モバP「ブリッツェンがいなくなった……」 (25)
・地の文あり。苦手な方嫌いな方は慌てず騒がず回れ右推奨
・主役はアイドルではなくPでもなくブリッツェン。ケモノ臭いのが嫌いな方回れ右推奨
・劇場を見て書きたくなっただけで、今日がイブだとかはまるで考えてない内容
・割と短い。10~15分くらいで読み終わるはず
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まだ夕方というには少し早い時刻であったが、空はもったりとした雲に覆われ、首都の街並みは
どんより暗く見えた。そう間もないうちに雨、もしくは今年はじめての雪となるやもしれない。
ぶ厚くたれ込め、ただでさえか弱い冬の陽光を閉ざす雲。白とも灰色ともつかぬ、ただただ色味に乏しい
曇天の空。
それは、今の私の心持ちに似ている。
私は今日、家出をしてきた。仕えるべき主のもとを飛び出してきてしまった。
主はかねてから奔放というかマイペースというか、とにかく少々不思議なお方ではあった。従者たる私ごときが
言うべきことではなかろうが、これは主を知る人間の多くが認める事実であろう。
それでも、私は主を好ましく思っていた。まだ年若い主は若干頼りなくもあり、それでいて前向きでたくましさも
併せ持つ、味わい深いお方なのである。
主はいつでも私に愛情を持って接してくれた。どんな灼熱の土地で毛先まで干上がろうとも、またどんな極寒の大地に
四の脚が凍えようとも、主が労いの言葉とともに優しく背を撫でてくれるだけで癒やされたものだ。
私は主の力になれている。私は必要とされている。これからも変わることなどない。
漫然とそう思っていた。
きゃっきゃきゃっきゃと、道行く幼子の嬌声がにわかにトーンアップする。何事かあったかと首をめぐらせば、
いよいよ雪が降り始めたようだ。
考えごとをしながら、私はいかほどの距離を歩いていたのだろう。見覚えのない街並みに、私に怪訝そうな眼差しを
向けてくる、やはり見慣れない人波。
私を見る誰もが、驚いたような困ったような、どうにも形容し難い表情。もしかして私は今、相当酷い顔を
しているのだろうか。そうでもなければ、この冷たい街東京の人々が、一人道行くトナカイごときに目をくれよう
はずもなかろう。
あまり、注目を集めたくはない。私と主は常にともにあり、そして主役は常に主だったのだ。私は主役を支える、
いわば黒子のようなもの。衆目にさらされるのは黒子の本懐ではない。
いかんせんここは人が多すぎる。雪も降ってきたし、どこか少し落ち着いて休めるところを探すとしよう。実のところ、
さっきから寒くてたまらないのだ。愛嬌と親しみやすさを醸し出すため、平時あえて垂らしたままにしている鼻水が、
今は平時の倍ほどの長さまで垂れ下がってしまっているくらいだ。
河原の橋の下にでも行って、心ばかりの暖を取ろう。そう考えて体を翻した矢先。
「あっれ~? ブリッチャン? だよね?」
聞き覚えのある声を耳にした。何か惜しい気がするが、私の名を呼んだようだ。首をめぐらせる間に、また別の声がする。
「莉嘉、どったのってあれ? ブリッツェンじゃん!」
先ほどのものより少し大人びた声。見れば確かに少女が二人、驚いたような顔をして私のほうを凝視していた。
どちらも見知った顔である、と思う。断言しきれないのは、二人とも帽子に色眼鏡(ハイカラな言い方ではなんと
言うのだったか)という出で立ちで、顔の判別がつけにくいためである。私の記憶力の問題ではない。
「ブリッチャン、一人? イヴちゃんは?」
顔の判別はつけにくくても、私を「ブリッチャン」などと呼ぶ者は一人しかいない。どうやらやはりこの娘はリカのようだ。
一度は我が背を許したこともある、年齢の割に無邪気で愛らしい少女。愛らしいと言っても我が主にはまだ及ばぬがな。
「イヴちゃんいないっぽいねー。一人で何してんのブリッツェン。散歩?」
