優希「京太郎……なんでなんだじぇ……!」 (318)
おっす、皆元気にしてるか?
俺の名前は須賀京太郎! 長野の私立 清澄高校に通う一年生。
背は高くてイケメン、元気活発、誰とでも話ができて、しかも家事上手な完璧系男子だ!
……というのは冗談。
背はまあまあ高いつもりだし、誰とでも話せて家事もこなせるってのは、一応自称の範囲に留まるものの、本当だと思ってる。
ただ……イケメンってのはどうだろうか。あまり他人に自分の容姿のことを聞いたりはしないから、自分がどのレベルに位置するかは正直分からない。
だがどんなに良くてもイケメンとまではいかないんじゃないかと思う。せいぜい、フツメンから±1ってところが関の山だろう。
でもまあ、顔の良し悪しなんてそんなには気にならない。それよりも問題なのはこの髪だ。
そう、何を隠そう俺の髪は、朝日にきらめく金髪なのだ! もちろん染めた訳じゃない。もし染めてたなら、自分が金髪であることに負い目を感じたりはしない。
というより、自分で染めておきながらそれを嫌がるってのが有り得ないだろ。Mじゃないんだから。
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何の因果かは知らないが、俺は生まれつき金髪なんだ。
まあ何の因果もくそも、俺の両親が二人とも金髪なのが原因なのは間違いないんだが。
ちなみに、両親はどちらも生粋の日本人だ。訳が分からない。
とにかく、俺はこの髪色のせいでいろいろと苦労を……
咲「京ちゃん京ちゃん! 見て見て! 私、とうとうネト麻でも±0に調整できるようになったよ!」
おっと、今話しかけてきたこの女子は宮永咲。俺の同級生で、また俺の所属する麻雀部の一員でも……ってそうだ。金髪がどうこうより、俺の部活の紹介の方が大切だな。
俺はこの清澄高校で麻雀部に所属してる。部員は俺含め6人と非常に少ないが、しかし実力は折り紙つきで、俺を除いた全員が非常に高い雀力と、切り札となる能力を有して……
咲「もー! ちゃんと聞いてるの? いくらなんでも無視はひどいよ、京ちゃん! ……あ。分かった! 私が余りにすごいから嫉妬してるんだ!」
咲「ふふっ、しょうがないなあ、京ちゃんは。自分の実力に自信が持てないんだったら、そう言ってくれればいいのに。安心して? 京ちゃんは弱くなんかない……ううん、それどころか私よりももっと強くなれる可能性を秘めてるんだから!」
咲「練習にだったらいつでも付き合ってあげる。インターハイなんかそっちのけで頑張っちゃうから。何なら、今からでも私の家に行って、二人っきりで練習してもいいんだよ?」
咲が満面の笑みでこちらの顔をのぞいてくる。
それは今おいておくとして、麻雀部の話に戻そう。そう、この部の部員は皆、非常に高い……
和「……咲さん。須賀君が困っているじゃありませんか。少しはわきまえたらどうなんです?」
おっと、今咲に話しかけたこのおもち少女は原村和だ。彼女もここの麻雀部員の一年で、こう見えてインターミド……
咲「わきまえたらって……別に京ちゃんは嫌がってないよ? ただ、私の力にちょっと嫉妬してるだけ。だったら、私がじっくりとマンツーマンで練習に付き合って、少しでも京ちゃんに自身をつけさせてあげようとするのが当然でしょ? それなのに、どうして和ちゃんにそう責められなきゃいけないの?」
和「責めているつもりはありません。ただ、事実を述べているだけです。京太郎君は今、あなたのことをうっとおしがっていますし、あなたの助けを借りたいだなんてこれっぽっちも思っていません」
清澄は私立でなく公立な
せっかくの京タコ純愛スレだと期待したのに結局いつもの謎ハーレムかよ
咲さんがネトマ克服してるとか和が下の名前で呼んでるとか色々驚きがあるけど、まず何より女子全員の目からハイライトが消えてるだろこれ……
咲「そうは見えないけど?」
和「ふふっ、それはあなたの目が腐りきってしまっているせいですよ、咲さん」
咲「は?」
……こう見えてインターミドル優勝の経験者なんだ。いつも皆に優しくて、少し男嫌いな所もあるけれど……
咲「和ちゃん? 喧嘩を売ってるってとっていいのかな? それは?」
和「さあ、どうでしょう。それよりも……須賀くんっ! 前々から行っていたあの恋愛小説ですが、ようやく昨日書き終えたんです! よかったら……呼んでいただけませんか?」
咲「ちょ、ちょっと……」
期待
咲ちゃんじゃなくて和が小説書いてるパターンは珍しく感じる
ふむふむ、続けてどうぞ
こう見えてインターミドル優勝経験者かつ優しくてかつおもちが大きくてかつ男嫌いな和から、一冊のノートを受け取る。
タイトルには「王子様Kと姫天使Nの物語」と書かれている。
内容は、高身長金髪イケメンな人間界の王子Kと、おもちが大きくてかわいいピンク髪の天使界の姫君Nが、許されぬ恋と知りつつお互いに惹かれあっていくというありがちなものだが、これは一まず置いておいて、麻雀部の話に戻ろう。
なんだっけ……そう、この部の部員は俺を除いては皆非常に強く、その実力は折り紙つきだ。これは俺の推測だが、インターハイの本戦に出れば瞬く間に決勝へと上がって行ってくれるだろう。ただ、そんなすばらしいここにも、ひとつ問題がある。まさかというか何というか、男子の部員が俺一人しか……
和「どう……ですか? その……面白いでしょうか? じ、実はですね、その小説の主人公二人、モデルは京太郎くんと私なんです……ってあ、す、すみません! 下の名前で呼んでしまって……お互い下の名前で呼び合うのは、二人っきりの時だけだって……決めましたもんね? 私、悪い子です……」
咲「あああああ! もう、何だっていうの! こんなゴミみたいな小説読んで京ちゃんが喜ぶわけないでしょ!? まったく、こんなもの!」
咲が俺の手から和のノートをひったくり
咲「こうやって!」
地面に叩き付け
咲「こうして!」
足手思いっきり踏みつけて
咲「こうだぁ!!」
部室の反対側まで蹴飛ばした。はははははは。よく滑るノートだ。
和「な……な……なにをっ……! なにをするんですかっ!! 折角須賀君が楽しんでくれていたというのに! それをじゃ、邪魔するだなんてっ!?」
咲「ふう……ふう……。楽しんでたぁ……? 京ちゃんが? あのゴミを読んで? あはは、まさか。そっちの目こそ腐りきっちゃってるんじゃないかな?」
和「なっ……ああ、そういうことですか。私のさっきの発言を恨んでるんですね。そうなんでしょう? じゃなければ、須賀君の至福の時間を邪魔しようだなんて考えも付かない筈ですから。自分のためなら須賀君を犠牲にすることも厭わないその精神、とてもご立派で醜いですよ」
咲「な、なにをおっ!」ガシ
和「ふん、行き詰ったらすぐに暴力ですか。まあ好きにすると良いです。あなたがそうやって人を傷つけて行く度、須賀君が遠ざかっていくだけですから。それに、須賀君と二人きりで居られる時間が増えるんでしたら、あなたから一発や二発もらうくらい安いものです」
咲「京ちゃんはそんなことで離れてったりしない! むしろ褒めてくれるもん! いいよ、殴られるのが好きならお望みどおり……!」スッ
久「はーいはい。そこまでよ、二人とも。ちょっとは落ち着いたらどう?」
おっと、今咲と和の仲裁に入ったこの人は、竹井久。この部の部長だ。少しいたずらっぽくて人を困らせるのが好きだけど、とても頭がよく、いざというときは皆のことを一番に考えてくれる、お姉さん的な三年生。さらに凄いのは、この人はこの清澄高校の学生議長、他で言うところの生徒会ちょ……
久「そんなにムキになってケンカしたって、何も得られるものはないわよ? よーく話し合って、妥協点を見つけていかなきゃ! ね?」
和「……そうやって好感度稼ぎですか、見苦しい」ボソッ
咲「年増ババアが……」チッ
久「ん? 今何か言ったかしら?」
ゾクゾクするねぇ
和「いえ……何も?」チッ
咲「ただ、その化粧にまみれた面がたまらなく憎たらしいなって考えてただけですよ?」
久「ひ、ひどい!? 化粧なんてほとんどしてないわよ! はあ……あなた達ねえ、私がどれだけ心配してあげてると……」
和「心配……ですか? 年中脳味噌ピンク色の部長に、そんなことをするだけの容量があるとは思えませんが……?」
久「なっ……」
久「ああ……何て事なのかしら……。心より信頼していた後輩たちの裏切り……これ以上につらいことなんて、ありはしない……」ヨヨヨ
久「あなた達とならどこへだって行ける……そう信じていた。本当よ? なのに、なのに……」ヨヨヨヨ
久「ねぇ~~須賀くぅん? こういう時、私はどうしたらいいと思う……?」ダキッ
そういいながら、部長が思いっきり抱きついてきた。瞬間、咲と和の顔が暗黒で染まる。ふふ。
久「まったく、散々私に迷惑をかけてきたクセに、最後の最後まで何もしてくれず、あまつさえ恩をアダで返すようなマネまで……」
久「ね? ね? こんなの許せないわよね? 許しちゃいけないわよね? うんうん、須賀君ならそう言ってくれるとしんじてたわ」
久「じゃ、ひとつ提案があるんだけど、聞いて? ここに二枚のチケットがあるの。あの有名な遊園地のやつよ。これ使ってパーッと楽しんじゃわない? あんな生意気なメスガキなんて放っておいて、二人っきりで、ね!」
久「……どうかしら?」
部長が上目遣いでこちらをのぞきこんでくる。いやあ、ははは。それにしても、今日は天気がいい。絶好の麻雀日……
和「物で釣ろうとしても意味はないですよ? 須賀君はそんなもので簡単に靡いたりする人ではありませんから」
久「煩い。あ、須賀君、気が引けるからって遠慮まではしなくて良いのよ? これは私の傷心を慰めるためのものでもあるから、むしろ須賀君には来てもらわないと困るのよね」
久「……そして、遊園地で目一杯遊んだ後は、予約してるホテルで私のカラダも目一杯貪っ……」
まこ「こらこら、盛るのもええ加減にせえ、部長」
おっと、今部長のことを諌めたこの眼鏡の女子は、染谷まこさん。もちろん麻雀部の一員だ。
この人は部長よりもさらに頭が良くて、それに面倒見がいい。アネゴ肌、とでも言うのだろうか?
俺と一学年しか違わないのに、その貫禄はもはや成熟した大人のもの。正直、すげえ尊敬してる。
ただひとつ欠点を挙げるとするなら、それは、誰と話す時でも決して俺から目を離さないって事だ。
久「あら? そんなこと言って、うらやましいんでしょ、まこ? あなたじゃ絶対に叶えられない夢を、私が今まさに実現させようとしてるんだものねえ?」
まこ「馬鹿にするんじゃあない。そがい見苦しぃ真似までして得るものになんざ、これっぽっちも興味沸かんわ」
和「染谷先輩の言うとおりです。部長、あなたは自分が今どれだけ惨めであるかを自覚したほうがいいです」
咲「下らない策で京ちゃんを誘惑しようとしたって、上手くはいきませんよ」
久「あっはっはっは! これはケッサクねえ! 自分たちができないことを平然とやってのけたからって、何もそんなにまで嫉妬を露わにすることはないじゃない」
まこ「何がやってのけた、じゃあ。おんしかてまだ京太郎にデートの約束を取り付けられとりゃせんじゃろうに」
まこ「なのにどうしてわしらがおんしに嫉妬できる? そりゃあまりに見当……はあ、今日も相変わらず格好ええのお……」
和「染谷先輩の言うとおりです!」
咲「どっちの意味でも!」
久「な、何よ……分かった。そこまで言うなら良いわ。麻雀で決めましょう」
咲「!」
久「一位になった人にはこのチケット……つまり、須賀君とデートをする権利を譲ってあげる」
和「なんですって……!?」
久「更に副賞として、夜のホテル代もつけてあげる」
まこ「こりゃあ……!」
久「どう? 恨みっこなしの真剣勝負、やる? やらない?」
和「そ、そんなの……」
咲「決まってるじゃあないですか……!」
まこ「受けてたってやるけえのお……!」
これタコスが唯一のオアシスなパターンか
ってかまこが一番怖えぇ……
久「決まりね。ルールは一つ。イカサマをした人はそれが発覚次第即処刑。全自動卓だけど、あなた達なら余裕でしょうし」
和「異論はありません。待っていてください、須賀君……王子様のハートを射止めるのは、天使か姫と相場が決まってるんです……!」
咲「すごい……力がみなぎってくる……かつてないくらいに……! 今ならMAXの衣ちゃんだって半荘で滅ぼせるよ……。待っててね、京ちゃん。私がゴミどもの汚い手から解放させてあげる……」
まこ「はあ……京太郎から目を離すんは皮を引っぺがされるよりつらいことじゃけど、こればかりは仕方がないけえ、すまんのお。負けるわけにはいかんのじゃ。さあ、きさんら歯ァガタガタ言わせたるけえ、覚悟することじゃのう」
四人全員が卓に着くや否や、勝負は始まった。とてつもない気だ。近くを飛んでいたカラスが数匹、泡を吹きながら地面に落下していくのが、窓から見えた。
あっそうだ! そういやまだ一人、紹介してない部員が居たな。それは……
優希「ブツブツブツブツブツブツブツ」
俺の真後ろに座りながら、延々と何かをつぶやいているこのちっこい女子、片岡優希だ。こいつも一年で、咲や和と同級生。和とは中学時代からの付き合いらしい。
俺と優希とは親友同士で、よくつるんでる。もし同級生のうちで一番話すことが多い奴を一人選ぶなら、間違いなくこいつだ。
優希の大好物はタコスっていうメキシコ料理なんだが、なんとこいつは、そのタコスを食べることで麻雀力を一時的に大幅アップさせるという、とんでもな能力の持ち主なんだ。だから何かとあれば、俺がこいつにタコスを作ってやってるって訳だ。
ところで、こいつはさっきから一体何をつぶやいてんだろうな? もしかしたら俺に何かを伝えようとしてるのかもしれない!
……まあ、実際にはタコス食いたいとかそんな感じなんだろうけど、うん。少し耳を傾けてみるか。
優希「……んで……なん……ぇ……太郎……んで……なメスブ……なびい……」ブツブツ
んー、ちょっと良く聞こえなかったな。「タコスにはビール」ってのは聞き取れたけど、どうだろうな?
もう少し近寄ってみよう。
優希「私がそばに……のに、なんで、何でだじょ? あんなに……てくれたのに……」ブツブツ
おーーっと? だいぶ声がクリアに聞こえるようになったな。でもまだまだだ。
この際、思い切ってぐっと近づいてみるか。
一体何をしたらこうなったんだよww
優希「前世でもその前世でもそのまた前世でも愛してるってあんなにたくさん言ってくれたのに、数百年たったらもう
浮気か? あまりにもひどすぎるじぇ。あっそうか京太郎はきっと私のことを試してるんだじょあはは、考えてみれば
簡単なはなしだったじぇ。そりゃそうかー、あれだけ多くの、それこそ無限大にも及ぶほどの契りを交わしてきた、最
愛の妻である私のことを、京太郎が捨てたりするわけないもんな。ん? あれ、でもだからって、他の女どもと仲良く
していい理由にはならんよな? そうだ、そうだじぇ。あんなにやさしかったのに、どうして今更拒絶するんだじ
ぇ? こんな事なら、最初からあなたになんて出会わなければ良かった、良かった、良かった。なんで、なんでなんで……? 京太郎……なんでなんだじぇ……! ああああああああああああああ! 永久の輪廻の呪縛の元にありながら、これまでの数千億数千兆数千京数千垓年間、ずっと一緒にいたって言うのになんでなんでなんで今更こんなゴミみたいな奴らになんて靡いたりするんだじぇこんなのありえないありえないありえない輪廻転生の理はすべての生命に呪縛
をもたらすけれど私と京太郎にとってはそんなもの永遠の絆を結ぶための一助でしかないすべての生命は私と京太郎と
いう絶対不変の真理の元ひれ伏すしかないそこでは最早タコスなど下らない俗物にしか過ぎないなのになんでなんでな
んでなんで……」
ははは、こいつ、こんなことずっとつぶやいてたのか。まったく仕方のねえ奴だな。
それにしても、なんで……か。そんなの
俺が!
聞きてえよ!!
ああああ、もう何なんだよ一体この地獄は!?
ある日を境に突然って訳じゃねえし、その片鱗はずっと皆に見られてたけどさ!
だからってここまでになる必要はねえだろ!?
今じゃ信じてくれる人は居ないかもしれないけど、皆少し前まで……長野の県予選が終わったあたりの頃までは、めちゃくちゃ仲が良かったんだ。
咲と和に至っては、後もう一歩でガールズラブって所にまで達してた。部長とまこさんも大概だった。
その時はむしろ、俺が一番空気だった。麻雀はからっきしで、そんなに頭もよくねえ。部に貢献できることといえば、買出しや掃除などの雑用くらい。
彼女たちの物語に、俺の出る幕は無い……そう思ってた。なのに……
いや、実際のところ、俺は部の皆がこうなってしまった理由を知っている。これの原因は、間違いなく俺にあるんだ。
でもそれは、俺が浮気しただとか、その……ヤリ、捨て……しようとしただとか、そんな最低なものじゃあない。
それどころか、話せば聞く人皆が手放しで拍手してくれると信じてるくらい、いい事をしたつもりだ。でもそれが巡り巡って、こんな結果をもたらすことに……
だからこそ俺は言いたかった。どうしてこうなってしまったのかと。
京太郎(なあ、優希……そのとおりだぜ。本当に……)
京太郎「なんでなんだろうな……?」
カンッ
え、ここで終わりか?
乙
一応本編は完結しましたが、もしかしたら後で前日譚的なものを投下するかもしれないので、依頼はまだしません
ありがとうございました
乙
乙
乙
待ってる
何一つまだ分からないじゃないか…
乙
お前ならもっと出来る筈
学校入れ替えてIFやるという手もあるぞ
乙
どうしてこうなった…
っとsage取れてた
すまん
短すぎだろ
こうなった経緯は長々とな
前日譚は勿論だけど後日談も読みたいな
誰と話していようが京太郎が居たらそっちむいてるまこ怖すぎワロタ
まこがかわええのう
sage忘れてたじょ
申し訳ない
一体、そうなる前に何かあった…
乙
龍門渕に救援依頼を出そう!
>>39
京太郎が視界にいなくても京太郎のいる方角をずっと見続けてそう
>>43
ハギヨシくらいしか知り合いいないけど助けてくれそうだな
バーーーローー
救援依頼出した瞬間、『まるで外で盗聴していたかのようなタイミングで』透華・衣・ハギヨシが来るんですね
改めて読み返すと、大分短く感じますね。そのせいかミスも目立ってますし。
優希が咲と同級生になってたり。
とりあえずこれの水増しのために、後日談的なものをちょっとだけ投下していきます。
ちょっとじゃだめ
優希と咲は同級生だろ何言ってんだこいつ
「その後」
~遊園地~
咲「えへへっ! 京ちゃん、早く早くー!」
京太郎「はいはい、これでも十分急いでおりますよ、お姫様」
咲「お、お姫様ちがいます!」
京太郎「ん? 嫌だったか? お姫様扱いされてみたいって、この前ぼそっと呟いてたじゃねえか」
咲「え!? ちゃんと聞かれてたんだ……」
パラダイス
俺と咲は今、長野随一の遊園地、天和☆天国に来ている。かなりの人気スポットで入園料もかなりのものだが、部長から貰ったチケットのおかげで、タダで入ることができた。
あの後結局、瘴気渦巻く対局で勝利を収めたのは咲だった。
途中までは拮抗していて、最早誰が勝ってもおかしくない状況だったのだが、最後の最後の親番で咲が天和をぶちこみ、部長のトビで終局となった。
>>50
クラス的な意味で言ったんじゃね
京太郎「おう、お前が俺の前で言ったことつぶやいたことは何から何まで全て聞いてるし、覚えてるぜ」
じゃないと、何を言われるかわかったもんじゃないからな……
ああ言ったのに、こう言ったのに、どうして覚えてないんだと言われたことは、最早数知れない。
咲「え、え……!? それってどういう……」カアア
京太郎「は? 何で顔赤くしてんだ? どういうもこうもそのままの……あっ」
咲の顔が真っ赤に染まっていく、というのが何を意味するのかを考え、悟った。
これは勘違いされてると。
京太郎「い、いやいや、違うんだ。別に深い意味はないぜ? ただ、お前の発言覚えとかねえと、後でどうなるかわかったもんじゃないっていうか……」
咲「……そう。そんなに私のことが怖いんだ?」
京太郎「いや、怖いとかそういうんじゃなくってだな……」
何て言えばいいのだろうか。
このままだと今度は別の意味で勘違いされかねない。咲の目から光が失われていくのがわかる。
早く取り繕わなければ。
京太郎「ええと……ええと……そ、そう! お前の言うこと全部覚えてりゃさ、いざという時に便利じゃねえか」
咲「便利、ってどういうこと……?」
京太郎「そ、そりゃ……お前が欲しがってるもんを買ってやるときとかに……」
咲「そんなの、私に直接聞けば良い話でしょ?」
京太郎「え? そ、そうなんだけどさ……ほら、サプライズ的な! さっきのお姫様発言も、なかなかにサプライズ性に富んだものだっただろ?」
咲「サプライズぅ……?」
あああ、まずいまずい。どんどん咲の目が濁ってきている。人間の瞳の色じゃねえよ、これ。最早泥じゃねえか。
今すぐ何か考えなくては俺の命は無いだろう。
かと言って良い言い訳が思いつくわけじゃねえし……こうなるって分かってたら、あんなこと言わなかったのに……ってそれは今更過ぎる話か……
京太郎「そ、そう……サプライズ、です。じ、事前に分かってるより、不意打ち的な感じでプレゼント渡された方がうれしい、だろ……? それが、今まさに自分が欲しがってるやつだったりしたら最高……じゃん?」
咲「……」
京太郎「だめですかね……?」
咲「……」ズズ……
ですよね。
無理だ……もうどうすることもできない……
このまま俺は死んでいくんだろうか? まだ遣り残したことがたくさんあるってのに。
いやでも、咲に葬ってもらえるなら、それはそれで幸せか……
京太郎「は、はは……」
咲「……」ズズ
京太郎「は、は……」
咲「……」ズズズズズ
京太郎「アカン」ガタガタ
咲「……ぷっ!」
京太郎「シn……えっ?」
咲「ぷぷ……あは、あははは!」
京太郎「さ、咲? いったいどうなさったんですか?」
突然笑い出す咲に、面食らう俺。今の流れが、まさかこんなところに行き着くだなんて思いもしなかったが……これはどういう……
ああ、なるほど
咲「あははは、だ、だってぇ……ぷぷっ! 必死で取り繕おうとする京ちゃんがおかしくてしょうがなかったんだもん! あはははは……!」
からかわれてたんだな、俺。
京太郎「お、お前なあっ! 人がどれだけびびったと思って……」
咲「あはは、ごめんごめん。うへえ、笑いすぎて涙出てきちゃった……」ゴシゴシ
京太郎「涙出てきちゃった、じゃねーよ! 俺ホント、死ぬかと思ったんだからな……! あんなことを口に出したばっかりに……とか、考えまくったんだからな……!」
咲「もー、大げさだってば」
京太郎「いーや、ぜんっぜん大げさなんかじゃないからな! 言っとくけど、お前が放つその気みたいなやつ、滅茶苦茶な位の威圧感を持ってんだぞ?」
咲「え? 気みたいなやつ……? ああ」
咲「これのこと……?」ズズズズ……
京太郎「うぉっ! それだそれそれ! いや、本当にどうやってんだ、それ……?」
咲「えっ、ちょっと……」
咲の方に近づいていき、その気に触ってみようとする。
咲は少し驚いたような顔をしたが、からかわれた仕返しだ。ちょっと位は我慢してもらおう。
気に触れると、手先にピリっとした、電気があたったかのような感覚が走った。
やはり、これは幻覚なんかじゃない。確かにここにある一つの物質なのだ。
だがそれにしても、こんなまがまがしいものも咲の体から発せられてると考えると、なんだかかわいく思えてくるから不思議だ。
京太郎「おー、やっぱすげえな、お前。こんなの出せるとか尋常じゃねえよ。いや、誇っていい」
咲「な、何で触れるの? これ、私の雀力を外に放出させたものにすぎないから、手で触れたりはできない筈なんだけど……」
京太郎「え、そうなのか? いやでもちゃんと触れるぞ。ほら」
つんつんと指でつつくと、気もそれに合わせて踊るように流動する。
ピリっとした感覚もほとんど痛みを伴わないものだから、何だか心地よくもある。
咲「うーん、一体どうしてだろ……考えられる可能性は……」
京太郎「これ、他の人には触れないってのは本当なのか?」
咲「うん。すっごい弱い気を知らない人に当ててみたことがあるんだけどね、その時は結局その人の体をすり抜けるだけだった」
京太郎「お前、何やってんだよ……雀力のない一般人に当てるってかなり危険じゃないのか?」
咲「私が意味も無く危険なことすると思う? ちゃんと配慮しましたもん。その人もちゃんと無事だったよ」
京太郎「いや、配慮するのが当たり前だからな?」
京太郎「まあいいや。とにかくだ。もしこの気が他人には絶対触れることができないものってんなら、答えは一つだろ」
咲「え?」
京太郎「俺みたいな、咲が心から信頼を寄せてる存在だけが触れるってことだよ」ドヤァ
咲「……」
……ちょっと調子に乗りすぎちゃったかな?
