰ったらしいぞ」
鉄斧「あの魔王なら高塔などあっと言う間だろ」
秋風「本気出したらな」
東磯「小冠、走るの大好き、きっと遊んでる」
西浜「……」コクン
秋風「だよなあ」
秋風「敵陣に一瞬で踏み込めて、更に魔王狩りを押さえ込めそうなのはあいつくらいだろ」
大剣「まあ充分な防御手段が無いと自爆されたら不味いが」
秋風「たぶん一人や二人巻き込む程度のしょぼい自爆はしないと思うんだ、奴の目的はあくまで皆殺しだと思う」
鉄斧「奴が女神様を呼び出そうとしているという前提じゃな?」
秋風「他に理由を考えにくいけど」
大剣「もし単体で殺せる理由があるなら?」
秋風「自爆してまで? それならもう特攻して来てるよ」
大剣「それもそうか」
秋風「向こうはこちらを全滅させたい、なら集まってるのは危ない状況ではある」
大剣「力が集まってる分ディフェンスも容易なんだがなあ」
秋風「幸い向こうの攻撃も止まってる、早めに使者を出したくはある」
鉄斧「しかしの、交渉に出向いたら各個撃破、とか洒落にならんぞ?」
秋風「しばらくは静観していよう」
秋風「高塔の小冠が帰還したら対策会議のためにここに呼びつけよう」
大剣「じゃあ高塔の兵にその旨を伝えておくぜ」
秋風「ああ」
大剣「ん? なんか下、大分敵の兵が出てきてるな」
秋風「魔王同士が動かないから人間の戦いになってきたようだな」
…………
小冠「じゃあ行っくよ~!」
料理人「ううっ」
薬学士「やだなあ……」
学者「うひゃい~」
狩人「三回目かあ」
南港「ゆっくりじゃぞ?! ゆっくりじゃぞ?!」
料理人達が怯えているのは当然小冠の帰還魔法である
小冠「えいっ」
料理人「う」
薬学士「わ」
南港「あ」
学者「ひゃ」
狩人「はやっ」
幾つもの小さな、奇妙な声が轟音に溶け込んで、消えていく
高塔王「行ったか……」
執事「私たちも馬車で向かいましょう」
高塔王「この年であのスピード狂の魔王様の帰還魔法とか命に関わるからな」
執事「全くです」
…………
どんっ、と地を揺らすような音が響く
高塔から東森を経て大楠まで、歩けば四日は間違いなくかかる距離だ
その距離を文字通り瞬く間に移動したのだ
料理人「……」
薬学士「……生きてる?」
学者「天国と地獄が交差して見えやす……」
狩人「ぐ……ちょっときつかった」
南港「絶対ちょっとじゃない……のじゃ」
小冠「気持ちよかったね~!」
南港「死ぬぞ」
料理人「魔王なのに?!」
大楠西の砦に着くとすぐに兵士たちが駆け寄る
あまり依存されては困るのだが、何か可愛いと感じてしまう小冠
高塔兵「お帰りなさいませ、魔王様!」
小冠「ただいま~!」
南港「お邪魔するのじゃ!」
料理人「さて……」
料理人「秋風はどこかな?」
小冠「中央区北砦で頑張ってるよ~」
小冠「ここからはもう戦場だから、気をつけるんだよ?」
料理人「分かった」
狩人「援護しますね」
小冠「とりあえずみんな脚力強化しま~す」
小冠「はぐれちゃ駄目だよ?」
南港「一番小冠がはぐれそうなのじゃ」
学者「はぐれ魔王ですにゃん」
薬学士「頑張ってついて行くよっ」
小冠「コース確認ね、敵と交戦する可能性があるのは三カ所くらい」
小冠「秋風ちゃんたちも町を破壊しないように戦ってるから人間に取り囲まれると戦い辛いみたいだね」
小冠「そこでうちの王子様」
学者「あ、あにうえ~」
学者に兄と呼ばれ、細身だががっしりした印象の騎士が出てきた
王子「おう、妹! どうも、三十路だけど王子です」
料理人「そう言えば学者さんって何人兄弟?」
学者「拙者より下も入れて六人でやす」
南港「子沢山じゃなあ」
小冠「王子とかこの前ハイハイしてたのに……」