こちらはあまり関わりはないものの、無論存じている。リカの姉のミカであろう。妹以上に完成された実に美しい娘である。
それでも我が主には今一歩及ばぬがな。
彼女はこの雪空の下、天然の毛皮を着込んだ私ですら寒いというのに、丈の短いスカートを身につけ、惜しげもなく脚を
さらしている。まったくこの国の若い娘の考えることは一介のトナカイには理解が難しい。
「ブリッチャーン、黙ってちゃわかんないよ~。なんか言ってごらん☆」
「バカ、無茶言わないの莉嘉」
「ブリッチャンはアタシたちの言葉わかるんだよお姉ちゃん!」
「だからってしゃべれるわけじゃないっしょ……」
「う~ん、そっかあ……」
微笑ましくじゃれ合う姉妹。傷心気味の私の心がじんわりと温まる。
「んー、ブリッチャン、なんだか元気なくない?」
「つか見るからに鼻水が異常じゃん。風邪ひいてんじゃないの?」
「えっ、トナカイって風邪ひくの?」
「ひくでしょ風邪くらい。ほら、なんか顔もやつれてんじゃん」
「あー確かに。酷い顔」
この娘はっきりと言う。まあ嫌いではない。しかし残念だが別に風邪をひいたわけではない。元気がないことに
気づいてくれたのは嬉しいが。
私は家出してきた身。今は少しそっとしておいてほしい。一人になりたいのだ。構い心配してくれるのはありがたい
ことだが、今の私にはお節介でしかない。だというのに。
「風邪ひいてんなら早く事務所戻ったほうがいいよブリッチャン」
「だねー。今日なんか超寒いし。雪まで降っちゃってるもんねー」
私の額を優しく撫でながら妹は言い、ちらほらと雪を吐き出す空を見上げながら姉が言う。あくまで私が風邪ひきトナカイ
だと勘違いしているのがなんだか申し訳なくなってきた。何故トナカイには言葉がないのだろうか。
「それにちょいマジな話、トナカイが一人で出歩いてんのってヤバいっしょ」
「えっ、そうなのお姉ちゃん? なんでー?」
突然妙なことを言い出す姉のほう。
「……捕獲されちゃうよ。たぶん」
「ホカクっ?!」
……なんと。
「それならまだいいけど、ちょっと暴れたりしようもんなら」
「もんなら?」
……ごく。
「……射殺されたりとか」
「しゃしゃしゃしゃしゃさつぅ?!」
……なん、と……
痛い前書きだな
「あばばばばばば……ブリッチャン! 帰ろ! うちに帰ろ!」
「うん、急いだほうがいいかもね。もう結構人目引いちゃってんでしょ」
「お姉ちゃん! ブリッチャン、きっと事務所まで道わかんないんだよ~! だからこんなに鼻水垂らすまで一人でうろついて……」
「マジかあ……アンタ、道わかんないのに一人で散歩なんかしてたわけ? チャレンジャーなトナカイだねーホント」
呆れたように言うものの、色眼鏡の奥の目は優しく笑っていた。本気で蔑まれているわけではないようだ。この姉妹は
揃って気立てがいい。よき両親に育てられているのだろうな。
それはそれとして。捕獲やら射殺やらと物騒な言葉に少し色めき立ってもしまったのだが、所詮今の私は主の元を勝手に
出奔するという、従者にあるまじき不敬をやらかした身。今更どの面を下げて帰れるというのだろうか。
そう思えば、いっそ捕獲され、動物園で愛嬌をふりまく平凡なトナカイとしての暮らしを選ぶのもひとつの道では
ないかという気がしてきた。よしんば何かの間違いで射殺されてしまっても、今の私の心もちであれば未練も後悔も、
遺恨さえも抱かず死を受け入れられるように思う。
という私の思案を知ってか知らずか(知っているわけはないか)、姉妹は勝手に話を進めている。
「とりあえずさ、道わかんないならついてってあげるしかないっしょ。莉嘉、アタシがブリッツェン送ってくわ」
「えっ、莉嘉は?」
「莉嘉は先に帰ってな。雪、やみそうにないし、傘もないし。たぶんこれからどんどん冷えるだろうからさ」
「え~やだー! 一緒に行くー!」