咲さんがまた沈痛な面持ちに……
咲「それ、ありえるかも……というか、それで間違いないよ!」
そういうと、咲はぐいっと身を迫らせた。
顔と顔が、あと少しで触れあうというところにまで近づく。
普段は目立たない咲の顔の細部が、はっきりとしてくる。
長いまつげ、すらっとした鼻だち、潤った唇……全ては間違いなく、女の子のそれであった。
眠い……
ぜんぜん投下できなかった上、ヤンデレ要素のヤの字も入れることができませんでしたが、今日はここまでとさせていただきます。
即興で書くとやはりだめですね。
雀鬼ならぬ雀気とはやっぱり魔物じゃないか!
はよ
いやここの京太郎、地雷自分で埋めて自分で踏んでやがる
こういうこと繰り返してきたからああなったんだな
雀力を京太郎が触れるという事は、すなわち雀力で京太郎を触れるという事…
咲ちゃんの雀力による執拗なセクハラが始まるっ!
投下していきます
こうやって意識しちまうと、もうだめだ。
咲のことを女の子としてしか見られなくなってしまう。
俺のことを第一に考え、俺の発言一つでその顔色をまるきり変えてしまうほどに、俺のことを想ってくれている一人のかわいい女の子としてしか。
いやもちろん、普段は咲を女の子として見てない、なんてことは無い。露骨なアピールをしてくる咲を見て、こいつは只の友達なんだといってしまうほど俺は鈍感ではない。
でも、こうして身に迫った感覚としてそれを感じることはあまり無い。
俺にとって女の子としての一面を見せられるというのは、どれほど過激なアピールをされることよりも、ずっとずっと胸に来ることなのかもしれない。
咲「考えてみれば当たり前だよね! 京ちゃんのことを誰よりも愛してる私の、力の具現化体を、私のことを誰よりも愛してる京ちゃんに触れないはずがない……」
俺がそんなことを考えているとは露も知らない様子で、咲は自分の考えを次々と述べていく。
俺の目の前の顔は少し赤くなっているが、これは恥ずかしさによるものでは無く、純粋な探究心の象徴だろう。
咲「となると、雀力っていうのは人の愛と密接にかかわってくるものなのかな……? ずっと恐怖や憎しみによって強められると考えてたんだけど……」
咲「これはすごい発見かも……それこそ、学会に発表できちゃうレベルの!」
興奮ここにきわまるといった感じで、咲が鼻息を荒くする。
なんでなんだろうな? こういう男女の関係に普段やきもきさせられているのは、むしろ咲の方であるはずなのに。
こういうときに限ってはなぜか俺がその複雑さを体感している。
相手側の気持ちになってようやく分かることというのは多々あるが、これもその内の一つだろう。
ならきっとこれは、恋愛の神様か何かが与えてくれたチャンスなんだ。お前はもうちょっと考えてから女の子を扱えという天啓なんだ。そうに違いない。
咲「京ちゃんのおかげだよ! すごい……これ学会に売り込めば、相当なお金かせげちゃうよ……」
咲「たぶんこの先50年はお金の心配なんかしなくて良くなる……ねえ、これがどういうことか分かる!? 京ちゃん!」
俺の気持ちそっちのけで金の話をする咲に、少し憤りを覚えてしまう。
なんだよ、そんなに金が大事なのかよ。普段お前が俺に言ってることは全部、金の前では霞んじまう程度のものだったのか?
それに学会ってなんだよ。頭のいいやつの集まりか? なら、こんなちょっとしたやり取りで判明しちまうような事実なんて、とっくのとうに発見してなきゃおかしいだろ。お遊戯会の間違いじゃないのか?
そんな罵倒の言葉たちが次々と頭の中に浮かんでくる。実際に咲が何を思っているかも考慮してない、くっそ下らねえものばっかだ。
でも、何故かそんなものも、浮かんできたその瞬間だけはとても正しく的を射たものに思えてしまう。
これじゃ、街中で人をぶん殴るような不良たちを笑うことなんてできないだろう。
咲「分からない!? なら、教えてあげちゃいます! それはね……」
咲「私たちはこれから先、ずっとずっと、一緒に居られるってことだよ!」
……なんだって?
咲「私たちがずっと一つで居ようとする時に、間違いなく障害になってくるのは金銭的な問題」
咲「普通の会社だと一緒に居ることは許されないし、そもそも京ちゃん以外のゴミに命令されること自体、私には耐えられない」
……そうか。こいつは金のことばかりを気にしてるように見えて……
咲「戦場に出て活躍すればかなり儲けられるだろうけど、それだと京ちゃんに危害が及ぶ可能性がある。そんなのは許せない」
咲「でも学会に発表して売り込めば、印税ですごい量のお金が入ってくる! 更に、後は何もしなくていい!」
咲「まあ、ちょっとだけ講義をしたりする必要はあるかも知れないけど、それは許容範囲かな。京ちゃんも付いてこれるだろうし」
……結局俺のことを全てに優先して考えてくれてたんだな。
ええじゃないか
世話焼き幼馴染
>>戦場に出て活躍
ファッ!?
咲「すごい、すごいすごい! 夢のようだよ、京ちゃん! ずっと一緒に居られるんだよー!」ワーイ
そう喜んで、咲が俺の両肩をつかみながらぶんぶん揺さぶってきた。怪力過ぎる……どうなってんだ?
ぶれまくる視界の中、何とか咲の興奮した顔を捉えながら、俺は自己嫌悪に陥っていた。
さっきまでの自分の思考が、いかに身勝手なものだったかが良く分かったからだ。
咲の感情と俺の感情とは、決して同じものではない。俺の感情のほうが、よっぽど劣悪だ。
咲のはあくまで俺を全として考えた上でのもの。だからこそ咲は、俺にちょっとでも否定されるとすぐにいじけてしまうんだろう。
しかし、俺のはどうだ? 咲のことを考えてやった上で感じたものか? 全然違う。むしろ自分のことしか考えてない
。
男のジェラシーよりみっともないものは無いとよく聞くが、まさにその通りであると思う。
少なくとも俺の嫉妬は、下が存在するとは思えないほど、気持ちの悪いものだった。
咲「えへへっ! えへへへへへ! でへへへへへへへ……」
蕩けた様な顔になる咲。いや、今もまだ視界はぶれにぶれてるから、錯覚でそう見えるだけかも知れんけど。
……なんだか、このところ自分のことを反省してばっかだな。
そのくせ、何一つ改善できてやしない。
こんな俺に、咲や和、延いては部の皆から好かれていいだけの何かがあるとは思えない……
咲「でへへへへへへ、でへ、でへへへ……」
って、また悲観的に考えちまった。0.1秒前に自分が考えた事も省みれないとか……いや、純粋に嫌になりますよ……
それにしても、顔やばすぎやしないか? ちょっと女の子がしていい顔とは思えないんだが……
咲「でへへ……京ちゃん?」
急に振動が止まった。咲が俺の異変に気づいたのだろう。
しかし、視界はいまだに定まらない。結構長い時間揺らされてたもんな……
咲「ど、どうしたの……? まさか、私とずっと居るのが嫌だとか……」ウルウル
ああああ、やばい。また誤解されちまう。
京太郎「いや、違う、違うんだ……」
咲「だ、だったらなんで? なんでそんな悲しそうな顔してるの?」
京太郎「そ、それはだな……」
咲「言えないんだ……やっぱり……」
京太郎「ち、違う! それは本当に違う! 信じてくれ」
咲「……じゃあ、ちゃんと話してよ。不安になっちゃうから……」
京太郎「……軽蔑するかもしれないぜ?」
咲「……それはありえない。地球が崩壊したってありえない。この町にいる『京ちゃんたち』以外の人の命を賭けたっていい」
京太郎「え、それはやめて」
咲「な、なら……この遊園地に居る……」
京太郎「それも対して変わらねーよ!」
咲「うう……じゃあどうしろっていうのさあ……」
京太郎「いや、人の命以外のものを賭ければいいじゃないのさあ……」
咲「それだと真剣さがないような気がして、なんかやだ」
京太郎「……それ、高校生の女の子が言っていい台詞じゃねえだろ」
咲「えっ? そうかな?」
京太郎「当たり前だろ……はあ、何か気を抜かれた気分だぜ、ほんと」
咲「むっ、それってどういう……あっ」ハッ
咲「へ、へへーん。これも私の作戦の一つなのでしたー!」
咲は慌てた様に身を振りながらそう言った。隠すにしてももう少しうまくやって欲しいものだ。
咲「さ、落ち着いたところで、私に全てを打ち明けちゃってよ」
京太郎「……そうだな。分かったよ」
少し呼吸を整え、覚悟を決める。
京太郎「……俺さ、さっきのやり取りの中で咲のことを女の子として意識しちまって」
咲「……ふーん……ってふぇぇぇえええええ!?」
京太郎「気づかなかったろ? 俺がちょっとモジモジしてたの。……あ、いやこの言い方だとキモすぎるな」
京太郎「とにかく、俺がお前を意識しちまったって話だ」
咲「ふぇぇ……い、いちき……?」
京太郎「そうだ。お前、気についての話してる時、めちゃくちゃ俺に接近してたろ? その時お前の顔をじっと眺めてたんだけどさ、ああこいつも女の子なんだなあ、って思っちまって」
咲「かお……? 接近……? あっ!」
咲の顔が真っ赤に染まった。さっき興奮してた時の、数倍は赤いだろう。
なんだかいたたまれなくなり、俺もしばらく黙ってしまう。
京太郎「……」
咲「……」カアア
心地のいい沈黙の時が、しばし続いた。
京太郎「は、話戻していいか?」
咲「う、うん……」
お互いにまだ顔は赤かったが、完全に落ち着くまで待っているというわけにもいかない。
少し強引にだが、話を戻した。
京太郎「それでさ、そんな俺をほっといて金の話ばっかしてる咲のことが、何だか許せなくなってきちまって」
京太郎「訳わかんねえよな? 普段は俺がしてることなのに、いざされたとなったら途端に怒りだすなんて」
咲「あ……」
京太郎「……そこなんだ。俺が今悩んでたのは」
咲「えっ?」
京太郎「咲はいつも俺のことだけを考えてくれるだろ? その上で、俺の言葉に一喜一憂してる」
京太郎「でも俺はどうだ? 全く逆で、自分のことしか考えてねえ。そのくせ、いっちょまえに悲しんでなんかいやがる」
京太郎「そんな自分に、なんだか嫌気が差しちまってな……」
咲「京ちゃん……」
京太郎「どれだけ自分が最低かってことに気づいて、打ちのめされちまったんだ」
京太郎「女々しいやつだよな? 男のクセにさ」
咲「そ、そんなことないもん! 京ちゃんはすごく男らしくてかっこいいよ!」
咲「ホントに女々しい人は、そんなこと考えたりしない……」
咲「……自分の命を犠牲にしようとしてまで、私たちのことを助けてくれたりなんて、しないよ」
京太郎「咲……」
自分がどれだけ心の中で唱えても、はじき返されるだけだったその慰めの言葉が
咲の口から出たってだけで、なんだかすっと胸に落ちた。
京太郎「ありがとな、本当に。ちょっと……いや、大分すっきりした」
京太郎「ははは、何か単純だな? 俺も。最初から咲にそういわれたかっただけなのかもな」
咲「きっとそうだよ! だから、そんなに深く考えないでね? 京ちゃんが私たちのことをどれだけ思いやってくれてるかは、他ならない私たち自身が良く分かってるんだから」
京太郎「確かに、俺は自分の問題を自分で抱え込んで、勝手に自滅しちまう傾向が強いのかもな」
咲「うん。それも京ちゃんのこと見てると良く分かる。なんか、気にしなくていいようなことまで気にしてる感じなんだもん」
京太郎「……だからこそ、心の奥では人からの慰めってもんを渇望してる」
京太郎「自分の問題だからと必死になってんのは俺の表層、つまりはプライドとかそういうもんだけでの話ってことか……」
俺の心に光が灯っていくのが分かる。それは、嘘偽りの無い救いが俺にもたらされた何よりの証拠だった。
京太郎「これからはさ、何か不安なことがあったらすぐに皆に伝えることにするよ」
咲「うん! どんどん私たちにその不安を押し付けて行っちゃえばいいんだよ。それで文句を言う人なんて部の中には絶対に居ないから」
京太郎「ああ……」
ただ、ありがたい……
咲の言葉は、どんな慰めよりもずっとすばらしいものを俺に持たせてくれた。
咲「もし誰かに傷つけられちゃった時も、すぐに知らせてね。そんなカスには痛い目を見せてやらなきゃ!」
咲「基準なんてなくていいんだよ? 小石ぶつけられたとか、変なこと言われたとか、デコピンされたとか、そういう程度の小さいことだって愚行には変わりないんだから」
咲「私たちの中でそれを許す人なんて居ない……もし、もし京ちゃんが今日のことを忘れて、また自分で背負い込もうとしたって関係ない。京ちゃんに愚行を働いた奴は、その瞬間もれなく私たちの誰かによって塵にされるから」
あ、ちょっと台無しかも
京太郎「ははは、そんな子供のいたずらみたいなことで怒ったりはしねえよ。つーか、もしそういうことしてきたのが本当に子供だったらどうすんだ?」
咲「ん? 子供?」
咲「潰すよ」
咲「ギタギタのズタボロにして全身の毛まで毟り取って」
咲「二度と一人で生活できない体にしてやる」
咲「分別のつかない子供なんて、どうせ将来害にしかならないだろうしね」
ひえっ……
怖い(怖い)
本当は怖いイイハナシ
咲さん怖い
遊園地に行けなかった部長と和も怖い
この咲さんは天変地異起こすつもり何ですかね…?
戦場(卓)
子供ァ!
京太郎が麻雀部の皆の命を救ったからこうなったのか…?
どうしてここまで京太郎ラブの狂信者になったのか分からないから余計不気味だじぇ
>>78
ウチの看板に泥を塗った奴を生かしておく訳にはいきませんね……ネコみたいな奴は特に
>>79
そこらへんの事実は、この無駄に長くなりそうな後日談的な何かが終わったあとにやる予定の前日譚にて明らかになる可能性が……?
読み返していくとなんかホント、文章と展開にまとまりが無いのが良く分かって死にたくなりますね
せめてキャラ設定についての部分だけは間違えないようにしていきたいです(フラグ)
投下していきます
京太郎「な、なあ咲。いくらなんでもそこまでやる必要は無いんじゃないか?」
咲「えっ? どうして?」
きょとんとした顔で俺に尋ねる咲。目を丸くして、本気で俺の言葉に疑問を持っている。
それは、咲がこれまでの発言に、ひと欠片の冗談も入れていないことを何より証明していた。
京太郎「なんでって……そりゃあなあ……」
どういえば良いのか、少し言葉に詰まる。
適当なことを言っても咲は納得してくれないだろうし、かといって難しいことは俺にもわからん。
人に道徳を説けるほど俺は偉い人間ではないが、ここはそれらしいことを言って誤魔化すしかないかな……
京太郎「ま、先ず」
咲「先ず?」
京太郎「人の命は、そう簡単に奪っていいものではない! これは絶対だ!」
咲「!」
咲が驚く。その目はさっきよりももっと丸く、そして大きく開かれている。
これは何に対する驚きなんだろうか。俺がいきなり大声を出したこと? それとも、自分が人道から外れた発言をしてしまっていたということ?
後者であって欲しいものである。
>>80
展開云々よりも最初の頃よりも重苦しいアトモスフィアに満ちてる方が気になる
もっと全体的にギャグよりと言うか軽いノリで行くかと思ってただけに少し意外だな
咲「きょ、京ちゃんに何かをしたゴミを、人として見るだなんて発想は無かったな……」
違ったか。
もう、おかしくないか? この子こう見えて、ちょっと前まではすごい心優しい少女だったんですよ。
元々から麻雀においては滅茶苦茶な強さを誇ってて、更に試合になると別人のようにヤバイ系オーラを纏っちゃったりしてたけど、でも性格は善そのものといっても良かった。
それが、たった一ヶ月ぽっちでこれだ。
普通に考えられる「心境の変化」からは逸脱している。あり得ないと言ってもいい。
いやもちろん、それで咲のことを軽蔑しているわけじゃない。いくら他人のことをゴミの様に扱うようになったからといって、咲が咲でなくなるわけじゃない。
それは、部のほかの皆にも言えること。
それに、これの原因はほとんど全て俺にある。経過については納得できない部分も多々あるし、どうしてこうなったと何度も何度も呟いたことは否定しない。
ただ、それを言い訳にしていいわけじゃない。俺の思惑がどうであったかにせよ、結果がこうなってしまった以上、知らぬ存ぜぬで通して良いわけが無い。
だから、俺は全ての責任を負うつもりだ。
皆の考えをどうにか元に戻せるように必死で努力して、それでも駄目だった時は、俺が皆をそのまま受け入れる。
それでいい。
京太郎「そうだ。発想を入れ替えて見ろ。俺を傷つけるような人間も、一応俺と同じ人間なんだ」
咲「う、うーん……どうしても頭がそう働かないんだよね……」
京太郎「お前だって、元々はそんなに他人を憎んでたわけじゃねえだろ? なら、少しぐらいの修正を入れることはできるはずだぜ」
>>83
×京太郎「そうだ。発想を入れ替えて見ろ。俺を傷つけるような人間も、一応俺と同じ人間なんだ」
○京太郎「そうだ。発想を入れ替えてみろ。俺を傷つけるような奴だって、一応は俺と同じ人間なんだ」
咲「京ちゃんを馬鹿にするようなゴミも、一応人間……」
咲「……ううん。やっぱり無理だぁ……」
咲が少し落ち込んだような顔をする。でもそこに含まれているのは、自分が人としての心を失いつつあることではなく
俺にやってみろと言われた事をできなかったことへの落胆だろう。
咲「……ねえ、京ちゃん。これって本当に必要なことなの?」
その顔のまま、目だけをこちらに向けてくる。にらみつけるように、というよりは、許しを請うように、と形容するのがしっくりくる。
京太郎「……いや、仕方ねえな。無理なら無理でいいとしよう!」
咲「!」パァァ
途端に、顔が明るくなった。かわいい。
京太郎「た~だ~し~、こちらにも条件と言うものはあるぜ?」
咲「条件?」
京太郎「そう。これを守れなかった場合には、きついお仕置きが待ってるぜ」
咲「お、お仕置き……!?」サァァ
今度は見る見るうちに青くなっていく。相変わらず表情をころころ変える奴だな、こいつ。
咲「そ、それって!? それってどんなのなの!?」
京太郎「ちょい落ち着け。先ずは条件から明かしていく」
地の文が重いからじゃないの
シリアステイスト多めに見えるの
咲「……分かった」
京太郎「よし、よく聞けよ」
咲「……ゴクリ」
京太郎「それはだな……俺の許可なしに人を傷つけないこと! これ一つだ!」
咲「えっ!」
咲「そ、それじゃあ、京ちゃんのこと守れなくなっちゃう……」
京太郎「そうでもないぜ? 何も相手を[ピーーー]倒すだけが、俺を守る手段な訳じゃ無いんだからな」
咲「でも……」
京太郎「でもは無しだ。それに、誰かを殺して得た勝利より、どちらもほとんど傷つくことなく終わるイーブンのほうが、俺は好きだ」
咲「え……?」
京太郎「俺はお前みたいに超人じゃない。だから立ち向かうことさえできない奴なんてこの世にいっぱい居る」
京太郎「もちろん俺もそこまでことを荒立てる方の人間じゃないが、それでもいつかはそういう奴らに目をつけられて、痛めつけられそうになるかもしれねえ」
京太郎「そんな時、お前や皆がそばに居て、そいつらの攻撃から俺を守ってくれるんなら、こんなにありがたいことは無い。こんなに嬉しいことは無い」
咲「あ……」
京太郎「別に、そいつらのことを憎むな何て言わないぜ? そんな隣人愛じみたものなんて、俺だって持ち合わせちゃいないからな」
京太郎「でもだからって、[ピーーー]まで行っちまっていいかは、そんなの分からねえ」
京太郎「基本的にはケースバイケースな世の中なんだ。短絡的に決めていい物事なんて存在しない」
咲「うう……」グスグス
京太郎「え、ちょっと、な、泣くのはやめて? ね? 心がめっちゃズキズキするから」
咲「だってえ……」
京太郎「えー……ま、まあとにかくだ。俺をちょっと傷つけた!? なら[ピーーー]! っていうのだけはやめようって話さ」
咲「……分かった」
京太郎「よし、よく聞けよ」
咲「……ゴクリ」
京太郎「それはだな……俺の許可なしに人を傷つけないこと! これ一つだ!」
咲「えっ!」
咲「そ、それじゃあ、京ちゃんのこと守れなくなっちゃう……」
京太郎「そうでもないぜ? 何も相手を殺す倒すだけが、俺を守る手段な訳じゃ無いんだからな」
咲「でも……」
京太郎「でもは無しだ。それに、誰かを殺して得た勝利より、どちらもほとんど傷つくことなく終わるイーブンのほうが、俺は好きだ」
咲「え……?」
京太郎「俺はお前みたいに超人じゃない。だから立ち向かうことさえできない奴なんてこの世にいっぱい居る」
京太郎「もちろん俺もそこまでことを荒立てる方の人間じゃないが、それでもいつかはそういう奴らに目をつけられて、痛めつけられそうになるかもしれねえ」
京太郎「そんな時、お前や皆がそばに居て、そいつらの攻撃から俺を守ってくれるんなら、こんなにありがたいことは無い。こんなに嬉しいことは無い」
咲「あ……」
京太郎「別に、そいつらのことを憎むな何て言わないぜ? そんな隣人愛じみたものなんて、俺だって持ち合わせちゃいないからな」
京太郎「でもだからって、殺すまで行っちまっていいかは、そんなの分からねえ」
京太郎「基本的にはケースバイケースな世の中なんだ。短絡的に決めていい物事なんて存在しない」
咲「うう……」グスグス
京太郎「え、ちょっと、な、泣くのはやめて? ね? 心がめっちゃズキズキするから」
咲「だってえ……」
京太郎「えー……ま、まあとにかくだ。俺をちょっと傷つけた!? なら殺す! っていうのだけはやめようって話さ」
咲「……むう、分かったよ。なるべくは我慢する」
京太郎「ありがとな」ニカッ
咲「それに、相手が傷つかないんだったら、京ちゃんを守るのにどんな手段を使ってもいいんでしょ?」
京太郎「おう。何もするなとは言ってないからな。つーか、ヤバイ奴ら相手に一人で立ち向かえるほど、俺は心も体も強くねえよ」
咲「ん、分かった。ちょっと納得いかないけど、京ちゃんの顔を立てるためと思うことにしますよー」ブー
京太郎「はいはい、ありがとうございます」ナデナデ
咲「んーー♪」
瞬間、俺の背中に刺す三つの鋭い痛み。
……いや、気にするな。気にしちゃいけない。
咲「あ、ところで、お仕置きの内容はなんなの?」
京太郎「え? あっ……」
忘れてた……
いいものが思いつかなかったから、条件について話してる時ついでにお仕置きの内容も考えておこうと思ったっきり、完全に頭から消し飛んでた、なんて言えない
京太郎「そ、れはだな……」
なんかいいのは無いだろうか。
……そうだ。
京太郎「な、なでなで……」
咲「え?」
京太郎「なでなで一ヶ月禁止だ!」
咲「!?」
咲「な、なでなで禁止って……」
京太郎「そうだ。お前が約束を破った場合、俺は一ヶ月の間、一切のなでなでをお前に施さない……」
咲「え、ええぇ……」
京太郎「な、なんだよ? 不満でもあるのか?」
咲「ふ、不満なんて……」
咲の口が止まる。少し目をそらしているから、何かを考えているのだろう。
……これはちょっとマズかったか?