薬学士「魔王だとみんなの赤ちゃん時代知ってるんだねえ」
王子「うちの爺さんより遥かに年上だし仕方ないね」
小冠「本題に戻るよ?」
小冠「まず彼らに中央区北砦まで幾つかのブロックを制圧させるから」
小冠「キミ達は自分で出来るサポートを」
小冠「一般市民なんだから無理はしないでね?」
南港「基本的には儂が戦うのじゃ」
小冠「南港にも無理させたくないよ~」ギュッ
南港「おっぱいが気持ちいいのじゃ」
小冠「セクハラロリだあっ」
王子「魔王様も彼らと共に行って下さい、指揮はオレがやります」
小冠「任せるよ~」
…………
砦を出ると、そこは懐かしき料理人が故郷、大楠の町中央区である
大楠の魔王の破壊神によるであろう大規模な破壊の爪痕
北終の侵攻もあり、活気のあった街は、ほとんど人の気配を感じない
しかし幾らか残っている建造物が、そこが料理人の故郷だと教えている
料理人「ここまで壊滅してるなんて……」グスッ
南港「魔王が死んだらこうなる……大楠のも無念であったろうの……」
料理人「うん……」
小冠「元気を出して」ギュッ
料理人「……ありがとう」
料理人「街が無くなったのは知ってたんだ……ただ実際に見ちゃうと思ったよりショックで……」
薬学士「料理人ちゃん……」ギュッ
学者「モテモテでやすな」
料理人「私が女じゃなければね」
狩人「いいなあ」
学者「野獣でござるか?」
南港「おっぱいが好きな普通の健康な男子じゃな」
料理人「おっぱいおっぱい言うな!」
小冠「いくよっ」
南港「おっぱ……おっけいじゃ!」
料理人「なんか吹っ切れた、行こう」
狩人「敵の足止めをしますね」
そう言うと狩人は薬学士が作った魔法の弓に矢をつがえる
森の中、木の枝を縫い飛ぶ鳥に矢を当てる狩人にとって、戦場は広すぎる程だ
野ウサギを狙うように敵陣の手前に魔法の矢を撃ち込む
元々それ程魔力の強くない狩人だが、強化魔晶石は抜群の威力を発揮する
地面を抉り、敵の進軍の妨害に成功
南港「殿は任せるのじゃ!」
南港「わざわざ実家から取り寄せた杖で魔法効果範囲は半径二十メートルになるのじゃ!」
学者「拙者も実力を見せて構いやせんか?」
南港「お?」
学者は袂から小さいが魔晶石の連なった杖を取り出す
南港「魔法が使えるのか!」
学者「拙者一応王族なんで……杖とか指輪が無いと使えやせんがにゃー」
正面から来る敵は狩人の矢と小冠が蹴散らす
脇や後ろから来る敵は南港と学者が対応する
やがて高塔軍の部隊によるエリア制圧が始まり、料理人たちは一旦広い場所で立ち止まる
……そこに傭兵たちによる奇襲
薬学士「いっぱいいっぱいいっぱい溜め込んだ……魔弾、きいろ!」
料理人「目を閉じろ!」
料理人は小冠の目を押さえる
激しい轟音と閃光――
薬学士「あ、目を閉じないと危ないよ!」
学者「慣れやした(そのボケに)」
狩人「大丈夫!」
南港「ぐおお……」
料理人「だ、大丈夫か?」
傭兵「ぐっ……くそっ」
立ち上がった傭兵達は暗闇に怯え、やたらに剣を振り回す
料理人「!」
どくん、と心臓が脈打つ
自分が敵を抑えねば……
料理人「下がれ!」
料理人は叫ぶと、傭兵達と自分達の間の地面を最大魔力で薙払う
料理人が包丁を振ると地面は底の見えない谷に変わる
徐々に視界が回復してきた敵兵達はその深さに竦み上がった
南港「寝とくのじゃ!」
南港の広範囲重力操作により敵兵は悉く土を舐める
そこに高塔兵達が到着し、敵を縛り上げた
小冠「一個目、エリア制圧ぅ!」
南港「楽勝じゃ!」
学者「魔王二人いりゃそりゃ楽勝でやすな!」
料理人「よっし!」
薬学士「料理人ちゃんナイス!」ダキッ