「アンタただでさえ薄着なんだもん。さっきもでっかいくしゃみしてたっしょ」
「それはお姉ちゃんだって一緒じゃん!」
話を進めているかと思ったのだが、モメているだけだったようだ。ふうまったく仲がいいのやらよくないのやら。
どうやら姉のほうは妹を帰らせようと思っているようだが、妹が嫌がってダダをこねているといったところか。
「莉嘉、アンタ前もこの時期に風邪ひいてヒーヒーゼーゼー言ってたよね」
「あ、あれは……あれだよ! お風呂上がってしばらくハダカでうろうろしてたから……」
「んででっかいくしゃみしてたっしょ。さっきみたいな」
「ん、んん~」
「……莉嘉は風邪ひいちゃうといつも重くなるからさ。ひかないように気をつけないとダメなんだ」
姉が先に妹を帰らせようとしているのは、別に「邪魔だから」というわけではないようだ。風邪をこじらせやすい妹を
心配しているからこそ、私を送っていくという仕事を一人で遂行しようとしている。そういうことなのだろう。
姉妹のそのやりとりに、私は少し救われた気がした。あの時の主の言葉を思い出す。
『空飛ぶコタツがあれば、一人でプレゼントを配ることができる』
ブリッツェンなど不要。そういう意味だと私は受け止めた。本当のところは主にしかわかるまい。だが、今のこの
姉妹のやり取りのように解釈するならば、『ブリッツェンを休ませて、私一人でプレゼントを配ることができる』
というように取ることはできまいか。
先刻述べたように、主はいつも私に愛情深く接してくれたし、労いの言葉を賜らない日はなかった。ちゃらんぽらん
なところもあるとは言えど、心優しく慈愛に満ちたお方なのだ。そういう意図があったと考えても不思議はない。
というかそう思いたい。うむきっとそうだ。
「んん~……一人で帰るのつまんないし……寂しいよ~」
「うちまで大した時間じゃないのに……」
「時間の問題じゃないんだよ~……」
「じゃあなんなわけ」
「……隣にお姉ちゃんがいる、安心感っていうか……」
「莉嘉……」
妹のダダは続いている。私が見る限り妹のほうが一枚上手ではなかろうか。別に計算でやっているわけではなさそう
なところにホッとするような、末恐ろしいような。
勝手に主のもとを離れた、従者失格な私も、こんなふうにダダをこねてみてもいいのだろうか。コタツなどよりも
私のほうが暖かいのですよ、これからも私をお使いくださいと。
……実際、私もコタツで暖を取っていたのだが、あれは実に暖かい。正直勝てる気はしない。
それでも抗ってみるしかあるまい。やはり私の居場所はあそこしか、主の隣りしかあり得ない。この姉妹のおかげで
そう思いなおす強さを取り戻すことができた。そうと決まれば、一刻も早く帰らねばならない。
少し立場を近く感じるものとして、ここはリカに加勢してやろう。姉のほうにはすまないが。
大丈夫、大事な妹に寒い思いはさせないとも。
さあ姉妹。無駄なケンカはやめるのだ。
「ん、何? ブリッツェンがフゴフゴ言ってる」
「鼻水ブラブラしてる~! 汚いよブリッチャン!」
まるで通じぬ。主ならこれでわかってくれるのだが。しかたあるまい。みっともないが、じぇすちゃあを交えて
伝えるよりなさそうだ。
「首振ってる……? どっかかゆいのかな」
「お尻かな? かいたげよっかブリッチャン」
何故通じぬ。リカならばわかるはずなのだが……む。そうか。大事なことを忘れていた。チビッ子のリカでは
私の背に乗るのも一苦労なのだ。だから私は……
「ん? 今度はしゃがんだね」
「……あ! わかったー! お姉ちゃん、ブリッチャンね、乗れって言ってるんだよ!」
「え、マジ? 乗っていいの? リアルサンタのトナカイでしょ?」
「前に乗せてもらった時も、ブリッチャンこうやってしゃがんでくれたんだ~。ブリッチャン、乗るよー?」
よし来たリカ。よくぞ理解してくれた。おバカなどと言われているが、やはり利口な娘だな。