条件に比べてお仕置きが軽すぎるだろ。
このままじゃあ、別にかまわないとか言って、何食わぬ顔で条件をブチ破ろうとしてもおかしくねえな……
かといって、あれこれ変えようとするのも不誠実だろうし。
いやでもやっぱり、意味の無いことはしたくない。ここはお仕置きを別のものにする……
咲「……アリもアリ……! 大アリアーリントン国立墓地だよ! 京ちゃん!」
……べきだろうって
京太郎「え?」
咲「こ、こんなにもキツイお仕置きだとは思わなかった……!」
咲「罰金十万円とか、俺の前で裸踊りだ、とか、焼きそばパンかって来い、だとかそんなもんとばかり……!」
咲「これじゃあ、これじゃあ破ることなんてできっこないよぉ……もぉぉぉおおおお!」
咲「京ちゃんのバカーーーーー!!!」ゴッ
京太郎「うひゃぁぁぁああああ!?」
な、なんで!? なんで俺が怒られてんの!?
つーかやっぱりコイツ、破る気満々だったじゃねーかよ!
そ、それに、なでなで一ヶ月禁止がキツイお仕置き……!? いやちょっと何言ってるかわかんないですね。
京太郎「お、おい。咲?」
咲「ぶぅぅぅぅ」
さ、咲さまがいじけていらっしゃる。
慰めて差し上げなければ……
い、いや! 慰めちゃだめだ。庇護欲に負けちゃだめだ。かわいさに騙されちゃ駄目だ。
こんなのはコイツのわがままに過ぎないんだから。うん。
友人の暴走は、その友人が止めてやらなきゃな。
レストランのウェイターもよく言っているじゃないか。お連れ様を何とかしていただけないでしょうか、と。
京太郎「い、言っとくけど変更はしないからな! お前にとってこのお仕置きがつらいものだって言うなら、それは好都合ってもんだぜ」
咲「ふんだ。京ちゃんがそんな心無い人だとは思いませんでしたよー」
京太郎「こ、心無いって……」
ここに来て、一番辛らつな言葉をかけてきたな……
なんでだ? なでなで一ヶ月禁止だぜ? この上なくやさしいと思うんだけど。
咲「……」ブッスー
京太郎「え、えっと……」
咲「……」ブッッスー
京太郎「……あの」
咲「……」ブッッッスー
京太郎「は、ハハ……」
どうしようもなくなった俺は、気を紛らわせるために横に目をやった。
一瞬、なんでもない遊園地の風景だな、と思った。もちろんかなり立派な建物ばかりだが、そういうのに心奪われるほど、幼くは無い。
客たちは皆俺たちのことを避けるようにして通り過ぎていってる。とはいえ、今日は平日なので人はそこまで多くなく、そもそもここは通路の端側なので、邪魔にはなっていない。と思う。
しかし、俺の本能が違和感を叫んでいた。
ここは、何かがおかしいと。
頭をフルで回転させ、その違和感の出所を探っていく。
部屋の壁一面を飾れるほどの絵の中にある、極小の間違いを探すかのように。
そして、見つけた。
俺らの立つここの反対側。俺から見て少し左のほうに、怪しい人影があった。
シャーロック・ホームズのようなコートと帽子を着用した、探偵風の人間だ。
新聞を読むフリをしながら、ちらちらとこちらを探っている。
逃げるそぶりも見せないので、俺に発見されたことには、まだ気づいていないようだ。
……そして、もし探偵風であるということ以外に、そいつの特徴をあげるなら。
帽子からもれだす長いピンク色の髪と、コートの上からでも分かるほどの大きなおもちを持っている、ということだろう。
ああ……なんてことだ……
いや、予想をしてなかった訳じゃない。むしろ、来るだろうと思っていたくらいだ。
でも、これは流石にちょっとなあ……
他に何か手段は無かったのか……
京太郎「和……何やってんだよ、あいつ……」
咲「……え? 和ちゃん?」
こんなお間抜けな尾行をしていたのが和だと、少し信じたくない俺だったのである……
今日はここまで。
見ている人が居るかは分かりませんが、少し質問です。
インハイの長野大会 個人戦決勝が終わったのは6月の半ば頃
全国大会が始まるのは、8月の始め頃
これで間違いないでしたっけ?
乙ー
インハイの日程はそれで正しいかと
乙です
乙
乙
結構面白い
しばらく続くなら酉付けた方がいいんじゃない?
京太郎の性格が他と一風変わってて面白い、続き待ってます
>>95
ありがとうございます。
よかった、これで時系列が滅茶苦茶にならずに済む……
>>98
確かに。思ったより長くなりそうなので一応付けておいたほうが良いですね。
>>92に修正を加えてから、投下していきます。この文じゃ訳が分からんよ……
>>92 修正
俺たちが立っている側と反対の通路の端、そのここから少し左に目をやったところに設置されているベンチに、違和感の正体は座っていた。
そう、つまり人であったのだ。
俺の本能に働きかけるほどの影響力を、この風景のちっぽけな一点でしかない一人の人が持っていた。
それは、シャーロック・ホームズのような帽子とコートを着用した、探偵風の人物だ。
新聞で姿を隠しながら、こちらを探っている……
……つもり、なんだろうか?
だが、俺がそいつの被っている帽子の形まで知ることが出来たことからも分かるように、そいつは姿なんてまったく隠せちゃ居ない。
いろいろと粗末な所はあるが何よりも、新聞の持ち方が下手だ。折り曲げてではなく、ぴんと張るようにして持っている。あれじゃ、ちょうど真正面からの視線しか防ぐことは出来ない。
新聞によって視界が制限されることで一種の隠れ家に篭っている気分になり、安心しきってしまっているであろうあちらにはむしろ分からないかもしれないが、角度的にこちらから姿が丸見えなのだ。
流石に顔まで見ることは出来ないが、十分だった。
……探偵風の服装をしていて、尾行が絶望的に下手であるということ以外に、そいつの特徴をあげるとするなら、それは……
とても長くてきれいなピンクの髪と、コートの上からでも分かる程のおもちをおもちである、ということだろう。
……なあ、俺の目はおかしくなっていないよな。ならあそこに居る奴が誰かは、俺も知っている……
いや、来ないとは思っていなかった。むしろあの時、咲の勝利で対局が終わった際の、皆の暗雲立ち込めたような表情を見て、これは何かが起こるはずと確信していたくらいだ。
でも、これは流石にちょっとなあ……
他に何か手段は無かったのか……
京太郎「はあ……」
咲「……?」
京太郎「和……何やってんだよ、あいつ……」
咲「……え? 和ちゃん?」
こんなお間抜けな尾行をしていたのがあの和だと、少し信じたくない俺だったのである……
咲「え? え? どういうこと……? 何でいきなり和ちゃんの名前を出したの? えっ?」
咲があきらかな動揺を見せる。
そりゃそうだろう。これがどういうことか大体分かっている俺でさえ、今は呆然としているのだから。
京太郎「いやな、あそ……」
咲「も、もしかして……私と一緒に居るのが嫌になっちゃったとか!? い、嫌だよそんな……」
京太郎「そうじゃな……」
咲「お仕置きに文句を言ったからいけないの? ち、違くてね。あれはね、そんな、京ちゃんを困らせる為にやったわけじゃなくてね」
京太郎「だか……」
咲「き、気分を悪くさせちゃったならごめんなさい……で、でもでも、私にそんなつもりは無かったって言うのは本当で!」
京太郎「ちょ……」
咲「違う、違うの。本当に。お願い、嫌になんかならないでよ! 私、今日って日を心の底の底の底の底の底の底の底から楽しみにしてて……だから、だからね」
あ、だめだ。スイッチ入っちゃってる。
名前を出すよりも先ず、事情を説明しておくべきだったな……これは俺の失敗だ。
何とかして引き戻さねえと。
咲「京ちゃんにそんなこと言われたら、私、死んじゃいそうになるっていうか……あはは、身勝手だよね、私。和ちゃんに負けるのも仕方な……」
京太郎「そりゃっ!」チョップ
咲「あうっ!?」ポコッ
言葉が効かないなら実力行使。
これには昔の人も同意してくれるはず。
咲「ううぅぅ……きょ、きょうちゃあん……?」
京太郎「暴走する前に話を聞けっての。俺はお前との遊園地周りがつまらないなんて一言も言ってねえし、お前のお仕置きに対する態度に怒ってもいねえ」
咲「ふぇ……?」
京太郎「あ、いや態度のほうにはちょっぴり呆れてたけどな」
咲「あああああぁぁぁぁああやっぱり……!」
京太郎「ちょっぴりっつったろ! ちょっぴりだ、ちょっぴり! 安心してくれ、頼むから!」
咲「ま、また怒ったあああぁぁぁあ!ポロポロ」
京太郎「またも何も元から怒ってねえっつってるでしょお!」
咲「うううう……嫌わないでぇ……」ポロポロ
ああ、もう本当にコイツは……
一度スイッチが入っちまうと、どんな言葉も曲解して捉えちまうんだよなあ……
ああ、周りからの視線が痛い……
いやホント、お騒がせして本当に申し訳……
探偵風和「……!」ガッツポ
おい……!
のどっち何やってんのww
京太郎「はあ、咲。よく聞いてくれ」
咲「別れ話なんて聞きたくないもん……!」グスグス
京太郎「別れ話なんかじゃねえよ……」
京太郎「ほら、あそこ。俺の指差してるところ、見えるか?」
咲「ふぇ……?」
咲の肩に手を回し、咲の目線に合うように腕の高さを調整してから、和のほうを指差す。
指差された和が一瞬体をびくりと跳ね上げさせたが、もちろん気にはしない。
咲(あ、いいにおい……じゃなくて)
咲「ベンチに、誰か座ってる……? 新聞を読んでる探偵さん?」
京太郎「その通り。正確には探偵じゃねえし、新聞も読んじゃいないけどな」
京太郎「じゃあ、ここで一つ問題だ。あれ、一体誰だと思う?」
咲「え? そ、そんなの分かるはず……」
そういって、咲は数秒の間を空ける。
その沈黙が意味するのは只一つ。
……よし。ミッションコンプリートってやつだな。
和の体がいよいよガタガタ震え始めたが、もちろん気にはしない。
咲「……京ちゃん。さっきは酷いこと言っちゃってごめんね。それについては、あとでたっぷりたっぷりたっぷり謝るから」
咲「今は、止めないで……!」ゴッ
言うや否や咲はオーラを展開し、一目散に和のほうに駆けていく。
対して和は、いつでも逃げられるように体制を整えている。
……そうはさせるかってんだ。
和(ま、まずい事になりました……)
和(咲さんにならともかく、京太郎さんに顔を見られたくはありません……)
和(こんなみっともないことしてるって知られたら、嫌われちゃいます!)
和(早く逃げ……)
京太郎「そーはいかねーぞ、和」
ベンチから立ち上がり逃げのポーズを作った和の前に回りこむ。
咲は和の後ろから迫っているが、なぜか遅い。俺よりも早く走っていったというのに、まだ通路の半ばあたりを走っている。あんな禍々しいオーラを纏っているのに、ちょっと息を切らしている様はなんか滑稽だ。
おそらくオーラによる身体強化を施していないんだろう。いや、あんだけのオーラ纏ってるんだったら何でって話だが。
ま、そこは配慮しているんだろうな……あいつは優しいから。
和「きょ、きょう……じゃなくて、須賀君!」
京太郎「よーす、和」
和「あ、お、おはようございますぅ……」トロン
京太郎「そ、そんな顔蕩けさせなくてもいいぞ?」
和「だって、一日ぶりの須賀君との挨拶なんですよ……耐えられるわけ無いじゃないですかぁ」トロトロ
京太郎「そ、そうか……」
うーん……これはちょっとエロ過ぎでしょう……?
只でさえ官能的な体つきをしている和が、更に表情まで乱れさせちまったら、最早向かうところ敵なしである。
でも、探偵姿の女性が体をくねらせ顔を蕩けさせているのを見るのは、なんか変な気分だ。
エロい(確信)
うん、うまく説明できないが……とにかく変な気分になってしまうのである。
他意はない。
京太郎「咲は……まだか。とにかく、逃げようとはするんじゃねーぞ?」
和「は、はい……須賀君に見つかってしまった以上、逃げる意味なんてありませんから」
和「あの、申し訳ありませんでした……怒ってますよね……?」
京太郎「いや、別に怒ってる訳じゃねえさ。それにちょっと予想はしてたしな……」
和「そ、そうですか……良かった……」
京太郎「ん。良くはないけどな……」
和「あ、あっ、すみません!」
京太郎「はは、まあ反省さえしてくれりゃそれで良いよ」
京太郎「ただ、あいつにもちゃんと謝罪してくれよ……?」
和「え?」
俺の目線の先にいるのはもちろん、何故か息を絶え絶えにしながらも懸命に走る咲だ。
纏うオーラの強大さが、いよいよ以ってシュールさを醸し出してきた。
和もそれに気づいたのか、ああ、と一言呟いた。
咲「ふうーー、ふうーーー……よう、ようやく着いたよ……」ゼエゼエ
京太郎「だ、大丈夫か?」
咲「う、うん。この遊園地の通路、幅が異常に長いんだもん……」ゼエゼエ
咲「……ふう、ちょっと落ち着いた」
和「咲さん……」
咲「……和ちゃん」
ようやく相見える二人。その間には、雷光が走っているように思えた。
うん、普通ならこっちのイベントが先に起こっていなきゃおかしいんだけどな?
今日はここまでです。
ありがとうございました。
乙でした
咲ちゃんww
乙
乙ー
咲「私が言いたいこと……わかるよね?」
先に口を開いたのは、咲だ。その言葉には、大きな怒気が含まれていた。
有無を言わせぬ、とは正にこのことだろうと、少し離れた所にいる俺でさえ感じたのだ。
それを目の前にする和は、気が気では無いのではないか。
和「……」ジー
咲「何? まさか本当に分からない? 今時の小学生でも分かるようなことなのに……和ちゃんは頭がいい人だって思ってから、少し意外だな」
和「……」ジー
咲「さっきから何だよ。私の顔をじっと眺めて……馬鹿にしてるの?」
和「……ああ、すみません。なぜ貴女がそんなにも得意げでいられるのかが、とても不思議で」
和「その理由を貴女の表情から読み取ろうとしたんですけど、無理でした」
和「でもまあ、確かに少し不躾な行動でしたね。謝罪します」ペッコリン
咲「……は?」ズ・・
……いや、逆だったか。
咲のその態度に感化されて、しょげるどころかむしろ闘争心を沸きあがらせてしまった様だ……
ああ、また喧嘩が始まるのかなあ……
……こいつらの喧嘩は、正直止めないで見ていたほうが良いんだよなあ……
そっちの方が、誰も傷つかないで済むから。
咲「は、あはは……とうとうおかしくなっちゃったのかな? 和ちゃん」
和「はあ。おかしくなった、とは?」
咲「これも聞かなきゃ分からないの? それとも、いきなり訳のわかんないことを持ち出してきて話をかき乱すことは、和ちゃんの中では正常だとでも言いたいのかな」
和「いえ……違いますが?」
咲「じゃあ、今のあれはなに? どういう意図があってあんな事を言ったの」
戦闘力はどっちもなさそうだしな…
オーラは出せるけど
和「ふっ。どういう意図も何も、目の前の事実に対する単純な好奇心を満たそうとした結果、少しだけ無礼が起こってしまった」
和「だから、それに謝罪をした……それだけですよ。ええ、全うな流れじゃないですか。別におかしくはないかと」
咲「そんな嘘を聞きたいんじゃなくって……!」
咲「……まあ、いいよ。何を聞いたって苦し紛れの言い訳しか口にしないんだったら、取り合うだけ意味は無い……からね」
和「ふふっ、まるで自分に言い聞かせているかのようですね」
咲「うるさい! さっきからぐちぐちぐちぐち、どうして関係ないことで煽ったりするかなぁ!?」
和「もう限界ですか? わずか数秒でもう自分の決意を忘れてしまうなんて……よっぽどですね?」
咲「……あああああああ! 分かった、何で私が怒っているか和ちゃんには分からないみたいだから、教えてあげる!」
咲「和ちゃんが私たちをこそこそと尾行してたこと、これが許せないの!」
和「別にそんなのは私の自由でしょう。あなたがどうこう口を出すべきことではないと思われますが」
咲「ちゃんと! 勝負で! 決めたことなのに! それを……私の口出しするべきことじゃないって!? 何でそんなことが言えるんだよ!」
和「確かに、チケットとホテル代の獲得権の所在については対局で白黒をはっきりとさせましたが、別に尾行をするなと
は誰も言ってないでしょう? 私の行動に違反はありません。それにそもそも私が駄目だと言うなら……」
咲「そうじゃない……! こそこそ身を隠しながら尾行してたことが許せないって言ってるんだよ……!!」
和「は、はあ……? そんなの、私だけをピンポイントで批判したいって言ってるのと同義じゃあありませんか!」
咲「うるさいうるさい! 折角……折角京ちゃんと一緒に来れた遊園地なのに……! 結局こうやって和ちゃんに邪魔されるんだ……!」
和「邪魔って……別に邪魔をしようとしていたわけでは」
咲「嘘付けっ!! じゃなきゃあんな風に私たちのことを付け狙うはずがないもん! 私たちがいい雰囲気になった頃合を見て、酷いことをする心積もりだったに決まってる!」
和「い、いえ私は単純にすがく……」
咲「京ちゃんは関係ないでしょ!! そうやって京ちゃんを逃げ道に使わないでよ! 私のことが憎いからこうしたんですって……何で素直に言えないの!?」
和「ち、ちが……流石に憎いだなんて」
咲「じゃあ、何ですぐに謝ってくれないの!? 私はただ、和ちゃんに謝ってほしかっただけなのに! それなのに、何で……」
咲「なんであんな酷いことを言われなきゃならないのぉ……」ポロポロ
和「さ、咲さん……」
……咲が、泣いた?
和との喧嘩で? 嘘だろ……
咲にしろ和にしろ、二人の間で行われてきたいくつもの喧嘩の中にあっては、泣いたことは一度も無かった。
逆に、止めようと入った側が泣かされる羽目になっていたくらいだ。
それに、この二人が喧嘩をする理由の中心には、必ず俺の存在がある。
逆に言えば、俺の関わらない所では二人の喧嘩は発生しないのだ。
喧嘩のあとだろうとなかろうと、俺のいない場所では、実はこの二人はまあまあ仲良くやっているということを、俺は知っていた。
無論、県大会前の時ほど、今は仲良くはないが。
まあ、どんなに酷いように思える喧嘩をしても、翌日にはけろっとしてる。そんな二人なのだ。
だから、最初の数回を除いては俺も二人の喧嘩を止めたことはない。放っておいた方が安全に済むと分かっているからだ。
……でも、今回は違う。実際に咲が傷つく結果となってしまった。
最早、放っておいた方がいいなんていえる状況では無くなったのだ。
京太郎「おい、二人とも……」
咲「せめて、せめて付いて来るんだったら優希ちゃんみたいに堂々とやりなさいよ、この意気地なし!!!」ポロポロ
和「あ、う……」オロオロ
京太郎「……ん?」
……何だって?