学者「後で修繕が必要でやすな……」
狩人「でも助かりました」
学者「うみゅ、気にせずガンガン行きやしょう!」
第二区画に入ると、敵兵も多くなってくる
中央区北砦の魔王達はすっかり取り囲まれているようだ
時間が経ち、魔王達が追い詰められれば街ごと薙払っていただろうが、無闇に殺戮が出来る魔王達ではない
小冠が走り込むだけなら問題はないが、救援を送るためにも区画を制圧していかねばなるまい
料理人は予め用意した食料が傷まないか気にしながら、走る
料理人「行くぞ!」
料理人が地面を膾に刻むと敵兵の侵攻は止まる
狩人「どこを撃ちますか!」
小冠「待って!」
小冠の魔王の鷹の目は、広範囲の莫大な情報を集めるため、分析に少し時間がかかる
小冠「あっちの塔三つ撃ち抜いて、その手前三軒目くらいの交差点潰して!」
狩人「分かりました!」
狩人は弓に目一杯の魔力を蓄える
矢をつがえる
動かない的は、簡単に狩人の牙に捕らえられる
小冠「塔を崩せるのを見せれば塔に登ろうとは思わなくなるよね!」
南港「小冠も狩人も頼もしいのじゃ!」
料理人「この先に開けた場所がある、中継地にしよう」
あまり入ったことの無い地域ではあるが、料理人は徐々に地理を思い出してきていた
薬学士「ここが料理人ちゃんの街……」
学者「それにしても中央区だけでこの広さ……大楠は大国でやすな!」
料理人「高塔よりは少し小さいけどね」
学者「……高塔がこうなったと思ったら……悲しいでやすな」
料理人「もう死ぬほど泣いた」
料理人「今は前に行くんだ……」
…………
まもなく第二区を制圧
朝から何も食べていないので少し簡単な食事を取る事にした
料理人「煙を上げるのは不味いよね?」
料理人「サラダと生ハムとチーズをパンに挟もう」
薬学士「美味しそう!」
南港「簡単だのう」
学者「戦場で食う分には上等でやすな」
小冠「うん、ソースが美味しい!」
狩人「あと一カ所ですね」
小冠「制圧は兵に任せてボクらは砦に飛び込むからね」
小冠「ボクが少しずつ運ぶから」
小冠「誰から行く?」
料理人「まず薬学士」
料理人「次は南港」
学者「その次は料理人ちゃんでやす」
学者「拙者と狩人君は制圧戦に協力して制圧後に乗り込みやす!」
料理人「大丈夫なの?」
学者「私は高塔の王女としてこの戦いを率いる使命があります」
学者「気にせず行って下しゃっ……噛んだ」
料理人「ははっ、無理はしないでね!」
小冠「大人になったねお嬢ちゃん、了解!」
小冠「あとはボクに任せて!」
…………
小冠の魔王は弾丸のように塔の最上階に飛び込む
それは正に猛禽の襲撃のようである
薬学士「うわっ、はわわっ……」
急激に脳をシェイクされて、薬学士はへろへろと座り込む
その時、優しい、懐かしい、聞き慣れた、秋の風のような声が聞こえた
秋風「弟子……大丈夫か?」
薬学士「あ……」
薬学士「お……師匠……さま……」
薬学士はふらふらと立ち上がる
愛しい
大切な
大切な
薬学士「お師匠さまあ……」ポロポロ
秋風の胸に飛び込み、薬学士は泣いた
秋風「バカあ……なんで来ちゃうんだよお……」ポロポロ
秋風も、その柔らかな薬学士の髪を抱きしめて、泣いた
……再び鷹が飛び込んできた
南港「ぐはあっ……」
南港もやはり脳をシェイクされて座り込む
秋風「おい、あんまり乱暴にするなよ、小冠の!」
小冠「ごめん、ブレーキ効かしたら余計危ないからさ」
小冠「あと一人っ」
小冠はそう言うと再び塔を飛び降りる
南港「バカ脚力じゃのう……」
秋風「バカはお前だ!」
秋風は南港のほっぺたをつねり上げる
南港「ひひゃいひひゃいひひゃい!」
秋風「お前が皆を唆したのか?」