「ブリッチャンあったか~い! これなら冷えないよお姉ちゃん!」
そうとも。トナカイの毛皮をナメてもらっては困る。さあ、ミカも早く乗るのだ。
いつもたくさんのプレゼントを携えた主を運んでいる身。娘二人くらいどうということはない。
「い、いいのかな。じゃ、じゃあ……失礼しまーっす。おお、マジ超あったかい」
前に妹。その後ろに姉。私の背にしかとまたがっている。うむ、やはり軽いものだ。ちゃんと飯を食っているのか
心配になるほどだ。
さてでは参るとしよう。よっこらしょ。
「お、立ったー! よーし! 走れ~☆ ブリッチャーン!」
「こ、これ意外に高いね……見晴らしいいけど」
「ちょ、お姉ちゃんくすぐったいよ~。どったのしがみついちゃって」
「いやちょっと……不安定じゃん?」
「あ、確かに。じゃアタシはブリッチャンの角を。いいかな? ブリッチャン」
無論よい。
「「ブフェ」って……いいのかな。いいんだよね。えい☆」
うむ。では参ろう。
「道は莉嘉がナビしてあげる~。つっても別にややこくないからね」
任せる。
「……ねえ莉嘉」
「どったのお姉ちゃん」
「ヤバいかも」
「何がー? あ、トイレ?」
「違うわ。あのさ、アタシたち超注目浴びちゃってんの」
「東京の中心でトナカイに乗る美人姉妹だもんね~」
私の後頭部で繰り広げられる姉妹の会話。リカはのんきだが、ミカは何か切羽詰まっている。
そういえば先ほどから、周囲がにわかに騒がしくなったように感じる。雑多な喧騒とは少し異なる、一方向へ向けられ、
束ねられるようなざわめきがある。
それは、周りの喧騒からぽろりと聞こえ漏れた声によって、ようやく私の中でひとつの意味を成した。
『あれってアイドルの城ヶ崎姉妹じゃない?』
「ヤッバ! バレたんじゃん!?」
「あららららららら。莉嘉たちも売れてきたね~☆」
「のんきすぎ! プライベートではあんまりファンと接触しちゃダメって言われてるっしょ!」
「そーだっけ? よーし☆ ブリッチャン走れ~! 全速離脱~!」
全速離脱。その指示しかと承る。振り落とされぬよう捕まっていろよ。
さてでは出陣のかけ声をば一つ。
うおおおおおおおおお! ふふ、人間にはさぞ勇ましいいななきに聞こえたはずだ。
では不肖ブリッツェン、全速で参る! 参る! 参るぞ!!
おお、四の脚が意のままに躍る! この国で暮らすようになって、全力で駆ける機会もとんとなくなってしまっていたが、
この脚はまだまだ衰えてはいないようだな!
ただでさえ冷えた大気がもはや刺すような勢いでまとわりついてくるのすら、今はただただ心地よい。速い! 速いぞ私!
「ブブブリブリブリッチャン! 速い! ちょっと速すぎ!」
「車くらいスピード出てんじゃない!? ちょ怖い怖い!」
背中の姉妹も私の疾走にご満悦の様子。そうだ、もっと風を感じるがいい。走るって実に素晴らしい……む? なんだあれは。
2つの赤い光が交互に点滅している。何か、道を封鎖しているようにも見える。ふん、構うものか。満身の力で疾駆する
私の勢いはもはや、何物であろうと止められはしない。
「莉嘉あああ! あれ踏切だよね!? 見間違いとかじゃないよねえ!?」
「うん? どこー……あばばばばばば」
「ブリッツェン止まってえ!! 死ぬ!! 死んじゃう!!」
「いやだー! まとめてミンチになっちゃうよブリッチャーン!!」
……ふみきり? みんち? よくわからんが、ひょっとして姉妹は楽しんでいるのではなく慄いているのではないだろうか。
どんどんと近づいてくるあの赤い点滅は、それほど恐ろしい何かを齎す不吉の兆しなのだろうか。
だが姉妹。案ずるな。私の背がいかに快適で安全かということを、今から君たちにご覧にいれよう。
ふむ、よく見ればあの赤い点滅、確かに心をざわつかせる力を持っているように思えるな。
臆することはない。加速。さらなる加速。これほどに駆けるのはいつ以来か。心弾み、胸躍る。さあ目標はもうすぐ目の前だ。