咲「うう、ううううぅぅぅ」ポロポロ
京太郎「な、なあ咲。今、何て言ったんだ?」
咲「うう、ぎょうぢゃぁぁぁ。むねがぢぐぢぐずるよおぉぉぉ」ダキッ
京太郎「え? うぉっ……はあ、仕方ねえな」サスリサスリ
咲「う゛う゛う゛ぅ゛」ポロポロ
これは話を聞ける状態じゃない、か……
そう判断した俺は、咲の背中をやさしくさすってやりながら、和の方に向き合う。
今日はここまでです。
見てる人が居るとは思わなかった……
乙
乙
乙です
乙ー
タコスもどっかに居たりするんですかね…
乙
タコス堂々としてついてきてたのかwwwwww
あぁ、堂々とついて来て京太郎が知覚する前に消されたのか?タコス
咲の言ったことはとてもとても気になるが、先ずはこのぎくしゃくを解決せねばなるまい。
和「あ、あうあう……」オロオロ
咲の反応は和にとっても予想外であったようだ。顔面を蒼白にさせながらおろおろとしている。
じゃれあっていたつもりが、ふとした拍子に本気の喧嘩へと発展してしまう……なんて、よくある事だ。
相手が何を思っているのか……それに気付けるようにならない限り、そういう事故は起こり続ける。
和はとても賢い。検事である母親と弁護士である父親の間に、聡明な頭脳を持って生まれた天才だ。
それに加えて、デジタル麻雀においては高校生一、と言ってもいいほどの腕も兼ね備えている。
誰もが憧れる存在なのだ。
しかしそんな和でも、中学生のやるようなミスをしてしまうことはある。今回のこれもその内のひとつだろう。
咲の雰囲気がいつもと異なっていることに気付けず(これに関しては俺に和を責める資格は無いが)、辛らつ極まりない言葉を放ってしまった。
和からしたら、今日のも普段の延長でしかなかったのだ。ああいったらこういわれ、そうしたらこう返す……そんな風にもみくちゃになりながらも、相手の上手をいくため――そして相手との友情を確かめるため、喧嘩をする。そんな自分の日常の延長としてしてしか捉えていなかったのだ。
だからこそ、こんなにもあからさまに動揺を見せている。
ただ、今回の件については和だけが悪いわけではない。
一応、咲だっていつもは和にかなりえぐいことをやったりしているのだ。
和のいやがらせを爽快と表現するなら、咲のは性格が反映しているためかかなり陰湿だ。
だから、普段においてあまりにも多くの前例を作ってしまっている時点で咲にも罪はあるといえばある。狼少年みたいなものだ。
京太郎「なあ、和」
和「あ、あの、わた、私……」ビクビク
俺が声を掛けると、和は何か恐ろしいものでも見ているかのような顔をしながら、小さな声で弁明の言葉を述べようとした。
どうやら俺が本気で怒ってると勘違いしちまってるみたいだ……なんというか、ここまで怯えられるとちょっと罪悪感が芽生えてしまう。
京太郎「いや、言わんでもいい。そんなつもりは無かった、だろ?」
和「あ……は、はい……」
京太郎「お前が故意で咲を泣かしたわけじゃないってのは見てれば分かるよ。正直、今回の件はお前だけに責任があるわけじゃないと思ってる」
和「……え」
咲「……エッグ……」グスグス
京太郎「もちろんきっかけを作ったのは和だ。でも咲にも悪いところはあった。そもそも、咲は調子が良いんだよ。こういう時だけ被害者を気取るのは、ちょっとずるいぜ? 普段はお前だって、和のことを邪魔したりしてるくせに」
咲「……和ちゃんが先に手を出してくる……のがいけないんだよ」グスグス
京太郎「いーや、俺の見る限りでは、毎回先に手を出してるのは咲のほうだぜ? この前も和の小説をボロボロにしてたじゃねえか」
咲「……違うもん」グスグス
京太郎「違うくない。だから、そういうのが巡り巡って自分に返ってきたって考えろ。そうすりゃ、和に対する一方的な敵愾心もちょっとは和らぐとおもうぜ?」
咲「でも……でも……」グスグス
咲「私っ……遊園地行くのずっとたの、楽しみにし、してて……」
ああ……なんていうか、こうしてはっきり言われると恥ずかしくなっちまうもんだな。
咲みたいな美少女が、俺なんかとのデートを何よりの楽しみにしてたってことを、涙ながらに告白してくれた。こんなにも男冥利につきる事はない。顔、真っ赤になってねえだろうか。
ただ、それは咲を擁護する理由にはならない。
普段における咲の言動を考えれば、やはり咲にも責任はあるのだから。
京太郎「……そだな。楽しみにしてたことを邪魔されるってのは、我慢ならねえよな……」
京太郎「でも、和だって俺に小説読ませるのを楽しみにしてたんだぜ。それこそ、一月も前からずっとだ」
咲「あ……」グス
和「きょ、京太郎さん……!」ウルウル
俺の言葉を聞いて、咲は何かに気付いたような顔に、和は感極まって泣きそうな顔に、それぞれなった。
和なんて、俺のことを名前呼びしてしまっていることにすら気付いてない様子だ。
……だめだ、こんなのを見たらもう言えない。
あの部活の日、和に小説を見せられた時、俺は思考を全て捨てて無心になっていたから内容については殆ど覚えていないだなんて。
絶対に言えない。
京太郎「な? 思い返してみればさ、自分にも色々疚しいところはあるわけだ」
京太郎「もちろん、だからって傷つけられて良い訳じゃないぜ。お前は罪を犯したんだから、俺に殺されても文句は言えないだろ、なんて詭弁もいいとこだ」
京太郎「でも、今日はこれで片付けても良いんじゃないか? 咲は自分がしてきたことを反省できて、和は軽率に悪口を言うとどうなるかを学ぶことができた。良い事だろ」
咲「……」グス
和「……」
京太郎「あんまし昔の考えってのは好きじゃないけど……ここは喧嘩両成敗で、二人がそれぞれ同じくらい悪かったって事にして終わらせよう」
咲「……うんっ」コクリ
和「はいっ。異論はありません」
京太郎「よしよし」
これで一件落着……と行きたいところだったが、
京太郎「……それにさ、こんな偉そうなこと言っちまったけど、俺にだって今回悪いところはあった訳で」
どうしても俺はこの胸の中の燻りを口に出さずにはいられなかった。
咲「……え?」
和「きょ……須賀君に? そうは思えませんが……」
京太郎「お前らの喧嘩、本当ならすぐにでも俺が止めておくべきだったんだ。それなのに、普段もこうだからだなんて経験則に当てはめて考えちまってた」
京太郎「いや、何も考えてなかったとさえ言えちまうかもな。俺もやったことは和と殆ど変わらないんだよ。そこに直接的か間接的かって違いがあるだけで」
京太郎「むしろ間接的な分俺の方がタチが悪い……」
和「そんな……須賀君に罪はありません!」
咲「そうだよ、京ちゃんは悪くなんか無いよ……」
京太郎「え? あ、ああ、ははは……なんか、ずるいな、これ。考えてみれば、こうして喧嘩が終わった後、安全を確認してから自分の罪暴露するだなんて、かまってちゃんオーラ全開の行為じゃねーか」
京太郎「慰めてもらいたいが為に、こうして告白したみた……ってこれ、ついさっき咲にも言ったな……はは」
和「須賀君……」
咲「京ちゃん……」
あー、ばっかみてえだ。俺、何やってんだろ。これじゃただのメンヘラじゃねえか……
和と喧嘩する前、咲は「京ちゃんは自分でなにもかも背負い込もうとする」って言ってたけど、どうやら間違いだったみてえだ。
俺は何も自分で解決しようとなんてしてねえ。むしろ全部他人任せ、というより部の皆まかせにしてる。
あの時から部の皆の態度ががらりと変わって、俺なんかの事をちやほやし始めて……それに甘えてたのかもな。
だから、実際に皆がどれだけ苦しんでたかも考慮してやらずに「皆から受ける苦労を全て背負い込み、さらに皆を幸せにする」っていう理想のヒーローを目指す自分に酔ってたんだ。
そして、自分の決めた訳の分からない目標を達成できなかったことを理由に尤もらしく反省して、それで自分を高めてる気になって!
所詮は何も変われちゃいなかったって訳だ。
京太郎「あー、ごめんな? 何か、気を使わせちゃったみたいで。まあ、ここは同情なんかせず、俺の謝罪を受け入れてくれてやってくれ」
咲「でも……」
和「……分かりました」
咲「和ちゃん!?」
和「須賀君の漢に免じて、ここは須賀君にも罪はあったということにしておきましょう……」
咲「そ、そんな……いくら京ちゃんが漢だからって、私たちの喧嘩の責任を背負わせていい理由には……」
和「漢だからこそ、です。須賀君がこういっているなら、最早私たちに口出しする余地はないんですよ、咲さん」
咲「……そう、だよね。京ちゃんの信念を曲げちゃ、駄目だよね……! 分かった。私も京ちゃんの漢に免じて、京ちゃんの罪を認めます!」
京太郎「お、おう……」
漢って……俺ほどそれから遠い男もそういないだろうに…………
というか、しんみりするようなことを言った直後にこう思うのもなんだが、何でこいつらこんなに俺に甘いの?
ダメになっちゃうよ? 俺、ダメ男になっちゃうよ?
そんなに俺のことダメにしたいのか?
京太郎「……いや、まあこれは今は関係ないか」ボソッ
咲「え? 何か言った?」
京太郎「ああいや、独り言だよ、独り言」
咲「ひ、独り言……?」
京太郎「そうそう、別に気にすることじゃねえさ。とにかく、ありがと――」
和「だ、ダメです! いくら独り言とはいえ、須賀君の言ったことを無視するわけにはいきません! 申し訳ないのですが、もう一度仰って頂けませんか!」
咲「……え? う、うん! そうだよ、和ちゃんの言うとおりだよ! もう一度言って、京ちゃん!」
京太郎「え、ええ……?」
その返しは考慮しとらんよ……なんなんだ、独り言でも無視するわけにはいかないって。普通そこはそうですかで済ますところでしょう。
……でも、都合は良いかもしれない。あのことを独り言としてつぶやいた、ということにして、なし崩し的に質問にもってってしまうこととしよう。
京太郎「そ、そこまで言われたらしかたないなー! 他ならぬ二人の頼みだし、恥ずかしいけど言っちゃおうかなー!」
咲「……!」フンフン
和「……!」フンフン
二人とも、俺の次の言葉を鼻息を荒くしながら待っている。
そんなに興奮するようなことじゃないだろ……とは思いつつも、顔には出さない。
あくまで自然を装わなければ。
京太郎「じ、実はさ。さっきの喧嘩のなかで、咲が和にやるなら優希みたいに堂々とやれ、って言っただろ?」
咲「……えっ? う、うん」
和「確かにそう言われましたが」
京太郎「それがちょっと引っかかってたんだよ。だから、どういうことなんだって独り言をごちた訳だ。なあ、咲のそれってつまり、優希が普段俺のことを堂々と尾行してるってことなのか?」
咲「……ふぇ?」
和「え?」
京太郎「いや、咲とか和っていつも、俺の鞄の中とか家の箪笥の中とかに盗聴器や隠しカメラ設置してるじゃねえか?」
咲「う、うん」
和「ええ、確かに」
京太郎「部長や染谷先輩も大体似たようなもんなんだけどな、優希だけはそういうのがねえんだよ」
咲「え! そうなんだ……」
和「い、意外ですね……」
二人はどちらも、心から驚いていた様子だった。嘘はついていない。
これが示しているのは、二人は普段の優希の行動を知らないと言うこと。なら、咲が優希の普段を指して発言できるはずは無い。
つまり……
京太郎「……これを知らないってことは、咲の発言は普段の優希の行動を指したものじゃないってことか?」
咲「う、うん。私の感知できる範囲では、普段優希ちゃんは京ちゃんを付け回すようなことはしてないよ」
和「ええ。だからこそ、ゆーきはそういった物で補っているのかと思っていましたが……」
つまりだ……
京太郎「じゃあ、さ……咲が言ってた優希の尾行ってのは、さ……」
京太郎「今日、今ここで行われてることなのか……?」
咲「えっ? そうだけど……まさか京ちゃん、知らなかったの!?」
和「須賀君、そうだったんですか……!? 私に気付けた位なのですから、とっくにゆーきにも気付いているものとばかり思っていました」
京太郎「ああ……」
こう、なるわけだよな。うん、うすうす気付いてた。優希には気付かなかったけど。
あと、和。お前は自分の尾行スキルをどんだけ信頼してるんだよ。
京太郎「だよな……驚きだよな……はは。じゃ、じゃあもうひとつ聞きたいんだけど、優希が今どこにいるかは分かるか? って分かるよな」
京太郎「まあ、こうなっちまった訳だし、一応優希も交えて話をしておきたいなって思って……」
咲「……ふぇ?」
和「ほ、本気で言ってるんですか? 冗談でなく?」
京太郎「え? え? お、おう。冗談を言ってるつもりはねえけど」
和「一時的なランダムの偏りに心縛られてるだけでなく!?」
京太郎「え、え、ランダムとか関係なくね? えっ?」
の、和はどうしたんだろうか。さっきよりも興奮が増しているようだ。
和「何てことでしょう……ゆーき! あなた、一体どんな手を使ったんですか!? 私に気付けるほどの観察眼を持つ須賀君の目を欺き続けるなんてっ!」
俺が和の言動を不思議に思ったその時、和は急に俺の後方に目を向けて、信じられないといった形相で言葉を放った。
京太郎「お、おい、和? お前どこに話し掛け……」
……あっ。
まさか。
数秒の思考をもって、俺は気付いてしまった。
いや、和の言葉を聞いた時点で気付いていたのかもしれない。
頭の中では完璧な式の下、完璧な答えが完璧に出来上がっていたのだろう。
ただ、俺の理性的な何かがその事実を否定しようとしていただけで……
俺はゆっくりと、咲のほうに顔をやった。多分、今の俺の表情はだいぶすごい事になっているだろう。
咲「えっと……京ちゃん? もう流石に分かってるとは思うけど……」
咲「優希ちゃん、待ち合わせの時からずっと、京ちゃんのすぐ後ろを付いて回ってたよ……?」
ああ……なんてことだ……
しかも始めからじゃねえかよ……
おっかねえええええええええ
和「ゆーき! そんな、下を向いてはぐらかそうとしてもそうは行きませ……」
京太郎「……いや、和。いいんだ。後は俺に任せてくれ」
和「し、しかし……」
京太郎「頼む」
和「……分かりました」
和はそういうと、不服そうに口を閉ざした。
よし。ここからは俺のターンだ!
怖くないか問われれば、そうとは言い切れない。自分のことをずっとすぐ後ろで付け回していた相手と対面するというのは、やはり緊張が伴うものだ。とはいえ、その相手はあくまで優希なんだ。多分この一ヶ月で一番凄い変化を遂げた奴とは言え、優希が優希であることには変わりない。俺の親友であることには変わりない。
そう思うと、なんだか気が楽になった。うん、そうだ、何も気にすることはない。
京太郎「……」チラッ
そうして、おそるおそる後ろを振り返った俺の目に映ったのは……
優希「ブツブツブツブツブツブツブツ」
下を向きながら延々と何かをつぶやいてる優希の姿だった。
今日はここまで。
後数回で終わる予定です。
乙ですー
京太郎の奮闘期待
乙
怖すぎィ!
乙
ヴォーコエー!
乙っす、普通なら病んでるのすら珍しいタコスがここまで病んでるってすげえしこえぇww
普通にホラーじゃねぇか!
怖い(震え声)
乙
怖い(確信)
だからこうなるに至った前日譚をやってくれと
>>京太郎「いや、咲とか和っていつも、俺の鞄の中とか家の箪笥の中とかに盗聴器や隠しカメラ設置してるじゃねえか?」
京ちゃんの心がもう麻痺しすぎてる気がする……
>>153
これ終わったらやるんじゃね?
京太郎「……」
優希「ブツブツブツブツブツブツブツ……」
うん、やっぱり何度会ってもこの状態の優希には慣れることが出来ない。
俺の本能的な何かが恐怖を感じているせいであろう。
ただそれは、今の優希の行動が常軌を逸しているため、とか、俺が一昨日作ってやったタコスを握り締めているから、とかではなく、むしろ昔とのギャップがあまりに激しすぎる故に感じる恐怖だ。
咲や和、部長、染谷先輩の変化はちょっとアプローチが過激になっただけ、と受け取れるが、優希の場合は少し毛色が違う。
皆とは逆に、前よりも俺に接触してくることが圧倒的に少なくなったのだ。
やる事といえば、こうしてブツブツ呟きながら俺の後ろでじっとする、くらいのもの。
それだって普段においては部活の時だけにやるのみで、日常にまで介入してくることは皆無だ。これに関しては先ほどの咲の発言も証拠となるだろう。
だから、優希がこうして俺のことを尾行する、というのはこれが始めてなのだ。
京太郎「……なあ、優希?」
優希「ブツブツブツブツブツブツブツ……」
京太郎「聞いてるか?」
優希「ブツブツブツブツブツブツブツ……」
京太郎「聞いてない、か……そうだよな」
京太郎「いいか、優希。今から一歩、一歩だけ近づくからな? 敵意はないぞ!?」
言葉通り、俺は優希に一歩近づく。
何か、どうしてもライオンとか熊とかに話し掛けてるみたいな口調になってしまう。すまん優希。別にお前を猛獣扱いしているわけじゃないんだ。
これだけ近距離の話になると、一歩の差、というのもなかなか大きく感じられるもので、さっきまで近くながら遠くにも感じられた優希の姿が、今や目の前にある。手を伸ばせばもう、頭をなでる事だってできる。
そうすると優希の声、というのもまた一つ鮮明に聞こえるようになるわけで……
優希「きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……」ブツブツ
この通り、聴取もある程度は可能になるのだ。
うん。これ以上は近づかないでも良いな。何を言っているのかは大体分かったから。
ちなみに、優希の呟き(通称:タコスの国からの毒電波 命名は咲)には2種類ある。
一つは、今の優希が呟いているような、「一つの文を延々と繰り返す」というもの。俺はこれを「一文反復型ツイート」と呼んでいる。
もう一つは、前回の部活の時に呟いていたような、「意味深な文章を早口で言い続ける」というもの。こちらは「無定型ツイート」だ。
一文反復型は(まあ説明するまでもないだろうが)、例えば「タコス食いたいじぇ」という一文があったとして、それをずっと呟き続けるというもの。
大抵の場合、優希はこちらを使用している。多分楽なんだろう。
無定型は、上のような一文ではなく優希の頭の中で紡がれていく即席の文章を、ぱっぱと口に出すような形で呟き続けるというもの。
こっちを聞くことはかなり珍しく、何か特別なイベントがありでもしない限り、タコスがこれを使用することはない。
まあどちらにしろ俺の恐怖を煽りに煽るという点では全く変わりがないんだけどな。
優希「きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……」ブツブツ
京太郎「なあ、優希。ちょっと話をしてもいいか?」
優希「きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……」ブツブツ
京太郎「少しでも良いから、耳を傾けてくれ」
優希「きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……」ブツブツ
京太郎「俺さ、昔のお前に戻ってほしいんだよ。あの頃の様な、元気活発なタコス娘にさ……」
優希「きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……」ブツブツ
京太郎「覚えてるか? 県大会の決勝の先鋒戦、お前いきなり俺にタコス買って来いって言ったよな?」
京太郎「俺さ、あの時めちゃくちゃ走ったぜ? もうお前の為にーって感じでそりゃ必死だったよ」
京太郎「苦労して苦労して……漸くお前にタコス手渡せた時、すっげえ嬉しかった」
京太郎「もうほんとやばい位嬉しかったんだよ。言葉で言い表せないくらいだよほんとに」
京太郎「嬉しすぎて、あの後控え室戻るまでずっと逆立ち歩きだったんだぜ? これがどれほどのことかお前に分かるか?」
京太郎「従業員とか他校生徒とかに白い目で見られつつ、なおも逆立ちで歩くというのがどれほどつらいかお前に分かるのかよ!?」
京太郎「なあ……優希! 頼む……あの頃のお前に戻ってくれ! お前の笑顔をまた見たいんだよ!!」セツジツ
優希「きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……」ブツブツ
京太郎「うーん、これじゃだめか……」
優希は未だに毒電波を受信するのを止めない。
心のこもっていない言葉は届かないというのは前々から分かっていたが……この話までがん無視されると言うのはちょっとこたえる。
それにこのまま優希が俺を無視し続けると、咲と和が出るとこ出てしまう。今までの行動からも分かるように、咲と和は自分<<<<<<俺という風な考え方を持っている。咲と和には自分を大切にして欲しいと考えている俺にとっては、あまり好ましいこととは言えないが、こればかりは何度言っても聞いてくれないので諦めている。
だから、俺に無礼を働いた奴を二人は許さない。たとえ、それが部活の仲間であったとしてもだ。
現に今も後ろから、咲のどす黒いオーラと和の光輝くオーラとが入り混じったものが俺の背中に当たり続けている。
おそらく二人は優希だけに向けてそれを放っているつもりなのだろうが、力の調節はしていないのか俺にも被害がいってしまっているのだ。
そこは何とかしてもらえないんですかね?
かと言ってここで後ろを振り向き、オーラを放つのを止めてくれとでも言ってしまえば、その時点で俺のターンは終了。何かを勘違いした咲&和 VS 優希のバトルが展開されることだろう。そこでは最早、俺の発言権は微塵も存在しない。
それを避けるため、何としてでもここで優希の態度を改めさせなければならないのだ……
>>159
そこでは最早、俺の発言権は微塵も存在しない。 ×
そうなれば最早、俺の発言権は微塵も存在しないのと同じになる。 ○
優希「きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……」ブツブツ
京太郎「……うーん……どうしたら――って、ん?」
……あれ。
そういや何で俺はずっと、こいつが後ろに居るって事に気付けなかったんだ?
ちょっと考えると、それがありえない事だと言うのが分かる。
俺が後ろを振り向いた時の、優希と俺の距離は大体拳十個分。呟きは、内容を知ることまでは出来ないものの、聞くことが出来ないわけではない。
たとえ意識が別の方に向いていたとしても、こう延々と呟かれたら気付けないはずが無い。
それに、和の言葉を借りるわけではないが、やはっり「和に気付けて優希に気付けない」のはありえないのだ。
和を見つけようとした際、俺は横を向き、さらに感覚を研ぎ澄ませていた。
つまり耳は確実に優希のほうにあったということだし、聴覚もびんびんに働いていた筈なのだ。
なのに、すぐ近くで誰かが何かを呟いている、という単純な異常を逃してしまうとは思えない。
これは……つまり……
うん。ダメだ、分からん。
ただ、この思考の中で、一つ気付いたことはある。
自意識過剰とも思えるようなことかもしれないが……これ以外にはもう考えられない。
もし、優希の一連の行動に意味があるとするなら……あるいは……!