南港「ひょんははへ」
秋風「あ、すまん」
つねり上げた頬がマシュマロの柔らかさだったのでついつい手を離すのを忘れていた
南港「そんな訳無かろう」ヒリヒリ
南港「寂しがりの秋風が泣いてるから自分達から駆けつけたんじゃ!」
秋風「な……泣いてないっ」グスッ
南港「思いっきり泣いとるわっ!」
南港「何故戦場に来た、何故儂を置いていった!」
秋風「だって」
南港「だってでは――」
バンッと壁を蹴る音
鷹が三人目を連れてきた
小冠「これでひとまず終了、秋風ちゃん、しっかり叱られなさい!」
秋風「し、小冠の!」
小冠「あははっ、あとでボクも叱るからね!」
小冠は太陽の笑顔を見せて、三度塔を飛び降りた
料理人「ふああ……」
料理人も案の定目を回している
秋風「バカ娘!」
料理人「ふあ、誰がばかやねん……」パタン
倒れた
秋風「料理人ーっ!」
薬学士「大丈夫ーっ?!」
南港「小冠は仕事が荒いのじゃ」
…………
南港「んで、被告人は何か反論があるか?」
秋風「いや……だってだな」
料理人「聞かせて」
秋風「色々考えた結果だ」
薬学士「さっぱりです、それじゃ零点ですお師匠さま」
料理人「寂しいだろ、何も言わずに居なくなって!」
秋風「それは……戦争に可愛い娘達を巻き込む訳にはいかんだろ」
秋風「薬学士は止めても聞かんし、お前は戦う気満々だったし」
薬学士「その気遣いが寂しいんですっ!」
料理人「ん」
薬学士が怒っている
ぷるんぷるんしている
秋風もそれを見て一層叱られた子供の顔をする
可愛いな
南港「儂も何度も何度もアホの子のように扱われて黙って居れんのじゃ!」
南港「儂は戦える!」
南港「大戦後も鬼のように新魔法のトレーニングしたのじゃ!」
南港「なんか言うことあるじゃろ!」
秋風「う……」
すっかり秋風がしおらしい
大剣「はっはっ、秋風が負けてら」
大剣は面白い玩具を見つけた顔
東磯「貴重……覚えておく」
東磯はニヤニヤしている
鉄斧「なんとかと泣く子には勝てんわ」
がっはっは、と笑う
西浜「……」フフ
西浜はいつもより明るめに笑った
秋風「覗きとは良い趣味だな……」
ブルブルと怒りに震える
薬学士「お師匠さま!」
また叱られた
秋風「ごめんなさい」
叱られると秋風は素直だ
きっと彼女の師匠との関係が、そう言う所に残っているのだろう
料理人はすっかり許す気になっていた
彼女も大人に成りきれていないままに魔王となったのかも知れない
料理人「なんで怒ってたのか忘れた」
薬学士「私も」
南港「言いたいこと言ったからすっきりしたのじゃ!」
秋風「あのな、やっぱり危ないからさ、帰らないか?」
南港「お主も一緒なら帰るわい」
秋風「だって戦力は必要だし」
南港「儂は戦力じゃ!」
秋風「でもな……そうだ」
秋風「小冠に使者をしてもらうつもりだったんだよ」
秋風「……もう、この戦争は終わる」
…………
大剣の魔王は先陣を切り、北を目指す
十分に敵を引きつけると、豪剣一本でそれを薙払う
ひたすらに強化された膂力による剣撃
細やかな魔法ではない、純粋な破壊力こそ大剣の魔王の力だ
西浜「……」
西浜がくるっとこちらを見る
南港「……! 全員耳を塞げ!」
南港の合図で全員が耳を塞ぐ
西浜「……」スウッ
西浜「……わっ!」ドンッ
西浜の魔王が喋らない理由、それがこの声、魔法の指向性爆撃ボイス
西浜の魔王は自らの声で数キロ先の鳥をも叩き落とす
戦場で使いすぎて味方に不評を買った反動で西浜は喋るのが怖くなったのだった
料理人「うるさああああ」
薬学士「ひゃああああ」
南港「ぐおお……」
小冠「あはは……相変わらず声デッカいね」
西浜「……」ポッ