「バカー! 加速すんなー! 頼むから止まって鼻垂れトナカイイイィイイィィィィ!!」
「ばかー!! ブリッチャンの大ばかーっ!!」
背中の姉妹が一際大きい声で私への抗議の言葉を発した時。
私は両の後ろ脚に渾身の力を込め、抉らんばかりに大地を蹴った。
視界が大きく開けていく。2つの赤い点滅も、通り過ぎていく「でんしゃ」なる鉄の塊も、全ては私の足下にひざまづく。
私は聖夜の使いの従者ブリッツェン。「稲光」の名を負うトナカイ。聖夜の使者によって選ばれた、特別な力を戴くトナカイ。
大地を駆けるのは、私にとって本懐ではない。稲光の如く天翔けることこそ、私の力の本領であり本望。
そしてこの力を行使できるということが、私と主との心の繋がりがまだ生きていることの証左なのだ。ああ、今この背に
主がいてくれれば。
ともに満天の星空を翔けながら、次はあちらの大陸へ行こう、海を渡ろう、と。ああ主、やはり私の生きる場所は、主の
隣をおいて他にありましょうか。勝手に飛びだした私を主は許してくださいますか。
「ギャーッ!! 飛んでる! 飛んでるぅ!!」
「死んだ……? ねえお姉ちゃん、莉嘉たち死んだの……?」
「うん、召されてるところなのかもねー……いやいや違う違う! ホントに飛んでんだって!」
「生きてる? 生きてるの? よかったー! ……ってぎゃーっ! 飛んでる! 空飛んでるぅ!」
「だから飛んでるっつったしょ!! ちょ、莉嘉暴れないで! マジヤバいから! 落ちちゃうから!」
ふう、相変わらず騒がしい姉妹だ。感傷にひたる隙もないではないか。だいたいこんな機会はそうそうないぞ。トナカイの背
にて高みから眺める東京の街並み、しかと目に焼き付けておくべきではないか?
まあ、慣れなければ怖いのは理解できる。失禁などしないうちに降りておくか。
「あ、降りてる」
「はあ~……寿命が縮んじゃったよ……」
「アタシも……」
「ブリッチャン、のんきそうな顔して意外にヤンチャするんだね……」
「今度から暴走トナカイって呼ぼうかな」
「うん、莉嘉も賛成☆」
姉妹が私に随分なことを言っている間に、私の四の脚は再度大地を踏みしめた。一応人目は少なそうなところを選んだが、
明日の朝刊の最終面あたりに載ってしまうやもしれぬ。『トナカイ、飛ぶ』みたいな見出しで。ルドルフあたりに知られれば
きっと笑われる。
「ブリッチャン、もうこんな無茶したらダメだからね! お尻ぺんぺんするよ!」
「ホントに、マジで、勘弁して。アンタがすごいトナカイだってことはもう超ー身にしみたから」
真剣に叱られてしまった。むう、少し調子に乗り過ぎてしまったか。私の悪癖だ。怖がらせるつもりはなかったのだが……
すまなかった、姉妹よ。
「力なく「ブフェ」って言ったね。反省してるみたい」
「素直でよろしい。まあでもさ、やっぱほんもんのサンタのトナカイなんだって感じだよね★」
「うんうん! ほんとに飛ぶんだね~☆ かっこいいねブリッチャン!」
……私はこの姉妹に感謝せねばなるまい。今日この姉妹に出会わなければ、きっと私はあのまま街を一人で彷徨っていた
だろうし、全力で駆けることも、空を翔けることもなかっただろう。主との繋がりもあやふやなままに、無為な野宿生活
に走っていたかもしれない。
主以外の人間を乗せて空を飛ぶことなどこれまでなかった。だから君たちは特別だ。それでもやはり、私の主は一人だけだ。
「じゃあ気を取り直して、事務所に帰ろ~☆」
「そうだったよね。なんかもう忘れちゃってた」
うむ。
帰ろう。
私の主のもとへ。
私のいるべき場所へ。
縺九▲縺代∴www
おわり
乙でした ブリッツェンかっこいい
乙
なんと渋いトナカイなんだ
良かった 乙
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