京太郎「……優希。こっからは真面目な話だ」
優希「きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……」ブツブツ
京太郎「今までは真面目じゃなかったのかとは聞くな。俺もよく分かってないんだ」
京太郎「優希。あの時以来、お前はずっと俺と話してくれなかったよな?」
京太郎「いや、話すどころの話じゃない。何を言っても反応してくれなかった。ただ俺の後ろに居座ったり、そういう風に呟いたりするだけだった」
京太郎「だから俺は、俺の言葉がお前に届かなくなっちまったって思い込んでた」
京太郎「でも、違ったみたいだな。じゃなきゃ、お前がここに居るはずがない。お前はずっと俺の言葉を無視なんてしてなかった」
京太郎「じゃあなんでずっと返事をして来なかったんだって話になるが……多分」
優希「きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……だい……じぇ……きょう……ろ……」ブツブツ
京太郎「察して貰いたかったんだろ……? こうやって……」
俺は手を伸ばし……
京太郎「自分に触って欲しいって事をさ」ポンッ
優希「きょ……う……」
優希の頭の上に置いた。
さらさらの髪の毛が俺の手のひらを撫でる。タコスばっか食ってるくせに、こういうところは女の子然としているのは何故なのだろうか。
京太郎「ごめんな? 寂しかったんだよな」ナデナデ
優希「……」
京太郎「他の皆の相手ばっかして、自分には何もしてくれない俺に怒ってたんだよな?」ナデナデ
優希「……う」
京太郎「あんなにメッセージ送ってくれてたのにも関わらず、俺はずっとそれに気付けなかった」ナデナデ
優希「……うう」
京太郎「それどころか、腫れ物みたいな扱いさえしてたかも知れねえ。最低だ」ナデナデ
優希「……ううう」
京太郎「……でも、もう大丈夫だ。全部分かったから。お前が触って欲しい時、俺の手なら幾らでも貸してやる」ナデナデ
優希「ううううぅぅ」ポロポロ
優希の目から涙がこぼれ始める。今までずっと鬱憤を溜め込んでた奴のものとは思えないほど澄んだそれが、優希の頬を伝って地面に落ちていくのを眺めつつ、俺は言った。
京太郎「だから、さ……もう、我慢しなくてもいい」
京太郎「全部、さらけ出しちまえ。」
優希「うわぁあああああん!! きょーたろぉぉおおおお!!」ビエーン
今日はここまで。
行間空けるとどう印象が変わるのかやって見たかったんですけど、正直微妙ですね。
>>153
後日談がここまでグダグダに長くなるとは思わなくて……申し訳ない。
ゆうきちゃんかわいいよ
乙ー
乙
会話が……会話が成り立ってないように感じる……
投下していきます
優希「あああああぁぁぁ! ずっと……ずっと待ってたんだじぇ!!」ダキツキ
京太郎「うおっ」
圧し掛からんばかりの勢いで、優希が俺に抱きついてきた。
――背中に2つの鋭い痛みが指す。
俺の服が優希の涙と鼻水と涎とでぐしょぐしょになっていく。
優希「ばかだじぇ! 京太郎はばかだじぇ! 私がどれだけ苦しんでたかなんてお前に分かるか!?」グスグス
俺を罵倒するかのような発言とは裏腹に、優希は満面の笑顔を浮かべていた。涙と鼻水が入り混じったものに塗れているにも関わらず、思わず見とれてしまうような笑顔である。
京太郎「んー。分からないってことはないぜ? 俺だって一時期はそんな風に扱われたわけだし」ナデナデ
優希「ううっ……痛いところを突いてくるな。しょ、傷心の私にそういう追い討ちをかけるのは感心できないじぇ……」
京太郎「何言ってんだか……」
優希「何とは何だ! それに、こんな可愛い少女と犬とじゃあ、無視した時に生じる罪の重さが段違いだじぇ」
京太郎「はあ? なんだそりゃ……」
京太郎「全く……折角戻ったと思ったらいきなりこれかよ」
優希「あっ……い、嫌だったか? 京太郎が昔の私に戻って欲しいって言ってたから……」ウルル
京太郎「んー?」
優希が心配そうな顔をしながら、こちらを覗き込んでくる。泣きもだいぶ収まった様で、その目は潤んではいるが、新たな涙までは零れださせては居ない。
どうやらこれまでのからかいは、俺の要望に答えようとしてやったものらしい。
あまりに唐突にやってきたものだからどうしたのかと思ったが、優希はどうにかして昔の俺たちの関係を取り戻そうとしただけなのだろう。
確かに、このからかい合いこそ昔の俺たちのやりとりそのものであると言えた。
京太郎「……はは、嫌なわけねえだろ? それでこそお前ってもんさ」
優希「京太郎……!」
京太郎「ま、色々といいたいことはあるけど、先ずは――」
京太郎「……おかえり、優希」
優希「!」
優希「ううぅぅぅ……おかえりも何も、ずっとお前の後ろに居たんだけどな……」ウルウル
京太郎「はは、それについては謝ってるだろ? ごめんって」ナデナデ
優希「そ、そうやって誤魔化そうとするなっ!」
優希「……でも。すっっごい嬉しいじぇ。今日ようやく、京太郎の存在を感じることができた!」
優希「こうして抱きついて、頭撫でられて……ようやく、京太郎のぬくもりを感じることができた」
優希「……そういう意味では確かに、私はお前のそばに居なかったのかもな……」
京太郎「優希……」
満面の笑顔から一転、優希は悲しそうな表情を浮かべる。
優希のこんな表情を見るのは、初めてかもしれない。
昔は常に笑顔だったし、ここ最近はずっと目のハイライトが消えていた。
だから、優希の悲しみの表情というのを見る日が来るとは思わなかったのだが……
そしてまた表情を笑顔に戻して、優希は続けた。
優希「謝るべきなのはこっちだじぇ? あんなことしてたら、勘違いされるのも無理はないじぇ」
優希「馬鹿なことしちゃって本当に、ごめん……そして、私を“見つけてくれて”ありがとうだじぇ、京太郎!!」
優希「へへっ……ただいま!!」
京太郎「……おうっ!」
こうして、優希はこちらに戻ってきてくれた。
色鮮やかな表情を見せる、あの時の優希に戻ってくれた。
俺の心が安堵に包まれる。
ああ、これで一見落ちゃ――
咲「……よかったねぇ、優希ちゃん……」
和「ゆーきの気色の悪い行動の裏には、そんな秘密があったなんて……気付けなかった私が不甲斐ないです……」ウルル
咲「ううん、和ちゃんの所為じゃないよ……」
和「でも……」ウルル
咲「違うよ。悪いのは全部優希ちゃんなんだから。よく分からないことして京ちゃんの気を引こうとした、優希ちゃんのせいなんだよ……」
和「えっ? でも……あれ。確かに……思えばあまりにあざと過ぎますね……」
和「咲さんの言うとおり、ゆーきは単純に須賀君に構って欲しいが為にああいうキャラを演じていたのかも……」
咲「でしょ……? 自分に魅力が無いって分かってるから、こんな卑怯な手を使ったんだよ……」
咲「そうだよね、優希ちゃん?」
京太郎「お、おい……」
優希「あー……うん。そっちがそういうならそうなんだろうじぇ、そっちの中ではな」
優希「まあ、一応咲ちゃんとのどちゃんにも謝りはいれておくじぇ。すまん」
咲「ええっ!? い、いいってそんなぁ……私たちは優希ちゃんの 愚 行 を制止してあげられなかった訳だし……」
咲「いくら 全 面 的 に 優希ちゃんが悪いとは言ったって、私たちにまで謝る必要はないんだよ? ね、和ちゃん?」
和「はい、その通りです。だから、私たちにそんな 気 を 使 う 必 要 はないんですよ、ゆーき」
優希「……ほう、そうか? なら良かっ――」
咲「たーーだ! ただね、優希ちゃん。もしそっちに本当に心の底から謝罪したいって気持ちがあるんだったら……さ」
咲「京ちゃんからさっさと離れてくれないかなぁ……?」ズズ
和「私も、正に同意見です……! 須賀君から離れなさい、ゆーき……!」コオォォ
優希「……あ゛?」ゴゴゴ
京太郎「あああああ……やっぱりこうなるのかよ……!」
優希の心を取り戻そうが取り戻さなかろうが、結局こいつらの闘争の勃発を防ぐことは出来ないようだ。
まあ、今回は俺も止めにいかせてもらう。誰かが泣くようなことになるのは、もうこれっきりにしたい。
ただ、優希が入ってきた分いつもよりやばいバトルになるのは簡単に予想が付く。
めげないで居られるかなぁ……
と、全身を恐怖でガタガタ震わせながら思う俺なのであった。
***
その後、何とか無事に3人のバトルを終息させることに成功した俺は、漸くといったところだが、様々なアトラクションを見て回った。
もちろん、和と優希も一緒にだ。
咲は不満を言っていたが、流石に二人をあそこに置いておくわけにも行かないだろう。
望まれざる客、というのは少し言いすぎかもしれないが、確かに二人は本来ここに居るはずの人間じゃない。
でも、だからといって今から帰れと言うのはあまりに薄情だ。
咲には悪いが、あくまでそこは俺の流儀を通させてもらった。
なんやかんやしている内に日が傾き、空は赤く染まっていく。
夕日を背に浴びながら、俺たちは遊園地のベンチに座り、今日一日のことを振り返った。
どのアトラクションが楽しかったか、とか、どの料理が一番おいしかったか、とか、そんな他愛のない話。
印象的だったのは、咲がジェットコースター好きだったということ。
俺たちが乗ったコースターは3種類で、それぞれにヤバイ度という指標が設けられている。
やば・げきやば・激やばぶんぶん丸の三つだ。
その中の激こわぶんぶん丸のコースターに乗って、終始笑顔で居られたのは、俺たち4人どころか乗客全員の内でただ一人、咲だけだった。
小心者のこいつことだからああいう絶叫系アトラクションは苦手なんだろう、と思いこんでいただけに驚きも大きかった。
対して和のジェットコースターへの反応は、予想通りといったところだ。
やばの時点で目を回し、げきやばではもう失神寸前で、激やばぶんぶん丸に至っては本当に天使になりかけていた。
コースターでショック死するというのも聞かない話ではないので、げきやばのコースターに乗った後、俺は和にこれ以上は危ないと忠告したのだが、そこで咲がとてもとても見事なスーパー煽り☆スキルを披露してくれたおかげで、和が俺の制止を振り切って激やばぶんぶん丸のコースターに搭乗することとなってしまった。
ただまあ、もし本当に和が死に掛けるようなことがあるなら、俺が和を抱えながらジェットコースターから飛び降りれば良い、というだけの話でもあったので、特に本気で止めようとはしなかったが。
優希のコースターについての感想は、殆ど俺と同じだった。
激やばぶんぶん丸のコースターだけはまあまあやばかったが、それ以外は特に、といった感じである。
コースターの後に行ったお化け屋敷は……まあ、かなり凄かった。
人気遊園地のものとだけあって、全てが凝りに凝った作りをしていたのだ。
空気感も、背景も、お化けの人形も、どれをとってもリアルと見まごうほどだった。
これには流石の俺もけっこうびびり、屋敷の終盤に差し掛かった辺りではもう、いつ終わるのかとばかり考えてしまっていた位だ。
他の3忍も言うまでも無く怖がっていたが、ただ一つ気がかりだったのは、事あるごとに俺の体に抱きついて来た事だろう。
確かに相当の怖さとは言ったが、一々絶叫しながら誰かに抱きつかなければならないほどのものという訳でもないのだ。
まあ、女子には女子の世界がある、と言うだけの事かも知れないが。
>>180
×他の3忍
○他の3人
食べ物めぐりについては、まあ特筆するべきことは一つぐらいだろう。
レストランの食事は可も不可もなく、という感想しか浮かばない程度のものだったし、露店で買ったクレープなども同じだ。
ただ、「☆トレック☆」とかいう近未来の世界がモチーフのアトラクションの場近くで売られていた、「赤色物質」とかいう訳の分からないお菓子だけは、滅茶苦茶うまかった。これがその特筆するべきことだ。
見た目はコップの中に満たされた透明な液体に浸されている赤いボール、といった感じなのだが、先ず透明な液体からしておいしい。甘さと辛さの絶妙なバランスが、実に舌に心地いい。
それを飲み干すと出てくるのは本命の赤いボールだが、これの味はもう言い表せない。
こういった場所のものはあまり食べ過ぎないように心がけていたのだが、これだけは結局胃にブラックホールが出来たのかと思ってしまうくらい沢山食べてしまった。
一体何で出来てるんだ、あれ。
まあ優希はタコスのほうが良いなんて言ってたけどな。
――そして。
遊園地を巡る最中、何よりも気をかけていたことが、一つある。
俺の背中に刺さる、2つの視線だ。
一番最初に俺が視線の気配を感じたのは、咲を撫でた時。その際は、視線は3つだった。
この時はまだ気のせいだと思っていた。まさか、そんな事は無いだろうと。流石のあの人たちといえど、まさかここまではしてこないだろうと。
次に視線を感じたのは、優希に抱きしめられた時。その際、視線は2つになっていた。
これで、俺は確信してしまった。
最初は3つだった視線が、どうしてここで2つに減っているのだろう? という疑問が一瞬頭に浮かび、そしてまた一瞬で答えにたどり着いたのだ。
“和”がそこから外れたからだ、と。
>>181
誤字っぽくないwwww人間離れした発言する京太郎含めて
あれほどまで一点に研ぎ澄まされた鋭さを持ちうるのは、遠方からの、それも相当な強者の視線だけ。
おかしな話に聞こえるかもしれないが、本当だ。人は遠くを見ようとする時、多くの集中をその目に送る。
そこには近くのものへの視線には持たせることの出来ない、独特の鋭さがある。
特に咲たちなんかになると、集中に集中を重ねることで人を傷つけることさえ可能な次元に達してしまう。
とはいえその咲たちでも、近くからその殺しの視線を投げることは出来ない。
そして、俺が感じていたのは全て、正にその遠方からの視線であった。
なので、それらがもともと俺の近くに居た咲と優希のものである筈は無い。
遠くから尾行していた和が俺たちに加入した後、視線の数が一つ減ったのも頷ける。
これらの事実が一体何を指し示しているのか……答えるのに迷いは必要ないだろう。
染谷先輩と部長もここに来ている。
ただ、それだけのことだ。
追いついた
>>180
>3忍
くのいちかな?
今日はここまで。後ちょっとでこの名ばかりの後日談を終わらせられる……
>>184
確かにそこまで違和感はないんですよねえ……
ちょっと超人化させすぎましたか。
>>186
わざわざこんなssを最初から……ありがたい
乙ー
あと最後に
前日譚はかなり短めにしたほうがいいですよね?
こっちも助長させた上、さらに全員分書くとなると半端じゃないことになりそうなので……
基本は京太郎視点で、補足で他のメンバーの視点を入れるので良いと思う
京太郎にヤンデレが似合うのはなぜだろう
重い京太郎すき
乙です
書きたいように書けばええねん
視点変更はヤンデレではわりと王道よね
個人的にはヤンデレはそこに至る経緯が一番大切だと思うのでできれば詳しく書いて欲しいなぁとか思ったり思わなかったり
長文失礼
やりたいようにやるのが一番筆乗るしね、頑張って
***
~ベンチ~
京太郎「なあ、三人とも。“二人”の視線にはもう気付いてるよな?」
談笑もあらかた終わり、他の三人の話題が俺のカッコ良さについてのみになった頃、俺はとうとうこの話を切り出した。
ここいらで、染谷先輩と部長について、この三人と相談しておくのも悪くないと思ったからだ。
咲「そうだよね! 私も和ちゃんにさんせ……って、どうしたの京ちゃん」
和「ええっと、“二人”……とは? 一体誰のことなんですか?」
優希「視線……つまり覗き見……。覗き見といえば、押入れからこちらを見る目……。押入れからこちらを見る目といえば……怪談! ま、まさか……幽霊か!? 命をもらうため、私たちを付けねらう幽霊が近くにいるのか、京太郎!?」
京太郎「え、いや――」
咲「ひぃっ……! ゆ、ゆーれい!?」カタカタ
和「まさか、そんなオカルト……」
咲「こ、怖いよぉ、京ちゃん!」ダキッ
京太郎「うぉっ!?」
和 優「「!?」」
和「あ……ありえるかも知れません! 私もとても怖いです、須賀君!」ダキッ
京太郎「うわぁっ!?」
優希「わ、私もだじぇ!」ダキッ
京太郎「ひえぇっ!?」
書いてる人もなにからなにまで緻密に路線決めてるわけじゃないしな
そういう時こういう視点云々とかの指摘は割と参考になる
京太郎「お、おいお前ら……」
三人「「「コワイヨ、コワイヨ」」」ボウヨミ
京太郎「……」
俺のあの発言から一瞬でここに持っていくとは、流石である。
もう職人の領域に達してると言っても良いんじゃないかな? 咲は特に。
三人「「「コワイヨ、コワイヨ」」」ボウヨミ
京太郎「なあ、ちょっと離れてくれても良いんじゃないか……?」
三人「「「コワイヨ、コワイヨ」」」ボウヨミ
京太郎「……ちょっとだけでいいから」
三人「「「ユウレイ、コワイヨ」」」ボウヨミ
京太郎「……」
三人「「「……」」」
京太郎「……」
京太郎「一週間なでなで禁止」
三人「「「!!!」」」ササッ
京太郎「うぉっ!」
咲「……それで?」キリッ
和「その“二人”とは?」キリッ
優希「一体誰のことなんだじぇ?」キリッ
咲「京ちゃん!」キリリッ
和「須賀君!」キリリッ
優希「京太郎!」キリリッ
京太郎「……はあ」
思わずため息をもらしてしまうが、むしろこの状況を見て少しも呆れを感じないほうがおかしいだろう。
なので、これはごく普通で当たり前の反応なのだ。
京太郎「……ま、いーか」
京太郎「で、お前ら、本当に気付けなかったのか? あの二人に? 冗談でなく?」
咲「え? う、うん……何のことだかさっぱりだよ。和ちゃんは?」
和「私も同じです。一応周囲に気を張ってはいたので、誰かに視られているならすぐ気付ける筈なんですが……」
優希「同じくだじぇ。……うーん、私たちの特上レーダーを掻い潜って、尚且つ監視まで出来るような奴が、こんな遊園地に二人も集ってるなんて、考え――」
優希「あっ!」
咲「ゆ、優希ちゃん? どうし――」
咲「……ああ」
和「……そういうことですか」
三人とも、漸く真理に到達なさったようだ。
京太郎「……はい、そういうことなんですよ。部長と染谷先輩の二名が、現在ここに入園中の模様です」
京太郎「つーか、その反応見る限りだと、本当の本当に誰も気付いてなかったみたいだな。意外だぜ」
咲「うん……私は感知系のスキルを磨いてないから何ともいえないけど……」
優希「私は咲ちゃんとは逆に、感知をそれなりに得意としている筈なんだけどな。やっぱ、あの二人は別格だじぇ」
和「ええ。戦闘においては咲さんの圧倒的下を行くものの、染谷先輩は瞳力系で、部長は支配系で、それぞれ他の追随を許していませんから……」
和「それよりも気がかりなのは、どうしてあの二人に私たちが気付けず、須賀君が気付けたのか、ということですよ」
ワカメはGERにやられて死んだことにしよう
京太郎「いや、だから俺も驚いてたんだよ。正直、俺は雀力なんて全く扱えないし、そもそもそれが何なのかすら良く分かってない
京太郎「そんな俺が気付くようなことを、お前らの内の一人でも気付けない様なことは無いだろうって思ってたからな」
咲「うーん……でも、京ちゃんの感覚がすごく鋭いってのもあると思うなぁ……。私たちよりも早く、そういった異常を感じ取れることの背景には」
和「同意見です。私たちの能力はあくまで雀力頼りですが、須賀君には天性の勘が備わっていますから」
和「考えてみれば、私の尾行に誰よりも最初に気が付いたのは、咲さんではなく須賀君でしたし」
優希「むー、そうかぁ? そのくせ、私には全然見向きもしなかったけどな」
和「それは、あなたが須賀君にのみ自分の姿を見られないよう、『一定方向への気配遮断』に全ての雀力を注いでいたからでしょう」
優希「えへへ、そうだったかも、だじぇ!」
京太郎「えっ? お前ちゃっかりそんな高等技術使ってたのかよ? 意識ここにあらず、みたいな感じだったくせに」
優希「そ、それには……」
優希「色々な事情があったんだじぇ……」ホロリ
京太郎「なーーーにが事情か……」
優希「……えへへー!」ニコニコ
咲「あはは……でも、まさかあの二人まで来てるなんてね……」
和「咲さんにチケットの恨みがある部長はともかく、究極の瞳力をもつ染谷先輩まで来ているのには驚きです」
和「態々来ないでも、千里眼を使えばすぐ近くに須賀君を感じられるでしょうに……」
咲「能力を介してと肉眼とじゃあ、身に触れる空気みたいなものが違うんじゃないかな?」
和「結局遠くから見るなら、どちらにも違いはありませんよ!」
優希「うむ。あの二人には、もうちょっと我慢ってもんを覚えてもらいたいもんだじぇ!」
和「ですね。まあ……年を取ると落ち着きがなくなってくる、というのはよく聞く話ですし」
京太郎「ははは……。優希と和は人のことを言えるのかなー?」
和「あっ……す、すみません!」
和がSOA認定しないなんて雀力とは一体…
優希「ぶーー! 別に悪いことなんてしてない! 私は潔癖だじぇ! 文句言うくらい自由にさせて欲しいってもんだじょ」
和「ゆ……ゆーき! 自らの過ちを認めず、あまつさえ須賀君に口答えするとは……何事なんですか!」
優希「うぉっ! のどちゃんが何時に無く怒ってるじぇ……ちょっとは落ち着くといいじょ?」
和「いーえ! あなたのその横暴を見れば、誰だってこうなります! さあ、今すぐ須賀君に謝罪しなさい!」
優希「……幾らなんでも、のどちゃんにそこまで言われる筋合いは無いじぇ。京太郎が謝れと言ったのならともかく……」
和「なっ……!」プルプル
咲「うーん……でも和ちゃんの言う通り、一応謝っておいたほうが良いと思うよ? 今の優希ちゃんの一言で、京ちゃんが凄い傷ついたってことも無いとは限らないし」
京太郎「へっ? いや俺そんな豆腐メン――」
優希「あーーもーー!! 咲ちゃんまでなんだじぇ!」
優希「私は食べたい時にタコスを食べ、謝りたい時に京太郎に謝る……そんな人間なんだ! 誰にも束縛はさせないじょ! そう、京太郎以外の誰にも、だじぇ!」フンス
咲「あはは……」
咲「ねぇ……優希ちゃん」
優希「?」
咲「二度は、言わせないでね?」ゴッッッ!!
京太郎「――あれ?」
――それは、刹那の出来事だった。
大量のどす黒いオーラが咲の身体から放たれ、それが遊園地の空に雷雲を纏わせる。
どこからとも無く聞こえてくる動物――明らかに、この世のものではない――の呻き声が、俺の全身の肌を粟立たせ、脳を掻き回す。
そして、「咲」の後ろに――いつの間にか――“いた”ナニカが、俺のことを……
――そんなイメージが、頭の中を埋め尽くした。
与えられるは、純粋なまでの無。
意識をかき消され空っぽになった身体は、ナニカにより無残に殺められ“続ける”自分の姿を、ただ眺めるだけの「木偶」と化す。
時間という概念は、最早そこには存在しない。
一瞬の逡巡は、無限の苦しみに等しく、停止は、また進行でもあった。
……いや、時間だけではない。
他の全ての事象のベクトルというものが、ゼロの線を決して超えようとしない。
接触とはつまり触れないことで、乖離とは即ち結びつくことで、生滅とはまさしく輪廻転生のことである。
法則があった。
全ては法則に従い。
全ては法則に逆らい。
結果法則が無くなった。
そしていつしか、自分は殺され“続けて”いるんだという実感だけが、俺の救いになっていた――
なんじゃこりゃ……
すみません、今日はここまでとさせて頂きます。
乙
魔雀すごいです
咲でこれなら照を始めとした他の魔物やすこやんは一体……そりゃレジェンドもトラウマ持ちますわ
完全に能力バトルものの世界観
>>205
× 優希「ぶーー! 別に悪いことなんてしてない! 私は潔癖だじぇ! 文句言うくらい自由にさせて欲しいってもんだじょ」
○ 優希「ぶーー! 別に悪いことなんてしてない! 私は潔白だじぇ! 文句言うくらい自由にさせて欲しいってもんだじょ」
綺麗好きだからなんなんですか・・・
どんだけ時間かけて書いても、地の文だけは中学一年生の書く様な駄文の域を全く出ませんね・・・
これだけは何とかしたい
確かに地の文だけ読んでると中二な香りが…
もっと軽い感じの言い回しでも良いんじゃないかと思う
なにこの世界wwwちょっと本格的に魔雀勉強してくる
都落ちを彷彿させるカオスさ
***
?「……ん!」
?「……ろ……!」
??「……ろう!」
京太郎「……?」
――声だ。久方ぶりに耳にする、声。
?「……ちゃん!」
?「き……う……くん!」
??「き……ろう!」
京太郎「……」
――とても、懐かしい。忘れていたものが次々と頭の中に蘇ってくる。誰かの声を聞くというのは、こんなにも心地の良いことだったのか?
?「きょ……ちゃん!」
?「きょ……たろうくん!」
??「きょ……ろう!」
京太郎「……!」
――いや、違う。ただ誰かの声を聞くだけで、無限の時の中虚無に冒され続けた俺の心が、安堵で満たされる訳が無い。
?「京ちゃん!」
?「京太郎くん!」
??「京太郎!」
京太郎「……あ……!」
――この声だから……! 他でもない、“こいつら”の声だから……!!
?「!! 今、声を出した! 京ちゃんが声を出したよ!!」
?「わ、私も聞きました! あと少しです、頑張りましょう!」
??「きょーーーたろーーー!! 聞こえてるかーー!? 私はここにいるじぇーーー!!」
京太郎「……あ、あああああああ……!!」
――こうして、俺の耳に届いてるんだ……! ああ、会いたかった……会いたかった……!
「起きて!! きょう――」
***
京太郎「う……うう?」
身体を思うように動かせない。起き上がるどころか、腕を持ち上げることさえ出来ない。まるで長い長い眠りから、たった今目を覚ましたかのようだ。
でも、それはありえないだろう。俺は今の今まで、遊園地のベンチに座りながら咲たちと話し合っていたのだ。
なら、この状況は何だ? 身体は金縛りにあったかのように動かせず、目も――
――あれ、目が……見えてない?
俺の視界には未だ、一筋の光明さえ差していなかった。
どうしてだ? 俺の意識は確実に、今ここにある。疑うべくも無い。こうしてものを考えられているのだから。それも、かなりクリアーに。
さっきこの状態を寝起き直後と表現したが、実際のところ、今の俺は寝起き直後の人間の数十倍しっかりと、思考をすることができている。
一体どういうことなんだ? そういえば、こうなる直前……あの話し合いの最中に、ナニカがあった気がする。
ん? ナニカ……って、何だ? ちょっとアクセントがおかしくないか? 何か? ナニカ? ……分からない。
……答えの見つからない自問を繰り返し、何時間たったのだろうか。
――誰か、答えを教えてくれよ!
何度、心の中でこう叫んだのだろう。
いい加減にムカついてきた。菩薩の心を持つ俺にとっても、今の状況は腹を立てるのには十分過ぎる程だった。
――ああああああああああ!! 動け動け動け動け動け……
どんなにあがいても意味は無かった。結局、俺に出来るのは思考することだけなのだ。
――そういや、今の俺みたいになってる奴が、この前読んだ小説に出てきたな。
しかし、最早思考は思考として成り立っておらず、俺の全神経は暇をつぶすことに費やされる。
――んー? そいつってどうなったんだっけ……
俺が今話題にしている小説というのは、大体一週間前、咲が面白いと言って貸してくれた本のことだ。
読み始めの頃はなんとも退屈な小説だという感想しか浮かばなかったが、読み進めていくと次第に、なんとも伏線の折り重なった、複雑怪奇な物語であるのかが良く分かってきて、最終的には咲から借りたその晩に、全部を読み終えてしまったのだ。
そしてそこに出てくる人物が、正に今の俺の様な状況に陥っていた、ということである。
――あー! そうだ。確かそいつ……
死んでた――
??「おっっっきろぉぉおおおおおおぉぉい!! きょーーーたろぉぉぉおおおおう!!」バチコーーン!!
京太郎「ブゲラッ!?」
とんでもない衝撃が俺の頭を襲った。身体が丸ごと、数十メートル後ろに吹き飛ばされたかのような感覚に襲われる。
具体的に形容するなら、その衝撃は、誰かに頬を思いっきり叩かれた時のそれに似ている。現に、今の俺の頬にはジンジンとした痛みが……
京太郎「って、あれ?」
――目が、見えるようになってる?