西浜はもじもじしている
可愛いけど怖い
大剣の魔王が倒れているが、至近距離で食らって生きているのだから
魔王も不便なものだ
しかしその一撃で、一息に北砦までの道が開いた
南港「レアな西浜の声が聞けてよかったのう」
料理人「えっ、なに?」
薬学士「聞こえないよ~」
小冠「ボク耳は普通で良かった~」
鉄斧「どれ、道を開けてもらうか」
鉄斧の魔王はここが見せ場、とばかり鉄斧で大地を叩く
鉄斧「はああっ!」
土を自在に操る鉄斧の一撃により、砦までの道を取り囲むように岩の柱が立ち並ぶ
小冠「じゃあ中から開けるよ!」
小冠の魔王は一つ地面を蹴ると、敵の門をあっさり飛び越える
しばらくして、門が開く
魔王狩りが何か行動を起こす間もなく、北砦は落ちた
…………
魔王狩り「……はあ……」
魔王狩り「勇者様の前に魔王さんが二人でお越しか」
秋風「ああ、もう戦いは終わった」
秋風「自爆するか?」
魔王狩り「……いや」
魔王狩り「見越してやがるな」
秋風「少人数では目的は果たせないんだろ?」
大剣「馬鹿とは言え、俺の弟が全く動かない北終の魔王に命かけて媚びへつらっているとも思えんしな」
魔王狩り「糞兄貴……」
料理人「ちょっと良い?」
秋風「なんだ?」
料理人「私は私の戦いの為にここに来た」
料理人「ここは私の故郷でさ」
魔王狩り「敵討ちか?」
魔王狩り「人如きが?」
料理人「ああ……剣を交える訳じゃない、料理を作らせてもらう」
料理人「ここの……大楠の郷土料理だ」
魔王狩り「……!」
料理人「本当は秋風に食わせようと思ったんだが、みんなで食ってくれ」
料理人「少し厨房を借りるよ?」
秋風「じゃあ、その間に話してもらおうか」
大剣「なんのつもりで魔王狩り戦争なんかやらかした?」
魔王狩り「……北終の版図拡大」
大剣「はあ?」
秋風「前回の大戦の結果は知っているはずだ」
秋風「本当に狂ったのか?」
魔王狩り「早まるな、それは北終の豚の目的だ」
魔王狩り「だいたい前大戦は遥かに南でやってたんだ、北終の魔王が戦に関わってなくても不思議ではあるまい」
秋風「何故止めなかった!」
魔王狩り「俺には二つの目的がある」
魔王狩り「腕試しとほんの少しの嫌がらせだ」
秋風「……嫌がらせ……」
大剣「やはり女神を呼び出してやろうって腹積もりか」
大剣「しかし、嫌がらせだと?」
魔王狩り「あのインチキ女神がママさんを殺したのは間違いないんだ」
秋風「それは違うぞ!」
魔王狩り「違わないんだよ、俺の中では!」
魔王狩り「いいか、あの糞魔女に何人同朋が殺されたと思う!」
魔王狩り「ママさんは仲間を救うために前線に出て敵に撃たれたんだ!」
魔王狩り「ちょっと嫌がらせするくらい良いだろう!」
秋風「そんなことのために同じ師匠の家の同胞を、大楠を殺したのか!」
魔王狩り「奴は自殺したんだ!」
魔王狩り「目の前で……俺だって死ぬかと思ったほどの大魔力を……自分の魔晶石に入れて……」
秋風「……自爆……!」
魔王狩り「後悔もした、だがもう始めてしまった! もう引けないんだ!」
魔王狩り「いいか、あの魔女はオレ達がどうやっても、奴には適わないことを知らしめた」
魔王狩り「それはこの体制のまま、五百人の魔王で破壊神を押さえ込む体制のまま、一切変える気はない、と言う意思表示だ」
魔王狩り「だが生きるってことは辛いことだろ! 例え魔王と呼ばれる力を持っていようと!」
魔王狩り「オレの目的は、まずその構造的欠陥を魔女に思い知らせることで、たかだか百年で押さえ込みが破綻することを見せつけ」
魔王狩り「奴に新しいシステムを、より痛みの少ないシステムを構築させることだ!」