いつの間にか、俺はどこかの森の中にいた。手に触れる土と枯葉の感覚が、何故だかとても新鮮に思えた。
と、考えかけて、気付く。俺の目の前にはもう、その疑問への答えが既に“いた”のだ。
優希「あああああぁぁ! 京太郎が起きたああああああぁぁぁ!! やったじぇええ!! うわあああああん!!」
京太郎「ゆ、優希……!」
俺を救ってくれたのが誰かは明白だった。
目の前で涙を流しながら喜んでいるこのタコス娘……それと
和「良かった……!」
咲「……京ちゃぁん……!」ウルウル
京太郎「和に、咲……」
瞳を潤ませながら顔に笑顔を浮かべる、ピンク髪がチャームポイントのおもち娘と小心者の文学少女。……そして
久「はあ……はあ……。よう、やく気が付いたわね……よかった……」
まこ「どうなることか思っちょったが、杞憂だったようじゃな……」
京太郎「部長、染谷先輩……!」
恐らくこの件に関して最もの力注ぎをしてくれただろう、頼れる先輩二人……!
優希「おど、驚いたんだじぇ? はな、はなしてたらいきなりたおれ、倒れて……!」グスグス
京太郎「お、落ち着けって。俺もそれじゃ何が何だか分からねえよ……」
優希「これが、おちついてなんかいられるかぁぁあああ!!!」ビエーン
京太郎「うぉっっと、またかよ……!」
優希は話しを聞ける状態に無い……か。なら。
京太郎「な、なあ。こいつはこんなんだし、和が説明してくれないか? 俺に何があったのか……」
和「え、えっと……それは……その……」
京太郎「……和?」
しかし、俺の期待とは裏腹に、和は曖昧な返答しかしてくれない。
その様子はまるで、誰かを俺から庇っているかのようだった。
和「い、いえ……何でも……」
京太郎「んん……? じゃあ、咲はどうなんだ? 分かるよな?」
咲「……」
京太郎「さ、咲もかよ……?」
咲に至っては何も喋ろうとしてくれなかった。ただ気まずそうに、視線を横に逸らしただけだ。
一難さってまた一難……漸く問いから解放されたと思ったら、またすぐに次が現れてしまった。ここは部長に――
久「咲の雀力に中てられたのよ、須賀君は」
京太郎「……え?」
咲和「「!!」」
なんて考えているうちに、向こうのほうから答えを持ってきてくれた。
咲の雀力に中てられた……
部長のその言葉を聞いて、俺の記憶が少しずつ、しかし克明に蘇ってくる。
京太郎「あ、そうか……あの話し合いの途中で、咲が優希に怒って……」
久「そういうこと。その際、優希に向けられたはずの雀気が、何故か須賀君のほうに行っちゃったってわけよ」
ここまでです。申し訳ない。
>>215
地の文が中二的な痛々しさに塗れてるっていうならまだ良いんですけどねww
文の前後のつながりが滅茶苦茶だったり、そこら中に初歩的な文法ミスがあったりすると、別の意味で痛々しさを感じてしまいますから……読み返すのがつらいです。
たまにはこういうはっちゃけたやつもいいよね
成る程な……あんな風な意識の飛ばされ方、例え魔法を使ったんだとしても不可解だが……咲の雀気による失神だと考えると納得がいく。
咲「……ごめん、ごめんね? 京ちゃん……」
京太郎「咲……」
久「でも、ま、この通り反省してるみたいだから、そんなに怒らないであげてね?」
京太郎「別に怒ってやしませんよ。咲び悪気があった訳じゃ無いっていうのは、俺も分かってますから」
久「ふふ、そう?」
咲「京ちゃん……」
和「良かったですね、咲さん」
咲「うん……京ちゃんに嫌われたらどうしようかって思ってた……」
咲「あっ! も、もちろん京ちゃんが目覚めた後の話だよ? 京ちゃんが私の所為で死んじゃったかもしれないっていう時にまで、そんな自己中なこと考えてた訳じゃ無いからね!?」
手をどこに置けばいいのか、といった感じにわたわたする咲を見て、俺は思わず笑い声を上げてしまった。分かり切ってることを、そんな必死になって説明しようとしている咲が、何だか無性面白かったのだ。
咲「な、なんで笑うのぉ……」
京太郎「ははは……悪い悪い。必死で弁明しようとする咲が滑稽に見えてさ」
咲「こ、滑稽・・・!」ガーン
滑稽と言われた事がよほど応えたのか、咲がこの世の終わりを見るかのような顔で固まりついた。ちょっとからかいすぎてしまったようだ。
京太郎「冗談だよ、冗談。本気で滑稽だなんて思っちゃいないさ」
咲「うう……ほんと?」
京太郎「本当だ。まあ、つまり気にするなって事だよ。現に俺はこうして生きてるわけだし、一件落着ってことでいいだろ」
京太郎「何か他に大事があったって言うなら話は別だけどな」
咲「う、ううん。京ちゃんが倒れた以外には何もなかったよ」
京太郎「そうか? なら何も気にする必要は無いじゃねえか」
咲「き、気にする必要は無いって……」
和「なんか、凄いあっさりと流されてしまいましたね」
京太郎「べ、別に流した訳じゃねーし。こういう時、何も言わずに許すのがかっこいい男だとか思ってねーからな!」
咲「……え?」
京太郎「あっ、そうだ。お礼をまだ言ってませんでしたね、部長に染谷先輩」
咲「ちょ、京ちゃん……? どういう……」
京太郎「俺が助かったのって、殆どは先輩達のお陰なんでしょう?」
咲「……んもう」
久「へえ、その根拠は?」
京太郎「見れば分かりますって。本当に、ありがとうございました」
久「……全部お見通しね。いいのよ、そんな。私たちは当然の事をしただけだから」
まこ「ほうじゃ。むしろ、おんしの不幸を知っておきながら放置するって事の方がありえんじゃろ」
京太郎「それでもですよ……二人とも、俺を救う為にめちゃくちゃ雀力使ったみたいじゃないですか……」
久「べっつに、雀力なんて直ぐに回復するものだし。それを出し渋って須賀くんを助けられなかったとあっちゃあ、お間抜けもいいところよ?」
久「……というか、昏睡状態から覚めてすぐだっていうのに、もう私たちの心配をする余裕ができてるのね」
まこ「まあ、京太郎はこんなことを一々気にするようなタマじゃないからのお。普通の奴じゃあ今頃、本気で切れててもおかしぅはない」
久「私だって、こんな状況に置かれてはいそうですかと言える自信はないわよ。寛大な処置に感謝しなさいね、咲」
咲「はい!」
咲「本当に、本当にありがとう……京ちゃん。私なんかのことを許してくれて……」
京太郎「ん、まあお礼のほうは受け取っとくぜ。どういたしまして」
京太郎「ただ、『私なんか』ってのは気に入らんなー。そんなに自分を卑下すんなよ。俺がお前を許したのは、お前が俺の親友だからに他ならないんだぜ?」
咲「え……?」
京太郎「何驚いた顔してんだよ。お前が、心優しくて人を傷つけるのを好まない奴だってことを俺は知ってる。少なくとも、『なんか』の枠“なんか”にハマっていいやつじゃねえよ」
咲「京ちゃん……」
和「……相変わらず、見事なまでのタラシっぷりですね」
京太郎「た、タラシ? 俺がか?」
和「きょ……須賀君の今のセリフを、『女たらしのセリフ』と取らないでどうしろと言うんですか?」
京太郎「い、いや、どうするも何も、普通に慰めてただけじゃんか」
久「どうかしらねーー? 私は和の言うことに賛成よ? ほら、見てみなさいよ咲の表情を」
京太郎「えっ?」チラッ
咲「ほえぇ~……京ちゃぁあ……」ポワポワ
京太郎「うお、凄い顔になってる……」
久「ただの慰めの言葉だけであんな風になっちゃう人が、果たしてどこにいるのやら……」
京太郎「くっ、反論したいのに何故か反論できない……!?」
まこ「とっとと認めたほうが楽じゃよ? 自分はタラシですーっての」
京太郎「そ、染谷先輩まで――」
ピチョン
京太郎「――ん?」
その時、俺の右肩の上に一粒の水滴が落ちた。じわじわと服に液体が染み込んでいくのが分かる。
雨は……降っていない。木の葉に溜まっていた水が、たまたま今俺の上に落ちただけか?
咲「ほええ……ってどうしたの、京ちゃん。口ぽっかり開けちゃって……」
京太郎「え? ああいや、雨も降ってないのに水滴が落ちてきたからさ、この木の葉っぱに雨水でも溜まってたのかなって」
久「それ、本当なの?」
まこ「本当じゃよ。わしも見ておったから分かる……それがどうかしたんけ?」
久「いや……変なのよ。ここ最近、この辺りでは雨が全然降ってないから……」
まこ「ふむ……? ここ最近って言われてものお。具体的にはどの位の間降ってないんじゃ?」
久「ええと……最後に降ったのは……約一ヶ月前ね」
和「なら、確かにちょっと変ですね。いくらこの場所が湿った森の中だとは言え、一ヶ月もの間雨水が木の上に留まっていられるとは考えられません……」
咲「ほ、ほんとだ。そう考えるとなんか不思議だね」
京太郎「ま、まあそんなに深く考えなくていいだろ。和はそういうけど、森なんて分からないことだらけなんだぜ? その中だったら、多少常識からはずれたことが起きてもおかしくはねーさ」
咲「しょ、常識からはずれたことって……怖いこといわないでよぉ……」
京太郎「なんでそーなる。……つーか、いつも思うんだけどよ、咲」
咲「え?」
京太郎「お前、実は幽霊とか全然怖くないだろ。反応がなんというか、あざといんだよな」
咲「ふぇ!? あ、え、ええ……そんなことないよぉ」
京太郎「……図星か」
咲「な、なんのことやら……」
久「ま、とにかく、須賀君が起きたならもうここに用はないでしょ。早くホテルに向かっちゃいましょう」
まこ「ほうじゃな。ほれ、優希もとっとと起きぃ。京太郎が立ち上がれんじゃろ」
優希「……」
しかし、染谷先輩の促しに優希は反応しなかった。依然、俺の胸元に顔をうずめたままだ。
和「……? ゆーき?」
咲「どうしちゃったんだろ」
久「優希? 聞こえてる――」
優希「……すう……すう」
京太郎「ん? ……あっ、こいつ」
聞こえたのは、寝息。それは他ならぬ優希のもの。
どうやら泣き疲れて、俺に抱きついたまま寝てしまったようだ。
久「……ぷっ! そういうことね。ほんと、仲いいわねあなた達」
和「……」ブスッ
咲「……」イラッ
まこ「これ、そんなに不機嫌そうな顔をするんでない。言っとくが、おんしらのなかで一番がんばっとったんは優希なんじゃぞ?」
咲「うう……」
和「それは、確かに……」
まこ「じゃろう。 これくらいのご褒美、許されてしかるべきじゃろ」
久「そうね。ここで起こすのはちょっとかわいそうだわ。起き上がりに悪いんだけど、須賀君、優希をおぶさって歩いてくれるかしら。その子体重軽いし、そんなに負担にはならないでしょ」
京太郎「はい。もちろんです……よ、っと」
優希を落とさないように慎重になりながら、俺は立った。こうして持ってみると、こいつがどれだけ軽いかが良く分かる。まるで、綿の人形でも抱えてるかのような感覚だ。
そのまま優希を背中に回し、おんぶの形にする。
久「どう? 身体の調子は。無理そうなら、優希をもつのはまこがかわりにやるわよ」
まこ「おんしじゃないんか……」
京太郎「いえ、大丈夫です。身体も大分動かせるようになったみたいっすね。いつでも出発できますよ」
久「本当ね? 後で泣き言ぼやいたって聞いてあげないわよ?」
京太郎「男に二言はありませんよ」
久「よし! なら問題ないわね」
久「それじゃあ清澄高校麻雀部、ホテルに向かって出発よ!」
一同「おーーーー!!」
爽やか風に乱交突入かな?
部長の掛け声とともに、皆が一斉に歩き出す。
……染谷先輩は相変わらずこっちをじっと見つめたままだが。
咲「ところで部長、そのホテルって言うのはどういう所なんですか?」
久「え? あ、あなたそんなことも調べないで来たの? 私からホテル代を奪っておいて?」
咲「は、はい……」
久「ふー……ま、いいわ。説明したげる。私たちが今から行くのは――」
京太郎「……」
皆が皆それぞれ、楽しそうに話しながら歩いている。
こうして見てると、彼女たちは本当はとても仲が良いということに、改めて気付かされる。
何度自分にこう言い聞かせたか分からないが――やはり俺の関わらぬ所には、彼女たちの争いはないのだ。
それは、俺が彼女たちのそばにいるだとかいないだとかいう意味での「関わり」では無い。
「俺」という存在を自由にしていいという「利権」が発生した時にのみ、真にその「関わり」が現れてくる。そしてその瞬間、彼女たちは野獣とかすのだ――
が、それだけの話だ。なにも仲間内で殺しあおうとするわけじゃない。最悪でも、昼頃の咲と和のケンカのように、誰かがちょっと泣きを見る程度だ。
……でも。それでも、俺に大きな原因があるということを、気にしないでいられる訳は無い。
――やっぱ、俺ってそんなに必要な存在じゃないよな……むしろ、こいつらの仲を邪魔する、嫌な奴とさえ言えるんじゃないか?
この問いも、最早何度目か分からないほど繰り返している。
俺は元々、この部内において空気に等しかった存在だ。ただ、そこでたまたま彼女たちの命を救っただけ似すぎない。
もちろん、そのことは米粒の程たりとも後悔していない。
目の前で費えようとしている仲間の命を見捨てるくらいなら死んだほうがマシだ。
ただ、その後があまりに無責任すぎた。
憎まれ口を叩くなどして、彼女たちの上がった好感度を元に戻しておくべきだったのだ。
分かっていたはずなのに、彼女たちに認めてもらいたいが為に、俺はあえて彼女たちの気持ちがヒートアップしていくのから目を逸らしていたのだ。
だが、その結果はどうだ? 彼女たちの心を縛り、その倫理観まで別のものにしてしまった。
俺は対策を練らなかったことを、ずっと心の中で後悔してきた。彼女の仲を歪なものに変えてしまったのは、他ならぬ自分だと――
パキョッ
――ん?
足の裏に硬い感触が来ると同時に、妙に良く響く小枝の折れた音が聞こえた。
――別におかしいことじゃないよな。ただ小枝を踏んづけただけ……
と思いつつも、俺は湧き上がる不信感を抑えきることが出来ずにいた。
「小枝が折れた音なんて気にしなくていい」なんていうことをこの状況で考えてしまっている時点で、ナニカがおかしいのだ。
……そうすると、今の今まで心地良いものに感じてきた首筋に当たる優希の寝息が、途端に得体の知れないものに――
京太郎「って……ダメだダメだ」
と、暴走する自分に言い聞かせる。この不安に、少なくとも優希は関与していないはずだ……
よく分からない理由で仲間を疑ってはいけない。これは只の思い過ごし……そうだろう。
そうであってくれ。
京太郎「お、出口が見えたな」
久「やっと、って感じね。もうすっかりとっぷり夜になっちゃってるわ」
その後、結局何も無いまま森の出口近くにまで着いた。やはり、さっきの不安は只の杞憂であったようだ。
俺の胸を安堵が駆け巡る。
とにかく、これでようやくこの不気味な森から脱出できる。その事実が何よりも嬉しかった。
和「それにしても……部長があれ程までに絶賛するホテルというのを、早く見てみたいものですね」ワクワク
まこ「ほうじゃの。わしも行った事はないからなんとも言えんが、部長の話を聞く限りではとんでもないところらしいからのお」ジー
咲「よ、よく京ちゃんの方を向きながら、この森の中それだけ正確に歩けますよね……」
まこ「わしも瞳力に関しては相当自身あるほうじゃけえ。この程度の地形、見んでも全部把握できる」
咲「はあ……すごいなあ、やっぱり。私も見習わないと……」
京太郎「いや、咲がこれ以上何かを身につけちまったら、もう手をつけられねえだろ。制御する側の身にもなってくれってんだ」
咲「な、なにさ! 私が向上心を持っちゃいけないっていうの!?」
京太郎「そうじゃないですけどー……」
咲「むーー……京ちゃんのばか!」
京太郎「バカで結構ですー」
咲「ううー……そういう風に返されたら、反論する気もなくなっちゃうよ……」
咲「あっ! そうだ、京ちゃん!」
急に、咲がこちらに体ごと振り向いた。その顔には、花の様な笑顔を浮かべている。
京太郎「おう、どうしたんだ、いきなり?」
咲「え、えと……あのね……」
京太郎「……?」
咲「話したいことが、あるんだけど……」ゴッッッ!!
京太郎「……は? 嘘だr――」
――それは、刹那の出来事だった。
大量のどす黒いオーラが咲の身体から放たれ、それが森の空に雷雲を纏わせる。 って、森から空は見えないはずだ……でも、見える……
はるか遠方には、こちらからでも目視可能な程巨大な竜巻が幾つも発生していた。 いや、そこら中が木だらけなのに、遠くの方なんて見えるはずがない……。でも、見える……!
どこからとも無く聞こえてくる動物――明らかに、この世のものではない――の呻き声が、俺の全身の肌を粟立たせ、脳を掻き回す。 ってこれ、聞いたことがあるぞ……!
そうだ……覚えがある。俺はいつかは分からない昔に、これを体験してる……!!
この「咲」のどす黒いオーラも、あの雷雲も、竜巻も、動物の呻き声も、全部……!
そしてこの後……俺は確か――
――今「咲」の後ろに“いる”ナニカに――
――赤い目の、ナニカに――
――そんなイメージが、頭の中を埋め尽くした。
与えられるは、純粋なまでの無。
意識をかき消され空っぽになった身体は、ナニカにより無残に殺められ“続ける”自分の姿を、ただ眺めるだけの「木偶」と化す。
時間という概念は、最早そこには存在しない。
一瞬の逡巡は、無限の苦しみに等しく、停止は、また進行でもあった。
……いや、時間だけではない。
他の全ての事象のベクトルというものが、ゼロの線を決して超えようとしない。
接触とはつまり触れないことで、乖離とは即ち結びつくことで、生滅とはまさしく輪廻転生のことである。
法則があった。
全ては法則に従い。
全ては法則に逆らい。
結果法則が無くなった。
そしていつしか、自分は殺され“続けて”いるんだという実感だけが、俺の救いになっていた――
***
?「……ん!」
?「……ろ……!」
??「……ろう!」
京太郎「……?」
――声だ。久方ぶりに耳にする、声。
――いや、久しぶりなんかじゃねえ。
?「……ちゃん!」
?「き……う……くん!」
??「き……ろう!」
京太郎「……」
――とても、懐かしい。忘れていたものが次々と頭の中に蘇ってくる。誰かの声を聞くというのは、こんなにも心地の良いことだったのか?
――懐かしくねえ。ついさっきまで俺はこれを聞いてただろうが……!
?「きょ……ちゃん!」
?「きょ……たろうくん!」
??「きょ……ろう!」
京太郎「……!」
――いや、違う。ただ誰かの声を聞くだけで、無限の時の中虚無に冒され続けた俺の心が、安堵で満たされる訳が無い。
――どういうことだ……? どうなってる……!?
?「京ちゃん!」
?「京太郎くん!」
??「京太郎!」
京太郎「……あ……!」
――この声だから……! 他でもない、“こいつら”の声だから……!!
――何なんだよ、これは!!! この状況は、何なんだよ!!
?「!! 今、声を出した! 京ちゃんが声を出したよ!!」
?「わ、私も聞きました! あと少しです、頑張りましょう!」
??「きょーーーたろーーー!! 聞こえてるかーー!? 私はここにいるじぇーーー!!」
京太郎「……あ、あああああああ……!!」
――こうして、俺の耳に届いてるんだ……! ああ、会いたかった……会いたかった……!
――一体、何がどうなって――
「起きて!! きょう――」
京太郎「う、うううう……」
また、ここだ。
暗闇の世界。どこを見ても、光なんて存在しない。
また、来ちまった。
ありえない……ありえない……
デジャブなんていうレベルじゃあない。
まるで、全てをまるまる再現したような……
いや、全てではない。所々が前とは違っている。
あの時の幻覚。例えば、場所が遊園地の中から、森の中になっていた。それに、ナニカの姿をよりはっきり見ることもできるようになっていた。
……でも、それだけだ。それ以外には、何一つとして違いは――
「お、起きてください、京太郎くうううううん!!!!!!」ドガッ!
京太郎「ぐうっ!?」
とんでもない衝撃が俺の頭を襲った。身体が丸ごと、数十メートル後ろに吹き飛ばされたかのような感覚に襲われる。
これは、同じだ。
それで目が見えるようになってる。
これも、同じだ。
ただ……俺を叩いた奴は、前とは違う。
京太郎「の、のど、か……?」
和「きょ、きょうたろうくん!? み、皆さん、京太郎君が起きましたよ!!」
前回俺をぶったたいて救ってくれたのは、優希だった。
しかし、今回では何故か和になってしまっている。
完全にループしている訳じゃない?
これは一体――
優希「きょうたろぉぉぉぉぉおおおおおお!!」ビエーン
咲「……京ちゃぁん……!」ウルウル
京太郎「優希、咲……」
咲が涙を潤ませながらこちらを見ているのは、同じだ。
でも、前回和がいた所では優希が泣いている。
やはり完璧なループではないことには間違いはないか。
久「はあ……はあ……。よう、やく気が付いたわね……よかった……」
まこ「どうなることか思っちょったが、杞憂だったようじゃな……」
京太郎「部長、染谷先輩……」
こちらも、同じ、同じ、同じだ。
……もしかして、夢でも見ていたのだろうか?
そうだ。きっと「前回」の方が嘘で、「こっち」が現実なんだろう。
じゃなきゃこんなの、不可解すぎる。
雀力でだって、「タイムループ」だなんて馬鹿げたことは出来ない筈なんだから。
まあ大方、俺の隠された力が解放されて未来予知ができるようになった、とかそのあたりだろう。
すごいな、皆に自慢しちゃおうかな……ハハハ……
なんかよくわからん
楽しいか?