魔王狩り「あの魔女に!」
魔王狩り「犬として鎖に繋がれ、死ぬより辛い生を味わわされ!」
魔王狩り「それでも生きるのが良いと言うのか!」
魔王は、枷……
秋風には魔王狩りの苦しみが痛いほど解る
秋風「……」
秋風「はっきりと言わせてもらう」
秋風「私は、それでも生きたい」
魔王狩り「!」
魔王狩り「そうかよ……」
魔王狩りは秋風の言葉を聞き、苛立ちをかみ殺すと、席を立ち、部屋を出ようとする
大剣「待て」
大剣「お前に復讐したがってる奴がいるだろ」
魔王狩り「……」
秋風「どうせ死ぬ気なら、せめて一太刀食らってやってくれ」
魔王狩り「……」
魔王狩りは何も言わず、その場に座り込んだ
……やがて、柔らかく甘い香りが漂ってくる
…………
料理人「東に出汁があるなら、西にはフォン、ブイヨンがある」
料理人「大楠風のビーフシチューだ」
料理人「さんざん待たせて悪いが、これが私に作れる最高の料理だ」
料理人の意気込みは見えるが、意図はまるで分からない
魔王狩りは少し苛立っていたが、優しい香りが鼻をくすぐる
料理人の料理を戦闘スタイルで言うならパワータイプだろう
しかし、それはひたすらに優しさを
荒れる魔王の心を包むほどの優しさを
魔王狩りの胸の奥に届ける
魔王狩りはようやくスプーンを取り、なんの変哲もなさそうなビーフシチューを啜った
秋風「美味い……これ」
大剣「おお、シンプルなのにうめえ!」
料理人「ベースに東の森産の葡萄を使った、甘い香りのアルコール度数の高いワインを使ってるんだ」
料理人「これは二年前の、だね」
魔王狩り「……!」
料理人「……」
料理人は思った
……届け、私の刃
魔王狩り「……」
魔王狩りと呼ばれた魔王、大剣の魔王の弟は拳を握り締める
魔王狩り「……っあったけえ……」
呟く魔王狩りを見て、料理人は、心の中でガッツポーズした
料理人「……生きてたら私の料理より美味い料理にもいっぱい会えるよ?」
料理人「生きないか? ……私たちと一緒に!」
料理人の刃は、確かに魔王狩りに届いている
……しかし
魔王狩り「……無理だ……」
料理人「……で、でも……」
魔王狩り「…………すまなかった」
魔王狩りは席を立つ
そしてそのまま……
魔王狩りは北終の国へと帰って行った
エピローグ――
北終の魔王は幾つもの魔晶石をひたすらにその腹に蓄えて行った
百を超え、そろそろ二百を超える
魔晶石は危険な爆弾である
自らの肉に爆弾を埋め込み、いたずらに攻撃を受けることを防ぐための策であると共に、体内で濃縮される魔晶石が哲学者の石になることに期待していたのだ
哲学者の石があれば、神になれる
北終「わしは……しなん……わしは……しなん……」
北終に帰還した魔王狩りには、自らの目的を果たす術があった
料理人の料理の温もりは、魔王狩りに生きる希望を与えたが、それは逆に自らが大楠の魔王の命を奪った事実を思い知らせ、彼を苦しめた
自殺する気はない
なにより、北終の魔王を倒しても、その破壊神が現れる
それを倒さねばならない
魔王狩り「ごきげんよう、豚野郎」
北終「……わしは……しなん……わしは……しなん……」
どうやら多数の魔晶石は濃縮するどころか体内で反発を起こしているようだ
ぶくぶくと太った肉体からぽつぽつと魔晶石が吹き出物のように飛び出している
そのグロテスクな見た目の魔王に、魔王狩りは躊躇無く刃を振り下ろし、最後の魔王を狩った
…………
料理人たちは高山麓に帰ってきていた
風の噂に北終の魔王が倒れたことを知る
戦争は終わった
魔晶石狩りを剣士や騎士たちが炙り出して殲滅したり、後始末で幾つかの小競り合いや事件はあった