和「おど、驚いたんですよ? 会話をしていたら行き成り、きょ……須賀君が倒れて……」
京太郎「あ、ああ……驚きだよ。まさかこんなことになるなんて……」
和「え? 覚えてる……んですか?」
俺の言葉に、和が目を見開く。俺があのことを覚えているということが、よっぽどおかしいらしい。
ここは、いっちょ試してみるか……
京太郎「おう……何から何まで、全部覚えてるぜ」チラッ
咲「!」ビクッ
京太郎「……咲の雀力に中てられて気絶しちまったってこともな……」
咲「あ、あうあう……」ビクビク
やはり。
この反応を見る限りでは……俺の頭のなかにある「前回」の記憶は正しい。
少しの差異はあるものの、流れは全く変わってない。
久「驚いたわね……咲の雀気を直に浴びながら、記憶を保っていられるだなんて……」
まこ「信じられんな。やはり天才じゃったか……」
京太郎「そうだろ、咲……?」
咲「え、えっと……それは……その……」
京太郎「……はははっ。こっちでもおどおどしながら誤魔化そうとするのはかわんねーのな」
咲「えっと、あの……って、え?」
和「こっちでもって……それ、どういうことですか?」
京太郎「ん? いやな……俺、どうやら未来予知が出来るようになっちまったらしいんだよ」
和「えっ?」
一同「み、未来予知!?」
京太郎「あはは、まあそうなりますよね……」
これだけやってて結局話が進んでないだと…
久「ど、どういうことなの!?」
まこ「……詳しく説明してくれんか?」
京太郎「はい……」
俺は皆にこれまでの経緯を説明した。
「前回」を体験したこと、「今回」がそれに殆ど沿った流れにあること。
だが、全てを言ったわけではない。まだ不明確なところは口に出さないでおいた。
咲「し、信じられないよ……」
優希「京太郎、やっぱりどうかしちゃったんじゃないか?」
和「私も、その話は少し信じかねますね……いくら須賀君の話といえど……」
久「未来予知、って聞くとなんか単純に思えるけど、その実かなりヤバイ代物なのよ……?」
まこ「ほうじゃ……どれだけ強大な雀力を持っていようと、未来なんて不明確なもんを見通せるわけが無い……」
京太郎「ええ。だから、俺も今おどろい――」
ピチョン
京太郎「――ん?」
その時、俺の右肩の上に一粒の水滴が落ちた。じわじわと服に液体が染み込んでいくのが分かる。
これも……さっきと同じだ。
でも、何故だろう。ちょっと違和感がある……
久「……水? おかしいわね……」
京太郎「ここら辺ではこの一ヶ月、雨が全く降っていないから、っすか?」
久「……! そ、そうよ。良く知ってるわね」
京太郎「全部、知ってますからね。ちなみに、これを教えてくれたのは他ならぬ部長っすよ」
久「……そう。分かったわ。私は須賀君の話、信じる」
まこ「部長……!?」
和「し、しかし……」
優希「……いや、私も信じるじぇ!」
咲「わ、私も!」
和「咲さんにゆーきまで……!?」
まこ「おんしらまでどうかしてしまったんけぇ!?」
咲「だ、だって……京ちゃんが嘘を言ってるようには思えないんだもん!」
優希「現に、京太郎はいくつかの事を言い当ててるしな」
和「う……確かに……」
まこ「そこは優希の言う通りじゃ。手品をつこうた訳でもないようじゃし……でも……」
まこ「……いや、冷静に考えれば、むしろ京太郎の言葉のほうに信憑性がある。これは、もしかしてもしかするかもしれんのお……」
和「そんなオカルトありえません、と言いたい所ですけど……証拠という証拠は『常識』位しかありませんね……」
和「常識なんて、時には何の役にも立ちませんから。私はそれを、麻雀部の活動の中で学びました」
和「……分かりました。私も須賀君の言葉を信じましょう」
京太郎「皆、ありがとな……こんなとんでもない話、信じろって方が無理なのに……」
皆が俺を信じてくれている……こんなにも嬉しいことはない。
ただ、ありがたい……
京太郎「よし、じゃあ皆。早くこの森から出よう。ここ、何か嫌な雰囲気が漂っててさ」
久「体はもう大丈夫なの?」
京太郎「はい。この通りピンピンです」
久「……後で泣き言ぼやいたって、聞いてあげないんだからね?」
京太郎「はは……それセリフ好きなんですね。もちろん、男に二言はありませんよ」
久「ん、何か前半が気になるけど、まあ良しとしましょう」
久「それじゃあ清澄高校麻雀部、ホテルに向かって出発よ!」
一同「おーーーー!!」
部長の掛け声とともに、皆が一斉に歩き出す。
――うーん、これも記憶の通りだ。
ただ、「前回」は俺の背中に負ぶさりながら寝てた優希が、今は目の前で和と話している。
……染谷先輩は相変わらずこっちをじっと見つめたままってのは、まあ変わんねえよな。
咲「ところで部長、そのホテルって言うのはどういう所なんですか?」
久「え? あ、あなたそんなことも調べないで来たの? 私からホテル代を奪っておいて?」
咲「は、はい……」
久「ふー……ま、いいわ。説明したげる。私たちが今から行くのは――」
咲と部長がホテルについて話しているのも、同じ。
京太郎「……」
皆が皆それぞれ、楽しそうに話しながら歩いている。
これも「前回」と同じ光景なだけに、俺の胸に湧き上がるこの思いも「前回」と同じものだった。
こうして見てると、彼女たちは本当はとても仲が良いということに、改めて気付かされる。
何度自分にこう言い聞かせたか分からないが――やはり俺の関わらぬ所には、彼女たちの争いはないのだ。
それは、俺が彼女たちのそばにいるだとかいないだとかいう意味での「関わり」では無い。
「俺」という存在を自由にしていいという「利権」が発生した時にのみ、真にその「関わり」が現れてくる。そしてその瞬間、彼女たちは野獣とかすのだ――
が、それだけの話だ。なにも仲間内で殺しあおうとするわけじゃない。最悪でも、昼頃の咲と和のケンカのように、誰かがちょっと泣きを見る程度だ。
……でも。それでも、俺に大きな原因があるということを、気にしないでいられる訳は無い。
――やっぱ、俺ってそんなに必要な存在じゃないよな……むしろ、こいつらの仲を邪魔する、嫌な奴とさえ言えるんじゃないか?
この問いも、最早何度目か分からないほど繰り返している。
俺は元々、この部内において空気に等しかった存在だ。ただ、そこでたまたま彼女たちの命を救っただけ似すぎない。
もちろん、そのことは米粒の程たりとも後悔していない。
目の前で費えようとしている仲間の命を見捨てるくらいなら死んだほうがマシだ。
ただ、その後があまりに無責任すぎた。
憎まれ口を叩くなどして、彼女たちの上がった好感度を元に戻しておくべきだったのだ。
分かっていたはずなのに、彼女たちに認めてもらいたいが為に、俺はあえて彼女たちの気持ちがヒートアップしていくのから目を逸らしていたのだ。
だが、その結果はどうだ? 彼女たちの心を縛り、その倫理観まで別のものにしてしまった。
俺は対策を練らなかったことを、ずっと心の中で後悔してきた。彼女の仲を歪なものに変えてしまったのは、他ならぬ自分だと――
パキョッ
――あっ
足の裏に硬い感触が来ると同時に、妙に良く響く小枝の折れた音が聞こえた。
これも、覚えのある出来事だ。
何故か無性に俺の不安を煽ったけど、結局なにもなかったっていう……
待て。おかしくないか?
俺は今、「前回」とは違う道を通っている。これは間違いない。周りの風景が全然違うから。
なのにどうして、あの小枝がそのまま「今回」の道に置かれているんだ?
そうだ、そういえば。
さっきの水滴……あれへの違和感も多分、この小枝と同じものだ。
「前回」俺に水滴を落とした木の下に、「今回」は居なかったんだ。
なのに何故か、「今回」もきちんと俺の肩の上に、あの水滴は落ちてきた……
やっぱりこれは、未来予知なんかじゃない?
俺は「タイムリープ」してしまっているのか……?
そんなことを考えているうちに、いつの間にか森の出口付近にまで来ていた。
――そうだ。あそこを抜けちまえば、もう大丈夫なんだ……
走りたい気持ちを抑えようとするが、早歩きになってしまうのはどうしても防げなかった。
――この森を抜けた時、俺は一体どうなるんだ……?
好奇心が半分、恐怖が半分の、混沌とした思いが俺の頭を支配する。
咲「あはは! 優希ちゃん、本当にそんなことしたの?」
優希「おう! あの時の嫁田の顔といったら、ケッサクだったじぇ!」
和「もう、だめですよ、ゆーき。人をからかって遊んでは」
優希「なんて言って、のどちゃんも笑いを隠せてないじぇ!」
和「それは……ふふっ、否定できませんね」
咲「あはははっ! ……ん?」
咲「京ちゃん、そんな険しい顔してどうしたの?」
京太郎「あ、ああ……いや、ちょっとな……」
咲「ちょっとな、じゃ分からないよ。痛いところがあるんだったらすぐに言ってね?」
京太郎「はいはい、何もかも包み隠さず、咲さまにお話いたしますよ」
咲「もー! 誤魔化さないでよ!」
咲「……あっ! そうだ、京ちゃん!」
急に、咲がこちらに体ごと振り向いた。その顔には、花の様な笑顔を浮かべている。
京太郎「おう、どうしたんだ、いきなり?」
咲「え、えと……あのね……」
京太郎「……?」
咲「話しておきたいことが、あるんだけど……」ゴッッッ!!
京太郎「……あ、これって――」
ここまで。
後一回で終了させられますね。ようやくです。
乙
イザナミだ
うん、雀力って何だっけ?
どうみてもイザナミ。
イザナミかなと思ったらイザナミだった
無限ループって怖くね?
――それは、刹那の出来事だった。
大量のどす黒いオーラが咲の身体から放たれ、それが森の空に雷雲を纏わせる。
――嘘だろ……?
はるか遠方には、こちらからでも目視可能な程巨大な竜巻が幾つも発生していた。
――嘘だろ……
どこからとも無く聞こえてくる動物――明らかに、この世のものではない――の呻き声が、俺の全身の肌を粟立たせ、脳を掻き回す。
――嘘だろ……!
こんなの、ありえない……
また、あれを経験するのか……?
あの地獄を、また?
無限にも近い時間の中、また……またいたぶられ続けなきゃならねえってのかよ!
いやだ、そんなのいやだ。
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ……
助けてくれ、誰か……
――そして、俺は「咲」の後ろに“いる”ナニカに――
――赤い目の、ナニカに――
――そんなイメージが、頭の中を埋め尽くした。
与えられるは、純粋なまでの無。
意識をかき消され空っぽになった身体は、ナニカにより無残に殺められ“続ける”自分の姿を、ただ眺めるだけの「木偶」と化す。
時間という概念は、最早そこには存在しない。
一瞬の逡巡は、無限の苦しみに等しく、停止は、また進行でもあった。
……いや、時間だけではない。
他の全ての事象のベクトルというものが、ゼロの線を決して超えようとしない。
接触とはつまり触れないことで、乖離とは即ち結びつくことで、生滅とはまさしく輪廻転生のことである。
法則があった。
全ては法則に従い。
全ては法則に逆らい。
結果法則が無くなった。
そしていつしか、自分は殺され“続けて”いるんだという実感だけが、俺の救いになっていた――
エンドレスエイトかと思ったら次回で終わりか
乙
***
?「……ん!」
?「……ろ……!」
??「……ろう!」
京太郎「……」
――終わった。
?「……ちゃん!」
?「き……う……くん!」
??「き……ろう!」
京太郎「……」
――また、ここに戻ってきた。
?「きょ……ちゃん!」
?「きょ……たろうくん!」
??「きょ……ろう!」
京太郎「……!」
――こいつらの声は、俺を何よりも安心させてくれると同時に。
?「京ちゃん!」
?「京太郎くん!」
??「京太郎!」
京太郎「……はは」
――何よりも恐怖に陥れる。ああ……
?「!! 今、声を出した! 京ちゃんが声を出したよ!!」
?「わ、私も聞きました! あと少しです、頑張りましょう!」
??「きょーーーたろーーー!! 聞こえてるかーー!? 私はここにいるじぇーーー!!」
京太郎「……ま、た」
――あの地獄が、始まるのか……
「起きて!! きょう――」
京太郎「……」
また、ここだ。
暗闇の世界。どこを見ても、光なんて存在しない。
もう、よくわかった。
俺はループの中にはまっちまったんだ。
まだ三回目だが、確信できる。
理由は分からない。
ただ、咲たちの仕業ではないだろう。
あいつらは、俺を傷つけるようなことはしないから。
なら、誰だ?
ループの起点になっているのは、咲の雀気放出。
そうすると、原因は咲としか考えられないが……
……いや、違う?
もしかして、あれは咲の雀気に中てられたことによる幻覚ではないのか?
咲の後ろにいつもいるナニカ……それが本当の原因なのかもしれない。
思えば、ナニカは赤い目の人間の様でもあったから……
……外部の人間が俺をループに掛けた……?
でも、なぜ? なんの訳があって?
考えても、分かるはずなんてなかった。
……そろそろ来るな。
今度は誰になるのだろうか?
「お、起きてええ!!! 京ちゃぁぁぁあああん!!!!!ドガッ!
京太郎「ぐうっ!!」
目覚まし(物理)
とんでもない衝撃が俺の頭を襲うと共に、視界が暗闇から開放される。
やはり、俺を叩いた奴は前とは違っていた。
京太郎「さ、咲……」
咲「きょ、京ちゃん! よかった、起きてくれたんだね!!
前々回俺をぶったたいて救ってくれたのは、優希。
前回は、和。
そして今回は、咲だった。
優希「きょうたろぉぉぉぉぉおおおおおお!!」ビエーン
和「……京太郎くん……!」ウルウル
京太郎「優希、和……」
久「はあ……はあ……。よう、やく気が付いたわね……よかった……」
まこ「どうなることか思っちょったが、杞憂だったようじゃな……」
京太郎「部長、染谷先輩……」
ここは、まあ殆ど変わらんよな。
前回とあまり状況は変わっていない。
でも「タイムリープ」を経験していると確信したことで、俯瞰的にことを考えられるようになった。
これは、大きな進歩だろう。
ここからは、どうループに対応していくかが鍵になるな……
もう、あんな地獄を見たくは無いから。
俺の胸の中が、炎のように静かに揺らめく。
絶対にループなんかに負けたりしない……!!
咲「ごめ、ごめんね? 私のせいで、こんなことに……」
京太郎「……咲」
今回の咲は、すぐに自分の非を認めた。
これは過去の二回には無かったことだ。咲が目覚まし(物理)係であったことに関係しているのだろうか……
俺の頭にある計画は、ただひとつ。
とっととこの森から脱出すること。
ループはこの森で起こっている。
毎回毎回、森の出口付近で最初に飛ばされてしまうということはつまり、その先に何か鍵になるものがあるということに違いない。
京太郎「……いや、咲。これはお前の所為じゃないかもしれないぜ」
咲「え、え……?」
京太郎「説明するよ」
咲「え? え?」
京太郎「皆、ちょっと集まってくれ!!! 話したいことがあるんだ!!」
俺の呼びかけに、ぞろぞろと他の皆が、不思議そうな表情を浮かべながら集まってくる。
あまり急かしたくは無いが、時間がないかもしれない。
俺は皆に、事の顛末をありのまま語った。不明確なところも全てだ。
最初は誰も信じようとしてくれなかったが、俺の真剣さに呑まれたのか、最終的には全員が納得してくれた。
こうして、俺のループからの逃避行が――
ピチョン
――!!
その時、俺の右肩の上に一粒の水滴が落ちた。じわじわと服に液体が染み込んでいくのが分かる。
これは、やっぱり……!
今俺が立つ場所は、前回とも前々回とも違う木の下だ。
なのに、またこの水滴は俺の右肩に落ちた……!
間違いない。これがループのきっかけなんだ!
久「い、今の水滴って、もしかして……」
まこ「例の奴か? まさか本当に本当じゃったとは……!」
和「そ、それで、どうすれば?」
京太郎「……一刻も早くここから離れよう。もう一個のループの切欠である、木の枝が現れる前に!」
咲「じゃ、じゃあ全速力で走ったほうがいいよね」
久「そうね。この中で一番早いのは……咲、あなたよ。須賀君を乗っけてこの森を抜けて頂戴」
咲「はい!」
久「私たちは周りに警戒しつつそれに続くわ。いいわね?」
一同「おー!」
心強かった。
皆が俺を信じてくれている……こんなにも嬉しいことはない。
ただ、ありがたい……
俺を背中に乗せた咲が、森の中を全力で駆け抜ける。
周りの風景が全て繋がって見える。風を切る音が聞こえる。
この調子なら……
京太郎「咲! いい調子だぜ。このまま突っ切っちまえ!!」
咲「う、うん!」
……すぐに出口につける!
ようやく、ようやく開放され――
咲「あ――」
京太郎「え? うおっ――」
その時、咲が足を躓かせてしまった。
地面が勢い良く迫ってくる。
俺はとっさに身をくねらせて、咲に行くはずの衝撃を全て殺してから、地面で受身を取る。
ドサッ
地面に投げ飛ばされ、お互い少し離れてしまったが、ダメージは殆ど無かった。
咲「きょ、京ちゃん! ごめんね、大丈夫!?」
京太郎「ああ! 俺はなんとも無い。そっちはどうだ?」
咲「私も京ちゃんのおかげで無傷で済んだよ!」
京太郎「そっか、良かった……じゃあ、早速で悪いが、もう一度乗せてくれないか」
咲「うん、まかせて!」
そんな勢いの良い返事とは裏腹に、咲は未だに尻餅を突いたままだ。
その瞳は暗に、俺に起き上がらせてくれと物語っていた。
俺はため息を一つ吐き、咲の元に――
パキョッ
――っ!!
やばい、あの小枝を踏んじまった!!
京太郎「さ、咲! 小枝が現れた!! もうだらだらしてる余裕はねえ、早く――」
咲「……」スック
京太郎「……咲?」
咲が無言のまま立ち上がる。俺の言葉に反応して、というよりは……
咲「……ねえ、京ちゃん」
京太郎「咲、まさか」
咲「ちょっと、いいかな……?」
京太郎「おいおい……勘弁してくれ、咲。冗談なんだろ? なあ」
体を動かせない。幻覚から開放された直後のようだ。
俺の顔は、咲からどうしても視線を移そうとしてはくれなかった。
まぶたも、何も、閉じることは叶わない。
動かせるのは、ただ口のみであった。
咲「い、いいよね……?」
京太郎「おい! よくねえよ!! やめろ、やめろ……!」
咲「咲「え、えと……あのね……」
京太郎「言うなよ……言うなよ!! ふざけんな!!! やめろやめろやめろやめろやめろやめろ……」
咲が京太郎を背負うとかシュール……足が地面についちゃいそうだ
小枝踏みたくないなら動かなきゃいいんじゃね?
咲「話しておきたいことが、あるの……」ゴッッッ!!