しかし、料理人は平和を取り戻していた
小冠「やっぱり料理人ちゃんの料理好き~!」
南港「それは儂のハンバーグなのじゃ!」
薬学士「私が作ったのも食べてよ~!」
秋風「弟子はまだまだ未熟」
東磯「美味い、好き」
西浜「……」フフ
大剣「うん、うめえ」
鉄斧「次に来る時はワシもなんか獣狩って来よう」
学者「なぜ魔王大集合になってるでやすか……?」
狩人「平和になったんですよ!」
料理人「そうだね!」
残念なことがあるとすれば、ここに大楠の魔王や魔王狩りが居ないことだろう
お世話になった人たちにまたご馳走もしたい
女神が現れた話は聞かない
魔王たちは魔王化の研究を進めているが、ほんの少し決定打を欠いていた
しかし
みんなと一緒なら、楽しい
それはこの先どうなるとしても、きっと魔王達の心に
ずっと幸せな記憶として、息づいていくことだろう
――終わり――
ああ、終わりました、たぶん
ここまで駄文を読んで下さった皆さん、ありがとうございます
これは書いてる時に滅茶苦茶調べることがありました
書き方も途中で色々変わりました
勉強になりました
途中で切れなかったらもう少しマシになったかも……でも後の祭りですね
まだおまけみたいなのは有りますが、疲れたので寝ます
お休みなさい
乙乙!
おまけ
小冠「そう言えばなんで南港は三十年もうちに来なかったの?」
高塔王「うちの長男が生まれた頃ですな」
小冠「その頃って王様にベタベタだったじゃない」
南港「うむ……」
料理人「そりゃ寂しかったんだろ、甘えてた人が他の子に取られて」
小冠「あー」
高塔王「なるほど」
秋風「私の事言えないな」
南港「う、うっさいわ!」
南港「その頃はじゃなあ、西浜の奴が五十年前の事件もあって儂を監視してて」
西浜「……」ム
料理人「はっきり怒ってるぞ」
薬学士「要するに南港ちゃんは甘えん坊なんだねえ」
高塔王「それだけではないと思いますぞ」
小冠「あれ、王様くん南港ちゃん庇っちゃう?」
高塔王「いや……、私たちが普通に年を重ね、子をなし、老い、生活を続けて、やがては先に死んでいく」
高塔王「取り残されるようで寂しかったんでしょう」
東磯「……だろうな」
小冠「ボク取り残されてるのー?」
秋風「魔王はだいたい取り残されてるだろ」
薬学士「かと言って自分で取り残されるのは禁止です!」
料理人「寂しがり屋の癖に一人で生きたがるとかマゾなの?」
秋風「な、私は総合的に考えてだな!」
薬学士「マゾ魔王!マゾ魔王!」
学者「薬学士殿攻撃力高い」
秋風「だってみんなに死んで欲しくないもん」
料理人「もん、は無いな」
狩人「そこ?!」
薬学士「みんな生まれた時は違うけど死ぬ時は一緒だよ!」
学者「桃園の誓いでやすかあ?」
鉄斧「ワシ黄忠ポジションじゃな」
大剣「何言ってんのか分かんねえよ」
高塔王「そう言えば大剣の魔王様は外交関係もあるのにほとんどうちには来てくれませんな」
小冠「ボクの事が苦手なのかな~? くすぐるぞぉ~?」
大剣「それで苦手に思われてないと思ってるのかよ」
鉄斧「ワシにも容赦なく若者の付き合いを強いるからのう」
小冠「なんだとぉ~?」
小冠の魔王は二人を半日くすぐり倒した
秋風(私もすっごい苦手だけど黙っていよう……)
その日も、魔王も人も関係なく、薬学士の家では笑い声が響いていた
――やがて料理人たちも魔王になり、新しい家族との生活を始めるのだが、それはまた、別のお話…………
一話書き終えて凄い脱力感があります
なにか次に読みたいお話ありますか?
乙乙!
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