京太郎「いやだぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁああ!!!!!!!!――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――成功です」
森の中に、女の声が響く。淡白な声音に聞こえるが、そこには確実に安堵の色が含まれていた。
棒立ちする六人の清澄生の前にいたのは、二人の人物。
片方は、今声を発した長身で黒髪の女性。ミディアムに伸ばされた前髪は全て分けており、後ろ髪も切り揃えている。第一印象は真面目といったところだろう。彼女は目を細めつつ――とはいえ、元々目は細めていたが――今の光景を、安心したように眺めている。
もう片方は、右目を閉じた金髪の……こちらも女性だ。左の瞳が、ルビーのように赤いのが特徴的だ。彼女は、長身黒髪の方とは対照的に心配そうな表情を浮かべている。
ただ、二人共に共通しているのは、黒の地に赤い雲の模様が入った丈の長いコートを着用している、ということだ。
「本当に、これで大丈夫なの……? 文堂さん」
赤目金髪の方が声を上げる。その言葉には、多くの疑念が表れていた。やはり、こちらは現状に未だ安心できていないようだ。
文堂「はい。間違いなく術は成功していますよ、キャプテン」
文堂と呼ばれた長身黒髪が、赤目金髪――キャプテンを諭す。成功の報告の時とは打って変わり、非常に優しい声色だった。
キャプテン「文堂さんの瞳術には私も絶対の信頼を置いているわ」
キャプテン「……でも、何だか信じられなくて……」
キャプテンは、しかし文堂の言葉にあまり納得を示していなかった。
文堂「――無理はないですよ。だって、この人たちが相手なんですから……」
と言い、文堂は清澄の面々をまた眺める。ただ、その瞼の奥にはやはり絶対の自信が表れていた。「この人たちが相手なのだから」は、つまり「この人たちが相手でも」ということ。弱気なセリフに聞こえるが、その内実は傲慢なまでの自尊である。
キャプテン「ええ……」
文堂「私も、まだちょっと信じ切れていませんよ。でも……それ以上に……そんな心配なんて全て吹き飛ばすくらいに、この術は強い」
未だ安堵の出来ぬキャプテンに向かって、文堂が胸を張りながらそう言う。
キャプテン「……ふふっ。そう、ね。そうよね。疑っちゃってごめんなさい」
文堂から感じる絶対の自信に励まされたのか、ようやくキャプテンはその顔を笑顔にした。
キャプテン「じゃあ、早く華菜に知らせて、彼女たちを基地に――」
文堂「あ、それはちょっと待ってください!」
キャプテン「え?」
早速と言わんばかりに準備に移ろうとしたキャプテンを、何故か文堂が止めた。キャプテンは文堂の発言に、不思議そうな顔をする。
キャプテン「どうしたの?」
文堂「これではまだ、絶対に安心とは言い切れないので。この人たちが術の絡繰に気付かない、と断ずることはできませんから」
キャプテン「……え? そうなの? じゃあどうすれば……」
文堂「このまま少しだけ輪廻(ループ)に掛けて、本来の視覚による幻術に掛けやすくします……これによる幻術を」
そういって、文堂はキャプテンの方に顔を向け、瞼を開く。彼女の相貌の中心に輝く瞳は、正に異形だった。本来白目があるはずの部分は血のような赤で染まり、黒目の周囲には三つの点が回転している。そこには身を震わせる恐怖と、脳を痺れさせる美しさとが混在していた。これは最早、「目」とただ呼んでいいだけの代物ではない。
キャプテン「可能なの? なんだか皆、目が空ろよ? まるで何も見えていないみたい。いえ、実際に見えていないのでしょうけど……」
キャプテン「とにかく、これじゃあ視覚による幻術なんて掛けられないんじゃ……」
文堂「そこは大丈夫です。この人たちは目を使っていない訳じゃありませんから。ほら、体は動いていない様に見えますけど、瞬きとかはしているでしょう? 人間の無意識の行動まで抑制しているんじゃないんですよ」
文堂「だから、この人たちが元々視界を閉じてでもいない限り、『この眼』によって幻術を掛けることは可能なんですよ」
キャプテン「成る程ね……」
キャプテン「それにしても凄い術だわ、これ。この人たちをこんなにもあっさりと」
キャプテン「私は余り詳細を知らないのだけれど……一体、どんな仕組みなの? 文堂さん」
キャプテンの顔には最早、微塵の憂慮も表れていない。彼女の心にはもう文堂の術への感心しかない、という風であった。それ程に、文堂の言葉は説得力を持っていたのだ。
文堂「ああ、そういえばキャプテンにはまだこの術についてあんまり教えていませんでしたね」
また目を閉ざした文堂は、キャプテンの賞賛に気を良くしたのか、はにかみながらそう答える。
文堂「この術の名は……」
文堂「『イザナミ』です」
文堂「相手を輪廻(ループ)に陥らせるという、私の一族に伝わる禁術です」
キャプテン「なら、この人たちはその輪廻(ループ)っていうのにはまったという訳ね」
キャプテン「それが『イザナミ』……」
キャプテン「……いつ仕掛けたの?」
文堂「昼頃、遊園地のベンチのところで、宮永咲が片岡優希に向かって気を放った時です」
キャプテン「あの時ね。じゃあ文堂さんは、宮永さんの背後に隠れながら片岡さんに『イザナミ』を……」
文堂「ああ、それは違うんですよ。その時私がどさくさに紛れて『イザナミ』を掛けたのは……」
文堂はそこで一旦言葉を止めて、清澄の一人に顔を向ける。それは清澄高校麻雀部、唯一の男子部員 須賀京太郎であった。彼も他の五人と同じく、棒立ちになりながら目を空ろにさせている。ただ、彼を見る文堂の――瞼の奥の――目には、明らかな慈しみが含まれていた。
文堂「京太郎君に、です。彼にはこういうことへの対抗策が存在しませんから」
キャプテン「成る程、そういうことね……」
キャプテン「でもどうやって? 『イザナミ』は確か、視覚によらない瞳術とのことだけれど……どういうことなの?」
文堂「『イザナミ』とは自分と相手……二人の体の感覚によってハメる瞳術です」
文堂「まあ、私のはちょっとそれを強化させた奴なんですけど」
キャプテン「二人の体の感覚? 強化?」
文堂「はい。先ずは、感覚によってハメるというのがどういうことなのかから説明していきます」
今日はここまで。嘘ついちゃって申し訳ない。
ループの描写、一瞬で終わらせられると思ったら意外に時間がかかったんですよね。
もう終わりまで出来上がっているので、明日こそは終了させられると思います。
コレジャナイ…
なんやこの超展開
>>271
×そういって、文堂はキャプテンの方に顔を向け、瞼を開く。彼女の相貌の中心に輝く瞳は、正に異形だった。
◯そう言って、文堂はキャプテンの方に顔を向け、目を開く。彼女の双眸の中心に輝く瞳は、正に異形だった。
どう収めるんだこの話……
>>265
×体を動かせない。幻覚から開放された直後のようだ。
○俺は、いつものような笑顔でーー不気味にーー近付いてくる咲を、ただ見ている事しか出来なかった。体を動かせないのだ。幻覚から覚めた直後の時と同じように、金縛りに遭ってしまっている。
適当にやり過ぎるのも駄目ですね。イミワカンナイですよこれじゃあ。
なんでこの方向行っちゃったんだろうなぁ
普通に清澄メンバーが病んでて京太郎との絡み書いときゃよかったのに
文堂はそう言うと、視線をまたキャプテンの方に戻した。その顔つきもまた、最初の報告の時のような真面目なものに戻っている。真剣さは、これから彼女が話すことの重大さを物語っていた。
キャプテンはその気迫に、思わず息を呑み。
文堂「行動の中の任意の一瞬……」
文堂「その一瞬の己と相手の体の感覚を一度瞳力で記憶します」
文堂「仮にそれをAとします」
キャプテン「A……」
文堂「はい」
文堂「今回の場合、『宮永咲の雀気を感じつつ、幻術を京太郎君に掛けた』という私の感覚と、『宮永咲の後ろに居る私の目を見て、幻術に掛かった』という京太郎君の感覚とを記憶したものがAに当たりますね」
文堂「……思えば、かなり申し訳ないことをしてしまいましたね。幾ら精神の磨耗を早めさせる為とはいえ、幻術に少し攻撃性を持たせてしまったのはやり過ぎでした」
文堂「幻術に慣れてる人にとってはどうってことないものの筈なんですが、それでも耐性ゼロの京太郎君が耐えられるかどうかは……」
文堂は自重気味に笑い、自分の行動の残酷さを悔いる。それは彼女の本心からでた後悔であった。
相手が一般人であれ、それが仕事の標的であるならば微塵の容赦も見せないことで知られる彼女が、須賀京太郎という存在には親身になっている。そこには何か、文堂の京太郎への徒ならぬ思いが見え隠れしているようであった。
キャプテン「……大丈夫よ、文堂さん。あなたは出来ることをしただけ……さ、説明を続けて頂戴?」
しばらくの沈黙の後、キャプテンが文堂に言葉をかけた。その慈母のような笑みは、見る者全てに慰めと心の平穏を与えんとするものだった。
文堂は自分の心配をするキャプテンに、その慰めへの感謝を込めた笑みを返し、再び口を開けた。
文堂「ふふ、すみません。要らない心配かけてしまって。説明を続けますね……」
文堂はそう言うと、視線をまたキャプテンの方に戻した。その顔つきもまた、最初の報告の時のような真面目なものに戻っている。彼女が漂わす真剣さは、これから話すことの重大さを物語っていた。
キャプテンはその気迫に、思わず息を呑む。
文堂「行動の中の任意の一瞬……」
文堂「その一瞬の己と相手の体の感覚を一度瞳力で記憶します」
文堂「仮にそれをAとします」
キャプテン「A……?」
文堂「はい」
文堂「今回の場合、『宮永咲の雀気を感じつつ、幻術を京太郎君に掛けた』という私の感覚と、『宮永咲の後ろに居る私の目を見て、幻術に掛かった』という京太郎君の感覚とを記憶したものがAに当たりますね」
文堂「……思えば、かなり申し訳ないことをしてしまいましたね。幾ら精神の磨耗を早めさせる為とはいえ、幻術に少し攻撃性を持たせてしまったのはやり過ぎでした」
文堂「幻術に慣れてる人にとってはどうってことないものの筈なんですが、それでも耐性ゼロの京太郎君が耐えられるかどうかは……」
文堂は自嘲気味に笑い、自分の行動の残酷さを悔いる。それは彼女の本心からでた後悔であった。
相手が一般人であれ、それが仕事の標的であるならば微塵の容赦も見せないことで知られる彼女が、須賀京太郎という存在には親身になっている。
そこには何か、文堂の京太郎への徒ならぬ思いが見え隠れしているようであった。
キャプテン「……大丈夫よ、文堂さん。あなたは出来ることをしただけ……さ、説明を続けて頂戴?」
しばらくの沈黙の後、キャプテンが文堂に言葉をかける。その慈母のような笑みは、見る者全てに慰めと心の平穏を与えんとするものだった。
文堂は自分の心配をするキャプテンに、その慰めへの感謝を込めた笑みを返し、再び口を開けた。
文堂「ふふ、すみません。要らない心配かけてしまって。説明を続けますね……」
一呼吸空いて。
文堂「さらに時の流れの中でより印象的な場面をB、Cと次々に『この眼』で記憶します」
キャプテン「そのBとCも、お互いの体の感覚を記憶したものなの?」
文堂「いえ、違います。体の感覚が関わってくるのは、さっき言ったAと後で説明するA'とにのみですから」
文堂「BとCはあくまで、私が印象的と思った場面を記憶したもの、というだけに過ぎません」
文堂「今回では、『京太郎君の肩の上に水滴が落ちた』がBの場面に、『京太郎君が小枝を踏みつける』がCの場面に、それぞれあたりますね」
キャプテン「はあ……」
文堂「そうして一定の瞬間を記憶したら、前に記憶したAと同じ体の感覚をわざともう一度再現させた、A'を作ります。今さっき言った奴ですね」
キャプテン「成る程! ここで、また体の感覚が関わってくるのね……」
キャプテン「じゃあそのA'っていうのは、Aと“全く”同じものでなければならないの?」
文堂「いえ。A'は、Aと同じ“体の感覚の再現”であって、場面から何までAと全く同じになるように再現されたもの、という訳ではありません。もしそうなら、この『イザナミ』という術は使えたもんじゃなくなっちゃいます」
文堂「一応説明しておくと……例えば今回、一回目の感覚の記憶……つまりAは遊園地のベンチで行われたものだったのに対して、二回目は森の中で行われたものだったでしょう?」
キャプテン「そうね……確かに、どちらも場所が違っているわ」
文堂「はい。でも、現に二回目の記憶は『Aの再現』として……A'として、その役割をきちんと果たせています。それは、『A'を作る条件』が『Aの完璧な再現』ではなく、『Aの時に記憶したお互いの感覚、“それのみ”の再現』であるからということに他なりません」
文堂「私は森の中でも『宮永咲の雀気を感じつつ、幻術を京太郎君に掛け』ましたし、京太郎君も『宮永咲の後ろに居る私の目を見て、幻術に掛け』られました。場所や状況こそAの時と全く違いますが、この通り少なくともお互いの体の感覚は、Aと同じものを再現できているんです」
キャプテン「だから、それもA'として働く、ということね……」
文堂「その通りです」
文堂「そして『イザナミ』はそのAとA'を重ね、更にはB'とC'を再現することにより、一定の時間の中を彷徨わせます。これで、術の完成……」
文堂「つまり、無限ループを作る能力です」
文堂「AとA'を重ねる、というのは……一枚の細長い紙をイメージすると分かりやすいかと思います」
文堂「紙の左端に書かれた『点A』と、右端に書かれた『点A'』とを、頭の中で重ねてみてください。何が出来ますか?」
キャプテン「え……それはもちろん、一つの輪ができるわね」
文堂「そう! それがループです」
キャプテン「あ、成る程ね……! すごいわ。こうして考えると、意外に単純なのね……」
キャプテン「あら? でも、AとA'を重ねてループを作ったら、文堂さんがB'とC'を再現する余地が無くなっちゃわないかしら?」
文堂「あはは、鋭いですね。流石です」
文堂「そう。キャプテンの今引っかかっているそこが、正にこの術の一番分かりづらい所なんですよ。確かに、相手が完全にループに入ってしまった時、私の介入する余地は殆ど無くなってしまいますが……そもそも介入なんてする必要はありません」
キャプ「えっ?」
文堂「ええと、さっき私はB'とC'を再現“して”術は完成すると言いましたが、申し訳ない、それは少し違います」
文堂「実際には、AとA'を重ねた時点で、術はもう完成しているんです。B'とC'はその後のループの中で、術により勝手に再現“される”んですよ」
文堂「何も、ループ中もループ前と全く同じことが起きるとは限りません。『イザナミ』の中での、術の対象者の行動までを制限することは出来ませんし、それ以外にも所々はかなり違っています。でも……」
キャプ「あなたが記憶したBとCだけは、必ず起こり続ける、ということね?」
文堂「はい。まあBとCについても、全く同じものが繰り返される訳ではなく、その現れ方は多岐に渡りますが……『BとC』という出来事がループ中に起こらないことは決してありえません」
文堂「ちょっと、京太郎君を例に出して説明してみましょう」
========解説の絵(作:文堂さん)========
京太郎「ああー、ループに巻き込まれちまった……」
京太郎「どうやっても抜け出せねえ……」
京太郎「でも、俺は一筋の光明を見出したゼ!」
京太郎「水滴が俺の肩に落ちて、俺が木の枝を踏んだ時、ループは発生する」
京太郎「だったら俺は、木の下でないところでずっと動かなければいいってことじゃねえか!」
京太郎「そうすりゃ水滴は落ちねえし、木の枝も踏む必要はない」
京太郎「俺って天才……ん?」
ピチョリ
京太郎「え? これ、雨――」
ゴゴゴゴゴゴ
京太郎「お? お? 何だこの音……って木が倒れてきてる!?
京太郎「うわああああ!!」
ドシャーン
京太郎「ふう、どうにか、こうにか……って」
京太郎「木の枝、踏んでるよ……」
~カンッ~
文堂「こんな感じですね」
キャプテン「」
文堂「このようにして術は、BとCの場面を再現するんです。なので状況によっては、かなり無理やりなことにもなってしまう。現れ方が多岐に渡る、とはそういうことです」
文堂「例え対象が自殺しようとしても、同じです。何かしらの力によって自殺が阻害され、その後一瞬にしてBとCが再現される。どうあがいても、逃れることはできない……」
文堂「つまりこの『ループ中に術によって強制的に再現されるBとC』が、B'とC'なんですよ」
キャプテン「……よく分かったわ」フムフム
文堂「よかった。まあ、こうして相手は無限ループに陥る、という訳ですね」
文堂「使用はもちろん、失明することと引き換えにしますけど……『イザナギ』と同じにね」
キャプテン「でも、あなたには7万個の『眼』の予備があるものね」
文堂「はい。つまり私にとってはほぼノーリスクですね」
キャプテン「えっと、じゃあ……京太郎君の意識は、そのずっと無限に続くループの中で閉じ込められる、という訳ね」
キャプテン「あ、そうだわ。さっき文堂さんは、彼女たちがからくりに気付かないとは言えないから安心も出来ない、って言ってたけど、それはどういう……?」
すべ
キャプテン「この『イザナミ』にも、対抗する術は存在するということなの?」
文堂「その通りです」
文堂「この術には、そのループから抜け出る道が“用意”されているんです」
文堂「そもそも『イザナミ』は、『イザナギ』の術者を戒め、救うために作られた術ですからね」
キャプテン「……! どういうことなの?」
文堂「『イザナギ』はキャプテンも少しは知っているようですけど……」
文堂「アレは運命を変える、私の一族の完璧な瞳術だと言われていたそうです」
文堂「己の結果ににうまくいかない事があれば、その結果を掻き消し元に戻れる。言わば都合のいい結果だけを選び取っていける仕組みです」
文堂「大きな戦いにおいて、私の一族が決して失敗できぬ時『イザナギ』が大きく貢献する術となったんですよ」
文堂「が しかし・・・結果を己の思うがままに変えられる術には失明以上の大きなリスクがあったんです」
文堂「その強すぎる瞳力は術者を傲(おご)らせ個を暴走させる要因となってしまったらしいんですよ」
文堂「『イザナギ』を使う者が一人なら問題はありません。でも、それが二人以上になると一族内で都合のいい結果の奪い合いが始まりました」
文堂「それを止める為に作られたのが『イザナミ』です」
文堂「視覚相手に視覚では幻術にハメられませんからね」
文堂「『イザナミ』は『イザナギ』で己の結果を都合のいいように変えようとすると一生同じ所をグルグルとループする仕組みです」
文堂「でも『イザナミ』は『イザナギ』を止める為の瞳術……ちゃんとそのループから抜け出る道も作られていたんです」
文堂「これは本来、うちはの仲間を傲(おご)りと怠慢から救う為の術でした」
文堂「術で簡単に結果から逃げる者を止める為の術……」
文堂「本来の己の結果を受け入れ、逃げなくなった時おのずとイザナミのループは解けます」
文堂「術に頼ることなく・・・運命を自分で受け入れるよう導く術」
文堂「抜け道のある術など実戦では危なくて使えない……そういう意味でイザナミは禁術となっていた……んですが」
キャプテン「……?」
文堂「研究を重ねられた今、『イザナミ』は実戦でも使うに足る術となりました」
キャプテン「えっ?」
文堂「古代の『イザナミ』と現代の……というより私の『イザナミ』とには、二つの違いがあります」
キャプテン「違い?」
文堂「はい。古代の『イザナミ』も、私の『イザナミ』も、対象が本来の己を受け入れることで終了するという点に変わりはありません」
文堂「ただ、前者と後者とじゃ、その難易度に圧倒的なまでの違いが生じてくるんです」
キャプテン「な、難易度?」
文堂「そうです。先ず、古代の『イザナミ』ですが、これによって作られたループの中には、術者の幻が登場するんです」
キャプテン「幻……? 何のために……?」
キャプテン「ってああ! 分かったわ!」
文堂「え、本当ですか?」
キャプテン「ええ。『イザナミ』が本来、相手を戒める術であるなら……術者自身がその戒めを説いてあげなければいけない」
キャプテン「その幻というのは、相手に本来の己を受け入れるよう説得する、術者の分身体……そういうことね?」
文堂「ははは、ピタリ賞ですよ。その通りです……じゃあ、私の『イザナミ』がそれとどう違うのかは、もう説明しなくても分かりますね?」
キャプテン「勿論です! 文堂さんの『イザナミ』には術者の幻が登場しない……つまり、相手にとって自分を正しい方向に導いてくれる存在が、そこにはいないということ」
キャプテン「だから、相手は自分がどう間違っているのか分からず、術の中で苦しみ続ける……そうでしょう?」
文堂「はい。こちらもピタリ賞です」
文堂「そう……これが一つ目の違い。『イザナミ』の効果を実戦レベルにまで引き上げた、大きなポイントです」
キャプテン「じゃあ、二つ目は?」
文堂「今から説明します」
文堂「ええっと……古代の『イザナミ』は対象を一人しか選ぶことが出来ないのに対し、私の『イザナミ』は一人に掛けることで、連鎖的に周りの人間にもその効果を伝播させることが可能……」
文堂「これが二つ目の違い、ですね」
キャプテン「す、凄い……じゃ、じゃあ、上埜さんたちは皆、京太郎君に掛けられた『イザナミ』のせいで、自身も『イザナミ』に掛かってしまったということね?」
文堂「まさしく、です。ただ、これを行うには二つ条件を満たす必要がありましてね……」
キャプテン「条件?」
文堂「はい。一つは、『イザナミ』に掛かった対象の眼を、他の対象も直接見る必要がある、というものです。まあ、こちらは全然苦労しませんでしたが」
文堂「もう一つは、他の対象に関しても、Bを作っておく必要がある、というものです……こっちは骨が折れました」
キャプテン「Bって……印象的な場面の記憶であるBよね? 京太郎君のほかに、また五人分Bを作るだなんて……大変だったでしょう」
文堂「そりゃ、もちろんですよ。ちなみに今回、この条件2を達成させるために『イザナギ』を計10回つかいました」
キャプテン「ふふっ、戒めの術『イザナミ』を掛ける為に、戒められるべき術『イザナギ』を使うだなんて……何だか皮肉ね?」
文堂「あはは、言われてみればそうですね! なんともな皮肉です……」
文堂「まあ、とにかくこれで説明は全て――」
「――文堂、キャプテン。そろそろ時間だし」
その時一人の人物が、二人の後ろから声をかけた。
小柄で短い黒髪を持つ少女だ。
その猫を思わせる顔のイメージ通り、青毛の子猫を両肩に一匹ずつ、更に頭の上に一匹乗せている。
どれも同じ子猫に見えるが、それぞれが異なる形の人間の前髪のようなものを持っており、それにより違いを判別することが出来る。
右肩に乗っているのは両前髪を垂らしていて、左肩のは左前髪だけを垂らしていて、頭の上のは前髪を短く切りそろえ……ってややこしいな。
……ん? よく見るとどの猫の首にも名前の書かれたプレートが提げられているな。プレートの枠も青だから気付かなかったぞ……
つーか字が汚すぎてどれも縮れたゴミにしか見えねえんだよ池田ァァッ!!
ちなみに、右肩のが緋菜、左肩のが菜沙、頭の上のが城菜、らしい。可愛いじゃねえか池田ァァッ!!
服装は、キャプテンや文堂と同じ、黒地に赤い雲の模様が入った、丈の長いコートだ。
キャプテン「華菜……もう移送の準備は出来ているの?」
華菜と呼ばれたその猫風の少女は、キャプテンの質問に深くうなずいた。とっくの昔に、とでも言わんばかりだ。
華菜「術式は完成しました。いつでも転移させることが可能です」
キャプテン「そう……! じゃあ文堂さん。お願いできるかしら」
華菜の言葉に笑顔を見せたキャプテンは、再度文堂のほうを向いて、そう言った。
文堂「オーケーです。そろそろ京太郎君たちの精神も限界のはず。私も、早く京太郎君をこの地獄から解放させてあげたいですし……」
文堂「とにかく、これなら相当な長時間『月読』を持たせられます」
華菜「おい。御託はいいから、とっととするし!」
文堂「はいはい……」
華菜の催促に二つ返事をした文堂は、清澄の六人全員の目線が、ちょうど自分の顔のところに来るように調整し……
文堂「『月読』」
そして、“左の”目を開いた。
その瞳には、先ほどはなかった三枚羽の風車のような万華鏡模様が浮き出ている。
空気が、変わった。強大な存在が上から圧し掛かってきているかのような重圧が、辺りを支配する。
強者の集っているここには、元々よりかなり重苦しい空気が満ちていたのだが、文堂の術により、その重さは更に圧倒的なものになる。
何も耐性のない一般人がこの中に入ろうものなら、ものの一秒も待たずに気絶、若しくはショック死するだろう程の。
文堂「……ふう」
文堂が目を閉じ、ため息を吐く。すると途端に、空気に走っていた緊張が解けた。
それから五秒ほど経った後、今まで棒立ちだった清澄の六人が、次々に地面へと倒れていく。
文堂「よしっ……と。これでもう安心です」
キャプテン「良かった! じゃあ、華菜。お願いね」
華菜「はいだし、キャプテン!」
華菜「ほら、お前たち! 清澄の奴らを術式のところにまで運ぶし!」
華菜の掛け声とともに、三匹の子猫達が同時に動き出す。
それぞれが倒れている清澄生の元に向かい、よいしょよいしょと一人ずつ自分の背中に乗せていく。微笑ましいな、池田ァ……
緋菜は須賀京太郎を、菜沙は清澄のタコスを、城菜は……
残りの4人全員を乗せてるだと!? な、なんか怖いぞ池田ァ……!
子猫たちが術式の元に走り去っていくのを確認した華菜が、続ける。
華菜「う、うーん……なんかさっきから誰かの視線を感じるし……?」
華菜「ま、まあ、気のせいだよな……」
華菜「よし……もうここには用はないし! 二人とも、準備は?」
文堂「出来てますよ、池田先輩」
キャプテン「ええ」
華菜「よぉーーし、じゃあ、出発進行だしー!」
華菜の言葉に、二人がうなずく。そしてそのまま、このコートの三人組は森の奥の闇へ向かって走り去っていった……
キャプテン「ねえ、文堂さん。私たち本当に大丈夫なのかしら……」
森の木々の間を高速で駆け抜けつつ、キャプテンが文堂に、そう不安そうに質問する。
文堂「らしくないですね、キャプテン。まあ、お気持ちは分かりますけど……こればっかりは、私にもどうしようもありません」
文堂「ただ、何にせよ京太郎君たちは絶対に必要で、私達は全力を尽くさなければならない……」
キャプテン「でも、そんな漠然とした感じで構えてるだけで、この先の『大戦争』を生き残ることが出来るのかしら……」
キャプテン「それに、上埜さんたちが私達に協力してくれるとも限らないし……」
華菜「不安でも、頑張るしかないですよ、キャプテン」
二人の会話に、華菜が割り込んだ。
華菜「今は、いつか来るだろう『大戦争』に備えて、やるべきことをやるだけやる! よく分からないことは後回し、だし!」
華菜「文堂やあたしだって一応、最強レベルの雀士なんですよ。もし清澄の奴らが協力しないって言うなら、痛い目をみせてやればいいし!」
文堂「……池田先輩。本当にそれをしなければならなくなった場合、京太郎君は私に任せて下さいね」
華菜「お、お前は相変わらずだな……。べ、別にかまわんけどさ」
華菜「……それに、いざという時にはキャプテンがいる。キャプテンなら、どんな奴にだって負けないし!」
キャプテン「……私が……戦う……。それも、必要なことなのかしら。私がこの右目を開かねばならない時が、いつか来るのかしら……」
文堂「おそらく、ですけどね……私達では抗えない相手が現れた時、それに打ち勝つことの出来るのはキャプテンだけですから」
キャプテン「ふふっ……そうね。こんなにも後輩に頼られているのに、私が弱気でどうするんだって話よね」
キャプテン「もしその時が来たら任せて頂戴……。あなた達を守るため、そして――」
キャプテン「『夕月夜』の悲願のためなら、私は何だってしてみせる……!」
華菜「さすがキャプテンだし!」
文堂「私も同じ想いですよ……キャプテン!」
こうして、『大戦争』の火種は清澄高校麻雀部の元に持ち込まれたのだ。
だがこの時、『夕月夜』のメンバー達は知らなかった。
各所ではもう既に、戦争の芽が萌え始めていたということを……!
~カンッ!!~
終わったああああ。
ありがとうございました
早速依頼出してきます!
なんぞこれ……
途中から作者入れ替わったんじゃないかと疑うレベル
好きな物を書けば良いとは言うがここまでカッ飛んだオナニー見せ付けられたのも久しぶりだな
折角の展開全部無駄になってるし
頭は大丈夫かな?
未来に生きてんな
超展開ENDでも終わらすだけましかも知れないがもしまた書くならオチくらいはまともに決めといた方がいいと思う
京太郎に入れ込む事になった理由はわからず。
雀力とかいうチャクラ丸パクの要素がメインになってヤンデレが放置。
ナルトの展開まんまになった挙句冒頭からは予想も出来ない風の打ち切りエンド。
少しは構成ってのを考慮してほしい。みんな多分読み始めた頃に抱いた期待を見事に裏切られたと思う、悪い意味で。
トリ割れて荒らされたようにしか見えぬ・・・
えっ期待してたのに何この仕打ちは…
ヤンデレかと思ったらNARUTOで打ち切りだった
何がしたかったんだろう?
俺は信じてる、途中から成り済ましが書いて好き勝手しただけであって本来の>>1がきて改めて続けてくれるのを
元の路線に戻ると信じこの誰得を読んでたのにそんなのってないよ
この気持ちはタカヤがバトル路線に行ってしまったやるせなさと似ている
違うんだよそうじゃないんだよ
乙
正直何が書きたかったのかさっぱりわからなかった
ヤンデレになる背景も結局書いてないし
最後のほうは謎パワーすげぇ、だからなに?って感じだった
次に書くなら今回より読みやすく書いてほしい
好きに書くのが一番とは言ったけどこれは……まあ、乙
マジで終わったのか…?
本当に同じ作者が書いたの…?
ともあれ乙
たっ・・多分>>1の兄弟かなんかが勝手に書いたんだよな!そうだよな!
1の中にいるヤンデレの人格が書いたに決まってんだろ
きっとこの展開でも受け入れられると思って頑張ったんだろうな
何をどうすればそう言う考えに行き着くか到底理解出来ないが
このスレは犠牲になったのだ
同じ人が書いたのなら逆に尊敬する
途中から全くの別物書けるって凄いわ…
やろうと思えば誰でも出来るが基本は誰もやりたがらないんじゃ…
(悪い意味で)普通は真似できないわ
ここまで評価がボロクソな京太郎ssも珍しいな・・・
いやまあ当然っちゃ当然だけど
んー
このSSまとめへのコメント
ループまではわかるがイザナミだの話がでかくなりすぎ
まずこれは清澄のヤンデレ関係なくなってる
話をもっと考えた方がいい
展開の仕方が意味不